暴排トピックス

取締役副社長 首席研究員 芳賀恒人

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1.排除実務の基本(その1)

反社チェックや暴力団排除条項(以下「暴排条項」)など「暴力団排除」(以下「暴排」)実務の深化に伴い、今後直面する重要な課題として、「排除」に関わる実務があげられます。
【注】今後、「暴排」を、反社会的勢力排除を含む概念として取り扱います。

今回から数回にわたって、既存取引先に関して、反社チェックや社内外からの情報提供により、疑わしい端緒を把握した場合の「取引可否の判断」「具体的な排除に向けた取組み」などについて解説していきたいと思います。

なお、実際の事例においては、必ずしもこの通り事態が推移していくわけではなく、より柔軟な対応が求められる点についてもあらかじめご理解頂きたいと思います。

(1)実態把握

言うまでもありませんが、まずは、反社チェックとして、当社の反社会的勢力データベースの活用や記事検索サービスに代表される「データベーススクリーニング(DBS)」、インターネット検索、風評の収集(リアル/Web)といった様々な手法を通じて、反社会的勢力との関係の端緒を不断に把握していくことが求められているわけですが、既存取引先についても、定期・不定期に相手方の情報を収集・分析することが重要です。

①追加調査

さて、通常の反社チェックなど何らかのきっかけにより、端緒が認められた場合は、その信憑性や精度を高めるために、チェック対象範囲の拡大やチェック手法の多面的展開(登記情報分析や各種公知情報の収集・分析など)により自社で詳しい追加調査を行う、外部専門家に依頼するなどして、より深く事実関係を把握する必要があります(当社においては、そのようなニーズにお応えするため「健全度分析」という専門的な調査・分析サービスを提供しております)。

追加調査においては、例えば、以下のような調査項目が考えられます。

        • チェック対象者の範囲を拡大する
          ・退任した役員
          ・子会社や関係会社
          ・取引の仲介者(紹介者)
          ・疑わしい先の主要な取引先や株主、融資先・投資先など
        • チェック手法を追加し多面的に情報を収集する
          ・風評の収集(リアル/Web)
          ・現地確認・実態確認
          ・代表者等の自宅等に関する不動産登記の状況など

また、とりわけ、データベース新聞記事等との照合においては、「同一性の精査」(同姓同名の精査)が重要なポイントとなり、実務上は意外に高いハードルとなっています。

「同一性」については、最終的には、警察に確認することが望ましいとはいえ、例えば、以下を参照することで、自社でもある程度精査が可能な場合があります。

        • 事件・事故報道については、報道当時の新聞紙面等(原典)を図書館等で入手することが望ましい。実際の新聞紙面からは、以下の情報が入手できる。
          ・事案発生当時の年齢(±1歳の誤差で現在の年齢を推定できる)
          ・生活圏・職業履歴等(事案発生当時の背景事情を把握することで当時と現在の連続性など一定の推定も可能となる)
          【例】役員の欠格期間と実際の就任状況、生活圏・職業履歴の不整合(例えば、報道では医師、実際は弁護士といった相違)など
          ・掲載されている写真(風体等)
        • 許認可・資格取得状況など入手可能な情報を追加で収集し精査を行う(ただし、全ての経緯・資料等を記録・保管しておく必要がある)。100%の確証を得られない中で自社の判断が求められる場合も多いことに注意が必要である。
        • それでも疑わしい場合は、警察に相談することが望ましい(警察相談に必要な事項については次回詳述する)。
②取引可否判断のための追加情報収集

反社会的勢力との関係可能性・該当性を追求するだけでなく、それ以外の部分でも、総合的に「取引可否」について判断するために必要な情報を収集しておく必要があり、確認しておくべき事項としては以下のようなものがあります。

        • 取引経緯(取引開始の理由、紹介者など)
        • 取引状況(取引条件、取引量の推移、特別対応や異例処理の有無、契約違反の有無など)
        • 相手方の詳細な状況(自社との取引が先方に占める割合・影響など)
          【注】相手の死活問題となる重要な取引であればあるほど関係解消時の抵抗も大きくなると考えられる。
        • 契約内容(暴排条項・解除事由の状況)
          【注】例えば、対象人物が「共生者」であると疑われる場合、それを排除対象とみなして実行に移せる根拠が必要であり、実際締結している契約等の暴排条項に「共生者」の排除が盛り込まれているかどうかが実務上は重要となる。
        • 接点(双方の窓口担当者)
        • 企業姿勢の表明(HP等による対外的な表明や社内における暴排指針の周知徹底)
        • 対応者の選任と教育・スキル
          【注】対応組織体制を明確にし、専任者が自らの役割を自覚するとともに、相応のスキルやノウハウを日頃から研修等を通じて修得しておく必要がある。
        • 対応マニュアルの整備・周知
          【注】具体的な対応要領を社内で周知徹底するためには、あらかじめ、対応マニュアルや研修等が必要である。
③注意点

実態確認のプロセスは、反社会的勢力との関係可能性・該当性や取引可否に関わる最終的な判断を行う前の準備段階であり、関係者以外への情報漏えいリスク(事態の混乱を招きかねないリスク)を考え、情報共有の社内における範囲を限定しておくことが望ましいと思われます。

なお、自社と外部(反社会的勢力等)との接点には、通常、自社の窓口担当者が介在しており、相手方との関係・距離感によっては、自社の動向が筒抜けになり、その後の対応を著しく困難にするリスクがあります。場合によっては、窓口担当者自体に全ての情報を与えない形で情報収集・分析をすすめていけるよう、あらかじめ関係者の範囲や情報共有の方法について検討しておくことが望ましいと言えます。

(2)リスク評価

反社会的勢力との関係可能性・該当性や取引可否の判断のために、正確な情報を収集(実態把握)する必要があるのは、最終的にその時点でベストな経営判断を下すためであり、「経営判断の原則」を充足することにより後日責任を問われないために必要な最低限の要素となります。

「経営判断の原則」とは、大まかに言えば、「経営判断の前提となる事実認識の過程における不注意な誤りに起因する不合理がないか」「事実認識に基づく意思決定の推論過程および内容の著しい不合理がないか」に十分配慮した判断であれば、結果的に会社が損害を被ったとしても、取締役の忠実義務・善管注意義務が履行されているとみなされるとするもので、この「排除」実務においては、正に根幹を成すものでもあります。

反社会的勢力との関係可能性・該当性については、(警察から情報を提供された場合以外は)100%の確証を得ることが難しいことから、多くの場合は、企業の自立的・自律的な判断が強く求められます。

さらには、結果的に問題が発覚した場合に「社会からどのような評価を受けるのか」をあらかじめ予測することもまた困難であり、そのような中、最終的に社会的な説明責任を果たしダメージを極小化していくためには、正確性・客観性を追求し最善を尽くした「情報収集」、それに基づく冷静かつ論理的な「情報分析」、それらを踏まえた合理的な「判断」が必要となるのです。

この「リスク評価」のプロセスは、実態確認をふまえた「情報分析」に相当する部分であり、「排除」実務の方向性を決める重要なステップとなります。

①実態把握に基づくリスクの洗い出し

リスク評価を行うにあたっては、(個別の状況にもよりますが)大きく以下の2つのリスクを比較考量することになります。

          • 関係を解消するリスク
            ・相手方からの攻撃・嫌がらせ・ネガティブキャンペーン等への対応(街宣活動、怪文書のばらまき、ネットへの書き込み等)
            ・訴訟リスク(名誉毀損等にかかる損害賠償請求等)
          • 関係を継続するリスク・コンプライアンス違反(暴排条例や各種業法の違反等)
            ・実質的なダメージ(取引縮小・停止、契約解除、指名停止、銀行取引停止、株価下落等)
            ・レピュテーション・リスク(一度毀損されたレピュテーション回復には相当の困難が伴う)

    これまでの企業の対応においては、前者の「関係を解消するリスク」を過大に見積もり、一方の「関係を継続するリスク」を過小評価するあまり、関係を切れないまま事案の隠蔽や裏取引、資金・便宜の(更なる)供与といった対応に走る傾向にあったことは否めません。

    しかしながら、暴力団対策法や暴排条例の施行およびそれらの改正による規制の強化が進むことで、「経済的利益」を追求する彼らにとっては、それらの規制に抵触しやすい「リスクの高い行為」を自制する方向にあります。また、企業にとっても、「知っていて関係を継続する」ことはもはや許されないとの社会的土壌が醸成されつつあること、実際に関係を解消することが当たり前となりつつある現状を鑑みれば、もう少し冷静に(かつ積極的に関係解消を選択するという)リスク評価をしても良いように思われます。

    また、リスク評価にあたっては、後述する弁護士の意見をふまえた「訴訟リスク」の見積もり・評価も必要となりますが、「訴訟リスク」への対応とは必ずしも「訴訟を避ける」ことだけではなく、「訴訟により自社の立場・主張を公にする」という対応も考えられます。

    いずれを選択するにしても、最終的な「訴訟リスク」の評価は自社の姿勢次第によるところが大きく、あくまで自立的・自律的なリスク評価がその前提となります。

    ②保有リスク

    リスク評価を行った結果、全くのシロではないがクロとの根拠(確証)もなく、むしろ「淡いグレー」と判断される場合があります。ビジネス上の判断として、そのリスクを「保有」して(リスクを取って)取引を開始する/継続するという選択肢もあり得ますし、実際にはそのような判断になる場合が多いものと推測されます。

    しかしながら、このような場合、あくまでも端緒を既に認知しており、それにもかかわらず「現時点」では排除に至るほどではないというリスク評価を行ったということになりますから、リスクの「保有」というリスク評価自体、「経営判断の原則」や説明責任をふまえた慎重さが求められることになり、その判断の合理性には十分注意する必要があること、検討・判断の経緯や資料など記録を残しておくといった対応が必要となります。

    また、実際の対応としては、当該相手先について十分なモニタリングを行い、変化の兆候や端緒情報を収集していくことが欠かせませんし、リスクを保有するのであれば、暴排条項の締結の有無に関わらず、厳格な内容の確認書を提出させる(あらためて表明確約させる)、取引条件を厳格化するといった取りうるリスクヘッジ策を講じ、状況の進展(変化)があった場合に、速やかに排除に向けたアクションが取れるようにしておくべきだと言えます。

    次回は、弁護士相談・警察相談についてお話したいと思います。

    2.最近のトピックス

    (1)タックスヘイブン(租税回避地)とスイス金融機関の匿名性

    スターバックス社やアップル社など国際的な企業が法人税の安い国に実態のない子会社を設立するなどして、巨額の課税を逃れているとして、日米欧の先進国が課税逃れを防ぐ国際ルール作りに取り組むということです。

    IT関連企業などでは、英領バージン諸島やケイマン諸島などタックスヘイブンに実態のない書類上の子会社(ペーパーカンパニー)を作り、無形資産を無償か格安で譲渡するケースが多くみられます。このスキームにより、本来は親会社が出すはずの利益を子会社に移し、合法的に巨額課税を逃れることが可能になるとされていますが、日本においては、タックスヘイブンにSPCを組成し、匿名の資金を流れ込ませるスキームによって、脱税や粉飾決算、反社会的勢力の犯罪収益のマネー・ローンダリング、証券市場における不公正ファイナンスの温床となっていることなども問題視されています。

    一方、スイス政府は、同国の銀行が脱税ほう助で米国の当局から捜査を受けた際に、和解に向けて顧客情報を提供すると発表しており、顧客情報の提供を禁じる銀行法を柔軟に運用し、自国の銀行が米国で巨額の罰金を科せられるのを防ごうとしています。

    その帰結として、以前、山口組旧五菱会事件でもポイントとなったスイス金融機関の「厳格な匿名性による優位性」が崩れる可能性もあることは否定できません。

    さらには、以前もご紹介したように、タックスヘイブンの実態を明らかにする秘密の電子ファイルを、米国の非営利の報道機関「国際調査報道ジャーナリスト連合」(ICIJ)が入手して解析が進んでいますし、国税庁も、オーストラリア国税庁から同庁が入手したオフショア(タックスヘイブンの国や地域等)に所在する事業体(法人・信託等)に関する大量の情報のうち、我が国の納税者に関連すると見込まれる情報の提供を受けたということを発表するなど、その匿名性が揺らいでいます。

    ▼国税庁「タックスヘイブンに所在する事業体に関する情報の入手について」

    このように、各国の思惑は様々ではありますが、これまで何かと犯罪スキームに悪用されてきた匿名性ツール・スキームについて、国際的には、急激に匿名性緩和の流れにあることは間違いなく、それは、国内の反社会的勢力にとっても、犯罪収益の移転を困難にするだけでなく、これまでの資金の流れを解明されてしまう極めて深刻なリスクを抱えることになり、そのグローバルなレベルでの徹底が暴排にとっても追い風となることは間違いありません。

    (2)AML(アンチ・マネー・ローンダリング)の動向

    国内外でマネー・ローンダリング摘発のニュースが続いているほか、規制の強化に向けた動きも本格化しています。

    ①過去最大60億ドルをマネー・ローンダリング

    過去最大規模の約60億ドル(約6,000億円)をマネー・ローンダリングした罪などで、中米コスタリカの電子マネー会社と同社創設者ら7人が米司法当局に起訴されています。

    同社の会員は日本を含む世界で約100万人おり、少なくとも5,500万件のインターネット決済サービスを行っていたということですが、会員登録に身分証明書の提示が必要なく、偽名での口座開設や「利用者に決済記録が残らない」という点が詐欺や児童ポルノ、麻薬取引などの犯罪を助長し、マネー・ローンダリングにも悪用されたと考えられています。

    電子マネー取引については、前回もお話した通り、米国でマネー・ローンダリング規制を、いわゆる「仮想通貨」にも適用する方向だということが報道されています。

    このような摘発事例が、規制強化を後押しすることは自明のことであり、日本の事業者においても、もはや対岸の火事ではありません。

    ②グアテマラ元大統領をマネー・ローンダリングの疑いで米へ身柄引き渡し

    中米グアテマラ政府は、国庫などから横領した約7,000万ドル(約70億円)を米国でマネー・ローンダリングしたとして、米司法当局に元大統領の身柄を引き渡したということです。

    そもそも、政治家や政府高官、弁護士などは、AMLにおいては「ハイリスク」な職業とされています。また、贈収賄への関与の観点からみても当然「ハイリスク」であり、日本国内での認識とは違い、厳格なチェックが求められる対象として認識する必要があります。

    ③バチカン財政監視機関報告書

    バチカンでは以前から財政管理組織「宗教事業協会」(バチカン銀行)を舞台にしたマネー・ローンダリング疑惑があり、預金者や資金の動きを公開しないといった点についても欧州連合(EU)や米国から財務の不透明性が指摘されていました。

    直近では、昨年末に、マネー・ローンダリング対策の法令順守が不十分だとして、イタリア銀行(中央銀行)がバチカンでのカード決済業務を担うドイツ銀行に決済業務停止を命じ、観光客のカード利用などにも影響が出たということもありました。

    そのような疑惑の中で、2010年にイタリア当局によりマネー・ローンダリングへの関与の疑いで捜査を受けたことなどから前法王が設置した「聖座財務情報監視局」の初めての報告書が公表され、6件を認定、うち2件の捜査をバチカン検察に要請したとのことですので、それらの捜査の行方については今後も注視していきたいと思います。

    ④不正目的に銀行口座を譲渡容疑の中国人逮捕

    不正利用目的で他人名義の銀行口座を80以上譲り受けたとして、愛知県警サイバー犯罪対策課は、中国籍の男を犯罪収益移転防止法違反の疑いで逮捕しています。

    インターネットバンキングのHP上に表示された偽画面に暗証番号などを入力した顧客の口座から別口座へ不正送金される事件が全国で相次いでいますが、これらの口座が不正送金の受け皿などに使われた可能性があるということです。

    ⑤口座不正譲渡、5年で6倍に

    金融機関の口座を他人へ不正に譲り渡すなどしたとして2012年に警察が摘発した事件は1,543件で、5年間で約6倍に増えた(口座の不正譲渡で1,519件を摘発し、口座売買の勧誘でも24件を摘発、2007年の計242件から大幅に増えた)ということです。

    テロリストの資金根絶を目指す国際組織「金融活動作業部会」(FATF)からは、日本の金融機関の顧客管理は不十分との指摘を受けており、その改善の施策のひとつが今般の犯罪収益移転防止法の改正ですが、このような深刻な事態を受けて、再度改正の必要性も含めて対策を検討するということです。

    (3)テロ対策/CTF(テロ資金供与対策)

    前回、アルジェリアやボストンの事件を取り上げましたが、相変わらず世界各地でテロが続発しています。ここでは、日本におけるテロ対策やCTFの動向を中心にご紹介しておきたいと思います。

    ①北朝鮮が対日原発自爆テロを計画、訓練も

    原発に対するテロを想定した訓練が先日公開されていましたが、北朝鮮の朝鮮人民軍が対韓国開戦直前に日本全国にある原発施設に特殊工作員計約600人を送り込み、米軍施設と同時に自爆テロを起こす計画を策定していたとの報道がありました。

    工作員を日本に侵入させ、施設の情報収集を重ね、日本近海でひそかに訓練も行っていたということで、北朝鮮による原発テロが現実のものとして眼前に現れたといえます。

    ②中国4大銀行、北朝鮮へ送金停止

    中国の4大国有商業銀行すべてが、北朝鮮への送金業務を停止しています。

    いずれも北朝鮮のミサイル発射や核実験を受けた制裁措置の一環で、中国政府機関からの直接の指示があったということです。

    ③邦人安全確保へ海外展開チームを政府が新設

    アルジェリアでの事件を受けて、海外で邦人が巻き込まれる事件が発生した場合、初動対応や情報収集にあたるため、各省庁の専門家を集めた「海外緊急展開チーム」を新たに編成することになったということです。

    また、今後、中東や北アフリカ地域に関する官民合同海外安全セミナーを実施するなどテロ対策が進むことが期待されますが、在外公館警備対策の拡充、テロ行為による損失に対する貿易保険の適用、国外で起こった罪の被害者に対する経済的支援、労災保険制度の適用範囲拡大などは中長期的な課題として今後も検討を続けることとなっています。

    (4)福岡県暴力団排除条例の改正

    暴力団組員が組織の縄張りを設けたり、維持したりする目的で繁華街の飲食店や建設会社に立ち入ることなどを禁止する改正福岡県暴排条例が6月1日から施行されています。

    ▼福岡県警察「福岡県暴力団排除条例の改正」

    暴力団の封じ込めを徹底させる狙いで、文書の送付・架電・FAX送信、メール送信、あるいはつきまといやうろつき、店内で組員を名乗るだけでも取り締まり対象になり得ることになります。違反すれば、指示した組幹部も含めて中止命令を出し、従わなければ逮捕できることになっています。

    昨年、暴力団対策法が改正され、「特定抗争指定」「特定危険指定」制度の導入により暴力団の行為を直罰規定付きで規制できるようになりましたが、今回の福岡県暴排条例の改正は、「暴力団立ち入り禁止標章」掲示店舗への攻撃などをふまえ、それをさらに推し進めるという意味でかなり踏み込んだ内容となっています。

    なお、今回の暴力団対策法の改正で、同法で禁止されている行為に以下の6つの要求行為が新たに追加されていますので参考までにご確認ください。

        • 不当に預金・貯金取引の受入れを要求する行為
        • 宅建業者に対し、不当に宅地などの売買・交換などを要求する行為
        • 宅建業者以外の者に対し、不当に宅地などの売買・交換などを要求する行為
        • 建設業者に対し、不当に建設工事を行うことを要求する行為
        • 不当に集会施設などを利用させることを要求する行為
        • 人に対し、公共事務事業の入札に参加しないことなどを要求する行為

    ▼全国暴力追放運動推進センター「暴力団対策法で禁止されている27の行為」

    なお、昨日(6月11日)、福岡で抗争が続いている指定暴力団の「道仁会」と「九州誠道会」については、「抗争を終結させ、九州誠道会を解散する」と警察に届け出たということです。和解の偽装の可能性も含め、警察では慎重に判断するとしています。

    (5)休眠会社の悪用

    休眠会社を売買するため違法に法人登記を変更したなどとして、コンサルタント会社社長らが広島県警に逮捕されていますが、その後の報道によれば、少なくとも104社を転売し、うち35社が36件の金融商品取引詐欺などに使われ、11社21件で計約1億2000万円の被害が出たとのことです。

    2001年4月の会社分割制度創設、2006年5月の会社法施行などで、企業の組織再編や起業が容易になったことの裏返しでもあり、これらの数字は氷山の一角であると思われます。また、当社でも、反社チェックの一環で暴力団関係企業の登記情報を精査すると、ある時点で全く別の企業に様変わり(断絶)している状況を目にすることも多く、正に「犯罪インフラ」としてこのような休眠会社の売買システムが機能していることを実感します。したがって、実務上、反社チェックにおいては、相手方企業の来歴を丁寧に確認していくことが重要であり、「隠そうとする断絶」を発見したら、このような手口を想起されると良いと思われます。

    また、同じく「休眠宗教法人」の増加についても問題が表面化しています。

    宗教法人は、毎年、国などへ報告書類の提出が義務づけられていますが、提出しない宗教法人も多く、整理・統合といった実態の把握が進んでいない状況にあります。

    そもそも税制面で優遇される宗教法人を脱税の隠れみのとして悪用する事例も後を絶たない状況は以前から続いており、実際に暴力団が宗教法人を利用して犯罪収益のマネー・ローンダリング、脱税を行っている事例も発生、売買を仲介するブローカーも暗躍しています。

    (6)暴力団対策法上の使用者責任による損害賠償請求事案

    2010年に名古屋市で指定暴力団山口組系の組員らがみかじめ料の支払いを拒むキャバクラに放火した事件で、死亡した従業員の両親が、六代目山口組組長ら計5人を相手取り、約1億6千万円の損害賠償を求める訴訟を名古屋地裁に起こしています。

    暴力団組長に対する使用者責任は、平成15年に、最高裁で初めて山口組の五代目組長に対し、使用者責任を認め損害賠償を支払うよう命じる判決が下されたのがきっかけで、平成16年に暴力団対策法の3回目の改正で、「指定暴力団の代表者は組員が抗争により他人の生命、身体または財産を侵害した時は、損害を賠償する責任がある」こととなり、平成20年には、暴力団対策法の4回目の改正によって、「暴力団員がその暴力団の名称を示すなど威力を利用して資金獲得活動を行い、他人の生命、身体または財産を侵害した時は、その暴力団の代表者が損害を賠償する責任を負う」こととなった経緯があります。

    暴力団の資金面への直接的な打撃、弱体化の有力な手段として今後も積極的な活用を期待したいところです。

    (7)その他

    ①暴力団との関係「重要部分は真実」との判決

    東京地裁の判決で、A出版社の雑誌で「B社の元会長が暴力団と交流のあるC氏にトラブル解決を依頼していた」との記述について、元会長の親族の証言などから「重要な部分において真実」との判断が示されています(なお、B社が意に沿わない元社員の尾行や盗聴を繰り返しているとした部分については、「裏付け取材がなく、真実と信じる理由もない」としてA出版社側の責任を認めています)。

    今後の裁判の行方にもよりますが、B社が暴力団を利用したという事実認定が裁判所によってなされたことが注目されます。

    B社としては、最終的には、本事案以降、暴排に真摯に取組んできたことを社会に対して説明責任が果たせるかどうかが問われる状況になるものと思われます。

    ②レンタル携帯電話の悪用

    警察の調査で、振り込め詐欺やヤミ金融などの犯罪に悪用されたレンタル携帯電話の約98%がNTTドコモだということが明らかになっています。他の大手通信会社が契約先の事業規模に応じて回線数を制限しているのに対し、ドコモは上限を設けていないということであり、これが「一つの大きな要因」とみて、警視庁が契約先のレンタル業者の審査を厳格化するよう要請したということです。

    携帯電話は、これらの犯罪の「三種の神器」(他の2つは、「借名・偽名口座」「名簿(個人情報)」)とも呼ばれていることも事業者として十分認識のうえ、犯罪を助長することのない、「社会の公器」としての責任を果たす意味でも厳格な取引先管理・審査を実施する必要があると思われます。

    ③振り込め詐欺被害防止の電話作戦

    愛知県警が振り込め詐欺被害防止のため、高齢者らに直接注意を呼び掛ける「電話作戦」を展開、3月までの約9カ月間で79,000世帯に電話をかけ、14件の被害を未然に防いだことが確認されたということです。

    一方で、愛知県警と同様、神奈川県警でも「振り込め詐欺被害防止コールセンター」が県民に電話で注意を呼びかけて効果をあげていますが、そのコールセンターを、3月中旬から5月中旬まで(予算の関係で)休止していたそうです。

    この間を含む今年1月から4月下旬までに、神奈川県内の500万円以上の被害は53件と昨年の同時期の22件を大きく上回る結果となったということであり、このコールセンター業務の停止が原因のひとつではないかと疑われています。

    電話作戦が振り込め詐欺被害防止にこれだけ抑止効果の高いということであれば、今後、地域による取り組みの濃淡がないよう全国一律に徹底してすすめていくことが重要なことだと考えます。

    【注】そもそも反社会的勢力の行動様式として、取組みの甘い地域や業界に狙いを定めて犯罪行為等を実行に移す傾向にあることが知られています。

    ④偽装離婚で住宅ローン借り入れ

    暴力団組員の妻であることを告げずに住宅ローン契約を結んだとして男女2人を詐欺容疑で逮捕した事例がありました。

    2010年11月に離婚届を提出したということですが、その後も同居しており、警察では虚偽の離婚だとみているということです。

    偽装結婚、偽装離婚、ネーム・ローンダリング等を悪用した生活保護の不正受給や金融機関への詐欺的行為などが後を絶たず、書面手続きだけではその手口や背後関係まで見抜くことは難しいと言われていますが、定期的な電話や訪問などの実態確認を丁寧に実施していくことで不正の端緒を見出すことは可能だと思われます。

    本事例では、実態確認が逮捕に結びついたものと思われますが、一方で、公的機関の慢性的な人員不足がこのようなキメ細かな対応を困難にしています。

    しかしながら、行政サイドとしては、不正の放置により被った損害と人員増強により不正を未然に防止できる効果の比較を十分に行い、不正な受給が横行しないよう、国民・市民に説明責任を果たしていく必要があるのではないでしょうか。

    ⑤不動産仲介業者が「暴力団員」向けにマンション契約を主導

    暴力団員であることを隠してマンションの賃貸借契約を結んだとして、警視庁は、詐欺の疑いで、指定暴力団山口組系組員と不動産仲介業の男を逮捕しています。

    男は、暴排条項があるためマンションを借りられない暴力団員のために他人名義で賃貸借契約を結び、手数料を取って入居させていたということであり、「これまでに同様の手口で数十件はやった」などと供述しているようです。

    個人的な行為なのか、組織的な関与(黙認を含む)があったのかは不明ですが、暴排条項の適用を避けるために他人名義による契約をすすめるという、暴力団の活動を助長しかねないという意味で暴排条例にも抵触する極めて悪質な行為であり、その個人の行為を止められなかった(利益優先の)企業体質・内部統制システムの脆弱性についても、社会的に厳しい制裁を受けることになるのではないでしょうか。

    ⑥生活保護費127万円不正受給の疑い

    生活保護費を不正受給したとして、兵庫県警は、山口組系暴力団組員で無職の男を詐欺容疑で逮捕していますが、男は「昔は組員だったが、今は違う」と否認しているということです。

    過去、宮崎市で生活保護不支給の決定を巡り、暴力団員かどうかが争われた事例がありましたが、今回の事例も「組員だったかどうか」が争点となる可能性があり、その認定を巡る行方が注目されます。そして、今後も、同様の認定を巡る争いが増加していくことが予想されます。

    ⑦「入れ墨訴訟」大阪市職員が配転取り消しを求め提訴

    暴排トピックス4月号では、専門学校に対して「入学契約上、学校が入れ墨を消すよう求める権利はなく違法」と判断され、入れ墨の禁止は学則などになく、学校側が除去手術をしながらの通学を拒否したのは指導の範囲を超えるとの司法判断が示されたとの事例を紹介しています。

    同じ「入れ墨」を巡る訴訟で、入れ墨調査の回答を拒否したことを理由に戒告処分を受け、処分取り消しを求める訴訟を起こした大阪市交通局の男性職員に対し、交通局長が訴訟取り下げを要求、男性職員はこれに応じず、配置転換されたことに対して、「悪質なハラスメント」として、配転取り消しと慰謝料などを求める訴訟を大阪地裁に起こしています。

    3.最近の暴排条例による勧告事例ほか

    (1)大阪府の勧告事例①

    山口組系暴力団幹部に盆栽を販売(同幹部がこの業者から145,000円で購入したものを、飲食店などに「みかじめ料」を上乗せして2倍の値段で販売)したなどとして、大阪府公安委員会は、大阪府暴排条例に基づき、府内にある造園業の男性経営者に対し、今後は利益供与をしないよう勧告しています。

    当然ながら、「みかじめ料」として同幹部から購入した飲食店なども同条例の勧告の対象になる可能性が高いものと思われ、今後もその広がりについて注視していく必要があります。

    (2)大阪府の勧告(指導)事例②

    自社が所有するビルの1階を山口組系暴力団幹部の露店の出店場所として無償で使わせていたとして、大阪府公安委員会は、大阪府暴排条例に基づき、府内の不動産業者の男性副社長に対し、今後は利益供与をしないよう指導しています。

    (3)福岡県の勧告事例

    福岡県警は、学校付近に組事務所を開設したとして、福岡県暴排条例違反の疑いで、特定抗争指定暴力団道仁会系組長や同組員ら計6人を逮捕しています(同条例の適用は初めということです)。

    報道によれば、アパートは居住を名目に組員名義で借りられており、複数の組員が出入りしていることなどから、事務所と認定されたということです。

    (4)改正暴力団対策法違反での逮捕事例(神奈川県)

    再発防止命令を受けていたにもかかわらず、飲食店経営の女性に金品を要求したとして、神奈川県警は、暴力団対策法(再発防止命令)違反容疑で指定暴力団稲川会系組幹部を逮捕しています(改正暴力団対策法が施行されて以降、同法違反容疑での逮捕は神奈川県内では初となります)。

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