暴排トピックス

取締役副社長 首席研究員 芳賀恒人

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【もくじ】―――――――――――――――――――――――――

1.排除実務の基本(その4)

1)事前準備

2)最終判断

2.最近のトピックス

1)警察庁の統計から

2)金融実務におけるトピックス

3)ゴルフ場利用を巡る最高裁の判断

4)PGA問題

5)その他のトピックス

3.最近の暴排条例による勧告事例ほか

1)勧告事例(大阪府)

2)東京都港区暴排条例の施行

3)4道県警の暴力団情報の公表

4)東京都暴排条例の勧告事例集

既にご案内の通り、当社では、反社会的勢力排除に取組む全ての企業や実務者を支援するため、反社会的勢力に負けない組織づくりのためのノウハウと、「入口」「中間管理」「出口」における管理のあり方の実践メソッドをまとめた書籍「反社会的勢力排除の『超』実践ガイドブック~ミドルクライシスマネジメントvol.3」をレクシスネクシス・ジャパン株式会社より出版いたしました。

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1.排除実務の基本(その4)

さて、本コラムでは、平成256月号から同8月号にかけて、「排除実務の基本」と題して、反社チェックや社内外からの情報提供を通じて既存取引先に関する疑わしい端緒を把握した場合の、「取引可否の判断」「具体的な排除に向けた取組み」などについて、3回にわたって解説いたしました。

そこでは、端緒を把握してからの具体的なアクションとしての「実態把握」「リスク評価」、さらには、警察相談に至る前段のステップとしての「弁護士相談」「一次判断」、その結果をふまえての「警察相談」について取り上げましたが、今回から3回にわたって、警察相談の結果をふまえ、実際に排除へと至る具体的な実務の流れについて解説していきたいと思います。

1) 事前準備

① 排除要領の再検討

警察相談の結果、「クロ」との情報提供が得られた場合については、速やかに最終的な排除手法・スケジュールの検討を行うことになりますが、既に「一次判断」において、関係解消の方向性は確認しているため、具体的な対応について細部を詰めることになります。

一方で、明確に「クロ」との情報提供は得られなかった場合でも、このままリスクを保有し続けることが困難と考えられる場合は、自社で「クロ認定」を行い、実質的に関係解消に向けて取り組むことになります。

本ステップは、これらの警察相談の結果をふまえ、今後の対応の方向性や具体的な対応要領をあらためて検討するものであり、次の「最終判断」に向けた各種想定や実作業の洗い出しが主眼となります。

したがって、以下のような点についてあらためて検討する必要があると思われます。

1.関係解消のあり方の検討

「クロ」との確証が得られている場合には、暴排条項を適用した契約解除に踏み込むことで問題はありません。一方、確証はないものの、自社による「クロ認定」による契約解除を模索する場合には、暴排条項以外の事由(債務不履行その他の契約条項違反事実の確認と立証、契約解除事由への該当、予告解約条項の適用等)による契約解除または(契約解除以外の)実質的な関係解消の道を検討する必要があります。この場合、反社会的勢力排除を表向きの理由とする必要はなく、関係を切るために「知恵を絞る」ことが求められると言えます。

2.関係解消のステイタスの設定

政府指針によれば、「継続監視」「即刻解消」「関係解消に向けて取組む」「契約更新しない」など、関係解消には様々なステイタスがあります。重要なことは、「関係を解消する」との「判断」および「具体的なステイタス」の付与だけは可能な限り速やかに行うことであり、実際の関係解消の実現が時系列的に後になろうと(それが半年後、1年後・・・となろうと)、関係解消および更なる取引の拡大防止に向けて途切れることなく取り組んでいることを対外的に説明できる状態にしておく必要があると言うことです。関係解消が法的に困難であることを理由に判断を先延ばしにしたり、取引を漫然と維持・拡大させたりしている状態こそ「放置」であって、万が一の際に「説明責任」を果たすことができないとの認識が必要です。

3.契約解除の根拠の確認

前項の通り、警察からの情報提供や契約の状況、取引実態等をふまえて採りうる解消策を具体的に検討する必要がありますが、その根拠となるべき「暴排条項」「誓約書(表明保証違反)」「解除事由(債務不履行など)」が確実に存在していることをあらためて確認する必要があります。

4.実質的な関係解消の場合の方法

契約解除が法的には難しいため、実質的な関係解消の道を模索する場合には、少しずつ取引を縮小していき、ある程度の取引量まで減少したところで取引解消を申し出る、あるいは、新規での追加取引・発注等を止めるといった方法を採ることが現実的には多いと言えます。これらの方法は、時間を要するとはいえ、関係解消の方針を速やかに打ち出しつつ、継続的な対応とモニタリング(常に関係解消のタイミングを図る)をあわせて実行する「中間管理」を実践することにもなるため、どのような事態が生じたとしても一定の「説明責任」を果たせる十分な取組みであるとも言えます。また、取引の形態によっては、コスト面や公平な競争を理由とした相見積を実施することにより、一気に関係を解消できる場合も考えられます(ただし、作為的・恣意的といった明らかに不審感を与えるような、あるいは優越的地位の濫用と見なされかねない相見積の実施とならないよう、十分な配慮が最低限必要となります)。

5.契約解除の具体的な手法の検討

具体的な関係解消の手法としては、まずは書面により一方的に契約を解除する方法が考えられます。しかしながら、実際の実務では、解除事由に関する争いや金銭の精算、物品等の回収といった後処理が発生する可能性が考えられますので、必ずしも、書面による一方的な解除だけで全てが片付くわけではないとの認識も必要です。

したがって、十分に契約を解除できるだけの根拠を持ちながらも、双方の合意のもと、「合意解約」により後処理まで含めた対応を円滑に行う道を探ることも現実には多いと言えます。ただし、合意解約の場合は、当然ながら解除事由を巡る争いがなくなるメリットはありますが、場の設定から実際の交渉に至るまで、電話もしくは面談による直接的な対応が避けられませんので、相応のリスクを想定しておかなければなりません。

なお、現実的には、相手方も契約解除に合意するということは、自らが反社会的勢力(またはその関係者)と認めることにもなりかねないこともあり、「クロ」とする明確な裏付けがない限り、契約更新時等において別の企業との契約をしたこと等を理由に関係を解消する方法や、その他契約継続が難しい何らかの理由によって関係を解消する方法が多く見られます。その場合、相手方から「私どもが反社と疑われているのか」等の問いかけがある場合も想定されますが、「クロ」である明確な裏付けがない以上、回答には十分注意する必要があることは言うまでもありません。

6.スケジュールの検討

契約解除あるいは合意解約にかかわらず、実際には、自社や弁護士からのアクションに対し、相手方から何らかのリアクションがあることが通常であり、電話や急な訪問、嫌がらせといった事態を想定し、あらかじめ社内での対応体制を整えておく必要があります。場合によっては、人的な被害が生じる危険性や、第三者を巻き込むような深刻な事態も招きかねませんので、それらの想定や対応体制が十分整わない状態での「拙速」な対応だけは絶対に行ってはなりません。したがって、十分な体制を整えるために要する時間や警察への保護対策の要請とその回答状況、自社による各種警備の強化(警備会社への相談)や社内周知・教育等行うべきことをふまえた無理のないスケジュールを設定し、企業として高度な安全配慮義務を果たす必要があります。

② 社内対応体制の確認

前項で述べた通り、相手方の反応は、たとえ拠点の事案であっても、本社や他部署への連絡や急な訪問等の何らかの接触があることも想定しておく必要があります。

したがって、拠点と対応統括部門(コンプライアンス部門や法務部門など)との間の連携だけでは不十分であり、本社受付、本社代表電話における初期対応という点にまで配慮が求められます。また、場合によっては、当該拠点を統括する支社・支店といった部門での初期対応も想定しておくべきだと言えます。

したがって、これら接触の対象となりそうな関係者と情報・対応方針・対応要領を共有し、選任された対応担当者間での連携を確認しておくことが最も重要です。

初期対応の失敗によりその後の関係解消が困難となる、不適切な関係がさらに継続してしまう、特別の利益を供与するといったことがないよう、対応マニュアルの策定だけでなく、内容の読み合わせやロールプレイング等による具体的な応要領の確認、休日・夜間対応も含めた緊急連絡網(電話・メール等)の起動訓練といったことも必要となります。

なお、初期対応においては、内容面にまで立ち入ることなく最低限の応対にとどめ、対応統括部門に引き継ぐことが最大の任務となります。また、一切の接触を拒むために、「弁護士に対応を一任している」ことを前面に出した対応も考えられますし、事情が許せば、当面の間、弁護士を社内に待機させるといった方法も考えられます。

③ 注意点

注意すべき点としては、この段階においては、「拙速は避けること(社内対応体制が十分に整っていることが前提条件)」に尽きると言えます。あくまでも、社内関係者および弁護士や警察等外部専門家との連携を行いながら準備をすすめることが肝要です。

また、この段階では、反社会的勢力との接点となっている可能性のある「従業員」や「代理店」等への情報開示・共有は行わず、外形的には通常の業務をすすめるべきであり、情報管理の徹底には十分な配慮が必要です。

2) 最終判断

① 正しい経営判断

これまでの弁護士や警察等外部専門家との相談や社内対応体制の整備などの事前準備の結果をふまえて、(機が熟した)適切なタイミングで、関係解消の方針とその道筋について、明確な「組織的判断」を最終的に行うことになります。正に「経営判断の原則」の枠組みを意識した対応、すなわち、「調査に十分手を尽くしたか」という事実認識のあり方、「正しい事実認識に基づき、合理的な結論を、正しい方法で導いたか(議論の方法や過程に誤りはないか)」という結論のあり方に十分配慮することによって、正しい経営判断を確保していかなければなりません。

なお、これらが適切に実行されていたこと客観的に確認する方法として、弁護士からの意見書を取り付け、判断に不合理性がないことを担保しておくことも検討しておくとよいと思われます。

② 説明責任

取締役の忠実義務・善管注意義務が履行されているからといって、社会の目線からみてそれが十分な対応だと認められない可能性が残ります。これこそが、反社会的勢力排除の実務における極めて難しい課題であって、深刻なレピュテーション・リスクを惹起することにまで配慮が必要となります。

とりわけ、「何が何でも反社会的勢力との関係は許されるものではない」というところまで来ている社会的要請(加えるならば「何が何でも排除せよ」という監督官庁等の強い要請)、「反社会的勢力の不透明化・潜在化、手口の巧妙化に起因する見極め・立証責任の困難さ」といった実務における限界の存在とその中で民間企業としてできる最大限の努力を講ずるべき(手を尽くすべき)とする危機管理の視点からの本質論、一方で、「本当に限界まで取り組んでいるか(手を尽くしているか)」といった懸念が拭えない企業実務の現実(対応レベルの甘さ、危機意識の低さ、覚悟のなさ)、という「噛み合わなさ」が、説明責任を果たすことを著しく困難にしているのが現状ではないでしょうか。

したがって、企業としては、この問題の「出口」を考えれば、「手を尽くしたか」の観点、すなわち、先のメガバンクによる暴力団融資の問題で言えば、「正常債権の棄損(正常債権であろうと期限の利益を喪失させるといった対応)」にまで踏み込むことも辞さず、たとえ短期的な損失を被るとしても、民間企業としてできる最大限の努力を講じていること、それでも法的なリスクを含め完全に排除できないものについては、最終的に「関係を解消する」との組織的判断のもと、常に必要な注意を払いながら厳格にモニタリングを行っていること(「中間管理」を実践していること)を、状況に応じて、「いつでも」「丁寧に」説明できるようにしておくことしかないとの認識が極めて重要となります。

なお、関係遮断を行ったことによるメディア等の取材、インターネット等への書き込み、関係行政機関や取引先等に対する説明のための広報対応(ホームページ掲載や説明文書・報告書等の提出など)に対する準備も行っておく必要があります。

③ 注意点

 

反社会的勢力排除における「出口」(排除の実務)においては、その「中間管理」のあり方も含め、取締役として善管注意義務や忠実義務を尽くすことにとどまらず、社会的な要請やレピュテーション・リスクを十分に意識した、「不作為」や「放置」とは真逆の企業姿勢や取組みの実践を、不断に継続していることが極めて重要だということは、いくら強調してもし過ぎることはありません。

2.最近のトピックス

1) 警察庁の統計から

① 平成25年の薬物・銃器を巡る状況

覚醒剤事犯の検挙人員は、3年連続で減少したものの、依然として1万人を超え、全薬物事犯の84.2%を占めており、薬物事犯の最重要課題であることに変わりがない状況が続いています。また、年齢層別検挙人員においては、20歳代以下の減少傾向、50歳以上の増加傾向がそれぞれ継続し、再犯者の構成比率の上昇も継続している状況にあります。

暴力団構成員等に係る全刑法犯及び特別法犯検挙人員に占める薬物事犯検挙人員は、22,861人のうち6,713人(構成比率29.4%、前年比+0.4ポイント)、覚醒剤事犯検挙人員は6,096人(26.7%、+0.3ポイント)であり、暴力団による不法行為のうち薬物事犯の構成比率が高い傾向にあります。

一方、拳銃の押収については、暴力団等による組織防衛や隠匿の巧妙化・分散化等潜在化傾向を強めており、非常に厳しい状況が続いているようです。

② 平成25年の来日外国人による犯罪の検挙状況

平成25年の来日外国人犯罪の特徴としては以下の通りとなっています。

      • 国籍等別の検挙人員は、中国が最多で全体の約4割を占め、次いでベトナム、韓国の順となった

      • 刑法犯検挙件数の約7割は窃盗で、窃盗の手口別検挙件数は侵入窃盗の約3分の2を中国、自動車盗の約4分の3をブラジル、万引きの約4割をベトナムが占める

      • 留学の在留資格を有する者の検挙人員を国籍等別に見ると、過去5年で中国及び韓国が減少し、ベトナムが大幅に増加した

また、外国人に係る「犯罪インフラ(犯罪を助長し、又は容易にする基盤)」事犯として、地下銀行、偽装結婚、偽装認知、旅券・在留カード等偽造及び不法就労助長のほか、無許可のタクシー営業、携帯電話不正取得等が挙げられており、特に、偽装結婚、偽装認知、不法就労助長には、相当数の日本人や永住者等の定着居住者が深く関わっており、日本人や定着居住者が、外国人の不法入国、不法滞在等を助長する一方、不法滞在者等を利用して利益を得る構図がみられると言います。

そして、この点については、暴力団組織との関係で、以下のような集団偽装結婚事件が取り上げられています。

      • 暴力団幹部の日本人の男らは、中国人及び韓国人の女に、配下の暴力団員らをあっせんして偽装結婚させており、偽装結婚をあっせんしていた暴力団幹部の日本人の男ら3人及び中国人の女1人(日本人の配偶者等)のほか、偽装結婚の当事者である中国人の女1人(短期滞在で在留中に結婚)、韓国人の女5人(短期滞在、人文知識・国際業務で在留中に結婚)及び日本人の男6人を電磁的公正証書原本不実記録・同供用罪で逮捕した

2) 金融実務におけるトピックス

① 預金保険機構における特定回収困難債権の買い取り状況

前回のコラムでも取り上げた金融庁の「出口」に関する指針では、「預金保険機構による特定回収困難債権の買取制度の活用」が掲げられています。「特定回収困難債権」とは、金融機関(預金保険の対象となるのは、銀行、信用金庫、信用組合、労働金庫、連合会等)が保有する貸付債権のうち「金融機関が回収のために通常行うべき必要な措置をとることが困難となるおそれがある特段の事情があるもの」と規定されており、主に反社会的勢力の回収困難事案が念頭に置かれているものと言えます。その特定回収困難債権の機構による最新の買い取り状況が公表されています。

今回は、特定回収困難債権16件、約177400万円を機構が約5000万円で買い取ったということであり、買い取り額はこれまでの累計(約29600万円)の6倍に急増し、本制度利用の急速に進んでいる状況が見られます。また、今回以降は、個別相談を経ないで仮申込みを行う金融機関や、複数案件の仮申込みを行う金融機関が増えてきていると言うことであり、本制度の定着化が進んでいることがうかがわれます。

② みずほFGに対する株主代表訴訟

みずほ銀行による暴力団融資問題に関して、親会社であるみずほFGの個人株主が、同行頭取も兼ねる社長ら歴代のみずほFG役員14人に対し、計約167000万円の損害賠償を求める株主代表訴訟を東京地裁に提訴しています。

本コラムでも取り上げてきたように、今回の同行の対応が「放置」か否か、「中間管理」のあるべき姿、「経営判断の原則」といった部分を司法がどのように判断するのか注目していきたいと思います。

3) ゴルフ場利用を巡る最高裁の判断

身分を隠した暴力団関係者が、ゴルフ場で正規の料金を支払ってプレーすることが詐欺罪になるかどうかを巡って、同じ裁判官で構成される同じ最高裁第2小法廷が、同じ日に、同じような事件で一方は無罪、他方は有罪という、一見すると矛盾するような判断(決定)を行っています。

まず、逆転無罪となった事案では、「・・・「ビジター控え」に氏名を偽りなく記入し、これをフロント係の従業員に提出してゴルフ場の施設利用を申し込んだ。その際、同控えに暴力団関係者であるか否かを確認する欄はなく、その他暴力団関係者でないことを誓約させる措置は講じられていなかったし、暴力団関係者でないかを従業員が確認したり、被告人が自ら暴力団関係者でない旨虚偽の申出をしたりすることもなかった。・・・●●ゴルフ場連盟、●●県ゴルフ場防犯協会等に加盟した上、クラブハウス出入口に「暴力団関係者の立入りプレーはお断りします」などと記載された立看板を設置するなどして、暴力団関係者による施設利用を拒絶する意向を示していた。しかし、それ以上に利用客に対して暴力団関係者でないことを確認する措置は講じていなかった。また、本件各ゴルフ場において、暴力団関係者の施設利用を許可、黙認する例が多数あり、被告人らも同様の経験をしていたというのであって、本件当時、警察等の指導を受けて行われていた暴力団排除活動が徹底されていたわけではない ・・・施設利用を申し込む行為自体は、・・・所定の料金を支払う旨の意思を表すものではあるが、それ以上に申込者が当然に暴力団関係者でないことまで表しているとは認められない。そうすると,本件における被告人及び●による本件各ゴルフ場の各施設利用申込み行為は,詐欺罪にいう人を欺く行為には当たらないというべきである。」(判決文から引用、下線部は筆者)と判断されています。

一方、有罪となった事案(被告は指定暴力団山口組弘道会会長)では、「入会の際に暴力団関係者の同伴、紹介をしない旨誓約していた本件ゴルフ倶楽部の会員であるAが同伴者の施設利用を申し込むこと自体、その同伴者が暴力団関係者でないことを保証する旨の意思を表している上、利用客が暴力団関係者かどうかは、本件ゴルフ倶楽部の従業員において施設利用の許否の判断の基礎となる重要な事項であるから、同伴者が暴力団関係者であるのにこれを申告せずに施設利用を申し込む行為は、その同伴者が暴力団関係者でないことを従業員に誤信させようとするものであり、詐欺罪にいう人を欺く行為にほかならず、これによって施設利用契約を成立させ、Aと意を通じた被告人において施設利用をした行為が刑法2462項の詐欺罪を構成することは明らかである。」(判決文から引用、下線部は筆者)と判断されています。

下線部分を比較すれば明らかな通り、判断を分けたのは、それまでの暴力団排除の取組みの徹底度合いの違いであったということになります。法的な解説については、専門家に譲るとして、企業実務においては、いかに平素から厳格な取組みを継続していけるかが重要であることがご理解頂けるものと思います。

なお、具体的にゴルフ場として取り組んでおくべき事項としては、後者の判決文の中に、以下のような記述があります。

本件ゴルフ倶楽部においては、ゴルフ場利用約款で暴力団員の入場及び施設利用を禁止する旨規定し、入会審査に当たり上記のとおり暴力団関係者を同伴、紹介しない旨誓約させるなどの方策を講じていたほか、●●県防犯協議会事務局から提供される他の加盟ゴルフ場による暴力団排除情報をデータベース化した上、予約時又は受付時に利用客の氏名がそのデータベースに登録されていないか確認するなどして暴力団関係者の利用を未然に防いでいたところ、本件においても、被告人が暴力団員であることが分かれば,その施設利用に応じることはなかった。

ゴルフ場からの暴排にあたっては、少なくともこれらの取組みが求められていることが明確になったことは極めて示唆に富む判決であり、ゴルフ場以外の事業者にとっても参考にすべきものだと言えると思います。

4) PGA問題

日本プロゴルフ協会(PGA)の元理事2人が指定暴力団会長と交際していた問題で、内閣府が、PGAに対して事実解明と再発防止を徹底するように勧告しています。

同文書では、公益法人移行にあたり、PGAは「2度の暴力団排除宣言をしたにもかかわらず、対策が徹底されていない」、さらには、「他の役員にも同様の事情はないのかとの疑いを招いた」「軽い処分が選択された経緯がうかがえるなど事案の重大性についての法人としての認識が極めて希薄」「本事案の全体像について、法人内外への説明がほとんどなされていない」「暴力団排除の対応が徹底されていない状態にある」などと、PGAの体質に厳しい指摘がなされています。

その結果、「協会が公益認定法第6条第6号に該当するおそれがあり、同上に違反するとの疑いを合理的に払拭することができていない事態に至っている」として、「暴力団員等が事業活動を支配していると疑われるような事態を排除するために必要な措置を講じ、公益法人として事業を適正に実施し得る体制を再構築すること」、そのために、「改めて客観的かつ徹底した事実解明」「再発防止策の徹底」「役員の責任を明確にする」といったことを求めています。

5) その他のトピックス

① 暴力団と共生者による入札参加企業への脅迫

墨田区発注の東京スカイツリー周辺の道路舗装工事の一般競争入札で入札参加企業を脅して参加を辞退させたとして、指定暴力団住吉会系組幹部と墨田区の建設会社社長ら男女4人が暴力行為等処罰法違反容疑で逮捕されています。

② 管理規約で暴力団排除

商店街で、5軒が連なる建物の一角を所有し、組事務所として使用している暴力団を排除しようと、岐阜県暴力追放推進センターなどほかの所有者が区分所有法を用いて、組事務所としての使用禁止を定めた管理規約を作成し、排除に向けて備えているとの報道がありました。通常はマンションに設定する管理規約を、商店街の暴力団排除に利用するのは珍しく、「手を尽くしたか」の好事例となりそうです。

③ 暴力団関係者による密漁

北海道伊達市の内浦湾内で簡易潜水器を使ってナマコなどを密漁したとして、室蘭海上保安部は暴力団関係者5人を含め計7人を漁業法違反(密漁)などの疑いで現行犯逮捕しています。密漁したナマコを水産加工場に販売する、乾燥ナマコにして海外に売りさばくなどして、暴力団の資金源になっているとも言われています。

④ マネー・ローンダリング関連

中国本土の厳しい通貨持ち出し規制を回避する手段として、現金を得るために銀聯カードを利用し、カジノ周辺の宝飾品店などでの買い物を装う違法な「キャッシュバック」ビジネスが横行、マネー・ローンダリングのリスクが高まっています。報道によれば、マカオの宝飾品・腕時計店での銀聯カードによる決済総額は2012年に約450億ドル(約4.6兆円)となり、同年のマカオのカジノ収入総額を上回っているとのことです。

また、マカオを巡るマネー・ローンダリングとしては、中国の汚職公務員などが仲介人を利用してカジノのチップを香港ドルに両替して香港や海外へ送金しているといった事例も多く、天文学的な規模の資金洗浄が行われているとされています。

このような事態を受けて、中国銀聯は、マネー・ローンダリングを撲滅するため、マカオでの疑わしい取引に関する監視を強化、既にリスクの高い店舗や巨額の決済を監視するメカニズムを導入したり、商業銀行と連携し、マカオでのカード取引額に上限を設けるなどの取組みを始めています。

3.最近の暴排条例による勧告事例ほか

1) 勧告事例(大阪府)

大阪府は、代金支払いのトラブル解決のため、飲食店に暴力団組員を紹介したとして、スナックの女性経営者と指定暴力団山口組系組員に対し、暴排条例に基づいて勧告しています。

女性への勧告内容は、支払いが滞っている客をもつ飲食店に暴力団組員を紹介したことなどであり、暴力団の紹介が条例違反とされるのは珍しいと思われます。

2) 東京都港区暴排条例の施行

港区内の飲食店営業数は、平成23年度末で15,308件と都内で最も多く(東京都福祉保健局「食品衛生関係事業報告」平成24年版)、港区の地域性を踏まえた取組みとして、平成2641日以降に、食品衛生法に基づく新規(更新を含む)に飲食店営業許可を受けた事業者から、「暴力団の威力を利用しない」「暴力団に利益を供与しない」等を記載した誓約書を飲食店営業許可書の交付時に提出させる全国初の取組みが盛り込まれています。

また、誓約書を提出した事業者には、みなと保健所の窓口で、飲食店営業許可書とともに「暴力団排除誓約之証」(ステッカー)が配付されるということです。

さらに、区民等や事業者からの暴力団に関する相談に対し、必要と認めるときは、暴力団対策に精通した弁護士をアドバイザーとして派遣する、区民等及び事業者が行う暴力団排除活動に必要となる横断幕やのぼり旗、パトロールベスト等を港区が貸与するといった実効性ある制度が盛り込まれている点が特徴です。

暴排条例の施行の時期はやや遅かったものの、六本木や麻布をはじめとする同地域の特性をふまえた独自の取組みが盛り込まれており、評価できるものと思われます。

3) 4道県警の暴力団情報の公表

  福岡、北海道、岡山、山口の4道県警が逮捕した暴力団員の実名をHPで公表しています。以下にURLをご紹介いたしますので、反社チェック等にご活用ください(いずれも掲載期間は1週間ですので、こまめなチェックが必要となりますのでご注意ください)。

4) 東京都暴排条例の勧告事例集

警視庁のHPにこれまでの勧告事例等の一覧(12事例)が公表されています。詳細は当該ページを確認頂くとして、以下の事案が掲載されています。

      • 造園業者による利益供与事案(平成23年12月)

      • 飲食店経営者による利益供与事案(平成24年5月)

      • 不動産業者による利益供与事案(平成24年6月)※適用除外事案

【注】当該不動産業者が警察に違反事実を申告したことから、勧告を行わず適用除外としたもの(当該暴力団組織の幹部にのみ勧告を実施)

      • マットレンタル業者による利益供与事案(平成24年8月)

      • マッサージ店経営者による利益供与事案(平成24年12月)

      • 飲食店経営者による利益供与事案(平成25年2月)

      • 飲食店店長への妨害行為に対する中止命令事案(平成25年5月)

      • コンサルタント業者による利益供与事案(平成25年9月)

      • 飲食店経営者らによる利益供与事案(平成25年9月)

      • 飲食店責任者による利益供与事案(平成25年10月)

      • 魚介類等の仕入れ業者による利益供与事案(平成25年12月)

      • 飲食店店長による利益供与事案(平成26年1月)

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