暴排トピックス
取締役副社長 首席研究員 芳賀恒人
1.反社会的勢力の捉え方(2014年版)
(1)反社会的勢力の定義
(2)反社会的勢力の定義のあいまいさに関する議論
(3)反社会的勢力の定義とデータベース・スクリーニング
2.最近のトピックス
(1)企業と暴力団
(2)海外コンプライアンス
(3)復興事業との関わり
3.最近の暴排条例による勧告事例ほか
(1)勧告事例(東京都)
(2)勧告事例(秋田県)
(3)勧告事例(岡山県)
(4)勧告事例(兵庫県)
昨年は、「暴排トピックス」をご愛読頂きまして、誠にありがとうございました。
本年も「暴力団排除」「反社会的勢力排除」をテーマに、旬の話題をお届けしてまいりたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
1.反社会的勢力の捉え方(2014年版)
昨年の反社会的勢力への融資問題は、企業実務にとっても様々な論点を提示するものとなりました。中でも、反社会的勢力排除の取組みにおいては、常に「反社会的勢力の定義」の問題がついてまわることは皆さまも実感されておられることと思います。
昨年末に、本問題の一方の当事者である株式会社オリエントコーポレーション(オリコ)から、同社が設置した特別委員会の調査結果について、それとは別に、あらためて独立の弁護士3名からなる第三者委員会が検証した「検証報告書」(要約版)がリリースされています。
▼株式会社オリエントコーポレーション「特別調査部会」調査結果に対する第三者検証の結果について」(平成25年12月27日)
この報告書では、「排除されるべき反社会的勢力を取引から排除することはもとより重要であるが、逆に、排除されるべきでない者を取引から排除することがあってはならないこともまた同様に企業に求められた社会的な要請と考えられる(同報告書p4)」「みずほ銀行が反社会的勢力であると認定したことと、実際にその顧客が反社会的勢力であることとは、必ずしも同義ではないのであって、世上にみられるような、みずほ銀行が反社会的勢力であると認定した顧客がすべて実際に反社会的勢力であることを所与の前提とするかのような姿勢には、当検証委員会は大きな違和感を覚えざるをえない(同報告書p7)」といった指摘がなされるなど、反社会的勢力の定義をはじめ排除実務における問題点にまで踏み込んだ鋭い指摘がなされております。
そこで、あらためて、危機管理の立場から、現時点における反社会的勢力の定義(捉え方・考え方)とそこから派生する論点等について整理しておきたいと思います。
(1)反社会的勢力の定義
一般的な反社会的勢力の定義としては、政府指針における「暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団または個人である『反社会的勢力』を捉えるに際しては、暴力団、暴力団関係企業、総会屋、社会運動標ぼうゴロ、政治活動標ぼうゴロ、特殊知能暴力集団等といった属性要件に着目するとともに、暴力的な要求行為、法的な責任を超えた不当な要求といった行為要件にも着目することが重要である。」といった考え方をベースとすることで問題はないと思われますが、政府指針が出された平成19年当時から現在に至る社会情勢の変化(暴排条例の全国での施行、反社会的勢力の更なる不透明化・潜在化の進展、半グレ集団等に代表される準暴力団などグレーゾーンの拡大など)をふまえれば、この考え方に「共生者」や「元暴力団員」なども加えることが実務上は妥当であると言えます。
そもそも、反社会的勢力はその存在を不透明化・潜在化させていますが、その実態とは、「ブラックのホワイト化」(暴力団等がその姿を偽装したり隠ぺいしたりして実態をわかりにくくすること)の深化だけでなく、「ホワイトのブラック化」(暴力団等とは直接関係のなかった一般の個人や企業がそれらと関係を持つこと)も進んでいること、つまり、反社会的勢力のグレーゾーンが両方向に拡がっていることを理解することが大変重要になります。そのうえで、企業実務における反社会的勢力の捉え方、考え方については、その意味するところは実は社会的に確定しておらず、政府指針でその捉え方が示唆されているにすぎない状況にあります。前述の検証報告書の指摘の通り、結論から言えば、企業が自らの企業姿勢に照らして明確にする努力をしていくしかありません、
そして、「反社会的勢力の不透明化」とは、結局は「暴力団の活動実態の不透明化」であり、もう一方の一般人の「暴力団的なもの」への接近、その結果としての周縁・接点(グレーゾーン)の拡大であって、反社会的勢力自体がア・プリオリに不透明な存在(明確に定義できないもの、本質的に不透明なもの)であるとも言えます。
また、暴排条例の施行や反社会的勢力への融資問題を経た問題意識の高まり、それらに伴う社会の要請の厳格化によって、結果として反社会的勢力の不透明化の度合いがますます深まっており、その結果、彼らが完全に地下に潜るなど、いわゆる「マフィア化」の傾向が顕著になりつつあります。表面的には暴力団排除が進んだとしても、「暴力団的なもの」としての反社会的勢力はいつの時代にもどこにでも存在するのであって、その完全な排除は容易ではありません。
だからこそ、企業は、その存続や持続的成長のために、時代とともに姿かたちを変えながら存在し続ける反社会的勢力を見極め、関係を持たないように継続的に取組んでいくことが求められるのです。つまり、反社会的勢力を明確に定義することは困難であるとの前提に立ちながら、暴力団や「現時点で認識されている反社会的勢力(便宜的に枠を嵌められた、限定された存在としての反社会的勢力)」だけを排除するのではなく、「暴力団的なもの」「本質的にグレーな存在として不透明な反社会的勢力」を「関係を持つべきでない」とする企業姿勢のもとに排除し続けないといけないとの認識を持つことが必要となります。
したがって、反社会的勢力を、その実態をふまえて危機感的な視点から定義するとすれば、「暴力団等と何らかの関係が疑われ、最終的には「関係を持つべきでない相手」として、企業が個別に見極め、排除していくべきもの」とすることが望ましいと言えます。
(2)反社会的勢力の定義のあいまいさに関する議論
さて、反社会的勢力への融資問題をふまえ、警察庁の暴力団等に関する情報データベースを民間と接続する、全銀協・生保協会・損保協会等の保有するデータベースを信販業界等も含め共有していく、グループ・ガバナンスの一環として、グループで保有する反社会的勢力データベースを共有するといった動きが加速しています。
データベースおよびそれを活用したスクリーニングにおける実務上の問題としては、そもそものデータベースの限界と反社会的勢力の定義のあいまいさがあげられます。そもそも、反社会的勢力排除の取組みにおいては、反社会的勢力の範囲(定義)が明確でなく、あいまいなままとなっていることが、その難しさの根本にあるのは疑いのないところです。
では、その範囲(定義)さえ明確に線引きがなされ、それが社会全体での共通認識となれば、(データベースの限界は別として)社会からの反社会的勢力排除は実現されるのでしょうか-。答えは「否」です。そして、極論すれば、「事細かに詳細まで定義すべきではない」と言えるのです。
前項で、反社会的勢力を「暴力団等と何らかの関係が疑われ、最終的に『関係を持つべきでない相手』と個別に見極めて、排除していくべきもの」と定義しましたが、それは、そもそもが「本質的にグレーな存在」である実態を踏まえたものです。
一方で、反社会的勢力の範囲を詳細に定義することが可能になれば、データベースの収集範囲が明確となり、その結果、データベースの精度が向上し、排除対象が明確になり、暴排条項該当への属性立証も円滑に進むであろうことは容易に想像できます。
しかし、そこに落とし穴が潜んでいるのです。
反社会的勢力の範囲の明確化は、反社会的勢力側から見れば、偽装脱退などの「暴力団対策法逃れ」と同様の構図により、「反社会的勢力逃れ」をすすめればよいだけでの話となります。社会のあらゆる局面で、排除対象が明確になっていることで、データベースに登録されている者を、あえて契約や取引の当事者とするはずもなく、結果的にはその存在の不透明化・潜在化を強力に推し進めることになると思われます。したがって、実質的な契約や取引の相手である「真の受益者」から反社会的勢力を排除することは、これまで以上に困難な作業となっていくのは明らかです。
つまり、反社会的勢力の資金源を断つどころか、逆に、潜在化する彼らを見抜けず、結果的に彼らの活動を助長することになりかねませんし、結局はその見極めの難易度があがる分だけ、自らの首を絞める状況に追い込まれることになるでしょう。
さらに、反社会的勢力の範囲の明確化に潜む問題を、企業側から見た場合、排除すべき対象が明確になることで、「それに該当するか」といった「点(境目)」に意識や関心が集中することになり、逆に、反社チェックの精度が下がる懸念があります。
そもそも、反社会的勢力を見極める作業(反社チェック)とは、反社会的勢力の不透明化・潜在化の現状にあっては、当該対象者とつながる関係者の拡がりの状況や「真の受益者」の特定といった、その全体像を「面」で捉えることを通して、その「点」の本来の属性を導き出す作業です。表面的な属性では問題がないと思われる「点」が、「面」の一部として背後に暴力団等と何らかの関係がうかがわれることをもって、それを反社会的勢力として「関係を持つべきでない」排除すべき対象と位置付けていく一連の作業でもあります。その境目である「点」だけいくら調べても、反社会的勢力であると見抜くことは困難であり(さらに、今後その困難度合が増していくことが予想される以上)、全体像を見ようとしない反社チェックであれば、表面的・形式的な実務に堕する可能性が高くなると思われます。
確かに、反社会的勢力の範囲を明確にすることで、表面的・形式的な暴力団排除・反社会的勢力排除の実現は可能です。企業実務に限界がある以上、また、先の検証報告書でも述べられている通り、一方で営利を目的とする企業活動である以上、身の丈にあった最低限のチェックで良しとする考え方もあることは否定しません。
しかしながら、私たちに求められているのは、暴力団対策法によって存在が認められた暴力団や当局が認定した暴力団員等、あるいは、「現時点で認識されている反社会的勢力」の排除にとどまるのではなく、「真の受益者」およびそこに直接つながる「暴力団的なもの」「本質的にグレーな存在である反社会的勢力」の排除であることを忘れてはなりません。反社会的勢力の範囲を明確にすることが、直接的に相手を利することにつながり、対峙すべき企業の自らの首を絞めるとともに、自らの「目利き力」の低下を招くものだとしたら、これほど恐ろしいことはないのです。
さて、先の検証報告書との関係で言えば、ますます多様化する決済手段、詐欺的手法にクレジットカードは密接に関係しており、反社会的勢力の直接・間接の関与による「犯罪インフラ化」への対応が喫緊の課題となっている中、「企業が営利を目的とする経済活動主体であり、厳密な意味での反社会的勢力のみを排除すべき」とする考え方も理解できますが、クレジット事業者における「社会インフラ」を担うべき者の社会的責任(CSR)の観点から、それが「犯罪インフラ化」している現状をまずは直視すべきだと思います。「銀行が反社認定をしても、自社の調査では確証がなく、「疑わしきは顧客の不利益に」のスタンスではないので、自社では反社認定しない」との考え方が説得力を持つためには、銀行と比較しても同業界の反社チェックの見極めレベルが同水準以上であると認められること、「社会インフラ」を自認する以上、「犯罪インフラ」として組織犯罪に実際に利用されていないことなどが求められていると言えます。
そのうえで、同報告書でも言及されていますが、クレジットカードの犯罪インフラ化を助長している同業界の喫緊の課題として、「加盟店」あるいは「決済代行会社(包括加盟店)」の健全性担保のために、(例えば、データベースだけに頼らない)厳格な管理が求められている点があげられます。反社会的勢力の企業への侵入には必ず仲介者たる「人」が存在するように、反社会的勢力の関与する犯罪インフラには「媒介者」が存在します。犯罪スキーム全体からみれば末端に位置するカードホルダーという「点」だけをいくら見ていても、そもそもデータベースの限界や「真の受益者」問題もあり、反社会的勢力の本質的な排除、実効性ある排除は困難です。そのためのキーポイントとして、反社会的勢力との「接点」になりうる「媒介者」の健全な「暴排意識」と「リスクセンス」に基づく「健全な業務の遂行(優良・善良なるカードホルダーの選別)」が必要不可欠なのです。
これまでの同業界における反社チェックの甘さ、反社会的勢力への対応の甘さは、銀行の問題と切り離しても極めて重大な問題であって、「社会インフラ」を自認するのであれば、そもそも銀行の取組みに依存することなく、自律的・自立的に、反社チェックや反社会的勢力排除の取組みがなされるべきではないでしょうか。
(3)反社会的勢力の定義とデータベース・スクリーニング
前述の通り、そもそも、反社会的勢力を見極める作業(反社チェック)とは、当該対象者=「点」とつながる関係者の拡がりの状況や「真の受益者」の特定といった「面」でその全体像を捉えることで、その「点」の本来の属性を導き出す作業です。表面的な属性で問題がないと思われる「点」が、「面」の一部として背後に暴力団等と何らかの関係がうかがわれることをもって、それを反社会的勢力として、「関係を持つべきでない」排除すべき対象と位置付けていく一連の作業であって、この本質的な反社チェックのあり方から見た場合、データベース・スクリーニングに代表される機械的・システム的なチェックやそれに伴う判断は、あくまで本来的な反社チェックの「代替策」に過ぎません。
「預金口座の開設」「保険契約」「クレジット契約」「個品割賦購入契約」といった大量かつスピーディな処理が求められている業務においては、効率性と精度をある程度のところで両立させる有効な方法が他にないが故の「代替策」であって、他の手法とどれだけ組み合わせられるかは企業努力次第ということになります。
したがって、このような手法に依存するしかない「入口」審査においては、データベースの限界と相まって精度が不十分である(すなわち、不完全である)こと、結果として、反社会的勢力がすり抜けて入り込んでしまっていることを強く認識した業務運営を行うべきだと言えます。したがって、「入口」審査の限界をふまえた「事後チェック」の精度向上の視点が一層重要となるのです。
データベース・スクリーニングの手法に限って言えば、データベース更新の都度、照合作業を行うという高頻度のスクリーニング、あるいは、複数のデータベースを組み合わせて利用することによって「粗い網の目」を幾ばくか狭めていく工夫などが求められます。実際、IPOの場面では、自社による反社チェック(記事検索サービスやインターネット検索、専用データベース等の活用による自律的・自立的なチェック)以外にも、主幹事証券の保有するデータベース、証券取引所の保有するデータベースと少なくとも3段階の異なるデータベースによるスクリーニングを実施することで、証券市場、IPO市場からの反社会的勢力排除に向けて万全を期すための努力を行っています。
また、データベース・スクリーニングが本来的な反社チェックの「代替策」に過ぎないことをふまえれば、「融資契約」「代理店・加盟店等の業務委託契約」「売買契約」をはじめとする他の契約類型においては、「登記情報の精査」「風評の収集」「実体・実態確認」その他の反社チェックの手法を組み合わせるなど、反社チェック本来の形に近づける努力をすべきですし、そうすることが求められていると言えます。
さらに、「入口」審査の限界をふまえた「事後チェック」の精度向上においては、データベース・スクリーニングの高頻度かつ重層的な活用以外にも、中途でのモニタリング強化の視点が必須です。
そこでの主役は、現場レベルの「日常業務における端緒情報の把握」であり、一人ひとりが「暴排意識」と「リスクセンス」をフルに発揮できる環境作りと情報の集約・審査体制の整備、さらには排除を可能にする積極的な仕掛け作りが求められています。このあたりの視点については、昨年末に金融庁から出された「反社会的勢力との関係遮断に向けた取組みの推進について」(平成25年12月26日)にも、以下のような項目があげられていることからも理解できますし、あわせて参考にして頂きたいと思います。
▼金融庁「反社会的勢力との関係遮断に向けた取組みの推進について」
(以下引用)
金融庁及び各金融機関・業界団体は、反社会的勢力との関係遮断の実効性を高めるため、関係省庁及び関係団体とも連携し、下記の取組みを推進する。また、金融庁は、年度内に所要の監督指針の改正を行うものとする。
1.反社との取引の未然防止(入口)
- 暴力団排除条項の導入の徹底
各金融機関は、提携ローン(四者型)を含め、暴力団排除条項の導入を改めて徹底する。 - 反社データベースの充実・強化
- 各金融機関・業界団体の反社データベースの充実
各金融機関・業界団体において、引き続き反社会的勢力の情報を積極的に収集・分析して反社データベースの充実を図るとともに、グループ内や業界団体間での反社データベースの共有を進める。 - 銀行界と警察庁データベースとの接続の検討加速化
警察庁が保有する暴力団情報について、銀行からオンラインで照会できるシステムを構築するため、金融庁、警察庁及び全国銀行協会の実務担当者の間における、情報漏洩の防止の在り方を含めたシステム構築上の課題の解決に向けた検討を加速する。 - 提携ローンにおける入口段階の反社チェック強化
提携ローンについて、金融機関自らが事前に反社チェックを行う態勢を整備する。また、各金融機関は、提携先の信販会社における暴力団排除条項の導入状況、反社データベースの整備状況等を検証する。
2.事後チェックと内部管理(中間管理)
- 事後的な反社チェック態勢の強化
各金融機関は、反社データベースの充実・強化、反社チェックの頻度アップ等、既存債権・契約の事後的な反社チェック態勢を強化する。 - 反社との関係遮断に係る内部管理態勢の徹底
各金融機関は、反社会的勢力との取引の経営陣への適切な報告や経営陣による適切な関与等、反社との関係遮断に係る内部管理態勢を徹底する。
3.反社との取引解消(出口)
- 反社との取引の解消の推進
各金融機関は、警察当局・弁護士等と連携し、反社との取引の解消を推進する。なお、事後に反社取引と判明した案件については、可能な限り回収を図るなど、反社への利益供与にならないよう配意する。 - 預金取扱金融機関による、特定回収困難債権の買取制度の活用促進
金融庁及び預金保険機構は、特定回収困難債権の買取制度の運用改善を図るとともに、提携ローンにおいて、信販会社が代位弁済した債権を買い戻した場合も同制度の対象となること等を周知することにより、同制度の活用を促進する。 - 信販会社・保険会社等による、サービサーとしてのRCC(注:整理回収機構)の活用
特定回収困難債権の買取制度の対象とならない信販会社・保険会社等の反社債権について、RCCのサービサー機能を活用する。
2.最近のトピックス
(1)企業と暴力団
①佐賀県警と弁護士会の取組み
暴力団と関係したとして佐賀県警の要請に基づき公共工事の指名停止を受けた同県内の土木会社について、同県弁護士会民事介入暴力対策特別委員会の弁護士らによる第三者委員会が同社の「関係解消」を確認して報告書を作成、同社が県警に提出。さらに、佐賀県警が、その報告書に基づき、事実関係を確認のうえ「排除対象ではない」と通知し、自治体は期間満了で指名停止を終了しています。また、近く県警の排除要請取り消しを受け、国土交通省も指名停止を取り消す方向だということです。
企業名が公表されることで企業存続の危機に追い込まれる事業者が多い中、今回のように弁護士会や県警などが連携して企業の暴排の取組みを支援する全国的にも珍しいものと評価出来ると思います。詳細な報告書の内容については不明のため、どれだけの事実確認をもって関係が解消されたと行政側に認定されたのか大変興味深いところですが、個別の事情に依る部分も大きいと思われます。しかしながら、今後についても、(同様の取組みの拡大は望ましい一方で)安易に一般化されることなく、健全性の認定には相当慎重な姿勢が求められると言うことに注意が必要です。また、あくまで今回の結論は、「過去を断ち切った現時点の体制」や「接点の消滅」が評価されたものであり、本当の信頼回復には地道な取組みの継続が求められることは言うまでもありません。
②事務所撤去に関する訴訟
福岡市のマンション住民が、工藤会の特定危険指定暴力団指定を機に管理組合の理事会で事務所撤去を求めることを決め、暴力団側が退去したとの報道がありました。このような暴力団事務所撤去を求めた訴訟は全国で24件あり、全て住民側が実質勝訴の流れだということです。一方で、裁判資料に原告住民の氏名が記載されることから、報復を恐れて提訴に踏み切れないケースも依然として多いと考えられています。また、昨年の暴力団対策法の改正で全国の暴追センターが訴訟を代行する制度がスタートしましたが、「適格団体」として登録されているのは(訴訟費用等の財源問題がネックとなり)24都府県(平成25年11月現在)にとどまり、実際の訴訟事案も1件しかないということであり、正に緒に就いたばかりと言えます。
▼警察庁「全国の適格都道府県センター一覧」(平成25年11月1日)
③公益社団法人日本プロゴルフ協会(PGA)
以前もご紹介しましたが、PGAの元幹部2人が指定暴力団会長とゴルフや会食をしていた問題で、PGAは、会長ら執行部を含む代議員全員が辞職しています。幹部全員が自主的に辞任する形を取ることで信頼回復を図る狙いがあるとのことです。暴力団のゴルフ好きはよく知られていますが、レッスンプロ・ツアープロとも暴力団等との密接交際につながりやすい土壌があることをあらためて認識し、徹底的な暴排の取組みを推進して頂きたいと思います。
(2)海外コンプライアンス
①米財務省、山口組幹部4人を経済制裁対象に追加
米財務省は、日本や海外で麻薬密輸やマネー・ローンダリングなどの犯罪行為に関わっているとして、日本の指定暴力団山口組の幹部4人を経済制裁の対象に追加指定しています。新たに指定されたのは入江禎(舎弟頭)、橋本弘文(統括委員長)、正木年男(舎弟)、石田章六(顧問)の4氏であり、米国内の資産の没収や入国禁止といった制裁が課されることになります。
②薬物の合法化の動き
米のコロラド州とワシントン州で昨年、マリファナ(大麻)使用の合法化が認められ、販売解禁の動きとなっています。また、南米ウルグアイの議会上院では、やはりマリファナの栽培や販売を合法化する法案を可決しています。先の米国の例は州法での話ですが、国として合法化するのは世界初となります。
これらの動きは、マリファナの健康への悪影響度合いを見極めたうえで、それを上回る効果、すなわち、麻薬の密売価格を暴落させ、南米にはびこる麻薬マフィアに壊滅的な打撃を与えるのが狙いとされています。ただ、一方では、薬物依存のゲートウェイドラッグとも呼ばれていることから、ヘロインや覚せい剤などの使用につながり、中長期的に麻薬マフィアや暴力団等の活動を助長しかねないリスクも考慮すべきだと思われます。
③米国での振り込め詐欺
実は、米国においても、高齢者からカネをだまし取る「振り込め詐欺」のような犯罪が蔓延っている状況にあります。連邦取引委員会(FTC)によれば、詐欺の被害者のうち60歳以上の高齢者の比率は、2008年には10%にすぎず年齢層別では最も低かったのに、2012年に行った調査では、26%となり年齢層別では最も高かったということです。また、高齢者を狙った投資詐欺のうち報告されているのは、全体のわずかに10%に過ぎないともみられています。さらに、2010年の高齢者の投資詐欺被害額は少なくとも29億ドル(約3020億円)で、2年間で12%増加したとの調査結果もあり、高齢者を標的とした投資詐欺が深刻化している状況が伺えます。
(3)復興事業との関わり
①除染作業員の犯罪が急増
福島県内で除染作業員による傷害や窃盗など犯罪が2013年に入って急増し、検挙者数が昨年の5倍以上の134名になっているということです。除染作業の本格化に伴い、除染作業員全体の数が増加していることが要因のひとつではありますが、一方で、暴力団が除染を資金源にしようとする動きもその背景にあることは間違いないようです。なお、容疑別では傷害が最も多く47件で、以下、窃盗43件、覚せい剤取締法違反15件、監禁、器物損壊いずれも7件などとなっています。
②復興関連事業で暴力団員ら28人摘発
福島県警が東日本大震災以降、昨年末までの累計で、復興関連事業に就いていた暴力団組員、暴力団関係者合わせて28人を摘発したということです。なお、摘発された暴力団組員と暴力団関係者は、平成23年が16人、24年が3人、25年が9人となっており、うち9人は除染作業員で、摘発容疑別では、前項同様、監禁や傷害、覚せい剤取締法違反などが多いということです。
3.最近の暴排条例による勧告事例ほか
(1)勧告事例(東京都)
シラスウナギの買い付けをめぐるトラブルを仲裁してもらった見返りに、暴力団組長に現金を手渡したとして、東京都暴排例に基づき、府中市のシラスウナギ買い付け業の40代の男に利益供与の中止が勧告されています。また、指定暴力団山口組系組長にも利益供与を受けないよう勧告がなされています。
(2)勧告事例(秋田県)
暴力団員から置物のだるまを2万円で購入したとして、秋田県公安委員会は、県南の飲食店ビル管理者の男性に、秋田県暴排条例に基づき暴力団に利益供与しないよう勧告しています。男性は相手が山口組系暴力団員と知りながら、だるまの代金2万円を払ったといい、県警が男性に暴力団に利益供与しないよう指導したものの、従おうとしなかったため勧告したとのことです。
(3)勧告事例(岡山県)
岡山県内の建設業者等5事業者に対して、岡山県暴排条例第15条(利益供与の禁止等)に違反したとして、勧告が出されています。事業者らは、暴排条例施行前の平成15年頃から、親睦会を結成して、月1回定期的に食事会を開催し、1事業者当たり数万円の会費を徴収、食事代を差し引いた残りの現金を暴力団側に渡して、資金提供をしていたものということです。
同様のケースでは、平成23年3月に、福岡県で、ゴルフコンペなどを通じて暴力団員と密接な交際をしていたとして、建設業者9事業者について福岡県警から福岡県に対して通報と事業者名の公表を行ったものが有名です。未だに、半ば公然とこのような不適切な関係が継続していることに問題の根深さを感じます。
(4)勧告事例(兵庫県)
暴力団事務所として使われることを知りながら、ビルの改修を請け負ったとして、兵庫県公安委員会は、同県内で工務店を経営する男と建設会社を経営する男に対し、兵庫県暴排条例に基づき、同様の違反行為を繰り返さないよう勧告しています。
実は、平成23年7月に、指定暴力団山口組の総本部の改修工事を請け負ったとして、兵庫県公安委員会が、大阪府の建設業の男性に、暴力団事務所などの工事を請け負わないよう勧告した前例があります。岡山県の事例同様、全く同じ構図の暴力団への利益供与が繰り返されている現実を重く受け止める必要があると思われます。もっと、事業者側が利益供与に至った背景、勧告を受けるまでやめられなかった事情などに踏み込み、再発防止に活かしていくような取組みが求められているのではないでしょうか。