暴排トピックス
取締役副社長 首席研究員 芳賀恒人
もくじ
1) 最近の統計資料から
2) 六代目山口組の分裂など
3) 福岡県暴力団排除条例の改正および離脱者支援対策の動向
4) テロリスク
5) スポーツと反社リスク
6) 特殊詐欺を巡る動向
7) ビットコイン(仮想通貨)を巡る動向
8) 忘れられる権利の動向
・名簿業者
・医師
・タックスヘイブン(租税回避地)
9) その他のトピックス
・銀行による講座凍結
・落札段階からの暴力団排除
・暴力団としてのデータ登録に関する人権救済申立事件(要望)
3.最近の暴排条例による勧告事例・暴対法に基づく中止命令ほか
・岡山県の勧告事例
・福岡県暴排条例に基づく再発防止命令の事例
・暴力団対策法に基づく称揚行為を禁じる仮命令の事例
・暴力団事務所の使用禁止申し立て事例(茨城県)
1.OFS第三者委員会報告書
王将フードサービス(OFS)の大東隆行前社長が2013年12月に射殺された事件に関連し、同社は、暴力団などとの関係の有無を調べていた「コーポレートガバナンスの評価・検証のための第三者委員会」(OFS第三者委員会)による調査報告書(本報告書)を発表しています。また、報告書の中で指摘されていた問題点や提言等をふまえた、直近の取組み状況・改善状況についても、先日発表しています。
▼第三者委員会からの調査報告書受領に関するお知らせ(平成28年3月29日)
▼第三者委員会 調査報告書提言に対する取り組みについて(平成28年4月8日)
本報告書によれば、射殺事件の背景事情を推測させるものとして、平成5年から平成18年にかけ、土地建物などの購入をめぐり特定の人物(A氏)が関与する企業グループ(Bグループ)と「経済合理性の明らかでない」貸し付けや不動産取引などの不適切取引を繰り返し、合計で約200億円余りを流出させたこと、さらに、現時点でも約170億円が未回収になっていること、さらに、過去の不適切な取引の実態を社内報告書としてまとめていたが公表してこなかったことなどを明らかにしています。また、OFS現経営陣や取引先等と反社会勢力との関係の有無に関する調査を行い、現時点での関係は確認されなかったこともあわせて公表されています。
射殺事件との関係は別として、同社のこれらの一連の不適切取引や不適切な対応を重ねた背景要因として、本報告書では、「偉大な創業者一族に対する遠慮や、仮に意見を言っても無駄という企業風土があったと言わざるを得」ないと厳しく批判、その結果、「独断専行ないし密室経営」「創業家との関係」「A氏との関係」の3つのリスク要因が組み合わさることで、「コーポレートガバナンス機能不全」が引き起こされたこと、「反社会的勢力排除体制」にも問題が散見されること、などを指摘しています。
なお、問題とされるA氏との関係については、報告書公表時点では、A氏が関与するBグループと継続している電話設備の保守委託契約が存在していましたが、3月30日付けのリリースにおいて、当該契約を解除したと発表しています(同日付け「電子交換電話設備の保守委託契約の解除について」参照)。あわせて、「今後は、同調査報告書に記載されたA氏及びBグループの会社とは一切取引をいたしませんことを確約いたします。」との発表(表明確約)もなされています。
本コラムでは、知り得る情報が限定的であることなどから、前社長射殺事件やA氏の属性等に関する直接的な論考やコメントは差し控えさせていただきますが、本報告書において指摘されている「反社会的勢力排除体制」の脆弱性を中心とする指摘部分については、一般の事業者としても同様の問題を多かれ少なかれ抱えているものと推測され、実務上も参考となることも多いと思われますので、本報告書の記載を紐解きながら、以下に論じていきたいと思います。
1) コーポレードガバナンスの機能不全
不適切取引等を許したOFS関係者の不作為=コーポレートガバナンスの機能不全の状況について、本報告書は、「経済合理性の明らかでない多額の貸付や不動産取引等についても、契約書自体が存在しない取引があるほか、取締役会の承認がなく、あるいは事後承認で実行されているものも認められる。取締役会の承認がある場合でも、議事録に説明資料が添付されておらず、また、これらの取引の妥当性について議論された記録もない」といった形でその実態を明らかにしています。
このようなコーポレートガバナンスの機能不全・内部統制システムの形骸化の状況については、筆者が過去実施した別の会社に対する第三者調査(社長と反社会的勢力との関係が疑われた事例)においても、同様の実態が見られました。具体的には、OFSのケースに類似したものに加え、「1億円の至急の現金払いが社長・副社長・経理部長の承認のみで即日実行されている」「経済合理性のない取引の稟議決裁が逆順位で行われている」「取引先の選定が社長の指示のもと行われており、その選定理由に合理性がない(例えば、新設されたばかりの企業に重要な業務を委託、下請け業者に業務を丸投げして、高額な手数料をピンハネしているなど)」「社長の主導した取引における手数料水準が著しく高い、取引条件が特殊なものが多い」といった状況が認められたものです。
(本報告書におけるA氏や関連するBグループの「反社会的勢力認定」の是非については、ここでは触れませんが、)いわゆる不適切な取引先という意味での「反社会的勢力」への資金や資産の流出の一般的な手口としては、(1)「経済合理性のない」取引が、(2)「社内ルールを逸脱」して、(3)(その反社会的勢力の意を受けた)一部の関係者による「独断専行」により実行され、(4)関係者以外は誰も口を挟めないという「不作為」や「思考停止」に状況に陥っているといったものが多いと言えます。
裏を返せば、反社会的勢力はそのようなスキームに持ち込むために、(彼らにとってはリターンの大きさから見れば大した額でない)資金提供や第三者割当増資の引受を行って一時的に救済(延命)しながら、社内に「人」(社内の資金・資産を差配できるポストを要求)を送り込む、社内の関係者を取り込むなどしながら、これらの不適切な取引を主導させ、残っている健全な資産や資金を社外に流出させて、反社会的勢力に還流させるのです。
反社会的勢力排除の取組みは、「組織的対応」「内部統制システム」によって実行されるべきであることはもはや当たり前のことです。しかしながら、その内部統制システムの限界のひとつが、「経営トップによる無力化」であり、「コーポレートガバナンスの機能不全」が、正に、反社会的勢力排除の取組みを無力化する方向に「機能」してしまうことを十分認識する必要があります。その意味では、コーポレートガバナンス・コードなどとも関連する「経営監視態勢の有効性」が、反社会的勢力排除の取組みの実効性担保のひとつの指標となりうるのです。
2) 調査におけるリスクベース・アプローチ(層別管理)
本報告書においては、現時点における反社会的勢力との関係の有無についての調査を実施しており、「調査対象の範囲及び調査深度の決定にあたっては、リスク・アプローチの観点から、OFSと対象者との関係の濃淡、対象者のOFS業務に対する影響度、反社会的勢力との取引関係混在リスクの高低を考慮し、調査効率及び調査期間を加味した上で、決定することとした」といった形でリスクベース・アプローチが採用されています。
具体的には、取引先の業種や業態によって、「取引先全部を調査対象とし、代表者の兼任先も調査対象とする」ものや、「取引額上位10%強までと、それ以下から10%をサンプリングした取引先」として、1,639業者を340業者に絞り込むなどの手法を組み合わせています。絞り込みの基準は、あくまで当該事業者の置かれている状況によって異なるものですので、その妥当性・適切性については直接的にコメントできる立場にありませんが、第三社委員会によって客観的に合理的と認めたリスクベース・アプローチを採用した点については、他の事業者においても参考になるものと思われます。
なお、当社で推奨しているリスクベース・アプローチ(層別管理)については、その取組み、結果や判断が「社会的に説明責任を果たせるか」の観点から、具体的には、以下のような点に注意して整備、運用すべきと考えています。
(1) 設けた層別管理基準の理由が明確であること
例えば、仕入先の累計売上高が70%となる水準までを「最重要取引先」、同70~90%までを「重要取引先」、それ以外を「取引先」とするなど、客観的な指標を用いて区分別に調査内容を設定することなどもひとつの考え方と言えます。
(2) 層別管理基準の設定に際しては、売上・利益に与える影響度合いを十分に考慮するとともに、以下についてはより厳格な基準を課すこと
- 自社のビジネスモデルへの重要な関与先や重要な取引先、大株主など
- 関係の透明性を外部から問われる可能性のある先(顧問や相談役、アドバイザー、業務・資本提携先等)
(3) 仕組みの信頼性を確保するため、運用は例外のないようにすること
層別管理の仕組み自体が、自立的・自律的なリスク管理の結果であることから、その実効性・客観的な合理性・対外的な信用のためには、運用における「恣意性」の排除が最大のポイントとなります。
(4) (調査深度に濃淡があることから)反社会的勢力を予防的に100%排除するのは不可能との前提に立ち、「認知・判断・排除」のための仕組みを整備し、万一の際に速やかに的確に対応できるようにしておくこと
(5) リスクベース・アプローチによる具体的な層別管理基準の策定例
- 取引区分別に取引先を分類、取引額上位から並べる(本報告書で言えば、業種分類に着目して取引先を分類して調査範囲に違いを設けている点が参考になります)
- 上記リストについて、取引額上位から累計取引金額を算出し、その累計ウエイトを確認する
その際、例えば、以下を参考にして基準を設ける - 累計ウエイト上位70%程度
- 累計ウエイト上位90%程度
- 取引額上位10~20位(相応の累計ウエイトを占めることが多い)
- 取引金額1億円/5,000万円/1,000万円以上など(各社の決裁件基準に準じて検討することが望ましい)
- 取引金額100万円未満(調査対象外の基準もあわせて検討する)
- 管理の容易さもふまえ、1つの取引区分につき2~3層程度に区分することが望ましい
- 新規取引開始時・既存取引先の定期調査実施時・不定期調査実施時とでそれぞれ基準を検討する
- 取引金額が小さい場合や1回性の取引の取扱い、公的機関など明らかに調査が不要とみなせる場合などについては、調査対象外とするか、最低限の調査に止めることも検討できる
- 「ビジネスモデルへの重要な関与先」「関係の透明性を外部から問われる可能性のある先」は、金額にかかわらず厳格な基準を設ける
- 業務委託先は、外部(社会)からは自社と一体として見られることや反社会的勢力との接点を生じやすいこと等を考慮し、より厳格な基準を設定する(あわせて、再委託先等の管理のあり方も検討する)
3) 反社会的勢力の認定
本報告書は、「OFSと反社会的勢力との関係の存在は確認されなかった」と結論付けています。
ただし、そもそも本報告書における反社会的勢力の定義として、「OFSコンプライアンス規程(調査開始時)が定める『(1)暴力団、(2)暴力団員、(3)暴力団準構成員、(4)暴力団関係企業、(5)総会屋等、社会運動等を標榜するゴロまたは特殊知能暴力団等、(6)暴力的な要求行為、法的な責任を超えた不当な要求等の行為を行う者、(7)前各号に準ずる者』との定義には一定の合理性があるものと判断し,本報告書でもこれに従うこととした」とのスタンスが明示されています。
その結果、残念ながら、反社会的勢力の定義(範囲)としては、政府指針(平成19年6月の犯罪対策閣僚会議幹事会申合せ「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」)レベルにとどまっており、現時点における共生者等を含む概念からみれば限定的と言わざるを得ず、第三者委員会の結論には限界があると言わざるを得ません(もちろん、公表されることが前提の報告書であり、様々な制約の下、その認定には厳格さが要求されるものでもあり、その意味では精一杯のところであると理解しています)。
例えば、取引先調査の結果に関する第三者委員会の反社会的勢力の認定作業においては、「当該情報自体が反社会的勢力ないし反社会的勢力との関係に関する情報であると認めるに足りず」として、具体的に以下のようなケースが記載されています。
- 対象者が政治団体の会計責任者に就任していると認められるものの、当該政治団体が「政治運動標榜ゴロ」等の反社会的勢力に該当すると認めるに足りないもの
- 対象者は「大物フィクサー」であると報じる雑誌記事が認められるものの、反社会的勢力に該当すると認めるに足りないもの
一般的に政治活動標榜ゴロ等への該当の判断は確かに難しいと言えますが、(上記記述だけでは情報が不足しているので断定はできませんが)「関係をもつべきではない」との判断基準を有する反社会的勢力の捉え方(当社としては、「暴力団等と何らかの関係が疑われ、最終的には「関係を持つべきでない相手」として、企業が個別に見極め、排除していくべきもの」と捉えています)から見れば、あくまで「社内認定」においては「広い意味での反社会的勢力」として排除すべきものと整理することも可能ではないかと思われます(対外的な認定においては、本報告書の通り、一定の限界があります)。
これに関連して、OFSの反社会的勢力の定義に関する規程のあいまいさについても、本報告書では、以下のような指摘がなされています。
- 「以前に反社会的勢力に属していた、重大なコンプライアンス違反を犯した等が判明した場合にはその内容を報告する」ことを求めているが、かかる報告がされた取引先が、同条(コンプライアンス規程第19条)第3項の「部門長は、結果を踏まえ当該取引先との取引を行わない」との規定に従って取引禁止とされる『当該取引先』に含まれるのか否か」(あいまいになっている)
- 「反社会的勢力に該当している取引先も、取引先選定委員会の諮問を経れば,反社会的勢力に該当する相手先との取引が可能になる余地があると読める内容」(規程上の不備)
- 「反社会的勢力の定義については,コンプライアンス規程第15条に定められているが、特定個人情報等取扱規程が定める取引先選定の基準に関する文言についてのみ定義内容が異なっている」
つまりは、反社会的勢力の定義自体があいまいなうえ、取引可否判断とのリンクが明確化されていない点、グレー取引先の定義や取扱いが明確になっていない点に大きな問題が認められると言えると思います。この点については、(一般的な傾向でもあると思われますが、)反社会的勢力の定義を所与のもの(業界等のひな型に準じる)として受動的に定めているだけでは、「その定義に該当するか否か」にのみ関心が集中し、その結果、急激に変貌を遂げている反社会的勢力の実態との乖離が進み、反社会的勢力排除の取組みを形式的なもの、実効性のないものとしてしまう危険性があります。
反社会的勢力はあくまで排除すべきものという大前提のもと、(逆の言い方にはなりますが)あやしさが拭えず排除していくべきものと自社で認定したものが「反社会的勢力」なのです。そのような能動的な捉え方をしていないために、OFSが正にそう見えるように、「所与の定義に『完全一致』しないものは反社会的勢力ではないから取引してよい」と解釈する余地を生んでしまっているのではないでしょうか。「グレー認定」もまた同様で、そもそもは「社内認定上の、広い意味での反社会的勢力のうち、関係解消に踏み込む環境や状況が整っていないステイタスのもの」であり、「単にホワイトとは言い切れないから」という受動的・消極的なものだけではなく、その状況の変化を能動的に確認していくことが求められていることを忘れてはなりません。
このように、反社会的勢力の定義は、反社会的勢力排除・暴排の取組みの根幹であり出発点です。今一度、社内で認識を深めていただきたいと思います。
【注】OFSでは、第三者委員会の調査が進行中の平成28年1月29日に、「反社会的勢力との関係遮断に関する規程」化を行っています。そこでは、「反社会的勢力の定義がより詳細かつ広範になった」と本報告書の中でも紹介されていますが、この新たな定義については公表されていません。なお、新たな変更点としては他に、「取引先が反社会的勢力に該当した場合には契約を締結しない、既存取引先の場合は速やかに関係を解消する、店舗顧客である場合には原則として飲食を提供しない等の対応が明確化されたこと」「契約締結の際に導入を求める反社排除条項の内容について、その必要条件が明確化された」などがあるということです。
なお、OFSからの直近のリリース(4月8日付「第三者委員会 調査報告書提言に対する取り組みについて」)においては、前述の1月29日の規程化に伴う見直し以外に、グレー認定のあり方を見直したことが報告されています。参考になる点もあり、以下に紹介しておきます。
ただし、具体的な深堀り調査の詳細については、直近のリリースにおいて、「すべてを確認することが困難なほど多数の記事が検索に該当した場合は、外部の専門機関に依頼し、確認することを平成28年5月末を期限として検討して参ります」としか触れられていませんので、現時点における「実効性」という意味では留保付きとなります。)
記事検索の結果、反社会的勢力ないし反社会的勢力との関係に関する情報である可能性があり、生年情報の近似や地域的な共通点(同一県内・隣接県・同一経済圏などの条件をリスクベースで判断するものとする。)から、同情報と申請のあった取引先との同一性を否定しきれないと判断した場合には、更に、(1)当該情報自体が反社会的勢力ないし反社会的勢力との関係に関する情報であると認めるに足りるか否か、(2)当該情報と申請のあった取引先が同一であると認めるに足りるか否か、(3)当該情報自体が反社会的勢力ないし反社会的勢力との関係に関する情報であると認めるに足りるか否か、(4)当該情報と申請のあった取引先とが同一であると認めるに足りるか否か調査をすることといたしました。これらに該当しないと判断した場合は、新規の取引の実行を認めますが、当該取引先を「グレー先」として、継続的な監視を実施することとし、異変が察知された場合には、暴力団排除条項等に基づき速やかに契約解除等の対処をすることといたしました。
4) 反社チェックの課題
本報告書では、反社チェックの問題点として、「チェック漏れの存在」「調査手法の問題」「グレー取引先の取扱い」「ルールの周知不足」を指摘しています。
例えば、チェック対象の漏れの問題については、取引先管理(顧客管理)フローやシステムの問題(新規取引先登録のタイミングがバラバラ、全ての取引形態に対応できずシステムに登録されていない取引がある、取引金額や取引状況が速やかに把握できない、グレー先等のフラグ管理や個別管理ができない、支払いや契約書の管理などとの連携ができていない、など)と密接にリンクしています。与信管理をはじめとする取引先管理が既に適切に実施されていれば、反社チェック管理・グレー先管理など新たな管理プロセスが発生しても比較的対応がしやすいものと推測されますが、そもそも適切な顧客管理ができていなければ、十分な反社チェック態勢を整えることが難しいことは指摘しておきたいと思います。
また、反社チェック手法の問題点として、本報告書では、以下のような指摘がなされています。
- 調査対象の範囲(除外規定の合理性の問題)
- Web調査が実施されず(新聞・雑誌記事横断検索サービスのみの利用にとどまる)
- 検索キーワードが不十分(行為要件に関する記事を取得できる可能性が低い)
- 記事内容確認の絞り込みが不適当(全国紙に掲載された記事偏重)
- 担当者が固定化(業務の停滞・判断内容に偏り等)
これらの指摘事項については、一般の事業者においても実務上の課題としてあらためて見直す機会としていただきたいと思いますが、一部、本報告書の指摘内容の解説にはやや説得力に欠ける部分があります。
例えば、「データベース上で該当する情報が多いということはその分リスクが高い取引先であるといえる」との指摘は、逆にそうとは言い切れないケースも多いことから、より慎重な判断が必要だと言えるでしょう。
また、「WEB調査が実施されていない」こと自体を問題点とすることについては、「個別の事情による」ともう少し幅をもたせた考え方でも良いように思います。OFSのケースでは、記事検索の絞り込みが不十分であることからWEB検索と併用すべきであることに異論はありませんが、WEB調査を必須とする場面(例えば、IPO審査等ではそのような運用を要請しています)以外では、あくまでも各社のリスク管理における判断事項であり、リスクベース・アプローチの観点から反社DBによるチェックのみとするケースも考えられるところです。
グレー先の管理については前述した通り、OFSも、既に改善に向けて取組みを始めているということですが、「従業員にルールが周知されていない」点は大きな問題だと言えます。
本報告書が指摘する通り、「各事業の部門長や担当者に対し、自らに反社チェック申請を行う義務があること、その要否の一次的判断が任されていること、その他現場において収集すべき情報や取引先の継続監視の必要性」があることなどを周知せずして、現場から端緒情報を吸い上げることはできません(最も精度の高い反社チェックを支えるのは「役職員の高い暴排意識とリスクセンス」であることは、本コラムでこれまでも指摘してきた通りです)。ましてや、「総務が反社チェックをやっているから大丈夫だろう」との当事者意識を著しく欠くような状況では、やはり、現場からの端緒情報は期待できないのであり、規程等に「役職員の義務」として盛り込んだり、定期的に研修を実施するとともに、現場に反社チェック・プロセスを一部担うことで感覚として「しみ込ませる」、といった工夫をしながら取組んでいくことが求められますし、一般の事業者においても同じことが言えると思います。
【注】OFSでは、「社員就業規則・パートタイマー就業規則」について、「社員、パートタイマーが、業務内外を問わず反社会的勢力とかかわった場合に、規則の定める要件に従って、内定取消、懲戒、解雇等をする場合がある旨改正された」と、社内暴排の観点からの取組みを報告しています。それ以外の取組状況は不明ですが、社内暴排の取組みは「役職員からの暴排(役職員に反社会的勢力がいないこと)」にとどまらず、自社の暴排の取組みにおける役職員の役割を周知徹底することまで含めて考えるべきであり、「端緒情報の収集と会社への報告」を役職員に対して義務化することなどを明文化することも是非、検討していただきたいものです。
2.最近のトピックス
1) 最近の統計資料から
前回の本コラム(▼暴排トピックス2016年3月号)でご紹介できなかった「犯罪収益移転防止に関する年次報告書(平成27年)(暫定版)」について取り上げます。
▼警察庁 犯罪収益移転防止に関する年次報告書(平成27年)(暫定版)
犯罪収益移転防止法(犯収法)上の特定事業者(士業者を除く)は、犯罪による収益との関係が疑われる取引を所管行政庁に届け出ることが同法で義務付けられています。この「疑わしい取引」の届出制度は、得られた情報をマネー・ローンダリング事犯及びその前提犯罪の捜査等に役立てるとともに、特定事業者の提供するサービスが犯罪者に利用されることを防止し、特定事業者に対する信頼を確保することを目的としています。
届出があった疑わしい取引に関する情報は、国家公安委員会・警察庁(犯罪収益移転防止対策室等)に集約され、分析されたうえで、都道府県警察、検察庁等の捜査機関等へ提供されています。当該情報の提供を受けた捜査機関等は、犯罪捜査等の端緒とするほか、犯罪による収益の発見、暴力団等の犯罪組織の資金源の実態解明等の組織犯罪対策にも活用しています。また、疑わしい取引に関する情報のうち、外国との取引に関する情報等は、必要に応じて外国にも提供され、国際的な犯罪による収益の移転状況の解明等に役立てられています。
さて、この「疑わしい取引」の平成27年中の届出受理件数は399,508件と、前年より21,995件(5.8%)増加しました。届出事業者の業態別に見ると、銀行等が351,009件で届出件数全体の87.9%と最も多く、次いでクレジットカード事業者(13,666件、3.4%)、信用金庫・信用協同組合(13,188件、3.3%)の順となっています。数年前までは、9割以上が銀行等からの情報が占めていましたが、他の特定事業者の取組みも進展していることがこの数字からも読み取れます。
なお、金融機関等におけるAML/CTFのベースとなる「疑わしい取引」を抽出・把握しようとする取組みは、ハード、ソフトの両面から様々な対策が講じられ、高度化が進んでいます。特に、「取引モニタリングシステム」と言われる、「口座・取引単位、あるいは顧客単位の振る舞いに注目し、ある種のロジックにより、疑わしい取引である可能性の高い取引を抽出する不正検知システム」の深化は目覚ましいものがあります。
その具体的なロジックには、あらかじめシステムに一定の条件式と適用する閾値を設定し、当該条件に該当する取引を抽出する「ルールベース」のものや、顧客や口座に対して予想される振る舞いから乖離した動きを検知する「プロファイルベース」などがあり、さらに、プロファイルベースにも、同種の顧客集団との動きからの乖離(ピアープロファイリング)や、当該顧客の過去の動きからの乖離(ヒストリカルプロファイリング)などがあります。いずれにしても、不正を抽出するための検知基準は、捕捉できなかった取引を特定しながら、常にそのロジックや閾値等を見直すことが求められており、このあたりは、反社会的勢力の企業への侵入経路や経緯に関して、最新の動向を収集・分析しながら、反社DBの精度向上や反社チェック態勢のブラッシュアップ、役職員の意識・リスクセンスの高揚につなげていく動きと全く同じものと言えると思います。
なお、昨年改正された犯収法の政省令においては、疑わしい取引の判断のガイドラインも示されています。そこでは、例えば、以下に着眼し、疑わしい点の有無を確認することが明確化され、また、高リスク取引の場合は、判断に統括管理者の承認を得ることといった判断方法も規定されています。
・一般的な取引態様との比較(1号)
その業界における一般的な商習慣(他の顧客等との間で通常行う取引の態様)に照らす
・当該顧客の過去の取引との比較(2号)
過去の顧客等との取引(顧客等との間委で行った他の特定業務に係る取引の態様)に照らす
・取引時確認の内容との整合性(3号)
取引モニタリングシステムにより、システム的に上記1号・2号の比較を行い、異常な取引を抽出している場合であっても、別途3号(取引時確認の内容との整合性)の項目を満たす必要がある
さて、疑わしい取引の届出件数の増加に伴い、捜査機関等に対する疑わしい取引に関する情報の提供件数も毎年増加しており、平成27年中は、435,055件(前年比86,277件、4.7%増加)と過去最高になりました。さらに、疑わしい取引に関する情報を端緒として都道府県警察が検挙した事件の数も毎年増加しており、平成27年中は1,096件と、前年より95件(9.5%)増加という結果となりました。とりわけ、詐欺関連事犯(詐欺、犯罪収益移転防止法違反)は、あわせて895件と全体の81.7%を占めて最多となっています。
さらに、平成27年中に組織的犯罪処罰法に係るマネー・ローンダリング事犯で検挙されたもののうち、暴力団構成員等が関与したものは、犯罪収益等隠匿事件で43件及び犯罪収益等収受事件で46件の合計89件で、全体の23.4%を占めています。暴力団等とマネー・ローンダリングの親和性(そもそも暴力団等の扱うお金は犯罪収益であり、資金の出処を隠すプロセスは必須となります)については、本コラムでもたびたび指摘していますが、これについてもこの数字から実感することができると思います。
2) 六代目山口組の分裂など
指定暴力団六代目山口組から分裂した「神戸山口組」について、国家公安委員会が暴力団対策法(暴対法)上の指定暴力団に指定することを了承、兵庫県公安委員会に通知したことを受けて、兵庫県公安委員会は、暴対法に基づき指定し、今月中旬にも官報に公示して指定暴力団化することになりました(なお、六代目山口組についても、今年6月23日付で継続して9回目の指定をされる見通しです)。神戸山口組は昨年8月、山口組から離脱した山健組などの直系13組織で結成され、井上邦雄組長をトップに拡大し、今年3月時点の構成員は約2,700人、勢力は36都道府県に及ぶ規模となるとされ、六代目山口組や住吉会、稲川会に次ぐ規模の指定暴力団になります。
さて、今回のスピード指定については、当局関係者の懸命な努力があったものと推測されます。指定の要件については以前もご紹介しましたが、「犯罪歴のある構成員の比率が一定以上」「暴力団の威力を利用して資金を獲得」「組長を頂点とする階層的な組織」の3要件を立証する必要があります。組員ごとに所属団体や犯罪歴の個別の確認を求められる当局の作業量は膨大で、今回は特に、分裂で団体間の引き抜き工作が激化して情報の把握は困難を極めたものと推測されますし、一方で、暴対法の適用対象外である準構成員が増えており、その確認にも厳密さが求められている点も作業を困難にしているとの指摘もあります。そのような中での作業は、スピード認定の社会的要請とあわせればかなり大変なものだったと思われます。
この点について、産経新聞(平成28年4月8日付)によれば、兵庫県警幹部が、「手続きに時間がかかるほど市民の安全が脅かされる。離脱すれば規制を免れるという現行暴対法は問題が多い」と指摘しているとのことですが、離脱者支援の重要性が増す一方で、「離脱」を指定逃れや資金獲得活動の隠れ蓑にする彼らを野放図にすることは絶対に許されません。「指定されたら、また離脱すれば、指定から逃れられる」と開き直りの戦術を取られれば、市民の安全はいつまでも脅かされたままです。したがって、指定に「空白」が生じないような連続性のある法規制とすべく、指定要件や手続きの見直しを可及的速やかに行うべきだと考えます。
さて、ご存知の通り、指定によって、指定暴力団員がその所属する指定暴力団等の威力を示して行う不当な行為(むやみに寄付金や賛助金等を要求する行為や縄張り内の営業者にみかじめ料を要求する行為など27の類型があります)が禁止されるなど規制が強化されることになりますが、今回の分裂騒動においては、拳銃の発砲事件も相次いでいることもあり、さらに「特定抗争指定・特定危険指定」も視野に入れているものと思われます。特定抗争指定によって、公安委員会が設定した警戒区域内では組事務所が使えなくなるほか、組員が5人以上で集まるだけですぐに逮捕されることになり、より厳しい規制が課されることになります。
このような状況への暴力団側の対応として、「指定逃れ」の一つの形としての「新組織の立ち上げ」や、「暴力団でない形態での新たな犯罪組織のあり方の模索」など、様々な憶測が乱れ飛んでいます。今後、どのような展開となるか予測が難しいところですが、いずれにしても、山口組の分裂は、「今の暴力団」の終焉を加速させる可能性があることだけは確かだと言えるでしょう。
3) 福岡県暴力団排除条例の改正および離脱者支援対策の動向
改正福岡県暴力団排除条例(暴排条例)が福岡県議会で可決、成立し、3月29日から施行されています。みかじめ料など暴力団への資金提供を自主的に申告すれば、福岡県公安委員会が中止勧告や業者名の公表を見送ること(リニエンシー制度の導入)や、組織から離脱した元組員の就労支援に関する規定などが柱となります。
公安委員会による勧告の適用除外等の新設(第22条・第23条関係)
公安委員会は、県民、事業者等が禁止行為を行ったことについて 自ら進んで申告し、再び禁止行為を行わないことを誓約した場合は、勧告(行為の是正を求めること)を行わないと定めています(虚偽の申告又は再び禁止行為を行った場合は公表されます)。
工藤会壊滅作戦を展開していた昨年6月の段階で、既に福岡県警本部長が、自主申告者に対しては、過去の資金提供などをとがめないとする方針を示していましたが、今回の暴排条例の改正にその方針が反映された形になります。なお、工藤会壊滅作戦においては、北九州市の飲食店等にみかじめ料に関する聞き取りをたびたび行っていますが、「情報提供すれば暴排条例の勧告の対象としない」旨伝えることで大きな成果をあげています。また、報道によれば、業者側の申告が摘発のきっかけとなったのは、これまで年間0~2件程度だったものが、昨年6月以降は月1件ほどのペースに急増しているということです。
暴力団からの離脱を促進するための措置の新設(第12条の2関係)
福岡県が、暴力団離脱者を雇用する事業者や暴力団離脱者に対し、関係機関等と連携を図りながら、雇用や就労の支援等を行うものです。また、これとあわせ、前回の本コラムでも紹介しましたが、福岡県暴力追放運動推進センター(暴追センター)の新事業として、以下が平成28年4月1日から運用を始めています。
- 雇用給付金(暴力団離脱者を雇用)最大72万円(雇用から1年間)
- 身元保証制度(暴力団離脱者により被った損害等に対する見舞金)最大200 万円(雇用から1年間)
その他、福岡県警と福岡県弁護士会、福岡県暴追センターが、反社会勢力による民事介入暴力に連携して対応する協定を締結しています。3者による協定は44道府県にありますが、離脱者の社会復帰支援を盛り込んだのは初めてだということです。また、本協定では、離脱者支援だけでなく、弁護士や市民らによる暴力団事務所の撤去活動などでも情報交換することも盛り込まれており、総合的な暴排協定の、今後の全国的な拡がりを期待したいと思います。
さて、離脱者支援の問題は、暴力団対策の文脈だけでなく、受刑者の「社会復帰」の文脈でも重要なテーマとなっています。
法務省によれば、「我が国は、約3割の再犯者により、約6割の犯罪が行われている実情にあるのです」というのが現実です。また、入所者全体に占める再入者の割合は、平成24年は58.5%と約6割に至っています。このような状況をふまえ、平成24年7月の犯罪対策閣僚会議において、「再犯防止に向けた総合対策」が決定されています。
この総合対策は、以下の4つを重点施策としています。この点については、暴力団離脱者支援を考えるうえでのフレームワークの一つになるものと言えます。
(1) 対象者の特性に応じた指導・支援を強化する
罪種、年齢、性別等、一人ひとりに応じた効果的な指導・支援を強化するとともに、施設内と社会内の働き掛けの有機的な連携に努める。
(2) 社会における「居場所」と「出番」を作る
対象者が健全な社会の一員としてその責任を果たすことができるように、適切な生活環境と一定の生活基盤を確保し、社会復帰を促進する。
(3) 再犯の実態や対策の効果等を調査・分析し、更に効果的な対策を検討・実施する
実態や対策の効果等を把握した上で、より効果的な施策を選択し、必要な資源を集中させ、総合的かつ一貫した取組の実施に努める。
(4) 広く国民に理解され、支えられた社会復帰を実現する
対象者を社会的に孤立させることなく、社会の多様な分野で相互に協力しながら一体的に再犯防止に取り組めるよう、啓発活動や民間の活動の支援を推進する。
さて、離脱者支援対策と関連して、福岡県警のサイトに以下のような動画コーナーが設けられています。社内研修などにも十分活用できるものと思われますので、是非一度、確認してみてください。
本サイトでは、以下のタイトルの動画が視聴可能となっています。
- 暴力団離脱者の社会復帰対策(離脱、就労支援について)
- 暴力団のいない福岡を目指して(NO!暴力 NO!暴力団 福岡県)
- 暴力団に対する基本的対応要領(暴力団の対応要領をご紹介)
- 暴力団追放!(「三ない運動+1」を推進しましょう)
- 福岡から暴力団排除! (福岡県暴力団排除条例改正が改正されました)
4) テロリスク
伊勢志摩サミットがいよいよ来月開催となります。関連会議は今月10日の広島市での外務大臣会合が既にスタートしていますので、テロ対策もいよいよ本番です。それに伴い、首相官邸から国民に対する要請が公表されています。
▼首相官邸 伊勢志摩サミットに伴う警備・交通規制等への御協力のお願い
たとえば、以下のような要請がなされています(抜粋)。
- 警戒警備及び検問・職務質問に御協力をお願いします
- 「不審な人物」や「不審な車(物)」等を見かけたときは、警察までお知らせください
- 鉄道車内や駅で警備が強化されます
- 不審物を見かけた際は「触れない・嗅がない・動かさない」を守り、警察または駅係員までお知らせください
- 空港等の警備の強化とともに、手荷物検査等の保安検査や税関検査が強化されます
- 盗難船舶による犯罪を防止するため、所有船舶の管理に十分注意するとともに、貸出しについても自粛をお願いします など
劇場や競技場など、不特定多数の人が集まる「ソフトターゲット」を狙ったテロが世界で相次いでおり、国内のそうした施設を警察だけで守るのは不可能だと言わざるを得ません。その意味では、事業者も相応の責任感をもってリスクの低減に努める必要があると言えるでしょう。例えば、上記にもある、「不審物を見かけた際は『触れない・嗅がない・動かさない』を守り、警察または駅係員までお知らせください」などは、全ての施設の来場者・利用者や社内に周知すべき内容ですし、来場者が異常に気付いた場合には、速やかに通報すること(できること)が大変重要になると思われます。さらには、事業者が主体的にできることとしては、施設入場者に対する手荷物検査の徹底なども考えられるところです。
一方で、重大犯罪の謀議に加わっただけで処罰対象となる「共謀罪」新設のための組織犯罪処罰法改正案は何度も廃案になっていますし、司法取引の導入や通信傍受の適用範囲を広げる刑事司法改革関連法は棚上げ状態です。また、通信傍受も犯罪が起きてから行うもので、テロの未然防止は対象外です。一方、パリ同時テロの容疑者逮捕においては、携帯電話の通信内容の傍受によって潜伏先を特定できたようですし、ベルギー政府がテロ防止に向け、国境を越えた通信の傍受を認めるといった監視強化策の導入を急いでいるほか、ドイツでも政府の監視を容認すべきだという議論が浮上しているなど、個人のプライバシー保護を優先してきた欧州各国の姿勢でさえ、テロの脅威の前にその価値観に変化の兆しが見られます。ただ、フランスでは、テロ行為で有罪になった二重国籍者から仏国籍を剥奪する規定や捜査当局に令状なしの捜索や身柄拘束などを行う権限を与える非常事態宣言を憲法に明文化する改正などが見送られています。まだまだ、EUの中でもプライバシーとテロの脅威(テロリスク)の緊張関係の中で揺れ動いている状況にあると言えます。
また、EUで大きな問題となっている「難民問題」も深刻さを増しており、多くのIS関係者がシリア難民としてEU域内に密航しているとの指摘もあります。密航者は送還を避けるために身分証明書を廃棄していることが多いため、報道によれば、「本当にシリア難民なのかの確認さえ難しく、過激派の流入を防ぐのは一層困難」になっているのが現状のようです。この点は、日本にとっても対岸の火事ではなく、既に「偽装難民」が押し寄せて審査業務がパンクしている状況にあり、テロリストの入国チェック体制に対する不安が解消されない状況が続きます。その他にも、EUのテロ対策官が、「5年以内に(テロリストが)インターネットを使って原発の監視制御システムなどに侵入し、テロを行っても驚かないだろう」と警告を発している一方で、日本の原発におけるテロ対策は、従業者等の身元チェックなどの内通者対策ですら不十分なままであり、サイバー攻撃の手口の高度化とあわせれば、その脅威は日本でもかなり現実味を帯びていると言えるでしょう。
これらの様々な分野での日本の取組みの遅れが、国際的なセキュリティホールとなってしまうことのないよう、冷静かつ誠実な議論が進展することを期待したいと思います。
さて、プライバシー保護とテロリスクの緊張関係で言えば、前回の本コラムでも取り上げたアップル社と米連邦捜査局(FBI)の間のスマホロック解除問題があります。現時点の状況としては、アップルは個人情報保護を理由にロック解除には応じない姿勢を貫いている一方で、FBIはその後、第三者の協力で解除に成功しています(同社に対して捜査協力を命じる裁判所の命令は取り下げられました)。これにより、緊張関係のバランスをどうとるべきかの議論が深まらないまま棚上げとなると思われましたが、FBIは、別の違法薬物の捜査のためにスマホのロック解除をアップルに求めているニューヨーク州での訴訟を続けると表明していますので、あらためて今後の議論を注視していきたいと思います。
なお、関連して、表現の自由とテロリスクとの関係でいえば、アフガニスタンの旧支配勢力タリバンがスマホのアンドロイド端末向けアプリを米グーグルのアプリ配信サービス「グーグルプレイ」に公開したものの、翌日には同社により削除されています。アプリはタリバンの声明や映像の視聴が可能だったものの、アプリでのヘイトスピーチ(憎悪表現)を禁じた同社の規約に違反したとみなされたと見られています。ISのようにSNSを巧みに利用した広報活動を容易に行わせないという意味で、テロリスクの封じ込めに「手を尽くして、できることを適切に実施していくこと」の重要性をあらためて認識できる対応だと考えます。
また、パナマの法律事務所から流出した内部文書(通称「パナマ文書」)で世界の指導者らによる資産隠しの疑いが明るみに出た問題が世界中に大きな波紋を呼んでいます。
疑惑を公表した「国際調査報道ジャーナリスト連合」(ICIJ)によると、内部文書にはテロ組織や北朝鮮、イランとの関わりで米国の経済制裁の対象となっている33の個人や企業が含まれているとのことであり、米司法当局が調査を開始したほか、欧州各国の金融当局が、国内の銀行の関与について一斉に調査を開始しています。内部文書には、テロ組織を含む経済制裁対象者や麻薬組織との取引を示す記録も含まれているとされ、違法行為への関与が判明すれば、金融機関等に巨額の制裁金が科される恐れもあります。なお、文書には日本人や日本企業の名もあるようですが、今のところ、反社会的勢力によるマネー・ローンダリングや犯罪収益に関する直接的な情報は話題になっておらず、今後の展開に注目していきたいと思います。
5) スポーツと反社リスク
またしても、スポーツ選手と違法賭博問題・反社リスクの問題が発覚しています。
プロ野球巨人の元選手らの野球賭博問題や元有名プロ野球選手の薬物問題に続き、バドミントンの新旧エースが違法な闇カジノ店に出入りしていたことが判明しました。報道によれば、「闇カジノは客も摘発を恐れて話さない。暴力団の上層部に捜査の手が届くことは少なく、巨額の資金源となっている」との暴力団構成員の話がありましたが、問題となった店は、警視庁が昨年4~5月に摘発し賭博開帳図利容疑などで経営者や指定暴力団住吉会系組幹部ら6人を逮捕した事件の舞台で、平成27年2月からの3カ月で約1億円を売り上げており、住吉会の資金源になっていたということです。国の強化費が投じられるトップ選手の違法賭博への関与は、暴排に向けて官民を挙げて取り組む中、そのような機運に明白に背く行為であり、許されることではありません。
報道によれば、違法賭博にのめり込んだ理由について、「入ってはいけない所に入る好奇心があった。勝負の世界に生きる以上、ギャンブルに興味があった」と話したということですが、この辺りは、本コラム(暴排トピックス2016年2月号)において、「常識の不均質性についての考察~有名人の薬物問題と絡めて」と題した部分で、以下のような指摘をしています。本事例にも正に当てはまると思われますので、箇条書きで再掲しておきます(一部加筆)。
- 人が群がるスポーツ選手などは、その人間的な未熟さ(脇の甘さ)につけ込まれて、裏社会に絡め取られてしまう可能性は高い
- 薬物問題や賭博問題に絡んだ反社リスクを抱える選手を管理する球団や機構など事業者は、優先的に管理すべきリスクとして選手らのプライベートを含む厳格なリスク管理を行うべきであり、具体的には、暴排や賭博・薬物に関する集合研修だけでは不十分であることも厳しく認識すべき
- そもそもスポーツと賭博の親和性の高さ(あるいは、薬物との親和性の高さ)に「構造的な要因」が認められるのであれば、スポーツ団体やそれに関わる事業者は、ギャンブル依存症対策や薬物依存対策、反社リスク対策を一体のものとして、もっと真剣に取り組むべき
- 「常識」のズレの存在をふまえれば、そもそも社員や選手一人ひとりの「常識」が必ずしも一律ではない(常識の非一貫性)と認識する必要がある
- 「常識」の「不均質性」を自覚し、継続的な教育・研修、コミュニケーション(場合によっては、厳格な監視)等が重要となる
6) 特殊詐欺を巡る動向
以前もご紹介した通り、平成27年中の特殊詐欺認知・検挙状況等については、関係者の懸命の努力にもかかわらず、認知件数は13,828件と前年に比べて436件(3.3%)増加、被害額については、476.8億円と、前年に比べて88.7億円(15.7%)減少(6年ぶりの減少)したものの、依然として高水準で推移しました。また、首都圏1都3県における認知件数・被害額は大幅に減少する結果となった点もとても興味深い特徴だと思います。
今年に入って2カ月の状況についても、基本的には昨年からの流れに沿ったものとなっているようです。
平成28年1~2月の特殊詐欺全体の認知件数は1,883件(前年同期は2,327件、▲9.0%)、被害総額は53億7,372万円(同 72億33万円、▲25.4%)と、認知件数・被害総額ともに減少傾向にあります(また、この結果、1件当たりの被害金額は減っていることが分かります)。さらに、特殊詐欺のうち「振り込め詐欺」の認知件数は1,753件(同 2,155件、▲18.7%)、被害総額は48億9,528万円(同 57億8,773万円、▲15.4%)と、特に認知件数の減少が顕著となっています。また、振り込め詐欺のうち「オレオレ詐欺」の認知件数は829件(同 893件、▲7.2%)、被害総額は21億3,707万円(同 24億9,131万円、▲14.2%)となっています。
減少傾向が見られるとはいえ、まだまだ警戒が必要な特殊詐欺ですが、ここにきて、特殊詐欺グループの活動実態や首謀者の状況が明らかになりつつあります。多くの詐欺グループは、詐欺行為を直接行う実行部隊と、組織を管理する上層部との二層構造になっており、摘発された特殊詐欺グループの中では過去最大規模の組織の場合、傘下に詐欺の電話をかける「架け子」が少なくとも5グループあり、メンバーを「班長」「副班長」などの4段階に分けて管理、アジトも数カ月ごとに移転するなどして、捜査当局の目を避けていたということです。
そのうえ、他のライバルグループとの衝突やトラブルを収めるために、暴力団に資金提供している(詐欺被害金が暴力団に還流している)構図となっています。さらには、あろうことか、そのトップの中には、詐取金を元にエステ、医院、飲食店、アパレルなどの表経済に進出し、表で得た資金をさらに暴力団に流しているという構図も成りっているとの報道もあります。
このように、暴力団の収入源(シノギ)は、賭博や覚醒剤といった伝統的な資金獲得活動に加え、特殊詐欺への関与も深まっている実態にあります。前者は違法行為に手を染めた自業自得型であるのに対し、後者の標的は、お年寄りなどの社会的弱者です。もはや任侠道など語る資格もない「外道」のやることであり、正に、暴力団は「社会悪」でしかありません。
このようなリスクに対して、事業者としてまず行うべき対策は、まずは、賭博や薬物は違法であること、その使用は社会悪である暴力団を助長することになること、を「常識」として社内に徹底して周知することだと思います。また、身近なところでそれらを見聞きした場合には、躊躇することなく、会社や上司、あるいは自治体や警察に速やかに通報・相談するとの「常識」を植え付けることです。そのうえで、「常識」の非一貫性を考慮し、例えばスポーツ選手特有のメンタリティ(勝負にこだわる、ストレスフルである、人間的に未熟など)をふまえた個別のきめ細かい生活指導や厳格な行動監視を行っていく必要があると言えます。また、一般の役職員についても、「常識」の異なる社員らの特異な状況や行動等に関する情報を収集すべく、内部通報制度や管理部門への報告等ルートを整備し、機能させることも必要なこととなります。
7) 忘れられる権利の動向
以前の本コラム(▼暴排トピックス2015年8月号)で、フランスの個人情報保護を取り扱う独立行政法人(フランスの情報処理および自由に関する全国委員会:CNIL)が、グーグル社に対して、欧州だけでなく全世界のネット検索結果から削除するよう指示したのに対し、同社は、「一国が、他国に住む人間がどのような内容にアクセスできるかを管理する権限を持つべきではない」と主張してこれを拒否し、削除の範囲をドイツの「Google.de」やフランスの「Google.fr」など欧州に限定して対応したことを取り上げました。さらに、その時点で、同社に巨額の罰金が課される可能性もあると指摘しました。
本事案について、CNILは、先月、同社がすべてのドメインの検索結果から関連情報を消去することを拒んだとして、同社に対し10万ユーロ(約1,260万円)の罰金を課したことが明らかとなりました。報道によれば、これに対しグーグル社は、「忘れられる権利」に理解を示し真摯に対応してきたとしながらも、国外のコンテンツもコントロールできるとしている仏当局(CNIL)の見解には反対していると述べ、上告する方針を示しています。
実際、同社は、本人が望まない個人情報を検索できないようにする取り組みを欧州で強化すると発表しています。セーフハーバー協定の無効化に伴う新たなデータ移転の枠組み(プライバシー・シールド)の導入やEUの新しい「データ保護指令」の発効を控えていることの影響も考えられますが、ドイツやフランス、英国など欧州各国向けのグーグルサイトで削除された個人情報を、米国向けのグーグルサイトで従来は使えていたものを使えなくしたということです(つまり、同社のこれまでの対応方針の延長戦上でありながらCNILの要請への歩み寄りが一部見られる対応だと言えます)。テロリスクへの対応も絡みながら、表現の自由や知る権利とプライバシー侵害(被害者の権利救済)の緊張関係を巡る議論はまだまだ続きそうです。
一方、日本では、前回の本コラムでも紹介した、さいたま地裁が「犯罪の性質にもよるが、ある程度の期間の経過後は、過去の犯罪を社会から『忘れられる権利』がある」と判断し、削除を認める決定」をしたことが注目されるところですが、そもそも日本で「忘れられる権利」の議論を社会的に広く提起したとも言える、ヤフーなどに対して犯罪歴のネット表示めぐる名誉毀損の訴訟(現在は最高裁に上告中)を提訴した男性が、実は常習の盗撮犯であったことが明らかになっています。しかも、報道によれば、「どうせまた執行猶予付きの判決になる」と述べたとされたほか、男性のPCからスカートの中を撮影した82本の動画や複数の静止画像が見つかっているのに常習性を頑なに認めないといった態度を取っているようです。
これらの事実と、日本における「忘れられる権利」の議論の動向とは直接的には関係しないと思われるものの、常習の盗撮犯の情報であれば、(これまでの訴訟で司法側が示してきた)「特殊な犯罪事実で社会的関心が高い」「公共の利害に関する事実であり不法行為は成立しない」との立場を補強することにつながることは指摘できると思います(つまり、男性は自ら、ヤフーなどが主張する「公益性の高さ」を補強する行為を行ってしまっていることになります)。
8) 犯罪インフラを巡る動向
(1)名簿業者
他人名義の口座や携帯電話とともに、犯罪インフラの代表格である「名簿」ですが、消費者庁が、名簿業者のはじめての実態調査を公表しています。
▼消費者庁 名簿販売事業者における個人情報の提供等に関する実態調査報告書
本報告書によると、名簿業者は、創業して数年から20~30年、年商は数百万円から1億円程度までと比較的事業者間で差が大きいことが分かりました。また、取り扱う個人情報データベース等の形態としては、(以前も特殊詐欺で悪用されていると指摘した)高校・大学等の同窓会名簿、医師会やゴルフクラブの会員名簿、企業・団体等の退職者名簿などが多いこと、冊子形式の名簿と個人情報をデータベース化したものとに大別され、冊子形式の名簿を取り扱う業者の中には、15,000~18,000冊程度の名簿を収集しているところがあるほか、データベース化された個人情報は、重複も含めると大半が6,000万~1億件強を有しており、最大で3億件程度有している事業者もあるということです。ただし、住所変更や結婚、死別等があるため、DM送付等に利用できるデータは4分の1程度とみられています。なお、同窓会などの名簿の買取価格は、1冊あたり7,000円~3万円程度、データの取得単価は、1万件以上のデータであれば、0.1円~10円/件程度だということです。また、重要な点として、「入手経路を確認していない名簿販売事業者が多い」事実も判明しています。
本結果は、あくまで調査に協力してくれた事業者の実態ということになります。実際に詐欺等に使われる名簿は転売を重ねるごとに追加情報(家族構成や過去の被害の有無など)が加味されて「使える名簿」にブラッシュアップされていく(精度が高まり、転売価格も跳ね上がっていく)実態があり、そのような名簿や取扱う業者こそ厳しく流通を取り締まっていくべきだと言えます。
(2)医師
前回、診療報酬制度の持つ脆弱性が犯罪に悪用されている実態を指摘しましたが、それ以外にも「医師」自体が犯罪を助長しているケースも散見されます。
最近、処方箋に記載しないまま患者の女に向精神薬「ハルシオン」を大量処方していた医師が書類送検されています。女には約3年間で十数万錠のハルシオンが渡っていたといい、インターネットで不正転売して利益を得ていたといいます。また、似たようなものとして、生活保護受給者に大量の薬を処方される「重複処方」も貧困ビジネスの一つの形態として問題となっています。
いずれも大量の薬が転売されていた事実を医師は認識していなかったとしていますが、「常識」で考えれば自ら利用するはずのない量を処方しているわけですので、医師の「常識」や「モラル」が問われる(医師のモラルのなさが犯罪を助長している)と言え、適性な処方のあり方をふまえた規制の強化が望まれます。
(3)タックスヘイブン(租税回避地)
本来、タックスヘイブンとは、国際金融取引を活発化させる目的で、一定の減税措置や外国資本企業は登記費用のみで法人税がかからない会社設立方法・通貨決済方法が設けられる国や地域のことを指します。現代の国際金融取引においては、租税負担の軽減を目的として、多くの資金がタックスヘイブンを経由して動いており、もはや、タックスヘイブンは企業の競争力維持のために必要不可欠な存在であると考えられています。
しかしながら、前述の通り、タックヘイブンへの資産隠しを暴露した「パナマ文書」ショックが世界を駆け巡っています。その中で、日本人の「マルチ商法」関係者が、インド洋の島国セーシェルのタックスヘイブンに会社を所有していたことが明らかになっています。報道によれば、「悪質なマルチ関係者の多くがタックスヘイブンに会社を持っている」と話しているということであり、犯罪収益の隠匿場所、マネー・ローンダリングの経由地であること、つまりは脱税だけでなく広く犯罪インフラ化していることを強く示唆する形となっています。
このようなタックスヘイブンへの不適切な資金の流れを監視すべく、日本政府は日本に居住しながら、海外に隠し資産を持つ「富裕層による租税回避の監視」を強化する方針を出しています。40カ国を超す税務当局と連携して、日本に住む人が海外に持つ預金などの口座情報を捕捉し、2018年からマイナンバーと連動して国税庁に集約させるもので、既にケイマン諸島など英領のタックスヘイブン等の協力も得ており、国境を越えた税逃れに国際連携で対抗することになります。
9) その他のトピックス
(1)銀行による口座凍結
金融機関は、振り込め詐欺救済法などにより、犯罪利用の疑いがある口座を凍結できますが、とりわけ、昨年1年間にネット銀行が凍結して失権手続きに入った口座は約1万件に上り、3年前の2.7倍に増えています。ネット銀行は郵送やネット上のみで口座を開設できる手軽さの一方で、犯罪に悪用されるリスクも対面取引に比べれば格段に高いと言えます。したがって、悪意ある取引をいかに未然に防ぐか、いかに危険を素早く察知して口座を凍結するかに積極的に取組んでおり、高度なアルゴリズム等を駆使した審査やモニタリングを行っていますが、その結果、凍結の判断は各行で異なることもあって、犯罪とは無関係な口座まで凍結するケースも出ていると言います。
しかしながら、これもネット銀行側にとっては犯罪悪用リスクやレピュテーションリスクへの対応に必要不可欠な機会ロス=「コスト」であり、利用者もそのような企業姿勢を認識して利用すべきであり、「リスク」を受容すべきだと言えると思います。
(2)落札段階からの暴力団排除
福岡県警は、暴力団が契約前の落札業者を狙って工事の下請け契約をさせたり、あいさつ料を要求したりすることがあることをふまえ、県内の自治体や国の機関と連携し、公共工事を落札した業者や下請け業者に暴力団が介入していないかを調べる取り組みを4月1日から始めました。報道によれば、工事契約後に業者を調べる制度は他県にもあるものの、契約前からチェックに乗り出す取り組みは珍しいということです。
公共事業からの暴力団排除が言われて久しいですが、民間では契約締結前の反社チェックがマストとされる中、公共事業においては契約締結後のチェックが多い現状はやはり違和感があります。この点については、あらゆる公共事業について、速やかに是正していく必要があるものと考えます。
(3)暴力団としてのデータ登録に関する人権救済申立事件(要望)
警察が運用する「暴力団情報データベース」に、50代男性の情報が誤って登録された疑いがあるとして、日本弁護士会連合会(日弁連)が、警察庁に対し、誤登録と判明した場合はデータを削除するよう要望しています(暴力団に加入した事実はないと主張する男性が、日弁連に人権救済を申し立てていたものを受けての対応ということです)。
▼日本弁護士連合会 暴力団としてのデータ登録に関する人権救済申立事件(要望)
本要望書によれば、「過去に暴力団に所属したことがないにもかかわらず、誤って暴力団に所属していたものと登録されたおそれがあり、当該登録に基づき犯罪傾向が進んだ受刑者が収容される刑務所にて処遇されるなどの不利益を受けている可能性が高い状況にあるため、「暴力団情報データベース」への登録の有無について申立人からの問合せに回答するとともに、仮にその登録が誤っていることが判明した場合には、当該登録データを削除するよう要望する」とされています。
本要望書のロジックとしては、(1)憲法13条に基づき「自己に関する情報をコントロールする権利」を行使して、自己が「暴力団情報データベース」に登録されているか否かについて開示を受けられるべきであること、(2)「暴力団情報データベース」に誤って登録されていることが判明した場合には、当該情報の削除を求めることができること、(3)警察庁自身も「暴力団情報の提供に当たっては、その内容の正確性が厳に求められる」としており、当該情報が誤っていた場合に削除することの請求権を認める必要性を裏付ける事情として指摘できること、などが柱となっています。
3.最近の暴排条例による勧告事例ほか
1) 岡山県の勧告事例
指定暴力団六代目山口組系組員が中心となって施工した別の組事務所の駐車場新設工事に関し、土木工事業者に対し、外壁の解体工事、資機材の準備及び運搬の一部を依頼し、この土木事業者が依頼どおり実施したことにより、暴力団の運営に資する財産上の利益の供与を受けた事案で、当該組員に対し、岡山県暴排条例に基づき勧告が行われています。
▼岡山県暴力団排除条例に基づく勧告及び公表(平成28年3月18日)
2) 福岡県暴排条例に基づく再発防止命令の事例
福岡県公安委員会は、福岡県暴排除条例に基づき、特定危険指定暴力団工藤会に対し、「縄張り」をつくる目的で飲食店や建設会社に組員が訪れないよう、また、店や会社の関係者に付きまとったり、電話やメールをしたりすることも禁止する内容の再発防止命令を出しています。命令は平成25年6月の改正暴排条例施行以降初めてで、組員が違反すれば中止命令を受け、従わなければ刑事処分を受けることになります。
3) 暴力団対策法に基づく称揚行為を禁じる仮命令の事例
福岡県警は、指定暴力団浪川会最高幹部の総本部長に対し、指定暴力団道仁会会長の射殺事件で服役している組員3人に、組織のために事件を起こした見返りとして、出所祝いや功労金などの褒賞金を支払ったり昇格させたりする「称揚行為」を禁じる仮の命令を出しています。また、同会トップの会長にも同様の命令を出しています。
4) 暴力団事務所の使用禁止申し立て事例(茨城県)
指定暴力団六代目山口組と神戸山口組の分裂抗争を受けて、水戸市は、市内の神戸山口組傘下の暴力団事務所の使用禁止や、組員の立ち入り禁止を求める仮処分を水戸地裁に申し立てています。
当該事務所を巡っては、トラックの突入事件や1階の窓ガラスへの発砲事件などが相次いでおり、事務所のすぐ近くには小学校があるため、学校保健安全法に基づき、学校設置者として申請したということです。