暴排トピックス

取締役副社長 首席研究員 芳賀恒人

道を歩く人々

1.暴力団対策法30年~暴力団対策を根本から見直す時期だ

暴力団対策法(暴対法)が1992年に施行されてから、3月1日で丸30年を迎えました。あらゆる暴力団対策の根拠法といわれるこの法律によって、従来の法令で取り締まれなかった、企業や民間人への不当要求行為に歯止めがかけられるようになり、組員数は減少し、組織は弱体化しました(なお、兵庫県警に必死の作業で山口組がはじめて指定暴力団に指定されたのは、1992年6月1日で、当時の山口組は全国42都道府県に23,000人を擁する大組織でした)。一方で、近年は「半グレ」と呼ばれる反社会的勢力が台頭してきており、新たな課題も浮かび上がっています。半グレは明確な組織を持たずに集団での暴行や特殊詐欺、みかじめ料の徴収などに手を染めるとされ、久留米大の廣末登氏は「暴力団の指示を受けた半グレが『闇バイト』のような形で特殊詐欺の受け子を募集し、一般人を巻き込むケースもある」と指摘しています。報道によれば、ある捜査員は「半グレは法律上の定義がない。トップの名前は把握していても、組織としての活動実態はつかみづらいのが実情だ」と話しています。暴力団対策法はこの30年間に大きな役割を果たしてきましたが、最近の暴力団そのものの変質や周辺者(反社会的勢力)の拡大や存在の多様化・不透明化、手口の巧妙化・多様化が急激に進む中、「制度疲労」的な綻びを見せ始めています。組織性がないこと以外はほぼほぼ暴力団に近い活動実態をみせる「半グレ」に暴力団対策法が適用できない(その取扱いがいまだ確立されていない)状況や六代目山口組の分裂騒動の際に露呈した指定暴力団分裂時の取扱いの問題、「貧困暴力団」と化した暴力団の「強固な内部統制」の緩み(指定暴力団の指定要件への非該当の状況が今後予想される)、前回の本コラム(暴排トピックス2022年2月号)で指摘した暴力団事務所のバーチャル化に対する対応、そもそも地域性を勘案して「条例」レベルにとどめた全国各地の暴力団排除条例との関係の整理、暴力団離脱者の取扱い(その判断を事業者に委ねたままでは、「元暴アウトロー」を大量に生み出すだけで何も改善しない)、ますます潜在化する暴力団とそのあり様が変化している反社会的勢力について「どこまで規制をかけるべきか」が中途半端な状態で事業者にその対応を全面的に委ねられてしまっている問題、そして、最も本質的な問題である「暴力団を合法組織と認めてよいのか」といった積年の課題への対応など、今、改正を検討しておくべき理由が数多くあります。暴排条例10年とあわせ、まずはこれからの10年をどのように規制のあり方を見直していくのか、岐路に立っているといえます。

以下、暴力団対策法施行30年の節目に報じられた記事をいくつか紹介します。

[暴対法施行30年]<上>「シノギ」の場、ネットに…「暗号資産50億荒稼ぎ」(2022年3月1日付読売新聞)
「いったい、どうなっているんだ?」。2020年秋頃、東京・桜田門の警視庁本部で、捜査幹部が首をかしげていた。息子を装って高齢者宅に電話をかけ、現金をだまし取る典型的な特殊詐欺。国内最大の暴力団山口組の周辺者の男が逮捕され、組織の関与が疑われたが、その後の捜査で耳を疑う事実が判明したのだ。男に指示していたのは別の暴力団稲川会の組員で、その上役は極東会の組員。さらに住吉会の組員や周辺者の関与も浮上し、次々と芋づる式に逮捕された。わずか十数人の詐欺グループの中に、異なる四つの暴力団。「結束を重んじるヤクザがよその組員と見境なくタッグを組むなんて昔ならあり得ないが、今はカネのためなら何でもありで、上層部も黙認している」。…最近はインターネットを駆使し、海外口座を使った株式や外国為替証拠金取引(FX取引)のほか、暗号資産に投資する組員もいる。やはり共生者に運用させるのだ。運用が失敗した場合でも、暴力をちらつかせて金を取り立てる。だから暴力団は損をしない。…警視庁幹部は「シノギ(資金獲得活動)の現場がインターネット空間に移りつつある。暗号資産の取引を確定させるネット上の『マイニング(採掘)』と呼ばれる作業で報酬を得ているヤクザもいるようだ」と語った。警察庁によると、30年前に9万人を超えた暴力団員は約4分の1の25,900人(2020年)に減り、5,422組織が解散した。暴対法に加え、利益供与を禁じる暴排条例が全ての都道府県で施行された影響も大きい。だが、一部の組織は今も社会に巣くい、勢力を保ち続けている。
[暴対法施行30年]<下>対工藤会 警察の威信…「市民 矢面に立たせない」(2022年3月5日付読売新聞)
「この30年で、最も警察の力が試されたのが工藤会との対決だった」。かつて福岡県警本部長を務めた元警視総監の吉田尚正氏(61)が振り返る。北九州市を拠点とする工藤会は暴力団排除に激しく抵抗し、要求を拒む市民らを次々と襲った。2003年には暴排運動のリーダーが営む飲食店に手投げ弾を投げ込み、店員ら十数人に重軽傷を負わせた。凶悪事件が続くにつれ、市民の間に「警察は頼りにならない」という不信感が広がった。「暴力団員立入禁止」の標章を取り下げる飲食店もあった。このままでは、暴力団の要求に屈服する空気が全国に広がり、暴排の流れが逆戻りしかねない」。警察当局は危機感を強め、全国から捜査員を福岡県警に応援派遣し、警察の威信をかけた「頂上作戦」を展開した。…08年に1,350だった工藤会の勢力は20末時点で520人に減少し、県警は「結束が弱まり、勢力が衰えている」とみている。工藤会との対決を通じ、改めて浮き彫りになったのが「市民を矢面に立たせない」ことの重要性だ。…暴力団をやめる組員の支援も、暴排の成否を左右する重要なポイントだ。確実に離脱させることが、組織の弱体化につながる。…警察庁によると、この30年で約17,500人が警察の支援で離脱し、約1,300人が就職先の紹介を受けた。名古屋市の元組員は昨年自ら行った就職活動で約10社から断られたが、県警の紹介で職を得た。「しっかり働いて真面目に生きていきたい」と語る。暴力団を長年取材してきたジャーナリストの溝口敦さん(79)は「最後に暴排の成否を分けるのは、市民の意識ではないか」とみる。市民の側に暴力団を許容する素地がある限り、暴力団は生き残るというのだ。…暴排を社会の隅々にまで浸透させる道のりは、まだ遠い。警察が市民を守り、市民は暴力団と関係を持たない。行政や弁護士らが支援する。それぞれの不断の取り組みが、暴排を前へと進めていく。
潜る暴力団、サイバー犯罪も「シノギ」 暴対法施行30年(2022年3月1日付日本経済新聞)
民事介入暴力の規制などを目的に、1992年に暴力団対策法が施行されて1日で30年となった。同法をきっかけに排除の機運は民間でも高まり、当時約9万人いた全国の暴力団勢力は7割以上減少。組織の弱体化が進んだ一方で、「シノギ」と呼ばれる資金獲得活動を特殊詐欺やサイバー犯罪などに潜在化させる動きもある。…同法では、犯罪歴がある構成員が一定以上いるなどの条件を満たす暴力団を各都道府県の公安委員会が指定する。指定暴力団員が威力を示して不当に金品要求するといった「暴力的要求行為」などを禁じ、こうした行為の中止や再発防止を命令して取り締まれるようにした。命令に従わない場合には刑事罰も科される。「行政命令を駆使して対処できる意味は大きく、暴力団の拡大に着実に歯止めをかけてきた」。警察幹部は同法の意義をこう語る。暴力的要求行為は「みかじめ料」の要求や不当な債権の取り立てなど27類型ある。警察庁によると、同行為などへの中止命令は92~2020年に計51,955件に上った。暴対法に加え、暴力団勢力の弱体化に寄与したのが全国で施行された暴力団排除条例だ。組事務所を貸す行為や金品の提供など、市民と暴力団関係者との関わりを遮断。全国の構成員・準構成員らは91年の約91,000人から、20年には7割減の約25,900人まで減った。…ただ、暴力団勢力の実態は「もっと多い」(警察関係者)との見方が根強い。資金源が細る中、法規制を逃れるため身分を隠したり、表に出ることなく犯罪収益を上げられる特殊詐欺などに関わったりする例も目立つ。中にはサイバー犯罪に走るケースもある。「サイバー犯罪に詳しい協力者から手ほどきを受けたのだろう」。捜査関係者が語るのは、指定暴力団「旭琉会」(沖縄県)系幹部の男らが摘発されたネットバンキングの不正送金事件だ。…捜査関係者は「組織の垣根にとらわれず、カネのにおいを嗅ぎつけて緩やかなつながりをもとに犯罪グループを構成して実行する。実態が捉えにくくなっている」と警戒する。主に半グレ集団などが実行し、背後の暴力団に資金が流れる特殊詐欺でも同様の傾向がうかがえるという。違法に得た資金のマネー・ローンダリングも後を絶たない。20年に全国の警察が摘発した600件の約1割は暴力団構成員や準構成員らによるものだったが、「氷山の一角」(警察関係者)との声もある。資金源の潜在化が懸念される中、事件の摘発などを通じて実態を的確に把握し、遮断していけるかが課題となる。…暴力団が関わる特殊詐欺事件で、組織のトップに被害者への損害賠償を命じる判決が相次いでいる。暴力団側も支払いに応じ、被害者救済の手法として定着しつつある。…一般人が暴力団相手に訴訟を起こすハードルは高い。暴力団対策に詳しい柊木野一紀弁護士は「今後は消費者団体が代わりに提訴できる消費者裁判のように、被害者の集団訴訟制度の立法も検討すべきだ」と話している。
暴力団組員減少 ネットで資金獲得する動きにシフト、特殊詐欺も資金源に(2022年3月2日付日刊スポーツ)
暴力団対策法は1992年の施行から1日で30年がたった。改正を重ね、組織トップの使用者責任など規制を強化し、補完する暴力団排除条例の制定も全国で進んだ。9万人を超えた組員は7割以上減少し、一方で規制の網から漏れる「半グレ」と呼ばれる不良集団などが台頭。2015年には最大組織の山口組が分裂した。しのぎ(資金獲得)がインターネット空間に潜る動きもあり、警察当局は引き続き警戒を強めている。「ネット犯罪や給付金詐欺など時代の変化に応じてしのぎを変えている」(捜査関係者)。警視庁や福岡県警などは20年以降、新型コロナウイルス対策の持続化給付金を詐取したとして、組員らを相次いで逮捕。捜査関係者は「暗号資産(暗号資産)で稼いだり、サイバー犯罪に手を染めたりするケースもある」と指摘し、暴力団捜査が長い警視庁OBは「しのぎがネット空間にシフトしつつある」と話す。他に目を付けたのが近年多発する特殊詐欺で、薬物密売と共に大きな資金源となっている。…警察庁によると、暴力団関係者は施行前の91年、9万1千人だったが、20年は2万5900人。減少傾向は続いているが、その一方で暴対法適用外の「準暴力団」などが勢力を伸ばした。…警察幹部は、この30年間で社会の空気が変わってきたとして「持ちつ持たれつだった関係が、排除すべき存在との認識が根付いてきた。今後も壊滅に向けて摘発に力を入れていく」と話した。

本コラムでも継続的に問題視してきた「暴力団離脱者支援」について、大きな動きがありました。2022年2月27日付読売新聞によれば、暴力団組織と決別した元組員の社会復帰を後押しするため、警察庁が2月1日、元組員による預貯金口座の開設を支援するよう都道府県警に指示したことがわかったというものです。同日付で金融庁にも金融機関への周知を要請したといい、組織からの離脱を加速させ、暴力団勢力を弱体化させるのが狙いということです。金融機関は組員から口座開設を申し込まれた場合、「暴力団排除条項」に基づき、開設を拒否していますが、さらに、多くの金融機関は「反社会的勢力」について独自のデータベース(DB)を整備しており、DBに登録があれば、元組員でも、「契約自由の原則」を基に契約を断るケースが少なくないのが実態です。一方、元組員は、口座を開設できず、給与の振り込みや家賃の引き落とし、携帯電話の契約ができないなど社会復帰の足かせとなるケースが報告されていることをふまえ、警察庁が今回、口座開設の支援策を決定、暴力団をやめた人物が元組員を雇い入れる協賛企業に就職し、面談などで組織から決別したと判断できた場合には、警察が金融機関に連絡して説明したり、暴力追放運動推進センター職員が口座開設の申し込みに同行したりするということです。報道によれば、関係者は「組織が組員に『やめても口座すら作れないぞ』と言い、離脱を防ぐケースもある。口座開設の支援が離脱の促進につながるのは間違いない」と話しているといいます。一方、筆者が多くの金融機関と話している限りにおいては、「口座開設後に組との関係が発覚する、口座が犯罪に悪用される、会社や取引先等とトラブルになる、といったリスクは当然高いとみており、その対応や責任について、結局、民間金融機関に委ねられることになるはず。AML/CFTの厳しい要請もある中、そのような高いリスクを負うことになるのは(国等から離脱の事実に関して何ら保証されないままでは)合理性に欠ける」といった意見に集約されます。一般の事業者にとっても、金融機関同様のリスクがあるほか、社外のステークホルダからの評価(レピュテーションリスク)、社内のトラブルや不協和音などの問題への対処など、検討すべき課題もたくさん残されていると感じているようです(実際、報道されているとおり暴力団離脱者が就職先でまじめに頑張っている状況であれば、これらは杞憂に過ぎませんが、すべて問題なく進むとは限らない実態もあります)。これまで過剰なまでに反社会的勢力排除に取り組んできた社会や事業者の意識と社会的包摂、暴力団離脱者支援の意義をどうすりあわせて共存の道を切り拓いていくのか、まだまだ入口に立ったに過ぎないと感じています

その他、暴力団組織に関する最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 六代目山口組直系山健組の事務所(神戸市中央区花隈町)について、暴力団追放兵庫県民センター(暴追センター)が使用差し止めを求める仮処分を神戸地裁に申し立てる方針を固めています。山健組は山口組内で最大勢力を誇った有力組織で、神戸山口組から再度離脱して六代目山口組に戻ってきた状況にあること、組事務所は神戸市中心部の住宅街にあり、2019年10月には、山健組系組員2人が別組織の組員に射殺される事件も起きていることなど、近隣住民の不安が高まっていたものです。暴力団事務所をめぐっては、本コラムでもたびたび取り上げているとおり、各地の暴追センターが住民に代わって、使用差し止めなどを申し立てることができる代理訴訟制度が暴力団対策法で規定されており、その活用が活発化しています。
  • 沖縄県の旭琉会の暫定代表に、幹事長で二代目照屋一家の永山克博総長が就任することが分かったということです。2019年7月に富永清前会長が逝去し、約2年半にわたり会長が不在となっていたものです。2011年11月、富永前会長らが主導する形で、県内にあった四代目旭琉会と沖縄旭琉会が一本化し、「旭琉会」が発足、富永前会長の死去後、沖縄県警は組織運営を巡る新たな抗争の勃発を警戒しているところですが、北中城村の同会本部で幹部会が開かれ、永山暫定代表の就任が了承され、暫定代表を中心に同会の理事や役職を改め、今後の組織運営の足固めをすることになったということです。早い段階で理事長などの要職を選任し、組織内の世代交代を図っていくとみられています。報道によれば、沖縄県警は「情報収集を徹底し、対立抗争の予兆が見られれば、県警の総力を挙げて対処するとともに、県民の安心安全な生活の確保に取り組む」としています。
  • 工藤会幹部らと密接な関係があることを隠して証券口座を開設したなどとして、福岡、沖縄両県警は、福岡市の会社役員の男を詐欺容疑で、嘉麻市の会社員の男を詐欺未遂容疑で逮捕しています。両県警は証券取引で得た収益が工藤会に流れていたとみて捜査しているといいます。報道によれば、会社役員の男は2021年2月、暴排条項のある証券会社の口座を開設した疑いがあり、会社員の男は2015年6月、福岡市内の金融機関で預金通帳を発行させようとした疑いがあります。容疑者の口座では数百万円の取引が確認されており、福岡県警が工藤会の資金源の捜査を進める中で発覚したということです。容疑者は沖縄の建設会社で取締役を務めており、県警は工藤会が資金源を求めて沖縄に進出しようとした可能性もあるとみて調べています。

次に、暴力団や反社会的勢力が関与した犯罪等について、最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 新型コロナウイルス対策で営業時間の短縮要請に応じた事業者に支給される大阪府の協力金約400万円を不正に受給したとして、大阪府警捜査4課は、詐欺容疑で、六代目山口組系傘下組織の幹部と、妻の両容疑者を再逮捕しています。報道によれば、幹部は妻が経営していた居酒屋に勤務していたとのことですが、協力金は暴力団員や関係者が経営に関わる事業者は受給できない規定があります。逮捕容疑は共謀し、2021年2~5月の3回にわたって居酒屋に暴力団組員が関わっていないとする虚偽の申請を3回にわたって行い、同6月25日までに協力金計416万円をだまし取ったといいます。申請書類を受け取った大阪府が大阪府警に照会し、容疑者が暴力団員と発覚、大阪府警は今年2月、別の時期の営業時間短縮に関する協力金60万円をだまし取ろうとしたとして、容疑者らを詐欺未遂容疑で逮捕していたものです。
  • 愛知県警は、六代目山口組直系組織竹中組のナンバー2で傘下組織組長の村上容疑者と組員の小藪容疑者の2人を詐欺の疑いで逮捕しています。報道によれば、2人は2016年1月、小藪容疑者が暴力団員であることを隠して名古屋市北区の4階建てビルを約2,100万円で購入した疑いがあり、ビルは村上容疑者が組長を務める組織の事務所として使用していたとされます。この組織は名古屋市内に事務所を構えていましたが、2014年に火事で焼失したため、新たな事務所を探していたといいます。なお、竹中組は、山口組の竹中正久4代目組長の出身組織で、兵庫県姫路市に本部があるます。
  • 札幌南警察署は、詐欺の疑いで千歳市に住む稲川会二代目高橋組幹部と自営業の男を逮捕しています。2人は2021年7月、空知の由仁町にあるゴルフ場で暴力団員であることを隠し、ゴルフをプレーした疑いが持たれています。報道によれば、このゴルフ場では、入り口や受付票などで暴力団など反社会的勢力の施設利用ができないことを通知していたということです。調べに対し、暴力団幹部の男は「暴力団員であることは間違いない。ゴルフをプレーしたことは間違いない」と、自営業の男は「一緒にプレーした男が暴力団員であることは知っていた。暴力団員は施設を利用できないことは知っていた」とそれぞれ容疑を認めています。
  • 兵庫県警暴力団対策課と同県警灘署は、六代目山口組系組長で会社社長の男を再逮捕しています。2020年12月、反社会的勢力との取引を拒絶する大阪市の物流会社に対し、暴力団組員であることを隠した内容の契約書を提出し、下請け作業の請負契約を結んだ疑いがもたれています。男の会社はエレベーターや電気設備などの設置を請け負っており、物流会社とは経営者が別だった25年ほど前から取引があり、男が社長に就いてから契約を更新する際、虚偽の契約書を郵送したというものです。
  • 総額1億円以上をだまし取っていたとみられる特殊詐欺グループで、現金の受け取り役らを統括していた六代目山口組系暴力団幹部ら3人が警視庁に逮捕されています。容疑者らは、2017年、特殊詐欺グループの他のメンバーらと共謀して横浜市の70代の男性の家に息子を装って電話をかけ、「重要書類が入った鞄を駅のトイレに忘れてしまった」、「100万円を支払わないと契約がダメになる」などと言って、現金100万円をだまし取った疑いがもたれています。警視庁は、容疑者が、十数人のメンバーからなる詐欺グループで現金の受け取り役らを統括し、1年半ほどの間に1都8県で63人からあわせておよそ1億700万円をだまし取ったとみて調べています。また、特殊詐欺グループの指示役とみられる暴力団組員の男が警視庁に逮捕されています。被害総額はおよそ5,800万円にのぼるとみられています。詐欺の疑いで逮捕されたのは、住吉会系暴力団組員で、2020年6月、仲間と共謀し、埼玉県川口市の80代の女性に対し「会社の重要な書類をなくした」などとウソの電話をかけ、現金120万円をだまし取った疑いがもたれています。警視庁によれば、容疑者は特殊詐欺グループの指示役で、2020年6月からの5か月間で東京と埼玉の高齢者8人からあわせて5,800万円ほどをだまし取ったとみられています。
  • 営利目的で海外から空路でコカイン約290グラム(末端価格約580万円)を密輸したなどとして、福井県警組織犯罪対策課と福井署は、麻薬取締法違反(営利目的輸入)と麻薬特例法違反の疑いで、稲川会系組員ら4人を逮捕しています。報道によれば、国際スピード郵便を利用し密輸、使用した段ボール箱の中にはランチョンマットのような敷物が複数枚あり、敷物の内部にコカインを隠していたといいます。大阪税関からの通報を受け、容疑が分かったといい、4人は知人関係にあり、福井県警は密売目的だったみており、密売先や組織性などを調べています。なお、福井県警が一度に押収したコカインの量としては過去最大だということです。また、約23億5,000万円相当の大麻を米国から営利目的で密輸したとして、愛知県警は、麻薬特例法違反(業としての大麻輸入)などの疑いで、住所不詳、六代目山口組幹部ら男2人を追送検しています。2020年11月から21年4月の間に12回、米国から航空便で乾燥大麻計約3.9キロ(約2,400万円相当)と液状大麻計約93.9キロ(約23億2,000万円相当)を密輸したというものです。愛知県警によると、事件に関与したとしてこれまで計26人を摘発、2021年8月、乾燥大麻を所持したとする同法違反容疑で伴容疑者を逮捕し、密輸の指示役とみて調べていたものです。さらに、福岡県大川市と朝倉市の工場跡で大麻草を栽培したなどとして、福岡県警と九州厚生局麻薬取締部が、六代目山口組系中川連合の組員ら4人を大麻取締法違反(営利目的栽培など)容疑で逮捕しています。報道によれば、捜査当局は、人目につきにくい場所で大量に大麻を栽培するため、都市部ではない地域の工場跡を選んだとみているとのことです。2015年以降で少なくとも1億円を売り上げていたといいます。2021年11月以降、大川市、朝倉市の大麻栽培拠点などを捜索し、乾燥大麻約1キロ(末端価格約600万円)を押収したほか、収穫済みの大麻約40キロ、大麻草約70株も押収しており、これらは乾燥大麻にすると、末端価格は数千万円に上るといい、インターネットで客を募るなどしていたということです。また、石川県警は、北陸三県での組織的な覚せい剤の密売事件を摘発したと発表しています。暴力団幹部など、男女あわせて19人が逮捕されています。報道によれば、容疑者らは北陸三県の顧客などに対し、覚せい剤を譲りわたした疑いがもたれています。今年3月までに、2人から覚せい剤などを受け取っていた男女合わせて17人を覚せい剤の所持や使用などの疑いで逮捕したものです。さらに、警視庁組織犯罪対策五課は今年2月、覚せい剤取締法違反(製造)容疑で住吉会系の組員ら4人を逮捕しています(なお、逮捕された組員の酒井容疑者はユーチューバーとしても有名だったようです)。2021年10月、新宿区内の関係先を捜索したところ、覚せい剤約800グラムが見つかったうえ、他にもコカインが1.8キロ、乾燥大麻800グラムも押収さています。さらには実弾10発まで見つかったといいます。部屋には鍋、コンロや茶こしも見つかっており、覚せい剤を飲料や紙などに混ぜ密輸する手口が増えており、そうしたものから抽出した覚せい剤を煮詰め、純度を高めて精製していた疑いがもたれています。福岡県警は、覚せい剤の密売を繰り返したなどとして道仁会系組員を覚せい剤取締法違反容疑などで、組幹部と別の組員を麻薬特例法違反容疑で逮捕しています。2021年11月、久留米市内の駐車場の車内で、営利目的で覚せい剤約25グラム(末端価格約150万円)を所持するなどした疑いがもたれています。組幹部と組員は2021年9~10月にそれぞれ小郡市の男に、覚せい剤のようなものを覚せい剤として1万円で譲り渡した疑いがもたれています。車は第三者が所有しており、長期間にわたり駐車場に駐車されており、別の組員らが乗り込むのも確認されており、県警は、容疑者が所属する組が覚せい剤の「倉庫」として車を活用していたとみて調べています。また、大阪市の歓楽街・ミナミを拠点に覚せい剤の密売を繰り返したなどとして、工藤会系組幹部の被告や密売人の男ら計6人を覚せい剤取締法違反などの疑いで逮捕、書類送検しています。工藤会は県警の取り締まりが厳しい福岡を避けて密売する動きを見せており、六代目山口組や神戸山口組が勢力を持つ地域でも活動している実態が明らかになりました。報道によれば、被告らは2021年6月、大阪市中央区南船場のホテルの一室で、覚せい剤約100グラム(末端価格約600万円)や液体大麻約100グラム(同約300万円)を密売目的で所持するなどしたとされます。なお、容疑者らが偽名で宿泊していた大阪市内のホテルを捜索し、客の名前と送り先が記載された宅配伝票などを押収、大阪市内の複数のマンションからも宅配伝票などが見つかり、覚せい剤は大阪市内のコンビニエンスストアなどから客に発送していたことも分かりました。密売グループは約10人で構成され、県警は福岡県を中心に兵庫、滋賀や愛媛、北海道などの6道県で30数人の客を確認、代金は他人名義の口座に振り込ませており、県警は売り上げの一部が工藤会の資金源につながった可能性があるとみて調べています。

その他、反社会的勢力に関する最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 約40人が在籍した東海地方最大規模のスカウトグループ、通称「ラッシュ」が昨秋、愛知県警に摘発されています。ラッシュの実質的代表の男ら4人を、性風俗店に女性を紹介した職業安定法違反(有害業務の紹介)の疑いで逮捕したものです。報道によれば、業界では、キャバクラは紹介料として数万円を受け取るだけだが、性風俗店の場合、女性の売り上げの15%程度を受け取れるとされます。女性が店で働いている限り、スカウトも収入が得られるのでもうけが大きく、男性は、女性たちを店に紹介した後も、悩みごとなどを聞くようにしていたといい、「ウィンウィンの関係」と言い切っています。また、警察の捜査を意識して、グループ内の連絡は「テレグラム」という通信アプリを使っていたといいます(一定時間が過ぎると通信記録が削除されるもので犯罪組織などが使用しています)。また、現場のスカウトには、警察に逮捕されたらスマホの暗証番号を教えないよう指導していたことも明らかになっています。巨大なスカウトグループが姿を消しても、SNSでは、性風俗店の特徴や報酬などとともに、「#出稼ぎ」「#スカウト」などと記して女性を勧誘する投稿が後を絶たない状況があります。愛知県警はラッシュが暴力団の資金源になっていた可能性があるとみており、風俗店、女性、スカウトと、暴力団の勢力下で金がぐるぐると回っている構図が見え隠れしています。暴力団でも半グレでもないものの、こうしたスカウトグループもまた反社会的勢力として位置付けるべきものといえます。
  • 劇場経営などを手がける御園座の株主総会をめぐり、議事進行に協力した謝礼に観劇券2枚を受け取ったとして、愛知県警は、三重県四日市市の無職の男(70)を会社法違反の疑いで逮捕しています。男は豊橋鉄道の株主総会をめぐる利益供与事件で同法違反罪で起訴され、公判中であり、県警は約40年前から「総会屋」として活動していたとみて調べているといいます。報道によれば、観劇券は同社の社長と担当課長が渡したというこです。容疑者は株主総会で最前列の中央に座り、進行がスムーズに進むような発言を繰り返していたとみられており、少なくとも20年前から同社の総会に出席しており、同社の担当者は取材に、「総会屋に社として要請はしていないと認識している。県警の捜査には協力していく」とコメントしています。総会屋の逮捕も最近では少なくなっていますが、法人としての対応には疑問符がつきます。
  • 警視庁の「オウム真理教」のページが更新されていますので、あらためて紹介しておきます。
▼警視庁 オウム真理教の危険性
  • オウム真理教とは
    • オウム真理教(以下「教団」といいます。)は、麻原彰晃こと松本智津夫が教祖・創始者として設立した宗教団体で、かつて、同人の指示のもと、宗教法人を隠れ蓑にしながら武装化を図り、松本サリン事件、地下鉄サリン事件等数々の凶悪事件を引き起こしました。
    • 平成30年7月、一連の凶悪事件の首謀者であった松本をはじめとする13人に死刑が執行されましたが、その後も教団の本質に変化はなく、松本への絶対的帰依を強調する「Aleph」をはじめとする主流派と松本の影響力がないかのように装う「ひかりの輪」を名のる上祐派が現在も活動しています。
  • 教団による凶悪事件
    • 平成元年 信者リンチ殺人事件、弁護士一家殺害事件
    • 平成6年 元信者リンチ殺人事件、サリン使用弁護士殺人未遂事件、松本サリン事件、信者リンチ殺人事件、VX使用殺人未遂事件、VX使用殺人事件
    • 平成7年 VX使用殺人未遂事件、公証役場事務長逮捕・監禁致死事件、地下鉄サリン事件
  • 教団の勧誘活動
    • 教団は、毎年100人程度に上る多数の新規信徒を獲得しています。
  • 特に「Aleph」は、組織拡大に向け、教団に関する知識の少ない青年層(30歳代以下)を主な対象とする勧誘活動を積極的に行っており、あらゆる機会を設けて一般人と接点を持ち、教団名を秘匿したヨーガ教室などに誘って人間関係を深めた後に、教団に入会させています。
    • 事例 主流派「Aleph(アレフ)」による勧誘活動の例
      1. 導入 家族や知人への働きかけ、路上や書店における声掛け、SNSでの呼び掛け等により、教団による一連の事件を知らない青年層を中心に接近する。
      2. 人間関係の構築 連絡先を交換してカフェでのお茶会等に誘い、教団名を伏せた仏教の勉強会やヨーガ教室に参加させ人間関係の構築を図る。サクラの信者1、2人が勉強会やヨーガ教室に参加して悩みを聞くなどし、一般参加者であるように装って被勧誘者の抵抗感を取り除く。
      3. 入信 教団名を徹底して伏せた上、一連の事件は国家ぐるみの陰謀と説明するなどして、教団に対するイメージを変化させていき、抵抗感がなくなったことを確認した段階で初めて教団名を告知して入信させる。
  • オウム真理教対策の推進
    • 警察では、凶悪事件を再び起こさせないため、教団の実態解明に努めるとともに、厳正な取り締まりを推進しているほか、住民の平穏な生活を守るため、地域住民や関係する地方公共団体からの要望を踏まえながら、教団施設周辺におけるパトロール等の警戒活動を行っています。
    • また、地下鉄サリン事件から時が経つに連れて、教団に対する国民の関心が薄れ、一連の凶悪事件に対する記憶が風化することなどにより、教団の本質が正しく理解されないことが懸念されることから、教団の現状等について、各種機会を通じて資料による広報啓発活動を行っています。

2.最近のトピックス

(1)AML/CFTを巡る動向

JAFIC(警察庁・刑事局・組織犯罪対策部・組織犯罪対策企画課・犯罪収益移転防止対策室)から、令和3年版「犯罪収益移転防止に関する年次報告書」が公表されています。マネー・ローンダリングの疑いがあるとして、昨年1年間に金融機関などが届け出た取引(疑わしい取引の届出)は前年比97,948件増の530,153件と過去最多となりました。本コラムでもたびたび取り上げているとおり、FATFの第4次対日相互審査結果をふまえ、金融機関を中心に監視の強化が図られていることが大きな要因と考えられますが、最近では、疑わしい取引を効率的にチェックするため人工知能(AI)の活用も進んでいます。疑わしい取引として届け出られた情報は警察庁に集約され、都道府県警察などが捜査に活用されており、情報を端緒に警察が検挙した事件は前年比17件増の1,045件、詐欺関連が8割を占めています。また、届け出の約7割は銀行ですが、暗号資産(暗号資産)交換業者は、前年から5,517件増の13,540件となり、初めて1万件を超えたことも特筆されます。以下、報告書から主要な動向について抜粋して引用します。

▼警察庁 犯罪収益移転防止に関する年次報告書(令和3年)
  • マネー・ローンダリング(Money Laundering:資金洗浄)とは、一般に、犯罪によって得た収益を、その出所や真の所有者が分からないようにして、捜査機関等による収益の発見や検挙等を逃れようとする行為をいう。このような行為を放置すると、犯罪による収益が、将来の犯罪活動や犯罪組織の維持・強化に使用され、組織的な犯罪を助長するとともに、これが移転して事業活動に用いられることにより健全な経済活動に重大な悪影響を与えることから、国民生活の安全と平穏を確保するとともに、経済活動の健全な発展に寄与するため、マネー・ローンダリングを防止することが重要である。
  • 国際社会は、後述のとおりマネー・ローンダリング及びテロリズムに対する資金供与を防止・摘発するための制度を工夫し発展させ、連携してこれに対抗し、我が国も、国際社会と歩調を合わせてマネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策(以下「マネー・ローンダリング対策等」という。)の強化を図ってきた。
  • 特定事業者は、当該規定を前提として、その業務における一般的な知識や経験を踏まえて、取引の形態や顧客等の属性、取引時の状況等を総合的に判断するものであるが、全ての特定事業者が犯罪による収益の移転が疑われる取引の形態を十分に理解しているとは限らず、疑わしさの判断に困難を来す場合も予想される。そのため、特定事業者を所管する行政庁は、当該特定事業者の業務の特徴を踏まえ、「疑わしい取引の参考事例」を公表しているが、これらの事例は、特定事業者が日常の取引の過程で疑わしい取引を発見又は抽出する際の参考とするものであり、これらの事例に形式的に合致するものが全て疑わしい取引に該当するものではない一方、これらの事例に該当しない取引であっても、特定事業者が疑わしい取引に該当すると判断したものは、届出の対象となることに注意を要する。
  • 疑わしい取引の届出制度は、平成4年の麻薬特例法の施行により創設されたが、当初は届出の対象が薬物犯罪に関するものに限られていたことなどから、届出受理件数は同年から平成10年までは毎年20件未満であった。その後、平成11年の組織的犯罪処罰法制定により届出の対象が薬物犯罪から重大犯罪に拡大され、同法が施行された平成12年以降、届出受理件数は増加傾向にあり、令和3年中の届出受理件数は530,150件で、初めて50万件を超えた
  • 令和3年中に抹消された疑わしい取引に関する情報は125,084件で、令和3年12月末における同情報の保管件数は5,270,260件となっている。
  • 令和3年中の疑わしい取引の届出受理件数を届出事業者の業態別に見ると、銀行等が390,381件で届出件数全体の73.6%と最も多く、次いで貸金業者(35,442件、6.7%)、クレジットカード事業者(34,904件、6.6%)の順となっている。さらに、金融商品取引業者(19,728件、3.7%)、暗号資産交換業者(13,540件、2.6%)、資金移動業者(10,499件、2.0%)など。
  • 国家公安委員会・警察庁においては、疑わしい取引の集約、整理及び分析を行い、マネー・ローンダリング事犯若しくはその前提犯罪に係る刑事事件の捜査又は犯則事件の調査に資すると判断されるものを捜査機関等に提供している。令和3年中における捜査機関等に対する疑わしい取引の届出に関する情報の提供件数は524,462件で、過去最多であった。
  • 国家公安委員会・警察庁においては、過去に届け出られた疑わしい取引に関する情報、警察が蓄積した情報、公刊情報等を活用し、近年多種多様な方法で資金獲得活動を繰り返す犯罪組織の実態の解明及び詐欺関連事犯、不法滞在関連事犯、薬物事犯等に関する情報の分析を行っているほか、社会情勢の変化に応じ、匿名性が高くマネー・ローンダリング及びテロ資金供与に悪用される可能性が高い暗号資産の取引、多様化する資金移動サービスを利用した取引及び外国公務員贈賄等に着目した分析を強化している。そして、各種事犯等に係る疑わしい取引に関する情報を総合的に分析した結果を関係する捜査機関等へ提供している。上記分析結果を捜査機関等へ提供した件数は毎年増加しており、令和3年中は、過去最多の12,769件であった
  • 各都道府県警察においては、疑わしい取引に関する情報を犯罪による収益の発見、犯罪組織の実態解明及び犯罪収益関連犯罪の捜査に活用している。令和3年中に都道府県警察の捜査等において活用された疑わしい取引に関する情報数は353,832件であった
  • 令和3年中に疑わしい取引に関する情報を端緒として検挙した事件(端緒事件)の数は1,045件、既に着手している事件捜査の過程において、疑わしい取引に関する情報を活用して検挙した事件(活用事件)の数は1,501件となっている。罪種別の端緒事件数及び活用事件数を類型別にみると、以下のとおりである。
    1. 詐欺関連事犯(詐欺、犯罪収益移転防止法違反等)については、端緒事件数が計855件で端緒事件数全体の81.8%、活用事件数が計647件で活用事件数全体の43.1%を占めて、いずれも最も多く、預貯金通帳等の詐欺又は譲受・譲渡、新型コロナウイルス感染症に関する給付金等の不正受給、ソーシャル・ネットワーキング・サービスを使用したチケット販売詐欺、還付金詐欺やキャッシュカード手交型詐欺等の特殊詐欺等の事件を検挙している
    2. 不法滞在関連事犯(入管法違反)については、端緒事件数が計46件、活用事件数が計41件であり、在留期間が経過した来日外国人の不法残留、就労資格のない来日外国人を不法に就労させた不法就労助長、偽造在留カードの行使等の事件を検挙している。
    3. 組織的犯罪処罰法違反(犯罪収益等隠匿・収受)については、端緒事件数が計41件、活用事件数が計37件であり、詐欺、窃盗等により得た犯罪収益等の隠匿・収受の事件を検挙している。
    4. 薬物事犯(覚醒剤取締法違反、大麻取締法違反等)については、端緒事件数が計39件、活用事件数が計240件であり、覚醒剤や大麻等の違法薬物の所持・譲受・譲渡、組織的に行われた違法薬物の売買等の事件を検挙している。
    5. 偽造関連事犯(偽造有印公文書行使、電磁的公正証書原本不実記録・同供用等)については、端緒事件数が計17件、活用事件数が計42件であり、偽造した自動車運転免許証等を使用した口座開設、偽装結婚等の事件を検挙している。
    6. ヤミ金融事犯(貸金業法違反、出資法違反)については、端緒事件数が計8件、活用事件数が計12件であり、貸金業の無登録営業、高金利貸付等の事件を検挙している。
    7. 風俗関連事犯(風営適正化法違反等)については、端緒事件数が計2件、活用事件数が計12件であり、社交飲食店の無許可営業、店舗型性風俗店の禁止場所営業等の事件を検挙している。
    8. 賭博事犯(常習賭博、賭博場開張図利等)については、端緒事件数が計2件、活用事件数が計10件であり、ゲーム機賭博店における常習賭博、暴力団幹部による野球賭博等の事件を検挙している。
    9. その他の刑法犯(窃盗犯、粗暴犯、凶悪犯等)については、端緒事件数が計18件、活用事件数が計366件であり、他人のキャッシュカードを使用してATMから現金を不正に出金した窃盗、暴力団幹部による恐喝等の事件を検挙している。
    10. その他の特別法犯(商標法違反、銀行法違反等)については、端緒事件数が計17件、活用事件数が計94件であり、商標を使用する者の許可を受けずに模造した商品を販売譲渡した商標法違反、免許を受けずに不正に海外に送金を行った銀行法違反等の事件を検挙している。
  • 令和3年中における組織的犯罪処罰法に係るマネー・ローンダリング事犯の検挙事件数は、犯罪収益等隠匿事件461件、犯罪収益等収受事件162件の合計623件と、前年より26件(4.4%)増加した。組織的犯罪処罰法に係るマネー・ローンダリング事犯を前提犯罪別に見ると、詐欺が243件と最も多く、窃盗が217件、電子計算機使用詐欺が42件、ヤミ金融事犯が25件等である。
  • 令和3年中に組織的犯罪処罰法に係るマネー・ローンダリング事犯で検挙されたもののうち、暴力団構成員等が関与したものは、犯罪収益等隠匿事件32件及び犯罪収益等収受事件28件の合計60件で、全体の9.6%を占めている。暴力団構成員等が関与したマネー・ローンダリング事犯を前提犯罪別に見ると、詐欺が19件と最も多く、窃盗が10件、風営適正化法違反が8件、ヤミ金融事犯が6件等である。マネー・ローンダリング事犯の手口としては、犯罪収益を得る際に他人名義の口座を利用する手口、賭博事犯等の犯罪収益をみかじめ料等の名目で収受する手口がみられ、暴力団構成員等が多様な犯罪に関与し、マネー・ローンダリング事犯を敢行している実態がうかがわれる。
    • 【事例】道仁会傘下組長による貸金業法違反事件に係る犯罪収益等隠匿:無許可で貸金業を営む道仁会傘下組長の男は、借受人からの返済金を他人名義の口座に振込入金させていたことから、組織的犯罪処罰法違反(犯罪収益等隠匿)で検挙した。(佐賀6月)
    • 【事例】太州会傘下組織幹部による風営適正化法違反に係る犯罪収益等収受:太州会傘下組織幹部の男は、風俗店経営の男が、無許可営業により得た収益であることを知りながら、いわゆるみかじめ料の名目で現金を受け取っていたことから、組織的犯罪処罰法違反(犯罪収益等収受)で検挙した。(福岡6月)
  • 海外で行われた詐欺の犯罪収益を正当な資金のようにみせかけ、真の資金の出所や所有者、資金の実態を隠匿しようとするマネー・ローンダリング行為が行われている
    • 【事例】国際的な詐欺事件に係る犯罪収益等隠匿:会社役員の男は、アラブ首長国連邦に居住する被害者から日本の国内銀行に開設された男が管理する法人名義の口座に送金された詐欺の被害金について、正当な事業収益であるかのように装って払戻しを受けたことから、組織的犯罪処罰法違反(犯罪収益等隠匿)及び詐欺で検挙した。(警視庁6月)
  • 犯罪による収益については、犯罪組織の維持・拡大や将来の犯罪活動への投資等に利用されることを防止するため、これを剥奪することが重要である。犯罪による収益の没収・追徴は、裁判所の判決により言い渡されるが、没収・追徴の判決が言い渡される前に、犯罪による収益の隠匿や費消等が行われることのないよう、警察は、組織的犯罪処罰法及び麻薬特例法に定める起訴前の没収保全措置を積極的に活用して没収の実効性を確保している。令和3年中の組織的犯罪処罰法に係る起訴前の没収保全命令の発出件数(警察官たる司法警察員請求分)は142件と、前年より8件(5.3%)減少した。前提犯罪別に見ると、賭博事犯が40件と最も多く、詐欺が22件、風営適正化法違反が19件、入管法違反が16件等である。起訴前の没収保全手続は、犯罪者から犯罪収益等を剥奪するための効果的な手法であり、警察は、今後も同手続を活用して、検察庁との連携を図りながら犯罪組織による犯罪収益等の利用を阻止していく。また、犯罪被害財産に対する没収の裁判の執行を確実なものとし、「犯罪被害財産等による被害回復給付金の支給に関する法律」に基づいて行われる検察官による犯罪被害財産の被害者への回復に貢献するためにも、引き続き犯罪被害財産に対する起訴前の没収保全命令の請求を積極的に行っていく。
  • 犯罪収益移転防止法には、特定事業者(弁護士を除く。)の所管行政庁による監督上の措置の実効性を担保するための罰則及び預貯金通帳等の不正譲渡等に対する罰則が規定されており、警察では、これらの行為の取締りを強化している。多くのマネー・ローンダリング事犯において、他人名義の預貯金通帳が悪用されているが、令和3年中における預貯金通帳等の不正譲渡等の検挙件数は2,535件と、前年より99件減少した

直近では、かんぽ生命保険が少なくとも759件について、法令違反の疑われる法人向け保険契約を結んでいたことが分かったと報じられています(2022年2月24日付朝日新聞ほか)。

特殊詐欺等の犯罪を助長する「犯罪インフラ」としてのイメージが定着しつつある「電話受付代行業」や「電話転送サービス業」ですが、犯罪収益移転防止法上の特定事業者に指定されています。直近で、これらの事業者向けのガイドライン(案)が総務省から公表されました。やはり、金融庁のガイドラインをベースに、これらの事業の特徴を織り込んでいく形となっていますが、業者の実態と乖離していないか懸念があることも事実です(ミニマム・スタンダードと述べているものの、どれだけ厳格に対応できる事業者が存在するのか懸念されます)。以下、その骨格について抜粋して引用します。

▼総務省 電話受付代行業及び電話転送サービス業におけるマネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン(案)に対する意見募集
▼別紙1
  • 我が国におけるマネー・ローンダリング及びテロ資金供与(以下「マネロン・テロ資金供与」という。)対策については、犯罪による収益の移転防止に関する法律(平成十九年法律第二十二号。以下「犯収法」という。)等の関係法令において、取引(犯収法上、電話受付代行業者及び電話転送サービス事業者における取引とは、役務の提供を行うことを内容とする契約の締結であり、本ガイドラインにおいても同じである。)時確認等の基本的な事項が規定されている。
  • 電話受付代行業者及び電話転送サービス事業者は、犯収法上の「特定事業者」に該当するため、これらの法令の規定をその適用関係に応じ遵守する必要があることは当然である。
  • ここでいう、「電話受付代行業者」とは、犯収法における「顧客に対し、(略)自己の電話番号を当該顧客が連絡先の電話番号として用いることを許諾し、(略)当該顧客宛ての当該電話番号に係る電話(ファクシミリ装置による通信を含む。以下同じ。)を受けてその内容を当該顧客に連絡」する役務を提供する業務を行う者であり、以下の全ての要件を満たすサービス(電話受付代行)の提供を行う事業者をいう。
    1. 自己の電話番号を顧客が連絡先の電話番号として利用することを許諾している。
    2. 当該顧客あての当該電話番号に係る電話(ファクシミリを含む。)について応答している。
    3. 通信が終わった後で、当該顧客に通信内容を連絡している。
  • また、「電話転送サービス事業者」とは、犯収法における「顧客に対し、(略)自己の電話番号を当該顧客が連絡先の電話番号として用いることを許諾し、(略)当該顧客宛ての若しくは当該顧客からの当該電話番号に係る電話を当該顧客が指定する電話番号に自動的に転送する役務を提供する業務を行う者」であり、以下の全ての要件を満たすサービス(電話転送サービス)の提供を行う事業者をいう。
    1. 自己の電話番号を顧客が連絡先の電話番号として用いることを許諾している。
    2. 当該顧客あての又は当該顧客からの当該電話番号に係る電話(ファクシミリを含む。)を当該顧客が指定する電話番号に自動的に転送している。
  • また、各電話受付代行業者及び電話転送サービス事業者が講ずべきマネロン・テロ資金供与対策は、時々変化する国際情勢の動向やリスクの変化等に機動的に対応し、マネロン・テロ資金供与リスク管理体制を有効性のある形で維持していく必要がある
  • こうした機動的かつ実効的な対応を実施していくため、電話受付代行業者及び電話転送サービス事業者においては、前記動向の変化等も踏まえながら自らが直面しているリスクを適時・適切に特定・評価し、リスクに見合った低減措置を講ずること(いわゆる「リスクベース・アプローチ」)が不可欠である
  • リスクベース・アプローチによるマネロン・テロ資金供与リスク管理体制の構築・維持は、国際的にみても、金融活動作業部会(Financial Action Task Force、以下「FATF」という。)の勧告等の中心的な項目であるほか、主要先進国でも定着しており、前記の機動的かつ実効的な対応の必要性も踏まえれば、電話受付代行業者及び電話転送サービス事業者にとっては、当然に実施していくべき事項(ミニマム・スタンダード)である
  • なお、テロ資金供与対策については、テロの脅威が国境を越えて広がっていることを踏まえ、電話受付代行業者及び電話転送サービス事業者においては、自らが提供するサービスがテロリストへの資金供与に関連して利用され得るという認識の下、実効的な管理体制を構築しなければならない。例えば、非営利団体との取引に際しては、全ての非営利団体が本質的にリスクが高いものではないことを前提としつつ、その活動の性質や範囲等によってはテロ資金供与に利用されるリスクがあることを踏まえ、国によるリスク評価の結果(犯収法に定める「犯罪収益移転危険度調査書」)やFATFの指摘等を踏まえた対策を検討し、リスク低減措置を講ずることが重要である。
  • このほか、大量破壊兵器の拡散に対する資金供与の防止のための対応も含め、外国為替及び外国貿易法(昭和二十四年法律第二百二十八号)や国際連合安全保障理事会決議第千二百六十七号等を踏まえ我が国が実施する国際テロリストの財産の凍結等に関する特別措置法(国際テロリスト財産凍結法)をはじめとする国内外の法規制等も踏まえた体制の構築が必要である。
  • 電話受付代行業者及び電話転送サービス事業者においては、こうしたマネロン・テロ資金供与対策が、実際の顧客との接点である事業部門において有効に機能するよう、経営陣が主導的に関与して地域・部門横断的なガバナンスを確立した上で、同ガバナンスの下、関係部署が継続的に取組みを進める必要がある。
  • また、経営戦略の中で、将来にわたりその業務がマネー・ローンダリングやテロ資金供与に利用されることのないよう管理体制の強化等を図るとともに、その方針・手続・計画や進捗状況等に関し、データ等を交えながら、顧客・当局等を含む幅広い関係者に対し、説明責任を果たしていくことが求められる。
  • リスクの特定 【対応が求められる事項】
    1. 国によるリスク評価の結果を参照しながら、自らが提供しているサービス、取引形態、取引に係る国・地域、顧客の属性等のリスクを包括的かつ具体的に検証し、自らが直面するマネロン・テロ資金供与リスクを特定すること
    2. 包括的かつ具体的な検証に当たっては、自らの営業地域の地理的特性や、事業環境・経営戦略のあり方等、自らの個別具体的な特性を考慮すること
    3. 取引の相手である顧客、その実質的支配者や取引に、海外の国・地域が関係する場合には、FATFや内外の当局等から指摘を受けている国・地域も含め、包括的に、直接・間接の取引可能性を検証し、リスクを把握すること
    4. 新たなサービス等を取り扱う場合や、新たな技術を活用して行う取引その他の新たな態様による取引を行う場合には、当該サービス等の提供前に、当該サービス等のリスクの検証、及びその提供に係る提携先、連携先、委託先、買収先等のリスク管理体制の有効性も含めマネロン・テロ資金供与リスクを検証すること
    5. マネロン・テロ資金供与リスクについて、経営陣が、主導性を発揮して関係する全ての部門の連携・協働を確保した上で、リスクの包括的かつ具体的な検証を行うこと
    6. 電話回線の卸売をする他社から電話回線を仕入れて行う電話受付代行業及び電話転送サービス事業並びに他社が有するクラウドPBXを経由させて行う電話転送サービス事業において、当局からの照会に対する対応等が適切かつ円滑に進められるかどうか連絡体制の整備や事業者間連携のあり方を検証すること
  • リスクの評価 【対応が求められる事項】
    1. リスク評価の全社的方針や具体的手法を確立し、当該方針や手法に則って、具体的かつ客観的な根拠に基づき、前記「1.リスクの特定」において特定されたマネロン・テロ資金供与リスクについて、評価を実施すること
    2. 上記(1)の評価を行うに当たっては、疑わしい取引の届出の状況等の分析等を考慮すること
    3. 疑わしい取引の届出の状況等の分析に当たっては、届出件数等の定量情報について、部門・拠点・届出要因・検知シナリオ別等に行うなど、リスクの評価に活用すること
    4. リスク評価の結果を文書化し、これを踏まえてリスク低減に必要な措置等を検討すること
    5. 定期的にリスク評価を見直すほか、マネロン・テロ資金供与対策に重大な影響を及ぼし得る新たな事象の発生等に際し、必要に応じ、リスク評価を見直すこと
    6. リスク評価の過程に経営陣が関与し、リスク評価の結果を経営陣が承認すること
  • リスク低減措置の意義 【対応が求められる事項】
    1. 自らが特定・評価したリスクを前提に、個々の顧客・取引の内容等を調査し、この結果を当該リスクの評価結果と照らして、講ずべき実効的な低減措置を判断・実施すること
    2. 個々の顧客やその行う取引のリスクの大きさに応じて、自らの方針・手続・計画等に従い、マネロン・テロ資金供与リスクが高い場合にはより厳格な低減措置を講ずること
    3. 本ガイドライン記載事項のほか、当局等からの情報等を参照しつつ、自らの直面するリスクに見合った低減措置を講ずること
  • 顧客管理(カスタマー・デュー・ディリジェンス:CDD)【対応が求められる事項】
    1. 自らが行ったリスクの特定・評価に基づいて、リスクが高いと思われる顧客・取引とそれへの対応を類型的・具体的に判断することができるよう、顧客の受入れに関する方針を定めること
    2. 前記(1)の顧客の受入れに関する方針の策定に当たっては、顧客及びその実質的支配者の職業・事業内容のほか、例えば、経歴、居住国等、顧客の利用状況、その他顧客に関する様々な情報を勘案すること
    3. 顧客及びその実質的支配者の本人特定事項を含む本人確認事項、取引目的等の調査に当たっては、信頼に足る証跡を求めてこれを行うこと
    4. 顧客及びその実質的支配者の氏名と関係当局による制裁リスト等とを照合するなど、国内外の制裁に係る法規制等の遵守その他リスクに応じて必要な措置を講ずること
    5. 電話受付代行業者及び電話転送サービス事業者の規模や特性等に応じた合理的な方法により、リスクが高い顧客を的確に検知する枠組みを構築すること
    6. サービス、取引形態、国・地域、顧客属性等に対する自らのマネロン・テロ資金供与リスクの評価の結果(Ⅱ-2 2.で行うリスク評価)を踏まえて、全ての顧客について顧客リスク評価を行うとともに、講ずべき低減措置を顧客リスク評価に応じて判断すること
    7. マネロン・テロ資金供与リスクが高いと判断した顧客については、以下を含むリスクに応じた厳格な顧客管理(EDD)を実施すること
      1. 資産・収入の状況、取引の目的、職業・地位、資金源等について、リスクに応じ追加的な情報を入手すること
      2. 当該顧客との取引の実施等につき、上級管理職の承認を得ること
      3. リスクに応じて、取引モニタリングの強化や、定期的な顧客情報の調査頻度の増加等を図ること
      4. 当該顧客と属性等が類似する他の顧客につき、顧客リスク評価の厳格化等が必要でないか検討すること
    8. 顧客の営業内容、所在地等が取引目的、取引態様等に照らして合理的ではないなどのリスクが高い取引等について、取引開始前又は多額の取引等に際し、営業実態や所在地等を把握するなど追加的な措置を講ずること
    9. マネロン・テロ資金供与リスクが低いと判断した顧客については、当該リスクの特性を踏まえながら、顧客情報の調査範囲・手法・更新頻度等を異にしたりするなどのリスクに応じた簡素な顧客管理(SDD)を行うなど、円滑な取引の実行に配慮すること(注1)(注2)
      • (注1)この場合にあっても、電話受付代行業者及び電話転送サービス事業者が我が国及び当該取引に適用される国・地域の法規制等を遵守することは、もとより当然である。
      • (注2)FATF等においては、少額・日常的な個人取引を、厳格な顧客管理を要しない取引の一例として挙げている。
    10. 後記「(5)疑わしい取引の届出」における【対応が求められる事項】のほか、以下を含む、継続的な顧客管理を実施すること
      1. 取引類型や顧客属性等に着目し、これらに係る自らのリスク評価や取引モニタリングの結果も踏まえながら、調査の対象及び頻度を含む継続的な顧客管理の方針を決定し、実施すること
      2. 各顧客に実施されている調査の範囲・手法等が、当該顧客の取引実態や取引モニタリングの結果等に照らして適切か、継続的に検討すること
      3. 調査の過程での照会や調査結果を適切に管理し、関係する役職員と共有すること
      4. 各顧客のリスクが高まったと想定される具体的な事象が発生した場合等の機動的な顧客情報の確認に加え、定期的な確認に関しても、確認の頻度を顧客のリスクに応じて異にすること
      5. 継続的な顧客管理により確認した顧客情報等を踏まえ、顧客リスク評価を見直し、リスクに応じたリスク低減措置を講ずること 特に、取引モニタリングにおいては、継続的な顧客管理を踏まえて見直した顧客リスク評価を適切に反映すること
    11. 必要とされる情報の提供を利用者から受けられないなど、自らが定める適切な顧客管理を実施できないと判断した顧客・取引等については、関係法令を踏まえつつ取引の謝絶を行うこと等を含め、リスク遮断を図ることを検討すること その際、マネロン・テロ資金供与対策の名目で合理的な理由なく謝絶等を行わないこと
  • 取引モニタリング・フィルタリング 【対応が求められる事項】
    1. 疑わしい取引の届出につながる取引等について、リスクに応じて検知するため、以下を含む、取引モニタリングに関する適切な体制を構築し、整備すること
      1. 自らのリスク評価を反映したシナリオ等の抽出基準を設定すること
      2. 上記1の基準に基づく検知結果や疑わしい取引の届出状況等を踏まえ、届出をした取引の特徴(業種・地域等)や現行の抽出基準(シナリオ等)の有効性を分析し、シナリオ等の抽出基準について改善を図ること
  • 記録の保存 【対応が求められる事項】
    1. 本人確認資料等の証跡のほか、顧客との取引・照会等の記録等、適切なマネロン・テロ資金供与対策の実施に必要な記録を保存すること
  • 疑わしい取引の届出 【対応が求められる事項】
    1. 顧客の属性、取引時の状況その他電話受付代行業者及び電話転送サービス事業者の保有している具体的な情報を総合的に勘案した上で、疑わしい取引の該当性について適切な検討・判断が行われる体制を整備し、法律に基づく義務を履行するほか届出の状況等を自らのリスク管理体制の強化にも必要に応じ活用すること
    2. 疑わしい取引の該当性について、国によるリスク評価の結果のほか、疑わしい取引の参考事例、自らの過去の疑わしい取引の届出事例等も踏まえつつ、外国PEPs該当性、サービスの利用形態、真の契約者の隠蔽の可能性、顧客属性や取引目的に照らした取引回数等の取引の態様、顧客の挙動・態度、顧客に関連した外部からの照会や連絡、取引に係る国・地域、その他の事情を考慮すること
    3. 既存顧客との継続取引や一見取引等の取引区分に応じて、疑わしい取引の該当性の確認・判断を適切に行うこと
    4. 疑わしい取引に該当すると判断した場合には、疑わしい取引の届出を直ちに行う体制を構築すること
    5. 実際に疑わしい取引の届出を行った取引についてリスク低減措置の実効性を検証し、必要に応じて同種の類型に適用される低減措置を見直すこと
    6. 疑わしい取引の届出を契機にリスクが高いと判断した顧客について、顧客リスク評価を見直すとともに、当該リスク評価に見合った低減措置を適切に実施すること
  • データ・情報の管理 【対応が求められる事項】
    1. 確認記録・取引記録のほか、リスクの評価や低減措置の実効性の検証等に用いることが可能な、以下を含む情報を把握・蓄積し、これらを分析可能な形で整理するなど適切な管理を行い、必要に応じて当局等に提出できる体制としておくこと
      1. 疑わしい取引の届出件数(国・地域別、顧客属性別等の内訳)
      2. 内部監査や研修等の実施状況
      3. マネロン・テロ資金供与リスク管理についての経営陣への報告や、必要に応じた経営陣の議論の状況
  • マネロン・テロ資金供与対策に係る方針・手続・計画等の策定・実施・検証・見直し(PDCA) 【対応が求められる事項】
    1. 自らの業務分野・事業地域やマネロン・テロ資金供与に関する動向等を踏まえたリスクを勘案し、マネロン・テロ資金供与対策に係る方針・手続・計画等を策定し、顧客の受入れに関する方針、顧客管理、記録保存等の具体的な手法等について、全社的に整合的な形で、これを適用すること
    2. リスクの特定・評価・低減のための方針・手続・計画等が実効的なものとなっているか、各部門等への監視等も踏まえつつ、不断に検証を行うこと
    3. リスク低減措置を講じてもなお残存するリスクを評価し、当該リスクの許容度や自社への影響に応じて、取扱いの有無を含めたリスク低減措置の改善や更なる措置の実施の必要性につき検討すること
    4. 管理部門及び内部監査部門において、例えば、内部情報、内部通報、職員からの質疑等の情報も踏まえて、リスク管理体制の実効性の検証を行うこと
    5. 前記実効性の検証の結果、更なる改善の余地が認められる場合には、リスクの特定・評価・低減のための手法自体も含めた方針・手続・計画等や管理体制等についても必要に応じ見直しを行うこと
  • 経営陣の関与・理解 【対応が求められる事項】
    1. マネロン・テロ資金供与対策を経営戦略等における重要な課題の一つとして位置付けること
    2. 役員の中から、マネロン・テロ資金供与対策に係る責任を担う者を任命し、職務を全うするに足る必要な権限等を付与すること
    3. 当該役員に対し、必要な情報が適時・適切に提供され、当該役員が電話受付代行業者及び電話転送サービス事業者におけるマネロン・テロ資金供与対策について内外に説明できる体制を構築すること
    4. マネロン・テロ資金供与対策に関わる役員・部門間での連携の枠組みを構築すること
    5. マネロン・テロ資金供与対策の方針・手続・計画等の策定及び見直しについて、経営陣が承認するとともに、その実施状況についても、経営陣が、定期的及び随時に報告を受け、必要に応じて議論を行うなど、経営陣の主導的な関与があること
    6. 経営陣が、職員へのマネロン・テロ資金供与対策に関する研修等につき、自ら参加するなど、積極的に関与すること
  • 事業部門(第1の防衛線(第1線)) 【対応が期待される事項】
    1. 第1線に属する全ての職員が、自らの部門・職務において必要なマネロン・テロ資金供与対策に係る方針・手続・計画等を十分理解し、リスクに見合った低減措置を的確に実施すること
    2. マネロン・テロ資金供与対策に係る方針・手続・計画等における各職員の責務等を分かりやすく明確に説明し、事業部門に属する全ての職員に対し共有すること
  • 管理部門(コンプライアンス部門やリスク管理部門等)(第2の防衛線(第2線) 【対応が期待される事項】
    1. 第1線におけるマネロン・テロ資金供与対策に係る方針・手続・計画等の遵守状況の確認や、低減措置の有効性の検証等により、マネロン・テロ資金供与リスク管理体制が有効に機能しているか、独立した立場から監視を行うこと
    2. 第1線に対し、マネロン・テロ資金供与に係る情報の提供や質疑への応答を行うほか、具体的な対応方針等について協議をするなど、十分な支援を行うこと
    3. マネロン・テロ資金供与対策の主管部門にとどまらず、マネロン・テロ資金供与対策に関係する全ての管理部門とその責務を明らかにし、それぞれの部門の責務について認識を共有するとともに、主管部門と他の関係部門が協働する体制を整備し、密接な情報共有・連携を図ること
    4. 管理部門にマネロン・テロ資金供与対策に係る適切な知識及び専門性等を有する職員を配置すること
  • 内部監査部門(第3の防衛線(第3線)) 【対応が期待される事項】
    1. 以下の事項を含む監査計画を策定し、適切に実施すること
      1. マネロン・テロ資金供与対策に係る方針・手続・計画等の適切性
      2. 当該方針・手続・計画等を遂行する職員の専門性・適合性等
      3. 職員に対する研修等の実効性
      4. 事業部門における異常取引の検知状況
      5. 検知した取引についてのリスク低減措置の実施、疑わしい取引の届出状況
    2. 自らの直面するマネロン・テロ資金供与リスクに照らして、監査の対象・頻度・手法等を適切なものとすること
    3. リスクが高いと判断した業務等以外についても、一律に監査対象から除外せず、頻度や深度を適切に調整して監査を行うなどの必要な対応を行うこと
    4. 内部監査部門が実施した内部監査の結果を監査役及び経営陣に報告するとともに、監査結果のフォローアップや改善に向けた助言を行うこと
    5. 内部監査部門にマネロン・テロ資金供与対策に係る適切な知識及び専門性等を有する職員を配置すること
  • グループベースの管理体制 【対応が求められる事項】
    1. グループとして一貫したマネロン・テロ資金供与対策に係る方針・手続・計画等を策定し、業務分野や事業地域等を踏まえながら、顧客の受入れに関する方針、顧客管理、記録保存等の具体的な手法等について、グループ全体で整合的な形で、これを実施すること
    2. グループ全体としてのリスク評価や、マネロン・テロ資金供与対策の実効性確保等のために必要なグループ内での情報共有体制を整備すること
    3. 海外拠点等を有する電話受付代行業者及び電話転送サービス事業者グループにおいては、各海外拠点等に適用されるマネロン・テロ資金供与対策に係る法規制等を遵守するほか、各海外拠点等に内在するリスクの特定・評価を行い、可視化した上で、リスクに見合う人員配置を行うなどの方法により適切なグループ全体での低減措置を講ずること
    4. 海外拠点等を有する電話受付代行業者及び電話転送サービス事業者グループにおいては、各海外拠点等に適用される情報保護法制や外国当局のスタンス等を理解した上で、グループ全体として整合的な形でマネロン・テロ資金供与対策を適時・適切に実施するため、異常取引に係る顧客情報・取引情報及びその分析結果や疑わしい取引の届出状況等を含む、必要な情報の共有や統合的な管理等を円滑に行うことができる体制を構築すること(海外業務展開の戦略策定に際しては、こうした体制整備の必要性を踏まえたものとすること)
    5. 海外拠点等を有する電話受付代行業者及び電話転送サービス事業者グループにおいて、各海外拠点等の属する国・地域の法規制等が、我が国よりも厳格でない場合には、当該海外拠点等も含め、我が国電話受付代行業者及び電話転送サービス事業者等グループ全体の方針・手続・計画等を整合的な形で適用・実施し、これが当該国・地域の法令等により許容されない場合には、総務省に情報提供を行うこと(注)当該国・地域の法規制等が我が国よりも厳格である場合に、当該海外拠点等が当該国・地域の法規制等を遵守することは、もとより当然である。
    6. 外国に本社を置く電話受付代行業者及び電話転送サービス事業者グループの在日拠点においては、グループ全体としてのマネロン・テロ資金供与リスク管理体制について、当局等を含む関係者に説明責任を果たすこと
  • 職員の確保、育成等 【対応が求められる事項】
    1. マネロン・テロ資金供与対策に関わる職員について、その役割に応じて、必要とされる知識、専門性のほか、研修等を経た上で取引時確認等の措置を的確に行うことができる適合性等について、継続的に確認すること
    2. 取引時確認等を含む顧客管理の具体的方法について、職員が、その役割に応じて的確に理解することができるよう、分かりやすい資料等を用いて周知徹底を図るほか、適切かつ継続的な研修等を行うこと
    3. 当該研修等の内容が、自らの直面するリスクに適合し、必要に応じ最新の法規制、当局等の情報を踏まえたものであり、また、職員等への徹底の観点から改善の余地がないか分析・検討すること
    4. 研修等の効果について、研修等内容の遵守状況の検証や職員等に対するフォローアップ等の方法により確認し、新たに生じるリスク等も加味しながら、必要に応じて研修等の受講者・回数・受講状況・内容等を見直すこと
    5. 全社的な疑わしい取引の届出状況や、管理部門に寄せられる質問内容・気づき等を事業部門に還元するほか、事業部門内においてもこうした情報を各職員に的確に周知するなど、事業部門におけるリスク認識を深めること

その他、AML/CFTに関する最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 金融庁は、金融機関が検討を進めるマネー・ローンダリングの共同監視システムに対する法改正案を公表、今通常国会で資金決済法の改正を目指しています。システムの運営機関に適用する「為替取引分析業」という新たな業種を設け、許可制を導入し、適切なガバナンス体制の確保や個人情報の厳重な管理を求めるほか、運営機関は金融庁が直接監督するとしています。なお、全国銀行協会などは複数の金融機関で不正送金を人工知能(AI)で検知する仕組みを検討しており、2024年春の実用化を目指しているといいます。
  • 釧路市の民家で2016年、高齢女性が殺害された事件で、強盗殺人容疑で逮捕された女性のおいの容疑者が事件後にATMで入金した紙幣と、女性が事件前に銀行で下ろした紙幣の記番号が一致していたことが捜査関係者への取材でわかったといいます。道警は、田中容疑者が現金を奪ったとされる根拠の一つとみて詳しい状況を調べているとのことです。報道によれば、容疑者は事件当時、おいや消費者金融に計数百万円の借金があったといい、事件後に容疑者はATMで現金を入金しており、その紙幣の番号と、おいが事件前に銀行から用意していた紙幣の番号が一致したというものです。現金は追跡可能性が低く、匿名化に特徴があり、マネー・ローンダリングに悪用されることが多いものですが、それだけに紙幣の番号が一致することが証明できれば、関係性を強く疑うことも可能になるといえます。
  • オーストラリアのマネー・ローンダリング対策当局である豪金融取引報告・分析センター(AUSTRAC)は、同国のカジノ運営大手クラウン・リゾーツが反マネー・ローンダリング法に違反したとして連邦裁判所に提訴したと報じられています(2022年3月1日付ロイター)。報道によれば、AUSTRACは「深刻で組織的な違反」があったと主張、2016~20年にかけて多数にわたり顧客資産査定義務を怠り、同国の金融システムを「犯罪に利用されやすい」状況にしたと訴えているといいます。損害賠償請求額は明らかにしていませんが、12億豪ドル以上に達する可能性があるとされます。クラウン・リゾーツに対しては、米プライベートエクイティ(PE)大手ブラックストーンが63億ドルで買収案を提示しています。
  • スイス連邦金融市場監督機構(FINMA)は、世界の報道機関の調査報道で明らかになった、金融大手クレディ・スイス(CS)の大量の口座情報について、同社に問い合わせをしていると述べています。報道によれば、1人の人物が、1940年代から2010年代の間にCSにあった口座情報をドイツ紙南ドイツ新聞に明らかにしたもので、南ドイツ新聞は、この情報を、報道の非政府組織(NPO)「組織犯罪と汚職報告プロジェクト(OCCRP)」および46の報道機関に提供しています。報道機関には、米ニューヨーク・タイムズ、英ガーディアン、仏ルモンドが含まれており、CSの顧客には人権侵害を犯した者や詐欺師、制裁対象者が含まれているとのことです。FINMAの広報はロイターに「報道のことは認識している」とした上で「われわれの監督業務はこの数年、マネー・ローンダリング規制のコンプライアンスに重点を置いてきた」、「点検した口座の約90%は現在閉鎖されている、あるいは問い合わせを受ける前に閉鎖手続きに入っており、60%超が2015年より前に閉鎖されていた」と述べています。ニューヨーク・タイムズによると、流出したデータは、18,000口座以上、総額1,000憶ドルを超える規模だといいます。

(2)特殊詐欺を巡る動向

前回の本コラム(暴排トピックス2022年2月号)で指摘したとおり、「医療費の払い戻しがある」などとうそをつき、現金をだまし取る手口の「還付金詐欺」被害が全国各地に拡がっています。2021年の還付金詐欺の認知件数は4,001件で、前年と比べ2,197件増え、被害額も前年比20億2,000万円増の45億1,000万円に上っています。また、2020年は31都府県で被害が確認されたところ、2021年は全都道府県に拡大したほか、名目は「医療費」が1,959件と最も多く、「健康保険・社会保険等」の1,651件が続き、被害者は65歳以上が9割を超え、女性が多い被害状況となっています。背景には、給付金が全国民に支払われたことや、医療、社会保険への関心の高まりが還付金詐欺への心理的なハードルを下げた可能性も考えられるところです。そもそも特殊詐欺は社会情勢の変化に柔軟に対応し、巧妙に手口を変えていますが、コロナ禍が続く中、医療への関心の高まりを詐欺グループが利用したともいえます。それに対し警察も、例えば、大阪府警では2021年、パトロールバイク「青バイ」による特別警戒を実施し、在宅の時間が増え、詐欺電話の危険性が高まっており、電話が多い地域のATMの警戒などを強めています。また、警察庁と金融庁は2022年1月、ATMの利用中に通話をしないよう促す「ストップ!ATMでの携帯電話」運動を全国展開することを決め、全国銀行協会などに協力を依頼しています。なお、本コラムでも毎回、特殊詐欺被害の未然防止の事例を紹介していますが、2021年に警視庁管内で被害を「阻止」したのは2,114件で、前年比約3憶円増の総額8億2,000万円に上ったことが判明しています。報道によれば、ATMの近くで、金融機関の職員や警察官が、振り込みをしようとする高齢者らに積極的に注意を促す声掛けをしていることなどが功を奏しているとみられています。最近では、ATMで高齢者が高齢者に声掛けする例もあるとされ、警視庁幹部は「声掛け運動に協力してほしい」などと呼び掛けているといいます。被害を未然に防止した中で最も多かったのが、金融機関職員によるもので、750件で約35%を占め、次いで、コンビニ店員の500件(約23%)、警察関係者の338件(約16%)が続き、本コラムでの紹介事例から腹落ちするものですが、ATM利用者らや友人、知人らによる未然防止も266件(約12%)に上っている点は注目されます。「声掛け」という「お節介」が特殊詐欺を防止することにつながることをあらためて実感させられます。報道によれば、警視庁幹部は「被害防止の意識が浸透してきている」、「特殊詐欺は治安対策上の最重要課題」であり、「摘発と防犯の両面から対策を強力に推進する」としています。

コロナ禍では各種給付金の不正受給が問題となりました。暴力団等の反社会的勢力の関与が目立ちましたが、海外でも不正受給事例は後を絶たない状況があるようです。2022年2月18日付日本経済新聞によれば、今年1月、英マンチェスターの犯罪組織のメンバー5人が、政府の新型コロナウイルス支援融資制度を悪用した詐欺に加担したとして、計46年の懲役刑に処せられたといいます。5人は、コロナで被害を受けた中小企業の救済を目的とした公的な緊急融資(バウンスバックローン)制度を悪用し、高級な盗難車をドバイに輸出していた国際的な「チョップ・ショップ」(盗難車の部品を売る違法ビジネス)組織に関わっていたとされ、被告人の1人が過去に麻薬関連の犯罪によって4年間服役したのをはじめ複数の犯罪で有罪判決を受けていることを指摘し、このような人物が、なぜ「最も基本的なチェック」も受けずに政府保証による融資を受けられた理由の説明を政府に求める一幕もあったということです。また、腐敗を追及する団体「スポットライト・オン・コラプション」の代表は、法執行機関が捜査を開始したのは評価できるが、詐欺の規模があまりにも大きく、捜査は「大海の一滴」のようなものだといい、「英国民は、この極めて深刻な過失と詐欺を防ぐための基本的な対策が取られなかったことの尻拭いを、今後何年にもわたってしなければならない」と指摘していますが、それはそのまま日本にも当てはまります。迅速な手続きを最優先としたために、反社会的勢力に給付金等が安易に流れてしまい、彼らの活動を助長することになったほか、返還されない場合、その不始末を国民が負担することになる構図だからです。「最も基本的なチェック」であるはずの反社チェックをどのように考えていたのか、実務としてどのように運用されていたのか、厳格な検証が望まれます。

特殊詐欺に使われることを知りながらIP電話回線を詐欺グループに提供したとして、広島県警は、IP電話回線販売レンタル会社ボイスオーバーの役員ら3人を詐欺ほう助の疑いで逮捕しています。報道によれば、2013~21年の広島県内の特殊詐欺被害額計約76億円のうち、3人が関わる会社が提供した回線を悪用した被害額は計約15億円に上るというから驚きです。長年にわたり、この「犯罪インフラ」を放置してきた責任は重いといえます。容疑者は当時IP電話回線販売レンタル会社「コムニア」の代表取締役で、ボイスオーバーに計161回線を販売、ボイスオーバーは他にも別の通信事業者から226回線を購入しており、県警はこれらの回線が他の業者を経由して複数の特殊詐欺グループに渡ったとみて詳しい流れを調べるということですが、一刻も早く解明し、被害の防止・抑止、被害回復を図っていただきたいと思います。

消費者庁は悪質商法を巡って消費者から寄せられた情報を人工知能(AI)で分析して被害の防止につなげるための実証実験を、民間と連携して既に開始しているといいます。報道によれば、年間約90万件に上る相談のデータベース(DB)を活用し、深刻なトラブルに発展しかねない契約や商品の傾向を割り出すもので、サブスクリプション(定額課金)サービスなど取引のデジタル化に伴う被害も出るなか、迅速な実態把握を目指すとしています。動画や音楽配信などのサブスクを巡る契約トラブルは、2020年上半期ごろには「サービスの解約手続きができないまま料金を請求された」などのトラブルが目立ち始めていたところ、実際に国民生活センターが事態の深刻さを認識し、個別集計に着手したのは約1年後、この時点で既に全国で月500件程度の相談があったといい、被害実態を分析し消費者に注意喚起する発表に至ったのは2021年10月にまで遅れてしまう結果となりました。AIが常に相談データを分析していれば、もっと早く察知して対策を打てた可能性は否定できません。特殊詐欺が典型的ですが、コロナ禍においては、ネットを通じてマスク販売やワクチン接種をかたり現金をだまし取るなどの手口が横行、こうした社会情勢の変化に乗じた手口から消費者を守るためにも、消費者被害の傾向を素早く把握し、注意喚起や政策につなげる仕組み作りが必要であり、AIの活用に大きな期待がかかります。

特殊詐欺グループの指示を受け、キャッシュカードを盗むために被害者の高齢者宅近くに行ったものの、犯行を断念した被告に窃盗未遂罪が成立するかどうかが争われた刑事裁判で、最高裁第3小法廷は「成立する」との判断を示し、被告の上告を棄却しています。別の窃盗罪と合わせて懲役4年8月を言い渡した1審・山形地裁判決と2審・仙台高裁判決が確定しました。報道によれば、グループの「受け子」だった25歳の男は2019年6月、キャッシュカードを封筒の中に入れさせて盗むという計画に基づき、金融庁職員を装って山形県内の高齢者宅に向かったものの、約140メートルまで近づいたところで警察官の尾行に気づき、断念したといいます。被告側は「カードを盗む具体的な行動をしていない」として、この事件については上告審で無罪を主張していましたが、同小法廷は、グループの共犯者が事前に高齢者宅に電話をかけ、「詐欺に遭っている可能性があるので、金融庁の職員が持って行く封筒にカードを入れて」とうそをついていたことを重視、被告が高齢者宅近くに赴いた時点でカードが盗まれる危険性が生じたとして、「窃盗行為の着手があったと認められる」と結論付けています。カード詐欺盗は(「対面型」の犯行であることから、最近減少傾向にあるものの)全国で年間2,000件以上発生し、盗まれたカードを使って現金が引き出される被害は30億円以上に上っています。今回の判断は、特殊詐欺根絶を目指す警察を後押しするものとなることが期待されます。

インターネットバンキングの利用登録を勝手に行い、大金をだまし取る新たな手口の詐欺が全国的に発生しているといいます。岩手県内では一関市の60代の女性が約850万円をだまし取られる被害が出ています。報道によれば、女性に自治体職員を名乗る男から「過払いの保険金があるので返還手続きをしたい」という電話があり、女性が求められるまま入金先の口座番号や暗証番号などを教えると、その後に金融機関の社員だという別の男から電話があり、同様の内容を伝えたといい、男らは聞き出した情報を使い無断でインターネットバンキングの登録手続きを行い、女性に本人確認のため自宅の固定電話から利用開始の認証用フリーダイヤルに電話をかけさせ、手続きを完了させていたということです。後日、金融機関から女性に問い合わせがあり、身に覚えのない数十回分の送金を確認し、被害に気付いたものです。

このような新たな手口で被害が拡大しているものの一つが「サポート詐欺」です。国民生活センターが注意喚起を行っていますので、以下、紹介します。

▼国民生活センター そのセキュリティ警告画面・警告音は偽物です!「サポート詐欺」にご注意!!-電話をかけない!電子マネーやクレジットカードで料金を支払わない!-
  • 全国の消費生活センター等には、いわゆる「サポート詐欺」(パソコンやスマートフォンでインターネットを使用中に突然「ウイルスに感染している」等の偽警告画面や偽警告音が出て、それらをきっかけに電話をかけさせ、有償サポートやセキュリティソフト等の契約を迫る手口)に関する相談が多く寄せられています。最近の相談の状況をみると、年間5,000件以上の相談が寄せられ、契約購入金額の平均金額は年々高額化しています。また、最近はプリペイド型電子マネーによる支払いが急増していたり、高齢者の被害が目立つ傾向がみられます。
  • 国民生活センターでは2018年11月に注意喚起を行いましたが、最近の相談の状況を踏まえ、一般財団法人日本サイバー犯罪対策センター(JC3)および独立行政法人情報処理推進機構(IPA)と連携し、再度消費者へ注意喚起を行います。
    • 年度別相談件数:2016年度は5,418件、2017年度は3,220件、2018年度は7,211件、2019年度は5,532件、2020年度は5,495件、2021年度は12月31日までで3,700件です。
    • 契約購入金額の平均金額:2016年度は23,722円、2017年度は27,737円、2018年度は39,235円、2019年度は56,716円、2020年度は81,103円、2021年度は12月31日までで平均金額は141,665円です。
    • クレジットカードの件数:2016年度は2,941件、2017年度は1,906件、2018年度は5,160件、2019年度は3,680件、2020年度は1,112件、2021年度は12月31日までで428件です。
    • プリペイド型電子マネーの件数:2016年度は327件、2017年度は92件、2018年度は144件、2019年度は500件、2020年度は2,346件、2021年度は12月31日までで1,821件です。
  • 相談事例
    • 【事例1】警告画面や警告音がきっかけで電話したところ、ウイルスの除去費用等を請求された
    • 【事例2】次々に料金の支払いを要求されて、プリペイド型電子マネーで支払ってしまった
    • 【事例3】コンビニの店員に詐欺と気付かされ被害に遭わなかった
  • 相談事例からみる特徴と問題点
    • 突然警告画面や警告音が出て、消費者を不安にさせて連絡を求めている
    • 警告画面上の連絡先に電話すると、不安をあおられ有償サポート等の契約を迫られる
    • プリペイド型電子マネーで支払わせるケースが急増中/次々と支払いを迫ってくる
    • 60歳以上の消費者が契約当事者となる相談が増加中
    • 電話の相手とのコミュニケーションが難しい場合がある
  • 消費者へのアドバイス
    • 「警告画面や警告音は偽物ではないか?」とまずは疑ってみましょう。警告画面に掲載されている連絡先に電話しないようにしましょう
    • 警告画面や警告音が出ても慌てず、自分でパソコン等の状態を確認しましょう
    • 自分で判断できない場合は周りの人に相談しましょう
    • 支払い方法がプリペイド型電子マネーの場合は相手より早くチャージしたり、発行業者に連絡したりしましょう。支払方法がクレジットカードの場合はクレジットカード会社に相談しましょう
    • 不安に思った場合や、トラブルが生じた場合は、すぐに最寄りの消費生活センター等へ相談しましょう
  • 消費者ホットライン:「188(いやや!)」番
    • 最寄りの市区町村や都道府県の消費生活センター等をご案内する全国共通の3桁の電話番号です。
    • 表示された警告画面の消去方法等、パソコンに関する技術的な相談に対してアドバイスを求める場合は、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)の「情報セキュリティ安心相談窓口」に電話またはメールで相談しましょう。相談の際の注意事項や関連情報などはホームページに掲載されています。
    • 情報セキュリティ安心相談窓口
▼情報セキュリティ安心相談窓口(IPA:独立行政法人情報処理推進機構)

また、参考までに、国民生活センターから各種相談の件数や傾向について公表されています。いくつか代表的な犯行類型について紹介しておきます。

▼国民生活センター 各種相談の件数や傾向
▼スマートフォンに関連する相談
  • スマートフォンを解約した際に「違約金は請求しない」と言われたのに、清算金に加算されていた。納得できない。
  • 母がスマートフォンの機種変更で携帯ショップに行ったところ、勧められてタブレット端末の機種変更もしてしまったが、不要な契約なので元に戻したい。
  • 高齢の母が、携帯ショップに今の携帯電話の操作方法が分からないので使い方を聞きに行ったところ、言われるがまま機種変更させられた。不当だと思うので解約したい。
  • スマートフォンの他社への乗り換えのため、契約中の事業者に連絡すると、「機種変更すればポイントがもらえる」と説明され契約を継続することにしたが、実際にはポイント付与には条件があった。
▼オンラインゲーム
  • 園児の息子が父親のスマートフォンで海外のオンラインゲームをし、高額なキャリア決済をしてしまった。取り消したいがどうすればよいか。
  • 小学生の息子が、登録していたクレジットカード番号を利用し、タブレット端末からオンラインゲームに高額課金していた。取り消したい。
  • 中学生の息子が勝手に現金を持ち出し、コンビニでプリペイド型電子マネーのギフトカードを購入して、タブレット端末でオンラインゲームに課金していた。返金してもらえるか。
  • 小学生の息子が、母親の財布からクレジットカードを持ち出し、パソコンのオンラインゲームで高額課金していた。取り消したい。
  • 中学生の娘が、私が前に使っていたスマートフォンを家のWi-Fiに繋げて、オンラインゲームに約10万円を課金していた。取り消したい。
▼出会い系サイト
  • SNSで友達申請された相手から誘導されて出会い系サイトに登録し、実際に会うために何度もお金を振り込んだが、会うことができなかった。返金してほしい。
  • 知らない女性からのメールがきっかけで出会い系サイトに登録し、個人情報交換のために電子マネーでポイントを購入したが、騙されたようだ。返金してほしい。
  • 婚活アプリで知り合った男性に出会い系サイトへ誘導され、チャットルームでやりとりするための手数料などとして高額な費用を支払わされた。騙されたと思うがどうしたらよいか。
  • マッチングアプリで知り合った女性に出会い系サイトへ誘導され、連絡先を交換するために費用を支払ったが、結局連絡先は交換できなかった。騙されたので返金して欲しい。
  • 出会い系サイトに3日間のお試しで登録したら、自動更新になり、さらに他のサイトにも登録したことになっていた。解約したいがどうすればいいか。
▼アダルト情報サイト
  • スマートフォンでアダルトサイトを検索し、動画再生しようとしたら「18歳以上ですか」と表示され、「はい」を選ぶと高額な料金を当日中に一括で支払うよう要求された。どうすればよいか。
  • スマートフォンからアダルトサイトにアクセスし再生ボタンを押すと、突然高額な請求画面が表示された。画面に記載されている電話番号に連絡すると、支払えと言われたがどうすればよいか。
  • スマートフォンでアダルトサイトを見ようとしたら、「登録完了」と表示された。解約するために電話をかけたところ高額な請求をされたが、支払いたくない。
  • 小学生の娘がスマートフォンでWEBサイトを閲覧中、アダルトサイトの広告が突然表示され、タップしたところ登録されて高額な料金請求画面が表示された。どうすればよいか。
  • スマートフォンでWebサイトを閲覧中、突然「当選しました」と表示され、クレジットカード情報等を入力したらアダルトサイトに登録されてしまった。どうしたらいいか。
▼インターネット通販・オークション
  • インターネットオークションでカップホルダーを落札し代金を支払ったが、海外からの発送で、商品と比べて送料がとても高額だった。取引をやめられないか。
  • オークションサイトでサーフボードを落札したが、説明と違い、傷だらけで補修しないと使えない状態だった。出品者が返品に応じず困っている。
  • デパートの閉店セールのSNS広告から販売サイトにアクセスし、ブランドバッグを代金引換で注文したが、詐欺サイトと分かった。対処方法を知りたい。
  • メーカーのホームページで掃除機・炊飯器などの家電を複数購入し、クレジットカードで決済したが、後から偽サイトだと分かった。どうしたらよいか。
  • フリマサイトでスニーカーとダウンジャケットを購入したが届いた商品が偽物だった。出品者に返金してほしい。
▼暗号資産(暗号資産)
  • 婚活サイトで知り合った男性に勧められて暗号資産に投資したが、口座凍結の解除に必要だとして、高額な費用を請求されている。どうすればよいか。
  • アプリで知り合った人に紹介され、暗号資産を購入して海外のサイトに送金した。さらに本人確認資料として運転免許証の画像を送付したが、サイトと連絡が取れなくなった。
  • 息子が友人から暗号資産に関する投資に誘われ、学生ローンの申し込みをしたようだ。投資の契約を解約し、借金を返済したい。
  • SNSで知り合った女性に海外取引所未上場の暗号資産を紹介され購入したが、騙されたと思う。返金してほしい。
  • インターネットの投資コミュニティに入会し、「これから上場予定の暗号資産を購入すれば最低20倍になる」と言われてお金を振り込んだが、担当者と連絡が取れなくなった。
▼訪問販売によるリフォーム工事・点検商法
  • 隣家で作業をしているという業者が来訪し、屋根修理の契約をした。後日、壁の補修も必要だと言われ追加で契約したが、解約したい。
  • 自宅の外壁塗装をお願いしたいと思い事業者紹介サイトに登録したところ、事業者から電話があり、自宅を訪ねて来た。見積もりを提示され、他社と比較したいと伝えたが応じてもらえず、仕方なく契約してしまった。
  • 訪問してきた業者に塗装工事を勧められた。「契約の効力はないからとりあえず署名、捺印するように」としつこく言われ、断りきれず応じてしまったが、工事をしたくない。
  • 「損害保険で雨どいの修理ができる」と業者の訪問を受けた。せっかくなのでドローンを使って屋根の撮影もしてはどうかと言われ、お願いした。不安になったので断りたいが、業者と連絡が取れない。
  • 「近くで工事をしている」と言って作業員が訪ねてきた。翌日、別の作業員も連れてきて「点検します」と言い、屋根に上った。瓦が割れた写真を見せられ、「このままではもっとひどい状態になる」と言われて屋根工事の契約をしてしまった。
  • 排水管洗浄をしてもらったが、作業終了後に業者から「排水管が古く、今回の高圧洗浄で水漏れが起きる危険性がある。床下点検をしたい」と言われた。応じなければならないか。

さて、4月から成年年齢が18歳に引き下げられます。全国の消費生活センターへの「マルチ商法」被害についての相談は、2018~20年度、1万件超で推移、マルチ商法は通常、知人や友人など周囲を巻き込むことが多いとされますが、コロナ禍で対面による密な人間関係を築けなくなり、不特定多数に声をかける新たな手法にも警戒が必要な状況です。若者がマルチ商法にはまる手口、怖さを2022年2月16日付毎日新聞が報じています。その中から、抜粋して引用します。

間もなく新年度を迎える。人の移動が多い春先は特に、マルチ商法や詐欺の被害に注意が必要だ。これはいつの時代も、本質として変わらない。都会に出てきたばかりの新社会人や学生が、格好の標的になる。いわば「草刈り場」だ。慣れない土地や人間関係に悪戦苦闘している若者の心の隙間に、マルチ商法は「親しみ」を持って忍び寄ってくる。…インターネットが普及した現代社会特有の問題でもある。利用者のネット上の動向を分析し、関心を持ちそうな情報や広告を表示する「ターゲット広告」が定着した。中には「簡単にもうかる」と偽った広告も目につく。コロナ禍で人間関係や外部から得られる情報が狭くなる中、自分の指向に基づく広告が心理に刷り込まれ、誤ったメッセージを信じ込んでしまうのではないか。…こういった組織は、報告、連絡、相談の「報連相」を徹底させる。何気ない連絡から始まったやり取りは安心感を生むのと同時に、依存性を高める。気づくのが遅くなれば洗脳状態となってしまい、自分ではなかなか抜け出せなくなってしまう。集団生活も、マインドコントロールの典型的な手段だ。情報と睡眠を管理することができるため、支配側にとって非常にメリットが大きい。外部からの情報をシャットアウトして、組織の考え方を植え付ける。睡眠時間を削り、思考能力を低下させる。構成員を管理下に置くことでそれぞれの出資額を計算でき、組織の収益を容易に計算できるようになる。過去には、著名な新興宗教団体が集団生活を悪用していたことはよく知られている。…マルチ商法の組織は総じて、トップを希少であり、権威ある存在と持ち上げる。これも典型的な洗脳手法だ。経歴や実績を詐称、誇張して「すごい人」「憧れの人」といった幻想を抱かせる。 芸能人や著名人を「広告塔」に利用するケースも枚挙にいとまがない。…ポジティブに考えること自体は悪いことではないが、「簡単にうまくいく」というインスタント思考は、マルチ商法だけでなく、悪徳商法、カルト集団のターゲットにもなりやすい思考であることを心してほしい。そして少しでもおかしいと感じたら、迷わず相談窓口に連絡してほしい。

関連して、国民生活センターから、新成年となる18歳・19歳に向けて、「気を付けてほしい消費者トラブル最新10選」を公表しています。以下、紹介しておきます。

▼国民生活センター 18歳から“大人” 18歳・19歳に気を付けてほしい消費者トラブル 最新10選
  • 2022年4月から、成年年齢が20歳から18歳に引き下げられます。全国の消費生活センター等に寄せられる相談をみると、20歳代の相談件数は未成年者と比べて多く、契約金額も高額になっています。今回、国民生活センターでは、全国の消費生活センター等に寄せられた相談やこれまでの若者関連の公表資料などから、新たに成年になる18歳・19歳の方に向けて特に気を付けてほしい消費者トラブルをまとめました。
  • 18歳・19歳に気を付けてほしい消費者トラブル 最新10選
    1. 副業・情報商材やマルチなどの”もうけ話”トラブル
    2. エステや美容医療などの”美容関連”トラブル
    3. 健康食品や化粧品などの”定期購入”トラブル
    4. 誇大な広告や知り合った相手からの勧誘など”SNSきっかけ”トラブル
    5. 出会い系サイトやマッチングアプリの”出会い系”トラブル
    6. デート商法などの”異性・恋愛関連”トラブル
    7. 就活商法やオーディション商法などの”仕事関連”トラブル
    8. 賃貸住宅や電力の契約など”新生活関連”トラブル
    9. 消費者金融からの借り入れやクレジットカードなどの”借金・クレカ”トラブル
    10. スマホやネット回線などの”通信契約”トラブル
  • こんなところに気を付けよう! トラブル別アドバイス
    1. 副業・情報商材やマルチなどの”もうけ話”トラブル
      • 確実にもうかる話はありえない!
      • 「簡単に稼げる」と強調する広告や勧誘をうのみにしない。
      • 「荷受代行」「荷物転送」は絶対にしない。
    2. エステや美容医療などの”美容関連”トラブル
      • その場で契約・施術をしない。
      • サービスの施術前にリスク等の説明を十分に受けて検討する。
      • 長期間の契約が心配なときは都度払いのコースを選ぶ。
    3. 健康食品や化粧品などの”定期購入”トラブル
      • 注文前に返品・解約の条件を確認する。
      • 低価格を強調する広告は特に詳細を確認する。
    4. 誇大な広告や知り合った相手からの勧誘など”SNSきっかけ”トラブル
      • SNS上で知り合った相手が本当に信用できるか慎重に判断する。
      • SNS上の広告から偽通販サイトに誘導されてトラブルになるケースも。
    5. 出会い系サイトやマッチングアプリの”出会い系”トラブル
      • 出会い系サイトやマッチングアプリ等の規約をよく確認する。
      • サイトやアプリで知り合った相手が本当に信用できるか慎重に判断する。
    6. デート商法などの”異性・恋愛関連”トラブル
      • 相手の好意は、商品を売るための手口であることも!
      • あやしいと思ったら、すぐに契約しない、お金を借りない。
    7. 就活商法やオーディション商法などの”仕事関連”トラブル
      • 必要がないと思う契約には、先輩や知人から勧誘されても、ハッキリと断る。
      • 「オーディションに合格した」など、期待を持たせる勧誘トークに注意する。
      • アンケートなどを求められても安易に個人情報を伝えず、利用目的を確認する。
    8. 賃貸住宅や電力の契約など”新生活関連”トラブル
      • 契約先の事業者名や連絡先、契約条件をよく確認する。
      • 賃貸住宅の退去時の条件などもしっかり確認する。
    9. 消費者金融からの借り入れやクレジットカードなどの”借金・クレカ”トラブル
      • 借金をしてまで契約すべきものかよく考える。
      • 手数料が発生するリボ払いに注意する。
      • クレカの利用明細は必ず確認する。
    10. スマホやネット回線などの”通信契約”トラブル
      • 勧誘を受けた事業者名やサービス名、連絡先、契約内容を確認する。
      • 解約時の条件についても事前によく確認する。
▼「ロマンス投資詐欺」増加 アプリで勧誘、注意を(産経ニュース 3/3配信)

さらに、本コラムでの以前から取り上げていますが、マッチングアプリなどで外国人を名乗って知り合い、恋愛感情を抱かせながら架空の投資話に誘う手口で金をだまし取る「ロマンス投資詐欺」について、被害が増えているとして国民生活センターが注意喚起しています。以下、紹介しておきます。

▼国民生活センター ロマンス投資詐欺が増加しています!-その出会い、仕組まれていませんか?-
  • 国民生活センター越境消費者センター(CCJ)では、2021年2月に、出会い系サイトやマッチングアプリ等をきっかけとする投資詐欺について注意喚起を行いましたが、その後も、「出会い系サイトやマッチングアプリ等で出会い、恋愛感情を持った相手から、実態のわからない投資等の海外サイトを紹介され投資したが、出金できなくなった」等の相談が多数寄せられています
  • 年度別相談件数:2018年度は12件(うち投資等に関する相談は2件)、2019年度は25件(うち投資等に関する相談は5件)、2020年度は109件(うち投資等に関する相談は84件)、2021年度は12月31日までで187件(うち投資等に関する相談は170件)です。
  • 相談事例
    1. 2人の将来のためと勧誘され投資したが、出金しようとすると保証金を要求された
      • マッチングアプリで自称外国人経営者、ファッションブランドでVIP待遇を受けているという男性と出会った。男性がアプリを退会し、無料会話アプリでやり取りする中で、「Baby」「妻」と呼ばれるようになった。将来のため、紹介する投資サイトで投資するよう何日か説得され続け、断り切れず投資した。少額を投資したところ利益が出て出金できた。元金が多ければもうけも多いと説得され、銀行や消費者金融から借り入れて、合計約500万円投資した。出金しようとしたところ、利益を含めた総資産の15%(180万円)を保証金としてさらに支払う必要があると言われたため、50万円をさらに借り入れた。残りの130万円についてマッチング相手に相談していたところ、連絡が途絶えた。(2021年11月受付 30歳代 女性)
    2. その他、以下のような相談も寄せられています。
      • 投資金を個人の口座宛てに振り込み、利益を出金しようとすると、所得税を支払うように要求された
      • 投資金を出金するための手数料等を支払ったが出金できない
  • 相談事例から見えるトラブルの特徴、手口
    • ロマンス投資詐欺では、1~8の流れで財産的な被害が発生します。
      1. 出会い系サイトやマッチングアプリ等でマッチングが成立
      2. 実際に会う前に、出会い系サイトやマッチングアプリ等以外でのサービスでやり取りしないかと持ち掛けられる
      3. マッチングの相手から、投資サイトを案内され、投資を勧められる
      4. マッチングの相手から、投資用資金の送金を指示される
      5. 初めは少額からの投資を勧められ、投資サイト上では利益が出る
      6. マッチングの相手から、さらに高額の投資をするよう勧められ、送金する
      7. 出金しようとすると、さまざまな名目で送金を要求され、結局出金できない
      8. マッチングの相手、投資サイト運営事業者と連絡がとれなくなり、返金されない
  • 相談事例から見た問題点とアドバイス
    • 出会い系サイトやマッチングアプリ等で出会った相手の指示で投資するのはやめましょう
    • 出会い系サイトやマッチングアプリ等は、ルールに従って利用しましょう
  • 不安に思った場合やトラブルにあった場合は
    • すぐに居住地域の消費生活センター等に相談してください。海外事業者とのトラブルについては、国民生活センター越境消費者センター(CCJ)でも相談を受け付けています。
      • ※消費者ホットライン「188(いやや!)」番 市町村や都道府県の消費生活センター等をご案内する全国共通の3桁の電話番号です。

次に、例月どおり、直近の特殊詐欺の認知・検挙状況等について確認します。今回は1カ月分のデータのため大きくブレるものもありますので、注意願います。

▼警察庁 令和4年1月の特殊詐欺認知・検挙状況等について

令和4年1月における特殊詐欺全体の認知件数は913件(前年同期830件、前年同期比+110.0%)、被害総額は20.0憶円(18.0憶円、+11.1%)、検挙件数は393件(468件、▲16.0%)、検挙人員は136人(143人、▲4.9%)となりました。これまで減少傾向にあった認知件数や被害総額が増加に転じている点が特筆されますが、とりわけ被害総額が増加に転じた点はここ数年の間でも珍しく、あらためて特殊詐欺が猛威をふるっている状況を示すものとして、十分注意する必要があります(詳しくは分析していませんが、コロナ禍における緊急事態宣言の発令と解除、人流の増減等の社会的動向との関係性が考えられるところです)。うちオレオレ詐欺の認知件数は158件(141件、+12.1%)、被害総額は5.4憶円(4.0憶円、+35.0%)、検挙件数は56件(74件、▲24.3%)、検挙人員は56人(34人、+64.7%)と、認知件数・被害総額ともに激しく増えている点が懸念されるところです。これまでは還付金詐欺が目立っていましたが、そもそも還付金詐欺は自治体や保健所、税務署の職員などを名乗るうその電話から始まり、医療費や健康保険・介護保険の保険料、年金、税金などの過払い金や未払い金があるなどと偽り、携帯電話を持って近くのATMに行くよう仕向けるものです。被害者がATMに着くと、電話を通じて言葉巧みに操作させ(このあたりの巧妙な手口については、暴排トピックス2021年6月号を参照ください)、口座の金を犯人側の口座に振り込ませます。直近では新型コロナウイルスを名目にしたものが目立ちます。一方、前述したとおり、ATMに行く前の段階の家族によるものも含め、声かけで昨年同期を大きく上回る水準で特殊詐欺の被害を防いでいます。警察庁は「ATMでたまたま居合わせた一般の人も、気になるお年寄りがいたらぜひ声をかけてほしい」と訴えていますが、対策をかいくぐるケースも後を絶ちません。なお、最近では、本コラムでも毎回紹介しているように金融機関やコンビニでの被害防止の取組みが浸透しつつあり、ATMを使った還付金詐欺が難しくなっているのも事実で、そのためか、オレオレ詐欺へと回帰している可能性が疑われます(とはいえ、還付金詐欺自体も高止まりしたままです)。最近では、コロナ禍の影響もあり、闇バイトなどを通じて受け子のなり手が増えたこと、外国人の新たな活用など、詐欺グループにとって受け子は「使い捨ての駒」であり、仮に受け子が逮捕されても「顔も知らない指示役には捜査の手が届きにくことなどもその傾向を後押ししているものと考えられます。特殊詐欺は、騙す方とそれを防止する取り組みの「いたちごっこ」が数十年続く中、その手口や対策が変遷しており、流行り廃りが激しいことが特徴です。常に手口の動向や対策の社会的浸透状況などをモニタリングして、対策の「隙」が生じないように努めていくことが求められています。

また、キャッシュカード詐欺盗の認知件数は170件(149件、+14.1%)、被害総額は2.1憶円(2.3憶円、▲10.9%)、検挙件数は142件(132件、+7.6%)、検挙人員は28人(32人、▲12.5%)と、こちらは認知件数は増加、被害総額は減少という結果となりました(上記の考え方で言えば、暗証番号を聞き出す、カードをすり替えるなどオレオレ詐欺より手が込んでおり摘発のリスクが高いこと、さらには社会的に手口も知られるようになったことか影響している可能性があります。一方で、前述したとおり、外国人の受け子が声を発することなく行うケースも出始めています)。また、預貯金詐欺の認知件数は136件(225件、▲39.6%)、被害総額は1.3憶円(3.2憶円、▲57.7%)、検挙件数は118件(192件、▲38.5%)、検挙人員は42人(54人、▲22.2%)となり、こちらも認知件数・被害総額ともに大きく減少している点が注目されます(理由はキャッシュカード詐欺盗と同様かと推測されます)。その他、架空料金請求詐欺の認知件数は191件(112件、+70.5%)、被害総額は7.1憶円(5.9憶円、+20.5%)、検挙件数は3件(23件、▲87.0%)、検挙人員は4人(13人、▲69.2%)、還付金詐欺の認知件数は244件(175件、+39.4%)、被害総額は2.6憶円(2.0憶円、+33.7%)、検挙件数は22件(43件、▲48.8%)、検挙人員は6人(10人、▲40.0%)、融資保証金詐欺の認知件数は4件(13件、▲69.2%)、被害総額は0.1憶円(0.1憶円、+78.6%)、検挙件数は0件(1件)、検挙人員は0人(0人)、金融商品詐欺の認知件数は0件(2件)、被害総額は0円(0.3憶円)、検挙件数は0件(2件)、検挙人員は0人(0人)、ギャンブル詐欺の認知件数は5件(10件、▲50.0%)、被害総額は1.3憶円(0.2憶円、+479.0%)、検挙件数は2件(0件)、検挙人員は0人(0人)などとなっており、オレオレ詐欺の急増とともに、特にコロナ禍の社会情勢をふまえて「非対面」で完結する還付金詐欺の認知件数・被害総額ともに大きく増加している点がやはり懸念されます。

犯罪インフラ関係では、口座開設詐欺の検挙件数は56件(30件、+86.7%)、検挙人員は30人(20人、+50.0%)、盗品等譲り受け等の検挙件数は0件(0件)、検挙人員は0人(1人)、犯罪収益移転防止法違反の検挙件数は223件(144件、+54.9%)、検挙人員は178人(113人、+57.5%)、携帯電話契約詐欺の検挙件数は11件(19件、▲42.1%)、検挙人員は9人(21人、▲57.1%)、携帯電話不正利用防止法違反の検挙件数は0件(3件)、検挙人員は0人(2人)、組織的犯罪処罰法違反の検挙件数は13件(12件、+8.3%)などとなっています。また、被害者の年齢・性別構成について、特殊詐欺全体では、特殊詐欺全体では、60歳以上は89.8%、70歳以上は68.0%、男性25.8%:女性74.2%、オレオレ詐欺では、60歳以上は96.8%、70歳以上は93.0%、男性18.4%:女性81.6%、融資保証金詐欺では、60歳以上は25.0%、70歳以上は0%、男性75.0%:女性25.0%、特殊詐欺被害者全体に占める高齢被害者(65歳以上)の割合について、特殊詐欺全体では85.9%(男性22.8%、女性77.2%)、オレオレ詐欺は94.9%(18.0%、82.0%)、預貯金詐欺は99.3%(13.3%、86.7%)、架空料金請求詐欺は49.7%(66.3%、33.7%)、還付金詐欺は94.7%(21.6%、78.4%)、融資保証金詐欺は0.0%、ギャンブル詐欺は60.0%(100.0%、0.0%)、キャッシュカード詐欺盗は98.8%(9.5%、90.5%)などとなっています。

次に、最近の報道から、特殊詐欺の被害事例について紹介します。これだけ官民を挙げて特殊詐欺の未然防止に取り組んでいるにもかかわらず、同じような手口による被害が後を絶たない現状に、忸怩たる思いです。事例だけ見れば、直接本人に電話をかけなおせば嘘だと見破ることができるケースがほとんどですが、切迫した事例の設定に劇場型の手口が相まって、さらには確証バイアスから「自分はだまされていない」との思い込み、ふと立ち止まって確認する隙も与えられないままにだまされてしまうことが分かります。したがって、「電話に出ない」「留守番電話設定にする」という基本的な対策が最も効果的ではないかと考えられます。

  • 愛知県内の高齢女性から現金をだまし取ったなどとして、神奈川県警捜査2課は、詐欺などの疑いで、無職の容疑者2人を再逮捕しています。氏名不詳者らと共謀のうえ、2021年5月、愛知県豊明市に住む80代の無職女性方に暗号資産取引業者の社員を装い、「息子さんが暗号資産でもうけた分の税金が未払いです」「500万円が税金で必要です」と嘘の電話をかけ、女性から現金500万円を詐取したなどというものです。もう1人も、その後、同じ女性から現金500万円をだまし取ろうとしたとして逮捕されています。
  • 還付金詐欺に関わったとして、愛知県警は、会社員と塗装業の両容疑者を電子計算機使用詐欺などの疑いで逮捕しています、現金の引き出し役を勧誘する「リクルーター」だったとみられています。報道によれば、2人は他の人物と共謀し、2021年10月、川崎市の団体職員の70代の男性宅に区役所職員を装って電話をかけ、「医療費の還付金がある」「ATMで手続きができる。方法は電話で指示する」などとうそを言い、金融機関で現金約47万円を振り込ませた疑いがもたれています。直後に相模原市内のATMでこの約47万円を引き出したとして、「出し子」とみられる男2人が窃盗容疑などで逮捕され、押収品の解析などから、2人がこの容疑者らから勧誘され還付金詐欺グループに加わった疑いが浮上したというものです。
  • 島根県警は、県東部に住む80代の女性が、名義貸しトラブルの解決金名目で、1,110万円をだまし取られる特殊詐欺被害に遭ったと発表しています。報道によれば、女性宅に昨年12月頃、「老人ホームができる話がある。認知症の人を入居させるため名義を貸して」と電話があり、女性は承諾、その後、金融庁職員や弁護士などを名乗る人物が「名義貸しでトラブルになった。すぐにお金を払わないと解決しない」などと、電話で金銭を要求、女性は、東京都内に3回にわたって宅配便で現金計1,110万円を送ったというものです。女性の親族が通帳を確認した際、高額の出金があったことから、警察に相談して被害が判明したものです。
  • 福島県警いわき東署は、福島県いわき市の80代の女性が特殊詐欺の被害に遭い、現金190万円をだまし取られたと発表しています。報道によれば、医療機関の職員を名乗る男から「息子さんの口の中を治療している」と電話があり、その後息子をかたる男から「口の治療で声が変わった。財布を落とした。仕事の関係で今日中に1,000万円を払わなくてはならない」などと電話があったため、女性は金融機関の窓口で現金を下ろし、自宅を訪れた息子の知人を名乗る男に現金を渡してしまったというものです。
  • 静岡県警大仁署は、静岡県伊豆の国市内の80代の無職の男女2人が、それぞれキャッシュカードをだまし取られる特殊詐欺被害に遭ったと発表しています。報道によれば、女性宅に市役所職員を名乗る男から「払戻金がある。キャッシュカードが古いので替える必要がある」などとうその電話があり、女性は約30分後、自宅に来た金融機関職員を装う男にカード1枚を渡し、偽のカードを入れた封筒を受け取ったものの、その後、市役所に電話し、だまされたことに気付いたというものです。同日には男性宅に同じ内容の電話があり、自宅に来た男に同様の手口でカード1枚を盗まれています。
  • 80代の女性から息子などを装い80万円をだまし取ったとして、警視庁小金井署は、詐欺の疑いで、横浜市の中学2年の14歳の少年を逮捕しています。署は特殊詐欺グループで現金などを受け取る「受け子」とみて調べています。報道によれば、何者かと共謀し、2021年8月、東京都立川市の女性に、同居の50代息子に成りすまして電話し「仕事で至急お金が必要。上司の子どもが受け取りに行く」とうそを言い、現金を詐取したというものです。少年は女性と会った際、Tシャツにハーフパンツ姿で、当時は夏休み中だったとみられ「遊ぶ金がほしかった」と供述しているといいます。別の特殊詐欺事件の捜査で関与している可能性が浮上したということです。
  • 新潟県警は、新潟市中央区の80代の女性が息子をかたった男から「のどに腫瘍ができていた」「お金が必要」などと電話を受け、現金3,500万円をだまし取られたと発表しています。別の日にも市内の別の70代の女性が同様の手口で1,000万円をだまし取られており、新潟県警は電話で金銭を求められても「身近な人に相談して」と注意を呼びかけています。報道によれば、中央区の女性は「血を吐き、検査すると腫瘍ができていた」「病院で財布と携帯電話をなくした」と現金を求められたうえ、息子の同僚を名乗る男からも「息子さんがまた吐血して病院に向かっている」などと電話があり、代わりに自宅を訪れたという20代ぐらいの男に3,500万円の入った紙袋を手渡したところ、その後連絡が途絶えたため女性が息子の妻に電話、被害に気付いたということです。

本コラムでは、特殊詐欺被害を防止したコンビニエンスストア(コンビニ)や金融機関などの事例や取組みを積極的に紹介しています(最近では、これまで以上にそのような事例の報道が目立つようになってきました。また、被害防止に協力した主体もタクシー会社やその場に居合わせた一般人など多様となっており、被害防止に向けて社会全体の意識の底上げが図られつつあることを感じます)。必ずしもすべての事例に共通するわけではありませんが、特殊詐欺被害を未然に防止するために事業者や従業員にできることとしては、(1)事業者による組織的な教育の実施、(2)「怪しい」「おかしい」「違和感がある」といった個人のリスクセンスの底上げ・発揮、(3)店長と店員(上司と部下)の良好なコミュニケーション、(4)警察との密な連携、そして何より(5)「被害を防ぐ」という強い使命感に基づく「お節介」なまでの「声をかける」勇気を持つことなどがポイントとなると考えます。

  • 特殊詐欺被害を未然に防いだとして、仙台市泉区の60代のアルバイトの男性に宮城県警泉署から感謝状が贈られています。男性は今年1月、同区の泉南光台郵便局で、携帯電話で話しながらATMを操作する60代の女性に気付いたことから、「どなたと電話してるんですか?」と声をかけると、女性は「市の職員から介護保険の還付金があるので手続きをしてほしいと言われた」と答えたため、男性は詐欺と確信し、近くの交番に届け出たものです。報道によれば、男性は「詐欺を防ぐため、声をかけるちょっとした勇気を持ってくれる人が増えたらいい」と話しており、まさにそのような「お節介」と「勇気」が重要であることを痛感させられます。なお、前述したとおり、高齢者が高齢者に声をかけて未然防止につながるケースが増えているといい、官民挙げた対策がこのような形で実になっていることも感じさせられる事例でもであります。
  • 神奈川県警宮前署は、特殊詐欺被害を防いだとして、川崎市宮前区のJA支店の40代の職員の男性に感謝状を贈っています。報道によれば、区内に住む80代の女性が今年2月、同支店で窓口担当の男性に「100万円ほど必要だがキャッシュカードで下ろせない」と相談、男性が理由を聞き、息子をかたる電話を信じて計200万円を渡そうとしていたと知り、詐欺だと思って同署に通報し、被害を防いだものです。この職員は「お客様の大事なお金を守ることができてほっとしている。研修を通じ、この経験をほかの職員にも伝えていきたい」と話しており、日頃からの組織的な教育の成果と実例のフィードバックという好循環が金融機関の取組みを支えていることを感じさせます
  • LINEを悪用した詐欺の被害を未然に防いだとして、福井県警福井南署は、福井市のファミリーマート店員の30代の女性に感謝状を贈っています。報道によれば、今年1月、店を訪れた40代の男性にギフトカードを購入する方法を尋ねられ、女性店員が金額を聞くと、「1万円分を3枚」との答えだったことから不審に思い、「本当に知り合いですか」「電話で確認してください」と粘り強く説得、確認すると、男性とやりとりしていた相手のLINEアカウントが不審者に乗っ取られていることがわかり、県警に通報したものです。同店では、60代の店長が、店員に詐欺への注意を促してきたといい、前任の店舗でも被害防止で表彰されたことがあり、「接客でも呼びかけをするように指導している。店員も詐欺防止への関心が高い」と話しているということです。現場レベルでの注意喚起を徹底することで、このように必ず未然防止につながるということを示しているものとして評価したいと思います。また、長崎県警対馬南署は、ニセ電話詐欺被害を未然に防いだとして、対馬市のファミリーマート従業員の40代の女性に署長感謝状を、数多くの被害防止に貢献したとして、同店店長の40代の男性に県警本部長感謝状を、それぞれ贈っています。従業員の女性は昨年12月、60代の女性客が約30万円分の電子マネーのカードを購入しようとしたことを不審に思い、「どうされましたか」と声をかけたところ、女性客が「1年ほど前の電話代が未納で、延滞金もあるとの電話があった」などと話したため、詐欺を疑い、警察に相談するよう説得、その後の同署の捜査で、ニセ電話詐欺と判明したものです。同店は2016年8月に開店、被害防止は2017年2月以降9回目にもなるといい、被害を防いだ金額は計約1,183,000円に上るということです。店長の意識の高さ、日頃からの注意喚起や指導を徹底していることがうかがわれます。さらに、埼玉県警鴻巣署は、客が詐欺被害に遭うのを防いだとして、同県北本市のファミリーマート北本石戸一丁目店の店員2人に感謝状を贈っています。報道によれば、2人は今年1月、詐欺グループとみられる相手からの指示に従って店で7万円分の電子マネーを購入しようとした70代の女性に応対、女性が「払った金額以上のポイントになる」「夕方までに払わないと」などと説明したことから、不審に思って通報したものです。女性は、俳優とチャットでやり取りできると偽ったサイトの利用ポイント購入のため、電子マネーの用意を求められていたということです。さらに、滋賀県警草津署は、パソコンや携帯電話に「ウイルスに感染した」などと表示し不安をあおって、復旧名目などで金銭を要求する「サポート詐欺」の被害を防止したとして、ファミリーマート草津駅東口店のアルバイトに感謝状を贈っています。報道によれば、今年1月、草津市の50代の女性のパソコンに「ウイルスに感染した」と警告が出て、女性は表示された番号に電話したところ、電子マネー5万円分の購入を指示され、同店で購入、女性は購入した電子マネーを別の種類の電子マネーに交換するよう指示され、再度来店したため、不審に思った店員が「詐欺ではないですか」と声を掛けて女性を説得し、110番したということです。前述したとおり、サポート詐欺が全国的に増加しており、滋賀県でも、2021年のサポート詐欺被害は23件(前年比9件増)、相談も27件(同21件増)と増加傾向にあり、40~60代が被害に遭うことが多いと報じられています。

特殊詐欺被害防止のため、さまざまな対策が新たに導入されています。例えば、還付金詐欺が多発する中、埼玉県警狭山署は、管内にある無人のATMに、音声で注意を呼び掛ける装置の設置を始めています。報道によれば、人感センサーによって利用者を検知すると、「還付金の手続きはATMではできません」といった30秒間のメッセージが流れるもので、2021年10~12月に同県入間市のATMで実証実験を行い、どのような言葉が記憶に残ったかなどを約200人に尋ね、メッセージの文言を工夫したということです。6カ所の無人ATMに順次配置する予定だといい、詐欺の「予兆電話」の確認状況などに応じて設置場所を見直し、効果的な運用を図る方針としています。一方、京都府警は、特殊詐欺被害の経験者に聞き取り調査して行動の傾向を分析し、だまされやすさを「診断」するチェックシートを作成しています。客観的な指標で自身の危うさを認識してもらうのが狙いで、今後、お年寄りらに利用を呼びかけ、防犯指導に活用するとしています。シートは「詐欺に遭わない自信がある」「知らない人の話は聞かないようにしている」「電話が鳴るとすぐに取る」の3問で構成され、各問とも「少し自信がある」「全て聞く」「知っている人しか取らない」など四つの選択肢から回答し、各0~3点の点数合計でだまされやすさを判定するもので、6点以上なら「だまされやすい人」とみなし、自宅電話機の防犯機能付きへの交換やキャッシュカードの引き出し限度額の引き下げなどの対策を促すものです。2021年2月14日付読売新聞で、「府警は2018年9月~19年8月、特殊詐欺被害に遭った高齢者ら56人と面談。京都府立医科大精神医学教室の監修で、「うまい話に興味がある」「不満があっても相手の話に押し切られる」などの9項目について被害前と被害後の意識の違いを聞き取った。その結果、被害前と被害後で特に差が大きかった3項目をシートに取り入れた。府警は今後、詐欺グループから押収した名簿に載っている人らからもシートでの「診断」に協力を得てデータを蓄積し、必要に応じて内容を見直す。府警特殊詐欺対策室の担当者は「年を取ると誰でも判断力は衰える。自分も詐欺被害に遭いかねないと自覚するきっかけとして活用してほしい」と話す」と報じられており、まさに確証バイアスを修正する「きっかけ」になりうるものとして注目したいと思います。

(3)薬物を巡る動向

財務省が発表した2021年の全国の税関での不正薬物の摘発件数は前年比12%増の833件となりました。コロナ禍で航空機の旅客による持ち込みが減少した一方、電子商取引などの物流が活発になり商業貨物を利用した密輸が増えたといい、件数は過去5番目の水準となりました。押収量でみると約1,138キロと前年比41%減っていますが、前年に大口の摘発があった反動で押収の総量は減り、過去9番目の水準となっています。ただ6年連続で1,000キロを超えており、依然深刻な状況が続いています。なお、押収した薬物の内訳は覚せい剤が12%増の912キロ、大麻が22%増の153キロなどで、とりわけMDMAが急激に増加していること、大麻もここ数年、「大麻リキッド」と呼ばれる液状タイプが急増し、若者がインターネットを通じて手軽に入手する事案も相次いでいます。

▼財務省 令和3年の全国の税関における関税法違反事件の取締り状況

財務省は、令和3年の1年間に全国の税関が空港や港湾等において、不正薬物の密輸入その他の関税法違反事件を取り締まった実績をまとめましたのでお知らせします。

  1. 不正薬物
    • 不正薬物全体の摘発件数は833件(前年比12%増)と増加し、押収量(錠剤型薬物を除く。重量等未確定につき含まれないものがある。以下、個々の押収量についても同様) は約1,138kg(同41%減)と減少した。不正薬物全体の押収量は、6年連続で1トンを超え、深刻な状況となっている。
    • 不正薬物とは、覚せい剤、大麻、あへん、麻薬(ヘロイン、コカイン、MDMA等)、向精神薬及び指定薬物をいう。
      1. 覚せい剤
        • 摘発件数は95件(同32%増)、押収量は約912kg(同12%増)と共に増加した。
        • 押収した覚醒剤は、薬物乱用者の通常使用量で約3,040万回分、末端価格にして約547億円に相当する。
      2. 大麻
        • 大麻草の摘発件数は94件(同9%増)と増加し、押収量は約22kg(同56%減)と減少した。
        • 大麻樹脂等(大麻リキッド等の大麻製品を含む。)は、摘発件数が105件(同11%減)あり、その内、大麻リキッドが81件(大麻樹脂等の摘発件数の内、関税局・税関において大麻リキッドと判断した物件が含まれるものの件数である)と大宗を占めた。
        • 大麻樹脂等の押収量は約132kg(同72%増)と大幅に増加した。
      3. 麻薬
        • MDMAの摘発件数は81件(同9%増)、押収量は錠剤型が約12万7千錠(同42%増)、その他の形状が約27kg(同約16.2倍)といずれも増加した。
        • コカインの摘発件数は34件(同26%増)と増加し、押収量は約14kg(同98%減)と大幅に減少した。
      4. 指定薬物
        • 指定薬物の摘発件数は302件(同1%増)、押収量は約17kg(同90%減)と減少した。
  2. 知的財産侵害物品等
    • 商標権を侵害するケーブルや衣類等の知的財産侵害物品の密輸事件を11件告発した。
    • ワシントン条約に該当するアメリカアリゲーターの骨格標本等の密輸入事件や、水中探知装置の不正輸出事件等を告発した。
  3. 金地金
    • 摘発件数は5件(同90%減)、押収量は約27kg(同82%減)と共に減少した。

最近の薬物を巡る報道から、とても参考になった記事がありました。

若者の大麻の蔓延を実感させられるもので、2022年3月2日の産経新聞の「「大麻部屋」供給源か、販売目的所持容疑で10代の兄弟逮捕 大阪府警」という記事です。とりわけ、若者が大麻が入手しやすい環境がすでにあり、人間関係の中で仲間意識から手を出す現状や、(大変驚くべきことに)家庭において怒られない・家族があきらめたといった現状が指摘されており、大きな危機感を覚えます。こちらも、抜粋して引用します。

府警は昨年10月、2人の知人とみられる府内の公立高校2年の男子生徒=当時(16)=ら15~16歳の少年計4人を同法違反(営利目的所持)容疑で逮捕。4人は、うち1人の作業員の少年=当時(16)=の自宅で、大麻の加工や使用を繰り返し、ツイッター上で購入者を募って売買を行っていた。地元の少年らの間では「大麻部屋」として知られており、府警は2人が大麻の供給源の一つだったとみて全容解明を急いでいる。府警は少なくともほかに十数人の少年が大麻部屋に出入りしていたのを確認しており、大麻部屋にからみ今回逮捕した2人を含め、少年計12人を摘発した。広がる少年の大麻汚染を受け、大阪府警はこれまで大麻事件で摘発した少年たちに取り調べで聞き取った内容について、臨床心理士らが傾向を分析した結果をまとめた。約4割が大麻を乱用した理由について「周辺者が使用していたから」としており、今回の事件のように、知人同士で大麻を売買したりするなど交友関係が大きく影響していることが分かった。府警が令和2年に摘発した少年114人への聞き取りを分析したところ、大麻を乱用した理由は「周辺者が大麻を使用していた」が最多の40・4%で、次いで「大麻の入手が容易だった」(19・3%)が多かった。一方で、「大麻は嫌だけど仲間とは一緒に遊びたい」「大麻を吸うことと皆で遊ぶことは似たようなもの」と供述する少年が目立ち、対人関係を守るために大麻に手を染める傾向にあるという。さらに家庭について「大麻で捕まっても、怒られなかった」「親が注意するのをあきらめた」などと供述する少年がおり、親が子供の大麻使用を黙認することが多いとみられる。大麻は依存性が高いためなかなかやめられず、半数以上が週に1度以上は使用していた。最初は仲間に勧められて購入していた少年も、使用が進むにつれて一人でも使用するようになるという。府警はこうした分析結果を踏まえて取り締まりを強化する一方、抑止に向けた啓発活動を進める方針。

本コラムでも以前取り上げていますが、大麻草の茎や種子から抽出される成分「カンナビジオール」(CBD)を使った輸入健康食品や化粧品の流通が国内で急速に広がる一方、不眠改善、鎮痛作用といった効果があるとされるものの、健康被害の相談も増加、さらには一部の製品に違法な有害成分の混入が見つかり、国が回収を求める事態となっています。CBD自体は、大麻草の成熟した茎や種子から抽出、精製され、精神作用・中毒性はなく、海外では医薬品としても承認されているものですが、専門家は有害成分が混入した製品が流通しないよう検査態勢の充実を求めているといます。2021年3月1日付読売新聞によれば。厚労省が2020~21年、CBDを含む製品64点の成分を分析したところ、15点から「THC」(大麻草の花や葉に含まれる「テトラヒドロカンナビノール」。高揚感を生じさせるなどの作用や中毒性があり、化学合成したTHCは麻薬取締法で麻薬に指定されている)が検出され、販売中止と回収を求めています。厚生労働省の担当者は報道で、「混入が故意であれば、摘発の対象になる可能性がある」と話していますが、一方で、回収を求められた会社の代表は「海外の製造元から大丈夫だと聞いていた」と戸惑っているといいます。さらに、「CBD製品はいずれも海外から輸入されており、輸入品は、関東信越厚生局が海外の製造元の証明書をチェックしているが、混入が起きるのは、成分の分析まではしていないためだ。一般社団法人「日本カンナビジオール協会」(東京)の伊藤俊彦代表理事は「微量ならTHCを含んでも合法とする国から輸入したのではないか」と推測する。こうした事態が、CBD製品全体が違法薬物であるかのような誤解を広げることにつながっており、SNS上には「CBDでハイになる」といった書き込みもある。かつて大麻を使用したことがある関東地方の男性(42)は「CBD製品をきっかけに大麻や薬物に興味を持つ人が出るのでは」と懸念を示す」と報じられています。また、2022年2月12日付時事通信では、国立精神・神経医療研究センター依存性薬物研究室の舩田正彦室長は「海外の事例ではCBDに肝機能障害や下痢、吐き気、眠気などの副作用が報告されている。使用後に体調不良を感じた時はすぐに関係機関へ連絡してほしい」と注意を呼び掛けています。

▼厚生労働省 CBDオイル等のCBD製品の輸入を検討されている方へ
  1. 大麻の規制について
    1. 大麻取締法における「大麻」とは
      • 大麻とは、大麻草(カンナビス・サティバ・エル)及びその製品をいいます。
      • ただし、大麻草の成熟した茎及びその茎から作られる繊維等の製品(樹脂を除きます。)と、大麻草の種子及びその製品は規制対象から除かれます。
      • 我が国では、都道府県知事の免許を受けた大麻取扱者(大麻栽培者・大麻研究者)のみが大麻の栽培、所持、譲受・譲渡等を認められており、大麻取扱者以外の者がこれらの 行為を行った場合は罰せられます。
      • 大麻の輸入は、大麻研究者が研究の目的で、厚生労働大臣の許可を受けて行う場合にしか行うことができません。
    2. 禁止行為
      • 大麻の輸出入、栽培、所持、譲受・譲渡等は原則禁止されています。
      • 違反者に対しては厳しい罰則があります。
        • 栽培/輸出入 単純:懲役7年以下(営利:懲役10年以下+300万円以下の罰金)
        • 所持/譲渡譲受 単純:懲役5年以下(営利:懲役7年以下+200万円以下の罰金)
  2. CBD製品について
    • CBDとは、Cannabidiol(カンナビジオール)のことです。
    • 大麻草の成熟した茎又は種子以外の部位(葉、花穂、枝、根等)から抽出・製造されたCBD製品は、「大麻」に該当します。
    • なお、大麻草から抽出・製造されたかを問わず、大麻草由来の成分であるテトラヒドロカンナビノール(THC)を含有するCBD製品は、「大麻」に該当しないことが確認できないので、原則として輸入できません。また、化学合成されたTHCは麻薬及び向精神薬取締法で「麻薬」として規制されていますので、原則として輸入できません。
    • 「大麻」の輸入は、大麻研究者が厚生労働大臣の許可を受けた場合にのみ可能です。また「麻薬」の輸入は、麻薬輸入業者が厚生労働大臣の許可を受けて輸入する場合等のみ可能です。
    • 「大麻」に該当するCBD製品を輸出入、所持、譲渡、譲受した場合は罰せられる可能性があります。
    • 化学的に合成されたCBDは規制対象とされていませんが、輸入に当たっては「大麻」でないことの確認を求められる場合があります。
  3. CBD製品の輸入にあたって
    • CBD製品の輸入をする際には、あらかじめ【問い合わせ先】に以下の資料を輸入の都度、メールで提出してください。
    • 輸入の前に提出を受けた資料を元に、対象のCBD製品が大麻取締法の「大麻」に該当するか否かを判断します。
  4. 「外国から到着した郵便物の税関手続のお知らせ」を受け取った方へ
    • 大麻取締法の大麻に該当するおそれがあるので、3の資料に加えて、以下をメール本文に記載して、提出してください
    • 郵便物が保管されている税関名及びその連絡先
    • 通知番号
    • 輸入者の氏名(輸入者が企業の場合は、企業名及び担当者氏名)
    • 輸入者の連絡先電話番号

薬物に関する最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 大阪市天王寺区の私立興国高校の校内で生徒が大麻を吸引したのを見つけて没収したのに、警察に届け出ずに隠したとして、大阪府警は、70代の副校長と、生徒指導部長だった40代の教諭を大麻取締法違反(所持)と証拠隠滅容疑で、それぞれ書類送検しています。報道によれば、2人は容疑を認め、副校長は「学校の評判が下がると思って隠した」と供述しているといいます。2人は2021年10月上旬、3年の男子生徒が校内のトイレで、大麻リキッドと呼ばれる液体大麻(約0・4グラム)を電子たばこで吸引しているのを見つけて没収したのに、12月下旬まで副校長室などに隠し持っていた疑いがもたれています。若者への大麻の蔓延を防ぐために、教育関係者が果たすべき役割は相応に大きいと思われるところ、このような隠蔽は逆効果だといえます。また、不祥事は隠蔽しても必ず発覚するものであり、教育関係者の対応としては極めてレベルの低く、残念です
  • 乾燥大麻を所持したとして、神奈川県警藤沢署は、東海大学4年を大麻取締法違反(所持)の疑いで逮捕しています。容疑者は2021年11月までラグビー部に所属しており、2018年10月にアルゼンチン・ブエノスアイレスで開催された18歳以下のユースオリンピックの男子7人制ラグビーで日本が初の銅メダルを獲得した際の日本代表メンバーだといいます。今年1月、藤沢市内で数グラムの乾燥大麻が入ったビニール袋を所持したといい、パトロール中の警察官が不審な動きをしていた容疑者に職務質問して発覚、容疑者がその場から逃走したため、同署が行方を追っていたものです。なお、同大広報によると、容疑者は生活態度が悪かったためラグビー部の退部勧告を受け、2021年11月末に退部したということです。退部に至った経緯の詳細は明らかではありませんが、以前から薬物の問題が見え隠れしていたのであれば、大学の当時の対応がそれでよかったのかという問題にもなりえます。さらに、合成麻薬MDMAを服用したとして、神奈川県警高津署は16日、麻薬取締法違反の疑いで、静岡県藤枝市の大学4年が逮捕されています。報道によれば、「友人の家でMDMAの錠剤を飲んだ」と容疑を認めているといいます。2021年7月下旬ごろ、東京都や神奈川県などの友人らの家などで麻薬を使用したといい、川崎市内の県道で検問を行っていた同署員が、容疑者と、同じ都内の私大に通う男子学生2人が同乗する普通乗用車を止めたところ、車内から大麻のような異臭がしたため、。その後の尿検査で3人の麻薬使用が発覚したものです。当時、容疑者は都内で暮らしており、すでに逮捕されていたほか2人とは大学のサークルで知り合ったといいます。まさに前述したとおり、周辺者との関係や薬物が容易に入手しやすい状況にあったことが推測されます。
  • 滋賀県警が19歳の少年を大麻取締法違反(所持)の疑いで逮捕しています。主に同世代の若者に大麻を売りさばいていた密売グループのリーダー格とみられ、県警は入手経路などを調べるとしています。今年1月下旬に乾燥大麻約20グラムを所持した疑いで、2月に逮捕されたもので、少年の供述などから、県内の高校生を含む18、19歳の少年らと組み、不特定多数の若者に大麻を1グラム5,000円程度で譲渡していたことが分かったというものです。報道によれば、少年の携帯電話の通信履歴などから、SNSを通じ顧客を集め、その後の連絡や仲間とのやりとりにはメッセージが自動消去される通信アプリ「テレグラム」を使っていたことも判明、県警はグループが上部組織から大麻を仕入れ、不特定多数に売りさばいていたとみて捜査しているといいます(テレグレムを使用するところなど、犯罪組織との関係を強くうかがわせます)。なお、この少年は、グループを抜けようとしたメンバーを巡って仲間内でトラブルになり、県警が今年1月、少年と仲間の計3人を監禁容疑などで逮捕しており、その際に所持品から大麻が見つかったものです。
  • ドイツから国際郵便で合成麻薬「MDMA」を密輸したとして、近畿厚生局麻薬取締部は、麻薬特例法違反などの疑いで、大阪府和泉市のベトナム人技能実習生(21)を逮捕しています。共謀し今年1月、ドイツから国際郵便を使い、MDMA966錠(約430グラム、末端価格約480万円相当)を営利目的で輸入したというものです。近畿厚生局麻薬取締部と大阪税関によると、関西国際空港内にある大阪国際郵便局で、コーヒー豆の袋の中からMDMAの錠剤が見つかったといいます。大阪地検はすでに同罪などで起訴し、大阪税関も2月、関税法違反罪で大阪地検に告発していますが、組織的犯行の可能性もあるとみられています。なお、大阪税関によると、ベトナム人による違法薬物輸入事案の摘発件数は、2018年から2020年で17倍に急増している状況です。
  • 人気アイドルグループの元メンバーが覚せい剤を所持した疑いで逮捕されています。この事件では、容疑者が滞在先のホテルの客室に覚せい剤を置き忘れたとみられています。愛知県警は、容疑者が覚せい剤を使用した疑いもあることから、尿や毛髪の薬物検査をするとともに、入手経路について調べていると報じられています。報道によれば、ホテルの従業員から「客室内で違法薬物と思われる白色の結晶を見つけた」と中署に通報があり、この客室の最終利用者が容疑者だといいます。なお、覚せい剤は1回の使用量が0.03グラム程度で、見つかった量は5~6回分とみられています。この容疑者についても、所属事務所が2013年、「度重なる事務所のルール違反行為があった」として、契約を解除されています(すでにグループ脱退から10年近く経過しているにもかかわらずグループ名とともに報じられている点は、いかに社会的関心の高い事件とはいえ、やや違和感を覚えます)。
  • 民泊施設などで覚せい剤を所持していたとして、福岡県警は無職の50代の容疑者ら男女計9人を覚せい剤取締法違反(営利目的共同所持)などの疑いで逮捕しています。押収された覚せい剤は計約100グラム(末端価格約600万円)だということです。9人は大阪市、京都府、福岡県在住で、福岡県警は、9人のうち容疑者ら4人が2020年11月以降、福岡県内の客を中心にのべ約100回、違法薬物を販売したとみているといいます。宿泊時に厳密な身分確認がない複数の民泊を知人名義で借りて、拠点として密売を繰り返していたとみられています。まさに民泊が「犯罪インフラ」として悪用された事例となりますが、本件には、福岡県内の暴力団の関与も取り沙汰されています。
  • 宇都宮市内の民家などで大麻草を栽培したとして、栃木県警組織犯罪対策2課などは、大麻取締法違反(営利目的栽培)容疑で、住所不定、無職の被告と塗装業の容疑者ら5人を逮捕しています。報道によれば、容疑者らが拠点としていた埼玉県上尾市や宇都宮市内の民家などからは大麻草500株以上が見つかっています。また、和歌山県警田辺署は、大麻草約200本を栽培したなどとして、大麻取締法違反(栽培、所持)の疑いで、無職の20代の容疑者を再逮捕しています(逮捕は3回目)。今年1月、田辺市の一軒家で大麻草222本を栽培し、大麻約97グラムと大麻製品約0.8グラムを所持した疑いがもたれています。なお、この容疑者は知人に大麻製品を譲り渡した疑いで今年1月に逮捕され、大麻を所持した疑いで2月1日に再逮捕されています。
  • 大麻リキッドを乗用車内に所持していたとして、大阪府警西堺署が堺市堺区の認定こども園園長を大麻取締法違反(所持)の疑いで逮捕しています。逮捕容疑は2021年11月、同市西区の個室ビデオ店駐車場に止めた乗用車内で「大麻リキッド」と呼ばれる液体状の大麻(約0.5グラム)を所持したとされ、巡回中の署員が、駐車場で乗用車に乗ったままでいた容疑者に職務質問し、大麻リキッドを見つけたといいます。
  • 民家で大麻を所持したとして、京都府警亀岡署は、大麻取締法違反(所持)の疑いで京都府亀岡市の無職の容疑者を逮捕しています。報道によれば、「自分で吸うため」と容疑を認めているといい、容疑者の自宅から、栽培中の大麻草88本のほか、大麻を吸うために使う乾燥機、粉砕機などを押収しています。自宅は3階建ての民家で、3階が大麻草を植えた鉢を並べた栽培スペースになっていたといい、2021年11月に容疑者が車を運転中に事故を起こし、警察官が駆け付けた際に車内から大麻特有のにおいがしたため、捜査していたものです。

薬物依存症からの脱却も今後の大きな社会的課題の1つですが、芸能人の取組みについて報じた「薬物依存からの脱却 高知東生「6年目の決意」」(2022年2月25日付産経新聞)からは、その道のりの難しさなどが伝わってきます。以下、抜粋して引用します。

裁判では懲役2年、執行猶予4年の判決が下った。当時は芸能界に復帰する気は毛頭なく、一からやり直すつもりだった。だが、執行猶予期間中は世間の風当たりが強かった。知人の会社経営者に「うちで働かないか」と声を掛けられたこともあったが、数日後には話が一転。「取締役会で薬物再犯のリスクが指摘された」と白紙にされた。人間関係も壊れ、仲の良かった芸能界の仲間たちとも音信不通になった。「世間が自分の罪を忘れてくれるのを静かに待つしかない」。自粛を徹底したが、再起の見通しは立たず、孤独から精神状態も不安定に。身から出たさびとはいえ、追い詰められた。「死んでしまったほうが楽ではないか」。自宅マンションのベランダに立ち、飛び降りることも考えた。…公益社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」の田中代表にまず紹介されたのが、依存症の人が集う自助グループだった。そこでは参加者が症状や悩みなどを赤裸々に話す。高知さんの番になり、同じような苦悩を抱える参加者の前で自分の感情を表に出すと、気持ちが楽になったように感じた。さらに「12ステップ」と呼ばれるプログラムにも取り組んだ。自身の過去と向き合い、依存症になった要因を探るもので、「プログラムを終えたが、今も自身の生い立ちや家庭環境などをゆっくり振り返っている」と話す。…高知さんは現在、依存症の正しい知識などを伝える「依存症予防教育アドバイザー」の資格を取得し、全国各地で講演活動を行っている。令和2年5月には、依存症を題材にしたSNS配信のドラマで俳優として復帰。ただ、薬物依存症からはまだ立ち直りの途上にあり、今も薬物を使用していたころの夢を見たりする。「薬物依存の怖さはよく知っている。だからこそ偏見に満ちた依存症に対する理解を広め、依存症の人が回復しやすい社会になるように今後の人生を使いたい」

本コラムでも以前取り上げたことがありますが、卑劣極まりない「レイプ・ドラッグ」の問題が深刻化しています。女性を飲食に誘い、飲み物に睡眠薬を混ぜて乱暴するわいせつ事件が後を絶たない状況にあります。最近の事例や摘発に向けた取組みなどについて、2022年2月28日付読売新聞の記事「酒に「レイプ・ドラッグ」混入、性被害後絶たず…泣き寝入り防ぐため毛髪鑑定活用進む」が参考になりますので、以下、抜粋して引用します。

薬の影響で被害に気づかなかったり、記憶が曖昧になったりするケースも多いが、毛髪などの鑑定で薬物の検出は可能で、警察は「おかしいと思ったら相談してほしい」と呼びかけている。…警察庁によると、睡眠薬を悪用したわいせつ事件の摘発は20年に全国で60件あった。だが、被害に気づかなかったり、記憶が曖昧で警察への届け出をためらったりするケースもあるため、摘発は「氷山の一角」とみられている。性暴力目的に使われる薬物は「デート・レイプ・ドラッグ」と呼ばれている。飲酒で作用が強まり意識が混濁するだけでなく、記憶が途切れる「健忘」を引き起こすことがある。この場合、自分で歩いてホテルに入ったり、男と談笑したりする姿が防犯カメラに映っていることがあり、男との「合意の有無」が争点になりやすい。薬物の成分は尿や血液に残るが、数時間から1週間程度で体外に排出される。警察への相談が遅れると、検出が難しくなる。泣き寝入りを防ぐため、各地の警察が力を入れているのが毛髪鑑定だ。毛髪には、髪を切らない限り、薬物の成分が数年以上残るとされる。このため以前から覚醒剤などの薬物事件で鑑定が行われてきたが、分析手法の向上により、16年頃から性犯罪での活用が進んでいる。東海大医学部の斉藤剛准教授(法中毒学)は数百本の髪を1センチずつに切断して薬物分布を調べ、髪が伸びる速度から摂取時期を特定している。福岡大法医学教室は、微量の薬物を検出できるよう毛髪を粉末状にして成分を調べている。警視庁が21年9月、20歳代女性に対する準強制性交容疑で男を再逮捕した際も、事前に毛髪鑑定を行った。17年春の事件発生から3年以上たっていたが、男が処方されていた睡眠剤の成分が女性の髪から検出されたという。…身を守るには(1)飲み物が容器に入ったまま席を立たない(2)怪しいと感じたら飲み物を取りかえる(3)渡された錠剤は飲まない、などの防衛策が有効という。家族や知人が被害に遭った場合、男と会ったことを責めたりせず、しっかり寄り添うことが大切だ。

前述した毛髪鑑定に関連した捜査能力の向上という点では、全国の警察が摘発した容疑者や犯罪現場で採取したDNA型のデータベース(DB)の登録件数が、2020年12月時点で約144万件に上っていることも注目されます。報道によれば、15年以上にわたるDBの運用とともにDNA型の鑑定技術は進歩しており、2021年には広島県福山市で約20年前に起きた主婦殺害事件の容疑者がDBの照合から逮捕されるなど、DNA捜査がいったん迷宮入りした未解決事件(コールドケース)の切り札となっているといいます。罪種別では容疑者DNA型、遺留DNA型とも窃盗が約46万件、約1万件と最も多く、殺人や強盗などの重要犯罪が占める割合は低いということです。さらに、捜査能力の向上に資する通信傍受について、法務省は、全国の警察が2021年、通信傍受法に基づき20事件の捜査で携帯電話の通話を傍受し、88人の逮捕につながったと発表しています。適用件数は2000年の法施行以降最多だった2020年と同数となりました。2019年6月の改正法施行で傍受時に通信事業者の立ち会いが不要となっており、件数増加の傾向が続いているとみられています。逮捕人数は2020年の適用事件の183人より減少したものの、20事件の内訳としては、薬物関連11件、銃刀法違反・殺人1件、銃刀法違反・殺人未遂1件、銃刀法違反1件、組織的殺人未遂1件、殺人未遂1件、傷害1件、窃盗1件、電子計算機使用詐欺1件、恐喝未遂1件となっています。また、裁判所に請求した計40件の令状は全て発付が認められたといいます。傍受は計16,495回に上り、そのうち犯罪に関連していたのは2,320回だったといいます。法施行から22年間の適用件数は計195事件、逮捕者は計1,237人となり、捜査・摘発の強力な武器となっていることが分かります。

その他、薬物に関する海外の報道から、いくつか紹介します。

  • 中米コスタリカのアルバラド大統領は、医療目的での大麻の使用を合法化する法案に署名しています。医療用の大麻に対する需要が高まる中、生産者に規制当局への登録を義務付け、合法化することで管理下に置くほか、農村部への経済効果を狙っているといいます。なお、嗜好用の大麻は今後も禁止するということです。本コラムでも取り上げてきたとおり、中南米では大麻を合法化する動きが相次いでおり、南米ではすでにブラジルやコロンビアなど少なくとも8カ国が医療用の大麻を合法化しているほか、中米のパナマでも2021年10月に医療目的での大麻が合法化されています。また、2017年に医療用の大麻の使用を認めたメキシコは年内にも嗜好用の大麻を合法化する見通しとなっています。医療用大麻と嗜好用大麻は明確に区分されるべきものですが、医療用大麻を解禁(合法化)したからといって、次は嗜好用大麻の解禁と安易に考えるべきではない点にあらためて注意する必要があります
  • 中米ホンジュラスのエルナンデス前大統領は、大統領としての自身の功績を「我々は一丸となって歴史を作った」という言葉で自賛して退任しましたが、退任から1カ月もたたないうちに、かつて米国の盟友だった同氏は中南米諸国の元首脳として初めて麻薬密売容疑で逮捕され、米国への身柄引き渡しに直面することとなりました(汚名ですが歴史を作ったことになります)。2022年2月21日付日本経済新聞では、「フィナンシャル・タイムズ(FT)が入手した身柄引き渡しの要請書によると、米国の検察当局は、エルナンデス氏が過去18年間にわたって、ホンジュラス経由で米国に数百トンのコカインを運ぶ「暴力的な麻薬密売の共謀に加担」し、その見返りとして「数百万ドル(数億円)の賄賂と収益」を得ていたとしている。…エルナンデス氏が異例だったのは、法執行機関が同氏と弟を麻薬密売容疑で捜査する傍ら、米国から大切な盟友として称賛されていた点であり、ホンジュラスにおける麻薬マネーの影響力は広く知られていたにもかかわらず、米国はエルナンデス氏を支援し続けた。…突き詰めると、エルナンデス氏は主に米政府が最も望んでいることを実行する用意があったために米国の支持を勝ち取ったと専門家は話している。つまり、ホンジュラスから米国境へ向かう移民の流れを減らす対策で協力することだ。…カストロ政権の副大統領に就いたサルバドル・ナスララ氏は「非常に難しいことだ。麻薬密売業者は国の組織構造の中、省庁、議会、最高裁の中に入り込んでいる」と語った。「ホンジュラスは麻薬国家の現実を表す事例そのものだ」」と報じられています。

(4)テロリスクを巡る動向

警察庁「令和3年の犯罪情勢について」でも明らかとなったとおり、犯罪統計資料上は、治安は改善されているはずですが、いわゆる「体感治安」は悪化しているのが今の日本です。直近でも、走行中の鉄道内での放火事件や大阪のビル放火事件など、「拡大自殺」とも「思想なきテロ」とも言われる無差別殺傷事件の発生が目立っています。背景には、社会への不満や他責の念、孤独・孤立といった状況があると考えられていますが、それを個人的な要因に矮小化すべきではなく、そのような社会への無差別攻撃者の存在をふまえた対策(監視体制の強化や利便性の犠牲など、決して性善説だけでは解決しえない課題を社会的コスト(社会的リスク・痛み)として社会が受け容れるべき部分)、一方で、孤立や社会的排除を生む社会的背景の改善に向けて「社会的包摂」という両面から、私たちにもできることはあると考えるべきだと思います。ところで、「拡大自殺」という言葉の意味には大変注意を払う必要があるということも、2022年3月3日付朝日新聞の記事「見知らぬ人を道連れにする暴力「拡大自殺」という言葉が映す社会」で気付かされました。本記事は専門家2人のコメントで構成されており、例えば、他人を巻き込む行為から「一人で死ね」という言葉も飛び交っていることについて、それが復習願望につながる恐れがあるとの指摘や、自殺も他殺も攻撃性という点では同じであり、刃を自分に向けるか他人に向けるかは、本人ですら気づけないような表裏一体のところにあるとの指摘もなされています。

本コラムでもその動向に注視しているアフガン情勢ですが、アフガニスタンでイスラム主義組織タリバンが20年ぶりに権力を掌握してから2月15日で半年を迎えました。この間、経済は事実上、破綻した状態に陥り、人道危機は深刻化しています。国際社会との歩み寄りも進んでおらず、混迷の出口はいまだ見えない状況が続いています。タリバン復権後、欧米はタリバンへの資金流入を防ぐため、アフガンの在外資産を凍結、海外からの援助に依存し基盤が元々弱かった経済は混乱、国連が今年2月2日に公表した報告書によると、2022年中に人口の約6割に当たる2,440万人に人道支援が必要になる見通しだといいます。さらに、国連の開発担当機関は、2022年後半には、アフガニスタン国民の最大97%が貧困ライン以下の生活になる可能性があるとの見解を示しています。とりわけ、女性に対する影響は不釣り合いに大きく、国際労働機関(ILO)の報告書では、2021年第3・四半期のアフガニスタンにおける雇用水準の低下は、男性が6%だったのに対し、女性は16%も低下したと推計されており、大学への女性の復学も相対的に困難な状況があるということです。さらに問題は人道危機だけにとどまらず、タリバンが2021年9月に発足させた暫定政権は、ほぼタリバンのメンバーで占められており、国際社会は他の政治勢力を含む政権の樹立を求めているにもかかわらず、タリバンは拒否する姿勢を崩していません。タリバン復権による主な政治・社会の変化としては、「女子の中等教育は再開されず、大学は男女別々に「保健、教育分野を除く女性公務員は自宅待機に」「勧善懲悪省の設置」「選挙管理委員会を排し」「報道機関の約4割が閉鎖」「公務員の給与支払いを停止」「イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)のテロ増加。治安は改善傾向」といった点が挙げられ、欧米各国からの要請とは真逆の実態にあります。さらに、タリバンは最近、ジャーナリストや人権活動家を相次いで拘束し、政権批判封殺の動きを一層強めているといいます。タリバンは政権奪取直後、報道の自由の保障を打ち出したものの、年が明けてからのムジャヒド報道官は「イスラム的価値観、国家の利益を考慮すべきだ」といった発言を繰り返しており、タリバンとしては、思想の根底にある極端なイスラム法解釈に合致しない報道や政権批判を封殺したいのが本音とみられています。拘束や暴力といった手段で、自然と報道や抗議行動が萎縮していくことを狙っていると考えられます。貧困問題など現政権下での社会問題の発信も嫌っており、国連は、「人権活動家やメディア関係者は攻撃、脅迫、嫌がらせ、恣意的な拘束、虐待、殺害にさらされ続けてきた」とタリバンを非難、報道やSNSを通じ、アフガン内外でタリバンを批判し、状況改善につなげようという動きは、ここ半年で少しずつ弱められてきている実態にあります。また、国連によると、タリバンのカブール侵攻で崩壊したガニ政権の関係者や政府軍兵士らがこれまでに100人以上殺害されており、タリバンは「報復」を否定するものの、現場の司令官や末端の戦闘員が指導部の意向に従わず、報復して回っているとの見方は根強くある状況にもあります。さらに、残念ながら、農村部では困窮した住民による臓器の売買も横行しているといいます。報道によれば、腎臓1つの値段は約1,300ドル(約15万円)程度で、これまでも臓器売買はあったものの、困窮が拡大して臓器を売ろうとする人が絶えず、「価格」は下落しているということです。

このような状況をふまえれば、凍結資産の解除や国際援助の再開はなかなか見込めず、膠着状態はさらに続くことが予想されます(それにより経済的困窮や人道危機的状況はさらに深刻化することになります)。国際社会は暫定政権を通さずに市民に支援が行きわたる方法も考えていく必要に迫られてりつともいえ、このような状況に対し、2022年2月15日付毎日新聞の記事「タリバン「私が招き入れた」首都陥落、カルザイ氏証言にガニ氏は…」で、中東調査会研究員の青木健太氏が提言している内容は、まさにそのとおりだと思われますので、以下、抜粋して引用します。

イスラム主義組織タリバンには、アフガニスタンを独立させ、シャリーア(イスラム法)に基づく統治を実現するという大義がある。この部分は旧政権時代と変わらないが、今後は中等教育の女子通学の全面再開を目指す方針を明らかにするなど、国際社会や国民の声を受け、妥協している面もある印象だ。タリバンはもともと雑多な勢力が入り込んだゆるやかな組織で、強固な指導体制があるわけではない。上層部の意向に従わない現場の戦闘員もいる。彼ら独自の価値観もあり、付き合い方が難しい。ただ、今後はアフガン人が主体となって国造りをする必要がある。保守的な土壌のある社会で、人権をどのように尊重していくかは現地の人々が議論を重ねて決めるべきだと思う。価値観の押しつけになってはならず、国際社会は目線を変えたアプローチが必要ではないか。生活費のため自分の子供を売る人がいるとの話も伝えられており、人道危機は深刻な状況にある。国連などの国際組織や非政府組織(NGO)を通じた支援は有効だ。しかし人道支援は対症療法にとどまる。国内経済や農業の活性化、破壊されたコミュニティの再生が必要になる。きめ細かい支援を行うには、現地の情報が取れるよう大使館の働きが重要だ。ただ設置すればタリバンに正統性を与えてしまうことになり、国際社会のジレンマとなっている。日本など大使館を一時閉館した国の中で、どの国が先陣を切って再開するかが今後の焦点だ。

その他、テロリスクに関する報道から、いくつか紹介します。

  • 陸上自衛隊とインド陸軍の対テロ共同訓練「ダルマ・ガーディアン」が2月27日から3月10日まで、インド西部ベラガビのインド軍訓練施設で開催されています。陸海空各自衛隊とインド軍は近年、中国の進出けん制を念頭に置いた「自由で開かれたインド太平洋」構想に基づき、共同訓練を重ねており、2018年に始まった「ダルマ・ガーディアン」は、今回が3度目となります。これまでジャングルでの合同訓練などを重ねてきており、今回は、日本にはない市街戦や室内での戦闘を想定した訓練施設を使用。ヘリコプターから降下した部隊の突入訓練を行うと報じられています。
  • パキスタン北西部ペシャワルのモスク(礼拝所)で金曜礼拝中に起きた自爆テロで、ISが犯行を認める声明を出しています。報道によれば、死者は58人、負傷者は200人近くに上っています。パキスタンでISが起こしたテロでは、過去最大規模の被害となりました。標的になったのはイスラム教シーア派モスクで、スンニ派のISを異端視しています。ISはパキスタンのシーア派と、ISと対立するイスラム主義勢力タリバンが実権を握るアフガニスタンのシーア派を狙い、攻撃を仕掛けていると主張しています。
  • ソマリア中部ベレトウェインのレストランで自爆テロがあり、少なくとも15人が死亡しています。同国を拠点に活動するイスラム過激派組織アルシャバーブが関与を主張しています。報道によれば、レストランは当時、政治家や地方政府関係者らで混雑していたということです。ソマリアでは2021年2月に任期切れとなったファルマージョ大統領の後任選出が進まず、政情が混乱している状況にあります。
  • 米最高裁判所は、2013年に起きたボストンマラソン爆破事件で、ジョハル・ツァルナエフ被告(28、当時19)の死刑判決を維持する判断を下し、死刑を破棄した下級審の判断を覆しています。判決は6対3で、保守派判事全員が賛成に回っています。報道によれば、判決文で「被告は凶悪な犯罪を犯した」と強調した上で、「公平な陪審員の前で公正な裁判が行われた」と述べられています。2013年の事件では、マラソンのゴールライン付近で爆発が起こり、3人が死亡、260人超が負傷しています。これによりツァルナエフ被告は死刑が確定しますが、バイデン大統領は死刑制度に反対していて、ツァルナエフ被告の刑の執行も当面行われない見通しとなっています。
  • インド西部アーメダバードで2008年に起きた連続爆破テロ事件で、インドの特別法廷は、殺人などの罪で起訴された49人のうち38人に死刑、11人に終身刑を言い渡しています。一回の裁判での死刑判決としては、過去最多の人数になるということです。このテロでは、混雑する市場や映画館など20カ所以上を狙い、56人の死者、200人以上の負傷者を出したとされます。イスラム過激派インディアン・ムジャヒディンが犯行声明を出し、検察側は49人全員の死刑を求刑していました。判決は上級審の審理の後に確定することになります。報道によれば、インディアン・ムジャヒディンは、ヒンドゥー教徒によってイスラム教徒が虐殺された2002年のグジャラート州の宗教暴動などへの報復を主張していました。
  • オーストラリアは、パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマス全体をテロ組織に指定しています。米欧と足並みをそろえ、政治、宗教的暴力に対する抑止力になると主張しています。報道によれば、オーストラリアは過去20年間、ハマスの軍事部門「エゼディン・アル・カッサム旅団」をテロ組織に指定していましたが、これをハマス全体に拡大する意向を表明していました。アンドリュース内相は声明で「テロ組織とその支援者の憎悪に満ちたイデオロギーはオーストラリアに居場所はない」と強調、テロ組織の指定は過激派に対する抑止力となり、政治、宗教、イデオロギー的な目的を達成するために暴力を用いることを非難するというメッセージを送るものだと説明しています。

(5)犯罪インフラを巡る動向

売掛債権を現金化する「ファクタリング」を悪用し、現金をだまし取ったとして、警視庁は、情報セキュリティ会社「グレスアベイル」元社長を詐欺容疑で逮捕しています。報道によれば、2021年5~7月、取引先のIT関連会社2社への売掛債権を保有していると偽り、これらの売掛債権の販売名目で、港区のファクタリング会社から計約1億円をだまし取った疑いがもたれており、IT関連会社に対するシステム開発費の請求書を偽造してファクタリング会社に提出し、売掛債権が存在すると信じ込ませていたということです。警視庁は、元社長が詐取金を自社の運転資金に充てたとみているということです。なお、元社長は2021年夏頃に行方をくらまし、同8月に社長を解任されていますが、親会社の情報セキュリティ会社「イー・ガーディアン」(東証1部)による調査でファクタリングの悪用が判明し、同社側が警視庁に相談したものです。ファクタリングについては、「給与ファクタリング」が犯罪インフラ化して問題となっていますが、架空取引のために悪用されやすい点も明らかとなったといえます。

位置情報を把握できる全地球測位システム(GPS)機器の悪用によるストーカー被害の警察への相談は2021年に延べ152件あり、5件が摘発されています。本コラムでも取り上げたとおり、GPSの悪用(犯罪インフラ化)に対しては2021年8月に改正ストーカー規制法が施行され、規制対象となっています。報道によれば、相談の内訳は、車などへのGPS機器の無断取り付けが109件で、無承諾での位置情報の取得が43件、禁止命令を出したのは6件、さらに改正ストーカー規制法で新たに禁じられた行為のうち、2021年に警察が摘発したのは、被害者が利用する駅のホームなど移動先での見張りや押しかけが27件、手紙など文書の連続送付が10件でした。すべてのストーカーの相談は前年比461件減の19,728件で4年連続の減少となったものの、依然として高い水準が続いているます。摘発は2,518件、配偶者からのDVの被害相談は前年比399件増の83,042件で、18年連続で最多を更新しています。なお、前年からの増加率はコロナ禍による外出自粛が広がった2020年と同じ0.5%と小幅で、被害の潜在化が懸念されるところです。直近では、元交際相手の女性の自動車にGPSを取りつけるため、車が止めてあった駐車場に押しかけたなどとして、ストーカー規制法違反罪に問われた50代の男性被告の差し戻し審の判決が佐賀地裁であり、裁判長は無罪(求刑懲役4カ月)を言い渡しています。訴訟の主な争点は、被告が立ち入ったとされる「駐車場」が同法上のストーカー行為となる要件の一つ「通常所在する場所(住居等)」にあたるかどうかなどに対する裁判所の判で、判決は、女性は立ち寄り先の駐車場に週に2、3回程度、それぞれ短時間しか滞在しておらず、駐車場は「住居等」に当たらないと指摘、犯罪の証明がないと述べ、検察側の主張を退けています。報道によれば、同訴訟ではまず、被告が女性の車に取りつけたGPSで位置情報を検索した行為が同法上の「見張り」に当たるかどうかが争われ、2018年1月の一審・佐賀地裁判決は「見張り」の一態様だとして懲役6カ月を言い渡したのに対し、同年9月の福岡高裁での控訴審判決は「見張り」に当たらないとして一審判決を破棄し、審理を差し戻しています。その後、2020年には最高裁が「位置情報は相手の動静に関する情報とは言えない」と控訴審判決を支持する判断を示したことから、検察側は差し戻し審で、被告がGPSを取り付けるために駐車場に押しかけた行為がストーカー行為に該当するなどとする訴因に変更したものです。今回のケースでは、そもそもGPSを取り付ける行為自体が改正ストーカー規制法で新たに規制の対象になっている点に注意が必要です。佐賀地検は「判決には不満が残る」としたものの、無断でのGPS取り付けが改正法で規制対象となったことを「立法的に解決された」と評価しています。一方、弁護側は「当然の判断。処罰するには明確な法律の規定が必要だという大原則を、検察も裁判官も再認識すべきだ」としています。

偽のサイトに誘導し個人情報を盗みとるフィッシング詐欺が増加し、IT企業が対策を強化しています。北京五輪の開催期間中にも多くの偽の動画中継サイトが開設され、手口は巧妙化しており、大手の通販サイトを装ったり、大規模イベントを狙ったりする傾向は今後も続くとみられ、専門家が注意を呼び掛けています。報道によれば、ヤフーは、サイバーセキュリティに関する説明会を開き、フィッシング詐欺の犯人は大手の通販サイトのほか、運送会社や生命保険会社を名乗るなど、標的にされる企業も広がっていること、偽サイトのURLやメールの差出人などを本物そっくりに偽装しており、ヤフーのサイバーセキュリティ担当は「偽サイトの見分け方はない」と話しています。なお、ヤフーでは、一時的に使える暗証番号をスマートフォンに送信する「ショートメッセージサービス(SMS)認証」や指紋や顔などの生体情報を使う認証方法を活用して、パスワードを使わないようにする取り組みを進めています。フィッシング対策協議会によると、令和3年のフィッシング詐欺の報告件数は約52万6,000件に上り、「新型コロナウイルスのワクチン接種や企業のキャンペーンを悪用するなど、時事ニュースを研究しているものも多い」と警鐘を鳴らしています。一方、フィッシング詐欺に関する被害や相談が、千葉県内で相次いでいるとの報道もありました(2022年3月1日付毎日新聞)。コロナ禍による「おうち時間」の増加で、ネットショッピングなどの利用機会が増えたことが背景にあるとみられ、千葉県警は「偽サイトは本物と見た目だけでは見分けるのは難しい。十分に注意をしてほしい」と呼びかけているといいます。なお、千葉県警のユーチューブ公式チャンネルでは、偽サイトの見分け方や不審なショートメッセージに関する注意点などを紹介しています。

▼YouTube【千葉県警公式チャネル】 にせサイトには気を付けて
▼千葉県警 サイバー犯罪とは フィッシング
  • 実在する企業・金融機関などを装って、ユーザーネーム、パスワード、アカウントID、クレジットカード情報、金融口座の暗証番号といった個人情報を詐取する行為です。電子メールやショートメールのリンクから偽サイトに誘導し、そこで個人情報を入力させる手口が一般的です。個人情報が盗まれると、現金が引き出される、本人になりすまして不正な売買がなされるなど、犯罪の被害に遭うおそれがあります。
  • 怪しいサイトの傾向
    • パスワードの変更を要求する
    • いつもと違うタイミングで暗証番号やセキュリティコードの入力を要求する
  • 対策
    • フィッシングに使われる偽サイトは巧妙に作られており、見た目では分からないものがほとんどです。メールに書かれているリンク表示は偽装ができるため、安易にリンクをクリックせず、実際に見ているサイトのURLが本物かどうかを確認してください。少しでもおかしいと感じたら、
      • 発信元である企業等の連絡先を調べ、電話等で直接問い合わせる。
      • 公式サイトを確認し、フィッシングの注意喚起がなされていないかを確認する。
      • インターネットで、同じ内容のメールによるフィッシングがないかを検索する。

      などしてください。

  • 万一、フィッシングと思われるメールやサイトなどを発見した場合は、本サイト内にあるフィッシングに関する情報提供窓口に通報してください。
  • フィッシングに関する最新情報は、「フィッシング対策協議会」をご覧ください。

本コラムでも取り上げたことがありますが、大分県内の飲食店経営者らが知らない間に裁判を起こされて敗訴し預金を差し押さえられた事件で、有印私文書偽造・同行使などの罪に問われた名古屋市の被告の公判が大分地裁であり、検察側は懲役5年を求刑し、結審しています。報道によれば、検察側は、被告が以前に民事訴訟を起こした際、訴状を発送した時点で「送達完了」とみなす付郵便送達の制度を知ったとして、「相手に知られないうちに債権を取り立てようと司法制度を悪用した」と主張、弁護側は「すべて正直に話し、反省の態度を示している」と述べています。起訴状などによると、被告は2019年、県内の飲食店経営者ら2人に未払い賃金などの支払いを求める訴訟で制度を利用し、確定判決を得ており、2人の住所を偽って裁判所に報告し、差し押さえ命令の書類の署名を偽造して受け取ったというものです。

国の許可を得ず不正に為替取引を行う地下銀行を営み、日本から中国に2億4,000万円相当を送金した(いわゆる「地下銀行」)として、大阪府警は、銀行法違反(無免許営業)の疑いで、輸入販売会社の代表取締役を逮捕しています。報道によれば、大阪府警は犯罪被害金の送金に利用されていた可能性があるとみて調べているということです。逮捕容疑は2020年7~9月、日本国内にある同社名義の口座で、依頼者から日本円を受け取り、計435回にわたり、約1,500万人民元を中国国内の指定された口座に振り込み、無許可で為替取引を営んだ疑いがもたれており、送金額やレートについて、依頼者とSNSでやりとりをしていたとみられています。なお、参考までに、警察庁の「令和2年版組織犯罪の情勢」によれば、「地下銀行とは、法定の資格のない者が、報酬を得て国外送金を代行することなどをいい、その行為は、銀行法等に抵触する」とされ、令和2年中の検挙状況としては、「地下銀行事犯の検挙状況をみると、近年はほぼ横ばい状態で推移しているところ、令和2年は前年に比べ、検挙件数・人員とも減少している。検挙人員を国籍等別にみると、ベトナム1人、中国1人、スリランカ1人となっている」ということです。

本コラムでもたびたび取り上げていますが、ネット広告を表示するウェブサイトの運営者側が、クリック数を水増しして広告費をだまし取る「アドフラウド」と呼ばれる不正行為が後を絶ちません。告主が効果に見合わないお金を払わされるだけでなく、反社会的勢力の資金源になっている恐れも指摘されているところです。国内では対策が遅れてきたが、健全化に向けた動きが本格化し始めています。報道によれば、東京都内の人材系会社は昨春、ネット広告経由の資料請求などが突然増えた。申し込み主に電話をかけてもつながらないため不審に思い、アドフラウド対策を手がける「スパイダーラボズ」のツールで広告アクセスを解析したところ、アドフラウドによるアクセスや資料請求が全体の12%に上っていたといいます。同社の2021年7~12月の調査では、対象企業の全ての広告アクセスのうち、平均4・4%がアドフラウドによるものだったといいます。国内の広告3団体が2021年3月に設立した「デジタル広告品質認証機構」(JICDAQ)事務局長は「アドフラウドを行うようなサイトに広告が掲載されれば、企業のブランドイメージも傷つく。経営に直結する危機管理の問題として捉えてほしい」と指摘しています。なお、「デジタル市場競争会議」の報告書は以下のとおりであり、反社会的勢力に関する記述をピックアップしてみました。

▼首相官邸 デジタル市場競争会議 デジタル広告市場の競争評価 最終報告(案) 本体
  • アドフラウドの問題については、利用のハードルが低く、オープンな市場であることから、悪意のある者が入り込みやすく、それらを追跡し完全に排除することが難しい現状にあり、反社会的勢力などに広告費が流出しかねないという深刻な問題となっている。
  • アドフラウドとは、自動化プログラム(bot)を利用したり、スパムコンテンツを大量に生成したりすることで、インプレッションやクリックを稼ぎ、不正に広告収入を得る悪質な手法のことをいう。その運営主体として、小遣い稼ぎ目的の一個人から、反社会的勢力との関連が疑われるような国内外の悪質事業者まで、様々なプレイヤーの介在が疑われている
  • アドフラウドによる不正請求での詐取や違法サイト等での広告表示などの問題が顕在化しており、場合によっては反社会的勢力の資金源にもなりかねないとの懸念といった「歪み」は国際的にも看過し得ない大きな課題である。

本コラムでも関心を持って取り上げている経済安全保障について、2022年2月、経済安全保障推進法案が閣議決定されています。米中対立などを背景に、企業も経済安全保障を重視するようになっており、法制化に反対する声は特段聞かれない一方、通信などの基幹インフラを担う企業を中心に、企業活動への過度な制約や手続きなどの負担増を懸念する声も相次いでいます。企業が経済活動と経済安保を両立できるよう、政府には丁寧な説明が求められるところです。法案は、半導体や医薬品などの重要物資の安定供給に向けたサプライチェーン(供給網)の確保、基幹インフラ(社会基盤)の事前審査、先端技術の官民協力、特許の非公開の四本柱で構成されています。高度な技術や戦略物資を巡って、米中をはじめとする各国の競争が激化しており、報道によれば、ある電機大手は「国が半導体など重要物資のバックアップに動くことは必要だ」と理解を示すほか、経済界では、「経済と安全保障を切り離して考えるのはもはや不可能。政府の方針を支持する」(経団連の十倉会長)との考えが広がっており、自ら体制の整備を急ぐ企業も増えています。一方で、虚偽の届け出を行った場合などは罰則の対象となるほか、部品や調達先を全て把握するには手間もかかることなど、企業からは「煩雑な手続きが必要になれば、高速・大容量の通信規格『5G』の展開が遅れないか心配だ」(通信会社)、「情報管理やサイバー対策で業務量が増えかねない」(メガバンク)といった声も出ています。経済同友会は、経済安全保障法制に関する意見書を発表、経済安保の定義や規制の対象範囲を明確にすることや、裁量によって適用範囲が拡大する余地を排除することを求め、「企業のイノベーションや生産性向上といった『攻めの経営』精神をくじかない整備を求める」と訴えています。なお、経済安全保障に関する機密情報の取り扱い資格制度「セキュリティー・クリアランス(適性評価)」について、政府・与党が今秋の法制化に向けて検討に入ったことも報じられています。適性評価は個人情報保護の観点から慎重論があり、今回の閣議決定の案には盛り込まれていませんでしたが、経済界も導入を要望していることなどから、今後調整を急ぎ、秋に予想される臨時国会への関連法案提出を目指すとしています。なお、経団連は、適性評価について「相手国から信頼されるに足る、実効性のある情報保全制度」を導入するよう政府に提言しており、政府はこうした情勢を踏まえ、産業・研究面で同盟・友好国との連携を強化するとともに、日本企業の競争力を強化する観点からも法制化を急ぐべきだと判断したものです。しかしながら、適性評価は家族や交友関係、資産、飲酒歴なども審査の対象となることもあり、公明党などから個人情報保護に対する懸念の声も上がっており、政府関係者は「十分に協議、意見聴取する」としています。また、ちょっと変わった切り口ではありますが、経済安全保障の「つかみどころのない」「際限のない」難しさ、煩雑さを理解できるものとして、2022年2月17日付毎日新聞の記事「経済安保「対策」は天下り? 大手企業に経産幹部OB続々」が参考になりますので、以下、抜粋して引用します。

今やホットワードとなった「経済安全保障」。政府は近く、経済安全保障推進法案を国会に提出する。これに備えて大手企業が続々と専門部署を設置しているが、担当役員の顔ぶれを調べると、ある中央省庁の幹部OBばかりが並ぶ。実像のつかみにくい経済安全保障が、官僚の新たな「天下り」を生み出すきっかけにならないだろうか。…経済安保は、国家の安全保障のためには先端的な技術やデータの国外流出を防ぐなど経済活動も細心の注意を払わないといけないというのが一つの柱だ。ところが、規制の線引きは漠然としていて国家の機密に触れる部分があるため、当局による運用もブラックボックスになりやすい。…これまで自由にビジネスができていたのに、経済安保という新たなフィルターを通すと状況が変わる。国内企業でも突如制約を受けるケースが出始めた。楽天グループは21年、中国IT大手の騰訊控股(テンセント)の子会社から出資を受けた結果、「顧客情報が流出する恐れがある」として日米当局による監視の目が強まった。法規制に触れるわけではないのに、米国がテンセントと中国軍のつながりを疑っているための措置だった。…米中間の貿易戦争やハイテク覇権争いが発端となった経済安保は、今や人権や環境問題などに拡大。民間の技術を活用して軍事力を高める中国の「軍民融合」戦略への対抗も目的の一つだが、意外なところに「虎の尾」があることも企業を悩ませる。パチンコ台に電磁波を発射するなど不正な手段で出玉を増やそうとする「ゴト行為」。パチンコ業界は不正な電磁波を遮断するなどの対策をしているが、この技術も使い方によっては「軍事用ドローンの撃墜に応用されることもある」(経産省幹部)。量子暗号や人工知能(AI)なども軍事転用が懸念されるが、軍民の境界線がますます曖昧になり、刻々と変化する国際情勢に合わせて形を変える経済安保の中では、一見、何の関係もなさそうな技術や製品でも、いつ規制対象になるか分からない。…三菱電機の担当役員、日下部聡常務は「各国の政策や法規制などを読み込んで、自社向けに落とし込んだり、経済安保に関する情報を収集したりするために、以前より政府との接点が増えた。(元官僚の)知見やノウハウは生きている」と話す。…「自社のチョークポイント(急所)をよく分かっていない企業が、経済安保に詳しくない元官僚を連れてくる。これではピントのずれた体制づくりになってしまう」と警鐘を鳴らす。

インターネットバンキングに不正アクセスし、知人男性の口座から現金を盗むなどしたとして、神奈川県警川崎臨港署は、不正アクセス禁止法や窃盗などの疑いで、無職の容疑者を逮捕しています。2021年3月、知人男性のスマホからこの男性が利用する金融機関2行のインターネットバンキングに不正アクセスし、自身の口座に現金計約260万円を振り込んだことにしたうえ、その口座から3回にわたって約260万円の全額を引き出し、盗むなどしたとしたというものです。報道によれば、容疑者は以前に男性がインターネットバンキングを使う際、暗証番号などを盗み見たことがあり、容疑者はこの男性方にたびたび宿泊することがあったといい、男性が目を離した隙にスマホを持ち去り、犯行に及んでいたようです。いわゆる「ショルダーハッキング」と呼ばれるソーシャルエンジニアリングの手口の一つで、通信を暗号化しても キーボード等を入力する手元や重要情報が表示された画面を直接見られたらすべてが無効化されてしまう恐ろしさがあります。ちなみに、主な対策としては、「外出先でPC等を使用する場合は、背後が壁になっている座席を選ぶ」「混雑した人との距離が近い場所(電車やバスなど)ではPC等の端末を用いて重要情報を扱わない」「のぞき見防止フィルターを画面に貼る」「防犯カメラへの映り込みに注意する」といったものが挙げられます。

ツイッターで自分にそっくりの偽アカウントが作られ、本物の方がツイッター社に偽物と判断されて「凍結」される例が起きています(2022年3月1日付朝日新聞)。

米テキサス州の司法長官は、メタ(旧FB)が利用者の同意を得ずに違法に顔データを集めていたとして、プライバシー保護の法律違反で同社を提訴しています。報道によれば、メタは過去10年以上にわたり、利用者の同意を得ずに顔データを収集し、第三者の業者にも提供していたというい、FBを利用していない人の顔データも友人らを通じて集め、数十億回にわたって生体情報にあたる顔データを集めたというものです。同州は訴状で「FBは生体情報を自社の商業利益のために集め、顔認識技術を訓練、改善させ、強力な人工知能(AI)装置を築いていた」と指摘しています。これに対しメタの広報担当者は「これらの主張は事実ではなく、我々は積極的に自分たちを守る」と反論しています。メタは2021年11月、FBの「顔認識機能」を停止すると発表、顔認識のために蓄積していた10億人分以上の顔写真データも削除するとしています。AIに関連して、英金融当局は、融資審査でのAI活用を目指す銀行に対し、マイノリティーへの差別を一段と悪化させないと証明できる場合だけに利用は限られるとくぎを刺していると報じられています(2022年2月15日付日本経済新聞)。報道によれば、AI導入で消費者が不利益を被らないようにするための保全措置について、当局が大手銀への要求を一段と強めているようです。市中銀行はAIや高度なアルゴリズムを使って融資審査の自動化を進め、郵便番号や職業など、借り手のタイプ別の過去データに基づいて貸し付けの可否を判断する方法を模索、民族的マイノリティーは従来、割安なローンへのアクセスが限られる立場にありましたが、各行は、機械学習技術を導入すれば、融資判断での差別を減らせると考えており、人間のように主観的かつ不公平な判断をAIは下さないというスタンスですが、規制当局や権利擁護団体は、信用リスクモデルにAIを使うと、むしろ逆効果になりうると懸念しています。現状のように過去の債務不履行率が高いグループに金利が高く設定され、その確率がいっそう高まるという悪循環を招くことになり、「そこに機械学習を加えるという発想は、この循環をさらに悪化させる」といいます。

ロシアによるウクライナ侵攻を機に、日本でも非軍事手段としてサイバー攻撃による攪乱への懸念が高まっています。ウクライナでは年明けから政府機関などへの攻撃が目立ち、国内でもトヨタ自動車が取引先の被害で国内全工場の稼働中止に追い込まれる事態が発生しています。まさに、サイバー空間をめぐる情勢は純然たる平時でも有事でもない様相を呈し、重大な事態へと急速に発展するリスクを大いに孕んでいるといえ、実効性ある取組みは待ったなしの状況だといえます。直近で、各省庁から注意喚起が出されていますので、紹介します。当然のことが並んでいますが、当然のことを徹底して行うことが、サイバー防衛の基本であることもあわせて認識いただきたいところです。なお、参考までに、全国の病院を対象に実施されたサイバーセキュリティ調査で、約1割の病院がサイバー攻撃への脆弱性を指摘された機器などについて、適切な対応を取らないまま使用していることが判明するなど、ランサムウエアと呼ばれるウイルスで病院のシステムが停止する被害が相次ぐ中で、対策の遅れが明らかになっています。国が、脆弱性を指摘した製品のうち、外部から病院のシステムに接続する際に使う「VPN」などを使用していた病院は40%あり、このうち、対策を取っていない病院は24%、全体の約1割が、被害に遭うリスクが高い状態にあったこと、「サイバー攻撃の脅威を感じる」と答えた病院が全体の90%に達する一方で、セキュリティ予算については46%が「十分でない」と回答していることなど、危機意識に対策が追いついていない実情が浮かんでもいます。さらに調査では、98%の病院でバックアップを取得していたが、ネットワークから遮断したオフラインで保管していたのは47%にとどまるなど、セキュリティの本質を理解していない実効性の低い対策レベルであることも判明しています。このような実態は病院に限らないはずであり、すべての事業者が、まさに今、あらためて対策の再検証をすべきという危機感を持つ必要があります

▼金融庁 金融機関におけるサイバーセキュリティ対策の強化について
▼サイバーセキュリティ対策の強化について(注意喚起)
  • 昨今の情勢を踏まえるとサイバー攻撃事案のリスクは高まっていると考えられます。本日、国内の自動車部品メーカーから被害にあった旨の発表がなされたところです。政府機関や重要インフラ事業者をはじめとする各企業・団体等においては、組織幹部のリーダーシップの下、サイバー攻撃の脅威に対する認識を深めるとともに、以下に掲げる対策を講じることにより、対策の強化に努めていただきますようお願いいたします。また、中小企業、取引先等、サプライチェーン全体を俯瞰し、発生するリスクを自身でコントロールできるよう、適切なセキュリティ対策を実施するようお願いいたします。さらに、国外拠点等についても、国内の重要システム等へのサイバー攻撃の足掛かりになることがありますので、国内のシステム等と同様に具体的な支援・指示等によりセキュリティ対策を実施するようお願いいたします。実際に情報流出等の被害が発生していなかったとしても、不審な動きを検知した場合は、早期対処のために速やかに所管省庁、セキュリティ関係機関に対して連絡していただくとともに、警察にもご相談ください。
  1. リスク低減のための措置
    • パスワードが単純でないかの確認、アクセス権限の確認・多要素認証の利用・不要なアカウントの削除等により、本人認証を強化する。
    • IoT機器を含む情報資産の保有状況を把握する。特にVPN装置やゲートウェイ等、インターネットとの接続を制御する装置の脆弱性は、攻撃に悪用されることが多いことから、セキュリティパッチ(最新のファームウェアや更新プログラム等)を迅速に適用する。
    • メールの添付ファイルを不用意に開かない、URLを不用意にクリックしない、連絡・相談を迅速に行うこと等について、組織内に周知する。
  2. インシデントの早期検知
    • サーバ等における各種ログを確認する。
    • 通信の監視・分析やアクセスコントロールを再点検する。
  3. インシデント発生時の適切な対処・回復
    • データ消失等に備えて、データのバックアップの実施及び復旧手順を確認する。
    • インシデント発生時に備えて、インシデントを認知した際の対処手順を確認し、対外応答や社内連絡体制等を準備する

    2021年10月に徳島県つるぎ町の町立半田病院が攻撃され、電子カルテが閲覧できなくなり、通常診療の再開までに約2カ月かかるなど、被害が長期化する例も少なくないランサムウエア攻撃ですが、その被害は全世界で深刻化しています。米サイバー対策企業クラウドストライクが日米など世界12カ国・地域で実施した2020年夏の調査によると、過去1年以内に攻撃を受けた企業は56%に達しており、ランサムウエアは、海外に拠点があるとみられる複数の攻撃グループの活動が明らかになっていて、ロシアを拠点とする犯罪グループの関与が指摘されるケースも多いところです。今、注意が必要な業種の一つがトヨタに代表される製造業で、工場のIT化などを背景に、サイバー攻撃リスクは高まっているといえます。そもそも製造業はグループ会社や取引先など多数の企業が関わるサプライチェーン(供給網)を構成していることから、こうした体制に目を付け、セキュリティが比較的弱い関連企業からネットワークに侵入し、段階的に攻撃を拡散させるサプライチェーンを狙った攻撃が近年、増えています。今回の攻撃者の意図は現時点では不明ですが、攻撃を受けた企業がチェーン内で重要な役割を担っていれば影響は製品供給全体に及ぶことになり、今回の事例は、委託先などを含めたサプライチェーン全体のサイバー防衛力向上という課題をあらためて浮き彫りにしたといえます(なお、トヨタでは、生産効率を上げるため、特定の取引先から多くの部品を調達している事情もあり、今回は取引先1社のシステム障害で国内全工場の停止を余儀なくされ、サイバー攻撃に対するもろさを露呈したといえます)。また、本政府は世界情勢の悪化でサイバー攻撃の懸念が強まっているとしており、「海外に拠点がある企業は国際情勢が変化したとき、攻撃されるリスクが高い」、「サイバー攻撃には国ごとに特徴があり、対処法も異なるため、最初から犯人を決めつけて対応すると逆に被害を広げてしまう可能性もある。冷静に対処することが必要だ」、「攻撃内容や被害状況を専門機関に依頼するなどして把握し、適切な対応を取ってほしい」(2022年3月1日付産経新聞)との専門家の指摘も重要です。ウクライナ情勢を絡めて、サイバー攻撃への対応のあり方については、2022年3月5日付毎日新聞の記事「ウクライナ侵攻で急増 サイバー攻撃で私たちが「今すべきこと」が参考になりますので、以下、抜粋して引用します。

    ウクライナ侵攻以前から予想されていたのは、ロシアがミサイルなど通常の軍事行動に加えて、通信サービスなど重要インフラを狙ったサイバー攻撃、SNSを使った偽情報の拡散など、いわゆる「ハイブリッド戦」を使うということです。ウクライナ南部クリミア半島を併合した2014年にも、ロシアは同じような手法を使ったからです。しかし、今回は大きく異なる点があります。政府と政府、軍と軍の間の応酬だけでなく、民間の国際ハッカー集団も複数参戦してきている。これは、未曽有の事態です。ハッカー集団の主張の真偽を確かめることは困難ですが、「アノニマス」がロシア政府をサイバー攻撃したとされるほか、ロシアの情報機関とつながりがあると言われる「コンティ」、ベラルーシの反体制派ハッカー集団「サイバー・パルチザン」などがそれぞれ参戦を主張しています。また、ウクライナ政府がサイバー攻撃からの防御と攻撃への協力を広く呼びかける動きも出ています。…(サイバー攻撃が拡大しているのは)リアルな戦争に付随して情報収集や妨害活動ができるからです。サイバー攻撃で相手国や同盟国の動きを事前に知り、自分たちの軍事作戦をより進めやすくする。セキュリティが甘くなりがちな政府高官や軍人、ジャーナリストの(SNSなどの)個人アカウントも攻撃対象になりやすい。もう一つは業務妨害型のサイバー攻撃です。これは日本なども警戒しているものです。ウクライナでは攻撃相手のデータを破壊して消してしまう「ワイパー」と呼ばれるウイルス攻撃が見つかっています。…データを大量に送りつけてホームページをダウンさせたり、SNSを通じ偽情報を拡散したりという攻撃も行われています。ロシア侵攻前の今年1月、70近いウクライナ政府機関のサイトが改ざんされ、「恐れよ、最悪の事態を予想せよ」という脅迫的な言葉が書き込まれました。相手を混乱、動揺させるプロパガンダもサイバー攻撃の一種です。…制裁に踏み切れば、ロシアが報復として、その国の金融機関や重要インフラにサイバー攻撃を仕掛けてくる恐れは昨年末から指摘されていました。もう一つ、注意すべきなのは、インターネットには国境がありませんから、ウクライナを狙ったサイバー攻撃であっても、攻撃者の予想を超えて感染被害がドミノ式に他国にも広がる可能性がある点です。ロシアがウクライナを狙ったとみられる「ノットペトヤ」と呼ばれるウイルスが、世界の3分の1にあたる65カ国に広がり、約1兆円という膨大な被害が出たこともあります。こうした「余波」にも注意が必要です。…今すぐできることとして、独立行政法人の情報処理推進機構(IPA)が出している「情報セキュリティ5カ条」を実践してほしいと思います。「OSやソフトウエアを常に最新の状態にしておく」「ウイルス対策ソフトの導入」「パスワードの強化」「脅威や攻撃の手口を知る」などが列挙されています。当たり前に聞こえる対策ばかりかもしれませんが、3年前にある地域の商工会議所が行った調査によると、全て実践していた中小企業はわずか10%でした。この5カ条をしっかり実践するだけでも、日本全体での対策強化になります。

    ロシアの金融機関をSWIFTから排除するなど強力な経済制裁を科している欧米日を中心とした国々ですが、その「抜け穴」へ警戒する必要があります。2022年3月5日付読売新聞の記事「ウクライナ侵攻 対露金融制裁 抜け穴警戒…中国決済網・暗号資産」が分かりやすく指摘しているので、以下、抜粋して引用します。

    ウクライナへ侵攻を続けるロシアへの経済制裁で、ロシアの一部銀行が国際決済網から排除されることになったが、代替送金手段による抜け穴があるのではとの警戒が出ている。市場では、中国の独自決済網や、暗号資産の活用が取りざたされている。EUなどは、制裁の効果を高めるため対策に乗り出す。…原油や天然ガスといった資源輸出の代金を受け取れなくなればロシア経済にとって致命的な打撃となるため、ロシアは対抗策として資金決済の「迂回ルート」を模索するとの見方が広がる。有力候補の一つとみられているのが、中国が運用する人民元の国際銀行間決済システム(CIPS)だ。中国人民銀行(中央銀行)が2015年、人民元建ての投資や貿易決済を促進するために導入した。中国はウクライナを侵攻したロシア寄りの姿勢を示しており、専門家は「中国がロシアにもCIPS利用を拡大させる可能性はある」と見る。中国にとっては、人民元の国際化を進める機会ともなりうる。…すでに暗号資産の取引市場では、ロシアの送金手段となるとの思惑から価格が急騰気味だ。代表格であるビットコイン(単位BTC)の価格は2日、一時1BTC=45,000ドル(約520万円)となり、1週間前から約2割値上がりした。G7では、ロシアの抜け道にならないようにと政府や業界団体が動き出した。EUはロシアに対し、暗号資産の取引にも制裁を科す方向で検討を始める。…日本のメガバンクは、ロシア国内に制裁対象外の現地法人があるため、日本からロシア国内への送金は可能とみられるが、口座から現金を出し入れできる店舗網はない。企業や従業員はロシアの地元銀行に口座を開いて対応しているケースが多いとみられ、制裁により入出金ができなくなる恐れがある。

    SWIFT排除についてもさまざまな議論がありますので、いくつか紹介します。

    制裁の決め手「スイフト排除」でロシアは孤立するか(2022年3月2日付毎日新聞)
    ロシアのウクライナ侵攻を受けた制裁で、日米欧の主要国が国際的な資金決済ネットワーク「スイフト(SWIFT)」からロシアの大手銀行を排除することを決めた。スイフトから排除すると輸出入代金の支払いや受け入れができなくなり、ロシア経済に大きな打撃を与える可能性がある。だがその副作用も大きい。…ロシアは天然ガス、石油、石炭や小麦などの農産物を輸出している。一方、自動車部品、医薬品、通信関連機器などを輸入している。仮にロシアの全銀行をスイフトから排除すると、輸出入の代金支払いが困難になる。また、ロシア企業に融資している金融機関への元利払いにも支障が出る。融資残高が多い金融機関にとって影響は大きい。ドイツやイタリアなど、ロシアと貿易面や金融面での関係の深い欧州の一部の国からスイフト排除に慎重な声もあった。だが、ロシアが首都キエフなどウクライナの広い地域で軍事作戦を進めたことに欧州側は強い衝撃を受けており、経済制裁の決め手とも言えるスイフト排除が決まった。…スイフトからの排除は、2012年にイランの核開発をめぐる経済制裁のなかで実施された。当時、この制裁でイラン経済は自国通貨の暴落などで大きな打撃を受けたと言われている。今回もロシアの通貨ルーブルの暴落など、国内経済にかなりの影響が及ぶことを狙って制裁が決まった。ただし、イラン制裁のころと状況が変わっている点も見逃せない。中国がスイフトとは別の国際資金ネットワークを構築しているからだ。「中国のネットワークはスイフトほど広いネットワークではない」(大手銀行)という。また、貿易相手国の銀行が加盟していなければ決済はできないが、ロシアがそれに乗り換える動きを誘発しかねないとの見方もある。さらに、スイフトから排除されたロシアがネットワーク外の資金決済にシフトすれば、その分、資金の動きを把握することが難しくなるとの見方もある。スイフトを経由して資金を動かしていれば、それを把握することは最低限可能だからだ。
    「欧州に配慮し、露へ手加減」 鈴木一人・東大大学院教授(2022年3月3日付毎日新聞)
    「制裁の決め手で、貿易や決済ができなくなる」という誤解が多いと感じる。実は、SWIFTからの排除が何か決定的な役割を果たすわけではない。事務処理の手間はかかるが、通信端末「テレックス」など昔ながらの方法を使えば、決済はできなくはない。…米国が打ち出したロシア主要銀行への制裁は、SWIFTからの排除よりも効果が高い。各行と取引した銀行は米国市場での免許を奪われ、国際業務が事実上できなくなる。ただ、この制裁の対象にもガスプロムバンクは入っていない。つまり、現状の制裁には抜け道があり、完璧なものではないということだ。ロシアが一番痛いところには手を付けず、手加減している。逆に言えば、だからこそG7の足並みがそろったということだ。バイデン米政権はトランプ前政権と異なり、同盟国との協調を重視している。欧州が大きなダメージを受けないよう、欧州の意見や立場を尊重して制裁を設計している。…プーチン大統領は、侵攻によって制裁を受けることは当初から想定しており、外貨や金の準備を積み増し、耐え忍ぶ用意をしていた。そのうえ、制裁に抜け道が残り、ガスや石油を輸出して代金を得ることがまだ可能だ。完全に干上がることにはならない。もちろん、制裁による一定の打撃はあるが、ロシアの外貨収入の7割程度がエネルギー輸出だ。これが生きている限り、大きな危機にはならないだろう。…現状の制裁でも、ロシア経済はそれなりの痛みが出てくる。インフレ(物価上昇)が進み、国民からプーチン氏打倒の運動が起きるなど社会不安が高まっていけば、プーチン氏が停戦を考える可能性はある。ただ、プーチン氏はこれまで、南部チェチェン共和国の独立派との紛争やクリミア半島の併合など、常に戦争によって権力を握り、国内の不満を力で抑え込んで長期政権を築いてきた。制裁の効果が出るにはおそらく時間がかかるだろう

    ロシアの規制当局は、メタが運営するFBへの接続を遮断したと発表しています。FB上でロシア国営メディアへの接続が制限されるなどの「差別」があったためとしており、ツイッターのアクセスも制限するとしています。ロシアでは2月24日の軍事侵攻以来、情報統制が急速に厳しくなっており、最高検察庁は、プーチン政権に批判的なラジオ局やテレビ局の放送停止やインターネット遮断を決めています。2021年にムラトフ編集長がノーベル平和賞を受賞した独立系新聞「ノーバヤ・ガゼータ」にも圧力がかかっています。さらに、ロシア下院は、同国の軍事行動に関して虚偽の情報を広げた場合に刑事罰を科す改正法案を採択しています。情報の戦時統制を強化し、言論の自由を大きく損なう内容となっています。ロシア人だけでなく外国人も対象で、最大で15年の懲役や禁錮など自由はく奪の重い刑罰を科す可能性があるとしています。また、改正法案では3年間の自由はく奪刑か150万ルーブル(約150万円)の罰金が規定されているといいます。これを受け英BBCは、ロシアでの全ての記者の取材活動を一時的に停止したと明らかにしたほか、各国のメディアも同様の方針を示す事態となっています。

    一方、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受け、「ユーチューブ」とFBは、ロシアの国営メディアがプラットフォーム上で広告収入を得られないよう措置を講じています。ウクライナ政府がアップルにもロシアでのサービス停止を求めるなど、米IT大手は対応を迫られています。ユーチューブは、ロシア国営メディア「ロシア・トゥデイ(RT)」など一部のロシア国営メディアが広告収入を得ることを全世界で禁止し、ウクライナ政府の要請を受け、同国内でRTなどのチャンネルへアクセスできないようにしたといいます。グーグルの広報担当者は声明で「我々は状況を引き続き注視しており、さらなる行動を取る可能性がある」として、米政府によるロシアへの制裁の動向などを見極める姿勢を示しています。ユーチューブによると、協調して誤情報を流した数百のチャンネルや数千の動画を削除、FBを運営するメタも、RTなどロシアの国営メディアがFB上で広告出稿などができないようにしたと明らかにしています。一方で、ロシア政府による米IT大手への圧力も強まっています。米メディアは、グーグルとアップルが2021年9月のロシア下院選で、ロシア政府の検閲の圧力に屈して、反政府派のアプリを配信ストアから削除したと報じています。FBも含め、表現の自由をうたいながら権威主義的な国の政府に譲歩する姿勢にはこれまでも批判が出ており、各社はロシアに対するスタンスを問われているといえます。

    ▼SNS、ロシア政府系メディア排除拡大 YouTubeは欧州で(日本経済新聞電子版 3/2配信)

    関連して、IT大手がSNSなどからロシアの政府系メディアを締め出す動きを拡大しています。米グーグルは、欧州で政府系メディアによる動画共有サービス、ユーチューブの利用を制限、ロシア軍がウクライナへの侵攻を続けるなか、政府系メディアのプロパガンダへの批判が高まっていたためで、RTやスプートニクが欧州でチャンネルと呼ぶユーチューブの機能を使うことを禁じ、動画に広告を挿入して収益化することや、広告を利用して情報を拡散させることを封じています。ロシアをめぐっては政府系メディアがSNSなどを利用して偽情報を拡散させ、社会の不安を高める懸念が広がっており、EUのフォンデアライエン欧州委員長は、政府系メディアを規制する方針を表明、エストニアなど4カ国の首相も、グーグルなどに書簡を送って対応を求めています。ロシアの政府系メディアは国内でも偽情報を流し、ウクライナ侵攻を正当化するといった懸念が浮上しています。IT各社は当初、ウクライナ政府などの要請に応える形でロシア国内で政府系メディアを規制しましたが、ロシア当局は規制が違法と主張し、通信速度を抑えて各社のサービスを使いづらくするといった対抗措置を講じてきています。各社は「知る権利」などとのバランスを考慮し、投稿への規制には慎重だった経緯があります。ただ、プロパガンダへの批判が高まっており、ロシア国内に続いてウクライナと近く危機感を募らせている欧州にも規制を広げた格好となります。それでも、より厳しい規制を世界各地で求める声も根強い状況にあります。

    このように、ロシア当局は、意に沿わないメディアの報道を規制し、反戦機運の高まりを押さえ込もうと躍起となっています。一方、ウクライナもデジタル・プラットフォーマー(DPF)に、ロシアでのサービスを停止するよう働き掛けを強めています。それに対し、ロシアでサービスを提供する楽天は、「自由で安全なコミュニケーションを妨げることにつながり、偽情報と戦うための重要な通信手段を排除してしまう」「多くの民間人の命が危険にさらされている世界の歴史の重要な局面で、社会を力づけるためにわれわれが取るべき最善の行動は、言論の自由や通信の自由などを守ることだ」(百野副社長)と主張しています。前述したとおり、今まさにDPFの倫理観や社会的責任が問われているといえます。そして、表現の自由を盾に「自分たちは受動的にユーザーの言論を仲介する存在にすぎない」と嘯いた時代もまた終焉を迎えることになります。

    ウクライナ情勢に限らず、ソーシャルメディアの倫理観や社会的責任が問われている場面が増えています。この点について、2022年2月27日付産経新聞の記事「ソーシャルメディアには、「伝統的なメディア」からも学ぶべきことがある」は参考になりますので、以下、抜粋して引用します。

    これは政府の規制で解決できる話ではなく、ソーシャルメディア各社は伝統的なメディアから学び、活動の拠り所となる規範や倫理規定が何かを考え、自らに課さなければならない。…ソーシャルメディア業界は、広告収入の追求とその他の社会的価値のバランスをどうとるかの哲学をまだ見出せていない。とりわけフェイスブック(現社名はメタ・プラットフォームズ)は、政教分離のような方針をまるで持ち合わせていないように見える。…調査からは、シェアされやすいと判断した投稿を多く表示する機能を含むアルゴリズムは、意図せず「誤情報、有害な情報、暴力的なコンテンツ」を拡散していることが判明した。…ウォール・ストリート・ジャーナルをはじめ各所で繰り返し報じられている通り、安全性やコンテンツモデレーション、規制にまつわる意思決定などの肝心な局面において、こうしたチームの意見より会社の成長とロビー活動を担う経営陣の意向が優先されている。フェイスブックにはジャーナリズムの「ファイアウォール」に相当する独自のルールが必要と言えるだろう。…『ワシントン・ポスト』を買収したジェフ・ベゾスが、自身が創業したアマゾンについて同紙がどう書くかに口を出そうと何の制約もない。だが、実際にそうするには、ワシントン・ポストの社員の大量辞職とブランド価値の毀損というリスクが伴う。真っ当な記者なら、スポンサーの言いなりになっているなどと読者に思われたくないはずだ(13年の買収以来、ベゾスは同紙に干渉しないよう慎重に行動していると広く評価されている)。ファイアウォールは一例にすぎない。真っ当な報道機関のジャーナリストは、20世紀に発展した広範な規範や倫理規定に則って活動している。公正であること、正確であること、政治権力を問いただす「監視役」であることだ。これらが自分たちを民主主義的な生活に不可欠とみなすジャーナリズムの文化をかたちづくっている。…ユーザーのプライバシー保護やアルゴリズムの透明性に関する規制なら、多少は効果的かもしれない。独占禁止法を通じて競争を促せば、プラットフォーム各社はいまよりも市場からの圧力を受けるようになるだろう。とはいえ、主要なソーシャルネットワークが増えても、既存の巨大プラットフォームが苦慮しているコンテンツを巡るジレンマにそれぞれが対処しなければならない点は変わらない。自主的に設けたある程度の職業上のガイドラインがなければ、オンラインで健全な言論は起きないだろう。…すでにソーシャルメディア各社は、純粋なエンゲージメント以外の価値基準の追求に動き出している。コンテンツに関するポリシーとコミュニティ規約の変更がその典型例だ。特定の種類の投稿については、たとえエンゲージメントが高まるとしても、削除することをあらかじめ明記するなどしている。…FacebookもYouTubeも、攻撃的で有害なコンテンツをユーザーに見せることは、短期的にはエンゲージメントが高まっても長い目で見ればビジネスにとって好ましくないと、ことあるごとに言っている。ただ、これまでの取り組みに欠けていたのは、売上の追求と社会的な責任をとることの間で揺れた場合、それを解決するために一貫した原則に準拠することだ。つまり、どのような状況では、単純に正しいからという理由でビジネス上は望ましくないことをするのか、ということなのだ。原則は明確であり、規範とならなければならない。ユーザーエンゲージメントとユーザーの注目を得るために最適化した各プラットフォームは、設計に関して決して中立とは言えない意思決定をしていることが明らかである。ソーシャルメディア企業が「自分たちは受動的にユーザーの言論を仲介する存在にすぎない」と言っていられる時代は、終わろうとしている。問題はその次に何が来るのかだろう

    この規範や倫理に関連して、FBが、新興国や途上国での有害な投稿に十分な対応が出来ていなかったことがFBの内部文書からわかったと報じられています(2021年2月20日付朝日新聞)。

    ウクライナ政府に反対する主張を繰り返す複数のアカウントやウェブサイトが、ロシアが関連した架空のものだったことが、メタの調査で明らかになったと報じられています。ロシア側による反ウクライナ工作活動とみられ、メタは、40の偽アカウントやウェブページなどを特定したと発表、米NBCニュースの記者は、実在しないとされる2人の人物のアカウントを紹介しています。キエフ出身のブロガーでウクライナ政府に反対するウラジミール・ボンダレンコ氏、ボンダレンコ氏の同僚でハリコフ出身のイリーナ・ケリモワ氏という男女2人が、いずれも実在しないアカウントだったと、メタを取材した記者が明らかにしています。プロフィル写真はAIで作成された可能性があるといい、この工作について、メタは2020年4月に特定・削除した別の工作と関係し、ロシアの個人、ウクライナのドンバス地方、クリミアの二つのメディア(ニュースフロント、サウスフロント)とつながっていたと発表しています。この二つのメディアはロシア情報機関が関与して偽情報を広めているとし、米国から制裁を受けています。関連して、AIを使って映像や音声を本物のように加工した「ディープフェイク」の規制に欧米が本腰を入れ始めています。裁判の証拠操作など身近な場面での脅威が現実味を帯び、国家の安全保障リスクになるとの懸念も強まっており、技術革新と規制のバランスをどう取るか、日本でも議論を求める声が上がり始めています。報道によれば、米政府はディープフェイクを安全保障上の脅威と捉えており、専門家は「米軍人をディープフェイクの偽映像でだます事件が起きており、機密情報の漏洩やスパイ化につながると危惧されている」と指摘しています。米国は2020年12月、偽情報の識別や外国の悪用例について軍と国の研究機関に分析を求める連邦法を整備、2021年には軍人とその家族を標的とする脅威に関する調査の実施も条文に加えています。偽情報を巡る国家間の応酬は激しく、緊迫するウクライナ情勢を巡り米国務省は、ロシアが再侵攻の口実とするため動画を捏造しているとの情報を入手したと公表しています。別の専門家は「日本はもっと戦略的に動く必要がある。議論に時間のかかるテーマだけにAIの技術発展と規制をどう両立していくのか、踏み込んだ検討を始めるべきだ」と指摘しており、筆者としても正にそのとおりと感じています。

    (6)誹謗中傷対策を巡る動向

    ロシア軍によるウクライナ侵攻が続く中、ロシア関連の商品を扱う店の看板が壊されたり、ロシア料理店の口コミに無関係な写真が貼り付けられたりするなど、日本国内で嫌がらせが疑われる行為が起きています。投稿は1日ごろから始まったとみられ、ロシア料理店を中心に20軒以上で嫌がらせの「口コミ」があり、口コミには、「おいしいピロシキが食べられるかと思っていたが、意味不明な食べ物を薦められた」といった内容で、無関係の写真を合わせて投稿したりしていたほか、全国のロシア料理店ばかりを狙って、一つ星の低評価を付けて回るアカウントも複数確認されています。識者は「国家がやっていることと、その国の国籍を持つ人は明確に区別すべきだ」と指摘していますが、正にその通りだと思います。2022年3月3日付時事通信で、外国人の人権問題に詳しい師岡康子弁護士は「特定の属性を持つ人々への差別的動機に基づく犯罪であり、放置すればさらなる暴力の連鎖につながりかねない。すぐ止めるよう政府が呼び掛けるべきだ」と述べており、こちらも全面的に同意しますが、そもそもその辺りの分別がついていないが実際の行為に及んでいることが考えられ、こういった対象にピンポイントで届けるために、どのような方法でどのような内容で呼びかけを行うべきなのか、あらためて検討する必要があります。なお、本件については、グーグルが投稿削除といった対応をとっています。グーグルでは、実際の体験や情報に基づかない投稿はポリシー違反としており、同社広報は「ポリシーに、投稿内容は実際の体験や情報に基づくものでなければならないと明記している。このような投稿内容があることを認識した場合、直ちに調査を開始し、ポリシーに違反するコンテンツを削除するなどの処置を講じている」といい、すでに多くの投稿は削除されていますが、同社は件数を明らかにしていません。

    ウクライナ情勢において、SNSなどのデジタルプラットフォーマーは、誹謗中傷や偽情報、ディープフェイクなどとの「情報戦」を戦っています。米アルファベット傘下のグーグルが運営する動画投稿サービス「ユーチューブ」は、ウクライナ情勢を理由に、ロシアの国営メディアRTとスプートニクに関連したチャンネルを欧州全域で排除していると発表しています。システムが完全に対応できるまでに時間がかかるが、24時間体制で状況を監視し迅速な対応を取っていると説明しています。その前日にはフェイスブック(FB)を運営する米メタが、EU域内で同社プラットフォームからRTとスプートニクにアクセスできないようにすると明らかにしています。さらにツイッターはロシア国営メディアのコンテンツを含むツイートに注意喚起のラベルを付けると発表しています。また、メタは、ウクライナの軍高官や著名人を標的に誤情報を流していた集団のアカウントの削除を明らかにしています。ベラルーシと関連があるとされるハッカー集団によるアカウントの乗っ取りも増えているとして、警戒を強めているといいます。報道によれば、削除したのは約40のアカウントで、ロシアなどからウクライナをターゲットにしており、それぞれのフォロワー数は4,000人以下、FBや写真投稿アプリ「インスタグラム」、「ユーチューブ」などで、偽のアカウントを作成していたというものです。さらに、プロフィル写真は、人工知能(AI)で生成したディープフェイクで、ニュース編集者や元航空エンジニアらをかたり、「ウクライナは失敗国家だ」といった主張を投稿していたとされます。メタは調査中としながらも、削除した集団はウクライナのクリミア半島を拠点とするメディア「ニュースフロント」「サウスフロント」などとのつながりがあるとみているといい、米政府は2媒体がロシアの情報機関によって運営されており、2020年の米大統領選への介入に関わったとして制裁対象に加えています。また、メタによるとハッカー集団「ゴーストライター」が、利用者のメールを通じてSNSアカウントに不正にアクセスし、誤情報を拡散しているといいます。一方、デジタルプラットフォーマーだけでなくハッカーも絡んでいる点が今回のウクライナ情勢を巡る情報戦の特徴であり、メタは、ハッカーグループがSNSのFBを利用し、ウクライナの軍高官や政治家、ジャーナリストを含む著名人を標的にしていたと発表しています。ハッカーはウクライナ軍の弱体化を示そうとするアカウントからユーチューブに動画を投稿しようとしており、この中には、降伏の白旗を掲げるウクライナ兵を映したとする動画もあったといいます。また、ロシアのウクライナ侵攻を受け、台湾が中国の動向に神経をとがらせています。台湾世論の動揺を誘う中国の情報戦や台湾の離島付近での軍事圧力とみられる動きが続いており、対中強硬派のポンペオ前米国務長官の訪台もあり、米中両政府への刺激を避けようと、危機管理に知恵を絞っているということです。報道によれば、台湾の民間団体「台湾ファクトチェックセンター」はロシアの侵攻前の1月下旬にも、2003年のイラク戦争時で市街地が炎上する写真を添えて「ロシアの攻撃が始まった」とうたう偽情報を確認、この投稿には「米国が参戦するかは、台湾海峡で戦争が起きるかにも影響する」とも記され、台湾世論を動揺させようとする意図が見て取れる内容となっています。

    偽情報対策に関連して、ツイッターは、利用者によるファクトチェック機能「バードウォッチ」の試験版を米国で拡大すると発表しています。米国外での提供の予定はなく、どれだけ利用者を広げられるかが課題となっています。

    インターネット上の誹謗中傷はどんな人がやっているのか、なぜ、SNS上で誹謗中傷は起きてしまうのか、不適切な投稿を減らす手立てはあるのか、といった課題について、2022年2月14日付朝日新聞の記事「ネットの中傷、原則実名なら解決する?「人類総メディア時代」の功罪」において、山口真一氏がコメントしています。大変示唆に富む内容でした。

    もう一つ、2022年2月13日付朝日新聞の記事「ネットの中傷対策、法規制は表現の自由を害するか 憲法学者の見方は」も参考になりました。

    さらに、2022年2月28日付産経新聞の記事「ネットの誹謗中傷 はびこる「凶器」、厳罰化やむなし 東京社会部長・酒井孝太郎」もまた、示唆に富む内容です。とりわけ、「公序良俗に反する節度なき表現まで許容されるわけではない。実態を鑑みると厳罰化はやむを得ないだろう」、「匿名性による利用のしやすさばかりが強調され、言葉には責任が伴うという当たり前のことが忘れられていないか」と言い切っている点は、大変共感を覚えます。以下、抜粋して引用します。

    社会問題化するインターネット上の誹謗中傷対策として、侮辱罪の厳罰化を盛り込んだ刑法改正案が今国会に提出される見通しだ。可決されれば一定の抑止効果が期待されるが、なお抜本的解決には程遠い。猥雑、低俗な言葉が飛び交うネット空間に自浄作用は期待できるだろうか。侮辱罪の現行の法定刑は「拘留(30日未満)か科料(1万円未満)」だが、改正案では「1年以下の懲役・禁錮または30万円以下の罰金」を追加。公訴時効も1年から3年に延ばすとしている。…これまで木村さんや母親の響子さんを中傷したとして、複数の人物が侮辱容疑で書類送検されているが、処分はわずかな科料の納付止まり。それが報道されると「罰則が軽すぎる」との声が渦巻き、厳罰化の機運が高まった。刑法の侮辱罪は、具体的内容を示していなくても公然と人をおとしめた場合に成立する。「バカ」「クズ」といった抽象的な文言でも処罰の対象になり得る。ネットは不特定多数が閲覧する公共空間であり、個人を特定した上での不用意な書き込みは加害者になるリスクをはらむ。一方、侮辱罪と混同されやすいのが名誉毀損罪。こちらは具体的内容を示した場合に適用される。例えば「Aには前科がある」「Bは部下と不倫関係にある」といった文言で、内容の真偽は問われない。法定刑は「3年以下の懲役・禁錮または50万円以下の罰金」、時効は3年だが、公益性などが認定されれば処罰の対象外となる。捜査関係者によると、名誉毀損罪の方がハードルが高いため、確実な立件のため侮辱罪が適用されるケースもあるという。ただ、いずれも親告罪であり告訴がなければ立件に至らない。侮辱罪が厳罰化されたとしても、被害者が留飲を下げるには長くて遠い道のりが待っている。…こうした数字は氷山の一角にすぎない。SNSや大手掲示板、ニュースサイトのコメント欄などでは、今この瞬間も特定の人物や著名人に向けて悪罵が投げつけられている。厳密に侮辱罪や名誉毀損罪に該当するかどうかはさておき、不快で品のない文言を避けて通る方が難しい。木村さんの悲劇を経ても、さほど現実に変化はないように感じる。今回の厳罰化の流れを受け、一部から「表現の自由が萎縮するのではないか」との危惧も出ている。確かにタブーのない闊達な議論が民主主義を担保し、健全な社会を形作るという理念は普遍的だ。しかし、公序良俗に反する節度なき表現まで許容されるわけではない。実態を鑑みると厳罰化はやむを得ないだろう。言葉はときに凶器となり、人を死にまで追い込む。その恐ろしさが、ネット空間ではあまりに軽んじられてきた。匿名性による利用のしやすさばかりが強調され、言葉には責任が伴うという当たり前のことが忘れられていないか。

    誹謗中傷を巡る議論の高まり、規制強化の動きの大きなうねりは木村花さんの事件がきっかけだといえます。母親の響子さんがフジテレビと制作会社に損害賠償を求めて提訴する方針を明らかにしましたが、その訴訟の争点には、フリーランスに対する安全配慮義務にまで及んでおり、大変注目されるものとなりそうです。その辺りの経緯や争点について、2022年2月22日付毎日新聞の記事「芸能人の働き方を問う 花さんの炎上「守る義務ある」 母、フジなど提訴へ」に詳しいため、以下、抜粋して引用します。

    フジテレビの人気リアリティー番組「テラスハウス」に出演し、SNSで誹謗中傷されて亡くなったプロレスラーの木村花さん(当時22歳)の母響子さんが2021年末、フジテレビと制作会社に損害賠償を求めて提訴する方針を明らかにした。響子さん側は「リアリティーショーと言いながら、制作側から花さんへのあおりや演出、炎上商法があったのではないか」と主張。弁護団は、制作側の安全配慮義務や出演契約の拘束力を争点にする構えだ。…20年3月から5月にかけて、番組制作側は、花さんが中傷の悩みを抱え、リストカットに及んでいたことを把握していた。それにもかかわらず、中傷の標的となった放送の「未公開動画」を配信。さらに地上波でも放送した。弁護団は一連の経緯から、出演者に対する制作側の安全配慮義務を争点にする考えだ。安全配慮義務とは、最高裁の判例で確立したり、労働契約法が定めたりしている概念だ。労働契約法は「使用者は労働契約に伴い、労働者が生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と規定する。違反すれば使用者側に民事上の損害賠償が課され、ハラスメントに関する訴訟などでも労働者側が請求する根拠になる。…タレントなどの芸能従事者は、テレビ局などと業務請負や委託契約を結ぶ「個人事業主」(フリーランス)である場合が多い。この慣習が、フリーランスを労働法で定めた「労働者」と扱われにくくし、安全配慮義務を巡る責任の所在を曖昧にしてきた。…こうした経緯を踏まえ、弁護団は改めて同意書兼誓約書の拘束力を論点に挙げ、出演契約のあり方も争点にする考えだ。…「いろんな大人たちに利用された結果、花は追い詰められてしまったと思えてなりません。力が強い立場の人は、力が弱い立場の人たちを守れるように、日々その責任と向き合い、価値観をアップデートして、若い人たちの夢を搾取しないでほしい」

    その他、誹謗中傷、名誉毀損等を巡る最近の動向から、いくつか紹介します。

    • 匿名のツイッターアカウント「Dappi」による投稿で名誉を傷つけられたとして、立憲民主党の小西洋之、杉尾秀哉両参院議員が、東京都内のウェブ関連会社に計880万円の損害賠償などを求めた訴訟の第2回口頭弁論が東京地裁であり、ウェブ関連会社側は「従業員が会社の回線を使い、業務とは無関係に投稿した。会社として一切関与していない」などと改めて争う姿勢を示しています。一方、原告側は、投稿が頻繁にされていることから、会社側の関与を立証していく方針を示しています。報道によれば、Dappiは2020年10月、学校法人「森友学園」への国有地売却を巡る財務省の決裁文書改ざんを苦に自殺した近畿財務局職員について「杉尾秀哉や小西洋之が1時間つるしあげた翌日に自殺」などと投稿、両議員が職員に説明を求めた事実はなく、国会議員としての資質に重大な問題があるとの印象を与えたというものです。
    • 北海道旭川市で2021年3月、中学2年の広瀬爽彩さん(当時14歳)が凍死体で見つかり、いじめが疑われている問題を巡り、ツイッターの投稿で加害者と名指しされて名誉を傷つけられたとして、同市の男子高校生(17)が投稿者の情報開示を求めた訴訟の判決が東京地裁であり、裁判官は米ツイッター社に対して投稿者のメールアドレスや電話番号の開示を命じています。報道によれば、男子高校生は2021年4~5月、ツイッター上でいじめの加害者と名指しされ、実名とともに「地獄に落ちな」「惨めな人生をおくってほしい。逃げ切るなんて許さない」などと名誉を毀損する58件の投稿をされたといい、判決では、「女子生徒の遺族の認識などから、男子高校生がいじめ行為に関与したとは認められない」と指摘、「原告の名誉権の侵害は明らかで、発信者情報の開示を受ける正当な理由がある」としています。男子生徒側の弁護士によると、今後、投稿者に損害賠償を請求する方針だということです。
    • プロeスポーツチーム「CYCLOPS athlete gaming」は、動画配信内での発言が問題視されているプロゲーマー「たぬかな」氏との契約を解除したと発表、「ファン、スポンサー各社、関係各所の皆さまに多大なご迷惑、ご心配をおかけしました」と謝罪しています。報道によれば、たぬかな氏はライブ配信プラットフォーム「Mildom」でファン向けに行った配信の中で「(身長が)170ないと、正直人権無いんで」と発言したことが、一部で問題視されていたものです。CYCLOPS athlete gamingは「(たぬかな氏の発言は)プロ選手としての立場に対する自覚と責任に欠けた発言。処分を検討する」と発表、翌日に「配信中における不適切な発言と姿勢は決して容認できるものではない」との立場を表明しています。本人の発言は重大な問題であるのは間違いありませんが、チーム側の契約解除に至るまでのスピード感は大変素晴らしいものと評価したいと思います。なお、たぬかな氏のスポンサーを務めるRed Bullは処分について発表していませんが、所属アスリートの一覧からたぬかな氏を削除していることが確認されています。
    • インターネットの情報配信サイト「netgeek(ネットギーク)」の掲載記事で名誉を傷つけられたなどとして、東京都内の男性ら5人がサイトの運営会社側に計1,650万円の損害賠償を求めた訴訟で、東京地裁は、原告5人のうち4人に対する名誉毀損の成立を認め、運営会社側に計約120万円の支払いを命じる判決を言い渡しています。報道によれば、原告側は2015年7月~18年10月、SNSへの投稿などがサイト上に無断で転載された上、根拠のない論評を加えた記事を掲載されて、名誉が傷つけられたなどと主張していたもので、判決は記事の作成や掲載が運営会社の指揮監督下で行われたと指摘、原告を「自己中心的だ」、「正社員になれないのは偏屈な人格に原因がある」、「モンスタークレーマー」、「口八丁のインチキコンサルタント」と表現するなどした複数の記述が、原告4人の社会的評価を低下させたと認定しています。一方で判決は、ネットギークについて、ネットで原告が「炎上目的だ」と書いた記事で名誉を傷つけられたとする運営側の訴えも一部認め、原告側に計33万円の賠償を命じています。なお、原告は、スーパーのレジ係として働いていたとき、面識のない客から罵詈雑言を浴びせられたり会社にクレームを入れられたりして、仕事を辞めることになったといい、「サイトに反論したかったが、巨大な拡散力を持つ相手になすすべがなかった」と話しているということです。

    (7)その他のトピックス

    ①中央銀行デジタル通貨(CBDC)/暗号資産(暗号資産)を巡る動向

    ウクライナ情勢をふまえ、EUは財務相会合で、ロシア側に経済・金融面の制裁を回避する手段として暗号資産(暗号資産)を使われないように対応策を検討することで一致しています。ロシアの一部銀行の国際的な資金決済網からの切り離しや、中央銀行資産の凍結といった制裁の実効性を保つ狙いがあります。EU議長国のフランスのルメール財務相は「暗号通貨や暗号資産が制裁の抜け道として使われないよう対策をとる」と語ったほか、G7議長国のドイツのリントナー財務相も、ほかのG7各国と議論していると明らかにしています。足元ではビットコインを中心とした暗号資産の価格が急騰しており、ロシアのルーブルは海外との取引が制限され、その代替になっているとみられています。そもそも戦乱など政情不安が覆う国やインフレ率上昇に歯止めがかからない国で、暗号資産が広く浸透している現実があります。自国の通貨や統治、金融システムへの信認が欠如するなかで、人々は暗号資産に未来への希望を見いだそうとしていると言われています。実は、ロシアの侵攻前からウクライナでは暗号資産が普及していました。暗号資産決済のトリプルAの推計によると、暗号資産の保有者はウクライナ人口の約13%に及び、世界で最も高いといいます。暗号資産取引を承認する対価としてビットコインなどの暗号資産を受け取るマイニング(採掘)が世界第2位と盛んなためで、原子力発電が電力構成の半分超を占めるという事情(この事実もまた、ロシアの原発への攻撃という暴挙と制圧によって、現在、ウクライナ(さらには欧州)の治安を大きく揺るがす状況を招いています)で電力価格が安く、マイニングに欠かせない大量の電力を安価に調達できたという背景があります。なお、この点については、2022年3月2日付ロイターの記事「ビットコイン、ウクライナ危機で取引急増 制裁回避にも需要」に詳しいため、以下、抜粋して引用します。

    匿名性と分散性を備えた暗号資産で資金を保管・移動しようと、両国の人々がビットコインに殺到しており、デジタル資産投資会社Radklのマネジングディレクター、ビア・オキャロル氏は、ウクライナでの戦闘激化と西側諸国の対ロシア制裁で、ビットコインが「価値の移転」に使われる傾向が表面化したと述べた。オキャロル氏は「基本的に、政府の管理下になく、緊急な法的措置の影響を受けない通貨を持つのは実に興味深いことだ」と指摘。「ロシアの市民は、価値を動かすならこれだと思ったかもしれない。一方のウクライナでは価値を持ち込む手段になった」と言う。ロシアのウクライナ侵攻から5日間でビットコイン相場は13%上昇した。一方、S&P総合500種株価指数の上昇率は約2%。伝統的な安全資産である金は、侵攻当日に3.5%上昇したが、その後はほぼ横ばいだ。…暗号資産は分散型プラットフォーム上のウォレットに保管されることが多く、匿名性が高いだけでなく、どこからでもアクセスできる。スイスクオート銀行のシニアアナリスト、イペック・オスカルデスカヤ氏は、「ビットコインはロシアの新興財閥オリガルヒにとって制裁を回避するための安全な逃避先になるだろう。ビットコインのネットワークと暗号資産取引はいずれも監視の対象から外れているためだ」と指摘。「暗号資産は、流動性が不要な保有資産の大部分にとって強力な価値貯蔵場所として機能する可能性がある」と語った。ただ、暗号資産を保有することで制裁を回避するルートが手に入るという事実は、暗号資産推進派にとっては諸刃の剣になりかねない。「北大西洋条約機構(NATO)加盟国が暗号資産の利用を規制する可能性があるが、裏を返せば、地政学的な混乱が生じている地域でより広く普及することもあり得る」と述べた。…このようにビットコインは地政学的リスクの高まっている地域で選ばれる通貨として台頭しているかもしれない。ただ、ビットコインがより幅広く使われる「安全資産」、つまり「デジタルゴールド」の1つになれるかどうかについては見方が割れていると、市場関係者は注意を促している。暗号資産仲介会社セキュア・デジタル・マーケッツの共同創業者であるザッハ・フリードマン氏は、ビットコインはロシアのウクライナ侵攻後の値上がりで、「乱世における価値の貯蔵場所という物語性」が一段と強化されると見ている。

    また、世界最大規模の交換業者であるバイナンスでは暗号資産「テザー」のルーブル建て取引が2月28日に3,500万ドル(40億円)と過去最高となりました。米ドルを裏付けに発行されるテザーはビットコインとは違い、安定した値動きをする暗号資産で、報道によれば、同社は「ロシア国内の暗号資産取引への制裁強化を見据え、ロシア人がドル建て資産を増やそうとした可能性がある」と分析しています。弱含むルーブルを受け取る理由について、国内の暗号資産交換業者社長は「個人なら長期的な値上がり期待、交換業者ならデリバティブを使って下落リスクを回避できるようにしているのではないか」と指摘しています。日本でも、自主規制団体である日本暗号資産取引業協会(JVCEA)が、暗号資産交換業者が管理する暗号資産についてロシアとの送受金を停止するなどの規制導入の検討に入っています。蓮尾代表理事会長(コインチェック社長)は「具体的にどのような手段が可能か金融庁と検討しながら対応する」と語っており、米欧日は暗号資産による経済・金融制裁への抜け穴防止で、歩調をそろえる方向です。実は暗号資産は、ロシアにとって貴重な外貨獲得の手段ともなっています。土地が広く電力の安いロシアは暗号資産取引を承認する対価としてビットコインなどの暗号資産を受け取るマイニング(採掘)ビジネスが活発です(2021年8月時点で暗号資産のマイニング量は、実は米国、カザフスタン、ロシアが世界の上位となっています)。報道によれば、JVCEAが検討する規制案以外にも、「ロシアのマイニング業者の銀行取引停止や、政府関係者が保有する暗号資産交換業者経由の凍結なども選択肢になる」(大手暗号資産交換業者の社長)との指摘もあります。米司法省は2月中旬に、米連邦捜査局(FBI)が暗号資産の資産を差し押さえるためのチームを立ち上げたほか、英政府も制裁回避を監視するための新チームを立ち上げています。

    一方で、2022年3月4日付日本経済新聞は、「抜け穴封じの実効性を保つための課題は多い」として、「個人が暗号資産交換業者が管理しないウォレット同士で送金しあう場合は事実上規制をかけられない。そもそもブロックチェーン上で動くビットコインは管理者を置かない非中央集権思想で設計されており、個人間送金をすべて捕捉するのは技術上不可能だ。京都大学大学院の岩下直行教授は「ロシアや北朝鮮などの暗号資産のプロの使い手は早い時期からマネー・ローンダリングや反社会的行為の道具として使いこなしてきた。こういう使い方は一切規制できていないし、すべての人のパソコンの取引監視はどんな国家権力でも難しい」と指摘する。規制導入にあたって根拠法をどうするかという問題も曖昧だ。ロシアとの取引自体を禁じるなら外国為替及び外国貿易法(外為法)になるが、暗号資産交換業者を規制対象にするなら改正資金決済法の問題になる。本社所在地を決めず、世界の暗号資産規制の対象をくぐり抜ける無国籍業者の問題も壁となる。無国籍業者であるバイナンスは、「何百万人もの無実の利用者の口座を一方的に凍結することはしない」と一律の利用停止方針を否定した」と整理しています。この点、ウクライナのフョードロフ副首相は世界の交換所に「政治家にひも付いたアカウントだけでなく、ロシアの一般ユーザーの利用を妨害することが重要だ」とロシアからの利用禁止を要請したと明らかにしていますが、(心情的には理解できるものの)流石にそれは行き過ぎであり、要請に応じる交換所は多いのが現状です。そもそも暗号資産を特徴づける「無国籍性」「中央集権型を排除した分散型」「一部の暗号資産がいまだに持つ匿名性の高さ」が、ここにきて広範な規制の導入に大きな壁として立ちはだかっています。バイナンスが、政府高官など制裁対象となった口座の凍結に協力する一方「人々の暗号資産へのアクセスを禁止することは暗号資産の存在理由に反する」とまで主張していることがその典型的な考え方です。その点では、暗号資産業界をリードする米国は暗号資産の投資家保護を目的にした規制導入に向けて議会で議論を続けてきたところ、この3月にもバイデン大統領が暗号資産規制に関する大統領令を出す見込みであり、制裁の抜け穴防ぎを含めた実効性ある規制を導入できるか、大変注目されます。関連して、米民主党の複数議員が、欧米諸国が課した制裁を回避するためロシアが暗号資産を利用することがないよう財務省に対策を求めています。議員らは、従来の金融システムを回避できるデジタル資産が制裁回避として使用される可能性が高まっていることをふまえると、暗号資産業界で制裁順守を確実にすることが重要だと強調したほか、暗号資産のウォレットや違法なマーケットプレイスを利用して制裁対象となっている個人が資産を隠す恐れがあるとの懸念を示しています。さらに、財務省の外国資産管理室(OFAC)が制裁順守状況を効果的に監視するための指針を持っているか不明だと指摘し、この問題に関して3月23日まで回答するよう財務省に求めているものです。なお、これ以外で注意点を挙げるとすれば、政府などの公的機関が制裁の抜け道として利用しているとの見方は多い一方で、欧米の主要企業で暗号資産で決済できる企業は少なく、企業間決済の抜け道になっているケースは少ないとみられていますが、中長期的には反米の国々で暗号資産決済が広がることは十分考えられ、中央銀行デジタル通貨(CBDC)での決済圏拡大も急ぐのではないかとの指摘も説得力があります。

    次に、CBDCを巡る各国の動向について、最近の報道から紹介します。

    • 2022年2月21日付日本経済新聞で、元財務官の行天豊雄氏は。「中銀の役割が通貨の安定やインフレの抑制から、雇用・景気の維持に軸足が移ってきた。不景気にならないように金融緩和の時代が続いてきている。冷戦が終わり、それまでの東西分裂からグローバリゼーションの時代になった。ヒト・モノ・カネが自由に動く世界になり、同時にデジタル化で金融サービスが生まれた」、「CBDCが議論になる背景には、グローバル化とデジタル化で金融が世界的に過剰な状態になっていることがある。カネをどう動かしたら良いかが金融の非常に大きなテーマだ。できるだけ速く、安くカネを動かそうという欲求が世界的に強まっている」、「本来はCBDCが必要にならない状態が望ましいのだろう。ただ、今のままで良いのかという問題もある。一国である米国のドルが世界的な基軸通貨になっているのは根源的に矛盾している。米中対立が続き、中国の人民元がドルに代わって新しい基軸通貨になる時が来るかもしれない。だが、一国の通貨が基軸通貨になるという矛盾は解決されない」、「中銀がCBDCについて話し合い、単一化した仕組みをつくるなど美しい合意が望ましい。為替相場が無くなれ交換手数料も無くなる。米中対立が続くなか、今後10年間で、単一通貨論という理想へどのくらい歩めるかが焦点だ」と述べています。本来はCBDCが必要にならない状態が望ましいが、単一通貨の基軸体制は本質的な矛盾を抱えていることをふまえれば、CBDCによる単一化の仕組みの合意を模索する必要があるとの指摘は大変腹落ちしました。
    • 行天氏の指摘にもあるとおり、貨幣はさらなる利便性を求め変化を繰り返しており、現金の影が薄くなり、代わりにデジタル通貨が幅を利かしつつあります。世界ではブロックチェーン技術により金融当局の管理からの独立を目指す暗号資産、新サービスを生み出す基盤としてのスマホアプリを用いた電子マネー、中央銀行が発行するデジタル通貨(CBDC)の3つが主導権を争っている状況にありますが、中国では、まもなく主要国初のCBDCが正式始動する日が近づいています。新興・途上国の中には金融包摂を切望し、CBDCの発行を検討する国も多く、経済関係の密接な国に中国がデジタル人民元のノウハウを提供すれば、デジタル人民元を軸とする国際決済の新たな枠組みに発展していく可能性も否定できないところです。デジタル通貨に対する中国の試行は我々に様々な気づきを与えているといえます。その意味では、北京冬季五輪で中国がデジタル通貨「デジタル人民元」のアピールに力を入れていたことが筆者としては印象に残る一方、その行方は紆余曲折ありそうだなとも感じています。大会の公式な決済手段に位置付け、専用のスマートフォンアプリや外国人でもすぐ使えるカード型を投入、実用段階に入ったことを世界に誇示する狙いがあるものの、民間のスマホ決済が普及しており、利用拡大は容易ではないという事実も浮き彫りになっています。実際のところ、デジタル人民元の利用が広がっているとは言い難く、累計取引額は2021年末時点で875億元(約1兆6,000億円)に上るものの、これは2020年のモバイル決済サービス取引額の0.02%にすぎない水準だといいます。中国では、メッセージのやり取りができるウィーチャットや、資産運用も扱うアリペイが日常生活に欠かせない決済アプリとして定着しており、いずれも多機能で、決済だけのデジタル人民元のアプリを利用する理由を見いだしにくいのが実態です。また、どこで何を買ったか、当局に筒抜けになるとの懸念もつきまとっており、人民銀行は「少額決済は匿名」、「個人情報の収集は必要最小限」といった原則を掲げていますが、中国では原則と運用が異なることが多く、この点も大きな壁となっていると考えられます(実際、中国の五輪で外国人がデジタル人民元を使うことについては米英の当局者や議員らから、サイバーセキュリティやデータ保護の懸念が強く指摘されていました)。
    • G20の金融ルールを調整する金融安定理事会(FSB)は2月に公表した報告書で、暗号資産に起因するリスクが急拡大する恐れがあると警告し、規制当局に対し事前に対策を準備するよう求めています。報道によれば、ビットコインなどの暗号資産は金融システムのごく一部にとどまっているものの、データが不十分なため全体像を把握することが困難で、多くの投資家は自分が何を売買しているか十分に理解していないと指摘しています。また大手銀行やヘッジファンドなどの伝統的な金融機関が暗号資産の取引に関わり、暗号資産を参照するデリバティブを用いた複雑な投資戦略も行われているとし、このため金融安定に対するリスクが急速に高まる可能性があり、どのような政策対応を取るか、適切な時期にあらかじめ検討しておく必要があると訴えています。FSBはこれまで暗号資産について、ほとんど脅威でないとみていたが立場を転換した形となります。
    • 米連邦準備理事会(FRB)のブレイナード理事は、米国のCBDCが金融安定性を強化する可能性について言及、米金融政策フォーラム向けの講演で、「世界中の支払い手段としてのドルの重要な役割を考えると、米国がCBDCの研究と政策開発の最前線にいることが不可欠である」、「FRBを含む政策当局者が決済システムの将来を計画し、安定性を守りつつ新技術の潜在的利益を前進させるために可能な選択肢をすべて検討することが不可欠だ」と指摘、「米国版CBDCは、世界中のドルを使用する人々が、デジタル金融システムで取引や事業を行う際にドルの強さと安全性に引き続き頼ることができるようにするための1つの可能性のある方法かもしれない」、「米国のCBDCは、世界中の人々が米国の通貨の強さと安全性に引き続き頼ることができる一つの方法」と強調し、CBDCが基軸通貨ドルの地位を補強するとの認識を明らかにしています。一方で、暗号資産やデジタルマネーの新たな形態が、金融の安定性や安全かつ効率的な決済システム、最大雇用と物価安定の維持などのFRBの責務にどのように影響するかを検討することが重要だとも述べています。一方、リャン米財務次官(国内金融担当)は、上院銀行委員会で証言し、ドルなど法定通貨の裏付けがある暗号資産「ステーブルコイン」について、包括的な規制導入の必要があると訴えています。報道によれば、ステーブルコインの市場は時価総額で現在1,750億ドル(約20兆円)と、2020年初めの約50億ドルから急成長しており、パニック売りが起きれば金融市場の安定を損ねるリスクがあるほか、技術革新を促すためにも規制が必要と指摘しています。
    • インド政府は2月、デジタル通貨を発行すると発表しています。発行時期は2022年度と目前にせまっていますが、詳細はベールに包まれたままです。担い手であるインド準備銀行(中央銀行)からの情報発信も乏しいため、見切り発車に映りますが、重要政策を唐突に打ち出すのはインドにおいては珍しいことではありません。間違いなく、スピード優先でデジタル政策を打ち出してきたインドの力量が試される場面だといえます。このようなインド政府のデジタル政策のプロセスを「走りながらの改善」と表現、完全な制度・技術を確立させてから運営するのではなく、問題が起こるたびに法整備や機能追加を進める手法は、IT業界の「アジャイル開発」に通じる点があります。しかしながら、13億超の人口を抱えるインドの通貨そのものであるデジタルルピーがサイバー攻撃で抜き取られるといった事態が起きれば、影響の深度はこれまでのアジャイル戦略と比較にならない深刻さを有しており、突貫政策を支えてきたダス総裁らの慎重な言い回しには、デジタルルピーは「走りながら改善」というわけにはいかないとの本音が透けるとの指摘もあります。
    • 中米エルサルバドルのブケレ大統領が2021年に法定通貨に採用した暗号資産ビットコインをめぐり、米議員と対立しています。米共和党のビル・カシディ上院議員らは、エルサルバドルのサイバーセキュリティや経済的な安定性、民主的な統治に対して懸念があると指摘、ビットコイン採用のリスクを調査するように米国務省に求める法案を提出していますが、ブケレ氏はこの動きに対し、内政干渉だと反発しているものです。カシディ氏は声明で「(犯罪組織の)マネー・ローンダリングが容易になり、米国の利益を損なう」と批判しています。一方、ブケレ氏は、同国に投資する外国人に対して市民権を与える法案を国会に提出すると表明しています。本コラムでも紹介したとおり、ブケレ氏は戦略都市「ビットコインシティー」を建設する計画を明らかにしており、こうしたプロジェクトに外国からの投資を誘致する狙いがあるとみられています。ブケレ氏はほかにも新たな税優遇策の導入といった法改正をめざすとされています。エルサルバドル政府は2021年11月、開発が遅れる東部に戦略都市を建設する計画を表明、10億ドル(約1,150億円)分の暗号資産ビットコインと連動した10年債を発行し、調達した資金の半分を商業施設などの建設費に充てるとしており、外国の企業や個人に対し、新設する都市への進出を呼びかけています。

    その他、CBSCや暗号資産、ステーブルコイン等に関する最近の報道から、いくつか紹介します。

    • 暗号資産の貸し出しを手掛ける米ブロックファイの子会社は、個人投資家約60万人に提供した暗号資産融資サービスで規制違反が指摘されている問題で、米証券取引委員会(SEC)と32の州当局に計1億ドルを支払って和解することに合意したと報じられています。米規制当局は投資家保護や金融システムリスク回避の観点から、暗号資産業界に対する取り締まりを強化しており、SECのゲンスラー委員長は暗号資産関連企業にも既存の米証券法に従うよう迫る戦略を打ち出しています。報道によれば、子会社ブロックファイ・レンディングは州の規制当局に5,000万ドル、SECに5,000万ドルを支払うことなり、SECが暗号資産関連商品を提供する会社に科した罰金としては過去最大となります。
    • 日本でも急拡大する暗号資産の取引で、所得の申告漏れや無申告が相次いでいます。国税庁は5年前に取引の利益を「雑所得」として確定申告の対象とし、取り締まりを強化しましたが、SNS上では「暗号資産同士の交換は非課税」といった誤った情報も出回り、認識不足から巨額の追徴課税を求められるケースもあります。2021年分の確定申告が始まっており、国税庁は適切な納税の周知に力を入れています。国税庁は2019年に全国の国税局に暗号資産などを専門とするプロジェクトチームを設置するなど、悪質な税逃れへの取り締まりを強化、2020年の国税通則法改正で、国内の取引所から取引履歴に加え、顧客の氏名や住所の照会が可能となり、取引実態を追いやすくなりました。なお、日本暗号資産取引業協会によれば、国内の暗号資産の取引総額は2016年度は約3兆5,000億円であったところ、2020年度は33倍の約118兆円に達しており、国内の取引所の口座開設数は2020年度末で約430万件で、利用者の約8割は20~40歳代というこです。報道によれば、確定申告に不慣れな会社員からの相談が増加しており、税理士は「納税の時に価値が大幅に減っていて、現金が用意できず納税に困ることも少なくない。暗号資産取引の特徴を理解しておく必要がある」と指摘しています。
    • 無登録で暗号資産への投資を勧誘したとして、兵庫県警は、大阪市西区の無職の50代の佐藤容疑者を金融商品取引法違反(無登録営業)の疑いで逮捕しています。報道によれば、佐藤容疑者は外国為替証拠金取引(FX)での運用も含め約15億8,000万円を集金、「出資したが返金がない」といった相談があり、県警は実態解明を進めるとしています。逮捕容疑は国の登録を受けずに2018年1~2月、7人に自身が運用する暗号資産への投資を勧誘したというものです(本人は、「投資の説明をしただけで勧誘はしていない」と容疑を否認しているといいます)。佐藤容疑者は韓国のゲーム会社が開発した暗号資産「プレイコイン」への出資を募っていたとされ、兵庫県警は2017~21年、2~4倍の配当をうたって30都道府県の約1,000人から出資金を集めたとみているということです。なお、佐藤容疑者を相手取り、大阪府や兵庫県の男女6人が出資金の返還を求めた訴訟の判決が大阪地裁であり、原告の請求通り、佐藤容疑者に4,674,500円の返還を命じる判決を言い渡しています。報道によれば、6人は2017年12月~18年2月、佐藤容疑者から勧誘を受け、それぞれ暗号資産「プレイコイン」などに出資、裁判官は「(佐藤容疑者が)預託された金を暗号資産の発行元に支払ったと認めることができず、契約不履行にあたる」として出資金の返還を命じています。
    • 金融庁が、無登録で暗号資産交換業を行っているとして、業者名を公表し注意喚起しています。
    ▼金融庁 無登録で暗号資産交換業を行う者について(VANLANCLE)

    無登録で暗号資産交換業を行う者について、事務ガイドライン第三分冊:金融会社関係16.暗号資産交換業者関係Ⅲ-1-6(2)2に基づき、本日、警告を行いましたので、下記のとおり公表いたします。

    • 業者名等:VANLANCLE
    • 代表者: 不明
    • 所在地:不明
    • 内容等:インターネットを通じて、日本居住者を相手方として、暗号資産交換業を行っていたもの
    • 備考:インターネット上で暗号資産取引を行っている「VANLANCLE」を運営している。
      • ※上記は、インターネット上の情報に基づいて記載しており、「業者名等」「所在地」は、現時点のものでない可能性があります。
    ②IRカジノ/依存症を巡る動向

    カジノを含む統合型リゾート施設(IR)誘致を巡る動向が本格化しています。2022年4月の国への申請期限に向け、誘致を目指す3地域(大阪府・市、和歌山県、長崎県)は計画の策定を急いでいます。数千億~1兆円規模の投資をしてカジノや高級ホテルを開発し、国内外から1,000万人規模の観光客を呼び込むという壮大な計画ですが、IRは単なる遊戯施設としての意味合いだけではなく、コロナ禍で傷ついた観光業・地方経済の起爆剤としての期待、日本の観光産業の新たな目玉になる可能性を秘めているといえます。一方で、本コラムでたびたび指摘してきたとおり、カジノによる治安の悪化や依存症を懸念する声は根強く、2018年に成立したIR実施法はギャンブル依存症対策として日本人客の入場回数を7日間で3回などに制限していますが、不安を払拭するまでには至っておらず、大阪府・市や和歌山県では住民投票を求める声が上がっています。和歌山県と長崎県は住民感情や資金調達の面で不安が大きく、大阪以外の2地域は国への申請も難航するのではないかとの見方もある中、現状のスケジュールでいけば、今年夏ごろの選定に向けて、国への申請締め切り(2022年4月28日)まで2カ月を切るなか、計画案の詰めだけでなく、住民への丁寧な説明も求められています。

    大阪府と大阪市が、事業者の「大阪IR株式会社」と締結した基本協定の全容が判明し、国からIR事業の認定を受けてから30日後に、事業者側が新型コロナウイルスの終息を見込めず、事業実施が困難と判断した場合には協定を解除できると明記するなど、計画を白紙にできる条件が列挙されている点が話題となっています。新型コロナウイルスの変異株が流行し、感染終息の見通しが現時点で不透明な上、予定地の人工島・夢洲には軟弱地盤への懸念(巨額の公金支出に対する懸念)も浮上しており、報道によれば、自民党市議は「(認定時期までに)新型コロナが終息する保証はない。事業者から言われるがままの協定になっていないか」と問題視しているといいます。一方で、判断時期は、大阪府と大阪市、事業者との合意で延長できるとも付記されています。また、土壌対策では、地盤沈下や液状化、土壌汚染などを例示し「事業の実現、運営、投資リターンに著しい悪影響を与える事象」が生じた場合や、生じる恐れがある場合に市と事業者が協力して「適切な措置」を講じることが盛り込まれており、事業者側が不十分とみなせば解除できることとしています。また、大阪府と大阪市はIR整備法に基づき、住民から意見を聞く4回の公聴会を終えていますが、新型コロナ感染拡大を理由に住民説明会は予定していた11回のうち4回が中止され、大阪弁護士会は会長声明で、「適切な情報開示を通じた住民の合意形成を軽視している」などと指摘し、整備計画の撤回を求めています。さらに、九つの市民団体が共同で集めた71,000筆を超えるIR反対署名を府と市に提出したことに加え、大阪市の市民団体が、IRの賛否を問う住民投票条例の制定を府に求める署名活動を3月25日から始めると発表しています。報道によれば、団体は「カジノの是非は府民が決める住民投票をもとめる会」で、弁護士や会社経営者、大学名誉教授ら6人が共同代表を務めており、団体の事務局長は記者会見で、2021年12月に公表された予定地・夢洲の土壌対策費約790億円の追加負担を挙げ、「府民が事実を知らないまま誘致が進んでいた」と問題提起し、府民の判断が必要だと主張しています。なお、地方自治法の規定で、条例制定を求める直接請求を行うには、選挙人名簿登録者(府内は約733万人)の50分の1以上となる約15万人の署名を5月25日までに集める必要がありますが、団体は20万人以上を目標としているといいます。

    一方、和歌山県と長崎県の資金集めが遅れています。誘致の賛否が分かれる国内初のIR事業に参画することに、慎重な企業が多いことが要因だと言われています。さらに、コロナ禍の影響で先行きが不透明になり、海外のカジノ事業者が参画を見送った経緯もあり、IR誘致では国内大手銀行からの融資がカギを握るとの見方もあるようです。報道で、IRに詳しい三井住友トラスト基礎研究所の大谷咲太氏は「日本で初めてのIRで、日本人がどれだけカジノに行くのか見通しづらい。事業性を厳しく審査する日本の大手行から資金が借りられない場合、採算の根拠をしっかりと説明することが求められるだろう」と述べていますが、正にそのとおりかと思います。

    ③犯罪統計資料

    令和4年1月の犯罪統計資料(警察庁)について紹介します。1カ月のみのデータのため、件数や比率等が大きくブレているところもありますが、前回の本コラム(暴排トピックス2022年2月号)で紹介した令和3年の確定値の傾向が概ね継続しつつも、微妙な変化の兆しも見られます。

    ▼警察庁 犯罪統計資料(令和4年1月)

    令和4年(2022年)1月の刑法犯総数について、認知件数は42,257件(前年同期41,415件、前年同期比+2.0%)、検挙件数は19,276件(19,666件、▲2.0%)、検挙率は45.6%(47.5%、▲1.9P)と、認知件数・検挙件数ともに2020年~2021年については減少傾向が継続していたところ、認知件数のみ前年同期をわずかながら上回っており、気になります。なお、刑法犯全体の7割を占める窃盗犯の認知件数は28,516件(28,160件、+1.3%)、検挙件数は11,925件(12,191件、▲2.2%)、検挙率は41.8%(43.3%、▲1.5P)、うち万引きの認知件数は6,874件(6,954ケ円、▲1.2%)、検挙件数は4,449件(4,526件、+4.9%)、検挙率は69.1%(65.1%、+4.0P)となりました。刑法犯全体の前年同期からの認知件数の増加が、窃盗犯の増加の影響もあることが分かります。コロナで在宅者が増え、窃盗犯が民家に侵入しづらくなり、外出しないので突発的な自転車盗も減った可能性が指摘されるなど窃盗犯全体の減少傾向が刑法犯の全体の傾向に大きな影響を与えた結果といえますが、今後の状況を注視する必要がありそうです。一方で、万引きについてはそれほど極端な減少傾向となっておらず、コロナ禍においても引き続き注意が必要な状況です。また、知能犯の認知件数は2,624件(2,508件、+4.6%)、検挙件数は1,351件(1,318件、+2.5%)、検挙率は51.5%(52.6%、▲1.1P)、うち詐欺の認知件数は2,349件(2,290件、+2.6%)、検挙件数は1,108件(1,132件、▲2.1%)、検挙率は47.2%(49.4%、▲2.2P)などとなっており、コロナ禍において詐欺が大きく増加したといえます。とりわけ前回の本コラム(暴排トピックス2022年2月号)でも紹介したとおり、コロナ禍で「対面型」「接触型」の犯罪がやりにくくなったことを受けて、「非対面型」の還付金詐欺が大きく増加傾向にあることが影響しているものと考えられます。刑法犯全体の認知件数が増加傾向を見せ、検挙件数が減少傾向の中、とりわけ万引きと知能犯、詐欺については増加傾向にあり、引き続き注意が必要な状況です。

    また、特別法犯総数については検挙件数は4,763件(4,766件、▲0.1%)、検挙人員は3,901人(3,916人、▲0.4%)と2021年同様、検挙件数・検挙人員ともに微減となった点が特徴的です。犯罪類型別では、入管法違反の検挙件数は239件(344件、▲30.5%)、検挙人員は183人(247人、▲25.9%)、軽犯罪法違反の検挙件数は513件(519件、▲1.2%)、検挙人員は501人(515人、▲2.7%)、迷惑防止条例違反の検挙件数は704件(519件、+35.6%)、検挙人員は569人(421人、+35.2%)、犯罪収益移転防止法違反の検挙件数は238件(146件、+63.0%)、検挙人員は200人(117人、+70.9%)、不正アクセス禁止法違反の検挙件数は21件(14件、+50.0%)、検挙人員は14人(6人、+133.3%)、不正競争防止法違反の検挙件数は4件(2件、+100.0%)、検挙人員は3人(1人、+200.0%)、銃刀法違反の検挙件数は340件(377件、▲9.8%)、検挙人員は304人(333人、▲8.7%)などとなっています。減少傾向にある犯罪類型が多い中、迷惑防止条例違反や不正アクセス禁止法違反、不正競争防止法違反が増加した点が気になります。また、薬物関係では、麻薬等取締法違反の検挙件数は938件(1,053件、▲10.9%)、検挙人員は526人(546人、▲3.7%)、大麻取締法違反の検挙件数は6,733件(5,865件、+14.8%)、検挙人員は5,339人(4,904人、+8.9%)、覚せい剤取締法違反の検挙件数は11,299件(11,825件、▲4.4%)、検挙人員は7,631人(8,245人、▲7.4%)などとなっており、大麻事犯の検挙件数が大きく増加傾向を示しており、引き続き深刻な状況となっている点が特筆されます。また、来日外国人による重要犯罪・重要窃盗犯国籍別検挙人員については、総数30人(56人、▲46.4%)、ベトナム12人(24人、▲50.0%)、中国4人(10人、▲60.0%)、スリランカ4人(0人)、ブラジル2人(4人、▲50.0%)などとなっています。

    一方、暴力団犯罪(刑法犯)罪種別検挙件数・人員対前年比較の刑法犯総数については、検挙件数総数は789件(856件、▲7.8%)、検挙人員総数は399人(434人、▲8.1%)と検挙件数・検挙人員ともに2021年に引き続き減少傾向にある点が特徴です。以前の本コラム(暴排トピックス2021年3月号)では、「基礎疾患を抱え高齢化が顕著に進行している暴力団員のコロナ禍の行動様式として、検挙されない(検挙されにくい)活動実態にあったといえます」と指摘しましたが、一時活動が活発化している可能性を示したものの再度減少に転じたのは、緊急事態宣言等のコロナ禍の状況や東京五輪期間中の自粛(一般的に国民的行事の際には、暴力団は活動を自粛する傾向にあります)などの要素もあることも考えられ、いずれにせよ緊急事態宣言解除やオミクロン株の大流行など状況の流動化とともに今後の動向に注意する必要がありそうです。犯罪類型別では、暴行の検挙件数は49件(58件、▲15.5%)、検挙人員は47人(57人、▲17.5%)、傷害の検挙件数は78件(94件、▲17.0%)、検挙人員は77人(117人、▲34.2%)、脅迫の検挙件数は28件(22件、+27.3%)、検挙人員は28人(21人、+33.3%)、恐喝の検挙件数は19件(21件、▲9.5%)、検挙人員は27人(25人、+8.0%)、窃盗の検挙件数は421件(464件、▲9.3%)、検挙人員は53人(69人、▲23.2%)、詐欺の検挙件数は106件(81件、+30.9%)、検挙人員は87人(61人、+42.6%)、賭博の検挙件数は3件(4件、▲25.0%)、検挙人員は21人(16人、+31.3%)などとなっています。とりわけ、全体の傾向と同様、詐欺については、大きく増加傾向を示しており、資金獲得活動の中でも重点的に行われていると推測される点は注意が必要です。さらに、暴力団犯罪(特別法犯)主要法令別検挙件数・人員対前年比較の特別法犯について、検挙件数総数は353件(400件、▲11.8%)、検挙人員総数は216人(268人、▲19.4%)とこちらも2020年~2021年同様、減少傾向が続いていることが分かります。犯罪類型別では、暴力団排除条例違反の検挙件数は3件(5件、▲40.0%)、検挙人員は4人(12人、▲66.7%)、銃刀法違反の検挙件数は4件(7件、▲42.9%)、検挙人員は1人(4人、▲75.0%)、麻薬等取締法違反の検挙件数は10件(9件、+11.1%)、検挙人員は2人(1人、+100.0%)、大麻取締法違反の検挙件数は68件(44件、+54.5%)、検挙人員は40人(22人、+81.8%)、覚せい剤取締法違反の検挙件数は205件(277人、▲26.0%)、検挙人員は124人(182人、▲31.9%)、麻薬等特例法違反の検挙件数は7件(15件、▲53.3%)、検挙人員は2人(12人、▲83.3%)などとなっており、全体の傾向同様、大麻事犯の検挙件数が大きく増加していること、一方で覚せい剤事犯の検挙件数・検挙人員がともに全体の傾向以上に大きく減少傾向を示していることなどが特徴的だといえます。

    (8)北朝鮮リスクを巡る動向

    北朝鮮が、2月から3月にかけて、2週続けて弾道ミサイルを発射しました。北朝鮮は1月には7回にわたりミサイルを連続発射しており、北京冬季五輪期間中は控えていたものの、閉幕後の2月27日に続き今回と異例のペースで発射を再開しています。3月4日にはパラリンピックが開幕、日本政府内には「パラ開催中は今まで発射がなかったので、今回もないだろう」との観測もあったところ、裏をかく形で弾道ミサイル発射に踏み切りました。これに対し、岸防衛相は「国際社会がロシアによるウクライナ侵略に対応している中、北京パラリンピック開催中の発射であり、断じて容認できるものではない」とあらためて非難しています。ロシアのウクライナ侵攻で地政学リスクが世界中で高まっており、このタイミングでの北朝鮮の行動を見るにつけ、日本の置かれている立場の厳しさをあらためて痛感させられます。この点については、2022年3月5日付産経新聞の記事「中国と北に加えロシアも 日本防衛「覚悟」の3正面に」が分かりやすく解説されていますので、以下、抜粋して引用します。

    北朝鮮が2週続けて弾道ミサイルを発射したことで、核・ミサイル開発を固い意志で進める隣国の脅威が改めて浮き彫りとなった。同時に、ロシアのウクライナ侵攻によって日本の北方でロシア軍の示威活動が増えることが見込まれる。また、沖縄県を含む南西諸島方面では中国軍が圧力を強めており、日本防衛は3正面での対処を余儀なくされている。…防衛省は北朝鮮のミサイルに対し、新たな迎撃ミサイルの開発・配備などで対処するが、警戒すべき対象は他にも2つある。一つはウクライナ侵攻で今後、緊張が高まる恐れがあるロシアだ。2日にはロシア国籍とみられるヘリコプター1機が日本領空を侵犯する事案が発生。ロシアが不法占拠する北方領土方面から飛来し、同じ方向へ戻っていったことから、ロシア軍による挑発行為の可能性がある。岸田文雄首相は2月27日、ロシアのプーチン大統領に対する制裁に踏み切る方針を発表した。国家元首に対する制裁は異例で、決定に関与した政府関係者は「日本は中国と北朝鮮の2正面でやってきたが、ロシアを加えた3正面を引き受ける覚悟をした上で決断した」と振り返る。日本にとって「主敵」ともいえる中国の動きも活発になっている。宮古島(沖縄県)と沖縄本島の間の宮古海峡では2月中旬以降、中国の艦艇や軍用機による通過が相次いでいる。防衛省幹部は「増えた感がある。ウクライナ侵攻に合わせている可能性もある」と指摘する。防衛省はこれまで南西諸島方面の部隊を強化してきたが、ロシアへの監視強化を求められつつある上、北朝鮮対応でも手が抜けない。防衛力の底上げが喫緊の課題になっている。

    直近では、もう1つ気になる情報があります。米国の北朝鮮研究サイト「38ノース」が、商業衛星写真を基に、北朝鮮の寧辺核施設の活動が活発化しているとの見方を示したと報じられています。報道によれば、核分裂性物質の生産が行われているほか、施設拡大に向けた基礎工事が進められており、近く実験用軽水炉(ELWR)の稼働が始まる可能性があるとしています。ただ、プルトニウム抽出のために使用済み核燃料を再処理する放射化学実験室の能力拡大に向けた追加の作業が必要になるといい、38ノースは「北朝鮮のプルトニウム生産能力が大幅に高まる可能性がある」と結論付けているとのことです。北朝鮮は1月に相次いでミサイルを発射、近い将来のスパイ衛星打ち上げの準備を進めているとみられているほか、2月の弾道ミサイル発射が示唆するとおり、核兵器や大陸間弾道ミサイル(ICBM)の実験を再開する可能性も示唆しており、3月9日の韓国大統領選でどの候補が当選しても難しい対応を迫られることになります(なお、日米韓が緊密に連携して北朝鮮に圧力をかける必要性が高まっているところ、日本政府内には韓国の政権交代までは事態打開は難しいとの見方もあります。一方、日韓関係は最悪の状態にあり、2018年12月に起きた韓国海軍による海上自衛隊哨戒機への火器管制レーダー照射問題が今もくすぶっており、信頼関係の修復が難しい状況です。)。

    その2月の弾道ミサイル発射について、北朝鮮の朝鮮中央通信は、国家宇宙開発局と国防科学院が偵察衛星開発に向けた工程計画に基づき「重要な意義を持つ実験」を行ったと報じています。通常よりも高い角度で打ち上げるロフテッド軌道で発射され、最高高度約600キロ、飛行距離約300キロと推定されていますが、報道によれば、偵察衛星に装着するカメラで地上を撮影し、高解像度の撮影やデータの転送システムなどを確認したといいます。北朝鮮はこれまでも「人工衛星の打ち上げ」と称し、長距離弾道ミサイルを発射してきており、2021年1月の朝鮮労働党大会では金正恩総書記が「近いうちに軍事偵察衛星を運用して偵察情報収集能力を確保する」と言及、2022年1月には核実験や大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射の再開も示唆しており、北朝鮮が今後、人工衛星打ち上げの名目でICBMなどの発射に踏み切る可能性が否定できません。そして、この弾道ミサイル発射は、ロシアのウクライナ侵攻に世界が目を向けるなか、米国への対決姿勢を誇示したものともいえます。ウクライナ侵攻や3月の韓国大統領選などで生まれた朝鮮半島における「指導力の空白」をにらみ、ミサイル開発を加速している実態が浮き彫りになっています。一方で北朝鮮は、中国やロシアへの関係強化を図っており、ウクライナ侵攻に関してロシアを擁護する立場を打ち出しています(そもそも、北朝鮮外務省は「ウクライナ事態」と表現し、ロシアが侵攻したことは具体的に明示していない点にも配慮がうかがえます)。侵攻の原因について、国際政治の研究者の発言を引用し「北大西洋条約機構(NATO)の拡大によりロシアの国家安全が脅かされたことにある」と主張、「自らの内政干渉は『正義』と美化し、他国の自衛的措置を『挑発』と決め付ける二重基準を取っている」、「世界の覇権と軍事的優位だけを追求し、一方的な制裁と圧力にしがみついてきた米国の強権と専横に根源がある」などとする論も展開しています(核兵器の放棄と引き換えに米英などが保証したはずのウクライナの安全は守られず、侵攻の現実を目の当たりにした北朝鮮は、核兵器開発に一層傾倒するとみられています。また、ウクライナ情勢に絡めてはいるものの、ミサイル発射に先立って自国の軍備増強を正当化する狙いもありそうです)。さらに中国にも対米共闘を繰り返し呼びかけており、金正恩総書記は北京冬季五輪の閉幕後、習近平国家主席に「全ての中国と世界の人民の大きな期待と関心の中、五輪が斬新で特色ある大体育祝典として盛大に開かれた」とたたえたほか、中朝が戦略的な協力や団結を強化して「米国と追従勢力の敵視政策や軍事的威嚇を粉砕し、社会主義を守り、前進させている」として、「戦略的協力」の強化を働きかけるメッセージを送り、習主席からは「地域の平和と安定、発展、繁栄のために積極的に寄与する用意がある」とのメッセージが返信されています。なお、2月の弾道ミサイル発射の前日には、朝鮮労働党の末端組織の幹部が集まった「初級党書記大会」が平壌で開幕、金正恩党総書記も出席し、「現実発展の求めに応じられない重大な偏向が起きている」、「根本原因は初級党書記たちが党の信任と期待を忘れ事業の本筋から外れた動きをしていることだ」、「批判的見地から総括し、活動の改善、強化に向けて発奮させるのが重要目的だ」と指導したといい、弾道ミサイル発射には内部結束を図る狙いもうかがえます。これらの各種報道を総合すれば、東アジアでは中朝ロと日米韓の陣営が対立する構図が鮮明となる中、今年4月には北朝鮮有事を想定する米韓合同軍事演習が予定され、北朝鮮では4月15日に故金日成主席の生誕110年を祝う大規模行事が準備されており、金正恩総書記自身も朝鮮労働党のトップに就任して10年の節目を迎えるといったタイミングで、軍事的な挑発が当面続くと予想されます。さらに、「北朝鮮は28日、前日の弾道ミサイル発射が偵察衛星の開発に向けた工程だったと主張した。衛星を搭載する長距離ロケットの打ち上げは、必要な発射技術がICBMとほぼ変わらないとされる。米本土を射程とするICBMと同様の脅威を示しつつ、決定的な対立局面には進まない「灰色戦略」で、追加制裁を当面回避しようとする狙いがうかがえる」、「北朝鮮はリビアの最高指導者だったカダフィ大佐が2003年に核放棄に同意し、最終的に殺害される末路をたどったことを教訓に、核兵器開発に邁進してきたとされる。核兵器も強固な同盟国も持たないウクライナがロシアの侵攻を許した事態を受け、北朝鮮が体制の生き残りを懸けて核・ミサイル開発にさらに拍車を掛ける可能性が高い」、「米中対立の深刻化、ロシアによるウクライナ侵攻を受けた米露関係の悪化を受け、安保理による対応は期待できない状況だ。北朝鮮が国際社会の対応を見極めつつ挑発のレベルを高めれば、「そのままICBM発射に進む可能性」(鄭氏)も現実味を帯びる」(ともに2022年2月28日付産経新聞)との見立てに同意します。

    関連して、松野官房長官は、北朝鮮が発射を繰り返す弾道ミサイルなどについて、日本側が引き上げを視野に調査を行ったケースがあると明らかにしています。「回収できれば、性能や製造技術に関する情報が得られる可能性がある」と述べ、過去に北朝鮮が発射した弾道ミサイルについて、海上自衛隊などが引き上げを視野に周辺海域を調査したケースがあったと説明しました。今後の調査は「落下地点の海域状況を踏まえ、技術的な観点などを総合的に勘案した上で判断する必要がある」としていますが、確かに実現すれば、大変重要な情報を収集できる可能性があり、今後の推移を見守りたいと思います。

    ウクライナ情勢とは別に、ロシアと北朝鮮が最近接触を重ね、北朝鮮側の新型コロナウイルス対策が原因で激減した貿易の拡大を模索するなど関係を強めている状況にあります。鉄道輸送の再開を検討している可能性も浮上しています。両国はそれぞれ、北朝鮮の核・ミサイル問題、ウクライナ問題で互いの立場を支持。中国を含めた3カ国で結束し、米国と同盟国陣営に対抗する態勢を固めていることは既に述べたとおりです。北朝鮮はコロナ対策で2020年1月末に国境を封鎖、その後は主に船便で貿易を続けてきましたが、今年1月に中国との間で貨物列車の運行を再開しています。ロシア極東・北極圏発展省によると、ロシア極東と北朝鮮の貿易総額は、2020年は1,470万ドル(約17億円)で、2021年は11月までの累計で4万ドルにとどまっていました。報道によれば、ロシア外務次官のモルグロフ氏は、北朝鮮は核実験などを4年以上行っておらず、中露が国連安全保障理事会で求める北朝鮮制裁緩和を実行する環境は整っていると主張し、米国はこれに応じず建設的提案もしないと批判しています。

    北朝鮮国営の朝鮮中央通信は、北京五輪の最中に連浦温室農場の着工式が行われ、金正恩総書記が出席してくわ入れを行ったと報じています。報道によれば、着工式で演説した金氏は、東部戦線の重要軍事基地などがあり、国の経済と科学技術の発展に大きな役割を担う咸鏡南道の人民のために、昨年末の党中央委員会総会でこの農場建設を今年の最も重要な建設対象としたと指摘、「数万トンの生産能力を持つ大規模な生産基地として建設し、国の全般的な農村発展をより強力に推進する」と述べ、党創建記念日である10月10日までの完成を命じています。その背景としては、「金正恩体制は発足以降、エリートらが住む平壌の開発を重視し、その成果を米欧諸国に見せつける形で、体制が優れていると誇示してきた。そうした手法を21年あたりから転換し、大半の住民を抱える全国各地の農村部への投資を増やすことで、国土全体を底上げする目標を掲げるようになった」(2022年2月25日付日本経済新聞)といったことが考えられます。そのため「目標を実現するため、平壌の富裕層から資金を吸い上げ、地方に広く薄く再分配する手法を採用した。北朝鮮では市場主義経済を一部で導入する過程で、全国の関係機関やセクション、担当者らの間に様々な利権が生じた。経済活性化のため党指導部もある程度、見逃してきた。だが、近年では様々な利権をことごとく召し上げているという」(同)、そのうえで「問題は、肝心の財源が自然に湧いてこないという点だ。平壌市民のわずかな富を全人口の約2500万人に分け与えたところで人民は満足しない。足りない分を補うには、やはり国連の経済制裁を解くほかなく、米朝協議の再開が不可欠だという結論になる。米国が本格的に動きだすまでは中国とロシアに頼る以外に選択肢がないのが北朝鮮の実情だ」(同)と指摘されています。北朝鮮の置かれている状況がまさにここに現れています。

    3.暴排条例等の状況

    (1)暴力団排除条例の改正動向(神奈川県)

    神奈川県警は、「平成23年4月に神奈川県暴力団排除条例が施行され、これまで県民の皆様のご理解とご協力により暴力団排除を推進してきたところですが、より一層暴力団排除を推進し、県民の皆様が安全で安心して暮らせる地域社会を実現するために、神奈川県警察では、暴力団排除条例の一部改正を検討しています」と改正案を公表しています。東京都などと同様、暴力団排除特別地域を設定し、特定営業者の禁止行為を定め、直罰規定を設けるものですが、神奈川県の改正が遅れていたことを危惧していたところ、今回の改正でさらに暴力団排除が進むことが期待されます。

    ▼神奈川県警 神奈川県暴力団排除条例の改正に関する意見募集について

    改正内容(案)は、「繁華街などの地域を「暴力団排除特別強化地域」と定め、同地域内においては、「特定営業者(風俗店、性風俗店、飲食店等)」と暴力団員との間で、用心棒料等の利益の授受等を禁止する措置を創設します」というもので、「暴力団排除特別強化地域」において以下の行為が禁止されます。

    • 特定営業者の禁止行為
      • 暴力団員から用心棒の役務の提供を受けること
      • 暴力団員に用心棒の役務の対償(いわゆる「用心棒料」)又は営業を営むことを容認する対償(いわゆる「みかじめ料」)として利益供与すること
    • 暴力団員の禁止行為
      • 用心棒の役務を提供すること
      • 用心棒の役務の対償又は営業を営むことを容認する対償として利益供与を受けること

    禁止行為に違反した特定営業者及び暴力団員には罰則(1年以下の懲役又は50万円以下の罰金)が適用される一方、特定営業者が自首(捜査機関が違反者として特定する前後を問わない)をした場合に、減軽又は免除することができる規定を盛り込みむとしています。暴力団が飲食店などから徴収する「みかじめ料」や「用心棒代」について、これまで罰則はありませんでしたが、改正後は指定地域の繁華街で暴力団と支払う店側の双方を即時に罰則の対象となります。2011年4月に施行された現行の県暴排条例には、みかじめ料などの支払いに関する暴力団や店側について、違反が発覚した場合は県公安委員会が「勧告」を行い、それでもやめなければ氏名や事業者名を「公表」する措置にとどまっていました。みかじめ料に関する事件では、暴力団組員に対してのみ暴力団対策法に基づく摘発ができますが、中止命令や再発防止命令を発出後、より悪質なケースに限られています。また、刑法の恐喝罪を適用する方法もありますが、逮捕には脅迫行為の裏付けが必要であり、いずれもハードルが高かったところ、改正案では、横浜や関内、川崎の各駅周辺など神奈川県内15地域を「暴力団排除特別強化地域」に指定、飲食店や風俗店が集中する繁華街を抽出して、この地域内での違反に対しては、暴力団と店側の双方に罰則を新設するほか、即座に適用できる「直罰規定」としているのが特徴となります(自ら名乗り出た店側への減免規定も盛り込まれました)。

    (2)暴力団排除条例に基づく指導事例(大阪府)

    暴力団に会合の場所を提供したとして、大阪府公安委員会は大阪府排条例に基づき、大阪府東大阪市でそば店を経営する30代男性に今後は場所を提供しないよう指導しています。また、あわせて六代目山口組の4次団体の50代組長にも、今後開かないよう3月1日付で指導しています。報道によれば、この4次団体は2021年1月~11月、「定例会」として毎月1回、そば店で会合を開いており、組員10~15人が集まり、料金を支払って1,500円程度の料理を食べ、話していたといい、組側は組員であることを店側に明かしてはいなかったものの、店主は「見た目などで暴力団と思った」と話しているということです。さらに、この店主は「暴力団と分かっていたが、コロナの影響で売り上げが減っていたので店に入れた」などと話しているといいます(コロナ禍でやむを得ず、暴力団関係者と知って、会合場所や飲食を提供する事例が後を絶たない現状があり、大変複雑な思いです)。大阪市は、組員がおおむね5人以上集まると逮捕される特定抗争指定暴力団の「警戒区域」に指定されており、警戒区域外で会合を開く流れとなっていますが、この組長も「大阪市内で集まったら逮捕されるので東大阪に集まった」と話しているということです。また、今回の勧告発出に際しては、組員が定期的に連続して集まっていたため、「会合」への場所提供と判断したといいます。

    ▼大阪府暴排条例

    本条例において、事業者については、第14条(利益の供与の禁止)第3項で「事業者は、前二項に定めるもののほか、その事業に関し、暴力団員等又は暴力団員等が指定した者に対し、暴力団の活動を助長し、又は暴力団の運営に資することとなる利益の供与をしてはならない」との規定が、暴力団員については、第16条(暴力団の威力の利用の禁止)第2項で「暴力団員等は、事業者から当該事業者が第十四条第三項の規定に違反することとなる利益の供与を受け、又は事業者に当該事業者が同項の規定に違反することとなる当該暴力団員等が指定した者に対する利益の供与をさせてはならない」との規定があり、それぞれ抵触したものと考えられます。その結果、第23条(勧告等)第4項の「公安委員会は、第十四条第三項又は第十六条第二項の規定の違反があった場合において、当該違反が暴力団の排除に支障を及ぼし、又は及ぼすおそれがあると認めるときは、公安委員会規則で定めるところにより、当該違反をした者に対し、必要な指導をすることができる」との規定に基づき、それぞれ勧告が出されたものといえます。なお、指導に応じない場合については、同第5項において、「公安委員会は、前項の指導を受けた者が正当な理由がなく当該指導に従わなかったときは、公安委員会規則で定めるところにより、必要な勧告をすることができる」とされています。

    (3)暴力団排除条例に基づく勧告事例(静岡県)

    暴力団の活動を助長することを知りながら六代目山口組系の幹部らを宿泊させたとして、静岡県公安委員会は暴力団幹部と静岡県西部のホテル事業者に対し、暴力団への利益供与をやめるよう勧告を行っています。報道によれば、2021年12月、暴力団の活動を助長することを知りながら静岡県西部のホテルに暴力団幹部らおよそ90人を宿泊させたというものです。この翌日には浜松市中区にある国領屋一家の本部事務所で、直系組長が集まる「事始め式」が開かれており、こうした活動を知りながら宿泊をさせたとして、暴力団への利益供与にあたると判断したということです。本コラムでも取り上げたとおり、本来、事始め式には司忍こと篠田建市組長も集まり、通常は総本部のある神戸市で開かれますが、特定抗争指定により警戒区域とされているため、今回は浜松市で開かれたものです。宿泊施設に対する勧告は極めて珍しいと言えますが、そもそもこのような場面でも使えるツールであり、それを最大限有効に活用し、このくらい厳しい姿勢で臨むことが、暴排の実効性を高めることにつながるといえ、静岡県警の対応を高く評価したいと思います。

    ▼静岡県暴排条例

    本条例の第15条(利益の供与等の禁止)において、第1項「事業者は、その行う事業に関し、暴力団員等又はその指定した者に対し、次に掲げる行為をしてはならない」として、第3号に「前2号に定めるもののほか、情を知って、暴力団の活動を助長し、又はその運営に資することとなる利益の供与(法令上の義務又は情を知らないでした契約に係る債務の履行としてする場合その他の正当な理由がある場合における利益の供与を除く。)をし、又はその申込み若しくは約束をすること」と規定されており、これに抵触したものと考えられます。そして、第24条(勧告)において、「公安委員会は、第15条第1項、第18条、第19条第2項、第20条第2項、第21条第2項又は第22条第1項の規定に違反する行為があった場合において、当該行為が暴力団の排除に支障を及ぼし、又は及ぼすおそれがあると認めるときは、公安委員会規則で定めるところにより、当該行為をした者に対し、必要な勧告をすることができる」と規定されており、これにより勧告が行われたものといえます。

    (4)暴力団排除条例に基づく勧告事例(群馬県)

    群馬県警は、群馬県暴排条例に基づき、前橋市内の飲食店の運営会社に勧告しています。報道によれば、この会社は2021年11月初旬ごろ、暴力団の活動を助長し、運営に資する目的で開かれる会合であると知りながら、暴力団からの申し込みを受け、施設の利用契約を結んだといいます。

    ▼群馬県暴排条例

    本条例では、第17条(金品等の供与の禁止)において、「事業者は、その行う事業に関し、暴力団員等又は暴力団員等が指定した者に対し、情を知って暴力団の活動を助長し、又は暴力団の運営に資することとなる金品その他の財産上の利益(以下「金品等」という。)の供与をし、又はその申込み若しくは約束をしてはならない」と規定されています。さらに、第23条(勧告)において、「公安委員会は、違反行為があった場合において、当該違反行為が暴力団排除に支障を及ぼし、又は及ぼすおそれがあると認めるときは、公安委員会規則で定めるところにより、当該違反行為をした者に対し、必要な勧告をすることができる」とされています。

    (5)暴力団対策法に基づく称揚禁止命令の発出事例(大阪府)

    大阪府公安委員会は、六代目山口組の篠田建市組長=通称・司忍=と2次団体弘道会の竹内照明会長に対し、暴力団対策法に基づき、抗争事件で服役した組員に報奨金を渡すことなどを禁じた賞揚等禁止命令を出しています。報道によれば、六代目山口組と神戸山口組の抗争に絡み、20168年3月、大阪府守口市にある神戸山口組傘下組織の組事務所にトラックで突っ込んだとして、建造物損壊などの罪で服役した6人に報奨金などを渡すことを禁じたものです。6人のうち3人はすでに出所しているといいます。禁止命令は出所後、5年間効力があり、報奨金提供のほか、地位の格上げなども禁止しています。

    ▼暴力団対策法(暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律)

    暴力団対策法では、第4節「暴力行為の賞揚等の規制」第30条の5において、「公安委員会は、指定暴力団員が次の各号のいずれかに該当する暴力行為を敢行し、刑に処せられた場合において、当該指定暴力団員の所属する指定暴力団等の他の指定暴力団員が、当該暴力行為の敢行を賞揚し、又は慰労する目的で、当該指定暴力団員に対し金品等の供与をするおそれがあると認めるときは、当該他の指定暴力団員又は当該指定暴力団員に対し、期間を定めて、当該金品等の供与をしてはならず、又はこれを受けてはならない旨を命ずることができる。ただし、当該命令の期間の終期は、当該刑の執行を終わり、又は執行を受けることがなくなった日から五年を経過する日を超えてはならない」と規定しています。本事例については、第1項「当該指定暴力団等と他の指定暴力団等との間に対立が生じ、これにより当該他の指定暴力団等の事務所又は指定暴力団員若しくはその居宅に対する凶器を使用した暴力行為が発生した場合における当該暴力行為」が該当するものと考えられます。

    (6)組織的犯罪処罰法違反に基づく逮捕事例(静岡県)

    静岡県警富士宮署と県警捜査4課は、いずれも六代目山口組藤友会幹部の2人の容疑者を組織犯罪処罰法違反(組織的恐喝)の疑いで逮捕しています。報道によれば、2人は2021年8月下旬、富士市で歯科医院を経営する60歳代の歯科医師から、みかじめ料として現金10万円を脅し取った疑いがもたれており、歯科医師は、2015年に容疑者から100万円の借金をしたことをきっかけに毎月10万円を要求され、これまでに数百万円を支払っているといいます。医院は経営難となり、歯科医師は治療費を水増ししたとする詐欺罪などで公判中であり、歯科医師の捜査の過程で今回の容疑が浮上したといいます。

    ▼組織的犯罪処罰法(組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律)

    本件については、第3条(組織的な殺人等)「次の各号に掲げる罪に当たる行為が、団体の活動(団体の意思決定に基づく行為であって、その効果又はこれによる利益が当該団体に帰属するものをいう。以下同じ。)として、当該罪に当たる行為を実行するための組織により行われたときは、その罪を犯した者は、当該各号に定める刑に処する」のうち、第14号「刑法第二百四十九条(恐喝)の罪 一年以上の有期懲役」に該当するものと考えられます。

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