暴排トピックス
Q&A 皆さんのご質問にお答えいたします(その2)
取締役副社長 首席研究員 芳賀恒人
1. Q&A~皆さんのご質問にお答えいたします(その2)
今回も前回に引き続き、皆さまから寄せられた質問の中からいくつか取り上げ、解説を加えていきたいと思います。
1) 取引可否判断に関する事項
【Q1】
自社で反社チェックを実施した結果、反社会的勢力には該当しなかったものの、調査の結果として当該企業が過去に不正を行っていたことが判明した場合、その会社との取引についてはどのようにすべきか。
【A1】
反社チェックの実務においては、属性要件や行為要件をふまえて総合的に判断する必要がありますが、「広義の行為要件」とも言える、粉飾決算や有価証券報告書虚偽記載、インサイダー取引、脱税(過少申告、申告漏れ等)、談合、カルテル等の「経済事犯」や「コンプライアンス違反事案」をどのように取扱うかについても、あらかじめ検討しておく必要があると言えます。
一般的には、単にこれらに該当するからといって直ちに反社会的勢力に該当するわけではありませんが、「法令に違反し、または公序良俗に反する行為や事業があったことが明らかになり、現時点においても、そのような行為や事業が継続または反復して行われている、あるいはその蓋然性が高い」と自社で自立的・自律的に判断し、健全性や透明性の観点から懸念があるとして「関係を持つべきではない」とすることは実務上全く問題がないものと考えられます。
実効性あるリスク管理の観点から、反社会的勢力を「実態ベース」で捉えるべきとするスタンスにおいては、契約解除等を念頭に置いた厳格さが求められる「対外的な定義」と「社内の運用上の定義」とでその射程範囲は異なるものと整理して、後者(社内の運用上の定義)を広く取って、属性要件に該当が見られないとしても、疑わしさが拭えないのであれば、「関係をもってよいか」との判断基準で見極めていきます。
また、一般的に、コンプラインスを軽視する企業(脇の甘い企業)は、反社会的勢力との接点となりうる最前線の社員の暴排意識やリスクセンス、組織的な反社チェック態勢の実効性などに脆弱性を有していることが多く、コンプライアンス違反と反社会的勢力との関係(接点)との間には高い親和性・相関関係があると思われます。したがって、そもそもコンプライアンス面で懸念がある先との関係については、慎重に判断していく必要があります。
上記のような考え方に立ち、ご質問に回答すると、「不正」がどのようなものか、当該事案が社会的にどのように認知されているのかといった個別の状況で異なるとはいえ、概ね、以下のような情報を収集・リスク評価したうえで、反社会的勢力に該当するか否かだけではなく、また、属性要件に該当がなかったとしても、その「不正」を巡る状況によって「関係をもってよいか」の観点から自社で主体的に判断していくべきだと言えます。
- 行為者(組織的か個人的か、役員か従業員か)
- 当該事案の程度(社会・生活の安全に与える脅威の程度、公序良俗違反の程度等)
- 違反時期
- 再発可能性
- 問題の改善状況
- 問題ある当事者の在籍状況・処分情報
- 金融機関等との取引状況
- 刑事処分・行政処分の状況
- 自社業務との関連性
- 自社との取引開始の経緯・取引内容・取引金額
- 自社のレピュテーションに与える影響 など
特に重要なポイントとしては、「現時点の当該企業の状況から過去の不正とは決別できている」(人的・資本的・経済的な状況からみて問題点はすでに解消している、調査報告書や改善状況等が報告されている等、ある程度客観的な状況をふまえる)、「一定期間経過しているが特段問題が発生していない」、「社会的にみて当該企業との取引をすることによる自社のレピュテーションが毀損されることはない」といった点を総合的に勘案して、組織的にかつ主体的に判断することだと思われます。
【Q2】
取引相手の個人について、過去に犯罪歴があった場合、取引を行っても問題がないのか。また、更生しているのであれば取引を行ってもよいと考えるが、更生しているか否かの判断はどのように行うべきか。
【A2】
【Q1】では法人におけるコンプライアンス違反について考えましたが、ここでは個人の場合について考えてみたいと思います。
一般論として、犯罪歴の有無だけで取引可否を判断することについては、社内で一つの基準とする(あくまで社内における総合的な判断、認定の問題として処理する)ことはあっても、対外的には人権侵害等の問題を指摘される可能性がある点を十分認識しておく必要があり、慎重な運用が求められると言えます。
例えば、「詐欺」などは再犯可能性が高い傾向にあることは知られており、過去に詐欺で逮捕されたことがある代表者が、貴社の業務委託先や代理店となるといった場合、相応のリスクがあると判断することは十分な合理性を有しており(取引開始後に、自社のサービスを絡めた新たな詐欺事案が発生した場合、当該企業だけの問題ではなく、貴社も「一体と見なされるリスク」や「リスク判断の甘さや誤り」を指摘されることも考えられます)、あくまで、事業者が組織的かつ主体的に判断すべき事項と言えます。
一方、更生しているか否かの判断については客観的な情報を入手することは一般的には難しく、高度な判断が求められます。例えば、元暴力団員が真に厚生しているか否かについては、警察に確認することが最も適切な方法ではありますが、警察も元暴力団員の個々の実態まで詳細に把握しているわけではなく、必ずしも満足のいく回答を得ることは難しいのが現実です。ましてや、それ以外の犯罪歴については、警察からそのような回答を引き出すのはほぼ困難であると言えます。
したがって、あくまで一つの目安として、判明している前回の犯罪歴から一定期間が経過していること、その間、懸念される報道や噂がないこと、勤務や業務実態等その他の収集可能な情報などとあわせて総合的に判断していくことが考えられます。なお、一定期間がどの程度かについては、元暴力団の場合の「5年卒業基準」や各種業法上の欠格事由など一般的には「5年」が一つの目安であると考えられますが、一方で、反社会的勢力がそれを隠れ蓑にしようとしている実態もある以上、「10年」などもう少し長い期間で設定することも考えてよいものと思われます(ただし、あくまで事業者の主体的なリスク判断事項となります)。
2) 反社会的勢力への対応に関する事項
【Q3】
明らかに反社会的勢力とまでは言えないものの、そういった筋に近い(またそう見える)方への対応について、考え方を教えて欲しい。
【A3】
本コラムでは、反社会的勢力の捉え方として、「関係をもってよいか」を判断基準として主体的に判断すべきとお話していますが、あくまでそれは社内の運用上の捉え方であって、明確に(客観的に)クロと認定されたものでない場合、対外的な対応については慎重さが求められます。例えば外見だけで暴力団関係者と決めつけ、それを根拠に対応すること(相手に対して「暴力団関係者はお断りします」と伝えてしまうことなど)は、極めてリスクが高く行うべきではありません。したがって、そのような懸念を感じるのであれば、用心するに越したことはありませんし、現場における反社会的勢力の端緒情報として、可能な限り早い段階で組織的にチェックする、警察等に属性等を確認するといった「相手をよく知ろうと努める」ことは必要だと思われます。
ただ、組織的な対応方針が決定する前の段階での対応については、慎重さを失わず、相手のペースにはまらず(反社会的勢力は、物事を性急に進めようとする行動様式が見られますので注意が必要です)、自社で通常の範囲でできる対応にとどめ(最低限、他のお客さまと同様に取り扱うことを基準とします)、特別な条件付きでの取引や例外的な対応は絶対にしないことが重要です。また、接触している途中で疑わしさが拭えない状況であれば、深くは踏み込まず、いったん引き上げる(お引き取りいただく)といった対応が考えられます。
【Q4】
反社会的勢力に対して毅然とした態度を取った後、「あんたにも家族がいるだろう」など脅しのようなことを言われた場合、どんな対応をとればよいか。
【A4】
反社会的勢力への対応において「毅然とした対応」は重要ですが、あくまでも通常の顧客対応と同じように接すること、すなわち、相手に対する最低限の礼儀を失することなく、相手のプライドや体面(メンツ)を尊重するといったスタンスが求められます。
反社会的勢力は通常は冷静さや節度をある程度保ちながら対峙してきますが、体面等を極めて重要視しており、こちらがそれに反するような態度をすれば、彼らのそもそもの本質である「暴力性」を前面に出した形振り構わぬ態度に豹変します。実際に、毅然とした態度で交渉後、相手方から襲われた事例もあります(終始見下した態度で対応していたようです)。したがって、「毅然とした対応」の意味を取り違えることなく、冷静かつ慎重な対応を心がけていただきたいと思います。
なお、質問にあるような具体的な脅しが実際にあった場合については、「そのようなことを言われると怖いです」「それはどのような意味でしょうか」などとして「脅された(具体的に恐怖を感じた)事実」があった旨を相手に伝えて(認識させて)けん制する、「怖いので警察に相談します」などとして、警察への相談(被害届の提出)を積極的に行います。さらに、交渉等の場であれば全ての会話を録音すること、録音できなかった場合でも、できるだけ具体的な内容を時系列に整理した報告書等を作成し記録しておくことも、警察に相談する際には有効です。ただし、それだけの時間的余裕がない状況で危険を感じる場合には、その場を離脱すること、速やかに警察に通報し、対応や保護を求めることが何よりも重要です。
【Q5】
相手方には、反社会的勢力としての属性が明らかではないものの、出で立ちや言動がかなり粗暴なものもおり、できる限り取引したくないが、ビジネス上取引せざるを得ない場合などもある。対応の留意点などあれば教えていただきたい。
【A5】
まずは、「ビジネス上取引せざるを得ない」とする理由が明確かつ合理的か、真にやむを得ない事情なのかを「組織的に」十分確認すべきです。そこでは、相手の属性だけでなく、暴力的な言動や法的な責任を超えた不当な要求といった行為要件への該当の有無、あるいは、今後そのような行為が行われる蓋然性等についても当然確認・評価することになります。
行為要件への該当については、あくまで「社会通念上あるいは自社の企業姿勢や行動基準等に照らして、自社として対応すべき範囲を超えた要求か」「受忍すべき範囲か」についての、自社によるリスク判断事項であり、(明確に事件化されたもの以外)客観的な基準が明確に存在するものではありません。したがって、ご質問のようなケースであっても、(クロとの確証がないとの理由で)「リスクテイク」する(受忍する)ことも考えられますが、あくまでその前提には、「組織的な判断」があるべきです。真偽不明な端緒情報とはいえ、現場が躊躇する、過去からの取引慣行だから仕方ないとあきらめる、ビジネス優先の考えから受忍すべき(目をつぶる)と判断する、後で面倒なことになるから言われるがまま対応した方がよいと考える、といった形で現場でリスク判断を誤ることがないよう、このような端緒情報を組織的に共有し対応していく仕組み(報告・相談ルートの確立、確実なフィードバック等)や積極的に相談する組織風土、すなわち、真の意味での「リスクテイク」を行える環境を整えていく必要があります。
反社会的勢力は、このような現場の「思考停止」や、ビジネス優先や保身等からくる「脇の甘さ」を突いて接点を持とうとすることをあらためて認識いただきたいと思います。
また、具体的な対応にあたっては、反社会的勢力かどうかというよりも、そのような危険を感じるのであれば、やはり事前に会社に相談して対応を検討する、警察に相談し何かあればすぐに対応してもらえる態勢を取っておくことも必要です。以下、実際に対応が必要な場面における留意点について、簡単にポイントをお話しておきます。
- 対応する場所は、素早く助けを求めることができ、精神的に余裕を持って対応ができる、自己の管理権の及ぶ応接室等を選びます。原則として、あらかじめ選んだ応接室等で対応し、相手の指定する場所や組事務所等には絶対に出向かないことが肝要です。また、録音・録画できる環境を事前に整備しておくようにします。
- 何らかの事情により、外で会わざるを得ない場合も、合理的な時間と場所(人目が多く、相手の行動を制約できる可能性がある、近隣の公共スペースやファミレス等)をこちらから指定します。
- こちら側に非があり、どうしても先方を訪問する必要がある場合は、複数で対応することとし、事前に相手方に対して対応可能な時間を伝えたうえで面談を承諾します。訪問先を必ず会社に伝えておき、一定時間が経過したら電話を入れてもらう等の要請をしておきます。さらに、決めた時間内に戻らない場合は、警察に連絡する体制をとっておきます。
【Q6】
取引を検討している相手が、調査の結果反社会的勢力だった場合、どのような方法で取引を断れば良いか。
【A6】
ここでは、調査の結果をふまえ警察へ相談した結果、「クロ」との情報が提供され、暴排条項を適用するケースについて取り上げます。この場合は、大きく2つの対応のあり方が考えられます。
① 契約解除文書の送達による「強制的な契約解除」の場合
あらかじめ弁護士に作成を依頼した契約解除文書を、弁護士から書面を通達することで契約解除の効力が発生します。書面は、原則、配達証明付内容証明郵便を利用しますが、これは確実に受け取ったという証明になるものの、「受け取らない」(意図的または不在等)場面も想定されますので、その場合に備えて、普通郵便で同一の文書を送付、書面上にもその旨記載し、「届かなかった」可能性を極小化するといった検討もすべきでしょう。
【注】
このような場合に備え、銀行取引約定書や保険約款等にも記載のある「みなし到達規定」をあらかじめ契約等に盛り込んでおくことも考えられます。自社の意思表示が有効に相手に到達したことを担保する方法として極めて有効だと言えます。
また、当該書面には、契約解除の意思表示のほか、解除該当条項、一定の猶予期間の設定、事後処理に関する内容、連絡窓口(弁護士)等が記載されるのが通常です。書面の通達により契約自体は終了するため、それに対する相手方のリアクションの有無に関わらず対応を終了させます(ただし、書面の送付に関する情報については警察とも共有しておく必要があります)。たとえ、相手方からのリアクションが全くない場合でも、いたずらに連絡を取って状況や意思を確認するといった対応は一切不要であり、事後処理を淡々と進めればよいことになります。
なお、自社に対して何らかの対応を迫ってきたり、訴訟等をちらつかせたり、解除事由の不存在についての争いがある場合は、弁護士に対応を一任する対応を貫くことが最も重要であり、自社が内容に踏み込んで対応することによって相手に予断を与えるようなことがあってはなりません。
② 「合意解約」の場合
合意での解約を試みようとする場合には、前述のような、文書による契約解除がいつでも可能となる全ての準備が整った時点で、電話にて訪問や打ち合わせの主旨を相手に伝え、相手方と対峙することになります。合意解約では、解除事由の不存在などにかかる争いや事後処理等における問題等が極小化するというメリットがありますが、相手が素直に応じてくれるかどうかは不透明であるうえ、相手が激しく抵抗してくる可能性もあります。また、電話や訪問・来訪という反社会的勢力と「対峙」する場面が確実に発生することから、話法や安全の確保について特別の準備が必要となります。
なお、電話のタイミング、訪問・来訪等の期日については、警察に事前に連絡し、保護対策を要請しておくとともに、自社で可能な限りの警備の強化を図る必要があります。そのうえで、訪問・来訪等の当日については、以下のような対応の工夫が必要となります。
- 複数名で訪問・対応する
- 可能であれば、オープンスペースでの面会を設定する
- 警察と連携して、不測の事態における追加訪問要員を確保する
- 訪問の場合など、相手方事務所付近にも要員(警備員なども含む)を配置し、不測の事態における警察への通報に備える
- 対応時間をあらかじめ設定(30分以内など)し、話し合いの最終時刻を告知してから対応する
- あらかじめ設定した時間を経過した時点で外部から携帯電話に連絡を入れる
- 対応の経緯を録音する(あわせて、携帯電話を通話のままにして外部に中の状況をリアルタイムで把握することなども考えられる)
- 当日のQ&Aを事前に作成・確認し、必要最低限の会話にとどめるとともに、不明な点や想定していない内容等はその場で無理に判断・回答せず、余裕を持った期日であらためて回答する(交渉を終わらせようと無理しない)
- 合意した内容については、「解約合意書」にとりまとめる
合意解約は交渉事ですので、譲歩を迫られる場面も考えられますが、その内容が利益供与とならない範囲での対応が大前提となります。したがって、事前のQ&A作成の場面で、弁護士と十分に打ち合わせをしておく、交渉時に安易に判断してしまうことなく組織としての判断を行うため持ち帰る(立て直す)勇気も必要だと言えます。結果的には、そのような適切な対応を行うことによって、弁護士の見解を得た適切な判断と対応が可能となります。
3) 警察との連携に関する事項
【Q7】
反社会的勢力に関する相談について警察が対応しないケースはあるか。また、警察に相談する際のポイントについて教えていただきたい。
【A7】
まずは、事業者側がどうしたいのかを明確にしてから警察に相談すべきです。つまり、「相談」ではなく、むしろ「協力要請」であって、事業者側の態度が明確でなければ、あるいは、行動の主体が事業者側であることを認識していない限り、警察としても支援しにくいことになります。したがって、「自分たちの調査の結果判明した反社会的勢力との契約を解除したいので、情報の提供ならびに安全確保のためのご協力をお願いします」といった相談の仕方になることに注意が必要です。
なお、警察に相談するにあたっては、「クロ」とする情報が入手できた場合は、「関係を解消する」以外の選択肢がないことを十分認識する必要があります。逆に、そのような明確な企業姿勢がない場合、警察は情報提供を行えないことが内部通達「暴力団排除等のための部外の情報提供について」(警察庁刑事局組織犯罪対策部長通達 平成25年12月改正)で示されています。
▼警察庁 組織犯罪対策企画課 暴力団排除等のための部外への情報提供について
この通達では、「当該情報が暴力団排除等の公益目的の達成のために必要であり、かつ、警察からの情報提供によらなければ当該目的を達成することが困難な場合に行う」とされ、警察が提供する情報によって実際に関係を解消することが「公益」であり、「公益の実現に必要な範囲」で警察からの情報提供が可能となると定められていますので、事業者は相談に行く前に、すでに「クロ」なら関係を解消するとの判断(決意)を固めておく必要があるのです。
【注】
なお、本通達では、犯罪等に関わるかという緊急性・重大性、情報提供の相手方(事業者側)の信頼性、相手方(事業者側)が情報を悪用しないような仕組み(個人情報保護体制や反社会的勢力排除体制)を整備しているかということについて十分検討の上、事業者側に対して、情報を他の目的に利用しないよう情報の適正な管理を要請のうえ、情報提供するものとされている点もあわせてご認識いただきたいと思います。
4) その他
【Q8】
社員がプライベートな問題で、反社会的勢力から不当要求等をされている旨相談された場合は、(会社が巻き込まれないという観点から)どの程度まで相談に応じるべきか?
【A8】
社員のプライベートの問題に終わらせないのが反社会的勢力の手口であり、最終的にはより旨みの大きい事業者がターゲットとなり得ることを認識する必要があります。また、追い込まれた社員を接点として事業者と反社会的勢力との関係が生じるリスクや、不正防止の観点、業務効率の低下などのロスが生じる可能性などを考えれば、「巻き込まれない」とのネガティブなスタンスではなく、(その行為が何らかの社内規定に違背している場合は粛々と対応するとしても)本人からの相談を端緒としてむしろ積極的に支援し問題の解決を図ることが、事業者への反社会的勢力の接近を防ぐことになります。
そして、「社内暴排」の取組みとは、役職員の属性を確認することだけではなく、このように反社会的勢力と役職員の関係を未然に防止することや、被害の拡大を防ぐことも重要な目的であり、社内規定の整備や研修を通じて、今後、「社内暴排」にも本腰を入れていくべきだと言えます。
【Q9】
マネー・ローンダリング以外に海外の反社会的勢力の活動で気をつけなければならないことがあれば、教えていただきたい。
【A9】
反社会的勢力は、資金獲得手法を巧妙化させており、海外との関わりにおいても、覚せい剤等の薬物や武器の売買、人身売買や臓器売買といった違法な国際取引、犯罪収益のマネー・ローンダリング、暴力団自体の海外進出(東南アジアなど)、現地マフィアとの提携や伝統的資金獲得犯罪(薬物、売春、賭博など)の海外市場開拓と展開(現地化)、現地高官との癒着・贈収賄による大規模な利権獲得などの実態があります。したがって、国内の暴力団対策法や暴排条例、犯罪収益移転防止法など国内の活動にフォーカスした規制だけではもはや不十分な状況にあると言ってよく、海外の法規制やリスクに適合するための「海外コンプライアンス」の視点が求められています。
実務的には、反社会的勢力排除と海外反社排除とを、「顧客管理」という同一の文脈の中で、本質的には同じもの(関係を持つべきでない相手)として捉え、対応していくことが求められていると認識すべきです。
なお、このような「海外コンプライアンス」の取組みにおいて最も注意すべきこととして、巧妙化・グローバル化する国内外の犯罪組織に、自社の関与する商品・サービスやスキームが利用されるなどして(知らず知らずのうちに)犯罪組織との接点を持ってしまう、すなわち「巻き込まれるリスク」という点があげられます。たとえ、自社が悪意も不作為も全くなかったとしても、「適切なリスク管理をしてきたか」について国際的な説明責任が果たせない限りは、国内外の金融機関だけでなく、他の事業者から見て、「ハイリスク先」として厳格なリスク管理が適用される(場合によっては取引が縮小・拒絶される)など現実的なダメージを被る可能性がある点を十分認識しておく必要があります。
【Q10】
実際に各社は独自のデータベース(DB)を構築しているのか。また、構築すべきなのか。
【A10】
金融機関においては、金融庁の監督指針に基づき、独自にDBを整備することを求められている状況にありますが、その他の業種・業態においては、現時点では、一定の強制力を持つような特段の求めはないものと思われます。とはいえ、各社が独自に「問題あり」と判断した先を社内的に「ブラックリスト」化して、以後取引しないようにしたり、規模の大小はあるにせよ、対応部署で新聞情報や雑誌の記事、インターネット情報等を収集して反社会的勢力に関する情報や独自の視点からのネガティブニュースを収集するなどして、DB化している企業は多いと思われます。
そもそも、反社会的勢力に関する端緒情報はDBよりも日常業務の中にあることをふまえれば、現場からあがってくる生の貴重な端緒情報を組織的に丹念に取り込み、活用することは、反社リスクへの対応としては「進んで取り組むべきもの」と考える必要があります。
なお、平成26年版の政府指針アンケートによれば、「反社会的勢力情報を集約したデータベースを構築している(または構築する予定である)」と回答した企業が26.0%あり、それらの企業について、情報の蓄積件数をみると、「1万件以上5万件未満」が19.7%と最も多く、1万件以上の情報の蓄積件数を有する企業が全体の40.6%を占める結果となっています。
▼警察庁 平成26年度「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」に関するアンケート(調査結果)
【注】
ただし、ただし、本アンケートの回答企業の内訳(業種)を見ると、「銀行」「保険・証券」「その他金融業」の合計が17.0%、「不動産業」が12.3%であり、金融・不動産業界ではDB化をすすめている企業の割合が高いことを考慮すれば、それ以外の業種においては、むしろ、まだまだ進んでいない状況と解釈できるかもしれません。
【Q11】
貴社において最近の対応で一番困難だったことは何か。
【A11】
当社が対応した事例の中に、経営トップの心変わりによって、反社会的勢力との関係を「継続監視」として実質的に隠ぺいを図ろうとした(関係解消を先延ばしにしようとした)ものがありました。警察から「クロ」との情報提供を受けた後でのことであり、「公益」の実現に資するものとして情報提供してくれた警察の心証を害するおそれ(場合によっては、暴力団等の活動を助長したと見なされるリスク)や、既に情報を共有する社内関係者が増えており、外部への告発やSNS等への書き込まれるリスクなど、このまま実質的に関係を継続し続けることは難しいことを根気良く説得して、再度契約解除に向けてのゴーサインをいただきました。
反社リスクは今や「経営リスク」である一方で、このリスクに対する経営層のリスク認識は(自社には関係ないことだからと)表面的なものにとどまっているケースも多く、この事例に限らず、政府指針(反社会的勢力による被害を防止するための指針)で「事業活動上の不祥事や従業員の不祥事を理由とする場合であっても、事案を隠ぺいするための裏取引を絶対に行わない」と示されているにもかかわらず、いざという場面で隠ぺいしよう(秘密裏に対応しよう)とする意識がいまだに強いことに大きな危惧を覚えます。反社会的勢力は正にそのような意識につけこみ、「これが発覚すると大変なことになりますよ」などとして接点の維持や関係の強化を図ろうとしてきます。反社会的勢力との関係が表面化することは大きな痛手ではありますが、それに対して真摯に向き合い、排除に向けて適切に取組むことはむしろダメージコントロールにつながります。一方、いったん隠ぺいしたり、放置したものが後になって表面化して、その時点でも関係が継続しているようなケースでは、その「悪質性」から、被るダメージは相当なものとなります。反社リスクへの対応における最大のリスクが「経営者リスク」となってしまうことのないよう、平時からの「役職員」に対する暴排意識やリスクセンス高揚のための取組みは極めて重要だと言えます。
2. 最近のトピックス
1) 六代目山口組の分裂
六代目山口組のナンバー3(統括委員長)である「極心連合会」の橋本会長が、山口組を離脱する動きをみせる(ただし、その後、一転して残留の意向を示しています)など、指定暴力団山口組と神戸山口組の分裂騒動はまだまだ予断を許さない状況にあります。また、山口組以外の指定暴力団も、今回の分裂を「新たな資金源獲得のチャンス」として、虎視眈々と山口組の動向を注視しながら今後の対応を見極めており、「資金源」を巡る争いから暴力団全体が「再編」される可能性も十分考えられる状況です。
今のところ、大規模な抗争は依然として発生していないものの、名古屋市の繁華街で、離脱を巡る双方の組員間のトラブルに絡み、合わせて24人が逮捕された事案や、仙台市の繁華街でも双方40~50名の組員がにらみあい機動隊が出動する騒ぎとなった事案など、局所的には一触即発の事態も発生しており、法的環境が整い抗争を起こしにくい状況であるといっても、突発的な衝突から一気に大規模な抗争に発展する可能性も否定できません。
一方、山口組が分裂して以降、今年9月から11月25日までの間に、全国の警察は、双方の事務所など延べ103か所を捜索し、幹部ら延べ143人を逮捕しています。また、神戸山口組の暴力団対策法に基づく「指定」に向けては、暴力団対策法の改正等の動きは本格化しておらず、今のところ、全国規模での捜索等をハイペースで行いながら必要な情報を収集している状況にあります(今後、第三極として独立する組織があれば、その指定に向けた対応を迫られることになりますし、そもそも山口組の再指定も来年6月に予定されており、警察当局としては大変な作業となることが予想されます)。
この指定を急ぐ背景には、暴力団対策法により、指定暴力団員がその所属する指定暴力団等の威力を示して行う不当な行為が禁止されており(27の類型については以下をご参照ください)、公安委員会では、暴力団対策法に違反した指定暴力団等に対しては、中止命令や再発防止命令を発出し、その行為を中止させることができる(逆に言えば、指定のない状態では十分な規制が及ばない可能性がある)という点があげられます。なお、両団体については、さらに厳しい規制を課すために、直近の暴力団対策法の改正で新設された「特定抗争指定」あるいは「特定危険指定」もあわせて考えられるところです。
▼全国暴力追放運動推進センター 暴力団対策法で禁止されている27の行為
【1号】人の弱みにつけこみ,口止め料を要求する行為
【2号】むやみに寄付金や賛助金等を要求する行為
【3号】下請け工事,資材の搬入などを要求する行為
【4号】縄張り内の営業者にみかじめ料を要求する行為
【5号】縄張り内の営業者に用心棒代,入場券などの購入を要求する行為
【6号】高金利の債権を取り立てる行為
【7号】不当な方法で債権を取り立てる行為
【8号】借金の免除や借金返済の猶予を要求する行為
【9号】不当な貸付及び手形の割引を要求する行為
【10号】証券会社等に不当な信用取引を要求する行為
【11号】不当な株式の買取などを要求する行為
【12号】銀行に対して,不当に預金の受け入れを要求する行為
【13号】不当な地上げをする行為土地・家屋の明渡し料を要求する行為
【14号】土地,建物を占拠するなどして不当に明渡し料を要求する行為
【15号】不動産業者に対し,不当に宅地・建物の売買を要求する行為
【16号】不動産業者以外の者に対し,不当に宅地・建物の売買を要求する行為
【17号】建設業者に対して,不当に建設工事を要求する行為
【18号】集会施設の管理者に対し,不当に施設の利用を要求する行為
【19号】交通事故などの示談に介入し,金品などを要求する行為
【20号】商品の欠陥などを口実に損害賠償,購入した有価証券に因縁をつけた損失補てんを要求する行為
【21号】不動産業者に対し,不当に宅地・建物の売買を要求する行為
【22号】不当に特定の者に許認可などをする(不利益処分をしない)よう要求する行為
【23号】売買等の契約に係る入札に,参加資格がないのに参加させることを要求する行為
【24号】売買等の契約に係る入札に,参加資格がある者に参加させないよう要求する行為
【25号】不当に国・地方公共団体等の入札に参加しないように要求する行為
【26号】不当に,特定の者を売買等の契約の相手方としないよう要求する行為
【27号】売買等に下請け参入させるよう,元請け業者に対する行政指導などを要求する行為
2) テロリスク
先月のパリ同時多発テロ事件は、あらためてテロの恐ろしさを見せつけましたが、フランスでは今年1月にシャルリー・エブド襲撃事件があり、中東などでは毎日のように自爆テロが発生しています。最近だけでも、トルコでの爆破テロやロシア機爆破テロ、レバノンやマリでのテロ、米での銃乱射テロ事件(米国人によるホームグロウン・テロとの見方)、日本でも靖国神社放火事件(テロかどうかは断定されていませんが、外形的には「ソフトターゲット」を狙ったテロと言えなくもありません)が発生するなど、国際的にテロリスクが高まっています。
テロの封じ込めには、「金」の流れを断つこと(油田や誘拐ビジネスなど資金源対策、テロ資金供与対策など)と、「人」の流れを断つこと(最重要だが最も困難なテロリストの供給源対策、思想的に感化されたローンウルフ・ホームグロウン・テロリスト対策、入国審査の厳格化など国境を超えた移動対策、重要インフラ等への内通者対策など)、さらには、「警戒」のあり方(大規模な集客施設など警備を緩やかにせざるを得ない「ソフトターゲット」対策、原発やインフラ施設などの「ハードターゲット化」対策など)といった面からの検討や対策の強化が急務だと言えます。
また、民間事業者においても、大規模な集客施設やイベントにおける手荷物検査や巡回の実施や、爆発物製造に絡む化学物質等の販売時の警察への連絡といった警察からの要請に積極的に応え、官民挙げての取組みが求められます。
特に、事業者に大きく関わる部分でもある「テロ資金供与対策(CTF)」においては、マネー・ローンダリング対策同様、KYC(Know Your Customer)からKYCC(Know Your Customer’s Customer)への取組みの質的転換が求められていることは言うまでもありません。そして、その取組みは、何も金融機関など(犯罪収益移転防止法に定める)特定事業者だけが注意すべきという話ではありません。一般の事業者としても、テロ資金やテロを助長するような取引が自社の商流に紛れていないか、知らず知らずの間に「悪の連鎖」に自社が巻き込まれていないか、これまで以上に取引先管理の厳格化(Enhanced Due Diligence)に取組み、テロリストに連なる「真の受益者」を見抜くよう迫られているということでもあります。
以前の本コラム(暴排トピックス2015年10月号)でご紹介した通り、IS(イスラム国)がトヨタ製の車両多数を使用しているとして、米財務省が背景を調査中との報道がありました。同社が、意図的にそこから利益を得ようとしている、あるいは、テロ組織に利益供与する意図はないと考えられるうえ、一度購入された車両が中間業者によって再販されたり、または盗難に遭ったりした場合にそれを追跡するのは、実際にはほぼ不可能です。それでも、CTFの観点から、結果だけで嫌疑をかけられるリスクが顕在化しており、それに対して、対応は困難だとして何ら対策を講じない「不作為」があれば制裁の対象となりかねない現実を突き付けられた形と言えます。
ただし、日本を含む世界的なテロ資金供与対策の強化、包囲網の強化が進む一方で、ISへの闇資金ルートが存在する問題も深刻なようです。
報道(2015年11月25日付産経ニュース)によれば、中東や南アジアの伝統的な地下送金システムで、イスラム国への資金ルートの一つとも指摘されている「ハワラ」などは西側中心の銀行取引を通じたテロ資金供与対策の規制が及ばず、課税や海外送金規制を逃れるために取引の記録を残さないことが多いこともあって、「テロ組織に資金が流れていたとしても追跡は難しい」とのことであり、また、「シリアやイラクでは規制当局の実務能力や汚職体質の問題もあり、実効性のある取り組みは期待しにくい」といった問題もあるようです。
また、類似のリスクとしては、匿名性の高い「仮想通貨」による資金のプールや移動の問題などが顕在化しており、こちらの対策も急務です。
テロリスクは反社リスク同様、外部からの攻撃リスクであり、好むと好まざるに関わらず、「巻き込まれるリスク」でもあります。国際的なテロリスクの高まりや、国際的なイベントが集中する日本がターゲットとなる可能性が極めて高い状況にある以上、さらには、民間事業者が担うべき役割がある以上、求められる対策を適切に実施していくべきですし、テロを助長するような行為やそれを見て見ぬふりをする不作為があれば、自らにも降りかかってくる脅威を招くわけですから、絶対にあってはなりません。
3) 共謀罪の創設
パリ同時多発テロ事件を受けて、テロ組織の資金源を断つ対策のひとつとして組織的犯罪処罰法の改正、いわゆる「共謀罪」を創設する機運も高まっています。ただし、共謀罪を新設する組織犯罪処罰法改正案は、国会に過去3度提出され、いずれも廃案になった経緯があり、今後の動向は不透明です。
報道によれば、現時点では、重大犯罪の謀議に加わっただけで処罰対象となる共謀罪について、「集まった」という理由で一般人が罪に問われかねない(拡大解釈による不当逮捕)、人権侵害につながる可能性があるとして慎重な意見が根強いことから、その内容を見直し、(1)共謀だけでは処罰対象とせず、犯罪実行に必要な資金や物品の準備などを構成要件とする方向で検討を進めていること、(2)適用対象団体をテロリストや暴力団などの「組織的な犯罪集団」に限定すること、(3)名称も共謀罪が誤解を招くなどとして「組織犯罪準備罪」「組織犯罪遂行罪」などを想定しているといったことが言われています。
そもそも共謀罪の検討が必要な背景としては、最近のテロリスクの高まり以外にも、国連が2000年にテロや国際的な犯罪を未然に防ぐことを目的とする「国際組織犯罪防止条約」を採択したことがあげられます。日本も2000年に署名していますが、国内法が未整備のため(共謀罪がないため)批准には至っていません。さらに、先進国で同条約を批准できていないのは日本のみという状況で、国際的なテロリスクに対応してくために必要な情報が(各国の諜報機関等との連携ができないため)得にくく、日本が「抜け道」となって、国際的な信用失墜ばかりか、国際的なテロ包囲網を骨抜きにしてしまいかねません。
この条約の批准と共謀罪の創設との関係で言えば、一方で、日本弁護士連合会(日弁連)は、「共謀罪を設けなくても国際組織犯罪防止条約の批准は可能」とする意見書をまとめています。
▼日本弁護士連合会 日弁連は共謀罪に反対します(共謀罪法案対策本部)
それによれば、「未遂前の段階で取り締まることができる各種予備・共謀罪が合計で58あり、凶器準備集合罪など独立罪として重大犯罪の予備的段階を処罰しているものを含めれば重大犯罪についての、未遂以前の処罰がかなり行われています。」「刑法の共犯規定が存在し、また、その当否はともかくとして、共謀共同正犯を認める判例もあるので、犯罪行為に参加する行為については、実際には相当な範囲の共犯処罰が可能となっています。」などと説明されています。また、それ以外にも、批准の手続き面からみて、現行の法体系で十分批准は可能(国連の立法ガイドが求めている組織犯罪を有効に抑止できる法制度はすでに確立されている)としています。
このように、共謀罪創設の行方は依然として不透明ですが、テロリスクや反社リスクを低減させ、国際的な連携に貢献するという意味でも、「日本が条約を批准すること」が重要であるとの共通認識のもと、速やかな対応が求められます。
4) マンション標準管理規約の改正
国土交通省から、「マンション標準管理規約」改正案として、暴力団等の排除規定を新設し、暴力団の構成員に部屋を貸さない、役員になれないとする条項等を整備する方針が示されています。また、改正コメント案において、「暴力団の排除のため、暴力団員を反復して出入りさせる等の行為について禁止する旨の規定を追加することも考えられる。」との文言等が追加されています。
▼国土交通省 「マンションの管理の適正化に関する指針」及び「マンション標準管理規約」の改正(案)に関する意見募集について
▼別紙2 マンション標準管理規約(単棟型)及び同コメントの改正案
これに対し、日本弁護士連合会(日弁連)が、「住戸専用のマンションであるか店舗併用等の複合用途型マンションであるかにかかわらず、その専用部分の暴力団事務所としての使用がマンション区分所有者の共同利益に反すること及び同禁止が必要」、「少なくとも暴力団事務所としての使用禁止については、住戸専用のマンションであるか店舗併用等の複合用途型マンションであるかにかかわらず、本件改正案の条項例中に明記すべき」といった意見を表明しています。
▼日本弁護士連合会 「マンション標準管理規約」の改正(案)に対する意見
不動産事業者の暴排実務においては、契約時点で取引の相手方やその関係者(保証人や居住者・同居人等)に対して反社チェックを実施することが定着していますが、当然のことながら、反社会的勢力は契約当事者として直接登場することはほとんどありません。とりわけ、物件が暴力団事務所に使用されるかどうかについて、暴排条例でも「利用目的」を確認することが求められているとはいえ、彼らはその目的を秘して契約するわけですから、契約時点で見抜くことはほとんど困難です。
正に暴力団等に活動拠点を提供することになる「不動産からの暴排」の取組みは、今後も厳格化・深化が求められますが、入口時点における限界をふまえ、今後は、利用状況のモニタリング(中間管理)の重要性が高まるはずです。さらには、実態が確認されれば、「用法違反」による契約解除・強制退去といった排除の確実な実施が求められることになります。そのために、排除実務に明確な根拠を与える意味でも、日弁連が求めるように、少なくとも「暴力団事務所としての使用禁止」が規約に確実に盛り込まれるような取組みは当然行うべきだと言えるでしょう。
5) 仮想通貨を巡る議論
金融庁で、ビットコインをはじめとする「仮想通貨」の規制のあり方等に関する議論がスタートしています。
▼金融庁 金融審議会「決済業務等の高度化に関するワーキング・グループ」(第4回)討議資料(3)(「仮想通貨」に関する論点①)
▼金融庁 金融審議会「決済業務等の高度化に関するワーキング・グループ」(第5回)討議資料(4)(「仮想通貨」に関する論点②)
「仮想通貨」は、その移転が迅速かつ容易(さらには安価)であるうえ、利用者の匿名性が高いことから、マネー・ローンダリングやテロ資金供与等に悪用されるリスクが以前から指摘されていますが、今年6月には、FATF(金融活動作業部会)も、「仮想通貨と法定通貨を交換する交換所に対し、登録・免許制を課すとともに、顧客の本人確認や疑わしい取引の届出、記録保存の義務等のマネロン・テロ資金供与規制を課すべき」とのガイダンスを公表しています。
現在のところ、諸外国でも規制のあり方は異なっており、ロシアなどは仮想通貨の使用を禁止、米国はAML/CTF規制の導入を検討中、ドイツやフランスなどはAML/CTF規制と利用者保護のための規制を既に導入している状況(さらに言えば、フランスはパリ同時多発テロを受けて、購入時の規制強化を決定しました)とされています。
本ワーキング・グループにおいては、仮想通貨と法定通貨を交換する交換所に対し、上記のFATFのガイダンスを踏まえ、犯罪収益移転防止法上のマネロン・テロ資金供与規制を課すことについて、「具体的には、仮想通貨と法定通貨を交換する交換所を犯罪収益移転防止法の特定事業者に追加し、同法に規定される以下の義務等を課すことが考えられる」との金融庁の考えが示されています。
- 本人確認義務(口座開設時等)
- 本人確認記録及び取引記録の作成・保存
- 疑わしい取引の当局への届出
- 体制整備(社内規則の整備、研修の実施、統括管理者の選任等)
ビットコインが犯罪に悪用された事案は既に米国などで見られ、実際に、ISが当局の追求をかわすためにビットコインで資金を貯め込んでいるとの情報もあります。したがって、今後、日本においても組織犯罪等に悪用されることが予想され、預金口座からの暴排が進む中、匿名性の高い仮想通貨が暴力団等の預金口座の代替手段として利用される可能性も考えられることなどから、AML/CTFの規制の枠組みだけでなく、実務的にも近い反社リスク排除の観点から事業者を規制する形もあわせて検討いただきたいものです(現実的には、個々の事業者や日本デジタルマネー協会など業界の主体的な取組みに委ねられる可能性が考えられますが、いずれにせよ反社リスク管理を強力に推進していくべきだと思います)。
6) 忘れられる権利
本コラムにおいてもその動向を注視している「忘れられる権利」ですが、ここにきて日本でも注目すべき判断(仮処分の決定)が相次いで報道されています。
- 10年以上前に振り込め詐欺で有罪が確定した男性が、グーグルで事件を報じる記事が表示されるのはプライバシー侵害だとして、米グーグルに検索結果の削除を求めた仮処分申請で、東京地裁が削除を命じる仮処分決定をしています。
- 2003年に逮捕され、罰金20万円の略式命令を受けて即日納付した男性が、「求職活動を中断するなどの被害があり、プライバシーを侵害された」としてグーグルに削除を求めた仮処分申請をしていた事案で、札幌地裁は、「逮捕から12年が経過した現時点では、犯罪経歴を公表する社会的意義は相当低下している」と指摘して、削除を命じる仮処分決定を出しています。
- ヤフーで自分の名前を検索すると、犯罪に関わっているかのような結果が表示され人格権が侵害されているとして削除を求めた仮処分申請事案において、東京地裁は、男性は現在、犯罪と無関係な一市民として生活しているとし、「過去についての記載は現在の地位を著しくゆがめている。公共性が高いともいえない」と指摘して、削除を命じる仮処分決定を出しています。
報道によれば、グーグルは「知る権利の観点から正式な裁判で争いたい」、ヤフーは「結果の削除は、表現の自由や知る権利を守る観点から慎重さが必要だ。正式な裁判で争うことも視野に対応を検討する」とのことですが、前回の本コラム(暴排トピックス2015年11月号)でも指摘したように、「時間の経過」による「公益性」の減少といった考え方がひとつの基準になりつつあるところ、実務面から見れば極めて曖昧なこの概念が、「一定期間を過ぎれば知る権利より人格権の保護が優先する」という結論ありきの状況に既になりつつあり(前述の例では、振り込め詐欺事案でさえ「逮捕から12年が経過した現時点では、犯罪経歴を公表する社会的意義は相当低下している」との裁判官の指摘が正にこれに当たります)、さらに、それがどの時点なのかの見極めだけが争点になっているようにさえ思われ、やや違和感を覚えます。
本コラムとの関係で言えば、反社情報は、「真に更生した者」への配慮は必要であるものの、その本質や実態からみれば、「時間の経過」に関係なく「公益性」の高い情報であることは間違いないと思われます。上記3つの事例からは、(事案の性質に関する情報は十分に分かってはいませんが)「10年」といった「時間の経過」基準が見え隠れしているようにも見えます。この「忘れられる権利」の実務的な解釈については、反社情報の取り扱いとあわせ、まだまだ目が離せない状況にあると言えるでしょう。
7) 犯罪インフラを巡る動向
① レンタルサーバー
今年は、例年にも増してサイバー攻撃の脅威が猛威をふるいました。その攻撃者の特定を巡って攻防も激しさを増していますが、中でも、インターネット利用には不可欠な存在である「サーバー」は、サイバー攻撃においても、複数のサーバーを経由して痕跡をたどりにくくする手口や、悪意のあるプログラムを相手側に感染させた上でサーバーを経由して遠隔操作を行うといった手口など、正に「犯罪インフラ化」している状況にあります。
とりわけ、「レンタルサーバー」の契約手続きはオンラインで行われ、本人確認手続きがないまま申請が通るといった状況があり、偽名・借名・なりすまし等により利用者の特定が困難になっています(特に海外のレンタルサーバー)。これらは、前回の本コラム(暴排トピックス2015年11月号)でも指摘した「レンタル携帯電話」が犯罪インフラ化している構図と全く同じであり、深刻な犯罪を助長している以上、レンタルサーバーやレンタル携帯電話のサービス提供にあたっては、厳格な本人確認手続きの導入や事業者側の健全性の確保等に向けた規制の強化が急がれます。
② 名簿
振り込め詐欺未遂容疑で逮捕された指定暴力団稲川会系組幹部らが使用していた東京都内のマンションから、携帯電話16台やノートパソコン3台などが押収され、パソコンには11県計約9万500人分の住所、氏名、電話番号などが記されたエクセルの表が保存されていたと報じられています。
詐欺等の犯罪グループが正体を隠して犯罪を実行するための「三種の神器」と呼ばれるものが、「他人名義の銀行口座」「他人名義の携帯電話」「名簿」です。昨年の大規模個人情報漏えい事案が発生した際にも、悪質な名簿業者の存在がクローズアップされ、これを契機として、不正な個人情報の流通の抑止の観点を含む個人情報保護法の改正が行われたことは皆さまもご存知のとおりです。
不正な手段で入手された名簿については、特殊詐欺グループなどで、実際の対応結果等の情報が追加され、精度を高めながら共有・転売されている実態があります。また、メールアドレスだけの漏えいであっても、「標的型攻撃メール」「迷惑メール」などと組み合わせることによって、より深刻な攻撃への足がかりとなったり不正請求等につながるため、犯罪者にとってはそれだけでも十分な価値を有していると認識し、防御の意識を高める必要があります。
③ ネーム・ローンダリング
融資を受ける資格がない多重債務者4人を僧侶として改名、偽の源泉徴収票を銀行に提出するなどして信用させ、住宅ローンの融資金をだまし取るなどした元僧侶が関与した詐欺事件で、京都地裁は「得度制度を悪用した組織的かつ計画的な犯行」と指摘し、懲役4年10月(求刑・懲役5年6月)を言い渡しています。
得度制度を悪用したネーム・ローンダリングの存在を世に知らしめた事件でしたが、ネーム・ローンダリングの手口としては、偽装養子縁組、偽装結婚、偽装離婚、通称名の変更などが代表的で、生活困窮者や障害者など社会的弱者を隠れ蓑に行われることも多く、過去、以下のような事例もありました。
知的障害者の男性が27人もの人と偽装養子縁組をさせられた事案
事情をよく認識できない知的障害者が利用されたものです。養子縁組を交わせば養子側の姓が変わり、新たな名義で銀行口座開設や携帯電話契約などが可能になり、振り込め詐欺グループや暴力団が悪用していることは知られており、実際、当該男性の口座も詐欺などの犯罪に利用された形跡があったということです。
建設業の男性が、知らない間に、面識がない7人と養子・養親の縁組を繰り返したように戸籍が変更されていた事案
この事例の特異な点は、騙されたり利用されたといった事実が本人の自覚としてなく、「全く知らないところで繰り返し行われていた」というところにあります。言い換えれば、例えば親族であったとしても、それが可能となってしまう行政の手続き自体の甘さが「犯罪インフラ化」しているということでもあります。
事業者がネーム・ローンダリングに対抗するには、本人確認手続きとしてデータベース(DB)だけではほとんど無力ですが、対応する職員らの「職業的懐疑心」や実態のモニタリングなど日常業務と組み合わせながら、「入口」だけでは限界があることをふまえ、「継続的な顧客管理」の中で端緒を掴んでいくといった対応が求められます。
④ 金・ナマコの取引
金の密輸が急激に増えているといいます。金の価格自体が高騰していることもありますが、金の価格は世界的には非課税であるのに対し、日本国内で貴金属店に売れば消費税が課されることから、密輸して国内で転売することで、確実に消費税分が儲かるという構造的な要因があります。この「確実に儲かる」ことから、既に暴力団の資金源のひとつになっているということです(例えば、福岡県警が、暴力団幹部を関税法違反で逮捕しています)。
また、陸奥湾のナマコ密漁事件で、指定暴力団稲川会系組員(青森)と指定暴力団山口組組員(北海道)が組の違いを超えたタッグを組んで、津軽海峡を挟んで荒稼ぎしていた実態が報じられています。密漁場所への手引きと、その謝礼に当たる場所代の支払いなど、水産加工会社などを巻き込んで少なくとも2億円を得ていたとされています。ナマコは特に中国で珍重されており、それが高値で取引されて一獲千金につながることから、暴力団の資金源のひとつになっており、実際にこれまでも多くの事例が報道されています。
8) 工藤会の動向
福岡県警を中心とした工藤会壊滅作戦によって幹部が大量に逮捕された指定暴力団工藤会ですが、主に工藤会対策のために改正された福岡県暴排条例の、平成24年8月に導入された「暴力団員の立入禁止標章」制度に絡み、当時、標章を掲げた飲食店などが襲われる事件が相次ぎ、せっかく掲げた標章をまた引っ込めるといった飲食店が続出しました。しかしながら、ここへきてようやく、工藤会が標章の掲示への報復のために放火などを組織的に繰り返したとして、工藤会理事長ら数人が現住建造物等放火などの疑いで逮捕されるに至りました。
福岡県警のこれら一連の取組みによって、北九州市民の間に安心感が広がっているようですが、この11月末から12月にかけて、同県警は、北九州市小倉北区の繁華街(同標章制度の対象地域)にある飲食店など約400店を対象に「みかじめ料」に関する一斉の聞き込み捜査を行っています。同県警による一斉聞き込みは今年4回目で、「組幹部逮捕後は安心感から情報提供を得やすい」との関係者の話が報道されていました。つい最近まで「怖くて情報提供できない」「情報がないため手詰まり感があった」という「負のスパイラル」に陥っていたところから、暴排実現に向けた「正のスパイラル」に転じたことを実感させるうれしいエピソードです。
また、工藤会は、山口県公安委員会から「特定危険指定暴力団」に指定されていますが、その指定は集会・結社の自由を保障する憲法に反するとして、山口県に指定の取り消しを求めた訴訟を起こしています。それに対して、山口地裁は、「凶器を使い重大な危害を加える恐れがあることは明らか。手続きも適法になされている」として請求を棄却しました(福岡県を相手にした同様の訴訟でも、福岡地裁が7月に請求を棄却しています)。
さらに、福岡県公安委員会は、改正暴力団対策法に基づき、集会などを禁じる使用制限命令を出していた工藤会の3事務所への命令を、以前と同様に指揮命令や連絡の場に使われる恐れがあるとして、来年2月中旬まで3カ月間延長すると発表しています。
幹部の大量逮捕によって組織としての指揮命令系統が混乱し、各種規制の強化で実質的に十分な活動が出来ない状況に追い込まれた工藤会ですが、その壊滅作戦の行く末を見守りたいと思います。
9) 事業者や団体と反社会的勢力の関係
某私立大学の名誉教授が、暴力団関係者と知りながら借金をし、法律的なアドバイスもしていたということが報じられました。報道によれば、「元組長とは日頃からつきあいがあり、軽い気持ちで借りた。反社会的勢力だからすべてが悪いというのはおかしいと思う」と話したとされますが、東京都杉並区で行政相談委員を務める(問題を受け、総務省は委嘱を解除)など、人格・知見ともに高いと認められる方のこのような発言には本当に失望しました。一般的に、学校関係者や医療関係者、研究者などは、閉じられた世界にどっぷりと浸かり、社会的地位の割に世間の常識から乖離してしまう危険性が高いと言われていますが、正にこの正直な発言から、「常識」がズレることの怖さを見せつけられた感じがします。学校法人や医療法人をはじめ、そのような危険性を抱える事業者や団体は、彼らの「脇の甘さ」に起因する反社リスクの高さを自覚し、研修をはじめとするコンプライアンス・プログラムの徹底にあらためて取組んでいただきたいと思います。
さて、「脇の甘さ」という点では、スポーツ関係者にも同様のことが言えます。
野球賭博問題に続き、日本オリンピック委員会(JOC)関係者の男性が、指定暴力団山口組系元組幹部の男性らとの会食に同席していた疑いが取り沙汰されています(渦中の男性は否定しています)。本件に限らず、既に、相撲やゴルフ、野球、格闘技系などで密接交際などの事例が発覚していますが、押し並べてスポーツ団体については、同様の事例はまだまだ多いのではないかと推測されます。
これは正に、前述の大学教授と同じ構図で、「常識」という点では、スポーツ選手は過ごしてきた環境などから、やや一般人と異なる傾向にある方が多いのも事実であり、彼らが選手を引退後そのまま団体の幹部に就任する、新たに事業を興すなどの場合に、何のためらいもなく反社会的勢力との関係を継続したり、(彼らからのアプローチにのって)新たに接点を持ったりする可能性を否定できないのが現状です。
なお、暴力団の資金源となっている可能性の高い「賭博」については、スポーツ選手の酒やタバコ、ギャンブルなどの依存症を克服する英国のある施設で、受診者の約7割がギャンブル依存症になっていたという深刻な報告があるとのことです。スポーツ選手が常に競争や緊張感に晒されている(ストレスフルである)こととの関連性が疑われますが、そもそもスポーツと賭博の親和性の高さに「構造的な要因」が認められるのであれば、スポーツ団体やそれに関わる事業者は、ギャンブル依存症対策や反社リスク対策にもっと真剣に取り組むべきだと言えます。
さて、このように、反社リスクは、「常識」が社会からズレていることに起因する「脇の甘さ」やその世界にどっぷりと浸かるという「構造的・環境的な要因」と密接に関連していることが分かります。
この構図を一般の事業者に置き換えてみると、まずは、そもそも社員一人ひとりの「常識」が必ずしも一律ではないと認識する必要があるということになります。それらが、事業者が思い描いているもの(前提としているもの)と同じレベルになければ、反社リスク対策やコンプライアンス・プログラムの実効性が担保されない(異なる常識の者にとっては表面的な理解しかできない)ことになり、そのような部分にまで注意を払う必要があります。福岡県警が、今年、窃盗事件などで任意の取り調べを受けた12~19歳の非行少年348人を対象に行ったアンケートで、暴力団との関わりについて1割以上(40人)が「ある」と回答、「社会に暴力団は必要か」との問いには19人が「必要」と回答したという報道がありました。アンケート結果自体はあくまで参考ですが、事業者は、社員の中にそのような「脇の甘さ」を持った者が「一定数存在する」という現実、その一部の者の軽率な対応が事業全体に大きな影響を及ぼし得る現実を直視しなければなりません。
また、業務上やむなく(顧客として対応せざるを得ない)反社会的勢力と接点を持ちやすい業界(例えば、飲食店や量販店、不動産事業者など)の中で長く働いていることで、知らず知らずのうちに反社会的勢力に対する「免疫」ができ、反社会的勢力との密接な関係に何ら疑問を抱かないようになる(麻痺してしまう)「構造的・環境的な要因」、さらには、そのような環境によって「常識」がズレてしまいやすい点についても、関係者は十分認識しておく必要があります。不動産会社の社員が、賃貸契約できない暴力団のために、借名契約等によって物件を確保し提供していた事例などは、正にその典型であると言えるでしょう。
3.最近の暴排条例による勧告事例・暴対法に基づく中止命令ほか
1) 東京都の逮捕事例(詐欺容疑)
暴力団関係者主催のディナーショーであることを隠して、東京都内のホテルと宴会場の利用契約を結んだとして、指定暴力団稲川会系組幹部とイベント会社役員ら4人が詐欺容疑で逮捕されています。会社役員は、暴力団の資金集めでの興業であることを「知っていた」ということですので、東京都暴排条例においても勧告の対象となるような構図であったと思われます。
本件に関して、ホテル側の対応についての報道はほとんどありませんが、当該イベント会社を反社チェックした結果、問題がなかったとしても、「真の受益者」(背後にいる暴力団)に関する端緒が一切得られなかったのか、実務面からは気になるところです。
今後は、一般の事業者においても、「真の受益者」の特定にどれだけ真剣に取組んでいたか(分かっていたのではないかとの疑いを解消するための努力)が問われるようになることが予想されます。また、どの段階で実態を把握したのか、イベント開催を中止させることはできなかったのか、といった排除実務の視点からの検証も求められるようになるものと思います。
2) 大阪府の勧告事例
神戸山口組系の組員にコンビニの駐車場を無償で貸したとして、大阪府公安委員会は、大阪府暴排条例に基づき、40代男性のコンビニ店長に貸さないよう勧告しています。また、組員にも借りないようあわせて勧告しています。
報道によれば、店長は、組員が使用することを知りながら駐車スペースを無償で提供しており、よく買い物に来ていることから面識があり、組事務所に弁当の配達までしていたということです。
コンビニやガソリンスタンドを駐車場代わりに利用させる「利益供与」の事例や実際に勧告を受ける事例は全国的に多く、社内教育の重要性はもちろんのこと、例えばフランチャイジーにブランドを提供している事業者(フランチャイザー)においても、レピュテーションリスクに直結するという意味でも、正に自らの責務として主体的に取組む必要があります。
3) 岡山県の勧告事例
乗用車の名義を偽って車検を行い、運輸局に登録したとして、岡山県公安委員会は、岡山県暴排条例(利益供与の禁止)に基づき、岡山県内の車検代行業者と指定暴力団浅野組幹部に同様の行為をやめるよう勧告しています。