暴排トピックス

「情報の非対称性」と「目利き力」~見えないものを見抜く力を磨こう

2024.07.09
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首席研究員 芳賀 恒人

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大勢の中から一人を虫眼鏡で発見するイメージ

1.「情報の非対称性」と「目利き力」~見えないものを見抜く力を磨こう

前回の本コラム(暴排トピックス2024年6月号)でも取り上げましたが、不正に開設した法人口座を悪用したマネー・ローンダリング事件では、傘下に立ち上げたペーパーカンパニーの銀行口座を使って、犯罪収益と知りながらマネー・ローンダリング(マネロン・資金洗浄)を繰り返したとして、大阪府警は、富山市の会社関係者らを組織犯罪処罰法違反(犯罪収益隠匿)や詐欺などの疑いで逮捕しています。容疑者らは約500社の法人口座を悪用し、特殊詐欺やSNS型投資詐欺、マルチ商法(連鎖販売取引)の被害金や違法なオンラインカジノの賭け金などとみられる犯罪収益・約700億円を海外口座(多くは東南アジアの国々)に移すなどしてマネロンし、犯罪組織に還流させていたとみて捜査しています(入金された金の6割超がオンラインカジノの賭け金だったといいます。また、容疑者らのグループが数%、およそ28憶円の手数料を得ていたと見られています)。報道によれば、逮捕されたのは富山市の会社「リバトン」の役員らで、「収納代行サービス業」を自称、SNSなどで報酬を渡すとして募った人物を代表とするペーパーカンパニーを約500社設立し、約4000口座を管理していたといいます。さらに、同容疑者らはSNSなどでつながり強盗などを繰り返す「匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ・匿流)」と呼ばれる犯罪組織の依頼を受け、マネロンを請け負っていたとみられています。前回の本コラムでは、「彼を知り己を知れば百戦百戦殆うからず」という格言を持ち出し、「本来、金融機関が目指すべきリスク管理のあり方ですが、本事件ではトクリュウを中心とした犯罪グループが見事に体現したものと言わざるを得ません。「単一の金融機関は、トランザクションの一部しか把握しておらず、多くの場合、大きくて複雑なパズルの小さなピースしか見ていない」というFATFの指摘する脆弱性を突き、金融機関の実務を深く知り、マニュアルや応酬話法など対策を十分練ったうえで、最新の犯罪インフラを駆使して数多くのペーパーカンパニーを設立、数多くの口座開設を実現させ、巨額のマネロンを鮮やかに完遂してしまいました。さらに犯行主体であるトクリュウは「闇バイト」により自らのリスク管理を徹底する仕事ぶりには驚きを禁じ得ません。残念ながら、私たちは、私たちの敵をより深く知り、自らの脆弱な部分を省みることから始める必要があります。二度と犯罪グループを利するような過ちを繰り返すわけにはいかないのです」と指摘しました。

あらためて分析すると、金融機関にとっての「自らの脆弱な部分」であり、「敵が突いてきた脆弱な部分」の最たるものは、「法人の実態確認」実務における脆弱性ではないでしょうか。ペーパーカンパニーの口座開設を認め、その実態と資金の流れの齟齬を見抜くことができなかった(実務上のハードルが相当高いことを認識したうえでの指摘です)点が、本事件から学ぶべき最大の課題だと思われます。

本事件以前から金融機関が法人取引に慎重になっている背景にあるのは、「法人」という存在自体が犯罪や不正に悪用されるケースが増えていることが挙げられます。とりわけ、昨今、金融機関に厳しく求められているAML/CFTの観点や反社会的勢力対策、オレオレ詐欺や還付金詐欺などの特殊詐欺、SNS型投資詐欺・ロマンス詐欺対策、フィッシング詐欺対策、金融商品詐欺や銀行口座の売買をはじめとする金融犯罪対策といった観点では、実質的支配者が不明または反社会的勢力であるような法人や実在しないペーパーカンパニーといった「法人」が悪用されている実態があります。そのため、法人の実態確認をこれまで以上に厳格に行うことが求められているといえます。そもそも、実態が不透明な法人がマネー・ローンダリングに悪用された事例や犯罪収益が法人等の事業経営支配に悪用された事例としては、以下のようなものがあります。

  • 第三者を代表取締役として設立された会社の実質的支配者が、詐欺による犯罪収益を同社名義の口座に隠匿した。
  • 知人に依頼して実態のない株式会社を設立させて開設した同社名義の口座に、正当な事業収益を装って、売春による犯罪収益を隠匿した。
  • 犯罪収益を、複数の実態のない会社の口座を経由させた後、金融機関の窓口で払い戻した。
  • 実態のない法人名で、インターネット上の電子書籍販売に関する副業のあっせんを行うウェブサイトを開設し、当該副業のあっせんを申し込んできた者から、サーバーのバージョンアップに関する必要費用等の名目で現金を架空名義の口座に振り込ませてだまし取った。
  • 特殊詐欺で得た電子マネーギフト券の利用権を取得するため、実態のない電子マネー売買業者間による架空取引を利用し、同ギフト券の利用権が正規の取引により取得されたものであるかのように装った上、現金化した。
  • 外国において発生した詐欺等の被害金を、実態のない法人名義の口座に振り込ませた。
  • 実態のない会社を設立した上、金融機関から融資金目的をかたってだまし取った金銭を、同社名義の口座に振り込ませた。
  • 不法就労の外国人を稼働させて得た収益を隠匿するために、既に廃業となっている親族が経営していた会社名義の口座を利用した。
  • 実態の不透明な法人を国外の租税回避地に設立し、同法人名義の口座を外国の銀行で開設した上、著作権法違反による犯罪収益を振り込ませた。
  • 無許可で飲食店を経営して得た不法な収益を法人設立の際の株式取得のための出資金とし、発起人としての地位を取得した上、自らを法人の代表者として、事情を知らない司法書士に依頼し、会社設立の登記をした

また、AML/CFTの実務において、法人取引の際のチェックとして役立つと思われるのが、「疑わしい取引の届出事例」ですが、危険度調査書では、顧客属性や事業内容、取引形態等に着目した届出事例として、以下のようなものが紹介されています。

  • 本人確認書類等の資料提出を拒まれるほか、事業内容や取引目的等について説明を求めるも明確な回答が得られないもの
  • 役員や法人に関連する口座名義人が暴力団をはじめとする反社会勢力であることが判明したもの
  • 登記住所や申告された電話番号を確認するも、事務所や店舗が存在しない又は電話がつながらないもの
  • 登記された事業目的の数が合理的な理由なく多岐にわたり、かつ関係性が乏しいものが列記されているもの
  • 不動産業、古物商等、許認可が必要な業種にもかかわらず、許認可については未取得であり、事業実態も不明なもの
  • 申告された事業内容が確認できず、銀行の残高が事業内容に対して極めて不相応であるもの
  • 実質的に休眠会社でありながら、口座の動きが頻繁で、不明瞭な現金の入出金がみられるもの
  • 入金した資金を代表者が同一の他法人に即時全額送金するなど、トンネル口座としての悪用が疑われるもの
  • 端数がない振込入金と法人宛の送金が反復発生しているもの

金融機関をはじめ事業者の皆さまは、こうした問題が発生していることや本質的な課題について、すでに認識されているものと思いますが、それでもあらためて「法人の実態確認」の重要性にスポットを当てる必要があると考えます。以下、その入口部分となりますが、ぜひ再認識いただくことをお願いしたいと思います(なお、金融機関を念頭に記載していますが、一般の事業者にとっても参考になるものと思います)。

金融機関のうち預金取扱等金融機関(代表的には銀行)は預金としてお客さまの大切なお金を預かり、安全に保管・管理をしつつ、企業に融資するなどの運用を行って収益をあげ、利息を付けて預金者にお戻しする役割を担っています。さらに、お金を貸し出す機能やお金を決済する機能によって、経済を回していく役割も担っています。平たく言えば、金融の本質は、資金を余剰している先から集め、不足している先に融通するところにあり、そもそも金融機関は、事業の性質上、公共性が極めて高いといえます。そのため、金融事業を営む者に対して、資金調達ならびに営業については、免許制等の厳しい規制・監督下に置かれ、一般事業者に比べても格段に厳格なコンプライアンス・リスク管理が求められています。また、健全な金融事業を行うためには、相手企業(法人)の財務情報等を中心に事業内容や経営状況等を把握することは当然のこととして、数字に表れないモノの流れや経営者の考え方等を含め、相手企業の事業内容や経営状況等をより深く、正確に把握し、経営改善や生産性向上を支援できることが求められており、職員一人ひとりの目利き力の向上が必須となります。そして、AML/CFTや反社会的勢力排除、金融犯罪防止に向けた実務の観点からも厳格な顧客管理が求められています。具体的には、犯罪組織との関わりがないか、犯罪に関与していないか、実質的支配者に問題はないか、社会的に批判を浴びるようなビジネスモデルとなっていないか、といった点から相手企業を厳しくチェックしていくことも極めて重要なプロセスとなります。法人の実態確認は、このような文脈に位置づけられるものであり、実際に存在するか(ペーパーカンパニーでないか)等を確認する「実体確認」と、稼働状況に問題ないか(申告内容や情報開示の内容と矛盾や不整合はないか)等を確認する「実態確認」の両面から、相手企業を確認することになります。そして、この点においても、行内のDB(データベース)やその他収集された情報の分析に加え、それだけでは分からない(見えにくい)問題の兆候を把握するためには、実際に相手企業に接し、経営者等の話を聞き、事業者の状況を実際に目で確認するなどしている現場の職員一人ひとりの目利き力が極めて重要となります。

法人の実態確認は、新規取引開始時点でしっかり行うことが重要ですが、それととともに継続的に実施していくことも極めて重要です。法人は、時間の経過とともにその中身も変化していくものです。新規取引開始時点で把握している財務情報や非財務情報は刻々と変化しており、役員の交代や大株主や主要取引の交代などもありえます。したがって、把握している情報にどのような変化が生じているかを定点観測する「定期確認」や、大きな変化が急に生じた際にその状況や影響度を速やかに確認する「随時確認」といった実態確認を行い、あらためて取引条件の見直しや取引の打ち切り(代表者として反社会的勢力の関係者が就任した場合など)を検討、判断していくことになります。また、新規取引開始時点では、相手企業に関する情報(とりわけ非財務情報、実質的支配者の情報など)を十分に把握できているとは言い難い状況もあります。相手に悪意がある場合、その悪意を100%「入口」(事前審査)段階で見抜くことは(情報の非対称性もあり)困難です。一方で、取引を開始したあとで、担当職員等が違和感や異変に気づくことがあります。いわゆる「入口」での実態確認においては限界があるところ、その限界を「中間管理」(事後検証)においてカバーし、乗り越えていく発想が必要となります。このあたりについては、例えば2013年の銀行等の不祥事を受けた、2014年の金融庁の監督指針の改正におけるパブコメ回答で「取引開始後に属性が変化して反社会的勢力となる者が存する可能性もあり、また、日々の情報の蓄積により増強されたデータベースにより、事前審査時に検出できなかった反社会的勢力を把握できる場合もあると考えられることから、事前審査が徹底されていたとしても、事後検証を行うことには合理性が認められるものと考えます」、「日頃から、意識的に情報のアンテナを張り、新聞報道等に注意して幅広く情報の収集を行ったり、外部専門機関等から提供された情報なども合わせて、その正確性・信頼性を検証するなどの対応が考えられます」と述べています。さらには、金融庁のAML/CFTガイドラインにおいても、「取引類型や顧客属性等に着目し、これらに係る自らのリスク評価や取引モニタリングの結果も踏まえながら、調査の対象及び頻度を含む継続的な顧客管理の方針を決定し、実施すること」として、「継続的顧客管理」が求められています。これが「継続的顧客管理」の本質であり、たとえペーパーカンパニーの口座開設を入口で許したとしても、継続的顧客管理によって、その実体や実態の不整合や違和感を得ることができるものなのです。

実態確認には、大きく公知情報や反社DB、風評等の情報を収集したうえで問題がないかを分析する方法(取引フィルタリング・取引モニタリング)と「現地調査」があります。前者は、AML/CFTの実務における本人確認手続き、継続的顧客管理が、反社会的勢力排除の実務では「反社チェック」が代表的です。そのうえで、法人の実態確認においては、AML/CFTや反社会的勢力排除の観点だけでなく、不芳情報や好ましくない風評等はないか、ビジネスモデルに問題ないかといった観点から、幅広く情報を収集することが重要です。公知情報やDB、風評や新聞記事等については、それぞれ有効性はあるものの、一方で限界も有しており、実効性の高い実態確認という点では、どうしてもそれだけでは「粗い網の目」であり十分とはいえません。したがって、これらの情報源を可能な限り「複数」利用し、(情報更新が適宜行われていることをふまえ)高頻度で繰り返しスクリーニングすることが実効性を高めるポイントとなります。一方、「現地調査」において、とりわけ「実体」と「実態」のそれぞれを確認する必要があることは既に述べたとおりです。「実体」を確認するためには、事務所への定期・不定期の「現地確認」(事前アポイント訪問時には事務所があったのに、たまたま別の日に訪問したらレンタルスペースだったといった事例があります)が最も有効です。実際に訪問することで、その事務所の雰囲気や内外装の状況、公表情報との相違(HPで公表されている企業規模に見合わない狭い、社員が少ない事務所など)といった「実態」を確認することにもつながります。また、郵便受けや入口のドアに複数の社名が掲げられていることもあり、そこから実質的支配者など隠れた「実態」が明らかになることがあります。いずれの方法で実態確認を行うにせよ、最も重要なことは、DB偏重にならないこと、第1線に位置する現場の職員一人ひとりの目利き力を高めることです。現場レベルの「日常業務における端緒情報の把握」がDB等の限界を乗り越えるために必要であり、一人ひとりが「高いコンプライアンス意識」と「リスクセンス」を発揮できることが必要です。そのためには、事業者としては、第1線がコンプライアンス・リスク管理を正しく行い、判断できるための環境作り(利益・営業数字偏重の風潮やパワーハラスメントの横行をなくす取組みなど)と情報の集約・審査体制の整備、さらには排除を可能にする積極的な仕掛け作りが求められることになります。

今回のリバトングループによる大規模マネロン事件では、容疑者グループには口座開設や送金などの業務ごとに統括役がいた疑いがあることがわかってきています。「見せ金」や想定問答集も用意して多数の協力者を動かしていたとみられ、大阪府警は組織的にマネー・ローンダリングが行われていたとみています。報道によれば、押収した資料などから容疑者ら「リバトングループ」の分業の一端が明らかになってきており、「法人の設立」や「口座開設」、「国内外への送金」、「グループ全体のシステム」といった業務ごとの統括役のほか、全般を統括する人物もいたとみられています。このうち、送金とシステムを除く業務については、出国するなどした主要メンバーらが統括していたと大阪府警はみており、行方を捜査しているといいます。ほかに、「海外のオンラインカジノサイトとの交渉担当」や、「グループを構成する9社で送金や営業を担うメンバー」もいたとみられています。大阪府警のこれまでの調べによると、グループはSNSで募集した協力者から名義を借りるなどして約500のペーパー会社を設立、管理する約4000の法人口座には少なくとも計約700億円の入金があり、数%を対価として受け取っていたとみられています。法人口座については、非対面で開設できるネット銀行を多用していたとみられ、一方、対面でのやりとりが必要な金融機関での開設については十数項目に及ぶ想定問答集を用意していたといいます。具体的には、「なぜ当行を選んだのか」には「地域に根付いた銀行だから」、「職場を訪問したい」には「私も従業員もリモートで作業している」などと応じるよう具体的に指南し、会社の設立日や事業内容、登記住所などは暗記するよう協力者に求めていたといいます。「闇バイト」による関係者の募集も含め、こうした「徹底した分業体制」と「匿名性」「統一化・高度化されていくノウハウの共有」、その根底にある「互いのつながりの薄さ」こそ、匿名・流動型犯罪グループの本質であり、そうした実態や手口に振り回されているのが企業実務や捜査だという構図を成り立たせています。外部からの攻撃においては、「情報の非対称性」から、「圧倒的に攻撃する側が有利」であり、匿名・流動型犯罪グループ優位の構図を今の実務レベルで崩すのはなかなか難しいのではないかというのが筆者の実感です。しかしながら、だからこそ、「目に見える情報」に加え「見えにくい問題の兆候」を把握すべく、実際に相手企業に接し、経営者等の話を聞き、その実態を自らの目で確認するという現場の職員一人ひとりの「目利き力」が極めて重要となると考えます。「見えないもの」を「見抜く力」を磨くための工夫こそ求められています。

海外と反社会的勢力とのつながりに関する報道も増えています。以下、いくつか紹介します。

  • 不正入手したクレジット情報で購入した化粧品などをフリーマーケットアプリで転売したとして、2024年1月に暴力団員らが逮捕されていますが、彼らは実行犯に過ぎず、首謀者として海外の犯罪グループがからむ可能性があるといいます。2024年6月14日付産経新聞によれば、海外の犯罪グループが陰で糸を引き、日本人から金銭をだまし取る事件は後を絶たず、「性善説が浸透している日本は格好のターゲットになっている」状況にあります。本事件の発端は奈良県内の輸入販売業者から、「不正利用のクレジットカードで商品をだまし取られた」と奈良県警に連絡があったことで、配送先はクレジットカードの持ち主とは全く関係がないマンションの一室で、このマンションを拠点にしていたのが、住吉会傘下組織組員らのグループだといいます。他の何者かがフィッシング詐欺などによって不正に入手した他人のクレジットカード情報を使い、ネットショップで購入した物品をフリマアプリ「メルカリ」などで転売していたということです。サイバー犯罪を中心に、日本人から金銭をだまし取る犯罪では海外の犯罪組織が暗躍しているケースが多く、神奈川県警などは2022~2023年にスマートフォン決済アプリで他人のアカウントを不正使用して加熱式たばこを大量にだまし取った事件に関与したとして、実行犯ら10人以上を逮捕、主に海外を拠点にした中国人グループが主導したとみられえいます。報道で東京未来大こども心理学部の出口保行教授(犯罪心理学)は、「ネット社会で国境を容易に越えられる現在、性善説が浸透している日本は、海外の犯罪集団にとって格好のターゲットになっている」と指摘、「フィッシング詐欺などで個人情報を抜き取られるケースも多い。日本人も性悪説に立ち、いつ自分が被害に遭うか分からないという危機感を持つ必要がある」と指摘していますが、正にそのとおりだと思います。
  • 海外を拠点に日本国内の特殊詐欺事件に関与したなどとして、福岡県警は、フィリピンから強制送還された鹿児嶋容疑者を窃盗容疑で逮捕しています。鹿児嶋容疑者は、元暴力団組員らがフィリピンで組織した「JPドラゴン」と呼ばれるグループのメンバーで、全国で広域強盗事件を起こしたとされる「ルフィ」グループとのつながりが疑われています(2022年11月にフィリピンに入国するも、出国期限を過ぎ不法滞在になっていました)。福岡県警が逮捕状を取り、フィリピン当局が2024年3月に鹿児嶋容疑者の身柄を拘束していたものです。本コラムでたびたび取り上げましたが、特殊詐欺グループは近年、警察の摘発を逃れるために海外に拠点を移しています。JPドラゴンの名は、「ルフィ」事件の指示役とされた今村被告=強盗致死罪などで起訴=とのつながりが判明し、知られるようになりました。今村被告と接見した弁護士が、スマートフォンを使ってJPドラゴンの幹部数人との会話を仲介した疑いが浮上、警視庁は2024年3月、この弁護士を証拠隠滅容疑で書類送検しましたが、東京地検は不起訴処分としています。なお、JPドラゴンについては、産経新聞でより深く報じられており、フィリピンにおける「ルフィ」グループの後見役で、事実上の上部組織とみられるとし、匿名性が高く、突き上げ(上部組織の解明)が難しい特殊詐欺の捜査で、JPドラゴンの摘発は新たな局面を切り開いたことになるとしています。さらに、JPドラゴンはフィリピンで発生した暴力団関係者ら日本人による反社組織であり、当地の違法賭博などを通じて利権を握ると指摘されていますが、(約30年前にフィリピンに渡って事業を運営するかたわら、ニワトリを戦わせて賭けの対象とする闘鶏ビジネスにも関与、幹部クラスのメンバーは「JPドラゴン」というタトゥーをいれ、日本人だけでなく中国人や韓国人が周辺にいるともされますがそれ以上の)詳細は不明とされるも、JPドラゴンは当地の利害関係者や当局とのパイプを生かして「ルフィ」グループに便宜を図り、その見返りに犯罪収益を上納させていたと推察されるとし、場合によっては共犯に問うべき事例も浮上すると指摘しています。また、SNSを通じた投資詐欺、ロマンス詐欺が深刻化し、特殊詐欺も改善しない状況の中、徹底摘発が必要だとも指摘しています。2023年の特殊詐欺の総検挙者2455人のうち、首謀者級の検挙は2%に過ぎず、その中で、不明だった「ルフィ」の「上」の尻尾をつかんだ以上、決して離してはならず、2024年4月から始動した全国警察の連合捜査班(TAIT)をフルに生かし、突き上げ捜査で組織を丸裸にすることを期待するとしています。また、2024年6月15日付産経新聞において、「国際捜査を阻むのは、日本と各国との法制度の違いだ。ルフィグループやJPドラゴンら、「匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)」はこうした隙間を縫って海外を拠点に活動しているとみられており、実態解明に向けた捜査が待たれる」と報じられていますが、正に反社会的勢力と海外の接点が露見してきた今、本質を突いた指摘だと思います。

その他、トクリュウに関する最近の報道から、いくつか紹介します。

  • ホストクラブへの支払いのため女性に風俗店を紹介したとして店長らが職業安定法違反で起訴された事件で、宮城県警生活環境課などは、会社役員の男と自称飲食店コンサルタント業の男を同法違反(有害業務への職業紹介)の疑いで逮捕しています。2人は2023年9月と10月、店長らと共謀し、20代と30代の女性2人を派遣型風俗店に紹介した疑いがもたれており、紹介する代わりに風俗店から報酬を受け取っていたとみられています、なお、2人はトクリュウのメンバーとみられると報じられています。
  • 福島県警は、同県郡山市で許可を得ずにガールズバーを営業したとして、風営法違反(無許可営業)の疑いで、住所、職業不詳の容疑者を逮捕しています。福島県警は、SNSなどでつながり、福島県内を中心に活動するトクリュウのリーダー格だとみているといいます。また、福島県警は、同じトクリュウのメンバーとみられる男女4人を同法違反や恐喝未遂などの疑いで逮捕しています。容疑者はグループ内の指示役で、他にも複数の店の経営に関与していた可能性があるとみて調べるとしています。
  • トクリュウの男女7人が、北海道旭川市に住む男性2人から金を脅し取ろうとした疑いで逮捕されています。恐喝未遂の疑いで逮捕されたのは、札幌市北区の自称会社員で六代目山口組二代目旭導会の構成員ら、18歳の女2人を含む18歳から27歳の男女7人で、容疑者らは、2024年3月、旭川市に住む20代の会社員の男性に「人の女連れて何してんのよ。未成年連れ回したら罪になるんだからな。10万円持ってこい」などと脅し、その翌日には男性が勤務する会社に電話をし、応対した別の20代の男性に「社長さんにお金を借りて示談しますと本人は言った」などと言って、現金を脅し取ろうとした疑いが持たれています。電話に応対した男性が、警察に相談したことから事件が発覚し、警察は裏づけ捜査を進め、逮捕したものです。北海道内でのトクリュウの摘発は、今回が初めてとなります。北海道警ではトクリュウの取り締まりを強化しようと、2024年度、組織犯罪対策局を再編し、新たな専門部署を立ち上げていました。
  • 日本人女性を装って東京都内の男性から現金約630万円をだまし取ったなどとして、警視庁暴力団対策課は詐欺などの疑いで、ナイジェリア国籍の職業不詳の容疑者を逮捕しています。同様の被害は25件、被害総額は約3億7千万円に上るとみられ、警視庁が全容解明を進めています。暴力団対策課によると、容疑者は国際ロマンス詐欺グループの指示役とみられ、グループは2020年10月ごろ、日本人女性を装ってフェイスブックで接触した男性に対し、「夫を10年前に亡くし、海外で医療機関に入院している」などとメッセージを送信、恋愛感情を抱かせ、2021年1月~2022年4月ごろにかけて、約8千万円を詐取したとみられています。グループを巡っては2022年、詐欺などの容疑で住吉会傘下組織組員の男ら4人が逮捕、起訴されています(トクリュウとの報道自体はありません)。
  • SNSを使って法外な金利で金を貸し付けたとして、北海道警と福岡県警は、福岡、佐賀両県の16人を出資法違反(超高金利)容疑で逮捕しています。福岡市を拠点とするヤミ金グループとみられ、使っていた約150の口座には2024年1月までの2年間に約5800人から計約8億3000万円が振り込まれていたといいます。北海道警などはトクリュウの可能性があるとみて捜査を進めているといいます。グループは、SNS上で「金に困っている人は相談して」などのメッセージとQRコードを掲載、連絡してきた相手に1週間で2割、2~4週間で5割といった高利息で貸し付けていました。福岡市内に四つの拠点を置き、12人は借受人と電話やSNSで連絡する「かけ子」、ほか4人は返済された金をATMから引き出す「出し子」だったとみられ、拠点からはスマホ約100台やキャッシュカードが押収されています。北海道警などは暴力団が関わった可能性もあるとみて、資金の流れや16人が集まった経緯などを調べているといいます。
  • 愛知県豊橋市の飲食店から溶接機などを盗んだとして、愛知県警は、窃盗などの容疑で無職の容疑者とフィリピン国籍の無職の容疑者を再逮捕しています。容疑者らは匿名性の高いSNSを通じて、指示役などと連絡を取っており、2人は実行役とみられ、トクリュウが関与している疑いがあるといいます。
  • 横浜市中区のマンションに侵入し金品を奪おうとしたとして、神奈川県警捜査1課などは、埼玉県ふじみ野市の無職の容疑者を住居侵入と強盗未遂の疑いで逮捕しています。事件当時、室内には女性とその知人がいましたが、別の部屋に逃げたといい、金品も奪われませんでした。防犯カメラの映像などから容疑者らの関与が浮上、同課は、トクリュウなどが背景にいるとみて捜査しているといいます。

前回の本コラム(暴排トピックス2024年6月号)でも取り上げましたが、大阪や兵庫などの6府県の公安委員会は、六代目山口組と絆會が抗争状態にあるとして、両組織を暴力団対策法に基づく特定抗争指定暴力団に指定したと官報で公示、指定が発効しています。期間は3カ月で、指定は全国4例目となります。抗争が終結するまで更新され、組織の事務所や拠点がある大阪市、神戸市、水戸市、名古屋市、桑名市、名張市、伊賀市、大津市を「警戒区域」とし、活動を規制、組員らはおおむね5人以上で集まることや、事務所の使用、対立組員への付きまといなどが禁止され、違反すると逮捕されることになります。両組織をめぐっては2022年5月、三重県伊賀市で六代目山口組傘下組織組員が絆會組員を銃撃する事件が発生、2024年5月には絆會幹部が水戸市で2022年1月に六代目山口組傘下組織幹部を射殺したとする罪で起訴されたほか、神戸市のラーメン店で2023年4月に六代目山口組傘下組織組長を射殺したとして、絆會幹部ら5人が2024年6月に逮捕されています。なお、京都府公安委員会も、関係先が京都府内にもあり、今後、抗争が激化するおそれがあるとして、「特定抗争指定暴力団」への指定に向け、2024年7月、双方から意見聴取を行うこととしています。

六代目山口組傘下組織組員らによる特殊詐欺事件の被害者3人が、暴力団対策法に基づき組トップに使用者責任があるとして、篠田建市(通称・司忍)組長に計約2660万円の損害賠償を求めた組長訴訟で、組長側が遅延損害金を加え計約3200万円を支払うことで東京高裁で和解が成立しています。本コラムでたびたび取り上げているとおり、暴力団対策法は、暴力団員が「威力を利用した資金獲得行為」で他人の生命や財産を侵害した場合、トップが賠償責任を負うと規定しています。被害者側はいずれも関東地方在住の80代の男女で、一審判決によると、2019年1~10月、役所の職員などになりすました詐欺グループに現金やキャッシュカードを渡して、それぞれ500万~1500万円の被害にあったといい、2023年12月の東京地裁判決は暴力団対策法の適用を認め、請求通りの支払いを命じていました。なお、被害者側によると、特殊詐欺を巡り、暴力団対策法に基づく六代目山口組トップへの賠償が命じられたのは初めてだったといいます。

前回の本コラム(暴排トピックス2024年6月号)でも取り上げましたが、福岡の指定暴力団の幹部が、相次いで引退届を出しています。その背景には、福岡県警による「頂上作戦」で、工藤會が壊滅状態になったことが考えられます。工藤會に対する大規模かつ徹底した摘発を皮切りに、道仁会と浪川会にも同様の動きがあるのではと警戒して、けん制の意味で先手を打ち、警察に「引退します」とアピールした可能性が高いと言われています。また、違反等があればトップが検挙されることもり、リスク回避として引退した可能性も指摘されています。とはいえ、中止命令を本人にかけられないとしても、組織のトップとして抗争を指示していれば、工藤會と同様に、殺人の共同正犯で捕まえられる可能性があることから、そう簡単にリスク回避はできないとの指摘もあります。

暴力団追放兵庫県民センターは、神戸山口組傘下組織「西脇組」(神戸市西区玉津町上池)の事務所について、使用差し止めの仮処分を神戸地裁に申し立てています。地域住民約20人の委託に基づく暴力団対策法の代理訴訟で、兵庫県内では10例目といいます。2023年7月、西脇組の事務所にトラックが突っ込み、六代目山口組傘下組織組員が器物損壊などの罪で有罪判決を受け、2024年1月には、事務所近くにある西脇組の組長宅で窓ガラスが割られる事件もあり、地域住民がセンターなどに相談していたものです。なお、この事務所は、暴力団対策法上の特定抗争指定により2020年1月から使用が禁止されており、今回の使用差し止めが認められれば、抗争の終結後も、組員の立ち入りや会合の開催などが禁じられることになります。

前回の本コラム(暴排トピックス2024年6月号)でも取り上げましたが、2003年に摘発を受けた山口組五菱会(当時)系ヤミ金グループの元メンバーの男らが逮捕された事件で、男らが顧客の信用情報を照会できるサイトを利用していたことが判明しています。サイトはグループを統括する「センター」が運営しており、警視庁生活経済課は現在も残存する五菱会系のヤミ金組織が、これらのツールを運用しながら情報を共有してヤミ金業を営んでいるとみて調べているといいます。サイトは「金融業者専用情報交換サイト casuumo」の名前で運用され、顧客の名前と生年月日、住所を入力すると、他のグループでの借り入れ、返済状況が閲覧でき、月額5万円の利用料に加え、10件の「つけ」(照会)ごとに1万円を課金する仕組みだったといいます。容疑者は約10年前にヤミ金から金を借り始め、多重債務者になり、返済に窮したことからヤミ金に加担するようになり、「のれん分け」される形で独立、容疑者もこの情報交換サイトを利用していたとみられ、自宅からは約100台の携帯電話やキャッシュカードなどが押収されており、警視庁は他のヤミ金融業者に携帯電話などを用意する「道具屋」の役割も担っていたとみています。

暴力団が、飲食店などに用心棒代などとして要求する「みかじめ料」について、全国最多の五つの指定暴力団がある福岡県では、政令指定市の福岡市や北九州市の繁華街だけでなく、ベッドタウンである周辺自治体の店舗でも要求が広がっていることが明らかになっています。県警は「みかじめ料を払っている人は相談してほしい」と呼びかけている。みかじめ料を要求したとして、神戸山口組傘下組織幹部ら4容疑者が恐喝などの疑いで逮捕された事件の端緒は、別の事件の捜査で組織幹部の関係先から見つかった「みかじめ料の回収先リスト」だといいます。古賀市や福津市の飲食店などの30業者にみかじめ料を要求し、支払わせていた疑いがあることを示す文書だといいます。トラブル解決などの対価として要求するみかじめ料は、暴力団の資金源の一つとされていますが、暴力団対策法などで禁止されているほか、福岡県暴力団排除条例(暴排条例)では、事業者が支払うことも禁じています。これだけまとまった被害がはっきりと明らかになることは珍しいといいます。古賀市や福津市は、JR博多駅から電車で30分ほどの海沿いのベッドタウンで、近年は急速に人口が増えており、みかじめ料を要求された店舗は駅周辺などにあり、店主らは月に1万~2万円を支払っていたといいます。福岡県警は、神戸山口組傘下組織が少なくとも月に50万円ほどを集めていたとみているといいます。店主らは、組員から「縄張りなんだから払ってもらわないと」などと言われたといい、福岡県警は、暴力団が新たに出店する店舗にもみかじめ料を要求しているとみており、「事件の摘発と連動して、暴力団排除活動を推進している。みかじめ料を要求されている事業者は相談してほしい」と呼びかけています。

2024年7月6日付朝日新聞の記事「シャブ、当たり屋で稼いだ自分にさらば 組員がカタギに転生するまで」は、離脱者支援対策を考えていくうえで参考になるものでした。とりわけ社長が「とりあえず働いてみたらええやん」と偏見なく受け入れてくれたこと、「働き始めて1年が経ったころ。社長は男性の「カミングアウト・パーティー」を企画してくれた。同僚を集め、過去を明るく伝える場だった。同僚は男性の日頃のまじめな働きぶりを見て、受け入れてくれた。「過去は過去でしょ。今頑張るなら、いいじゃない」。自分を知り、肯定してくれる交際相手もできた。社長が保証人になってくれたおかげで、会社と取引のある銀行で口座を作れた。自分名義のスマホも持てた。「カタギ」になっても、元ヤクザという肩書と背中の入れ墨は、いつまでも消えない。それでも、支えてくれる人がいる。その新鮮さと、ありがたみをかみ締めながら。そして「社会のために働きたい」と思いながらという部分は、更生において「社会のために居場所がある」ことを実感することが最も重要であることをあらめて認識させられました。また、暴力団を離脱するきっかけとなった「まるで組員同市の「共食い」」、「見境がない組員が多くなった」という実態にはここまで酷いのかと愕然とさせられるところもあります。記事では、暴力団離脱者支援の状況にも触れていますが、やはり、「組長らに働きかけて円満な離脱を実現」、「就業支援」が大きなポイントとなると考えます。今後、ますます重要性を増す暴力団離脱者支援について、社会がすべきことが明確になってきていることは確かであるものの、その実現に躊躇いがあるのも事実です。筆者としても、社会も暴力団離脱者にとっても双方が満足できる支援のあり方を模索していきたいと思います

立憲民主党が風営法改正案(通称・悪質ホストクラブ被害防止法案)を衆院に提出しています。悪質ホストクラブを巡っては10代を含めた若い女性が多額の売掛金(ツケ払い)を背負い、借金返済のため、国内外の性風俗店で働かされるなど社会問題化しています。近年は観光目的で海外を訪れた一般の日本人女性が売春目的と疑われ、入国拒否される事例も相次いでおり、議員は被害女性や家族に寄り添いつつ、「日本人女性=売春」の負のイメージの拡散も危惧し、党派を超えて危機感を共有したい考えです。報道によれば、悪質ホストクラブは歌舞伎町から大阪市や札幌市を含めた地方都市の繁華街に拡大し、加害の手口も悪質化しているといい、海外からも冷ややかな目が向けられており、悪質ホストクラブ被害者は米国や韓国、豪州など海外でも売春が強いられ、その結果、一般の日本人女性が1人で海外旅行する際は、「売春婦」と疑われ、入国を拒否される事例も確認されています。悪質ホストクラブの実態について最近も米CNNテレビなど海外メディアが報じています。本問題については、松村祥史・国家公安委員長が、ホストクラブが多くある東京都新宿区歌舞伎町を視察した後、「風営法の改正も含め、さらなる検討をするよう警察を指導していく」と述べています。警察庁によると、ホストクラブは全国に約1000店舗あるといい、全国の警察が2024年1~5月に、女性客らを性風俗店で働かせるなどした疑いで摘発したホストは2023年同期より11人多い24人だったといいます。産経新聞で立憲民主党の山井和則衆院議員が「一般にメンタルが弱い子、家庭環境が悪い子がホストにはまるイメージを持たれがちですが、どんな子がはまってもおかしくない。医学部の学生、親が裕福な子、教師の家庭の子もいるんです」、「風俗で働かざるをえなくなった女性が増えている。しゃれじゃない。飛び降り自殺した女の子もいる。そこまで報道してもらわないと。それだけ恐ろしい世界なんです」と指摘、さらには、一部のインターネット番組などがホストクラブを利用する女性客の敷居を下げていると懸念、「ホストを礼賛する番組を作ったりして、メディアが加担しちゃっているんです。かっこいい人と会えるだけの、きれいな世界じゃない。売春しないと返せない額を背負わされ、梅毒にかかったり、うつ病になったりする。そもそも犯罪を誘発する商取引はおかしい」と強調しています。さらに支援団代関係者も、「入り口のハードルを下げればホストの勝ちなんです。一回女の子が店に入れば…相手はプロですから。しっかりはめてきますよ。女性の20歳前後は商品価値としてしか見ていない。この子からいくらとれるか、と」、「旧ジャニーズ事務所の性加害問題もBBCの報道がきっかけでしたよね。これは恥ですよ。日本は自浄能力がない国とみられる。海外から言われないと動かないなんて…」、「全世界でここだけじゃないですか。素人の女性が売春のために道端に立って、男が群がっているなんて。歌舞伎町にとどまらず、海外にまで売春に行っている。世界の人の日本人女性を見る目が変わってしまう。下手すれば、売春大国日本ということになってしまう。それでいいんですかね」との指摘は極めて重いといえます。

2.最近のトピックス

(1)AML/CFTを巡る動向

金融庁が、マネー・ローンダリング・テロ資金供与対策について、2023事務年度の金融庁所管事業者の対応状況や金融庁の取組等を「マネー・ローンダリング等対策の取組と課題(2024年6月)」として取りまとめ、公表しています。本レポートでは、金融機関における有効な取組み事例の紹介のほか、新たな金融セクターにおけるAML/CFTの重点課題として、(1)第一種資金移動業を営む資金移動業者、(2)電子決済手段(ステーブルコイン)、(3)高額電子移転可能型前払式支払手段が取り上げられています。また、「特殊詐欺の被害やフィッシング被害が増加しており預貯金口座の不正利用件数も増加傾向にある」として、口座の不正利用対策に関して金融機関等に対する継続的なモニタリングを行った結果、把握できた傾向として、「非対面にて開設された口座は対面で開設された口座よりも不正利用されやすい」こと、「新規に開設された口座(開設後約1年未満の口座)は既存の口座よりも不正利用されやすい」ことが指摘されています。また、対面・非対面ともに、公的個人認証による本人確認を行うことを推奨しているなど、今後の取り組みの参考になる点が多数あります。以下、筆者にてとりわけ重要と思われれる部分を抜粋して紹介します。

▼金融庁 「マネー・ローンダリング等対策の取組と課題(2024年6月)」の公表について
▼「マネー・ローンダリング等対策の取組と課題(2024年6月)」
  • 新たな金融セクターの現状
    1. 第一種資金移動業を営む資金移動業者
      • 資金移動業は、取引額の上限によって第一種から第三種までの3類型に分類されており、第一種資金移動業については取引額の上限が設けられていない。
      • 第一種資金移動業は海外送金を含め、個人による高額商品・サービスの購入や企業間決済の際に利用するなど、従来の送金上限額を超える利用者のニーズに応えるために新たに創設された。高額の為替取引を扱うことが可能となり、マネロン等リスクも相対的に高まることから、資金移動業者は第二種・第三種よりも一層堅牢なリスク管理態勢を整備することが求められる。
      • 2024年以降、新たに2社が第一種資金移動業の認可を受けており、2024年6月現在、第一種資金移動業を営む資金移動業者は4社となっている。
    2. 電子決済手段
      • 我が国では、デジタルマネー類似型ステーブルコインは電子決済手段、暗号資産型ステーブルコインは暗号資産や有価証券として規制されている
      • 近年、ステーブルコイン発行に向け、海外送金業務を手掛ける資金移動業者がスタートアップ企業との業務提携を発表したほか、大手信託銀行を始めとする複数の金融機関等が発行や活用に向けた共同検討を開始する等、ステーブルコインの発行・実用化に向けた動きが活発化している。
      • ステーブルコインについては、匿名性が高いこと、国境を越えて瞬時に移転が可能であること、資金源の偽装を図る取引に悪用される可能性があること等、暗号資産と同様の脆弱性がFATFのレポートで指摘されており、広範な利用が見込まれることも合わせると、マネロン等リスクの高まりが想定される。
      • 2024年6月時点では、我が国において電子決済手段の発行は確認されていないものの、将来的に幅広い分野で送金・決済手段として用いられる可能性がある。
      • 電子決済手段等取引業者においては、環境の変化に伴うリスクの変化を機動的に捉え、適時適切にリスクの低減を図りつつ、利用者のニーズに応じたサービスを提供していくことが期待される。
    3. 高額電子移転可能型前払式支払手段
      • 高額電子移転可能型前払式支払手段については、高額のチャージや、多額の譲渡を実際に行っている利用者は限られるとみられるものの、かねてより前払式支払手段がマネー・ローンダリングに悪用される事例が指摘されているほか、例えば、国際ブランドの前払式支払手段では、数千万円のチャージが可能なサービスも提供されているなど、マネロン等に利用される危険は高いと考えられる。
      • 高額電子移転可能型前払式支払手段の発行者に対しては業務実施計画の届出が求められることとなっており、特定事業者としてリスク管理態勢を整備することが重要である。
  • 態勢整備状況の確認
    • 2024年3月、金融庁等は、金融機関等に対し、ガイドライン対応の期限である3月末時点における対応結果を4月末までに報告することを求めた。
    • 当該対応結果の報告を集計した結果、2024年3月末時点の金融機関等におけるガイドライン対応の完了率は99%であった。
    • これまでの取組を振り返ると、ターゲット検査実施当初は、FATF第4次対日相互審査を受けて改訂・策定したガイドラインやFAQが公表されて間もなかったこともあり、リスクの特定・評価・低減措置といったリスク管理の根幹となる態勢整備が不十分な先や、ガイドラインとのギャップを金融機関等自ら分析する自己評価と検査での検証結果に乖離が生じる先が多く見受けられた。
    • ガイドライン対応の期限が近づくに従って、こうした態勢の不備や自己評価との乖離は少なくなっていった。これは、前述の業界団体と連携した取組やアウトリーチ等も踏まえ、各金融機関等において、経営トップのリーダーシップの下、求められる内容の理解が進み、態勢整備が進展したことが要因と推測される。
    • また、前述のとおり、大方の金融機関等からガイドライン対応が完了したとの報告があったことを踏まえれば、対応期限を定めた集中的な取組が一定の効果を発揮したものと認識している。
  • マネロン等対策に係る2024年4月以降の金融庁の対応
    • 金融機関等においては、2024年3月末にガイドラインに基づく態勢整備期限が到来したことを踏まえ、2024年4月以降、RBAを高度化させるとともに、整備した態勢の有効性を更に向上させていく必要がある。
    • 態勢の有効性を向上させるに当たっては、当然のことながら、態勢整備が完了していることが前提となる。そこで、金融庁としては、2024年4月以降、まずは、金融機関等が2024年3月末の期限までに必要な対応を実施したことを確認し、態勢整備が完了していない場合には早急な対応を求めていく。
    • 具体的には、期限までに必要な対応を完了しなかった金融機関等については、必要に応じて、その理由や今後の対応計画等を個別に確認した上で、適宜、個別に行政対応を検討・実施していく。
    • また、期限までに必要な対応を完了した旨報告があった場合においても、今後、対応が著しく不十分であることが判明した場合には、必要に応じて個別に行政対応を検討・実施していく。
    • 他方、金融機関等における態勢の有効性向上の取組を支援していくことも重要であり、金融機関等が実施する有効性の検証等の取組について事例や参考となる考え方などを整理し、公表・共有に向けた検討も進めていく。
  • マネロン等対策に係る業務の共同化
    • 我が国においては、金融機関等における取引モニタリング等システムの誤検知率が非常に高く、FATF第4次対日相互審査においても、大量の誤検知を手作業でチェックする作業が経営資源の活用に制約を加えているという指摘がなされるなど、中核的な業務である取引モニタリング等の高度化・効率化を図ることが喫緊の課題となっている。
    • 他方、こうした課題に対応していくためには、システム整備や人材確保等の面で負担が大きく、金融機関等が単独で対応するには限界があるといった問題もあったことから、2022年6月に資金決済法が改正されたことを受け、金融庁は、制度的対応として複数の銀行等の委託を受けて為替取引の分析等を行う「為替取引分析業」を創設、許可制を導入するとともに、2023年6月から「為替取引分析業者向けの総合的な監督指針」を適用するなど、監督体制の整備を図ってきた。
      1. 為替取引分析業者の役割・対応方針
        • 為替取引分析業に係る許可申請を提出した事業者に対し、審査を実施の上、これまで3事業者に対して許可を行った。
        • 為替取引分析業は金融機関等におけるマネロン等対策の中核的な業務を受託して行うものであり、為替取引分析業者には、自らが提供する取引モニタリング等の有効性をより高い水準で確保しつつ、金融機関等におけるマネロン等対策の有効性の向上に資する役割が求められている。
        • 金融庁としては、金融機関等が個別に抱えている困難な課題等を解決し、金融セクター全体の高度化・効率化を図っていくため、為替取引分析業者が運用する共同システム及び提供するサービスを利用することが有効と考えている。為替取引分析業者の取組が、金融機関等における取引モニタリング等の有効性の向上に資するものとなるよう、検査・モニタリングを強化していく。
        • なお、金融機関等は、自らのリスクに応じた対応が求められており、その責任は金融機関等自身に帰属することから、為替取引分析業者を利用する場合であっても、委託する業務について一任することなく、各金融機関等においても提供を受けるサービスの品質を確認し、必要に応じ自ら追加の対応等を行う必要がある。
      2. マネー・ローンダリング等対策高度化推進事業
        • 「マネー・ローンダリング等対策高度化推進事業」とは、金融業界全体のマネロン等対策の高度化・実効性の向上を適切かつ迅速に推進することを目的とし、複数の金融機関で利用可能なAI等の技術を活用したシステム開発・実装に係る経費の一部に補助金を交付するものである。当事業に係る経費について令和4年度第2次補正予算にて措置を行った。2023年1月に補助事業者の公募を開始し、同年3月に、外部有識者による審査結果を踏まえて選定した補助事業者2社を公表した。
        • 2024年3月に補助事業実施期間が終了し、同年4月、選定された2社に対し、補助金を交付した。
  • 継続的顧客管理に関する課題
    • 継続的顧客管理の実施に当たっては、金融機関等が自らの全顧客のリスク評価を実施し、そのリスクに応じた頻度・深度により顧客情報の確認・更新を行っている。顧客情報の確認には、ダイレクトメール等で調査票を送付するなどして対応している金融機関等が多い。しかしながら、顧客からの回答が得られないケースが散見され、回答率の向上や郵送以外の顧客情報の確認手段が課題となっている。こうした中、金融庁等としては、各金融機関等の以下の取組を把握した。
    • 【取組事例】
      • 顧客に自動音声電話又はSMS送信で案内している。
      • 顧客が来店した際、窓口担当者が端末画面で情報更新が必要な顧客かどうか確認できるようになっている。
      • 営業店ごとの目標回答率を設定し、業績評価にも反映させている。
      • ATMの取引画面や取引明細書等に、情報更新依頼や読み取ると情報更新手続に進む二次元コード等を表示させている。
    • また、金融機関等が継続的顧客管理を円滑に進めるためには、顧客の理解と協力が不可欠である。こうした観点から、金融庁等や業界団体は、一般利用者に向けて、情報発信や広報活動を行っている。
    • これまでも、政府広報媒体も活用して金融機関等が行っている継続的顧客管理への理解を求める広報に取り組んできたが、2023年7月以降、金融機関等による利用者情報の更新への協力依頼に加えて、情報更新の必要性等について簡潔に解説するための動画を作成し、金融庁ウェブサイト及び金融庁公式YouTubeチャンネル上で公開した。
    • くわえて、近年、売買等によって不正に取得された法人名義の預貯金口座を利用する特殊詐欺等の犯罪が多発している状況を踏まえ、2024年1月に、警察庁と連名でマネロン等対策に係る法人向けチラシを作成し、業界団体に配布した。
    • 今後、業界団体との連携を強化し、より一体的かつ集中的な広報活動を展開する予定としており、関係省庁とともに、広く国民に継続的顧客管理への理解・協力を求めていく。
  • 暗号資産交換業者におけるトラベル・ルールの運用状況
    • 2023年6月にFATFが公表した「暗号資産及び暗号資産交換業者に関するFATF基準の実施状況についての報告書」では、調査に回答した法域のうち半数以上がトラベル・ルールの実施に向けた措置を講じておらず、世界的な基準遵守状況は依然として不十分であるとの見解が示されている。
    • さらに、FATFは、勧告15の実施促進の観点から、2024年3月には、FATF全加盟法域と重要な暗号資産活動のある法域を対象として、基準の実施状況等に係る一覧表を公表した。FATFは、こうした取組が、重要な暗号資産活動がある法域に対する支援の促進を図るとともに、規制・監督当局のみならず、民間セクターにおいても、暗号資産活動が重要な法域における法整備等の基準実施状況や当該国に所在する暗号資産交換業者との取引をリスクベースで自ら見極める一助となることを期待している。
    • こうした中、我が国は犯収法等を改正し、2023年6月以降、暗号資産交換業者に対し、暗号資産を移転する際、移転先の暗号資産交換業者への送付人及び受取人情報の通知を義務付けた。
    • 金融庁等は、定期的なヒアリング等を通じ、トラベル・ルールの運用状況をモニタリングしている。その結果、以下のような対応が不十分な事例が認められており、各暗号資産交換業者においては、これらの事例も参考に自らの運用状況を継続的に検証し、態勢の整備を進めていくことが求められる。(犯収法第10条の5(暗号資産の移転に係る通知義務)関係)
      • 暗号資産交換業者A社は、通知システム(情報通知インフラとしてのコンプライアンスツール)の互換性がない暗号資産交換業者に対し、必要な通知を行わずに暗号資産を移転した。
      • 暗号資産交換業者B社は、顧客から暗号資産の外部への移転指示を受けた際、顧客が提示した移転先がトラベル・ルールの対象法域の外国暗号資産交換業者であるかどうかの調査を完了させていないにもかかわらず、移転先である法域対象国の外国暗号資産交換業者が管理するウォレットをアンホステッド・ウォレットと同等の扱いとして、通知を行わないまま暗号資産を移転した。
      • 暗号資産交換業者C社は、顧客から暗号資産の外部への移転指示を受けた際、所定のリストから移転先を顧客に選択させる仕様としていた。こうした中、C社は、リストで示した移転先が、非要通知先から要通知先に変わっているかどうか十分に調査・確認していなかったことから、移転先の暗号資産交換業者が非要通知先から要通知先へ変わっていたにもかかわらず、当該暗号資産交換業者への通知を行わないまま暗号資産を移転した。
  • マネロン等リスク管理態勢の有効性検証
    1. 有効性検証態勢に係るモニタリングの実施
      • 金融庁において、マネロン等リスクに応じ必要な態勢整備を完了させた一部の金融機関(以下「金融庁によるモニタリング対象先金融機関」)に対し、ガイドラインで求められる有効性検証の取組状況についてモニタリングを実施した。
      • ガイドラインでは、金融機関等の管理部門及び内部監査部門が、リスクの特定・評価・低減のための方針・手続・計画等を含むマネロン等対策の有効性を不断に検証すること及びそのための態勢を整備すること並びに個々のリスク低減措置について個別に有効性を検証することを求めている。上述のとおり、2024年4月以降は、このような検証を踏まえた、リスク管理態勢の高度化及び実効性確保に資する取組がより重要となる。
    2. リスクの特定・評価・低減に係る有効性検証に関する取組事例
      • 金融庁によるモニタリング対象先金融機関では、ガイドラインを踏まえ、(1)顧客属性・取引内容等に鑑みたリスク低減措置の有効性、(2)異常/不正取引抽出措置の有効性、(3)データ管理措置の有効性等を検証している。これらは検証時期、要件、主体等を定めたマニュアル及びリスク管理態勢に係る有効性検証計画に従って実施され、その結果を受け、経営陣の関与の下、方針・手続・計画等の見直し等が行われている。
      • 金融庁によるモニタリング対象先金融機関における取組状況の概要は以下のとおりである。
        1. 顧客属性・取引内容等に鑑みたリスク低減措置の有効性
          • 顧客全体のリスクの特定及び評価結果によるリスク分布が、自らのリスク認識と整合的であることを確認
          • 高リスク類型顧客に対する追加的リスク低減措置を整理した上で、顧客リスクが許容可能な水準まで確実に低減されているかを精査
          • 高リスク類型顧客に対するデュー・ディリジェンスの実施状況を、顧客から受領したKYCに関する質問票回答のサンプル等を用いて再確認
          • 疑わしい取引の届出実績の分析により、特にリスクが高い取引種別、顧客属性・グループ、取引チャネル等を特定し、それらに対する現行のリスク低減措置の十分性を確認
        2. 異常/不正取引抽出措置の有効性
          • 取引モニタリングにおける現行の抽出基準(シナリオ・敷居値等)により、不審又は不自然な取引を適切かつ効率的に検知できているかを、内外情報(アラート生成数、疑わしい取引の届出件数、当局による疑わしい取引の参考事例情報、捜査機関からの情報・口座凍結要請等)に照らし検証
          • 取引フィルタリングに用いるリスト及び取引フィルタリングシステムに設定された検知基準により、不正又はその可能性がある取引を適切かつ効率的に検知できているかを、当局情報や関連ダミーデータを用いたシミュレーション等により検証
        3. データ管理措置の有効性
          • 関連ITシステムに連携されたデータ(顧客・口座・取引等)について、必要な情報が全て揃っていて欠損等がないことを、上流システム(勘定系・情報系システム等)が保有するデータに照らし確認
          • 関連ITシステムに登録されるデータの正確性について、元情報や想定されるデータ型(利用可能な記号種、空白の入力可否等)に照らし検証
    3. 有効性検証を実施するための態勢整備や手法に関する事例
      • 金融庁によるモニタリング対象先金融機関では、上記の有効性検証を実施するための態勢整備や実施手法の整理を行っている。個別のリスク低減措置の有効性検証の実施のみにとどまらず、方針・手続・計画の検証及び見直しを行うことで、リスク管理態勢の高度化を図っている。
      • 具体的には、検証対象とする方針・手続・計画等をリスクベースで(例えば全社的リスク評価の過程で)選定し「検証項目」とした上で、その有効性を検証している。方針・手続・計画は、前述の(1)顧客属性・取引内容等に鑑みたリスク低減措置、(2)異常/不正取引抽出措置、(3)データ管理措置に係る取組を含め、包括的に検証されている。
      • 金融庁によるモニタリング対象先金融機関における第2線部署では、10~50程度の検証項目を検証目的に応じて選定した上で、項目ごとの検証時期や検証手法を定めた、リスク管理態勢の有効性検証計画を定期的に策定している。検証計画、検証結果を踏まえた必要な対応等は、上級管理職の関与をもって協議及び決定される。
      • 第2線部署における有効性検証の手法としては、各規程等に定める措置の十分性や、業務記録のサンプル調査により規程等の遵守状況を検証する、などの取組が見受けられた。検証手法は検証対象業務の特性等を踏まえて決定されている。
      • 金融庁によるモニタリング対象先金融機関の第3線部署では、リスク評価を第3線部署独自の手法により再実施の上、年次監査計画を策定している
      • 第3線部署が被監査部門の業務の遂行状況を検証するに当たり、第3線部署が自らの視点で検証するか、第2線部署における検証の適切性を確認するにとどめるか、あるいは双方を組み合わせた検証を実施するかを、監査項目ごとに選択している事例が確認された。
    4. 有効性検証に係る金融庁の着眼点
      • 金融機関等は、上記1.のとおり、ガイドラインに従い、リスク管理態勢の有効性を検証することを求められているが、特定の時点での取組にとどまることなく、FATF第5次対日相互審査も見据え、金融機関等は継続的に自らのマネロン等対策の有効性検証を実施し、リスク管理態勢を維持・高度化していく必要がある。
      • 金融庁としても、前述の有効性検証等の取組事例に加え、既に述べたとおり、金融機関等が実施する有効性の検証等の取組について事例や参考となる考え方などを整理し、公表・共有に向けた検討を進めていく。
  • 「マネロン・テロ資金供与対策ガイドラインに関するよくあるご質問(FAQ)」の改訂
    • 2024年4月、金融庁は、金融機関等によるリスク分析に基づく創意工夫・主体的な対応をより一層促進するため、金融機関等の意見・要望を踏まえ、FAQを一部改訂した。今後も各金融機関等のマネロン等対策の実効性向上に資するよう、ガイドラインやFAQの改訂は機動的に行っていく。改訂の主なポイントは以下のとおりである。
  1. 顧客管理
    1. 自らのリスク分析を踏まえた柔軟な顧客管理措置の促進
      1. リスクに応じた簡素な顧客管理
        • リスクに応じた簡素な顧客管理(以下「SDD」)の適用対象顧客とできる要件である「対象顧客は低リスク先顧客であること」「対象顧客の口座を取引モニタリング検知対象とすること」「対象顧客であっても情報更新された場合は顧客リスク評価を見直すこと」の3点に加え、これらの要件を満たした上で、自らの顧客等のリスク分析を踏まえてSDDの適用対象顧客を選定することができる旨を明確化した。
        • 従来は上記に加えて、「法人・営業性個人ではないこと」「本人確認済みであること」「直近1年間において捜査機関等からの外部照会及び口座凍結依頼を受けた実績がある顧客や疑わしい取引の届出実績のある顧客でないこと」の3点も要件としていた。これらは、金融機関等がリスク分析を行うに当たって考慮すべきポイントではあるものの、これら3点に合致しない顧客を一律にSDD対象外とすることは必須ではない。よって、これら3点は要件ではなく、リスク分析に当たって考慮することが考えられる点として注書きに記載することとした。金融機関等が対応に当たって留意すべき点は以下のとおり。
          • 注書きに記載した点に該当する顧客をSDDの適用対象外とする取扱いを継続することに問題はないと考えられる。
          • 新たな基準でSDD対象を選定する場合、自らのSDD対象顧客群のリスクを分析し、SDDを適用することが妥当である旨の検証することが考えられる。
      2. 顧客情報更新の頻度
        • 顧客のリスクに応じた定期的な顧客情報更新の実施に当たって、金融機関等が自らの直面するマネロン等リスクを検証し、顧客情報更新の頻度を自ら決定できる旨を明確化した。
        • 今般、高リスク先については1年に1度、中リスク先については2年に1度、低リスク先については3年に1度といった頻度で情報更新を行う点はあくまで例示であることを明確化した。また、例示によらず顧客情報更新の頻度を自ら決定する場合は、全顧客のリスク格付を行っていることを前提として、更新頻度が顧客リスク評価を適切に行うために妥当か検証し、経営陣に報告の上適切な頻度を定めること、以降も定期的に更新頻度の妥当性に問題がないことを検証することが考えられる旨を明確化した。金融機関等が対応に当たって留意すべき点は以下のとおり。
          • 高リスク先について1年に1度、中リスク先について2年に1度、低リスク先について3年に1度の頻度での顧客情報更新を継続する金融機関等においては、従来の対応を継続して問題ないと考えられる。
          • 金融機関等が、自ら顧客情報更新頻度を検討する際には、情報更新が必要であると判断した全顧客のリスク評価見直しを一度は実施していることが前提となると考えられる。
          • 金融機関等が自ら顧客情報更新頻度を検討するに当たって、情報更新実施手順や妥当性検証の手順等を規程等に定めること及び経営陣の関与、実施・検討内容・意思決定等の証跡確保等も必要と考えられる。
      3. 調査に応ずることがない顧客のリスク評価
        • 情報更新に有効であると考えられるあらゆる手段を講じても顧客が調査に応ずることがない場合、当該顧客等のリスクを分析し、適切に自らの顧客リスク評価に反映することが考えられる。
        • 金融機関等が定期的に情報を更新することが必要と判断した顧客に対しては、当該顧客の情報更新に有効であると考えられるあらゆる手段を講じて情報を更新することが重要である点は引き続き変わらない。
        • あらゆる手段を講じてもなお情報更新できない顧客については、その事実のみをもって必ずしも高リスクとする必要はなく、取引履歴データ等を踏まえて顧客等のリスクを分析し、分析結果を顧客リスク評価に反映すること及びこうした顧客群の管理状況・評価結果等の妥当性が定期的に検証され経営陣に報告されていることが必要であることを明確化したものである。
    2. 国際機関PEPsに関する記載の明確化
      • 国際機関PEPsについても、国内PEPsや他の顧客と同様にリスクに応じた対応が必要である点を明確化し、併せて国際機関PEPsの定義を記載した
      • 本項における今般の改訂は、全ての国内PEPs・国際機関PEPsに対する何らかのリストを利用したスクリーニングを一律に行うことや、全ての国内PEPs・国際機関PEPsに対して一律にEDDを行うことを示したものではない。他の顧客と同様に、国内PEPs・国際機関PEPsについても、リスク評価を行い、リスクに応じた顧客管理を行うことが考えられることを明確化したものである。
  2. 取引モニタリング・フィルタリング
    • ガイドラインでは、金融機関等に対して、国際連合安全保障理事会決議等で経済制裁対象者等が指定された際に、遅滞なく照合するなど、国内外の制裁に係る法規制等の遵守その他リスクに応じた必要な措置を講ずることを求めている。
    • 遅滞なく照合するための金融機関等における具体的な対応として、外務省告示の発出日以降、金融機関等は、速やかに制裁対象者リストの更新に着手し、合理的な期日までに差分照合を完了することが考えられることを明確化した。
    • 具体的には、従来は、国際連合安全保障理事会決議等で経済制裁対象者等が指定されてから遅くとも24時間以内に自らの制裁リストに取り込み、取引フィルタリングを行い、各金融機関等において既存顧客との差分照合が直ちに実施されているところであるが、今般の改訂で、財務省が金融機関等に示している基準と整合させた。今後は、改訂後の内容を踏まえて対応することで差し支えないと考えている。
  • フォーラムを終えての感想
    • マネロン等対策は営業面で競合する分野ではなく、地域でマネロン等対策に取り組んでいる姿勢を示すことが顧客の安心・安全につながるため、連携して取り組んでいきたい。(地方銀行)
    • 継続的顧客管理に係る他行の取組事例は、課題である回答率の向上に大変参考になった。(第二地方銀行)
    • 第二地方銀行の中では情報を発信する側だったため、地銀とも意見交換できたことが大変有意義だった。(第二地方銀行)
    • 技術的な面も含めて他金融機関の事例を聞くことができ、大変参考になった。(信用金庫)
    • 2024年3月末に向けて態勢整備を進めていたところ、フォーラムによってかなり疑問点が解消された。(信用組合)
    • 今後は、業容、営業地域、顧客特性等が似通った金融機関でグルーピングして議論するというのも有益(地方銀行)
    • 当局から対面で解決策や参考事例について共有いただけたのが非常に有難かった。今後も対面での開催を希望(地方銀行)
    • 今後は金融犯罪防止の取組も情報交換していきたい。(地方銀行)
  • 直近のFATF基準改訂状況
    • FATFは、2023年10月に、財産回復(勧告4及び38)及びNPO(勧告8)に係る勧告を改訂した。さらには、2024年2月、改訂勧告25(法的取極)に係るガイダンスを採択し、法人及び法的取極の実質的支配者の透明性向上に向けた一連の作業を完了させた。
    • また、クロスボーダー送金の改善に向けたG20における取組、新たな決済手段や送金事業者の登場等による決済市場の構造変化、ISO20022の決済規格等の標準化の動きも踏まえ、FATFでは、現在、FATF基準の技術的中立性や”same activity,same risk, same rules”原則に則り、電信送金(勧告16)に係る基準の改訂作業に取り組んでいる。
    • FATFでは、市中協議(2024年2月~2024年5月)や官民対話を実施してきたところであるが、本勧告改訂は、民間事業者への影響が大きくなり得ること、クロスボーダー送金のコスト・スピードの改善や金融包摂など他の政策目的との両立を図る必要があること、勧告自体が高度に技術的かつ複雑であるといった特性を有する。
    • 金融庁としては、これらを踏まえ、引き続き、関係省庁・民間事業者等と緊密に意見交換を行いながら、勧告の最終化等に適切に対応していく方針である。
  • FATF基準改訂を踏まえた政府による主な取組
    1. 法人及び法的取極の透明性向上に関する取組(勧告24、25関係)
      • 政府として、株式会社を対象とした仕組みの構築を優先的に実施することと整理し、法人の透明性向上に関する取組について検討を進めた。また、外国で設立された法人や外国信託等について、本邦においてマネロン等に悪用されるリスクの評価を実施する等、検討結果を踏まえ、今後3年間で取り組むべき対応内容を行動計画(2024-2026年度)に取りまとめた。
    2. 財産回復に関する取組(勧告4及び勧告38関係)
      • 政府は、2023年10月にFATFにて採択された財産回復に係る勧告改訂等を踏まえ、2026年度末までに取り組むべき対応方針につき、行動計画(2024-2026年度)に取りまとめた。
    3. NPOのテロ資金供与目的での悪用防止に関する取組(勧告8関係)
      • NPOセクターのテロ資金供与目的での悪用リスクに対して、正当なNPO活動を不当に遮ることのないよう、2023年10月、焦点を絞った、比例的かつリスクに応じた措置が効果的な取組の中核となることを明確化する勧告改訂案等が取りまとめられた。これも踏まえ、令和7年度末までに取り組むべき対応内容を行動計画(2024-2026年度)に取りまとめた。
  • フィッシング対策
    • 我が国のインターネットバンキングに係る不正送金事犯については、昨年に引き続き増加傾向にあり、2023年は発生件数が5,578件、被害総額は約87.3億円と過去最多となっている(それぞれ前年比で391.0%、474.6%増加)。
    • 同事犯の多くは、フィッシングによるものと考えられるところ、同事犯に対応するため、各金融機関等によるフィッシング対策の高度化が喫緊の課題となっている。
    • 金融庁は、2022年9月、警察庁と連名で、全国銀行協会(以下「全銀協」)等に対し、DMARCの導入やフィッシングサイトのテイクダウン等を含む不正送金対策の強化を要請したほか、2023年12月、同事犯に係る注意喚起を警察庁、全銀協及び日本サイバー犯罪対策センターと連携して行っている。また、各金融機関等においてもアプリやウェブサイト上での表示・掲載、店頭でのチラシの配布等により、利用者向けの注意喚起を実施している。
    • フィッシングの特徴としては、常に他金融機関等比で脆弱な金融機関等に標的が移ることや、金融機関側が対策を講ずるたびに新たなフィッシング手口による攻撃が行われることにある。そのため、絶えずフィッシング対策の情報収集を行い、フィッシングの最新の手口や他の金融機関等のフィッシング対策の取組状況等を把握する必要がある。
    • 以下、金融庁がモニタリングにより把握した各金融機関等のフィッシング対策の取組状況を列挙する。各金融機関等は、これに限らず他の金融機関等や業界団体と連携し、日々対策を高度化していくことが求められる。
      • 普段と異なる利用環境からのアクセスを適時・適切に捕捉するシステムを導入し、リアルタイムでのログイン謝絶や送金保留を実施
      • 不正送金事犯で使用されたIPアドレスや端末情報をブラックリスト化し、リスト登録先からのログインを自動謝絶
      • モアタイム中(夜間)の振込上限額の変更依頼や新規振込先への送金依頼を自動保留し、即時での反映は行わず、翌営業日以降に反映
  • 暗号資産交換業者宛ての不正送金対策
    • 昨今、インターネットバンキングによる不正送金事犯や特殊詐欺事案において、暗号資産交換業者が所有する預貯金口座を利用した不正送金被害が多発している。
    • こうした状況を踏まえて、2024年2月、金融庁と警察庁は連名で、全銀協を始めとする関連業界団体等へ利用者保護等のためのリスクベースによる更なる対策の強化等を要請している。本要請においては下記2点の対策が参考事例として挙げられているが、各金融機関等はこれに限らず他の金融機関等や業界団体等と連携し、対策を不断に高度化していくことが期待される。
    • 対策事例の1点目は、振込名義変更(異名義)による暗号資産交換業者への送金停止等である。金融庁にてモニタリングを行った金融機関では、既にインターネットバンキングにおける振込名義変更による暗号資産交換業者への送金をシステムで検知し、自動で事前停止しているなどの取組が多く見受けられた。
    • 対策事例の2点目は、暗号資産交換業者への不正な送金への監視強化である。前述したフィッシング対策や、後述する口座の不正利用対策の内容の中には、暗号資産交換業者宛ての不正送金の監視にも有益となる取組が含まれている。また、下記のような暗号資産交換業者に特化した検知の仕組みや不正利用実態の調査・分析などが含まれる。
      • 暗号資産交換業者宛ての送金の中でも、特にリスクが高いと判断された取引やその取引に関連した個人及び法人に対する深堀調査、必要に応じてインターネットバンキングの利用制限を実施
      • ネットワーク分析を行い、不正利用の疑いが強い口座名義人に関連する個人・法人を特定して、組織的犯罪集団の疑いがあるケースとして深堀調査を実施
  • 預貯金口座の不正利用対策等
    • 近年、特殊詐欺の被害やフィッシング被害が増加しており預貯金口座の不正利用件数も増加傾向にある
    • 金融庁は、口座の不正利用対策に関して金融機関等に対する継続的なモニタリングを行っており、以下の傾向を把握した。
      • 非対面にて開設された口座は対面で開設された口座よりも不正利用されやすい。
      • 新規に開設された口座(開設後約1年未満の口座)は既存の口座よりも不正利用されやすい。
    • 以下では、口座の不正利用対策として先進的な取組を紹介する。なお、こうした先進的な取組を行っている金融機関等の多くにおいて口座の自主凍結の件数が、警察等からの凍結要請の件数を上回っていた。
      1. 検知及び検知後対応の即時性(リアルタイムモニタリング)
        • 24時間体制で、送金等個別取引の自動保留、自動謝絶や速やかな口座の凍結対応等を実施
      2. 預貯金口座凍結の判断基準の精緻化・明文化
        • 属人的な判断能力やノウハウに頼ることなく口座凍結の判断基準を明確に設定し、規程やマニュアル等にて明文化
      3. 取引モニタリングシナリオや預貯金口座の凍結の判断基準の機動的な見直し
        • 口座の売買・譲渡や収納代行などに見られる特有の挙動・振舞いに着目し、きめ細やかなモニタリングシナリオを設定
        • 不正利用の検知基準向上のため、日々の業務の中で把握した傾向等を、数日以内に既存のモニタリングシナリオや判断基準に反映
        • モニタリングシナリオや判断基準の見直しを、月次以上の頻度で実施。くわえて、定期的にシナリオや敷居値の有効性を検証
        • 金融庁は、これまでのモニタリングを通じて、相対的に対策が劣る金融機関等では口座の不正利用が増加する傾向を把握している。他方で、口座凍結に積極的に取り組む金融機関等では不正利用が抑止・減少する傾向にある。
        • 各金融機関等は、積極的・機動的な情報交換を行うとともに、他の金融機関等の取組を参考にしつつ、自らの口座不正利用対策に劣っている点がないか、また、改善・高度化の余地がないか、感度を高く保つことが重要である。
  • 法人名義の預貯金口座の悪用への対応
    • 法人名義の預貯金口座は、一般的に個人名義の口座と比較して、振込限度額が高額あるいは上限設定がない場合が多く、例えば、短期間で多頻度の入出金が繰り返される場合であっても、通常の商取引に係る決済・送金と不正な入出金とを明確に区別をすることは、金融機関等にとって困難な場合が多くみられる。
    • また、金融機関等が正規に利用されている法人名義の口座を誤って口座凍結・取引停止した場合、当該法人の事業運営及び継続、資金繰り等に多大な影響を与えるおそれがあることについて、金融機関等としては、不正利用が疑われる場合であっても法人名義の口座への対応には慎重になる傾向がある。
    • これらの特徴を含め、詐欺等のために口座の不正利用を企図する者にとっては、法人名義の口座の買入れ・譲受けを志向するものと考えられる。
    • 各金融機関等における法人名義の口座の取引モニタリングに当たっては、インターネットバンキングの接続場所や端末、申告された事業の特性と入出金との整合性等、通常の商取引に係る取引とは異なる取引を検知するため、これまで以上に法人顧客について、リスクに応じた適切な顧客理解を深めることが期待される。
  • 偽造本人確認書類を用いた預貯金口座開設への対応
    • 特殊詐欺やSNS型投資詐欺・ロマンス詐欺など預貯金口座への振込みにより他人の金銭を詐取する類いの犯罪において、架空・他人名義の口座が振込先として悪用されている例が多数みられる
    • このように不正に利用される振込先口座には、本人確認書類(運転免許証等)の偽造等により不正に開設されたものもある。インターネット上には、偽造本人確認書類の販売や本人確認書類の偽造等の請負に関するウェブサイトが存在し、精巧な偽造書類を比較的容易に入手することが可能となっている。そのため、金融機関等にとって、本人確認書類の偽造等への対応を始め、不正な手段による口座開設への対策は急務である。特に、顧客と対面することなく口座開設を受け付ける場合には、本人確認書類自体の手触りや質感等を確認することができず、偽造等を看破することが困難であることから、本人特定事項の確認方法の特性に応じた対応を検討する必要がある。後述の「国民を詐欺から守るための総合対策」では、口座の不正利用防止対策の強化等として、非対面、対面ともに公的個人認証による本人確認を行うこととしている。
    • なお、本人確認書類の偽造等を識別するために金融機関等では、以下のような対策が講じられている。
      • 本人確認書類の偽造に関し、手口等の特徴を分析して審査に活用
      • 偽造本人確認書類の識別能力を向上するためシステム化を推進
      • 口座開設数の増加に応じ、行内のリソース確保や業務委託先との連携を含め、適切な審査体制を整備
    • また、本人確認書類の偽造等に対し高い耐性を持つと考えられる本人確認方法としては、犯収法施行規則第6条第1項第1号ヘ・ト・チに規定する本人確認書類のICチップに記録された情報の送信を受ける方法のほか、同号ワに規定する公的個人認証サービスを利用する方法があり、今後、一層の利用拡大が期待される。また、対面での本人確認においても、本人確認書類の提示に加え、ICチップ情報の確認を行うことも偽造本人確認書類を見分ける上で効果的である。

金融庁と主要行等との間の定期的な意見交換会の状況について、直近のものを抜粋して紹介します(AML/CFTに関するものが中心ですが、それ以外の領域についても一部含んでいます)。

▼金融庁 業界団体との意見交換会において金融庁が提起した主な論点
▼主要行等
  • 「気候関連シナリオ分析~銀行セクターにおける今後の取組~」の公表について
    • 金融庁と日本銀行は、2021事務年度に実施した気候関連シナリオ分析の第1回エクササイズに続き、3メガバンクを対象として、2024事務年度に第2回エクササイズを実施する予定である。5月10日に、その枠組を公表した。
    • 第2回エクササイズでは、短期シナリオによる移行リスクの分析を行う予定である。政策変更や技術制約等で短期的により強いストレスのかかる状況を想定しており、第1回エクササイズで行った長期シナリオによる分析を補完するものであると考えている。また、これに加えて、企業の移行(トランジション)を支援するための銀行のトランジション・ファイナンスの効果を示すことができないか、試行的に考察することも検討している。
    • 実施の詳細については、引き続き、3メガバンクと金融庁・日本銀行の間で実務的な議論を続けていくので、第2回エクササイズ実施に向けて、ご協力をお願いしたい。
    • なお、本公表においては、2023事務年度に行った、気候関連リスクが保有有価証券の時価下落を通じて銀行の財務に与える市場リスクの影響の簡易分析も紹介している。
  • マネロン等対策に係る当面の対応について
    • 「マネロンガイドラインに基づく態勢整備」については、2024年3月末に対応期限を迎え、4月末に「対応結果の報告」を提出いただいたところ。経営トップのリーダーシップのもと対応を進めてこられたことに感謝申し上げる。
    • 金融庁としては、当面の間、本報告を踏まえたモニタリングを通じて、各金融機関における態勢整備状況の確認を行っていく。
    • こうしたモニタリングの結果を踏まえて、これまで申し上げてきたとおり、必要に応じて個別に行政対応を検討する場合があることを改めて申し上げる。
    • 今後は2028年に予定されているFATF第5次対日相互審査も見据え、各金融機関においては整備したマネロン等リスク管理態勢を適切に運用し、その有効性を検証し、継続的に態勢を維持・高度化していただく必要がある
    • 金融庁としても、各金融機関における、こうした有効性の検証等の取組について先行的に対応を実施している金融機関の事例を共有するとともに、各金融機関の参考となるような一定の目線・考え方を整理できないか検討を進める。
  • 「マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策に関する行動計画(2024-2026年度)」について
    • 4月17日、マネロン等対策に関する政府の新たな行動計画が策定、財務省ウェブサイトにおいて公表された。
    • 新たな行動計画は、今後3年間の政府及び金融機関等が実施すべき取組を取りまとめたものであり、金融業態においても、官民一体で、リスクベースアプローチに基づきマネロン等対策の強化・高度化を着実に進めていく必要がある
    • これまでの計画では期限を定めて基礎的な態勢整備を主に対応いただいてきたところ、今後は態勢の実効性を高めていくとともに、金融犯罪の巧妙化をはじめとするリスク環境の変化にも対応し、国際的な水準にも対応できるよう取り組んでいただきたい
    • また、金融庁としては、共同システムの安定運営等により、我が国の金融業態のマネロン等対策の底上げについても対応していく。
    • 各行の経営トップにおいては、引き続き自らのリーダーシップの下で、これまでに整備した態勢の下、その有効性を一層高める取組みを着実に進めていただきたい。

上記レポートにおいても指摘されているとおり、金融犯罪等において、対面・非対面における本人確認手続きの脆弱性が悪用されている実態があります。金融機関のみならず、すべての事業者において、本来は本人確認手続きを厳格化していく必要があると考えます。こうした問題意識のもと、本人確認手続きを巡る様々な動きがありますので、いくつか紹介します。

  • 携帯電話の契約時の本人確認を原則としてマイナンバーカードに一本化する政府方針を巡り、松本総務相は、マイナンバーカードを持たない人への対応として、対面の契約では「運転免許証や在留カードも利用できる方向で検討する」と述べています。具体的な本人確認の方法や移行時期については、有識者会議で引き続き検討を進め「本年度中に省令改正案を示す」と説明しています。一方、非対面の契約については、原則としてマイナンバーカードに一本化する方針も改めて示しています。これまでの犯罪状況を調べると、運転免許証の偽造による不正契約が多いためだと理解を求めています。
  • 3メガバンクや大手地銀が、口座開設などの本人確認で利用できる「デジタル証明書」をつくると報じられています(2024年6月20日付日本経済新聞)。データを改ざんしにくいブロックチェーン(分散型台帳)を活用し、氏名や住所、生年月日などの個人情報をデジタル化するもので、複数の金融機関で利用できるデジタル証明書の仕組みを共通にして、店頭の事務などの効率を高めるとしています。三菱UFJ信託銀行がつくるデジタル証明書の協議会に、三菱UFJFG、三井住友FG、みずほFGのメガバンクが加わり、ふくおかFGや静岡銀行も参加、法制上の課題を整理した上で2024年内に実証実験し、2025年のサービス開始を目指すということです。海外では企業の枠を超え、個人認証の技術を共同で利用する動きが進んでおり、カナダでは主要金融機関による協議会が本人確認情報を企業をまたいで共有できる仕組みを整備、スペイン大手銀やドイツ銀行でも認証データをベースに、他の行政や企業が提供するサービスを利用できるようにしている事例があるといいます。3メガは2023年、ブロックチェーンを基盤としたデジタル通貨やデジタル証券の発行基盤「プログマ」を手掛ける企業の設立にあたって出資、金融サービスのインフラでは各社が手を組む事例が出ており、異業種の金融参入も見据え、利便性向上へ協力分野を広げられるかが重要になると考えられます。金融分野でのデジタル証明書の活用には犯罪収益移転防止法上の規定が壁となり、例えば、同法では本人確認書類の画像データを撮影後、即時送信する必要があると定めていますが、協議会では業界単位でフィンテックに関する支援制度などを活用し、同法の規定を満たすための契約の方法なども含めて政府と調整する方針としています。
  • 政府は、新たな旅券(パスポート)の発給などを盛り込んだ旅券法施行令の改正を決定しています。外務省によると、新旅券は偽造対策のため、顔写真掲載のページをプラスチック製にし、ICチップと一体化させるとしています。2025年3月24日以降に申請した分が対象で、土日祝日を除き、申請日から約1週間で交付されるといいます。
  • デジタル庁は、スマホとマイナンバーカード(マイナカード)を使い本人確認をする無料の「デジタル認証アプリ」の提供を開始しています。マイナシステムでの本人確認を企業のオンラインサービスでも使いやすくし、コスト削減やマイナカードの利用拡大を図るとしています。一方で個人の利用状況を国が把握することにつながるとの指摘もあります。マイナカードを使ったスマホでの本人確認では、企業側でシステムの開発や検証をする必要があることが普及の障害になっていたところ、今回のアプリと連携するだけで、企業側は本人確認機能を利用できるようになりますが、認証アプリが利用されると、総務省などが所管する地方公共団体情報システム機構に照会が行われることから「政府はマイナカードを持つ個人がどんな手続きをしたのかなどを把握できる」と指摘されています。
  • 総務省のWGにおいても、本人確認手続きのあり方について議論が進んでいます。以下、検討状況について、簡単に紹介します。大きな方向性として、「顧客等から顔写真のある本人確認書類を撮影した画像情報の送信を受ける本人確認方法については、精巧に偽変造された本人確認書類が悪用されている実態に鑑み、廃止する」、「同様に、顧客等から本人確認書類の写しの送付を受ける本人確認方法についても、一般的に写しは偽変造が容易であり、その看破も困難であることから、廃止する」、「顔写真のない本人確認書類を用いる非対面の本人確認方法については、原則廃止するが、偽造・改ざん対策が施された本人確認書類(住民票の写し等)の原本の送付を受ける本人確認方法については、引き続き、一定条件の下、本人確認に利用可能とする」、「上記のほか、顔写真のない本人確認書類を用いる対面の本人確認方法についても、上記に準じて見直しを検討する」ということが示されています。
▼総務省 不適正利用対策に関するワーキンググループ(第6回)
▼資料6-2 不適正利用対策に関するWG 中間とりまとめ(案)(事務局)
  • SMSの不適正利用対策の方向性(案)
    1. マルウエア感染端末の特定・警告の推進
      • 通信の秘密の取扱いに留意した上で、通信キャリアが提供するSMSフィルタリングにおいて得られたデータを分析し、マルウエア感染端末の特定・警告を行う取組を進めることにより、マルウエア感染端末の利用者の損害の拡大の防止に加え、利用者の行動変容を促し、スミッシングメッセージの拡散を抑制する。
    2. スミッシングメッセージの申告受付の推進
      • スミッシングメッセージ等の迷惑SMSを受け取った利用者から、さらに円滑に申告を受け付けられるようにしていくとともに、申告データを事業者横断で活用できるようにする仕組みを構築することにより、迅速な迷惑SMS対策ができるようにする。
    3. SMS関連事業者による業界ルールの策定
      • SMS不適正利用対策事業者連絡会の枠組を活用し、SMSを利用する側の事業者を含め、関連する業界団体と連携することにより、SMS発信元の明確化・透明化に係る取組や、SMS認証代行事業者等の悪質事業者への対策などを盛り込んだ業界ルールを策定し、正規のメッセージがしっかり正規のものとわかる形で配信されるよう、効果的な対策を実行する。
    4. 迷惑SMS対策に係る周知啓発の推進
      • スミッシングの攻撃手法は時々刻々と変化をしていることから、官民が連携し、最新の対策方法に関する情報発信を行うとともに、キャリア共通番号の仕組みの周知広報やRCSの活用推進など、SMSに関する利用者のリテラシー向上につとめ、自主的な防衛を推進する。
  • デジタル重点計画に基づく非対面の本人確認方法の見直しの方向性
    • 顧客等から顔写真のある本人確認書類を撮影した画像情報の送信を受ける本人確認方法については、精巧に偽変造された本人確認書類が悪用されている実態に鑑み、廃止する。
    • 同様に、顧客等から本人確認書類の写しの送付を受ける本人確認方法についても、一般的に写しは偽変造が容易であり、その看破も困難であることから、廃止する。
    • 顔写真のない本人確認書類を用いる非対面の本人確認方法については、原則廃止するが、偽造・改ざん対策が施された本人確認書類(住民票の写し等)の原本の送付を受ける本人確認方法については、引き続き、一定条件の下、本人確認に利用可能とする。
    • 上記のほか、顔写真のない本人確認書類を用いる対面の本人確認方法についても、上記に準じて見直しを検討する。
  • WGにおいて構成員・発表者から頂戴したご意見
    1. 自然人の本人確認方法
      • 本人確認書類の偽変造が大きな問題になっている現状を踏まえると、本人確認書類の券面の画像を確認する方法やその写しを確認する方法は廃止せざるを得ない。(鎮目構成員、山根構成員ほか)
      • マイナンバーカードの公的個人認証に原則として一本化していくことについて同意。(鎮目構成員、沢田構成員、仲上構成員ほか)
      • 対面の場合においても、ICチップを確認する方法や電子証明書を確認する方法など、デジタル技術を活用した確認方法の導入に向けて検討を進めるべき。(辻構成員、山根構成員、DIPC、イオンリテール、日本通信ほか)
      • 利用者に対し、公的個人認証サービスなどのデジタル技術を活用した確認方法についてその意義や重要性をきちんと説明し、普及を進めるべき。(沢田構成員、辻構成員ほか)
      • 公的個人認証などのデジタル技術を活用した確認方法の普及に当たっては、事業者に準備コストがかかることから、支援が必要ではないか。(沢田構成員、イオンリテールほか)
      • 公的個人認証を利用する事業者・サービスが増えていけば、コストは低廉化していくのではないか。(DIPC)
      • デジタル技術を活用する本人確認においては、犯罪への悪用率が下がることから、不適正利用対策にもつながるのではないか。(日本通信)
    2. 法人の本人確認方法
      • 登記情報提供サービスの登記情報を用いた方法の導入について検討すべきではないか。(楽天モバイル、山根構成員)
      • 法人の代表者等の本人確認において、電子証明書を活用する確認方法を導入すべきではないか。(日本通信)
    3. 他の事業者への依拠
      • 犯収法で認められる金融機関への依拠の仕組みを導入してはどうか。(楽天モバイル)
      • 他事業者への依拠の導入に当たっては、信頼性を確保するため、身元確認レベルを合わせるべきではないか。(大谷構成員、辻構成員、鎮目構成員ほか)
      • 金融機関に依拠するとした場合、責任のあり方について留意すべき。(沢田構成員、山根構成員)
      • 他事業者への依拠の仕組みを導入する際には、より確実な本人確認方法を用いて確認した実績に基づいて、依拠を行うべきではないか。(大谷構成員、辻構成員ほか)
      • 公的個人認証で本人確認を実施済みの事業者に対して、適切な当人認証を行った上で依拠するのであれば、事業者・利用者にとって負担の少なく利便性の高い本人確認が実現できるのではないか。(DIPC)
      • 携帯電話事業者間の依拠については、業界全体として、本人確認が適切な方法で行われることが前提となるため、それを踏まえて検討すべき。(星構成員、中原構成員ほか)
      • 携帯電話不正利用防止法と犯罪収益移転防止法の確認方法の整合性をはかりながら検討すべき。(辻構成員ほか)
    4. その他の論点
      • 携帯電話が社会のハブとなっており、携帯電話自体が運転免許証と同じような存在になってきていることから、信頼性を確保する必要がある。(星構成員)
      • 本人確認書類の写しや画像データの保存については、プライバシーの観点に加えて、漏洩した場合に更に不適正利用されてしまうリスクという観点でも、将来的には検討が必要。(沢田構成員)
      • 警察からの求めによる契約者確認の仕組み自体が十分に機能しているかは、常に検証していく必要があるのではないか。(中原構成員)
      • 本人確認義務の対象範囲について、将来的には検討していくべき。(星構成員)
      • eコマースやSNSのアカウント登録の際に行う本人確認についても、公的個人認証などのデジタル技術を活用する本人確認方法が低コストで使える形で普及するとよい。(沢田構成員)
      • デジタル技術の活用が難しい高齢者等の利用者への対応や災害時(通信障害時)の対応として、別の方法を準備するのではなく、デジタル化した方法に対応できるよう、サポートが必要ではないか。(沢田構成員)
    5. 対面における電子的な確認方法
      • マイナンバーカードに係る機能のスマートフォンへの搭載の仕組み(カード代替電磁的記録)の活用を進めるべき(辻構成員、山根構成員ほか)
      • 対面におけるICチップの読み取りによる確認方法の導入に当たっては、単にICチップを読み取ることを要件とするのではなく、セキュアなICチップに格納された本人特定事項を券面情報等と照合するなど、セキュリティの確保されたICチップの中の情報を確認する方法とすべき(辻構成員、山根構成員ほか)
    6. 非電子的な確認方法の在り方
      • 何らかのやむを得ない理由により、ICチップ付き本人確認書類を所持できない場合など、代替手段として非電子的な確認方法を認めることは考えられる(鎮目構成員ほか)
      • 非電子的な確認方法は、あくまで例外的な確認方法とし、やむを得ない場合に限り、補充的に理由できることとすべきではないか(鎮目構成員、星構成員、山根構成員、大谷構成員ほか)
      • 非電子的な確認方法の検討に当たっては、電子的な確認方法と比較して悪用リスクが高くならないよう、検証を行う必要がある(中原構成員ほか)
    7. 他の事業者への依拠の在り方
      • 他の事業者への依拠の検討に当たっては、当該事業者における身元確認レベルが一定以上(例えば、公的個人認証等で確認済み)であることを確認できた場合に限り依拠を行うこととすべき(辻構成員、大谷構成員、沢田構成員ほか)
  • 携帯電話不正利用防止法の本人確認方法の見直しの方向性(案)
    1. 自然人の本人確認方法
      • 非対面における券面を確認する方法(写しの送付方式、eKYC厚み方式)の廃止
      • 対面における電子的な確認方法(ICチップの読み取り等)の義務化(特定事項伝達型本人限定受取郵便を含む)
      • カード代替電磁的記録(マイナンバーカードの機能のスマートフォンへの搭載)の活用による確認方法の導入
      • 例外的な確認方法としての非電子的な確認方法の存置
    2. 法人の本人確認方法
      • 登記情報提供サービスとの連携による確認方法の導入
      • 法人の契約担当者(代表者等)の本人確認における電子証明書の導入
    3. 過去の確認結果への依拠
      • 公的個人認証で本人確認を実施済みの事業者への依拠の導入
      • 当人認証レベルの確保(多要素認証等)
      • 継続的顧客管理による確認記録の更新(住所変更の確認記録への反映等)
    4. その他の見直し事項
      • 譲渡時・貸与時本人確認における同様の見直し
      • 電子的確認方法における確認記録への保存の在り方の見直し
      • 警察からの求めに基づく契約者確認方法の見直し
      • 犯罪収益移転防止法との整合性の確保

FATFは、マネー・ローンダリングとテロリストの資金調達に対するトルコの取り締まり体制に改善があったと指摘、これによりトルコはもはやグレーリスト対象国ではないと発表しています。トルコは銀行、金など貴金属の取引、不動産などのセクターの監督に不備があるとして、2021年10月にグレーリストに加えられていました。本措置について、トルコのユルマズ副大統領は「今回の決定によりトルコの金融システムに対する海外投資家の信頼が一段と高まった」とXに投稿、「トルコの金融セクターと実体セクターの双方に極めてポジティブな結果をもたらす」と述べていますが、外国資本の呼び込みに取り組んでいるトルコにとって追い風となると見られています。なお、FATFはジャマイカについてもグレーリストから除外、法令順守で「著しい前進」があったためだとしています。本内容を含むFATFの最新動向について、金融庁のHPから紹介します。

▼金融庁 FATFによる市中協議文書「FATF勧告16の改訂に関する説明文書及び勧告改訂案」の公表について
▼6月FATFプレナリー結果概要:Outcomes FATF Plenary,26-28 June 2024(グーグル翻訳)
  • FATFは、現地視察の成功を受けて、2カ国を監視強化の対象から外し、高リスク国・地域別監視対象国・地域に関する声明を更新しました。FATFは、過去10年間のFATFの声明に基づ き、朝鮮民主主義人民共和国(DPRK)がマネー・ローンダリング防止及びテロ資金供与対策(AML/CFT)体制における重大な欠陥、並びに大量破壊兵器の拡散及びその資金供与に関連する北朝鮮の違法行為がもたらす深刻な脅威に対処していないことに対する懸念を改めて表明しています。
  • FATFは、リスクと状況に重点を置くことに伴い、国際協力レビューグループ(ICRG)プロセス(いわゆるグレーリストまたはブラックリストプロセス)の下で国を優先するための基準を改訂することにより、重要な戦略的マイルストーンを達成しました。これらの変更は、次回の評価ラウンドで適用され、プロセスをさらにリスクベースにし、後発開発途上国が直面する能力の課題を認識します。
  • 次回の相互評価に備え、本会議は、資産回収と国際協力の枠組みを更に強化し、犯罪者から犯罪収益をより効果的に奪う、最近改訂されたFATF基準の遵守について、各国がどのように評価されるかについて合意しています。また、FATFは第2回学習・開発フォーラムを主催し、今回は受益者に関するFATF基準の改訂版の国内実施の支援に焦点が当てられました。
  • ロシア連邦の停止は引き続き続いています(2024年2月の声明を参照))
  • FATF基準の遵守
    1. ICRG審査プロセスにおける国別優先順位付け基準の見直し
      • FATF加盟国は、国際金融システムにリスクをもたらす戦略的AML/CFTの不備(FATFのグレーリストまたはブラックリスト)を有する国について、国際協力レビューグループ(ICRG)の審査プロセスにおける国の優先順位付け基準の改訂を承認し、次の評価ラウンドに適用することで、重要な戦略的マイルストーンを達成しました。この更新された優先順位付け基準は、FATFの上場プロセスが引き続きリスクベースで、公正で、透明性があり、後発開発途上国が直面する能力の課題を認識していることを保証するために設計されたいくつかの新しい措置の1つです。
    2. 方法論の改訂
      • メンバーは、2023年10月に採択された資産回収及び関連する国際協力に関するFATF基準の遵守状況を各国がどのように評価するかに合意した。今後、各国は、他の措置の中でも特に、資産回復を優先していることを示す必要があります。所轄官庁は、犯罪財産を特定し、追跡しています。犯罪者から犯罪収益を奪うために没収命令が取得され、執行されます。建設的かつ時宜を得た国際協力を提供していること。
    3. 高リスクおよびその他の監視対象の管轄区域
      • 監視強化対象の管轄区域
        • 監視を強化している国・地域は、マネー・ローンダリング、テロ資金供与、拡散資金供与に対抗するための体制の戦略的欠陥に対処するために、FATFと積極的に協力しています。FATFが管轄区域を監視強化下に置くことは、その国が合意された期間内に特定された戦略的欠陥を迅速に解決するための行動計画を実施することを約束したことを意味します。この総会で、FATFはモナコとベネズエラを監視強化の対象国のリストに追加しました。
      • 監視強化の対象ではなくなった管轄区域
        • FATF総会は、ジャマイカとトルコが、相互評価で以前に特定されたAML/CFTの戦略的欠陥への対処において大きな進展を遂げたことを称賛しました。両国は、合意された期間内に特定された戦略的欠陥を解決するための行動計画を完了しており、FATFの強化された監視プロセスの対象ではなくなります。
        • ジャマイカ及びトルコは、AML/CFT/CPF体制の強化を継続するため、FATF及び同国が加盟する関連するFATF型地域機関と引き続き協力します。
      • 行動要請の対象となる管轄区域
        • FATFは、マネー・ローンダリング、テロ資金供与、拡散資金供与に対抗するための重大な戦略的欠陥がある国または地域を特定します。これらの国・地域は、国際金融システムを保護するための行動の呼びかけの対象となります。
        • FATFは、朝鮮民主主義人民共和国(DPRK)がマネー・ローンダリング防止及びテロ資金供与対策(AML/CFT)体制における重大な欠陥、並びに大量破壊兵器の拡散及びその資金供与に関連する北朝鮮の違法行為がもたらす深刻な脅威に対処していないことに対する懸念を改めて表明しました。特に、FATFは、北朝鮮が国際金融システムとの連結性を高めており、それが拡散資金リスクを高めていることに留意します。したがって、FATFは、北朝鮮に対する対抗措置の警戒を強化し、新たな実施と執行を求めます。
    4. インドとクウェートの相互評価報告
      • FATFは、マネー・ローンダリング、テロ資金供与、拡散資金対策の有効性、およびFATF勧告の遵守を評価したインドのFATF/APG/EAGの合同相互評価報告書を議論し、採択しました。
      • 本会議は、インドがFATFの要求事項を高いレベルで技術的に遵守しており、そのAML/CFT/CPF体制は、MLおよびTFリスクの理解、国際協力、基本的かつ受益的な所有者情報へのアクセス、金融情報の利用、犯罪者の資産剥奪と拡散防止資金供与措置など、良好な成果を上げていると結論付けました。しかし、一部の非金融セクターでは、予防措置の監督と実施を強化するための改善が必要であるとしています。また、インドは、ML及びTFの訴追の終結に関する遅延に対処し、非営利セクターがTFのために濫用されるのを防ぐことを目的としたCFT措置が、TFリスクに関するNPOへのアウトリーチの実施を含め、リスクベースのアプローチに沿って実施されることを確保する必要があります。
      • FATFは、FATFの品質と一貫性のレビューが完了した後、報告書を公表します。
      • また、本会議では、クウェートに対するFATF-MENAFATFの共同評価が議論され、採択され、クウェートにはML/TF/PFに対処するための適切な法的・監督的枠組みがありますが、効果的な成果をもたらすという点では深刻な欠陥が残っていると結論付けています。クウェートは、ML/TFリスクに対する理解を深め、TFの捜査と訴追を強化し、テロや大量破壊兵器への資金提供に関連する資産を遅滞なく合法的に凍結できるようにする必要があります。また、クウェートは、法人の濫用を防止し、非営利セクターをTFの濫用から保護するために、対象を絞ったリスクベースの措置を適用することにも注力すべきです
      • FATFは、FATFの品質と一貫性のレビューが完了した後、報告書を公表します。
    5. メンバーシップの問題
      • ロシア連邦の加盟国資格停止は引き続き続いている。2022年3月以降に発表された声明に続き、FATFは、国際金融システムを保護するために、すべての国・地域がロシア連邦に対して講じられた措置の回避による現在および新たなリスクに警戒すべきであることを改めて表明しています。
    6. 戦略的な取り組み
      • 腐敗に関するDNFBP技術コンプライアンスの水平レビュー
        • FATFは、ゲートキーパー(会計士、弁護士、不動産業者、信託・企業サービスプロバイダー)がマネー・ローンダリングやテロ資金供与に利用されるのを防ぐために加盟国が実施している措置の見直しを完了しました。これらのゲートキーパーがFATF基準に従って規制されていない場合、彼らは重大な犯罪リスクにさらされたままであり、マネー・ローンダリングの危険信号を見抜くための手段を欠いています。FATFは、2024年7月に本レビューの結果を公表する予定です。
      • 仮想資産:FATF基準の実施に関する的を絞った最新情報
        • FATFは、仮想資産及び仮想資産サービスプロバイダー(VA/VASP)に関するFATF基準の実施に関する各国・地域別の進捗状況に関する第5回年次報告書を公表することに合意しました。
        • 重要なVASP活動を行う国・地域を含め、2023年6月の前回更新以降、一定の進展が見られました。実質ベースでは、この分野においてFATF基準に準拠している、または概ね準拠している国・地域の数は増加しています(2024年に33、2023年に25)。しかし、4分の3の国・地域(75%、130カ国中97カ国)は、この分野のFATF基準に部分的または非準拠です。これは、VASPによるFATF基準の実施が他の金融セクターのそれよりも遅れていることを意味し、VAとVASPは悪用に対して脆弱なままです。
        • FATFは、すべての国・地域に対し、VAおよびVASPに関するFATFの要求事項を迅速に行動し、完全に実施することを求めています。FATFは引き続き状況を注視し、各国が要件を実施するための支援を確保するための努力を継続します。第5回年次アップデートは2024年7月に公開される予定です。
      • 支払いの透明性
        • FATFは、国境を越えた決済システムの進化と業界標準(特にISO20022)の変更を反映するために、FATF基準を改訂する過程にあります。プレナリーは、2024年5月3日に閉幕した基準の改正案に関する広範なパブリックコンサルテーションの結果について議論しました。この改訂は、AML/CFTコンプライアンスを確保し、FATF基準が技術的中立であり続けることを保証すると同時に、国境を越えた支払いをより速く、より安く、より透明で、より包括的にすることを目的としています。プレナリーは、要件の複雑さと決済システムへの潜在的な影響を考慮し、改正を最終決定する前に、公的部門と民間部門の両方の関連機関および専門家とのさらなる対話を行うべきであることに合意しました。
      • グローバル・ネットワーク連携
        • FATF議長は、FATF-FSRB年次ハイレベル会合においてFSRBsの議長と会談し、グローバル・ネットワークの2022年戦略的ビジョンの実施状況について議論し、FATFとFSRBsのパートナーシップ強化における主な成果を強調しました。FATF議長とFSRB議長は、来年のグローバル・ネットワークの3つの優先事項に合意した。相互評価の新たなラウンドに備える。地域レベルでのAML/CFTの専門知識を強化します。参加者は、FATF議長が議長国としてFSRBsに積極的に関与し、強力に支援したことに感謝し、グローバル・ネットワークの結束強化を含む議長国メキシコの優先事項案を歓迎しました。
      • Women in FATFとグローバル・ネットワーク(WFGN)イニシアティブ
        • FATF総裁は、2023年2月の総会で発足した「Women in FATF and the Global Network (WFGN)」イニシアティブの最新の成果を発表しました。インドラニー・ラジャ首相府大臣兼財務・国家開発担当第二大臣は、本会議の傍らで、シンガポール議長国のWomen in FATF(国連ファトフにおける女性)とグローバル・ネットワーク(WFGN)イニシアティブの最新成果物である電子書籍「Breaking Barriers: Inspiring the Next Generation of Women Leaders(障壁を打ち破る:次世代の女性リーダーを鼓舞する)」を発表しました。この電子書籍は、女性が金融犯罪との闘いにもたらす決意、回復力、専門知識に関する洞察を提供し、意欲的な女性リーダーに強力なインスピレーション、アドバイス、模範となる力を提供します。これは、多文化メンタリングプログラムと、すべての人にとってより強力なFATFおよびグローバルネットワークコミュニティを構築するための取り組みを補完するものです。
      • 入ってくるメキシコ人 2024-2026年の議長国の優先事項
        • 次期大統領のエリサ・デ・アンダ・マドラソは、メキシコ大統領府の優先事項をメンバーに提示しました。メキシコは、2024年7月1日から2026年6月30日までFATF議長国に就任します。
        • 議長国メキシコは、以下の5つの主要優先事項を概説しました。
        • 均衡性の原則の下で、リスクベースの基準の実施を促進することにより、金融包摂を推進する。
        • 新しい評価ラウンドを成功裏に開始する。
        • 透明性、包摂性及び一体性を醸成し、FATFとFSRBsの間の協力及び協力を強化するための提案を支持することにより、グローバル・ネットワークの結束を強化する。
        • 資産回収、受益者及び仮想資産に重点を置いたFATF基準の効果的な実施を支援する。そしてテロ及び拡散資金供与と闘うための努力を継続する

その他、最近のAML/CFTを巡る国内外の動向から、いくつか紹介します。

  • シンガポールのウォン首相は、FATFのイベントで、マネー・ローンダリングの取り締まりを強化する強い決意を表明しています。シンガポールは2024年6月末までFATFの議長国でした。同氏は、シンガポールは国際的な金融・事業拠点であり、、他国よりもマネロンやテロ資金供与のリスクが大きいと指摘、「しかしわれわれは、そうしたリスクに対処する上で必要な措置を断固実行し、信頼できる金融センターとしてのシンガポールの評判を守る」と述べています。シンガポール政府は、AML/CFTを強化する取り組みの一環として「国家資産回収戦略リポート」を公表、AML/CFTの優先項目の一つが資産回収であり、犯罪者から不当利得を取り返すことにより、シンガポールでマネロンに関与するインセンティブを取り除くことを目指すと説明しています。
  • 米司法省は、メキシコの麻薬組織「シナロア・カルテル」が米国で得た麻薬密売収益5000万ドル(約80億円)以上をマネー・ローンダリングした罪などで、ロサンゼルスを拠点とする中国人ブローカーら計24人を起訴したと発表しています。報道によれば、ロサンゼルスが拠点の中国人ブローカーらは2019~2023年、中国人投資家が米国で不動産などを購入するのを手伝った際、麻薬密売で得た収益を支払いに充てたといいます。中国にいるブローカーは、投資家から地下銀行口座に振り込まれた資金で中国製の商品や麻薬原料を購入し、メキシコの企業などに輸出、企業などが商品販売で得た収益や麻薬原料は麻薬組織に渡り、麻薬密売の収益と同額の資金が麻薬組織に還元される仕組みとなっていた(地下銀行に振り込まれた資金の一部が麻薬性鎮痛剤「オピオイド」の一種「フェンタニル」の生成に必要な原料を中国の業者から買い付けるための費用に充てられ、シナロア・カルテルはこの原料を使ってフェンタニルを生成し、コカインなどとともに米国に密輸し、利益を得るたびにマネー・ローンダリングしていた)といいます。米麻薬取締局(DEA)によれば、フェンタニルの効き目はヘロインの50倍、モルヒネの100倍以上だといい、米国では2023年、薬物の過剰摂取で推計10万人超が死亡、全体の4分の3がフェンタニルを含むオピオイドの過剰摂取だったといいます。DEAは2023年、錠剤8000万錠以上、粉末状で1万2000ポンド(約5443キロ)近くのフェンタニルを押収していますが、この分だけで3億8100万人以上の致死量に相当するということです。DEAのアン・ミルグラム長官は、「シナロア・カルテルとロサンゼルスや中国で活動する犯罪組織との協力関係が明らかになった」と述べています。中国政府は人民元の流出を防ぐため、1人あたり年5万ドル超の外貨両替を制限していますが、米司法省によれば、中国の富裕層が地下銀行を使って米国に多額の投資をするケースは後を絶たないといいます。
  • パナマの新大統領にホセ・ラウル・ムリノ元外相が就任し、公約に掲げていた不法移民対策で早速、本国への強制送還の支援を米国から取り付けています。ダリエン地峡を通過する不法移民は、ベネズエラをはじめ政情不安や生活苦が深刻化する南米諸国の出身者が多く、エクアドルなどに入国してからパナマ、メキシコを経由して米国への移住を目指す中国人も急増しているところ、ジャングルには麻薬組織など多くの犯罪集団が潜伏し、丸腰で通過を試みる不法移民を狙う殺人、誘拐、暴行などの凶悪犯罪が多発、移民の急増によってこうした組織の資金集めの拠点として利用される側面が強まっているといいます。「国際犯罪組織とのつながりに資金を提供し続けることはできない」(ムリノ氏)として不法移民対策を強化しているものです。

(2)特殊詐欺を巡る動向

SNSで投資家や著名人などをかたり、投資名目で勧誘して金銭をだまし取る詐欺の被害に歯止めがかからない状況です。警察庁が発表した2024年1~5月に全国の警察が認知したSNS型投資詐欺・ロマンス詐欺の件数は4,197件で、被害総額は約548億2千万円に上りました。前年同期に比べ3,201件、約442億2千万円増加ししています。被害件数で前年同期比訳4.2倍、被害総額は約5.2倍となるなど、被害が信じられないほど急増している実態が分かります。ちなみに同時期の特殊詐欺全体の認知件数は7,389件、被害総額は185憶1千万円となっており、件数では特殊詐欺の6割弱であるものの、被害総額は約3倍という規模となっています。「通話」や「受け子の対面」というリアルが介在する特殊詐欺に比べ、非対面で完結するSNS型投資詐欺・ロマンス詐欺は対処がより難しいことがこうした数字からも実感できるところです。なお、SNS型投資詐欺のみでみると、認知件数は3,049件(全体の72.6%)、被害総額は430憶2千万円(全体の78.5%)を占め、ロマンス詐欺を大きく上回る規模となっています。また、被害の分析では、犯人側がかたった職業は「投資家」が35.0%で最多、次いで「その他著名人」が19.0%を占めています。また、「会社員」や「芸術・芸能関係」も続きます。こうした投資詐欺はだまされていることに気づきにくく、被害が長期化し、高額化するケースが少なくないことが特徴となっています。

▼警察庁 令和6年5月末におけるSNS型投資・ロマンス詐欺の認知・検挙状況等について
  • SNS型投資・ロマンス詐欺の認知件数は4,197件(前年同期+3,201件)、被害額は約548.2憶円(+442.2憶円)
  • SNS型投資詐欺の認知件数は3,049件(+2,568件)、被害額は約430.2憶円(+381.5憶円)
  • ロマンス詐欺の認知件数は1,148件(+633件)、被害額は約117.9憶円(+60.7憶円)
  • SNS型投資・ロマンス詐欺の検挙件数は22件、検挙人員は14人。うちSNS型投資詐欺の検挙件数は15件、検挙人員は8人、ロマンス詐欺の検挙件数は7件、検挙人員は6人
  • SNS型投資詐欺の被害者の性別について、男性52.2%、女性47.7%。被害者の年齢層は男性は60代30.5%、50代23.2%、70代18.5%、女性は50代29.3%、60代25.5%、70代16.5% など。被疑者が詐称した職業は、投資家35.0%、その他著名人19.0%、会社員3.5%、芸術・芸能関係2.4%など。当初接触ツールについて、男性はLINE21.5%、フェイスブック21.0%、インスタグラム18.2%、女性はインスタグラム34.9%、LINE18.2%、フェイスブック12.7%。被害時の連絡ツールはLINE92.2%。被害金の主たる交付形態は振込89.4%。被害者との当初の接触手段はバナー等広告51.8%、ダイレクトメッセージ19.1%など
  • ロマンス詐欺の被害者の性別について、男性61.2%、女性38.8%。被害者の年齢層は男性は60代28.2%、50代27.3%、40代20.3%、女性は50代26.3%、40代30.1%、60代18.0% など。被疑者が詐称した職業は、投資家10.5%、会社員9.4%、会社役員5.7%、芸術・芸能関係4.2%など。当初接触ツールについて、男性はマッチングアプリ33.7%、フェイスブック26.6%、インスタグラム16.4%、女性はマッチングアプリ36.9%、インスタグラム34.4%、フェイスブック16.4%。被害時の連絡ツールはLINE92.3%。被害金の主たる交付形態は振込77.2%、暗号資産16.5%。被害者との当初の接触手段はダイレクトメッセージ71.2%、その他のチャット8.4%、オープンチャット3.0%など。金銭等の要求名目は投資71.6%。

このようなSNS型投資詐欺・ロマンス詐欺被害の深刻化を受け、政府は、犯罪対策閣僚会議において「国民を詐欺から守るための総合対策」をまとめています。詐欺へ誘導する偽広告が出回っており、SNS事業者に広告への対応強化などを求めることも盛り込まれています。詐欺広告対策は総務省の有識者会議でも議論が続けられていますが、その結論を待たずにSNSを運営するプラットフォーム(PF)事業者に対応を要求した形となります。さらに、人工知能(AI)の普及なども伴い、著名人らになりすまして投資に誘う詐欺広告が急増、世界で多くの人が利用するSNSは悪用手段が次々に編み出されており、政府の対応は後手に回らざるを得なくなっている中、自民党はこうした状況を踏まえ、2024年6月上旬に政府に対し、緊急対応を提言、総合対策はこの提言が下地となっています。現状、被害者の半数超がインターネット上で投資などの広告にアクセスし、被害に遭っており、著名人をかたった偽広告も多く、実業家の前沢友作さんらが対策の必要性を訴えていました。偽情報の削除を事業者に義務づける法律はなく、対策に強制力はありません(詐欺広告をめぐっては、EUがデジタルサービス法(DSA)、英国がオンライン安全法でそれぞれPF事業者に迅速な対応を義務付けており、日本においても同様の強制力のある対応の検討が急務だといえます)。国会では、SNS事業者に対し、ネット上の誹謗中傷の投稿の削除申請に迅速に対応すること義務づけた改正プロバイダー責任制限法が成立、肖像権などを侵害する恐れがある広告にも対応していますが、総合対策では、同法を速やかに施行するとし、削除のための判断基準となるガイドラインの策定を盛り込んでいます。また、広告の事前審査の基準策定と公表、広告主の確認強化を事業者に要請するほか、海外事業者を念頭に、日本語や日本文化を理解する人材の十分な配置も求め、実効性ある審査体制を整備、詐欺広告の迅速削除を実現し、捜査機関の照会に応じる専門窓口の設置も要請するとしています。また、利用者が限定されたグループチャット(クローズドチャット)に誘導されてだまされる被害が目立つため、誘導設定の広告は原則として採用しないことも求めています。一方、恋愛感情を抱かせて金をだまし取る「ロマンス詐欺」の被害も深刻で、SNSの公式アカウントやマッチングアプリのアカウントが悪用されないよう、主な接触手段のマッチングアプリの事業者に対し、アカウント開設時の本人確認の厳格化も求めています知らない人のアカウントを「友だち登録」した後の被害も多いため、詐欺被害への警告を表示する仕組みの導入も促しています。さらに、総合対策では、SNS悪用詐欺のほか特殊詐欺などの対策も盛り込まれており、携帯電話の契約時の本人確認の方法を、今後はICチップのあるマイナンバーカードなどの活用に原則一本化する方針を明記し、高齢者がATMで振り込める金額を少額にする仕組みの制度化を検討することも盛り込まれています。また、偽サイトに誘導しIDなどを盗む「フィッシング」のメッセージを発信している端末に警告を行うことや、捜査機関からの照会に対応する国内窓口を設置することをSNS事業者などに働きかけるといった取組みも盛り込まれています。関連して、実態のない法人の口座がマネー・ローンダリングに悪用される事件が多発しており、こうした口座利用を防ぐ「新たな対策」を検討すると明記、預貯金口座などの不正利用防止に向けては口座開設時の本人確認を原則マイナンバーカードに一本化する方針を盛り込んだほか、対面での契約時もマイナカードのICチップを読みとるよう義務付け、犯罪収益移転防止法の施行規則改正を検討していくとしています。

▼首相官邸 犯罪対策閣僚会議
▼国民を詐欺から守るための総合対策 概要
  • 現在の情勢
    • 特殊詐欺等に対しては、「オレオレ詐欺等対策プラン」(令和元年6月25日犯罪対策閣僚会議決定)及び「SNSで実行犯を募集する手口による強盗や特殊詐欺事案に関する緊急対策プラン」(令和5年3月17日犯罪対策閣僚会議決定)等に基づき官民一体となった対策を講じてきた一方で、令和5年中の詐欺被害は約1,630億円と前年から倍増。
    • 近年、SNSやキャッシュレス決済の普及等が進む中で、これらを悪用した犯罪の手口が急激に巧妙化・多様化。それによって引き起こされる詐欺等の被害が、加速度的に拡大する状況。
      1. 特殊詐欺
        • 令和5年被害額は約452億円
        • 前年から約80億円増加
      2. SNS型投資・ロマンス詐欺
        • 令和5年下半期から急増
        • 同年被害額は約455億円
        • 令和6年1~3月被害額は約279億円
      3. フィッシングによる被害
        • インターネットバンキングに係る不正送金被害が急増(令和5年約87億円)
  • 総合対策の策定
    • こうした情勢の中、変化のスピードに立ち後れることなく対処し、国民を詐欺の被害から守るためには、官民一体となって、一層強力な対策を迅速かつ的確に講じることが不可欠。
    • 従来のプランを発展的に解消させ、特殊詐欺、SNS型投資・ロマンス詐欺及びフィッシング等を対象に、総合的な対策を取りまとめ、政府を挙げて対策を推進。
  • 「国民を詐欺から守るための総合対策」における主な施策
    1. 「被害に遭わせない」ための対策
      1. SNS型投資・ロマンス詐欺対策
        • 被害発生状況等に応じた効果的な広報・啓発等
          • 不審なアカウントとのやり取りを開始する時など、詐欺の被害に遭う場面を捉えて利用者に個別に注意喚起を行うよう、SNS事業者に要請
        • SNS事業者等による実効的な広告審査等の推進
          • プラットフォーム上に掲載される広告の事前審査基準の策定・公表、審査体制の整備(特に、日本語や日本の社会等を理解する者の十分な配置)、広告出稿者の本人確認の強化等をSNS事業者に要請
          • 捜査機関から提供された「詐欺に使用されたアカウント」等の情報に着眼した、広告の迅速な削除等をSNS事業者に要請
        • なりすまし型偽広告の削除等の適正な対応の推進
          • なりすまし型の偽広告等に関し、SNS事業者に対し、利用規約等に基づき、詐欺広告の削除等の措置を講ずるよう、事業者団体に通知
          • インターネットで拡散する偽・誤情報や、なりすまし型偽広告への対応等について、国際的な動向を踏まえつつ、制度面も含む総合的な対策を推進
        • 大規模プラットフォーム事業者に対する削除対応の迅速化や運用状況の透明化に係る措置の義務付け等
          • インターネット上の違法・有害情報への対応として、削除対応の迅速化や運用状況の透明化を大規模プラットフォーム事業者に義務付ける情報流通プラットフォーム対処法を速やかに施行するとともに、違法情報への該当性に関するガイドラインを迅速に策定
        • 知らない者のアカウントの友だち追加時の実効的な警告表示・同意取得の実施等
        • SNSの公式アカウント・マッチングアプリアカウント開設時の本人確認強化
        • 新たに開始された金融教育における被害防止に向けた啓発
          • 金融経済教育推進機構(J-FLEC)による関係省庁と連携した金融経済教育の提供等を通じた金融リテラシーの向上
      2. フィッシング対策
        • 送信ドメイン認証技術(DMARC等)への対応促進
          • 利用者にフィッシングメールが届かない環境を整備するため、インターネットサービスプロバイダー等のメール受信側事業者や、金融機関等のメール送信側事業者等に対して、送信ドメイン認証技術の計画的な導入を要請
        • フィッシングサイトの閉鎖促進
        • フィッシングサイトの特性を踏まえた先制的な対策
          • フィッシングサイトが有する、1つのIPアドレス上に複数のサイトが構築されるなどの特性を踏まえ、いまだ通報がなされていないフィッシングサイトを把握して、ウイルス対策ソフトの警告表示等に活用するなどを検討
      3. 特殊詐欺等対策
        • 国際電話の利用休止申請の受付体制の拡充
          • 国際電話番号を利用した詐欺の被害を防止するため、国際電話の利用休止を一括して受け付ける「国際電話不取扱受付センター」を運営する電気通信事業者に対して、申請受付体制の更なる拡充を要請
        • SMSの不適正利用対策の推進
          • SMSの悪用を防止するため、SMSフィルタリングの活用の拡大等を推進
        • 携帯電話を使用しながらATMを利用する者への注意喚起の推進
    2. 「犯行に加担させない」ための対策
      • 「闇バイト」等情報に関する情報収集、削除、取締り等の推進
      • 青少年をアルバイト感覚で犯罪に加担させない教育・啓発
    3. 「犯罪者のツールを奪う」ための対策
      • 本人確認の実効性の確保に向けた取組
        • 携帯電話等の契約時の本人確認をマイナンバーカード等を活用した電子的な確認方法へ原則一本化
      • 金融機関と連携した検挙対策の推進
        • 金融機関において、詐欺被害と思われる出金・送金等の取引をモニタリング・検知する仕組み等を構築するとともに、不正利用防止の措置を行い、疑わしい取引の届出制度の活用をはじめ、不正な口座情報等について警察へ迅速な情報共有を実施
      • 電子マネーの犯行利用防止対策
        • 詐取された電子マネーの利用を速やかに発見するためのモニタリングの強化、発見した場合の電子マネーの利用の停止、警察への情報提供の体制について検討
      • 預貯金口座の不正利用防止対策の強化等
        • 法人口座を含む預貯金口座等の不正利用を防止するための取引時確認の一層の厳格化等の推進
      • 暗号資産の没収・保全の推進
    4. 「犯罪者を逃さない」ための対策
      • 匿名・流動型犯罪グループに対する取締り及び実態解明体制の強化
      • SNS事業者における照会対応の強化
        • SNS事業者に対し、捜査機関からの照会への対応窓口の日本国内への設置、迅速な照会対応が可能な体制の整備等を要請
      • 海外拠点の摘発の推進等
      • 法人がマネー・ローンダリングに悪用されることを防ぐ取組の推進
        • 実態のない法人がマネー・ローンダリング等の目的で利用されることを防ぐための新たな方策について検討
      • 財産的被害の回復の推進
        • 被害回復給付金支給制度及び振り込め詐欺救済法のきめ細やかな周知など効果的な運用の促進

上記総合対策に基づき、総務省は、フェイスブックを運営する米メタなどSNS運営大手5社に対し、広告の事前審査の強化や、削除の求めがあった場合の対応の迅速化などを要請しています。具体的には、広告の審査基準の策定や公表のほか、審査にあたって日本語や日本の法令を理解する人材の配置、偽広告の掲載を巡り、なりすましの被害者から削除を求める申請があった場合は、1週間程度をめどに削除の可否を判断し、結果や理由を通知するよう要請しています。また、利用者が限られる「クローズドチャット」に誘導する広告を原則採用しないことなども求めています。

▼総務省 SNS等におけるなりすまし型「偽広告」への対応に関する要請の実施
  • 総務省は、本日、SNS等を提供する大規模事業者に対して、SNS等におけるなりすまし型「偽広告」への対応について、文書により要請を実施しました。
  • ソーシャルネットワーキングサービスその他交流型のプラットフォームサービス(SNS等)において、個人又は法人の氏名・名称、写真等を無断で利用して著名人等の個人又は有名企業等の法人になりすまし、投資セミナーや投資ビジネスへの勧誘等を図る広告(なりすまし型「偽広告」)が流通・拡散しており、こうした広告を端緒としたSNS型投資詐欺等の被害が急速に拡大しています。
  • なりすまし型「偽広告」は、閲覧者に財産上の被害をもたらすおそれがあるだけでなく、なりすまされた者の社会的評価を下げるなどなりすまされた者の権利を侵害するおそれもあり、さらに、今後、生成AI技術の発展等に伴って複雑化・巧妙化するおそれもあることから、一層有効な対策を迅速に講じていくことが必要です。
  • SNS等が国民生活や社会経済活動を支える社会基盤になっていること等を踏まえれば、プラットフォーム事業者はデジタル空間における情報流通の健全性の確保について一定の責任が求められる立場であり、これ以上被害を拡大させないためには、SNS等におけるなりすまし型「偽広告」の流通の防止・抑制に向けたプラットフォーム事業者による対策が不可欠です。
  • こうした状況を踏まえ、総務省は、本日、Meta Platforms, Inc.に対して、対策の実施を要請するとともに、一般社団法人ソーシャルメディア利用環境整備機構(SMAJ)を通じて、SNS等を提供する大規模事業者(※)に対して、対策の実施を要請しました。※同機構の会員企業のうち、当該企業又はその関連会社が日本国内における平均月間アクティブユーザ数が1,000万人以上であるSNS等を提供する企業

また、SNS上で有名企業や著名人らになりすます広告が相次いでいる問題で、経済産業省は、グーグルや、フェイスブックを運営する米メタ、LINEヤフーのPF事業者3社を対象としたヒアリング結果を公表しています。調査は2021年施行のデジタルプラットフォーム取引透明化法に基づいて、2024年5~6月に行われ、3社に対して(1)広告アカウント作成時の本人確認(2)出稿時の広告内容の審査(3)審査通過後、広告内容や表示ページの変更内容の審査、の3項目を聞き取りしています、その結果、メタについては、広告の審査体制が十分ではないと指摘しています。なりすましをさせないためには、悪意のある広告主かどうかを事業者が確認する必要がありますが、メタが会社の所在地や営業許可証といった情報を求めていたのは、社会問題や政治などに関わる広告のみで、限定的な範囲にとどまっていたといいます。また、メタはなりすましの被害を受けた広告主からの連絡によって、初めて実害を認識している懸念があるといいます。広告主へのヒアリングでは、メタに通報しても広告が停止されない事例が複数あったといい、この日の会議で委員からは「メタが苦情に無反応なのは良くない。警告などはできないか」「PF事業者は広告の審査を徹底するべきだ」との意見が出ています。なお、メタについては、広告主の本人確認や広告内容の審査が不十分だとして追加の対策を求めています(改善されない場合はメタに対する是正勧告を検討するとしています)。

▼経済産業省 著名人・有名企業等なりすまし広告問題に関する3社からの聞き取り結果及び当該結果を踏まえた取組状況の評価の公表について
  • 経済産業省は、デジタルプラットフォーム取引透明化法に基づき、著名人・有名企業等になりすます偽広告への対応についてプラットフォーム事業者に対する聞き取りを行いました。本日、聞き取り結果を踏まえた取組状況の評価を公表します。
    1. 経緯
      • 昨今の投資環境の変化等を背景に、ソーシャルネットワーキングサービス、その他交流型のプラットフォームサービス(以下「SNS等」という。)やインターネット検索サービス、インターネットメディア等に表示されるデジタル広告で、個人又は法人の氏名・名称、写真等を無断で利用して著名人の個人又は有名企業等の法人になりすまし、投資セミナーや投資ビジネスに勧誘等を図る広告(以下「なりすまし型偽広告」という。)が流通・拡散しており、こうした広告を端緒とするSNS型投資詐欺の被害が急速に拡大しています。
      • 経済産業省としては、デジタルプラットフォーム取引透明化法(以下「透明化法」という。)に基づき、正当な広告主がなりすまし被害に遭い、広告掲載取引上の不利益を受けることを防止する観点から、同法の規制対象事業者である、Google LLC(以下「Google」という)、LINEヤフー株式会社(以下「LINEヤフー」という)、Meta Platforms, Inc.(以下「Meta」という。)の3社に、なりすまし型偽広告に対する取組状況について聞き取りを行いました。今般、聞き取りの結果を踏まえた取組状況の評価を公表します。
    2. 評価の概要
      デジタル広告が掲載されるまでのプロセスに着目し、(1)広告主アカウント作成時の審査(本人確認)、(2)広告出稿時の事前審査、(3)事前審査通過後の出稿内容変更・差替時の審査について聞き取りを行い、各社の取組状況の評価を行いました。
      主な評価内容は以下のとおりです。
      1. アカウントの本人確認強化
        • なりすまし型偽広告等を抑制するためには、悪意のある出稿者にアカウントを付与しないよう、アカウントの本人確認を強化することが有効。
        • 各社とも広告主の本人確認の仕組みはあるが、そのタイミングや本人確認を求める対象範囲に違いがあった。(アカウント作成後に追加の本人確認を行う仕組みの社も複数あった。)
        • 追加の本人確認を行う仕組みの場合、悪意のある出稿者の捕捉が実効的に機能するよう、リスクに応じて適切な範囲の広告主に対して本人確認を実施する必要がある。
        • Metaにおいては、追加の本人確認を求める広告主の対象範囲が未だ限定的であることが窺われる。
      2. 広告審査の強化
        1. 広告の審査(当初出稿時、審査通過後の広告内容変更時)
          [1]当初出稿時または内容変更時に、機械や人の目により審査を行うこと、[2]新たな手口の悪質広告を踏まえ、審査手法をアップデートすることは有効なアプローチと考えられる。この点、各社とも取組を行っている。
          また、悪質な出稿者の行為態様を考えると、ランディングページ(広告をクリックすると表示されるページ)の内容変更についても、適切なリスク評価を行うとともに、グループチャットに誘引するものを個別審査の対象とすることが有効。
        2. 日本特有の悪質広告に対応する審査体制
          なりすまし型偽広告等への対応には、日本語ないし日本文化上の文脈を踏まえた判断が必要。
          この点、LINEヤフー及びGoogleは上記判断を行える体制を組んでいることが回答されているが、Metaにおいては、専ら機械(システム)により審査を行う中、上記判断を行える体制に関し、十分な回答が行われていない。
          評価に当たっては、経済産業省が別途実施した、なりすまし型偽広告による被害を受けた広告主へのヒアリング等の結果も踏まえています。なお、本評価の公表は、政府の犯罪対策閣僚会議にてとりまとめられた「国民を詐欺から守るための総合対策」(令和6年6月18日)に基づくものです。
    3. 今後の取組
      • なりすまし型偽広告への各社の対応については、本年度の「デジタルプラットフォームの透明性・公正性に関するモニタリング会合」(座長:岡田羊祐・成城大学社会イノベーション学部教授)の中で取り上げ、同会合の意見とりまとめを踏まえた「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性についての評価」(経済産業大臣評価)において各社に対する改善要請を行う予定です。

関連して、フェイスブックなどのSNSで、著名人になりすました偽の投資広告で金銭をだまし取られたのは広告内容が真実かどうかの調査を怠ったからだとして、神戸市などの4人がSNSを運営する米IT大手メタ日本法人に損害賠償を求めた訴訟の第1回口頭弁論が神戸地裁であり、法人側は請求棄却を求めています。4人は2024年4月、法人に計約2300万円の賠償を求め提訴、原告代理人によると法人側は答弁書で、サービスを運営しているのは本社であり、法人は広告の掲載主体ではないと主張しているといいます。口頭弁論で意見陳述した原告代理人は「社会的責任を自覚し、リスク回避措置やリスク負担の在り方を真摯に検討する機会になってほしい」と述べています。メタ社本社にも賠償を求め同地裁に提訴したことも明らかにし、併合審理を求めています。

金融庁は投資詐欺に勧誘するSNS上の広告に関する規制を強化、無料で投資情報を提供するとうたった広告が投資詐欺の「入り口」になっている場合、広告自体が違法だと明確に位置づけるとしています。なりすまし広告による詐欺問題が広がっているのを受け、抑止効果を期待するとともにPF事業者への削除要請もしやすくするとし、2024年夏にも金融商品取引業者向けの監督指針やガイドラインの改正に着手する予定です。無登録業者が無料で投資情報を提供する広告は現在、違法行為には該当しませんが、監督指針などの改正で、この広告が金融商品取引契約へ誘い込むための「入り口」となっている場合「違法な金融商品取引業に該当しうる」と明確にすることが柱となります。著名人になりすました虚偽広告などの投資勧誘は、投資詐欺の入り口になっていると問題視されてきましたが、事実上野放し状態でした。

大阪府の吉村洋文知事は、多発する特殊詐欺被害を防止するため、高齢者を対象にATM前での携帯電話の使用禁止を条例に盛り込むことを検討していると明らかにしています。改正されれば全国初となります。「府安全なまちづくり条例」を改正し、ATM前での携帯電話の使用禁止のほか、金融機関が不自然な出入金を見つけた際の通報義務、店側が客にプリペイドカードを販売する際の使用目的の確認義務などを盛り込み、罰則は設けない予定だといいます。条例は2019年にも改正され、金融機関が詐欺被害者とみられる人を見かけるなどした際には警察へ通報するよう努力義務を課しましたが、大阪府内での特殊詐欺被害は同年以降も増加傾向にあり、吉村氏は「賛否あると思うが、被害増加は看過できない。高齢者の老後の資金を守るためにも、踏み込んだ対策が必要だ」と強調しています。大阪府内の特殊詐欺は2023年、過去最多の2650件あり、被害総額は約36億6000万円に上り、被害者は65歳以上の高齢者が85%を占めています。「医療費が戻る」などとウソを言い、携帯電話越しにATMを操作させて金を振り込ませる「還付金詐欺」の手口が目立っています。こうした被害を未然に防ぐため、大阪府は高齢者の通話しながらのATM操作を一律的に禁止することにしたものです。金融機関やコンビニにも周知や声かけなどの対応を求めるとしています。

最近の特殊詐欺の新たな手口を中心にいくつか紹介します。

  • 犯罪収益のマネー・ローンダリングに加担したとして大阪府警が摘発した「リバトン」グループに関連し、大阪府警は、このグループ名を持ち出す特殊詐欺の電話が相次いでいると明らかにしています。グループに不正利用されたとして口座番号を聞き出したり、指定口座に現金を振り込ませたりする手口で、注意を呼び掛けています。東京都の40代男性に2024年6月中旬、警視庁や大阪府警の警察官を名乗る電話があり、男性は「口座がリバトングループに不正利用されている。あなたも容疑者だ」と言われ、口座番号や預金額、年収を聞き出されるなどし、その後、「逮捕される可能性があるが府警本部に来るか、こちらが用意した調査用口座に資金を移動させるか」などと提示され、男性は府警本部へ行き、本部で来訪の趣旨を告げたところ、だまされかけていたことに気付いたといいます。リバトングループを名乗る電話で、現金を振り込んでしまった例も確認されているといい、大阪府警は「不審な電話はいったん切って、周囲に相談してほしい」としています。
  • 20年ぶりとなる新紙幣が2024年7月3日から発行されていますが、警視庁によると、新紙幣をめぐって東京都内で3月以降、「新紙幣と交換します」などとうそを言われて高齢者が現金をだまし取られる被害が出ており、注意を呼びかけています。被害にあったのは80~90代の男女4人で、被害額は計約1500万円、4人とも、金融機関の職員を名乗る男から突然電話があり、「7月から新紙幣に換わります。交換のため自宅までお金を取りに行くので預けてください」、「国で新札の発行枚数を決める調査をしています。自宅に現金を保管していれば、いったん預けてください。1時間ぐらいで返します」などと言われたといいます。
  • 福岡県警南署は、福岡市南区の60代の教員女性)が、2024年4月から6月にかけ、警察官を名乗る男らから計7450万円をだまし取られたニセ電話詐欺被害に遭ったと発表しています。署によると、女性は、自宅の固定電話に警察官や検察官などを名乗る男3人から連絡があり、男らは交代しながら電話口で「あなたに殺人の容疑がかかっている」、「殺人現場にあなた名義の通帳が落ちていた」、「容疑を晴らすために口座に入っている資金の調査が必要だ」、「現金は調査後に返却する」などと伝え、女性はその後、警察官を名乗る男と携帯電話で連絡を取り、男が指定する口座に10回にわたり計4450万円を振り込み、男はさらに、女性の口座をインターネットバンキングとして利用できるように手続きを済ませ、女性に暗証番号が記載された利用カードをスマートフォンで撮影して送信するように要求、女性が応えると、この口座から3回にわたり計3000万円を勝手に振り込み送金されたといいます。
  • SNSを通じて投資を勧め、金をだまし取ったとして、警視庁は男女5人を詐欺容疑で逮捕しています。警視庁によれば、5人は「SNS型投資詐欺」集団に所属、在留中国人らでつくる現金引き出し役「出し子」グループのメンバーで、中国など海外にも詐欺の拠点があるとみて調べています。警察庁によると、SNS型投資詐欺グループの一斉摘発は全国で初めてだといいます。投資金は暗号資産に換えられるなどして口座を転々とするケースが多いところ、容疑者らはATMなどから現金を引き出していたといい、関与が発覚したものです。5人は東京・上野のアパートの一室を拠点にしており、9都府県の14人から計約5億円超をだまし取ったとみられています。LINEのメッセージを送る役「打ち子」が中国など海外を拠点に活動しているとみて、日本の暴力団などの関与も調べるといいます。
  • 増加するSNS型投資詐欺を防ぐため、埼玉県警はさいたま市南区のauショップ武蔵浦和店などで、詐欺の手口を書いたチラシを配布するキャンペーンを行い、警戒を呼び掛けています。詐欺師側とのやり取りにスマホが使われることが多いため、埼玉県警は携帯ショップで注意喚起することにしたといいます。埼玉県警によると、2024年1~5月に県内で発生したSNS型投資詐欺は69件で前年同期比57件増、被害額も約9億9千万円に上っており、前年同期比で約7億6000万円増となっています。
  • 中高年の老後資金を標的とした投資詐欺が後を絶たず、警視庁が2024年5~6月に金融商品取引法違反容疑などで摘発した投資コンサルタント会社もライフプラン見直しの相談に乗るかたちで、社債購入を勧誘、投資をうたい資金をだまし取る商法に関する警察への相談は5年で倍増し、同庁は注意を呼びかけています。詐欺グループの標的となったのは老後資金の確保や運用を考える中高年で、資産形成に興味を持ち始めた新社会人にも接触、FPを名乗り、老後資金の運用やライフプランの見直しについて相談を受けるなかで、提携会社の株式や社債を勧めていたものです。用いられたのは「ポンジ・スキーム」という仕組みで、集めた資金を実際には運用せず、他の出資者から得た資金をそのまま利子や配当金と偽って支払っていたものです。SNS型投資詐欺同様、投資詐欺が絶えない背景については、投資熱の高まりが挙げられます。

ロマンス詐欺の被害について、最近の報道から、いくつか紹介します。警察庁が2024年の被害832件を分析したところ、最初の接触に使われたのはフェイスブックやインスタグラムなどのダイレクトメッセージ機能が多く、接触した後、連絡の手段はメッセージアプリに切り替わり、約92%がLINEだったといいます。被害者の男女別では、男性が6割とやや多く、年代別では、男性は60代の29.6%が最も多く、女性は40代(31.9%)が最多で、いずれも40~60代が約75%を占めています。こうした被害数は氷山の一角であり、被害者が「情が入って、被害にあったことに気づいていない人もいる」といい、ロマンス詐欺を入口に投資詐欺で被害が拡大するケースもあるといいます。

  • 千葉県警松戸署は、同県松戸市の70代の男性がSNS上のロマンス詐欺に遭い、現金約1億円をだまし取られたと発表しています。男性は2024年2月、「中国人と日本人のハーフ」だと称する女性とSNSで連絡を取り合い、親近感を抱くようになり、その後、女性から「叔父は大学の教授で、30年以上の経済学のキャリアを持っています」などのメッセージを受けて投資を勧められ、指示に従い、FX取引用だとするアプリをダウンロードしたといいます。さらに、「カスタマーサービス」や「女性の叔父」を名乗る人物から投資の勧誘を受けるなどし、FX取引の名目で5月までに複数回に分け、現金計約1億円を指定された13口座に振り込んだものです
  • ある女性はロマンス詐欺で1000万円近くをだまし取られた後、今度は詐欺グループによるマネー・ローンダリングに加担させられた結果、2024年5月に有罪判決を受けています。詐欺グループはだました相手をリスト化していると考えられ、一度被害に遭うと他の詐欺師も近づいてくる場合があります。被害者の傷心につけ込み、「加害者の調査をしてあげる」、「被害金を取り戻す」などと持ちかけ、最終的に金を要求してくる手口もあります。米国では、この手口を「リカバリー詐欺」と呼んでおり、海外では、恋愛感情を利用して、金や違法薬物を運ばせる事例もあります。犯罪収益を送金する人や手口は「金の運び屋」という意味で「マネーミュール」、同じく薬物を運ぶ人や手口は「ドラッグミュール」と呼ばれています。
  • 群馬県警は、同県桐生市の60代の男性会社員がマッチングアプリで知り合った人物からSNSで嘘の投資話を持ちかけられ、約2070万円をだまし取られたと発表しています。男性は2023年12月下旬、日本人女性を名乗る人物から「一緒に慈善活動に取り組みましょう。50万円あれば十分だが、3回の取引で100万円にかえることができる」などと言われ、2024年5月にかけて20回にわたり、指定された口座に入金したものです。
  • 男性に恋愛感情を抱かせ、現金約1300万円をだまし取ったとして、愛知県警中署は、名古屋市中区、20代の無職の女=詐欺罪で起訴=を詐欺容疑で再逮捕しています。男性をだます手口について「参考にしたマニュアルはある」と供述しているといいます。女は2023年11月~2024年4月、マッチングアプリで知り合った岐阜県大垣市の男性会社員から6回にわたり現金計約1300万円をだまし取った疑いがもたれています。
  • 恋愛感情を利用する「ロマンス詐欺」の被害金回収をうたって他人に弁護士名義を貸したとして、大阪地検特捜部は、弁護士の川口正輝容疑者=大阪弁護士会=を弁護士法違反(非弁提携)の罪で起訴しています。容疑者は4人に名義を貸して2022年12月~2023年7月、横浜市内で複数の事務員にロマンス詐欺被害者ら17人に電話やLINEなどで法的な助言をさせ、着手金計約1811万円を受け取ったとされます。4人は広告会社などを経営、容疑者の顔写真を載せたインターネット広告で依頼者を集め、手配した事務員らに対応させていたといい、容疑者は着手金の大半を4人に払っていたといいます。

SNS型投資詐欺被害について、最近の報道から、いくつか紹介します(相当な件数が報じられていますので、金額の大きい事例など主なものに限定しています)。

  • 長野県警塩尻署は、塩尻市の60代男性がインターネット上で見つけた広告を通じて投資話を持ちかけられ、約8500万円をだまし取られたと発表しています。男性が2024年5月上旬、投資関連の広告にアクセスすると、SNSで「新規上場株を購入すれば利益になる」などのメッセージを受信、6月下旬までの間、計17回にわたり指定された別々の口座に、金融機関の窓口やインターネットバンキングから送金したものです。
  • 福島県警福島署は、福島市在住の40代男性がSNSで知り合った人物から投資話を持ちかけられ、約3860万円分の暗号資産をだまし取られたと発表しています。2023年12月下旬、女性を名乗る人物から男性のSNSにメッセージが届き、投資を勧誘され、男性は2024年6月上旬までの間、購入した暗号資産を相手が指定したアドレスに複数回送付、男性が出金しようとすると、「違約金が発生した」「出金には税金がかかる」などと金を要求されたため詐欺と気付いて、被害届を出したものです。
  • 北海道警小樽署は、小樽市の50代男性がプロトレーダーを名乗る人物らにSNSを通じてうその投資話を持ちかけられ、2460万円をだまし取られたと発表しています。男性は2024年1月下旬、SNSの広告をクリックし投資関係の情報提供者をかたる人物とLINEでつながり、外国為替証拠金取引(FX)などで資産運用を勧められ、2~3月、インターネットバンキングで7回振り込んだといいます。別の投資話を持ちかけられて不審に思い弁護士に相談、被害が判明したものです。
  • 京都府警宇治署は、宇治市の70代の無職男性が投資名目で現金約1600万円をだまし取られる被害があったと発表しています。男性は2024年4~5月、LINEで知り合った人物から投資の勧誘を受け、信じた男性は取引に必要な口座を開設、指示されるままに5回にわたって指定された口座に現金計約1600万円を振り込んだといいます。その後、男性からこの投資話を持ち掛けられた娘が詐欺だと気づき、被害が発覚したものです。
  • 大分県警杵築日出署は、杵築市の50代の男性がSNSを通じたうその投資話で約1425万円をだまし取られる詐欺被害に遭ったと発表しています。男性は2024年5月下旬頃、投資をして稼いでいるという女性に「すぐにベンツが買える」などとSNSで誘われ、女性に教えられた「カスタマーサービス」とやりとりし、6月3~12日に指定された口座に3回にわたり、金を振り込んだという。

例月通り、2024年(令和6年)1~5月の特殊詐欺の認知・検挙状況について確認します。

▼警察庁 令和6年5月の特殊詐欺認知・検挙状況等について

令和6年1~5月における特殊詐欺全体の認知件数は7,389件(前年同期7,776件、前年同期比▲5.0%)、被害総額は185.1憶円(157.7憶円、+17.4%)、検挙件数は2,048件(2,647件、▲22.6%)、検挙人員は725人(854人、▲15.1%)となりました。ここ最近、認知件数や被害総額が大きく増加していましたが、最近は減少傾向に転じている点が特徴です。ただし、相変わらず高止まりしていること、SNS型投資詐欺・ロマンス詐欺の被害が急増していることと併せて考えれば、十分注意する必要があると言えます。うちオレオレ詐欺の認知件数は1,689件(1,716件、▲1.6%)、被害総額は85.0憶円(48.5憶円、+75.2%)、検挙人員は491人(831人、▲40.9%)、検挙人員は258人(367人、▲29.7%)となり、認知件数、被害総額、検挙件数、検挙人員ともが減少に転じましたが、オレオレ詐欺もまた高止まりしている点に注意が必要です。また、還付金詐欺の認知件数は1,789件(1,771件、+1.0%)、被害総額は26.8憶円(20.3憶円、+32.0%)、検挙件数は278件(437件、▲36.4%)、検挙人員は65人(76人、▲14.5%)と認知件数・被害総額が増加となりました。そもそも還付金詐欺は、自治体や保健所、税務署の職員などを名乗るうその電話から始まり、医療費や健康保険・介護保険の保険料、年金、税金などの過払い金や未払い金があるなどと偽り、携帯電話を持って近くのATMに行くよう仕向けるものです。被害者がATMに着くと、電話を通じて言葉巧みに操作させ(このあたりの巧妙な手口については、暴排トピックス2021年6月号を参照ください)、口座の金を犯人側の口座に振り込ませます。一方、ATMに行く前の段階の家族によるものも含め、声かけで2021年同期を大きく上回る水準で特殊詐欺の被害を防いでいます。警察庁は「ATMでたまたま居合わせた一般の人も、気になるお年寄りがいたらぜひ声をかけてほしい」と訴えていますが、対策をかいくぐるケースも後を絶たない現状があり、それが被害の高止まりの背景となっています。とはいえ、本コラムでも毎回紹介しているように金融機関やコンビニでの被害防止の取組みが浸透しつつあり、ATMを使った還付金詐欺が難しくなっているのも事実で、そのためか、オレオレ詐欺へと回帰している可能性も考えられるところです(繰り返しますが、還付金詐欺自体事態、大変高止まりした状況にあります)。最近では、闇バイトなどを通じて受け子のなり手が増えたこと、外国人の新たな活用など、詐欺グループにとって受け子は「使い捨ての駒」であり、仮に受け子が逮捕されても「顔も知らない指示役には捜査の手が届きにくいことなどもその傾向を後押ししているものと考えられます。特殊詐欺は、騙す方とそれを防止する取り組みの「いたちごっこ」が数十年続く中、その手口や対策が変遷しており、流行り廃りが激しいことが特徴です。常に手口の動向や対策の社会的浸透状況などをモニタリングして、対策の「隙」が生じないように努めていくことが求められています。

また、キャッシュカード詐欺盗の認知件数は613件(984件、▲37.7%)、被害総額は7.0憶円(14.0憶円、▲49.9%)、検挙件数は540件(711件、▲24.1%)、検挙人員は149人(177人、▲15.8%)と、認知件数・被害総額ともに減少という結果となっています(上記の考え方で言えば、暗証番号を聞き出す、カードをすり替えるなどオレオレ詐欺より手が込んでおり摘発のリスクが高いこと、さらには社会的に手口も知られるようになったことか影響している可能性も指摘されています。なお、前述したとおり、外国人の受け子が声を発することなく行うケースも出ています。さらには、前述したとおり、キャッシュカードではなく「現金」入りの封筒で同様のすり替えを行う手口も出ています)。また、預貯金詐欺の認知件数は860件(1,058件、▲18.7%)、被害総額は8.1憶円(14.6憶円、▲44.7%)、検挙件数は600件(555件、+8.1%)、検挙人員は167人(176人、▲5.1%)となりました。ここ最近は、認知件数・被害総額ともに大きく減少していましたが、一転して大きく増加し、再度減少に転じた点が注目されます。その他、前述した架空料金請求詐欺の認知件数は2,050件(2,063件、▲0.6%)、被害総額は48.6憶円(52.3憶円、▲7.1%)、検挙件数は129件(91件、+41.8%)、検挙人員は64人(38人、+68.4%)と、認知件数・被害額の減少が目立ちます(検挙件数・検挙人員は増加が顕著です)。融資保証金詐欺の認知件数は129件(82件、+57.3%)、被害総額は1.1憶円(1.1憶円、▲1.3%)、検挙件数は4件(9件、▲55.6%)、検挙人員は3人(6人、▲50.0%)、金融商品詐欺の認知件数は41件(68件、▲39.7%)、被害総額は2.8憶円(6.0憶円、▲53.1%)、検挙件数は0件(11件)、検挙人員は1人(13人、▲92.3%)、ギャンブル詐欺の認知件数は8件(10件、▲20.0%)、被害総額は0.8憶円(0.3憶円、+175.8%)、検挙件数は0件(0件)、検挙人員は0人(0人)などとなっています。

組織犯罪処罰法違反については、137件(59件、+132.2%)、検挙人員は52人(20人、+160.0%)となっています。また、犯罪インフラ関係では、口座開設詐欺の検挙件数は301件(287件、+4.9%)、検挙人員は153人(162人、▲5.6%)、盗品等譲受け等の検挙件数は0件(2件)、検挙人員は0人(1人)、犯罪収益移転防止法違反の検挙件数は1,487件(1,105件、+34.6%)、検挙人員は1,128人(860人、+31.2%)、携帯電話契約詐欺の検挙件数は73件(54件、+35.2%)、検挙人員は67人(56人、+19.6%)、携帯電話不正利用防止法違反の検挙件数は12件(7件、+71.4%)、検挙人員は5人(6人、▲16.7%)などとなっています。とりわけ犯罪収益移転防止法違反が大きく増加している点が注目されます。また、被害者の年齢・性別構成について、特殊詐欺全体では、男性(37.3%):女性(62.7%)、60歳以上79.8%、70歳以上58.2%、オレオレ詐欺は男性(26.9%):女性(73.1%)、60歳以上83.5%、70歳以上76.0%、預貯金詐欺は男性(11.0%):女性(89.0%)、60歳以上99.1%、70歳以上95.9%、融資保証金詐欺は男性(70.7%):女性(29.3%)、60歳以上5.7%、70歳以上1.6%、特殊詐欺被害者全体に占める高齢被害者(65歳以上)の割合は、特殊詐欺全体では70.7%(男性32.8%、女性67.2%)、オレオレ詐欺 80.9%(19.5%、80.5%)、預貯金詐欺 97.9%(11.2%、88.8%)、架空料金請求詐欺 49.1%(67.2%、32.8%)、還付金詐欺 77.1%(36.8%、63.2%)、融資保証金詐欺 4.1%(60.0%、40.0%)、金融商品詐欺 34.6%(66.0%、34.0%)、ギャンブル詐欺 50.0%(75.0%、25.0%)、交際あっせん詐欺 30.0%(100.0%、0.0%)、その他の特殊詐欺 15.0%(53.3%、46.7%)、キャッシュカード詐欺盗 97.9%(22.0%、78.0)などとなっています。犯罪類型によって、被害者像が大きく異なることをあらためて認識し、被害者像に応じたきめ細かい対策を行う必要性を感じさせます

最近の特殊詐欺の事例から、いくつか紹介します。

  • 暴力団員が関与したとされる還付金詐欺の特殊詐欺グループを捜査している静岡南署と県警捜査4課は、電子計算機使用詐欺、組織犯罪処罰法違反、窃盗の疑いで住吉会系組員の男を再逮捕しています。
  • 神奈川県警は、大阪府東大阪市の60代男性から現金や電子マネー計1億円超をだまし取ったとして、詐欺の疑いで無職の容疑者ら男8人を追送検しています。8人はフィリピンを拠点とする特殊詐欺の「かけ子」グループで、他にも100件以上の被害があるとみて捜査を進めています。2019~2020年、東大阪市の60代男性に「携帯電話サイトの未納料金がある」などと嘘の電話をかけ、現金計9900万円と780万円相当の電子マネーをだまし取ったというものです。8人はフィリピンの現地当局に拘束され、2024年1月に日本へ移送されています。8容疑者は1月以降、同様の手口の詐欺、詐欺未遂の疑いで4回逮捕されています。
  • 茨城県警は、茨城県つくば市の50代の女性がニセ電話詐欺に遭い、計約6000万円をだまし取られる被害があったと発表しています。女性は大阪府警捜査2課の刑事と大阪地検の検察官と名乗る人物とLINEでやりとりしていたといいます。2024年4月、電話会社の職員を名乗る女から、何者かが女性の身分証を使って携帯電話を購入した可能性があると伝えられ、刑事を名乗る男を紹介され、口座が犯罪に使われていると言われ、捜査のためと指示された口座に33回にわたり、計約6000万円を送金したものです。
  • 栃木県警は、宇都宮市の60代の男性会社員が現金2821万円をだまし取られる特殊詐欺の被害に遭ったと発表しています。実在する行政機関「個人情報保護委員会」の職員を名乗る電話があったといいます。2024年5月から6月にかけて男性の携帯電話に「個人情報に関する書類を1年分滞納している。裁判にしたくなければ示談金を払え」などの嘘の連絡が複数回あり、信じた男性は指定された口座に現金を振り込んだほか、電子ギフトカード30万円相当のシリアル番号を伝えたといいます。別の手続きで男性が銀行を訪れたところ、行員が不審な点に気づき県警に通報したものです。
  • NTTやNTTファイナンスをかたり、国際電話番号「+1」からの自動音声やショートメッセージで「未納料金があります」と告げられて金を請求されたとの相談が2022年4月以降で約6000件あったとして、消費者庁は、消費者安全法に基づき注意を呼びかけています。約220人が支払ってしまったとしています。消費者庁によると、電話がかかってきた場合に、自動音声ガイダンスに従って携帯電話を操作したり、指定の電話番号に折り返したりすると、会員サイトやアプリの利用料金名目で「このまま支払わないと裁判になる」などと、電子マネーによる支払いを求められるといいます。事業者の実体は不明で、会員サイトの名前として「セリア」「バニラ」「スリム」、アプリの名前として「スマート」「スノウ」などを挙げ、料金が1年未納などと虚偽の説明をするケースが多かったといいます。
  • 茨城県警は、つくば市の60代の農業男性がニセ電話で108回にわたって現金など計4538万円をだまし取られたと発表しています。2024年2月上旬頃、男性の携帯に、サポートセンター職員を名乗る男から「あなたの携帯がハッキングされており、ウイルスの除去に10万円が必要」と電話があり、購入した電子マネーの利用権番号を伝え、その後も、サイバーセキュリティー協会職員を名乗る男などから電話がかかり、6月までの間、指定された口座に現金を振り込んだといいます。男性の口座が凍結されていることに親族が気づき、詐欺が判明したものです。

本コラムでは、特殊詐欺被害を防止したコンビニエンスストア(コンビニ)や金融機関などの事例や取組みを積極的に紹介しています(最近では、これまで以上にそのような事例の報道が目立つようになってきました。また、被害防止に協力した主体もタクシー会社やその場に居合わせた一般人など多様となっており、被害防止に向けて社会全体・地域全体の意識の底上げが図られつつあることを感じます)。必ずしもすべての事例に共通するわけではありませんが、特殊詐欺被害を未然に防止するために事業者や従業員にできることとしては、(1)事業者による組織的な教育の実施、(2)「怪しい」「おかしい」「違和感がある」といった個人のリスクセンスの底上げ・発揮、(3)店長と店員(上司と部下)の良好なコミュニケーション、(4)警察との密な連携、そして何より(5)「被害を防ぐ」という強い使命感に基づく「お節介」なまでの「声をかける」勇気を持つことなどがポイントとなると考えます。また、最近では、一般人が詐欺被害を防止した事例が多数報道されています。直近でも、高齢者らの特殊詐欺被害を一般の人が未然に防ぐ事例が増加しており、たとえば、銀行の利用者やコンビニの客などが代表的です。2023年における特殊詐欺の認知・検挙状況等(警察庁)によれば、「金融機関の窓口において高齢者が高額の払戻しを認知した際に警察に通報するよう促したり、コンビニエンスストアにおいて高額又は大量の電子マネー購入希望者等に対する声掛けを働き掛けたりするなど、金融機関やコンビニエンスストア等との連携による特殊詐欺予防対策を強化。この結果、関係事業者において、22,346件(+3,616件、+19.3%)、71.7億円(▲8.5億円、▲10.6%)の被害を阻止(阻止率 54.6%、+2.1ポイント)」につながったとされます。また、もう少し細かい数字で言えば、埼玉県警によると、こうしたケースは2023年1~8月で104件にのぼり、すでに2022年1年間(103件)を超えたといいます。県警は、街頭での啓発活動や金融機関でのポスター掲示などが一定の効果を上げているとみています。また、被害を未然に防げた「水際防止」は2022年に全体で2215件となり、1888件だった2021年を上回って過去最多を更新しています。2023年も1~8月で1444件と最多に近いペースとなっています。大多数は家族やコンビニ店員、金融機関職員が詐欺と気づいて声をかけたものですが、居合わせた一般の人による声がけや警察への通報は2022年同期(64件)の1.6倍に増えているといいます。特殊詐欺の被害防止は、何も特定の方々だけが取り組めばよいというものではありませんし、実際の事例をみても、さまざまな場面でリスクセンスが発揮され、ちょっとした「お節介」によって被害の防止につながっていることが分かります。このことは警察等の地道な取り組みが、社会的に浸透してきているうえ、他の年代の人たちも自分たちの社会の問題として強く意識するようになりつつあるという証左でもあり、そのことが被害防止という成果につながっているものと思われ、大変素晴らしいことだと感じます。以下、直近の事例を取り上げます。

  • 大阪府守口市内のコンビニと銀行で相次いで特殊詐欺被害が未然に防がれ、大阪府警守口署は3人に感謝状を贈っています。被害を防いだのは、アルバイトで働く幼なじみの連係プレー、偶然居合わせた客の機転だったといいます。レジに入っていた高校3年の広瀬さんは、プリペイドカードを求めて来店した50代女性客が購入方法を分かっておらず、示したスマホには大量のメールが受信されていたことに違和感があったといいます。レジが混み合ったため、休憩中の同僚で幼なじみの石田さんが機転を利かして対応を交代、その際「詐欺っぽくない?」と伝え、石田さんが改めてスマホを確認すると「お話ししたいからプリペイドカードを購入して」とのメールも届いており、2人で話し合って詐欺だと確信、110番通報したといいます。もう一つの特殊詐欺被害を防いだとして同署から感謝状を贈られたのは、守口市の春田さんで、市内の銀行にあるATMで70代男性がスマホのスピーカー機能を使って大声で話しているのを目にし「怪しい」と直感、春田さんが「どこに振り込むんですか」と尋ねると男性の回答は「(大阪府)門真市役所」だったもののスマホ表示の番号は「03…」だったことから詐欺と確信してATM設置の電話から銀行員を呼び、事なきを得たといいます(なお、銀行員を待つ5分ほど電話は切れず、早く振り込むよう男性に催促していたといいます)。
  • 立ち寄ったコンビニエンスストアで高齢男性の特殊詐欺被害防止に貢献したとして、和歌山県警和歌山西署は、和歌山市の会社員の阪本さんに感謝状を贈っています。阪本さんは、同市内のコンビニに立ち寄った際、携帯電話で通話しながらメモを片手にATMを操作している80代男性を見つけ、男性の様子や「還付金」などと話している内容から詐欺被害を疑い、「詐欺ではないですか」と声をかけたものの、男性が阪本さんの話を聞こうとせず、通話相手から別の店舗に誘導されそうになったことから、阪本さんが110番通報したものです。
  • 大阪府警松原署は、特殊詐欺の被害を防いだとして「ローソン松原三宅西四丁目店」の店員、室坂さんに感謝状を贈っています。室坂さんは、来店した70代の女性に「プリペイドカードを買いに来た」と伝えられ、女性が現金を握りしめて落ち着かない様子だったことから、室坂さんは「詐欺だと思う」「警察に相談したほうがいい」と女性を説得し、署に通報したといいます。署によると、女性はパソコンの画面に「ウイルス感染」と警告が表示され、ウイルス除去費用の名目で金を要求する「サポート詐欺」の被害に遭うところだったということです。
  • 乗客への声かけによって詐欺被害を防いだタクシー運転手に「詐欺阻止ドライバー証」を交付する取り組みを、神奈川県警相模原北署が始めています。運転席の防犯ガラスに掲示し、乗客に注意喚起するほか、だまされている最中の人に詐欺に気付いてもらう狙いで、県警では初の試みといいます。詐欺阻止ドライバー第1号は、神奈川都市交通のタクシー運転手岩佐さんで、80代の女性が二つの金融機関をはしごし、公衆電話で誰かに連絡を取ろうとしていたといい、営業所のオペレーターから「詐欺では」と指摘があり、岩佐さんも警戒、結局、電話はつながらず、女性は帰宅しようとしたが、「このまま帰したら被害に遭うかも」と女性を説得して交番に送り届けたといいます
  • 「送りつけ商法」から顧客を守ったとして、栃木県警茂木署は、足利銀行市貝支店の支店長代理ら3人に感謝状を贈っています。3人は、頻繁に来店して振り込みを行う80代の女性客に声をかけて相手先口座を確認、会社との取引のはずなのに、銀行の個人名義だったため、不審に思って同署に通報したもので、警察官も説得して振り込みを思いとどまらせたといいます。女性はこれまでに3回、エビやカニを勝手に自宅に送りつけられて料金を支払ったが、今回は先に代金を支払うよう指示されていたといいます。
  • 特殊詐欺の被害を未然に防いだとして、警視庁池上署は、東京都大田区の大田南馬込一郵便局に感謝状を贈っています。70代の女性が「ATMで300万円を引き出したい」と郵便局を訪れ、窓口の女性局員が「金額が大きいと窓口でしか引き出せません」と言うと、「息子に怪しまれるから窓口では下ろすなと言われた」と答えたため、女性局員からそのやり取りを聞いた次長は、詐欺だと確信、警察に通報し、女性には「息子さんに電話して確認した方がいい」と促したところ、女性は詐欺だと気づいたといいます。その後、捜査員の指示に従って電話の相手に「現金が用意できた」と伝え、指定した駐車場に男が来たため、捜査員が詐欺容疑で現行犯逮捕したものです。
  • 2023年7月から3回、電子マネーカードをだまして買わせる詐欺を未然に防いだとして、熊本東署は、ローソン熊本健軍三丁目店の店員、上野さんに感謝状を贈っています。来店した70~80代の男性3人は、5万~10万円の電子マネーカードを購入しようとし、いずれも、パソコン画面に「ウイルスに感染しました」と表示され、駆除の代金としてカードをコンビニで買うよう指示されていたといいます。電子マネーカードは若い人が買うことが多いが、せいぜい3000円程度、高齢者でしかも数万円を買うのはおかしいと上野さんは「自分でお使いになるのですか?」と声をかけたといいます。報道によれば、役立ったのが、熊本県警がコンビニに配布した、カードを入れる小袋で、「有料サイトの利用料金が未納!」「パソコンがウイルスに感染! サポート料がかかります」などと犯人の殺し文句が例示されていることから、これを見せると、興奮状態だった客も「だまされたかもしれない」と次第に冷静になっていったといいます
  • 大阪府警布施署は、子どもの声で特殊詐欺への警戒を呼びかけるメッセージの製作に協力した保育園「累徳学園」と東大阪市立布施小学校、大阪商業大学放送局に感謝状を贈っています。特殊詐欺被害は同署管内でも起きており、啓発メッセージに子どもの声を使うことで高齢者の注意を引こうと、2024年4月に収録、「還付金は戻ってこないよ」、「おじいちゃん、おばあちゃん、だまされないでね」などと優しく呼びかけるもので、5月以降、東大阪市内を巡回するパトカーや、ATMがある金融機関で流しているといいます。
  • 兵庫県警は2024年4月から、特殊詐欺グループから押収した名簿を基に高齢者宅を戸別訪問し、被害防止に役立てる取り組みを県全域で始めています。県内の全自治体と協定を締結、ターゲットとしてリストアップされた人の情報を各自治体に提供し、地域包括支援センター職員が高齢者の訪問時に注意を促す仕組みです。警察官による防犯指導だけでは十分な理解を得られないケースも多く、高齢者の相談窓口として各自治体が設置している地域包括支援センターに着目、高齢者にとって気心の知れた職員もいることから、被害者本人の了解を得て情報提供することにしたものです。

カンボジアが拠点となったSNSを使った特殊詐欺事件で、詐欺罪に問われた無職の被告の論告求刑公判が佐賀地であり、検察側は懲役6年を求刑しています。弁護側は「被害者らを欺いて金員を詐取しようとする故意はなかった」として無罪を主張しています。検察側は論告で、カンボジアのカジノホテルに集まった多数の中国人が、日本人になりすまし、事前に作成した日本語台本に沿って、架空のFX取引で4人の被害者から計4030万円を詐取した組織ぐるみの詐欺事件としています。被害額が計4030万円と高額で、弁償されておらず、被告が被害者をだます台本や日本語の修正、架空の投資家になりすました録音作業も担ったなどと指摘し、「厳罰は避けられない」としています。

「日本円を見せて」と道ばたで声をかけられ、会話しているうちに現金を抜き取られるという被害にあう日本人旅行者がタイで急増しているといいます。夏休みの旅行シーズンに被害がさらに広がる恐れがあり、在タイ日本大使館は「お金見せて詐欺」として、注意を呼びかけています。2024年1~6月に大使館に寄せられた被害相談は12件(うち3件は未遂)で、被害額は計約26万円に上っています。同様の手口は以前から確認されていますが、コロナ禍の影響があった2022年は1件、2023年は12件で、2024年はすでに2倍のペースに増加、20代の若者が被害にあったケースが半数を超えているといいます。被害はバンコクの繁華街や寺院などの観光地が中心ですが、5月には日本人駐在員の多いタイ中部シラチャでも確認されたといいます。

(3)薬物を巡る動向

国連薬物犯罪事務所(UNODC)は、2024年版「世界薬物報告」を発表し、2022年のコカインの生産水準が過去最高の2757トン(前年比20%増)に上ったと公表しています。2022年にコカインを使用したのは、推計2350万人、コカインの原料であるコカの栽培面積は2022年に前年から12%拡大し、東京都の約1.6倍に相当する35万5000ヘクタールとなり、UNODCCは「コカインの需給拡大に伴い、サプライチェーン(供給網)沿いに位置する南米エクアドルやカリブ海諸国で(麻薬組織に絡む)暴力が激化した」と指摘しています。また、嗜好目的での大麻の販売・使用は、2024年1月時点でカナダ、ウルグアイと米国の多くの州で合法化されており、これについて報告は「米国とカナダでは大麻使用に関連する入院や、常用者の精神疾患罹患率、自殺率が増加している。とりわけ若年層で顕著だ」と警鐘を鳴らしています。2022年の麻薬使用者は世界で2億9200万人で、最近10年間に20%増加、最も普及しているのが大麻(2億2800万人)で、ヘロイン(6000万人)、覚せい剤(3000万人)、コカイン(2300万人)、MDMA(2000万人)が続く結果となっています。合成麻薬では、米国で乱用が社会問題となっている「フェンタニル」より強い作用を持つ「ニタゼン」が富裕国で流行する兆しがあり、中毒死も増えているといいます。また、2022年は、約2億9200万人が薬物を使用、推計1390万人が注射で薬物を使ったと指摘、注射による薬物使用が、C型肝炎がまん延する重要な要因になっており、エイズウイルス(HIV)の感染リスクも高まると強調しています。アヘンについては、最大生産国だったアフガニスタンで、2023年の栽培地域と生産がイスラム主義組織タリバン暫定政権による麻薬禁止令を受け、2022年比で95%減少した一方、ミャンマーが2023年の最大生産国に浮上しています

ブラジル最高裁判所は、40グラムまでの大麻所持であれば刑事罰に問わないと決定しています。報道によれば、密売人と個人の利用者を区別することが目的で、大麻は引き続き違法薬物に指定されるといいます。前述のとおり、南米ウルグアイが世界に先駆けて大麻の栽培や販売を合法化しており、米国や欧州でも同様の動きが広がっています。ブラジルでは多くの若者が薬物絡みで服役している現状も踏まえ、最高裁は今回、大麻の個人使用に関しては罪に問わないとした上で、個人の使用を目的とした少量の大麻所持は罪に問わないと決め、個人使用を判断する基準を「40グラムまで」などとしました。これまでは黒人が罪の重い密売人として摘発されるケースが多く、人種差別につながっていたとの調査結果があったといいます。計量器と一緒に押収されたり、携帯電話に密売人の連絡先があったりと、状況に応じては40グラム以下の所持でも罪に問われる可能性があるといい、大麻は引き続き違法薬物で、公共の場などで使用することは認められないほか、行政が使用者に薬物依存に関する講習の受講を求めるといった措置は継続するとしています。世界では嗜好品としての大麻を合法化する動きが広がっており、個人使用とみなせば刑事罰を科さない国は多くあります。また、中南米には麻薬の販売を資金源とする犯罪組織が集結しており、薬物の合法化が反社会的組織の弱体化につながるといった指摘もあります

米東部メリーランド州のムーア知事(民主党)は、大麻所持などによる17万5千件の有罪判決を恩赦するための行政命令に署名しています。米国では大麻合法化への動きが各州で進み、とりわけ前科によって不利益を被ることが多い黒人への救済が今回の恩赦の背景にあります。メリーランド州で初の黒人知事であるムーア知事は、今回の恩赦は「州レベルとしては米国史上、最も広範囲なものだ」としています。大麻所持などによる軽犯罪の前科が対象で、収監中の人を釈放することはないといいます。メリーランド州は2022年の住民投票で、娯楽用の大麻使用の合法化を決めましたが、合法化前に有罪判決を受けた人は、前科の記録が残っていることによって、雇用や住宅の契約、教育などの機会を得られないことが問題となっていたもので、とりわけ黒人やラテン系の市民は、大麻の使用率が白人と変わらないのにもかかわらず、高い確率で大麻所持によって逮捕される傾向にあり、その後の人生でも不利益を受け続けてきたといいます。ブラウン州司法長官は「法の下での不平等な扱いが、失業やホームレス、貧困や暴力といった悲惨な現実を引き起こしてきた」と述べています。米ギャラップの調査によると、日常的に大麻を使用している人は成人の9%で、一度でも試したことがあるという人は50%にのぼるといい、合法化を支持する人の割合は年々増えており、2023年は70%に達しています。米国では連邦法で大麻の使用が禁じられていますが、民主党が主導する州を中心に、大麻の使用を合法化する動きが広がっており、バイデン政権もリベラル層への配慮から大麻に寛容な姿勢を示していることは、本コラムでも何度か指摘してきたとおりです。なお、全米州議会会議によると、娯楽用の大麻使用を合法化しているのは24州、医療用の使用は38州で合法となっています。

タイで大麻の医療目的での使用や家庭栽培を解禁されてから2024年6月で2年が経過しました。使用は健康や医療目的に限られてきたところ、販売や使用について明確なルールがなく、政府の想定とはかけ離れて娯楽での吸引が横行しているため、セター政権は再び規制する方針を示しています。反発する大麻支持派は訴訟を起こす構えをみせており、乱用を減らせるかは不透明な状況です。タイ保健省は大麻の規制案を公表、大麻草の先端にできる花蕾を2025年1月から麻薬として一般の使用や流通を禁止するリストに再び分類するというもので、花蕾は他の部位よりも幻覚作用が強く、流通を制限して娯楽利用を抑える狙いがあります。報道によれば、プリンス・オブ・ソンクラ-大学の調査では、解禁後の使用者の60%が娯楽目的、34%が調理用や睡眠のためで、医療目的はわずか6%だったといいます。本コラムでもたびたび指摘しているとおり、タイでは大麻の販売店は街中に乱立し、外国人観光客を中心に公共の場での吸引が横行、タイ国民の政府への批判が高まっているといいます。解禁以来、大麻中毒の患者も急増しており、保健省によると、意識障害などで病院に搬送された人の数は月平均で解禁前の3倍強で推移、専門家は「大麻の使用は精神疾患を引き起こすリスクがある」と警鐘を鳴らしています。本コラムで指摘してきましたが、大麻政策を巡っては世界でも規制緩和に動く国や地域が相次いでおり、2024年4月にはドイツが嗜好用の所持と栽培を合法化したほか、アジアでもパキスタンが加工品の輸出や医療目的の利用を想定した大麻取引の法整備を進めています。販売や使用について明確なルールを設けずに大麻を解禁すると社会にどのような影響を与えるのか、いったん解禁した後に再び規制することがいかに難しいか、タイの経験は今後の規制緩和を検討する他国にとっても重要な教訓になるといえます

国内の薬物を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 公益財団法人KDDI財団の理事長が覚せい剤取締法違反の疑いで現行犯逮捕されています。東京・新宿区大久保付近で覚せい剤を所持した疑いがもたれています。容疑者は、捜査員からの職務質問を受けた際、粉末が入ったビニール袋1袋を持っていて、簡易鑑定の結果、覚せい剤だと判明したということです。容疑者は2022年から同財団の理事長に就任していたといいます。
  • アパートの一室で拳銃と実弾を隠し持っていたとして、奈良県警は、六代目山口組傘下組織の組幹部ら2人の容疑者を銃刀法違反(加重所持)と火薬取締法違反の疑いで逮捕しています。奈良県警は、疑者の自宅アパートで、自動装填式と回転式の拳銃7丁と、それに適合するものを含む73発の実弾を隠し持っていた疑いがあることから、2人がこの部屋を「武器庫」として使っていたとみているといいますが、この2人は覚せい剤取締法違反などの罪ですでに起訴されており、この部屋を拠点に、2人が違法薬物を密売していたとみて捜査を進めていたものです。2024年1月の家宅捜索で、拳銃や実弾のほかに、覚せい剤や大麻なども見つかり、押収したといい、県警はこのほか、2人から覚せい剤を譲り受けたなどとして男女11人も逮捕・書類送検しています。
  • 大麻リキッドを所持した疑いで、警視庁麻布署は大麻取締法違反容疑で、アメリカ国籍の容疑者を逮捕しています。報道によれば、2022年10月、東京都港区六本木の路上で大麻リキッドを所持していたもので、旅行で来日していたといいます。警察官の職務質問により液体を発見したものの、翌日に出国、その後、鑑定で大麻と認定されたことから、2024年6月に、乗り換えのため訪れていた成田空港で逮捕されたものです。
  • 米ハワイからの帰国時に麻薬成分を含むチョコレートを隠し持っていたとして、埼玉県警は、麻薬取締法違反(輸入)容疑で、格闘家のイノウエ容疑者を再逮捕しています。報道によれば、麻薬成分を含む板チョコ4個をキャリーケース内に隠し、ハワイの空港から預け入れ手荷物として成田空港に密輸入した疑いがもたれています。
  • 覚せい剤を含んだ固形せっけんをタイから密輸しようとしたとして、門司税関は、関税法違反(禁制品輸入未遂)の疑いで、住所不定で自称建設作業員の容疑者と福岡県太宰府市の職業不詳の男を福岡地検に告発しています。共同捜査した福岡県警が2024年5~6月に覚せい剤取締法違反(営利目的輸入)などの疑いで逮捕していたものです。税関はせっけん内の覚せい剤含有量を約1キロ(約7千万円相当)と試算しています。
  • 海上自衛隊横須賀地方総監部は、大麻取締法違反(所持)の罪で有罪判決を受けた護衛艦「いかづち」の乗員を懲戒免職処分にしています。総監部は、海外で海賊対処行動に従事中、寄港先で大麻やコカインを購入し使用したとしています。報道によれば、2023年8月から2024年3月まで、海外で購入した大麻やコカインのほか、横浜市内で入手した大麻を使用したとしていい、2024年3月、艦内に隠していた大麻を含む植物片が見つかり、全乗員に対する薬物検査で発覚、「ストレスを発散するため、軽い気持ちで始めた。反省している」と話したといいます。
  • 横浜市消防局は、東京都内で大麻を所持したとして2024年4月に警視庁に大麻取締法違反(所持)容疑で逮捕された栄消防署豊田消防出張所の消防士を懲戒免職処分にしています。神奈川県藤沢市消防局も、同様に都内で大麻を所持したとして同じ日に逮捕された南消防署警備2課の男性消防士を懲戒免職にしています。消防士は「ファッション感覚で使った」と話しているといいます。
  • 大学の運動部における大麻関連の問題が相次いで発覚しています。直近では、札幌大学の柔道部で男子学生4人が大麻とみられる薬物を所持していたとして、道警が1人を麻薬特例法違反(規制薬物としての所持)容疑で逮捕し、3人を同容疑で札幌地検に書類送検しています。4人はすでに退部し、うち2人は大学も自主退学しているといいます。4人は2024年春、違法性を認識しながら大麻とみられる薬物を所持した疑いがもたれており、道警は自己使用目的だったとみて調べているといいます。また、東洋大ボクシング部が部員の不祥事のため関東大学リーグ1部最終戦を出場辞退しています。詳細は明らかにされていませんが、警察の捜査対象になっているといいます。大学ボクシングでは、東農大が部員の違法薬物関与によって2023年のリーグ1部最終戦を出場辞退し、無期限活動停止となりました。その後、2部に降格処分となり、2024年春から本格的に活動を再開しています。さらに、北海道帯広市の自宅で大麻を所持したとして大麻取締法違反の罪に問われた帯広畜産大生の被告に、釧路地裁帯広支部は、懲役1年、執行猶予3年(求刑懲役1年)の判決を言い渡しています。裁判官は判決理由で、自生した大麻を採取して繰り返し使用しており「大麻への親和性が認められる」と指摘しましたが、反省している点などを量刑上考慮したといいます。判決によれば、2024年4月、自宅で大麻を含む植物片16.4グラムを所持、事件には知人2人も関わり、帯広畜産大生は同法違反罪で起訴され、卒業生の男性も大麻のようなものを所持したとして、麻薬特例法違反罪で罰金20万円の略式命令を受けています。
  • 大麻に似た成分を含む「大麻グミ」による健康被害が相次いだ問題で、違法薬物を販売目的で所持したなどとして、医薬品医療機器法違反容疑で逮捕されたグミの製造販売会社の元社長と元従業員2人について、大阪地検は不起訴としています。起訴して有罪判決を求める証拠が収集できなかったということですが、元社長について、2024年4月以降、近畿厚生局麻薬取締部が2回、大阪府警が1回の計3回、同法違反容疑で逮捕していました。また、四国厚生支局麻薬取締部は、指定薬物の大麻類似成分HHCP(ヘキサヒドロカンナビフォロール)を含む製品を販売したとして、医薬品医療機器法違反の疑いで、徳島市の会社ADD CBD代表取締役ら男6人を再逮捕しています。報道によれば、同社は14都道府県で25店舗を展開する国内最大規模の販売業者で、6人の再逮捕容疑は2023年12月、販売停止命令を受けていたにもかかわらず大阪市内の店舗で、HHCPを含むリキッド5個を客3人に対し、それぞれ1万5984~1万9980円で販売したとしています。同社は2024年12月、関東信越厚生局による東京都内の店舗への立ち入り検査を受け、販売停止命令を受けていたものです。
  • 税関の役割や業務に対する理解を広めようと、東京税関成田税関支署が、国内で唯一の麻薬探知犬養成機関「東京税関麻薬探知犬訓練センター室」などの報道向け見学会を行っています。大麻や覚醒剤など薬物の密輸を阻止するため、全国で日夜奮闘する探知犬の訓練の様子も公開しています。麻薬探知犬には独占欲が強い、攻撃的ではない、どんな場所でも恐れないなどいくつかの条件があり、能力と適性を訓練センターの教官たちが総合判断、合格した犬だけが麻薬探知犬になりますが、合格するのはわずか3割程度だといいます。不正薬物の押収量は8年連続で1トンを超え、日本の治安を守るため、水際で防ぐ探知犬の存在は欠かせないものとなっています。
  • 勤務先の病院から医療用麻薬「フェンタニル」の注射液を盗んだとして、大阪府警福島署は、窃盗の疑いで、奈良県香芝市の医師を逮捕しています。2024年3月、勤務していた大阪市福島区の病院で、フェンタニル注射液4ミリリットルを盗んだとしています。病院側が、手術室に出入りした容疑者ら医師3人と看護師3人に対し聞き取り調査と持ち物検査を実施したところ、容疑者の衣服のポケットから容器が出てきたといいます。フェンタニルは(本コラムではお馴染みの)強力な鎮痛作用がある医療用麻薬で、米国では近年、乱用者が増加し社会問題となっています。

若者によるオーバードーズの問題も深刻化していますが、最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 孤独・孤立問題をめぐり、政府は、新たな重点計画を策定しています。実態把握を進めるほか、医薬品の過剰摂取(オーバードーズ)対策としての啓発活動などを実施するとしています。横断的に取り組むため、各府省庁の関連施策は141項目に及び、重点計画では、コロナ禍後も問題が深刻化していると指摘。若者を中心としたオーバードーズについては、背景の一つに孤独・孤立感を挙げています。学校薬剤師などの協力を得て、家族も含めた薬の乱用防止の啓発活動を実施するとしたほか、全国調査により孤独・孤立の実態把握を進めるほか、国際比較などを通じて課題点をより明確にするとしています。周りで困っている人を支援する民間の「つながりサポーター」の養成、海外で孤独・孤立に悩む日本人への支援なども盛り込んでいます。
  • 奈良県医師会の安東会長は、若者を中心に市販医薬品のオーバードーズが急増しているとして、危険性の周知を進める必要があると呼びかけています。市販のせき止め薬や風邪薬を過剰摂取するオーバードーズは全国的に問題となっており、国立精神・神経医療研究センターが2021年度に高校生約4万人を対象に行った調査では、約60人に1人が過去1年間に乱用目的で市販薬を使用した経験があると答えています。オーバードーズは一時的な気分の落ち着きや高揚が得られるものの、薬物依存や肝機能障害、呼吸や心臓停止による死亡例も報告されています。対策として、大量購入を防ぐための販売制度の見直しや、教育現場での危険性の啓発活動が進められていますが、安東会長は「背景には若者の孤独や孤立がある」とした上で、「家族や友人のオーバードーズを知ったら、叱ったり非難したりするのではなく、SOSのサインと受け止めて話を聞き、医療機関や行政機関に相談してほしい」と呼びかけています。関連して、奈良県の山下真知事は、インターネット検索サイトやSNSで関連する用語を検索した県民に対し、ユーザーの意思に関係なく配信される「プッシュ型広告」で危険性を通知する取り組みを開始すると説明しています。2024年夏から、検索大手のグーグルやLINE、インスタグラムなどを通じ、過剰摂取は危険であることを広告で掲示、各サービスのアカウント情報で居住地が県内であることを判別し、若者を中心とした年齢層に通知する方針だといいます。こうした取り組みが拡がることを期待したいところです
  • 大阪市西成区の「あいりん地区」の路上で、処方箋薬を無許可で販売しようとした(医師の処方箋が必要な睡眠導入剤20錠を陳列した)として、大阪府警西成署は、無職の男を医薬品医療機器法違反(無許可販売)容疑で現行犯逮捕しています。同地区では医薬品を無許可販売する「ヤミ露店」が問題となっており、同署が取り締まりを強化しています。報道によれば、同署は男が所持していた処方箋薬684錠を押収しましたが、このうち250錠が睡眠導入剤を含む向精神薬だったといいます。本コラムでも以前取り上げましたが、過去には、生活保護制度を悪用し、複数の医療機関から公費負担の医薬品を大量入手した受給者の男が、同地区のヤミ露店に薬を横流しした事件もありました。こうした薬の無許可販売は、若者のオーバードーズを助長させている可能性があります。
  • 東京都新宿区歌舞伎町に集まる「トー横キッズ」と呼ばれる若者に販売する目的で、医薬品約1100点を持っていたなどとして、警視庁少年育成課は、無職の被告=都青少年健全育成条例違反で公判中=を医薬品医療機器法違反(貯蔵など)の疑いで再逮捕しています。歌舞伎町の「新宿東宝ビル」周辺は「トー横」と呼ばれ、行き場のない未成年の若者らが集まり、オーバードーズで救急搬送されることが問題化しています。容疑者は、オーバードーズ目的の若者らに売るために医薬品を持っていたとみられています。報道によれば、容疑者は「ヒロ」と自称し、遅くとも2022年5月ごろからトー横で複数の少年や少女に医薬品を販売したり、譲り渡したりしていたとされ、医薬品を手に入れるため、都内の医院など数十カ所に通い、症状を過度に申告して処方箋を得ていたとみられています。なお、警視庁は2023年7月に自宅を家宅捜索し、医薬品約6000錠を押収しています。

不眠や月経前症候群(PMS)などに効能があるようにうたって未承認の医薬品を販売したなどとして、警視庁はガラス器具製造「ギヤマン」の取締役を医薬品医療機器法違反(無許可販売など)の疑いで逮捕しています。法人としてのギヤマンも同法違反容疑で書類送検しています。報道によれば、男は2023年5月~2024年4月、国の承認を受けていない医薬品「SEROTON LIFE BOOST」など四つの商品について、通販サイト上で「不眠、気分安定、スマートドラッグ」などと効能をうたう広告を掲示、2024年1月~4月、都内の30代女性ら計13人に無許可でこの4商品計20点を計4万5780円で販売した疑いなどがもたれています。容疑を認め、「健康食品の自社ブランド立ち上げを思いついた」と話しているといいます。4商品は同社が「Hare Bare(ハレバレ)」というブランド名で売っており、ハーブやカンナビノイドなどを原料とした錠剤やオイルで、一部の商品は、男がSNSなどで作り方を知り、事務所の台所で自作していたといい、現時点で健康被害は確認されていないということです。

海外の薬物を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • ドイツの検察と税関は、同国北部ハンブルク港やオランダ南部ロッテルダム港などでコカイン計35.5トンを押収し、密輸に関与した疑いで7人を逮捕したと発表しています。約26億ユーロ(約4400億円)に相当するといいます。7人は2023年4~9月、中南米から欧州にコカインを密輸しようとした疑いがもたれており、コロンビアの捜査機関からの情報を受けてドイツ検察などが捜査し、果物などのコンテナに隠されたコカインを発見したものです。
  • 米国へのコカイン密輸で麻薬組織と共謀した罪などに問われた中米ホンジュラスのエルナンデス前大統領に対し、米東部ニューヨークの連邦地裁は、禁錮45年と罰金800万ドル(約12億8600万円)の判決を下しています。エルナンデス被告の弁護人は判決を不服として控訴する方針ですが、起訴状などによれば、被告は2004~2022年、ホンジュラスやメキシコなどに拠点を置く複数の麻薬組織と協力し、コカイン400トン以上の密輸に関与、捜査当局や軍の機密情報を渡すなどして麻薬組織を保護し、見返りに数百万ドルの賄賂を受け取ったとされます。なお、同被告については、2024年6月27日付毎日新聞の記事「麻薬密売で最高権力者に成り上がり ホンジュラス前大統領の素顔」で詳しく報じられており、「エルナンデス被告は違法な麻薬ビジネスを、権力者として上り詰めるためのチャンスととらえ、複数の麻薬組織に自ら接触するようになった。組織の保護を約束し、容疑者の逮捕や米国への身柄引き渡しを防ぐため、捜査当局や軍の機密情報を提供。密輸の際には息のかかった警察官や軍人も警戒のため派遣した。起訴状によると、見返りに受け取った賄賂は総額で数百万ドル規模。協力関係にあった麻薬密売人の中には、メキシコ最大級の麻薬組織「シナロア・カルテル」を率い、「麻薬王」として知られたホアキン・グスマン(米国で麻薬密輸罪などで服役中、通称エルチャポ)もいた。関与したコカインの量は20年ほどのうちにおよそ500トンに達した」、「ホンジュラスは殺人や暴力が多発しており、治安は世界最悪レベル。「マラス」と呼ばれる地元ギャングも暗躍する。民間団体や政府は事態の打開に動くが、今も劇的な改善にはつながっていない」、「中南米の組織犯罪事情などに詳しい米西部ネバダ大のローラ・ブルーム助教授(政治学)は、ホンジュラスでは「汚職が横行している」と指摘。地方の政治家に至るまで選挙資金を得るために麻薬密売人と手を結ぶケースが絶えないことなどからエルナンデス被告の逮捕後も「密輸は続いている」と述べた。「需要がある限り供給が減らない」と強調し、米国が世界有数の麻薬の「消費地」である限り、密輸を止めることは難しいと見ている」といった内容です。
  • 本コラムでもたびたび取り上げてきましたが、米連邦最高裁は、医療用麻薬「オピオイド」入り鎮痛剤の中毒問題を巡って集団訴訟を抱える米製薬会社パーデュー・ファーマの再建計画を認めない判断を下しています。同社が被害者に巨額の和解金を支払うのと引き換えに、創業者一族の民事責任を免除する内容について違法としたものです。判決は、連邦破産法は破産裁判所に第三者である創業者一族の民事責任を免除する権限を与えていないとし、保守派判事は4人が判決を支持し、2人が反対、。リベラル派は1人が支持、2人が反対しています。パーデューはオピオイド鎮痛剤の発売当初、中毒の危険性を偽って積極的な販促拡大を進めたとして自治体などから多数の訴訟を起こされ、2019年に経営破綻、破産・再建計画は、創業家サックラー一族が自治体などによるオピオイド中毒対策や被害者の救済に約60億ドル(約9600億円)を拠出する代わりに、一族を民事訴訟から保護する内容でしたが、連邦破産裁判所が2021年に計画を承認、司法省が無効化を求めて最高裁に上訴していたものです。米疾病対策センター(CDC)によると、1999年から2021年までに約64万5000人がオピオイドの過剰摂取で死亡しています。

(4)テロリスクを巡る動向

パリ夏季五輪・パラリンピック(以下、「パリ五輪」)の開会まで1カ月を切りました。大会を控え、イスラム過激派などによるテロへの脅威が増大していることに加え、極右が躍進するなど政治情勢の不安定さも懸念材料となっており、平和の祭典は不穏な空気に包まれています。パリ五輪は約1万人の選手を迎え、国内外から1500万人以上の観光客も見込まれ、新型コロナウイルス流行で競技の大半を無観客とした2021年の東京五輪と異なり、パリ五輪でテロがあれば観客も巻き込まれるリスクが高い状況にあります。近年はイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)に関連したテロの脅威が拡大、2024年3月下旬にはロシアの首都モスクワ郊外で銃乱射テロが発生し、ISが犯行声明を出しており、フランスでも同4月、ISに触発されたとみられる16歳の少年がテロを計画したとして仏当局に逮捕されています。さらに、イスラエル軍とイスラム原理主義組織ハマスとの戦闘が続くパレスチナ自治区ガザ情勢の影響で、イスラエル選手らが狙われるテロも危惧されるところであり、報道でパリ警察長官が「イスラム過激派のテロは依然としてわれわれの最大の懸念だ」と述べているとおりだといえます。約30万人以上が両岸から式を見守る予定の開会式については、セーヌ川は曲がりくねって流れ、ドローンや狙撃兵に狙われやすく、仏情報機関は「リスクが高すぎる」と懸念を示しているところであり、仏政府は警察や憲兵隊約4万5千人を投入して厳重な警備態勢を敷く方針だとしています(現状では400人ほど不足しているとも報じられています)が、政府内ではパリ郊外に会場を変更するよう求める声もあります。極右政党「国民連合(RN)」が第1党となりマクロン氏がRNから首相を指名するかしないかに関わらず、各地で分断が加速し「内戦状態になる」恐れは否定できず、テロリスクの大きさから五輪の準備に支障をきたす可能性があります。

一方、日本の外務省は、パリ五輪の開幕を控え、フランスへの渡航や滞在を予定する邦人に注意喚起の情報を発表しています。フランス政府がテロへの警戒レベルを最高水準にしているとして、スタジアムなど不特定多数の人が集まる場所では細心の注意を払うよう求めています。具体的には、「欧米では、近年、警備や監視が手薄で一般市民が多く集まる場所(ソフトターゲット)を標的としたテロが頻発しています。これらは組織性が低い単独犯によるテロが多く、事前の取締りが難しいことが特徴です。また、2023年10月以降、中東情勢を受け、イスラム過激派組織は声明等により、イスラエル関連施設(大使館含む)、西側諸国関連施設(大使館含む)、宗教施設、ナイトクラブ等を標的にするよう繰り返し呼びかけています。実際にフランスでは、2023年10月、ノール=パ・ド・カレー県アラス市の高等学校において、元学生の男が教師等を刃物で死傷させるテロが、また、同年12月には、パリ市内エッフェル塔周辺(ビラケム橋、グルネル通り付近)において、男が刃物等により、通行中の外国人等複数を死傷させるテロが発生しました。また、2024年5月には、オリンピックのサッカー会場を標的とするテロを計画した容疑者が逮捕される事案も発生しました。現在、フランスでは、国内におけるテロ対策行動計画(vigipirate)の警戒レベルが最高水準となっており、今後もテロ事件が発生する危険性があると考える必要があります。スタジアムやイベント会場の付近といった不特定多数の人が集まる場所では、細心の注意を払い、滞在時間を可能な限り短くする、避難経路を予め確認しておく等の安全対策を必ず講じてください。さらに不審な人物を目撃したら、速やかにその場を立ち去るなどして、安全確保につとめてください」との情報が海外安全ホームページで発信されています。

本コラムでその動向を詳しく確認してきたISについては、2014年6月29日に当時のIS指導者バグダディ氏が、みずから「カリフ」を名のり国家樹立を宣言、それから10年が経過しました。広大な「領土」を失った「リアルIS」の影響力は大きく削がれたように見えるものの、過激な思想や残逆なテロの手法はさまざまなかたちで引き継がれ、「思想型IS」としてその勢力をいまだ維持しているように見えます。一方のテロ対策に必要な国際協力は、米欧と中ロの覇権争いで大きく後退しているともいえます。つまり、「本家」のISは退潮が鮮明である一方、「思想としてのIS」は生き残り、世界各地に脅威を広げており、アフリカのサハラ砂漠南縁部のサヘルでは治安が崩壊した地域でIS系の武装組織が勢力をひろげており、イスラエルとパレスチナ自治区ガザのイスラム組織ハマスの衝突は「欧米やイスラエルがイスラム教徒を敵視している」という過激派の主張を通りやすくしているほか、越境襲撃でイスラエルの市民を惨殺したハマスのテロの手法自体がISの影響を強く受けているとみられています。2024年1月に発表された国連の報告書によると、ISの戦闘員は3000~5000人とされ、3万人を超えたという最盛期の10分の1程度に減ったとみられていますが、軍兵士や住民を標的にした攻撃は後を絶ちません。イラク、シリア両国ではISの掃討作戦が続き、イラクでは約100万人が避難生活を強いられています。アフリカのサハラ砂漠周辺のサヘル地域などではISに共鳴する組織がテロを継続、アフガニスタンなどで台頭する一派「イスラム国ホラサン州」は、モスクワ郊外で2024年3月に140人以上が死亡したテロを実行したと主張しています。イラクでは「イスラム国」に対抗するため、2014年に誕生したイスラム教シーア派民兵組織の連合体「人民動員隊」が、混乱の新たな火種になっています。今後、駐留米軍が撤退すれば、ISが再び勢力を拡大させかねないおそれがあります。イラクの軍事評論家は報道で「米軍の支援がなければ、『イスラム国』を完全に排除するのはまだ無理だ。早期の米軍撤収は大きな過ちとなる」と懸念、民兵組織に詳しいイラク国会議員は「政府は民兵を統制できなくなっている」と指摘しています。イスラム過激派対策はアラブ世界の統治の改善や教育の普及、経済の立て直しなど地道な努力が求められ、主要国はテロ情報の共有や難民対策で協力する必要があり、テロ組織が「武器」として利用している情報技術(IT)サービスを提供するテック企業との連携も欠かせないところですが、分断が進む世界は逆に過激派に勢力拡大の養分を与え続けているといえます。

ロシアのプーチン大統領は、ウクライナで続く戦争が西側諸国との間で繰り広げられている存亡を賭けた闘争の一環であり、全ての国力を集中させる必要があると訴えています。しかし2024年6月にダゲスタン共和国で起きた教会などの襲撃事件は、ロシア国内でイスラム系武装勢力の脅威が増大しつつあり、プーチン氏が資源配分の見直しを迫られる可能性を浮き彫りにしたといえます。ロシア正教の教会やシナゴーグ(ユダヤ教会堂)、交通警察詰め所などが武装勢力に襲われ、少なくとも20人が死亡したこの事件では、「ISホラサン州」が犯行を主張する声明を出しています(なお、「ISホラサン州」(IS-K)は、テレグラムに「カフカスの兄弟が実力と能力を示した」と投稿、米シンクタンクの戦争研究所はロシアの北カフカス地方で活動する「ISカフカス州」がテロを実行した可能性が高いと結論づけています)。もともとダゲスタンはイスラム教徒が多数を占め、パレスチナ自治区ガザ情勢を巡り宗教間の緊張が高まっていたところ、ロシアの情報部門や治安部門が適切に対処しているのかとの疑問が浮上しており、これらの部門は対ウクライナ戦や、ウクライナに関係する勢力がロシア国内で起こす攻撃の可能性へ大半の注意を向けていたところで、まさに不意打ちを食らった形だといえます。そして、このテロ事件を受け、ロシアでイスラム脅威論が高まっており、イスラム系移民の排斥を求める声も上がり、連邦捜査委員会の委員長はイスラム教徒の女性が顔を覆う衣装を禁止する法整備を主張するなど、米欧を敵対視し国内の民族融和を訴えてきたプーチン大統領の政権運営に影響しかねない状況になりつつあります。さらに、ナイジェリア北東部ボルノ州の町では2024年6月、結婚式や葬式、病院を狙った連続自爆テロがあり、子どもや妊婦を含む少なくとも18人が死亡、約30人が負傷するなど、ナイジェリア北東部ではイスラム過激派による襲撃が相次いでおり、治安当局が経緯を調べています。ロイターの報道によれば、いずれの現場でも女性が身に付けた爆弾が爆発、ナイジェリア北東部ではイスラム過激派ボコ・ハラムやIS系グループの襲撃が相次ぎ、10年以上で数万人が殺害されたとの報告もあります。

また、米連邦捜査局(FBI)などは2024年6月、東部ニューヨーク、フィラデルフィア、西部ロサンゼルスの3都市で、ISとの関係が疑われるタジキスタン人計8人を拘束しています。8人は2023年以降にメキシコ国境から越境してきたとされ、テロ関連の容疑では訴追されておらず、移民関連の法律に違反した疑いで拘束されたといい、国外退去処分になる可能性があるといいます。米国では202年4月にもISとの関係が疑われるウズベキスタン人が東部ボルティモアで拘束される事件があり、捜査当局は今回のタジク人の事件とも関連しているとみているといいます。さらに、カナダのドミニク・ルブラン公共安全相は、カナダはイランの精鋭部隊「イスラム革命防衛隊(IRGC)」をテロ組織に指定すると発表しています。「カナダはIRGCによるテロ活動と戦うためにあらゆる手段を講じる」と指摘、今回の発表は「非常に強力で説得力のある証拠」を反映しているとしています。また「カナダにいるイラン政府の現・元高官が捜査を受ける可能性がある」としましたが、対象となり得る人物の身元や人数は明らかにしていません。

2002年、200人余りが死亡したインドネシア・バリ島爆弾テロを起こしたアルカイダ系のイスラム過激派組織ジェマ・イスラミア(JI)が解散を表明しています。ジャカルタのシンクタンク、紛争政策分析研究所(IPAC)がリポートで、JI指導者16人が2024年6月30日に動画で公表した解散声明を本物だと確認したとしています。指導者は声明で、今後はインドネシアの国家と法令に従うとともに、組織から派生した寄宿学校における全ての教材は正統なイスラム教に即したものになると約束しています。なお、インドネシアの国家テロ対策庁(BNPT)はこの件に関してコメントを控えるも、近く会見を開くと述べています。IPACのリポートを執筆したシドニー・ジョーンズ氏は、JIが解散を決めたのは、暴力的な聖戦への興味への関心が薄い「知性派」の影響や、最大の資産である寄宿学校を守るための最善の方法とみなされたことなど複数の要因が重なったからではないかとの見方を示していますが、IPACによると、JIは分派が続いた歴史を持つだけに、将来的に新たな過激派組織として再登場する可能性も残されています(筆者もそうした見方をしています)。

イスラム主義勢力タリバンが支配するアフガニスタンを巡り、国連は、中東カタールのドーハで課題を話し合う会合を開き、今回は暫定政権を発足させたタリバン側が初めて参加、欧米諸国による経済制裁の撤廃を求めています。本コラムでたびたび取り上げてきたとおり、米国内にあるアフガニスタン中央銀行の金融資産が凍結され、企業や支援団体も撤退して経済が低迷、銀行の多くは、現在も預金の引き出し額を制限しており、国連によると、人口約4400万人の半分以上が人道支援を必要としている状況にあります。暫定政権報道官のムジャヒド幹部は、「アフガニスタンの人々の経済的問題の主な解決策は(米国などの)制裁の撤廃、開発援助の提供などでもたらされる」と主張、タリバンの支配前に、麻薬の原料となるケシの世界最大の産地だった状況についても、「栽培をほぼゼロにした」と述べ、成果を誇った(国連薬物犯罪事務所(UNODC)の2024年版「世界薬物報告」でも裏付けられています)一方、タリバンは中学生年代以上の女子教育や女性の就労を厳しく制限しており、欧米諸国が批判してきた点については、タリバン側は「内政問題だ」と主張し、今回の会合でも中心の議題にはなりませんでした。現地の女性支援団体は取材に対し、「人口の半分を占める女性への支援が国連会合の議題にならないのはおかしい」と反発、また、タリバン暫定政権を正式な政府として認めた国は出ていませんが、中国やロシアなどが関与を強める動きを見せており、国連の会合にタリバンが参加することは、「タリバン支配を正当化するのではないか」と懸念する声もあがっています(筆者も同意見です)。一方、日本の対応について、上川外相は、国連薬物犯罪事務所(UNODC)のワーリー事務局長と外務省で会談、アフガニスタンの麻薬対策支援で約15億1千万円の無償資金協力を実施する合意文書に署名、アヘンの原料となるケシの代替作物の栽培促進や薬物中毒者の治療施設改修などに充てるとしています。署名式で上川氏は「アフガニスタンの違法薬物の需給を抑制する上で極めて重要だ」と意義を強調、政府はUNODCとの間で、法の支配推進やルールに基づく海洋秩序の維持・強化に向けた協力文書も近く取りまとめるとしています。

スウェーデンでオートバイに乗ったギャング集団の1人が射殺された事件の犯人は、わずか14歳で、少年は8歳のときから少年院で暮らしていたといいます。2024年6月30日付ロイターの記事「少年院でギャングが勧誘、スウェーデンで増える銃犯罪」はなかなか衝撃的な内容でした。具体的には、「ギャングが1年前に少年を施設から脱走させて衣食住と大麻をあてがい、6日後には「借りを返せ」と迫り、33歳のギャングを殺させた。裁判で少年は殺人を請け負った罪で有罪判決を受けたが、刑を宣告される年齢に達していなかったため、別の少年院に送られた。少年院は国の保護下にある子どものケアと青少年犯罪者への懲罰という2つの目的を掲げているが、実際にはまん延する犯罪の温床になっている」、「施設はフェンスで囲まれていることが多く、敷地内には学校や公園がある。入所者は許可なく外出することはできないが、警備は緩いことが多い。携帯電話やタブレット端末にアクセス可能なため、ギャングのメンバーが外部から連絡を取ることもできる」、「40人の少年のうち約半数はここに来た時点でギャングに属している状態だ」、「少年院に入所したギャングメンバーの若者10人中9人が再び犯罪に手を染め、8人近くが最終的に刑務所に収監されている」、「オランダ、フランス、ベルギーなど他の欧州諸国もギャングとの闘いに頭を悩ませているが、スウェーデンは銃犯罪が突出しており、これまでのところEU内で1人当たりの銃犯罪件数が最多だ」というもので、スウェーデンの意外な実態が明らかになっています。

バングラデシュの首都ダッカで日本人7人が犠牲になったテロ事件から8年が経過しました。現地で犠牲者らを悼む慰霊式典が国際協力機構(JICA)の主催で開かれています。テロ事件は2016年7月1日夜、ダッカの外国人が集まる地区で発生、武装集団がレストランを襲撃し、日本人の男性5人と女性2人を含む22人が殺害されました。この集団は、ISに忠誠を誓う勢力で、犠牲になった日本人らは、日本が支援し、2022年末にダッカで開業した国内初の都市型鉄道計画「ダッカメトロ」に関わり、都市計画のコンサルタントとしてJICAから事業調査を請け負った人たちでした。バングラデシュは近年、コロナ禍を除き、年7%前後の経済成長を継続、2026年には国連が定義する「後発開発途上国」(最貧国)から抜け出す見込みですが、インフラ整備が課題として残っており、日本は、バングラデシュ初の深海港・マタバリ港や、ダッカ近郊の経済特区の整備なども支援しています。犠牲になられた方々の遺志を継いで、同国の発展に寄与していくことが日本の使命ともなります。なお、本事件について分析した当時の本コラム(暴排トピックス2016年7月号)は、今読み返しても参考になるところも多く、以下、抜粋して紹介します。

このバングラテロ事件については、事件発生に至るまでに様々な兆候があったことが続々と明らかになっています。それだけに、彼らがテロに巻き込まれたことは関係者にとっては正に痛恨の極みと言えるでしょう。今回のテロを今後の教訓とするためにも、「不幸にも」の一言で片付けることなく、テロ発生の予兆をどのように見極め、回避行動はどうあるべきか、具体的にどう対処するべきか等について考えてみたいと思います。

まず、テロ発生の予兆の見極めについて、今回のテロに関して筆者が情報収集した範囲だけでも、具体的に以下のような情報があります。これらを見る限り、(個別の事情は別として)当時、回避行動に向けた判断に関する十分な分析が可能な状況にあったのではないかとも推測されます。

  • 有志連合による空爆もあり、ISは、支配地域の縮小を余儀なくされており、6月にはイラク軍の攻勢で中部の要衝ファルージャを失うなど、中東での軍事的な劣勢に焦りを募らせている状況にあります。その結果、支配地域外でのテロ攻撃に力点を移し、大規模テロで力を誇示する戦略に転換したように見えます。そして、それに呼応して、ISと直接結びつきがないような支持者がテロを起こす恐れが高まっている状況にあります。【筆者注】ISの攻撃の分散化は、ISの直接の指示の有無に関係ないテロの頻発(本テロ事件もISの直接の関与を示すものは今のところありません)をもたらしており、逆にISを攻撃する側も、ターゲットが分散化・多極化することで決定的な打撃を与えることが困難になりつつあります。したがって、対IS作戦についても、過激主義の根本原因への対処といったソフト・ハード両面からの修正が迫られていると言えるでしょう
  • バングラデシュでは昨年以降、イスラム原理主義を批判する活動家や外国人が相次いで殺害されており、ISが犯行を認めていたものの、同国政府は、国際的イメージの低下を恐れてか、「国内にISは存在しない」と頑なに主張し続け、対策を怠っていたと言われており、それが今回の同国政府の対応の遅れを招いたのはないかとの指摘が根強くあります。
  • バングラデシュ首相の政治顧問の話として、ネット上のテロ情報を監視するバングラ警察の担当者が、事件発生前に、ツイッター上に「襲撃がある」との警告情報が複数回投稿されたのに気づいていたものの、同国では類似事件の前例がなかったこともあって、監視担当者が事の重大さに気づかず、初動が遅れた可能性があるとのことです。さらに、襲撃犯が狙うなら大使館か主要ホテル・レストランとの思い込みから、今回事件が起きた欧風レストランが狙われるとは全く想定できなかった可能性も指摘されています
  • JICAは、昨年10月、治安が悪化していると判断し、現地に派遣されていた青年海外協力隊員ら48人のボランティアスタッフを急きょ帰国させていたということです。一方で、事業を継続させる必要があるとして、(今回犠牲となった方々を含む)プロジェクト参加者は帰国させず、「移動する際には必ず車両を利用し、不要な夜間の外出を控えるように」といった要請がなされていたようです。
  • 報道(平成28年7月4日付産経新聞)によれば、最近まで現地にいた商社マンの話として、わずかだがISに影響を受ける人が増え始めており、昨年12月頃から治安悪化の質が変化したと感じていたということです。
  • JICA理事長が、記者会見において、「今年6月がIS設立2周年に当たり、さらにラマダン(断月)明けは危険ということもあって、注意喚起はしていた」と述べており、当時、特にこの時期が危険な状況であることは関係者の間で認識されていた可能性があります
  • 同国では、大学生や高校生など20代前後の若者をターゲットに過激派組織が勧誘活動を活発化させており、既に150人以上の若者が行方不明になっていました(中東などで過激派組織に加わっているのではないかとの見方もあります)。そのような状況下の先月、同国政府が、過激派や反体制派の取り締まりを強化し、11,000人以上を逮捕した事件があり、こうした強硬姿勢が反発を生み、今回のテロの引き金となったとの指摘もあります。【筆者注】本テロ事件の実行犯は裕福な20代の若者であり、その過激化の背景には、ホームグロウン・テロリスト同様、社会からの疎外感、閉塞感なども背景になっている可能性があります。それらを未然に防止するためには、ISの戦略変更等も考慮すれば、より幅広いテロ対策が必要となると言えます。例えば、学生がそのような思想に感化されやすいのであれば、「教育」の果たす役割もまた大きいはずであり、以前も指摘した通り、「寛容」や「異文化・異宗教間の対話や理解」「多元的共存」などをキーワードとした、異質なものへの理解を深める教育のあり方などを模索する必要があると考えます。
  • ISは5月下旬、ラマダン中の欧米へのテロを信奉者らに呼び掛ける音声声明を公開しています。多くの国でラマダンが始まった6月6日に米オーランドでの銃乱射テロが発生、以後、約1カ月のラマダン期間中、ISの呼び掛けに呼応するように、世界各地でテロが続発しました。
  • ISは、既に日本人も標的とする旨、機関誌「ダービク」を通じて少なくとも計3回メッセージを発しています。また、これとは別に、海外の情報筋からは、旧植民地のリビアで特殊部隊を展開中とされるイタリアが標的とされたのではないかとの分析もなされています。ISがリビアから地中海経由でイタリアにテロ実行犯を送る代わりに、ダッカ駐在のイタリア人を狙ったとの見方で、同じ標的である日本人はそれに巻き込まれたとするものです。実際、ISのバングラデシュ支部は事件直後の2日に、「イタリア人を含む(対IS有志国連合の)十字軍兵士を殺害した」との声明を発表しています。
  • 報道(平成28年7月4日付毎日新聞)によれば、襲撃された飲食店は、湖に面して高い壁で囲まれており、人質を取って立てこもれば治安部隊は簡単には入れない造りになっていて、武装集団は、外国人が集まり、立てこもりに適したこの場所を選んだ可能性があること、さらには、「恐らく外国人を狙って入念に下見していたはずだ」という捜査関係者の指摘があります。また、襲撃された飲食店の従業員が関与していた(内通者を送り込むという用意周到なテロであった)といった衝撃的な事実も明らかになりつつあります。
  • 最近のISによるテロはソフトターゲットを狙うケースが増えており、世間の注目を集めることが目的だと言われています。一方で、いくら警備を強化しても、テロリストはより手薄な別の場所を狙うのであって、ソフトターゲット対策に有効な決め手がない現実があります

ざっと挙げただけでも、以上のような兆候やISを取り巻く緊迫した情勢・背景事情があり、このようなテロを事前に察知することは不可能ではなかったのではないかとさえ思えます。ISがテロを活発化させているラマダン期間中に、ISに敵視されている外国人が集まるレストラン(ソフトターゲット)で夕食を取ることがいかに危険な行為であるかは、今、現地から遠く離れた日本で冷静に状況を分析すれば明らかですが、当事者にとっては、ある程度注意していたこと(例えば、車で移動していたなど)もあって、それ以上の危険はないだろうと盲信するなど、感覚が麻痺していたのかもしれません(あるいは、注意情報等が十分伝わっていなかった可能性も考えられるところであり、万が一、そうであれば、JICAや外務省などの危機管理体制の抜本的な見直しが急務となります)。

さて、これらの分析を通して、危機管理(テロリスクへの対応)の第一歩は、情報収集とその的確な分析が重要であることを痛感させられます。さらに、本テロ事件で言えば、どうしてもその飲食店で会食する必要があったのか、必要があったのなら夜ではなく昼にする、といった対処をするだけでもリスクを大きくヘッジできた可能性があり、情報収集・分析に加え、適切なテロリスク対策・対処法を事前に知っておくことも極めて重要であると認識させられます。

なお、バングラデシュ政府は、本テロ事件を受けて、過激派組織に関する動画や写真などをインターネット上に投稿する行為について、厳格に対処する方針を発表しています。違反が発覚すれば、情報通信技術法に基づき、罰せられるということであり、ISなどの過激派組織に関する情報の投稿に加え、FB上で「いいね」を押したり、ツイッターなどのSNSで共有、コメントしたりする行為も「犯罪」として罰則対象になるとされています。この辺りは、FBIとアップル社の間で議論となったスマホロック問題と同様の構図で、テロリスク対策(規制)と表現の自由・思想信条の自由との緊張関係を巡る問題が生じる可能性やIS等のさらなる攻撃を招く可能性があります。

また、海外に進出している日本企業もまったなしの対応を迫られています。海外進出企業の多くは、現地での活動と安全確保の両立に苦労している実態があり、例えば、一般社団法人日本在外企業協会が2015年に行った調査では、危機管理マニュアルを持つ企業は71%にとどまっており、日本の多くの事業者の海外進出が危機管理対策の面ではまだまだ手探りの状況であることが伺えます。さらに、外務省等から情報提供面でのサポートがあるとはいえ、現時点で、現地従業員の安全確保は企業自身に委ねられているのが実情であり、治安状況によっては、現地の軍隊に警備などを依頼せざるを得ない可能性も否定できませんし、今回のテロで犠牲者を出したコンサルティング会社のように、中小規模の事業者が自助努力として莫大な警備費用等を支払える余裕があるとは考えにくく、安全コストは誰が負担すべきかが今後の大きな課題となりそうです。

安倍晋三元首相が銃撃され死亡した事件から2年が経過しました。警察庁の露木長官は「つい昨日の出来事のように脳裏に強く焼き付いている。まさに痛恨の極みだった」と述べています。警察庁は事件後、都道府県警が作る警護計画をすべて警察庁が審査する仕組みに改めており、露木長官は、2024年6月末までの審査が約6300件に上ると明らかにしています。そして、「一つとして同じ警護はない。日々積み重ねている事例から得られる教訓を踏まえ、さらなる警護の高度化を図っていきたい」と述べています。また選挙運動に伴う警護について「通常の警護に比べて格段に危険度が増す現場となる。自由妨害など選挙を取り巻く情勢の変化にも十分対応する必要がある」とも述べています。この事件は、被告がインターネット上の情報から銃を自作し、犯行に使われたことが大きな衝撃を与えました。この点については、2024年7月6日付の日本経済新聞の記事「密造銃「設計図5ドル」、身近に迫る脅威 米国も押収増」で詳しく報じられています。「インターネット上の情報をもとに自作した密造銃への警戒が世界で強まっている。ネットを通じて設計図の入手が容易になり、日本では8日で発生から2年となる安倍晋三元首相の銃撃事件で脅威が顕在化した。銃社会の米国でも押収量が増え犯罪の助長が懸念されている。各国が連携し密造情報の氾濫を止められるかが焦点になる。「拳銃の設計図、5ドル」―。セキュリティ会社、ノートンライフロック(東京・港)によると、匿名性の高い闇サイト群「ダークウェブ」には6月時点で、銃の設計図や3Dプリンターに読み込ませる設計データと称する投稿が複数確認された。120ドル超で完成品の銃器を売るとする投稿もみられた」、「安倍氏の銃撃事件を起こした山上徹也被告(43)はネットの情報を参考として凶器の銃を自作したとされる。弾を2回発射できる構造で、警察は鑑定を通じて殺傷能力があると判断した。事件後国内では銃の無許可製造を巡る摘発が相次ぎ、脅威は身近に迫っている。欧州の危機感も高い。2019年にドイツで宗教施設を襲撃し2人を射殺した男は密造銃を所持。21年にはスペインで過激派による3Dプリンター製の銃の製造拠点が摘発されるなどした。銃の所持が認められている米国でも「ゴーストガン(幽霊銃)」と呼ばれ問題視されている。正規ルートでの銃購入時に求められる犯罪歴や年齢の審査を受ける必要がなく、悪用された場合に購入者を追跡できるシリアル番号もないためだ」、「密造銃の根絶には製造を手助けする情報をネットから締め出す対策も欠かせない。大手SNSは武器の製造方法といった有害な投稿を削除している。しかし検知を逃れるため隠語で発信されるケースがあるうえ、ダークウェブ上では監視の目も届かない」、「サイバー犯罪に詳しい東京都立大の星周一郎教授は「銃規制は国ごとに異なり歩調を合わせる難しさはある」としたうえで、「治安維持に向け野放図な武器製造を抑止する重要性は共通する。有害情報に対する国際的な包囲網が必要だ」と指摘」しています。

安部元首相銃撃事件は、要人警護のあり方にも大きな影響を与えました。報道によれば、事件以降、要人らの演説を巡り警察庁が都道府県警の警護計画を事前に審査した件数は、2024年6月末までで約6300件に上るといい、都道府県警の警護の体制を300人以上増員し、警護専従部門がある都道府県警は新設も含め32に増えたといいます。また、主催者側の協力や連携が進み、金属探知機や手荷物検査の導入はおおむね浸透、悪用目的ではないものの、ナイフやモデルガンが見つかった事例もあったようです。さらに、最先端技術を活用した資機材の導入も本格化させており、警護用ドローンは全都道府県警に配備、演説会場などの写真を3D画像にして再現できる機材は大規模県の警察に導入され、現場を立体的に把握して適切な人員配置計画に役立てているほか、AIが異常行動を検知するシステムの活用も始めているといいます。その後発生した岸田首相襲撃事件の教訓もあわせ、ソフト・ハード両面において、民主主義に対する攻撃から社会を守る警備レベルであってほしいと考えています。

また、1994年6月27日、死者8人、負傷者約600人を出した松本サリン事件から30年が経過しました。2018年に教団の一連の事件を主導した松本智津夫元死刑囚ら13人の死刑が執行されたものの、2024年7月2日付読売新聞において、ジャーナリストとしてオウムを長年追ってきた神奈川大学特任教授の江川紹子氏は「刑を執行すれば終わりではない」とし、記憶を風化させないためにも、機会をとらえて意識的に語り継ぐべきだと強調しています。そして、カルトの特徴について、「絶対視した価値観を基に行動し、人権侵害や反社会的行為を伴うもの」とし、「宗教とは銘打たないものの、『政治的カルト』『経済的カルト』のようなカルト性の高い集団が現在もある」と警鐘を鳴らしています。2022年の安倍晋三・元首相銃撃事件では、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)や宗教2世の問題に注目が集まり、「再びカルトへの関心が向いた」としつつ、「若い人にカルトについて情報提供をしなければ、再びオウム事件のように巻き込まれる人も出てくる」とカルトの危険性を教育する重要性を訴えています。また、カルト問題に詳しい立正大の西田公昭教授(社会心理学)は、オウムが当時、人生や生きる意味に悩みを抱える人たちに分かりやすい答えを提供していたとして、情報の真偽を見極める「情報リテラシー」を持つことが大切だと指摘、コロナ禍で散見された陰謀論などを挙げ、SNSなどで情報があふれる現代社会に通じる問題もあるとして、「答えが見いだせない時にすぐに分かりやすい答えがあるからといって、飛びついてはいけない」と指摘していますが、正に正鵠を射るものだと思います。なお、2024年6月27日、猛毒の神経ガス・サリンを使ったテロを想定した訓練が長野県松本市で行われています。当時、現場に最初に駆けつけた救急隊員の一人も、消防幹部として訓練に参加、事件を教訓に万全の対応を考え続けており、「『想定外』を想定外のままにしてはいけない」と語気を強め、「地方の閑静な住宅街で、世界でも類を見ない事件が起きた。対応する部隊があっても安心はしていない。考えられることはすべてやる」と決意を新たにしたとの報道がありましたが、正に、こうした「脅威の伝承」「対策を考え続ける」「実践し続ける」ことが重要であるとあらためて認識させられます。

(5)犯罪インフラを巡る動向

インターネット通販サイトの利用者向けに、販売業者が高評価の口コミと引き換えに報酬の提供を持ちかけるケースが確認されており、書き込んだ高評価の口コミが違法行為の片棒を担ぐことになりかねず、国民生活センターは「ステルスマーケティング(ステマ)にあたる危険性がある」と注意喚起しています。本コラムでも取り上げましたが、消費者庁は2023年10月、ステマについて「消費者の自主的かつ合理的な商品・サービス選択を阻害する恐れがある」として景品表示法で禁じました。2024年6月には、グーグルマップの口コミで高評価をする見返りとしてワクチン接種料金を割り引くと依頼し、口コミを偽装したとして、東京都内の医療機関に措置命令を出し、事業所名を公開し、改善や再発防止策を求めた初の行政処分となりました。現行の景品表示法では行政措置の対象は広告主のみで、企業から広告・宣伝の依頼を受けたインフルエンサーや消費者ら第三者には及びませんが、報道で国民生活センターの担当者は「サイトの規約でステマを禁止しているところもある。企業の誘いに乗って評価をすると、消費者自身もアカウント停止となるケースもある」と指摘、「口コミは商品を購入する際の大切な判断基準。正当に評価をしてほしい」と呼びかけています

本コラムで関心をもって取り上げている休眠宗教法人の犯罪インフラ化の懸念について、直近で文化庁が、活動実態がない「不活動宗教法人」が、2023年末時点で4431法人に上り、2022年から1102増えたとする調査結果を発表しています。休眠状態の宗教法人はマネー・ローンダリングや脱税などに悪用される恐れが指摘されており、同庁は、2023年3月に不活動宗教法人の判断基準を策定し都道府県に通知したことで、実態把握が進んだと分析しています。不活動宗教法人が最も多かったのは、大阪府の341(前年比229増)で、岐阜県319(同232増)、新潟県304(同124増)と続いています。これとは別に、2023年中に解散命令や任意解散などの対応を取ったのは114法人となりました。通知では、督促しても連続して書類を提出しなかった場合などに、不活動宗教法人と判断するとしています。文化庁によると、宗教法人は文部科学相所轄と都道府県知事所轄を合わせ全国に約18万あるとされます。通知が出されて1年間の状況なので、はっきりとした評価は難しいところですが、筆者としては、いまだ自治体による取組みの温度感(レベル感)に差異があるのではないか、解散命令や任意解散についても想定より多くないというのが正直な感想です

特殊詐欺犯罪における「三種の神器」のひとつとされる「名簿」について、その業界の状況が一部明らかとなりました。2024年6月10日付朝日新聞の記事「名簿業者が「必要悪」と語る理由 無届け業者は「本当の闇になった」」によれば、個人情報保護委員会に届け出れば、個人情報を同意なく取引することができる「名簿業者」について、「届け出業者は現在200以上ある」、「無届け業者について、「法改正後、より地下に潜ってしまった」と語る】、「データはどんどん古くなっていくだけ。新しく入荷もできない。DMを送っても届かないとか、電話をかけてもつながらない宛先がどんどん増えていくので、そういう人を消し込んでいる」、「法改正され、個人情報保護委員会に届け出をした事業者しか個人情報の第三者提供ができなくなった。それからは、悪いうわさを聞く同業者の名前も怖いくらい聞こえなくなりました。だから無届け業者は「本当の闇」になったというか。今は名前も聞かないぐらい水面下になってしまっているんだと思います。詐欺に使われているリストもどこからか漏れ出ているはずです。名簿を売るのが難しくなると、「売れればいいや」といってどこでも構わず売る業者も出てくると思います」との指摘は正にそのとおりだと思いました。

本コラムでもたびたび取り上げている「SIMスワップ」被害について、偽造したマイナンバーカードを示し携帯電話を機種変更したなどとして、愛知県警サイバー犯罪対策課などの合同捜査本部は、名古屋市東区の自営業の容疑者を詐欺などの容疑で逮捕しています。報道によれば、2024年4月、名古屋市南区の携帯電話販売店で、偽造した他人名義のマイナカードを示し、機種変更を申し込んでスマートフォン1台(販売価格24万6180円)をだまし取ったというものです。なお、同じ日に同市千種区の携帯電話買い取り店を訪れ、偽造した別人名義のマイナカードを示し、だまし取ったスマホを16万6000円で売却したとして組織犯罪処罰法違反でも逮捕されています。インターネット上で公開されている住所、氏名、生年月日を悪用し、マイナカードを偽造して第三者になりすました上で、公開されていた電話番号を使って機種変更していたもので、同様の手口を繰り返していたとみて調べているといいます。

高級車の盗難が全国で相次いでおり、背後に犯罪組織が組織的に犯罪を敢行している状況がうかがえます。直近では、成田空港の利用者を対象に空港周辺で運営する有料駐車場で、高級車の大量盗難が相次いでいると2024年6月30日付読売新聞が報じています。利用者から鍵を預かる駐車場が狙われているとみられ、駐車場の事業者は、出国する利用者から車を預かり、日本に戻ってきた時に空港で引き渡すことがあり、駐車場のスペースを有効活用するため、預かった車を場内で移動させることもあるため、利用者から鍵を預かるケースが多く、一方で、事務所で保管中の鍵がドアの解錠やエンジンの起動に使われた場合、車の防犯装置が作動しないため、大量盗難の一因になっているとされます。関連して、三重県菰野町で盗難車を保管したとして、愛知、岐阜、三重県警の合同捜査班は、盗品等保管の疑いで、会社役員を逮捕しています。また同容疑で、「ヤード」と呼ばれる同町の解体施設2カ所にいたインドネシア国籍の男計6人を現行犯逮捕しています。愛知県警は、複数の自動車盗グループから盗品を受け入れ、海外に不正に輸出していたとみて捜査しているといいます。愛知県警によれば、ヤードは容疑者が管理、1カ月ほど前からトヨタ自動車のランドクルーザーなど計十数台の出入りが確認されており、インドネシア国籍の男たちは作業員とみられています。その愛知県では2023年以上に車が盗まれ、特に危ないのがランクル、プリウス、アルファードであると、警察が公表した2024年1~5月の自動車盗の被害状況の分析から、こうした実態が浮き彫りになっています。自動車の保有台数は、愛知が全国最多で、盗難被害が多いことでも有名で、全国の警察が2023年1年間に認知した自動車盗の件数は、未遂を含めて計5726件、このうち愛知は698件で、千葉の746件に続くワースト2位でしたが、2024年の愛知は、2023年より被害件数の伸びが加速しており、5月末時点で368件とトップとなっています。盗まれた場所についての分析では、「月決め・コインパーキングなどの駐車場」(31%)で最多、「共同住宅」(27%)、「戸建て」(25%)と続きますが、共同住宅と戸建てを合わせると、半数が住宅敷地内での被害で、施錠をしていても、短時間で解錠できる特殊な機器が出回っていることが背景にあります。対策としては、複数の防犯機器を組み合わせた対策を促すことが最も有効と考えられます。

副業の紹介をうたったサイトを巡る詐欺事件で、警視庁犯罪収益対策課などは、出会い系サイトでも登録者の男性から現金をだまし取ったとして、職業不詳の容疑者ら20~50代の男女26人を詐欺容疑で再逮捕しています。2023年8月~2024年3月、女性を装って都内在住の男性を出会い系サイトに誘導し、さらに費用を支払えば女性との連絡先を交換できると虚偽のメールを送って、10回にわたり計約50万5000円を振り込ませてだまし取るなどした疑いがもたれています。26人が所属する詐欺グループは副業募集や出会い系などのサイトを運営し、国で月額約4億円、年間約50億円の詐取を目標に掲げて、24時間稼働態勢で活動していたとされ、全国の約8600人から約19億1千万円を詐取したとみられ(被害額が2000万円以上の女性もいたといいます)、同課は他に指示役がいる可能性があるとみて全容解明を進めているといいます。また、副業の募集をうたうサイトに登録した20代の女性から28万円余りをだまし取ったとして、埼玉県警は、詐欺容疑で、さいたま市中央区を拠点にサイトを運営する千葉県習志野市の無職の容疑者ら男女17人を逮捕しています。全国に被害者がいるとみて調べているといいます。

フリマアプリ「メルカリ」を利用して児童ポルノを売ったとして警視庁は、無職の容疑者を組織犯罪処罰法違反(犯罪収益の隠匿)容疑で逮捕しています。容疑者はメルカリに成人向け雑誌を出品し、購入者に雑誌を送る際、自ら作成した児童ポルノ動画の購入案内を同封、メールで案内に応じた人に対し、専用の架空商品をメルカリ上に出品、メルカリの決済サービスで入金させ、匿名性の高い通信アプリ「テレグラム」で児童ポルノ動画を送っていたといいます。男のスマホには女子中高生5人のわいせつ動画が保存されていたといいます。複数の犯罪インフラを駆使したなかなか手の込んだ手口だといえます。

電子ギフト券を悪用した特殊詐欺が急増しており、警察庁などは米アップルやコンビニに対策の強化を要請しています。電子ギフト券が絡む詐欺被害は2024年1~3月に5億円を超え過去最悪のペースとなっており、「アップルギフトカード」の悪用が9割を占めていることから、アップルに不審な取引の防止措置、コンビニ業界には会計時の注意喚起を求めています。コンビニなどで販売されている電子ギフト券は購入するとIDが得られ、発行元プラットフォーマーの電子商取引(EC)などで使え、普及が進む一方、詐欺への悪用も増えており、電子ギフト券が使われた詐欺の被害額は2023年に前年比2倍以上の約21億5千万円となり過去最多だったところ、2024年1~3月の被害額は約5億5千万円(暫定値)で2023年同期を上回り、うち9割超がアップルギフトカードの悪用だったといいます。手口としては「サポート詐欺」で詐取金を払い込ませるケースが目立ち、アップルギフトカードの悪用が多いのは、人気が高い「iPhone」といった製品を購入するためとみられ、犯罪グループは製品を転売しマネー・ローンダリングしている疑いがあります。電子ギフト券では過去には「Amazonギフト券」の悪用も目立ちましたが、アマゾン側が対策を強化し、同ギフト券を悪用した特殊詐欺は大幅に減少した経緯があります。コンビニ各社は詐欺への警戒を求める声かけを推進していますが、店舗によって対応に差があるのが実態で、コンビニ店頭での声かけなどで被害を阻止できたのは、全体のうち1万1千件と約31%にとどまっています。

カウントダウンタイマーを画面に表示させるなどし、消費者を意図しない行動に誘導する仕組みが通販・取引サイト上で広がっていると2024年版の消費者白書で取り上げられています。「ダークパターン」と呼ばれるこうした手法は多大な被害を消費者に生じさせる可能性があるとして、政府は注意喚起しています。具体的には、(1)「在庫わずか」という表示や、セール終了を予告するタイマーでプレッシャーをかける、(2)商品閲覧や購入の際の会員登録などで、必要以上に個人情報の開示を強要する、(3)簡単に登録できるのに「解約の手続きはお電話のみで承っております」などと解約を困難にするといった例が紹介されています。白書では、ダークパターンにより、意図していた以上の金額を支払う可能性が高まる「経済的な損失」、個人情報収集による「プライバシーに関する被害」、解約する際の「心理的な被害や時間的な損失」といった被害が消費者に及ぶと指摘しています。関連して、ウェブサイトで会員登録をしようと「スタート」ボタンをクリックしたら、全く別の海外事業者とのサブスクリプション契約につながっていたとする相談が多数寄せられているとして、国民生活センターが注意喚起をしています。主な事例では、サイトの次に進むボタンと勘違いして「OK」、「今すぐ視聴する」といった表示をクリック、海外事業者の広告だと認識しないまま、クレジットカード情報の入力などにより契約が成立してしまったというもので、2024年4月、海外事業者とのトラブルに関する窓口に寄せられた約600件の相談のうち、約4割がこうした内容だったといいます。また、デビットカードでブランド品を購入した上、金融機関にはカードの不正利用を訴えて補償金をだまし取ったとして、愛知県警は埼玉県狭山市の会社役員を詐欺容疑で逮捕しています。デビットカードによる商品と補償金の二重取りの摘発は全国的に珍しいといいます。容疑者は2022年9月以降、自身が募集した闇バイトに応募してきた男と共謀、男のデビットカードでブランドの洋服5点を購入し、金融機関には「カードを不正利用された」と訴え、補償金約38万円を詐取した疑いがもたれています(身に覚えのない引き落としの場合、カード所有者が申告すれば、全額または一部が補償されるデビットカードの仕組みが悪用された形です)。なお、容疑者は少なくとも186のLINEアカウントを持ち、「カードが不正使用された」とウソをついて補償金を得る闇バイトを募っていたといい、容疑者を含む数十人が応じ、カード情報を提供したとみられています。

オンラインゲームのアカウントを売買する「リアルマネートレード(RMT)」の仲介サイトを悪用しポイントをだまし取ったとして、佐賀、滋賀、鹿児島の3県警合同捜査本部は、兵庫県姫路市の男子大学生ら4人を不正アクセス禁止法違反と電子計算機使用詐欺などの疑いで逮捕しています。仲介サイトの他人のアカウントを乗っ取り、自分たちが出品した架空商品の購入を繰り返す手口で、多額の利益を得た疑いがもたれています。犯行に使った複数のアカウントには1万3千件以上の取引と、計1億円以上の出金記録が残っていたほか、自宅など3カ所の家宅捜索で、計約2千万円の現金、複数のパソコンやスマホを押収、自作したとみられるフィッシングサイトのデータやそれを第三者に販売していた記録、犯行の一部を自動化するプログラム、仲介サイトの1千件以上のアカウント登録情報を確認したといいます。4人は匿名性の高い通信サービスやSNSなどを利用して組織的に犯行を行っており、金額の大きさから、第三者の犯行にも関与して収益を得ていたとみて捜査を進めているといいます。

企業のデータを暗号化して身代金を要求する「ランサムウエア攻撃」で、データを元に戻す「復号」をうたう事業者が問題になっているといいます。2024年6月28日付日本経済新聞の記事「身代金ウイルス、自称「復号屋」に注意 韓国で摘発も」で詳しく報じられています。具体的には、「暗号を解かなければならない復号は不可能に近く、復号を待つ間に必要な対策が後手に回る可能性がある。韓国では攻撃者と通じていた復号業者が摘発された事例もあり、専門家は注意を促している」、「「レスキュー商法にご注意ください」。日本データ復旧協会は3月、データ関連のトラブル解決につけ込む事業者とのトラブル相談窓口を設置した。復号事業者について「あらゆる暗号化の状態でも復号の可能性をほのめかす」「現在は使われていない攻撃の復号実績を誇張している」などの問題を指摘した。同協会の浦口康也会長は「『復旧』ではなく『復号』をうたう事業者は要注意だ」と語る。ランサム攻撃からの通常の復旧作業は、暗号化を免れたバックアップや一部のデータを見つけて閲覧可能な状態にする。暗号を解く復号はこれとは違い、ランサムウエアに特別な欠陥がない限り不可能とされる」、「ソウル中央地方検察庁は2023年11月、データ復号をうたう事業者の代表と従業員2人を逮捕、起訴したと発表した。起訴内容は18~22年、ランサムウエア「マグニバー」を使う攻撃者と共謀し、約730人の被害者から約26億ウォン(約2億7千万円)を脅し取ったとされる。マグニバーは主に個人のパソコンを狙うランサムウエアだ。北朝鮮政府の資金源とされるハッカー集団「ラザルス」とのつながりが指摘されている」、「セキュリティ企業のトレンドマイクロによると、マグニバーは日本でも発見されており、対岸の火事ではない。サイバー攻撃からの回復を担うある専門家は「ランサム攻撃者から復号鍵を買っていた事業者の事例は日本でもある」と語る」、「山岡裕明弁護士は「実際に成功するかわからない復号を待っている間、適切な対応が後手に回り、原因究明などのために必要なコンピューターの操作記録を失ったり、事業復旧が遅れたりするなどのリスクがある」と指摘する。個人情報保護法が規定するデータ漏洩時の国への報告義務が遅れる可能性もあるという」といった内容です。ランサムウエア攻撃では身代金を支払うべきか否かが議論になることが多いのですが、焦ってこうした巧妙な手口に騙されることがないよう、広く手口を知ってもらう必要があると思います。

出版大手「KADOKAWA」グループがサイバー攻撃を受けた問題は、動画配信や書籍の流通など、同グループの主要事業の一部が機能停止に追い込まれた(書籍の受注システムや物流システムが停止、編集・制作支援システムも一部停止し、新刊刊行や重版制作の遅れが見込まれるほか、取引先への支払いが遅れる恐れもある)うえ、一部の元従業員が運営する会社の情報、取引先との契約書・見積書など大量の内部情報が流出する事態に発展しました。その中には「角川ドワンゴ学園」の生徒や一部クリエーターらの個人情報なども含まれており、SNSなどで情報を拡散する二次被害も深刻化しています。KADOKAWAグループのサーバーが、身代金要求型ウイルス「ランサムウエア」に攻撃されたことが発覚したのは2024年6月8日、被害の拡大を防ぐためにサーバーをシャットダウンさせた後も、ハッカー集団(2023年5月ごろから活動が確認されている新興組織でテイクダウンされたContiの流れを汲むロシア系の「BlackSuit」とみられています)は遠隔操作で再起動させて感染拡大を図るなど執拗に攻撃を続け、同グループは、サーバーの電源ケーブルを物理的に引き抜くなどの対応を迫られたといい(CTO(最高技術責任者)が「サーバーが全て使えなくなってしまうという、想定を超えた状態になってしまった」、「(サイバー犯罪者が)時間をかけて計画的に攻撃を加えている痕跡が見つかった」と説明、社内ネットワークの奥深くまで侵入され、システムが乗っ取られた状況もうかがえます)、ニコニコ動画の配信や書籍の受注、経理などの基幹システムは機能停止に追い込まれています。SNS上では同集団が流出させた情報を拡散する動きもみられますが、拡散行為は法律に抵触する可能性や名誉毀損による訴訟リスクがあり、絶対にするべきではないし、KADOKAWAサイドも、当該組織の主張するウェブサイトへのアクセスやデータのダウンロードはマルウエア(悪意あるプログラム)感染の危険があるうえ、データの拡散は個人情報を侵害し、深刻な被害を及ぼす可能性があるとして、悪質な拡散行為については法的措置を徹底的に講じると発表しています。現時点で漏洩された情報の確認が完了しておらず、インターネット上で流布している書き込みにはフェイクや捏造情報が含まれている可能性があると注意喚起、拡散が被害の拡大や類似犯罪の増加を招く恐れがあるとしています。

なお、本件については、同社が流出について公表したのは発生から3週間程度たってからで、対応のスピードについて識者から疑問の声が出ているほか、同社が要求されている身代金について、識者は「支払えば違法となる可能性がある」と指摘しています。前者については、事実を早く出すことで利用者は使い回しているパスワードを変更するなどの自己防衛ができた可能性があることも指摘されています。また、企業が身代金を支払った場合、「合理性のない違法な支出として、取締役が責任を問われる可能性が高い」との指摘もあります。取締役は会社の財産を適切に管理する「善管注意義務」があり、株主代表訴訟で賠償を求められる可能性も考えられるところです。「NewsPicks」は、ハッカーの要求に対し、KADOKAWA側が298万ドル(約4億7千万円)相当の暗号資産を送金し、さらに追加要求されていると報じ、同社は「犯罪者を利するような、社会全体へのサイバー攻撃を助長させかねない報道」だとしてNewsPicksに抗議するとの声明を発表していますが、同社とハッカー集団との間で交渉が続いているとすれば明かせない情報が多く、同社は苦しい立場で対応を迫られていることも考えらえれます。顧客を守るため身代金支払いに応じることにも合理性があるとの考え方もある(専門家の中には「重要なのは影響を最小限に抑え、顧客や株主を守ること。軽々に『払うな』とひとごとのように言うべきではない」とし、犯罪者側との交渉に応じること自体は、より正確な判断材料となる情報を収集する上で有益との主張もあり、説得力があります)とはいえ、そもそも犯人の顔もわからず、身代金を支払っても本当に情報流出が止まるかは分からない中で支払いに合理的な理由を見出すのは難しいと言わざるを得ず、日本企業の悪しき前例としないためにも支払うべきではないというのが筆者のスタンスです(身代金の支払いについて、同社は明確に回答していない点が気になります)。なお、海外では身代金をカバーする保険もあります(日本ではありません)が、犯罪を助長すると批判されているところです(米国にはハッカー集団を含むテロ組織との取引を禁じる法規制があることも考慮していく必要があります)。また、2021年の徳島県つるぎ町立半田病院の攻撃では、町側は金銭を支払った認識はないと説明していますが、攻撃したハッカー集団は金銭を受け取ったと主張する(対策事業者が支払った可能性がある)といったケースもあります。なお、日本でランサムウエア攻撃による被害が世界的にみてもこれまで少なかったのは、身代金を支払わない企業が多いため、「日本を狙っても割に合わない」との評価が広がり、攻撃回数自体が減った可能性だと考えられていますが(単に公表されていない事例がたくさんある可能性もありますが)、攻撃する側にとっての「日本語の壁」があったのも事実です。これについては、生成AIによって壁が低くなり、「日本が狙われている」状況が現出しているといえます。なお、今回、KADOKAWAが狙われた背景について、セキュリティ専門家は、解散した集団から流出した「攻撃マニュアル」に、標的とした企業などの財務状況を調べる手順が詳しく書かれていることに着目、「犯罪集団が調べた結果、同社は『カネが取れる』と判断されたのかもしれない」といった指摘もあります。

関連して、2024年6月19日付産経新聞の記事「KADOKAWA襲った身代金要求ウイルス、日本企業の感染被害率は突出して低く」は、日本におけるランサムウエア攻撃への対応という点で大変興味深いものでした。具体的には、「民間調査で日本は同ウイルスの感染率が急減しており、主要15カ国の中で突出して低いことが判明。理由に身代金を支払う割合が低いことが挙げられ、「日本を狙っても割に合わない」との評価が広がり、攻撃回数自体が減った可能性もある」、「情報セキュリティ会社の日本プルーフポイントは、主要15カ国のセキュリティ担当者らを対象に調査を実施。昨年にランサムウエアに感染したことがある組織の割合は、15カ国平均が前年比5ポイント増の69%に対し、日本は同30ポイント減の38%と突出して低かった。急減の理由は何か。同社の増田幸美チーフエバンジェリストは「日本の企業が継続して身代金を支払わないようにしてきたことが功を奏した」と推測。令和2~4年の調査は3年連続で日本は被害企業の身代金支払い率が最も低く、5年は3番目の低さながら平均54%の中で32%を維持した。また、日本企業が身代金を支払わない理由には、(1)災害が多いためデータのバックアップが普及していて修復が可能(2)反社会的勢力への利益供与を避ける考えが浸透(3)サイバー攻撃被害に関する保険の補償範囲に身代金の支払いが含まれていないーーことを挙げた。こうした背景も含め、攻撃者らに金銭目的の攻撃を思いとどまらせる効果があったと分析している」、「企業側もネットワーク内などにウイルスによる怪しい挙動がないかを察知するセンサーの設置が進んでいる。対策の主流は侵入を防ぐよりも、侵入後いかに早く察知するかに移行しているという。ただ、相手の要求に応じないことが最大の抑止力になることに変わりはなく、日本プルーフポイントの増田氏は「身代金を払っても攻撃者は盗んだデータを消去してくれない。今後は支払いに応じない国が増えていくだろう」としている」といった内容です。

その他、情報セキュリティの脆弱性を突かれた情報漏えい事件が後を絶たない状況にあります。以下、サイバー攻撃等を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 情報処理サービスなどを手掛けるイセトー(京都市)がランサムウエア攻撃にあい、2024年7月5日時点で少なくとも約150万件の個人情報が流出していることが判明しています。イセトーが管理を受託していた自治体や企業の住民・顧客リストが流出しており、今後も被害が広がる可能性があります。イセトーは5月にランサムウエアで攻撃されたと最初に発表しましたが、時間が経過するにつれて被害が拡大、徳島県によると、当初はイセトーから「ネットワークを分離しているため情報流出はない」と報告を受けたが、6月には「データ流出の恐れがある」と訂正を受け、その後、ダークウェブ(闇サイト群)上に実際の個人情報が公開されたことで流出被害が明らかになったといいます。また、2023年度までに委託していた案件に関する個人情報は、イセトーから削除したとの報告を受けたが、実際には削除されていなかったことも判明しています。
  • 宇宙航空研究開発機構(JAXA)が2023年6月にサイバー攻撃を受けた問題で、JAXAは、職員の個人情報などが一部漏えいしたと発表しています。ロケットや人工衛星などに関わる機微情報の被害はないといいます。外部から組織内ネットワークに接続するための「VPN(仮想プライベートネットワーク)装置」から侵入され、サーバーや端末のアカウント情報が盗まれ、その後、このアカウント情報が悪用されてJAXAが利用する米マイクロソフト社のクラウドサービスに不正アクセスされ、職員のメールアドレスや所属部署などの個人情報、JAXAと連携する外部機関の情報が漏えいしたというものです。未知のマルウエアが複数仕込まれたことで侵入の検知が妨害され、被害の発見が遅れたといいます。VPNの脆弱性が狙われるケースが多く、メーカー側は見つかった脆弱性の情報を公表していますが、新たな脆弱性が出現することも多いうえ、発覚した脆弱性への対処を怠る企業も多いのが現状で、現在は脆弱性を探すことを専門とするハッカーらも存在し、脆弱性情報が闇取引されているといいます。なお、漏えいした情報は、秘密保持契約を結んで受けた企業・組織は、米航空宇宙局(NASA)や欧州宇宙機関(ESA)、トヨタ自動車、三菱重工、防衛省など40を超え、いずれも航空宇宙、防衛、安全保障分野でJAXAとつながりがあり、JAXA内で流出した可能性のある部署は、宇宙技術や研究開発から事務関連まで幅広く、部署数は10を超えたといいます。機密の漏洩が今後も続くようであれば、日本全体の先端技術を取り扱う体制に対して世界の協力国から不信感を抱かれかねません。JAXAや日本への信頼が揺らげば「機微情報はなかった」(文科省)では済まされないことになります。
  • 大学や研究機関がサイバー攻撃を受け、学生らの個人情報が流出する被害が多発しています。情報セキュリティ企業「トレンドマイクロ」の調査では2018年以降、123件に上るといいます。盗んだ情報を学内ネットワークへの接続手段として不正に販売する「アクセスブローカー」の台頭などが背景にあるようです。先端技術を盗まれる恐れもあり、政府は近くサイバー防御策の強化に乗り出すとしています。学生らのパスワードなどをリスト化し、学内ネットワークへの接続手段としてダークウェブ上で販売する人物はアクセスブローカーと呼ばれ、2021年頃から台頭し、相次ぐサイバー攻撃被害の一因になっているとされます。最先端の研究成果が標的になる懸念もあり、文部科学省高等教育企画課の担当者は「諸外国から狙われている可能性があり、流出すれば、経済安全保障上、国全体に影響を及ぼしかねない」と危機感を募らせています。なお、大学には学生や教職員が多く、セキュリティ意識に大きな違いがあることも要因の一つというのは、肌感覚で実感できるところです。
  • 本コラムでもたびたび取り上げているとおり、サイバー攻撃と偽情報の拡散による情報戦を組み合わせた「ハイブリッド型」の攻撃が増えています。サーバーへの大量の通信で機能をダウンさせる「DDoS攻撃」と、SNS上で嘘の情報を流して混乱を広げるといった手法があります。情報戦自体は古くからありましたが、SNSの利用拡大で事業者や個人を標的にしたセンセーショナルな情報の拡散がしやすくなっています。特に偽情報と組み合わせて機能妨害型サイバー攻撃の標的になりやすいのが、病院、港湾、金融などの重要インフラで、国家レベルの影響工作でも、特定の企業のイメージを毀損する偽情報を流す事例があります。機能障害やサービスの停止にとどまらず、政府の信頼失墜や社会不安をあおる目的があるためです。サイバー攻撃の被害を減らすには、攻撃集団を特定する「アトリビューション」能力の向上など、標準的な備えが不可欠です。インターネットに接続する通信機器の部品を通じて特定の国にハッキングされたり、情報が漏洩したりして情報戦に利用される場合もあるほか、サプライチェーン(供給網)の強化も対策の一つとなります。サイバー攻撃と情報戦もそれぞれ別の機関が対応している現状であるため、更なる機動的な体制を目指し、総力戦の体制整備が求められているといえます。
  • インドネシア政府のデータセンターが2024年6月中旬に大規模なサイバー攻撃を受け、282の政府機関のシステムに障害が出ているといいます。空港の入国管理業務のほか、奨学金の給付手続きなどで混乱が起き、データ復旧に時間がかかっており、行政手続きの遅れが当面続く可能性があるとのことです。攻撃を仕掛けたのは、ランサムウエア集団「ロックビット」で、最新型のウイルスに感染したようです。政府は800万ドル(約12億9000万円)の支払いを要求されたものの、拒否しているといいます。同データセンターでは政府機関が行政手続きなどに使う、国民や外国人らのデータが保管されていますが、今回のサイバー攻撃によりデータが暗号化されて利用できなくなっており、282の政府機関のシステムに障害が出ています。
  • 日本経済新聞社とテレビ東京が2024年6月28~30日の世論調査で、サイバー攻撃を未然に防ぐ「能動的サイバー防御」の法整備について聞いたところ、法整備に賛成が65%で、反対が10%となったといいます。賛成の比率を各党の支持層別にみると、自民党70%、立憲民主党68%、特定の支持政党を持たない無党派層は63%と大きな差はなかったようです。本コラムでも継続的にその動向を確認している能動的サイバー防御については、国が平時から通信を監視し、基幹インフラへの攻撃などの兆候を探知した段階で相手のシステムに入り無害化する仕組みで、政府は導入を2022年末にまとめた安全保障関連3文書で明記、法整備に関する有識者会議を2024年6月に初めて開き、導入に向けて議論を加速させているところです(直近では、攻撃予兆を探る監視対象を原則国外からの通信情報に限る方向で調整しているという報道もありました。筆者の個人的な感想としては、国民が意外に「能動的サイバー防御」の必要性を認識しているなというもので安心したのですが、プライバシー保護や法的な課題など詳細にまで認識されているかまでは不明であり、今後の真摯な議論と透明性の高い情報開示がポイントになるものと思います
  • 警察庁がユーロポールと連携して、新たな脅威のテイクダウンに成功したと公表しています。
▼警察庁 海賊版セキュリティツールを悪用するサイバー攻撃の無力化に向けた世界各国の取組に係るユーロポールのプレスリリースについて
  1. プレスリリースの概要
    • ユーロポールは、サイバー攻撃者が、広く普及している商用の侵入テストツールである「Cobalt Strike」の海賊版を、攻撃対象企業のITシステムへの侵入等に悪用しているところ、世界各国が民間事業者とも連携しながら協力して捜査を行い、関係サーバーのテイクダウンを行った旨をプレスリリースした。
    • 同プレスリリースにおいては、今回の無力化に向けた取組に関し、日本警察の協力についても言及されている。
  2. 日本警察及び関係事業者の協力
    • 警察庁では、「Cobalt Strike」の海賊版を悪用するサイバー攻撃において用いられているとみられるサーバー(IPアドレス)について、ユーロポールから情報提供を受け、これを管理する事業者に順次働きかけを行っており、既に一部については、当該事業者によってテイクダウンの措置が講じられている。
    • 引き続き、サイバー空間における一層の安全・安心の確保を図るため、サイバー事案の厳正な取締りや実態解明、国内外の関係機関との連携を推進する

東京都医学総合研究所や国立精神・神経医療研究センタ―などの調査で、思春期の10~12歳の時に、不適切なインターネットの使い方をしていると、16歳で幻覚や妄想、抑うつといった症状に悩むリスクが1.6倍高まることがわかったといいます。こうした因果関係を明確に示した研究はこれまでほとんどなかったといいます。12歳時点で不適切な使い方のレベルが高い子どもは、低い子どもと比べて、16歳時点で妄想や幻覚を経験する割合が1.65倍高く、抑うつの症状は1.61倍、また、不適切な使用に加えて、子どもが「引きこもって他人と関わろうとしない」「内気、臆病」「楽しくない、悲しい、落ち込んでいる」といった社会的なひきこもりの状況にあることが、その後のメンタルヘルスの不調に大きな影響を与えていることも分かったといいます。長時間使っていても、楽しく使っていれば不適切な使用のレベルは低いものの、イライラした状態で使っていたり、やめられなくなっていたりする場合、不適切なレベルが高まり、こうした場合は、友人関係など、私生活で孤独や不安を抱えている可能性もあるといいます。

AIや生成AIには利便性と犯罪インフラ性の両面があり、規制をどうすべきかといった議論も活発化している状況にあります。以下、最近の報道から、いくつか紹介します。

  • イタリア南部プーリア州で開かれたG7サミットで、AIの普及に伴う雇用への悪影響を懸念し、雇用に関するAI利用の行動計画を策定することが明記されました。AIは今回サミットの主要議題とされ、2023年の広島サミットで策定したAI規制の包括枠組み「広島AIプロセス」を引き続き推進することで合意しています。AIの利用が急拡大する中で、実効性のある規制の構築が急務となっているといえます。首脳声明では信頼できるAIの開発を進めるため、連携して国際基準を定め、開発企業を監視する枠組み作りを進めていくことが盛り込まれています。またAI兵器は戦争の姿を大きく変え得るとされ、火薬、核兵器に次ぐ「第3の軍事革命」を引き起こすとも言われる中、AIの軍事利用を巡っては、AI兵器には人道面の問題がある点を念頭に、軍事利用に関する枠組みを設ける必要性で一致しています。ただし、G7が念頭に置くのは、AIが人間の関与なしに標的を選択して敵を殺害する「自律型致死兵器システム(LAWS)」で、技術的には実用可能な段階にあるとされ、AIの誤った判断による誤射や誤爆の恐れがあり、パレスチナ自治区ガザの戦闘ではイスラエル軍が標的の選別にAIを使用し、民間人の犠牲拡大を招いたとも指摘されています。兵器の開発は進んでいるものの、国際社会ではLAWSの定義もまだ定まっておらず、国際枠組みの創設には相当の時間がかかるとみられれています。また、2024年は米大統領選など大型選挙が相次ぐ世界的な「選挙イヤー」で、AIやディープフェイクを悪用した偽情報の拡散が懸念されており、首脳声明では、外国政府による情報操作や選挙干渉を「民主主義に対する脅威」と位置付け、懸念を共有、情報操作などに対抗するための共同の枠組みを年末までに構築すると盛り込んでいます
  • 国連のグテーレス事務総長は、AIによって生成された画像や動画などのコンテンツをユーザーが識別できるラベルを導入するようインターネットの検索エンジンやSNSなどを運用するIT企業に要請しています。提言書では、偽情報の拡散を防止する独立した監視体制の構築をはじめ、ネット上で嫌がらせなどの標的となる人々の保護、偽情報やヘイトスピーチから収益を得ないことなどを求めています。各国政府にも偽情報の拡散防止に取り組むよう促しています。グテーレス氏は「偽情報は偏見や暴力を助長し、分裂や対立を深刻化させ、民主主義を脅かす」と警告し、IT企業に社会的な責任を果たすよう呼びかけています。
  • 米オープンAIで、自社のAIを使った外国勢力による工作活動などの調査にあたるインテリジェンス調査チームのベン・ニモ主席調査員が、毎日新聞など一部日本メディアのインタビューに応じ、同社が特定した影響工作には日本を標的にした事例もあり、現時点ではAIは文章の生成に使われているケースが主流だと説明しています。報道によれば、ニモ氏は影響工作について「実行者の身元や意図を明かすことなく、世論を操作したり、政治に影響を与えたりする試み」と定義、偽情報や誤情報をただ流す行為とは違い「事実に基づかない主張」を広げることが特徴だとし、「作成したコンテンツだけでなく、背後にいる実行者やその行動様式を調べることが大切になる」と指摘しています。今回の調査では、「スパモフラージュ」以外の発信元から日本を標的にした影響工作は確認できなかったといい、また、2024年11月の米大統領選を標的にした事例も見つかっていないといいます。影響工作と認められたケースでは、大部分がソーシャルメディアやブログなどに投稿するため、文章の作成や翻訳にAIが使われていたといい。、生成画像を悪用した事例はほとんどなかったとしています。
  • 金融庁は、銀行経営の健全性を把握するために実施しているモニタリング業務にAIを活用するとしています。全国の銀行から集めた詳細な取引データや非財務情報などをAIに学習させ、分析の結果を金融危機や銀行破綻の未然防止に生かしていく方針で、欧米の金融当局で同様の業務でAIを試験的に使う動きが一部に出始めた段階で、世界的にみて先駆的な取り組みということです。金融庁はAIの活用によって、経済や市場の環境変化が銀行経営にどのような影響を与えるかについて、同時に複数の前提条件を置くような複雑なシナリオ分析を実施できると期待しており、現在は分析官が長年の経験などに基づき、一定の前提条件を設定して将来シナリオを分析する手法が一般的となっています。
  • 米連邦通信委員会(FCC)は、AT&Tやベライゾン・コミュニケーションズなど通信事業者9社に対し、AIを悪用した偽の電話への対策状況を回答するよう求めています。2024年11月の大統領選への影響を避ける狙いがあるとされます。本コラムでも取り上げましたが、東部ニューハンプシャー州では2024年1月、大統領選予備選で、バイデン大統領を装って投票を見送るよう促す自動音声の電話を有権者にかける事案が発生、音声はAIで生成された「ディープフェイク」でした。FCCは事業者に宛てた書簡で「AIは安価かつ簡単に、通信をディープフェイクであふれさせることができる」と指摘、「特に選挙中に候補者になりすますことに使うのは恐ろしい」とし、対策の重要性を強調しています。
  • 英エンジニアリング大手のアラップは2024年5月、詐欺グループが仕組んだ偽のテレビ会議にだまされ、2億香港ドル(約40億円)の詐欺被害に遭ったことを明らかにしています。本物そっくりの社内会議がAIを使って設定され、参加した経理担当社員は指示されるがまま、詐欺グループの管理口座に大金を振り込んだものです(当初は戸惑ったものの、会議には複数の同僚も参加しており、安心してしまったといい、会議に参加していた同僚は全てAIで作られた「ディープフェイク」による偽物でした)。生成AIの進化で詐欺が巧妙化しており、今後は日本が標的になる頻度が増える見通しです。関係者を装い、偽の送金指示をメールなどで行うサイバー攻撃は「BEC(ビジネスメール詐欺)」と呼ばれ、米セキュリティ大手のプルーフポイントによると、未遂も含めBECは現在、世界で月間約6600万件が確認されているといい、急増しているのが日本だといいます。日本は2023年、前年比35%増と伸び率が世界でトップとなりました。日本を含め韓国(31%増)やアラブ首長国連邦(29%増)など言語が難解とされる国でBECの上昇が際立つのが最近の特徴で、背景について、プルーフポイントCEOは「従来、(日本など)これらの国では言語が壁となり、『デジタル詐欺師』からは守られてきた。だが生成AIの進化で言語の壁が崩れてきた」と警鐘を鳴らしています。日本でのBECの急増は今後、偽のテレビ会議などを利用した大がかりなAI詐欺の増加を示唆しています
  • 2024年11月に大統領選を控える米国で、生成AIを使った選挙関連の偽コンテンツが増えているといいます。本物と区別できない画像や音声が出回り、有権者に誤解を与える内容が多く、作成の制限や拡散防止といった対策も進む一方、4割がすり抜けるとの調査結果もあり、選挙をかく乱する悪影響が懸念されるところです。偽情報による弊害はすでに起きており、米スタンフォード大によると、AI偽コンテンツが社会問題につながった悪用事例は2023年に123件で、2022年に比べて3割増えたといいます。偽コンテンツを技術的に完全に制限することは難しく、電子透かしのデータは、コンテンツを複製するなどすると無効にできてしまうといいます。メディア監視団体のデジタルヘイト対策センター(CCDH)が生成AIを使ってどこまで選挙関連の偽コンテンツをつくれるか調べたところ、試行回数のうち、技術対策をすべてすり抜けて作成できたケースが4割に上ったといいます。偽情報は、有権者がそれを本物と信じてしまう弊害を生み出すだけではなく、正しい情報の信ぴょう性に疑いを生じさせる恐れもあります。偽情報がまん延することで、有権者が真実の情報さえも偽物として軽視するようになってしまう懸念があります。
  • 急成長する生成AI市場で、米国などの競争当局が寡占の弊害への警戒を強めています。報道によると、米司法省はエヌビディアの半導体取引、米連邦取引委員会(FTC)はマイクロソフトのM&A(合併・買収)戦略について、それぞれ調査を始め、市場支配力を強める一部の企業が不当に競争をゆがめていないか分析を急ぐとしています。生成AI市場は2030年に2024年と比べて約10倍の3561億ドル(約57兆円)に拡大する見込みで、生成AIの基盤技術やサービスのシェアは米オープンAIが39%、マイクロソフトが30%、成長の果実が一握りの企業に集まりやすくなっており、米国や欧州、日本などの競争当局は、寡占が進んで企業の市場支配力が強まりすぎることを警戒しています。生成AI開発に必要なデータや半導体などを一部の企業が独占することで新規参入が難しくなれば、競争はゆがみかねないリスクがあります。
  • 英オックスフォード大学のロイター・ジャーナリズム研究所が発表した調査リポートで、ニュース制作におけるAIの利用や誤報への懸念が世界的に高まっていることが分かったといいます。グーグルやオープンAIなどが情報を要約するAIサービスなどを提供する中で、ニュースメディアにとっては生成AIへの対応が新たな課題になっていますが、特に政治など敏感なテーマに関するニュース制作でAIを利用することに消費者が疑念を持っていることが判明、AIが大部分を作成したニュースを好ましくないと答えた人は米国では52%、英国では6%に上った一方、記者が業務効率化にAIを利用することには好意的との回答が多かったといいます。また、インターネット上の間違ったニュースを懸念するとの回答は2023年から3ポイント増の59%となり、2024年選挙がある南アフリカと米国では、それぞれ81%、72%と高くなりました。一方、SNSのインフルエンサーがニュースを伝える上で主要メディアより大きな役割を果たしていることも判明、ニュース収集に「TikTok」を利用していると答えた利用者5600人余りのうち、57%が主に個人のアカウントに注目していると答えたのに対し、主に記者やニュースメディアをフォローしていると答えたユーザーは34%となりました
  • 国連教育科学文化機関(ユネスコ)は2024年6月に公表した報告書で、生成AIが、ナチス・ドイツによるユダヤ人大量虐殺(ホロコースト)の史実を改ざんする恐れがあると警鐘を鳴らしています。偽情報の拡散に利用されたり、存在しない出来事を答えたりするケースが報告されているといいます。報告書によると、対話型AIの代表格チャットGPTは、ナチスによるユダヤ人の殺害方法の一例として「川や湖で水死させた」と回答、しかし、こうした事実は記録になく、これは生成AIが存在しない情報を生み出す「ハルシネーション(幻覚)」と呼ばれる現象で、滑らかな文書の作成を目指す性質が原因とされています。ユネスコは、反ユダヤ主義的な主張を学習したAIを通じて偏見が強化される可能性を指摘、また、生成AIの作る音声や画像データは、専門家でも真偽の判別が難しいケースがあるといい、「歴史証言の捏造や、史料の改ざんに悪用されかねない」と訴えています。アズレ事務局長は「無責任なAIの利用が、反ユダヤ主義の爆発的な広がりや、ホロコーストに対する理解の低下につながるかもしれない」と警告、AIサービスの利用頻度が高い若年層への啓発やソフト開発の規制を求めています。
  • 米グーグルは、年次環境報告書を公表し、気候変動につながる温暖化ガスの排出量が4年間で約5割増加したと発表しています。生成AIを動かすのに使うデータセンターの拡大が響いた形です。2030年までに温暖化ガス排出実質ゼロ(ネットゼロ)を目指すとしていますが、達成が厳しくなっています。生成AI「Gemini」のサービスを世界で展開しており、動作に必要な計算資源の需要が急増しているものです。グーグルは約60カ国200都市にオフィスとデータセンターを持ち、大量のデータを扱う生成AIは高速処理が可能なコンピューターが必要で、動作や冷却に大量の電気を消費しています。データセンターの消費電力は2023年に17%増加し、温暖化ガスは供給網全体でも増加しています。
  • 2024年7月5日付朝日新聞の記事「無人兵器やAIで変わる戦争 市民狙い偽情報、スマホが「戦場」に」は、AI等の最新技術が戦争を大きく変えることを多面的な視点で見せてくれるものでした。報道によれば、米国防総省は無人兵器を1年半から2年以内に大量配備する「レプリケーター構想」を2023年8月に発表、米軍の部隊では無人兵器が目立つようになっています。米国が無人兵器の配備を急ぐ背景には、西太平洋地域において中国との戦力バランスが崩れているとの危機感があります。無人兵器は実戦に投入されており、ロシアによるウクライナ侵攻は「ドローン戦争」と呼ばれるほど双方とも大量の無人機を使用、ウクライナ軍のヘリコプター型無人機などによる攻撃は、ネットでも公開されています。兵器へのAIの導入も進んでおり、ウクライナはロシアの軍用車両や兵士を目撃すればSNSで通報できるアプリを開発、衛星や無人機などの情報と総合し、AIが1日当たり約300の攻撃目標を自動的に選べるといいます。技術の発達は戦争をより悲惨なものにしてしまいます。ITの発達で社会システムなどをまひさせるサイバー攻撃も相次いでおり、ロシアはウクライナ侵攻を前に、電力や銀行システムなどへの攻撃を試みたとされます。サイバー空間の誤った情報がスマホなどを通じて拡散される事態も起きており、人間の思考などに働きかける「認知領域の戦い」は心理戦とも言え、社会の混乱や政府への不信感につながります。本物そっくりの動画・音声(ディープフェイク)が広がる恐れもあり、認知領域の戦いは、本格的な戦闘が始まる前から行われることもあり、戦わずして勝てるようにフェイクニュースなどを流すことが想定され、ターゲットは一人ひとりの市民だといえます。
  • 2024年6月15日付日本経済新聞の記事「AI、「フェイク」時代の切り札か ジャーナリズム補完」も生成AIの利便性と犯罪インフラ性の両面からその可能性を指摘しています。具体的には、「生成AIの進化はジャーナリズムに光と影をもたらす。誰でもコンテンツを手軽に作れるようになり、ネット上には、本物そっくりな「ディープフェイク」が氾濫する。事実と異なる内容をAIがもっともらしく生成する「ハルシネーション(幻覚)」という現象も起きている。偽情報を学習したAIがさらにフェイクニュースを拡散してしまえば、選挙などに悪影響を及ぼし、メディアの信頼性や民主主義をも揺るがしかねない。一方で、AIが生み出す社会問題を解決する手段として期待されるのも、またAIだ。NECは生成AIの技術を活用したディープフェイクの検知技術を開発している。動画から説明文を自動的に生成する技術を基に、公的文書と画像、動画の矛盾などを見つける仕組みだ。肌の色調が変わる境目などディープフェイクを作る際に生まれる「ゆがみ」を見つけるAIの研究も進めており、24年度中にも実証実験を始める予定だ」、「英ロイター・ジャーナリズム研究所が日本や米国など6カ国で24年に実施した調査によると、3分の2の人が生成AIがニュースメディアに大きな影響を与えると考えている。それによって報道が悪くなると考える人の割合は、良くなると考える人よりも8ポイント高い。メディアやIT企業などが連携して、本物の情報であることを証明するための取り組みも動き出した」、「AIが作り出す情報を止めることはもはやできない。いかにAIの利点を生かしつつ、その課題を克服していくか。インターネットの登場時のように、AIがメディアに次の「進化」を促している」といった内容です。

(6)誹謗中傷/偽情報等を巡る動向

ネット関連のトラブルなどに対応している弁護士・法律事務所を検索できるポータルサイト「ベンナビIT」を運営するアシロは、SNSでの誹謗中傷に関する調査結果を公表しています。調査では、SNSで誹謗中傷に該当するような書き込みをされたことが「ある」と回答した割合が1割を超えたことが判明。誹謗中傷が「名誉棄損罪」などの犯罪になり得るという認知度は約7割に達したものの、誹謗中傷への対処法や相談先の認知度は2割超にとどまったほか、「SNSで誹謗中傷をされたら、どこへ相談すべきか、どう対処するのが適切なのかを知っていますか」と質問したところ、「知っている」と回答した方は25.0%に留まり、SNSでの誹謗中傷の対処方法が認知されていない実態が浮き彫りになっています。

▼アシロ「10人に1人がSNSで誹謗中傷を受けたことがあると回答!SNSに関する調査を実施」
  • 調査サマリー
    • 3,000人中2,531人にあたる84.4%(小数点第二位は四捨五入。以下同じ)が「普段からSNSを利用(閲覧)している」と回答
    • 普段からSNSを利用する人のうち53.1%が書き込みをしたことが「ある」と回答
    • 13.0%の方がSNSで自分が傷つくような書き込みをされたことが「ある」と回答
    • SNSでの誹謗中傷が犯罪になり得ることの認知度は69.2%と高いものの、誹謗中傷をされたときの対処法や相談先の認知度は25.0%に留まる
    • SNSで誹謗中傷を受けた84.7%の方は何かしらの対処をしたものの、書き込みの削除や投稿者への制裁といった、良い成果が出た割合は59.3%に留まる

本コラムで継続的に取り上げているとおり、インターネット上で、SNSなどで他人を中傷する悪質な投稿が後を絶たず、被害者が刑事罰を求めるケースも少なくないものの、投稿者を特定して立件するハードルは依然として高い現実があります。総務省が運営を委託する「違法・有害情報相談センター」には2023年度、ネット上のトラブルに関する相談が、過去最多の6463件寄せられ、うち約6割が名誉や信用を損なう投稿に関するもので、書き込みの削除や投稿者の特定についての内容が多いといいます。2022年7月の刑法改正で、拘留と科料のみだった侮辱罪の罰則に「1年以下の懲役もしくは禁錮」と「30万円以下の罰金」が加わり、厳罰化され、公訴時効も1年から3年に延び、捜査に時間をかけられるようになったものの、ある捜査関係者は「SNSなどの主要な運営事業者は海外に拠点がある。殺害予告など差し迫ったケースでなければ、なかなか投稿者の情報開示には応じてもらえない」と課題を指摘しています。2022年10月には、SNS事業者に対する情報開示手続きが簡素化されましたが、ネット上の中傷問題に詳しい佐藤大和弁護士は報道で、「投稿者の情報開示には数カ月を要する場合が多く、裁判所の命令に応じない事業者もいる」と指摘しています。

最近の誹謗中傷を巡る報道から、いくつか紹介します。

  • 東京・池袋で2019年に起きた乗用車暴走事故で妻子を亡くした松永さんらをSNSで中傷したとして、警視庁は、一般社団法人「法科学解析研究所」(福岡市)代表理事を侮辱容疑などで、埼玉県川口市の無職の男を名誉毀損容疑で東京地検に書類送検し、いずれも起訴を求める「厳重処分」の意見を付けています。報道によれば、2人は2023年11月、X(旧ツイッター)の音声会話機能「スペース」を配信し、代表理事の男は松永さんについて「金目当てだ」と侮辱するなどし、川口市の男は「関東交通犯罪遺族の会(あいの会)」代表理事の小沢さんらを中傷した疑いがもたれています。スペースは不特定多数が聞ける状態だったといいます。法科学解析研究所は、警察から依頼を受けて交通事故調査や画像解析などを請け負っており、川口市の男は交通事故の遺族で、以前、あいの会に所属していたことがあったといいます。
  • 「グーグルマップ」の悪質な口コミで名誉を毀損されたとして、眼科医院を運営する医療法人が投稿者に削除と200万円の損害賠償を求める訴訟を起こしています。大阪地裁は2024年5月、請求を丸々認めていますが、グーグルが投稿者の情報開示に反論したこともあり、口コミの発見から勝訴まで3年の月日を要したことになります。情報開示には、投稿が権利の侵害であることを立証する必要があり、誰もが気軽に感想を書き込める口コミサイトの性質が壁となりました。1審神戸地裁尼崎支部は「肯定も否定も率直に投稿できることが信用性を生み出しており、否定的な評価もある程度受忍すべきだ」と指摘、その上で、問題の投稿は一般的な医療行為とかけ離れているため、「病院の説明を正確に理解しないまま、主観的な認識を記載したものに過ぎないと理解するのが通常」と判断、非現実的過ぎるがゆえに名誉毀損に該当しないとして、情報開示を認めませんでした。グーグル側は控訴審でも「およそ一般読者がただちに信用するような内容ではない」と主張しましたが、大阪高裁は2023年6月、投稿は「患者の承諾なく、勝手に医療行為をするとの印象を与える」と認定、「口コミサイトは自由な投稿による情報の蓄積に意義があるとしても、投稿が(眼科の)社会的評価を低下させることは否定されない」として1審判決を変更し、グーグル側に投稿者の情報開示を命じました。その後、投稿者が特定され、投稿者を相手取ってアからためて提訴、2024年5月末に大阪地裁も名誉毀損を認定して投稿の削除と200万円の賠償を命じ、投稿者は控訴せず、判決は確定しました。さらに、本コラムでも紹介しましたが、60人以上の医師らが2023年4月、グーグルに損害賠償を求めて東京地裁に集団提訴しています。医師には守秘義務があるため事実無根の口コミに対しても反論は難しく、「一方的なサンドバッグになる」と主張、グーグルが悪質な口コミを放置しているとして、サイト運営者としての責任を追及しています。投稿者のみならず、「場」を提供しているグーグルにも法的責任はあるか、訴訟の行方が注目されます。
  • 同じく「グーグルマップ」の口コミで名誉を侵害されたとして、愛知県豊田市の心療内科の院長が、運営するグーグルに投稿削除を求めた訴訟の判決で、東京地裁は削除を命じています。判決によれば、口コミには「朝一番はドクターの機嫌が悪い日が多い」「医療サービスを受けるというよりは、ドクターからの精神的圧力を楽しむことが可能な非常に珍しい心療内科」などと記載されており、裁判官は、投稿者が診療を受けたと書き込んだ日が休診日だったことから、内容は虚偽と判断、「社会的評価を低下させるものだ」とし、削除の必要性が認められると結論付けています。
  • 共産党の田平まゆみ元大阪府富田林市議が、SNSの投稿で同僚だった岡田英樹元共産党市議から名誉を毀損されたとして、150万円の損害賠償を求めた訴訟の第1回口頭弁論が大阪地裁堺支部で開かれ、岡田元市議側は請求棄却を求めています。報道によれば、田平元市議は2023年までの約4年間、岡田元市議から「おまえ」などとパワハラ発言をされ、共産党側の調査でハラスメントと認定され、岡田元市議は謝罪し離党しましが、その後、フェイスブック(FB)で田平元市議を「奇妙な言動」「虚偽の訴え」などと中傷する投稿をし、名誉を傷つけたとしています。
  • 週刊誌「女性自身」の記事で名誉を傷つけられたとして、関西学院大学名誉教授の奥野卓司さんが発行元の光文社に1100万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が神戸地裁であり、裁判長は「社会的評価を低下させた」と認め、計165万円を支払うよう命じています。報道によれば、光文社は同誌2023年2月21日号に「秋篠宮家『金銭トラブル』頻発中」「100万円賄賂訴訟が急浮上で、宮内庁内でも『また皇嗣家か』の声―」という記事内で、奥野さんがイベントでの皇族の出席をあっせんし、金銭を受け取った疑惑を掲載、「金銭を求めていれば完全に“アウト”でしょう」などと記したとされます。判決後、奥野さんは取材に対し「名誉毀損が認められたことは満足だが、(報道によって)要職を失ったことなどの被害を受けた。150万払ったら何をしてもいいということは許されるのか」と述べています。
  • 茨城県警本部の男性警部が旧Xで東野篤子・筑波大教授(国際政治)を侮辱した容疑で書類送検された事件を巡って、県警本部長は「ネットリテラシーに関する教養に関しては各種の会議や学校教養の機会を通して行ってきた」と釈明、懲戒処分状況などの詳細は「現時点で公表すべき案件はない」としてコメントを控えています。東野教授は、根拠不明の主張、筑波大を敵視する陰謀論的な投稿もあり、自身や大学、学生の安全を考慮し刑事告訴、法的措置を取る中で相手が県内の警察官だと知り、「私の個人情報にアクセスした可能性もあると思うと怖かった」、「放置しても中傷は止まらない。中傷には結果と責任が伴うと示す意味もあった」と述べています。警部は2023年5月に東野教授について「見た目からしてバケモノ」といった中傷を投稿した疑いで、2024年6月18日付で書類送検されています。

中国東部・江蘇省にある蘇州日本人学校の送迎バスが、刃物をもった男に襲われ、迎えの母子ら3人が負傷した事件について、中国のSNS上では、日本人学校について「生徒も教師も日本人。カーテンを閉めきって、軍事的な訓練をしているのかもしれない。抜き打ち検査すべきだ」などと根拠なく敵意をあおるような動画や記事が大量に投稿されている。2023年8月の東京電力福島第一原発の処理水放出の際にも、日本への攻撃的な発信が相次ぎました。中国ではコロナ禍からの景気の回復状況が振るわず、若者の失業や経済格差といった矛盾を抱え、外国人に限らず無差別殺傷事件も相次いでおり、閉塞感や不満が背景にあるとの見方も北京の外交筋では出ています。その後、中国のIT大手各社は日本との対立をあおるような内容をSNSに投稿するのを規制するとそれぞれ表明しています。中国では政権に不都合な投稿などがしばしば削除されますが、IT各社が足並みをそろえ投稿の削除を表明するのは異例のことといえます。

インターネット上で拡散されるウソの情報にどう対応するか。新たな法制度を視野に議論する総務省の有識者会議は、プラットフォーム(PF)事業者に求める「責務」として、情報流通の適正化のために、投稿の削除やアカウント停止などを挙げました。ただ、表現の自由の制約につながる措置には慎重な声も根強くあります。公開された案では、偽情報・誤情報の流通、拡散について、「偽情報にさらされていることに個々のネット利用者は気付きにくく「ゆがんだ判断が集積することで、環境汚染に類する被害がデジタル空間でも生じる恐れがある」、「社会全体への負の影響が大きい」と指摘、これまでPF事業者などが自主的に対応してきたとしつつ「問題は解消するに至っていないどころか、問題が顕在化、深刻化しており、状況の悪化が見込まれるのではないか」、「問題は深刻化しており、新たな技術やサービスの進展・普及に伴ってますます悪化が見込まれる」と厳しく指摘しています。さらに、巧妙な偽情報で個人の判断や意思決定を歪曲する行為はプライバシー侵害に相当するものだとして、悪影響が社会全体に広がるのを防ぐには「個人情報やプライバシー保護に関する対策との連携も視野に入れることが重要だ」と分析しています。そして、焦点になるのは、PF事業者の「責務」で、案には「情報の削除基準の策定や削除の実施を含め、情報流通の適正化について一定の責任がある」と明記、アカウントの凍結や停止、注意喚起を促すラベルづけ、表示順位の低下などを講じることを例に挙げています。さらに、自社サービス上に表示される広告の質の確保に向けた取り組みも求めています。政府には、PF事業者との緊密な連携を促しつつ、「法と証拠に基づく迅速かつ確実な対応」にも言及しています。総務省は、誹謗中傷などの権利侵害情報についてPF事業者に迅速な対応を求める法案を国会に提出し、2024年5月に成立しています。SNS上でのなりすまし広告対策として、有識者会議は傘下の作業部会で広告の事前審査基準の策定・公表の義務化などの具体的な制度を検討しており、2024年夏のとりまとめに向けて議論を集約しています。ただ有識者会議は、政府の関与は限定的であるべきだというのが基本的な姿勢です。事業者に情報の削除や投稿アカウントの停止そのものを法的に義務づけることには慎重な声も多く、過度な対応を招き、憲法が保障する表現の自由を制約する恐れがあるとし、「猥雑だったり、行儀が悪かったりする情報も含めての『豊かな情報空間』だ。偽情報の氾濫が好ましくないことはわかるが、官民一緒になって浄化しようというのは『健全』ではない」などと主張しています。最終的にまとめられた素案では、大手SNS事業者やファクトチェック(事実確認)機関らが参加する協議体を新設し、各主体の取り組みを定期的に検証する案を盛り込まれたほか、ネット上の広告審査の厳格化も明記されました。素案では「国内外のマルチステークホルダー(利害関係者)が連携・協力し、継続的に議論・検討する枠組み」が必要だとしています。SNSを運営する大手プラットフォーム事業者やメディア、広告団体、消費者団体も加わり、各主体の取り組みを共有・検証できるようにし、政府が大枠を設定し、協議会には一定の権限を付与することを求めています。PF事業者には自社のビジネスモデルが社会に与える影響を予測し、悪影響を軽くするための措置を求める案を盛り込み、拡散情報による悪影響が大きい場合、「表現の自由」に配慮しつつ、拡散を抑える方策をとってもらうとしています。また、災害時ほど偽情報・誤情報は社会に深刻な影響を与えることから、PF事業者には災害時にとる対策、関係機関との連携の取り方を平時から定めておくことも求めています。さらに、ネット広告の事前審査を巡っては基準の公表や体制整備を盛り込んでいます(2024年6月に総務省が米IT大手メタなどに同様の内容を求めていますが法的な裏付けはありません)

その他、偽情報・誤情報を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 総務省は、インターネット上の偽情報・誤情報対策技術の開発・実証事業の公募で、発信元の信頼性を識別できる「オリジネーター・プロファイル(OP)」など6事業を採択したと発表しています。偽情報・誤情報は、2024年1月の能登半島地震で拡散されて問題となっており、OPへの期待が高まっています。OPは、ネット上の記事などに発信者情報をひも付ける技術で、メディアなどでつくる「オリジネーター・プロファイル技術研究組合」が開発、参画企業は北海道新聞社、河北新報社、新潟日報社、北國新聞社、静岡新聞社、神戸新聞社、高知新聞社、時事通信社などが含まれています。
  • 政府は米国、フィリピンと共同で偽情報への新たな対策を始めるとし、2024年夏以降に専門家を交えた会合を立ち上げ、情報交換を密にする体制を整えるとしています。実際の被害例や対応策を共有し、被害を最小限に抑える知見を蓄積し、中国やロシアなどが仕掛ける情報操作に対処するものです。偽情報は世界共通の外交課題になっており、日本自ら正確な情報を発信するとともに同盟国、同志国との連携に乗り出し、安全保障分野で協力を広げる米国とフィリピンとの会合は柱のひとつとなります。日米比はいずれも主に中ロからとみられる偽情報に苦しめられています。近年はSNSを通じて偽情報を流し、相手を混乱させる情報戦が活発化、戦況を左右する可能性も指摘されているところです。2022年2月のロシアによるウクライナ侵略で問題が露呈、生成AIを使って政治家そっくりの人物が話す動画が広がったり、軍に関する偽情報が拡散したりしました。偽情報の拡散抑止は一筋縄でいかず、攻撃集団を特定し名指しで公表する「アトリビューション」の効果にも限界があり、偽情報は事実と嘘が混ざり、開示されるべきでない内容も含むことや、「表現の自由」との兼ね合いで規制も難しいのが現状です。
  • 日本と北大西洋条約機構(NATO)が、安全保障分野の連携強化の一環として、偽情報対策に関する戦略対話の枠組みを設ける方向で調整しているといいます。岸田首相が訪米し、米ワシントンで開かれるNATO首脳会議での合意をめざすとしています。前述の日米比の枠組み同様、日本とNATOが協力して対策に取り組む計画となります。日本とNATOは2023年、サイバー防衛や宇宙安全保障、軍縮・不拡散など16の優先的な協力分野を定める「日・NATO国別適合パートナーシップ計画(ITPP)」を締結、偽情報対策も協力分野の一つに挙がっていたものです。
  • 新型コロナウイルスや米大統領選に関する誤情報への対処を、米政府職員がSNS各社に求めたことが検閲に当たるかが争われた訴訟で、米連邦最高裁は、検閲だと主張する原告側の訴えを却下しています。最高裁は決定で、米政府とSNS各社がやりとりした事実と、投稿内容が制限されたことの因果関係が証明されていないと指摘、将来検閲が起きる危険性についても立証不足だとして、原告にはSNS各社への要請差し止めを求める資格がないと判断したものです。最高裁は検閲かどうかの詳細な判断には踏み込みませんでしたが、バイデン米政権側が事実上勝訴したことになります。誤情報対策を進めている日本政府も訴訟の行方に注目していたところです。SNS各社は、偽情報・誤情報のほか犯罪・テロに関する情報や性的コンテンツなど、有害な投稿を削除したり、注意書きをつけたりする「コンテンツ・モデレーション」をしています。モデレーション自体は米通信品位法230条で許容されており、それ自体が、SNS事業者が持つ表現の自由の一環だともされてきました。一方で保守派からは、利用者の表現の自由を制限するとしてモデレーションに対する反発も出ていました。決定に反対した保守派のアリート判事らは「(新型コロナでは)間違いや誤解を招く投稿もあったが、価値ある言説も抑圧されていた」と指摘、伝統的なメディアが衰退するなか、重要なニュースの供給源になってきているSNSに政府が圧力をかけることは許されないと批判しています。
  • ロシアがアフリカに特化したニュース配信会社を使ってアフリカ諸国にロシアのプロパガンダを流布、アフリカを拠点に活動していた露民間軍事会社「ワグネル」の元社員らが関わっているとみられています。プーチン政権は、ワグネルの創設者エフゲニー・プリゴジン氏が得意だった世論工作を継承し、アフリカの親露化を図る狙いとみられています。アフリカでは2024年、約20の国政選挙が予定されており、ロシアによる選挙干渉の懸念が高まっています。5月の南アフリカ総選挙では、親露派のアカウントを使って特定の政党の支持拡大を狙った情報が拡散されたと調査団体が指摘しています。プリゴジン氏は民間軍事会社だけでなくメディアグループも経営し、傘下企業の「インターネット・リサーチ・エージェンシー」(IRA)は2020~2022年、アフリカ10か国で偽情報の発信を行っていたとされます。また、プリゴジン氏はアフリカで金やダイヤモンドの利権を握っていましたが、2023年8月に死亡すると、プーチン政権は雇い兵部隊「アフリカ軍団」を新設し、こうした利権を引き継いでいます。

(7)その他のトピックス

①中央銀行デジタル通貨(CBDC)/暗号資産(仮想通貨)を巡る動向

インドの中央銀行デジタル通貨(CBDC)「eルピー」の利用がピーク時の1割に落ち込んでいるといいます(2024年6月25日付ロイター)。また、CBDCは他の国でも普及の難しさが浮き彫りになっていると報じられています。インド準備銀行(RBI、中央銀行)は2022年12月、現金に代わる通貨としてeルピーの試験導入を開始、eルピーのリテール取引は2023年12月に目標だった1日当たり100万件に達しました。ただ、目標達成の背景には、銀行に対し従業員の給与の一部をeルピーで支給するよう要請したことなどがあり、こうした取り組みが下火になった現在では、1日当たりの取引が約10万件まで減っているといいます。(以前から指摘されているとおり)eルピーに対する有機的な需要が乏しいことを示しており、現在、取引が行われているのは、銀行がeルピーを通じて従業員に手当を支給していることが一因だといいます。RBIは試験運用の急ピッチな拡大は計画しておらず、現時点では技術の試験とeルピーの用途の開発を重視しているといいます。

2024年7月3日から新札の流通が始まっています。関連して、2024年6月30日付読売新聞の記事「通貨守る工夫、今も昔も…石貨・ビットコインに共通点」で、は大変面白い着眼点が提示されていました。「1万円札の製造原価は1枚あたり約20円にすぎないが、「1万円の価値がある紙」として当たり前に流通している。法的根拠として、日本銀行法が、紙幣を「法貨として無制限に通用する」と定めているが、日銀法を知らない人でも1万円札を日常的に使っている。日銀OBの中島真志・麗沢大教授は、「通貨は国家への信用を背景に、『これは1万円札として通用する』という社会的合意で成り立っている」と説明する」、「簡単には運べない大きな石貨は、不動産を売買するような大口の取引に使われたとみられる。石貨はあえて動かさず、人々の「石の所有者がAさんからBさんに移った」という記憶が、取引の裏付けとなっていた。中央銀行のような管理者は不在だが、衆人環視のもとで取引を明らかにして信用を保つ―というのが石貨を通用させたシステムだ。現在のビットコインなど暗号資産はネット上にしか存在しないが、ブロックチェーンという台帳に全取引が記録され、確認できる仕組みになっている。」、「明治大の飯田泰之教授は「石貨は小さな村社会だからこそ機能した。時を経て、所有権の移転は人の記憶ではなく、ブロックチェーン上で記録できるようになった」と、石貨と暗号資産の共通点を指摘する。過去から現在、そして未来へ、社会と技術の発展に伴い、信用を守る手段も確実に変化していく」といった内容です。

暗号資産(仮想通貨)に関する国内外の最近の報道から、いくつか紹介します。

  • ロシア中央銀行のナビウリナ総裁は、欧米諸国による対ロシア制裁に対抗するために、海外の取引相手との決済には暗号資産といったデジタル資産など「複数の選択肢」を使うべきだと述べています。欧米諸国は最近の制裁でモスクワ証券取引所や国際決済ネットワークなどロシアの金融制度を標的にしており、ロシアは中国やインド、アラブ首長国連邦(UAE)、トルコなど欧米の制裁に加わっていない国との貿易がこの数週間に大幅な落ち込みとなっており、ナビウリナ氏は決済上の問題がロシア経済にとって大きな課題の1つだと認めた上で「新しい金融技術は以前には存在しなかったスキームの機会を生み出す。中銀が国際的な決済手続きにおける暗号資産の使用に対するスタンスを緩和し、こうした手続きでデジタル資産の使用を認めたのはこのためだ」と説明しています。なお、ロシアがブラジル、ロシア、インド、中国、南アのBRICS諸国と取り組んでいる独自の決済ネットワークについては、協議が難航しており、創設までに時間がかかるだろうとも述べています。
  • 代表的な暗号資産であるビットコイン相場が米東部時間2024年7月5日午前(日本時間同日午後)に一時、5万5000ドル(約880万円)を割り込み、同6月24日に付けた直近高値から25%水準を切り下げています。背景要因として、2014年に破綻した日本の暗号資産交換所マウントゴックスが債権者に一部弁済を実施、需給の緩みが意識されたものといいます。マウントゴックスの運営会社MTGOXの再生管財人は同日、一部の債権者に対してビットコインとビットコインキャッシュの弁済を同日実施したと発表、弁済したコイン数は明らかにしていません。マウントゴックスは2014年、不正アクセスにより当時の相場で約480億円相当の暗号資産を流出させ、同年2月に民事再生法の適用を申請しました。現在のビットコイン価格は2014年当時の70倍程度に相当、弁済を受けた債権者の一部がビットコインや同コインから派生したビットコインキャッシュを売却して利益を確定するとみられています
  • 韓国の暗号資産運営会社テラフォーム・ラブズは、同社の「テラUSD」の暴落に関連し、米証券取引委員会(SEC)と44億7000万ドルの支払いで和解に達したといいます。和解金の内訳は、不正利益の返還とそれに対する利子が40億5000万ドル、罰金が4億2000万ドルとのことです。テラフォームの創業者ド・クォン氏に対する8000万ドルの罰金を含めると総額45億5000万ドルとなります。クォン氏は暗号資産の取引禁止に同意、また、2億430万ドルをテラフォームの破産財団に譲渡する必要があるとされます。本コラムでも取り上げましたが、テラUSDは法定通貨の価格に連動するステーブルコインで、1米ドル=1テラUSDで連動するよう設計されていましたが、2022年5月にこのペッグが崩壊し、テラUSDと関連暗号資産「ルナ」が暴落、暗号資産市場の動揺を招きました。SECは同社とクォン氏を投資家詐欺の疑いで2023年に提訴、同社は米連邦破産法11条の適用を2024年1月に申請しています。SECは裁判所への提出書類で「被害を受けた投資家への最大限の資金返還が保証され、テラフォームは永久に廃業することになる」と指摘しています。
  • ヘリコプターの墜落で事故死したライシ大統領の後継を選ぶイラン大統領選が行われてます。有権者が高い関心を示しているのが、低迷が続く経済への対応で、トランプ前米政権が2018年に制裁を再開して以降、イラン経済は悪化の一途をたどっており、インフレ率が年40%近くに達する深刻な物価高に見舞われ、通貨リアルの価値下落が続く中(ライシ師の大統領の任期中、対ドルの実勢レートで価値が半分以下に下落)で、暗号資産が根強い人気を保っているといいます。米の制裁再開はイランの原油輸出に打撃を与え、インフレ率が年40%近くに達する深刻な物価高に見舞われた。現地では、「誰が次の大統領になっても、暗号資産の分野では民間企業に依存せざるを得ない」との指摘もあります。
②IRカジノ/依存症を巡る動向

三菱UFJフィナンシャル・グループなどが設立した一般社団法人関西イノベーションセンターやJTB、南海電気鉄道などは、「ボートレース住之江」を生かしたインバウンド(訪日客)向け夜間観光の実証実験をスタートしています。在留外国人がモニターツアーに参加し、競艇を体験、全国でも数少ないナイター営業であるレース場の特色を生かし、課題やニーズを吸い上げたうえで大阪・関西万博を前に今秋の商品化を目指すとし、公営ギャンブルのインバウンド施策としては国内初だといいます。2025年大阪万博の会場でもある夢洲ではIR(統合型リゾート施設)の開業が2030に計画され、訪日客のカジノ利用も見込まれていることもあり、関西イノベーションセンターの担当者は「日本でできるギャンブルに慣れ親しむ場になる」と期待を寄せているといいます。近年、夜間帯における個人の消費やそれに伴う雇用の増加といった、経済規模の大きさに注目する「ナイトタイムエコノミー」という概念が、世界の各都市で注目されています。特に訪日外国人の消費拡大が期待されている我が国においては、日本人だけでなく、訪日外国人も楽しめるコンテンツの拡充が重要となります。夜間に営業する飲食店、音楽ライブハウスや劇場はもちろんのこと、ディベロッパー、鉄道事業者、旅行代理店等の民間事業者やDMO (Destination Management/Marketing Organization)は、新しいコンテンツのみならず、訪日外国人が十分に楽しめる既存のコンテンツも活かし、それぞれの地域の実態に合わせた事業を検討することが必要となっており、今回の取り組みもそうした一環のものといえます。

本コラムでは薬物依存症やギャンブル依存症をはじめ、さまざまな依存症の動向についても取り上げています。最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 千葉県八街市で起きた飲酒運転のトラックによる児童5人死傷事故から3年を迎え、飲酒運転を許さない社会の風潮は強まる中、酒を飲んだままハンドルを握るドライバーは後を絶たず、検挙されたドライバーの中には、アルコール依存症の疑いがあると指摘されたケースも少なくありません。飲酒運転の根絶には、依存症から抜け出すための支援が欠かせず、支援団体の関係者は「依存症から立ち直るのにはまず仲間が必要だ。孤独にさせない。患者さんには新しい人生を生き、誇りを取り戻してもらいたい」、「飲酒運転で検挙された人の約4割には依存症の疑いがあるとされる。断酒会なり、依存から抜け出すため、専門の治療機関とつながりやすい仕組みを作ることで事故を減らしたい」と指摘しています。
  • 関連して、アイドルグループ「TOKIO」の元メンバーで、飲酒運転防止インストラクターとして活動する山口達也さんは、アルコール依存症と診断されてから自身を見つめ直した経験を語り、依存症の支援者や当事者に「人に生かされていることに感謝し、自分の人生はきっと良くなると信じてほしい」とメッセージを贈っています。山口さんは「他人と比較して不安に駆られ、自己肯定感が低かった」と依存症に陥った背景を説明、「依存症を克服するには一生、一口も飲まないこと。病気と一生付き合うと決めた」と述べています。
  • 関東信越国税局は、海外のオンラインカジノで総額2億円超の金を賭けたなどとして、埼玉県内の税務署に勤務する20代男性職員を停職3カ月の懲戒処分としています。また、利益の一部は確定申告していなかったといいます(職員は事実関係を認め、依願退職)。報道によれば、職員は2021年11月~2023年12月、職場や在宅勤務中にスマートフォンで複数の海外カジノに賭けたり、競輪アプリでレースへの投票をしたりし、海外カジノでの賭博行為は勤務時間外を含め、少なくとも約9万8千回にわたり、得た利益を賭け金に回していたということです。
③犯罪統計資料から

例月同様、令和6年(2024年)1~4月の犯罪統計資料(警察庁)について紹介します。

▼ 警察庁 犯罪統計資料(令和6年1~5月分)

令和6年(2024年)1~5月の刑法犯総数について、認知件数は288,515件(前年同期271,669件、前年同期比+6.2%)、検挙件数は108,535件(101,730件、+6.7%)、検挙率は37.6%(37.4%、+0.2P)と、認知件数・検挙件数・検挙率ともに前年を上回る結果となりました。増加に転じた理由として、刑法犯全体の7割を占める窃盗犯の認知件数・検挙件数がともに増加していることが挙げられ、窃窃盗犯の認知件数は195,246件(186,325件、+4.8%)、検挙件数は63,193件(58,544件、+6.1%)、検挙率は32.4%(32.0%、+0.4P)となりました。なお、とりわけ件数の多い万引きについては、認知件数は41,155件(38,831件、+6.0%)、検挙件数は26,922件(24,890件、+8.2%)、検挙率は65.4%(64.1%、+1.3P)と、最近減少していた認知件数が増加に転じています。また凶悪犯の認知件数は2,733件(2,044件、+33.7%)、検挙件数は2,266件(1,707件、+32.7%)、検挙率は82.9%(83.5%、▲0.6P)、粗暴犯の認知件数は23,125件(23,462件、▲1.4%)、検挙件数は18,789件(18,757件、+0.2P)、検挙率は81.2%(79.9%、+1.3P)、知能犯の認知件数は24,328件(18,960件、+28.3%)、検挙件数は6,976件(7,347件、▲5.0%)、検挙率は28.7%(38.8%、▲10.1P)、風俗犯の認知件数は6,448件(2,980件、+116.4%)、検挙件数は5,123件(2,493件、+105.5%)、検挙率は79.5%(83.7%、▲4.2P)、とりわけ詐欺の認知件数は22,326件(17,487件、+27.7%)、検挙件数は5,676件(6,284件、▲9.7%)、検挙率は25.4%(35.9%、▲10.5P)などとなっています。なお、ほとんどの犯罪類型で認知件数・検挙件数が増加する一方、検挙率の低下が認められている点が懸念されます。また、(特殊詐欺の項でも取り上げている通り)コロナ禍において大きく増加した詐欺は、アフターコロナの現時点においても増加し続けています。とりわけ以前の本コラム(暴排トピックス2022年7月号)でも紹介したとおり、コロナ禍で「対面型」「接触型」の犯罪がやりにくくなったことを受けて、「非対面型」の還付金詐欺が増加しましたが、現状では必ずしも「非対面」とは限らないオレオレ詐欺や架空料金請求詐欺などが大きく増加傾向にあります。さらに、SNS型投資詐欺・ロマンス詐欺では、「非対面」での犯行で、(特殊詐欺を上回る)甚大な被害が発生しています。

また、特別法犯総数については、検挙件数は24,942件(26,764件、▲6.8%)、検挙人員は19,984人(21,980人、▲9.1%)と2022年は検挙件数・検挙人員ともに減少傾向、2023年に入ってともに増加に転じ、その傾向が続いていましたが、ここにきて再び減少傾向となった点が大きな特徴です。犯罪類型別では、入管法違反の検挙件数は2,276件(2,206件、+3.2%)、検挙人員は1,550人(1,548人、+0.1%)、軽犯罪法違反の検挙件数は2,613件(3,087件、▲15.4%)、検挙人員は2,622人(3,088人、▲15.1%)、迷惑防止条例違反の検挙件数は2,368件(4,039件、▲41.4%)、検挙人員は1,719人(3,127人、▲45.0%)、ストーカー規制法違反の検挙件数は491件(480件、+2.3%)、検挙人員は399人(396人、+0.8%)、犯罪収益移転防止法違反の検挙件数は1,679件(1,266件、+32.6%)、検挙人員は1,309人(993人、+31.8%)、不正アクセス禁止法違反の検挙件数は164件(164件、±0%)、検挙人員は70人(50人、+40.0%)、銃刀法違反の検挙件数は1,755件(1,996件、▲12.1%)、検挙人員は1,501人(1,657人、▲9.4%)などとなっています。減少傾向にある犯罪類型が多い中、犯罪収益移転防止法違反等が大きく増加している点が注目されます。また、薬物関係では、、麻薬等取締法違反の検挙件数は646件(453件、+42.6%)、検挙人員は381人(276人、+38.0%)、大麻取締法違反の検挙件数は2,693件(2,664件、+1.1%)、検挙人員は2,146人(2,171人、▲1.2%)、覚せい剤取締法違反の検挙件数は3,116件(2,720件、+14.6%)、検挙人員は2,069人(1,879人、+10.1%)などとなっており、大麻事犯の検挙件数がここ数年、減少傾向が続いていたところ、2023年に入って増加し、2023年7月にはじめて大麻取締法違反の検挙人員が覚せい剤取締法違反の検挙人員を超え、その傾向が続いている点が注目されます。また、覚せい剤取締法違反の検挙件数・検挙人員ともに大きな減少傾向が数年来継続していましたが、ここにきて増加に転じた点は大変注目されるところです(これまで減少傾向にあったことについては、覚せい剤は常習性が高いため、急激な減少が続いていることの説明が難しく、その流通を大きく支配している暴力団側の不透明化や手口の巧妙化の実態が大きく影響しているのではないかと推測されます。言い換えれば、覚せい剤が静かに深く浸透している状況が危惧されるところだと指摘してきましたが、最近、何か大きな地殻変動が起きている可能性も考えられ、今後の動向にさらに注目したいところです)。なお、麻薬等取締法の対象となるのは、「麻薬」と「向精神薬」であり、「麻薬」とは、モルヒネ、コカインなど麻薬に関する単一条約にて規制されるもののうち大麻を除いたものをいいます。また、「向精神薬」とは、中枢神経系に作用し、生物の精神活動に何らかの影響を与える薬物の総称で、主として精神医学や精神薬理学の分野で、脳に対する作用の研究が行われている薬物であり、また精神科で用いられる精神科の薬、また薬物乱用と使用による害に懸念のあるタバコやアルコール、また法律上の定義である麻薬のような娯楽的な薬物が含まれますが、同法では、タバコ、アルコール、カフェインが除かれています。具体的には、コカイン、MDMA、LSDなどがあります。

また、来日外国人による重要犯罪・重要窃盗犯 国籍別 検挙人員 対前年比較について総数は306人(227人、+34.8%)、ベトナム88人(71人、+23.9%)、中国46人(34人、+35.3%)、フィリピン22人(10人、+120.0%)、ブラジル18人(15人、+20.0%)、韓国・朝鮮14人(10人、+40.0%)、スリランカ7人(10人、▲30.0%)、パキスタン7人(3人、+133.3%)、インド5人(4人、+25.0%)などとなっています。ベトナム人の犯罪が中国人を大きく上回っている点が最近の特徴です。

一方、暴力団犯罪(刑法犯)罪種別検挙件数・人員対前年比較の刑法犯総数については、検挙件数総数は3,443件(3,869件、▲11.0%)、検挙人員総数は1,834人(2,355人、▲22.1%)と刑法犯と異なる傾向にありますが、最近、検挙件数・検挙人員ともに継続して増加傾向にあったところ、2023年6月から再び減少に転じた点が注目されます。犯罪類型別では、強盗の検挙件数は24件(31件、▲22.6%)、検挙人員は45人(58人、▲22.4%)、暴行の検挙件数は171件(244件、▲29.9%)、検挙人員は154人(224人、▲31.3%)、傷害の検挙件数は297件(399件、▲25.6%)、検挙人員は343人(451人、▲23.9%)、脅迫の検挙件数は99件(128件、▲22.7%)、検挙人員は98人(117人、▲16.2%)、恐喝の検挙件数は116件(140件、▲17.1%)、検挙人員は135人(164人、▲17.7%)、窃盗の検挙件数は1,720件(1,731件、▲0.6%)、検挙人員は269人(322人、▲16.5%)、詐欺の検挙件数は543件(724件、▲25.0%)、検挙人員は363人(592人、▲38.7%)、賭博の検挙件数は39件(12件、+225.0%)、検挙人員は48人(46人、+4.3%)などとなっています。とりわけ、詐欺については、増加傾向に転じて以降、高止まりしていましたが、2023年7月から減少に転じ、その傾向が続いている点が特筆されます。とはいえ、依然として高止まり傾向にあり、資金獲得活動の中でも重点的に行われていると推測される(ただし、詐欺は暴力団の世界では御法度となっているはずです)ことから、引き続き注意が必要です。さらに、暴力団犯罪(特別法犯)主要法令別検挙件数・人員対前年比較の特別法犯について、特別法犯全体の検挙件数総数は1,629件(1,801件、▲9.6%)、検挙人員総数は1,014人(1,235人、▲17.9%)と、こちらも検挙件数・検挙人数ともに継続して減少傾向にあります。また、犯罪類型別では、入管法違反の検挙件数は13件(35件、▲62.9%)、検挙人員は13人(3人、+333.3%)、軽犯罪法違反の検挙件数は13件(35件、▲62.9%)、検挙人員は13人(25人、▲48.0%)、迷惑防止条例違反の検挙件数は26件(25件、+4.0%)、検挙人員は26人(25人、+4.0%)、暴力団排除条例違反の検挙件数は34件(10件、+240.0%)、検挙人員は40人(23人、+73.9%)、銃刀法違反の検挙件数は30件(30件、±0%)、検挙人員は20人(19人、+5.3%)、麻薬等取締法違反の検挙件数は86件(66件、+30.3%)、検挙人員は31人(33人、▲6.1%)、大麻取締法違反の検挙件数は293件(413件、▲29.1%)、検挙人員は171人(268人、▲36.2%)、覚せい剤取締法違反の検挙件数は915件(957件、▲4.4%)、検挙人員は569人(628人、▲9.4%)、麻薬特例法違反の検挙件数は32件(48件、▲33.3%)、検挙人員は7人(21人、▲66.7%)などとなっており、最近減少傾向にあった大麻事犯について、2023年に入って増減の動きが激しくなっていること、覚せい剤事犯の検挙件数・検挙人員がともに全体の傾向以上に大きく減少傾向を示している中、一部増減を繰り返している点などが特徴的だといえます(覚せい剤については、今後の動向を注視していく必要があります)。なお、参考までに、「麻薬等特例法違反」とは、正式には、「国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律」といい、覚せい剤・大麻などの違法薬物の栽培・製造・輸出入・譲受・譲渡などを繰り返す薬物ビジネスをした場合は、この麻薬特例法違反になります。法定刑は、無期または5年以上の懲役及び1,000万円以下の罰金で、裁判員裁判になります。

(8)北朝鮮リスクを巡る動向

北朝鮮の朝鮮中央通信は、同国のミサイル総局が2024年7月1日に「4.5トン級の超大型弾頭」を搭載した新型戦術弾道ミサイル「火星11タ4.5」の発射実験を「成功裏に実施した」とし、模擬弾頭を使い、最大射程500キロと最小射程90キロに分けて飛行安定性や命中精度を確かめたとしています。北朝鮮が超大型弾頭を搭載した戦術弾道ミサイルの発射実験を公表するのは初めてとなります。主に韓国への攻撃に使う短距離弾道ミサイルの系列の一つとして開発しているとみられ、新たなミサイルを最大と最小の射程で撃ち、飛行性能を確認したようです。なお、超大型弾頭の「爆発威力の確証のための試験発射を2024年7月中に実施する」とも伝え、250キロメートル程度の射程で飛ばすと予告しています。北朝鮮は2021年からの国防5カ年計画で超大型核弾頭の生産を重点目標に掲げており、計画に沿った兵器開発の進展を誇示する狙いがあるとみられています。また、北朝鮮が「火星11」と呼ぶ弾道ミサイルはロシアに供与され、ウクライナの戦場で用いられているとされます(今回の発射もロシアへの輸出用ミサイルの性能実験だった可能性があるとの指摘もあります)。なお、韓国軍は、北朝鮮が同日発射したミサイルの1発目は約600キロ、2発目は120キロ飛行したと発表、2発目は非正常な飛翔で陸地に落下するなど、失敗した可能性があると指摘しています。

それに先立ち、2024年6月26日にも弾道ミサイルを発射しています。韓国軍の合同参謀本部は、この弾道ミサイルが上昇して爆発する様子を捉えたとする映像を公開、北朝鮮はこの発射を「成功した」と主張していますが、韓国軍は上昇の段階から不安定に回転しており、「失敗を隠すための誇張」だと判断したとしています。韓国軍がこうした映像を公開するのは異例のこととなります。同軍は発射準備段階から把握しており、レーダーなどで26日午前5時半ごろに発射を探知したといいます。このミサイル発射について北朝鮮側は、複数の弾頭を搭載する多弾頭化に向けた試験として実施し、「成功した」と主張、中長距離弾道ミサイル向けの固体燃料エンジンを使ったとし、分離した弾頭は3カ所の目標へ正確に誘導されたとし、探知や迎撃を攪乱させる「おとり」弾頭の効果も探知機で検証したと主張しています。北朝鮮は開発中の大陸間弾道ミサイル(ICBM)に複数の核弾頭を搭載しようとしており、「ミサイル能力の強化や技術発展で重大な意味を持つ」と強調、関連の実験を行ったと公表するのは初めてとなります。金正恩朝鮮労働党総書記は2021年1月の党大会で、多弾頭を個別に誘導する技術の開発が最終段階に達していると明らかにしていました。北朝鮮が開発に成功すれば、1発のミサイルで複数都市を同時に攻撃できることになり、日米韓への脅威は一段と増すことになります。一方、韓国軍は、北朝鮮が公開した写真では、液体燃料を使うICBM「火星17」に類似しており、こうした主張も虚偽の可能性があると評価しています。

この2つの弾道ミサイル発射の間となる2024年6月30日に北朝鮮外務省は声明を発表し、日米韓3カ国が実施した共同訓練「フリーダム・エッジ」について「挑発的な軍事的示威行為だ」と反発、その上で「われわれは圧倒的な対応措置で国家主権を守っていく」と警告しています。東シナ海で行われた「フリーダム・エッジ」には米原子力空母「セオドア・ルーズベルト」も参加、弾道ミサイルへの対応や対潜水艦戦、サイバー攻撃対処など複数領域にまたがる訓練を行っています。北朝鮮外務省の声明は、共同訓練について「地域の軍事的緊張を高め、ロシアを圧迫し、中国を包囲する米国の戦略的思惑がある」と主張、米国が日韓との安全保障協力を強化し、「アジア版の北大西洋条約機構(NATO)形成を狙ってきた」と強調しています。

韓国軍は、朝鮮半島西側の黄海上にある離島・延坪島などの島嶼部で海上砲撃訓練を再開しています。訓練には自走砲「K9」などが参加したとされます。北朝鮮の相次ぐ挑発行為を受け、韓国政府は2024年6月4日、北朝鮮との緊張緩和などを目的に2018年9月に結んだ南北軍事合意の効力の全面停止を発表、今回の訓練は合意で制約されていた軍事境界線や黄海の島嶼付近での訓練を再開するとしたことを受けたもので、2017年8月以来、約7年ぶりとなりました。

朝鮮戦争の勃発から2024年6月25日で74年となりますが、一方の北朝鮮も、2024年4月頃から、南北軍事境界線の北側の一部地域で高さ約4~5メートルのコンクリート製の壁の建設を始めているといいます。対戦車用の防御壁に似ており、北朝鮮の兵士が工事に大量動員されているといいます。壁が確認されたのは4か所で、工事の初期段階とみられています。現時点では最長で数百メートルだが、設置区間が延びる可能性も指摘されています。兵士らは重機をほとんど使わず、ほぼ人力で作業、韓国軍内では、東西冷戦を象徴したドイツの「ベルリンの壁」を連想させるとの声も出ています。関連して、韓国軍合同参謀本部は、北朝鮮が南北軍事境界線の北側の非武装地帯(DMZ)で4月以降、複数回の地雷爆発事故を起こし、北朝鮮兵の死傷者が多数発生していると明らかにしています。北朝鮮は「壁」のほかに、境界線周辺地域に多数の兵力を投入し、地雷の埋設や防壁の設置作業を実施、韓国軍は地雷の埋設について「北朝鮮兵、住民の脱北を遮断するための措置とみられる」との見方を示しています。地雷埋設の狙いが壁の建設と併せ、南北を物理的に分断する「国境線」を形成することにあるとの観測も浮上しています。また、韓国の活動家がビラを撒くのに反発し、数百個の風船にごみを付けて飛ばしましたが、北朝鮮は韓国がもはや統一のパートナーではなく「第1の敵対国」だと宣言、韓国・統一研究院の上級研究員は最近の報告書で「北朝鮮が続けている低強度の同時挑発行為は最近の政策転換を踏まえると、韓国に対する敵意を表明することが目的のようだ」との見方を示し、「北朝鮮は内部の結束を固める一方で、韓国の世論を分裂させようとし、また実際の軍事目的のためにこうした行動がどのように脅威となり得るかを探っている可能性がある」と分析しています、また、北朝鮮問題が専門の韓国・北韓大学院大学の梁総長は、南北間の対立が激化し冷戦時代の心理戦のようになっていると指摘、「時代遅れの風船作戦やビラ作戦の復活は、朝鮮半島で冷戦がいまだに続いていることを示している」と述べています。なお、韓国で対北政策を担う統一省は、これまで韓国で見つかった北朝鮮のごみ風船の積載物を解析した結果、ごみに含まれた土から回虫などの寄生虫が多数見つかったと明らかにしていますが、ごみに含まれた土は少量で、即座に回収されたため、土地の汚染や感染症などの心配はないとも説明しています。また、ごみから韓国企業が過去に北朝鮮に提供した衣類を切ったような布切れも発見され、統一省は、北朝鮮が韓国への「反感」を誇示するため、過去の支援物資をわざわざ裁断するなどして飛ばしたとの見方を示しています。

スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)は、北朝鮮で核兵器の製造が加速していることを発表しています。金総書記の指示に基づき、核兵器に用いる核分裂性物質の増産を図っている模様で、ウラン濃縮用とみられる秘密施設の規模を拡大する動きも確認されています。SIPRIは、北朝鮮が2024年1月時点で核弾頭90発を製造するのに十分なプルトニウムや高濃縮ウランなど核分裂性物質を保有していると推定、「北朝鮮の核兵器保有量は今後数年で増加する見込みだ」と警鐘を鳴らしています。

北朝鮮とロシアの間で「包括的戦略パートナーシップ条約」が締結されました。北朝鮮がロシアの軍需補給を支える一方、ロシアの行動により、北朝鮮の核・ミサイル開発に対する国際的圧力は緩むことになり、国連を通じた安全保障の枠組みはますます形骸化し、日本の安全に直結する朝鮮半島情勢にも大きな影響が及ぶことになります。ロシアと北朝鮮の軍事協力を牽制するため、米国は機先を制するように機密情報を開示してきました。2022年9月の時点で、ロシアが北朝鮮から弾薬を調達する可能性があると警告、実際に北朝鮮が弾薬の提供を始めたのは2023年8~9月ごろからだとみられています。2024年1月には、北朝鮮が提供した弾道ミサイルやミサイル発射装置がウクライナへの攻撃に使われたとの分析を明かし、米国防情報局も5月末に公表した報告書で、北朝鮮製ミサイルの破片がウクライナで発見されたと指摘しています。米政府によると、北朝鮮はこれまでに弾道ミサイル数十発や、1万1千個以上の弾薬のコンテナをロシアに輸出したとみられていますが、現時点ではウクライナの戦況に決定的影響を与えるほどのものではない、というのが米側の見方です。ただ、ウクライナを支える米欧に「支援疲れ」の風潮が広がる一方、ロシアが北朝鮮やイランからの軍需補給を強化しているとみられることは、看過できない要素といえます。

ロシアのプーチン大統領は、平壌で北朝鮮の金総書記と会談後、両国の「包括的戦略パートナーシップ条約」に署名しましたが、「一方が武力侵攻を受けた場合の他方による軍事援助」をうたっており、ウクライナ侵攻で既に進めている軍事協力を事後的に「合法化」する狙いもあるとみられています。両国は認めていませんが、北朝鮮は2023年来、ロシアに「砲弾約480万発、弾道ミサイル数十発」(韓国の申国防相)を提供、実際、ウクライナ北東部ハリコフ州に撃ち込まれたミサイルの残骸が、北朝鮮製と確認されており、2024年6月のG7サミットの共同声明は、ロ朝の軍事協力を「可能な限り最も強い言葉で非難」しています。ロシアはウクライナ危機で、法的根拠のない実力行使の後、国内法を整備するなどして追認する手法を繰り返しており、ウクライナ東・南部を占領後に「ロシアの歴史的領土」と言いだし、憲法改正などを経て一方的に「編入」、ロシア民間軍事会社「ワグネル」が受刑者で決死の突撃部隊を編成した際は、恩赦による戦闘員採用を正式に認める法整備を事後的に行いました。プーチン政権は当初、侵攻は「特別軍事作戦」だと言い張っていましたが、次第に北大西洋条約機構(NATO)に仕掛けられた「戦争」と主張するようになりました。北朝鮮との武器取引は、国連安保理による北朝鮮制裁決議で禁じられていますが、ロシアにとって「有事」と位置付けることで、新条約を根拠に北朝鮮からの武器支援を「2国間では合法」と強弁する思惑が透けてみえます。しかしながら、「米国とその同盟国によって触発された北朝鮮に対する国連安保理の無期限の制裁体制は、見直されなければならない」との発言は安保理常任理事国でありながら北朝鮮を擁護する姿勢を示し、安保理での合意を軽視するもので、国際秩序の根幹を揺るがすものです。国連安保理は2006年以降、度重なる北朝鮮の弾道ミサイル発射や核実験に対する制裁決議をロシアの賛成も得て採択してきましたが、北朝鮮からの武器供与や労働者派遣といった制裁が禁じた内容は、ウクライナ侵略を巡り米欧などから経済制裁を受けるロシアにとって切望するものでもあります。北朝鮮は2006~2017年に計6回の核実験を実施していますが、韓国などから近く7回目の核実験を行うとの見方も出ています。ロシアはこれまで北朝鮮の核実験を、国連安保理決議を無視する行為だと批判してきましたが、次に北朝鮮が核実験に踏み切った場合の対応は見通せないとの指摘もあります。プーチン氏は同じ記者発表で「米国の軍事演習に韓国や日本が参加し、規模や強度を大幅に増やしていることは北朝鮮への敵対行為だ。北東アジアに脅威をもたらす」とも強調し、日米韓の連携強化をけん制しています。

国連のグテーレス事務総長は、ロシアと北朝鮮が「包括的戦略パートナーシップ条約」を結んだことを受け、「北朝鮮と関係を持つ国は、ロシアを含めたどの国でも制裁措置に全面的に従わなくてはならない」と述べ、国連安全保障理事会の制裁決議を順守するよう求めています。北朝鮮には現在、国連安保理で採択された決議により制裁が科せられており、他国への武器供与も禁じられているが、ロシアはウクライナ侵攻でミサイルなど北朝鮮製の武器を使用している可能性が指摘されています。また、国連安全保障理事会(安保理)は、北朝鮮がロシアに武器を供与しているとされる問題で、日米英仏韓が要請した緊急の公開会合を開き、各理事国から「制裁違反だ」と非難が相次ぎましたが、ロシアは「完全なうそだ」と取引を否定、利害関係国として参加した北朝鮮も「米国こそウクライナへの軍事援助を強化している」と反発しています。安保理が北朝鮮問題を巡り、ロシアへの武器移転を議題に協議するのは初めてとなります。日米韓など約50カ国とEUは会合に先立ち、ロ朝間の武器移転を「可能な限り強い言葉で非難する」との共同声明を出しています。

国連安保理は、サイバー攻撃に関する閣僚級の会合を開き、攻撃で得た巨額の資金を核・ミサイル開発に注いでいるとみられる北朝鮮への批判が相次いだ一方、北朝鮮と「包括的戦略パートナーシップ条約」を結んだばかりのロシアは北朝鮮を擁護しました。国連安保理で対北朝鮮制裁の実施状況を監視してきた「専門家パネル」の最新の報告書によると、北朝鮮は2017年から2023年の間、暗号資産関連企業へのサイバー攻撃で30億ドル(約4770億円)の資金を得たとみられています。韓国の趙外相やフランスのドリビエール国連大使は「報告書では北朝鮮の大量破壊兵器の開発プログラムの40%が不正なサイバー攻撃によって資金調達されているとみられている」、「デジタル技術を通じて安保理の制裁措置そのものを組織的に逃れ、国際的な核不拡散体制の崩壊を試みようとしている」と批判、米国のトーマスグリーンフィールド国連大使は北朝鮮に加え、ロシアによるサイバー攻撃を非難、ウクライナやドイツ、スウェーデンなどが被害を受けているとし、「ロシア政府はランサムウェア(身代金ウイルス)の実行者の隠れ家として機能している」と述べています

ロシアのプーチン大統領の24年ぶりとなる北朝鮮訪問の目的には軍事協力の深化があるとみられます。米欧諸国がウクライナへの武器支援を続けるのに対抗し、ロシアは北朝鮮から大量の武器を調達することで、北朝鮮がロシアの武器工場になりつつあります。ロシアと北朝鮮は武器取引の実態を明らかにしていませんが、ロ朝間の物流の監視に力を入れる韓国は、衛星情報により北朝鮮からロシアに移動したコンテナ数を推定、申国防相は米ブルームバーグ通信のインタビューで、少なくともコンテナ1万個の輸送を突き止めたと明らかにしています(500万発近い砲弾を運べる規模だといいます)。米国の軍事脅威への対抗を名目に、北朝鮮がロシアから先端兵器の支援を受ける可能性もあり、性能の高い地対空ミサイルや防空レーダーを持てば、日米韓が運用する最新鋭のステルス戦闘機に対抗できることになり、北朝鮮はロシアの最新鋭機の供与を受け、空軍力を増強したい思惑もあるとされます。ロシアの専門家は、北東アジア地域の全体的な戦略的状況を劇的に変化させる可能性があると指摘、「ロシアが北朝鮮に安全保障を提供するのであれば、北朝鮮はロシアの東欧における主要同盟国であるベラルーシと似た立場になる。米国を中心とする北東アジアの同盟体制に対するあからさまな挑戦であり、当然ながら日本と韓国にとっても大きな問題になる」と指摘しています。また、中国は北朝鮮にとって最大の貿易相手国であるものの、今のところ、国際関係にさらなる緊張をもたらしかねない北朝鮮、ロシアとの3カ国による協調の枠組みに踏み込むことは慎重に避けているとも指摘しています。ただ、ロシアと北朝鮮の関係発展には限界もあり、核弾頭保有数が世界最大のロシアは、特に近隣諸国に核兵器が大幅に拡散する事態は自国の利益に資すると考えていないうえ、ロシアは伝統的に北朝鮮と韓国の間である種のバランス外交を進めてきた面もあり、北朝鮮側に傾き過ぎればそうした政策路線が維持できなくなる面もあります。一方、韓国の専門家の中には、「ウクライナへの侵攻を続けるロシアにとっていま、砲弾などを供給してくれる北朝鮮は非常に重要な存在だ。戦略的重要性が高まった。今回のプーチン氏の訪朝や条約への署名も、その見返りと見ることができる。北朝鮮は米国との関係改善は当面望めず、中国との関係も微妙だ。そして韓国との関係は「敵対」関係となった。国内的には経済が非常に厳しい状況にある。こうした状況でロシアとは軍事などでさらなる協力の強化を望んでいる。ただ、ウクライナでの戦争が終われば、ロシアにとって必要なのは北朝鮮の労働力ぐらいだ。ロシアの立場でみれば、北朝鮮との関係強化には持続可能性を見いだしにくいのも現実だ」といった冷静な見方もあります(筆者としてはかなり本質を突いているおではないかと考えます)。こうした様々な見方がある中、より大きな(高い)視点からの指摘として、2024年6月19日付日本経済新聞の記事「ロシアと北朝鮮が殺す2つの秩序 安保理や核不拡散」が興味深いものでした。具体的には、「米欧やアジアで開かれる数々の国際会議では最近、昨年には見られなかった変化が起きている。ロシアのウクライナ侵略、中東紛争、アジアの軍事緊張を別々に扱うのではなく、1つの問題として議論するようになった。ロシアと中国、北朝鮮、イランは軍事協力を深めている。枢軸ともいえるこの関係を放置すれば、欧州、アジア、中東で同時に危機が広がり、最悪の場合、第3次世界大戦に近づきかねない……。20世紀、2度にわたり大戦で荒廃した欧州では、特にこんな切迫感が漂う。枢軸国の中でもいちばん露骨に振る舞っているのが、ロ朝だ。北朝鮮はウクライナ侵略を支え、ロシアは北朝鮮の軍備増強を助ける。プーチン氏の訪朝でこの協力が勢いづき、脅威をさらに高めていく危険がある」、「ロ朝が世界にまき散らす「毒素」は軍事の脅威だけではない。なりふり構わない両者の行動は、平和を保つのに欠かせない世界の2つの仕組みを壊している。その1つは国連安全保障理事会だ」、「このまま、なし崩し的に北朝鮮が核保有国として追認されることになれば、NPT体制は骨抜きになる。そうなれば、核開発疑惑がつきまとうイランが同じ道を歩む恐れがあるほか、世論の約7割が核保有を支持する韓国にも少なからぬ影響が及ぶだろう」、「中ロは結束をうたっているが、実は、世界秩序や国際機関への考え方は水と油だ。ロシアは自分の国力が衰える分、米国主導の秩序も弱め、道連れにすることで安全を保とうとしている。中国は米国主導の秩序を変えたい点では同じだが、国際機関を壊そうとは思っていない。各機関の中枢に浸透し、中国色に染めることで影響力の淵源にする戦略だ。この違いが極まったとき、中ロにも亀裂が広がっていくに違いない」といった内容です。

その他、北朝鮮を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 北朝鮮が、ウクライナ国内のロシアの占領地域に工兵部隊などの兵力を派遣するとの見方が浮上しています。ロ朝は2024年6月、有事の相互軍事支援を規定した「包括的戦略パートナーシップ条約」を締結、米韓両政府は警戒を強めているところですが、ロ朝関係に詳しい関係筋によれば、プーチン大統領が北朝鮮の金総書記との首脳会談で、金総書記にウクライナへの派兵を求めたとの情報があるといいます。韓国の情報機関・国家情報院は、北朝鮮の派兵について、「ロ朝協力の動向を綿密に注視している」との立場を示しています。韓国政府内では、ロシアが一方的に併合したウクライナ東部に、北朝鮮の工兵部隊を投入し復旧作業に従事させるとの観測があり、米国防総省のパット・ライダー報道官も、北朝鮮の派兵の可能性について「注視している」と述べています。北朝鮮はロシアのウクライナ侵略に支持を表明し、これまで500万発近くの砲弾や最新鋭の弾道ミサイルなどを露側に供給し、見返りとして石油や食糧を得たと推定されています。韓国政府は、北朝鮮が派兵に踏み切れば、新たな見返りとして、ロシアから先端の軍事技術支援などを受ける可能性があるとみています
  • 2024年6月9日付読売新聞によれば、ロシア籍の貨物船1隻が4月前半、露極東のボストーチヌイ港と北朝鮮北東部の羅津港に寄港していたことが、読売新聞の衛星画像分析でわかったといいます。貨物船は、北朝鮮の核・ミサイル開発を巡る国連安保理の決議に違反して、北朝鮮から、ウクライナ侵略を続けるロシアへの武器・弾薬の運搬に使われた疑いがあるもので、ボストーチヌイ港を巡っては、北朝鮮の複数の石油タンカーが4月に寄港したことも判明、タンカーは安保理決議で北朝鮮への輸出が制限される石油精製品を積み込んで北朝鮮に運んだ可能性が高いと考えられます。ウクライナ侵略が長期化し、北朝鮮とロシアが必要な物資を供与し合う相互依存が深まっている一つの証拠となり得ます。
  • 中国と北朝鮮との貿易が回復傾向にあることが鮮明となってきました。国連安保理の経済制裁を受ける北朝鮮を下支えする思惑があるとみられ、中朝の国交樹立75年を迎える2024年、経済活動がさらに活発化する可能性があります。本コラムでもたびたび取り上げましたが、新型コロナウイルス対策で中朝国境が閉鎖された2020年以降、中朝の貿易総額は減少しましたが、鉄道など陸路による貿易が再開し、回復基調にあります。中国の税関当局によると、2023年の貿易総額は22億9538万ドル(約3583億円)で、コロナ禍前の2019年の8割まで戻ったようです。中国が毛髪を輸出し、北朝鮮でかつらに仕上げて中国へ輸出する形式の貿易が主流で、2024年4月の対中輸出の半分以上を占めています。
  • 前述のとおり、ロシア、北朝鮮の双方と関係の深い中国は、それぞれとの関係は維持しつつも、これら両国と一体化しているようにみられることに対しては慎重な姿勢との見方が多いところ、ロ朝両国が軍事面での協力にも踏み込む条約の締結を公表したことには戸惑いもあるとみられます。中国外務省の林副報道局長は、ロ朝首脳会談について「二つの主権国家間の取り決めだ」と論評を避けつつ、南北間の緊張が高まっている朝鮮半島の問題については「中国は中国のやり方で建設的な役割を果たす」と強調しています。ロ朝と歩調を合わせていると受け取られると、中国が関係の再構築を試みている欧州との関係がさらに冷え込みかねず、中国が取り込みを図ろうとしているグローバルサウスとの距離も遠くなる可能性もあります。また中国国内では、連携を強化する「日米韓」に対して、「ロ朝」の関係が強まることを地域の不安定化の要因と捉える見方もあります。
  • 外務、防衛両省は、北朝鮮が海上で積み荷を移し替える「瀬取り」の警戒監視活動にオランダが初めて参加したと発表しています。同国海軍のフリゲート艦が2024年5月下旬から6月上旬にかけて、日本の周辺海域で不審船の監視にあたったということです。瀬取りは北朝鮮が経済制裁の抜け道としており、国連安保理の決議で禁止されており、日本は米国、英国、フランス、オーストラリアなどと協力して対応しています。
  • 韓国統一省は、649人の脱北者の証言に基づき、北朝鮮の人権に関する実態をまとめた報告書を発表しています。K―POPなどを聴いた住民を公開処刑し、携帯電話で韓国人が使う表現を禁じるなど、金正恩政権が韓国文化の流入に警戒心を強めている実態が浮き彫りとなっています。報道によれば、警察官が路上を歩く人を呼び止め、携帯電話の中身を調査することも日常的だといい、禁止事項は服装にも及んでいるといいます。報告書は、新型コロナウイルスの感染拡大時の状況も詳しく記しており、国境での人の出入りを防ぐため、中国との国境付近などには有刺鉄線が張り巡らされ、鉄線には電流が流されていたほか、警備兵らは実弾を込めた銃を携行しており、脱北者の証言では、脱北を試みようとして射殺された住民もいたといいます。
  • 北朝鮮の朝鮮中央通信によると、朝鮮労働党中央委員会総会の拡大会議が2024年7月1日に閉会し、金総書記は会議での演説で、2024年上半期の経済状況に「はっきりとした上昇傾向」を感じると述べ、経済政策に成果があったと強調しています。なお、同通信は「軍事、政治活動の方向性」についても明らかにしたと伝えていますが、具体的な内容には触れていません。なお、この会議において、北朝鮮国営メディアが公開した写真で、当局者らが金総書記の肖像画が描かれたピンバッジを公の場で初めて着用する様子が確認されています。当局者らはこの会議で演説した際、右の襟に通常の党のロゴのピンバッジ、左胸に国旗をかたどった赤の背景に金氏の顔が描かれたピンバッジを着用していました。北朝鮮を建国以来統治してきた金家は、個人崇拝を構築することで権力の掌握強化を図ってきました。国内メディアは、金総書記を歴代指導者と同等となる不動の地位に押し上げる措置として、同氏の肖像画が祖父の故金日成主席や父の故金正日総書記の肖像画と並べて掲示されている写真を公開しています。
  • 国連安保理で2024年7月の議長国を務めるロシアのネベンジャ国連大使は、ロシアと軍事協力を深める北朝鮮の金総書記について「西側が想像するよりはるかに聡明だ」と持ち上げています。北朝鮮の核実験を容認するかと問われた際の発言で、同氏は明確な回答を避けつつ「誰に対しても(核実験を)勧めない」と述べ、「あなたたちは北朝鮮の指導者を過小評価し、単純化しすぎている」と続けたといいます。また、プーチン大統領が北朝鮮の金総書記と会談した際、高級車を贈呈したことを正当化しています。国連安保理は北朝鮮への制裁決議で、高級車を含むぜいたく品の北朝鮮への輸出を禁じており、高級車には、防弾用の特別な装甲が施されていたとみられますが、同氏は「北朝鮮の指導者には特別な保護が必要だ」と述べたといいます。
  • 中米のニカラグアが北朝鮮に大使館を開設したことが分かりました。在北朝鮮ロシア大使館が通信アプリ「テレグラム」を通じ、最近になって平壌で活動を始めたニカラグア大使館から米国を批判する通知を受け取ったと明らかにしています。反米で一致する北朝鮮とニカラグアが今後、連携を深める一環とみられています。ニカラグアは2024年になって、韓国の大使館の閉鎖を決定、財政難が主な理由だと報じられていました。一方、中南米諸国では、北朝鮮と「兄弟国」と呼ばれたキューバが2024年4月、韓国と互いに在外公館を設置することで合意したと発表しています。

2024年6月19日付産経新聞の記事「金正恩政権の崩壊視野に対応策を」も極めて興味深い内容でした。龍谷大学の李教授の論考で、「正恩体制が崩壊過程に入っていると考える理由は、このような経済運営の失敗などからではない。北朝鮮体制を支えてきた「配給制度」「洗脳教育」「恐怖政治」の3本柱が崩れつつあるからだ。まず配給制度。北朝鮮住民が体制に臣従し、首領を崇める理由は根本においては配給制度のおかげと言ってよい。それが崩壊した。韓国統一部が実施した正恩政権誕生後に脱北した約6千人の調査によれば、7割が国から配給をもらった経験がない。人民軍に対しても食糧配給を減らし、兵士の半数近くが栄養失調に陥っているとの国連報告もある。現在、軍の中核をなす20、30代の若者は配給制度などの恩恵を受けず、労働党や正恩氏と連帯感はなく体制に対し忠誠心を持たないと言われる。次に洗脳教育。北朝鮮当局は住民を外部の世界から孤立させるため鉄の壁を作り、情報を遮断してきた。金一族の独裁が70年以上持ちこたえた理由は、徹底した情報統制にあったと言ってよい」、「携帯電話をはじめ便利なデジタル機器の普及で住民の多くが外部情報に接する手段を手にしたからだ。前出調査では8割が外部から入ってきた映像を見たことがあると答えた。いま、正恩政権を支える手段として残されたのは恐怖政治だけだ」、「北朝鮮がロシアに急接近し、武器提供の代価として食糧問題やエネルギー問題を解消したとしても、支えてきた3つの柱が折れれば体制は崩壊する。北朝鮮では確実に構造的変化が起きている。日本は、正恩体制の崩壊を視野に、政策と対応策を練る必要があるのではないか」というものです。李教授が指摘するとおり、今まさに起きている構造的変化を見極め、日本として早めに手を打っておく必要があると考えさせられました。

3.暴排条例等の状況

(1)暴力団排除条例改正動向(大阪府)

以前の本コラム(暴排トピックス2024年1月号)でも取り上げましたが、改正大阪府暴排条例が2024年7月1日に施行されています。大阪府内の建設業者が暴力団に利益供与をした際、指導や勧告を経ずに逮捕・書類送検ができる「直罰規定」を大阪府暴排条例に盛り込まれました。2025年大阪・関西万博や、カジノを含む統合型リゾート(IR)の開業を見据えたもので、建設業者への直罰規定が設けられれば全国の暴排条例で初めてとなります。建設業における暴排については、必ずしも十分に徹底されていない印象がありますが、こうした取り組みが他の自治体にも拡がることを期待したいところです。大阪府暴排条例では、暴力団に財産上の利益を与えることを事業者に禁じていますが、建設業者では暴力団関係企業を下請けにすることなどが想定され、違反しても、大阪府公安委員会から指導や勧告を受けるものの罰則はありませんでした。本改正案では、大阪市や堺市など府内6市に営業所がある建設業者(規制対象建設業者)が府内の工事に絡んで利益供与をした場合、建設業者と暴力団側の双方に懲役1年以下または罰金50万円以下の罰則を新たに科すものとし、通常の刑法犯のように、違反が見つかればすぐに逮捕や書類送検ができる直罰規定も設けるとしています。なお、6市以外の建設業者は、これまで通り罰せられないことになります。

▼大阪府警察 大阪府暴力団排除条例の一部改正について(令和6年7月1日改正)
  • 「大阪府暴力団排除条例」の一部が改正され、令和6年7月1日から事業者(一部業者に限る)と暴力団との利益供与に罰則が適用されます。
  • 条例の主な改正点
    1. 特定営業、特定営業者及び規制対象建設業者の定義の追加(第2条第8号から第10号)
      • 風俗営業、性風俗関連特殊営業、特定遊興飲食店営業、接客業務受託営業、飲食店営業、特殊風俗あっせん事業、客引き等を「特定営業」と指定し、特定営業を営むものを「特定営業者」とします。
      • また、建設業を営む者のうち、大阪市、堺市、岸和田市、枚方市、門真市、東大阪市の6市に営業所を有するものを「規制対象建設業者」とします。
    2. 暴力団排除特別強化地域の指定(第2条第7号)
      • 暴力団排除を特に強力に推進する必要がある地域について、特定営業に関する「暴力団排除特別強化地域」に指定します。
      • 「暴力団排除特別強化地域」1は、主に大阪府下の主要繁華街等を中心とした16地区を町丁目単位で指定しています。
      • また、建設業における暴力団排除を特に強力に推進する必要がある地域として、大阪市、堺市、岸和田市、枚方市、門真市、東大阪市の6市を指定し、この6市を建設業に関する「暴力団排除特別強化地域」に指定します。
    3. 禁止行為について(第16条の2から5)
      1. 特定営業者の禁止行為(第16条の2)
        • 特定営業者が、暴力団排除特別強化地域1内における特定営業の営業に関し、
          • 暴力団員を業務に従事させること(第1号)
          • 暴力団員等又は暴力団員等が指定した者から、用心棒の役務の提供を受けること(第2号)
          • 暴力団員等又は暴力団員等が指定した者に対し、用心棒の役務の提供を受けること又は当該営業を営むことが容認されることの対償として利益の供与をすること(第3号)

          を禁止します。

      2. 規制対象建設業者の禁止行為(第16条の3)
        • 制対象建設業者が、暴力団排除特別強化地域に所在する営業所に係る建設業の営業に関し、
          • 暴力団員を業務に従事させること(第1号)
          • 暴力団員等又は暴力団員等が指定した者から、用心棒の役務の提供を受けること(第2号)
          • 暴力団員等又は暴力団員等が指定した者に対し、用心棒の役務の提供を受けること又は当該営業を営むことが容認されることの対償として利益の供与をすること(第3号)

          を禁止します。

      3. 暴力団員等の禁止行為(第16条の4・5)
        • 暴力団員等は、暴力団排除特別強化地域内における特定営業の営業に関し、
          • 業務に従事すること(暴力団員に限る)(第16条の4第1号)
          • 特定営業者に対し、用心棒の役務を提供し、又は当該暴力団員等が指定した者に用心棒の役務を提供させること(第16条の4第2号イ)
          • 特定営業者から、用心棒の役務を提供すること若しくは当該営業を営むことを容認することの対償として利益の供与を受け、又は当該暴力団員等が指定した者に当該利益の供与を受けさせること。(第16条の4第2号ロ)

          を禁止します。

        • また、暴力団員等は、暴力団排除特別強化地域2に所在する規制対象建設業者の営業所に係る建設業の営業に関し、
          • 業務に従事すること(暴力団員に限る)(第16条の5第1号)
          • 規制対象建設業者に対し、用心棒の役務を提供し、又は当該暴力団員が指定した者に用心棒の役務を提供させること(第16条の5第2号イ)
          • 規制対象建設業者から、用心棒の役務を提供すること若しくは当該営業を営むことを容認することの対償として利益の供与を受け、又は当該暴力団員等が指定した者に当該利益の供与を受けさせること。(第16条の5第2号ロ)

          を禁止します。

    4. 罰則の追加
      • 特定営業者、規制対象建設業者及び暴力団員等が禁止行為を行った場合は、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金を科します。(第27条第1項)
      • 但し、特定営業者及び規制対象建設業者が自首した場合には刑を減軽又は免除することができる規定を設けています。(第27条第2項)

(2)暴力団排除条例に基づく勧告事例(神奈川県)

神奈川県公安委員会は、神奈川県暴排条例に基づき、神奈川県内の飲食業者に対し、暴力団員に利益を供与しないよう、稲川会傘下組織幹部に、利益供与を受けないよう、それぞれ勧告しています。

▼神奈川県暴排条例

同条例第23条(利益供与等の禁止)において、「事業者は、その事業に関し、暴力団員等、暴力団員等が指定したもの又は暴力団経営支配法人等に対し、次に掲げる行為をしてはならない」として、「(1)暴力団の威力を利用する目的で、金銭、物品その他の財産上の利益を供与すること」が、第24条(利益受供与等の禁止)において、「暴力団員等又は暴力団経営支配法人等は、情を知って、前条第1項若しくは第2項の規定に違反することとなる行為の相手方となり、又は当該暴力団員等が指定したものを同条第1項若しくは第2項の規定に違反することとなる行為の相手方とさせてはならない」と規定されています。そのうえで、第28条(勧告)において、「公安委員会は、第23条第1項若しくは第2項、第24条第1項、第25条第2項、第26条第2項又は第26条の2第1項若しくは第2項の規定に違反する行為があった場合において、当該行為が暴力団排除に支障を及ぼし、又は及ぼすおそれがあると認めるときは、公安委員会規則で定めるところにより、当該行為をした者に対し、必要な勧告をすることができる」と規定されています。なお、「暴力団経営支配法人等」とは、神奈川県暴排条例独自のもので、第2条(定義)において、「法人でその役員(業務を執行する社員、取締役、執行役又はこれらに準ずる者をいい、相談役、顧問その他いかなる名称を有する者であるかを問わず、法人に対し業務を執行する社員、取締役、執行役又はこれらに準ずる者と同等以上の支配力を有するものと認められる者を含む。)のうちに暴力団員等に該当する者があるもの及び暴力団員等が出資、融資、取引その他の関係を通じてその事業活動に支配的な影響力を有する者をいう」とされます。AML/CFTにおける「実質的支配者」が暴力団員等である法人に該当するものと考えられます。

(3)暴力団排除条例に基づく勧告事例(埼玉県)

埼玉県公安委員会は、埼玉県暴排条例に違反して利益を供与したとして、埼玉県内で輸入雑貨通信販売会社を実質経営する事業者に勧告を行っています。また、事業者から利益を受けたとして、六代目山口組弘道会傘下組織組長にも勧告を行っています。報道によれば、事業者が暴力団の威力を利用することなどの対償として、現金30万円を暴力団員が指定する銀行口座に振り込んだものです。いずれも勧告内容を認め、事業者は「金銭トラブルから助けてもらったことに恩義を感じ、庇護の対価として現金を渡した」、暴力団員は「守ってあげたという認識で現金を受け取っていた」と話しているといいます。正に典型的な事例といえます。

▼埼玉県暴排条例

同条例第19条(利益の供与等の禁止)において、「事業者は、その事業に関し、暴力団員又は暴力団員が指定した者に対し、次に掲げる行為をしてはならない」として、「(1)暴力団の威力を利用すること又は暴力団の威力を利用したことの対償として、金品その他の財産上の利益の供与(以下単に「利益の供与」という。)をすること」が規定されています。さらに、第22条(暴力団員による利益受供与の禁止)において、「暴力団員は、事業者が第19条第1項の規定に違反することとなる利益の供与を受け、又はその指定した者に対し、当該利益の供与をさせてはならない」ときていされています。そのうえで、第28条(勧告)において、「公安委員会は、第19条第1項、第22条第1項、第23条第2項、第24条第2項、第25条第2項又は第26条の規定に違反する行為があった場合において、当該行為が暴力団排除活動の推進に支障を及ぼし、又は及ぼすおそれがあると認めるときは、当該行為をした者に対し、公安委員会規則で定めるところにより、必要な勧告をすることができる」と規定されています。

(4)暴力団排除条例に基づく事務所撤去事例(静岡県)

静岡県浜松市内で、静岡県暴排条例で禁止されているエリアのマンションに開設されていた六代目山口組傘下組織の事務所について、静岡県警が完全に撤去されたことを確認したということです。報道によれば、この事務所は浜松市中央区のマンションの一室に設置されていて、2023年7月に、静岡県警が、教育施設から200m以内の開設や運営を禁じる静岡県暴排条例違反の疑いで摘発しています。静岡県警は、その後、マンションの一室から撤退する誓約書を提出させるなどして、2024年4月中に暴力団員の出入りがなく荷物なども無くなり、マンションの一室には新しい入居者が決まっていることなど、事務所が完全撤退したことを確認したということです。教育施設の200m以内の事務所に対する静岡県暴排条例違反での完全撤去は、静岡県内初だということです。

▼静岡県暴排条例

報道からはどのような教育施設であったかまでは分かりませんが、同条例第13条(暴力団事務所の開設及び運営の禁止)において、「暴力団事務所は、次に掲げる施設の敷地の周囲200メートルの区域内においては、これを開設し、又は運営してはならない」と規定され、第28条(罰則)にいおいて、「次の各号のいずれかに該当する者は、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する」として、「(1)第13条第1項の規定に違反した者」が規定されています。

(5)暴力団対策法に基づく中止命令発出事例(北海道)

暴力団であることを示し、正月用のしめ飾りを買うよう北海道胆振地方にある4つの会社に要求したとして、室蘭市に住む六代目山口組五代目誠友会の構成員に、暴力団対策法に基づく中止命令が発出されています。報道によれば、男は2023年11月から12月にかけて、暴力団の立場をちらつかせたうえで、室蘭または登別市の建設業や内装業の4事業者に、正月用のしめ飾りを買うよう要求、男が売っていたのは、1本1万円のしめ縄飾りで、事業者はいずれも購入したといいます。2024年5月に別の事件の家宅捜索で「しめ縄リスト」を押収、リストにあった4事業者に確認したところ、男の関与が浮上、警察は暴力団対策法の「用心棒料等要求行為」に該当すると判断、男に2024年6月7日付で2件、6月21日付で2件、「正月用飾り物の購入を要求してはならない」と中止命令を発出したものです。

▼暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律

暴力団対策法第9条(暴力的要求行為の禁止)において、「指定暴力団等の暴力団員(以下「指定暴力団員」という。)は、その者の所属する指定暴力団等又はその系列上位指定暴力団等(当該指定暴力団等と上方連結(指定暴力団等が他の指定暴力団等の構成団体となり、又は指定暴力団等の代表者等が他の指定暴力団等の暴力団員となっている関係をいう。)をすることにより順次関連している各指定暴力団等をいう。以下同じ。)の威力を示して次に掲げる行為をしてはならない」として、「五 縄張内で営業を営む者に対し、その営業所における日常業務に用いる物品を購入すること、その日常業務に関し歌謡ショーその他の興行の入場券、パーティー券その他の証券若しくは証書を購入すること又はその営業所における用心棒の役務(営業を営む者の営業に係る業務を円滑に行うことができるようにするため顧客、従業者その他の関係者との紛争の解決又は鎮圧を行う役務をいう。第三十条の六第一項第一号において同じ。)その他の日常業務に関する役務の有償の提供を受けることを要求すること」が禁止されています。そのうえで、第11条(暴力的要求行為等に対する措置)第1項で「公安委員会は、指定暴力団員が暴力的要求行為をしており、その相手方の生活の平穏又は業務の遂行の平穏が害されていると認める場合には、当該指定暴力団員に対し、当該暴力的要求行為を中止することを命じ、又は当該暴力的要求行為が中止されることを確保するために必要な事項を命ずることができる」と規定しています。

(6)暴力団対策法に基づく損害賠償請求等妨害禁止仮命令発出事例(熊本県)

詐欺被害を受けたとして損害賠償を求める裁判を起こされた、道仁会傘下組織組員に対し、熊本県警が被害者への妨害行為を禁止する仮命令を出しています。報道によれば、2017年11月から2018年11月の間に、当時の別の道仁会傘下組織の組幹部を中心とする詐欺グループが、あわせて2億5000万円以上をだまし取った事件があり、この事件で被害を訴えている8人が、男性を含む当時の代表者らにも責任があるとして、合わせて3億円あまりの損害賠償を求めて東京地裁に提訴しました。提訴を受けて熊本県警は、男性が原告8人に対し、不安をあおるなどの請求妨害行為をする可能性があるとして、妨害を禁止する仮命令を出したものです。仮命令では原告8人やその配偶者に面会を要求したり、自宅や勤務先付近を徘徊したりすることなどを禁じており、福岡県警では、別の道仁会系組員にも同じ命令を出していますが、いずれも道仁会系の組員にこの命令を出するのは全国で初めてということです。

暴力団対策法第三十条の二(損害賠償請求等の妨害の禁止)において、「指定暴力団員は、次に掲げる請求を、当該請求をし、又はしようとする者(以下この条において「請求者」という。)を威迫し、請求者又はその配偶者、直系若しくは同居の親族その他の請求者と社会生活において密接な関係を有する者として国家公安委員会規則で定める者(第三十条の四及び第三十条の五第一項第三号から第五号までにおいて「配偶者等」という。)につきまとい、その他請求者に不安を覚えさせるような方法で、妨害してはならない」として、「一 当該指定暴力団員その他の当該指定暴力団員の所属する指定暴力団等の指定暴力団員がした不法行為により被害を受けた者が当該不法行為をした指定暴力団員その他の当該被害の回復について責任を負うべき当該指定暴力団等の指定暴力団員に対してする損害賠償請求その他の当該被害を回復するための請求」が規定され、第三十条の三(損害賠償請求等の妨害に対する措置)において、「公安委員会は、指定暴力団員が前条の規定に違反する行為をしている場合には、当該指定暴力団員に対し、当該行為を中止することを命じ、又は当該行為が中止されることを確保するために必要な事項を命ずることができる」と規定されています。

(7)暴力団対策法に基づく再発防止命令発出事例(鹿児島県)

鹿児島県公安委員会は、暴力団対策法に基づき四代目小桜一家幹部に対し、用心棒料などの要求行為を繰り返す恐れがあるとして、再発防止命令を出しています。報道によれば、1992年の暴力団対策法施行後、鹿児島県内での再発防止命令は3回目となるといいます。幹部は2023年12月ごろ、複数の被害者が経営する店舗に電話をかけ「熊手を今年もお願いできないか」などと言い、所属の暴力団の威力を示して、正月用飾りの熊手の購入を要求したとされます。

暴力団対策法第9条(暴力的要求行為の禁止)において、「指定暴力団等の暴力団員(以下「指定暴力団員」という。)は、その者の所属する指定暴力団等又はその系列上位指定暴力団等(当該指定暴力団等と上方連結(指定暴力団等が他の指定暴力団等の構成団体となり、又は指定暴力団等の代表者等が他の指定暴力団等の暴力団員となっている関係をいう。)をすることにより順次関連している各指定暴力団等をいう。以下同じ。)の威力を示して次に掲げる行為をしてはならない」として、「二 人に対し、寄附金、賛助金その他名目のいかんを問わず、みだりに金品等の贈与を要求すること」が禁止されています。そのうえで、第11条(暴力的要求行為等に対する措置)第2項で、「公安委員会は、指定暴力団員が暴力的要求行為をした場合において、当該指定暴力団員が更に反復して当該暴力的要求行為と類似の暴力的要求行為をするおそれがあると認めるときは、当該指定暴力団員に対し、一年を超えない範囲内で期間を定めて、暴力的要求行為が行われることを防止するために必要な事項を命ずることができる」と規定しています。

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