暴排トピックス

取締役副社長 首席研究員 芳賀恒人

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1.排除実務の基本(その3)

既存取引先に関して、反社チェックや社内外からの情報提供を通じて疑わしい端緒を把握した場合の、「取引可否の判断」「具体的な排除に向けた取組み」などについての解説を試みております。

前回までは、端緒を把握してからの具体的なアクションとしての「実態把握」「リスク評価」、さらには、警察相談に至る前段のステップとしての「弁護士相談」「一次判断」について取り上げました。今回は、その結果をふまえての「警察相談」のステップについてお話します。

(1)平成23年12月通達

警察相談するに際して、あらためて、一般事業者などからの照会に対して回答する際の基準や手続き等を定めた警察内部の通達である「平成23年12月通達」(警察庁刑事局組織犯罪対策部長通達「暴力団排除等のための部外の情報提供について」)について整理しておきたいと思います。

▼警察庁「暴力団排除等のための部外への情報提供について」(平成23年12月22日改正施行)

既に本通達が改正されてから1年半以上経過しておりますが、最近の運用状況ついては、やはり、現役の暴力団構成員に関する情報以外の提供については、極めて慎重な取扱いがなされており(むしろその傾向は強まっており)、必ずしも事業者の望むような情報が入手できるかどうか分からない点には引き続き注意が必要だと感じております。

そもそも、本通達では、当該情報が、「暴力団排除等の公益目的の達成のために必要であり、かつ、警察からの情報提供によらなければ当該目的を達成することが困難な場合」に情報提供を行うことを基本的な考え方として示しており、警察から事業者への情報提供に当たっては、「暴力団対策に資すると認められる場合」「暴力団排除条例(暴排条例)の義務を履行するために必要と認められる場合」に、犯罪等に関わるかという緊急性・重大性、情報提供の相手方(事業者側)の信頼性、相手方(事業者側)が情報を悪用しないような仕組み(個人情報保護体制や反社会的勢力排除体制)を整備しているかということについて十分検討の上、当該相手方(事業者側)に対して、情報を他の目的に利用しないよう情報の適正な管理を要請のうえ、情報提供するものとしています。

また、「情報の内容及び情報提供の正当性について警察が立証する責任を負わなければならない」としており、「警察は厳格に管理する責任を負っていることから、情報提供によって達成される公益の程度によって、情報提供の要件及び提供できる範囲・内容が異なってくる」ともされている点には注意が必要です。

さらに、「提供する暴力団情報の内容」における「暴力団準構成員及び元暴力団員等の場合の取扱い」の内容については、「準構成員」「元構成員」だけでなく、「共生者」「暴力団員と社会的に非難されるべき関係にある者」「総会屋及び社会運動等標ぼうゴロ」「暴力団の支配下にある法人」といった区分が増え、これまで以上に柔軟な内容となっています(同通達4~5ページ参照)。

とはいえ、例えば「共生者」の情報提供をお願いするのであれば、当該相手と締結している契約の暴排条項において、その排除対象に「共生者」が含まれていることが要件となる点にも注意しておく必要があります。

このように、警察からの情報提供にあたっては、事業者が自ら暴力団等の反社会的勢力排除や個人情報保護の取組みを組織的にきちんと行っていること、最低限、企業姿勢や排除すべき対象の明確化、社内周知(定期的な教育などを含む)、反社チェックの例外のない運用、全ての関係先と(最新の内容で)暴排条項を盛り込んだ契約の締結などが行われていることがその前提となっていることをあらためて認識する必要があります。

また、当然ながら、警察の情報提供によって関係解消を行うことが明らかになった場合には、既に「一次判断」の際に決定していた「関係解消要領とスケジュールの説明」も警察に行い、そのまま、事案対応の具体的な相談に入ることになります。

(2)照会結果への対応

警察に紹介した結果、明確に「クロ」とする回答が得られた場合には、暴排条項への該当、表明保証違反を根拠とした契約解除に向けて、弁護士等と連携しながら粛々と取り組むことで問題ありません。

ところが、現実には、警察内部での十分な検討の結果、必ずしも「クロ」と明確にしてもらえない場合も多く、事業者側としては、実務上は、「シロ」と明確にならない限り、あくまで「グレー」として捉えておくことが必要です(警察から「クロ」と明確にされなかったから「シロ」と捉えることは避けるべきです)。

そもそも自社が疑わしいと判断したため相談したのであり、その疑わしさが完全に解消されない限り、慎重な姿勢を崩すべきではなく、リスクを保有するにしても、万が一の際の契約解消に向けたリスクヘッジ策を講じたり、他の取引先等とは別管理とする「継続監視」などのステイタスを再度明確にして対応していくことが必要です。

(3)注意点

①相談先など

実際の警察相談の際には、警視庁/道府県警の組織犯罪対策課、暴力団対策課等の暴力団担当や所轄の警察署の暴力団担当に事前にアポをとり面談することになります(前述の通り、警察は情報管理に厳格な責任を負っているため、電話やFAX、メールでの照会には一切回答してもらえません)。その際には、可能であれば弁護士にも同席してもらうことが望ましいといえます。

なお、所轄の警察署の情報が警視庁/道府県警に集約されていることをふまえれば、まずは当該組織に相談することが良いと思われますが、一方の所轄の警察署には、対象に関する現時点での鮮度の高い情報を把握している可能性や関係解消の実務において直接的に相談や支援を仰ぐべき窓口であり、人的関係を講じておく必要性が高いことを考えれば、あわせて相談する必要があるといえます。

②相談内容の記録など

また、警察からの回答は、原則、口頭となるため、内容を後できちんと記録化する必要があります(弁護士照会制度の活用や、例外的に情報管理体制などが適正に整備されていると認められる場合は書面で提供されることがあります)。

記録においては、日時・場所、面談者といった基本情報から、回答内容(どのような表現で回答されたか)、その他のやり取りなど、後日、訴訟になった場合に備えて十分な証拠として利用できる状態にしておく必要があります。

なお、関連して注意すべき点としては、お互いの信頼関係に基づきオフレコのような形での情報提供がなされた場合は、相手方の立場もふまえ、当該情報を(社内の関係者のみとして)慎重な取り扱いをする必要があります。

③情報提供がなされた場合に注意すべき点

警察から提供された情報を使って関係解消の実務を行うことになることから、警察からの情報である旨を相手方(関係解消先)に伝えることや裁判所に証拠として提出することが考えられます。したがって、少なくとも、どのように情報を利用するかについては、事案の相談を行いながら、事前に警察に伝え、理解を得ておく必要があるといえます。また、後日、訴訟が提起された場合に備え、立証に対する支援を得られるよう、早めに依頼しておくことも必要と思われます。

さらに、関係解消が終結した場合には、その旨をあらためて報告することによって、相互のさらなる信頼関係を構築できるようにしていくことも考慮しておくべきでしょう。

2.最近のトピックス

(1)AML(アンチ・マネー・ローンダリング)/CTF(テロ資金供与対策)

①バチカンの改革

ローマ法王フランシスコが、マネー・ローンダリングやテロ資金供与、大量破壊兵器の大量購入疑惑など不透明な運営が問題視されるバチカンにおいて、その中核である財政管理組織「宗教事業協会」(通称バチカン銀行)の改革に着手、内部監査部門(財務情報監視局)の権限強化などの教令を発布しています。

また、バチカン銀行は、イタリア中央銀行と顧客情報などの交換に応じることで合意したほか、ウェブサイトも開設、今後は財務諸表も開示するなど経営の透明化を図っています。

ただし、疑惑はAML/CTFに止まらず、脱税ほう助やマフィアとの関係なども噂されていることから、透明化を図る過程でそのような不適切な関係が明るみに出ることも予想され、闇の部分にどれだけ大胆に切り込めるかに注目していきたいと思います。

②「覆面株主」情報の監視強化

6月に英国で開催されたサミットで、不正資金への監視を強めることでG8諸国が合意したことをふまえ、日本でも、AML/CTFの取り組み強化の一環として、信託銀行など保管機関を通じて株式を所有する「覆面株主」の情報を当局が迅速に確認できる制度を作るということです。金融機関に対し、覆面株主の把握や報告義務を課すことが検討されており、これまで「覆面株主」のもと実質的に匿名化された形で企業を支配してきた「真の支配者」、およびその副産物としての「人脈」「相関関係」を把握できるようになることが期待されます。

③携帯ショップのデモ機を悪用した「仮想通貨」の詐取

名古屋市の携帯電話販売店に展示されていたデモ機を使ってオンラインゲームのサイトに不正アクセスし、10万円分の仮想通貨を取得したとして、電子計算機使用詐欺と不正アクセス禁止法違反の疑いで男が逮捕されています。

デモ機で商品を購入するためにはパスワードの入力が必要だったにもかかわらず、男はパスワードを推測して入れたということです。

仮想通貨については、AMLの観点からも今後規制が厳しくなることが予想されていますが、一般人が推測可能なパスワードで詐取できてしまうほどのお粗末なセキュリティレベルで運用されている現状について、プロの犯罪組織からみれば、正に「おいしい」「儲け時」なのかも知れません。

④CTF(対北朝鮮)

米政府は、北朝鮮の核・ミサイル開発の資金調達に関与しているとして、北朝鮮の大同信用銀行(DCB)と幹部行員ら2団体および2個人に対し制裁措置を発動しました。

DCBは中国の大連などのフロント企業と2007年以降、国連安全保障理事会決議が禁じる核・ミサイル開発に携わる北朝鮮企業のため数百万ドルの送金業務を担ってきたとされています。

▼OFFICEOFFOREIGNASSETSCONTROLSpeciallyDesignatedNationalsandBlockedPersonsList(米国財務省外国資産管理局SDNリスト)

⑤テロの恐れ、全世界に渡航警戒情報

外務省は、米国務省がテロ情報を理由に中東・北アフリカを中心とする在外公館を臨時休館するのを受け、海外渡航者・滞在者に対し米公館に極力近づかないよう注意喚起する渡航情報を出し、公共の場所や交通機関でも安全確保に十分注意を払うよう求めています。

▼外務省海外安全HP「米国務省によるテロ脅威に関する警告発出に伴う注意喚起」(平成25年8月3日~8月14日現在有効)

また、国際刑事警察機構(ICPO、インターポール)は、各国に警戒を強めるイラク、リビア、パキスタンなど9か国で数百人の戦闘員が脱獄したことを受けて、各国に警戒を強めるよう求めています。

(2)企業における動向

①携帯電話契約の適正化に関する動向
    • レンタル業者との携帯電話契約の制限

ヤミ金融や振り込め詐欺へのレンタル携帯電話の悪用を防ぐため、NTTドコモは、レンタル業者から不自然に多い契約の申請があった場合、事業規模などに応じて台数を制限することとしています。

同社のレンタル携帯を利用した犯罪が突出して多かったことから、警視庁がドコモに厳格な審査を求めていたもので、レンタル業者に対し、顧客の本人確認を徹底する誓約書を提出させ、不十分な場合は契約解除などの措置を取るということです。

    • 本人確認不備に関する総務省による是正命令

総務省は、携帯電話端末販売大手2社に対し、携帯電話不正利用防止法に基づく是正命令を出しています。

運転免許証や健康保険証の原本ではなく、コピーなどの写しを提示された場合の本人確認処理が不適切であるなど、携帯の新規契約時に適切に本人確認をせず、手続きに不備があったとされます。

また、総務省は、ドコモ社とKDDI社(au)に対し、販売店などへの監督の徹底を求める行政指導を行っています。

携帯電話販売事業は犯罪収益移転防止法における「特定事業者」には該当しないものの、犯罪インフラ化という最近の状況からみれば、それに準じた厳格な対応が求められるのは当然のことであり、とりわけ、AMLの水際対策の基本である「本人確認」手続きにおいても、相当のレベル感と緊張感を持って取り組む必要があるものと思われます。

②送りつけ商法における「ゆうパック悪用」

日本郵便が7月下旬から、警察より悪質業者名の提供を受けた場合、窓口での荷物の引き受けを断り始めています。

最近深刻化している「送りつけ商法」の代金の受け渡しに日本郵便の「ゆうパック」の代金引き換え(代引き)サービスのうち、事前審査の不要な窓口引き受けが悪用されることが多いということです(一方、大手宅配業者では、代引き利用業者を事前に審査して契約し、問題があれば契約を解除しているということです)。

このあたりは、レンタル業者からの不自然な件数の契約要請に応じてきたNTTドコモ社の携帯電話が犯罪に悪用されていたという前項の構図と重なるものがあり、犯罪の手口の高度化・洗練化の変遷・変容に応じて、自社のビジネスモデルやスキームが犯罪インフラとならないよう、自律的に見直していくことが求められているという意味で他山の石とすべきものといえます。

③預金口座の不正利用に係る情報提供

平成25年4月から6月末までに金融機関及び警察当局へ情報提供を行った件数は404件、平成15年9月以降の累計では40,084件に上ったということです。

また、金融庁が情報提供を行ったものに対し、金融機関において、22,134件の利用停止、14,236件の強制解約等を行っているとのことです。

▼金融庁「預金口座の不正利用に係る情報提供件数等について」

これらの情報提供件数および措置件数は、振り込め詐欺等の増加とともに増え続けている状況にあり、モグラ叩きになっている感はありますが、それでも、このような地道な取り組みが被害の拡大を食い止めている点にも注目したいと思います。

④インターネットバンキングの不正送金被害が過去最悪に

前項とも関連しますが、ネット銀行の1~7月の不正送金の被害額は3億6000万円(398件)まで急増し、過去最悪となっているということです(さらに、年間で最悪だった2011年をこの時点で上回るというハイベースとなっています)。

報道によれば、大半の利用者のパソコンがウイルスに感染し、IDやパスワードを盗まれ、送金先は約600口座(約75%が中国人とみられる名義となっていた)とのことです。

また、被害事例としては、金融機関などが導入している「ワンタイムパスワード」からのものも確認されていますが、携帯電話のメールアドレスで受信したり、ネットに接続する方法ではなく、「トークン」と呼ばれる機器を使うよう警察なども呼びかけています。

⑤覚醒剤使用容疑で鉄道運転士を逮捕

北海道警察は、JR北海道運転士を覚せい剤取締法違反(使用)の疑いで緊急逮捕しています(同社の運転士が覚醒剤使用の容疑で逮捕されるのは初めてとのことです)。

同社では、鉄道車両の脱線事故や出火事故、故障等が相次いでおり、安全輸送の確保と信頼回復が急務とされていた中での今回の不祥事ということで、社長自ら記者会見で謝罪しています。

これまでも、役職員の覚せい剤等への関与については、(本来は、社会人としての「常識」のレベルの話であるにせよ)暴力団排除の観点からも会社が積極的に啓蒙していくことの重要性をお話してきました。

本事例においては、会社の直接的かつ組織的関与はないとはいえ、日常の端緒の把握が遅れたこと(乗務前点検の実効性も問われます)や結果的に社員教育が行き届かなかった点など、平時から組織としてやるべきこと、やれることはたくさんあったのではないかと思われます。

(3)改正暴力団対策法/暴力団排除の動向

①暴追センターによる訴訟代行

暴力団事務所の使用差し止め訴訟に備えて、各地の暴力追放運動推進センター(暴追センター)が訴訟時の代表理事を警察OBに相次いで切り替えているということです。

訴状にはセンター代表として、代表理事の名前が記載されることもあり、現時点で警察OBが代表理事になっていないセンターについて、訴訟時は警察OBの専務理事を代表理事に交代できるよう定款を変更するなどの動きが進んでいます。

なお、参考までに、現時点で公安委員会より適格都道府県センター(適格団体)の指定を受けているのは、以下の15都県となります。

▼警察庁「全国の適格都道府県センター一覧」

      • 東京都、埼玉県、徳島県、佐賀県、大分県(平成25年2月指定)
      • 神奈川県、福岡県(平成25年4月指定)
      • 山形県、富山県、愛知県、兵庫県、岡山県、愛媛県、長崎県、熊本県(平成25年7月指定)
②暴追センターによる事務所差し止め請求で暴力団が退去(徳島県)

徳島県警察は、住民の委託を受けた徳島県暴追センターが同市内の山口組系暴力団に対して組事務所の使用差し止めを直接請求したことで、暴力団が退去したことを発表しています。

暴追センターによる差し止め請求と、立ち退きが実現したのは全国で初めてとなり、以下の東京都や久留米市の事例同様、今後の暴力団排除にとって大きな一歩といえます。

③山口組系組事務所ビル使用禁止を条件に和解(東京都)

指定暴力団山口組系の組長側が取得した東京都台東区のビルを巡り、周辺住民10人が組長側を相手取った訴訟で和解が成立しています。

同ビルには組長や組員らが住民票を移していましたが、組長側とは、ビルを組事務所として使用せず、組員らは立ち入らせないことに加え、今後、和解内容の遵守状況の確認にも応じることなどで和解したとのことです。

④久留米市が道仁会旧本部事務所の買い取りで和解成立(福岡県)

福岡県久留米市にある指定暴力団道仁会の旧本部事務所を巡り、周辺住民が使用差し止めを求めた訴訟について、福岡地裁久留米支部で和解が成立しています。

道仁会側が平成25年9月末までに事務所ビルを解体して更地にした上で、久留米市土地開発公社が1億6000万円で買い取る内容で、同支部への仮処分申請から5年になるのを前に全面解決となりました。

指定暴力団の組事務所が、訴訟を通して撤去されるのは全国初となるということであり、今後の暴力団排除にとっても大きな弾みとなります。

⑤生活保護の暴力団へ支給禁止明確化を要請(神奈川県)

神奈川県警や神奈川県などで構成する神奈川県生活保護不正受給等防止対策連絡会が、暴力団への生活保護費支給禁止を明確化するよう厚労省に要望しています。

2006年に出された厚労省の通知では支給禁止に関する基準が曖昧で、暴力団組員の申請を却下する根拠を「資産・収入の活用要件を満たしていると判断できない」などとしていることから、調査できれば暴力団でも支給の余地がある現状となっています。

暴力団が関与する不正受給事件が後を絶たない現状において、暴力団の資金源を断つという意味でも適正な運用が求められるのは当然のことであり、運用ルールの明確化(例えば、属性要件などの明確な拒否基準の設定)と自治体による厳格な運用(調査/判断)の両面での整備が急がれます。

(4)暴力団対策法に基づく使用者賠償責任の追及の動きの加速

以前からご紹介していますが、暴力団等の活動に、資金面から直接的にダメージを与えることができる「組長に対する使用者賠償責任追及の訴訟の提起」が続いています。

①みかじめ料の返還要求

指定暴力団山口組弘道会の傘下暴力団にみかじめ料を払っていた飲食店経営の女性が、「暴力団の威力を背景に財産を侵害された」として、六代目山口組組長(篠田建市)と傘下暴力団組長を相手取り、過去に支払ったみかじめ料など計1,735万円の賠償を求める訴訟を名古屋地裁に提訴しています。

なお、みかじめ料を巡る民事訴訟の提訴は本事例が初めてとなります。

②店舗放火殺人に関する損害賠償請求

2010年に起きた名古屋のキャバクラ店の放火殺人事件について、店の経営者や建物の所有者ら3人が、指定暴力団山口組組長らを相手取り、約1億5,000万円の損害賠償を求める訴訟を提訴しています。

なお、この事件では、死亡した男性店員の遺族も今年5月に、山口組組長らを相手取って損害賠償請求訴訟を起こしています。

(5)その他の組織犯罪動向

①ネーム・ローンダンリング(生活困窮者や知的障害者など弱者を利用)

偽装結婚、偽装離婚、通称名の変更などによる「ネーム・ローンダリング」は以前から問題となっており、反社チェック実務においてもこれを見破ることが難しいのが現状です。

そのような中、「ネーム・ローンダリング」に関する新たな手口が2つ発覚しておりますので、ご紹介いたします。

1つ目は、知的障害者の男性が27人もの人と偽装養子縁組をさせられたという事案です。養子縁組を交わせば養子側の姓が変わり、新たな名義で銀行口座開設や携帯電話契約などが可能になり、振り込め詐欺グループや暴力団が悪用していることは知られています(実際に当該男性の口座も詐欺などの犯罪に利用された形跡があるということです)。

さらに、この男性と縁組を交わしていた多くの関係者が、別の人物とも縁組を繰り返して改姓しており、男性の養親同士が縁組しているケースや「身に覚えがない」と話す人もいるとの報道もなされています。

また、他の男性も被害に遭い、千葉家庭裁判所に縁組の無効確認訴訟を起こし、既に勝訴したということですが、住まいや職を持たず万引きなどを繰り返していた累犯者で、1人は知的障害があったともいわれています。

つまり、これらの事例から、大規模な犯罪組織の関与が疑われ、しかも、生活困窮者や知的障害者などの弱者を手広く利用した偽装養子縁組スキームである疑いが強く、正に手段を選ばない悪質な犯罪であるといえます。

②ネーム・ローンダリング(僧侶によるもの)

2つ目は、得度して(僧籍に入り)名前を変更し住宅ローン代金約3600万円を詐取したとして、詐欺容疑で僧侶ら5人が逮捕されたという事例です。本事例においては、逮捕された僧侶のもとで得度し、戸籍上の「名」を本名から変更、さらに、養子縁組をして「姓」を変えていたということです。

このようなネーム・ローンダリングに対して、氏名をスクリーニングするだけでは、それを見抜くことはほぼ不可能と思われますが、現実には何らかの端緒から時系列の状況を丹念に確認することで発覚したものと推測されます。

ネーム・ローンダリングは、ペーパーカンパニーの売買(ネットによるものなど)、商号変更、移転を組み合わせて行うなどして法人の実態を不透明化・偽装化する手口にも通じるものがあり、いずれにおいても、反社チェック実務においては、その来歴に不自然な点がないか、その変更は合理的か、に常に注意を払っていくことが重要だといえます。

③大型投資詐欺事件

高齢者などに実体のない会社への投資を持ちかけ、現金を騙し取ったとして警視庁など26都道府県警の合同捜査本部が、男女34人を詐欺容疑で逮捕しており、被害は全国で少なくとも約1100件、25億円に上るとみられ、指定暴力団組員を含む約50人が関与していたとみられています。

また、本事例のように「実体のない会社」が悪用されるケースが増えています。とりわけ、会社を設立登記する際、法務省が住所確認までは求めない点が悪用されており、「被害」に気付いたとしても、登記簿の住所地には会社がないため、告訴や訴訟もままならないのが現状です。この点については、日弁連も、法務省に登記制度の改善を求めているということです。

前項の事例(得度によるネーム・ローンダリングや法人履歴の不透明化・偽装化など)は「実体」はあるが「実態」を偽装するものであり、こちらはそもそも「実体」も「実態」もないということになります。

登記上の「実体」が必ずしも本当の「実体」「実態」を証明するものではない点はインターネット上のウェブサイトにも同様のことがいえ、反社チェック実務においては、登記情報やウェブサイトの記載内容の精査と実態確認(現地訪問や地図・グーグルのストリートビューなどによる確認)をある程度セットと考えながら実施し、「実体」と「実態」を確認していくという慎重な姿勢が求められるといえます。

④振り込め詐欺増加傾向

警察の統計によれば、今年1~6月の振り込め詐欺や未公開株詐欺などの「特殊詐欺」の警察庁の認知件数が前年同期比45.4%増の5388件となり、被害額も同38.6%増の約210億円に上る結果となっています。

▼警察庁「特殊詐欺の認知・検挙状況等について(平成25年6月)」

また、「オレオレ詐欺」の件数は同37.8%増の2345件と依然として多く、被害総額も同63.2%増の約72億円に上っています。

さらに、特殊詐欺の1件あたりの被害額は平均390万円となっており、報道によれば、1000万円以上の被害は82件あり、80代男性が3200万円をだまし取られた事件もあったということです。

⑤口座不正取得で「怒羅権」メンバー逮捕

他人名義の銀行口座を不正使用目的で譲り受けたとして、「怒羅権(ドラゴン)」(首都圏で活動する中国残留邦人2世、3世を中心とした不良グループで、今年3月に警察が「準暴力団」と位置付けています)メンバーで、元会社社長を犯罪収益移転防止法違反の疑いで逮捕しています。

中国に帰国した留学生らが不要になって手放した口座がインターネットを通じて多数集められたとみられています。

準暴力団は、振り込め詐欺等を敢行している実行部隊とみられていることから、これらの不正口座が携帯電話などとともに組織犯罪のインフラとなっていることが懸念されます。

3.最近の暴排条例による勧告事例ほか

(1)祭りへの影響(大阪府)

前回もお話した通り、兵庫県内の露天商約200人が加入する兵庫県神農商業協同組合が、兵庫県暴排条例の勧告に従わず、その後も暴力団に用心棒代として資金を提供していたとして名前が公表されています。

一方、大阪府吹田市でも、「吹田まつり」の出店を取りまとめる組合の理事が3年前の祭りの際、独自に出店した地元商店主らを暴力団組員らとともに脅したとして逮捕され、祭りを主催する実行委員会が組合経由の出店を認めないと決めたため、屋台が例年の1割あまりの約30店にとどまったとの報道がありました。

祭りの風物詩としての屋台が少ないことは確かに寂しいものの、それが暴力団への利益供与を是認する理由にはならず、より健全な形で屋台が運営されればよい話であり、それは暴力団を排除したうえでも可能なことです。

(2)「標章」掲示店の減少(福岡県)

昨年改正された福岡県暴排条例に基づき暴力団員の飲食店への立ち入りを禁じる「標章」の掲示(昨年8月施行)の掲示率が、北九州市で今年6月末現在56%となっており、昨年8月末の74%から18ポイントも減少していたということが報道されています。

以前もお話した通り、北九州市の標章掲示対象地区で飲食店経営者らを狙った切りつけや放火などが相次いだ影響があり、掲示を拒んだりいったん掲示した標章を取り下げたりした事例が相次ぎました。事件自体は昨年11月以降起きていないものの、関係者の不安が根強い現実が明らかになっています。

なお、福岡県暴排条例は、直近では、平成25年6月にも以下の通り、改正が施行されています。

▼福岡県警「福岡県暴力団排除条例の改正(平成25年6月1日施行分)

本改正では、暴力団排除に立ち上がり、立ち上がろうとする事業者を保護するため、特定の事業者に対する暴力団の不当な影響を排除するための措置が追加規定されており、具体的には、暴力団員が、縄張りの設定・維持目的で

      • 特定接客業者(暴力団排除特別強化地域に営業所を置くもの)
      • 県内で事業を行う建設工事関係者(発注者、受注者、関連物品の納入者等)
      • 上記2項の代理人、使用人、その他の従業者

に対し、

      • 事業所・居宅への立入り
      • 文書の送付・架電・FAX送信・メール送信
      • 面会等義務のないことを行うことの要求
      • つきまとい又は事業所・居宅付近のうろつき

を行うことを禁止する内容となっています。

(3)海の家設置許可を取り消し(千葉県)

千葉県は旭市の飯岡海岸で海の家を設置、営業していた男性に対し、暴力団員であることが判明したとして海の家設置許可を取り消しています。

千葉県暴排条例に基づき、4月1日から海の家設置許可の審査基準で「暴力団員」には許可を与えてはならないとしていたもので暴力団員を理由とした取り消しは初めてだということです。

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