暴排トピックス
取締役副社長 首席研究員 芳賀恒人
【もくじ】―――――――――――――――――――――――――
1)目利き力の低下
2)地域銀行等の課題
3)保険会社の課題
4)反社・マネロン等対応部署のあり方
5)反社データベース
6)取引解消
7)経営陣の認識
1)平成25年の犯罪情勢
2)改正暴力団対策法による「適格団体」の認定
3)匿名通報ダイヤル
4)海外コンプライアンス
5)その他
1)勧告事例(大阪府①)
2)勧告事例(大阪府②)
3)勧告事例(大阪府③)
4)勧告事例(愛知県)
1.金融モニタリングレポートの公表
前回は、金融庁の「主要行等向けの総合的な監督指針」等及び「金融検査マニュアル」等の一部改正(案)について取り上げましたが、今般、同じく金融庁が、昨年公表した金融モニタリング基本方針に基づく直近1年間の金融モニタリングの成果を「金融モニタリングレポート」(以下「本レポート」)として公表しています。
今回は、本レポートのうち、「反社会的勢力、マネー・ローンダリング(資金洗浄)への対応」における指摘内容について解説していきたいと思います。
▼ 金融庁「金融モニタリングレポート(本文)」
▼ 金融庁「金融モニタリングレポート(概要)」
金融庁は、これまで一定期間(例えば2~3年)ごとに個別の金融機関に立ち入り、前回紹介した金融検査マニュアル等で規定した「最低限の基準(ミニマム・スタンダード)」を満たしているかを検証する手法から、社会情勢の変化に対する機敏な対応や「ベスト・プラクティス(より優れた取組み)」を目指すために新たに始めた検証手法(金融モニタリング)へといった方向性を打ち出しました。
この手法には、立入検査(オンサイト・モニタリング)と立入検査以外の情報収集等(オフサイト・モニタリング)との両方が含まれていますが、本レポートは、これらのモニタリングによって得られた結果や課題について報告されたものとなります。
前回もお話しましたが、最も高いレベルで取り組んでいる金融機関の方向性を知ることは、一般事業者にとっても、より一段高いレベルの取組みが求められている今、今後の取組みを検討していくうえで参考とすべきであり、将来的に必ず直面するであろう課題を先取りしているという意味で重要な示唆を含んでいます。自社の取組みが、その高いレベルから「引き算」したレベルにあることの意味、「自社が現在そこまで取り組まなくてよい理由」を明確にしておくことも、今後の説明責任のためには必要となります。
1)目利き力の低下
さて、まず、本テーマ以外のところの記載となりますが、金融機関における「目利き力」の低下についての懸念が以下の通り指摘されています(本レポートp22「中小企業向け融資業務の課題」より)。
①適切なリスクテイクのためには、顧客実態を把握する能力や案件構築のスキル等が必要であるが、行員の年齢構成の歪み(中堅行員不足・若手行員急増)を背景に行員の「目利き力」が低下しているのではないか、との問題意識が各行で共有されている。
②目利き力向上のため、中小企業取引に特化した拠点等において銀行OBを活用して若手行員の教育を行うなどの取組みを各行とも始めている。
反社チェックにおいては、データベース・スクリーニングの限界を乗り越えるものとして、また、そもそも精度が高い手法として、「日常業務の中にある端緒情報」の収集・分析こそ重要であると繰り返し述べてきました。
上記指摘にある「顧客実態を把握する能力」こそ、反社チェックにおいても重要な視点であり、目利き力の低下は、反社会的勢力の潜在化や手口の巧妙化の現実をふまえれば極めて憂慮すべき状況と言えます。そして、それは金融機関だけでの問題ではなく、一般の事業者にとっても、データベース・スクリーニングに過度に依存することの危険性と同一の文脈であらためて認識すべき課題でもあります。
今や、反社会的勢力は、明確に線引き・色分けできる「分かり易いもの」では決してありません。したがって、反社チェック(反社会的勢力を見極める作業)については、当該対象者とつながる関係者の拡がりの状況や「真の受益者」の特定といった「面」でその全体像を捉えることを通して、その「点」の本来の属性を導き出すといった側面がより重要となっています。表面的な属性では問題がないと思われる「点」が、「面」の一部として背後に暴力団等と何らかの関係がうかがわれることをもって、それを反社会的勢力として「関係を持つべきでない」排除すべき対象と位置付けていくことが反社チェックの本質的なあり方というわけです。実際に、その境目である「点」だけいくら調べても、反社会的勢力であると見抜くことは困難であり(さらに、今後その困難度合が増していくことが予想されます)、全体像を見ようとしない反社チェックは、表面的・形式的な実務に堕する可能性が高くなると言えます。
この「点」だけではなく、「面」や「線」で全体像を捉えながら、「真の受益者」の存在を嗅ぎ分ける能力こそが「目利き力」であり、それなりの社会経験・実務経験を積み、健全なコンプライアンス意識やリスクセンスを有した役職員であれば、通常、備わっているはずのものです。そして、組織的にそのレベルを維持し、高めていくためには、継続的な研修・啓蒙活動が必要となるほか、反社会的勢力排除の取組みについて高い貢献が認められる者に対する評価制度の確立といった視点も必要となるのではないでしょうか。
今後、入口や中間管理においてますます重要となる反社チェックの実効性を確保していくためには、データベースの拡充だけではなく、役職員の「目利き力」の向上にも同じくらい注力していくことが求められていると言えます。
2)地域銀行等の課題
本レポートにおいては、地域銀行等に対して、具体的に以下のような指摘がなされています(本レポートp77「モニタリング結果」より)。
①反社・マネロンの活動は広域化している。また、地域銀行の営業エリアも本店が所在する地域だけではなく、県外進出やインターネットバンキングの導入などにより広域化している。こうしたことから、地域銀行は、規模の大小や営業地域の違いに関わらず、反社との取引やマネロンのリスクを考慮しつつ、例えば、従来の営業地域に限定しない反社情報の収集態勢等を整備していく必要がある。
②例えば、インターネットによる業務を中心とする銀行では、非対面取引が中心となることから、業務の特性上、反社との取引やマネロンのリスクが相対的に高い。
③検証の結果、管理態勢のITシステム化が図られているものの、より実効性のある反社・マネロン等管理態勢を構築するためにも、例えば、取引モニタリングシステムにおける疑わしい取引等の検知のための閾値の適切な設定や見直しなどといったITシステムの質的向上が課題となっている。
当社でも、様々な金融機関の取組み状況についてお聞きしていますが、特に、「営業エリアの拡大」「ネットバンキング」の2つの切り口(まとめて表現するなら「営業領域の拡大」)において、これまでの手法の限界を痛感されているように思われます。言うまでもなく、営業領域の拡大にあっては、新規参入事業者としてその脆弱性を突かれることのないよう、外部からの脅威に対する、広い意味でのセキュリティレベルを高めておく必要があります。
その中でも重要なテーマが「反社・マネロン」等の管理態勢であり、具体的には、(真の受益者を把握するための)本人確認精度の向上、全国をカバーするデータベースの拡充(ネットバンキングの場合は、そのエリアはさらに「世界」を視野に入れる必要もあります)やエリア拡大に伴う各地の警察との連携態勢の確立といったあたりが共通の悩ましい問題だと思われます。
反社会的勢力やマネー・ローンダリング実行者は、常に監視レベルが脆弱な金融機関や送金システムやスキームを探しており、その悪用を目論んで、新規参入事業者にはいわゆる「当たり行為」として必ず何らかのアプローチがなされるはずです。新規参入事業者が、反社との取引やマネロンのリスクを排除できるかどうかは、その「ファースト・アタック」に対して、十分なチェック機能が働き、相手の機先を制すことができるかにかかっているとも言えます。この点は、一般事業者も全く同様であり、自社のスキームが常に十分なセキュリティレベルが保たれているかは、相手に「悪用が難しい」「ガードが固い」と認識させるためにも重要であり、それによりその後の執拗な攻撃を断念させること(リスクの排除)につながるのです。したがって、たびたびお話してきた通り、反社会的勢力排除やアンチ・マネー・ローンダリング(AML)について、常に世の中の最高レベルの取組み状況を把握しておく必要があるのです。
3)保険会社の課題
本レポートにおいては、保険会社(生保・損保)に対して、具体的に以下のような指摘がなされています(本レポートp78「モニタリング結果」より)。
①保険契約は・・・マネロン等に悪用されるリスクは低いとも考えられるが、他方で、犯罪収益の隠匿などにも利用され得る貯蓄性商品も存在している。このため、マネロン対応の態勢整備についても、引き続き、・・・保険会社における取組みとともに、反社情報の収集等については業界全体でも対応していくことが必要である。
②損害保険会社は、順次、損害保険商品に暴排条項を導入しているところであり、被害者救済の観点にも配慮しつつ、まずは、基本的な内部における管理態勢の整備を着実に行う必要がある。
保険の有する特殊性もあり、全体的に銀行と比較して取組みが遅れている保険会社については、残念ながら、「基本的な内部における管理態勢の整備を着実に行う必要がある」(損保)「取組みが進展している」(生保)といった一段低い指摘にとどまっています。
保険契約における反社会的勢力排除においては、「被害者救済」とともに「保険金詐欺」や保険金支払いによる「活動助長性リスク」をいかに排除するかの視点が最も重要です。また、あわせて、銀行口座開設と同様に、保険スキームが資金源となってしまう、その活動を助長することなる「蓋然性が高い」ことをふまえれば、自らが被保険利益を得るような契約(生命保険契約や賠償責任を除く損害保険契約)を水際で排除すること(入口の強化)も求められているのであり、金融庁のコメントから受ける印象としての「ある程度の取組みレベルでよい」といった認識を早期に払拭していく必要があります。
また、特に、損害保険契約においては、保険代理店に契約の締結権があることから、保険代理店自体の健全性の確認はもとより、反社会的勢力の活動を助長することにつながるような契約を締結しないよう、保険募集人の暴排意識やリスクセンスの向上に向けた施策の徹底が急がれます。
4)反社・マネロン等対応部署のあり方
本レポートにおいては、反社対策とマネロン・テロ資金供与対策(AML/CTF)における対応部署のあり方(管理態勢のあり方)について、具体的に以下のような指摘がなされています(本レポートp80「管理態勢の在り方」より)。
①反社対策とマネロン・テロ資金供与対策は、密接に関連するものであり、反社対応部署とマネロン等対応部署が区々となっている場合には、両部署間の適切な連携を図ることが有効である。
②反社・マネロン等対応の所管部署については、3メガバンクグループの全てをはじめとした銀行では、例えば、「金融犯罪対策部」を設けるなど、反社・マネロン等対応に加え、振り込め詐欺対策等も含め一元的な管理部署で対応することとしている事例がみられる。
③地域銀行や生命保険会社では、例えば、反社対応を「コンプライアンス統括部」や「総務部」が、マネロン対応を「事務統括部」がそれぞれ所管するなど、管理部署を区々としている事例も少なくない。
④所管部署が異なる場合であっても、多くの金融機関で部署間の連携を行っているとしているものの、具体的な連携が、定期的な部署間の協議や疑わしい取引の届出の回覧などにとどまっている事例もみられる。
⑤営業店等のフロント部署と反社対応部署・マネロン等対応部署等のミドル・バック部署の連携については、大半の金融機関では連携が図られているとしているが、一部の金融機関においては、フロント部署とミドル・バック部署の連携が不足又は連携する態勢にない、としている。
本コラムでもたびたび指摘しているように、「反社対策とマネロン・テロ資金供与対策(AML/CTF)は、密接に関連するもの」であり、さらに言えば、「振り込め詐欺」など「特殊詐欺犯罪」や「インターネット犯罪」「薬物犯罪」など、各種犯罪対策との関連も重視した管理態勢をとる必要があります。常に、最新の犯罪の手口を収集・分析することにより、自社へのアプローチを事前に予測し、対策を講じていくといった管理のあり方(対応部署等のあり方)が求められているのです。
上記指摘のうち、一般事業者が参考にすべき課題としては、④と⑤に見られる、「具体的な連携が、定期的な部署間の協議や疑わしい取引の届出の回覧などにとどまっている」「フロント部署とミドル・バック部署の連携が不足又は連携する態勢にない」とする点があげられます。
これらの実態においては、新たな手口の認知や具体的な侵入の端緒情報を「得た」「報告した」というレベルにとどまり(場合によっては、具体的な事案について、部署間における「報告・共有」すらできていないかもしれません)、自社のセキュリティレベルの脆弱性を「分析」して「新たな対策を講じる」といった、「制度や精度のブラッシュアップ」につながっていない状況、PDCAサイクルが十分に機能していない状況が伺えます。
なお、具体的な管理のあり方の好事例として、本レポートでは、以下のような取組みも紹介されています。
①反社・マネロン等対応に加え、振り込め詐欺対策も含め金融犯罪対策として一元的に同一の部署で管理するとともに、同一のシステムを用いて管理することにより、不正取引の謝絶や振り込め詐欺が疑われる取引の謝絶に効果を上げている
②反社・マネロン等対応部署において、銀行全体のリスク評価を実施し、対応の強化が必要な営業店を把握した上で、営業店に対して個別に適切な指導を行い、不正利用口座の開設数減少につなげている
③「疑わしい取引の参考事例」(金融庁公表)などに基づき作成した、数十にもわたる様々なパターンのシナリオにより、システムによる取引モニタリング及び取引の抽出を行うとともに、抽出された取引数を定期的に検証することにより、シナリオの見直しにつなげている
④顧客の過去取引や類似の顧客群と比較した上で異常な取引かどうかを検知する、いわゆるプロファイリングベースによるシステムで検知を行い、入出金回数・金額の閾値の設定だけでは捕捉困難な取引も検出することとしている
実際に、これらの好事例をみると、関係部署間の連携を強化し、制度や精度のブラッシュアップを図るためのPDCAサイクルを上手く運用することによって、リスクの低減を実現していることが分かります。
一般事業者が、金融機関の好事例から学び、自らの取組みに応用すべきこととしては、まず「取引をするにふさわしくないとする端緒情報」を常にブラッシュアップし役職員に周知徹底していくことが考えられます。つまり、反社チェックにおいて「日常業務の中に端緒がある」の意味合いを、反社会的勢力排除の視点だけでなく、「与信」や「ビジネスモデルの健全性」「コンプライアンスの徹底状況」、さらには「レピュテーション」といったところまで視点を拡大することが望ましいということです。幸いにも、これらのチェックは同一プロセスの中で実施できるものであり、効率性を阻害することなく、反社会的勢力排除の実効性を高めるとともに、自社の健全性を担保することにもつながると言えます。
そして、その端緒情報をブラッシュアップしていくためにも、常に、最新の犯罪の手口を収集・分析し、自社へのアプローチを「事前に予測(先の好事例の④にある『プロファイリングベースによるシステムで検知を行い、入出金回数・金額の閾値の設定だけでは捕捉困難な取引も検出』する取組みが正に該当します)」するなどして、あらかじめ防御策を講じる、といったPDCAサイクル的な管理のあり方があわせて求められているのです(なお、このPDCAサイクルにおいては、異なる部署間の緊密な連携がその大前提となっていることにも注意が必要です)。
5)反社データベース
本レポートにおいては、反社データベースについて、具体的に以下のような指摘がなされています(本レポートp81「管理態勢の在り方」より)。
①新たに得られた反社情報の自社データベースへの追加状況については、大半の金融機関で、新たに得られた反社情報を月次以上の頻度で追加更新しているなど、得られた反社情報を適切に活用していることが認められた。
②また、情報が陳腐化した場合等の情報の更新状況については、大半の銀行ではこれを行っているとしているが、一部の外国銀行在日拠点、生命保険会社、損害保険会社では取組みが不十分な例もみられる。
金融機関におけるデータベースの更新頻度が、「月次以上」となっていることが確認できますが、新たな監督指針でも求められている「適切な更新(情報の追加、削除、変更等)」については、今後の課題だと言えます。
6)取引解消
本レポートにおいては、反社との取引解消に向けた対応について、具体的に以下のような指摘がなされています(本レポートp82「管理態勢の在り方」より)。
①反社との関係の遮断には、取引関係を持たないように、取引開始前に謝絶することが基本であるが、合わせて取引開始後に反社と認識された場合の取引解消に向けた取組みも重要である。
②そのためには、取引謝絶・解消に関する手続を社内規程やマニュアルに定めるとともに、謝絶・解消等にあたっては、外部専門機関と緊密に連携することが必要である。
③取引開始前の謝絶や取引開始後の解消のための規程やマニュアルの整備については、業務の態様により業態ごとに差があるが、大半の銀行及び生命保険会社では、いずれも整備しているとしている。
ここでは、監督指針の改定と同様、入口だけでなく「事後検証(中間管理)」の考え方もふまえた指摘がなされています。その方向性のもと、金融機関において「取引開始前の謝絶や取引開始後の解消のための規程やマニュアルの整備」が進んでいる状況は大変望ましいことだと言えます。
当社が、2009年に公表した「SPNレポート~企業における反社会的勢力排除への取組み編」(https://www.sp-network.co.jp/docs/spnrepo0901.pdf)において、当時100社に対してヒアリングを行ったところ、「あらかじめ関係解消実務の担当部署・担当者が定められている企業」は36%、「あらかじめ関係解消の実務要領が定められている企業」は7%に過ぎず、「ほとんどの企業では、具体的な事例に直面したことがないため、「たぶん、○○だと思う」「その時点で検討する」という認識である。具体的な事案が発生すると、目先の対処が優先し、長期的な視点やコンプライアンスの観点からの検討が不十分となりがちである。そのため、具体的な自社への侵入の事例を想定しながら、平時から原則を有しておくことが極めて重要であり、各企業とも、明文化された実務体制を速やかに整備する必要がある。」と指摘しています(同レポートp50)。
金融機関においては、関係解消に向けた態勢の構築が進んでいることが確認されましたが、一般事業者においても、少なくともこの5年程前の水準より大きく進展していることを期待したいと思います。
なお、本レポートにおいても、好事例として、「暴排条項導入前の既存与信先について、経営陣が合意解約に向けて弁護士とともに対応するよう指示を行い、実際に貸出先から同意が得られて解消に至った事例」が紹介されています。
7)経営陣の認識
本レポートにおいては、経営陣による議論・検討について、具体的に以下のような指摘がなされています(本レポートp79「管理態勢の在り方」より)。
①一部大手銀行における提携ローンの問題を契機に、多くの金融機関で、経営陣の認識が高まり、反社との取引解消の方向性や提携ローン等の問題などが具体的に議論されるようになっている。
②好事例として、以下が紹介されている。
-
- G-SIFIs(グローバルなシステム上重要な金融機関、日本ではメガバンク3グループ)と自行の管理態勢についての比較・分析の報告を受けた経営陣が、認識した課題や管理態勢の高度化について議論を行い、スケジュール等を策定して進捗させている
- 自行の所在県以外での業務が拡大していることを踏まえ、経営陣が他県での反社情報の収集等の強化を指示している
- 反社対応部署とマネロン対応部署をまたいだ全社的なタスクフォースの立ち上げを経営陣が指示している
反社会的勢力排除の取組みのベースにあるのは、役職員の暴排意識とリスクセンスですが、社会情勢の変化に適切に対応しながらその健全性を維持していくためには、継続的な研修の実施や経営陣からのメッセージの発信、検知システム等への戦略的投資、ルールや規定の周知徹底を通じた「社風の醸成」が不可欠です。したがって、経営陣の果たす役割もまた極めて大きいことをあらためて認識する必要があります。上記好事例からは、社会情勢の変化や自社のビジネスの展開に応じたリスク状況の変化、ベスト・プラクティスの研究といった視点から、最新の状態にブラッシュアップしようとする経営陣の姿勢が伺われ、大変好ましいものと評価できると思います。
2.最近のトピックス
1)平成25年の犯罪情勢
警察庁が公表した昨年の犯罪情勢の集計結果によれば、刑法犯の認知件数は、平成15年から減少に転じており、平成25年中は132万678件で前年より61,443件(4.4%)減少したということです。また、認知件数、検挙件数ともに減少する中、検挙率も低下し、平成25年中は29.8%と前年より1.9ポイント低下しています。
一方で、知能犯が3,089件(7.7%)、風俗犯も140件(1.2%)それぞれ増加していることが特徴的です。
なお、警察庁では、平成25年の全体的な傾向として、「ほとんどの罪種や手口の認知件数が減少している中、詐欺等の知能犯、強制わいせつ、公然わいせつ等の風俗犯がそれぞれ増加した」ほかに、「住宅対象侵入盗における無施錠率は依然として高い」「万引き検挙人員に占める高齢者の割合の上昇」「ぱちんこ営業所等における置引きの発生の増加」を指摘しています。
暴力団構成員等(暴力団構成員及び準構成員その他の周辺者をいう)の刑法犯の検挙件数は29,948件で、前年に比べ5,405件(15.3%)減少、検挙人員は13,447人で、前年に比べ1,059人(7.3%)減少しています。
また、暴力団構成員等の刑法犯の検挙人員を罪種別構成比でみると、傷害が20.9%と最も多く、次いで窃盗が18.4%、詐欺が17.3%、恐喝が8.1%の順になっています。
2)改正暴力団対策法による「適格団体」の認定
平成25年1月30日に施行された改正暴力団対策法に盛り込まれた、住民に代わって暴力団組事務所の使用差し止めを請求できる「適格団体」として、今般、北海道や宮城など13道県の暴力追放運動推進センター(暴追センター)が新たに認定され、これにより、47都道府県全ての推進センターが認定されたことになります。
訴訟1件あたり300~500万円かかると言われ、認定を受けるのに必要な財源の確保が難航するセンターがあったため、施行から約1年5カ月かかったことになります。
ただし、これまでの活用状況をみると、広島県で1件あったのみですので、今後、本制度を積極的に活用して、暴力団事務所撤去が促進されることを期待したいと思います。
なお、この唯一の活用例である「暴力追放広島県民会議」の事案においては、組事務所使用差し止めの代理訴訟を起こされた共政会2代目有木組が、提訴後に事務所を退去、「今後も使用する可能性はなく、退去しているため裁判を起こす理由がない」として請求却下を求めているといった状況になっています。
3)匿名通報ダイヤル
子供の虐待や暴力団などの情報を匿名で求める警察庁の窓口にあった昨年度の通報は8,825件で前年度を4,398件上回り、制度を導入した2007年度以降最多となったということです。特に、専用ウェブサイトへの通報が大幅に増えているようです。
【創設の背景より】
本ダイヤルは、暴力団が関与する犯罪等、犯罪インフラ事犯、薬物事犯、拳銃事犯、また、少年福祉犯罪、児童虐待事案、人身取引事犯等の被害者となっている子どもや女性の早期保護等を図るため、警察庁の委託を受けた民間団体が、市民から匿名による事案情報の通報を、電話やウェブサイト上で受け、これを警察に提供して、捜査等に役立てるというものです。
【匿名通報ダイヤル】0120-924-839
【ホームページ】http://www.tokumei24.jp / http://www.tokumei24.jp/i(モバイル用)
4)海外コンプライアンス
①米財務省による工藤会の制裁指定
▼ U.S.DEPARTMENT OF THE TREASURY; Specially Designated Nationals List (SDN)
米財務省は、特定危険指定暴力団工藤会と最高幹部2人を経済制裁の対象に追加指定しています。在米資産が凍結され、米国人とのあらゆる経済取引が禁止される内容で、日本の暴力団が同省の制裁対象になるのは山口組、住吉会、稲川会に続き4団体目となります。
②英領バージン諸島との租税情報交換協定への署名
▼ 財務省「英領バージン諸島との租税情報交換協定が署名されました」
日本政府は、英領ケイマン諸島やリヒテンシュタインなどとも情報交換の協定を結んでおり、今回で10カ国・地域となります。本協定の締結によって、現地法人の資産情報の公開を求めることができるようになり、脱税や租税回避の監視がしやすくなります。
かつて、「英領バージン諸島(British Virgin Islands=BVI)」のファンド等を引受先にしているファイナンスは、「不公正ファイナンス」である可能性が高い(さらには、「P.O BOX 957 Tortola BVI」とする私書箱を住所に使っている場合はよりその可能性が高い)との指摘がなされていましたが、そのような不公正ファイナンスの引受け手である海外のファンドの「真の所有者(beneficial owner)」は、実際は日本にいて、反社会的勢力とつながっていることも多い(いわゆる「黒目の外人」と呼ばれている人たち)とも言われており、今回の協定により、それらの怪しい人脈の解明がすすむこと(過去の事案であっても、そこに登場した人物や団体・組織の関連を知ることは極めて有用な情報となります)を期待したいと思います。
③FATFの日本に対する声明
アンチ・マネー・ローンダリング(AML)やテロ資金供与対策(CTF)を目的に設立された多国間枠組みであるFATF(金融活動作業部会)が日本に早期の対応を求める声明を発信しています。FATFが声明の形で日本の現状是正を促すのは初めてで、日本が「多くの深刻な不備事項をこれまで改善してこなかったことを懸念している」と指摘しています。なお、具体的な対応として、以下の4点において早急な改善が必要としています。
- 金融機関などの顧客管理の内容の充実
- テロ行為への資金支援だけではなく、物質的支援(アジトの提供など)なども処罰の対象とする
- 国内にテロリストが居住していた場合、その資金の国内移動を防止するための措置を講じる
- 国際組織犯罪防止条約(パレルモ条約、重大犯罪の共謀の犯罪化等を規定)の締結に必要な国内担保法の整備
昨年、犯罪収益移転防止法(犯収法)が改正されてもなお、日本のAML/CTFの取組みは、国際的にみて周回遅れの状況にあることを、本コラムでもたびたび指摘してきました。このままでは、日本はマネー・ローダンリングを助長する国として、国際社会から制裁の対象とみなされる可能性すらあり、金融機関や不動産事業者等の特定事業者以外の全ての事業者においても重要なテーマであると認識する必要があります。
そのような中、最近、テロリストとの関係が疑われる個人・団体の金融資産を一時的に凍結できる新法の制定を検討するとの報道がありました。2020年の東京五輪に向けた治安対策の強化が狙いで、テロ行為を助長する活動に資金面で歯止めをかけることを狙っているとのことであり、共謀罪の創設について検討している状況とあわせ、今後の進捗を見守りたいと思います。
④ローマ法王がマフィアを「破門」
フランシスコ法王が、イタリア南部のカラブリア州で野外ミサを行った際に、組織犯罪を行うマフィアは、教会から「破門される」と厳しく批判したということです。同州は、イタリア最大規模のマフィア「ンドランゲタ」の拠点で、「彼らは悪魔を崇拝し、公共の利益を軽視している。このような悪魔とは戦わなくてはならない」「マフィアのような悪魔の道にいるものたちは破門にする」と述べたと報道されています。
以前もご紹介した通り、フランシスコ法王は、マネー・ローンダリングの噂が絶えないバチカン銀行の透明化に向けた改革に本格的に着手しており、最近公表された2013年の同行の財務諸表によれば、運営改革費用や投資損失の計上で、最終利益は前年比97%減の約290万ユーロ(約4億円)まで落ち込んだようです。さらに、口座を調査した結果、不適切と判断された顧客396人分を閉鎖、総資産は約33億9100万ユーロ(約4,680億円)で、前年より32%も減ったということで、その取組みが進んでいることをうかがわせます。
5)その他
①社長解任訴訟で最高裁判断
大手総合電機メーカー元社長が2009年に「虚偽の理由で辞任を強要された」として、同社と当時の役員らに損害賠償を求めた訴訟で、最高裁第二小法廷が、元社長の上告を退ける決定をしています。
一審・東京地裁は「辞任要求は調査会社などの情報に基づき相応の根拠がある」などとして元社長の請求を棄却、二審・東京高裁も一審の判断を支持していたものです。
別の名誉棄損裁判でも既に会社側の勝訴が最高裁で確定していますが、「手を尽くして」事実関係を確認し、「正しい」合理的な判断を導いたものであるとの大前提のもと、直接的に「反社会的勢力かどうか」ということではなく、「反社会的勢力と関係があるとの『うわさ』自体」の真実性、要は同社が「疑わしい」とした合理的な根拠があることを証明して認められたという点がポイントであり、この判決の持つ意味は、企業実務にとって極めて大きいと言えます。
②特定抗争指定の解除
昨年の改正暴力団対策法で新設された「特定抗争指定」は、対立抗争で住民に危険を及ぼす恐れがある暴力団を指定することで、公安委員会が定める「警戒区域」内で「組事務所の新設と立ち入り」「対立暴力団組員へのつきまとい」「対立暴力団の事務所やその組員の居宅近くをうろつく」「同じ暴力団の組員が5人以上で集まる」行為で即逮捕できることになりました。
「道仁会」と「浪川睦会(旧九州誠道会)」の2団体は、福岡、佐賀、長崎、熊本の4県の公安委員会から継続的に指定されてきましたが、両団体による抗争事件が1年半発生していないことなどから、このたび解除されました。これにともない、禁止していた組事務所への立ち入りなどが可能になることから、警察は警戒を強化しています。
3.最近の暴排条例による勧告事例ほか
1)勧告事例(大阪府①)
指定暴力団東組系組長が組事務所に使っていると知りながら、マンションの一室を格安で貸し出したなどとして、大阪府公安委員会は、府内の不動産業者役員と建設会社 社長の男性2人に対し、大阪府暴排条例に基づき利益供与をやめるよう勧告しています。
不動産業者の役員は、同社が所有、管理する賃貸マンションの一室を暴力団事務所として使用することを知りながら同組長に対して同室を提供、建設業者の経営者は、暴力団事務所として使用する賃貸マンションの賃料を肩代わりしたうえ、同賃料を、同マンションを所有、管理する不動産業者名義の銀行口座に振り込みをしたものです。
2)勧告事例(大阪府②)
指定暴力団山口組系幹部に門松を卸売り販売したとして、大阪府公安委員会は、大阪府暴排条例に基づき、府内にある生花店の男性経営者に対し、今後は利益供与をしないよう勧告しています。
生花店の経営者は、自己の事業におけるトラブルの防止及び解決に暴力団の威力を利用するため、平成25年12月末頃、指定暴力団山口組系幹部に門松を販売したうえ、門松を幹部が指定した場所へ設置するなどの役務を提供し、暴力団はそれを受けたものです。
3)勧告事例(大阪府③)
大阪府内の飲食店経営者ら5人と指定暴力団山口組系幹部に対し、大阪府公安委員会から大阪府暴排条例に基づき勧告がなされています。
飲食店経営者ら5人は、各飲食店の事業におけるトラブルの防止及び解決の暴力団の威力を利用するため、平成25年12月末ころ、それぞれ指定暴力団山口組傘下組織幹部から門松1組を購入したということです。
4)勧告事例(愛知県)
用心棒代を渡したり受け取ったりしたとして、愛知県暴排条例違反の疑いで、指定暴力団山口組系組長ら4人が愛知県警に逮捕されています。なお、同条例違反での逮捕者は初めてだということです。
容疑者らは、外国人パブを経営しており、用心棒代のやりとりが禁止されている暴力団排除特別区域に定められているにもかかわらず、用心棒代を渡したとされています。