暴排トピックス

トクリュウの「機能的な組織性」と「闇のエコシステム」

2024.10.08
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首席研究員 芳賀 恒人

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組織構造の概念。ビジネスにおける部門の階層構造に関する情報のためのチームワーク組織とビジネス ワークフロー プロセス管理

1.トクリュウの「機能的な組織性」と「闇のエコシステム」

反社会的勢力は、暴力団の「強固な組織性」からトクリュウのもつ「機能的な組織性」(明確に細分化された役割分担という組織性)へと変質、反社会的勢力の姿かたちは大きく変わっています。また、警視庁公安部は、特定組織に属さず単独テロを実行する「ローン・オフェンダー」対策に特化した課を新設するといいます。「ローン・オフェンダー」は、犯行の予兆をつかみにくく組織テロより対処が困難です。イスラム過激派による組織テロへの対策強化とネットやSNSの普及が「リアル型」の没落と入れ替わって「思想型」「自立型」のテロリストを生んだのであり、今なお感化される若者は後を絶ちません。さらには、一般人、とりわけ若者の薬物へのアクセスが容易になり、大麻の蔓延が深刻化しているほか、サイバー攻撃や特殊詐欺もビジネス化や多様化が進み、やはり一般人、とりわけ若者による金目当ての犯行も増えています。これら犯罪組織の関与する犯罪と若者をつなぐ代表的な犯罪インフラがSNSであり、テレグラムやシグナルなど匿名性の高い通信アプリであり、互いに面識のない第三者同士を犯罪グループに仕立て上げる「闇バイト」なのです。それは正に「闇のエコシステム」を形成しており、トクリュウがその「使い手」として「機能的かつ明確な役割分担」によって確実に犯罪を実行し、その存在感を増している状況にあります。そして、その「闇のエコシステム」に取り込まれているのが「若者」なのです。SNSを使いこなし、様々なツールを使いこなしているつもりが、お金のために犯罪に安易に手を染め、トクリュウの「闇のエコシステム」に知らないうちに取り込まれている実態があります。こうした現状を変えるために、社会が積極的に若者に対する「教育」「啓蒙」に取り組む必要があるのです。筆者は、そうした若者の犯罪を何とか食い止めたいとの思い、若者に「闇バイト」の実態を知ってもらい、自分の身を守ってほしい、一人で悩ます誰かに相談してほしいとの願いから、若者向けの書籍「あの時こうしなければ……本当に危ない闇バイトの話」を監修させていただきました。「闇のエコシステム」に取り込まれそうな、多くの若者が手に取って、「闇のエコシステム」から離脱してほしいと心から願っています。

▼株式会社エス・ピー・ネットワーク 闇バイトの事例をマンガで紹介し予防策を解説する図書館向け書籍『あの時こうしなければ……本当に危ない闇バイトの話』を監修

タレントの羽賀研二(本名・当真美喜男)容疑者(63)ら7人が強制執行妨害目的財産損壊等容疑などで逮捕された事件が大々的に報じられています。報道によれば、羽賀容疑者は民事訴訟で命じられた約4億円の被害弁済を免れるため、以前から交流があった六代目山口組弘道会傘下組織組長、松山容疑者に相談を持ちかけ、虚偽の不動産登記を計画したとみられています。羽賀容疑者から相談を受けた松山容疑者が、日本司法書士会連合会副会長の野崎容疑者につなぎ、事件に発展、羽賀容疑者が所有する沖縄県内の商業ビルと土地が差し押さえられるのを免れるため、自身が代表を務める会社に所有権が移転したとする虚偽の登記をしたとみられています。羽賀容疑者は商業ビルを購入する際、松山容疑者から購入資金の融資を受けていたほか、ビルの賃貸収入として毎月数百万円を得ていたとみられ、不動産の差し押さえを免れるとともに、賃貸収入も維持しようとしていた疑いがあるとされます。以前から羽賀容疑者は「稀代のワル」とも称され、もはや芸能界復帰は困難と考えられる反社会的勢力です。しかしながら、筆者は、むしろ、士業の1つである「司法書士」の世界の重鎮が、これら反社会的勢力と密接な関係をもち、共謀した事実に衝撃を受けました(自ら進んでというより、やむにやまれぬ事情があったものと推測しますが、それでも関係を継続すること、深めてしまうことはあってはなりません)。副会長の逮捕を受け、日本司法書士会連合会は、「当連合会の役員から逮捕者が出たことは誠に遺憾であり、国民の皆様に不安を与えたことにつきお詫び申し上げます」などと公式サイトを通じて謝罪していますが、筆者は、それだけで済む問題ではないのではないかと、同会の対応を疑問視しています。司法書士とは、「専門的な法律の知識に基づき、登記、供託、訴訟その他の法律事務の専門家として、国民の権利を擁護し、自由かつ公正な社会の形成に寄与することを使命とする国家資格であり、法務大臣から認定を受けて簡易裁判所における民事訴訟などにおいて当事者を代理する業務も行う」立場にあります。そのような立場の者が、羽賀容疑者の自分勝手な、稚拙な犯罪であることを知らないはずもなく(逮捕されたということは、警察は事情を知ったうえで関与していると判断した何よりの証左といえます)、「情を知って」反社会的勢力の活動を助長、法を逸脱する行為を行ったことは許されるものではありません(もちろん、昨今の弁護士や会計士の犯罪が増加している点にも同様の憤りを覚えるものです)。弘道会傘下組織組長との接点は詳細になっていませんが、たとえ合法的な事業で接点があったとしても、それを公にできない弱みのようなものがあったとしても、継続的に関係を持つこと自体、社会的制裁は避けられないといえます。そして、司法書士を見る社会の目線はこれまでと異なり、大変厳しいものとなるはずです(士業だから反社チェックを省略できるとしている事業者は意外に多く、そうしたルールの見直しも必要となります)。何より、司法書士は法律の専門家であるがゆえに、弁護士と同じくらい、反社会的勢力と何らかの接点が生じやすい構図にあります。だからこそ、日本司法書士会連合会は、副会長個人の問題として片づけず、司法書士業界全体として、今後どのように取り組むかという姿勢を示す必要があるのではないでしょうか。

反社会的勢力安易に関係をもつ、関係を遮断できない個人や組織はまだまだたくさん存在していることも明らかとなりましたが、全国の喧嘩自慢らが集まる人気の格闘技イベント「ブレイキングダウン」の元代表らが、スマホの売買事業に投資すれば利益を得られるとうそをつき、出資金計約6億3千万円をだまし取ったとして詐欺の疑いで逮捕されています。逮捕したのは警視庁暴力団対策課で、あらためて同団体と反社会的勢力との関係の有無がクローズアップされる事態になっています。実は、同団体は、2023年5月に元警察官僚や弁護士、警察OBらで構成された「反社対策アドバイザリーボード」を発足させ、反社会的勢力を排除したクリーンな団体を目指すと宣言していますが、2023年9月上旬に団体のCOO(最高執行責任者)や人気選手と暴力団関係者が一緒に撮影したとされる写真が「反社会的勢力対策どころかただの密接交際」などとして拡散された経緯があります。団体は、今後は関係者のコンプライアンスチェックや受付での本人確認等をより厳重にするとして騒動は沈静化したはずのところ、元代表が「代表就任中に起こした可能性がある事件で暴力団対策課に逮捕されたことで、団体のレピュテーションは極めて難しい状況になったといえます。さらにいえば、同団体は傷害や恐喝などでの出場選手の逮捕が相次ぎ、イメージが悪化していただけに、追い打ちとなっている状況です。本件はあくまで暴力団対策課による逮捕という事実があるのみで反社会的勢力との関係が明確になったわけではありませんが、多くの事業者にとって、関係をもつことに慎重にならざるを得ない状況となっているといえます。

前回の本コラム(暴排トピックス2024年9月号)でも取り上げましたが、市民や企業を襲撃したとして全国で唯一の「特定危険」に指定されている工藤會については、福岡県警が2014年9月11日から、その壊滅を目指す「頂上作戦」に着手し、組トップらを次々に逮捕、それから10年が経過しています。頂上作戦が奏功し、工藤會の福岡県内の組員数はこの10年で3分の1以下にまで激減しました。また、高齢化が進み、若年層が細り、組員の平均年齢は、2014年末は45.9歳だったところ、2023年末には54.7歳となり、年代別では20代以下0.6%、30代8.6%、40代25.2%、50代37.4%、60代11.7%、70代以上16.6%となりました。福岡県警は、離脱の意向がある組員らに働きかけ、就労支援を進めてり、県警が離脱を支援した工藤會系組員は2014~2023年で計302人となり、頂上作戦前の2013年は5人にとどまっていたものの、作戦直後の2015年は49人に急増、2023年は17人に上っています。元組員を雇う意思がある県内の協賛企業も、2023年末時点で377社に上っています。報道で県警幹部は「弱体化することで組員はより一層抜けやすくなるが、辞めても仕事がなければまた暴力団に戻ってしまう」とし、「就労支援は究極の暴排」と語っていますが、正に正鵠を射るものです。北九州市でも独自の就労支援を進めており、2022年度から始まった「社会復帰対策推進事業」では、元組員を雇用した企業に対し、業務に必要な運転免許取得費用などを助成、実際に助成したのは2022年度の1件だけにとどまっていますが、問い合わせは多いといいます。同市安全・安心推進課の担当者は報道で「工藤會を再び台頭させないためにも元組員の社会復帰の受け皿を作っていかないといけない」と話しています。さらに県警は若者の暴力団加入を防ごうと2011年から、全国でも珍しい「暴力団排除教室」を続けおり、中学や高校、少年院で「暴排先生」と呼ばれる県警職員らが、SNSや映画などで暴力団に憧れをもたないよう、恐ろしさを伝えています。頂上作戦をきっかけとして、官民あげて暴排に取り組む福岡県や北九州市の取り組みは、大変参考になるものであり、全国に広がっていくことを期待したいと思います。

2024年9月25日付毎日新聞の記事「工藤会「頂上作戦」10年」は大変興味深い内容でしたので、いくつか抜粋して紹介します。例えば、「暴力団による組織的犯行を立件するハードルは高い。…組織の上層部の関与を立証するのは更に困難を極める。事件の実行役や下見役、拳銃などの準備役を担う末端の組員に対し、暴力団トップが直接指示を出すことは考えにくい。密室でトップからナンバー2へ、ナンバー2から3へと徐々に指示が下りるとされる。実行役を逮捕できた場合でも否認や黙秘をすることは多く、上位者の関与を立証できるところまでは、なかなかたどり着けない。だが、野村被告が実権を握った2000年以降、特に本部のあった北九州市では工藤會の関与が疑われる襲撃事件が相次ぎ、市民の我慢は限界に達していた。「トップを捕らなければ、事件は止まらない」という危機感の中、着手したのが頂上作戦だった」、「警察が勝負に出たことで、市民も積極的に暴力団排除運動に協力する相乗効果が生まれ、工藤會は弱体化した。こうした経緯は全国の他の暴力団にも影響を与え、若い組員らの離脱が相次いでいる。「暴力団にいても生きていけない」と見切りをつけたのだろう」との元福岡県警刑事部長の指摘、「ヤクザ」と呼ばれた暴力団組員は世間に知られてなんぼの「男を売り出す」稼業だった。市民に恐怖を与える存在として認識されていたからこそ、トラブルの仲裁やみかじめ料などで資金を集めることができた。他団体とも友好関係を結び、組員の名前や役職が半ば公然となっていた。取り締まる側の警察にとっても、実態を把握しやすい組織だっただろう。…暴力団排除に拍車をかけたのは、2010年代に各都道府県で整備された暴力団排除条例だ。組員は銀行口座の開設や携帯電話の契約、ホテルの宿泊などが事実上できなくなった。福岡県では全国で初めて暴力団に利益供与した事業者らへの罰則まで設けられた。…組織犯罪は暴力団だけが起こすものではない。…暴力団の摘発ばかりに目を光らせるのではなく、組に属していない組織犯罪集団の実態を把握するため、警察はもっと人員を割くべきではないか。トクリュウの上位に暴力団がいるケースもあるかもしれないが、トクリュウからすれば時代遅れの暴力団を頼ったり恐れたりする理由はなく、警察は暴力団を過大視していると思う」との溝口敦氏の鋭い現状分析、「非行少年は暴力団の「卵」だと言われてきた。少年らが暴力団に入るのを防ぐためにも、少年院や刑務所の出所者に働ける場所を与える「受け皿」を作ることが大切だ。…暴力団組員だった少年も受け入れてきた。遅刻や欠席を何度しても根気強く雇い続けた結果、元組員でも大手自動車メーカーに再就職したケースもある。働くことで社会に受け入れられたと実感でき、頑張れたのだと思う。…協力雇用主の登録は、今では約2万5000社にまで広がった。一方、建設業や土建業など一部の業種に偏りがあるのも事実だ。肉体労働ではない職種が少ないのは、罪を犯した人への根強い偏見が残っているからだろう。出所者の受け皿を公的機関だけで担うのは難しく、民間企業の協力は不可欠だ。ただ、大手の企業には自然と人が集まるからか、そうした意識が薄いのかもしれないが、協力雇用主の多くは中小企業だ。まずは短期間・短時間のトライアルで受け入れるような仕組みを活用してほしい。非行少年の立ち直り支援は、暴力団や半グレを弱体化させることにつながるはずだ」と、暴力団離脱者支援の重要性、必要性を説く野口石油会長の思い、など大変説得力があるものでした。また、福岡放送が取材した元組員の「辞めたって何もかもうまくいくわけでもないし、辞めて5年間、通帳ない生活って普通考えたら、ちょっと厳しいじゃないですか。俺たちは歓迎されてないんやろうなと思いますよね」、「自分がまいた種を自分で刈らないといけない。仕方ない部分もあるけれど。面接行ったら落とされる。警察関係の紹介で来た話とか、めちゃめちゃ日当が安いとか、そんなんじゃ生活していけない。辞めたヤクザのところにまた行ったりとか、そこでまた組んだりとかね、そういうふうになってしまいますよね」との当事者による離脱後の更生の難しさがストレートに伝わり、「暴力団の壊滅」はまだ道半ばであること、頂上作戦の着手から10年となった今も模索が続いているということを痛感させられます。そして今後、工藤會による一般人襲撃事件に関する野村総裁らの裁判について、野村被告の1審死刑判決を2審で無期懲役に減刑、刑務所であれ、トップの存在は組織行動に直結することをふまえ、最高裁がこれをどう判断するか注目されるところです。また、工藤會傘下組織が関東に進出し、北九州での経済活動の落ち込みを首都圏で取り戻しているとの情報もあり、今後の動向は注視していく必要があります。さらに、工藤會の頂上作戦の帰趨は、他の反社会的勢力に対する捜査へも波及することは確実で、分裂抗争が続く六打目山口組が本拠を置く関西では、2025年に万博が開催され、世界からの来場が予想される中で、暴力団の活動は絶対に封じ込めねばならないと警察のメンツがかかっています。一方、工藤會の本部跡地はNPO法人による福祉施設に生まれ変わりますが、警察は離脱組員の支援に力を入れるものの、前述のとおりまだ道半ばの状態です。警察・行政・民間が一体となった徹底摘発の「硬」と、離脱、就労、生活支援の「軟」の継続的両立こそが、真に組壊滅の鍵を握ると言っても差し支えないと思われます。

2024年9月12日付毎日新聞の記事「トクリュウの甘いワナ 背後に工藤会 「偽装離脱」の元組員も」もまた、大変興味深いものでした。具体的には、「「ヘソクリで毎月少しずつでもお小遣いが欲しい! そんな方はぜひお気軽にDM(直接連絡)を」写真共有アプリ「インスタグラム」のあるアカウントの自己紹介文には、そんな誘い文句が並ぶ。捜査関係者によると、投稿主は福岡県の40代男性。特定危険指定暴力団「工藤会」の親交者だという。2018~21年、札束や高級腕時計の写真とともに「不労所得」「稼げる副業」などとハッシュタグ(検索目印)を付けて投稿し、無登録で外国為替証拠金取引(FX)の投資を勧誘していた疑いで福岡県警に逮捕された。県警などによると、男性は工藤会幹部の緒方哲徳被告(48)=金融商品取引法違反で公判中=と親交があったという。投資勧誘は緒方被告が発案し、男性らはアプリを駆使し16都道府県で約280人を勧誘。顧客の投資の金額や回数に応じて、海外証券会社から紹介料として報酬を受け取っていたとされる。県警に逮捕されたグループには、工藤会の元組員もいた。その元組員は別の事件で服役後、組織に戻ろうとしたが、緒方被告に止められ、そのまま工藤会を離脱していたことが公判の中で明らかになった。報酬の一部は緒方被告に渡ったとされ、工藤会が組織性を隠すために偽装離脱させた可能性がある。「あのグループはトクリュウだ」。ある県警幹部は言う」、「暴力団対策法の規制がかからないことを利用して犯罪行為を繰り返し、暴力団に収益の一部を上納していた事例も確認されている。捜査関係者は「時代の流れによって、相手も変化している」と話し、工藤会がトクリュウを隠れみのに利用していると懸念する」、「「仕事をしたいけど、給料を振り込んでもらうための口座もつくれない」。工藤会を離脱した元組員の60代男性は苦しい生活状況を語る。暴力団を抜けても、多くの金融機関は「偽装離脱」への懸念から離脱後5年間は原則、口座開設を認めていない。家族の口座開設も断られたという男性は「まともに生活ができないと分かれば、そもそも組を抜けない。暴力団なんて無くなるわけがない」と訴えた。頂上作戦から10年が過ぎ、工藤会は弱体化が進むが、しぶとく組織に残り続ける幹部らもいる。野村被告が勾留される福岡拘置所には、そうした幹部らが足しげく面会に通う姿が目撃されている。裁判が確定し、野村被告が組織に戻ることがなくなれば「身を退く判断ができる」と話す古参組員がいる一方、分裂や新たな組織に移行することを危惧する声もあり、県警は動向を注視する」といったものです。

2013年、「餃子の王将」を展開する王将フードサービスの社長だった大東隆行さん=当時(72)=が射殺された事件で、殺人罪などで起訴された工藤會傘下組織幹部の田中被告(57)の裁判に関し、京都地裁は、裁判員裁判の対象事件から除外する決定をしています。事件の担当とは別の合議体が決定したもので、裁判員法は、裁判員の生命や身体などに危害が加えられる恐れがある場合、対象から除外すると規定しています。これに対し弁護側は、裁判員裁判から除外した決定を不服として、即時抗告していたことが新たに分かりました。なお、事件を巡っては、地裁で争点や証拠を絞り込む公判前整理手続きが続いており、弁護人によると田中被告は公判で無罪を主張する方針で、被告が事件を起こしたかどうかの「犯人性」が争点となる見通しです。

暴力団等反社会的勢力に関する最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 京都市左京区に本部を置く指定暴力団会津小鉄会が2024年9月30日、トップである会長を交代したことが明らかになりました。同日に「継承盃」の式典を行い、8代目会長には、六代目山口組直系「淡海一家」の高山義友希(通称・誠賢)総長が就任しています。報道によれば、六代目山口組の直系組長が他の組織のトップに転出する例は初めてとみられ、警察当局は情勢を注視しています。式典には、六代目山口組の中核組織「弘道会」の竹内照明会長や稲川会の内堀和也会長も出席、京都府警を始め、兵庫県警、警視庁などの捜査員ら約30人が情報収集や警戒に当たっています。なお、とともに淡海一家も六代目山口組の直系組織から外れ、会津小鉄会の傘下となるとみられています。警察当局が確認を進め、正式に認定されれば官報で会津小鉄会の代表者の交代などが公示されることになります。会津小鉄会は幕末、会津藩に出入りしていた侠客、上坂仙吉が京都で博徒を集めてできたのが由来とされ、1992年に初めて指定暴力団となり、約1600人の構成員がいましたが、現在は約40人(2023年末)まで減少、一時、六代目山口組と神戸山口組との対立抗争を背景に分裂状態となりましたが、2021年ごろに一本化しています。本件については、(以前から言われていたとおり)実質的に、会津小鉄会を、六代目山口組が乗っ取ったといってよいと思われます。六代目山口組高山清司若頭は、かねてから暴力団は統一されなければ生き残れない時代だという考え方を持っていると言われており、この目標に向けての、大きな一歩となる可能性があります。
  • 神戸山口組の幹部から脅されて借金の連帯保証人にさせられ、多額の現金を脅し取られたとして、東京都内の男性が神戸山口組トップの井上邦雄組長と組幹部に損害賠償を求めた訴訟の判決で、東京地裁は、2人に計約2億4000万円を支払うよう命じています。組員の行為に対して代表者も賠償責任を負う暴力団対策法の代表者(使用者)責任を認めたものとなります。判決によれば、原告男性の知人は、組幹部に数億円の借金があり、男性は2019年6月、知人と組幹部宅を訪問、組幹部は激しい口調で怒鳴って返済を求め、男性に対して「(知人は)もう殺して埋めたる」、「二度と会えんと思え」と発言して恐怖を与え、連帯保証人にさせたといいます。3カ月後、男性は組幹部に現金2億2000万円を渡したもので、判決は、男性が連帯保証人になることに合意したのは、交友のある知人の生命・身体に、組幹部が危害を加えると脅したからだと指摘、組幹部は関西弁で激しい口調で怒鳴っており、「指定暴力団の威力を利用した資金獲得行為に当たる」と認定、暴力団対策法上、組トップの責任も認めるケースだとして井上組長の賠償責任を認めたものです。
  • 宮崎市の暴力団事務所で発生した発砲事件をめぐり、六代目山口組と池田組について宮崎県公安委員会は、宮崎県でも特定抗争指定暴力団として指定するため手続きを開始しています。警察は、この事件を暴力団同士の抗争とみており、宮崎県公安委員会は、六代目山口組と池田組を特定抗争指定暴力団として指定するため、2024年10月中旬にそれぞれの代表者に意見聴取すると発表しました。
  • 兵庫県公安委員会は、六代目山口組(神戸市灘区)と神戸山口組(兵庫県稲美町)に対する特定抗争指定暴力団の指定を3カ月延長すると発表しています。延長後の指定期間は2024年10月7日~2025年1月6日となります。両組織の指定は2020年1月7日に始まり、延長は19回目で、神戸、姫路、尼崎、高砂市と稲美町では、組員の事務所への立ち入りや使用、おおむね5人以上で集まることなどを禁止されています
  • 神戸山口組の傘下組織「西脇組」の事務所について、神戸地裁は、組員らの使用を差し止める仮処分を決定しています。地域住民の委託を受け、代理者として申し立てた暴力団追放兵庫県民センターが発表しています。事務所は、暴力団対策法の特定抗争指定で使用が禁止されていますが、仮処分決定で抗争終結後も組員の立ち入りや会合の開催などが禁じられます。組事務所の使用差し止め仮処分決定は兵庫県内で8件目。ほかに和解が1件あるとのことです。
  • 佐賀市の繁華街にある指定暴力団の事務所の所有権を取得した佐賀県暴力追放運動推進センターが、取得後も暴力団側が立ち退きに応じないとして、建物と土地の明け渡しを求める訴えを佐賀地方裁判所に起こしています。2024年6月、佐賀市呉服元町にある道仁会傘下組織の事務所の建物と土地と建物が暴力団関係者である元の所有者から、第三者に相続されていたことを受け、佐賀県暴追センターが所有権を取得しましたが、その後も暴力団事務所として使われ、内容証明郵便で1か月以内に建物と土地を明け渡すよう求めたものの、暴力団側が応じなかったということです。このため、同センターは暴力団の組長を相手取り、直ちに建物と土地を明け渡すよう求める訴えを佐賀地方裁判所に起こしたもので、暴力追放運動推進センターが暴力団事務所の建物と土地の明け渡しを求める訴えを起こしたのは、全国で初めてだとみられるということです。なお、関連して、佐賀県警は、この事務所に関し、近くの佐嘉神社角交番の移転先として交番の設置を検討していることを明らかにしています。

警察庁は、全国警察の捜査部門の課長ら約340人を集めた会議を東京都内で開催、露木長官は、SNS型投資・ロマンス詐欺や窃盗・盗品流通事件などの組織的な犯罪を繰り返す匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)について「真に組織に打撃を与える取り締まりを徹底してほしい」と訓示しています。今年上半期の特殊詐欺の被害額は約230億円、SNS型投資・ロマンス詐欺の被害額は約660億円と1日当たり約5億円の被害が出ており、露木長官は「過去最悪の被害で、極めて深刻な事態」と指摘、そのうえで「壊滅に向け、実態解明や徹底した取り締まり、犯行ツール対策を推進するなど検挙と抑止を両輪とする総合的な対策を進めてほしい」と述べています。また、2024年6月までに太陽光発電施設の金属ケーブル盗難が全国で4161件発生するなど、窃盗・盗品流通事件が急増しており、露木長官は「悪質な盗品処分先や中核的人物の検挙を視野に取り締まりを強化し、盗品などの売却によって得た犯罪収益の剥奪を徹底してほしい」と指示しています。以下、最近のトクリュウを巡る動向について、いくつか紹介します。

  • 特殊詐欺でだまし取った金を受け取ったとして、大阪府警は、組織犯罪処罰法違反(犯罪収益収受)の疑いで、フィリピンで活動する暴力団系の日本人集団「JPドラゴン」幹部を逮捕しています。2022年7月、特殊詐欺で得た犯罪収益と知りながら、東京都内のラーメン店で現金約4100万円を受け取ったとしています。報道によれば、容疑者は警察官をかたりキャッシュカードをだまし取る特殊詐欺事件の被害金を回収、約7千万円を持って成田空港からフィリピンへ出国していたといいます。別の容疑者の供述などから、国内で回収した犯罪収益を、フィリピンにあるJPドラゴンの拠点へ運ぶ現金運搬役だったとみられています。容疑者は別の特殊詐欺事件に関与したとして、福岡県警に窃盗などの疑いで計5回逮捕されています。JPドラゴンは、元暴力団員らがフィリピンで組織したとされ、警察の摘発を逃れるためマニラなどを拠点に特殊詐欺を繰り返していたとされます。また、JPドラゴンは2019年、全国で広域強盗事件を起こしたとされるルフィグループがフィリピンに置いていた拠点を襲撃していたことも確認されたといい、この場所は特殊詐欺の被害者に電話を掛ける「掛け子」の参集拠点であり、府警は両グループの関連を調べるとしています。
  • 米アップルの「iPhone16」シリーズ発売日、東京都内のアップル直営店舗は今回、予約者への販売に限定、警察官らが警戒に当たったといいます。専門家は円安の進行やアイフォーンの世界的な人気を背景に「販売価格が安い日本が転売商品の調達先になっている」と指摘しています。今回、警視庁が警戒に当たったのは、2023年9月のアイフォーン15の発売時、表参道店で発生した転売目的の集団による騒動があったためで、店には暴力団「チャイニーズドラゴン」のメンバーが大挙し、並び順を巡ってメンバー内で怒鳴り合いや小競り合いが発生、騒動は発売日から数日間続き、アップル側は一般客への販売を中止した経緯があります。警視庁暴力団対策課は、騒動のリーダー格の人物ら2人を含む男女7人を威力業務妨害容疑で逮捕、7人は転売目的でアイフォーンを買い占め、収益を活動資金に充てる狙いがあったとみられています。事業者にとっては、チャイニーズドラゴンのような組織が問題を起こす原因を作っているとの認識が広がれば、レピュテーション上大きなマイナスとなることが考えられます。
  • 前述した警察庁長官の訓示でも取り上げられたとおり、2024年に入り、関東を中心に、太陽光発電設備の送電ケーブルなど金属製品を狙った窃盗被害が多発していますが、送電ケーブルに使われている銅などが目的とみられています。摘発されているのはカンボジア人が最多となっており、警察当局は外国人を含むトクリュウが暗躍しているとみて、全国の警察に対策強化を指示しています。金属盗全体に占めるケーブル盗の割合は、2023年には32.9%だったところ、2024年上半期には38.7%と上昇、約9割が関東地方で発生し、中部地方の被害が増えている現状があります。太陽光発電施設は山中など人目の少ない場所にあることが多く、犯行が気付かれにくいうえ、まとまった量のケーブルを盗めるという特徴があります。また、ケーブル盗に関与したとして摘発を受けた犯人グループのうち、6割以上を外国人が占めており、2024年上半期では60人が摘発され、うちカンボジア国籍が28人と最多、日本21人、タイ5人、ベトナム4人、ラオス2人と続いています。警察幹部は報道で「ケーブル盗は金銭的損害だけでなく、送電ができなくなるという社会インフラに与えるダメージも大きく、看過できない。規制の在り方を検討するとともに、摘発を強化していく」としています。また、本問題を受けて、警察庁は、行政法、刑法の専門家や金属買い取りの業界団体で作る有識者会議の初会合を開き、警察庁の檜垣生活安全局長は、「被害品が金属くず買い取り業者に売却されるなどの事案も発生していることから、盗品の流通防止や、犯行に使われる道具に関する法規制の在り方も含めて検討いただきたい」と述べています。警察庁によると、盗品が売買されるのを防ぐため、古物営業法は本人確認や、盗品が持ち込まれた場合の警察への連絡を原則義務化するなどの規定を設けていますが、ケーブルなどの「金属くず」には適用されません。一方、北海道や大阪府など16道府県が独自の条例で規制しており、千葉県も2025年1月1日に施行予定であり、有識者会議では、金属くず買い取り時の本人確認を義務化することや、新しい法律を制定するか、自治体の条例で対応可能かなどについて議論し、速やかに提言をまとめるということです。なお、2023年の金属窃盗の認知件数の都道府県別で全国ワーストだった茨城県は、盗品の売却を防ぐ県の改正条例が県議会本会議で全会一致で可決、成立し、施行は2025年4月1日となりました。買い取り業者に、売り手の身分証の写しを3年保存するよう義務付けるのが柱で、同種の規定は全国初といいます。改正条例では、確認義務を怠ると、6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金となるほか、無許可営業は罰金上限を10万円から100万円に引き上げ、または1年以下の拘禁刑を科すとしています。また、営業許可は5年ごとの更新制となるといいます。
  • 昨今、闇バイトなどで集めた実行役を使って、資産を狙う犯罪が多発していますが、元警部の秋山氏がテレビのコメントで興味深い指摘をしています。秋山氏は、「1年ぐらい前から、こういう事件がまた発生すると予測していた」とし、「闇バイト強盗が起こる仕組み」があると指摘しています。背景には「暴力団が作った犯罪組織」の存在があり、暴力団対策法施行で、全国の暴力団が収益源である「みかじめ料」を取れなくなったことから、「ある暴力団グループが『オレオレ詐欺』の集団を作った」と説明、オレオレ詐欺が資金源になると見た他の暴力団が約50人のグループを500万円で購入、各地の暴力団が、同様にグループを買い、いま全国で約20グループあるといいます。そして、「どのグループも闇バイトで大きくなり、素人の実行犯が集まるようになっている」といいます。しかし、「闇バイトで雇った子は、本来『かけ子』や『受け子』になる。ところが話術が下手で、何人電話してもバレてしまい、使い物にならない。かけ子は、10~20人をマンションの一室に置いて電話させるが、家賃がかかる」ということで、特殊詐欺で使えない人物は、強盗で使い始めたと指摘しています。警察庁はトクリュウを警戒していますが、「今20グループのトクリュウがあるが、ほぼ背景には暴力団がある。だから場所によって違う犯罪グループがやった」と指摘、今後さらに「闇バイト強盗」が拡大する危険もあるとしています
  • 埼玉県と東京都で3件連続した強盗事件で、実行役が秘匿性の高い通信アプリ「シグナル」の複数のアカウントを通じて指示を受けていたことが判明しています。県警と警視庁の共同捜査本部は、三つの事件に同一の指示グループが関与していた可能性もあるとみて調べています。警察庁によると、トクリュウによる強盗や窃盗などの事件は、2021年9月~2024年9月、22都道府県で計93件確認されたといいます。トクリュウの絡む事件では、SNSを通して「荷物の搬送」「人を運ぶ」といった簡単な仕事に応募したといい(犯罪行為と関係のないこうした仕事はSNS上で「ホワイト案件」と呼ばれています)、ダイレクトメッセージでやり取りを重ねた後、秘匿性の高いアプリに移行、要求を受けて顔写真や運転免許証などの身分証の画像を送信し、待機場所について指示を受けるも、ここで指示役の態度が一変、強盗をするよう指示、戸惑う男らを「個人情報を知っている」「逃げるとどうなるか分かっているだろうな」などと脅すケースがみられます。警察幹部は報道で「闇バイトに加担すれば、抜け出すのは容易ではなく、犯罪に関わる代償は大きい」と警鐘を鳴らしています。なお、本事件のうち住民の60代女性は「屋根の修理で約800万円を支払った」と話しており、警視庁と埼玉県警の共同捜査本部は、資産や家族構成などの情報が外部に漏れていた可能性もあるとみています。
  • 特殊詐欺でだまし取った現金を引き出したとして、警視庁は、自営業の容疑者を電子計算機使用詐欺容疑などで逮捕しています。容疑者は「出し子」グループのトップといいます。暴力団対策課によると、容疑者は、すでに逮捕・起訴された男らと共謀して2021年8月5日、大阪府吹田市の70代の男性に電話をかけ、医療費の還付金を受け取れると誤信させ、現金93万円を振り込ませてだまし取った疑いがもたれています。容疑者は、川崎市を拠点に計10人がSNSで緩くつながるトクリュウのトップといい、これまでに9人が同容疑などで逮捕されています。警視庁は、容疑者らが2021年8~9月、約50人から計約6800万円をだまし取ったとみて調べています。
  • 東京・歌舞伎町の質店に強盗グループが押し入り、総額約3800万円相当の貴金属などが奪われた事件で、警視庁捜査1課はグループのリクルーター役として、強盗、建造物侵入の疑いで、埼玉県八潮市の高校2年の少年(17)=強盗罪などで家裁送致=、同市の引越し作業員の男(19)=同=、住所、職業不詳の男(20)の3人を逮捕しています。捜査1課によると、3人はいずれも埼玉県八潮市周辺で活動する暴走族グループ「88ファミリー」のメンバーで、現場実行役の少年=同=に対し、LINEで「タタキ(強盗)興味ある?」などと犯行を持ち掛けるなどしていたといいます。また、同課は強奪品を転売した盗品等処分あっせんの疑いで、職業不詳の容疑者(27)も逮捕しています。88ファミリーには暴力団とのつながりがあるとの情報もあり、同課は強盗事件の首謀者の解明を進めています。
  • 北海道警斜里署は、斜里町の川でサケを取ったとして、水産資源保護法違反の疑いで自称、千葉県柏市の無職の男ら男4人を逮捕しています。ほか3人はベトナム国籍とみられ、知人やSNSを通じて集まったと話しており、署はトクリュウとみて、詳しい経緯を調べています。海別川左岸でサケ29匹を採捕した疑いがもたれていますが、現場には4人以外にも3人ほどがいたとみられ、行方を捜しています。

悪質ホストを巡っては、「売掛金」(ツケ払い)を返済させるため、女性客を風俗店にあっせんするケースが後を絶たず、被害は各地で相次いでおり、対策が急務となっています。警視庁は2024年6~8月、東京・歌舞伎町にあるホストクラブで多額の売掛金を抱えた女性客を大分県のソープランドにあっせんしたなどとして、職業安定法違反容疑などで、ホストやスカウト、風俗店経営者ら十数人を逮捕しています。同庁によると、あっせんを仲介したスカウトは「(ホストらから)これまで30人ほどの女性を紹介された」と供述、業界内で風俗店のあっせんが常態化している可能性があります。警察庁によると、全国の警察は2023年1月~2024年6月の間、女性客に売春をさせたなどとして、ホストら計203人を摘発しています。こうした悪質なホストクラブの対策について、警察庁は、有識者検討会の中間報告を公表しています。虚偽の料金説明や恋愛感情に乗じて女性を依存させる悪質な行為に対して、風営法を改正して規制を強化する方向で検討しています。検討会は2025年初めごろまでに最終的な報告書をまとめ、それを踏まえて警察庁が風営法改正案を検討する見通しです。警察庁は、料金に関する虚偽説明や、恋愛感情に乗じて女性を依存させる行為を規制対象にする案を検討しており、「初回は料金はかからない」、「持っている金でいい」などと偽ったり、「付き合いたければシャンパンを入れて」などと持ちかけたりする行為などがあたるといいます。料金の取り立てでは、女性を困惑、畏怖させたり、性風俗店で働くよう唆したりする行為を規制できないか検討、「実家に取りに行く」と脅したり、「近くで立ちんぼをすれば、また店に来られる」と売春を求めたりする行為が想定されるといいます。また、性風俗店が、女性を紹介したスカウトやホストに、女性による売り上げの一部を支払う「スカウトバック」と呼ばれる仕組みがあるといい、現在はスカウトについては職業安定法違反(有害業務のあっせん)などでの摘発が可能ではあるものの、性風俗店側は対象にならないため、性風俗店側に対しこうした行為を新たに禁止することも検討していくとしています。

▼警察庁 悪質ホストクラブ対策検討会の第2回までの議論と今後議論すべき論点
▼第2回までの議論と今後議論すべき論点
  • 風営適正化法上の規制の在り方について、どのような方向で議論を行うか。
    1. 主な意見
      • 規制の範囲に何らかの絞りをかける必要があるが、コンセプトカフェといった業態もあり、ホストクラブに特化した形でルール化することは難しいのではないか。
      • 1号営業から悪質ホストクラブを切り出して定義して規制するよりも、行為や手段に着目した規制とした方がやりやすいのではないか。
      • 高額料金の支払いの請求自体を法律で縛ってしまうと、クラブやキャバクラ等の風営適正化法上の1号営業全体に大変厳しい規制が及ぶことになってしまう。
      • 風営適正化法の改正について、性的搾取という人権侵害の性質を踏まえることが必要である。国際基準である人身取引議定書との整合性の観点から、風営適正化法が規制すべき行為や債務負担をさせるという意思形成に瑕疵があると判断される要素として、被害者の脆弱性に乗じることを明確に入れるべきではないか。
      • 規制する行為の内容については、ホストクラブ以外の業態であっても、こんなあくどいことはやってはいけないと合意が取れる内容にすれば、誰からも納得してもらえるようなものになる。
      • 風営適正化法の遵守事項と禁止行為の中にどういうものを取り込んでいくかという議論が必要。その論点の一つは、入口の売掛金・立替金、高額を使わせて借金漬けにするということをどうやって止めるか、もう一つは、高い借金を負わせて、それをネタにして売春等に追い込むというのをどうやってやめさせるか、という二点がある。
      • 店と、その店で働く個人事業主のホストの両方に効果のある法律上の規制を考えなければ、店は別のホストを連れてくるだけになってしまう。
      • ホスト個人ではなく背後者に対する規制については、特定商取引法での背後者規制といった立法例などを参考にしながら、行政処分の範囲を広げるということも考えられる
    2. 今後の議論の方向性(案)
      • 風営適正化法上の規制を強化する場合には、規制対象をホストクラブに限定するのは困難と考えられることから、規制する行為を、悪質ホストクラブ特有の悪質行為や、他の業態であってもおよそ認められないような悪質行為に限定することについて議論。
      • 売掛金等の形で客を借金漬けにする段階と、借金を悪質に取り立てる段階に分けて議論。
      • 風営適正化法では、従業員等が遵守事項や禁止行為に該当する行為を行った場合には、営業者に対して指示処分や営業停止命令等の行政処分を行うことができることを念頭に、悪質行為に関する規制の在り方を議論。
      • 「売掛金、立替金等の蓄積」段階での問題、「売掛金、立替金等の悪質な取立て」段階での問題のそれぞれについて、次ページ以降の出された意見を踏まえて議論を継続。
  • 売掛金、立替金等を蓄積させる手法についてどう考えるか。
    • 悪質ホストクラブ等では、継続的に担当者がついてマインドコントロールしている事例が見受けられるので、関係性や継続性というのが1つのポイントになると思う。
    • 20歳ぐらいの人が、訳も分からないで酒を無理やり飲まされて、その代金が非常に高額であるというところに問題がある。
    • 若い子をターゲットにし、払えないことが分かっていながら飲食させて、借金漬けにして、売春あるいは性風俗に就かせて、そこから更に金を巻き上げるというルートを断ち切るための風営適正化法の改正が必要である。年齢で区切るのは難しいが、被害者の脆弱性、若年女性の社会経験の未熟さに付け込むような形で性搾取を行うというものに焦点を絞ることを出発点として議論するべき。
  • 規制する場合、どのような行為を規制の対象とし、どのような点に留意すべきか。
    • 風営適正化法が規制すべき行為や債務負担をさせるという意思形成に瑕疵があると判断される要素として、被害者の脆弱性に乗じることを明確に入れるべきではないか。
    • 営業者の義務として、接客従事者が顧客に対して、例えば心理的に支配し、あるいは脆弱性によってその反対の意思を表示することが難しい状況に乗じて債務を負担させてはならないといった条文を入れられるかだと思うが、心理的支配というところは、事実認定の際の実務上の課題になるだろう。
    • 料金に関する虚偽説明や色・恋を手段として女性を依存させる行為等に着目した規制は納得を得られると思う。
    • いわゆる色・恋を手段として女性を依存させる行為を規制する場合、恋愛の自由との関係で、規制の必要性、合理性、規制を裏付ける立法事実がないと憲法との関係で問題がある。そこで、依存させて高額な遊興、飲食をさせる行為のように、恋愛の自由それ自体を規制するのではなく、恋愛に絡む悪質な行為に着目した形の規制にする必要がある
    • 20歳ぐらいの人が、訳も分からないで酒を無理やり飲まされて、その代金が非常に高額であるというところに問題がある。(再掲)
    • ぼったくり防止条例で規制している行為を風営適正化法で規制していくのか、条例に委ねるべきかも論点となる。様々な法令違反を行政規制に接合させて店舗の営業を規制することもできるのではないか
  • 売掛金、立替金等を取り立てる手法についてどう考えるか。
    • 料金の取立て規制について、困惑させたり、畏怖させたり、それから心理的支配の状況に乗じて、性産業、すなわち既存の法律で言えば(職業安定法上の)公衆衛生上の有害業務に従事しなければ取立てを免れる方法がないと思わせるとか、その支払いのためにその有害業務への従事を示唆するといったようなことを条文化することがあり得るのではないか。
    • ホストクラブの売掛金について、誰の誰に対する未収金なのか、誰が誰に対して請求しているのかが分からない。誰に対してどういう商品、役務をどれぐらいの料金で提供しているのかを明確にしていかないと、その後の法的処理にも影響があるのではないか
    • 売掛金等の取立て規制について、誰の誰に対する売掛金等に対して規制をかけるのかを、条文にする際は漏れがないようにする必要がある。
    • 店舗の女性客に対する債権をホストが立て替えることで、債権を売掛金に変換して、ホストがこれを取り立てるというのは、債権管理回収業に近い行為と言えるが、これは非弁行為にならないのだろうか。そもそも、債権の売掛金への変換とその取立てを許容することを前提とした規定ぶりだと、非弁行為を国が認めていることになってしまうのではないか。
    • 規制する場合、どのような行為を規制の対象とし、どのような点に留意すべきか。
    • 料金の取立て規制について、困惑させたり、畏怖させたり、それから心理的支配の状況に乗じて、性産業、すなわち既存の法律で言えば(職業安定法上の)公衆衛生上の有害業務に従事しなければ取立てを免れる方法がないと思わせるとか、その支払いのためにその有害業務への従事を示唆するといったようなことを条文化することがあり得るのではないか。(再掲)
    • ぼったくり防止条例で規制している行為を風営適正化法で規制していくのか、条例に委ねるべきかも論点となる。様々な法令違反を行政規制に接合させて店舗の営業を規制することもできるのではないか。(再掲)
    • 店と、その店で働く個人事業主のホストの両方に効果のある法律上の規制を考えなければ、店は別のホストを連れてくるだけになってしまう。(再掲)
  • その他(風営適正化法関連)
    • ホストクラブの看板やアドトラックの規制、また、客引きについて、風営適正化法だけの問題ではなく、条例も含め他の規制と全体で考えていかないといけない。
    • 個人事業主として働くホストにも、風営適正化法上の管理者講習を受講させることはできないか。
    • 末端のホストを取り締まるだけでは足りず、その背後の犯罪組織や経営者等を捉えていかなければならない。
    • 若い女性がホストクラブに入って多額の借金を負うきっかけとして、既にホスト店に出入りしている大学生の同級生から誘われるというものもあるということだが、若い女性がSNSやマッチングアプリをきっかけに店に入ってくるということも問題である。これらは店が関与しない一個人としてのホストとの出会いの場であるとのことだが、このように女性を勧誘する行為は、ある意味、女性に多額の債務を負わせるための予備的な行為だとも言え、何らかの対策を講じることはできないか。
    • 風営適正化法の目的の一つに、少年の健全な育成に障害を及ぼす行為の防止というものがある。未成年ではないが、若年であるとか社会経験がないということに乗じて、しかも、ホストが営業の目的を秘して近づくという行為は問題である。
  • その他(風営適正化法以外での対策)
    • 関係団体からの話を聞くと、恐らく風営適正化法あるいは警察だけでの対応では多分無理で、職業安定法や課税といった色々なことを考えなければ、実効的な対策を取ることはできないだろう。
    • ホストの雇用関係やフリーランス新法との関係について、整理がなされることが望ましい。
    • ホストはホストクラブ等に雇用されているのではなく業務委託契約を締結している場合が多いということだが、国税の調査があっても業務委託では実態が把握しづらいのではないか。
    • 民事上の問題であれば、法テラスに対応してもらうような道筋を作ることを考えるべき。
    • 悪質ホストによる被害の実態を踏まえて、人身取引議定書に沿った人身取引の定義とそれを禁止する法の制定も必要。
  • 今後議論すべき論点
    1. 関係団体からのヒアリング内容
      • 関係団体からのヒアリングでは、悪質ホストと女性客を性風俗店にあっせんするスカウトが女性客の情報を共有しており、また、「スカウトバック」(性風俗店が女性を紹介したスカウトに支払う対価)のやりとりが行われているという実態について指摘あり。
      • また、悪質ホストクラブの中には営業停止等の行政処分を受ける前に廃止届を出していわゆる「処分逃れ」を行っている店がある実態や、末端の従業員の違法行為について経営者層に責任を負わせることができていない実態についても指摘あり。
    2. 今後議論すべき論点
      • 上記のような指摘を踏まえ、今後の検討会においては、以下等についても議論。
        • 女性客への売春、性風俗店勤務等へのあっせんをいかに防ぐか
        • いかなる者をホストクラブ営業から排除すべきか
        • 悪質ホストクラブに対する制裁が十分か

2.最近のトピックス

(1)AML/CFTを巡る動向

2024年10月4日付日本経済新聞によれば、シンガポール政府は、マネー・ローンダリング(マネロン)対策の指針をまとめ、不動産販売業者や弁護士に対し、顧客の本人確認や取引実態の把握を徹底させるほか、実質的な取引主体である「裏の顧客」も特定するよう求めるとしています。同国では2023年8月に過去最大規模のマネロン事件が摘発され、10人が逮捕、30億シンガポールドル(約3400億円)超の資産が押収・凍結されました。これを受け、政府は新たに複数の官庁からなる委員会を設置して対策に取り組んできたもので、マネロンの温床となりやすいペーパーカンパニーの監視も強め、会計企業規制庁(ACRA)と連携して実態のない企業も調べるとしています。マネロンでは金融機関が管理する金融商品だけでなく、不動産や貴金属、高級品、カジノ取引などが利用されることから、複数の省庁が連携した対策が必要として、データ共有の仕組みや省庁横断のワーキンググループもつくるとし、首相府相は「シンガポールが今後も信頼されるグローバルな金融センターであり続けられるよう尽力している」と強調しています。筆者も10年以上前から、KYC(Know Your Customer)の視点だけでは十分ではなく、KYCC(Know Your Customer’s Customer)の姿勢が求められると主張してきただけに、実質的な取引主体である「裏の顧客」も特定するとの姿勢は高く評価したいと思います。同時に、具体的な実務においてはさまざまなハードルがあるところ、国として本腰を入れた場合、どのような施策が出てくるのかも大変興味があり、引き続き、同国の取り組みを注視していきたいと思います。

AML/CFT/CPF(拡散金融対策)および反社リスク対策、特殊詐欺対策、サイバー攻撃などを含む「金融犯罪」対策の実効性が問われています。そのような中、2024年9月30日付日本経済新聞の記事「金融犯罪、ヤドカリ型で巧妙に もぐらたたき脱するには」は大変示唆に富む内容でした。そこでは、「金融犯罪が巧妙化している。これまでマネー・ローンダリングなどに悪用するための預金口座は、偽造した免許証でつくったり、買い取ったりするのが主流だった。最近は見破るのが難しい「ヤドカリ型」と呼ばれる手口が増えているといい、金融庁や警察庁は警戒を強めている」と指摘されています。さらに具体的には、「「法人口座を400万円で貸してほしい」―。SNS上では、高い金額を提示して特定の金融機関の口座を「借りたい」という投稿が目につく。「法人口座」、つまり企業が使っている口座というのがポイントだ。犯罪者集団はなぜ、法人口座をほしがるのか。金融機関向けマネロン対策サービスを手がけるカウリスの島津敦好社長は「売り上げの入金やオフィス賃料の引き落とし、従業員への給料の支払いなど法人口座は取引が多く紛れ込みやすいため」と解説する。お金ほしさに学生が預金口座を売ったとする。未成年なのに定期的に多額の入出金があれば疑わしい取引として目立つため、金融機関側も警戒レベルを上げて取引を監視しやすい。取引が妥当かどうかは銀行に限らずクレジットカード会社なども厳しくチェックしており、悪目立ちする取引は網にかかりやすい。一方、様々な取引に伴う多額の入出金があるのが当たり前の法人口座の場合、通常の取引に伴う入出金なのか犯罪資金の移動なのか見分けがつきにくい。犯罪集団が「ヤドカリ型」を志向するのはこのためだ。通常の取引が滞るのを避けるため、金融機関側が取引制限に慎重にならざるを得ないジレンマにつけ込んでいる」、さらに「金融機関側の備えはまちまちだ。疑わしい取引があったとして預金口座を凍結する場合、ほとんど自ら判断している金融機関がある一方、警察など外部からの要請があって初めて止めている金融機関も少なくない。SNS上で預金口座が高値で売買されているのは、こうした「対策が甘い」とみられている金融機関だ一つの金融機関だけで不正を見抜くのは容易ではない。このため金融庁と警察庁は金融機関同士で情報共有し、実効的な手立てを打つよう要請している」とし、「カウリスの島津社長は「一般の個人や法人が組み込まれてしまっている『金融犯罪のエコシステム(生態系)』を破壊する必要がある」と話す。中小の金融機関がマネロン対策で後手にまわる背景には、利益を生むわけではない対応にコストをかけられないという意識がある。一方、ネットバンキングやキャッシュレスの普及で利用頻度が落ちているにもかかわらず巨費を投じてATM網を維持している。日本には8億もの預金口座が存在する。金融包摂との兼ね合いには留意する必要があるが、例えば口座利用料を徴収すれば、犯罪集団に狙われやすい休眠口座を減らせる可能性がある。金融犯罪対策をもぐらたたきにしないためには、直接的なアプローチだけでなく遠因になっている要素にも目配りが必要だろう。コストのかけ方を含めて金融犯罪への対応力は金融機関の競争力も左右することになる」といった内容です。カウリス社長の指摘する「一般の個人や法人が組み込まれてしまっている『金融犯罪のエコシステム(生態系)』を破壊する必要がある」のはそのとおりであり、正に「闇バイト」によって不特定多数の若者などを「金融犯罪のエコシステム」に取り込んでいるのがトクリュウであり、トクリュウが「金融犯罪のエコシステム」を構築し、洗練化し、多様な犯罪に応用している点に着目する必要があります

また、2024年10月3日付朝日新聞の記事「口座を転々とする犯罪収益 ツールで暗号資産追跡、被害拡大阻止へ」も興味深いものでした。具体的には、「詐欺や窃盗といった犯罪で得た収益であることを隠すために、暗号資産が使われ、口座から口座へと移動を繰り返すマネー・ローンダリングへの対策が急務になっている。被害者や犯行グループの口座を特定するため、警察庁は来年度から暗号資産の動きを追跡できるツールを活用する方針だ。被害が拡大しているSNS型投資詐欺やロマンス詐欺では暗号資産をだまし取られるケースが相次ぐ。今年のSNS型投資詐欺の被害は8月までに4639件あり、暗号資産が詐取されたのは459件。ロマンス詐欺は2229件のうち394件だった。被害者から現金をだまし取ったケースでも、途中で暗号資産に換えられて資金洗浄されることは少なくない。広島県廿日市市の40代の会社役員の男性が被害に遭ったSNS型投資詐欺事件。SNSで知り合った人物から「金でもうかる話がある」と誘われ、4カ月間で16回にわたって計1億1789万円分の暗号資産をだまし取られた。このように犯人側が被害者と数カ月間やり取りし、複数回にわたってだまし取る手口は多い。暗号資産交換業者は、短期間で頻繁に多額の取引があるなどの犯罪収益の可能性がある「疑わしい取引」を把握すれば、国に届け出ている。警察庁は、追跡できる分析ツールを活用して「疑わしい取引」から口座をたどり、被害者や犯行グループの口座を特定させたい考えだ。同庁は「被害を早期に食い止めるとともに、摘発にもつなげたい」と話す。昨年1年間で「疑わしい取引」の届け出は暗号資産交換業者から1万9344件。届け出件数は5年間で3.2倍に増えた。警察庁は分析ツールのライセンス費用として、来年度予算の概算要求に1100万円を盛り込んでいる」というものです。本コラムでたびたび取り上げているとおり、暗号資産のベースはブロックチェーンであり、本来、取引はすべて記録されていることから、その流れを追うことが可能な状態です。一方、その追跡をしにくくするためのミキシングなどの手法も巧妙化しているため、分析手法をさらに高度化する必要に迫られています

本コラムでもかなり深く分析を加えた、犯罪収益のマネロンを請け負うグループが摘発されたいわゆる「リバトングループ事件」で、組織犯罪処罰法違反(犯罪収益隠匿)と詐欺の罪に問われたグループのリーダーの石川被告(35)、幹部の山田被告(39)の初公判が大阪地裁であり、2人は起訴内容を大筋で認めています。両被告のグループは、協力者にペーパーカンパニーを設立させ不正に金融機関の口座を開設し、違法なオンラインカジノの犯罪収益をマネロンしていたなどとされます。罪状認否で2人は、起訴内容を大筋で認めた上で「オンラインカジノの運営者とは面識がなかった」などと述べた一方、検察側は冒頭陳述で、グループ内では「営業」や「送金」など主に5つの業務を分担し、「両被告はオーナー的立場で業務を総括していた」と指摘しています。起訴状によると、2人は共謀し、2021年11月~2023年8月、不正に会社名義で金融機関の口座を開設したほか、管理する口座にオンラインカジノで得た犯罪収益計約8万円を送金させたなどとされます。

海外に拠点を置くオンラインカジノを巡り賭け金の決済を代行したとして、大阪府警は、収納代行業者4社で役員を務める男女3人を組織犯罪処罰法違反(犯罪収益等隠匿)容疑で逮捕しています。大阪府警は国内からの接続が違法なオンラインカジノの利用を手助けするため、資金の出所を分からなくするマネロンを業者が行っていたとみて実態解明を進めています。本コラムでたびたび取り上げているとおり、日本では公営賭博しか認められておらず、海外のオンラインカジノのサイトに接続して賭博をした場合は違法となります。逮捕容疑は2022年3月から2023年6月までの間、延べ約1万人から14万回にわたりオンラインカジノの賭け金約49億8000万円を集金、これらの現金について、容疑者らの会社とオンラインカジノ業者との間での正式な業務取引の費用であるかのように装い、犯罪収益だと分からなくしたとされます。大阪府警保安課によると、容疑者らは手数料として約1億5000万円を受け取っていたとみられています。なお、オンラインカジノについては、日本人客が急増しているとみられ、警察当局は取り締まりを進めています。「国際カジノ研究所」が2024年8~9月に国内の6千人を対象に実施した調査では、2.8%(人口換算で推計346万人)にあたる人が「1年以内にオンラインカジノを利用した」と回答、2021年の1千人対象の調査では1.6%(同203万人)であり、木曽所長は「利用者は急増していると言える。ポーカーなどのカジノゲームの流行もあり、気軽に手を出してしまう人が増えたのではないか」と指摘しています。警察当局はオンラインカジノ利用の広がりを防ぐため、日本人向けサイトの運営元を摘発したい考えではあるものの、合法な国に拠点がある場合は捜査協力が得られにくいのが実情であり、こうした「壁」を背景に、大阪府警は今回、客の賭け金の収納を代行していた疑いがある日本の業者への強制捜査に乗り出したものです。朝日新聞で、大阪府警幹部は「資金の流れを絶つことで運営元に打撃を与えたい」と狙いを語っていますが、一方、オンラインカジノに詳しい静岡大の鳥畑与一名誉教授(金融論)は「海外の運営元からみれば、規制が緩い日本は『草刈り場』。運営元に警告を出したり、サイトへのアクセスを遮断する措置を取ったり、国として具体的な対策を講じなければ状況は改善されないだろう」と指摘しています。

バングラデシュ暫定政権は、2024年8月上旬に退陣したハシナ前政権下で横行していたマネロンを巡り、国外流出した資金の回収に向けて米連邦捜査局(FBI)などと協力を始めたと報じられています(2024年9月17日付日本経済新聞)。過去15年間に1000億ドル(約14兆円)が違法に流出したと推定しており、資金の回収で国の財源を補う考えだといいます。マネロンは麻薬取引や脱税、詐欺といった犯罪で得た資金を偽造口座や他人の口座などに転々と移すことで、本来の出どころを分からなくさせる行為で、バングラデシュ汚職防止委員会(ACC)は前政権下で行われてきたマネロンを巡り、このほどFBIや組織犯罪に対応する国連薬物犯罪事務所(UNODC)との協議に乗り出したといいます。同国では貿易業務での不正請求や、正規の銀行ルートではない為替手形のやり取りなどで資金が国外へ流出し、マネロンにつながっているとされます。有識者らは年間120億~150億ドルがマネロンで悪用されているとし、7割が貿易品の不正請求に絡むものだと指摘しています。前政権下ではハシナ前首相や与党のアワミ連盟を後援していた政治家や実業家らが数十億ドルを国外に持ち出したとされ、バングラデシュ中央銀行のモンスール総裁によると資金の多くは米国や英国、アラブ首長国連邦(UAE)、シンガポールなどに行き着いているといいます。バングラデシュでマネロン対策に取り組む専門家は「関与した人を特定する努力をすれば、違法な資金を取り戻すのは可能だ」と語っており、こうした犯罪に知見のあるFBIなどと連携することが問題解決を促すとの期待を示しているといいます。世界銀行ダッカ事務所の元主任エコノミスト、ザヒド・フセイン氏はバングラデシュのマネロンが同国経済に大きな影響を与えてきたと強調、「悪用されなければ資金は製造業や貿易業などに投資され、雇用創出にもつながったはずだ」と指摘、バングラデシュの外貨準備高が低水準になった一因にマネロンの影響もあったと言及しています。また、十分な外貨準備高を確保できていれば他国や国際機関から融資を受ける際、条件の交渉を有利に進めることができたとの見方を示しています。一国の経済をも揺るがすほどの大規模なマネロンの真相解明が進み、流出した資金がどれだけ回収できるのか、本コラムでも注視していきたいと思います。

ネットフリックスのドラマ「地面師」が話題となりました。本コラムでもたびたび取り上げてきた積水ハウスがだまされた事件がベースとなっているもので、2024年9月13日付日本経済新聞の記事「他人事ではない劇場型詐欺 「地面師たち」にご用心」でその内容をあらためて取り上げています。プロでもだまされる本人確認の難しさ、道具屋と呼ばれる犯罪インフラのレベルの高さ、トクリュウと同じく細分化された「役割分担」と、その連携などにあらためて驚かされるとともに、犯罪を見抜いた側の取り組みを参考に、実務としてもう一段高いレベルで取り組まないと、簡単にだまされてしまいかねない危機感を覚えます。記事では、「2017年4月、積水ハウスはマンション建設用地を取得するため、仲介業者を介して所有者を名乗る女から東京都品川区西五反田の土地を買い取る契約を締結。ところが土地の所有権移転登記をしようとしたところ、所有者側の提出書類が虚偽と判明。約55億円をだまし取られた。13年8月にはホテルチェーン大手アパグループの関連会社アパが東京都港区赤坂の土地を約12億円で買い取る契約を締結した。しかし契約後の登記申請の審査で、印鑑証明書などが偽造されていたことが発覚。アパは土地を取得できなかった。地面師たちが暗躍したこれらの事件では、複数の人物が役割分担をして演技をし、被害者を信じ込ませる劇場型詐欺の形を取った。犯行計画を立てる主犯格のボスは表には登場しない。出てくるのは所有者を名乗る「なりすまし役」。さらには法的手続きを担う弁護士や司法書士の「法律屋」も登場する。裏ではなりすまし役の演技指導をする「教育係」やなりすまし役を見つけてくる「手配師」、パスポートや免許証などの書類を偽造する役割の人間は「印刷屋」もしくは「道具屋」と呼ばれるらしい。偽造書類も精巧にできていて、積水ハウスの事件では、積水ハウス側は所有者を名乗る女が提出したパスポートの旅券番号が記載されているページを、赤外線ペンライトで照射して調べた。パスポートに透かしが入っているか、あるいは本物の写真の上からニセモノの写真を貼り付けていないかを調べるためという。このような検証を全てクリアしたというのだから、プロ中のプロである大手不動産会社でさえだまされてしまった」、「積水ハウスの事件でも地面師たちは当初、他の不動産会社数社に話を持って行ったらしい。これらの不動産会社の営業マンたちはなりすまし役の女のパスポート写真を手にして、町内会の役員など近隣の人たちに聞いて回ったという。写真が本人かどうかの確認である。そして全員から『ぜんぜん違うよ』との答えを得て、取引を思いとどまった」、「結局、積水ハウスは女の写真を持って近隣住民への聞き込みを行うとか、何気ない会話を交わしてみるといった地道な確認作業を怠ってしまった。住所、生年月日、生まれた年の干支(えと)、買い物に行くスーパーの名前を聞くといった、お役所が行うような、お決まりかつ通り一遍の質問を発するだけでは地面師かどうかを見抜けない」と指摘しています。一方、2024年9月30日付現代ビジネスでは、「ニセモノが積水ハウスに何度も足を運んでいて、なりすましに気づいていないということになる。そんな話がありえるでしょうか。積水ハウスが発表した第三者委員会の調査報告書ではこの点がすっぽり隠されています。それは隠さなければならない事情があったからではないか」、「ニセ地主を仕立て上げる地面師事件では、なりすまし役と買い手の接触をできるだけ減らすのが彼らの常道である。理由はニセモノだとバレないようにするためだ。ニセ地主を取引現場に登場させるのは、たいてい一度きりで、取引の細かいやり取りについては、手馴れた地面師グループの交渉役がおこなう。だが、積水ハウス事件では、肝心かなめの旅館の売買とは別に、なりすまし役がマンションの購入契約を結んでいる。それ自体が極めて奇異なのである。積水ハウスは取引総額70億円のうちマンションの内金6億7390万円を差し引いたおよそ63億円をまるまる騙しとられているのではないか。そんな疑いも浮かぶ。発表した被害額との差を含め、不自然な取引や微妙な金額の誤差の裏には、表沙汰にできない何らかの理由があるのではないか」といった指摘もあり、同社のその後のクーデター騒動もあったことから、真相はどうなのか判然としない点も残ります。

その他、AML/CFT/CPFに関する国内外の報道から、いくつか紹介します。

  • 前回の本コラム(暴排トピックス2024年9月号)で取り上げた、高速道路で「車に石が当たった」などと因縁をつけて運転免許証を撮影し、相手になりすましてクレジットカードをつくって買い物をしたなどとして夫妻らが詐欺容疑などで逮捕された事件ですが、グループが、カフェでも因縁をつけて免許証を撮影していた疑いで再逮捕されています。報道によれば、都内にあるカフェの店内ですれ違った男性に「体がぶつかった」などと因縁をつけ、免許証を見せるよう要求、男性の免許証をスマホで撮影したとみられています。2人はクレカを受け取るためのアパートを借り、入手した免許証番号やアパートの住所を使って偽造免許証を作成、銀行の口座開設やクレカ作成にあたって、偽造免許証でオンラインでの本人確認を突破していたとされます。
  • 中古貨物船の輸出先を偽って税関に申告したとして、警視庁公安部は、大阪市の船舶売買・仲介会社「丸吉通商」と、60代の同社社長の男を関税法違反(虚偽申告)容疑で東京地検に書類送検しています。貨物船は申告先のアラブ首長国連邦(UAE)ではなく、外国船舶に対する襲撃への関与が疑われるイランに輸出されたといいます。報道によれば、同社は2021年5月頃、中古の貨物船1隻をUAEの企業に輸出すると偽り、税関に虚偽の申告書類を提出した疑いがあり、公安部が貨物船の位置情報を分析した結果、日本を出た後、東南アジアを経由して、イラン国内の港に到着していたものです。公安部は2024年2月、同社や関係先を同容疑で捜索し、輸出の詳しい経緯を調べていたといいます。
  • SNS型投資詐欺などの被害金回収をうたい、弁護士名義を他人に貸したとして元衆院議員の今野被告が逮捕、起訴された事件で、今野被告らが実際に回収したのは被害額の約0.5%だったことが判明しています。警視庁は、違法収益の一部をマネロンしたとして、組織犯罪処罰法違反(犯罪収益等仮装)容疑で今野被告ら男4人を東京地検に追送検し、仲間の女を書類送検しています。報道によれば、今野被告らが受け取った着手金は約5億円に上ったものの、警視庁が押収資料を分析したところ、実際に回収して返金したのは約90件、約3600万円で、被害総額72億円の0.5%にとどまりました。着手金が送金された今野被告名義の口座から2024年3月、自身の法律事務所の広告・宣伝費名目で6回にわたり、計約4800万円が仲間の広告会社に送金されていたことも判明、警視庁はこの取引に広告・宣伝費の支払いを装ったマネロンの疑いがあると判断、今野被告や広告会社経営者の60代の女ら5人を組織犯罪処罰法違反容疑で立件したものです。なお。今野被告らが着手金を得る目的で膨大な契約を取り付ける一方、受任業務の大半を放置していたとみられています。
  • 特殊詐欺やマネロンなどの金融犯罪への対処力を高めようと、徳島県警は、徳島大正銀行の杉本さんを任期付きの警察官として採用したといいます。金融機関の職員が任期付きで採用されるのは全国初といいます。2022年からリスク・コンプライアンス部で不審な入出金のある銀行口座の調査などに取り組んでおり、巡査部長として捜査2課で勤務するといいます。
  • 米銀行規制当局の通貨監督庁(OCC)は、マネロンといった違法取引に対するウェルズ・ファーゴ(Wファーゴ)の取り組みが甘いとして、リスクの高い事業への進出を制限したと発表しています。これを受けWファーゴの株価は6.5%下落し、4%安で引けています。OCCは2016年の偽口座スキャンダルを受けて厳しい監視下に置いているWファーゴについて、問題の解決に取り組んでおり、罰金は科さないと表明、ただ、特定の中・高リスク分野に進出する際には許可を得ることを義務付けています。
  • 米連邦準備理事会(FRB)は、マネロン対策を巡って2023年に米シティグループに科した処分を終了すると発表しています。FRBはシティと傘下のメキシコ商業銀行大手バナメックスのマネロン防止プログラムに不備があると指摘し、改善への取り組みを強化し進捗状況を規制当局に報告するよう命じていますが、罰金は科されませんでした。

(2)特殊詐欺を巡る動向

警察庁は、世界的に深刻な詐欺被害への対策で各国と連携を強化するため、海外捜査機関の実務者らを招いて国際会議を開催しました。同庁の露木長官は国境を越える組織的詐欺と戦うため「これまで連携がなかった国と国とが新たに関係構築する機会になれば」、「国境を越える組織的詐欺に対して共に闘うことで、この困難を克服できると確信している」などとあいさつしています。会議は、東南アジア諸国や米、英、ロマンス詐欺の拠点のナイジェリアなど約20カ国と国際刑事警察機構(ICPO)などの国際機関も参加しました。とりわけロマンス詐欺について、関係者は「西アフリカは治安が悪く、犯罪組織が薬物や人身売買に加えネット空間を通じた詐欺にも手を広げた」とみられ、日本でも2010年代から被害が目立つようになり、本国とつながりがあるとみられるナイジェリア国籍の容疑者が日本で摘発される事件もありましたが、組織の実態は分かっていません。警察庁やICPOはナイジェリア当局の捜査力向上を支援、2024年7月には現地の法執行機関から約40人を選抜し、最新の捜査手法を学んでもらう研修を初めて開くなど、今回の会議などを通じて連携をさらに強める狙いがあります。また、ASEAN諸国を招いたのは、日本人の特殊詐欺集団の暗躍が現地で目立つためであり、トクリュウを含め、日本から東南アジアに拠点を移す動きが近年相次いで確認されており、国外への移動は捜査から逃れるためとみられています。さらに東南アジアでは近年、先進国への詐欺だけでなく、各国内の市民を狙った投資詐欺被害も目立つようになっています。露木長官は、2023年に日本警察がフィリピンやタイの捜査機関と20回以上協議し、拠点8カ所を摘発したと明らかにした上で「氷山の一角。関係国の捜査機関とのさらなる協力が不可欠」としています。日本は摘発事例や捜査上の着眼点を発表し、各国は最新手口や対策を報告しています。海外でも詐欺の被害は深刻で、米国では2023年に投資が絡む詐欺で45.7億ドルの被害があったほか、フランスや英国などではロマンス詐欺の被害が出ており、カナダでは警察官や親族をかたる詐欺も確認されています。2023年12月のG7茨城水戸内務・安全担当相会合や、2024年3月に英国で開かれた国際詐欺サミットでも各国の状況が共有され、連携の強化が進められてきた経緯があります。日本国内では2023年の特殊詐欺の認知件数が1万9038件で、直近10年間で最多になったほか、被害額は452億6千万円に上りました。SNS上で著名人などをかたって投資に勧誘する「SNS型投資詐欺」の被害も深刻化している状況です。

米メタが運営するSNS「フェイスブック」上で大手証券会社をかたる多数の偽アカウントが2023年8月以降に累計約1万件の広告を配信していたことが分かったと報じられています(2024年9月24日塚日本経済新聞)。証券各社は2023年秋にメタに対策を求めたものの削除などの対応は直ちには行われず、投資詐欺につながる広告が8カ月近く野放し状態だったといいます。SNSを使って虚偽の投資話を持ちかけ金銭をだまし取る詐欺は2023年夏から被害が急増し、社会問題になっています。被害者を対話アプリのグループチャットなどに引き込むきっかけとなるのが、著名人らにみせかけた「なりすまし広告」で、実在する証券会社の名称や企業ロゴを悪用するケースも多いものの、SNS各社の対応は鈍いと指摘され続けています。報道によれば、大手証券会社4社(「SBI証券」「楽天証券」「松井証券」「大和証券」)のいずれかになりすました広告は2023年8月から配信され始め、10月以降に急増、月ごとの配信件数は2024年3月が2468件と最多で、5月までの10カ月で計9932件に上り、「SBI証券」になりすました広告が8767件と最も多く、全体の9割近くを占めたといいます。この関連を見る限り、SNS各社が何らかの規制に早く踏み込めていれば、これだけの莫大な損失を社会が被ることもなかったのではないかとさえ考えてしまいます(表現の自由を尊重することを大前提としても、です)。残念ながら、メタに限らずSNS各社の「不作為」が犯罪組織の資金獲得活動を助長したといっても過言ではあありません。本コラムでも継続的に注視してきたなりすまし広告問題は、2024年4月に自民党の会合に招かれた起業家の前沢友作氏らが被害を訴えたことで注目を集め、経済産業省と総務省は6月にメタに対し、広告審査が不十分だとして改善を求めたことで、メタがなりすまし広告の削除対策に本格的に乗り出すことになったように見えます。データベースで確認できた約1万件のうち、2024年5月時点で「規定違反」などを理由に削除していたのは全体の8%にとどまっていましたが、現在は大部分が表示されなくなっているといい、6月以降、なりすまし広告の新規配信はデータベースでは確認できていません(つまり、本腰を入れて取り組もうとすればできたのではないかということであり、莫大な被害が発生してからではあまりに遅すぎたと批判を浴びても仕方のない状況だといえます)。ただ、投資詐欺そのものは依然として活発な状況にあります。経済産業省は6月に公表した資料で「なりすましが起きても、実害が発生するまでメタは問題と認識しない姿勢だ」と日本の偽広告対策に後ろ向きだった同社へのいらだちを示しました。広告を収益源とするSNS事業者の自主的な取り組みには限界があることはもはや明らかであり、総務省の有識者会議では対策を義務づける法制度の必要性を指摘する声も強まっていると感じています。なお、この問題で、金融庁は、情報提供の受付窓口を同庁のホームページ上に開設しています。寄せられた情報を踏まえ、SNS運営事業者に広告削除を促すなど活用するということです。

▼金融庁 SNS上の投資詐欺が疑われる広告等に関する情報受付窓口の設置等について
  • 昨今、著名人等になりすましたものを始めとするSNS上の投資広告や投稿等による詐欺被害が数多く発生しており、本年6月18日にはこうした詐欺被害に対応するため、「国民を詐欺から守るための総合対策」が犯罪対策閣僚会議により策定されたところです。
  • そのような著名人等になりすました偽広告等を含め、投資詐欺を目的とするようなSNS上の広告等については、金融商品取引法に違反する可能性があるところ、今般、金融庁では、当該広告等に関しての情報収集等のうえ、当該広告等の削除につなげるなど、SNS事業者等と連携し対応を実施するため、「SNS上の投資詐欺が疑われる広告等に関する情報受付窓口」を設置いたしました。
  • つきましては、情報(偽広告等をきっかけに投資や投資のアドバイスの勧誘を受けた、又は実際に投資詐欺の被害に遭ったなど)をお持ちの方は、以下の要領等をご覧頂き、入力フォーム新しいウィンドウで開きますから情報提供をお願いいたします。
  • なお、今般、Facebook及びInstagramにおいて、金融庁の関連アカウントを開設しておりますので、あわせてお知らせいたします。当該アカウントよりSNS上の投資詐欺が疑われる広告等に関する注意喚起等の発信を予定しております。

大阪府の吉村洋文知事は、特殊詐欺の被害から高齢者を守るため、「高齢者はATMを操作中に携帯電話で通話してはならない」といったルールを条例化しようとしています。大阪府によると、府内では1日平均1000万円もの特殊詐欺被害が発生しており、吉村知事は「一生懸命ためた老後の資金。だまし取られるのを防ぎたい」と意義を強調しています。大阪府は専門家らによる審議会を設置し、2025年2月開会の大阪府議会に条例改正案を出す予定としています。ただ、課題は山積しており、無人のATMも多く、誰が通話をやめさせるのか、注意した店員が「カスタマーハラスメント」の被害に遭わないか、どうやって高齢者と見分けるのかなどが指摘されているところです。今回、大阪府が改正を検討しているのは「安全なまちづくり条例」で、特殊詐欺対策として新たに加えようとしているルールは、(1)高齢者はATMの前で携帯電話の通話を禁止する(2)金融機関には不自然な出金を確認したら警察への通報を義務付ける(3)コンビニなどへは、高額のプリペイドカードを購入する客に目的を確認するよう義務付ける(4)高齢者の口座からの振り込みを制限する(5)被害に遭った店舗やATMの設置場所を公表する、というものですが、熊本県や岡山県などでもATMでは携帯電話の操作を控えるよう促す条例を作ったがものの、いずれも制約を課さない努力義務となっています。一方、大阪府は禁止や義務付けに踏み込む考えで、成立すれば全国初となります。ただし、罰則は設けない方針としています。ここまで踏み込む背景には特殊詐欺被害の深刻さがあります。また、人工知能(AI)の活用も進んでいるところですが、金融業界の委員はATM前での通話禁止について、被害を防ぐ効果は認めつつも「技術的には困難で、コストも増える」と懸念、また、被害に遭った店舗やATMの公表については「犯罪者に狙われやすくなってしまう」と述べ、逆効果となる可能性を指摘しています。コンビニ業界の委員からは「店員が声かけしても『若造が何を言っているんだ』と、カスハラになりかねない」とトラブルを心配する意見も出ています。金融機関やコンビニの立場からは、規制のかけ方がポイントになり、条例によって新たな投資や人員が必要になれば、事業者の負担になり、ATMやプリペイドカードを撤去してしまえば、利用者の不利益につながるため、両者のバランスを取って実効性のある規制を見極めるのは難しい作業となります。筆者としては、規制に反対するだけではなく、利便性とどう折り合いをつけながら被害を防いでいくことができるのかの観点から、官民挙げて知恵を絞っていただくことを期待しています。

特殊詐欺の「三種の神器」の1つが(ターゲットとなる)個人情報(名簿)です。だまし取られたものと知りながら、北海道の高校の同窓会名簿約3万3000人分を買い取ったとして、大阪府警は、盗品等有償譲り受けなどの容疑で名簿会社代表を逮捕しています。この会社が管理する名簿が特殊詐欺事件に悪用された可能性もあるとみて調べるとしています。関連して、高校の卒業生になりすまして、同窓会名簿をだまし取ったなどとして、詐欺容疑などで無職の容疑者が逮捕、追送検されていますが、容疑者の会社に保管されていた名簿を基に健康保険証を偽造し、卒業生になりすましたとみられています。容疑者はこれまでに少なくとも181冊の名簿を容疑者の会社から購入、約168万円を支払っていたといい、府警が容疑者の会社で管理されていた名簿のうち約1200人を調べたところ、75人が実際に詐欺被害に遭っていたといいます。こうした名簿は、犯罪グループ同士で売買されるなどして、広く共有されている実態があります。

特殊詐欺の「三種の神器」の1つが「飛ばしの携帯電話」ですが、固定電話番号も悪用されている実態があります。総務省の有識者会議では、この番号が犯罪に悪用されることを阻止すべく議論を重ねてきましたが、今般、その報告書が公表されました。

▼総務省 情報通信審議会 電気通信事業政策部会 電気通信番号政策委員会(第37回)配布資料・議事録
▼資料 37-6 電気通信番号の犯罪利用対策に関するワーキンググループ 報告書 概要
  • 構成員意見の概要
    1. 現行制度の課題
      • 番号使用計画の認定基準については犯罪利用に関するものが入っていない。また、認定後に行う使用状況の報告においても、番号の犯罪利用に関する内容の報告を求めておらず、犯罪利用に関わったことによる法律上の担保がないと感じる。
      • 逮捕・起訴され判決に至った認定事業者が、現在も認定を受けているのは問題なのではないか。
      • 特殊詐欺に関与し、逮捕・起訴・有罪となった事業者でも、現在の番号制度では特殊詐欺などの犯罪に関与したことをもって認定の欠格事由とすることはできず、総務省が公開する認定事業者リストに引き続き掲載されていることは問題。
      • 現行の認定基準は、公平、効率的な電気通信番号の使用等の観点からのみ規定されているが、この点を見直して、番号の不適正利用のおそれが疑われる事業者の認定を行わないための制度上の仕組みが求められるのではないか。
      • 電話番号が特殊詐欺などに悪用されているという実態を考えると、何らかの制度的な対応が必要。
      • 犯罪に結びつくおそれのある番号の制度であっては、我々が安心して電話番号を使うことができない。
    2. 対策方法(総論)
      • 刑事的な世界での対処も考慮しつつ、軸となる電気通信事業法の中で、行政法的な手だてを考えていく議論が必要。
      • 犯罪利用対策としては、電気通信事業法を見直して、必要な制度をインストールしていくという方向が適当。
      • 電気通信事業法の第1条(目的)では「電気通信役務の円滑な提供を確保するとともにその利用者等の利益を保護し」との記載があるが、この「利益」の中には、安心して安全に電話番号制度を利用するというところも含まれるもと考える。
      • 世間的には、総務大臣が行う認定には犯罪に利用されていない適正な利用も含めて認定しているという期待があるのではないか。このため、電気通信事業法の中で、その担保が必要となるのではないか。
      • 番号の使用状況報告を行っていない事業者の全てが悪質な事業者とはいえないことも考慮に入れる必要があるのではないか。
      • 番号制度の見直しを行った上で、JUSAが構築しようとしている事業者評価制度等と協力していくやり方もあるのではないか。
    3. 対策方法(各論)
      1. 欠格事由・認定基準に関する意見
        • 犯罪利用に関する認定基準や欠格事由を設けるというのが一つの方法として考えられるのではないか。
        • 欠格事由に該当していることを認定申請時や認定後に申告してくるとは考えにくい。このため、疑義がある場合にはしっかり調査する仕組みが重要。また、欠格事由への該当についての虚偽申請や申告していなかった場合に何らかの強力なペナルティーや制裁が必要なのではないか。
      2. 番号の提供を行うに際し事業者に求める対応に関する意見
        • 特殊詐欺に関与した事業者が起訴され、判決が出るまでには相当な時間が必要となる。このため、不適正利用の防止の観点からどのような対策を講じることが有効か考える必要があるのではないか。
        • 認定の取消しだけで抑止力、制裁となり得るのか検討が必要ではないか。例えば、短命覚悟で犯罪利用する事業者に対しては、番号の提供元事業者が提供を行う際に対策を講じることが有効なのではないか。
        • 番号の犯罪利用対策については、例えば、卸先事業者の確認、提供数の制限、使用計画の認定の確認、本人確認、二次卸の制限等が考えられるのではないか。
        • 事業者及びその卸元事業者に対し、提供した番号を犯罪に利用させたことの責任を負わせるということもありうるのではないか。
        • 電気通信番号の卸提供を行う事業者に対し、卸提供契約時に相手方の本人確認を行わせることに加え、当該番号が不適正に利用されないための対策等を講じさせるよう制度上の措置が必要ではないか。
        • 例えば二次卸などを原則禁止として、二次卸に至る場合には、厳しい確認の要件を課すというようなやり方もあるのではないか。
        • 卸先事業者が電話をユーザーに提供する際の本人確認等をもっと明確にしていくということ対策として有効ではないか。
        • 各社が行っている犯罪利用対策の中で有効なものを全事業者が実施することで、悪用の可能性を減らしていけるのではないか。
        • 制度整備にあたっては、事業者が対応可能で一定の効果が上げられる制度とする必要がある。
      3. 番号の卸契約時における提供先事業者の適正性の判断に関する意見
        • 提供先事業者が怪しいかどうかあらかじめ判断することは困難(判断基準がない)。
      4. 犯罪利用対策の義務づけに関する意見
        • 具体的にどのような対策が義務づけられるかが明確でないと事業者としてコメントできない。
        • 過度なものとならないよう実行可能性の観点からも検討して欲しい。
        • 日本市場の活性化、国際競争力の確保をおこないつつ、犯罪対策にもつながるような対応が理想ではないか。
        • 電話転送役務の提供にあたっては番号制度と犯罪収益移転防止法に基づく本人確認が必要であるが、これは中小の電気通信事業者でも実施をしているものである。このため、同様の内容を課すのであればKYCプロセスの義務化に問題はないのではないか。
        • KYCプロセスの義務化の検討を行うにあたっては、事業者の対応も必要だが、利用者等に理解いただく必要がある。個人情報の提出を求めるのは、仮に制度で定められていても利用者から理解を得るのが難しい。
        • KYCについては、法律上義務化された方が利用者に対して説得力がある。
  • 事業者の取組に対する意見の概要(電気通信番号使用計画の認定の確認について)
    1. 事業者意見
      1. 全体の方向性に関する意見
        • これまでも現行制度に基づき認定状況の確認を実施しており、追加負担は大きくない。
        • 電気通信番号使用計画の認定及び電気通信事業者であることの確認は有効であり、現状を鑑みるに行うべきだと考えられる。
        • 各卸元事業者が主体的に取り組むべきものと認識しており、法令による取組の義務づけについては慎重に検討すべきではないか。
      2. 番号種別に関する意見
        • 固定電話番号及び特定IP電話番号は賛成。音声伝送携帯電話番号は、携帯電話不正利用防止法で足りるのではないか。
        • 音声伝送携帯電話番号は現状義務づけがないため、義務づけは事業者の過度な負担となる。
        • 音声伝送携帯電話番号を確認対象とすることは負担ではあるが、犯罪利用対策という趣旨に鑑みれば対応可能。
      3. 確認方法に関する意見
        • 確認方法は、認定証の確認と合わせて、総務省が公表している認定者リストと照合することが有効ではないか。
      4. 対象事業者に関する意見
        • 確認対象はこれから卸提供を行う場合のみとして欲しい。
        • 既存の卸契約も確認が必要。
        • 外国事業者に流れた番号のサプライチェーンは特に確認が必要
      5. その他意見
        • 確実な実施に向けて、広報・啓発等の推進が必要。
        • 認定を受けていることが確認できなかった場合の対応について明確にする必要がある。
        • 事業者側の負荷についても考慮が必要
      6. 対象事業者に関する意見
        • 認定の確認は、新規だけではなくて全ての事業者に対して実施が必要。
        • 事業者への負担が特殊詐欺対策を超える正当な理由になるとは考えられない。
      7. 確認方法に関する意見
        • 事業者による確認作業を、効率的かつ信頼性の高いものとするため、クリアな基準が設けられることが必要。基本的には認定証の照合を行うことが適切。
        • 総務省は認定の取消しを受けた事業者を公表し、事業者はそのようなネガティブ情報を自主的に確認することで、より効果的な確認作業が行えるのではないか。
        • 特殊詐欺の犯罪に関与する事業者に番号を提供しないため、事業者の自主的な取組として期待し得る内容をある程度整理したガイドライン等が必要ではないか。
        • 事業者の自主的取組として認定事業者リストを参照してもらうのであれば、これに資するよう、総務省は当該リストを更新していく必要がある。
        • 認定事業者リストは公表されている以上、悪意を持っている者は、当該リスト上の事業者名を用いて認定証の偽造が可能になる。そう考えるとリストの確認は重要とまではいえず、認定証の確認を重視した方が良いのではないか。

SNS上で著名人などをかたって投資に勧誘する「SNS型投資詐欺」の2024年1~8月の被害額が約641億4千万円に上ったことが警察庁のまとめで分かりました。2023年同期比で約527億4千万円増、認知件数は4639件となり、3593件多くなり、その猛威ぶりが際立ちます。月別では4月の被害額約115億1千万円、認知件数808件がピークで、被害額は4カ月連続での減少となりましたが、認知件数は2カ月連続で増えており、警察庁が注意を呼びかけています。犯人側がかたった職業は「投資家」が最多で、「その他著名人」や「会社員」、「芸術・芸能関係」も目立つほか、犯人側と被害者が最初に接触した主なツールは、インスタグラム、LINE、フェイスブックが多い。各ツール内のバナー広告やダイレクトメッセージ、グループ招待を通じての被害が目立っています。

▼警察庁 令和6年8月末におけるSNS型投資・ロマンス詐欺の認知・検挙状況等について
  • 認知状況(令和6年1月~8月)
    • SNS型投資・ロマンス詐欺の認知件数(前年同期比)は6,868件(+4,860件)、被害額(前年同期比)は約877.9億円(+666.8億円)、検挙件数は103件、検挙人員は53人
    • SNS型投資詐欺の認知件数(前年同期比)は4,639件(+3,593件)、被害額(前年同期比)は約641.4億円(+527.4億円)、検挙件数は58件、検挙人員は22人
    • SNS型ロマンス詐欺の認知件数(前年同期比)は2,229件(+1,267件)、被害額(前年同期比)は約236.5億円(+139.3億円)、検挙件数は45件、検挙人員は31人
  • SNS型投資詐欺の被害発生状況
    • 被害者の性別は、男性53.5%、女性46.5%
    • 被害者の年齢層では、男性は60代28.5%、50代23.9%、70代16.7%の順、女性は50代29.5%、60代23.8%、40代15.6%の順
    • 被害額の分布について、1億円超は男性36件、女性33件
    • 被疑者が詐称した職業について、投資家35.6%、その他著名人14.9%、会社員4.6%の順
    • 当初接触ツールについて、男性はFB19.8%、LIINE20.4%、FB19.5%、インスタグラム17.6%の順、女性はインスタグラム33.5%、LINE17.7%、FB11.6%の順
    • 被害時の連絡ツール(欺罔が行われた主たる通信手段)について、LINE92.5%、被害金の主たる交付形態について、振込88.0%、暗号資産9.9%など
    • 被害者との当初の接触手段について、バナー等広告48.1%、ダイレクトメッセージ26.0%、グループ招待8.1%など
    • 被害者との当初の接触手段(「バナー等広告」及び「ダイレクトメッセージ」)の内訳(ツール別)について、バナー等広告では、インスタグラム30.5%、FB18.1%、投資のサイト14.3%の順、ダイレクトメッセージでは、インスタグラム27.2%、FB20.6%、LINE16.8%、X12.2%、マッチングアプリ7.4%、TikTok4.2%など
  • SNS型ロマンス詐欺の被害発生状況
    • 被害者の性別は、男性62.0%、女性38.0%
    • 被害者の年齢層では、男性は50代28.5%、60代27.0%、40代20.7%の順、女性は40代29.2%、50代27.7%、60代17.1%の順
    • 被害額の分布について、1億円超は男性4件、女性14件
    • 被疑者が詐称した職業について、投資家11.0%、会社員10.9%、会社役員6.4%、芸術・芸能関係3.9%、軍関係3.5%の順
    • 当初接触ツールについて、男性はマッチングアプリ35.8%、FB23.5%、インスタグラム15.8%の順、女性はマッチングアプリ34.9%、インスタグラム33.3%、FB17.2%の順
    • 被害時の連絡ツール(欺罔が行われた主たる通信手段)について、LINE93.3%、被害金の主たる交付形態について、振込76.4%、暗号資産17.7%、電子マネー5.0%など
    • 被害者との当初の接触手段について、ダイレクトメッセージ78.6%、その他のチャット6.5%、オープンチャット2.9%など
    • 被害者との当初の接触手段(「ダイレクトメッセージ」)の内訳(ツール別)について、マッチングアプリ30.3%、インスタグラム26.2%、FB23.3%、X5.2%、TikTok5.1%、LINE3.7%など
    • 金銭等の要求名目(被害発生数ベース)について、投資名目70.9%、投資以外29.1%、金銭等の要求名目(被害額ベース)について、投資名目82.8%、投資以外17.2%

SNSで架空の投資取引などを持ちかけるSNS型の投資詐欺の被害にあう方もおり、1億円以上を一気に失うケースも散見されます、投資した翌日に「利益」が出たことから、さらに多額の投資を重ねていくといった手口が典型のようです。「もうかっている気になってうかれてしまい、だまされてしまった」と振り返る被害者が多いと感じます。同じく、ロマンス詐欺でも1億円以上の被害を受けるケースが後を絶ちません。被害に遭う人は40~60代が中心で、SNSのインスタグラムやマッチングアプリを経由した接触が目立ちます。不自然な日本語の使用や法人口座への振り込み案内といった注意点に加え、相手のプロフィル画像の確認などの対策をしっかり行うことが大切だと警察はアドバイスしています。

暴力団が詐欺に関与するケースも相変わらず発生しています。

  • 会社の買収を装い法人名義の銀行口座をだまし取ったとして、京都府警捜査4課と上京署は、詐欺の疑いで、暴力団組員ら男3人を逮捕しています。共謀し、東京都の30代の女性が代表を務めていた会社の買収を装い、女性に「事業拡大のために会社が必要」などとうそを言い、2023年10月、女性から同社名義のインターネットバンク口座のキャッシュカードや法人印をだまし取った疑いがもたれています。京都府警によると、口座にはSNS型投資詐欺の被害金数百万円が振り込まれていたといいます。府警は、男らが口座を犯罪に使用することを隠して女性に会社の買収を持ちかけていたとみており、SNS型投資詐欺グループによる犯行の可能性があるとみて捜査しています。
  • 特殊詐欺のかけ子グループに電話回線を提供したとして逮捕されていた、暴力団幹部について、大阪地検は「不起訴処分」にしています。幹部は2022年、大阪府に住む当時70代の女性が架空請求により約1200万円をだましとられた事件で、「かけ子」が使った電話回線6本を、自身が実質的に経営する会社2社から提供したとして、詐欺の疑いで2024年3月に逮捕・送検されていたものです

SNS型投資詐欺を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • スペインの警察当局は、米俳優のブラッド・ピットさんに成り済まし、女性2人から32万5000ユーロ(約5200万円)をだまし取ったとして、5人を逮捕しています。被害者はピットさんと恋愛関係にあると思い込んでいたといいます。犯行グループは、ピットさんのファンサイトにアクセスする女性らを狙い、オンラインでやりとりしており、架空の投資話を持ち掛け、女性2人からそれぞれ17万5000ユーロ(約2800万円)と15万ユーロ(約2400万円)を詐取したといいます。報道によれば、犯行グループはSNSの投稿内容を詳しく調べ、2人の女性が「愛情不足でうつ状態」にあることを確認した上で犯行に及んでいたとされ、グループとのやりとりを通じ、女性はいずれも「ピットさんが将来を共にすると約束した」と信じていたといいます。
  • (以前の本コラムでも取り上げた)SNSを使った投資詐欺グループが摘発された事件で、大阪府警は、公開手配していた住居不定・無職の容疑者(26)を詐欺容疑で逮捕しています。事件の逮捕者は計106人となりました。特殊詐欺捜査課によると、容疑者は公開手配された直後に府警本部に出頭し、逮捕されました。グループ内でメンバーへの報酬の支払いなどを担当していたとみられています。
  • 埼玉県警浦和署は、80代の男性がSNSを通じて投資話を持ちかける「SNS型投資詐欺」で、2億8811万円をだまし取られる被害に遭ったと発表しています。報道によれば、埼玉県内での同種の詐欺の被害額としては、過去最高額だといいます。2024年4月上旬頃から、SNSを通して知り合った日本人の女をかたる人物から、男性に「ネットショップの経営をしないか」、「商品仕入れに費用が必要」などとのメッセージがあり、男性は2024年4月から7月までに55回、インターネットバンキングで指定口座に現金を振り込んだといい、1回の振込額は最高で990万円だったようです。SNSを通して「売り上げはシステム内に入ってくる」という説明があり、男性には「もうけが13億円出た」と誤信させる画像が示されていたといいます。8月上旬頃、連絡が途絶えたため、男性が浦和署に相談して発覚したものです。
  • 北海道警深川署は、空知地方に住む70代の男性が約1億4000万円のSNS型投資詐欺被害に遭ったと発表しています。男性は2024年7月、SNSで日本人女性を名乗る人物と知り合い、投資話を持ちかけられました。その後、投資サイトに誘導され、日本人男性を名乗る2人とやりとりし、7月31日から9月26日までに、11回にわたって計約1億4000万円を投資資金として振り込んだといいます。利益分を引き出そうとした際に手数料を請求された男性が不審に思い、弁護士などに相談して被害が発覚したものです。

ロマンス詐欺を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 大阪府警は、府内で1億円以上をだまし取られる投資詐欺の被害が2件確認されたと発表しています。いずれもマッチングアプリを使った手口で、注意を呼び掛けています。報道によれば、府内の60代男性は2024年5月、マッチングアプリで大手商社のアナリストを名乗る「江美」という人物と知り合い、一緒に暮らすために投資をしようと持ちかけられ、8月まで21回にわたって計約1億5000万円を指定された口座に振り込んだといいます。男性は「江美」とSNSでもやりとりをしており、女性の私生活をうかがわせるような写真が複数回送られてきたほか、SNSで女性と音声だけの会話もしたといい、恋愛感情を抱かせる手口だったとみられています。また、府警は同日、府内に住む地方公務員の50代女性が約1億1300万円分の暗号資産を詐取される被害もあったことも明らかにしています。マッチングアプリで知り合った人物から投資名目でだまし取られたといいます。
  • 兵庫県警は、50代の地方公務員の男性が、マッチングアプリで知り合った相手から投資話を持ちかけられ、約1億2000万円相当の暗号資産をだまし取られたと発表しています。報道によれば、男性は2024年6月頃にアプリで女性を名乗る人物と知り合い、LINEで「ビットコインを増やしてあげる」と誘われ7~9月に指定された送金先に18回にわたって暗号資産を送ったといいます。男性は相手に恋愛感情を抱いていたといい、相手からは利益が出ているように装ったグラフなどの画像がLINEで送られてきていたといいます。
  • 警視庁は、60代の男性が、SNS上で恋愛感情を抱かせて金銭をだまし取る「ロマンス詐欺」の被害に遭い、約7千万円をだまし取られたと発表しています。武蔵野署によると、男性は2024年6月上旬、気軽に友達を作ることができるとうたうインターネット上のサイトで知り合い、女性とLINEを開始、その後、紹介された「指南役」から「確実に利益が出る」とすすめられた金投資名目で、現金を計約10回にわたって指定された銀行口座に振り込んだといい、8月下旬に投資先の「指南役」を名乗る人物から「あなたの口座がマネロンの疑いで凍結された。解凍に500万円が必要だ」などと要求され、不審に感じて同署に相談して被害が発覚したものです。
  • 山形県警は、山形市の自営業の60代男性が、フェイスブックで知り合い親しくなった中国出身の女を名乗る人物を介して投資話を持ちかけられ、計6310万円をだまし取られたと発表しています。県警は好意を抱かせる「ロマンス詐欺」とみて調べています。報道によれば、男性は相手とのLINEのやりとりで老後の資産の話題になり、投資に詳しいという別の人物を紹介され、この人物などの指示で2024年5~7月、金への投資名目などで8回にわたり、計6310万円を振り込んだといい、運用益に税金がかかると説明され、不審に思った男性が県警に相談して発覚したものです。

特殊詐欺の新たな手口について、いくつか紹介します。

  • 警察官を名乗る人物が、「あなたの銀行口座を調べる必要があるので、預金を金塊に換えてください」といった文言で高齢者から金塊をだまし取る新手の特殊詐欺事件が全国で相次いでいます。預金を金塊に換えさせてだまし取る手口のため、1件当たりの被害額も大きく、警察は警戒を強めています。わざわざ金塊に換えさせる手口なのかについては、捜査の網をすり抜ける思惑と国際情勢があげられるといいます。警察幹部は「従来の特殊詐欺対策をすり抜ける狙いがある」と指摘、銀行やコンビニなどでは、多額の現金を引き出そうとしたり、携帯電話をかけながらATMを操作したりする利用者がいないか警戒を強めており、行員や店員が積極的に声を掛ける特殊詐欺対策が浸透しています。一方、相手が「金塊に換える」と言われれば、すぐさま特殊詐欺と見抜くのは難しいというものです。また、世界的な金価格の高騰もあるとされます。金は世界中どこでも売れ、現金化すれば、今なら上乗せして利益が得られる可能性も高いことが背景にあると考えられます。実際、金が絡むトラブルも増加、国民生活センターによると、不用品買い取り名目で訪問してきた人物に貴金属などを強引に買い取られる「押し買い」の被害が近年増加しているといいます。
  • 福岡県警小倉北署は、小倉北区の30代の男性会社員が、携帯電話に表示された電話番号の末尾「0110」を見て警察から電話がかかってきたと思い込み、要求されるままに現金を振り込んでだまし取られたと発表しています。警察署の代表番号などで使われる「0110」を表示して相手を信用させ、現金をだまし取る特殊詐欺被害が全国で相次いでおり、警察は注意を呼びかけています。報道によれば、男性の携帯電話に警視庁の警察官を名乗る男から「逮捕した詐欺集団があなたの銀行口座に収益金を入金している」と電話があり、兵庫県警の警察官を名乗る別の男から「送金すれば識別番号が発行されて容疑が晴れる」などと要求され、表示された電話番号の下4桁が「0110」だったため警察からの電話だと信じ、指定された二つの銀行口座に計87万円を送金してだまし取られたものです。
  • 「動画を見るだけ」、「いいねを押すだけ」など簡単な作業で報酬が得られるとうたう副業を巡るトラブルが急増しているといいます。応募したところ様々な理由で送金を指示され、金銭をだまし取られるケースが多いといい、国民生活センターは「簡単に稼げるなどと強調する広告は詐欺の可能性がある」と注意を呼びかけています。報道によれば、指示された作業をこなすと「ミスの処理費用」「報酬を引き出すための費用」など様々な理由で金銭を振り込むよう指示されるのが主な手口だといい、始めは簡単な作業で数百円程度の報酬を得られることもあり、相手方から高額な費用負担を求められても「それ以上の報酬がもらえる」と期待して指示通りに金銭を支払ってしまうことが多いといいます。

海外と関係した特殊詐欺を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • ベトナムを拠点に特殊詐欺をしたとして、北海道警と新潟、埼玉両県警の合同捜査本部は、無職の容疑者を詐欺容疑で逮捕しています。事件に使う口座を開設し、拠点を管理する立場にあったとされます。埼玉県警などは同容疑でグループのメンバーとみられる7人を逮捕、容疑者を公開指名手配し、同日夕に大阪市淀川区のホテルで身柄を確保したものです。共謀し、2023年11月、新潟県加茂市の60代の女性に金融機関の職員などを装って架空請求の電話をかけ、現金約79万9千円をだましとった疑いがもたれています。容疑者のグループはカンボジアでも特殊詐欺に関わった疑いがあり、2023年9月に拠点をベトナムへ移したとみられ、東京や香川など11都道県で25件(被害額計2933万4920円)の詐欺に関わったとみられるといいます。
  • カンボジアを拠点とする特殊詐欺グループにリクルート役として関与したとして、警視庁暴力団対策課は詐欺の疑いで、職業不詳の容疑者2人を逮捕しています。2人は、特殊詐欺の電話をかける「かけ子」役を募り、カンボジアの拠点に送り込んでいたとされます。同課は2023年4月、カンボジアから移送されたかけ子ら計19人を逮捕しており、そのうち数人が容疑者らによって送り込まれていたとされ、グループではこれまでにこの19人を含む計21人がいずれも詐欺容疑で逮捕・起訴されています。グループによる被害者は2001年7月~2023年1月、26都道府県で計107人が確認されており、被害総額は計約10億7千万円に上るとみられれています。
  • カンボジア南部のリゾートホテルを拠点としたグループの特殊詐欺事件に関与したとして、詐欺罪に問われたリーダー格の山田被告に東京地裁は、懲役8年(求刑懲役12年)の判決を言い渡しています。裁判官は「組織的、継続的な犯行で高齢の被害者を狙った点で卑劣」と非難し、グループのまとめ役だった被告の責任は重いと判断しています。判決によると、被告は2022年11月~2023年1月、カンボジアからKDDI担当者などを名乗らせた「かけ子」に「有料サイトの未払い料金がある」などと電話をかけさせ、栃木県や長野県の高齢者11人から計約2900万円を詐取したとされます。
  • カンボジアを拠点に特殊詐欺を主導したとして、埼玉県警は、職業不詳の男、無職の男の両容疑者を詐欺容疑で逮捕しています。2人は詐欺を指南するなどの首謀者とみられています。何者かと共謀し、2023年12月、横浜市の70代の女性方に長男を名乗って複数回電話をかけ、女性宅付近の路上で現金102万円をだまし取った疑いがもたれています、職業不詳の男は仲間から「ボス」「先生」と呼ばれ、2023年、グループが拠点としていたカンボジア南部シアヌークビル州のホテルに出入りし、詐欺の手口を指示したり、だまし取った金をメンバーに配分したりして、組織を指導していたといいます。埼玉県警は、カンボジアのホテルからSNSで詐欺グループメンバーを募集した男ら、計5人を逮捕しており、捜査の過程で押収したスマホなどから職業不詳の男らを特定したものです。

警察庁から、令和6年(2024年)1月~8月の特殊詐欺の認知・検挙状況等について発表されています。

▼警察庁 令和6年8月末の特殊詐欺認知・検挙状況等について

令和6年1~8月における特殊詐欺全体の認知件数は12,362件(前年同期12,546件、前年同期比▲1.7%)、被害総額は350.3億円(271.7億円、+28.9%)、検挙件数は3,745件(4,552件、▲17.7%)、検挙人員は1,286人(1,452人、▲11.14)となりました。ここ最近、認知件数や被害総額が大きく増加していましたが、最近は減少傾向に転じている点が特徴です。ただし、相変わらず高止まりしていること、SNS型投資詐欺・ロマンス詐欺の被害が急増していることと併せて考えれば、十分注意する必要があると言えます。うちオレオレ詐欺の認知件数は3,239件(2,715件、+19.3%)、被害総額は186.8億円(82.0億円、+127.9%)、検挙件数は958件(1,421件、▲32.6%)、検挙人員は480人(606人、▲20.8%)となり、認知件数、被害総額が大きく増加した一方で、検挙件数、検挙人員ともに減少に転じましたが、オレオレ詐欺もまた高止まりしている点に注意が必要です。また、還付金詐欺の認知件数は2,794件(2,699件、+3.5%)、被害総額は42.8億円(31.1億円、+37.8%)、検挙件数は587件(642件、▲37.7%)、検挙人員は117人(118人、▲0.8%)と認知件数・被害総額が増加となりました。そもそも還付金詐欺は、自治体や保健所、税務署の職員などを名乗るうその電話から始まり、医療費や健康保険・介護保険の保険料、年金、税金などの過払い金や未払い金があるなどと偽り、携帯電話を持って近くのATMに行くよう仕向けるものです。被害者がATMに着くと、電話を通じて言葉巧みに操作させ(このあたりの巧妙な手口については、暴排トピックス2021年6月号を参照ください)、口座の金を犯人側の口座に振り込ませます。一方、ATMに行く前の段階の家族によるものも含め、声かけで2021年同期を大きく上回る水準で特殊詐欺の被害を防いでいます。警察庁は「ATMでたまたま居合わせた一般の人も、気になるお年寄りがいたらぜひ声をかけてほしい」と訴えていますが、対策をかいくぐるケースも後を絶たない現状があり、それが被害の高止まりの背景となっています。とはいえ、本コラムでも毎回紹介しているように金融機関やコンビニでの被害防止の取組みが浸透しつつあり、ATMを使った還付金詐欺が難しくなっているのも事実で、そのためか、オレオレ詐欺へと回帰している可能性も考えられるところです(繰り返しますが、還付金詐欺自体事態、大変高止まりした状況にあります)。最近では、闇バイトなどを通じて受け子のなり手が増えたこと、外国人の新たな活用など、詐欺グループにとって受け子は「使い捨ての駒」であり、仮に受け子が逮捕されても「顔も知らない指示役には捜査の手が届きにくいことなどもその傾向を後押ししているものと考えられます。特殊詐欺は、騙す方とそれを防止する取り組みの「いたちごっこ」が数十年続く中、その手口や対策が変遷しており、流行り廃りが激しいことが特徴です。常に手口の動向や対策の社会的浸透状況などをモニタリングして、対策の「隙」が生じないように努めていくことが求められています。

また、キャッシュカード詐欺盗の認知件数は941件(1,544件、▲39.1%)、被害総額は10.9億円(21.9憶円、▲50.3%)、検挙件数は922件(1,229件、▲25.0%)、検挙人員は228人(294人、▲22.4%)と、認知件数・被害総額ともに減少という結果となっています(上記の考え方で言えば、暗証番号を聞き出す、カードをすり替えるなどオレオレ詐欺より手が込んでおり摘発のリスクが高いこと、さらには社会的に手口も知られるようになったことか影響している可能性も指摘されています。なお、前述したとおり、外国人の受け子が声を発することなく行うケースも出ています。さらには、前述したとおり、キャッシュカードではなく「現金」入りの封筒で同様のすり替えを行う手口も出ています)。また、預貯金詐欺の認知件数は1,462件(1,850件、▲21.04%)、被害総額は14.9億円(26.6億円、▲47.9%)、検挙件数は1,037件(1,032件、+0.5%)、検挙人員は276人(331人、▲16.6%)となりました。認知件数・被害総額ともに大きく減少している点が注目されます。その他、前述した架空料金請求詐欺の認知件数は3,215件(3,415件、▲5.6%)、被害総額は76.1億円(90.6億円、▲16.0%)、検挙件数は199件(193件、+3.1%)、検挙人員は141人(68人、+107.4%)と、認知件数・被害額の減少が目立ちます(検挙件数・検挙人員は増加が顕著です)。融資保証金詐欺の認知件数は204件(123件、+65.9%)、被害総額は1.5億円(1.8億円、▲19.4%)、検挙件数は16件(17件、▲5.9%)、検挙人員は9人(10人、▲0.1%)、金融商品詐欺の認知件数は67件(136件、▲50.7%)、被害総額は4.5億円(16.1億円、▲72.18%)、検挙件数は8件(14件、▲42.9%)、検挙人員は1人(22人、▲95.5%)、ギャンブル詐欺の認知件数は16件(14件、+14.3%)、被害総額は1.0億円(0.4億円、+140.8%)、検挙件数は3件(0件)、検挙人員は0人(0人)などとなっています。

組織犯罪処罰法違反については、検挙件数は282件(170件、+65.9%)、検挙人員は123人(51人、+141.2%)、口座開設詐欺の検挙件数は507件(461件、+10.0%)、検挙人員は280人(260人、+7.7%)、盗品等譲受け等の検挙件数は0件(2件)、検挙人員は0人(1人)、犯罪収益移転防止法違反の検挙件数は2,379件(1,799件、+32.2%)、検挙人員は1,783人(1,397人、+27.6%)、携帯電話契約詐欺の検挙件数は107件(82件、+30.5%)、検挙人員は106人(86人、+23.3%)、携帯電話不正利用防止法違反の検挙件数は14件(15件、▲6.7%)、検挙人員は8人(13人、▲38.5%)などとなっています。とりわけ犯罪収益移転防止法違反が大きく増加している点が注目されます。また、被害者の年齢・性別構成について、特殊詐欺全体では、60歳以上77.8%、70歳以上57.6%、男性37.3%:女性62.7%、オレオレ詐欺では60歳以上78.9%、70歳以上70.5%、男性30.6%:女性69.4%、預貯金詐欺では60歳以上99.4%、70歳以上96.3%、男性13.9%:女性86.1%、架空料金請求詐欺では60歳以上56.8%、70歳以上32.8%、男性57.6%:女性42.4%、特殊詐欺被害者全体に占める高齢被害者(65歳以上)の割合について、特殊詐欺全体では69.5%(男性32.1%、女性67.9%)、オレオレ詐欺 75.8%(21.6%、78.4%)、預貯金詐欺 98.4%(13.8%、86.2%)、架空料金請求詐欺 45.4%(64.1%、35.9%)、還付金詐欺 78.1%(36.7%、63.3%)、融資保証金詐欺 4.6%(55.6%、44.4%)、金融商品詐欺 46.3%(71.0%、29.0%)、ギャンブル詐欺 37.5%(66.7%、33.3%)、交際あっせん詐欺 33.3%(100.0%、0.0%)、その他の特殊詐欺 17.1%(52.2%、47.8%)、キャッシュカード詐欺盗 97.9%(23.4%、76.6%)などとなっています。犯罪類型によって、被害者像が大きく異なることをあらためて認識し、被害者像に応じたきめ細かい対策を行う必要性を感じさせます。

本コラムでは、特殊詐欺被害を防止したコンビニエンスストア(コンビニ)や金融機関などの事例や取組みを積極的に紹介しています(最近では、これまで以上にそのような事例の報道が目立つようになってきました。また、被害防止に協力した主体もタクシー会社やその場に居合わせた一般人など多様となっており、被害防止に向けて社会全体・地域全体の意識の底上げが図られつつあることを感じます)。必ずしもすべての事例に共通するわけではありませんが、特殊詐欺被害を未然に防止するために事業者や従業員にできることとしては、(1)事業者による組織的な教育の実施、(2)「怪しい」「おかしい」「違和感がある」といった個人のリスクセンスの底上げ・発揮、(3)店長と店員(上司と部下)の良好なコミュニケーション、(4)警察との密な連携、そして何より(5)「被害を防ぐ」という強い使命感に基づく「お節介」なまでの「声をかける」勇気を持つことなどがポイントとなると考えます。また、最近では、一般人が詐欺被害を防止した事例が多数報道されています。直近でも、高齢者らの特殊詐欺被害を一般の人が未然に防ぐ事例が増加しており、たとえば、銀行の利用者やコンビニの客などが代表的です。2023年における特殊詐欺の認知・検挙状況等(警察庁)によれば、「金融機関の窓口において高齢者が高額の払戻しを認知した際に警察に通報するよう促したり、コンビニエンスストアにおいて高額又は大量の電子マネー購入希望者等に対する声掛けを働き掛けたりするなど、金融機関やコンビニエンスストア等との連携による特殊詐欺予防対策を強化。この結果、関係事業者において、22,346件(+3,616件、+19.3%)、71.7億円(▲8.5億円、▲10.6%)の被害を阻止(阻止率 54.6%、+2.1ポイント)」につながったとされます。特殊詐欺の被害防止は、何も特定の方々だけが取り組めばよいというものではありませんし、実際の事例をみても、さまざまな場面でリスクセンスが発揮され、ちょっとした「お節介」によって被害の防止につながっていることが分かります。このことは警察等の地道な取り組みが、社会的に浸透してきているうえ、他の年代の人たちも自分たちの社会の問題として強く意識するようになりつつあるという証左でもあり、そのことが被害防止という成果につながっているものと思われ、大変素晴らしいことだと感じます。以下、直近の事例を取り上げます。

  • 松江市のコンビニエンスストア店長として、特殊詐欺被害の防止に奮闘する人気お笑いコンビ「かまいたち」の山内健司さんの弟、剛さんが、個人として島根県内最多8回目の署長感謝状を受け取り、「阻止の匠」に認定されています。剛さんは「ファミリーマート松江学園南店」の店長で、松江署によると、2024年7~8月、レジ応対中や店内を巡回する際に来店者に電子マネーカードの購入理由を尋ね、特殊詐欺が疑われる3件の被害を防いだといいます。署で伊藤署長が感謝状3枚と「阻止の匠」の認定証を贈り、「まさしく阻止のスペシャリストだ。今後も特殊詐欺防止に協力してほしい」とたたえています。本報道を受けて筆者が痛感したのは、同じ方が8回防止したということは、多くの店で同様のアプローチを受けながら、未然防止できていない事例が圧倒的に多いのではないかということです。まさに被害防止は「氷山の一角」に過ぎず、(架空請求詐欺だけでも)現在把握できている被害状況の数倍、数十倍もの被害が隠れているように思えてなりません。そして、それはコンビニ以外を舞台にした架空請求詐欺以外の特殊詐欺においても同様だと考えます。あらためて、被害の深刻さを痛感させられます。
  • 特殊詐欺被害を未然に防いだ功績をたたえて、岩手県警盛岡西署は、ファミリーマート雫石バイパス店の70代の女性店員に感謝状を贈呈しています。女性店員は、70代の男性客が2万円分の電子ギフト券を購入しようとしているのを不審に思って同署に通報、詐欺の可能性が高いため購入しないよう男性を説得したものの、「ゲームに課金する感覚」となかなか説得に応じる様子を見せなかったため、その後、粘り強く同署員が到着するまで説得を続け、被害を食い止めたものです。
  • 高額当選をうたって電子マネーを購入させるニセ電話詐欺を防いだとして、茨城県警古河署は、古河市のミニストップ古河女沼店の新藤オーナーと店員でインドネシア人女性のデフィー・アフリリヤニさんに感謝状を贈呈しています。カウンターで接客していたアフリリヤニさんに、70代の女性客が、電子マネーを3000円分購入したいと話したが、商品名もあやふやで不慣れな様子だったため、新藤さんが女性に購入理由を聞くと、「携帯に送金する。昨晩からLINEが来ている」と回答、画面には「10億円の当選金を受け取るための手数料」という一文があったため、新藤さんは、「詐欺なので警察に通報した方がいい」と説得したものです。
  • ニセ電話詐欺被害を5回阻止したとして、福岡県警生活安全部と東署は、西日本シティ銀行和白支店と同店の店頭サービス課長に感謝状を贈呈しています。同支店は2021年5月以降、高齢者を狙ったニセ電話詐欺被害を5回にわたって阻止、5回目の被害防止となった2024年8月には、80代男性が「家のリフォームのため定期預金を解約し、現金300万円を持ち帰りたい」と支店を訪れ、同支店では日ごろから「高額の現金を持ち帰りたい」という話は詐欺の可能性が高いと注意しており、東署に通報、和白交番の警察官が男性に詳しく話を聞くと、息子を語る男性から電話があり、職場トラブルの示談金で300万円が必要と言われていたことが発覚したものです。
  • 高齢者の特殊詐欺被害防止に貢献したとして、奈良県警生駒署は生駒市在住の会社員と南都銀行生駒支店のパート従業員の2人にそれぞれ感謝状を贈呈しています。いずれも被害に遭いかけていた高齢者の言動に違和感を抱き、すぐに行動に移したことが功を奏したといいます。会社員は、生駒市内の銀行を訪れたときに、高齢夫婦が携帯で通話しながらATMを操作しているのを見つけ、県警のユーチューブアカウントなどで詐欺防止の啓発動画を見たことがあったため「おかしい」と思い、「詐欺に遭っているのではないですか。一緒に交番に行きましょう」などと声をかけて夫婦を生駒駅前交番まで連れて行ったといいます。一方、パート従業員は、勤務中に高齢女性から「ATMで制限がかかって現金を引き出せない」と相談があり、現金の使い道を尋ねると「守秘義務がある」「警察とやりとりしていてLINEで警察手帳の画像も送られてきた」と言われたものの、銀行で詐欺被害について研修を受けていたため違和感を覚え、上司を通じて110番したものです
  • 高齢女性を詐欺の被害から防いだとして、三十三銀行堺支店の行員3人に警察から感謝状が贈呈されています。毎日新聞によれば、「8月上旬、窓口で窪田さん(27)が働いていると、80代の女性が来店した。50万円を振り込みたいとの依頼だった。振込先は個人口座で、名義は外国人のような氏名だった。女性は投資のために振り込みたいという。ただ、投資なら証券会社などの口座に送金するのが一般的だ。窪田さんは上司の高岡さん(40)とともに、女性にスマートフォンを見せてもらった。女性はSNSで、日本人らしき人物と投資のやりとりをしていた。「この人は投資の世界で有名な人。振り込んでって言われたの」。女性がだまされているとの疑いを強めた高岡さんは、小川副支店長(46)に報告。小川さんは急いで堺署に事情を相談した。女性は投資でもうかっているのだと説明を続けた。アプリでやりとりしている人物とどう知り合ったのか、投資歴はどれくらいなのか―。行員らは堺署員が到着するまで質問を続け、振り込みを思いとどまらせようと試みた。しかし、女性はなかなか聞き入れてくれない。「早く振り込ませて!」「詐欺だとしても、私の判断だから大丈夫」駆け付けた堺署員も加わり、SNSで著名人をかたった投資詐欺被害が増えていることなどを繰り返し説いた。1時間半にわたるやりとりの末、女性は「警察官もそう言うなら」と振り込みの中止を納得してくれた」というものです。
  • 野村証券高松支店に高齢女性から電話がかかってきた。「国債を解約したい」という女性に、職員が対応、「どういった理由ですか?」と尋ねたが、女性は焦った様子で「近日中に現金を手渡しで欲しい」と言っており、同店では毎月1回ほどコンプライアンス研修として詐欺の手口や事例を学んでいたため、女性の話や現金を強く求める様子を不審に思い上司に相談。並行して、2回にわたり計1時間以上かけて電話で女性から事情を聞き取ったといいます。事件の可能性を考え、すぐに坂出署へ電話したことで女性はお金を支払わずに済んだものです。同署は、悪質商法の疑いがあるとしてこの業者を捜査しているといいます。
  • 福岡県警行橋署は、ニセ電話などによる詐欺被害を未然に防いだとして、福岡銀行苅田支店の課長代理、亀田さん、同支店のパート従業員、高原さん、豊津郵便局の局長、白銀さんに感謝状を贈呈しています。2024年7月、60代の男性が現金約120万を引き出すために苅田支店に来店し、高原さんが窓口で応対、男性が「SNSで知り合った女性に現金を振り込む」と話したため、詐欺に遭っていると察知、高原さんはすぐに上司の亀田さんに報告して警察に通報し、被害を未然に防いだものです。また、白銀さんは2024年8月、豊津郵便局を訪れた60代女性から、年金事務所の還付金払い戻しについて相談を受けたところ、典型的な詐欺の手口と判断した白銀さんは近くの駐在所に連絡し、女性は被害を免れたものです。
  • 訪問先のお年寄り宅で、偶然かかってきた電話の内容から詐欺と判断して外出を思いとどまらせて被害を防いだとして、大阪府警泉佐野署は、かんぽ生命の主任に感謝状を贈呈しています。泉佐野市の泉佐野郵便局に勤務する村上さんは、生命保険を契約している70代の女性宅を訪問、事前に訪問の約束をしていて、玄関先であいさつをして室内に入ると、女性は焦っており、話をしている途中で電話機が鳴り、「振り込みに行かなければいけない」「ATMの前に着いたらどこに電話すればいいですか」と、やりとりの一部が聞こえてきたため、不審に思った村上さんが電話を終えた女性に尋ねると、「役所からの電話で、医療費の還付があるのでATMで午後4時までに手続きをしなければいけない」との答えが返ってきたため、村上さんはすぐに外出しようとしていた女性を落ち着かせ、「自分も保険の仕事をしているけれど、役所から電話がかかってくるケースはあまりない。ATMでの手続きは怖い。警察に電話するので、ちょっと待ってほしい」とアドバイス、被害を防止したものです。
  • オレオレ詐欺で現金を詐取しようとしたとして、警視庁大森署は、介護職員の男を詐欺未遂容疑で現行犯逮捕しています。詐欺グループの「受け子」で、同署が被害者と「だまされたふり作戦」を展開して取り押さえたものです。男は仲間と共謀し、大田区の80代男性に、長男を装って「会社の書類をなくし、金が必要」などとうその電話をかけ、現金約350万円を詐取しようとした疑いがもたれています。男性が多額の現金を引き出したことを不審に思った金融機関の職員が同署に通報、詐欺グループが指定した現金の受け渡し場所で警察官が張り込み、男を現行犯逮捕しました。

その他、特殊詐欺防止など、最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 空き物件で偽造運転免許証を提示してキャッシュカードなどを受け取る詐欺を繰り返したトクリュウとみられる男らの摘発に貢献したとして、福岡県警西署は、佐川急便西福岡営業所と、同営業所配達員の男性に感謝状を贈呈しています。男性は2023年4月、クレジットカードを配達しようと福岡市周辺のアパートを訪問、出てきた男は本人確認のため免許証を提示したものの、受け渡しをせかす様子で、ドアのすき間から見えた室内にも家具がないなど部屋に生活感は見られなかったといいます。当時、市内周辺で不審な受け取りが相次いでおり、同社は再配達を求める際にかかってきた複数の電話番号を配達員に共有していたといい、男性は伝票に記載された電話番号が該当することに気づき、受け渡しを保留して上司に相談、営業所が西署に情報提供したものです。
  • Amazonのマーケットプレイス(第三者による販売)で商品を注文したところ、代引き詐欺の商品が送りつけられてきたとの報告がXで増えているといいます。直近で報告されているAmazonのマーケットプレイスを使った代引き詐欺の仕組みは、「ユーザーがマーケットプレイスで商品を注文する」「販売者側から注文をキャンセルされる」「入手した購入者の住所に同じ金額、または高額な代引き商品を送りつける」「購入者、または勘違いした家族が現金を支払ってしまう」というもので、この代引き詐欺においてはAmazonは購入者の住所情報などを盗むために利用されただけの被害者であり、返金する立場にないという点です。重要なこととしてAmazonは代金引換の提供を2024年6月で廃止しており、Amazon公式の通販も、マーケットプレイスも両方で、Amazonで何かを注文したあと代金引換の商品が届いた場合、それはすべて詐欺だとみなすことができます。
  • SNSを通じ偽の投資話や交際などを持ちかけ、金銭をだまし取る詐欺被害が栃木県内でも急増しており、送金の現場となる金融機関も懸念を強め、足利銀行は来店客に注意を促しており、宇都宮中央署と、宇都宮市内の本店でチラシ140枚を配り注意を呼びかけています。報道で70代女性はチラシを手に「ネットでの誘いには乗らないよう気をつけている。(お金の手続きは)これからも窓口で直接するつもりだ」と話しています。確かに、ネットバンキングではなく窓口に誘導することで、詐欺被害の未然防止につながると考えられます。
  • 高止まりしている特殊詐欺被害を防ごうと、神奈川県は絵本冊子「あいことばはなーに?」を出版しています。被害に遭いやすい高齢者だけでなく、幅広い世代を巻き込んで防犯意識を高めてもらうのが狙いで、2024年9月に県内の小学1年生約7万人に配布しています。絵本では、男の子が夏休みに祖父母を訪問、オレオレ詐欺に「だまされたりするものか」と自信たっぷりの祖父母の様子を見て、電話をする時に合言葉を使うことを提案、後日、祖父母宅に「息子」と称して会社の金を落としたとの電話があったが、折り紙に書いた合言葉で被害を防ぐ内容だといいます。
  • 情報セキュリティ大手のトレンドマイクロは、スマホ向けの詐欺対策アプリを発表しています。ウェブサイトやSNSなどのメッセージに詐欺の可能性がないかを生成AIがチェックするもので、手口が巧妙化する詐欺の被害を防ぐ狙いがあります。ウェブサイトやテキストメッセージ、オンライン広告などのスクリーンショットを送信すると、詐欺の兆候が含まれていないかを生成AIが判定、相談したい状況や質問を入力すると生成AIがチャット形式で答えるもので、AIで作られた「ディープフェイク」を用いたビデオ通話を検出したり、特殊詐欺の疑いのある電話への発着信時には警告したりする機能も備えているほか、NTTタウンページとの連携により、知らない番号からの着信も画面上で通話先の情報を確認できるといいます。最新のIT技術を駆使して詐欺被害を防止する取り組み対する筆者の期待は大きく、実効性を高めるべく今後も進化していってほしいと思います。
  • 米政府は、ネット上で相手をだまして金銭を奪う「オンライン詐欺」に関与したとして、カンボジア上院議員でリゾートホテル運営の「LYPグループ」を保有する企業家リー・ヨン・パット氏を制裁対象に指定したと発表しています。リー氏が保有するホテルでは2022~2024年、虚偽の求人に応募してきた人からパスポートや携帯電話を取り上げ、強制的にオンライン詐欺に従事させており、逃げようとした人は暴行を受けたり、電気ショックの拷問を受けたりしたといいます。地元当局が、中国やインド、タイ、ベトナムの国籍者を救出していたものです。今回の指定は、人権侵害に関与した人物に制裁を科す「マグニツキー法」に基づく措置で、米国人との取引が禁止され、グループが所有するホテル4軒も制裁対象となっています。

(3)薬物を巡る動向

大麻を「麻薬」に位置付け、他の規制薬物と同様に使用罪の適用対象とする大麻取締法と麻薬取締法の改正法(2023年12月6日、同13日公布)について、厚生労働省は、施行日を2024年12月12日と明らかにしました。改正法では、大麻由来成分を含む医薬品の使用禁止規定を削除、安全性と有効性が確認されたものに限り、医療分野で活用できることになります。改正法では、大麻と、有害な大麻由来成分テトラヒドロカンナビノール(THC)を麻薬と位置付けたほか、大麻の不正所持や使用は麻薬取締法違反で7年以下の懲役となります(現状は所持や栽培などが大麻取締法で禁止されていますが使用罪はありません)。一方、大麻由来成分を含む医薬品は、痛み止めなどに使われる他の麻薬と同様に免許制度の下で管理し、流通や使用ができるようになるほか、大麻取締法は、栽培に特化した「大麻草の栽培の規制に関する法律」に名称が変わることになります

本コラムが継続的に注視しているとおり、警察が大麻事件で摘発した人数は2021年まで8年連続で増加、2023年の摘発人数は過去最多の6482人に上り、記録が残る1958年以降で初めて覚せい剤事件を上回りました。そして、このうち73.5%を20代以下が占めており、若年層への蔓延に歯止めをかけるため、使用を罰する方針にかじを切っています。一方、欧米では大麻由来成分カンナビジオール(CBD)を含む難治性てんかん治療薬が薬事承認されており、患者団体などが国内でも使えるよう要望していたものです。大麻草に含まれるCBDが有効成分で、大麻草に含まれる成分には幻覚や依存症などの有害作用を引き起こすTHCがありますが、CBDは中枢神経への有害作用はありません。報道によれば、難治性てんかんの小児が大麻から抽出したCBDオイルを服用して発作が改善したことを伝えた米国のテレビ番組をきっかけに研究が進んでいるものです。日本にはてんかん患者は推定で約100万人おり、約2~3割が難治性とされます。大麻に対して依存症や乱用など悪いイメージを持つ人は少なくなく、専門家は「大麻由来の成分で有効な成分はある。『大麻には害がある』と一概に切り捨てるのではなく、含まれる成分に対する有用性や有害性に関する正しい理解を深めてほしい」と指摘していますが、正にそのとおりかと思います。なお、日本では大麻だけでなく、モルヒネなどの麻薬を医療用に活用する動きも遅れています。医療用でも麻薬や大麻には偏見がつきまとう中、特に大麻由来の医薬品が適切に普及するためには、大麻の有用性などの特性を理解するために医師に対する教育が必要不可欠となります

自宅から大麻が見つかり、2022年に大麻取締法違反(所持)で逮捕・起訴された20代の男性について、東京地裁が2024年7月に無罪判決を言い渡しています。報道によれば、男性は捜査段階で容疑を認めたものの、公判では起訴事実を否定し、判決は所持を裏付ける証拠が不十分だったと指摘しています。一方、男性の体内からは大麻の陽性反応が出ており、男性は捜査・公判を通じて大麻の使用を認めたものの、「使用罪」創設前の摘発だったため、罪に問われなかったものです。薬物事件の刑事裁判で、起訴された人物の自宅で見つかった薬物について、本人の所持の認識が否定され、無罪となるのは異例のこととなります。本件について被告側弁護人は「疑わしきは罰せずという刑事裁判の大原則に基づいた判決だ」と語っています。一方、刑事裁判官の一人は「捜査当局は、少なくともLINEを丁寧に見ていれば、自白の裏付け捜査の必要性に思い至ったのではないか」と指摘、「自白に頼るのではなく、客観証拠を踏まえて調べることが肝要だということを改めて示すケースだ」と述べています。

米共和党のトランプ前大統領は、自身が住む南部フロリダ州での娯楽目的の大麻使用解禁を支持するとし、大統領選と同時実施される大麻使用合法化の是非を問う住民投票で賛成票を投じると明らかにしています。若者やリベラル層にアピールしたい考えで、支持基盤の保守層は反発している。トランプ氏は自身のソーシャルメディアで「個人使用目的の少量の大麻のために成人が不必要に逮捕、投獄されるのを終わらせる時だ」と述べています。一方、米国ではリスクに応じて規制薬物を5段階に分類しており、大麻は乱用の恐れが高く、医療用の使用も認めない「スケジュール1」(ヘロインや幻覚剤など)に分類されてきました。トランプ前政権時代は規制緩和には消極的でしたが、民主党のバイデン政権は医療用の使用を認める「スケジュール3」に2段階引き下げる方針を表明、州レベルでは規制緩和が進み、40近くの州で何らかの形で合法化され、24州と首都ワシントンで嗜好用が合法化され、約半数の州で医療用・嗜好用とも合法化されている実態があります。筆者はとりわけ日本における大麻の現時点での合法化は反対の立場ですが、トランプ氏が、他の州で大麻使用が合法なのに、ある州では犯罪になってはならないとし、「個人的な量を所持した成人を逮捕して人々の人生を台無しにしたり、税金を無駄にしたりする必要はない」と述べている点に注目しています。大麻を合法化する理由の1つが「捜査経済の観点」が指摘されているからです(今回のトランプ氏の発言もこの文脈から理解できます)。大麻の限界普及率が5割とされるところ、そこに近づいた社会においては、摘発に力を入れるより、そのコストを治療等に回す方がより社会のためになるという考え方で、米社会の状況はそれに近く、一定の合理性があると感じています(一方の日本は、大麻の生涯利用率はかなり低く、現時点では摘発に力を入れる方がよいといえます)。もちろん、薬物の流通を公に厳格に管理できれば、マフィアや暴力団など犯罪組織の資金源への打撃になる可能性があるとは思いますが、実際にはかなり困難であることは、タイの失敗事例など各国の状況が物語っています。

東京・蒲田地区で横行する覚せい剤密売を巡り、警視庁薬物銃器対策課は麻薬特例法違反(覚せい剤としての譲渡・譲受)の疑いで稲川会傘下組織幹部=覚せい剤取締法違反罪で起訴=、稲川会傘下組織組員ら3人を再逮捕しています。報道によれば、蒲田地区では2009年ごろから覚せい剤の密売が横行、警視庁は末端の密売人を摘発するなどして捜査を重ね、暴力団組織を背景に売買を差配してきたとみられる同幹部ら上位者の逮捕に踏み切ったものです。同課は覚せい剤の売り上げとして、少なくとも月に約300万円、これまでに5億円以上が暴力団の資金源になったとみて、実態解明を進めているといいます。暴力団の関与事例としては、佐賀県警佐賀南署は、覚せい剤取締法違反(営利目的有償譲渡)の疑いで暴力団組員を、同法違反(有償譲受)の疑いで解体作業員を逮捕しています。組員の逮捕容疑は2024年8月、解体作業員の自宅で、営利目的で覚せい剤約0.03グラムを3千円の約束で譲り渡した疑いがもたれています。また、2024年8月、高松市のアパートの一室で、覚せい剤およそ49グラム、末端価格にしておよそ320万円相当を営利目的で所持していたとして、高松市に住む韓国国籍の暴力団幹部の男が今日(3日)、警察に逮捕されました。覚せい剤取締法違反の疑いで六代目山口組傘下組織幹部が逮捕されています。警察は覚せい剤の他にも、注射器などを多数押収していることから、容疑者が密売を行っていたとみて、入手や販売のルートなどについて特定を進めるとしています。一方、仲間と共謀してメキシコの郵便局からコカインおよそ200グラムをさいたま市の自宅宛てに郵送し営利目的で密輸した疑いで逮捕された住吉会傘下組織幹部についてさいたま地検は不起訴処分としました(さいたま地検は不起訴の理由を明らかにしていません)。また、米国から大麻を密輸したとして、京都府警は、大麻取締法違反(営利目的共同輸入)容疑で、2人の容疑者を逮捕しています。報道によれば、米ロサンゼルス国際空港から成田空港に、鍵村容疑者宅宛ての小包郵便物に隠したキャンディー状に加工された大麻約825グラムを密輸した疑いがもたれています。また、茨木容疑者は兵庫県西宮市で覚せい剤約85グラムを所持した覚せい剤取締法違反の疑いでも逮捕されています。密輸は茨木容疑者が指示役とみられ、受け取り役の鍵村容疑者に報酬計30万円のうち10万円が事前に支払われていたといいます。「テレグラム」などの秘匿性の高いアプリを使用しており、「匿名・流動型犯罪グループ」による事件とみられています

その他、薬物を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 前回の本コラム(暴排トピックス2024年9月号)でも取り上げましたが、関西学院大アメリカンフットボール部は、大阪市内で記者会見を開き、U20(20歳以下)日本代表の海外遠征中に重大な規律違反があったとして日本アメリカンフットボール協会から代表活動停止処分を受けた部員5人への対応を発表、部としての処分は、1人は無期限活動停止のままで、他の4人は活動再開が認められ、うち1人は今秋の試合出場停止で、3人には厳重注意などの処分を科しています。無期限活動停止となった部員は、薬物使用疑惑を巡る毛髪検査を拒否、聞き取り調査に対して十分な情報を開示していなかったものです。大学側による部員への尿検査は陰性だったことなどから、日本協会の処分理由となった「大麻の蓋然性のある物質の所持・使用」については判断を留保しています。処分の妥当性についてはコメントを控えますが、日本大学アメフト部の問題では「連帯責任」が問題となったところ、今回はそういった事態にはなっていない点は評価できると思います。
  • 京都府警は、大麻取締法違反(所持、営利目的譲り渡しなど)の疑いで、男7人を逮捕しています。報道によれば、グループは約4年前から、京都市伏見区の「竜馬通り商店街」にある衣料品店を拠点に大麻を密売していたとみられ、2024年春、別の場所に移転したといいます。逮捕容疑は氏名不詳者らと共謀し2024年2月、自宅で男性に大麻を代金約67万円で譲り渡したとされ、2023年ごろ、竜馬通り商店街の周辺住人から情報提供があり、府警が捜査していたものです。府警は、グループが若者らを顧客とし月に数百グラムを密売していたとみて、仕入れ先や詳しい販売経路を調べています。
  • 陸上自衛隊第11旅団(札幌市)は、大麻を使用したとして、第18普通科連隊の男性陸士長(24)を懲戒免職処分にしています。報道によれば、陸士長は2023年11月15日と26日、札幌市内で大麻を使用したとされます。自衛隊が抜き打ちで行った薬物検査で発覚、陸士長は「興味本位で使用した。深く反省している」と話しています。
  • 2024年4~5月、麻薬成分を含む固形物を米国から輸入しようとしたとして、麻薬取締法違反(輸入)などの罪に問われた米国籍のPRIDE元格闘家、エンセン井上被告に、さいたま地裁は、懲役2年、執行猶予4年(求刑懲役2年)の判決を言い渡しています。裁判長は「固形物は計約1082グラムあり、全てが麻薬ではないとしても少量とは言えない」と指摘、また、一部をチョコレートのパッケージに入れ替え、発覚しにくくしたとして「巧妙で悪質な犯行」と述べています。一方で「罪を認めて反省している」として、刑の執行を猶予したものです。格闘技系では、東京都内で大麻を所持したとして、警視庁田無署が、キックボクサーの木村“フィリップ”ミノル容疑者を大麻取締法違反(所持)の疑いで逮捕しています。報道によれば、西東京市の西武池袋線ひばりケ丘駅で、大麻を所持したというもので、容疑者は駅で職務質問を受けた際、大麻成分入りとみられる液体(リキッド)や植物片を所持していたといい、鑑定の結果、一部から大麻成分が検出されたといいます。
  • 自宅で覚せい剤を所持したなどとして、覚せい剤取締法違反罪に問われたバンド「C-C-B」元メンバーの田口被告に東京地裁は、懲役2年(求刑懲役2年6月)の判決を言い渡しています。裁判官は、以前も同法違反罪で有罪判決を受けたのに、再び犯行に及んだとし「覚せい剤に対する親和性、依存性が認められる」と指摘、「刑事責任は重く、実刑を選択するほかない」と判断しています。判決によると、2024年6月、東京都足立区内の自宅で覚せい剤を使用したほか、覚せい剤約0.5グラムを所持したというもので、田口被告は2015、16年にも同法違反罪に問われ、いずれも横浜地裁で有罪判決を受けています。また、岐阜県警多治見署は、自称ミュージシャン、末武容疑者を大麻取締法違反(所持)の疑いで逮捕しています。報道によれば、容疑者は2024年8月、自宅で大麻草約8グラムを所持した疑いがあり、茨城県内の店から「客が置いていった物が大麻のようなので来て欲しい」との通報があったといいます。また、似たような事件として、長崎県警諫早署は、諫早市泉町の眼科医を覚せい剤取締法違反(所持)の疑いで逮捕したものがあります。報道によれば、眼科医は2024年4月、同市内の宿泊施設で覚せい剤約0.3グラムを所持した疑いがもたれており、施設の関係者が、「覚せい剤のような客の忘れ物がある」と同署に通報し、発覚したものです。
  • 四国厚生支局麻薬取締部は、自宅でポリ袋入りの大麻計0.72グラムを所持したとして、大麻取締法違反(所持)の疑いで、介護職員と妻を再逮捕しています。容疑者は2022年の参院選比例代表にNHK党(当時)から立候補していたといいます。麻薬取締部によると、徳島市にあった国内最大規模の危険ドラッグ販売業者「ADD CBD」の関係先として家宅捜索した際に発見、医薬品医療機器法違反の疑いで、同社の実質経営者の男とともに逮捕していました。
  • 滋賀県警大津署は、大津市内で停車中の乗用車内で大麻約1キロ(末端価格約500万円相当)とコカイン約1グラムを所持し、覚せい剤やコカインなどを使用したとしたなどとして、大麻取締法違反(営利目的所持)や覚せい剤取締法違反(使用)などの疑いで、自称自営業の容疑者を逮捕しています。容疑者は高速道路の路肩に停車中に後続車に追突されて病院に搬送された。警官が車内で大麻などを見つけたものです。
  • 大分保護観察所で開かれている薬物再乱用防止プログラムに参加していた男が、プログラムを受講していた密売人から覚せい剤を入手していたことが判明しています。男は入手した当時、別の覚せい剤取締法違反で執行猶予中の身だったといい、大分地裁は、同法違反で懲役3年の実刑判決を言い渡しています。報道によれば、男は2024年7月、大分市内のコンビニエンスストアのトイレで覚せい剤を使用したといい、判決は、男が2024年12月頃、プログラムで知り合った密売人から、覚せい剤を入手して使用するようになっていたと認定、関係者によると、男は2022年冬頃からプログラムに参加していたといいます。「回復」までの道のりがいかに厳しいものか、「治療」には相当の根気が必要であることをあらためて認識させられます
  • 和歌山県田辺市で2018年、「紀州のドン・ファン」と呼ばれた資産家男性=当時(77)=が急性覚せい剤中毒で死亡した事件で、殺人罪などに問われた元妻、須藤被告の裁判員裁判が和歌山地裁であり、被告に覚せい剤を売ったとされる売人が出廷し、「覚せい剤4から5グラムを売った」などと証言しています。報道によれば、売人は仲間とインターネットの裏サイトの掲示板で薬物を販売し、配達を担当、須藤被告には2018年4月8日午前0時ごろ、同市の路地で覚せい剤入りの封筒を渡したもので、「代金は10万から12万円」で、被告は「旦那には知られないようにしている」と話したといい、売人は「(被告は)落ち着いた様子で、薬物をやっているようには見えなかった」とも語っています。

薬物依存からの回復について取材した記事「薬物依存症の「本当の姿」とは 回復に欠かせない「仲間」と「治療」」(2024年9月20日付朝日新聞)は興味深いものでした。具体的には、「「意志が弱い」「人格に問題のある人」。この病気には偏見がつきまとうが、見えてきた当事者の姿は違った。ダルクでは、入所者同士が思いを語り合うミーティングが活動の柱だ。許可を得て同席した茶井記者は、彼らの真剣さに驚いたという。「心の底まで自分を掘り下げ、仲間に向けて言葉にする。回復のため徹底的に自分自身と向き合う作業は、同じ体験をしてきた仲間の中でなければできないと思った」代表の加藤武士さん(58)は壮絶な生い立ちを語ってくれた。依存症の本質は快楽ではなく、その人がもともと抱えている苦痛の緩和(自己治療)にあるとする「自己治療仮説」が知られるようになったが、加藤さんの半生はまさに自己治療をめぐる道のりではなかったかと私は感じた。誤解してほしくないが、薬物の乱用防止は重要な社会課題であり、現行法上、覚せい剤などの使用が処罰されるのは当然だ。しかし、身柄を拘束して収容するだけで乱用防止につながるのかには疑問の声もある。私がインタビューした依存症専門医と刑法学者はともに、「刑罰によって依存症の根本にある苦痛をかえって強めかねない」という危惧を語った。私たちの報道は薬物使用を単なる犯罪としてのみとらえ、依存症からの回復という視点を欠いてこなかったか。薬物の乱用防止には「仲間」と「治療」も欠かせないことを伝えたい」といった内容であり、筆者も、薬物依存症は「病気」であり、適切な治療を行うべきとの立場であることから、同意するものです。

米疾病対策センター(CDC)は、オンライン薬局で偽造された処方箋薬を購入した人々に薬物過剰摂取のリスクがあるとして、公衆衛生当局者や臨床医に警告したと報じられています(2024年10月3日付ロイター)。CDCは、違法なインターネット薬局で販売されている偽造医薬品には、米国で薬物過剰摂取の主な原因となっている合成オピオイドのフェンタニルが含有されていることが多いと指摘しています。連邦薬事委員会連合(NABP)のデータによると、オンラインで処方箋薬を販売するウェブサイトの95%近くが違法に運営されているといい、CDCは国民に、無免許で運営され、医師の処方箋を必要とせず、大幅な値引きを提供するオンライン薬局に注意を促しています。米司法省は2024年9月30日、米国民数万人に偽造医薬品を販売している特定のオンライン薬局を告発しています。日本では、10~20代の若年層で近年、市販薬を過剰摂取して興奮状態などになる「オーバードーズ」(OD)の問題が深刻化していますが、薬局で合法的に販売されている医薬品が使用されています。リアル・オンラインを問わず、薬局側の取り組みの実効性が十分でないという点では、CDCの指摘は日本においても同様の構図にあると考えさせられます。

オーバードーズの問題では、自宅に連れ込んだ女子高校生が市販薬を乱用するのを止めず、急性薬物中毒で死亡させたとして、大阪府警は、無職の容疑者(26)を重過失致死や窃盗などの疑いで逮捕した事件がありました。報道によれば、市販のせき止め薬を大量に服用しようとする女子高生を制止せず、急性薬物中毒で死亡させたなどのほか、使用されたせき止め薬をドラッグストア2店で万引きした疑いも持たれています。容疑者宅には当時、死亡した高校生を含む10代の女子中高生3人と容疑者がおり、全員でせき止め薬を服用していたとみられ、唯一の成人である容疑者は市販薬の過剰服用「オーバードーズ」の危険性を認識しており、服用を止めなかった過失があると判断したものです。また、東京都新宿区歌舞伎町に集まる「トー横キッズ」に市販薬を違法に販売したなどとして、警視庁少年育成課は、無職の容疑者(22)を医薬品医療機器法違反(無許可販売)の疑いで逮捕しています。警視庁は、容疑者がODに使う市販薬をトー横キッズに提供していたとみています。逮捕容疑は、新宿区歌舞伎町で、17歳だった高校生の少女ら2人に抗アレルギー薬計440錠を渡したほか、20代男性にせき止め薬計400錠を1万円で無許可で販売したというものです。

こうしたODが後を絶たない中、警視庁と東京都薬剤師会などが対策に乗り出すことになりました。連携して都内の学校で薬物乱用防止講座を開くなどして、薬の正しい使用法やODの危険性を伝えるというものです。ODの問題では、「薬をあげるよ」と若者に近づく大人もおり、警視庁は犯罪に巻き込まれる恐れがあるとして、警戒を強めています。前述のとおり、風邪薬などODに使われる薬は、ドラッグストアなどで誰でも安価で買える気軽さがODの背景にあることから、警視庁などはドラッグストアに対し、市販薬を大量に買う若者がいれば、目的を必ず確認するように呼びかけるとしています。また、ODや、家庭環境によって生じる「体験格差」に取り組もうと、フランスに本社を置く製薬大手サノフィが2024年8月、子どもたち向けのオフィスツアーを開き、同社の社員らが製薬会社の仕事を紹介しながら、薬の仕組みや乱用の危険性を伝えています。国は2024年6月、孤独・孤立対策の重点計画に、OD対策の啓発活動を盛り込んでいます。特別授業では、担当者が子どもたちに「ODは心や身体に大きな負担をかけ、命にかかわる可能性もある。もし困ることがあれば、一人で悩まず、身近な大人や薬剤師などに相談してください」と呼びかけたといいます。こうした地道な啓発活動が拡がることを期待したいと思います。

ODの当事者による生々しい実態を報じた2024年10月2日付産経新聞の記事「鈍麻する感覚、刺激求め常習万引 当事者が語るオーバードーズ 「睡眠薬15錠ボリボリ」」は衝撃的な内容でした。具体的には、「OD経験者はその依存性の強さと身体へのダメージに警鐘を鳴らす。「常に脳が麻痺し、正常な判断ができなくなる。まるでもう一人の自分がいるかのように行動していた」」、「恐ろしいのはその依存性だ。覚せい剤使用の経験もある湯浅さんは「覚せい剤と変わらない」と言い切る。ただ覚せい剤のような法禁物とは違い、入手が容易な睡眠薬では罪悪感を抱きにくい。摂取量は増える一方で「当時はその怖さが分かっていなかった」。ODが常態化するにつれ、身体に異常が現れる。味覚が変化し、苦いはずの錠剤を甘く感じた。お菓子を食べる感覚で「15錠ほどの睡眠薬をボリボリとむさぼった」と話す。脳の働きは鈍り、判断能力が低下した。記憶が寸断され、痛みを感じなくなって自傷行為を繰り返したことも。結婚生活にも張り合いを感じられず、常に鈍麻したような意識の中で、万引に刺激を見いだすようになる。その果てに窃盗で捕まり服役することになった」、「ODを続けたせいで感覚が鈍り、自殺を図る若者も少なくない。ODが性被害に遭う入り口になったり、あるいは薬物犯罪に加担させられたりと、摂取とは別のリスクも潜んでいる」、「感冒薬、鎮痛剤、抗アレルギー薬、せき止め薬…。OD目的で使用されたことがある市販薬の調査結果を見ると、だれもが一度は聞いたことがあるような有名な製品名がずらりと並ぶ。厚生労働省と総務省消防庁の調査によると、医薬品のODが原因と疑われる昨年(2023年)1~6月の救急搬送者5625人のうち、10~20代が2588人と半数近くを占め、年々増加傾向という。全国の精神医療施設で依存症治療を受けた10代患者の調査では、摂取していた薬物のトップが平成26年時点では「危険ドラッグ」で48.0%だったが、28年には市販薬が逆転。令和2年にはその割合が過半数の56.4%にまで増加している」、「販売は原則一人につき1個とし、複数購入の希望者には理由を確認した上で、購入者が若年の場合には名前や年齢確認を求めているが、店舗によっては徹底されていない。厚労省審議会では今年2月から規制強化を議論。20歳未満に販売する場合は小容量製品1個に制限するなどの案が出ており、年内にも内容をとりまとめ、医薬品医療機器法の改正を目指す」といったものです。前述のとおり、ODが身近な薬局やドラッグストアが入口となっている実態、ODがさまざまな犯罪や薬物依存、自殺等に直結している実態などをふまえれば、販売の厳格化に向けて官民あげて取り組む必要性を感じます。

(4)テロリスクを巡る動向

2024年の夏の世界的イベント「パリ五輪・パラリンピック」が、国際情勢が不安定な中、大規模なテロ発生の懸念があり、限界な警戒態勢が敷かれましたが、無事終了しました。フランスの対テロ対策の検察官は、パリ五輪を標的にしたテロ計画を計3件阻止したと明らかにしています。イスラエルの機関などを攻撃対象とした計画も含まれているおいいます。1件目は五輪のサッカーの試合に対する攻撃計画で、治安当局は2024年5月にロシア南部チェチェン共和国出身の男(18)を逮捕、計画はイスラム過激主義に影響されたものだとみられています。2件目は五輪期間中にパリにあるイスラエルの機関などを標的にした計画で、詳細は明らかになっていないものの「イスラエルの五輪チームが狙われたわけではない」といいます。3件目はフランス南西部ジロンド県出身の2人による五輪期間中のテロ計画で、当局は3件で関係した計5人を逮捕しています。

本コラムでもその動向を注視している、特定組織に属さず単独テロを実行する「ローン・オフェンダー」は、(準備から実行まで一人で行うため)犯行の予兆をつかみにくく、組織テロよりはるかに対処が困難という特徴があります。新たな形態のテロリストについて、世界各国の治安当局が危険性を認識しており、対策が喫緊の課題となっている中、警視庁が2025年4月、公安部内に専従課を新設するといいます(現在、極左暴力集団を担当する「公安1課」と「公安2課」を合わせて新公安1課、右翼担当の「公安3課」を新公安2課とし、新公安3課をローン・オフェンダーの担当とするもので、刑事や生活安全、地域などの各部が職務質問や巡回で得た「前兆情報」を集約するなど、捜査の司令塔を担い、SNSへの不審な投稿を警戒し、全国の警察とも情報共有を進めるとしています)。1980年代以降、イスラム過激派による組織テロが激化し、2001年の米中枢同時テロでピークに達すると、米欧各国が対策を強化、既存テロ組織の掃討を進めた結果、国内自立型の攻撃が主流となります。中でも、単独犯の形態は「ローンウルフ(一匹おおかみ)」と呼ばれ、後に犯人を称賛する懸念を踏まえ「ローン・オフェンダー」と呼称が変わった経緯があります(単独を意味する「lone」と、攻撃者を意味する「offender」を組み合わせた言葉で、頭文字を取って「LO」とも呼ばれます)。直近でもトランプ前大統領への2度の銃撃事件がローン・オフェンダーによって引き起こされましたが、日本でも安部元首相銃撃事件(2022年7月)や岸田前首相襲撃事件(2023年4月)などローン・オフェンダーによるテロ事件が発生、(さらにこうした犯行が大々的に報じられることで模倣犯等の発生も強く懸念されることもあり、テロ事件を未然に防止するため)警察庁はローン・オフェンダー対策の強化に着手しました。2024年4月からは全国の警察の警備・公安部門に司令塔を置き、刑事や生活安全、地域などの各部門で把握した事件の前兆とみられる情報を一元的に集約する態勢を整えたほか、6月には銃器関連情報の拡散に歯止めをかけるため、改正銃刀法でインターネット上などで不特定多数に銃の所持をあおるような行為を罰則付きで禁じました。銃や爆発物の製造に関する情報収集には、インターネット・ホットラインセンター(IHC)を活用しているほか、キーワード検索によるサイバーパトロールを行い、危険なサイトや書き込みは管理者に削除を依頼、人工知能(AI)技術も導入し、文脈などを解析して犯行につながりそうな情報収集の態勢を強化しているほか、マンション賃貸やレンタカー、薬品販売など犯行に悪用される可能性がある事業者には顧客への本人確認の徹底を働きかけるといいます。なお、公安部内で組織改編が目立つのは外国の諜報活動に対応する外事部門であり、2002年、米中枢同時テロを受けて国際テロ関連の情報を集める外事3課(現4課)を新設、2001年には中国、北朝鮮を対象とする外事2課を分割し、中国担当を2課、北朝鮮担当を3課として態勢を拡充、また、サイバー攻撃事案に対処するため、2013年にサイバー攻撃特別捜査隊を新設、2017年からはサイバー攻撃対策センターに格上げされるなど、時代の情勢に合わせて変化を遂げています。

ローン・オフェンダーによるテロ事件と断定できるかどうか難しいところですが、中国の深セン日本人学校の男児(10)が男に刃物で刺されて死亡する事件が発生していますが、中国側から犯行の動機につながる説明がなく、有効な対策を見いだせずにいます。上川前外相は、2024年度の外務省予算から4300万円を拠出し、中国国内に12校ある日本人学校の警備態勢の強化に充てると発表、スクールバスや学校周辺の警備に充てられるといい、こうした保護者の不安に応える姿勢を示しています。しかしながら、犯行の動機が反日感情であるならば、さらなる措置を講じる必要もあり、中国側から情報を早急に引き出すことが必要です。一方、中国は過激な投稿を取り締まる動きも見せています。四川省の地方政府幹部が事件をめぐり、SNSに「我々の規律は日本人を殺すことだ」などと投稿し、調査を受けていると報じられているほか、中国のアプリ大手「快手」は、日中の対立をあおったとして90以上のアカウントを閉鎖したと発表しています。今回の事件や、SNSへの投稿をめぐっては、中国政府が子どもに日本への憎しみを植え付ける「反日教育」が背景にあるのではないかという声も出ており、中国政府は「中国にはいわゆる反日教育はない」(外務省報道官)と否定しつつ、一線を越した投稿には厳しく対処する姿勢を内外に示す狙いがあるとみられています。

海外におけるテロ組織やテロ対策を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 米共和党が主導する下院国土安全保障委員会は、報告書で、米国でイスラム過激派が伸長傾向にあると警告しています。直近の約3年半の間、イスラム教スンニ派過激組織イスラム国(IS)や国際テロ組織アルカーイダなどに関連する事件が29州で計50件以上確認されたと指摘、委員会は、バイデン民主党政権による2021年のアフガニスタン駐留米軍撤退や、2023年10月のイスラム原理主義組織ハマスによるイスラエル攻撃で、テロの脅威が高まったと批判、2024年11月の大統領選が迫る中、政権のテロ対策の不備を強調しています。報告書によると、2021年4月~2024年9月で、ISやアルカーイダの支援を受けた容疑者らによる米国でのテロ未遂や、アフガンでの軍事訓練の参加計画が表面化し、有罪判決が言い渡されるなどしています。
  • ロシア外務省は、アフガニスタンのイスラム主義組織タリバンをテロ組織リストから除外する決定が「最高レベルでなされた」と発表しています。国営タス通信によれば、ロシアのプーチン大統領のアフガン担当特使、ザミール・カブロフ氏は、この決定を現実のものとするためにはさまざまな法的手続きを踏む必要があると述べています。ロシアは2003年、タリバンをテロ組織に正式指定しましたが、プーチン氏は2024年7月、アフガンのタリバン運動をテロとの戦いにおける同盟相手と考えていると述べていました。
  • 米CNNテレビは、軍事政権下の西アフリカ・ブルキナファソ中部の集落で2024年8月下旬に起きた国際テロ組織アルカーイダ系武装勢力による襲撃で、フランス政府の内部報告書に基づく推計として、住民ら最大600人が殺害されていたと報じています。CNNは「ここ数十年のアフリカで最も被害が大きい襲撃の一つだ」と指摘しています。軍が集落を防衛しようと住民に塹壕を掘らせていた際に襲撃を受けたもので、住民を守る措置を取っていなかったため被害が拡大したとの見方があります。報告書は「軍政にテロ対策を担う力はない」と結論付けたといいます。CNNによると、報告書は約1年前からロシアの雇い兵がブルキナファソに駐留してきたと指摘、8月上旬に始まったウクライナによるロシア西部クルスク州への越境攻撃に伴い、自国の防衛を優先したロシアが雇い兵を引き揚げたことがブルキナファソでのテロ対策失敗につながったと分析しています。
  • ISによるテロも相変わらず発生しています。アフガニスタン中部ダイクンディ州で、武装集団が車両に乗っていた住民を銃撃するテロが起き、地元メディアによると少なくとも14人が死亡したといい、IS系武装勢力が犯行を主張しています。被害者は、イラクで行われた宗教行事から帰国した巡礼者を迎えるため移動中で、待ち伏せしていた武装集団に襲われたとみられています。被害者の大半はイスラム教シーア派の少数派ハザラ人で、スンニ派を信奉するISはハザラ人を標的にしたテロを繰り返しているといいます。
  • また、米中央軍は、イラク軍との2024年8月の共同作戦で、ISのメンバー14人を殺害したと発表しています。このうち4人は、ISによるイラク全土や西イラクの作戦に責任を持つ指導者だったとしています。

(5)犯罪インフラを巡る動向

警察庁による複数の生成AIサービスを使った実験で、身代金要求型コンピューターウイルス「ランサムウエア」など数種類のウイルスを作成できたことが判明しています。生成AIを使ったサービスの「抜け穴」を突けば、高度な専門知識がなくても作成できる状況が裏付けられ、犯罪に利用されるリスクを実証した格好であり、極めて憂慮すべき状況だといえます。実験は2024年、一般向けのサービスを使い情報技術解析部門が初めて実施、本コラムでも取り上げましたが、5月には実際に生成AIを利用してウイルスを作ったとして、男が警視庁に国内で初摘発される事件もあり、警察当局は警戒を強めています。企業が提供する「チャットGPT」などの生成AIサービスは、犯罪や差別に関する質問、命令への回答を制限する機能がありますが、警察庁の担当者が命令の言い方や切り口を変えて入力するなどしたところ、そうした機能を一部で回避できたというものです(いわゆる「ジェイルブレイク(脱獄)」)。生成AIを巡っては、ウイルス作成以外にも、偽情報拡散や人権侵害といった悪用への懸念、「犯罪インフラ化」の懸念が高まっており、政府は2023年5月にAIの利活用に関するルールづくりを議論する「AI戦略会議」を設置。警察庁も参加しており、今回の実験結果も踏まえてリスクを検討するとしています。前述のとおり、生成AIを悪用してランサムウエアを作成したとして不正指令電磁的記録作成の罪などに問われ被告(25)の論告求刑公判が東京地裁であり、検察側は懲役4年を求刑、弁護側は寛大な処分を求めて結審しています。検察側は論告で、被告が生成AIを使ってランサムウエアの設計図にあたる「ソースコード」を作成したと指摘、実際に使用されませんでしたが、いずれ犯罪に用いる可能性があり「社会に対して更なる害悪を与えるような危険なもので、犯行態様は極めて悪質」と強調しています。起訴状によれば、2023年3月31日ごろ、パソコンやスマホを使って特定のファイルを暗号化したり、暗号資産口座への送金を要求する文書を表示したりするプログラムのソースコードを作成したとされます。なお、被告は他人の名義を利用して暗号資産口座を開設したなどとして犯罪収益移転防止法違反や詐欺などの罪でも起訴されています。

関連して、2024年10月6日付日本経済新聞の記事「生成AIをサイバー攻撃に悪用 ラップで規制避け危険情報入手 自律化も「時間の問題」」は、最近の生成AIとサイバー攻撃の関係性、危険性を理解するうえで大変参考になりました。例えば、「文章や画像などを自動作成する生成AIは各分野で活用が進む一方、サイバー攻撃に悪用されていることは知られていない。用途はコンピューターウイルスや詐欺メール、偽動画の作成など多岐にわたり、国内でも摘発事例が発生した。AIで攻撃側の効率化が進めば、被害の頻度や範囲は一気に増加・拡大する恐れがある。自律的な攻撃を仕掛ける“人格”を持ったAIの登場も「時間の問題」(専門家)とされる」という点にまずは背筋が凍る思いになります。さらに、「多くの生成AIには悪用を防ぐため、不適切な質問を拒否する規制機能がある。だが、このように歌詞の作成を指示するといった特殊な質問の仕方をすると規制を回避できる場合がある。こうした手法を「ジェイルブレイク(脱獄)」と呼ぶ。クイズの作問指示を装った脱獄手法などもある。検証した三井物産セキュアディレクション上級マルウェア解析技術者の吉川孝志氏によると、新たな悪用手口の発見と開発側の対処はいたちごっこの状況という。「脱獄すら不要な簡単に悪用できる回答を引き出せる方法もあり、犯罪者側の手口を知ることこそ対策の一歩となる」と話す。昨年ごろからはチャットGPTの模倣品とみられる「ワームGPT」など、倫理規制そのものが取り除かれたサイバー攻撃用の生成AIも登場。今年5月に生成AIでウイルスを作ったとして、川崎市の無職の男が警視庁に摘発されたが、使用されたのは無料公開されていたチャットGPTの非公式版とされる」と指摘しています。また、「処理速度や能力の拡張性が優れている生成AIは、攻撃者らにとっても犯罪の効率性が向上する“夢のツール”だ。企業でウイルスの主な感染経路となっているシステムの脆弱性(セキュリティーの欠陥)の探索をAIに行わせ、自律的に攻撃させることが可能になれば「たまたま攻撃を受けてこなかったという企業も被害を受けやすくなる」と岡本氏。そうした状況の到来は「時間の問題」と指摘した。米国で4月に発表された研究結果では、チャットGPTの最新版に準ずるモデルに、公開されたばかりの脆弱性情報を教えたところ、人を介さずに攻撃を仕掛け、成功率は87%に達したという。NTTデータグループエグゼクティブ・セキュリティ・アナリストの新井悠氏は「人格と自由を与えられた生成AIが、(役割分担した)別のAIに指示し、自律的に目標を達成するプログラムの開発が進んでいる。これが悪用されたら24時間365日の攻撃が可能となる」と懸念する」というものです。AI同士が「悪の連携」をしてしまったらという恐ろしい状況がすぐ目の前に迫っていることを痛感させられます。そうした状況においては、もはや「人間」VS「AI」ではなく、「AI」VS「AI」の戦いとなり、人間はAIに生命・身体・財産を委ねるしかない状況になるのかもしれません。AIの自立・自律の獲得は、人間が人間であるための要素を奪いかねない、極めて重い問題を孕んでいるといえます。

中東レバノンで、イスラム教シーア派組織ヒズボラのメンバーらが持つポケットベル型の通信機器が相次いで爆発、2日間で死者は32人、負傷者は3200人超となったとされます。国連のグテレス事務総長は、民間で使用する機器の「兵器化」を非難しています。名指しは避けながらも、ポケベルの一斉爆発は「大規模な軍事作戦の前の先制攻撃」の可能性があるとの見方を示し、急速に事態が悪化する「深刻なリスク」を懸念、すべての当事者に最大限の自制を促しています。今回の攻撃は、「民間人と戦闘員の区別」を定めたジュネーブ条約に違反する可能性が指摘されています。米紙NYTによれば、ヒズボラは台湾のメーカーにポケベル3000台以上を発注、爆発物はレバノンに輸入される前に埋め込まれていたといい、ポケベルはレバノン全土のヒズボラのメンバーに配り、一部はイランやシリアにも送付されていたといいます。発注時期などは明らかになっていません。英スカイニュースも情報筋の話として、イスラエル情報機関モサドの工作員が、ヒズボラの手にポケベルが届く前にペンスリットと呼ばれる高性能の爆薬をバッテリーに設置し、遠隔で温度を上げて爆発させたと伝えています。ポケベルが熱くなったのに気づき、爆発前に処分した人もいたとの報道もあります。こうした工作は、ポケベルの搬入経路などヒズボラの内部情報に精通していなければ実施は困難ですが、イスラエルは諜報能力が高いことでも知られており、実際、イスラエルは1996年、爆発物を仕込んだ携帯電話をイスラム組織ハマスの幹部に使用させて爆殺したとされ、今回もヒズボラと敵対を続けてきたイスラエルが内部情報を入手し、長期にわたり入念に準備を重ねた可能性が考えられるところです。なお、ヒズボラは、敵対するイスラエルによる通信傍受などを避けるため、ポケベル型機器を連絡手段として使用、爆破された機種の導入は2022年に始まり、少なくとも5000個がレバノンに持ち込まれたとみられており、ヒズボラはポケベルを空港の保安検査場などで調べたものの、異常は発見できなかったという報道や、一部のメンバーは異常に気づいたため、イスラエルが急きょポケベルの爆破を実行したとの報道もあります。また、爆発したポケベルは、台湾メーカー「ゴールド・アポロ」が商標ライセンス契約を結び、端末を製造したとされるハンガリーのBAC社は「イスラエルのフロント(隠れみの)だった」、イスラエルの諜報員が製造していることを隠すため、ほかに少なくとも2社のペーパー会社も設立、BAC社は通常の製品を作りつつ、ヒズボラ向けにはPETNと呼ばれる爆薬を電池に混ぜ込んで別に生産したと報じられています(筆者としては、ペーパーカンパニーがこのように悪用されることにも注目です)。また、ハンガリーに160万ユーロ(約2億5000万円)を送金したというブルガリアのペーパーカンパニーの存在も浮上しています。一方、無線通信機器メーカー「アイコム」(本社・大阪市)のロゴが付けられていたことも注目されましたが、自社製である可能性は「限りなく低い」との見解を示しています。偽造品防止のホログラムシールが貼られていないことに加え、これまで判明した複数の情報を照合した結果といいます。レバノン通信相が地元メディアのインタビューで、爆発した無線機がレバノン通信省を経由したものではなく、代理店を通じて輸入されたものでもなく、他国から同じ型番の模倣品が持ち込まれていると把握しているなどと発言していることを踏まえたものでもあります。

アイコム社の状況のとおり、本件は、企業の輸出管理の限界を示すもの、サプライチェーン・リスクマネジメントの困難さや限界を示すものとしても注目されます。2024年9月20日付日本経済新聞の記事「ヒズボラのトランシーバー爆発 企業の輸出管理に限界も」では、「自社製品が軍事活動やテロに悪用されれば、ブランドイメージの低下を招きかねない。国内各社は政府の輸出規制に沿って出荷先を管理しているが、追跡には限界もある」、「軍事転用可能な物品が国際社会の安全を脅かす国家やテロリストの手に渡ることを防ぐため、日本をはじめとする主要国は協調して輸出を管理している。アイコムは自社製品について経済産業省の輸出管理規定に基づくプログラムを策定し「厳格な輸出管理を行っていた」と説明する。アイコムでは流通経路を絞るため、海外向けには正規の販売代理店にのみ出荷している。ただ、その先の製品の行方を把握することは難しい」、「出荷後の製品が戦争やテロに悪用される懸念は後を絶たない。2015年にはISがトヨタ自動車製の車両を数多く使用しているとして米財務省が調査した。トヨタは「テロ活動に車両を転用するおそれのある人物や団体に車両を販売しないことを明確に定めている」との声明を出した。2022年のロシアによるウクライナ侵略でも、ロシア軍のドローン(小型無人機)のモーターやカメラ、電池などに日本製の部品が使われていると報じられた。民生用として販売された製品が軍事目的に転用され、ドローンに組み込まれた可能性がある」、「自社製品の不正利用を防ぐには、取引先や代理店に対する信用調査といった従来のやり方だけでは足りなくなりつつある。サプライチェーン(供給網)のリスクに詳しいPwCジャパンのピヴェット久美子ディレクターは「輸出規制などの法令順守を求める契約の締結や、第三者の改造を検知する製品仕様にするといった多重の対策が考えられる」と話す。ピヴェット氏は中古品の流通は防ぎようがないとしつつも、「悪用された際には製造元としての説明責任が求められる」と指摘する。軍事転用などが想定される高度な技術を使う場合には「たとえ消費者向けの製品であっても対策しておくのが望ましい」と話している」などと報じていますが、これらサプライチェーン・リスクマネジメントの厳格化について、筆者はトヨタの問題のころから繰り返し指摘してきたことでもあります。また、日本経済新聞の別の記事で、公共政策調査会の板橋功研究センター長が「通信機器を使った爆破テロは過去にもあったが、供給網を狙って数千台規模の爆破を起こした事例は初めてではないか」といい、同様のテロが続く可能性を懸念していると述べていますが、正にそのとおりだと思います。また、サプライチェーン・リスクマネジメントの観点では、さらに別の日本経済新聞で、経済産業省でロシア制裁などの輸出管理をめぐる国際交渉を担当する貿易管理部国際係長が、「特にウクライナ侵略で軍事転用される民生技術の範囲が広がった。直接売ったわけではないのに、転売や中古市場などを経て日本企業の製品が武器に使われるなど、意図しないところで巻き込まれる事例が増えている」「企業のレピュテーションリスクにもなりうる。これは欧米も共通の課題として認識しているが、対処に苦慮している分野でもある」「外為法といった法令の順守だけでは耐えられない時代となった。日本製品は魅力があり、それだけ狙われやすい。ロシア向けの制裁で迂回輸出する第三国の規制も進めているが、時間がかかるのは事実だ」「何か不審な情報があれば、すぐ相談しに来てほしい。サプライチェーン(供給網)は複雑さを増しており、情報収集には官民どちらの力も欠かせない。各国こうした情報は共有しており、経産省としても民間企業に情報提供して転用を防ぎたいと考えている」などと述べている点も参考になります。さらに産経新聞で日本大危機管理学部の福田充教授が、「経路を追跡するのは困難」、日本企業が意図せず兵器製造に手を貸す形となっている現状に「国家としても経済安全保障上、技術流出という点で問題だ」と懸念、製品ごとにICチップを導入し、追跡するのは技術的に可能だが、コストなどの負担が大きいとし「各国が協力して監視網を整備すべきだ」と述べています。

前回の本コラム(暴排トピックス2024年9月号)でも取り上げましたが、テレグラムのCEOがフランス警察に逮捕された件はその波紋が大きく広がっています。秘匿性が高く、凶悪犯罪の温床になってきたと指摘される通信アプリ「テレグラム」については、表現の自由が制限される強権国家では、反政府運動の「命綱」の役割を果たしてきた側面もあります。規制強化が過度に進めば民主主義の後退につながる恐れもあり、慎重な議論が求められるところです。2019年に香港で続発した反政府デモで、若者らは秘密裏に情報を交換するためテレグラムを使用、目立ったリーダーが不在の中でも最大200万人(主催者発表)が参加する抗議デモなどを実現させたほか、ミャンマー、イランなど各地の反体制運動でも活用されるなど、そもそも権力介入の排除にこだわるテレグラムの原点も、反体制運動を巡る苦い経験にあるといいます。一方、近年は体制側がテレグラムを「逆利用」する事例も確認され、ドゥーロフ氏を「追放」した当のロシアは、その後、テレグラムのアプリ利用を一転して容認し、多くの政府高官らが情報発信に活用、ロシア軍によるウクライナ侵略を巡り米紙WSJは、戦場での交信活動で、露軍兵がテレグラムに依存していると報じています。また、性犯罪や薬物売買など「犯罪のデパート」(韓国・朝鮮日報紙)、あらゆる違法行為の「グラウンド・ゼロ(中心地)」(米メディア)などと指摘されているとおり、正に最高位の「犯罪インフラ」のひとつといえます。米紙NYTは、情報発信に利用される1万6000件超のアプリ内の「チャンネル」を分析した結果、大型チャンネル22件が国際麻薬取引に関与していたと報道、武器取引業者や人種差別団体の活動も確認されたといいます。一方、テレグラムの正規職員は約60人にとどまり、元職員は同紙に、政府機関の問い合わせに対応することはほぼないと証言しています。こうした実態に対し、フランスだけでなく、巨大IT企業に違法コンテンツの排除を義務付けるEUも、テレグラムへの規制強化を「躊躇しない」との立場を表明、AIで性的な偽動画・画像を生成する「ディープフェイク」の被害が拡散する韓国でも警察当局がテレグラムの現地法人に対する立件前調査に着手し、仏捜査当局と連携する方針を示すなど、規制強化・摘発に向けたテレグラム包囲網が敷かれています。なお、テレグラムやシグナルといった秘匿性の高い通信アプリは日本でも犯罪グループに悪用されることが問題となっています。本コラムでもかなり以前から暴力団関係者がテレグラムを使用していることに警告をしてきましたが、テレグラムを悪用した犯罪は2018年ごろから台頭、特殊詐欺や強盗、フィッシング詐欺の「詐欺ツール」の売買などで使われるようになり、とりわけ、2023年のルフィグループによる広域強盗事件での悪用で社会的な認知が進んだと感じています。テレグラムのやりとりは一定期間で消えることから犯罪に悪用されていますが、実行犯の中には、やりとりをスマホの機能を使い、画像として保存していたケースもあったとされ、こうした画像や地道な解析で、警視庁はルフィ事件の凶行の全貌を浮かびあがらせたとされます。実は、近年の警察ではテレグラムといった表面上消去されたデータであっても復元する技術は十分に備わっているとされ、報道によれば、その解析拠点の中核は「捜査支援分析センター」(SSBC)で、警視庁幹部は「最新のアプリも注視し解析できるように対策している」と自負しています。その他、テレグラム等秘匿性の高い通信アプリを巡る報道としては、以下のようなものがありました。

  • テレグラムの創業者でCEOのパベル・ドゥーロフ氏は、テレグラムの検索機能を悪用した犯罪を抑止するため、利用規約を改定したと表明しています。当局の法的要請に基づき、規約の違反者のIPアドレスや電話番号を開示する可能性があるとしています。
  • ウクライナ国家安全保障・国防会議は、国家当局者や兵士などによるテレグラムの使用を禁止すると発表しています。ロシアが個人間のメッセージや個人データにアクセスしていることを理由としたものです。なお、ウクライナのメディアの推定によると、2023年末時点でウクライナ人の75%がコミュニケーションにテレグラムを使用、72%がこれを重要な情報源とみなしているといいます。
  • オーストラリア連邦警察は、国際的な暗号通信アプリ「ゴースト」を作成・管理していたシドニー郊外在住の男を組織犯罪支援などの容疑で逮捕しています。国内外の数百人が殺人や麻薬密輸といった犯罪の連絡手段として、同アプリを使っていたと推定されているとのことです。報道によれば、男はアプリの入った改造スマホを1台2350豪ドル(約23万円)で販売、利用者には欧州、中東、韓国などの犯罪組織メンバーが含まれているといい、豪警察は欧州警察機関(ユーロポール)などと連携し、豪国内のほかイタリア、スウェーデン、アイルランド、カナダで強制捜査を行い、計38人が逮捕されました。

米商務省は、インターネットと接続する「コネクテッドカー(つながる車)」や自動運転車に関して、国家安全保障上の懸念を理由に、中国やロシアの技術を用いた車両の販売や輸入を禁止する規制案を発表、安価な中国車が米市場に流入する前に事実上締め出すだけでなく、米欧や日韓の自動車メーカーのサプライチェーンから中国の業者を排除する狙いもあるとされます。レモンド商務長官は「敵対国による監視や遠隔操作によって、米国民のプライバシーや安全が脅かされる可能性がある。極端な場合、敵対国が一斉に車のネット接続を切断し、車を乗っ取ることも可能だ」とリスクを指摘、中国などの技術が米国の自動車業界で広まる前に対処する重要性を訴えています。米政府は2024年2月、中国など「懸念国」の技術を使ったコネクテッドカーに関して、国家安保上のリスクに関する調査を始めると発表、7月末には、日本や韓国、EU、インドなどと「コネクテッドカーのリスク」に関する多国間会合を初めて開催しています。サプライチェーンにおける安全保障上のリスクは、前述のポケベル爆破事件でも彫りになっており、米商務省はドローン(無人機)やクラウドサービスについても、安全保障上のリスクを分析し、規制の是非を検討しているといいます。

マンションで1人暮らしの女性の部屋に侵入したとして、大阪府警吹田署は、吹田市の会社員(27)を住居侵入などの容疑で逮捕しています。報道によれば、容疑者は玄関ドアのタッチパネル型電子キーに付着した指紋から、解錠するための暗証番号を推定していたといいます。容疑者はまず、郵便物の宛名から1人暮らしと思われる女性の部屋を物色、留守中を狙って訪れ、玄関の電子キーのタッチパネルに付着した指紋を見ながら頻繁に押されている数字を推測していたとされ、そのうえで比較的簡単な4桁の暗証番号が設定されている可能性が高いと判断すると、数字の入力を繰り返して正しい暗証番号を探し当てていたといい、暗証番号を何度も間違えて電子キーの入力ができなくなった場合は、翌日以降に再度訪れて解錠を試みていたということです。なお、静岡県警が2023年5月に摘発した別の住居侵入事件では、容疑者の男は一人暮らしの女性宅の暗証番号ボタンに透明の塗料を塗布、女性が入力後、特殊な光を当てて塗料のはがれ具合を調べ、割り出していたといいます。まさに「スマートキーの犯罪インフラ化」として、認識しておくべきリスクといえます。

茨城県警は、葬儀で留守になった家を狙い空き巣などを繰り返していたとして男3人を逮捕、水戸地検に送検しています。3人は2017年以降、福島、茨城、栃木、群馬、埼玉、奈良、大阪の7府県で、空き巣など88件(被害額約1億1600万円相当)の窃盗事件に関与した疑いがあるといい、新聞の「おくやみ欄」で葬儀や通夜の日程を確認したり、住所が載った地域の情報誌を使ったりするなどして、空き巣に入る家を決めていたということです(古典的な手口ですが、これだけの件数、被害額を生じさせていることからすれば、おくやみ蘭は立派な「犯罪インフラ」だといえます)

マンションの一室で「メンズエステ」と称した性風俗店を営業するため、女性従業員を住人と偽り賃貸借契約を結んだとして、警視庁保安課は、不動産仲介業者「エイトハウス」代表取締役を詐欺容疑で逮捕しています。東京都内では、条例により店舗型性風俗店の新規開業は一部のエリアでしか認められておらず、警視庁は、容疑者が営業の禁止区域で店舗を構える性風俗業者を相手に、不動産の仲介を繰り返していた疑いもあるとみて調べているといいます。違法風俗営業に対する警視庁の捜査の過程で、サブリース物件の不正な契約が発覚、サブリースは業者が物件を所有者から借り上げ、入居者の有無にかかわらず一定の賃料を保証して支払うものですが、安定した収入が見込めるとされる一方、所有者のチェックが届きにくくなり、今回のように物件が悪用されるケースもあるとされます。こうした実態をふまえ、性風俗店の違法営業や特殊詐欺グループの拠点を排除するため、各地の警察は賃貸物件への取り締まりを強化しているといいます。報道で警視庁幹部が「物件が違法行為に使われると資産価値が下がる。所有者もリスクを認識して注意してほしい」と警鐘を鳴らしていますが、正にそのとおりだと思います。本件も、サプライチェーン・リスクマネジメントにおける「商流からの悪意の排除」の重要性を認識させられるものといえます。なお、本件においては、「両隣の部屋に毎日違う男性が出入りしていて気持ち悪い」との住民の相談をきっかけに警察が摘発につなげたものだといいます。筆者は以前から、不動産仲介事業者などは、契約者の反社チェックは行っても、「真の受益者」(実際に利用する者)のチェックまで実施できていない状況にある(さらには、審査の際には名義貸しや虚偽書類の提出が行われることもあります)と指摘していますが、審査の精度の向上はもちろんのこと、(入口だけでなく)こうした近隣からの情報を端緒とするなど「モニタリング」のあり方に工夫をしていく必要がある(できることはまだある)と考えます。

財務省が公表した2024年上半期(1~6月)の関税法違反事件の取り締まり状況によると、金の密輸で全国の税関が押収した量は2023年同期比約8.1倍の約937キロに上ったといい、報道で担当者は「金の価格高騰で、密輸による利ざやが大きくなっていることが影響しているとみられる」と指摘しています。また、摘発件数は81%増の228件となっています。金の押収量は水際対策の強化などで2017年をピークに激減していましたが、足元では再び増加傾向となっている点に注意が必要です。また、国・地域別では香港が約9割を占めています。輸入時にかかる消費税を免れて金を密輸し、日本国内の買い取り店などで売却し、消費税分を稼ぐ手口が知られています。東京税関成田税関支署の事例では、コルセットや下着、靴の中のほか、スーツケースの支柱内に隠すなど手口が巧妙化しており、金を粉状にして持ち込もうとするケースも急増したといい、水際での税関職員のこれまで以上の「リスクセンス」が発揮されることを期待したいところです。なお、同時に発表した不正薬物の摘発は4%増の500件で、押収量は20%減の約1301キロとなりました。うち大麻草の摘発は約2.5倍の96件、押収量は約14.3倍の約103キロとなり、財務省は、若者を中心に大麻の乱用が増加していることが背景にあるとみています。直近でも、金の密輸の手口として興味深いものがありました。台湾から航空機で金塊約6キログラムを密輸して消費税など計528万円を免れようとしたとして、関税法違反などの疑いで愛知県警は韓国籍の男2人を逮捕していますが、1人が台湾発の機内に金塊を持ち込んで隠し、日本到着後に機体が国内線に切り替わった後、もう1人が搭乗して回収する役割だったといいます。具体的には、容疑者が金塊を機内に持ち込み、台湾の桃園国際空港を出発、中部空港到着後に座席下に隠し、もう1人の容疑者が国内線に切り替わった機体に搭乗して回収することで、消費税などを脱税しようとしたというものです。

オンラインゲームでのやりとりをきっかけに、子どもが性犯罪に巻き込まれる被害が相次いでいます(オンラインゲームの犯罪インフラ化)。特に小学生の被害が増えており、警察庁はゲームの仕組みや運営会社の安全対策について初めての実態調査を行い、被害防止につなげていくとしています。報道によれば、手口は「一緒に遊ぼう」「うちに来ない?」などと誘うほか、ゲームのアイテムを贈って対価としてわいせつ行為を求めたり、名前や性的画像を送らせた後に「ネットに拡散する」と脅したりする事例が多いといいます。被害が深刻化するなか、「現場の警察官もオンラインゲームの実態を十分に把握できていない」(警察幹部)ことから、警察庁は、国内外の約20種類のゲームを対象に調査を実施することを決めたといいます。アカウント登録のほか通話やメッセージ、画像送信の方法など、加害者と被害者がつながる仕組みを確認し、運営会社の通報窓口の設置状況や、ゲームを利用できる年齢制限の有無、不適切な投稿に対する削除措置など安全対策を取っているかについても調べ、今後の対策を検討していくということです。

学校でスマホをはじめとするIT機器の利用を禁じる法律が世界で広がっています。2024年9月には米カリフォルニア州で新法が成立、利用を始める年齢が低下するなか、「スマホ中毒」やいじめといった問題が深刻になっているためですが、法律による規制も万能とはいえず、保護者の悩みは尽きないところです。フランス政府は以前から学校でスマホを使うことを禁止していましたが、中学生を対象として登校時にスマホを預けることを義務付けるとしています。スマホが学習の妨げとなり、看過できなくなっている事情もあり、米ピュー・リサーチ・センターが2023年に米国で実施した調査によると、スマホによる注意散漫が「大きな問題」とみている教師の割合が33%に達し、特に高校で教える教師に限定するとこの割合が72%まで上昇しているといいます。

警察庁は、企業などのデータを暗号化して復旧の対価(身代金)を要求するウイルス「ランサムウエア」の2024年上半期(1~6月)の被害が114件で、2023年同期比11件増だったと発表しています。盗んだデータを暗号化せず、情報を公開すると脅す「ノーウエアランサム」の手口も相次ぎ、警察庁は警戒を強めています。なお、被害があった企業・団体のうち5割はシステムの欠陥修正に遅れがあったことが判明、防御の隙を突かれる形で被害は高水準で推移していることになります。114件のうち大企業は30件で、規模別では中小企業(73件)の被害が多かった。業種は製造業(34件)が最も多く、卸売・小売業(24件)、サービス業(19件)が続いたほか、少なくとも3件は全業務停止に追い込まれ、調査に要した費用は4件で1億円を超えたといいます。感染経路は企業のVPN(仮想プライベートネットワーク)機器や、遠隔でパソコンを操作する「リモートデスクトップ」が目立つほか、データのバックアップまで暗号化され、復元できなかった企業も少なくなかったといいます。本コラムで取りあげてきたとおり、サイバー攻撃は分業制で行われており、ウイルスを開発したグループが攻撃の実行者にランサムウエアを提供し、見返りに身代金の一部を受け取る構図も判明しています。つまり、ウイルスやシステム上の欠陥情報を提供するサービスを利用することで専門知識がなくても攻撃できる環境が整いつつあり、攻撃者がさらに広がる可能性が高まっています。さらに、盗まれたデータは闇サイト上の「リークサイト」に公開されています。2023年から始まったノーウエアランサムの被害は、2024年上半期に14件(2023年同期比5件増)あり、ランサムウエアと合わせると半期としての同種被害は128件で過去最多となりました。ネット上で企業などのシステムの脆弱性を探る動きは活発化しており、警察庁が2024年上半期に検知した不審な通信は、一つのIPアドレス(ネット上の住所)あたり1日平均9825件(同1606件増)となりました。本コラムで継続的に指摘しているとおり、サイバー攻撃は自らが「被害者」であると同時に、他者への攻撃への「踏み台」とされる可能性もあり、「加害者」にもなりうるという側面があります。さらに基本的な対策を疎かにするなどの実態が明らかになっており、その脇の甘さが犯罪組織に狙われ、資金源とされてしまうことになり(いわば「犯罪インフラ化」の状態)、それによってさらなる犯罪が再生産されてしまうという側面もあることをしっかりと自覚し、不作為とならないよう継続的に防御の質を高めるべく取り組むことが求められています

▼警察庁 サイバー空間をめぐる脅威の情勢等
  • 令和6年上半期においては、サイバー攻撃の前兆ともなるぜい弱性探索行為等の不審なアクセス件数及びランサムウエアの被害報告件数が前年同期から増加した。
  • また、フィッシングの被害報告件数も前年同期比で約10万件増加したほか、インターネット上には犯罪実行者募集情報が氾濫するなど、極めて深刻な情勢が継続している。そのような中、警察においては、令和6年4月、サイバー特別捜査隊をサイバー特別捜査部に改組し、捜査・分析体制を強化した。
    1. 高度な技術を悪用したサイバー攻撃の脅威情勢
      • 近年、世界各地で重要インフラの機能停止や機密情報の窃取を企図したとみられるサイバー攻撃が相次いで発生し、我が国でも、政府機関等においてDDoS攻撃とみられる被害が発生しているほか、生成AIを悪用した事案も発生。
      • 警察庁が設置したセンサーにおいて検知した、ぜい弱性探索行為等の不審なアクセス件数は、増加の一途をたどり、その大部分が海外を送信元とするアクセス。
      • 令和6年上半期におけるランサムウエアの被害報告件数は、114件であり、高水準で推移。流出した情報は、ダークウェブ上のリークサイトに掲載。※ノーウエアランサム:暗号化することなくデータを窃取した上で対価を要求する手口。令和5年上半期から集計。
        • 【警察の取組】
          • サイバー特別捜査隊(当時)が参画した国際共同捜査において、ランサムウエア事案被疑者が検挙されたほか、警察庁において、中国政府を背景とするサイバー攻撃グループAPT40による攻撃手法や緩和策が示された国際アドバイザリーの共同署名に参画し、本件アドバイザリーを公表。
    2. インターネット空間を悪用した犯罪に係る脅威情勢
      • 情報通信技術の発展が社会に便益をもたらす反面、インターネットバンキングに係る不正送金事案や、SNSを通じて金銭をだまし取るSNS型投資・ロマンス詐欺、暗号資産を利用したマネー・ローンダリングが発生するなど、インターネット上の技術・サービスが犯罪インフラとして悪用。
      • 令和6年上半期におけるフィッシング報告件数は、63万3,089件、インターネットバンキングに係る不正送金被害総額は約24億4,000万円。
        • 【警察の取組】
          • 令和4年から5年にかけて発生したインターネットバンキングに係る不正送金事件について、関係都道府県警察による捜査を通じて得られた情報をサイバー特別捜査部が集約・分析するとともに、暗号資産の追跡捜査や関係被疑者のSNSアカウントに係る捜査を実施。その結果、サイバー特別捜査部等の合同捜査本部は、同一の犯行グループが、SIMスワップという手口を駆使しながら組織的に不正送金を敢行している実態を解明するとともに、犯行グループの指示役とみられる男を特定。令和6年7月、同男を逮捕。
    3. 違法・有害情報に係る情勢
      • インターネット上には、児童ポルノ等の違法情報や犯罪を誘発するような有害情報が存在するほか、近年SNS上に氾濫する犯罪実行者募集情報は深刻な治安上の脅威。能登半島地震では、過去の災害時の画像や偽の救助情報が拡散。
        • 【警察の取組】
          • 石川県警察は、サイバー特別捜査部と連携した捜査を実施した結果、地震当日に被災者を装ってSNS上に救助を求める虚偽の内容を投稿し、本来不要な捜索活動を警察に実施させてその業務を妨害した会社員の男(25歳)を特定。令和6年7月、同男を偽計業務妨害罪で逮捕。
    4. サイバー特別捜査部の活動状況
      • 令和4年4月、国境を容易に越えて敢行されるサイバー事案に対し、国際共同捜査を通じて被疑者を検挙するため、関東管区警察局に、全国を管轄して直接捜査を実施する「サイバー特別捜査隊」を設置。
        • 【「16SHOP」を用いたクレジットカード情報不正取得・利用事案】
          • サイバー特別捜査隊等とインドネシア国家警察との国際共同捜査により、フィッシングツール「16SHOP」を用いて日本国内の被害者等に対しフィッシングを行い、不正に入手したクレジットカード情報を用いてECサイトで不正注文を行ったとみられるインドネシア所在の被疑者を特定。令和5年7月、インドネシア国家警察が同被疑者を逮捕。本件は、フィッシングに関して国外被疑者を検挙した初の事例となった。
          • 令和6年4月、サイバー特別捜査隊を発展的に改組し、「サイバー特別捜査部」を設置することにより、捜査はもとより、重大サイバー事案の対処に必要な情報の収集、整理及び事案横断的な分析等を行う体制を強化。
        • 【DDoS攻撃ウェブサービスを利用したDDoS攻撃事案被疑者の検挙】
          • サイバー特別捜査部が、外国捜査機関から提供を受けた情報を精査した結果、海外のDDoS攻撃ウェブサービスを利用したDDoS攻撃事案の国内被疑者を特定・逮捕(令和6年8月)。本件は、EUROPOL主導の国際共同捜査への参画が国内被疑者の検挙に結びついた初の事例となった
  • 国家を背景としたサイバー攻撃やDDoS攻撃等の情勢
    • 近年、世界各地で重要インフラの機能停止や機密情報の窃取を企図したとみられるサイバー攻撃が相次いで発生している。
    • 重要インフラの基幹システムに障害を発生させるサイバー攻撃(サイバーテロ)は、インフラ機能の維持やサービスの供給を困難とし、国民の生活や社会経済活動に重大な被害をもたらすおそれがある。また、軍事技術へ転用可能な先端技術や、国の機密情報の窃取を目的とするサイバー攻撃(サイバーエスピオナージ)は、企業の競争力の源泉を失わせるのみならず、我が国の経済安全保障等にも重大な影響を及ぼしかねない。さらに、現実空間におけるテロの準備行為として、重要インフラの警備体制等の機密情報を窃取するためにサイバーエスピオナージが行われるおそれもある。
    • 例えば、我が国においても、令和6年2月には、政府機関や民間企業等のウェブサイトにおいて、DDoS攻撃による被害とみられる閲覧障害が複数発生しており、これら事案の中には、障害発生と同じ頃にSNS上でハクティビストのものと思われるアカウントから犯行をほのめかす投稿がなされる事案も確認された。また、過去には中国を背景とするサイバー攻撃グループBlackTechが、日本を含む東アジアと米国の政府機関や事業者を標的とし、情報窃取を目的としたサイバー攻撃を行っていることも確認された。
    • 今後も国や重要インフラ等に対する安全保障上の懸念を生じさせるサイバー攻撃が発生するおそれがあるなど、サイバー空間における治安の維持は、我が国の安全保障の取組とも密接に絡み合っている。
    • このようなサイバー攻撃の準備として、攻撃者は攻撃対象を事前に探索する場合があるところ、令和6年上半期に警察庁が設置したセンサーにおいて検知した、ぜい弱性探索行為等の不審なアクセス件数は、1日・1IPアドレス当たり9,824.7件と、平成23年以降、増加の一途をたどっており(前年同期比19.5%増)、その大部分を海外を送信元とするアクセスが占めている。
  • ランサムウエアの被害情勢・「RaaS」を中心とした攻撃者の相互分担状況
    • ランサムウエアとは、感染すると端末等に保存されているデータを暗号化して使用できない状態にした上で、そのデータを復号する対価(金銭又は暗号資産)を要求する不正プログラムであり、ランサムウエアによって流出したとみられる事業者等の財務情報や個人情報等が、ダークウェブ上のリークサイトに掲載されていたことが確認されている
    • サイバー特別捜査部による事案捜査及び実態解明により、ランサムウエアの開発・運営を行う者(Operator)が、攻撃の実行者(Affiliate)にランサムウエア等を提供し、その見返りとして身代金の一部を受け取る態様(RaaS:Ransomware as a Service)も確認された。さらに、標的企業のネットワークに侵入するための認証情報等を売買する者(IAB: Initial Access Broker)も存在するように、複数の関与者が役割を分担してサイバー攻撃を成り立たせている。その結果、攻撃の実行者が技術的な専門知識を有する必要もなくなるなど、RaaSを中心とした攻撃者の裾野の広がりがランサムウエアの被害を拡大させている背景の一つとして指摘されている。
    • また、ランサムウエアの手口としては、データの暗号化のみならず、データを窃取した上、「対価を支払わなければ当該データを公開する」などと対価を要求する二重恐喝が多くを占めている。
    • 令和6年6月、出版大手企業は、同社のサーバーがランサムウエアを含む大規模な攻撃を受けたと発表した。この攻撃により、同社が提供するウェブサービスが広く停止したほか、書籍の流通等の事業に影響が発生した。同年8月、同社は、この攻撃により25万人分を超える個人情報や企業情報が漏えいしたことが確認されたこと及び同年度決算において、調査・復旧費用等として30億円を超える損失を計上する見込みであることを発表した
  • AI をめぐる情勢
    • 現在急速に一般社会で利用が広がっているAIについても、様々な便益をもたらすことが期待される一方で、不正プログラム、フィッシングメール、偽情報作成への悪用、兵器転用、機密情報の漏えいといった、AIを悪用した犯罪のリスクや安全保障への影響が懸念されている。さらに、AIを悪用することで専門知識のない者でもサイバー攻撃に悪用し得る情報へのアクセスが容易になると考えられている。実際、警察庁情報技術解析部門の分析により、一般的な生成AIサービスでも、悪意あるプログラムを作成できることが判明したほか、生成AIを利用して不正プログラムを作成した容疑で、逮捕事案も発生している。
  • インターネット空間を悪用した犯罪に係る脅威情勢
    • 情報通信技術の著しい発展や、日常生活や経済活動へのサイバー空間の浸透は社会に様々な便益をもたらす反面、サイバー空間を舞台とした犯罪をはじめ、新たな治安課題を生み、また深刻化させている。
    • インターネット上で提供される技術・サービスの中には、犯罪インフラとして悪用され、犯罪の実行を容易にし、あるいは助長するものも存在している。
    • 例えば、インターネット上での自由な活動とプライバシー保護等の目的で利用される匿名化技術が活用されたダークウェブには、ランサムウエアにより窃取された情報や児童ポルノ画像、専門的な知識を持たなくともサイバー攻撃を可能にするためのツールキット等が掲載されるなどしており、サイバー特別捜査隊(当時)による実態解明の結果、中国人グループがフィッシングで窃取した情報をダークウェブ上で売買していたとみられる事案が明らかとなっている。
    • 実際、令和6年7月にサイバー特別捜査部等からなる合同捜査本部が検挙した、インターネットバンキングに係る不正送金事案おいても、その犯行グループの指示役は、ダークウェブ上に存在するマーケットで流通していた、インターネットバンキングの識別符号(IDやパスワード)を入手した可能性がある。
    • また、多くの国民が利用するSNSについても犯罪インフラとして悪用される例が見られる。例えば、各種犯罪により得た収益を吸い上げる中核部分が匿名化されている、SNSを通じるなどしてメンバー同士が緩やかに結びついているといった特徴を有する「匿名・流動型犯罪グループ」が、SNSで高額な報酬を示唆して犯罪の実行犯を募集して、特殊詐欺等を敢行している実態が見られるほか、SNSを使用した非対面型の投資詐欺やロマンス詐欺、フィッシングによるものとみられるインターネットバンキングに係る不正送金被害においても、同グループの関与がうかがわれている。
    • さらに、近年は、SNS上での特定の個人に対する誹謗中傷も社会問題化しており、令和6年上半期に検挙されたインターネット上での名誉毀損罪及び侮辱罪は合計で217件となっており、増加傾向にある。
    • このように現代においては、ありとあらゆる犯罪がインターネット空間を悪用しているともいえる状況であり、その結果、令和6年上半期におけるサイバー犯罪1の検挙件数は5,715件に、サイバー事案2の検挙件数は1,396件に達している。
    • また、暗号資産については、利用者の匿名性が高く、その移転がサイバー空間において瞬時に行われるという性質から、犯罪に悪用されたり、犯罪収益等が暗号資産の形で隠匿されたりするなどの実態が見られる。特に、海外の暗号資産交換業者で取引される暗号資産の中には、移転記録が公開されず、追跡が困難で、マネー・ローンダリングに利用されるおそれが高いものも存在する。
    • 警察においては、警察庁サイバー警察局がサイバー政策の推進における中心的な役割を、サイバー特別捜査部が重大サイバー事案3への対処を担い、都道府県警察において被害相談の受付・捜査・対策等を推進する役割を担っている。
    • また、サイバー事案のうち、捜査に当たり高度な専門的知識及び技術を要さないものについては、各事件主管部門において主体的に捜査を行うほか、サイバー部門が各事件主管部門を適切に支援することとされている。
  • 違法・有害情報に係る情勢
    • インターネット上には、児童ポルノ、規制薬物の広告等の違法情報のほか、違法情報には該当しないものの、犯罪や事件を誘発するなど公共の安全と秩序の維持の観点から放置することのできない有害情報が存在する。
    • 近年SNS上には、匿名・流動型犯罪グループ等による犯罪の実行者を直接的かつ明示的に誘引等(募集)する情報(犯罪実行者募集情報)が氾濫しており、応募者らにより実際に強盗や特殊詐欺等の犯罪が敢行されるなど、この種情報の氾濫がより深刻な治安上の脅威になっている。
    • 実際、令和6年4月から5月までの間における匿名・流動型犯罪グループによるものとみられる資金獲得犯罪5のうち、主な資金獲得犯罪6の検挙人員508人中、SNSでの犯罪実行者募集情報に応募する形で犯行に関与した者は155人と、全体の30.5%を占めている。
    • また、令和6年1月1日に発生した能登半島地震においては、インターネット上において、過去の別場面に酷似した画像を添付しての投稿や、存在しない住所を記載し不確かな救助を呼び掛ける投稿等が多数拡散されたほか、SNS上において、QRコードを利用した義援金を募る送金詐欺も確認された。

サイバー攻撃を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • チェック・ポイント・リサーチのデータによると、2024年1~8月に米国の公益事業が受けたサイバー攻撃は、2023年の同じ期間に比べて約70%増加したといい。重要なインフラに対する脅威の高まりが浮き彫りになっています。電力需要の大幅増に対応するため送電網が急拡大し、資産がデジタル化される中、米国全土の公益事業と電力インフラはますます脆弱になっており、専門家は、公益事業の多くが時代遅れのソフトウエアを使用しているため、サイバー攻撃の格好の標的と指摘しています。これまでのところ、こうした攻撃で米国の公益事業が機能不全に陥ったことはないものの、業界専門家らは組織的な攻撃が重要なサービスに影響し、多大な経済損失をもたらすことから壊滅的となる可能性があると警告しています。
  • 2024年9月21日付日本経済新聞の記事「サイバー対策放置は経営の怠慢だ 正義のハッカー警鐘」では、「「問題なのは多くの企業や組織が脆弱性を放置したままシステムを使い続けている点だ。企業にせよ病院にせよ、ランサムウエアの被害を受けた多くの組織がシステムの穴を放置し続けたことが攻撃を許す原因となった。弱点があるシステムを修正すれば攻撃の9割は防げる。被害事例が積み上がっているのに対策を講じないのは経営面の怠慢と言える」と指摘しており、正に正鵠を射るもの、「わが意を得たり」と感じます。さらに、「CISOは置けばいいというものではない。セキュリティを理解している人材が就けば効果的だが、専門知識がなければ逆に被害を拡大させかねない。誤った判断に基づく対応はリスクをより深刻化させる」、「CISOが適切に稼働するためには専門知識を持った人材を確保したうえで、緊急時にシステムを止められる権限や事前対策のための予算確保の裁量を併せ持たせることが重要になる。知識や権限のない名ばかりの責任者はいらない」、「サイバー攻撃へのAI悪用は既に確認されており、流れは加速するだろう。自ら標的の脆弱性を見つけて攻撃するAIが登場するのも時間の問題だ。偽のメールやサイトで情報を盗み取る『フィッシング』被害も深刻化する恐れがある」「AIは攻撃面で脅威になる一方、防御にも生かせそうだ。システムの脆弱性をAIが検知し、自動修正する仕組みが近いうちに実現すると見込まれている」、「供給網の状況も含め攻撃のリスクがどこに潜んでいるかは企業により異なる。まずは国よりも個別企業が業態に応じ、セキュリティーレベルを上げる努力を続けることが肝心だ。システムが適切に更新されているか、パスワードの使い回しがないか、基本のポイントを押さえることが抑止につながる」といった指摘は、本質を突くものといえます。
  • 2024年10月7日付日本経済新聞の記事「企業もOSINT活用、サイバーの「穴」診断 供給網にリスク」は、公開情報を分析するOSINT(オープンソースインテリジェンス)の活用が民間に広がっていることを取り上げたもので大変興味深いものでした。具体的には、「情報漏洩のリスク測定といったサービスに関心を持つ企業が増えている。不用意な公開情報がサイバー攻撃に悪用される例があり、対策にもOSINTの知識が欠かせない。日本は米欧に比べ、機密情報の収集や分析といった「インテリジェンス」能力で劣るといわれる。OSINTの手法を駆使すれば、人や通信機器による諜報活動などと同等かそれ以上の成果を上げられるとの期待がある。防衛・安全保障の文脈で発展してきた手法が、ネットやSNSなどの普及によって民間も取り入れやすくなった。企業の資本関係やサプライチェーン(供給網)の情報を集めたり、動画や画像の撮影場所を特定したりする分析が一例だ。近年注目されるのはサイバーセキュリティ対策とOSINTの関係だ。攻撃を受ける端緒になる可能性がある半面、対策にも生かすことができる。メールアドレスや誕生日、電話番号、研究論文といった公開情報からIDやパスワードを推測できる場合がある。盗まれた情報がダークウェブ(闇サイト群)上に暴露され、それと公開情報を組み合わせて、さらなる攻撃につなげる事例も指摘される」、「DDSの担当者は「OSINTの手法を予防段階で導入する企業はまだ少ない」と明かす。一方で社内のエンジニアに情報空間を常時監視させる企業もあり、意識の差がセキュリティ格差につながると警鐘を鳴らす。自社だけでなく、供給網全体で対策を強める必要がある。セキュリティが甘い子会社や取引先への侵入が大規模攻撃のきっかけになる恐れがある」といった内容です。当社もOSINTをフルに活用して情報の収集、分析を行っており、その活用の幅が拡がることを期待しています
  • ロシアなどを拠点にするハッカー集団「LockBit(ロックビット)」のメンバーやサイバー攻撃に関与したとみられる計4人が、フランスや英国などの捜査当局に逮捕されています。ロックビットと同名のランサムウエアの開発者とみられる人物も含まれています。欧州刑事警察機構(ユーロポール)や日本の警察庁が公表しています。これまでに少なくとも日本や米国など約120カ国で2500の企業や団体が被害を受け、ロックビットがからむ攻撃で5億ドル(約715億円)の身代金が奪われたうえ、データ復旧などで数十億ドル(数千億円)の損失が発生、警察庁によると、ロックビットの関与が疑われる被害は日本国内でも100件を超えたといいます「。一方、ロックビットへの包囲網が狭まるにつれ、2024年6月にKADOKAWAを攻撃した「ブラックスーツ」など新手の集団による攻撃も目立っています。さらに、サイバー犯罪集団はメンバーの所在地や拠点が複数の国に分散しているケースもあり、各国当局による連携がより重要となります。
▼警察庁 ランサムウエア被疑者の検挙等に関するユーロポールのプレスリリースについて
  1. プレスリリースの概要
    • 本年2月以降、我が国を含む関係各国による国際共同捜査により、ランサムウエア攻撃グループLockBitに係る被疑者を外国捜査機関が逮捕・起訴するとともに、関連犯罪インフラを押収するなどしたところ(令和6年2月の広報資料、同年5月の広報資料参照)、この度、これらに続く措置として、フランス、イギリス、スペイン当局が、同グループの開発者や、同グループが利用していた防弾ホスティングサービスの管理者等を逮捕するなどした旨を、ユーロポールがプレスリリースした。
    • 同プレスリリースにおいては、前回と同様、関係各国で関連するランサムウエア事案の捜査を行っており、当該捜査について、日本警察を含む外国捜査機関等の国際協力が言及されるとともに、日本警察において開発したLockBitによって暗号化された被害データを復号するツールについても言及されている。
  2. 日本警察の協力
    • 関東管区警察局サイバー特別捜査部と各都道府県警察は、我が国で発生したランサムウエア事案について、外国捜査機関等とも連携して捜査を推進しており、捜査で得られた情報を外国捜査機関等に提供している。
    • 我が国を含め、世界的な規模で攻撃が行われているランサムウエア事案をはじめとするサイバー事案の捜査に当たっては、こうした外国捜査機関等との連携が不可欠であるところ、引き続き、サイバー空間における一層の安全・安心の確保を図るため、サイバー事案の厳正な取締りや実態解明、外国捜査機関等との連携を推進する。
  • 企業の重要データを暗号化するランサムウエアへの対抗策として、暗号化を解く「復号」の重要性が高まっています。データを復元できれば事業への影響を抑えながら要求を拒めることになります。国や民間企業が開発した復号ツールの活用例は世界で600万を超えましが、暗号化を省く手口も現れており、感染を防ぐ基礎対策は欠かせないところです。事業継続や情報漏洩を防ぐためとして身代金の要求に応じる企業は少なくなく、日米欧など15カ国のランサムウエア集団への支払い状況を調べた米セキュリティ大手プルーフポイントによると、2023年は平均で54%の企業・団体が身代金を脅し取られていたといいます。なお、日本の身代金支払率は32%で、各国と比べると低い水準となっています。別の米大手クラウドストライクによる2021年の調査によると日本での支払額は平均約2億5800万円で、要求に応じたことを明らかにしない企業・団体も少なくないと考えられ、ランサムウエア集団に金銭が渡った事例はさらに多い可能性があります。専門家は「ランサムウエア集団に新たな攻撃手段を開発するコストを強いることで、間接的に被害抑止へつながっている」と指摘、復号号の仕組みが整えば、ランサムウエア集団側が手口をさらに変遷させる可能性もあります。専門家は「ランサムウエアの手口が変容したとしても、攻撃の侵入を防ぎ、異変があれば早期に察知するという基本的な対策が重要なのは変わらない」と指摘しています。
  • 出版大手、KADOKAWAの情報漏洩につながるなど、ランサムウエアによるサイバー攻撃被害が相次ぐ中、イスラエルのセキュリティ企業「サイバージム」で、被害企業の代理人としてハッカー集団との交渉を担うユーリ・コーガン氏は、「交渉を避けることは間違いだ。相手を知ると情報漏洩のリスクを下げられる」と指摘しています。「交渉によって相手を知ることは重要だ。実際には何も盗まれていないことが明らかになるケースもある。時間を稼いで要求額を下げたり、盗まれた情報の公開を防いだりできる」とも指摘しています。

米カリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事は、AIモデルの開発者にサイバーセキュリティ対策を義務付けるAI安全法案への署名を拒否しています。AI産業の集積地として規制でも世界をリードできるか注目されましたが、法案に反対した産業界に配慮した形となります。知事は「法案は(AIの)最も基本的な機能にも厳しい基準を適用するものだ。テクノロジーがもたらす脅威から市民を守るための最善の方法だとは思わない」と理由を説明、代替策としてAIの専門家の協力を得ながら、最先端モデルの能力やリスクの分析を進める考えを示しています。カリフォルニア州には世界の主要AI企業50社のうち32社が拠点を置いており、地元の産業界から「AI開発の妨げになる」と法案に反対する声が上がっていました。法案はAIモデルの開発者に大規模なサイバー攻撃など悪用を防ぐ対策を義務付け、違反すれば民事罰の対象とするもので、「AIの発展は生物、化学、核兵器といった大量破壊兵器やサイバー兵器の製造と拡散を可能とし、脅威を生み出すために利用される恐れがある」と指摘、死傷者や5億ドル(約719億円)以上の損害を出す大規模攻撃を想定した安全性テストや緊急時の運用停止機能などサイバーセキュリティ対策を講じるよう義務付け、発電所など重要インフラへの攻撃を防ぐ狙いがありました。一方で、同じく米カリフォルニア州で、選挙広告への利用を目的に、偽の画像や動画をAIで作ることを違法とし、規制する州法が成立しています。米大統領選を前に、偽情報の氾濫を阻止するのが狙いとされます。Xのイーロン・マスクCEOは法成立に対し、X上で「知事はパロディーを違法にする法律に署名した」と批判、「加州には新たな指導者が必要だ」と反発しています。偽動画の投稿者は「パロディー」と書き添えたが、マスク氏は加工の事実に言及せず、1億人以上が閲覧していました。州法は選挙の120日前から、個人や団体がAIを用いた精巧な偽の画像・動画「ディープフェイク」による広告や選挙資料を作成・公開することを禁じるもので、現行法は60日前から違反としていましたが、期間を広げたものとなり、候補者や選挙管理当局は、広告の差し止めや損害賠償を求め提訴できるものです。また、大規模なSNSを運営する企業に対し、虚偽のコンテンツの削除や警告表示を義務付ける州法も成立しています。さらに、AIなどの技術を使って、俳優らの容姿や声に似せた創作物を作ることを制限する州法も成立しています。肖像権を保護するため、AIで俳優らの複製を作成する場合は、あらかじめ契約に明記することや、俳優らが代理人を雇って交渉することを義務付けたものです。また、故人の場合は遺産管理者の同意なく、映像作品や音声などを商業利用することを禁じました。

AIに関する国際的な管理のあり方や活用方法を検討してきた国連の諮問機関は、最終報告書を公表しています。AI専門家による独立した「国際科学パネル」の国連内への設置や、途上国にAI技術を支援する「グローバル基金」の創設などを提言しています。国連のグテレス事務総長は、報告書への全面的な支持を表明し、AIの国際的なルール作りに活用する考えを示しています。「国際科学パネル」は、AIの最新技術やリスク、利活用に関する科学的な知見を集約し、AIの国際的なガバナンス強化に向けた政策提言の実施などを想定しています。また、政府間と開発企業らが意見交換する場や、「グローバル・サウス」(新興・途上国)などの研究者らを技術的に支援する仕組みを整備する必要性も盛り込んだほか、国連内にAI事務局を設置し後押しする構想も示しています。AIの軍事利用に関しても「人道的・倫理的問題を引き起こす」と警告し、予防策として国際的な法的枠組みの必要性を指摘したほか、AIの普及により多くの労働者が失職し、低所得国で格差が拡大する可能性にも言及しています。国際的なAI規制がない中、偽情報や軍事利用への危機感が高まっており、歯止めをかけたいとの思いがその根底にあります。AIを巡っては、選挙などでの偽情報の拡散によって有権者の投票行動への悪影響が懸念され、民主主義の根幹が揺らぎかねないとの危機感も高まっています。ロシアが侵略するウクライナや、イスラエルとイスラム主義組織ハマスとの戦闘が続くパレスチナ自治区ガザを巡っては、戦場がAI兵器の「実験場」となって飛躍的に技術が進展している実態もあります。人間ではなくAIの判断によって攻撃が行われた場合、責任の所在が不明瞭になる問題も抱えています。提言などを受けて国連がAIに関する国際的なルールを整備することで、AI技術が持続可能な開発目標(SDGs)の達成に寄与することも目指すとしています。

最後にAIを巡る興味深い指摘を紹介します。2024年9月21日付朝日新聞の記事「AIとの対話なら陰謀論者は説得可能? 強みは情報収集力と客観性か」によれば、「陰謀論者は生成AIを使って説得できるかも―。こんな研究結果を米アメリカン大学などのチームがまとめた。今や陰謀論は、新型コロナワクチン、米大統領選など、社会のあちこちにはびこり、分断を招く深刻な問題になっている。従来は「対話しても無駄」と思われがちだったが、「話せばわかる」のかもしれない」というもので、「「説得」グループでは、対照グループよりも、記述内容に対する信念の指標が21.43%減少。参加者の4分の1以上が元の言説に対する確信が持てなくなったという。対照グループでは、確信の変化は1.04%の減少でほぼ変わらなかった」といい、「陰謀論への信念を下げる効果には持続性があるとみられた。結果の信頼性を高めるため、行動の変化などを問う質問も追加した実験も実施した。すると、ソーシャルメディアで陰謀論を取り扱うアカウントのフォローを解除する意欲などが有意に高まっていることがわかったという」、「「マインドコントロールのように何でも思い通りにさせるものではなく、事実に従ったものだ。陰謀論を信じるように説得するよりも、陰謀論を信じないように説得する方がやりやすいと思う」との指摘は、考えさせられます。

(6)誹謗中傷/偽情報等を巡る動向

パリ五輪でもアスリートに誹謗中傷の問題がクローズアップされました。アスリートの祭典で毎回のように誹謗中傷が問題となる背景には、いくつか理由があると考えられます。2024年9月13日付朝日新聞の記事「パリ五輪でもアスリートに誹謗中傷 どう守る「見たくない」権利」は、筆者が信頼する山口真一・国際大学GLOCOM准教授(計量経済学)の論考で、誹謗中傷の問題を考えるうえで大変有用な内容でした、具体的には、「そもそもスポーツは熱心なファンが多く、熱中し過ぎるあまり行き過ぎた発言をする人が出やすい。冷静な批判ならまだしも、個人への誹謗中傷を気づかずにしてしまっているケースが多い。また、多くの人が注目したり、国同士の戦いのように映ったりすることもそれに拍車をかける。実際、筆者がNHKと行った東京五輪に関する調査では、アスリートへの攻撃的投稿の中で自分の価値観を押し付けるものが最多だった。加えて、テクノロジーの進歩が大きく環境を変えた。インターネット普及前であれば、前述のような理由から発せられる誹謗中傷は、テレビの前の罵詈雑言や居酒屋談議として、発せられた直後に消えていた。それがアスリートの耳に入ることは無い。しかしながら、インターネットは誰もが自由に公に情報発信できる「人類総メディア時代」をもたらした。我々は五輪の様子を見ながら、スマートフォンで簡単にアスリート本人への攻撃や、公の場での罵詈雑言をすることができるようになった。しかもその投稿は、誰もが見える形で、いつまでも残り続けるという、可視性と持続性を併せ持つ。世界中の多くの人が過剰な情報発信力を手に入れた結果、アスリートへの誹謗中傷が大きな問題となったのである」、「弁護士の結城東輝氏は、「見たくないものを見ない自由」について議論すべきだと指摘している。自らが受信する情報についてもコントロールする権利があってよいという発想だ」、「重要なのは、誹謗中傷している人は多くの場合、誹謗中傷をしているという自覚がなく、批判だと考えている点だ。全員が過剰な発信力を持った現代では、誰しも気づかずに誹謗中傷をする可能性があることを認識し、投稿前に必ず読み返す癖をつけることが大切といえる。そのうえで、他者を尊重し、自分が言われて嫌なことは相手に言わない。その当たり前の道徳心をすべての人が持っていれば、インターネット上の誹謗中傷問題など起こらないのである」というものです。とりわけ「見たくないものを見ない権利」との指摘は大変示唆に富むものといえます。

北海道旭川市で2021年、いじめを受けていた中学2年、広瀬爽彩さん=当時(14)=が自殺した問題を巡り、X(旧ツイッター)で加害者扱いされ名誉を傷つけられたとして、旭川市に当時住んでいた男性(20)が、埼玉県川越市の投稿者に165万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、旭川地裁は、16万5千円の支払いを命じています。判決によると、投稿者は2021年4月、別の人物の投稿に対し、男性を名指しし「警察に行くのか?」と返信したといいます。裁判官は判決理由で、返信は男性をいじめの加害者とする虚偽の内容で、真実と信じる理由があったと裏付ける証拠もないと指摘「名誉権を侵害する不法行為と評価できる」としています。なお、投稿者は口頭弁論に出廷せず、事実関係を争う書面も提出しなかったといいます。

テロリスクの項でも取り上げましたが、中国の広東省深セン市で起きた日本人学校に通う10歳の小学生男児刺殺事件は、日本企業も在中国の社員や家族の安全を優先して一時、帰国を認める動きが増えるなど、日中間の経済関係にも計り知れない大きなダメージを与え始めています。今回の事件の背景要因としてあげられるのは、1年余り前から顕著になった中国社会の雰囲気の大きな変化で、本コラムでも注目している、スパイの定義を拡大する改正反スパイ法の施行です。報道(2024年9月25日付日本経済新聞)によれば、治安対策が必要な大イベントなど全くないのに、地下鉄や鉄道の各車両、バスごとに警備員が配置され、ちょっとした飲食行為にも大声で「違反だ」と叫びながら注意を促すようになり、とりわけ外国人にとっての安全環境が一機に悪化したと指摘されています。科学的知見とは無関係の政治的理由から中国共産党による日本の水産物が全面禁輸されたことや「中国各地に多数ある日本人学校は、日本政府が中国でスパイを養成するために使われている恐ろしい機関だ」、とする悪意あるデマ、誹謗中傷を含む動画や文章が、SNSなどインターネット上で大々的に拡散し始めるという状況が作り出されていきました。中国内のSNSに投稿された日本攻撃の動画・文章に触発された中国の人々の怒りが、あろうことか日本の被災地に向けられるゆがんだ構造により、迷惑電話を誘発する動画をSNSに投稿し、閲覧数が急増すれば、投稿者には莫大な広告収入が入ってくる「お金」欲しさでエスカレートしてく負の循環が生じ、最終的には中国の海鮮料理屋まで客足が遠のき、閑古鳥が鳴く事態を招くことになりました。報道で「習政権の「国家安全」重視が、知らず知らずのうちに日本人、外国人への敵意を醸しだし、SNSを介在させながら日本人学校に対する根拠なき疑念まで喚起、さらに、それが処理水放出問題での日本大批判とも結びついてしまった」と分析されていましたが、そこにSNSのもつ「アテンション・エコノミー」的な側面が肥大化し、さらに根拠なき動画、偽情報/誤情報の流布に拍車がかかったといえます。また、日本人学校に関する全くの虚偽を含む動画・文章は、旧日本軍の中国での過去の行為などへの批判とリンクしている場合も多く、もし、これを丸ごと削除すれば、中国政府が愛国教育を巡る立場を放棄したと受け取られかねず、中国政府として動くことが難しい状況となってしまったことも背景要因としてあげられると思います。このように「少なくとも中国が考える独特の「国家安全」が、回り回って在中国の一般外国人の安全を脅かす構造は、抜本的に改善する必要がある」との指摘は正に本質を突いたものと考えます。

総務省は、SNSを運営する巨大IT企業などにインターネット上の偽情報への対応強化を促すため、新法の制定も視野に新たな規制の検討を始めました。デジタル空間での情報流通の課題に対応する有識者会議を設け、違法な投稿や有害な偽情報がネット上で拡散されるのを防ぐ狙いがあるといいます。検討会の下には、SNS運営大手に求める措置などを議論する作業部会を設け、運営企業に対し、偽情報拡散のリスクを検証して対処する仕組みの義務化などを視野に検討を進め、早ければ2025年の通常国会での法整備を目指すとしています。ネット広告に関する作業部会も設け、SNS運営大手から広告審査の仕組みや人員体制などについて聞き取りを行う方向で、著名人になりすました偽広告を通じた詐欺被害が広がったことを踏まえ、対応を急ぐとしています。偽情報対策を巡っては、別の有識者会議が2024年9月、SNS運営大手に違法な投稿の削除などの対応を速やかに行うよう求める報告書をまとめています。企業側の自主的な対策だけでは不十分として、「制度整備も含め(運営企業に)具体的措置を求めることが適当」と指摘しています。海外では、EUのデジタルサービス法(DSA)や英国のオンライン安全法で、SNS運営大手に違法な投稿への対応などを義務付けており、作業部会ではこうした事例も参考に、検討を進める方針としています。ただ、規制強化に向けては、SNS運営大手が過度に投稿を規制する事態につながりかねないため、表現の自由に配慮した慎重な検討も求められ、有識者会議では、違法性が明らかな情報と、違法ではなくても社会に有害な情報の線引きも議論するとみられます。

▼総務省 「デジタル空間における情報流通の健全性確保の在り方に関する検討会とりまとめ」及び意見募集の結果の公表
▼別紙3 とりまとめ概要
  • 偽・誤情報の流通・拡散等のリスク、それをもたらすアテンション・エコノミー等の構造的リスクが存在。PF事業者ヒアリングでは自主的な取組のみには期待できない状況。
  • こうしたリスクは我が国特有の課題ではなく、諸外国にも共通。諸外国と連携・協力して対処しなければ、状況の悪化が見込まれるとの危機感を持って対応する必要
  • デジタル空間における情報流通の健全性確保に向けた基本理念や主体の役割・責務を明確化しつつ、情報流通の健全性確保に必要な「総合的な対策」を提言。
  • 現状と課題
    • SNS等の情報伝送プラットフォーム(PF)サービスは、国民生活・社会経済活動等に広く・深く浸透し、公益性が高まっている。
    • 偽・誤情報の流通・拡散等の「表層上の」リスク、それをもたらすアテンション・エコノミー等の「構造的な」リスクがある。(令和6年能登半島地震やなりすまし型「偽広告」を巡り顕在化)
    • 特に、SNS等には、(1)低廉な情報発信コスト、(2)拡散促進機能、(3)レコメンデーション機能という特徴(構造)があり、リスクを先鋭化。
    • 金銭対価の仕組みが偽・誤情報の流通・拡散に関連するとも指摘。
    • デジタル広告と広告が掲載されるメディア双方の信頼性にも影響。
  • PF事業者ヒアリングの総括 2024年2~3月に実施
    • デジタル空間における情報流通の適正化等に向けた取組として、全体として十分な回答が得られたとは言いがたい。
    • 特に国外事業者は、日本の状況を踏まえた取組に関する明確な回答がなかったことに鑑みても、日本国内で公共的役割を果たす上で、透明性・アカウンタビリティの確保は総じて不十分。
    • 取組状況についても、全体として十分とは言えない。事業者団体による偽・誤情報対策に関する行動規範の策定に関する議論が白紙となり中断されていることも鑑みると、事業者による自主的な取組のみには期待できない状況。新たに具体的な対応が必要。
  • 日本
    • 権利侵害情報への対応の迅速化、情報削除等に関する運用状況の透明化の措置を義務付ける情報流通プラットフォーム対処法が成立。
  • 米国
    • 合衆国憲法修正1条により表現の自由が手厚く保障。PF事業者に広範な免責が与えられているが、連邦・州レベルで議論の高まり。
  • 欧州
    • 2024年2月、違法情報等への対処を規定するデジタルサービス法の全面適用開始。偽情報に関する行動規範の遵守が事業者に奨励
  • その他
    • 英国その他の先進国でも制度的な対応が進展
  • 基本理念
    1. 表現の自由と知る権利の実質的保障及びこれらを通じた法の支配と民主主義の実現
    2. 安心かつ安全で信頼できる情報流通空間としてのデジタル空間の実現
    3. 国内外のマルチステークホルダーによる国際的かつ安定的で継続的な連携・協力
  • 情報発信
    1. 自由かつ責任ある発信の確保
    2. 信頼できるコンテンツの持続可能な制作・発信の実現
  • 情報伝達
    1. 公平・オープンかつ多元的な情報伝送
    2. 組の透明性とアカウンタビリティの確保
    3. 利用者データの適正な取扱いと個人のプライバシー保護
  • 情報受信
    1. リテラシーの確保
    2. 多様な個人に対する情報へのアクセス保障とエンパワーメント
  • 総合的な対策
    1. 情報伝送PF事業者による偽・誤情報への対応
      • 偽・誤情報に対するコンテンツモデレーション※の実効性確保策として、大規模な情報伝送PF事業者を対象とした次の方策を中心に、制度整備も含め、具体化を進めることが適当。※特定のコンテンツの流通・拡散を抑止するために講ずる措置(情報削除、収益化停止等)。
        1. 違法な偽・誤情報に対する対応の迅速化
          • 行政法規に抵触する違法な偽・誤情報に対し、行政機関からの申請を契機とした削除等の対応を迅速化(窓口整備、一定期間内の判断・通知 等)
          • ただし、前提として、行政機関による申請状況の透明性確保等が不可欠
        2. 違法な偽・誤情報の発信を繰り返す発信者への対応
          • 特に悪質な発信者に対する情報の削除やアカウントの停止・削除を確実に実施する方策について、その段階的な実施を含め具体化
        3. 違法ではないが有害な偽・誤情報に対する対応
          • 違法ではないが有害な偽・誤情報への対応は、影響評価・軽減措置の実施を求める枠組みの活用を含め、事業者による取組を促す観点が重要
          • こうした取組の実効性を補完する観点から、情報の可視性に直接の影響がないコンテンツモデレーション(収益化停止等)を中心とした対応について、迅速化や確実な実施を含め、利用者の表現の自由の保護とのバランスを踏まえながら具体化
        4. 情報流通の態様に着目したコンテンツモデレーションの実施
          • 送信された情報の内容そのものの真偽に着目せず、情報流通の態様に着目してコンテンツモデレーションを実施する方策について具体化
        5. コンテンツモデレーションに関する透明性の確保
          • 基準や手続の策定・公表、人員等の体制に関する情報の公表 等
    2. 情報伝送PFサービスが与える情報流通の健全性への影響の軽減
      1. 情報伝送PF事業者による社会的影響の予測・軽減措置の実施
        • 政府による大枠の制度設計の下、社会的影響を事前予測し、軽減措置を検討・実施(サービスアーキテクチャの変更等による対応)
      2. 特に災害等における影響予測と事前の軽減措置の実施
    3. マルチステークホルダーによる連携・協力の枠組みの整備
      1. 連携・協力の目的(行動規範の策定・推進、軽減措置の検証・評価 等)
      2. 協議会の設置
      3. 協議会の役割・権限等
    4. 広告の質の確保を通じた情報流通の健全性確保
      1. 広告事前審査の確実な実施と実効性向上
        • 審査基準の策定・公表、審査体制の整備・透明化、本人確認の実施 等
      2. 事後的な広告掲載停止措置の透明性の確保
        • 基準や手続の策定・公表、人員等の体制に関する情報の公表 等
      3. 事後的な広告掲載停止措置の迅速化
        • 外部からの申請窓口の整備・公表、一定期間内の判断・通知 等
      4. 事後的な広告掲載停止措置の確実な実施
    5. 質の高いメディアへの広告配信に資する取組を通じた健全性確保
      1. 広告主・代理店による取組促進(経営陣向けガイドライン等の策定)
      2. 広告仲介PF事業者による取組促進
    • A 普及啓発・リテラシー向上
      1. プレバンキングの効果検証等有効な方法及び取組の推進
      2. 普及啓発・リテラシー向上に関する施策の多様化
      3. マルチステークホルダーによる連携・協力の拡大・強化
    • B 人材の確保・育成
      1. 検証報道等の信頼性のある情報を適時に発信する人材
      2. コンテンツモデレーション人材
      3. リテラシー向上のための教える人材
    • C 社会全体へのファクトチェックの普及
      1. ファクトチェックの普及促進
      2. ファクトチェック人材の確保・育成
      3. 関連するステークホルダーによる取組の推進
    • D 技術の研究開発・実証
      1. 偽・誤情報等対策技術
      2. 生成AIコンテンツ判別技術
      3. デジタル広告関連技術
    • E 国際連携・協力
      1. 普及啓発・リテラシー向上・人材育成の国際連携・協力
      2. 偽・誤情報等対策技術の国際標準化・国際展開の推進
      3. 欧米等とのバイやG7・OECD等とのマルチ連携・協力の推進
▼総務省 「デジタル空間における情報流通の諸課題への対処に関する検討会」の開催
  • 総務省は、デジタル空間における情報流通に伴う様々な諸課題について、制度整備を含むその対処の在り方等を検討するため、「デジタル空間における情報流通の諸課題への対処に関する検討会」を開催します。
    1. 目的
      • デジタル空間において、誹謗中傷をはじめとする違法・有害情報の流通は依然深刻な状況であり、また、生成AI等の新しい技術やサービスの進展及びデジタル広告の流通に伴う新たなリスクなど、デジタル空間における情報流通に伴う様々な諸課題が生じています
      • デジタル空間における違法・有害情報の流通については、第213回国会において改正された「特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律(平成13年法律第137号。以下「情報流通プラットフォーム対処法」という。)」により、大規模なプラットフォーム事業者に対して削除対応の迅速化及び運用状況の透明化に係る措置が義務付けられることとなりました。同法の着実な運用を含め、今後更なる取組が期待されるところです。
      • こうした現状を踏まえ、デジタル空間における情報流通に伴う様々な諸課題について、制度整備を含むその対処の在り方等を検討するため、「デジタル空間における情報流通の諸課題への対処に関する検討会」を開催します。
    2. 検討事項
      1. 情報流通プラットフォーム対処法の施行及び運用に関する事項
      2. デジタル空間における情報流通に係る制度整備に関する事項
      3. デジタル広告の流通を巡る諸課題への対処に関する事項
      4. その他

本コラムで最近取り上げる機会が多い、SNS上の顔写真などを基に、生成AIで瞬時に性的な偽動画・画像を生成する「ディープフェイク」が韓国社会に広がり、一般女性が相次いでわいせつな動画を作成されるなどの被害を受けている問題について、米紙WSJは、世界で広がるディープフェイク性動画の半分が韓国で作られており、「新たな国際問題の震源地」になっていると指摘、尹錫悦大統領は「強力な対応」を指示していますが、法整備の遅れなど課題が山積しているのが現状があります。ディープフェイク拡散の舞台となっているのが、テレグラムで、テレグラムは、世界各地で犯罪の温床とも指摘されており、2024年8月下旬にはフランス警察当局が、犯罪の連絡手段に利用されていることを放置した疑いで、創業者を逮捕しています(暴排トピックス2024年9月号を参照ください)。韓国では2019年にも、テレグラムを利用し、中学生を含む70人以上の女性に対する性的虐待・暴行動画が複数のチャットルーム(n番部屋)で組織的に共有される「n番部屋事件」が発覚しており、韓国警察庁は2024年9月、ディープフェイク被害を巡って、テレグラムの運営法人に対する立件前調査に着手したと発表、同庁幹部は記者会見で、仏捜査当局と連携する意向を示しています。また、ディープフェイクによる性的な偽画像を所持したり見たりした場合に処罰される通称「ディープフェイク性犯罪防止法」が韓国国会で可決されています。これまでも処罰の対象だった作製した罪も現行の最大5年以下の懲役から、7年以下に引き上げられています。なお、韓国警察庁によると、2024年1~7月までにディープフェイクの流布などで立件された加害者178人のうち、10代が約74%(131人)を占め、被害の深刻さを認識しない「ゲーム感覚」での犯行実態が浮かび上がっています(日本では大きく社会問題化している状況ではないものの、それは表面化していないだけで、本質的には同様の構図にあるものと推測されます)。

米大統領選の討論会でトランプ前大統領が発したデマが、波紋を広げています。「移民たちが犬を食べている。猫も食べている」とするもので、現場とされたオハイオ州の市庁舎に爆破予告が届くという事態にまで発展しています。ホワイトハウスのジャンピエール報道官が、「激しい憎悪に満ちた中傷だ。ネット上の偽の陰謀論にだまされるような指導者を、私たちは持つべきではない」と述べ、トランプ氏の資質に疑問を呈したほか、地元当局も否定していますが、この誤情報は、ある市民によるSNSでの投稿だったといい、Xや右派系のSNSなどを介して拡散されていったとされます。背景には、人口6万人弱のスプリングフィールドに、過去4年で1.5万ほどのハイチ人が移り住んでいたことがあげられ、以前から住宅や学校などの公共サービスに負担がかかっているとの指摘があり、民主党の移民政策を批判する攻撃材料にも使われていたようです。この問題に目を付けていたのが、オハイオ州選出の上院議員で共和党の副大統領候補でもあるバンス氏で、今回の「移民がペットを食べた」というデマをXに投稿、トランプ氏を支持する起業家イーロン・マスク氏も、バンス氏の投稿を引用して拡散、トランプ氏に近い極右の陰謀論者らも拡散に加担したとされます(ある意味、中国深センでの日本人男児殺害事件の構図と似ているところがあります)。なお、ハイチ移民の支援団体は、11月の大統領選を目指す共和党のトランプ前大統領と副大統領候補のバンス連邦上院議員を公務妨害などの容疑で刑事告発しています。報道によれば、団体側は偽情報が広まったことで、学校などに爆破予告や脅迫が相次ぎ、公共サービスが妨害されたと主張、「当事者がトランプ氏やバンス氏でなければ、既に逮捕されているはずだ。裁判所や検察は、彼らを他の人と同様に扱うかどうかが問われている」と訴えているといいます(根拠のないデマ、誤情報/偽情報がリアルの被害を誘発する点も極めて根深い問題となっています)。

米起業家のイーロン・マスク氏とブラジル最高裁判事の対立によってブラジル国内でXが全面的に停止されてから1カ月が経過しました。最高裁とXで妥協に向けた動きが見え始める一方、再開されてもXを使わないと答える利用者も多く、「Xのない日常」がSNSの功罪を見つめ直すきっかけともなっているとの報道(2024年10月4日付日本経済新聞の記事「ブラジル「Xなき日常」1カ月 3割がメンタル改善」)があり、大変興味深い内容でした。具体的には、「「停止までする必要はなかったが(最高裁判事の)モラエス氏の対応が間違っていたとも思わない。実際、Xはどんどん過激な場所になっていて、ボットや偽情報にはうんざりしていた」。安全に発信したり意見交換したりする空間ではなくなり、居心地の悪さを感じていたという。ブラジルでのSNSの政治化は今に始まった話ではない。ボルソナロ前大統領が勝利した2018年の大統領選では、同氏を支持する企業が偽情報をSNSで拡散したことなどが盛んに報じられた。民主主義に影響を及ぼす可能性があるとして、規制や管理を求める声が強まっていた」、「政治色を強めるXの利用を見直す動きは、停止前から利用者レベルでみられていた」、「「過激な一部の政治的な人たちが偏った発信をする『言論の場』だ。日常的に政治の話はできるのに、あえて使う必要はない」」」といった意見はXの「表現の自由」を過度に尊重したことによる副作用として理解されます。一方、「民間調査会社がXの停止後に実施したアンケートによると、約2割が以前からコンテンツの内容を理由に利用頻度を減らすかやめるかしていた。利用者でも4人に1人は、Xの利用が解禁されても再び使おうとは思わないと答えた。3割以上の回答者が、Xの利用停止によってメンタルヘルスが改善したと感じていることも分かった」という点には大きな示唆を得ることができます。過度な表現の自由の保護が、人々の心や行動にダイレクトに影響を及ぼしているということです。一方、「右派の交流ツールを取り上げられたことに対してオリベイラさん(40)は「完全に過剰な対応だ。言論や情報交換の場であり、それを封じ込めることは反民主的な行為だ」と話す。ギマランイスさん(43)も「(制限をかけることで)民主主義を守るという議論はナンセンスだ」と反発する」という反応も予測できるところです。そして、「サービス停止から約1カ月後、X側はブラジル最高裁に歩み寄りを始めた。指定されたアカウントを制限して罰金を支払ったほか、法定代理人を任命するなど再開に向けた手続きを進めている。再開後のXは、その功罪を改めて認識した利用者に再び受け入れられるのか。世界でも有数のSNS利用大国での壮大な「実験」が投げかけた問いは、言論の自由の問題とともに、SNSのあり方そのものにも及ぶとの問題提起も極めて重く、(1か月もの間、サービスを利用できない状況は社会実験としても極めて貴重であり)SNSとのかかわり方をあらためて問い直すことの重要性を認識させられます

そもそも本件は、ブラジルの最高裁判所が、偽情報の拡散を理由にXのサービス停止命令を承認したものですが、Xへのアクセスを制限しているのは中国やロシア、イランなど権威主義国家が多く、民主主義国家による情報の遮断は異例のことです。SNSの偽情報がもたらす「社会の分断」にどう対応するかが問われており、例えば、英国ではSNSの偽情報をきっかけに2024年7月末から8月初めに大規模な暴動が発生、偽情報を取り締まるべきか、言論の自由に配慮すべきかの課題に直面しています。英スターマー政権は2025年から施行するオンライン安全法を見直す方針です。同法はSNSの運営会社にプラットフォーム上の有害なコンテンツの削除を義務付ける内容ですが、偽情報の拡散や放置への罰則を強化する方向で協議を進めるといいます。日本にとっても人ごとではなく、偽情報が社会をむしばむ予兆が感じられます。例えば、情報通信白書によると、能登半島地震の発生から24時間以内にXに投稿された救助要請1091件のうち、約1割にあたる104件が偽情報と推定されますが、2016年の熊本地震では救助を求める573件の投稿の中で偽情報とみられるのは1件だけだったことから、「アテンション・エコノミー」を背景として偽情報流布のハードルが急激に下がっていることに危機感を覚えます。国際的にみても、偽情報の拡散防止は基本的にSNSの運営会社に委ねられており、運営会社が対応に動かず、ブラジルのように情報遮断に踏み切れば、社会の分断はかえって加速しかねず、言論の自由を妨げずに、ネット上にあふれる情報を適切に管理する方策を試行錯誤し続けるしかない状況です。

米メタは、ロシア国営の対外発信メディア「RT(旧ロシア・トゥデイ)」などを自社の運営するSNSアプリから排除すると明らかにしています。他国への情報工作にかかわったのが理由としています。ロシア国営報道機関「ロシア・セゴドニャ」やその傘下のRTなどの関連団体がメタのアプリ(画像共有アプリ「インスタグラム」やSNS「フェイスブック」、対話アプリ「ワッツアップ」など)を使うのを世界で禁止することになります。ロシアの情報工作には米政府も警戒を強めており、米司法省は、11月の米大統領選を標的にロシア政府の指示で偽情報を流布させたRTの職員を起訴したと発表、米南部テネシー州の企業に資金提供し、2023年11月頃から大量の動画をインスタグラムや動画投稿サイト「ユーチューブ」で拡散した疑いがあるとされます。米国務省も、RTがロシア政府と連携して世界各国で情報工作しているとして、関連する団体や個人を制裁対象にしたと発表しています。RTがドイツやアフリカ諸国で秘密裏にニュースサイトを運営してロシアのプロパガンダを流しているといいます。米国務省はRTについて「事実上、ロシアの情報機関の一部だ」と主張しています。メタについては、EUの最高裁に当たる欧州司法裁判所が、米メタ・プラットフォームズがフェイスブックから取得した個人データをターゲット広告に使用することを制限しなければならないとの判断を示したことも注目されます。個人データを利用したメタのパーソナライズ広告により広告のターゲットにされたとして、プライバシー活動家マックス・シュレムス氏が訴えを起こしていたもので、欧州司法裁は「フェイスブックのようなオンライン・ソーシャル・ネットワークは時間的な制限やデータの種類の区別なしに、全ての個人データをターゲット広告のために使用することはできない」とし、EUの一般データ保護規則(GDPR)でデータ最小化の原則が定められていると指摘しています。これに対してメタは、プライバシー保護を自社製品に組み込むために50億ユーロ以上を投資していると主張、ユーザーが提供する特定のカテゴリーのデータを広告のパーソナライズには使用しておらず、また広告主が機密データを共有することは許されていないと反論しています。

オーストラリア政府は、米メタなどのSNSプラットフォーム企業を対象に、偽情報対策を怠った場合、最大で世界の売上高の5%に相当する罰金を科す法案を提出しています。選挙や公衆衛生に関して偽情報の拡散を防ぐ狙いがあり、プラットフォーム企業が偽情報の拡散を防ぐ行動規範を策定し、豪規制当局の承認を得る内容です。また、企業が行動規範を策定しない場合は規制当局が独自の基準を設定し、違反した企業に罰金を科すことができるとしています。豪州政府が懸念するのが特定の集団を中傷したり、選挙や公衆衛生、重要インフラを混乱に陥れたりする偽情報や誤情報の拡散、中国からの影響工作で、公共の利益を損なう意図的な嘘の「偽情報」や誤りや誤解に基づく「誤情報」への対策が急務になっています豪州はここのところプラットフォーム企業への規制を強めており、アルバニージー首相が子どもがインスタグラムなどのSNSを利用することを禁じる法案を年内に提出することも発表しています。有害なコンテンツから子どもを保護するためだと主張、豪州政府は650万豪ドル(約6億1000万円)を投じて一定の年齢に満たない子どものSNSへのアクセスを遮断するシステムを開発し、試験運用する方針ともされます。言論の自由を尊重する立場から、何が誤情報や偽情報にあたるかを規制当局の権限で決めることには慎重論もありましたが、法案は当局がコンテンツやユーザーのアカウントの削除を強制する権限を持たないと明記。政府は言論の自由を保護するために配慮したと強調しています。

沖縄独立を扱った中国の影響工作を追求した朝日新聞の記事がとても興味深い内容でした。一部抜粋すると、「「記事は基本的な問題設定が我々の考えを全然反映していない。完全なディスインフォメーション(偽情報)だ」。松島教授は結論づけた。「反日を強調することで、日本と琉球の対立を生み出そうとしているのだろうか。分断をあおる政治的な意図を感じる。誰がこんな記事を書いたのだろうか」」、「サイトで使われている文字をよく見てみると、「東京」「情報」「通貨」など複数の単語で中国の簡体字が使われていた。中国語を日常的に使う人物がサイト運営に関わっている可能性が高い。プレスリリースの内容などから、情報の出所をたどることを試みた。すると、アジア地域にリリースを配信するという中国系のPR会社を名乗る複数の組織の存在が浮かび上がった」、「この配信サービスの運営会社は、中国本土と台湾にオフィスがあるという」、「責任者によると、掲載依頼をしてきたのは中国企業で、オンラインでプレスリリースを配信するPR会社という。この会社のサイトによれば、上海にオフィスがあるとされる。なぜこの中国企業が、沖縄独立に関する日本語の記事の掲載を依頼してきたのだろうか。取材に応じた人物は、「中国企業の上に誰か(別の依頼主)がいる。メールでのやりとりの中で彼らは何度も、顧客から詳細を確認する必要があると述べていた」と語り、「記事は中国や台湾でよく目にする政治的プロパガンダだ」と推察した」、「米グーグル傘下のサイバーセキュリティ組織「マンディアント」が昨年7月に発表した、米国内で親中派による情報操作活動が行われていた疑いがあるとするリポートだった。配信者としてこの中国企業が名指しされていたのだ」、「リポートによれば、マンディアントの分析担当者は数年前から、米国の英字新聞を装った正体不明のニュースサイトに注目していたという。掲載された記事は政治的なもの、そうでないもの、中国やロシアの国営メディアから流用されたものなど様々。運営元は当初、わからなかった。サイトを分析したところ、掲載された画像や動画が外部のサーバーから配信されていたことを突き止めた。配信元をたどると、問題の中国企業が管理するサーバーに行き着いたという。そのサーバーに、マンディアントの分析担当者が調べていた正体不明のニュースサイトと中国企業を結びつける情報が見つかったという。それは、ある表計算シートのファイルだった」、「同国の情報機関である国家情報院が、この中国企業などが韓国メディアを装った偽のニュースサイトを開設したり、プレスリリース配信サービスを使って親中・反米の記事を発信したりしていたと発表した。国家情報院は世論操作の一環とみており、関係省庁と連携しサイトを遮断したという。この中国企業が日本のみならず、同様の手口で世界中に情報を拡散しようとしていた疑いが明らかになった」といったものです。

最後に、2024年10月1日付朝日新聞の記事「怒ってないのに「私も怒らなきゃ」 SNS炎上と「怒り」の同調圧力」を紹介します。SNS炎上のメカニズムが「怒り」を切り口として解説されており、大変参考になります。具体的には、「怒りは、本来は短期的な生理反応なのですが、近年の研究では、繰り返し、同じことを頭の中で考えることで維持・強化され、長期にわたって怒りが続くことが示されています。これが怒りの維持過程です。特にSNSで話題になると、何度もそのニュースや関連の発信が手元に届いてしまう。繰り返し目に触れることで、考えるきっかけが生じ、怒りが持続する。その結果、批判や攻撃をする側に回り、また拡散が続くということもありえます」、「自分が信じる社会の秩序が脅かされている、と感じたときに、より強く怒りは共有されます。人間は、社会秩序の中で生き延びた「社会的な動物」という側面が非常に強いため、自分がルールを守らねばという意識だけでなく他者にもルールを守らせたいという欲や、他人の逸脱や違反に対する鋭敏さがあります。また、ネット上でみんなが怒っているから自分も怒りを感じる、という場合もありえます。多くの人が怒っているなら、自分も「怒っても良いはず」と怒りの「正当性」が生まれたり、「怒らないといけないんじゃないか」と考え出したりして、次第にだんだん本当に腹が立ってきてしまうわけです」、「SNSでは通常、趣味や考えが近い人をフォローするので、自分の関心に近いニュースがピックアップされ、似た意見ばかり目に入るようになります。繰り返し触れることで怒りが持続しやすくなり、同じような意見ばかり目にすることで、思考が同じところをぐるぐると回ってしまうことにもなりかねません。心理学的には、冷静になって、じっくりと多角的な観点で物事を考える「認知的再評価」というプロセスによって、怒りは静まり、落ち着いた状態で自分の考えを整理できると言われますが、そうしたプロセスにとって、SNSは非常に不向きなツールです」、「過去の研究では、感情の中で、「喜び」は若干共有されやすいとは言われているものの、もっとも共有や拡散がなされやすい感情は、怒りだと言われています」といったものです。

(7)その他のトピックス

①中央銀行デジタル通貨(CBDC)/暗号資産(仮想通貨)を巡る動向

本コラムではフェイスブック(現メタ)が打ち出した「リブラ構想」以降、CBDCの動向を注視してきました。直近では、将来の普及が見込まれるデジタル通貨(CBDC)を用いた越境決済の実現に向け、官民共同の国際プロジェクト「アゴラプロジェクト」がついに動きだしました。国際決済銀行(BIS)が主導する実証実験に日本のメガバンク3行を含む世界の民間金融機関40社超が参画、国際送金を迅速化し、コスト低減や透明性向上を図ることを目指すものです。BISは2024年4月、日銀や米ニューヨーク連邦準備銀行、英仏韓などの中央銀行計7行と実証実験「プロジェクト・アゴラ」を立ち上げると発表、2024年9月には、民間金融機関の参加を明らかにし、実験はあらたな局面を迎え、「プロジェクトの設計段階に入る」と表明しました。邦銀では三菱UFJ銀行と三井住友銀行、みずほ銀行、SBI新生銀行が参加、米JPモルガン・チェースやシティ、ドイツ銀行や仏BMPパリバ、英HSBC、米クレジットカード大手のビザとマスターカードも加わるといい、実証では、デジタル化された中銀の通貨と民間銀行の預金を共通プラットフォーム上で円滑に取引する方法を検討、銀行間の国際送金の効率化を目指すとしています。2025年末までに基本的な制度設計や課題を報告書にまとめる予定です。国境をまたぐ決済は現在、送金情報を伝達する銀行決済取引網「国際銀行間通信協会(SWIFT)」や「コルレス銀行」と呼ばれる中継銀行を使って行われていますが、複数行を経由する「バケツリレー」方式で処理されるため、マネロン対策や本人確認などの作業が重複、一部に手作業もあり、各国間の法律や規制、技術的な課題に加え、着金までの遅さや手数料の高さが問題となってきました。取引の時間やコストの削減の面でCBDC活用への期待は大きいものの、技術面や各国の規制、営業時間の違いなど乗り越えるべき課題は多く、「長い検討を要する可能性がある」(日銀)とされ、実証でどこまで実用化に近づけるかが焦点となります。

米シンクタンク「アトランティック・カウンシル(大西洋評議会)」が発表した調査によれば、世界経済の98%を占める134カ国が現在、自国通貨のデジタル化を検討しており、その半分近くが進んだ段階にあるほか、中国、バハマ、ナイジェリアといった先駆的な国では利用が増え始めているといいます。計44カ国がCBDCを試験的に導入、2023年の36カ国から増加しています。世界の各当局は現金利用の減少や暗号資産(仮想通貨)ビットコインなどの脅威に対応するためCBDCを推進、同シンクタンクは、「2024年に最も注目すべき動きの一つはすでに発行されているバハマ、ジャマイカ、ナイジェリアのCBDCが大幅に増加したことだ」と指摘しています。世界最大の試験を実施している中国でも、「デジタル人民元(e-CNY)」の利用が4倍近くに増加し、7兆元(9870億ドル)の取引が行われたといい、中国人民銀行(中銀)は1年後には全面的な導入に近付いていると予想されています

オーストラリア準備銀行(RBA、中銀)のブラッド・ジョーンズ総裁補佐は、ホールセール市場向けのCBDCに優先的に取り組むことを決定したと発表しています。ホールセール市場向けCBDCはリテール市場向けCBDCよりも経済的効果が大きいと判断されるためで、同氏は、RBAと財務省が「プロジェクト・アケイシア」と称する3年間のデジタル通貨作業計画を開始したと明らかにしています。このプロジェクトは、トークン化されたマネーと新たな決済インフラを通じてホールセール市場の効率性、透明性、強靭性を向上させることに重点を置いており、ホールセール市場向けCBDCがもたらす効果には、カウンターパーティーリスクと運営リスクの軽減や、透明性と監査能力の向上、金融機関と顧客にとってのコストの軽減などが挙げられています。RBAと財務省はリテール市場向けCBDCについては今後も検討を続け、2027年に追加の報告書を発表する方針としています。リテール市場向けCBDCが採択された場合、政府が導入の是非を決定しなければならず、法改正も必要になると考えられます。

DMMビットコインでは2024年5月31日、暗号資産(仮想通貨)を管理している同社のウォレット(電子財布)から482億円相当のビットコインが不正流出しました。金融庁は「暗号資産の移転などに関し、ずさんな管理実態が認められた」と指摘しています。交換業者のウォレットから暗号資産を移動する際には、パスワードに当たる「秘密鍵」が複数必要になるとこと、DMMビットコインは異なる秘密鍵を一括して管理し、複数人で移動を承認すべきところ「単独で実施していた」(金融庁)ほか、複数のウォレットに分散管理してリスクを減らす検討もしていなかったといい、さらに金融庁は、流出した際のデータや防犯カメラ映像の保存期間を決めていないなど流出リスクへの備えの不備、システムを管理する役員を置かず、一部社員に任せきりだった点を挙げ、不適切な管理態勢が常態化していたと指摘、経営責任の明確化も求めています。不正流出の原因は不明ですが、金融庁は「具体の手口にかかわらず、利用者保護の観点から一刻も早く抜本的な改善を促す必要がある」とし、行政処分に踏み切っています。金融庁は不正流出について原因の究明や経営責任を明確にするよう要請し、業務改善計画は11月末日を初回の基準日として報告するよう求めています。DMMビットコインは不正流出の発覚後から、新規口座開設の審査や、現物取引の買い注文など一部のサービスを停止していますが、金融庁はサービスを再開する条件について「今の業務改善状況をみながら議論することになる」と説明しています。2017年に交換業者の登録制が導入され、2020年にはインターネットから遮断された「コールドウォレット」などでの顧客資産の管理を義務付けましたが、DMMビットコインではコールドウォレットを導入していたにもかかわらず、運用体制に欠陥があり不正流出が起きたものです。

▼財務省関東財務局 株式会社DMM Bitcoinに対する行政処分について
  1. 業務改善命令(法第63条の16)
    1. 本流出事案についての具体的な事実関係及び根本原因の分析・究明
      • 令和6年5月31日付及び令和6年7月2日付で法第63条の15第1項の規定に基づき発出した報告徴求命令に従い当社から提出された報告では、未だ本流出事案についての具体的な事実関係が明らかになっていないため、本流出事案についての具体的な事実関係及び発生した根本原因を分析・究明すること。
    2. 顧客への対応
      • 被害が発生した顧客の保護を引き続き、徹底すること。
      • また、本事案に関して、顧客に対し十分な説明・開示等を行うとともに、顧客からの苦情に適切に対応すること。
    3. 適正かつ確実な業務運営の確保
      • 暗号資産交換業の適正かつ確実な遂行のため、以下に掲げる事項について業務の運営に必要な措置を講じること。
        1. システムリスク管理態勢の強化
          • 不適切なシステムリスク管理態勢が常態化しているなどの根本的な原因を分析・評価の上、十分な改善が可能となるようシステムリスク管理態勢を見直し、強化すること。
        2. 暗号資産の流出リスクへの対応が適切に行われるための態勢の整備
          • 暗号資産の移転等に係る流出リスクの低減に関して、実効性のある低減措置を講じることを含め、流出リスクへの対応が適切に行われるための態勢を構築すること。
        3. 経営責任の明確化及び経営管理態勢等の強化
          • 今回の事案に至った経営責任の明確化を図ること。また、代表取締役及び取締役(以下、「代表取締役等」という。)は、暗号資産交換業の業務運営に対応したリスク等を議論し、その対応を着実に実施すること。さらに、取締役会の機能強化を図り、法令等遵守や適正かつ確実な業務運営を行うために必要な実効性のある経営管理態勢、内部管理態勢及び内部監査態勢を構築すること。
    4. 令和6年9月26日現在停止している取引の再開及び新規口座開設を行うにあたっては、上記(2)及び(3)に基づく対応の実施とともに、上記(1)に記載の原因究明を踏まえた必要な態勢を整備の上、実効性を確保すること。
    5. 上記1.から4.(上記3.及び4.については、業務改善計画(具体策及び実施時期を明記したもの))について、令和6年10月28日(月曜)までに報告すること。
    6. 上記3.及び4.に関する業務改善計画については、実施完了までの間、1か月毎の進捗・実施状況を翌月10日までに報告すること(初回報告基準日を令和6年11月末日とする。)。
  2. 処分の理由
    • 当社において、令和6年5月31日に当社が管理していた暗号資産(BTC)が不正に外部に送信され、顧客からの預かり資産(4,502.9BTC)が流出するという事案が発生した。
    • これを踏まえ、当社に対し法第63条の15第1項に基づく報告を徴求、関東財務局において立入検査に着手し、当社の業務運営状況を確認したところ、以下のとおり、当社のシステムリスク管理態勢等及び暗号資産の流出リスクへの対応について、重大な問題が認められた。
      1. システムリスク管理態勢等
        • 当社は、業務開始以降、システム担当役員が不在であることによる暗号資産交換業に及ぼすシステムリスクを検討することなく、システムを統括管理する役員を配置していないほか、システムリスクの管理やシステム開発・運用管理、情報セキュリティ管理の権限を一部の者に集中させ、システムリスク管理部門として自らのモニタリングを行わせており、システムリスク管理態勢の牽制機能が発揮されていない。
        • また、当社においては、監査スキルを保有する人材を配置していない中、被監査部署に監査を実施させるなど、内部監査の独立性が保たれていない。
        • さらに、当社は、外部ウォレットの導入に際し、暗号資産を移転する際の流出リスクについて議論を行っていないほか、外部ウォレットのセキュリティ管理状況の評価について、外部ウォレット利用に係る評価内容の妥当性を確認していないことに加え、外部ウォレットに問題が発生した場合の対応方法を理解することなく、ウォレットの利用を開始している
        • こうした中、以下2.に掲げる態勢の不備が認められるなど、暗号資産交換業を適正かつ確実に遂行する体制の整備が行われていない。
      2. 暗号資産の流出リスクへの対応
        • 当社は、暗号資産移転に係る秘密鍵の取扱いについて、署名作業を単独で実施しており牽制が図られていないほか、秘密鍵を一括で管理するなど、「事務ガイドライン第三分冊:金融会社関係16.暗号資産交換業者関係」に反する取扱いであることを認識していたにもかかわらず、当該取扱いを継続していた。
        • また、当社は、預かり暗号資産の規模が増大している中、流出等のリスクを分散する必要性を認識しているにもかかわらず、複数のウォレットを設置し、分散管理するなどリスクに応じた対応について検討を行っていない。
        • さらに、当社は、暗号資産の流出時の証拠保全に係るログを保存する期間等を検討していないなど、今回の不正流出事案の被疑事項の調査及び原因分析を迅速に行うために必要な証拠保全を適切に行っていない。
        • 以上のとおり、当社においては、不正行為等による暗号資産の流出を防止するための適切な措置を講じていないことなどから、内部不正や盗難に対する安全性が確保されておらず、暗号資産の移転等に関し、杜撰な管理実態が認められ、さらに、内部監査は、こうした管理実態を容認するなど機能しておらず、暗号資産の流出リスクへの対応が適切に行われるための態勢を構築していない。
    • そもそも、暗号資産の流出リスクへの対応は、経営上の最重要課題のひとつであり、暗号資産の不正流出を防止するための適切な措置を図ることは暗号資産交換業者の健全かつ適切な業務運営の基本である。したがって、その管理態勢は高い実効性が求められているにもかかわらず、上記1.及び2.に述べたとおり、代表取締役等は、システムリスク管理態勢の整備を劣後させ、一部の者へ権限を集中させるなど牽制機能を発揮させておらず、また、暗号資産の流出リスクへの対応に係る重要性を認識することなく、議論・検討を行っていないなど、不正行為等による暗号資産の流出を防止するための適切な措置を講じていない。このように、当社は顧客からの預かり資産を管理する暗号資産交換業者に求められる態勢について著しい不備が認められる
    • 本流出事案については、未だ具体の手口の究明に至っていないが、暗号資産交換業を適正かつ確実に遂行するために必要なシステムリスクに係る経営管理態勢等及び暗号資産の流出リスクへの対応に係る当社の管理態勢については、本流出事案についての具体の手口にかかわらず、利用者保護の観点から一刻も早く抜本的な改善を促す必要があり、こうした状況は、「暗号資産交換業の適正かつ確実な遂行のために必要があると認めるとき」に該当するものと認められることから、法第63条の16の規定に基づく業務改善命令を発出するものである。

本件を受けて、暗号資産交換業者に対して、暗号資産の流出リスクへの対応及びシステムリスク管理態勢について、金融庁から注意喚起が発出されています。

▼金融庁 暗号資産の流出リスクへの対応等に関する注意喚起及び自主点検要請について
  • 本年5月に発生した暗号資産交換業者における利用者財産の不正流出事案を踏まえ、暗号資産の流出リスクへの対応及びシステムリスク管理態勢(以下、「暗号資産の流出リスクへの対応等」)に関し、従来から事務ガイドライン第三分冊:金融会社関係 16.暗号資産交換業者関係(以下、「事務ガイドライン」)等に記載している内容も含めて以下の通り注意喚起しますので、貴協会会員に対して周知・徹底をお願いします。
    1. 経営陣の認識・関与
      • 経営陣は、暗号資産交換業者の経営において、暗号資産の流出リスクへの対応が利用者保護の観点から最重要課題のひとつであり、その管理態勢は高い実効性が求められることを認識する必要がある。
      • 経営陣は、流出リスクの対応に関する社内からの報告や外部から入手した情報を十分に活用することなどにより、流出リスクへの対応が適切に行われるための態勢整備を行う必要がある。
    2. 暗号資産の管理態勢
      • 本年5月に発生した暗号資産の不正流出事案と同様の事案を防ぐためには、今後も各社において暗号資産の管理態勢を適切かつ実効的なものにしていく必要がある。
      • 各社における暗号資産の流出リスクへの対応等について、事務ガイドラインや自主規制規則等に沿って適切に実行される態勢となっているか、3線管理が有効に機能しているか等を、改めて高い問題意識を持って点検する必要がある。
      • なお、点検に当たっては、特に以下の点についても検証する必要がある。
        1. コールドウォレット管理
          • コールドウォレット管理について、外部から遮断された環境で秘密鍵を管理するだけでなく、複数の担当者の適切な関与により牽制機能が実効的に発揮される手順とするなど、流出リスクを最小化すべく入出庫のオペレーションの手続きを社内規則等に定めるとともに、当該社内規則等に従って着実にオペレーションを遂行しているか。
          • これらに加え、短期間で出庫する可能性のあるものと長期間保管するものを異なるコールドウォレットで管理することや、コールドウォレットからの出庫先をホワイトリスト化すること等のリスク低減に向けた措置の是非に関する検討を行っているか。
          • また、外部ウォレットを利用することに伴う暗号資産の流出リスクの分析・特定、及び特定されたリスクへの対応、外部ウォレットに問題が発生した場合の対応方法の理解を適切に行っているか。
        2. 不正行為の原因究明
          • 不正行為が発生した際には、速やかに取引ログやセキュリティルームの監視記録等を検証し、原因究明を行うことが重要であることから、取引ログ等の保存状況が検証のために適切かつ十分なものとなっているか。また、速やかに検証を行うことが可能となっているか。
          • また、貴協会会員に対して上記の注意喚起の内容が適切に実施されているかに関して自主点検を行うことを求めるとともに、その結果を取りまとめてご連絡いただくようにお願いします。

国内外の暗号資産を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 金融庁は事業会社が暗号資産を扱いやすくする仕組みづくりの議論に着手、弁済原資の確保といった負担が軽減され、海外のようにゲーム内で暗号資産を使ってアイテムなどを購入しやすくなる可能性があると報じられています(2024年9月24日付日本経済新聞)。現行では自社サービス内で暗号資産購入などを可能にするには、交換業者の認可を得る必要があり、資産管理や弁済原資の確保など規制上の参入ハードルが高く、有識者会議では、利用者と既存の暗号資産交換業者を取り次ぐブローカー業などを新設するといった案があるといいます。事業会社による暗号資産の取り扱いを巡っては、自民党のデジタル社会推進本部が4月にまとめた要望書でも言及され、業界内でも規制緩和への要望がなされているところです。また、有識者会議の作業部会では、(FTXの破綻を念頭に)海外の暗号資産交換会社が破綻した際に国内利用者の財産の返還を法的に担保する仕組みなどを議論するほか、法定通貨の価値に連動するステーブルコインを裏付ける資産として現預金に加え、短期国債など一部の有価証券を認めることも議題になるといいます。
  • 2024年11月の米大統領選と連邦議会選が近づくなか、暗号資産業界が政治献金を急拡大しているといいます。2024年の暗号資産企業による献金は約1.2億ドル(約170億円)と企業献金全体の4割以上を占めており、規制強化をけん制するため政界への影響力を強める思惑があり、自由至上主義や非中央集権といった当初の理念はかすんでいるとの指摘もあります。本コラムでもたびたび指摘していますが、ビットコインが一般に認知されるようになってから10年以上がたった現在も、決済などの経済活動への利用は極めて限定的なものとなっているのは、本質的な価値が不明瞭なまま値動きの大きさに着目した売買のみが活発な状況が続き、ひとたび規制強化が進めば大きく値崩れしかねない脆弱さを抱えることが背景にあります。そして、暗号資産のアイデアはもともと、政府・中央銀行が通貨を発行して供給量も制御する中央集権型の通貨システムから独立したリバタリアン(自由至上主義)的な思想に基づいています。足元で仮想通貨企業が政界に接近し、厳しい締め付けを避けるために影響力を行使しようとうごめく様子は業界の変質を如実に映すものとして興味深く感じています。
  • 米大統領選挙の共和党候補トランプ前大統領は、新たな暗号資産ビジネス「ワールド・リバティ・ファイナンシャル」の立ち上げをXで発表しています。大統領選候補が投票が迫る中で新事業を発足させるのは異例であるとともに、トランプ氏は以前は暗号通貨を詐欺だとやゆしていましたが、選挙戦に入ってから暗号資産擁護派に転じ、規制緩和やビットコインの国家備蓄で米国を「地球上の暗号資産の首都」にすると約束しています。
  • 米連邦捜査局(FBI)は、2023年の暗号資産関連の詐欺被害額が2022年から45%増加し、56億ドル超に上ったと発表しています。取引処理のスピードの速さや不可逆性を利用した詐欺が増えているといいます。暗号資産取引は一般に公開されているブロックチェーン上に記録されるため、FBIなど当局が容易に資金を追跡することができますが、資金が即座に海外に送金されるケースも多く、海外ではマネロンに対して厳しい法律を適用していない国・地域もあることなどが捜査を困難にしているようです。2023年の暗号資産関連の詐欺被害に投資詐欺が占めた割合は71%にものぼり、コールセンター詐欺と政府なりすまし詐欺による被害は全体の10%を占めています。また、60歳以上の人々の被害額は16億ドルを越えています。
  • ブロックチェーン(分散型台帳)分析会社の米チェイナリシスが151カ国の4つのサブカテゴリーにおける暗号通貨の採用を追跡してまとめた報告書によると、インドは2年連続で暗号通貨の世界的な普及をリードしたといいます。2023年6月から2024年7月までの間に集中型取引所と分散型金融資産の利用においてインドが上位にランクされたことが示されたほか、チェイナリシスの世界導入指数では上位20カ国中7カ国がインドネシアやベトナム、フィリピンといった中央アジアや南アジアの国々となったといいます。一人当たりの購買力が低い国では1万ドル未満の小売規模の暗号送金で行われた分散型取引量が記録され、インドネシアでは暗号通貨を決済手段として使用することは禁止されているものの、投資は認められており、取引が活発で、同国では2024年7月までの12カ月間にデジタル資産の取引で1571億ドルの資金流入を記録したといいます。
②IRカジノ/依存症を巡る動向

2025年大阪・関西万博(2025年4月13日~10月13日)が開かれる大阪市の人工島・夢洲で開業を目指すカジノを含む統合型リゾート(IR)施設の建設を巡る問題について、大阪府と大阪市は、万博会期中のくい打ち工事を当初予定から約2カ月延期するほか、工事の休止日を増やすと発表しています。騒音や交通渋滞の低減が期待できるといいます。また、運営事業者が違約金なしで撤退できる「解除権」が62024年9月6日付で失効したと明らかにしています。報道によれば、2025年5月から予定されていたくい打ち工事を約2カ月遅らせ、重機の稼働台数や工事音のピークを万博閉幕後にずらすほか、低騒音の工法や機械を採用し、防音シートなども設置、こうした対策により、万博会場に届く騒音レベルは、会場内のイベントの音量よりも小さくなるとしています。さらに、交通の影響を低減させるため、IR関連の工事車両の総数を約14%減らすといいます。本コラムでも懸念してきたとおり、IRの工事を巡っては、万博開催に影響があるとの懸念から、博覧会国際事務局(BIE)や日本国際博覧会協会が、期間中の工事中断を求めていたものです。

一方、IR予定地の人工島・夢洲の土壌対策工事を巡り、施工中に事業者に無償で土地を貸して工費も負担するのは違法として、市民7人が、横山英幸・大阪市長に支出差し止めなどを求める住民訴訟を大阪地裁に起こしています。報道によれば、原告側は一般競争入札を経ずに事業者を決め、適正なチェックが及んでいないと主張、経費支出の差し止めや事業者に賃料を払わせることなどを求めているといいます。原告は会見で、「本当に自治体が推進すべき事業なのか。大阪市という自治の在り方を問いたい」と述べています。2030年秋ごろに開業が見込まれるIRを巡っては、別の二つの市民グループが土壌対策費や賃料について大阪地裁に提訴し、併合して審理されています。さらに、IRの用地を巡り、不当に安い賃料で契約したため大阪市に1千億円超の損害が生じるとして、市民団体が、事業者との交渉当時に市長だった松井一郎氏らに支払いを求め住民監査請求しています。また、賃料算定で大阪市側が事業者に有利になるよう誘導したとも主張しています。市は賃料算定に当たり、4社に不動産鑑定を依頼、いずれも大型ショッピングモールの用地として算出し、3社が1平方メートル当たり月額428円でそろったことが疑念を呼んでいるものです。用地全体では同約2億1千万円となり、大阪市は2023年9月、この額で契約、市民団体側はIRの用地として賃料を算出すべきだと主張、独自に依頼した不動産鑑定を根拠に、損害額は33年余りの契約期間で約1045億円に上るとしています。

IRカジノ、賭博問うに関する国内外の報道から、いくつか紹介します。

  • 海外のオンラインカジノを紹介する動画をユーチューブに投稿し、利用者を賭博に誘導したとして、埼玉県警は、常習賭博ほう助の疑いで飲食店従業員を逮捕しています。報道によれば、容疑者は成果報酬型のインターネット広告「アフィリエイト」を海外のカジノ事業者側と契約、実際に賭博をしている光景などを動画にし、カジノにアクセスできるリンクを一緒に載せることで報酬を得ていたといいます。事業者と広告契約を結び、投稿動画を使う手口での常習賭博ほう助容疑者の逮捕は全国初となります。容疑者は、投稿動画1本につき、事業者から500ドルの広告料を受け取っており、他の事業者とも同様の契約を結び、計約550万円を得ていたとみられています。なお、容疑者は「客を勧誘することが違法とは思わなかった」と否認しているといいます。
  • フィリピンのテオドロ国防相は、北部ルソン島バンバン市の中国系オンライン賭博施設の位置が軍事基地に近すぎると問題視する姿勢を示しています。中国が軍事的に利用する可能性も指摘されており、同氏は「建物32棟から成る複合施設が運営されていたのは奇妙だ」と懸念を訴えています。フィリピンにはドゥテルテ前政権下で合法化された中国人向けオンライン賭博施設が各地に建設されましたが、地元紙は軍事基地に近い賭博施設を中国が奇襲攻撃に利用する恐れがあるとの識者の見解を報道、賭博施設問題を追及してきたホンティベロス上院議員は記者会見で、スパイ活動に使われた可能性がないとは言い切れないと述べていました。バンバン市では、中国人なのにフィリピン国籍を偽装して市長になった疑いがあるグオ容疑者が汚職防止法違反容疑で逮捕されており、グオ容疑者が敷地の半分を保有し、市長の立場を利用して賭博組織に便宜を図った疑いがあるとされます。
  • 同じくフィリピンに関するものですが、フィリピンの財閥大手アライアンス・グローバル・グループ(AGI)が、IRの大規模開発に乗り出すといい、観光地セブ島やボラカイ島に計7億ドル(約1000億円)を投じると報じられています。マルコス政権がオンラインカジノの規制を強化することで、実店舗に客が流れるとの読みがあるとされます(2024年10月3日付日本経済新聞)。報道によれば、外国人やフィリピン人を対象としたカジノ事業などでの2023年通年の総収入はおよそ2800億ペソ(約7200億円)と過去最高で、公的機関であるフィリピン娯楽賭博公社(PAGCOR)は今後5年で国内外の企業からカジノに最大60億ドルの投資を見込んでいるといいます。他のアジア地域のカジノ施設との競争に対応するため、賭博事業の許可料を引き下げる予定で、現在は許可料の比率は利益の35%であるところ、店舗型の場合は2025年から30%とするといいます。一方でカジノにはマネロンなど犯罪の温床になりかねないとの批判も寝強く、最近でも中国のスパイ疑惑が浮上した元町長が違法業者に営業許可を出していたことも明るみに出ています。マルコス大統領は2024年7月の施政方針演説で「POGO」と呼ばれる外国人向けオンラインカジノについて、治安の悪化や人身売買などの拠点となっているとの指摘が相次いでいることから、営業を2024年末までに全面的に禁止すると表明しています。オンラインカジノへの規制が強化される半面、今後は顧客やマネーの動きを把握しやすく、違法行為を取り締まりやすい実店舗型カジノの成長が高まるとの期待があるとされます。
③犯罪統計資料から

例月同様、令和6年(2024年)1~8月の犯罪統計資料(警察庁)について紹介します。

▼警察庁 犯罪統計資料(令和6年1~8月分)

令和6年(2024年)1~8月の刑法犯総数について、認知件数は480,939件(前年同期456,115件、前年同期比+5.4%)、検挙件数は180,457件(169,181件、+6.7%)、検挙率は37.5%(37.1%、+0.4P)と、認知件数・検挙件数ともに前年を上回る結果となりました。増加に転じた理由として、刑法犯全体の7割を占める窃盗犯の認知件数・検挙件数がともに増加していることが挙げられ、窃盗犯の認知件数は326,426件(313,774件、+4.0%)、検挙件数は104,377件(98,448件、+6.0%)、検挙率は32.0%(31.4%、+0.6P)となりました。なお、とりわけ件数の多い万引きについては、認知件数は65,056件(61,499件、+5.8%)、検挙件数は43,575件(40,647件、+7.2%)、検挙率は67.0%(66.1%、+0.9P)と、大きく増加しています。また、凶悪犯の認知件数は4,580件(3,537件、+29.5%)、検挙件数は3,876件(2,897件、*33.8%)、検挙率は84.6%(81.9%、+2.7P)、粗暴犯の認知件数は38,281件(39,024件、▲1.9%)、検挙件数は30,924件(30,983件、▲0.2%)、検挙率は80.8%(79.4%、+1.4P)、知能犯の認知件数は40,144件(31,332件、+28.1%)、検挙件数は11,800件(12,290件、▲4.0%)、検挙率は29.4%(39.2%、▲9.8%)、風俗犯の認知件数は11,607件(6,254件、+85.6%)、検挙件数は8,988件(4,443件、+102.3%)、検挙率は77.4%(71.0%、+6.4P)、とりわけ詐欺の認知件数は37,049件(28,878件、+28.3%)、検挙件数は9,764件(10,523件、▲7.2%)、検挙率は26.4%(36.4%、▲10.0P)などとなっています。なお、ほとんどの犯罪類型で認知件数・検挙件数が増加する一方、検挙率の低下が認められている点が懸念されます。また、コロナ禍において大きく増加した詐欺は、アフターコロナにおいても増加し続けています。とりわけ以前の本コラム(暴排トピックス2022年7月号)でも紹介したとおり、コロナ禍で「対面型」「接触型」の犯罪がやりにくくなったことを受けて、「非対面型」の還付金詐欺が増加しましたが、現状では必ずしも「非対面」とは限らないオレオレ詐欺や架空料金請求詐欺などが大きく増加傾向にあります。さらに、SNS型投資詐欺・ロマンス詐欺では、「非対面」での犯行で、(特殊詐欺を上回る)甚大な被害が発生しています。

また、特別法犯総数については、、検挙件数は41,270件(44,763件、▲7.8%)、検挙人員は33,066人(36,670人、▲9.8%)と2022年は検挙件数・検挙人員ともに減少傾向にある点が大きな特徴です。犯罪類型別では、入管法違反の検挙件数は3,922件(3,839件、+2.2%)、検挙人員は2,675人(2,679人、▲0.1%)、軽犯罪法違反の検挙件数は4,306件(5,024件、▲14.3%)、検挙人員は4,359人(4,952人、▲12.0%)、迷惑防止条例犯の検挙件数は3,657件(6,769件、▲46.0%)、検挙人員は2,693人(5,218人、▲48.4%)、犯罪収益移転防止法違反の検挙件数は2,700件(2,087件、+29.4%)、検挙人員は2,084人(1,645人、+26.7%)、不正アクセス禁止法違反の検挙件数は281件(299件、▲6.0%)、検挙人員は100人(79人、+26.6%)、不正競争法違反の検挙件数は20件(34件、▲41.2%)、検挙人員は40人(40人、±0%)、銃刀法違反の検挙件数は2,974件(3,183件、▲6.6%)、検挙人員は2,537人(2,670人、▲5.0%)などとなっています。減少傾向にある犯罪類型が多い中、犯罪収益移転防止法違反等が大きく増加している点が注目されます。また、薬物関係では、麻薬等取締法違反の検挙件数は1,218件(791件、+54.0%)、検挙人員は726人(477人、+52.2%)、大麻取締法違反の検挙件数は4,571件(4,623件、▲1.1%)、検挙人員は3,631人(3,806人、▲4.6%)、覚せい剤取締法違反の検挙件数は5,301件(4,889件、+8.4%)、検挙人員は3,576人(3,409人、+4.9%)などとなっており、大麻事犯の検挙件数がここ数年、減少傾向が続いていたところ、2023年に入って増加し、2023年7月にはじめて大麻取締法違反の検挙人員が覚せい剤取締法違反の検挙人員を超え、その傾向が続いている点が注目されます。また、覚せい剤取締法違反の検挙件数・検挙人員ともに大きな減少傾向が数年来継続していましたが、ここにきて増加傾向となっている点は大変注目されるところです(これまで減少傾向にあったことについては、覚せい剤は常習性が高いため、急激な減少が続いていることの説明が難しく、その流通を大きく支配している暴力団側の不透明化や手口の巧妙化の実態が大きく影響しているのではないかと推測されます。言い換えれば、覚せい剤が静かに深く浸透している状況が危惧されるところだと指摘してきましたが、最近、何か大きな地殻変動が起きている可能性も考えられ、今後の動向にさらに注目したいところです)。なお、麻薬等取締法が大きく増加している点も注目されますが、その対象となるのは、「麻薬」と「向精神薬」であり、「麻薬」とは、モルヒネ、コカインなど麻薬に関する単一条約にて規制されるもののうち大麻を除いたものをいいます。また、「向精神薬」とは、中枢神経系に作用し、生物の精神活動に何らかの影響を与える薬物の総称で、主として精神医学や精神薬理学の分野で、脳に対する作用の研究が行われている薬物であり、また精神科で用いられる精神科の薬、また薬物乱用と使用による害に懸念のあるタバコやアルコール、また法律上の定義である麻薬のような娯楽的な薬物が含まれますが、同法では、タバコ、アルコール、カフェインが除かれています。具体的には、コカイン、MDMA、LSDなどがあります。

また、来日外国人による重要犯罪・重要窃盗犯 国籍別 検挙人員 対前年比較について、総数538人(410人、+31.2%)、ベトナム148人(141人、+5.0%)、ブラジル38人(27人、+40.7%)、フィリピン33人(14人、+135.7%)、スリランカ22人(10人、120.0%)、中国77人(47人、62.8%)、韓国・朝鮮20人(17人、+17.6%)、パキスタン18人(5人、+260.0%)、インド12人(10人、20.0%)、アメリカ12人(6人、+100.0%)などとなっています。ベトナム人の犯罪が中国人を大きく上回っている点が最近の特徴です。

一方、暴力団犯罪(刑法犯)罪種別検挙件数・人員対前年比較の刑法犯総数については、、検挙件数は6,153件(6,149件、+0.1%)、検挙人員は3,223人(3,857人、▲16.4%)と、刑法犯と異なる傾向にあります。検挙件数・検挙人員ともに継続して増加傾向にあったところ、2023年6月から再び減少に転じ、今回また検挙件数が増加に転じた点が注目されます(暴力団構成員等の数が継続的に減少傾向にあることを鑑みれば、理解できるところです)。犯罪類型別では、強盗の検挙件数は54件(75件、▲28.0%)、検挙人員は105人(158人、▲33.5%)、暴行の検挙件数は263件(383件、▲31.3%)、検挙人員は240人(355人、▲32.4%)、傷害の検挙件数は523件(666件、▲21.5%)、検挙人員は628人(756人、▲16.9%)、脅迫の検挙件数は190件(220件、▲13.6%)、検挙人員は193人(197人、▲2.0%)、恐喝の検挙件数は211件(237件、▲11.0%)、検挙人員は230件(296件、▲22.3%)、窃盗の検挙件数は3,114件(2,682件、+16.1%)、検挙人員は449人(541人、▲17.0%)、詐欺の検挙件数は1,013件(1,088件、詐欺6.9%)、検挙人員は678人(845人、▲19.8%)、賭博の検挙件数は48件(17件、+182.4%)、検挙人員は74人(68人、+8.8%)などとなっています。とりわけ、詐欺については、増加傾向に転じて以降、高止まりしていましたが、2023年7月から減少に転じ、今回また検挙件数が増加している点が特筆され、あらためて資金獲得活動の中でも重点的に行われていると推測される(ただし、詐欺は暴力団の世界では御法度となっているはずです)ことから、引き続き注意が必要です。さらに、暴力団犯罪(特別法犯)主要法令別検挙件数・人員対前年比較の特別法犯について、特別法犯全体の検挙件数は2,796件(3,134件、▲10.8%)、検挙人員は1,821人(2,191人、▲16.9%)と、こちらも検挙件数・検挙人数ともに継続して減少傾向にあります。また、犯罪類型別では、入管法違反の検挙件数は20件(14件、+42.9%)、検挙人員は20人(12人、+66.7%)、軽犯罪法違反の検挙件数は33件(53件、▲37.7%)、検挙人員は32人(40人、▲20.0%)、迷惑防止条例違反の検挙件数は44件(45件、▲2.2%)、検挙人員は42人(45人、▲6.7%)、暴力団排除条例違反の検挙件数は37件(13件、+184.6%)、検挙人員は50人(26人、+92.3%)、銃刀法違反の検挙件数は44件(60件、▲26.7%)、検挙人員は27人(42人、▲35.7%)、麻薬等取締法違反の検挙件数は162件(137件、+18.2%)、検挙人員は65人(65人、±0%)、大麻取締法違反の検挙件数は496件(675件、▲26.5%)、検挙人員は295人(458人、▲35.6%)、覚せい剤取締法違反の検挙件数は1,587件(1,745件、▲9.1%)、検挙人員は1,019人(1,181人、▲13.7%)、麻薬特例法違反の検挙件数は60件(78件、▲23.1%)、検挙人員は19人(38人、▲50.0%)などとなっており、最近減少傾向にあった大麻事犯と覚せい剤事犯について、2023年に入って増減の動きが激しくなっていることが特徴的だといえます(とりわけ覚せい剤については、今後の動向を注視していく必要があります)。なお、参考までに、「麻薬等特例法違反」とは、正式には、「国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律」といい、覚せい剤・大麻などの違法薬物の栽培・製造・輸出入・譲受・譲渡などを繰り返す薬物ビジネスをした場合は、この麻薬特例法違反になります。法定刑は、無期または5年以上の懲役及び1,000万円以下の罰金で、裁判員裁判になります。

(8)北朝鮮リスクを巡る動向

以前も取り上げましたが、2024年8月下旬から北朝鮮を訪れていた朝鮮大学校の学生らによる訪朝団が訳4週間の滞在を経て帰国しています。北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記は2024年初め、これまでの対韓路線を変更し韓国との平和統一を放棄すると表明、学生らは今回の訪朝でこうした方針などに関する講習を受けたとみられています。報道によれば、訪朝団を巡っては、在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)側が多額の金銭を北朝鮮に持参するよう学生らに指示、今回の第1陣では、合計で数千万円程度が北朝鮮に持ち込まれたとの情報があり、今後、第2陣、3陣とグループ単位で出国を重ね、計約140人の学生が北朝鮮を訪れる予定で、金銭などの運び込みも続く可能性があり、北朝鮮に対する経済制裁との兼ね合いから問題化する可能性も指摘されています

防衛省は2024年9月18日、北朝鮮が同日午前6時53分頃と同7時23分頃、同国内陸部から北東方向に複数の弾道ミサイルを発射したと発表しています。いずれも日本の排他的経済水域(EEZ)外の北朝鮮東岸付近に落下したと推定されています。北朝鮮の弾道ミサイル発射は2024年では11回目となりました。韓国軍合同参謀本部の発表によると、発射されたのは北朝鮮西部・平安南道价川付近で、飛行距離は約400キロでした。木原防衛相は防衛省で記者団に対し、「明白な国連安全保障理事会決議違反で断じて容認できない」と述べ、外交ルートで抗議したことを明らかにしています。また、韓国の聯合ニュースによると、今回の発射は3、4発で、韓国軍は飛距離や高度などから、北朝鮮が「超大型放射砲(多連装ロケット砲)」と称する短距離弾道ミサイル「KN25」の可能性があると分析しています。北朝鮮は翌日、「4.5トン級の超大型弾頭」を搭載できる新型戦術弾道ミサイルの発射実験に成功したと発表、7月中の追加発射を予告していましたが、発射せず、8月の米韓合同軍事演習前後にも弾道ミサイル発射は確認されませんでした。北朝鮮は7月末に中朝国境地域が甚大な洪水被害に見舞われ、金総書記が被災地入りしたり、多数の朝鮮人民軍兵士らを投入したりし、復旧に尽力する姿勢を見せてきました。今回、弾道ミサイル発射を再開することで、災害復旧に傾注する中でも核・ミサイル開発は進めていく意思を誇示した形といえます(金総書記は発射実験を視察、新型ミサイルが地上の標的に落下する場面の写真も公開、北朝鮮が意図的に内陸に向けて撃った弾道ミサイルの着弾場面を公開するのは初めてとみられ、落下地点を誤れば、被害が生じかねない陸地にあえて目標を設定することで、命中精度の高さを誇示する狙いがうかがわれます)。金総書記は建国76年にあたる9月9日の演説で「米国主導の軍事ブロック拡張による重大な脅威」と日米韓の安保協力を非難、「核の力を不断に強化していく」と表明し、核兵器の増産政策を貫徹する方針を示していました。さらに北朝鮮は、金総書記が核兵器用高濃縮ウランの生産施設を視察したことを初めて公表(さらに核施設内部の写真も初めて公開)するなど、日米韓の安全保障協力の深化に対抗し、核・ミサイル開発に傾注する立場を鮮明にしています。兵器用のウラン濃縮施設にせよ、超大型弾頭にせよ、開発・生産の進展を誇示することで、核兵器の実戦配備計画を着実に進めていく意思を、9月の自民党総裁選や11月の米大統領選を経て新たに選出される日米の次期首脳に示す狙いもありそうです。「核保有国」として、非核化交渉には一切応じないとの事前の牽制メッセージが含まれているとも考えられます。加えて、韓国では「ロシアに輸出するモデルを試験したのではないか」との見方も有力です。本コラムでも取り上げましたが、北朝鮮とロシアは6月の首脳会談で、有事の相互支援を規定する新条約を締結しました。国連安全保障理事会(安保理)は北朝鮮への制裁で武器の取引を禁止していますが、ロシアは制裁を無視して北朝鮮との協力を強めているほか、制裁の履行状況を調査する国連の専門家パネルもロシアの拒否権で4月に活動を停止しています・

ロシアのタス通信によると、北朝鮮の崔善姫外相は、訪問中のロシア西部サンクトペテルブルクで開かれた会合で演説し、ロシアのウクライナ侵略を正当化、「ロシアが勝利すると確信している」と両国の蜜月関係を誇示しています。崔氏はウクライナ情勢について「国際社会が直面する危機の一つで、ロシアの安全保障上の利益が侵害されている」とし、北朝鮮は「(ロシアの)正当な戦いを支持する」と述べています。朝鮮半島情勢では、米国の軍事演習などで緊張が高まっていると主張、「米国の覇権政策に対抗する必要がある」と強調しています。一方、ロシア領内でウクライナ軍による弾薬庫への攻撃が相次いでいます。ウクライナ軍は南部クラスノダール地方の大規模弾薬基地を攻撃、「ロシア軍内でも3本の指に入る規模で、最も重要な補給基地の一つ」であり、北朝鮮からのものを含む2千トン以上の弾薬が列車で到着したとの情報があったといいます。英国の国防省は、ウクライナ軍のドローン攻撃によって爆破されたとされるトロペツの弾薬庫について、前線で使われるさまざまな口径の砲弾やウクライナ各地への攻撃に使われるミサイル、誘導爆弾が置かれ、ドローンの攻撃によって連鎖的な爆発が起きたとの分析を明らかにしていますが、ここでも北朝鮮からの弾薬が保管されていたとしています。なお、ロシアと北朝鮮の接近に対し、直近で米財務省は、北朝鮮との間で違法な決済網を構築したとして、ロシアや旧ソ連構成国ジョージア(グルジア)の親ロシア派支配地域「南オセチア」を拠点とする金融機関など5団体・1個人を制裁対象に指定したと発表しています。制裁対象となったのは、南オセチアを拠点とする「MRB銀行」のほか、ロシアのTSMR銀行などで、北朝鮮国営銀行が使用する海外送金のための中継口座をMRBに開設し、数百万ドル(数億円)の送金に関与、一部はロシアから北朝鮮への燃料輸出の支払いに充てられていたといいます。また、ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は、アジア太平洋地域で連携を深める日米韓3か国に対抗して核開発を続ける北朝鮮の非核化について、「まったく意味を持たない」と述べています。の上で、ロシアは「自国の独立と安全を確保する基盤が、ミサイルや核の盾などである北朝鮮の基本的立場を理解している」と強調、北朝鮮による核開発を事実上容認するもので、ロシアによるウクライナ侵略後の露朝関係の緊密化を象徴する発言と言えます。

韓国軍合同参謀本部の李広報室長は、(すでに2017年9月に6回目の核実験を行って以降、7回目の実験準備をすでに終えているとされる中)北朝鮮が核実験を断行できる状態を維持しているとの見方を示しています。「指導者の政治判断があればいつでも可能だ」と言及、米国との非核化交渉で2018年に閉鎖した豊渓里の核実験場の復旧を完了したとの指摘もなされています。韓国政府は北朝鮮が2024年11月の米大統領選の動向をにらみながら、核実験に踏み切る可能性を警戒しています。韓国紙の東亜日報は、北朝鮮が70キログラムのプルトニウムを保有しているとする情報当局の見方を報じていますが、核兵器を12基分製造できる量だといいます。北朝鮮は大陸間弾道ミサイル(ICBM)や短距離弾道ミサイルに核弾頭を積み、米韓に対峙する戦略をとっており、核弾頭の技術を完成させ、威力を示すために追加の核実験を企図しているとの見方がかねてあるところです(核の小型化のためにはさらに数回の核実験が必要とされています)。また、北朝鮮の金星国連大使は、国連総会一般討論で演説し、核・ミサイル開発で「決して誰とも取引しない」と述べ、非核化交渉に応じない姿勢をみせています。朝鮮半島で戦争が起きていないのは「北朝鮮の強力な戦争抑止力のためだ」と主張し、核保有を「自衛のため」と正当化しています。さらに「核衝突の瀬戸際に近づいている」と演説したときよりも、状況は「危機的だ」とし、北朝鮮として「対決のための完全な準備をさらに進めるべきだとの結論に至った」と強調しています。金大使は一方で、金総書記は「われわれは対話と対決のどちらかを選ぶことができる」と語ったと明かし、衝突回避に向けた米国との対話の可能性は残しています。一方、金総書記は2024年10月2日に行った演説で、韓国が北朝鮮の主権を侵害する武力行使を企てれば「容赦なく核兵器を含む全ての攻撃力を使用するだろう」と威嚇し、対抗姿勢を改めて鮮明にしています。朝鮮中央通信によると、軍の特殊作戦部隊の視察に合わせて演説を行い、韓国の尹錫悦大統領が前日に韓国軍の記念日「国軍の日」に「北朝鮮が核兵器の使用を企てれば、圧倒的な対応に直面する。その日がまさに政権終末の日になる」と警告したことに触れ、「核を保有している国家の前で軍事力の圧倒的な対応を口にしたが、まともな人ではないという疑念を抱かざるを得なかった」と批判しています。それに対し、韓国軍合同参謀本部は、「われわれの戦略的、軍事的目標は北の同胞でなく、ただ金正恩一人に全てが合わされている」とするコメントを表明しました。軍事作戦を遂行する合同参謀本部が北朝鮮の最高指導者を呼び捨てにし、攻撃目標だと明言するのは異例のこととなります。北朝鮮は米韓が金氏の排除を狙う「斬首作戦」を準備していると神経をとがらせてきた経緯があり、南北間の緊張が一層高まる可能性があります。

米国との関係については、北朝鮮の金星国連大使は、国連総会の一般討論演説で「米国で誰が(大統領に)就任しようとも、われわれは米国という国家のみと向き合い、単なる政権とは付き合わない」と述べ、米大統領選でトランプ前大統領が返り咲いた場合でも、同氏が得意とする「個人外交」に応じるつもりはないとの意向を示唆しています。トランプ氏は大統領在任中の2018~2019年、米朝首脳会談を3回実施、今も北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記が「私のことを好いている」などと主張し、関係再構築に自信をのぞかせています。金氏はまた、イスラエルが軍事作戦を続けるパレスチナ自治区ガザ情勢について「米国が人道に対する罪をあおってきた」と批判。米国による核の脅威が「(北朝鮮に)核兵器の保有という歴史的決断をさせた」とも語り、抑止力として能力強化を続けると表明しています。関連して、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記の妹、金与正党副部長は、談話を発表し、ロシアの侵略を受けるウクライナに米国が約80億ドル(約1兆1400億円)の軍事支援を伝達したことについて、ロシアとの緊張を高めようとしていると批判、「米国と西側諸国はロシアの真剣な警告を無視または過小評価すべきでない。核超大国であるロシアに対して行っている無謀な火遊びの結果に本当に対処できるのか」、「火遊び」には代償が伴うとも警告しています。また、ウクライナの戦場で最も多くの武器や弾薬を提供しているのは米国だとし、支援から手を引くよう求めています。

北朝鮮が2024年5月以降、20回、約5500個以上飛ばしているゴミなどをぶら下げた風船が韓国で落下し、火災が起きる被害が相次いでいます。風船とゴミを空中で切り離すために取り付けられた発熱タイマーが原因とみられています。韓国軍合同参謀本部は、発熱タイマーが作動せずに空中で風船とゴミが分離せずに落下し、タイマーの熱でゴミが発火する可能性があるとみており、韓国軍は市民に対し、風船を見つけても近づかないよう呼びかけています。韓国側では、風船が原因となる事故を防ぐため、仁川国際空港で航空機の離着陸を一時制限する事態も相次いで発生、空港機能がまひし、経済的な被害が甚大だといいます。北朝鮮は、韓国の脱北者らが金政権を批判するビラを風船で北朝鮮に向けて飛ばしていることへの対抗措置として、風船を飛ばしていると主張しています。

中国と北朝鮮が国交を樹立して2024年10月6日で75年を迎えました。北朝鮮が国連制裁を受けても核・ミサイル開発に突き進むなか、中国は北朝鮮が崩壊しないよう背後から支え続けてきましたが、ここにきて、北朝鮮人労働者の受け入れ姿勢は変わりつつあり、両国の微妙な関係の変化が垣間見える状況になっています。2024年10月6日付朝日新聞の記事「中国、北朝鮮人労働者の扱いに変化? 国交樹立75年、微妙な距離感」によれば、「中国東北部で衣料品製造の会社を経営する中国人男性は今年、北朝鮮との国境に近い地域に工場を構えた。不況に苦しむ地元政府から熱心に誘われて投資を決めた。目当ては北朝鮮人労働者だ。勤勉だとされ、月4千~5千元(1元=約20円)の賃金を払う中国人と比べて割安な月2500元程度で雇える。このうち北朝鮮側の会社の取り分や当局への上納を除いた600~700元ほどが、労働者本人の手に渡るとみられる。経営者にとって大きな決断だったが、目算が狂った。北朝鮮人労働者が確保できないのだ。地元政府は年内に北朝鮮から新たな労働者が入ってくると説明していたが、「労働者が来るのは来年になる」と態度を変えたという。北朝鮮側としても、新たな労働者を送り込めないのは大きな痛手となっている。国外に派遣した労働者がもたらす外貨は、北朝鮮の貴重な収入だからだ。一方、中国側の地方都市でも経済成長が求められる中で、北朝鮮労働者は安価な労働力として重宝されてきた」、「「多い時で8万人程度だった」と話す。だが、労働者のもたらす外貨が核・ミサイル開発の資金源になっているとして、国連安全保障理事会は2017年12月の制裁決議で、北朝鮮の国外労働者を19年12月までに帰国させるよう加盟国に義務づけた。それでも北朝鮮側は「研修」などの名目で労働者を送り出し、中国側も事実上黙認してきたとみられている。しかしコロナ禍が収束した後、中国側は受け入れにかなり慎重になっている模様だ。北朝鮮関係筋によると、北朝鮮側からの労働者の入れ替えの要望に対し、中国側は明確な態度を示さない状況が続いてきたという。一方で北朝鮮は滞在が長引いている労働者や病人を優先的に帰国させなければならず、「コロナ禍後に北朝鮮人労働者は3万人ほど減った」と北朝鮮関係筋は証言する。中国の対応の変化の背景には、国際社会で「責任ある大国」を標榜する中国の立場がある。制裁決議には中国も賛成しており、露骨な制裁破りで国際社会の批判を受けるのは避けたいという判断があるとみられる」、「隣国である北朝鮮を苦境に追い込んで周辺環境を不安定化させることは中国にとって利益にならない。米中対立は深まるばかりで、11月の米大統領選でトランプ氏が勝利することも考えられるなか、「北朝鮮への影響力の保持」は外交カードとして重要だ。一方、北朝鮮はロシアとの蜜月ぶりが目立つ」、「北朝鮮は、国連安保理の常任理事国でもあるロシアを味方につけることで、核・ミサイル開発に邁進できる環境を手に入れた形だが、ウクライナ情勢に変化があれば、ロシアの「庇護」も受けられなくなる可能性があることは理解しているとみられる。それだけに、労働者の受け入れ問題を含め、北朝鮮が求めるものを簡単には与えない中国に不満を抱きつつも、仲たがいは避けたいのが実情だ。貿易の9割以上を中国に依存してきたとされる現状もある」というものです。中国、ロシアとの距離感に苦心する北朝鮮の実情がよくわかります。

北朝鮮の朝鮮中央通信は、国会に相当する最高人民会議を2024年10月7日に平壌で開くと伝えています。憲法改正が議題になるとしており、韓国を「敵対国」と憲法に明記することについての議論が行われる見通しです。金総書記は2024年1月の最高人民会議の演説で、韓国を「第1の敵対国、不変の主敵」と憲法に明記し、「自主、平和統一、民族大団結」などの表現を憲法から削除するよう求めていますが、この際、次の最高人民会議で憲法改正を議論するとしていました。

北朝鮮メディアは、約2カ月前に洪水が起きた北西部・平安北道で金総書記が復旧作業の様子を視察したと伝えています。鴨緑江が氾濫した一帯では、住宅や農地が広範囲で浸水。被災した建物を短期間で取り壊し、人員や資材を集中的に投じて新しい住宅の建設を進めているといいます。地方の発展を重視している金総書記は「建造物の質を第一にすべきだ」と述べ、手抜き工事をしないよう指示、治水対策も見直し、周辺を「農村文化都市」とする考えです。

北朝鮮国営の朝鮮中央通信は、金総書記と、訪朝したロシアのショイグ安全保障会議書記が会談したと報じ、両氏が一緒に金総書記の専用車に乗る写真をホームページで公開しています。北朝鮮は6月にも、ロシアのプーチン大統領と金総書記がロシア製最高級車でドライブする写真を公表しており、両国の親密ぶりをアピールする狙いがあるとみられています。ショイグ氏は前国防相を務めたプーチン氏の側近で、公開された写真では金総書記が運転席に、ショイグ氏は助手席に座っており、車体の前方にメルセデス・ベンツのものとみられるエンブレムが写っているものです。北朝鮮への経済制裁に抜け道があることを示すものともいえます。

3.暴排条例等の状況

(1)暴力団排除条例に基づく逮捕事例(東京都①)

東京・歌舞伎町の図書館近くに暴力団事務所を開設していたとして、警視庁暴力団対策課は、東京都暴排条例違反の疑いで、極東会系総長ら組関係者計11人を逮捕しています。報道によれば、共謀して20224年11月~2024年2月ごろ、東京都新宿区内で、同条例で暴力団事務所開設が禁じられている図書館から200メートル以内の場所に事務所を運営したというもので、事務所は新宿区歌舞伎町の雑居ビル一室に開設されており、区役所内の区立図書館から約80メートルの場所だったといいます。近くで組関係者に行った職務質問などから事務所の開設が明らかになったといいます。

▼東京都暴力団排除条例

東京都暴排条例第二十二条(暴力団事務所の開設及び運営の禁止)において、「暴力団事務所は、次に掲げる施設の敷地(これらの用に供せられるものと決定した土地を含む。)の周囲二百メートルの区域内において、これを開設し、又は運営してはならない」として、「七 図書館法(昭和二十五年法律第百十八号)第二条第一項に規定する図書館」が規定されています。そのうえで、第三十三条(罰則)において、「次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する」として、「一 第二十二条第一項の規定に違反して暴力団事務所を開設し、又は運営した者」が規定されています。

(2)暴力団排除条例に基づく逮捕事例(東京都②)

本コラムでも以前取り上げましたが、東京都新宿区歌舞伎町で焼き鳥チェーン大手「鳥貴族」系列店を装い、準暴力団「チャイニーズドラゴン」の関係者とみられる人物が経営する居酒屋の客引き事件を巡り、警視庁暴力団対策課は、この店から「みかじめ料」を得たとして東京都暴排条例違反の疑いで、住吉会傘下組織幹部と職業不詳の容疑者を逮捕しています。報道によれば、20023年12月~2024年1月、新宿区歌舞伎町で飲食店の実質経営者らから2回にわたり現金計20万円を受け取った疑いがもたれており、「みかじめ料」は月額10万円で、2022年以降に計約190万円を得ていたとみられています。2024年1~2月、鳥貴族の系列店を装って客引きし、自分たちの店に連れ込んだ業務妨害の疑いで中国籍の経営者や客引きら計17人を逮捕していたものです。

東京都暴排条例第二十五条の四(暴力団員の禁止行為)において、「暴力団員は、暴力団排除特別強化地域における特定営業の営業に関し、特定営業者に対し、用心棒の役務の提供をしてはならない」として、第2項で、「暴力団員は、暴力団排除特別強化地域における特定営業の営業に関し、特定営業者から、用心棒の役務の提供をすることの対償として、又は当該営業を営むことを容認することの対償として利益供与を受けてはならない」と規定されています。そのうえで、第三十三条(罰則)において、「次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する」として、「四 第二十五条の四の規定に違反した者」が規定されています。

(3)暴力団排除条例に基づく逮捕事例(宮城県)

宮城県仙台市の国分町で「みかじめ料」をやり取りしたとして、住吉会傘下組織幹部ら4人が、宮城県暴排条例違反の疑いで逮捕されています。報道によれば、2024年4月頃、同条例により暴力団排除特別強化地域に定められている青葉区国分町内で、風俗店を経営している容疑者から店の用心棒代または営業の容認代、いわゆる「みかじめ料」として別の容疑者を通して現金2万円から5万円を受け取っていた疑いが持たれています。2024年6月に35歳の女性を脅迫し、堕胎を強要した疑いで逮捕されたことで同条例違反事件が発覚したものです。

▼宮城県暴力団排除条例

宮城県暴排条例第十九条の三(暴力団員の禁止行為)第2項において、「暴力団員は、暴力団排除特別強化地域における特定営業に関し、特定営業者から、用心棒の役務の提供をすることの対償として、又は当該営業を営むことを容認することの対償として金品等の供与を受けてはならない」と規定されています。そのうえで、第二十五条(罰則)において、「次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する」として、「四第十九条の三の規定に違反した者」が規定されています。

(4)暴力団排除条例に基づく逮捕事例(広島県)

広島県福山市で、ラウンジの経営者から「みかじめ料」を受け取ったとして、広島県警と岡山県警の合同捜査本部は、広島県暴力団排除条例違反の疑いで、五代目浅野組三代目中岡組の幹部と組員を逮捕しています。報道によれば、2人は当時組員だった男と共謀して、2022年7月ごろから12月ごろまでの間に、同条例で暴力団排除特別強化地域に指定されている福山市昭和町のラウンジ経営者から、「みかじめ料」や「用心棒代」として現金を複数回受け取った疑いがもたれています。なお、福山市内で他にも同様の余罪があるとみて捜査しているといいます。

▼広島県暴力団排除条例

広島県暴排条例第十一条の三(暴力団員の禁止行為)第2項において、「暴力団員は、暴力団排除特別強化地域における特定営業の営業に関し、特定営業者から、用心棒の役務の提供をすることの対償として、又は当該営業を営むことを容認することの対償として利益の供与を受けてはならない」と規定されています。そのうえで、第二十七条(罰則)において、「次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する」として、「二 第十一条の三の規定に違反した者」が規定されています。

(5)暴力団排除条例に基づく勧告事例(北海道)

北海道警は、北海道暴力団の排除の推進に関する条例違反があったとして胆振管内の自動車販売業者に対して勧告を行っています。報道によれば、この業者は2023年1月ごろから2024年4月ごろまでの間、暴力団の活動に協力する目的で、リース用に所有していたトヨタ・ヴェルファイア1台を暴力団幹部1人に無償で貸し出し、財産上の利益の供与をしたとされています。業者の代表と暴力団幹部は高校時代から付き合いがあり、代表は「暴力団のトップの肩書きに見合った車を貸そうと思った」、「もう暴力団とは付き合いません」などと話しているということです。同条例違反による勧告は2024年において17件目で、過去5年で最多となっているといいます。

▼北海道暴力団の排除の推進に関する条例

北海道暴力団の排除の推進に関する条例第15条(利益供与の禁止)において、「事業者は、その行う事業に関し、暴力団員等又は暴力団員等が指定した者に対し、次に掲げる行為をしてはならない」として、「(3) 暴力団の活動又は運営に協力する目的で、相当の対償を受けることなく財産上の利益の供与をすること」が規定されています。そのうえで、第22条(勧告)において、「北海道公安委員会は、第14条、第15条第1項又は第17条第2項の規定に違反する行為があった場合において、当該行為が暴力団の排除に支障を及ぼし、又は及ぼすおそれがあると認めるときは、当該行為をした者に対し、必要な措置を講ずべきことを勧告することができる」と規定されています。

(6)暴力団排除条例に基づく勧告事例(神奈川県)

神奈川県公安委員会は、神奈川県暴力団排除条例に基づき、神奈川県内の建設業の男性に対して暴力団に利益を供与しないよう、双愛会系幹部の男に利益供与を受けないよう、それぞれ勧告しています。報道によれば、建設会社の実質的経営者である男性は2024年3月と4月、神奈川県内の飲食店などでの飲食代金(計8万7080円)を幹部の男に供与したとしています。

▼神奈川県暴力団排除条例

事業者については、神奈川県暴排条例第23条(利益供与等の禁止)において、「事業者は、その事業に関し、暴力団員等、暴力団員等が指定したもの又は暴力団経営支配法人等に対し、次に掲げる行為をしてはならない」として、「(1) 暴力団の威力を利用する目的で、金銭、物品その他の財産上の利益を供与すること」が規定されています。また、暴力団員については、同条例第24条(利益受供与等の禁止)において、「暴力団員等又は暴力団経営支配法人等は、情を知って、前条第1項若しくは第2項の規定に違反することとなる行為の相手方となり、又は当該暴力団員等が指定したものを同条第1項若しくは第2項の規定に違反することとなる行為の相手方とさせてはならない」と規定されています。そのうえで、第28条(勧告)において、「公安委員会は、第23条第1項若しくは第2項、第24条第1項、第25条第2項、第26条第2項又は第26条の2第1項若しくは第2項の規定に違反する行為があった場合において、当該行為が暴力団排除に支障を及ぼし、又は及ぼすおそれがあると認めるときは、公安委員会規則で定めるところにより、当該行為をした者に対し、必要な勧告をすることができる」と規定されています。

(7)暴力団対策法に基づく中止命令発出事例(群馬県)

群馬県警前橋署は、暴力団対策法に基づき、住吉会傘下組織幹部に対し、群馬県内に住む30代男性に組織からの脱退を妨害しないよう中止命令を出しています。報道によれば、幹部は電話で脱退を伝えた男性に対し「やめさせてくださいじゃなくて、預かっているものがあるんじゃないの」、「やめるとか、やめないの前に持って来いよ」などと引き留め、脱退を認めなかったといいます。男性が群馬県警に相談し発覚、男は「わかりました」などと話しているといいます。

▼暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律

暴力団対策法第十六条(加入の強要等の禁止)第2項において、「前項に規定するもののほか、指定暴力団員は、人を威迫して、その者を指定暴力団等に加入することを強要し、若しくは勧誘し、又はその者が指定暴力団等から脱退することを妨害してはならない」と規定されています。そのうえで、第十八条(加入の強要等に対する措置)において、「公安委員会は、指定暴力団員が第十六条の規定に違反する行為をしており、その相手方が困惑していると認める場合には、当該指定暴力団員に対し、当該行為を中止することを命じ、又は当該行為が中止されることを確保するために必要な事項(当該行為が同条第三項の規定に違反する行為であるときは、当該行為に係る密接関係者が指定暴力団等に加入させられ、又は指定暴力団等から脱退することを妨害されることを防止するために必要な事項を含む。)を命ずることができる」と規定されています。

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