暴排トピックス

取締役副社長 首席研究員 芳賀恒人

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前回は、最新の社会情勢をふまえた「反社会的勢力の捉え方」について取り上げましたが、その中で、反社チェックの本来的なあり方についても考察を加えています。今回は、その反社チェックにおける重要なプロセスである「認知」「判断」のそれぞれの局面について、解説してみたいと思います。

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1.反社チェックのあり方

(1)「認知」としての反社チェック

前回の振り返りとなりますが、最新の社会情勢および反社会的勢力の捉え方をふまえた「反社チェックのあり方」については、以下のような視点が必要となります。

  • 反社チェックとは、日常業務の中から「疑わしい」端緒を把握し、それを基に組織的に見極め、排除に向けて取り組むことに他ならない。データベース・スクリーニングによる端緒情報の抽出が重要な手法であるにしても、現場の端緒を軽視しデータベースに依存するといった手法では反社チェックの精度を十分に確保することは難しい。むしろ、現場における「暴排意識」や「リスクセンス」の向上なくしては、反社会的勢力の実質的な排除、あるいは、その前提となる見極めすら期待できないと言ってよい。
  • 反社チェックとは、別の言い方をすれば、当該対象者=「点」とつながる関係者の拡がりの状況(相関関係)や背後に潜む「真の受益者」の特定といった「面」でその全体像を捉えることで、その「点」の本来の属性を導き出す作業である。表面的な属性を確認する限り問題がないと思われる「点」が、「面」の一部として背後に暴力団等と何らかの関係がうかがわれることをもって、それを広く反社会的勢力として、「関係を持つべきでない」排除すべき対象と位置付けていく一連の作業だとも言える。
  • 預金口座の開設や個品割賦購入あっせん契約(携帯電話の購入など)のような、スピーディーな対応が優先され、データベース・スクリーニングなどの簡便的な手法に依存せざるを得ない「入口」審査においては、日常業務における端緒情報の不足の問題、端緒情報の審査への反映(人的な判断)が難しい審査プロセスの問題、およびデータベースの限界と相まって精度が不十分である(すなわち、不完全である)こと、結果として、反社会的勢力がその網の目をすり抜けて顧客として入り込まれていることを強く認識した業務運営を行うべきである。したがって、「入口」審査の限界をふまえた「事後チェック」の精度向上の視点が重要となる。

なお、反社チェックの具体的な手法については、ここでは詳細しませんが、データベース・スクリーニング以外にも、「取引経緯や取引途上の特異事項等の把握(日常業務における端緒情報の把握)」、さらには、「風評チェック(リアル/ネット)」「登記情報の精査」「実体・実態確認」といった複数の手法があり、それらを可能な限り複数組み合わせることによって、多面的に分析していくことが重要となります。

【注】反社チェックの具体的な手法については、以下の書籍に詳しいので、是非、ご参照頂きたいと思います。

▼ 参考:株式会社エス・ピー・ネットワーク(書籍案内)

  • 「ミドルクライシスマネジメントvol.1反社会的勢力からの隔絶~内部統制を活用した企業危機管理」(株式会社エス・ピー・ネットワーク)
  • 「暴力団排除条例ガイドブック」(レクシスネクシス・ジャパン株式会社)

<反社チェックの具体的手法の例>

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とりわけ、法人の反社チェックにおいては、「商号変更されている場合は、現在の商号だけでなく以前の商号もチェック対象に加える」「現任の役員だけでなく既に退任した役員までチェック対象に含める」といった時系列的な観点からのチェック対象の拡大、また、経営に関与しうるとの観点からは、重要な取引先や株主、顧問や相談役などにまで対象を拡げることすら検討していく必要があります。

そのうえで、入口審査において、データベース・スクリーニング主体の反社チェックを行わざるを得ない場合の取組み事例を紹介しておきたいと思います。

データベース・スクリーニングにおいては、「同一性の精査」が悩ましい問題であり、最終的に警察に情報提供を求めることがあるべき姿であると言えます。その一方で、審査に十分な時間をかけられない制約がある場合や警察から十分な情報提供が得られない場合には、以下のような業務プロセス・判断の枠組みが考えられます(なお、これらのあり方については、あくまでも企業姿勢に依るところが大きい点に注意が必要です)。

  • 新規取引開始時の審査であれば、自社で出来る範囲の追加調査(インターネットで情報を収集するなど)にとどめ、それ以上の情報収集をせず(新聞記事の原本取得や警察に相談することなく)、ある程度同一と疑われるものについて、「契約自由の原則」によりNG対応とする(あわせて、同一でないと判断したものについては、判断の根拠について記録を残す)
  • 同一性の精査を一切行うことなく、「同姓同名・同年齢」レベルのデータベースへの該当事実をもって新規取引を行わないことをあらかじめ組織的判断と定めておく
  • 他に問題がなければ、いったん審査を通過させて、警察相談や専門家への調査依頼など十分な審査を行った結果、問題がある場合には、関係解消に向けたアクションを起こす(速やかな対応が出来ない場合でも、「継続監視」対象として関係を解消出来る機会を探る、次の契約更新をしない、確証が揃った時点で中途での契約解除に踏み込む、など)
  • 自社で出来る範囲の追加調査にとどめつつ、第三者である専門家に風評等のチェックを依頼し、その範囲内で同一性の判断と取引可否判断を行うなど

(2)反社チェック・プロセスにおける「判断」

たとえ、十分な範囲と深度を持った反社チェックを行ったとしても、明確な「確証」が得られることが難しい現実にあっては、その限られた範囲での調査結果をふまえ、組織としてどう対応すべきかの「判断」が求められます。

そして、この場合の「判断」には、「反社会的勢力の見極め(反社会的勢力に該当するか否か)の判断」と「取引可否の判断」の2種類あることに注意が必要です。「反社会的勢力に該当する」=「取引不可」である点については疑う余地のないとしても、現実はそう簡単ではありません。

例えば、反社チェックの結果をふまえ、「反社会的勢力との関係がある疑いが濃い」と判断した場合、新規取引であれば、疑わしい先とは取引しないとの観点から「契約自由の原則」に基づき「取引不可」の判断となるのでしょうが、継続取引の場合には、そうは言っても、速やかに関係を解消するための合理的な根拠、十分な確証がないとして、「継続監視」や「解消に向けて準備する」、あるいは「期限を切って解消する」といった判断となるのが現実的な対応だと思われます。

反社チェックにおいて重要なことは、反社チェック自体を適切に実施するだけでなく、このような「反社会的勢力の見極めの判断」と「取引可否の判断」を適正に行うことで反社チェックが完結する(「認知」と「判断」のプロセスの一体化・連動)のであり、特に後者の判断を誤ると、その後の対応に苦慮することになることを認識する必要があります。

反社会的勢力の見極めにおいて、確証がない場合、売上や利益を優先したい、取引したいといった誘惑、あるいは悪意といった、恣意的・属人的、あるいは統制環境からくる組織的な意思・暗黙の了解などによって、判断機軸が歪められてしまうことが時としてあり、それが反社会的勢力の侵入を許す大きな要因となることを自覚する必要があります。

したがって、反社チェックによる調査結果をふまえた判断もまた「組織的に」行われることが重要であり、

  • 取引担当部門(現場)による判断/反社会的勢力対応部門による判断
  • 経営トップによる判断
  • 合議体(判定委員会、反社委員会など)による判断

について、想定される場面ごとに、誰が判断するのが適切かを明確にするとともに、それが「組織的な判断」であるとする根拠を明文化(職務権限規程や稟議手続きルールなど)することや、組織的な「判断基準」(判断上の原則)を統一・標準化し、明確に規定しておくことが必要です。

そして、このような「適切な判断」を支えるのは、組織的な判断プロセスとその手続きの適正性と判断自体の妥当性に関するモニタリングです。

組織的な判断プロセスとして重要なことは、「判断基準を定めておくこと」となりますが、それと同様に、その判断基準を社会情勢の変化をふまえながら見直していくことも極めて重要であり、社会の要請レベルから乖離していないか常に注意を払うことが求められると言えます。

それは、例えば、社会的に厳しさを増している「共生者」や「密接交際者」を巡る議論を想起してもらえればよく、とりわけ、東京都の暴排条例の施行(平成23年10月)前後の時期に、大物芸能人の引退騒動も絡んで大きく世の中の判断基準が変わったことは記憶に新しいところです。

このように、社会の要請レベルは常に一定のものではありません。とりわけ、暴力団との交際については、その程度を問わず問題視され、暴力団の存在や暴力団との密接な交際について、「必要悪」「やむを得ない」といった議論はもはや存在しないところまで高まっていることを、現時点の判断においては認識する必要があるのです。

このように社会の要請レベルが揺れ動く(現実には厳しくなる一方ですが)ことをふまえれば、判断の妥当性については、判断を下す時点において最善を尽くす一方で、事後的に世の中の基準に照らして検証していく「ジャッジメント・モニタリング」のプロセスが極めて重要となっている点に着目する必要があります。

また、最終的な取引可否の判断は、反社会的勢力排除の観点だけでなく、営業面や与信状況を含む総合的な見地からの判断となるのは当然のこととはいえ、「反社会的勢力の見極めの判断」結果と最終的な「取引可否の判断」に重大な齟齬が生じないよう、組織的な牽制やモニタリングがなされるべきであり、その点からの組織のあり方について配慮することも必要です。反社会的勢力の見極めにおいて懸念事項が払拭されず「グレー」のままであるのに、「クロ」との確証がないことを根拠に、無制限に関係を深めてよいわけはないのです。

そして、このような判断機軸の歪みを回避するためには、具体的に、次のような注意や工夫が必要です。

  • 「反社会的勢力の見極めの判断」「取引可否の判断」の判断基準(原則)や判断・決定プロセスをあらかじめ明確に規定しておくこと
  • 場合によっては、合議体(判定委員会や反社委員会など)による判断や外部専門家による調査結果・アドバイス(弁護士による意見書を取り付ける等)などを判断・決定プロセスに組み込むこと
  • 取引可否の判断結果として、「継続監視」「当該取引のみ」など条件付で取引する場合は、取引先管理部門など業務ライン以外の部門で取引状況等を監視(モニタリング)すること

【注】この点については、金融庁による「反社会的勢力との関係遮断に向けた取組みの推進について」(平成25年12月)において、「事後チェックと内部管理」として「事後的な反社チェック態勢の強化」が明示されるなど、金融機関に限らず全ての事業者にとって、今後の取組みの重要な課題だと認識する必要がある

  • 調査から判断に至る検討過程を含む全てを記録・保管すること
  • あらかじめ規定した判断基準に則った判断が、適切な手続きにより遂行されていることを、内部監査部門や監査役が確認・監視すること

(3)経営判断の原則の枠組みと説明責任

実際の場面では、自社の反社チェックの結果、および、警察相談や外部専門家の調査結果などをふまえて、(機が熟した)適切なタイミングで、「経営判断の原則」の枠組みを意識した対応、すなわち、「調査に十分手を尽くしたか」という事実認識のあり方、「正しい事実認識に基づき、合理的な結論を、正しい方法で導いたか(議論の方法や過程に誤りはないか)」という結論のあり方に十分配慮することによって、取締役の忠実義務・善管注意義務の履行を担保していかなければなりません。

また、これらが適切に実行されていたこと客観的に確認する方法として、弁護士からの意見書を取り付け、判断に不合理性がないことを担保しておくことも検討しておくとよいと思われます。

なお、取締役の忠実義務・善管注意義務が履行されているからといって、社会の目線からみてそれが十分な対応だと認められない可能性は残ります。これこそが、反社会的勢力排除の実務における極めて難しい課題であって、メガバンクの問題をあげるまでもなく、深刻なレピュテーション・リスクを惹起することにまで配慮が必要となります。

したがって、企業としては、関係を解消することによって短期的な損失を被るとしても、民間企業として出来る最大限の努力を講じていること、それでも法的なリスクを含め完全に排除できないものについては、「最終的に属性を確認できる根拠が得られれば関係を解消する」「関係解消のタイミングを注意深く監視する」といった組織的判断のもと、常に必要な注意を払いながら厳格にモニタリングを行っていることを、状況に応じて、「いつでも」「丁寧に」説明できるようにしておくことしかないとの認識が極めて重要となると思われます。

2.最近のトピックス

(1)金融機関における暴排

①預金口座からの暴排

預金口座の開設に関する興味深いアンケート結果として、宮崎県内の主な18金融機関のうち、4金融機関で、現在も暴力団など反社会的勢力との取引口座が残っていることが判明したとの報道がありました。報道によれば、いずれの金融機関も暴排条項導入前に開設した口座だったため、法的に解除が困難だとしているようです。

一方で、2月に入って、宮城県で、指定暴力団住吉会系幹部で会社役員の男が詐欺容疑で逮捕されています。宮城県警では、当該口座を介して暴力団に資金が流れた可能性もあるとみているとされています。

このように、当該口座が、(専ら生活口座としての使われ方ではなく)明らかに暴力団の活動に利用されている実態があるような場合は、金融機関には、もう一歩踏み込んだ対応が求められる段階にきていると認識する必要があります。

②インターネットバンキングの不正利用

インターネットバンキング利用者のパスワードなどが盗まれ、預金を別口座に不正送金される被害が昨年、総額14億600万円に上ったということです。

▼ 警察庁サイバー犯罪対策「平成25年中のインターネットバンキングに係る不正送金事犯の発生状況等について」(平成26年1月30日)

過去最悪だった2011年の3億800万円の4倍を超えており、都銀や地銀、ネット専門銀行など32金融機関で計1,315口座が被害を受けたということです。また、1年間で68人を摘発しており、うち86.8%にあたる59人が中国人という結果から、組織的な背後関係も推測されます。その他、会社ぐるみで組織的に不正送金等された資金を洗浄していた事犯や、資金移動業者を介した国外送金事犯等を解明してはいますが、その手口は巧妙化、多様化している現実があります。

なお、今後の関係事業者等と連携した施策の推進策として以下があげられています。

  • 利用者が通常取引以外の求めに応じてパスワード等を入力することのないよう、被害発生状況や手口等の周知徹底
  • ウイルス対策事業者の情報提供で判明したウイルス感染が疑われる端末に係る利用者への関係プロバイダ等と連携した対策
  • 不正送金先口座名義人リストの提供等、金融機関等に対する積極的な情報提供
  • 可変式パスワード生成器(トークン)の導入等、効果の見込まれる金融機関のセキュリティ対策の推進・強化の要請
  • 口座売買や出金役に利用されないよう中国人技能実習生及び留学生に対する注意喚

③振り込め詐欺への対応

昨年の特殊詐欺全体の認知件数は、前年に比べ38.0%増加(11,998件、+3,305件)し、被害総額は33.6%増加(486億9,325万円、+122億5,713万円)したということです。

▼ 警察庁「平成25年の特殊詐欺認知・検挙状況等について」

うち、振り込め詐欺全体の認知件数は、前年に比べ45.3%増加(9,223件、+2,875件)し、被害総額も61.5%も増加(259億996万円、+98億6,886万円)する結果となっており、振り込め詐欺の増加が特殊詐欺全体の増加の要因となっていることが明らかです。さらに、オレオレ詐欺については、認知件数で48.1%増加(5,383件、+1,749件)し、被害総額は52.5%増加(170億7,678万円、+58億7,688万円)の結果となっています。

一方で、振込送金型被害が相対的に減少傾向にあり、その背景要因として、一部金融機関による窓口振込の阻止に加え、一日当たりのATM利用限度額の抑制、金融機関による口座開設時審査の厳格化、警察による犯罪利用口座凍結の求め、警察による凍結口座名義人情報の各金融機関への提供が奏功したものと考えられると報告書では指摘しています。

また、継続的な対策として、以下のようなものがあげられています。

  • 金融機関への犯罪利用口座凍結の求め

警察では、特殊詐欺に利用された疑いがある預貯金口座について、平成25年中は金融機関に11,537件の情報を提供し凍結を求めており、今後とも、(1)警察での相談対応段階から凍結可能な全件につき凍結を求める、(2)夜間・休日であっても一秒でも早く凍結を求める、(3)一旦凍結した口座は凍結解除を求められても応じないとの方針で、犯罪利用口座の凍結を求めていく。

  • 金融機関への凍結口座名義人情報の提供

警察が金融機関に凍結を求めた口座について、その名義人情報の一覧(凍結口座名義人リスト)を作成し、関係団体を通じて他の金融機関にも提供し、同一名義人による新規口座開設の謝絶、登載者来店時の警察への通報を求めている。平成25年には、情報提供先を農漁協(3月)、信用組合(3月)、労働金庫(4月)に拡大した結果、国内すべての預貯金取扱金融機関で当該情報が活用されることとなった。

その他、「現金送付型被害対策」として、(1)「『レターパック、宅配便で現金送れ』はすべて詐欺」の周知、(2)郵便・宅配事業者への配達阻止の求め、「その他の犯行ツール対策」として、(1)電話関係では、「携帯電話不正利用防止法(本人確認義務)違反被疑者の検挙」「携帯電話事業者への携帯電話不正貸与業者との回線契約解除の求め」「電話転送サービス事業者への利用者との契約解除の求め」、(2)特殊詐欺に利用されたウェブサイトについては、サーバー管理者に送信防止措置(削除)を講ずるよう求めるなどの対策が講じられているところです。

一方、報道によれば、昨年1年間に東京都内の金融機関職員らが窓口で振り込め詐欺被害を防いだ額は、約47億1300万円に上り、昨年の被害総額の約7割にも相当するとのことです。

詐欺を見抜く金融機関の役職員の「目」が有効な対策であることを立証するものとなっていますが、このあたりは、反社チェックの実効性を高めるポイントが、現場における役職員の「暴排意識」と「リスクセンス」を高めること(すなわち、現場の「目利き」力を高めること)にあることと同じであり、官民の連携によるリスクの低減や排除の実行といった構図もまた同じです。

振り込め詐欺が暴力団等反社会的勢力の資金源となっていることをふまえれば、振り込め詐欺の撲滅が資金源への打撃とその弱体化に直結する重要な取組みであり、その取組みには共通項が多いということも、今後の実効性を高めるうえでは重要なポイントとなると言えます。

④振り込め詐欺の検挙

振り込め詐欺のリーダーの会社役員が、組織犯罪処罰法違反(組織的詐欺)容疑などで逮捕されています。これまでにグループのメンバー計32人が逮捕されていましたが、他の振り込め詐欺事件でも現金の受け取り役など末端メンバーだけが逮捕されるケースがほとんどである中、刑法の詐欺罪(10年以下の懲役)より罰則が重く、最高刑が懲役20年の組織的詐欺容疑で逮捕するのは全国初めてだということです。

また、孫を名乗って高齢女性から現金をだまし取ろうとしたとして、詐欺未遂の疑いで、指定暴力団山口組系組員が逮捕されています。振り込め詐欺で現金を受け取る「受け子」や見張り役をまとめるリーダーと報道されています。本件以外にも、大阪で、オレオレ詐欺で「受け子」を調達したとして、指定暴力団住吉会系組長が逮捕されていますし、鹿児島で、振り込め詐欺グループが得た犯罪収益を受け取ったとして指定暴力団山口組系の組員が組織的犯罪処罰法違反(犯罪収益収受)で逮捕されています。これまで、振り込め詐欺の実行犯の多くが準暴力団や学生・フリーターなどの暴力団員等以外の一般人であることが多い中、現役の暴力団員が実行犯として逮捕されたり、暴力団員との関係が明確になった事例が増えている点は注目されます。

⑤保険金支払いからの暴排

暴力団抗争とみられる事件で刺殺された男性組幹部の遺族が、暴力団員であることを理由に生命保険の支払いが受けられないのは不当として、全国生活協同組合連合会に対し、計約3,300万円の支払いを求めた訴訟の判決で、福岡地裁が、遺族の請求を認め、全額の支払いを命じています。報道によれば、「契約時に反社会的勢力でないことを調査したとはうかがえない。暴力団関係者と契約しないことも明言していない」と指摘されたとのことですが、まだまだ曲折が予想されるため、今後の動向に注目したいと思います。

(2)海外コンプライアンス

①マネーミュール

本コラムで度々紹介していますが、海外送金代行の名目で「運び屋」をネット上で募り、一般人が犯罪との認識がないまま、手軽な海外送金サービスを使って犯罪収益をマネー・ローンダリングさせる「マネーミュール」が日本でも浸透しつつあるようです。そのような中、以前取り上げた、大手銀行のインターネットバンキングを狙った不正送金事件に絡み、不正送金された金をロシアに送金したとして、フィリピン国籍の男を犯罪収益移転防止法違反の疑いで逮捕されています。なお、愛知県警によると、国内での摘発は初めてだということです。

②地下銀行とビットコイン

無免許で不正送金する「地下銀行」を運営していたとして、銀行法違反(無免許営業)の疑いで、中古品販売業の男らベトナム国籍の3人が逮捕されています。利用者は全国に広がり、不正送金で取り扱った金額は約17億円に上るとのことです。さらに、タイに不正送金する「地下銀行」を営んだとして、タイ国籍の女3人と日本人の男1人も逮捕されており、約18億円が不正に送金されたということです。

また、以前もご紹介した違法薬物取引などを行う闇サイト「シルクロード」事件に関係して、米国在住のビットコイン取引業者(ビットコイン業界の大物も含む)が100万ドル(約1億円)のビッドコインを利用者が薬物取引など行えるように提供したとして、マネー・ローンダリングなどの罪で刑事訴追されています。

いずれも、正規の通貨の流通とは異なる手法によるものという点で共通点がありますが、「地下銀行」にせよ「ビッドコイン」にせよ、その取引の実態を把握するのが難しい(表面的なやり取りを見るだけではその関係性に疑いを見出すことが難しい)点も共通しており、「KYCC(KnowYourCustomer’sCustomer)」の視点で監視することで初めてその犯罪性が認識できるものでもあります(具体的には、送金先が当該資金によって何を購入しているのか、どこに送金しているのか、まで確認する必要があるということ)。これもまた、前項でお話した反社チェックの本来的なあり方としての「面」での把握の重要性と同じ構図だと言えます。

(3)生活保護と暴排

大阪市内のマンション約70棟に住む生活保護受給者計約2,000人に対し、市から保護費として支給されている住宅扶助費が、暴力団が経営していると認定された不動産会社に流れているとのことです。同社は、各部屋を所有者から借りたうえで受給者にまた貸しし、家賃として受け取る住宅扶助費と所有者への賃料との差額で年約2億円の利益を得ているとされており、報道によれば、市の担当者は「暴力団から部屋を借りていることが明白でも、生活困窮者の住居を確保するという住宅扶助の目的は達成されており、対応の取りようがない」と話しているようです。

しかしながら、これは明らかに暴力団の活動を助長し、その運営に資する利益供与につながるものであり、大阪市のスタンスが報道の通りだとすれば、正に時代に逆行するものと言えます。

3.最近の暴排条例による勧告事例ほか

(1)勧告事例(東京都)

暴力団員に会合場所を提供したとして、東京都公安委員会は、東京都台東区の50代の男性店長に東京都暴排条例に基づき利益供与をやめるよう勧告しています。昨年9月に、指定暴力団住吉会系幹部が開催した組員の会合に店を使わせたということです。

(2)勧告事例(大阪府)

焼酎を通常の倍の値段で暴力団から仕入れたとして、大阪府公安委員会は、居酒屋店長の40代男性に対し、大阪府暴排条例に基づき、暴力団に対する利益供与をやめるよう勧告しています。報道によれば、店がオープンした際、来店していたこの暴力団の組長が店内で暴れた客をなだめてトラブルを収拾したことがあり、それ以来の関係だということです。

(3)勧告事例(福岡県)

福岡県暴力団排除条例で禁止された区域に組事務所を開設したとして、福岡県警は、指定暴力団太州会系組長、同会系組幹部を同条例違反容疑で逮捕しています。

組事務所開設を巡る同県条例の違反での逮捕は2例目となります。同条例では、学校などから約200メートル以内の区域に組事務所を開設することを禁止していますが、中学校から約100メートル、保育園から約20メートルの距離にある自宅敷地内に組事務所を開設したということです。

(4)暴排条例改定の動き(京都府)

京都府警が発表した京都府暴排条例の改正案では、自首減免規定(暴力団に用心棒代を渡している事業者が自首した場合に刑を減軽するか免除するというもの)が盛り込まれています。また、規制の対象を「暴力団をやめて5年以内の者」にも拡大するほか、暴力団員らに利益供与した事業者が府公安委員会の勧告に従わない場合は京都府のホームページなどで事業者名を公表するといった内容で、これまでよりも大幅に規制を強化する内容となっており、今後の進展が期待されます。

(5)公共事業からの排除(福岡県)

福岡県警は、北九州市の建設業の男性社長が、特定危険指定暴力団工藤会組幹部と飲食するなど密接な交際をしていたとして、県や北九州市、福岡市などに通報しています。福岡県や北九州市は同社を公共工事の下請けから排除する措置を取り、社名も公表されています。皆さまもご存じの通り、福岡県警や福岡県では、以前から公表措置を積極的に実施しておりますので、反社チェックへの活用や自社データベースの拡充に役立てて頂きたいと思います。

▼ 福岡県警「暴力団関係企業の通報について」
▼ 福岡県「暴力団関係事業者に対する指名停止措置等一覧表」
▼ 福岡市「競争入札参加資格停止措置及び排除措置一覧」
▼ 北九州市「暴力団と交際のある事業者の通報について」

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