暴排トピックス
首席研究員 芳賀 恒人
1.半グレの跋扈をこれ以上許してはならない~官民の連携が重要だ
2.最近のトピックス
(1)各種統計資料から
・法務省 令和4年版犯罪白書
・公安調査庁 令和5年版「内外情勢の回顧と展望」
・犯罪対策閣僚会議 「世界一安全な日本」創造戦略2022/人身取引対策行動計画2022
(2)AML/CFTを巡る動向
(3)特殊詐欺を巡る動向
(4)薬物を巡る動向
(5)テロリスクを巡る動向
(6)犯罪インフラを巡る動向
(7)誹謗中傷/偽情報等を巡る動向
(8)その他のトピックス
・中央銀行デジタル通貨(CBDC)/暗号資産(仮想通貨)を巡る動向
・IRカジノ/依存症を巡る動向
・犯罪統計資料
(9)北朝鮮リスクを巡る動向
3.暴排条例等の状況
(1)暴力団排除条例に基づく勧告事例(群馬県)
(2)暴力団排除条例に基づく勧告事例(神奈川県)
(3)暴力団対策法に基づく中止命令発出事例(長野県)
(4)暴力団対策法に基づく中止命令・再発防止命令発出状況(北海道)
1.半グレの跋扈をこれ以上許してはならない~官民の連携が重要だ
警視庁が準暴力団(半グレ)対策の特命班を、福岡県警が「準暴力団等集中取締本部」を新設します。本コラムでもたびたび指摘しているとおり、暴力団がピラミッド型の統制のとれた組織であるのに対し、半グレは指揮命令系統が不明確でメンバー同士のつながりも流動的、離合集散を繰り返すなどその実態の把握は容易ではありません。そのうえ、暴力団対策法の枠外で暴力団と同様の資金獲得活動を行っており、暴力団と共生する者や暴力団の手先となって活動する者もいます。おおよそ80以上のグループが存在するとされ、メンバーの総数は約4000名という(数の上では)六代目山口組構成員数に比肩しうる巨大勢力として、暴力団の潜在化と連動する形で確実にその存在感を増しており、正に「治安上の脅威」となっています。社会的害悪をふまえれば、警察当局が半グレ対策に本腰を入れるのも当然の流れとはいえ、困難を極める実態把握にはどんな小さな兆候でも見逃さない地道な情報収集や摘発の積み重ねが必要であり、それとともに、半グレと対峙する最前線にいる事業者との情報共有など官民の連携が一層重要となるはずです。暴力団同様、半グレの跋扈をこれ以上許してはなりません。
暴力団対策法の規制対象とならない反社会的勢力の実態を把握するため、警視庁が特命班を発足させたと報じられています。暴力団のような明確な組織性を持たず、繁華街などで犯罪行為を繰り返す集団の実態解明に向け、庁内内の情報を部門横断的に集約して分析し、摘発につなげる狙いがありそうです。準暴力団や半グレと呼ばれる反社会的勢力は、組織間の垣根を越えて連携し、頻繁に離合集散するなど実態が見えにくく、治安上の脅威となりつつあります。全国の暴力団勢力は、暴力団対策法が施行された1992年からの30年間で約4分の1に減少しましたたが、その一方で、規制の網から漏れる準暴力団や半グレと呼ばれる反社会的勢力が台頭、SNSを駆使するなど資金獲得手段を柔軟に変化させています。警察当局によると、準暴力団などの犯罪集団は、繁華街で常習的に暴行事件を起こし、特殊詐欺や組織窃盗を通じた資金獲得活動を活発化させており、他の組織とも連携をするなどメンバー同士のつながりは流動的で、犯罪収益の一部を暴力団に上納する動きもみられます。警視庁はこうした実態の解明と摘発を両輪に、犯罪収益の剥奪も視野に戦略的に対策を強化するとしています。特殊詐欺事件の捜査や風俗店の摘発、不良少年らが集まる暴走族の取り締まりなど、各捜査部門が得た組織犯罪につながる情報を集約し、同庁が把握していない犯罪集団の存在や活動実態、資金源の解明につながることを期待したいと思います。
また、福岡県警も、暴力団対策法が適用されない半グレについて、取り締まりを専門に行う部署、「準暴力団等集中取締本部」を、2023年1月18日に県警本部内に新設すると発表しています。暴力団の資金源を断つため、特殊詐欺などで暴力団と手を組む半グレの摘発を強化する狙いがあります。福岡県警によると、半グレ対策を専門にした取締本部の設置は全国初とのことです。県警本部長をトップとし、暴力団や知能犯の捜査などに携わってきた約230人態勢で、複数の特別捜査班が、半グレの実態把握や捜査にあたるとしています。報道で、県警幹部は「暴力団の壊滅には、配下の半グレの動向を把握して摘発し、資金源を断つ必要がある」と取締本部新設の狙いを語っています。半グレによる集団での暴行、傷害なども各地で相次いでおり、ある捜査幹部は「暴力団対策法の規制対象になっていないのに、やっていることは暴力団と同じ」と指摘しています。一方で、暴力団が組長をトップとするピラミッド型の組織であるのに対し、半グレは指揮命令系統が明確ではなく離合集散が繰り返されるため、暴力団よりも実態把握が難しいとされます。なお、関東や関西の半グレは暴力団と手を組まずに活動することが多く、対立も見られるのに対し、福岡では暴力団の力が相対的に強いため、違法薬物の密売や特殊詐欺などで、半グレを配下に従えているといいます。反社会勢力に詳しいノンフィクション作家の溝口敦さんは、「呼称こそ似ているが、暴力団とは全く異なる存在だ」、「暴力団のように『親子』『兄弟』という血縁関係になぞらえた組織内のつながりもない。親分的な存在に従うことを『ばからしい』と感じる若い世代が中心で、メンバー自身が自分の位置づけにこだわりを持っていない」、「半グレの若者たちは暴対法や暴排条例で金を得られずに苦しむのが分かっているので、あえて組員にはならない。暴力団も半グレを組員にせずに利用することで、暴対法の網を逃れて資金を得ている」と分析、「取り締まられにくい準暴力団のメンバーを暴力団が犯罪の実行役として使役する例もある」、「結果、特殊詐欺や薬物取引などの犯罪への関与は増え、存在感を高めている」、「内輪もめでも、不法行為は見逃さず、組織内のデータを蓄積していくことが今後の事件捜査や法整備の議論の際に大切になるはずだ」、「取締本部の設置で半グレの情報収集と摘発が進めば、暴力団の弱体化につながる」などと指摘しています。
警視庁や福岡県警の動きの背景にあるのは、繁華街などで犯罪行為を繰り返す不良集団「半グレ」の実態把握に警察当局が苦慮している実態があるからです。大阪府警では2020年に専従班を設置し、摘発を強化、有力グループの幹部らを含め、300人以上を摘発し「活動は一時沈静化した」(捜査関係者)ものの、最近はグループの残党が特殊詐欺や違法薬物売買などに走るケースが相次いでいるといいます。捜査幹部は「地下に潜った犯罪が増え、実態がさらに見えにくい」と警戒を強めているといいます。半グレは暴力団の支援を受けながら、繁華街で飲食店や風俗店の経営に参画、強引な客引きやぼったくりなど違法なシノギ(資金獲得行動)で得た資金を暴力団に上納し、勢力を拡大してきたとされます。大阪市では2022年11月、競合するキャバクラ店の男性経営者に暴行してけがをさせたとして、傷害容疑で飲食店経営の男とその知人の男が逮捕される事件も起きています。半グレは約80グループに分散しているとみられていますが、約4000人という数字は、2021年に警察当局が把握した六代目山口組の全国の構成員とほぼ同等の巨大勢力で、捜査幹部は、「グループ数は確定的ではない。増えたり減ったりの繰り返し。グループといっても、その都度、SNSなどで連絡を取り合い、メンバーは入れ替わる。本人たちもグループにどのようなメンバーがいるのか分かっていないのではないか」と指摘しています。
12月8日、岡山県・兵庫県・愛知県・三重県の公安委員会は、池田組と六代目山口組をより厳しく取り締まる「特定抗争指定暴力団」に指定しています(期間は3カ月で、以後、双方の抗争が終結したと公安委員会が判断するまで延長されていくことになります)。2022年10月に岡山市北区の理髪店で、散髪中の池田組の組長が襲われ、同日夜には組長が住むマンションの駐車場で発砲事件が発生しました。いずれも六代目山口組系の暴力団員が逮捕されるなど、2022年に入って市内で抗争事件が相次ぎ、池田組の本部がある岡山県、六代目山口組の総本部がある兵庫県、それに愛知県と三重県の公安委員会が、「抗争が激化していて市民が事件に巻き込まれる恐れがある」と判断したものです。これに伴い、岡山市・神戸市・名古屋市・桑名市が「警戒区域」に指定され、構成員がおおむね5人以上で集まることや、事務所に立ち入ることなどが禁じられ、違反した場合、警察は逮捕することができるようになりました。例えば、特定抗争指定暴力団の指定を受けた六代目山口組や神戸山口組では、新幹線での移動で同じ列車やホームに5人以上重ならないよう、スケジュールの調整に気を使っているという話もあります。なお、特定抗争指定暴力団の指定は、今回が全国で3例目となります。2012年に改正暴力団対策法に規定が設けられ、2012年末、九州に拠点を置く道仁会と九州誠道会(現浪川会)が全国で初めて指定されたましたが、その後、抗争が沈静化したと判断され、2014年に解除されています。また、記憶に新しいところでは、六代目山口組と神戸山口組は2020年1月から、双方で抗争状態にあるとして、特定抗争指定暴力団に指定されています。
兵庫県公安委員会は、六代目山口組と神戸山口組の特定抗争指定暴力団への指定を3カ月間延長しています(期間は2023年1月7日~4月6日)。これにより、2020年1月の指定から丸3年が経過したことになります。双方とも、定められた区域内での組事務所の使用などが禁じられ、組織の弱体化が進んでいるといえます。一部で傘下組織の離脱の動きが相次いでおり、警察当局は離脱組織にも規制をかけるべく対応を検討しています。報道で、ある組長は「なるようになるしかない。組員の高齢化もあり、組を維持するだけでも大変だ」と現状について述べています。また、別の暴力団関係者も「固定資産税など事務所の維持費は変わらないのに、事務所が使えなくなり活動がしにくい。指定の影響は大きい」と述べています。さらに、特に警察当局が目を光らせているのが、離脱する団体で、神戸山口組からの独立が認められれば、特定抗争指定だけでなく指定暴力団からも外れることになり、民間への不当要求などを禁じる暴対法の対象は指定暴力団で、同法の規制対象外にもなってしまうことになるため、神戸山口組からすでに独立した池田組は2021年に指定暴力団に指定(その後、六代目山口組と特定抗争指定暴力団にも指定)され、さらに離脱の動きを見せている宅見組については、大阪府警が動向を注視しているとされます。最近は、特定抗争指定で表立った活動が減っており、威力を用いた資金獲得活動の認定が簡単ではなく、偽装離脱の可能性もあるため、慎重に調べる必要があり、特定抗争指定暴力団への指定の実務の持つ「困難さ」も表面化しています。
一方、特定抗争指定暴力団に指定したにもかかわらず、発砲事件などは後を絶たず、実態として、活動を封じ込めができていないことから、法規制の実効性に大きな懸念が指摘されています。さらに、報道で、六代目山口組直系団体の組長が「影響はあるが、抗争を抑止する力はない」と述べており、この点からも法規制の実効性を担保することの困難さが見え隠れしています。この組長は、警戒区域内の組事務所は出入りができず、会合も開けず、若い人材を育てる場がなく、高齢化が進んでおり、シノギ(資金獲得活動)をやる人材が減り、ダメージはあるとしながらも、「抗争とは別問題だ」と述べています。両組織の幹部らは、警戒区域外にある傘下組織の事務所で会合を重ねているとみられ(六代目山口組では恒例の事始めを静岡県浜松市の国領屋一家本部事務所で50人ほど集めて開催しています)、この点からも、警戒区域で活動を規制するだけでは実効性を担保することの困難さが指摘できます。警戒区域の設定ではなく、組織全体に網をかぶせる発想が必要なのかもしれません。報道で、反社会勢力に詳しいノンフィクション作家の溝口敦さんは「今はスマートフォンの無料通信アプリでトップの意思を組員に伝えられる。特定抗争指定の規制は時代に合ってない」と指摘、「金融機関が組員の口座開設を拒否するように、民間の暴力団排除活動は組織のダメージが大きい。法規制に加え、民間の協力が暴力団壊滅に不可欠だ」と語っていましたが、筆者も同感です。
なお、週刊文春の記事で、「密かに集合していた場合などの捜査手法について、警察当局の幹部は「顔写真データベースでヒットさせる」と自信をのぞかせ次のように解説する。「六代目山口組、神戸山口組、池田組のいずれも逮捕歴がある組員がかなりの割合でいる。暴力団に限らず、逮捕した容疑者は『被疑者写真』という顔写真を撮影する手続きがある。この顔写真の画像データが蓄積されており、検索することで顔写真の人物の氏名、所属組織、肩書などがすぐに分かるようにデータベース化されている」…「やたらと追いかけ回して行動を確認するのではなく、『対立抗争に向けた謀議のために会合があったようだ』との情報を入手した場合、その地域の防犯カメラの画像データを解析して、集合した実態を解明する。警戒区域内でおおむね5人以上で集合していたら強制捜査に着手する」…かつて、5人以上で集合していた事件が摘発されたことがあった。当時の神戸山口組系の幹部らが2020年12月、警戒区域に設定されていた岡山市内の飲食店に13人で集まり会食していたとして、岡山県警は2021年1月、暴対法違反(多数集合)容疑で、全員を逮捕した。この事件が初のケースとなった。」というものが報じられています。
さて、神戸山口組の元有力傘下組織「侠友会」については、兵庫県警に組の解散届を出しています(しかしながら、兵庫県警は届け出の有無を明らかにしておらず、解散が実態を伴うかどうか慎重に見極めるとみられています)。2022年8月、神戸山口組の幹部で侠友会の寺岡修会長が神戸山口組を脱退していましたが、稲川会の仲裁のもと、侠友会の寺岡会長が、六代目山口組の司忍こと篠田健市組長と高山清司若頭に、正式に謝罪したということです。侠友会の組員の一部は六代目山口組傘下の組に移るとされていますが確認されていません。六代目山口組から神戸山口組が分裂した際に、神戸山口組の直系組織として、組長がナンバー2とされる最高幹部の若頭に就いていたほか、神戸山口組の拠点としても使用されるなど、中核的な存在でした。また、侠友会の事務所をめぐっては、2017年に暴力団追放兵庫県民センターが「代理訴訟制度」に基づき、住民に代わり使用禁止を求める仮処分を神戸地裁に申し立て、認められています。その後、兵庫県公安委員会が淡路市を「警戒区域」に指定し、組員の事務所への立ち入りが禁じられました。さらに、淡路市は2022年1月に「侠友会」の事務所を買収した経緯があります。侠友会の寺岡会長は、井上組長から絶縁処分を受けて若頭を脱退、そのタイミングで、神戸山口組とかつて組織から抜けていた池田組がヨリを戻すように「対等連合」を組んだものの、その直後に、連合を取りまとめたはずのもう1人の神戸山口組最高幹部で当時の副組長、入江禎・2代目宅見組組長も組織を脱退することになり、神戸山口組はいよいよ自壊の道を急速に転がり落ちるところまで追い込まれているように見えます。
次に、暴力団との関係が問題となっている最近の事例から、いくつか紹介します。
- 本コラムでもその動向を追っている、2013年12月、中華料理チェーン「餃子の王将」を展開する王将フードサービスの社長だった大東隆行さん(当時72歳)が本社前で射殺された事件は、が発生9年を前にした2022年秋、京都府警が工藤会系組幹部の田中幸雄被告を実行犯とみて殺人などの疑いで逮捕に踏み切りました。重大凶悪犯の検挙が最も治安回復に資するという点で、今回の立件は高く評価できるものですが、まだ予断を許さない状況にあります。被告は黙秘を貫き、犯行をとらえた防犯カメラ映像や目撃証言を含む直接証拠はなく、拳銃は未発見、そもそも被害者との接点や共犯などの背後関係も判然としていない状況に変わりはなく、検察は公判に向け、状況証拠を積み重ねた間接事実群による難易度の高い立証を強いられています。
- 週刊文春で「元暴力団員」と報道された野田聖子衆院議員の夫が、警察庁幹部による虚偽情報のリークで名誉を毀損されたなどとして、国に1100万円の損害賠償を求めて東京地裁に提訴しています。訴状によると、週刊文春は2017年~2021年、警察関係者からの情報として野田氏の夫が元暴力団員とする記事を3回にわたり掲載、夫側は、警察庁幹部が情報の正確性の検証や提供の正当性を検討しないまま文春側に漏洩したと主張しています。一連の記事を巡り夫は発行元の文芸春秋社を相手取り1100万円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こし、最高裁で一部の名誉毀損を認めて同社に55万円の支払いを命じる高裁の判決が確定しましたが、夫が元暴力団員であることは「真実と信じる相当の理由がある」と認定されています。
- ゲーム大手、任天堂創業家が率いる山内財団が、下京区にある会津小鉄会の元本部ビル跡地を取得したことが判明しています。財団は跡地を含む計約3千平方メートルを芸術家の創作拠点などとして整備する方針で、財団専務理事の山内万丈氏は京都新聞社の取材に「任天堂発祥の地でもあり、風評上のリスクを背負ってでもこの地域を活性化させたい思いがある」と話しています。会津小鉄会の元本部ビル跡地は下京区の菊浜学区の鴨川と高瀬川に挟まれた住宅街にあり、計約700平方メートルで、山内氏によると、2022年10月13日付で山内財団が関連企業を通じて取得したということです。
- 工事費を水増しする手口で物流大手、日立物流の子会社「日立物流西日本」から約3億6500万円をだまし取ったとして、兵庫県警暴力団対策課などは、詐欺の疑いで、建設会社の元社長と日立物流西日本の元社員を逮捕しています。建設会社の元社長は暴力団関係者とみられ、県警は、だまし取った金が組側に流れた可能性もあるとみて経緯を調べるとしています。日立物流の元社長は「作業員数を水増ししたが、必要経費に使った」と容疑を否認、建設会社の元社長は「詐欺ではなく横領だと思う」として一部否認しています。
全国で暴力団事務所の使用差し止め請求や売却などが進んでいます。それに伴う問題も発生しており、2022年12月9日付産経新聞の記事「雑草茂る暴力団事務所の跡地 民間売却後も認定外れず 新たな本部はどこに…」が参考になります。以下、抜粋して引用します。
- 六代目山口組直系山健組の関連施設で、「山健会館」の通称で知られる神戸市中央区花隈町の土地と建物を、神戸市が差し押さえていたことが判明しています。2022年4月19日付で、固定資産税など市税の滞納を受けた債権保全のための措置で、滞納が続いた場合には公売にかけられる可能性があるといいます。同会館は、鉄筋コンクリート造6階建て(地下1階)で、六代目山口組と対立する神戸山口組の井上邦雄組長の親族が2022年8月まで役員を務めた同区の不動産会社が所有し、かつて組の会合などに使用されていました。神戸市は市税の納付を督促したが、会社側は応じていません。六代目山口組と神戸山口組の抗争激化を受け、現在は暴力団対策法に基づいて立ち入りが禁じられていますが、関係者によると、現在、井上組長と中田組長の両サイドの間で山健会館の所有権をめぐる争いが起きているといいます。
- 福岡県福津市で2022年8月、乗用車が突っ込む襲撃を受けた神戸山口組系の組事務所について、福岡地裁が福津市の申し立てに基づき、使用を禁じる仮処分の決定を出しています。暴力団事務所について自治体が使用禁止の仮処分を申し立てたケースは珍しく、九州・山口では初めてとなります。暴力団事務所を巡っては、暴力追放運動推進センターが住民に代わって提訴する代理訴訟や、住民が原告となる訴訟で使用禁止を求めるのが一般的ですが、自治体による仮処分の申し立ては、住民と暴追センターが協議して提訴への手続きなどを進める代理訴訟と比べて時間がかからず、また、住民は代理訴訟と同様に訴訟当事者になる必要がないため、安全面や費用面でのメリットが大きいとされます。事務所の主である安部組を巡っては、2022年8月1日に事務所が乗用車に突っ込まれたほか、同31日には同県古賀市の組長宅で車が焼かれています。両事件とも、対立する六代目山口組系の組員が逮捕、起訴されています。一方、六代目山口組は同9月、福岡市東区にある系列の組長宅がトラックに突っ込まれるなど、県内では両組織によるとみられる抗争が相次いでいます。
福岡県警は、2022年末の県内の暴力団等(構成員、準構成員数)が1260人(前年比▲80人)となり、9年連続で過去最少を更新したと発表しています。ピーク時の2007年末(3750人)から約7割減少しています。工藤会は、320人(前年比▲50人)で過去最少、指定暴力団別では、道仁会310人(▲10人)、太州会120人(増減なし)、福博会130人(▲10人)、浪川会140人(▲10人)、六代目山口組200人(増減なし)、神戸山口組30人(増減なし)でした。また、2022年中に県警などの支援で組織を離脱した組員数は、2021年中に比べて4人少ない61人で、うち半数以上が傘下組織などの幹部、職に就いた元組員は4人増えて8人となりました。近年は組織への帰属意識が高い幹部組員の離脱も増えているといい、組織犯罪対策課は「暴力団が置かれた状況を把握して人生をやり直す一歩を踏み出してほしい」としています。
暴力団対策法に基づく「特定危険指定暴力団」に全国で唯一指定されている工藤会について、福岡県公安委員会は「引き続き暴力的要求行為を行っている」などとして、指定を延長しています。指定期間は2022年12月27日から1年間で、延長は、これで10回目となります。北九州市に本部がある工藤会は「特定危険指定暴力団」に指定されていて、北九州市や福岡市など定められた警戒区域で所属する暴力団員が市民や企業に対し用心棒代や工事の下請けへの参入などの不当な要求を行うと警察はすぐに逮捕することができるほか、不当要求を目的とした面会を求めたり、電話やメール、住居や会社周辺をうろついたりすることも禁止でき、事務所の使用を制限することもできます。工藤会の県内の構成員は、ピーク時に比べ3分の1以下に減っていますが、福岡県警は、工藤会を含む「暴力団の壊滅」を重点目標に掲げていて、引き続き取り締まりを徹底することにしています。このほか福岡県公安委員会は、久留米市に本部を置く指定暴力団、道仁会についても同12月、11回目の指定の延長を行っています。工藤会が2012年12月に特定危険指定暴力団に指定されて以降、構成員や準構成員の人数は減少しており、2008年の1210人をピークに、2022年は約3割の320人にまで縮小、北九州市小倉北区にあった本部事務所は2020年に解体され、その後も工藤会系事務所の使用制限が繰り返されています。しかし、工藤会が市民や企業を狙ったと疑われる事件の爪痕は大きく、トップの野村被告に死刑判決が出た後も、福岡県警は影響力は薄れていないと警戒し、福岡県公安委員会も「凶器を使用した暴力行為を行うおそれが高い」と判断したとみられます。報道で、ある捜査関係者は「暴力団対策法を改正しても、工藤会を壊滅できていない。警察は威信をかけて取り組まなければならない」と危機感をにじませています。また、4件の市民襲撃事件で殺人罪などに問われ、一審の福岡地裁で死刑判決を受けた工藤会のトップで総裁の野村悟被告と、無期懲役を言い渡されたナンバー2で会長の田上不美夫被告の弁護側が、控訴の理由を記した控訴趣意書を福岡高裁に提出しています。判決を不服とする内容とみられます。一審で両被告の弁護を担当した計約10人の弁護人は、2022年7月の控訴趣意書の提出期限を前に解任されていました。提出期限の12月になり、新しく選任された弁護人が趣意書を出した模様です。一審判決は、1998年に北九州市で元漁協組合長の男性(当時70)が射殺された事件について、「厳格な統制がなされる暴力団組織」で、組員らに犯行を指示できる上位者は両被告であると想定される、と指摘、ほかの元福岡県警警部銃撃、看護師刺傷、歯科医師刺傷の3事件で問われた組織犯罪処罰法違反(組織的な殺人未遂)などの罪については、「両被告が意思疎通しながら、最終的には野村被告の意思により決定されたと推認される」とし、野村被告が組織力や指揮命令系統を利用したと認定しています。なお、工藤会が関東に進出していることは本コラムでも取り上げましたが、直近では、千葉県警の男性巡査から現金160万円を脅し取ったとして、千葉県警は、工藤会系組員ら男女5人を逮捕した事件が発生しています。事件時に巡査は飲酒運転しており、処分を受け依願退職しています。報道によれば、巡査は、マッチングアプリで知り合った山口容疑者と酒を飲んでいましたが、その後、巡査は乗用車を運転し、山口容疑者も同乗していたといいます。巡査が当時所属していた部署が事件を認知、巡査は飲酒運転を認めたものです。
福岡県の筑後地区を拠点とする指定暴力団の道仁会(本部・久留米市)と浪川会(本部・大牟田市)の組員らの摘発に、福岡県警が力を入れています。2018年に「筑後地区暴力団集中取締本部」を発足させて以降、県警は両組織の幹部ら延べ229人を摘発していますが、両組織は若手組員の加入や資金獲得活動の多様化で、弱体化を食い止めている状況がみられるためです。前述のとおり、2022年末時点の道仁会の全国の勢力(構成員、準構成員など)は福岡、佐賀、長崎、熊本の4県で640人に上っており、九州に拠点を置く暴力団としては最も規模が大きいとされ、工藤会の410人を上回っています。浪川会は4県や山形県、東京都で250人が確認されています。また、工藤会の福岡県内の勢力はピーク時より約7割減っているのに対し、道仁会は2005年、浪川会は2012年のピーク時から、いずれも約4割の減少にとどまっています。その理由の一つが、若者の組織への加入とみられており、県警によると、2021年末時点では、組員の平均年齢は道仁会が47.5歳、浪川会が47.3歳で、工藤会は54歳、20歳代の割合は道仁会が8.4%、浪川会が4.8%で、2014年以降で最も高くなっています。
岡山県公安委員会は、笠岡市笠岡に本部を置く浅野組(中岡豊総裁)を暴力団対策法に基づく指定暴力団に再指定し、官報に公示しています。指定は11回目で、期間は2022年12月14日から3年間となります。県警組織犯罪対策1課によると、浅野組の構成員は岡山、広島県内に約60人、1992年から指定しており、同法の規定で3年ごとに見直しています。
六代目山口組と神戸山口組の抗争の状況などについては、さまざまな媒体で報じられています。以下、いくつか紹介します。週刊誌情報も含まれていますが、あくまで参考となります。
ズバリ「常在戦場」 指定暴力団『絆會』の令和五年度指針がヤクザ業界で話題騒然(2022年12月23日付FRIDAYデジタル)
山口組分裂8年 組員たちの胸の内「ケジメつけるまで終われない」「スマホ機種変できない」 “抗争”相次ぐが…【事件・裁判2022】(2023年1月3日付FNNプライムオンライン 1/3配信)
6代目山口組の高山若頭が、謝罪した神戸山口組の寺岡前若頭に伝えたこととは?(2022年12月27日付デイリー新潮)
「面倒見はまだか」「なんか重いの出してよ」かつての留置場内にあった、ヤクザと警察官の“持ちつ持たれつ”なシステムとは《元ヤクザの牧師&ヤクザ研究者対談》(2022年12月27日付文春オンライン)
「全員をカタギに…」神戸山口組を離脱した侠友会が解散 寺岡会長の“構成員を6代目山口組へ移籍させない決断”の理由とは(2022年12月28日付文春オンライン)
神戸山口組ナンバー2が六代目山口組に謝罪して引退 「分裂首謀者でも許される」は抗争にどう影響を与えるか(2022年12月28日付NEWSポストセブン)
人数比は「4000対510」と圧倒的だが…23年 分裂抗争を戦う「六代目山口組」の「狙いと難局」(2023年1月1日付FRIDAYデジタル)
容赦ない「六代目山口組」、背水の陣の「神戸山口組」…“最終戦争”で何が起きているのか(2023年1月5日付文春オンライン)
静岡・浜松に…司忍組長&高山清司若頭ら大幹部が集結した「緊迫現場」(2022年12月29日付FRIDAYデジタル)
「店内は血まみれに…」池田組組長を6代目山口組系幹部が襲撃! 警察が「特定抗争指定」に踏み切った理由(2023年1月5日付文春オンライン)
次に、暴力団排除や離脱者支援などに関する最近の報道から、いくつか紹介します。
“特殊詐欺”被害者の反撃 “暴力団のトップ”を民事裁判で訴え…ほぼ全額取り返せることも(2022年12月22日付日テレNEWS)
元ヤクザが師走にアパートを退去させられた一部始終 5年前に組を離脱、周囲はいまだに現役幹部と認識(2022年12月30日付デイリー新潮)
スマホ購入&賃貸入居もNG 口座の残高は現金書留で郵送され…2023年「暴力団はどう生きるのか」(2023年1月3日付FRIDAYデジタル)
「いま、ヤクザ厳しいねん。たどりつくところは生保やろ、みじめや……」犯罪社会に生きた元ヤクザの再チャレンジを、私たちが支援するべき“たった一つの理由”(2023年1月4日付文春オンライン)
- 岐阜県警察本部と岐阜刑務所は、刑務所で服役している暴力団員の離脱に向けて支援を強化するための申し合わせを締結しています。申し合わせでは、刑務所で服役している暴力団員が組織を離脱し、出所したあとに円滑に社会復帰できるよう両者が連携して就職先を確保していくなどとしています。県警と岐阜刑務所では暴力団員の受刑者を対象にした相談会を年に1回程度、開いていますが、出所後の生活不安から離脱出来た暴力団員はいないということです。岐阜刑務所では現在、収容者のおよそ7%にあたる32人が暴力団員だということで、離脱に向けた支援を強化して暴力団の弱体化につなげたいとしています。県警の佐名刑事部長は「暴力団の離脱支援は関係者の協力なしでは実行できません。暴力団壊滅のため県民のみなさんの力を貸していただきたい」と話しています。
- 仕事が無い人の再犯率は、仕事がある人の約3倍に及ぶことが法務省の調査で分かっています。再犯を防ぐには「職」の有無が鍵だという統計が示され、就労支援の取り組みは各地で進んでいますが出所後、いったん就職しても長続きしない人は多いのが現実です。名古屋市のNPO法人「愛知県就労支援事業者機構」は、保護観察終了後も最長で半年間支援するという「息の長い支援」を独自に展開、出所者らのニーズに応えるため元警察官も東奔西走しているといいます。報道によれば、あるとき、過去に支援した元暴力団員の男性から連絡を受け、男性は職場の高齢者施設で、利用者が手を合わせて「ありがとう」と言ってくれることに、「うれしい」と感想を漏らしたといいます。「若い頃は好き放題やって、出会ったときも血気盛んだった人が、こんなふうに変わるんだなと感慨深くて。わざわざ連絡してきてくれたこともうれしかった」と振り返っています。
安倍晋三元首相が昨年銃撃され死亡した事件で、奈良地検は、山上徹也容疑者を殺人罪などで起訴しました。ここでは、とりわけ旧統一教会の反社会性に絡めて、最近の報道から、いくつか紹介します(テロ対策の視点からの内容は、後述する「テロリスクを巡る動向」を参照ください)。
- 世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に対する解散命令請求を視野に、文化庁は、宗教法人法に基づく3回目の質問権行使を行う予定です。文化庁が注目しているのは、信者に過度な重圧を与えているとされる「献金ノルマ」と教団本部のある韓国への送金を含めた資金の流れで、献金システムを有力な証拠として、教団による違法行為の「組織性、悪質性、継続性」を裏付け、解散命令につなげようとしています。元信者や関係者によると、教団に対する献金には複数の種類があり、このうち、地区組織ごとに行われる献金は、集金期間や目標額などのノルマが本部から地区組織に割り振られ、これをもとに一般信者に献金を求める構図になっています。文科省幹部は「地区組織への厳しいノルマが高額献金の背景になっている」と指摘しています。文化庁は、こうしたノルマは韓国本部からの指示によるものと分析、2009年に教団が出した「コンプライアンス宣言」以降も、基本的に変化はないとみています。ノルマの存在と韓国を含む指揮命令系統の解明は、解散命令請求の上で有力な証拠につながる可能性が高いといえます。一方、裁判所がオウム真理教と明覚寺に出した過去2件の解散命令は、いずれも組織的関与のある刑事事件が根拠となっていましたが、旧統一教会に関しては近年は関与した刑事事件が確認されていない点が、今後の課題となります。。
- 北九州市議会は、議員提出議案の「反社会的な旧統一教会に関与しないことを確認する決議」を全会一致で可決しました。決議では「選挙活動の支援、パーティー券購入等の見返りに、政治家が旧統一教会のイベントなどに出席し、祝電を送るなどすることで、旧統一教会の活動に『お墨付き』を与えてきた」などと指摘、「市議がこのような団体と癒着することは、市民の政治に対する不信感を増し、さらなる被害者を作り出すことにつながりかねない」として、「行事への参加やメッセージなどの送付、会費の納付等の関係を一切持たないことを宣言する」としています。の陳情書や要望書が届いていたことが分かった。
- 宗教団体への高額献金問題がクローズアップされた事を受け、日本弁護士連合会(日弁連)が2022年9月から全国を対象に無料で始めた法律相談の受付件数が2022年末までで1131件に上っています。2022年10月27日までに東京の弁護士が相談に乗った389件中、309件は旧統一教会関連で「1000万円以上の被害」相談が4割超を占めていました。問題を重視した日弁連は、受付期間を当初の2022年末までから2023年2月末まで延長して対応に当たっています。
- 旧統一教会への2回目の質問権行使に対する回答が文化庁に届きました。問題を巡り文化庁が重視しているのは、教団による被害を訴えた民事裁判計22件(賠償認容額計14億円以上)の確定判決とともに、信者らが有罪となった霊感商法事件を受けて教団が発したコンプライアンス宣言の順守状況です。教団側は「宣言以降、霊感商法は行っていない」と主張していますが、宣言前後の状況を知る元幹部は「霊感商法は一部で続けられていた。また、表向きには霊感商法をやめたことで、信者に対する献金要求を強めた」と証言しています。また、教団の下部組織には変わらず集金額のノルマが課され、信者への献金要求が強くなったといいます。さらに元幹部は「非公式に物販を続けていた組織も多い」と明かしています。毎月のようにノルマが提示され、「信者の献金で達成できない場合は、物販などで帳尻を合わせた」とも述べています。現在でも下部組織にはノルマがあるとされ、元幹部は「教団の体質はなんら変わっていない」とみています。宣言以降の教団の実態に文化庁は強い関心を寄せており、順守状況次第では、解散命令請求の要件となる違法行為の「組織性、悪質性、継続性」が裏付けられる可能性があるためで、文化庁幹部は「自らやらないと誓ったことを続けているとすれば、かなり悪質だ」とみています。
- 2023年1月5日に施行された救済法は、宗教団体などの法人・団体が個人に寄付を求める際に、不当な勧誘の方法を明示して禁止した法律です。寄付を断っても家から帰ってくれない、自分が帰りたいのに帰らせてくれない、などの6類型を明示し、こうした悪質な勧誘によって「困惑」させられ寄付した場合は最長10年間、取り消しを求められることになりました。禁止行為を繰り返すなど、悪質なケースは1年以下の懲役や100万円以下の罰金の刑事罰を規定しています。被害の発生を「予防」するのが目的で、罰則や規定の一部は2023年中に施行されます。取り消しを求められるのは施行日の1月5日以降に意思表示した寄付で、勧誘が4日以前でも5日以降の寄付との因果関係が立証できれば取り消しの対象となります。取り消し権は原則として寄付した本人だけが行使できるとされます。救済法では施行前の被害は取り消し対象になりませんが、同時に施行された改正消費者契約法などで対応できる可能性があります。政府は法テラスなどの相談窓口にも問い合わせるよう呼びかけています。
- 救済法については、早くも見直しを求める声も上がっています。全国霊感商法対策弁護士連絡会が疑問視するのは禁止行為が「困惑」を前提とする点で、働きかけによって寄付が必要と思い込み、困惑せず寄付に至るケースが多いとして「禁止行為の対象を広げるべきだ」と訴えています。家族による取り消しも「使い勝手が悪い」と批判しています。同連絡会によると、寄付額が数千万円単位でも、取り戻せるのは寄付した月の養育費など数万円程度にとどまる可能性があるといい、金額の算定を巡って専門家への相談が必要な場合も想定されます。そもそも国会審議入りから1週間程度での成立に拙速との指摘もあります。不当な勧誘行為を規制する目的の法律ではあるものの、正当に活動する宗教団体やNPO法人などへの寄付行為全般に萎縮などの影響が及ぶ恐れもあります。また、救済法の実効性を高めるには所管する消費者庁の体制も課題ですが、人員を拡充しても違法な活動が疑われる法人の調査を十分に実施できるかは未知数で、効果的な体制やノウハウをいかに固められるかも焦点になるといえます。
2.最近のトピックス
(1)各種統計資料から
①法務省 令和4年版犯罪白書
法務省が令和4年版犯罪白書を公表しています。白書では、コロナ禍特有の犯罪を特集、経済対策として新設された制度を悪用した犯罪の検挙件数は2020、2021年の合計で2907件、このうち持続化給付金の詐取事案が2578件と9割近くに上ったといいます。また、コロナ禍の中における刑法犯認知件数は、最初の緊急事態宣言発令中の2020年4月と5月にそれぞれ前年同月比23.9%減、同32.1%減と大きく下がった一方、少年の刑法犯検挙人数は2020年4、5月とも前年同月比でほぼ横ばいとなっており、白書は学校の一斉休校などにより非行の機会が増えるといった「少年特有の事情」があった可能性を指摘しています。また、刑法犯全体の認知件数が減った一方で、サイバー犯罪の摘発件数が増えるなど、「犯罪動向や刑事司法も少なからぬ影響を受けた」とも指摘しています。例えば、犯罪ごとにみると、2020年は特殊詐欺の認知件数が前年比▲19.6%となり、人と人の接触が避けられる中、面識のない被害者と対面して金などをだまし取る犯行が困難になった可能性があるほか、入国制限の影響で覚せい剤の密輸入の摘発も激減したとも指摘しています。そのうえで、コロナ禍を踏まえた犯罪予防策としては、「パンデミックも犯罪の口実に利用されるため、メディアを通じた注意喚起が必要だ」などと指摘しています。また、2021年の児童虐待の検挙人数は20年より17人多い2199人で、統計がある03年以降最多となったことも明らかとなりました。児童虐待の2021年の検挙人数は、2003年の約9倍で、検挙件数(2174件)を罪名別にみると、暴行罪が最も多く、全体の40.6%、次いで傷害罪が36.3%、強制わいせつ罪が8.2%と続いています。加害者でみると、実父や養父などの「父親等」の場合が1597人で72.6%を占めた一方、罪名を殺人罪と保護責任者遺棄罪で絞ると、母親の割合がそれぞれ82.8%、73.9%と高くなっています。また、2020年度に児童相談所が対応した児童虐待の相談件数も、20万5044件で過去最多を更新しました。
2021年に全国の刑務所に新たに入所した受刑者の13.8%を65歳以上が占め、20年間で約4倍の割合となったということです。出所した高齢者が2年以内に再び刑務所へ入所する率も2割を超えており、刑務所内での福祉サービスとの連携や再犯防止の取り組みが求められるとしています。また、警察が2021年に認知した一般刑法犯の件数に占める高齢者の割合は23.6%で、近年右肩上がりで上昇、高齢者の犯罪の内訳では「窃盗」が最多の69.9%で、半数以上を「万引き」が占めています。こうした背景には、高齢受刑者が周囲から孤立している状況があるとみられるとしています。また、依然として深刻な再犯の実態も浮かび上がっています。法務省は2022年秋から、更生可能性が高いとされる若年受刑者を対象に、小集団での「ユニット型処遇」を導入、職員とのコミュニケーションを重視した取り組みにより、再犯対策を強化しようとしています。刑務所に入った人のうち、2度目以上の割合を示す「再入者率」は2017年から減少傾向にあり、2021年も前年比1.0ポイント減少しましたが、57.0%と高止まりしています(うち高齢者の問題は既に紹介したとおりです)。刑法犯で検挙された再犯者の割合である「再犯者率」も過去最悪だった前年の49.1%から0.5ポイント下回ったものの、依然として高いく、法務省は就労支援や出所後に暮らす自治体や民間団体などとの連携強化も進めるとしています。
▼法務省 令和4年版犯罪白書
- 刑法犯の認知件数は、平成8年から毎年戦後最多を更新して、14年には285万3,739件にまで達したが、15年に減少に転じて以降、19年連続で減少しており、令和3年は56万8,104件(前年比4万6,127件(7.5%)減)と戦後最少を更新した。戦後最少は平成27年以降、毎年更新中である。平成15年からの認知件数の減少は、刑法犯の7割近くを占める窃盗の認知件数が大幅に減少し続けたことに伴うものである。刑法犯の発生率の動向は、認知件数の動向とほぼ同様である。平成8年(1,439.8)から毎年上昇し、14年には戦後最高の2,238.5を記録したが、15年から低下に転じ、25年からは毎年戦後最低を記録している
- 刑法犯の検挙人員は、平成13年から増加し続け、16年には38万9,027人を記録したが、17年から減少に転じ、25年からは毎年戦後最少を更新しており、令和3年は17万5,041人(前年比7,541人(4.1%)減)であった。
- 65歳以上の高齢者の構成比は、平成4年には2.7%(7,741人)であったが、令和3年は23.6%(4万1,267人)を占めており、検挙人員に占める高齢者の比率の上昇が進んでいる。一方、20歳未満の者の構成比は、平成4年には47.3%(13万4,692人)であったが、その後減少傾向にあり、令和2年に9.8%(1万7,904人)と、昭和48年以来初めて10%を下回り、令和3年は8.8%(1万5,349人)であった
- 刑法犯の検挙率は、平成7年から毎年低下し、13年には19.8%と戦後最低を記録したが、14年から回復傾向にあり、一時横ばいで推移していたものの、26年以降再び上昇しており、令和3年は46.6%(前年比1.1pt上昇)であった。
- 窃盗は、認知件数において刑法犯の7割近くを占める。その認知件数、検挙件数及び検挙率の推移(最近30年間)を見ると、平成7年から13年まで、認知件数の増加と検挙率の低下が続いていたが、14年から検挙率が上昇に転じ、認知件数も、戦後最多を記録した同年(237万7,488件)をピークに15年から減少に転じた。認知件数は、26年以降、毎年戦後最少を更新し続け、令和3年は、38万1,769件(前年比3万5,522件(8.5%)減)であった。検挙件数は、平成17年から減少し続けており、令和3年は、16万1,016件(同9,671件(5.7%)減)であった。検挙率は、前年より1.3pt上昇し、42.2%であった
- 詐欺の認知件数は、平成17年に昭和35年以降で最多の8万5,596件を記録した。その後、平成18年から減少に転じ、24年からは増加傾向を示していた。その後、30年から再び減少したが、令和3年は、前年から増加し、3万3,353件(前年比2,885件(9.5%)増)であった。検挙率は、平成16年に32.1%と戦後最低を記録した後、17年から上昇に転じ、23年から26年までの低下を経て、その後は上昇傾向にあったが、令和3年は、前年からわずかに低下し、49.6%(同0.6pt低下)であった。
- 特殊詐欺(被害者に電話をかけるなどして対面することなく信頼させ、指定した預貯金口座への振込みその他の方法により、不特定多数の者から現金等をだまし取る犯罪(現金等を脅し取る恐喝及びキャッシュカード詐欺盗(警察官や銀行協会、大手百貨店等の職員を装って被害者に電話をかけ、「キャッシュカードが不正に利用されている」等の名目により、キャッシュカード等を準備させた上で、隙を見るなどし、同キャッシュカード等を窃取するもの)を含む。)の総称)の認知件数、検挙件数及び被害総額(現金被害額及び詐取又は窃取されたキャッシュカード等を使用してATMから引き出された額(以下「ATM引出し額」という。)の総額をいう。ただし、ATM引出し額については、平成21年以前は被害総額に含まれず、22年から24年までは、オレオレ詐欺に係るもののみを計上している。)の推移(統計の存在する平成16年以降)は、1-1-2-10図(省略)のとおりである。令和3年は、還付金詐欺(税金還付等に必要な手続を装って被害者にATMを操作させ、口座間送金により財産上の不法の利益を得る電子計算機使用詐欺事件又は詐欺事件)の認知件数が、前年と比較して2,200件(122.0%)増加した一方、預貯金詐欺(親族、警察官、銀行協会職員等を装い、あなたの口座が犯罪に利用されており、キャッシュカードの交換手続が必要であるなどの名目で、キャッシュカード、クレジットカード、預貯金通帳等をだまし取る(脅し取る)もの)の認知件数は、前年と比較して1,704件(41.2%)減少した。3年の特殊詐欺全体としての被害総額は、約282億円(前年比1.1%減)であった(警察庁刑事局の資料による。)
- 特別法犯全体では、43年に交通反則通告制度が施行されたことにより大幅に減少した後、50年代は200万人台で推移していたが、62年に同制度の適用範囲が拡大された結果、再び大幅に減少した。平成元年から11年までは増減を繰り返していたが、12年からは22年連続で減少しており、18年からは、昭和24年以降における最少を記録し続けている。他方、道交違反を除く特別法犯では、平成13年から増加し、19年(11万9,813人)をピークとして、その後は増減を繰り返しながら緩やかな減少傾向にあり、令和3年は8万4,482人(前年比3,855人(4.4%)減)であった
- 銃刀法違反は、平成21年(6,989人)をピークに一時減少傾向となったが、24年以降はおおむね横ばいとなっており、令和3年は5,401人(前年比7.2%減)であった。なお、3年6月、同法が改正され(令和3年法律第69号)、人の生命に危険を及ぼし得る威力を有するクロスボウについて、所持の禁止の対象とするとともに、所持許可制に関する規定を整備し、不法所持に対する罰則の新設等が行われた(4年3月施行)。
- マネー・ローンダリング対策
- 平成元年(1989年)にG7サミットの宣言を受けて設立された金融活動作業部会(FATF:Financial Action Task Force)は、平成2年(1990年)にマネー・ローンダリング対策に関する40の勧告(平成8年(1996年)及び平成15年(2003年)に改訂)を、平成13年(2001年)にテロ資金供与に関する8の特別勧告(平成16年(2004年)に改訂され、9の特別勧告となった。)をそれぞれ採択し、平成24年(2012年)には、従来の40の勧告及び9の特別勧告を統合・合理化する一方で、大量破壊兵器の拡散に関与する者の資産凍結の実施、法人・信託等に関する透明性の向上、マネー・ローンダリング及びテロ資金供与の温床となるリスクが高い分野における対策の重点化等を求める勧告を採択した。
- 我が国も、FATF参加国の一員として、犯罪収益移転防止法に基づき、金融機関等の特定事業者による顧客の身元等の確認や疑わしい取引の届出制度等の対策を実施し、国家公安委員会が疑わしい取引に関する情報を外国関係機関に提供するなどしているほか、金融庁が共同議長を務めるFATFの政策企画部会やその他の作業部会において、暗号資産を始めとする新たな規範の策定及びその実施に向けた議論・検討において主導的な役割を果たすなどしており、マネー・ローンダリング対策及びテロ資金供与対策における国際的な連携に積極的に参加している。
- 国内においては、平成26年(2014年)、いわゆるマネロン・テロ資金対策関連三法が成立し、(1)公衆等脅迫目的の犯罪行為のための資金の提供等の処罰に関する法律の一部を改正する法律(平成26年法律第113号)により、公衆等脅迫目的の犯罪行為を実行しようとする者に対する資金以外の利益の提供に係る行為についての処罰規定等が整備され、(2)犯罪収益移転防止法の改正(平成26年法律第117号)により、疑わしい取引の届出に関する判断の方法、外国所在為替取引業者との契約締結の際の確認義務、犯罪収益移転危険度調査書の作成等に係る国家公安委員会の責務等が定められたほか、(3)国際連合安全保障理事会決議第1267号等を踏まえ我が国が実施する国際テロリストの財産の凍結等に関する特別措置法(平成26年法律第124号。いわゆる国際テロリスト財産凍結法)が制定され、国際テロリストとして公告又は指定された者に係る国内取引が規制されることとなった。
- FATFは、各国における勧告の遵守状況の相互審査を行っている。令和3年(2021年)6月には、FATFの全体会合において、第4次対日相互審査報告書が採択され、同年8月30日に公表された。
- 国内では、同報告書で指摘された事項に対応するべく、同月にマネロン・テロ資金供与・拡散金融対策政策会議が設置され、「マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策の推進に関する行動計画」が策定され、同行動計画に基づき、令和4年(2022年)5月に「マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策の推進に関する基本方針」が決定された。同基本方針では、我が国を取り巻くリスク情勢と我が国のマネロン・テロ資金供与・拡散金融対策の方向性を確認することで、一層の関係省庁間の連携強化を図り、対策の効果を高めていくこととしている
- 汚職・腐敗対策
- 平成9年(1997年)、経済協力開発機構(OECD:Organisation for Economic Co-operation and Development)において、国際商取引における外国公務員に対する贈賄の防止に関する条約が採択された。我が国は、この条約を締結済みであり、その国内担保法として、平成10年(1998年)、不正競争防止法(平成5年法律第47号)の改正により外国公務員等に対する不正の利益の供与等の罪が新設され(平成11年2月施行)、同罪については、その後、国民の国外犯処罰規定の追加、自然人に対する罰則強化、法人に対する公訴時効期間の延長等の改正がなされている。
- 国連は、平成15年(2003年)、自国及び外国の公務員等に係る贈収賄や公務員による財産の横領等の腐敗行為の犯罪化のほか、腐敗行為により得られた犯罪収益の他の締約国への返還の枠組み等について定めた腐敗の防止に関する国際連合条約を採択した。我が国は、平成18年(2006年)に同条約の締結について国会の承認を受け、平成29年(2017年)に同条約を締結した。
- 令和3年(2021年)には、国連腐敗特別総会が開催され、腐敗対策に関する政治宣言が採択された。
- サイバー犯罪対策
- 平成13年(2001年)に欧州評議会において採択されたサイバー犯罪に関する条約は、(1)コンピュータ・システムに対する違法なアクセス、コンピュータ・ウイルスの製造等の行為の犯罪化、(2)コンピュータ・データの捜索・押収手続の整備等、(3)捜査共助・犯罪人引渡し等について定めたものである。我が国は、平成24年(2012年)、同条約を締結した。この条約の国内担保法として、平成23年(2011年)、情報処理の高度化等に対処するための刑法等の一部を改正する法律(平成23年法律第74号)が成立し、不正指令電磁的記録作成等の罪が新設されるなどした。
- 犯罪少年の薬物犯罪においては、昭和47年に毒劇法が改正されてシンナーの乱用行為等が犯罪とされた後、同法違反が圧倒的多数を占め、その検挙人員(警察が検挙した者に限る。以下この項において同じ。)は、57年にピーク(2万9,254人)を迎え、その後は大きく減少し、令和3年は4人であった。
- 犯罪少年による覚醒剤取締法、大麻取締法及び麻薬取締法の各違反の検挙人員の推移(昭和50年以降)は、3-1-2-3図(省略)のとおりである。覚醒剤取締法違反は、57年(2,750人)及び平成9年(1,596人)をピークとする波が見られた後、10年以降は大きく減少し、令和3年は114人(前年比18人増)であった。大麻取締法違反は、平成6年(297人)をピークとする波が見られた後、増減を繰り返していたが、26年から8年連続で増加しており、令和3年は955人(前年比102人(12.0%)増)であった。麻薬取締法違反は、昭和50年以降、おおむね横ばいないしわずかな増減にとどまっていたが、平成29年から増加傾向にある。
- 少年の受刑者については、心身が発達段階にあり、可塑性に富んでいることから、刑事施設ではその特性に配慮した処遇を行っている。すなわち、処遇要領の策定に関しては、導入期、展開期及び総括期に分けられた処遇過程ごとに、矯正処遇の目標及びその内容・方法を定めている。また、矯正処遇の実施に関しては、教科指導を重点的に行い、できる限り職業訓練を受けさせ、一般作業に従事させる場合においても、有用な作業に就業させるなどしている。さらに、令和4年4月1日以降、改善指導の実施に関しても、犯した罪の大きさや被害者等の心情等を認識させるとともに、出所後の進路選択や生活設計を具体的に検討させ、社会復帰に対する心構えを身に付けさせるよう配慮するほか、民法の一部を改正する法律(平成30年法律第59号)の施行により成年年齢が引き下げられたことを踏まえ、18歳以上の少年の受刑者については、民法上成年として扱われる年齢であることに鑑み、各種法令上の成年としての権利とそれに伴う責任等について理解させ、成年としての自覚を促すよう配慮することとされた。
- 加えて、少年の受刑者ごとに1人以上の職員を指定し(個別担任制)、その個別担任において、他の職員と緊密な連携を図りつつ、個別面接、日記指導等の個別に行う指導を継続的に実施している。なお、少年院において刑の執行をするときには、少年には、矯正処遇ではなく、矯正教育を行
- 覚醒剤取締法違反
- 覚醒剤取締法(昭和26年法律第252号)違反(覚醒剤に係る麻薬特例法違反を含む。以下この項において同じ。)の検挙人員(特別司法警察員が検挙した者を含む。)の推移(昭和50年以降)は、29年(5万5,664人)をピークとして減少した後、増減を繰り返していたが、45年から増加傾向となり、59年には31年以降最多となる2万4,372人を記録した。その後、減少傾向にあったが、平成7年から増加に転じ、9年には1万9,937人に達した。13年からは、減少傾向にあり、令和3年は7,970人(前年比7.9%減)であった
- 覚醒剤取締法違反の年齢層別の検挙人員(警察が検挙した者に限る。)の推移(最近20年間)は、20歳未満、20歳代及び30歳代の検挙人員は、減少傾向にある。令和3年の検挙人員の年齢層別構成比を見ると、40歳代が最も多く(32.3%)、次いで、50歳以上(29.9%)、30歳代(23.3%)、20歳代(13.0%)、20歳未満(1.5%)の順であった。
- なお、令和3年の覚醒剤取締法違反の検挙人員(就学者に限る。)を就学状況別に見ると、大学生が18人(前年比10人増)であり、高校生が10人(同1人減)、中学生は1人(同1人増)であった(警察庁刑事局の資料による。)
- 令和3年に覚醒剤取締法違反により検挙された者(警察が検挙した者に限る。)のうち、営利犯で検挙された者及び暴力団構成員等(暴力団構成員及び準構成員その他の周辺者をいう。以下この項において同じ。)の各人員を違反態様別に見たものである。同年の営利犯で検挙された者の比率は5.8%であり、暴力団構成員等の比率は39.0%であった。
- 覚醒剤取締法違反の検挙人員(警察が検挙した者に限る。)のうち、外国人の比率は、平成20年以降、5%台から8%台で推移しており、令和3年は7.3%(568人)であった。国籍等別に見ると、韓国・朝鮮(117人、20.6%)が最も多く、次いで、ブラジル(103人、18.1%)、フィリピン、ベトナム(それぞれ77人、13.6%)の順であった(警察庁刑事局の資料による。)。なお、これら国籍等別の検挙人員を見るに当たっては、各国籍等別の新規入国者数・在留者数に違いがあることに留意する必要がある。
- 大麻取締法違反等
- 大麻取締法(昭和23年法律第124号)及び麻薬取締法の各違反(それぞれ、大麻及び麻薬・向精神薬に係る麻薬特例法違反を含む。以下この項において同じ。)の検挙人員(特別司法警察員が検挙した者を含む。)の推移(昭和50年以降)は、大麻取締法違反は、平成6年(2,103人)と21年(3,087人)をピークとする波が見られ、22年以降は減少していたが、26年から8年連続で増加している。29年からは、昭和46年以降における最多を記録し続けており、令和3年は5,783人(前年比9.9%増)であった
- 大麻取締法違反の年齢層別の検挙人員(警察が検挙した者に限る。)の推移(最近10年間)は、平成24年以降、20歳代及び30歳代で全検挙人員の約7~8割を占める状況が続いているが、30歳代の検挙人員が令和元年以降3年連続で減少したのに対し、20歳代の検挙人員は、26年から増加し続けており、令和3年は2,823人(前年比11.1%増)であった。一方、20歳未満の検挙人員も、平成26年から増加し続けており、令和3年は994人(同12.1%増)であった。
- なお、令和3年の大麻取締法違反の検挙人員(就学者に限る。)を就学状況別に見ると、中学生が8人(前年と同じ)、高校生が186人(前年比27人増)、大学生が232人(同13人増)であった(警察庁刑事局の資料による。)。
- 覚醒剤等の押収量の推移
- 覚醒剤等の薬物の押収量(警察、税関、海上保安庁及び麻薬取締部がそれぞれ押収した薬物の合計量)の推移(最近5年間)は、4-2-2-1表(省略)のとおりである。覚醒剤の押収量は、令和元年に平成元年以降最多の2,649.7kgを記録したが、令和2年(824.4kg)は前年の3分の1以下に急減し、3年は998.7kg(前年比21.1%増)であった
- 密輸入事案の摘発の状況
- 覚醒剤(覚醒剤原料を含む。以下この項において同じ。)及び大麻の密輸入事案(税関が関税法(昭和29年法律第61号)違反で摘発した事件に限る。ただし、警察等他機関が摘発した事件で、税関が当該事件に関与したものを含む。以下この項において同じ。)の摘発件数の推移(最近5年間)を形態別に見ると、覚醒剤の「航空機旅客(航空機乗組員を含む。以下この項において同じ。)による密輸入」は、前年の約10分の1に急減した令和2年(23件)に引き続き、3年も大きく減少し、5件(前年比78.3%減)であった。覚醒剤の「航空貨物(別送品を含む。)を利用した密輸入」は、2年(20件)は急減したが(前年比81.3%減)、3年は50件と前年の2.5倍に増加した。大麻の「航空機旅客による密輸入」も、前年の約3分の1に急減した2年(21件)に引き続き、3年も大きく減少し、6件(前年比71.4%減)であったが、大麻の「国際郵便物を利用した密輸入」は、平成30年以降高止まりの状況にあり、令和3年は159件(同10.4%増)であった。
- 令和3年における覚醒剤の密輸入事犯の摘発件数を仕出地別に見ると、地域別では、アジア(30件)が最も多く、次いで、ヨーロッパ(24件)、北米(19件)の順であり、国・地域別では、米国(14件)が最も多く、次いで、マレーシア(11件)、英国(9件)の順であった(財務省関税局の資料による。)。
- 矯正
- 覚醒剤取締法違反の入所受刑者人員の推移(最近20年間)を男女別に見るとともに、これを入所度数別に見ると、4-2-3-4図(省略)のとおりである。令和3年の男性の入所受刑者は、3,530人(前年比205人減)であり、3度以上の者が61.9%を占め、同年の女性の入所受刑者は、541人(同91人減)であり、初入者が42.0%を占めた。男性は、入所受刑者全体のうち入所度数が3度以上の者の割合が一貫して最も高いのに対し、女性は、初入者の割合が一貫して最も高い
- 組織的犯罪・暴力団犯罪
- 令和3年における組織的犯罪処罰法違反の検察庁新規受理人員のうち、暴力団関係者(集団的に又は常習的に暴力的不法行為を行うおそれがある組織の構成員及びこれに準ずる者をいう。)は47人(7.2%)であった(検察統計年報及び法務省大臣官房司法法制部の資料による。)。
- なお、平成29年法律第67号による組織的犯罪処罰法の改正により、テロ等準備罪が新設された(平成29年7月施行)が、同罪の新設から令和3年まで、同罪の受理人員はない。
- 暴力団対策法により、令和3年末現在、25団体が指定暴力団として指定されており、六代目山口組、神戸山口組、絆會(任侠山口組)、池田組、住吉会及び稲川会に所属する暴力団構成員は、同年末現在、約9,100人(前年末比約800人減)であり、全暴力団構成員の約4分の3を占めている(警察庁刑事局の資料による。)。
- 令和3年に暴力団対策法に基づき発出された中止命令は866件(前年比268件減)、再発防止命令は37件(同15件減)であった(警察庁刑事局の資料による。)。
- また、平成24年法律第53号による暴力団対策法の改正により導入された特定抗争指定暴力団等の指定や特定危険指定暴力団等の指定を含む市民生活に対する危険を防止するための規定に基づき、令和4年6月30日現在、2団体が特定抗争指定暴力団等に指定され、1団体が特定危険指定暴力団等として指定されている(官報による。)。
- 暴力団関係者(犯行時に暴力団対策法に規定する指定暴力団等に加入していた者及びこれに準ずる者をいう。以下(2)において同じ。)の入所受刑者人員及び暴力団関係者率(入所受刑者人員に占める暴力団関係者の比率をいう。)の推移(最近20年間)は、令和3年の入所受刑者中の暴力団関係者について、その地位別内訳を見ると、幹部220人、組員359人、地位不明の者97人であった(矯正統計年報による。)
- 令和3年における入所受刑者のうち、暴力団関係者の年齢層別構成比を見ると、40歳代が30.8%と最も高く、次いで、50歳代(30.3%)、30歳代(17.2%)、20歳代(10.4%)、60歳代(7.4%)の順であった(矯正統計年報による。)
- 令和3年の仮釈放者の保護観察開始人員のうち、暴力団関係者(保護観察開始時までに暴力団対策法に規定する指定暴力団等との交渉があったと認められる者をいう。以下(3)において同じ。)の人員及び仮釈放者の総数に占める比率は、840人、7.8%(前年比0.4pt低下)であり、そのうち、一部執行猶予者の暴力団関係者は128人であった。3年の保護観察付全部・一部執行猶予者の保護観察開始人員のうち、暴力団関係者の人員及び保護観察付全部・一部執行猶予者の総数に占める比率は、220人、6.7%(同0.0pt上昇)であり、そのうち、保護観察付一部執行猶予者の暴力団関係者は185人であった(保護統計年報による。)
- サイバー犯罪
- サイバー犯罪(不正アクセス禁止法違反、コンピュータ・電磁的記録対象犯罪その他犯罪の実行に不可欠な手段として高度情報通信ネットワークを利用する犯罪をいう。)の検挙件数の推移(最近20年間)は、サイバー犯罪の検挙件数は、最近20年間では、平成15年以降増加傾向にあり、令和3年は1万2,209件(前年比2,334件(23.6%)増)と、大きく増加した。
- 令和3年には、感染すると端末等に保存されているデータを暗号化して使用できない状態にした上で、そのデータを復号する対価として金銭を要求する不正プログラムである「ランサムウエア」による被害が拡大したことが確認されている
- 不正アクセス行為の認知件数については、増減を繰り返しながら推移し、令和3年は1,516件(前年比1,290件(46.0%)減)であった。
- 令和3年の不正アクセス行為の認知件数について、被害を受けた特定電子計算機(ネットワークに接続されたコンピュータをいう。)のアクセス管理者(特定電子計算機を誰に利用させるかを決定する者をいう。)別の内訳を見ると、被害は、「一般企業」が圧倒的に多く(1,492件)、「行政機関等」は15件、「プロバイダ」は5件、「大学、研究機関等」は4件であった。また、不正アクセス行為後の行為の内訳を見ると、「インターネットバンキングでの不正送金等」が最も多く(693件、45.7%)、次いで、「インターネットショッピングでの不正購入」(349件、23.0%)、「メールの盗み見等の情報の不正入手」(175件、11.5%)、「知人になりすましての情報発信」(71件、4.7%)の順であった。「インターネットバンキングでの不正送金等」は、前年と比較して1,154件(前年比62.5%)減少しプロバイダタバー警察局、総務省サイバーセキュリティ統括官及び経済産業省商務情報政策局の資料による。)。
- コンピュータ・電磁的記録対象犯罪(電磁的記録不正作出・毀棄等、電子計算機損壊等業務妨害、電子計算機使用詐欺及び不正指令電磁的記録作成等)、不正アクセス禁止法違反等の検挙件数の推移(最近5年間)は、4-5-2-2表のとおりである。不正アクセス禁止法違反の検挙件数は、近年、増減を繰り返しており、令和3年は429件(前年比29.6%減)であった。
- サイバー犯罪のうち、不正アクセス禁止法違反及びコンピュータ・電磁的記録対象犯罪以外の犯罪(インターネットを利用した詐欺や児童買春・児童ポルノ禁止法違反等、犯罪の実行に不可欠な手段として高度情報通信ネットワークを利用する犯罪)の検挙件数の推移(最近5年間)は、検挙件数は、平成29年から5年連続で増加し、令和3年は1万1,051件(前年比27.0%増)であった。3年の検挙件数を見ると、詐欺は前年より大幅に増加した(同166.5%増)。性的な事件のうち、児童ポルノに係る犯罪は前年より1.9%増加し、青少年保護育成条例違反は前年より6.0%減少した。
- 令和3年におけるSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス。ただし、インターネット異性紹介事業(出会い系サイト)を除く。)に起因する事犯の被害児童数の総数は1,812人であり、主な罪名別に見ると、青少年保護育成条例違反が665人と最も多く、次いで、児童買春・児童ポルノ禁止法違反のうち、児童ポルノ所持、提供等(657人)、児童買春(336人)の順であった(警察庁生活安全局の資料による。)
- 高齢者犯罪
- 我が国の総人口は、令和3年10月1日現在、1億2,550万人で、高齢者人口は65歳以上では3,621万人(総人口に占める割合は28.9%)であり、70歳以上では2,835万人(同22.6%)である(総務省統計局の人口資料のうち、人口推計による。)。
- 年齢層別の刑法犯検挙人員及び高齢者率(刑法犯検挙人員に占める高齢者の比率をいう。以下この節において同じ。)の推移(最近20年間)を総数・女性別に見ると、高齢者の検挙人員は、平成20年にピーク(4万8,805人)を迎え、その後高止まりの状況にあったが、28年から減少し続けており、令和3年は4万1,267人(前年比1.0%減)であった。このうち、70歳以上の者は、平成23年以降高齢者の検挙人員の65%以上を占めるようになり、令和3年は76.3%に相当する3万1,507人(同1.0%増)となった。高齢者率は、他の年齢層の多くが減少傾向にあることからほぼ一貫して上昇し、平成28年以降20%を上回り、令和3年は23.6%(同0.7pt上昇)であった。
- 女性高齢者の検挙人員は、平成24年にピーク(1万6,503人)を迎え、その後高止まり状況にあったが、28年から減少し続けており、令和3年は1万3,162人(前年比1.0%減)であった。このうち、70歳以上の女性は、平成23年以降女性高齢者の検挙人員の7割を超えるようになり、令和3年は82.3%に相当し、前年と同じ1万831人であった。女性の高齢者率は、平成29年(34.3%)まで上昇し続けた後は横ばいで推移し、令和3年は33.5%(同0.6pt低下)であった。
- 全年齢層と比べて、高齢者は窃盗の構成比が高いが、特に、女性高齢者は、約9割が窃盗であり、そのうち万引きによるものの構成比が約8割と顕著に高い。
- 外国人犯罪・非行
- 外国人新規入国者数は、平成25年以降急増し続け、令和元年には約2,840万人に達したが、2年2月以降、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止のため、入管法に基づき入国拒否を行う対象地域の指定を始めとした水際対策が開始されたことにより大幅な減少に転じ、同年は358万1,443人(前年比2,482万1,066人(87.4%)減)であり、3年は15万1,726人(同342万9,717人(95.8%)減)であった。3年における外国人新規入国者数を国籍・地域別に見ると、ベトナムが2万4,623人(同72.9%減)と最も多く、次いで、中国(台湾及び香港等を除く。)1万9,374人(同97.7%減)、米国1万3,631人(同93.3%減)の順となっている。在留資格別の構成比は、短期滞在が47.3%と最も高く、次いで、技能実習(15.4%)、留学(7.7%)の順であった(出入国在留管理庁の資料による。)。
- 在留外国人の年末人員(中長期在留者と特別永住者の合計数)は、27年以降過去最多を更新し続けていたが、令和2年(288万7,116人)に減少に転じ(前年比1.6%減)、3年は276万635人(同4.4%減)であった。同年における在留外国人の人員を国籍・地域別に見ると、中国(台湾を除く。71万6,606人)が最も多く、次いで、ベトナム(43万2,934人)、韓国(40万9,855人)の順であった(出入国在留管理庁の資料による。)
- 令和3年における来日外国人による窃盗及び傷害・暴行の検挙件数を国籍別に見ると、窃盗は、ベトナムが2,653件(検挙人員937人)と最も多く、次いで、中国1,166件(同603人)、ブラジル303件(同107人)の順であった。傷害・暴行は、中国が245件(同299人)と最も多く、次いで、ベトナム165件(同198人)、フィリピン101件(同116人)の順であった(警察庁の統計による。)。なお、これら国籍別の検挙件数等を見るに当たっては、各国籍別の新規入国者数・在留者数に違いがあることに留意する必要がある
- 来日外国人による特別法犯の検挙件数及び検挙人員は、いずれも、16年をピークに24年まで減少した後、25年からの増減を経て、28年から5年連続で増加していたが、令和3年は減少に転じ、検挙件数6,788件(前年比1,565件(18.7%)減)、検挙人員5,104人(同1,018人(16.6%)減)であった
- 入管法違反の検挙件数は、平成17年から減少していたところ、25年から27年までの増減を経て、28年から増加し続けていたが、令和3年は減少に転じ、4,562件(前年比1,972件(30.2%)減)であった。3年における入管法違反の検挙件数を違反態様別に見ると、不法残留が2,906件と最も多く、次いで、旅券等不携帯・提示拒否(在留カード不携帯・提示拒否及び特定登録者カード不携帯・提示拒否を含む。)663件、偽造在留カード所持等(偽造在留カード行使及び提供・収受を含む。)517件、資格外活動217件の順であった(警察庁刑事局の資料による。)。
- 令和3年における来日外国人による入管法違反及び覚醒剤取締法違反の検挙件数を国籍別に見ると、入管法違反は、ベトナムが2,109件(検挙人員1,429人)と最も多く、次いで、中国955件(同637人)、タイ325件(同265人)の順であった。覚醒剤取締法違反は、総数が444件(同335人)であり、ブラジルが94件(同66人)と最も多く、次いで、ベトナム86件(同72人)、フィリピン73件(同55人)の順であった(警察庁の統計による。)。なお、これら国籍別の検挙件数等を見るに当たっては、各国籍別の新規入国者数・在留者数に違いがあることに留意する必要がある
- 再犯・再非行の概況
- 再犯者の人員は、平成8年(8万1,776人)を境に増加し続けていたが、18年(14万9,164人)をピークとして、その後は漸減状態にあり、令和3年は平成18年と比べて43.0%減であった。他方、初犯者の人員は、12年(20万5,645人)を境に増加し続けていたが、16年(25万30人)をピークとして、その後は減少し続けており、令和3年は平成16年と比べて64.0%減であった。再犯者の人員が減少に転じた後も、それを上回るペースで初犯者の人員が減少し続けたこともあり、再犯者率は9年以降上昇傾向にあったが、令和3年は48.6%(前年比0.5p低下)であった
- 有前科者の人員は、平成18年(7万7,832人)をピークに減少し続けているが(令和3年は前年比4.3%減)、20歳以上の刑法犯検挙人員総数が減少し続けていることもあり、有前科者率は、平成9年以降27~29%台でほぼ一定している。令和3年の有前科者を見ると、前科数別では、有前科者人員のうち、前科1犯の者の構成比が最も高いが、前科5犯以上の者も21.4%を占め、また、有前科者のうち同一罪名の前科を有する者は52.2%であった。
- 暴力団構成員等(暴力団構成員及び準構成員その他の周辺者をいう。)について、令和3年における20歳以上の刑法犯検挙人員の有前科者率を見ると、71.1%と相当高い(警察庁の統計による。)。
- 覚醒剤取締法違反により検挙された20歳以上の同一罪名再犯者者率は、平成24年以降上昇し続けていたが、令和3年は前年比で2.0pt低下した68.1%であった。
- 大麻取締法違反により検挙された20歳以上の同一罪名再犯者率は、平成16年(10.0%)を底として、翌年から上昇傾向に転じ、27年以降はおおむね横ばい状態で推移しており、令和3年は前年比で0.5pt上昇した24.2%であった。
- 再入者の人員は、平成11年から毎年増加した後、18年をピークにその後は減少傾向にあり、令和3年は9,203人(前年比4.5%減)であった。再入者率は、平成16年から28年まで毎年上昇し続けた後、低下傾向にあり、令和3年は57.0%(同1.0pt低下)であった。
- 女性について見ると、再入者の人員は、平成11年以降増加傾向にあったが、26年(996人)をピークにその後は減少し、令和3年は801人(前年比3.3%減)であった。3年における再入者率は、48.1%(同1.3pt上昇)であり、男性と比べると低い
- 総数の2年以内再入率は、平成11年に23.4%を記録した後、低下傾向にあり、令和元年に15.7%と初めて16%を下回り(政府は、2021年(令和3年)までに16%以下とすることを目標としていた。)、2年は15.1%(前年比0.5pt低下)であった。満期釈放者等も、平成11年に33.9%を記録した後、低下傾向にあり、20年以降は30%を下回り、令和2年は22.6%(同0.7pt低下)であった。仮釈放者の2年以内再入率は、平成23年以降わずかながら上昇し、25年から28年までは11%台で推移していたが、29年から低下し続け、令和2年は10.0%(同0.3pt低下)であった。2年の出所受刑者の2年以内再入率を、平成13年の出所受刑者と比べると、総数では6.5pt、満期釈放者等では9.7pt、仮釈放者では3.4pt、いずれも低下している。なお、令和2年の出所受刑者のうち一部執行猶予受刑者は1,489人であり、そのうち2年以内再入者は156人であった
- 再入者のうち、前刑出所日から2年未満で再犯に至った者が5割以上を占めている。出所から1年未満で再犯に至った者は34.4%であり、3月未満というごく短期間で再犯に至った者も9.4%いる。また、再入者のうち、前回の刑において一部執行猶予者で仮釈放となった者は290人、実刑部分の刑期終了により出所した者は107人であり、そのうち出所から1年未満で再犯に至った者は、それぞれ111人、45人であった(矯正統計年報による。)
- 犯罪被害
- 平成14年(認知件数248万6,055件、被害発生率1,950.1)までは増加・上昇傾向にあったが、同年をピークとして、それ以降は減少・低下し続け、令和3年は、共に平成14年の約5分の1以下であった
- 総数(この表に掲げた主な罪名の犯罪によって人が被害者となった認知件数の合計)に占める65歳以上の割合は、16.6%であり、これを罪名別に見ると、詐欺(52.3%)、殺人(27.4%)、横領(21.6%)の順に高い。
- 各年齢層別に女性被害者が占める割合が最も高いのは、65歳以上であった。年齢層ごとに女性が被害者となった認知件数を見ると、すべての年齢層において、窃盗が最も多く、次いで、13歳未満及び13~19歳では強制わいせつ、65歳以上では詐欺、それ以外の年齢層では暴行の順であった
- 新型コロナウイルス感染症と刑事政策
- 特殊詐欺を始めとした詐欺事案
- 大規模な自然災害が発生した後には、災害に便乗した義援金・寄付金などをかたった詐欺が発生するなど、特殊詐欺を実行する犯罪組織は、様々な社会の出来事に便乗した犯行を行う傾向があるところ、新型コロナウイルス感染症の感染拡大下においても、これに伴う人々の生活に対する不安や窮状につけ込んだ様々な手口による特殊詐欺事案が確認された。具体的には、行政機関の職員を名のる男から、同感染症関連の給付金の振込みに通帳等が必要であるから、職員を受取に向かわせる旨の電話を受けた事案や、息子を名のる男から、「会社を辞めた人が取引先から1,000万円を借りたが、コロナでうまくいかず行方不明になった。保証人の自分が返さないといけなくなった。」などと電話を受け、現金300万円をだまし取られた事案等が発生した。同感染症の感染拡大下において確認された特殊詐欺の予兆電話は様々なものがあり、「コロナの検査キットを送りますので家族構成を教えてください。」などと言って、新型コロナウイルス検査をかたったもの、「ワクチンが接種できるようになりました。後日返還するので、まず10万円を振り込んでください。」などと言って、ワクチンの優先接種をかたったもの、「コロナで会社が困っていれば500万から3,000万まで融資します。」などと言って、融資をかたったものなどが全国で相次いで確認された。これら同感染症に関連した特殊詐欺事案の認知件数は、令和2年は55件(被害額は約1億円)、3年は44件(被害額は約1億1,000万円)であり、検挙件数及び検挙人員は、2年は検挙件数13件、検挙人員16人、3年は検挙件数4件、検挙人員7人であった(警察庁刑事局の資料による。)。
- また、特殊詐欺以外にも、新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、マスクが品薄状態になった際には、インターネット上のショッピングサイトにおいてマスクの販売をかたり、利用者が代金を支払っても商品を送ってこない事案等も確認された。
- ヤミ金融事犯
- 新型コロナウイルス感染症の感染拡大下では、同感染症の影響等によって資金繰りが厳しくなった経営者に対し、法定利息を大幅に超える利息を受領する約定で金銭を貸し付ける契約をした出資法違反等の事件も発生しており、同感染症に関連したヤミ金融事犯の検挙事件数及び検挙人員は、令和2年は検挙事件数5事件、検挙人員23人、3年は検挙事件数4事件、検挙人員11人であった(警察庁生活安全局の資料による。)。
- サイバー犯罪等
- 新型コロナウイルス感染症の感染拡大下では、いわゆるフィッシング(実在する企業・団体等を装って電子メールを送り、その企業・団体等のウェブサイトに見せかけて作成した偽のウェブサイト(フィッシングサイト)を受信者が閲覧するよう誘導し、当該サイトでクレジットカード番号や識別符号を入力させて金融情報や個人情報を不正に入手する行為)の目的で、行政機関を装い、ワクチン接種や給付金の申請に関連した不審な電子メールを送付してフィッシングサイトへ誘導するなど、同感染症の感染拡大に乗じたサイバー犯罪やその疑いがある事案の発生も確認された。同感染症に関連するサイバー犯罪であると疑われる事案は、令和2年は887件、3年は257件確認された(警察庁サイバー警察局の資料による。)
- 持続化給付金制度の悪用事案
- 持続化給付金制度は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、特に大きな影響を受けている事業者に対して、事業の継続を支え、再起の糧となるべく、事業全般に広く使える給付金を支給することを目的とした制度であり、令和2年5月から3年2月までの間に約441万件の申請がなされ、約424万件の中小企業・個人事業者に約5.5兆円の給付金が支給されたが、これらの申請の中には、事業を実施していないのに実施しているように装う、売上げの減少理由が同感染症の影響によらないのにそうであるかのように装う、支給対象であるかのように売上高を装うなど、実際は同給付金の支給要件を満たさないのにこれを満たすかのように装った不正な申請が含まれていた。このような不正な申請により持続化給付金をだまし取った詐欺事案につき、3年末までの検挙件数及び検挙人員は、4年8月17日時点の集計値で検挙件数2,578件、検挙人員2,866人(立件された被害額は合計約25億6,000万円)であった(警察庁刑事局の資料による。)。なお、同月10日時点で、持続化給付金の給付要件を満たさないにもかかわらず誤って申請を行い受給したなどとして同給付金の自主返還の申出が行われた件数は2万2,982件であり、そのうち返還済み件数は1万6,159件、返還済み金額は約173億3,500万円であった(経済産業省の資料による。)
- 家賃支援給付金制度の悪用事案
- 家賃支援給付金制度は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い発出された緊急事態宣言の延長等により売上げの減少に直面する事業者の事業継続を下支えするため、事業者に対し、その事業のために占有する土地、建物の賃料負担を軽減する給付金の支給を目的とした制度であるが、同給付金の申請の中にも、賃料を実際よりも高く偽って申請するなどの不正な申請が含まれていた。このような不正な申請により家賃支援給付金をだまし取った詐欺事案につき、令和3年末までの検挙件数及び検挙人員は、4年8月17日時点の集計値で検挙件数64件、検挙人員61人(立件された被害額は合計約1億7,400万円)であった(警察庁刑事局の資料による。)。なお、同月10日時点で、家賃支援給付金の給付要件を満たさないにもかかわらず誤って申請を行い受給したなどとして同給付金の自主返還の申出が行われた件数は1,212件であり、そのうち返還済み件数は1,109件、返還済み金額は約8億6,900万円であった(経済産業省の資料による。)
- 雇用調整助成金・緊急雇用安定助成金制度の悪用事案
- 雇用調整助成金・緊急雇用安定助成金制度は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響により事業活動の縮小を余儀なくされた場合に、従業員の雇用維持を図るために、事業主に対して、休業手当等の一部を助成する制度であるが、これらの助成金の支給申請の中にも、雇用関係のない者を雇用関係があるように装ったり、休業の実態がないのに休業をしたことにするなどの不正な申請が含まれていた。このような不正な申請により雇用調整助成金・緊急雇用安定助成金をだまし取った詐欺事案につき、令和3年末までの検挙件数及び検挙人員は、4年8月17日時点の集計値で検挙件数24件、検挙人員23人(立件された被害額は合計約1億4,600万円)であった(警察庁刑事局の資料による。)
- 主要な犯罪の動向
- 刑法犯の認知件数は、平成15年から減少を続けているところ、令和元年までの5年間における年平均減少率(複数年にわたる減少率から、一年当たりの減少率を求めたもの)は9.2%であったが、2年は61万4,231件(前年比13万4,328件(17.9%)減)であり、3年は56万8,104件(同4万6,127件(7.5%)減)であった。2年及び3年は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、政府による緊急事態宣言が発出され、対象地域の都道府県においては、外出自粛を始めとした感染防止に必要な数々の協力要請がなされ、全国的に人の移動や社会経済活動が大きく抑制された。このような人の活動の変化は、刑法犯認知件数の動向にも少なくない影響をもたらしたと見ることができる。
- 平成27年から令和元年までの同月の認知件数の平均値を100とした場合における各月の指数を見ると、2年5月は50.0であり、同じ年の他の月と比べて顕著に少なかった。また、窃盗の認知件数の推移について、主要ターミナル駅滞在人口(人出)との関係を見ると、主要ターミナル駅滞在人口(人出)の減少・増加に伴い、窃盗の認知件数も減少・増加が見られた
- 住宅対象の侵入窃盗の減少は、外出自粛等の要請によるいわゆる「ステイホーム」の影響もあると考えられる
- 特殊詐欺は、給付金の支給等を始めとした種々の支援策やワクチンの接種に関連し、行政機関の職員等になりすまして現金等をだまし取ろうとする手口が報告されるなど、新型コロナウイルス感染症の感染拡大が認知件数を押し上げる方向に作用した可能性がある一方で、人流の減少が犯行を抑制する方向に作用した可能性もある。そこで、平成30年以降における月別の認知件数の推移を見ると、令和2年及び3年の月別の認知件数は、元年の同月の認知件数よりも少なかった(同感染症の感染拡大前の2年1月を除く。)。2年の認知件数は、全体で前年より19.6%減少したところ、月別に見ると、全国47都道府県の主要駅のうち多くにおいて滞在人口(人出)が大きく減少した4月及び5月は、それぞれ前年より16.4%、10.3%の減少に過ぎなかった一方、滞在人口(人出)の減少が小さかったにもかかわらず、7月は前年同月比31.8%減、11月は同30.9%減と大きく減少した。したがって、2年の認知件数は、近年では比較的少ない傾向であったことが認められるものの、多くの主要駅における滞在人口(人出)の減少との関係は確認できなかった。3年の認知件数は、全体で前年より7.0%増加したものの、元年と比べると14.0%低い水準であった。3年の滞在人口(人出)を月別に見ると、多くの主要駅において、1月及び2月は前年同月から大きく減少し、4月及び5月は大きく増加したが、特殊詐欺の認知件数を月別に見ると、1月(前年同月比16.8%減)及び2月(同8.7%減)は他の月よりも少ない傾向が見られた一方で、4月(同7.0%増)及び5月(同1.2%増)は他の月と比べて多い傾向が見られなかった
- サイバー犯罪の検挙件数は、近年増加し続けているところ、新型コロナウイルス感染症の世界的な流行による経済の不安定化などにより、直接的に金銭を求めるサイバー攻撃も増加している。特に最近国内でも被害が急増しているランサムウエアは、感染すると端末等に保存されているデータを暗号化して使用できない状態にした上で、そのデータを復号する対価として金銭を要求する不正プログラムである。7-3-3-2図(省略)は、令和2年下半期以降における企業・団体等におけるランサムウエア被害の報告件数の推移を見たものである。2年下半期には21件であった報告件数が、3年下半期には85件と前年同期の約4倍に増加した。元年には20.2%であったテレワーク導入企業の割合は、同感染症の感染拡大の影響もあり、2年には47.5%、3年には51.9%と急激に上昇したことから(総務省情報流通行政局の資料による。)、テレワークを実現するためのVPN機器の脆弱性が悪用され、ランサムウエア被害の増加につながった可能性がある。一方で、ランサムウエア被害の増加の要因としては、テレワークの増加以外にも、企業のグローバル化に伴う海外拠点ネットワークの脆弱性の悪用や攻撃手法の高度化・巧妙化・組織化が進んだことなども挙げられていることに留意が必要である
- 平成27年以降の覚醒剤及び大麻の密輸入事案の摘発件数の推移を入国者数(外国人の入国者数と日本人の帰国者数の合計)と対比して見ると、7-3-3-6図(省略)のとおりである。入国者数は、令和2年は元年より84.4%減少し、3年は2年より89.3%減少した。覚醒剤の密輸入事案の摘発件数は、2年は元年より83.1%減少し、大麻の密輸入事案の摘発件数は、2年は元年より15.1%減少した。覚醒剤の密輸入事案の摘発件数の多くは、航空機旅客による密輸入が占めていた(元年は53.9%)ことから、航空機旅客の減少の影響をより大きく受けたのに対し、大麻の密輸入事案の摘発件数の多くは、国際郵便物を利用した密輸入が占めていた(同69.0%)ことから、その影響を大きく受けなかった可能性が考えられる。なお、3年は、覚醒剤の密輸入事案の摘発件数に占める航空貨物の構成比が顕著に上昇した
- 外国人新規入国者数は、平成25年以降増加していたが、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止のため、令和2年2月に、入管法に基づく水際対策が開始され、さらに、同年4月に水際対策が強化されたことなどにより、大幅な減少に転じ、それに伴い、2年の在留外国人の年末人員も、前年から減少した。来日外国人による刑法犯の検挙人員の推移(平成27年以降)について、在留資格別、正規滞在・不法残留の別に見るとともに、正規滞在者指数(同年末現在の正規滞在者数を100とした場合における各年末の正規滞在者数の指数)及び不法残留者指数(28年1月1日現在の不法残留者数を100とした場合における各翌年1月1日現在の不法残留者数の指数)と対比して見たものである。正規滞在者指数及び不法残留者指数は共に、令和元年までは前年から増加し、2年及び3年に減少した(2年の技能実習の不法残留を除く。)。
- 刑法犯の検挙人員について見ると、技能実習は、2年に正規滞在、不法残留とも前年から大きく増加し(それぞれ前年比51.9%増、同45.1%増)、3年は不法残留につき前年から22.6%増加した。
- 短期滞在は、正規滞在につき、2年、3年とも前年から大きく減少した(それぞれ前年比47.7%減、同51.2%減)のに対し、不法残留については2年に大きく増加し、前年の2倍となった。留学は、正規滞在につき、2年、3年とも前年から減少したが、不法残留については、2年に前年から減少した後、3年は1.2%増加した。
- なお、各年末の正規滞在者数(指数)や各翌年1月1日現在の不法残留者数(指数)と、1年間に検挙された延べ人数である検挙人員を一概に比較することは困難であることに留意を要する。
- まとめ
- 特殊詐欺の令和2年における認知件数は、前年比19.6%減と大きく減少した。その原因や新型コロナウイルス感染症の影響の有無については断定できないものの、同感染症感染拡大下において、人と人との接触が避けられたことにより、面識のない被害者と対面して財物を詐取するなどの態様による犯行が困難となっていた可能性も考えられる。
- サイバー犯罪は、令和3年の検挙件数が前年比23.6%増と特に増加しており、企業・団体等におけるランサムウエア被害の報告件数についても3年下半期において前年同期から大きく増加しているが、その原因としては、テレワークの増加を含む様々な要因が考えられることからすると、今後、新型コロナウイルス感染症感染拡大が落ち着いたとしても、引き続き十分な警戒が必要である。
- 児童虐待や配偶者からの暴力の相談(対応)件数・検挙件数については、新型コロナウイルス感染症感染拡大以前から増加傾向又は高止まりが続いており、令和2年及び3年における増加又は高止まりが同感染症の影響によるものか否かは判然としない。もっとも、海外では、都市封鎖下において、家庭内暴力が増加したことが報告されている地域もある。我が国においても、外出自粛等により加害者に監視され続けている状態で通報等が困難であった被害者が存在した可能性があり、暗数の存在も考えられるところである。
- 違法薬物の密輸入は、新型コロナウイルス感染症感染拡大によって、大きな影響を受けた。令和2年は、特に携行型の犯行態様が多い覚醒剤について、航空機旅客による密輸入の摘発件数が前年から激減しており、これは入国者数激減に伴うものと言える。他方で、大麻については、国際郵便物を用した密輸入が多かったため、2年の摘発件数は大きく減少しておらず、同感染症の影響をそれほど受けなかった可能性が考えられる。なお、金の密輸入事件の処分件数についても、令和2事務年度(令和2年7月1日から3年6月30日まで)は前事務年度から激減しており、関税法改正による罰則強化や取締りの強化に加え、入国者数の激減により航空機旅客による犯行が困難となったこともその一因である可能性が考えられる。
- 来日外国人については、短期滞在の正規滞在者において、新規入国者数が大きく減少した影響を受け、令和2年及び3年の刑法犯検挙人員は大きく減少した。これに対し、技能実習の不法残留者においては、2年、3年共に刑法犯検挙人員は前年と比べて増加したが、不法残留者数自体が、2年1月1日時点で前年同日時点と比べると大きく増加しており、3年1月1日時点においても前年同日と比べて増加していることを考え合わせると、検挙人員の増加は滞在人口の増加に伴うものであった可能性もある
- コロナ禍における犯罪の動向等を踏まえた犯罪予防策
- 特殊詐欺等、人々の混乱や窮状につけ込んで冷静な判断を失わせる犯罪では、パンデミックも口実として利用される。これらを防止するためには、その手口を新聞やテレビ等で取り上げるなどして注意喚起することが必要である。
- また、給付金制度等を悪用した不正受給事案については、徹底した取締りとその公表により、詐欺によるものかは不明であるものの、多くの自主返納事案があった。取締りにより悪質事案を検挙するとともに、積極的な広報も行い、自主返納による被害回復を行うことも重要である。
- 刑法犯認知件数は、初めて緊急事態宣言が発出された令和2年4月及び5月に大きく減少しており、外出自粛等の影響により、犯行機会が減少したものと考えられる。刑法犯認知件数は、その後も前年同月比で大きく減少したまま推移したが、3年4月以降においては、前年同月比で減少傾向は続いていたものの、前年同月から増加した月もあった。「コロナ禍」が収束するか否かにかかわらず、今後の犯罪動向については予断を許さない状況にあると言え、引き続き4年以降の動向を注視していく必要がある。
- 児童虐待や配偶者からの暴力については、新型コロナウイルス感染症感染拡大下における外出自粛等の影響による暗数の増加も懸念されるところであり、法務総合研究所が実施している犯罪被害実態(暗数)調査を始め、可能な限りその実態解明に努めていくことも重要である。
- 薬物を始めとする密輸入事案については、今後、入国者数が増加するに伴って増加することも懸念されるところであり、引き続き徹底した取締りを行うなどの水際対策が重要である。
- サイバー犯罪については、新たな手口やその対策についての積極的広報を行うとともに、個人・企業・団体等において情報セキュリティ対策を行うなどの予防策を講じることが肝要である。
- 来日外国人については、今後再び新規入国者数が増加することが考えられることから、例えば、その資格の付与に当たっての審査を十分に実施するほか、入国後の生活状況等について、必要なフォローや受入先である事業者に対する監督を充実させることが犯罪予防にもつながると考えられる。来日外国人犯罪の動向についても、引き続き調査・分析を行い、有効な予防策等の検討を継続していく必要がある。
- 犯罪者・非行少年の生活意識と価値観
- 刑法犯により検挙された者について、犯行の動機別構成比を犯罪・非行類型(薬物事犯類型及び交通事犯類型を除く。以下この節において同じ。)別に見ると、犯行の動機として、粗暴犯類型では憤怒等、詐欺事犯類型では生活困窮等、性犯類型では性的欲求の構成比がそれぞれ最も高かった。動機不明の構成比は、重大事犯類型(9.9%)が、他の犯罪・非行類型(1.2~3.6%)よりも高かった
- 社会に対する満足度を対象者の年齢層別に見ると、対象者全体では、「満足」の構成比が30.5%であったが、少年の満足度が高い傾向が見られ、年長少年(48.4%)が最も高く、30歳代の者(15.9%)が最も低かった。「不満」の構成比は、50~64歳の者(23.8%)が最も高く、次いで、30歳代の者(21.5%)、年少少年(19.4%)の順であった。
- 社会を「不満」とする者の主要な理由についての該当率を見ると、対象者全体では、「金持ちと貧乏な人との差が大きすぎる」(54.7%)が最も高く、次いで、「正しいと思うことが通らない」(41.3%)、「まじめな人がむくわれない」(40.9%)の順であった。年齢層別に見ると、「金持ちと貧乏な人との差が大きすぎる」の該当率は30歳代の者(78.3%)が、「正しいと思うことが通らない」の該当率は50~64歳の者(50.0%)が、「まじめな人がむくわれない」は30歳代の者(52.2%)が、それぞれ最も高かった。
- 「悪い者をやっつけるためならば、場合によっては腕力に訴えてもよい」の項目について「賛成」に該当する者の構成比は、対象者全体では22.0%であったが、若年層における構成比が高い傾向が見られ、年少少年(28.6%)が最も高かった。「自分のやりたいことをやりぬくためには、ルールを破るのも仕方がないことだ」の項目について「賛成」に該当する者の構成比は、対象者全体では9.9%であった。年齢層別では、20歳代の者(18.2%)が最も高く、次いで中間少年(11.0%)、50~64歳の者(9.8%)の順であった。「義理人情を大切にすべきだ」の項目について「賛成」に該当する者の構成比は、対象者全体では73.7%であり、30歳代の者(84.5%)が最も高く、中間少年(51.2%)が最も低かった
- 人々が犯罪・非行に走る原因に対する意識を対象者の年齢層別に見ると、対象者全体では、「自分自身」(75.3%)の構成比が最も高く、次いで、「友達・仲間」(14.2%)、「家族(親)」(5.6%)の順であった。年齢層別では、年少少年は、「家族(親)」(10.8%)の構成比が顕著に高かった。中間少年は、「自分自身」(58.1%)の構成比が顕著に低く、「友達・仲間」(29.9%)の構成比が顕著に高かった。年長少年は、「自分自身」(70.3%)の構成比がやや低く、「友達・仲間」(18.8%)の構成比がやや高かった。50~64歳の者と65歳以上の者は、「自分自身」の構成比(それぞれ82.5%、85.2%)がやや高かった。「その他」とした者の具体的な記述を見ると、「育ってきた環境」や「社会の仕組み」など環境や社会を原因として挙げる者や「全て当てはまると思う」など「自分自身」、「家族(親)」及び「友達・仲間」の全てを原因として挙げる者が多く、年齢層ごとに大きな差は見られなかった。
- 平成元年以降の年齢層別の人口の推移は、少年を含む若年層の人口の割合が減少する一方、65歳以上の高齢者の人口が約2.5倍に増加するなど、少子高齢化が進んでいる。加えて、平均世帯人数が減少傾向にあるとともに(令和元年は2.39人)、ひとり親世帯数が増加傾向にあるほか、令和元年の共働き世帯数は、平成元年の約1.5倍に増加した一方、専業主婦世帯数は3分の2以下に減少しており、家族の形態が大きく変化してきている。
- 他方で、近時、携帯電話、インターネット等の通信手段の普及・利用率が高まり、特に、スマートフォン保有率、若年者を中心としたSNS利用率は著しく上昇した。平成28年度及び令和元年度に内閣府が実施した「子供・若者の意識に関する調査」を見ても、学校で出会った友人との関わり方について、「会話やメール等をよくしている」の質問は、その他の質問と比べて、「そう思う」の該当率が大きく上昇しているなど、コミュニケーションの手段についての変化が見られる。
- 高等学校等、大学・短期大学への進学率はいずれも上昇傾向にあり、高等学校の中途退学率は、令和2年に1.1%まで低下した。中学校及び高等学校における問題行動(不登校、暴力行為及びいじめ)は、中学校における不登校を除き、おおむね減少傾向にある一方、小学校における問題行動が増加傾向にあり、特に、暴力行為やいじめの増加が顕著である。
- 我が国の経済情勢や完全失業率は、リーマンショックや新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響等という特殊要因により一時的に低調になった時期はあるものの、基本的には、おおむね堅調に推移していると言える。教育程度別の就職率の推移を見ると、中学新卒者、高校新卒者及び大学新卒者は、令和3年にいずれも95%を超えるなど高い水準にある。一方、就職後1年間の離職率の推移を見ると、2年は、中学新卒者では31.0%と、高校新卒者の2倍以上、大学新卒者の約3倍も高く、就労が継続しにくい傾向もうかがえる。内閣府が実施した「国民生活に関する世論調査」の中の働く目的についての結果を見ると、「お金を得るために働く」の3年の構成比は、総数では6割を超えたが、年齢層が上がるほど低くなる傾向にあり、「社会の一員として、務めを果たすために働く」や「生きがいをみつけるために働く」といった目的の構成比が高くなる傾向がある。
- 特殊詐欺を始めとした詐欺事案
②公安調査庁 令和5年版「内外情勢の回顧と展望」
公安調査庁は、国内外の治安情勢をまとめた令和5年版「内外情勢の回顧と展望」を公表しています。「サイバー空間の広がりに伴う脅威の拡散」を特集として取り上げ、サイバー攻撃の脅威が深刻化しているとし、「国家が政治・軍事目的で、諜報や重要インフラ破壊といったサイバー戦能力を強化しているとみられる」と分析しています。また、ロシアによるウクライナ侵攻に関連したとみられるサイバー攻撃が相次いだほか、国際的に耳目を集める事象に関する偽情報に注目が集まったとし、「社会不安を利用して混乱を引き起こす可能性や、選挙など民主的プロセスへの影響に注意が必要だ」とも指摘しています。同じく「経済安全保障関連」が特集されており、中国企業にリクルートされた日本人技術者が、競合他社の技術者を勧誘したケースに言及、公安調査庁が2022年4月に新設した「経済安全保障特別調査室」を中心に動向を注視するとしています。
▼公安調査庁 令和5年「内外情勢の回顧と展望」の公表について
▼特集2経済安全保障関連
- 中国の製造業にとって国外に掌握され発展の阻害要因となっている「チョークポイント技術」について、習近平国家主席は、「問題の打開が差し迫った課題」との認識を示す(6月)とともに、「重要事業に力を集中できる我が国の社会主義制度の優位性を発揮」し、「科学技術のイノベーションに対する党・国家の指導を強化」することで、「戦略的主導権を勝ち取る必要がある」と表明し、科学技術政策に対する党の指導強化を改めて強調した(9月)。こうしたことから、中国は、党・政府の指導の下、国外からの「チョークポイント技術」の獲得に力を入れ、国産化を図っていくものとみられる。
- 一方、欧米諸国は、中国による国外からの技術等の獲得に懸念を示しており、米国連邦捜査局(FBI)は、「中国企業は、合弁企業を利用して外国企業の機密情報にアクセスしている」と警告したほか、「中国の経済スパイ活動が米国企業の倒産や雇用の喪失を招いている」と述べた(2月、レイFBI長官)。また、マッカラム英国保安局(MI5)長官は、「様々な方法で英国の優位性の奪取を企図している」と懸念を示した(7月)。さらに、日米両政府は、中国政府当局が、外国企業に対し、複合機等の設計・製造の全工程を中国国内で実施させる方針を示したことについて、「外国企業に対して技術移転を強制するものである」との懸念を表明した(7月)。
- こうした中、米国では、米軍のサプライヤー企業の元役員らが、米国の機密技術を中国等に不正輸出したとして、国際武器取引規制違反で起訴された(3月)。また、米国政府から研究助成金を受ける米国の大学教授が、中国の大学との契約状況を米国当局に報告しなかったなどとして有罪判決を受けた(4月)多様な手口で技術の獲得を図る中国国内外の技術・製品の獲得に向けた動向(4月)ほか、在米の中国系米国人が、中国の軍系大学にタービン技術を不正に持ち出すなどしたとして有罪判決を受けた(3月)。このほか、台湾当局は、高額の給与で台湾の技術者をリクルートしたとして、中国と関係していると指摘される複数の半導体関連の在台湾企業の施設への捜索、関係者への事情聴取などを含む捜査を実施した(3月、5月)。
- さらに、イタリア政府は、中国国有企業傘下の香港企業による軍用無人航空機企業の買収を認めない決定を下した(3月)ほか、英国政府は、1月に成立した「国家安全投資法」に基づき、香港企業による英国ソフトウエア企業の買収を認めない決定を下す(8月)など、各国において、安全保障上の懸念から、中国による企業買収を阻止する動きが見られた。
- 我が国には、依然として、半導体製造、素材等の分野で高い技術を有する企業・大学等が多く存在しており、我が国企業への出資を企図した事例や、中国企業にリクルートされた日本人技術者が自身の人脈を利用して競合他社の日本人技術者をリクルートする事例等が見受けられる。
- 中国による技術・人材の獲得手法が多様化・巧妙化する中、中国が自国内の製造能力や技術の向上のため、今後も、我が国関連企業の投資・買収や高度な技術を有する人材の招致を行うなど、我が国企業・大学等が有する重要技術・製品等の獲得を企図することが懸念される。
▼特集3サイバー空間の広がりに伴う脅威の拡散
- 機密情報の窃取、金銭の獲得、業務の妨害などを狙ったサイバー攻撃は、国内外で常態化するとともに、その手口も巧妙化している。また、国家が政治的、軍事的目的を達成するため、サイバー諜報や重要インフラの破壊といったサイバー戦能力を強化しているとされており、安全保障の観点でも、サイバー攻撃の脅威は深刻化している。
- 加えて、昨今のデジタル化の加速で、「公共空間」としてのサイバー空間の位置付けは重要性を増しており、人工衛星の稼働数の増加やその活用の拡大、ナビゲーションシステムやエンジン制御システム等の導入といった海事産業のIT化の進展も相まって、宇宙・海洋分野にもサイバー空間は拡大を続けている。そのため、サイバー攻撃が社会に及ぼす影響もあらゆる場面に拡大していると言える。
- 宇宙関連のサイバー攻撃については増加傾向にあるとされているところ、ロシアによるウクライナ侵略の1時間前、米国情報通信企業「Viasat」が運用する衛星通信網のネットワークがサイバー攻撃を受け、ウクライナで数千件、欧州全体で数万件の顧客に対する通信サービスが停止し、ドイツでは、数千基の風力タービンの遠隔監視ができなくなった(2月)。ウクライナの軍及び警察も同社の衛星を使用していたとされるところ、米国や英国は、同攻撃はロシアが関与したものであると発表し、ウクライナ軍の指揮管制の混乱が目的と指摘した(5月)。
- 海事関連のサイバー攻撃も増加している。セキュリティ企業の報告によると、海事産業の運用技術システムに対するサイバー攻撃は、平成29年(2017年)から令和2年(2020年)にかけて約10倍に増加したとされる。平成31年(2019年)2月には、米国・ニューヨークなどの港に向かって航行中の船舶のコンピュータ・システムがマルウエアに感染し、その機能が大幅に低下する事案が発生した。
- 同事案を受けて、米国沿岸警備隊が海事業界に対してセキュリティ対策の強化を勧告した(令和元年〈2019年〉7月)。令和4年(2022年)も、ドイツ、ベルギー及びオランダの港湾施設が相次いでサイバー攻撃を受け、石油ターミナルの業務などに支障が出たとの報道がある(1月)ほか、インドの港湾でも、ランサムウエアとみられるサイバー攻撃によって一部ターミナルの管理システムが停止する事案が発生した(2月)。
- 宇宙・海洋分野におけるサイバー空間の拡大も含めて、サイバー空間の現実社会への拡大・浸透がより一層進む中にあって、悪意ある主体の活動は、社会・経済の持続的な発展や国民生活の安全・安心に対する深刻な脅威となっている。サイバー空間における悪意ある主体の活動には、サイバー攻撃だけでなく、「偽情報(ディスインフォメーション)」の拡散も含まれる。偽情報については、社会不安を利用し、人々の認知、意思決定、行動などに影響を及ぼし、更なる混乱をじゃっ起する可能性があるほか、これが選挙に際してオンラインで流布されることについて、民主主義の基盤を脅かすとして欧米を中心に警戒が強まっていたところ、令和4年(2022年)は、国際的な事象に関連して流布された偽情報にも注目が集まった。
- 例えば、ロシアによるウクライナ侵略に際して、ロシア外務省報道官が「ウクライナがロシアとの国境付近で生物化学兵器の開発を行っていた証拠を得た」との主張を展開したが、米国大統領報道官はこれを否定した(3月)。また、「ウクライナ人武装勢力の拠点を襲撃した際、米国パスポートを持つ外国人傭兵の遺体が発見された」(4月17日付けロシア紙「コムソモリスカヤ・プラウダ」)との報道もなされたが、ワシントンポスト紙は、同パスポートの所持者にインタビューを行い、ロシア紙の報道が誤りであると報じた(4月)。
- また、米国のペローシ下院議長の台湾訪問(8月2~3日)に際して、中国国営メディアCCTVの記者が「中国軍機が台湾海峡を横断」などとブログに投稿し、同メディア等で拡散されたが、台湾の国防部は同報道を否定する発表を行った(8月)。加えて、台湾の国防部は、「台湾の桃園国際空港が中国人民解放軍によるミサイル攻撃を受けた」、「中国軍機が台湾軍機を撃墜した」といったSNS投稿は偽情報であるとして、台湾の市民に注意を呼び掛けた(8月)
- 我が国でも、同時期にTwitterで「ペローシ議長搭乗の航空機撃墜」との投稿(8月)が確認されたが、同投稿は、「Yahoo!Japan」のニュースサイトを装ったアカウントによるもので、公式アカウントにそのような投稿はなく、同ニュースサイトは、偽アカウントが発する情報への注意を呼び掛けた(8月)
- 国家が関与・支援するサイバー攻撃について、その実行者と所属する国家機関等を特定・公表する欧米当局の取組(パブリック・アトリビューション)は、令和4年(2022年)も以下のとおり継続している。
- 中国
- マッカラム英国保安局(MI5)長官とレイ米国連邦捜査局(FBI)長官は、中国政府及び中国共産党の脅威について共同会見を実施し、その中で、国家が背景にあるサイバー脅威主体による政府、民間部門への攻撃が観測されており、その活動が大規模かつ洗練されている旨指摘した(7月)。その際、MI5長官は、中国による航空宇宙企業への高度なサイバー攻撃を阻止した(5月)とも言及した。
- ロシア
- 英国は、ウクライナ政府機関等を標的としたウェブサイトの改ざん及びマルウエアの感染(1月)に関して、また、米国及び英国は、オンライン決済や銀行アプリの使用にも支障を来したとされるウクライナの金融機関等に対するDDoS攻撃(2月)に関して、それぞれロシアの軍情報機関が関与したと発表した(2月、5月)。また、ウクライナの政府機関や重要インフラ関連組織にマルウエアを感染させた(2月)とされるロシアの軍情報機関と関連を有するサイバー脅威主体について、ウクライナ政府は、同脅威主体がマルウエアを使用してウクライナの高圧変電所の制御システムを停止させようと試みたと発表した(4月)。さらに、ウクライナ侵略前から、ロシアの情報機関と関連を有するサイバー脅威主体が、NATO加盟国の外交機関から情報を窃取したとされるところ、これらロシアによる一連のサイバー攻撃について、英国国家サイバーセキュリティセンター長は、「ロシアは、2月のウクライナへの侵略を支援するため、一連の大規模なサイバー攻撃を開始した。おそらく史上最も持続的かつ集中的なサイバー作戦である」と評した(9月)。
- 北朝鮮
- 国連安保理北朝鮮制裁委員会専門家パネルは、令和3年(2021年)度の最終報告書及び令和4年(2022年)度の中間報告書を公表し(4月、10月)、北朝鮮のサイバー脅威主体が、関連する国連決議に違反して機微技術の入手を企図したサイバー攻撃を行っていることや、金融機関や暗号資産交換事業者を狙った活動を継続し、令和3年(2021年)から令和4年(2022年)にかけて、毎年数億ドル相当の暗号資産を窃取していることなどを指摘した。
- FBIは、3月に発覚した約6億ドル相当の暗号資産の窃取事案について、北朝鮮のサイバー脅威主体が実行したものと認められる旨の見解を表明した(4月)。また、米国財務省は、同主体に対する制裁措置を更新し、事案で用いられた暗号資産ウォレットアドレスを制裁リストに追加した(4月)ほか、北朝鮮が窃取した暗号資産の資金洗浄を支援したとされる暗号資産事業者を制裁対象に指定した旨発表した(5月、8月)。
- 暗号資産関連事業者等を標的とした北朝鮮のサイバー攻撃に関しては、我が国金融庁、警察庁及び内閣サイバーセキュリティセンターも、暗号資産取引に関わる個人・事業者に向けた注意喚起を行った(10月)ほか、外務省、財務省及び経済産業省も、北朝鮮のサイバー脅威主体「ラザルス・グループ」を資産凍結等の措置の対象者に追加する旨の発表を行った(12月)。
- イラン
- アルバニアのラマ首相は、同国政府機関等に対するサイバー攻撃(7月)に関して、イランによって組織・支援されたグループが関与した証拠が得られた旨の声明を発出し、イランとの即時断交を発表した(9月)。併せて、米国国家安全保障会議報道官は、アルバニアに対するサイバー攻撃について、責任はイランにあると結論付けたほか、米国財務省が、サイバー攻撃の実行を指揮したイラン情報省及び同長官を制裁対象に指定した旨発表した(9月)
- 中国
- 国家が関与・支援するサイバー脅威主体だけでなく、国際的な事象に関連して活動する非国家主体にも注目が集まった。非国家主体の中には、「アノニマス」のような国際ハッカー集団のほか、政府の呼び掛けに応じて攻撃に加わるIT技術者らなど、多様な思想的・社会的背景を持つ集団や個人が存在している。例えば、ロシアのウクライナ侵略以降、サイバー空間には、ロシア又はウクライナ支持派の集団・個人が現れ、それぞれが、ロシア又はウクライナ及びその支援国に対するサイバー攻撃に参加した。
- ロシアを支持し、「Killnet」を名のるハッカー集団は、ウクライナへの支援を理由に、米国の国際空港(3月)、ルーマニアの国防省等(4月)のウェブサイトにDDoS攻撃を実行したと報じられた。その後も、同集団は、ウクライナやNATO加盟国をサイバー攻撃の標的として名指しし(5月)、実際にリトアニアの行政機関(6月)、エストニアの200以上の組織(8月)等にDDoS攻撃を実行したとされる。
- 他方、ウクライナのミハイロ・フェドロフ副首相は、自身のツイッターで、同国IT軍の創設を告知し、世界中のIT技術者らに同軍への参加を要請するとともに、 Telegram内のチャンネル「IT ARMY of Ukraine」では、ロシア及びベラルーシに対するサイバー攻撃等を実施するよう呼び掛けた。
- 加えて、ベラルーシの反体制派ハッカー集団が反ロシアを掲げ、ロシア軍のベラルーシ領内での進行を阻止するため、ベラルーシ鉄道を攻撃したと主張した(1月)ほか、「アノニマス」の中には、ロシア政府を標的としている旨表明し(2月)、ロシア国内のプリンターを攻撃したと主張する(3月)グループも見られた。
- また、米国のペローシ下院議長の訪台当日以降、台湾の総統府、外交部、桃園国際空港等のウェブサイトに対するDDoS攻撃事案が発生したほか、ハッキングされた駅やコンビニのテレビモニターに同訪台を批判するメッセージが映し出された。その後、中国の愛国的ハッカー集団が、総統府、警察等に対するサイバー攻撃を実行した旨主張した(8月)。
- 社会のデジタル化の流れが継続する中で、「公共空間」としてのサイバー空間の位置付けはより重要性を増すとみられる。それに伴い、サイバー攻撃がもたらす脅威も深刻度を増すと考えられるところ、今後も、国家が関与・支援するサイバー脅威主体も含めた様々なサイバー脅威主体による我が国に対するサイバー攻撃は継続するとみられ、デジタル化の進展と並行してサイバーセキュリティ意識の向上が課題である。
- また、民主主義の基盤を脅かすおそれもある偽情報に対しては、他の情報との比較や情報の発信元の確認などを通じて、情報の真偽を適切に判断する力、いわゆるメディア情報リテラシーの向上が必要である
▼国外情勢
- 令和4年(2022年)は、アフガニスタンが国際テロの起点となることへの懸念が続く年となった。同国においては、「タリバン」が実権を掌握して(令和3年〈2021年〉8月)以降も、様々な国際テロ組織が活動を続けていると指摘された。中でも、同国を拠点とする「アルカイダ」については、協調関係にあるとされる「タリバン」が、「アルカイダ」に自由に活動できる環境をもたらしているとされた。このほか、同じく同国を拠点にテロを実行している「イラク・レバントのイスラム国」(ISIL)関連組織「ホラサン州」については、国際テロ実行のための能力を向上させる可能性が指摘された。このように、同国は、国際テロ組織が活発に活動し得る状況にあるとみられ、同国から派生して国際テロが起きる危険性がアフガニスタンを起点とする国際テロの懸念とアフリカを始めとする世界各地で続発する国際テロの脅威うかがえた。
- アフリカを始めとする世界各地では、ISIL、同関連組織、「アルカイダ」関連組織等によるテロが続発した。中でも、アフリカのサヘル諸国、ソマリア等では、両関連組織がテロを頻発させ、治安の更なる悪化が懸念された。シリア及びイラクでは、ISILが治安部隊や市民を狙ったテロを継続的に実行した。アフガニスタンやパキスタンでは、「ホラサン州」が耳目を引くテロを実行した。東南アジア地域では、ISIL関連組織が、取締りを受けながらも、従来から拠点とするフィリピン南部を中心に活動を続けた。このほか、欧州では、ノルウェーの首都オスロでイスラム過激主義者によるとされるテロが発生した(6月)。このように、世界各地で国際テロの脅威が続いた。
- 「イラク・レバントのイスラム国」(ISIL)は、最高指導者が2月と10月にそれぞれ死亡したことを受けて、素性を明らかにしないまま新最高指導者が就任したことを発表し、新最高指導者への服従のあかしとして、新たな忠誠の表明を求めた(3月、11月)。この要求に対し、自組織及び各地関連組織の戦闘員は、相次いで忠誠を表明した(3月、12月)。ISILは、いずれの最高指導者就任後も、戦闘員から改めて忠誠を取り付け、忠誠を誓う新最高指導者の下、組織の結束を誇示する「イラク・レバントのイスラム国」(ISIL)新最高指導者への新たな忠誠を要求様子を写したとされる画像を公開することで、組織の結束が維持されていることを誇示した。
- ISILによるテロ件数は、治安部隊や対ISIL有志連合の度重なる掃討作戦を受け、長期的にみて減少傾向が続いている。しかしながら、ISILは、依然としてシリア及びイラクに6,000~1万人の戦闘員を擁し、2,500万~5,000万ドルの資金を保持しつつ(7月、国連安保理報告書)、シリア及びイラクで小火器や即席爆発装置(IED)を用いて、治安部隊を待ち伏せて襲撃したり、同部隊に協力する市民を殺害したりするなどのテロを繰り返した
- ISILは、広報担当による声明やアラビア語週刊誌「アル・ナバア」を通じて、テロ実行を呼び掛けるとともに、自組織及び各地関連組織によるテロの死傷者数や破壊車両数等を戦果として継続的に発信した。このうち、4月に発出した広報担当による声明では、2月の最高指導者の死亡に対する報復が呼び掛けられ、シリア、イラク、アフガニスタン、ナイジェリア等で自組織及び各地関連組織によるテロが一時的に増加するなど、これに呼応する様子が見られた。
- そのほか、ISILは、アフリカの関連組織の勢力拡大を支援するため、令和2年(2020年)頃から、宣伝活動において「中央アフリカ州」、「西アフリカ州」等のアフリカの関連組織の活動を頻繁に取り上げ、その活動ぶりを称賛した。さらに、6月には、「アル・ナバア」において、イスラム教徒に対して「アフリカの地に移住せよ。アフリカはジハードの地である」と初めてアフリカへの移住を呼び掛けた。
- ISILは、活動の中心地であるシリア及びイラクにおいて、勢力をそがれながらも治安部隊等を標的とするテロを継続するとともに、活動が活発になりつつあるアフリカの関連組織に焦点を当てた宣伝活動を展開して自組織の影響力がシリア及びイラク以外にも及んでいることを強調することにより、今後も健在であることを示していくものとみられる。
- 米国はこれまで、世界各地において対テロ作戦を実施してきた中、バイデン大統領は、「アルカイダ」最高指導者ザワヒリをアフガニスタンの首都カブールで空爆によって殺害した旨発表した(8月)。また、米国のブリンケン国務長官は、プレス声明を発表し、「『タリバン』は、『アルカイダ』最高指導者をカブールに受け入れ、保護した」として、「タリバン」を批判するとともに、ザワヒリが「タリバン」の保護下にあったと指摘した(8月)。
- 一方、「タリバン」は、アフガニスタン国内メディアがカブールでの空爆発生を報じた(7月)当初は、空爆の発生自体を否定していたが、その後、米国のドローンによる空爆が行われたことを認め、米国を批判した。なお、「タリバン」は、8月の記者会見で、米国によるザワヒリ殺害発表について、「調査は完了していない」と主張し、同人のカブール滞在及び生死を明らかにしなかった
- 「アルカイダ」は、米国によるザワヒリ殺害発表以前から、イスラム共同体やムジャヒディン(聖戦士)の団結のほか、米国及びイスラエル権益に対する攻撃の必要性を主張する中、特に「タリバン」によるアフガニスタン掌握(令和3年〈2021年〉8月)以降、映像におけるザワヒリの登場回数を含め、声明等の発出件数を増加させるなど、宣伝活動を活発化させていた。
- 米国によるザワヒリ殺害発表以降も、「アルカイダ」は、サウジアラビア西部・ジッダで開催された「ジッダ安全保障開発サミット」(7月)にバイデン大統領が参加したことを捉え、米国、サウジアラビア等を批判した(8月)ことを皮切りに、声明等の発出を継続した。自組織最大の成果と位置付ける米国同時多発テロ事件の21周年に際しては、平成30年(2018年)以降続けてきたザワヒリ名の声明ではなかったものの、機関誌「ワン・ウンマ」(英語版第4号)等の中で、同事件の実行を改めて自賛したほか、ソマリア関連記事を掲載するなど、ソマリアへの関心をうかがわせた(9月)。また、ザワヒリ殺害発表後に同人が登場する初の声明を発出し、イスラムの地の解放に向けてイスラム共同体が団結することの必要性を強調した(9月)。ただし、これらの声明等では、いずれにおいてもザワヒリの生死が明らかにされなかった。
- このように「アルカイダ」は、米国によるザワヒリ殺害発表以降も声明等の発出を継続して、自らの正当性や存在感を示しつつ組織を運営していくものとみられる中、米国のアビザイド国家テロ対策センター所長は、「(『アルカイダ』によるテロの脅威は)依然として懸念される」との見解を示す(9月)など、今後の組織運営の行方と共に、国際テロ情勢への影響が注目される
- シリア及びイラクでは、「イラク・レバントのイスラム国」(ISIL)が治安部隊等を標的とするテロを繰り返したほか、自組織戦闘員が収容されている施設を襲撃し、数百人の戦闘員が脱走する事件を引き起こした(1月)(P.61「COLUMN:『イラク・レバントのイスラム国』(ISIL)の呼び掛けを受けた刑務所等襲撃事件が続発」)。イランでは、南部・ファールス州で、武装した男がシーア派の宗教施設を襲撃し、ISILが約4年ぶりに同国内での犯行を主張した(10月)
- ISILが主張したアフリカでのテロ件数は、令和4年(2022年)になって初めて、シリア及びイラクでのテロ件数を上回った。特に、アフリカ各地では、今後もISIL関連組織、「アルカイダ」関連組織等によるテロが続発するとみられる
- アフガニスタンでは、ISIL関連組織「ホラサン州」が、同国を掌握した「タリバン」への攻撃を継続する中、首都カブールにおいて、シーク教寺院襲撃テロを実行した(6月)ほか、ロシア大使館付近で自爆テロを実行した(9月)。また、北部・バルフ州、西部・ヘラート州等各地でシーア派住民等を標的としたテロを繰り返した。
- パキスタンでは、「ホラサン州」が、北西部・カイバル・パクトゥンクワ州のシーア派モスク内で自爆テロを実行した(3月)ほか、ISIL関連組織「パキスタン州」が、南西部・バルチスタン州で治安当局を標的に自爆テロを実行した(3月)。また、分離独立主義を掲げる「バルチスタン解放軍」(BLA)は、パキスタンに進出する中国を「占領者」と位置付けた上で、南部・シンド州の「孔子学院」付近で自爆テロを実行し、中国人3人を含む4人を殺害した(4月)。さらに、支配地域でのイスラム法施行実現を目指す「パキスタン・タリバン運動」(TTP)は、治安当局との衝突を繰り返すなどした。インドでは、ISIL関連組織「ヒンド州」が、同国管理下の北部のカシミール地方において、治安当局に対する銃撃の実行を主張する(7月)などした。南西・南アジア地域では、ISIL関連組織等が耳目を引くテロを実行するなど、存在感を誇示しており、今後もこうしたテロの続発が懸念される
- フィリピンでは、治安当局による掃討作戦が進む中、「アブ・サヤフ・グループ」(ASG)、「バンサモロ・イスラム自由戦士」(BIFF)の一部グループ、「マウテ・グループ」等のISIL関連組織の摘発やメンバーの投降が続いた。しかしながら、これらのISIL関連組織は、従来から拠点とする南部で活動を続け、ASGはスールー州で国軍部隊を襲撃し、兵士を殺害した(1月)ほか、BIFFとの関係が疑われる武装集団はマギンダナオ州で警察署長の車列を襲撃し、同署長らを殺害した(8月)。インドネシアでは、治安当局による取締りが続く中、「ジャマー・アンシャルット・ダウラ」(JAD)、「東インドネシアのムジャヒディン」(MIT)等のISIL関連組織のメンバーが、1月から7月までの間で50人以上逮捕された。また、警察当局に対するテロ計画も相次いで摘発された(2月、5月)。東南アジア地域では、治安当局による掃討作戦や取締りが続くものの、ISIL関連組織の拠点が維持されるものとみられており、今後もISILに関連したテロ活動が継続するとみられる。
- 欧州では、ノルウェーの首都オスロの繁華街で、男が銃を乱射するテロが発生し、2人が死亡、21人が負傷した(6月)。男はイスラム過激主義者とされ、同国におけるイスラム過激主義者のネットワークに属していたとされる。また、ISILや「アルカイダ」に関連する摘発も相次いだ。スペインでは、非政府組織(NGO)を悪用して「アルカイダ」系戦闘員の活動資金等を調達していたとして3人が逮捕された(3月)。ドイツでは、ISILが発出する文書や動画をドイツ語に翻訳し、頒布していたとされるISIL支持者の男が逮捕された(6月)。イタリアでも、爆弾テロを計画していたとして、ISILへの参加を希望していた男女2人が逮捕された(6月)。近年、欧米諸国では、ISILや「アルカイダ」が直接実行したテロ事件は確認されていない。しかし、ISIL等は、インターネット上で、欧米諸国等に対するテロの実行を引き続き呼び掛けており、今後も、テロ組織との関係を有さないままイスラム過激主義に感化された者によるテロ等の発生が懸念される。
③犯罪対策閣僚会議 「世界一安全な日本」創造戦略2022/人身取引対策行動計画2022
政府は2013年から「『世界一安全な日本』創造戦略」等に基づき、政府一体となった犯罪対策を推進しており、一定の成果を上げています。一方で、人口構成の変化、科学技術の進展等による我が国の社会情勢の変化や我が国を取り巻く国際的な情勢の変化の中で、サイバー空間の脅威を始めとした様々な治安課題が出現していることから、政府を挙げて犯罪対策を着実に推進していくため、現行戦略の改定に向けた検討作業を進めており、その戦略案を作成しています。新たな戦略案では、「1.デジタル社会に対応した世界最高水準の安全なサイバー空間の確保」、「2.国内外の情勢に応じたテロ対策、カウンターインテリジェンス機能の強化等の推進」、「3.犯罪の繰り返しを食い止める再犯防止対策の推進」、「4.組織的・常習的に行われる悪質な犯罪への対処」、「5.子供・女性・高齢者等全ての人が安心して暮らすことのできる社会環境の実現」、「6.外国人との共生社会の実現に向けた取組の推進」、「7.『世界一安全な日本』創造のための治安基盤の強化」の7章構成となっています。とりわけ、「デジタル社会に対応した世界最高水準の安全なサイバー空間の確保」が第1章となっていることは特徴的で、サイバー空間の安全性に注力していることがうかがえます。なお、第1章は、「サイバー空間の脅威等への対処」、「国際連携の推進」、「インターネット上の違法・有害情報等の収集及び分析の高度化」、「民間事業者、関係機関等と連携したサイバーセキュリティ強化」で構成されています。
▼首相官邸 犯罪対策閣僚会議
▼「世界一安全な日本」創造戦略2022 概要
- 良好な治安を確保し、国民の生命等を守ることは、国の基本的な責務であって、様々な社会・経済活動の根幹
- 治安の現状
- これまでの取組により、令和3年の刑法犯認知件数は戦後最多時(平成14年)の約5分の1になり、世論調査でも8割超の国民が日本の治安の良さを評価するなど一定の成果
- しかしながら、人口構成の変化、科学技術の進展等による我が国の社会情勢の変化や我が国を取り巻く国際的な情勢の変化の中で、様々な治安課題が出現
- 深刻化するサイバー空間の脅威
- ランサムウエアによる被害の増加
- 年々増加する不審なアクセス件数
- 民主主義の根幹を揺るがしかねない重大な脅威等 高齢者や女性、子供への脅威
- 街頭演説中の安倍晋三元内閣総理大臣に対する銃撃事件の発生
- 予断を許さないテロ情勢の存在
- G7広島サミットや大阪・関西万博等の大規模行事の警備に万全を期す必要性
- 高齢者や女性、子供への脅威
- 高水準の被害が続く特殊詐欺
- 高水準にあるストーカー・DV事案の相談等件数
- 深刻化する児童虐待等
- 「治安が悪化している」との声も依然として相当数存在。また、少子高齢化の中で先端技術も活用した治安機関の執行力確保等の必要性
- 深刻化するサイバー空間の脅威
- 新たな戦略の策定
- 今後5年間を視野に、こうした課題に的確に対処し、国民の治安に対する信頼感を醸成し、我が国を世界一安全で安心な国とすべく、関係施策を取りまとめ、新たな総合的な戦略を策定し、政府を挙げて犯罪対策を推進
- 「世界一安全な日本」創造戦略2022における主な施策
- デジタル社会に対応した世界最高水準の安全なサイバー空間の確保
- サイバー空間の脅威に対する対処態勢の強化
- アトリビューション(※)能力の向上 ※犯行主体やその手口、目的等を特定する活動
- 国際共同捜査への参画に向けた諸外国との連携強化
- インターネット上の違法・有害情報等の収集及び分析の高度化
- キャッシュレス決済、インターネットバンキング等の不正利用対策の推進
- サイバー事案に的確に対処するための新たな捜査手法についての検討
- 国内外の情勢に応じたテロ対策、カウンターインテリジェンス機能の強化等の推進
- G7サミット等の大規模行事を見据えたテロ対策等の推進
- 要人に対する警護等の強化
- 小型無人機(ドローン)を使用したテロ等への対策
- 爆発物の原料となり得る化学物質の管理強化
- 技術情報等の流出防止に向けた取組の推進
- カウンターインテリジェンス機能の強化
- 犯罪の繰り返しを食い止める再犯防止対策の推進
- 外国人の安全安心の確保
- 就労支援及び住居の確保の推進
- 対象者の特性に応じた指導及び支援の強化
- 地域における連携拠点や相談支援体制の充実
- 保護司等民間協力者の活動の充実
- 地方公共団体等による再犯防止の推進に向けた取組の支援
- 組織的・常習的に行われる悪質な犯罪への対処
- 暴力団・準暴力団等への取締り強化
- 銃器根絶活動の推進
- 薬物対策の推進
- 総合的な特殊詐欺被害防止対策の推進
- FATF勧告を踏まえたマネロン・テロ資金供与・拡散金融対策の強化
- 子供・女性・高齢者等全ての人が安心して暮らすことのできる社会環境の実現
- 児童虐待、子供の性被害防止対策の推進
- ストーカー・DV、性犯罪等に対する対策の推進
- 防犯カメラの活用や防犯ボランティア活動の活性化等を図るための取組の推進
- 犯罪被害者等への各種支援の一層の推進
- 外国人との共生社会の実現に向けた取組の推進
- 相互事前旅客情報システム及び電子渡航認証制度の導入
- 不法滞在者の縮減に向けた対策強化
- 外国人の安全安心の確保
- 「世界一安全な日本」創造のための治安基盤の強化
- 少子高齢化等を踏まえた柔軟な組織運営の推進
- 治安関係機関の人的基盤等の強化
- 先端技術・デジタル技術の活用の推進
- デジタル社会に対応した世界最高水準の安全なサイバー空間の確保
▼人身取引対策行動計画2022 概要
- 趣旨
- 人身取引は重大な人権侵害であり、国際社会が取り組むべき喫緊かつ共通の課題。
- 外国人材の適切な受入れや女性に対する暴力根絶等の取組が進められる中、「「世界一安全な日本」創造戦略2022」と相俟って「世界一安全な国、日本」を実現するため、人身取引対策の充実強化を図るもの。
- 概要
- 人身取引の実態把握の徹底
- 人身取引被害の発生状況の把握・分析
- 児童の性に着目した営業に係る実態調査、旅券等の留め置きが疑われる事案の調査
- 人身取引被害の発生状況の把握・分析
- 人身取引の防止
- 入国管理・在留管理の徹底等を通じた人身取引の防止
- 労働搾取を目的とした人身取引の防止
- 外国人技能実習制度や特定技能制度の更なる適正化等
- 体制強化を通じた労働基準関係法令の厳正な執行
- 技能実習生等の送出国との連携・協力
- 技能実習制度、特定技能制度の在り方の検討
- 各種対策
- いわゆるアダルトビデオ出演被害の防止及び救済
- 人身取引の防止のための罰則強化の検討
- 性的搾取を含めた人身取引の需要側への啓発等
- 入国管理・在留管理の徹底等を通じた人身取引の防止
- 人身取引被害者の認知の推進
- 各種窓口の連携による対応の強化
- 潜在的被害者に対する被害申告先、被害者保護施策の周知
- 外国語による窓口対応の強化
- 在外公館等による潜在的人身取引被害者に対する注意喚起
- 人身取引の撲滅
- 人身取引対策関連法令執行タスクフォースによる関係行政機関の連携強化
- 人身取引取締りマニュアルの活用による取締りの徹底
- 技能実習生等に対する労働搾取を目的とした人身取引の取締りの徹底
- 国境を越えた犯罪の取締り
- 人身取引被害者の保護・支援
- 保護機能の強化
- 男性も含む人身取引被害者に対する一時保護機能の提供
- 外国人技能実習生に対する実習先変更支援等
- 被害者への支援
- ワンストップ支援センターの体制整備をはじめとする性犯罪・性暴力被害者支援の充実
- 保護機能の強化
- 人身取引対策推進のための基盤整備
- 関係諸国や国際機関、民間団体との連携強化
- 各種広報啓発活動等を通じた国民等の理解と協力の確保
- 人身取引対策推進会議の開催や年次報告の作成
- 人身取引の実態把握の徹底
(2)AML/CFTを巡る動向
2022年11月に業界団体との意見交換会において金融庁から提起された主な論点が公表されています。今回は主要行等と日本暗号資産取引業協会との会合から、AML/CFTと暗号資産を中心に、本コラムで取り上げている分野に関する部分を紹介します。
▼金融庁 業界団体との意見交換会において金融庁が提起した主な論点
▼主要行等
- 外国人顧客の口座開設等について
- 2022 年 10 月に入国者数の上限撤廃等の水際対策のさらなる緩和が行われ、国際的な人の往来が活発化するとともに、外国人への銀行口座開設等の金融サービスの提供につき顧客ニーズがさらに高まることが予想される。
- そうした中、金融庁の金融サービス利用者相談室にも、外国人顧客への金融サービスにつき、特に下記の「外国人顧客対応にかかる留意事項」の一部事項に関して、金融機関による適切でないと考えられる対応についての情報が利用者から寄せられている。
- (参考)「外国人顧客対応にかかる留意事項」(令和3年6月、抜粋)
- (顧客対応における留意点)
- 窓口で口座開設等の手続を行う際、外国人顧客に対し、手続円滑化の観点から、事前記入による申込書等の提出を認めているか(自署欄を除く。)。
- 外国人顧客が日本語で会話できない場合や日本語を書くことができない場合は一律に受付不可、といった対応を行っていないか。
- 各種手続において、住所等については日本語での記載を必須とせず、ローマ字による記載を認めているか。
- 各金融機関においては、これまでも、外国人に対する金融サービスの利便性向上に向けて様々な取組みを実施してきたものと承知しているが、業界団体及び各金融機関自らが、現場でどのような顧客ニーズや課題があるのかを把握・確認し、どのような取組みが必要であるかを継続的に検討するなど、PDCA を回していただくよう、改めてお願いしたい。その際、2021年6月に公表した「外国人顧客対応にかかる留意事項」や「取組事例」も活用しながら、継続的に創意工夫を積み重ねていただきたい。
- また、水際措置の緩和に伴い、留学や海外勤務で日本を離れる日本人顧客も増加することが予想される。こうした顧客についても、外国人顧客と同様、利用可能なサービスについて分かりやすく説明するなど、丁寧な対応を行うよう併せてお願いしたい。
- 国連安保理決議の着実な履行について(北朝鮮関連)
- 2022年10月7日、国連安全保障理事会の北朝鮮制裁委員会の専門家パネルが、2022年1月から7月にかけての国連加盟国による北朝鮮制裁の履行状況等の調査結果と国連加盟国への勧告を含む中間報告書を公表。
- 同報告書では、
- 北朝鮮が暗号資産関連企業及び取引所等へのサイバー攻撃を継続し暗号資産を窃取していること
- 北朝鮮による石油精製品の不正輸入および石炭の不正輸出が継続していること
等の事案概要や、必ずしも制裁対象ではないが、こうした事案に関与している疑義がある会社名や個人名、船舶の名前について記載。
- 同報告書を踏まえ、各金融機関においては、サイバーセキュリティ対策を徹底していただくとともに、安保理決議の実効性を確保していく観点から、報告書に記載のある企業や個人、船舶については、
- 融資や付保などの取引が存在するかどうかに関する確認
- 取引がある場合には、同報告書で指摘されている事案に係る当該企業・個人等への調査・ヒアリングなどをしっかりと行った上で、適切に対応いただきたい。
- 継続的顧客管理に係る丁寧な顧客対応について
- 2020年10月、継続的顧客管理における顧客情報の更新に際して、顧客から苦情が寄せられる事例が複数見受けられたことから、丁寧な顧客対応をお願いしている。
- しかしながら、依然として顧客対応が原因となってトラブルに発展した事例が複数あると聞いており、中には、窓口職員の説明に納得いただけない顧客への対応を、金融庁の金融サービス利用者相談室にその場で転送するような事例も認められている。
- 各金融機関においては、顧客からの照会に対応する部署の職員がリスクベース・アプローチによるマネロン対策等について理解を深め、顧客対応が形式的なものにならないよう、職員に対して継続的に周知徹底を図ることにより、適切な顧客対応を確保していただきたい。
- また、継続的顧客管理における情報更新の考え方については、全ての顧客に一律の時期・内容で調査を行う必要はなく、顧客のリスクに応じて調査をすることで、苦情を減らしたり、回答率を上げたりするなどの工夫をしている例もあると承知。
- 継続的顧客管理については、金融庁において政府広報をはじめとした周知活動を行っているほか、2022年3月にマネロンガイドラインに関するよくある質問(FAQ)を改訂して、情報更新に係る考え方についても明確化を図っているので、参照いただきたい。
- マネロン対策等のシステム共同化について
- 全国銀行協会において、銀行業界全体でマネロン対策等の高度化を図るべく共同機関設立の検討が進められ、2022年10月13日、新会社の設立を決定し、提供するサービス内容等が公表された。
- 金融庁としては本取組みに高く期待しており、各行においては、持続可能な対策を講じるという中長期的な視野に立って、新会社の利用に関する検討を進めていただきたい。
- また、金融庁としては、先般公表された経済対策において、国民の安全・安心を確保するための施策として、「AIを活用したマネー・ローンダリング対策高度化推進事業」を実施することとした。
- FATF第4次審査では取引モニタリングや取引フィルタリングの高度化・効率化が必要と指摘されており、第5次審査に向けてこれを確実に実現することは我が国金融業界にとって極めて重要であり、引き続き、皆様とともに対応を進めていきたい。
- 暗号資産取引に係る注意喚起について
- 国連安保理・北朝鮮制裁委員会の専門家パネルが2022年10月7日に公表した報告書では、
- 北朝鮮当局の下部組織とされる「ラザルス」と呼称されるサイバー攻撃グループが、
- 暗号資産関連企業や暗号資産交換業者を標的にサイバー攻撃を行い、暗号資産の不正な窃取に関与している
と指摘されている。
- また、数年来、日本の暗号資産交換業者も、ラザルスによるサイバー攻撃の標的となっていることが強く推察される状況にある。
- こうした状況を踏まえ、10月14日に、暗号資産取引に関わる個人・事業者に対し、
- 暗号資産を標的とした組織的なサイバー攻撃が実施されていることを高く認識いただくこと
- 適切なセキュリティ対策を講じていただくこと
- 不審な動きを検知したときは速やかに政府に情報提供をいただきたいこと
を目的として、関係当局(警察庁、NISC)と連名で注意喚起を実施した。
- 今後、暗号資産やブロックチェーンを活用した業務を行おうとする場合には、こうした点についても十分に注意いただきたい。
- 国連安保理・北朝鮮制裁委員会の専門家パネルが2022年10月7日に公表した報告書では、
▼日本暗号資産取引業協会
- 暗号資産取引に係る注意喚起について
- 国連安保理・北朝鮮制裁委員会の専門家パネルが2022年10月7日に公表した報告書では、北朝鮮当局の下部組織とされる「ラザルス」と呼称されるサイバー攻撃グループが、暗号資産交換業者等を標的にサイバー攻撃を行い、暗号資産の不正な窃取に関与している、と指摘されており、我が国の暗号資産交換業者も、ラザルスによるサイバー攻撃の標的となっていることが強く推察される状況にある。
- こうした状況を踏まえ、10月14日、暗号資産取引に関わる個人・事業者に対し、暗号資産を標的とした組織的なサイバー攻撃が実施されていることを認識いただくこと、不審な動きを検知したときは速やかに情報提供いただくこと等を、金融庁・警察庁・内閣サイバーセキュリティセンターの連名で注意喚起した。日本暗号資産取引業協会においても、暗号資産交換業者が適切なセキュリティ対策を講じるよう、お願いしたい。
- Web3.0に関連した政府の取組みについて
- 「経済財政運営と改革の基本方針2022(2022年6月7日付閣議決定)」において、「ブロックチェーン技術を基盤とするNFTやDAOの利用等のWeb3.0の推進に向けた環境整備」が盛り込まれた。これを踏まえ、デジタル庁が開催する「Web3.0研究会」において、Web3.0の環境整備に係る議論を行っているところ。
- 金融庁においても、Web3.0に関する施策を金融面から推進するため、8月31日に公表した「金融行政方針(2022事務年度)」において、暗号資産について利用者保護に配慮した審査基準の緩和やNFT等のブロックチェーン上で発効されるデジタルアイテム等における暗号資産該当性に係る判断基準の明確化などを盛り込んだ。暗号資産取引業協会においても、CASCの早期導入に向け手続きが進捗しているものと承知している。Web3.0の健全な発展に向けて、これまで以上に連携を強化していきたい。
- 一方、Web3.0や暗号資産の健全な発展のためには、暗号資産を用いた詐欺的事案や無登録業者への対応が必須であると考えている。暗号資産取引業協会においても、無登録業者に対する様々な取組みを行っていると承知しているが、更なる対策の強化に向けて、協力していきたい。
- マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策について
- 2022事務年度のマネロン検査について
- 金融庁は、2022事務年度も、預金取扱金融機関や資金移動業者、暗号資産交換業者に対して、マネロン検査を鋭意実施する予定。2021事務年度と同様に、金融庁マネロンガイドラインにおける「対応が求められている事項」の対応実施状況を中心に検証を行うものであり、引き続き、金融機関側において、何をどこまで対応すればよいかが明確になるような検査に努めていきたい。
- 各事業者におかれては、こうした検査や2022年8月に公表した改訂版FAQ等も活用して、鋭意態勢整備を進めていただきたい。
- マネロン対策等に関する半期フォローアップアンケートについて
- 各金融機関で進められているマネロンリスク管理態勢の整備状況について確認するため、昨年同様、各金融機関にフォローアップアンケートを送付した。
- アンケートについては、各金融機関より先月までに回答をいただいている。
- 2024年3月末までの態勢整備の期限まで残り約1年半となっている。金融庁としては各金融機関の取組状況を継続的に把握したいと考えており、今後とも協力をお願いしたい。
- マネロン対策等に係る広報について
- 金融機関が継続的顧客管理を適切に実施していくためには、一般利用者の理解と協力が不可欠であることから、金融庁においては、各業界団体との連名チラシの作成や、政府広報、オンライン広告の配信等を通じて、積極的に情報発信を行っている。
- 2022年3月にオンライン広告を配信し、金融庁のHPへのアクセスが増加するなど効果を確認できたため、9月から再度、オンライン広告を実施しているので、ご覧いただきたい。
- 金融庁では引き続き、継続的顧客管理に係る広報を積極的に進めていくので、各協会で行われているマネロンの広報活動について連携していきたい。
- 2022事務年度のマネロン検査について
- 暗号資産等に関する国際的な議論
- 10月12・13日に米国・ワシントンDCにてG20財務大臣・中央銀行総裁会議が開催され、会議終了後に議長総括が公表された。今後は11月半ばに首脳会議が開催される予定。
- 今回のG20には、暗号資産について、FSBから3つの報告書が提出されたので、その内容を紹介したい。会議後に公表されたG20財務大臣中銀総裁会議の議長総括においては、これらの報告書への歓迎が示されている。
- FSBからの3つの報告書は、具体的には、
- 第一は、暗号資産に対する9つのハイレベルな規制監督上の勧告案に関する報告書であり、金融システム安定にリスクを及ぼす可能性のある全ての暗号資産関連の活動、発行者、サービス提供者に包括的に適用されるものである。
- 第二は、2020年10月に公表された「グローバル・ステーブルコインの規制・監督・監視に関するハイレベル勧告」の見直しに関する報告書であり、2022年前半の暗号資産市場の混乱等を踏まえ、償還請求権確保の強化などが図られている。
- 第三は、これら二つの勧告案の位置づけや、今後のFSBの作業方針に関する報告書である。FSBは、暗号資産及びグローバル・ステーブルコインに対する勧告を2023年夏までに最終化させ、その後は2025年末までに各法域での実施状況のレビューを行う予定である。
- 国際的な議論を受け、既に米国や欧州等では規制枠組みの整備に向けた動きが本格化しており、今後、FSBの勧告をいかにグローバルに実施していくかについて、議論が深まっていくものと考えている。
- FATF における暗号資産に関する議論の状況
- 昨今、暗号資産については、対露制裁逃れに悪用されているのではないかといった懸念、また、ランサムウエア攻撃の身代金として用いられる事案も発生している。こうした背景から、最近のG7・G20の場でも、暗号資産に関する通知義務、いわゆるトラベルルールを含む、FATF基準のグローバルな実施の重要性が認識されているところである。
- FATFでは、2019年6月に暗号資産に関する基準を最終化した後、官民における基準実施状況のモニタリングや業界との対話等を行い、年1回のペースで、トラベルルールを含むFATF基準のグローバルな実施状況について、その現状と課題をレビューした報告書を公表している。その一環として、2022年6月末、暗号資産にかかるFATF基準の実施状況や暗号資産市場のリスク動向(DeFi,NFT等)について整理した報告書を公表しており、そのポイントを3点紹介する。
- 1点目は、世界的に見て、暗号資産に関する FATF 基準(勧告 15)の実施は不十分ということである。暗号資産の容易に国境を越えて移転できる性質に鑑み、グローバルなFATF基準の実施が重要である。
- 2点目は、トラベルルールの実施についてである。民間セクターの技術的ソリューション開発は、一定程度進展しているものの、各国におけるトラベルルールの法制化の遅れが課題とされている。日本では、ステーブルコインは、改正法が成立し、暗号資産については、今次臨時国会での成立を目指している。これらの法律が施行されれば、我が国のトラベルルールの法制化が実現することになる。今後とも、グローバルなトラベルルールの実施に向けて、FATFのコンタクト・グループの場も利用しつつ、民間セクターや他国当局ともよく対話を進め、対応していきたい。
- 3点目は、新たなリスクや最近の暗号資産市場の変化である。FATFは、分散型金融(DeFi)、非代替性トークン(NFT)等の新たなサービス、制裁回避やランサムウエア攻撃など、新たなリスクにも注視していくこととしている。
- 最後に、2022年6月、金融庁の羽渕国際政策管理官がFATFの基準改訂等を担当する部会の共同議長に就任し、10月には、牛田国際資金洗浄対策調整官が暗号資産関係の作業を担当するコンタクト・グループの共同議長に就任したことを紹介したい。共同議長職を、(1)我が国の実情や考え方を国際的な議論に反映する、(2)世界の議論を国内に十分に紹介し我が国のマネロン等対策の向上に繋げるといった観点から、有効に活用してまいりたい。引き続き、日本暗号資産取引業協会と緊密な連携をお願いしたい。
- FATF勧告対応法案による犯罪収益移転防止法の改正について
- 10月26日に「国際的な不正資金等の移動等に対処するための国際連合安全保障理事会決議第千二百六十七号等を踏まえ我が国が実施する国際テロリストの財産の凍結等に関する特別措置法等の一部を改正する法律案」(通称「FATF勧告対応法案」)を国会に提出した。
- 本法案では、犯罪収益移転防止法の改正により、暗号資産の移転に係る通知義務(いわゆるトラベルルール)を課すなどの措置を講じることとした。
- 暗号資産取引業協会では、既に、自主規制規則を改正して、トラベルルールの実行に向けた取組みを始めていると承知しているが、こうした措置は、トラベルルールの的確な履行を後押しするものと考えている。
- 改正資金決済法を受けた政府令の整備等について
- 改正資金決済法を受けた政府令の整備について
- 2022年6月に成立・公布された改正資金決済法について、2023年6月までの施行を目指して、現在、政府令・ガイドラインの準備を進めており、業界の事業者から事前に意見を伺っている。
- 令和5年度の税制改正要望において、電子決済手段に係る所要の税制上の措置を要望している。
- なお、(1)国内で登録等を受けていない者が発行したステーブルコインの取扱い(2)アンホステッド・ウォレットとの取引を行う場合の規律については、先日意見を伺ったところ。
- 令和5年度税制改正要望(暗号資産関係)について
- 令和5年度税制改正要望において、自己保有分暗号資産について、法人税の期末時価評価課税の対象外とすることを税務当局(財務省・総務省)に要望している。
- 「デジタル・分散型金融への対応のあり方等に関する研究会」について
- 2021年7月に設置した「デジタル・分散型金融への対応のあり方等に関する研究会」では、第7回会合において、いわゆるWeb3.0を念頭に、分散台帳技術等を活用した最近の動向として、その全体像や金融の役割・位置づけについて議論が行われた
- 改正資金決済法を受けた政府令の整備について
日本で起業を望む外国人が銀行口座を開きやすくなるよう規制が緩和される見通しです。現状、6カ月以上日本に滞在しなければ口座が作れませんが、経営者の在留資格を得る目的で入国した人は6カ月の要件をなくす案を軸に検討するといい、高度人材を集める狙いがあります。外為法では日本に6カ月以上滞在した外国人を居住者とみなしており、外為法の規制下にある国内の金融機関は、。口座売買をはじめとするマネー・ローンダリングを防ぐため、非居住者に日本人と同等の口座開設を認めていません。口座の開設に時間がかかれば、起業をめざす外国人は資金集めに支障が出てくることから、政府の規制改革推進会議で対策の検討を始めたものです。具体的には、経済産業省が設ける在留資格の制度などを使う人を対象に、規制を緩める案が有力で、外国人が経営者の在留資格である「経営・管理」を取得するまで暫定的に滞在が許可される制度です。
東京地裁は、対話アプリ「LINE」で送られた顔写真で本人確認し、住民票を交付するサービスが適法であることの確認を新興企業が国に求めた訴訟の判決を言い渡し、裁判長は「厳格な本人確認手続きを貫徹すべきだ」として会社側の請求を退けています。「eKYC」と呼ばれるオンライン上での本人確認を巡り、民間技術を行政手続きに使えるように求めた訴訟として注目されていました。判決理由では、同社の本人確認について「偽造された本人確認書類でも通過する可能性がある。(マイナカードに比べ)本人確認の強度が劣っている」と判断、「不正な取得手法がひとたび確立すれば、短期間で大量に不正申請される可能性も高く、住民基本台帳制度の根幹への信頼が揺らぐことになりかねない」と述べ、国による省令改正が違法だったとする会社側の主張が退けられました。今回の訴訟は本人確認にどこまでの厳格さを求めるべきかという課題を投げかけたものといえます。マイナカードを使ったeKYCは「公的個人認証サービス(JPKI)」と呼ばれ、国際基準に照らしても最高レベルですが、訴訟で会社側は住民票を郵送で申請する手続きに比べれば十分厳格だとも訴えた点も注目されます。郵送の場合、本人確認書類の写しを同封することになりますが、自治体が電話で確認する例もあるとはいえ、厳格さに欠けるとの問題提起でもありました。一方、そもそも「身分確認」と「認証」が混同して運用されている点に問題があると専門家らは指摘しています。「窓口に来た本人の顔と、持参した免許証に記載された顔写真を比較して、その人が免許証の持ち主であると確認するのは「身元確認」である。住民票を最初に作るときや、銀行に口座を開設する際などにこうした身元確認は広く行われている。本人の顔を見て免許証の持ち主だと確認し、免許証に記載された確からしいと思われる属性情報をサービスのレコードに登録する。…住民票というプライバシーレベルの高い書類の交付申請に利用しているからだ。この場合は身元確認ではなく、区役所が持つ住民票のデータベースに記載された人物と、申請者が本当に同一かを確認する「認証」が必要になる。渋谷区が採用したeKYCでは本人の顔を認証の鍵となる「クレデンシャル」として使うが、区役所は本人の顔写真の原本を持っていない。「じゃあいったい何と何をマッチングさせて認証しているのかよく分からない」、「そもそも区役所の住民票のレコードに原本のデータがない免許証の情報を「名前と生年月日くらいのどこにでもある情報」(崎村氏)で結びつけて、仮想的に住民票レコードの一部として扱っている点、スマホを使ったリモートでのマッチングで、肝心の「免許証の画像」やスマホのカメラが写した「本人の画像」が偽造されていないと確認するすべがない点など、この方式はアイデンティティー管理の観点からさまざまな問題をはらんでいる」(2021年10月28日付日経XTECH)というものです。問題となったeKYCでは厳格な本人確認とそもそも言い難いものだということがわかる一方で、郵送による本人確認が本当に厳格な本人確認であるのかは、やはり疑問符がつきます。
その他、国内外におけるAML/CFT、マネロン事犯等に関連する最近の報道から、いくつか紹介します。
- 山陰地方の10金融機関の担当者が集まり、AML/CFTについて協議する情報連絡会の初会合が松江市内で開かれたと報じられています。県境を越え、金融機関が一致団結して対策に取り組むのは全国でも珍しいといい、山陰合同銀行と鳥取銀行の呼びかけで開催されたものです。島根銀行のほか島根、鳥取両県の6信用金庫と1信用組合が参加、会合では継続的な顧客管理をテーマに話し合い、山陰合銀は関連業務をどのような外部業者に発注しているか、内製化している鳥取銀は自行の取り組みなどを紹介しています。
- 架空の投資名目でだまし取られた現金を暗号資産に交換しマネー・ローンダリングをしたとして、大阪府警などは、組織犯罪処罰法違反(犯罪収益隠匿)容疑で、投資関連会社「WYZZ」の代表取締役と元社員を逮捕しています。報道によれば、WYZZは無登録で2017年ごろから500億円以上の暗号資産の取引に関わっており、府警は容疑者らが他の犯罪収益のマネー・ローンダリングにも関与していた可能性があるとみて実態解明を進めるとしています。逮捕容疑は、両容疑者は、詐欺グループのメンバーらと共謀し、架空の投資名目でだまし取った現金約8200万円を暗号資産に交換、その後、暗号資産を売却して現金約7900万円をグループに渡し、犯罪収益を隠匿した疑いが持たれているものです。
- 以前の本コラムでも取り上げましたが、積水ハウスが東京都内の土地取引で約55億円をだまし取られた「地面師詐欺事件」を巡り、株主が当時の社長らに対し、損害額と同額を会社側に支払うよう求めた株主代表訴訟の控訴審判決で、大阪高裁は、株主の請求を退けた1審・大阪地裁判決を支持し、株主側の控訴を棄却しています。2022年5月の1審判決は「購入を決めた判断は不合理ではなく、裁量の範囲にとどまる」として社長らの責任を認めませんでした。本事件は、1審判決によると、同社は2017年4月、東京都品川区の旅館跡地を分譲マンション用地として取得する目的で、所有者を装った女と売買契約を締結、女は偽造したパスポートを示すなどしていたが、見抜けず、女ら地面師グループに約55億円を詐取されたものです。
- 大麻の密売代金を受け取る際、インターネットオークションサイト「ヤフオク!」への振り込みを装いマネー・ローンダリングしたとして、東海北陸厚生局麻薬取締部は、麻薬特例法違反(犯罪収益仮装)などの疑いで、無職の容疑者ら密売グループの男3人を追送検しています。報道によれば、2022年3~5月、108回にわたり、共謀して北海道在住の女性らに販売した大麻や大麻クッキーの代金計434万9500円を、振込人の名前を「ヤフオク」などと指定して銀行口座に振り込ませ、事実を仮装するなどしたとしています。容疑者が指示役とみられ、3人はツイッターで募った客に大麻クッキーの販売を繰り返していたといいます。
- 中国内モンゴル自治区の通遼市公安当局は、暗号資産を使ったマネー・ローンダリングに関わった中国の犯罪集団の容疑者63人を一斉摘発したと発表しています。マネロンの規模は約2350億円分だとしています。報道によれば、この集団は2021年5月頃から、秘匿性が高いとされる通信アプリ「テレグラム」で連絡しながら暗号資産を活用し、国内外の犯罪集団のマネロンを支援して不当な利益を得ていたといいます。同市当局などは2022年7月、メンバーの銀行口座で発覚した異常な高額取引をきっかけに内偵捜査を開始し、バンコクに潜伏していた主要メンバーを帰国させるなどして計63人を逮捕、1億3000万元(約25億5000万円)分の現金や固定資産などを押収しています。中国は2021年9月、金融リスクにつながるとして、暗号資産と法定通貨、あるいは暗号資産同士の交換を禁じているほか、国内居住者がネットを介して国外の暗号資産取引所のサービスを利用することも禁止しています。
- デンマーク金融大手ダンスケ銀行は、以前の本コラムでも紹介した大規模なマネー・ローンダリングへの関与の疑いで米司法省の刑事捜査を受けていた問題を巡り、銀行詐欺の罪を認めた上で罰金20億ドルの支払いに合意しています。報道によれば、ダンスケ銀行は2008年から16年にかけて現在閉鎖したエストニアの支店を通じ、ロシアなどにいるリスクの高い顧客らにマネロンを事実上持ちかけ、資金計約2000億ユーロ(2120億ドル)を不正に米金融システムにアクセスできるようにしたとして、各地の当局が長く捜査を続けてきたものです。米司法省は同行が少なくとも途中から違法性を認識していたと断定、この件で米連邦政府が同行と刑事措置の正式合意に至ったのは初めてとなります。また、米司法省の捜査とは別に、同行は米証券取引委員会(SEC)が進めていた民事調査についても和解に達し、民事制裁金と不正利得返還として4億1300万ドルをSECに支払うことにも同意しています。
- 調査研究機関「国際危機グループ」は、国軍がクーデターを強行したミャンマーで、抵抗を続ける民主化勢力の資金調達に関する報告書を発表しています。暗号資産やクラウドファンディングなどを駆使して調達した資金は少なくとも数億ドルに上り、「国軍側が資金の流れを止めるのはほぼ不可能」と指摘しています。報告書によると、国軍側が行っている民主化勢力の銀行口座の凍結や資産の没収などの妨害を避けるため、ミャンマーの国民や各国の移民らが中心となってクラウドファンディングなどで資金を集め、送金手段には暗号資産や「フンディ」と呼ばれる代理店ネットワークを使った地下送金を用いているといい、入手可能なデータだけで数億ドルの資金を民主化勢力に提供していることが確認されたといいます。報告書は送金方法について、「国軍の監視などを回避するには非公式な手段に頼らざるを得ない」としています。なお、本コラムでたびたび取り上げているとおり、ミャンマーについては、FATFは、AML/CFTが不十分だとして、各国に対抗措置を求める「ブラックリスト」に同国を載せています。ミャンマーでは、中国の規制強化から逃れるために、主に中国マフィアが、薬物や武器の取引、木材の違法伐採、鉱物の違法採取などで手にした不正な金をカジノで賭けるマネー・ローンダリングの手口が拡がっており、マネー・ローンダリングされたお金は新たなカジノ建設などオープンな経済活動に再投資されているといいます。こうした巨額のマネーが一部を除きミャンマー国民のために回されることはなく、結局、苦しむのはいつも国民という構図です。
- イタリア銀行(中央銀行)の幹部は、現金使用の制限を緩和すれば公式統計に表れない「闇経済」を助長し、脱税の取り締まりを困難にすると述べ、緩和に傾く政府にくぎを刺しています。メローニ首相率いる右派連立政権は、2023年度予算の中で、60ユーロ(63.20ドル)以下のカード決済を拒否した小売店への罰金廃止を提案していますが、そもそも罰金導入は2022年上期にEUの新型コロナウイルス関連の復興基金から210億ユーロを確保した際の条件となっていました。政府はまた、2023年から現金支払いの上限を従来の1000ユーロから5000ユーロに引き上げることを計画していますが、中銀の経済調査責任者、ファブリツィオ・バラソーネ氏は議会で「限度額を引き上げれば闇経済に有利に働く」と指摘、「現金利用の制限は複数種類の犯罪や脱税の妨げになる」との見方を示しています。
(3)特殊詐欺を巡る動向
米下院の監視・政府改革委員会のジェームズ・コーマー委員長(共和党)は、新型コロナウイルス対策の一環として打ち出した失業保険給付に関する公聴会を2月1日に開くと発表しています。同氏は声明で「連邦政府の手当を悪用した詐欺が横行していたにもかかわらず、バイデン政権や民主党議員はこれを黙認してきた」と説明しています。米労働省監査室によると、2020年3月~2022年4月にかけおよそ456億ドル(約5兆8300億円)分の新型コロナ失業手当がだまし取られたとされ、手当を受け取るには社会保障番号(SSN)が必要であるところ、死者や受刑者らのSSNを利用する不審なケースも多数確認されたといいます。監査室は実際の被害総額はこれを上回ると予想しており、2022年12月には、中国のハッカー集団「APT41」がおよそ2000万ドル分の新型コロナ失業手当をだまし取っていたことも明らかとなっています。米国内の犯罪組織による大規模な失業給付詐欺も摘発されており、コロナ禍に乗じた詐欺の摘発が今後も増えると予想されています。日本でも持続化給付金等の不正受給が問題となっていますが、米でも大規模に不正が行われていたことが発覚したことで、世界中の犯罪組織が税金で賄われる善意の給付金を資金源化したのではないかと懸念されるところです。
2022年1~11月の全国の特殊詐欺被害が約316億円(暫定)となり、2021年1年間の総額(282憶円)を上回りました。特殊詐欺の被害額が増えるのは8年ぶりとなります。オレオレ詐欺による被害額が最多で110億8000万円を占めたほか、被害額では、架空請求詐欺85億6000万円、還付金詐欺48億2000万円などとなっており、2022年5月以降、前年同月を上回る状況が続いています。なお、特殊詐欺の年間被害額は2014年の565億5000万円がピークで、2015~2021年は7年連続で前年より減少していました。認知件数も1万5597件で既に2021年1年間を超えており、被害が拡大している状況にあります。なお、被害者の9割近くが65歳以上の高齢者となります。背景には、コロナ禍の行動制限が緩和されたことも影響しているとみられ、警察当局は取り締まりを強化するとしています。
例月どおり、2022年(令和4年)1~11月の特殊詐欺の認知・検挙状況等について確認します。
▼警察庁 令和4年11月の特殊詐欺認知・検挙状況等について
令和4年1~11月における特殊詐欺全体の認知件数は15,597件(前年同期13,090件、前年同期比+19.2%)、被害総額は316.0憶円(246.1憶円、+28.4%)、検挙件数は6,017件(6,122件、▲1.7%)、検挙人員は2,263人(2,224人、+1.8%)となりました。ここ最近は認知件数や被害総額が大きく増加している点が特筆されますが、とりわけ被害総額が増加し続けている点はここ数年なかったことであり、あらためて特殊詐欺が猛威をふるっている状況を示すものとして十分注意する必要があります(コロナ禍における緊急事態宣言の発令と解除、人流の増減等の社会的動向との関係性が考えられるところです)。うちオレオレ詐欺の認知件数は3,770件(2,728件、+38.2%)、被害総額は110.1憶円(77.9憶円、+41.3%)、検挙件数は1,621件(1,325件、+22.3%)、検挙人員は894人(738人、+21.1%)と、認知件数・被害総額ともに大きく増えている点が懸念されるところです。2021年までは還付金詐欺が目立っていましたが、オレオレ詐欺へと回帰している可能性が疑われます(とはいえ、還付金詐欺自体も高止まりしたままです)。そもそも還付金詐欺は、自治体や保健所、税務署の職員などを名乗るうその電話から始まり、医療費や健康保険・介護保険の保険料、年金、税金などの過払い金や未払い金があるなどと偽り、携帯電話を持って近くのATMに行くよう仕向けるものです。被害者がATMに着くと、電話を通じて言葉巧みに操作させ(このあたりの巧妙な手口については、暴排トピックス2021年6月号を参照ください)、口座の金を犯人側の口座に振り込ませます。直近では新型コロナウイルスを名目にしたものが目立ちます。一方、ATMに行く前の段階の家族によるものも含め、声かけで2021年同期を大きく上回る水準で特殊詐欺の被害を防いでいます。警察庁は「ATMでたまたま居合わせた一般の人も、気になるお年寄りがいたらぜひ声をかけてほしい」と訴えていますが、対策をかいくぐるケースも後を絶たない現状があり、それが被害の高止まりの背景となっています。とはいえ、本コラムでも毎回紹介しているように金融機関やコンビニでの被害防止の取組みが浸透しつつあり、ATMを使った還付金詐欺が難しくなっているのも事実で、そのためか、オレオレ詐欺へと回帰していると考えられます(繰り返しますが、還付金詐欺自体も高止まりしたままです)。最近では、コロナ禍の影響もあり、闇バイトなどを通じて受け子のなり手が増えたこと、外国人の新たな活用など、詐欺グループにとって受け子は「使い捨ての駒」であり、仮に受け子が逮捕されても「顔も知らない指示役には捜査の手が届きにくことなどもその傾向を後押ししているものと考えられます。特殊詐欺は、騙す方とそれを防止する取り組みの「いたちごっこ」が数十年続く中、その手口や対策が変遷しており、流行り廃りが激しいことが特徴です。常に手口の動向や対策の社会的浸透状況などをモニタリングして、対策の「隙」が生じないように努めていくことが求められています。
また、キャッシュカード詐欺盗の認知件数は2,767件(2,323件、+19.1%)、被害総額は39.0憶円(35.4憶円、+7.7%)、検挙件数は1,926件(1,810件、+6.4%)、検挙人員は490人(551人、▲11.1%)と、こちらは認知件数・被害総額ともに増加という結果となっています(上記の考え方で言えば、暗証番号を聞き出す、カードをすり替えるなどオレオレ詐欺より手が込んでおり摘発のリスクが高いこと、さらには社会的に手口も知られるようになったことか影響している可能性も指摘されていますが、増加傾向にある点は注意が必要だといえます。なお、前述したとおり、外国人の受け子が声を発することなく行うケースも出始めています)。また、預貯金詐欺の認知件数は2,105件(2,212件、▲4.8%)、被害総額は24.1憶円(28.2憶円、▲14.5%)、検挙件数は1,297件(2,016件、▲35.7%)、検挙人員は523人(674人、▲22.4%)となり、こちらは認知件数・被害総額ともに大きく減少している点が注目されます(理由はキャッシュカード詐欺盗と同様かと推測されます)。その他、架空料金請求詐欺の認知件数は2,523件(1,879件、+34.3%)、被害総額は85.6憶円(55.3憶円、+54.8%)、検挙件数は166件(220件、▲24.5%)、検挙人員は123人(115人、+7.0%)、還付金詐欺の認知件数は4,209件(3,702件、+13.7%)、被害総額は48.2憶円(41.8憶円、+15.3%)、検挙件数は936件(704件、+33.0%)、検挙人員は170人(103人、+65.0%)、融資保証金詐欺の認知件数は118件(149件、▲20.8%)、被害総額は1.9憶円(2.6憶円、▲28.2%)、検挙件数は36件(27件、+33.3%)、検挙人員は26人(19人、+36.8%)、金融商品詐欺の認知件数は28件(30件、▲6.7%)、被害総額は3.5憶円(2.7憶円、+33.2%)、検挙件数は6件(10件、▲40.0%)、検挙人員は12人(17人、▲29.4%)、ギャンブル詐欺の認知件数は44件(57件、▲22.8%)、被害総額は2.6憶円(1.7憶円、+59.1%)、検挙件数は21件(3件、+600.0%)、検挙人員は11人(3人、266.7%)などとなっており、オレオレ詐欺の急増とともに、特にコロナ禍の社会情勢をふまえて「非対面」で完結する還付金詐欺や架空料金請求詐欺の認知件数・被害総額ともに大きく増加している点がやはり懸念されます。
犯罪インフラ関係では、口座開設詐欺の検挙件数は659件(657件、+0.3%)、検挙人員は363人(392人、▲7.4%)、盗品等譲受け等の検挙件数は11件(1件、+1100.0%)、検挙人員は11人(0人)、犯罪収益移転防止法違反の検挙件数は2,599件(2,192件、+18.6%)、検挙人員は2,097人(1,752人、+19.7%)、携帯電話契約詐欺の検挙件数は93件(153件、▲39.2%)、検挙人員は90人(138人、▲34.8%)、携帯電話不正利用防止法違反の検挙件数は13件(22件、▲40.9%)、検挙人員は11人(16人、▲31.3%)、組織的犯罪処罰法違反の検挙件数は132件(119件、+10.9%)、検挙人員は21人(29人、▲27.6%)などとなっています。また、被害者の年齢・性別構成について、特殊詐欺全体では、男性(26.5%):女性(73.5%)、60歳以上92.1%、70歳以上74.8%、オレオレ詐欺では男性(19.9%):女性(80.1%)、60歳以上98.6%、70歳以上96.4%、融資保証金詐欺では男性(83.2%):女性(16.8%)、60歳以上17.8%、70歳以上5.0%、特殊詐欺被害者全体に占める高齢被害者(65歳以上)の割合について、特殊詐欺 86.8%(男性23.8%、女性76.2%)、オレオレ詐欺 98.2%(19.7%、80.3%)、預貯金詐欺 98.8%(9.6%、90.4%)、架空料金請求詐欺 54.5%(52.1%、47.9%)、還付金詐欺 85.2%(32.4%、67.6%)、融資保証金詐欺 10.9%(90.9%、9.1%)、金融商品詐欺 28.6%(50.0%、50.0%)、ギャンブル詐欺 54.5%(70.8%、29.2%)、交際あっせん詐欺 14.3%(100.0%、0.0%)、その他の特殊詐欺 33.3%(87.5%、2.5%)、キャッシュカード詐欺盗 98.7%(13.9%、86.1%)などとなっています。
警視庁の池田克史副総監が8日、ニッポン放送のラジオ番組に出演した様子をまとめた2022年12月8日付産経新聞の記事「池田副総監インタビュー 手口「悪い意味で進化」は、最近の特殊詐欺の動向等について、平易な語り口で本質的な内容となっおり参考となりますので、以下、抜粋して引用します。
マッチングアプリ等で知り合った人に騙されるケースや心当たりのないメールに騙される事例も後を絶たないことから、国民生活センターが注意喚起をしています。以下、引用します。
▼国民生活センター 「愛してるから投資して」っておかしくない!?-マッチングアプリ等で知り合った人に騙されないためのチェックリスト-
- 「婚活実態調査2022」によれば、2021年の婚姻者のうち、婚活サービス(結婚相談所、ネット系婚活サービス、婚活パーティー・イベント)を通じて結婚した人は15.1%であり、そのうち約6割の人がマッチングアプリ等のネット系婚活サービスを利用しているという結果になっています。マッチングアプリ等は真剣な出会いの場として存在感を高めています。
- 一方で、中には悪意をもった利用者が紛れ込んでいます。消費生活センターにはマッチングアプリ等で知り合った人から暗号資産やFX等の投資を勧められ、送金したところ、相手と連絡が取れなくなるといった相談が多く寄せられており、こうした場合、お金を取り戻すのは極めて困難です。そこで、寄せられている相談内容から、手口を分析し、チェックリストを作成しました。やり取りしている相手がリストの内容に該当する場合は詐欺的な投資トラブルに繋がる恐れがあります。マッチングアプリ等を利用する方は、ぜひご活用ください。
- このチェックリストは実際に寄せられた相談内容をもとに作成したものです。本来の目的で利用している人でもこのチェックリストの一部の項目に該当することがあります。また、チェックリストの項目に該当しない相手であれば必ず安心というわけではありません。投資を勧められたら、相手に関わらずきっぱりと断ってください。
- マッチングアプリ等で知り合った人に騙されないためのチェックリスト
- 相手の特徴
- 自称外国人や外国の在住経験がある日本人
- 不自然な日本語
- 暗号資産やFXでもうけている
- 趣味は投資や資産運用
- 副業で投資をやっている
- 連絡の取り方
- マッチングアプリから早々にLINE等のSNSへ変更を提案
- まめな連絡
- 投資の誘い文句
- 投資に詳しい家族や親戚(知人)の言うとおりに投資すればもうかるよ
- 結婚するなら金銭感覚が近い人が良いから、一緒に資産運用しよう
- 結婚の資金を貯めるために投資しよう
- 豊かな結婚生活のために投資は重要だよ
- 相手の特徴
- 相談事例
- マッチングアプリで知り合った男性から、二人の結婚後の資金を貯めるためにと暗号資産を送金させられたが、連絡が取れなくなった
- マッチングアプリで日本在住のワイン輸入業者の役員というイギリス人男性と知り合い、無料メッセージアプリで連絡を取るようになった。やり取り開始時から男性は私のことを「妻」と呼び、「結婚後に悠々自適な生活を送るために二人で資金を出しあって投資をしよう」と言われた。暗号資産取引所に口座を持っていたので、その口座で暗号資産を購入し、男性が指定した口座に数日間にわたり合計130万円分の暗号資産を送った。数日後に男性と会う約束をしていたので、相手に会うためにも必要だと思い、さらに40万円分を送った。しかし相手から「新型コロナに感染したから会えない」と連絡があった。翌月に相手が50万円分を用意したので、私は40万円分を用意するように言われたが、20万円分しか用意できないと伝え、暗号資産で送ると、その日から相手と連絡が取れなくなった。どうしたらよいか。(2022年8月受付 40歳代女性)
- マッチングアプリで知り合った人にFX取引を勧められ210万円を投資した。利益の出金を求めたが返信が来ない
- マッチングアプリで中国人の女性と知り合った。アプリ内で会話をしていたが、仲良くなったので無料通話アプリを交換し頻繁にやり取りを始めた。彼女はFXの取引でもうかっており、「叔父がプロの投資家で教えてもらっているので、ほとんど負け知らずだ」という。投資経験は全くなか ったが、彼女が言うのであれば本当だろうと思い、言われるままにスマホに外国のFX取引のアプリをインストールした。彼女からアドバイザーと呼ばれる人を紹介され、無料通話アプリでやり取りをした。FX口座を開設するために運転免許証の写真を送付し、投資金として、国内の銀行の外国人名義の口座に10万円を振り込んだ。毎晩女性と連絡を取り、女性から「ここを押して」等と指示を受け売買をしていた。アプリ内ではもうかったので、数日後さらに200万円を振り込んだ。しかし、さらに投資しようとすると振り込みできなかった。もうけ分の出金を依頼したが、既読になっているのに返信が来ない。どうしたらよいか。(2021年8月受付 50歳代男性)
- マッチングアプリで知り合った男性から、二人の結婚後の資金を貯めるためにと暗号資産を送金させられたが、連絡が取れなくなった
- 消費者へのアドバイス
- マッチングアプリ等で知り合った相手の指示で投資するのはやめましょう。
- マッチングアプリ等は、ルールに従って利用しましょう。
- 不安に思った場合や、トラブルに遭った場合は、すぐに最寄りの消費生活センター等へ相談しましょう。
▼国民生活センター 7億円当選!? 心当たりのないメールは無視
- 内容
- スマホのSMSに「7億円当選した」という通知が届いた。受領するための手続きだと言われ、様々な名目の費用を請求され、これまでに電子マネーで150万円ほど支払ったが、いつまで経っても当選金が振り込まれない。「コンビニの端末機で購入した電子マネーの払込票が残っていると当選金が支払えなくなる」と言われていたので、全て捨ててしまった。姉から借金もした。お金を取り返したい。(70歳代 女性)
- ひとこと助言
- 申し込んでいないのに、宝くじや懸賞などに当選することはありません。大金が当選したというメールやSMSが来てもうのみにせず、すぐに削除し相手には絶対に連絡しないようにしましょう。
- 「当選金を受け取るため」などと言って事前にお金を請求されたら、詐欺です。後で元が取れるなどと思わず、絶対にお金を支払わないでください。支払ってしまうと、取り戻すことはほぼできません。
- 周囲の人は、高齢者に変わった様子がないか日ごろから気を配りましょう。
- 困ったときは、お住まいの自治体の消費生活センター等にご相談ください(消費者ホットライン188)。
特殊詐欺の被害者は高齢者に集中しています。「自分だけは大丈夫だ」と信じている高齢者らも被害に遭っており、被害を防ぐためには、家族が集まる年始こそ防犯意識を高める機会にしてほしいと呼び掛けています。オレオレ詐欺の被害総額の約5割がタンス預金だとされ、犯罪グループは、自宅に現金をいくら保管しているのかを、細かく確認する「アポ電」をしてから犯行に及ぶ傾向もあるといいます。被害者のうち50代以下は全体の5%未満で、高齢者が被害の中心を占めているとされますが、だまされたことを身内らに知られたくないとして被害を警察に申告しない人も少なくなく、実際には被害はもっと深刻だとみられています。以前の本コラムで紹介したとおり、女性の方が被害者として圧倒的に多い状況となっていますが、だまされやすさの男女の違いはそう大きくないことから、実際には泣き寝入りしている男性が相当数いるのではないかと最近では考えられるようになってきました。一方、特殊詐欺は若者にとっても懸念される点があります。SNSなどでバイト感覚で申し込んで面接を受け、「採用担当」と名乗った相手から説明されたのは、「借金の取り立てで書類を受け取る」業務で、「トラブルがあったら警察に連絡して」と指示され、音声通話のみでの面接にも抵抗なく、数日後、面識のない男らの指示で、新幹線で東京都内まで移動、連絡には、データが暗号化される秘匿性の高いアプリを使うよう指定され、途中、駅員に道を尋ねた時、指示役からとがめられたのをきっかけに「嫌な予感がした」ものの、要求された通り、自分のマイナンバーカードや住所のわかる郵便物、保険証の写真を送信していたために、辞めたくても辞められない深みに嵌ってしまった…という事例が典型的ですが、そうした募集や要求を疑問に思わない、社会経験が浅い若者がつけ込まれているという点で若者にとっても特殊詐欺は他人事ではないということです。また、高齢者らが金をだまし取られる特殊詐欺の被害が止まらない中、兵庫県警は取り締まりや啓発を強化しており、金融機関やコンビニ店などに協力を求めているものの、なかなか効果が上がらず、新たに、ATM設置場所近くの民家や商店にも、被害に遭いそうな高齢者らを見かけたら通報してもらう取り組みを始めています。報道によれば、「警察の力だけでは限界があると認めざるをえない。市民の力を借りてでも、なんとか被害を食い止めたい」としています。また、店員が詐欺を疑い、「だまされているのでは」と指摘をしても、「ちがう」と怒って聞く耳を持たない客も多く、島根県警大田署は、警察官の到着まで客を引き留めるため、待ち時間の買い物代を300円まで負担するユニークな「戦法」を編み出しています。これまで6件の通報があり、うち1件の被害を阻止、「店員から詐欺被害を疑われても、腹を立てる人が減った」と効果を強調しているといいます。報道で、立正大の小宮信夫教授(犯罪学)は「特殊詐欺は手口が巧妙化し、注意を呼びかける啓発活動だけでは効果が望めなくなってきた。警察は、被害者や声をかける人がトラブルに遭わないように十分に配慮しながら、地域ぐるみで取り組む詐欺対策を普及させる必要がある」と指摘しています。
次に、ここ最近の事例から、特徴的な手口や被害について紹介します。
- 特殊詐欺グループのメンバーだったとされる容疑者2人が、警視庁から合わせて33回の逮捕を繰り返されている事例があります。関わった事件が多数にのぼっているとされますが、ともに容疑を認めず黙秘か否認していたといいます。警視庁は、組織犯罪を解明するための必要な捜査を尽くした結果だとしていますが、弁護士は「常習的かつ組織的に行われる特殊詐欺だから多数回逮捕される珍しい事例になったのではないか」とし、「逮捕ごとに裁判官の判断を経ているので問題はない」という意見と、別の弁護士は「黙秘をしていることが理由で逮捕が繰り返されているのであれば、憲法が保障する黙秘権の行使によって不利益を被ることになるので、あってはならない」と話しており、真逆の見解に分かれる結果となっています。
- 神奈川県に住む高齢男性から現金4000万円をだまし取ったとして住吉会系の関係者の男が再逮捕されました。男は2022年2月、既に逮捕されている男らと共謀し、神奈川県相模原市に住む87歳の男性の自宅に息子を装い、「お金や書類が入った荷物を喫茶店に忘れてきた。いくらか用意出来ないか」などとうその電話をかけ、現金4000万円をだまし取った疑いが持たれています。男は特殊詐欺グループの「かけ子」を取りまとめ指示をするリーダーで、警察は、だまし取られた現金が暴力団の資金源になっていたとみて上部組織の関与など調べています。
- タイ警察は、バンコクの住宅に日本人男性(28)を監禁した疑いで、日本人の男5人を逮捕しています。5人はバンコクを拠点とした特殊詐欺グループのメンバーとみられ、タイ警察は今後、日本の捜査当局にも協力を求め、実態解明を進めることとしています。タイ警察によると、被害者の男性は「コールセンターのアルバイト」と勧誘されてバンコクに来たが、住宅に監禁され、日本に詐欺の電話をする「かけ子」をするよう強要されたといいます。男性は自力で逃げ出し、タイ警察に通報したものです。男性が監禁されていた住宅は詐欺グループの拠点とみられ、詐欺の標的とする日本人の名前や連絡先が載った名簿が押収されています。
- 走行中のワゴン車からニセ電話をかけたとして、茨城県警と静岡県警の合同捜査本部は、住所不定の無職の容疑者ら3人を詐欺未遂容疑で逮捕しています。車で移動しながら電話をかけていた事件の摘発は茨城では初めてとなります。捜査本部は、3人が犯行拠点の特定を逃れるために、朝から夕方まで首都高や常磐自動車道を走りながら電話をかけ続けていたとみています。2021年に摘発した詐欺グループの捜査で独立した別動隊があると突き止め、内偵を進めていたもので、犯行に使われたワゴン車の他、スマートフォン7台など19点を押収、スマホには、千葉、埼玉、神奈川の3県に住む約5200人の住所や氏名、生年月日などが書かれた名簿や、電話をかけるマニュアルが入っていたといいます。
- 東京消防庁は、特殊詐欺に関与したとして警視庁に逮捕された消防署員の自宅から、消防署が保管する高齢者名簿のコピーが押収されていたと発表しています。署員が無断で持ち出したものとみられ、警視庁は詐欺に悪用されていないかどうか調べているといいます。警視庁が2022年11月、練馬区の高齢女性宅で現金110万円などをだまし取ったとして野方消防署員の男を詐欺容疑で逮捕、警視庁による自宅の捜索で、中野区に居住する70歳以上の高齢者約1万6000人分の名簿コピーの一部が見つかったというもので、名簿は、災害時の支援用として中野区役所が地元の野方消防署に提供したもので、高齢者の氏名や住所などが書かれていたが、電話番号の記載はありませんでした。
- 直近でもコロナ禍の給付金の不正受給を巡る動きがあります。北海道警は、家賃支援給付金計2100万円をだまし取ったとして、詐欺の疑いで、いずれも会社役員の2人を逮捕しています。報道によれば、2人は賃貸借契約書などを偽造し、両者の間で北海道内の実在する建物を貸し借りしたと申請していたもので、不審な点に気付いた中小企業庁から2021年9月に情報提供があったといいます。同様の手口で計約3億円の給付金をだまし取った疑いもあるとみて関連を調べているということです。
- 国際ロマンス詐欺もいまだに被害が後を絶たない状況です。そのような中、SNSで知り合ったハリウッドスターを名乗る人物に恋愛感情を抱き、約7500万円をだまし取られたという女性漫画家が、その体験をつづった単行本を出版、女性は「『美しい』と言われ、心を奪われた。愚かな体験を教訓にしてほしい」と話して注意喚起しています。報道によれば、やりとりを終わらせるまでに3年5か月も要し、「不審な点を一つひとつ娘から指摘され、目が覚めていった」と振り返っています。国民生活センターによると、こうした相談件数は2019年度の5件から2020年度は84件、2021年度は192件と急増、コロナ禍による会食の自粛で出会いの機会が減る一方、SNSやマッチングアプリの利用拡大が背景にあると考えられます。また、情報セキュリティ会社「ノートン」が狙われやすい人について調べたところ、「プロフィル欄に家族やパートナーの写真がなく、独身と推測されやすい」、「車や家、高級品の写真を投稿している」などの特徴がみられたといい。マッチングアプリの運営会社は、身分証明書の真偽を見極めるためAIを活用した本人確認システムを導入するなどの対策を進めているといいます。一方、韓国の人気グループ「BTS」のメンバーを名乗る人物がだまし取った被害金などを引き出したとして、兵庫県警は、ベトナム国籍で東京都江戸川区に住む容疑者ら3人を窃盗容疑で再逮捕しています。3人は恋愛感情を抱かせて金を詐取する「国際ロマンス詐欺」グループの「出し子」とみられ、東京都のATMから和歌山県内の40代の女性が送金するなどした計46万円を引き出した疑いがもたれています。この女性は2022年10月以降、BTSメンバーを名乗る人物からSNSで「あなたの誕生日を日本で一緒に祝おう。費用を用意して」とメッセージを受け取り、来日費用などの名目で総額約300万円を振り込だもので、この被害金の一部を容疑者が引き出していたということです。3人が管理する口座には479人から計約3億3000万円が振り込まれており、県警は実態の解明を進めるとしています。兵庫、富山両県警の合同捜査本部は、無職の容疑者らベトナム国籍の3人を窃盗の疑いで再逮捕しています。外国人を装い恋愛感情を抱かせて金銭をだまし取る「国際ロマンス詐欺」などで現金を引き出す「出し子」グループとみられ、不審に思われないようスーツを着用していたが、1人は誤って学ランを着ていたといいます。
- 投資名目で暗号資産「ビットコイン」を詐取したとして、警視庁は、会社役員の男ら28~43歳の男計8人を逮捕しています。8人は暗号資産を狙った特殊詐欺グループで、主にうその電話をかける「かけ子」の役割を担っていたとみられ、実在する暗号資産運用会社に似せたうそのホームページを男性に示しながら、架空の運用実績をLINEで伝えるなどして男性をだましていたとみられています。男性がグループ側に送ったビットコインが実際に運用された形跡は確認されなかったといいます。警視庁が別の特殊詐欺事件を調べる過程でこのグループの存在が浮上し、2021年10月に拠点を家宅捜索しており、2021年8~10月にこの男性を含む十数人から約230万円相当の同様の被害の訴えがあるといいます。
直近の特殊詐欺の事例から、いくつか紹介します。
- 警視庁は、東京都大田区の40代女性が、約1カ月間に約30回の特殊詐欺の被害に遭い、計約2890万円をだまし取られたと発表しています。詐欺グループ側からのうその電話を信じ込み、現金を振り込み続けていたといいます。蒲田署によると、女性は11月中旬、NTTを装った差出人から「利用料金について説明したいことがある。本日中に連絡がほしい」とのショートメールを携帯電話で受けたため、記された電話番号に連絡すると、業界団体を名乗る担当者から「あなたの携帯電話がウイルスに感染した。それが原因で別に被害に遭った人がいるので補償金が必要」などと要求されたといいます。女性が指定された口座に約10万円を「補償金」として振り込んだところ、その後も別の団体をかたる担当者から「別に補償金が必要」「支払わないと逮捕される」といった電話があり、約1カ月間、約30回にわたって約10万~100万円を振り込み続けたということです。1カ月、30回の中で、違和感を持つ機会がなかったのか、悔やまれるところです。また、同様の事件として、大分県警大分南署は5日、大分市内の60代女性が特殊詐欺被害に遭い、約1500万円をだまし取られたと発表しています。女性の携帯電話に「利用料金の確認がある。連絡してください」などとショートメッセージが届き、表示された番号に電話したところ、「サイト料金の未払いがある」などと解決金名目で現金を要求され、さらに後日、「あなたの携帯電話がウイルスに感染して、詐欺に使われている」などと保険料や賠償金などとして現金を求められたといいます。女性は25回にわたって相手が指定する銀行口座に送金したものの、相手と連絡が取れなくなり、同署に相談して発覚したということです。さらに、大阪府警特殊詐欺捜査課は、大阪府内の60代の男性が有料サイトの未払い金などの名目で計約2070万円をだまし取られる詐欺被害に遭ったと発表しています。男性のスマートフォンに「本日中に連絡をください」というショートメッセージが届いたため、男性が電話をかけると、電話会社の職員を名乗る男から「有料サイトの未払い金がある」などと伝えられ、指定された口座に約50万円を振り込んだといい、その後も総務省の傘下団体の職員を名乗る男らから「あなたのスマホからウイルスがまかれており、示談を進める必要がある」などと電話があり、示談金や保険料名目で金を要求され、23回にわたり計約2020万円を振り込んだといいます。さらに、長野県警中野署は、中野市の80代男性が現金3366万円をだまし取られる特殊詐欺(電話でお金詐欺)被害に遭ったと発表しています。「競馬に投資して資産を増やしましょう」と書かれたメールが男性のパソコンのアドレスに届き、登録手続き後、投資関連会社社員を名乗る男から「1億円の利益が出ました」、「当社の規定で保証金3000万円を入れていただきたい」などと言われ、計69回、指定された口座に現金を送ったもので、その後、男と連絡がとれなくなったということです。
- 「偽札を確認する」とうそを言い、高齢女性から現金300万円をだまし取ったなどとして、大阪府警北堺署は、職業不詳の容疑者を詐欺と窃盗の疑いで逮捕しています。逮捕容疑は、堺市北区の80代女性宅に「堺北警察署の捜査2課のヤマシタ」を名乗り、「偽札が出回っている。家にお札はありますか」とうその電話をかけ、用意させた現金300万円を「偽札の確認をする」と言って詐取、キャッシュカード3枚も盗んだというものです。署によると、女性が署に確認の電話をしたことで詐欺が発覚、周辺の防犯カメラ映像などから安達容疑者の関与が浮上したということです。
- 茨城県警は、鹿嶋市の80代の無職女性が、息子などをかたる「オレオレ詐欺」で700万円の被害にあったと発表しています。鹿嶋署によると、女性宅に長男の上司を名乗る男から「息子さんが会社で血を吐いたので病院に来ている」と電話があり、その後、長男をかたる男から「病院で財布を置き忘れて中身がなくなっていた」などと電話で現金を要求され、信用した女性は、自宅を訪れた男に現金700万円を手渡したものです。女性は長男と2人暮らしで、長男が仕事から帰宅して詐欺だとわかったということです。類似の手口として、神奈川県警藤沢署は、藤沢市内に住む80代女性が、喉を手術した長男を装った複数の男性に現金3000万円をだまし取られたと発表しています。署は「喉を手術したと言われた際は詐欺を疑ってほしい。声が変わっても違和感がないように巧みに装ってくるのでだまされないで」と注意を呼びかけています。女性は、自宅を訪れた息子の部下を名乗る複数の男性に現金計3000万円を手渡したといい、その後、女性は近くに住む長男の妻に連絡、だまされたことに気づき、署に通報したということです。
- 鳥取県警は、境港市の60代の男性が計120万円をだまし取られる特殊詐欺の被害に遭ったと発表しています。男性の携帯電話に、通信会社を装ったショートメッセージが届き、電話をかけると「携帯電話のウイルスを除去するのに20万円必要」などと言われ、ATMから振り込んだところ、その後も連日「あなたが発端で92人がウイルス感染した。補償するため保険に入った方がよい」などと言われ、計3日間で120万円を振り込み、詐取されたものです。また、類似の手口として、静岡県警浜北署は、浜松市の70代女性が現金計約3000万円などをだまし取られる特殊詐欺被害に遭ったと発表しています。届いたメールに記載された番号に電話し、電話会社の社員を名乗る男から「あなたのスマートフォンがウイルスに感染した」などと言われ、10万円分の電子マネーを購入して利用番号を伝えたところ、その後、セキュリティ協会の職員を名乗る男らから「あなたが拡散させたウイルスの被害を受けた人への補償が必要」などと言われ、43回にわたって現金計約3000万円を振り込んだというものです。さらに、警視庁蒲田署は、40代女性が1カ月間で2900万円をだまし取られる特殊詐欺被害に遭ったと発表しています。何者かから女性に「携帯電話がウイルス感染したことで被害者が出た」などと補償金を求める電話が相次ぎ、女性は相手の指示通りに現金を振り込み続けてしまったというものです。女性の携帯電話にNTTを装い「利用料金の説明がある」と書かれたショートメールが届いたため、記載された電話番号に連絡すると、「個人データ保護協会」を名乗る人物から「あなたの携帯電話がウイルス感染したせいで被害に遭った人がいる。補償金が必要だ」と要求されたということです。
- 女性は、実在する大手企業をかたる男から「老人ホームの入居権が当たった」などと自宅に電話があり、男が権利の譲渡を求めて女性の了承を得ると、数日後に別の大手企業をかたる男が電話で「入居権を譲ったのは名義貸しになり犯罪だ。口座が差し押さえられる」などと女性を追い詰め、差し押さえ回避のために弁護士を紹介すると提案、今度は弁護士を名乗る男が「口座のお金をいったん(暗号通貨の)ビットコインに預けよう」と電話で提案したため、女性は金融機関の窓口から指定された口座に、約2500万円を振り込んだもので、女性は被害に気付いて通報したということです。類似の手口として、愛知県警安城署は、安城市の70代女性が3240万円をだまし取られたと発表しています。女性宅に男から「安城市に住むあなたには介護施設の入所権利がある。権利を譲って」と電話があり、女性が「いらないので他の人に譲ってあげて」と応じたところ、翌日、保険会社を名乗る男から「金融庁が調査を始めた。弁護士を紹介する」、弁護士を名乗る男から「あなたは詐欺の加害者。金融庁の目の届かないところにお金を預けて」と相次いで電話があったため、女性は5回にわたり、複数の金融機関から男の指定先口座に計3240万円を入金したものです。
- 鳥取県警は日野郡に住む30代の会社員女性が、約440万円をだまし取られる特殊詐欺の被害に遭ったと発表しています。女性の携帯電話のショートメールに「8億円が当選しました」とメッセージが届き、女性がメッセージで相手に問い合わせたところ「振り込みには処理費が必要。電子マネーを購入して、利用番号を入力するように」などと指示されたため、コンビニ店で6万5000円分の電子マネーを購入し、番号を伝えたが、その後も「次のステップに進むためにはさらに処理費が必要」などと指示され、39回にわたり計441万5000円を詐取されたものです。いつまでたっても当選金を受け取れないことを不審に思い、警察に相談して被害に気づいたということです。
- 千葉県警流山署は、流山市の無職の80代の女性が現金約2400万円をだまし取られる特殊詐欺事件が発生したと発表しています。女性の自宅の電話に、息子をかたって「喫茶店に一緒に入った人が忘れ物をして渡しに行った間に、置いていたバックがなくなっていた」、「資料の中に小切手があり、違約金もかかる」などという電話が入り、その後も他の人物をかたった電話がかかってきて、女性は、複数回にわたり自宅で現金を渡したということです。女性は実の息子に連絡し、お金を請求していないことを伝えられ署に相談にきたものです。
- 滋賀県草津市内で、特殊詐欺事件が相次ぎ、同じ日に80代の女性2人がそれぞれ現金50万円をだまし取られています。草津署は同一グループの犯行の可能性があるとみて詐欺容疑で捜査しているといいます。81歳の女性方に金融機関職員を名乗る男から「医療費の保険払い戻しがあります」という電話があり、女性が手続きを依頼すると、「キャッシュカードを新しくする必要がある」、「キャッシュカードを家まで取りに行く」といわれ、信じた女性が自宅を訪れた若い男にキャッシュカードと暗証番号を記した紙を手渡したといい、その後、女性の口座から現金50万円が引き出され、被害が判明したものです。また、同じ日、85歳の女性には金融機関職員を名乗る男から「キャッシュカードを交換する必要がある」と電話があり、信じた女性が訪れた若い男にキャッシュカードと暗証番号を渡し、金融機関の口座から現金50万円を引き出される被害に遭ったものです。
- 大阪府警は、大阪府内の70代女性が金融庁の職員を名乗る男らからのうその電話を信じ、現金計約7700万円をだまし取られたと発表しています。宅配便で12回にわたって送っていたといいます。女性は電話の指示通り、品名を「和菓子」とし、宅配便で現金を送付、宛先は指定された東京都大田区内のマンションの一室で、多いときで一度に900万円を送っていたといいます。類似の手口として、北海道函館市の70代女性が約1億5千万円をだまし取られた架空請求詐欺事件で、道警函館西署は11日、設備工事業の容疑者を詐欺容疑で再逮捕しています。署によると、容疑者は共犯者らと共謀し、不動産会社員や弁護士を名乗って女性宅に電話、老人ホーム入居権の名義貸しを巡る問題を解決する名目で、3回に分けて現金計4500万円を都内の共同住宅に宅配便で送らせ、だまし取った疑いがもたれています。山上容疑者は詐欺グループの「受け子」とみられ、同様の手口でこの女性から現金1500万円をだまし取ったとして、詐欺罪で起訴されています。
本コラムでは、特殊詐欺被害を防止したコンビニエンスストア(コンビニ)や金融機関などの事例や取組みを積極的に紹介しています(最近では、これまで以上にそのような事例の報道が目立つようになってきました。また、被害防止に協力した主体もタクシー会社やその場に居合わせた一般人など多様となっており、被害防止に向けて社会全体の意識の底上げが図られつつあることを感じます)。必ずしもすべての事例に共通するわけではありませんが、特殊詐欺被害を未然に防止するために事業者や従業員にできることとしては、(1)事業者による組織的な教育の実施、(2)「怪しい」「おかしい」「違和感がある」といった個人のリスクセンスの底上げ・発揮、(3)店長と店員(上司と部下)の良好なコミュニケーション、(4)警察との密な連携、そして何より(5)「被害を防ぐ」という強い使命感に基づく「お節介」なまでの「声をかける」勇気を持つことなどがポイントとなると考えます。また、最近では、一般人が詐欺被害を防止した事例が多数報道されており、大変感心させられます。まずは、コンビニの事例を紹介します。全国で相次ぐ特殊詐欺の被害防止は今や、コンビニの協力なしには成り立たないといえます。店員が利用客に声をかけ、「水際対策」に尽力しているためで、店頭で被害防止に貢献した店舗は5年間で3.6倍に増えたとの調査結果もあるといいます。客が気分を害することも念頭に、店員は勇気を振り絞って声かけを行っており、警察は店側の協力に感謝するとともに声かけへの理解を呼びかけています。
- 「料金の未納がある」「還付金がある」…こんな誘い文句による特殊詐欺の被害が止まりません。食い止める最後の砦の一つとされるのが、コンビニの店長らです。ある店長(山中さん)の事例では、スマートフォンを見せてもらうと、「国税庁」をうたった延滞金を催促する内容のショートメールが届いていたため、「こういうのは詐欺ですよ」と言って警察に通報、翌日には、別のコンビニに70代の男性が訪れ、電子マネーのプリペイドカード、グーグルペイ2万円分を購入しようとしたため、理由をたずねると「パソコンで警告画面が出たため、消去するために必要だと言われた」と答えたことから、店員から連絡を受けて店へ行った山中さんが説得し、購入を思いとどまらせたといった事例もありました。山中さんはコンビニ2店の経営者になって5年目、バイトを含む従業員約30人には、レジ対応で不審だと感じたら自分に連絡するように指導しているといいます。「店員は、お客さんに言いにくいでしょうから。楽してもうけようという犯罪が許せない」という思いの背景には、4年ほど前、自分の店で特殊詐欺の被害が起きたことを警察から知らされたのがきっかけだったといいます。2022年は同様の被害を10件以上食い止めたということです。
- 特殊詐欺の被害を未然に防いだとして、警視庁戸塚署は、コンビニエンスストア「セブン―イレブン高田馬場3丁目中央店」のアルバイト店員で、東京都新宿区の都立高1年の仲宗根さんと同店に感謝状を贈呈しています。仲宗根さんは、携帯電話で通話しながらATMで現金を引き出し、直後に電子マネー30万円の購入を求めた80代女性に声をかけ、購入を思いとどまらせたといいます。女性の携帯電話を預かり、電話口の男に詐欺だと指摘して電話を切り、被害を防いだというものです。仲宗根さんは、過去に動画投稿サイト「ユーチューブ」で架空請求の特殊詐欺に関する動画を見たことがあり「男の発言が動画で聞いた通りだったので、詐欺だと気付いた。余計なことをしていないか不安だったが、前のめりになって防げてよかった」と話しています。
- 同じく女子高生が防いだ事例もあります。女性の電話口から通話相手の男の声が漏れ聞こえてきて、「店員に詐欺じゃないかと言われるかもしれないけど、大丈夫ですからね」レジを打つ手を止めて女性に声をかけ、「それ、払っちゃだめです」、戸惑う女性から携帯電話を託されると、「失礼ですが、これって詐欺じゃないですか」と相手の男に詰め寄ったところ、男も引かず、「いや、詐欺ではないですよ。もしこの電話を切ったら支払期間が伸びて民事裁判になりますよ」と丁寧な言葉ながらも威圧的に脅すような口調だったものの、自分が食い止めないと、と必死で「詐欺ですよね」と告げて女性に携帯電話を返すと、「この人の言っていることはおかしいです。きっと詐欺です」と電話を切るように説得、被害に気づいた女性は通話相手の男に自分をだましたことをとがめ、電話を切ったものです。女性は携帯電話会社を名乗る男に「あなたの電話がウイルスにかかっている。制裁金が必要」などとうそをつかれ、不当な現金振り込みをさせられそうになっていました。
次に金融機関の事例を紹介します。
- 息子をかたって現金を要求する「オレオレ詐欺」を見抜いて被害を未然に防いだとして、山口署は、山口湯田郵便局の大木局長と局員の小野さんに感謝状を贈っています。普段からよく利用する、顔なじみの80代女性が、「300万円を現金で引き出したい」と窓口にきて、県外に住む息子から電話があり「病気で入院中だが携帯も財布もなくした。お金を用意してほしい」と頼まれたといい、息子の代理とみられる人が「午後1時には家にお金を受け取りに来る」と慌てた様子だったため、小野さんが「本当の話ですか」と聞いても、「詐欺のニュースは見て注意しとるし、息子の声だったから大丈夫」と繰り返したため、「ご本人に確認してもらえないですか」、「なくした携帯には電話しないで、と言われた」などといったやりとりが15分ほど続きましたが、それでも「オレオレ詐欺の手口」と確信していた小野さんは大木局長に相談、大木局長は数年前にこの手口の詐欺を防いだ経験があり、急いで署に通報したもので、「『誤報』だったとしても自分がお客様に怒られるだけ」と覚悟の上だったということです。
- 「国際ロマンス詐欺」を未然に防いだとして福岡県警福岡空港署は、西日本シティ銀行福岡空港支店の店頭サービス課長、三角さんに感謝状を贈っています。銀行に焦った様子の男性が来店し、お金を貸してほしいというものの理由は言いづらそうな様子で、確認すると「暗号資産を560万円振り込めば、約3億7千万円もらえる」とのことだったため、対応した三角さんは怪しみ、警察に連絡したものです。後に、SNSで知り合った相手に恋愛感情をもたせて現金をだまし取る「国際ロマンス詐欺」と判明したということです。
- ニセ電話詐欺を防いだとして、茨城県警下妻署は、結城信用金庫下妻支店と支店職員の男性に感謝状を贈っています。職員は、担当する下妻市内の80代女性から連絡を受け、市職員を名乗る男から「保険金の還付がある」と電話で伝えられ、振込先の金融機関を教えたほか、続けて電話をかけてきた結城信金職員を名乗る男に口座番号を教えたとのことで、幸いにも暗証番号は忘れていたため、男に伝えなかったといいます。女性の話を聞いた職員は「詐欺だ」と直感し、支店長に相談、同署に通報するとともに女性宅に急行して詐欺の可能性が高いと説明したといいます。
- 高齢者を狙ったニセ電話詐欺被害を未然に防いだとして福岡県警宗像署は、福岡銀行福間支店の行員一同に感謝状を贈っています。70代の女性方に男の声で「お金を落としたから用立ててほしい」と350万円を準備するよう電話があり、女性は家族からの電話と思い込み、お金を下ろすため同支店の窓口を訪ねたところ、対応した行員は高齢者が高額の金をおろそうとしていることや、本人が家族に確認していないことを不審に思い、課長に連絡、宗像署に通報、署員が駆けつけ、家族に確認して詐欺であることが分かったというものです。
- 一人暮らしの70代女性に対する特殊詐欺被害を防いだとして、和歌山県橋本市の紀陽銀行橋本支店と営業課の足立さんに、橋本署長から感謝状が贈られました。投資信託の全額解約を申し出た同市内の女性に足立さんが窓口で対応、解約理由を尋ねると「東京の会社から電話がかかってくる」と急ぐ様子で、解約理由を話さないなど不審な様子から詐欺被害を疑い、上司を通じて橋本署に情報提供したものです。署が女性に事情を聴くと、5日ほど前から身に覚えのない高額な商品購入の未払い金請求を電話で受けていたといい、要求額は1200万円に及び、様々な肩書を名乗る6人以上から「警察に言ったら捕まりますよ」などと代わる代わる迫られていたといいます。
次に一般人の事例を紹介します。
- 「もしもし、○○だけど。お金を貸してほしい」。19日午前11時ごろ、埼玉県入間市の男性が自宅で受けた電話は、自分の名をかたる男からのもので、自宅には同居する85歳の父をだまそうとかかってきたものだとピンときて、「許せない」という憤りを抑えつつ、機転を利かせて冷静に父を装い、だまされたふりをしたものです。「大事な決裁書類の入ったかばんが誤配送された」、「今日中に決裁する必要があり、お金を貸してほしい」、「上司の息子が取りに行く」など少なくとも7、8回にわたって電話でやりとりし、百数十万円を渡すことになったところで、男性は警察に連絡したといいます。
- 高齢女性の特殊詐欺被害を防ぎ、事件の容疑者逮捕に貢献したとして、兵庫県警尼崎東署は、阪急タクシー伊丹営業所の運転手の男性に感謝状を贈呈しています。タクシー運転手が乗客の被害を防ぐとともに犯人検挙にもつながった事例は、県内では2022年で初めてというものでした。女性を乗せた運転手の男性は「息子が取引先に支払うお金が必要。急いで向かってください」と言われ、その経緯を聞いて詐欺を疑い、男性は「交番でご相談しませんか」と提案したが、女性は「急いでください」と譲らなかったといい、男性は自分の判断で、銀行すぐ近くの交番前にタクシーを停車、交番で事情を話し、尼崎東署から駆けつけた署員らが女性を説得したといいます。この日は土曜日で、金融機関の窓口業務が休みで監視の目が行き届きにくい日に犯行を食い止めたというものです。
- 高齢者を狙った特殊詐欺の被害を未然に防いだとして、警視庁府中署は、会社員に感謝状を贈呈しています。会社員が銀行でATMを操作していたところ、携帯電話で話しながらATMを操作している80代男性を発見、違和感を覚えた会社員が、近くの府中署大国魂交番に事情を説明し、警察官が男性に確認、市役所職員をかたり、還付金があるなどと電話をかけ、現金をだまし取る手口の詐欺であったことが判明したというものです。
- 福岡工業大学の3年、蔵森さんと今西さんは、「なめるなよクソガキ」、「こっちは暴力団とも関係があるんだ」という脅しも受けながら、電話詐欺被害に遭いそうになったお年寄りを助けたといいます。女性の携帯電話に着信があったため今西さんが替わったところ、電話の相手の男は「NTT関連のサポート会社の者」と名乗り、「携帯電話の使用料として9万9600円を振り込んでほしい」と求めてきて、遅れると30万円請求するといい、今西さんは詐欺と確信し電話を切ったところ、再び着信があり、今度は蔵森さんが替わって問い詰めたところ、男は豹変し、脅しをかけてきたといいます。2人は携帯電話の電源を切り、大学の学生課に女性を連れていき、保護したといいます。蔵森さんは「男にすごまれたときは手が震えたが、おばあさんの不安を思い勇気をもって対応した」、今西さんは「詐欺は被害者の心まで深く傷つける。防げてよかった」と話しているといいます。
最後に、特殊詐欺被害防止の取組みについて紹介します。
- 埼玉県警とNTT東日本埼玉事業部は、人工知能(AI)を活用して特殊詐欺被害を防止することを目的とした連携協定を締結しています。NTT東日本のサービスは、特殊詐欺を解析するクラウド上のサーバーに通話データを送信し、AIで通話内容を解析、詐欺の疑いがある場合には、事前に登録を済ませた本人や家族などに対し、メールや自動音声による電話で注意を呼び掛ける仕組みで、電話機に専用の端末を取り付けることで利用できるものです。特殊詐欺の被害事例の約9割は、固定電話にかかってきた電話がきっかけになっているといい、被害防止につながるものと期待されます。
- ATM前で携帯電話を使うと人工知能(AI)が検知し、店員に連絡がいくという機能を有したカメラが東京都内のセブンイレブンの一部店舗に設置されているといいます。特殊詐欺の被害を防げるかを調べる警視庁の実証実験の一環で、1年にわたって効果を検証したいとしています。撮影した人間の姿勢や動作から、その人がどんなことをしているか、リアルタイムで判断・推定できるといい、今回の実証実験では特に「携帯電話で通話する」姿勢に反応するように設定されているといいます。警視庁は「ATM前で携帯電話を使っている」という状況は、「詐欺の被害に遭っている」ことが強く想像できる状況に当たるとみており、こちらもAIを活用した特殊詐欺防止の取組みとして、その成果を期待したいと思います。
(4)薬物を巡る動向
以前の本コラムでも取り上げたタイで大麻の栽培が合法化されてからの実態に関する報道がありました(2023年1月9日付日本経済新聞)。タイが2022年6月、麻薬として一般の使用や流通を禁止するリストから大麻を除外してから半年あまりが経過しましたが、世界でもほぼ前例のない事実上の全面解禁であることもあって、混乱が目立つようです。導入前から懸念されていたことですが、吸引は医療目的に限定しているものの、実際には娯楽での使用が後を絶たない現状があります。その結果、大麻の中毒者は解禁前の4倍近くに増え、政権内でも批判が噴出しているといいます。タイ政府は20歳未満や妊婦への販売や公共の場での吸引を禁じるといった制限を設け、大麻乱用の防止に一定の配慮はしていましたが、実態としては確認が難しく、当局も管理しきれない状態だといいます。大麻の使用は学習能力の低下や知覚が変化するなどの影響があるとされ、乱用を続ければ精神障害も引き起こし、社会生活に適応できなくなるなどの影響が指摘されています。タイ保健省によると、大麻中毒者の数は解禁前の2022年1~5月に月平均72人だったのに対し、2022年6~11月は平均282人と約4倍に増えたほか、2022年に集中治療が必要な精神疾患の患者全体に占める中毒者の割合も約17%と過去5年で最も高く、医療目的の解禁がかえって医療を圧迫する結果となっています。観光立国であるタイにおける大麻解禁は外国人観光客の利用にも拍車をかけており、顧客の8割が外国人観光客だとの指摘もあります。さらに、大麻の規制を求める声とは裏腹に大麻の産業化は着々と進んでおり、タイ商工会議所大学は国内の大麻市場は2025年に429億バーツ(約1700億円)と、2022年の281億バーツから1.5倍に成長すると予測しています。大麻の限界普及率近くまで普及している国や地域ではビジネスとして考えられるのでしょうが、今の日本にとっては、タイの状況は反面教師であって、社会的害悪が著しく顕在化するだけです。そして、大麻の産業化はその社会的害悪を助長するだけであり、健全なビジネスとして成立しようがありません。他の国や地域で行われているからよいのではなく、こうした正しい理解を社会に広めていくことが重要です。
法務省が令和4年版再犯防止推進白書(令和3年度再犯の防止等に関する施策)を公表しています。犯罪の種類によって、再犯防止等に関する施策は異なるものですが、ここでは、主に薬物事犯に関する再犯防止等に絞って紹介します。これまで本コラムでも紹介してきたとおり、「薬物事犯者の再犯・再非行を防止するためには、「改善更生に向けた指導」のみならず、「依存からの『回復』に向けた治療や支援」を継続することも必要との基本的方針に沿って、さまざまな取組みがなされています。
▼法務省 令和4年版再犯防止推進白書(令和3年度再犯の防止等に関する施策)
▼全体版
- 薬物事犯者は、犯罪・非行をした者であると同時に、薬物依存症の患者である場合が多い。2020年(令和2年)出所者(覚醒剤取締法違反)の2年以内再入者は776人であり、そのうち8割以上に当たる654人が同罪名による再犯であることから、覚醒剤への依存の強さがうかがえる。
- そのため、薬物事犯者の再犯・再非行を防止するためには、「改善更生に向けた指導」のみならず、「依存からの『回復』に向けた治療や支援」を継続することも必要である。矯正施設や保護観察所では、効果検証を実施しながら専門プログラムの改善等を図っているほか、薬物事犯者を地域の保健医療機関等に適切につなげるための支援にも注力している。
- また、薬物事犯の中でも大麻事犯の検挙人員は8年連続で増加するなど過去最多を更新しており、「大麻乱用期」とも言える状況になっている。大麻事犯は、検挙人員の約7割が30歳未満であるなど、若年層における乱用拡大が顕著でもあり、その対応が急務となっている
- 刑事施設における薬物依存離脱指導の効果検証結果
- 刑事施設における特別改善指導「薬物依存離脱指導」については、刑の一部執行猶予制度の開始により、当該対象者の実刑部分が比較的短期間となる可能性があることから、刑期の短い者等にも柔軟に指導できるよう、標準プログラムを改訂し、2017年度(平成29年度)から本格的に新体制で指導を実施(以下「新実施体制」という。)している。この新実施体制における標準プログラムの指導効果を検証するため、専門プログラムの受講による薬物に対する態度等の変化について、心理尺度を用いた質問紙調査を実施した。また、新実施体制における標準プログラムの受講率及び薬物依存離脱指導対象者の再犯率を標準プログラム改訂前の指導体制(以下「旧実施体制」という。)と比較し、改訂に伴う効果を中心に確認した。
- 調査では、受講群と比較対照(受講待機)群に対し、受講前後(比較対照群については同時期)に自記式質問紙調査を実施し、専門プログラムによる心理尺度得点の変化を確認したところ、薬物を再使用しないためのスキル、継続的に治療や援助を求める態度、薬物依存の問題を変えたいという変化への動機付け及び薬物の対処行動に関する全般的な自信について得点の上昇が認められた。調査では、新実施体制における調査対象者の95.1%が標準プログラムを受講しており、旧実施体制の調査対象者と比べて受講率が27.0ポイント向上したほか、新実施体制の調査対象者の再犯率は20.9%であり、旧実施体制下での結果(26.6%)より5.7ポイント低く、統計的に有意な差が認められた。これらの検証結果から、標準プログラムの改訂は、受講率の向上に寄与し、薬物犯罪の再犯率の減少にも寄与した可能性が示唆された。
- 保護観察所における薬物再乱用防止プログラムの効果検証結果
- 保護観察所における薬物再乱用防止プログラムについては、運用を開始した2016年(平成28年)6月から一定期間が経過したことを踏まえ、その対象者の再犯追跡調査及び質問紙調査を行った。再犯追跡調査については、2018年(平成30年)に薬物事犯により保護観察に付された成人保護観察対象者の保護観察開始後4年以内の薬物事犯の再犯率を、同プログラム受講群と非受講群別に調査したところ、同プログラム受講群の再犯率は30.3%であり、非受講群のそれ(34.6%)より統計的に有意に低く、同プログラムの受講による一定の再犯防止効果が示唆された。
- 質問紙調査については、刑事施設において薬物依存離脱指導の専門プログラムを受講した者等が仮釈放等により釈放された後の薬物再乱用防止プログラム受講前後の心理尺度得点の推移を調査したところ、薬物依存からの離脱につながる態度等が比較的高い水準に保たれていることが認められた刑事施設や保護観察所では、薬物依存からの回復に向けた指導・支援を実施しているが、刑事司法機関が関わることのできる期間は限られたものであることから、保護観察所においては、保護観察等の処遇終了時期を見据えて地域の保健医療機関等の支援につなげるよう取り組んでいる。
- 基本的な取組としては、保護観察所で実施している薬物再乱用防止プログラムに、ダルク等の支援機関・団体のスタッフの参加を得て、ダルク等の活動に触れる機会を作ったり、薬物依存を改善するための医療やプログラム等の援助を提供している機関等と連携し、これら機関等の医療や援助を受けるよう保護観察対象者に必要な指示を行ったりしている。また、2019年度(令和元年度)から、薬物依存のある対象者が、地域における支援を自発的に受け続ける習慣を身に付けられるよう、仮釈放後の一定期間、更生保護施設等に居住させた上で、ダルク等の支援機関・団体と連携した保護観察処遇を実施するなどの試行的な取組(【施策番号47】参照)を開始している。
- また、法務省及び厚生労働省は、「薬物依存のある刑務所出所者等の支援に関する地域連携ガイドライン」を策定し、2016年度(平成28年度)から運用を開始している。保護 観察所は、同ガイドラインに基づき、地域において薬物依存症者への治療や支援を実施している機関・団体による連絡会議を定期的に開催するなどして、地域支援体制の構築を図っているほか、個別のケースについてケア会議を開催するなどして、保護観察期間中のできるだけ早い段階から地域社会での治療・支援につなげるように努めており、こうした取組を通じて、治療・支援に当たる機関・団体の相互理解を深めている。
- 薬物事犯保護観察対象者のうち、保護観察期間中に地域の保健医療機関等による治療・支援を受けた者の割合は2017年度(平成29年度)は5.2%、2020年度(令和2年度)は7.2%と上昇傾向にあったが、2021年度(令和3年度)においては、6.3%と減少に転じた。保護観察期間中に地域の保健医療機関等の治療・支援につながる割合は小さく、今後も引き続き、地域社会での治療・支援へのつなぎに力を入れていく必要がある。
- 第208回国会において成立した刑法等の一部を改正する法律(令和4年法律第67号)による改正後の更生保護法には、保護観察における特別遵守事項として、更生保護事業を営む者その他の適当な者が行う特定の犯罪的傾向を改善するための専門的な援助であって法務大臣が定める基準に適合するものについては、これを受けることを指示し、又は保護観察対象者にこれを受けることを義務付けることを可能とする規定が設けられた。これにより、保護観察対象者に対して、保護観察期間中から支援機関・団体によるプログラム等の受講を義務付けることが可能となった。このような取組を通じて、保護観察対象者と地域社会との間で、保護観察対象者が、保護観察終了後も自らの意思でそうしたプログラム等の受講を続けられる関係性が築かれ、地域社会において“息の長い”支援が可能となっていくものと考えられる
- 大麻等の薬物対策のあり方に関する見直しについて
- 我が国における薬物行政については、戦後制定された薬物4法を基本として、取締りをはじめとした各種施策が実施されてきたところ、違法薬物の生涯経験率は諸外国と比較して、著しく低くなっているなど、高い成果を挙げてきている。
- しかし、大麻事犯の検挙者数は急増しており、若年層における大麻乱用や、再犯者率の上昇、大麻リキッドなど人体への影響が高い多様な製品の流通拡大が問題となっている。
- 大麻に関する国際的な動向に目を向けると、諸外国においては、大麻から製造された医薬品が市場に流通し、2020年(令和2年)12月に開催された国連麻薬委員会(CND)の会合において、麻薬単一条約上の分類に、大麻の医療上の有用性を認める変更がなされたところである。
- このような大麻に関する我が国社会状況の変化や国際的な動向等を踏まえ、厚生労働省は、今後の薬物対策のあり方を検討するため、2021年(令和3年)に「大麻等の薬物対策のあり方検討会」を開催し、同検討会では、「使用」に対する罰則を設けていないことが「大麻を使用してもよい」いう誤ったメッセージと受け止められかねない状況となっているとの指摘や、再乱用防止と社会復帰支援の推進については、刑事司法機関、医療・保健・福祉機関、民間支援団体等がより一層連携し、“息の長い”支援を目指すことの重要性が確認された。
- 厚生労働省ではこのとりまとめを受けて、大麻取締法及び麻薬及び向精神薬取締法の改正に向けた議論や、その論点整理等を行うため、2022年(令和4年)3月に厚生科学審議会医薬品医療機器制度部会の下に大麻規制検討小委員会※9を設置し、大麻規制の見直しについての議論をとりまとめた。具体的には、
- 若年層を中心に大麻事犯が増加している状況の下、薬物の生涯経験率が低い我が国の特徴を維持・改善していく上でも、大麻の使用禁止を法律上明確にする必要がある
- 大麻について使用罪の対象とした場合でも、薬物乱用者に対する回復支援のための対応を推進し、薬物依存症の治療等を含めた再乱用防止や社会復帰支援策も併せて充実させるべきである
といった方向性が示された。今後、大麻取締法等の改正に向けて、引き続き必要な検討を進めていく予定である。
- 今後の展望
- 刑事司法機関、医療・保健・福祉機関といった各関係機関が、それぞれが行う指導や支援を更に充実させることはもちろんのこと、各関係機関の指導や支援が連続性・一貫性をもって実施される必要がある。そのためには、各関係機関の連携体制を深め、対象者に関する情報の共有が密に行われることが望ましい。また、それぞれの関係機関のみで効果検証を行うのではなく、刑事司法手続やその後の地域社会での指導・支援を合わせて検証を行うことなどを通じ、各関係機関の縦割りを打破し、政府一丸となって薬物事犯者に対する効果的な方策を検討していきたいと考えている。
- 2016年(平成28年)12月に成立・施行された「再犯防止等の推進に関する法律(平成28年法律第104号)」において、地方公共団体は、その地域の実情に応じ、再犯防止施策の推進に関する計画(以下「地方再犯防止推進計画」という。)を定め、それらの施策を実施する責務を有することが明記された。しかしながら、多くの地方公共団体にとって、再犯防止はこれまで取り組んだことがない事業であり、具体的な取組を進めるためのノウハウや知見が蓄積されていなかったため、法務省では、「地域再犯防止推進モデル事業」の実施や協議会の開催など、地方公共団体の再犯防止施策を推進するための取組を進めている。また、「再犯防止推進計画加速化プラン」(令和元年12月23日犯罪対策閣僚会議決定)の成果目標の一つとして「2021年度(令和3年度)末までに、100以上の地方公共団体で地方再犯防止推進計画が策定されるよう支援する」旨が定められていたところ、2022年(令和4年)4月1日現在、371の地方公共団体で同計画が策定されている。
- 民間協力者による矯正施設内での活動については、篤志面接委員や教誨師といった長年矯正の分野で活動している方々に加えて、近年では、IT企業・アスリート等、これまで矯正施設とは関わりがなかった方々が新たに矯正施設での処遇に携わる事例が増えている。この傾向は、刑事施設、少年院を問わず確認でき、社会全体で再犯防止に取り組む機運が高まってきている
- 刑務所出所者等の就労の機会を確保することは、再犯防止のために重要であり、「宣言:犯罪に戻らない・戻さない」(平成26年12月16日犯罪対策閣僚会議決定)において、犯罪や非行をした者を実際に雇用している協力雇用主の数を、2020年(令和2年)までに約1,500社まで増加させるという数値目標が設定された。政府においては「宣言」で設定された数値目標の確実な達成を図るべく、協力雇用主の活動に対する支援の充実に向けた施策を推進し、刑務所出所者等の就労の機会の増加に取り組んできた。
- 保護司は、犯罪をした人又は非行のある少年が、実社会の中で健全な一員として更生するよう、保護観察官と協働して保護観察等を行うなど、更生保護の中核の役割を果たしており、地域社会の安全・安心にとって欠くことのできない存在である。
- 2021年(令和3年)3月、京都コングレスのサイドイベントとして開催した「世界保護司会議」では、「世界保護司デー」の創設等を盛り込んだ「京都保護司宣言」が採択され、我が国の保護司制度は“HOGOSHI”として、国際的な評価と共感を得ることとなった。
- しかし、近年、保護司数は減少の一途をたどり、高齢化も進んでいる。その背景には、人口の減少や地域における人間関係の希薄化といった社会的要因に加え、保護司活動に伴う不安や負担が大きいことが指摘されており、保護司制度の維持が危惧される状況にある。
- こうした状況を踏まえ、地域社会の変化に適応し、幅広い世代から多様な人材を保護司として迎え入れ、やりがいを持って長く活動できるよう、保護司活動に対する支援に取り組む必要がある。
- 再犯防止をめぐる近年の動向
- 刑法犯検挙者中の再犯者数は、2007年(平成19年)以降、毎年減少しており、2021年(令和3年)は8万5,032人であった。再犯者率は、初犯者数が大幅に減少していることもあり、近年上昇傾向にあったが、2021年(令和3年)は、48.6%と前年(49.1%)よりも0.5ポイント減少した。
- 新受刑者中の再入者数は、刑法犯検挙者中の再犯者数と同様、近年減少傾向にあり、2021年(令和3年)は9,203人であった。再入者率は、近年58~59%台で推移していたところ、2021年(令和3年)は57.0%と前年(58.0%)よりも1.0ポイント減少した。
- 出所受刑者の2年以内再入者数は、2008年(平成20年)以降、毎年減少しており、2020年(令和2年)出所者では2,863人と、近年2年以内再入者数が最も多かった2005年(平成17年)出所者(6,519人)と比べて2分の1以下であった。満期釈放者の再入者数については、「再犯防止推進計画加速化プラン」(令和元年12月23日犯罪対策閣僚会議決定)において、2022年(令和4年)までに2,000人以下とするという数値目標を設定しているところ、2019年(令和元年)の満期釈放者の再入者数は1,936人となって当該目標を達成し、2020年(令和2年)では、更に1,749人まで減少した。
- また、出所受刑者の2年以内再入率については、「再犯防止に向けた総合対策」(平成24年7月20日犯罪対策閣僚会議決定)において、2021年(令和3年)までに16%以下にするとの数値目標を設定しているところ、2019年(令和元年)出所者では15.7%となって当該目標を達成し、2020年(令和2年)出所者では、更に15.1%まで減少した。なお、いずれの出所年においても、満期釈放者の2年以内再入率は、仮釈放者(10.0%)よりも高く、2020年(令和2年)は22.6%であった
- 2020年(令和2年)出所者の2年以内再入率について、主な罪名・特性別で見ると、「覚醒剤取締法違反」(15.5%)、「窃盗」(20.0%)、「高齢(65歳以上)」(20.7%)が全体(15.1%)よりも高くなっている。
- また、2020年(令和2年)出所者の2年以内再入率は、2019年(令和元年)出所者と比べて、「覚醒剤取締法違反」(0.3ポイント減)、「性犯罪」(1.3ポイント減)、「傷害・暴行」(3.0ポイント減)、「窃盗」(1.8ポイント減)、「女性」(0.3ポイント減)が低下した一方、「高齢(65歳以上)」(0.8ポイント増)は上昇している。
- 一方、少年院出院者の2年以内再入院率については、「再犯防止に向けた総合対策」(平成24年7月20日犯罪対策閣僚会議決定)において、2021年(令和3年)までに8.8%以下にするとの数値目標を設定しているところ、2020年(令和2年)出院者の2年以内再入院者数は152人、2年以内再入院率は9.0%と、いずれも調査の開始(1996年(平成8年))以降、過去最低であった。
- 協力雇用主数は、近年増加傾向にあり、2021年(令和3年)10月1日現在、2万4,665社であった。実際に刑務所出所者等を雇用している協力雇用主数については、「宣言:犯罪に戻らない・戻さない」(平成26年12月16日犯罪対策閣僚会議決定)において、2020年(令和2年)までに約1,500社にまで増加させるとの数値目標が設定されていたところ、2019年(令和元年)に1,556社と目標を達成したが、新型コロナウイルス感染症の感染が拡大した2020年(令和2年)以降は減少傾向にあり、2021年(令和3年)は1,208社と前年(1,391社)より減少した。また、協力雇用主に雇用されている刑務所出所者等数についても、2020年(令和2年)以降は減少傾向にあり、2021年(令和3年)は1,667人と前年(1,959人)より減少した。
- 刑務所出所時に適切な帰住先がない者の数については、「宣言:犯罪に戻らない・戻さない」(平成26年12月16日犯罪対策閣僚会議決定)において、2020年(令和2年)までに4,450人以下に減少させるとの数値目標を設定していたところ、2017年(平成29年)には当該目標を達成し、2021年(令和3年)は2,844人にまで減少した。刑務所出所時に適切な帰住先がない者の割合は、2021年(令和3年)は16.0%と前年(17.3%)よりも1.3ポイント減少した。
- 保健医療・福祉サービスの利用の促進等のための取組
- 法務省は、刑事施設において、改善指導のうち、特別改善指導の一類型として、薬物依存離脱指導の標準プログラム(指導の標準的な実施時間数や指導担当者、カリキュラムの概要等を定めたもの。)を定め、同指導を実施している。
- 同指導は、認知行動療法に基づいて、必修プログラム(麻薬、覚醒剤その他の薬物に依存があると認められる者全員に対して実施するもの)、専門プログラム(より専門的・体系的な指導を受講させる必要性が高いと認められる者に対して実施するもの)、選択プログラム(必修プログラム又は専門プログラムに加えて補完的な指導を受講させる必要性が高いと認められる者に対して実施するもの)の三種類を整備し、対象者の再犯リスク、すなわち、犯罪をした者が再び犯罪を行う危険性や危険因子等に応じて、各種プログラムを柔軟に組み合わせて実施している。2021年度(令和3年度)の受講開始人員(三種類のプログラムの総数)は7,493人(前年:7,707人)であった。
- 少年院において、麻薬、覚醒剤その他の薬物に対する依存等がある在院者に対して、特定生活指導して薬物非行防止指導を実施し、2021年(令和3年)は303人(前年:293人)が修了している。また、男子少年院2庁(水府学院及び四国少年院)及び全女子少年院9庁では、薬物依存からの回復をサポートする民間の自助グループ、医療関係者、薬物問題に関する専門家等を指導者として招へいし、グループワークを中心とした指導を実施しているほか、保護者向けプログラムを実施しているなど、特に重点的かつ集中的な指導を実施しており、2021年度(令和3年度)は、75人(前年:53人)が修了している。なお、男子少年院2庁においては、この指導を、他の少年院から在院者を一定期間受け入れて実施している。
- 保護観察所において、依存性薬物(規制薬物等、指定薬物及び危険ドラッグ)の使用を反復する傾向を有する保護観察対象者に対し、薬物再乱用防止プログラムを実施している。同プログラムは、ワークブックを用いるなどして依存性薬物の悪影響を認識させ、コアプログラム(薬物再乱用防止のための具体的方法を習得させる)及びステップアッププログラム(コアプログラムの内容を定着・応用・実践させる)からなる教育課程と簡易薬物検出検査を併せて行うものとなっている。
- また、医療機関やダルク等と連携し、薬物再乱用防止プログラムを実施する際の実施補助者として保護観察対象者への助言等の協力を得ているほか、保護観察終了後を見据え、それらの機関や団体等が実施するプログラムやグループミーティングに保護観察対象者がつながっていけるよう取り組むなどしている。なお、2021年度(令和3年度)は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い、実施補助者として関係機関からの協力を得ることが難しくなるなど、関係機関との連携に支障が生じた一方、保護観察対象者との個別面接時に、関係機関に同席してもらうなど代替措置を講じ、関係機関との連携を図った。
- 法務省は、刑事施設の教育担当職員に対し、薬物依存に関する最新の知見を付与するとともに、認知行動療法等の各種処遇技法を習得させることを目的とした研修を実施している。少年院の職員に対しては、医療関係者等の協力を得て、薬物依存のある少年への効果的な指導方法等についての研修を実施している。2017年度(平成29年度)からは、薬物使用経験のある女子在院者については、低年齢からの長期間にわたる薬物使用や女子特有の様々な課題を抱えていることが多く、それらの課題に適切に対応し得る専門的な指導能力が求められることから、専門的知識及び指導技術の一層の向上を図るため、女子少年を収容する施設間において、職員を相互に派遣して行う研修を実施している。
- また、施設内処遇と社会内処遇との連携強化のため、2017年(平成29年)から、矯正施設職員及び保護観察官を対象とした薬物依存対策研修を実施している。同研修においては、SMARPPの開発者及び実務者のほか、精神保健福祉センター、病院及び自助グループにおいて薬物依存症者に対する指導及び支援を行っている実務家を講師として招き、薬物処遇の専門性を有する職員の育成を行っている。
- さらに、保護観察所において、2017年(平成29年)4月から、処遇効果の充実強化を図ることを目的として、薬物依存に関する専門的な処遇を集中して行う薬物処遇ユニットを保護観察所に設置し(2022年(令和4年)4月現在で28庁)、薬物事犯者に係る指導及び支援を実施している。
- 厚生労働省は、薬物依存症を含む依存症対策について、各地域において、医療体制や相談体制の整備を推進するとともに、地域支援ネットワーク構築、依存症全国拠点機関による人材育成・情報発信や、依存症の正しい理解の普及啓発などを総合的に推進している。
- また、厚生労働省は、2017年度(平成29年度)から、依存症対策全国拠点機関として独立行政法人国立病院機構久里浜医療センターを指定している。同センターでは、国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センターと連携して薬物依存症を含む依存症治療の指導者養成研修を実施するとともに、都道府県及び指定都市の医療従事者を対象とした依存症治療の研修を実施している。
- このほか、厚生労働省は、都道府県及び指定都市が薬物依存症の専門医療機関及び治療拠点機関の選定や薬物依存症者への相談・治療等の支援に関わる者(障害福祉サービス事業所や福祉事務所の職員など)を対象とした研修を進めていくに当たり、財政的、技術的支援を行っている。
- 犯罪をした者等の特性に応じた効果的な指導の実施等のための取組
- 法務省は、刑事施設において、警察等と協力しながら、暴力団の反社会性を認識させる指導を行い、離脱意志の醸成を図るため、特別改善指導(【施策番号83】参照)として暴力団離脱指導を実施している(2021年度(令和3年度)の受講開始人員は383人(前年度:551人)であった。)。
- また、保護観察所では、暴力団関係者の暴力団からの離脱に向けた働き掛けを充実させるため、警察、暴力追放運動推進センター及び矯正施設との連携を強化しており、暴力団関係者の離脱の意志等の情報を把握・共有して必要な指導等をしている。
- さらに、警察及び暴力追放運動推進センターでは、矯正施設及び保護観察所と連携し、離脱に係る情報を適切に共有するとともに、矯正施設に職員が出向いて、暴力団員の離脱意志を喚起するための講演を実施するなど暴力団離脱に向けた働き掛けを行っている。
- 警察は、暴力団からの離脱及び暴力団離脱者の社会復帰・定着を促進するため、都道府県単位で、警察のほか、暴力追放運動推進センター、職業安定機関、矯正施設、保護観察所、協賛企業等で構成される社会復帰対策協議会の枠組みを活用して、暴力団離脱者のための安定した雇用の場を確保し、社会復帰の促進に取り組んでいる。
- 法務省は、検察庁、矯正施設及び更生保護官署がそれぞれのシステムで保有する対象者情報のうち、相互利用に適する情報について、対象者ごとにひも付けることにより、情報の相互利用を可能とする刑事情報連携データベースシステムを運用している。その上で、他の機関が個々の対象者に実施した処遇等の内容の詳細を把握できるデータ参照機能や、多数のデータを用いた再犯等の実態把握や施策の効果検証等を容易にするデータ分析機能を整備・運用することにより、再犯防止施策の実施状況等の迅速かつ効率的な把握やそれぞれの機関における処遇の充実、施策の効果検証、再犯要因の調査研究等への利活用を可能とし、再犯防止施策の推進を図っている
各種統計から、薬物事犯に暴力団等が関与している割合が高いことが知られています。以下、最近の報道から、暴力団等が薬物事犯に関与した事例等をいくつか紹介します。
- ボタンの形に加工した覚せい剤を衣服に縫い付けて密輸したとして、大阪府警は、六代目山口組系暴力団幹部を覚せい剤取締法違反(営利目的輸入)の疑いで逮捕しています。報道によれば、「覚せい剤が入っていると思わなかった」と否認しているということです。男は2022年2月、覚せい剤約157グラム(約930万円相当)を、第三者に販売する目的でイランから国際郵便で密輸したとして、2022年12月に逮捕され、同法違反と関税法違反で起訴されています。覚せい剤はボタン(直径約2センチ)の形に加工して塗料で固められ、衣服8着に縫い付けられていたといいます。ジャンパーが入った段ボール2箱の国際郵便が関西空港に届き、大阪税関が検査で発見、宛先は大阪市生野区のマンションの一室で、男が受け取り役として浮上したものです。
- 新潟県警上越署と国際・薬物銃器対策課は、覚せい剤の使用、所持、譲渡した容疑など稲川会系暴力団幹部ら3人の男女を検挙しています。建設作業員の男は、2022年2月中旬頃から3月1日までの間、新潟県内またはその周辺において覚せい剤を使用、自営業の女は2022年3月23日、下箱井の自宅に覚せい剤およそ0.6グラムを所持していたものです。また、稲川会系暴力団の幹部の男は、2022年2月23日に埼玉県東松山市石橋で建設作業員34歳の男に覚せい剤1グラムを3万2000円で譲り渡したといいます。
- 覚せい剤およそ3キロ、末端価格にして1億8000万円相当をフランスから成田空港に国際郵便で密輸したとして、2022年8月、警視庁に逮捕された暴力団幹部ら3人について、東京地検は不起訴処分としています。東京地検は不起訴の理由を明らかにしていません。
- 末端価格で5870万円相当の覚せい剤を密輸入したとして、無職の男が逮捕されています。報道によれば、容疑者は、2022年8月、他の者と共謀しアメリカから国際郵便を利用し、覚せい剤約995グラムを工具箱に隠し、営利目的で密輸入したなどの疑いがもたれています。容疑者は指示役とみられ、警察は、暴力団が関与している可能性もあるとみて調べを進めています。
- フィリピンからの航空貨物に覚せい剤を隠し密輸したとして、密輸組織の中心的存在とみられる男が愛知県警に逮捕・送検されています。警察は、背後に暴力団の関与があるとみて、詳しく調べているといいます。覚せい剤取締法などの疑いで逮捕・送検されたのは、東京都練馬区の無職の男で、2022年7月、他の者と共謀し、フィリピンからの航空貨物に隠し、覚せい剤約250g(末端価格約1500万円相当)を販売する目的で密輸した疑いがもたれています。
覚せい剤等薬物の密輸を水際で防いでいるのが税関です。もちろん税関は薬物だけでなく、さまざまな違法なモノを摘発しています。政府・与党は、インターネット通販を通じて急増している輸入貨物の取り締まりを強化する方針を固めています。コロナ禍の巣ごもり需要で、海外からの輸入量が大幅に増加し、不正薬物などの摘発が増えていることが背景にあります(2022年度上半期も2021年同期比2割増のペースで推移しています)。通販貨物の増加が要因で、覚醒剤や模造品などが紛れ込むケースもあるという。海外からモノを輸入する場合、現行制度では、国内の輸入業者などは、貨物の品名や数量、価格などを、事前に税関に申告する必要があります。強化案では新たに、通販貨物かどうかや、ネット通販サイトの名称、国内の配送先を申告項目に加えるということです。例えば、模造品が摘発された際に、ネット通販サイトの名称が分かれば、サイトからの輸入品を重点的に検査することができるようになるといいます。また、2022年12月19日付朝日新聞の記事「違法薬物、銃器の密輸防げ 東京税関が年末に向け警戒強化」は、東京税関の実務が垣間見える内容でした。「新年を前に増加する貨物・郵便物に紛れて、違法な薬物や銃器などが持ち込まれるのを水際で防ごうと、東京税関による「年末特別警戒」が始まった。通常より荷物の検査回数を増やして警戒に当たるとしている。青海コンテナ検査センターでは初日の13日、東京港に到着した貨物の検査状況が公開された。同センターでは、コンテナ車やトラックを丸ごとX線検査できる設備や、段ボールごとにX線を通す機械を使って荷物に異物が混入していないかをチェック。麻薬探知犬も出動し、必要に応じて責任者立ち会いのもと、荷物を開けて中身を確認している」、「同税関によると、近年は不正薬物の密輸が増加している。今年1~6月の上半期には、147件(前年同期比204%)の摘発があった」と報じられています。
最近の報道から、国内の薬物事犯に関するものをいくつか紹介します。
- 陸上自衛隊伊丹駐屯地は、駐屯地内で大麻を使用したとして、第36普通科連隊に所属する21~23歳の男性隊員計3人を懲戒免職処分にしたと発表しています。3人は、2022年2月までにそれぞれ数か月から約1年、駐屯地内の独身者用宿舎の屋上で大麻を複数回使用したとされ、2022年2月にあった抜き打ちの尿検査で3人から陽性反応が出たといいます。21歳の陸士長が2021年1月ごろから駐屯地の独身寮屋上などで大麻を使い始め、2021年夏から秋にかけて同僚の2人にも勧めたといい、21歳の陸士長は「プライベートな理由で自暴自棄になっていた」と話しています。なお、3人は大麻取締法違反容疑で書類送検され、不起訴になったということです。自衛隊では抜き打ちの薬物検査があることは知られていますが、いかに安易な気持ちで薬物に手を出しているかが分かります。
- 民泊施設宛ての宅配物にコカインを隠して密輸したとして、大阪府警大阪水上署は、麻薬取締法違反(営利目的共同輸入)の疑いで、自称ラッパーとクラブ店員を逮捕、送検しています。報道によれば、何者かと共謀し、2022年5~8月、4回にわたり、大阪市中央区や京都市下京区の民泊施設宛ての荷物の中に隠す手口で、コカイン計88.37グラム(末端価格計約176万円相当)をブラジルから密輸したとしています。大阪税関がコカインを発見し、荷物は配達されなかったといいます。別事件の捜査で、両容疑者がSNSでこの荷物についてやり取りをしていたことが発覚し、同署と大阪税関が関連を裏付けたもので、ほかにも複数人が関与しているとみて調べています。さらに、同じく大阪市内の民泊施設で、大麻を営利目的で所持したとして、大阪府警や徳島県警などの合同捜査本部は、大麻取締法違反(営利目的共同所持)容疑で、韓国籍の住所不定、無職の容疑者ら15人を逮捕しています。合同捜査本部は10カ所以上を家宅捜索し、大麻草や液体大麻など約5.6キロ(末端価格約3440万円相当)を押収しています。容疑者が大麻密売グループのリーダー格とみて、入手経路や販売ルートを調べています。一方、覚せい剤を隠した荷物を米国から東京都内に配送したなどとして、警視庁薬物銃器対策課は、覚せい剤取締法違反(営利目的輸入)容疑で、不動産会社社員を逮捕しています。調べに対し「報酬のために荷物を受け取った」などと容疑を認めているということです。2022年11月、覚せい剤約1980グラム(末端価格約1億1700万円)を3Dプリンター用フィラメント4つに隠し、荷物として米国から目黒区のアパートの空き部屋に発送し、密輸したもので、東京税関の検査で発覚、容疑者が空き部屋に荷物を受け取りに来たことを確認、薬銃課が麻薬特例法違反容疑で現行犯逮捕したものです。民泊施設や空き家が薬物の受取場所となる事例が後を絶たない状況で、民泊施設や空き家の犯罪インフラ対策が急務だといえます。
- 福岡市内のホテルの部屋で大麻を所持したとして、福岡県警中央署は、大麻取締法違反の疑いで、「ベル」の名前で活動する住所不定、ラッパーを逮捕しています。2021年9月、福岡市内のホテルで大麻を含む植物片約0・9グラムを所持したというもので、宿泊していた部屋にある金庫に入っていたのを清掃員が発見、ホテルが届けたものです。容疑者は2022年8月、横浜市の路上で、男性を刃物のようなもので切りつけ、けがを負わせたとして、傷害の疑いで逮捕、起訴され、横浜市の施設で勾留中でした。
- 車内で大麻を所持したとして、大阪府警北堺署は、「NG HEAD」の名前で活動している自称レゲエ歌手ら2人を大麻取締法違反(共同所持)の疑いで現行犯逮捕しています。容疑者の自宅駐車場に止めた車内で、チャック付きのポリ袋に入った大麻の植物片を所持したとされ、容疑者の自宅からは吸引器具や大麻とみられる植物の鉢が複数見つかっており、入手先などを調べています。
- 知人女性から現金1万円を脅し取ったとして、京都府警に恐喝容疑で逮捕されたアイドルグループの元メンバー田中被告について、京都地検は不起訴にしています。田中被告は、覚せい剤取締法違反(所持・使用)で逮捕、起訴されており、千葉地裁松戸支部で公判が行われています。
- 大麻を液体状に加工した「大麻リキッド」を隠し持っていたとして、京都府警伏見署は、大麻取締法違反(所持)の疑いで同志社大4年の男子学生と建設作業員の男を逮捕しています。京都市伏見区内で大麻リキッド4点(約2.3グラム)を所持したもので、京都拘置所の職員が、拘置所の外壁の台座部分に薬物のようなものがあるのを発見、同署が付近の防犯カメラを調べると、同志社大の男子学生が台座とフェンスの間に大麻リキッドを隠している様子が記録されており、その直前、2人は軽乗用車で拘置所近くを走行中に橋脚に衝突、同署が任意同行を求め建設作業員の男に尿検査を実施したところ、大麻の陽性反応が出たというものです。同署は、2人が事故で大麻リキッドの所持発覚を免れるために拘置所の外壁に隠したとみて調べているといいます。
- 福岡県警中央署は、大麻取締法違反(営利目的所持)容疑で逮捕した男が、逮捕後に一時、逃走、約40分後に100メートル離れた場所で発見し、緊急逮捕したということです。留置場に持って行く着替えなどを整理するため、警察官に連れ添われて自宅内の階段を下りていた際に走り出し、1階の窓から裸足で逃走、県警柳川署員も加わって付近を捜索したところ、畑で腹ばいになっているのを発見したもので、逮捕後も、手錠はかけられていなかったといいます。
- 飲酒運転しながら車内で大麻を所持したとして、道路交通法違反(酒気帯び運転)や大麻取締法違反(所持)に問われた、香川県まんのう町のうどん店「谷川米穀店」元店主の被告の男の判決が、香川地裁であり、裁判官は懲役1年、執行猶予3年(求刑・懲役1年)を言い渡しています。報道によれば、男は約10年前、ジャマイカで初めて大麻を使い、5年前からは国内でも吸っていたといい、事件当日は缶ビール10本を車内で飲酒後、車を運転して道路標識の柱に衝突、大麻所持も発覚したというものです。男は被告人質問で、大麻の使用について「頻度は1年に1回あるかないか。寝付きの悪い時や片頭痛がある時などに使っていた」と説明していますが、検察側は「車内から複数の大麻関連器具が発見・押収されており、常習性がある」と主張していたものです。
- 兵庫県姫路市のスーパー銭湯駐車場で2023年1月10日深夜から11日未明にかけ、大麻取締法違反(所持)の疑いで、男2人が相次いで現行犯逮捕されています。2人に面識はなく、ともに銭湯を利用した後だったといいます。10日夜に逮捕されたのは建設業の男で、午後10時10分ごろ、駐車場に止めていた乗用車内で乾燥大麻を持っていた疑いがあり、巡回中の署員が男の不審な行動に気づき、職務質問して発覚したものです。その約4時間後、県警第2機動パトロール隊員が同じ駐車場で姫路市内の会社員の男を逮捕、閉店後も駐車場に残っていた乗用車を隊員が見つけ、職務質問で運転席ドアポケットから乾燥大麻が見つかったというものです。場所的に薬物取引がしやすい条件があるのか、日常的に行われていたのか判然としませんが、警察のリスクセンスがしっかりと発揮された結果の摘発であることは確かです。
- 営利目的で覚せい剤を譲り渡したなどとして、滋賀県警は、覚せい剤取締法違反(営利目的譲渡)などの疑いで、無職の容疑者2人を逮捕、送検しています。県警は容疑者の自宅などの関係先から覚醒剤約550グラム(末端価格約3200万円相当)や大麻約800グラム(同480万円相当)、未使用の注射器約5千本を押収、覚せい剤の押収量は県警では過去最多となったということです。2人は2020年12月~2022年6月、大阪市福島区や京都市伏見区など関西を中心に覚せい剤を売買したなどとされ、事件に絡み県警はほかに2人の客ら32~60歳の男女9人を逮捕、送検しています。
- 表彰盾と額縁の間に覚せい剤約1.8キロ(末端価格1億1200万円相当)を隠して密輸しようとしたとして、東京税関は、関税法違反罪で会社社長を東京地検に告発しています。報道によれば、宛先は容疑者の会社で、警視庁が2022年10~11月、荷物を受け取ったなどとして麻薬特例法違反と覚せい剤取締法違反の疑いで同容疑者を逮捕、受け取りは知人から依頼されたということです。表彰盾は2022年9月、ナイジェリアからの国際スピード郵便で成田空港に到着、額縁のような物に薬物を隠すケースが多いといい、10月に税関の検査で見つかったものです。
- 覚せい剤を使ったとして、京都府警下京署は、覚せい剤取締法違反(使用)の疑いで京都市生活福祉課職員を逮捕しています。容疑者が自宅から「覚せい剤を使用したので自首したい」と110番通報があり、その後の鑑定で陽性反応が出たため緊急逮捕したもので、自宅からは注射器が押収されたといいます。
- 薬物捜査に関する情報を知人に漏らした見返りに現金を受け取ったとして、大阪府警は、徳島県藍住町の町議(副議長)と元同町職員を加重収賄と地方公務員法違反の疑いで逮捕しています。ほかに贈賄などの疑いで無職の男も逮捕されています。共謀して、2021年9月、捜査機関から同町に薬物関連事件の捜査の照会があったことを無職の男に漏えいし、2021年10月、その謝礼として現金5万円を受け取るなどした疑いがもたれています。町議は、2008年に町議選に初当選し、現在4期目、町議会の副議長を務めています。副議長について、ある同僚議員は「議会でも度胸のある質問をしていて、期待の若手の一人だった」と話す一方で、金銭トラブルを抱えているとの情報も絶えなかったといい、別の議員は「よく飲み歩き、ギャンブルも大好き。周囲の人からよく借金をしていたから、生活は『自転車操業』だったのではないか」と明かしています。捜査関係者によると、副議長らに「薬物捜査」の漏えいを働きかけ、賄賂を送った容疑者は、大阪を拠点とする大麻密売グループの「元締」とされ、大阪と徳島の間を頻繁に行き来する姿も確認されており、副議長は以前からこの容疑者と知り合いだったということです。なお、、副議長から「捜査情報を入手できる」と持ちかけていたこともわかっているほか、密売グループのリーダーから「徳島県内で大麻栽培に適した場所はないか」と相談を持ちかけられていたこと、捜査当局の動きが自治体を通じて筒抜けになっていたとされ、密売グループの複数人が同町に本籍地を移すなど徳島の拠点化が進んでいたことも判明しています。大阪、徳島両府県警や近畿厚生局麻薬取締部は、この容疑者を含めて計15人を大麻取締法違反(営利目的共同所持)容疑などで逮捕、密売グループは関東地方から大麻を入手していたほか、自ら栽培にも関与、大阪府内の民泊施設の一室などで保管し、四国の密売人らに売りさばいていたということです。
最近の報道から、海外の薬物事犯に関するものをいくつか紹介します。
- オーストラリア連邦警察は、アジア最大級の麻薬密売組織「サム・ゴー」のトップ、ツェー・チロプ容疑者を覚せい剤取引の容疑で逮捕しています。同容疑者は中国生まれのカナダ人で、メキシコの「麻薬王」ホアキン・グスマン受刑者の通称になぞらえ、「アジアのエルチャポ」と呼ばれているようです。同容疑者は国際刑事警察機構から手配され、2021年1月にオランダのアムステルダム空港で拘束され、捜査の結果、2012~2013年に豪州のメルボルンからシドニーへ大量の覚せい剤(約20キロ、4億円相当)を移送した容疑が固まり、豪警察へ引き渡されたものです。
- メキシコ治安当局は、同国最大級の麻薬組織「シナロア・カルテル」を率いた「麻薬王」ホアキン・グスマン受刑者の息子、オビディオ・グスマン被告を急襲作戦により拘束しています。米政府は身柄拘束につながる情報に最高500万ドル(約6億7000万円)の懸賞金を提示して行方を追っていました。ホアキン受刑者は米国で殺人などの罪により終身刑を受け服役中で、オビディオ被告は覚せい剤やコカインなどの密輸に関わった罪で2018年、米国で起訴されています。メキシコ北西部シナロア州クリアカンで行われた急襲作戦では銃撃戦となり、麻薬組織のメンバーは空港や軍施設につながる道路を封鎖して抵抗、民間機や空軍機が被弾したほか、車にも火が放たれるなど混乱が広がり、治安部隊側は幹部を含む10人が死亡、35人が負傷、麻薬組織側は19人が死亡し、21人が拘束されたと報じられています。
- コロンビアの巨大麻薬組織首領だった故パブロ・エスコバルの息子セバスティアン・マロキン氏は、米映画界が父の生涯を美化したことで、若者が誤って犯罪者に憧れるようになったと苦言を呈しています。報道によれば、一介の犯罪者から「麻薬王」に上り詰めたエスコバルの生涯を描いた米動画大手配信の作品などを挙げ、「多くの若者が、私に『映画を見た。あなたの父のようになりたい』と伝えてくる」と嘆いたといいます。エスコバルは1993年、自身が率いる麻薬組織の本拠地だったコロンビアのメデジンで、警官から逃亡中に射殺されています。
- グアテマラ検察は、麻薬を運んでいた潜水艦を拿捕し、乗っていたエクアドル人2人、コロンビア人1人を逮捕しています。潜水艦からは1.7トンを超える麻薬が押収され、末端価格で2320万ドル(32億円)と推計されています。報道によれば、船体の一部は海上に出たままの「半潜水艦」型で、グアテマラ沖を航行していて発見されたもので、検察は「国際組織犯罪への強力な一撃」になると強調しています。
- 米製薬のエマージェント・バイオソリューションズは、現在は処方薬として販売認可を受けているオピオイド拮抗薬「ナルカン」(ナロキソン塩酸塩)鼻スプレーを市販薬として販売する申請を、米食品医薬品局(FDA)が優先審査の対象に指定したと発表しています。早ければ2023年3月の承認取得を見込んでいるといいま。本コラムでたびたび指摘しているとおり、オピオイドは過剰摂取すると、呼吸停止により死亡する危険があります。ナロキソンはオピオイドの作用を一時的に停止する効果を持ち、過剰摂取時の素早い投与が救命につながるといいます。米国では、安価で致死性が高い合成オピオイドのまん延などを背景に、過剰摂取による死亡が急速に増えており、米疾病対策センター(CDC)によると、合成オピオイドの過剰摂取による死者は2021年に7万1000人に達し、2年前からほぼ倍増しています。ニューヨークなど一部の州はこれまでに、オピオイド中毒者や周囲の人に緊急時の備えとしてナロキソンを配布したり、刑務所などの公共施設に同薬の自動販売機を設置するなど、同薬へのアクセスを広げる取り組みを進めていたといいます。
コロンビアで急増する石油窃盗、環境汚染の爪痕残す(2023年1月3日付ロイター)
「違法大麻の里」を訪ねた アフリカの小国レソト 産業化狙う政府(2022年12月6日付毎日新聞)
(5)テロリスクを巡る動向
ドイツで国家転覆を計画したとしてテロ組織メンバーら25人が摘発された事件が発生しました。この事件の逮捕者の中にはドイツ軍の元司令官や特殊部隊の現役隊員、警察関係者が含まれており、相当程度の実力を備えた組織だったことが明るみになり、ドイツ社会に大きな衝撃を与えています。主犯格は貴族出身の「ハインリッヒ13世」を名乗る71歳の男で、過激な陰謀論を唱える「Qアノン」と極右が共鳴し「第二帝国」の復活を狙っていたとされます。このようなインターネットを通じた陰謀論の浸透が、米欧の民主国家にとり大きな試練となっています。Qアノンに代表される過激な陰謀論は、SNSや動画サイトなどを通じて世界中で閲覧でき、各国の事情に即した「翻訳」が増殖し、非合法、暴力手段で政治主張をかなえようとする極右との共鳴は容易に行われてしまいます。ドイツでは、ウクライナ危機によるエネルギー価格高騰への不満が広がり、極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が支持を伸ばしており、今回の事件ではAfDの元議員で現職の裁判官も逮捕されています。陰謀論は暮らしや雇用の安定に不安を抱く人々の心理につけ込み、土壌とするもので、インフレに苦しむ世界にあって、民主主義をむしばむ影響力は無視できないものとなっているとさえいえます。また、本コラムで常に指摘しているとおり、そもそもテロを生む土壌は、「国土や人心の荒廃」であり、このような社会情勢がとりわけ「人心の荒廃」につながっているともいえます。また、ドイツの情報機関である連邦憲法擁護庁によると、2022年12月時点で「帝国市民」のメンバーは前年比2000人増の約2万3000人に上り、1割は暴力行使もためらわないとみられているといいます。当局の警戒感が高まったのが2016年で、ニュルンベルク近郊で警察官が「帝国市民」の武器を押収しようとした際に銃撃戦となり警察官1人が死亡、憲法擁護庁は翌月から「帝国市民」を監視下に置いています。2020年8月には政府の新型コロナ対策に抗議するベルリンでのデモに参加していた「帝国市民」メンバーを含む数百人が、柵を乗り越えて議会の敷地に侵入し、階段を駆け上がる事件が発生しています。今回の摘発を受け、フェーザー内相は「摘発された組織は、暴力的な幻想と陰謀論に突き動かされている。転覆計画がどこまで進んでいたのかは、今後の捜査によって明らかにされる」とし、「不合理な信念を持った人、大金を持った人、武器を持った人、実行計画を持った人が危険な形で混在した」、「我々は無害な頭のおかしい人を相手にしているのではなく、テロ容疑者を相手にしている」と危機感をあらわにし、近く武器使用の規制を強化する方針を示しています。この極右勢力については、全土で286の民兵グループの組織化を計画していたとされ、民兵は政権転覆の際に敵を逮捕・処刑する役などを担うとされ、国外追放や処刑の対象者のリストにショルツ首相らの名があり、捜索先50か所でライフルや弾薬などの武器が見つかっています(それ以外にも、ピストル、ナイフ、スタンガン、戦闘用ヘルメット、暗視装置なども押収されたといいます)。捜査当局によると、拘束者らは国が「ディープステート(闇の政府)」に支配されていると信じ込み、政権転覆に向けて2021年11月頃にテロ組織を結成、ドイツの極右勢力「ライヒスビュルガー(帝国臣民)」や過激な陰謀論を唱える「Qアノン」の影響が強いとみられ、情報当局は独公共放送に「極右や陰謀論者などの混合体」との認識を示しています。専門家の間では、政府のコロナ対策に反発する極右やQアノン信奉者らがネットで交流を深め、行動を激化させたとの見方があります(筆者も同様に捉えています)。
また、2022年12月19日の読売新聞の記事「海外や日本で過激化する「陰謀論」信者…ドイツで政府転覆計画、日本でも影響広がる」も興味深い内容でした。以下、抜粋して引用します。
また、ドイツで気になる動きがありましたので、紹介します。
- ドイツの検察当局は、2022年に国家機密をロシアの情報機関に流したとして反逆罪の疑いで連邦情報局(BND)の男性職員を逮捕したと発表しています。報道によれば、BND長官は組織内に内通者がいる可能性を把握して内部調査を進めた上で検察当局に通報していたとし、捜査終了まで詳細は明らかにしないとし、ショルツ首相は数週間前に事態を知らされていたといいます。ウクライナ侵略でロシアと対立を深める中、情報機関の職員によるスパイ疑惑が浮上したことで「史上最大級のスパイ事件になるかもしれない」(有力誌シュピーゲル)と衝撃を伝えるメディアもあるようです。
- ドイツ西部のノルトラインウェストファーレン州当局は、「イスラム主義を動機とする」攻撃のために猛毒の青酸カリとリシンを調達した疑いで32歳のイラン人の身柄を警察が拘束したと発表しています。警察は、容疑者はイスラム主義を動機とする攻撃を行うために青酸カリとリシンを調達したとされ、「国家を危険にさらす重大な暴力行為」を計画した疑いがあると説明、フェーザー内相は「ドイツは引き続き、イスラム主義テロ組織の直接的な標的となっている」と述べています。
2022年10月のブラジル大統領選で敗北した右派のボルソナロ前大統領の支持者らが、首都ブラジリアの連邦議会や大統領府、最高裁判所を襲撃しました。大統領選の結果に対する不満を示したもので、地元メディアによると、襲撃には約4000人が参加、地元警察は少なくとも1500人以上を拘束、300人を逮捕したと発表しています。ルラ大統領は事態を受け、「狂信的なファシストと呼べる破壊者たちの行為は、我が国の歴史で前代未聞のことだ。誰であろうと、罰せられなければならない」と非難し、ブラジリア連邦区で政府が治安維持に介入する政令に署名しています。治安当局は催涙弾を放ち、同日夜には鎮圧しています。ボルソナロ氏はかねて同国が採用する電子投票制度に懐疑的な発言を繰り返しており、政権移行は容認したものの、今も敗北宣言をしておらず、支持者らが各地の軍施設付近などで抗議活動を続けていました。なお、ボルソナロ氏の支持者による政府建物の占拠は、ツイッターなどのSNSで少なくとも2週間前から計画されており、SNS上には国内数カ所の都市で集合場所を決め、チャーターしたバスでブラジリアに向かう計画が記されていたといいます。ディノ法相はボルソナロ氏の支持者を乗せた数百台のバスの資金源や、安全対策の準備をしなかった知事への調査を進める考えを明らかにしています。さらに、ブラジルの有力紙フォーリャ・デ・サンパウロは、ボルソナロ前政権下で法務・公安相を務めたアンデルソン・トレス氏宅から、高等選挙裁判所(中央選管)に介入するための緊急事態令の草案が見つかったと報じています。2022年10月の大統領選の結果を覆す目的で作成されたとみられています。トレス氏は事件当時、ブラジリア連邦区の保安局長でしたが、最高裁判所は、襲撃を黙認したとして、トレス氏の拘束を命じていました。また、ルラ大統領は、内部に手引きした者がいるとの見解を示しています。報道で、「(襲われた建物内には)多くの共謀者がいた。警察や軍の中にも大勢いた」と強調、「大統領府の扉が一つも壊れていないことから、暴徒に向けてドアが開かれていたと私は信じている。誰かが侵入を助けたのではないか」と述べ、監視カメラの分析を急ぐ考えを表明しています。また、ボルソナロ氏の支持者らが各地の軍基地前で、長期にわたり軍に決起を求めるキャンプを張っていたことについて、ルラ氏は「誰が資金を提供し、(貸し切り)バス代や(ブラジル式焼き肉の)シュラスコ代を払ったのか、突き止めたい」と指摘、一連の「非民主的行動」の黒幕特定を進める強い決意を表しています。一方、この襲撃事件を巡って、警備に穴があったことが分かってきました。ルラ政権はボルソナロ前大統領の支持者集結は事前に把握していました(ボルソナロ氏の支持者らが国内各地からブラジリアに向かう数百台のバスを準備していたことは、数日前からSNSで拡散されていました)が、建物への侵入は想定していなかったとされます。1月1日の新大統領就任式では厳しい警備態勢を敷いていたが、その後に油断があったとの見方もあります。報道によれば、就任式典の際、ブラジル政府は全国から1万人以上の警察や軍隊を配備して厳重に警備しており、1985年の民政移管後で最多の規模と報じられていますが、1週間がたった8日は警備の規模を大幅に縮小していました。直前になって、警備態勢の規模が縮小されたのだといい、警察官や防御柵の数を減らし、中心部の広場へのアクセスを容易にする変更が加わり、その変更は連邦政府側には伝わっていなかったといいます。さらに、盾をもった警備担当者は妨害することなくただ見送って、容易に侵入を許す様子が映し出されているなど、襲撃事件に動いたボルソナロ氏の支持者が政府庁舎の警備を担当する部署の一部と内通していた可能性を示す映像と受け止められています。
イラクが、イスラム過激派組織「イスラム国」(IS)を国内から一掃したとして、「全土解放」を宣言してから、2022年12月で5年となりました。ISの最大拠点だった北部モスルでは5年たった今も戦闘の爪痕が深く残り、帰還できない住民もいるなど、復興への道はなお険しいといえます。モスルでは道路などの復旧が進み、新たな店も増えましたが、復興には総額120億ドル(約1兆6200億円)以上が必要とされ、資金難による工事の遅れも目立っており、国連が2022年7月に公表した報告書では、イラクとシリア両国の国境地帯には現在、6000~1万人のISの戦闘員が潜んでいるとされます。イラクの治安要員が襲撃される事件が絶えず、報道で、イラクの治安に詳しい元イラク軍幹部は「現在の軍の力で壊滅させるのは難しい」と話している実態です。ISが拡大した背景には、多数派イスラム教シーア派中心の政権が、イラク戦争前の支配層スンニ派を要職から排除したことによる宗派抗争があり、スンニ派のISが市民の不満につけ込んだとされ、対立は根深く残っています。2022年10月、約1年の政治空白を経て、スンニ派も取り込んだシーア派主導の新政権が発足しましたが、シーア派内での対立の火種もくすぶっており、この元幹部は「政権が安定しなければ、過激分子がまた活動を活発にする恐れがある」と懸念しています。その他、ISやタリバン等を巡る最近の動向について、いくつか紹介します。
- インドネシア・ジャワ島西ジャワ州の州都バンドンの警察署で、男が自爆し、警察官1人が死亡、市民1人を含む計10人が重軽傷を負っています。国家警察は男について、ISに共鳴する過激派ジャマア・アンシャルット・ダウラ(JAD)の構成員と発表しています。男は2017年に起きた爆破事件に関与したとして禁錮4年の判決を受け、2021年に出所したばかりで、現場周辺では「法の執行者と戦え」と書かれた紙が見つかっています。イスラム教徒人口が世界最大の同国では、イスラム過激派組織が厳格なイスラム法(シャリア)での統治を求めています。現場周辺に残されたバイクには「刑法は不信心者の法律だ」と書かれた紙が張られており、インドネシア国会は、オランダ植民地時代から続く刑法の改正案を可決していたタイミングでした。
- アフガニスタンの首都カブール中心部にある中国系ホテルが、武装集団に襲撃され、ISは「中国の外交官とビジネスマンが集うホテルを攻撃した」と犯行声明を出しています。中国外務省の汪文斌副報道局長は、事件により中国人5人が負傷したと明らかにし「あらゆるテロに断固反対する。事件を強く非難する」と強調、中国外務省はアフガン滞在中の中国人に即時退避を呼びかけています。ISは2022年9月以降、カブールにあるロシア、パキスタン両大使館への攻撃も主張、イスラム主義組織タリバン暫定政権と交友を深める国の関係者を狙い、治安維持能力を誇示する暫定政権に打撃を与えています。直近でも、アフガニスタンの首都カブールで、タリバン暫定政権の外務省付近で自爆攻撃があり、少なくとも20人が死亡、40人以上が負傷しています(警察は、公式に確認された死者数を5人としています)。ISが通信アプリ「テレグラム」の関連チャンネルで犯行声明を出しています。現場は検問所に囲まれ、厳重に警備された官庁街で、国連のほか、パキスタンや英国など数カ国がこの攻撃を非難する声明を発表しています。
- エジプト北東部イスマイリアで2022年末、検問所が襲撃される事件があり、ISは、犯行を認める声明をインターネットで出しています。事件では警察官ら3人が死亡、元当局は「テロ攻撃」だとしています。イスマイリアはスエズ運河沿いにあり、ISの傘下組織が活動するシナイ半島に近くにあります。
- エルサレムで2022年11月に起きた連続爆弾テロに関与したとして、イスラエル総保安庁(シンベト)は、東エルサレムに住むアラブ人の男を逮捕したと発表しています。男はISの支持者だといいます。シンベトによると、男は機械工で、インターネットで爆弾の作り方を学び、ヨルダン川西岸で爆破実験を繰り返していたとされ、事件当日は3件目のテロも予定していたが、爆弾に技術的な問題が起きて断念したといいます。エルサレムでは11月23日朝、通勤・通学の市民で混み合う二つのバス停で爆弾が爆発、16歳の少年を含むイスラエル人2人が死亡し、20人以上が負傷しています。
- アフガニスタンのイスラム主義組織タリバン暫定政権は、大学での女子への教育を停止すると発表しています。2021年8月に実権を掌握したタリバンは女子の中等教育学校への通学を禁じる一方、大学で学ぶことは認めていましたが、教育からの女性の排除をさらに進めた形で、国際社会からの反発が一層強まっています。国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチはツイッターで「女性の教育を受ける権利を侵害する恥ずべき決定」と非難、国連安保理では発表時、アフガン情勢を巡る定例の会合が開かれており、英国連大使は「女子学生一人一人に深く甚大な失望を与えるものだ」と糾弾、米国代表も「最も強い言葉で非難する」と述べています。国連のグテレス事務総長も、「非常に憂慮している」とする声明を発表し、「国の将来に壊滅的な影響を与える」と指摘しています。さらにタリバンは、NGOで働く女性職員を無期限で停職にするよう命じる通知を出しました。女性への抑圧をさらに強めています。2021年8月に実権を掌握したタリバンは当初、国際社会による政権の承認を求め、女性の就労や教育の権利を保障すると強調していましたが、それに逆行する流れが続いており、承認した国はまだありません。一方で、現地の人道状況は悪化、国連のグリフィス事務次長(人道問題担当)は、「国民の97%が貧困にある。人口の3分の2が生き延びるために人道支援を必要とし、2000万人が深刻な飢餓に直面している」と述べています。
アフガニスタンは、豊富な地下資源に恵まれていますが、国際社会から孤立する中、その地下資源を狙って中国が動いているようです。2023年1月6日付産経新聞の記事「中国、アフガン地下資源狙う タリバンと大規模契約」で、そのあたりの状況が詳しく書かれていますので、以下、抜粋して引用します。
その他、海外のテロリスクに関する報道から、いくつか紹介します。
- 南仏ニースで2016年、暴走するトラックにはねられて86人が死亡したテロ事件の判決がパリの裁判所であり、警察に射殺された実行犯の男に協力したなどとして、被告8人に禁錮2~18年の実刑判決が言い渡され、真相解明を6年間望んでいた犠牲者の遺族らは、一つの区切りを迎えています。最も重い禁錮18年を言い渡された2人について、裁判長は「実行犯が犯行を決意し、行動するのに密接に関係したと判断した」と指摘、検察側の求刑(禁錮15年)を上回る量刑としています。事件後の捜査で、実行犯の男がパソコンでISや国際テロ組織「アルカイダ」などを調べていたことが判明しましたが、ISとの直接の関係は見つからなかりませんでした。8人の被告はその男がイスラム過激派の思想に傾倒していることは知っていたとされる一方、具体的なテロ計画まで把握していた証拠は見つからなかったとされます。
- 米司法省は、ソーシャルメディアは一部のケースでユーザーの投稿に責任を問われる可能性があるとの認識を連邦最高裁で示しました。訴訟は、2015年のパリ連続襲撃事件の被害者の遺族が起こしたもので、原告はグーグル傘下のユーチューブがISの動画をアルゴリズムを通じて一部ユーザーに事実上推奨したことが事件の一因になったと主張しています。サンフランシスコの第9巡回区控訴裁判所(高裁)は、ソーシャルメディアは通信品位法230条で利用者の投稿に対する責任を問われないことになっているとして、グーグルに有利な判決を下したが、その後、原告が最高裁に上告、司法省の弁護士は、今回の事件でグーグルが責任を問われるべきだとは主張せず、ソーシャルメディアを保護する通信品位法230条の大半に強い支持を表明、その上でユーチューブなどが使っているアルゴリズムは別のタイプの精査の対象とすべきだとし、審理の差し戻しを求めました。
- 米国務省は、ケニア東部で2020年1月、米ケニア両軍が駐留する基地にテロ攻撃を仕掛けたイスラム過激派組織アルシャバーブの指導者や実行犯の拘束につながる情報に最大1千万ドル(約13億円)の懸賞金を出すと発表しています。テロ攻撃で米兵1人と米軍請負業者2人が死亡しています。アルシャバーブは、ソマリアに拠点を置く国際テロ組織アルカイダ系の組織で、ケニアやソマリア、近隣国での数多くのテロで数千人の犠牲者を出しているとされます。
- 北大西洋条約機(NATO)加盟を申請しているスウェーデン、フィンランド両国と、加盟国であるトルコの協議が難航しています。トルコがNATO加盟を認める条件として、トルコ政府と対立する非合法組織「クルド労働者党」(PKK)の関係者ら数十人の送還を求めているためです。トルコのエルドアン政権は交渉に妥協しない姿勢を示し、国内での支持率向上を狙っており、「トルコがいつ(NATO加盟を)国会で批准してくれるのか、見えてこない」とフィンランドのハービスト外相が、ブリンケン米国務長官、スウェーデンのビルストレム外相との会談後、記者会見で厳しい表情を見せました。反体制派を厳しく取り締まるトルコと、言論の自由などを重視するスウェーデンでは「テロリスト」の定義が異なり、両者の溝は深く、スウェーデンの最高裁は2022年7月、同国の永住権を持つトルコ人に対し、トルコ政府の送還要求を拒否する判決を出しており、スウェーデン政府も送還について「国内法、国際法に則って対応する」との姿勢を崩していません。
2022年7月に発生した安部元首相銃撃事件から半年が経過しました。本来のテロの定義には合致しないものの、「動機は政治的な目的ではなかったかもしれないが、暴力によって社会を変えようとしたという意味では民主主義に対する現代的なテロの概念に当てはまる」(日本大学危機管理学部の福田充教授)との指摘には筆者も同意できるところです。日本においても、ローンウルフ/ローンオフェンダー/ホームグロウン型のテロリストによるテロが発生しうること、孤立・孤独の問題、インターネット・SNSの犯罪インフラ性、銃器や爆弾が誰にも怪しまれずに原材料を入手でき製造できる環境にあること、手製銃(ゴーストガン)を持って公共交通機関で移動できること、SNSやインターネット上の兆候をつかむ取組みが十分ではないこと、警察の警備態勢にスキルだけでなく構造的な問題があることが明らかになったこと、旧統一教会の反社会性にあらためてスポットがあたり、初めての質問権が行使され、解散も視野に入っていること、旧統一教会と政治との密接な関係が明らかになったこと、など社会的な課題が数多く露呈した事件でもありました。以下、直近の報道から、課題解決に向けたヒントを得たいと思います。
安倍元首相銃撃の容疑者起訴 民主主義へのテロ、法廷へ(2023年1月13日付日本経済新聞)
テロ対策、重み増す官民連携 「単独型」脅威にどう備え(2023年1月13日付日本経済新聞)
高額献金・政治と宗教・要人警護…安倍元首相への凶弾、大きな波紋(2023年1月14日付読売新聞)
変わる要人警護 「重大事案なければ」から「ヒヤリ・ハットも」へ(2023年1月13日付毎日新聞)
警護強化カギ握る人材育成 AIや3D最新技術も導入(2023年1月7日付産経新聞)
警護計画の事前審査1300件、警察庁 安倍元首相銃撃半年(2013年1月7日付日本経済新聞)
要人警護底上げ半ば 広島サミット、大都市開催に難しさ(2023年1月7日付日本経済新聞)
要人警護に特化したサイバーパトロール開始、「襲撃の予兆」SNSから収集(2023年1月8日付読売新聞)
手製銃、対策に妙手なく ネットに製造法、原材料も身近に(2023年1月12日付時事通信)
その他、テロリスクに関する最近の報道から、いくつか紹介します。
- 学校法人立命館は、立命館大のキャンパスに設置した防犯カメラの映像から人工知能(AI)が特定人物の異常行動を検知し、警戒を促す「AI警備」の実証試験を大阪いばらきキャンパスで始めています。3月末まで実施し、能力が確認できれば、2023年度以降、京都、滋賀のキャンパスも含めて本格導入するといいます。実証試験では、AI警備の開発を手がける「アジラ」のシステムを用いており、防犯カメラに映った人物の肩や肘、かかとなど計14~25か所の位置をAIが検知し、映像の情報を総合して特定の体の動きとして認識するもので、実際に警察官が職務質問のきっかけにしている「違和感のある挙動」をAIに学ばせ、集団の中にいる挙動不審な人物を特定する能力も持たせているとのことです。不審な行動を注視することで、事件や事故を未然に防ぐ効果を狙っているといい、その成果を期待したいところです。
- 北海道警は、札幌市白石区の無職の被告(火薬取締法違反で起訴)を爆発物取締罰則違反や武器等製造法違反などの疑いで札幌区検に書類送検しています。報道によれば、被告は2022年10月、自宅で爆発物を所持したほか、2022年4~7月頃、鉄パイプを使った手製銃1丁を製造するなどした疑いがもたれています。調べに対し、「通販サイトやホームセンターで材料を買って作った。当初は自殺目的だったが、自己顕示欲や優越感が満たされ、楽しくなった」と容疑を認めているといいます。被告は2022年10月、自宅で黒色火薬を所持したとして火薬取締法違反の疑いで逮捕され、起訴されています。
- 処方箋を偽造して向精神薬などを不正に入手したとして、千葉県警は、大網白里市の医師を有印私文書偽造・同行使の疑いで逮捕しています。2018~20年、自身が理事長と院長を兼務していた同市のクリニックで処方箋を偽造し、向精神薬や抗てんかん薬など2万1506錠を不正入手したとしています。容疑者はクリニックに勤める別の医師の名義を無断で使い、自身の親族らを患者に見立てた処方箋を作成、九十九里町内の薬局にファクスで送って薬を入手していたといい、代金は自身の給料から天引きしていたということです。医師の専門家リスクの典型といえ、(報道されていませんが)大量の向精神薬がどのように使われたのかも問題です。
(6)犯罪インフラを巡る動向
空き家が犯罪に悪用されるケースが増えており、例えば、不正薬物の密輸に空き室が使われるケースが目立っています。コロナ禍の入国制限で従来の持ち込みができなくなり、代わりに国際郵便物や航空貨物に隠す手口が急増しており、制限緩和後も続いている状況にあります。荷物の回収役をSNSで募るなどして密輸がより身近な犯罪になる恐れもあり、警察や税関当局が警戒を強めています。例えば、警視庁が2022年12月に覚せい剤取締法違反(営利目的輸入)容疑で逮捕した不動産仲介会社の40代の男は、取り調べに「報酬が欲しくてやった」と供述しています。報道によれば、男は覚せい剤約1.9キログラム(末端価格約1億1700万円)を3Dプリンターで使う材料に隠して航空貨物で輸入、東京都内のアパートの空き室前で受け取った疑いがもたれています。警視庁は男を内偵捜査し、空き室前に「置き配」された薬物入りの荷物を回収しようとしたところを取り押さえたといいます(この事例では、男が不動産会社の勤務しており、勤務先の物件検索システムを使って空き部屋を見つけ、覚せい剤の一時配送先として空き部屋の住所をグループに伝えたほか、その空き部屋の外に置き配された荷物を回収する役割も担っていたとされ、不動産事業者における情報管理の脆弱性が悪用された専門家リスクの事例でもあります)。荷物の宛名は偽名で、「知人の中国人の親戚を名乗る人物から受け取りを依頼され、報酬は10万円だった」とも供述しているといいます。神奈川県警が2022年6月に中国籍の20代の男を逮捕した事件でも、使われたのは空き室でした。報道で、税関担当者は「共有エリアに防犯カメラがなく郵便受けにチラシなどがたまっているアパートの空き室が狙われやすい」と警鐘を鳴らしていますが、背景にあるのが、コロナ禍で置き配が一般化したことにあります。集合住宅では配送業者が置いた不在連絡票の抜き取りや、置き配による薬物の回収が比較的目立ちにくい状況にあります。「受け子」といった末端役をSNSの闇バイト勧誘で集める例が多く、中国に拠点を置く組織の関与が疑われる密輸事件で、回収役が対話アプリ「微信(ウィーチャット)」内のバイト募集に応じている実態があるようです。持ち込みに一定のリスクがあり、かつては暴力団の収入源だった薬物密輸が、よりハードルの低い犯罪になることで密輸量が増える恐れがあるほか、空き室が増えていることも、悪用につながっている(犯罪インフラ化を助長している)といえます。また、薬物入りの荷物は、回収役が宛名と同じ名前の表札を張るなどして住人を装い、荷物を受け取る場合が多いようですが、空き家の前で受取する例や、荷物の配達状況を確認して受取場所を変更する、運送業者の集荷場等で受け取るなど、多様なバリエーションもあり、それは何も薬物事犯に限ったことではなく、特殊詐欺や(商標権等を侵害している商品や安全性が確認できていない商品などの)不正輸入にも悪用されています。
複数の大手求人サイトが、特殊詐欺の被害者から現金を受け取る「受け子」の募集に悪用され、アルバイトに応募した男女11人が2022年8月以降、詐欺容疑などで愛知県警に逮捕されていたとのことです。犯罪に加担すると知らずに応募した者もいるとみられ、県警はサイト側に求人募集する業者の調査を促す一方、利用者に注意を呼び掛けています。求人広告は「集荷配達」「商品受け取りスタッフ」などの名目で、日当1万円程度から月収25万円以上をうたうものもあり、募集業者は複数確認されており、実在する会社を連想させるような社名だったり、住所が架空だったりしていたといいます。報道によれば、東京都内の大手求人サイト運営会社の担当者は取材に、悪用されたケースがあることを認め、「求人掲載の際は反社会的勢力か調査するなどしている。引き続き掲載基準の見直しや確認強化を図る」とコメントしています。正に求人サイトの犯罪インフラ化の状況といえますが、求人サイトというプラットフォームを運営する事業者にとって、「場の健全性」を確保することが求められているといえ、デジタルプラットフォーマーでなくても同様であることをあらためて突きつける形となりました。登録募集事業者の反社チェックを行っていると取材に応じた事業者は伝えたいのでしょうが、そのチェックのレベルが十分でないことも明らかになったといえます。「実在する会社と社名が似ている」、「住所が架空である」といった端緒は、もう一歩踏み込めば、チェックできるはずであり、実際に犯罪者や犯罪組織に悪用されている以上、その脆弱性は速やかに解消する必要があるといえます。繰り返しますが、「場の健全性」を担保するのは、すべてのプラットフォーマーの責務なのです。関連して、経済産業省が、インターネットモールが犯罪の温床となっていることをふまえ、利用者に注意喚起をしています。注意喚起の中でも触れられていますが、本来は、プラットフォーマー自身もGAFAやヤフーなどのように、その努力をすべきだと指摘しておきたいと思います。
▼経済産業省 インターネットモールを利用する皆様へ 安全な商品かどうかの確認を忘れずに-OECDによる「国際共同啓発キャンペーン」が行われています-
- 経済協力開発機構(以下、「OECD」という。)では、「国際共同啓発キャンペーン」と題し、OECD加盟国及び非加盟国が協力して国際的な製品安全に係る懸念について普及啓発を行っています。今年は「オンライン上の製品安全」をテーマに消費者、インターネットモール運営事業者及びオンライン上で製品を販売する事業者に向けて、安全確保に関して期待される取組のメッセージを出しています。
- 経済産業省は、消費者庁とともに我が国におけるキャンペーンの取組を行っています。インターネットモールで商品を購入する消費者、商品を販売する事業者、インターネットモールを運営する事業者においても、皆様による安全な商品かどうかの確認を通じて製品事故の防止に御協力をお願いします。
- 概要
- OECDでは、OECD加盟国及び非加盟国が協力して国際的な製品安全に係る懸念について協調して普及啓発を行う「国際共同啓発キャンペーン」を開催しています。
- OECDが2021年に実施した調査によると、海外では、オンライン上で流通している製品のうち、玩具・ゲーム、育児用品などでは販売禁止品やリコール品が販売されている事例が確認されています。また、同調査によると、販売サイトから得られる情報では、製品表示や安全に関する警告が十分かどうか、自主的又は義務的な安全基準を満たしているかどうか分からない製品も約3割あったとされています。
- このため、OECDは2022年のキャンペーンのテーマを「オンライン上の製品安全」とし、消費者、インターネットモール運営事業者及びオンライン上で製品を販売する事業者に向けて、安全確保に関して期待される取組のメッセージを発出しました。
- 消費者の皆様に行っていただきたい内容
- 購入する前に:購入前に一旦ストップ!その製品が安全か確認を
- 誰から購入しようとしていますか?販売者の販売実績、連絡先などを確認しましょう。
- 販売禁止品が売られていても買わないで!
- リコール製品ではありませんか?
- 法令によって定められた安全基準を満たしていますか?(例えば、PSEマークやPSCマークが付いていますか)
- 販売ページに製品の安全性に関する情報が掲載されていますか?(併せて、対象年齢や使用方法についても確認しましょう)
- 製品が安全かどうか分からなければ、販売者に尋ねてみましょう。不安な場合は買わないで!
- 安全でないと思ったら報告して!(事業者、行政に報告してください。製品に関する心配があれば、「消費者ホットライン」188へ)
- 購入した後に:使用前に一旦ストップ!製品の確認・点検を
- 購入前に確認していた機能がありますか?
- 警告表示や取扱説明書はありますか?
- 警告表示や取扱説明書を読んでから使用しましょう。(SNSや動画などで紹介されているアイデアや使用方法は本来の使い方ですか?)
- 安全でないと思ったら報告して!(事業者、行政に報告してください。製品に関する心配があれば、「消費者ホットライン」188へ)
- 製品登録サービスを利用して、リコール情報などを受け取れるようにしておきましょう。(併せて、行政やインターネットモールの注意喚起を読んでください)
- 製品がリコールになったら、すぐに使用を中止し、回収や保管方法など事業者の指示に必ず従ってください。
- 購入する前に:購入前に一旦ストップ!その製品が安全か確認を
- 概要
デュアルユース(民間および軍事用途の双方に使用できる貨物、ソフトウエアおよび技術)に絡み、民間の技術が犯罪に悪用される犯罪インフラ化も深刻な問題です。米CNNテレビは、ロシアが侵攻するウクライナで2022年秋に墜落したイラン製無人機(ドローン)から、ウクライナ情報機関の分析の結果、日本や欧米の企業が製造した部品が見つかったと報じています(中国や台湾の企業の部品も含まれていました)。ロシアはウクライナで、イラン製無人機を主要な攻撃手段の一つにしており、ロシアの武力侵攻を日本や欧米が間接的ながら手助けした(犯罪を助長した)格好となり、議論を呼びそうです。具体的には、ウクライナが自爆型無人機「シャヘド136」1機から取り外した52個の部品のうち、40個は米国の13社が製造したもので、残る12個はカナダやスイス、日本、台湾、中国の企業が製造したといい、CNNによると、米国の制裁法に抵触したり、故意に技術を輸出したりしたことを示す証拠はないということです。2022年12月15日付朝日新聞の記事「家電やパソコンの部品がなぜウクライナ攻撃に…日本メーカーの答えは」では、イラン製無人機に使われた継電器(リレー)の製造元とされた大手電気機器メーカーは、実際に使用されたメーカーの製品は、冷蔵庫や洗濯機といった家電のほか、産業用機械など、きわめて広範囲に使われるといい、イランに直接販売することはなく、「法令上問題となる顧客への販売もしておりません」、「一般的に使用される製品のため、どのように流通し、転売され、第三者にどう使用されるかまでは把握しきれない」と回答しています。また、集積回路がドローン部品に使われたとされた別の大手電機メーカーも、リストに挙がった部品について「非常に古い画像処理用のLSI(大規模集積回路)であり、軍事目的に開発された製品ではない」、「イランに輸出したことはない」と回答しています。さらに、ノイズ対策フィルターの製造元とされた別の大手電子部品メーカーも、パソコンやゲーム機など、身の回りの機器に使われているといい、「兵器への使用禁止方針は販売代理店にも強く要請している。(ドローン製造者が)入手した経緯は不明」と回答しています。こうした状況について、輸出ルートとして、中国や中東の国などの第三国を経由してイランに入った(それが露に提供された)可能性が高いと考えられ、家電製品全てを止めなくてはならなくなるため、こうした部品がイランに入るのをコントロールすることは現実的ではなく、問題は、家電製品のようなもので兵器を手軽に作れる時代になったということと考えるべきなのでしょう。しかしながら、悪用される可能性が少しでもある商品・部品を問題となる国や地域に直接輸出をしないことは当然のこととして、人権DD同様、サプライチェーンにおける商品・部品等の流れを今まで以上により踏み込んで把握し、関係者に注意喚起し続けること(悪質な場合など、契約解除ができるようにしておくこと)、(犯罪インフラ化を100%防ぐことは不可能であることもふまえ)そうした取組み状況を積極的に社会に開示し、理解を求めるといった企業姿勢が求められていると認識する必要があります。
前回の本コラム(暴排トピックス2022年12月号)では、役員の登記の構造的な問題(脆弱さ)が突かれて犯罪インフラ化するという事件を取り上げました。今回は、企業乗っ取りの手口としてのウルフパック(群狼)戦術を取り上げます。必ずしも犯罪インフラということではありませんが、企業乗っ取りの一つの手口として知っておく必要があるといえます。
誕生からまもなく25年を迎えるNPO法人は、災害救援や環境保全など20の分野で5万を超す団体が活動し、認知度は高まっていますが、近年、「善意」の看板を隠れみのにした不正行為が相次いでいます。FATFの第4次対日相互審査結果でも、NPO法人のリスクについて指摘されていますが、公益財団法人「日本非営利組織評価センター」が2022年6月、NPO法人などを舞台にした横領や不正受給などの不祥事が約7カ月間に84件確認されたと公表しており、NPO法人の犯罪インフラ化が急速に進んでいる実態が分かります。NPO法人は設立趣旨書や事業計画書などを所轄の自治体に提出し、認証を受ける仕組みで、その後は毎年、事業報告書などを公開し所轄庁に提出すれば済むことになっていますが、そもそも行政によるチェック体制は十分に機能していない実態があり、それが犯罪インフラ化を助長しているといえます。報道で、関西大教授の馬場英朗は「内閣府や自治体が公開するNPO法人の情報はデジタル化されておらず、データベースに基づいた活動内容の検証や十分な情報開示ができていない。時代に合わせて制度の在り方を問い直す時期が来ている」と指摘していますが、正に正鵠射るものであり、NPO法人を何となく「公的な団体」として「問題がない」と表面的に思い込んでしまう企業側の心理が悪用されている以上、性善説だけでなく、性悪説の視点も踏まえた制度のあり方、監督のあり方への変革が求められています。
イスラエルのサイバー関連企業「セレブライト」(IT機器メーカー「サン電子」の子会社)が販売するデータ抽出機器「UFED」は、強権的な国家や地域で、多くの人権活動家や記者の活動を妨害している(犯罪インフラ化している)と人権団体などから批判が集まっています。一方、UFEDの輸出にはイスラエルの国防、外交政策も影響しているとみられ、国家による規制のあり方が問われています。報道によれば、UFEDは、携帯電話などの情報端末につなぐことで連絡先やメッセージなどの個人情報を全て抜き出し、既に消去した情報も復元することができるもので、「反体制派の指導者を一度逮捕し、UFEDを使えば、反体制派を巡る多くの個人情報を手に入れることができる。当局にとっては最も効率的な捜査手法だ」と関係者が指摘している怖さがあります。日本でも一部の省庁や警察にUFEDを販売しており、日本での営業活動も活発化させているところですが、アフリカ諸国では、UFEDで報道の自由が侵害される事例が出ているほか、東南アジアの強権的な国家にも、UFEDは販売されており、フィリピンのドゥテルテ前大統領は「麻薬撲滅のためなら殺人をいとわない」と主張し、麻薬密売人らを次々殺害したり、政府に批判的なメディアを抑圧したりしてきましたが、治安当局は、UFEDを捜査の「武器」として活用している実態があります。このような強力な機能を有するがゆえに「犯罪インフラ化」が進むUFEDですが、そもそも強権国家への輸出は規制されない背景には、武器やサイバー技術の輸出を「外交ツール」として利用するイスラエル政府の姿勢があるとされます。イスラエルのサイバー技術は軍で開発された後、民間移転されるケースが多いうえ、一方で、軍の高官は退職後にサイバー企業で働くことが多く、国防省と企業側の協議で規制が「骨抜き」にされている可能性が指摘されています。報道で、「企業側は社内に倫理委員会などを設け、『取引先の人権問題をチェックしている』と主張するが、外部から実態を確認できない」と指摘されており、筆者も同様に感じています。また、大阪経済法科大の菅原絵美教授(国際人権法)は「セレブライトは人権DDを行う社会的責任があり、親会社のサン電子は、セレブライトに人権DDを実施させる責任がある」と語っています。さらに、セレブライトは国際的に人権侵害が指摘される国家に機器を販売しているほか、販売を停止した国についても、その後の状況を検証、公表していないとして、「国連の指導原則に違反する」とも指摘しています。日本政府は現在、公共事業や物品調達の入札の際、人権に配慮する企業を優遇する仕組みを検討しており、菅原氏は「今後、人権DDを実施していない企業は、市場から選ばれることは難しくなるだろう」と述べています。筆者としても同感です。
テック大手によるユーザーのデータ保護の取り組みが波紋を広げています。米アップルはクラウドのデータ保管サービス「iCloud」や対話アプリ「iMessage」の暗号化を強めると発表し、米メタや米グーグルも取り扱うデータの保護を進めるなど、言論の自由を保護する一方、捜査当局への提供が困難になり捜査の壁になりかねないジレンマを抱えています。この問題は、アップルのスマホのセキュリティロック解除を巡って捜査当局と大きく対立した過去から継続している問題です。それは、2015年12月にカリフォルニア州で14名が殺害された「サン・バーナディーノ銃乱射事件」の容疑者が持っていたiPhoneに暗号化した上で保存されている情報にFBIがアクセスしようとして起こった問題で、このテロが誰かの指示によって起こったのか、どういった人間関係が背後にあるのかといったことをつかむためにFBIは捜査を行いたいところ、間違ったパスワードを10回入力するとデータが消去されてしまうことから、FBIは、そのセキュリティロックを解除してほしいとAppleに要請し、それをAppleが拒否、連邦裁判所はアップルに対してロック解除命令を発したが、アップルははそれも拒否してたというものです(解除することが可能でも、アップルはそうするとFBIがそのキーを他のユーザーのデータを入手するために用いると主張、それだけでなく、ハッカーからの侵入に対しても脆弱になり、独裁国家や言論の自由を許さない国家などがこれを悪用するとしているものです)。個人のプライバシーと国家安全保障とのバランスという熱く注目度の高い議論へと発展してしまったわけですが、暗号化技術はユーザーのプライバシー保護や自由な言論を守る利点があり、実際、ロシアや中国など政府がインターネット利用を規制する国では、「テレグラム」や「シグナル」などの暗号通信アプリが情報発信を支えています。一方、政府や規制当局からは暗号化技術への懸念の声もあるのは事実で、構図は変わっていない(その高度な議論が解決していない)ことがあらためて示された形となります。
米国家安全保障局(NSA)は、ハッカー集団「APT5」が米IT企業シトリックス・システムズのネットワーク機器の脆弱性を悪用し、スパイ行為を行ったと明らかにし、注意を促しています。APT5は中国系とみられており、シトリックスはブログで「この脆弱性を利用した少数のハッカー攻撃を承知している」と述べています。同社は既に、この脆弱性の修正プログラムを提供しており、NSAはAPT5が中国系とは指摘していないが、民間のセキュリティ専門家らは過去に中国との関連の疑いに言及、同集団は通信事業者や政府機関、衛星など技術系企業への侵入で知られ、米国のほか東南アジアや欧州で活動してきたとされます。
キャッシュレス決済が普及する中、利用が拡大している電子決済サービスですが、多様なサービスがしのぎを削る中、バーコードだけで決済ができる手軽さに付け込んだ犯罪が起きています。大阪府警は他人のアカウントを不正に使って加熱式たばこなどを購入したとして、詐欺容疑で中国籍の男2人を逮捕しています。男らは利用者を偽サイトに誘導してIDやパスワードを盗み取る「フィッシング詐欺」こあってしまったことで、たやすく決済用のQRコードを入手していたといい、同様の手口による事件は全国で相次いでおり、企業側は対応に苦慮しているとのことです。なお、男性のスマホには、不正ログイン後に本人確認の通知が届いたものの、深く考えないままログインを承認していたといい、この点も犯罪インフラ化を容易にしてしまっている理由といえます。
米アップルの日本法人、アップルジャパンが東京国税局の税務調査を受け約130億円の消費税を追徴課税されています。過去数年間にiPhoneなどの販売で、消費税の免税制度の要件を満たさない取引を見抜けなかったケースが多数あったなどと指摘されたといいます。客の申告に基づく日本独特の制度が悪用された形(犯罪インフラ化)で「抜け穴」の解消が急務だといえます。消費税で100億円を超える追徴税額は極めて異例で、同社は修正申告したとみられています。日本政府は2020年4月、免税店が購入情報の電子データを国税庁や税関と共有する仕組みを導入、国税当局は一部業界で不正が疑われれば免税販売しないよう行政指導していますが、免税販売を適正化できるか実効性が問われることになりそうです。同様のケースは百貨店などでも見られています。報道によれば、国税当局は、今後、さらに消費税率が上がれば利ざやが大きくなる分、不正の拡大が想定される中、チェックできなかった責任を免税店に負わせるのは酷で、海外同様に後から払い戻す方式を念頭に置いた制度改正も視野に入れる必要があると考えているようです。一方、この問題の背景には国内外のアイフォーンの価格差があり、未使用の中古品が新品の値段より高くなる「逆転現象」も起きています。報道によれば、「1台、2台ではなく、大量に購入するには多額の資金が必要だ。訪日客が個人で買ったとは考えられない」と中古スマホ市場に詳しい業界関係者は、組織的に免税購入が行われていた疑いを指摘しています。また、コロナ禍が始まる前から、日本の価格の安さは世界で目立っていた」として、これらの商品を日本で仕入れて海外で転売すれば、大きなもうけが生じる状況があったということになります。免税品を巡ってはこれまで、百貨店などで大量の化粧品などを買った訪日客らが、店の周辺で商品を別の人物に引き渡す様子が目撃されていたほか、商品を買い集めるグループや、輸出役などに役割分担しているとみられ、輸出役が消費税込みで商品を仕入れたと偽って不正に消費税の還付を受けている可能性も考えられるところであり、犯罪に悪用されていることが明らかである以上、仕組み自体の早急な見直しが急務だといえます。
米連邦取引委員会(FTC)は、ゲーム「Fortnite(フォートナイト)」で知られる米エピックゲームズに5億2000万ドル(約710億円)の制裁金を科すと発表しています。子どものプライバシー侵害や意図しないアイテム購入を促すゲームの設計などを問題視したもので、エピックは和解のため、支払いに合意しています。報道によれば、エピックはフォートナイトを通じて13歳未満の子どもの個人情報を保護者の同意を得ずに収集し、「児童オンラインプライバシー保護法(COPPA)」に違反したもので、初期設定で音声やテキストチャットを使えるゲームの仕様も、児童や10代の若者が見知らぬ人とオンラインでつながり、いじめや脅迫、嫌がらせを受ける要因になったといいます。ゲームの設計自体が「犯罪インフラ化」した事例といえます。
電子商取引(EC)サイトで不正利用が急増していることから、カード番号管理の厳格化や本人認証の導入をカード会社に求めることとなりました。骨子案は、(1)カード番号の漏洩防止(2)不正利用防止(3)犯罪抑止・広報周知の3つが柱となり、カード番号の漏洩を防ぐため加盟店に対し、ECサイトのウイルス対策を必須化して番号管理を厳しくするほか、セキュリティ対策のガイドラインを改定し、カード番号の適切な管理義務の水準を引き上げること、全てのEC加盟店にはパスワードや生体認証など複数の手段で認証する「EMV-3Dセキュア」の原則導入を要請することなどが検討されています(通販サイトのヤフーショッピングやメルカリ、大手百貨店のECサイトは対応済み)。また、加盟店の管理会社にはEC加盟店の調査項目を拡大するよう要請するほか、カード業界は今後、業界共通の不正検知システムを開発予定だといいます。ECサイト上のセキュリティ強化の観点はもちろんですが、「場の健全性」の確保はここでも重要であり、EC加盟店の厳格な管理もまた重要なポイントとなりそうです。関連して、コンサートなどのチケット転売を巡るトラブルが後を絶たないという問題もあります。新型コロナウイルスの影響で大規模イベントが制限されている間は減っていたものの、イベントが再開し始めた約1年前からトラブルが急増しているといいます。世間がウイズコロナへとかじを切る中、トラブルは今後も増加する恐れがあります。この問題では、転売チケットはいけないことと分かっているので、被害に遭っても相談をためらう人も多い可能性も指摘されています。転売行為そのものは入場券不正転売禁止法(2019年施行)で規制されていますが、対象は転売禁止を明記したチケットなどに絞られ、刑事事件にするには繰り返し転売する「反復継続の意思」の証明も必要で、少々ハードルが高いといえます。チケット転売の犯罪インフラ化を阻止する取り組みとしては、チケットの電子化が期待できるものといえます。また、転売に関わる問題として、他人名義のクレジットカードの情報でポケモンカードを買ったとして、札幌市の20代の男が詐欺容疑で逮捕された事例などもあります。拡大するトレーディングカード市場にあってポケモンカードは特に人気が高いとされており、警視庁は男が転売目的で不正に購入していたとみています。報道で、高額転売問題に詳しい福井健策弁護士は、「転売自体は経済活動の一つの形であり、安易に規制すべきでない」としつつ、「問題なのは、希少な商品に対し転売目的の『買い占め』が起こり、トレーディングカードのような人気が高いジャンルでは、子どもを含む多くの消費者が高額な買い物をさせられ迷惑をしている点だ」と指摘、店側が店頭の掲示やネット上の規約で転売目的の購入を明確に禁じているにもかかわらず、目的を偽って購入・転売したような場合は、転売が詐欺罪や偽計業務妨害罪に当たる可能性があるとして、「まずはメーカーが小売店と手を取り合い、購入のルールを明確化し、それを守らない場合には警察に積極的に被害申告することが、本来の顧客である消費者を救うことにつながる」と指摘しています。なお、「ポケモンカード」など高額化するトレーディングカード専門店のカードを狙った空き巣被害が東京都内で相次いでいるといいます。報道で、ある捜査関係者は「高額で取引されるため狙われやすくなっている」と指摘、盗難品の行方については、「(識別する)固有の番号があるわけではなく、海外にも流れる可能性があるため特定は難しい」と指摘しています。
自動車解体施設「ヤード」は、外部の目が届きにくく、盗難車が持ちこまれる違法行為の温床ともなっており、犯罪インフラ化が進んでいますが、この点については、本コラムでもこれまでたびたび指摘してきたところです。報道によれば、千葉県内の「ヤード」の設置数は2022年10月末現在、全国最多の648か所が確認され、依然として増加傾向にあることが千葉県警のまとめでわかったということです。千葉県は、首都圏に通じる高速道路網が整備され、ヤードに適した平らな土地が比較的安価で確保しやすいことが要因と考えられています。多くのヤードは適正に経営されているとみられるものの、中には盗難車を解体して輸出している違法なヤードが、県内外で相次いで摘発されており、自動車盗の発生件数が多い県でヤードの数が多い傾向にあるといいます(実際、千葉県内では2021年、全国ワーストの759件の自動車盗被害が発生しています)。違法ヤードへの対策は、警察と自治体との連携が欠かせず、千葉県は2015年、警察などと合同でヤードへの立ち入り調査ができる条例を全国に先駆けて施行し、2021年は741か所で立ち入り調査を実施しています。
カバンや財布に取り付け、紛失防止に役立てる小型の電子機器「スマートタグ」がストーカー犯罪に悪用されるケースが出ています。本コラムでも、暴力団捜査に使われる車両に「スマートタグ」が取り付けられていた事例を紹介しましたが、遠方からでもスマートフォンでタグの位置情報を把握できる機能を使い、無断で相手の車に取り付ける手口が判明しており、メーカー側の不正対策を無効にする改造も確認されるなどしています。報道で、専門家は「警察は実態把握を急ぎ、対応を検討すべきだ」と指摘していますが、正にそのとおりだと思われます。位置情報を巡ってスマートタグが悪用された背景には、ストーカー規制法の規制対象と明示されていないブルートゥースを使うことで法の網の目をかいくぐる狙いがあるとの見方も出ています。2021年の同法改正では、無断でGPSを取り付けたり、位置情報を取得したりする行為が新たに禁止されました。2021年の警察へのストーカーの被害相談のうち、GPS機器の無断取り付けや位置情報の取得は延べ152件で、実際に取り締まりも始まっており、警察が禁止命令を出したのは6件で、検挙も5件あったといいます。東京都立大学の星周一郎教授(刑法)は「位置情報が他人に無断で特定される不安は深刻で、その意味ではGPSもブルートゥースも差はない。警察は相談対応や事件の摘発を通じ、スマートタグの悪用実態の把握を急ぐ必要がある」と指摘していますが、悪用実態の把握に止まらず、規制強化や悪用されないための対策の検討を急ぐ必要があります。
110番通報の「誤接続」が増えているようです。要因の一つと考えられるのが、OSのアンドロイドに追加された新機能で、アンドロイド搭載の機種「エクスペリア」を販売するソニーによると、2021年秋に配布が始まった「アンドロイド12」以降のOSを入れたスマホは、電源ボタンを5回連続で押すと、暗証番号などを入力しなくても110番などへ自動的につながるようになりましたが、長野県警が2022年12月7~20日にあった誤接続670件のうち300件について、相手先から理由を聞き取るなどしたところ、95%がアンドロイド端末のスマホを利用していたという結果となりました。最新型や、OSを「12」以降にバージョンアップしたスマホから、誤接続が増加している可能性があるといい、何らかの誤操作で知らないうちに110番へつながることになっています(犯罪とまではいいませんが、業務妨害になりうるものでスマホが生活インフラとして欠かせないものである以上、何らかの改善が必要な状況といえます)。報道によれば、警察では、相手先の反応がなくても、原則、そのまま放置することはせず、宮崎県警は誤接続とみられる場合でも、携帯基地局のエリアから発信地をある程度特定し、最寄りの署員を現場に向かわせて報告を求めているほか、110番を受理する通信指令課も、通話が切れた後に何度も逆発信するなどしているといいます。相手先の反応が無くても、ドメスティックバイオレンス(DV)や監禁などで声を出せないケースもあるためです。
SNSの犯罪インフラ化については、本コラムでもたびたび指摘しているところですが、SNSなどに投稿された殺人やストーカー行為の依頼を募る投稿について、警察庁は、民間委託している事業を通じてSNS運営事業者に削除要請する方針だということです。安倍晋三元首相が2022年7月に銃撃されて死亡した事件を受け、銃器や爆発物の製造情報の削除要請は決めていましたが、生命・身体に危害を加える危険性や緊急性が高い投稿を広く対象に含めることにしたといいます。2023年3月をめどに実施するとしています。報道によれば、「有害情報」として新たに削除要請の対象となるのは、「拳銃の譲渡等」、「爆発物・銃砲等の製造」、「殺人等」、「臓器売買」、「人身売買」、「硫化水素ガスの製造」、「ストーカー行為等」の7類型で、現時点では自殺勧誘のみが対象となっており、大幅に増えることになります。隠語などの問題もあり、すべてを網羅することは難しいかもしれませんが、生命・身体の安全を守ることはもちろん、ローンウルフ型のテロ等への対応という観点からも有効な取組みだといえます。
厚生労働省は2023年度、日本に派遣される外国人技能実習生の高額な費用負担や人権侵害の実態を調べるため、各国の送り出し機関に対し、初めての現地調査に乗り出すこととしています。少子化による人手不足が進み、円安で日本で働く魅力も低下する中、実習生への不当な扱いを是正しなければ人材確保が難しくなると判断したものです。技能実習制度は、日本で働きながら様々な技能を学んでもらう国際協力の名目で行われ、実習生は2021年10月時点で約35万人おり、実際には就労目的の人が多いところ、低賃金などを理由に失踪するケースが後を絶たず、2021年は7167人に上っています。政府は失踪の要因の一つに実習生が抱える多額の借金があるとみており、失踪が新たな犯罪を助長することにもつながるなど、技能実習制度そのものの「犯罪インフラ化」が進んでいます。技能実習制度を巡っては、政府が制度の存廃や、外国人の単純労働を認める特定技能制度との再編などの議論を始めていますが、仮に特定技能と一本化された場合でも、就労者の派遣に送り出し機関が関与する方式は大きくは変わらないとみられ、外国人材の受け入れ拡大には、送り出し機関による不当な費用徴収をなくし、外国人労働者の保護を強化することが不可欠だといえます。関連して、コロナ禍による経済的な困窮により、東南アジアで「人身売買」被害が増えているようです。最も被害が多い地域はカンボジア南部シアヌークビルで、ベトナムやタイとの国境地帯が続く地域ですが、被害の背景にあるのは、「カンボジア政府の法の執行能力の欠如」で、当局は摘発を強化しているものの、末端まで指示が行き渡らず、現場での犯罪は見て見ぬふりが横行しているとされます。さらに、当局者と中国企業の癒着もうわさされているといいます。コロナ禍で失業者が増えたことに加え、東南アジア域内ではビザ取得が簡単で、陸続きで入国しやすいこと、中国本土から渡航制限で入国できなくなったことなども、東南アジアで被害が拡大した一因と考えられています。中国人主体の詐欺組織に身柄を売られ、犯罪に加担させられた上で暴力を受ける被害が広がり、カンボジアに乱立した中国資本のカジノなどが温床となっているとされます。2012年頃に中国でオンライン賭博の取り締まりが強化され、拠点がカンボジアに移り、今はミャンマーの拠点が増えている実態があります。このような状況をふまえ、2022年にはマレーシアやインドネシア、インドなど9か国がカンボジアと事件に関する情報交換や捜査協力などを進めることを決めましたが、犯罪組織が暗躍するのは広大な地域に及び、根絶は容易ではないと指摘されています。
政府の個人情報保護委員会は、破産者の氏名や住所などの個人情報を公開しているインターネット上のサイトの運営事業者を個人情報保護法違反の疑いで刑事告発しています。同委員会による刑事告発は初めてで、「個人の人格的・財産的差別が誘発されるおそれがある」と判断しています。なお、告発先は警視庁ですが、運営者は特定できていないといいます。破産者の情報は官報の公開情報で把握できますが、同委員会は本人の同意なくデータベース化したものは個人情報保護法に違反すると指摘、同委員会は2022年7月に停止勧告、11月に停止命令を出していますが、サイトは閉鎖されておらず、事態を重くみて刑事告発に踏み切ったものです。個人情報保護法は同委員会の命令に違反した場合、1年以下の懲役または100万円以下の罰金を科すとしており、法人の両罰規定もあり、1億円以下の罰金と定めています。過去に発覚した類似サイトは、同委員会の命令などを受けて閉鎖したといいます。
企業が保有する価値ある「情報資産」の流出リスクが高まっており、事件化した多くは身近な顧客データなどの「営業情報」の流出で、摘発件数は8年で5倍に増加しています。IT化の進展でクラウド上に保管されるデータが飛躍的に増え、複製が容易になる一方、企業側の対策は十分とはいえない状況にあり、デジタル化やクラウド上の管理の「犯罪インフラ化」が進んでおり、重要情報の漏洩や不正利用の防止策が急務となっています。報道によれば、調査会社のグローバルインフォメーションは、2022年時点で企業が保有するデータの6割以上がクラウド上に保存されていると分析、世界のクラウドストレージの市場規模は2022年(786億ドル)から2028年(2406億ドル)に3倍の成長が予測されています。企業が事業活動を通じて収集・保有するヒト、モノ、カネの価値ある「情報資産」が、複製しやすい電子データに置き換わっていることがうかがえる一方で、漏洩対策は十分とはいえず、情報処理推進機構(IPA)の2020年調査によると、クラウド上で取引先などの社外と営業秘密を共有する企業は回答2142社の23%、うち設定が適切かどうか定期的に確認しているのは38%で、アクセス記録の分析や監査まで実施する企業の割合は1~2割ほどにとどまっている状況です。関連して、複数の省庁が関連して、2022年12月、サイバー攻撃を受けた可能性があることが判明しています。政府の調達対象となる「政府情報システムのためのセキュリティ評価制度(ISMAP)」に登録され、複数省庁が利用している富士通のクラウドサービスなどで不正な通信が確認されたというものです。政府のセキュリティ対策を担う「内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)」によると、外部から通信情報を盗み取られた可能性があるということです。報道によれば、NISC幹部は「盗まれた可能性のある情報は暗号化されているか、暗号化されていなくても機密性の高くないものだ」と強調、ただ量子コンピュータの発展により、暗号化技術は陳腐化する可能性があり、先に情報を盗み、技術の進展を待って暗号を解く「ハック・ナウ・デクリプト・レイター(今侵入して後で暗号を解く)」と呼ばれる攻撃が一般的になってきている点に注意が必要です。富士通は2022年5月にも別の登録サービスで攻撃を受けたと発表しています。
機密情報の管理、サイバー防衛、経済安全保障などの観点から、政府は2024年にも自衛隊が民間企業をサイバー防護できる制度をつくる検討に入ったといいます。これまで原則、防衛省や自衛隊のシステムに限定していた対象を広げ、防衛産業や電力をはじめとした重要インフラ事業者の耐性を高め、安全保障上の機密情報の流出や社会活動の停止などを防ぐ考えです。背景には、サイバー対策が不十分な民間企業への狙い撃ちで情報が漏れることへの危惧があり、同盟国の米国と部隊運用や装備品の協力を進めるうえでも日本の官民の対応が欠かせない状況にあります。サイバー攻撃は質と量の両面で強力になっており、現行法のままでも平和・安全を確保する自衛隊の任務遂行に必要な範囲であれば民間防護も許容されると判断、政府が新たに検討する「能動的サイバー防御」を活用するとしています。政府は国家安保戦略に能動的防御を初めて明記し、2023年に政府内に有識者会議を設けて方策を詰め、2024年に法整備する見通しで、法案が成立すれば自衛隊などの政府機関には特別な権限が付与されることになり、防衛上重要で自衛隊の協力が重要な企業と連携をとり、サイバー攻撃の兆候を監視することが可能となります。重大な攻撃があると判断した場合は相手システムに接触し、攻撃を無力化するといった仕組みを検討することとしています。関連して、2022年5月に成立した経済安全保障推進法をめぐり、積み残しの課題となっている機密取り扱い資格「セキュリティ・クリアランス(適格性評価)」の制度化が遅れています。報道によれば、「安全保障に関する米国の国際会議などで、『クリアランス』を持っていないため一部参加できないことがある」とされ、制度の整備は急務のはずです。資格を得るには経済的な状況や薬物・アルコールの検査、精神状態などを調べる「バックグラウンドチェック」を通る必要があります。その重要性については、2022年12月21日付日本経済新聞の有識者のコメント等が参考になり、例えば、「米国で民間の人材を使う肝となるのがセキュリティ・クリアランスだ。金銭問題やアルコール、異性関係などすべてを確認する。その人物に弱みがあればスパイとして情報漏洩などに加担してしまう恐れがあるためだ。日本には制度そのものがなく、そこが穴となっている。海外ではIT企業と軍は一緒に動く。ウクライナは米国や英国などが官民一体で支援した。日本はまったく貢献していない」、「防衛省・自衛隊自体のサイバー防御は強固だが、セキュリティの甘い民間企業などから侵入してそこを踏み台に防衛省などに攻撃してくる可能性がある。企業のサイバーセキュリティの水準を底上げし、国民生活に関わる重要インフラなどを国が守れるようにする必要がある。政府が導入を決めた「能動的サイバー防御」の課題は日本に攻撃を含む能動的な活動に関する経験が圧倒的に不足していることだ。実戦を通じたノウハウの蓄積が重要となる」といった指摘がなされていますが、正に正鵠を射るものであり、グローバルスタンダードと乖離した日本のセキュリティ意識の甘さを痛感させられます。
サイバー攻撃への脆弱性が様々な犯罪組織の活動を助長していることは、本コラムでは常に指摘しているところです。以下、サイバーセキュリティに関する最近の報道から、いくつか紹介します。
身代金ウイルス、警察庁が暗号解除成功 支払い未然防止(2022年12月28日付日本経済新聞)
ランサムウエアの暗号解除 日本警察の「国際通行手形」(2022年12月31日付日本経済新聞)
サイバー攻撃で「売上高の10%超の損害」4割 民間調査(2022年12月16日付日本経済新聞)
病院サイバー攻撃 VPN機器に安全上の欠陥、国内400台未対策(2022年12月23日付毎日新聞)
医療サイバー攻撃、取引先に「穴」 大阪の病院把握せず(2023年1月5日付日本経済新聞)
供給網のサイバー防衛、「下請け企業の改善支援を」(2022年12月6日付日本経済新聞)
ソフトウエアに安全基準 日米、サイバー防衛で覚書へ(2023年1月5日付日本経済新聞)
サイバー戦、命綱のWiーFi・5G 自衛隊は整備遅れる(2022年12月21日付日本経済新聞)
海底ケーブル巡る水面下の攻防 情報基盤に迫るロシアの脅威(毎日jp 1/4配信)
経済安保の“重要物資” 国主導の「日の丸クラウド」はなぜ必要か(2022年12月27日付毎日新聞)
戦争「武力以外が8割」 サイバー防衛、日本は法整備脆弱(2022年12月20日付日本経済新聞)
サイバー防衛へ周到な準備を サイバー戦争インタビュー(2022年12月20日付日本経済新聞)
個人情報の保護を強める流れが米メタの事業モデルを揺さぶっています。アイルランドのデータ保護委員会(DPC)は、利用者の興味や関心に狙いを絞った「ターゲティング広告」に関して利用者の同意を取得する方法が不適切だったなどと判断し、EUの一般データ保護規則(GDPR)に違反すると認定し、3億9000万ユーロ(約550億円)にも上る制裁金の支払いとサービスの変更を求めています。規約に同意しないとサービスを利用できないことから、広告へのデータ利用を「事実上強制している」との申し出を2018年に受けて調査していたもので、これへの対応により広告事業の売上高が最大で7%減るとの試算もあり、不透明感が増しています。また、制裁金はメタの2022年7~9月期の純利益の10%未満にとどまる一方、サービスの変更はより深刻な影響を及ぼす可能性があります。具体的には、閲覧履歴を広告に活用することを事前に明確に示し、利用者が拒否できるようにすることが必要になるとの見方が浮上しています。
米ツイッターで2億人を超える利用者のデータが漏洩した可能性が浮上しています。イスラエルのセキュリティ会社、ハドソン・ロックによると、利用者のアドレスや名前、電話番号などが闇サイトで販売されていたといいます。データ侵害があったのは起業家イーロン・マスク氏による買収前の2021年後半とみられていますが、同社の対応も遅く、利用者らが置き去りにされています。ツイッターは今回のデータ漏洩で攻撃者に突かれたとみられるシステムの欠陥を2022年1月に把握したものの、対外的に開示したのは約7カ月後で、旧経営陣による隠蔽疑惑を内部告発した元幹部は2022年9月の米議会証言で同社のデータ保護対策が「同業他社に比べ「10年遅れている」と指摘、アイルランドの個人情報保護当局(DPC)は問題となったシステムの欠陥についてすでに調査に乗り出しているとされます。米国ではデータ侵害の被害者による企業への損害賠償請求を認める州もあり、仮にツイッターが利用者保護に消極的な姿勢を続けるようなら、コンプライアンス上のリスクをさらに増大させることになります。その後、ようやく同社は、社内からの流出を示す証拠はないと発表しています。ただ、疑惑が報じられた後も沈黙を続けたことで世界の利用者に不安を広げ、利用者の安心・安全を考えた情報開示のあり方が問われる事態となっています。米議会では連邦政府レベルの個人情報保護法を策定する動きがあり、より包括的なルール整備を求める声が強まる可能性があります。
ここのところ、AI(人工知能)に関する報道がかなり増えているように感じます。そもそもAIの活用には、光と影の両側面があり、それらを理解したうえで活用することが望ましいといえます。以下、最近のAIやAIに代表される最新技術等を巡る報道から、いくつか紹介します。
▼総務省 AIネットワーク社会推進会議 AI経済検討会 報告書2022の公表
▼概要
- データ活用の現状
- 「経営企画・バックオフィス系業務」においては、データ分析を行っているとの回答が5割超。
- データの入手状況について、約半数の企業が「外部データは利用していない」と回答
- データ活用の効果
- 投入面については、いずれの業務領域でも約5割の企業が効果があったと回答。産出面については、全体的に投入面に比べて少ないものの、「マーケティング」や「製品・サービスの企画、開発」で半数程度の企業が効果があったとの回答。
- データ活用の課題
- 社内の課題として、「ノウハウのある社員の不足など人的障壁」が最も多く、社外の課題として、「パーソナルデータの適切な取り扱いが不安」が最も多い。
- AI活用の現状
- データの処理方法は、いずれの業務領域でも、「集計」が最多。どの業務領域でも、AI活用している企業は10%程度。
- AI活用の現状は、いずれの技術についても、半数を超える企業が「関心はあるが、活用していない」と回答。
- AI活用による従業員数の変化
- 9割弱の企業がAIの活用で従業員増減なしと回答。
- AI活用で従業員の削減等をした企業が増やした企業よりも多い。
- データの価値・効果の分析(プーリングデータによる生産関数分析)
- 「報告書2021」で実証分析を行ったデータに加えて、「2020年 企業活動基本調査」(経済産業省)と「2021年度 企業アンケート調査」を活用。サンプルの異なる2年分の分析結果を単純比較することは難しいこと、そして、単年度のデータに基づく分析と比べて、より多くのサンプルを利用した分析が可能となることから、2年分のデータを用いる手法により分析を実施。
- プーリングデータの分析結果から、データ変数がプラスに有意となり、付加価値に対してプラスの関係を持っていること、「内部入手した活用データ容量」に比べて「外部入手した活用データ容量」の係数が大きいことが示された。また、一次同時の条件を付した分析結果から、データの活用が生産性上昇の加速を示唆する可能性が示された
- データの価値・効果の分析(パネルデータによる生産関数分析)
- 生産関数分析では、2年連続で企業アンケートに回答した企業固有の要因を考慮するため、2年分のデータを用いたパネルデータ分析(固定効果モデル)を実施。分析結果は、おおむね前掲のプーリングデータ分析結果と同様(全企業を対象とした場合の結果は、いずれのデータ変数もプラスに有意。年ダミーについて、マイナスに有意。)。
- データの価値・効果の分析(AI活用を入れた生産関数分析)
- AI活用が効果を得るために重要な要素を探るため、プーリングデータを用いて相乗効果の分析を実施。分析結果は、「AI活用×責任者」、「AI活用×全社的環境構築」、「AI活用×データ分析を行う専門部署の担当者による分析」、「AI活用×アライアンスやコンソーシアムなど他社等を交えた共同分析」は、プラスに有意。AI活用で付加価値を向上させるためには、これらの要素が重要であると考えられる。
- データの価値・効果の分析(業種別、規模別、データ別)
- プーリングデータを用いて、業種別、規模別、データ別の分析を実施。業種別では、非製造業、サービス業で活用データ容量が有意、規模別では、大企業、中小企業いずれも有意、データ別では、「顧客関連以外の活用データ容量」のみが有意となった。
- 上記の結果から、データ活用による付加価値の増加については、企業規模にかかわらず有効であると考えられ、大企業のみならず中小企業においても一層のデータ活用が進むことが期待される。また、非製造業の中でも特にサービス業においてデータ活用による付加価値の増加が有効であると考えられる。
- 一方で、製造業やサービス業以外の非製造業(卸売業、小売業、情報通信業等)においては、活用データ容量が有意になっておらず、付加価値の増加に有効なデータ活用の取組方法の改善が必要である可能性がある 。
- 実証分析結果のポイント
- 「報告書2021」において記載した、企業がデータ活用の取組を進め、その価値を享受するための3つのポイント、(1)全社的なデータ活用環境構築の重要性、(2)人材育成及び組織作りの重要性、(3)外部連携(組織、データ)の重要性は、今期の実証分析の結果からも、その意義を確認することができた。
- これらの点については、企業において、データ活用による効果を得るのみならず、AI活用との相乗効果を得るという観点からも重要であり、取組の推進が引き続き期待される。
- 実証分析の主な結果
- 今期の実証分析は、これまでに蓄積した2年分のデータを用いて実施した。データの活用が付加価値に対してプラスの関係性を持つこと、データの活用が生産性上昇の加速を示唆する可能性が示されたこと等について、概ね同様の結果を得た。
- データ活用による付加価値の増加については、企業規模にかかわらず有効であると考えられることに加え、業種別の分析結果から、非製造業の中でも特にサービス業においても有効であると考えらえる。一方、製造業やサービス業以外の非製造業(卸売業、小売業、情報通信業等)においては、データ活用の取組方法の改善が必要な可能性がある。
- AI活用の交差項による相乗効果の分析結果から、AI活用で付加価値を向上させるためには、データ活用を主導する適切な責任者、全社的にデータ活用ができる環境の構築、データ分析を行う専門部署の担当者による分析、アライアンスやコンソーシアムなど他社等を交えた共同分析を行える体制の構築が重要と考えられる。
- 年ダミーがマイナスに有意である点については、一つの可能性として新型コロナウイルス感染症の流行に伴う企業の付加価値への影響が考えられる
- デジタル化やデータの利活用の実態の把握と検討の深化のために、事業者や有識者等からのヒアリングを実施し、多様な分野における取組事例等について聴取し、取組の現状等について整理した。
- 金融分野(金融API)※一般社団法人電子決済等代行事業者協会代表理事、株式会社マネーフォワード執行役員 瀧俊雄氏講演より
- アプリ上に金融機関システムへの接続機能を埋め込む形で提供するエンベディッド・バンキング等と呼ばれる仕組みを始めとするオープンバンキングを、いかにセキュアな形で提供できるようにするかが、利用者の利便性向上のために重要である。契約手続きの標準化に向けた業界団体間での連携等が進み、日本ではほぼすべての銀行と参照系API(残高照会や通帳記帳のために口座情報を参照できるようにするAPI)で接続できる環境が誕生している。
- 主な課題として、金融機関が提供する更新系API(口座からの振込や引き落とし等の取引指示を可能にするAPI)が限定的であること、データアクセスに関する個人の権利が法律上位置づけられていないこと、インターネットバンキング利用率が低いことが挙げられる。
- 建設分野:コマツ(株式会社小松製作所)
- スマートコンストラクションにより、工事の始まりから終わりまで、建設生産プロセスの全工程において、現場に関わる全ての人と機械が行っているコトをデジタルデータ化して繋ぎ合わせ、プラットフォーム上にデータを集約し、全工程の状況を可視化して把握しやすくすることで、工程管理の効率化と生産性の向上を図るソリューションサービスを実現している。
- カーボンニュートラルの分野:株式会社三井住友フィナンシャルグループ
- 脱炭素への取組はデジタル技術との親和性が高いと捉え、DXの文脈から、企業の脱炭素化を支援する以下3つのソリューションを提案している。これにより、カーボンニュートラルまでの活動を支援する一連のバリューチェーンを提供できる。
- 温室効果ガスの排出量算定および削減施策の実行サポートを行うクラウドサービスのSustana
- グローバルな温室効果ガス排出量算定を支援するクラウドサービスのパーセフォニ・プラットフォーム
- 気候関連財務情報開示タスクフォースにおける要請事項の開示支援サービスのClimanomics®platform
- 脱炭素への取組はデジタル技術との親和性が高いと捉え、DXの文脈から、企業の脱炭素化を支援する以下3つのソリューションを提案している。これにより、カーボンニュートラルまでの活動を支援する一連のバリューチェーンを提供できる。
- 金融分野(金融API)※一般社団法人電子決済等代行事業者協会代表理事、株式会社マネーフォワード執行役員 瀧俊雄氏講演より
- 今後の展望
- AIやデータの活用は始まったばかりであり、その効果が見える状況には至っていないが、これまでの産業革命を踏まえれば、AIの汎用技術化が進み、企業はAI・データを活用して生産性を高め、高い成長を実現することが期待される。
- また、個人のニーズに応じた便利なサービスなど、新たな付加価値を個々人が享受できることも想定される。
- このように、AIやデータの活用が様々な社会課題を解決し、豊かな未来をもたらすことが期待されている。
- 他方で、AIやデータとの付き合い方には留意が必要である。AIには、倫理・創造性など人間的で複雑な作業は困難であり、これらは人間が行うべきものとして残ることが予想される。データは、ナレッジ創出の源泉として共有すべきものとして、安心・安全なデータの流通にグローバルで取り組む必要がある。
- 課題
- 企業の生産活動における労働集約性・データ集約性の変化を踏まえた労働政策:AI時代に必要となる人材を見極めた採用が必要となると同時に、人材育成や労働者の再適応を支援することも、労働市場にとって重要である。
- DFFT(Data Free Flow with Trust)の理念の下でのデータの自由な流通:「データオーナーシップ」、「同意のユーザーエクスペリエンス」、「分野を超えたデータセキュリティと共有」をキーワードとして、安心・安全にデータを共有・活用できる環境を整えることが重要である
- AI・データ活用の現状・効果
- 本検討会の実証分析結果から、データの活用及びAIの活用が付加価値に対してプラスの関係性を持つことが示された。また、企業がAI活用で付加価値を向上させるためには、データ活用を主導する適切な責任者、他者等を交えた共同分析を行える体制の構築等が重要であることも示唆された。
- 企業アンケートから、データ活用は2割から3割程度が「行ってもいないし、検討もしていない」との回答であり、AI活用をしているのは10%程度であった。データ活用の課題は、人材不足、パーソナルデータの取り扱い等が多かった。
- AI活用の国際比較では、導入済みとの回答が、米国企業の44.1%に対して、日本企業は20.5%と遅れている。
- ICT環境・経済状況等
- 我が国のブロードバンドは固定、移動ともに世界トップクラスの整備状況である。
- 新型コロナウイルス感染症の流行に伴うデジタル化の進展により、我が国のインターネットトラヒックが急増。また、ロシアによるウクライナ侵攻の影響で世界的なインフレ率の上昇やGDPの低下が見込まれる等、世界情勢の変化が社会経済に影響している。
- EUのデータ・AI関連規制に関する動向
- EUでは、AIやデータに関する法案が複数公表され、規制的な動向が見られる。「デジタル市場法」(2022年11月施行)では、特定の事業者に対してデータポータビリティやインターオペラビリティの確保の義務を課しており、「データ法案」(2022年2月公表)には、クラウド間乗り換え効率化等に関する規律が含まれている。また、AIのリスクに対応するため、2021年4月に「人工知能に関する調和の取れたルールを定める規則の提案」が公表された。
- 我が国のデータ戦略
- 「包括的データ戦略」(2021年6月18日閣議決定)に基づいて、課題への対処に取り組んでいく。
- AI・データと生産性に関する議論
- AIやデータが生産性に与える影響の大きさについては、有識者の様々な見解が存在し、議論の余地が残る点に留意が必要である。
- 我が国では、以下のような社会経済面の様々な課題を抱えている。
- 少子高齢化から生じる課題(労働力不足、国内需要の減少による経済規模の縮小等)
- 世界的に取り組むべき課題(脱炭素社会の構築等、SDGsに代表される課題)
- 近年の世界情勢の変化による経済の不確実性から生じる課題(新型コロナウイルス感染症の流行、ウクライナ侵攻等によるグローバル社会のサプライチェーンリスクに対応した生産性の向上や社会経済の持続性の確保)
- 課題先進国として、経済発展と社会的課題解決の両立を目指し、AIやデータの活用等を積極的に社会経済活動に取り入れることが期待されるが、前述の通り、我が国には充実したICTインフラ環境があるものの、AIやデータの効果的な活用が進んでいるとは必ずしもいえない。
- 本検討会の実証分析等を踏まえ、AIやデータの活用は企業の生産活動にプラスの効果を持つことを前提に、AIやデータの活用環境全体としてのあるべき姿を俯瞰しつつ、社会的課題の解決に向けて以下のような取組を進めていくことが重要ではないか。
- 提言:進めていくべき具体的取組の例
- データ流通市場環境の整備
- データ共有のための標準化(データオーナーシップの観点を踏まえたデータポータビリティとインターオペラビリティの推進)
- 情報銀行(ニーズの高い準公共分野・相互連携分野でのパーソナルデータの活用に向けた議論の推進等)
- 多様な分野におけるAI実装の推進
- 企業におけるAI活用の推進(AI活用のライフサイクルを踏まえた環境づくり、活用効果の啓発等)
- 人材育成(企業向け人材の育成、リスキリング等)
- 準公共(医療)分野のDX推進(効果の啓発を含む)
- AI時代を支える充実したICTインフラの確保
- 将来を見越した、持続可能なICT環境の構築
- 国際的なルールメイクへの貢献
- DEPA、IPEF等のデジタル経済に関する諸外国の動向を踏まえた、我が国主導の積極的な議論・論調の醸成等
- データ流通市場環境の整備
国家のガバメントAIが重要な社会インフラとなる(2023年1月7日付産経新聞)
AIの防衛利用具体化 民間技術取り込み加速 進まぬ兵器規制(2023年1月9日付毎日新聞)
AI同時通訳の未来 言葉の壁が消えて真の「開国」へ(2023年1月6日付産経新聞)
AI、輪郭現すシンギュラリティー 大規模モデルの衝撃(2023年1月4日付日本経済新聞)
AI飛躍の年、期待の裏に潜む落とし穴(社説)(2023年1月4日付日本経済新聞)
AIやヒューマノイド、止まらぬ進化 人知に迫る(2023年1月5日付日本経済新聞)
軍民デュアルユース連携、日米首脳会談で一致へ…日本の民生技術で抑止強化(2023年1月11日付読売新聞)
AI覇権争い、米に危機感…中国は軍事利用着々「惨殺ドローン」も [世界秩序の行方 現場から]
公的機関のAI利用に警鐘、最後の砦は「人間の監視」(2022年12月19日付ロイター)
AIの迷走・暴走どう防ぐ カギ握る企業の品質管理(2022年12月13日付日本経済新聞)
AI、「顔の3割」であなた認定 逆手にとる私らしさ(2023年1月14日付日本経済新聞)
(7)誹謗中傷/偽情報等を巡る動向
総務省は、インターネット上での中傷を巡り、IT企業がどのような対策を取るべきかの意見募集を開始しています。検討を進めている有識者会議は寄せられた意見を踏まえて対策を検討し、2023年夏をめどに報告書をまとめる予定としています。ネット上では、SNSなどで人の名誉を傷つけたり、プライバシーを侵害したりする行為が問題になっており、IT企業も問題がある投稿の削除や、投稿したアカウントの凍結などを行っているものの、取り組み状況の開示が不十分だとの指摘もあるところ、意見募集ではコンテンツモデレ―ションなどにおいてIT企業が果たすべき役割などを尋ねる方針です。一方、投稿の削除などを企業に義務付けることには「表現の自由への著しい萎縮効果をもたらす恐れがある」として慎重な考えを示しています。
▼総務省 誹謗中傷等の違法・有害情報に対するプラットフォーム事業者による対応の在り方についての意見募集
▼別紙1 誹謗中傷等の違法・有害情報に対するプラットフォーム事業者による対応の在り方について(意見募集)
- コンテンツモデレーションに関する透明性・アカウンタビリティの確保
- 誹謗中傷をはじめとする違法・有害情報の流通状況に対応することを目的として、「プラットフォームサービスに関する研究会」において、プラットフォーム事業者による対応の状況及びその在り方について検討が行われた。その結果、
- プラットフォーム事業者によるコンテンツモデレーションに関する透明性・アカウンタビリティの確保を通じて、その運用の改善を促すことが有効と考えられること、
- 現状の、プラットフォーム事業者によるコンテンツモデレーションに関する透明性・アカウンタビリティの確保については不十分な点があること、
- 総務省は、プラットフォーム事業者によるコンテンツモデレーションに関する透明性・アカウンタビリティの確保について、行動規範の策定及び遵守の求めや法的枠組みの導入等の行政からの一定の関与について、速やかに具体化することが必要であること、
等の諸点が「第二次とりまとめ」(令和4年8月25日公表)として取りまとめられた。
- こうした点を踏まえ、プラットフォーム事業者によるコンテンツモデレーションに関する透明性・アカウンタビリティの確保の在り方について、早期に具体化する必要がある。
- 誹謗中傷をはじめとする違法・有害情報の流通状況に対応することを目的として、「プラットフォームサービスに関する研究会」において、プラットフォーム事業者による対応の状況及びその在り方について検討が行われた。その結果、
- プラットフォーム事業者に求められる積極的な役割
- プラットフォームサービス上では、ひとたび被害を生じさせる情報の送信や拡散が行われた場合、被害が即時かつ際限なく拡大し、甚大になりやすく、現に、誹謗中傷等の被害が発生し続けている。こうした点を踏まえ、上記の透明性・アカウンタビリティの確保方策に関する検討に加えて、表現の自由を確保しつつ、プラットフォーム事業者の積極的な役割を検討することについて、どう考えるか。
- 全体の検討を通じて留意すべき事項
- 情報の流通によって権利が侵害された被害者の救済の観点と発信者の表現の自由の観点、プラットフォーム事業者が措置を講じることに伴って生じる言論空間への影響や経済的負担の観点に、それぞれ十分留意することについて、どう考えるか。
- 匿名で気軽に書き込みを行うことができるというインターネットの特性や、誰もが容易に情報を拡散し得るプラットフォームサービスの特性が、インターネット上での誹謗中傷等の違法・有害情報の流通の増加の要因の一つと考えられる点と、同時に、インターネットが自由な言論空間の確保という価値や情報流通の基盤としての役割も担ってきた点や、ユーザーが投稿するコンテンツを流通させることを通じて収益を上げるというプラットフォーム事業者の収益構造に十分留意することについて、どう考えるか。
- 誹謗中傷等の違法・有害情報への対策にあたっては、プラットフォーム事業者が自らのサービスの特性に応じて、効果的な取組を自律的な創意工夫により実施することが原則であることに十分留意することについて、どう考えるか。
- さらに、情報の流通によって権利を侵害された被害者、こうした情報をプラットフォームサービス上に流通せしめた発信者、及びプラットフォーム事業者の三者間の関係に十分留意することについて、どう考えるか。加えて、プラットフォームサービスにおいては、これら三者以外にも、情報の閲覧者が存在するところ、閲覧者が多くなるほどさらに多くの関心を集めることとなる仕組みの下、閲覧者が情報の流通による被害に及ぼす影響についても十分留意することについて、どう考えるか。
- ユーザー数や投稿数が多い大規模なサービスを提供するプラットフォーム事業者の多くが、海外に拠点を置くプラットフォーム事業者であることを踏まえ、検討にあたっては、内外無差別の原則に十分留意することについて、どう考えるか。
- このほか、プラットフォームサービス以外のインターネット上の情報流通に係るサービスの特性や、これらのサービスを提供する事業者の役割や責任にも十分留意することについて、どう考えるか。
- 透明性・アカウンタビリティの確保方策の在り方
- 違法・有害情報に対応するにあたり、表現の自由を確保しつつ情報流通の適正化を図るためには、プラットフォーム事業者による自主的な取組を促進することが重要と考えられるが、どうか。具体的には、特定の要件を満たすプラットフォーム事業者に対し、予めコンテンツモデレーションに関する運用方針を策定・公表するとともに(Plan)、運用結果を公表し(Do)、運用結果について自己評価を実施・公表し(Check)、必要に応じて運用方針を改定する(Act)ことを求めることにより、プラットフォーム事業者による自主的な改善サイクル(PDCAサイクル)を確立することについて、どう考えるか。
- また、個別のコンテンツモデレーションに関する手続の適正性を確保するために、特定のプラットフォーム事業者に対して、コンテンツモデレーションに関する申請窓口等の透明化や、コンテンツモデレーションの実施又は不実施の判断に係る理由の説明等の一定の措置を求めることについて、どう考えるか。
- さらに、違法・有害情報に対する効果的かつ継続的な取組を確保する観点から、違法・有害情報への対応に関する取組状況の共有等の継続的な実施について、どう考えるか。また、こうした情報について、一般に公表することと、別途述べるような取組状況の共有の場に限って報告することの違いについて、どう考えるか。
- 透明性・アカウンタビリティの確保が求められる事業者
- 本来、なるべく多くのプラットフォーム事業者において、透明性・アカウンタビリティの確保が図られることが望ましいと考えられる。一方で、透明性・アカウンタビリティの確保には事業者に少なからず経済的負担が生じることや、ユーザー数や投稿数が多く、利用する時間が長いサービスにおいて、違法・有害情報の流通とそれに触れる機会が多いと考えられること等の諸点を踏まえて、まずは、違法・有害情報の流通の多い大規模なサービスから、サービスの特性等を踏まえ、透明性・アカウンタビリティの確保を求めることについて、どう考えるか。
- 運用方針及び運用結果の公表
- 次のように、運用方針及び運用結果を公表することについて、どう考えるか。
- コンテンツモデレーションの運用方針(実施基準、実施の手続)
- プラットフォーム事業者におけるコンテンツモデレーションの実施の基準となる運用方針として、措置の対象となる情報や行為、取り得る措置の内容やその適用にあたっての判断基準、措置の実施のために経ることを要する手続を公表することについて、どう考えるか。
- コンテンツモデレーションの運用結果
- 上記(1)の運用方針に沿って、どのようにコンテンツモデレーションが運用されたかを公表することについて、どう考えるか。例えば、削除等のコンテンツモデレーションの実施に係る端緒の件数、端緒ごとに措置が実施された又は実施されなかった件数、根拠となるポリシーや法的根拠ごとに行われた措置件数、苦情申立ての件数やそれに対する対応結果ごとの件数、措置に要した時間の中央値等を公表することについて、どう考えるか。また、これらの数値は、日本のユーザーに関連する投稿等に関するものとすることについて、どう考えるか。
- コンテンツモデレーションの運用方針(実施基準、実施の手続)
- 次のように、運用方針及び運用結果を公表することについて、どう考えるか。
- プラットフォーム事業者による評価、運用方針の改善
- プラットフォーム事業者が、コンテンツモデレーションの運用について、自ら評価を行いその結果を公表することについて、どう考えるか。また、必要に応じて、プラットフォーム事業者が、自己評価結果に基づいて運用方針を改定することについて、どう考えるか。その際、自己評価には、ともすればいわゆるお手盛り評価となる可能性があり、評価の客観性や実効性を高める工夫を行うことが考えられるが、具体的にどのような工夫が考えられるか。
- プラットフォーム事業者によっては、コンテンツモデレーションの判断の際、助言・審査等一定の関与を行う機関を設けるなど、判断の客観性向上に資する工夫を行っているところ、こうした取組状況を公表することについてどう考えるか。
- このほか、自己評価の前提条件の把握のために、プラットフォーム事業者が、自らのサービス上に流通している違法・有害情報とそれによって生じている被害の実態についても、把握・公表することについて、どう考えるか。
- その他透明性・アカウンタビリティの確保が求められる事項(運用体制等)
- コンテンツモデレーションに従事する人員の数や監督者の有無など、実施に係る人的体制の整備や育成状況について、プラットフォーム事業者に公表を求めることについて、どう考えるか。また、これらの整備状況は、日本のユーザーに関連する投稿等に関するものとすることについて、どう考えるか。
- また、プラットフォーム事業によっては、AI等による自動処理といった、コンテンツモデレーションの迅速化に資する工夫を行っているところ、こうした取組状況を公表することについてどう考えるか。
- さらに、プラットフォーム事業者は、例えば投稿時に再考・再検討を促す機能といった、アーキテクチャ上の工夫による違法・有害情報の被害低減に取り組んでいるところ、そうした取組状況について公表することについて、どう考えるか。
- その他、プラットフォーム事業者に、透明性・アカウンタビリティの確保が求められる事項はあるか。
- 手続の適正性確保のために透明性・アカウンタビリティの確保が求められる事項
- コンテンツモデレーションの措置申請窓口
- プラットフォーム事業者による適切な対応につなげるため、被害者がプラットフォーム事業者のポリシーに基づくコンテンツモデレーションの申請や法的な削除請求(以下「コンテンツモデレーションの申請等」という。)を行うにあたって、申請や請求の理由を容易かつ十分に説明できるよう手続を整備することについて、どう考えるか。
- 例えば、コンテンツモデレーションの申請等の窓口の所在を分かりやすく公表することについて、どう考えるか。また、コンテンツモデレーションの申請等を受けた場合に、プラットフォーム事業者が当該申請等を行った者に申請等の受付に関する通知を行うことについて、どう考えるか。プラットフォーム事業者が当該申請等の受付に関する通知を行ったときには、申請等に係る情報の流通についてプラットフォーム事業者に認識があったものとみなすことについて、どう考えるか。
- また、プラットフォーム事業者が措置を実施するか否かの判断に必要な期間をあらかじめ明らかにすることについて、どう考えるか。
- 個別のコンテンツモデレーションの実施又は不実施に関する理由
- プラットフォーム事業者がコンテンツモデレーションの申請等に対して措置を実施しなかった場合に、申請等を行った者に対して、措置を実施しなかった事実及びその理由を説明することについて、どう考えるか。
- プラットフォーム事業者がコンテンツモデレーションを実施した場合に、発信者に対して、コンテンツモデレーションを実施した事実及びその理由を説明することについて、どう考えるか。とりわけ、アカウントの停止・凍結やアカウントの再作成の制限等については、コンテンツモデレーションの中でも特に将来の投稿を制限する点で影響が大きいと考えられるが、これらの措置の実施にあたって発信者に対する手続的保障について、どう考えるか。
- コンテンツモデレーションに関する苦情処理
- コンテンツモデレーションの申請等が認められなかった被害者や、コンテンツモデレーションが行われた投稿の発信者に対して、苦情申出の機会を設けるため、処理手続や窓口について開示するとともに、こうした苦情への誠実な対応をプラットフォーム事業者に求めることについて、どう考えるか。
- その他、個別具体の措置申請や措置に関する手続の適正性を確保する観点から、透明性・アカウンタビリティの確保が必要な事項として、何があるか。
- コンテンツモデレーションの措置申請窓口
- 取組状況の共有等の継続的な実施
- プラットフォームサービスに関する研究会では、これまで、個別のプラットフォーム事業者や個別のサービスのみならず、日本のユーザーに関連する違法・有害情報の全体の流通状況を俯瞰するとともに、プラットフォーム事業者をはじめとする各ステークホルダーにおける取組状況の共有を行ってきたところ、こうした取組について、引き続き、産官学民が協力して、継続的に実施することについて、どう考えるか。
- プラットフォーム事業者が果たすべき積極的な役割
- プラットフォームサービス上では、ひとたび被害を生じさせる情報の送信や拡散が行われた場合、被害が即時かつ際限なく拡大し、甚大になりやすく、現に、誹謗中傷等の被害が発生し続けている。こうした点を踏まえ、表現の自由を確保しつつ、プラットフォーム事業者の積極的な役割を検討することについて、どう考えるか。具体的には、問題となる投稿の検知、削除の要請・請求、削除の実施といった各フェーズに応じて、以下のとおり検討することについて、どう考えるか。
- 投稿のモニタリングのフェーズ
- 権利侵害情報の流通の網羅的なモニタリング
- プラットフォーム事業者に対し権利侵害情報の流通を網羅的にモニタリングすることを法的に義務づける場合、検閲に近い行為を強いることとなり、表現の自由や検閲の禁止の観点から問題が生じうると考えられ、また、事業者によっては、実際には権利侵害情報ではない疑わしい情報を全て削除することにつながりかねず、表現の自由に著しい萎縮効果をもたらす可能性があることについて、どう考えるか。
- 繰り返し多数の権利侵害情報を投稿するアカウントのモニタリング
- インターネット上の権利侵害は、スポット的な投稿によってなされるケースも多い一方で、そのような投稿を繰り返し行う者によってなされているケースも多いとの指摘がある。
- 権利侵害情報の流通を網羅的にモニタリングすることをプラットフォーム事業者に対し法的に義務づけることには前述した問題があるとしても、繰り返し多数の権利侵害情報を投稿するアカウントに対象を限定した上でこれを継続的にモニタリングすることは、権利侵害情報の流通を効果的に抑制する上で有効と考えられるか。その際、そうしたアカウントによる投稿については、プロバイダ責任制限法第3条が定める免責要件に関して、プラットフォーム事業者に情報流通の認識があったとみなすことで、プラットフォーム事業者自身による適切な投稿の削除の促進に資すると考えられるか。その一方で、限定されたアカウントを対象とする場合であっても、プラットフォーム事業者に対し個別の権利侵害情報の流通をモニタリングすることを法的に義務づけた場合、表現の自由に萎縮効果をもたらす可能性があることについて、対象となる発信者のプライバシーへの影響も踏まえつつ、どう考えるか。さらに、悪質な侵害者は次々にアカウントを作成することでモニタリングを逃れることが可能であり、また、モニタリングの対象とするアカウントの範囲を法律で明確に規定することも困難であることを踏まえて、どう考えるか。
- その他、繰り返し多数の権利侵害情報を投稿するアカウントへの対応として、アカウントの停止・凍結等を行うことは、将来の権利侵害の抑止に有効と考えられるか。このようなケースでは、同一人が複数のアカウントを用いて権利侵害情報の投稿を行う場合も考えられることから、繰り返し多数の権利侵害情報を投稿するアカウントの保有者が新たなアカウントを作成することや別のアカウントを用いた投稿をすることを制限する措置をとることは有効と考えられるか。一方で、アカウントの停止・凍結やアカウントの再作成の制限等については、将来の投稿を制限する点においてその影響が非常に大きく、繰り返し多数の権利侵害情報を投稿するアカウントへの対応であっても、公法上義務付けることについては極めて慎重であるべきとも考えられるが、どうか。
- 権利侵害情報の流通の網羅的なモニタリング
- 要請・請求のフェーズ
- 削除請求権
- 人格権を侵害する投稿の削除をプラットフォーム事業者に求める権利は、判例法理によって認められているところ、かかる権利を明文化することは、一定の要件において被害者がプラットフォーム事業者に対して差止請求を行うことが可能であるという事実を明確化し、被害者による削除請求に基づく権利侵害情報の削除の促進に資すると考えられるがどうか。一方で、判例法理を明文化するだけでは、現状とあまり変わらず、必ずしも被害者による削除請求に基づく権利侵害情報の削除の促進に資さない可能性もあることについて、どう考えるか。
- また、営業権などの排他性を有しない財産上の権利を侵害する投稿も見受けられるとの指摘があり、こうした権利を侵害する情報について、削除を求める権利を創設することは有効と考えられるか。その一方で、こうした投稿の削除を求める権利が一般に認められるかについては、実務上あるいは学説上も明らかではなく、こうした権利の創設には慎重な検討を要すると考えられることについて、どう考えるか。
- さらに、個々の投稿に違法性はないものの全体として人格権を侵害している投稿群の事案(いわゆる「炎上事案」)があるところ、このような事案について、現行法では削除請求できるか必ずしも明らかではないため、炎上事案においても削除請求を可能とする規定を定めることは有効と考えられるか。その一方で、削除できる投稿の範囲、個別には違法性がない投稿の削除の可否について、このような投稿を行った者の被害拡大への甚大な影響を考慮しつつも表現の自由との関係を検討する必要があると考えられ、検討すべき課題は多く慎重な検討を要すると考えられることについて、どう考えるか。
- プラットフォーム事業者による権利侵害性の有無の判断の支援
- プラットフォーム事業者は、被害者から投稿の削除の請求を受けた際に、投稿内容の権利侵害性について一定の判断を行うことが求められるものの、必ずしも法律の専門家ではないプラットフォーム事業者がこの判断を行わなければならない現状が、プラットフォーム事業者による削除の遅延を招いている可能性について、どう考えるか。また、そうした場合、削除の判断の迅速化を図るため、プラットフォーム事業者による権利侵害性の有無の判断を支援するための環境を整備することについて、どう考えるか。例えば、プラットフォーム事業者の判断を支援するための環境整備として、公平中立な立場からの削除要請等の法的位置づけや、要請を受けたプラットフォーム事業者に求められる対応を明確化することについて、どう考えるか。
- また、かかる公平中立な立場からの要請に対して、その実効性を高めるため、例えば、応答義務を課すことや、要請された投稿を削除した場合の免責を定めることについて、どう考えるか。一方で、要請の実効性を担保する仕組み、要請をする者の判断の確からしさや中立性を担保するための要件や仕組み、要請をする者の運営に関する事項、要請に法的効果を与える場合の根拠など、検討すべき課題は多く慎重な検討を要すると考えられることについて、どう考えるか。
- また、削除の仮処分手続について、申立てから発令まで数ヶ月を要することが通例であり、その間に被害が拡大してしまうとの課題が考えられるところ、民事保全手続よりも簡易・迅速な、削除に特化した裁判外紛争解決手続(ADR)を創設することについて、どう考えるか。一方で、ADRの制度設計によっては、プラットフォーム事業者が手続に参加しなければ実効性が伴わないとの課題が考えられるが、ADRの有効性について、どう考えるか。
- 行政庁からの削除要請を受けたプラットフォーム事業者の対応の明確化
- 現状、法務省の人権擁護機関や警察庁の委託事業であるインターネット・ホットラインセンター等の行政庁からプラットフォーム事業者に対して、違法・有害情報の削除要請が行われており、一定の実効性が認められるところ、かかる削除要請を受けたプラットフォーム事業者が取ることが求められる対応を明確化することは、更なる実効性の向上を図る上で有効と考えられるか。
- 一方、この要請に応じることをプラットフォーム事業者に義務付けることは、検閲の禁止の規定の趣旨や表現の自由への影響を踏まえると困難であると考えられるが、どうか。さらに、行政庁からの削除要請については、その要請に強制力は伴わないとしても、プラットフォーム事業者に対し何らかの対応を求めるのであれば、さらなる透明性の確保が求められると考えられるが、どうか。そのためには、どのような制度的対応が考えられるか。
- 削除請求権
- 削除等の判断・実施のフェーズ
- プラットフォーム事業者による削除等の義務付け
- プラットフォーム事業者に対して、権利侵害など一定の条件を満たす投稿について削除等の措置を行うことを公法上義務付けることは、この義務を背景として、当該プラットフォーム事業者によって、実際には権利侵害情報ではない疑わしい情報を全て削除するなど投稿の過度な削除等が行われ表現の自由への著しい萎縮効果をもたらすおそれがあることから、極めて慎重であるべきと考えられるが、どうか。
- 裁判外の請求への誠実な対応
- プラットフォーム事業者によっては、裁判外での投稿の法的な削除請求に応じないケースもあるところ、裁判外の削除請求や削除要請に関して権利侵害性の有無の真摯な検討などの誠実な対応を行うことをプラットフォーム事業者に求めることは有効と考えられるか。
- プラットフォーム事業者による削除等の義務付け
選挙におけるネガティブキャンペーンは「身元を明かし、事実に基づく批判を行うもの」で、誹謗中傷とは本来異なるものですが、その専門家が専門性を誤って使ってしまった事例について切り込んだ、2023年1月3日付毎日新聞の記事「中傷に手染めた「選挙広報のプロ」 炎上対策指南役が加害者に」は、専門家リスクを端的に表していて興味深いものでした。以下、抜粋して引用します。
その他、最近の報道から、誹謗中傷に関する事例等について、いくつか紹介します。
- インターネット上での誹謗中傷や差別を防止するため、佐賀県が新たな条例を制定すると決めたといいます。不適切な投稿に関して、県がプロバイダに削除要請する規定などを盛り込む内容で、2023年2月16日開会予定の定例県議会に条例案を提出し、3月半ばの施行を目指すとしています。報道によれば、条例案は、不当な差別やいじめを含む人権侵害を禁止行為と定義、ネット投稿による人権侵害に対しては、県が掲示板の管理者やプロバイダに削除を要請する、人権侵害が起きた場合、被害者から申し出があれば、解決に向けて県が加害者に助言したり、当事者間での話し合いを促したりする規定も盛り込むほか、加害者が助言に従わない場合は、必要な対応を求めて勧告する、といった内容となる見込みです。先行例としては、群馬県の「インターネット上の誹謗中傷等の被害者支援等に関する条例」がありますが、こうした取組みが拡がることを期待したいところです。なお、参考までに、群馬県の同条例の前文には、その趣旨として、「インターネットの普及は、私たちの社会に大きな恩恵をもたらしており、今や、世界中のあらゆるイノベーションは、インターネットの存在抜きには考えられない」、「しかし、インターネットにも光と闇が存在する。誹謗中傷等が安易に行われ、いじめの温床となる等の問題が世界各地で深刻化している」、「一度、インターネットに発信された情報は、消去することが困難であり、被害者に大きな負担を強いるほか、発信者自身が意図せず加害者となるような事態も頻発している」、「県民の誰もが被害者にも加害者にもなり得るという認識のもと、「被害者への支援」ならびに「県民のインターネットリテラシー向上」に向けた対策を講じていく必要がある」、「県民が被害者にも加害者にもなることなく、誰もがインターネットの恩恵を享受できる、安全で安心な社会の実現を目指す」ことが述べられています。
- フジテレビの番組「テラスハウス」に出演していた女子プロレスラーの木村花さん(当時22歳)がSNS上で誹謗中傷されて自殺したのは、出演者への配慮や中傷への対処を怠ったためだなどとして、母親の響子さんが、フジテレビなどに計約1億4200万円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こしています。報道によれば、原告側は、フジ側は感情があらわになる極端な言動を意図的に編集していたとし、「リアルだと積極的に宣伝し、出演者が標的になりやすい構造をつくっていた」と主張、中傷を受けた花さんの心身の健康に配慮したり、中傷に対する措置をとったりするなどの義務を怠ったとしています。この問題では、放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送人権委員会が2022年3月、「出演者の精神状態に対する配慮が欠けており、放送倫理上の問題があった」とする一方、人権侵害があったとまでは断定できないとする見解を公表しています。また、関連して、響子さんをインターネットで中傷したとして、警視庁杉並署は、東京都内に住む40歳代の男を名誉毀損容疑で東京地検に書類送検しています。悪質だとして、起訴を求める意見を付けています。報道によれば、杉並署幹部によると、男は2020年9月、ネット上の掲示板に響子さんを誹謗中傷する書き込みをし、名誉を傷つけた疑いがあり、具体的な言動などを示して社会的評価をおとしめたとして、侮辱容疑よりも罰則が重い名誉毀損容疑を適用しています。調べに対し、男は容疑を認めているといいます。ネットの中傷対策については、本コラムでも取り上げたとおり、侮辱罪の厳罰化を盛り込んだ改正刑法が2022年7月に施行され、「拘留(30日未満)または科料(1万円未満)」だった法定刑に「1年以下の懲役・禁錮または30万円以下の罰金」が追加されています。
- 2019年4月に起きた池袋暴走事故で妻子を亡くした松永拓也さんをSNS上で中傷したなどとして、侮辱罪などに問われた無職の20代の被告に対し、東京地裁は、懲役1年、執行猶予5年と拘留29日(求刑・懲役1年、拘留29日)の判決を言い渡しています。報道によれば、裁判官は「被害者の心情に配慮することなど一切なく、一方的に社会的評価をおとしめた」と非難したということです。上記のとおり、侮辱罪の法定刑は厳罰化されていますが、今回の事件時は30日未満の拘留が上限であり、刑法上、拘留に執行猶予を付けることはできないということです。
- 在日コリアンらの通う学校に火を付けたり、政治家の事務所に侵入したり、宗教団体の施設の窓ガラスを割ったなどとして、建造物損壊や建造物侵入などの罪に問われた大阪府箕面市の無職の男に対し、大阪地裁は、懲役3年、執行猶予5年(求刑・懲役3年)の判決を言い渡しています。被告は公判で「在日韓国・朝鮮人を野放しにすると日本人が危険にさらされると思っていた」と証言、外国人を批判するSNSの書き込みや動画投稿サイト「ユーチューブ」を閲覧する中で極端な意見や根拠のない情報に触れる中でゆがんだ憎悪を募らせていき、在日コリアンへの嫌悪感を募らせ、教職員らへの嫌がらせを計画していたことも明らかにしていました。男はそうした投稿や動画を見るうちに「行動しないのが悪」「なぜ行動に移さないのか」と不満を抱くようになったとし、暴力に訴えることへの抵抗感は「なかった」と語ってもいます。判決はこうした経緯に触れ、「他者が自分と異なる意見を持つことは民主主義社会では当然で、暴力で対抗するのは許されない」、「特定の国籍や政党が日本に害をもたらすとの根拠のない考えを持ち、ゆがんだ正義感に基づく独善的な犯行だ」と非難しましたが、一方で、人種や民族など特定の属性を持つ人々への差別的な動機に基づくヘイトクライム(憎悪犯罪)とは認定しませんでした。なお、被告は起訴内容を認め、反省の態度も示しているとして刑の執行を猶予しています。なお、本件について、事務所に侵入された政治家は「考え方の違う他者の政治活動の自由を奪う政治テロだと認めたが、ヘイト犯罪は許さないという司法の意思が十分に示されたとはいえない」などとするコメントを発表、「ネット上の誹謗中傷がリアルな暴力を生み、言論や政治活動を萎縮させるのは民主主義そのものの危機で、あらゆるヘイト犯罪を許さず言論で闘い続ける」としています。また、報道によれば、犯罪心理学が専門の原田隆之・筑波大学教授は「自分が所属する集団が、ほかよりも優れていると思い込む『内集団バイアス』の影響が考えられる」と指摘する。例えば、社会的・経済的に不遇だと感じている人で、自分が日本人であることに対する誇りで自尊心を保っている人の場合、日本人以外の集団に敵意を振り向ける恐れがあるという。原田教授は「守るべき家族や仕事があれば、嫌悪感が膨らんでも犯行を押しとどめる要因になる。趣味や余暇の充実、信頼できる友人なども重要だ」と話しています。また、自分の関心がある内容だけが届き、泡に包まれて外部と遮断されたような状態になることから「フィルターバブル」と呼ばれるほか、閉ざされた空間で同じ主義主張ばかりが増幅される「エコーチェンバー(反響室)」という現象につながりやすいことが知られており、ネットの誹謗中傷の問題に詳しい国際大グローバル・コミュニケーション・センターの山口真一准教授は「偏った情報に繰り返し接しているうちに、ゆがんだ正義感で、攻撃的になってしまうこともある。SNSの特性を知り、情報が偏っている可能性があると自覚しておく必要がある」と話しており、本事例は、正にその典型だったといえます。
- 宮内庁は2023年春以降、SNSを含めた新たな情報発信の手法を検討、「プッシュ型」の発信をすることで国民に皇室への理解を深めてもらうとともに、「虚偽の情報による誹謗中傷」を減らしていきたい考えのもと、2023年4月にインターネット上の発信強化を見据えた広報室を新設するとしています。虚偽情報による誹謗中傷への対策は、ネットなどを通じて幅広く発信することで、多くの人に情報が正しく伝わるようにしたいとする一方、こうした対策が行きすぎると言論の監視や、言論空間の過度な萎縮につながる可能性も考えられるところです。報道で、龍谷大法学部の瀬畑源・准教授(日本現代史)は、「水掛け論になってしまう反論よりも発信強化の方が効果的だ。HPを充実させても実際に見にきてもらうにはSNSを活用するほかない。ネガティブな反応があったとしても、5年10年というスパンで粘り強く発信を続けて理解者を増やしていく努力が必要だ」と指摘していますが、正にそのとおりかと思います。
- 産経新聞社がインターネットに配信した記事で名誉を傷つけられたとして「大袈裟太郎」の名前で活動するライターの男性が110万円の損害賠償を求めた訴訟で、東京地裁は、記事の一部表現について名誉毀損を認め、22万円の支払いを命じる判決を言い渡しています。男性側は控訴する方針だといいます。報道によれば、判決理由で裁判長は記事について「他人の意見を紹介する体裁を取り自身の意見を述べた」と指摘、紹介した内容で問題となった3カ所の表現のうち、男性について「暴力の限りを尽くし」、「小心者」などとした2カ所の表現で名誉毀損を認めた一方、「天誅が下った」とした部分は社会通念上許される限度を超えた侮辱とまでは言えないとしています。
- 北海道深川市の佐々木一夫元市議(当時は現職)が2021年、SNSに投稿した書き込みで名誉を傷つけられたとして、同市の放射線技師の男性が損害賠償を求めた訴訟の判決で、旭川地裁は、佐々木氏に慰謝料など22万円の支払いを命じています。報道によれば、判決は、佐々木氏が2021年4月、自身のSNSに男性を名指しして「『公益通報者』に報復なんて考えるから大事件になる」などと投稿、男性が勤務先の深川市立病院と取引業者との間で起きた不正行為を巡り、内部告発者を他部門に異動させたと示唆する内容でしたが、裁判長は判決理由で、投稿は公益目的だったと認定したものの、一方で、男性が告発者の異動を仕組んだという証拠はなく、「投稿は軽率かつ悪質」と指摘しています。
日本最大のニュースプラットフォームであるヤフーニュースでこのほど、コメントを投稿する際に携帯電話番号を登録することが必須となりました。背景には誹謗中傷の深刻化があげられます。一方で、ツイッター社をイーロン・マスク氏が買収したことで、誹謗中傷や偽情報を巡って削除方針がどうなるのかなど、最近は「コンテンツモデレ―ション」に関する報道が多い傾向にあります。参考になる記事も多く、以下、抜粋して引用します。
相克する「言論の自由」と投稿管理 見えぬ均衡点(2022年12月7日付日本経済新聞)
フェイスブック、ブラジル議会襲撃を支持・称賛する投稿を削除(2023年1月9日付ロイター)
次に偽情報を巡る動向についてみていきます。
政府は他国が偽情報を流し世論工作を狙う「認知戦」対策を検討、SNSなどに広がる虚偽の情報を収集・分析する人工知能(AI)を本格導入する方向です。海外では認知領域を「第6の戦場」と見なして専門組織や法律の整備を進めており、残念ながら日本は遅れが目立っています。認知戦は人間の頭脳に注目し、SNSなどで相手国の世論を自国の都合の良い方向に誘導したり分断したりする行為を指し、影響の大きさから陸、海、空、宇宙、サイバーに次ぐ「第6の戦場」と形容されます。現状の日本政府の備えは手薄で、外国からの偽情報をモニタリングする専門機関はなく、選挙などへの干渉を調査し処罰する法律もない状況であり、今般、まず外務省が2023年度にAIを活用してSNS上などの偽情報を収集して分析するシステムを整備し、他国がどういった戦略で世論工作を仕掛けているか中長期的な傾向をつかむほか、日本国内向けの情報だけでなく、海外で日本の評判を意図的に落とす情報も対象とするということです。さらに、民間の専門家の協力を得てSNS上の偽情報を日常的に探知するモニタリングも2023年度から始めることとしており、偽情報を早期に発見し正確な情報を発信して対抗する態勢を整えようとしています。さらに、政府は、「認知戦」などに対処するため、陸上自衛隊に専門の情報部隊を新設する方向で調整に入っています。ロシアによるウクライナ侵攻や台湾統一を目指す中国の工作に伴い、認知戦の脅威が再認識されており、国家安全保障戦略など「安保3文書」に明記されました。前述のとおり、認知戦は、偽情報(フェイクニュース)やSNSの偽情報などを駆使して国際世論や対象国の国民を混乱させ、自国に有利な状況をつくることを目的とするもので、露政府は「ウクライナ軍が化学兵器の使用を準備している」と侵攻当初から訴えるなど認知戦を展開し、自国の軍事行動の正当性を主張しています。岸田首相は「ウクライナ情勢を見ても認知戦、情報戦への対応が重要だ」と危機感を示しており、中国も台湾に対する認知戦に力を入れています。防衛省の防衛研究所が2022年11月に発表した「中国安全保障レポート2023」は、中国共産党や人民解放軍がサイバー空間や人脈を通じた偽情報拡散など「影響力工作」を幅広く行っていると指摘、「台湾にとって大きな脅威となっている」と警鐘を鳴らしています。なお、一部で防衛省が人工知能(AI)技術を使い、SNSを使って国内世論を誘導する工作の研究に着手したと報道されたことに対し、松野官房長官は「報道には事実誤認があり、政府として国内世論を特定の方向に誘導するような取り組みを行うことはあり得ない」と述べています。共同通信が2022年12月、インターネット上で影響力があるいわゆる「インフルエンサー」が、防衛省に有利な情報を無意識に発信するように仕向け、防衛政策への支持を広げたり、有事で特定国への敵対心を醸成したりすることを目標にした工作の研究に着手したと伝えたものです。
関連して、台湾に対するサイバー攻撃は(中国と対立する民進党の蔡英文政権が発足した)2016年に急増し、その後も増加傾向にあります。最も多い時は1カ月に1200万回超の中国由来のサイバー攻撃があり、2022年8月のペローシ米下院議長(当時)による台湾訪問で急激に増え、同年10月には、台湾市民の健康保険記録やオンラインでの買い物記録などの個人情報がネット上でさらされていたことが確認されています。IPアドレスは中国由来のものが多数確認され、11月の台湾統一地方選の直前だったことからも、中国に関係するサイバー犯罪集団が示威的に攻撃したと考えられています。こうした個人情報を狙った攻撃は2018年から続いています。中国の台湾に対する「認知戦」は形を変えながら何十年にもわたり続いていますが、2010年以前は、親中派の新聞やテレビなど既存メディアを使う形だったところ、その後はSNSを利用した認知戦の事案が増えています。2020~2021年に10~20代を対象に調査を実施したところ、2割近くが「米国は信用できない」と答えたほか、「台湾で拡散されているフェイクニュースの発信源はどこだと思うか」と問うと、米国、日本と回答した人が2割近くに達するなど、SNS上のインフルエンサーの影響力は大きいことが分かります。
偽情報という点では、災害や北朝鮮のミサイル発射といった緊急時に、SNSに虚偽の情報が投稿される例が後を絶ちません。人々の混乱に拍車をかける悪質な行為で、消防や救急など防災関係機関の業務を妨げれば罪に問われる可能性があるほか、投稿を見た人が善意で誤った情報を拡散させてしまう恐れもあるほか、通報が相次げば業務を妨げる可能性、投稿者が偽計業務妨害の罪に問われる場合もありうることから、緊急時ほど情報の正確性を慎重に見極める必要があるといえます。とりわけ、実情とは異なる被災地の状況を伝える誤情報やニセ画像は、住民の誤った避難行動につながり、命を危険にさらす恐れがあります。報道で、静岡大の塩田真吾准教授(情報教育)は「災害時は動揺して情報を十分に吟味できず、善意や使命感から拡散されやすい」とし、誤情報の拡散に加担しないことが重要だと強調、誤情報が拡散された場合、自治体や防災関係機関が公式アカウントでデマだと発信することも必要で、「災害時にSNSで情報発信する担当者を自治体に置く対策が有効となる」、若い世代ほどSNSで災害情報を収集する傾向があるため「防災教育の一環としてネット情報の見極め方を学ぶ機会を設けるべきだ」と指摘しています。
国連のグテレス事務総長は、ニューヨークの国連本部で、ツイッターやメタなどのソーシャルメディアで偽情報やヘイトスピーチが拡散する現状をめぐり、「何らかの形で(プラットフォームの運営側の)責任を明確にする規制が必要だ」との考えを示しています。グテレス事務総長は、運営側が投稿内容に法的な責任を負わないだけでなく、どの投稿を優先的に表示するかを決めるアルゴリズムが偽情報などの拡散に影響しているとの認識を示し、「私たちは(運営側が責任を問われない)ある種の法的な空白地帯に暮らしている」と強調、白人至上主義などの主張の広がりにも懸念を示しています。その上で、EUが取り組んでいるような国際的な法整備のほか、政府や専門家、企業、市民社会の対話を通じてどのような規制が良いのかを決めることも重要だと訴えています。また「偽情報に対抗するには、正しい情報を積極的に発信する。これしかない」とも指摘、「ワクチンについて多くの疑問があるかもしれないが、一つだけはっきりしていることがある。それはワクチンのおかげで命を落とす人の数は劇的に減ったということだ。意図的にウソをつきたい人を除いて、世界中で誰も疑問に思っていない」と強調しています。
関連して「忘れられる権利」についての動向として、EUの最高司法機関である欧州司法裁判所は、米アルファベット傘下のグーグルに対し、利用者が明らかな誤りと証明できた情報を検索結果から削除する必要があるとの判断を示したことが注目されます。訴訟では、投資会社グループの幹部2人が、グループの投資モデルを批判した記事と自身の名前を関連付ける検索結果を削除するようグーグルに求めていました。また、欧州司法裁判所は、利用者の過度な負担を避けるため、証拠は裁判所が認める必要はなく、利用者が妥当な証拠を提示すればよいとの見解を示しています。グーグルは、問題のリンクとサムネイルはすでに検索結果には表示されていないと説明、「当社は2014年以降、欧州で忘れられる権利を実現するため、懸命に作業を続けている」と表明しています。インターネット上の個人情報の削除を求める「忘れられる権利」は近年、言論の自由やプライバシーの権利を訴える人々の間で激しい議論が行われており、欧州司法裁判所は2014年に「忘れられる権利」を認める判決を下しています。
中国のサイバー空間規制当局である国家インターネット情報弁公室(CAC)は、顔や音声データを修正するコンテンツプロバイダーに対する新しい規制を2023年1月10日から適用すると発表しています。「ディープフェイク」技術・サービスを一層厳しく取り締まるもので、オリジナルと区別がつかず、印象操作やデマに使われやすいディープフェイク画像・映像によるなりすましからから個人を保護することを定めています。CACは規制について、ディープラーニング(深層学習)や仮想現実(VR)を使用してあらゆるオンラインコンテンツを改変するプラットフォーム(当局はこれを「ディープ合成サービスプロバイダー」と呼んでいる)が提供する活動から生じ得るリスクを抑制するとともに、業界の健全な発展を促進することが目的としています。
(8)その他のトピックス
①中央銀行デジタル通貨(CBDC)/暗号資産(仮想通貨)を巡る動向
関東財務局は、暗号資産交換業者のFTXジャパンに対して出していた12月9日までの業務停止命令などを、2023年3月9日まで3カ月延長しています。顧客から預かった資産を返還できない状況が続いており、国外の関連会社に資産が流出するといった事態を防ぐためといいます。なお、FTXジャパンは、同社が管理している顧客の法定通貨と暗号資産の出金・出庫を2023年2月中旬から再開すると発表していますた。1月中旬から返還対象の顧客への連絡と、返還を行うプラットフォームとなるリキッド・ジャパンの口座開設の受付を開始するといい、すでにリキッド・ジャパンの口座を持つ顧客は新たな口座開設は不要ということです。
▼金融庁 FTX Japan株式会社に対する行政処分について
▼「FTX Japan株式会社に対する行政処分について」(関東財務局 金融監督第6課)
- 行政処分の内容
- 業務停止命令(法第63条の17第1項)
- 令和4年12月10日から令和5年3月9日までの間(ただし、当社において利用者から預かった法定通貨及び暗号資産の返還を速やかに行えるなど、当社が実施していた暗号資産交換業の業務全般を適切に行う態勢の整備が図られ、その状況が当局において確認される場合には、それまでの間)、暗号資産交換業に関する業務(預かり資産の管理及び利用者の決済取引等当局が個別に認めたものを除く)及び当該業務に関し新たに利用者から財産を受け入れる業務を停止すること。
- 業務停止命令(法第63条の17第1項)
- 処分の理由
- 当社に対して令和4年11月10日付で発出した業務停止命令の期限が12月9日に到来するものの、当社の親会社であるFTX Trading Limitedは、当社を含むグループ会社について米国連邦破産法第11章手続の申請を行っているところ、当社の取引システムは全般にわたりその機能が停止している状況が続いているなど、依然として、当社においては、暗号資産交換業に関する業務を適切に行える態勢が整えられておらず、利用者から預かった法定通貨や暗号資産を速やかに返還できる状況となっていない。
- こうした中、当社は出金・出庫サービス再開に向けてシステム開発に取り組んでいるものの、現状、再開の具体的な時期について示せる段階にはないことから、引き続き、利用者の新たな取引を停止させるとともに、当社の資産が国外の関連会社等に流出し、利用者の利益が害されるといった事態を招かぬよう、万全を期する必要がある。
- よって、当社のこうした状況は、法第63条の5第1項第4号に定める「暗号資産交換業を適正かつ確実に遂行する体制の整備が行われていない」状況に該当すると認められることから、法第63条の17第1項の規定に基づく業務停止命令を発出するものである。
- なお、令和4年11月10日付関財金6第681号「命令書」により命じた法第63条の16の規定に基づく業務改善命令は継続している。
▼「FTX Japan株式会社に対する行政処分について」(関東財務局 証券監督第1課)
- FTX Japan株式会社(本社:東京都千代田区、法人番号:7010401115356、以下「当社」という。)に対して令和4年11月10日付で発出した業務停止命令及び資産の国内保有命令の期限が12月9日に到来するものの、当社の親会社であるFTX Trading Limitedは、当社を含むグループ会社について米国連邦破産法第11章手続の申請を行っているところ、当社の取引システムは全般にわたりその機能が停止している状況が続いているなど、依然として、当社においては、店頭デリバティブ取引に関する業務を適切に行える態勢が整えられておらず、投資者から預託を受けた証拠金等を速やかに返還できる状況となっていない。
- こうした中、当社は出金・出庫サービス再開に向けてシステム開発に取り組んでいるものの、現状、再開の具体的な時期について示せる段階にはないことから、引き続き、投資者の新たな取引を停止させるとともに、当社の資産が国外の関連会社等に流出し、投資者の利益が害されるといった事態を招かぬよう、万全を期する必要がある。
- よって、当社のこうした状況は、金融商品取引法(昭和23年法律第25号。以下「法」という。)第29条の4第1項第1号へに定める「金融商品取引業を適確に遂行するための必要な体制が整備されていると認められない者」に該当し、また、法第56条の3に定める「公益又は投資者保護のため必要かつ適当であると認める場合」に該当するものと認められる。
- 以上のことから、本日、当社に対し、下記(1)については法第52条第1項の規定に基づき、下記(2)については法第56条の3の規定に基づき、行政処分を行った。なお、令和4年11月10日付で命じた法第51条の規定に基づく業務改善命令は継続している。
- 業務停止命令
- 令和4年12月10日から令和5年3月9日までの間(ただし、当社において投資者から預託を受けた証拠金等の返還を速やかに行えるなど、当社が実施していた店頭デリバティブ取引に関する業務全般を適切に行う態勢の整備が図られ、その状況が当局において確認される場合には、それまでの間)、店頭デリバティブ取引に関する業務(証拠金等の管理及び投資者の決済取引等当局が個別に認めたものを除く)及び当該業務に関し新たに投資者から証拠金等の預託を受け入れる業務を停止すること。
- 資産の国内保有命令
- 令和4年12月10日から令和5年3月9日まで、各日において、当社の貸借対照表の負債の部に計上されるべき負債の額(保証債務の額を含む)から非居住者に対する債務の額を控除した額に相当する資産を国内において保有すること(公益又は投資者保護の観点から問題がないものとして、当局が認めた場合を除く)。
- 業務停止命令
金融庁は、米ドルなど法定通貨と価値が連動する「ステーブルコイン」の流通について定めた制度改正案とガイドラインを正式に発表しています。流通業者に対し十分な資産保全を条件に、海外発行のステーブルコインの取り扱いを認めることになります。2023年に施行される改正資金決済法と合わせて適用するとし、銀行などの発行者や流通業者に安全な取引環境の整備を求めています。国の重要政策である次世代インターネット「Web3」上の決済手段に同コインが使用されるとみて制度改正に動いたもので、ステーブルコインを使った決済が広がれば国際送金が早くて安価になる可能性があるものの、流通にあたってはマネー・ローンダリング対策も求め、取引情報の記録を要求し、不正送金を追跡できる態勢整備を促すとしていますが、その実効性が問われることになります。国内発行のステーブルコインは、発行者に発行総額を預金などで資産保全するよう義務付ける一方、海外発行のステーブルコインは、発行者が日本国内の業者とは限らないため、国内で取引を担う流通業者に資産保全を求めるほか、送金1回あたり100万円の上限も設けるとしています。ステーブルコインを巡っては、2022年5月に「テラUSD」や「テザー」が急落したことで、必ずしもステーブ(安定的)ではないとの懸念が広がっています。さらに11月には暗号資産交換業大手のFTXトレーディングが経営破綻したことで、ステーブルコインへの不安もさらに広がっている状況にあります。金融庁は解禁と同時に、資産保全によって破綻などに備えるほか、マネロン対策も進めるとしています。また、ステーブルコインは、すでに18兆円の市場規模を持つことから、海外でも規制する動きがあり、米国では規制を検討中で、欧州はコインの発行者に資産保全を求める規制を導入する方針です。
政府は企業に対する暗号資産課税を見直すこととしています。今は暗号資産やトークン(電子証票)を保有しているだけで課税の対象となっていますが、2023年度からは暗号資産・トークン発行企業の自社保有分については課税の対象外とすることになります。暗号資産・トークンを発行する企業が海外に流出することを防ぐ狙いがあるとされます。保有しているだけで期末に時価評価で課税する日本の暗号資産税制は世界でも珍しく、課税負担を嫌い、暗号資産・トークンを発行する企業が日本から海外に流出、行き先はシンガポールが多いものの、ドバイやスイスもあります。この状態を解消しようと、金融庁や業界団体などが税制改正を要望してきた経緯があります。前述したとおり、FTXトレーディングの破綻で、暗号資産ビジネスには逆風が吹いており、海外に逃げたブロックチェーン企業が日本に戻れるくらいの税制改正の果実を得るためには、政府の支援だけでなくブロックチェーン事業者が利便性の高い社会インフラを実現できることを具体的に国民に伝えていく必要があるといえます。
本コラムでも取り上げましたが、関東財務局は、暗号資産交換業者のエクシア・デジタル・アセットに対し、資金決済法に基づく業務停止命令を1カ月延長すると発表しています。期間は1月1日から31日までで、運転資金を継続的に確保し、取引システムを安定的に稼働することに「具体的な見通しが立っているとは認められない」と判断しています。同社は12月6日、外部から資金援助を受けることで資金不足の解消を図ることや、移転先を確保し年内に移転することを盛り込んだ業務改善計画を提出しています。
▼関東財務局 エクシア・デジタル・アセット株式会社に対する行政処分について
- 行政処分の内容
- 業務停止命令(法第63条の17第1項)
- 令和5年1月1日から令和5年1月31日までの間(ただし、当社において法第63条の5第1項第4号に規定する「暗号資産交換業を適正かつ確実に遂行する体制」を維持するための具体的な態勢の整備が図られ、その状況が当局において確認される場合には、それまでの間)、暗号資産交換業に関する業務(預かり資産の管理及び利用者の決済取引等当局が個別に認めたものを除く)及び当該業務に関し新たに利用者から財産を受け入れる業務を停止すること。
- 業務停止命令(法第63条の17第1項)
- 処分の理由
- 当社については、当局が求めた報告において、暗号資産交換業を適正かつ確実に遂行する体制の整備が行われていない状況等が認められたことから、令和4年11月30日、法第63条の17第1項の規定に基づく業務停止命令を発出するとともに、法第63条の16の規定に基づく業務改善命令を発出したところである。
- 当該行政処分を受けて、当社は、令和4年12月6日、外部から資金援助を受けることにより資金不足の解消を図ること、移転先を確保し年内に移転を行うこと等を内容とする業務改善計画を当局に提出したが、現状は、当面の運転資金の確保に目処を付ける一方、今後の運転資金の確保については、支援予定先との間で交渉を行っている段階にある。このため、現時点では、システム委託費を含む運転資金を継続的に確保し、取引システムを安全かつ安定的に稼働させていくこと等について具体的な見通しが立っているとは認められないほか、移転先における業務執行体制の確立は来年1月以降の予定となっている。
- こうした中、当社に対して令和4年11月30日付で発出した業務停止命令の期限が12月31日に到来するが、上記のとおり、当社は、当該期限までに暗号資産交換業を適正かつ確実に遂行する体制を維持するための態勢を整備できる見通しが立っておらず、業務改善命令事項への対応を含め、具体的な態勢整備の状況については、今後の業務改善計画の実行状況等を確認し判断する必要がある。
- このような当社の状況は、法第63条の5第1項第4号に定める「暗号資産交換業を適正かつ確実に遂行する体制の整備が行われていない」状況に該当すると認められることから、法第63条の17第1項の規定に基づく業務停止命令を発出するものである。
- なお、令和4年11月30日付関財金6第727号「命令書」により命じた法第63条の16の規定に基づく業務改善命令は継続している。
徳島市は、住民税を2年以上滞納していた市内在住の30代男性の暗号資産を約1万円に換金して差し押さえたと発表しています。報道によれば、自治体が暗号資産を差し押さえるのは四国で初となります。男性は2020年度以降、住民税を約59万円滞納し、督促状を送付しても納付がなかったため、2022年8月、市が男性の口座の入金記録を調べ、暗号資産の取引で利益を上げていたことが判明、ビットコインなど男性の全保有分の換金額1万489円を差し押さえたものです。過去、自治体による暗号資産の差し押さえは大阪府寝屋川市が行った例があります。
米ブロックチェーン分析会社チェイナリシスは、昨年の暗合資産市場の犯罪的取引が前年からさらに増え、過去最大の201億ドル(約2.6兆円)に達したとの推計を発表しています。米国がマネー・ローンダリングや麻薬の売買を助長していると指弾し制裁を実施しているロシアや北朝鮮などで活動する企業が関与する取引は2021年から10万倍以上に増え、全体の44%を占めたといいます。米財務省が2022年4月に制裁対象にしたロシアの交換業者ギャランテックス絡みの取引が大きく、ほとんどが、ロシア人ユーザーらが利用していたケースとみられるということです。チェイナリシスは「違法行為の特定には時間がかかるため、犯罪利用額は今後さらに増えるだろう」としています。2022年には米国は北朝鮮などのハッカーがマネー・ローンダリングに利用しているとの理由で、暗号資産取引の匿名性化サービス2社も制裁対象にしています。また、暗号資産の窃取は7%増えた一方、詐欺やランサムウエア(身代金要求型ウイルス)型、テロ資金の調達、人身売買などに絡む取引は減少したということです。報道で、ピクテ・ジャパンの大槻奈那氏は「コンプライアンス(法令順守)を重視する機関投資家は手を引き、今や短期筋の個人投資家や説明責任を厳しく問われないファミリーオフィス(個人資産の運用会社)しか取引していない」と指摘しています。そもそも暗号資産は国や中央銀行に管理されない「自由社会の基軸通貨」という理念を掲げ支持を得てきたといえますが、理想からかけ離れてしまった暗号資産が信頼を取り戻すためには、「業者の経営の健全性を促す規制が必要だが、それには年単位の時間がかかる」(ビットバンクの長谷川友哉氏)ものであり、信頼回復の道は遠いといえます。
米証券取引委員会(SEC)は、暗号資産のレンディング(融資)に関わる米ジェネシスと米ジェミナイの2社を提訴したと発表しています。投資家から暗号資産を預かり、利息を付ける事業について「金融商品」に該当し、SECに登録しないままサービスを提供するのは証券法違反と判断したものです。暗号資産交換業のジェミナイは2021年2月、レンディングを手掛けるジェネシスと提携して、個人投資家向け利息付き暗号資産預け入れサービス「Earn」を開始しましたが、SECによると、2022年11月時点でジェネシスは同サービスを通じて34万人の投資家から約9億ドル(約1200億円)相当の暗号資産を受け入れていたといいます。SECのゲンスラー委員長は公表文で「両社は未登録のまま広く一般に金融商品を提供し、投資家保護のための開示義務を迂回した疑いがある」と説明、SECはこれまでに同様の提訴を暗号資産レンディングの米ブロックファイに対して起こし、同社は2022年、SECと和解しています。交換業大手FTXトレーディングが2022年11月に経営破綻した余波を受け、流動性が枯渇したジェネシスは顧客の資産引き出しを凍結しており、アーンの利用者も暗号資産を取り戻せない状況が続いています。
銀行の国際ルールを決めるバーゼル銀行監督委員会は、銀行の暗号資産の保有を制限する初めての国際規制の導入を決めています。ビットコインなど裏付け資産を持たない暗号資産は保有額と同額の資本を積むことを義務付け、保有しにくくするものです。2025年1月までに導入するとしており、価格が乱高下する暗号資産の保有に銀行が慎重になるようにし、金融システムの財務健全性を保つ狙いがあり、銀行の暗号資産ビジネスも影響が避けられない状況です。バーゼル銀行監査委員会は暗号資産を、ドルや円などの法定通貨によって価値を裏付けられているステーブルコインなどの「グループ1」と、裏付け資産のないビットコインなどの「グループ2」に分けて規制することとし、裏付け資産がなく価格変動の大きいビットコインなどは、銀行経営を不安定にしかねないとして厳格に扱う(保有割合を自己資本の原則1%未満にするよう規制する)ことにしたものです。なお、バーゼル銀行監査委員会が2022年9月に発表した報告書によると、世界の大手銀行182行のうち米国や欧州などの19行が暗号資産を合計94億ユーロ(約1.4兆円)保有しているということです。関連して、米連邦準備制度理事会(FRB)や米連邦預金保険公社(FDIC)は、銀行が暗号資産関連事業に関与することへの懸念を示す共同声明を発表しています。詐欺や不正の可能性があるなどとした上で「当局は引き続き、暗号資産によって生じる銀行のリスクを注意深く監視する」と表明しています。声明は、暗号資産交換所大手FTXトレーディングの経営破綻を念頭に「昨年は、暗号資産が大きく変動し、脆弱性にさらされた」と指摘、暗号資産の問題点として、価格が不安定であることや、危機管理が不十分であることなどを列挙、暗号資産事業では保管や所有権などが法的に不確実で、業者の説明や開示情報も不正確か、誤解を招きやすいと指摘し、「暗号資産部門に関連したリスクを、銀行システムに移さないことが重要だ」と強調しています。その上で、銀行の暗号資産関連業務について「必要に応じて追加的な声明を出す」としています。また、ドイツ連邦金融監督庁(BaFin)のマーク・ブランソン長官は、消費者を保護し、マネー・ローンダリングを防ぎ、金融の安定を維持するため暗号資産業界の世界的な規制が必要だと訴えています。報道によれば、「われわれは自主規制された世界を見てきたが、うまく機能しない」と指摘、「暗号資産の冬」の後に「暗号資産の春」が来る可能性があるが、新興業界は従来の金融とのつながりが強まり、規制の必要性がさらに高まると指摘しています。「今こそ、暗号資産規制の時だ」と強調し、「最も重要な点は、欧州の解決策だけでなく、世界的な解決策が必要だということだ」と説明しています。
米証券取引委員会(SEC)は、暗号資産交換業大手FTXトレーディングの経営破綻を受け、上場企業に対し、暗号資産が事業や財務、取引先に与えるリスクを精査し、必要に応じて開示するよう要請しています。FTXの破綻後、関係の深い企業が経営危機に陥るケースが相次いでおり、SECは警戒を強めています。SECは指針で、上場企業には財務や経営に関わる重要情報の開示が法律で義務付けられていると指摘、FTX破綻や暗号資産価格の急落による影響は、開示対象になり得るとの見解を示しています。
すでに述べているとおり、いよいよ暗号資産交換業大手FTXトレーディングの経営破綻の影響が、銀行にも飛び火してきました。FTXと取引がある米銀持ち株会社シルバーゲート・キャピタルでは取り付け騒ぎが発生し、暗号資産に関連する会社や投資家の預金は2022年9月末に119億ドルあったところ、12月末に38億ドルとなり、3カ月のうちに預金が7割減る状況に陥りました(具体的には、2022年10~12月期に預金が81億ドル(約1兆800億円)減少しています)。預金引き出しに対応するため、10~12月期に保有証券52億ドル相当を売却して現金を確保したほか、コスト抑制のため、従業員全体の4割に相当する約200人の人員削減計画も明らかにしています。規制当局の監督下にあり、預金保険制度の対象となる銀行に暗号資産を巡る混乱が波及し、銀行規制の強化につながるとの指摘もあります。シルバーゲートはカリフォルニア州を拠点に1988年に設立され、2013年から暗号資産関連の事業に注力し、他の銀行が受け付けない暗号資産関連の事業者に、預金口座や決済サービスを提供して急成長、法定通貨に連動した値動きを目指すステーブルコインの裏付け資産の一部も預かり、暗号資産業界のエコシステム(生態系)の中核になっています。規制当局の監督下にある同行が経営問題に直面したことは、銀行監督の議論に影響することは必至で、FRBやFDICなどは「暗号資産に特化した(銀行の)事業モデルに、安全性・健全性の観点から重大な懸念がある」と警告しています。FTXの破綻は、暗号資産交換業やレンディング(融資業)、運用会社と幅広く飛び火し、損失の全容はまだみえない状況となっています。高利回りを約束して暗号資産を集め、リスクの高い投融資をしていた融資業の米ブロックファイは連鎖破綻、米紙WSJは、同業の米ジェネシスも、日本の民事再生法に相当する連邦破産法11条(チャプター11)適用申請を検討していると伝えています。
さて、こうした暗号資産業界に激震が走った最大の要因が、暗号資産交換業大手FTXトレーディングが経営破綻したことで、すでに2カ月が経とうとしています。創業者、バンクマン・フリード被告の説明から見えてきたのは、関連する投資会社が投機的取引を膨らませてFTXの手に負えなくなった構図で、リスク管理体制の不全が「池の中のクジラ」を生んだともいえます。FTX破綻は暗号資産市場の急収縮を招き、信用不安はくすぶりつづけています。今後、公聴会での偽証は罪に問われるため曖昧な物言いに終始する可能性はあるものの、FTXから個人的に借り入れた資金の使途や不適切な不動産購入などについて新たな事実が出てくるか注目されています。さらには、米連邦政府レベルの規制の不在、会計監査の機能不全も論点となりそうです。米ドルと価値が連動するように設計されたステーブルコインの「テラUSD(現テラクラシックUSD)」やその関連暗号資産ルナが2022年5月に暴落した際、FTXからアラメダにステーブルコインの移管があったことがブロックチェーン分析会社ナンセンの調査で判明、損失が急拡大したアラメダに対する救済措置とみられています。その創業者について、米検察当局は詐欺などの罪で起訴しています。報道によれば、同被告は2019年の設立当初から顧客資産を流用し、数十億ドル(数千億円)を詐取していたほか、米ニューヨーク州南部地区連邦地検は8つの罪、すなわち「詐欺」、「顧客に対する詐欺」、「貸し手に対する詐欺」、「貸し手に対する詐欺をおこなうための共同謀議」、「商品詐欺の共同謀議」、「証券詐欺の共同謀議」、「マネー・ローンダリング」、「選挙資金の規制違反」で起訴しています。米証券取引委員会(SEC)や米商品先物取引委員会(CFTC)も同被告を提訴しています。混乱はいまも続いており、世界最大の暗号資産交換業者バイナンスは米東部時間2023年1月13日未明、米ドルに連動するステーブルコイン「USDコイン(USDC)」の引き出しを一時的に制限しました。バンクマン・フリード被告の起訴によりバイナンスにも規制や捜査の網が及ぶのではないかとの不安から噂などで資金流出が起きやすい状況になっています。FTXは世界の暗号資産関連企業や暗号資産プロジェクトに投融資をおこなっており、その数は大小ふくめて500件近くに及んでいます。そのため、FTXから金融支援を受けていた暗号資産融資のブロックファイが連鎖倒産したほか、同業のジェネシスも引き出し停止状態が続いています。
こうした状況の中、バンクマン・フリード被告は、ブログで「私は資金を盗んでおらず、何十億(ドル、数千億円)も隠したわけでもない」などと自身の潔白を主張、刑事責任を問われた被告が法廷外で見解を表明するのは珍しく、極めて異例のブログ投稿だといえます。報道によれば、「私は個人資産のほぼ全てを顧客に提供する」とし、FTXの米国部門について「依然として完全に支払い能力があり、ほぼ全ての顧客資産を返還できるはずだ」と訴えています。そして、2022年11月のFTX破綻は暗号資産相場の急落が主因だったと強調、顧客資金の流用が指摘され、破綻のきっかけとなった関連会社アラメダ・リサーチは「保有資産の価値が2022年に約80%下落した」と説明、また、FTX支援をいったん表明後に撤回した競合交換所バイナンスの趙長鵬CEOらが「激しく、迅速な(相場)暴落を仕掛けた」と批判しています。なお、同被告は、保釈金2億5000万ドル(約330億円)で米国の裁判所から保釈を認められたと報じられています。なお、保釈金の額は過去最大級で、被告は、バハマ当局に逮捕され、身柄を米国に移送されています。
一方、経営破綻したFTXトレーディングは、ずさんな管理で散逸していた現預金や有価証券、暗号資産あわせて50億ドル(約6600億円)超の資産を確保し回収したと公表しています。事業子会社や投資先株式などの保有資産の売却手続きも並行して進めており、債権者への弁済に充てる資金の回収を急いでいます。また、FTXは、交換所を手掛ける日本法人のFTXジャパンと欧州の交換所FTXヨーロッパなど事業子会社4社の売却も予定しています。アドバイザーを務める米投資銀行ペレラ・ワインバーグ・パートナーズが裁判所に提出した書類によると、あわせて117もの団体が買収に関心を示しているといいます。事業子会社の売却とは別に、簿価46億ドルで300件以上に及ぶ「非戦略投資」の現金化も進めており、FTXや投資会社のアラメダが過去に投資したベンチャー企業の株式などが含まれるとしています。なお、これまでに特定した900万以上の顧客口座では計1200億件の取引がなされており、破綻時点の債務と債権を確定するのに膨大な時間がかかっており、債権者にどれだけ弁済されるかは不透明だということです。米商品先物取引委員会(CFTC)は損失額を80億ドル以上と推計していますが。回収した50億ドルにはバンクマン・フリード被告がいたバハマ諸島の証券委員会が押収した資産は含まれていないといい、バハマ当局は押収した資産の価値を最大35億ドルと(4600憶円)評価しているものの、FTXの弁護士は最低1億7000万ドルと推計、押収された資産の大部分はFTXが所有する流動性の低いFTTトークンで価格の変動が激しいとしています。また、米検察当局は、バンクマン・フリード被告に関連する米新興ネット証券ロビンフッドの株式を押収する手続きを進めており。株式は5600万株に上り、約4億6500万ドル相当だといいます。なお、同株は経営破綻した米暗号資産融資のブロックファイ、FTX、バンクマン・フリード被告などが所有権を主張しています。
米連邦検察当局は、FTXが破綻申請した数時間後にサイバー攻撃を受け3億7000万ドル以上の資金が流出した疑いで捜査していると報じられています。報道によれば、バンクマン・フリード被告による詐欺とは異なるとされていますが詳細は判明していません。また、FTXの関連会社アラメダ・リサーチ前CEOのキャロライン・エリソン氏は、バンクマン・フリード被告と同社幹部らがアラメダから秘密裏に数十億ドルもの融資を受け取っていたと明らかにしています。エリソン氏がマンハッタンの裁判所で証言したもので、FTXの投資家や債権者、顧客に対し、アラメダがFTXから無限に資金を借り入れられることを隠すことでバンクマン・フリード被告と合意していたと述べています。また、「アラメダの借り入れの範囲や、同社によるFTX幹部・関連団体への数十億ドルの融資を隠す四半期のバランスシートを用意した」と話しています。エリソン氏とFTX共同創業者のゲイリー・ワン氏は罪状を認め、司法取引の一環で検察に協力しています。また、2022年6月に投資家がアラメダへの融資を撤回した際、エリソン氏は返済のためにFTXの顧客資金から多額の借り入れを行ったということです。また、FTXの顧客が、同社およびバンクマン・フリード前CEOら経営陣に対する集団訴訟をデラウェア州の米破産裁判所に起こしています。原告は、FTXのデジタル資産の所有権が顧客にあることを認めるよう求めています。同被告は、顧客の資金を関連会社アラメダ・リサーチの支援に使ったとの容疑でも起訴されています。集団訴訟の原告は、追跡可能な顧客資産がFTXやアラメダの資産ではないとの宣言を裁判所に要求、仮に裁判所が資産の所有権がFTXにあると判断した場合には、顧客には他の債権者よりも優先して払い戻しを受ける権利があるとの判決を求めています。
FTXトレーディングの経営破綻は、歴史的な金融詐欺事件に発展していますが、そもそも政治家やプロの投資家はなぜ騙されたのかを考えると、一翼を担ったのがトークンという評価の定まらない金融手法だったと言えそうです。株式にはいったん発行した自社株を買い戻せば、流動資産ではなく「自己株式」として計上するルールがある一方、トークンはこうした明確な国際会計基準が未整備で、FTXは会計監査を受けていませんでしたが、FTX以外にも不透明なトークン取引はあるとみられています。長らく資本市場で活躍してきた金融関係者のトークンへの見方は厳しく、専門家は「トークンは価値の裏付けが不安定で、価値の評価が難しい。株式の代替にはならない」と言い切っているほどです。
FTX破綻の影響など、暗号資産交換事業者の動向について、いくつか紹介します。
- 世界最大級の暗号資産交換業バイナンスに無免許の送金やマネー・ローンダリングの共謀による米資金洗浄防止法違反、米国の対外制裁に抵触の疑いがあるとして米司法省が2018年から着手している調査を巡り、告発状を提出できるかどうかの判断が省内で割れ、結論が遅れていると報じられています(2022年12月13日付ロイター)。報道によれば、バイナンスは2017年創業で、最初に調査を始めたのはワシントン州シアトルの連邦検察で、本部の資金洗浄犯罪担当部署と連携し、内国歳入庁(IRS)の犯罪捜査部署も加わり、2021年10月には暗号資産犯罪の専門チームも幹部の肝いりで創設、ここ数カ月で暗号資産のチームとシアトルの検察はバイナンスだけでなく、趙長鵬氏ら幹部数人の告発を準備する十分な証拠がそろったと考えていたとされますが、訴追決定に慎重な傾向があるとされる資金洗浄チームで幹部が難色を示し、同チームで不満が高まっているというものです。司法省の規則では金融機関に対するマネー・ローンダリングの告発は資金洗浄チームのトップが承認する必要があります。ロイターは同社の資金洗浄防止の社内規制がぜい弱なことや、米制裁を迂回したいイランの暗号資産企業やロシアの麻薬業者や北朝鮮のハッカーらのために100億ドル以上の支払いを処理した疑いなどを報じてきたところ、バイナンスは今回、米司法省の内部作業について何か見通しを持っていることはないとしています。
- 暗号資産交換業大手の米コインベースは適切な犯罪防止策を怠ったとして調査を受けている問題を巡り、総額1億ドルを支払うことでニューヨーク州金融サービス局(DFS)と和解しています。コインベースは制裁金として5000万ドルを支払うほか、犯罪者による利用を防ぐための法令順守強化に5000万ドルを拠出するほか、第三者による監視も義務付けられることになります。コインベースは顧客が利用を開始する際に十分な信用調査を行わず、回答用のボックスにチェックを入れるだけの簡単な方法で済ませていたということです。また、コインベース・グローバルは、全従業員の2割に相当する約950人を削減する方針を明らかにしています。同業のFTXトレーディングの経営破綻を機に暗号資産市場が冷え込むなか、コスト削減で生き残りを図るとしています。暗号資産全体の時価総額は2022年11月上旬以降に2割減少し、交換業に暗号資産を預けるのを避ける動きも強まっています。事業環境の悪化に対応するため、暗号資産業界では人員削減の動きが相次いでおり、暗号資産のレンディング(融資業)を手掛ける米ジェネシスは従業員の3割程度を解雇、交換業のHuobi(フォビ)も2割相当を削減する予定ということです。また、日本から撤退する検討に入ったとも報じられています。コインベースは2021年に改正資金決済法に基づく登録を完了し、日本でビットコインなどの暗号資産取引サービスを提供、2016年に10億円強出資した三菱UFJFGがパートナーとなり支援してきたところ、日本法人はこの登録ライセンスの返上や、日本法人の売却などを選択肢として検討しているといいます。同様に、外資の交換業者による日本からの撤退が相次いでおり、暗号資産交換業クラーケンを運営する米ペイワードグループも2023年1月末で暗号資産交換業を廃止し、日本から撤退するほか、ペイワードは顧客が口座に保有する暗号資産については暗号資産ウォレット(電子財布)への出庫、口座に残る円については銀行振り込みで資金返還するとしています。
- 前述したジェネシスは従業員の30%を削減、同社の人員削減はここ半年足らずで2回目で、「前例のない業界の難局をかじ取りする中、世界的に人員を削減する難しい決定を下した」としています。さらに米紙WSJはジェネシスが連邦破産法11条の適用申請を検討していると報じており、投資銀行モーリス・アンド・カンパニーを起用して選択肢を検討しているといいます。同社の融資子会社ジェネシス・グローバル・キャピタルは11月に顧客資金の出金を停止、暗号資産交換業大手FTXの経営破綻を受けた「前例のない市場の混乱」を理由に挙げていました。
- 米ニューヨーク州の破産裁判所は、経営破綻した暗号資産融資の米セルシウス・ネットワークの顧客がオンライン口座に預け入れていた暗号資産について、大半がセルシウスに所有権があるとの判断を示しています。セルシウスは、暗号資産を預けることで一定の利回り受け取ることができるサービス「アーン」を提供していました。裁判所によると、この口座に顧客が預け入れた資産はセルシウスに所有が移ることが利用規約に明記されており、破産申請を受けて顧客は無担保債権者として扱われ、返済の優先順位は最も低くなることになります。この判断は、同社が2022年7月に破産を申請した際に42億ドル相当の資産を保有していた約60万件の口座に影響することになります。ただ、判決文はアーンの顧客が何も得られないと断定したわけではないとし、セルシウスの暗号資産の所有権に異議を申し立てる余地がなおあることを示唆しています。一方、セルシウスが顧客のアーン口座に預けられていた約1800万ドルの暗号資産を売却することは認めています。
- バンクマン・フリード被告が称賛していた暗号資産ソラナが2022年末の取引で10.36%下落し、年初来では94.2%安となりました。ソラナは、スマートコントラクト機能を持ちイーサリアムの対抗馬として浮上した新興ブロックチェーン「ソラナ」を支えるトークンですが、ソラナはFTXと直接の関係はなく、同社へのエクスポージャーは限定的だったものの、バンクマン・フリード被告との関連が価格の重しとなっており、FTXを巡る懸念が広がり始めた2022年11月2日以降、ソラナは51.14%下落となりました(同期間の下落率はイーサが約21.3%、ビットコインが17.6%)。
- 前述したとおり、米サンフランシスコに拠点を置く米暗号資産交換業クラーケンの日本法人であるペイワードアジアは、2023年1月末で日本での事業を停止すると発表しています。FTXトレーディングの経営破綻で、暗号資産市場での取引が低迷したことなどが背景にあるとしています。クラーケンは顧客が口座から資金を引き出すことができるよう十分な資金の流動性を保っており、1月中は全ての顧客の口座の出金制限を解除するとしています。
- シンガポールの暗号資産取引所、クリプト・ドット・コムは、従業員の約2割を削減すると発表していますた。前述したとおり、FTX破綻を受けて、コインベース・グローバル、フォビなど業界全体で人員削減が相次いでいますが、クリプト・ドット・コムは、金利上昇による景気低迷に対応するため、2022年7月にも人員を削減しています。CEOは「(FTX破綻で)業界の信頼が大きく損なわれた」とし「このため、慎重な財務管理を引き続き重視する中、長期的な成功に向けた環境を整えるため、困難だが必要な決定を下した」と表明しています。
- 米暗号資産マイニング(採掘)大手のコア・サイエンティフィックは、連邦破産法11条の適用を申請したと発表しています。清算はせずに通常通り事業を継続することで、上位債権者との合意が成立しているといいます。代表的な暗号資産「ビットコイン」の価格下落で打撃を受けたほか、エネルギー料金の上昇や取引先からの支払いが滞り、資金繰りが悪化したものです。
- 米検察当局は暗号資産取引所マンゴー・マーケッツを利用して約1億1000万ドルを盗もうとした男を詐欺と価格操作の罪で起訴しています。報道によれば、被告はマンゴー・マーケッツの暗号資産「マンゴー」に関連する先物取引を行い、他の投資家の暗号資産を不正に引き出したとされます。同被告は2つのアカウントを使い、マンゴーと米ドルに連動するステーブルコイン「USDコイン(USDC)」の相対価値に基づく先物の売買を同時に行ったもので、USDCに対するマンゴーの価格をつり上げ、これを担保に別の暗号資産を不正に引き出したものです。
世界で中央銀行によるデジタル通貨(CBDC)の発行に向けた動きが広がっています。国際決済銀行(BIS)の調査によると、中央銀行81行のうち、何らかの形でCBDCに取り組んでいる割合は2021年に90%に達しています。さらに、「1~6年以内に発行の可能性がある」と回答する中央銀行は65%に上り、本格的な普及へ秒読み段階に入っているといえます。カンボジアやバハマ、ナイジェリアなどすでに正式に導入した国も相次いでおり、中国も大規模な実証実験を重ねており、近く「デジタル人民元」を全国展開するとみられています。
日本については、日本銀行が実証実験の第2フェーズを実施している状況ですが、CBDC「デジタル円」を実際に導入するかどうかはいまだ確定していません。2022年12月28日付読売新聞の記事「「デジタル円」発行遠からず…中島真志氏 麗沢大教授」では、「「Suica」や「PayPay」といった民間のキャッシュレス決済が定着した中、類似の決済手段は不要ではないかという意見です。しかし、CBDCは法定通貨であり、民間決済とは本質的に異なります。お店によって使えないということはなく、どこでも、誰でも使えます。受け渡しを行った瞬間に決済が完了し、流通性もあります。一方、過大評価派は、CBDCによって世界が大きく変わると主張します。具体的には、個人のお金を原資に企業に資金を貸し出す「金融仲介機能」が低下すると言われます。さらに、非常時には大規模かつ迅速に「デジタル取り付け騒ぎ」が起こる懸念があるとされます。これらは、CBDCの保有や取引に上限を設けることが対応策になります。日本で導入するとして、例えば5万円を上限に1億人にCBDCを発行すると、計5兆円という計算になる。預金の約0.6%、現金の約4.4%にあたり、金融システムが揺らぐような規模ではありません。…デジタル円の実現には、乗り越えるべき課題があります。技術面では、インターネットに接続されていない状態での利用をどうするかが重要です。災害の多い日本では特に考慮すべき点です。プライバシー保護なども含めた細かい制度設計が求められます。実際に発行する時には、「紙幣」の発行を想定している日銀法などの法改正も必要になります。技術、法律の両面で、丁寧に調整を進めていくべきです」と述べていますが、このあたりが日本の状況の最大公約数的な立ち位置ではないかと思われます。
欧州の状況については、2023年1月14日付日本経済新聞の記事「存在感高まるユーロ、デジタル通貨でも先進性」に詳しいため、以下、抜粋して引用します。
中国人民銀行(中央銀行)は、2022年12月末時点の「デジタル人民元」の流通額が136億1000万元(約2600億円)だったと発表しています。流通している現金通貨を毎月公表しているところ、12月末分からデジタル人民元を加えています。正式発行に向けて実証実験の対象都市を広げるとともに、統計データの整備を進めていく中国のデジタル人民元の発行まで確実にプロセスを踏んでいる印象を受けます。なお、紙幣や硬貨の人民元を含めた全体の現金通貨は10兆4700億元で、デジタル人民元の割合は0.13%でした。一方、独立系メディアの財新は、人民銀元幹部の謝平氏が「今のところデジタル人民元は有用性が乏しい」とする見方を示したと伝えています。人民銀の調査部門責任者を務めた謝平氏は、特定の省と都市におけるデジタル人民元試験運用の結果に失望感を表明、「過去2年の試験運用で流通したデジタル人民元はわずか1000億元(140億ドル)にすぎない」と語り、非常に低調で動きが鈍いことが分かると付け加えています。報道によれば、問題は銀行業界においてデジタル人民元関連事業が何の相乗効果も得られず、商業的な妙味がない点にあるとし、これを解決するには、デジタル人民元の利用範囲を拡大し、個人の金融商品購入などを認めたり、より多くの決済プラットフォームと接続したりする方法が考えられるとしています。
ブラジル中央銀行のカンポスネト総裁は、2024年にCBDCの導入を目指す方針を明らかにしています。2023年には金融機関と非公開の実証実験を行うとしています。同総裁は、CBDCは市中銀行の資産のトークン化を促し、効率の相当な向上をもたらすと予想、その上で「デジタル通貨が実際にトークン化された預金だということになれば、預金にすでに適用されている全ての規制を引き継ぐことになる」と述べていますた。また、中央銀行が2020年11月に導入した即時決済システム「ピックス(Pix)」について、手数料のない、割安な与信にアクセスできるようになれば、利用者も急速に増加すると予測しています。以前の本コラムえでも紹介したとおり、ブラジルでPixは人気を博し、クレジットカードやデビットカードでの取引額を上回っています。
オーストラリア準備銀行(中央銀行)のブラッド・ジョーンズ総裁補は、デジタル豪ドル(eAUD)のパイロットプログラムが予想以上に業界から関心を集めており、いくつかのプロジェクトが2023年早々にもテストされる予定だと明らかにしています。ただ、すでに高度に発達した決済システムを有する市場において、リテールCBDCの有用性については懐疑的であることも強調しています。同氏は、豪中銀がデジタル金融共同研究センター(DFCRC)と行った試験的なeAUDプログラムに約80の企業から140以上の活用事例の提案があり、当初の予想を大きく上回ったと述べています。事例案には電子商取引決済からオフライン決済、政府決済、トークン化した資産の取引・清算などあらゆる分野に及んでいるといい、関心を示した事業者も大手銀行、金融市場インフラプロバイダー、コンサルタント会社から、小規模なデジタル資産会社やフィンテックまで多岐にわたっているということです。一方、現金に代わるリテールCBDCを実際に採用することは革命的で、まだ対処されていないコストと危険性を伴うと警告、豪州のように、すでに決済システムが発達し、現金へのアクセスが容易な国ではCBDCがどのような問題を解決するのかは明らかでないとも述べています。
インドネシア中央銀行のペリー・ワルジヨ総裁は、同中央銀行が計画している「デジタルルピア」について、将来的にはメタバースで商品を購入するために使用することができるようになるとの認識を示しています。同中央銀行は、デジタルルピア計画を発表、いわゆるCBDCを開発している世界中の多くの中央銀行に追随しました。同氏は、デジタルルピアでは他の中央銀行のデジタル通貨と互換性のある技術プラットフォームを使用すると説明、「従って、インフラストラクチャーの面では、(他のCBDCとの)統合、相互接続、相互運用が可能」としています。また、デジタル通貨に使用される為替レートや、サイバーリスクや資本フローを含むその運用監督について、中央銀行間で合意がなされるとの見方を示しています。インドネシアは現在、暗号資産の決済手段としての利用を禁止していますが、投資目的の商品先物市場でのデジタル資産の取引は認めている状況にあります。
②IRカジノ/依存症を巡る動向
カジノを中心とする統合型リゾート施設(IR)の開設に向け大阪府・市と長崎県が提出した計画に関し、国土交通省は2022年12月8日の立憲民主党の会合で、年内に認定の可否を判断するのは「厳しい」と説明しています(原稿執筆時点の2023年1月15日時点でも公表されていません)。両地域は、2022年4月、施設構成や事業の収支見通しなどの「区域整備計画」を提出、経済、観光などの専門家でつくる有識者委員会が国の評価基準などを基に審査を進めており、最終的には国交相が認定可否を決定する流れとなっており、認定に期限はないものの、両地域は2022年内にも結論が出ると想定しており、開業スケジュールに影響が出かねない状況といえます。提出した計画によれば、大阪府・市は2029年秋~冬、長崎は2027年の開業を予定、認定の時期は「(2022年)秋頃以降と推測」(大阪)、「2022年10月1日と仮定」(長崎)としていました。計画とおり認定されていない現状については、大阪府・市のIR推進局は、目標とする令和11年(2029年)の開業スケジュールには「影響が出るとは考えていない」、長崎県の担当者は「特段のコメントはない」としています。本コラムでもたびたび指摘しているとおり、カジノはギャンブル依存症を誘発するとの懸念が根強いほか、コロナ禍で収益の確保を疑問視する声があるほか、大阪府・市の候補地である人工島・夢洲は液状化による地盤沈下や土壌汚染の対策、長崎は資金計画の妥当性などを問う声があり、審査長期化の一因になっているようです。なお、大阪府・市の地盤の問題については、土地所有者の大阪市が、約790億円の対策費を負担する方針を示しており、松井一郎市長は「地盤の専門家が審査していて少し時間がかかっている。(地盤に関する)細かい資料の提出を求められた」と明かしたうえで、「国からの質問には全て回答している。速やかに判断してもらいたい」と語っています。実際、国土交通省の担当者も「地盤沈下の程度に過小評価がないかどうかなど技術的な確認もしている」と明かし、審査委員会もこうしたリスクが事業の安定的な運営の支障とならないか確認していることが推測されます。
一方、2022年12月15日付産経新聞によれば、人工島・夢洲の候補地を巡り、依頼を受けた不動産鑑定業者が算定した賃料が4社中3社で一致し、市議会で問題視する指摘があることが分かったというこです。松井一郎市長は、鑑定業者側への働きかけを否定、恣意的な誘導などがあった場合は、2023年4月の任期満了までの報酬を返上するとしています。報道によれば、鑑定評価の際は、IRを考慮しないよう条件を設定、大阪市議会では、大型商業施設の取引価格が参考にされた結果、賃料が安くなったとして「市が事業者を優遇しているのでは」と疑問視する声が出ていたもので、大阪港湾局の担当者は、IRを考慮しない条件にした理由について記者団に「鑑定業者のうち1社から『IR事業は国内での実績もなく、考慮することは適切でない』との意見があり、残る3社も同様の意見だった」と説明、問題はないとの認識を示しています。また、任期満了に伴う大阪市長選(2023年4月9日投開票)を巡り、IRに反対する市民団体の幹部の山川氏が立候補を検討しているということです。同氏は2022年7月、IR誘致の是非を問う住民投票条例案の制定を目指し、大阪府内で約19万筆の有効署名を集めた市民団体に所属、現在は別の市民団体「夢洲カジノを止める会」の事務局長を務めています。このように、相次いで大阪府・市のIR誘致に逆風の要素が表面化していますが、認定公表間近の段階でどの程度影響するか何とも言えないところです。なお、審査基準の中には、「地域における十分な合意形成」を築いているかが問われていますので、大阪・長崎ともにこのあたりをどう評価されるのかも興味深い点です。
IR誘致を最終的に断念した横浜市ですが、2023年1月5日付毎日新聞の記事「林前横浜市長、IR巡り初めて明かした菅前首相への「直訴」」で、当時の経緯が少しだけ明らかになっています。以下、抜粋して引用します。
コロナ禍で苦境にある世界のカジノ産業ですが、マカオ政府がまとめた2022年のカジノ収入は421億パタカ(約6900億円)と、2021年に比べて51%減ったということです。新型コロナウイルスを抑え込む「ゼロコロナ」政策の影響で主力の中国本土からの観光客が落ち込みました。マカオのカジノ収入は2004年以来、18年ぶりの低水準となり、コロナ禍前の2019年の14%の水準にとどまりました。2021年は感染状況が落ち着いてやや持ち直していましたが、2022年はコロナ関連の規制がたびたび強化され、カジノ客が減少したといいます。なお、直近では、中国のゼロコロナ政策見直しを受けて、マカオも入境時の隔離を撤廃するなど緩和を始めています。また、本コラムでも紹介したとおり、マカオでは2022年末に免許の更新があり、2023年1月1日から新たなライセンスのもとで営業することになります。マカオ政府は主たる収益源である賭博以外の事業への多角化を義務づけており、これを順守できるかが大きな課題となっています。報道によれば、新たなライセンスのもとでは、カジノは今後10年間で合計150億ドル(約1兆9900億円)を投資することを誓約していますが、その90%は賭博以外の事業に投じなければならないとされています。しかしながら、カジノ各社が賭博以外の事業で収益を得ることは難しいとの見方が大勢を占めています。
IRの誘致を進める大阪府は2022年末、ギャンブル依存症対策の推進本部会議の初会合を府庁で開いています。本部長の吉村知事は「IR誘致をきっかけに依存症と正面から向き合って対策を練り、依存症の人を減らすことを目標にしたい」と述べています。大阪府議会では2022年10月にギャンブル依存症対策を推進する条例が成立しており、会議は条例に基づいて開かれたものです。会議では、「2025年度末までに依存症の治療が可能な医療機関を60カ所に増やす」、「当事者らの相談や治療にあたる支援拠点の整備」、「予防や啓発を目的とした若年層向けの授業の実施」などを盛り込んだ計画案が提示され、有識者の意見を聴くほか、パブリックコメントを実施し、2022年度中に計画を取りまとめることとしています。その他、依存症に関する最近の報道から、いくつか紹介します。
ネットゲームトラブル深刻 依存性高い「ガチャ」(2022年12月23日付日本経済新聞)
③犯罪統計資料
例月同様、令和4年11月の犯罪統計資料(警察庁)について紹介します。
▼警察庁 犯罪統計資料(令和4年1~11月分)
令和4年(2022年)1~1月の刑法犯総数について、認知件数は549,884件(前年同期521,044件、前年同期比+5.5%)、検挙件数は230,751件(244,561件、▲5.6%)、検挙率は42.0%(46.9%、▲4.9P)と、ここ数カ月の傾向のとおり、認知件数のみ前年を上回る結果となりました。その理由として、刑法犯全体の7割を占める窃盗犯の認知件数が増加していることが挙げられ、窃盗犯の認知件数は373,841件(351,011件、+6.5%)、検挙件数は137,149件(149,759件、▲8.4%)、検挙率は36.7%(42.7%、▲6.0P)となりました。なお、とりわけ件数の多い万引きについては、認知件数は76,698件(79,387件、▲3.4%)、検挙件数は53,877件(58,541件、▲7.9%)、検挙率は70.3%(73.7%、▲3.4P)と減少している点が興味深いといえます。コロナで在宅者が増え、窃盗犯が民家に侵入しづらくなり、外出も減ったため突発的な自転車盗も減った可能性が指摘されるなど窃盗犯全体の減少傾向が刑法犯の全体の傾向に大きな影響を与えていますが、3月のまん延防止等重点措置の解除から一転して最近の感染者数の激増といった状況などもあり、今後の状況を注視する必要があります。また粗暴犯の認知件数は48,108件(45,494件、+5.7%)、検挙件数は39,969件(39,839件、+0.3%)、検挙率は83.1%(87.6%、▲4.5P)、知能犯の認知件数は36,461件(32,458件、+12.3%)、検挙件数は17,077件(17,388件、▲1.8%)、検挙率は46.8%(53.6%、▲6.8%)、とりわけ詐欺の認知件数は33,367件(29,449件、+13.3%)、検挙件数は14,566件(14,978件、▲2.8%)、検挙率は43.7%(50.9%、▲7.2P)などとなっており、本コラムで指摘してきたとおり、コロナ禍において詐欺が大きく増加しています。とりわけ以前の本コラム(暴排トピックス2022年7月号)でも紹介したとおり、コロナ禍で「対面型」「接触型」の犯罪がやりにくくなったことを受けて、「非対面型」の還付金詐欺が増加していますが、必ずしも「非対面」とは限らないオレオレ詐欺や架空料金請求詐欺なども大きく増加傾向にある点が注目されます。刑法犯全体の認知件数が増加傾向を見せ、検挙件数が減少傾向の中、とりわけ知能犯、詐欺については増加傾向にあり、引き続き注意が必要な状況です(そして、検挙率がやや低下傾向にある点も気がかりです)。
また、特別法犯総数については、、検挙件数は61,647件(65,100件、▲5.3%)、検挙人員は50,672人(53,242人、▲4.8%)と2021年同様、検挙件数・検挙人員ともに減少している点が特徴的です。犯罪類型別では、入管法違反の検挙件数は3,790件(4,494件、▲15.7%)、検挙人員は2,806人(3,272人、▲14.2%)、軽犯罪法違反の検挙件数は7,042件(7,557件、▲6.8%)、検挙人員は6,992人(7,591人、▲7.9%)、迷惑防止条例違反の検挙件数は8,878件(7,909件、+12.3%)、検挙人員は6,775人(6,032人、+12.3%)、犯罪収益移転防止法違反の検挙件数は2,865件(2,335件、+22.7%)、検挙人員は2,392人(1,892人、+26.4%)、不正アクセス禁止法違反の検挙件数は487件(332件、+46.7%)、検挙人員は156人(124人、+25.8%)、不正競争防止法違反の検挙件数は59件(71件、▲6.8%)16.9%)、検挙人員は74人(73人、+1.4%)、銃刀法違反の検挙件数は4,657件(4,733件、▲1.6%)、検挙人員は4,111人(4,061人、+1.2%)などとなっています。減少傾向にある犯罪類型が多い中、犯罪収益移転防止法違反や迷惑防止条例違反、ストーカー規制法違反、不正アクセス禁止法違反が増加している点が注目されます。また、薬物関係では、麻薬等取締法違反の検挙件数は941件(834件、+12.8%)、検挙人員は559人(470人、+18.9%)、大麻取締法違反の検挙件数は5,950件(6,206件、▲4.1%)、検挙人員は4,718人(4,911人、▲3.9%)、覚せい剤取締法違反の検挙件数は7,806件(10,380件、▲24.8%)、検挙人員は5,420人(7,020人、▲6.8%)22.8%)などとなっており、ここ数年大麻事犯の検挙件数が大きく増加傾向を示していたところ、減少に転じている点はよい傾向だといえ、覚せい剤取締法違反の検挙件数・検挙人員ともに大きく減少傾向にある点とともに特筆される点です。一方で、それ以外の麻薬等取締法違反の検挙件数・検挙人員が大きく増えている点に注意が必要です。なお、同法の対象となるのは、「麻薬」と「向精神薬」であり、「麻薬」とは、モルヒネ、コカインなど麻薬に関する単一条約にて規制されるもののうち大麻を除いたものをいいます。また、「向精神薬」とは、中枢神経系に作用し、生物の精神活動に何らかの影響を与える薬物の総称で、主として精神医学や精神薬理学の分野で、脳に対する作用の研究が行われている薬物であり、また精神科で用いられる精神科の薬、また薬物乱用と使用による害に懸念のあるタバコやアルコール、また法律上の定義である麻薬のような娯楽的な薬物が含まれますが、同法では、タバコ、アルコール、カフェインが除かれています。具体的には、コカイン、MDMA、LSDなどがあります。
また、来日外国人による重要犯罪・重要窃盗犯 国籍別 検挙人員 対前年比較について、総数549人(581人、▲5.5%)、ベトナム172人(215人、▲20.0%)、中国90人(92人、▲2.2%)、ブラジル36人(41人、▲12.2%)スリランカ35人(16人、118.8%)韓国・朝鮮20人(16人、+25.0%)、フィリピン19人(32人、▲40.6%)、パキスタン18人(6人、200.0%)、インド12人(17人、▲29.4%)などとなっています。
一方、暴力団犯罪(刑法犯)罪種別検挙件数・人員対前年比較の刑法犯総数については、検挙件数は10,112件(11,338件、▲10.8%)、検挙人員は5,614人(6,367人、▲11.8%)と検挙件数・検挙人員ともに継続して減少傾向にある点が特徴です。以前の本コラム(暴排トピックス2021年3月号)では、「基礎疾患を抱え高齢化が顕著に進行している暴力団員のコロナ禍の行動様式として、検挙されない(検挙されにくい)活動実態にあったといえます」と指摘しましたが、一時活動が活発化している可能性を示したものの再度減少に転じている点は、緊急事態宣言等やまん延防止等重点措置の解除やオミクロン株の変異型の再度の流行などコロナの蔓延状況の流動化とともに今後の動向に注意する必要があります。犯罪類型別では、暴行の検挙件数は566件(666件、▲15.0%)、検挙人員は558人(632人、▲11.7%)、傷害の検挙件数は932件(1,066件、▲12.6%)、検挙人員は1,052人(1,275人、▲17.5%)、脅迫の検挙件数は334件(346件、▲3.5%)、検挙人員は342人(339人、+0.9%)、窃盗の検挙件数は4,888件(5,597件、▲12.7%)、検挙人員は770人(948人、▲18.8%)、詐欺の検挙件数は1,707件(1,703件、+0.2%)、検挙人員は1,306人(1,404人、▲7.0%)、賭博の検挙件数は49件(57件、▲14.0%)、検挙人員は146人(130人、+12.3%)などとなっています。とりわけ、詐欺については、3月まで検挙人員が増加傾向を示していたあと、減少傾向に転じていましたが、今回、再度増加に転じた点が特筆されます。全体的には高止まり傾向にあり、資金獲得活動の中でも重点的に行われていると推測されることから、引き続き注意が必要です。さらに、暴力団犯罪(特別法犯)主要法令別検挙件数・人員対前年比較の特別法犯について、特別法犯全体の検挙件数は5,007件(6,675件、▲25.0%)、検挙人員は3,408人(4,552人、▲25.1%)と、検挙件数・検挙人数ともに継続して減少傾向にあります。また、犯罪類型別では、入管法違反の検挙件数は16件(14件、+14.3%)、検挙人員は22人(14人、+57.1%)、軽犯罪法違反の検挙件数は60入管法違反の検挙件数は17件(17件、±0%)、検挙人員は24人(21人、+14.3%)、軽犯罪法違反の検挙件数は66件(85件、▲22.4%)、検挙人員は60人(75人、▲20.0%)迷惑防止条例違反の検挙件数は82件(107件、▲23.4%)、検挙人員は72人(97人、▲25.8%)、暴力団排除条例違反の検挙件数は18件(37件、▲51.4%)、検挙人員は42人(87人、▲51.7%)、銃刀法違反の検挙件数は103件(116件、▲11.2%)、検挙人員は69人(87人、▲20.7%)、麻薬等取締法違反の検挙件数は163件(134件、+21.6%)、検挙人員は66人(47人、+40.4%)、大麻取締法違反の検挙件数は932件(1,121件、▲16.9%)、検挙人員は543人(710人、▲23.5%)、覚せい剤取締法違反の検挙件数は2,926件(4,229件、▲30.8%)、検挙人員は1,953人(2,806人、▲30.4%)、麻薬等特例法違反の検挙件数は139件(147件、▲5.4%)、検挙人員は70人(84人、▲16.7%)などとなっており、やはりここ数年増加傾向にあった大麻事犯が、検挙件数・検挙人員ともに減少に転じ、その傾向が定着していること、覚せい剤事犯の検挙件数・検挙人員がともに全体の傾向以上に大きく減少傾向を示していること、麻薬等取締法違反・麻薬等特例法違反が大きく増えていることなどが特徴的だといえます。なお、参考までに、「麻薬等特例法違反」とは、正式には、「国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律」といい、覚せい剤・大麻などの違法薬物の栽培・製造・輸出入・譲受・譲渡などを繰り返す薬物ビジネスをした場合は、この麻薬特例法違反になります。法定刑は、無期または5年以上の懲役及び1,000万円以下の罰金で、裁判員裁判になります。
(9)北朝鮮リスクを巡る動向
北朝鮮は、2022年12月31日、平壌近郊の黄海北道中和郡付近から日本海へ3発の短距離弾道ミサイルを発射しました。これにより、2022年の1年間に過去最多の約70発の弾道ミサイルを発射したことになります(これまでは、2019年の25発が最多でしたので、2022年がいかに突出していたかが分かります)。北朝鮮が核・ミサイル開発に注力するのは、旧ソ連製の戦闘機を使うなどしている通常兵器の戦力が米韓などに圧倒的に劣るためであり、2018年からの米国との交渉は2019年に決裂し、当面は制裁の緩和や体制保証を望めないとの判断から、核戦力を高めて米国に「核保有国」と認めさせることを優先させているとみられています。2022年も少なくとも半数超が実戦を意識した訓練だったとみられ、ミサイルや砲弾、無人機など多様な兵器を使い、米韓との戦闘を優位に進める力を持とうとしていることの表れだといえます。2018年の米朝交渉以前のミサイル発射は、対米交渉を見据え意図的に緊張を高める「外交戦」の側面で主に解説されてきましたが、最近の発射は米韓に対する軍事的な抑止力をめざす狙いが色濃いものといえ、米韓訓練に対応する形で発射能力を見せつけつつ、(大陸間弾道ミサイル(ICBM)から短距離弾道ミサイルまで、変速軌道での発射、あるいは連続したり移動しながら発射したり、さらには潜水艦からの発射、昼夜時間帯を問わず発射など、多種多様な形で実践訓練を繰り返しているほか)米韓にとってやっかいな新型兵器の開発も続けており、核や偵察能力も誇示し、米韓と「対等」だと印象づけようとしているものと考えられます。また、2022年はロシアのウクライナ侵攻を機に国際社会の分断が深まり、北朝鮮にとってミサイル発射を断行しやすい環境になったといえ、発射を許せば許すほど、ミサイル攻撃の運用能力と新型弾の開発を同時に進める機会を与えることにつながったともいえます。さらに、本コラムでたびたび紹介しているとおり、こうした核・ミサイル開発の資金源としてサイバー攻撃による暗号資産の奪取やエネルギー資源や水産物の密輸入などが指摘されるところであり、約70発ものミサイルを撃ったのは国連などによる経済制裁が効いていないことの証左で、国際社会の対北朝鮮政策も再考が必要な状況にあるといえます。
それに先立つ12月23日には、日本政府が「国家安全保障戦略」など安保3文書を閣議決定し、「反撃能力」(敵基地攻撃能力)の保有を明記したことに対し、「わが国がどれほど不快に思うか、実際の行動で示す」とする談話を出していたことを受けて、また、国連総会が12月15日に北朝鮮の人権被害を強く非難する決議を18年連続で採択したことに対する反発として、さらには、米国が、11月のICBM発射を「最も強い表現」で非難する議長声明案を安全保障理事会(15カ国)の理事国に提示したことを受けて(北朝鮮外務省の報道官は「主権に対する無視で、内政干渉のたくらみだ」などと米国を非難する談話を発表、議長声明の提案について「我々が必ず行動で反撃しなければならない、極めて危険な行為だ」として強く反発し、「米国の妄動を厳正に見守っている」と米国をけん制しています)、短距離弾道ミサイル2発を発射、変速軌道で飛行した可能性があるとされます。さらに12月18日にも弾道ミサイル2発を発射、発射体を通常より高角度で発射して高度500キロ・メートルまで到達させ、宇宙環境での撮影機の運用技術や、通信装置の伝送能力などの技術的指標を確認したといい、韓国軍合同参謀本部は、準中距離弾道ミサイルを高角度で打ち上げ、飛行距離を抑えたと分析しています。北朝鮮は過去にも偵察衛星の開発と称して弾道ミサイルを発射しており、2023年春まで引き続き、ミサイル発射を行う可能性が指摘されています。一連のミサイル発射について、北朝鮮は、韓国が北朝鮮の兵器開発を邪魔していると非難するとともに、追加制裁によってミサイル開発を止めることはないと表明しています。国営の朝鮮中央通信(KCNA)が、金正恩朝鮮労働党総書記の妹、金与正氏の声明として、偵察衛星の開発は「北朝鮮の安全保障に直結する喫緊の優先事項」だと表明、韓国は北朝鮮に追加制裁を科そうと国際社会に必死に求めているとした上で、「われわれの存続と発展の権利が脅かされている状況で、われわれは既に繰り返されてきた制裁をどうして恐れ、立ち止まるだろうか」と述べたと伝えています。
また、米国拠点の北朝鮮分析サイト「38ノース」は、北朝鮮北西部東倉里の西海衛星発射場の改良が続いていると指摘し、より大型のミサイルを打ち上げる能力の獲得を着々と進めているとの見方を示しています。さらには、北朝鮮の朝鮮中央通信は、北朝鮮で戦略兵器開発を担う国防科学院の研究所が12月15日午前に北西部、東倉里の西海衛星発射場で初の推力140トンの高出力固体燃料エンジンの地上燃焼実験を行い、成功したと報じており、新型ICBM用とみられ、核・ミサイル開発の一層の加速を誇示した形となっています(北朝鮮のICBMは現在、液体燃料式を採用していますが、固体燃料式は、発射直前の燃料注入が不要で迅速に発射でき、防御する側は事前の察知が難しくなるとされます)。なお、この実験には金正恩朝鮮労働党総書記も視察に訪れており、「最短の期間内での別の新型戦略兵器の出現」に期待を示すなど、実験が最終段階に入ったことを推測させます。
一連の北朝鮮のミサイル発射を受けて、日韓両政府が、北朝鮮のミサイルを探知・追尾するレーダー情報を即時共有する方向で検討を始めているといいます。両国のシステムを米国経由で一部連結する案が浮上、実現すれば、ミサイルの飛行データをより早く把握できるようになり、ミサイル防衛や国民への情報発信などの能力向上につながると考えられます。背景には、米国の強い危機感があるとされます。そのあたりについては、2023年1月1日付読売新聞の記事「北ミサイルに強い危機感、米が情報共有を後押し…日韓の信頼関係に課題」に詳しく、以下、抜粋して引用します。
また、北朝鮮の軍事行動の背後にあるものについて分析した2023年1月13日付日本経済新聞の記事「「空」への恐怖、北朝鮮がミサイル・無人機に頼る論理」も興味深い内容です。以前の本コラムでも、北朝鮮のミサイル発射動向が、米国の空母の動きとリンクしているとの分析結果を紹介しましたが、本記事でも同様の分析のもと、深刻さが増す状況にあると感じさせます。以下、抜粋して引用します。
北朝鮮のハッカー集団「キムスキー」が、韓国の外交・安全保障の専門家ら892人にサイバー攻撃を仕掛け、少なくとも49人の個人情報を盗んだと指摘されています。報道によれば、キムスキーは2022年4~10月、脱北して現在は韓国国会議員を務める太永浩北朝鮮元駐英公使の秘書や、韓国外務省傘下のシンクタンク名義でメールを大量に送信、偽のリンクサイトにIDやパスワードを入力させるなどし、対象者の住所録やファイルデータを抜き取ったとされます。メールは26カ国計326台のサーバーを乗っ取り追跡を回避、韓国の警察当局は、2014年、韓国で原発などを運営する「韓国水力原子力」にサイバー攻撃を起こしたことがある「キムスキー」の手口と類似し、ハッキングの過程で北朝鮮特有の語彙が使用されていたことなどから北朝鮮組織の犯行と結論付けています。太議員は会見で「メールの精巧さに驚いた。私も議員室のメールと勘違いするほどだった」と話しています。北朝鮮では別組織の「ラザルス」など、複数のハッカー集団が活動しています。ラザルスなどは2022年3月、人気オンラインゲームから、暗号資産窃取事件としては過去最大規模となる6億2千万ドル(約822億円)を盗んだことが判明しています。また、別のハッカー集団「APT37」についてもその動向が報じられています。北朝鮮政府の支援を受けた「APT37」が、韓国のユーザーにマルウエア(悪意のあるソフト)を配布するため、ハロウィーン時にソウルで起きた群衆転倒事故を悪用したというものです。米グーグルの脅威分析グループ(TAG)がこのような内容の報告書を出しており、この事故に関する政府報告書を装ったマイクロソフトのソフトウエア「オフィス」文書にマルウエアが埋め込まれていたもので、「APT37」は、韓国のユーザー、脱北者、政策立案者、ジャーナリスト、人権活動家をターゲットにしているといいます。TAGは「この出来事は広く報道されており、この手法は世間の関心の高さを悪用したものだ」と指摘しています。
以前の本コラムでも日本の事例を紹介しましたが、韓国政府は、国籍や身分を偽った北朝鮮のIT人材を雇用しないよう韓国企業に求める「注意報」を発表しています。北朝鮮のIT人材が海外各地で毎年数億ドルの外貨を稼ぎ、相当部分が核・ミサイル開発に使われていると指摘、北朝鮮はIT技術の熟練度の高い数千人をアジアやアフリカなど各地に派遣、国籍や身分を偽装してビジネスや健康、スポーツ、ゲームに関するアプリ開発などを受注して毎年数億ドルの外貨を稼いでいるとみられ、韓国政府は「相当数が軍需工業や国防関連の機関の所属で、稼いだ資金の多くは上納され、核・ミサイル開発に使われている」として、北朝鮮のIT人材に仕事を発注し費用を払う行為は「国内法や国連安全保障理事会の制裁決議に抵触する恐れがある」と注意を促しています。韓国の政府系シンクタンクの分析では2022年の発射コストは6月までで最大6億5000万ドル(約890億円)としており、年間では10億ドルを超えるとみられています。北朝鮮系ハッカー集団のサイバー攻撃が資金調達につながっているとの見方のほか、これに加えてIT人材の海外活動も開発資金づくりの一翼を担っている可能性があります。関連して、北朝鮮の駐英公使だった2016年に韓国に亡命し、現在、韓国与党の国会議員を務める太永浩氏が、ソウルで読売新聞や産経新聞などのインタビューに応じ、弾道ミサイルの発射を続ける北朝鮮の資金源がサイバー攻撃で窃取した暗号資産や兵器の密輸だと指摘しています。また、北朝鮮が7回目の核実験を行うタイミングについて、超大型核弾頭の開発が影響するとの見通しを明らかにしています。報道によれば、太氏は「北朝鮮は国をあげてハッカーを養成している」と述べ、ハッキングで盗んだ暗号資産が資金源になっているとの見方を示しています。中東などへの兵器・軍事技術の移転や麻薬などの不法取引に加え、中国からの経済援助(無償援助)も有力な資金源だと指摘、「最近、習近平国家主席と金正恩朝鮮労働党総書記が以前より交流していることが注目される」と語っています。
一方、韓国政府が2023年1月に発刊予定の2022年版国防白書の草案に「北朝鮮の政権と北朝鮮軍はわれわれの敵」との記載があることが分かりました。北朝鮮を「敵」とみなす表記の復活は2016年版以来となるといいます。文在寅前政権は南北融和ムードの高まりを背景に、2018年版以降「敵」の表記を削除してましたが、尹錫悦大統領は、就任前から「主敵は北朝鮮」と明言し、表記の変更に意欲を示していたものです。韓国統一省関係者は、北朝鮮について「軍事的脅威であると同時に、対話と協力の対象」でもあると説明、「国防当局が『敵』という表現を使ったのは任務の特性によるもの」と述べ、引き続き南北対話を進めると強調しています。韓国は1994年の南北協議で、北朝鮮側が「戦争が起きればソウルは火の海になる」と発言したことを問題視し、その後、国防白書で北朝鮮を「主敵」と明記、政権交代のたびに、白書での北朝鮮の位置付けが保守、革新勢力間で論争となっています。
米韓両軍は2023年2月、北朝鮮の核兵器使用を想定した「拡大抑止手段運用演習」を実施するとしています。米ホワイトハウスのジャンピエール報道官も、北朝鮮による核兵器使用を含めた有事に対応する計画を米韓両国が協議中だと明らかにしていました。2月の演習は机上演習で、この計画の一環とみられています。北朝鮮は2022年、類を見ない頻度で弾道ミサイル発射を繰り返し、2022年末に開かれた朝鮮労働党中央委員会拡大総会で金正恩党総書記が戦術核兵器を大量生産していく方針を示すなど、核・ミサイル開発を一層加速化させる姿勢を鮮明にしており、米韓両国は2023年も合同軍事演習の規模や範囲の拡大で対抗していく方針とみられています。
北朝鮮の朝鮮労働党機関紙、労働新聞は、党と国家の政策が2022年「輝く勝利」を遂げたとする記事を掲載、国防と新型コロナウイルス感染症対策、農村改良、住宅建設と教育水準の向上の各分野で成果を上げたと指摘しています。北朝鮮では食料事情が切迫しているとされますが、国家運営は成功していると強調する狙いがあるとみられています。記事は、2022年は新型コロナ感染症の拡大と自然災害、敵対勢力の孤立圧迫策動によって「文字通り最大の国難の年」だったと指摘、これを乗り切ったとして「今年を分岐点としてわが国の歴史は根本的に変わることになった」と主張しています。その後、2022年末、北朝鮮の金正恩総書記は、平壌で開催した党中央委員会拡大総会で、朝鮮半島につくり出された「新たな挑戦的形勢」や国際情勢を分析し、国益を守るために堅持すべき対外政策の原則と「対敵闘争」の方針を示し、「敵」として韓国や日米を念頭に、米韓合同軍事演習や日米韓の共同訓練に対抗し、ミサイル発射などを繰り返した日米韓への対決姿勢を一層強める可能性があります。また、人民大衆の思想文化を根本的に改めることや社会的愛国運動を一層強化する方針にも言及、米国主導の制裁や新型コロナウイルス禍による経済難で住民の不満がくすぶる中、社会の引き締め策も講じています。さらに、北朝鮮の朝鮮中央通信は、金正恩総書記が2023年の目標に「核弾頭の保有量を幾何級数的に増やすことが求められている」と演説し、核弾頭の保有数を大幅に増やす、戦術核兵器の大量生産を掲げたと伝えています。新たなICBMの開発や軍事衛星の打ち上げにも意欲を示し、軍事力強化を進める米韓に対抗する姿勢を鮮明にしています。また、核戦力強化の目的について、戦争抑制が「第1の任務」とした上で、「抑制に失敗した場合、第2の使命も決行する。第2の使命は防衛でない別のものだ」と強調し、状況によっては核兵器の使用がありうると仄めかしています。さらに、北朝鮮が開発を進める「軍事偵察衛星」について、「最短期間内に打ち上げる」との方針も発表されています(2022年にも偵察衛星の打ち上げと称して、弾道ミサイルを複数回発射しています)。ICBM開発を巡っては「迅速な核反撃能力を基本使命とするもう一つの大陸間弾道ミサイル体系を開発する」と説明、実験を重ねてきた「火星15」や「火星17」とは違う新たな兵器の開発を示唆し、(前述したとおり)かねて目標としている固体燃料型のICBMを指すとみられています。なお、核兵器の軽量化や固体燃料のICBMなど、まだ新たな技術を確かめた形跡がない開発案件もある中、5カ年計画の達成には追加の核実験が必要との見方が多く、米国との対立激化を招くことに加え、中国との関係悪化にもつながりかねず、慎重に時期を選んでいると考えられます。加えて、北朝鮮が2022年12月31日と2023年1月1日未明に日本海側に向けて発射した短距離弾道ミサイル計4発について「超大型放射砲(多連装ロケット砲)」だったとしています。北朝鮮がこれまでも発射を繰り返してきた超大型放射砲に関し、日米韓は短距離弾道ミサイルに分類、朝鮮中央通信によると、金正恩総書記は、このミサイルに関する式典で、超大型放射砲は「南朝鮮(韓国)全域を射程に収め、戦術核まで搭載可能だ」と説明、このミサイルが今後、「われわれの核心的な攻撃型兵器として敵を制圧する使命を遂行することになる」と主張しています。また、金氏は「党と政府は敵の妄動に『核には核、正面対決には正面対決』で断固対応する意志を宣言した」と強調、対北抑止力の強化を確認し、合同軍事演習を拡大する米韓に対し、軍事的な行動で応じる構えを鮮明にしています。なお、31日の3発は、軍需部門を統括する第2経済委員会が抜き打ちテストとして発射し、1日未明には、西部地域の砲兵部隊が引き渡された超大型放射砲1発を発射したとしており、このミサイルが実戦配備されたことを示しています。
韓国軍は、北朝鮮の無人機5機が2022年12月26日午前10時25分頃から、南北の軍事境界線を越えて韓国北西部の領空に侵入したと明らかにしています。北朝鮮無人機による領空侵犯が確認されたのは2017年以来で、韓国軍は戦闘機や攻撃ヘリコプターを出動させ、撃墜を試みたが、失敗したということです。報道によれば、無人機は翼の長さが約2メートルの小型で、5機のうち、1機はソウル首都圏の北部地域まで一時接近し、領空侵犯から約3時間で北朝鮮側に戻ったといいます(軍は当初否定していましたが、実は、ソウル中心部の大統領府上空一帯に設定された飛行禁止区域(半径3.7キロ・メートル)を通過していたことが判明しました)。4機は江華島一帯を飛行し、その後、姿を確認できなくなったとされます。韓国軍は、警告射撃を実施した上で、攻撃ヘリから100発ほど射撃して撃墜を試みたものの、墜落による住民への被害を懸念したこともあり、結果的に撃墜できなかったとのことです。前述したとおり、北朝鮮は核やミサイルと並行して、偵察用無人機の開発を進めており(韓国の情報機関「国家情報院」は2023年1月5日の国会情報委員会で、北朝鮮が無人機約20種類を約500機保有していると報告しています)、今回の無人機による領空侵犯は、偵察目的だった可能性があります。
米政府高官は、ウクライナ侵攻に加担するロシアの民間軍事会社「ワグネル」に対し、北朝鮮が武器を売却したと明らかにしています。侵攻開始後、北朝鮮がロシアに武器を提供したことが確認されたのは初めてとなります(「ワグネル」の創設者エブゲニー・プリゴジン氏は、「臆測に基づき多言を弄している」と関与を否定、北朝鮮からではなく、米国製の武器を大量に調達していると主張、米国製が問題視されず、北朝鮮の疑惑が持ち出されるのは「不公平」だと反発しています)。事実であれば、北朝鮮が武器売却で得た資金により核・ミサイル開発が進む恐れもあり、国際社会で非難の声が強まることは必至です。本コラムでたびたび指摘しているとおり、国連安保理決議は北朝鮮との武器の輸出入を禁止しており、北朝鮮は2016年以降の国連制裁強化に加え、2020年1月からの新型コロナウイルス対策の国境封鎖で輸出が急減し、外貨不足に陥っているとみられ、窮状を打開するため、制裁違反の密輸やサイバー攻撃などの違法な手段を使っています。北朝鮮は、新型コロナ対策を緩和し、2022年11月にロシアとの間で貨物列車の運行を再開しています。この点については、北朝鮮を監視している米シンクタンク「38ノース」は、衛星画像に基づき、ロシアからの貨物が北朝鮮の車両基地に山積みにされているようだとの見解を示しています。38ノースは11月下旬から12月上旬にかけて豆満江駅の様子を捉えた画像から、両国間の貿易再開が順調に進んでいることがうかがえると指摘しました。ただ、中国からの貨物向けに設けたような大規模な検疫施設が設置されていないことから、ロシアからの貨物量が中国の貨物量を上回る可能性は低いとし、その上で、コロナ感染が落ち着くに伴い北朝鮮が世界に国境を開きつつある兆しだと指摘しています。また、中国税関総署が2022年12月20日に発表した貿易統計で、北朝鮮が11月に中国から約3万172トンのコメを輸入したことが判明しています。急増した10月よりさらに大幅に増え、1カ月の輸入量では今年最多となっており、食料事情が逼迫している可能性が考えられるところです。ほかに、10月に続き2カ月連続で500万個超の注射器を輸入しています。金正恩総書記は9月に新型コロナウイルスのワクチン接種を行うと表明し、その後接種を始めたとの情報があります。北朝鮮は2019年には中国から年間16万トン超のコメを輸入、2020年1月末に感染対策で国境を事実上封鎖した後、中国からのコメ輸入は2年以上停止していましたが、2022年3月に再開、10月の約1万6450トンを含め、同月までに計約2万7350トンを輸入しています。11月の貿易額は国境封鎖前だった2019年11月の約45%の規模に当たる約1億2572万ドル(約166億円)で、北朝鮮の中国からの輸入額は同43%の約1億1388万ドル、中国への輸出額は同64%の約1184万ドルだったといいます。
その他、北朝鮮を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。
- 北朝鮮は、国会に相当する最高人民会議を2023年1月17日に平壌で開くことを決めています。2022年末に開催予定の朝鮮労働党中央委員会総会での党や国家の政策方針決定を受け、2023年の内閣の事業や国家予算を審議、「平壌文化語保護法」の採択などについても討議するとしています。北朝鮮国内では近年、韓国ドラマをひそかに見る若者らの増加で韓国風の話し言葉が流行し、当局が取り締まりを強化しているとされます。同保護法を制定することで統制の一層の厳格化を図る狙いがありそうです。
- 前述したとおり、国連安全保障理事会は、北朝鮮の人権状況について非公開会合で討議、会合に合わせて、米英仏などの理事国と日韓も含めた31カ国は、北朝鮮による強制労働などの人権侵害は「(核兵器や弾道ミサイルといった)非合法で不安定な兵器開発と表裏一体だ」などと非難する共同声明を発表、拉致被害者の即時帰国も要求しています。共同声明に加わった国は2021年の7カ国から4倍以上に増えました。共同声明では「(北朝鮮は)10万人以上を政治犯収容所で拘束し、人々は拷問や強制労働、処刑、飢餓、ジェンダーに基づく暴力などの虐待を受けている」と指摘、「国民が深刻な経済的困難と栄養失調に苦しんでいるにもかかわらず、抑圧的な政治情勢が、資金や人員を兵器開発に回す強制的な統治体制を可能にしている」と批判しています
- 北朝鮮は2023年1月8日、金正恩朝鮮労働党総書記の誕生日を迎え、39歳になったとみられていますが、権威を高める誕生日に合わせた行事の開催は2023年も行われませんでした。平壌郊外では2022年12月から軍事パレードの練習が行われていますが、北朝鮮は2023年2月8日の朝鮮人民軍創建75年記念日を重視している様子で、韓国はこの日に軍事パレードが行われる可能性があると見ています。また、日米韓は、準備が整っていると見る7回目の核実験も警戒しています。金正恩総書記は2022年末の党中央委員会拡大総会で、韓国攻撃用の戦術核兵器を大量生産する重要性を強調し韓国への軍事的圧力を強め、一方で建設分野を除く経済や農業に関する北朝鮮メディアの報道は少なく、これら市民生活に直結する分野の状況を当局が深刻に見ている可能性があります。
- 北朝鮮で金正恩総書記に続く軍序列2位だった朴正天氏が2022年末に突如解任されましたが、その理由について、韓国の情報機関「国家情報院」は、訓練の未熟さや指揮統率不足の責任を問われたためと国会情報委員会に報告しています。金正恩総書記はこの機に軍首脳部を一挙に交代させたといい、国情院は「正恩氏の軍掌握力を高める目的」があったとも報告しています。
日本においては、北朝鮮の弾道ミサイルに備えるため、地下施設などのシェルターの充実や周知、Jアラート(全国瞬時警報システム)の運用改善が喫緊の課題となっています。参考になるものとして、台湾の取組みがあります。中国からの軍事的圧力を受ける台湾は、空爆などに備えた緊急避難先としてシェルターを全土に10万カ所以上整備しているといい、2022年8月に中国人民解放軍が台湾周辺で大規模な軍事演習を実施した後は、住民の間でも緊張感が高まり、地域ごとに退避訓練を実施するなど、有事への備えを進めているといいます。台湾当局によると、シェルターは全土に約10万5000カ所あり、台湾の総人口の3倍を超える約8600万人を収容できるとされます。さらに、台湾当局は住民への周知を強化しており、2021年4月には近くにあるシェルターの場所が地図上で一目で分かるスマートフォンのアプリを導入しています。米下院議長だったペローシ氏訪台後も、中国軍機が台湾海峡の「中間線」を台湾側に越える事案が相次ぎ、緊張は常態化している状況にあります。一方の日本においては、各都道府県などは着弾に備えた緊急一時避難施設の指定を急いでいる状況にあります。政府は施設が約5万2千カ所に達した2021年4月から5年間を集中的な取り組み期間と位置付け、自治体に一層の指定を求めてきましたが、施設の場所や近くに施設がない場合の対応など住民への周知は十分とはいえず、万が一の際に機能しない可能性もあります。政府が整備を進める緊急一時避難施設は、他国からのミサイル攻撃などで生じる爆風などから一時的に身を守るための避難先で、Jアラートが発令された際、屋外にいる人が逃げ込む施設として想定されています。ただ、その運用を巡っては課題も多く、そもそもどこに施設があるかを把握している住民は少なく、11月3日にJアラートが発令された宮城、山形、新潟3県では、実際にはミサイルが上空を通過しなかったものの、発令直後も活用が進まなかったとの指摘もされています。山形県ではミサイル着弾時の爆風などから身を守る緊急一時避難施設を増強する方向で各市町村と調整を進めているといいます。県内に563か所(2021年4月1日現在)ある施設を200か所以上増やす方針とのことです。ただ、施設の存在が県民に浸透しておらず、周知が課題となっています。緊急一時避難施設は、山形県内全35市町村にあり、コンクリート造りの体育館などが指定されていますが、このうち、25か所は地下道で、山形市など7市町にあります。秋田県も、ミサイル着弾時の爆風などから身を守る「緊急一時避難施設」について、地下道約30か所を2022年度中に新たに指定する方向で調整しているといいます。すでにコンクリート造の学校校舎などが指定されていますが、地下施設は一般の建物よりも、被害を減らす効果が期待できるとされ、地下施設の指定は県内では初めてとなります。緊急一時避難施設は国民保護法に基づいて知事などが指定することになりますが、ミサイル着弾時の爆風や破片による被害を減らすための施設で、屋外にいる避難者が1~2時間程度身を寄せることを想定しているといいます。コンクリート造の学校校舎や公民館など県内全25市町村に677か所(11月8日時点)ありますが、北朝鮮の相次ぐミサイル発射を受け、県は爆風などの被害をより減らせる地下施設の指定を調整しています。地下鉄の駅や地下街が整備された都市部とは異なるため、指定される地下施設は全て地下道となる見込みだといいます。一方、北朝鮮のミサイル発射時に緊急情報を伝えるJアラートについて、政府は、発令対象を隣接する都道府県も含めた地域に拡大すると発表しています。これまで対象は都道府県単位だったところ、発令のタイミングが遅いとの批判を踏まえ運用を改めることにしたもので、今後、約半年かけてシステムを改修し、2023年夏からの本格運用を目指すとしています。報道によれば、2022年10月4日に発令されたケースに当てはめると、運用改善によってミサイルの発射情報の送信時間は1分程度短縮されるとのことです。内閣官房によると、これまでは防衛省からの情報をもとに、ミサイルの予測飛翔範囲がある程度確定してから都道府県に絞って発令していましたが、今後は、住民の避難時間を確保する観点から、予測飛翔範囲がある程度確定する前の段階で発令することとし、発令対象が拡がることになります。
山形県酒田市宮野浦の宮野浦海岸で、砂浜に木造船の一部とみられる木片が漂着しているのを近くの住民が発見、酒田海上保安部の発表によれば、木片は長さ5.4メートル、幅2.8メートルで、船の船首部分とみられており、北朝鮮の木造船の特徴である黒色のコールタールのようなものが塗られていたといい、北朝鮮からとみられる木造船などの漂着が山形県内で確認されたのは、今冬初めてだということです。北朝鮮からの漂流船の問題は以前からありますが、コロナ禍で出漁自体が激減したこともあり、漂着した数も大きく減少しているようです。漂着した船に北朝鮮からの密入国者が潜んでいる可能性もあり、引き続き警戒していく必要があります。
北朝鮮産のシジミを国内産と偽って卸売業者に納品したとして、山口県警などは、同県下関市の水産物販売会社「満珠水産」の関係先などを不正競争防止法違反(誤認惹起)容疑で捜索しています。同県警などは、日本から北朝鮮に資金が流れた疑いがあるとみて押収物の分析などを進めているとのことです。外務省によると、北朝鮮からの水産物の輸入は国連安保理決議に伴う日本政府独自の制裁措置によって禁止されており、山口県警などはシジミの輸入過程でロシアや中国、韓国を経由した疑いもあるとみて、外為法違反も視野に捜査しています。当然のことながら、こうした密輸取引による資金が北朝鮮に流れることで、核・ミサイル開発を助長することに直結します。IT技術者の採用の問題とあわせ、日本の事業者においても、十分な注意を払って取引を行うことが求められています。
3.暴排条例等の状況
(1)暴力団排除条例に基づく勧告事例(群馬県)
群馬県警組織犯罪対策課は、群馬県内の自動車販売業者に対し、群馬県暴排条例違反に基づく勧告を行っています。同事業者は2022年1月ごろ、相手が暴力団員と知りながら、乗用車1台を販売したということです。
▼群馬県暴排条例
同条例第17条(金品等の供与の禁止)において、「事業者は、その行う事業に関し、暴力団員等又は暴力団員等が指定した者に対し、情を知って暴力団の活動を助長し、又は暴力団の運営に資することとなる金品その他の財産上の利益(以下「金品等」という。)の供与をし、又はその申込み若しくは約束をしてはならない」規定されており、本事例はこれに抵触したものと考えられます。そして、第23条(勧告)において、「公安委員会は、違反行為があった場合において、当該違反行為が暴力団排除に支障を及ぼし、又は及ぼすおそれがあると認めるときは、公安委員会規則で定めるところにより、当該違反行為をした者に対し、必要な勧告をすることができる」と規定しています。
(2)暴力団排除条例に基づく勧告事例(神奈川県)
神奈川県公安委員会は、神奈川県暴排条例に基づき、解体業で稲川会系組員に、暴力団である事実を隠すために他人名義を利用しないよう、会社員に暴力団員に名義貸しをしないよう、それぞれ勧告しています。報道によれば、男は、自身が住む目的で横浜市内のマンション1室を賃借するに当たり、2020年10月、男性の名義で賃貸借契約を締結させたというもので、2人は建設関係の仕事現場で知り合ったといいます。神奈川県警は、2人を詐欺容疑で、それぞれ横浜地検に書類送検しています。
▼神奈川県暴排条例(2022年11月1日施行)
同条例第26条の2(名義利用等の禁止)では、第1項で「暴力団員は、自らが暴力団員である事実を隠蔽する目的で、他人の名義を利用してはならない」とされ、第2項で「何人も、暴力団員が前項の規定に違反することとなることの情を知って、自己又は他人の名義を暴力団員に利用させてはならない」と規定されています。また、第28条(勧告)「公安委員会は、第23条第1項若しくは第2項、第24条第1項、第25条第2項、第26条第2項又は第26条の2第1項若しくは第2項の規定に違反する行為があった場合において、当該行為が暴力団排除に支障を及ぼし、又は及ぼすおそれがあると認めるときは、公安委員会規則で定めるところにより、当該行為をした者に対し、必要な勧告をすることができる」との規定に基づき、今回の勧告がなされたものと思われます。
(3)暴力団対策法に基づく中止命令発出事例(長野県)
長野県警上田署は、六代目山口組傘下組織から脱退しようとした60代男性に対し妨害したとして、同組織の首領と幹部の男2人に暴力団対策法に基づく中止命令を出しています。報道によれば、2人は2022年12月中旬、60代の男性に対して、「顔を見せろ、また連絡する、金はどうするの」などと脅かし、傘下組織からの脱退を妨害したといいます。なお、2022年に長野県内で指定暴力団員に対する中止命令を発出したのは、今回の2件を含め6件ということです。
▼暴力団対策法(暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律)
暴力団対策法第16条(加入の強要等の禁止)第2項において、「前項に規定するもののほか、指定暴力団員は、人を威迫して、その者を指定暴力団等に加入することを強要し、若しくは勧誘し、又はその者が指定暴力団等から脱退することを妨害してはならない」と規定しています。そのうえで、第18条(加入の強要等に対する措置)において、「公安委員会は、指定暴力団員が第十六条の規定に違反する行為をしており、その相手方が困惑していると認める場合には、当該指定暴力団員に対し、当該行為を中止することを命じ、又は当該行為が中止されることを確保するために必要な事項(当該行為が同条第三項の規定に違反する行為であるときは、当該行為に係る密接関係者が指定暴力団等に加入させられ、又は指定暴力団等から脱退することを妨害されることを防止するために必要な事項を含む。)を命ずることができる」と規定しています。
(4)暴力団対策法に基づく中止命令・再発防止命令発出状況(北海道)
2022年12月30日付北海道新聞によれば、暴力団員らによる金品要求などを禁じる暴力団対策法に基づき、北海道公安委員会が出した中止命令・再発防止命令が2022年11月末時点で計46件と、前年比で3倍弱、過去5年平均の2倍となったということです。ピークの2004年以降は減少傾向だったものの、2022年は(本コラムでも取り上げた)滝川市の暴力団員らが飲食店約20店から「みかじめ料」を徴収していたことが発覚し件数が増えたものです。北海道警は各地でみかじめ料の授受が潜在化していると分析、歳末は飲食店などに対する縁起物の押し売りも懸念され、警戒を強めていると報じています。