天災は、忘れぬうちにやってくる!これから始めるBCP

地震と風水害の違いと風水害の対策のポイント

2023.06.26
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総合研究部 研究員 小田 野々花

1.はじめに

今年はすでに各地で風水害が発生しているが、7月、8月に向けて本格的に風水害のシーズンに突入する。危機管理の基本は「予測(知る)」「予防(備える)」「対応」である。これを例えば台風への対応にあてはめると、天気予報などの気象情報を事前確認し、台風が来る前に重要資材の移動などの減災対策をしっかりととり、できれば雨が降る前に早めの避難行動をとることなどが考えられる。同じ災害でも、地震と風水害ではその特性に違いもある。これからの季節に向けて、地震対応との違いも踏まえ、押さえておくべき風水害対策のポイントを解説する。

2.地震と風水害の違い

前述の通り、危機管理の基本は「予測(知る)」「予防(備える)」「対応」である。しかし、地震はいつ発生するかの予測が困難な「突発型災害」である。地震対応における「予測(知る)」とは、付近の断層を確認することや、過去に発生した地震について調査すること、地域の地震ハザードマップを確認することなどが考えられる。

風水害は、線状降水帯の予測は難しいとされているものの、基本的には事前に予測が可能な「進行型災害」であることから、事前の情報収集と減災対策、早め早めの避難行動が肝要となる。これは後述する「タイムライン」の考え方が有効だ。

(※地震等の突発型災害においても、人命救助のために重要な「72時間」の間に行うべきことについての検討など、地震発生後の対応としてタイムラインの考え方を活用することもある。)

タイムラインの図表
タイムライン(防災行動計画)策定・活用指針(初版)」(国土交通省 水災害に関する防災・減災対策本部 防災行動計画ワーキング・グループ)より

大規模地震が発生すればライフラインは停止し、建物も損傷し、けが人も多数発生するため復旧までには数か月~数年など相当の期間を要する。大規模地震発生時には従業員が相当数被災する可能性があり、事業への影響も甚大だ。事業を平時と同じように稼働することが難しくなるため、事業継続においては選択と集中の考え方が必要になる。

風水害について、例えば台風は、直撃したとしても雨のピークは長くて1~2日である。短時間の停電などは発生する可能性があるものの、地震に比べ、電話や通信などが途絶する可能性は低い。風水害は予測や予防をしたうえで、ピーク時は無理な出勤などはせず、在宅勤務などを取り入れながら工夫してやりすごすことが大切だ。

地震対応と風水害対応における「予測・予防・対応」

地震 風水害
予測 ハザードマップの確認 ハザードマップの確認
天気予報の確認
予防 家具の固定など 減災対策(重要資材の移動など)
対応 避難行動 早めの避難行動

3.自分でできること

風水害対策は事前の情報収集と早めの避難行動が重要だが、そのポイントとなる気象情報や避難情報について解説する。

3-1.気象情報と避難情報

気象庁では、対象となる現象や災害の内容によって6種類の特別警報、7種類の警報、16種類の注意報、5種類の早期注意情報(警報急の可能性)を発表している(参考:気象庁「気象警報・注意報」)。災害時には様々な情報が発表されるが、ポイントを押さえて避難に役立てていきたい。令和3年にも避難情報が改正されたように、やはりポイントとなるのは「警戒レベル4までに必ず避難を終えておくこと」だ。

「ゲリラ豪雨」という言葉もあるように、大雨は30分程度の短時間で一気に道路に水があふれ出すことがある。朝や昼に小雨だったから大丈夫だと思って避難せずにいたら、夕方になるにつれて雨がひどくなり、避難することもできなくなってしまう例もある。空振りの可能性があるとしても従業員の安全を第一に考えた避難行動が大切なのだ。

気象情報と避難情報の活用で大切なのは、警戒レベル3や4においてすでに市町村から避難指示が出ているという点である。市町村から避難指示が出ている状況であれば、従業員を無理に勤務させることなく、在宅勤務や自宅待機をさせるべきという判断ができる。このように、出社や帰宅の判断基準としても防災気象情報や避難情報は活用したい。

下記の表に記載はないが、線状降水帯については「顕著な大雨に関する気象情報」というのもがある。これは、「大雨による災害発生の危険度が急激に高まっている中で、線状の降水帯により非常に激しい雨が同じ場所で実際に降り続いている状況を「線状降水帯」というキーワードを使って解説する情報」(気象庁「線状降水帯に関する各種情報」より引用)である。これは警戒レベル4相当以上の状況で発表されるため、直ちに避難行動をとる必要がある。

気象情報と避難情報

警戒レベル 状況 住民がとるべき行動 避難情報等 防災気象情報
警戒レベルとの関係 浸水の情報(河川) 土砂災害の情報(雨) 高潮の情報
5 災害発生又は切迫 命の危険
直ちに安全確保!
緊急安全確保
(市町村長が発令)
5相当 氾濫発生情報 大雨特別警報
警戒レベル4までに必ず避難!
4 災害のおそれ高い 危険な場所から全員避難 避難指示
(市町村長が発令)
4相当 氾濫危険情報 土砂災害警戒情報 高潮警報 高潮特別警報
3 災害のおそれあり 危険な場所から高齢者等は避難 高齢者等避難
(市町村長が発令)
3相当 氾濫警戒情報 大雨警報
降水警報
高潮警報に切り替える可能性が高い注意報
2 気象状況悪化 自らの避難行動を確認 大雨・洪水・高潮注意報
(気象庁が発表)
2相当 氾濫注意情報 大雨に切り替える可能性が高い注意報 高潮注意報
大雨注意報
洪水注意報
1 今後気象状況悪化のおそれ 災害への心構えを高める 早期注意情報
(気象庁が発表)
1相当 早期注意報(警戒級の可能性)

下記ページを基に筆者作成

3-2.マイ・タイムライン

平時から、自分の家庭で取り組める防災活動としては、「マイ・タイムライン」の活用が挙げられる。マイ・タイムラインとは大雨や台風の時に「いつ」、「何をするか」を、一人ひとりが事前に決めておく防災行動計画だ。東京都をはじめとしてその他いくつかの地域でもWEB上でマイ・タイムラインを作成できるサイトやアプリが公開されている。また、アプリ「Yahoo!防災速報」に2021年に追加された「防災タイムライン」という機能は、対象の災害情報について防災行動確認のタイミングを知らせることもできる。これらのサイトやアプリはこれからの季節に向け有効であり、操作するだけでも「何をすべきか」のイメージが沸くため、是非一度、実際に操作してみていただきたい。

「タイムライン防災」とは、もともと2011年に米国で発生した、「ハリケーン・アイリーン」の教訓から生まれた考え方だ。あらかじめ気象情報などによって予測可能な水害に対し、災害が発生する前から避難行動を起こすことで、住民の被害を減らすというものである。タイムラインとは関連する企業や団体が「誰が」「何を」「いつまでに」おこなうかという行動計画を事前に策定。交通サービスや自治体、住民の行動指針を明確化することで、対応の抜け漏れを防ぐという狙いもある

4.企業がとりくむべきこと

企業での取り組みとしてポイントとなるのは減災対策に加え、従業員の出社判断や店舗の営業継続判断であろう。それぞれのポイントを解説する。

4-1.タイムライン防災の活用

先ほど、マイ・タイムラインの取り組みを紹介したが、会社として大雨や台風の対応にあたる際に、前述した警戒レベルを活用して「警戒レベル2相当になったら在宅勤務への切り替え準備を開始する」「警戒レベル3の時点では在宅勤務への切り替えを完了させておく」「このレベルになったら行政や取引先への連絡をする」のような形で、会社としての行動をBCPで定めておくことも有効だ。

特に風水害への対策にあたっては、明確な基準がない中で、都度都度の判断になってしまいがちだ。そして、「今回は大丈夫だろう」「空振りが怖い」などの懸念から、無理な営業継続の判断をしてしまう可能性もある。そこで、平時から基準として行動の目安を定めておくことで、毎回対応を検討したり、人によって判断が変わってしまったりしてしまうといった事態を防ぐことができる。

4-2.従業員の出社判断

風水害時にポイントとなるのが従業員の出社判断であるが、風水害対策の基本の「事前の情報収集」と「早め早めの避難行動」が重要だ。あらかじめ自分の家や出社する場所のハザードマップを確認しておき、浸水リスクの高い拠点かどうかを確認しておくことも必要である。台風の直撃が前日から予想される場合には、出社ではなく在宅勤務または自宅待機に切り替えておくことを案内すると良い。出社後であったとしても、今後雨が強まることが予想される場合には、就業時間前だとしても、早めの帰宅を従業員に促すことも有効だ。

在宅勤務ができない社員についても、在宅勤務ができないのであれば会社の指示として自宅待機を命じるなど、会社として自宅待機を認めることが望ましい。外回りの営業マンなどは、スケジュールを変更して内勤にして安全を確保したり、時間を繰り上げて実施したりする工夫も例として挙げられる。その他、、在宅ワークの規定を作っておいたりするなどの対応も考えられる。

4-3.店舗の営業継続判断

コンビニエンスストアや薬局、小売店や住宅展示場など、お客様が来店されるような業務形態については平時のコミュニケーションが大事になる。2022年の台風19号の時には、コンビニエンスストアも事前の台風情報により休業する対応がとられた。普段休業することがほとんどないコンビニエンスストアも台風に備えて休業したことは、他の業務形態の企業にとっても、災害に備えた休業への後押しになるのではないだろうか。

ここでは、気象庁の情報に基づく対応がポイントとなる。店舗の営業継続判断については、あらかじめ基準を決めておき、自動発動することが望ましい。日頃から、「当店は行政から警戒レベル4(避難指示)が発動された時点でお客様及び従業員の安全確保の観点から臨時休業させていただきます。」等の張り紙を掲示しておくことで事前告知しておくことが、平時からとれる対策の1つだ。お客様の安全を考えてという切り口と、気象庁の情報に基づく判断という2点があれば、お客様にも納得していただけるのではないだろうか。

また、住宅展示場など、予約をしたお客様が来店される形態については、事前にお客様のアポイントを別の日程にするよう変更する連絡を入れる対策が考えられる。それでもどうしても当日に行きたいというお客様がいれば、雨のピークではない店舗での対応も考えられる。これも、台風などの風水害は局所的で、ピークは1~2日という特性を利用した対策である。

5.最後に

これからの季節に向け、風水害のリスクはますます高まるが、毎年風水害が発生していることからも、対策の知見は蓄積されている。危機管理の基本は「予測(知る)」「予防(備える)」「対応」であるが、日頃、風水害に関する報道を確認しておき、さまざまな事例を知ることが「予測(知る)」の第一歩である。

災害対応においては都度の判断とならないよう、平時から基準や目安を検討しておいたり、社員やお客様とコミュニケーションをとったりすることが大切だ。特に、ある程度予測可能な風水害においては「事前の情報収集」と「早め早めの避難行動」が必要になる。BCP担当者は従業員やお客様の安全を第一に、もう一度自社の風水害対策を点検し、今年の夏も乗り切ってほしい。

6.SPNの支援内容

当社では、BCPの策定や見直し、訓練など、さまざまな段階のBCPの取り組みの支援が可能です。本コラムで解説したような、地震と風水害の違いも踏まえたBCP策定や訓練の支援も行っておりますので、BCPに関してお困りごとやご相談があれば、是非ご相談いただけますと幸いです。

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7.参考資料

地震と風水害の違い 図

地震と風水害の違いの図表

以上

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