暴排トピックス

平成29年における組織犯罪の情勢

2018.05.16
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取締役副社長 首席研究員 芳賀恒人

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1.平成29年における組織犯罪の情勢

(1) 直近の暴力団情勢

「暴力団」「仮想通貨」「マネー・ローンダリング」が線でつながる、危惧していた状況が発覚しています。直近で、一部の指定暴力団が仮想通貨の取引を利用し、犯罪収益のマネー・ローンダリングを進めている疑いがあるとの報道がありました(平成30年5月14日付毎日新聞)。それによると、海外にある複数の仮想通貨交換所を介し、多額の現金をビットコインやイーサリアムなどの仮想通貨に交換、その後、所有者が特定されない仮想通貨(モネロ、ダッシュ、ジーキャッシュ等)に交換、さらに現金に換金する手法で、2016年から計約300億円をマネー・ローンダリングしたと仲介役の中国人男性が証言したということです。本コラムでも警告していた通り、仮想通貨に対する海外の規制の緩さや匿名通貨の存在が犯罪インフラとなり、日本の暴力団の巨額の犯罪収益のマネー・ローンダリングを可能にしてしまった実態が明らかとなりました。詳細は次回以降の本コラムであらためて取り上げますが、国際社会における仮想通貨の規制、AML/CFT等のあり方について、より厳格かつ統一的な規制が急務な状況だと言えます。

 

さて、指定暴力団神戸山口組から指定暴力団任侠山口組が分裂してから4月30日で1年を迎えました。これまで本コラムで指摘してきたように、警察は当初、任侠山口組の結成を「神戸山口組の内部対立」として、任侠山口組系組員をあえて神戸山口組の傘下組員として扱い、暴力団対策法の規制下に置いて取り締まってきました。2年半前に神戸山口組が指定暴力団六代目山口組から分裂した際に、指定暴力団への指定までに空白期間が生じてしまった経緯をふまえ、暴力団対策法上の指定暴力団の規制の枠から外れないよう、独立勢力と認めることなく「内部対立」と位置付けてきたものです。しかしながら、その位置付けも、任侠山口組の織田代表襲撃事件が発生し、実行犯が神戸山口組系組員であることが明らかとなり、もはや任侠山口組を神戸山口組の傘下とみなすことは困難な状況となりました。それを受けて、指定暴力団への指定作業の準備が水面下で進められ、既にご存知の通り、今年3月22日に、兵庫県公安委員会が任侠山口組を全国23団体目の指定暴力団に指定しました。任侠山口組は、構成員は約460人(平成30年2月1日現在)と、指定暴力団六代目山口組の約5,000人、神戸山口組の約2,000人とは構成員の人数は見劣りするものの、直系組長は約60人と結成当時から倍増しています。その理由として、六代目山口組や神戸山口組よりも直系組長が納める毎月の上納金が安く設定する戦略などによって、若い世代を取り込み、勢力拡大を図っていることが挙げられています。
一方で、直近では、六代目山口組執行部が傘下組織に、「8月末までは神戸山口組、仁侠山口組からの復帰を認めるが、以降は組長、幹部から末端組員まで一切の移籍を禁止する旨の通達を出したとも言われています。背景には、遅くとも来年秋に刑期を終えて出所すると言われている六代目山口組ナンバー2の若頭高山清司の復帰を見据え、六代目山口組が一気に攻勢に出るとの推測も根強くあり、その可能性は否定できない状況です。報道(平成30年5月11日付産経新聞)に詳しく書かれていますが、六代目山口組は分裂騒動後、いったん組を裏切った組織の組員であっても「絶縁」や「破門」などの処分を受けた組長ら以外は、復帰を認める切り崩し工作を通じて、神戸山口組と任侠山口組の対立を横目に着実に勢力を伸ばしているとも言われています。しかしながら、今回の通達でそれを終了させるということは、神戸山口組の有力団体である山健組が代目替わりを控える中で揺さぶりをかけるという意味合いや、2019年から2020年にかけては日本で国際的な大規模イベントが開催されることから、それまでに一気に片を付けたいとの思惑など、様々な状況から、六代目山口組が3つの山口組の再編成を本気で狙っていること、その基盤が揃いつつあるという強いメッセージが込められているように思われます。したがって、今年の夏以降、3つの山口組の間の緊張関係が高まり、大規模な抗争も予想されるところであり、今後の動向を注視していく必要があります。

 

なお、直近の暴力団情勢としては、前回の本コラム(暴排トピックス2018年4月号)でも取り上げた「関東関根組」について、平成30年4月25日に茨城県公安委員会によって、全国で24団体目の指定暴力団に指定されたことも重要なトピックです。昨年4月に指定暴力団松葉会から分裂・独立した指定暴力団関東関根組は、構成員160人(平成30年1月24日現在)、本部は茨城県土浦市に置く組織で、その勢力は1都1道3県となっています。
また、全国で事務所撤去運動が本格化する中、気になる動きがありました。兵庫県淡路市にあった神戸山口組の本部事務所については、本コラムでも紹介した通り、昨年、神戸地裁が、組事務所としての使用を禁じる仮処分を決定したことから、本部事務所の撤退を余儀なくされ、神戸市内に移転しています。ところが、報道(平成30年4月16日付神戸新聞)によれば、当該事務所所在地にもともと住民票を置いていた組員の居住が対象外であることを逆手にとって組員が居座り、それだけでなく、その後、新たに住民票を移した組員もいることが判明し、地元住民に不安が広がっているということです。組事務所としての活動実態が判明すれば、暴力団対策法や暴排条例を駆使して規制を強化して排除していくことも考えられるところですが、単なる居住のみの実態であれば、監視を続ける以上の対応が難しい現状があります。神戸山口組の本部事務所撤退という大きな成果を無駄にしないためにも、引き続き、官民挙げた暴排活動の盛り上がりを期待したいと思います。

(2) 平成29年における組織犯罪の情勢

警察庁から「平成29年における組織犯罪の情勢」が公表されています。

▼警察庁 組織犯罪対策に関する統計等
▼平成29年における組織犯罪の情勢

 

それによると、平成29年12月末時点の全国の暴力団構成員と準構成員等を合わせた暴力団構成員等の人数は34,500人で、統計がある1958年以降最少となったことが分かりました。前年より▲4,600人(前年比▲11.8%)、13年連続の減少であり、内訳としては、暴力団構成員が16,800人(18,100人、▲7.2%)、暴力団準構成員等(暴力団に所属しないものの、その統制下で外部から活動に関わっていると警察が認めた者)が17,700人(20,900人、▲15.3%)といずれも昭和33年以降最小人数となっています。なお、暴力団構成員等が前年から▲11.8%と大きく減少していますが、平成26年末▲8.7%、平成27年末▲12.3%、平成28年末▲16.7%と、ここ数年で急激に縮小化が進んでおりその傾向が続いていることを示しています。特に、準構成員等の減少幅はかなり大きく、今回も▲15.3%となっていますが、平成27年末▲14.1%、平成28年末▲22.0%とここ数年、大幅な減少が続いています。とはいえ、その要因については、暴排条例など規制の強化や事業者の暴排・反社リスク対策の強化・浸透の結果なのか、それ以外にも要因があるのか、なかなか見極めが難しい状況です。例えば、「KYCからKYCC、KYCCCへ」「共生者自体の潜在化の動き」と関連付けて捉えれば、「共生者の減少は表向きで、実際には共生者の協力者が増えている」といった見方や、暴力団の少子高齢化の急激な進展の一方で、暴排条例逃れのため、表向き、組との関係を隠す「若者隠し」が増えている(その結果、共生者としても捕捉できない若者が増えているのではないか)といった見方も可能でしょう。
また、指定暴力団の個別の組織別の状況については、六代目山口組の平成29年12月末の構成員数は4,700人(5,200人、▲9.6%)、準構成員等は5,600人(6,700人、▲16.4%)で、合計10,300人(11,800人、▲12.7%)、神戸山口組(集計時点では任侠山口組が含まれているものと思われます)の平成29年12月末の構成員数は2,500人(2,600人、▲3.8%)、準構成員等が2,700人(2,900人、▲6.9%)、合計で5,100人(5,500人、▲7.3%)となり、数字上は六代目山口組の減少幅が全体平均以上に大きく、一方の神戸山口組は減少幅がかなり小さいことが分かります。また、主要団体(六代目山口組、神戸山口組、指定暴力団住吉会、指定暴力団稲川会)の暴力団構成員等の数は25,300人と、全暴力団構成員等の73.3%(前年72.4%)を占める寡占状態は相変わらず続いており、うち暴力団構成員の数は12,400人となっています(こちらも全暴力団構成員の73.8%を占めています)。
なお、福岡県警を中心とする頂上作戦によって、近年、指定暴力団工藤会総裁、同会長等を含む主要幹部を波状的に検挙し、これらの者を長期的に隔離したことにより、工藤会の組織基盤及び指揮命令系統に打撃を与えていますが、平成29年12月末の構成員数は380人(430人、▲11.6%)、準構成員等は320人(320人 ±0%)、合計690人(740人、▲6.8%)となっています。数字上とはなりますが、六代目山口組や神戸山口組ほどの減少率でない点がやや意外に感じるほか、その比率は下がっているとはいえ、構成員の比率の方がいまだに高いことが注目されます。一方、福岡県における平成29年中の離脱支援による工藤会離脱者数は51人(前年43人)となっています。なお、平成29年中、警察及び都道府県センターが援助の措置等を行うことにより暴力団から離脱することができた暴力団構成員の数については、約640人(平成28年も約640人、平成27年は約600人)となっています。工藤会の構成員が暴力団構成員に占める割合(2.26%)と比較した場合、工藤会離脱者が暴力団構成員全体の離脱者に占める割合は7.97%と著しく高くなっており、工藤会における離脱が進んでいる状況が数字からも分かります。
その他、反社会的勢力の一つの類型でもある総会屋及び会社ゴロ等(会社ゴロ及び新聞ゴロ)の数は、平成29年12月末現在、1,090人と前年の1,105人から減少しており、一貫して減少傾向にあります。
また、暴力団犯罪の検挙状況等についていえば、平成20年以降、暴力団構成員等の検挙人員は減少傾向にあり、平成29年においては、17,737人(20,050人、▲11.5%)となっています。暴力団構成員等の人数自体が、▲11.8%という状況であり、検挙人員の減少は人数の減少の影響が大きいこと(相関関係が高いこと)がうかがえます。主な罪種別では、傷害が2,095人、窃盗が1,874人、詐欺が1,813人、覚せい剤取締法違反(麻薬特例法違反は含まず)が4,693人で、前年に比べそれぞれ減少しています。なお、暴力団構成員等の検挙状況を主要罪種別にみると、暴力団の威力を必ずしも必要としない詐欺の検挙人員が占める割合が増加しており、暴力団が資金獲得活動を変化させている状況がうかがわれます。

さらに、平成29年における暴力団構成員等に係る組織的犯罪処罰法のマネー・ローンダリング関係の規定の適用状況については、犯罪収益等隠匿について規定した第10条違反事件数が22件であり、犯罪収益等収受について規定した第11条違反事件数が24件となったほか、各都道府県における暴排条例に基づく勧告等について、平成29年における実施件数は、勧告が65件、中止命令が17件、再発防止命令が4件、検挙が12件となっています。一方、本コラムでも紹介してきている「使用者賠償責任の追及」、すなわち、暴力団対策法第31条の2(威力利用資金獲得行為に係る代表者等の損害賠償責任)の規定に基づく損害賠償請求訴訟については、平成29年末現在で26件提起されており、その状況は、勝訴2件、係争中11件、和解等による解決13件となっているということです。また、平成29年中の暴力団関係相談の受理件数は47,978件、このうち警察で19,930件、都道府県センターで28,048件を受理したということです。

 

さて、本レポートにおいて、「各種業法による暴力団排除」という項目の中で、以下のような事例が掲載されています。

不動産会社の役員が、同社に管理業務を委任されていた物件の賃貸借契約の締結に関し、建物賃貸借契約書から暴力団排除条項を削除した上、物件所有者に賃借人が暴力団組員である事実などを告げずに契約を締結させた詐欺等で、同役員らを検挙し、その後、同社が法の規定に違反し賃貸借契約を締結したことが明らかになったことから、県が同社に業務停止処分を命じた事例(愛知県)

わざわざ暴排条項を契約書から削除し、暴力団員であることを告げずに契約させるなど今どき呆れるばかりですが、全体的には「暴排が進んでいる」と考えられるところ、このような悪質な事業者がいまだ存在することから、暴排もまだ道半ばの状況であることを痛感させられます。一部のこのような反社会的勢力の活動を助長する悪質な事業者が存在するとことをふまえ、それを排除していくことも暴排の大きな課題となります。そして、多くの健全な事業者が、そのような悪質な事業者と「関係を持たない」ことが極めて重要であり、そのような悪質事業者でないかを見極めるための「厳格な顧客管理」が求められていると言えます。

 

また、本レポートは暴力団情勢だけでなく、薬物・銃器情勢、来日外国人犯罪情勢もあわせて収録されています。

 

まず、薬物情勢について概要を紹介します。平成29年中の薬物事犯検挙人員は13,542人と、近年横ばいが続いており、このうち、覚醒剤事犯検挙人員は10,113人と近年わずかな幅での減少が続いている一方で、大麻事犯検挙人員は3,008人と、26年以降増加が続き、過去最多となっています。大麻事犯の人口10万人当たりの検挙人員が、全体が3.0人である一方、20歳代9.4人(前年7.9人)、30歳代6.8人(5.8人)、20歳未満4.1人(3.0人)などとなっており、若年層を中心に増加していることが分かります。さらに、今回、警察庁による「大麻乱用者の実態に関する調査結果」も収録されており、それによれば、警察庁による検挙者(回答535人)について、対象者が大麻を初めて使用した年齢は、「20歳未満」が195人(36.4%)、「20歳代」が211人(39.4%)、30歳代が45人(8.4%)、40歳代が12人(2.2%)、平均年齢は21.9歳など低年齢化が顕著となっていることが分かります。また、初めて使用した経緯として、「誘われて」(63.7%)が多く、初めて使用した年齢が若いほど、誘われて使用する比率が高い結果となっています。さらに、その動機として、「好奇心・興味本位」(54.9%)が多かったものの、30歳未満は「その場の雰囲気」「クラブ・音楽イベント等の高揚感」「パーティ感覚」など、周囲に影響される傾向がうかがえた一方で、30~40歳代では「ストレス発散・現実逃避」の割合が高いという傾向がうかがえます。また、大麻に対する危険(有害)性の認識は「あり(大いにあり・あり)」が30.8%であり、覚醒剤に対する危険(有害)性の認識は「あり(大いにあり・あり)」が72.7%であることと比較して、大麻の危険(有害)性の認識率が低いことが明らかになっています(大麻の有害性については、調査結果の中で、警察庁も「大麻には依存性があり、乱用すると記憶障害を引き起こしたり、精神病を発症したりするおそれがあることが確認されている」と指摘しています)。本コラムでも大麻の蔓延が懸念されること、その背景要因に、「有害性」に関する誤った認識が流布しており、正しい知識の普及が急務であると指摘してきましたが、今回の警察庁の調査からもそのような現状にあることが確認できました。この点については、報道によれば、警察庁も「インターネットなどで簡単に入手でき、大麻に対する抵抗感が薄れている傾向がある」と分析、警戒を強めており、、初犯者率が高いこと、大麻から覚せい剤へという深刻化の状況とあわせ、とりわけ若年層を中心とした国民への啓蒙活動の強化を期待したいところです。また、最近報道を目にする機会が明らかに増えている大麻栽培事犯については、平成29年中191件と近年増加傾向にあり、大麻草押収量(本数)は17,324本と、前年に引き続き1万本を超えるなど、警戒が必要な状況です。
一方の覚醒剤事犯については、検挙人員が薬物事犯の検挙人員の74.7%を占めており、依然として我が国の薬物対策における最重要課題となっているとの指摘があり、暴力団構成員等が検挙人員の約半数を占めていることや、30歳代(18.6人)及び40歳代(18・9人)の人口10万人当たりの検挙人員がそれぞれ他の年齢層に比べて多いことを特徴として挙げています(大麻と比較してもその蔓延ぶりに驚かされます)。また、「再犯者率が他の薬物に比べて高いことから、覚せい剤がとりわけ強い依存性を有しており、一旦乱用が開始されてしまうと継続的な乱用に陥る傾向があることがうかがわれる」との指摘もやはり重要かと思われます。

なお、暴力団構成員等に係る全刑法犯及び特別法犯検挙人員は17,737人であり、このうち、薬物事犯検挙人員は5,562人(構成比率31.4%)と、暴力団による不法行為に占める薬物事犯の割合が高いこと、威力を示して行う資金獲得活動が困難化している暴力団にとって、覚せい剤の密売は引き続き重要な資金源であり、暴力団は海外の薬物犯罪組織と結託するなどしながら、覚せい剤の流通過程(海外からの仕出しから国内における荷受け、元卸し、中間卸し、末端密売まで)にも関与を深めているとの指摘は興味深いところです。さらに、海外の薬物犯罪組織は、多くの場合、暴力団と接点を有しており、その中でも、近年特に存在感が大きいのは、中国系薬物犯罪組織、メキシコ系薬物犯罪組織、西アフリカ系薬物犯罪組織だということです。さらに、大麻事犯については、暴力団と海外の薬物犯罪組織とが結託して大麻を栽培するなどの事例がみられており、今後、こうした状況が増加する可能性がうかがわれるところであり、大麻栽培場所といった犯行拠点の摘発等をしていかなければならないと指摘しています。

 

銃器情勢については、銃器発砲事件数は、平成20年に年間50事件を下回って以降、低水準で推移しており、平成29年は、銃器発砲を伴う暴力団の対立抗争事件が発生しなかったこともあり、22事件と前年に比べ減少しています(ただし、前述の通り、今後、抗争が勃発する可能性が高まっている状況であり、銃器発砲事件の増加も考えられます)。また、拳銃押収丁数は、長期的に減少傾向にあるところ、平成29年は360丁で、このうち暴力団からの押収丁数は79丁と、いずれも前年に比べ増加しており、依然として平穏な市民生活に対する重大な脅威となる銃器発砲事件が発生しているほか、暴力団の組織防衛の強化による情報収集の困難化や、拳銃の隠匿方法の巧妙化がみられることから、警察庁としても、暴力団の組織的管理に係る拳銃の摘発に重点を置いた取締りを強化するとしています。

 

外国人犯罪については、総検挙人員においては、中国が減少傾向にある一方、ベトナムが増加傾向にあり、平成29年の総検挙件数はベトナムが中国を上回り、初めて来日外国人全体で最多となったことが大きな特徴と言えます(その背景として、ベトナムからの実習生も留学生も多額の借金を背負って来日し、経済的に追い込まれてしまう現実があると言われています)。来日ベトナム人による犯罪は、窃盗犯、特に万引きの割合が高く、犯行形態については、複数人で役割分担し、高級化粧品や衣料品等を対象に組織的に大量窃取し、海外に搬送するといった事例がみられます。さらに、平成29年中は来日ベトナム人がSNSを利用するなどし、大量の銀行口座の売買を行い、その後、こうして売買された口座が特殊詐欺等の犯罪に悪用されていたことが明らかとなっています(これらの状況については、本コラムでもこれまで紹介してきた通りです)。また、従来の資金獲得活動が困難になった暴力団構成員等が、海外の薬物犯罪組織だけでなく、不良外国人と結託するなどして犯罪を敢行する状況も見受けられるとの指摘もありました。平成29年中は、人手不足の労働事情と不法残留外国人の増加に目をつけ、広範な情報網と人的ネットワークを利用して、暴力団構成員が実質的に経営する会社に雇い入れて不法就労させるなどの状況が見受けられたとの事例も紹介されています。今後の「厳格な顧客管理」の一つの着眼点として、「不法残留外国人」「難民偽装申請」を(違法に)就労させているような事業者については、法令遵守状況の観点だけでなく暴排の観点からも厳格なチェックを行っていくべきではないかと考えられます。また、来日外国人犯罪の特徴として、日本人によるものと比べて共犯事件の割合が高く、組織的に敢行される傾向がうかがわれるとの指摘があります。出身の国・地域別に組織化されている場合がある一方で、より巧妙かつ効率的に犯罪を敢行するため、様々な国籍の構成員が役割を分担するなど、構成員が多国籍化しているものがあるほか、暴力団と連携する例もみられるということであり、海外の犯罪組織の動向も注視しながら、こちらも「厳格な顧客管理」の一つの着眼点としていくことが必要な状況だと言えます。さらには、海外で調達した不正資金を我が国でマネー・ローンダリングする犯罪やインターネットバンキングやスマホの電子決済機能といった新たな情報通信技術を悪用した犯罪が目立っている一方で、依然として短期滞在の在留資格により来日し、偽造クレジットカードを使用して高級ブランド品等をだまし取り、犯行後は本国に逃げ帰るいわゆるヒット・アンド・アウェイ型の犯罪も多数みられるといった傾向も指摘されています。

(3) 準暴力団(半グレ)を巡る動向

前項で指摘した通り、暴力団の資金獲得活動やその組織実態については、暴排の浸透や取り締まりで暴力団の資金確保が一層難しくなっていますが、暴力団が特に若い組員の新たな獲得に窮していることも大きな傾向だと言えます。そして、暴力団構成員等の減少については、減ったうちの一部は、暴力団との関係がうかがわれる「準暴力団」や「半グレ」と呼ばれるグループに移行している可能性があり、実際に特殊詐欺や金の密輸などの組織犯罪分野で半グレグループが台頭している状況があります。今や、みかじめ料の集金を暴力団自らが行うのではなく、半グレを使っているケースもあると言います。また、報道によれば、大阪市の繁華街・ミナミで違法カジノ店(ネットカジノ)が急増、数カ月ごとに店を移転させ、摘発を逃れながら稼ぐ一方で、利権の拡大を巡るトラブルも相次ぎ、対立組織の収入源を減らすため、半グレを使ってライバル店を襲撃させる暴力団もいると言うことです。いずれにせよ、ここにきて、暴力団をバックとした半グレの活動が活発化の兆しをみせていますが、警察庁は、こうした集団の実態解明や取り締まりを進めるための通達を、昨年11月に出しています。

 

▼警察庁内部通達 準暴力団に関する実態解明、情報共有及び取締りの強化について
▼警察庁内部通達 準暴力団等による特殊詐欺等に対する取締りの強化について

前者については、「準暴力団による犯罪行為の悪質化、巧妙化が極めて憂慮される現状を踏まえ、準暴力団に関する実態解明、情報共有及び取締りの強化について指示したもの」であり、後者については、「犯罪組織の資金獲得の手段として、特殊詐欺等が大きく台頭してきている実態を踏まえ、準暴力団等による特殊詐欺等の取締りの強化について指示したもの」だとされています。最近の報道で、準暴力団、半グレを巡る摘発事例が増えているように感じていますが、背景には、この通達の発出に見られるような警察としての取り組みの強化が図られていることあると思われます。
さて、半グレは、明確な拠点がなく、メンバーの入れ替わりも多いため実態把握が難しいとされますが、暴力団など犯罪組織とのつながりを強め、犯罪行為を悪質化・巧妙化させています。一方、「準暴力団」については、「半グレ」と同一視されることが多いですが、厳密に言えば、警察は、「半グレ」の一部を「準暴力団」と位置付けて、実態の解明や取り締まりの強化を行っています。「平成26年の暴力団情勢」では、準暴力団について、「近年、繁華街・歓楽街等において、暴走族の元構成員等を中心とする集団に属する者が、集団的又は常習的に暴行、傷害等の暴力的不法行為等を行っている例がみられる。こうした集団は、暴力団と同程度の明確な組織性は有しないものの、暴力団等の犯罪組織との密接な関係がうかがわれるものも存在しており、様々な資金獲得犯罪や各種の事業活動を行うことにより、効率的又は大規模に資金を獲得している状況がうかがわれる。平成26年末現在、警察では8集団を準暴力団と位置付け、実態解明の徹底及び違法行為の取締りの強化等に努めている」と紹介されています。なお、現時点でも準暴力団として指定されているのは8集団ですが、実際に公表されているのは、以下の4集団のみとなっています。

 

  • 関東連合OBグループ(活動地域:首都圏を中心に活動)
  • チャイニーズドラゴン(活動地域:首都圏を中心に活動)
  • 打越スペクターOBグループ(活動地域:東京都八王子市周辺で活動)
  • 大田連合OBグループ(活動地域:東京都大田区周辺で活動)

直近では、昨年11月の内部通達もあってか、大阪府警が、府内の複数の不良グループ(半グレ)を、警察庁で規定する「準暴力団」と認定し、取り締まり対象としていたと報道されています(平成30年4月14日付産経新聞)。準暴力団の認定は、大阪では初めてとなりますが、本コラムでもたびたび取り上げている通り、大阪府内では最近、繁華街・ミナミの飲食店へのみかじめ料徴収などで半グレの活動が目立っており、大阪府警が摘発を強化しているという背景事情があります。警察庁が、「集団で常習的に暴行、傷害等の暴力的不法行為を行う集団」と規定する準暴力団と認めれば、正式な犯罪組織として捜査対象となることになります。暴力団対策法や暴排条例の適用外であることは確かですが、他の都道府県警察との情報共有など効果的な取り締まりが期待できます。なお、事業者の実務においては、準暴力団や半グレは当然、「関係を持つべきではない」という意味で「反社会的勢力」と位置付け、排除していくべき対象と整理してよいと思われますが、実際の反社チェックや関係解消実務においては、まだまだ正確な認定についてのハードルが高い現実があります。例えば、反社データベースに準暴力団を含めていくことは可能であるとしても、実際に報道されているメンバー(構成員)は実態と比較すればまだまだ少ないと思われること(一方で、当社の調査では、過去、暴力団と共謀して逮捕されるなど「共生者」として捕捉できる事例も多数あることが分かっています)、したがって、データベースのみでの反社チェックでは精度にまだまだ問題があり、インターネット上の風評や過去の記事検索等との併用が必要となるものと考えられます。さらに、反社チェックの結果、疑わしいとして警察に照会しても、警察庁の平成25年通達(暴力団排除等のための部外への情報提供について)における情報提供できる範囲に「準暴力団」はなく、民間事業者に対する情報提供に限界があることも今後の課題となります。

 

▼警察庁「暴力団排除等のための部外への情報提供について」

とはいえ、上記通達において、「準暴力団」としての情報提供は困難ではあるものの、暴力団との関係が明らかにうかがえるといった態様から情報提供してもらえる可能性があるのは、「共生者」と「暴力団員と社会的に非難されるべき関係にある者」かと思われます。「共生者」については、「暴力団への利益供与の実態、暴力団の利用実態等共生関係を示す具体的な内容を十分に確認した上で、具体的事案ごとに情報提供の可否を判断すること」とされていますし、「暴力団員と社会的に非難されるべき関係にある者」については、「例えば、暴力団員が関与している賭博等に参加している場合、暴力団が主催するゴルフコンペや誕生会、還暦祝い等の行事等に出席している場合等、その態様が様々であることから、当該対象者と暴力団員とが関係を有するに至った原因、当該対象者が相手方を暴力団員であると知った時期やその後の対応、暴力団員との交際の内容の軽重等の事情に照らし、具体的事案ごとに情報提供の可否を判断する必要があり、暴力団員と交際しているといった事実だけをもって漫然と「暴力団員と社会的に非難されるべき関係にある者である」といった情報提供をしないこと」とされています。警察としても「準暴力団」の情報を収集していることもあり、事業者サイドからこのような切り口から情報提供をお願いできるよう工夫する必要があるでしょうし、積極的に警察に情報提供を行っていく姿勢もまた重要だと言えます。

(4) その他の反社会的勢力を取り巻く情勢

暴力団関連事件の捜査に協力した男性が、暴力団の報復を避けるため東京家裁に戸籍上の姓名の変更を申し立て、両方の変更が認められたということです。報道(平成30年5月2日付毎日新聞)によれば、男性は過去に暴力団関係グループに長期間所属していたということであり、ある事件の捜査に協力、その結果、グループトップの逮捕に至るも、男性自体もその過程で逮捕されています。男性は現在も警察による24時間警護の対象となっているとのことですが、報復を恐れて仮名で生活するも、住居や携帯電話の契約など日常のほとんどの場面で身分証明書の提示を求められ、「証明書に記された本名が何かのきっかけでグループの知り合いに伝わり、居場所がばれてしまいかねない」と不安を感じながら生活してきたようです。(家裁も簡単には認めなかったということですが、最終的には認めていますが)そもそも姓名ともに変更が認められるのは極めて異例であるところ、この男性は「捜査協力者の氏名変更を容易にすべきだ」と訴えています。しかしながら、本件は、暴力団関係者の「ホワイト化」が公的に認定されたという極めて重い側面があります。(報道内容から推測するしかありませんが)この男性は現時点で暴力団関係者とは関係ない状況にあると思われ、属性は「ホワイト」だと言えるでしょうが、一方で、反社チェックの実務から言えば、このようなケースは極めて稀であり、通常は、(何年前の事案かは報道からは分かりませんが)「暴力団関係者」としての「逮捕歴」があることから厳しい判断がなされる可能性が高いケースだと言えます。それが、フルネームの変更が認められたことで、データベース上は全くの「別人」となること=「ホワイト化」という公的になお墨付きを得たことなり、今後、データベースに該当することはなくなることになります。現状、「ホワイト化」は暴排実務における重要な課題のひとつとなっているところ、本件は、あくまで個別の事情を汲んだものと限定的に捉えるべきだと言えます。ただ、一方で、同じ報道によれば、「氏の場合は「やむを得ない理由」、名の場合は「正当な理由」があると判断した場合に変更を認める。許可基準自体は名の方がより緩やかとされるが、申立件数は親が離婚した子のケースなど氏の方が多い。最高裁の統計によると、2016年中に家裁が氏の変更を許可したのは12,017件、却下は324件。名の変更を許可したのは4,654件、却下は422件」ということであり、想像以上に「やむを得ない理由」「正当な理由」が認められている実態があるようです。偽装離脱やネーム・ローンダリングによる犯罪が横行する中、「報復の恐れ」だけで安易に姓名の変更が認められるべきではないと考えますし、家裁の認定も慎重になされているものと思いますが、実際に「エセ・ホワイト化」がなされた事例もあるのではないかと懸念されるところです。一方で、日本版司法取引においては、組織犯罪対策の観点から犯罪組織の実態解明や事件の全体像の把握が期待されているものの、この男性のように、自白(情報提供)によってその後の生活が脅かされることが予想される状況で本当に活用されるのか懸念が残るところです(工藤会の一連の裁判からその困難さが実感されます)。それに対し、米の証人保護プログラムなどのような強力な仕組み・後ろ盾が必要だとの意見もあります。米の証人保護プログラムは、住所が特定されない場所に政府極秘の国家最高機密で居住、内通者により居所が知られないとも限らないので、パスポートや運転免許証、果ては社会保障番号まで全く新しいものが交付され完全な別人になるものですが、これにより、やはり犯罪者の「ホワイト化」の問題が生じることになります。組織犯罪に所属した人間であれば、証言と引き換えに反社チェックなどから完全に逃れることができることになり、それが本当に正しいことかは慎重な検討が必要だと言えます(一方で、課徴金減免制度が予想以上に機能している現状もあり、組織犯罪対策としてどうあるべきかについては、さらに悩ましい問題だと感じています)。姓名の変更事例や日本版司法取引の導入など、今正に、組織犯罪対策における捜査協力者の保護のあり方が問われていると言えるでしょう。

 

さて、奈良県議会議長就任時に元指定暴力団山口組系組長と面会したなどとする虚偽の報道で名誉を傷つけられたとして、奈良県議会議長(70)が奈良新聞社に慰謝料など330万円の支払いと謝罪広告の掲載を求め、奈良地裁に提訴しています。報道によると、奈良新聞は、同議長が昨年6月に奈良市のホテルで元組長と会い、議長就任のあいさつをしたなどと報じたということですが、同議長側は「会ったのは2度だけ。親しい交際や就任あいさつの事実は全くない」と主張しているとのことです。就任あいさつ自体はもちろん論外ではありますが、「親しい交際がない」とはいえ、2回会っているとのことですので、どのような経緯・目的で会ったのか、暴力団組長と「知って」会ったのかなど、公人として問題がないことを説明する必要があるのではないかと考えます。

 

がんと診断された静岡市の66歳の男性が、暴力団員だったことを理由に生活保護の申請を却下したのは違法だと静岡市を訴えていた裁判で、静岡地方裁判所は、男性の訴えを認めて処分を取り消すよう命じる判決を言い渡しています(静岡市は控訴しない方針です)。報道によれば、医療費を払えなかったため、当時所属していた暴力団を脱退して市に生活保護を申請するも、市が「警察が男性を暴力団員と認定していて、軽作業などの仕事は可能だ」などとして申請を却下したとのことです。判決では、警察に脱退証明書を提出するなどしていて、暴力団から脱退したと認められる」という判断を示したうえで、「病気で仕事ができず、治療を続けながら生活するのは困難といえ、申請を却下したのは違法だ」などとして、市に処分を取り消すよう命じたものです。ただ、「漫然と処分を決めた訳ではない」として、損害賠償については男性の訴えは退けています。これと似たような過去の判例として、宮崎生活保護事件(福岡高裁宮崎支部平成24年4月27日判決)があります。これは、暴力団を脱退したとして生活保護申請をしたところ、宮崎市から「現在も暴力団員であって、資産収入を活用しておらず生活保護の開始要件を満たさない(補足性の要件を欠く)」ことを理由として生活保護申請却下処分を受け、これの取消が争われた事件でした。申請者は警察により暴力団員として認定されていましたが、脱退届を提出して脱退済であることを主張していました。第一審(宮崎地裁)では、暴力団員性については宮崎県警の暴力団情報のみに依拠することなく事実認定を行わなければならないとし、暴力団員を基礎づける事情が認められないとして、申請者の主張を認めています(この点については、当時、警察以外が反社認定をするに際して、これでは厳しすぎるのではないかと議論になりました)。しかしながら、控訴審(福岡高裁宮崎支部)では、警察に暴力団員と登録されていることに加えて、その根拠となる事情(脱退を主張した後にも組事務所の名簿に登載されていた、組長の刑事公判を傍聴した、組長の刑務所出所時の放免式に出席した等)を認定し、これらを踏まえて暴力団性を認め、申請却下処分を適法としています。実際のところ、そもそも偽装離脱である可能性や、破門状や脱退届などを改ざんする可能性すら考えられるところであり、破門状や脱退届についてはそれを補強するような「離脱を裏付ける事実の収集」が必要となりますし、一方の警察の認定登録についても、それだけを盲信することなく、破門状や脱退届との関係をふまえて警察に相談するなど、生活保護の認定については慎重な対応が必要となることは言うまでもありません。

2. 最近のトピックス

(1) AML/CFTおよび厳格な顧客管理を巡る動向

前回の本コラム(暴排トピックス2018年4月号)で取り上げたある地銀の問題事例は、金融庁および金融機関に大きなインパクトを与えています。2019年に金融活動作業部会(FATF)の第4次審査を控え、官民でAML/CFT(マネー・ローンダリング・テロ資金供与対策)のレベルアップを進めている中での問題事例であり、金融庁は金融機関に対し、AML/CFTの現状を再点検するよう促していますが、問題事例が他の事業者でも起こり得るケースであるがために、相当の危機感をもって組織的に取り組む必要性を痛感させられます。本コラムでもたびたび指摘している通り、AML/CFTは法令上求められる最低限のチェックを形式的に行うだけでは全く不十分であり、より実効性の高い取り組みを行うのであれば、とりわけ、3線管理における第1線(営業部門)における意識と知識、リスクセンスの向上が極めて重要なポイントとなります。問題事例や過去のマネー・ローンダリング事案をみても、送金を受け付ける窓口において、当該取引の合理性を厳しく見極める姿勢も知識も経験も欠如していたという脆弱性が突かれる形となっています。AML/CFTに関するきちんとした知識を身に付けるのは当然のこととして、窓口業務の「プロ」として、取引の合理性にごくわずかでも問題や懸念事項があれば、それを感じ取ること、「プロ」としての感性に引っかかる(疑わしいと感じる)のであれば、それが何か、うやむやに前に進めるのではなく、必ず「立ち止まり」、徹底的に厳格な確認を行うこと、慣れない取引であれば原則に立ち返り、慎重に進めること、そして、これまで以上に数多くの疑わしい事例を業界で共有し、第1線に周知することによって、業務の質、AML/CFTの実効性は格段に高まる者と考えます。

 

さて、以下、直近の金融庁の発信情報から、AML/CFT関連について、かいつまんで紹介します。金融庁の危機感を感じ取ることができるものと思います。

▼金融庁 業界団体との意見交換会において金融庁が提起した主な論点
▼共通事項

金融庁は、「AML/CFTについては、FATF 第四次対日相互審査に向けた対応はもちろん、手口の巧妙化等も踏まえ、各金融機関において防止策を的確かつ速やかに講じる必要がある」と取り組みの必要性を述べていますが、ここでは、手口の巧妙化等も踏まえ、「的確かつ速やかに」防止策を講ずべきとしている点が注目されます。AML/CFT態勢が不変・普遍のものではなく、常にブラッシュアップし続ける必要があること、さらには相応のスピード感も求められていると認識する必要があります。そして、その具体的なあり方については、「当庁としては、金融機関に対し、マネロン等のリスクに関わる基礎的な定量データや態勢面に関する定性情報の報告をお願いしているところ。こうした定量データや定性情報の整備・収集は、各金融機関にとっても、自らのマネロン等リスクとその対策の状況を評価するために重要・必要なものであると考えており、各金融機関が現状の体制を自己評価し、マネロン等リスクの管理態勢の整備・高度化につなげていく契機としてほしい」と述べており、以前も取り上げたリスクベースアプローチ(RBA)の手法を用いて、各行が「自立的・自律的」に取り組むことを求めています。さらに、金融庁は、一般利用者に向けても、金融機関の取り組みへの理解を求める情報発信を行っています。

▼金融庁 金融機関窓口などでの取引時の情報提供にご協力ください

内容的には、金融庁・金融機関等がAML/CFTに取り組んでいること、その理由が、「犯罪組織やテロ組織への資金流入を未然に防ぎ、安全で利便性が高い金融サービスを維持し、犯罪組織やテロ組織が活動しづらい環境を作る」ためであること、「金融サービスを悪用して、わが国が制裁対象とする国・組織・個人や犯罪者に資金が渡ることとなれば、更なる犯罪行為やテロ行為を助長するということになりかねない」ことから、利用者に理解と協力をお願いするとしています。そのうえで、「金融機関等は、犯罪組織やテロ組織が資金獲得の手口を日々巧妙化し、一般利用者に紛れて気づかれることなく取引を行おうとする中で、取引に不自然な点があれば、利用者に質問をしたり必要な情報の提供をお願いするなど、厳格な取引時の確認を徹底することが求められる」としています。さらに、「国際的に核・ミサイルやテロの脅威が増す中、犯罪者・テロリスト等につながる資金を断つことは、日本及び国際社会がともに取り組まなくてはならない課題であり、マネロン・テロ資金供与対策の重要性はこれまでになく高まっている」こと、「(FATFの)審査については、日本が有効なマネロン・テロ資金供与対策を実施していることを示し、国際的な信認を得る好機であり、金融庁としては、国際送金等の円滑な実施や、犯罪組織やテロ組織を寄せつけない堅牢な金融システムの確立の観点からも、官民一体となって取り組む必要があると考えている」ことを理由として、金融機関等を利用する際に、「従来よりも厳格な本人確認を受けたり、取引目的の確認、資産及び収入の状況等について従来は求められなかった資料の提出や質問への回答を求められる場合がある」と理解と協力を求めています。また、各行が「自立的・自律的」にRBAによる取り組みを行っていることもふまえ、「特に、マネー・ローンダリング、テロ資金供与を試みる犯罪組織等が行う様々な手法に対抗できるよう、金融機関等は、自社の営業地域や商品特性等も踏まえながら、それぞれに調査手法等を工夫・実施している」こと、「このため、利用する金融機関等や、行う取引の違い等によって、異なる資料の提出や質問への回答を求められる可能性があるほか、場合によっては、同一金融機関・同一取引であっても、利用者によって、求められる資料や質問等が大きく異なってくる可能性がある」ことまで言及している点が驚かされます。なお、具体的な要請事項は以下の通りです。

 

    • 以下のような取引を行う場合、金融機関等の判断により、本人確認書類の提示に加えて、取引内容や取引目的について追加的な確認を受けることがあります。
      【取引の例】

      • 多額の現金や小切手による取引
      • 収入や資産等に見合わない高額な取引
      • 短期間のうちに頻繁に行われる取引
      • 当該支店で取引をすることについて明らかな理由がない取引
      • 送金先、送金目的、送金原資等について不明瞭な点がある取引
        *上記は例示であり、実際には各金融機関等が取引・利用者ごとに個別具体的に判断するものです。

 

    • 個人の方が金融機関等を利用する際に、次のような確認を求められる場合があります。
      • 取引を行う目的について書面等により確認を求められる等、手続きに時間を要する場合があります。
      • 過去に確認した事項については、再度確認を求められる場合があります。また、その際に、各種書面等の提示を求められる場合があります。
        【確認を求められる事項の例】

        • 取引の目的等
        • 当初の目的とは異なる目的での取引となる場合の理由等
        • 多額の現金での取引の際のその原資等

 

  • 法人が金融機関等を利用する際には、以下の点にご理解ください。
    • 法人の場合においても、取引を行う目的について書面等により確認を求められる等、手続きに時間を要する場合があり、また、過去に確認した事項についても、再度確認を求められる場合があります。また、その際に、各種書面等の提示を求められる場合があります。
    • また、その法人を実質的に支配することが可能となる自然人(「実質的支配者」と言います)に遡って、当該者の本人確認をすることが求められます。
    • 実質的支配者については、職業や居住国等の確認を求められる場合があるほか、取引によっては、氏名・住所・生年月日等を書面等により求められたり、実質的支配者の確認のため株主名簿等の書類を求められることがあります。

なお、特殊詐欺あるいはマネー・ローンダリングのツールとして、近年急速に存在感を増しているのがベトナム人の銀行口座だとする報道(平成30年4月22日付産経新聞)がありました。昨年発覚したインターネットバンキングの不正送金事件で、送金先となった口座の名義人765人のうち59・1%(452人)がベトナム人だった事実があり、以前は中国人の口座が多数を占めていたところ、ここ2年で大きく状況が変わりました。ベトナム人は留学生や技能実習生として来日し、国内の金融機関で開設したものが犯罪集団に流出しているとみられており、帰国時に小遣い稼ぎの感覚で売却する人も多いということです。これらの口座は、犯罪ツールを用立てる「道具屋」に流れたり、仮想通貨の移転先として使われたりする実態があり、ベトナム人のSNSを通じてやりとりされるようです。このような状況をふまえ、大阪府警では、今年2月から、ベトナム人が利用するアプリや情報サイトを通じて注意喚起する取り組みをスタートさせています。

 

さて、「厳格な顧客管理」に関するものとしては、直近では、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が南北首脳会談の際に独ダイムラーの最高級車を使用していた事例が挙げられます。北朝鮮に対しては2006年の核実験以降、国連安保理の制裁で独車の輸出が禁止されているにもかかわらず、屈強なSPとともに画面に映し出され、一部で物議を醸していたものです。報道によれば、同社は、「15年以上北朝鮮とは取引がなく、国連制裁を順守している」と販売を否定していますが、はからずも制裁逃れの実態が垣間見えた形となります。同様の事例としては、IS(イスラム教スンニ派過激組織イスラム国)の宣伝動画にトヨタ製の車両が大量に登場し、米財務省が情報提供を求めた事例、直近の国連安保理北朝鮮制裁委員会専門家パネル報告書でも指摘された日本製クレーンがミサイル開発に転用された事例などがあります。これらの事例をふまえれば、サプライチェーン・マネジメントの厳格化の要請がこのレベルまできたと認識する必要があり、事業者には、自らの商流に、排除すべき「悪意」を紛れ込ませないための厳格な顧客管理が一層求められていると言えます。そこで、厳格な顧客管理の観点から制裁関係の動向について、以下の通り、いくつか紹介しておきます。

 

まず、経済産業省が、犯罪による収益の移転防止に関する法律(犯罪収益移転防止法、犯収法)に基づき、金地金等取引事業者6社に対して、下記の行政処分等を行っています。この6社は、現金による多額の金地金の買取を、短期間に繰り返し実行するという疑わしい取引を行っていた顧客が存在していたにも関わらず、行政庁に対する届出を怠っていたというものです。犯収法は、金融機関や仮想通貨事業者だけでなく、特定事業者として、「宝石・貴金属等取扱事業者」も含まれており、疑わしい取引の届出義務等が課せられています。

▼経済産業省 金地金等取引事業者6社に対して行政処分等を行いました

犯収法第17条の規定に基づき、下記の行政指導を実施

(1)犯収法第8条第1項及び同条第2項等に定める疑わしい取引の届出を速やかに行うこと

(2)これらの違反行為の再発を防止するため、犯収法第11条第1号及び第2号の規定に定める社員に対する教育訓練の更なる強化及び規程の整備・見直し等取引時の確認等の特定事業者としての義務を的確に履行するための措置を講ずること。併せて、上記指導を踏まえて各社が講じた措置について、指定された期日までに報告するよう、法第15条に基づき、報告徴収命令を発出

 

また、経済産業省が「外国ユーザーリスト」を改正、公表しています。「外国ユーザーリスト」とは、「キャッチオール規制(国際合意により輸出規制を行うこととなっている品目以外のものであっても、その品目が大量破壊兵器等の開発等に用いられるおそれがある場合には輸出許可申請を義務付ける制度)の実効性を向上させるため、輸出者に対し、大量破壊兵器等の開発等の懸念が払拭されない外国所在団体の情報を参照用として提供するもの(禁輸リストではない)。輸出者は、輸出する貨物等のユーザーが本リストに掲載されている場合には、当該貨物が大量破壊兵器等の開発等に用いられないことが明らかな場合を除き、輸出許可申請が必要となる。平成14年4月のキャッチオール規制導入時より公表している」ものです。今般、最新の情報をもとに当該リストを改正したもので、外国ユーザーリストについて、最新の情報をもとに検討した結果、改正後の掲載団体は合計13ヵ国・地域の529(21増)の団体となりました。

 

▼経済産業省 外国ユーザーリストを改正しました
▼外国ユーザーリスト

また、「厳格な顧客管理」の考え方の一つの柱は、「サプライチェーン・マネジメントの厳格化への対応」です。やや領域は異なりますが、IPA(情報処理推進機構)がITサプライチェーン・マネジメントに関する興味深い調査報告書を公表していますので、以下に紹介します。業務委託関係において、委託元が委託先をどのように管理しているのかの実態が分かるものであり、IT分野に限らず、広く厳格な顧客管理においても認識しておくべき点が数多く見受けられます。

▼IPA(情報処理推進機構) 「ITサプライチェーンの業務委託におけるセキュリティインシデント及びマネジメントに関する調査」報告書を公開
▼概要説明資料
    • 委託元の15.4%で委託先におけるインシデントを経験している。再委託先以降におけるインシデントは、ある(2.8%)、わからない(24.4%)で十分把握できていない可能性があること、委託先では21.3%がインシデントを経験しており、10.3%で再委託先以降におけるインシデントを経験している(委託先は再委託先が起こしたインシデントを委託元に報告していない可能性がある)ことが分かりました。委託元が委託先の動向をモニタリングしておらず、委託先も委託元に適切な情報共有・報告を怠っていること、そのような状況が相互に放置されていること、したがって、サプライチェーン・マネジメントとは言いながら、十分な一体性が確保できていないことがうかがえます。委託先や再委託先における「悪意」を把握するだけの十分な仕組み等がなされていないことにより、サプライチェーン・マネジメント全体(商流全体)の健全性を損なう可能性が高いことが示唆されています。

 

    • 業務委託で扱う情報資産やリスクに基づく情報セキュリティ対策の判断を、社内ルールに従い実施しているのは委託元で51.5%、委託先79.2%と30ポイント程度違いがある(アンケート全体で委託先の方が情報セキュリティの脅威・リスクへの認識や対策の実施度が高い傾向がある)ことが分かりました。委託元では、情報セキュリティに関する委託先管理を実施する上で社内の人材不足や、すべての業務委託に対する統一的管理体制やルール適用が課題となっている一方で、委託先では委託元毎に様々な種類の受託業務に対応した情報セキュリティ対策を行う個別対応について課題意識がもたれていることが示されています。このことから、厳格な顧客管理においても、委託元がすべてのサプライチェーン・マネジメントにかかる顧客を一元的に管理する仕組みが整っていない可能性が示唆されています。

 

    • 委託における情報資産の管理について、規制や監督官庁の指導がある業種では、委託先管理の取組みが浸透している。また、業種において重要度が高いと考えられる情報資産に対しては、実施率も高くなる傾向がある(例:金融業、保険業は個人情報、製造業は営業秘密等)とのことです。金融庁管轄の業態では相対的に厳格な顧客管理が進んでいる実態と同じだと言えます。

 

    • 委託元の回答企業のうち、委託先が実施すべき具体的な情報セキュリティ対策を仕様書等に明記していないのは69.1%であり、全体の実施率は高くなく、特に、製造業は71.1%、卸売業、小売業は74.2%が明記していない状況です。厳格な顧客管理におけるサプライチェーン・マネジメントにおいても、健全性を担保するための取り組みがきちんと「つながっていない」状況が示唆されています。管理の不在により、商流のどこかに「悪意」が入り込むことをそもそも防げない中途半端な状況であるとも言えます。

 

    • 委託元が、委託先選定において重視する点として、「業務の品質・価格・納期」、「委託先への過去の発注実績、過去業務の評価」、「委託先の経営・財務状況」に次いで、「情報セキュリティ対策の実施状況や認証の取得状況(ISMSやPマーク等)」は4番目の優先度となっているということです。このことから、委託先の選定基準に、経営・財務状況以外の「健全性」については優先度が低くなっている状況がうかがえます。サプライチェーン・マネジメントにおける健全性の観点の確保については、今後、もっと浸透して欲しいものです。

 

  • 委託元の回答企業では「委託先の情報セキュリティ対策にかかるコストが委託費用に反映されることについて社内の理解が得られない」(32.1%)、委託先の回答企業では「情報セキュリティ対策にかかるコストについて委託元の理解が得られない」(35.0%)と、委託先の情報セキュリティ対策のコストについて、同程度の課題意識があるということです。このことから、厳格な顧客管理におけるチェックにかかるコストや手間等のリソースを十分に割けない事情が、委託元にも委託先にも存在していることが示唆されています(リソースの問題は、厳格な顧客管理の実現における高いハードルとなっていることは紛れもない事実です)。

(2) 仮想通貨を巡る動向

金融庁は、コインチェックの流出事件を受けて、仮想通貨交換事業者に対する方針を大きく転換しました。これまでの「育成路線」から「厳格な審査・管理」へと大きく舵をきったわけですが、現在検討している仮想通貨交換業の新たな登録審査方針について、報道(平成30年5月5日付日本経済新聞)によれば、「顧客と業者の資産の分別管理の徹底」として、1日1回ではなく時間単位で顧客の資産残高をチェックして外部に流れた痕跡がないかを調べることや顧客から預かったお金や仮想通貨を役員らが流用しない対策も求めること、「内部管理体制の強化」として、株主と経営を分けて企業統治を強化、システム開発担当と管理担当を分離させるなどすること、インターネットにつないだまま仮想通貨を保管することを禁止し、ネットと切り離して仮想通貨を保管し、送金時に必要なパスワードを複数用意するようにすること、匿名性が高く、マネー・ローンダリングに使われやすい仮想通貨の取り扱いを原則認めないことなどを柱とし、書面だけでなく事前に訪問して運営体制を詳しく調べ、体制を整えられない業者にはためらいなく撤退を促し、健全な取引環境を再整備する方向だというこです。みなし業者の審査、新規参入事業者の審査、既存の登録事業者の審査を同じ目線で行い、高いハードルを課していく姿勢を強く打ち出しており、金融庁の強い意志を感じます。なお、現在、金融庁では、「仮想通貨交換業等に関する研究会」を開催していますが、その議論の内容も公開されており、今後の方向性を考えるうえで参考になります。以下、委員の発言から筆者にて重要と思われるものをピックアップしています。

▼金融庁 「仮想通貨交換業等に関する研究会」(第1回)議事録
    • 本来であれば、仮想通貨交換業者についても、投資または投機の対象となっている財産的価値のあるものを預かる業者を対象とする規制が必要だったのではないかという観点から規制を見直す必要がある(仮想通貨交換業者も他の金融機関と同等の高いリスク管理レベルが要請されてしかるべきという点は、その通りだと思います)

 

    • 匿名性が高い通貨が幾つか出てきており、ダッシュとかモネロとかジーキャッシュとかコモドとか、幾つか出てきているが、これらは途中でコインミキシングというような形で、誰から誰に行ったかということがわからないようにするような仕組みが入っており、マネー・ローンダリングの観点からは非常に疑問が投げかけられる。金融庁に登録した業者にそういう匿名性の高い通貨を扱わせていいのかということは議論の対象になり得る(匿名性の高い仮想通貨は犯罪インフラ化しており、もはや排除していくべきものと考えます。前述の通り、今後、匿名性の高い仮想通貨は排除されていく方向です)

 

    • 他の業態とイコールフッティングということを考えると、金融機関には相当今厳しいマネー・ローンダリングの規制がかかっておりますので、そことのイコールフッティングというような論点も考慮するべきではないか(仮想通貨交換業であっても、他の金融機関と同等レベルのAML/CFTの厳格な顧客管理を求めるべきと考えます)

 

    • みなし業者の問題だが、1つは、これは登録の期限をどこかに定めたほうがいいのではないか。ちょっと曖昧な位置づけにあり、そもそもこれは過渡期の措置ということで設けたものなので、あまり過渡期が3年とか5年とか長く続くのは好ましくない(過渡期的措置であることをふまえても、みなし業者については、本来、営業を認めるべきではないといった強い姿勢が必要ではないかと考えます)

 

    • 業者のウェブサイトに必ず、みなし業者の場合はみなし業者という表記を義務づけるというような、できれば共通マークみたいなものをつくって、登録業者とかみなし業者というものを、ユーザーがそのサイトに行ったときに確認できるような仕組みが必要ではないか(そもそも利用者は、登録業者とみなし業者の違いを認識できておらず、表示義務などは検討が必要だと思われます。ただ、そもそものみなし業者の営業のあり方自体から検討すべきではないかとも考えます)

 

    • どうしても、取引が国境を越えて行われるというようなことから、エンフォースメントが難しい。ルールをつくったとしても、なかなかそれを実効性のあるような形でエンフォースしていくことが難しいというような局面もあるのではないか(仮想通貨の特性から、国際社会が一元的なルールで厳格に管理していかない限りは、犯罪インフラ化は避けられないのも事実です)

 

    • 世界に先駆けてICOについて、例えばホワイトペーパーに関する詳細な情報開示を事業者側に義務づけるであるとか、あるいはホワイトペーパーに書かれたことが忠実に行われているかモニタリングしていくといった体制を構築することによって、ICOは場合によってはリスクマネーの調達手段の一つとして使えるかもしれない(正に同感であり、ホワイトペーパーに通常のIPOと同等のレベル感で信頼性の高い情報が公開され、それを正しく遂行していく、適時開示していくという体制が整備されていれば、ICO自体は多様な資金調達の一手段として検討できるものと思われます)

 

  • リスクについての注意喚起は、確かに事業者からも当局からも行っているところですが、このような方法では一般国民にはなかなか響かないのではないか(金融庁や消費者庁、国民生活センターなどのサイトで注意喚起をしているものの、どれだけの国民がそれを目にしているかは確かに疑問であり、注意喚起の手法についてが工夫が必要だと考えます)

 

また、金融庁は、既にみなし業者」全16社に立ち入り検査を行いましたが、行政処分を命じたのは10社に及び、処分を受けた一部業者を含む7社は自主的に交換業からの撤退を決める事態となっています。以下、研究会の資料から、行政処分の内容を類型別にまとめたものを紹介します。みなし業者の脆弱な態勢がよく分かる内容となっています。

▼金融庁 「仮想通貨交換業等に関する研究会」(第2回)議事次第
▼資料2 説明資料(事務局(1))

これまでにみなし仮想通貨交換業者10社及び登録業者2社に対し、業務停止命令・業務改善命令を発出してきたが、以下は、そのうち主な内容を行政処分の公表文から基本的に抜粋したものです。

1.ビジネス部門
【取り扱い仮想通貨の選定】

  • 取り扱う仮想通貨が内包する各種リスクを適切に評価していない。その結果、適切な内部管理態勢が構築されていない

【不適切な通貨の販売】

  • 自社発行仮想通貨について、当社の自己勘定と社長個人の売買を対当させて価格形成を行っていたにもかかわらず、当該事実を利用者に説明しないまま、当該仮想通貨の販売勧誘を行っていた

 

2.リスク管理・コンプライアンス部門(1)
【マネロン・テロ資金供与対策】

  • 複数回にわたる高額の仮想通貨の売買にあたり、取引時確認及び疑わしい取引の届出の要否の判断を行っていない
  • 法令に基づく取引時確認を十分に実施しないまま、仮想通貨の交換サービスを提供しているほか、疑わしい取引の届出の要否の判断を適切に実施していない
  • マネー・ローンダリング及びテロ資金供与リスクなど各種リスクに応じた適切な内部管理態勢を整備していない
  • 取引時確認を検証する態勢を整備していないほか、職員向けの研修も未だ行っていないなど、社内規則等に基づく業務運営を行っていない
  • 疑わしい取引の届出の判断が未済の顧客について、改めて判断し、届出を行ったとしているが、当局の指導にもかかわらず、当局が改善を要請した内容を十分に理解する者がいないため、是正が図られていない

【利用者保護】

  • システム障害や不正出金事案・不正取引事案など多くの問題が発生しているにもかかわらず、顧客への情報開示が適切に行われていない
  • 利用者情報の安全管理を図るための態勢が構築されていない

 

2.リスク管理・コンプライアンス部門(2)
【分別管理】

  • 特定の大口取引先からの依頼に基づき、複数回にわたり利用者から預かった多額の金銭を流用し、一時的に同取引先の資金繰りを肩代わりしていた事実が認められた
  • 代表取締役が会社の経費の支払いに充てるため、利用者から預かった金銭を一時的に流用していた事実が認められた
  • 100%株主である経営企画部長が、利用者から預かった仮想通貨(ビットコイン)を私的に流用していた事実が認められた
  • 適正な業務運営を確保するための実効性ある経営管理態勢が不十分なため、利用者財産の不適切な分別管理や帳簿書類の一部未作成が認められた

【システムリスク】

  • システム障害や不正出金事案・不正取引事案など多くの問題が発生しているにもかかわらず、その根本原因を十分に分析しておらず、適切な再発防止策を講じていない
  • 業容が急激に拡大する中、システム障害事案が頻発していたにもかかわらず、根本原因を十分に分析せず、適切な再発防止策を講じていない
  • 外部委託先管理〉
  • 自社発行仮想通貨に関するセミナーへの勧誘等を行わせている外部委託先の活動状況等を把握しておらず、委託業務の適正かつ確実な遂行を確保するために必要な措置を講じていない

 

3.内部監査

  • 内部監査が実施されていない

 

4.経営管理態勢

  • 取締役会は、業容が急激に拡大する中、業容拡大に応じた各種内部管理態勢及び内部監査態勢の整備・強化を行っていない
  • 取締役会は、法令等遵守や適正な業務運営を確保するための実効性ある経営管理態勢を整備していない
  • 取締役会において顧客保護とリスク管理を経営上の最重要課題と位置付けておらず、経営陣の顧客保護の認識が不十分なまま、業容拡大を優先させているなど経営管理態勢等に重大な問題が認められた
  • 経営陣は、自社の財務基盤・収益構造に関するリスク分析を行っておらず、合理的な経営計画を策定していない
  • 業容拡大を優先させている状況において、監査役が機能を発揮していない

また、当研究会には、新たに発足した「日本仮想通貨交換業協会」が、「仮想通貨取引の現状報告」とする書面を提出していますので、紹介します。

▼金融庁「仮想通貨交換業等に関する研究会」(第1回)議事次第
▼資料3 説明資料(日本仮想通貨交換業協会)

それによると、流通している仮想通貨全体の時価総額(仮想通貨1,596種)は27兆4,339億円(報道によれば、2014年度が26億円、2015年度は877億円、2016年度が3兆5159億円であり、ここ数年で急速に市場が拡大していることが分かります)で、主要仮想通貨(取引高上位5位まで)の占める割合は、ビットコイン45.2%、イーサリアム15.1%、リップル7.7%、ビットコインキャッシュ4.6%となっています。このうち、ビットコインの取引については、約6割が日本の投資家であると考えられるとのことです。さらに、取引の中心層は20代から40代までで、全体の約90%を占めており、取引の中心層は30代、証拠金等取引については50代も多く参加している様であり、現物取引と比較すると、40代・50代の参加が多いとのことです。また、全体の利用者の約95%が100万円未満の預かりであり、そのうちの約77%が10万円未満の預かりとなっており、おそらくは顧客の仮想通貨資産が二極化している様子がうかがえます。なお、同協会が公表した「実施しているセキュリティ対策」には、以下のような項目がありました。

■社内体制
(1)セキュリティ対策室の設置
(2)情報セキュリティに関する、規程・ガイドライン・マニュアルの作成
(3)システムリスクに対する教育訓練の実施
(4)複数管理者による電子署名の実施
(5)ネットワークの監視・モニタリングの実施
(6)インシデント時における体制整備

■環境整備
(1)コールドウォレットの複数化
(2)マルチシグにおける署名サーバー環境の分散化
(3)高度な残高アルゴリズムの導入によりホットウォレットの比率を最小限化
(4)生体認証によるPCログイン
(5)トランザクション移動用専用デバイスの利用

■外部サービス(インターネットセキュリティ会社等)の活用
(1)主要ドメインに対するペネトレーション(実際に侵入を試みて、システムの脆弱性をテストする手法)の
実施
(2)主要ドメインに対する脆弱性チェックの実施
(3)セキュリティツールの活用(マルウェア対策・アクセス管理等)
(4)ログのモニタリング調査の実施
(5)不正侵入検知(IDS)・防御システム(IPS)の採用
(6)レピュテーションシステムによる不正アクセスのフィルタリング

最後に、以下は、仮想通貨を巡る最近のトラブル事例として報道されたものとなります。

    • 個人間で仮想通貨を売買する相対取引を巡り、相手に通貨や現金を持ち逃げされるなどのトラブルが相次いでいます。交換会社を介さず取引するため、相手の身元を十分に確認するのが難しいためで、マネー・ローンダリングに悪用される恐れもあり、国民生活センターは「個人間の直接取引は避けるべきだ」と呼びかけています。

 

    • 仮想通貨を巡る消費者からの相談が急増しているということです。国民生活センターによると、2017年度に全国の消費生活センターなどに寄せられた相談は2,816件(暫定)と前年度比3.3倍に増えています。ビットコインなどの価格高騰を背景に、関心を持った投資家がトラブルに巻き込まれるケースが相次いでいるようです。

 

    • 会社社長の40代男性が1億9,000万円相当のビットコイン(BTC)をだまし取られた事件で、警視庁サイバー犯罪対策課などは、詐欺の疑いで、美容院経営の男ら5人を逮捕しています。報道によれば、都内のホテルで、会社社長の代理人の男性に現金2億円と交換すると嘘の取引を持ちかけ、指定した口座に約1億9,000万円相当のBTCを送金させて詐取したもので、詐取したBTCは横浜市内の業者で現金化し、グループは手数料を差し引いた1億7,000万円超を得ていたということです。なお、本件は、東京地検が容疑者らを起訴しています。

 

    • ネットにつながっているパソコンやスマホの処理能力を遠隔地からこっそり盗み、仮想通貨を増やす行為(マイニング、採掘)に不正利用するサイバー犯罪が増えている。不正なプログラムを組み込んだバナー広告などを読み込ませるのが手口で、目に見える被害がないため急速に広がっており、注意が必要な状況です。また、仮想通貨の採掘が再生可能エネルギーを「爆食い」しているとの報道がありました。仮想通貨の値上がりを受け、国内外の企業が再生可能エネを使い、コンピューターで暗号を解いて仮想通貨取引を承認する採掘を手掛けているということです。

 

    • オーストラリア証券投資委員会は、ICOを通じた仮想通貨のマーケティングおよび販売に関し、「誤解を招く行為あるいは欺瞞的な行為」を厳しく取り締まっていく方針を発表しています。同委員会による調査を受けて、一部の企業は既にICOを中止またはICO構造の変更を示唆しているということです。

 

  • 中国天津市の警察当局が、仮想通貨ビットコインのマイニング(採掘)に使われたとみられる600台のコンピューターを押収したということです。報道によれば、地元の送電会社が異常な電力使用を検知したことで発覚したとのことで、警察当局は高出力の送風機8台も同時に押収、「近年で最も大規模な不正電力使用だ」と指摘しています。

(3) 特殊詐欺を巡る動向

まずは、例月通り、平成30年1月~3月の特殊詐欺の認知・検挙状況等についての警察庁からの公表資料を確認します。

▼警察庁 平成30年3月の特殊詐欺認知・検挙状況等について

平成30年1月~3月の特殊詐欺全体の認知件数は4,063件(前年同期3,984件、前年同期比+2.0%)、被害総額は65.8億円(76.7億円、▲14.2%)、検挙件数は986件(848件、+16.3%)となりました。うち振り込め詐欺の認知件数は4,000件(3,910件、+2.3%)、被害総額は63.2億円(72.9億円、▲13.3%)、検挙件数は937件(777件、+20.6%)となっており、件数の増加と被害額の減少という傾向は継続して続いています(ただし、件数の増加ペースは前月と比較すればやや鈍化しています)。一方、類型別の被害状況をみると、オレオレ詐欺の認知件数は2,285件(1,525件、+49.8%)、被害総額は30.6億円(34.5億円、▲11.3%)、検挙件数は690件(954件、▲27.7%)と件数が急激に増加している一方で、被害額については、前月から減少に転じています(1月の被害額は前年比+6.9%でした)。また、架空請求詐欺の認知件数は1,235件(1,161件、+6.3%)、被害総額は26.4億円(25.1億円、+5.2%)、検挙件数は195件(294件、▲33.7%)と前月同様、件数・被害額ともに増加し、1月の傾向(件数+15.5%、被害額▲14.0%)とは異なる傾向となっています。融資保証金詐欺の認知件数は101件(186件、▲45.7%)、被害総額は1.4億円(1.5億円、▲7.2%)、検挙件数は30件(108件、▲72.2%)、還付金等詐欺の認知件数379件(1,038件、▲36.5%)、被害総額は4.7億円(11.8億円、▲60.1%)と、これらについては件数・被害額ともに大きく減少する傾向が継続しています。これまで猛威をふるってきた還付金等詐欺の件数・被害額が急激に減少する一方、それととって替わる形でオレオレ詐欺や架空請求詐欺が急増している点(特殊詐欺全体でみれば件数がいまだに増加している点)に注意が必要です。なお、それ以外の状況として、特殊詐欺全体の被害者について、男性25.3%、女性74.7%、60歳以上80.3%と、相変わらず全体的に女性・高齢者の被害者が多い傾向となっているほか、犯罪インフラの検挙状況として、口座詐欺の検挙件数は332件(410件、▲19.0%)、犯収法の検挙件数は597件(515件、+15.9%)、携帯電話端末詐欺の検挙件数は56件(107件、▲47.7%)などとなっています。

 

直近の報道(平成30年5月10日付読売新聞)で、埼玉県内で3月末までに発生した特殊詐欺の被害は、木曜日が突出して多いという興味深い内容のものがありました。一方で土日はごくわずかであることから、埼玉県警では、「木曜日が多いのは組織でのノルマを週内に達成しようとしているのではないか」、「家族が家におり犯行がしにくく、金融機関が休みの土日は少ないのではないか」と推測しています。さらに、この仮説のもと、同県警は毎週木曜日に県内の駅やATM周辺などで、500人態勢の一斉警戒を行っているとのことです。また、最近の特殊詐欺の傾向としては、前述の「平成29年における組織犯罪の情勢」でも、暴力団と海外の犯罪組織の連携が増えていることが指摘されていましたが、中国国内の犯罪組織の指示のもと、日本の学生が「受け子」として使い捨て要員とされている実態もあるようです。具体的には、特殊詐欺に関わったとして今年1月に中国人とともに兵庫県警に逮捕された日本人の男子大学生(20)が、LINEの中国版とも呼ばれるアプリを通じ、犯行の指示を受けていたというものがありました。また、過去、日本の特殊詐欺グループが中国にアジトを構えて大量の日本人の「架け子」から日本国内に向けて電話させている事例もありましたが、アプリを悪用した中国の犯罪組織の暗躍という新たな形態にも注意が必要な状況です。なお、それ以外でも、特殊詐欺を巡っては、以下のような状況があります。

    • 世田谷の特殊詐欺被害が6年連続で東京23区の中で最悪となっています。事態を重く見た世田谷区は被害防止を呼びかけるチラシの配布を始めたほか、警視庁と連携して不審電話がかかった地域に重点的に注意喚起するなど、緊急対策に乗り出しています。被害の約4割(37件)を占めるのが医療費などの返還を装った還付金詐欺で、報道によれば、「『自分はだまされない』と思っていた人がだまされるケースも多い。人ごととは思わず、詐欺の手口を知って注意してもらいたい」と世田谷区は注意喚起しています。

 

    • 警視庁下谷署は、特殊詐欺グループに大学の友人の男(20)を紹介したとして、詐欺幇助などの疑いで、千葉県船橋市の大学生の男(20)=事件当時(19)=を逮捕しています。グループに誘い込む「リクルーター」役をしていたとみられ、下谷署は、ほかにも勧誘していないか調べています。逮捕された男は「詐欺の仕事を紹介したつもりはなかった」と容疑を否認しているようですが、おそらくそのように話すよう指導を受けているものと推測されます。

 

    • 携帯電話番号を使うショートメッセージサービス(SMS)を悪用した架空請求の被害が後を絶たず、特に不特定多数に有名企業や団体をかたるメールを送り、不安につけ込む手口が目立っています。今月(平成30年5月)、携帯電話3社が画像や長文をやりとりできる新たなSMSアプリを公開しており、警察や消費者庁は、怪しいと思ったら相談するよう呼び掛けています。

 

    • 消費者庁は、実在しない「法務省管轄支局」による、はがきでの架空請求詐欺被害が相次いでいるとして注意を呼び掛けています。昨年5月以降、全国の消費生活センターなどに29,455件の相談が寄せられています。金銭を要求され、実際に支払った被害額は計約1億1,900万円にも上るほか、東海、南関東からの相談が特に多く、計5,000件を超えているとのことです。

 

    • 国民生活センターの職員を装い1,200万円詐取したとして、特殊詐欺グループが警視庁に摘発されています。このグループは、現金の受け取り役の「受け子」とあわせて数十人に及び、グループの関与が疑われる被害は昨年9月以降、東京を中心に30件以上、計約2億円に上るとみられています。摘発の際には、容疑者らが拠点としていた千葉県茂原市の住宅から、犯行に使われた携帯電話十数台と約3,000人分の名簿、犯行マニュアルなどが押収されています。

 

  • 国民生活センターは、架空請求が増えているとして注意喚起を行っています。全国の消費生活センター等に架空請求に関する相談が寄せられ、2016年度は約8万件でしたが、2017年度は約18万件と2倍以上に急増し、特に50歳以上の女性からの相談が増えているということです。
▼国民生活センター 速報!架空請求の相談が急増しています-心当たりのないハガキやメール・SMSに反応しないで!-

同センターでは、大手通販サイト等の実在の事業者をかたって消費者を誤認させるものや、連絡しないと法的措置をとる等と伝え消費者を不安にさせるものや、弁護士を名乗る者が登場する劇場型等、詐欺業者は様々な方法で消費者にお金を支払わせようとしていること、支払方法も口座への振込だけではなく、消費者をコンビニに行かせてプリペイドカードを購入させ、カード番号をだまし取る場合や、詐欺業者が消費者に「支払番号」を伝え、コンビニのレジでお金を支払わせる場合等、様々な方法が使われていることを紹介しています。以下は代表的な相談事例です。

 

  • スマホに「未納料金があり、連絡しないと裁判を起こす」とのSMSが届き、プリペイドカードによる支払いを要求された
  • 実在の事業者をかたるSMSが届き、未納料金を一旦支払えば返金されると言われプリペイドカードで支払ってしまった
  • スマホに未納料金を請求するSMSが届き、振込で支払うように指示された
  • 実在の事業者をかたる電話で未納料金を請求され、裁判所から訴状が届くと言われた
  • 「消費料金に関する訴訟最終告知のお知らせ」のハガキが届き、相手から言われた支払番号で取り下げ料を支払った

 

一方、特殊詐欺を防ぐための対策も様々なものが現れています。例えば、報道(平成30年5月4日付時事通信)によれば、特殊詐欺事件で格安スマホが悪用されるケースが増えているため、昨年11月以降、警視庁と格安スマホ大手のNTTコミュニケーションズが協力、警視庁への照会を通じ、契約時に確認する身分証明証について90件以上の偽造を見破ったということです。格安スマホでは、(インターネットを通じて身分証の写真画像を送ってもらい本人確認する)非対面取引のため、対面で行う従来型の携帯電話と比べ、偽造が発覚しにくい点が狙われていたところ、判断しにくいケースについて警視庁に照会し、身分証の発行元に確認してもらう仕組みを作ったところ、成果が挙がっているものです。その成果として、都内の特殊詐欺事件で使われた格安スマホのうち、NTTコミュニケーションズ契約機の比率は昨年1~3月が全体の半数近くだったのに対し、今年同期は27%にとどまっており、犯罪者が同社の契約機を避ける傾向が顕著となっていることが分かりました。今後、警視庁と連携する事業者を増やして同様の取り組みを行うことで、被害を低減させることができるのではないかと期待されます。また、詐欺を防いだ事例も報道されています。例えば、郵便局に高齢の夫婦が訪れ、「ATMで200万円を引き出したいができるか」などと尋ねたが夫婦が使途を明確に答えなかったことなどから不審に思い、夫婦の息子に確認するよう説得して被害を防止した郵便局の事例や、コンビニでプリペイドカード10万円分を購入しようとした70代男性が、「ネットサイトを使っていてボタンを押すと請求が来た」と答えたため不審に思い、警察に相談するよう促して被害を防止した事例などがありました。さらに、国際的な捜査連携で一部被害回復ができた事例もありました。被害者の日本人女性が三井住友銀行や検察官などを装う電話詐欺で現金5,830万円をだまし取られた事件で、台湾人の男2人が日本の警察に逮捕されたことを受け、共犯に関する情報を入手した台中地検が地元警察らと連携して捜査した結果、台湾人の男と日本の住吉会系および六代目山口組系の組員が共同で組織した詐欺グループが台中市内にアジトを設置していることを突き止め摘発にこぎつけたというものです。この詐欺グループは日本だけでなく、中国大陸を狙った詐欺も働いていたということであり、暴力団と海外の犯罪組織や犯罪グループとの国際的な連携の実態を示す(本件では住吉会と山口組という組織を超えた連携という意味合いもありそうです)とともに、捜査の国際連携のよい事例となりました。さらに、これら以外にも、特殊詐欺を防ぐための新たな作戦やその後の動向等が報道されていますので、紹介します。

    • 京都府警が、特殊詐欺被害に遭わないよう、子どもの声による注意のメッセージをATMの前で流す取り組みを始めています。孫の世代からの注意は耳に届きやすいはずとして、地元の小学生の協力を得て行われています。特殊詐欺では地区ごと狙われることがあり、怪しい電話の情報があったら警察官が近くの金融機関に急行し、機器を置いて防ぐ運用ということです。

 

    • 大阪府内の警察署でさまざまな取り組みが行われています。松原署は啓発用マグネットシートを作り、河内長野署は新聞販売所の協力で約26,000枚の啓発用チラシを各家庭に配布、和泉署では捜査に協力する「だまふりGメン」の講習会を開催するなどしています。その大阪府警和泉署では、平成29年の特殊詐欺の府内認知件数は1,597件、被害総額は約37億5,000万円にのぼりました。このうち振り込め詐欺の認知件数は1,573件、約36億4,000万円と高い割合を占めていることをふまえ、同署では、管内の65歳以上の高齢者を対象に「だまふりGメン」の募集を開始、これまでに100人を超えるメンバーが集まったということです。捜査協力者を募って犯行グループの検挙につなげるほか、市民の防犯意識を高めて特殊詐欺の被害を防ぐ狙いがあるといいます。

 

    • 犯人がゆうパックや宅配便などで送らせた現金をだまし取る「送付型」の特殊詐欺被害拡大を防ぐため、兵庫県警などは、県内の郵便局やコンビニエンスストア約3,000店に対し、荷出しに訪れた利用者に啓発を促すためのシール約151,000枚の配布を始めています(シールを提供したのはレオパレス21)。店頭でシールを受け取った利用者が「現金は入れていません」と記された文字横のチェック欄に印を入れて荷物の箱に貼り付けるというものです。

 

  • 秋田県警が3年前、電話を通じた特殊詐欺などの被害防止に向けて同県内15警察署を通じて無料貸し出しを始めた「自動通話録音装置」の利用が低迷しているとのことです。計120台の稼働率は22.5%(3月末時点)にとどまっている一方で、同県内では4月以降、「金融庁」「警察」の職員をかたる不審電話が相次ぎ、被害も発生しているということであり、同県警はホームページにお知らせを載せるなどして利用を呼びかけています。せっかくの予防策も周知がされていなければ効果を発揮できないのは当然のことであり、今後の利用率の向上と被害の防止につながることを期待したいと思います。

 

さて、本コラムでは以前、特殊詐欺を、行動経済学を使って分析した論文を紹介しました(暴排トピックス2018年1月号)(暴排トピックス2018年1月号)。その中で、心理的メカニズムをふまえた予防策としては、「消費者に提供する予防策は、極力情報を厳選し、要点をせいぜい3つ程度に絞り込むなど、情報過多を避ける工夫を行うことが望ましい」、「消費者は、平常時には、「自分は騙されない」という自信過剰傾向にある。こうした心理状態では、自ら予防策を講ずる必要性を軽視したり、無関心になったりしやすいことに配慮する必要がある」、「消費者は誰しも、「自分が詐欺被害に陥るほど愚かであるとは思いたくない」という自尊心を有しており、特に高齢者層はこの傾向が強い。また、高齢者は、否定的・ネガティブな情報よりも、肯定的ないしポジティブな情報を無意識のうちに重要視する傾向があることから、詐欺予防策のメッセージは、なるべく禁止的、強制的な表現を避けることが望ましい」という3つの原則に基づくべきというものでした。直近の大阪府警が実施した初めての被害者調査においても、特殊詐欺の被害に遭った人のおよそ8割が、一般的な手口について知識として知りながら、結果的にだまされていたことが明らかになっています。「自分のところには来ないと油断していた」というのが主な理由で、次いで「犯人の口調が親切で丁寧だった」、「当日中の入金や連絡を求められて焦った」が続いています。これらの結果から、やはり、高齢者の「自分は騙されない」という自信過剰傾向と、犯行グループの巧妙な話術と「説得的話法」により精神的な余裕を失い、詐欺被害に繋がる不合理行動を起こしやすくなる状況に陥りやすくなるということが理解できます。同様に、兵庫県警が被害者調査を実施したところ、「詐欺被害が多発しているのを知っているのに、金をだまし取られた」というケースが全体の7割近くに上ることが分かったということです。さらに、半数以上が「自分が被害に遭うとは全く考えなかった」とも回答していた点は大阪府警の調査結果に通ずるものがあります。兵庫県警は、被害の大半を占める高齢者の当事者意識をさらに高める必要があるとして、スーパーや医療機関を中心に啓発活動を強化するとしていますが、先の行動経済学の分析から判明した高齢者の心理的状況・傾向・メカニズムをふまえた伝え方に留意すべきと思われます。なお、具体的な対応についても、突然の電話への三つの対応原則として、「電話を受けた際に、犯人が説得的話法を利用していることに気が付いたら、速やかに会話を打切ること」、「資金の振込みなど、相手の要請に従った行動をとる前に、できるだけ、家族、親戚、消費生活センター、警察、弁護士など第三者と相談する機会を設けること」、「会話が犯人のペースで進行するのを牽制すること。このためには、個人情報の秘匿や、質問や反論の投げかけが有用」といったものが提示されていることを、あらためて紹介しておきたいと思います。

(4) テロリスクを巡る動向

世界が「IS後」に向けて動く中、米国務省は、米軍主体の有志連合が、シリアに残るIS掃討のための「最終作戦」を開始したと発表しています。有志連合によると、米軍が支援する少数民族クルド人勢力を中心とする「シリア民主軍」(SDF)がシリア東部のイラク国境付近で作戦を始めており、有志連合が空爆などの支援をしているとみられています。そのような中、直近では、フランスの首都パリ中心部で5月12日夜に発生した、1人が死亡し、4人が負傷したナイフを持った男による襲撃事件について、ISが犯行声明を出しています。警察は「テロ」として捜査を開始したということです。報道によれば、IS傘下のプロバガンダ機関は、「パリ市での刺殺作戦を実行したのはISの兵士で、この作戦は有志連合を標的にしろとの呼び掛けに応えて実施されたものだ」と伝えているということです。また、少し前ですが、アフガニスタンの首都カブールで4月30日朝、ジャーナリストを狙った巧妙な自爆テロが発生しました。報道によれば、まず情報機関付近の検問所で1度目の爆発が発生し、地元メディアやAFP通信に所属する記者とカメラマンが現場に急行した30分後、2度目の爆発が起き、9人の命を奪ったということです。以前の本コラム(暴排トピックス2016年7月号)で、テロに遭遇した場合の具体的対処法について紹介していますが、その中で、「2次的な爆発に対する注意」として、「爆発後は、2次爆発がないかを予測し、しばらくは様子を見ること。過去の爆破テロの2次爆発の例では、ほぼ同時に近くで爆破するか、または、10分から20分後くらいに同じ施設内で起こっている」との情報を提供しました。本テロは正にその2次爆発の例となりますが、この事件が狡猾なところは、「30分後」に実施している点です。犠牲になった記者らは当然ながら2次爆発の怖さを理解していたはずであり、ある程度の時間の経過後、取材を行っていたものと思われ、正にそのような記者の行動をふまえた犯行だったのではないかと思われます。

 

さて、前回、前々回の本コラムで、社内研修等の一環として活用できそうな外務省の 「ゴルゴ13の中堅・中小企業向け海外安全対策マニュアル」について一部紹介させていただきました。現時点でその動画版も第6話までリリースされています。既に、さいとう・たかをさんの人気漫画「ゴルゴ13」を使った単行本とともに以下に掲載されていますので、その中から一部をあらためて紹介します。

▼外務省「ゴルゴ13の中堅・中小企業向け海外安全対策マニュアル」

今回は、第12話【イラク】「有事への対応」を取り上げます。本話では、有事に際しての基本的な行動として次のようなことが紹介されています。まずは、「生き残ることを考える」ことです。「誘拐・襲撃・テロに遭遇した際に守るべき唯一のものは命です。有事の際には、命を守ることを優先して行動することが必要」だと指摘しています。そして、「S、M、Lで自己防衛」として、「Sound」については、「爆発や銃撃など異常な音がした場所には近づかない。在室中なら窓から覗かない。テレビ音声や携帯電話の受信音は標的となるため電源を切る」こと、「Moving」については、「近くでテロが起きたら、まず伏せる。非常口や避難ルートが渋滞し得るため、闇雲に逃げない。利用する施設の非常口や構造は事前に確認しておく」こと、「Light」については、「外で爆発や銃撃など異常な音がしたら部屋の灯りを消す。テレビの明かりや携帯電話の受信ランプも標的になるため電源を切る」といった基本的な行動、対応方法が紹介されています。また、有事に直面した時、携帯電話の操作をすることはほぼ不可能であり、映画館、劇場、美術館などの不特定多数の人が集まる場所では、安全のためにも予め携帯電話の電源を切ることが重要であること、テロ予告などで指定された場所・時間は避けるべきであることも紹介されています。さらに、襲撃・テロに遭遇した場合の行動原則は、「Lie、Run、Hide」であるとしています。Lie(伏せる)については、「銃撃や爆発音を聞いたらその場で伏せる。周囲の状況を確認し、「逃げる」のか「隠れる」のかを判断する」こと、Run(逃げる)については、「脱出ルートがあれば避難する。持ち物はそのまま置いていく。襲撃場所に他の人が入らないように注意する。安全が確保された時点で警察に通報する」こと、Hide(隠れる)については、「犯人から見えない場所に隠れる。ドアをロックするか、バリケードをつくり侵入を防ぐ。携帯電話などは音が鳴らないようにする、机上電話の受話器を外す」ことがそれぞれ紹介されています。人間は、緊急時に冷静でいられるのは1割しかおらず、8割はフリーズし、残りの1割はパニックとなると言われています。そのような心理的メカニズムから逃れるためには、日頃から正しい知識を身に付けること、繰り返し訓練を行うことが重要となります。このような有事に際しての基本的な行動について、社員に正しく周知しておくことも必要ではないかと考えます。

 

さて、それ以外にも、テロリスクへの事業者の対応という点では、欧米のIT事業者を中心に大きく動きがあります。2017年にイタリアで開催されたG7サミットにおける、「テロおよび暴力的過激主義との戦い」に関する声明の中では、「通信サービス・プロバイダやソーシャルメディア企業に対し、テロ関連の内容に対処する取組を大幅に増加するよう呼びかける。我々は、産業界が、暴力への扇動を促す内容の自動的な検知を改善する新たな技術やツールを緊急に開発し、共有するため行動するよう奨励し、また同様に、インターネット上の過激主義と闘うために提案されている産業界主導のフォーラムを含め、産業界の取組を支持することにコミットする」との部分に沿った形で現実に取り組みが進んでいます。直近では、フェイスブック(FB)が、今年1~3月にかけてISや国際テロ組織「アルカイダ」とその関係組織による投稿約190万件を削除したと発表しています。テロやテロ組織について同社として初めて定義し、過激な白人至上主義者などの団体も含まれるとしたということです。さらに、約190万件の削除は、2017年10~12月に削除した投稿数の2倍近くにあたり、削除した投稿のうち、「99%は技術の進歩によって、利用者の報告を待たずにFBが独自に見つけたもの」ということです。正に新たな技術やツールを緊急に開発してきた状況が示されています。また、同様に、米Twitterが12回目の透明性リポートを公開し、この中で、2017年7月1日~12月31日の半年間に、テロを推進することで同社のポリシーに違反したアカウント27万4,460件を永久凍結(permanently suspended)したと発表しています。2015年からの累計では1,210万357件の関連アカウントを凍結しており、過去半年間に凍結したテロ関連アカウントのうち、93%は社内のツールで検出したもので、74%はアカウントが最初のツイートを投稿する前に凍結したということです。FB同様、新たな技術やツールを緊急に開発し、その成果を高めてきたことが分かります。

 

一方、2019年ラグビーワールドカップや2020年東京五輪を控えている日本としても、テロ対策の強化の状況に関する報道も目に付くようになってきました。直近のものをいくつか紹介します。

  • 日本救急医学会など国内18の関連医学会の学術連合体は、負傷者への救急医療マニュアルを、今年度中をめどに作成するということです。銃撃や爆弾によるけがの診断手順や、重傷者を手厚く治療する臨時の集中治療室(ICU)を増設する指針などを盛り込む予定であり、こうしたマニュアルは、国内でのテロ事例が少なかったことで整備が進んでいなかったものの、ここにきて整備される運びとなりました。完成後は各病院に周知し、シンポジウムなどを開いて医療体制の充実を図るということです。
  • 10年前の2008年6月に無差別殺傷事件が起きた東京・秋葉原の歩行者天国で、警視庁が3月から、車両突入テロ対策として、鉄柵を隙間なく並べる新たな防護壁を導入しています。(海外では車両突入テロが相次いでおり、車両進入防止対策も進んでいますが、日本でも、ソフトターゲット対策の一環として、今後、銀座、新宿の歩行者天国での導入も検討しているということです。
  • 警視庁亀有署などは、JR・京成金町駅近くでNBC(核・生物・化学)テロを想定した対処訓練を実施しています。訓練では、飲食店の近くで不審な男がペットボトルに入った液体をまいたと想定して行われ、駆けつけた警察官が男を取り押さえ、周辺を立ち入り規制した後、防護服を来たNBCテロ捜査隊の隊員らが有毒ガスのサリンを検知、ペットボトルを密閉容器に入れて回収し、現場を入念に除染する一連の訓練が行われています。

(5) 犯罪インフラを巡る動向

①本人確認手続き

本コラムでは、本人確認手続きの脆弱性が犯罪に直結することを繰り返し指摘してきていますが、非対面取引におけるリスクの高さはもちろんのこと、地面師の事件でも明らかな通り、対面取引であっても、なりすましや偽名・借名のリスクを完全に排除できないことをあらためて認識する必要があります。最近では、経済産業省の情報システム厚生課に所属する係長が、都内にある携帯電話販売店で、身分確認の際に偽造の健康保険証を提示し、携帯電話6台を詐取した容疑で逮捕された(さらに、携帯電話の購入契約に伴うキャッシュバック特典を利用することで、現金計約23万円をだまし取った)事例がありました。対面取引であっても、「偽の健康保険証」をその場で見抜けなければこのような被害は生じてしまうことになります。また、少し前ですが、転売する目的を隠してスマホを契約し、だまし取ったとして、詐欺容疑で会社役員ら3人が逮捕されるという事件がありました。この詐欺グループによる被害総額は9億円以上に上ると見られており、転売で得た金が暴力団に流れていた可能性があるとのことです。直接の逮捕容疑は、都内の携帯電話販売店2か所から、実体のない投資ファンド名義でスマホを480台(販売価格約4,200万円)購入する契約をして、新規契約後3カ月分の基本料金を支払って信用させた上で、より高額な機種への変更、その後、支払いが途絶え連絡が取れなくなるといった手口でした。本件は、携帯電話販売店側が、(十分な法人の実在性、稼働状況等の確認をしないまま)「実体のない投資ファンド」名義法人との契約を行ってしまったこと、すなわち、大口の法人契約であったにもかかわらず、架空の法人との取引であることを見抜けなかったチェック態勢の甘さが指摘できます。この事件もまた、対面取引でありながら、実体や実態を十分に確認しない「本人確認手続き」上の脆弱性が突かれたものと言えます。一方で、前項の特殊詐欺を巡る動向でも紹介した警視庁とNTTコミュニケーションズとの連携の事例では、格安スマホにおける、インターネットを通じて身分証の写真画像を送ってもらう非対面取引における本人確認手続きの脆弱性(対面で行う従来型の携帯電話と比べ偽造が発覚しにくい点)が突かれていたものを、警視庁に照会し、身分証の発行元に確認してもらう仕組みを構築したことで犯罪インフラ化を阻止することにつながりました。非対面取引の持つリスクの高さに対して、相応の対策を講じたことでリスクを低減できたものと評価できますが、重要なことは、従来の顧客管理プロセスに「警視庁への照会」という新たなプロセスを加える、つまり、利便性を一部犠牲にすることで厳格な顧客管理の実効性を担保している点です。本人確認手続きにおいては、運転免許証など本人確認書類を「目視」でチェックし、コピーを取る(記録する)ことで終了となるケースが多いのですが、せいぜい目の前の人物と書面上の人物との同一性を確認するだけにとどまり、書面上の記載内容の真実性・信憑性にまで踏み込んで確認できていない(他の書面や取引全体との整合性まで確認できている事業者はそう多くはないと考えられます)のであれば、結局、対面取引も非対面取引もリスクに大きな相違を見出すことは難しいと言えます。その意味で、(何らかの端緒が感じられたケースのみとはいえ)書面上の記載内容の真実性・信憑性にまで踏み込むチェックを導入することで、本人確認手続きのもつ脆弱性を乗り越えようとするもので、新たな手法として注目していきたいと思います。

 

そのような中、警察庁や金融庁などが、金融機関に口座開設時に義務づけられている顧客の本人確認をネットで完結できるようにする調整に入ったとの報道がありました(平成30年4月25日付日本経済新聞)。現在の非対面取引に関する犯収法上の手続きとしては、店頭以外では顧客に身分証の画像を送ってもらい、さらに自宅に転送不要郵便を送付するなどして最終的に本人確認するよう求めていますが、報道によれば、ネット上のビデオ通話で身分証を示したり、身分証の画像と顔写真をセットで送信したりする方法、顧客から身分証の画像を送信してもらったうえでフィンテック企業が銀行などに顧客情報を照会する方法、、既存の顧客口座に少額を振り込んで内容を確認したりする方法などがあり、画像の流用などの不正を防ぐために、所定のスマホアプリで撮影させて、すぐ回収するといった対策をあわせて求めることなどが想定されているようです。そもそも郵送による現行の確認方法においても、空き家で受け取るといった不正事案も発生しており、それぞれ一長一短あるところ、利便性やフィンテック企業の育成の観点を重視するあまり、脆弱性の残る本人確認手続きを認めるということであれば問題であり、犯罪インフラ化の恐れはないかといった観点から慎重な検討が必要だと指摘しておきたいと思います。なお、スマホのカメラなどで顔の特徴を読み取り、本人確認する「顔認証」の導入が金融機関で相次いでいます。偽造やなりすましが困難で、パスワードのように忘れるリスクも無いことから、今後、本人確認手続きのひとつの重要なパーツとなることは間違いありませんが、その顔認証の精度が100%でない以上、他の確認手法との組み合わせ等によってそのリスクを抑え込んでいくことが必要です(顔認証だけで本人確認手続きを完了させるという考え方はやや危険だということです)。

 

また、メルカリがセブン―イレブン・ジャパンと組み、売り手と買い手が互いの宛名を非表示で荷物を配送できるサービスを始めています。出品者はメルカリで売れた商品を全国2万店のセブンのコンビニエンスストアから送れるというもので、知らない人とやりとりする不安を取り除き、より手軽に送れるようにする狙いがあるということです。本サービスは、個人情報保護の観点からみれば安心できる内容と言えると思いますが、匿名取引を追求することで、犯罪インフラ化する懸念が否定できません。特殊詐欺やマネー・ローンダリング等にかかる取引が、その内容物(例えば現金など)を第三者に知られることなく、送り手と受け手それぞれが相手を十分に知らなくても行えることになり、首謀者にとっては、共犯者にさえ犯罪の全体像を知られることなく犯罪を敢行できる可能性があります。メルカリの本人確認手続きをすり抜けさえすれば、現行の特殊詐欺グループの細分化された分業体制以上に、全体像を把握することが困難になる(捜査・追求が困難になる)ものと考えられます。同社のビジネスが順調に拡大する一方で、換金目当てと思われる現金や盗品の出品など、同社が関与する社会問題が何度も発生してきた経緯があります。同社は、顧客サポートの増員や、人工知能(AI)を使った監視システムの構築に取り組んでおり、「テクノロジー会社が自主規制に力を入れ、社会の公器となるべきだ」、「健全性の担保がメルカリを成長させる」と同社会長が述べていますが、そもそも犯罪インフラ化する可能性のあるビジネスについて、(そのリスクを正しく評価できているかは分かりませんが)そのリスクを完全に抑え込もうとするのではなく、問題が顕在化してから、監視(モニタリング)によって「もぐら叩き」的に対策を行う手法は共通しており、社会の公器としてそのスタンスでよいのか、あらためて厳しく自問自答して欲しいものです。
新たな技術革新やサービスに対する保護・育成と規制については、持続可能性を高めるためにも、制度設計の段階から、過去の事例等を分析し、「犯罪者や悪意の視点」をも取り込んでいくことが必要となります。「過去の失敗に学ぶ」ことこそリスク管理なのだと強調しておきたいと思います。

 

②その他の犯罪インフラを巡る動向

以下、最近の報道から、犯罪インフラ化が懸念される状況について、いくつか提示しておきます。

    • 運転免許証の偽造に関わったとして、千葉県警が有印公文書偽造などの疑いで、10人の男女を逮捕しています。男女は偽造した免許証で携帯電話を不正に契約し、他人に売却していたとみられ、売却された携帯電話がさらに別の犯罪に悪用された可能性が高いということです。報道によれば、免許証の偽造係や携帯電話の契約係など、組織的に活動していた可能性が高く、同県警は犯行グループの全容解明を進める方針だということです。犯罪インフラ事業者の代表格である「道具屋」が組織的に構成されている実態を示すものとして、今後の実態解明が待たれます。

 

    • 地方空港の民営化第1号として、仙台空港の運営を2016年7月に国から委託された仙台国際空港会社が、国との協定に反し、初年度に実施するとしていた乗降客の逆流防止ゲートや監視カメラなどの保安設備を整備していないことが分かったということです。仙台に続き、高松でも民間委託され、北海道や福岡、熊本でも計画が進んでいるところ、空港は、港湾、原発など重要インフラ施設などとともに、日本におけるテロ対策の要の一つであり、民間事業者であればなおさら、その役割の大きさを厳しく認識する必要があります。個別企業の経営によって日本全体のリスクが左右されることはあってはならず、確実かつ早急な実施と国による厳格な管理・監視を求めたいと思います。

 

  • 大阪市の繁華街・ミナミにある「アメリカ村」で、地元自治会が街頭に設置した防犯カメラ81台が今月(平成30年5月)中にも全て撤去されることになったという報道がありました。ひったくりなどの犯罪を防ごうと約10年前に導入されたものですが、年間約260万円に上る維持費を賄いきれなくなったというのがその理由です。犯罪の抑止効果があるとして全国で防犯カメラが増え続けている中、それに逆行するような、都市部の繁華街での一斉撤去は極めて異例であり、費用負担の在り方が、今後、問題化する可能性があります。前回の本コラム(暴排トピックス2018年4月号)で、山梨県警による、犯罪抑止や暴排のため街頭に防犯メラを設置・運用している事例を紹介しました。設置から1年間で計53件の画像が暴力団関係事件や器物損壊などの裏付け捜査に活用されたほか、犯罪抑止としても貢献し、暴行傷害による被害受理件数が大幅に減少、特に、同県暴排条例において「暴力団排除特別強化地域」に設定されている石和温泉街ではゼロという成果が挙がっています。防犯カメラの運用コストは確かに悩ましい問題ではありますが、それを理由として治安の悪化につながるような防犯カメラの撤去(犯罪を阻止するインフラの無力化)に至るのは極めて残念です。

(6) その他のトピックス

①薬物を巡る動向

前述した通り、平成29年における組織犯罪情勢において、大麻事犯検挙人員が増加傾向にあり、過去最多を記録したことや、とりわけ若年層への蔓延の実態が示されていました。また、警察庁による「大麻乱用者の実態に関する調査結果」では低年齢化が顕著であること、初めて使用した年齢が若いほど誘われて使用する比率が高いこと、大麻に対する危険(有害)性の認識は「あり(大いにあり・あり)」が30.8%であり、覚せい剤に対する危険(有害)性の認識は「あり(大いにあり・あり)」が72.7%であることと比較して、大麻の危険(有害)性の認識率が低いことなどが明らかになりました。直近でも、乾燥大麻を所持したり譲渡したりしたとして、高知県警は、計12人を大麻取締法違反容疑で摘発しています。うち6人は摘発当時高校生で、ヒップホップを通じて知り合った17歳の少年から大麻を購入していたということで、正に警察庁の調査結果にあった「周囲に影響される傾向」が示された形です。高校生・大学生(最も若い者が15歳)以外に指定暴力団住吉会系組員の男が逮捕、書類送検されており、背後に暴力団がいたことも最近の大麻の蔓延の実態を示していると言えます。また、同じく組織犯罪情勢において、大麻栽培事犯が近年増加傾向にあり、大麻草押収量(本数)も、前年に引き続き1万本を超えるなど、引き続き警戒が必要な状況であることが指摘されていますが、直近でも、小学校の女性教諭が自宅で大麻草を栽培したとして、大麻取締法違反の疑いで厚生労働省四国厚生支局麻薬取締部に現行犯逮捕された事例がありました。なお、大麻栽培事犯に関連して、厚生労働省は、この5月1日から「不正大麻・けし撲滅運動」を実施しています。

▼厚生労働省 「不正大麻・けし撲滅運動」を5月1日から実施します~「大麻」・「けし」を発見したときは通報してください~

この運動は、不正栽培や犯罪予防の観点から各地に自生している「大麻」や「けし」を撲滅するため、「大麻」や「けし」の発見と除去、また、これらに関する正しい知識の普及・啓発を目的に実施するもので、昭和35年から毎年取り組んでいるものです。厚生労働省によれば、「大麻」やあへん系麻薬の原料となる「けし」は、大麻取締法、あへん法などにより、栽培の免許を持つ人以外の栽培が禁止されていますが、依然として乱用目的で不正栽培をする人が後を絶たない状況あるということです。また、自生している「大麻」や「けし」を除去する取り組みも継続的に行っているものの、いまだ根絶には至っていない実態があります。したがって、厚生労働省と都道府県では、内閣府や警察庁をはじめとする関係機関の協賛を得て、不正栽培の発見に努めるとともに、自生している「大麻」や「けし」を一掃するための除去活動を集中的に行うものです。また、「大麻」の乱用が深刻な問題となっている若年層に向けて、脳や身体に及ぼす危険性・有害性を伝える政府広報の実施や、ホームページの掲載、SNSでの情報発信などを通じた啓発活動を行っていくということです。

 

なお、日本では暴力団が薬物ビジネスの中心的存在となっていますが、4月に放映されたNHKのクローズアップ現代で、元厚生労働省麻薬取締部の幹部が、以前は主に中国人や北朝鮮人が覚せい剤の密輸に関わっていることが多かったものが、ここ5年間で、日本への密輸人は57の国・地域に広がっていること、国が違えば密輸の手口も異なり、「複雑化、多様化、巧妙化が顕著」となっていること、覚せい剤の密輸が難しくなってきている現状があることなどを指摘していました。さらに、日本への覚せい剤の密輸が増えている背景として、日本の末端価格が高いことをあげ、その要因として、暴力団が関与して価格が管理されている(高く設定している)ことがあげられると説明しています。
一方、中国でも麻薬ビジネスが蔓延の兆しを見せているということです。報道によれば、中国広東省の公安庁が2018年第1四半期に取り締まった麻薬事件の解決件数が約2,790件に達し、国際的な密売グループの取り締まりとしては過去最大のコカイン押収量を記録しています。米国の犯罪組織は、オピオイド系の麻薬をインターネット上で中国に注文し調達している状況が確認されています。犯罪の隠れ蓑として使われるインターネットは、犯罪組織にとっても摘発のリスクが低く、街中で摘発されるリスクを排して、インターネットを介したコンタクトを増やしており、その手口も巧妙化しているということです。

 

②金の密輸を巡る動向

金塊の密輸事件が後を絶ちませんが、日本の暴力団と韓国の犯罪グループとの連携とみられる摘発事例がありました。韓国・釜山から福岡空港を経由して金塊計24キロ(約1億1,400万円相当)を密輸し、約917万円を脱税したとして、福岡県警や門司税関などは、指示役とされる韓国籍の男3人を関税法違反容疑などで再逮捕しています。また、金塊を日本で売却する役割だった自営業の男も逮捕されています。その金塊の日本での売却には工藤会の関係者も関わっているとみられているということです。また、韓国からの金塊密輸事案については、釜山地方検察庁などが、香港から韓国を経由して約2兆ウォン(約2,000億円)相当の金塊を日本に密輸したとして、韓国人の男女13人を関税法違反で立件し、うち4人を起訴したとの報道がありました。報道によれば、何と5,000人以上の韓国人旅行客を運び屋として使っていたともいわれており、約400億ウォン(約40億円)の利益を上げたということです。
一方、摘発する側も苦労が絶えません。海外とのモノやヒトの行き来を管理する税関が体制強化を急いでいるとの報道がありました(平成30年5月6日付日本経済新聞)。金や麻薬、テロに使用されかねない物品の密輸防止、不正な成分を含む食品やコピー品の流通防止など、訪日外国人客が毎年最高を更新する日本で、空港や港湾など水際対策の重要度は増しています。報道では、「異常がない『普通』のものをたくさん見ておくことが大切だ」という税関職員の言葉が極めて重要な示唆を含むものと感じました。不正な物品を目にした際に違和感を抱けるような「見る目」を日ごろから養うことが重要だという意味ですが、AML/CFTや反社リスク対策における現場の意識やリスクセンスの重要性に鑑み、プロとしての「見る目」をいかに健全に養っていくかのヒントがここにあるように思われます。たくさんの資料や情報が右から左に次々と流れていく中、そこに潜む「違和感」を感じることがまずは重要です(そのために「普通」をたくさんインプットしておくことが重要となるということです)が、プロの「違和感」には何か理由があるとの確信のもと、曖昧にすることなく必ず「立ち止まる」こと、より厳格なチェックを行うことという一連の流れは、反社チェック、顧客管理、税関の水際対策のすべてに通じる共通原則であると言えると思います。なお、税関の水際対策においても、金属探知ゲートや空港での「電子化ゲート」など装置の高度化が進んでいますが、それとともに企業や海外税関との連携(情報収集)もより重要だと言います。その一方で、「最終的な判断をするのは職員だ」とも指摘しており、現場のプロの目を養うことの重要性をあらためて感じます。

 

③ギャンブル依存症対策(カジノ/IR)を巡る動向

カジノを含む統合型リゾート施設(IR)の実施法案については、与党協議が決着し閣議決定されたものの、いまだ審議入りの見通しは立っておらず、今国会で成立するかは微妙な状況となっています。本コラムではこれまでもIR実施法案のポイントについてご紹介してきましたが、あらためてその概要について、政府の資料から整理して紹介しておきたいと思います。

▼首相官邸 第3回 特定複合観光施設区域整備推進本部 会合 議事次第
▼資料1 特定複合観光施設区域整備法案の概要
    • 認定申請に当たり、都道府県はその議会の議決及び立地市町村の同意、政令市はその議会の議決を要件化、認定申請に関する立地市町村の同意に当たっては、条例により立地市町村の議会の議決事項とすることも可能

 

    • 認定区域整備計画の数の上限は3とする

 

    • IR事業者に対し、カジノ収益の活用に当たって、国土交通省による毎年度の評価結果に基づき、IR事業の事業内容の向上、認定都道府県等が実施する施策への協力に充てるよう努めることを義務付ける

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    • IR事業者は、カジノ管理委員会の免許(有効期間3年・更新可)を受けたときは、カジノ事業を行うことができる。この場合、免許に係るカジノ行為区画で行う、免許に係る種類及び方法のカジノ行為については、刑法第185条(賭博)及び第186条(常習賭博及び賭博場開張等図利)は適用しない。その他のカジノ事業関係者(主要株主等、カジノ施設供用事業者、施設土地権利者、カジノ関連機器メーカー等)についても、免許・許可・認可制とする(なお、主要株主等については、WT資料によれば、「申請者の主要株主等基準(5%)以上の数の議決権等の保有者の指名又は名称及び住所並びに当該主要株主等基準値以上の数の議決権等の保有者が法人等であるときは、その代表者又は管理人の指名並びに役員の指名又は名称及び住所」とされています)

 

    • カジノ施設を1に限定するほか、カジノ行為区画のうち面積制限の対象部分及び上限値を政令等で規定する

 

    • カジノ事業者に、業務方法書、カジノ施設利用約款、依存防止規程(本人・家族申告による利用制限を含む)及び犯罪収益移転防止規程の作成を義務付け、免許申請時にカジノ管理委員会が審査(変更は認可が必要)する(なお、その後、自民、公明両党は、ギャンブル依存症対策法案に関する与野党の会合で、対策の実効性を高めるため、依存症患者らで構成する関係者会議を設置することを盛り込んだ修正案を提示。関係者会議は患者、その家族、専門知識を持つ有識者らで構成。依存症対策の基本計画を作成したり、施策を評価したりする際には、同会議の意見を聴く義務があると定める)。

 

    • 日本人等の入場回数を連続する7日間で3回、連続する28日間で10回に制限。本人・入場回数の確認手段として、マイナンバーカード及びその公的個人認証を義務付ける。日本人等の入場者に対し、入場料・認定都道府県等入場料として、それぞれ3千円/回(24時間単位)を賦課する

 

    • 20歳未満の者、暴力団員等、入場料等未払者、入場回数制限超過者については、カジノ施設への入場場等を禁止。カジノ事業者に対しても、これらの者を入場させてはならないことを義務付ける。このほか、カジノ行為の種類及び方法・カジノ関連機器等、特定金融業務(貸付け等)、業務委託・契約、広告・勧誘、カジノ施設等の秩序維持措置、従業者等について所要の規制を行う

 

    • カジノ事業者に対し、国庫納付金((1)カジノ?為粗収益(GGR)の15%および(2)カジノ管理委員会経費負担額)、認定都道府県等納付金(GGRの15%)の納付を義務付ける。政府及び認定都道府県等は、納付金の額に相当する金額を、観光の振興に関する施策、地域経済の振興に関する施策その他の法の目的等を達成するための施策並びに社会福祉の増進及び文化芸術の振興に関する施策に必要な経費に充てるものとする
    • 内閣府の外局としてカジノ管理委員会を設置。委員長及び4名の委員は両議院の同意を得て、内閣総理大臣が任命する。カジノ事業者等に対する監査、報告の徴収及び??検査、公務所等への照会、調査の委託、監督処分等について規定

 

  • 最初の区域整備計画の認定?から起算して5年を経過した場合において、この法律の施行の状況について検討を加え、必要がある場合に所要の措置。ただし、認定区域整備計画の数については、「7年を経過した場合」とする

 

今後、大きな争点となるのはギャンブル依存症対策であるのは間違いないところです。報道(平成30年4月6日付産経新聞)では、ギャンブル依存症専門外来のある国立病院機構久里浜医療センターの副院長が、依存症は「本人も家族も病気だと思わず、借金などを繰り返し、人間関係が破綻する」と説明、FXにはまった人もいるなど、原因は多様化しており、カジノ解禁は「患者を増やす危険性を孕む」と警告しています。一方で、依存症への偏見から周囲に相談できない患者は今も多いとみられ、「カジノ解禁を機に多くの人が病気だと知り、法整備もされれば、患者が支援を求めやすくなるかもしれない」とも述べています。IR実施法案におけるギャンブル依存症対策では、ギャンブル依存症患者や家族から申告があった場合、入場禁止の措置を取る制度を導入することになりました。昨年12月の「ギャンブル等依存症対策推進関係閣僚会議幹事会申合わせ」で整理された「家族申告によるアクセス制限」では、公営競技やぱちんこの競技試行者・事業者構築すべき家族申告によるアクセス制限についての基本的な考え方として、「ギャンブル等依存症は、本人のみならず、その家族の生活に多大な支障を生じさせる精神疾患」、「ギャンブル等へののめり込みによる被害から家族を守ることもまた社会的な要請」、「競技施行者・事業者は、「ギャンブル等依存症の診断を受けているような利用者」や「ギャンブル等へののめり込みによるその家族の生活に支障を生じさせるおそれがあるような利用者」に対しては、利用者本人の同意の有無に関わらず、サービス提供を拒否することが適切」と示されています。本人や家族の生活に多大な支障を生じさせる「精神疾患」だとの認識が大前提となっている点が注目されますが、公益社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」が患者の家族に聞いたアンケートで、200人中166人(83%)が「ギャンブルによる借金の肩代わりをしたことがある」と答え、うち141人は、肩代わりした金額を「100万円以上」と回答。のめり込んだギャンブルの種類は、パチンコ・パチスロが92%と最多で、競馬19%、マージャン9%などと続いたということであり、この調査結果からも、ギャンブル依存症が、本人だけでなく家族の生活に多大な支障を生じさせている実態が分かります。

 

④北朝鮮リスクを巡る動向

北朝鮮を巡る動向が激しさを増しています。ここにきて、1950年に始まった朝鮮戦争、冷戦時代を通じて約70年にわたり敵対関係にあり、核問題で対立してきた米朝両国の首脳による歴史的な米朝首脳会談が、6月12日にシンガポールで開催されることが決定しました。先に開催された南北首脳会談における板門店宣言には朝鮮戦争の終戦を年内に宣言することが盛り込まれており、米朝首脳が分断状態の続く朝鮮半島に非核化を含む平和をもたらす道筋を示すことができれば、日本を含む北東アジアの安全保障体制にとっても大きな転換点となり得る状況です。一方、北朝鮮は、非核化の見返りとして確実な体制保証や早期の制裁緩和の取り付けを目論んでいることは明白です。これまで国連による北朝鮮制裁について、制裁逃れが横行してきた現状がありますが、形ばかりの合意で実態が伴わないまま、その厳格であるべき包囲網がなし崩し的に無力化されてしまうことだけは避ける必要があると言えます。現時点でも、北朝鮮が経済制裁を逃れるため、洋上で物資を積み替える「瀬取り」を巡り、自衛隊や海上保安庁が把握する事案が急減していることが判明しています。取り締まりの網をかいくぐり、手口を巧妙化させている可能性が高いとみられています。それに対し、米軍、オーストラリア軍、カナダ軍が沖縄県の米軍嘉手納基地を拠点として航空機による警戒監視活動を行うことになりました。艦艇や哨戒機で瀬取りを監視している日本の海上自衛隊も情報収集などで連携を図る方針が発表されています。米朝首脳会談以後の北朝鮮の動向をふまえながら、国際社会が厳しく監視し、制裁を履行し続けることが求められる局面だと言えます。そのような中、直近では、韓国船籍のタンカーが、「瀬取り」に東シナ海で関与した疑いがあるとして、日本政府が韓国政府に対し情報を提供し、事実関係を調査するよう求めています。韓国籍船舶が瀬取り行為に関与した疑いが明らかになるのは初めてで極めて異例だと思われますが、やはり南北融和ムードに流されることなく、国際社会による「最大限の圧力」の継続が求められている局面であるのは間違いありません。

 

その北朝鮮については、同国のハッカー集団が関与したとみられるサイバー攻撃が、3月に日本や米国を含む17カ国で確認されています。基幹インフラや金融機関に関する情報を窃取しようとした形跡があるといい、対話機運が高まる状況下でも、北朝鮮がサイバー攻撃を繰り返していた可能性があり、その状況は、おそらく今でも変わっていないと推測されます。このような懸念は、今年の国連安保理の北朝鮮制裁委員会専門家パネルの年次報告書でも、「北朝鮮の不正な活動や、加盟国の適切さを欠いた行動によって、金融制裁の効果が損なわれている」と厳しく指摘されているほか、4月に開催された先進7カ国(G7)財務相会議が発表した共同声明でも触れられており、北朝鮮が「国際的な制裁を逃れ、国際金融システムにアクセスし続けている」との懸念を示した上で、国連決議を踏まえ「最大限の経済的圧力」を継続すると表明しています。当時から状況は変化しているものの、本姿勢はまだまだ堅持する必要があると考えられます。また、北朝鮮との距離感が独特な中国もまた、対話機運が高まっている状況下である4月に、大量破壊兵器などに軍事転用可能な物資について、北朝鮮向けの輸出を禁じ、即日実施すると発表しています。禁輸は国連安全保障理事会の北朝鮮制裁決議に基づいたもので、中国が大量破壊兵器などに転用可能として北朝鮮への輸出を禁止するもののリストには、フッ素、硝酸、中性子や放射能、流体力学に関する計算ソフトウェア、質量分析装置などが含まれているとのことです。

3.最近の暴排条例による勧告事例ほか

(1)愛知県の暴排条例勧告事例

愛知県公安委員会が、愛知県暴排条例第26条第1項の規定に基づき、愛知県公安委員会が求めた説明又は資料の提出について、「正当な理由がなく拒んだ者」、「虚偽の説明若しくは資料の提出をした者 」および「正当な理由がなく勧告に従わない者」として、氏名等を公表しています。

▼愛知県公安員会 愛知県暴力団排除条例第26条第1項の規定に該当する者の公表
▼平成30年4月12日公表

公表内容によれば、「指定暴力団六代目山口組十一代目平井一家政統会会長中村惠雄は、平成28年11月25日、愛知県内の石材小売業者から同会事務所外壁に取り付ける装飾品を販売設置する役務の提供を受けたことにより、愛知県暴力団排除条例第25条の規定による勧告を受けた者であるが、当該勧告に従わず、平成29年12月末頃、愛知県内の自動車販売業者から、その行う事業に関し、同人が暴力団の活動を助長し、又は暴力団の運営に資する目的で供与したことの情を知りながら、福箕2個の販売名下に現金計1万円の利益の供与を受けたものである」ということです。この愛知県暴排条例第26条第1項では、「公安委員会は、第二十四条の規定により説明若しくは資料の提出を求められた者が正当な理由がなく当該説明若しくは資料の提出を拒み、若しくは虚偽の説明若しくは資料の提出をしたとき、又は前条の規定により勧告を受けた者が正当な理由がなく当該勧告に従わないときは、公安委員会規則で定めるところにより、その者の氏名又は名称及び住所(法人にあっては、その代表者(法人でない団体で代表者又は管理人の定めのあるものにあっては、その代表者又は管理人)の氏名を含む。)並びにその行為の内容を公表することができる」と規定されており、今回の措置は、「公表することができる」とされているところ、公表に踏み切ったものと言えます。なお、全国の暴排条例においても、公表まで踏み込んだ事例は多くなく、過去、兵庫県暴排条例に基づき勧告を受けた後も組員に用心棒代を支払っていたとして、兵庫県公安委員会が、露天商組合「兵庫県神農商業協同組合」(現在は解散)の名称を公表した事例があります。同組合には約220人の露天商が加盟していましたが、組合は露天商同士のトラブルを防ぐために計80万円を組員に渡したとして勧告を受けたが従わず、別の組幹部に計350万円を渡したとされます。

(2)暴力団対策法に基づく中止命令の発出(栃木県・兵庫県)

栃木県警宇都宮東署は、飲食店経営女性の店を訪れ、用心棒料を片方が要求し、もう1人は現場に立ち会い、それを助ける行為をした疑いがあるとして、暴力団対策法に基づき、神戸山口組系の男性組員2人に中止命令を出しています。
また、兵庫県神戸市三宮でキャバクラなどの飲食店を運営する会社側に用心棒をする約束をしたなどとして、兵庫県公安委員会は、暴力団対策法に基づき、神戸山口組直系山健組系組員に中止命令を出しています。なお、本件は、昨年5月に兵庫県警が立ち上げた「歓楽街特別暴力団対策隊」の調査で発覚したものだということです(報道によれば、会社側は約380万円を支払っていたということであり、利益供与があったことになりますが、おそらく調査に協力したことや今後利益供与を行わない旨誓約するなどしたことが勘案され、暴排条例による勧告の対象とはならなかったものと推測されます)。

(3)兵庫県暴排条例改正の動き

暴力団組員が飲食店などから集めるみかじめ料について、組員と支払った店側の双方に罰則を設けることを兵庫県警が検討しているとのことです。報道(平成30年4月16日付神戸新聞)によれば、神戸山口組が、神戸市三宮をはじめ兵庫県内の歓楽街で影響力を持ち、みかじめ料を資金源の一つにしているとみられ、兵庫県警が取り締まり強化で組織の弱体化を図る狙いがあり、早ければ6月の定例県議会に兵庫県暴排条例の改正案を提出する見通しだということです。同様の条例は、福岡県、北海道、京都府など7道府県で既に施行されており、直近では埼玉県暴排条例が4月1日に改正施行されたところです。
なお、本条例案では、「神戸・三宮」「神戸・福原」「尼崎・神田新道」「姫路・魚町の計四つの歓楽街を「暴力団排除特別強化地域」に指定、同地区内でみかじめ料の授受が確認されれば、暴力団と飲食店側の双方に1年以下の懲役または50万円以下の罰則を科す内容となっており、組員に金銭を支払ったことを申告した場合の免除規定も設ける方針だということです。既にご存知の通り、現行の暴排条例では、みかじめ料の支払いがあった場合、都道府県の公安委員会が授受をやめるよう双方に勧告し、従わないと実名を公表する立て付けとなっており、一方の暴力団対策法でも、まずは中止命令や再発防止命令を出す必要があり、従わない場合に初めて罰則対象となるところ、今回の改正により、授受を確認した時点で摘発が可能になるという点で大きな効果が期待できるものと言えます。全国的にみかじめ料を資金源とする暴力団の取り締まりが強化されているところ、他の自治体においても同様の規制を導入し、実効性を高めていくことを期待したいと思います。

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