暴排トピックス

取締役副社長 首席研究員 芳賀恒人

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【もくじ】―――――――――――――――――――――――――

1.暴力団員の離脱を巡る問題

2.最近のトピックス

3.最近の暴排条例による勧告事例ほか

 当社では、この度、多くの金融機関が頭を悩ませる「反社会的勢力の排除」における現場レベルでの具体的な対応要領について、特に銀行の営業店に勤務する現場行員向きに、「実践的で分かりやすい対応マニュアルをコンセプトに、「金融機関営業店のための VS反社対応マニュアル」を近代セールス社より本日出版いたしました。

 当社関連書籍としては5冊目となりますが、今回は、データベースだけに頼らない反社チェックの効果的な手法から、取引解消など出口戦略の進め方まで幅広く網羅しつつ、具体的な応対の仕方や不当な要求への対応方法などについても、様々な場面を想定した応酬話法などを紹介しながら、具体的に解説している点が特徴です。金融機関の現場での「いざという時」に役立つ内容であるのはもちろんですが、一般事業者においても、社内研修等に活用頂ける内容となっています。

1.暴力団員の離脱を巡る問題

 1998年2月に、元漁協組合長が特定危険指定暴力団工藤会(当時・工藤連合草野一家)傘下の田中組幹部に射殺された事件の指示役として、同組織のトップ(総裁)、ナンバー2(会長)が、殺人と銃刀法違反容疑で逮捕されました。

 さらには、福岡市博多区で2013年1月に女性看護師が切りつけられた事件で、福岡県警は、両容疑者に加え、ナンバー3(理事長)ら14人を組織犯罪処罰法違反(組織的な殺人未遂)で逮捕、起訴しています。

 これらは、福岡県警の執念とも言える本気の捜査の結果、総裁の指揮命令のもと組織的に犯行が行われたことを突き止めたものです。

 とはいえ、北九州市では、2003年8月に経営者が暴力団追放運動のリーダー的存在だったクラブに手投げ弾が投げ込まれ11人が重軽傷を負った事件や、2012年には中間市の建設会社社長への銃撃事件、長年暴力団捜査を担当した県警元警部の狙撃事件など、工藤会の組織的関与が疑われながら、有力な手がかりが得られず未解決のままとなっている事件も多く、これら一連の事件が、特に北九州地区における暴排活動を難しくしている要因ともなっていることからも、さらなる捜査の進展を期待したいところです。

 その工藤会は、今年、米国財務省が「世界最大の犯罪組織にあたるYAKUZAの中でも最も凶暴な団体」と指摘して山口組・住吉会・稲川会に続き経済制裁の対象に加えるなど、国際的にもその狂暴さは知られるところとなっています。

 ところが、意外なことに、警察庁の公表している「平成25年の暴力団情勢」では、工藤会の構成員数は約560名であり、指定暴力団の構成員の合計(25,600名)のわずか2.2%を占めているにすぎません。ただ、統計上、警察が暴力団の実態を正確に把握することが難しくなっていることもありますが、一説には、公表数値の3倍以上は構成員がいるのではないかとも言われていますし、最近も、同会が関東地方に進出し、活動を活発化させており、千葉県松戸市と東京都台東区に事務所を構え、構成員と周辺者が計50~60人いるとの報道もありました。加えて、工藤会は組織の締め付けが厳しいことでも知られており、末端の組員が逮捕されても容易に口を割らない(そのため、事件の解決が一層困難になっている)ことなどもあって、その活動実態は不透明です。今回幹部らが一斉に逮捕されたことにより、意思決定が出来ない状態にあるとも言われる中、今後の動向が懸念されるところです。

 さて、一方で、幹部らが摘発されたことを受けて、最近、組織からの離脱を決めた組員が相次いでいるといいます。このため、福岡県警が、彼らの社会復帰を支援するため、福岡県やハローワークと連携した支援態勢を強化するといったことも報じられています。報道によれば、2010年以降、福岡県で工藤会を含む暴力団からの離脱者は244人おり、このうち就職できたのは11人にとどまっているということです。離脱した者の生活基盤を確保するための支援も、離脱の決断を促し暴力団を弱体化させていくために必要な取組みであることは論を俟ちません。

 さらに、とりわけ工藤会においては、組織の締め付けが厳しいということは、離脱は「死」の危険と隣り合わせであることをも意味します。このように、「離脱しようとする者の救済・支援」は喫緊の重要課題だと言えるでしょう。

 ところが、ここに暴排における大きな矛盾が露呈することになります。
そこには、暴排機運の高まり(社会の要請の厳格化)の結果、例えば、「5年卒業基準」がひとり歩きしてしまっている現実があります

 もともと、「5年卒業基準」は、偽装離脱(暴力団対策法逃れのため、組織を離脱したように装うこと)した組員を排除する目的で、特に暴排条例において(便宜的に)設けられているものであり、一方では、更生しようとするものを妨げてはならないといった要請(組員の更生は暴力団の弱体化とともに暴排活動の重要な目的です)もふまえながら、「偽装離脱なのか、真に更生しようとしているのか」について、現時点における組織との関係性を十分に見極めながら判断するプロセスが徐々に形骸化し、「5年経過していないからアウト」と安易に判断している現実があります。

 もちろん、一方では、暴力団には犯罪前科歴のある人間も多い実態をふまえ、再犯の可能性が否定できないとしてリスク管理上慎重に判断すべきであること、離脱後の状況について警察からの情報提供を必ずしも十分に受けられるわけではないこと、事業者の主体的な判断に属する事項にもかかわらず、(事情をよく理解できていない)周囲から元暴力団員を従業員として雇用していることや取引をしていること自体を問題視されてしまう(あわせて、行き過ぎた暴排条項の解釈等が一般化している現実があります)といったことから、あえてリスクを取る必要はないとする企業姿勢(その方が楽という形式的な判断)も、ある程度理解できるところです。

 ただし、事業者のこのような「5年卒業基準」の形式的な運用によって、社会に適合することが困難という現実の壁を目の当たりにすることになり、結局は彼らの離脱をためらわせ、暴力団員としての地位にとどまるか、より一層追い込まれることによって社会不安を増大させる危険分子となってしまうか、いずれにせよ事業者にとってのリスクを軽減することにはつながらないことになります。

 また、残念ながら、暴力団の威力等を利用し、ある意味共存してきた一般人や事業者も少なからず存在します。彼らから見れば、組の看板のない離脱者は「もはや利用価値がない」のであって、関係を持つことはリスクが大きいだけで旨みもないわけですから、離脱した者を受け容れる余地はほとんどなくないという皮肉な現実もあるようです。

 そもそも、暴排条例においては、排除の対象とすべき判断として「活動助長性」の有無が大きなポイントとなりますが、以前も指摘した「生活口座」の取扱い(属性のみで機械的に排除するのではなく、継続監視しながら、組織的な資金移動などが確認された時点で速やかに解除できる状態にしておき、問題がない限り契約解除の実行を猶予しているとする考え方)と同様、組との関係が断たれていることが確認できている限り「元暴力団員」と関係を持つことは暴力団の活動を助長することにならないわけですから、彼らを雇用することや彼らと取引することは、必ずしも暴排条例に直接的に違反することにはなりません。

 いずれにしても、これは工藤会の問題だけにとどまらず、今後、真剣に離脱を考える暴力団員が増えるであろうことを考えれば、社会全体として考えるべき問題です。「暴力団離脱指導」に向けた公的な枠組みの拡充も必要でしょうし、離脱が事実であると担保される仕組みや社会の理解も必要となるものと思われます。

 そして、そのような取組みを期待する一方で、事業者としても、「5年卒業基準」の形式的な運用を良しとするような、社会的な要請自体が「行き過ぎ」ではないかといった客観的かつ冷静な視点や議論も、今後は必要ではないでしょうか。企業の社会的責任(CSR)の中に暴排を位置付けているのであれば、その意味、本来達成されるべき目的や公益への貢献をあらためて考える時期に来ていると言えるでしょう。

 最後に、以前もご紹介した財団法人社会安全研究財団(当時 現公益財団法人日工組社会安全財団)が実施した「暴力団受刑者に関する調査報告書」において、服役している暴力団員等を対象に行ったアンケートの分析結果を取り上げておきたいと思います。

 ▼ 財団法人社会安全研究財団「暴力団受刑者に関する調査報告書(日中組織犯罪共同研究 日本側報告書Ⅰ)」(平成23年6月)

 本報告書の「第Ⅳ部 暴力団受刑者調査の分析 第1章 暴力団受刑者の離脱意思の分析」では、離脱に関する傾向について、以下のような指摘がなされています。

  • 2010年の本調査の回答者においては、半数以上の者(57.7%)が離脱の意思を示していた。
  • 地位が高くなるにつれて離脱したくないと表明する暴力団関係受刑者の割合は増加し、首領・上級幹部らにいたっては、35.6%の者が組織への継続的な関わりの意思を持っていた。一方で、非組員である準構成員や周辺者らについては、90%近くの者が組織との関わりを絶ちたいと思っていた。
  • 組織内の統制の厳しさや組織の命令への服従の度合いは、離脱意思に影響を与えている。組織内の統制の度合いが厳しいほど、暴力団関係受刑者の離脱意思は減少傾向にある。組織内の統制が厳しいと答えた者の間では、30%程度が離脱したくないと思っているのに対して、統制が厳しくないと答えた者の間では、その割合は15%に減少していた。
  • 離脱意思は、若い世代と年配の世代で強く、中高年の暴力団関係受刑者では離脱意思が低い傾向にある(年齢が上がるとともに離脱意思は一時的に弱くなる傾向にあるものの、さらに年齢が上がると離脱意思は逆に強くなる傾向にある)。
  • 自分の意思で加入した者は離脱意思が非常に低く、逆に誘われて入った者や面倒を見てもらったことが加入動機である者の場合は離脱意思が高い傾向にあった。
  • 職を持っている者や配偶者を持っている者、月収が高い者は、無職者・単身者・低所得者と比較して、より高い確率で離脱意思を表明する傾向にある。

 これらの分析結果から、今後の離脱支援のあり方の方向性が垣間見えます。

 例えば、特に、「若者」と「年配者」の就職支援や職業技術の習得支援のさらなる充実というのは有効である可能性があります。調査結果では有職者、低月収者らの間で離脱意思が強い傾向にあることも示されていますから、先の福岡県警の取組みのような就職支援や職業技術の習得支援は全般的に必要であると思いますが、とりわけ、年齢層を絞った手厚い支援策については、その成果を確実にあげていくためには、検討されてもよいのではないでしょうか。

 あわせて、「配偶者のある者」に離脱意思を持つ者が多いことを示していたことからも、これらの層に対して、真っ当な生活基盤の確立に向けて就職支援や生活指導を行っていくことも有効だと思われます。

2.最近のトピックス

1) 特定回収困難債権の買い取り状況

 ▼ 預金保険機構「特定回収困難債権の買取り(第5回)の決定について」

 「特定回収困難債権」の買取り制度導入の目的は、「金融機関の財務内容の健全性の確保を通じて信用秩序の維持に資する」ことにあり、預金保険機構(実務的には整理回収機構に委託)が、金融機関の抱えている回収のために通常行うべき必要な措置をとることが困難な債権を買い取り、反社会的勢力との与信取引を解消し、その関係の遮断により金融機関の財務内容の健全性を確保することとされています。

 今回の買取債権数は13件、買取債権総額は143,421千円、買取価格総額は23,557千円となっていますが、2014年合計では買取債権総額は24億5,000万円となり、前年の16倍に急増しています(また、件数も前年比5.4倍の54件になっています)。

 昨年の暴力団融資問題以降、本制度の利用が増えている実態がありますが、当然ながら、今後は金融機関のモラルも厳しく問われることとなります。

 自らの判断で融資した債権の回収として適切に対応してきたのか(回収に向けて最大限の努力をしてきたか)、買取り価格は債権額の一部にとどまりますから(今回の場合で言えば16.4%程度)、本制度の利用は損失を計上することに直結しますので、適切な判断だったのか等について経営判断の原則をふまえつつ説明責任を果たさなければなりません。

 また、整理回収機構における回収実績が低迷することになれば、それは預金保険の料率に影響し、最終的には金融機関の、実質的には預金者等の負担増につながります。したがって、金融機関のモラルハザードに陥らないよう社会的な監視も必要だと言えるでしょう。

2) CTF(テロ資金供与対策)

 国際連合安全保障理事会決議第1267号等は、国際連合加盟国に対し国際的なテロリズムの行為を実行し、又は支援する者(国際テロリスト)の財産の凍結等の措置をとることを求めているものですが、これまでもお話しているように、日本は、マネー・ローンダリング対策やテロ資金供与対策に関する国際協力を推進する政府間会合であるFATF(金融活動作業部会)から、国際テロリストの行う対外取引は外国為替及び外国貿易法(昭和24年法律第228号)によって規制されている一方、「居住者による指定されたテロリストに対する支援を対象にしていないことから、テロリストの資産が遅滞なく凍結されない」との指摘を受け、早急に必要な法制上の措置を講ずるよう強く要請されている状況にあります。

 こうした問題に対応するため、国際的なテロリズムの行為に使用されるおそれのある財産が国際テロリストに移転することを防ぐための法案が、今国会で成立の見込みです。

 ▼ 国際連合安全保障理事会決議第千二百六十七号等を踏まえ我が国が実施する国際テロリストの財産の凍結等に関する特別措置法案

 具体的には、国連安全保障理事会の指定や決議を元に対象を指定、有価証券や貴金属、不動産の売却、資金の借り入れのほか、財産・現金の贈与や預貯金の払い戻しを受ける行為などの国内取引を都道府県公安委員会の許可制とするもので、都道府県公安委の指導や命令に従わずに取引を続ければ、取引相手も1年以下の懲役または50万円以下の罰金を科すものです。

 この枠組みのポイントは、対象の指定をどれだけ拡げられるか、いかに迅速に指定できるかにあると思われますが、特に、指定された国内取引を行う事業者にとっても、公安委員会の指導や命令に先んじていかに水際で排除していけるかも今後重要な課題となると思われます。

 また、最近、北大生がイスラム国の戦闘員になるため渡航しようとした事案がありました。このような状況を阻止するために、聞き慣れない「私戦予備・陰謀罪」が適用されましたが、この法律は事前準備が対象で、戦闘を始めれば処罰の対象外となると言われています。憲法で渡航の自由がうたわれる中、戦闘員志願者がその意図を隠して「観光」などと称して渡航すれば対応することは難しいと言われており、実は世界的にも同様の難しさを抱えているようです。

 さらに、イスラム国の問題であらためて注目されていますが、「ホームグロウン・テロリズム」(欧米で生まれ育ち、民主主義の価値観を身につけた者が、過激な思想に共鳴し、自国で起こすテロ行為)、あるいは、イスラム国などで戦闘技術や危険思想を身につけた戦闘員が帰国してテロに及ぶ事態が現実化しています。

 また、このイスラム国などは、SNSを含めてインターネットを積極的に利用して勢力を拡大しており、SNSがテロリストにとって「指揮統制ネットワーク」の役割を果たしていると英諜報機関が指摘しています。そのため、IT企業等にテロや犯罪対策のため、当局への情報提供に協力するよう求めており、個人情報やプライバシー保護と社会の安全をどのように両立させるべきか、新たな課題に直面していると言えます。

3) ビットコインと組織犯罪

 ビットコインについては、マウントゴックスの破たん等で一時信用が揺らぎましたが、最近では、米当局が課税対象資産と認めたことに加え、クレジットカードに比べ決済手数料が安い点が魅力であることから、海外の大手決済事業者や有力IT事業者等が決済手段に採用する事例が相次いでいます。

 しかしながら、その普及とともに、その手軽さ故に「犯罪インフラ」化している実態も明らかになってきています。

 米連邦捜査局(FBI)は、ビットコインを使って違法薬物などを取引する闇サイト(シルクロード)を運営していた容疑者を、麻薬取引やマネー・ローンダリングなどの容疑で逮捕しています。さらに、報道によれば、違法薬物のほか、偽造した身分証明書やコンピューターに不正侵入するための道具も取引していたということです。

 また、同じくFBIなどは、ビットコインを貸せば年3641%に相当する高い金利を支払うと約束して、多額のビットコインをだまし取ったなどとして、テキサス州の男性を証券詐欺などの疑いで逮捕したということです(ビットコインに絡む投資詐欺事件を連邦捜査機関が摘発したのは初めてです)。

4) 危険ドラッグの規制を巡る問題と課題

 危険ドラッグを巡っては、これまでご紹介してきたような厚労省や警察庁、各自治体等行政サイドの迅速な規制強化の取組みの結果、例えば、全国の危険ドラッグの販売店が今年3月末で215店が確認されていたところ、9月末は78店と、この半年で3分の1に激減したことは重要な成果だと言えます。

 これに対し、報道によれば、東京都の条例による規制強化を避けるために、近隣の神奈川県で販売する動きが目立ち始めているということです。「客には『神奈川に泊まって使い切ってしまえばいい』と説明する」と関係者のコメントも掲載されています(2014年10月15日付毎日jp)。

 摘発対象となる危険ドラッグの「成分」だけでなく「販売場所」を巡っても、規制当局とのイタチごっこが続いている現状にあり、この辺りは、暴排の取組みの甘い業界や地域が暴力団等の資金獲得活動のターゲットとなる状況にも似ています。つまり、規制や排除等を徹底するには、「脇の甘さ」「スキ」を排し、その実効性に「濃淡(バラつき)」を無くすことがいかに重要かを認識させられます。

 また、集中的な取り締まりによって多くの業者が廃業に追い込まれていますが、一方で、店を閉じて配達専門に切り替える業者もいるようです。前述のリアルの「販売場所」を巡る問題にとどまらず、「リアル店舗からネット通販へ」といった販売ルートの変化も目立ってきており、相当な注意が必要です。

 厚労省や警察庁などもサイトの摘発等に力をいれているところですが、ネット通販を取り締まることの困難さは、各種詐欺事案が、規制当局とのイタチごっこを通して、結果的に手口の高度化・洗練化を推し進める結果となっていること(捜査がより困難な状況に追い込まれている)などからも明らかです。

 一方、救急の現場では、今年に入って搬送後に死亡するなど、より重い症状を訴える患者が増加する傾向にあるようです。規制の強化を推し進めた結果、それを逃れるために、麻薬の一種である成分が含まれるなどして、毒性の強い成分が使われ始めたためではないかと言われており、健康被害についても深刻度合いを増している点にも注意が必要です。

 さて、これらの課題は、いずれも「規制を強化した結果」もたらされている点で一致していることがお分かり頂けるものと思います。確かに規制のあり方にはその負の側面も含め、慎重さが求められますが、だからといって、無関係の第三者をも危険に晒す危険ドラッグの蔓延をこのまま野放しにはできません。

 暴力団排除が、時代とともに反社会的勢力排除にその概念を拡げ、ついには「反社会的勢力的なもの」までを排除の対象とする終わりのない戦いに突入したように、危険ドラッグの急速な蔓延により、薬物汚染の裾野が拡がり、あらゆる意味で社会に与えるダメージが深刻化している現実(本コラムのテーマとの関わりで言えば、危険ドラッグがゲートウェイドラッグとして、最終的には暴力団等の資金源になっていくことが懸念されます)が明らかとなった今、その規制を緩めることなく、戦い続ける覚悟が、個人や事業者を含む社会全体に求められていると言えるでしょう。

5) 忘れられる権利

 日本人男性の人格権が侵害されているとして、東京地裁がグーグルに対して、検索結果の一部の削除を命じた仮処分決定については前回も取り上げましたが、いわゆる「忘れられる権利」については、「ネットをめぐるプライバシー侵害や名誉毀損の保護範囲が広がる」と歓迎する意見がある一方で、「削除乱用がネットの価値を低下させる」「あくまで個別具体的な事案に、従来の『前科・前歴等の公開とそれによる人格権の侵害』の枠組みを当てはめただけ」といった慎重論もあります。そして、何よりも、削除基準が民間事業者の判断に任されてよいのか(事業者の恣意的な濫用の恐れがある)といった問題もあると言えます。

 そのような中、ヤフーが、検索結果の情報の削除には原則として応じないとする従来の基準を見直して、削除の条件を明確化した新たな基準の検討に入ることが報道されています。EUではすでに、今年5月のEU司法裁判所の判決を背景にした削除要請が多く寄せられ、検索サイトも対応に追われているといい、グーグルやヤフーなどの大手事業者の検討結果が今後の企業実務に与える影響は大きいものと考えられます。

 仮に、過去の犯罪歴や暴力団員としての過去に関する情報が「忘れられる権利」として削除の対象となるようなことになれば、企業は、再犯可能性の高い高リスク情報を入手できず、リスク管理の精度を著しく低下させ、暴排の取組みの実効性を阻害しかねない危険性も孕んでいます。一方で、前述した「真に離脱した者」の更生を妨げるような取扱いという観点からは検討を要すべき課題となりますが、いずれにせよ、今後の議論の行く末には注目していきたいと思います。

6) 名簿ビジネスの規制

 ベネッセ社の大型個人情報漏えい事案においては、重複分を含め2億件超の情報が流出し、東京都内の名簿業者3社に売却されたことが明らかとなっています。さらに、この3社から、少なくとも13業者に転売され、最終的な流出先は全国数百社に達したと言われています。

 既に指摘している通り、このようにして流出した名簿は、「三種の神器」(犯罪インフラ)のひとつとして、特殊詐欺グループなどで、実際の対応結果等の情報が追加されることによって精度を高めながら、共有されています。

 これまで規制官庁もなく「野放し」となっていた名簿ビジネスですが、政府は、業者が個人情報を販売する際、独立した第三者機関への届け出を求めるなど規制強化に向けた法改正の検討を進めています。また、情報漏えいが発覚した場合、流出した情報かどうかの認識の有無にかかわらず、全事業者に削除義務を課すなど、被害拡大を防ぐ対策も盛り込む方向ということです。

7) その他

① スポーツ団体と暴排

 本年4月に、日本プロゴルフ協会(PGA)の元理事2人が指定暴力団会長と交際していた問題で、内閣府が、PGAに対して事実解明と再発防止を徹底するように勧告するなど、今年は、スポーツ団体からの暴排も大きな課題となっています。

 そのような中、日本野球機構(NPO)と12球団、日本プロ野球選手会などで組織する「プロ野球暴力団等排除対策協議会」は、宮崎市などで開催中のフェニックス・リーグに参加している若手選手を対象に、暴力団排除のための講習会を開いています。同協議会については、今年、全国中日ドラゴンズ私設応援団連合加盟4団体 に対する応援を不許可とする措置をとるなど、プロ野球界からの暴排についても厳しい視線に晒されている実態が背景にあります。

 また、日本ボクシングコミッション(JBC)は、ボクサーやジム代表者などのライセンス更新の際、暴力団とのかかわりがないことを確約する書類の提出を義務づけることを発表しています。格闘技団体からの暴排もスポーツ界にとっては重要なテーマであり、今後、実効性のある取組みが求められます。

② 福岡県警の独自の取組み

 冒頭に取り上げた工藤会壊滅作戦を展開している福岡県警では、様々な独自の取組みを行っています。今回は、その中から「青少年の健全育成」の観点からの2つの取組みをご紹介しておきたいと思います。

 【暴力団排除マンガ】「こんなはずじゃなかった・・・2」

 福岡県警では、暴力団への加入防止及び暴力団からの離脱促進を図るため、暴力団排除教育サポーター(通称:暴排先生)が作成した暴力団排除マンガ「こんなはずじゃなかった・・・2」を公開しています。誰でも分かりやすく、興味を持って読んでいただけるようにマンガを用いて、「暴力団に加入した場合の悲惨な生活状況や家族に及ぶ影響」「暴力団から離脱したい人、離脱を願っている家族に対して、暴力団からの離脱に関する支援や相談先」が分かる内容となっています。前篇も公開されていますので、あわせてご確認ください。

 暴力団排除教育サポーター(通称:暴排先生)

 福岡県警では、全国に先駆けて、暴力団排除教育専門の非常勤職員「暴排先生」を採用し、福岡県内の中学校・高等学校約550校で暴力団排除講演を行っています。講演では、暴力団への加入阻止・暴力団犯罪による被害防止を軸に、暴力団の実態や福岡県の暴力団情勢、暴排条例等について話をしているということです。

3.最近の暴排条例による勧告事例ほか

1) 愛知県

 暴力団員に用心棒代やみかじめ料を支払ったとして、愛知県公安委員会は、同県内の自動車販売業者、風俗店や飲食店、マッサージ店、入れ墨施術店など17業者に今後支払わないよう、同県暴排条例に基づく勧告をしています。また、金を受け取ったとされる指定暴力団山口組系傘下組織幹部の男ら3人にも受け取らないよう勧告したということです。

 報道によれば、業者の多くは毎月3,000円から50,000円を支払い、30年近く支払っていた業者もいたということですが、1度に10以上の業者に勧告が出されるのは全国的にも珍しいと思われます。

2) 埼玉県

 性風俗店が暴力団組員に用心棒代を供与したとして、埼玉県公安委員会は、同県暴排条例に基づき、指定暴力団住吉会系組員2人と風俗店経営者に利益の供与・受供与をしないよう勧告しています。

3) 国土交通省の排除措置取消し

 国土交通省は、暴力団組員を談合に利用したとして、同省発注の公共事業の入札から排除していた甲府市の土木会社への措置を取り消しています。

 本件については、関東地方整備局が契約中の工事2件を解約、警察からの要請で国交省の直轄工事が契約解除される初めてのケースとなったことで注目されましたが、その後、警視庁は、同社が問題の役員を解雇し、法令順守を徹底して暴力団との関係を解消したと認定、同省に排除措置取り消しを求めていたものです。

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