暴排トピックス
取締役副社長 首席研究員 芳賀恒人
1.AML/CFTにさらなる深化を~犯罪収益移転防止に関する年次報告書
2.最近のトピックス
(1)最近の暴力団を取り巻く情勢
(2)特殊詐欺を巡る動向
(3)薬物を巡る動向
(4)テロリスクを巡る動向
(5)犯罪インフラを巡る動向
(6)誹謗中傷対策を巡る動向
(7)その他のトピックス
・中央銀行デジタル通貨(CBDC)/暗号資産(仮想通貨)を巡る動向
・IRカジノを巡る動向
・犯罪統計資料
(8)北朝鮮リスクを巡る動向
3.暴排条例等の状況
(1)暴排条例に基づく逮捕事例(新潟県)
(2)岡山市暴力団威力利用等禁止条例に基づく逮捕事例
(3)暴力団対策法に基づく再発防止命令発出事例(大阪府)
(4)暴力団対策法に基づく中止命令発出事例(和歌山県)
(5)暴力団対策法に基づく中止命令発出事例(岡山県)
(6)暴力団関係事業者に対する指名停止措置等事例(福岡県)
2.最近のトピックス
(1)最近の暴力団を取り巻く情勢
前回の本コラム(暴排トピックス2021年2月号)でも、住吉会の関与した特殊詐欺事件について、トップの使用者責任を認める東京高裁の判決を紹介いたしましたが、今回も住吉会の関与した別の特殊詐欺事件(立件されなかった余罪部分の被害者ら45人が同会トップらに計約7億円の賠償を求めた訴訟)について、東京地裁が使用者責任を認めて損害賠償を支払う旨の判決を出しています。前回紹介した東京高裁判決では、特殊詐欺グループの組織性の高さに着目し、指定暴力団員の関与する特殊詐欺においては、指定暴力団の威力が内部の統制および外部への対抗に利用されることになったと認められるとして、組長の使用者責任を認めています。さらに、東京高裁判決では、息子の身を案じる親心につけこんだ点や金額が高額なこと、取り返すのに時間がかかることなどを総合敵に考慮し、一審では認められなかった慰謝料100万円も認めており、正に、刑事・民事の両面から使用者責任を認め、今後の特殊詐欺犯罪への関与の抑止力となりうる画期的な判決(さらに被害者の救済にも配慮が行き届いている点とあわせ)だと筆者は評価しています。一方の本件では、傘下組織の組員による特殊詐欺は暴力団対策法の定める「威力を利用した資金獲得行為」に当たるとして、組トップの使用者責任を認め、「詐欺行為に関与する人員を確保するために暴力団の威力を利用した。だまし取った金は上納金の一部になっていたと推認できる」と述べ、威力が被害者に示される必要はないと指摘した点が画期的だといえます(なお、慰謝料の請求は棄却しています)。さらに本件で注目されるのは、刑事事件としては起訴されなかった余罪部分についても、判決は「客観的証拠から組員らの関与が認められる」として、暴力団対策法に基づきトップの使用者責任を認めて約4億6,400万円を41人に支払うよう命じた点です(遅延損害金を含めると、認められた賠償額は約6億3,400万円にのぼります)。特殊詐欺の被害で、指定暴力団組長の責任を認めた判決は全国で6ケース目となりますが、同種訴訟で余罪被害者への賠償責任が認められたのは初めてとなります。報道によれば、判決は、静岡県警の捜査員が余罪も含めて作った「詐欺被害者リスト」について「信用性がある」と判断、リストと原告らの口座記録を照らし合わせ、組員の関与を認めたということです。一方、証拠がそろわない一部原告への責任は認められませんでした。なお、起訴された約3億円分をめぐっては、東京地裁が昨年9月、約1億7,000万円の賠償を組側に命じています。なお、本件については、2021年2月26日付弁護士ドットコムニュースで、「事事件化されていない被害者に関する記録は、警察・検察の協力を得ながら、法律に基づき開示を求め、入手したという「捜査員への証人尋問も実施。協力は非常に大きかった」(弁護団)本件においては、捜査機関の協力姿勢もあり、証拠を入手できたが、従前から刑事事件の記録にアクセスするハードルは高いと指摘する。「そもそも、被害者や弁護士は、どんな記録があるのかわからないところからのスタートになる。刑事事件の記録はプライバシー性が高いが、このような事件について、開示がゆるやかになれば、さらに救える被害者が増えるのではないか」(弁護団)」と本件の背景と解説を加えて報じられています。
注目される判決としては、工藤会への上納金から得た所得を申告せず脱税したとして、所得税法違反に問われた同会トップで総裁の野村悟、同会幹部で「金庫番」とされた山中政吉の両被告について、最高裁第3小法廷は16日付の決定で被告側の上告を棄却したというものもありました。野村被告を懲役3年、罰金8,000万円、山中被告を懲役2年6月とした1審・福岡地裁と2審・福岡高裁の判決が確定することになります。福岡県警が工藤会の壊滅を目指した一連の「頂上作戦」を巡り、野村被告の有罪が確定するのは初めてとなり、大変画期的な判決だと言えると思います。報道等によれば、野村、山中両被告は共謀し、2010~14年に建設業者などから集めた上納金を元にした野村被告の個人所得約8億1,000万円について、他人名義の口座で管理して隠し、所得税約3億2,000万円を免れたというもので、被告側は公判で「所得は組織のものであり、野村被告個人には帰属していない」などと無罪を主張、しかし1、2審判決は、口座からの出金が野村被告の交際相手のマンション購入費や親族の生活費に充てられていたことなどを踏まえ、野村被告の所得と認定していました。なお、以前の本コラム(暴排トピックス2015年7月号)で暴力団の「上納金」システムを巡る問題を取り上げました。以下にその時点での論考を示しますが、本件で浮かび上がった論点についてのさらなる深化を期待したいところです。
国家公安委員会は、神戸山口組から離脱した絆会に関し、暴力団対策法に基づく指定暴力団への再指定要件を満たしていることを確認、2回目の指定を行いました。絆会は、神戸山口組から2017年4月に一部幹部が離脱して結成された「任侠山口組」が、2020年1月に改称したもので、構成員は2019年12月現在、約300人とされています。
暴力団構成員等の人数については、2020年12月末の状況はまだ公表されていませんが、県警単位では判明しているものがあります。たとえば、鹿児島県内の暴力団構成員・準構成員についての報道があり、2019年12月末と同じ約180人だったことが判明したということです。報道によれば、10年前の約3分の1にまで減少しているものの、2018~20年は勢力に変化がなかったといいます。その点について県警幹部が、「暴力団は組織防衛のための警察対策を強化しており、実態把握が困難になっている側面がある」と指摘している点は、暴力団構成員等の状況ですら、警察側も十分に実態をつかみ切れていない現実を示唆するものとして、大変興味深いといえます。なお、約180人の内訳は、四代目小桜一家約80人、六代目山口組約50人、神戸山口組約30人、絆会約10人、その他の団体約10人であり、前年と比べると、2015年に分裂した旧山口組の間で約10人の増減があるだけの状況です。なお、10年前の2011年は構成員・準構成員が約590人だったということです。
大阪地裁は、大阪市中央区の繁華街ミナミの中心部にある神戸山口組直系組織「宅見組」の事務所使用を禁止する仮処分を決定しています。報道によれば、同様の決定は全国17例目となりますが、同事務所が襲撃される可能性があり、住民らの平穏な生活を営む権利が侵害されていると指摘、事務所での定例会開催や組員の立ち入り、代紋の掲示などを禁じました。抗争事件が起きる恐れがあるとして公安委員会が「警戒区域」に指定している自治体の事務所に対する決定は初めてとなります。昨年12月、暴力団対策法に規定された「代理訴訟制度」に基づき近隣住民らの委託を受けた大阪府暴力追放推進センターが申し立てていたもので、特定抗争指定暴力団に指定された昨年1月以降、警戒区域に当たる大阪市内にある同組事務所は既に使用が禁じられているものの、今回の決定で指定解除後も使用が禁じられることになります。なお、関連して、2017年には兵庫県淡路市にあった神戸山口組の本部が使用差し止めとなり、神戸市に移転した経緯もあります。
六代目山口組と神戸山口組の抗争はいまだ収束せず表向き膠着状態が続いていますが、他の団体においてもトラブルが散発しています。直近では、群馬県住吉会と稲川会との間での数十人での乱闘騒ぎがあり、そこで六代目山口組系の組長らが銃撃されるなどした事件が発生しているほか、福島県では住吉会系の団体の跡目争いで発砲事件が発生、昨年12月には住吉会・幸平一家・加藤連合会・聡仁組の組員と稲川会・山川一家・琉星興業の組員がそれぞれ殺害される抗争事件が発生するなどしています。
その他、暴力団を巡る報道から、(少し毛色の変わったものを中心に)いくつか紹介します。
- オホーツクの雄武町の沖合で、ナマコを密漁したとして漁業法違反などの疑いで、六代目山口組系旭導会の幹部ら10人が逮捕されています。報道によれば、10人は、昨年8月、雄武町の沖合でナマコを密漁したなどの疑いがもたれており、パトロール中の警察官が雄武町の砂浜で数台の不審な車を発見、現場にいた男らに職務質問をしたところゴムボートが着岸し、中からナマコを密漁するための潜水道具などが見つかったということです。「黒いダイヤ」とも呼ばれ、中国で高級食材として珍重されているナマコの販売が暴力団の資金源になっていたとみられています。
- 暴力団員であることを隠して北見市のホテルに宿泊した疑いで、六代目山口組系二代目大石組の幹部ら3人が逮捕されています。昨年4月、暴力団員の施設利用が禁じられている北見市内のビジネスホテルに、偽名を使って宿泊した疑いが持たれており、同幹部は二代目大石組の所要で、アルバイト従業員が運転する車で北見を訪れ、会社役員が手配したホテルに宿泊したものです。なお、組幹部以外の容疑者は二代目大石組の名簿に名前の記載はなく、警察は2人と暴力団との関係を詳しく調べているということです。「宿泊からの暴排」の事例は比較的珍しいものであるとともに、組名簿に名前のない人物の存在など、現在の暴力団の状況を知るうえでは興味深いといえます。
- マンションの空室を無断で使ったとして不動産侵奪の容疑で工藤会系の組長ら4人が逮捕されています。報道によれば、4人は60代の女性が所有する北九州市内のマンションの1室が空室と分かった上で、無断で使用した疑いが持たれていて、容疑者らとこの女性の間に面識はなかったということです。警察は、この部屋が組織の活動拠点として無断で使われていた疑いもあるとみて今後、同様の被害がないかなど余罪についても追及していくということです。暴排条例等により、暴力団事務所を新たに設けることがほぼ不可能となっている中、このような形で活動拠点を構えるという事例は極めて珍しく、「空き家」が増えることが予想される中、同様のケースが続かないとも限らず、注意してく必要があると思われます。
- 区役所にうその転入届を提出していたとして暴力団幹部の男が逮捕され、警察が六代目山口組系の3次団体福島連合組事務所を家宅捜索しています。報道によれば、福島連合の幹部は、昨年10月、東京から引っ越してきた際、区役所にうその住所を届け出た疑いで逮捕されたのを受け、警察が家宅捜索したものです。警察は容疑者が当局の取り締まりなどから逃れるため、偽装した可能性もあるとみて、調べを進めているということです。
- 暴力団員であることを隠してレンタカーを借り、刑務所から出所する組員を迎えに行ったとして、道仁会系組長と幹部、レンタカーを借りる際に名義を貸すなどした男2人のあわせて4人が詐欺容疑で逮捕されています。レンタカー会社では暴力団などの反社会的勢力に車を貸さないと定めているところ、報道によれば、組員が出所する情報を得た福岡県警の捜査員がレンタカーを目撃し、事件が発覚したというものです。なお、暴力団員の2人はそれぞれ車を所有していたということで、レンタカーを借りた理由など詳しい経緯を調べているということです。
- 車検申請時に、死亡男性の名義で申請書を偽造して提出したとして、大阪府警捜査4課は、有印私文書偽造・同行使の疑いで、弘道会若頭、野内正博容疑者と組員の男ら2人を逮捕しています。野内容疑者は容疑を否認していますが、組員は認めているということです。報道によれば、乗用車の車検申請時に2012年に死亡した男性名義の車検申請書1通を偽造し、近畿運輸局大阪運輸支局のなにわ自動車検査登録事務所に提出したというものです。
- 警視庁多摩中央署は、松葉会系組幹部ら6人を大麻取締法違反(営利目的栽培)容疑で逮捕しています。同署は乾燥大麻3キロや大麻草367鉢を押収、末端価格にして約1億4,400万円相当とみられています。また、薬物関係では、横浜市のマンションを拠点に覚せい剤を密売していたなどとして、稲川会傘下組織の組長ら4人が逮捕・起訴されています。大阪府警によると、被告らは昨年8月、横浜市南区にあるマンションの一室で覚せい剤160グラム余を営利目的で所持していたなどとされています。2019年、府警が大阪市内で覚せい剤の密売グループを摘発したことをきっかけに捜査を進めたところ、被告らの関与が明らかになったといい、一連の捜査で見つかった覚せい剤は12キロ余、末端価格にして約7億8,000万円にのぼるということです。
- 札幌の祭りで露店を出すため、加入することが許されていない組合の会員証をだまし取ったとして六代目山口組茶谷政一家の構成員と建設作業員が逮捕されています。報道によれば、共謀して、暴力団員やその関係者が加入することのできない北海道街商協同組合の準会員証をだまし取った詐欺の疑いが持たれているということです。建設作業員が自分の名義で会員証を申し込み、暴力団員と一緒に露店を出していたところ、祭りの初日に巡回していた警察官が暴力団の構成員として顔を知っていた構成員を発見したことが端緒となったといいます。
- 広島県警捜査4課と廿日市署は、共政会荒瀬組組員と海上自衛隊員の両容疑者ら3人を詐欺の疑いで逮捕しています。報道によれば、組員と内縁関係で同居する露天商を含む3人は共謀して2014年9月、組員が一戸建て住宅を購入する際、暴力団組員で融資を受けられないため、海自隊員が住宅ローンの申込書や暴力団組員に該当しないと確約する書面などを作成、広島市の金融機関と契約し、海自隊員名義の口座に3,020万円を振り込ませてだまし取った疑いがもたれています。
- 新型コロナで収入が減った人が受けられる貸付金45万円をだまし取ったとして、詐欺容疑で住吉会傘下組織幹部が逮捕されています。報道によれば、「生活が苦しかった」と供述しているということです。暴力団員であることを偽って、東京都社会福祉協議会に「総合支援資金」の申請を行い、昨年9月から11月にかけて現金45万円を振り込ませた疑いがもたれているということです。
- 建設業の許可を不正に受けたとして、千葉県警は、建設業法違反の疑いで、不動産業の男と行政書士の男、自称無職の男の3人を逮捕しています。千葉県に虚偽の内容の証明書類を提出し、一般建設業の許可を受けたというものです。報道によれば、不動産業の男は自社で建設業も手掛けようと計画したものの、暴力団関係者とのつながりがあり、自分の名義では申請できないと考えたため他の容疑者に協力を依頼したということです。行政書士が必要書類の作成を手伝い、無職の男が名義を貸したとみられています。
最後に半グレに関する最近の報道から、いくつか紹介します。
- 大阪府警組織犯罪対策本部は、「半グレ」と呼ばれる不良集団の昨年の摘発が計約350人に上り、過去最多だったと発表しています。報道によれば、2019年から約40人増加したということです。特定抗争指定などで暴力団関係者の活動が制限された結果、半グレが伸長する中、大阪府警も、大阪市の繁華街・キタを管轄する曽根崎署の対策プロジェクトチームや、捜査4課に新たに設置した専従班が効果を上げているといいます。
- 大阪を拠点に活動する半グレ組織「カンソンファミリー」の幹部の男が、覚せい剤6グラム(末端価格400万円相当)を営利目的で所持したなどとして、覚せい剤取締法違反の罪で逮捕・起訴されています。組織のメンバーとみられる男女8人も起訴されています。昨年2月、大阪市内で覚せい剤を所持していた女を現行犯逮捕し、押収したスマートフォンを調べたところ、SNS上で被告が女に覚せい剤の販売を指示するなど、関与が浮上していたものです。
- 野球賭博へ加担した疑いなどで那覇地方裁判所に起訴されていた半グレグループの元リーダーの男に、懲役2年6カ月の実刑判決が出されています。賭博開帳図利ほう助と暴力行為法違反の罪で起訴されていたのは、石垣島を拠点としていた半グレグループの元リーダー山根被告で、同被告は2019年6月、那覇市内を走行中の車の中で知人男性の顔を殴り、全治8日のけがをさせ、また2019年から2020年にかけて、プロ野球の試合で客に勝敗を予想させ、かけ金を申し込ませる「野球賭博」に加担した疑いが持たれていて、検察は懲役4年を求刑していました。那覇地裁は「反社会的勢力の一員として犯行に及ぶなど、順法意識が低く、刑事責任は重い」と指摘したということです。なお、報道によれば、裁判官は、被告が野球賭博を手助けしたことによる利益は受けていないとしつつも、資金不足で大きな賭場を開けないでいる舎弟にお金を供給する「流し元」を紹介したことの違法性は高いと判示、舎弟に暴力を振るったことの常習性も認定したということです。
さて、「暴力団のこれから」を考えるうえで、半グレと暴力団の関係をどう整理するか、今後の両者の関係性がどうなるのか、法的規制のあり方をどうすべきかなど難しい問題が横たわっています。反社会的勢力という概念においては両立・併存する両者ですが、属性から捉えようとすると、その境目や役割などが相互にグラデーション化し溶け合っている部分もあり、一方で相互に明確に線引きがなされている部分などもあり、あるいは一般人との境目も不透明になっている部分もあり、正に「多様な属性を含む総体としての反社会的勢力」として排除していくとして言いようのないカオスな状態となっています。また、反社会的勢力を「社会不安を増大する存在」として捉えた場合、離脱者支援の問題は極めて重要なテーマとなります。この点について、最近の本コラム(暴排トピックス2021年1月号・2月号)で、「元暴アウトロー」の問題を追及している作家の廣末登氏のコラムを紹介しています。今回も同氏の論考「あなたの隣の反社・半グレ、排除だけならより悪質化」(JBpress)、「だからヤクザを辞められない…意外と身近に存在する「青少年半グレ」の素顔」(現代ビジネス)から一部引用して紹介します。
最後に、海外のマフィア等の犯罪組織に関する報道もありましたので、紹介します。
- 2021年3月5日付Bloombergによれば、イタリアの組織犯罪捜査当局責任者が、マフィアは昨年、各国が新型コロナ対応のロックダウン(都市封鎖)で身動きが取れなくなっていた時、EUの復興基金などからの資金吸い上げを狙って資金難の企業に潜入し始めたと指摘しています。こうした資金は今年中に経営不振の企業に行き渡り始めますが、シチリア島の「コーサ・ノストラ」のような犯罪組織は、環境やデジタル分野など、EU復興基金を最初に手にするであろう合法的企業への足掛かりを得ようとしているといいます。同氏は「マフィアは復興資金の申し込みに最も適した企業を選んでいる。特に、多額の資金が投じられるであろう医療とインフラ分野だ」と指摘し、「彼らが1ユーロたりとも手にしないようにしなければならない」と述べています。日本の暴力団も、東日本大震災などの大災害が発生すれば、まずは復旧、そして復興と公共事業に巨額の資金が投下されることをにらんで、地場企業との関係強化や人脈作りなどに迅速にとりかかることが知られています(いわゆる「震災ビジネス」)。おそらくコロナ禍においては、多くのペーパーカンパニーが給付金の受け皿として悪用されたものと推測されます。洋の東西を問わず、犯罪組織の狙いは同じようなものだなと感じています。
- 現在、ドイツで大々的な外国系暴力団の取り締まりが始まっていると紹介されています(2021年2月26日付現代ビジネス)。それによれば、「ドイツというのは、豊かで美しい国だが、一方で、血縁集団のマフィアのような組織的暴力団も数多く存在する。いくつかの都市の一部には、警官さえ足を踏み入れたがらない「no go area」となっている場所もあり、ノートライン=ヴェストファレン州だけでも、現在、そういう暴力団が、大小取り混ぜて140もあるという。一番大きな理由は、政治家が、外国人に物を言うのを極力避け、犯罪を看過してきたことだ。それは、ドイツ人が未だに強く持つ、「ホロコーストのトラウマ」とも関係している」、「去年あたりから始まった、外国人暴力団の手入れの直接的なきっかけは、彼らが使っていた「エンクロ・チャット」と呼ばれる秘密のチャット網が解読されたことだそうだ。これは、フランスの諜報機関からの通報で成功したという。現在、彼らはかなり動揺していると言われる。エンクロ・チャットに足が付くことなど絶対にないと高を括り、何の用心もしていなかったため、すでに全ての情報が警察に漏れてしまった可能性が高いからだ」、「日本政府は、外国人問題を見て見ない振りをする代償がものすごく大きいことを、ヨーロッパに学ぶべきではないか」という内容で、ドイツの歴史的経緯から不良外国人らの犯罪を見逃してきた(見て見ぬふりをしてきた)結果、その社会的害悪が極めて大きなものとなってしまったというもので、日本における暴力団も戦後、長い間「社会悪」として立ち位置を確保してきた経緯があり、その排除には、社会の構造の根っこから見直していく必要があるところ、表面的な歪な形での排除にしか官民ともに取り組んでこなかった結果、「元暴アウトロー」などの社会不適合者をたくさん生み出すこととなり、結果的に「暴力団離脱者が増えても社会不安が変わらない構図」を生み出してしまっているのではないか、と考えさせられました。
(2)特殊詐欺を巡る動向
昨年1年間に都内で認知された特殊詐欺は2,896件(被害総額約63億円)で、2019年(3,815件)から24.1%減少し、4年ぶりに3,000件を割り込んだことが警視庁のまとめでわかりました。警視庁は、新型コロナウイルスの感染拡大による外出自粛で、被害者をATMに誘導する手口が減ったことなどが要因とみているということです。手口別で最多だったのは、警察官らを装って住宅を訪れカードをすり替えるなどして盗み取る「詐欺盗」の740件でした。医療費が戻ると偽ってATMを操作させ、現金を振り込ませる「還付金詐欺」が700件(前年比40.6%減)と大幅に減少したほか、有料サイト利用料などの名目で詐取する「架空請求」も159件(同51.2%減)と半減する結果となっています。さらに、息子や孫を装う「オレオレ詐欺」は566件(同13.2%増)となりました。また、摘発件数は2,274件(同151件増)で、統計を取り始めた2004年以降で最多となりました。摘発人数は693人(同121人減)で、このうち151人が暴力団構成員、116人が少年という結果となりました。一方、兵庫県内で2020年に確認された特殊詐欺事件の被害額は約16億6,000万円(暫定値)で、2019年に比べて約5億6,000万円増え、増加額が全国最悪となりました。被害の認知件数は兵庫では1,027件で2019年比1.5倍以上となり、増加数369件も全国最多です。このような事態を受けて、兵庫県警は昨年12月に総合対策本部を設置し、予防と摘発を強化しています。2020年の認知件数1,027件は、特殊詐欺の統計を開始した2004年の1,140件に次ぐ多さであり、全国的には認知件数は19.7%の減少、被害額も12.0%の減少であること、増加した369件は、2番目に増加件数が多かった福島県と三重県の30件を大幅に上回っていることなどを勘案すれば、「兵庫が狙われている」(兵庫県警)とみるしかない状況といえます。報道によれば、兵庫県内の被害の8割は神戸・阪神間に集中しているため、「富裕層が多く、被害者から現金などを直接受け取る『受け子』たちが、すぐに逃げられる交通網の良さに目を付けたのかもしれない」と分析しているということです。
本コラムでも継続的に取り上げているコロナ禍の中小企業支援策の持続化給付金を巡る不正受給問題について、2012年2月17日付朝日新聞によれば、全国で警察に摘発された人数が509人、被害総額は約4億円に上るということです。また、自主的な返還も増えており、件数にして9,924件(それとは別に未返還分は3,502件)、不正受給したものの返還された額は約106億円となっており、これだけ不適切な受給事例が拡がっていたことにあらためて驚かされます。なお、持続化給付金自体は、2月15日で申請受付が締め切られましたが、12日時点で約421万件、約5.5兆円を給付済みで、新型コロナウイルス感染症の拡大で打撃を受けた中小や個人事業主を下支えする目的を一定程度達成したと評価できるといえますが、返還金額にして130億円以上となることが予想される不正受給が「氷山の一角」でしかないと考えれば、税金で賄われることからみて到底許し難い状況だといえます。なお、持続化給付金だけでなく、国が企業の労働者に支給する休業支援金についても同様の構図があるらしいことが分かってきています。2021年2月15日付毎日新聞によれば、知人の飲食店で働いていたように装って約200万円をだまし取った男が証言し、「国はチェックが甘いので、絶対にばれない」、「簡単に金もうけできた」、「労働局から雇用や休業の確認はなく、男性は「役所は性善説に立つから、チェックなんて全然していない。犯罪だとは分かっているが、罪悪感はない」、「審査が甘く、ばれるはずがない。今後も続けるし、他の友人もやっている」などと述べており、愕然とさせられました。迅速な給付でどれだけの事業者や人が救済することができたのかを考えればある程度の不正受給事例が発生してしまうのはやむを得ないと考えるべきなのか、とはいえ、これだけ不正受給が蔓延している実態が明らかになるにつれ、どれだけの税金が無駄になり、それがどれだけ犯罪組織の資金源となってしまったのかを考えるとき、暗澹たる気持ちで心が押しつぶされそうになります。一方、新型コロナウイルス対策として行う飲食店取引先などへの最大60万円の一時金申請の受け付け開始を控え、経済産業省は不正受給防止に全力を挙げているとの報道がありました。今回の一時金では、緊急事態宣言の影響で売り上げが減ったことを証明する必要があるほか、飲食店との取引実績などを示す書類の保管が求められるといいます。同省は不正を防ぐため、書類を提出する前に「事業確認」のプロセスを設け、地元の事業者の動向を熟知する商工会議所や金融機関などを確認機関に登録し、申請者が実際に事業を行っているかなどを確認する仕組みや、「持続化」で提出された偽の確定申告書などを分析すると、記載された数字が似た書類が幾つも出てくるなど偽造の手口にもパターンがあったことなどをふまえ、蓄積されたノウハウを活用して不正の発見に役立てるといいます。また、SNSで不正を呼び掛ける投稿を監視し警告するなど、入り口での抑止も行うとしています。民間の情報や知恵、ノウハウ、最新の不正検知の知見や持続化給付金の失敗を活かすこのような取組みであれば、スピードとの両立の問題はあるにせよ、国民も納得できるのではないかと大いに期待したいと思います。
さて、新型コロナウイルスワクチンを巡っては、偽ワクチンの提供など詐欺の横行も懸念されるところです。その点、報道によれば、EUの欧州不正対策局(OLAF)は、加盟国政府に対し、新型コロナウイルスワクチン提供を装った詐欺に注意するよう警告しています。OLAFによると、偽物の提供などEU域内でワクチンに関連した詐欺の報告を受けているとし、ワクチン接種ペースの加速を目指す政府をターゲットとした組織的詐欺に対する注意を促しています。OLAFは不正輸入や偽造品などワクチンの違法取引に対処するため調査を拡大しており、昨年3月に調査を開始して以降、1,000件超の疑わしい例が特定されており、粗悪品のマスクや偽の検査キットなど1,400万点以上の物品が押収されたということです。日本でも、新型コロナウイルスのワクチンを巡り「金銭を振り込めば接種できる」、「個人情報を話せば無料で受けられる」といった不審な勧誘が、電話やSNSに相次いでいるとして、消費者庁は、無料で相談を受け付けるホットライン実施しています。
▼消費者庁 「新型コロナワクチン詐欺 消費者ホットライン」の開設について
- 電話番号:0120-797 なくな -188 いやや <フリーダイヤル(通話料無料)>
- 「050」から始まるIP電話からはお受けできません。
- おかけ間違いにご注意ください。
- 窓口開設日時:令和3年2月15日(月)
- 相談受付時間:10時~16時<土日祝日含む>
- 対象:新型コロナワクチン詐欺に関する消費者トラブル
- 相談事例
- 「新型コロナワクチンが接種できる。後日全額返金されるので10万円を振り込むように」との不審な電話がかかってきた。
- 対象地域:全都道府県
- 新型コロナワクチン詐欺に関する消費者トラブル以外は、最寄りの消費生活センター等をご案内する消費者ホットライン(188番)におかけください(通話料有料)。
直近での不審電話の事例としては、(1)大阪府警は、府内の高齢女性宅に「新型コロナウイルスのワクチンを400円で接種できる」と不審な電話があったと発表。市役所の職員を名乗る女の声で「4,000円のワクチンが400円で打てる。明日うかがって手続きをする」と電話。住所や年齢も尋ねてきたという。女性は友人に相談し、警察に届け出た。大阪府内で、ワクチン接種に絡む不審電話が確認されたのは初めて。(2)熊本県警八代署管内で、「予防接種の割引券がある」との不審な電話が2件あった。うち1本は男の声で、高齢女性宅に「新型コロナウイルスの予防接種の割引券があります」と電話。ほかの要求はなく、被害はなかったが、不審に思った女性が110番した。(3)宮崎県警高千穂署は、80歳代女性宅に、有料で新型コロナウイルスのワクチン接種が受けられるとする不審電話があったと発表。男は「新型コロナのワクチンの申し込みをされましたよね」、「費用が4万円くらいかかりますが、今なら補助が出て1万9,000円になります」などと述べたという。(4)東京都目黒区の80歳代女性宅に、都職員を名乗る人物から「ワクチンの予約を受け付けている。一時金が必要」と電話があった。女性が目黒署に通報したため被害はなかった。(5)ワクチン接種の案内を装うメールを送りつけ、偽サイトに誘導して個人情報を盗み取る「フィッシング」の手口もある。といったものがありました。
コロナ関連では、「コロナ予防」に関する広告に注意が必要な状況です。新型コロナウイルスの予防効果をうたうサプリメントや除菌スプレー、建材などのインターネット広告について、消費者庁は「表示の根拠がない」として、通販会社などに改善を要請しています。景品表示法や健康増進法に違反する恐れがあるとし、消費者に注意を呼び掛けています。改善要請したのは45事業者の42商品で、健康食品では「白樺キノコをベースにしたコロナウイルスの治療法を発見」「強力な殺菌力をもつマヌカハニー、殺菌効果でウイルス対策」などと表示、「感染力をほぼ消すことができるオゾンガスを使った医療用物質生成器」と紹介した空気清浄機や、付着したウイルスを分解するとうたった建材もあったということです。
▼消費者庁 新型コロナウイルスに対する予防効果を標ぼうする商品 等の表示に関する改善要請及び一般消費者等への注意喚起について
- 新型コロナウイルスについては、その性状特性が必ずしも明らかではなく、かつ、民間施設における試験等の実施も困難な現状において、新型コロナウイルスに対する予防効果を標ぼうするウイルス予防商品については、現段階においては客観性及び合理性を欠くおそれがあると考えられ、一般消費者の商品選択に著しく誤認を与えるものとして、景品表示法(優良誤認表示)及び健康増進法(食品の虚偽・誇大表示)の規定に違反するおそれが高いものと考えられます。そこで、消費者庁では、今般の緊急事態宣言が発出された令和3年1月以降、インターネット広告において、新型コロナウイルスに対する予防効果を標ぼうするウイルス予防商品の表示について、景品表示法(優良誤認表示)及び健康増進法(食品の虚偽・誇大表示)の観点から緊急監視を実施しているところです。
- 現在までのところ、インターネット広告においてウイルス予防商品の販売又は役務の提供をしている45事業者による42商品・役務について、一般消費者が当該商品の効果について著しく優良等であるものと誤認し、新型コロナウイルスの感染予防について誤った対応をしてしまうことを防止する観点から、当該表示を行っている事業者等に対し、改善要請を行いました。また、改善要請の対象となった事業者がオンライン・ショッピングモールに出店している場合には、当該ショッピングモール運営事業者に対しても情報提供を行いました。
- 消費者庁ツイッター、フェイスブック「消費者庁新型コロナ関連消費者向け情報」公式LINE
▼健康食品の安全性・有効性情報 感染予防によいと話題になっている食品・素材について
▼新型コロナウイルスの消毒・除菌方法について 消毒や除菌効果をうたう商品は、目的に合ったものを、正しく選びましょう。
少し変わった手口も登場していますので、いくつか紹介します。たとえば、特殊詐欺グループが「自宅に届いた荷物を転送するだけで報酬が得られる」という「荷物転送」と呼ばれる虚偽のアルバイトをSNSで呼びかけ、応募した人の個人情報を悪用して携帯電話を無断で契約するケースが相次いでいるといいます。報道によれば、荷物の中身はバイトに応募した人の名義で契約された携帯電話で、グループは入手した携帯を特殊詐欺の電話に使い、通信費などは契約者に負担させようとしていたということです。グループにとっては、電話を他人名義とすることで捜査が及びにくいメリットがある一方で、コロナ禍において在宅ですぐに収入を得られる仕事を探す人に目を付けた可能性があり、警視庁が警戒を強めているといいます。なお、携帯電話を実際の利用者とは別の名義で契約したため、サービス停止となったケースは昨年、警視庁が把握している分だけで345件(2019年は18件)に急増しているといい、大半が荷物転送アルバイトを通じて詐欺犯が獲得した電話とみられています。また、架空の人物の口座を開設して、不特定多数に売り飛ばす手口とみられる詐欺グループを群馬県警が摘発しています。グループに加わっていた不動産業者の空き部屋情報を悪用、空き部屋の住人になりすまして口座開設のためのキャッシュカードをだまし取り、転売して1,000万円以上を売り上げたというものです。2021年2月8日付朝日新聞によれば、逮捕された5人は、それぞれ役割分担があり、(1)空き部屋情報は不動産関係会社に勤める男が提供、現場には(2)受け取り役の男と(3)大家らとの接触を避けるための見張り役の男、(4)受け取り役からカードを回収する現場指揮役の男、(5)リーダー役は最終的にカードを回収した住所不定の男で、リーダー役は、架空の人物名義の偽造運転免許証を作成し、口座の売買も担当したとみられています。ネットなどで口座開設できる金融機関を狙ったとも報じられており、ネットでの非対面による口座開設は本人確認に脆弱性を有する金融機関がいまだに存在することを示唆しています。そして、押収したパソコンや携帯電話の履歴などから、400以上の不正口座を転売したとみられ、売られた口座はインターネット詐欺の振込先や、特殊詐欺でだましとった現金の振替先として悪用された形跡があるとも報じられています。多様な犯罪インフラを駆使して行われた犯罪であり、自らの業務に関係する「抜け道」を塞ぐだけでは到底防ぐことができないということを痛感させられます。
国民生活センターから、犯罪類型別の件数や最近の相談の傾向などについてまとめられています。詐欺的手法に関係する部分のみ、以下に紹介します。
▼国民生活センター 各種相談の件数や傾向
▼架空請求
- PIO-NETに寄せられた2020年の相談件数 21,225件(前年同期 91,957件)
- 最近の事例
- スマートフォンのSMSに大手通販サイトの請求金額の確認が届いた。URLをタップしてIDとパスワードを入力したが、クレジットカード番号を求められ、不審だ。
- スマートフォンのキャリアメールに、注文した覚えのない約13万円のゲーム用パソコンを代金引換で配送するとのメールが届いた。購入内容の詳細はURLをタップすると出てくるようだが、どうしたらいいか。
- 契約している電話会社名で「料金未払い」を知らせるメールが届き、慌てて電話してしまったところ、サイト利用料として約30万円を請求された。
- スマートフォンにデジタルコンテンツの未納料金に関するSMSが届き、電話をすると支払いを求められた。心当たりがないがどうするべきか。
- スマートフォンに身に覚えのない請求メールが届いた。電話をすると有料動画サイト料金約25万円が未納だという。どうすればよいか。
▼次々販売
- PIO-NETに寄せられた2020年の相談件数 2,804件(前年同期 3,464件)
- 最近の事例
- バイナリーオプション投資システムの購入をきっかけに、個別サポート、FX自動売買ソフト等を次々に契約してしまった。解約したい。
- 占い師から商品を勧められ、ベッドマット、化粧品、水素水発生器等を購入した。開封してしまったが返品したい。
- 父が業者に訪問されて屋根のリフォーム契約をした。現在工事中だが追加で防水工事や他の工事の契約もしてしまった。高額であり不信感もあるので解約したい。
- 高齢の母がエアコン掃除の勧誘電話をきっかけに、その後、換気扇掃除、風呂掃除と次々と申し込みをした。必要がないものなら解約したい。
- エステ体験をした後、約40万円の痩身エステを契約した。その後も次々にエステの契約をさせられ約60万円の決済をしたが、また新たな契約を勧めてくるので嫌気がさした。中途解約して返金してほしい。
▼健康食品や魚介類の送りつけ商法
- PIO-NETに寄せられた2020年の相談件数 2,739件(前年同期 3,090件)
- 最近の事例
- ポストに宅配便の不在票が入っていたので再配達をしてもらったら、注文した覚えのない海産物だった。後から請求を受けるのではないかと不安だ。
- 近所に住む高齢の叔母から、「注文していないカニが届いたが、仕方なく代金を支払った」と相談があった。送りつけ商法なら返品させたい。
- 地方の海鮮市場を名乗る人物から電話があり、一方的に「鮭を送った。送料込みで1万円」と言われて断る間もなく電話を切られた。不要だが、届いた場合はどうすればよいか。
- 知らない事業者から健康食品の勧誘電話があり断ったにもかかわらず商品が届いた。このまま送り返してよいか。
▼マルチ取引
※マルチ取引とは、商品・サービスを契約して、次は自分が買い手を探し、買い手が増えるごとにマージンが入る取引形態です。
- PIO-NETに寄せられた2020年の相談件数 6,874件(前年同期 7,875件)
- 最近の事例
- 母が友人に勧められて高額なマットレスを購入し、マルチ組織にも加入したようだ。クーリング・オフできるか。
- 知人の紹介でビジネスセミナーの契約をした。このセミナーを人に紹介すると報酬がもらえると説明されたが、不審なので解約したい。
- 娘が友人に勧められてアフィリエイトに関するマルチ組織に入会し高額な費用を支払った。解約させたい。
- 大学生の息子が友人に誘われ暗号資産の投資の契約をした。人の勧誘も勧められている。対処方法を知りたい。
- 母がマルチで水素水生成器等を契約しているようだ。やめさせたいがどうしたらよいか。
▼フィリエイト・ドロップシッピング内職
※1 アフィリエイトの仕組みは、消費者がホームページやブログなどを作成し、製品、サービスなどの宣伝を書き、広告主(企業など)のサイトへのリンクを張ります。ホームページやブログの閲覧者がそこから広告主のサイトへ移行して、実際に商品の購入などにつながった場合、売上の一部が自分の収入(利益)になるというものです。
※2 ドロップシッピングは、消費者が実際に自分のホームページなどで、商品を販売します。販売用の商品の仕入れ費用や売れた場合の手数料の支払いなどもあるため、売れたとしても、思ったほど簡単に収入にならないという場合があります。
- PIO-NETに寄せられた2020年の相談件数 1,112件(前年同期 1,138件)
- 最近の事例
- アフィリエイトの副業に申し込み、事業者からサポートを受けていたが、突然連絡が取れなくなった。まったく稼げないため、支払金額の一部を返金してほしい。
- 友人に誘われてアフィリエイトの説明会に行った。儲かると勧められて高額な初期費用を支払ったが解約したい。
- アフィリエイトのコンサルタント契約をしたが、コンサルティングは受けられずノウハウも教えてもらえなかった。解約を申し出たが返金できないと言われ不満だ。
- 知人からオンラインカジノやブックメーカーの情報商材をアフィリエイトで広めるだけで稼げる副業を勧誘され申し込んだ。怪しいのでクーリング・オフしたい。
- インターネットで見つけた副業サイトに登録した。後日、電話で「絶対儲かる」と説明され、アフィリエイトの情報商材を契約したが、解約・返金してほしい。
▼訪問購入
「不用品や和服の買い取りのはずが貴金属を買い取られた」といった相談が寄せられています。
- PIO-NETに寄せられた2020年の相談件数 4,128件(前年同期 3,666件)
- 最近の事例
- 不用品買取業者から、「何でも買い取る」と電話勧誘を受け、来訪を承諾して住所を伝えたが後から心配になり断りたい。どうしたらいいか。
- 高齢の母宅に業者から電話があり、その後訪問して貴金属類を安価で買い取って行った。母はクーリング・オフしたいと言っている。
- 高齢独居の父宅に不用品を買い取るという業者から電話があり、明後日来訪されることになった。不審なので断り方を相談したい。
- 訪問してきた業者に金のネックレスを売った。安く売ってしまったと後悔し業者に電話をかけているが電話にでない。クーリング・オフしたい。
- 不要な衣服等を買い取るという業者が自宅に来て、売りたくないと断っているのに指輪やブレスレットなどを査定され持って帰られてしまった。その際クーリング・オフはできないと言われたが、今からでも取り戻せないか。
▼暗号資産(仮想通貨)
- PIO-NETに寄せられた2020年の相談件数 1,075件(前年同期 1,824件)
※「暗号資産」(「仮想通貨」または「暗号通貨」または「価値記録」を含む)に関する相談を集計したものであり、オンラインゲームのアイテム購入等に使われるゲーム内通貨(電子マネー)などに関するものは対象外としています。 - 最近の事例
- アプリで知り合った人に紹介され、暗号資産を購入して海外のサイトに送金した。さらに本人確認資料として運転免許証の画像を送付したが、サイトと連絡が取れなくなった。
- 息子が友人から仮想通貨に関する投資に誘われ、学生ローンの申し込みをしたようだ。投資の契約を解約し、借金を返済したい。
- SNSで知り合った女性に海外取引所未上場の暗号資産を紹介され購入したが、騙されたと思う。返金してほしい。
- インターネットの投資コミュニティに入会し、「これから上場予定の仮想通貨を購入すれば最低20倍になる」と言われてお金を振り込んだが、担当者と連絡が取れなくなった。
- 上場前の仮想通貨を購入すると儲かるというICOに出資したが、いまだに上場しない。金融庁に届け出のない事業者で、いつも担当者が不在である。
▼多重債務
- PIO-NETに寄せられた2020年相談件数 13,415件(前年同期 15,638件)
- 最近の事例
- 消費者金融からの借金の返済ができず、裁判所から通告書が届いている。今までにいくら借りているのかよくわからない。どうしたらよいか。
- クレジットカードの支払方法が、知らないうちにリボ払いになっていた。残債が高額で返済困難だ。
- 消費者金融の借金が返済できず任意整理中だが、最近はスマートフォンのQRコード決済やバーコード決済をつい使いすぎてしまう。どうしたらよいか。
- 消費者金融などに借金があり、返済のために国民健康保険料を滞納したら給料を差し押さえられた。口座残高が0円となり生活できない。
- 娘がクレジットカードで買い物を繰り返し、支払が困難なようだ。どうしたらよいか。
▼警察庁 令和3年1月の特殊詐欺認知・検挙状況等について
例月通り特殊詐欺の認知・検挙状況等について確認をしたいと思いますが、あらためて用語の定義について、以下のとおりまとめましたので、確認いただきたいと思います。
- 「特殊詐欺」とは、被害者に電話をかけるなどして対面することなく信頼させ、指定した預貯金口座への振込みその他の方法により、不特定多数の者から現金等をだまし取る犯罪(現金等を脅し取る恐喝を含む。)の総称をいう。
- (文中では被害総額と表記している)「実質的な被害総額」とは、詐取又は窃取されたキャッシュカード等を使用して、ATMから引き出された額(実務統計による集計値)を被害総額に加えた額である。
- 平成30年及び令和元年の数値は、9類型(オレオレ詐欺、架空料金請求詐欺、融資保証金詐欺、還付金詐欺、金融商品詐欺、ギャンブル詐欺、交際あっせん詐欺、その他の特殊詐欺及びキャッシュカード詐欺盗)の合計、令和2年及び3年の数値は、10類型(オレオレ詐欺、預貯金詐欺、架空料金請求詐欺、融資保証金詐欺、還付金詐欺、金融商品詐欺、ギャンブル詐欺、交際あっせん詐欺、その他の特殊詐欺及びキャッシュカード詐欺盗)を合計したものである。
- オレオレ詐欺とは、親族、警察官、弁護士等を装い、親族が起こした事件・事故に対する示談金等を名目に金銭等をだまし取る(脅し取る)ものをいう。
- 預貯金詐欺とは、親族、警察官、銀行協会職員等を装い、あなたの口座が犯罪に利用されており、キャッシュカードの交換手続きが必要であるなどの名目で、キャッシュカード、クレジットカード、預貯金通帳等をだまし取る(脅し取る)ものをいう。
- キャッシュカード詐欺盗とは、警察官や銀行協会、大手百貨店等の職員を装って被害者に電話をかけ、「キャッシュカードが不正に利用されている」等の名目により、キャッシュカード等を準備させた上で、隙を見るなどし、同キャッシュカード等を窃取するものをいう。平成30年1月以降、警察庁に報告があったものを計上した。
- 架空料金請求詐欺とは、未払いの料金があるなど架空の事実を口実とし金銭等をだまし取る(脅し取る)ものをいう。
- 還付金詐欺とは、税金還付等に必要な手続きを装って被害者にATMを操作させ、口座間送金により財産上の不法の利益を得る電子計算機使用詐欺事件又は詐欺事件をいう。還付金詐欺は平成18年6月に初めて認知された。
- 融資保証金詐欺とは、実際には融資しないにもかかわらず、融資を申し込んできた者に対し、保証金等の名目で金銭等をだまし取る(脅し取る)ものをいう。
- ギャンブル詐欺とは、不特定多数の者が購入する雑誌に「パチンコ打ち子募集」等と掲載したり、不特定多数の者に対して同内容のメールを送信する等し、これに応じて会員登録等を申し込んできた被害者に対して会員登録料や情報料等の名目で金銭等をだまし取る(脅し取る)ものをいう。
令和3年1月における特殊詐欺全体の認知件数は830件(前年同期999件、前年同期比▲16.9%)、被害総額は18.0憶円(19.7憶円、▲8.6%)、検挙件数は468件(308件、+51.9%)、検挙人員は143人(100人、+43.0%)となりました。特に、検挙件数・検挙人員が前年1月と比較して大きく増加している点が注目されます。うちオレオレ詐欺の認知件数は141件(135件、+5.9%)、被害総額は4.0憶円(3.3憶円、+23.0%)、検挙件数は74件(119件、▲37.8%)、検挙人員は34人(26人、+30.8%)と、認知件数・被害総額ともに大きく増えている点が懸念されるところです。一方、キャッシュカード詐欺盗の認知件数は149件(278件、▲53.6%)、被害総額は2.3憶円(4.3憶円、▲46.0%)、検挙件数は132件(114件、+15.8%)、検挙人員は32人(26人、+23.1%)と、こちらは認知件数・被害総額ともに大きく減少している点が注目されます。また、預貯金詐欺の認知件数は225件(328件、▲31.4%)、被害総額は3.2億円(3.4憶円、▲8.1%)、検挙件数は192件(16件、+207.2%)、検挙人員は54人(27人、+100.0%)についても、認知件数・被害総額ともに減少している点が注目されます。架空料金請求詐欺の認知件数は112件(138件、▲18.8%)、被害総額は5.9憶円(7.1憶円、▲17.4%)、検挙件数は23件(21件、+9.5%)、検挙人員は13人(11人、+18.2%)、還付金詐欺の認知件数は175件(70件、+150.0%)、被害総額は2.0憶円(0.7憶円、169.1%)、検挙件数は43件(24件、+79.2%)、検挙人員は10人(3人、233.3%)、融資保証金詐欺の認知件数は13件(36件、▲63.9%)、被害総額は0.07億円(0.6憶円、▲88.1%)、検挙件数は1件(9件、▲88.9%)、検挙人員は0人(3人)、金融商品詐欺の認知件数は2件(5件、▲60.0%)、被害総額は0.3憶円(0.05憶円、+615.9%)、検挙件数は2件(3件、▲33.3%)、検挙人員は0人(1人)、ギャンブル詐欺の認知件数は10件(7件、+42.9%)、被害総額は0.2憶円(0.1憶円、▲68.9%)、検挙人員は0人(0人)などとなっており、特に還付金詐欺の認知件数・被害総額ともに大きく増加している点が懸念されます。
犯罪インフラ関係では、口座開設詐欺の検挙件数は30件(51件、▲41.1%)、検挙人員は20人(32人、▲37.5%)、盗品譲受け等の検挙件数は1人(0人)、検挙件数は0人(0人)、犯罪収益移転防止法違反の検挙件数は144件(188件、▲23.4%)、検挙人員は113人(151人、▲25.2%)、携帯電話契約詐欺の検挙件数は19件(10件、+90.0%)、検挙人員は21人(9人、+133.3%)、携帯電話不正利用防止法違反の検挙件数は3件(0件)、検挙人員は2人(0人)、組織的犯罪処罰法違反の検挙件数は12件(2件、+500.0%)、検挙人員は0人(0人)などとなっています。また、被害者の年齢・性別構成について、特殊詐欺全体では65歳以上87.1%・70歳以上74.9%、男性23.6%・女性76.4%、オレオレ詐欺では65歳以上95.0%・70歳以上94.3%、男性12.8%・女性87.2%、キャッシュカード詐欺盗では65歳以上97.3%・70歳以上96.6%、男性16.8%・女性83.2%、架空料金請求詐欺では65歳以上49.1%・70歳以上29.5%、男性56.3%・女性43.8%、融資保証金詐欺では65歳以上9.1%・70歳以上9.1%、男性54.4%・女性45.5%などとなっています。
さらに、特殊詐欺被害者全体に占める65歳以上の高齢被害者の割合について、特殊詐欺全体87.1%(男性20.4%、女性79.6%)、オレオレ詐欺95.0%(13.4%、86.6%)、預貯金詐欺99.1%(13.5%、86.5%)、架空料金請求詐欺49.1%(56.4%、43.6%)、還付金詐欺89.7%(25.5%、74.5%)、融資保証金詐欺9.1%(100.0%、0.0%)、金融商品詐50.0%(0.0%、100.0%)、ギャンブル詐欺50.0%(60.0%、40.0%)、キャッシュカード詐欺盗97.3%16.6%、83.4%)となり、類型によってかなり異なる傾向にあることが分かりますが、概ね高齢者被害の割合が高い類型では女性被害の割合も高い傾向にあることも指摘できると思います。このあたりについては、以前の本コラム(暴排トピックス2019年8月号)で紹介した警察庁「今後の特殊詐欺対策の推進について」と題した内部通達で示されている、「各都道府県警察は、各々の地域における発生状況を分析し、その結果を踏まえて、被害に遭う可能性のある年齢層の特性にも着目した、官民一体となった効果的な取組を推進すること」、「また、講じた対策の効果を分析し、その結果を踏まえて不断の見直しを行うこと」が重要であることがわかります。
次に、特殊詐欺を巡る最近の報道から、少し変わった手口や話法などを中心にいくつか紹介します。特殊詐欺の被害防止策のひとつが、「手口をよく知る」ということです。類型的には同じでも、話法などがたますます多様化している実態もあり、参考にしていただければ幸いです。
- 通信料金回収業者「NTTファイナンス」を装ったSMSを送る手口の架空請求詐欺事件が、北海道内で相次いでおり、北海道警のまとめでは、昨年1年間の被害総額は約1億2,500万円に上るということです。未納料金の確認名目で被害者に連絡させるものです。2021年2月17日付読売新聞には、具体的な事例が掲載されており、それによると、(1)「利用料金の確認が取れない」と札幌市西区の50歳代の男性会社員は昨年10月、同社を装った偽メールを受け取った。(2)メールに書かれていた電話番号にかけると、警察官らを名乗る複数の男に「あなたの携帯電話がコンピューターウイルスを拡散している」、「サイバー保険料が必要」などと告げられ、指定された口座に次々と振り込んだ。(3)男性は12月までに計約1億900万円をだまし取られたというものです。途中で誰にも相談できなかったのか、おかしいと気付かなかったのか、相当な高額詐欺事件であり、被害の未然防止や軽減につなげることができなかったのか、人の心理面にまで踏み込んだ検証が必要と思われます。
- マイクロソフトを装ったウイルスに感染したかのような警告がパソコンに表示され、サポート料名目で多額の金をだまし取られる被害が急増しているとして、消費者庁は、消費者安全法に基づき注意喚起しています。同庁によると、偽の警告は「Microsoft」のロゴとともに突然現れ、大音量の警告音の中、「ウイルスが見つかりました」、「当社に今すぐ電話してください」などと表示されるもので、電話すると、遠隔操作ソフトを導入させた上で警告表示を消して信用させ、「セキュリティ保護のサポートが必要」、「5年で6万9,000円」などと勧誘し、コンビニなどで前払い式の電子マネーを購入させ、コード番号を連絡させる手口だということです。
- 埼玉県警は、30代の無職の男と20代の内装業の男(いずれも詐欺罪などで起訴)を詐欺と窃盗の疑いで再逮捕しています。報道によれば、無職の男はさいたま市内のホテルを転々として特殊詐欺の電話を続け、内装業の男に指示して現金を引き出すなどしていたとみられ、無職の男が使用した貸倉庫からは現金3,650万円が見つかり、ホテルには約17,000人分の名簿もあったといい、県警は余罪を調べているということです。
- 野上農水相は、日本中央競馬会(JRA)のトレーニングセンターで働く調教助手らが新型コロナウイルス対策で国が支給する持続化給付金を不正に受給した疑いがある問題について、「事実なら極めて遺憾」と述べた上で、「JRAに対し不正受給があれば返還させるなど厳正な対応を取るよう指示した」と強調しています。JRAは、調教助手らを雇う調教師で構成する日本調教師会に事実確認を要請、JRAが調査した結果、騎手、調教師、調教助手ら165人が受給し、総額は1億8,983万円に上ると公表されています。このうち163人について受給は不適切だったとして返還、または返還の手続き中ということです。なお、104人の申請について、有力な馬主で大阪市内に事務所がある税理士が関与していたとも発表しています。
- 特殊詐欺の手口は刻一刻と変化しているものであり、たとえば、2019年から2020年夏頃までは、自宅を訪れた犯人グループにキャッシュカードをだまし取られ、口座から金を下ろされる手口(キャッシュカード詐欺盗)が多発しましたが、周知が進むと被害は減少、2020年夏頃からは、警察官などを名乗る人物から「名義貸しは犯罪」などと脅され、金を払わせるケースが相次ぎ、この手口が広く知られると、還付金名目でATMを操作させる手口(還付金詐欺)が目立ち始めるたという状況です。
- 政府は、特定商取引法と預託法の改正法案を閣議決定しています。インターネット通信販売の「定期購入契約」は、「初回無料」や「お試し」などとして1回購入しただけのはずがいつのまにか継続的な契約になり、解約しない限り毎月商品が届き、2回目以降は高額な代金を請求されたり、サイトに定期購入であることや解約方法の記載がなかったり、画面の隅に小さく記載されたりしていて、消費者が気づかずに申し込むトラブルとなり、「詐欺的な商法だ」と消費者庁が警戒を強めていたものです(国民生活センターによれば、定期購入に関する相談は2019年度に前年度の2倍に急増し5万件を突破、2020年度もさらに4割程度増える見通しで、コロナ禍の影響で通販サイトの利用が増えたこともトラブル拡大に拍車を掛けているとみられています)。改正案では行政処分を経ずに刑事罰を科せるよう罰則を強化しています。また、安愚楽牧場やジャパンライフなど、巨額の消費者被害になりやすい「販売預託商法」は原則禁止となります。改正預託法案では、「第三者にレンタルする」などとうたって販売した商品を預けさせ、定期的に配当金を渡す販売預託取引を原則禁止とし、無許可営業をした個人は5年以下の懲役か500万円以下の罰金、法人は5億円以下の罰金などが課せられることとなりました。
本コラムでは、特殊詐欺被害を防止したコンビニエンスストア(コンビニ)や金融機関などの事例や取組みを積極的に紹介しています。必ずしもすべての事例に共通するわけではありませんが、特殊詐欺被害を未然に防止するために事業者や従業員にできることとしては、(1)事業者による組織的な教育の実施、(2)「怪しい」「おかしい」「違和感がある」といった個人のリスクセンスの底上げ・発揮、(3)店長と店員(上司と部下)の良好なコミュニケーション、(4)警察との密な連携、そして何より(5)「被害を防ぐ」という強い使命感に基づく「お節介」なまでの「声をかける」勇気を持つことなどがポイントとなると考えます。
- 福島市のコンビニ店で1月、インターネット上の詐欺に気付かず電子マネー15万円分を購入しようとした高齢の女性客が、店員の説得で被害を免れるという事案がありました。女性に声をかけたのは、来日12年のネパール人男性店員で、福島県警福島署は男性の功績をたたえ、感謝状を贈呈しています。詐欺だと思ったこの男性店員は、購入をやめるよう説得、「私が間違ったから」と繰り返す女性に、10分以上かけて詐欺の手口を説明し、ようやく110番したというものです。女性は他の店でも、さらに40万円分を購入予定だったということです。
- 埼玉県警浦和東署は、特殊詐欺被害を未然に防いだとして、埼玉県信用金庫大間木支店に感謝状を贈っています。昨年12月、同店を訪れた顧客の70代の女性が「200万円を引き出したい」と話したため女性に理由を訪ねると、「日本非破壊電柱検査協会に振り込む」と説明したため、不審に思った男性が団体名をインターネットで検索したところ、経済産業省のホームページで注意喚起されていることがわかり、女性を説得し、被害を未然に防いだというものです。なお、同署はその他にも、セブン―イレブン浦和大間木店、さいたま原山1丁目店、さいたま道祖土2丁目店、埼玉りそな銀行東浦和支店にも感謝状を贈ったと報じられています。被害に遭ったとは気付いていない高齢女性から落ち着いて情報を引き出し、ネットで確認したことが功を奏した形です。さらに、これだけ多くのコンビニや金融機関が同一所轄管内で表彰されている点も、被害防止のために真摯に取り組んでいることを示すものとして注目されるところです。
- 山形県警は、県内で最も特殊詐欺の被害を防いだコンビニ店として、新庄市泉田の「セブン―イレブン新庄泉田店」に感謝状を贈っています。報道によれば、同店では、電子マネーを購入しようとする客に店員が積極的に声をかけることで、2019~20年の2年間に計3回、特殊詐欺を未然に防いだということです。被害の予想額は計約85万円に上るといい、同店店長は「電子マネーの購入金額が極端に多かったり、携帯を見ながら行動したりするお客様には、必ず声をかけるようにしている」と話しています。正に、日頃からの教育、健全なコミュニケーション、「お節介」力などが発揮されやすい職場作りが行われていることを感じさせます。
- 特殊詐欺被害を未然に防いだとして、兵庫県警豊岡南署は、ファミリーマートの20代の女性店員に感謝状を贈っています。女性店員は昨年12月、電子マネーを購入した70代の女性客から「チャットの代金を払いたい」と相談を受け、詐欺の可能性があると判断、豊岡南署に通報したものです。報道によれば、女性のショートメールに「同窓会が開催される」とあり、チャットサイトへ誘導されて、チャット運営会社から料金を請求されたということで、「サクラサイト」と呼ばれる詐欺とみられます。
- 特殊詐欺被害の未然防止に貢献したとして、宮崎県警都城署は、セブン―イレブンの副店長と、ともに従業員の30代の女性と20代の男性に感謝状を贈っています。昨年12月、60歳代の男性が店を訪れ、35万円分の電子マネーを購入、当時勤務中だった3人は購入額が高額だったこともあり相談し、男性に声をかけたところ、男性はインターネットでの何らかの「登録」の解約を巡り、男から電話で電子マネーによる決済を指示されたと説明したため、店側でその後署に通報し、うそ電話と判明したものです。男性は決済前で、被害はなかったということです。
- 特殊詐欺を未然に防いだとして、栃木県警宇都宮東署は、県内郵便局の50代の局長に感謝状を贈っています。この局長は、郵便局を訪れた60歳代の男性が、携帯電話で話しながらATMを操作しているのを防犯カメラを通して確認、さらに別の局員も特殊詐欺を疑ったため声をかけると、男性が「還付金を受け取るためにATMを操作した」と話したことから、局員が同署に通報したものです。
(3)薬物を巡る動向
財務省は、2020年の全国の税関での不正薬物の摘発件数が2019年比3割減の733件だったと発表しています。新型コロナウイルスの感染拡大で航空旅客が激減し、荷物に忍ばせた持ち込みが減ったということですが、押収量は約43%減の1,906キロですが、5年連続で1トンを超え、過去3番目の水準だということです。コロナ禍でも、航空機や船舶の貨物に隠されて密輸されるケースが多く、深刻な状況が続いているといいます。また、覚せい剤や大麻、コカインなどの摘発件数はいずれも2019年に比べて減少し、覚せい剤の押収量は約7割減となりましたが、大麻樹脂やコカイン、合成麻薬MDMAはいずれも増えています。本コラムで指摘し続けているとおり、国内の若者による乱用の増加が懸念されているところです。関連して、神奈川県の横浜税関の薬物押収量が、初めて1トンを超えました。横浜税関によれば、昨年1年間に摘発された違法薬物の密輸事件は431件(2019年と比較して約13%の増加、全国の約6割を占めています)、押収量はおよそ1,265キロと過去最高(2019年と比較して約12.8倍)となっています。昨年4月、エクアドルからのコンテナには、およそ722キロのコカインが隠されていたほか、10月には、南アフリカからの貨物で、およそ237kgの覚せい剤が見つかるなど大型密輸事件も大きく影響したと思われます。また、液体大麻の押収量が急増していることも注目されます。東京税関によれば、昨年1年間に押収された覚せい剤や大麻などの不正薬物の量はおよそ528キロで、前の年と比べ3割ほどに減少した一方で、大麻を加工した大麻リキッド(液体大麻)などの押収量は前の年に比べ、およそ23倍に急増しており、東京税関では水際対策を強化するということです。さらには、横浜税関によれば、摘発が難しいとされるはちみつに偽装した大麻樹脂などの押収量がおよそ2.2倍に増えているということです。
若者が大麻に手を出すケースが近年急増していることは本コラムでも毎回指摘していますが、大都市圏だけに限った話ではなく、全国津々浦々に浸透している深刻な状況となっているようです。たとえば、2021年3月5日付山陰中央新報によれば、島根県でも2020年までの5年間で検挙人数が9倍の18人に増えているといい、SNSで「草」「野菜」などと隠語で呼ばれて入手しやすく、電子たばこに似た大麻リキッド(液状大麻)も登場してハードルが下がったとみられるほか、海外では大麻が合法の国もあり「嗜好品だから罪に問われない」、「体にも医療にも効く」といった誤った情報がネット上に流れていること、大麻入りのチョコレートやクッキー、大麻リキッドなどの登場で、罪悪感が薄れ軽い気持ちで手を出してしまうことなどが背景要因として考えられるといいます。なお、全国の傾向に同じく、大麻に関しては「20代の若者で初犯」のケースが多いのが特徴だといいます。対照的に、覚せい罪に関する検挙人数は年10~25人程度で増減を繰り返し、増加傾向にはないこと、30~40代が大半で再犯率が90%と高いことが特徴だといいます。
最近の薬物に関する報道の中では、新型コロナウイルス対策の国の持続化給付金を不正受給し、覚せい剤を密売したとして、京都府警組対3課と西京署が、詐欺や覚せい剤取締法違反などの疑いで、ともに50代の自称アートペインターの男と訪問介護士の男を逮捕した事件が、個人的には最も衝撃を受けました。報道によれば、府警は2人が覚せい剤を仕入れる原資の一部として、持続化給付金を悪用していた疑いがあるとみて調べているということですが、経済的に困窮している人を救済すべき国のお金が薬物の購入に使われ、さらには転売によって儲けるための元手として使われたということであり、許し難い思いでいっぱいです。また、若者が摘発された事件としては、営利目的で大麻を所持していたなどとして袋井、掛川、浜松東各署と静岡県警薬物銃器対策課に大麻取締法違反容疑で袋井市のシェアハウスを拠点とする大麻密売グループの20代前後のメンバー5人が逮捕された事件がありました。報道によれば、この事件では、インスタグラムやLINEなどのSNSを通じて顧客から大麻の注文を受け、シェアハウスに顧客を呼び込んだり、最寄りのコンビニ店に大麻を配達したりしていたということです。主に1グラム6,000円前後で販売し、シェアハウスに仲間や顧客が集まって「大麻パーティー」を開くなどしていたとみられており、顧客は10代後半~20代前半の若者だったといいます。静岡県西部では、密売グループのメンバーと大麻を所持したり、19歳の少年に営利目的で譲り渡したりした疑いでブラジル国籍の容疑者が逮捕される事件もありました。報道によれば、別の事件で大麻の入手先を調べる中で、容疑者ら密売グループのメンバーや客とみられる男女9人を割り出し逮捕、このグループの客は静岡県西部の若者を中心に約30人いるとみられ、電子タバコのカートリッジに入った大麻リキッドも押収されており、警察は余罪についても調べを進めているということです。また、自宅で大麻草を所持したとして、京都府警福知山署は、大麻取締法違反(所持)容疑で男子中学生(14)を現行犯逮捕しています。自宅でポリ袋に入った大麻草を所持した疑いで、別の大麻事件の捜査で男子中学生の容疑が浮上し、自宅を家宅捜索したところ、セカンドバッグに入ったポリ袋を発見、簡易検査で中身を大麻草と確認したというものです。さらに、大麻密売の少年グループ同士の対立から18歳の少年を車に押し込み、およそ10時間監禁したとして、警視庁は、15歳から19歳の少年7人を逮捕したという事件もありました。報道によれば、逮捕された7人がいるグループと18歳の少年がいるグループは大麻の売買を巡って対立していたとみられ、売買のトラブルから7人のいるグループ側がウソの大麻の売買話を18歳の少年にもちかけて呼び出したということです。
外国人の関与する薬物事犯も目立っています。ディズニー映画「白雪姫」の「7人のこびと」に似せた陶器製人形に隠して覚せい剤2キロを密輸しようとしたとして、警視庁組織犯罪対策5課は、マレーシア国籍の容疑者と長女と三女の3人を麻薬特例法違反(規制薬物所持)容疑で逮捕しています。容疑者宅の家宅捜索で、白雪姫に出てくる「毒リンゴ」に似せた陶器に入った覚せい剤4キロも押収されています。逮捕容疑と合わせた覚せい剤計6キロ(末端価格3億8,400万円)は約20万回の使用量にもなるもので、同課は密売グループの一員とみて調べているということです。また、福岡市博多区で昨年9月、営利目的で麻薬成分などが練りこまれた植物片を持っていたとして、警察は、ベトナム国籍の23歳の男を逮捕しています。報道によれば、パトロール中の警察官が不審な男を発見し声を掛けたところ、男がその場から逃げようとしたため、警察官が男の所持品などを調べると、植物片入りの袋を見つけ、あわせて50袋を押収し植物片を鑑定した結果、麻薬成分が練りこまれていることが分かったというものです。また、三重県の津署と県警組織犯罪対策課は、覚せい剤取締法違反(営利目的譲渡・所持)などの疑いで、イラン国籍の容疑者を逮捕しています。報道によれば、同容疑者は中勢地区を中心に薬物を密売する外国人グループの一員で売人を担当、容疑者の自宅や車から覚せい剤やコカイン、乾燥大麻計2,163グラムとMDMA102錠(末端価格計約6,233万円)、大麻リキッドなどを押収したということです。また、自宅アパートで大麻草16本を栽培したとして、大麻取締法違反の疑いでブラジル国籍の男が逮捕、富山地方検察庁高岡支部が起訴しています。さらに、284グラム(末端価格約1,800万円相当)の覚せい剤をタイから日本に密輸したとして、愛媛県と尾道市に住むタイ人の男2人が、覚せい剤取締法違反や麻薬特例法違反の罪でそれぞれ起訴されています。覚せい剤をタイから国際郵便で発送し、日本国内に密輸した罪、届けられる荷物が覚せい剤と知りながら、自宅で受け取った罪に問われているということです。
海外からの密輸としては、まずベトナムからの国際郵便に約35キロの大麻が隠されていたのを大阪税関が押収した事件がありました。報道によれば、大麻は食品に偽装され、ベトナムからの国際郵便で計11箱が日本に運ばれてきたとい、末端価格にして約2億1,000万円相当にのぼるということです。大阪税関が昨年1年間に押収した違法薬物は、計93キロで、そのうちの4割近くを占めたことになります。新型コロナウイルスの影響で、旅客便を使った違法薬物の密輸が全体で8割以上減った一方、押収量は3割減にとどまっていることから、大阪税関は、大規模な密輸が増えているとみて警戒を強めているといいます。また、アメリカから液状大麻を密輸しようとしたなどとして、北九州市の自営業の女が逮捕、起訴されています。報道によれば、門司税関の職員が、国際郵便で届いた荷物を調べていたところ、液状大麻を発見、液状大麻はカートリッジに入った状態で、衣類などが入った段ボールの中に隠されていたといいます。被告は容疑を認めていて、「自分で使う目的で密輸した」、「摂食障害やPTSDを緩和するためだった」などと話しているということです。さらに被告は、液体大麻およそ0.1グラムと、乾燥大麻およそ7グラムを自宅に隠し持っていたとして再逮捕されています。熊本では、液体大麻を国際郵便で国内に持ち込んだとして、熊本県警組織犯罪対策課などは、大麻取締法違反(輸入)の疑いで、ルーテル学院高の英会話講師助手(27)=米国籍=を逮捕しています。報道によれば、何者かと共謀し、液体大麻約3グラムや日用品が入った小包を米国から自宅に送らせ、成田空港に到着させて国内に持ち込んだ疑いで、液体大麻は、筒状の容器数本に分けて入れてあったということです。また、羽田空港でコカインの原料にもなるコカの葉を、スーツケースに隠して密輸しようとしたとして、東京税関がボリビア人の男女2人を摘発しています。報道によれば、ボリビア国籍の被告ら2人は、羽田空港でコカの葉あわせて、およそ8.4キログラムを、スーツケースに隠して密輸しようとしたところを手荷物検査で発見されたといいます。コカの葉は大量のジーンズなどに隠されていましたが、税関職員が異臭に気づき摘発に至ったもので、東京税関は2人を刑事告発し、2人はその後、麻薬取締法違反と関税法違反の罪で起訴されています。南米のボリビアでは、コカの葉はお湯に混ぜて飲むなど日常で使用されているということですが、日本への持ち込みは禁止されています。
その他、薬物に関する報道から、いくつか紹介します。
- 大阪市浪速区の民泊施設で、警察の事情聴取を受けていた男性が逃走、建物から転落し、死亡する事件がありました。男性と一緒にいた29歳の女が大麻取締法違反の現行犯で逮捕されていて、警察によると部屋からは大麻以外にも薬物のようなものと注射器が見つかっているということです。
- 新潟県佐渡市の自宅で大麻を所持していたとして、新潟県職員の男(37)ら2人が逮捕されています。報道によれば、2人は、それぞれの自宅で大麻を若干量所持していたとして現行犯逮捕されたもので、2人は知人で、共に容疑を認めているということです。公務員という点では、自宅で覚せい剤1グラムを所持したとして、北海道警小樽署は、覚せい剤取締法違反(所持)容疑で、札幌市立小学校の教諭(57)を逮捕しています。元小学校の校長が、兵庫県新温泉町の自宅で覚せい剤を含有する結晶約1.607グラムを所持し、体に注射して使用したとして起訴されました。報道によれば、初公判で、検察側は「2017年以降、複数の密売人から購入して使用を繰り返した。薬物への親和性と依存性は顕著」と指摘、弁護側は「2017年から町教育委員会で膨大な業務を1人で取り仕切り、うつ症状が出るほどの重圧だった。校長になった4月からは緊急事態宣言の対応に追われた」としています。
- 覚せい剤を使用したとして、警視庁戸塚署が覚せい剤取締法違反の疑いで、東京都新宿区の「夏目坂メディカルクリニック」院長の医師を逮捕しています。容疑者はスポーツドクターとしてテレビ番組に多数出演、新型コロナウイルスの感染拡大後は在宅でのエクササイズなどについて解説し、医療監修も担当していたということです。報道によれば、動機については、クリニックの経営がコロナ禍もあり、苦しくなっていたとの情報もあるようです。専門家は「コロナ禍で医療従事者が違法薬物に手を出すケースが増えている。なまじ医療の知識があるから、バレないと思っているのかもしれない。患者が売人で、入手ルートを紹介するパターンもある。医者は地位も金もあるから、市場価格より高く売ることができる」と述べています。
- 販売目的で大麻草を栽培した疑いが持たれている男が、乾燥大麻を所持していたとして再逮捕されています。自宅で乾燥大麻およそ5グラムを販売目的で所持していた疑いで、すでに名古屋市内のマンションの一室で、大麻草を販売目的で栽培したとして逮捕されており、自宅からは乾燥大麻およそ5キロが押収されていたものです。報道によれば、容疑者は3、4年前から大麻を栽培し、密売していたとみられ、警察は数千万円の売り上げがあったとみて、密売ルートなどを調べているということです。また、自宅で大麻草8本を営利目的で栽培していた罪で、松山市の無職の男が大麻取締法違反の罪で起訴されています。家宅捜索で大麻草76本や大麻を精製する器具など175点が押収されています。摘発した警察と四国厚生支局麻薬取締部は、乾燥大麻の製造や密売をしていた可能性を視野に被告を追及しているということです。さらに、営利目的で大麻を栽培、所持したなどとして、岡山県警津山署は、大麻取締法違反などの疑いで、無職の男(35)を最終送検しています。当時住んでいた津山市の自宅で大麻草55本を栽培し、大麻6,433グラムや合成麻薬MDMAの錠剤10グラムなどを所持したほか、2年後には米原市の自宅などで大麻草130本を育てるなどした疑いがもたれています。いずれも販売目的で栽培、所持していたとみられていますが、容疑男は「自分で使うためのものだった」と容疑を一部否認しているということです。
- 警察庁は、通信傍受法に基づき、各地の警察が昨年1年間に20事件の捜査で計2万120回の通話を傍受し、152人の逮捕につながったと発表しています。2000年8月に通信傍受法が施行されて以降、いずれも最多となったということです。内訳は、覚せい剤取締法違反が12事件、銃刀法違反と詐欺が各2事件、強盗殺人、強盗・強盗致傷、窃盗、恐喝・恐喝未遂が各1事件で、傍受したのは、すべて携帯電話だったといいます。通信傍受を巡っては2016年12月から詐欺や窃盗などが対象に加わったほか、2019年6月から通信事業者の立ち会いなしに警察施設内で行えるようになっています。
- 郵便を使い、米国から覚せい剤を密輸しようとしたとして、覚せい剤取締法違反などの罪に問われた相模原市の男性(44)の裁判員裁判の判決で、東京地裁は、無罪(求刑懲役8年、罰金300万円)を言い渡しています。報道によれば、男性は「知人から、コロナで日本に戻れない外国人の荷物を受け取るよう頼まれた」と違法性の認識を否定、検察側は「依頼内容自体が不自然で、報酬の約束もあった」と主張しましたが、裁判長は、依頼や報酬の約束があったことは認める一方、「何らかの報酬があるというだけで、違法な物の輸入に関わると認識することは容易ではない」と指摘し、「男性に密輸の故意があったとは断定できない」と述べています。
- 京都市で開幕した京都コングレスに合わせて国連薬物犯罪事務所(UNDOC)のワーリー事務局長と菅首相が会談し、薬物や組織犯罪への対策に向けた緊密な連携を確認しています。報道によれば、両氏は国際社会における法の支配確立に向け、コングレスの成功が重要だとの認識で一致、首相はテロや薬物犯罪への対策にUNDOCが果たす役割を評価、一方のワーリー氏は日本の支援に謝意を伝えたということです。
前回の本コラム(暴排トピックス2021年2月号)で紹介したとおり、大麻取締法に「使用罪」を導入することなどを検討する厚生労働省の有識者検討会がスタートしています。現在は罰則の対象になっていない大麻の「使用」に罰則を設けるかなど規制のあり方を検討し、今夏までに結論をまとめる予定で、海外で使われている医療用大麻の扱いについても議論するとしています。それに伴い、最近の報道等を見ていると、(1)大麻の害悪、若者への大麻の蔓延の実態とゲートウェイドラッグとしての大麻から覚せい剤へとエスカレートする危険性などから「厳罰化」に進むべきとする考え方と、それとは逆に、(2)大麻の合法化や非犯罪化・軽犯罪化をすべき、「刑罰ではなく治療」とすべきだとする考え方に大きく立場が分かれるように思われます。筆者が言いたいことは、まず注意すべきは、嗜好用大麻と医療用大麻をまずきちんと位置付けを明確にすることが必要ではないかという点です。前回も紹介したとおり、国連の麻薬委員会が、薬物を規制する「麻薬単一条約」で大麻を「特に危険」とする分類から削除する勧告を可決していますが、大麻を原料とした医薬品に有用性が認められたことが主な理由だということです。嗜好用と医療用とは別物であり、医療用大麻については適切に使用していくためにどうしたらよいかを、このタイミングで検討し始めてよいのではないかと考えます。一方、嗜好用大麻については、たばこや酒より無害だとする主張や合法化している国や地域が存在するとはいえ、依存性の高さや脳の萎縮効果など若年層への悪影響の大きさ、解禁している国・地域と比較した場合の日本における浸透度合いの低さを考えれば、現時点で「合法化」を検討すべきではないと考えます。ただし、治療によって依存症から立ち直ることができる流れをふまえ、「半永久的に人権侵害」とでも言うべき過剰なバッシングを受けないといけないかという点は見直す必要があると言えます(正に、暴力団離脱支援、再犯防止のあり方と同じ構図です)。
さて、今回も後者の立場をとる方のインタビュー記事から一部引用して紹介します。これまで「大麻入門」(幻冬舎新書)、「大麻 禁じられた歴史と医療への未来」(コスミック出版)といった著作で、大麻の歴史や医学的効能などの情報発信をしてきた長吉秀夫氏の「「なぜ大麻で逮捕するのですか?」緊急自費出版した長吉秀夫さんに聞く」(2021年3月4日付HARBOR BUSINESS)からです。若年層に対する教育プログラムの提供、非犯罪化などについて、(筆者としては100%賛成とは言えませんが)なかなか説得力のある論旨だと思います。
その他、海外における薬物を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。
- 米ニュージャージー州が嗜好用大麻を合法化しました(新たな法案において、同州に居住する21歳以上の成人の大麻使用が合法、また6オンスまでの所持が許可されることとなるとされ、州から発行されるライセンスを持つ調剤薬局等での入手が可能になるものの、販売開始までは少なくとも1年以上はかかる見込みといいます)。報道によれば、マーフィー州知事は記者会見で、「これからは公正な取引に基づく新たな大麻産業を促進し、多くのコミュニティに利益をもたらすための法律が施行される。安全な各種大麻を取り扱うことで公衆衛生を改善し、深刻な犯罪の原因ともなっていた大麻取引に法の根拠を与えることで治安の維持を促す」と発表しています。ニュージャージー州での大麻合法化法案への住民投票は、全米における大麻解禁への大きな流れの中の一つで、アリゾナ州、モンタナ州においても、大麻合法化法案への住民投票は賛成数が上回っています。サウスダコタ州でも同様の結果でしたが、今月初めに却下されたものの、上告しているといいます。ニューヨーク州知事アンドリュー・クオモ氏も、同州における大麻合法化へ意欲を見せています。ヴァージニア州では、今月初めに合法化の法案が議会を通過している状況です。
- 2021年3月5日付 Forbs JAPANの記事によれば、「大麻の市場調査を行うBDSAのデータによると、2020年の米国における合法大麻の売上高は過去最大の175億ドル(約1兆8,750億円)に達し、前年度から46%の伸びだった。米国では15州が嗜好用を含む大麻を合法化しており、35州では制限を設けつつも医療用大麻を認めている」、「昨年この業界が成長を達成できた背景には3つの要因があるという。その一つは、パンデミックを受けて新たに大麻を使用し始める顧客が増えたことで、カリフォルニア州やコロラド州、オレゴン州などの成熟した市場と、イリノイ州やアリゾナ州などの新興市場の両方で需要が拡大したという。大麻を合法化した多くの州は、ロックダウンの期間中、大麻販売店をエッセンシャルビジネス(必要不可欠な業種)に指定していた」、「もう一つの要因は、人々の大麻の消費量が以前より増えたことだ。BDSAの調査では消費者の約30%が、大麻を以前より頻繁に購入するようになったと回答した」、「さらに、2020年の年末時点の大麻の使用者は、その半年前と比較して増加したことも示されている。嗜好用の大麻を合法化した州の住人の大麻の使用率は年末時点で43%に達し、半年前の38%から増加していた。米国で最も大麻の浸透率が高いコロラド州では、48%が大麻を摂取している」、「アルコールの浸透率が60%程度とされる中で、大麻の浸透率はそれに匹敵する50%近い数字になっている」とニールセン。「大麻市場の大部分はまだ、違法な闇市場にあるとされており、違法大麻の売り上げは年間1000億ドル以上と推定されている。しかし、合法の大麻市場もゆっくりとではあるが拡大を続けており、BDSAは、2026年までに米国の合法大麻市場の年間売上高が410億ドルに達すると予測している。これは、クラフトビールに匹敵する市場規模だ」と報じています。
- アメリカで砂糖の代わりに麻薬をまぶしたコーンフレークが発見されたといいます。報道によれば、オハイオ州のシンシナティ港で、コカインをまぶしたコーンフレーク約20キログラムを麻薬犬が貨物の中から発見し、押収されたということです。末端価格にして約3億円相当で、税関・国境警備局の職員が箱を開けたところ、白い粉と灰色の物質がコーティングされたコーンフレークが入っており、検査の結果、コカインが含まれていることが分かったということです。荷物は南米・ペルーから発送されていて、最終目的地は香港の個人宅だとしています。
- オランダ検察当局は、同国警察がロッテルダム港でヘロイン5トンを押収したことを明らかにしています。検察は声明で「国内では過去最大のヘロインの押収量だ」と発表、末端価格で4,500万ユーロ(約57億円)の価値があるといいます。ヘロインはパキスタンから到着した大量の塩が入ったコンテナから発見され、捜査は英当局の協力を得て実施され、今月に入り33~62歳の5人の容疑者が逮捕されたということです。欧州最大の規模を誇るロッテルダム港は、コカインやヘロインを欧州大陸に密輸するための一大拠点となっています。
- 韓国の海洋警察当局は、南部の釜山にある釜山新港に停泊していたリベリア船籍のコンテナ船から、コカイン約35キロ、末端価格で約1,050億ウォン(約99億円)相当を押収したと発表しています。報道によれば、コンテナ船が南米のコロンビアを出港して韓国に向かっていた際、船内に大量のコカインが隠されているとの情報提供が韓国海洋警察にあり、捜査を進めていたもので、35キロは100万人が使用できる量だといいます。船員はギリシャ人やロシア人、ウクライナ人ら24人で、海洋警察は船員がコカインの運搬に関わっていたかや、流通経路などについて調べを進めているということです。
(4)テロリスクを巡る動向
最近の危機管理の重大なテーマのひとつが「気候変動リスク」だとの認識が高まっています。先ごろ公表されたデロイトトーマツグループの「企業のリスクマネジメントおよびクライシスマネジメント実態調査 2020年版」でも、1位がコロナ禍を受けて「疫病のまん延(パンデミック)などの発生」(34%)に続き、第2位に「異常気象、大規模な自然災害」(31%)があげられています。気候変動が話題になっているほか、豪雨なども相次ぎ意識が高まった背景に挙げられると思います。先月、国連安全保障理事会が開催した気候変動問題を巡るハイレベル会合において、議長を務めた英国のジョンソン首相が、「気候変動は安全保障上の脅威だ」として国際社会の連携を呼びかけたことが注目されます。ジョンソン首相は、気候変動の影響について、自然災害で住む場所を奪われるなどして不満を持つ人が「過激主義者に取り込まれる」と懸念を示したもので、気候変動リスクのひとつに「テロリスク」も含まれることを実感させられました。確かに、人心・国土の荒廃、貧困や社会不安の増大がテロを生む土壌となることは本コラムでもたびたび指摘してきたところであり、その背景要因として気候変動リスクを位置付けることも納得できるところです。
さて、シリアに渡ったイスラム教スンニ派過激派組織「イスラム国」(IS)の帰還問題については、以前の本コラムでも取り上げています。そのひとつ、IS戦闘員の妻で、故郷の英国への帰還を拒まれた女性(21)が英政府による国籍はく奪決定に異議を申し立てた問題について、先月、英最高裁は、「安全保障上のリスク」を理由に女性の入国を認めない判断を下しています。報道によれば、英控訴院は昨年7月、シリアに滞在したままでは国籍はく奪に関して公正な申し立て手続きを望めないとして、入国を認めるべきだと判断したことに対して、英政府が上訴していたものです。本件について、英ジョンソン首相は「国の安全維持」が優先事項だとして最高裁判断を歓迎しています(なお、あくまで国籍はく奪を巡る審理を公正に行うために入国することは認められないとの判断であり、最高裁は審理について、現在シリアの難民キャンプに滞在している女性が安全な場所から参加できるようになるまで一時停止するべきだとも述べています)。また、NZのアーダーン首相は、トルコで拘束され、ISへの関与が疑われている、NZとオーストラリアの二重国籍を持つ女性(26)について、豪が「一方的」に市民権を取り消し、責任を放棄したと非難しています。報道によれば、トルコ当局は、NZ国籍でISのメンバーとされる女性と子供2人がシリアから違法な入国を試みたとして拘束、豪のモリソン首相は「私の仕事は国益を守ることで、国家安全保障上の利益を最優先することだ。これには全国民が同意するだろう」として、テロ活動に関与した二重国籍者の市民権は自動的に取り消されると述べています。これに対してアーダーン首相は、「逆の立場なら、われわれは責任を取るだろう。それが正しいことでオーストラリアにもそうするよう求める」、「競い合って市民権を取り消すことが正しい対応だとは思わない。誠意のある行動ではない」と述べています。また、NZ政府は状況や犯した罪にかかわらず、市民への義務があるとし、「自ら選んで紛争地域に生まれたわけではない」2人の幼い子どもが関わっていることを考慮し、判断する方針を表明しています。これらの問題は、暴排においても同様の構図を有しています。暴排の実務(とりわけ口座開設時の判断など)においては、子どもはあくまで別人格としつつ、その関係性において暴力団等反社会的勢力と関係がないことが確認できれば問題なしと判断するのに対し、配偶者については、経済的一体性やなりすまし等が高い確度で否定できないことから、いったん排除の方向で考えることが一般的です。ISと暴力団というともに「市民生活への脅威」という点で共通しているところ、とりわけISについては「国家安全保障上の脅威」と認識されている以上、危機管理上はより慎重な対応をすべきとなります。一方で、人道上は別人格として一市民、一国民として扱うべきであるとの考え方も正しく(こちらは、「犯罪者の子どもを犯罪者と同一視できない」、「子どもは親を選べない(自ら選んで生まれたわけではない)」という考え方が近いと思われます)、あとはアーダーン首相が「われわれは責任をとる」と述べているとおり、政府だけでなく、一市民、一国民としてそのリスクを「受容する」との合意が形成されているのであれば、受け入れることが可能となるものと思います。いずれにせよ、ISの問題・テロリスクについては、このようなところにまで深刻な影響を及ぼしている現実は認識しておく必要があります。
アフガニスタンの反政府勢力(旧支配勢力)タリバンと米国が、和平に向けた合意を結んでから2月末で1年が経過しました。この間、アフガン政府とタリバンの和平交渉も始まったものの、進展はありません(直近では、タリバンの報道担当者は、タリバン幹部らが米国のアフガン和平担当特別代表と会談したと明らかにしています。双方は昨年2月の米タリバン和平合意の完全履行について協議した模様であり、バイデン米政権発足後、同氏がタリバンと公式会談するのは初めてとみられます)。タリバンの攻勢は激化し、バイデン政権に移行した米政府は、今年5月を期限とする米軍撤収計画の見直しを視野に、タリバンが国際テロ組織アルカイダとの関係を維持するなど「米国との合意事項を履行していない」との批判を強めながら、合意の再検証を進めています。タリバンは和平合意に際し、一時は暴力行為を抑制しましたが、そもそも和平に消極的なガニ政権は、昨年3月に予定されていたタリバンとの交渉開始を何度も先送りし、9月になってようやく交渉が始まったばかりであり、一方のタリバンはこの後、ガニ政権に圧力をかけようと武力攻撃を活発化させ、政府軍も空爆など軍事行動を強化するという悪循環に陥っています。国連アフガン支援団(UNAMA)は先月、アフガンでは昨年10~12月に民間人891人が死亡、1,901人が負傷、死傷者数は2019年の同時期より45%増えたとして「交渉が始まってから民間人死傷者が急増している」と指摘する報告書を発表したほか、テロ専門家も「和平のためでなく、米国が紛争から撤収するためのものだった。米国の「譲歩」により「タリバン(強硬派)の中核が釈放され、その8割超が暴力的傾向に回帰した」と指摘しています。このようにアフガン政府とタリバンの交渉が停滞する中、拙速な撤収はタリバンを勢いづかせ、治安悪化を招くとの懸念が強まっていることが背景にあります。一方、地政学上関係の深いロシアやパキスタンも、この地域での影響力拡大などを狙い、独自の外交を展開しているとされます。このような状況をふまえれば、拙速に撤退を期限どおり実施するのではなく、撤収期限の延長交渉によって、双方が合意履行に取り組むことがまずもって重要ではないかと考えます。
その他、テロリスクを巡る最近の報道から、いくつか紹介します。
- 西アフリカで深刻化するイスラム過激派への対策を話し合う首脳会議が開かれ、オンラインで参加したフランスのマクロン大統領は、現地に派遣している5,100人規模の部隊を当面、削減しないと明らかにしています。報道によれば、フランス国内では自国兵の犠牲が続いたことなどから部隊の縮小・撤退を求める声が上がっていましたが、治安への悪影響が大きいと判断したということです。関連して、本会議では、チャドのデビ大統領が、サハラ砂漠一帯のテロ対策を話し合う関係国首脳会議で、サハラ周辺各国は「テロを生み出す土壌となっている貧困」と戦っていると強調、テロリストにならざるを得ない貧困層の悪循環を断ち切るため「早急に」国際社会がサハラ開発のための基金を立ち上げるよう訴えたということです。
- ブリンケン米国務長官は、深刻な人道危機に対応するため、イエメンのイスラム教シーア派武装組織「フーシ派」のテロ組織指定を解除すると発表しています。ただ、フーシ派幹部に対する追加制裁を導入する可能性があるとも警告しました。トランプ前政権は政権交代前日の1月19日付でフーシ派を海外のテロリスト組織に指定しましたが、和平協議や人道支援活動に悪影響が及ぶ可能性があるとして国際社会から批判が出ており、バイデン新政権は速やかにこの決定の反転に動いた形です。一方で、フシ派幹部3人は財務省の制裁対象からは外されないとし、活動を緊密に注視していく姿勢を示しています(なお、3人のフーシ派幹部は国連の制裁対象にもなっています)。
- 米国防総省は、シリア東部で親イラン武装勢力の施設を空爆したと発表しました。イラクの駐留米軍施設が2月15日に攻撃されたことへの対抗措置だとしています。バイデン政権に交代後、空爆実施が明らかになったのは初めてとなります。イランが支援するイスラム教シーア派武装組織「カタイブ・ヒズボラ」などが使用する複数の施設を破壊したということでしが、報道によれば、現地情勢が悪化しないよう、「慎重な手法」を用いたと表現しており、空爆は比較的小規模だったとみられています。イラクでは2019年以降、米大使館や米軍施設を狙った攻撃が多発しており、イラクの駐留米軍施設への15日の攻撃では、施設の関係者1人が死亡し、米兵を含む複数の負傷者が出たといいます。なお、本件については、、シリア外務省は、卑劣な行為と非難した上で、バイデン政権は「トランプ前政権のように弱肉強食の法則に従うのではなく、国際的な正統性に目を向けるべき」と表明しています。さらには、ロシア外務省も強く非難しており、シリアの主権と領土保全を無条件で尊重するよう求めています。
- デンマーク当局は、ドイツ当局との合同捜査で、両国のいずれかでのテロを計画し、爆発物を製造しようとした容疑で計14人を逮捕したと明らかにしています。報道によれば、容疑者らはイスラム過激派に共鳴していたとみられており、両当局は、ライフル銃や起爆装置のほか、ISの旗を家宅捜索で押収したということです。なお、逮捕者のうち3人はシリア人の兄弟との報道もあります。
- ミャンマー国軍によるクーデターで拘束されたアウン・サン・スー・チー氏が率いる国民民主連盟(NLD)の議員らが結成した「連邦議会代表委員会」は、国軍の設置した最高意思決定機関「国家統治評議会」を「テロ組織」と宣言しています。報道によれば、同委員会は声明で「国軍はクーデターを起こして不当に主権を奪った」と非難、「銃撃や殴打、拘束などの罪を犯した。非武装市民に対する宣戦布告に等しい」と訴えています。国軍は同委員会を違法と認定し、脱退を表明しなければ「厳罰に処す」とメンバーに警告している状況です。
- ナイジェリア北西部のザムファラ州で、武装集団が学校を襲撃し、女子生徒279人が拉致されましたが、その後全員が無事解放されています。ナイジェリア北部では、身代金目当てで学校を襲撃し子どもを拉致する事件が頻発、2月27日にも、武装集団に拉致された10代の男子生徒27人が解放されています。武装集団の人数や動機は不明で、ナイジェリア政府は、身代金支払いを拒否していますが、これだけ頻発して、かつその後全員が解放されていることを鑑みれば、身代金が実際に支払われている可能性が高いように思われます。(人命第一であるとはいえ)身代金が武装組織(テロ組織)の活動資金源となってしまっている(さらには犯罪を再生産してしまっている)のであれば、大変由々しき状況だといえます。
- ノーベル平和賞受賞者で女性人権活動家のマララ・ユスフザイさん(23)に対し、2012年に瀕死の重傷を負わせたイスラム武装勢力「パキスタン・タリバン運動(TTP)」の幹部とみられる男が、ツイッターで脅迫したとパキスタン紙が報じています。ツイッターはこの男のアカウントを閉鎖したということです。報道によれば、この幹部はTTPの元広報担当で、パキスタン当局が2017年、身柄を拘束したものの、昨年逃亡したといい、ツイッターに、マララさんへの次の襲撃では「失敗しない」と投稿したということです。
(5)犯罪インフラを巡る動向
新型コロナウイルスのワクチンを巡ってさまざまな犯罪が実行されていますが、匿名性の高いインターネット空間「ダークウェブ」上に中国製などの新型コロナウイルスワクチンの売買を持ち掛けるサイトがあることが判明しています。報道によれば、調達の詳しい経緯の記載はなく、偽物の可能性があります。当然ながら、ワクチン確保は国の最優先課題であって、厳格に管理されていることから、闇市場に出回ることはない(あってはならない)はずであり、警察当局は「ワクチン接種が日本でも始まり順番待ちになると、一般的なウェブでも出回る可能性がある」として、新手の詐欺の出現に警戒を強めているといいます。一方、偽ワクチンの密売組織が実際に摘発されています。国際刑事警察機構(ICPO)は、南アフリカと中国の当局が偽の新型コロナウイルスワクチンの密売組織を摘発し、計約80人を拘束したと発表、捜査を支援したICPOのストック事務総長は「コロナウイルスワクチンに絡む犯罪の氷山の一角にすぎない」として、警戒を呼び掛けているといいます。報道(2021年3月4日付日本経済新聞)によれば、南アフリカ当局は、最大都市ヨハネスブルクのあるハウテン州の倉庫で、約2,400回分に当たる偽ワクチンの小瓶約400個を発見し、中国国籍の3人とザンビア国籍の1人を拘束、大量の偽ブランドのマスクも見つかったといい、南アフリカ国内で販売しようとしていたとみられています。また中国の警察は、偽ワクチンの密売ネットワークを突き止め、製造拠点を捜索、約80人を拘束し、多数の偽ワクチンを押収したということです。さらに、ICPOには、高齢者施設などを狙った偽ワクチン販売や詐欺の情報も寄せられており、捜査を続けるとしています。ワクチンを巡っては、ワクチンを開発する医薬品メーカーや医療機関、物流業者を狙ったサイバー攻撃が欧米諸国で相次いでいるといいます(直近では、新型コロナウイルスワクチンの承認審査を行うEU機関、欧州医薬品庁(EMA)に対して中国のスパイとロシア情報機関が昨年、サイバー攻撃していたとの報道がありました)。報道によれば、日本でも5社がワクチン開発を本格的に進めているところ、不審な動きがあることが確認されているといいます。ワクチン接種が本格化しつつある今、官民一体となった対策が急務だといえます。報道(2021年2月26日付毎日新聞)によれば、課題となるのが物流業者を狙ったサイバー攻撃で、日本で接種が始まった米ファイザー製のワクチンは超低温での保管や輸送が必要で、物流が滞れば接種日程への影響が避けられない一方で、物流業者などの対策については、ワクチンメーカーは「連携する企業が各々にとっている」などとしており、サプライチェーンにおける脆弱性となっていないか懸念されるところです。米連邦捜査局(FBI)や米国土安全保障省などは、中国、ロシア、北朝鮮、イランの4カ国が攻撃を仕掛けていると分析しているほか、ICPOは昨年12月、「組織犯罪はワクチンを標的に据えている。(物流など)サプライチェーンを含め、混乱に陥れようとしている」と厳重な警戒を呼び掛けています。残念ながら、ワクチンの存在そのものが多様な犯罪を助長している状況であり、官民挙げて、あらゆる知見と危機感を総動員して対応にあたることが求められているといえます。
デジタルプラットフォームが生活に必要不可欠なインフラとなっている一方で、本コラムで指摘してきているとおり「犯罪インフラ化」も深刻化しています。アマゾンのほか、楽天、ヤフーなど大手IT企業などが運営する電子商取引(EC)モールをめぐるトラブルが増えている中、現行法ではこうした取引に関する法律が未整備で、消費者が泣き寝入りするケースも少なくない現状をふまえ、消費者庁は今国会に「取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律案」を上程、先日、閣議決定されています。新法では、モール運営会社に対し国が模倣品や過去に事故のあった商品など違法性のある商品の販売停止を要請できるほか、トラブルにあった消費者が販売事業者の連絡先などの情報の公開を求めることができるような仕組みもつくるほか、消費者からの苦情に基づいて調査や措置を講じる努力義務が課されています(なお、新法は、メルカリなど消費者間の「CtoC」取引については対象外となる見通しです)。さらに、モールの運営会社や消費者団体、行政などが参加する官民協議会を設置し、情報交換や対策について議論をする場を設ける予定のほか、事業者側は共同で「オンラインマーケットプレイス協議会」を設立、昨年12月には会員企業が消費者保護のために行っている取り組みを公開、これまで取り組みを行っていても、PRが不足しており消費者が見つけにくいなどの課題があったところ、協議会のHPから主な通販サイトの消費者保護の取り組みを確認し比べられる仕組みの提供を始めています。個別の事業者もそれぞれ自主的な取り組みを強化しており、官民挙げて安全な取引の確保に向けて動き出しているところです。とはいえ、デジタルプラットフォーム上でのトラブルやあらたな犯罪に悪用される状況などいたちごっこが続いています。最近では、フリマアプリ「メルカリ」で商品の取引を装って法外な利息で現金を貸し付けたとして、無職の容疑者が出資法違反(超高金利)の疑いで大阪府警に逮捕されています。報道によれば、2020年1月、メルカリを介して名古屋市の会社員の女性(29)ら2人に対し計45,000円を貸し付け、法定利息の約30倍の約1万円の利息を受け取ったというものです。また、未承認の勃起不全(ED)治療薬を無許可で販売したとして、京都府警は、看護師の女(32)を医薬品医療機器法違反容疑で逮捕しています。報道によれば、女は昨年5~11月頃、「メルカリ」で、未承認のインド製ED治療薬「サビトラマックス」6箱(計20,400円)を男性会社員3人(38~54歳)に無許可で販売した疑いがあるということです。京都府警がサイバーパトロールで発見したもので、女は、少なくとも男女10人に計20箱(約62,000円)を販売したとみられ、健康被害は確認されていないということです。あるいは、報道によれば、商品を買い占め、高値で売る高額転売の影響が深刻化しており、、「メルカリ」などは転売を繰り返す「転売ヤー」への対策を急ぐものの、禁止する法律はなく、決定打に欠けるのが現状だといいます。不当な高値での購入を余儀なくされる消費者が損をするだけでなく、消費者に正常に商品が届かないことで、市場そのものを破壊しかねないリスクも孕んでおり、メーカーや小売企業も対応に乗り出しているといいます。転売ヤーの問題ではコロナ禍におけるマスク問題(マスクの高額転売問題)が典型でしたが、同社は、この問題をふまえ、昨年7月に「メルカリ」の運営・管理の基本原則を議論する有識者会議を設立、需給バランスが著しく崩れ、急激に価格が高騰した生命身体の安全や健康維持に関わる必需品について1次流通の供給状況を確認して、出品禁止などの規制に乗り出す方針を打ち出しています(本件については、前回の本コラム(暴排トピックス2021年2月号)を参照ください)。今後の対策として、一時的な価格の急騰を知らせるアラートを購入者に提示することを、今春から夏にかけて実装する計画だといいます。また研究開発部門では研究倫理と運用法の策定が進んでおり、倫理的・法的・社会的課題(ELSI)に対して、それぞれの視点から審査できる人材育成を進めているといいます。
その他、最近の犯罪インフラに関連する報道から、いくつか紹介します。
- 2021年2月10日付読売新聞の「高額請求トラブル、修理業者に共通点…10社以上の「本社」が同じビルの部屋番号」の記事の中で、最近深刻化しているトイレや風呂場などの水回り修理の高額請求問題において、トラブルになっている修理業者に、いくつもの共通点があることが指摘されています。具体的には、兵庫県加古川市の男性と神戸市北区の男性が、水回りの修理業者と交わした「工事請負契約書」を見ると、「問題となった業者名は最後に「設備」と付いている以外は異なるが、工事の内訳、金額などを書き込む欄など契約書のフォーマットは同じで、裏面のクーリングオフに関する文言も一致、そして、それぞれの「本社」とする所在地は、神戸市中央区内の同じビルで、しかも部屋番号も同一」だったことが判明したというものです。結論から言えば、これは「バーチャルオフィス」であり、実体と実態を仮装し、信頼を得るための「ハコ」に過ぎなかったということです。このようなペーパーカンパニーが犯罪に悪用されるケースは枚挙に暇がなく、個人だけでなく法人取引においても、相手企業の実在性(実体と実態)に十分な注意が必要です。
- 本コラムでたびたび注意喚起している「給与ファクタリング」について、ヤミ金融を営業したとして、北海道警が都内や埼玉県の男女5人を貸金業法違反(無登録)容疑で逮捕しています。報道によれば、本事件では、グループは借金の返済期限が迫った顧客に対し、LINEなどで執拗に督促を繰り返していたということです。同店は2019年5月頃にヤミ金融の営業を開始、全国約1,200人の顧客に計3,500回にわたり、総額約1億円の「融資」をしたといい、コロナ禍においてもインターネット上で特定のキーワードに関連する広告を自動的に表示する「検索連動型広告」を悪用して営業を続け、資金繰りに窮した人から約1億6,000万円を回収したとみられています。道警は、グループが貸付金の回収や審査などの役割を分担して、組織的に営業していたとみており、出資法違反容疑でも追及する構えだということです。また、将来の給与を担保に現金を渡す「給与ファクタリング」が貸金業に当たり、手数料名目で法外な金利を求める契約は無効だとして、5都県の男女9人が業者に総額約430万円の返還を求めた訴訟の判決で、東京地裁は違法と認め、全額を返還するよう命じています。報道によれば、裁判長は、こうした手法が「貸金業に当たる」と認定、貸金業を営むために必要な登録を受けず、手数料として年利換算250%を超える違法な金利を受け取ったとし「契約は無効」と判断しています。悪質な融資としては、個人間融資のうち「ひととき融資」などと呼ばれる手口で、横浜市中区の無職女性(26)ら2人の口座に3回にわたって計160万円を送金し、神奈川県知事の登録を受けないで貸金業を営んだ疑いで男が逮捕されています。男は、貸し付け時や返済時などに性行為をする条件を付け、自ら用意した婚約証明書に署名させていたといい、調べに対し、「婚約者にお金を貸しただけです」と容疑を否認しているといいます。なお、「ひととき融資」による逮捕は神奈川県内では初だということです。
- 全地球測位システム(GPS)機器を使って相手に無断で位置情報を得る行為などを新たに規制対象に加える「ストーカー規制法」の改正案が閣議決定されました。改正案では、元交際相手らの承諾を得ずに、車に取り付けたGPS機器や、居場所を把握できるスマートフォンのアプリなどの装置を使って位置情報を取得する行為を禁じられ、位置情報を把握できる装置を無断で取り付けるだけでも規制の対象となることになります。また、相手を見張ったり押しかけたりすることを規制する場所に、これまでの住居や勤務先、学校など普段いるところのほかに、外出先の飲食店やイベント会場など移動先も加えられました。さらに、規制対象となるメッセージをしつこく送る行為には、電話や電子メール、SNSに加えて手紙などの文書を含められました。その他、都道府県公安委員会が禁止命令を出す際は、受け取りを拒む加害者の住居に命令書を送付することも認める、住居が分からない場合も決められた場所に2週間掲示すれば発効する仕組みとするなどの改正となっています。GPSを巡ってはグレーな部分が多く犯罪インフラ化が深刻化しているところ、その害悪の大きさから規制強化に踏み込んだことで犯罪の抑止につながることを期待したいところです。
- 神戸地裁は今年1月、神戸市内などのマンションで、合鍵を使って空き巣を繰り返し、現金約400万円などを盗んだ30歳代の男に懲役3年の実刑判決を言い渡しています。報道によれば、男は家主に気づかれることなく合鍵を次々と複製し、犯行に及んでいたといいます。マンションの集合ポストの隙間をのぞき、合鍵がないかを確認、鍵があると、鍵に刻印された「鍵番号」と「製造会社名」を記録し、所有者を装って鍵会社に複製を依頼していたというものです。この「鍵番号」と「製造会社名」があると、複製は簡単にできるといい、その脆弱性が突かれた形となり、実際に犯行を助長する犯罪インフラ化してしまったといえます。さらに、男は、所有者とは異なる実在する人物の名前と住所を伝えており、鍵会社から完成の連絡があると、宅配業者の「配送状況」をインターネットで閲覧し、到着時間を予測、家の前で家人になりきって受け取っていたということです。これも他人のカードで本人になりすまして買い物をする(受取を営業所にする、受取場所を途中で「空き家」等に変更するといったバリエーションもあります)、薬物を宅配で受け取るといった場面でよく使われる手口で、宅配便の「対面なのに匿名性の高い」モノのやり取りに潜む脆弱性が突かれた形といえます。
- 偽造在留カードを所持したとして、愛知県警国際捜査課などは、入管難民法違反(偽造在留カード所持)の疑いで、自称中国籍の容疑者ら男2人を現行犯逮捕しています。報道によれば、容疑者の自宅からは大量のカードが押収されており、自宅で在留カードを偽造し、全国に発送していたとみて調べているということです。報道によれば、容疑者宅から無地のカード約6,750枚や偽造カード約250枚、ホログラムシールなどが見つかったといい、1枚2,000~3,000円で販売し、昨年8月から半年で1,000万円以上を売り上げていた疑いがあるということです。偽造カードの名義などから、依頼のほとんどがベトナム人とみられ、偽造の住民票や運転免許証も見つかったと報じられています。このような「道具屋」の存在が犯罪を支えているのであり、在留カード以外にも免許証やパスポートなども専門の「道具屋」が存在することが知られています(積水ハウスから約53憶円をだまし取った「地面師」事件でも、偽造パスポートが本人確認手続きにおいて重要な役割を果たしてしまいました。なお、同事件については、暴排トピックス2018年11月号などでも取り上げています)。
さて、国内外でサイバー攻撃が多発しており、多大な損害が生じています。
▼警察庁 令和2年におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について
警察庁が昨年1年間に確認したサイバー攻撃とみられる不審なインターネット接続が、過去最多の1日平均6,506件(前年比55%増。ここ5年で約9倍になっています)に上ったことがわかりました。新型コロナウイルスの感染拡大でネットを利用する人が増えた影響もあるとみられるほか、家電などの「IoT機器」への不審接続も目立っており、同庁が注意を呼びかけています。不審接続の発信元はロシアが22%、オランダが17%、米国が16%、中国が11%となりました。大半は攻撃の中継地点だったとみられています。さらに、全体の7割超(4,931件)は、スマートフォンで遠隔操作できる掃除機やスピーカーなどの家電や、工場の機械など、ットにつながるIoT機器が標的になっていたといい、機器が乗っ取られ、サイバー攻撃の「踏み台」にされるケースがあるということです。さらに、コロナ禍で導入が進んだテレワークのシステムも標的となり、1日平均45件の不審接続が確認されています。また、身代金要求型のコンピューターウイルス「ランサムウエア」の被害が深刻になっています。「トレンドマイクロ」によると、2020年に国内の法人からあった感染報告は93件で、前年の1.8倍に上ったほか、警察庁にも企業などから23件の被害相談があったということです。報道によれば、警察庁はサイバー空間の脅威について「極めて深刻な情勢」とし、警戒を強めているといいます。攻撃の侵入経路は、脆弱性が指摘されるVPN(仮想専用線)などが目立っており、VPNは在宅ワークでも利用されている点には注意が必要です。さらに同社では、「以前はウイルスメールを広くばらまいて攻撃することが多かったが、最初から標的を絞るようになっている」と指摘しています。また、四半期ごとの感染報告は4~6月が23件、7~9月24件、10~12月32件と増加していることも分かりました。また、海外では、米マイクロソフト(MS)の企業向け電子メールソフト「エクスチェンジサーバー」がハッカー攻撃を受けている問題が深刻化しており、報道によれば、米国のサキ大統領報道官は「継続中の脅威だ。大きな被害が懸念される」と述べ、政府として対応を検討していると明らかにしています。MSは中国政府が支援するハッカー集団の攻撃としており、同報道官は、脆弱性をカバーするためのアップデートを早急に行うよう利用者に呼び掛けています。MSが「ハフニウム」と名付けたハッカー集団の主な標的は米国の事業者で、感染症研究者や法律事務所、高等教育機関も含まれているといいます(2万を超える米国の中小企業や地方自治体といった組織が、アジアと欧州でも数万の組織が、全世界で25万を超える組織が侵入された可能性があるとの報道もあります)。また、サイバー攻撃ではありませんが、画像共有アプリ「インスタグラム」上に北海道の企業や自治体を装う偽アカウントが増えている点にも注意が必要です。公式アカウントをかたって個人情報を引き出す手口(フィッシング)で、「常に偽物だと思って使う側も注意するしかない。面倒でも公式サイトなど正面玄関からアクセスするのが安全だ」と専門家が警鐘をならしています。企業からの注意喚起はもちろんのこと、被害を防止するためには利用する消費者側も最大限の注意を払う必要があるといえます。
世界規模で被害が広がり「最恐」とも言われたコンピューターウイルス「エモテット」が今年1月下旬、壊滅に追い込まれました。欧米の捜査当局が連携した極秘の「テントウムシ作戦」の成果だということです。首謀者のハッカー集団も浮かび上がり、今後の実態解明に期待がかかるところです。欧州刑事警察機構(ユーロポール)の発表によれば、テントウムシ作戦にはオランダ、ドイツ、米国、英国、フランス、リトアニア、カナダ、ウクライナの捜査当局などが参加、エモテットに指示を出すサーバーの所在を把握したこれら8カ国が、自国内にあるサーバーの押収や停止に乗り出したといい、元締となる重要なサーバー3台のうち2台はオランダにあったということです。ユーロポールなどは、押収したサーバーなどから得た情報を、日本を含む各国に提供し、感染したパソコンの特定や被害の確認に活用し始めています。日本では警察庁や総務省が中心となり、近く利用者に通知を届けることしています(警察庁によれば、感染した端末に関する情報約26,000件が海外の捜査当局から寄せられたといいます)。なお、エモテットは、押収されたサーバーを通じて自ら消滅するよう指示され、4月25日正午にパソコンから完全に消えるということです。
▼警察庁 サイバー犯罪対策プロジェクト マルウェアに感染している機器の利用者に対する注意喚起の実施について
海外の捜査当局から警察庁に対して、国内のEmotetに感染している機器に関する情報提供がありました。令和3年2月下旬から準備が整い次第、当該情報をISPに提供し、ISPにおいて、当該情報に記載されている機器の利用者を特定し、注意喚起を行います。注意喚起の連絡を受けた方は、利用している機器からのEmotetの駆除などの必要な対策を行ってください。また、本注意喚起でのISPからの連絡では、ID・パスワード等の入力を求めたり、料金を請求したりすることはありませんので、注意喚起に乗じたメール等による犯罪被害に遭わないよう、御注意ください。
- 取組の概要
- 令和3年2月下旬から、警察庁、総務省、一般社団法人ICT-ISAC及びISPが連携して、マルウエアEmotet(エモテット)に感染しているおそれのある利用者への注意喚起を行う取組を開始しました。
- 本取組は、海外の捜査当局から警察庁に対して、国内のEmotetに感染している機器に関する情報提供があったことから、当該情報をISPに提供し、ISPにおいて、当該情報に記載されている機器の利用者を特定し、2月22日以降に注意喚起を行うものです。
- Emotetの概要・対策
- Emotetは、主にメールの添付ファイルを感染経路としたマルウェア(不正プログラム)であり、Emotetに感染すると、感染端末からの情報漏えいや、他のマルウエアの感染といった被害に遭う可能性があります。
- Emotetのより詳細な概要及び対策については、@policeの「Emotetの解析結果について」を御確認ください。
- また、本取組に係るISPからの注意喚起を受けた方やEmotet感染の有無を確認したい方は、総務省が設置しているNOTICEサポートセンターの問合せ窓口ページ又はJPCERT/CCが公開している「マルウエアEmotetへの対応FAQ」を御確認ください。
- 注意喚起を受けた方の問合せ先
- 本取組で注意喚起対象となる機器の利用者に対して、総務省が設置しているNOTICEサポートセンターがウェブサイトや電話による問合せ対応等を通じて必要な対策を案内しています。
- なお、ISPやサポートセンターから、費用の請求や、設定しているパスワードを聞き出すことはありません。
- サイバー攻撃に悪用されるおそれのあるIoT機器等に関して注意喚起を行う取組である「NOTICE」において、利用者への問合せ対応を実施。
- NOTICEサポートセンター
- TEL:0120-769-318(無料・固定電話のみ)、03-4346-3318(有料)
▼Emotet注意喚起に関する問合せ窓口ページ(外部サイト)
▼Emotetの解析結果について
なお、エモテットのテイクダウンに関連して、「FonixCrypter」や「Xinof」との名称でも知られるランサムウエア「Fonix」の攻撃グループが活動を停止し、暗号化に用いたマスターキーを公開しています。これを受けてセキュリティベンダーでは復号ツールを公開しています。同ランサムウエアは、2020年夏ごろより活動していたランサムウエアで、「RaaS(Ransomware as a Service)」として提供され、メールなどで攻撃が展開されたものです。珍しいことですが、経済悪化により犯行に至ったなどと動機を説明、被害者へ謝罪した上で今後は贖罪のためにマルウエアの分析情報を公開すると述べているようです。
その他、最近のサイバー攻撃やSNSの犯罪インフラ性を巡る報道から、いくつか紹介します。
- NTTドコモの電子決済サービス「ドコモ口座」を使って連携する銀行の預金が不正に引き出された事件で、警視庁は、引き出した預金を使いスマートフォン決済の「d払い」で買い物をしたとして、ともに中国籍で、留学生の男女2人=電子計算機使用詐欺容疑で逮捕=を詐欺容疑で再逮捕しています。調べに対し、中国系の無料通信アプリ「WeChat」で知り合った人物から指示を受けたと供述しているということです。3人の通信記録を解析したところ、ドコモ口座開設に必要なアカウントが何者かによって不正に取得されてから24時間以内に商品が不正購入されていたことも判明、3人は約10日間に約670万円分の物品を不正購入したとみられています。捜査本部は、中国の犯罪組織が不正発覚を防ぐために「買い子」に短時間で大量の商品を購入させ、換金目的で物品を送らせたとみているといいます。
- 銀行やクレジットカード会社の偽サイトに誘導し、利用者のIDやパスワードを盗み取るフィッシング詐欺もまた急増、今年1月の報告件数は前年同月比6倍強の約4万件に達しています。2021年2月15日付日本経済新聞に興味深い記事があり、以下、一部引用します。「対応が鈍い銀行の口座は「都合のよい口座」としてネット上で高値で売買されている」との指摘は正に、特殊詐欺における高齢者の名簿(しかも被害にあったことのある高齢者の名簿ほど高く売れる)と同じ構図であり、さらには、暴排にしっかり取り組んでいる事業者がその姿勢を「見せつける」(審査・手続き・契約書などのほか、営業担当者のコンプライアンス意識の高さ、揺さぶりにもブレない姿勢など)ことが重要であることにも通じるものがあります。組織犯罪との戦いはいかに「脆弱性」のある部分や「抜け道」を自ら見つけ、速やかに塞いでいくこと、その取り組みを継続していくことが重要であることが分かります。
- ドコモ口座不正引き出し事件については、ソフトバンクの携帯電話を購入した顧客の情報約6,400件を不正に持ち出したとして、警視庁サイバー犯罪対策課などに、不正競争防止法違反(営業秘密領得、使用)容疑で、販売代理店を経営していた容疑者が逮捕された事件と関係しています。不正に持ち出された情報は、銀行の口座番号やネットワーク暗証番号などで電子決済サービス「PayPay」や「ドコモ口座」の不正引き出し事件に使われていたことが判明したからです。この事件では、容疑者が2015年~2018年にソフトバンクの携帯電話を購入した顧客の情報を複製してリスト化し、別に手がけていたウォーターサーバー事業の営業活動に使用したというもので、リストは情報が不完全なものも含め約9,500件に上っていたといいます。
- 「闇バイト」に応募して犯罪グループに一度加担してしまって以後、グループから抜け出せず、精神的に追い詰められ自殺してしまった大学生がいたといいます。報道によれば、「闇バイト」に応募して以降、「テラサキ」と名乗る人物から何度も連絡が来るようになり、面識のない人物から自宅近くで現金を直接受け取り、指定された口座に送金するといった依頼が、約2カ月間で数十回にも及んでいたということです。大学生は現金を自分名義の口座で暗号資産に変換し、海外のサーバーなどを経由して首謀者らに送金していたとみられています。闇バイトでは最初に免許証などの本人確認資料を提出してしまい、あとでグループを脱退したくてもそれを公開すると脅されて抜け出せない状況に追い込まれるケースも多いと聞きます。また、闇バイトの絡む別の事件では、強盗や女性の連れ去りを依頼する書き込みがあり、それに応募した男が脅迫で逮捕されるというものもありました。ネットの掲示板やSNSが「闇バイト」募集の場として犯罪を助長している実態があります。
- SNSの犯罪インフラ化としては、SNS上の話題を追いかける上場投資信託(ETF)が米国株式市場に登場したことへの懸念が挙げられます。一部銘柄が乱高下した「ゲームストップ株騒動」をきっかけに、オンライン掲示板上の書き込みに注目が集まっており、商品化の好機とみたようですが、ネット上で影響力を持つブロガーが、構成銘柄を決める指数管理会社に関与しており、運営上の危うさを指摘する声もあがっています。自らがSNSに投稿した銘柄を組み込むことで収益を不正に得る可能性、市場の公正性を歪めてしまうことが危惧されます。
- 前回の本コラム(暴排トピックス2021年2月号)でも取り上げた人気の音声SNS「Clubhouse(クラブハウス)」については、証拠が残らないテレグラムやシグナルといったSNS同様、犯罪者やテロリスト同士のやり取りに悪用される危険性が指摘されていますが、個人データ管理の不透明さを問題視する指摘も出ています。利用者に会話の録音を禁じる一方、運営側は利用者間の会話を録音しデータの扱いの説明も曖昧で、利用者から知人らの個人情報も集める手法にも欧州当局が警鐘を鳴らしているといいます。サービス拡大に向け、データ保護体制の強化が課題になるといえます(外部からは、会話内容を中国のサーバーに移管される「抜け道」が見つかったとの指摘もありました。中国のソフトウエア開発会社アゴラがクラブハウスにサーバーなどのいわゆる「バックエンド」のインフラを提供していることが確認され、アゴラが会員の会話を入手できる状態にある公算が大きく、中国政府にデータを提供している可能性があるとされました)。
- トランプ前米大統領の支持者らが愛用していた新興SNS「Parler」が、約1カ月ぶりに利用可能になりました。パーラーは1月6日に発生した米連邦議会議事堂の占拠事件への関与が疑われ、同月11日から使えない状態が続いていたものです。パーラーは従来、米アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)からサーバーの提供を受けて運営していましたが、1月6日の事件を受けて同社が「暴力を助長・扇動する投稿を削除できない顧客にサービスを提供できない」と説明してサービスを中断していたものです。再開前にはCEOも解任されましたが、同社は「私たちは言論の自由、データ主権、市民の言説のための最高のプラットフォームとして役割を果たし続ける」と述べています。
(6)誹謗中傷対策を巡る動向
政府は、インターネット上の誹謗中傷対策として、発信者情報の開示手続きを簡略化するプロバイダー責任制限法改正案を閣議決定し、今国会に提出しています。成立すれば、2022年中に施行される見通しです。新たな手続きは、時間がかかる訴訟を経なくても、裁判所が被害者の申し立てを受け、投稿者の情報開示をSNSなどの事業者に命じることができるもので、投稿者の情報が消えないよう、情報消去の禁止なども事業者に命じられるようになります。現状では、SNSやネット接続のプロバイダー事業者を相手に2回の裁判手続きを経ないと投稿者を特定できず、情報開示に1年以上を要するケースが多かったところ、新たな制度では、申し立てから開示命令決定までは数カ月程度に縮まることが予想されています。なお、投稿内容が真実で公共・公益性がある場合に違法としないことなど、開示の要件は従来と変わらず、被害者や事業者が裁判所の決定に不満があれば、異議訴訟を起こせる立て付けとなっています。被害者にとって、開示にかかる時間や費用の負担を軽減することになり、より迅速な被害者救済につながるものと期待されます。
残念ながら、現在のコロナ禍における社会不安の増大もあってか、国内外で誹謗中傷あるいは偽情報・デマ等はなくなりません。直近での関連する事例をいくつか紹介します。
まず、本コラムでも以前取り上げた化粧品大手ディーエイチシー(DHC)の公式オンラインショップに吉田嘉明会長名で在日韓国・朝鮮人に対する差別的な文章が掲載された問題(現在でも「ヤケクソくじについて」と題する文章が掲載されています)に関連して、同社と包括連携協定を結んでいる茨城県行方市の鈴木周也市長は、今後の発言内容によっては協定を撤回する可能性もあるとの考えを明らかにしています。報道によれば、鈴木市長は「妙な発言や行動をやめてほしいと個人的には思っているが、今後ひどくなるようであれば、連携協定を外していかなければならない」と述べたということです。同市は2019年1月、市の特産品を使った商品開発などを盛り込んだ協定を締結、サツマイモを使ったクラフトビールを開発するなどしているといいます。行方市という立場からすれば、差別的な立場に与することはあってはならず、また、そう市民に受け止められてもならず、当然の方針かと思われます。
また、新型コロナウイルスに感染した長崎県内の男性が、ツイッター上の投稿でプライバシー権を侵害されたとして、接続業者の「佐賀シティビジョン」を相手取り、プロバイダー責任制限法に基づいて発信者の名前や住所などの開示を求めて佐賀地裁に提訴していたことが分かったと報じられています。報道によれば、発信者は昨年7月、男性が感染者と特定できる内容を投稿し、男性のプライバシー権を侵害したとされ、男性は「多数の迷惑電話や苦情が殺到して、不利益が生じた」などと主張しており、発信者に対して損害賠償請求訴訟を起こす予定だということです。コロナ禍関連では、1月にクラスター(感染者集団)が発生した佐賀県の佐賀工高は、新型コロナウイルスの感染拡大で誹謗中傷を受けた生徒や教員約800人を対象にアンケートを実施したところ、「中傷を受けたことで不安や悩みがある」と答えた生徒は33人に上り、同校はスクールカウンセラーによる心のケアに努めると報じられています。報道によれば、記述欄には「学校に行くのが不安」、「自転車で登下校中に車の運転手から心ない言葉を掛けられた」などの回答があったほか、教員からも不安の声が寄せられたということです。関連して、2021年2月17日付毎日新聞では、新型コロナウイルス感染症の出口が見通せない中、感染者や医療従事者への差別は今も続いているとして、「コロナ差別」の心理について、「公正世界信念」というキーワードを通じて読み解く村山綾・近畿大准教授(社会心理学)のコメントが掲載されていました。それによると、「コロナ差別」の背景には、「善い行いに良い結果が、悪い行いには罰が伴う」という心理があるといい、「因果応報的なルールによって秩序ある安定した世界が成立している、と信じる傾向を社会心理学で『公正世界信念』と呼びます。この信念のもとでは、犯罪の横行など何らかの要因でその世界が脅かされると、その不安から自分が信じる「安定した世界」観を守ろうという心理が働く。結果、被害者を「あなたにも落ち度があったはず」と非難し、加害者には「自分とは別の世界の人間」と非人間化して厳罰を求め、従来の世界観を肯定するメカニズムが生まれる」と指摘しています。そして、「コロナに感染する人は自業自得」と考える人が、調査5カ国で日本が突出して高かったという調査結果も紹介されています。各国400~約500人対象の質問では、「非常にそう思う」「やや~」「どちらかといえば~」のいずれかを選んだ割合は、米1%、英1・49%、イタリア2・51%、中国4・83%に対して日本は11・5%に上ったということです。この点に絡めて、山梨県道志村のキャンプ場で2019年9月に行方不明となった千葉県成田市の女児(8)の母親をインターネット上で中傷したとして、名誉毀損罪に問われた投資家の70代の男性の初公判が千葉地裁であり、報道によれば、男性は「そういうことを書いて何が悪いんだ」と述べ、起訴事実を否認したといいます。男性は罪状認否で、「人身売買は親が関与している」「(女児の母親が)犯人ではないという証拠はない」などと主張、弁護側は「名誉を傷つける意図はなく、社会正義のためと思っていた」と述べたということです。これも前項の「公正世界信念」が作用しているようにも感じられます。
2月13日深夜に福島県と宮城県で震度6強を記録した地震をめぐっては、差別的な発言やデマ、不確実な情報がツイッターやユーチューブなどで飛び交いました。災害のたびに同じような現象は起きていますが、今回も「人工地震」といった書き込みも散見され、中には「安倍晋三前首相が起こした人工地震」などという荒唐無稽な投稿もあったようです。科学的には、地下核実験などで地震が起きることはありえますが、今回のような大規模な地震を人工的に起こすことは不可能であるにもかかわらず、ツイッターでは一時「人工地震」がトレンド入りしています(ただ、誤りであることを指摘したり「陰謀論」と皮肉ったりする内容のツイートの方が多く、一種の話題として盛り上がりを見せたケースともいえます)。このように、災害時にデマが流れやすいのは、人々に不安があるためであり、悪意はなくても事実と異なる情報が広がってしまうことも多い点はよく指摘されているところです。今回は千葉県市原市の臨海部で爆発が起きたとする複数の動画や画像が拡散されましたが、投稿者が軽い気持ちで書き込みをしている場合、非難を受けると驚いて自分で削除することも少なくないようです。この点については、いよいよ始まったワクチン接種についても、誤った情報に基づく誤解や副反応への恐れから接種を避ける人の増加や、偽情報に振り回され詐欺などの犯罪に巻き込まれる被害者の増加が懸念されているところです。2021年2月14日付毎日新聞で、米国立研究機関のウイルス研究者で「新型コロナとワクチン 知らないと不都合な真実」を出版した峰宗太郎氏のインタビュー記事が掲載されていましたので、以下、一部引用します。
正しい情報が一部の偽情報に埋没してしまえば社会全体の利益が著しく損なわれることになりかねません。受け手のリテラシーが問われているとはいえ、正しい情報を伝えるべきメディアも、あらためて科学的根拠を基に正確な情報を丁寧かつ冷静に、そして繰り返し報じていただきたいと思います。やはり何より、正しい情報を持つ者こそ、発信力を磨き、高め、継続して声をあげていくべきだと考えます。正しい情報を持つ者こそ「ノブレス・オブリージュ(身分の高い者はそれに応じて果たさねばならぬ社会的責任と義務があるという、欧米社会における基本的な道徳観)」の精神が求められているといえます。
さて、これら「誹謗中傷や偽情報に対してSNS事業者(デジタルプラットフォーム事業者)らはどう対応すべきか」については、「表現の自由を誰が制限できるのか」という問題とも関係します。プラットフォームが「偽情報」の拡散や暴力を助長する「犯罪インフラ化」しないために、あるいは「公益に資する」との観点から、事業者自らが積極的に関与すべきとする考え方と、「表現の自由」の制限は一事業者が判断することではなく政府や裁判所が判断すべきだ」とする考え方に大きく大別されると思われます。要は、この2つの考え方の間でどうバランスをとるかが求められているといえます(著しく「表現の自由」を侵害するブレーキとして、「自由な意思表示がどれだけできるか」がサービスの魅力につながる点が作用していること、他人の権利を著しく侵害する、公益にとって害悪となるようなものを放置することもまたサービスの魅力を低下させる方向に作用すること、などもまた複雑に絡んでくることになります)。この点については、2021年2月10日付日本経済新聞では、「SNS書き込み規制、ドイツ流は先例になるか」と題したメディア法などに詳しい慶応大学の鈴木秀美教授のインタビュー記事も掲載されており、こちらも大変興味深いものですので、以下、一部引用します。
「表現の自由」を制限するのは誰なのかという点で、ツイッター社がトランプ氏のアカウントを永久凍結したという事例が興味深いのですが、直近では、たとえば米IT大手フェイスブック(FB)は、ミャンマー国軍に関連するFBとインスタグラムの全てのアカウントを使用禁止にしたと発表しています。国軍系企業のFBへの広告掲載も禁止し、FBは、国軍による銃撃などでデモ隊に死者が出ていることを踏まえ、「国軍に使用を認めるリスクはあまりに大きい」と説明しています。報道によれば、ミャンマーでは、人口のほぼ半数がFBを利用しているとされ、国軍はこれまで、FBで昨年11月の総選挙での不正を主張し、クーデターに抗議するデモ隊に警告を発信してきたということですから、ミャンマーという国や国民にとってFBは影響力の極めて大きな媒体であるという特殊性があるところ、事業者の判断としては、かなりのインパクトをもつものだといえます。一方で、国軍も、「サイバーセキュリティー法案」を起草し、情報統制を強めようとしているとも報じられています。デモに関するSNS投稿に圧力をかけ、沈静化を目指す狙いあるとみられ、インターネット上で社会の安定を乱すような投稿や偽情報があると当局が判断し、削除を求めた場合、通信各社は要請に応じるよう義務付ける内容だといいます。当局は、利用者の個人情報を提出させることもできるほか、社会を混乱させる目的で偽情報を流したと認定されれば、禁錮3年の懲役刑が科される可能性があるというもので、これが恣意的に運用されれば深刻な事態に陥るのは必至の情勢です。なお、FB以外では、米グーグルが、クーデターを起こしたミャンマー国軍による動画投稿サービス「ユーチューブ」の利用を禁止したことが明らかになりました。報道によれば、関連する複数のチャンネルを停止し、動画を削除したといい、判断の根拠とした規約や法律の条項には言及されていないものの、国営放送や国軍傘下のメディアが運営する5つのチャンネルが利用禁止措置の対象としたといいます(いずれもニュースなどを流していたということです)。なお関連して「ユーチューブ」については、ウォジスキCEOが、1月から凍結しているトランプ前米大統領のチャンネルについて、暴力の危険性が減少すれば凍結を解除する方針を明らかにしたと報じられています。チャンネル凍結の解除は「われわれが暴力の危険性が減少したと判断した時だ」と説明、3月4日に米連邦議会警察が武装組織による議会攻撃の可能性を警告したことを指摘し「危険性はまだ高い」とも述べています。トランプ氏のチャンネル登録者は約280万人で、ユーチューブは1月、投稿動画が暴力をあおり、規約に違反したとして、新規投稿を一時停止しています(なお、前述のとおりツイッターは、トランプ氏のアカウントを永久に凍結、FBは、第三者機関が無期限の凍結決定が適切かどうかを審査しています)。国家の命運を左右するほどの大きなリスク要因となっているデジタルプラットフォーマーが、一事業者として削除等「表現の自由」を制約する方向で判断してきていることを重く受け止め、今後、より深く検証していくことが重要ではないかといえます。
さらに、2021年2月22日付日本経済新聞の「民主主義脅かすフェイク情報 「心の癖」に落とし穴」という記事も、偽情報を考えるうえで興味深いものでしたので、以下、一部引用します。
フェイク(ニセ)情報が世界を混乱させている。ウソやデマが社会に拡散することは昔からあった。いまや、高度な技術を使う「事実」まがいの情報が、人々の生活を浸食し、民主主義を脅かしている。どう克服すればいいか。・・・危機には、ニセ情報が生まれやすい。非常事態で情報が限られ、事実が不確かになると、大きくふくらんだ恐怖心や敵意が温床になるからだ。上からだけでなく大衆からのフェイク情報も増殖する。・・・人はもともとニセ情報に弱い。情報を自分に都合がいいように錯覚する心の癖「認知バイアス」があるからだ。SNSの閉じた世界では、デマやウソが増殖しやすいことも分かった。脅威を減らすには、みんなが「事実は重要である」と再認識すべきだと指摘する。簡単に噂を信じない。人に伝えない。注意力を養い、スキを見せなければ、被害は防げるという。より安心できる情報社会をつくれるかどうかは、我々一人ひとりの心がけにかかっているようだ。
偽情報の脅威に対抗していくためには、「我々一人ひとりの心がけにかかっている」との指摘は正に正鵠を射るものといえ、「表現の自由」を誰が制限できるのかという問いに対するひとつのヒントになるともいえます。筆者自身は、「国でも一事業者でもなく、まずはそれを発信する者が自らを律していくべきで、そこから考えていくべきだ」と捉えています。その意味では、仏テロ問題において「冒涜の自由」が声高に主張されたことに対して(もちろんそれは仏が長い歴史の中で大事にしてきたものであることを尊重したうえで)、カナダのトルドー首相が述べた「表現の自由は常に守っていかなければならないが、限度がないわけではない」、「(表現の自由を行使する場合)相手への敬意を保ち、同じ社会、地球に暮らす人々を故意に、あるいは不必要に傷つけないよう、自ら戒める責任を負う」との言葉が出発点ではないかと、ここからあらためて深く考えていく必要があるのではないかと考えます。
さて、誹謗中傷や偽情報等へのデジタルプラットフォーマーの対応のあり方については、日本でも、たとえばヤフーが運営するニュース配信サービス「Yahoo!ニュース」には、1日約31万件のコメント投稿があるといい、このうち、削除件数は約2万件に上ると報じられています。また、ユーザー同士が知識や知恵を教えあうコミュニティーサイト「Yahoo!知恵袋」には約5万件の投稿があり、そのうち約5,000件が削除されているといいます。これらの投稿が不適切かどうかを見極める業務は、人工知能(AI)などの最先端技術と人海戦術で行われている実態があります。24時間365日体制で数百人のスタッフが投稿を確認、チェック機能を増強するためにAIでスクリーニングするものの、誹謗中傷をAIが判定してもグレーゾーンが膨大に残る点が大きな課題となっているようです。AIがコメントポリシーに則って自動削除するには、人間並みに自然言語を理解できる技術が必要になりますが、現時点ではそれは困難であり、最終的には「人」の眼(「人」や「事業者」としてのポリシー)が判断していることになります。関連して、デジタルプラットフォーマーがどう対応していくべきかについては、直近では、米ツイッターが、新型コロナウイルスを巡る正確な情報を求める声が一段と増えている状況を踏まえ、関連情報発信のガイダンスを強化する方針を表明しています。報道によれば、新型コロナについて誤解を招く内容を含む投稿には警告ラベルを表示し、違反を繰り返す利用者には恒久的に利用を禁止する仕組みを設けるというものです。ツイッターは、新型コロナの世界的なパンデミックが宣言される前から適切な情報発信の取り組みを開始、明らかに事実に反したり、誤解を与えたりする投稿の削除を行っているといい、ガイダンス導入以降これまでに削除した投稿は8,400件余りに上るということです。さらに、米議会下院エネルギー・商業委員会は、インターネット上で流れる偽情報に関する公聴会を3月25日に開くと発表しています。SNS大手のFB、ツイッター、グーグルのCEOを呼び、投稿内容の監視などについて問いただす場となります。米議会は、SNS大手に投稿監視の責任を求める姿勢を強めており、昨年10月と11月にもザッカーバーグ氏らを呼んで公聴会を開いていますが、今回は民主党主導の新議会で初の開催となります。さらに、米電気自動車(EV)メーカーのテスラは自社製品のオーナーらに脱炭素社会の実現に向けた政治的な行動を促すSNSを開設しています。報道によれば、石油依存社会からの脱却を目指すイーロン・マスクCEOに共鳴する消費者らの声を束ね、各国・地域の政府に自社に有利なルールづくりを求めていく考えだということです。クリーンエネルギーの普及に向けた同社の政治的な取り組みを紹介するほか、テスラ製品のオーナー同士が意見交換できるSNSの機能などを持たせたということですが、自らの考えを社会的な機運に変えていくためにSNSを利用するとでも言うべき発想は、SNSの存在意義を根本から問うようなもので大変興味深いものといえます。これら検証の動きや新たな活用、事業者による見極め対応実務の深化・高度化・洗練化については、本コラムでも、状況を注視していきたいと思います。
一方、日本維新の会がツイッター上で「ファクトチェック」の第一弾として、大阪市の新型コロナウイルス対応を批判するツイートに関する内容を投稿しています。それに対し、市長を出し、市議会与党自身が「ファクトチェック」をすることには、「非党派性」の原則から逸脱し、第三者による検証ではないとの批判が出ています。日本でファクトチェックを推進するNPO法人「ファクトチェック・イニシアティブ」によると、ファクトチェックには「非党派性・公正性」など国際的な五つの原則があるといい、報道(2021年2月27日付朝日新聞)で同法人の事務局長は、「政党として情報発信や言説に反論する自由はある」とした上で、「大阪維新の会は政治団体であり、非党派性・公正性の原則から外れる」と指摘、さらに「ツイートの内容が事実かどうかをレーティング(真偽の判定)せず、あたかも誤情報だという印象を与えている」と問題視しています。さらに、ネット上では、今回の維新の動きについて「自己を正当化することがファクトチェックなのか?」、「『ファクトチェック』ではなく『吊し上げ』」、「脅迫もしくは弾圧だ」、「公党が個人のツイートをさらして、個人攻撃か」といった批判が相次ぐ事態となっています。ヤフーの削除対応とは異なり、「ファクトチェック」という名を借りた恣意的な情報操作ともとられかねない危うさを秘めたものであり、「表現の自由」を制約することの難しさがここにも表れているように思われます。
最後に、現時点における日本の議論の状況について、総務省の有識者検討会の資料から確認しておきます。直近の状況をふまえた論点の整理、海外の状況などが大変よく盛り込まれており、参考になります。
▼総務省 プラットフォームサービスに関する研究会(第23回)配布資料
▼資料6 誹謗中傷等に対する取組についてのフォローアップに関する主な視点
- 令和2年8月公表した「インターネット上の誹謗中傷への対応の在り方に関する緊急提言」の各論に掲げている記載に関し、フォローアップを行う際の主な視点について、以下のとおり整理
- ユーザーに対する情報モラル及びICTリテラシーの向上のための啓発活動
- 政府における啓発活動は十分か
- 各PF(プラットフォーム)事業者や事業者団体における啓発活動は十分か
- 啓発活動に関して、今後どのような取組が必要か
- プラットフォーム事業者による取組:プラットフォーム事業者による削除等の対応の強化
- PF事業者による自主的な削除対応がなされているか
- 法務省による削除要請に対してPF事業者は適切に対応しているか
- 削除以外に、PF事業者の創意工夫による何らかの仕組みの導入が図られているか(投稿内容について投稿時等に再考・再検討を行う機会を設ける機能や、ユーザーの選択に応じた、コンテンツフィルタリング機能、一定の短期間の間に大量の誹謗中傷が集まった場合に自動的に検知を行い一時的に非表示にする機能など)
- プラットフォーム事業者による取組:透明性・アカウンタビリティの向上
- PF事業者の削除等の取組が適切に行われているかどうかについて、透明性・アカウンタビリティの確保が図られているか
- 過剰な削除や不当なアカウント停止等の行き過ぎた対応が行われていないかという点が明らかにされているか
- 特に、海外事業者において、諸外国で行われている取組は日本でも行われているか
- 業界団体等の取組により、ノウハウやベストプラクティスを事業者間で共有されているか
- 国における環境整備 事業者による削除等の対応に関する取組
- 我が国において削除に関する義務づけや過料等を科す法的規制を導入することについては極めて慎重な判断を要するという考え方は維持することとしてよいか
- 国における環境整備 透明性・アカウンタビリティ確保
- ヒアリングシートの提出、違法・有害情報相談センターによる分析、法務省人権擁護局による分析で十分か
- 国における環境整備 発信者情報開示
- 法制度整備にむけて順調に準備が進んでいるか
- 相談対応
- 窓口連携及びユーザーへのわかりやすい案内は十分か
▼参考資料5 プラットフォーム事業者による違法・有害情報への対応に関する諸外国の動向について
- トランプ大統領のアカウント停止等の動向について
- 2021年1月6日、大統領選挙結果を巡り、トランプ大統領(当時)の支持者らが米連邦議会議事堂を襲撃する事件が発生。
- これを受けて、プラットフォーム事業者各社は、トランプ大統領の行為が暴動を煽ったとして、関連アカウントの凍結や、トランプ大統領の支持者が利用するアプリの利用停止などの措置を取った。
- Twitterの対応
- 2021年1月6日、Twitter社は、トランプ大統領のアカウントに対し、大統領選挙について虚偽の主張を繰り返しつつ支持者に「家に帰る」よう促したり「あなたたちを愛している」と述べた動画を含む、3つのツイートの削除を要求。削除されない場合や更なる規約違反があれば永久に凍結すると発表。トランプ大統領のアカウントは該当ツイートの削除に応じ、Twitter社は削除後12時間アカウントを一時的に停止。
- 1月7日、アカウントが回復され、トランプ大統領は投稿を再開し、敗北宣言動画を投稿。
- 1月8日、トランプ大統領が就任式への欠席などをツイート。これらのツイートを受けて、Twitter社は、さらなる暴力につながる危険があるとし、アカウントを永久凍結したことを発表
- 参考:Zignal Labs(メディアやSNSにおける情報流通に関する調査会社)の調査により、以下が示された。
- TwitterがDonald Trump大統領のアカウントを永久停止してから1週間(1月9日~15日)で、Twitterを含む複数のSNSにおいて、選挙の不正に言及した投稿の数が250万件から68万8000件へ73%減少した。
- 同じ期間に、米連邦議会議事堂への襲撃に関するハッシュタグとスローガンの数が、Facebook、Instagram、Twitter、およびその他のSNSプラットフォームにおいて大幅に(95%以上)減少した。
- 高名なインフルエンサー、著名なフォロワー、トランプ氏自身で構成される強力で統合された偽情報エコシステムが大きな役割を果たしている
- 誤情報の研究者は「重要なことは、プラットフォームからの排除は、特に先週行われたような大規模な排除の場合、新たなオーディエンスにリーチするための勢いと能力を急速に衰えさせることである」、「他方、誤情報の拡散に既に関わっている人々の考えを硬化させてしまう性質もある」とコメントした。
- Facebook・Instagramの対応
- 2021年1月6日、連邦議会議事堂占拠を受け、Facebook社は、トランプ大統領の投稿について暴力のリスクを助長すると判断し、規約違反を理由として、トランプ大統領のアカウントを24時間にわたって投稿禁止としたほか、規約違反に該当する動画を削除。その後、7日には、FacebookとInstagramにおけるアカウントの凍結措置を無期限に延長することとし、少なくとも政権移行が平和裏に完了するまでの2週間はこの措置を継続すると発表した。
- Facebook社は、1月21日、コンテンツについてポリシーの検討を行う新たに設立された外部組織(監督委員会)が、トランプ前大統領のアカウント停止に対して再審議を行うことを決定。
- 監督委員会は1月29日よりパブリックコメントの募集を開始しており、決定は90日以内に行われる予定。Facebookによる問題提起は以下のとおり。
- Facebookの価値観、特に「言論」と「安全」への取り組みを考慮して、ドナルド・J・トランプ氏によるFacebookおよびInstagramへのコンテンツの投稿を無期限で禁止した、2021年1月7日の決定は正しく行われたものだったか。
- Facebookは併せて、ユーザーが政治的指導者である場合の利用停止措置に関する委員会の見解または提言も求めた。
- メルケル独首相発言
- ドイツのメルケル首相は、短文投稿サイトの米ツイッターが自社サービスからトランプ米大統領を永久追放したことについて、表現の自由を制限するのは立法者のみであるべきだとして「問題だ」と苦言を呈した。ザイベルト政府報道官が11日の定例会見で、メルケル氏の見解を明らかにした。ザイベルト氏は「表現の自由は基本的人権として非常に重要だ。制限は可能だが、立法者が条件を決定すべきで、SNS運営会社の経営陣の決定に従って決めるべきではない」と述べた。
- 「連邦政府は、(適切でないコンテンツへの対応については)原則としてソーシャルネットワークの運営者が大きな責任を負うと確信している。彼らは、政治的なコミュニケーションが憎しみや嘘、暴力への扇動によって毒されないようにするために、大きな責任を負っている。また、これらのカテゴリに該当するコンテンツがあるチャンネルに投稿されている場合には、そのコンテンツを傍観しないのが正しい。だからこそ、ここ数週間、数ヶ月のコメント投稿やその他の行為については、いわばそうした対応が正しいのである。表現の自由は、重要な基本的権利である。この基本的な権利については、ソーシャルメディアプラットフォームの管理者の決定に従ってではなく、法律に沿って、立法者によって定義された枠組みの中で、干渉しうる。このような観点から、メルケル首相は、米大統領のアカウントが永久にブロックされたことは問題であると考えている。ご存知の通り、ドイツには2017年から施行されているネットワーク施行法がある。この法律は、ソーシャルネットワーク上のコミュニケーションが動くためのわかりやすい枠組みを設定しなければならないのは立法者であるという考えそのものを表現している。企業経営者の判断で大統領のアカウントを完全にブロックすることは問題があると述べた。もちろん、問題になっているのは-根本的に問題になっているのは-嘘や歪曲、暴力を助長するようなツイートや投稿が大量に存在していることだ。だからこそ、このバランス感覚が常に問われているのである。しかし、そのための枠組みを国家、つまり立法者が設定するのは正しいことだ。」
- フランス
- フランスのルメール経済・財務相は11日、ラジオで、トランプ氏の「嘘」を非難する一方で、「巨大IT企業に対する規制は、業界の寡占企業が自分で行うことではない」と発言。Twitter上で発信される偽情報や扇動発言には、国や裁判所が対応すべきだと主張した。同氏は以前「ビッグテックは民主主義に対する脅威の一つだ」とも述べていた。また、欧州連合(EU)担当のクレマン・ボーヌ下級大臣は、「民間企業がこのような重要な決定を下すのを見てショックを受けている」、「これはCEOではなく、市民が決めるべきことだ」と述べた。
- 欧州委員会
- 欧州委員会の域内市場担当委員で、大手テック企業の規制に向けた欧州の取り組みのキーマンであるティエリー・ブルトンも、政治ニュースサイトのポリティコに寄稿した論説のなかで「チェック・アンド・バランスが何もはたらかないところで、CEO(最高経営責任者)がPOTUS(米大統領)の拡声器の栓を引き抜けるという状況には当惑を禁じ得ない」と記している。
- フォン・デア・ライエン委員長はダボス会議にて、Twitterの決定を「表現の自由に対する深刻な干渉」だとし、「こうした広範囲にわたる決定のための法律の枠組みを構築するために、米国と海外の規制当局が協力して取り組むべきだ」、「デジタル経済のルールブックを一緒に作りたい」と述べた。
- ベスタエアー上級副委員長(欧州デジタル化対応総括、競争政策担当)はPoliticoのインタビューに対し、「フェイスブックやツイッターのような企業が、キャピトルヒルの暴動を受けて、ドナルド・トランプ元米大統領をグローバルプラットフォームからブロックしたのは正しかった」、「デジタルサービス法(DSA)は、これらの民間企業がトランプ前大統領のオンライン投稿をブロックする前に介入していただろう」、「ポイントは、DSAの下では投稿をブロックする前にユーザとの対話、通知、説明が行われたはずであること」、「こうしたプラットフォームの決定の透明性を高めたいと考えている」と述べた。また、こうした規則作りについて、欧州と米国で連携して取り組みたいとも述べた。
- Twitter ジャック・ドーシーCEOのコメント
- 「Twitterから@realDonaldTrumpを追放したことや、どうしてこうなったのか、私は喜びも、誇りも感じていません。このような措置を取ると警告した後、Twitter内外での身体的安全への脅威がもたらされているという信頼すべき情報に基づき、これを決定しました。これは正しかったのでしょうか?」
- 「これはTwitterにとっては正しい判断だったと思います。私達は異常で手に負えないような状況に直面し、全ての行動を公共の安全に焦点を当てなくてはなりませんでした。オンラインでの言論に基づく、オフラインでの被害は明らかに現実のものになっていて、私達のポリシーの適用を後押ししました」
- 「とは言え、アカウントを追放する事は大きな影響をもたらします。明らかに異常な事態ではありましたが、健全な会話を実現するという目標に私達は失敗したと感じています。そして私達の業務や取り巻く環境を省みるタイミングです」
- 「こうした行動を取ることは公の会話をたこつぼ化します。私達を分断します。物事の解明や贖罪、学習の可能性を制限します。そして、個人や企業が世界的な公での会話に対して大きな影響を与える危険な前例をもたらすことになります」
- 「このような力に対する監視と説明責任には、Twitterのようなサービスが担っているのはインターネットという巨大な言論空間でのほんの一部に過ぎないという事実が常につきまとっていました。もし人々が私達のルールとその適用に同意しないのであれば、他のサービスを利用すればいいのです」
- 「この考え方は他の数多くの基礎的なインターネットツールが、彼らが危険だと思うものをホストしない事を先週決めた時、大きな挑戦に直面しました。私はこれが協調的に行われたとは思っていません。各企業が独自の結論に達したか、あるいは他の企業の行動に刺激されたという可能性が高いと思います」
- 「いまこの瞬間にはダイナミックな動きが必要かもしれませんが、長期的にはオープンなインターネットの崇高な目的と理念を破壊することになるでしょう。企業が自身を節度あるものとするためにビジネス的な決断をすることは、政府がアクセスを排除することとは異なりますが、同じようにも感じます」
- 「私達は皆、自分たちのポリシーとその適用の間にある矛盾を批判的に見る必要があります。私達のサービスがどのように気晴らしや危害を煽るか見極める必要があります。私達はモデレーションにもっと透明性を持たせる必要があります。これらの全ては自由で開かれたインターネットを侵害する事はないでしょう」
- Parler(パーラー)
- 2018年にサービス開始した、アメリカのSNSサービス。全てのユーザーが平等に扱われることを信条としており、コンテンツモデレーションがほとんど行われていないと評価されていた。これまで知名度はほとんど無かったものの、アメリカの大統領選以降、大手SNSでアカウントを停止されたユーザーが続々と集結し、結果的にトランプ氏の支持者が情報交換や連絡を取り合うプラットフォームとなっていたとされる。
- Google・Appleの対応(アプリストア)
- 2021年1月8日に、Parlerのモバイルアプリが、AppleとGoogleのアプリストアからそれぞれ削除された。AppleはParlerに対し、ParlerがAppStoreのガイドラインに違反しており、不快なコンテンツについての苦情を受けたため、モデレーションを改善するよう要求し、24時間の猶予を与えており、GoogleもAppleの数時間後に同様の最後通告を送っていたとものの、Parlerがそれに応じなかったため、両社はアプリを削除したと報道されている。AppleとGoogleは、Parlerが同社サービスを適切にモデレーションする場合のみ、同アプリの提供を再開するとしている。
- Amazonの対応(クラウドサービス)
- Parlerの最高経営責任者(CEO)を務めるJohn Matze氏は、1月9日、Amazonから同氏に対し、ParlerへのAmazon Web Services(AWS)プラットフォーム(クラウドサービス)の提供を10日に打ち切るという通告があったことを明らかにした。同氏は10日、報道機関向けの声明で、暴力を煽ったり暴力をふるうと脅したりする投稿など、禁止されたコンテンツを削除すべくモデレーションの改善に取り組んでいると述べた。その後、1月11日以降、ParlerのWEBサイトにはアクセスできない状況となっていたが、その後、米国の別のホスティング事業者SkySilkを利用して2月15日に再び利用可能となった。同社はParler上のコンテンツ内容について判断しないと表明している。
(7)その他のトピックス
(7)-1.中央銀行デジタル通貨(CBDC)/暗号資産(仮想通貨)を巡る動向
いよいよ世界各国の中央銀行がCBDC(中央銀行デジタル通貨)の実証実験フェーズに入っています。2021年2月16日付日本経済新聞によれば、国際決済銀行(BIS)の最新調査では、デジタル通貨を研究する中銀の約6割が実証実験の段階と答えたといいます。1年前の42%から約20ポイント上昇しており、(本コラムでこれまで紹介してきたとおり)現金の利便性・信頼性が低い新興国で前向きな動きが目立つといいます。また、中国を筆頭に3年以内に世界人口の2割に当たる国・地域で実際に導入する可能性があるともいわれています。一方、日本や欧米も実験に乗り出す方向性にあるものの、実用化には慎重な姿勢が目立ちます。バハマやカンボジアなどではすでにCBDCの流通が始まっており、たとえば島々で構成するバハマでは現金を船で輸送するなどお金の流通にかかるコストが高かったといい、CBDCのメリットが大きいといえます。また、銀行店舗やATMなどの金融インフラが十分に整備されていない国ほど利便性の向上につながるCBDCを導入しやすい面があるとも指摘されています(いわゆる「リープフロッグ」と呼ばれる現象です)。喫緊の課題については、本報道でコンパクトにまとまっていますので、一部引用します。
例えば破綻リスクがなく利便性も高いCBDCが誕生すれば、既存の銀行預金などからの資金シフトが起きかねず、民間の金融機関の担う預金や貸し出しといった金融仲介機能が損なわれる懸念がある。民間の発行するデジタル通貨を介した金融サービスなど、技術革新を阻害しかねないとの懸念もある。日米欧の7中銀とBISは20年10月、CBDCが物価・金融システムの安定を妨げないことや現金・民間のデジタル通貨の共存などが必要とする基本原則をまとめた。中国がデジタル人民元を実用化し、貿易取引などを通じて他国でも流通させることで、CBDCの国際標準を握ることをけん制する狙いもある。今年の日米欧主要7カ国(G7)による国際会議では、デジタル通貨の分野で中国とどう対峙するかも重要テーマになる。
中国では2月12日の春節(旧正月)前後の休暇にCBDCの実証実験を実施しています。北京市での実証実験では、200元(約3,270円)分のデジタル人民元という「紅包」(お年玉)が5万人に配られたということです。オンラインでのショッピングでも使えるといいます。デジタル人民元については、2022年に予定される北京冬季五輪の会場での使用が想定されています。さらには、国境をまたぐ決済システムの研究を加速、中央銀行(中銀)の中国人民銀行は、香港やタイ、アラブ首長国連邦(UAE)の中銀と共同研究を始めると発表しています。外国送金や為替決済の仕組みも研究を急いでおり、その背景には、デジタル通貨のルール作りで先行する思惑が見え隠れしています(前述した「CBDCの国際標準を握ること」にあたります)。中国は国内の主要都市でデジタル人民元の実証実験を重ね、法改正で法定通貨にデジタル通貨も加える方針を示し、法制面の準備も進めており、他の中銀から見れば脅威が増していると言えると思います。さらに、国際決済銀行(BIS)は、CBDCを活用したクロスボーダー決済構想に中国人民銀行が参加することになったと発表しています。中国人民銀行が参加する計画には、BISや香港金融管理局(HKMA、中銀に相当)、タイ中銀などが取り組んでおり、HKMAは「複数の管轄区域や時間帯を越えた、証券取引所や銀行、企業による決済」への道が開かれるよう期待すると表明しています。その他の具体的な取組みとしては、カンボジア国立銀行(中央銀行)は20年10月、デジタル通貨「バコン」を導入、タイ中央銀行も20年に企業向けにデジタル通貨を使った決済システムの実証実験を開始、スウェーデンも「eクローナ」のパイロット実験を実施中といったものがあげられます。
これらの動きに対して、日米欧はやや異なるスタンスをとっています。たとえば欧州中央銀行(ECB)は欧州議会に対して、米FB(フェイスブック)が主導する「ディエム」などのデジタル通貨「ステーブルコイン」を巡り、導入への拒否権と監督権の拡大を求めると主張しています。世界の中央銀行は、一つ以上の法定通貨を裏付けとしたステーブルコインを中心に、暗号資産の台頭を不安視、決済や銀行の取引、最終的には資金の供給量への統制を脅かすことを懸念していますが、ECBは、EUの規制案について2月19日付で法律上の見解を公表、物価や決済の安全性を脅かさずにユーロ圏でステーブルコインを導入できるかどうかについて、ECBが最終決定権を持つべきだと述べたほか、ステーブルコイン発行を審査する各国当局に対して、ECBの意見が拘束力を持つようにEUの規制案を変更すべきだとの意見も述べています。また、米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は、FRBによるデジタル通貨「デジタルドル」の開発や展開には、何らかの形で議会の承認が必要になり得るとの見解を示しています。報道によれば、同議長は下院金融サービス委員会で開かれた公聴会で証言し、今年はデジタルドル構想にとり重要な年になるとし、同構想を巡り社会との対話に取り組みたいと表明しました。さらに、FRBがデジタルドルを巡る「困難な」政策や技術上の疑問点を精査し、主にドル建てで取引が行われている主要市場の機能を阻害しないよう、慎重に行動すると強調したということです。さらに、カナダ銀行(中央銀行)のレーン副総裁は、新型コロナウイルスの流行を受けて、同中銀がCBDCの開発を急ぐ必要性が高まっているとし、予想よりも早く決定が下される可能性があると述べています。ただ、報道によれば、デジタル通貨の導入は「既定路線」ではないとも述べ、新型コロナの流行でビットコインなどの仮想通貨が値上がりしているが、最近の急騰は「投機的な熱狂」に見えるとの見解も示しています。日本については、本コラムで紹介しているとおり、日銀としては現時点で「デジタル通貨を発行する計画はない」との立場を崩していませんが、先行する中国や欧米の動向をにらみつつ、環境が変化し導入が必要になった場合に備えています。日銀は当面、現金の流通が大きく減少する可能性は高くないとみているものの、デジタル通貨は現金と違って輸送や保管などのコストがかからないメリットがあるほか、CBDCは個人や企業の決済や取引を記録することも可能になり、脱税やマネー・ローンダリングの防止につながる利点もあります。一方で、取引情報や個人情報の保護といった課題もあり、日銀は実証実験と並行し、こうした課題を踏まえてCBDCの制度設計を検討していく方針です。なお、日銀の想定する今後の流れとしては、「3年度の早い時期に始める第1段階の実験では、発行や流通といったCBDCの基本機能に関する検証を行う。第2段階では、保有金額に上限を設定できたり、通信障害といった環境下でも利用できたりするかなど、通貨に求められる機能を試す。第2段階の具体的な期間については明らかにしていない。第3段階では実際に民間事業者や消費者が参加して、実用に向け実験を行う計画だ」(2021年1月19日付産経新聞)となります。なお、直近では、麻生太郎財務相が、CBDCについて、「(G7で)議論をもっと詰めないといけない」と述べ、活発な話し合いの重要性を訴えています。
さて、CBDCの最近の動向について概観してきましたが、2021年2月19日付日本経済新聞において、CBDCでも暗号資産でもない、疑似預金の拡がりについて述べられています。一部引用させていただくと、「銀行固有の業務である預金の境界線が薄れている。スマートフォン決済アプリが広がり、アプリ内にたまるお金(疑似預金)が増えているためだ。アプリへの給与払いが解禁されれば流れはさらに強まる。預金を巡り厳しい規制を受ける銀行は同等の「安心・安全」の確保を主張する。アプリを運営する資金移動業者は規制緩和によるイノベーションへの期待を背負っており、預金の再定義などが必要になる可能性がある。・・・買い物での支払い手段や送金仲介だけなら相対的に軽い規制でも対応できるが、アプリにたまったお金が預金の性質を帯びれば事情は変わる。長期間にわたり資金が積み上がるようになれば、資金移動業者にも銀行同様の規制をかける必要が出てくる。その根拠となる「何が預金なのか」という定義が曖昧なことがKyashの一件の底流にある。・・・金融規制に詳しい鈴木正人弁護士は「資金移動業者の台頭でグレーな領域が顕在化してきた。法律などで境界線を明確にする必要があるのではないか」と指摘する。」といったものです。
さて、一方の暗号資産については、最近、ビットコインの高騰などの話題からあらためて注目が集まっています。米電気自動車(EV)大手テスラが先月、代表的な暗号資産であるビットコインを15億ドル(約1,600億円)購入したことが明らかになったことも大きなきっかけとなっています。手元資金の運用手段を多様化するためとテスラは説明していますが、将来的にはビットコインでEVを購入できる「決済」の実現を視野に入れているようです。同様に、ペイパルはまもなく世界2,600万店での暗号資産決済を導入するといいます。これらが追い風となり、ビットコインの時価総額は1兆ドルを突破しました。また、米暗号資産交換会社大手のコインベース・グローバルは、新規上場に向けて米証券取引委員会(SEC)に証券登録届け出書を提出、2020年12月期決算の売上高は12億ドル(約1,260億円)となり、前年同期に比べて2.3倍に膨らみました。活発な売買で手数料収入が増え、時価総額で1,000億ドルを超える大型上場となる可能性が出てきています。さらに、英調査会社クリプトコンペアが公表したデータによると、暗号資産取引所の売買高が2月に17%増の2兆7,000億ドルとなったということです。ただし、主要な取引所の市場占有率が増えていることも明らかになっており、主要な取引所の売買高は35%超増え、2兆4,000億ドルとなった一方、小規模な取引所は36%減の3,810億ドルとなり、主要な取引所に取引が集中していることを示唆しています。
ただし、「ビットコインの熱狂の一方で、このボラティリティの高さ、価格変動の大きさは相変わらずであり、それをコントロールできなければ「決済」手段として普及するのは難しいといえます。その他にも本コラムで以前から指摘してきた課題は数多く残されたままです。たとえば、米証券取引委員会(SEC)のヘスター・ピアース委員は、テスラ、バンク・オブ・ニューヨーク・メロン、マスターカードといった大手企業の間で暗号資産をオルタナティブ(代替資産)として受け入れる動きが広がる中、明確な規制体制を早急に整える必要があるとの見方を示しています。また、インド準備銀行(中央銀行、RBI)のダス総裁は、暗号資産について、金融の安定性にリスクをもたらす可能性があるとして、中銀は「深く懸念している」と語ったといいます。総裁は、この懸念をすでに政府に伝えていると説明、中銀独自のデジタル通貨発行計画は「進んでいる」としたが、具体的な発行日を示すのは難しいと述べています。インド政府は以前から民間の暗号資産の取引に反対する姿勢を示しており、議会では今会期中にビットコインなど民間の暗号資産を国内で禁じる法案の提出が予定されているということです。さらに、ビットコインの昨年10月以来の300%もの急騰によって、規制のあいまいな中国の仮想通貨市場が再び活気を取り戻し、規制当局が金融リスクや資本流出への警戒を高める事態になっているとの報道もありました(2021年3月4日付ロイター)。報道によれば、「中国人向けの交換業者は、中国本土では認可されない。しかし、個人は身分証データの詳細を入力すれば、口座開設やオンライン取引がたやすくできる」ほか、「人民元の使用は禁止され、ビットコインと米ドル連動型ステーブルコイン「デザー」のみ認められている」ものの、「デザーを買うのに人民元を使う抜け道がある。投資家間での支払いを銀行カードやオンライン送金で済ませるのだ。これは中国の法規に違反しない。一方で、規制当局筋がロイターに語ったところによると、テザーを入手するのに公式な制度に基づいて海外送金するやり方も見られる。医療目的などの合法的な買い物に偽装するのだという。この抜け穴を使えば、投資家は中国の厳格な資本規制を迂回できる」というものです。そもそも、暗号資産がその匿名性の高さから犯罪に悪用されやすい点は相変わらず改善されていない状況にあります。ランサムウエアにより、サイバー攻撃を中止する見返りに暗号資産の支払いを要求したり、薬物の売買で使われたりするケースが後を絶たず、「犯罪インフラ」化から脱していない点は、やはり「決済」手段には使えない要因となっています。なお、冒頭の犯罪収益移転防止に関する年次報告書の中でも、暗号資産がマネー・ローンダリングなどに悪用された疑いがあるとして、犯罪収益移転防止法に基づき、暗号資産交換業者が昨年1年間に届け出た「疑わしい取引」が前年比2,027件増の8,023件に上ったことが報告されています。警察庁は、金融庁と連携した暗号資産交換業者への指導が増加につながったと分析しているほか、業界団体も自主的にガイドラインを策定するなどの対策を実施しているところです。「疑わしい取引の届出」に関する実務の認知と実際の実務における検知能力の向上によって件数が増加していると評価できる一方で、そもそも暗号資産がマネー・ローンダリング等に悪用されている(少なくとも悪用を試みている)実態が数字以上にあることも想像されるところ、より踏み込んだ実務の深化が求められているといえます。
その他、最近の暗号資産を巡る報道から、いくつか紹介します。
- 暗号資産で資金を保有する犯罪者は、特定のごく限られたオンラインサービスをマネー・ローンダリングの手段として利用する傾向にあると、ブロックチェーン調査会社Chainalysisが発表したレポートで明らかにされています。これらのサービスには、ハイリスク(低評価)の暗号資産取引所、オンラインギャンブルプラットフォーム、暗号資産ミキシングサービス、およびハイリスクな地域に拠点を置いて暗号資産事業を支援する金融サービスなどが含まれるということです。このレポートで調査されたのは、オンライン詐欺、ランサムウエア攻撃、テロ資金の提供、ハッキング、児童虐待コンテンツに関連する取引のほか、ドラッグ、武器、窃取されたデータなどの違法サービスを提供するダークウェブ市場への支払いに関連する資金など、さまざまな犯罪活動に関連づけられる暗号資産アドレスで、違法アドレスから13億ドルが送金されていること、受け取った暗号資産の規模が最も大きいのは米国、ロシア、中国となっており、暗号資産取引量で各国のシェアが大きいことを反映しているということです。なお、この13億ドルという額は、同社が認知した犯罪に関する全ての暗号資産フローの約55%に当たるほか、調査は、ブロックチェーンに由来する犯罪のみを対象としており、例えば伝統的なキャッシュを洗浄するためにビットコインを使った犯罪などの真の規模は不明だということです。このような調査結果を見る限り、暗号資産の犯罪インフラ化はいまだに深刻なレベルにあることを実感させられます。
- 2018年に暗号資産交換業者「コインチェック」から約580億円分のNEMが流出した事件で、東京地検は、不正に流出したものと知りながら取得したとして、組織犯罪処罰法違反(犯罪収益収受)で7都道府県に住む20~40代の男性13人と関連法人1社を起訴、追起訴しています。警視庁はこれまで組織犯罪処罰法違反容疑で計31人を立件、他の14人は同法違反で略式起訴、4人は不起訴処分となっています。事件を巡っては2018年1月、顧客約26万人から預かっていた約580億円分のNEMがコインチェックから流出、男性らは安価で入手したNEMを別の暗号資産に交換するなどして利益を得たとみられています。
- イランでは、停電がよく起きるといい、暖房の利用増による電力不足や、配電線の不具合によることが多いようですが、今年1月にテヘランであった大規模停電で政府が「原因」としてやり玉にあげたのは、意外な存在「ビットコイン」であり、マイニング(採掘)による需要の急増に供給が追い付かないことが要因だったと指摘しているということです。
- 米ニューヨーク州司法当局は、暗号資産を発行する香港企業テザーと関連会社の交換会社ビットフィネックスに対し、顧客への説明が虚偽だったとして1,850万ドル(約19億5,000万円)の罰金を課すと発表しています。同社は暗号資産発行の裏付けとなる米ドルを十分に保有していなかったといい、暗号資産運用を巡る投資家保護の問題が改めて浮き彫りになったといえます。このあたりも、暗号資産のもつ「不安定さ」を裏付けるものといえます。
- NY(ニューヨーク)州のレティシア・ジェームズ司法長官は、NY市に拠点を置く暗号資産取扱業者コインシードが手数料を隠れて徴収し、価値のない暗号資産を販売するなどして、多数の投資家を欺いたとして、閉鎖を求めて提訴しています。司法長官によると、コインシードは仲介業者・ディーラーの登録を行わないままビットコインなどの暗号資産の交換業務を行い、モバイル端末向けアプリで課金するための認可を得ずに「CSD」という名の暗号資産を販売したというものです。
- 国内の暗号資産交換業者の業績が回復してきたということです。代表的な暗号資産であるビットコインの価格が一時5万ドルを超え、20~30代を中心に暗号資産への投資需要が増えているためです。しかしながら、恩恵の広がりには格差がついているのが現実で、証拠金取引規制の強化などで預かり資産を増やせない中小業者の撤退が相次ぐ可能性が指摘されています。日本の暗号資産交換業者は法人開拓が事実上できないなど米国と比べ事業の手足を縛られており、暗号資産の高騰局面でも黒字にならない企業は事業継続判断を迫られているといえます。
- インターネットイニシアティブ(IIJ)グループで暗号資産交換を手がけるディーカレットは、暗号資産の取引を成立させるマイニング(採掘)に使う機器の販売に参入すると表明しています。マイニング機器はビットコインの相場上昇で需要が拡大、足元では相場に調整色も出ているもの、興味を持つ個人などへ門戸を広げるといい、国内の交換業者で機器の販売・運用まで手掛けるのは初めてだということです。
(7)-2.IRカジノ/依存症を巡る動向
秋元司・衆院議員の初公判が今月29日に開かれることとなりました。また、秋元被告とともに収賄罪に問われた元政策秘書の豊嶋被告も一緒に審理されるといいます。両被告側は、いずれも無罪を主張する方針とされます。なお、起訴状では、内閣府のIR担当副大臣だった秋元被告は2017年9月~18年2月、IR参入を目指していた中国企業「500.com」側から総額約760万円相当の賄賂を受領、昨年6~7月には、支援者らと共謀し、500社の元顧問2人にウソの証言をする報酬として現金提供を申し込んだとされています。IRカジノに向けられる社会の目を厳しいものにしてしまった本事件の行方については、本コラムでもフォローしていきたいと思います。
さて、横浜市はIRの誘致を目指し、取り組みなどを説明する第1回目のオンラインでの事業説明会を先月開催しています。当初は区役所など会場での開催を併用する計画だったものの、新型コロナウイルスの感染拡大で全6回のうち5回目までを全面的にオンラインで実施することが決まっています。報道によれば、説明会では平原敏英副市長が「横浜の将来のためにほかの政策や事業と連携しながら取り組みを進めていく」とあいさつし、後半にはウェブ会議システムをつかって市民の質問に応じ、その様子はユーチューブでも同時配信されました。参加者からは「IRの収益は現実的といえるか」、「カジノが必要な理由がまったく述べられていない」といった質問や意見があったようです。また、今年の夏には横浜市長選挙が行われますが、林市長は、「横浜などの大きな基礎自治体はワンイシューで語るものではない」と前置きしつつ、「IRはこれまで多く語られ、研究もされてきた。そうした点では、争点の一つとして、大いに議論されるべきだろう」と述べ、これまでIRが争点化することを避けてきたように見えるところ、現行の社会情勢からは避けられないものと判断されたようです。住民投票に向けた署名活動が一定の成果を出したこともあり、市長選挙の行方も気になるところです。
なお、直近で横浜市は、アルコールや薬物、ギャンブルなどの依存症対策に向けた「地域支援計画(仮称)」の素案を公表しています。ケアプラザなど市民に近い支援の場と、病院など専門機関とをつなぐ支援ガイドラインを作成することや、ゲーム依存症など新たな分野も念頭に予防策の普及啓発に取り組むこと、依存症からの回復支援施設や医療・司法機関などでつくる連携会議で課題を共有し、支援策を検討することなどが盛り込まれています。
▼横浜市依存症対策地域支援計画(仮称)素案
なお、本資料には、コラムが各所に散りばめられており、なかなか興味深いものです。たとえば「依存症」の定義については、「依存症の定義に関しては、支援者間でも様々な議論がなされており、確定的な定義を示すことは簡単ではありません。検討部会においても、依存症の定義をめぐって様々な議論がなされ、以下のような意見が聞かれました。まず、特にギャンブル等依存症について、状態像は幅広く、自力で回復できる人や自然回復する人もいるため、「脳の病気であり、相談・治療しないと回復できない」といったイメージを与える定義は避けるべきとの意見が聞かれました。また、「依存症は病気である」、「脳の病気」というと恐怖心等を抱いてしまう場合があるとの意見も聞かれました。一方で、依存症が「病気」であるということを理解すると、本人も家族も回復に向かって前向きになり、勉強をしていこうというきっかけになるという意見、依存症が病気であるから医療の対象になり、障害であるから福祉的支援の対象になるということを押さえておく必要がある、という意見が聞かれました。定義の幅についても、自然回復できるような人から対象とすべきという意見から本当に困っている重症の人に対象を絞るべきという意見までありました。さらに、自然回復できる/できないという話については、依存症からの回復者として、アルコール依存症から回復したとしても、完全に「治った」といえる状況は想定されにくく、「治ったから、また飲める」という誤解を与えてしまうのでは、という危惧も示されました。依存症からの回復に関しては、支援につながれば直ちに回復につながる場合ばかりではなく、数年以上の長期にわたって、本人に粘り強く寄り添っていく必要があるとの意見も聞かれました。このように、依存症は、疾患としての病態が非常に多様で幅広い状態像を包含するものであり、回復についても様々な経過や形があるとの議論がなされました。」と紹介されています。
また、「その他依存症について」では、「依存症は、アルコール依存症、薬物依存症、ギャンブル等依存症の3種類にとどまらず、その種類は多様です。全ての種類の依存症を網羅することは難しいですが、これまでに確認されている依存症は、大きく「特定の物質に対する依存症」、「特定の行動に対する依存症」の2つに分類できるとされています。まず「特定の物質に対する依存症」には、アルコールや薬物(合法の薬剤含む)のほか、たばこ(ニコチン)などの嗜好品への依存などが見られます。また、「特定の行動に対する依存症」には、ギャンブル等のほか、買い物、インターネット利用、性行為、窃盗などへの依存が見られます。いずれも、依存することによって日常生活や健康に問題が生じているにもかかわらず、自らコントロールできない状態に陥っている点が共通しています。「特定の行動に対する依存症」の中で、近年注目が集まっているものが、ゲームに対する依存症、いわゆる「ゲーム障害」です。ゲームに熱中して生活リズムが乱れてしまう、学校や職場でもゲームをしてしまう、といった日常生活上の問題のほか、オンラインゲーム等で過度の課金を行ってしまうといった経済的な問題等も合わせて発生する場合もあることがゲーム障害の特徴として指摘されています。こうしたことから、令和元年5月に、WHO(世界保健機関)はゲーム障害を精神疾患の一つとして位置付け、我が国においても厚生労働省を中心として令和2年2月に「ゲーム依存症対策関係者連絡会議」が開催されるなど、対策に向けた取組が進められています。」と取り上げています。
さらに、「新型コロナウイルス感染症の依存症への影響」では、「世界的に猛威を振るっている新型コロナウイルス感染症(以下「新型コロナ」という。)は、我が国においても多くの人々の生活に大きな影響を及ぼしました。新型コロナがもたらした影響の中には、外出自粛に伴う景気の悪化、企業等の業績不振に伴う失業の増大、他者と触れ合う機会の減少など様々なものが挙げられます。現在、新型コロナと依存症との関連性に関するエビデンス等は示されていませんが、計画素案の作成プロセスにおいては、これまで活発に社会生活を営んでいた人たちが、依存症になる事例が増えてくるのではないかとの意見が医療関係者から聞かれました。具体的には、様々なリスク要因を持つ人が、失職などにより生活が激変し、様々な苦境にさらされる中で、飲酒量が増えるなどして、数年かけて依存問題が出てくるのではないかとの指摘です。上記の意見を踏まえれば、新型コロナの感染拡大による依存症への影響は、時間をかけて顕在化してくることが予想されます。」との指摘がなされています。
取組みが一歩進んでいた大阪府・市のIR計画については、ここにきて厳しい状況となっています。大阪府市が2月中旬に示したIR実施方針の修正案で、全面開業時期は白紙、施設規模は当初構想の5分の1も可とするなど大幅に下方修正されているからです。コロナ禍でIR事業者の苦境は深まっており、MGMも、2020年の通期決算で売上高は前期比6割減に落ち込んでいます。IRと万博の会場になる大阪湾の人工島、夢洲への地下鉄延伸費用として約200億円の負担もIR事業者に求めており、MGM・オリックスが撤退することになれば、IRに先立って開かれる万博にも影響しかねない状況です(なお、報道によれば同社は、「(大阪府・市に提出する)提案書の準備はできている」と説明した。新型コロナウイルス感染拡大により事業環境が悪化しているものの、「パートナーであるオリックスとともに大阪IRへの参入に向けて引き続き尽力する」と意欲を示しているということです)。もともと大阪府市は訪日客の増加を見込んで、国の要件を大きく上回る施設を2025年の大阪・関西万博にあわせて全面開業させる構想でしたが、来場者の見通しも不透明になり、鉄道各社の延伸投資にも影響が出そうな状況です。そのような状況を受けて、今回修正された実施方針案では2020年代後半の部分開業を認め、展示施設の当初規模を国の要件に合わせて下げ、全面開業時の5分の1の「2万平方メートル以上」でOKとしたものの、これでは隣の咲洲にある「インテックス大阪」の3分の1にも満たない規模であり、「世界最大級のIR」の目標がだいぶ霞んできたようです。
▼大阪府IR推進会議 大阪・夢洲地区特定複合観光施設区域整備実施方針(案)の修正概要
なお、本資料では、追加の取組み等として、「感染症対策」については、「諸外国のIRの取組例や感染防止のためのガイドラインなども踏まえ、対策内容や実施体制を定めた計画を策定、適切な対策を実施」、「感染症が発生した場合、拡大状況等を踏まえ、国、府・市が発表する規制・方針等を踏まえ適切に対応、連携した取組み」が追加されたほか、「ギャンブル等依存症対策」については、「2020年3月に策定した大阪府ギャンブル等依存症対策推進計画に基づき、市町村及び関係機関と連携協力し、有効な対策を着実に実施」と修正、「事業者等対応指針」として、「公平性・公正性及び透明性の確保を徹底するため、「事業者対応等指針」を策定・運用済み」、「基本方針の修正に合わせ、特別職(知事・市長・副知事・副市長)を追加」が追加されています。
その他、IRカジノを巡る報道から、いくつか紹介します。
- 米カジノ大手のラスベガス・サンズは、ネバダ州ラスベガスで運営するカジノ事業を米投資ファンドのアポロ・グローバル・マネジメントと不動産投資信託会社VICIプロパティーズに売却すると発表しています。売却額は62億5000万ドル(約6,700億円)にも上るといい、縮小傾向にある米国事業から撤退し、収益率の高いマカオやシンガポールに経営資源を集中すると報じられています。
- カナダ最大の日刊紙トロント・スターは、親会社のトルスター社が新聞社の経営下支えのためにオンラインカジノの運営に年内に乗り出すと伝えています。新聞経営はカナダでも広告料金の減少などで厳しさを増していますが、メディア企業のギャンブル分野への進出には(当然ながら)批判の声もあります。報道によれば、トルスター社経営陣の一人は「地域に根差した質の高いジャーナリズム発展に寄与する」と、カジノ運営の正当性を強調しているようです。
(7)-3.犯罪統計資料
前回の本コラム(暴排トピックス2021年2月号)では、「令和2年の犯罪情勢」をとりあげました。また「令和2年1~12月犯罪統計資料」についても「暫定版」として紹介しました。今般、「確定値」版が公表されていますので、あらためて確認します。
▼警察庁 令和2年1~12月犯罪統計資料【確定値】
令和2年1~12月の刑法犯の総数は、認知件数は614,231件(前年同期748,559件、前年同期比▲17.9%)、検挙件数は279,185件(294,206件、▲5.1%)、検挙率は45.5%(39.3%、+6.2P)となり、コロナ禍により認知件数が大きく減少したことが特徴です。犯罪類型別では、刑法犯全体の7割以上を占める窃盗犯の認知件数は417,291件(532,565件、▲21.8%)、検挙件数は170,887件(180,897件、▲5.6%)、検挙率は40.9%(34.0%、+6.9P)であり、「認知件数の減少」と「検挙率の上昇」という刑法犯全体の傾向を上回り、全体をけん引していることがうかがわれます(なお、令和元年における検挙率は34.0%でしたので、さらに上昇していることが分かります)。うち万引きの認知件数は87,280件(93,812件、▲7.0%)、検挙件数は62,609件(65,814件、▲4.9%)、検挙率は71.7%(70.2%、+1.5P)であり、認知件数が刑法犯・窃盗犯ほどには減少していない点が注目されます。また、検挙率が他の類型よりは高い(つまり、万引きは「つかまる」ものだということ)一方、一時期、検挙率の低下傾向が続いていましたが、ここ最近はプラスに転じている点は心強いといえます。また、知能犯の認知件数は34,065件(36,031件、▲5.5%)、検挙件数は18,153件(19,096件、▲4.9%)、検挙率は53.3%(53.0%、+0.3P)、そのうち詐欺の認知件数は30,498件(36,031件、▲5.4%)、検挙件数は15,270件(15,902件、▲4.0%)、検挙率は50.1%(49.4%、+0.7P)と、とりわけ刑法犯全体の減少幅より小さく、コロナ禍においてもある程度詐欺が活発化していたこと、一方で検挙率が高まっている点が注目されます(なお、令和元年は49.4%であり、ここにきてようやく昨年と同じ水準に回復したことになります)。
また、令和2年1月~12月の特別法犯総数について、検挙件数は72,913件(73,034件、▲0.2%)、検挙人員は61,345人(61,814人、▲0.8%)となっており、令和元年においては、検挙件数が前年同期比でプラスとマイナスが交互し、横ばいの状況が続きましたが、ここ最近は減少傾向が続いています(とはいえ、ほぼ横ばい・高止まりといってもよい状況です)。犯罪類型別では、入管法違反の検挙件数は6,846件(6,241件、+9.7%)、検挙人員は5,005人(4,735人、+5.7%)、ストーカー規制法違反の検挙件数は1,003件(882件、+13.7%)、検挙人員は811人(728人、+11.4%)、貸金業法違反の検挙件数は115件(105件、+9.5%)、検挙人員は101人(95人、+6.3%)、犯罪収益移転防止法違反の検挙件数は2,634件(2,577件、+2.2%)、検挙人員は2,133人(2,144人、▲0.5%)、不正アクセス禁止法違反の検挙件数は609件(816件、▲25.4%)、検挙人員は141人(145人、▲2.8%)、不正競争防止法違反の検挙件数は58件(68件、▲14.7%)、検挙人員は69人(63人、+9.5%)、銃刀法違反の検挙件数は5,459件(5,469件、▲0.2%)、検挙人員は4,821人(4,818人、+0.1%)などとなっており、入管法違反とストーカー規制法違反、犯罪収益移転防止法違反は増加したものの、不正アクセス禁止法違反や不正競争防止法違反が大きく減少している点が注目されます(不正アクセス事案は体感的にまだまだ減っていないと思われているだけに数字上は意外な結果となっています。引き続き注視が必要な状況だといえます)。また、薬物関係では、麻薬等取締法違反の検挙件数は1,053件(915件、+15.1%)、検挙人員は546人(435人、+25.3%)、大麻取締法違反の検挙件数は5,865件(5,306件、+10.5%)、検挙人員は4,904人(4,221人、+16.2%)、覚せい剤取締法違反の検挙件数は11,825件(11,648件、+1.5%)、検挙人員は8,245人(8,283人、▲0.5%)などとなっており、大麻事犯の検挙が、コロナ禍で刑法犯・特別法犯全体が減少傾向にあるにもかかわらず、令和元年から継続して増加し続けていること、さらに、覚せい剤事犯については、減少傾向が続いていたところ、検挙件数・検挙人員が横ばい、さらには微増に転じていることから、薬物が確実に蔓延していることを感じさせる状況です(依存性の高さから需要が大きく減少することは考えにくく、外出自粛の状況下でもデリバリー手法が変化している可能性がうかがえます。なお、参考までに、令和元年における覚せい剤取締法違反については、検挙件数は11,648件(13,850件、▲15.9%)、検挙件数は8,283人(9,652人、▲14.2%)でしたので、減少傾向が下げ止まり、増加に転じている状況であるといえます)。
なお、来日外国人による重要犯罪・重要窃盗犯の国籍別検挙人員の総数553人(482人、14.7%)、ベトナム115人(77人、+49.4%)、中国89人(98人、▲9.2%)、ブラジル55人(47人、+17.0%)、韓国・朝鮮27人(32人、▲15.6%)、フィリピン25人(32人、▲21.9%)、インド17人(9人、+88.9%)、スリランカ14人(19人、▲26.3%)、パキスタン11人(9人、+22.2%)などとなっており、昨年から大きな傾向の変化はありません。
暴力団犯罪(刑法犯)総数については、検挙件数は13,257件(18,640件、▲28.9%)、検挙人員は7,533人(8,445人、▲10.8%)となっており、特定抗争指定やコロナ禍の影響からか、刑法犯全体の傾向と比較しても検挙件数・検挙人員ともに大きく減少していること、とりわけ検挙件数の激減ぶりは特筆すべき状況となっていること、とはいえ徐々に前年同期比の減少幅が縮小していることなどが指摘できます(なお、令和元年は、検挙件数は18,640件(16,681件、▲0.2%)、検挙人員は8,445人(9,825人、▲14.0%)でしたので、基礎疾患を抱え高齢化が顕著に進行している暴力団員のコロナ禍の行動様式として、検挙されない(検挙されにくい)活動実態にあったといえます)。また、犯罪類型別では、暴行の検挙件数は851件(894件、▲4.8%)、検挙人員は829人(866人、▲4.3%)、傷害の検挙件数は1,366件(1,527件、▲10.5%)、検挙人員は1,629人(1,823人、▲10.6%)、脅迫の検挙件数は448件(414件、+8.2%)、検挙人員は415人(393人、+5.6%)、恐喝の検挙件数は434件(491件、▲11.6%)、検挙人員は575人(636人、▲9.6%)、窃盗の検挙件数は6,712件(10,748件、▲37.6%)、検挙人員は1,157人(1,434人、▲19.3%)、詐欺の検挙件数は1,545件(2,327件、▲33.6%)、検挙人員は1,249人(1,448人、▲13.7%)、賭博の検挙件数は62件(142件、▲56.3%)、検挙人員は225人(189人、+19.0%)などとなっており、暴行や傷害、脅迫、恐喝事犯の減少が続く一方、これまで増加傾向にあった窃盗と詐欺が一転して大きく減少している点は注目されます(さらに、暴行等の減少幅をも大きく上回る減少幅となっており、特定抗争指定やコロナ禍の影響がまさにこの部分に表れているものとも考えられます)。
また、暴力団犯罪(特別法犯)の総数については、検挙件数は7,793件(8,121件、▲4.0%)、検挙人員は5,656人(5,836人、▲3.1%)となっており、こちらも大きく減少傾向を継続している点が特徴的だといえます(特別法犯全体の傾向より減少傾向にあるもおの、刑法犯ほどの激減となっていない点も注目されます)。うち暴力団排除条例違反の検挙件数は52件(23件、+126.1%)、検挙人員は121人(45人、+168.9%)、麻薬等取締法違反の検挙件数は177件(182件、▲2.7%)、検挙人員は58人(56人、+3.6%)、大麻取締法違反の検挙件数は1,099件(1,129件、▲2.7%)、検挙人員は732人(762人、▲3.9%)、覚せい剤取締法違反の検挙件数は5,088件(5,274件、▲3.5%)、検挙人員は3,510人(3,593人、▲2.3%)などとなっており、とりわけ暴排条例違反の摘発が顕著に増加している点が注目されます(全国で進む暴排条例の改正により、「暴力団排除特別強化地域」内におけるみかじめ料の授受等の摘発が強化・厳格化されている成果を示すものといえます)。また、令和元年の傾向とやや異なり、大麻取締法違反の検挙件数・検挙人員も大きく減少に転じている点が注目されます。一方、覚せい剤取締法違反についても令和元年の傾向とは異なり、ここ最近は減少幅が小幅になってきている点も注目されます。いずれも、新型コロナウイルス感染拡大による外出自粛の影響で対面での販売が減っている可能性を示唆していますが(覚せい剤等は常習性が高いことから需要が極端に減少することは考えにくいこと、さらに対面型からデリバリー型に移行しているとの話もあり)、正確な理由は定かではありません(なお、令和元年においては、大麻取締法違反の検挙件数は1,129件(1,151件、▲1.9%)、検挙人員は762人(744人、+2.4%)、覚せい剤取締法違反の検挙件数は5,274件(6,662件、▲20.8%)、検挙人員は3,593人(4,569人、▲21.4%)でした)。
また、令和3年1月についても公表されていますので、数字だけとなりますが、紹介します。
▼警察庁 令和3年1月犯罪統計資料
令和3年1月の刑法犯総数について、認知件数は41,497件(前年同期53,962件、前年同期比▲23.1%)、検挙件数は19,691件(17,163件、+14.7%)、検挙率は47.5%(31.8%、+15.7P)と、検挙件数が昨年1年間の数字(▲17.9%)より大きく減少した一方で、検挙人員については、昨年の▲5.1%から+14.7%とプラスに転じている点が大きな特徴です。単月での数字ですので評価が難しいところですが、検挙率が45.5%から47.5%と2.0Pもアップしたことは素直に評価したいと思います。なお、刑法犯全体の7割を占める窃盗犯の認知件数は28,201件(38,780件、▲27.3%)、検挙件数は12,202件(10,608件、+15.0%)、検挙率は43.3%(27.4%、+15.9P)、うち万引きの認知件数は6,959件(7,681件、▲9.4%)、検挙件数は4,528件(4,452件、+1.7%)、検挙率は65.1%(58.0%、+7.1P)、知能犯の認知件数は2,530件(2,374件、+6.6%)、検挙件数は1,322件(879件、+50.4%)、検挙率は52.3%(37.0%、+15.3P)、詐欺の認知件数は2,297件(2,152件、+6.7%)、検挙件数は1,135件(735件、+54.4%)、検挙率は49.4%(34.2%、+15.2P)などとなっています。
また、特別法犯総数については、検挙件数は4,792件(4,086件、+17.3%)、検挙人員は3.955人(3,459人、+14.3%)、犯罪類型別では、入管法違反の検挙件数は344件(312件、+10.3%)、検挙人員は250人(199人、+25.6%)、犯罪収益移転防止法違反の検挙件数は146件(187件、▲21.9%)、検挙人員は118人(149人、▲20.8%)、不正アクセス禁止法違反の検挙件数は14件(21件、▲33.3%)、検挙人員は6人(5人、+20.0%)、銃刀法違反の検挙件数は377件(316件、+19.3%)、検挙人員は335人(286人、+17.1%)、麻薬等取締法違反の検挙件数は54件(52件、+3.8%)、検挙人員は35人(25人、+40.0%)、大麻取締法違反の検挙件数は398件(280件、+42.1%)、検挙人員は301人(239人、+25.9%)、覚せい剤取締法違反の検挙件数は671件(590件、+13.7%)、検挙人員は452人(450人、+0.4%)などとなっています。また、来日外国人による重要犯罪・重要窃盗犯 国籍別 検挙人員については、総数57人(30人、+90.0%)、ベトナム24人(4人、+500.0%)、中国11人(2人、+450.0%)などとなっています。
一方、暴力団犯罪(刑法犯)罪種別 検挙件数・人員 対前年比較の刑法犯総数については、検挙件数は782件(715件、+9.4%)、検挙人員は392人(379人、+3.4%)と昨年1年間の傾向とは異なり、検挙件数・検挙人員ともに前年1月の数字を大きく上回っている点が特徴です。今後の動向に注意していきたいと思います。犯罪類型別では、暴行の検挙件数は54件(59件、▲8.5%)、検挙人員は56人(45人、+24.4%)、傷害の検挙件数は83件(87件、▲4.6%)、検挙人員は100人(103人、▲2.9%)、脅迫の検挙件数は18件(24件、▲25.0%)、検挙人員は18人(17人、+5.9%)、窃盗の検挙件数は439件(345件、+27.2%)、検挙人員は61人(53人、+15.1%)、詐欺の検挙件数は73件(78件、▲6.4%)、検挙人員は57人(40人、+42.5%)などとなっています。さらに、暴力団犯罪(特別法犯)主要法令別 検挙件数・人員 対前年比較の特別法犯総数について、検挙件数は369人(372人、▲0.8%)、検挙人員は238人(289人、▲17.6%)とこちらは昨年1年間の傾向同様、減少傾向が続いていることが分かります。犯罪類型別では、暴力団排除条例違反の検挙件数は5件(2件、+150.0%)、検挙人員は12人(2人、+500.0%)、麻薬等取締法違反の検挙件数は9件(9件、±0.0%)、検挙人員は1人(3人、▲66.7%)、大麻取締法違反の検挙件数は43件(45件、▲4.4%)、検挙人員は21人(40人、▲47.5%)、覚せい剤取締法違反の検挙件数は260件(246件、+5.7%)、検挙人員は162人(186人、▲12.9%)などとなっており、暴力団排除条例違反の摘発が進んでいる点が大変目につきます。
(8)北朝鮮リスクを巡る動向
北朝鮮国営メディアは、金正恩朝鮮労働党総書記が「国家の代表」として務める国務委員長の「委員長」の英語表記を「chairman」から「president(大統領)」に変更したと報じています。中国やキューバなど社会主義国を含め、多くの国家元首の通例に合わせたとみられるほか、建国の父である祖父、故金日成主席も英語表記はpresidentで、対外的な権威付けを図る狙いもありそうです。
さて、2021年3月4日付ロイターによれば、北朝鮮の人権問題を担当する国連のキンタナ特別報告者は、北朝鮮が新型コロナウイルス感染拡大抑制のため講じている厳しい措置により、人権侵害や飢餓を含む経済困窮が助長されていると述べたといいます。中国と国境を接する北朝鮮ではまだ感染者が報告されていませんが、過去1年にわたって国境を封鎖して大半の海外渡航を禁止し、国内移動も極度に制限していることはこれまでも紹介してきたとおりです。そのような状況下、「新型コロナ感染流行中に北朝鮮が外部からの孤立を深めるにつれ、これまでも常態化している人権侵害が助長されているもようだ」と述べています。さらには、中国との貿易減少(報道によれば、昨年は20年ぶりの低水準となり、稼ぎ頭だった国連制裁の対象外である時計やカツラが9割減ったということです)で市場の活動が著しく縮小し、小規模な市場での活動に依存する多くの家計で所得が減少していることをふまえ、「必需品、医薬品、農業に必要な物資、国営工場への原材料供給が不足している」とし、昨年の台風襲来と洪水発生が「深刻な食糧危機」をもたらす可能性があると懸念を表明しています。実際のところ、北朝鮮指導部は、最近は「自力更生」や「自給自足」の号令をかけ、苦境を乗り切ろうとしている様子が顕著です。経済危機をしのぐため、中国の支援を受けざるを得ないとの見方も浮上していますが、先月開催された朝鮮労働党中央委員会総会では、金正恩総書記が深刻な電力不足を自ら明らかにしたほか、消極的な経済計画を立てた責任者を叱責し、経済部長を1カ月で更迭しています(見せしめ、引き締めを狙ってのものと考えられます)。さらに、交換用の部品が足りず、操業できずにいる大規模工場も出ている一方で、軍需工業部門の計画を徹底遂行するよう指示しています。本コラムで以前紹介したとおり、北朝鮮の金正恩総書記は1月に「米国を屈服させる」と発言し、軍事パレードで潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を公開するなど軍事力を誇示しました。米国のバイデン新政権はトランプ前政権の対北朝鮮政策の全面的な見直しに着手、すでに米国務省の報道官は「(北朝鮮は)核・ミサイル(開発)計画を進めており、米国にとって緊急の優先事項だ」と強調し、同盟・友好国と連携して対処する考えを示しています。バイデン氏が副大統領を務めたオバマ政権下で「戦略的忍耐」を掲げた結果、核兵器の能力向上を許したとの反省も念頭にあると考えられますが、非核化への糸口を探る一方、経済的苦境が続く北朝鮮が再びミサイル発射などの挑発に転じる可能性も否定できず、難しい舵取りを迫られているといえます。
さて、国連安全保障理事会の北朝鮮制裁委員会の下で制裁違反の有無を調べる専門家パネルは、北朝鮮が軍事情報や外貨の獲得を求めてイスラエルなど数十の防衛企業や組織にサイバー攻撃をしかけたこと、が暗号資産交換業者へのサイバー攻撃などで、2019~20年に推計3億1,640万ドル(約333億円)を奪ったと指摘する20年の年次報告書を提出しています。核・ミサイル開発の資金源となっている可能性が指摘されています。報道によれば、「伝統的な銀行取引と比べて追跡が難しい」(2019年の中間報告書)ことなどが背景要因として考えらえるといいます。また、さまざまな報道を集約すると、そのほかにも、サイバー攻撃では、ビジネス向けSNSで著名な防衛・航空宇宙企業の人事担当者になりすまし、関連企業の従業員に接近、電話による会話やテキストメッセージで信頼を獲得した上で、マルウェア(悪意のあるソフト)を添付した電子メールをターゲットに送る手口が使われたこと、観光客や学生ビザで入国し、建設、芸術、健康、スポーツ、ケータリングやITなどの分野で活動を継続していること(新型コロナが活動を促進した側面があるとの指摘もあること)、あるいは、北朝鮮が昨年、国連安全保障理事会の制裁が定めるガソリンなど石油精製品輸入量の上限を「数倍」も上回る量を密輸入した疑いがあること(日米などが連携して監視を強化する中、北朝鮮の「制裁逃れ」が横行していること。船舶の積み荷を海上で移し替える「瀬取り」などの違法な手法で、輸入量は昨年1~9月だけで「上限を数倍上回る」といい、北朝鮮が「巧妙な」手口で密輸を図っていること)なども明記されています。なお、報告書では、北朝鮮が昨年1~9月に中国近海で少なくとも400回にわたり石炭を密輸したと指摘、その大半は中国東部、浙江省・寧波の近海で海上で積み荷を移し替える「瀬取り」の手法を使ったといい、また、石油精製品についても「瀬取り」の手法で、昨年1~9月に少なくとも121回にわたって密輸したと指摘しています。その輸入量は、タンカーの最大積載量の90%が使用されたと仮定した場合、計約440万バレルとなり、決議で定められた年間の上限(50万バレル)の8倍以上に及ぶとしています。また、北朝鮮の制裁違反に中国の企業が関与している疑いも複数浮上したとも指摘しています。また、北朝鮮とイランが長距離ミサイルの開発計画で20年に重要部品を輸出するなど、相互に協力していること、北朝鮮は2018年に豊渓里の核実験場のトンネルを爆破し、これを核実験をやめる決意の証だと主張しましたが、2021年2月10日付ロイターによれば、ある加盟国は専門家パネルに対し、核実験場にはいまだに人員が配置されており、廃棄されていないことが分かると伝えたといいます。また、ある加盟国によると、北朝鮮とイランは長距離ミサイル開発計画での協力を再開しており、重要部品の移転も含まれているということです。報告書にはイランのラバンチ国連大使が12月に専門家パネルに送った書簡が添付されており、同大使は、専門家パネルの調査では「偽情報とでっち上げられたデータが」使われた可能性があると主張しているようです。
なお、関連して、米司法省は2月、北朝鮮のハッカー3人(平壌の軍事情報機関に所属する27~36歳の男)が国内外の銀行や企業から計13億ドル(約1,390億円)超を盗むなどしたとして、起訴したと発表しています。報道によれば、この3人は朝鮮人民軍の特殊工作機関、偵察総局のハッカー集団(いわゆる悪名高き「ラザルス・グループ」)に所属し、世界各地の銀行から多額の現金を窃取、暗号資産市場から巨額の資金を奪っていたとされます。暗号資産取引所や金融機関、オンラインカジノを標的にサイバー攻撃などを仕掛けた疑いがあり、米国、英国、韓国、台湾、ベトナムなどの企業が被害に遭い、その被害総額は、北朝鮮の2019年の民間輸入総額(推計値)の約半分に相当するというから驚きです。なお、この3人は、2014年に映画会社ソニー・ピクチャーズエンタテインメントの未公開映像などが流出したサイバー攻撃にも関与し、うち1人は2018年9月に訴追されているといいます。まさに北朝鮮のハッキング能力は米中央情報局(CIA)並みとの指摘もあるとおりで、中国、ロシア、シンガポールなどを拠点に、ベトナム、パキスタン、バングラデシュ、メキシコなどの銀行のシステムに侵入し第三国に巨額の外貨を送金させる手口を駆使しており、その精鋭部隊は日本も狙っているともいわれています。なお、その手口等の一端が、2021年2月9日付日本経済新聞に詳しく紹介されています。一部引用すると、「北朝鮮はハッキングで盗んだ仮想通貨を他の仮想通貨に替える「チェーンホッピング」という手法を使い、追跡を困難にしたと新たに指摘した。盗んだ仮想通貨を中国の店頭取引(OTC)トレーダーが相場よりも割安な価格で買い取り、イーサリアムやビットコインなど他の仮想通貨に交換するマネー・ローンダリングが横行しているという。19年から調査していた金融機関や仮想通貨交換事業者への複数のサイバー攻撃をめぐり、北朝鮮の偵察総局傘下のハッカー集団「ビーグルボーイズ」が関係していたとも結論付けた。北朝鮮がセネガルやコンゴ民主共和国で合弁企業によるホテルや空港の建設を通じ、外貨を取得しているとも指摘した。「違法な労働のネットワークによる重大な金銭の流れ」があり、事業規模は最大で7億5千万CFAフランに上るとした」ということです。
さて、北朝鮮によるサイバー攻撃としては、ランサムウエアによる企業脅迫型のサイバー攻撃を急増させていることも注目されます。暗号資産を脅し取り、中国で現金化しているといい、年間1,000人の「サイバー戦士」を育成し、制裁下での外貨獲得策を確立しようとしているようです。報道によれば、北朝鮮は2018年以降、韓国の中小企業に狙いを定めたランサムウエア攻撃を急増させており、セキュリティが脆弱で、言葉の壁がないため狙われていると指摘されています。北朝鮮は過去に、偽ドル札の製造や麻薬取引、中東などへの兵器売却を重要な資金源としてきましたが、国連の厳しい経済制裁によってこうした策は八方ふさがりとなっており、今や北朝鮮にとってサイバー攻撃は効率的で安全な資金獲得手段になっているとさえ言える状況です。さらに、北朝鮮が米製薬大手ファイザーにハッカー攻撃を仕掛け、新型コロナウイルスワクチンの技術を盗み取ろうとしたとの報道もありました(2021年2月17日付ロイター)。報道ではハッキングの時期や成否には触れられていませんが、昨年には北朝鮮のハッカーとみられる集団が、米J&J、米ノババックス、英アストラゼネカを含む、少なくとも9つの医療関係組織への侵入を試みたとされ、盗み取ったワクチンデータを自国製ワクチンの開発に利用するよりも、データを売却して利益を得ることに関心があるのではないかと指摘されています。
その他、北朝鮮を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。
- 2021年2月21日付読売新聞によれば、韓国軍合同参謀本部が、韓国北東部で、脱北者男性を確保した経緯を発表、男性の侵入に気づくのが遅れ、警戒態勢のずさんさが問題になっているとのことです。報道を一部引用すると、「男性は20歳代の民間人。潜水服と足ひれを身につけ、16日未明、江原道高城郡の海岸に泳いで到着した。男性の侵入後、海岸などに設置された監視カメラが計8回、その姿を捉え、警報も2回鳴ったが、担当者は気づかず、侵入から約3時間40分後にようやく緊急情報を発令した。軍が男性を確保したときには、侵入から約6時間が経過していた。昨年11月にも、軍が気づかない間に脱北者が韓国に入った事例があり、韓国メディアは「軍の綱紀が崩壊水準にある」(韓国日報)などと批判している」ということです。
- 米CNNは、2019年2月末にベトナム・ハノイで行われた米朝首脳会談の後に、トランプ米大統領(当時)が北朝鮮の金正恩現総書記に対し、「(大統領専用機)エアフォース・ワンで送っていこうか」と提案していたと報じています。正恩氏が断ったが、突然の申し出にトランプ氏の側近らには衝撃が走ったということです。
- 2021年3月5日付読売新聞によれば、秋から冬にかけて北海道の沿岸で相次いでいた、北朝鮮製とみられる木造船の漂着・漂流の確認件数が、昨年はゼロだったことがわかったということです。海上保安庁が統計を取り始めた2013年以降、初めてのことだといい、新型コロナウイルスの感染拡大で北朝鮮が出漁を控えているためと考えられますが、一方、日本海では中国漁船の違法操業が増えており、漁場の緊張は続いているということです。報道によれば、「北朝鮮は昨夏から、コロナ禍で出漁を禁止している」ということであり、北朝鮮漁船は日本海で取ったイカやカニを自国に持ち帰るだけでなく、海上で中国やロシアなどの外国船に売り、外貨を稼ぐケースもあったところ、「コロナ感染者ゼロ」を主張する北朝鮮は、コロナ対策を厳格化する中、外国人と接触する可能性のある日本海への出漁を禁止しているということのようです。一方で、木造船に代わって大和堆に押し寄せているのが、北朝鮮から日本海の漁業権を買っているとされる中国の漁船だといいます。いずれにせよ、外国船による乱獲は資源の枯渇を招きかねず、厳しく取り締まっていく必要がありそうです。
3.暴排条例等の状況
(1)暴排条例に基づく逮捕事例(新潟県)
キャバクラ店経営者らから「みかじめ料」を徴収したとして、新潟県警組織犯罪対策2課などは、稲川会系3次団体組長ら計7人を新潟県暴排条例違反の疑いで逮捕しています。報道によれば、組長は昨年9月、長岡市のJR長岡駅周辺区域を派遣先としている無店舗型性風俗店の営業者から「用心棒代」として計9万円を受け取った疑いのほか、他の6人は昨年8月から11月にかけて、同区域の複数のキャバクラ店経営者らから「場所代」として計21万円を受け取った疑いがあるといいます。店はいずれも条例で指定された「特別強化区域」の特定営業者で、同区域での罰則適用は昨年3月に改正暴排条例が施行されて以降、初めてだということです。
▼新潟県暴排条例
同条例第17条において、「暴力団排除特別強化区域(特別強化区域)」が指定されており、第19条(特別強化区域における暴力団員の禁止行為)第2項において、「暴力団員は、特別強化区域における特定営業の営業に関し、特定営業者から、顧客その他の者との紛争が発生した場合に用心棒の役務の提供をすることの対償として利益の供与を受けてはならない。」と規定されており、みかじめ料を徴収したということで本規定に抵触するものと考えられます。その結果、第24条(罰則)「次の各号のいずれかに該当する者は、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する」として、「(3) 第19条第1項、第2項又は第3項の規定に違反した者」があげられていますので、今回の逮捕に至ったものと思われます。
(2)岡山市暴力団威力利用等禁止条例に基づく逮捕事例
岡山中央署は、風俗店経営者から「みかじめ料」を受け取った岡山市暴力団威力利用等禁止条例違反の疑いで、神戸山口組系組幹部の男を逮捕しています。報道によれば、今年1月、同条例で暴力団排除強化地域とされている同市北区柳町で風俗店を営む男性に数の子1箱を売りつけ、用心棒代などの名目で現金5千円を受け取った疑いがあるといい、「数の子は渡しただけで、売ってはいない」と容疑を否認しているということです。
なお、「岡山市暴力団威力利用等禁止条例」については、前回の本コラム(暴排トピックス2021年2月号)執筆時点ではその詳細が不明であったところ、鹿児島大学の宇那木准教授の論考「都道府県条例と市町村条例」の中に言及がありましたので、以下、それを基に、基本的な条文構造を紹介します。当該論考によれば、「岡山市の暴力団排除政策については、同市の暴力団についての基本方針を定める岡山市暴力団排除基本条例が制定され、同基本条例を受けて岡山市暴力団威力利用等禁止条例、岡山市公共施設における暴力団排除に関する条例が制定されています。このうち岡山県条例の競合関係が問題になるのは、岡山市暴力団威力利用等禁止条例(以下「岡山市条例」という)です」とされています。岡山市条例は、特定接客業者は、暴力団排除強化地域における特定接客業の営業に関し、暴力団員から、用心棒の役務の提供を受けてはならないとし(第3条)、暴力団員は、暴力団排除強化地域における特定接客業の営業に関し、用心棒の役務の提供をしてはならないとし(第4条)、特定接客業者は、暴力団排除強化地域における特定接客業の営業に関し、暴力団員に対し、顧客その他の者との紛争が発生した場合に用心棒の役務の提供を受けることの対償として金品その他の財産上の利益を供与し、又はその営業を営むことを容認することの対償として金品その他の財産上の利益を供与してはならないとし(第5条)、暴力団員は、暴力団排除強化地域における特定接客業の営業に関し、特定接客業者から、顧客その他の者との紛争が発生した場合に用心棒の役務を提供することの対償として金品その他の財産上の利益の供与を受け、又はその営業を営むことを容認することの対償として金品その他の財産上の利益の供与を受けてはならない(第6条)としています。岡山市条例第3条から第6条までの規定の実効性確保に当たっては、(1)相手方が暴力団員であることの情を知って第3条の規定に違反して、用心棒の役務の提供を受けた特定接客業者(第9条第1号)、(2)第4条の規定に違反して、暴力団排除強化地域における特定接客業の営業に関し、用心棒の役務の提供をした暴力団員(第9条第2号)、(3)相手方が暴力団員であることの情を知って第5条の規定に違反して、金品その他の財産上の利益を供与した特定接客業者(第9条第3号)、(4)第6条の規定に違反して、暴力団排除強化地域における特定接客業の営業に関し、金品その他の財産上の利益の供与を受けた暴力団員(第9条第4号)について、いずれも1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する旨を定めています。
(3)暴力団対策法に基づく再発防止命令発出事例(大阪府)
飲食店で男性客から現金を脅し取るなどした疑いで、六代目山口組の二次団体「兼一会」の幹部が逮捕されています。報道によれば、2019年、大阪市淀川区にあるキャバクラ店で飲食代を全額支払わなかった男性に対し、「足らん分を払え、6万円やったんや」などと言い、現金3万円を脅し取った恐喝の疑いで逮捕されています。なお、この事件では、キャバクラ店の元経営者の男ら2人も同じ恐喝の容疑で逮捕されています。容疑者は2018年、このキャバクラ店を含む3店舗から用心棒代を受け取っていたとして、大阪府の公安委員会から同様の行為をしないよう1年間の再発防止命令を受けていたところ、この再発防止命令の期間中にも関わらず、同じキャバクラ店から用心棒代を受け取ったとして、警察は暴力団対策法違反の疑いでも容疑者を逮捕したということです。
▼暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律
第11条(暴力的要求行為等に対する措置)第2項において、「公安委員会は、指定暴力団員が暴力的要求行為をした場合において、当該指定暴力団員が更に反復して当該暴力的要求行為と類似の暴力的要求行為をするおそれがあると認めるときは、当該指定暴力団員に対し、一年を超えない範囲内で期間を定めて、暴力的要求行為が行われることを防止するために必要な事項を命ずることができる。」と定められており、行為が繰り返されるのを防ぐために予防的に禁止する措置である「再発防止命令」が発出されたものとなります。さらに、その再発防止命令に従わなかったことは、第46条(罰則)において「次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。一 第十一条の規定による命令に違反した者」に該当することとなり、暴力団対策法違反で逮捕されたものとなります。
(4)暴力団対策法に基づく中止命令発出事例(和歌山県)
風俗店を経営する男性からみかじめ料名目で金を脅し取ろうとしたとして、和歌山東警察署は、六代目山口組傘下組織の組員2人に金品などを要求しないよう暴力団対策法に基づく中止命令を出しています。報道によれば、2人は共謀して、和歌山市内の組事務所などで、市内で風俗店を経営する40歳代の男性に対し、みかじめ料名目で現金を脅し取ろうとした恐喝未遂の疑いで逮捕、和歌山地方検察庁が2人を処分保留で釈放したことを受けて、警察が2人に対し中止命令を出したものということです。
▼暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律
第11条(暴力的要求行為等に対する措置)第1項において、「公安委員会は、指定暴力団員が暴力的要求行為をしており、その相手方の生活の平穏又は業務の遂行の平穏が害されていると認める場合には、当該指定暴力団員に対し、当該暴力的要求行為を中止することを命じ、又は当該暴力的要求行為が中止されることを確保するために必要な事項を命ずることができる。」と規定されており、本規定にもとづき「中止命令」が発出されたものとなります。
(5)暴力団対策法に基づく中止命令発出事例(岡山県)
岡山県警津山署は、六代目山口組系の組幹部に暴力団対策法に基づき、不当要求行為の中止命令を出しています。報道によれば、昨年8月、岡山県北部の橋の工事を請け負っていた東京の建設会社社員に電話で「地元のことも考えているだろうな」などと脅迫し、地元対策費の名目で現金を要求したとされます。同幹部は今年1月、恐喝未遂容疑で同署に逮捕されましたが、不起訴になっています。暴力団対策法上の立て付けは前項に同じですが、問題となっている不当要求行為については、同法第9条(暴力的要求行為の禁止)において、「二 人に対し、寄附金、賛助金その他名目のいかんを問わず、みだりに金品等の贈与を要求すること。」に該当するものと考えられます。
(6)暴力団関係事業者に対する指名停止措置等事例(福岡県)
直近で、福岡県、福岡市、北九州市において、1社について排除措置が取られています。
▼福岡県 暴力団関係事業者に対する指名停止措置等一覧表
▼福岡市 競争入札参加資格停止措置及び排除措置一覧
▼北九州市 福岡県警察からの暴力団との関係を有する事業者の通報について
当該企業は、構成員であることを知りながら雇用または使用していることを理由として、福岡県に「排除措置」(福岡県建設工事競争入札参加資格者名簿に登載されていない業者に対し、一定の期間、県発注工事に参加させない措置で、この期間は、県発注工事の、(1)下請業者となること、(2)随意契約の相手方となること、ができない)を講じられ、社名が公表されています。福岡県では、「構成員等であることを知りながら、構成員等を雇用し、又は使用している」ことを理由に、12カ月の排除措置がとられたほか、福岡市では、「暴力団との関係による」として、12カ月の排除措置、北九州市では、「当該業者が、「暴力団員であることを知りながら当該暴力団員を雇用し、又は使用していること」に該当する事実があることを確認した」としていますが、現時点で排除機関は「審議中」となっています。これまでも指摘しているとおり、3つの自治体で、公表のあり方、措置内容等がそれぞれ明確となってはいるものの、措置内容等は異なっており、大変興味深いといえます。