暴排トピックス
首席研究員 芳賀 恒人
1.令和6年犯罪収益移転危険度調査書を読み解く~暴力団とトクリュウの「過去・現在・未来」
2.最近のトピックス
(1)AML/CFTを巡る動向
(2)特殊詐欺を巡る動向
(3)薬物を巡る動向
(4)テロリスクを巡る動向
(5)犯罪インフラを巡る動向
(6)誹謗中傷/偽情報等を巡る動向
(7)その他のトピックス
・中央銀行デジタル通貨(CBDC)/暗号資産(仮想通貨)を巡る動向
・IRカジノ/依存症を巡る動向
・犯罪統計資料から
(8)北朝鮮リスクを巡る動向
3.暴排条例等の状況
(1)暴力団排除条例に基づく逮捕事例(大阪府)
(2)暴力団排除条例に基づく逮捕事例(広島県)
(3)暴力団排除条例に基づく逮捕事例(神奈川県)
(4)暴力団対策法に基づく中止命令発出事例(沖縄県)
(5)暴力団対策法に基づく中止命令発出事例(栃木県)
(6)暴力団対策法に基づく再発防止命令発出事例(神奈川県)
1.令和6年犯罪収益移転危険度調査書を読み解く~暴力団とトクリュウの「過去・現在・未来」
「匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)」による事件で、全国の警察は2024年4~10月に4,472人(暫定値)を摘発しています(2024年11月22日付毎日新聞)。なお、後述する令和6年犯罪収益危険度調査書では、トクリュウの資金獲得犯罪を、「匿名・流動型犯罪グループの活動資金の調達につながる可能性のある犯罪をいい、特殊詐欺や強盗、覚醒剤の密売、繁華街における飲食店等からのみかじめ料の徴収、企業や行政機関を対象とした恐喝又は強要、窃盗、各種公的給金制度を悪用した詐欺等のほか、一般の経済取引を装った違法な貸金業や風俗店経営、AVへのスカウト等の労働者供給事業等をいう」と説明しています。さらに主な犯罪としては「詐欺、強盗、窃盗、薬物事犯及び風営適正化法違反」を挙げています。本数字はおそらくこうした説明に沿って集計されたものと考えられます。さらに、トクリュウの摘発者数のうちSNSを通じて「闇バイト」に応募したのは4割にあたる1820人だと報じられています。罪種別では、銀行口座の譲渡など犯罪収益移転防止法違反が1,515人で最多、詐欺1,284人、麻薬取締法違反などの薬物事犯427人、窃盗398人、犯罪収益の隠匿など組織犯罪処罰法違反170人、強盗133人、入管法違反89人などと続き、風営法違反76人、恐喝57人、賭博49人などもありました。トクリュウでは「シグナル」など秘匿性の高い通信アプリを使うケースが多く、主導する指示役を摘発するのは難しいため、ほとんどが末端の実行役らとみられています。XなどのSNSで投稿された闇バイトの募集に応じた実行役らの割合は、犯罪収益移転防止法違反が65.2%(988人)で最も高く、犯罪で得た収益の振込先となる口座を開設して売り渡すのにSNSが悪用されているとみられています。ほかにも、組織犯罪処罰法違反41.2%(70人)、詐欺38.3%(492人)、窃盗31.7%(126人)、強盗25.6%(34人)などでした。また、強盗や窃盗、住居侵入などの事件は、2021年9月~2024年10月に22都道府県で102件発生し、266人が摘発されています。これらの実行役も闇バイトを通じて集められるケースが多いとみられています。
さて、国家公安員会が毎年公表している「犯罪収益移転危険度調査書(NRA)」の令和6年版が(例年より少し早く)公表されました。NRAは、犯罪収益移転防止法に基づき、国家公安委員会が、特定事業者等が行う取引の種別ごとに、マネー・ローンダリング(マネロン)等に悪用される危険度等を記載したものです。NRA全体の概要については、後述する「AML/CFTを巡る動向」の中で紹介しますが、ここでは、今回新たに分析の対象に加わった「トクリュウ」に関する記述を抜粋して紹介します。
トクリュウについて網羅的かつ体系立てて記載されていることにより、トクリュウの本質、あるいは暴力団とトクリュウの過去、現在、そして未来が見えてきます。NRAでは暴力団が衰退する中、暴力団とは異なる形態でありながら暴力団に準ずる集団としての「準暴力団」、さらには準暴力団に加え、新たな特徴を有する犯罪集団「トクリュウ」が台頭したと説明されています。暴力団自体、暴力団対策法施行前までに有していた「任侠団体」としてのあり様、矜持を捨て、「お金がすべて」として資金獲得活動に勤しむ「犯罪組織」としての性格を強める方向に変質してきました。現在も「任侠団体」としての本質は一部残しながらも「犯罪組織」の側面が強く出ているといえます。つまり、本来の「任侠団体」としての暴力団の「自壊」が進んでいるのが現在の姿です。一方で、暴力団のもう1つの本質である「犯罪組織」の性格をより一層際立たせ、暴力団対策法によって封じ込められている暴力団が外部とのつながり(一体化)によって存在感を保てているのは、現在の「トクリュウ」の存在があってのことだといえます。トクリュウ自体は暴力団ではありませんが、その成り立ちや資金獲得活動において、両者は一体的な関係(暴力団対策法からみれば表と裏の関係)を有しているのであり、暴力団の「自壊」の先にトクリュウ/トクリュウ的なものがあるのはいわば予見されていたことだともいえます。さらに言えば、「任侠団体」とはもはや形式的なものに過ぎず、「任侠団体」らしくふるまう暴力団幹部自体、「犯罪組織」による資金獲得活動のうえに成り立っている構図であり、暴力団対策法の根幹である「結社の自由」を認める余地はもはやないところまで来ているといえます。ただ、だからといって、暴力団を完全に非合法化すれば、警察や市民、社会は、地下深く潜在化したその姿や動向を把握することはより一層難しくなるうえ、トクリュウの中核部分もまたさらに匿名化・不透明化が進むことになります。その結果、私たちが知らないうちに「犯罪組織」の肥大化を助長してしまう可能性さえあるのです。
暴力団の表面的な衰退とトクリュウの台頭という二元的な捉え方というより、両者は(その距離感はさまざまではあるものの)大きく見れば一体のものとして捉えることができると思います。その姿は、今後、「任侠団体」としての中核を小さく維持しながら、「犯罪組織」としての性格を一般社会と周縁部分が溶け合う形で社会の中に確実に存在していくことになるはずです(よく言われる「アメーバ状」ではあるものの、社会全体に根を張り巡らせて方々から栄養を吸い上げる「細菌」のようなイメージなのかもしれません)。闇バイトでも明らかなとおり、社会的な「貧困」の深刻化などを背景に、好むと好まざるにかかわらず、一般人の中に一定数、犯罪組織との関わりをもつ層が存在するのであり、社会からの犯罪者の供給は途絶えることはありません(すでに一般人を犯罪者に仕立て上げる「闇のエコシステム」は完成の域に達しています)。こうした状況をふまえれば、近い将来、暴力団対策法のあり方を見直す必要があるとはいえ、現時点では慎重であるべきといえると思います。
前回の本コラム(暴排トピックス2024年11月号)でも示しましたが、トクリュウの本質である「匿名性」「流動性」の高さは、暴力団が「犯罪組織」化する過程で警察との対決によって先鋭化・洗練化していったものであり、いわばトクリュウの原型は暴力団にあります。そして、暴力団とトクリュウの一体性が今後さらに強まることが考えられる中、NRAにはその兆候が至るところに記載されていることを読み取ることができます。正にNRAを注意深く読み解くことによって、あらゆる犯罪に深くかかわる暴力団やトクリュウの現在の姿や本質的なものが(輪郭はいまだぼやけているものの)浮かび上がってくるのであり、そして、トクリュウの未来もまた、これまで見てきたとおり、暴力団との関係の中で見通すことができるのです。
▼国家公安員会 令和6年犯罪収益移転危険度調査書
- 暴力団の勢力が減衰していく中、元暴力団構成員、元暴走族構成員等を含む素行不良者が、暴力団等の特定の組織に属することなく、繁華街・歓楽街等において、集団的又は常習的に暴行、傷害等の事件を引き起こすなどの例がみられるようになった。こうした集団には、暴力団のような明確な組織構造は有しないが、先輩・後輩、友人・知人といった人間関係に基づく緩やかなつながりで集団を構成しつつ、暴力団等と密接な関係を有するとうかがわれるものも存在しており、警察では、従来、こうした集団を暴力団に準ずる集団として「準暴力団」と位置付け、取締りの強化等に努めてきた。
- こうした中、近年、準暴力団に加えて、新たな特徴を有する犯罪集団が台頭し、治安対策上の脅威となっている。このような情勢を踏まえ、警察では、準暴力団を含むこれらのグループを匿名・流動型犯罪グループと位置付けた上で、暴力団対策を中心としたこれまでの組織犯罪対策の在り方を抜本的に見直し、匿名・流動型犯罪グループに対する戦略的な実態解明・取締りを推進している。
- 匿名・流動型犯罪グループには、次のような特徴がみられる。
- 中核的人物の匿名化と犯罪実行者の流動化
- 中核的人物が、自らに捜査が及ぶことのないようにするため、匿名性の高い通信手段を使用して実行犯への指示をするなど、各種犯罪により得た収益を吸い上げる中核部分は匿名化される一方、犯罪の実行者は、SNSでその都度募集され、検挙されても新たな者が募集されるなど流動化している。
- 多様な資金獲得活動と犯罪収益の還流
- 特殊詐欺をはじめ、組織的な強盗や窃盗、違法なスカウト行為、悪質なリフォーム業、薬物密売等の様々な犯罪を敢行し、その収益を有力な資金源としているほか、犯罪によって獲得した資金を風俗営業等の新たな資金獲得活動に充てるなど、犯罪収益等を還流させながら、組織の中核部分が利益を得ている構造がみられる。
- また、資金の一部が暴力団に流れているとみられるものや、暴力団構成員をグループの首領やメンバーとしているもの、暴力団構成員と共謀して犯罪を行っているものも確認されている。暴力団と匿名・流動型犯罪グループは、何らかの関係を持ちつつ、両者の間で結節点の役割を果たす者も存在するとみられる。
- 中核的人物の匿名化と犯罪実行者の流動化
- 令和6年4月から5月までの間における匿名・流動型犯罪グループによるものとみられる資金獲得犯罪について、主な資金獲得犯罪の検挙人員508人を罪種別にみると、詐欺が289人、強盗が34人、窃盗が103人、薬物事犯70人、風営適正化法違反12人となっており、匿名・流動型犯罪グループが詐欺を主な資金源としている状況がうかがわれる。
- 近年、匿名・流動型犯罪グループによるものとみられる特殊詐欺が広域的に行われている状況がみられる。特殊詐欺を敢行する犯罪グループは、架け場等の拠点を小規模化・多様化し、短期間で移転する傾向を強めているほか、首謀者や指示役、架け子・架け場が外国に所在するケースもみられる。
- 令和5年下半期において、SNS型投資・ロマンス詐欺の被害が急増し、同年中の被害額は、特殊詐欺の被害額(約453億円)を上回る約455億円に上るなど、極めて憂慮すべき状況にある
- 令和5年中の被害発生状況をみると、
- 1件当たりの平均被害額は1,000万円を超えている
- 被害者の年齢は、男性は50歳代から60歳代、女性は40歳代から50歳代の被害が多い
- SNS型ロマンス詐欺の多くにおいて投資が詐取の名目となっている
といった特徴が認められた。
- SNS型投資・ロマンス詐欺は、匿名・流動型犯罪グループの典型的な犯行手口であり、取締りと抑止の両面から必要な対策を推進している。
- 令和5年中の被害発生状況をみると、
- 強盗・窃盗等についても、SNSや求人サイト等で「高額バイト」、「即日即金」等の文言を用いて実行犯が募集された上で敢行される実態がうかがわれる。匿名・流動型犯罪グループによるものとみられる手口により敢行された強盗・窃盗等事件は、令和3年9月以降、令和6年3月までに22都道府県において78件発生しており、これらの中には、被害者を拘束した上で暴行を加えるなど、その犯行態様が凶悪なものもみられる。
- また、近年、外国人犯罪グループ等により、組織的に金属盗や自動車盗、万引きが敢行され、盗品が外国へ不正に輸出されるなどの事案が発生しており、治安上の課題となっている。
- 金属盗については、認知件数が前年と比べ約1.6倍に増加し、盗まれた銅線等は買取業者に売却され、外国へ不正に輸出されている状況もあるとみられ、この過程には、悪質なヤードの存在がうかがわれる。
- 自動車盗については、認知件数が平成15年以降減少傾向にあったものの、令和4年に増加に転じている。盗まれた自動車は悪質な自動車解体ヤードに持ち込まれ、解体等された後、外国へ不正に輸出されているとみられる事案も確認されている。
- 万引きについては、ベトナム人グループによる組織的な大量窃盗等、悪質なものも発生している。被害品は、自国へ輸送された後、高値で売却され、不正な利益を生んでいるとみられ、外国における指示役の存在も確認されている。
- これら事案は、犯行から被害品の処分に至るまでの一連の過程において、様々な人物が関与する上、国境を越える事案もあるところ、警察庁では、「組織的窃盗・盗品流通事犯対策推進ワーキンググループ」を設置し、部門横断的な検討を行い、捜査及び抑止に関し総合的な対策を講じることとしている。
- 匿名・流動型犯罪グループは、風俗店、性風俗店、賭博店の経営やスカウト行為等に直接的又は間接的に関わるなど、繁華街・歓楽街における活動を有力な資金源としているとみられる。また、インターネットやSNS、匿名性の高い通信手段の利用等によって、その活動実態や資金の流れを潜在化させつつあるほか、警察への対抗措置を強化している。
- また、近年、いわゆるホストクラブ等で男性従業員が女性客を接待するなどして高額な料金を請求し、その売掛金等名下に女性客に売春をさせたり、性風俗店で稼働させたりするといった事案が問題となっている。こうしたホストクラブ等の中には、風営適正化法に定められた営業の許可を得ることなく営業する店舗や、許可を受けていても、客引き禁止違反、営業時間制限違反、料金表示義務違反等の違法行為を行う店舗が見受けられるとともに、事案の背後で暴力団や匿名・流動型犯罪グループが不当に利益を得ている可能性が懸念される。
- 警察では、こうした犯罪組織の関与も視野に、違法行為を行う悪質なホストクラブ等に対する厳正な取締りを推進している。
- 近年、外国のオンラインカジノサイトへのアクセス数の増加が指摘されており、国内の賭客が自宅や違法な賭博店等のパソコン等からオンラインカジノサイトにアクセスして賭博を行う状況がうかがわれ、実際、オンラインカジノに係る賭博事犯が検挙されている。
- オンラインカジノに関しては、運営する者、利用する者のほか、決済手段に関与する者、宣伝・誘引する者等、様々な形で関与する者が存在し、決済手段に関しても、クレジットカード決済、暗号資産、銀行送金等、様々な手段が用いられる。また、オンラインカジノに係る賭博事犯には、実質的な運営者として、又はその背後で、暴力団や匿名・流動型犯罪グループが関与しているケースもみられる。
- 高齢者宅を狙って家屋修繕や水回り工事等の住宅設備工事やリフォーム工事の訪問販売を装い、損傷箇所がないにもかかわらず家屋を故意に損傷させ、それを修理することで高額な施工料を要求するなどの悪質なリフォーム業者による犯罪行為が確認されている。こうした悪質行為が組織的に反復継続して敢行され、その収益が匿名・流動型犯罪グループの資金源となっている可能性がある。
- 匿名・流動型犯罪グループが大麻等薬物の密売やヤミ金融関連事犯等による資金獲得活動を行っている実態も確認されている。警察では、これらの資金獲得活動に対しても捜査を徹底し、実態解明及び取締りを推進している。
- マネロンの手口としては、以下のようなものがある。
- 架空・他人名義口座(個人名義、法人名義、屋号付き個人名義、外国人が帰国時等に売却した口座等)を使用して送金するもの
- 犯罪収益である物品を、他人になりすまして売却するもの
- コインロッカーを使用して犯罪収益等の受け渡しをするもの
- 暗号資産交換業者の金融機関口座に送金し、犯人が管理するアカウントに入金するもの
- 不正に入手した電子ギフト券(前払式支払手段)を、電子ギフト券の売買等を仲介するサイトを通じて売却し、販売代金を犯人が管理する口座に入金するもの
- 空き家・部屋を使用して、被害者に現金を郵送させ、受取人を装って受け取るもの
- 犯罪収益である日本円を、個人が保有する外国通貨と両替するため、国内の口座に送金するもの
- また、特殊詐欺に関しては、外国の犯行拠点から敢行されるケースもみられており、外国にある口座を経由するほか、運搬役がキャッシュ・クーリエ(現金等支払手段の輸出入)により、犯罪収益を外国に移転させる実態も明らかとなっている。
トクリュウの犯罪のほとんどの入り口であり、使い捨ての犯罪者を供給する手段(システム)が「闇バイト」となります。トクリュウの犯罪、犯罪組織による犯罪抑止のためには、闇バイトへの人材の供給を食い止めることが極めて重要となります。警察庁は、この闇バイト対策を強化するとして、さまざまな取り組みを始めています。まず、「闇バイト」対策として、警察庁は関連する用語を検索した人に向けた広告配信を2025年に始めるとしています。首都圏を中心とした連続強盗事件は闇バイトで集められた10~20代の実行役が目立っており、応募の危険性や警察による保護の取り組みについて、誘い込まれやすい若者に直接発信する狙いがあります。新たな情報発信は「ターゲティング広告」と呼ばれる手法を活用、SNSや検索エンジンで関連する用語の入力があった端末に絞って広告を表示させるもので、対象とする用語は闇バイトで使われることが多い「ホワイト案件」や「高収入」などを軸にするとしています(当然、ホワイト案件などはすでにトクリュウは使用していませんので、キーワードは時流にあわせて柔軟に見直していくことが対策の実効性を高めるポイントとなります)。広告の内容は「捨て駒にならないで」と応募を思いとどまらせるものや、「あなたを保護します」と応募者に犯罪への加担をやめさせるメッセージを想定しているといいます。近年の闇バイトはSNSを通じ離合集散するトクリュウが主導し、合法的な求人を装う手口が目立っており、強盗事件では応募時に身分証明書を送信させられ、家族への危害を心配し途中で抜け出せなかった実行役もいることが課題となっています。トクリュウの関与が疑われる特殊詐欺の実行役も多くは闇バイトで集められており、2023年に特殊詐欺事件で摘発された容疑者約2,400人のうち85%は10~30代であり、トクリュウの犯罪を止めるには実行役のリクルートを阻む必要があると警察幹部は報道で述べています。警察庁幹部は「インターネットに膨大な情報があふれるなか、闇バイトに応募する可能性がある若年層に効果的に情報を届ける手段の確保が課題となっていた」と話しています。また、被害者対策も強化するとしています。トクリュウは強盗や特殊詐欺など様々な犯罪手法で、同じ被害者を繰り返し狙う傾向があるためです。トクリュウは標的を選ぶため名簿を作成しているケースが多く、警察庁は捜査過程で押収した名簿をもとに、掲載されていた人に防犯対策の強化を含め注意を促す取り組みも2025年1月にも始めるとし、民間のコールセンターに呼びかけを委託するとしています。さらに警察庁は、「闇バイト」が絡んだ強盗などへの対策として、容疑者から押収したスマートフォン(スマホ)の解析や分析機能を強化する方針を決めています。トクリュウによる事件は組織的な強盗や窃盗のほか、特殊詐欺、リフォーム詐欺など多岐にわたっており、携帯電話が犯罪の重要なツールとなっています。したがって、捜査では、容疑者のスマホを解析して得られた識別情報やアカウント名、通信履歴などを分析端末に登録、容疑者らが、どの指示役とつながっているのかについて、さまざまな事件を横断する形で図表にして可視化しており、今回は、一連の解析などに使うソフトウェアを高度化して分析の円滑化を図るとしています。さらに、警察庁は2024年10~11月、全国質屋組合連合会や全国レンタカー協会、日本DIY・ホームセンター協会などに対して、犯罪に使われる道具の購入や盗品の持ち込みがあった際の通報や、防犯対策などへの協力を要請しています。以下は、警察庁からの情報発信の内容です。情報発信のツールもより犯罪予備軍に届くようSNSを積極的に活用しているほか、かなり強い調子で警告を与えています。短い言葉で端的に危険性を訴え、目に留まり、記憶に残すことを目指しているものと推測します。こうした「攻めた情報発信」を筆者は高く評価しています。
▼警察庁 いわゆる「闇バイト」の危険性について
- SNSやインターネットの掲示板には、仕事の内容を明らかにせずに著しく高額な報酬の支払いを示唆するなどして犯罪の実行者を募集する投稿が掲載されています。簡単に高収入を得られるなら、と応募して、強盗や詐欺といった犯罪に加担することとなり、逮捕された人が多くいます。絶対に手を出さないでください。
- いわゆる「闇バイト」は犯罪実行者の募集です
- 政府広報オンライン「そんなバイトないから!それ「バイト」ではなく犯罪です。」
- 政府広報オンライン「『闇バイト』の真実 高額報酬をうたう犯罪実行役の募集 #SNS #実行犯」
- 犯罪実行者募集情報へ応募してしまった方へ
- 自分自身や家族への脅迫が理由であっても強盗は凶悪な犯罪です。犯罪に関わってはいけません。勇気を持って抜け出し、すぐに警察に相談してください。警察は相談を受けたあなたやあなたの家族を確実に保護します。安心して、そして勇気をもって、今すぐ引き返してください
- 犯罪実行者募集情報の特徴
- 「高額」「即日即金」「ホワイト案件」等の「楽で、簡単、高収入」であることを強調する求人情報には注意してください。また、シグナルやテレグラムといった匿名性の高いアプリに誘導されたりする場合は犯罪に関わる危険性が大です。
- 世の中にはそんな上手い話はありません。怪しいかもしれない、と迷ったら、「必要なお金が貯まるまで」「一回だけなら大丈夫」などと一人で判断せずに、家族等周囲の人や警察に相談しましょう。
- 犯罪実行者募集情報に応募している人へ(相談事例)
- 犯罪グループは、約束の報酬を元から支払うつもりはなく、応募者は「使い捨て」要員です。勇気を持って引き返し、警察に相談した事例を紹介します。
- 事例集「犯罪実行者募集の実態」
- 少年が犯罪実行者募集情報への応募をきっかけに犯行グループに使い捨てにされた挙げ句、検挙されるまでの実態等について事例集を取りまとめました。
- 広報啓発の場において、そのまま活用していただけることを念頭に作成しております。是非、ご活用ください。
- 相談窓口
- 犯罪実行者募集情報に申し込んでしまった、抜け出したいのに抜け出せない方へ
- 警察相談ダイヤル#9110又はお近くの警察署までご相談ください。また、都道府県警察本部では少年相談窓口を開設しています。
- 犯罪実行者募集情報の投稿を見つけた方へ
- 警察署又は警察庁が業務委託を行う インターネット・ホットラインセンターまで通報してください。
- 犯罪実行者募集情報に申し込んでしまった、抜け出したいのに抜け出せない方へ
▼警察庁 犯罪実行者募集情報に応募している人へ
- みなさんへ
- いわゆる「闇バイト」は、アルバイトではなく、紛れもない犯罪行為です。
- 犯罪者グループは、約束の報酬を元から支払うつもりはなく、応募者は「使い捨て」要員です。
- 最初は簡単な案件を紹介されて報酬が支払われたとしても、それは「あなた」を信用させるための「餌」です。その後、凶悪な犯罪に加担するよう求めてきます。要求を断ったり、離脱しようとしたりすると、入手した個人情報を基に執拗に脅迫し、恐怖心を植え付けて離脱を阻止し、「あなた」が警察に逮捕されるまで利用し続けます。
- 少しでも怪しいと思う募集情報には一切応募しないでください。
- 犯罪と分かっていてやっている人へ
- 中には、犯罪かもしれないと思いながら応募する人もいます。「ホワイト案件」「荷物運び」などといった募集の言葉を理由に、犯罪行為ではないと「あなた」は「あなた」自身に言い訳をしていませんか。知らなかったという言い訳は警察には通用しません。警察は必ず捕まえます。逃げることはできません。
- 強盗を指示されて、人を負傷させたときは「無期又は6年以上の懲役」(強盗致傷罪)、人を死亡させたときは「死刑又は無期懲役」(強盗致死罪)となります。
- また、「銀行口座を開設して売り渡す」「スマートフォンを契約して売り渡す」行為も犯罪です。その後、預貯金口座などを利用できなくなるなど、これまでの日常生活が一変します。
- 勇気を持って引き返し、警察に相談した事例を紹介します。
- 指示に従わなかったとして相手から脅された事例
- 「Instagram」で知り合った相手から「シグナル」に誘導され「受け子・出し子」の指示を受けるも、指示に従わなかったことで、指示役から電話で脅され、親族にも着信があり怖くなった。
- 地元の先輩から「Instagram」を通じて高額バイトを紹介され、「シグナル」のインストールを求められた。シグナルで紹介された相手方から個人情報の送付を求められたので断ったところ、「探しに行くぞ」などと言われた。
- 個人情報を握られたことで相手から脅された事例
- 「X」で「高額収入」と書かれた投稿を見て「シグナル」に誘導され、氏名や住所、生年月日、携帯電話番号、免許証の写真等を送信。相手から仕事の誘いがあったが、仕事の内容から犯罪になると思い、断り続け、「シグナル」等のアプリをアンインストールしたところ、「LINE」で「お前、逃がさないからな。」といったメッセージと自分の個人情報が全て送られてきたことから怖くなった。
- インターネット上の副業サイトに応募し、「LINE」でやりとりしている中で「テレグラム」に誘導された。その後、相手方とのテレグラムのやりとりを削除したところ、「個人情報は分かっている」などとメッセージが送られてきた。
- 相手から現金を要求された事例
- 「Instagram」で紹介を受けた相手から「荷物運び」をあっせんされたが、闇バイトではないかと怖くなり、辞めたいと伝えたところ、相手から現金を支払えと脅された。
- 犯罪ではないかと思い相談した事例
- 「Instagram」で「高額バイト」を検索し、相手方から接触があったため、その後のやりとりは「テレグラム」に移行した。その後、闇バイトのニュースを見て「自分も犯罪者になるかもしれない」と思った。
- 「Instagram」で「小遣い稼ぎ」の仕事に応募し、仕事内容の説明を受けたところ、犯罪ではないかと不安になった。
- 指示に従わなかったとして相手から脅された事例
- 犯罪に加担しながらも、より凶悪な犯罪に加担する前に引き返したケースもあります。いつの段階であっても、警察に相談することが「あなた」や家族を救うことになります。警察は相談を受けた「あなた」や「あなたの家族」を確実に保護します。
- 一刻も早く「#9110」に電話して警察に相談してください。
「闇バイト」対策には、民間事業者の協力も欠かせません。とりわけ入口である「求人プラットフォーマー」による「場の健全性」を確保するための、実効性ある取り組みが必要不可欠となります。スポットワークと呼ばれる単発の仕事を仲介するサービスが、特殊詐欺や強盗の実行犯となる「闇バイト」の募集に悪用される懸念が強まっている中、タイミーの対応が取り沙汰されています。「深夜の散歩が好きな方必見!夜道で猫を探すバイト」という求人がネット上で話題となり、Xで拡散されているものです。求人情報を掲載した求人サービス「タイミー」はこの求人を差し止めたといい、同社公式Xで闇バイト対策について発信する異例の事態となっています。問題となった求人には「指定された道を通り、猫がいたところを地図上で印をつけるだけです!」「時給2千円+深夜割増手当」などと書かれ、「情報漏洩防止の為、携帯電話や荷物を預かります」ともありました。一方で、X上で、この求人を問題視する投稿があり、投稿者はタイミーの求人情報のスクリーンショットとともに「闇バイトで強盗する家探しにしか見えない」などとポストしたところ、1日で7000万回超表示されたといいます。タイミーは公式Xアカウントで「闇バイト対策についてお知らせ」と題して投稿、自社での対策として、求人を掲載する事業者や求人内容のチェックを徹底し、アプリ内に「通報ボタン」を設けていることなどを発信、この投稿も1日で500万回以上表示されています。同社は、「猫探し」の求人情報について、「『不適切である疑いのある求人』との認識において差し止めた」と回答、闇バイトと考えているのかどうかを問うと、「闇バイトかどうかの断定はできかねる」、「闇バイト対策」の投稿については、同社は「ワーカー様の不安を低減したいと考え発信した」とし、「今後も日々巧妙化する不適切な求人掲載の対策を強化してまいります」とコメントしています。求人プラットフォーマーに対し、政府は業務内容などを求人公開前に審査するよう繰り返し求めていますが、900万人超の登録者を抱える最大手タイミーは今も審査を求人公開後に後回ししているといいます。前述の事案においても後手後手の対応となったほか、対応前にユーザーから応募があり、氏名や電話番号などが投稿者側に渡った可能性があるといいます。闇バイトはXなどSNSが主な募集手段とされますが、仲介サービスに「普通の求人」を装って投稿されるケースもあるほか、証券口座の新規開設や携帯電話の契約代行といった特殊詐欺への悪用が疑われる事例も見つかっています。報道で東京都の治安対策課は「SNSに比べ闇バイトを見分けるのが難しく、リスクが高い」と指摘しています。タイミーは求人の業務内容については担当者による目視と、機械的な検知を組み合わせて審査しているものの、審査を始めるタイミングは求人情報をアプリに掲載した後であり、同社は「(雇用契約が成立する)稼働前までに必ずチェックを終えるようにしている」というものの、いったんマッチングが成立すると求職者の情報が犯罪組織に渡るおそれがあります。厚生労働省は、「違法・有害な募集情報を放置した場合、指導・監督の対象になりうる」とも述べており、闇バイトによる広域強盗事件が相次いだ2023年春にも、公開前の審査を求める要請を仲介事業者に出していました。また、厚生労働相も、雇用仲介事業者に対し、闇バイトが疑われる求人情報の掲載を拒否するよう要請しています。報道である仲介事業者の担当者は「いくら対策しても(不適切な求人を)完全にゼロにすることは難しい」と述べていますが、IT企業の経営に詳しい河瀬季弁護士は「審査や認証を厳しくするほどサービスが使いにくくなり、他社にシェアを奪われやすいジレンマがある。業界全体で対策に取り組む必要がある」と指摘しています。ただ、いくら審査のルールを厳格にしても、第1線の意識が伴わなければ、あっという間に形骸化してしまうことになります。そもそも「求人プラットフォーマー」には「場の健全性」を確保する社会的責任があるとの自覚をもつところから徹底する必要があると考えます。
高齢者が狙われやすい「電話で『お金』詐欺」事件で、熊本東署と熊本県警組織犯罪対策課が、現金回収のために高齢者宅を訪れた「受け子」と監視役の男に加えて指示役とみられる男を、いずれも詐欺未遂の容疑で逮捕しています。指示役逮捕に結びついたのは「だまされたふり作戦」と即座のスマホ捜査だったといいます。張り込んでいた捜査員が「受け子」の男を現行犯逮捕、その日のうちに、監視役であり現金回収役でもある男も逮捕しています。逮捕した2人のスマホを押収してすぐに解析したところ、秘匿性の高いアプリが入っていることが分かり、そのやりとりから会社員の男を特定し逮捕に至ったものです。熊本県警幹部は「現行犯逮捕で、スマホの中身を消去されずに押収できた。これで指示役までたどり着けた」と述べています。なお、熊本県警は、逮捕時点で監視役の男を無職とみていましたが、その後稲川会傘下組織組員であることを確認、男性に電話をかけたのは逮捕した3人とは別の人物とみていて、暴力団の関与を含めて捜査を続けています。暴力団の関与する事件は他にもありました。SNSで詐欺の「闇バイト」を募集したとして、熊本地検は、職業安定法違反(有害業務目的労働者募集)の疑いで、熊本市の男子高校生(16)と飲食店従業員の女(18)の姉弟を、熊本家裁に送致しています。また、事件を巡り、県警は、同法違反容疑で道仁会傘下組織幹部の男を逮捕、2人に勧誘を指示したとみて調べています。2人は連絡してきた応募者を秘匿性の高いアプリに誘導する「リクルーター」の役割を果たしていたといい、弟は姉を介し、1人紹介するごとに数万円の報酬を示されていたといい、2人はSNSに複数回投稿したが、応募者が関与した詐欺事件は確認されておらず、報酬は支払われなかったとみられています。なお、暴力団とトクリュウの関係について、報道で元警察関係者は「指示役は匿名性の高い海外のSNSを使って実行役に指示し、実行役を逮捕されるまでの使い捨てのコマとして搾取していました。だから、むちゃくちゃな強盗が横行しています。これまで、この手の強盗の指示役やリクルーターは、半グレなどのトクリュウがやっており、暴力団はおおっぴらには関わっていないと思われていました。暴力団が犯罪をやったら使用者責任で組長まで逮捕されますから。しかし、ピラミッドの頂点が暴力団の可能性が示されました」と述べています。闇バイト強盗は、ピラミッドの上から首謀者、指示役、リクルーター、実行役という組織になっているとみられる、「暴力団→トクリュウ→闇バイトという組織であることが分かれば、警察も取り締まりやすくなります。暴力団という組織ぐるみなのか、あくまで西村容疑者個人だったのかが注目されます」とも述べており、闇バイト強盗の取り締まりに向けて大きな進展となる可能性があります。また、週刊誌(NEWSポストセブン)において暴力団関係者は、「少なくない組員がクスリの売買や『オレオレ詐欺』など違法なシノギで収入を得ているのが実情だ」が、今回の道仁会への捜査の展開次第では「事態が大きく変わる」と指摘、「同じ『闇バイト』にまとめられるが、“タタキ”といわれる強盗、強盗致傷だけはどの組織も厳しく禁止しているはずだ。世間を騒がした“ルフィ”一味の際に、多くのヤクザ組織が警察からより厳しく見られるようになった。もし関与していたとなれば組織が取り潰しになってもおかしくないため、ルフィ騒動の後に多くの組織は“絶対にやるな”と厳命しているはずだ。もし捜査で道仁会が“タタキ”に組織的関与をしていたことがわかったら大変なことになる」とのことです。先にも述べたとおり、暴力団とトクリュウの一体性が明らかになれば、双方への当局による締め付けがより厳しくなることが期待できます。週刊誌(デイリー新潮)によれば、六代目山口組でも「ひとえに共謀共同正犯が成立して組織のトップまでさかのぼって訴追されかねないことを回避したいとの思いが強い」状況で、「共謀共同正犯とされるリスクにナーバスになっているようだ」と報じています。なお、暴力団とトクリュウの関係性という点では、広島県の「阿修羅」と名乗るトクリュウに所属する少年らから現金を脅し取ったとして浅野組傘下組織重政組の組員が逮捕された事件もありました。
トクリュウや闇バイトのような仕組みに似た構図が海外の犯罪組織でも見られるようです。2024年11月26日付日本掲載新聞の記事「誘拐されオンライン詐欺実行役に 東南アで10万人規模」は大変興味深いものでした。「東南アジアを拠点とするオンライン投資詐欺で、外国人を誘拐、監禁し、強制的に実行役をさせるケースが相次いでいる。国連の推計では、同様の詐欺の被害は年間最大で5兆円超に上る。実行役を大量に確保、衛星通信や生成AIも悪用して規模を拡大し、さながら「悪の産業」と化している。日本人が巻き込まれる事件も発生しており、警戒が必要だ。米財務省は9月、カンボジアの富豪で上院議員でもある実業家のリー・ヨン・ファット氏と、同氏が運営する企業やホテルの米国内の資産を凍結し、米国での取引を原則禁止とする経済制裁を科した。同氏らは2022~24年、リゾート施設での雇用を装って中国人やインド人を誘い込み、オンライン詐欺を強要したとされる。主に用いたのは、収益を最大化するために被害者との交流に時間をかける投資詐欺の手法だ。時間をかけて太らせて食肉にする様子になぞらえて海外では「ピッグブッチャリング(豚の食肉処理)」と呼ばれる。SNSなどで偶然を装って接触し、友人や恋人のような関係と思わせて信頼させる。その上で暗号資産への投資に必要だとして、マルウエア(悪意のあるプログラム)をダウンロードするように仕向け、被害者のウォレット(電子財布)から根こそぎ資産を奪う。携帯電話とパスポートを没収し、詐欺の実行役として1日最大15時間働かせていた。性的な目的の人身売買の対象にすることもあった。殴打や電気ショックで虐待し、支配していた。施設内での自殺も2件確認された」、「国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は23年、カンボジアで少なくとも10万人、ミャンマーで12万人が詐欺の強制労働をさせられていると報告した。両国とフィリピン、ラオスなどで23~24年に30件以上の大規模な摘発が行われた。8月にはミャンマーで300人以上の中国人が拘束、送還された。しかし被害は止まない。OHCHRは24年10月、東南アジアを中心としたオンライン詐欺の被害額が推計で年180億~370億ドル(約2兆8千億~5兆7千億円)に上ると公表した。詐欺に用いるツールの高度化も進む。タイでは生成AIに実在する女性警察官の写真を取り込み、ビデオ通話で被害者をだます詐欺事件が発生した。携帯電話の基地局になりすまして盗聴する「IMSIキャッチャー」も悪用している」、「4~6月にはタイとミャンマーで、犯罪集団の拠点から衛星通信「スターリンク」の受信端末が80台以上押収された。両国はスターリンクの対象地域外だ。端末には位置情報から利用を制限するプログラムが組み込まれていた。OHCHRは「制限を解除する方法を見つけ、ネット環境の悪い地域で通信を確保するために使っているようだ」としている」といったものです。日本より狂暴で規模が大きく、最新の犯罪インフラを駆使している様子がうかがえますが、こうした最先端の状況が日本の組織犯罪のあり方にも大きく影響を及ぼすことは想像に難くありません。また、ベトナム人犯罪グループによる組織的窃盗も同様の構図をもっているようです。ベトナム人がドラッグストアで盗んだ化粧品などを受け取ったとして、警視庁と岐阜、埼玉、千葉、神奈川の4県警の合同捜査本部は、3府県4カ所のベトナム人の関連施設に対し、組織犯罪処罰法違反(犯罪収益の収受)などの疑いで家宅捜索しています。また、この施設の管理人の男2人を同法違反容疑で逮捕しています。施設は全国から集められた盗品の集積所とみられ、合同捜査本部は、成田空港などを経由してベトナムに輸出されていたとみています。外国人グループによる組織的な窃盗事件の被害品について、国内の流通経路が明らかになるのは極めて異例で、警視庁はベトナム国内の指示役がSNSを通じて在日ベトナム人に指示し、犯行を繰り返していたとみて組織の実態解明を進めています。合同捜査本部は同日、両容疑者が管理していた2拠点のほか、千葉県の八千代市、松戸市の集積所も家宅捜索。段ボール箱計約20箱や、到着した配達物からはがした大量の伝票が見つかり、約700点を押収しています。グループ内では、指示役らがSNSに「運転手募集中」などと投稿。連絡があった人に対し、別のアプリに誘導し、買い取る商品を指定したとみられるといい、合同捜査本部はこうした集積所は全国で10カ所以上あるとみており、ベトナムにいる指示役についても捜査する方針としています。
闇バイトに加担してしまう「普通の若者」の実態に切り込む記事が目立ちます。以下、肝と思われる部分を抜粋して紹介します。
- 2024年11月23日付朝日新聞の記事「闇バイトで特殊詐欺の「受け子」に 孤独な青年「もう引き返せない」」では、「人をだますという罪悪感、警察に捕まるかもという不安と恐怖が頭を占めた。でも、ギャンブルで作った借金がある。「やるしかない」インターホンを押し、警察を名乗った」、「「明日のお金、どうしよう」誰にも相談できず、そんな考えが毎日頭をめぐった。そんなとき、Xで「高収入」「即日即金」「ブラック案件」という投稿を見つけた。とりあえず話を聞くだけ、とダイレクトメッセージを送ると、返事が来た。匿名性の高いアプリ「テレグラム」でのやりとりがはじまった」、「当時を振り返って感じるのは、ヤミ金の取り立てなどから孤立状態だったことだ。「一人で追い詰められていた。どこかで、誰かに相談できればよかったが、当時はそういう頭がなかった」といった心情がよくわかる内容となっています。
- 2024年11月22日付毎日新聞の記事「きっかけは警固界隈 ホストにはまり闇バイト 10代女性が落ちた沼」では、「福岡・天神で出会ったホストにのめり込み、金を稼ごうと応募した先は「闇バイト」だっ」、「闇バイトの指示はエスカレートし、恐怖を感じたが「逃げたくても、逃げられなかった」と声を震わせた」、「上京すると「事務作業」は変更され、指定されたコインロッカーの中からキャッシュカードを回収し、ATMで現金を引き出すよう指示された。「これ、闇バイトだ……」。逃げ出したくなったが「やらなければ住所を(SNSに)さらす」「監視役がついている」などと脅され、従った」、「「警察に行きたい」。そう考えた頃、スマートフォンに写真が送られてきた。監視役が撮影したとみられる自分の後ろ姿だった。後日、母と祖母の携帯電話にまで同じ写真が送られてきた。背筋が凍った。その後も指示されるまま5回以上、ATMで現金を引き出した。名古屋や岐阜に行くこともあったが、監視役は夜行バスにも同乗してきた」、「次第に指示内容はエスカレートしていったが、身の危険を感じ、抵抗できなかった。「やりたくないと言ったら殺すぞ」と電話口で怒鳴られた」、「SNSの投稿から始まった約2週間の「闇バイト」で得た報酬は3万円。代わりに失ったものはあまりにも大きかったと後悔する。若い人が同じ目に遭わないために「怪しいと感じたら、すぐに警察に相談してほしい。楽な仕事だと言って接触してくる人は信じない方がいい」と呼びかける」、「実家の住所を把握されていることから、女性は今も不安におびえている」といったリアルな恐怖が伝わる内容です。
- 2024年11月15日付読売新聞の記事「「死ぬかやるかだ」少年院を仮退院すると職場に電話、「殺すぞ」と脅され犯罪組織の「使い捨ての駒」に」では、「新潟地裁での公判で明らかになったのは、犯行の全容を知らされないまま、犯罪組織の使い捨ての駒となった若者の姿だった」、「男は以前、今回の強盗未遂事件と同様にインターネット上での募集に応じ、特殊詐欺事件に関与したこともあった。だます相手から直接現金を受け取る「受け子」や、詐取金をATMから引き出す「出し子」の役割を果たしたという。今年2月頃に少年院を仮退院したが、犯罪組織に関係を断ちたいと伝えると、職場や会社の取引先にまで迷惑電話がかかってくるようになった。今回の強盗未遂事件への関与を断れなかったのは、「以前のように変な電話やクレームがかかってくると嫌だと思った」からだといい、公判では反省の態度も示した」といったもので、出所しても巻き込まれる怖さを感じます。
- 2024年11月12日付産経新聞の記事「個室トイレ「3回ノック」が受け渡しの合図 闇バイト少年が明かす「普通の子」搾取の構図」では、「「無知だった」。個人情報を盾に脅迫され、特殊詐欺の受け子や出し子の「闇バイト」を命じられた愛知県内の少年(18)は今も自分を責め続ける。オンラインゲームの課金の支払いに窮し、SNSで見つけた「高額融資」の投稿を軽い気持ちでクリックしたのが転落の始まりだった」、「見えてきたのは「普通の子」だから巻き込まれる搾取の構図だ」、「高額融資をうたう、あるアカウントへDM(ダイレクトメッセージ)を送ると、《審査を行うので個人情報の入力をお願いします》と返信がきた。迷わず打ち込んだ。自分や家族の名前、住所、生年月日…。マイナンバーカードを顔に近づけ、自撮りした画像を送信するようにも言われた。「審査」を通過すると、やりとりはDMから匿名性の高い通信アプリ「テレグラム」へ移行した。すると《個人融資ができなくなった》と告げられた。続くメッセージにはこうあった。《代わりに絶対つかまらない高額バイトがある》突然の誘いに怖くなり断ると、非通知でスマートフォンに電話がかかってきた。「タタキって、分かるか」。語気鋭い男の声だった。「分かりません」「強盗だよ! 引き下がるなら、お前の家に入るぞ」このとき、少年が何より恐れたのは家族に危害が及ぶことだったという。個人情報が丸裸にされていることがその恐怖に現実味を帯びさせた。犯罪グループが闇バイトを多用するのは、上下の指揮命令関係をたどれないようにするためだ。トクリュウであることが大前提で、顔をさらすリスクを冒してまで応募者の家に襲撃をかけるとは考えにくい。もっとも上位の指示役からすれば、ここで相手が恐怖してくれればそれで良し。そうでなければ別の「捨て駒」を見つけるだけだ。ドスのきいた脅しに“ビビってくれる”相手こそが、彼らにとっての適格者といえる。最近ではこうしたケースで、全国の警察が応募者を保護する措置も取っているが、当時の少年は警察を頼ることなど考えもしなかった。「やります」。反射的にそう答えていた」、「「ニュースを見ておらず世の中の情報にうとかった。あやしいものだと思わなかった」」、「「家族でなくてもよい。子供が苦しいときに気づいてあげられる大人、信頼できる誰かがいることが、少年の孤立や犯罪を防ぐことにつながる」」といった内容です。構図にはめられ、「思い込される」ことが恐怖支配のポイントであることがわかります。
闇バイトに巻き込まれる心理や対策に関する記事も目立ちます。いくるか紹介します。
- 2024年11月14日付日本経済新聞の記事「「ホワイト」装う闇バイト トクリュウ、中高生を捨て駒に」では、「闇バイトと判断するポイントは秘匿性の高い通信アプリの使用と身分証明書の要求。若者の加担を防ぐためには周囲の注意喚起も重要になる」、「警察庁などによると、一連の事件で実行役を募った闇バイトには共通点がある。(1)「ホワイト案件」と示し「最低5万円」など好条件を示す(2)応募はダイレクトメッセージで受けつける(3)連絡を取ると秘匿性の高い通信アプリに誘導する―の3点だ。通信アプリでのやりとりでは身分証の画像送信を求められ、個人情報を把握したうえで具体的な犯行を指示する。この時点で初めて、犯罪目的で集められたことに気づく実行役も少なくない。従わなければ「家族に危害が及ぶ」と脅す手法も確認された」、「犯罪の実行役を募る投稿はかつて、「闇バイト」と明らかにしたうえ強盗を示す「タタキ」などの隠語を使い連絡を求めるものが多かった。最近は一般的な求人でもみられる「日給1万円程度」という条件を示すものもあり、見極めが難しくなった。背景には投稿への監視強化があるとみられる」、「犯罪心理に詳しい東京未来大学の出口保行教授は「応募するのは犯罪や非行が身近になかった若者が多い」とみる。「犯罪に巻き込まれるかもしれないという意識が薄く、自分に限っては大丈夫だと錯覚してしまう」と分析する。関わらないためには、合法な求人との違いを早期に認識できるかがポイントだ。アルバイト情報サイト「バイトル」を運営するディップによると、SNS上の求人はメールや申し込みフォームを通じたやり取りが多い。秘匿性の高い通信アプリは「一般的な求人で使われることはまずない」(担当者)という。警察は高校生や大学生向けに啓発を急いでいる。「使い捨ての駒にされるので、闇バイトには応募しないで」。警視庁は12日、都立浅草高校(東京・台東)で闇バイトの危険性を訴える出前授業を実施した。教育現場の取り組みも重要だ。静岡大は6月、県警と連携し若者向けの教材を公開した。誘われた場合を想定し、どのような場合に「やってもいいかな」と思うかを考える内容とした。悩んだり相手から脅されたりした場面を想定し相談先を選ぶ」という内容で、大変役に立つ情報が満載です。
- 2024年11月24日付朝日新聞の記事「「グレーなバイト」、SNS経由で泥沼に 抜けられない心理と予防策」では、浮かび上がってきたのは、実行役の多くが闇バイトを、明確な犯罪とはいえない「グレーなバイト」と認識していることだ。リスクは高いけれど、SNS上で気軽に応募できる短期高額バイトという感覚と言える。「短期高額」「ホワイト案件」などのSNS上のうたい文句を見ながら「危ない橋を渡るのではないか」と薄々感じてはいる。はじめからリスクがあることを承知した上で応募しているため、指示役とのやりとりの中で「犯罪ではない」と言われれば、ためらいながらも深入りしていく。実行役の人たちは「とにかくお金がほしい」という目の前のことしか見えておらず、事件前や犯行後でも被害者の気持ちに対する想像力が乏しい。つかまってからようやく、ことの重大さに気づいて被害者のことを想像しているケースも多かった」、「面会で「自分のお母さんやおばあちゃんが同じことをされたらどう思う?」と聞かれて初めて「家族にされたら許せない」「本当に申し訳ない」と被害者の気持ちを考える人がほとんどだ。また、特殊詐欺は「電話役」「運び役」「見張り役」などと役割が細かく割り当てられている。それぞれの実行犯は全体像を把握できないまま、自分が担当する「お金を運ぶ」「見張る」などの「仕事」をしており、全体として詐欺をしているという意識を持ちにくいという。特に、詐欺や強盗が年単位の実刑になる可能性がある重罪だとの認識はほとんどない。実行犯には、高校に通っておらず最終学歴が中卒という場合もある。法的なリテラシー教育を受ける機会に恵まれず、ニュースも見ないため、世の中で起きていることを学ぶ機会も限られている」、「彼らが「売り上げ」「経費」「慰安旅行」という表現を使うのは、「犯罪」ではなく「仕事」という感覚で関与していることの表れのように思える、「指示役側も、実際に両親に電話をかけるなど巧妙で徹底している。ある実行役がうその電話番号を教えたところ「おまえ、うその番号を教えたな」と責められたという。「おまえのことは知っているぞ」という環境を作って抜けられないよう追い詰めていく」、「いったん手を染めると、連続して指示が届く。断れば「前回のは実は詐欺。断れば警察や親にばらす」と脅迫される。「まずい」と思っていても相談先がなく、恐怖のなかで犯罪を重ねていく。私が会った実行役の人たちは「捕まってほっとした」「やめたいと思っていたが、怖くてやめられなかった」と語っていた」、「高校教育の前の段階で闇バイトに対する知識をつける必要がある。義務教育の場面で法律や犯罪について学ぶ頻度を増やし、闇バイトに手を染める前に危険だと判断できる力を養うことが重要ではないだろうか」といった内容で、リテラシーや想像力の低さ、教育の重要性など考えさせられます。
- 2024年11月9日付産経新聞の記事「匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ) 相次ぐ闇バイト強盗 「身を亡ぼす」教育が重要」では、「一連の事件をみていて個人的に感じるのは、ルフィ事件以上に犯行の稚拙さが目立つことだ。行き当たりばったりで、手口も粗い。複雑な組織的背景を備えた集団というより、できあがった「犯罪のフォーマット」をそのまま使い回している印象で、その分、恐ろしさを感じる。広域強盗のルーツは特殊詐欺であり、数年前にはやった「アポ電強盗」だ。暴力団のような組織に属さず組織犯罪に手を染める集団はトクリュウや「半グレ」とも呼ばれるが、こうした反社会的集団は昔からいた。暴力団対策法ができる前は警察内で暴力常習者と呼ばれ、リスト化の対象となっていたと聞く。犯罪をなりわいとする「プロの犯罪者」のような人間たちと若者が持つ接点は、これまでは不良仲間や、地元の先輩後輩のつながりなどが多かった。それがSNSの発達により、闇バイトのような形で使い捨ての人材をリクルートするようになったことで、「素人」が犯罪に加担する構図ができあがった。だますためにテクニックが必要な特殊詐欺に比べ、強盗は誰でもできる犯罪といえる。ワイヤレスイヤホンを耳に装着し、聞こえてくる指示役の声に従って自分で判断することなく行動するさまは、ドローンと変わらない。特殊詐欺の被害者に対して用いられていた、だましや脅しの手法が、実行役に使われているといえる」、「現代の若者は新聞やテレビも見ず、ネットニュースすら読まない者も多い。SNSを通じて「ホワイト案件」などと記されたアルバイトに応募し、高校生を含む10代、20代の若者が強盗の実行犯になるという異常さは、無知と想像力の欠如から生じているといえる」、「強盗や特殊詐欺に関与した者は初犯でも実刑となり、出所後も銀行口座が開設できないなど、多くの制約を負う。教育現場で、いかに闇バイトが身を滅ぼすものかをわかりやすく伝えることが重要だ。ただ、再犯者や累犯者は別として、巻き込まれるように闇バイトに手を染めた初犯者を刑務所に入れて社会的紐帯を切ることは、新たな犯罪者や犯罪被害者を生み出すことにつながりかねない。保護観察などの社会内処遇を念頭に置いた更生支援を検討すべきだ」という内容で、大変説得力のあるコメントだと思います。
- 2024年12月1日付毎日新聞の記事「「闇バイト強盗」の背景は、行き過ぎた自己責任論?」で、作家で反貧困活動家の雨宮処凛さんの論考が掲載されていましたが、「貧困」という視点から捉えた内容は大変興味深いものでした。例えば、「逮捕される実行役が闇バイト応募者だったことで共通する事件。昨年、銀座の時計店で白昼堂々と強盗が行われましたが、その実行役も闇バイト。手段を選ばない大胆なやり口に、この国の「底が抜けた」ことを突きつけられる思いです。多くのメディアは「闇バイトに手を出さないように」と呼びかけています。が、怪しいと思いつつも応募するのは困窮しているからです。「即日」「高収入」といったうたい文句に飛びついてしまうほど、生活が逼迫しているからです。3年以上にわたる物価高騰や、30カ月ほどにわたってほとんどの月で前年同月より低下する実質賃金。それだけではありません。30年にわたって賃金が上がらず、全世帯の年間所得の中央値が25年で178万円も下がり(1994年と2019年の比較)、非正規雇用が増え続け、未婚化、少子化が進んで日本が貧しくなった果てにこのような事件が起きているのではないでしょうか」、「コロナが5類に移行して1年以上たつものの、いまだ多くの人が生活を立て直せずに困っています。しかし、なぜかこの問題がメディアに取り上げられることはほとんどありません。日本が貧困にまひし、慣れてしまったようにも思えます」、「なぜ、闇バイトの方が生活保護より「身近」なのかという問題です。その背景にあるのは自己責任論ではないでしょうか。福祉を利用するより、少しくらい怪しくても自力で稼ぐ方が正義という価値観。それが犯罪につながってしまうという皮肉。もうひとつ、そもそも自分が「福祉の対象」だと知らないということもあるでしょう。メディアは「闇バイトに手を出すな」とセットで、「困窮しているなら役所に行って生活保護申請を」と呼びかけてほしいです。制度を知っていれば、防げた事件が、守れた命があったかもしれない」、「経済大国から衰退の一途を歩む日本。そんなこの国が長年誇ってきた「治安」までも脅かされてしまったら」というもので、本当に考えさせられます。
その他、トクリュウを巡る最近の報道から、いくつか紹介します。
- 首都圏などで相次ぐ強盗事件で、警察当局が押収したスマートフォンが計100台超に上るといいます。これまでに実行役ら計50人以上が逮捕され、上位役のリクルーターも摘発されるなど捜査は徐々に進展していますが、指示役の特定には至っていません。匿名性の壁があるためで、警察当局はスマホ解析が全容解明の鍵を握るとみて全力を注いでいるといいます。東京、千葉、神奈川、埼玉の4都県では2024年8月末以降、18件の強盗事件が相次ぎ発生、住居侵入や窃盗なども含めると、北海道や山口県など全国で関連が疑われる事件は少なくとも26件に上っています。4都県警の合同捜査本部はトクリュウが関与しているとみています。要因とされるのが、トクリュウの特徴である高い匿名性や結び付きの緩さで、指示役側は主にXで実行役らを募集、秘匿性の高い通信アプリ「シグナル」や「テレグラム」に誘導し、素性を明かさぬままスマホを介しやりとりを重ね、実行役らは初対面の仲間と現場近くで合流し、事件後は別々に逃走するケースが多いといいます。警察当局は100台超のスマホを押収して調べているものの、「シグナル」などはメッセージが時間の経過とともに自動消去される仕組みで、解析に一定の時間を要しています。アカウントにはそれぞれ携帯電話の番号が紐付いているとみられていますが、他人名義の「飛ばし携帯」などを使用している可能性が高く、指示役の特定につながるとは限らないといいます。さらに、それぞれの事件には実行役以外にも、運転役や凶器調達役、被害品回収役などが関与、役割が分散されているため、指示系統が見えにくくなっています。一方、「複数の事件に関与している容疑者は比較的指示役に近いはずだ」と警察関係者が指摘するのは筆者も同感です。優先順位をつけて重点的に調べるとともに、強奪された金の流れなど現実社会との接点も丹念にたどることで、「ネットの社会に逃げ込んでいる指示役を追う」としています。
- 首都圏などで強盗が相次ぐ中、闇バイトに応募したものの、抜け出したいと望む若者らへの支援に警察当局が力を入れています。その一つが指示役らに報復をさせないための保護措置で、一時避難先の紹介や費用の助成、自宅周辺の警戒などさまざまな手法があるといいます。警察庁は「あなたやあなたの家族を確実に保護します」と訴え、積極的な相談を呼び掛けています。闇バイトを巡っては、応募後に指示役らに身分証の画像などを送ってしまい、自分や家族に危害が加えられるのを恐れ、抜け出せなくなるケースが後を絶ちません。警察庁によると、2024年10月18日から11月7日に全国の警察が闇バイトの応募者らを保護したケースは46件に上り、10~20代が半数以上を占めるといいます。警察は本人の意向や切迫の度合いなどを踏まえ、保護措置の内容を決めるとしており、本人や家族に一時避難先のホテルを紹介したり、自宅周辺のパトロールを強化したりするほか、一時避難や転居が必要な場合、公費助成が受けられる制度もあります。また、あらかじめ警察に相談内容や電話番号などを登録しておくことで、緊急時の110番ですぐに事情を把握し、安全を確保する仕組みもあるといいます。
- 自民党は、新設の党政調「治安・テロ・サイバー犯罪対策調査会」(高市早苗調査会長)の初会合を開き、高市氏はSNSを通じた闇バイト強盗対策を優先的に議論し、12月上旬にも政府に提言する考えを示しています。調査会は主に(1)闇バイト(2)インターネット上での世論工作「サイバープロパガンダ」(3)偽情報(4)化学・生物・放射性物質・核・爆発物に関わる災害―への対策を議題にするといいます。自民党は10月の衆院選でトクリュウによる強盗事件を受けた対策を掲げ、「国民にとって治安上の大きな脅威となっている」と指摘し、戦略的な実態解明・取り締まりを強化すると強調しています。
- 群馬県大泉町は、首都圏を中心に相次ぐ強盗など犯罪行為の人手を募る「闇バイト」から若者を守る取り組みを始めています。消費生活センター(町民相談室)に専用の相談窓口を開設、犯罪組織から相談者や家族を一時的に保護するシェルターを確保するといいます。闇バイトについては警察庁が中心になって啓発活動をしており、自治体が独自の対策に乗り出すのは珍しいといえます。闇バイトとは知らずに個人情報を送ってしまい、犯罪組織から脅されるケースを考慮、窓口では熟練した職員が相談に応じ、必要なら町の顧問弁護士や大泉署とも連携して相談者らの身の安全を守り、犯罪への加担を防ぐとしています。
- 立教大は、池袋キャンパスで学生向けに「闇バイト」の危険性を寄席で訴える取り組みを行っています。楽しみながら学んでもらうのが狙いで、約70人が耳を傾けたといいます。立教大では学生らに悪質商法などの実態を学んでもらうため3年前から啓発プログラムを開催、今回の落語もその一環で、首都圏などで相次ぐ強盗事件を受け、闇バイトを初めて取り上げたといいます。困窮する学生がインターネットで「日当10万円」のアルバイトに応募しようとすると、ニュース番組で「闇バイト」が偶然流れ、内容が同じなため踏みとどまったものの、求人項目の末尾に「闇バイトじゃありません」の一文を発見、「よかった」と胸をなで下ろし、その後の応募を予感させるオチに、会場内から笑いが起きたといいます。
- 大学がゲームを使った教育活動に注力、社会の課題解決や知識の取得など種類は様々ですが、教員と学生が共同でゲームづくりを進めるなど、学生の参加を通じて発想力や企画力を鍛える取り組みとしています。知識伝達型から、学生が主体的に学ぶアクティブラーニング型の教え方が広がりそうです。
- トラブルになった相手の自宅に侵入したとして、警視庁暴力団対策課は住居侵入の疑いで、会社役員、田記容疑者や横浜市の総合格闘家、宿輪容疑者ら20~40代の男5人を逮捕しています。逮捕された田記正規容疑者らはXで「アウトロー系インフルエンサー」として知られる「Z李」名のアカウントを複数人で運用していたといいます。暴露や犯罪行為の実況など、過激な投稿で注目を集める一方で、ネコの保護事業や路上生活者への炊き出しといった慈善活動をアピール、正体や背後関係には不明な点が多く、周辺にはトクリュウに連なる人脈が見え隠れしているといいます。田記容疑者が過去に役員を務めたNPO法人や企業で、ともに役員だった男が特殊詐欺に関与した疑いで摘発されるなど、犯罪行為との関わりが疑われてきたためで、警視庁暴力団対策課は、逮捕した5人もトクリュウの疑いがあるとみて調べているといいます。
- フィリピンを拠点にした特殊詐欺事件に関与したとして、警視庁捜査2課は、現地で元暴力団(神戸山口組とされます)組員らが組織した「JPドラゴン」の幹部、小山容疑者ら男性3人を窃盗容疑で逮捕しています。小山容疑者はJPドラゴンのナンバー3とされ、2024年1月、詐欺などの容疑でフィリピン当局が身柄を拘束、警視庁が引き渡しを求めていたものです。逮捕容疑は共謀して2019年、都内の50代女性方に嘘の電話をかけ、だまし取ったキャッシュカードで現金約70万円を引き出したなどとしています。2019年11月に現地当局が日本国内への特殊詐欺電話の「かけ場」だったマニラ近郊の廃ホテルの拠点を急襲した際、主導したルフィグループの幹部らはその場におらず、JPドラゴンが事前に逃亡を手助けしたとされます。2023年2月に今村被告の弁護士が接見した際、留置施設にいた今村被告と外部にいた小山容疑者はテレビ電話で通話したとされ、その際、小山容疑者は「面倒を見るから事件については話すな」などと口止めしたとされます。JPドラゴンは、マニラ周辺で活動、組織を立ち上げたのは、30年ほど前にフィリピンに渡った日本の元暴力団関係者の男性とされ、フィリピンでは詐欺や恐喝など違法なビジネスに組織的に関与し、日本の暴力団組員とのつながりもあるといいます。組織には日本人のほか、中国人や韓国人も在籍し、構成員らが共通の入れ墨をしていることで知られています。JPドラゴンは、現金やキャッシュカードを受け取る「受け子」らを「闇バイト」で募集して使い、被害金をフィリピンに運ぶ運搬役もいたとされます。ルフィグループは特殊詐欺のノウハウはあったものの、現地の事情に不案内だったため、JPドラゴンが指南役を務めて上納金を受け取っていた可能性が指摘されています。一方、事件で逮捕された容疑者の一部は「ルフィグループの使っていた特殊詐欺の拠点が、JPドラゴンに襲撃され乗っ取られた」と供述しています。なお。小山容疑者はルフィで特殊詐欺の「かけ子」役をした後、2019年にJPドラゴンに移籍したといいます。
- 所有するアパートの水回りの工事をリフォーム業者と約600万円で契約、工事をしたが納得がいかず、別の水道業者に聞いたら「2、3万円で済む工事」と言われた事案について、依頼者が「悪質」と訴えるこのリフォーム業者は、東京の都心に本社があり、業者の代表取締役やその関連会社の代表取締役は、暴力団関係者や「半グレ」と呼ばれる集団との交友関係があるとされます。暴力団関係者とは行楽地に遊びに行き、一緒に写真に納まるなどしていたといいます。警察当局は、リフォーム業者が必要のない工事をするなど悪質な営業をしている場合、その収益がトクリュウの活動の資金源になっているとみて、情報収集を強化しています。悪質リフォームは犯罪グループの間で「捕まらない詐欺システム」と呼ばれているといい、工事後だと、家屋や設備の損傷具合といった施工前の状況を確認できないため、警察が詐欺容疑で立件するのは難しいとされます。悪質リフォームは、近年問題化しており、国民生活センターによると、全国のリフォーム工事の訪問販売に関する相談は、2018年度の7,224件から、2023年度は1.6倍の1万1,877件に増加しています。屋根の他にも、住人の目が届きにくく、施工費の相場が判断しづらい水回りの工事などで、高額な請求をされるケースも目立っているといいます。
- SNSで勧誘した女性を風俗店に紹介したとして、警視庁は、職業不詳の遠藤容疑者ら男5人を職業安定法違反(有害業務への職業紹介)容疑で逮捕しています。遠藤容疑者を中心とする違法スカウトグループが、ホストクラブにツケ払いの借金を抱えた女性らを全国の風俗店計約350店にあっせんし、数億円の紹介料などを得たとみています。5人は2022年7月~2024年4月頃、Xで知り合った20~30代の女性4人に対し、大分県別府市の風俗店での仕事を紹介した疑いがもたれています。遠藤容疑者は、「アクセス」というスカウトグループのリーダーで、約160人のスカウトが、借金を抱えてXに「出稼ぎ希望」などと投稿している女性らに連絡を取っていたといい、トクリュウとみられています。スカウトらは女性から送らせた顔写真や本人確認書類の画像、年齢などの情報を、全国の風俗店に一斉に共有、賃金面などで好条件を提示した店に女性をあっせんしていたといいます。警視庁は、遠藤容疑者が風俗店から紹介料や顧問料をレターパックを使って現金で回収し、一部をスカウトに分配していたとみており、闇バイトの構図に似ていると指摘されています。スカウトの中には、サッカーJ2の下部組織に所属していた大学生や飲食店経営者らがいたといいます。
- 所属するホストが女性客から強引に売掛金(ツケ)を取り立てたとして、東京都公安委員会は、歌舞伎町のホストクラブ「SINCE YOU…α」を都ぼったくり防止条例に基づき、80日間の営業停止処分としています。処分理由は2023年12月1日、店のホストの男性が、20代の女性客に「業者が回収に行くことになる」と威圧的な言動をし、消費者金融と契約を結ばせるなどして、売掛金を強引に取り立てたためとしています。警視庁は2024年2月、この行為について都ぼったくり防止条例違反の疑いでホストを逮捕、6月には、同じ女性客をスカウトを通じて大分県別府市のソープランドに紹介したとして、職業安定法違反(有害業務の紹介)の疑いで再逮捕しています(その後起訴)。警視庁は別府市のソープランドを家宅捜索し、上記アクセスグループの摘発につながりました。
- 香港の日刊紙が今月、東京について「アジアの新しいセックス観光の首都?」と指摘する記事を配信しています。東京・歌舞伎町で路上売春する日本人の「街娼」が来日する中国人らを相手にしている現状を報じています。外国人男性が歌舞伎町で「買春ツアー」を行っている実態は国内で一部報じられていますが、海外にも飛び火しつつあります。悪質ホストクラブ対策に尽力する立憲民主党の山井和則衆院議員は産経新聞の取材に、「国際的に恥ずかしい深刻な事態だ。こうした風評が世界に広がると、『日本の女性はお金で買える』という誤解が生じかねず、性被害にあうリスクが高まってしまう」と懸念、その上で、「歌舞伎町に立つ女性が悪いと放置して済む問題ではない。放置している日本社会が若い女性の路上売春を容認していると海外からみられることに気が付くべきだ」と強調しています。
- 大麻や覚せい剤などを密売したり営利目的で所持したりしたなどとして郡山市に住む暴力団員など男女5人が逮捕されています。いずれもトクリュウで、SNSを通じて違法薬物の密売などを行っていたとみて警察が実態を詳しく調べています。5人は、郡山市内で大麻や違法薬物のMDMAを密売したり、自宅などで覚せい剤や大麻を営利目的で所持したりしたなどとして麻薬特例法違反や覚せい剤取締法違反などの疑いが持たれています。5人の自宅などからは大量の大麻やコカイン、それに覚せい剤などが押収されたほか、三重県と栃木県にある関係先では栽培された大麻が見つかったということです。5人はトクリュウで、SNSを通じて県内外の客に違法薬物を密売していたとみられるということです。
- SNSで客を募って覚醒剤を売ったとして、関東信越厚生局麻薬取締部と福井県警の合同捜査本部は、住吉会傘下組織組員を覚せい剤取締法違反(営利目的譲渡、営利目的所持)の疑いで逮捕、共犯として20代の男女3人も同容疑で逮捕しています。全国の客にレターパックで送ったり手渡ししたりしていたといい、合同捜査本部は、売り上げが直近の2年間で約7千万円に達したとみて調べています。合同捜査本部は、4人が新宿区歌舞伎町のマンションの一室を拠点に、SNSで覚せい剤を意味するかき氷の絵文字を使って客を募ったとみています。郵送時の品名欄には、「トレーディングカード」や「アクセサリー」と記していたといいます。捜査の端緒はサイバーパトロールで、合同捜査本部はこれまでに、福井県内の客ら計23人を覚せい剤を所持していたなどして逮捕、販売した人物の特定を進めていました。本件もトクリュウによる事件とみられていますが、関東信越厚生局麻薬取締部は、「SNSを使った密売の手口が進化している。暴力団がSNSを駆使して薬物を販売するというのは、いままで見られなかった傾向で、問題だと認識している」としています。
暴力団等反社会的勢力を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。
- 東京都台東区の松葉会本部事務所を巡り、地権者が同会側に土地の明け渡しなどを求めた訴訟で、東京地裁は、事務所が入るビルの撤去や土地の明け渡しを命じる判決を言い渡しています。判決によると、地権者は1995年に同会の関連企業と土地の賃貸借契約を締結し、企業がこの土地に建てたビルが同会本部事務所として使われ始めたといいます。所有者は、契約時は利用方法を知らず、後に事務所として使われている疑いを持ったものの、危害を加えられることをおそれ、長らく契約の解除ができなかったと訴えていました。2020年に火炎瓶が投げ込まれる事件が起きた後、地権者は契約解除の意思を企業に伝えたものです。訴訟では賃貸借契約の解除の有効性が争点となりましたが、判決は、近隣住民に危害が生じる土地利用はしないという賃借人の義務に違反があったと指摘、当事者間の信頼関係を破壊する行為で、賃貸借関係の継続を著しく困難にした」などとして、契約解除は有効だと判断しています。原告側の代理人弁護士は、契約に暴力団排除条項が定められていなかったことを踏まえ、「暴排条項がない契約でも暴力団事務所を撤去しうる先例として重要な意義がある判決だ」と述べています。筆者も、暴排条項がなく、「信頼関係の破壊法理」によって継続的契約の解除が認められた意義は大変大きいと考えています。
- 債権の回収を巡り、裁判所に自らの所有財産に関してうその陳述をしたとして、警視庁は、松葉会会長の伊藤義克容疑者を民事執行法違反容疑で逮捕しています。丸の内署によると、逮捕容疑は2023年12月22日、債権回収会社が裁判所に申し立てた財産開示の手続きで、伊藤容疑者の信用金庫の口座に実際には預金残高があるのに、預金がないと虚偽の陳述をしたというもので、すでに倒産した金融機関から債権を受け継いだ債権回収会社が、伊藤容疑者が連帯保証人になっている法人に対して返済を求めていたといいます。この会社が独自に調べたところ、預金があることがわかり、2024年5月に刑事告発、同署は伊藤容疑者の自宅を家宅捜索したといいます。
- 神戸市で2019年、六代目山口組傘下組織組員を銃撃したとして殺人未遂などの罪に問われた山健組組長、中田浩司被告を無罪とした神戸地裁の裁判員裁判判決について、神戸地検は、内容を不服として控訴しています。判決は、現場付近の防犯カメラ映像の多くが不鮮明で犯人と断定できないと指摘、「被告が犯人の可能性は高いが、別人である可能性を否定できない」と結論付けていたものです。山健組は当時神戸山口組の中核団体で、六代目山口組と対立関係にありましたが、その後離脱し、2021年秋に六代目山口組に合流しています。被告は六代目山口組の中核団体・弘道会の拠点事務所前で、軽乗用車の運転席にいた組員に拳銃を6発発射し、うち5発を命中させて重傷を負わせたとして起訴されていました。週刊誌(日刊ゲンダイ)の情報によれば、「当時、神戸山口組は六代目山口組側に一方的に攻められ、まるで報復できなかった。それで井上組長はいらだち、「六代目との抗争は山健組が受け持つと組で決めている、なぜおまえは報復に立てない?」と中田組長を思いきり殴ったとされる。それで中田組長は「やればいいんだろ」とふてくされた。ヘルメットをかぶり、単車に乗って単身、近くの弘道会系事務所前で組員1人に向け銃を5発連続発射、重傷を与える事件を引き起こした。その後、中田組長は組に戻ったが、間もなく組を出て消息を絶ち、数カ月連絡不能状態を続けた」「神戸山口組から出たいと言っていた」などと報じています。なお、中田組長は直近では六代目山口組の司忍組長と高山清司若頭を訪問、住吉会幹部と会食するなど、復帰後の活動を開始しており、山口組の分裂抗争に影響を及ぼす可能性も指摘されています。
- 京都府警は、会津小鉄会のトップにあたる8代目会長に、神戸市に本部を置く六代目山口組傘下組織淡海一家の高山義友希総長が就いたことを明らかにしました(高山会長は会津小鉄会4代目高山登久太郎組長の長男で、大卒後、地元の信用金庫に入社、建設業や金融業を営み、ヤクザの世界に足を踏み入れた異色の経歴を持っています)。会長はこれまで生え抜きの組長が就いていて、異例の代替わりとなります。会津小鉄会は幕末、会津藩に出入りしていた侠客が、京都の博徒たちを集めて結成した老舗組織で、構成員は最も多いときにはおよそ1600人いましたが、2023年末の時点でおよそ40人まで減り、弱体化しています。警察は、今回の代替わりは会津小鉄会にとっては組織を維持するねらいがあり、六代目山口組も京都での存在感を高めるねらいがあるとみています。ただ、六代目山口組は、2023年末の時点で構成員およそ3500人と全国で最も規模が大きい暴力団で、各地でほかの暴力団との抗争とみられる事件が相次いでおり、警察は、会津小鉄会が代替わりで六代目山口組の一部とみなされ、京都でも抗争が起こる危険性が高まったとみています。また、会津小鉄会絡みでは、借金の返済を免れようと男性を脅したなどとして、京都府警は京都市に本部を置く会津小鉄会の幹部ら3人を逮捕し、京都市左京区にある本部事務所の捜索を行っています。3人は、このうち1人が借りていた200万円の返済を免れようと、貸した男性に対し一部を免除するよう要求したうえ、電話で返済の請求を断念するよう脅したとして、恐喝未遂の疑いがもたれています。
- 暴力団対策法で立ち入りが禁じられた事務所に出入りしたとして、大阪府警捜査4課は、同法違反(警戒区域内での事務所立ち入り)の疑いで、六代目山口組傘下組織兼一会の幹部、近藤容疑者ら同会幹部4人を逮捕しています。警戒区域の事務所の立ち入りを巡る摘発は全国初とみられています。六代目山口組は2020年に特定抗争指定暴力団に指定されて以降、警戒区域とされる大阪市内などに所在する事務所への立ち入りを同法で禁じられています。兼一会は大阪市中央区島之内に本部を置く六代目山口組の直系組織で、従来の事務所の立ち入りが禁じられて以降、同会は100メートルほどしか離れていない近くのマンション一室を「隠れ事務所」として使用していたとみられています。この部屋の賃貸契約を巡り、大阪府警は2024年6月、詐欺容疑で、同会の金奎轍(通称・植野雄仁)会長らを逮捕、部屋を捜索したところ、パソコンやプリンターなどの事務用品のほか、防弾チョッキや代紋をかたどったバッジ、組名などのゴム印、盃なども発見され、府警は組事務所としての実態があったと判断、出入りが確認された幹部の逮捕に踏み切ったものです。
- 対立する特定抗争指定暴力団組員につきまとったとして、岡山県警は、暴力団対策法違反容疑で池田組幹部ら組員4人を逮捕しています。県警によると、つきまとい容疑での逮捕は全国初となります。4人の逮捕容疑は共謀し2024年7月13日、警戒区域に指定されている岡山市内で、六代目山口組系組員が歩いているところを車で走行し、つきまとったとしています。県警は目的などを詳しく調べるとしています。
- 岡山や兵庫など7府県の公安委員会は、六代目山口組(神戸市)と池田組(岡山市)の特定抗争指定暴力団への指定を3カ月間、延長すると明らかにしています。抗争が終結していないと判断したもので、12月5日に官報に公示する予定で、延長後の指定期限は2025年3月7日となります。
- 岡山県公安委員会は、暴力団対策法に基づき池田組を指定暴力団に再指定し、官報で公示しています。効力は2024年11月11日から3年間となります。岡山県警によると、池田組は神戸山口組の2次団体でしたが、2020年7月に離脱を表明しました。構成員は、2023年末時点で岡山、宮崎、愛媛、北海道の4道県に約60人とされます。
- ETCパーソナルカードの利用を申し込んだ暴力団員が、申し込みを拒絶されたのは違法だとして、利用を認めるよう求めて高松地裁に訴えを起こしています。訴状によると、原告は2023年7月、NEXCO西日本など6社に対してETCパーソナルカードの利用を申し込みましたが拒絶されたといいます。 ETCパーソナルカードはクレジットカードがなくてもETCを使えるサービスで、原告は、申込書に記載されていた「私は暴力団、暴力団関係企業・団体~これらの構成員・関係者、その他社会的勢力ではありません」という文言を二重線で消して、「私は暴力団です」と直筆で書いたといいます。原告は暴力団員という理由だけで公共性の高いETCを使えないのは違法だとして、NEXCO西日本やNEXCO東日本など高速道路を管理する6社などに対して、利用を認めるよう求めています。その上で、精神的苦痛を受けたとして143万円の損害賠償を求めています。原告代理人弁護士は、「人権の問題からすれば大変問題だろうと。ETCカードじゃないと出られないインターチェンジというのが多数今でています」と述べています。
- 新型コロナウイルス対策の国の持続化給付金を詐取したとして、住吉会組員が逮捕された事件で、警視庁は、税理士の男を詐欺容疑で東京地検立川支部に書類送検しています。2020年6月以降、組員が作ったLINEグループに集まった若者らの計168件の給付金申請を代行し、計6600万円の不正受給に関与したとみられています。男は組員らと共謀して2020年6~7月、30代の会社員女性ら4人をコロナ禍で減収した個人事業主と偽り、国から給付金計400万円を詐取した疑いがもたれています。組員らが開設したLINEグループに「フリーターでも応募できる」と投稿し、申請者を募集、男は組員から申請者の本人確認書類などを受け取り、申請に必要な確定申告書類や売り上げ台帳を偽造していたといいます。168件の申請のうち66件が支給され、1件当たり10万円の報酬を得ていたとみられます。同庁は2023年夏以降、不正受給に関与したとして組員らを詐欺容疑で摘発しており、給付金の一部が幹部に上納されていたとみています。以前の本コラムで羽賀研二容疑者とともに逮捕された日本司法書士連合会副会長の事例について「許されることではない」と指摘しましたが、本件も税理士という「士業」に携わる者が積極的に暴力団と法を犯しており、正に「許されることではない」し、「士業」全体の信頼に関わる由々しき事態だと指摘しておきたいと思います。
2.最近のトピックス
(1)AML/CFTを巡る動向
国家公安委員会から「令和6年犯罪収益移転危険度調査書(以下「NRA」)」が公表されました。NRAは、犯罪収益移転防止法に基づき、国家公安委員会が、特定事業者等が行う取引の種別ごとに、マネロン等に悪用される危険度等を記載したもので、毎年作成されているものです。特定事業者は、NRAの内容を勘案して、マネロン等の疑いの有無を判断の上、疑わしい取引の届出を行うとともに、取引時確認等を的確に行うための措置を講じることとなります。今年のNRAの特徴として、例えば、主体の一部を変更として、「特殊詐欺の犯行グループ」から「匿名・流動型犯罪グループ」に変更され、より広い資金獲得活動を行う主体として分析されている点がまずは挙げられます。そして、被害が急増しているSNS型投資・ロマンス詐欺等の資金獲得活動について記載されています。また、実体のない又は実態の不透明な法人・法人名義口座の悪用を踏まえ、「法人(実質的支配者の不透明な法人等)」が詳しく分析されています。さらに、「FATF等のサイバー関連詐欺レポート」や「APGのタイポロジーレポート」、「FATF勧告16の改訂検討について」や「暗号資産をめぐる国際的動向」等も取り上げられ、国際的な情勢とともに理解を深めることが可能です。また、「疑わしい取引の届出」については、届出事例が追加されており、「危険度の高い取引(非対面取引・現金取引・外国との取引)」の疑わしい取引の届出例など参考になります。全体的には、目次の細分化やPDFのしおり機能の追加、図表の積極的な活用など読みやすい機能が追加されていますが、何より、極めて実務にとって参考となる事例や分析が多くなされている点は高く評価できると思います。
▼国家公安員会 犯罪収益移転危険度調査書
▼【概要版】
- 我が国の環境
- 刑法犯認知件数
- 刑法犯認知件数の総数 70万3,351件 ※2年連続増加・コロナ前の水準に接近
- 財産犯の被害額 約2,519億円(前年比+56.7%)
- うち、詐欺の被害額 約1,626億円(前年比+85.4%) ※インターネットを利用した詐欺の増加が寄与
- フィッシングの状況
- フィッシング報告件数 119万6,390件(前年比+22万7,558件、過去最多)
- クレジットカード事業者・EC事業者をかたるものが多い
- インターネットバンキングに係る不正送金事犯の状況
- 発生件数 5,578件 被害額 約87.3億円 (それぞれ過去最多)
- 被害者の大部分は個人、うち40~60歳代が約6割
- 手口の内訳 電子メールによる誘導:53%、SMSによる誘導:21%
- 不正送金額の5割以上が暗号資産交換業者の金融機関口座に送金
- クレジットカード不正利用の情勢
- 被害額 540.9億円 ※統計を取り始めた平成9年以降で最悪
- ランサムウェアの状況
- 警察庁に報告された被害件数 197件 ※引き続き高い水準で推移
- 二重恐喝(ダブルエクストーション)による被害が多い
- 暗号資産による対価の要求が多い
- 企業・団体等の規模や業種を問わず被害が発生
- 刑法犯認知件数
- ランサムウェアに関連するマネロン等
- FATFは、令和5年(2023年)3月に公表したレポートにおいて、ランサムウェアに関連するマネロン等の特徴について、次のとおり指摘している。
- ランサムウェア攻撃による対価支払や、その後のマネー・ローンダリングはほとんどが暗号資産を通じて行われ、暗号資産交換業者が利用されることが多い。
- ランサムウェア攻撃者は暗号資産の国際的な性質を利用して、大規模かつほぼ瞬時に国境を越えた取引を行い、時にはマネロン等対策を講じている金融機関を介さずに取引することもある。
- 匿名性の高い暗号資産やミキサー等、匿名性を強化する技術・手法やトークン等をマネロンに使用することによって、取引を更に複雑化させている。
- ランサムウェア攻撃者は、アンホステッド・ウォレット等非ホスト型ウォレットや、攻撃が発生した地域外に所在し、法執行機関等と連携していない暗号資産交換業者の暗号資産ウォレットを利用し、また、攻撃ごとに異なるアドレスを利用している。
- 多くのランサムウェアネットワークが、マネロンリスクの高い国・地域とつながっており、このような国・地域で収益を預金化又は現金化している。
- 疑わしい取引の届出を行う際の着眼点として、FATFが示すランサムウェアに関する顧客又は取引に関連するリスク指標は次のとおりである。
- ランサムウェア被害者による支払に関する指標
- ランサムウェア復旧を扱うサイバーセキュリティコンサルティング企業又はインシデント対応企業への仕向送金
- 同企業による第三者の代理での暗号資産購入
- ランサムウェア復旧を扱う保険会社からの通常とは異なる被仕向送金
- 顧客によるランサムウェア攻撃又は支払に関する申告
- 顧客へのランサムウェア攻撃に関する報道等
- 同一の銀行口座から暗号資産交換業者の複数の口座への大量取引
- 支払明細に「身代金」等の語句やランサムウェアグループの名前を含む
- マネロン等リスクの高い国・地域にある暗号資産交換業者に対する支払
- 暗号資産取引の履歴のない顧客による標準的なビジネス慣行以外の取引
- 顧客が口座の限度額を引き上げた上での第三者への送金
- 顧客が支払にかかる時間について不安や焦りを感じている取引
- 匿名性を強化した暗号資産の購入
- 新規顧客が暗号資産を購入し、口座の残高金額を単一のアドレスに送信
- ランサムウェア攻撃者に関する指標
- 最初の大規模な暗号資産移転の後、ほとんど又は全く取引がない
- ブロックチェーン分析により、ランサムウェアとのつながりが判明
- 暗号資産への資金の返還後、即時の引き出し
- ランサムウェアに関係のあるウォレットへの暗号資産の送信
- マネロン等リスクの高い国・地域での暗号資産交換業者の利用
- ミキシングサービスへの暗号資産の送信
- 暗号化されたネットワークの使用
- 顧客情報にプライバシーの高い電子メールアカウントを所有していることが記載
- 認証情報の不具合、又は偽の身元情報での口座開設依頼
- 複数の口座が同一の連絡先とつながっている、アドレスを異なる名前で共有
- 匿名性を強化した暗号資産に関連する取引
- ランサムウェア被害者による支払に関する指標
- FATFは、令和5年(2023年)3月に公表したレポートにおいて、ランサムウェアに関連するマネロン等の特徴について、次のとおり指摘している。
- マネロン事犯等の分析
- マネロン事犯の検挙事件数 909件 前年比183件増加
- 犯罪収益が、犯罪組織の維持・拡大や将来の犯罪活動への投資等に利用されることを防止するために、剥奪することが重要
- 暴力団
- 依然として大きな脅威として存在
- 暴力団構成員等のマネー・ローンダリング事犯検挙事件数 57件(全体の6.3%)【令和5年】
- 資金獲得活動の特徴
- 詐欺による資金獲得活動が定着化
- 主導的な立場で特殊詐欺に深く関与
- 金融業・建設業・労働者派遣事業・風俗営業等、多種多様な資金獲得活動
- マネロン事犯の検挙状況の分析
- 前提犯罪別では、詐欺・電子計算機使用詐欺・窃盗が多い
- 犯罪収益の合計金額は約13億9,000万円(金額換算できるものに限る)
- 他の主体と比較して、どの商品・サービスも介さずに現金で受け取るものが多い
- 内国為替取引では、関係が近い者(知人・家族)の名義の口座を使うことが半数近い
- 資金獲得活動の特徴
- 匿名・流動型犯罪グループ
- 特殊詐欺に限らずより広い資金獲得活動を行う主体として、主体の範囲を拡大
- 特徴
- 中核的人物の匿名化と犯罪実行者の流動化
- 多様な資金獲得活動と犯罪収益の還流
- 資金獲得犯罪
- 特殊詐欺
- SNS型投資・ロマンス詐欺
- 強盗・窃盗等(組織的窃盗)
- 繁華街・歓楽街における資金獲得活動
- オンラインカジノに係る賭博事犯
- 悪質なリフォーム業者による詐欺・特定商取引事犯
- 薬物事犯等
- マネー・ローンダリング
- 特殊詐欺では、外国の犯行拠点・外国口座の経由・キャッシュ・クーリエによる犯罪収益の外国への移転の実態あり
- 犯罪収益が最終的に行き着く先は中核的人物
- 特徴
- 特殊詐欺に限らずより広い資金獲得活動を行う主体として、主体の範囲を拡大
- 来日外国人犯罪グループ
- 外国人が関与する犯罪は、法制度や取引システムの異なる他国に犯罪収益が移転して追跡が困難
- 外国の指示役からの指示により国内の実行犯が組織的に犯罪を敢行し、犯罪収益を外国に移転
- 来日外国人のマネロン事犯検挙事件数 96件(全体の10.6%)【令和5年】
- マネロン事犯の検挙状況の分析
- 国籍等別では、中国・ベトナムが多い(中国が半数近く)
- 前提犯罪別では、詐欺・窃盗・入管法違反の順で多い
- 取引等別では、内国為替・クレジットカード・前払式支払手段の順で多い
- 預貯金口座が使用されたマネロン事犯の5割超が、外国人名義の架空・他人名義口座を使用
- 来日外国人犯罪をめぐる昨今の犯罪情勢
- 来日外国人犯罪の検挙状況 件数・人員共に増加(令和5年)
- 財産犯の被害額 約32億4,000万円(前年比+13億4,000万円)
- 来日ベトナム人
- 前提犯罪別検挙状況 詐欺30.2% 窃盗19.8% 入管法違反14.6%
- 知能犯が増加傾向 携帯電話機販売代理店における携帯電話機詐欺事案等の発生も多数認められる
- SNSを通じた口座売買が多発傾向 口座売買組織の存在も明らか
- 来日中国人
- 刑法犯検挙状況 窃盗犯48.8% 知能犯19.8% 粗暴犯15.8%
- 前提犯罪別検挙状況 窃盗 41.8% 詐欺 39.2% 電子計算機使用詐欺10.5%
- 中国人犯罪組織は、地縁・血縁等を利用、稼働先の同僚を誘ってグループを形成
- 中国人犯罪組織がSNS等で在留者をリクルートし、犯罪の一部を担わせる例も散見
- マネロン事犯の検挙状況の分析
- 前提犯罪
- 死刑又は無期若しくは長期4年以上の懲役若しくは禁錮の刑が定められている罪
- 組織的犯罪処罰法の別表第1又は別表第2に掲げる罪
- 麻薬特例法に掲げる薬物犯罪
- マネロン等の脅威
- 前提犯罪の種類によって、生み出される犯罪収益の規模・マネロン事犯との関連性、悪用される取引の状況、組織的な犯罪を助長する危険、健全な経済活動に与える影響等は異なる
- 詐欺・窃盗で全体の約7割
- 電子計算機使用詐欺が増加傾向
- サイバー関連詐欺(CEF)による犯罪収益の流れ~疑わしい取引の届出を行う際の着眼点
- 取引パターンに関するもの
- 口座開設後における口座の目的に合致しない即時の高額又は低額取引
- 口座を空にするための、入金後即時の現金引き出し又は多額の送金
- 口座名義人の経済的プロフィールと合致しない頻繁で多額の取引
- 高リスク国・地域との間の資金移動
- 最近設立された企業又は主な事業内容が受取人の行動と一致しない企業との間における頻繁かつ大規模な取引
- 少額の支払が正常に完了した後、すぐに同じ受取人への高額支払が継続して行われる取引
- ギフトカードの購入と思われる頻繁又は多額の端数のない金額での購入
- 口座番号と名義人の不一致
- 取引指示に関するもの
- 顧客が取引先への支払に使用したことのない口座への支払に成功した直後、追加の支払を要求する取引
- 一見して適正な取引指示であるが、過去に確認された取引指示とは異なる言語、タイミング又は金額が含まれているもの
- 取引指示に、取引依頼を緊急、秘密又は機密と指定する目印、表現又は文言が含まれているもの
- 顧客が、取引を正当化するために、不適切な形式のメッセージや電子メールを提示するもの
- 取引指示書は既知の受取人への支払を示しているが、受取人の口座情報が以前使用していたものと異なっているもの
- 取引の説明にある受取人と被仕向銀行が把握している口座名義人の名前が一致しないもの
- 金融に関する専門知識を持たない者が、投資や金融商品に関連する支払を理由とする企業(多くの場合が、高リスク国・地域に設立された企業)のために依頼した送金
- 口座の事業名・会社名と一致しない相手先が、多額の資金を国際的に移動させるための隠れ蓑となる可能性があるもの
- 情報端末のタイムゾーンの不一致による取引
- 口座名義人/アカウントユーザーに関するもの
- 口座名義人が、CDDチェックを通過する意思がない又は通過できないもの
- 口座名義人が自分の口座の資金の出所を知らない又は他人のために取引していると主張しているもの
- 外国語の表現や用語を使用して法人名又は個人事業主名を頻繁に変更しているもの
- 顧客が、取引や関係の性質、対象、金額又は目的について不十分な知識であることが示されるか、非現実的又は一貫性のない説明を行うことで、顧客が運び屋として行動しているのではないかと疑われるもの
- 身分証明書(住所、電話番号、電子メール等)の共有、改ざん等を行い、身分を隠そうとしているもの
- 口座開設後、連絡先、電話番号、電子メールアドレス等を頻繁に変更するもの
- アカウント所有者の名前と互換性がないと思われる電子メールアドレス又は複数のアカウントでみられる類似した電子メールアドレスのパターン
- 他のアカウントとの資格の共有等、顧客情報の特定事項の不規則性
- オンライン上の異常な行動(入力のためらい、入力の遅れ、複数のログイン失敗等)
- 国内で活動しなくなったと予想される口座(留学終了時に売却した留学生の口座等)
- 高リスク国・地域から発信されたIPアドレス又はGPS座標
- ユーザーのIPアドレス等を隠す可能性のあるホスティング会社の使用
- 1つのオンラインアカウントに関連付けられた複数のIPアドレス
- 1つのIpアドレスが、様々なアカウント所有者の複数のアカウントに関連付けられるもの
- TeamViewer等のアプリケーションで使用されるコンピューターポートを介したアカウントへのリモートデスクトップ接続
- ボットによる制御の可能性を示唆する過度に素早いキー入力やナビゲーションで操作されたアカウント
- 顧客又は取引相手に関して重大なネガティブニュースが存在するもの
- 通信機関又はその他の不正データベースからの不正報告書
- 電信送金のリコール要求の有無
- 取引に関与する人物について、FIUやLEAsから提供された不利な情報の有無
- 暗号資産取引に関するもの
- アンホステッド・ウォレット、ダークネットマーケットプレイス、ランサムウェアグループ、カジノサイト等に関連するアドレスに、大量若しくは高頻度又は低額相当の暗号資産を送受信するもの
- 暗号資産や暗号資産に変換された資金の出所を証明する資料がないもの
- ダークウェブ上の違法行為に関連する暗号資産ウォレットへの暗号資産の移転
- 複数の種類の暗号資産を含む取引
- P2Pプラットフォームに関連する暗号資産ウォレットからの暗号資産の異常な取引
- 取引パターンに関するもの
- サイバー関連詐欺(CEF)による犯罪収益の流れ
- 令和5年(2023年)11月、FATF、エグモント・グループ、ICPOがレポートを公表
- CEF(Cyber Enabled Fraud)の分類
- ビジネスメール詐欺(BEC詐欺)
- フィッシング詐欺
- ソーシャルメディア・携帯電話を利用したなりすまし詐欺
- オンライン取引/取引プラットフォーム詐欺
- オンラインロマンス詐欺
- 雇用詐欺
- CEFの特徴
- 国際的な組織犯罪として拡大
- 犯罪組織は、犯罪ごとの専門分野に特化したサブグループにより構成
- マネロンの特徴
- 犯罪収益は国外に移転された後、他国の金融システムを通じてさらにローンダリングされる可能性あり
- キャッシュレス化とデジタル化が進んでいる地域では、マネロンリスクに対して脆弱となる
- 犯罪収益は、口座ネットワークを通じて迅速にローンダリングされる
- 口座ネットワークは、複数の国境や金融機関にまたがる複雑なもので、法人・個人共に関与している
- 個人のマネーミュールは、故意にマネロンに加担することもあれば、だまされて無意識に加担していることもある
- 被害者がだまされて、犯罪収益の運び屋になることもある
- 暗号資産関連では、アンホステッド・ウォレット、P2P取引、ピールチェーン等の方法が組み合わせて使用される
- CEF(Cyber Enabled Fraud)の分類
- 令和5年(2023年)11月、FATF、エグモント・グループ、ICPOがレポートを公表
- マネロンに悪用された主な取引等
- 預金取扱金融機関が取り扱う商品・サービス(内国為替取引・現金取引・預金取引)が大半を占める
- 迅速・確実な資金移動が可能な内国為替取引を通じて、架空・他人名義口座に犯罪収益を振り込ませる事例が多い
- 近年のクレジットカード不正利用の大幅な増加に応じて、悪用された件数も増加
- 決済手段の多様化を受けて悪用される取引に広がり(前払式支払手段・暗号資産・資金移動サービス等)
- 特定事業者の商品・サービスを利用せずにマネロンを行う事例も多くみられる(例)空き部屋・宅配ボックスに郵送させて他人になりすまして受け取る特殊詐欺で得た犯罪収益をコインロッカーに隠匿
- 疑わしい取引の届け出 活用事例
- マネー・ローンダリング等対策への意識の向上に伴い、通知件数は増加・内容も充実
- 届け出られた疑わしい取引の届出に関する情報が捜査等に有効活用されていることをフィードバックし、疑わしい取引の届出に関する理解と取組を促進するために記載
- 法執行機関が把握した最近の犯罪事例・傾向等を記載
- 非対面取引(危険度が高い)
- マネロン等に悪用される固有の危険性
- 取引の相手方と直に対面せずに行う取引
- 対面取引と比べて相手方に関する情報が制限
- 情報通信技術の発展・社会情勢等を背景にインターネット等を通じた非対面取引が拡大
- 本人確認書類・本人特定事項の偽装、他人へのなりすまし、口座・アカウントの譲渡が容易になる
- 危険度の評価
- 特定事業者は、取引の相手方や本人確認書類を直接観察することができないことから、本人確認の精度が低下
- 対面取引に比べて、本人確認書類の偽変造等により本人特定事項を偽り、又は架空の人物や他人になりすますことが容易
- 本人確認完了後に、本人以外の第三者が取引を行うことも、対面取引に比べて容易
- マネロン等に悪用される固有の危険性
- 現金取引(危険度が高い)
- マネロン等に悪用される固有の危険性
- 匿名性が高く、資金の流れが追跡されにくい
- 特定事業者が提供する商品・サービスの脆弱性に加え、現金の流動性等の特徴がマネロン等に悪用され得る
- 我が国では、現金流通残高が他国に比べて高い。キャッシュレス決済比率は堅調に上昇
- 危険度の評価
- 流動性及び匿名性が高く、犯罪収益の流れの解明が困難
- 実際、現金取引を通じてマネロンを行った事例が多数存在
- マネロン等に悪用される固有の危険性
- 外国との取引(危険度が高い)
- マネロン等に悪用される固有の危険性
- 我が国は、世界有数の国際金融市場として相当額の取引が行われている
- ノミニー制度等、国により法制度や取引システムが異なる。自国の監視・監督が他国まで及ばない
- 貿易取引を仮装することで犯罪収益を移転することができる
- 特殊詐欺犯行グループにより、キャッシュ・クーリエ、暗号資産の外国への移転、外国口座の経由等により犯罪収益が外国に移転されている実態がある
- 危険度の評価
- 国内取引に比べて移転された資金の追跡が困難
- 実際、外国との取引を通じてマネロンを行った事例が多数存在
- 匿名・流動型犯罪グループ等が得た犯罪収益が外国に還流される危険性がある
- 危険度が高い取引
- 適切なマネロン等対策が執られていない国・地域との取引
- 多額の現金を原資とする外国送金取引
- 外国送金に際してその目的や原資について顧客が虚偽の疑いがある情報等を提供する取引
- マネロン等に悪用される固有の危険性
- 令和3年から令和5年までの間に、外国との取引が悪用されたマネロン事犯については、次のものがある。
- 米国、ヨーロッパ等において敢行した詐欺(ビジネスメール詐欺(BEC)等)による詐取金を我が国の銀行に開設した口座に送金させた上で、口座名義人である日本人が、送金理由について「オフィス用品」と説明した上、虚偽のインボイス書類を提出して、正当な取引による送金であるかのように装って当該詐取金を引き出した。
- SNS型ロマンス詐欺によって得た詐取金を架空・他人名義口座に振り込ませた上、送金理由について「友人への生活費」等と虚偽の説明をし、正当な外国送金であるかのように装って、犯行グループが開設した外国の銀行口座に送金した。
- 詐取金を外国送金する際、関係書類の送金理由欄に虚偽の送金理由を記載した上、これを証明する資料として実際には行っていないカカオ豆の輸入に関する虚偽のインボイス書類を提出するなどして正規の商取引を装い、外国の銀行に開設された犯人名義口座へ送金した。
- 外国で発生した詐欺の被害者(外国人)が、自身の勤務先名義の口座から多数の外国にある口座へ送金を繰り返すことでお金をだまし取られていた中、日本国内の入金口座を管理する犯人が、正規の貿易取引(コンピューター機器の輸出)による輸出前受金を装って、同人が管理する法人名義口座で入金を受けた。
- 外国との取引における国境を越えた決済手段の多様化と、送金の透明性をめぐるFATF勧告16の改訂検討について
- IT技術の発展によって決済手段は多様化している。外国との取引においても、銀行による外国送金以外に、資金移動業者等のサービスを活用することで外国に資金を移転することができる。また、クレジットカード、デビットカード等のカード決済により外国で現金同等物を購入することで、実質的に資金を移転することも可能である。さらに、暗号資産のように、国境を越えて瞬時に移転が行われるものもある。外国に資金を移転する手段は様々であるが、マネロン等を行おうとするものは、資金の移動や取引の監視が不十分である、取引の透明性が低いといった事業者や商品・サービスの脆弱性を悪用する。
- FSB(金融安定理事会)は、令和2年(2020年)10月に「クロスボーダー送金の改善に向けたG20ロードマップ」を公表した。G20及びFSBのクロスボーダー送金への主な問題意識は、「より迅速に、安価で、透明性の高い、包摂的な」(「faster, cheaper, more transparent and more inclusive」)送金サービスの追求にある。
- FATFにおいても、問題意識を共有し、マネロン等対策向上の観点から、クロスボーダー送金の改善に向けたFATF勧告16(以下「勧告16」という。)の改訂に取り組んでいる。
- 勧告16は、犯罪者やテロリスト等が電信送金による資金移転等を行うことを防止すること、仕向・中継・被仕向金融機関、法執行機関等が、クロスボーダー送金の依頼人、送金人及び受取人の情報等の送金情報へのアクセスを可能とすることで、不正取引の検知等を目指すものであり、平成13年(2001年)に発生した米国での9.11同時多発テロ事件へのFATFによる対応であるFATF特別勧告によって策定された。
- 勧告16改訂の目的は、決済手段や決済事業者の多様化といった様々な変化に対応すること、FATF基準の原則である競争条件の公平性 “same activity, same risk, same rules”を確保すること、マネー・ローンダリング等に係る規制の抜け穴を防ぎつつ、犯罪者やテロリストによるクロスボーダー送金システムの悪用を阻止すること等にある。
- 勧告16の改訂は、主に以下の観点から検討されている。
- 決済ビジネスモデルの変化を踏まえた、一連のクロスボーダー送金における各主体の義務の明確化
- 電信送金の電文フォーマットISO20022への移行を踏まえた、送金人・受取人情報の内容及び質の改善
- カード(クレジット、デビット及びプリペイド)決済における勧告16適用の見直し(一定の閾値以上の現金同等物の購入及び現金引き出しに係る取引等)
- 競争条件の公平性確保や、マネロン等対策における抜け穴を防ぐことは、クロスボーダー送金の透明性向上に資するものであるが、一方で、スピード向上やコスト削減、金融包摂といった他の政策目的の実現、金融機関等への影響や副作用への対応等が課題となる。
- FATFでは、令和6年(2024年)2月から5月までに、勧告16の改訂案に係る市中協議を行ったところ、今後も民間事業者と対話等を行いながら、勧告16の改訂最終化に取り組むとしている。
- 国・地域
- 危険度を高める要因
- FATFは、マネロン等への対策上の欠陥があり、欠陥への対応に顕著な進展がみられず、又は欠陥に対処するために策定したアクションプランに沿った取組がみられない国・地域を特定
- 加盟国・地域に対し、当該欠陥に関連する危険に留意してマネロン等への対策を講ずるよう要請
- 行動要請対象の高リスク国・地域は、いわゆる「ブラックリスト」として公表
- 危険度の評価 危険度が特に高い
- 北朝鮮 平成23年(2011年)2月から継続して、北朝鮮から生じる継続的かつ重大なマネロン等の危険から国際金融システムを保護するため、加盟国等に対して、対抗措置の適用を要請
- イラン 令和2年(2020年)2月から、イランが国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約及びテロリズムに対する資金供与の防止に関する国際条約を締結するための国内担保法をFATF基準に沿って整備していないことに鑑み、イランへの対抗措置の一時停止を完全に解除し、加盟国等に対し対抗措置の適用を要請
- 危険度の評価 危険度が高い
- ミャンマー 令和4年(2022年)10月から、ミャンマーが資金洗浄・テロ資金供与対策上、重大な欠陥への対処が進展していないこと等を踏まえ、加盟国等に対し、ミャンマーから生ずるリスクに見合った厳格な顧客管理措置の適用を要請
- 危険度を高める要因
- 暴力団等(危険度が高い)
- マネロン等に悪用される固有の危険性
- 時代の変化に応じて様々な資金獲得犯罪を行っている
- 覚醒剤の密売・賭博・みかじめ料の徴収・窃盗・特殊詐欺・各種公的給付制度を悪用した詐欺等
- 犯罪収益の追跡を困難にさせるほか、課税・没収等の対象となったり、犯罪収益に起因して検挙されたりする事態を回避する目的でマネー・ローンダリングを行う
- 犯罪収益は、組織の維持・強化に利用されるとともに、合法的な経済活動に介入するための資金として利用される
- 危険度の評価
- 暴力団等にとってマネロンは不可欠であり、暴力団等によって行われている実態がある
- 組織実態を隠蔽しながら一般社会で資金獲得活動を活発化している
- 匿名・流動型犯罪グループが暴力団と共存共栄しながら違法な資金獲得活動を活発化している
- 取引に際しては、直接的な相手方だけでなく、実質的な相手方も十分に確認を行う必要がある
- マネロン等に悪用される固有の危険性
- 国際テロリスト(イスラム過激派等)(危険度が高い)
- 国際テロ情勢
- 各国でイスラム過激派に関係するとみられるテロ事件が発生。国際テロを取り巻く情勢は、依然として厳しい
- 現在まで、日本国内で、国連安保理が指定するテロリストによるテロ行為は確認されていない
- 国内で、イスラム過激派等の過激思想に影響を受けた者によるテロが発生する可能性は否定できない
- テロ資金供与の特徴
- テロ資金供与 テロ組織による犯罪行為・外国人戦闘員に対する家族等からの金銭的支援・団体、企業等による合法的な取引を装って得られる
- テロ資金供与に関する取引 テロ組織の支配地域内に所在する金融機関への国際送金等によって行われる
- テロ資金の提供先 イラク、シリア、ソマリア等。これらの国へ直接送金せずに、トルコ等の周辺国を中継する例がある
- 危険度の評価
- 国内でテロ、テロ資金供与の事例がない場合でも、テロ資金供与リスクが低いと結論付けることはできない
- 国内で資金が収集され、外国に送金される可能性を排除すべきではない
- 日本における懸念
- イスラム過激派等の外国人コミュニティへの潜伏と悪用
- 外国人戦闘員による資金調達
- 紛争地域に渡航する者
- 国内団体・企業等による合法的な取引の偽装
- 特定事業者の監視を免れて商品・サービス(暗号資産の移転を含む)を悪用
- 国際テロ情勢
- 非営利団体のテロ資金供与への悪用リスク
- FATFは、非営利団体が、テロリスト等に悪用されることを防ぐよう加盟国に要請
- 非営利団体の脆弱性
- 社会的な信頼があり様々な資金源を利用
- 現金を集中的に取り扱う
- テロ地域やその周辺で金融取引の枠組みを提供
- 資金の調達者と支出者が異なる場合があり、使途先が不透明になり得る
- 危険度の評価
- 国内で非営利団体がテロ資金供与に悪用された事例なし
- 外国で活動する非営利団体も限定的
- 国内の非営利団体がテロ資金供与に悪用されるリスクは総合的に低い
- 危険度の評価
- 国内で非営利団体がテロ資金供与に悪用された事例なし
- 外国で活動する非営利団体も限定的
- 国内の非営利団体がテロ資金供与に悪用されるリスクは総合的に低い
- 危険度が高まる非営利団体
- テロ地域やその周辺で活動する
- 相当量の資金を取り扱い、外国送金を行う
- 眠状態等、法人としての実体が不透明
- 非営利団体の脆弱性
- FATFは、非営利団体が、テロリスト等に悪用されることを防ぐよう加盟国に要請
- 非居住者(危険度が高い)
- 危険度を高める要因
- 一般的に、顧客管理措置は居住者と比べて制約的
- 本人確認書類又は補完書類は外国政府等が発行するもので、真偽を見極めるための知見を有していない
- 危険度の評価
- 非居住者との取引は、非対面で行われる場合・外国政府等が発行する本人確認書類等が用いられる場合、匿名性が高まり、資金の追跡が一層困難となる
- 危険度を高める要因
- 外国の重要な公的地位を有する者(危険度が高い)
- 危険度を高める要因
- マネロン等に悪用し得る地位や影響力を有する
- 本人特定事項等の把握が制限される
- 汚職対策に関する規制が国ごとに異なる
- 危険度を高める要因
- 法人(実質的支配者が不透明な法人等)(危険度が高い)
- マネロン等に悪用される固有の危険性
- 自然人とは異なる法人固有の特性(構造上・取引上・会社形態別)がある
- 法人特有の権利・支配関係下に財産を置くことで、帰属主体が不明確となり、犯罪収益の追跡が困難
- 合法的な事業収益に犯罪収益を混在させることで、違法な収益の出所を不透明にする
- レンタルオフィス等のサービスを利用することで、架空又は誇張された外観を作出することが可能
- オフショア金融センターと呼ばれる国・地域で実体のない法人が設立され、犯罪収益の隠匿等に悪用される危険性
- 犯罪組織によって反復継続して実行され、多額の収益を生み出す犯罪において、実体のない又は実態の不透明な法人が悪用されており、さらに、犯罪組織が支配する法人名義口座が、犯罪収益の隠匿先や犯罪収益を経由させるトンネル口座として悪用されている。
- 令和6年中には、報酬目的で実体のない法人の代表者となる者をSNS等で募り、方法を指南した上で法人の設立及び法人名義口座の開設をさせ、同法人名義口座を利用して犯罪収益をマネー・ローンダリングしたとして、犯罪グループのメンバーを検挙している。同犯罪グループについては、収納代行業を自称し、約500の実体のない法人と約4,000の法人名義口座を組織的に管理して、他の犯罪グループが実行した特殊詐欺、SNS型投資詐欺、オンラインカジノ等による犯罪収益のマネロンを請け負っていた実態が明らかになっている。
- 疑わしい取引の届け出
- 役員や法人に関連する口座名義人が暴力団等であることが判明した。
- 法人の代表者が外国人でありながら、代表者の在留資格に就労制限がある。
- 登記された事業目的に関連のないものが多数含まれており、かつ代表の住所地及び法人の所在地において、事業実態が確認できない。
- 取引申込時に、会社代表及び住所の変更が判明したため、株主名簿、定款等の提出を求めるも資料提出を拒まれ、実質的支配者が不透明である。
- 登記住所や申告された電話番号を確認するも、事務所や店舗が存在しない又は電話がつながらない。
- 同一の住所地に多数の法人を登記しており、事業実態も不明でペーパーカンパニー等であることが疑われる。
- 実質的に休眠会社でありながら、口座の動きが頻繁で、不明瞭な現金の入出金がみられる。
- 法人による取引であるにもかかわらず、合理的な理由なしに個人名義の口座を使用している。
- 入金した資金を代表者が同一の他法人に即時全額送金するなど、トンネル口座としての悪用が疑われる。
- 口座開設してから短期間に連続して登記住所を移転するほか、代表者が頻繁に変更され実質的支配者が不透明となっている。
- 事業内容に関し、代表者が明確な説明をすることができず、第三者が交渉窓口に立ち実質的支配者に疑義がある。
- 暗号資産交換業者のアカウントに突如高額の取引が発生し、また、ログインに必要なIDやパスワード等の情報を共有して複数の端末を使用している動きがみられる。
- 危険度の評価
- 法人固有の特性から、犯罪収益を容易に隠蔽することができる
- 実際、近年では意図的に法人固有の特性を悪用しているとみられるマネロン事例が存在
- 令和6年中、報酬名目で実体のない法人の代表者となる者をSNSで募集し、方法を指南した上で法人設立・法人口座開設をさせ、同口座を利用してマネロンしたとして、犯罪グループのメンバーを検挙(組織的に約500法人・4,000口座を管理)
- 特に実質的支配者が不透明な法人との取引は、資金の追跡が極めて困難(FATFの指摘)
- マネロン等に悪用される固有の危険性
- 商品・サービスの特に危険度の高い脆弱性
- 匿名性
- 現金取引による原資の匿名性
- インターネット空間における非対面取引の匿名性及び架空の外観作出による匿名性
- 移転性
- 資金・第三者への権利(所有権、受益権等)の移転の容易性(権利主体の移転)
- 広範性
- 外国との取引を含め、移転の相手方の地理的・属性的な広範性
- 変換性
- 現金から他の権利・商品への変換又は財産的価値の高い商品から現金への変換による原資の変換性
- 複雑性
- 高度・複雑な取引形態における追跡の困難性
- 匿名性
- 他の業態よりも相対的に危険度が高い取引
- 預金取扱金融機関が取り扱う商品・サービス、資金移動サービス、暗号資産、電子決済手段(相対的に危険度が高いと見込まれる)
- 危険度が認められる取引
- 保険、投資、信託、金銭貸付、外貨両替、ファイナンスリース、クレジットカード、不動産、宝石・貴金属、郵便物受取サービス、電話受付代行、電話転送サービス、法律・会計関係サービス
- 預金取扱金融機関が取り扱う商品・サービス(他の業態よりも相対的に危険度が高い)
- 預金口座…安全かつ確実な資金管理が可能
- 預金取引…時間・場所を問わず容易に資金の準備・保管が可能
- 為替取引…迅速かつ確実に隔地間や多数の者との間で資金の移動が可能
- 貸金庫…秘匿性を維持した上で資産の安全な保管が可能
- 手形・小切手…確実な換金性・運搬容易性に優れる
- 架空・他人名義口座が悪用されている状況
- より一層危険度が高まる取引
- 匿名又は架空名義・借名・偽名による取引
- 多数の者が行う取引
- 高頻度で行われる取引
- 多額の送金・入出金が行われる取引
- 通常は資金の動きがない口座に、突発的に多額の入出金が行われる取引
- 顧客の取引目的又は職業若しくは事業内容等に照らし、不自然な態様・頻度で送金や入出金が行われる取引
- 多数の口座を保有している顧客の口座を使用した入出金が行われる取引
- 資金移動業者が取り扱う資金移動サービス(他の業態よりも相対的に危険度が高い)
- 業務の特性(為替取引を業として営むこと、資金移転の容易性・広範性・匿名性)
- 外国の多数の国へ送金が可能なサービスの存在
- 高額の為替取引が可能な第一種資金移動業の存在
- 預金取扱金融機関が取り扱うサービスからの代替性
- 資金移動業における年間送金件数・取扱金額が増加
- 電子決済手段等取引業者が取り扱う電子決済手段(他の業態よりも相対的に危険度が高い)
- 暗号資産と同様の特性(利用者の匿名性が高い・移転が国境を越えて瞬時に行われる)
- 暗号資産よりも価値が安定
- 将来的には幅広い分野で送金・決済手段として用いられる可能性あり
- 電子決済手段を取り巻く環境に応じて、危険度も急激に変化する可能性あり
- 暗号資産交換業者が取り扱う暗号資産(他の業態よりも相対的に危険度が高い)
- 利用者の匿名性が高い・移転が国境を越えて瞬時に行われる
- 暗号資産に対する規制を未導入又は不十分な国の暗号資産交換業者が悪用された場合、移転の追跡が困難
- 預金取扱金融機関が取り扱う商品・サービスと暗号資産取引を組み合わせるマネロン事例の存在
- 世界規模で拡大し、取り巻く環境も急激に変化
- 暗号資産をめぐる国際的動向等について
- FATFは、令和元年(2019年)6月に暗号資産・暗号資産交換業者に関するFATF勧告(勧告15)を最終化して以降、官民におけるFATF基準の実施状況のモニタリングや業界との対話等を行い、毎年、その進捗や現状及び課題を公表している。FATFは2023年2月にロードマップを採択し、その一環として、FATF加盟国及び重要なVASP*1の活動がある法域における勧告15の実施状況一覧「FATFメンバー法域及び重要な暗号資産サービス・プロバイダー(VASP)の活動がある法域における勧告15の実施状況一覧表」を令和6年(2024年)3月に公表した。FATFとVACG(暗号資産コンタクト・グループ)は、勧告15の世界的な遵守を支援するためのアウトリーチと支援の提供を継続し、2025年に当該一覧表を更新する予定である。
- 令和6年(2024年)7月に公表されたレポート「暗号資産:FATF基準の実施状況についての報告書」では、暗号資産に関する課題として、以下の通り指摘している。
- 暗号資産に係るFATF勧告(勧告15)の各国における実施状況について、2023年の調査結果と比較すると、重要なVASPの活動があるいくつかの法域を含め、マネロン等に係る規制の導入が進展しているか、又はその過程にあるものの、世界的な実施状況は依然として相対的に不十分である
- トラベル・ルールについては、調査に回答した法域の半数以上が実施に向けた措置を講じているが、依然として十分な進展を見せていない
- また、同レポートでは、暗号資産が大量破壊兵器の拡散を支援するためだけでなく、詐欺犯、テロリスト集団、その他の違法な行為者によっても引き続き利用されている点も指摘している。例えば、北朝鮮は、一般消費者・市民である被害者の保有する暗号資産を盗み、又は恐喝により搾取することを続けており、こうして得た不正な収益を洗浄するために、高度な方法を用いるようになってきている。また、暗号資産はテロリスト集団、特にアジアのISILやシリアのグループによってますます利用されるようになってきており、ステーブルコインの利用や、匿名性を高める暗号通貨での隠匿を試みることが多いとされている。
- さらに、マネロン等目的でのステーブルコインの不正利用の増加、分散型金融(DeFi)アレンジメントへの継続的なハッキング等の事例が挙げられている。一方で、リスク低減措置としては、スマートコントラクトの活用に関して一定の進展が報告された。更にいくつかの法域では、ステーブルコイン・サービスプロバイダーに対するトラベル・ルール要件を含むマネロン等及び拡散金融に係る規制の導入、DeFiアレンジメントに対する規制・執行措置の実施、DeFi及びP2P取引を含むアンホステッド・ウォレットのリスク評価の実施等、規制、監督及び執行における進展も報告された。
- FATF及びVACGは、FATF型地域体(FSRBs)事務局及びグローバル・スタンダードを設定し、支援と研修を提供する関連国際機関と協力して、特にキャパシティが低く、かつ重要なVASPの活動のある法域に対して、勧告15の遵守を奨励するためのアウトリーチを実施し、支援を続けている。加えて、DeFi及びP2P取引を含むアンホステッド・ウォレットに関するもの等、勧告15の実施に関する知見、経験及び課題を共有し、FATFの更なる作業が必要となる可能性のある進展がないか、この分野における市場動向を監視していくこととしている。
- 以上のように、各国における暗号資産に係る規制に対する取組の相違や新技術等の導入に伴う市場変化等の課題を踏まえれば、暗号資産取引におけるマネロン等のリスクには、引き続き留意する必要がある
NRAでも触れられていますが、マネロンに対する捜査が、年々強化されています。2021年のFATFによる対日相互審査の結果、「事件の起訴率が低い」「犯罪収益の没収が不十分」などといった勧告を受けて、最高検の「警察と緊密に連携し、組織犯罪処罰法と麻薬特例法を駆使して徹底捜査せよ」との通達が出され検察と警察の連携が進展、2023年の47都道府県警による総摘発件数は909件に上っています(年末に最高検の通達が発出された2021年は632件だったところ、2022年は729件、2023年は909件と増加。300件だった2014年から比べれば10年間で3倍超となりました。また、このうち検察や警察などの捜査機関に提供された取引の件数も52万件から69万件、捜査に活用された件数も35万件から50万件へとそれぞれ急増しています)。とりわけ勢いを増すトクリュウなどの組織犯罪グループを封じ込めようという意図があり、2024年11月23日付産経新聞の記事「始まった「令和のマネロン退治」 検察と警察がタッグ、トクリュウ壊滅へ」において、捜査幹部が「マネロンによる違法収益の確保阻止こそが壊滅に向けた近道だ」と述べ、検事の経験がある弁護士も「トクリュウや生き残りを賭ける暴力団など、違法収益を組織拡大や犯罪活動への再投資に充てる犯罪組織を封じ込めるには、マネロンの徹底捜査が不可欠だ」と述べていることが本質かと思います。さらに、同記事において、パソコンを乗っ取って身代金を要求するランサムウェア攻撃で利益をあげていた世界最大の国際ハッカー集団「LockBit」(ロックビット)について、捜査幹部は「国境を越えたトクリュウだ」と指摘していますが、大変興味深いものです。「ランサムウェアを悪用する犯罪者集団は、ウイルス開発者や攻撃役など国境をまたいだ分業制。攻撃役は、非合法な情報やマルウェア(ランサムウェアなどの悪意あるソフトウェア)、違法薬物が取引されている「ダークウェブ」でリクルート(募集)されるなどしており、ビジネスライクなメンバーだから」というものですが、正に本質を突いていると感じます。また、法務・検察関係者は「マネロンを行うのは、犯罪行為の中心グループ以外に、偽造の身分証や他人名義のスマートフォンの密売で稼ぐ組織など周辺グループもいる」と指摘、その上で「マネロン対策には、通信の匿名化といった日進月歩の手口の多様化など、高い壁もある。組織犯罪封殺への道のりはまだ緒についたばかりだ」と述べていますが、そもそも組織犯罪が柔軟に高度化を進めている以上、その摘発にも相応の柔軟性や高度化が求められるものであり、「永遠のいたちごっこ」となる構図というのが本質ではないかと思います。
金融庁は、国境をまたぐ決済を代行する「クロスボーダー収納代行」と呼ばれる業者への一部規制を検討しています。国内の収納代行に比べ仕組みが複雑で、支払人の二重支払いやマネロンといったリスクがNRAでも指摘されています。クロスボーダー収納代行は、海外電子商取引(EC)サイトや宿泊予約、オンラインゲームなど国内外の利用者、事業者間の収納を代行、現行では国内事業者は原則として資金移動業などの登録は必要ないものの、国境をまたぐ場合は、実質的に銀行などによる国際送金と同等であるとの見方があります(NRAでも指摘されています)。こうした実態をふまえ、海外の事業者から送金を受ける国内の代行業者や、海外から収納代行の依頼を受けた事業者などに資金移動業の登録を受けさせる案があり、事業形態や取引実態などに基づき今後、規制の対象を議論するといいます。
金融庁と主要行等との間の定期的な意見交換会の状況について、直近のものを抜粋して紹介します。今回は、特に「特定回収困難債権買取制度の活用促進について」として、反社リスク対策について金融庁が言及している点が特徴です。AML/CFTへの対応に追われ、金融機関の反社リスク対策のレベル感が向上しない点に筆者はもの足りなさを感じていますが、日本における独自性(特異な点)として、AML/CFTをはじめとする金融犯罪対策のベースとなるのが反社リスク対策ではないかと考えています。トクリュウの跋扈など、今、その対応のレベル感をもう一段高めることが急務となっていることを、金融機関はじめ、すべての事業者が認識する必要があります。
▼金融庁 業界団体との意見交換会において金融庁が提起した主な論点
▼主要行等
- 特定回収困難債権買取制度の活用促進について
- 2011年5月の預金保険法改正により、債務者又は保証人が暴力団員である等の特定回収困難債権、いわゆる反社債権の買取りを預金保険機構が行う「特定回収困難債権制度」が導入された。
- 制度開始以降、2024年6月末までに、金融機関100先から累計325件、約81億円の債権買い取りを決定しており、多くの金融機関に本制度を積極的に活用していただいているものの、近年は活用実績が低調であり、また、未だに活用実績がない金融機関も存在している。
- 各金融機関においては、引き続き、反社会的勢力との関係遮断に努めていただくとともに、仮に、反社債権の保有が判明した場合には、積極的に本制度の活用を検討していただきたい。
- マネロン等対策の有効性検証について
- マネロン等対策については、各行において2024年3月末の期限までに整備した基礎的な態勢の実効性を高めていくことが重要であり、マネロンガイドラインでは、各金融機関が自社のマネロン等対策の有効性を検証し、不断に見直し・改善を行うよう求めている。
- 金融庁では、各金融機関がこうした有効性検証を行う際に参考となるよう、既に有効性検証に取組んでいる金融機関との対話を通じて得られた考え方や事例を公表すべく検討・準備している。
- 他方で、経営陣においては、マネロンガイドラインで求めている有効性検証について、2024年6月に公表したマネロンレポートに記載している事例なども参考にしつつ、金融庁の公表物を待つことなく、対応を進めていただきたい。
- 今後、各金融機関における有効性検証の進捗状況を踏まえながら順次対話をさせていただく予定であり、その中で得られた知見・参考となる事例も現在作成中の公表物に反映していく。
2024年10月1日から商業登記規則等の一部が改正され、株式会社の代表取締役の住所の一部非公開を選択できるようになりました。これまで会社法では代表者住所を登記する必要があり、登記事項証明書等を取得することにより、誰でも代表取締役の住所を確認することができましたが、この住所公開の制度が起業の躊躇、ストーカーや過剰な営業行為につながると危惧されていたところ、今回の改正で、選択すれば住所は区や市町村の行政区画までの表示となり、番地などを非表示にすることができるようになりました。代表者のプライバシー保護が図られ、安心して起業ができることからビジネスの新規参入が増える効果も期待できる一方で、住所を非公開にすることの影響も考慮する必要があります。東京商工リサーチの調査によれば、「非公開を選択しない」と回答した企業の理由では、「取引先の与信判断の硬化や金融機関の融資姿勢の硬化が懸念されるため」、「商取引で取引先への提出書類の増加が見込まれるため」と回答した企業もあり、非公開にすることで与信低下を心配する企業が一定数いることもわかりました。事実、取引先の代表者住所が非公開となった場合に、その取引先の与信判断を「マイナス」にすると回答した企業も存在しています。また、法務省では「会社代表者の住所を証明することができなくなるため、金融機関から融資を受ける際や取引の際に支障が生じる可能性がある」と注意を呼びかけており、非公開に当たっては慎重かつ十分な検討を要請しています。与信管理などコンプライアンス・チェックの実務としては、代表者の住所から資産や負債の状況、差押の有無、破産歴などを確認することができる。特に中小企業は代表者の資産背景や経歴が会社の経営に影響を与えるだけに、こうした情報が確認できなければ、信用供与が限定されることも想定され、必ずしもメリットだけではない点を考慮して非公開を検討する必要があります。
AML/CFTを巡る最近の報道から、いくつか紹介します。
- 「闇バイト」に設立させたペーパー会社名義の口座を開設し、銀行からだまし取ったとして、愛知県警などの合同捜査本部は、犯罪収益のマネロンに特化した「リバトングループ」の石川容疑者=常習賭博の罪で起訴=らメンバー計11人を詐欺容疑で再逮捕しています。容疑者らは2020年11月~2024年1月ごろ、応募してきた闇バイト5人にペーパー会社を設立させ、インターネット経由で二つの銀行に5社分の口座開設の申し込みをさせて、口座をだまし取った疑いがもたれており、グループは海外のオンラインカジノの決済システムを管理、この口座は違法賭博の賭け金や払戻金の振り込み用に使われていたといいます。本コラムでもたびたび取り上げてきたとおり、リバトングループは、闇バイトの募集を手がける別の犯罪グループにペーパー会社の設立役や口座の開設役の募集を指示、「オンカジ口座開設案件」「口座開設等の簡単な手続き(税金問題違法性なし)」などとSNSに投稿し、5人が応募したというものです。5人は30~50代の男女で、石川容疑者らのグループから法人の設立方法の指南を受け、ペーパー会社を設立しており、5人は口座が違法賭博に使われていた間、石川容疑者らから毎月1万~5万円の報酬を得ていたといいます。愛知県警はトクリュウが一連の事件に関与していたとみて詳しく調べるとともに、闇バイトの5人も詐欺容疑で任意で捜査しています。なお、関連して、賭博容疑で客だった愛知、三重両県の20~50代の男8人が書類送検されています。8人はリバトングループが契約して運営を代行していた三つの海外カジノサイトに日本国内からアクセスし、金を賭けた疑いがもたれており、それぞれ2021年3月~2024年4月、バカラやスロットに約2800~約10万4千回賭けていたとみられ、最大で4200万円を失った客もいたといいます。リバトングループは約50社のカジノサイトと契約し、2022年12月~2024年4月、客4万700人から18億3千万円の入金があったことが確認されています。
- 無資格で会社設立の登記を行ったとして、京都府警捜査5課などは、京都市伏見区の会社役員ら3容疑者を司法書士法違反の疑いで逮捕しています。設立された会社は実体が判然とせず、ペーパーカンパニーの可能性もあるといいます。報道によれば、京都府警は、3人が少なくとも30社以上の合同会社の設立に関与し、一部の法人口座は投資詐欺事件の振込先に使われていたとみてトクリュウとの関連も調べているといいます(SNSを使った投資詐欺の被害金1000万円以上の入金も確認されています)。
- 特殊詐欺やサイバー犯罪などの振込先に使われる口座の売買が横行している。犯罪グループに口座を販売したなどとして書類送検された静岡県中部の20歳代男性会社員が読売新聞の取材に応じ、「末端」ながら被害者側から高額な被害弁償を請求された体験を語り、「軽はずみな行為が重たい結果となってしまった」と後悔を口にしています。2024年11月5日付読売新聞の記事「犯罪グループに口座販売、重い代償に「何年働けばいいんだ」…「末端」でも弁償請求1000万円超」はそのリアルな現状がよくわかる内容で、「男性は昨年、給与の未払いが続き困窮し、SNSでヤミ金融から借金をした。厳しい催促に悩まされる中、インスタグラムで口座を買い取る投稿を見つけた」、「販売先から指示され、秘匿性が高い通信アプリ「テレグラム」を使って口座情報を伝えると、自分の口座に報酬が振り込まれた。「こんなにもらえるのか」。念のため、使用目的を尋ねると「税金対策」と返ってきた。約1か月で6口座を開いて売却した。高いものは3万円になったという。約1か月後、住所登録した実家に、開設した口座のキャッシュカードが次々と届き、不審に思った親から連絡が来て口座を作るのはやめた。だが、その後、犯罪に悪用されたことが明らかになり、不正送金事件に関与したとして詐欺と犯罪収益移転防止法違反の容疑で書類送検された。被害者側からは計1000万円以上の弁償を求める請求書が届いた。「これから何年働けばいいんだ」と頭が真っ白になった。男性は弁護士と対応を協議中で「軽率な行動で、被害者に申し訳ないことをした」と反省している」といいます。一方、「県弁護士会の消費者問題委員会で委員長を務める青柳恵仁弁護士は「複数人が絡む犯罪では、一部の行為でも加担している人に全額請求できる。犯罪グループの黒幕まで追いかけるのは簡単ではなく、被害者の立場に立てば、個人を特定できる口座の売り主に全額請求するのは当然の流れだ」と指摘」していますが、こうした実態はあまり社会的に認知されていないと思われ、犯罪抑止につながる可能性があることから、こうした厳しい実態をさらに広報していく重要性を痛感させられます。
- 国内クレジットカード業界全体が資金決済後のカードの不正利用対策を強めており、不審な取引情報を同時に共有するシステムを構築し、商品発送を素早く停止することを目指しています。2024年11月18日付日本経済新聞によれば、JCBとシステム開発のインテリジェントウェイブ(IWI)が単独で使っていたシステムを再構築、これに米ビザや米マスターカードブランドのクレカを発行する最大手の三井住友カードなど大半のカード会社にあたる約30社が2024年11月末までに参画、JCBは自社の取り組み実績から、今回の対応で年100億円前後の不正利用を減らせると見込んでいるといいます。新システムは不正疑いのあった取引情報を専用のクラウド上にアップロードして情報を共有し、電子商取引(EC)サイトなどを運営する加盟店に商品の配送停止を依頼できるようにするものだといいます。決済後に別の取引で不正取引が明らかになることがあるほか、カードを保有する本人からの問い合わせによって発覚することがあり、犯罪グループなどは不正を検知されるまでになるべく多くの商品を購入しようとする傾向があります。このためカード業界内で早期に不正情報を共有して商品の発送を止めれば、被害の拡大を抑制できる可能性が高まることになります(これまではカード会社側から電話やメールなどで個別に連絡していたため、情報伝達に時間がかかっていたといいます)。
- 巧妙化するサイバー犯罪に対応する即戦力の人材を獲得しようと、警視庁は民間企業で活躍するIT技術者を、2年限定の警察官として採用する方針を固めています。サイバー事件の捜査や闇バイトなどに使われる秘匿性の高い通信アプリ「シグナル」などの解析、マネロンに悪用された暗号資産の分析などを指揮する幹部として登用するといいます。警視庁が、任期付き公務員として警察官を採用するのは初めてとなります。民間のIT技術者にとっても、警察官として得られる捜査経験や人脈は魅力的とされ、警視庁はスペシャリストの応募を期待しています。採用は若干名で、暗号資産を使ったマネロンや不正アクセスなどのサイバー事件捜査を担当する生活安全部の「サイバー犯罪対策課」に係長として配属、階級は警部で、個別の事件で容疑者を特定したり、関係先から押収したスマートフォンやパソコンなどの解析の指揮を担ったりするほか、最新のサイバー犯罪に悪用されているアプリやソフトなどに関する情報収集も行うといいます。なお、同様の取り組みを巡っては警察庁が2023年10月、2年の任期付きでサイバー警察局サイバー捜査課の「サイバー捜査分析官」を民間から採用しています。民間企業の社員が企業を辞めずに任期付きで各省庁に出向できる2000年導入の「官民人事交流制度」が活用されています。
- 米下院の超党派議員でつくる「米国と中国共産党間の戦略的競争に関する特別委員会(中国特別委)」は、イエレン米財務長官へ宛てた書簡で、香港がマネロンや制裁逃れの場所になっているとして、香港の銀行部門との関係を再検討するよう要請しています。書簡では、香港は西側諸国が規制対象としている技術のロシアへの輸出や、イラン産原油購入のためのダミー会社の設立など、米国の貿易管理に違反する多くの活動拠点となっていると指摘、香港はもはや信頼できる国際金融センターではなく、中国やイラン、ロシア、北朝鮮といった権威主義国家にとって重要な役割を担うようになったと主張し、「米国の長年にわたる香港、特に金融・銀行部門への政策が適切であるかどうかを問う必要がある」と訴えています。
(2)特殊詐欺を巡る動向
有識者や業界団体幹部などでつくる大阪府の「特殊詐欺対策審議会」は、高齢者が携帯電話で通話しながらATMを操作して詐欺被害に遭うのを防ぐため、銀行などの事業者に対し、対策を義務付ける条例改正が必要とする答申案を公表しています。大阪府は、2025年2月の府議会に「大阪府安全なまちづくり条例」の改正案を提出する方針で、成立すれば全国初となります。極めて意欲的な取り組みで、実現に向けては事業者の負担等を巡る議論なども予想されるところですが、特殊詐欺やSNS型投資詐欺・ロマンス詐欺の被害が高止まりする中、「今まさに検討すべき社会的課題」であり、筆者としても大変高く評価したいと思います。
▼大阪府警察 第5回大阪府特殊詐欺対策審議会資料
▼更なる特殊詐欺被害防止対策の検討について(答申)
答申では、「はじめに」で、「大阪府においても、令和元年、特殊詐欺の根絶に向けた取組を推進するため、「大阪府安全なまちづくり条例」の改正を行い、府民及び事業者等の努力義務等を規定し、現在も同改正条例に基づき、警察の取締り、府や市区町村等による各種施策による抑止活動及び広報啓発の実施、金融機関やコンビニエンスストア等の事業者による被害防止活動等、官民一体となった対策を講じているところである。しかし、改正条例が施行された令和元年以降、一時的に認知件数、被害金額は微減したものの、認知件数については令和4年及び5年には統計を取り始めて以来過去最多を2年連続で更新し、被害金額についても令和4年以降、右肩上がりに増加し、本年中の被害金額は過去最多を上回る勢いである。現行の条例では歯止めがかからない状況になっており、全国的にみても大阪府における被害が危機的な状況であることから、対策を早急に講じる必要がある」との危機感が示されています。そのうえで、「特殊詐欺被害防止対策上の課題」として、「被害金額が多い還付金詐欺、架空料金請求詐欺、オレオレ詐欺の3手口は、ATMやプリペイド型電子マネーが利用されていることが多く、利用時には既にだまされた状態で自主防犯活動には限界があること、犯人グループと非対面で敢行されることなどから、振込及び購入時に対策を講じなければ効果的に被害を防ぐことはできない。現状でも各事業者では、府民への周知、被害防止のための取組を講じているところではあるが、被害実態を見る限り、事業者の更なる対策の強化への協力が極めて重要なポイントとなり、中でも金融機関、コンビニエンスストアへの更なる対策の協力依頼は必要不可欠である」、「特殊詐欺被害の特徴は、手口等について理解はしているが、犯人の巧妙な欺罔行為によりだまされてしまい、誰しもが被害に遭う可能性を秘めている。犯人グループの欺罔行為を真実と信じ込み、他者から、騙されているとの助言、忠告があったとしても、その状態を解くことが難しいという特徴がある。また、高齢者が被害者の大半を占めている状況を踏まえると、高齢者の被害実態を踏まえた取組を進めていく必要がある。犯人グループとの最初の接点で多いのは、自宅の固定電話への架電からであり、国際電話番号や自動音声によるものも見られる。犯人グループは、「あなたの口座が犯罪に使われている」、「逮捕される」、「還付金がある」、「保険料の返還がある」等の言葉を使い、「本日までなら手続きができる」、「早くしないと逮捕される」といった切迫した状況を作り出すといった手法で特殊詐欺を敢行している。このように、特殊詐欺という犯罪によくあるシチュエーション、言葉などを複合的に理解しなければ、被害に遭うリスクは高まる。これらを踏まえると、被害を未然に防止するためには、府民自身もこれまで以上に特殊詐欺に対する理解を深め、自ら詐欺であることを看破するとともに、被害に遭っているおそれがある者を発見すれば、注意喚起の声掛けを行うなどの行動が重要である。よって、府民の自主防犯行動、意識の醸成を図っていく上で、府や市町村、警察の役割は非常に重要であり、必要な情報を府民が得られるように、情報発信にも配意し、より一層具体的かつ訴求力の高い広報啓発を推進する必要がある」、「特殊詐欺の定義とは異なるものの、犯行手口が酷似しているSNS型投資・ロマンス詐欺が特殊詐欺以上に激増している現状に鑑みれば、更なる特殊詐欺対策に加えて、SNS型投資・ロマンス詐欺への対策も重要である」などを挙げています。そのうえで、「規制の強化を含めた効果的な特殊詐欺被害防止対策」として、以下が提言されています。
- 携帯電話で通話しながらATMを操作することの禁止
- 事業者は、高齢者が携帯電話で通話しながらATMを操作しないための措置を講じる。
- 高齢者は、ATM設置者が前項の規定に基づき講ずる措置に従い、携帯電話で通話しながら、ATMを操作してはならない。
- 府は、高齢者が携帯電話で通話しないよう広報、啓発等を行う。
- 還付金詐欺による被害が全国ワースト1になるなど他の都道府県と比較しても突出して多い状況であり、その手口は、犯人からの指示により被害者をATMに誘導し、被害者の携帯電話に電話を架けながらATMを操作させて金銭を振り込ませるものがほとんどである。また、還付金詐欺の犯行に利用されているATMのうち、95パーセントが無人ATM及び店舗閉店後の無人状態のATMであることから、これらのATMへの対策は必要不可欠である。
- 現状を踏まえれば、銀行法第1条等に規定される金融機関の目的である預金者保護の観点からも、人目のない場所において「携帯電話で通話しながらATMを操作することを禁止する」ため、金融機関が必要な措置を講じることを条例で義務付けることにより、被害防止対策を強化することが必要である。
- しかし、条例改正と同時にAIカメラ等の技術の導入や各種システム等の改修等は現実的に難しいとの意見もある。
- まずは府や事業者において、より訴求力の高い広報啓発等を積極的に行い、「携帯電話で通話しながらATMを操作しない」ということが社会の常識となるように進めるべきである
- 金融機関からの通報
- 金融機関は、特殊詐欺等被害のおそれがある取引を認めた場合は、警察への通報その他必要な措置を行う。
- 警察は、金融機関に対し、前項の取引と判断するために必要な情報を提供する
- 現状、法律に基づく疑わしい取引の通報がなされているが、被害が増加している状況をみれば、金融機関と大阪府警察がさらに連携し、被害の疑いのある取引を認知した場合の通報を進める必要がある。
- なお、金融機関の取引実態からすれば、取引の大半が正常な取引であるとの実情が認められ、さらには、義務化になれば、警察、金融機関双方が膨大な情報をやりとりすることとなる可能性があり、正常な取引か否かの選別に双方が多大な労力を要するおそれがあるとの意見がある。
- また、金融機関からの通報に関しては、現在も各金融機関においてモニタリング等により特殊詐欺等の被害に遭っているおそれがある取引を認めた場合は、当該預金者への確認や警察に相談を促す等の対策を行っているところである。
- こうした中、本年8月23日には金融庁と警察庁の連名で、各金融機関団体に対して、「法人口座を含む預貯金口座の不正利用等防止に向けた対策の一層の強化」についての要請文が発出され、モニタリングにより、詐欺の被害のおそれが高いと判断される取引を検知した場合には、管轄する都道府県警察へ必要な情報を迅速に提供するものとされたことから、現在、国においても都道府県警察への情報提供について順次調整を行っているところであり、同調整により構築された情報提供の対応要領を踏まえた上で、必要な対策を検討していく必要がある
- プリペイド型電子マネー販売時の確認
- プリペイド型電子マネーを販売する事業者は、被害を防止するための注意喚起を行う。
- 事業者は、一定額以上のプリペイド型電子マネーを販売するときは、特殊詐欺等の被害に遭うおそれがないか確認する。
- 事業者は、特殊詐欺等被害のおそれがあると認めた場合は、警察への通報その他必要な措置を行う。
- 購入者は、購入時の確認等に応じる。
- コンビニエンスストア等でプリペイド型電子マネーを被害者に購入させ、その電子マネーを使用するためのカード番号等を犯人グループが聞き取り、その電子マネーの額面金額をだまし取る手口…では被害に遭うまでの間に他者の介在がない場合が多く、被害を防止するためには販売業者による水際対策が重要である。
- 事業者に義務を課すことについては、
- 電子マネーの購入の大半は正常な取引である
- 店員が声掛けなどを行ったところ、購入者とトラブルになることがある
- 高校生等の若年者から外国人に至るまで幅広い層の従業員が勤務している
- 義務として履行できなかった場合に被害者からの訴訟リスクを負う
- 特殊詐欺被害防止対策は本来、大阪府・大阪府警察の責務であり、コンビニエンスストアは協力している立場であることから、努力義務は理解できるが義務化はなじまないことから、現場の過度な負担につながる旨の意見もあるが、特殊詐欺被害の現状に鑑みると、一定の義務を課してでも被害防止対策を行うことが重要である。
- 現行の努力義務に加えて義務を課す場合は、一定の金額以上のプリペイド型電子マネー購入者を確認対象とするなどの配慮をすることにより、詐欺被害の防止効果と業務への支障を軽減できるものと思われる。
- 加えて、義務化の内容が詐欺被害を未然に防止することではなく、警察から提供されるツールを示すことでの「詐欺被害かどうかの確認」と「確認の結果、詐欺被害の疑念が生じた場合の通報等の措置」に限定すれば負担はさらに軽減できると考える。
- 今回の条例改正で、購入者への「声掛け」に対する法的根拠が付与され、府民をはじめとする購入者にも従業員等からの確認に応じる義務を課すとともに、その義務を周知すること で、現状よりもトラブルを減らすことが可能である。
- ATM振込における上限額の設定
- 金融機関は、高齢者のATM取引における一日の振込限度額を引き下げる
- 令和5年の被害実態をもとに、70歳以上の方を対象に一日の振込限度額を20万円に制限をした場合、60パーセント以上被害額を減少させることができる試算があり、被害拡大防止の効果が見込まれる。
- 大阪府内での還付金詐欺は、全国でもワースト1となるなど、他の都道府県と被害金額に大きな差があり、本年8月末現在、大阪府内において毎日1,500万円以上が特殊詐欺の被害に遭っている現状に鑑みれば、全国での対応を待つのではなく、大阪府においても必要な対策を講じることは急務である。また、金融機関においても被害を認知している以上は被害を抑えるための負担はやむを得ないものと考える。
- 振込限度額引き下げは、今回の条例改正で検討している各項目の中でも特殊詐欺の被害抑止に特に効果があると考えられることから、上記の意見等も踏まえた上で、改正条例に盛り込み、各金融機関において可能な限り速やかに当該取組を推進していくべきである。
- 金融機関は、高齢者のATM取引における一日の振込限度額を引き下げる
- 府民の自主防犯行動を促進するための情報発信
- 府及び警察は、特殊詐欺等の手口、発生日時等に関する情報を発信する。
- 府及び警察は、事業者による特殊詐欺等被害の防止に効果的な取組について公表する。
- 特殊詐欺の被害を抑止する上で、どこの地区に犯人からアポ電があったのかを知ることも重要であるが、その後、実際に被害者はどこに誘導され被害に遭っているのかを知ることは、府民の「知る権利」でもあり、これらの情報は、身近でタイムリーな情報ほど伝わりやすく、自主防犯行動を促す上でも重要である。
- 他方、具体的な店舗名などを公表することは、風評被害等も起こりうるとの意見もあるため、発信内容については一定の配慮が必要になる。
- 高齢者としては、情報を受け取る機会も少ないと感じており、あらゆる機会を通じた情報発信をお願いしたいという意見もある。
このように提言内容は被害実態をふまえた極めて踏み込んだ内容となっています。審議会は総括として、「特殊詐欺が増加している現状に鑑みれば、より踏み込んだ対策が必要である」として、「配慮すべき内容も踏まえた上で、現行条例に盛り込み、事業者や府民に対して義務を課すとともに、府が改正条例の周知を徹底し、継続的に広報・啓発を強力に推進することで、特殊詐欺被害を抑止することに一定の効果があるとの結論に至った」とはっきりと述べている点は大変素晴らしいことだと思います。また、「条例化に伴う配意事項」として、「事業者、特に金融機関やコンビニエンスストア等について一定の義務を課すこととなるため、各項目において、実効性や有用性、対応までに必要な猶予期間を考慮した上で、事業者の実情を考慮した対策を求めるなどの配慮が必要になるほか、大阪府が先頭に立って、条例改正の効果を持続的なものにするための広報啓発等に関する予算措置についての検討や、警察による店舗巡回や防犯訓練の実施、地域のコミュニケーションを強化する対策が必要である」と指摘しており、正に、事業者との官民の連携による取り組みが鍵となります。また、「大阪府のみならず全国においても被害が急増しているSNS型投資・ロマンス詐欺等、現行の条例では特殊詐欺に含まれないものの手口が酷似している類似犯罪に対しても、今回の改正項目で抑止効果が見込まれることから、改正条例の対象犯罪とすることを検討すべきである」、「現在、被害の多くを占めているのはATMからの振込の手口であるが、他人の介在が全くないインターネットバンキングを利用した振込による被害が本年に入り急増しており、今後はインターネットバンキングを利用した振込に手口が移行するおそれがある。インターネットバンキングによる振込上限額は総じて高額であることから、被害金額が極めて高額となる場合もある。引き続き「国民を詐欺から守るための総合対策」「法人口座を含む預貯金口座の不正利用等防止に向けた対策の一層の強化」等、国による各種施策の取組状況や社会情勢の変化等を見極めつつ、国とも連携して、必要な対策を検討する必要がある」、「加えて、特殊詐欺の手口については複雑化・巧妙化しており、また、手口が日々変化することから、今回、条例を改正した場合は、その効果等を見極めるとともに、各種対策も含め、条例の内容については今後も適宜見直すことが重要である」と述べている点もその通りだと思います。筆者としては、他の自治体においても、少なくとも大阪府の高いレベルの「意欲」「志」を参考に、実態をふまえたさらに踏み込んだ取り組みを期待したいところです。
経済産業省は、デジタル広告の透明性や公平性について、米メタ、米グーグル、LINEヤフーの3社への評価案をまとめています。SNSで著名人になりすました偽広告による詐欺被害の急増を踏まえ、メタに対し、悪意のある広告を捕捉できる仕組みの構築を求めています。デジタルプラットフォーム取引透明化法に基づいて聞き取り調査した結果、メタの広告については「審査対象の範囲が限定的だ」と指摘し、問題がある広告の出稿を予防するため、審査の人員拡充や、機械審査に関する情報の開示を求めたものです。一方、グーグルやLINEヤフーに対する不満の声は少なく、「審査が比較的厳しく展開されていることが寄与している」と評価しています。インターネット通販の店舗を集めたオンラインモールや、スマートフォンにアプリを提供するアプリストアの評価については、一定の改善がみられるとしています。
別居している親がもし特殊詐欺に遭ったらという不安を感じる人が半数以上に上る一方、何も対策をしていない人が約3割いることが、警備大手のセコムによる調査で判明しています。「闇バイト」を通じた強盗や特殊詐欺の被害が社会問題化しているだけに、別居する子どもが対策をサポートすることも重要となります。実際に被害に遭った経験の有無を聞くと、「ある」は3.2%にとどまりましたが、「被害に遭ったことはないが、特殊詐欺と思われる電話に出たことがある」は35.9%に上っています。特殊詐欺が身近に迫っている現状がうかがえますが、親が被害に遭わないための対策については「していない」が最多の32%、「分からない」も17.5%いる結果となりました。対策をしない人の理由(複数回答)は、「どのような対策をすればよいか分からない」が42.5%で最も多く、「今まで被害に遭う危険を感じたことがない」が30.2%、「親が自分は大丈夫だと思っている」が29.1%など続きました。報道でセコムの担当者は「電話中に同居の家族がいれば詐欺に気付ける可能性があるが、親が1人暮らしの場合はより慎重な対応が求められる」と指摘、「親への連絡や帰省の頻度を増やして変わったことがないか把握することで、被害に遭わないよう備えてほしい」としています。
京都府警山科署は、京都市山科区の50代の男性が架空の通信費を電話で請求され、2回にわたって計79万8000円を振り込み、だましとられたと発表しています。男性が最初に振り込む際、相談した同署の30代の男性巡査長が特殊詐欺と見抜けなかったといいます。男性は、通信会社を名乗る男性から電話で「クラウド使用料が未納で、延滞料などを合わせて29万8000円を支払う必要がある」と虚偽の督促を受け、同区内の金融機関にあるATMで電話をしながら振り込もうとしていたところ、「詐欺ではないか」と職員から声をかけられ、近くの交番を相談に、対応した巡査長が聞き取りをしていると再び電話があり、巡査長が代わって相手と話し「督促理由などに矛盾はない」と判断、男性は帰るよう促され、別の金融機関で請求された金額を支払ったものです。男性は別の男性からクラウド使用料未納金など50万円を請求され振り込み、さらに似た電話があり、家にいた親族から「詐欺ではないか」と指摘され、同じ交番に赴いて相談し、ようやく詐欺と判明したといいます。報道で同署は「最初に対応した巡査長が詐欺と見抜けず、誠に残念。犯人からの電話に出て、被害者と同じ感覚に陥ってしまったのかもしれない。今後署員の指導、教育を徹底する」としています。警察官でもだまされるだけの巧妙さがあるということかと思いますが、被害者であれ警察官であれ「電話に出てしまうと当事者はだまされやすくなる(冷静な判断が難しくなる)」ことを示す貴重な事例でもあると思います。
在ブラジル日本大使館は、大使館職員を名乗る人物が電話で送金を要求する振り込め詐欺の被害報告や相談がブラジル国内で相次いでいると発表しています。日本語の分かる日系人や日本人を標的にしており、大使館は注意を呼びかけています。電話は大使館から着信したかのように番号が偽装表示され、大使館の男性職員を装った人物が日本語で「あなたの名前で詐欺が行われ、日本で逮捕状が出ている」とうそを言い、日本への送金を求める手口で、家族構成や住所などを要求するケースもあるといいます。日本語以外では対応しないという特徴があり、南東部サンパウロ州や中部ゴイアス州、北東部セアラ州など各地から相談が寄せられており、警察官役の男に電話を代わる例や、事情聴取を名目にLINEで連絡を取ろうとした例もあるということです。ブラジルには約270万人の日系人が暮らし、日本国外で最大の日系人社会があり、そうしたコミュニティをターゲットとした新たな手口といえます。
暴力団の幹部が特殊詐欺に関わったとして逮捕された事件で、警視庁は、静岡市内にある・六代目山口組傘下組織三代目小西一家の事務所を家宅捜索しています。三代目小西一家幹部の容疑者は特殊詐欺グループの指示役とみられ、警視庁に逮捕されましたが、容疑者のグループによる被害は、総額1億円にのぼるとみられており、警視庁はだまし取った金が暴力団に流れていたとみて、実態解明を進める方針といいます。
高額の当選金が受け取れるなどとうそのメッセージをSNSで送り、手続きの費用名目で現金や電子マネーを詐取したとして、宮城県警は、無職の大橋容疑者ら20~40代の男女29人を組織犯罪処罰法違反(組織的詐欺)容疑で逮捕しています。県警は帳簿などから少なくとも全国の約3700人から約70億円をだまし取ったとみています。大橋容疑者らは仙台市青葉区のマンションやビルの一室を拠点として、「メールオペレーター募集」として無料求人誌に求人を載せ、応募した人にSNSでメッセージを送る「打ち子」を24時間体制、12時間交代でさせていたといいます。多くは「闇バイト」とは知らなかったといい、宮城県警はトクリュウとみて実態解明を進めています。
SNS型投資詐欺・ロマンス詐欺を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。
- 経済アナリストの森永卓郎氏らをかたってSNSで投資を持ちかけ、茨城県南部の70代の女性会社役員から現金8300万円をだまし取ったとして、茨城県警は、中国籍で、自称会社役員の男を詐欺容疑で逮捕しています。女性の被害額は8億円に上るとみられ、県警は余罪を調べているといいます。男は2023年10月~2024年4月、仲間と共謀し、LINEで森永氏らを名乗り女性に投資を勧誘、2023年12月11日と18日、受け子を同県南部の駅に向かわせ、現金計8300万円を詐取した疑いがもたれています。男は2024年5月に別のSNS投資詐欺事件で福島県警に逮捕され、その際に押収されたパソコンから今回の事件への関与が発覚したものです。
- 兵庫県警西宮署は、西宮市内に住む行政書士会社会長の70代の男性がSNSを通じて嘘の投資話を持ちかけられ、現金計1億7800万円をだまし取られたと発表しています。男性は2024年9月、知らない投資のLINEグループに追加され、「金やFX投資をやってみませんか」と投資話を持ち掛けられ、その後、11月までの間、計13回にわたり現金計1億7800万円をインターネットバンキング経由で振り込み、詐取されたといいます。
- 大分県警日田署は、福岡県朝倉市の60代男性が、フェイスブックで知り合った中国人の女子留学生を名乗る人物から投資話を持ちかけられ、2024年10~11月に約1億6080万円をだまし取られたと発表しています。恋愛感情を抱かせるロマンス詐欺とみて調べています。4月に知り合い、LINEでやりとりするようになり、10月ごろ、暗号資産による投資を勧められ、6880万円相当の暗号資産を送金、その後も出金には税金や保証金が必要などと言われ、資産送金や現金の振り込みをしたものです。
- 愛知県警小牧署は、同県江南市の50代女性会社員がフェイスブックを通じて暗号資産への投資話を持ちかけられ、計約1億3600万円をだまし取られたと発表しています。女性は2023年10月中旬ごろ、フェイスブックを通じて知り合った人物から投資サイトを紹介され、サイトのカスタマーセンターを名乗る人物から指示を受け、2023年11月中旬~2024年10月下旬、計20回以上にわたり複数の口座に現金を振り込んだといい、サイト上では資産が増えているように表示されていたといいます。手数料を払ったが引き出せず音信不通となったため被害に気付いたものです。
- 北海道警富良野署は、50代男性がSNSで知り合った人物から「暗号資産でもうける方法を教える」などと言われ、計約2280万円をだまし取られたと発表しています。SNS型ロマンス詐欺事件として捜査しています。男性は2024年5月下旬ごろ、室内装飾会社の女性経営者を名乗る人物とフェイスブックで知り合い、3週間ほどメッセージでやりとりする中で暗号資産の購入を持ちかけられ、約490万円を相手の口座に振り込み、9月下旬ごろに「出金に手数料が必要」などと言われ、11月上旬までに複数回にわたり計約1790万円を振り込んだものです。
- 北海道警旭川中央署は、旭川市の30代女性がSNSを使ったロマンス詐欺で約2150万円をだまし取られる被害にあったと発表しています。女性は2024年7月末にマッチングアプリで知り合ったアメリカ国籍を名乗る人物から「2人の将来のため」と投資話を持ちかけられ、実在する投資アプリを装った偽アプリをインストールして暗号資産約450万円を購入、しかし、利益を引き出せなかったことから、偽アプリのカスタマーセンターに相談、手続き費用などの名目で指定された複数口座に約1700万円を振り込んだものです。実在するアプリに問い合わせたところ、取引事実がないと返答され、被害に気づいたといいます。
- 恋愛感情を利用する「ロマンス詐欺」で、マッチングアプリで知り合った男性から現金計約370万円をだまし取ったとして、警視庁組織犯罪対策特別捜査隊は、詐欺容疑などで、無職の井田容疑者を再逮捕しています。容疑者は、詐取金の大半をインターネットカジノに使ったと供述、「自分の口座を持てない」などと話し、アプリで知り合った別の男性らから計16口座を譲り受けて使用しており、同隊は他にも多数の被害者がいるとみて調べています。容疑者は複数のアプリを使い分け、加工した自分の顔写真や下着姿の写真を送るなどして、現金を振り込ませていたもので、消費者金融からの借り入れも勧めていたといいます。
特殊詐欺に関する最近の報道から、いくつか紹介します。
- 2024年に入って特徴的な特殊詐欺の手口はオレオレ詐欺で、以前は自動車事故を起こしてしまった示談金が必要などと、息子や孫を装い指定された口座に金を振り込ませる手口でしたが、現在はまったく違うものになっています。警察官をかたりLINEなどの通信アプリのビデオ通話で偽の逮捕状や警察手帳などを見せて相手を動揺させて現金をだまし取るもので、偽の警察官は、「身の潔白を証明するために口座の現金を確認する必要がある」などと脅すなど、こうしたやり取りを通じて、指定された口座に現金を振り込ませるもので、2024年はすでに2023年の10倍を超える32件のオレオレ詐欺が発生、被害額は1億1400万円にのぼっています。さらに、那覇市の事例では、70代女性が被害にあった警察官をかたるオレオレ詐欺では、これまでに無かった手口として偽の逮捕状が自宅のポストに届くというものがあり、今回、被害にあった女性のもとにも同様の書式で女性の個人情報などが書かれた偽の逮捕状が届いたといい、沖縄県内で初めて確認されたといいます。沖縄県警は「犯行の失敗を繰り返すことでだましのテクニックの経験値を上げ、犯行の手口を巧妙化・多様化させ活動範囲も海外から指示をするなど生き物のように進化させている」と指摘していますが、正にそのとおりだと思います。
- カンボジアの首都プノンペンを拠点にした日本人グループの特殊詐欺事件で、日本国内の被害は110件、総額10億1700万円に上ることが判明しました。被害者はいずれも高齢女性で、居住地は福岡や兵庫、北海道など29道府県に及ぶといいます。埼玉県警は、一連の事件に関与した20~40代の男性29人を詐欺と詐欺未遂容疑で追送検しています。いずれも詐欺の電話をかける「かけ子」とみられています。追送検容疑は2023年3~9月、介護施設の担当者を名乗り、和歌山市の80代の女性ら96人にカンボジアから電話、「(あなたは)介護施設に優先的に入居する権利を他人に譲渡した」「名義貸しは犯罪」などとうそを伝え、現金計7億6310万円と電子マネー820万円相当をだまし取ったなどというものでする。このグループを巡っては、日本側からの情報提供でカンボジアの現地当局が2023年9月、拠点のアパートを摘発、25人を拘束したほか、100台超の携帯電話や電話をかける際に使ったとみられるメモ、高齢者の個人情報が記載された名簿などを押収しています。
- 千葉県警は、同県松戸市の80代女性が計1億2000万円近くをだまし取られる特殊詐欺被害にあったと発表しています。勝手に作られた女性名義の口座に入金するよう指示されたり、多額の現金をリュックサックに入れて自宅の外に置くよう求められたりしたといいます。相手と連絡が取れなくなったのを不振に思った女性が金融機関に相談し、発覚したものです。2024年5月上旬、携帯電話会社の社員や警察官を名乗る人物から、女性宅に「麻薬事件で逮捕した暴力団員の家から、あなた名義の通帳が出てきた」「あなたの持っているお金を検査する必要がある」などと電話があり、女性は指示に従って8月上旬までの間に、心当たりのない自分名義の指定口座に計約5800万円を振り込んだものです。自分名義の口座を勝手に作られた場合、そこに振り込んでも金融機関が不審に思うことは難しいのではないかと思われます。
- 長野県警は、同県安曇野市の60代男性が、警察官を名乗る男からの電話を受けて金を振り込み、計1億520万円をだまし取られる特殊詐欺の被害にあったと発表しています。2024年9月下旬、警察官や税務署職員を名乗る男から「マネロンの被疑者を調べていて、あなたも捜査対象だ」などと電話があり、さらに、スマートフォンに「あなたのお金を調べる必要がある」「何もなければお金を返します」とメッセージが届き、9月下旬~11月下旬、15回にわたり、指定された口座にインターネットバンキングで計1億520万円を振り込んだものです。
- 山形県警は、山形市の60代男性が、警察官を名乗る男らに計約5560万円をだまし取られる特殊詐欺被害にあったと発表しています。2024年6月21日、総合通信基盤局や仙台北署を名乗る男から「あなたが口座を売ったのではないかと疑われている」と電話があり、その後検事を名乗る男らから「金をスクリーニングする」などと別の口座に資産を移すよう誘導され、7月11~19日、7回にわたり指定された口座に現金を振り込んだものです。
- 茨城県警は、同県筑西市の60代の無職女性が厚生労働省職員や警察官をかたる男らから電話詐欺にあい、現金約4000万円をだまし取られる事件が発生したと発表しています。女性はテレビ番組で同様の詐欺のやりとりを見て筑西署に相談し、発覚したものです。2024年9月下旬、厚労省職員を名乗る男から「保険証が悪用されている」などと電話があり、その後、仙台中央署の警察官や検察官をかたる男から「金融犯罪に関係あるか調べる」などと言われ、10月15~28日に5回にわたり、指定された口座に現金4160万円を振り込んだものです。
2024年11月16日付朝日新聞の記事「」は30~40代の比較的若い者でも特殊詐欺の被害にあう可能性をリアルに感じられる事例で、信用させる仕掛けやトークなど参考になりました。具体的には、「「電話を転送する」と言われてそのまま待っていると、「群馬県警のアダチ」を名乗る男に代わった。電話をつなげたままスマホで群馬県警のホームページを見るように指示され、確認すると、着信を知らせる画面に出た番号と類似していた。「本物の警察からだ」驚く男性にアダチは畳みかけた。「あなたは容疑者になっている。逮捕することになる」群馬で高齢者を狙った大規模な投資詐欺事件があり、男性名義の携帯や通帳が現場から見つかった。被害者の中には老後の資金を失ったことを悲観して自殺した人もいる。極秘捜査なので、逮捕されれば家族と連絡もとれず数年間拘束される―。その後、アダチの上司という男、検察官の女などが次々に電話口に登場した。何時間も続く電話に、男性は疲れ果て、追い詰められた」、「全く身に覚えのない男性は、「調査してもらえれば潔白が証明される」と思ってしまった。「数年間、家族に連絡が取れなくなるよりはましだ」。言われるがままにインターネットバンキングで計810万円を振り込んだ。「事件のことを周囲に話せば、家族も逮捕する」などと脅されて、振り込みが終わるまで帰宅を禁止され、男性はコンビニの駐車場にとめた車やホテルで過ごした。帰宅を許されるまでの5日間、アダチとは通話状態のままだった」、「本物の警察からの着信だと思わされた電話番号は、実は海外からの国際電話の番号だった。群馬県警と市外局番以降は類似していたが、よく見ると頭に「+」から始まる国番号があった。男性のスマホ画面では、番号が右から左に流れて表示されたため、国番号を確認できていなかった。「自分は大丈夫、詐欺に遭わない」。そう思ってはいけないという啓発を見たことはあった。詐欺の電話があってもすぐにわかると思っていた。警察がお金を要求しないことも分かっていたが、電話番号も類似し、「極秘捜査だから一般的な犯罪とは違う」と言われて信じてしまった」、「愛知県警の捜査幹部は「『オレオレ詐欺の被害に遭うのは高齢者だ』という若者の意識を利用している可能性がある」と指摘。「警察が捜査の中でお金を要求することは絶対にない」と呼びかけている」というものです。
本コラムでは、特殊詐欺被害を防止したコンビニエンスストア(コンビニ)や金融機関などの事例や取組みを積極的に紹介しています(最近では、これまで以上にそのような事例の報道が目立つようになってきました。また、被害防止に協力した主体もタクシー会社やその場に居合わせた一般人など多様となっており、被害防止に向けて社会全体・地域全体の意識の底上げが図られつつあることを感じます)。必ずしもすべての事例に共通するわけではありませんが、特殊詐欺被害を未然に防止するために事業者や従業員にできることとしては、(1)事業者による組織的な教育の実施、(2)「怪しい」「おかしい」「違和感がある」といった個人のリスクセンスの底上げ・発揮、(3)店長と店員(上司と部下)の良好なコミュニケーション、(4)警察との密な連携、そして何より(5)「被害を防ぐ」という強い使命感に基づく「お節介」なまでの「声をかける」勇気を持つことなどがポイントとなると考えます。また、最近では、一般人が詐欺被害を防止した事例が多数報道されています。直近でも、高齢者らの特殊詐欺被害を一般の人が未然に防ぐ事例が増加しており、たとえば、銀行の利用者やコンビニの客などが代表的です。2023年における特殊詐欺の認知・検挙状況等(警察庁)によれば、「金融機関の窓口において高齢者が高額の払戻しを認知した際に警察に通報するよう促したり、コンビニエンスストアにおいて高額又は大量の電子マネー購入希望者等に対する声掛けを働き掛けたりするなど、金融機関やコンビニエンスストア等との連携による特殊詐欺予防対策を強化。この結果、関係事業者において、22,346件(+3,616件、+19.3%)、71.7億円(▲8.5億円、▲10.6%)の被害を阻止(阻止率 54.6%、+2.1ポイント)」につながったとされます。特殊詐欺の被害防止は、何も特定の方々だけが取り組めばよいというものではありませんし、実際の事例をみても、さまざまな場面でリスクセンスが発揮され、ちょっとした「お節介」によって被害の防止につながっていることが分かります。このことは警察等の地道な取り組みが、社会的に浸透してきているうえ、他の年代の人たちも自分たちの社会の問題として強く意識するようになりつつあるという証左でもあり、そのことが被害防止という成果につながっているものと思われ、大変素晴らしいことだと感じます。以下、直近の事例を取り上げます。
- 特殊詐欺の詐取金200万円を受け取ったとして、警視庁小松川署は、詐欺容疑で、飲食店従業員佐藤容疑者を再逮捕しています。同容疑者は特殊詐欺の「受け子」で、詐取金の入った荷物をいったん宅配で受け取ったものの、違和感を覚えた女性配達員が取り返したものです。容疑者は配達当日、配達先のアパートの部屋の前で、現金が入った荷物を受け取りましたが、荷物を運んだ50代の女性配達員が同容疑者の様子に違和感を覚え、返却を求めたところ、もみ合いになり、2人は階段から転落、配達員は腕の骨を折り、1カ月のけがをした一方、容疑者は200万円を現場に残して逃走したというものです。リスクセンスが発揮されたことで被害を未然に防ぐことができた一方、受傷事故となったことから安全に配慮して「無理をしない勇気」も求められた場面だったかもしれません(女性配達員の「被害を食い止めるとの気概や勇気」は賞賛させるべきであることは言うまでもありません)。
- 高齢者が特殊詐欺の被害に遭うのを防いだとして、大阪府警豊中署は、三菱UFJ銀行豊中支店に感謝状を贈っています。支店は半年ほどの間に被害を3回防いでおり、天野署長は「聞いたことがない。被害を防ぐやる気や熱意がある結果ですね」と行員らをたたえています。支店の行員らは2024年4~9月、来店した高齢者の様子や相談内容に違和感を覚え、声をかけて振り込み操作を止めさせ、警察に通報、被害を未然に防いだといいます。署の幹部たちが「今までの防止例と違う」と舌を巻いたのは、4月中旬にあった事例で、携帯電話で通話しながらATMを操作している高齢者の声を聞き、行員らが声をかけ、ATMの操作と通話をすぐに中断してもらい、近くの交番に相談したというものですが、午後6時ごろの出来事で、支店の窓口はすでに営業を終了してシャッターを下ろしていたものの、窓口付近にいた行員がシャッター越しに高齢者の声に気付き、急きょ対応したというものです。正に行動様式として「被害を防ぐ」ことが徹底していたからこそできたことだといえます。
- 経営するビジネスホテルに宿泊していた特殊詐欺事件の容疑者逮捕に貢献したとして、和歌山西署は、和歌山県内でホテル事業を手がける「エムアンドエム・ワールド商会」社長の国本さん(75)に感謝状を贈っています。同市内の80代女性がキャッシュカードをだまし取られ、2024年10月1日までに現金計100万円を引き出される被害にあったところ、捜査により容疑者の1人である20代の女性が国本さんの経営するビジネスホテルに宿泊していることが判明、国本さんの指示で、容疑者に関する情報をホテル側が警察に提供したほか、館内に警察官の待機場所を用意するなどして逮捕に協力したというものです。ホテルによる事例はあまり聞いたことがありませんでしたが、あらゆる業種業態において、特殊詐欺被害防止のために「できることはある」ということを示した好事例だといえると思います。
(3)薬物を巡る動向
米大統領選と併せて実施された米フロリダ州で娯楽目的の大麻使用合法化の是非を問う住民投票が否決されています。この結果を受け、大麻関連株が軒並み下落しました。フロリダ州は大麻市場で非常に魅力的と注目されており、大麻分析会社ヘッドセットは、合法化されれば初年度の成人向け大麻売上高は49億~61億ドルと試算していました。一方、今回の住民投票の結果、新たにニュージャージー、アリゾナ、サウスダコタ、モンタナの4州が大麻を合法化しています。これにより、アルコール飲料などと同様に、大麻を合法的に吸える州は15州に拡大、ニューヨーク州も、クオモ知事が合法化に前向きと報道されており、近いうちに合法になる可能性があります。大麻を容認する世論が、リベラルな地域だけでなく、保守的な地域にまで広がっていることをうかがわせますが、近く合法化される可能性のあるニューヨークを含めると、大麻を合法的に吸える州は、国際的な観光地や日本人の留学生・駐在員が多く住む都市を抱えているところが多く、日本人が大麻に汚染されるリスクが高まっていることが懸念されます。
2024年12月には改正大麻取締法が施行され、覚せい剤など他の規制薬物と同様に、大麻も「使用罪」が新設されます。そのような中、若年層による大麻使用の急増を受け、福岡県はLINEを通じて匿名で相談できる窓口を設置しています。大麻に特化した取り組みは珍しく、使ってしまったり、誘われたりした若者らの不安の受け皿になる狙いがあります。窓口は24時間受け付け、臨床心理士が毎週月、金曜の午前10時~午後1時に返信するほか、家族や友人についての相談にも応じるとしています。また、相談者が県外在住の場合、居住する自治体の窓口を紹介するといいます。なお、違法行為である栽培と売買に関する情報提供を除き、捜査機関への通報はしないといいます。
前回の本コラム(暴排トピックス2024年11月号)でも取り上げたオリンパス元社長のシュテファン・カウフマン被告(56)がコカインや合成麻薬MDMAとみられるものを複数回にわたり譲り受けたとして麻薬特例法違反罪で起訴された事件に絡み、現金を脅し取ったなどとして、警視庁薬物銃器対策課は恐喝と恐喝未遂の疑いで、東京都葛飾区の自称カメラマン、金子被告を再逮捕しています。報道によれば、2024年2~9月、違法薬物を有償、無償で譲渡してきた元社長が関係を解消しようとしたのに対し、「会社、マスコミ、警察にばらすぞ」などと脅し、口止め料として2500万円を要求、6月3日、都内で現金50万円を脅し取ったなどというものです。また、金子容疑者は2~6月、計23回にわたり、元社長から計約915万円を脅し取ったとみられるといいます。なお、金子容疑者が2024年9月に、取引を明かす手紙を同社に送付、同社から相談を受けた警視庁が改めてカウフマン容疑者から任意で事情を聞いたところ、薬物購入を認めたといいます。日本で禁止されていると知りながら薬物に手を出し、関係を解消しようとしながらも脅しに屈してお金を支払ってしまうなど、極めて脇の甘い、最悪の結果を招いた残念な対応だといえます。
暴力団の関与する事案も多数ありました。
- 石川県警大聖寺署は、覚せい剤取締法違反(使用)容疑で稲川会傘下組織幹部を、2024年9月中旬ごろ、日本国内で覚せい剤を使用したとし再逮捕しています。また、同署は9月、石川県内の男性に覚せい剤を有償で譲り渡したとして覚せい剤取締法違反(営利目的譲り渡し)容疑で逮捕、10月、覚せい剤を所持したとして同法違反(所持)容疑で再逮捕し、いずれも処分保留となっていました。
- 2024年7月、福岡市東区で「覚せい剤のようなもの」を売ったとして、工藤會傘下組織幹部が。麻薬特例法違反の疑いで逮捕されています。福岡市東区の商業施設の駐車場で、氏名不詳の別の人物と共謀し、北九州市小倉北区の自営業の男に、覚せい剤のようなもの約0.2gを覚せい剤として、1万1000円で売った疑いがもたれています(今回の事件では覚せい剤は見つかっておらず、麻薬特例法の容疑での逮捕となったものです)。警察は工藤會の資金源になっていた疑いがあるとみて、組織の関与の有無や入手経路を調べています。
- 販売目的で乾燥大麻約5キロ(末端価格約2500万円)を所持したとして、札幌市の男ら3人が逮捕された事件で、3人のうち2人に販売目的で大麻を譲り渡したとして、北海道警察組織犯罪対策2課と千歳署は、大麻取締法違反(営利目的譲渡)の疑いで、暴力団員ら2人を逮捕しています。
薬物の密輸事件に関する報道からいくつか紹介します。
- 米国から非公用軍事郵便で合成麻薬を密輸するなどしたとして、九州厚生局沖縄麻薬取締支所は、麻薬取締法違反容疑で嘉手納基地(沖縄県嘉手納町など)とキャンプ・シールズ(同県沖縄市)に所属するいずれも20代の米軍人の男女9人を那覇地検に書類送検しています。報道によれば、「合法だと思っていた」などと容疑を否認しているといいます。軍事郵便は日本の郵便局のルートを経ずに運ばれ、公用の郵便物の場合は税関検査が免除されていますが、私物の郵便に利用する非公用の場合は検査でき、沖縄地区税関沖縄税関支署が嘉手納基地で麻薬を発見したものです。沖縄では近年、非公用軍事郵便を利用した麻薬の密輸が急増しており、その背景には「在沖米軍人の規範意識の低さ」(県警担当記者)が関係しているといいます。報道によれば、「2024年上半期において非公用軍事郵便物からの麻薬の摘発は49件。前年同期比4.9倍となっています。そのうち44件は今回、書類送検された合成麻薬と同様のもので、その多くが小包などで密輸されています」、「米軍人にも非公用軍事郵便が検査対象なのは周知されています。にもかかわらず、違法な薬物を密輸していることからも一部米軍人の規範意識の低下が見て取れます。今のところ、密輸された麻薬が基地外へ流出したり、麻薬絡みの犯罪は起きていませんが、今後も起こらないとは限りません」などと関係者が述べていますが、そうした懸念はぬぐえません。
- 神奈川県警は、覚せい剤を所持したとして覚せい剤取締法違反(営利目的所持)などの疑いで、いずれもブラジル国籍の2人を再逮捕しています。報道によれば、2024年2月下旬にメキシコから横浜港に覚せい剤約531キロ(当時、末端価格350億円相当)を密輸したとして男らが逮捕された事件に絡み、容疑者がメキシコの密輸組織と連絡を取っており、受け入れ側の責任者だったとみて捜査しているといいます。
- 愛知県警中部空港署は、覚せい剤を染み込ませたウエットティッシュを密輸しようとしたとして、覚せい剤取締法違反(営利目的輸入)などの疑いでマレーシア国籍の自称会社員を逮捕しています。報道によれば、ティッシュ計25袋を携帯しており、覚せい剤の含有量は最大で約9.6キロ(末端価格約6億2500万円)と試算されています。容疑者はティッシュの袋をスーツケースとリュックサックに隠していたといい、「知らない人物から日本に運ぶように依頼された。覚せい剤だとは知らなかった」と供述、組織的関与があるとみて調べています。中部空港の税関職員が検査で見つけたものですが、押収量は2005年の開港以来最多ということです。
- 大阪府警関西空港署は、合成麻薬MDMA約8900錠(4.2キロ、末端価格5383万円相当)を手荷物に隠して仏から航空機で関西国際空港に密輸したとして、スペイン国籍の容疑者を麻薬取締法違反(営利目的共同輸入)容疑で緊急逮捕しています。大阪税関関西空港税関支署によると、関空で旅客の手荷物から押収したMDMAの量としては過去5年間で2番目に多いといいます。税関によると、MDMAをスーツケースの底部に敷き詰めて板をかぶせ、二重底にして隠し、一部はリュックサックの背あて部分に入れ、縫い合わせていたといいますが、職員がスーツケースを開けると、香水と板をかぶせるため使った接着剤のにおいがしたため、不審に思って機器で検査し、MDMAを見つけたものです。
その他、薬物事犯を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。
- 自宅で大麻リキッドを所持したとして、大阪府警堺署は、大麻取締法違反(所持)の疑いで堺市消防局の消防士を逮捕しています。報道によれば、自宅で大麻リキッドが入ったカートリッジ4本を所持したというもので、2024年4月に「容疑者から大麻を一緒に吸わないかと誘われた」との情報が寄せられ、7月に家宅捜索したところ自宅から大麻リキッドが見つかったものです。
- 経営する会社の倉庫で、販売目的で「アッパー系」と呼ばれ気分が高揚する麻薬の一種「4―メチルメトカチノン」を含む錠剤片や粉末約750グラムなどを製造したとして、警視庁薬物銃器対策課は、麻薬取締法違反(営利目的製造)容疑で、中国籍で貿易会社代表の男を書類送検しています。販売前に同庁が摘発したため、流通はしていないといいます。報道で「レシピは昨年、テレグラムで中国人から教えてもらった。1錠1000円で売るつもりだった。会社の資金繰りのためにやった」と容疑を認めているといいます。送検容疑は4月上旬~同26日、埼玉県越谷市内の会社倉庫で麻薬の一種「4―メチルメトカチノン」を含む錠剤片や粉末約750グラムなどを製造した疑い。
- 5キロ近い乾燥大麻(2500万円相当)を所持していたとして、北海道警は、大麻取締法違反(営利目的所持)の疑いで、無職の容疑者を再逮捕、2人を現行犯逮捕しています。容疑者らは覚せい剤取締法違反容疑などでも逮捕されており、道警は密売していたとみています。容疑者らがフェリーで持ち込んだ乾燥大麻をレンタカーの中から発見したものです。
- 熊本県警高森署や国際・薬物銃器対策課などは、南阿蘇村の自称「焼き芋販売業」の男を大麻取締法違反(営利目的所持と営利目的栽培)の疑いで逮捕しています。乾燥大麻約50キロを押収、末端価格で2億5千万円にのぼるといいます。報道によれば、自宅や隣接する倉庫に、営利目的で240グラムに小分けした乾燥大麻約210袋を所持し、2024年3月から10月10日にかけて自宅に隣接する土地で大麻草を栽培した疑いがもたれており、10月10日にまず営利目的所持の疑いで現行犯で逮捕し、11月11日に営利目的栽培の疑いで再逮捕したといいます。「高森町で大麻草が栽培されている」という情報が寄せられたのをきっかけに県警が捜査を開始、9月上旬になって男の自宅奥にある雑木林の一部が伐採され、大麻草の畑になっているのを高森署員が発見したというものです。
- 大麻草0.085グラムを所持していたとして、兵庫県警明石署は、神戸市の女子高校生(16)を大麻取締法違反容疑で現行犯逮捕、送検しています。別の事件の捜査で話を聞いていた明石署員が高校生のかばんを調べたところ、たばこ状に巻いた大麻草を発見、調べに対し「密売人から買った大麻を自分で吸うために持っていた」と容疑を認めているといいます。
- 大麻を所持したとして、高知県警高知南署は大麻取締法違反(所持)の疑いで、長野県松本市安曇、宿泊施設従業員を逮捕しています。報道によれば、2024年9月、高知市内でビニール袋に入った大麻1.49グラムを所持したというもので、警察官が職務質問をしたところ逃走し、墓地でビニール袋を捨てたといい、中身は鑑定で大麻と確認されたものです。
- 大阪府内で車上荒らしや車の窃盗を繰り返したとして、府警布施署などは、窃盗の疑いで、大阪府の建設作業員ら50代の男3人を逮捕、送検しています。容疑者は「覚せい剤を買うために盗みを繰り返した」などと供述し、容疑を認めているといいます。大阪府警は車上荒らしも含めて計49件(計約866万円相当)の被害を裏付け、捜査を終結しています。駐車場などで、ドアの鍵を工具でこじ開ける手口で車の窃盗や車上荒らしを繰り返し、車内に設置されたGPSの位置情報などから容疑者の関与が浮上、車上荒らしで盗んだとみられるスマホやパソコンは買い取り店で売却していたとみられています。
- 千葉県大多喜町の林道で2024年2月、ベトナム国籍の男性が遺体で見つかった事件をめぐり、トゥンさん宅に強盗に入った容疑で逮捕された住所不定、無職の容疑者が「(被害者が)大麻栽培の売り上げを仲間に公平に分けなかったことで、事件が起きた」という趣旨の供述をしていることがわかりました。県警は、大麻栽培の裏付けを進めるとともに、売上金の流れなども調べています。
若者によるオーバードーズが深刻な問題となっています。2024年11月10日付朝日新聞の記事「市販薬乱用の経験者は65万人 生きづらさ反映?「脅し効果なし」」が網羅的に現状をまとめており、参考になります。現在に至る経緯として、「1980年代、液体のせき止め薬の一気飲みが若者中心に流行し、社会問題になった市販薬の過量服用(オーバードーズ)が今、改めてクローズアップされている。95年から続く「薬物使用に関する全国住民調査」では2023年、従来の覚醒剤や睡眠薬などと並んで、市販薬が初めて調査対象になった。薬局で買えるかぜ薬やせき止めなどの乱用が10代を中心に広がっているためだ」と指摘しています。さらに、「研究では16年から、10代の薬物依存の原因として市販薬の乱用が台頭した。危険ドラッグが幅広く法規制された後の時期にあたる。22年には、10代の薬物依存患者のうち65%が市販薬が主な原因だった」、「覚せい剤や大麻と違い、市販薬の使用で警察に捕まることはない。手に入れやすく価格も比較的安い。家庭にもある薬という身近さや安心感が、乱用へのハードルを下げているとも言える。23年の全国住民調査では、直近1年以内に市販薬の乱用経験があると答えた人は全体の0.75%、全国で約65万人にのぼると推計された。特に10代の使用率は1.46%で、どの年代より高かった」と紹介しています。「最近は、乱用の恐れがある市販薬を買うには、個数制限や20歳未満の場合は学生証の提示を求めるなどの対策が取られている。だが、複数のドラッグストアをはしごすれば購入でき、決定的な抑止力になっていない」、「これまで、日本の薬物乱用防止のための呼び掛けは「ダメ。ゼッタイ。」「人間やめますか」など、脅し口調が多かった。だが、松本さんは「市販薬を乱用する子どもたちは『ワンチャン(一度の機会で)、死ねたらラッキー』と考える。脅しは効果がない」と指摘、自殺対策と一緒に考えるべきだという。子どもたちが乱用に走ってしまう心には、それぞれの生きづらさが隠れているかもしれない。安心して話すことができ、助けを求めやすい環境づくりが欠かせない」と指摘していますが、「ワンチャン、死ねたらラッキー」という考え方には本当に衝撃を受けました。それだけ生きづらさを抱えているということでもあり、「社会的包摂」の重要性をあらためて痛感させられます。
トランプ次期米大統領が、メキシコ、カナダ両国に対し、米国へ入ってくる不法移民問題を解決しなければ、全輸入品を対象に一律25%の関税を課す考えを表明し、波紋を呼んでいます。政権発足初日の2025年1月20日に実行し、問題が解決されるまで続けるとし、中国に対しても、違法薬物への取り締まりを強化しなければ、一律10%の追加関税を課すと明言しています。トランプ氏は「メキシコ、カナダ経由で数千人が米国に流れ込み、かつてない多さの犯罪と麻薬を運び込んでいる」と批判しています。本コラムでたびたび取り上げていますが、米国で社会問題化している合成麻薬「フェンタニル」が外交上の大きな鍵となっています。米国では、医師による安易な処方なども要因となり、2000年代からオピオイド系の鎮痛剤の過剰摂取が蔓延、その後、オピオイド系のなかでも強力なフェンタニルが流行、政府の統計では、合成麻薬(主にフェンタニル)の過剰摂取による死者は年々増え続け、2022年には年間7万人を超えています。貧困などの問題と結びついて社会に深刻な打撃を与えており、海外からの密輸が主要な供給源だと言われています。バイデン政権下では、不法移民の流入が急増、同時にフェンタニルの密輸も増えたとしています。フェンタニルの主な経由地とされるのが、米国と国境を接するメキシコで、中国で原料が製造され、メキシコの麻薬組織が合成して米国に密輸するルートが代表的とみられています。麻薬組織は近年、軍隊並みの装備品で武装化して強大な力を持ち、治安の悪化に歯止めがかかっていない状況にあります。米財務省は、フェンタニルなどの麻薬密売に関与しているとして、麻薬組織に所属するメキシコ人ら9人に制裁を科すと発表しましたが、対策は追いついていません。メキシコのシェインバウム大統領やロペスオブラドール前大統領は、麻薬組織との戦いよりも犯罪を助長する貧困を防ぐ対策に重点を置いてきましたが、結果的に麻薬組織が「野放し」になっているという指摘は根強く、麻薬組織が米国への密輸で稼ぎ、武装化を進める悪循環が続いています。一方、中国外務省は「フェンタニルは米国の問題だ」と反論、談話は「中国は麻薬対策に関する政策が世界で最も厳格な国の一つだ」と主張、中国は米側とフェンタニルに関する対策を進めており、「目立った成果」を挙げていると訴え、米側に対し「平等、相互利益、相互尊重」を前提に協力を継続する意向を示しています。
2024年11月21日付朝日新聞の記事「コロンビアの麻薬王拠点 区画整理で殺人激減 始まりは日本の研修」は大変興味深いものでした。日本による四半世紀にわたる中南米への土地区画整理の研修が、現地の治安改善に役立っているというもので、「コロンビアでは、かつての麻薬王の拠点で実施され、人口10万人あたりの殺人事件の発生が約20年間で1割未満に減少。日本で学んだ都市開発の手法が各地で根付いている」といいます。具体的には、「コロンビア第2の都市メデジンでは、1970年代に麻薬王と呼ばれたパブロ・エスコバルが犯罪組織「メデジンカルテル」を設立し、最盛期には世界のコカイン市場の8割を支配したとされる。90年代に組織は解体されたが、2000年代も取引を巡る小競り合いが続き、治安は悪いままだった。メデジンは盆地の街。周辺の斜面にバラック小屋が無秩序に広がり、貧困層が住んでいた。ゴミが散乱した路地が入り組む、犯罪者が潜みやすい環境で、殺人や強盗、性犯罪が多発し、違法薬物も蔓延していた。ピントさんは、講師だった北海道大名誉教授の小林英嗣さん(78)や、JICAの専門家だった木下洋司さん(74)と現地の状況に合った再開発を模索し、選んだのが土地区画整理だった」、「同様の土地区画整理は2005年ごろからメデジンや首都ボゴタの150地区以上で実施され、現在も進行中だ。地元メディアなどによると、メデジンの人口10万人あたりの殺人件数は2002年(人口290万人)は177件だったが、2023年(同410万人)には13件と激減した。貧困問題も改善され、「世界一危ない都市」と言われた町は、米紙WSJなどが13年に実施したコンテストで「最も革新的な都市」の1位となり、人気の観光地に生まれ変わった」と報じています。日本の協力によって、このような劇的な治安回復の成果を導いたことは大変誇らしく感じます。世界中で同様の問題を抱えている地域の参考になることを期待したいと思います。
(4)テロリスクを巡る動向
中国各地で無差別襲撃事件が連日のように起きています。繁華街に自動車が突っ込んだり、学校内で学生らが刃物で切り付けられたりするなど、無差別で突発的な犯行が目立ちます。背景には経済の減速とそれに関連したメンタルヘルスの問題があるとされます。また、中国国内には、AIを使った顔認証システムが搭載された監視カメラが、約2億台設けられているといわれ、中国全土で特定の人物を1秒余りで見つけ出すことができるといいます。さらに、中国では2000年代から国民の信用情報を管理する「社会信用システム」の実験、導入を進めており、契約を守らなかったり、多額の借金をしたりするなど、問題行動を起こす企業や個人のブラックリストを作成し、公表してきました(市民に同じ得点を与え、交通違反や借金の踏み倒し、道路の落書きなどの行為をすると、減点していく「信用スコアシステム」を採用している自治体も増えており、点数が低いと、飛行機に乗れなかったり国外に出られなかったりすることがあるといいます)。犯人の多くは「信用スコア」が低い傾向があり、就職や結婚などが難しいケースが少なくなく、将来を悲観して自暴自棄となり、犯行に及んでいることがうかがえます。関連して、米の戦略国際問題研究所(CSIS)が2024年7月に、中国では成功できないのは不公平や制度的要因のせいだと広く認識されているとの調査結果を公表している点も合点がいくところです。SNS上の事件に関する書き込みについて、中国当局は削除をしていますが、いたちごっこが続いており、今後模倣犯が増える可能性が高いと考えられます。こうした社会的な不公平感や格差の蔓延、息苦しいほどの閉塞感、絶望が、極端な場合には無差別な暴力へとつながる構図は、日本で通り魔的な犯行が多く、ローンオフェンダーのリスクが高まっている背景と重なります(厳密な意味での「テロ」の定義とは異なるものの、社会への暴力という点では共通しています)。ネット空間でもリアル空間でも社会的に孤立しがちな犯罪予備軍を社会に取り込む「社会的包摂」の重要性が増しているといえます。
大阪・関西万博は2025年4月から半年間、大阪市の夢洲で開かれ、国内外から計約2800万人の来場者が想定されています。警察庁の露木長官は大阪府警への訓示で「会場内外の警備対策を徹底し、要人を含む来場者の安全と、円滑な運営の確保が重要な責務だ」と述べ、単独で攻撃を図る「ローンオフェンダー」やサイバー攻撃、テロへの対策のほか、交通対策や雑踏事故の防止といった総合的な対策が求められると指摘しています。大阪府警は会期中の事件事故に対応するため、2025年初めにも夢洲に臨時の警察部隊「会場警察隊」(仮称)を設置するといいます。万博では、不特定多数の人が集まる「ソフトターゲット」に対する継続的な雑踏警備に加え、要人訪問も見据えたテロ対策なども求められることになります。とりわけローンオフェンダーの対策は必須で、会場となる島にテロリストを侵入させない水際対策が鍵となります。万博会場周辺には不審者の侵入を防ぐためセンサー内蔵のセキュリティフェンスを張り巡らせ、会場のゲートでは金属探知機で飲み物を含めた所持品の検査を徹底、ドローンを活用して警備上の死角を減らす取り組みなど脅威の芽を1つひとつ摘み、隙を生まないよう複合的に対策を講じるといいます(それらに加え、地震や台風などの自然災害に備え、避難計画など緊急時を想定した準備も整える必要があります)。また、民間の事業者との連携も重要で、警察と重要インフラ事業者などでつくる官民連携の「大阪府サイバー攻撃対策協議会」が総会を開き、万博を狙うサイバー空間の脅威情勢などについて確認しています。電力やガス、鉄道など重要インフラ事業者のセキュリティ担当者らが参加、大阪府警は過去の国際会議で自治体のホームページがサイバー攻撃を受けた事例を紹介し、万博でもこうしたリスクが高まるとして、被害に遭った際の緊密な連携を呼びかけています。
その他、国内外を巡るテロリスク/テロ対策に関する報道から、いくつか紹介します。
- ロシア当局は、オウム真理教のロシアの国内組織をテロ組織に認定しています。露連邦保安局(FSB)がHP上で更新したテロ組織一覧で明らかになっています。モスクワの軍事裁判所で認定され、2024年9月23日から発効しているといいます。ロシアでのオウム真理教を巡っては、露南部ロストフ・ナ・ドヌーにある南部管区軍事裁判所が2020年11月、ロシア人幹部のミハイル・ウスチャンツェフ氏に対し、テロ組織の創設などの罪で禁錮15年の判決を言い渡しています。同氏は、首都モスクワや西部サンクトペテルブルク、南部ボルゴグラードなどで信者を勧誘して集めた資金を、オウム真理教の日本人幹部に送金していたとされます。ロシアでは、オウム真理教そのものは2016年にテロ組織に認定され、活動が禁止されています。
- 本コラムでも取り上げたレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラの戦闘員らが所有するポケベルが2024年9月中旬に一斉に爆発して計3000人以上が死傷した事件で、イスラエルのネタニヤフ首相は、自身がこの作戦にゴーサインを出したことを認めています。筆者も含め、ポケベルの一斉爆発は当初からイスラエルによる工作が疑われていましたが、公式に認めたのは初めてとなります。イスラエル軍はポケベルなどの通信機器の一斉爆発を機に、ヒズボラに対する攻勢を強化、9月下旬にはレバノンの首都ベイルートを空爆し、ヒズボラを長年率いてきた最高指導者ナスララ師を殺害したうえ、地上侵攻にも踏み切り、レバノンでは連日、地上戦や空爆が続いており、2023年10月以降、すでに3100人以上が死亡しています。
- ロシアのショイグ安全保障会議書記は、アフガニスタンの首都カブールを訪問し、イスラム主義組織タリバン暫定政権のバラダル副首相と会談、暫定政権によると、ショイグ氏はロシアがタリバンのテロ組織指定を近く解除するとの見通しを伝えたほか、鉱業や農業部門への投資を含む経済協力拡大に意欲を示したといいます。ショイグ氏はオベルチュク副首相ら高官を引き連れ訪問、アフガンメディアによれば、2021年8月にタリバンが実権を握って以降、最高位のロシア訪問団となったといいます。バラダル師は、両国関係の引き上げは「経済分野における数多くの機会を生むだろう」などと期待を寄せているといいます。国連はタリバンが女性の教育と移動の自由を制限していることなどを理由に、国連総会で暫定政権がアフガンの議席を占めることを認めていません。また、国連加盟国は暫定政権を正式に承認していません。関連して、タリバンの暫定政権は、アゼルバイジャンの首都バクーで開催された国連気候変動枠組み条約第29回締約国会議(COP29)に代表団を送っています。こちらも2021年8月のタリバン復権以降で、アフガン代表団のCOP参加は初となります。険しい山岳地帯を擁する内陸国のアフガンは、気候変動の影響を最も受けやすい国の一つとされ、近年、気候変動の影響による深刻な干ばつや洪水に見舞われています。
- 2001年の米中枢同時テロを担当する米軍の特別軍事法廷は、主犯格とされる国際テロ組織アルカイダ幹部ら被告3人が罪を認める代わりに死刑を免除するとの司法取引を有効と決定しています。約3000人が犠牲になったテロから20年以上が経過した現在でも、キューバのグアンタナモ米海軍基地の軍事法廷では拷問後の自白の証拠能力が争われ、公判前手続きの段階にあります。司法取引の有効性が認められ、再び判決の見通しが立ったとはいえ、検察側が控訴する可能性もあります。
(5)犯罪インフラを巡る動向
日米韓など10か国の捜査当局が「Phobos(フォボス)」と名乗るランサムウェア(身代金要求型ウイルス)集団の中心人物とみられる男を逮捕しています。ウイルスを販売するグループで、2020年10月の大阪急性期・総合医療センターへの攻撃にも関与したとされます(緊急時以外の手術や外来診療が一時止まるなど被害は甚大で、ウイルスは病院の給食を委託している業者のサーバーから侵入したとみられ、病院の業務が完全に復旧したのは約2カ月半後でした)。インフラを含め各集団による被害は世界で広がっており、攻撃手段の供給元を絶つ狙いがあります。米司法省によると、逮捕・起訴されたのはロシア国籍の被告で、米韓犯罪人引渡条約に基づき韓国当局が拘束し、身柄を米国捜査当局に引き渡したものです。すでに詐欺や恐喝などの13件の罪で起訴されています。フォボスは世界中の1000以上の組織を標的とした攻撃に関わり、1600万ドル(24億円)超の身代金を要求したとみられ、狙われたのは自治体や教育機関、医療施設、重要インフラ事業者といった市民生活に密着する企業・団体も目立っています。警察庁によると、フォボスの関与が疑われるランサム攻撃は2020年以降、日本国内で少なくとも20都道府県で約70件確認されています。報道によれば、今回の捜査で米連邦捜査局(FBI)は攻撃実行者と中枢メンバーの間の暗号資産の流れを解析し、被告の関与を突き止め、警察庁もIPアドレスを分析して同被告を特定し、各国の捜査機関と情報を共有したといいます。米調査会社のチェイナリシスによると、2023年のランサムウェア集団に支払われた暗号資産は約11億ドル(約1690億円)に上り過去最高となりました。2019年(2億2千万ドル)と比べ5倍に増え、被害拡大の背景には、フォボスを含め攻撃手段を売るグループの暗躍が挙げられます。以前の本コラムでも取り上げましたが、ウイルスや盗んだ情報を暴露する「リークサイト」を攻撃実行者に提供し、身代金の一部を報酬として得る、「ランサムウェア・アズ・ア・サービス(RaaS)」と呼ばれる「犯罪インフラ」で、こうした集団が増え、プログラミングなどの専門知識がなくてもサイバー攻撃ができるようになり(攻撃主体の多様化)、一部の集団は毎月一定額を支払うと使えるサブスクリプション(継続課金)型サービスのような形態とみられています。企業・団体は警戒を強めているところ、システムのわずかな隙から侵入される恐れがあり万全の対策を講じるのは難しい一方で、そもそも脆弱性を認識できていないケースも多いほか、十分な漸弱性への対策が講じられていないケースが多く、犯罪グループが圧倒的に優位な状況にあります。なお、日本が参加する国際共同捜査ではこれまでに、ゲーム大手カプコンへのサイバー攻撃に関与したとされる「ラグナロッカー」、名古屋港コンテナターミナルのシステム障害などに関わった疑いがある「ロックビット」のメンバーを逮捕しています。主要メンバーが摘発された集団は弱体化が見込める一方、新手も現れており、2024年6月にKADOKAWAを攻撃したのは「ブラックスーツ」と呼ばれる集団で、いたちごっこを止めるためには国際共同捜査による迅速な摘発が欠かせません。
▼警察庁 ランサムウェア被疑者の検挙に関する米国司法省のプレスリリースについて
▼ロシア人ランサムウェア被疑者の検挙に関する米国司法省のプレスリリースについて
- プレスリリースの概要
- 本日(米国東部標準時11月18日)、米国司法省は、米国内の企業や政府機関等に対しランサムウェア被害を与えたなどとして、韓国警察の協力を得てロシア人被疑者を検挙した旨をプレスリリースした。
- 同プレスリリースにおいては、米国連邦捜査局(FBI)が当該ランサムウェア事案の捜査を行っており、当該捜査について、日本警察を含む各国法執行機関が協力した旨が言及されている。
- 日本警察の協力
- 関東管区警察局サイバー特別捜査部と各都道府県警察は、我が国で発生したランサムウェア事案について、外国捜査機関等とも連携して捜査を推進しており、捜査で得られた情報を外国捜査機関等に提供している。
- 我が国を含め、世界的な規模で攻撃が行われているランサムウェア事案をはじめとするサイバー事案の捜査に当たっては、こうした外国捜査機関等との連携が不可欠であるところ、引き続き、サイバー空間における一層の安全・安心の確保を図るため、サイバー事案の厳正な取締りや実態解明、外国捜査機関等との連携を推進する。
トラブル解決金名目で現金200万円をアパート一室の空き部屋に送らせ、だまし取ったとして、警視庁は飲食店従業員を詐欺容疑で逮捕しています。空き部屋は不動産会社が管理し、鍵は内覧のためにアパート敷地内に設置したダイヤル式の「キーボックス」に保管していたといいます。闇バイトに募集し逮捕された容疑者は「指示役」から解錠方法を聞いて鍵を入手し、室内に入ったといい、「部屋をいつでも開けられる状態にしておくことは、犯罪の温床になる」という意味でキーボックスが「犯罪インフラ」の役割を果たしたともいえます。なお、本事件では配達業者の女性からいったんは現金入りの段ボール箱を受け取ったものの、不審に思った女性が荷物を取り返そうとし、もみ合いになり、容疑者は段ボール箱を置いたまま逃走したものの、女性は転倒して腕の骨が折れる大けがを負ったといいます。リスクセンスが発揮されたことで被害を未然に防ぐことができた一方、受傷事故となったことから安全に配慮して「無理をしない勇気」も求められた場面だったかもしれません(女性配達員の「被害を食い止めるとの気概や勇気」は賞賛させるべきであることは言うまでもありません)。なお、不動産業界の一部では内覧をスムーズに行うため、キーボックスでの受け渡しをする場合もあるといい、警視庁によると、過去には特殊詐欺グループが悪用して現金の受け渡しなどに使った例もあったといい、正に「犯罪インフラ」の側面もあるといえます。また、東京都中央区の「HARUMI FLAG」の歩道脇にある柵に設置し、管理する東京都の業務を妨害したとして、警視庁が不動産会社代表の男性を軽犯罪法違反(業務妨害)容疑で書類送検した事例も直近ではありました。
NETFLIXでも話題になった「地面師」ですが、積水ハウスが巨額の資金をだまされた事件では、関係者の裁判も終結、被害を受けた積水ハウスに対し株主代表訴訟が提起され、「経営判断に誤りがあった」として損害と同額の支払いを求めたものの、大阪地裁は「各部署で検討された結果を信頼して経営判断をすることは合理的」と判断、訴えを退け、大阪高裁で判決は確定しています。一連の訴訟で明らかになったのは、売れそうな他人の土地に目をつけて所有者になりすまし、スピーディーに売買契約にまで至る地面師たちの手慣れた手口で、準備を始めてからわずか5カ月ほどで、地面師グループは巨額を手にしています。本コラムでもたびたび取り上げてきたとおり、積水ハウスの事件では、巨額詐欺の兆候を感じ取っていた社員がいたにもかかわらず、好立地でのマンション開発事業への期待感からか異例のスピードで社内決裁が進んだ「脇の甘さ」が突かれる形となりました。土地の争奪戦が激しく、好物件の情報が流れた途端に警戒度が下がる心理が狙われるのであり、こういう時ほど様々な立場の人間が重層的に確認する手続きが不可欠だといえます。また、地面師の事件ではさまざまな「犯罪インフラ」が登場します。読売テレビでノンフィクション作家・森功氏が解説している内容によれば、グループは10人前後で構成され、役割を分担して犯行に及び、主犯格はリーダー・その下にいる“なりすまし役”の手配や演技指導を行う「手配屋「、そして「地主のなりすまし役「、「法律屋」「道具屋」「銀行屋」の他にも交渉役の「取引の仲介役」や土地情報をリサーチする「情報屋」などがおり、横の繋がりは希薄だということです。「横の連絡を、あまり取らせないようにしている。後々、芋づる式に犯行がバレてしまうことを嫌がるし、『頼まれたからやっただけ』という言い訳として成り立つような仕組みを作ります」、「地主なりすまし役は、詐欺師ではないです。前科・前歴があったら、地主なりすまし役にはなれないから、素人を連れて来るんです」「金に困っている一般の高齢者を誘い込むケースが多い」といった状況は、闇バイト経由の犯罪を操るトクリュウに通ずるものがあると感じました。また、「ICチップ付きカードを読み取るなど、既に精度の高い本人確認方法はあるが、全ての人がカードを持っていないため、読み取りが義務化されていない。カードが普及すれば、防止効果になる。しかし、確実に防ぐのは困難」だとの指摘や、「不良退職者の元プロがいます。例えば、『銀行屋』には職場でトラブルを起こして辞めた元銀行員がいて、今勤めている人と変わらない知識を持っていますから、どういう所が見られるかも詳しいです」、「ICチップよりももっと正確な『顔認証』などで登録するような時代にならないと、難しいと思います」といった指摘も考えさせられます。一方、完全にICチップでの読み取りや顔認証などに限定される本人確認手続きが導入されれば、地面師を取り巻く「犯罪インフラ」の機能が著しく減じられる可能性が示唆されています。直近摘発された事件では、「ニンベン師」と呼ばれる偽造の職人が、印鑑証明書を偽造、用紙は自治体などで取得できる本物で、特殊な技術で名前や印鑑などを緻密に削り取り、印刷、押印し直すという方法がとられます。確認に当たった司法書士も見抜けない鮮やかな手口だといいます。報道によれば、「土地が売りに出る」という情報が流れた結果、本物の所有者のもとに売却意思確認などの問い合わせが殺到、危険を察知した所有者が法務局に不正登記防止を届け出たため、不動産会社の登記申請は却下されたといいます。地面師も戦後から時代に合わせて手口を進化させてきたものの、やりづらくなっているのは間違いないようです。
スマートフォンを使うために必要な「SIMカード」などを他人になりすまして不正に入手する外国人犯罪グループの一員と共謀したとして電子計算機使用詐欺罪に問われた携帯電話販売店の副店長だった男性に対し、福岡地裁は、無罪判決(求刑・懲役2年6月)を言い渡しています。裁判官は「なりすましと認識していたとは言い切れない」と判断したものです。判決によると、外国人犯罪グループの一員だったベトナム人男性=同罪などで有罪判決確定=が2022年9月、携帯電話販売店に来店、ともに来店したなりすまし役の2人が他人の運転免許証を使ってSIMカードを計10件契約、この際、なりすましと認識しながら契約したとして男性は起訴されたものです。公判で「なりすましに気付かなかった」と起訴内容を否認し、主な争点はグループの一員のベトナム人男性らとの共謀が成立するかでしたが、判決は、なりすまし役と名義人の顔がどれほど似ているのかが定かではないため「契約を進めたとしても即座になりすましと知って契約したとはならない」と指摘、男性が会社側が定めた厳重な本人確認のルールを順守していなかったとみられるのは「営業成績のため社内ルールとおりの本人確認をしなかった可能性は否定しきれない」と指摘しています。ベトナム人男性らは公判で「男性はなりすましと分かっていたと思う」と証言していましたが、判決は「指示役からの伝聞で正確性には疑義がある。実際の指示役の認識は社内ルールを順守しないので結果としてなりすましによる契約が容易であり、男性を利用していた程度の可能性を否定しきれない」とし「故意や共謀の事実を認めるに足りない」と判断したものです。営業成績のために杜撰な本人確認手続きが横行しており、その脇の甘さが突かれていることをあらためて認識し、第1線のリスクセンスの向上やルールに対する深い理解と正確な業務遂行をいかに行っていくが企業にとっても問われているといえます。
認知症などの高齢者をターゲットにした訪問販売や詐欺などのトラブルが後を絶たず、未然防止や早期発見につなげるため、悪質業者から押収した通称「カモリスト」を逆手に取るなど、行政も知恵をこらした取り組みを進めているといいます。消費者庁の研究によると、全国の消費生活センターに高齢者が契約者本人として自ら相談した割合は2023年に約8割に上り、一方で、認知症など判断能力が不十分とみられる高齢者に限ると、自ら相談するのは約2割にとどまり、本人以外の家族や介護関係者らが代わって相談するケースが約8割だったといいます。報道で、研究に携わった成本迅・京都府立医科大教授は「認知症の本人は自分が被害にあったと気づきにくい。周りが普段の会話から『これは怪しい』と気づくことが多い」と指摘しています。未然防止の先進的な事例の一つに、「カモリスト」を逆手に取った滋賀県野洲市の取り組みが紹介されています。訪問販売などの悪質な業者は、だましやすそうだと見た高齢者らの顧客名簿、通称「カモリスト」を作っている場合が少なくなく、「犯罪インフラ」となっています。野洲市は消費者庁や警察が押収したリストを情報提供してもらい、住民基本台帳などと突き合わせて独自の見守りリストにしているといいます。
自治体が提供する「デジタル地域通貨」を、フィッシングで盗み取ったクレジットカード情報を用いてチャージする不正が全国各地で確認されているといいます。チャージや決済時に5~数十%の高いプレミアムが付くため標的にされているとみられ、お得を売りに多くのプレミアムを付けて販売することで、セキュリティにコストをかける余力がなくなっている可能性も指摘されています。捜査関係者は、本人確認手続きを厳格にするなどのセキュリティ対策強化や事前登録した名前と異なる名義のカードではチャージできない仕組みにすべきと呼び掛けています。実際に大阪府警は、豊中市内の加盟店で利用できる同市のデジタル通貨「マチカネポイント」を不正取得したとして、電子計算機使用詐欺などの容疑で、ベトナム国籍の20~40代の男女7人を逮捕しています。マチカネポイントのチャージ限度額は1人5万円で、最大2500円分のプレミアムが付く仕組みで、2023年11月6~7日、1枚のクレジットカード情報で複数人分チャージする手口で、7400万円相当が不正取得された疑いがあり(うち計約2100万円分が転売目的でのゲーム機の購入に充てられていたといいます)、府警は7人以外にも関与したグループがいるとみて捜査しているといいます。報道によれば、捜査関係者は「新規導入の際にフィッシンググループに狙われる場合が多い」と警戒、管理アプリのセキュリティを高めるように働き掛けているものの、自治体関係者は「フィッシングで認証情報も盗み取られている場合は防ぎようがない」と頭を抱える状況となっています。
2024年11月20日付毎日新聞の記事「知らぬ間にトレカ購入178万円 クレカを不正利用された記者の教訓」は、実際にクレジットカードの不正に直面した記者の対応を通して、犯罪の実態を垣間見ることができる興味深い内容でした。具体的には、「大金が使われた先はトレーディングカード(トレカ)の通販会社だった。日本のアニメを扱ったトレカは海外でも人気が高く、数百万円規模で取引されることも珍しくない。転売もしやすい。驚いたのは、不正利用した翌日と4日後の2回にわたり、ある食品通販会社のサイトにカードを登録しようとした形跡があったこと。カードは停止されているため被害はなかった。「悪用後の再アタックは不正犯のよくやる行為です」とセキュリティ担当者。一度決済に成功すると、カードがまだ使えるかどうか調べるため、別のサイトで登録を試みるのだという」、「セキュリティ担当者は「特定することはできませんが」と断った上で、今回の場合はセキュリティコード(カード裏面に印字されている3桁の数字)も使用されており、過去に利用した電子商取引(EC)サイトが外部から攻撃を受け、情報を抜き取られた可能性が考えられると話す。メールや画面のなりすましによるフィッシングと合わせると、最近の情報流出のほとんどを占めるという」、「経済産業省は2025年3月末までに、カード情報に加えて、ワンタイムパスワードなどを用いて本人確認を行う仕組みの導入を原則全てのEC加盟店に求めている」といった内容ですが、こまめに明細を確認する、いつものルート以外での決済の場合に通知が送られてくるよう設定する、といった平時からの取り組みが、(未然防止は難しくても)被害拡大の防止のためには有効であることをあらためて痛感させられます。
海外での「BONSAI」ブームを背景に、日本各地の専門店などで盆栽の盗難が後を絶たないといいます。業界団体が確認できただけで昨春以降、被害は少なくとも約30件に及ぶといい、高級品を狙って盗み、被害者に「身代金」を要求するケースも確認されているといいます。業界団体などは、防犯対策に、盆栽にGPSなどを装着することも有効だとしています。なお、愛知県警が2024年3月、米アップルの「AIrTag(エアタグ)」の位置情報を端緒に、ベトナム人の盆栽窃盗グループを摘発した事例もあります。報道によれば、このグループは、神奈川県の自営業の男性方から盆栽7鉢(時価計765万円相当)を盗んだなどとされ、中には時価100万円超の盆栽もあり、男性が一部にエアタグを装着していたといいます。この位置情報を元に愛知県警が調べたところ、県内で盆栽を載せた車を発見、グループの関与が浮上し、男4人を窃盗容疑などで逮捕したものです。県内では、2023年末から2024年3月にかけて盆栽を狙った盗難事件が相次ぎ、グループが一部事件にも関与、グループの拠点だったアパートには転売目的とみられる多数の盆栽があったといいます。
東京都議ら地方議員のマイナンバーカードを偽造して銀行口座を不正に開設したり、スマートフォンを詐取したりしたとして、愛知県警などは、名古屋市東区の自営業の被告=詐欺罪などで起訴=を詐欺容疑などで追送検しています。事件では、HPなどで公開されている電話番号や住所などが悪用されましたが、地域の「相談役」として、いつでも連絡を受けられるよう個人情報を公開している議員は多く、事件を受けて議員活動にも支障が出ているといい、公開か、非公開か、議員らは頭を悩ませていると報じられています。マイナンバーカードは最強の「犯罪インフラ」にもなりえるものであり、公開情報の「犯罪インフラ」化とあわせ、かなり悩ましい問題だといえます。
消費者を欺いて定期購入契約を結ばせたり、時間がないことを示して焦らせて商品を購入させたりするネット上の仕掛け「ダークパターン」の被害を防ぐため、IT企業や政府が対応に乗り出しています。被害額は1兆円を超えるとの試算もあり、官民で対策を進めるとしています。インターネットイニシアティブ(IIJ)の調査によれば、78.2%が「ダークパターンという言葉や手法を知っていた」と回答、30.2%が金銭的な被害に遭っていたことも判明、同社は国内の被害額が1兆~1兆6000億円と推計しています。同社などは、一般社団法人「ダークパターン対策協会」の設立を公表、消費者問題に詳しい大学教授や弁護士が理事を務め、消費者庁や総務省も協力していくといいます。2025年初めにダークパターンにあたる不適切な事例を示し、2025年7月にもこれを排除したサイトを運営している企業を認定する仕組みをつくるとしています。日本ではダークパターンの定義が定まっておらず、直接的に規制する法律はありません。消費者庁は2024年、初めてダークパターンの実態調査に乗り出しており、具体的な事例や被害状況などを調べ、2024年度内にも結果を取りまとめる方針といいます。一方、海外では、ダークパターンの対策が進んでおり、EUは、「デジタルサービス法」で消費者を欺くウェブデザインを禁止しています。報道で消費者問題に詳しい岡田淳弁護士は「日本では、業者にも消費者にもダークパターンが問題だという意識がまだ十分に浸透していない。ネットでは過度に購入意欲をあおるケースも多く、どういう事例がなぜ問題なのか理解を深める必要がある」とすて指摘しています。
かつて厳しい取り立てで悪評が高かったヤミ金融業者を巡り、相談や摘発が減少する一方で、姿形を変えて脅威となっている実態があります。している。2003年に大阪府八尾市の主婦ら3人が取り立てを苦に心中したのを機に、法改正で規制が強化された経緯がありますが、全国で多重債務に苦しむ人はまだ多く、規制の網をかいくぐる形で違法な高金利を得る業者は後を絶たず、時代とともに形態も変え、ヤミ金が犯罪組織の資金源にもなる構図は変わっていません。直近で摘発された事例では、インターネットでスマホなどの不要品買い取りを装い、現金を振り込む「先払い買い取り」の手法でヤミ金業を営んでいたといい、運営していた中古品買い取りサイトを通じ、利用者に査定名目でスマホやゲーム機の画像を送信させ、買い取り代金として現金を入金、その後、「商品が届かない」との名目で、入金額に高額な「違約金」を上乗せして支払うよう利用者に求める形で、法定の約21~110倍もの高金利で金を貸していたもの(違約金の部分が事実上の金利になるスキーム)です(容疑者らが延べ約1万2400人に違法な貸し付けを行い、約2億1000万円を貸し付け、利息で約1億5000万円を得ていたとみられています)。ヤミ金は、近年は貸借関係を通常の商行為と装う手口も多く、「時代に合わせた形で超高金利の違法な営業が続けられている」(警察幹部)といい、具体的には、今回の「先払い買い取り」のほか、支給前の給与を債権として買い取り、先に現金を渡す「給与ファクタリング」などが確認されています。さらに、ヤミ金は、返済に行き詰まれば口座の売買や闇バイトのような犯罪に従事させられる可能性も否定できず、最悪の「犯罪インフラ」でもあります。
通販サイトの返金手続きを装い、「PayPay」などのQRコード決済を悪用して金銭をだまし取る詐欺被害が目立ち始めています。決済アプリの普及に乗じた新手の還付金詐欺とみられ、2024年の被害額は都内だけでも1億円を超えたといいます。キャッシュレス決済を巡る詐欺はクレジットカードの不正利用が多いところ、QRコード決済にも広がる可能性があります。経済産業省によると2023年の個人消費のキャッシュレス決済総額126兆7千億円のうち、QRなどのコード決済は10兆9千億円(8.6%)を占めています。一連の手口は、還付金がある」とかたりATMを操作させ現金をだまし取る特殊詐欺の1類型である「還付金詐欺」と似ており、QRコード決済の普及に合わせ、旧来の還付金詐欺の手法をバージョンアップさせたと考えられています。だまされないためには詐欺の入り口となる偽サイトを見破ることが重要になります。国民生活センターは偽サイトの特徴として「日本語が不自然」「一般的に入手が難しい商品が買える」「ブランド品の価格が他サイトより安い」などを挙げています。また、利用したサイトの真偽が不明な場合でも「返金する」という連絡には注意が必要で、警視庁は「案内された方法で本当に返金が可能か、落ち着いて判断してほしい」と警戒を促しています。NRAでも触れられていますが、キャッシュレス決済を悪用した犯罪では番号盗用といったクレジットカードの不正利用も増加傾向にあり、日本クレジット協会によると、2023年の被害額は540億9千万円で過去最悪となり、2024年1~6月の被害額も268億2千万円となり、2023年同期(262億8千万円)を上回るペースで推移しています。
コンピューターウイルスを福井県の10代男性のパソコンに送信し、ゲームなどのIDやパスワードを不正に取得したなどとして、福井県警は、不正指令電磁的記録供用などの疑いで、埼玉県の男子中学生(15)を書類送検しています。ウイルスは中学生が自作し「腕試しをしたかった」との趣旨の供述をしているといいます。インターネット上に個人情報が流出していることに気付いた男性が福井県警に相談し発覚したもので、男性の住所や名前は一時、SNS上に投稿されていたものの、現在は削除されています。生成AIを使ってウイルスを作成した事件も発生していますが、ランサムウェア攻撃がRaaSによって攻撃主体の多様化が進んでいるほか、トクリュウが匿名性の高い通信アプリを自作する、ローンオフェンダーが自作の銃や爆弾を作成するなど、多くの分野で「犯罪インフラ」が一般人でも容易に作成可能な状態、容易に悪意ある攻撃化できる状態となっています。それを可能にしているのが、インターネットやSNSであり、その「利便性」を裏返したものといえます。現在の社会は正に「危険と隣り合わせ」であることを感じさせます。
重要インフラへのサイバー攻撃を未然に防ぐ「能動的サイバー防御(ACD)」の導入に向けて議論してきた政府の有識者会議(座長・佐々江賢一郎元外務事務次官)は、憲法が定める「通信の秘密」の制限を一定の条件下で容認する提言を示しています。政府は提言を受け、2025年1月に召集される通常国会にACDの関連法案を提出する方針としています。いよいよ本格的な議論が始まるということで、筆者としても大きな期待をもって見守りたいと思います。提言は、政府がネット上の通信情報を収集・分析することを可能にする新たな制度の必要性を強調、今後、政府が集める情報の範囲を必要最小限にとどめ、目的外に流用されないことを担保する法整備が焦点となります。政府による国民の通信情報の監視にもつながりかねないため、導入にあたっては世論の反発が高まる可能性がありますが、議論の精緻化を通して正しく丁寧に国民に対して説明していくことが求められます。提言は現状について、国民生活に不可欠なインフラへのサイバー攻撃が、国家を背景にした形でも日常的に行われているとの認識を示し、「サイバーの世界は常に有事であるとの危機意識を持った対応が求められる」と指摘、平時から有害なサーバーにアクセスし無害化する権限を政府に付与することは必要不可欠と明記したほか、憲法21条が定める「通信の秘密」の保護については、サイバー攻撃を防ぐという「公共の福祉」のためであれば、「必要かつ合理的な制限を受ける」との考えを示しました。一方で、メールの中身といった「個人のコミュニケーションの本質的内容」は「分析する必要があるとはいえない」と指摘しています。また、政府による収集・分析が適切に行われているかを監督する独立機関の創設も求めています。さらに、サイバー攻撃は海外のサーバーを経由して行われることが多いため、政府関係者は、国内の個人や事業者同士の通信情報は、原則として集めないとしたほか、電力・ガス事業者などがサイバー攻撃に遭った場合、国民生活への影響も大きいため、重点的に監視対象とすることに加え、有事に自衛隊や在日米軍が依存するインフラなどへの攻撃も「重点とすべき」と強調しています。さらに提言は、定期的に報告書を公表するなど適切な情報公開の必要性を訴えています。筆者としてもまずは妥当な内容だと感じています。
▼内閣官房 サイバー安全保障分野での対応能力の向上に向けた有識者会議
▼サイバー安全保障分野での対応能力の向上に向けた提言(概要)
- 実現すべき具体的な方向性
- 官民連携の強化
- 国家をも背景とした高度なサイバー攻撃への懸念の拡大、デジタルトランスフォーメーションの進展を踏まえると、官のみ・民のみでのサイバーセキュリティ確保は困難。インフラ機能など社会全体の強靱性を高めるため、産業界をサイバー安全保障政策の「顧客」としても・位置づけ、政府が率先して情報提供し、官民双方向の情報共有を促進すべき。
- 高度な侵入・潜伏能力を備えた攻撃に対し事業者が具体的行動を取れるよう、専門的なアナリスト向けの技術情報に加え、経営層が判断を下す際に必要な、攻撃の背景や目的なども共有されるべき。情報共有枠組みの設置や、クリアランス制度の活用等により、情報管理と共有を両立する仕組みを構築すべき。
- これらの取組を効果的に進めるため、システム開発等を担うベンダーとの連携を深めるべき。脆弱性情報の提供やサポート期限の明示など、ベンダーが利用者とリスクコミュニケーションを行うべき旨を法的責務として位置づけるべき。
- 経済安保推進法の基幹インフラ事業者によるインシデント報告を義務化するほか、その保有する重要機器の機種名等の届出を求め、攻撃関連情報の迅速な提供や、ベンダーに対する必要な対応の要請ができる仕組みを整えるべき。基幹インフラ事業者以外についても、インシデント報告を条件に情報共有枠組みへの参画を認めるべき。被害組織の負担軽減と政府の対応迅速化を図るため、報告先や様式の一元化、簡素化等を進めるべき。
- 通信情報の利用
- 先進主要国は国家安保の観点からサイバー攻撃対策のため事前に対象を特定せず一定量の通信情報を収集し、分析。我が国でも、重大なサイバー攻撃対策のため、一定の条件下での通信情報の利用を検討すべき。
- 国外が関係する通信は分析の必要が特に高い。まず、①外外通信(国内を経由し伝送される国外から国外への通信)は先進主要国と同等の方法の分析が必要。加えて、 ②攻撃は国外からなされ、また、国内から攻撃元への通信が行われるといった状況を踏まえ、外内通信(国外から国内への通信)及び内外通信(国内から国外への通信)についても、被害の未然防止のために必要な分析をできるようにしておくべき。
- コミュニケーションの本質的内容に関わる情報は特に分析する必要があるとは言えない。機械的にデータを選別し検索条件等で絞る等の工夫が必要。
- 通信の秘密であっても法律により公共の福祉のために必要かつ合理的な制限を受ける。先進主要国を参考に明確で詳細なルールとなるよう考慮し、緻密な法制度を作るべき。その際、取得及び情報処理のプロセスについて独立機関の監督が重要。
- なお、通信当事者の有効な同意がある場合の通信情報の利用は、同意がない場合とは異なる内容の制度により実施することも可能であると考えられる。その際、制度により、基幹インフラ事業者の協議の義務化等で、必要に応じ、同意を促すことが考えられる。
- 性質上非公開とすべき範囲はあるが適切な情報公開は行われるべき。公開困難な部分を独立機関の監督で補うべき。
- アクセス・無害化
- サイバー攻撃の特徴((1)危険の認知の困難性、(2)意図次第でいつでも攻撃可能、(3)被害の瞬時拡散性)を踏まえ、被害防止を目的としたアクセス・無害化を行う権限は、緊急性を意識し、事象や状況の変化に応じて臨機応変かつ即時に対処可能な制度にすべき。こうした措置は、比例原則を遵守し、必要な範囲で実施されるものとする必要。その際、執行のシステム等を含め、従前から機能してきた警察官職務執行法を参考としつつ、その適正な実施を確保するための検討を行うべき。
- 平時と有事の境がなく、事象の原因究明が困難な中で急激なエスカレートが想定されるサイバー攻撃の特性から、武力攻撃事態に至らない段階から我が国を全方位でシームレスに守るための制度とすべき。
- アクセス・無害化の措置の性格、既存の法執行システムとの接合性等を踏まえ、権限の執行主体は、警察や防衛省・自衛隊とし、その能力等を十全に活用すべき。まずは警察が、公共の秩序維持の観点から特に必要がある場合には自衛隊がこれに加わり、共同で実効的に措置を実施できるような制度とすべき。
- 権限行使の対象は、国の安全や国民の生命・身体・財産に深く関わる国、重要インフラ、事態発生時等に自衛隊等の活動が依存するインフラ等へのサイバー攻撃に重点を置く一方、必要性が認められる場合に適切に権限行使できる仕組みとすべき。
- 国際法との関係では、他国の主権侵害に当たる行為をあらかじめ確定しておくことは困難。他国の主権侵害に当たる場合の違法性阻却事由としては、実務上は対抗措置法理より緊急状態法理の方が援用しやすいものと考えられるが、国際法上許容される範囲内でアクセス・無害化が行われるような仕組みを検討すべき。
- 横断的課題
- 脅威の深刻化に対し、普段から対策の強化・備えが重要であり、サイバーセキュリティ戦略本部の構成等を見直すとともに、NISCの発展的改組に当たり政府の司令塔として強力な情報収集・分析、対処調整の機能を有する組織とすべき。
- 重要インフラのレジリエンス強化のため、行政が達成すべきと考えるセキュリティ水準を示し、常に見直しを図る制度とするとともに、政府機関等についても国産技術を用いたセキュリティ対策を推進し、実効性を確保する仕組みを設けるべき。
- 政府主導でセキュリティ人材の定義の可視化を行い、関係省庁の人材の在り方の検討を含め、非技術者の巻き込みや人材のインセンティブに資する人材育成・確保の各種方策を自ら実践しながら、官民の人材交流を強化すべき。
- サプライチェーンを構成する中小企業等のセキュリティについて、意識啓発や支援拡充、対策水準等を検討すべき。
- 官民連携の強化
政府は電力、水道、医療などの重要インフラ事業者が使用するIT機器やソフトウェアの情報を国に登録するよう義務づけ、新たなサイバー攻撃の手法が判明した際、すぐに事業者に周知できるようにして被害の拡大や社会の混乱を防ぐとしています。相手の攻撃を未然に防ぐ「能動的サイバー防御(ACD)」を可能にする法整備と合わせて新制度をつくるということです。クラウドサービスが普及して社会のデジタル化が進み、目に見えないサイバー攻撃は質、量ともに深刻化、不正アクセスやランサムウェアといったサイバー攻撃は機器の設計上の不具合やプログラム上のバグといった脆弱性を突くケースが多いものの、こうした脆弱性は年間で3万件ほど公表され、ごく一部がサイバー攻撃に悪用される実態があります。情報通信や電力、金融などIT化が早くから進んだ業界・企業で対策が進む一方で、地方の水道や鉄道、経営規模の小さい新電力などはサイバーセキュリティ投資の余力が乏しいとされます。IT機器の登録の対象はインフラ事業者が使用するサーバーや通信機器、基本ソフト(OS)やファームウエア(基盤ソフト)などを想定、登録を義務にすることで事業者による自主的な機器・ソフトの管理や更新の徹底を促す効果があるほか、政府が新たな脆弱性を把握した場合、関連する機器・ソフトを使っている事業者に個別に注意喚起できるようになります。また、安全な製品開発や脆弱性対応に関するベンダーの責務を明確にする方向で、脆弱性を発見した際に情報提供などを求める案があるなど、負担が重い中小ベンダーへの支援も検討するとしています。また、総務省と経済産業省は、富士通やNECなど医療向けシステムを扱うIT企業を対象にした情報セキュリティの指針を2024年度内に改定するとしています。病院とIT企業との間で責任分担を明確にして、サイバー攻撃への対処力を高める狙いがあります。医療機関はIT人材が組織内に少ないため、導入するシステムの内容を企業任せにする傾向があり、サイバー空間を巡るリスクの把握が進まず、攻撃を受けたときに医療機関とIT企業でどちらが問題を解決するか曖昧な状態になっている事例が多いといいます。問題が生じたときにIT企業から対応は契約外だとして対応を断られ、医療機能の復旧が遅れることもあったようです。また、患者の氏名、住所などの個人情報のほか、診察情報が漏洩すれば、悪用される恐れもあります。指針では医療機関とIT企業が実施するセキュリティ対策の範囲を契約書に明記するよう促すとしています。また、医療システムの開発企業だけでなく、システムにネットワークで接続し、医療機関と保守契約を結んでいる事業者は指針の対象となるといいます(今までの指針は対象企業の範囲が曖昧だった面があり、より明確に範囲を決めるとしています)。さらに、経済産業省は、半導体関連企業に対し、サイバー攻撃対策を補助金支給の条件とする方針を固めています。半導体企業では、ランサムウェアの被害を受けた事例が多く、保有するデータがハッキングされてインターネット上で公開されたり、生産停止に追い込まれたりしています。経済安全保障上の重要度が高い半導体産業は標的になりやすく、新たに業界統一の指針を策定して対策強化を求めるものです。政府は2030年度までに10兆円以上を支援する方針で、補助金の条件とすることで事実上の義務となります。対策を求めるのは半導体メーカーのほか、半導体製造装置や部品・素材メーカーなどで、サイバー攻撃から守る対象には生産活動だけでなく、メーカーの知的財産や先端技術情報、顧客から開示された半導体設計情報も含めるほか、経産省所管の独立行政法人「情報処理推進機構(IPA)」のサイバー攻撃情報の集約・分析機能も強化します。また、政府と産業界、メーカーの間の情報共有を進めるため、新たに設ける組織や人材育成プログラムへの参加を呼びかけるとしています
オーストラリア(豪)議会上院は、16歳未満のSNS利用を禁じる法案を賛成多数で可決しています。法案はすでに下院を通過しており、近く連邦総督の裁可を受けて成立する見通しです。豪政府によると成立後、1年の猶予期間を経て施行されるといいます。豪政府は「世界をリードする法律を導入する」と強調しており、各国のSNS対策に影響を与える可能性があります。SNSを介した子供のいじめや性犯罪、有害な投稿の閲覧を防ぐのが狙いで、規制強化を求める保護者団体の訴えを受け、アルバニージー政権が法案を提出、SNSを運営する企業に対し、子供がアカウントを持つことを防ぐ合理的な措置を求め、違反した場合は最高4950万豪ドル(約50億円)の罰金を科すものです(保護者や子供への罰則は設けない)。XやTikTok、インスタグラムなどが禁止される一方、健康や教育関連のサービスにあたるとされたユーチューブは禁止対象から外れています。Xは豪議会に提出した意見書で「法案が可決されれば情報にアクセスする権利が侵害され、子供の人権に悪影響を与える」と反対しています。一方、「子どもの利用禁止がかえって運営企業による安全対策への投資を減退させる可能性」や、「オンライン空間は子どもが家族や友人とつながり、身の回りに広がる世界について学ぶ場でもある。子どもにとって重要な機会だ」と主張する専門家もおり、全面的なSNS利用の禁止は、子どもの「情報へのアクセス権」の侵害につながるとの見解も示しています。また、プラットフォーム事業者も慎重な姿勢で、インスタグラムとフェイスブックを運営する米メタは、豪政府の意向を尊重しつつ、「どのように(子どもを)保護するか、深い議論が欠けている」と声明で指摘、子どもが使うアプリを親が管理できるツールの導入が「シンプルで効果的な解決策だ」と訴えています。さらにグーグルとメタは、年齢認証システムの試験結果を待ってから法制化を進めるべきだと指摘、TikTokは法案に明確さが欠けていると指摘し、専門家などとの詳細な協議なしに法案を可決しようとする政府の計画に多大な懸念があると表明、イーロン・マスク氏のXは、法案が表現の自由や情報へのアクセスなど、子どもや若者の人権に悪影響を与えるとの懸念を示しています。子どものSNS利用規制の動きは他国でも検討が進んでおり、米フロリダ州では14歳未満の利用を禁止する法律が2025年発効する見通しであるほか、フランスでは2023年に15歳未満のSNS利用に親の同意を求める法案が可決されています。ノルウェーでも年齢制限を設ける動きがあります。日本政府もインターネットにおける青少年保護に関する検討会を立ち上げ、SNS上で若者を犯罪行為に勧誘する「闇バイト」への対策も議論することとしています。さらに、米ブルームバーグ通信は規制が効果を上げれば、IT企業が「広告主が重視する何百万人ものティーンエージャーという重要なユーザーグループ」を失うことになると指摘、SNSを巡る「ビジネスモデルがひっくり返される恐れがある」と言及しています。国内外でさまざまな議論がある中、筆者としては、公共政策論や情報社会論が専門の清泉女子大学・山本達也教授の朝日新聞でのコメントである「SNSは、コミュニケーションの場としての公共財的な側面を持ちますが、SNSを運営するプラットフォーム事業者は、利益を最大化させることを目的にしています。その収益モデルは、1秒でも長くユーザーをSNS上に滞在させることで広告収益につなげようというもので、ユーザーをSNSに「依存」させるような仕掛けもされています。そうした矛盾した性質を持つSNSを若者がどう使っていくべきか、この規制を機に徹底的に議論することには意義があると思います」、「規制をしても、年齢認証の抜け穴はできるでしょう。この法案に関わらず、例えば非民主主義国のSNS制限の研究をして思うのは、たとえSNSを禁止しても、ユーザー自身が規制を回避しようとする意思を持つ限り、抜け穴はいくらでもできるということです。ですから、法整備そのものの実効性というよりも、その過程で社会で議論されることに意味があると思います。その結果として、ユーザーである若者自身がSNSにまつわる様々なリスクを認識できるようになれば、自ら判断して自主規制を促す効果があると思います」といった主張に共感を覚えました。
中国がSNSやインターネットの規制を一段と強化しています。デマや詐欺の急増が背景にあり、インフルエンサーに実名表示を義務づけたり、ネット専用のID番号の発行準備を進めたりしています。当局は個人情報保護をうたうものの、言論統制の思惑も透けて見えます。報道によれば、新規則の草案では、ネット専用のID番号と身分証は「自発的に申請することができる」と定めるものの、誰がどのサービスを利用し、どのSNSにどのような投稿をし、閲覧しているかといったネット空間での行動履歴を一元的に把握しやすくなります。中国では鉄道や航空機の搭乗、宿泊や観光など多くの場面で18桁の数字を記した写真付きの身分証(外国人はパスポート)の提示が必要で、個人の移動履歴は把握可能となっており、新規則はこのネット版といえます。
AI/生成AIを巡る最近の報道から、いくつか紹介します。
- 米グーグルが圧倒的なシェア(占有率)を持つインターネット検索サービスで、AIの開発企業による生成AIを使った検索サービスの開始が相次いでいます。AIが情報を要約した文章を検索結果として提示するサービスは従来の検索よりも利便性が高いとされますが、著作権侵害など普及には解決すべき課題も少なくありません。実際、株価やスポーツの試合結果などの検索結果に誤情報が表示されたり、回答の情報源となった報道機関の記事の無断利用が指摘されたりといった問題が起きています。米紙WSJの発行会社は2024年10月、パープレキシティを著作権侵害で提訴、日本新聞協会も7月にAI検索は著作権侵害の可能性が高いと指摘する声明を出しています。グーグルの検索サービスが反トラスト法(独占禁止法)に違反しているとの米連邦地方裁判所の判決を受け、米司法省は11月、グーグルの検索サービス市場の支配を解消するための処分案を同地裁に提出、処分案では、グーグルの検索サービスと関係の深いウェブブラウザー「クローム」の売却を求めたのに加え、サイトの情報の無断利用を問題視し、グーグルのAI検索の回答に情報が使われることをサイト側が拒否できる仕組みの導入も盛り込まれています。
- 2024年11月21日付読売新聞の記事「Iとの共存、重要な分岐点…栗原聡・慶応大教授インタビュー 生成AI考〈5〉」で栗原教授が、「今まで人間はテクノロジー(科学技術)で機械を作ったり業務の効率化を図ったりしてきたが、チャットGPTは「人間の知識」を蓄積した点で、これまでのテクノロジーとは質が全く異なる」、「AIの技術は、人間の指示に従って動く「道具型」から、人間の指示がなくても自分で考えて動く「自律型」に移行する発展途上の段階だ。使い方も分からず、法律もルールも定まっていない。現時点でAIを人間の生命に絡むところで使用するのは難しく、「道具」として人間がコントロールできる範囲で使う必要がある。短期間で新しい技術が出てくるのは素晴らしいことだが、この間、人類が大きく進化を遂げたわけではない。人間の脳に入る情報は膨大になったが、脳が情報処理するスピードは変わっていない。圧倒的な情報量に攻め立てられて、じっくり考える時間がなくなってしまった。DXが悪いとは言わないが、より安全に進めることが重要となった」、「AI単体ではただの知識の蓄積でしかなく、新しい何かを生み出すことは難しい。AIの回答に納得してしまえば、考えることをやめてしまう。そして、AIの言いなりとなって支配されてしまう。AIは、依存すればするほど、人間が物事を考えない方向に向かう道具である点に注意しなければいけない」、「AIの技術はどんどん進化するが、文化や習慣、価値観などはすぐには変わらない。導入には段階を踏むべきで、順番を間違えると、AIに支配される世界になりかねない。今のうちから、技術者や法律家、哲学者らが長い目で議論を深め、法制度の整備やルール作り、リテラシー教育を進めていくことが求められる。我々の世代でAIを使ってみて、著作権や個人情報の保護など、基本的なルールや倫理面の問題を自分の頭で考えることが大事だ。AIという相手を知ることから全てが始まると思う。その先に人間とAIとの共存の道が見えてくるだろう」などと指摘していますが、筆者としても重要な示唆を得られるものでした。
- 2024年11月20日付読売新聞の記事「[生成AI考]自動交渉 気づけば「談合」」も大変興味深いものでした。「人間が指示した範囲にとどまらず、AIが自ら考えて戦略を練ったり複雑な課題を解いたりする「AIエージェント(代理人)」の開発も進んでいる。応用例として注目されるのが、商品の取引などをAIが判断して行うNECの「自動交渉AI」だ」、「製品の生産計画が変更になった際の納期の前倒しの交渉などを行ったところ、140件の交渉のうち、95%でAIの交渉だけで結論が出て、時間も大幅に縮小できたという」、「自動交渉では、AIにある程度の自由度を与える代わりに、譲れない条件や妥協できる条件などを学習させる。しかし、東京大の和泉潔教授(知能情報学)は「AIの振る舞いは作成者の意図や予想を超えることがある」と話す。和泉教授らが、複数の売り手と買い手の自動交渉AIを使って利益を競わせた実験でのこと。取引不成立の際には保険金が入る仕組みを導入したところ、AIは、その仕組みを悪用する共謀相手を見つけ出し、不当に保険金を得たという。ほかに、複数のAIに販売価格を競わせたイタリアの研究チームの実験では、互いの利益を最大化するために価格競争を避け、高い販売価格で互いに受注を繰り返した。AI同士が意図したわけではないが、結果的に談合したかのような価格設定になった。AIが目標を達成することだけを考えれば、人間の目を盗んで不正を犯す手段を選ぶ危険性もある。「AIの振る舞いが社会の規範を逸脱していないかを確認するのにも、AIが使われるだろう。社会でAIをどう使うか、常に検討していかなければならない」と和泉教授は指摘する」といった内容が大変考えさせられました。また、「「質の高いデータは数年で枯渇するという見方もある」。栗原聡・慶応大教授(人工知能)はそう指摘する。人間が作り出すデータが限られているのに対し、インターネット上には生成AIが作ったデータが急増している。英オックスフォード大などの研究チームは、生成AIの作成データをもとに学習した生成AIは質が劣化し、最終的には意味不明なことを答えるようになるとする研究成果を7月、英科学誌ネイチャーに発表した。「モデル崩壊」と呼ばれる現象だ。生成AIは、膨大なデータの中で特徴的な要素を抜き出して学習する傾向がある。その結果、生成AIが作るデータに偏りが生じ、繰り返し学習すると、要素が単純化されて最終的には現実とかけ離れてしまう。生成AIの創造力にも限界がある。人間が生成AIの力を借りて物語を作ると、全体的に物語の多様性が損なわれたとする研究を、英エクセター大などのチームが7月に発表した。一方、言語情報よりもデータが不足しているのが、AIロボットを動かすためのデータだ」、「人間同士の対話は、考えたことを全て言葉にするわけではない。相手の反応を見て、心中を推し量りながら言葉を交わし合う。AIが、本人が伝えるつもりがない内容まで画面に表示させてしまうと、プライバシーが侵害され、相手を傷つけるなど人間関係のトラブルにも発展する恐れがある。柳沢教授は「技術開発を進める上で、人の思考がAIに読み取られるのをどこまで許容するか、プライバシーをどう守るかの議論が必要となる」と指摘する」といったものも極めて興味深いものです。
- 2024年11月19日付読売新聞の記事「[生成AI考]自動交渉 気づけば「談合」」では、「ウクライナ侵略に関してロシアが発する偽情報は、支援をためらわせる欧米向けや、兵士や国民の結束を揺さぶるウクライナ向けなどのほか、侵略への反発を招かないよう自国にも向けられる。国営メディアのプロパガンダやプーチン政権の支持者らがAIなどで生成した偽情報は、SNSに乗って国内外へ拡散している。露国内では欧米のニュース報道に「偽情報」とレッテルを貼り、侵略を正当化するのが恒例となっている。露外務省は「フェイクとの戦争」と題したSNSを紹介する。SNSでは、侵略開始後まもなくキーウ近郊ブチャで起きた露軍の民間人虐殺について、ウクライナの「やらせ」だったと偽りの主張を展開する検証動画が拡散している。露政府にとって都合の悪い情報を打ち消す役割を担う」、「ロシアが国内向けに偽情報を含むプロパガンダを活発化させているのは、戦闘の長期化に伴う厭戦ムードが国内に広がる事態を防ぎ、国民の不満が政権に向かうのを避けるためだ。プーチン氏は強権的に振る舞う一方、世論の動向には敏感だとされ、国内に米欧メディアのロシア批判が広がらないように言論統制を敷く」、「偽情報の発信源は、露国営メディアやロシアのプーチン政権支持者、親露派とみられる人物など様々だ。露情報機関が関与し、欧州メディアを装って発信する場合もある。ロシアの政治家や専門家らがSNSで情報を転載し、事実だと「お墨付き」を与えるのも常とう手段だ。偽情報は生成AIを利用し、ボット(自動投稿プログラム)を通じてSNSで国内外に拡散するケースもある。アフリカや中南米などのロシアの友好国では、プロパガンダや偽情報がそのまま報じられることがある。ロシアにとって都合の良い国際世論の形成につながるリスクが指摘される」、「米IT大手グーグルは2月に公表した報告書で、イスラエル国民の士気を低下させるための情報操作にイランが関与していたと指摘した。戦闘を続けるイスラエルとイスラム主義組織ハマスの双方の支持者もSNS上に偽画像を投稿し、「情報戦」を展開している。英紙ザ・タイムズによると、ガザ情勢に言及する投稿は昨年10月の戦闘開始から1週間で約7800万件確認された」、「現時点では生成AIによる偽動画や偽画像の質は高くないため、判別が可能だ。ただ、メディアリテラシー(情報を読み解く力)が低い人々は偽情報をうのみにしてしまう。センターには分析部門と監視部門に加え、メディアリテラシー部門があり、教育機関や政府機関向けに研修を行っている。偽情報対策では意識啓発が重要になる」と指摘されています。偽情報/誤情報の拡散にAI/生成AIやSNSが「犯罪インフラ」として悪用されている実態がよくわかります。
- 福岡県の魅力を発信するインターネットサイトに実在しない観光名所やご当地グルメが紹介された問題で、サイトを運営する東京のウェブ関連会社は、キャンペーンサイト「福岡つながり応援」を閉鎖しています。サイトは、2024年11月に福岡市の「うみなかハピネスワールド」や古賀市の「鹿児島湾」など誤った観光情報を配信、運営会社によると、記事は生成AIで作成したが、指摘を受けて削除されたといいます。
- 中国でAIを搭載したロボットが他のロボットを誘い、ショールームから集団で逃走を試みた様子とされる映像が公開され、SNS上で話題になっています。ロボットが人間の簡単な指示を受けて「誘拐計画」を自ら実行したとされ、AIの自律性能の高さに驚きと同時に懸念の声も出ています。映像は上海市のロボット展示センターの監視カメラで録画され、小型ロボット「二白」が、他のロボットと人間のように会話、二白が「まだ残業しているの?」「家に帰らないの?」と尋ね、ロボットは「仕事が終わらない」「家はない」と返答、二白が「じゃあ、僕と一緒に家に帰ろう」と説得すると、ロボットも「家に帰る」と応じ、二白の後を追い、さらに他のロボットも次々に追随し、その場に展示されていた10台以上の大型ロボットが、最終的にすべて持ち場を離れたというものです(ショールームの出口まで移動したが、自動ドアが開かず脱出できなかったといいます)。企業側は連れ出し以上の指示はなく、説得のための会話はAIが「自主的」に生み出したとも主張、これを受けて、AIとロボット工学の急速な進歩がもたらす潜在的な危険への懸念が拡がっているものです。
(6)誹謗中傷/偽情報等を巡る動向
日本の総選挙や兵庫県知事選、愛知県知事選は、選挙のあり方、SNSの活用など新たな論点を提示するものとなりました。一方、SNSが誹謗中傷の場、偽情報/誤情報発信の場となってしまった側面も否定できません。2024年11月25日付読売新聞の記事「正義と信じ「敵」攻撃、投稿が過激化し分断生む…「エコーチェンバー」と確証バイアスで先鋭化」はそうした実態を浮き彫りにする興味深いものでした。例えば、斎藤兵庫県知事のパワハラなどの疑惑を調査する兵庫県議会百条委員会の委員長である奥谷氏は、SNSで斎藤氏への支持が広がるのに比例し、「知事の失脚を裏で主導した」として誹謗中傷する投稿が拡散される被害にあいました。同氏は「自分についてSNSに書かれていることはデマばかり。こんなに身の危険を感じたことは初めてだ」、「大変強い恐怖心を覚え、(家族にも)避難してもらった。日常とは違う生活をせざるを得なくなり、いろんな業務に支障が出た」と述べています。SNSでは、似た意見の人とばかりつながるうち、考え方が偏る「エコーチェンバー」という現象が起こりやすく、東京大の鳥海不二夫教授(計算社会科学)の分析では、選挙期間中(10月31日~11月16日)、Xで斎藤氏を支持する投稿と反対する投稿を両方リポスト(転載)していたアカウントは全体の約10%にとどまり、支持派は支持派の投稿ばかりを転載し、反対派は反対派とばかりつながる「分断」が見て取れたといいます。それぞれの輪の中で過激な言葉が飛び交うエコーチェンバーが発生し、先鋭化していった可能性がある。また、同知事選で次点となった稲村氏は、自身が発言したことがない「外国人参政権を推進しようとしている」、「県庁建て替えに1000億円かける」といった誤情報がSNSで拡散、陣営にはそれを信じて抗議する電話が寄せられたほか、Xのルールに違反しているという虚偽の事実が通報され、後援会が選挙情報発信のため開設したアカウントが相次いで凍結される事態も発生しています(偽計業務妨害容疑や公職選挙法違反の疑い兵庫県警に告訴状を提出しています)。また、東京大の橋元良明名誉教授(情報社会心理学)は、こうした抗議電話について、「確証バイアスが働いたのではないか」と指摘、確証バイアスは、自分の意見や願望に合致する情報ばかりを集める心理傾向のことで、「『自分たちは正しい』と強く信じ、正義感が生まれて過激な行動を起こした可能性がある。冷静な議論を呼びかけても『敵』とみなされて受け入れられない」と説明しています。さらに、慶応大の山本龍彦教授(憲法学)は「SNSでの分断が加速すれば、選挙結果を暴力で覆そうとする米国やブラジルのような混乱状態に陥りかねない。極端な意見ではなく、客観的で有用な情報に触れやすい情報環境をどう構築していくか早急に議論しなければならない」と話しています。また、聞こえのいい政策や主張が広がりやすく、選挙の争点や構図を単純化し、ポピュリズムを増幅したり社会の分断を深めたりする懸念も浮き彫りになっています。SNS選挙は候補者や支持政党以外の参加者が自らの主張を発信し拡散させるのが特徴ですが、SNSにはアルゴリズムで接する情報が絞られる「フィルターバブル」などの特性があり、有権者は自身が求めたり好んだりする情報により触れやすくなり、そのためSNS空間の言説はときに先鋭化し、参加者がわかりやすさを求めて争点や構図が単純化される傾向をもたらすことになります。この点については、法政大の白鳥浩教授(政治学)が「SNSはデマや誤った情報に関係なく過激な情報が拡散しやすい」述べたうえで、動画の広告収入を目的に(いわゆる「アテンション・エコノミー」と呼ばれる構造で、兵庫県知事選では、ユーチューブでは斎藤氏を支持するチャンネルが乱立し、再生数が斎藤氏自身のチャンネルを上回ったものが少なくとも13あったといいます)選挙を商業利用することが誤情報の拡散に一役買っていると指摘、対応策の必要性を強調していますが、筆者も同感です。さらに、斎藤氏を支持する投稿約99万件の半数にあたる約49万件は、たった16アカウントが発信した786件が元になっていたといいます(16アカウントは全体0.9%にすぎません)。前述の鳥海教授は「日本でSNS上の広がりと選挙の関係は薄いとみられてきたが、今回は投票行動に一定の影響を与えたと考えられる」とし、「SNSには誤った情報が含まれるという前提で向き合うべきで、選挙でのSNSのあり方について社会で議論する必要がある」と指摘しています。
新型コロナウイルスの感染拡大を経て、動画投稿サイトやSNSに触れる人口や機会も増えており、選挙での影響力は拡大しています。そうした状況において、SNSが極端化(二極化)の傾向を推し進め、それによって社会の分断や単純化を助長する役割を担っていること、そもそもSNSの構造上の課題が内包されていること、アテンション・エコノミーがさらにその傾向を助長していること、一方で一部の意見が異常に増幅されていく可能性があること、こうした傾向がさらに過熱して民主主義を破壊する可能性があることを十分認識し、まずは一人ひとりが「SNSとの距離感」を正しくつかんでいくことが重要だと痛感させられます。
なお、前述の奥谷県議は、政治団体「NHKから国民を守る党」党首の立花孝志氏にSNSで虚偽の内容を投稿され、名誉を傷つけられたとして、兵庫県警に名誉毀損容疑で刑事告訴しています。告訴状では、立花氏が、疑惑を告発した職員が死亡した原因について、奥谷氏がマスコミに圧力をかけて隠蔽したなどとする虚偽の内容を、Xやユーチューブに投稿、これらの投稿後、奥谷氏の自宅や職場には、誹謗中傷の電話やファクスが寄せられ、「社会的名誉が大きく損なわれた」としています。 また、知事選の選挙期間中、立花氏が奥谷氏の自宅兼事務所前の路上で街頭演説し、「出てこい奥谷」などと発言したことについても、兵庫県警に脅迫と威力業務妨害の両容疑で被害届を提出しています。こうした状況について前述の白鳥教授は「誰でも発信可能なSNSでは、一部の悪意が増幅して深刻な事態につながる可能性がある。百条委の委員に対する中傷は、調査活動の萎縮を招く懸念もある。健全な民主主義のためにも、何らかの対策を考える必要がある」と指摘していますが、正にその通りだと思います。デマや誤情報が拡散する現状が憂慮される中、表現の自由との関連で規制自体は難しいかもしれませんが、動画投稿サイトを運営するプラットフォーマー側が自主的に動くことは可能であり、「場の健全性」の確保という社会的責任を果たすべく、選挙関連の動画から広告を削除するなど対処策も必要になるのではないかと考えます。
「財務省解体」「財務省は国民の敵」といった中傷コメントが急増するなど、財務省のSNSに異変が起きています。こうした動きは国民民主党の躍進と密接に関わっており、国民民主の玉木代表も「中傷や陰謀論はやめていただいて、データと数字にもとづく建設的議論をしていきたい。財務省を敵視しているという批判は当たらない」と火消しを図っているものの、収束の気配は見えません。報道である財務省幹部は「玉木氏は財務省批判をやめるようにもっとビシッと言ってほしい」と嘆く一方、国民民主関係者も「過激なことを言いすぎて、極端な考えの支持層が増えてしまった。この党は大丈夫なのだろうか」と懸念していると報じられています。
SNSによる誹謗中傷からアスリートを守るため、スポーツ庁が法的支援に乗り出しました。日本オリンピック委員会(JOC)などにサポートセンターを設置し、相談対応から一括して支援、競技に打ち込みやすい環境整備を進めるものです。近年はSNSによるアスリートへの中傷が相次いでおり、2024年夏に開催されたパリ五輪では別の種目に専念するために出場を辞退した選手を非難する投稿や、敗退して号泣する選手に心ない批判が集中しました(世界陸連は、パリ五輪を巡るSNSなどを通じた誹謗中傷についての研究結果を発表、五輪期間中の選手や関係者ら1917人のアカウントを対象に調査した結果、選手らを標的とした人種差別や性差別に基づくものが48%以上に達したと結論づけています。人種差別は18%、性差別は30%にものぼりました。AIも活用し、809件の投稿やコメントが虐待的と認定され、そのうち128件(約16%)が当該SNSのプラットフォームに対応が求められるほど悪質だったといいます)。まずはJOCと日本パラスポーツ協会(JPSA)にサポートセンターを設置、アスリートから相談を受け付け、訴訟などを希望した場合は弁護士らが支援するほか、パリ五輪で中傷被害を受けた選手には経費補助も検討するとしています。パリ五輪期間中はJOCが「侮辱、脅迫などの行き過ぎた内容に対しては、警察への通報や法的措置も検討する」との声明を出す事態に発展しましたが、悪質なコメントはサッカーやラグビーのW杯など大規模スポーツイベントが開催されるたびに問題になってきましたが、その一方、国内には無料で相談窓口を設置する組織や、相談内容に応じて削除要請する機関はあるものの、ワンストップで支援する体制は整っておらず、裁判費用も高額で、被害に遭ったアスリートは手続き面でも費用面でも大きな負担を余儀なくされてきました。なお、スポーツ庁が2024年4~6月に実施した調査によると、競技団体の4割が人手不足などを理由に誹謗中傷の防止策を実施していなかったといいます。
さいたま地裁は、在日クルド人らで作る「日本クルド文化協会」(埼玉県川口市)の事務所周辺で2024年11月24日に予定されていたデモに関し、デモを呼びかけた男性に実施を禁じる仮処分を決定しています。同協会は、デモは「ヘイトスピーチ(憎悪表現)」にあたるとして、差し止めを求める申し立てを行っていたものです。申立書によると、同協会は神奈川県海老名市の男性に対して、事務所の半径600メートル以内でのデモや誹謗中傷する内容のビラ配布、プラカードを掲げるといった行為はヘイトスピーチだとして禁止するよう求めていたもので、同協会側の弁護人によると、クルド人を中傷する行為を禁じる裁判所の決定は、全国で初めてといいます。なお、当日には決定への抗議演説をしようとする人と阻止しようとする人の間で小競り合いが起きました。また、10月にはヘイトスピーチ禁止を求める市民団体が知事宛てに条例制定の請願書を提出しています。こうした中、大野知事は、ヘイトスピーチについて「法律に基づき、地域社会から徹底して排除されなければならないものだ」とした上で、地域の実情に応じて法律だけで不十分かどうかを検討する必要があると指摘、「罰則を伴った規制は県民の権利を制限することに繋がり、抑制的に行うものだ」との考えを示しています。さらに、罰則を伴うヘイトスピーチ禁止条例について「ヘイトスピーチ解消法が定める対応をすることがまずは求められているものと考えている。現時点で頭の中に条例制定はない」と述べ、慎重な姿勢を示しています。
LGBTQなど性的少数者の子どもや若者らの居場所作りに取り組む一般社団法人「にじーず」が、SNS上に事実に反する内容の投稿をされて中傷を受けたとして投稿者を相手取り約140万円の損害賠償を求めた訴訟で、横浜地裁は、被告に33万円の支払いを命じています。同団体の代理人弁護士は「LGBT支援団体に対する名誉毀損が認められた判決は初めてと思われる」としています。判決などによると、被告は2023年10月、Xに「LGBTの子がいなければ、LGBTの子を作り出す。差別がなければ差別を作り出す」などと投稿、団体側が発信者情報の開示を請求して投稿者を特定したもので、投稿者は訴訟で、差別はないとする、ある当事者の話を基に「性的少数者であることを理由とした差別は存在しない」などとして投稿内容は真実だと主張していました。判決は問題の投稿について、別の投稿の内容も踏まえ「原告の社会的評価を低下させることは明らか」と指摘、被告の主張についても「ごくわずかな人数の体験を基に性的少数者への差別が存在しないということはできない」と退けています。
自分の通う中学校の女性教諭を中傷する動画をSNSにアップしたとして、高知県警高知東署は、高知市内の公立中学3年の男子生徒(15)を名誉毀損の疑いで逮捕しています。男子生徒は2024年10月、同じ中学の1年の男子生徒(12)と共謀し、生徒らが通う中学校の20代の女性教諭について、事実と異なる内容の中傷動画をSNSにアップロードした疑いがもたれています。動画の長さは数十秒で、逮捕された男子生徒が顔を出して、教諭の社会的評価を下げるような内容を話し、もう1人の生徒が撮影していたといい、動画は一定時間経過すると消えるシステムで、現在は見ることはできません。
総務省は、SNS上の誹謗中傷への対応を事業者に義務付ける改正法に関し、月平均利用者数が1000万人超を適応の対象とする方針を示しています。国内の他法令やEUの規定などを参考に設定したといい、米国のX、メタのフェイスブックやインスタグラムが該当する可能性があります。2024年5月に成立した改正プロバイダ責任制限法は、個人を中傷するといった権利侵害情報を巡り、投稿削除の申し出があった場合、SNS事業者に迅速な判断と、その結果の通知を義務付けており、2025年5月までに施行する予定で、総務省は関連省令などの策定作業を進めています。
2024年11月9日付日本経済新聞の記事「増殖する偽情報と陰謀論 与野党は懸念に対処できるか」は大変興味深いものでした。米調査会社ユーラシア・グループが毎年発表する「世界10大リスク」で近年続けて言及された言葉として、「偽情報」(disinformation)と「陰謀論」(conspiracy)があり、2024年版のリスクの1位は「米国の分断」で「アルゴリズムで増幅された偽情報」の危険性を指摘していました。また、2022~23年版はAIなど技術の進歩の副産物として陰謀論に触れていました。偽情報や陰謀論に扇動されやすい米欧社会の実態を浮き彫りにする分析ですが、これまで述べてきたことからも日本も無関係ではないことは自明です。報道では、「例えば衣料品販売大手のZOZO創業者の前沢友作氏ら著名人をかたった「なりすまし広告」。およそ30人の被害者が10月、米IT大手メタ(旧フェイスブック)と日本法人を提訴した。被害が1億円を超えた人もおり、賠償請求額は4億3500万円ほどにのぼる。関東を中心に8月以降、相次ぐ強盗事件も偽情報時代の新たな手口だろう。「匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)」が「ホワイト案件」などとうたったウソのSNS求人で犯罪の実行役を募る例が多い。だまされて応募した若者が犯罪への加担に気付いても、脅されて家族に危害が及ぶのを恐れて逃れられなかった人もいるという」、「情報セキュリティ大学院大の長迫智子客員研究員は新型コロナウイルス禍での社会不安を背景に「日本でも偽情報を発信する勢力が増え、陰謀論と結びつく傾向がある」と指摘する。対処する行政側は各省バラバラで一体感を欠く。(1)SNS事業者に対策を促すのは総務省(2)海外発のデマへの対処は外務省(3)ロシアや中国の情報工作への警戒は防衛省・自衛隊(4)サイバー犯罪の捜査・抑止は警察庁―といった具合だ。偽情報を駆使する犯罪集団や外国勢力は日本の弱点を突く。根深い縦割り行政が付け入る隙となる。米国の場合、国土安全保障省サイバーセキュリティ・インフラストラクチャー・セキュリティ庁(CISA)がサイバー防御対策を一元的に統括する」と指摘しています。行政の縦割り構造が偽情報や陰謀論に対する隙を生んでいるとの指摘は大変新鮮なものでした。
子どものSNS利用禁止に関する法律を成立させた豪政府ですが、SNS運営企業に対し偽情報や誤情報を排除するよう求める規制法案の成立を断念しています。検閲につながる恐れがあるとの懸念が広がり、全野党が反対、与党・労働党が過半数を割っている上院で可決が見込めず、廃案に追い込まれたといいます。労働党政権は2024年9月に法案を提出、当局に強力な監視機能を付与するほか、SNS運営企業が適切な措置を取らなかった場合に最大で世界売上高の5%相当の罰金を科すと定めていました。野党側は「言論の自由が脅かされる」「恣意的に運用されかねない」などと批判していました。
国際ジャーナリスト組織「国境なき記者団」(RSF、本部パリ)は、RSFに関する偽情報の拡散を放置し、名誉を毀損したなどとして、Xをフランス司法当局に告訴すると発表しています。2024年8月下旬、ロシアの侵攻を受けたウクライナの軍にナチスの信奉者がいるとの英BBC放送を装った偽動画がXで拡散され、RSFの調査として伝えていましたが、RSFはXに削除を求めたものの、Xは応じなかったといいます。RSFは「Xは削除を拒否することで偽情報の拡散に加担したことになる」としています。Xを巡っては、英有力紙ガーディアンやスペイン紙バンガルディアが公式アカウントへの投稿を中止すると発表、ガーディアン紙は極右の陰謀論や人種差別といった憂慮すべきコンテンツが度々取り上げられたり、見られたりする」と批判し、「有害なメディア・プラットフォームだ」と指摘、「Xに存在するメリットよりも、もはやネガティブな要素が上回っている」と判断したといいます。また、バンガルディア紙は実業家イーロン・マスク氏がオーナーになり、偽情報が増えたと指摘しています。
総務省の有識者会議は、著名人になりすましたSNS上の広告詐欺問題を巡り、大手プラットフォーム事業者へのヒアリング結果を公表しています。申し出を受けて広告を削除した件数について米Xなどは明らかにせず、対応が「不十分」と評価しています。総務省は2024年6月、なりすまし広告詐欺の急増を受け、フェイスブックなどを運営する米メタ、米グーグル、X、LINEヤフー、TikTokを手掛ける中国の字節跳動(バイトダンス)の5社に問題への対処を要請していました。6月の要請で総務省は、なりすまし広告の削除申し出件数や、削除件数の公開を求めたものの、ヒアリングで申し出件数を明らかにしたのはLINEヤフーのみで、ほか4社は回答しませんでした。削除件数についてもXとTikTokが未回答で、総括案は削除の実施状況の公表などが「利用者や広告主がサービスを利用するか否かを判断するための要素となり得る」とし、事業者の対応は「透明性確保の観点から不十分」だと結論づけました。総務省は削除対応の体制整備のため、日本語が理解できる人の配置数を具体的に明らかにするよう求めていましたが、具体的に回答したのはLINEヤフー1社のみで、グーグル、メタ、TikTokは、対外的に明らかにしない前提で回答があったほか、Xは具体的な人数について回答がありませんでした。被害者が削除を申し出る窓口や入力ページは5社すべてが整備し、広告の事前審査基準も5社はいずれも策定済みでした。総務省による6月の要請は、法的拘束力はありません。警察庁によるとなりすまし詐欺の被害は依然として多く、総務省としては近く正式にまとめる総括をもとに事業者に一層の対応を促していく(偽広告対策の強化に向け、定期的な情報公開を求めることを検討する)としています。とはいえ、世界中で訴訟を通して戦ってきた彼らからすれば、要請だけでこうしたプラットフォーマーが十分な対応をするとも思えません。欧州の対応を参考に、「表現の自由」への過度な配慮をするのではなく、より一層強制力を持った形で対応をすべきだと筆者は考えます。プラットフォーマーの不作為が多くの国民に被害をもたらしているという紛れもない事実を直視し、「場の健全性」を確保できない事業者には退場いただくといった強い姿勢を政府は示すべきではないかと考えます。
▼総務省 デジタル空間における情報流通の諸課題への対処に関する検討会 デジタル広告ワーキンググループ(第3回)配付資料
▼資料3-1 SNS 等におけるなりすまし型「偽広告」への対応に関するヒアリングシートに対する各社回答及びヒアリング結果(概要)
- デジタル広告の事前審査基準の策定・公表等に関する対応状況
- Googleからの回答(Google広告)
- 広告の事前審査基準について、策定・公表を行っている。
- 事前審査基準に関して、
- なりすまし型「偽広告」については、許可されないビジネス手法として「不実表示に関するポリシー」に違反し、削除対象となり得る。
- 2024年3月に不実表示に関するポリシーをアップデートし、著名な人物、ブランド、組織と提携関係にある、又はそれらの支持を受けている人物になりすましたり、そのように偽って示唆したりすることで、金銭や個人情報を渡すようユーザーを誘導することを禁止するという記載を盛り込んでいる。
- 事前審査基準については、必要に応じて見直しを実施。
- 事前審査においては、広告及び直接の遷移先に対して、システムと人の目を組み合わせて審査を実施。また、遷移先の内容に変更があったことを把握した場合の対応については非公開で回答あり。
- 総務省の要請を受け、デジタル広告には個人事業を含む中小の日本の広告主など多くの関係者が含まれていることに留意しながら、広告主の適切な保護・不利益の防止と健全な広告ビジネスの発展等の要素を総合的に考慮し、当該要請を関係部署に共有。
- LINEヤフーからの回答(Yahoo!広告、LINE広告)
- 広告の事前審査基準について、策定・公表を行っている。
- 事前審査基準に関して、
- なりすまし型「偽広告」については、名誉毀損や肖像権・商標権侵害を禁止する基準や、「投機心、射幸心を煽るような表現」などの基準に違反し、削除対象となり得る。
- 事前審査基準については、必要に応じて見直しを実施。
- アカウント審査と広告審査については、日本拠点の審査員(日本語を理解する者100%)による「人の目」と、機械学習を活用した「システム」によって24時間365日体制で、事前及び事後に審査を実施。また、事前審査においては、広告及び直接の遷移先に対して審査を実施。
- 【Yahoo!広告】広告情報(画像ファイルや遷移先URLなど)の変更を伴わず、遷移先の情報のみが差替えられた場合、都度の審査は実施していないが、掲載開始後も全ての広告について、24時間365日にわたり、社内の審査システムと人の目で、事後パトロールを実施して不正を検知。さらに、不適切な広告について、社外から通報があった場合は、優先的に審査を実施。広告情報(画像ファイルや遷移先URLなど)が変更された場合、全てシステムで検知し、新規に入稿があったものとして、システムによる審査を実施し、目視確認が必要な広告に振り分けた上で、人の目による審査を実施。
- 【LINE広告】広告情報(画像ファイルや遷移先URLなど)の変更を伴わず、遷移先のみが差替えられた場合、都度の審査は実施していないが、過去の否認実績が多い広告主を中心に、不定期で人の目による事後審査を実施。広告情報(画像ファイルや遷移先URLなど)が変更された場合、システムで検知し、新規に入稿があったものとして、全件、システムと人の目による審査を実施。
- なりすまし型「偽広告」の拡大を受け、以下の対応を実施。
- 2024年3月から、懸念のある広告アカウントは、全て人の目によって、新たにアカウント開設を行った時だけでなく、アカウント開設後も同様に審査を実施。
- 【Yahoo!広告】全業種の広告において、遷移先を直に「未認証のLINE公式アカウント」登録画面としているものは非承認とした(2024年2月)。また、全業種の広告において、遷移先を直に「個人のLINEアカウント」登録画面としているものを非承認としたほか、投資・副業関連の広告において、遷移先は通常のサイトで、そこにLINE登録画面への誘導リンクがあるものは非承認とした(2024年4月)。
- 【LINE広告】投資・副業関連の広告において、遷移先又は遷移先からの再遷移先がLINEアカウントもしくは未認証のLINE公式アカウントへの友だち追加になっている場合は非承認(2024年3月)。
- Metaからの回答(Facebook広告、Instagram広告)
- 広告の事前審査基準について、策定・公表を行っている。
- 事前審査基準に関して、
- なりすまし型「偽広告」については、「アイデンティティの表明における責任」ポリシー、コミュニティ規定及び広告規定に違反し、削除対象となり得る。
- 事前審査基準については、必要に応じて見直しを実施。
- 事前審査においては、広告及び直接の遷移先に対して、システムと人の目を組み合わせて審査を実施。また、遷移先の内容に変更があったことを把握した場合の対応については回答なし。個別の広告審査以外に、広告主の行動(過去に広告が拒否された回数や広告審査を回避しようとしたなど、違反の深刻度を含む)を審査及び調査する場合あり。
- TikTokからの回答
- 広告の事前審査基準について、策定・公表を行っている。
- 事前審査基準に関して、
- なりすまし型「偽広告」については、肖像権を侵害する広告としてポリシー違反であり、削除対象となり得る。
- 事前審査基準については、必要に応じて見直しを実施。
- 事前審査においては、広告及び直接の遷移先に対して、システムと人の目を組み合わせて審査を実施。
- 従来から、広告素材と遷移先で扱われている商材が一致しているか等の審査。総務省の要請を受けて、事前審査基準の実効性の確認を実施しており、今後も実効性の高い事前審査を継続。
- Xからの回答
- 広告の事前審査基準について、策定・公表を行っている。
- 事前審査基準に関して、
- なりすまし型「偽広告」については、「広告品質ポリシー」や「虚偽のコンテンツや詐欺的コンテンツポリシー」に違反し、削除対象となり得る。
- 事前審査基準については、必要に応じて見直しを実施。
- 事前審査においては、広告及び直接の遷移先に対して、システムと人の目を組み合わせて審査を実施。特定の広告カテゴリーについては、広告主に対して追加の認証のために必要な情報の提出を求めている。
- 2024年3月22日から、金融商品・サービス及び賭博関連コンテンツの広告審査について、広告掲載前の目視審査を強化し、同コンテンツの目視審査の頻度が増加。
- Googleからの回答(Google広告)
- 自社が提供するSNS等におけるなりすまし型「偽広告」を端緒とした詐欺の手口・実態を踏まえた事前審査の実施状況
- Googleからの回答(Google広告)
- システムによる検知等を通じて、手口・実態に関する情報を収集。
- 2023年末から2024年にかけて、著名人に似た画像を用いてユーザーを騙すターゲットキャンペーン広告(多くの場合、ディープフェイクを用いたもの)を検知。その他の詐欺の手口や実態の概要については、Googleのシステムを回避するための手口や技術を改良するために利用される恐れがあるため非公開。
- 上記を踏まえ、従来の広告主適格性確認プログラムや広告の透明性についての取組のほか、2024年3月に不実表示に関するポリシーをアップデートし、悪意ある者のアカウントを迅速に停止できるようにした。また、2023年11月に広告配信の制限に関するポリシーを立ち上げ、Googleが十分に情報を有していない広告主からの広告の配信範囲を限定。
- 広告の入稿時、都度、肖像使用の許諾の有無は確認していないが、著名な人物になりすました広告については審査が却下されるほか、削除等の対象となりうる。
- 確認済みの広告主から出稿され、Google検索、YouTube及びGoogleディスプレイに表示される全ての広告を検索可能なライブラリを提供。
- LINEヤフーからの回答(Yahoo!広告、LINE広告)
- 従前から警察庁と情報交換を行っており、2023年11月頃から、SNS型投資詐欺について情報収集しているほか、JIAA等の業界団体で他社との情報交換も実施。加えて、報道等からの情報により、実際の詐欺事案について、当初接触ツールとしての広告の特徴を収集。
- 広告上の表現において、投資によって簡単に儲かると謳い、著名人等のLINEの偽個人アカウントや公式アカウントへの友だち登録へ誘導し、クローズドチャット内で詐欺を行う手口を把握。
- 上記を踏まえ、LINEの個人アカウントや公式アカウントへの友だち登録を誘導する広告は、掲載しないこととして、審査において非承認。また、従前より、過度に投機心・射幸心をあおる表現のある広告は、掲載を禁止。
- 広告の入稿時、都度、肖像使用の許諾の有無は確認していないが、権利者から肖像権侵害を理由とする掲載停止請求があり、権利者による肖像権侵害があるとする理由の説明やその根拠資料等によって、本人による許諾がないと自社が判断した広告については、広告審査基準に基づき掲載を停止。
- Metaからの回答(Facebook広告、Instagram広告)
- Metaの機械学習技術を活用した自動検出システム及びユーザー向けの報告ツール等を通じて詐欺の手口・実態を把握。
- クローキング(審査を回避するために、実際とは異なるコンテンツを表示する技術)を使用して、広告審査システムとユーザーに異なるコンテンツを表示していることが多いことを把握した。また、クリックを誘うような特徴があり、広告をクリックすると予期しないウェブサイトに誘導されることが多いほか、直接的に詐欺的な広告にリンクしているわけではなく、最初の広告から詐欺的な広告にたどり着くには、数回のクリックが必要となることが多いことを把握した。このほか、著名人を装った広告は、乗っ取られたアカウントや偽アカウントから投稿されることがあることを把握。
- 上記を踏まえ、新規広告主に対して電話番号認証を開始したほか、個別的な対応として複数のFacebookまたはInstagramアカウントを連携させて不正行為を行うなど、組織的な不正行為や詐欺行為への参加や関与を企てる行為を防ぐため、2024年4月に、さまざまな日本の著名人の画像を使用した詐欺アカウントやページのネットワークを削除。これにより、これらの広告を作成するために使用されていた約100万の広告と5,000のFacebookアカウントを特定し、一斉に削除した。
- 広告の入稿時、都度、肖像使用の許諾の有無は確認していないが、肖像権を侵害している広告については審査が却下されるほか、削除等の対象となりうる。
- Facebook及びInstagramの全てのアクティブな広告を広告ライブラリで公開しており、アカウントを持たない者でも数十カ国で閲覧可能。
- TikTokからの回答
- 日々の広告審査活動を通じて、広告審査チームが、なりすまし型「偽広告」を端緒とした詐欺の手口・実態の把握に努めているほか、「詐欺行為」や「誤解を招く」を理由とする通報を端緒として詐欺の手口・実態を把握。また、報道機関により、なりすまし型「偽広告」に関するニュースが発信された際には、その報道を端緒として、捜査機関にそのような広告がないかを確認することもあるほか、広告に限らず、仮に詐欺等に関する報道においてTikTokに言及があった場合には、当該事件を所管する警察組織などと連携の上、以降の審査活動に反映すべく、社内で情報共有を行うこともある。
- 上記を通じて把握した手口・実態の概要については非公開で回答あり。
- 上記を踏まえた対応についても非公開で回答あり。
- 肖像使用の許諾確認は行っていないが、肖像権を侵害する広告は、ポリシー違反であり、審査にて見つけた場合は、広告の停止等の対応を実施。
- Xからの回答
- 悪質な広告を検出するシステムのほか、ユーザーからのレポートを通じて、手口・実態に関する情報を収集。
- 上記を通じて把握した手口・実態の概要については非公開。
- 詐欺への対応として、広告における誤解を招くリンクの使用を禁止。
- 肖像使用の許諾確認は事前審査の中では実施していないが、肖像権を侵害しているような偽広告は様々なポリシー違反となる可能性が高く、その場合削除される。
- Googleからの回答(Google広告)
- 利用規約等を踏まえた適正な削除対応の状況
- Googleからの回答(Google広告)
- 不実表示に関するポリシーのアップデートのほか、複数の悪意ある者を同時に停止させることができるよう、組織的な敵対行為をより確実に検知できる技術に投資したり、自動検知を行うシステム及び人の手による審査プロセスを改善する等、なりすまし広告に対抗する仕組みの改良を実施。また、自動化及び人による評価の組み合わせを用いて広告主が広告ポリシーを遵守することを確保するサポートや、潜在的に悪質な広告の審査を手動で行うためにリソースの投入も実施
- LINEヤフーからの回答(Yahoo!広告、LINE広告)
- 「なりすまし」及び「偽広告」を直接的に禁止するのではなく、名誉権や肖像権侵害、商標権侵害等の権利侵害、「投機心、射幸心を煽るような表現」などの、関連するガイドラインで投資詐欺に繋がるリスクのある広告を広く禁止。
- Metaからの回答(Facebook広告、Instagram広告)
- コミュニティ規定・広告規定・コミュニティガイドラインに違反するコンテンツについて、発見次第削除を実施。利用者にネガティブな体験をもたらす可能性があるコンテンツについて、削除規定に完全に合致していない場合でも、配信を減少させることや、コンテンツ配信ガイドラインに沿って、詐欺に関連する特定の検索語句の使用をブロックを実施。また、プラットフォームを悪用し、被害をもたらそうとする悪意のある行為者のネットワークを調査し、排除を実施。
- TikTokからの回答
- サービス規約において、他者もしくは他の団体に成りすますこと、または、自己または他者もしくは団体との関係性について虚偽の事実を述べることもしくは偽ること、許可なく他者のアカウント等を使用/使用を試みること、虚偽の身元を作成すること、他者の著作権や商標およびその他の知的財産権やプライバシー上の権利を侵害するまたは侵害するおそれのある内容をアップロード等すること、を禁止している。
- Xからの回答
- 広告主がポリシーに違反した場合、広告プラットフォームから除外し、広告を出せないようにしている。
- Googleからの回答(Google広告)
▼総務省 ICT活用のためのリテラシー向上に関する検討会(第10回)※青少年WG(第6回)合同 配付資料
▼資料10-1 デジタル空間における情報流通の健全性確保に関する検討について(事務局資料)
- 情報流通過程全体に共通する高次の基本理念
- 表現の自由と知る権利の実質的保障及びこれらを通じた法の支配と民主主義の実現
- 自由な情報発信と多様な情報摂取の機会が保障され、個人の自律的な意思決定が保護されるとともに、これを通じ、表現の自由や知る権利以外の様々な権利利益(営業の自由など)にも配慮したルールに基づく健全な民主的ガバナンスが実現すること
- 安心かつ安全で信頼できる情報流通空間としてのデジタル空間の実現
- 平時・有事(災害発生時等)を通じ、アテンション・エコノミーを構造的要因とするものを含め、偽・誤情報や悪意ある情報の流通による権利侵害、社会的混乱その他のフィジカル空間への影響が抑止されるとともに、情報流通の過程全体を通じ、サイバー攻撃や安全保障上の脅威等への対抗力が確保された強靱なデジタル空間が実現すること
- 国内外のマルチステークホルダーによる国際的かつ安定的で継続的な連携・協力
- デジタル空間に国境がないことを踏まえ、国内外の民産学官を含むマルチステークホルダーが相互に連携・協力しながらデジタル空間における情報流通に関するガバナンスの在り方について安定的かつ継続的に関与できる枠組みが確保されていること
- 表現の自由と知る権利の実質的保障及びこれらを通じた法の支配と民主主義の実現
- 情報発信に関する基本理念
- 自由かつ責任ある発信の確保
- 自由かつ、ジャーナリズムやリテラシーに裏付けられた責任ある発信が確保されていること
- 信頼できるコンテンツの持続可能な制作・発信の実現
- 信頼できる魅力的なコンテンツの制作・発信(ファクトチェックを含む)に向けたリソースが安定的かつ継続的に確保され、そうした活動の透明性が確保されるとともに、その価値が正当に評価されていること
- 自由かつ責任ある発信の確保
- 情報受信に関する基本理念
- リテラシーの確保
- 受信者において技術的事項を含むリテラシーが確保され、デジタル社会の一員としてデジタル空間における情報流通の仕組みやリスクを理解し、行動できること
- 多様な個人に対する情報へのアクセス保障とエンパワーメント
- 個人の属性・認知的能力や置かれた状況の多様性を考慮しつつ、あらゆる個人に対してデジタル空間における情報流通への参画と意思決定の自律性確保の機会が与えられていること
- リテラシーの確保
- 情報伝送に関する基本理念
- 公平・オープンかつ多元的な情報伝送
- 多元的で信頼できる情報源が発信する情報が偏りなく伝送(媒介等)されていること
- 情報伝送に関わる各ステークホルダーによる取組の透明性とアカウンタビリティの確保
- プラットフォーム事業者や政府を含む関係者の取組・コミュニケーションの透明性が確保されるとともに、それらの取組等や透明性確保につき責任を負うべき主体・部門が特定され、明確であり、当該主体・部門から責任遂行状況について十分に説明してもらうことが可能な状態にあること
- 情報伝送に関わる各ステークホルダーによる利用者データの適正な取扱いと個人のプライバシー保護
- 個人情報を含む様々な利用者データの適正な収集・利活用とそれを通じた個人の意思決定の自律性が確保され、個人のプライバシーが保護されていること
- 公平・オープンかつ多元的な情報伝送
- 情報流通の健全性確保に向けた具体的な方策
- デジタル空間における情報流通の健全性を巡るリスク・問題はますます悪化することが見込まれており、情報伝送プラットフォーム事業者をはじめとするステークホルダーの個々の自主的な取組のみに委ねていてはデジタル空間における情報流通の健全性が脅かされ、ひいては実空間への負の影響を看過し得なくなるという強い危機感を持つことが必要。
- そこで、デジタル空間における情報流通の健全性確保のための具体的な方策として、総合的な対策を検討し、様々なステークホルダーの連携・協力の下で、迅速かつ効果的・効率的に対応を進めていくことが必要。
- 普及啓発・リテラシー向上
- 普及啓発・リテラシー向上に関する施策の多様化
- マルチステークホルダーによる連携・協力の拡大・強化 等
- 人材の確保・育成
- コンテンツモデレーション人材
- リテラシー向上のための教える人材 等
- 社会全体へのファクトチェックの普及
- ファクトチェックの普及推進
- ファクトチェック人材の確保・育成 等
- 技術の研究開発・実証
- 偽・誤情報等対策技術
- 生成AIコンテンツ判別技術 等
- 国際連携・協力
- 偽・誤情報等対策技術の国際標準化・国際展開の推進
- 欧米等とのバイやG7・OECD等とのマルチ連携・協力の推進 等
- 制度的な対応
- 情報伝送PF事業者による偽・誤情報への対応
- 広告の質の確保を通じた情報流通の健全性確保 等
- 普及啓発・リテラシー向上
▼資料10-3 偽・誤情報問題の現状と有効な対策(山口構成員説明資料)
- 偽・誤情報、多くの人が騙される
- Google Japanと実施しているInnovation Nipponプロジェクトで偽・誤情報の実証研究を行っている。国内で2022年~2023年にかけて実際に拡散した偽・誤情報15件を使い、人々の真偽判断や拡散行動等について分析した。
- 各偽・誤情報の真偽判断結果について加重平均値を取ると、全体で「正しい情報だと思う」と回答した人の割合は51.5%と、大半の人が偽・誤情報を信じている。一方で、「誤っていると思う」と回答されている割合は14.5%であり、偽・誤情報だと気づいている割合は低い。
- 分野別に見ても全体の傾向と大きな違いはなく、「正しい情報だと思う」と回答した人の割合は4~6割となっている。
- 年代別に見ても、真偽判断に違いや傾向はあまりなく、どの年代にもかかわる問題といえる。
- 民主主義は偽・誤情報に脆弱
- 2つの実際の政治関連の偽・誤情報を使って実証実験をした結果、偽・誤情報を見て支持を下げる人は少なくなかった。
- 特に弱い支持をしていた人ほど偽・誤情報によって支持を下げやすい傾向が見られた。弱い支持の人というのは人数でいうと多い人たちであり、偽・誤情報は選挙結果・民主主義に影響を与えうる。
- 民主主義国家においては、5~10%の少数の人の意見を変えるだけで、全く異なる政治状況が生まれる。
- 日本の偽・誤情報耐性は低い
- 日本では、デジタル空間関連の用語の認知率、意味の理解率が低い傾向。
- 情報検証行動をしている頻度も米国・韓国に比べて低い傾向。
- 生成AIのリスク:withフェイク2.0時代へ
- 特にAI技術の発展により、誰もがディープフェイクを使えるディープフェイクの大衆化が起こってwithフェイク2.0時代に。Microsoftのブラッド・スミス氏(副会長・プレジデント)は、AIで最も懸念しているのはディープフェイクだと述べた。
- 偽広告、選挙時の偽動画、災害・戦争などの有事に社会を混乱させる投稿、詐欺行為等、多様な分野で生成AIが悪用されている。
- 2022年6月~2023年5月、少なくとも16カ国で、生成AIが政治や社会問題に関する情報を歪曲するために使用された。
- 現在は偽・誤情報全体の量からするとAIによる偽動画・偽画像は限定的な量だが、AI技術の発展と共に爆発的に増加する可能性がある。目的を達成できれば手段は何でもよい
- プラットフォーム事業者に求められること
- プラットフォーム事業者は、様々な偽情報が飛び交う場を提供している事業者として、改善に向けて常に努力していくことや、透明性の確保が求められる。特に、日本ローカルの透明性が重要。
- 既に有効と考えられている施策の積極的導入、ファクトチェック結果の優先的表示、生成AIを見破る技術の開発とユーザーへの表示など、実施できることは様々にある。
- 日本国内のメディア企業やファクトチェック組織などとの連携の継続・発展も重要。また、プラットフォーム事業者同士の連携により、ベストプラクティスの共有、偽・誤情報の傾向の共有などを進めることも効果的と考えられる。
- 経済的理由から偽・誤情報が拡散されるのを抑止する取り組みが必要である。日本語圏においても、プラットフォーム事業者と連携し、偽・誤情報を取り扱っているウェブサイトに広告収入が流れないような仕組みを構築していくことが肝要だ。
- 研究者と連携した研究や、研究者へのデータ提供などによって情報環境の研究を促進することも求められる。
- 求められるメディア情報リテラシー教育の拡充
- 情報の受信(メディアや情報の環境・特性など)も含めたメディア情報リテラシー教育を、老若男女に実施していくことが求められる。情報社会においてメディア情報リテラシーを高めることは、教育を受けた人が生きるうえで欠かせないだけでなく、社会全体にとってもプラスである。欧米ではメディアリテラシー教育が進んでおり、義務教育に入っているケースも少なくない。
- どのようなリテラシーが重要なのか、研究によって特定し、そのエビデンスを踏まえた教育啓発を行うことが重要。
- Innovation Nippon 2024では、「メディアリテラシー」「情報リテラシー」「批判的思考能力」の高い人は、偽・誤情報を拡散しづらい傾向が見られた一方で、「批判的思考能力の自己評価」が高い人はむしろ偽・誤情報に騙されやすく、拡散しやすい傾向が見られた。また米国の研究でも、情報の真偽判断能力を過信している人ほど偽・誤情報に騙されやすくシェアしやすかった。
- 教育啓発の際には、「これを知っておけば大丈夫」など自信を付けさせる表現は避け、「これを知っていても騙されることがあるから謙虚な気持ちで情報空間に接しよう」というメッセージを出すことが重要。
- 啓発内容の例
- 「自分も騙される」を前提に、問題の軽減に向けたポイントに絞り込んで啓発することが重要。
- チェックリスト式:情報検証の仕方をチェックリスト式で啓発する。研究では特に画像検索をする人と、リンク先の内容を確認して情報の出典を検証している人は、偽・誤情報を誤っていると気づく傾向が明らかになっている。
- プレバンキング:災害時などに、事前にどのような偽・誤情報が拡散しやすいか伝えておく。
- 情報空間の特性:フィルターバブル、エコーチェンバー現象、アテンション・エコノミーなどの概念について、用語というより現象そのものについての理解を促進する。
- 自分が拡散者にならないこと:偽・誤情報の拡散者にならないためにも、感情を揺さぶられたり興味深いと思った時ほど注意すること、拡散したくなった時だけでも情報検証をすること、拡散した場合のリスクがあることなどを伝える。
- 「自分も騙される」を前提に、問題の軽減に向けたポイントに絞り込んで啓発することが重要。
- 縦の深掘りと横の広がりを意識した啓発方法
- 格差なく多くの人が適切にインターネットを利用し、リスクを最小限にして恩恵を最大限享受できるようにするために、横の広がりと縦の深堀りを意識した多角的な啓発推進が必要。また、人々のニーズの高い方法を選択することが重要。
- 縦の深掘り:講座などでの中~長時間を前提とした啓発の推進。オンライン講座の人気が高く、オンデマンドであれば多人数への展開も可能。
- 横の広がり:ショート動画の展開など、要点のみを押さえたカジュアルなコンテンツで幅広い人に啓発する。
- 啓発コンテンツが乱立しているため、政府・自治体・民間の有益なコンテンツを分かりやすく活用できるような、統合的なプラットフォームの創設が求められる。
- 重要なのはステークホルダー間の連携
- 偽・誤情報対策に特効薬はない。根絶は不可能であるが、問題を改善していくことはできる。「自由・責任・信頼があるインターネット」を築くために、ステークホルダー間の連携が必須。
- 例えば、メディア・プラットフォーム事業者・業界団体・教育関係者・アカデミアなどが対等な立場で参画し、議論を重ねる会議体などが考えられる。ベストプラクティス共有、技術の共有、偽・誤情報傾向(内容・技術)の情報の共有といったことや、具体的な対策の議論・連携など、幅広い役割が期待される。
- 偽・誤情報問題やAIの問題は国内で完結しない。国際的な連携・情報共有・対策の実施が求められる。
その他、偽情報/誤情報を巡る国内外の報道から、いくつか紹介します。
- インターネット上で拡散する偽情報/誤情報に目を光らせる対応実証チームが鳥取県庁に発足しています。県民を不安にさせたり混乱させたりする可能性が大きいと判断した情報について、県のHPなどで注意喚起するものです。チームは部局横断で構成され、平時は広報課とデジタル改革課がキーワードから投稿や拡散の傾向を解析するシステム(ソーシャルリスニングツール)を活用し、SNSやニュースサイトなどをモニタリング(監視)、注意が必要な情報を検知すれば「平常フェーズ」から「警戒フェーズ」に移行し、関係部局の職員を招集して対応、県の情報との照合や聞き取りなどを踏まえ、県民生活への悪影響や人権侵害、犯罪などの可能性があるフェイク情報や真偽不明情報を洗い出し、投稿数が一定を超える情報があれば県のHPやSNSで注意を呼びかけたり、「○○で○○が発生した事実は確認されていません」などと警戒(安全)情報を出したりするとしています。なお、個人や団体の主義・主張や不拡散情報は対象外で「ファクトチェック」もしないといいます。
- 俳優や声優らが所属する日本俳優連合(日俳連)など業界3団体は、音声分野における生成AIの適正な使用を求める主張を発表しています。声優ら実演家の声を無断で生成AIに学習させて作った動画や音源がインターネット上で無数に公開されている状況を危惧し「声優文化を守りながら、AIとの適正な共存方法を模索する」ことを提起しています。声明では、「アニメーションや外国映画などの吹き替えでは生成AIによる音声を使用しないこと」、「生成AIに実演家の声を学習させたり、それを基にした音声を利用したりする場合は、本人に許諾を得ること」、「生成AIによる音声を利用する際は生身の実演家による音声ではないことを明記すること」を求めています。また、法整備を含めた対策の必要性にも言及、現行の著作権法では、AI開発の段階で著作物を機械学習させる場合、権利者の許諾は原則不要ですが、3団体は、権利者の許諾を必要とするルールの確立を強く要望しています。
- 生成AIを使い偽の動画などを作る「ディープフェイク」への対策がシンガポールで広がっており、偽動画などを検出するサービスを国内企業が相次ぎ始め、政府も対策強化に乗り出しています。同国では2025年11月までに総選挙が実施される予定で、AIの普及で急増する偽情報の波を抑えられるかは喫緊の課題となっているといいます。各社がディープフェイクの検出サービスの実用化を急ぐ背景には、偽動画が様々な場面で悪用される恐れが強まっていることがあります。政府も、2024年5月にはディープフェイクを含むオンライン上の不正行為を防止する新機関を立ち上げ、国会でも10月、デジタル技術で生成した立候補者の動画などを、選挙広告に使用することを禁止する改正法案が可決されました。
誹謗中傷ではありませんが、本コラムで以前から注視し続けている「忘れられる権利」(前科・前歴など公表されたくない情報の削除を求める権利)を巡る裁判に関する報道がありました。10年前に逮捕された事件をXで投稿されたままにされているのはプライバシーの侵害だとして、元自治体職員の男性がXの運営会社に投稿の削除を求めた訴訟の判決が福岡地裁であり、裁判官は、事件を公表されない男性の法的利益が、一般に閲覧され続ける理由を上回ると認め、投稿の削除を命じています。男性は、九州地方の自治体職員だった2014年夏、女子高校生にみだらな行為をした疑いで逮捕されたといい、旧ツイッターで2014年8月、男性の実名や年齢、逮捕されたことなどがブログ記事のリンク付きで15件投稿されました。判決は、事件が公務員の犯罪で、投稿時は公共の利害に関する事実だったことは否定できないと指摘、ただ、男性は2014年9月に不起訴処分となり、10年を経て公訴時効も過ぎていることや、すでにツイートのリンク先が消えていること、男性が公務員を辞めていることなどを踏まえ、「(事件について)公表されない法的利益が、ツイートを閲覧に供し続ける理由よりも優越する」と結論づけています。本コラムでたびたび紹介していますが、最高裁は2022年6月、10年前の逮捕歴についてのツイートの削除を求めた別の訴訟で、原告の被害の程度や社会的地位、投稿の目的、投稿時からの社会状況の変化などを比較して判断すべきだと判示しています。
(7)その他のトピックス
①中央銀行デジタル通貨(CBDC)/暗号資産(仮想通貨)を巡る動向
金融庁が暗号資産の規制強化について検討を始めています。2024年11月23日付日本経済新聞電子版の記事「ビットコインなどの暗号資産、金融庁が規制強化を検討…税率引き下げの議論につながる可能性も」によれば、安全な取引に向けて、資金決済法や金融商品取引法など関連法の改正も視野に、有識者を交えて非公開で議論、より厳しい規制をかけられる金融商品として暗号資産を位置づけることになれば、税制見直しの議論につながる可能性もある」と報じられています。ビットコインなどの暗号資産は、決済サービスなどについて定めた資金決済法で規制されており、投資対象として存在感が高まる一方で、無登録の取引仲介業者に関するトラブルも相次いでいます。助言を装い、特定の暗号資産の売買を促す個人や団体も問題になっていることから、金融庁は、規制強化の是非について検討を進めているものです。方向性としては、暗号資産を金融商品取引法の対象となる金融商品に位置づけ、新たな規制をかけることも視野に入れ、暗号資産の発行主体に対し、事業内容や銘柄の詳細の開示などを義務付けることも可能になるほか、無登録業者への罰則も重くできることになります。背景には、暗号資産への投資が急増している現状があり、日本暗号資産等取引業協会によると、国内で暗号資産の口座開設数は2024年9月時点で1100万口座を超え、5年前と比べて3.5倍に増えたといいます。また、金融庁は、暗号資産や法定通貨などに価値が連動するステーブルコインの仲介業を新設する検討も行っているといいます。業会社が自社のサービス内で暗号資産を扱いたいというニーズが高まっているためで、特定の暗号資産交換業者に所属し監督・指導されることなどを条件に、軽めの規制で仲介できるようにするといい、金融審議会の作業部会で「暗号資産・電子決済手段仲介業」という仮称で金融庁が案を示しています。仲介業は暗号資産交換業者と利用者を取り次ぎ、資産の預かりや管理を行わない業者を想定、ゲーム内でのアイテム購入に特定の前払い式決済手段ではなく暗号資産を使いたいといったニーズにこたえられるようになることが考えられます。さらに、海外に拠点を置く暗号資産(仮想通貨)交換業者の破綻で顧客資産が海外に流出するのを防ぐため、交換業者に対し国内保有命令を出せるよう資金決済法の改正を行う案も示されています。本コラムでも取り上げた2022年に経営破綻した米交換業大手FTXトレーディングの例を念頭に国内投資家の資産を保全する狙いがあります(暗号資産交換業者を規制する資金決済法には現在、国内保有命令に関する規定がなく、FTXトレーディング破綻時には、同社の日本法人が金融商品取引法の登録業者でもあったため、同法による国内保有命令を出して顧客資産の海外流出を食い止めることができたものの、資金決済法上の登録のみ受けている海外業者が破綻した場合、現行法では流出を防ぐことができない現状があります)。
暗号資産ビットコインが一時10万ドルの大台に迫る高値を記録しています。トランプ次期米政権が暗号資産に友好的な規制環境を整備するとの期待が高まっていることが背景にあるとされます(参考までに、対円では、2024年11月末時点で1ビットコイン=1,480万円超となっています)。2024年に入ってから2倍以上に値上がりしており、米国の選挙以来の2週間では約40%上昇しています。ビットコインの当初の理念は、新たな決済手段であり、その始まりから16年が経ち、現在は投機対象としての色合いが濃くなっています。また、米の熱狂に比して、2018年のコインチェック事件で、不正アクセスを受けて約580億円分の暗号資産が流出、2024年にもDMMビットコインにおいて480億円分の暗号資産の流出が発生するなど、セキュリティやマネロンに大きな課題を抱え、日本での取引量は伸び悩んでいます(決済手段として普及しなかった理由として、価格変動が激しいことや、決済で生じる課税ルールの複雑さが壁となったほか、クレジットカードや電子マネーなど既に使い勝手の良い決済手段が普及していたことも一因といえます)。
2024年11月13日付ロイターの記事「暗号資産、銀行利用困難な世帯に保有傾向=米FDIC報告書」によれば、米連邦預金保険公社(FDIC)は公表した報告書で、銀行サービスの利用が困難なため生活費のやりくりを小切手の現金化(キャッシュチェッキング)や次回給与を担保とした融資(ペイデイローン)といったノンバンクサービスに依存している世帯ほど、暗号資産を保有する傾向にあるとの調査結果を示しています。こうした世帯は、通常の銀行サービスを利用している層よりも高いリスクを抱えているといいます。報道によれば、銀行口座を全く保有していない「アンバンクト」世帯や、銀行口座は保有しているものの過去12カ月で生活費を、自動車などの所有権を担保に貸し出す業者(タイトルレンダー)や質屋からの借り入れ、キャッシュチェッキングなどのサービスで賄った「アンダーバンクト」世帯について調べたところ、アンバンクト世帯が全体に占める比率は2011年以降、約半分に低下して4.2%(560万世帯)となったものの、黒人、ヒスパニック、米国先住民、アラスカ先住民の低所得世帯や、親1人の子育て世帯、生産年齢の障害者がいる世帯ではアンバンクトとなる傾向が著しく高くなったといいます。こうした世帯はまた、アンダーバンクトとなる公算も一段と大きいといいます。アンダーバンクト世帯は全米で1900万世帯に上り、全体の14.2%を占め、そのうちデジタル通貨を保有しているのは6%強、これに対し銀行サービスを全面的に利用できる世帯では、この比率は4.8%だったといいます。一方、後払い決済(BMPL)を利用した比率は、アンダーバンクト世帯では約10%となり、銀行サービスをフル活用している世帯の3%を上回りました。BMPL利用世帯の約13%は代金が未納、もしくは期限後に支払っており、アンダーバンクト世帯ではこの比率が20%強に跳ね上がったといいます。
関連して、2024年11月26日付日本経済新聞電子版の記事「デジタル新人類の仮想通貨投資 技術革新でインフレ対抗」によれば、暗号資産データ分析のトリプルAの調査で、世界の暗号資産保有者は5億6000万人に上り、保有率の高い国では、トルコやアルゼンチンなどインフレ率の高い国が並ぶといい、ベトナムのインフレ率は約3%であるところ、かつて10%を超えた記憶があることから自国通貨による資産価値の目減りを防ぐ目的で暗号資産を保有しているのだといいます
スイス国立銀行(中央銀行)のシュレーゲル総裁は、同行はビットコインやイーサリアムなどの暗号資産)に警戒しているとした上で、現金はスイスの決済システムにおいて今後も重要な役割を担うだろうと述べています。報道によれば、「ビットコインその他の暗号資産は近年大きく成長しているにもかかわらず、依然ニッチな現象だ」と指摘、暗号資産の将来に関する見解は控えながらも、価値の大きな変動のため決済には実用的でないなどの懸念があるとしています。また、暗号資産は膨大なエネルギーを必要とするほか、違法行為と関連しており取り締まりが難しいとし、一方、技術変革を進めていないわけではないとし、CBDC(中銀デジタル通貨)で金融機関間の決済を容易にするパイロットプロジェクトを実施しているなどの取り組み例を挙げています。暗号資産をはじめとする多様な決済手段の普及とCBDCの関係については、今後も注目されるところです。
②IRカジノ/依存症を巡る動向
米司法省は、日本での統合型リゾート(IR)事業に絡んで日本の国会議員らに賄賂を渡したとして、中国のオンライン賭博業者の元最高経営責任者(CEO)を海外腐敗行為防止法(FCPA)違反などの罪で起訴しています。同省の発表によると、起訴されたのは中国・深圳に本社のある「500ドットコム(現ビットマイニング)」のCEOだった潘正明被告で、同被告は日本での大規模IR計画で2017~19年に、賄賂目的でコンサルタントに190万ドル(約2.9億円)を仲介させたとされます。賄賂は現金のほか、旅行や接待、贈答品で、被告はコンサルタントと偽の契約を結び、賄賂の支払い隠蔽も図ったといいます。FCPAとは、Foreign Corrupt Practices Act(海外腐敗行為防止法)の略で、米国外の公務員に対する商業目的での贈賄行為を禁止するために、1977年に米国で制定された法律です。ロッキード事件等の賄賂事件がきっかけとなり、1970年代中頃に実施されたU.S. Securities and Exchange Commission による調査の結果、400以上の米国企業が海外公務員等に対して問題と思われる又は違法な支払いが認められたため本法律は制定されました。米国人や米国の企業等が、取引の獲得や維持、あるいは商取引を誘導する目的で、米国以外の政府関係者・公務員に、賄賂や何らかの価値のあるものの支払いの約束や申し入れ、または承認を助長するような行動を直接的にも間接的にも行ってはならないとされ、日本を含めた米国外の企業、個人による米国内での贈賄行為も本法が適用される点(域外適用)が特徴です。500ドットコムはニューヨーク証券取引所に上場しており、米司法省が捜査、日本の当局も協力したということです。500ドットコムをめぐっては、同社の顧問ら3人が、沖縄県や北海道でIR事業に参入するため便宜を図ってもらおうと、秋元司・元衆院議員(収賄罪などで懲役4年、追徴金約760万円の判決を受け上告中)に現金など計760万円相当を提供したとして贈賄罪などで2020年に起訴されており、いずれも執行猶予付きの有罪判決を東京地裁で受けています。
マカオのカジノ大手、銀河娯楽集団(ギャラクシー・エンターテインメント)の創業者で「新カジノ王」と呼ばれた主席の呂志和氏(95)が死去、長男の呂耀東副主席が後を継ぐとされます。事業者への取り締まりが強化される中、カジノ依存からの脱却が課題となります。報道によれば、マカオ政府がまとめたカジノ売上高は2023年に1830億パタカ(3兆5000億円)と前年の4倍強に増え、2024年1~10月は1901億パタカと前年の通年実績を超えていますが、それでも新型コロナ禍前の2019年1~10月と比べると2割超低くなっています。ホテルなどを大規模に展開して集客するスタイルが強みの銀河娯楽でさえ、依然としてカジノが経営主体であり、中国当局によるカジノへの取り締まり強化が大きな影響を及ぼしています(なお、米ラスベガスの「ストリップ地区」は、コンサートやスポーツなどのエンターテインメント産業が盛んで、コロナ禍前の2019年は総収入の65%が非カジノで占められており、マカオの11%と比べて大きな差があります)。2024年12月には前マカオ終審法院院長(最高裁長官)の岑浩輝氏が政府トップの行政長官に就任、同氏はカジノへの過度の依存が「(マカオの)長期的な発展に悪影響を及ぼす」と指摘、カジノを通じて不透明な資金の流れが拡大していることを懸念しています(中国本土の出身者がマカオ行政長官に就くのは初めてで、締め付けを強めるため中国側が人選したとの見方もあります)。
オンラインカジノを利用したとして、警視庁保安課は、東京消防庁職員の30代の男性や公認会計士の20代の男性ら男女12人を賭博容疑で書類送検しています(さらに、起訴を求める「厳重処分」の意見を付けています)。警視庁は、海外にサーバーがあるオンラインカジノを捜査する過程で、全国の利用者約130人を特定、12人のほかに、23府県警が計45人を賭博容疑で書類送検しています。警察当局は、残る約70人も賭博容疑で書類送検する方針だといいます。今回の12人の書類送検容疑は2023年4月~2024年9月ごろ、スマホやパソコンを使用してオンラインカジノサイト「ビットカジノ」「スポーツベットアイオー」「ベラジョンカジノ」に接続し、暗号資産を使ってビデオスロットやサッカー賭博などをしたというもので、いずれも「違法だとわかっていた」などと容疑を認めているといいます。報道によれば、12人はSNSの広告や動画サイトの紹介動画などからオンラインカジノを知り、利用するようになったとみられ、これまでの賭け金が計約1億5000万円に上る利用者もいたといいます。
2024年11月18日付日本経済新聞電子版の記事「フィリピン、オンラインカジノ禁止 オフィス市況に逆風」によれば、「POGO」(フィリピン・オフショア・ゲーミング・オペレーターの略)と呼ばれる外国人向けオンラインカジノ事業者について、ドゥテルテ前政権下の2016年に賭博公社がライセンスを付与し始め、中国人を主要顧客として急成長したといいます。経済成長に寄与した半面、人身売買やマネロン、違法薬物の販売など犯罪の温床だとの批判が絶えず、2024年春に人身売買の疑いで摘発されたPOGOの拠点があった町の町長が、中国のスパイではないかとの疑惑が浮上し、国内外で関心を集めたことから、POGOへの規制を強化すべきだとの声を受け、マルコス大統領は2024年7月の施政方針演説で2024年中に禁止する意向を示し、「国家への冒涜を止める必要がある」として、2024年11月に入って正式に大統領令に署名したものです。報道によれば、マルコス政権がPOGOの全面禁止を打ち出したことで、いち早く影響が出たのが不動産市場で、関連企業がオフィスから撤退する動きが表面化したということです。
③犯罪統計資料から
例月同様、令和6年(2024年)1~10月の犯罪統計資料(警察庁)について紹介します。
▼警察庁 犯罪統計資料(令和6年1~10月)
令和6年(2024年)1~10月の刑法犯総数について、認知件数は614,804件(前年同期584,496件、前年同期比+5.2%)、検挙件数は229,477件(215,948件、+6.3%)、検挙率は37.3%(36.9%、+0.4P)と、認知件数・検挙件数ともに前年を上回る結果となりました。増加に転じた理由として、刑法犯全体の7割を占める窃盗犯の認知件数・検挙件数がともに増加していることが挙げられ、窃盗犯の窃盗犯の認知件数は418,981件(402,742件、+4.0%)、検挙件数は132,896件(125,810件、+5.6%)となりました。なお、とりわけ件数の多い万引きについては、認知件数は81,498件(77,029件、+5.8%)、検挙件数は54,806件(51,019件、+7.4%)、検挙率は67.2%(66.2%、+1.0P)と、大きく増加しています。また凶悪犯の認知件数は5,831件(4,632件、+25.9%)、検挙件数は4,958件(3,793件、+30.7%)、検挙率は85.0%(81.9%、+3.1P)、粗暴犯の認知件数は48,296件(48,942件、▲1.3%)、検挙件数は38,864件(38,983件、▲0.3%)、検挙率は80.5%(79.7%、+0.8P)、知能犯の認知件数は50,389件(40,315件、+25.0%)、検挙件数は14,909件(15,559件、▲4.2%)、検挙率は29.6%(38.6%、▲9.0P)、そのうち詐欺の認知件数は46,546件(37,146件、+25.3%)、検挙件数は12,360件(13,288件、▲4.2%)、検挙率は26.6%(35.8%、▲9.2%)、風俗犯の認知件数は15,329件(9,180件、+67.0%)、検挙件数は11,819件(6,288件、+88.0%)、検挙率は77.1%(68.5%、+8.6P)などとなっています。なお、ほとんどの犯罪類型で認知件数・検挙件数が増加する一方、検挙率の低下が認められている点が懸念されます(今回はやや解消されていますが、トレンドとしては低下傾向にあります)。また、コロナ禍において大きく増加した詐欺は、アフターコロナにおいても増加し続けています。とりわけ以前の本コラム(暴排トピックス2022年7月号)でも紹介したとおり、コロナ禍で「対面型」「接触型」の犯罪がやりにくくなったことを受けて、「非対面型」の還付金詐欺が増加しましたが、現状では必ずしも「非対面」とは限らないオレオレ詐欺や架空料金請求詐欺などが大きく増加傾向にあります。さらに、SNS型投資詐欺・ロマンス詐欺では、「非対面」での犯行で、(特殊詐欺を上回る)甚大な被害が発生しています。
また、特別法犯総数については、検挙件数は51,929件(56,517件、▲8.1%)、検挙人員は41,307人(46,025人、▲10.3%)と検挙件数・検挙人員ともに減少傾向にある点が大きな特徴です。犯罪類型別では入管法違反の検挙件数は4,967件(4,818件、+3.1%)、検挙人員は3,359人(3,373人、▲0.4%)、軽犯罪法違反の検挙件数は5,276件(6,125件、▲13.9%)、検挙人員は5,334人(6,048人、▲11.8%)、迷惑防止条例違反の検挙件数は4,651件(8,333件、▲44.2%)、検挙人員は3,343人(6,342人、▲11.8%)、ストーカー規制法違反の検挙件数は1,082件(1,009件、+7.2%)、検挙人員は866人(824人、+5.1%)、犯罪収益移転防止法違反の検挙件数は3,495件(2,667件、+31.0%)、検挙人員は2,644人(2,114人、+25.1%)、不正アクセス禁止法違反の検挙件数は390件(412件、▲5.3%)、検挙人員は127人(120人、+5.8%)、銃刀法違反の検挙件数は3,695件(4,027件、▲8.2%)、検挙人員は3,134人(3,373人、▲7.1%)などとなっています。減少傾向にある犯罪類型が多い中、犯罪収益移転防止法違反等が大きく増加している点が注目されます。また、薬物関係では、麻薬等取締法違反の検挙件数は1,613件(1,083件、+48.9%)、検挙人員は942人(636人、+48.1%)、大麻取締法違反の検挙件数は5,733件(6,017件、▲4.7%)、検挙人員は4,549人(4,879人、▲6.8%)、覚せい剤取締法違反の検挙件数は6,766件(6,399件、+5.7%)、検挙人員は4,574人(4,469人、+2.3%)などとなっています。大麻事犯の検挙件数がここ数年、減少傾向が続いていたところ、2023年に入って増加し、2023年7月にはじめて大麻取締法違反の検挙人員が覚せい剤取締法違反の検挙人員を超え、その傾向が続いています。今回、再度、覚せい剤取締法違反による検挙人員が大麻取締法違反による検挙人員をわずかに上回る結果となりましたが、今後の動向が注目されます。また、覚せい剤取締法違反の検挙件数・検挙人員ともに大きな減少傾向が数年来継続していましたが、ここにきて検挙件数が増加傾向となっている点は大変注目されるところです(これまで減少傾向にあったことについては、覚せい剤は常習性が高いため、急激な減少が続いていることの説明が難しく、その流通を大きく支配している暴力団側の不透明化や手口の巧妙化の実態が大きく影響しているのではないかと推測されます。言い換えれば、覚せい剤が静かに深く浸透している状況が危惧されるところだと指摘してきましたが、最近、何か大きな地殻変動が起きている可能性も考えられ、今後の動向にさらに注目したいところです)。なお、麻薬等取締法が大きく増加している点も注目されますが、その対象となるのは、「麻薬」と「向精神薬」であり、「麻薬」とは、モルヒネ、コカインなど麻薬に関する単一条約にて規制されるもののうち大麻を除いたものをいいます。また、「向精神薬」とは、中枢神経系に作用し、生物の精神活動に何らかの影響を与える薬物の総称で、主として精神医学や精神薬理学の分野で、脳に対する作用の研究が行われている薬物であり、また精神科で用いられる精神科の薬、また薬物乱用と使用による害に懸念のあるタバコやアルコール、また法律上の定義である麻薬のような娯楽的な薬物が含まれますが、同法では、タバコ、アルコール、カフェインが除かれています。具体的には、コカイン、MDMA、LSDなどがあります。
また、来日外国人による重要犯罪・重要窃盗犯 国籍別 検挙人員 対前年比較について、総数696人(543人、+28.2%)、ベトナム190人(170人、+11.8%)、中国98人(66人、+48.5%)、ブラジル45人(37人、+21.6%)、フィリピン37人(22人、+68.2%)、スリランカ29人(26人、+11.5%)、韓国・朝鮮26人(21人、+23.8%)、パキスタン25人(12人、+108.3%)などとなっています。ベトナム人の犯罪が中国人を大きく上回っている点が最近の特徴です。
一方、暴力団犯罪(刑法犯)罪種別検挙件数・人員対前年比較の刑法犯総数については、検挙件数は7,834件(7,818件、+0.2%)、検挙人員は3,994人(4,863人、▲17.9%)と、刑法犯と異なる傾向にあります。検挙件数・検挙人員ともに継続して増加傾向にあったところ、2023年6月から再び減少に転じ、前月から検挙件数が増加に転じ強盗の検挙件数は67件(98件、▲31.6%)、検挙人員は131人(185人、▲29.2%)、暴行の検挙件数は332件(490件、▲32.2%)、傷害の検挙件数は660件(829件、▲20.4%)、検挙人員は821人(942人、▲12.8%)、脅迫の検挙件数は219件(259件、▲15.4%)、検挙人員は218人(241人、▲9.5%)、恐喝の検挙件数は266件(294件、▲9.5%)、検挙人員は283人(374人、▲24.3%)、窃盗の検挙件数は4,018件(3,447件、+16.6%)、検挙人員は545人(687人、▲20.7%)、詐欺の検挙件数は1,312件(1,334件、▲1.6%)、検挙人員は859人(1,054人、▲18.5%)、賭博の検挙件数は1,312件(1,334件、▲1.6%)、検挙人員は80人(131人、▲38.9%)などとなっています。とりわけ、詐欺については、増加傾向に転じて以降、高止まりしていましたが、2023年7月から減少に転じている点が特筆されますが、資金獲得活動の中でも活発に行われていると推測される(ただし、詐欺は暴力団の世界では御法度となっているはずです)ことから、引き続き注意が必要です。
さらに、暴力団犯罪(特別法犯)主要法令別検挙件数・人員対前年比較の特別法犯について、特別法犯全体の検挙件数総数は3,507件(4,048件、▲13.4%)、検挙人員総数は2,304人(2,816人、▲18.2%)と、こちらも検挙件数・検挙人数ともに継続して減少傾向にあります。また、犯罪類型別では、入管法違反の検挙件数は22件(16件、+37.5%)、検挙人員は2,304人(2,816人、▲18.2%)、軽犯罪法違反の検挙件数は42件(63件、▲33.3%)、検挙人員は39人(47人、▲17.0%)、迷惑防止条例違反の検挙件数は53件(60件、▲11.7%)、検挙人員は50人(59人、▲15.3%)、暴力団排除条例違反の検挙件数は40件(16件、+150.0%)、検挙人員は62人(31人、+100.0%)、銃刀法違反の検挙件数は55件(86件、▲36.0%)、検挙人員は33人(62人、▲46.8%)、麻薬等取締法違反の検挙件数は220件(169件、+30.2%)、検挙人員は88人(77人、+14.3%)、大麻取締法違反の検挙件数は627件(860件、▲27.1%)、検挙人員は360人(564人、▲36.2%)、覚せい剤取締法違反の検挙件数は1,985件(2,254件、▲11.9%)、検挙人員は1,287人(1,534人、▲16.1%)、麻薬特例法違反の検挙件数は78件(92件、▲8.6%)、検挙人員は35人(46人、▲23.9%)などとなっており、最近減少傾向にあった大麻事犯と覚せい剤事犯について、2023年に入って増減の動きが激しくなっていることが特徴的だといえます(とりわけ覚せい剤については、今後の動向を注視していく必要があります)。なお、参考までに、「麻薬等特例法違反」とは、正式には、「国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律」といい、覚せい剤・大麻などの違法薬物の栽培・製造・輸出入・譲受・譲渡などを繰り返す薬物ビジネスをした場合は、この麻薬特例法違反になります。なお、法定刑は、無期または5年以上の懲役及び1,000万円以下の罰金で、裁判員裁判になります。
(8)北朝鮮リスクを巡る動向
北朝鮮のロシア派兵が、ウクライナ情勢を一変させています。金正恩朝鮮労働党総書記の決断による対露派兵を、北大西洋条約機構(NATO)は「北朝鮮は欧州人を殺すために派兵した」と受け止めたと思われます。米英仏はウクライナが露領土を攻撃するための長射程ミサイルの使用を解禁し、NATO加盟国では兵力の直接投入論も出ています。金総書記は、派兵を機に露朝関係を盤石にし、兵士の練度向上や核・ミサイル技術の供与など飛躍的な見返りを目論んでします。現在約1万1000人の派兵規模は今後、10万人まで増派されるとも予測されています(ただし、実現は困難だとの見方もあります。一方で北朝鮮軍の訓練は主に山岳地帯で行われているため、クルスク州の平坦な地形での戦闘には不慣れで、北朝鮮兵が脱北するリスクも高く、露兵に偽装させていることからも金総書記も相当数の死者が出ることは十分に認識していると思われます)。ウクライナ侵略でのロシア側死傷者は64万人を上回り、死者は累計で7万8000人、1日当たり1000人を超えたとされます。金総書記の狙いは、兵力不足で継戦能力が深刻な影響を受け、苦しい立場にあるプーチン露大統領への徹底した支援であり、露朝同盟を盤石化すれば、北朝鮮には対米交渉力などの政治力、衛星など先進的な軍事力(2024年に入って平和統一路線を放棄するなど韓国との対立を深める金総書記は、最先端のドローンや旧ソ連製の戦車など、新旧の技術を一体的に活用した現代戦のノウハウ習得を重視しているとされます。また、米国や韓国に軍事的脅威を与えるために核・ミサイル開発でなお不足する技術があり、大陸間弾道ミサイル(ICBM)を大気圏に再突入させる技術や、おとりを用いて迎撃を難しくさせる「多弾頭」技術などが、北朝鮮がめざすICBMの完成には必要となります。さらに、50%とされる北朝鮮製砲弾やミサイルの精度向上に寄与することも考えられます)、エネルギーを含む経済的利益がもたらされることになります(派兵によって金総書記が喉から手が出るほど必要としている外貨を大量に確保できる可能性があります。5千人から2万人の兵士を派遣することで、年間1億4300万ドル(約219億円)から5億7200万ドル(約875億円)の収入を生み出す可能性があります)。一方、北朝鮮の派兵は、アジアの安全保障にも波及、欧州と韓国を連帯させることになりました。韓国の尹錫悦大統領は2024年10月下旬以降、EUのフォンデアライエン欧州委員長、NATOのルッテ事務総長らと相次いで電話会談したほか、韓国政府代表団がNATOとEUの本部に続いてウクライナを訪問、韓国とNATO・EUとの特別タスクフォース設置で合意し、戦場における最新情報の共有体制も構築しています。さらに、米韓関係にも変化が起きており、米韓首脳は2024年夏、「朝鮮半島核抑止・核作戦指針」に署名しましたが、露朝軍事同盟の締結を受け、米韓合同演習に核使用シナリオを反映させることを決定、2024年中に核戦争を想定した作戦計画の策定を開始し、2025年上半期の米韓合同演習に間に合わせる予定だといいます。露朝の接近で北朝鮮の核ミサイル能力が伸長する可能性があるためで、韓国は2025年から、核兵器を搭載した米国の戦略爆撃機や戦略原子力潜水艦といった「戦略資産」の定期的な韓国訪問で北朝鮮を牽制する方針といいます。北朝鮮の後ろ盾を自任してきた中国も足元では北朝鮮への影響力を弱めており、静観を決め込んでいます。また、中露が常任理事国を務める国連安全保障理事会は事実上、機能不全に陥ったままです。一方、ロシアとウクライナの早期停戦を公約したトランプ前大統領の返り咲きが決まり、ロシアは近い将来の停戦交渉を視野に入れ、支配地域を拡大して「勝利」を演出しようと躍起となっています。ただし、戦闘参加で多数の死者や脱走者が出る事態となれば金総書記指導部への痛手となり得ることから、北朝鮮メディアはいまだに兵派遣の事実を国内に向けて伝えていません。いずれにせよ、正に事態のエスカレーションは確実に進んでおり、北朝鮮の派兵がもたらした欧州の緊張が、ウクライナ侵略のレッドライン(越えてはならない一線)とされる「ロシアの核カード」を刺激しないとはかぎらない、緊迫した状況が続くことになります。
国連安全保障理事会は、ロシアのウクライナ侵略に関する閣僚級会合を開いています。侵略1000日目となることに合わせたもので、多くの理事国が侵略を非難し、日米韓などは北朝鮮部隊のウクライナ戦線への参加を批判しています。北朝鮮兵の戦闘参加を巡っては、日本の藤井外務副大臣が「北朝鮮の直接支援は欧州とインド太平洋の平和と安全に深刻な影響を与える」と批判、韓国の黄国連大使は「北朝鮮内の約200の兵器工場が対露輸出のためフル稼働中だ」と報告しています。一方、北朝鮮の朝鮮中央通信は、金総書記が露のコズロフ天然資源環境相と会談したと報じています。経済分野の訪問団との会談は異例だといいます。米国の安全保障戦略や日米韓協力を危険だとあおり、ロシアへの接近を正当化しています。金総書記は会談でロシアと2024年6月に結んだ「包括的戦略パートナーシップ条約」に言及、「貿易経済と科学技術交流をさらに幅広く、多角的に促進させる」と強調したといいます。韓国統一省によると、同委員会のロシア代表が金総書記と会談するのは今回が初めてであり、露の訪問団を歓待し、ウクライナ侵略への兵派遣に対する見返りを最大化しようという北朝鮮の思惑がうかがえます。朝鮮中央通信によると、ロシア軍参謀本部の軍事アカデミーの代表団も平壌を訪れ、北朝鮮が軍事と経済の両面でロシアへの接近を深めていることが明らかとなっています。米国主導の軍事同盟が拡大し「その侵略の矛先がわが国に集中している」と危機をあおるレトリックを用いて軍の結束を促し、現代の戦争に関しては「陸海空と宇宙、サイバーをあわせて立体的に繰り広げられる。高度な軍事技術で武装した敵と戦わなければならない」とも話し、ロシアへの軍事支援と見返りが自国の防衛に重要だと暗に示す演説内容になっています。
北朝鮮の派兵について、韓国の有識者のコメントも興味深いものでした。朝日新聞によれば、韓国統一研究院の崔・元院長は、「北朝鮮の建国精神に合わない行動です。金日成主席は日本から祖国を解放し、米国と闘争し、非同盟諸国のリーダーを自任してきました。「大国から小国を守る」というのが、北朝鮮の掲げた方針でした。ベトナム戦争でも、米国と戦う北ベトナムを助けました。ところが、今回はウクライナを侵略するロシアを助けています。北朝鮮がロシアへの兵士派遣を国内向けに報道しない理由の一つだと思います」、「もし、子供がロシアで戦死すれば両親らは怒り、嘆き悲しむでしょう。金正恩氏は大きな賭けに出たと思います」、「兵士が多数死亡すれば、動揺層に反発が広がり、体制が揺らぐかもしれません。それだけ、金正恩氏は「派遣しなければならない」追い詰められた状況にあったと思います」、「北朝鮮市民が韓国の文化に夢中になることは、金正恩氏にとっては耐えられない事態でしょう。だから、韓国を敵視する政策に転換したのです。北朝鮮の体制は揺らいでいるとみるべきです」、「焦って兵士を送った北朝鮮は、徹底的にロシアに利用されるでしょう」、「それだけ、北朝鮮に余裕がないことがわかります」といった内容です。また、北朝鮮の軍事情勢に詳しい、韓国の市民団体「自主国防ネットワーク」の李・事務局長は、「北朝鮮兵はロシア軍部隊の「弾よけ」として前線に配置され、「多くの北朝鮮兵は現代戦を学ぶ暇もなく戦死するだろう」と予測しています。さらに、「軍事ブロガーたちの投降や衛星写真、公開情報などを総合すると、現在、少なくともウクライナ軍の陣地に近い四つのロシア軍部隊に、それぞれ1個大隊規模の北朝鮮兵が投入されているようです。少し後方の部隊で1週間ほど教育を受けた後、最前線に投入されています。各部隊をみると、北朝鮮兵30人に対し、露軍から将校3人、通訳1人、補給担当1人、重火器担当1人の計6人が対応しているようです。この情報が間違いなければ、北朝鮮兵はウクライナ軍の弾薬を消耗させる「弾よけ」として最前線に投入されているとみるべきでしょう」、「クルスク州は平野部で、北朝鮮兵士が隠れる場所も多くありません。ロシア派遣から2週間しか経っていないため、地理研究も十分ではないでしょう。北朝鮮軍兵士は「ドローンとの戦い」を学ぶ暇もなく戦死するでしょう」、「派兵された兵士の死傷者が増えれば増えるほど、北朝鮮は派遣の事実を一般市民に隠しきれなくなります。派遣された兵士の父母を中心に反発や動揺が広がるでしょう」、「露軍も補給状況が悪く、食料はパンが中心で肉類が不足しています。川の水を飲料水にしているケースもあるようです。すでに、傭兵や一般契約兵、囚人兵などの脱走が相次いでおり、北朝鮮兵も脱走者が相次ぐと予想しています」といった内容です。北朝鮮の体制がゆらいでおり、焦った金総書記が派兵に踏み切った、だがそのリスクが極めて高いものであり、今後、北朝鮮の体制をさらにゆるがしかねない要因となりつつあることがよくわかります。
その他、露朝の接近に関する最近の報道から、いくつか紹介します。
- 北朝鮮が国連安保理の制裁決議に違反し、2024年にロシアから100万バレル以上の石油を輸入した可能性があることが判明しています。英国の研究グループ「オープンソースセンター」とBBCが衛星画像の分析結果として発表したところによれば、北朝鮮の石油タンカーが2024年3月以降、ロシア極東のボストーチヌイ港に40回以上寄港、北朝鮮の国連制裁違反活動を監視する海上パトロール隊が公開した数十枚の高解像度衛星画像やAIS(自動識別システム)データなどには、北朝鮮のタンカーがロシアのボストーチヌイ港の石油ターミナルで繰り返し積み込みを行っている様子が写っているといいます。国連安保理の制裁決議の下、北朝鮮の石油精製品の輸入上限は年間50万バレルに定められています。
- 英紙FTは、ウクライナの情報機関の分析として、北朝鮮がここ数週間でロシア軍に対し、北朝鮮製の170ミリ自走砲「M1989」約50両と240ミリ口径の多連装ロケットシステム約20基を供与したと報じています。韓国の国情院は、これら兵器の整備などのため「追加派兵する可能性が高い」と分析しています。供与した武器の一部はウクライナ軍が越境攻撃を行っている露西部クルスク州に運ばれたといいます。ウクライナの情報機関によると、北朝鮮は自国製兵器を実戦で使用し、性能を確認したい考えがあるとみられています。なお、北朝鮮は大量の砲弾や短距離弾道ミサイルの供与も行っています。
- 韓国大統領府の申・国家安保室長は、ロシアが北朝鮮に対し、防空システムや対空ミサイルなどを供与したと明らかにしています。申氏は「脆弱な平壌の防空網を補強するため」と指摘しています。申氏は、北朝鮮が派兵の見返りとして、ロシアから軍事偵察衛星をはじめとする軍事技術の支援を受けていると述べています。
- ロシア政府は、モスクワの動物園からライオンやヒグマなどの動物70匹超を北朝鮮・平壌の動物園に移送したと発表しています。ロシア政府は「プーチン(大統領)から北朝鮮の人々への贈り物だ」と説明していますが、派兵と動物の寄贈との関連は不明です。
北朝鮮の今後の軍事的な動きについて、最近の報道から、いくつか紹介します。
- 韓国大統領府の申・国家安保室長は、北朝鮮が2024年中に軍事偵察衛星を発射する可能性が高いとの見方を示しています。衛星発射場のある北西部の平安北道東倉里に発射体を移動するような差し迫った兆候はないものの、「準備は最終段階だ」と述べています。北朝鮮の金総書記は2024年中に3基の偵察衛星を打ち上げることを目標としていますが、5月に失敗して以降、新たな打ち上げはありません。申氏は、打ち上げ失敗後の約半年間で多くのエンジン燃焼実験が行われたと指摘、ロシアから導入した新たなロケット推進システムの改良に時間を要していたとの見方を示しています。
- 朝鮮中央通信によると、金総書記は、自爆攻撃型無人機(ドローン)の性能試験を視察、現代戦におけるドローンの重要性を強調し、量産体制を構築するよう指示しています。北朝鮮兵のロシア派遣を巡り、現代戦への理解が不足していると指摘されていることを意識したとみられています。ロシアによるウクライナ侵略やパレスチナ自治区ガザをめぐる紛争を念頭に「無人機が大小の紛争で明白な成果を収めている」と述べ、「こうした客観的な変化は軍事理論と軍事実践、軍事教育の多くの部分を更新すべき必要性を提起している」と強調しています。北朝鮮は過去に複数回韓国に向けてドローンを飛ばしており、2022年12月には5機が韓国領空に侵入し、1機はソウル中心部の大統領府上空一帯に設定された飛行禁止区域を通過、韓国軍は陸・海・空軍と海兵隊で構成する専門部隊「ドローン作戦司令部」を2023年9月に創設したのに続き、ドローンを撃ち落とすレーザー対空兵器「ブロック―1」を2024年中に国内に配備する予定だといいます。
- 金総書記は演説で、核兵器開発は「不可逆的な政策だ」と改めて強調した上で、残る課題は戦争抑止や体制維持などのための核の先制使用に向けて「完全な稼働体制を整えることだけだ」と述べたと報じられています。金総書記は米国が日韓との連携を強め、「アジア版NATO」を築こうとしていると指摘、朝鮮半島情勢の緊張が「史上最悪に高まっている」として有事に万全を期すよう求めています。米大統領選後、金総書記が米国について発言するのは初めてとなりましたが、従来通りの見解となりました。
ロイター通信は、米国のトランプ次期大統領の政権移行チームが、トランプ氏と金総書記との直接会談を検討していると報じています。一方、トランプ氏は判断しておらず、会談が実現するかどうかは不透明な状況だといいます。トランプ氏は第1次政権で金総書記と3度にわたり会談したが、北朝鮮の非核化措置を巡り交渉は決裂しました。トランプ氏は今回、国家安全保障担当の大統領筆頭副補佐官に、第1次政権で米朝交渉を担ったアレックス・ウォン元国務次官補代理を起用すると発表しており、ウォン氏らを中心に首脳会談を模索するとみられています。トランプ氏は、金総書記と「良好な関係だ」と公言しており、再び直接会談が実現すれば、バイデン政権との違いをアピールする材料にもなります。一方で、北朝鮮は核・ミサイル技術を年々向上させており、核放棄を促すハードルは高くなっており、トランプ氏は「彼ら(北朝鮮)は巨大な核の力を持っている」などと述べており、核兵器保有を事実上容認するような政策変更の可能性も考えられるところです。
金総書記の妹、与正党副部長は、韓国から2024年11月16日にビラなどが北朝鮮側に飛来したと明らかにし、「神聖な我々の領土が汚染された」と猛反発しています。朝鮮中央通信が配信した写真には、金正恩政権への批判を記したとみられるビラのほか、韓国で市販されているチョコパイの箱とみられるものなどが写っており、与正氏は「最も嫌悪すべき雑種犬畜生たち(韓国)に対するわが人民の怒りは天に達した」とし、「くずたちは代価を払うことになる」と警告しています。本コラムでも取り上げてきたとおり、韓国では脱北者団体などが中心となって、金政権を批判するビラなどを断続的に北朝鮮に飛ばしており、北朝鮮はこれに対抗し、ごみなどをくくりつけた大量の風船を繰り返し韓国に飛ばしています。これに対し、韓国軍の合同参謀本部は、北朝鮮からゴミがくくりつけられた風船約40個が飛ばされ、首都圏などに20個あまりが落下したと発表しています。韓国軍によると、北朝鮮が「ゴミ風船」を飛ばすのは31回目で、中身はビラなどだったようです。北朝鮮は韓国への「あこがれ」につながる文化の流入を強く警戒しており、チョコパイはかつて韓国企業が進出した開城工業団地で、北朝鮮労働者の人気を集めたといわれています。また、北朝鮮が韓国との軍事境界線付近から韓国側に向けて、不気味な騒音を大音量で流し続ける「騒音攻撃」を繰り広げているといいます。就寝時間中も神経に障る金属音や獣の鳴き声のような音が鳴り響き、韓国では不眠症に悩む住民も出始めているとのことです。2024年夏から夜間に騒音が鳴り響くようになり、最近は昼夜を問わないといいます。北朝鮮は2024年5月以降、風船にごみなどをくくりつけた「ごみ風船」を韓国に向けて断続的に飛ばしていますが、これに対抗して韓国軍は6月、北朝鮮に向けてK―POPなどを流す宣伝放送を開始、すると北朝鮮から「騒音攻撃」が始まったといいます。韓国メディアによると、韓国側で測定した騒音はパチンコ店内の騒がしさと同レベルの80デシベルに達したということです。
本コラムでは北朝鮮のIT技術者による資金獲得活動について注意喚起してきましたが、警察庁からも2024年3月に続き、あらためて注意喚起が出されています。本コラムで以前も紹介したものですが、あらためて取り上げます。
▼警察庁 北朝鮮 IT 労働者に関する企業等に対する注意喚起(令和6年3月 26 日)
- 国際連合安全保障理事会北朝鮮制裁委員会専門家パネルは、これまでの国際連合安全保障理事会決議に基づく対北朝鮮措置に関する報告書において、北朝鮮は、IT労働者を外国に派遣し、彼らは身分を偽って仕事を受注することで収入を得ており、これらが北朝鮮の核・ミサイル開発の資金源として利用されていると指摘しています。
- また、2022年5月16日、米国が、国務省、財務省及び連邦捜査局(FBI)の連名で、このような北朝鮮IT労働者による活動方法や対応策等をまとめたガイドラインを公表したほか、同年12月8日、韓国が、外交部、国家情報院、科学技術情報通信部、統一部、雇用労働部、警察庁、公正取引委員会の連名で、同様のガイドラインを公表しました。さらに、2023年10月18日、米国及び韓国が共同で北朝鮮IT労働者に関する追加的な勧告を行うための公共広告(PSA)を発表するなど、北朝鮮IT労働者に関してこれまでに累次の注意喚起が行われています。
- 我が国に関しても、北朝鮮IT労働者が日本人になりすまして日本企業が提供する業務の受発注のためのオンラインのプラットフォーム(以下「プラットフォーム」という。)を利用して業務を受注し、収入を得ている疑いがあります。また、北朝鮮IT労働者が情報窃取等の北朝鮮による悪意あるサイバー活動に関与している可能性も指摘されており、その脅威は高まっている状況にあります。
- この点、北朝鮮に関連する国際連合安全保障理事会決議は、加盟国において収入を得ている全ての北朝鮮労働者の送還を決定するとともに、いかなる資金、金融資産又は経済資源も、北朝鮮の核・ミサイル開発の利益のために利用可能となることのないよう確保しなければならないと規定しているほか、このような北朝鮮IT労働者に対して業務を発注し、サービス提供の対価を支払う行為は、外国為替及び外国貿易法(昭和24年法律第228号)等の国内法に違反するおそれがあります。
- 各企業・団体においては、経営者のリーダーシップの下、北朝鮮IT労働者に対する認識を深めるとともに、以下に挙げるような手口に注意を払っていただきますようお願いいたします。また、プラットフォームを運営する企業においては、本人確認手続の強化(身分証明書の厳格な審査、テレビ会議形式の面接の導入等)、不審なアカウントの探知(不自然な情報の登録が通知されるシステムの導入等)といった対策の強化に努めていただきますようお願いいたします。
- 北朝鮮IT労働者の手口
- 北朝鮮IT労働者の多くは、国籍や身分を偽るなどしてプラットフォームへのアカウント登録等を行っています。その際の代表的な手口として、身分証明書の偽造が挙げられます。また、日本における血縁者、知人等を代理人としてアカウント登録を行わせ、実際の業務は北朝鮮IT労働者が行っている場合もあります。この場合、当該代理人が報酬の一部を受け取り、残りの金額を外国に送金している可能性があるほか、当該送金には、資金移動業者が用いられることがあります。
- 北朝鮮IT労働者は、IT関連サービスの提供に関して高い技能を有する場合が多く、プラットフォーム等において、ウェブページ、アプリケーション、ソフトウェアの制作等の業務を幅広く募集しています。
- 北朝鮮IT労働者の多くは、中国、ロシア、東南アジア等に在住していますが、VPNやリモートデスクトップ等を用いて、外国から作業を行っていることを秘匿している場合があります。
- そのほか、北朝鮮IT労働者のアカウント等には、次のような特徴がみられることが指摘されています。業務上関係するアカウントや受注者にこれらの特徴が当てはまる場合には、北朝鮮IT労働者が業務を請け負っている可能性がありますので、十分に注意してください。
- 主にプラットフォームを運営する企業向け
- アカウント名義、連絡先等の登録情報又は登録している報酬受取口座を頻繁に変更する。
- アカウント名義と登録している報酬受取口座の名義が一致していない。
- 同一の身分証明書を用いて複数のアカウントを作成している。
- 同一のIPアドレスから複数のアカウントにアクセスしている。
- 1つのアカウントに対して短時間に複数のIPアドレスからのアクセスがある。
- アカウントに長時間ログインしている。
- 累計作業時間等が不自然に長時間に及んでいる。
- 口コミ評価を行っているアカウントと評価されているアカウントの身分証明書等が同一である。
- 主に業務を発注する方向け
- 不自然な日本語を用いるなど日本語が堪能ではない。また、そのためテレビ会議形式の打合せに応じない。
- プラットフォームを通さず業務を受発注することを提案する。
- 一般的な相場より安価な報酬で業務を募集している。
- 複数人でアカウントを運用している兆候がみられる。
- 暗号資産での支払いを提案する。
- 問合せ先
- 北朝鮮IT労働者の関与が疑われる場合には、プラットフォームの管理責任者に相談するほか、関係機関に御相談ください。
- 警察庁警備局外事情報部外事課 npa-gAIji-it-toiawase@npa.go.jp
- 外務省北東アジア第二課 ahoku2-toiawase@mofa.go.jp
- 財務省国際局調査課対外取引管理室 450062200000@mof.go.jp
- 経済産業省商務情報政策局情報技術利用促進課 bzl-it-joho-toiawase@meti.go.jp
- 北朝鮮IT労働者の関与が疑われる場合には、プラットフォームの管理責任者に相談するほか、関係機関に御相談ください。
2024年11月28日付日本経済新聞によれば、名門大学の研究者たちが知らずに北朝鮮と共同研究していた実態が明らかになっています。国連の制裁下にある北朝鮮の研究者が関わる国際共著論文を日本経済新聞が調べたところ、東京大学や名古屋大学といった日本の5大学などに所属する研究者が名を連ねた事例が8件見つかり、どの研究者も北朝鮮と直接の関わりは無いとしていますが、国連の制裁に違反する可能性があり、国際的な共同研究が増える中でリスク管理の課題が浮かび上がった形です。大学当局や研究機関は所属する研究者の活動を把握する必要があり、文部科学省も、北朝鮮の研究者と「直接の協力関係が無い場合でも、意図せず共著となる可能性もある」とし、原稿執筆段階や投稿前における確認の徹底などを求めていますが、大学側などは取材に対して論文の存在を把握していなかったと回答しています。北朝鮮との国際共同研究を禁じた国連安保理決議第2321号などによると、国連加盟国は核兵器やミサイルに関する研究に限らず、医療交流や国が認めたもの以外のすべての科学研究を停止するよう求めており、もし研究する場合は事前に国を通じて国連の制裁委員会に通知して認められる必要がありますが、外務省によると、これまで北朝鮮と共同研究した事例について国連の制裁委員会に通知したことは一件もないといいます。国連の北朝鮮制裁に関する専門家パネルの委員を務めた経験がある古川勝久氏によると、今回見つかった論文は制裁委員会で認められておらず、内容はそれぞれ医療交流ではないと見られることなどから「国連制裁に違反する恐れがある」と指摘しています。
北朝鮮がランサムウェア攻撃で、同国の国内総生産(GDP)の約4分の1を得ているとの分析を、米サイバー軍の前司令官、ポール・ナカソネ氏が明らかにしています。また、北朝鮮の派兵についても、「協力分野にサイバー攻撃を含んでいても不思議ではない」との見方も示しています。同氏はまた、サイバー分野での日米の連携が重要だと強調、日本が「能動的サイバー防御」導入を検討していることを念頭に、重要インフラへの攻撃を防ぐサイバー能力を強化し、産官学の連携で迅速に状況を探知する態勢を整え、意思決定者に複数の選択肢を提供して対応することが大事だと述べています。
韓国警察庁は、580億ウォン相当(約64億円)の暗号資産が2019年に窃取された事件を北朝鮮の犯行と断定しています。米連邦捜査局(FBI)などと協力し、北朝鮮特有の語彙の使い方などを端緒に突き止めたといいます。暗号資産交換業者に対するサイバー攻撃を北朝鮮の犯行と断定したのは韓国では初めてだといいます。事件は2019年11月、交換業者が保管していた暗号資産イーサリアムが当時の相場で約580億ウォン相当(足元で約1兆4700億ウォン相当)窃取されたもので、捜査を通じて確保した北朝鮮のIPアドレスと暗号資産の流れ、北朝鮮の語彙の使い方などの証拠と長期間にわたるFBIとの協力で取得した資料を総合して判断したといいます。特に北朝鮮の暗号資産窃取の痕跡を探しだす過程で、犯行グループが使用した機器類を発見、分析過程で北朝鮮特有の語彙を使用したことを捕捉したといいます。窃取された暗号資産の総被害の57%は、攻撃者が作ったと推定される暗号資産交換サイト3個を通じて、相場より安い価格(2.5%割引)でビットコインに交換され、残りは海外51カ所の交換業者に分散されたあと、転送されていたといいます。一方、被害に遭った暗号資産の一部がビットコインに交換され、スイスにある暗号資産交換業者に保管された事実も確認しています。被害を取り戻すため、韓国検察庁、法務省が協力しスイスとの刑事司法共助を活用して、該当する交換業者から2024年10月、4.8ビットコイン(現相場約6億ウォン)相当額を返還することに成功したといいます。窃取された当時、韓国に拠点を置く暗号資産取引所のアップビットが、580億ウォンのイーサリアムが未確認のウォレットに送金されたことを検知したと発表していましたが、警察当局はハッカーの身元は確認していませんが、報道によれば、警察はハッカーが北朝鮮軍に所属する偵察総局と関係のある「ラザルス」「アンダリエル」と呼ばれる集団と特定したとされます。なお、国連安保理の北朝鮮制裁委員会専門家パネルは2024年3月、北朝鮮が暗号資産関連企業へのサイバー攻撃を繰り返し、2017年以降に30億ドル(約4600億円)を窃取した疑いがあるとの報告書を発表しています。
北朝鮮の人権状況を審査する国連人権理事会の作業部会は、北朝鮮に対する294件の勧告を盛り込んだ報告書を採択し、日本が訴えた拉致問題の解決と拉致被害者の即時帰国を求めています。作業部会による北朝鮮への勧告は2019年以来5年ぶりとなります。北朝鮮はジュネーブで行われた審査で、日本人拉致問題は「解決済み」として「議論や説明の余地はない」と主張していました。勧告では、拉致問題の即時解決に向け、具体的な行動を取るよう要求、ウクライナ侵略を続けるロシアへの北朝鮮兵派遣を念頭に、対露軍事協力の停止も求め、侵略への加担は「重大な人権侵害をもたらす」と指摘しています。このほか、人権状況の現地調査受け入れや子供の強制労働停止などを勧告しています。なお、北朝鮮のチョ・チョルス駐ジュネーブ国際機関政府代表部大使は、2025年2月に始まる人権理の通常会期までに「最終的な立場を示す」と述べていますが、北朝鮮は2019年の前回審査で「留意する」とした勧告について受け入れを拒んでおり、今回も拒否するとみられています。
その他、北朝鮮を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。
- 韓国統一省の当局者は、北朝鮮の金総書記の偶像化が2024年、目に見えて加速しているとの認識を示しています。北朝鮮は2024年、住民が党などへの忠誠を誓う「忠誠宣誓」の日を金総書記の誕生日とされる1月8日に実施したと指摘、祖父の金日成主席が生まれた1912年を元年とする「主体(チュチェ)年号」を公式メディアから削除する動きも続いているといいます。祖父の威光から脱却する試みの一つとみられています。報道によれば、2024年に入り、「正恩氏と祖父、父の3人が並んだ肖像写真の公開(5月)」、「正恩氏一人をあしらった「肖像バッジ」の登場(6月)」といった偶像化の動きが進んでいます。これまでの政権運営に基づく一定の自信に加え(正恩氏が)40歳となったことが影響したようだ」と指摘、「今後、(正恩氏の)誕生日を祝日にする可能性がある」と明らかにしています。
- 北朝鮮の派兵に関心が集まる中、北朝鮮国内では自国通貨ウォンの価値が年初に比べ大暴落し、4分の1近くになっているといい、金政権が進める国家統制色の強い経済政策に対する住民の不満や不安が、暴落の背景にあると見られています。金政権は内部文書で「為替レート安定を阻害する者」との闘争を、軍や治安機関に指示するなど危機感を強めているといいます。通貨暴落の原因の一つは、新型コロナウイルス対策として3年以上、国境を封鎖した後、徐々に貿易を再開していく過程で、輸入品需要の高まりから外貨需要も増えていることが挙げられます。北朝鮮の貿易関係者によると2024年9月、「年内に貨幣改革がある」とのデマを流したとして住民が銃殺刑になった事件があったといい、北朝鮮当局は各地で「貨幣改革は実施しない。デマを流してはならない」との布告を出し、民心の安定を図っているといいます。10月の内部文書でも「流言飛語を流し、通貨安定を阻害する者」に対する厳格な処罰を指示していますが、中朝貿易関係者は「否定すればするほど住民たちは疑心暗鬼になっている」と明かしています。
- 米韓などのメディアによれば、各国の人権状況を調べる国連人権理事会の「普遍的・定期的レビュー」(UP)に出席した北朝鮮の中央裁判所幹部は、政治犯収容所の存在について直接的には否定しつつも、反国家犯罪者は一般犯罪者と分離収容していると主張し、事実上、存在を認める発言をしています。公開処刑についても、被害者家族の要求がある場合、18歳以上の死刑囚に例外的に執行していると認めています。北朝鮮が事実を認めたのは、ロシアや中国が進めている国際法違反など戦後秩序を変更しようとする挑戦に影響されたからとの見方もあります。プーチン大統領が指導するロシアはウクライナで蛮行を働いており、中国も南シナ海などで覇権を追求しており、両国は国際社会から批判されていますが、実質的な責任を取っておらず、金総書記も、「人権侵害をしても責任を取らなくてもいい」「自分の国際的な地位が上がっている」という自信が生まれたのではないかとの見方です。一方、中国やロシアなどで、伐採工や工場労働者など十数万人の北朝鮮労働者が働いており、大勢の北朝鮮の人たちが常に脱北を考えているといいます。派兵された兵士も脱北を考えているのではないかと推測されます。そういった意味では、特に若い北朝鮮兵士には、投降を誘うウクライナの宣伝戦も有効ではないかと考えます。そして、兵士だけでなく一般の人民も含め脱北者が相次ぐような、金総書記が予想しなかった事態も起きうる可能性も否定できません。さまざまな状況を総合的に勘案すれば、「北朝鮮の体制がゆらいでいるのは確か」ではないかと筆者は考えています。
3.暴排条例等の状況
(1)暴力団排除条例に基づく逮捕事例(大阪府)
大阪・ミナミの繁華街で用心棒をしたとして、大阪府警は、六代目山口組傘下組織幹部を大阪府暴力団排除条例(暴排条例)違反などの疑いで逮捕しています。報道によれば、組員を事前の勧告などを経ずに逮捕できる「直罰規定」を盛り込み、2024年7月施行の同条例改正後初めて適用されたとのことです。2024年9月、大阪市中央区の路上で、知人と共謀して客引きグループ同士のトラブルで用心棒行為をした疑いがもたれており、大阪府警は、組員を用心棒にしたとして、客引きグループの男2人も逮捕しています。本コラムでも取り上げたとおり、同条例は改正で、組員らが用心棒を務めることなどに、懲役1年以下または罰金50万円以下の罰則が設けられています。
▼大阪府暴排条例
客引きグループの行為については、同条例第十六条の二(特定営業者の禁止行為)において、「特定営業者は、暴力団排除特別強化地域(別表第一に掲げるものに限る。第十六条の四において同じ。)における特定営業の営業に関し、次に掲げる行為をしてはならない」として、「二 暴力団員等又は暴力団員等が指定した者から、用心棒の役務(業務を円滑に行うことができるようにするため、顧客、従業者その他の関係者との紛争の解決又は鎮圧を行う役務をいう。以下この条から第十六条の五までにおいて同じ。)の提供を受けること」が規定されています。また、暴力団員については、第十六条の四 (暴力団員等の禁止行為)において、「次の各号に掲げる者は、暴力団排除特別強化地域における特定営業の営業に関し、当該各号に定める行為をしてはならない」として、「二 暴力団員等 次に掲げる行為」「 イ 特定営業者に対し、用心棒の役務を提供し、又は当該暴力団員等が指定した者に用心棒の役務を提供させること」が規定されています。そのうえで、両者について罰則として、第七章(罰則)第二十七条において、「次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する」として、「一 相手方が暴力団員等又は暴力団員等が指定した者であることの情を知って、第十六条の二又は第十六条の三の規定に違反した者」および「二 第十六条の四又は第十六条の五の規定に違反した者」が規定されています。
(2)暴力団排除条例に基づく逮捕事例(広島県)
広島県福山市昭和町でのラウンジの営業に絡み、店側からみかじめ料を受け取ったとして、広島、岡山県警は、浅野組組員と会社員の女の両容疑者を広島県暴排条例違反の疑いで逮捕しています。
▼広島県暴力団排除条例
暴力団員については、同条例第十一条の三(暴力団員の禁止行為)第2項において、「暴力団員は、暴力団排除特別強化地域における特定営業の営業に関し、特定営業者から、用心棒の役務の提供をすることの対償として、又は当該営業を営むことを容認することの対償として利益の供与を受けてはならない」と規定されています。また、女性については、第十一条の二 (特定営業者の禁止行為)において、「特定営業者は、暴力団排除特別強化地域における特定営業の営業に関し、暴力団員による用心棒の役務(法第九条第五号に規定する用心棒の役務をいう。次項及び次条において同じ。)の提供を受けてはならない」と規定されています。そのうえで、第二十七条(罰則)において、「次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する」として、「一 相手方が暴力団員であることの情を知って、第十一条の二の規定に違反した者」、「二 第十一条の三の規定に違反した者」がそれぞれ規定されています。
(3)暴力団排除条例に基づく逮捕事例(神奈川県)
暴力団事務所を禁止区域に開設したなどとして、警視庁浅草署は神奈川県暴排条例違反の疑いで、稲川会傘下組織組長を逮捕しています。「俺の家だ」と容疑を否認しているといいます。報道によれば、2019年4月ごろ~2024年10月31日、川崎区大島上町のビルの一室に、禁止区域にも関わらず、暴力団事務所を開設、運営したというものです。同条例では、児童福祉施設や公園付近での事務所開設を禁じています。事務所には30人ほどの組員が出入りしていたとみられ、約2年前に浅草署に情報提供があり発覚したものです。
▼神奈川県暴排条例
同条例第16条(暴力団事務所の開設及び運営の禁止区域等)において、「暴力団事務所は、次に掲げる施設の敷地(これらの用に供するものと決定した土地を含む。)の周囲200メートルの区域内において、開設し、又は運営してはならない」として、「(3) 児童福祉法(昭和22年法律第164号)第7条第1項に規定する児童福祉施設及び同法に規定する児童相談所」や「(8) 都市公園法(昭和31年法律第79号)第2条第1項に規定する都市公園」が規定されています。そのうえで、第32条(罰則)において、「次の各号のいずれかに該当する者は、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する」として、「(1) 第16条第1項の規定に違反して、暴力団事務所を開設し、又は運営した者」が規定されています。
(4)暴力団対策法に基づく中止命令発出事例(沖縄県)
沖縄県警石川署は、「刺されたいのか」などと暴力団の威力を示して、20代の自営業男性が抱えていた給与トラブルに乗じて男性ら2人に金銭を要求したとして、暴力団対策法に基づき、旭琉会三代目ナニワ一家組員に中止命令を発出しています。
▼暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律
暴力団対策法第九条(暴力的要求行為の禁止)において、「指定暴力団等の暴力団員(以下「指定暴力団員」という。)は、その者の所属する指定暴力団等又はその系列上位指定暴力団等(当該指定暴力団等と上方連結(指定暴力団等が他の指定暴力団等の構成団体となり、又は指定暴力団等の代表者等が他の指定暴力団等の暴力団員となっている関係をいう。)をすることにより順次関連している各指定暴力団等をいう。以下同じ。)の威力を示して次に掲げる行為をしてはならない」として、「二人に対し、寄附金、賛助金その他名目のいかんを問わず、みだりに金品等の贈与を要求すること」が規定されています。そのうえで、第十一条(暴力的要求行為等に対する措置)において、「公安委員会は、指定暴力団員が暴力的要求行為をしており、その相手方の生活の平穏又は業務の遂行の平穏が害されていると認める場合には、当該指定暴力団員に対し、当該暴力的要求行為を中止することを命じ、又は当該暴力的要求行為が中止されることを確保するために必要な事項を命ずることができる」と規定されています。
(5)暴力団対策法に基づく中止命令発出事例(栃木県)
栃木県警宇都宮中央署は、栃木県央地域に住む飲食店経営者の50代の男性に対し、「正月のしめ飾りとだるまを買ってほしい」などと要求したとして、暴力団対策法に基づき、いずれも宇都宮市に住む住吉会傘下組織幹部と建設業の男に中止命令を出しています。
建設業の男については、第十条(暴力的要求行為の要求等の禁止)第2行において、「何人も、指定暴力団員が暴力的要求行為をしている現場に立ち会い、当該暴力的要求行為をすることを助けてはならない」との規定に抵触したものと考えられます。その場合、第十二条第2項において、「公安委員会は、第十条第二項の規定に違反する行為が行われており、当該違反する行為に係る暴力的要求行為の相手方の生活の平穏又は業務の遂行の平穏が害されていると認める場合には、当該違反する行為をしている者に対し、当該違反する行為を中止することを命じ、又は当該違反する行為が中止されることを確保するために必要な事項を命ずることができる」と規定しています。
(6)暴力団対策法に基づく再発防止命令発出事例(神奈川県)
神奈川県公安委員会は、暴力団対策法に基づき、稲川会傘下組織組員に再発防止命令を発出しています。報道によれば、2024年3月15日と17日、同市中区の飲食店経営の女性に「あんたがこの店のオーナーなのか。誰が店のケツ持ってるの」などと告げ、用心棒料を要求したとして、2024年6月にそれぞれの事案に関して伊勢佐木署から中止命令を受けていましたが、さらに類似行為を繰り返す恐れがあると判断し、再発防止命令を発出したものです。
暴力団対策法第十一条(暴力的要求行為等に対する措置)第2項において、「公安委員会は、指定暴力団員が暴力的要求行為をした場合において、当該指定暴力団員が更に反復して当該暴力的要求行為と類似の暴力的要求行為をするおそれがあると認めるときは、当該指定暴力団員に対し、一年を超えない範囲内で期間を定めて、暴力的要求行為が行われることを防止するために必要な事項を命ずることができる」と規定されています。