天災は、忘れぬうちにやってくる!これから始めるBCP
【緊急レポート】南海トラフ臨時情報発表。BCP担当者が今すぐすべき3つのポイント~正しく恐れ、正しく備える~
総合研究部 専門研究員 大越 聡
ほとんどのガラケーのワンセグ機能は現在でも問題なく使える。
8日夕方、宮崎県で震度6弱を観測した日向灘を震源とするマグニチュード7.1の地震が発生。この地震を受けて気象庁は午後7時15分ごろ、次の巨大地震に注意を呼びかける「南海トラフ地震臨時情報」(巨大地震注意)を発表した。南海トラフ臨時情報については過去にも本稿で何度か取り上げているのでまずはそちらを参考にしてほしい。
■「巨大地震警戒」の臨時情報とは?~「地震は予知できない」を前提とした国の対策を知ろう~
■南海トラフ地震「巨大地震警戒」と「巨大地震注意」の臨時情報。企業はどのように対応する?
まず最優先なのは、BCP担当者である皆さんのご自宅の備えのレベルを1段階上げることだ。これらは特に難しい事ではない。備蓄食料や飲料の数量や保管期限を確認し、必要であれば最小限の買い足しをする。例えば筆者の場合は水や食料は十分にあったのでカセットコンロのガスや携帯ラジオ用の乾電池を買い足した。LEDヘッドライトやランタンの電池を確認し、リビングや寝室の分かりやすい場所に配置した。家の中にスマートホンのバッテリーがいくつか転がっていたので、それらを電源につないで長期間の停電に備えた。備蓄用の簡易トイレの場所と個数を確認した。少し変わったところで言うと、昔のガラケーを机の引き出しの奥から引っ張り出してきて充電した。実は昔のガラケーはワンセグテレビがついているものが多く、現在でも問題なく作動する(筆者は台風の前にはガラケーを充電するようにしている)。家族と帰宅困難者になった場合の対応や、離れ離れになって携帯も使えなくなった場合に落ち合う場所などを確認した。
以前内閣府で、「一日前プロジェクト」を実施していた。これは「災害の一日前に戻れるとしたら、あなたは何をしますか」を考えるプロジェクトで、今回の状況にとてもよく似ている。興味のある方はぜひ参考にしてほしい。
また、気象庁からは「南海トラフ地震-その時の備え―」という臨時情報を分かりやすく解説したリーフレットが出ている。こちらも必要に応じ、社内に共有して欲しい。
BCP担当者である皆さんの警戒レベルを1ランク上げたところで、次に会社のBCPとして必要になるポイントを見ていこう。
ポイント① 正しい情報を社内に共有する
今回発表された臨時情報は「南海トラフ臨時情報(巨大地震注意)」だ。これは警戒ランクとしては中程度であり、最大レベルの警戒ではない。前述した気象庁のリーフレットでは具体的に政府としては今後1~2週間の間に以下のことを推奨している。
- 地震発生2時間後~1週間→日ごろの地震への備えを再確認する。
- 地震発生1週間後~2週間→地震の発生に注意しながら、日常生活を送る。
幸いなことに、世間は来週からお盆の連休時期に入る。まず今後1週間程度は地震に備え、可能であれば一般の従業員は原則としてテレワークで対応し、家庭の防災を優先することを推奨しても良いだろう。また、既に夏季休暇に入ってしまっている社員もいるかもしれない。安否確認システムなどでプライベートのメールアドレスを登録している企業は「今後1週間~2週間程度、南海トラフ地震の発生に注意すること」「政府や滞在中の自治体からの発表に注意すること」「地震発生後は身の安全、家族の安全を最優先し、身の安全を確保したら可能な限り安否確認システムに登録すること」などを促す注意喚起を発信することも考えられるだろう。夏休みの時期はレジャーで沿岸部に遊びに行く家族も多い。南海トラフ地震は太平洋側のみならず瀬戸内海沿岸にまで津波被害をもたらすことが予測されている。休暇中の従業員にも可能な限り注意喚起を促してほしい。
また、災害時には、SNSで多数のデマや今回の政府に対する極端な反論などが出回ることが考えられる。企業としては冷静に、政府や自治体からの発表を注視しながら、イントラネットや一斉メールで従業員に対して「正しい情報」を共有し「正しく恐れる」ことの重要性を認識してもらうようにしてほしい。
ポイント② 対策本部設置の準備を開始する
一方で、対策本部メンバーは少し忙しくなる。対策本部の重要メンバーは参集の方法を再確認、もしくは会社の近くのホテルに寝泊まりすることを検討しても良いかもしれない。非常用通信手段がある企業では常にバッテリーを確認し、今後1~2週間は肌身離さず持ち歩き、夜間でも連絡が取れる体制にしていただきたい。BCP担当者はしばらくの間、対策本部メンバーに毎日社内の対策状況をレポートすることも有効だ。基本的な考え方と具体的なチェックポイントとしては以下が挙げられる。
■企業の防災対策・BCPの基本的な考え方
- 大規模地震発生時に明らかに従業員などの生命に危険が及ぶ場合には、それを回避する措置を実施。
- 不特定多数のものが利用する施設や、危険物取り扱い施設などについては、出火防止措置等の施設点検を確実に実施。
- それ以外の企業についても、日ごろからの地震への備えを再確認するなど警戒レベルを上げる
- 地震に備えた事業継続に当たっては、一時的に企業活動が低下しても後発地震が発生した場合に、トータルとして事業軽減・早期復旧ができる普段以上に警戒する措置を推奨
■地震の備えの再確認や取るべき行動のチェックリスト
- Ⅰ.身の安全確保と迅速な避難体制・準備
- 地域のハザードマップの確認
- 建物の耐震診断
- 従業員に対し、耐震性の低い建物には近寄らないよう周知
- 耐震性が低い建物を利用している場合は、代替拠点の用意
- 安全な避難場所・避難経路を確認するとともに、従業員や顧客の避難誘導ルールの策定
- 従業員の安否確認手段の決定
- 出入り口に避難の障害となるものを置かない
- 防災訓練・演習の実施と、それによる課題の解決
- 土砂崩れや津波浸水の恐れのある場所での作業を控える
- 施設・設備などの安全対策
- Ⅱ.重要設備の地震発生時における作動装置の点検実施
- 機械・設備・PC等の転倒・すべり防止対策
- 机・椅子のすべり防止対策
- 窓ガラスの飛散防止対策
- 高いところに危険な荷物をおかないようにする
- 文書を含む重要情報のバックアップ
- Ⅲ.発災後のための備え
- 非常用発電設備の準備及び燃料貯蔵状況を確認する
- 早期復旧に必要なし機材の場所を確認する
- 事業継続に必要な調達品の確保を実施する(製品や原材料の在庫量見直し等)
- 水や食料等の備蓄品の場所と在庫の有無を確認する
- 企業・組織の中枢機能を維持するための、緊急参集や迅速な意思決定を行える体制や指揮命令系統を確保する
- 発災後の通信手段、電力等の必要な代替設備を確保する
- 取引先、顧客、従業員、株主、地域住民、政府・地方公共団体などへの情報発信や情報共有を行うための体制の整備、連絡先情報の保持、情報発信手段を確保する
- 災害時の初動対応や二次災害の防止など、各担当業務、部署や班ごとの責任者、要員配置、役割分担・責任、体制などを確認する
- 津波浸水が予想される海沿いの道路利用を避け、輸送に必要な代替ルートを検討する
ポイント③ 内閣府のガイドラインを確認する
更に詳しく企業の対策を確認したい場合は、内閣府防災が公表している「南海トラフ地震の多様な発生形態に備えた防災対応検討ガイドライン」をチェックすることをお勧めしたい。
■南海トラフ地震の多様な発生形態に備えた防災対応検討ガイドライン
第7章以降が「企業編」となっており、企業の防災対応を検討しているとともに、以下のように業種ごとのチェックポイントも掲載されているので参考にしてほしい。
Ⅰ.病院、劇場、百貨店など、不特定多数かつ多数の者が出入りする施設を管理・運営する者
基本的には業務を継続する。その際、まず個々の施設が耐震性・耐浪性を有する等安全性に配慮する者とする。臨時情報が発生した場合には、顧客などに対し、当該臨時情報などを伝達する方法を明示する。できれば全フロアに対し、正確に伝達できることが望ましい。
該当施設が住民事前避難対象地域内にあるときは、退避後の顧客等に対する避難誘導の方法や安全確保のための措置を明示する。
病院については、患者等の保護の方法について、個々の施設の耐震性等を考慮し、その内容を明示する。事前避難対象地域に位置する病院は、避難勧告等が発令された場合、患者等の安全確保のため、病院外での生活が可能な入院患者の引渡しや、入院患者の転院の準備について検討する。
Ⅱ.学校・社会福祉施設を管理・運営する者
幼稚園、小・中学校等にあっては、児童生徒などに対する保護の方法について定めるものとする。この場合、学校のおかれている状況に応じ、保護者の意見を聴取する等、実態に即した保護の方法を定めるように留意する。
社会福祉施設においては、情報の伝達や避難などにあたって特に配慮する者が利用している場合が多いことから、入所者の保護者への引継ぎ方法について、施設の種類や性格、個々の施設の耐震性、耐浪性を十分考慮し、具体的に内容を定める。
Ⅲ.石油類、火薬類、高圧ガス等の製造、貯蔵、処理又は取り扱いを行う施設を管理・運営する者
津波が襲来したときに発生する可能性のある火災、流出、爆発、漏えいその他の周辺の地域に対し影響を与える現象の発生を防止するため、必要な緊急点検、巡視の実施、充てん作業、移し変えの作業等の停止、その他施設の損壊防止のため、特に必要がある応急的保安措置の実施等に関する事項について、その内容を定め、明示するものとする。
この場合、定めるべき内容は、当該施設の内外の状況を十分に勘案し、関連法冷などに基づき社会的に妥当性のあるものとする。また、実際に動員できる要員体制を踏まえるとともに、作業員の安全確保を考慮した十分な実行可能性を有するものとする。
後発地震による津波の発生に備えて、施設内部における自衛消防等の体制として準備すべき措置の内容、救急要員、救急資機材の確保等、救急体制として準備すべき措置の内容を明示するとともに、必要がある場合には施設周辺地域の地域住民等に対して適切な避難等の行動をとる上で必要な情報を合わせて伝達するよう事前に十分検討するものとする。
以上、南海トラフ臨時情報(巨大地震注意)が発表された後に企業がいますぐやっていただきたいポイントについて解説した。繰り返すようだが、災害は「正しく恐れ、正しく備える」ことが重要となる。BCP担当者の皆さまには、ぜひ冷静な対応で、今回の事態を「正しく」乗り切っていただきたい。
以上