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事業所における感染者および濃厚接触者の職場復帰の考え方について

2020.12.21
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総合研究部 専門研究員 大越 聡

タイトルイメージ図

本稿はBCP担当された初心の方向けの連載として始まったものだが、年末年始に向け新型コロナウイルスの第3波も予想されていることから、今回は新型コロナウイルスに感染した従業員が出た場合や濃厚接触者が出た場合の対応と、職場復帰の考え方について考えてみたい。感染症対策は予防・対策ももちろん必要だが、感染者が急増する今となっては「従業員が罹患すること」を前提とした対応を考えておくことは重要だ。

また、従業員が復帰する時に、他の従業員から余計な偏見の眼をもって見られないような社内啓発も必要となる。現在はどのように個人的な対策を徹底したとしても、感染を完璧に防ぐことは困難だ。従業員のメンタルヘルスケアの意味合いでも、普段から罹患者を犯罪者のように扱うことのないように情報提供を怠らないことが重要だ。

まずは感染者や濃厚接触者の定義と対応、保健所との連携については以前コラムにまとめておいたので参考にしておいてほしい。

▼「職場に感染者や濃厚接触者が発生した。保健所の対応が遅れている場合はどうしたらいい?」

また、今回も一般社団法人 日本渡航医学会公と益社団法人 日本産業衛生学会が共同で作成した「職域のための新型コロナウイルス感染症対策ガイド」(第4版/2020年12月15日作成)を参考にしつつ、筆者の見解を加えていることを付記しておく。

▼「職域のための新型コロナウイルス感染症対策ガイド」(一般社団法人 日本渡航医学会公と益社団法人 日本産業衛生学会 第4版/2020年12月15日作成)

(1)発熱や風邪症状を認める者で、PCR検査を受けていない従業員の職場復帰について

従業員が発熱や風邪などの体調不良を認める場合は、できれば「かかりつけ医・最寄りの医療機関」もしくは「自治体が設置する新型コロナウイルス受診相談窓口等」に相談し、新型コロナウイルスの検査を受けることが勧められている。

しかし、かかりつけ医などに相談した場合も、受診はしたものの新型コロナウイルスの検査を受検しなかった場合も考えられる。その場合は新型コロナウイルス感染症を完全に否定することはできないため、以下の基準に基づいた職場復帰を考えたい。症状出現後に受けた新型コロナウイルス検査が陰性で、かつ他の症状より新型コロナウイルス感染症が強く否定された場合には、発熱や風邪症状の消失から少なくとも72時間が経過している状態を確認して復帰させるようにしたい。

新型コロナウイルスの検査を受けていない者の職場復帰の目安

  • 職場復帰の目安は、次の①および②の両方の条件を満たすこと
    ①発症後に少なくても8日が経過している
    ②薬剤(解熱剤を含む症状を緩和させる薬剤)を服用していない状態で、解熱後および症状(咳・咽頭痛・息切れ・全身倦怠感・下痢など)消失後に少なくても3日が経過している。
      ※8日が経過している:発症日を0日として8日間のこと
      ※3日が経過している:解熱日・症状消失日を0日として3日間のこと

従業員を職場復帰させる場合、以下のようなことに注意したい。

  • 医療機関等に対して各種証明書(「陰性証明書や治癒証明書」)の請求はできるだけ控えること。陰性証明書や治癒証明書は海外出張の場合などに必要になることもあるが、通常の場合は病院側の負担を減らすために各種証明書の発行は控えてほしい。
  • 職場復帰後は日常的な健康観察、マスクの着用、他人との距離を適切に保つなどの感染予防対策を従来通り行う。
  • 在宅勤務に限ればこの限りではないが、家庭内感染に注意すること。

(2)新型コロナウイルスに感染した従業員の職場復帰について

基本的な考え方としては、主治医などからのアドバイスに従い、体調を確認しながら職場へ復帰させるようにしたい。ただし、「退院(自宅療養・宿泊療養の解除を含む)後のPCR検査の陽性が持続する場合がある」、「PCR検査が陽性であることが「感染性がある」ことを意味するわけではない」ことなどは留意しておきたい。

感染力は発症数日前から発症直後が最も高いと考えられており、発症7日間程度で感染性が急激に低下することが知られている。感染した場合でも、先ほどと同様、職場復帰時に医療機関に「陰性証明書や治癒証明書」の発行を求めることは控えるようにしてほしい。

新型コロナウイルスに感染した従業員の職場復帰の目安

職場復帰の目安は次の①、②の両方を満たすこと
①発症後に少なくとも10日以上が経過している。
②薬剤(解熱剤を含む症状を緩和させる薬剤)を服用していない状態で、解熱後および症状(咳・咽頭痛・息切れ・全身倦怠感・下痢など)消失後に少なくとも3日(72時間)が経過している

職場復帰した後の注意事項としては、症状が中等度以上だった場合や入院していた場合は、体力の低下などが懸念されるので、主治医と相談のうえ職場復帰を行うようにしてほしい。また、復職後1週間程度は、毎日の健康観察、マスクの着用、他人との距離を2m程度に保つなどの感染予防対策を徹底しつつ、体調不良を認める際には出社させないことが必要だ。

(3)従業員が濃厚接触者と判断された場合の対応

従業員が何らかの形で濃厚接触者と判断された場合の対応も、よく聞かれるところだ。事業所で感染者が出た場合、事業所は従業員に関する情報(氏名、年齢、住所、電話番号、職場座席表、行動履歴、会議や会食の同席者など)を保健所に提出する。その情報の中で管轄の保健所の指示に従い濃厚接触者を特定することが基本となる。

すべての濃厚接触者を検査対象としてPCR検査が行われる。検査結果が陰性だった場合でも、「患者(PCR検査陽性者)」の感染可能期間の最終暴露日から14日間の健康観察(自宅待機ではない)が指示される。感染者が自宅療養を行う場合は、その家族(同居者)は基本的に濃厚接触者に当たるため、患者の自宅療養解除日から、さらに14日間の健康観察期間が求められることがある。

気をつけなければいけないのは、事業者が独自の判断で、濃厚接触者や濃厚接触者以外のものに自宅待機などを指示したり、健康観察期間を延長したりする場合は、感染症法、労働基準法、労働安全法、就業規則などに基づいた対応をおこなう必要があることだ。もし、就業規則の特別休暇の中に「その他、特別な事情があって会社が認めたとき」などの項目があれば、「今回の新型コロナにおける特別休暇の適用を認めること」を社内通達などで周知することにより自宅待機を指示することもできるだろう。また、積極的疫学調査で濃厚接触者と判断されなかった従業員が、不安を理由に検査を希望する場合には、検査が可能な医療機関で原則、自費にて検査を受けることができる。最近では簡易なPCR検査を受けることもできるので、選択肢の一つとして考えておいてもいいだろう。

(4)COCOAアプリで陽性者との接触確認通知が来た場合の対応

厚生労働省は、新型コロナウイルス感染症の拡大防止に資するよう、新型コロナウイルス感染症対策テックチームと連携して、新型コロナウイルス接触確認アプリ(COCOA※)を開発した(COCOA=「COVID-19 Contact Confirming Application」の略)。COCOAアプリをスマートホンにインストールしておくと、同じくCOCOAアプリをインストールした陽性者と過去14日以内に、概ね1m以内で15分以上近接した場合に通知され、必要な帰国者・接触者外来などの連絡先が表示されるものだ。

COCOAについては誤解が多いので少し解説しておく。まずCOCOAアプリで通知が来るのは「濃厚接触者」であることの通知ではなく、あくまで「陽性者との確認接触」があったことを示すものだ。例えば、マスクなどの必要な措置を講じた上で、電車で15分以上隣り合っただけでも(1m以内の範囲に近接していれば)通知が来ることになる。これは国が定義する「濃厚接触者」ではない。通常であれば濃厚接触者でなければ優先的にPCR検査を受けることはできないのだが、厚労省の通達によれば「③当該感染症の疑似症患者」又は「④当該感染症にかかっていると疑うに足りる正当な理由のある者」として、PCR検査を優先的に受けることができる。さらには、当該検査費用の負担を本人に求めないものとしていることも厚生労働省の通達により明記されている(事務連絡令和2年8月21日通達)。

つまり、COCOAで接触確認通知が来た場合、優先的に、無料でPCR検査をうけることができるというメリットがあるのだ。さらに、会社貸与のスマートホンに入れておけば会社内での濃厚接触者の特定も容易になる。ぜひ、企業の担当者は会社貸与のスマートホンへのインストールを前向きに検討していただきたい。

COCOAアプリで陽性者との接触確認通知が来た場合の対応

上図は「▼新型コロナウイルス接触確認アプリ(COCOA)について(厚生労働省)」より。「当てはまらない場合は、普段通りの生活をして差支えない」ことが明記されている。

アプリで接触確認通知が来た場合、基本はアプリの指示に従い所定の機関に連絡し、検査などを相談し、必要であればPCR検査を受けることになる。

こちらも誤解のないようにしていただきたいことは、通知が来たからといって必ず自宅待機をさせなければいけないものではないということだ。通知が来た後に「症状の有無」について確認される画面が出てくるが、そこで「症状なし」の場合、2週間以内に家族や友人、職場の人などで感染者が出たかどうかなどを確認し、最終的に「いいえ」となる場合は、14日間の体調の変化に気を付けるように表示はでるものの、「普通通りの生活をしていても差し支えない」とされている。接触確認通知があったからと言って、即「濃厚接触者」ではないのだ。

もちろん、会社の規則として「COCOAの通知により陽性者との接触が確認された場合、会社判断による濃厚接触者」とすることは可能だ。ただし、いたずらに従業員を強制的に休ませることが必ずしも企業や従業員にとって益になるというものではない。テレワークを推奨するなど、柔軟な対応が必要だと考える。

参考:
▼職域のための新型コロナウイルス感染症対策ガイド 第4版/一般社団法人日本渡航医学会、公益社団法人日本産業衛生学会
▼新型コロナウイルス接触確認アプリ(COCOA)について(厚生労働省)
▼厚生労働省新型コロナウイルス感染症 対策推進本部 事務連絡(令和2年8月21日通達)

- 以上

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