暴排トピックス
取締役副社長 首席研究員 芳賀恒人
【もくじ】―――――――――――――――――――――――――
1) 反社会的勢力の捉え方
2) グループ一体の対応
3) 反社会的勢力データベース
4) 適切な事前審査の実施(入口)
5) 適切な事後検証の実施(中間管理)
6) 関係解消(出口)
7) その他
1) 薬物を巡る動向
2) 私書箱運営事業者の動向
3) 海外コンプライアンス動向
4) その他のトピックス
1) 勧告事例(埼玉県)
2) 排除措置(福岡県)
1.金融庁監督指針・金融検査マニュアルの改定
金融庁では、「主要行等向けの総合的な監督指針」等及び「金融検査マニュアル」等の一部改正(案)について、平成26年2月から3月にかけてパブリックコメントを募集しました。今般、ようやくその結果が公表されましたので、今回は、金融庁や事業者のコメントを引用しながら、反社会的勢力排除における現時点の取組みのあり方や今後の方向性について、確認していきたいと思います。
最も高いレベルで取り組んでいる金融機関の方向性を知ることは、一般事業者にとっても、より一段高いレベルの取組みが求められている今、今後の取組みを検討していくうえで必要なことだと言えます。さらに、高いレベルで実際に取組んでいる企業が存在することをふまえれば、「自社が現在そこまで取り組まなくてよい理由」を明確にしておくことも、今後の説明責任のためには必要となります。
▼ 金融庁「主要行等向けの総合的な監督指針」等及び「金融検査マニュアル」等の一部改正(案)に対するパブリックコメントの結果等について~(別紙1)コメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方
1) 反社会的勢力の捉え方
① 事業者側からの「ガイドラインにおいて明確な反社会的勢力の基準を示して欲しい」との要望に対し、金融庁は、「反社会的勢力はその形態が多様であり、社会情勢等に応じて変化し得るため、あらかじめ限定的に基準を設けることはその性質上妥当でない。本ガイドラインを参考に、各事業者において実態を踏まえて判断する必要がある」と回答しています。
これまでもお話してきた通り、反社会的勢力の範囲を巡っては、社会情勢の変化とともに社会の目線(要請レベル)も変化し、社会的に許容される基準自体も変化(厳格化)しています。また、その動きと連動しながら、反社会的勢力の不透明化・巧妙化の実態も深化の一途を辿り、その結果、「真の受益者」を見つけ出すことがますます困難になっているのが現実です。このように、反社会的勢力の範囲は、常に「グレーゾーンの拡大」といった形で拡がっていることを認識する必要があります。さらに言えば、反社会的勢力の範囲を明確にすることは、実は反社会的勢力を利することになるのであり、取組みの実効性を阻害する方向に作用するのです。
だからこそ、反社会的勢力とは、「暴力団等と何らかの関係が疑われ、最終的には『関係を持つべきでない相手』として、企業が個別に見極め、排除していくべきもの」と捉えることが真に実務的であり、それが正に「各事業者において実態を踏まえて判断する」といった金融庁の考え方でもあると言えます。
② また、「国際取引は適用除外にして欲しい」との事業者の要望に対しては、「反社会的勢力の活動が国外に及ぶ可能性もあり、事業者側において反社会的勢力対応態勢を整備すべき要請は、日本国内に必ずしも限定されるものではないと考えられ、国際取引について適用除外とすることは適当でない」「事業者毎に、その事業特性等を踏まえたリスクに応じた運用がなされることは、許容される」と回答しています。
これについても、本コラムでは、反社会的勢力排除を「海外コンプライアンス」の文脈から捉えることの重要性を繰り返し述べてきました。
その背景として、まずは、暴力団等が国際犯罪組織と位置付けられていることを認識する必要があります。暴力団自体の直接的な海外展開、現地有力者や犯罪組織との関係から生じる贈収賄・カルテル等への関与、犯罪収益のマネー・ローンダリング、テロ組織等への資金供与や武器取引、薬物や人身売買等の国際展開といった活動実態があることを十分理解しなければなりません。
また、「海外コンプライアンス」においては、特に、自社が潔白で善意でも、その商流において問題がある取引などがある場合、国際的な説明責任が果たせない限りは、国内外の金融機関をはじめ、他の取引企業から見れば、「リスクの高い先」として厳格なリスク管理が適用される(場合によっては取引が縮小・拒絶される)など実務的な影響も考えられるのであり、正に「事業特性等を踏まえた」適切なリスク評価と対応が求められるのです。
2) グループ一体の対応
今回の監督指針の改定では、「グループ一体となって、反社会的勢力の排除に取り組む」べきことを打ち出しているのが特徴的だと言えますが、それについては、「グループ内の会社間で、反社会的勢力の排除に向けた取組みの方針の統一化や情報交換等が適切に図られていなければ、金融取引における反社会的勢力との関係遮断の要請に的確に対応できない」とその趣旨が明確に示されています。
また、その具体的な取組みについては、「一律の対応が求められるわけではなく、各金融機関において、グループの規模等を勘案して、会社間で適切に連携を取ることができるような体制」が求められていることが示されています。
なお、グループの範囲については、「各金融機関の業務内容や組織構成等に応じて、個別具体的に検討する必要がある」とされていることから、例えば、一般事業者のグループ会社に金融事業会社がぶら下がっているような場合に、一般事業者である他のグループ会社すべてが金融事業会社並みの体制を構築しなければならないわけではなく、それぞれの事業領域等に応じて適切なレベル感で取り組むことでよいと考えられます。ただし、グループ会社間での取組みレベルの相違が合理的に説明できるよう、慎重な検討も必要と考えられます。
3) 反社会的勢力データベース
① そもそも、金融庁からは、データベースのあり方について、「それぞれの事業者の事業特性等を踏まえ、反社会的勢力との取引に晒されるリスクに応じて、反社会的勢力との関係を遮断するために必要な程度の情報を備えたもの」と明確に示されています。これにより、過剰なデータベースは不要(最低限のデータベースで事足りる)と早計に判断するのではなく、反社会的勢力リスクを適切に評価することを大前提として、リスクに見合わない不十分なデータベースであってはならないとの理解も必要です。
② 各事業者が独自のデータベースを講じる必要があるかについては、「必ずしも当該業者独自のデータベースを構築している必要はなく、他者のデータベースを共同して利用することも可能だが、当該業者内に反社会的勢力対応部署を設置し、同部署を通じて適切に他者データベースを利用することができることが前提となる」として、むしろ、データベースの組織的な活用のあり方を重視する方向性が示されています。
さらには、「データの登録と排除対象については、各社で定義を定めて運用」することでよく、「監督指針を参考に、各社において実態を踏まえて検討」すべきであるとされています。前項の反社会的勢力の捉え方で述べた通り、データベースの構築・運用についても企業の主体的な取組みが求められているとの理解が必要です。
③ 監督指針では、従来から「反社会的勢力に関する情報を積極的に収集・分析する体制」を求めていますが、この「収集・分析」については、「例えば、日常業務に従事する中で得られる反社会的勢力に関する情報や、新聞報道、警察や暴力追放運動推進センターからの提供等の複数のソースから得られる情報を集めた上で、継続的にその正確性・信頼性を検証する対応等を指すもの」と説明されています。
さらに、「積極的に」の意味については、「日頃から、意識的に情報のアンテナを張り、新聞報道等に注意して幅広く情報の収集を行ったり、外部専門機関等から提供された情報なども合わせて、その正確性・信頼性を検証するなどの対応が考えられる」としています。
この辺りも、反社チェックの本来的なあり方である「日常業務における端緒情報の把握とその適切なレポーティングによる組織的な認知」の重要性や、対象の見極めにおける「多面的な視点・手法の活用により精度を高めていくこと」の重要性につながっていく考え方となります。
一方で、データベースの正確性・信頼性の検証においては、「適切に更新(情報の追加、削除、変更等)する体制」を求めています。
とりわけ「削除」については、「誤登録が発覚した場合など、反社会的勢力でないことが明白となるケース」が例示されていますが、多くの事業者から「偽装破門など真に暴力団を脱退したことを確認するのが困難であることを考えれば、データベースは前広に情報を蓄積すべきものであり、過去の情報について必ずしも「削除」する必要はない」「古い情報に該当した場合に改めて関係する情報の有無を調査することにより、新たな情報を発見するなど、有用な場合が少なくないため、削除の必要はない」といった意見が寄せられており、金融庁もそのような考え方を肯定していることも注目されます。
これらの考え方は、例えば、いわゆる「5年卒業基準」により「元暴力団員」の属性から外れた者であっても、現時点で暴力団等との関係があれば、それは「共生者」として排除の対象とすべきであり、実務上は、いったん暴力団の属性を帯びた者については、常に慎重なフィルターを通すべきであるということでもあります。また、データベースによる機械的な判断や安易なシロ認定をすべきでないことを意味していると捉える必要があります。
④ また、信用保証協会に対する監督について触れた部分で、「警察庁データベースとの接続のみをもって、「反社会的勢力との関係を遮断するための取組みの実効性を確保する体制」や「適切な事後検証を行うための態勢」が構築されたと判断するものではない」と言及されています。
(ここでは割愛しますが)事業者側のコメント自体に認識の甘さが見受けられますが、実は、もっと一般的に、データベースによるスクリーニングを反社チェックの唯一の方法と考え、過度にデータベースに依存することの危険性を端的に指摘しているとも言えます。
つまり、データベースに過度に依存することは、(手の内が敵に知られているということですから)反社会的勢力の不透明化・潜在化、手口の巧妙化を更に助長しかねないのであって、一方で、そこに安住することによって現場の目利き力の低下も招きかねません。その結果、「取組みの実効性が確保されない」のは当然の帰結となると言えるでしょう。また、「適切な事後検証」のためには、データベースだけではなく、日常業務を通じた端緒の把握や継続的なモニタリングなどにも取組むべきであり、データベースの利用だけでは十分でないとの指摘もまた的を得たものだと言えます。
4) 適切な事前審査の実施(入口)
ここでは、「普通預金口座の開設前に、反社会的勢力に関するデータベースを用いて申込者についての照合を行う」との原則的な姿勢が明確に示されていますが、「個々の取引状況等を考慮して、即時に営業店で排除することが困難等のやむを得ない事情がある場合に、例外的に口座開設に応じる取扱いを取ることも考えられる。ただし、関係機関等と連携の上、直ちに反社会的勢力を取引から排除する態勢が整備されていることが必要」との考え方もあわせて示されています。
これは、入口でのチェックをすり抜けた時のために、「事前に十分な説明のうえ表明確約を取り付けることや暴排条項を整備することを大前提として、端緒を把握したら速やかに排除できるだけの態勢」を平時から整えておくことが重要との意味であり、一方で、「やむを得ない事情がある場合」については、客観的にそうだと認められるだけの努力をしておくこと重要なポイントとなります。今年3月から4月にかけて示された、ゴルフ場詐欺事件・口座開設詐欺事件における最高裁の判断に照らしてみても、「手を尽くしているか」「実効性ある取組みができているか」こそが重要であり、あくまで「必要十分な事前審査」が「例外ない形で実施されていること」が大前提となることに注意が必要です。
5) 適切な事後検証の実施(中間管理)
① 事後検証(中間管理)について、事業者側から、「事前審査が徹底していれば、新たな情報取得がない限り、事後検証を行っても反社会的勢力との契約を認知する余地はなく、徒労に終わることになる。その意味においてはほとんど無意味とも考えられる事後検証に労力・費用の負担を求める理由を合理的に説明できない限り、金融機関における善管注意義務の観点から、問題がある」とのかなり的外れなコメントがあったことにまずは驚かされます。
一方、それに対し、金融庁は、「取引開始後に属性が変化して反社会的勢力となる者が存する可能性もあり、また、日々の情報の蓄積により増強されたデータベースにより、事前審査時に検出できなかった反社会的勢力を把握できる場合もあると考えられる。事前審査が徹底されていたとしても、事後検証を行うことには合理性が認められる」と切り返しています。
完璧な事前審査などありえず、その結果、現に関係を持ってしまっているとの厳しい現状認識がこの取組みの出発点であり、反社会的勢力の不透明化・手口の巧妙化をふまえれば、ますます事後検証が重要となるとの認識が必要です。さらに、事後検証の実務的なプロセスにおいては、入口で「グレー」とされたものだけでなく、取引開始後、新たに判明した「グレー」についてもモニタリングしていくことが重要となります。一方で、金融庁のコメントにもある通り、データベース自体も、日々更新されるものであって、その網の目は狭まり精度は高まっていくものなのです。
さて、この事後検証(中間管理)に取り組むことは、今後、膨大な数に膨れ上がる「グレー」をモニタリングしていくための手法を洗練させていく必要性に迫られることになりますが、そこでも、当社が提唱する「層別管理」的な手法、リスクベースアプローチ的な管理手法が有効だと言えます。確かに、労力やコストがかかることになりますが、決して無意味なものではありません。各社が自社の適切なリスク評価(保有リスクの評価)に努め、一方では、労力とコストという現実的な制約(限界)についても配慮しながら、例えば、リスクの高いものから優先的に対処するといったアプローチもまた有効だと考えます。ただし、このような管理手法においては、リスク対策が手薄な部分でリスクが顕在化する可能性も高まるため、先の金融庁のコメントの通り、「端緒を把握したら速やかに関係解消まで持ち込めるだけの排除態勢」が整っていることが、後日の説明責任を果たすためにも必要なこととなります。
② また、具体的な事後検証のあり方として、「代表取締役の変更や取引推移等を注視することや、反社会的勢力に関するデータベースで取引の相手方についての照合を事後的に行うことのほか、既存契約において暴排条項が導入されているかを確認し、導入に向けた方策を検討する等」が例示されています。
この辺りも、データベースの活用だけでなく、多面的な視点・手法によりモニタリングを行うこと、万が一の際の関係解消に向けて平時からできる限りの仕掛け作りを行っておくことが重要であることが示唆されています。
6) 関係解消(出口)
① 従来から、監督指針には、「いかなる理由であれ、反社会的勢力であることが判明した場合には、資金提供や不適切・異例な取引を行わない」との記載がありますが、この「不適切・異例な取引」については、「各事業者の通常の事業内容等を踏まえるのみならず、社会通念に照らして判断する必要がある」と踏み込んだコメントがなされている点が注目されます。
反社会的勢力排除の取組みにおいては、レピュテーション・リスクへの対応が最も重要な要素のひとつであり、社会の目線に適切に応えていくことが極めて重要となります。業法等で定められた手続きや規定・ルール・慣行を形式的に充足していても、それが「現時点の社会通念」に照らして「不適切・異例な取引」と見なされる例は多数存在します。反社会的勢力は、自らの利益を最大化するために、健全な取引ではなくグレーゾーンでの取引(不適切・異例な取引)を持ちかけるといった行動様式があります。本コメントは、そのような本質論をふまえた適切な示唆であると言えます。
② また、監督指針では、「取引開始後に反社会的勢力であると判明した場合には、可能な限り回収を図るなど、反社会的勢力への利益供与にならないよう配意」することが求められています。
そのうえで、たとえ、暴排条項が導入されている取引で速やかな解消が可能な場合であっても、「反社会的勢力を不当に利することの無いよう当該取引に係る債権回収の最大化を図る観点や、役職員の安全確保の観点等を総合的に考慮した上で、具体的対応について検討する」としている点にも注意が必要です。
一方、「一律に期限の利益を喪失させて融資金の回収を図ることを求めているものでもない」「保証会社から代位弁済を受けた場合、基本的には「可能な限り回収を図る」に該当すると考えられるが、保証会社がグループに含まれる場合には、グループ一体となった反社会的勢力排除の取組みが求められる」といったコメントもあり、個別具体的な状況に応じて、微妙なバランスに配慮しながらも、その中で「手を尽くす」ことが求められていると認識することが重要だと思われます。
7) その他
① 例えば、反社会的勢力との疑いを認知したが、警察からクロとの情報提供が得られず、かつ、他に反社会的勢力に該当すると断定するに足る情報を入手できなかった場合に、「期限の利益の喪失等の特段の措置を講じないことは必ずしも利益供与となるものではなく、また、金融機関の業務の適切性が害されていると評価されるものではないと理解される」としています。
その理由として、「様々な手段を尽くしたものの反社会的勢力であると判断できなかった」からとの指摘がなされており、この辺りは実務上大変有用な示唆だと思われます。ただし、「判断できない」ことが「シロ」であるとの担保にはなりえず、「グレー」として継続監視の対象として管理していく必要があることは言うまでもありません。
② 監督指針では、「定期的に自社株の取引状況や株主の属性情報等を確認する」態勢の整備も求められていますが、その取組みのレベル感として、「定期的に株主の属性を把握して、株主の立場を利用した不当要求等へ備えるためのものであり、株主が反社会的勢力と判明した場合に、株式を売却させることまで求める趣旨ではない」ことが明確になっています。
もちろん、その経営に反社会的勢力が実質的に関与したり、経営を支配するといった株主であれば、事業者としては、全力でその排除に努める必要があることは言うまでもありません。
2.最近のトピックス
1) 薬物を巡る動向
昨年1年間に覚せい剤事件で摘発されたのは10,909人となり、摘発された人数は3年連続で減少したものの、依然10,000人を上回る水準で推移している結果となっています。昨今は脱法ドラッグの摘発が増加えていますが、薬物事件全体でみれば、約84%が覚せい剤によるものであり、依然として、覚せい剤対策が重要であると言えます。
年代別でみれば、20代~40代が前年に比べ減少する一方、50歳以上は約6%増え、中高年による覚せい剤汚染が広がっている実態が明らかになりました。奇しくも、50代の人気歌手の逮捕が世間を賑わせており、あらためて芸能界に薬物が蔓延している実態も世間に認識させる結果となりました。
一方、そのような中、国連薬物犯罪事務所(UNODC)が、「世界の合成薬物報告」を公表しています。
報告書によれば、覚せい剤のメタンフェタミンの押収量がアジア太平洋地域を中心に急増しており、同地域で2012年には、過去最大の36トンに達したとのことです。さらには、日本での売買価格が国際的にみても高水準であることもあって、薬物取引によって大きな利益が見込める日本が主要な密輸先の一つとの指摘がなされています。
また、これと関連して、英国家統計局は、今年9月から国内総生産(GDP)の算出方法を変更し、麻薬取引や売春などの違法な経済活動も対象に加える方針を決めたということです。欧州連合(EU)の基準変更にもとづく措置で、地下経済を含めた経済規模を把握する試みとして、イタリアも同様の措置を発表しています。英の場合、2009年のGDPで試算したところ、0.7%分にあたる100億ポンド(約1兆7000億円)の増加になったといい、その規模の大きさに驚かされます。ちなみに、麻薬(コカインやヘロイン、大麻などの販売や輸入、自家栽培額などを推計)は約44億ポンドの押し上げ効果があるとのことです。
2) 私書箱運営事業者の動向
電話で「必ずもうかる」「あなたしか買えない」「高値で買い取る」などうそを言って、未公開株や社債、会員権、外国通貨などの購入を勧め、購入代金などの名目で現金をだまし取る「金融商品取等引名目詐欺」事件が急増していますが、それとともに、現金を宅配便などで配送させる手口も急増しています。その際に悪用されているのが私設私書箱であり、誰でも開業できる民間サービスが「犯罪インフラ」化している状況です。
当該事業者は、犯罪収益移転防止法において、金融機関や不動産事業者等とともに「特定事業者」に指定されており、厳格な本人確認の実施や「疑わしい取引」の届出の義務が課されていますが、例えば、昨年1年間の「疑わしい取引」の届出件数は、業界全体で57件と、総数349,361件からみればわずか0.16%にしかすぎず、その取組みはまだまだ徹底しているとは言い難い状況だと言えるでしょう。
なお、最近、振り込め詐欺でだまし取った金を回収する私設私書箱を運営したとして、郵便物受け取り代理業の男ら2人が詐欺容疑で逮捕されています。私書箱運営者を詐欺容疑で立件するのは異例だということですが、少なくとも17件、総額1億3000万円の詐取金回収に関与したということであり、業界の健全性に向けた取組みが待たれます。
3) 海外コンプライアンス動向
① 脱税ほう助
秘匿性の高い資産管理で世界の富裕層を取り込んできたスイスの金融機関の中でも大手のクレディ・スイスが、脱税ほう助で米司法省の訴追を受け、罰金28億ドル(約2800億円)を払うことで合意、過去20年間で罪を認めた金融機関としては最大規模の罰金となるとのことです。
同行と子会社は過去数十年(一部の子会社は100年以上とも)にわたり、違法な口座に米国籍の顧客の所得や資産を移し、顧客の脱税を手助けしたとされており、違法な取引は組織ぐるみで行われていたようです。
前回の本コラムでも、租税回避に関するOECDの動向を取り上げ、「世界各地のタックスヘイブンやスイスなどの金融機関等が顧客保護を名目に預金者等の情報開示を拒み、結果として脱税(やマネー・ローンダリング等)の温床になってきた現実があり、米国FATCAの域外適用などへの対応を迫られる(巨額の罰金等の支払い)などの理由から、それらももはや聖域でなくなってきている」と指摘しましたが、正に、その文脈での事例だと言えます。
② ビッドコインの犯罪インフラ化
米連邦捜査当局が、複数のビットコイン取引所やビットコインを取り扱う会社と、すでに閉鎖された麻薬取引サイト「シルクロード」との関連を調査中であるとの報道がありました。
シルクロードについては以前も本コラムで取り上げましたが、ユーザーが麻薬から偽造パスポートに至るまでさまざまなものを匿名で購入できるサイトで、支払いにはビットコインのみが利用されていました。また、資金が違法取引に使われる可能性があると知りながら、他通貨をビットコインに両替するという行為は、マネー・ローンダリング禁止法に違反する可能性があります。さらに、その不適切な取引の連鎖の中に、先日破たんした取引所のマウントゴックス社の関与も疑われているようであり、その不可解な破たん劇との関係の解明が待たれます。
一方、ビットコインを支払いに使った覚せい剤密輸事件で、覚せい剤取締法違反(営利目的輸入)容疑で逮捕された日本人容疑者が、身分確認が比較的甘い香港の取引所でコインを購入していたとの報道がありました。
ビッドコイン自体の「犯罪インフラ」化が懸念される中、その本人確認の脆弱性が悪用されているという事実も極めて重い意味を持っていると言えます。
4) その他のトピックス
① 日本プロゴルフ協会(PGA)の動向
指定暴力団の会長と交際したとして副会長ら幹部2人を退会処分にした公益社団法人日本プロゴルフ協会(PGA)は、コンプライアンスの取組みに関する専用ページで、情報を発信しています。
▼ 公益社団法人日本プロゴルフ協会「PGAコンプライアンス情報」
直近では、暴力団排除などについての会員からの相談や通報を受け付ける窓口「PGA119番」を開設し、嘱託職員の警視庁OB2人が週に3回、電話などで受け付ける体制をスタートさせています。また、内閣府の公益認定等委員会からの勧告を踏まえ、再度、第三者委員会を設置して再検証を行った結果の報告書等も公表されています。
② 民生委員が暴力団員(枚方市)
民生委員は、厚労相が委嘱する非常勤の特別職公務員で、高齢者や生活保護世帯の相談などに応じるのが主な業務ですが、大阪府枚方市で指定暴力団山口組系の暴力団員が民生委員に就いていたことが発覚しました。
同人は地元の自治会長も務めていたということで、市側も全く把握していなかったことが報道されています。暴力団員であることを外形上から見抜くことの限界もありますが、地元住民に疑いを持つ者がいなかったのかを含め、自治体の脇の甘さがここでも露呈した形になったと言えます。
③ 漁協と暴力団(北九州市)
北九州市で先日歯科医師の男性が刺され重傷を負った事件では、特定危険指定暴力団工藤会の関与が疑われており、福岡県警による家宅捜索も行われました。
実は、この男性の父親は北九州市漁協幹部で、6月に控えた組合長選の有力候補と目されているほか、この父子の親族である前組合長が何者かに射殺されており、さらには、やはり漁協の元組合長だった祖父も過去に射殺されたといった複雑な背景事情があるようです。沿岸の埋め立てなどに絡み、漁業補償を長年得てきた漁協に対し、その利権に介入したいとの暴力団の思惑が背景にあると福岡県警がみているとの報道もあります。
一方、その北九州市漁協の理事が、中学生の少年を無理やり丸刈りにさせたとして、強要の疑いで逮捕されたほか、特定危険指定暴力団工藤会幹部と養子縁組をしていたなど暴力団との交際が発覚しています。
福岡県や北九州市などは、同人が経営する建設会社を公共事業から排除したほか、福岡県は北九州市漁協幹部に、漁協の事業が補助金の対象外となりうると指導しているとのことです。
また、この事態を受け、北九州市は、暴力団や組員と密接な関係がある団体を補助金の交付対象から外す暴排条項について、市のすべての補助金交付要綱を調べ、必要があれば暴排条項を追加することを発表しました。
④ 建設業法の改正
今国会で建設業が改正され、建設業許可にかかる暴排条項を整備するとともに、受注者が暴力団員等と判明した場合に公共発注者から許可行政庁への通報を義務付けるほか、許可が不要な浄化槽工事業・解体工事業の登録についても暴排条項を整備することになりました。これにより、建設業・公共事業からの暴排が更に徹底されることを期待したいと思います。
⑤ 宅配便約款に暴排条項を追加
日本郵便、佐川急便、ヤマト運輸が、宅配便運送約款に暴排条項を追加しています。
▼ ヤマト運輸株式会社「宅急便約款改定のお知らせ~暴力団排除条項等を追加~」
宅配便からの暴排については、既に業界で実質的に対応してきているところですが、同約款第6条引受拒絶への追記条項により、運送の引受を拒絶することがあるとして徹底していくことになります。
具体的には、「荷送人、荷受人が暴力団員、暴力団準構成員、暴力団関係者その他の団体であると認められるとき」「暴力団または暴力団員が事業活動を支配する法人その他の団体であると認められるとき」などが対象となります。
また、該当した場合、運送を行わないこととする場合は、遅滞なくその旨を荷送人に通知した上で、荷送人に返送、返送に要した費用は荷送人の負担とする場合があるということです。
3.最近の暴排条例による勧告事例ほか
1) 勧告事例(埼玉県)
埼玉県公安委員会は、居酒屋で用心棒行為をしたとして、指定暴力団住吉会系組員に暴力団対策法に基づく防止命令を出したほか、男性経営者にも埼玉県暴排条例に基づき暴力団に金を渡さないよう勧告しています。
2) 排除措置(福岡県)
福岡県行橋市の2社が、特定危険指定暴力団工藤会系組幹部と密接な交際をしていたとして、福岡県警が、福岡県、北九州市、福岡市、国土交通省に通報しています。これに伴い、福岡県などはこの2社を公共工事の下請けから排除しています。