暴排トピックス
「反社会的勢力の定義」の拡大の実務的対応
取締役副社長 首席研究員 芳賀恒人
1.「反社会的勢力の定義」の拡大の実務的対応
前回の本コラム(暴排トピックス2015年4月号)では、警察庁が公表した「平成26年の暴力団情勢」について、暴力団員数の減少傾向について特殊詐欺の深刻化との関係から考察を加えました。その中で、「暴力団対策法や全国の暴排条例が直接規制している暴力団員等が(統計上)減少したからといって、企業が関係を持つべきでない反社会的勢力が必ずしも減少しているわけではなく、むしろ、暴力団という枠にこだわらない、より拡がりをもった『反社会的勢力排除』の考え方を明確にする必要に迫られており、企業実務における反社チェックや排除実務の難易度がますます上がっているとの認識が必要」と指摘しました。
本コラムでは、以前から、時代とともに姿かたちを変えながら存在し続ける反社会的勢力を見極め、排除していくために、現状の取組みを常にブラッシュアップしていくことの重要性、暴力団や「(現時点で、便宜的に枠を嵌められ、限定された存在としての)反社会的勢力」だけを排除するのではなく、巧妙に潜んでいる「真の受益者」をあぶり出し、それに連なる「暴力団的なもの」「本質的にグレーな存在である反社会的勢力」を「関係を持つべきでない」とする企業姿勢のもとに排除し続けないといけないとの認識を持つことの重要性を訴えてきました。
しかしながら、そのような企業姿勢を役職員一人ひとりに浸透させ、自律的な「防波堤」とすべく社風レベルにまで確実に落とし込むことはなかなか難しく、企業の具体的な実務として、継続的な啓蒙活動・教育研修や、例外ない判断や対応を可能とするための(可能な限り具体的な)基準やルールの策定といったいわゆる内部統制システムの整備が求められることになります。
したがって、単に「反社会的勢力を広く捉える」と役職者に伝えるだけで足りるかと言えばそうではなく、その内容(範囲)について、可能な限り具体的に「明文化」して「共有」を図る必要があります。しかしながら、多くの企業では、反社会的勢力の定義(範囲)を平成19年の政府指針レベルの「属性要件」や「行為要件」だけに限定している、あるいは、それらに「共生者」を加えただけといった状況であるように思われます。また、「共生者」に言及されている場合でも、「共生者5類型」の内容まできちんと明記されていないことも多く、組織(自社)として想定している反社会的勢力の範囲や内容が、社内で十分に共有されず、結果的に重要な端緒を見逃がしたり、勝手な解釈から既に関係が生じてしまっているおそれすらあります。
そもそも、反社会的勢力を「属性要件」や「行為要件」だけで捉えると実態を見誤ることになります。
反社会的勢力の範囲を自ら限定的に狭めてしてしまうことは、自社の見極め力(目利き力)の低下を招き、相手を利することに直結します。さらに、現時点の社会の目線から見れば、安易に反社会的勢力ではないと判断し、結果的に彼らに資金獲得活動の場を与えてしまうことで、むしろ、彼らの「活動を助長している」とさえ見られる可能性があります。
既にご認識いただいているとおり、実際は、「属性要件」「行為要件」だけでは捉えきれない「怪しい」「疑わしい」状況や事実関係が認められることも少なくありません。また、反社会的勢力の端緒を組織的に把握していくためには、役職員に対して、「どのような状況が疑わしいのか」といった「何らかの情報」をあらかじめ与えておくこと(すなわち、拡大された反社会的勢力の範囲を「明文化」し「共有」すること)が必要です。
そこで、その一つの試みとして、「属性要件」「行為要件」以外の「内部的な要件」として、便宜的に「コンプライアンス要件」「ビジネスモデル要件」「レピュテーション・リスク要件」といった形に整理してみたいと思います。ただし、これらの要件は、対外的に示すものではなく、あくまで自社がそのような観点から「関係をもつべきでない」反社会的勢力を見極める、あるいはその可能性を探るための「内部的な要件」であるという点に注意が必要です。さらに、本来は、業種・業態、反社会的勢力リスク(反社リスク)に晒される度合い等によって微妙に異なるため、企業が自ら個別・具体的に検討していく必要があると言えます。
暴力団融資で問題となった某メガバンクのデータベースには100万件におよぶ「不芳属性先」が登録されていると言われています。それは、同行が「関係を持つべきでない」と判断しているもので構成されており、「暴力団情報」や「(通常の意味での)反社会的勢力」を含み、それにとどまらない広範囲の情報が含まれているとされています。反社会的勢力を捉えるにあたっては、「対外的な定義」と「社内の運用上の定義」は異なってよく、実効性あるリスク管理のために、内部的な要件を駆使して「社内の運用上の定義」を広く取るべきとする考え方からすれば、同行の反社チェックのあり方、データベースのあり方は本質的に正しく、一般の事業会社においても、「内部的な要件」をある程度社内で明確にして共有することによって、独自の「不芳属性先」情報の収集・蓄積が可能となり、自社独自のデータベースの整備・拡充に寄与することになります。
1) コンプライアンス要件
反社会的勢力の定義における内部的な要件として、まずは、「継続して、あるいは反復して法令に違反し、またはそのおそれのあるもの」を定めることが考えられます。
一般的に、「コンプラインス【注】」を軽視する企業は、反社会的勢力の侵入に対しても脆弱性を有することが多く、(リスクセンスや規範意識の欠如から)知らず知らずのうちに、あるいは「資金繰りの関係上やむを得ない」「紹介されたので断れない」といった判断(コンプライアンスの軽視)から反社会的勢力の侵入を招き、最終的には、取引を通じた利益供与、企業乗っ取り、資金や資産の社外への流出、犯罪収益の移転などに悪用されるといった事態を招いてしまうことがあります。その意味では、コンプライアンス上懸念のある企業と反社会的勢力との親和性・相関関係は高いと認識すべきであり、その関係については、自社のコンプライアンスに照らして慎重に判断すべきだと言えます。
【注】
本コラムでは、コンプライアンスを「法律や各種法令だけでなく、倫理・道徳・職業モラル、社内規定等に遵うこと」と捉えています。さらに言えば、現在では、このような受動的な姿勢にとどまらず、「社会の要請をふまえ、その要請に適った対応をする」といったリスク管理とも一体化した能動的かつ柔軟で俊敏なあり方もコンプラインス経営にとって重要な視点だと言えるでしょう。
さて、反社会的勢力の見極めと取引可否の判断については、本来、「属性要件」「行為要件」を確認したうえで、その他の懸念事項などとあわせ総合的に行われるものですが、広義の行為要件とも言える「コンプライアンス要件」として、「粉飾決算、有価証券報告書虚偽記載、インサイダー取引、脱税(過少申告、申告漏れ等)、談合、カルテル等の経済犯罪事案、その他コンプライアンス違反事案」をどのように取扱うかについて、あらかじめ検討しておく必要があります。
一般的には、反社会的勢力の捉え方として「関係をもつべきでない」との判断基準を適用するにしても、これらのコンプライアンス違反の事実のみでただちに反社会的勢力と内部的に判断するわけではないと考えられます。偶発的な傷害事件の加害者や交通事故の加害者となってしまった場合なども含め、「継続・反復」とすることによって安易な判断を回避することも重要です。また、「そのおそれのあるもの」とすることで、一回性や反復性に囚われることなく、自社として「関係をもってよいのか」という判断が含まれることになります。
したがって、本要件への該当は、健全性や透明性に対して何らかの懸念が存在し、「関係を持つべきではない」と判断される可能性がある状態と位置付けられます。そして、反社会的勢力との関係可能性についても、(例えば、確証はないが一部風評が見られるなどの状況も)念頭に置きつつ、実際の取引可否の判断においては、相手方の現状をあらためて確認し、その時点の社会の目線を適切に見定めながら、「関係を持ってよいのか」「自社のレピュテーションに影響はないか」といった観点から、個別に判断していくことになります。
なお、契約上の解約事由の検討の際には、暴排条項の限界をふまえ、「コンプライアンス要件」を何らかの形で解約条項等に盛り込んでおくことも検討しておくべきだと言えます。
2) ビジネスモデル要件
① 疑わしい取引
また、「関係を持つべきではない」との観点から、「疑わしい取引」について、内部的な要件とすることも有効です。
「疑わしい取引」を、アンチ・マネー・ローンダリング(AML)上の要請と限定的に捉えるのではなく、例えば、ビジネスとして疑わしい相手や取引内容、取引条件から逸脱した取引、社会通念上、正当性・合理性が疑われる取引等が行われ、またはそのような取引が行われる可能性を認知した場合については、疑わしい取引を解消し、そのような取引を行う当事者(社)を排除する姿勢を明確にするということです。
一般的に、経済合理性を曲げてまで取引しようとすることは、相手方が、自分たちでは気付かない部分に「旨み」を感じている可能性があり、自社の商品やサービス、提供スキーム等が詐欺等の組織的犯罪に悪用されることも想定する必要があります。そして、そのような犯罪の背後に、反社会的勢力の関与を疑うことはある程度合理的だと言えるでしょう。参考までに、以下に、そのような観点から「疑わしい取引」を反社会的勢力の定義(内部的な要件)に加えた例を2つ紹介しておきたいと思います。
1. ネット決済代行会社の例
- 当社との取引において、意図的な未払いを行い、またはそのおそれがあると認められるもの
- 当社との取引において、実在性に疑いがある、あるいは事実と異なる情報による取引を行っていると認められるもの
- 当社との取引において、取引合理性に欠けると認められるもの
- 当社との取引において、悪意を持って情報を改ざん、または悪用していると認められるもの
2. メーカーの例
- 当社との取引において、以下に該当する取引を継続して、あるいは反復して行っていることが認められた場合
- 架空名義による取引や借名での取引
- 実態のない法人を介した取引
- 合理性に欠ける取引
また、警察庁の犯罪収益移転防止対策室(JAFIC)では、特定事業者ごとに「疑わしい取引」の参考事例を公表しており、実務上大変参考になります。以下に、そのうちのクレジットカード事業者について紹介いたしますが、クレジットカード事業者でなくても、以下のような取引形態や取引状況は「普通ではない」「疑わしい」と感じられるものであり、それらを具体的に明文化することによって、役職員の間で一定の共通認識(イメージ)が得られる点に着目して活用いただきたいと思います。
▼ 警察庁・犯罪収益移転防止対策室(JAFIC)「疑わしい取引の参考事例」
- 短期間のうちに複数枚のクレジットカードの発行を求める、あるいは頻繁な紛失による再発行の依頼がある顧客との取引
- 顧客の収入、資産等に見合わないと思われる利用限度額の引き上げを依頼する顧客との取引
- 架空名義又は借名で締結したとの疑いが生じた契約
- 顧客である法人の実態がないとの疑いが生じた契約
- 合理的な理由もなく、住所と異なる連絡先にクレジットカード等の送付を希望する顧客又は取引に関する通知等を不要とする顧客に係る取引
- 短期間のうちに多額の支払いを行い、利用限度額まで使い切る顧客に係る取引
- クレジットカードにより、多額のギフトカード、商品券等の現金代替物を頻繁に購入する顧客に係る取引
- 頻繁に代金引落し口座を変更する顧客に係る取引
- 契約名義人と異なる者がクレジットカードを使用している疑いが生じた場合
- 顧客が自己のためにクレジットカードの交付を受け、若しくは、使用しているか否かにつき疑いがあるため、真の受益者の確認を求めたにもかかわらず、その説明や資料提出を拒む顧客に係る取引。代理人によって行われる取引であって、本 人以外の者が利益を受けている疑いが生じた場合も同様とする
- 法人である顧客の実質的支配者その他の真の受益者が犯罪収益に関係している可能性がある取引。例えば、実質的支配者である法人の実態がないとの疑いが生じた場合
- 取引の秘密を不自然に強調する取引、届出を行わないように依頼、強要、買収等 を図った顧客に係る取引
- 暴力団員、暴力団関係者等に係る取引
- 職員の知識、経験等から見て、不自然な態様の取引又は不自然な態度、動向等が 認められる契約者に係る取引
- 取引時確認において確認した取引を行う目的、職業又は事業の内容等に照らし、不自然な態様・頻度で行われる取引
- 犯罪収益移転防止管理官その他の公的機関など外部から、犯罪収益に関与している可能性があるとして照会や通報があった取引
- 反市場勢力等
IPO(新規上場)市場が再び活性化していますが、IPOのみならず上場企業における「反市場勢力リスク」にも十分な注意が必要です。また、上場企業と取引を行う非上場企業にとっても、反社リスクだけでなく、信用リスクやレピュテーション・リスクなど広く影響が及ぶ可能性があり、全ての事業者に関係するリスクであるとの認識が必要です。その意味では、単に「上場企業だから」と反社チェックや与信チェックを実施しないことは誤りでもあります。
さて、反市場勢力に明確な定義はなく、それだけでただちに反社会的勢力であるとは言えませんが、彼らが投資・運用する資金の出所(金主)が誰かを突き詰めていけば暴力団や反社会的勢力に辿りつくことが現実には多く、その関係が明らかであれば、暴力団等の活動を助長する存在、すなわち「共生者」と位置づけられることになり、反社会的勢力とみなして関係を遮断すべきであることは明らかです。
また、証券市場において、反市場勢力が一般投資家の犠牲のうえに、自らおよびその関係者の利益のみを追求することはあってはならず、とりわけ上場企業あるいはIPO企業であれば、市場の健全性、自社の健全性の観点から、いわゆる反市場勢力やその関連銘柄(仕手筋銘柄とも言われる企業など)との恒常的な取引は好ましくないし、健全な取引市場の秩序を破壊することにもつながりかねません。この点は、前述した「コンプライアンス要件」と共通すると言えます。
したがって、反市場勢力の排除についても強い企業姿勢を社内外に示していくべきであり、内部的な要件に止まらず、(行動規範や契約書など)広く対外的に公表していくことも検討すべきだと言えます。
なお、内部的な要件として具体的に明文化するとすれば、「金融・不動産市場の秩序を乱して、市場参加者に不測の損害を与え、またはそのおそれのあるもの」といった形がひとつ考えられます。
また、反社会的勢力の捉え方としては、暴力団等を背景とした、いわゆる仕手筋や事件屋、広い意味での反市場勢力、あるいは、悪質な「地上げ」や「土地転がし」、不正な株価操作、不動産ファンドに係る証券を利用して不適切な資金獲得活動やマネー・ローンダリングを行う者などの排除も念頭に置くことも現実的であり、「金融市場や不動産市場等において社会公共の利益に反する取引等を行っているもの、又は行っていたことが明らかになったもの、今後行われるおそれがあるもの」といった定義の仕方も(具体的な例示も含めて)考えられるところです。
繰り返しとなりますが、反市場勢力の定義が明確でないことから、第三者による認定を待つのではなく、ネット上の風評などを大量保有報告書等の公的資料と照合するなどして事実を確認し、彼らが投資している他の企業に関する情報も収集しながら、自律的に厳しく判断していくことになると言えます(可能であれば、証券会社等の金融機関に相談することも考えられます)。
さらに、金融市場の秩序を乱す者としては、以下の金融庁「金融商品取引法上の課徴金制度の対象となる違反行為」の類型を参照に判断する、不動産市場については、国土交通省「不動産取引からの反社会的勢力の排除のあり方検討会とりまとめ」(平成21年3月)の趣旨をふまえ判断するとすることも一考です。
- 不公正取引(インサイダー取引、相場操縦(仮装・馴合売買、違法な安定操作取引等)、風説の流布又は偽計)
- 有価証券届出書等の不提出・虚偽記載等(発行開示義務違反)
- 有価証券報告書等の不提出・虚偽記載等(継続開示義務違反)
- 公開買付開始公告の不実施、公開買付届出書等の不提出・虚偽記載等
- 大量保有報告書等の不提出・虚偽記載等
- プロ向け市場等における特定証券等情報の不提供等、虚偽等及び発行者等情報の虚偽等
- 虚偽開示書類等の提出等を容易にすべき行為等
- 情報伝達・取引推奨行為
なお、反市場勢力の排除を対外的に表明する場合であっても、「反市場勢力=反社会的勢力」ではないことから、暴排条項の中にそれを含めることは現実には難しいと思われます。しかしながら、投資やファンドの出資、株式の引き受けに関する契約や証券約款など、とりわけ反市場勢力の排除が強く要請されている場面では、それを排除できる根拠条項を契約等に明記することが重要です。また、自社のレピュテーション・リスク管理上の要請から、自主的にそれらとの関係を持つべきでないとの企業姿勢を明確にしている場合もあり、契約内容にその旨盛り込むことは不自然ではないと言えます。
実務上、そのような場合は、反市場勢力の排除については、暴排条項ではなく、一般解約条項における解除事由のひとつとして盛り込むなどの手法が考えられ、具体的には、「金融市場や不動産市場等において社会公共の利益に反する取引等を行っているもの、又は行っていたことが明らかになったもの、又は今後行われるおそれがあると判断される場合」といった形で規定することが考えられます。
3) レピュテーション・リスク要件
反社リスクとして企業が注意すべき点に、レピュテーションの取扱いもあげられます。
とりわけ、ネット上に書き込まれた好ましくない風評(とりわけ反社会的勢力の関与を窺わせるもの)は、それが真実であるか否かを問わず、あるいは、既に過去のもので現在は全く関係のないものであったとしても、そのような当事者の意向には関係ないところで(無批判に)第三者に受け入れられてしまう可能性が高い点に大きな問題があります。そして、自らがその対象となって深刻なダメージを受ける場合もあれば、相手方の健全性の見極め等においてネガティブな情報を無批判に信じてしまうこともありえます。
反社チェック等を行う際に、過去の記事を検索したり、ネット上の風評を確認したりすることが一般的に行われている以上、いったんネット上に書き込まれた内容は、たとえ、現時点では問題がクリアになっていると自社が考えたり、主張(弁明)していたとしても、それらとは関係なく(検索した者に対して個別に説明・弁明できる機会も術もなく)、容易に風化せず、時系列を超えて問題視されてしまう点には特に注意が必要です(自社がその対象とならないよう十分注意する必要があるのはもちろんですが、相手をネット上の風評などうわべだけの理解で安易にレッテルを貼ってしまうことの危険性についての認識も必要です)。
また、反社会的勢力と関係が噂される企業について、自社としては当該企業について十分調査した結果、「現時点で問題ない」と判断したとしても、自社とその企業との関係が資本提携や業務提携といった強固なものであればあるほど、「一体(一蓮托生)」として見られ、当該企業のレピュテーションの影響を自社まで受けてしまう可能性が高まり、自社の調査結果をふまえた判断だけでは十分ではなく、「自社(やその相手方)が客観的にどのように見られるか」というレピュテーション・リスクにまで念頭に置いた経営的な判断を行う必要があります。
その際、実務的には、ネット上の風評に限らず、取引現場で担当者が耳にする風評や、その他健全性等に照らし不適切と思われる情報等を積極的に収集・分析して、「自社のレピュテーションに悪影響を与えるおそれがあると判断したもの」については関係を持たない姿勢を明確にすることが合理的であると考えられます。
したがって、内部的な要件として、「当社のレピュテーションに悪影響を与えるような、社会的に好ましくない風評があると認められるもの」と定めることが考えられます。
2.最近のトピックス
1) AML(アンチ・マネー・ローンダリング)/CTF(テロ資金供与対策)
① 米財務省による弘道会に対する金融制裁
米財務省は、指定暴力団山口組弘道会と同会の竹内照明会長を金融制裁の対象に指定しました。ご存知のとおり、2011年7月にオバマ大統領が、日本の暴力団を、国境を越えた犯罪行為で利益をあげる「国際犯罪組織」と認定しており、金融制裁の対象となれば、在米資産が凍結され、米国人とのあらゆる経済取引が禁止されることになります。日本の暴力団が本制裁対象になるのは指定暴力団の山口組、住吉会、稲川会、工藤会(2014年7月指定)に続き5団体目(2次団体の指定は初めて)となります。
▼ U.S.DEPARTMENT OF THE TREASURY; Specially Designated Nationals List (SDN)
② ドローンとテロ対策
首相官邸の屋上で小型無人飛行機(ドローン)が発見された事件を受けて、政府は、当面の警備態勢を強化する一方で、議員立法による法規制を急いでいます。報道によれば、「立法および行政の中枢機能を維持すること」を規制の目的に掲げ、施設管理者の同意がある場合以外は、対象施設や敷地の上空の飛行を禁止することや、違反した場合は飛行させている者に警察官が「排除命令」を行い、従わない場合や緊急時には、飛行を妨害したり、破壊したりする「即時強制」の規定などが盛り込まれるとのことです。さらに、購入時の登録の義務化なども導入される見通しです。
日本は、来年のサミットや2020年オリンピックの東京開催を控えており、「立法および行政の中枢機能」に限らず、原発をはじめとする重要施設に対する新たなテロへの備えが急務であり、政府の対応も当然のことと言えます。
一方で、そもそも、ドローンは軍事目的で開発され、国際的にもテロ対策や軍事作戦に利用されてきた経緯があります。日本でも警視庁や長野県警等が捜査活動やテロ、災害対策等のために既に導入済みであり、直近における米ホワイトハウスへの無人機の落下事故など国内外で発生した事故事例も多数ある中、今回のような悪用リスク、テロリスクは既に織り込み済みだったはずです。
法整備が現実のリスクに追いついていないのはいつものこととはいえ、巨大なリスクにつながる危険の存在を認識できなかった(首相官邸の上空を飛ばされると想定できなかった)「鈍感」さなのか、そのリスクを知りながら何ら対策を講じてこなかった「不作為」や「不作為の放置」があったのか、喫緊の課題と認識できない「甘さ」や「判断の誤り」があったのか、あるいは、他に何らかの理由があった「作為」的なものなのか分かりませんが、対応にスピード感が欠けている点は極めて残念であり、個人的には「何を今さら」といった感が強いのも事実です。
既に、ドローンは商用への展開(Amazon社の配達用の試みは米では規制当局との関係でなかなか実現していませんが、スイスの郵政公社などが検討しているとのことです)や災害支援活動等への活用が見込まれるほか、他ならぬ日本のテロ対策としても、ドローンを使ったデータ収集と「顔認証」技術を組み合わせ、群衆からテロリストを早期発見するシステムの構築を目指すと報道されるなど、その有効活用は新しい可能性に満ちています。
利便性と危険性の厳しい緊張関係は、サイバーテロ等の対策とも通ずるところがあり、これら新しい技術とそれに伴う新しいリスクに共通の難しい課題となっています。技術的には、既に、ステルスタイプや鳥型・昆虫型、監視目的や迎撃用など最先端技術を駆使した開発が急ピッチで進んでおり、今後検討・導入される法整備や対応策は、公表された時点で既に陳腐化・無力化してしまっていることも危惧されます。だからこそ、そのリスクに関する知見を常に最新のもとしつつ、リスクセンスを最大限に発揮して手を尽くしている姿勢を示すことが求められています。「何を今さら」ではなく、「既に想定して最新の対策を講じているが・・・」という説明責任を果たすことこそ、利便性と危険性の厳しい緊張関係への対処方法として適切なのではないでしょうか。
2) 特殊詐欺の状況
今年1~3月の特殊詐欺の状況が公表されています。
▼ 警察庁「平成27年3月の特殊詐欺認知・検挙状況等について」
本データによれば、特殊詐欺全体の認知件数は3,565件(前年同期 2,918件・122.2%)、被害総額は110億8,200万円(同129億3,700万円・85.7%)と依然として高止まりの傾向が続いています。
また、特殊詐欺のうち、「振り込め詐欺」の認知件数は3,269件(同2,245件・145.6%)、被害総額は89億6,800万円(同68億2,600万円・131.3%)と、過去最悪を記録した昨年より状況が悪化しています。さらに、振り込め詐欺のうち「オレオレ詐欺」の認知件数は1,437件(同1,257件・114.3%)、被害総額は40億7,100万円(同36億6,300万円・111.1%)、「架空請求詐欺」の認知件数は1.045件(同478件・218.6%)、被害総額は40億1,900万円(同25億7,000万円・156.4%)と困難な状況が続きます。
また、この数字以上に深刻と思われるのが、組織の壊滅まで簡単には踏み込めない実態です。詐欺組織の中にはあらかじめ逮捕時の対応や事前の備え(携帯電話を水没させる、水溶性のメモ用紙の利用などの証拠隠滅対応や、ドアのカギの強化など)を徹底するなどしているといい、例えば、「受け子」の場合、組織との直接的に面識のない形での分業体制等となっているため、詐欺行為の全体像と関与の認識を立証することが壁となり、逮捕された容疑者のおよそ3分の1が起訴されないとの実態も報道されています。
一方で、そのアジトの摘発に力を入れている警視庁では、報道によれば、この3カ月だけでも12件の摘発実績を挙げており、その検挙者に占める暴力団関係者の割合は半数を超え、暴力団が資金獲得のために特殊詐欺に手を染めている実態が浮き彫りとなっているとのことです。前回の本コラムで取り上げた、特殊詐欺の深刻化の背後に暴力団の思惑・動向が深く関わっている状況がデータからも徐々に明らかになってきていると言えます。
また、最近広がっている新たな手口としては、プリペイド式電子マネーをだまし取るものが挙げられます。この方法では、個人情報の入力や事前審査が不要で匿名性が高いこと、詐取した現金を振り込ませる口座が不要なことから、金融機関による口座凍結で詐取金を引き出せなくなることがない上、口座を手掛かりに捜査が及ぶのを避けるなど巧妙に工夫しています。
また、架空名義で不正に開設されたインターネット銀行口座のキャッシュカード37枚を買い取ったとして、男が犯罪収益移転防止法違反容疑で逮捕された事例もあり、うち12口座は特殊詐欺の振込先として使われていたといいます。手口としては目新しくはないのですが、準暴力団である「チャイニーズドラゴン」の関与が明らかになったほか、1口座6万円でキャッシュカードを購入しており、「口座の売買」という犯罪インフラが機能していることが分かります。
なお、新たな対策として、千葉県警が振り込め詐欺グループが高齢者宅などにかけてきた電話の音声をHPで公開しています。また、警視庁も同様に事例を公開しておりますので、あわせて参考にしていただきたいと思います。
▼ 警視庁「あなたは見破れますか?振り込め詐欺のテクニック」
3) 中華プロキシ問題
本問題については、既に「暴排トピックス2014年12月号」でも取り上げましたが、その後、押収したサーバーから、インターネット通販サイトなどの利用者計約506万人分のIDやパスワードが見つかったということです。このうち約6万人分は実際にIDやパスワードを入力して、通販サイトに接続した痕跡もあったとされています。また、この押収したサーバーの利用者は、中国の代理店を通じて集められており、「サイバー攻撃用」などと宣伝し、ネットで募集した利用者にサーバーをレンタルしていたことも判明しています。
犯罪を行うために仲間をネット上で大々的に募るという大胆さ、それに応じる利用者(共犯者)が相当数存在した事実を考えれば、組織的な犯罪とはいえ、その構成員同士には、相互の面識や強い連帯感といったものは全く不要であり、正に技術的・金銭的な利害関係だけで十分に「犯罪組織」として機能してしまう(それはつまり、前回の本コラムで考察した暴力団員数の減少傾向の背後にある「外注化スキーム」の進展とも符合します)恐怖を覚えます。
さて、本問題を取り上げた前回の本コラムでは、「日本の通信回線事業者においても、回線利用契約において犯罪利用などの禁止条項がなく、悪質業者でも接続環境が維持される状況にある」こと、「少なくとも犯罪インフラとして犯罪組織の活動を助長するような悪質な利用者を排除することが社会的に要請されている状況を鑑みれば、インフラ事業者においても、事業の健全性が企業の社会的責任(CSR)の中に位置付けられている以上、何らかの自主規制、事前チェックやモニタリングの仕組み等の導入といった取組みも求められる」べきではないかとの問題意識を提起しました。
それに対し、今般、警視庁は、NTT東日本と同西日本に対し、ユーザーのパソコンの代わりにインターネットに接続するプロキシサーバーがサイバー犯罪に悪用された場合、サーバー運営業者との回線契約を解除するよう要請しています。契約約款に不正アクセスなどの禁止行為を明示するといった対応によって、不正や犯罪に加担する悪質業者を締め出そうとするもので、今後これらの取組みが実効性を持って進展すること(つまり、確実に排除すること)、犯罪被害の拡大を防止する一助となることを期待したいと思います。
4) ビットコイン問題
インターネット上の仮想通貨「ビットコイン」については、本コラムでもその利便性と危険性の緊張関係についてたびたび取り上げてきました。
2014年2月のマウントゴックス社の破たんでその安全性が懸念されているビッドコインですが、世界的にはその利便性から存在感をいよいよ増しています。例えば、アジアではほぼすべての国が、このビットコインに代表される仮想通貨を「通貨」と認めていませんが、保有や利用まで禁止しているわけではなく、最近では、外国人労働者向けの格安な海外送金サービスや、銀行代わりに使える預金口座サービスなど、金融サービスの普及の遅れの隙間を埋める役割を果たしつつあります。
一方、その危険性は、「匿名性の高さ」によって犯罪を助長する点が代表的で、各国規制当局では、マネー・ローンダリングやテロ資金供与などに悪用されないための規制についての議論を始めています。日本においても、ビッドコインで買った麻薬を中国から密輸したとして、会社員が麻薬取締法違反容疑で逮捕されましたが、報道によれば、「送金手数料がかからず、匿名性が高いのでビットコインを使った」などと供述したとのことであり、正にビットコインの利便性と表裏一体の危険性が犯罪を招いたことを表しています。
ビットコインが犯罪に悪用された最大の事例としては、米国における闇サイト「シルクロード」の事件がありますが、これに関連して、米国の規制当局である米麻薬取締局の特別捜査官が、同サイトのおとり捜査に絡み、闇サイト運営者を脅すなどして不正にビットコインを得たり、複数の取引所運営者に不正な工作などを持ちかけ、協力しないと公式に調査するなどの報復にも及んでいたとして起訴されています。内部不正との噂が絶えないマウントゴックス社の大量のビットコイン消失事件との関連も取り沙汰されているなど、今後の捜査が注目されます。
5) 危険ドラッグ対策
東京都がビルやマンションなどの建物を、危険ドラッグの製造、販売や特殊詐欺の拠点に使うことを禁じる都安全・安心まちづくり条例の改正案を発表しています(現在、パブコメ募集中です)。
▼ 東京都「「東京都安全・安心まちづくり条例」の改正に関する意見募集について」
▼ 「東京都安全・安心まちづくり条例」の改正について(案)」」
具体的には、危険ドラッグについては、以下のような内容が盛り込まれています。
- 事業者は、事業の実施の際に、危険薬物の販売等を助長すること又は危険薬物の販売等に利用されることがないよう留意し、適切な措置を実施(事業者の努力義務)
- 建物提供者は、建物を提供する際、次の措置を講ずる(建物提供者の努力義務
- 契約の際、その相手方に危険薬物の販売等の用に供しない旨を約させること
- 契約において、業として危険薬物の販売等の用に供された場合は契約を解除する旨を定めること
- 建物提供者は、自己の提供する建物が指定薬物等の販売等の用に供されていることを知った場合で、解除条項を規定しているときは、契約を解除し建物の明渡しを申入れ(建物提供者の努力義務)
さらに、この改正案においては、危険ドラッグだけでなく、「事業者は、商品等の流通や役務の提供に際し、特殊詐欺等の手段に利用されないよう、適切な措置を講ずる(事業者の努力義務)」などとして、特殊詐欺に対しても同様の努力義務を課す内容となっている点が注目されます。
暴排条例同様、たとえ努力義務だとしても、自治体がこのように組織犯罪に厳しく対峙する明確な姿勢を示したことで、コンプライアンス経営を推進すべき事業者は、その意味を重く受け止め、自らの業務や商品、提供スキーム等が悪用されることのないよう、また、役職員がプライベートにおいても関与することがないよう、取り組んでいくことが求められます。
さらに、このような取組みは、東京都に限らず、他の自治体と歩調をあわせ包囲網を形成することが極めて有効であることは、暴排条例や危険ドラッグの規制強化の過程で実証済みであり、速やかな実現が望まれます。
さて、東京都は、その他にも危険ドラッグの規制に「ビッグデータ」を活用するなど新しい手法を導入しており注目されます。民間事業会社に個人のブログやツイッターなどのモニタリングを委託し、頻繁に登場する危険ドラッグらしき商品名を抽出して報告してもらうことで、迅速な規制につなげようとするものです。化学構造の一部変更などで規制逃れをする業者側とのいたちごっこは続きますが、リアル店舗からネット空間に逃げ込んだ相手の販売手法にリンクした有効な取組みと評価できると思います。
なお、危険ドラッグのネット販売に対する規制の成果として、最近、サイトに危険ドラッグの広告を掲載したとして、危険ドラッグ販売店の元経営者とウェブ制作会社社長が医薬品医療機器等法(旧薬事法)違反容疑で逮捕されましたが、危険ドラッグの通販サイトの制作業者を同法違反で摘発したのは全国初だということです。このように助長犯罪についても厳しい対応を徹底していくことが危険ドラッグ対策には有効だと思われます。
6) その他
① 反社会的勢力との関係
日本オリンピック委員会(JOC)副会長について、一部の海外メディアが反社会的勢力との関わりについて報じていたことが明らかになりました。これに対し、同氏は「事実無根」と否定していますが、JOCでは、弁護士を交えて調査を実施し、文部科学省に報告するとしています。
ここ数年だけでも、日本相撲協会や日本プロゴルフ協会、某プロレス団体など、スポーツ界と反社会的勢力との不適切な関係が表面化し、そのたびに問題となってきました。(今回、事実関係が明確となっていない以上軽々には言えませんが)組織としても個人としても、その地位にふさわしいあり方、「ノブレス・オブリージュ」の意味をあらためて認識してもらいたいものです。
また、セントレックスに上場する企業が、名古屋証券取引所(名証)から上場廃止のおそれがあるとして監理銘柄(審査中)に指定されている件も注目されます。同社が、第三者割当増資に絡み、割当予定先について、「反社会的勢力等や違法行為に関わりを示す情報に該当がないと公表していたものを、実際には、当時、当該信用調査会社からは関わりを示す情報が記載された調査結果を受領しており、これに係る当取引所の照会に対してこの事実を報告していなかったこと」等がその理由と説明されています。
ここでは、当該対象が「シロ」「クロ」、「グレー」の何れなのかには言及しませんが、「シロ」でないとの調査報告を受領している以上、その事実を隠ぺいするなど上場企業としての開示姿勢に明らかに問題があり、重大な事実に関する説明責任を果たしていないと言えます。極めて興味深い事例であり、今後の名証の対応に注目したいと思います。
なお、冒頭の「内部的な要件」から当該企業を捉えた場合、「コンプライアンス要件」「ビジネスモデル要件(反市場勢力リスク)」に懸念があるとして、関係を持つことについては慎重な判断が求められることになると思われます。また、単に「上場企業だから」との理由で反社チェック等を実施しないことが誤りであることもご理解いただけるものと思います。
一方、一昨年のメガバンクによる暴力団融資問題のインパクトが冷めやらぬ中、福岡県内の地場金融機関が2001年7月から2015年3月まで、指定暴力団工藤会系の組長(故人)が所有していたビルなどに極度額2400万円の根抵当権を設定し、融資をしていたと報じられています。金融庁は当該金融機関に対し、暴力団関係者と取引をしないことや既存の取引の解消を求めているとのことですが、当社でも既に当該事実については確認し金融機関についても特定しています。地場金融機関だから許されるわけでも当然なく、とりわけ、直近まで取引があったことが極めて残念ですが、既存先にかかる健全性のチェック(適切な事後検証)の重要性と実効性ある内部統制システムの整備、判明してから排除に至るまでの経緯の透明性・適正性が求められる事例でもあり、金融機関だけでなく一般の事業会社においても、他山の石として自社の業務の見直しや関係先の健全性の確認作業等を進めていただきたいと思います。
② 新たな捜査手法や捜査の限界など
東京都の危険ドラッグ対策にビッグデータが活用されていることは既にご紹介しましたが、警視庁では、防犯カメラに映った容疑者の画像をサイトやツイッター、街頭の大型ビジョンなどで公開して情報提供を呼びかける「公開捜査」を積極的に展開、大きな成果を挙げているということであり、新たなメディアの活用方法としても注目されます。
一方で、防犯カメラがとらえた「万引き容疑者」の顔データをスーパーや書店などで共有することをNPO法人「全国万引犯罪防止機構」が検討中であることについて、高度な機微情報(要配慮個人情報)であることから問題視する意見や、テロ対策等の観点から明確なルール作りを求める意見など、議論が起きているとの報道がありました。
この争点については、古物商「まんだらけ」が防犯カメラの顔写真を公開すると警告したことでも話題となりました(最終的には、警察から捜査上の要請があり取り下げています)。万引きは企業の収益・存続に直結する深刻な問題であり、防犯カメラについては、テロ対策や高齢者・認知症の方の徘徊等への対応に果たす役割が、今後確実に増していく中、その映像の取扱いについては避けては通れない争点となります。現行の法規制(改正個人情報保護法の内容を含む)や判例からは、NPO法人の主張にはそのままでは無理があるように思われますが、一定のルールの作成や国民的な合意を得ていくことが急務ではないかと思われます。
また、前述した闇サイト「シルクロード」の摘発には、「おとり捜査」が導入されましたが、取り締まる側の不祥事も発覚する事態になりました。米FBIの「おとり捜査」についてはテロ対策にも導入されていますが、テロ計画を一緒に準備したり手伝ったりするなど「行き過ぎ」との批判も出ています。日本では今のところ米国流の「おとり捜査」を積極的に行うような事態にはなっていませんが、犯罪の高度化や事態の重要性などから、そのような手法が要請される場面も想定しつつ、(徒に拒否反応を示すのではなく)議論を深めていくことが必要だと思われます。
さらに、米のFBI捜査において、1970年代から90年代にかけて刑事裁判で証拠とされた毛髪鑑定結果の95%に不備があり、裁判の見直しも必要な事態となっているとの報道もありました。日本でもDNA鑑定を巡る問題から再審となった事例や再審を争う事例もあるなど、科学的な捜査に潜む「科学万能思考」や「思考停止」の怖さをあらためて痛感します。
③ 祭礼からの暴排
博多祇園山笠からの暴排を徹底するため、20歳以上の参加者名簿を福岡県警に提出することについて、博多祇園山笠振興会は、各流(ながれ)の判断に委ねると決定したということです。各流は暴力団の参加を禁止する規約をそれぞれ作成しているとはいえ、自主性に委ねた結論には(疑われる余地を残すという意味で)やや物足りなさを感じます。
さて、この「祭礼からの暴排」の観点については、残念ながら福岡県暴排条例に該当既定はありません。一方、東京都暴排条例には、第17条(祭礼等における措置)に「祭礼、花火大会、興行その他の公共の場所に不特定又は多数の者が特定の目的のために一時的に集合する行事の主催者又はその運営に携わる者は、当該行事により暴力団の活動を助長し、又は暴力団の運営に資することとならないよう、当該行事の運営に暴力団又は暴力団員を関与させないなど、必要な措置を講ずるよう努めるものとする」との規定があります。
ただ、暴排条例上の規定の有無が問題なのではなく、暴力団等が関与する可能性が高いとされる興行やイベント等については、その反社リスクの高さに応じて、とりわけ自らを厳しく律していくことが求められていると言えます。
3.最近の暴排条例による勧告事例・暴対法に基づく中止命令ほか
1. 暴力団対策法に基づく中止命令(栃木県)
栃木県警は、暴力団に加入することを拒否し、呼び出しに応じなかったことで「事務所に来い」などと告げ、暴力団に加入することを強要した疑いで、暴力団対策法に基づき、指定暴力団稲川会系組員に中止命令を出しています。
2. 暴力団対策法に基づく中止命令(福岡県)
福岡県警は、組事務所周辺で、車を運転していた同市内に住む男性に対し、車の騒音に絡み「夜中とかにうるさかったら、どうなっても知らんぞ」と言い、不安を覚えさせる行為をした疑いで、指定暴力団系の組員に対し、暴力団対策法第29条第2号(粗暴または乱暴な言動などの禁止)に基づく中止命令を出しています。
3. 暴排条例に基づく勧告(大阪府)
指定暴力団山口組系組長に用心棒の見返りに利益供与した(車の貸与)として、大阪府公安委員会は、大阪府内で建設会社を経営する男性に対し、大阪府暴排条例に基づく勧告をしています。
4. 自治体による企業名公表(福岡県北九州市)
「役員等又は使用人が、暴力的組織又は構成員等と密接な交際を有し、又は社会的に非難される関係を有している」として、北九州市に所在する2社について、北九州市が4月16日付けで社名を公表しています。また、同一企業について、同日付けで福岡市も、4月24日付けで福岡県も公表措置(公共事業からの排除措置)を行っています。