暴排トピックス
神戸山口組の分裂と暴力団対策法
取締役副社長 首席研究員 芳賀恒人
【もくじ】―――――――――――――――――――――――――
1) 北朝鮮有事リスクへの対応
・警報が発令されたら
・身の回りで急な爆発が起こったら
・武力攻撃の類型などに応じた避難などの留意点
2) 特殊詐欺を巡る動向
3) 組織犯罪処罰法改正を巡る動向
4) AML(アンチ・、マネー・ローンダリング)/CTF(テロ資金供与対策)/テロリスクの動向
5) 捜査手法の高度化を巡る動向
6) 犯罪インフラを巡る動向
・ECサイト
・特殊詐欺における「三種の神器」
・SNS
・無料定額宿泊所
7) その他のトピックス
・忘れられる権利を巡る動向
・ギャンブル依存症対策を巡る動向
・サイバー攻撃対策を巡る動向
・薬物対策を巡る動向
・暴力団事務所明け渡しを巡る訴訟の提起
・信金・信組のネット支店開設の動き
1) 兵庫県暴排条例改正の動き
2) 暴排条例勧告事例(東京都)
3) 暴排条例勧告事例(群馬県)
4) 暴排条例勧告事例(宮崎県警HPより)
1.神戸山口組の分裂と暴力団対策法
指定暴力団六代目山口組(以下「六代目山口組」)から分裂した指定暴力団神戸山口組(以下「神戸山口組」)がさらに分裂し、新組織「任侠団体山口組」が結成されました。また、情勢が流動的であるため断定的なことは申し上げられませんが、現時点で判明している情報では、神戸山口組が開催した直系組長らを集めた定例会では、新組織結成式後に開かれた記者会見にも同席していた神戸山口組直系の「健心連合会」組長の出席が確認されたほか、結成式が開かれた会場を提供した同じく神戸山口組直系の古川組の組長の出席も確認されています(なお、古川組では、「新組長」を名乗る幹部らが代替わりを主張して分裂状態にあり、この新組長は新組織に参加したとみられています)。
一方、今回の新組織の中核であり、かつ神戸山口組内の最大組織でもある「山健組」については、傘下組長らを集めた定例会において、傘下団体の約3分の1にあたる三十数団体の組長が欠席し、神戸山口組を離脱して、織田絆誠・元副組長を代表として結成された新組織側に加わったものとみられています。このように、双方の組織のメンバーが複雑に入り乱れる現状であり、神戸山口組の分裂は、山健組など傘下組織レベルでの分裂とも密接に関連していることが明確になってきています。それに加え、直近では、六代目山口組の直系組織「淡海一家」が離脱して、この新組織に合流したとも報道されています。いずれにせよ、今回の分裂騒動においても、怪情報が乱れ飛んでいることもあり、確定的なことは何も言えない状況にあり、事態の見極めと情報収集・分析を続けていく必要があります。
なお、極めて珍しいことですが、今回の分裂騒動の背景について、当事者である新組織側が(記者に対して一方的に話し、質疑応答のない限定的な形ではありますが)直接記者会見を開いています。そこで語られたのは、神戸山口組の「金銭の吸い上げ」、「井上組長の出身母体のひいき」、「組長が進言や諫言を一切聞かないこと」といった理由であり、実は一昨年の山口組分裂の際と全く同じ理由です。一方的に発信された情報でありすべてをうのみにすることはできませんが、内容を詳細に確認していくと、例えば、以下のような発言から、その表向きの内容とは別に、新組織が暴力団対策法の規制を逃れるための手を打とうとしていることが読み取れます。
- 神戸山口組が実行しなかった大義を本日より実行し、なおかつ山口組中興の祖である三代目田岡一雄親分の意に沿う親睦団体にして参ります。
- 本来、我々の業界では盃を重んじ、忠誠を誓うというのが本筋ですが、・・・この現状の中で我々は盃よりも精神的な同志の絆に重きをおき、あえて盃事は一切執り行いません。
- 組長はあえて空席とし、代表制という形を取りましたが・・・代表のたっての強い意志の元、固辞され承諾は得られず組長は空席となりました。
- 本来我々の業界では下の若い者が上を支えるのが当然とされてきましたが、任侠団体山口組では、皆が平等で、ともに支えあい、助け合えるような組織作りをしたいと切に請われ、やむなく、このような形を取る事と成りました。
暴力団対策法(暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律)では、第2条で、「その団体の構成員(その団体の構成団体の構成員を含む)が集団的に又は常習的に暴力的不法行為等を行うことを助長するおそれがある団体をいう」と暴力団を定義したうえで、第3条において、「指定」の要件を示していますが、簡単に言えば、暴力団のうち、(1)暴力団員が生計の維持、財産の形成又は事業の遂行のための資金を得るために暴力団の威力を利用することを容認することを実質上の目的とする団体であって、(2)犯罪経歴を保有する暴力団員が一定割合を占め、(3)首領の統制の下に階層的に構成された団体を「指定暴力団」に指定するとされてます。この3つの要件のうち、1つ目の「実質上の目的」と彼らの発言の中にある「親睦団体」というワードの関係や、最後の「首領の統制の下に階層的に構成された団体」については、発言から導かれる新組織像が、「盃事を否定し、組長を置かず、フラットな組織を志向する親睦団体」であることなどと比較した場合、その要件を充足しない可能性(指定には、相当厳格な立証が求められる可能性)が出てきます。
なお、この問題は、使用者責任を巡って提起された最近の裁判で、その「強固な組織性」が認められやすくなっている状況に逆行する(逆手に取った)組織のあり方を示すものとしても注目せざるを得ません。前回の本コラム(暴排トピックス2017年4月号)でも紹介した通り、東京地裁、名古屋地裁、福岡地裁が、特殊詐欺やみかじめ料を巡る使用者賠償や工藤会の一連の襲撃事件等の組織的犯行を巡って、相次いで、「暴力団の強固な組織性」という実態を加味してトップの責任を明確に認めました。前回の本コラムでは、その状況を捉えて、「暴力団は、その強固な組織性を武器に犯罪収益を吸い上げてきましたが、今後、その組織性の強さこそが、自らの存在基盤を大きく揺るがすことになると言えます」と指摘しましたが、そのような状況に対して、暴力団側が、「組織性を弱める」こと(その点を外に向けて協調すること)で組織の生き残りを図るというひとつの方向性を打ち出したものとも捉えることができます。その意味では、暴力団あるいは暴力団排除(暴排)のあり方にも一石を投じるものとして、今後の戦略を練り直す必要もありそうです。
一方で、今回の分裂は「偽装」の可能性も否定できない状況です。そもそも、新組織の代表を務める織田氏は、神戸山口組の副組長として山口組分裂の際の神戸山口組側の最前線で指揮を執っていた人物です。神戸山口組の本来の目的を果たすため、六代目山口組に報復するためにあえて組を割って出て、暴力団対策法の隙間(指定暴力団への指定まで時間がかかること、その間、暴力団対策法上の規制がかからないこと等)を突いて、何等かの行動に出るため、さらには、そのような行動をとっても神戸山口組が特定抗争指定暴力団へ指定されることを回避できる可能性を残すために、今回の分裂騒動という形を取ったものではないかとも考えられます。
このように、本件が、内部対立状態なのか「偽装離脱」なのか確定的なことが言えない状況である中、取り締まる側の警察は、本件をあくまで「内部対立状態」と位置付けて、神戸山口組の組織の枠内、暴力団対策法の規制の枠内で捉え、厳しく取り締まる方向性を前面に打ち出しています。警察庁の坂口長官も、「警戒、取り締まりを徹底し、(再分裂の)動向の情報収集に努め情勢に応じ必要な措置を取る」との考えを示しています。現状の双方の動向を、暴力団対策法等の現行の法規制で徹底的に取り締まりつつ、新組織の「指定の作業を急ぐ」か、暴力団対策法を速やかに改正するなどして、例えば、「みなし指定」のような形で「隙間」のない継続的な規制をかけつつ(新組織が神戸山口組・六代目山口組からのメンバーで構成された「暴力団」であることをもって「指定暴力団」として規制する等)、可能ならば、より規制の厳しい特定抗争指定暴力団への指定に持っていこうとする狙いもあるのではないかと考えます(坂口長官の「必要な措置を取る」の意味にこのような様々な選択肢が含まれているのではなにかと推測されます)。いずれにせよ、現状見えている情勢をふまえれば、(暴力団対策法を厳格に解釈すれば問題は残されたままですが)「内部対立状態」として対応することがベターだと言えそうです。
さて、今回の分裂騒動においても、暴力団対策法の限界が見えてきていますが、同法については、本コラムでもたびたび指摘しているように、まずは、暴力団がもはや害悪でしかない「犯罪組織」である以上、その限界も含め、暴力団対策は、国際社会がそうであるように、存在自体を許さない方向で社会的に議論を深めるべき時期ではないか言えると思います。さらに、マネー・ローンダリングやテロ、特殊詐欺や金融犯罪対策、犯罪のグローバル化など、国際犯罪対策に不可欠なグローバルな連携・包囲網の構築に向けて、日本が今解決すべき課題(解決させておくべき課題)であることも明白です。以前の本コラム(暴排トピックス2016年9月号)でも紹介しましたが、前国家公安委員会委員長を務めた河野氏が、退任記者会見で、明確に、「暴対法を改正して、暴力団の存在そのものを許さずということに向けて更なる一歩を進めてもらいたいと思います」と踏み込んだ発言をしているほか、自らのブログで、国家公安委員会委員長の「引継書」を公開、その中で、「暴力団に対処する制度の強化」として、「暴力団対策法に基づく指定暴力団の指定期間の撤廃及び分裂団体への指定の適用継続に係る法改正」、「海外の組織犯罪対策に係る制度を調査し、各制度の歴史的経緯、運用状況、各制度を支える捜査手法等を踏まえ、より効果的な暴力団対策に資する法整備」を掲げており、今正に、この課題に取り組む必要性を感じます。
その他、神戸山口組の分裂騒動以外の動向については、以下、簡単に紹介しておきたいと思います。
平成27年8月の山口組分裂から今月5日までの間、六代目山口組と神戸山口組双方の衝突事件は全国で95件発生しています。うち75件は兵庫県公安委員会が神戸山口組を指定する以前の8カ月足らずの間に起きており、警察庁が両組織を「対立抗争状態」にあると認定した昨年3月には最多の33件が発生したものの、指定後は月0~5件にとどまっている状況にあります。この表向き沈静化していた状況も、特定抗争指定暴力団への指定を回避するために、暴力団対策法の規定の枠内での活動に、彼ら自身が自制していた状況(コンプライアンスを順守していた状況)がうかがえます。
また、京都市の指定暴力団会津小鉄会の内紛についても、この機会を好機と捉えて、京都府警が会津小鉄会の壊滅に向けて本腰を入れ始めています。例えば、昨年から続く同会の大規模な大麻栽培プラントの摘発や密売組織の摘発は、その資金源に大きな打撃を与えることにある程度成功したと言えます。また、最近でも、本部事務所近くにある市の複合施設利用者らの安全が脅かされているとして、市が事務所の使用差し止めを求めた仮処分で、京都地裁が、差し止めを認める決定を出しています。自治体が暴力団事務所の使用差し止めを求めた仮処分で決定が出るのは初めてであり、活動拠点を取り上げることで、その活動にやはり大きな打撃を与えることができるものと期待されます。
一方、直近では、東京や茨城などを勢力範囲とする指定暴力団松葉会についても、その傘下組織である松葉会関根組が新組織「関東関根組」を作り、松葉会が正式に分裂したことも明らかになっています。松葉会については、過去から跡目問題を巡ってもめる歴史を繰り返しており、平成26年に七代目会長が就任した際に、その就任を承認しないグループにより「松葉会関根組」が結成されたという経緯があります。今年4月に、松葉会と和解が成立し、名称から「松葉会」を外し、代紋を使わない事により、松葉会から承認を得て、名称を松葉会関根組から関東関根組とし独立団体となりました。
警視庁なども、このような経緯をふまえ、暴力団対策法に基づき新組織を指定暴力団に認定する方向で作業を進めており、指定されれば、全国の指定暴力団は計23団体となります。前述した神戸山口組直系の古川組や会津小鉄会などと同じく、会長職を巡る後継争いなどを原因とする分裂が相次いでおり、指定暴力団からの分裂による小規模の団体が乱立しはじめています。このような状況からも、暴力団対策法上の課題は明確だと言えます。そして、今後、組幹部や組員の高齢化の進展とともに、同様の争いが頻発する可能性が否定できず、抗争の激化による治安の悪化や資金獲得活動の活発化など事業者としてもその動向に十分に注意していく必要があります。
また、前述したみかじめ料を巡る使用者賠償責任が認められる流れを作った名古屋地裁の判決については、双方が控訴せず確定しています。この裁判では、六代目山口組弘道会の傘下暴力団にみかじめ料を支払っていた元飲食店経営の女性が、この傘下暴力団の組長と六代目山口組トップの篠田建市組長に2,258万円の賠償を求めて争い、名古屋地裁が、連帯して1,878万円の支払いを命じる判決を言い渡したものです。みかじめ料の要求行為を民法上の不法行為と認定し、(当該傘下組織トップだけでなく)六代目山口組トップの使用者責任をも認める初めての判決でした。今後、みかじめ料を集めること自体が訴訟リスクになるという意味で、暴力団の資金源にこれまでにないほどの大きなダメージを与えることができるものと期待されます。
2.最近のトピックス
(1) 北朝鮮有事リスクへの対応
北朝鮮がまた弾道ミサイルを発射しました。迎撃することが難しい新しいミサイルである可能性も指摘されるなど、今後も北朝鮮有事リスクに対する警戒と備えが必要な状況にあります。さらに、先週末には世界中を混乱に陥れた大規模なサイバー攻撃が発生しましたが、北朝鮮も、弾道ミサイルによる威嚇だけでなく、サイバー攻撃を多方面に仕掛けており、実際にバングラデシュ中央銀行へのサイバー攻撃で、約92億円を盗んだ疑いがあるとされています。官房長官がこれに関連して「金融機関のセキュリティ対策の底上げを図りたい」と言及している点からも、その脅威は無視できない状況にあることが分かります。また、北朝鮮が求める巨額の外貨や物資、技術者の移動阻止に対する世界的な包囲網が築かれる中で、国際的に北朝鮮の制裁違反を繰り返し幇助したと断じた(制裁対象となっている)企業の日本人経営者の男に対する制裁措置が、日本国内の法整備等の遅れから取られず野放しになっている状況などに国際的に激しい批判を浴びています。
これらは、国家レベルの危機管理のあり方として厳しく問われるべきことですが、とはいえ、その中でも事業者が取り組むことができる(取り組むべき)対応も少なくありません。例えば、政府から発射情報が伝達された場合の事業者および個人のとるべき行動を明確にして、社員を守るために、有事が発生する前の段階で正しく周知しておくことが、事業者が行うべきリスクマネジメントでもあります。
さて、先月29日の北朝鮮による弾道ミサイル発射の際には、その情報を受け、東京メトロでは、初の取り組みとして、安全確認のため約10分間、全線で運転を見合わせました、また、北陸新幹線も一部区間で運転を見合わせています。「過剰反応だ」、「タイミングが適切なのか」といった声もありますが、公共インフラ事業者としては当然実施すべき行動であり、不備があれば改善を行えばよく、そのような指摘はあたりません。その後、東京メトロでは、今後は弾道ミサイル発射情報を知らせる全国瞬時警報システム(Jアラート)発出の際に運転を停止するよう運用を見直しましたが、Jアラート自体も第1報の段階で避難を呼びかける運用に変更されることが発表されており、国も事業者も実効性を高めるために運用の改善を図り続けることが重要です(先週末の発射の際には、日本に弾道ミサイルが飛来するおそれがないと判断してJアラートは起動されませんでしたし、交通機関も特段の対応はしていません)。そして、利用者である国民もそれらの対応について、理解し協力することが望ましいのではないかと思われます。
一方、滋賀県内の小中高校と幼稚園が、弾道ミサイル飛来への注意喚起文書を児童生徒に持ち帰らせたところ、保護者から、「子供の不安をあおる」、「根拠があるのか」などと疑問視する声が県や市町などに寄せられたということです。同県知事は伝え方の見直しの検討を行う旨発言していますが、これも自治体として当然実施しておくべき行動であり、むしろ、それを受け止める人々の危機意識が低いと指摘せざるを得ませんし、ましてや苦情を申し立てる行動に出ていることは極めて残念に思います。与えられた情報について、大人が自らの常識や良識をふまえて子供にどう伝えるか、どう接するべきかを主体的に考えるべき場面であり、「命を守る」教育がこれまで全くなされてこなかった日本の危機管理の「底の浅さ」が露呈したと言えると思います。
なお、関連して、緊急情報発信の運用見直しについては、被害が領空・領海外で運航中の航空機や船舶に及ぶケースに備え、航空、船舶会社などに発射情報を自動的に通知する新システムを導入して迅速化を図ったり、総務省消防庁が、ミサイル発射時の緊急情報を、手持ちの携帯電話やスマホで受信できるかを確認するための手順をHPに掲載、地方自治体にも住民への周知を求めるなどの取り組みも行われています。
さて、このような状況下、内閣官房の「国民保護ポータルサイト」が注目を集めています。弾道ミサイル攻撃やテロが発生したら個人レベルでどう対処すべきか、欧米では当たり前の「命を守る」「自分を守る」ための社会教育が日本ではなされていない状況です。危機管理のあり方が国際情勢と密接に連動している現状、日本が弾道ミサイルや武力攻撃に晒されている危険性がある現状に鑑みれば、国民一人ひとりが、自らで「自らの命を守る」ためにどうすべきかを知ること、そのための社会教育やマニュアル等を徹底することが急務です。「日本でテロは起こらない」などといった日本人特有の甘い認識を打破すること、厳しい現実から目を背けるのではなく、近い将来起こるであろうテロや武力攻撃などの危険性に正面から向き合うことが、ミサイルや武力攻撃、テロなど死に直結する危機への対処の第一歩だと言えます。その意味では、「国民保護ポータルサイト」の掲載内容を多くの方が見ること、そこから知識を得ることが、国家レベルの危機管理のベースとなると言えます(国家レベルの危機管理のベースがあってはじめて事業者や個人の危機管理が機能していくことになると考えられます)。以下、参考になる情報を抜粋して(筆者にて要約等行いながら)紹介しておきたいと思います。
▼武力攻撃やテロなどから身を守るために~避難にあたっての留意点などをまとめました~
警報が発令されたら
我が国に影響があり得る弾道ミサイルが発射された場合は、J-ALERT(全国瞬時警報システム)とEm-Ne(緊急情報ネットワークシステム)によって緊急情報を伝達するが、特別なサイレン音を使用せず、市町村が通常使用しているサイレン音を使用する場合もある。
- 武力攻撃やテロなどが迫り又は発生した地域において警報が発令された場合に直ちにとっていただきたい行動
- ドアや窓を全部閉める
- ガス、水道、換気扇を止める
- ドア、壁、窓ガラスから離れて座る
- 近隣の堅牢な建物や地下街など屋内に避難する
- 自家用車などを運転している方は、できる限り道路外の場所に車両を止める。やむを得ず道路に置いて避難するときは、道路の左側端に沿ってキーを付けたまま駐車するなど緊急通行車両の通行の妨害とならないようにする
- 落ち着いて情報収集に努める
- 避難の指示が出されたら
- 行政機関からの避難の指示としては、屋内への避難、近隣の避難所施設への避難、市町村や都道府県の区域を越えた遠方への避難などが考えられる
- 行政機関から避難の指示が出された場合は、指示に従って落ち着いて行動を
- 元栓をしめ、コンセントを抜いておく。冷蔵庫のコンセントは挿したままにしておく
- 頑丈な靴、長ズボン、長袖シャツ、帽子などを着用し、非常持ち出し品を持参する
- パスポートや運転免許証など、身分を証明できるものを携行する
- 家の戸じまりをする
- 近所の人に声をかける
- 避難の経路や手段などについて行政機関からの指示に従い適切に避難する
(ア) 屋内にいる場合
(イ) 屋外にいる場合
身の回りで急な爆発が起こったら
- とっさに姿勢を低くし、身の安全を守る
- 周囲で物が落下している場合には、落下が止まるまで、頑丈なテーブルなどの下に身を隠す
- その後、爆発が起こった建物などからできる限り速やかに離れる
- 警察や消防の指示に従って、落ち着いて行動を
- テレビやラジオなどを通じて、行政機関からの情報収集に努める
- 火災が発生した場合
- できる限り低い姿勢をとり、急いで建物から出る
- 口と鼻をハンカチなどで覆う
- 瓦礫に閉じこめられた場合
- 明るくするためにライターなどにより火をつけないようにする
- 動き回って粉じんをかき立てないようにする。口と鼻をハンカチなどで覆う
- 自分の居場所をまわりに知らせるために、配管などを叩く
- 粉じんなどを吸い込む可能性があるので、大声を上げるのは最後の手段
武力攻撃の類型などに応じた避難などの留意点
- ゲリラや特殊部隊による攻撃の場合
- 突発的に被害が発生することも考えられる
- 被害は比較的狭い範囲に限定されるのが一般的だが、攻撃目標となる施設(原子力事業所などの生活関連等施設など)の種類によっては、被害が拡大するおそれがある
- 核・生物・化学兵器や、放射性物質を散布することにより放射能汚染を引き起こすことを意図した爆弾(ダーティボム)が使用されることも想定される
- 突発的に被害が発生することも考えられるため、攻撃当初は一旦屋内に避難し、その後状況に応じ行政機関からの指示に従い適切に避難する
- ●弾道ミサイルによる攻撃の場合
- 発射前に着弾地域を特定することが極めて困難であり、短時間での着弾が予想される。このため、我が国に影響があり得る弾道ミサイルが発射されたときは、市町村から原則として特別なサイレン音を使用した防災行政無線により、発射情報と、領域内に落下する可能性がある場合はその旨を、関係する地域に対して、緊急に伝達することとしている。あわせて、テレビ、ラジオや緊急速報メールなども通じてこれらの情報を伝達する
- 弾頭の種類(通常弾頭であるのか、核・生物・化学弾頭であるのか)を着弾前に特定するのが困難であり、弾頭の種類に応じて、被害の様相や対応が大きく異なる
- 攻撃当初は屋内へ避難し、その後、状況に応じ行政機関からの指示に従い適切に避難を屋内への避難にあたっては、近隣の堅牢な建物や地下街などに避難する
- 武力攻撃やテロなどの手段として化学剤、生物剤、核物質が用いられた場合には、人体の機能障害を発生させるため、被害に対する特別な対応が必要となることから、テレビやラジオなどを通じて、情報収集に努めるとともに、行政機関からの指示に従って行動することが重要
(ア)特徴
(イ)留意点
(ア)特徴
(イ)留意点
(ウ)武力攻撃やテロなどの手段として化学剤、生物剤、核物質が用いられた場合
上記以外にも、例えば、「化学剤が用いられた場合」では、「口と鼻をハンカチで覆いながら、その場から直ちに離れ、外気から密閉性の高い屋内の部屋または風上の高台など、汚染のおそれのない安全な地域に避難する」、「屋内では、窓閉め、目張りにより室内を密閉し、できるだけ窓のない中央の部屋に移動する」、「2階建て以上の建物であれば、なるべく上の階へ避難する」ことなどがまずはとるべき行動とされています。
また、「生物剤が用いられた場合」では、「米国で発生した炭そ菌事件のように不審な郵便物が送られてきた場合には、郵便物を振ったり、匂いをかいだり、中身を開けたりせずに可能であればビニール袋で包み、すぐに警察などに通報すること」、「もし開けてしまって不審物質がこぼれ出たような場合には、掃除をするべきではない。不審物質を直ちに何かで覆い、その部屋を離れて汚染された衣服をできるだけ早く脱ぎ、手を水と石けんで洗い流してすぐに警察などに通報する」ことなどが書かれています。
さらに、「核物質が用いられた場合」では、「とっさに遮蔽物の陰に身を隠す。近隣に建物があればその中へ避難する。地下施設やコンクリート建物であればより安全」、「上着を頭から被り、口と鼻をハンカチで覆うなどにより、皮膚の露出をなるべく少なくしながら、爆発地点からなるべく遠く離れる。その際、風下を避けて風向きとなるべく垂直方向に避難する」、「屋内では、窓閉め・目張りにより室内を密閉し、できるだけ窓のない中央の部屋に移動する」ことなど、詳細にとるべき行動が示されています。
その他、本小冊子では、「怪我などに対する応急措置」や「日頃からの備え」(備蓄リストの掲載がありますが、震災時の備蓄リストとしても活用可能です)なども記載されておりますので、あわせて参照願います。さらに、巻末には「国民保護法」の解説等も併録されており、「国民の義務」として、「国民は、国民の保護のための措置の実施に関し協力を要請されたときは、必要な協力をするよう努めるものとする」、「国民の協力は国民の自発的な意思にゆだねられるものであって、その要請に当たって強制にわたることがあってはならない」とされていることも付記しておきます。
(2) 特殊詐欺を巡る動向
特殊詐欺の被害が一向に収束する気配を見せない中、ATMを悪用する手口に対する対策の効果が出始めているようです。これまでもご紹介したように、全国に先駆けて岡崎信用金庫が、3年以上ATMで振り込み実績がない70歳以上の預金者の振込限度額を「0円」に設定してATMでキャッシュカードによる振り込みができないようする取り組みなを始めましたが、以後、高齢者によるATMでの振り込みを制限する動きが全国の金機関に拡がっています。
各種報道によれば、岡崎信用金庫もある愛知県では、今年2月の被害が確認されなかったということです。また、早い段階で導入していた伊予銀行と愛媛銀行のある愛媛県では、今年1月~3月の金融機関のATMを通じた県内での振り込め詐欺などの被害額は65万円で前年同期比95%まで劇的に減ったということです。このように一定の効果を上げる取り組みの一方で、顧客層の広さから制限することが難しいとされるメガバンク等大手行についても、犯行グループが大手行のATMに行くよう誘導するケースも出始めているということであり、金融機関の持つ「利便性」と「公共性」のバランスをどう取っていくか、今後の対応が注目されます。
また、金融機関の取り組み以外でも、例えば、昨年、一般人が被害を阻止した割合が、平成25年と比べて4倍以上に増加したということです(平成29年5月7日付毎日新聞)。さらに詳しく見ると、昨年の阻止件数は13,140件(計約191億8,000万円)で、うち「一般人」は9.6%(1,266件)、「金融機関職員」は51.6%(6,784件)、「家族・親族」が14.2%、「警察官」が5.7%などとなっています。異常の端緒を把握でき、速やかに対応できるのは、やはり現場に居合わせた人であり、電話をしながらATMを操作している高齢者がいたらまず疑うこと、勇気を振り絞って声掛けすることなどが被害防止に確実に有効であり、その点を地道に周知していくことが重要だとあらためて実感します(とはいえ、警察官がそのような場に遭遇し、実際に犯罪者と電話で会話したにもかかわらず、結局は被害を防げなかったという大変残念な事件も発生しています。いかに犯罪者たちの手口が巧妙化しているかがご理解いただけるかと思います)。
一方、特殊詐欺や詐欺の手口もまたバリエーションを増して、さらに巧妙化している実態があります。以下、最近の動向について、いくつか紹介しておきます。
まず、金融庁が振り込め詐欺などで不正に利用された疑いがあるとして預金口座の情報を金融機関や警察当局に情報提供した件数は、平成28年度で492件に上りますが、調査を始めた平成15年度以来で最少となりました。
金融機関の本人確認が徹底されてきたことで、不正な口座開設が減っているものと推測されますが、それが逆に現金の手渡しや郵送などの別の手口の多発化・巧妙化を招いていると言えます。特殊詐欺の手口には流行り廃りがありますが、それは、仕組みの脆弱性を突いた手口が流行ることで被害が拡大することとと、それに対応した新たな対策が講じられていくこととのいたちごっこの結果であり、現在、猛威をふるっている還付金等詐欺についても、上記の通り、金融機関や一般人の取り組みの進展で勢いを失っていく可能性があります(ただし、その後は別の手口による犯罪が横行することも予想されます)。
また、平成28年のインターネットバンキングに係る不正送金事犯については、発生件数は1,291件(前年比▲204件)、被害額は約16億8,700万円(前年比▲約13億8,600万円)で件数、被害額ともに大きく減少しています。
▼警察庁 平成28年中におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について
後述するように、昨年の大きな特徴としては、法人口座の被害額が9割近く減少したこと(前年比▲約10億3,100万円)及び信用金庫・信用組合の被害額が大幅に減少(前年比▲約7億9,400万円)したことが挙げられます。
その他、以下のような比較的新しい特殊詐欺事案や詐欺事案が報道されていますので、それぞれ簡単に紹介しておきたいと思います。
- 詐欺グループがバイク便のアルバイト募集を装った広告をインターネットの求人サイトに出し、それに応募した若者が詐欺グループに狙われた高齢者らから現金を受け取る「受け子」に仕立てられる(知らないうちに犯罪に加担させられ、逮捕される)被害が出始めています
- 新潟県内では息子などをかたり、新幹線を使って被害者に現金を関東方面に持ってこさせる「上京型」が流行の兆しを見せています
- 「警察官」を名乗る男から「振り込め詐欺が多発しているので気をつけて」と電話、その後、息子をかたる電話があり、連絡をくれた「警察官」に相談すると「犯人の言うことに従って」と言われ、要求通り400万円を宅配便で送ってしまったという詐欺が発生しています。警察の「だまされたふり作戦」を悪用した手口で、この「警察官」と「息子」は仲間同士の可能性が高いと言われています
- メールによる動画サイト利用料の架空請求で、ギフト券を買うよう求め、インターネット上の買い物に使える電子ギフト券の記載番号を入手して金をだまし取る詐欺事件が相次いでいます
▼消費者庁 有料動画サイト等の未納料金の回収を依頼されていると称して金銭を請求してくる事業者に関する注意喚起
- 「振り込め詐欺防止センター」の職員を名乗り、「あなたの個人情報が登録されている。削除しなければ振り込め詐欺の被害に遭う」などと嘘の電話をし、現金をだまし取ろうとする詐欺が発生しています。なお、大阪府警はこの事件の捜索で、だましの電話をかける際に利用していたとみられる名簿や携帯電話8台のほか、だます際の手口を記したマニュアルなどを押収しています
- 国民生活センターが、アダルトサイトで高額な請求をされるなどしたワンクリック詐欺の被害者が、対処方法をインターネットで検索すると、「無料相談」「返金可能」をうたった業者を公的機関と誤解して現金をだまし取られる二次被害が増えているとして注意喚起をしていますが、直近でもこの手口を用いた詐欺容疑で探偵業の男3人が逮捕されています。
- うその電話で金融機関のキャッシュカードをだまし取る手口の振り込め詐欺が急増する中、郵便の「レターパック」でカードを送るよう指示する詐欺未遂事件が相次いでいます。キャッシュカードをレターパックで空き部屋に送らせる手口はこれまで確認されていませんでした
- 業者や個人が出品できる「Amazonマーケットプレイス」で、人気商品を出品しながら購入者に届けない詐欺が横行しています。届け先に指定した住所や氏名などの個人情報は販売者に渡ってしまう点にも注意が必要です
- 仮想通貨の購入をめぐる高齢者の消費者トラブルが急増しています。インターネットを使わない高齢者が仕組みを理解しないまま勧誘されて購入し、売却できなくなるケースが多いと言うことです。また、仮想通貨の購入をめぐるトラブルでは、「まもなく取引市場がオープンする」と事実と異なる説明で購入を迫られている例も多数発覚しています
- GoogleとFacebookが詐欺メールに100億円以上を振り込んでいたことが発覚しています。取引先企業や経営者の名前を装って企業の財務担当者にメールを送り付け、ダミーの銀行口座に多額の送金をさせる詐欺(ビジネスメール詐欺)が世界中で多発していますが、IT超大手の2社が被害に遭ったことが世界を驚かせています。報道によれば、「送金額の大半はすでに回収され、被害は少ない」、「1億ドルは自社の経営に影響を与える金額ではない」から公表しなかったと説明しているようです
▼国民生活センター 「アダルトサイトとのトラブル解決」をうたう探偵業者にご注意!
さて、例月同様、警察庁から直近(平成29年3月)の特殊詐欺の認知・検挙状況等が公表されていますので、簡単に状況を確認しておきたいと思います。
平成29年1月~3月における特殊詐欺全体の認知件数は3,984件(前年同期 3,119件、前年同期比 +27.7%)、被害総額は76.7億円(同 90.3億円、同 ▲15.1%)となり、ここ最近と同様、件数の大幅な増加と被害総額の大幅な減少傾向が認められます。件数の増加については、還付金等詐欺によるものが顕著ですが、その他の類型についても同様の傾向が認められている点およびその件数の増加ペースが高止まりしていること、被害額の減少幅がやや縮小しつつあることなどから、特殊詐欺被害を抑止する有効な対策がまだ確立できていないことを示しているとも言えます。
さらに、特殊詐欺のうち振り込め詐欺(オレオレ詐欺、架空請求詐欺、融資保証金詐欺及び還付金等詐欺を総称)についても、認知件数は3,910件(2,979件、+31.2%)、被害総額は72.9億円(80.5億円、▲9.4%)と、特殊詐欺全体と全く同様の傾向を示しています。また、類型別でも、オレオレ詐欺の認知件数は1,525件(1,339件、+13.9%)、被害総額は34.5億円(36.3億円、▲5.0%)、架空請求詐欺の認知件数は1,161件(809件、+43.5%)、被害総額は25.1億円(33.9億円、▲26.0%)、融資保証金詐欺の認知件数は186件(106件、+75.4%)、被害総額は1.5億円(1.7億円、▲11.8%)、還付金等詐欺の認知件数は1,038件(725件、+43.1%)、被害総額は11.8億円(8.7億円、+35.6%)などとなっており、特に還付金等詐欺については、件数だけでなく被害総額も急激に増加している状況が続いており、その対策が急務であることが分かります。
(3) 組織犯罪処罰法改正を巡る動向
今国会後半の最大の山場である「テロ等準備罪」 を新設する組織犯罪処罰法改正案の審議が衆議院で続いており、もうすぐ採決される予定とも言われています。国会内外で賛否両論が渦巻いている状況にありますが、国民の一般的な理解としては、(参考人質疑の発言を借りれば)賛成派は「国際社会はテロ組織を含む組織犯罪集団と戦う上で重要な枠組みと認識」、「捜査機関の乱用が危惧されるようなハードルの低いものではなく正反対」というものであり、反対派については、「監視されないか非常に危惧している。物言う市民が萎縮してしまい、民主主義が健全に成り立たなくなるのではないか」、あるいは「捜査機関の乱用のおそれ、恣意的な運用がないか」といったものになるかと思います。
また、法の不備を指摘する声もあり、以下に紹介する回答書にある通り、法務省は「目的を共有していなければ、組織的犯罪集団の構成員ではない」と説明していますが、そうであれば、例えば、当時多数の事件を起こしていたオウム真理教の信者の多くは対象から外れてしまうことになり、同団体の組織犯罪集団の認定ができないロジックであれば見直す必要もありそうです。前述した通り、特定危険指定暴力団工藤会の裁判や、振り込め詐欺被害の組長に対する使用者賠償責任の請求訴訟などでも、「組織性」や「指示命令系統」、「指示の有無」などの立証に腐心している状況があり、「目的の共有」ひとつとっても実務上は認定が困難なケースも予想されるところです。今後の審議の深まりや、実際の厳格な運用による改善等を通して、精度や実効性を高めていくことが重要だと思います。
さて、日本人が欧米や中東などと同等のテロへの危機感を持つことは難しいのは事実ですが、オリンピックをはじめ国際イベントが目白押しの中、テロリスクは「向こうからやってくる」ものであり、日本固有のテロリスクの発生レベルを過少評価することなく、少なくとも国際レベルの対策を講じる必要があることは間違いありません(国際的な円滑な連携のための国際組織犯罪防止条約(TOC条約)の締結は必須の状況です)。また、ISが典型ですが、テロリスト・テロ組織自体の質的変化への対応という意味でも、本法は重要な意味があると考えます。
本コラムでもたびたび指摘してきた通り、ISは、「国家」、「自由」や「プライバシー」という欧米的価値観とは異なり(否定し)、いわば「思想」や「主義」を、SNSという武器を手に入れたこととあわせ、物理的・地理的な限界を超えて結びついた「超国家」です。その結果、職業的に育成されたテロリストだけでなく、思想的に感化された「ローンウルフ型」テロリストが、国や地域などの場所や時間に関係なくテロを引き越す可能性が高まっているという点が、本質的なリスクの変化であり、とりわけ日本においては、テロの兆候(端緒)を、可能な限り早い段階で把握し、計画を潰す(犯行を未然に防ぐ)ことの重要性が高まっていると言えます。
一方で、反社会的勢力の潜在化・不透明化・手口の巧妙化等から反社チェックの難易度が高まっている状況同様、テロの兆候(端緒)を把握しようにも、組織や個人の潜在化が進み、国民の相互監視機能が低下している中、ますます把握しにくくなる一方です(完全に外部と関係を遮断した何の組織にも属さない単独犯行であれば、その把握の困難さはさらに増しますし、今回の法改正でも対処が難しい部分と言えます)。その意味でも、話し合いや下見、実行などの微かな兆候(端緒)を把握するためには、計画段階からの規制を厳しくする新たな法整備と国民一人ひとりの意識を高めていくことが重要だと言えます。
以下、前回に引き続き、公表されている政府の答弁書から、ポイントとなる部分を抜粋して紹介しておきたいと思います。
- 改正後の組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律第六条の二第一項においては、「組織的犯罪集団」について、「団体のうち、その結合関係の基礎としての共同の目的が別表第三に掲げる罪を実行することにあるものをいう」と定義
- 「組織的犯罪集団」の「団体の活動として、当該行為を実行するための組織により行われるもの」又は「組織的犯罪集団に不正権益を得させ」若しくは「組織的犯罪集団の不正権益を維持し、若しくは拡大する目的で行われるもの」の遂行を二人以上で計画し、その計画をした者のいずれかによりその計画に基づき資金又は物品の手配、関係場所の下見その他の計画をした犯罪を実行するための準備行為が行われた場合を処罰の対象としており、これにより、「組織的犯罪集団」と関わりのない方々が同条の規定による処罰の対象とならないことが明確にされている
- 犯罪の実行を共同の目的とすることなく正当な目的で活動している労働組合、市民団体、民間企業等の団体は、同項の「組織的犯罪集団」に該当しない。
- ある時点においてある団体が組織的犯罪集団に該当するか否かは、当該時点において当該団体の「結合関係の基礎としての共同の目的」が改正後組織的犯罪処罰法別表第三に掲げる罪を実行することにあるか否かにより判断されるべきものであり、いかなる団体も、当該時点における「結合関係の基礎としての共同の目的」が正当な目的である限り、組織的犯罪集団に該当することはない。他方、過去に正当な目的で活動していた団体であっても、その後のある時点における「結合関係の基礎としての共同の目的」が改正後組織的犯罪処罰法別表第三に掲げる罪を実行することにあれば、当該時点においては、組織的犯罪集団に該当することとなる
- ある団体が組織的犯罪集団に該当するか否かの判断は、刑事訴訟法等に定める適正な手続に従って、裁判所、裁判官、検察官その他の当該手続においてその判断を行うべき者が、改正後組織的犯罪処罰法の規定及び収集された証拠に基づいて適切に行うこととなると考えているところ、そのような判断を可能とするために、正当な目的で活動している団体の監視が必要となるとは考えていない
- 計画行為とは、同項各号に掲げる罪に当たる行為で、「テロリズム集団その他の組織的犯罪集団」の「団体の活動として、当該行為を実行するための組織により行われるもの」を遂行することについての具体的かつ現実的な合意をすることをいい、「組織」すなわち、指揮命令に基づき、あらかじめ定められた任務の分担に従って構成員が一体として行動する人の結合体により行われる犯罪の遂行についての具体的かつ現実的な合意であることを要する
- 「組織的犯罪集団」に該当する以上、計画に係る同項各号に掲げる罪に当たる行為やこれを実行するための準備行為が反復して行われるものであることは要しない
- 国際組織犯罪防止条約(TOC条約)第五条1(a)(ⅰ)に規定する行為の犯罪化に当たっては、犯罪行為の未遂又は既遂に係る犯罪とは別個の犯罪として、「重大な犯罪を行うことを一又は二以上の者と合意する」行為を犯罪とすることが義務付けられているところ、我が国の現行の国内法制においては、ごく一部の罪に係るものを除き、このような行為が処罰の対象とはされていないことから、当該義務は我が国の現行の国内法制では担保されておらず、これを誠実に履行するための新たな立法措置が必要であると考えている
- 本条約上認められているオプションである「国内法上求められるときは・・・組織的な犯罪集団が関与するもの」との要件の下で、国内法において、「組織的な犯罪集団」の捉え方に応じて、対象犯罪を定めることは、本条約第五条1(a)(ⅰ)の規定により許容されるところであり、また、同条3の「組織的な犯罪集団の関与するすべての重大な犯罪を適用の対象とすることを確保する」との規定とも整合するものである
- 犯罪捜査のための通信傍受に関する法律(以下「通信傍受法」という。)第三条第一項第一号に該当するものとして同項又は同条第二項の規定による傍受をするためには、通信傍受法別表第一又は別表第二に掲げる罪が犯されたと疑うに足りる十分な理由が必要であることから、当該罪が未遂罪である場合には、当該罪に係る実行の着手があったと疑うに足りる十分な理由が必要である
- 改正後組織的犯罪処罰法第六条の二の罪が犯されたことにより、通信傍受法第三条第一項第三号に該当するものとして傍受を行うことはできないと考えている
- 実行準備行為は、同条の罪の構成要件の一部をなし、計画をした者のいずれかにより実行準備行為が行われることを含め、刑法第三十八条第一項に規定する「罪を犯す意思」が必要であると考えている
- 改正後組織的犯罪処罰法第六条の二の罪を設けることに伴い、「通信傍受の対象犯罪を拡大」することは予定していない
(4) AML(アンチ・マネー・ローンダリング)/CTF(テロ資金供与対策)/テロリスクの動向
前回の本コラム(暴排トピックス2017年4月号)で紹介したマネー・ローンダリング事犯のうち、海外の犯罪グループが米国やカナダなどの企業の取引先になりすました「ビジネスメール詐欺」などの被害金が、自動車部品などの「商品購入代」と装うなどして日本の口座に振り込まれた事件について、大阪府警などは、組織犯罪処罰法違反(犯罪収益隠匿)や詐欺の疑いで、ナイジェリア人や日本人の男女計14人を逮捕、起訴し、捜査を終えています。
確認された送金総額は約27億8,000万円に上り、国内で摘発されたマネー・ローンダリング事件としては最大規模となりました。報道(平成29年4月19日付日本経済新聞電子版)からは、本事件の舞台となった地銀や信金におけるAML態勢の脆弱性が悪用されたことがうかがえ、今後の教訓とすべきだと言えます。
- 送金先として使われた日本国内の口座の95%(101口座のうち96口座)が地銀や信金の口座だった
- 指示役であるナイジェリア人らは、協力者に、都市銀行以外の金融機関に口座を作るよう指示していた
- 地銀や信金の職員は英語でやり取りできる行員が少なく、海外からの送金の取り扱いに不慣れだった
- 口座の名義人の日本人は、引き出し額の約4%の報酬を受け取っていた
このような脆弱性(脇の甘さや取り組みの甘さ、あるいは脆弱性を解消していない等)が明らかであればあるほど犯罪者から狙われることは、反社リスク対策でも同様であり、例えば、反社リスクの相対的に高くないエリアに本店のある地銀が反社リスクの高いエリアに出店した場合、反社会的勢力からの口座開設や各種取引の申し出が地元金融機関よりも集中するといった実態が確認されています。反社会的勢力から見れば、「地元の金融機関より反社情報の質・量ともに不足しているはずだ」、「対応に不慣れだろう」から、まずはアプローチしてみようと考えるのは当然のことであり、当該地銀においても、本店と支店とで反社リスクの大きさが全く異なること(反社リスクの地域性)を厳しく認識したうえで、リスクの度合いに応じて対策の精度や強度を上げないと(全国一律の中庸レベルでの反社チェックを行うだけでは)、反社会的勢力と接点を持ってしまいかねないおそれがあります。本店が入手している情報だけでは反社リスクへの対応は不十分として、現場レベルでも独自の情報収集力を強化することや反社チェックのプロセスの見直ししながら精度を上げていく取り組みの工夫が求められます。
なお、本マネー・ローンダリング事件について、地銀関係者は、「警察庁や金融庁から提供されるテロ組織の情報などを共有し、被害を防ぐ努力をしている」としているとのことですが、そもそも自らの支店で国際的な取り引きがなぜ行われるのか(ほとんど取り扱わないところでなぜ取り扱うのか)を確認するとともに、利用された口座の「真の受益者」に問題はないのか(口座名義人の日本人が報酬を受け取っている事実から、その口座名義人については何等かの特異な状況が見受けられた可能性は否定できません)、といったより深度あるチェックを行うべきです。そうでなくても、AML/CTFにおける取引時確認において、書面や口頭の情報を頼りに疑わしいかどうかチェックせざるを得ない金融機関の実務の限界があります。「警察庁や金融庁から提供される情報を利用している(から大丈夫だ)」との認識だけでは、国際犯罪組織(暴力団等反社会的勢力も含まれます)のアプローチに対抗することは難しいでしょう。加えて、今回の事件においては、元暴力団員の口座への送金事実もあったことから、顧客管理態勢の見直しにおいては、反社リスク対策およびAML/CTF実務の厳格化を「一体的に」進める視点が必要だと思われます。
次に、テロリスクの動向として、興味深い事案も相次いでいます。ロシアのサンクトペテルブルクで4月に発生した地下鉄爆破テロの実行犯とされるキルギス出身の容疑者が、「国際的なテロ組織」から資金を受け取っていたとの報道がありました。どのテロ組織が資金援助したのかは明らかになっていませんが、正にCTFが実効性をもって機能していたかどうかが問われています。また、そのロシアでは、ロシア政府がインターネットへの締め付けを強化しており、昨年、通信業者に対して、顧客の個人情報を国内に保存し、当局が求めた場合は提出を義務づけるネット規制法が施行されましたが、LINEや中国の「微信」は同法に基づく顧客情報の提供を拒んだことから、使用が禁止され、ユーザーが利用できない状況になっています。さらに当局は、ほかに「グーグル・プレイ」や「ITunes」にも「禁止」を警告しているということです。テロの脅威が現実化していることもありますが、ロシアでは、来春に大統領選が控えており、ネットを駆使する反体制派への圧力を強める狙いも見え隠れしています。
さて、世界と日本を比較した場合のテロリスクの認識の相違がよく分かる調査が公表されています。
▼デロイトトーマツコンサルティング 「2017年 デロイト ミレニアル年次調査 日本版」発表
本調査は、ミレニアル世代(1980年代半ばから2003年の間に生まれたデジタルネイティブ世代で、社会のあり方を変容させる世代として注目されている)を対象としたものです。多くのミレニアル世代は、自分達は規模の大きい社会的課題に対して意味のある影響力を持たないと感じている一方で、自分達の影響力は限られているものの、世界中に存在する多くの課題に対して責任があると感じているとの指摘があります。そして、彼らにとって世界が直面する課題で関心の高い事項は、先進国では「戦争、テロリズム、政治的緊張(56%)」が最も高い回答になったのに対し、日本の最も関心の高い課題は「高齢化/人口推移(35%)」で、「テロリズム」と回答した割合は29%にとどまるといった結果になりました。
また、同じデロイトトーマツ系の実態調査からは、もっと鮮明な違いが読み取れます。
▼デロイトトーマツ 企業リスク研究所 「企業のリスク・クライシスマネジメント実態調査」2016年版
本調査結果によると、「日本国内において、最も優先して着手が必要と思われるリスク・クライシス」については、「地震・風水害等、災害の発生」(37.0%)、「法令順守違反」(25.3%)、「情報漏えい」(22.8%)などとなった一方、「国際紛争、テロ等の発生」はわずか1.1%にとどまっています。これに対し、海外では、「法令順守違反」(20.0%)、「「地震・風水害等、災害の発生」(18.2%)に続き、「国際紛争、テロ等の発生」(16.2%)が第3位にランクインしており、テロリスクに対する認識が日本と世界とで大きく異なっていることが分かります。さらに、「日本国内において、マネジメント対象としているリスク・クライシスの種類」についても、「地震・風水害等、災害の発生」(79.5%)、「情報漏えい」(74.3%)、「法令順守違反」(72.2%)、「サイバー攻撃・ウィルス感染」(64.6%)などとなった一方で、「国際紛争、テロ等の発生」は30.8%にとどまっていますが、海外では、「国際紛争、テロ等の発生」は35.2%と、「法令順守違反」(36.8%)に続き、第2位にランクされています。
これらの調査結果からも、日本における個人や事業者のテロリスクへの認識の低さが読み取れますが、前項でもお話した通り、日本におけるテロリスクにおいては、「ローンウルフ型」が点在しその活動が全く予測できないという「本質的なリスクの変化」が起きており、日本においては、テロの兆候(端緒)を可能な限り早い段階で把握し、計画を潰す(犯行を未然に防止する)ことの重要性が高まっていると言う点をしっかり踏まえる必要があると言えます。
(5) 捜査手法の高度化を巡る動向
捜査手法や捜査協力に関する直近の事例を紹介いたします。
LINE社は、捜査機関からの情報開示請求件数などをまとめた「透明性報告書」を初めて公開しています。報道(平成29年4月24日付毎日新聞)によると、昨年7月~12月の期間で、日本、台湾、韓国、米国など計9カ国・地域から1,268回線に対して、計1,719件の要請があり、約6割の997件に対応、8割は日本の捜査機関からとのことです。国内では、裁判所が捜索令状を発行した場合や爆破予告や自殺予告など緊急性が高い場合などに情報開示要請に応じており、令状がない場合でも、殺人事件で被害者を誘い出すのに使われた通信履歴の開示を求められた時などには開示し、過去6カ月分など長期にわたる場合は拒否するなどの運用を行っているようです。
一方で、事業者から捜査機関への情報開示については、プライバシー保護との緊張関係にどう対処するかが課題となります。昨年は、テロリスクとの緊張関係について、米アップル社と米連邦捜査局(FBI)の間のスマホロック解除問題が大きくクローズアップされました。捜査当局と事業者、あるいは利用者(一般市民)の間には、常に捜査手法と表現の自由や知る権利、プライバシー保護の間でまだまだ深い溝がありますが、テロリスクに限らず、緊急性や公益性の高さ、ソーシャルメディアのもつ犯罪や害悪に対する活動助長性の高さを共通認識としつつ、乗り越えていかなければならない課題だと言えるでしょう。
インターネットバンキングの不正送金事案が深刻化する状況をふまえ、警視庁が犯人のネットワークに対する「潜入捜査」を進めているとの報道がありました(平成29年4月24日付日本経済新聞)。不正送金の手口として、「ボットネット」と呼ばれる攻撃用のネットワークが構築されることを利用して、ボットネットにウィルス感染させた端末を紛れ込ませ、犯人の動きを監視する手法で、利用者がIDやパスワードを盗み取られる前に、警視庁のTwitterなどで警告を発する取り組みを行っており、既に実績も重ねてきているようです。手法的には、犯行グループに察知されれば、手がかりを消される可能性や逆に当局の動きが監視されかねない懸念がある一方で、犯行グループの実態解明にもつながる可能性があるとのことです。
大麻密輸事件の捜査の過程で、容疑者のIDとパスワードを本人の承諾なく用いて、密輸に使われるとみられる薬物取引の闇サイトにアクセスしたとして、神奈川県警が、横浜税関の男性職員を不正アクセス禁止法違反の疑いで書類送検しています。容疑者から申告を受けたIDとパスワードでは接続できなかったところ、当該職員が推測したもので接続を試してみたら接続に成功したというものです。業務遂行に熱心のあまりの事例とはなりますが、法令に則った捜査・手続きが必要であることは言うまでもありません。
未成年者による事件について、少年法は本人と推定できる記事や写真の掲載を禁じており、過去にも千葉県で同様の事案があったようです。画像の公開は確かに犯人検挙や犯罪抑止に効果があるものと思われますが、万引き犯の画像を公開した「まんだらけ」の事案では、民間事業者としての対応のあり方(対応の限界)が議論となりましたが、捜査機関であればなおさら画像の公開には慎重な姿勢や検討が求められます。
(6) 犯罪インフラを巡る動向
ECサイト
フリーマーケットアプリ「メルカリ」や「ヤフー」のオークションサイトなどで、マネー・ローンダリングや貸金業法、出資法に抵触する可能性がある現金、チャージ済みのSuica、領収証などが出品されていたことが分かり、金融庁や警察庁が問題視しています。また、剥製の取引も多数行われており、ワシントン条約の国内法である「種の保存法」に抵触する可能性もあるほか、「女性が妊娠しやすくなる『妊娠菌』がついている」と称した商品も出品されており、こちらは、効能をうたっているため医薬品医療機器法(旧薬事法)に抵触する恐れがあります。運営会社は、問題のある出品物を削除するなどの措置を取っているものの、合法・違法の線引きに専門知識が必要なものについては対応が間に合わないのが実情だということです。
そもそも、これらの取引においては、一定の匿名性が担保され、簡単な登録で出品・落札できる利便性を背景にマーケットを拡大してきた経緯がありますが、本コラムでたびたび指摘している通り、「利便性の裏に潜む悪用リスクへの対策」が後手後手に回っていると指摘せざるを得ません(そもそも当初から、そのようなリスクを想定していないか、個別の対応で捌けるとリスクを軽視していたか、いずれにしても甘いリスク認識だったのではないかと思われます)。
さらに、これらECサイトが共通に抱える課題も山積しています。例えば、最近は宅配事業者の負担増の問題が表面化していますが、結果的に過重労働等のコンプライアンス違反を助長する、ドライバー等の心身の健康を害する形となっていること、流通量のみならず再配達の増加によってCO2排出量が増加して環境へ悪影響を及ぼしていること、アカウント乗っ取りによる不正取引や情報漏えい、詐欺など悪意ある出品者の犯罪行為を匿名取引によって助長する形ともなっています。ECサイトの運営事業者が、自らの利益を拡大させる一方で、犯罪や害悪を助長する「場」を「結果的に」提供してしまっている現行のビジネスモデルを野放しにすることは許されず、問題があれば速やかに改善するのは当然の責務であり、自らの利益の追求にばかり走って改善の取り組みを疎かにするのであれば、ビジネスから撤退すべきです。事業者には、サプライチェーン全体の全体最適を常に追及すること、ビジネスをローンチする際にリスクを徹底的に洗い出すこと、(新たなビジネススキームであればとりわけ)犯罪を助長するビジネスを行わない強い覚悟と自覚、これらすべてを含むビジネスモデルの健全性と持続性を担保するための厳格な監視を求めたいと思います。一方で、利便性を享受する消費者には、その利便性によって犯罪や害悪が助長されていることが明らかとなっている以上、健全な自制心のもと、「倫理的な消費行動」を求めたいと思います。
特殊詐欺における「三種の神器」
「他人名義の口座」「他人名義の携帯」「名簿(個人情報)」は、特殊詐欺における「三種の神器」と呼ばれています。以下、直近で報道された事案をいくつか紹介します。
- 息子を装って「会社の金を横領した」などと虚偽の電話をかけ現金300万円をだまし取ろうとした事案で、警視庁がさいたま市内の特殊詐欺グループのアジトを摘発しています。アジトには、携帯電話などが40台、7万人分の個人情報が記載された高校の卒業名簿などのほか、犯行の手順を記したマニュアルなどがあったということです。今回摘発されたグループは約20件(被害総額約2,000万円)の事件に関与したとみられています
- 他人名義の免許証を使って携帯電話などをだまし取り転売したとして、警視庁は、無職の男を組織犯罪処罰法違反(犯罪収益の隠匿)容疑で逮捕しています。報道(平成29年5月2日付毎日新聞)によると、他人名義の免許証を184枚押収、コンビニエンスストアのコピー機に置き忘れた免許証が闇サイトで販売され、それを購入したとみられていると言うことです。本件では、1都3県の携帯電話販売店で約1,300台以上が不正に購入され、被害額は1億2,000万円以上に上るとのことです
- 本コラムでもたびたび紹介している、特殊なソフトを使わないと接続できず、発信元の特定が困難な「ダークウェブ」で、日本のクレジットカード会社の利用者約10万人分の個人情報が売買されている状況が明らかになっています(イスラエルのセキュリティ会社であるテロジェンスンス社の報告)。実際に売買されている情報は、サイバー攻撃を受けた企業などから流出したとみられています
特殊詐欺の「三種の神器」など犯罪の背景には、これまで紹介してきた通り、ネットバンキングにおけるチェックの甘さ(手続きの脆弱性)を突かれた不正口座開設、貧困ビジネスにおける生活保護受給者を使った口座開設と不正譲渡、レンタル携帯や格安スマホにおける本人確認手続きの脆弱性、携帯ショップ店員等と暴力団等との共謀(内部不正)による携帯電話の大量横流し、免許証等の偽造・改ざんを専門とする事業者の存在、サイバー攻撃等による情報漏えい、闇サイトなどブラックマーケットにおける個人情報・名簿、ID・PW等の不正売買、さらには、悪質な不動産事業者を介した拠点(アジト)の確保・・・などの「犯罪インフラ」およびそれを提供する「犯罪インフラ事業者」が存在し、反社会的勢力など犯罪者・犯罪集団と共謀・共生しながら活動しています。
特殊詐欺の撲滅には、様々な対策を重層的に行っていくことが必要ですが、とりわけ「犯罪インフラ」事業者を排除していくことは有効な対策のひとつです。そして、犯罪インフラ事業者排除の取り組みが犯罪の摘発や被害の防止にストレートに直結することで、反社会的勢力の資金源に打撃を与え、最終的に反社会的勢力の排除に資するものであるとの認識のもと、事業者においても、自らが犯罪を助長するビジネスを行わないことは当然のこととして、自らのサプライチェーンにおいて犯罪を助長するようなスキームが紛れ込まないようチェーン・マネジメント(チェーン・コンプライアンス)を徹底することが求められています。
SNS
前述したECサイトの問題と構造的には似ていますが、SNSもまた「犯罪インフラ」としての負の側面が目立っています。米国では、カリフォルニア州で平成27年に発生した銃乱射テロの犠牲者の家族が、容疑者が忠誠を誓ったとされるISの活動を助長したとして、米グーグルとツイッター、フェイスブックの3社に損害賠償などを求める訴訟を同州の連邦地裁に起こしています。報道によれば、遺族らは、3社がISの資金集めや求人、思想頒布に協力したと主張し、容疑者の過激化にも加担したとしています。さらに、3社の存在がなければ、ISに忠誠を誓うテロリストが増えることはなかったとも訴えたと言うことです。
SNSがISに限らず犯罪を助長する側面があることは、リベンジポルノやストーカー犯罪、薬物犯罪等でSNSが果たしている役割を見れば否定できない事実です。一方、SNS運営事業者もこのような健全性を阻害する情報等の削除に真摯に取り組んでいる実態もあります。例えば、YOUTUBE上の(テロリスト募集やヘイトを助長するものなど)不適切な動画に広告が(自動的に)掲載されてしまう問題で、「我が社の広告がテロやヘイトを推進するYOUTUBEのコンテンツとともに表示されるかもしれないことに、深い懸念がある」(AT&T)、「我々の広告とともに表示されているコンテンツは、驚愕するようなもので、我々の企業価値とは全く相入れない」(ウォルマート)などとして、米英の大手広告主がグーグルへの広告出稿を取りやめるなど影響が拡大しています。それに対して、グーグルは、「ヘイトコンテンツの排除の強化」、「広告主による不適切コンテンツ除外設定を容易に」などの改善策を打ち出しています。なお、グーグルによれば、このような悪質コンテンツ対策の現状について、1分間に400時間分の動画がYOUTUBE上にアップロードされており、昨年1年間で、20億件の悪質広告を排除、Googleアドセンスから10万件のサイトを削除し、3億件の動画に広告が配信されるのを阻止したと公表するなどして理解を求めています。
また、日本国内でのSNSに関する被害の状況については、警察庁から報告書が公表されています。
▼警察庁 平成28年におけるコミュニティサイト等に起因する事犯の現状と対策について
昨年1年間にインターネット上の交流サイトを介して性犯罪などの被害に遭った18歳未満の子供は1,736人(前年比84人増)で、統計を取り始めた平成18年以降で最多となっています。うち、最も多かったサイトはTwitterで、446人(同220人増)となりました。さらに、「資料9」によれば、Twitterを除く他のサイトにおける被害児童数が約1割減少している中、Twitterにおける被害児童数だけが約2倍に増加しており、全被害児童のうち、4人に1人がTwitterにおける被害を受けている実態が明らかになっています。
この点について、報道によれば、同社としても「米国本社も日本法人も深刻に受け止めている。技術的改善を含め、新たな対策を検討する」としています。また、警察庁としても、事業者による児童被害防止のための主体的な取組を推進するため、「事業者による協議会の設立を支援」する方針を打ち出しており、「協議会において、児童被害防止対策を講じるために必要な体制や成功事例等を共有し、サービスの態様に応じた児童被害防止対策を促進」、「事業者によるサイト内環境の浄化の推進」を図ると言うことです。ECサイト同様、SNSの運営事業者においても、事業者自らが、「サイト内環境の浄化」(=厳格なモニタリングによる健全性の確保)に真摯に取り組むべき状況にあるのは間違いないところです。
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厚労相の諮問機関である社会保障審議会の生活困窮者自立支援及び生活保護部会が、生活保護制度などの見直しに向けた議論を始めています。
▼厚生労働省 第1回社会保障審議会「生活困窮者自立支援及び生活保護部会」資料
まず、「無料低額宿泊所」等の中には、いわゆる「貧困ビジネス」といわれるような、生活保護受給者を囲い込んで劣悪な環境に住まわせ、保護費から高額な利用料を取るなど悪質な事業者がある一方で、様々な生活支援に、熱心に取り組んでいる事業者も存在することから、(1)悪質な事業者を規制しつつ、(2)生活支援を行う良質な事業者が、活動しやすい環境づくりを進めていく必要があるとの基本的考え方が示されています。その中で、具体的な悪質な事業者に対する規制については、無料低額宿泊所を社会福祉法で第2種社会福祉事業と位置付けられているものの、一部の地方自治体では、条例で、無料低額宿泊所等に対する規制を行っており、社会福祉法の規定に加え、改善命令、勧告・公表などを規定していること、悪質な事業者に対し、居住環境等の改善を促すには、現在の「ガイドライン」という形ではなく、法令に基づく最低基準を設け、その基準を満たさない設備及び運営となっている事業者等に対しては、行政が改善命令、勧告・公表などを行えるようにすべき(法的拘束力が必要)といった方向性が示されています。本審議会は、あくまで厚労相の諮問機関であり、住環境や社会福祉の観点からの議論がメインとなりますが、「貧困ビジネス」が暴力団等の反社会的勢力の資金源のひとつとなっていることを鑑みれば、結果的に悪質な事業者を排除する(=犯罪インフラ事業者の排除)ことにつながる強力な施策を整備すべきだと言えます。
(7) その他のトピックス
忘れられる権利を巡る動向
いわゆる「忘れられる権利」を巡って、今年1月に最高裁が注目される判断を出しました(暴排トピックス2017年2月号を参照ください)が、当該裁判は、削除を求めた仮処分申請に対するものでした。本件では、平成27年6月にさいたま地裁が初めて「忘れられる権利」を認めて、削除を命じる決定をしたことを受けて、訴訟が提起されていましたが、仮処分申請を巡る最高裁の判断を受けて、現時点では訴訟を続けても請求が認められる可能性が低いと判断してか、原告が請求を取り下げ裁判が終了しています。
以前の本コラム(暴排トピックス2017年1月号)でも言及しましたが、いわゆる「忘れられる権利」を巡っては、現在の司法判断の多くが仮処分申請に対するものであり、裁判官ごとの判断の違いや判断資料や基準が社会的に共有されにくい状況や、裁判所の判断についても、正確かつ必要な情報の収集に基づく「裁判所だからできる判断」であって、多くの限界の中で対応を迫られる事業者の判断のあり方とは異なる点も課題となっています。
本件の最高裁判断においても、「表現の自由」や「知る権利」を重んじたのは評価できるとしても、「公共性」と「時間の経過」の比較衡量の観点(何年たてば犯罪報道の公共性がなくなるのか)からの判断が「明確に」示されなかった点(考慮要素の中に「社会的状況のその後の変化」との文言はありますが)は今後の課題となっています。犯罪歴は、慎重な配慮を必要とする個人情報(改正個人情報保護法における要配慮個人情報)であり、過失などの軽微な犯罪歴まで、誰でも検索可能な形でネット上に掲載し続けることは、人権上、まったく問題がないとは言えず、そのバランスが、仮処分申請だけでなく訴訟等を通じて、「見える形で」判例が積み重なることで、事業者としても理解できる、妥当なところで収斂していくことを期待したいと思います。
また、関連して、プライバシー侵害を巡る興味深い判決がありました。報道(平成29年4月26日付産経新聞)によれば、NTTの電話帳に掲載された氏名や住所、電話番号をインターネットサイト「ネットの電話帳」で無断公開されてプライバシーが侵害されたとして、京都市の男性がサイト運営者の神奈川県の男性に情報の削除と慰謝料などを求めた訴訟の判決で、京都地裁は、運営者に情報の削除と55,000円の支払いを命じています。判断理由として、「ネットで情報が公開されると際限なく複製が可能で、いつまでも閲覧でき、配布先が限定されている紙媒体と異なる」こと、「男性が(ネットの)掲載に同意したとはいえない。氏名と結びつけられた住所や電話番号のネット公開は、私生活の平穏を侵害される危険性がある」などと指摘している点が興味深いと言えます。前述した最高裁の判断においても、考慮すべき要素のひとつに「上記記事等が掲載された時の社会的状況とその後の変化」をあげていますが、正に、「掲載時の社会的状況」と「その後の変化」という時間を超えても、掲載され続けているというネット上の情報のあり方(削除のあり方)の整理が求められている状況だと言えます。
ギャンブル依存症対策を巡る動向
ギャンブル依存症対策については、現在、与党ワーキングチームで議論が進められています。今般、「統合型リゾート(IR)整備推進法」(カジノ法)の成立を踏まえたギャンブル依存症対策基本法案の骨子案の「基本的施策」について、相談支援や社会復帰支援のほか、ギャンブル事業者の適正な運営についても盛り込むことで合意したということです。また、ギャンブルだけに限らず、アルコールや薬物などの依存症対策と「有機的な連携を図る」と明記することとなりました。以前もご紹介しましたが、依存症治療の世界では、依存する対象を単純に取り上げただけでは問題の解決につながらないことが分かっています。例えば、アルコール依存症の方からお酒を取り上げれば薬物依存に移行する、買い物依存症とギャンブル依存症を行き来する、という具合で、何かに依存する心理的要因を抱えていることがその背景にあると言われています。
なお、直近の報道(平成29年5月11日付朝日新聞)によれば、「ネット依存」が疑われる中高生は、飲酒や喫煙をよくする生徒ほど該当する割合が高いことが分かったということです。現時点で、ネット依存と未成年者の飲酒・喫煙といった違法行為の依存につながる共通要因の解明には至っていないものの、識者の指摘するように、依存を幅広くとらえて予防や治療のための対策を考えていく必要がある点がこの結果からは示唆されており、大変興味深いものです。本コラムでも、複数の依存症との相関関係等も視野に入れて検討すべきだと指摘してきましたが、事業者に健全な取り組みを求めること、青少年育成という早い段階からの取り組みを行うべきであることを含め、包括的な視点で議論が進め、今後の実効性ある法制化につなげていただきたいと思います。
また、法制化の動きに限らず、依存症対策に関する様々な取り組みが進みつつあるようです。例えば、薬物犯罪など再犯率が高い罪に問われた被告について、刑務所ではなく裁判手続きの中での立ち直り(更生)を目指す「治療的司法」の研究センターが今春、成城大学で発足したということです(平成29年5月12日付毎日新聞)。欧米では裁判官やケースワーカーが共同して治療プログラムを作る専門法廷の運用が進んでいる一方、日本では認められておらず、「治療的司法は再犯防止の切り札になる」と関係者は期待しているとのことです。
さらに、自治体レベルでも、ギャンブルやアルコール依存症の再発防止プログラムの導入が広がっています。報道(平成29年5月1日付日本経済新聞)によれば、依存症患者の社会復帰を助ける受け皿が圧倒的に不足する中、行政が自ら手掛けて普及を促す動きが加速しており、今年1月末時点で、30自治体と5年前の4倍近くに増えているということです。この点については、先行した取り組みとして、以下のような総合的・包括的なアルコール依存症対策が平成26年から進められており、現状、専門の医療機関の整備や治療法の開発もほとんど進んでいないギャンブル依存症対策についても、法制化を契機に取り組みレベルの底上げを期待したいところです。
参考までに、アルコール健康障害対策基本法第3条(基本理念)では、「アルコール健康障害の発生、進行及び再発の各段階に応じた防止対策を適切に実施するとともに、日常生活及び社会生活を円滑に営むことができるように支援」すること、「飲酒運転、暴力、虐待、自殺等の問題に関する施策との有機的な連携が図られるよう、必要な配慮」をすることが掲げられています。また、同法では、国・地方公共団体・国民・医師等・健康増進事業実施者の責務とともに、「事業者の責務」として、「アルコール健康障害の発生、進行及び再発の防止に配慮する努力義務」が規定されています。そのうえで、教育の振興等、不適切な飲酒の誘引の防止、健康診断及び保健指導、アルコール健康障害に係る医療の充実等、アルコール健康障害に関連して飲酒運転等をした者に対する指導等、相談支援等、社会復帰の支援、民間団体の活動に対する支援、人材の確保等、調査研究の推進等の10の基本的施策について、国だけでなく地方自治体にも「アルコール健康障害対策推進基本計画」を作成することが求められています。
サイバー攻撃対策を巡る動向
昨年のATM不正引き出し事件は、日本の複数の暴力団の関与だけでなく、振り込め詐欺グループとの連携、さらには、国際的なハッカー集団(国際犯罪組織)との連携という、国内外の枠にとどまらない新しい形の犯罪が大がかりに実行されるのを目の当たりにしたという意味で、極めてエポックメイキングなものでした。また、サイバー攻撃自体、外部からの攻撃という点で暴排・反社会的勢力排除と同じ構図を持っており、その対策のあり方も共通する点が多いと言えます。さらに、最近の組織犯罪においては、サイバー攻撃をひとつの犯罪ツールとして何等かの形で取り入れたものも多く、その新たな手口や動向について注視していく必要があります。最近発表された各種レポートも含め、以下にご紹介いたします。
本報告書では、被害者に金銭(身代金)を要求する「ランサムウェア」を用いたサイバー攻撃が昨年1年間で50%も増加しており、最も被害が大きいのは金融サービス、医療、公共部門だということです。なお、先週末、世界的規模で発生したサイバー攻撃もランサムウェアを用いたもので、実際に医療機関では手術の中止等の深刻な被害も発生しています(メーカーの生産停止など一般企業でも影響が確認されている一方で、サイバー攻撃対策を強化している金融機関への影響は今のところ大きくはないようです)。また、中東や東欧の国々のハッカーが企業のネットワークに不法侵入して知的財産を盗むといったサイバースパイ活動が増加しているほか、IoTにつながった機器さえもランサムウェアを用いた攻撃の対象にしているといった動向が報告されています。
▼情報処理推進機構(IPA) 企業のCISOやCSIRTに関する実態調査2017」報告書について
IPAが実施した日・米・欧州のCISO(最高情報セキュリティ責任者)や情報システム担当者等向けアンケート調査結果によれば、ウィルス感染・サイバー攻撃(不正アクセス、Dos攻撃、標的型攻撃等)・内部者(委託者等を含む)による不正の被害状況について、「発生した」との回答は、日本が26.1%、米国31.9%、欧州18.1%との結果となっています。うち、日本での被害内容としては、「顧客情報の漏えい」(33.8%)、「業務情報(営業秘密を除く)の漏えい」(22.8%)、「営業秘密の漏えい」(19.6%)に続き、前述の調査結果でも急増が報告されている「ランサムウェア感染によりデータファイルが使用不能になった」(18.3%)が上位にきているのが特徴的です(米・欧州より高い割合を示しています)。また、日本での攻撃の手口としては、「脆弱性(セキュリティパッチの未適用)を突かれたことによる不正アクセス」(51.7%)が最も多く、「ID・パスワードをだまし取られてユーザーになりすまされたことによる不正アクセス」(34.8%)、「DoS(DDoS)攻撃」(34.1%)、「標的型攻撃」(29.6%)と続いています。
▼警察庁 平成28年中におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について
警察が連携事業者等から報告を受けた標的型メール攻撃は4,046件(前年比+218件)で、3年連続の増加となっています。とりわけ、標的型メールの送信元メールアドレスについては、攻撃対象の事業者をかたるものなど、偽装されていると考えられるものが全体の94%と多数を占めている点に注意が必要です。また、サイバー犯罪の検挙件数は8,324件(前年比+228件)、相談件数は131,518件(前年比+3,421件)でいずれも増加し、過去最多となっています。一方、前述した通り、インターネットバンキングに係る不正送金事犯については、発生件数は1,291件(前年比▲204件)、被害額は約16億8,700万円(前年比▲約13億8,600万円)となり、件数、被害額ともに大きく減少した点が特徴だと言えます。とりわけ、法人口座の被害額が9割近く減少したこと(前年比▲約10億3,100万円)及び信用金庫・信用組合の被害額が大幅に減少(前年比▲約7億9,400万円)したこと(その理由としては、ウィルス感染端末の早期検知等の対策が進んだことがあげられます)は特筆すべき点だと言えると思います。一方で、電子決済サービスを使用して電子マネーを購入する手口が増加したことなども傾向として指摘できます。なお、不正送金の一次送金先として把握した1,722件の口座のうち、名義人の国籍は中国が約52%を占め、次いでベトナムが約25%、日本が約13%を占めている点も、日本を舞台に犯罪対策のグローバル化の一端を示すものと言えます。
▼内閣サイバーセキュリティセンター サイバーセキュリティ戦略本部
サイバーセキュリティ戦略本部が、電力などの重要インフラをサイバー攻撃から守るための第4次行動計画を決定しています。その主なポイントとしては、「リスクマネジメントを踏まえた対処態勢整備の推進」、「個々の重要インフラ事業者等が単独で取り組む情報セキュリティ対策のみでは多様な脅威への対応に限界があることから、他の関係主体との連携をも充実させる」といった視点、「自社の取組が社会全体の発展にも寄与することを認識し、サプライチェーン(ビジネスパートナーや子会社、関連会社)を含めた情報セキュリティ対策に取り組むこと」、「情報セキュリティに関してステークホルダーの信頼・安心感を醸成する観点から、平時における情報セキュリティ対策に対する姿勢やインシデント発生時の対応に関する情報の開示等に取り組むこと」、「各取組に必要な予算・体制・人材等の経営資源を継続的に確保し、リスクベースの考え方により適切に配分すること」など、反社リスク対策にも通じる内容となっています。
▼警察庁 サイバー犯罪対策課 平成28年におけるコミュニティサイト等に起因する事犯の現状と対策について
コミュニティサイト等に起因する事犯には、一般的に反社会的勢力の関与も十分に想定される分野となりますが、コミュニティサイトに起因する事犯の被害児童は、前述した通り、増加傾向が継続しており、過去最多の被害児童数となっていることから、対策の強化が望まれるところです。一方で、出会い系サイトに起因する事犯の被害児童は42人と、平成20年の出会い系サイト規制法の改正以降減少傾向にあり、事業者による年齢確認、書き込み内容の確認強化等により更に減少している点は、対策が功を奏していることを示すものとして特筆すべきものと言えます。
薬物対策を巡る動向
前回の本コラム(暴排トピックス2017年4月号)でもご紹介しましたが、暴力団の「覚せい剤への回帰」の傾向(暴力団の資金獲得活動において、覚醒剤密売の比率が高まっている)が鮮明となっています。一方、大麻については、「初犯」者率が77.4%と高水準であるほか、特に20歳未満、20歳代及び30歳代の人口10万人当たりの検挙人員がそれぞれ増加するなど、若年層を中心に乱用傾向が増大しています。さらに、平成28年の覚せい剤事犯検挙人員が10,457人(前年比▲565人、▲5.1%)と減少する一方で、大麻事犯検挙人員は2,536人(前年比+435人、+20.7%)と大きく増加していることなどが特徴的な傾向として指摘できます。今後の大麻対策としては、特に、中高生への蔓延や、暴力団が組織的かつ大規模な不正栽培を行っている実態が明るみになってきたことを踏まえていく必要があると思われます。そのような中、現在、厚生労働省が「平成29年度不正大麻・けし撲滅運動」を実施中(平成29年5月1日~6月30日)ですので、ご紹介しておきます。
実施要項によると、「大麻・けしに係る事犯の発生は、関係機関の努力にもかかわらず依然として後を絶たない現状にあり、これらの事犯の発生を防止するためには、不正栽培事犯の発見に努めるとともに、犯罪予防の観点から、自生する大麻・けしを一掃することが重要」であって、「不正栽培及び自生する大麻・けしを撲滅するため、これらの大麻・けしの発見及び除去を実施するとともに、広く一般に対して大麻・けしに関する正しい知識の普及を図ることを目的」としています。そのうえで、不正栽培又は自生している大麻やけしを発見した場合は、最寄りの各地方厚生(支)局麻薬取締部(支所)、各都道府県薬務主管課、保健所又は警察署等に通報することを要請しています。また、広報・啓発活動として、報道機関等への協力だけでなく、「教育委員会の協力を得て、管下の小学校、中学校等の児童・生徒に対し、学校薬剤師等により、厚生労働省から提供されたポスターや関係情報を掲載したホームページを効率的に活用し、本運動の趣旨を普及する」こと、「大麻・けし栽培者に対して関係法令を遵守することはもちろん、盗難その他の事犯の発生を未然に防止するよう指導」を徹底すること、「各種団体が行う集会等を活用して講師の派遣、啓発資材の配布、厚生労働省のホームページに掲載された情報を有効活用する」ことなどの活動が行われています。
「大麻に関する正しい知識」という点では、海外での合法化の流れや医療用大麻といったイメージから国内でもそれを無条件に許容する風潮が出始めている点が懸念されます。本コラムでもたびたび指摘してきた通り、WHOや米食品医薬品局(FDA)がマリフアナ(乾燥大麻)の毒性や依存性の強さを認めています。にもかかからず、たばこやアルコールなどより無害とする主張や、医療用途(疼痛緩和等)での大麻利用の正当性の主張、合法化によって犯罪組織の資金源枯渇化や税収増が期待できるとの主張などもまだまだ根強いほか、娯楽目的の大麻合法化はこれまで南米ウルグアイや米国の複数の州で導入されている実態もあります。
一方、日本では、厚労省が、大麻の毒性について、「大麻の穂や葉に含まれるTHC(テトラヒドロカンナビノール)が脳神経のネットワークを切断し、幻覚作用、記憶への影響、学習能力の低下、知覚の変化などを引き起こす」と明確に指摘しており、あくまで大麻は禁止薬物です。さらに、産業用大麻で町おこしを掲げたグループに栽培を認めたものの、大麻取締法違反容疑(所持)で逮捕者を出すに至った鳥取県では、全国でも珍しい大麻栽培を全面的に禁止する条例(鳥取県薬物の濫用の防止に関する条例の一部改正)まで成立しています。
ただ、米国での大麻ビジネスは好調であり、ECプラットフォームまで登場しているようです(平成29年4月22日付産経新聞)が、報道によれば、トランプ政権は、嗜好用マリファナの規制をすでに示唆しており、今後のマーケット拡大には不透明な部分もあるということです。
いずれにせよ、大麻が是か非かは、国際的に見てもいまだ判然とした状況とは言い難く、若者を中心に蔓延し、暴力団の資金源としてその存在感を増している事実を鑑みれば、厚労省の指摘する通り、「大麻・けしに関する正しい知識の普及を図る」ことが今正に重要なことではないかと思われます。
暴力団事務所明け渡しを巡る訴訟の提起
宮城県石巻市立町にある指定暴力団神戸山口組系の組事務所を巡り、売買契約解除後も入居するビルから立ち退かないのは違法だとして、ビルの所有権を持つ女性が、男性組長に建物の明け渡しを求める訴えを仙台地裁に起こしています。報道(平成29年4月15日付河北新報)によれば、男性組長と元妻は、ビル購入の際に登記簿に虚偽の記載をしたとして、電磁的公正証書原本不実記録・同供用罪で仙台地裁から有罪判決を受けており、売買契約はすでに暴力団排除条項に基づいて解除されたものの、建物は明け渡されていない状況だということです。ビルにはほかに、元妻が経営する簡易宿泊所とレンタルルームが入居しているとのことですから、あわせて資金源が絶たれる可能性から不法占拠しているものと推察されますが、彼らの活動を助長することのないよう、1日でも早い撤去が実現することを期待したいと思います。
信金・信組のネット支店開設の動き
報道(平成29年4月28日付ニッキン)によると、複数の信用金庫と信用組合が、2017年度にインターネット支店の新設に動くということです。将来的な人口減少に備え、若年層から預金を獲得できる手段を増やす狙いとなりますが、一方で、信金・信組業界では顧客との関係は一般的に濃厚であり、対面取引によるチェック機能はその意味では一定程度働いているものと推測される中、(新たな分野となる)ネットバンキング等の非対面取引を手掛けることには相応のリスクが伴います。とりわけ、本人確認や反社チェックの精度の問題については、厳格な対応を行うべきだと言えます。例えば、反社チェックにおいては、これまである程度限定されていた(濃厚な関係の中で行われてきた)取引範囲が、一気に拡大することで、全国規模の相応の反社チェックレベルを確保する必要が生じます。
また、本人確認手続きにおいては、不正な本人確認資料を見抜くといった業務遂行態勢を確保することも必要となります。前述したとおり、インターネット不正送金の被害額は信金・信組業界はこれまで高かったところ、ウィルス感染端末の早期検知等の対策が進んだことで昨年激減しました。多種多様なリスクに対して、限られたリソースをどのように分配するかの問題(リスクベース・アプローチの問題)ともなりますが、反社会的勢力が、「脇の甘い」ところを攻撃してくることから、脆弱なチェック態勢が悪用されることのないよう、インターネット支店開設の前から、十分なレベルの態勢を整備すべきだと言えると思います。
3.最近の暴排条例による勧告事例ほか
(1) 兵庫県暴排条例改正の動き
兵庫県が、市街地中心部への暴力団関連施設の進出を防ぐため、同県暴排条例の改正に向けてパブコメ実施中(平成29年5月1日~23日)です。
現行の同県暴排条例においては、他県同様、「暴力団事務所及び準暴力団事務所の運営を禁止する地域について、青少年の健全育成の観点から、青少年がよく利用する学校、児童福祉施設等の敷地の周囲200 メートル以内の区域又は青少年の生活の拠点となる都市計画法で定める住居系用途地域が定められてい」ますが、青少年に対する健全な育成を更に図るため、当該地域を拡大する条例改正がなされる見通しです。
本資料によれば、「近年、暴力団事務所等が、禁止地域外(都市計画法に基づく近隣商業地域及び商業地域(以下「商業地域等」という。))に進出している」こと、「商業地域等には駅や商業施設など青少年が利用する施設が多数存在する」こと、「県内の商業地域等に所在する暴力団事務所等及びその周辺において、対立抗争に起因する暴力行為事件等が発生している」ことなど、「暴力団が県民生活の平穏を害し、青少年の健全な育成を阻害している」との現状認識、指摘があります。それをふまえ、今回の改正により、あらたに、「近隣商業地域」「商業地域」が指定されるほか、当該「施設の敷地の周囲200メートル以内の区域」とする規定について「当該施設の用に供するものと決定した土地を含む」との規定が追加されることになります。
現在、上記の通り、パブコメ実施中であり、6月の兵庫県議会に条例改正案が提出される予定とのことですが、施行されれば、両地域を禁止区域に定めた条例として全国初となります。暴排条例の改正については、福岡県が数次にわたり積極的に実施しており、社会情勢・暴力団情勢等の変化への速やかな対応が評価されていますが、今回の兵庫県の動きもまた、正しい現状認識をふまえた適切なタイミングでの実施と評価できると思います。
(2) 暴排条例勧告事例(東京都)
当時16歳の無職少年2人を暴力団事務所に立ち入らせたとして、指定暴力団住吉会系組会長に東京都暴排条例による中止命令が出されています。未成年の暴力団事務所への立ち入りを禁じた同条例に基づく命令は警視庁では初めてだということです。なお、報道によれば、同会長は今年4月にも、未成年に対する暴力団への加入の強要などを禁止した暴力団対策法に基づく中止命令を受けているとのことです。
参考までに、東京都暴排条例では、第23条(青少年を暴力団事務所へ立ち入らせることの禁止)で、「暴力団員は、正当な理由なく、青少年を自己が活動の拠点とする暴力団事務所に立ち入らせてはならない」と規定されています。さらに、第30条(命令)第3項において、「公安委員会は、第23条の規定に違反する行為を行っている者に対し、当該行為を中止することを命じ、又は当該行為が中止されることを確保するために必要な事項を命ずることができる」と規定されており、今回の措置はこれらの規定に則ったものと言えます。
一方、暴力団対策法についても、同法第16条(加入の強要等の禁止)において、「指定暴力団員は、少年(二十歳未満の者をいう。以下同じ。)に対し指定暴力団等に加入することを強要し、若しくは勧誘し、又は少年が指定暴力団等から脱退することを妨害してはならない」との規定があります。
▼暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(暴力団対策法)
(3) 暴排条例勧告事例(群馬県)
群馬県高崎市内の飲食店が、昨年12月下旬ころ、暴力団に関連する会合と知りながら申し込みを受けて店の利用契約を締結したうえ、今年1月に約60人が新年会を開いたとして、飲食店の運営会社に対し、群馬県暴排条例に基づき勧告が出されています。同県暴排条例違反での勧告は8件目とのことです。
(4) 暴排条例勧告事例(宮崎県警HPから)
暴排条例に関するQ&Aについては、全国の警察のHPで公開されていますが、とりわけ警視庁の東京都暴排条例の解説が大変有用です(本コラムでもたびたびご紹介しています)。今回は、宮崎県警のHPに掲載されているQ&Aから、特に具体的な事例の部分が参考になると思われますので、以下、紹介いたします。
同県暴排条例第5条(県民等の責務)第2項に定められている「その行う事業により暴力団を利すること」(とならないようにする)に当たる行為として、以下が例示されています。
- 暴力団員を雇用したり、使用したりすること
- 暴力団にきわめて安値で物品を売ること
- 暴力団員を会社の役員にすること
- 暴力団員との下請契約、資材・原材料の購入、門松の購入、おしぼりの購入等の契約を締結すること
- 暴力団が運営に関わっている企業を取引相手に紹介すること など
また、第13条に定めされている「暴力団員等に対する利益の供与」に当たる行為として、以下のようなものがあげられています。
- 暴力団の威力を利用する目的又は暴力団の威力を利用したことによる利益の供与
- 暴力団の活動又は運営に協力する目的による相当の対償のない利益の供与
- 暴力団の活動を助けたり、暴力団の運営に役立つような利益の供与
さらに、「暴力団の威力を利用すること」に当たる行為としては、以下が例示されています。
- 建設会社がマンション建設に関して地域住民から反対を受けている際、その反対運動を抑えるために暴力団を利用して抑えたりすること
- 事業者が初めは被害者的な立場であったとしても、事業を進めていく上で、自らの事業を有利に進めるために暴力団の威力を利用したりすること
- 事業者自らが、「自分のバックには暴力団がついている」などと言って、取引を有利に進めようとすること など
同じく第13条の第3項に定められている「情を知って、暴力団の活動を助長し、又は暴力団の運営に資することとなる利益の供与」に当たる行為としては、以下が例示されています。
- 暴力団組長の襲名披露や出所祝いなど暴力団の活動が行われることを知っていながら、ホテルなどの宴会場を正規の料金で提供すること
- 仕出し業者が、暴力団の活動となる行事等で出される料理の注文であることを知っていながら、料理などを提供すること
- 建設業者が、暴力団の運営に利用されることを知っていながら、暴力団事務所の改築やリフォーム工事を請け負うこと
- 葬祭業者が、暴力団の葬儀が行われることを知っていながら、葬儀場を提供すること など