暴排トピックス

取締役副社長 首席研究員 芳賀恒人

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1.みずほショック

既に広く報道されているように、みずほ銀行が関与した提携ローンについて、多数の反社会的勢力との取引が存在したこと、また、それを把握してから2年以上も反社会的勢力との取引の防止・解消のための抜本的な対応を行っていなかったこと、反社会的勢力との取引が多数存在するという情報も担当役員止まりとなっていたこと等、経営管理態勢、内部管理態勢、法令等遵守態勢に重大な問題点が認められたとして、金融庁から同行に対して業務改善命令が出されています。

▼金融庁「株式会社みずほ銀行に対する行政処分について」

報道によれば、反社会的勢力との取引件数は230件に上り、総額で2億円を超えるとされています。取組みが進んでいる金融機関、とりわけメガバンクにおいてこのような事案が発覚したことは極めて残念ですが、本件に関して、現時点で考えられる今後の企業実務への影響等について整理しておきたいと思います(なお、本稿の内容は10月8日時点の情報によるものであることを付記しておきます)。

(1)氷山の一角

まず、本件は、「同行における」「提携自動車ローン」に限定されていますが、以前から、保証協会の保証付き融資契約、住宅ローン等が暴力団の資金源ともなったことが知られています。したがって、以下のような同様のスキームの拡がりが考えられ、その意味では、みずほ銀行に限らず他の金融機関においても、正に氷山の一角であると言えます。

        • 提携ローンは自動車ローンに限らないこと
        • 多くの金融機関が同様のスキームで提携ローンを取り扱っていること
        • 金融機関と提携している信販会社もまた多数存在していること

さらに、信販会社の審査により成立した融資契約を、事後的に同行がチェック(銀行のデータベースによるスクリーニング等)した結果、その事実を把握したとされていますが、契約時に対面・審査しているのが信販会社であって、銀行にとっては直接の対面取引ではなく書面上の審査となっており、その仕組みが「認識の甘さ」を生んだものと考えられます。また、みずほ銀行に限らず以前から「自動車ローンの審査は甘い」と指摘されていたにも関わらず、その審査自体が信販会社任せとなっている状況をふまえれば、以下のようなリスクの拡がりすら考えられます。

        • 本人確認手続きが厳格になされていたのか
          申込人について、信販会社の審査段階で、偽名・借名・なりすまし等の観点から厳格なチェックが行われていなければ、銀行の審査においてそれを見抜くのは難しいと思われます。
        • 契約時の端緒を把握できていたのか
          信販会社の審査において、暴力団等の背後関係が伺われる端緒を得たり、不審な兆候を把握しながら、あるいは確信犯的に目的外用途の融資契約と知りながら、結果的に問題ないとして契約が締結された場合、やはり銀行の審査でそれを見抜くのは難しいと思われます。

つまり、銀行が自ら融資を実行する以上、自らと同様のレベル感で提携先に審査を行わせるべき責任があったにもかかわらず、自らそれを放棄していたことが明らかになったことで、今回表面化した「属性に問題がある契約」の存在のみならず、そもそも表面的なチェック、(充実しているとは言い難い)データベース・スクリーニングに依存する審査だけでは見抜くことが困難な「不適切な契約」が多数存在している可能性が否定できないのです。

(2)反社会的勢力の資金源

暴力団員が提携ローンを締結したとして、本当にそれが自動車の購入に充てられたのか、自動車(特に中古車、オプション装備品等)の評価額が適正だったのかなど、全ての融資契約が「適正に」履行されたと考えること自体に懸念が残ります。つまり、前述の通り、ローンの審査が甘いことが分かっており、加えて、不良債権の回収も(彼らにとっては)それほど厳しくないということになれば暴力団がそれを利用しない手はないということです。

したがって、金融機関から不正に資金を引き出し(または、不正な額を引き出し)、例えば、転貸して違法に中小企業などに貸し出すなどして、法外な利息とともに彼らの資金源となっている可能性が疑われるのです。それを想起させるものとして、融資の一部が返済されず、事実上、不良債権化している事例もあります。

このようなスキームの場合、自動車販売会社や整備工場、信販会社等の関与なく不正を継続的に実施するのは困難であり、その意味では、暴力団の活動を助長する共生者が存在し、(好むと好まざるに関わらず)それぞれの役割を担っていたのではないかと疑われます。

(3)信販業界への影響

本事案でも審査の甘さが指摘されている信販会社については、当然のことながら、(自らが実行する)プロパーローン分野においても同様の脆弱性を有していることが推測されます。さらには、クレジットカードを利用した詐欺的手法を許してしまっている「加盟店」あるいは「決済代行会社(包括加盟店)」の健全性をどう担保していくかが大きな問題だと思われます。例えば、クレジットカード会社は出会い系サイト等との加盟店契約を締結しないルールになっていますが、現実にはカードが利用可能です。この背景には、「海外の決済代行会社」が、緩い加盟店管理のもと、それらと加盟店契約を締結、カードの利用を認めている現実があり、さらにクレジットカード会社がそれを黙認している状況があり、それらの脆弱性を「犯罪インフラ」として反社会的勢力が利用している現実があります。このような、信販業界・貸金業界における反社チェックの甘さ、反社会的勢力への対応の甘さは、銀行の問題と切り離しても極めて重大な問題です(つまり、そもそも銀行の取組みに依存せず、自律的・自立的に、反社チェックや反社会的勢力排除の取組みがなされるべきだということです)。

もう少し具体的に説明すると、目的別ローン、多目的(無目的)ローンのように直接の貸出業務はもちろんのこと、クレジットカード発行における脆弱性を突く例として、偽名・借名・なりすまし、キャッシング枠を利用した現金化、質屋・偽装質屋との共謀といった詐欺的な手法がよく知られています。さらには、ネット通販(クレジットカード決済)を悪用して組織的に商品を詐取、海外へ転売するといった手法、クレジットカードによる収益移転といった手法も散見されているなど、ますます多様化する決済手段にクレジットカードは密接に関係しており、暴力団の直接・間接の関与による「犯罪インフラ化」への対応が喫緊の課題であると言えるのです。

なお、本件を受けて、経済産業省が日本クレジット協会に対して反社会的勢力排除の取組みを徹底するよう要請しており、同協会も加盟会員に対して実態調査に乗り出すといったことが報道されています。

(4)「取引不可」判断のあり方

報道によれば、銀行での事後的審査により反社会的勢力との取引を把握したものの、それを解消する努力をせず、「放置した」ことが問題とされています(なお、形式上は、既に代位弁済により当該不適切な融資については回収済みとのことです)。

ただ、見方を変えれば、「既に取引が成立してしまったので本件はやむを得ない(=即刻解除・回収は難しい)、この申込人については今後の新規申し込みには応じない」程度の取引可否判断が当時行われていたとも推測されます。したがって、本件は、その「取引可否判断の是非」が問われているという側面もあると考えられます。

その中で、ここで問題となっている対象者がすべて「現役の構成員」であれば、「即刻解除・回収」すべき対象である点に異論はありませんが、それ以外の「元暴力団員」「準構成員」「共生者」である場合は、金融機関という立場からは一般の事業者以上に厳格な対応が求められるものの、それでも属性立証の点で検討を要すべき事情も少なからず発生するため、必ずしも「即刻解除・回収」とは言い切れない点に注意が必要です(もちろん、警察への情報提供要請等を確実に実施すべきことは言うまでもありません)。

要は、同行がどのレベルまで把握したうえで即時の関係解消を行わなかったのか、それを「放置」したのかが問題であって、その理由が、関係解消の実務上の困難さによるものなのか、反社会的勢力との関係の問題を(額も大きくないため)たいした問題でないと考えていたのかによっても問題の本質は変わってくると思われます。ただし、残念ながら、実態は、後者の認識に起因する問題と考えた方が良さそうです。

報道によれば、「放置」の判断については、当時および現在の両頭取にまで報告されていたようです。外部有識者による「特別調査委員会」の今後の調査でも明らかになると思いますが、上記「取引可否判断」の妥当性・適正性が省みられることなく(事案発生当初の取引可否判断については、幾ばくかの態度を留保すべき事情があった可能性も考えられるにせよ、前頭取の認知は遅くとも2010年7月、現在の頭取も2011年7月には事情を知りうる立場にあったということですから、当初の認知から時間が相当経過しており、その間の社会情勢の変化をふまえ、あらためてその判断の妥当性・適正性を評価し直し、自律的な関係解消に踏み込むチャンスがあったと推測されるのにそれをしなかったということ)、さらに最終的に「放置」という組織的な判断がなされた(トラブルや表面化を避けるために、あえてそのままにしておく(関係を解消しないという不作為的判断を含む))という点については、「内部統制システム」上の問題(けん制の不備・機能不全)、あるいは、「経営判断」における重大な誤りがあったのではないかと考えられます。

反社会的勢力との関係解消の判断においては、組織的対応を前面に打ち出し、恣意的な判断や(関係解消が困難だとして)易きに流れることを避けるためにも、「合議体」で判断すべきだと思われますが、それでもなお、「放置」と判断したのであれば、(経営層による意図的な無視という)「内部統制システムの限界」であり、本問題を軽視した、結局は「経営判断」の問題となります。

この「経営判断」については、「経営判断の原則」からの検討を加えてみたいと思います。「経営判断の原則」とは、大まかに言えば、「経営判断の前提となる事実認識の過程における不注意な誤りに起因する不合理がないか」「事実認識に基づく意思決定の推論過程および内容の著しい不合理がないか」に十分配慮した判断であれば、結果的に会社が損害を被ったとしても、取締役の忠実義務・善管注意義務が履行されているとみなされるとするもので、反社会的勢力排除の実務においては、正に根幹を成すものです。この原則に沿って本件の検討過程を考えてみた場合、会見でも言及のあった「事実認識」の甘さ、具体的には、提携スキームに依存し過ぎた審査体制(無審査体制)、その背後にある反社会的勢力排除に対する規制当局や社会の目(社会的要請)の厳しさに関する認識が不十分だった、あるいは、そもそも認識が欠如していたのか、いずれにせよ、十分な善管注意義務が履行されていたとは言い難いということになるのかもしれません。

結果論として指摘するのは容易ですが、本件を同行トップが把握した時期については、政府指針(2007年7月)、福岡県暴排条例施行(2010年4月)後であり、あるいは、東京都暴排条例施行(2011年10月)直前の時期であることをふまえれば、関係解消に踏み込むという選択肢を取るべき社会的背景が既に存在していたということからも、その「事実認識」の甘さが指摘できるかもしれません。

(5)国際的なアンチ・マネー・ローンダリング(AML)の視点からの評価

AMLについては本レポートでも高い関心をもって毎回取り上げており、日本の取組みが国際的にみて周回遅れの状況であることはご認識頂いているものと思います。そのような状況下で、「YAKUZAと銀行が取引していた」「分かっていてそれを放置していた」ことは国際的には全く通用するわけがなく、最悪、外国の銀行が日本の銀行との取引を回避することすら考えられる状況だと言えます。つまり、(「暴排トピックス2月号」でも指摘した通り)「商流において巻き込まれるリスク」がAMLにおいては注意すべき点としてあり、外国の銀行からみれば、日本の銀行と取引することによって自らもマネー・ローンダリングを助長してしまうリスクがあると判断せざるを得ない状況にあるのです。

なお、暴力団等反社会的勢力との取引がマネー・ローンダリングを助長することにつながる点については、今一度確認しておく必要があると思います。

警察白書(平成19年版)によれば、「暴力団を始めとする犯罪組織は、個別の資金獲得活動とその成果たる資金との間の関係を不透明化することにより、獲得した資金が課税、没収等されたり、獲得した資金に起因して検挙される事態を回避することを目的として、しばしばマネー・ローンダリング行為を行っている。」「マネー・ローンダリング行為は、近年における暴力団の企業活動を仮装・悪用した資金獲得活動について行われるほか、暴力団と共生する者による資金獲得活動についても行われることがある。このような場合、マネー・ローンダリング行為によって、暴力団と資金獲得活動を行う者との関係が一層隠ぺいされ、無関係のようにみえる者が獲得した資金が暴力団に流れ込むとともに、仮に一部の関係者が検挙されても、同種の資金獲得活動がなお継続されることがあり得る。また、暴力団が獲得した資金には、被害者から組織的に奪った財産が多く含まれているが、マネー・ローンダリング行為が行われることによって、こうした被害者の財産回復が困難になる。さらに、暴力団が獲得した資金が移転して事業活動に用いられることにより、正当な企業活動を行う一般企業が資金面等で不利な立場に立たされ、最終的には経済活動から駆逐されるおそれすらあるなど、我が国の健全な経済活動に悪影響を及ぼす危険性がある。」と指摘されています。

▼平成19年度版警察白書(特集:暴力団の資金獲得活動との対決)

国際的なAML/CTF(テロ資金供与対策)が強化される中で、欧米各国は犯罪集団やテロ組織への資金還流に対し、一段と厳しい法的、倫理的な規制を展開しています。今回の件が、日本のAML/CTFの取組みの甘さをあらためて国際的に露呈してしまったと言え、国際的な厳しい視線が日本に注がれることを意味しているのです。

2.最近のトピックス

(1)平成25年上半期の暴力団情勢

▼警察庁「平成25年上半期の暴力団情勢」

平成25年上半期の暴力団構成員等の摘発件数は20,987件(前年同期比▲9.8%)、検挙人数は10,242人(前年同期比▲12.5%)となり、いずれも減少傾向にあります。その背景には、暴力団員の減少がありますが、これまでもお話しているように、その活動が不透明化している現状にあり、引き続き、警戒が必要です。

また、特異事項としては、事業者襲撃事件が6件、対立抗争に起因する不法行為が21回発生したという点があげられます(具体的には、山梨県で激しい対立抗争が勃発しています)。

犯罪種別では、窃盗、恐喝、覚せい剤取締法違反が多いこと、詐欺の検挙人員やマネー・ローンダリング関連の摘発は増加が続いていることがあげられます。また、伝統的資金獲得犯罪(覚せい剤や恐喝、ノミ行為等)に占める暴力団構成員等の比率は56%と刑法犯全体が6%台であるのに比して高く、相変わらず、暴力団の主要な資金源となっている状況がうかがわれます。

(2)平成25年上半期における生活経済事犯の検挙状況等

▼警察庁「平成25年上半期における主な生活経済事犯の検挙状況等について」

利殖勧誘事犯(未公開株、社債等の取引や投資勧誘等を仮装し金を集める悪質商法)や特定商取引等事犯(訪問販売、電話勧誘販売等で不実を告知するなどして商品の販売や役務の提供を行う悪質商法)については、平成25年上半期の消費者相談センターへの相談のうち、契約当事者が高齢者であったものの割合は73.0%であり、商取引に不慣れな高齢者が詐欺的な手口により狙われている現状がうかがわれます。

一方、ヤミ金融事犯(出資法違反(高金利等)及び貸金業法違反並びに貸金業に関連した詐欺、恐喝、暴行等に係る事犯)の被害は前年同期比▲11.4%と減少しているものの、平成25年上半期における検挙事件に占める暴力団構成員等が関与するものの割合は15.8%と、前年同期の割合(11.4%)と比べて上昇していること、これまでも取り上げてきたように、貸金業に関連した携帯電話不正利用防止法違反や通帳詐欺等、助長犯罪の検挙が増加していることや、貸与時本人確認を履行せずにヤミ金融業者へ携帯電話を貸与するレンタル携帯電話事業者の存在がうかがわれるなど、今後も新たな手口の出現への警戒なども含め注意が必要な状況です。

これに関連して、最近、クレジットカードで購入させた商品を買い戻すように装う「カード現金化」手法で現金を貸し付けたとして、登録貸金業者の元社長ら男女計10人が出資法違反(高金利違反の脱法行為)容疑で逮捕されています。(本事例での暴力団等との関係については現時点では明らかにされていませんが)登録事業者が正規の業務をしながらヤミ金融を営み摘発されるのは全国初だということです。

(3)平成25年上半期の薬物・銃器情勢

▼警察庁「平成25年上半期の薬物・銃器情勢(暫定値)」

今年上半期に暴力団から押収した拳銃は35丁と上半期として統計の残る平成6年以降で、過去最少となったということです。

その一方で、最近、大阪市内のマンションのトランクルームで拳銃7丁と実弾500発、さらにダイナマイト21本が見つかり、指定暴力団山口組直系組織「極心連合会」の関係者4人が銃刀法違反で逮捕されたという事件も起こったばかりです。

一方、覚醒剤については、今年上半期で550キロ押収されており、既に昨年1年間の押収量を上回る状況となっています(500キロを超えるのは13年ぶりとなります)。また、摘発された暴力団組員らは132人、総摘発数の71.4%を占めるなど、相変わらず暴力団の「確実な資金源」となっている状況がうかがわれます。報道によれば、暴排条例で企業からの資金獲得活動が制限される中、伝統的な資金獲得に回帰している傾向もみられるようです。

また、密輸元の主流が、2006年から2010年にかけての通年ベースでは中国が最多だったところ、2011年の統計でメキシコがいきなりトップになり(それまで上位5カ国にすら入っていなかった)、その傾向が続いていることが確認できます。その大変動の背景事情については現時点では明らかになっていないだけに、まだまだ予断を許さない状況であるとも言えます。

また、脱法ドラッグを巡る状況も深刻化しています。今年上半期に違法販売などで51件66人が摘発されており、昨年の16件25人から大幅な増加となっています。一因として、薬事法と麻薬取締法の改正、厚生労働省による新たな「指定薬物」への指定、脱法ドラッグの吸引や自己使用目的での「単純所持」を摘発できるようになったことなどの対策の成果もあげられますが、脱法ドラッグを主原因とする事故・事件等が頻発している状況にあります。また、暴力団が関与した脱法ドラッグの事案も発生するなど、その資金源のひとつとなっている状況もうかがえます。なお、参考までに、脱法ドラッグの使用者が医療機関を受診したり、救急搬送されたりするケースが急増しており、覚醒剤より毒性や依存性が強いものもあると警告がなされています。今後、常習者の増加など暴力団の資金源として更なる拡がりを見せる可能性は否定できません。

(4)AML(アンチ・マネー・ローンダリング)/CTF(テロ資金供与対策)

①「共謀罪」創設法案の検討

暴力団やマフィア、テロリスト等の組織犯罪対策として「共謀罪」を創設するため組織犯罪処罰法の改正案が検討されているということです。国際テロ組織が重大犯罪を実行する前の計画・準備に加担した段階で共謀罪に問えるようにするもので、2020年の夏季五輪の東京開催が決定したことで、国際的なテロ対策の必要性が強まっていることがその背景にあります。

ただし、本件は以前にも国会で審議されており、その時は、「集まった」という理由で一般人が罪に問われかねない、人権侵害につながる可能性があるとして廃案になった経緯があります。

また、その根拠のひとつとなる「国際組織犯罪防止条約」については、重大犯罪の合意や犯罪収益のマネー・ローンダリングなどを処罰する国内法整備などを義務付けており、日本も平成12年に署名していますが、国内法が未整備のため締結には至っていません。

②マネーミュール

外国に送金するだけで手数料がもらえるとする、(海外では数年前から確認されている)マネー・ローンダリングのための「運び屋」を募集する日本語のメールが初めて確認されたということです。

振り込め詐欺における「受け子」「出し子」に、学生など若者がバイト感覚でその役割を担ってしまう構図と全く同じであり、自ら進んでマネー・ローンダリングの「ツール」となる者が増えてしまうこと、組織的な犯罪の中核に辿り着くことがより困難になる可能性が懸念されます。

③テロ資金供与対策(イランへの送金)

ニューヨークの五番街にあるオフィスビルの賃料がイラン政府に送金されていたとして、ニューヨークの連邦裁判所が、米政府によるビル全体の差し押さえを認める決定をしています。

このビルは全米屈指の高級ショッピング街にあり、1970年代に当時のイラン国王の関連基金によって建設されたもので、資産価値が5億~7億ドル(約500億~700億円)とも言われており、制裁が確定すれば、米国内のテロ関連における最大級の差し押さえとなります。

④バチカンの改革

ローマ法王庁(バチカン)の財政管理組織「宗教事業協会」(バチカン銀行)は、EUなどからのマネー・ローンダリング等の犯罪に加担しているとの疑いを払拭するため、透明性を高める取組を推進していますが、最近、バランスシートを含む2012年の年次報告書がホームページにて初めて公表されました。

(5)その他の重要なトピックス

①PGA幹部と暴力団幹部の密接交際

社団法人日本プロゴルフ協会(PGA)の元理事が今年の6月に、熊本県のゴルフ場で指定暴力団道仁会会長ら暴力団幹部とゴルフをしていたことが発覚し辞任しました。さらには、最近、PGA副理事が同会長らとゴルフをしたことも明らかになりました。以前から、プロゴルファーやレッスンプロと暴力団の関係が噂されているところですが、相次ぐ暴力団との交際発覚で同協会の体質が問われています。

②ネーム・ローンダリング

建設業の男性が、知らない間に、面識がない7人と養子・養親の縁組を繰り返したように戸籍が変更されていたとして、縁組の無効確認を求めて東京家裁に提訴しています。筆跡が全て異なり、また、男性のものとも異なっており、第三者が男性と偽って勝手に届け出たと見られるということです。

偽装結婚、偽装離婚、通称名の変更などによる「ネーム・ローンダリング」は以前から問題となっており、反社チェック実務においてもこれを見破ることが難しいのが現状です。「暴排トピックス8月号」でも、生活困窮者や知的障害者など弱者を利用した新たなネーム・ローンダリングの手口について紹介いたしましたが、本件の特異な点は、騙されたり利用されたといった事実が本人の自覚としてなく、「全く知らないところで繰り返し行われていた」というところにあります。言い換えれば、(例えば親族の行為だとしても)それが可能となってしまう行政の手続き自体が犯罪インフラ化しているということであり、その脆弱性の早期の解明と解消が望まれます。

③ヤフー・グーグルに対する提訴

京都府の40歳代の無職男性が、自分の氏名を検索すると逮捕歴が表示されて名誉を傷付けられたとして、両社を相手取り、表示の差し止めや慰謝料などそれぞれに1100万円の損害賠償を求める訴えを京都地裁に起こしています。

報道によれば、原告側は「記事が事実でも公益目的にはあたら」ず、「通常の社会生活を送ることができない状態」だと訴えていますが、企業側は、検索サービスの信頼性に関わるため削除していないとして、主張が真正面からぶつかりそうな状況のようです。

新聞社などは、そのスタンスによっては、過去の犯罪報道記事について氏名を匿名化した形での情報提供を既に行っていますが、反社チェックの実務からみれば、そもそもヒットしない情報が多くなることは検索の精度に関わる致命的な問題でもあり、今後の推移を注視していきたいと思います。

④違法賭博

海外のカジノをインターネットで中継し、客に違法な賭博をさせたとして、愛知県警が、名古屋市のインターネットカフェを常習賭博容疑で摘発しています。また、その収益が暴力団の資金源となっていた可能性があるということです。

賭博は、暴力団の伝統的資金獲得犯罪のひとつであり、前述の「平成25年上半期の暴力団情勢」によれば、賭博で検挙された者の37.0%が暴力団構成員等となっています。

また、カジノについても解禁の方向で検討が進んでいるようですが、彼らの収益源とならないよう、暴力団排除のための規制に関する具体的な検討を進めていく必要があると思われます。

⑤仮想通貨(ビッドコイン)と違法薬物売買

米連邦捜査局(FBI)が、匿名の利用者が仮想通貨ビットコインを使って違法薬物などを購入することができるインターネット上の売買サイト「シルクロード」を閉鎖、同サイト運営者を麻薬の不法取引、コンピューターへの不正侵入、マネー・ローンダリングなどの容疑で逮捕しています。同サイトは、世界中から90万人以上が利用登録しており、これまでに12億ドル(約1170億円)に上る取引を仲介し、8000万ドル(約78億円)以上の仲介手数料を得ていたとの報道がなされています。

ビッドコインによるマネー・ローンダリングの危険性は本レポートでも既に指摘していますが、さらに大規模な麻薬取引等にも利用されたことにより、仮想通貨への規制が今後一層強化されることになるものと思われます。

⑥組事務所と虚偽登記

指定暴力団山口組の最大勢力である弘道会傘下の組長が、名古屋法務局で、組事務所を本店所在地とする会社を設立したとする虚偽の登記申請をしたほか、組員らの共有名義だった組事務所の土地や建物の所有権が売買で同社に移ったとする虚偽の登記申請をするなどした疑いで逮捕されています。

また、同じ山口組直系の二次団体である大平組組長ら幹部が、実体のないダミー会社に組事務所を売却したように装い、虚偽の登記をしたとして、電磁的公正証書原本不実記録・同供用容疑で逮捕されています。

暴力団対策法の度重なる改正や暴排条例により、組事務所の開設や維持、有事の際の利用制限など、厳しい制約が課されており、彼らの生き残りをかけた戦いが熾烈さを増している証左とも言えるでしょう。

3.最近の暴排条例による勧告事例ほか

(1)勧告事例(東京都)

暴力団主催のパーティーで歌を披露し謝礼をもらったなどとして、東京都公安委員会は、都内の60代男性タレントに対し、東京都暴排条例に基づき、利益供与の中止を勧告しています。

なお、暴排条例で芸能人が勧告を受けるのは全国でも初めてのケースとなります。また、その他にも、参加費を支払った都内の飲食店経営者2人と、パーティーを主催した指定暴力団稲川会系組長にも勧告がなされています。

(2)勧告事例(神奈川県)

暴力団関係者の依頼により、同県内のイベントホールで震災関連のチャリティーディナーショーを開催するため、会場の使用契約や出演者の手配、代金の支払いなどをしたとして、指定暴力団稲川会系組幹部と東京都内の内装会社経営者に対し、同県暴力団排除条例に基づく勧告がなされています。

また、このイベントホールは暴力団が関係していることを知らなかったということであり、勧告の対象とはなっていません。

(3)公共事業の入札からの排除

国土交通省九州地方整備局は、役員が暴力団と不適切な関係を持っているとして、同局発注の公共事業の入札から排除しています。

これは、国土交通省と警察庁の合意に基づき、佐賀県警が要請した排除措置で、同県内業者への適用は初めてだということです。

▼九州地方整備局「佐賀県警察本部からの要請による公共事業等からの排除措置について」

(4)暴力団対策法による中止命令

建設・解体仲介業を営む知人男性から依頼を受けて立ち退き交渉をしたとして、指定暴力団山口組系組幹部ら2人に暴力団対策法に基づく中止命令が出されています。

昨年10月の改正暴力団対策法の施行により、暴力団員が営業者のためにする「用心棒」行為を禁じられていますが、用心棒行為に基づく中止命令は全国で初の適用となります。

(5)「暴力団情勢」(警察庁)からの勧告事例

先にご紹介した「平成25年上半期の暴力団情勢」では、以下のような勧告事例が記載されていますので、ご参照ください。

なお、平成25年上半期においては、全国の暴排条例に基づき、勧告29件、指導2件、中止命令2件、検挙1件の実施実績があったということです。

      • ボウリング場支配人が、山口組傘下組織幹部が主催するボウリング大会であることを知りながら会場を提供したことから、同支配人と同幹部に対し、勧告を実施(愛知県平成25年1月)
      • ストリップ劇場経営者が、暴力団の威力を利用することの対償として、山口組傘下組織組員に現金と招待券を供与したことから、同経営者と同組員に対し、勧告を実施(埼玉県平成25年2月)
      • 飲食店経営者が、稲川会傘下組織幹部からの依頼を受け、同組織の行事のために同店宴会場を提供したことから、同経営者と同幹部に対し、勧告を実施(神奈川県5月)
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