暴排トピックス
首席研究員 芳賀 恒人

1.体感治安の悪化を食い止めよ~トクリュウ・SNS・匿名化・犯罪インフラ対策・連携が肝となる
2.最近のトピックス
(1)AML/CFTを巡る動向
(2)特殊詐欺を巡る動向
(3)薬物を巡る動向
(4)テロリスクを巡る動向
(5)犯罪インフラを巡る動向
(6)誹謗中傷/偽情報等を巡る動向
(7)その他のトピックス
・中央銀行デジタル通貨(CBDC)/暗号資産(仮想通貨)を巡る動向
・IRカジノ/依存症を巡る動向
・犯罪統計資料から
(8)北朝鮮リスクを巡る動向
3.暴排条例等の状況
(1)暴力団排除条例に基づく逮捕事例(広島県)
(2)暴力団排除条例に基づく逮捕事例(沖縄県)
(3)暴力団排除条例に基づく逮捕事例(宮城県)
(4)暴力団対策法に基づく中止命令発出事例(沖縄県)
(5)暴力団対策法に基づく再発防止命令発出事例(広島県)
(6)暴力団対策法に基づく逮捕事例(北海道)
1.体感治安の悪化を食い止めよ~トクリュウ・SNS・匿名化・犯罪インフラ対策・連携が肝となる
警察庁が「令和6年の犯罪情勢について」を公表、2024年の刑法犯認知件数は前年比4.9%増の73万7679件で、3年連続で増加したことがわかりました。本コラムで継続的に取り上げてきたとおり、SNSを通じた詐欺や特殊詐欺の被害が急増したほか、「闇バイト」強盗の発生もあり、国民の「体感治安」が悪化していることが統計上の数字からも読み取れるものとなっています。警察庁は、SNS犯罪に匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)が関与しているとみて、警戒を強めているほか、警察庁の楠長官は「トクリュウの資金獲得活動の実態を解明し、関係機関と連携して違法なビジネスモデルの解体に取り組みたい」、石破茂首相も参院予算委員会で「政府として全力を挙げて取り組んで、撲滅を目指して努力しなければならない」と述べています。また、統計上の数字に限らず、治安情勢は相当に厳しいと認識する必要があります。2024年10月に警察庁がネットで15歳以上の5千人に行ったアンケートでは、76.6%の人が「過去10年の間に治安が悪くなった」「どちらかというと悪くなった」と回答しており、過去の調査で最悪の結果となりました。治安悪化を感じる際に思い浮かぶ犯罪は「オレオレ詐欺や投資詐欺、ロマンス詐欺など」が69%と最も多く、「不正アクセスなどによる個人情報の流出」「空き巣など住宅へのどろぼう」「インターネット上の誹謗中傷」などが続いています。警察庁が公表した犯罪情勢統計では、2024年の刑法犯の発生件数は、コロナ禍以前の水準にほぼ戻ってしまったことが示されています。特にSNSなどを介した「投資詐欺」「ロマンス詐欺」の被害拡大は深刻で、警官を装う手口が増えた「特殊詐欺」も含めて被害は3万件超、2千億円に及び、被害者のネットバンキング利用が増えて被害の単価が膨らみ、2023年の2倍以上に悪化しています。オンライン詐欺が猛威をふるっているのは世界的な傾向であり、英米、中国などもかなり深刻な状況にあります。背景には犯罪組織が対話や金融サービスで進むデジタル化を悪用し個人の金融資産を狙っていることが挙げられ、薬物や人身売買など他の犯罪の資金源となる恐れがあり、国際的な捜査共助とSNS上の対策が重要になっています。こうした詐欺被害の深刻化に対し政府は2024年6月に総合対策をまとめ、広告管理の強化を柱とする措置をSNS事業者に要請しましたが、統計を見る限り、効果を挙げているとは認め難いものがあります。犯人が誘導元を詐欺広告からDMにシフトさせつつあり、犯罪収益のマネー・ローダリングにおいても暗号資産(仮想通貨)の悪用が進むなど、犯罪者の「匿名性」、犯罪自体の「匿名性」の度合いが高まっている傾向が顕著であり、当局には柔軟な対策が求められるともいえます。さらに、トクリュウはSNS上で闇バイトを募って実行犯を集め、「闇のエコシステム」を機能させています。警察は仮装身分捜査や「架空名義口座」など新たな手法を活用し、組織の解明と壊滅を図っていただきたいところです。一方、体感治安の悪化は「動機不明の事件」によっても増幅されます。「ローンオフェンダー」だけでなく、北九州や長野の事件は容疑者が逮捕されたものの、動機は不明なままであり、警察や検察は動機を解明して社会に共有し、再発防止に還元する必要があります。その積み重ねなければ、体感治安の好転には必要なものです。統計上の数字から見えてくるもの、統計上の数字には表れないものから見えてくるのは、最近の犯罪の有する、そこはかとない「不気味さ」です。トクリュウ対策、SNS対策、匿名化への対応、犯罪インフラ対策、そしてこれまでとは異次元の国内外の連携の強化、柔軟な対策の実行によって、これまで見えてこなかった犯罪の構図、犯罪の首謀者や実質的支配者という「悪意」を白日の下に晒すことが、「不気味さ」を払しょくし、「体感治安」の悪化を食い止めることにつながるのではないでしょうか。
刑法犯認知件数は2002年(約285万件)をピークに減少していたところ、2022年に増加へ転じ、2024年は、全体に占める割合が高い、自転車盗やひったくりなどの「街頭犯罪」が前年比4.6%増の25万5247件となり、全体の件数を押し上げた形となりました。景気の悪化を受け、財産犯の増加が目立ち、詐欺の認知件数は同24.6%増の5万7342件で、被害額は前年比9割増の約3075億円に上りました。また、「生活困窮」が動機の割合が増え、2024年は約4割を占めています。詐欺のうち、SNSで関係を深め、投資名目や恋愛感情に乗じて金をだまし取る「SNS型投資・ロマンス詐欺」は前年比約2.6倍の1万164件(暫定値)に上り、被害総額は計1268億円に上りました。特殊詐欺の被害も極めて深刻で、件数は前年比10.2%増の2万987件(同)、被害額は2023年から59.4%増の約721億5000万円となり、2004年の統計開始以降、最悪となりました。殺人や放火、性犯罪などの「重要犯罪」は1万4614件で前年から18.1%増えています。さらに、2023年施行の改正刑法で処罰要件が見直された「不同意わいせつ」「不同意性交」の増加が目立っています。また、首都圏を中心に相次ぐ闇バイト強盗を含む「侵入犯罪」は5万3568件で、前年よりわずかに減少する一方、各地で起きた銅線ケーブル窃盗などの「金属盗」は2万701件で、前年から27.2%増えています。刑法犯全体の検挙率は38.9%で前年を0.6ポイント上回り、殺人などの「重要犯罪」は86.5%(前年比4.7ポイント増)、空き巣などの「重要窃盗犯罪」は55.7%(同4.3ポイント増)となりました。
前述のとおり、SNSなどを通じ財産をだまし取る詐欺被害が世界の治安を脅かしている状況にあります。2024年の日本国内の被害額は2000億円に迫り、米英も深刻な状況です。詐欺被害が急激に悪化した背景には、犯行の全ての過程をインターネット空間で済ませられるようになったことがあげられます。詐欺グループは著名人をうたうSNS上の偽広告やダイレクトメールで被害者に接触、「確実に利益が出る」「会いたいから旅費を送って」などと欺き、詐取金はインターネットバンキングや暗号資産で振り込ませ、偽広告では有名人の写真が無断で使われたケースが確認されています。警察幹部は「デジタル化で利便性が高まったサービスを犯罪組織が悪用している。第三者の目が届きにくく、被害を未然に防ぎづらくなっている」と指摘していますが、筆者も同感です。状況は海外も同様であり、警察庁などによると、米国では2023年の投資詐欺の被害が約45億ドル(約6900億円)に上り、SNSで人間関係を築き、暗号資産への投資をうたう日本と共通する手口が頻発しているといいます。英国の金融業界団体による統計によると、英国内でも2023年の金融詐欺被害額が約11.7億ポンド(約2200億円)に上るといい、英国ではSNSを通じて知り合った相手に恋愛感情を持たせる「ロマンス詐欺」の手法が広がっているといいます。国際的な組織はSNS詐欺で得た資金を別の違法活動に使う傾向があり、人身売買や薬物の流通といった、財産だけでなく生命や身体を脅かす犯罪が拡大する恐れが指摘されています。抑止には犯罪組織の摘発が最も効果的だが、各国の捜査機関単独による活動には限界があり、SNSを悪用した詐欺は被害者がいる国に犯行拠点を置く必要がなく、首謀者は捜査を逃れるため、標的とする国の外から被害者へ接触しているとみられます。2023年に日本であったG7内務・安全担当相会合で、国境をまたぐ組織的詐欺の対策が初めて議論され、2024年も英国や日本で国際会合が開かれ、東南アジアやオセアニアの国々も参加、詐欺グループの追跡・摘発への協力強化を確認しています。具体的には不法滞在などの観点から犯罪組織の疑いがある集団への監視を各国で強め、身柄を拘束して被害が発生した国の捜査機関へ引き渡す運用が想定されます。海外拠点の特殊詐欺では2024年に50人が日本へ移送され、成果は出始めています。摘発の強化に加え、インフラの犯罪利用を止めることも重要であり、SNS上で氾濫している虚偽広告の検知や排除、ネットバンキングを巡る本人確認強化が要です。報道で東京都立大の星周一郎教授(刑法)は「SNSは社会インフラとなっており、犯罪ツールとしての利用実態と照らすと事業者が果たすべき社会的責任は大きくなっている」と指摘、そのうえで「削除要請への迅速な対応や、不適切な利用がみられるアカウントの停止などに一層取り組んでもらう必要がある。対策の強化を促す法整備も求められるだろう」と強調していますが、筆者も同感です。とりわけ、SNSを運営するデジタルプラットフォーマーは、「場の健全性」を確保する責任を有していると、あらたて強調しておきたいと思います。
▼警察庁 令和6年の犯罪情勢について
- 刑法犯認知件数の総数については、平成15年から令和3年まで一貫して減少してきたところ、令和6年は73万7,679件と、戦後最少となった令和3年から3年連続で前年を上回った(前年比4.9%増加)
- また、人口千人当たりの刑法犯認知件数4については5.9件と、刑法犯認知件数の総数と同様に、戦後最少となった令和3年から3年連続で前年を上回った
- 認知件数の内訳を見ると、総数に占める割合が大きい窃盗犯が50万1,507件(前年比3.7%増加)と総数の増加に大きく寄与しているほか、風俗犯が1万8,465件(前年比56.8%増加)、凶悪犯が7,034件(前年比22.3%増加)、知能犯が6万1,986件(前年比23.9%増加)とそれぞれ大きく増加している
- 窃盗犯については、自転車盗(17万4,020件、前年比6.0%増加)及び万引き(9万8,292件、前年比5.5%増加)が大きく増加した。また、金属盗5についても統計をとり始めた令和2年以降増加傾向にあり、令和6年は2万701件(前年比27.2%増加)となった。
- 近年、組織的・広域的に金属盗や自動車盗、万引きが敢行され、盗品が海外へ不正に輸出されるなどの組織的窃盗・盗品流通事犯が発生しており、例えば、太陽光発電施設内の銅線ケーブルが大量に窃取され、これらの犯罪収益が不法滞在外国人等による匿名・流動型犯罪グループの資金源になっているなど、治安上の大きな課題となっている。
- また、風俗犯については性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律(令和5年法律第67号。以下「性的姿態撮影等処罰法」という。)違反(8,436件、前年比232.4%増加)及び不同意わいせつ(6,992件、前年比14.7%増加)が、凶悪犯7については不同意性交等(3,936件、前年比45.2%増加)がそれぞれ大きく増加しているところ、これらについては、刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律(令和5年法律第66号。以下「改正刑法」という。)及び性的姿態撮影等処罰法により性犯罪に対処するための刑事法が整備されたことや、政府として性犯罪の被害申告・相談をしやすい環境の整備を強力に推進してきたこともあいまって、認知件数が増加したものと推認される。
- なお、不同意わいせつ及び不同意性交等について、男性被害者の数が増加している(不同意わいせつは363人で前年同期比41.8%増加、不同意性交等は156人で前年同期比56.0%増加)。
- さらに、知能犯については詐欺が大きく増加している
- 重要犯罪の認知件数について、令和6年は1万4,614件と、前年比で18.1%増加となった。その内訳を見ると、前記のとおり不同意わいせつ及び不同意性交等が大きく増加しているほか、殺人、略取誘拐及び強盗がいずれも前年比で増加となった。殺人については、被疑者と被害者との関係としてこれまでも大きな割合を占めていた親族間での発生が増加の主な要因となっているほか、略取誘拐については、わいせつ目的の事案及び未成年者を対象とした事案が、強盗については、路上強盗がそれぞれ増加の主な要因となっている。
- また、SNS等で実行犯を募集する手口による強盗等が関東を中心に相次いで発生しており、こうした事犯についても匿名・流動型犯罪グループの関与が認められる。
- このような犯罪実行者募集情報に応募した者は、個人情報を握られ、自身や家族への危害のおそれから離脱が困難となる実態があるところ、警察庁は令和6年10月、犯罪実行者募集情報の応募者やその家族等を保護すると呼びかけて警察への相談を促す動画を公開し、12月末までに全国で181件の保護措置を実施した。
- 街頭犯罪の認知件数について、令和6年は25万5,247件と、前年比で4.6%増加した。その内訳を見ると、総数に占める割合が大きい自転車盗が前記のとおり大きく増加している。また、侵入犯罪については5万3,568件と、前年比で3.1%減少し、このうち侵入強盗、侵入盗及び住居侵入のいずれも前年比減少となっている。
- 刑法犯の検挙件数については、検挙件数は28万7,273件、検挙人員は19万1,826人と、共に前年(26万9,550件、18万3,269人)を上回り(それぞれ前年比6.6%、4.7%増加)、刑法犯の検挙率は38.9%と増加した(前年比0.6ポイント増加)。また、重要犯罪の検挙率は86.5%、重要窃盗犯の検挙率は55.7%と、いずれも前年を上回った(それぞれ前年比4.7ポイント、4.3ポイント増加)
- 人口千人当たりの検挙人員は1.7人と、前年からほぼ横ばいである一方、少年人口千人当たりの少年検挙人員は3.3人と、3年連続で増加となった
- 刑法犯少年の包括罪種別検挙人員の内訳を見ると、全ての罪種において前年を上回った。このうち、凶悪犯については不同意性交等(286人、前年比49.7%増加)及び強盗(467人、前年比41.9%増加)、粗暴犯については暴行(1,052人、前年比20.2%増加)及び傷害(2,282人、前年比10.9%増加)、窃盗犯についてはオートバイ盗(1,167人、前年比37.6%増加)、自転車盗(2,608人、前年比10.9%増加)及び万引き(4,999人、前年比11.0%増加)、知能犯については詐欺(769人、前年比6.4%増加)、風俗犯については性的姿態撮影等処罰法違反(638人、前年比474.8%増加)の増加がそれぞれの罪種における少年検挙人員の増加に大きく影響している。
- なお、強盗の少年検挙人員については、手口別にみると路上強盗の増加が強盗全体の検挙人員の増加に大きく影響している。また、年齢別にみると各年齢が増加しているが、特に16・17歳が大きく増加している。
- 財産犯の被害額については、約4,021億円16と前年比で59.6%増加し、平成元年以来最も高かった平成14年の水準を大きく上回った。その内訳を見ると、詐欺による被害額が約3,075億円と前年比で大きく増加(89.1%増加)している。
- 詐欺の認知件数について、令和6年は前年比で24.6%増加して5万7,324件となっており、詐欺における一被害当たりの被害額が高額化している実態が認められる。また、詐欺の犯行動機としては、「生活困窮」が占める割合が最も大きく(39.9%)、その割合は増加傾向にある(前年比0.7ポイント増加)。
- 特殊詐欺の認知件数は2万987件17、被害額は約722億円と、いずれも前年比で増加(それぞれ前年比10.2%、59.4%増加)し、被害額が過去最多となった平成26年を大きく上回るなど、厳しい情勢が続いており、犯行手口別に見るとオレオレ詐欺19の認知件数は6,671件、被害額は約453億円と大きく増加している(それぞれ前年比で68.7%、239.2%増加)。また、SNSを使用した非対面型の投資詐欺やロマンス詐欺(以下「SNS型投資・ロマンス詐欺」という。)20の被害が急増しており、令和6年は1万164件、被害額は約1,268億円と、それぞれ前年比で164.3%、178.6%の増加となった。
- 特殊詐欺については、事件の背後にいる暴力団や匿名・流動型犯罪グループが、資金の供給、実行犯の周旋、犯行ツールの提供等を行い、犯行の分業化と匿名化を図った上で、組織的に敢行している実態にあるほか、SNS型投資・ロマンス詐欺についても匿名・流動型犯罪グループの関与が認められる。
- 令和6年における詐欺の検挙件数は1万6,175件(前年比3.0%減少)、検挙人員は9,025人(前年比7.5%減少)と、共に前年を下回った。特殊詐欺の検挙件数21は6,595件(前年比8.6%減少)、検挙人員は2,320人(前年比5.5%減少)となったほか、SNS型投資・ロマンス詐欺の検挙件数22は232件、検挙人員は113人となった。
- インターネット上には、児童ポルノ等の違法情報、犯罪を誘発するような重要犯罪密接関連情報23や自殺誘引等情報(以下「違法・有害情報」という。)が存在する。
- 特に、近年SNS上には、重要犯罪密接関連情報のうち、匿名・流動型犯罪グループ等による犯罪の実行者を直接的かつ明示的に誘引等(募集)する情報(犯罪実行者募集情報)が氾濫しており、応募者らにより実際に強盗や特殊詐欺等の犯罪が敢行されるなど、深刻な治安上の脅威となっている。
- 警察庁では、インターネット利用者等から違法・有害情報に関する通報を受理し、警察への通報、サイト管理者等への削除依頼等を行うインターネット・ホットラインセンター(IHC)を事業委託するとともに、重要犯罪密接関連情報及び自殺誘引等情報を収集し、IHCに通報するサイバーパトロールセンター(CPC)を事業委託している。
- 令和6年におけるIHCの受理件数のうち、運用ガイドラインに基づいて546,941件を分析した結果、違法情報を66,834件、重要犯罪密接関連情報を14,149件、自殺誘引等情報を6,582件と判断した。
- 重要犯罪密接関連情報のうち、令和6年中にIHCの運用ガイドラインに基づき犯罪実行者募集情報と判断された情報は13,852件となり、9,234件(削除依頼を行う前に削除されたものを除く。)についてサイト管理者等に削除依頼を行った結果、7,831件が削除に至った。
- ランサムウェアによるサイバー攻撃の被害は、依然として深刻な状況にある。令和6年6月、出版大手企業のサーバがランサムウェアを含む大規模な攻撃を受け、調査・復旧費用等として20億円を超える損失を計上する見込みであることを発表したほか、令和6年中に警察庁に報告された企業・団体等におけるランサムウェアによる被害件数が222件と、高水準で推移している。
- 世界中の企業や政府機関等に被害を与えてきたランサムウェアグループ「Phobos」について、日本を含む関係各国の捜査機関が連携して捜査を行い、本年11月、米国FBIがその運営者であるロシア人被疑者を検挙した。この事案ではサイバー特別捜査部が被疑者を独自捜査により特定し、当該情報を関係国捜査機関に提供した。
- フィッシングはインターネットバンキングに係る不正送金やクレジットカードの不正利用に使われているところ、令和6年におけるフィッシング報告件数は171万8,036件となり、前年比43.6%増加となった。
- インターネットバンキングに係る不正送金事犯については、令和6年は発生件数が4,207件、被害総額は約82億1,600万円となり、前年からは減少(それぞれ前年比で24.6%、5.9%減少)したものの、依然として高い水準で推移している。また、クレジットカードの不正利用事犯についても、被害額が高水準で推移している(令和6年9月末時点で392.7億円、前年同期比2.4%減少)。インターネットバンキングに係る不正送金事犯やクレジットカードの不正利用事犯の中には、匿名・流動型犯罪グループが関与する事例も確認されている。
- サイバー事案の検挙件数については、令和6年中は3,609件を検挙しており、前年比で20.2%の増加となった。その内訳を見ると、犯罪収益移転防止法違反30が894件と、大きく増加した(前年比120.7%増加)。
- また、令和6年における不正アクセス禁止法違反及びコンピュータ・電磁的記録対象犯罪31の検挙件数は、それぞれ564件、1,156件であった(それぞれ前年比8.3%増加、15.6%増加)。
- なお、近年、SNS上での特定の個人に対する誹謗中傷も社会問題化しており、令和6年中は487件をインターネット上での名誉棄損罪及び侮辱罪で検挙している(前年比11.7%増加)。また、サイバー特別捜査部と連携した捜査の結果、令和6年7月、石川県警察が能登半島地震に関して虚偽の救助要請を投稿した男を偽計業務妨害罪で逮捕した。
- SNSに起因する事犯の被害児童32数は1,488人(前年比10.6%減少)と、依然として高い水準にある
- ストーカー事案の相談等件数は19,567件(前年比1.4%減少)と、依然として高い水準で推移している。また、ストーカー事案の検挙件数についても、ストーカー規制法違反の検挙が1,338件、刑法犯等の検挙が1,742件(それぞれ前年比23.8%増加、2.0%増加)と、依然として高い水準で推移している
- 配偶者からの暴力事案等の相談等件数は増加傾向にあり、令和6年は94,937件と、前年比で7.1%増加し、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(平成13年法律第31号)の施行以降で最多となった。配偶者からの暴力事案等に関連する刑法犯等の検挙件数については8,423件(前年比2.5%減少)と、依然として高い水準で推移している。
- 令和6年中に児童虐待又はその疑いがあるとして警察から児童相談所に通告した児童数は122,378人(前年比0.3%減少)と、過去最多であった前年より僅かに減少したが、依然として高い水準で推移している。また、その態様別では、心理的虐待が90,418人と全体の73.9%を占めている。児童虐待事件の検挙件数については、2,649件と、前年比11.1%増加し、過去最多となっており、その態様別では、身体的虐待が2,136件と全体の80.6%を占めている。
- 前項までに述べたような指標からは捉えられない国民の治安に関する認識を把握するため、令和6年10月、警察庁において「治安に関するアンケート調査」を実施したところ、日本の治安について「よいと思う」旨回答した方は、全体の56.4%を占めた。その一方で、ここ10年間での日本の治安に関し、「悪くなったと思う」旨回答した方は全体の76.6%を占めた。
- インターネット上の違法・有害情報、特にSNS上に氾濫する犯罪実行者募集情報が深刻な治安上の脅威となっており、令和6年8月以降、SNS等で実行犯を募集する手口による強盗等の凶悪な事件が相次いで発生したほか、SNS型投資・ロマンス詐欺についても認知件数、被害額が共に前年比で著しく増加し、さらにSNSに起因する事犯の被害児童数も高水準で推移しているなど、インターネット上で提供される技術・サービスを犯罪インフラとして活用して実行される犯罪について、極めて厳しい情勢となっている。
- また、匿名・流動型犯罪グループが深く関与している特殊詐欺やSNS型投資・ロマンス詐欺、インターネットバンキングに係る不正送金事犯、クレジットカードの不正利用事犯の令和6年中の合計被害額が2千億円を超えており、匿名・流動型犯罪グループがこのような犯罪で得た収益を有力な資金源としているほか、犯罪によって獲得した資金を新たな資金獲得活動に充てるといった構造がみられ、治安上の課題となっている。
- さらに、人身安全関連事案については、ストーカー事案の相談等件数が高水準で推移しているほか、配偶者からの暴力事案等の相談件数は増加傾向が続いており、さらに児童虐待又はその疑いがあるとして警察から児童相談所に通告した児童数が高い水準で推移しているなど、注視すべき状況にある。
- 以上を踏まえれば、我が国の犯罪情勢は、厳しい状況にあると認められる。
- 今後の取組
- 国民の安全・安心を確保するため、警察としては、我が国の社会情勢等が大きく変化している中、警戒の空白が生じることを防ぎ、直面する様々な課題に的確に対処するため、総合的な対策を、引き続き強力に推進する。特に、令和6年8月以降、SNS等で実行犯を募集する手口による強盗事件等が関東を中心に相次いで発生したことを受けて、同年12月、犯罪対策閣僚会議で取りまとめられた「いわゆる「闇バイト」による強盗事件等から国民の生命・財産を守るための緊急対策」(以下「緊急対策」という。)に基づき、一層踏み込んだ対策を迅速かつ的確に講じる。また、これら強盗事件等を含め、匿名・流動型犯罪グループが、その匿名性、流動性を利用して、特殊詐欺やSNS型投資・ロマンス詐欺、組織的窃盗・盗品流通事犯、インターネットバンキングに係る不正送金事犯等の現下の治安上の課題となっている事犯に深く関与している実態を踏まえ、これらの事犯の実態解明・取締り等に重点的に取り組むこととし、警察の部門や都道府県警察の垣根を越えて、警察の総力を挙げた戦略的な取組を推進する。
- 自転車盗等の街頭犯罪や万引きといった身近に存在する犯罪の抑止に向け、それぞれの地域における治安情勢等に応じ、地域社会や関係機関・団体等との連携の下、各種取組を推進する。また、性犯罪に関しては、令和5年6月に公布された改正刑法及び性的姿態撮影等処罰法の内容、趣旨等を踏まえ、被害申告・相談しやすい環境の整備や、被害者の心情に配意した適切な捜査をより一層推進する。さらに、少年犯罪に関しては、街頭補導活動や学校での広報啓発活動、少年の立ち直り支援活動等を通じて、非行少年を生まない社会づくりのための取組を推進する。
- 詐欺については、手口が急激に巧妙化しつつ多様化する中で、その変化のスピードに立ち後れることなく対処し、国民をその被害から守るため、令和6年6月、犯罪対策閣僚会議において決定された「国民を詐欺から守るための総合対策」及び緊急対策に基づき、詐欺手口の変化に応じ、地方公共団体、民間事業者等の協力を得ながら、各種施策を強力に推進する。また、特殊詐欺やSNS型投資・ロマンス詐欺について、その被疑者や犯行拠点の多くは首都圏をはじめとした大都市圏に所在しているものの、全国各地で被害が発生しているという実態を踏まえ、捜査範囲が広域にわたる捜査を全国警察が一体となって効率的に進めるため、令和6年4月、他の都道府県警察から依頼を受けて管轄区域内で行うべき捜査を遂行する「特殊詐欺連合捜査班(TAIT)」を各都道府県警察に構築したところ、こうした捜査体制を活用し、広域的な捜査連携を強化する。
- サイバー事案については、SNS等で実行犯を募集する手口による強盗等をはじめとした犯罪の実行者を募集する情報等がSNS上に氾濫していることを踏まえ、AI検索システムを活用したサイバーパトロールを行うなど、インターネット上の違法・有害情報の排除に向けた取組等を推進する。また、ランサムウェア等によるサイバー攻撃等の脅威に対して、令和6年4月に関東管区警察局サイバー特別捜査隊を発展的に改組して設置されたサイバー特別捜査部と都道府県警察とが一体となった捜査、実態解明等に取り組み、外国捜査機関等と連携した対処等を推進するとともに、脅威の深刻化に対応するための捜査・解析能力の高度化や事業者等と連携した被害防止対策を強力に推進する。
- 人身安全関連事案については、被害が潜在化しやすく、事態が急展開するおそれが大きいという特徴を踏まえ、関係機関と緊密に連携しつつ、被害者等の安全の確保を最優先に、関係法令を駆使した加害者の検挙等による加害行為の防止や被害者等の保護措置等の取組を推進する。
- これらの犯罪への対処を含め、その時々の情勢の変化に的確に対応するため、所属・部門を超えたリソースの重点化や能率的でメリハリのある組織運営を一層強力に推進することにより、警察機能を最大限に発揮し、国民の期待と信頼に応えていく
あわせて、特殊詐欺、SNS型投資詐欺・ロマンス詐欺の認知・検挙状況等についてまとめた報告書も公表されていますので、以下、紹介します。
▼警察庁 令和6年における特殊詐欺及びSNS型投資・ロマンス詐欺の認知・検挙状況等について(暫定値版)
- 特殊詐欺
- 令和6年の特殊詐欺の認知件数(以下1(1)において「総認知件数」という。)は20,987件(+1,949件、+10.2%)、被害額(以下1(1)において「被害総額」という。)は721.5億円(+269.0億円、+59.4%)と、前年に比べて総認知件数、被害総額ともに増加。
- 被害は大都市圏に集中しており、認知件数は東京都3,494件(+576件)、大阪府2,658件(+2件)、神奈川県2,000件(-25件)、埼玉県1,589件(+253件)、愛知県1,461件(+104件)、兵庫県1,442件(+218件)及び千葉県944件(-366件)で、総認知件数に占めるこれら7都府県の合計認知件数の割合は64.7%(-2.6ポイント)。
- 1日当たりの被害額は1億9,714万円(+7,315万円、+59.0%)。
- 既遂1件当たりの被害額は352.5万円(+108.8万円、+44.6%)。
- オレオレ詐欺、預貯金詐欺及びキャッシュカード詐欺盗(以下3類型を合わせて「オレオレ型特殊詐欺」という。)の認知件数は10,303件(+1,377件、+15.4%)、被害額は492.6億円(+290.8億円、+144.1%)で、総認知件数に占める割合は49.1%(+2.2ポイント)。
- オレオレ詐欺は、認知件数6,671件(+2,716件、+68.7%)、被害額452.8億円(+319.3億円、+239.2%)と、認知件数、被害額ともに増加し、総認知件数に占める割合は31.8%(+11.0ポイント)、被害総額に占める割合は62.8%(+33.3ポイント)。
- 形態(文言)別では、「その他の名目」の認知件数が4,192件(+3,174件、+311.8%)と大幅に増加しており、警察官等をかたり、捜査(優先調査)名目で現金等をだまし取る手口による被害が顕著。
- 預貯金詐欺は、認知件数2,256件(-498件、-18.1%)、被害額22.7億円(-15.7億円、-40.9%)と、いずれも減少し、総認知件数に占める割合は10.7%(-3.7ポイント)。
- キャッシュカード詐欺盗は、認知件数1,376件(-841件、-37.9%)、被害額17.1億円(-12.8億円、-42.8%)と、いずれも減少し、総認知件数に占める割合は6.6%(-5.1ポイント)。
- 架空料金請求詐欺は、認知件数5,492件(+294件、+5.7%)、被害額131.9億円(-8.5億円、-6.1%)と、認知件数は増加、被害額は減少し、総認知件数に占める割合は26.2%(-1.1ポイント)。パソコンのウイルス除去をサポートするなどの名目で電子マネー等をだまし取る「サポート名目」は、認知件数1,506件(-663件、-30.6%)と減少し、被害額は11.9億円で、架空料金請求詐欺の認知件数に占める割合は27.4%(-14.3ポイント)。「その他の名目」は、認知件数2,146件(+1,179件、+121.9%)と増加しており、副業を名目とした手口による被害が顕著。
- 還付金詐欺は、認知件数4,066件(-119件、-2.8%)、被害額64.7億円(+13.3億円、+26.0%)と、認知件数は減少したものの、被害額は増加し、総認知件数に占める割合は19.4%(-2.6ポイント)
- 振込型の認知件数は11,048件(+4,552件、+70.1%)、被害額431.4億円(+236.2億円、+121.0%)と、いずれも増加し、総認知件数に占める割合は52.6%(+18.5ポイント)。被害総額に占める割合は59.8%(+16.7ポイント)。
- 被害額が500万円以上の振込型(認知件数1,688件、被害額314.4億円)におけるインターネットバンキング利用の認知件数は1,023件、被害額は211.7億円で、被害額500万円以上の振込型全体に占める割合は、認知件数が60.6%、被害額は67.3%。
- キャッシュカード手交型の認知件数は2,419件(-616件、-20.3%)、被害額は29.3億円(-18.5億円、-38.8%)と、いずれも減少。また、キャッシュカード窃取型の認知件数は1,376件(-841件、-37.9%)、被害額は17.1億円(-12.8億円、-42.8%)と、いずれも減少。両交付形態を合わせた認知件数の総認知件数に占める割合は18.1%(-9.5ポイント)。
- 現金手交型の認知件数は3,221件(-200件、-5.8%)、被害額は140.3億円(+38.9億円、+38.4%)と、認知件数は減少したものの、被害額は増加し、総認知件数に占める割合は15.3%(-2.6ポイント)。
- 現金送付型の認知件数は414件(-24件、-5.5%)、被害額は43.6億円(-5.9億円、-11.9%)と、いずれも減少し、総認知件数に占める割合は2.0%(-0.3ポイント)。
- 電子マネー型の認知件数は2,279件(-1,091件、-32.4%)、被害額は18.4億円(-3.0億円、-14.1%)と、いずれも減少し、総認知件数に占める割合は10.9%(-6.8ポイント)。
- 高齢者(65歳以上)被害の認知件数は13,707件(-1,188件、-8.0%)で、法人被害を除いた総認知件数に占める割合は65.4%(-13.0ポイント)。65歳以上の高齢女性の被害認知件数は9,241件で、法人被害を除いた総認知件数に占める割合は44.1%(-12.0ポイント)。
- 被害者を欺罔する手段として犯行の最初に用いられたツールは、電話79.1%、メール・メッセージ49.7%、ポップアップ表示※58.9%、はがき・封書等62.3%と、電話による欺罔が8割近くを占めている。
- 主な手口別では、オレオレ型特殊詐欺及び還付金詐欺では電話が99%を超える。架空料金請求詐欺では電話が37.4%、ポップアップ表示が31.7%、メール・メッセージが25.9%。
- 警察が把握した、電話の相手方に対して、住所や氏名、資産、利用金融機関等を探るなどの特殊詐欺が疑われる電話(予兆電話)の件数は192,686件(+60,818件、+46.1%)で、月平均は16,057件(+5,068件、+46.1%)と増加。
- 都道府県別では、東京都が35,715件と最も多く、次いで埼玉県17,561件、愛知県13,016件、大阪府11,838件、千葉県11,000件、兵庫県9,004件、神奈川県7,698件の順となっており、予兆電話の総件数に占めるこれら7都府県の合計件数の割合は54.9%
- SNS型投資・ロマンス詐欺
- 令和6年のSNS型投資・ロマンス詐欺の認知件数(以下1(2)において「総認知件数」という。)は10,164件(+6,318件、+164.3%)、被害額は1,268.0億円(+812.8億円、+178.6%)と、前年に比べて認知件数、被害額ともに著しく増加。
- 都道府県別の認知件数では、大阪府が1,016件(+597件)と最も多く、次いで兵庫県913件(+528件)、東京都871件(+532件)、愛知県675件(+405件)、福岡県663件(+476件)、神奈川県537件(+349件)、広島県345件(+217件)の順で、総認知件数に占めるこれら7都府県の合計認知件数の割合は49.4%(-0.4ポイント)となっており、特殊詐欺に比べると大都市圏に集中していない。
- 1日当たりの被害額は3億4,644万円(+2億2,174万円、+177.8%)。
- 既遂1件当たりの被害額は1,247.9万円(+64.4万円、+5.4%)。
- SNS型投資詐欺
- 令和6年のSNS型投資詐欺の認知件数は6,380件(+4,109件、+180.9%)、被害額は871.0億円(+593.1億円、+213.4%)と認知件数、被害額ともに前年から大きく増加しており、特に被害額については前年の約3倍に上る。
- 被害額の分布は、500万円以下が3,185件(+2,054件、+181.6%)、1千万円以下が1,076件(+680件、+171.7%)、2千万円以下が978件(+607件、+163.6%)、5千万円以下が795件(+513件、+181.9%)、1億円以下が252件(+187件、+287.7%)、1億円超が94件(+68件、+261.5%)。
- 500万円以下の件数の割合が全体の49.9%を占めるが、500万円超の合計被害額が812.7億円と、全体の被害額の93.3%を占めており、被害の高額化が顕著。
- 既遂1件当たりの被害額は1,365.4万円(+141.7万円、+11.6%)。
- 被害金の主たる交付形態は、振込が5,485件(86.0%)、暗号資産が751件(11.8%)と振込が9割近くを占めている。
- 振込のうち、インターネットバンキング利用の認知件数は3,487件、被害額は558.4億円で、振込全体に占める割合は、認知件数が63.6%、被害額が73.4%。
- 被害者の性別は、男性が3,552人、女性が2,823人と、男性が女性を11.4%上回っている。
- 被害者の年齢層は、男性、女性ともに40代~70代が多数を占め、幅広い年代に被害が及んでいる。
- 当初接触ツールは、インスタグラムが1,470件(23.0%)、LINEが1,118件(17.5%)、フェイスブックが990件(15.5%)と、これらのツールで全体の半数以上を占める。
- 男性では、フェイスブックが680件(19.1%)、LINEが646件(18.2%)、インスタグラムが594件(16.7%)、女性では、インスタグラムが875件(31.0%)、LINEが471件(16.7%)、フェイスブックが308件(10.9%)と、男女ともにこれらのツールが半数以上を占める。
- TikTokが6月以降増加している傾向。
- 被害時の連絡ツールは、LINEが5,791件(90.8%)で9割を占める。
- 当初の接触手段は、バナー等広告が2,861件(44.8%)、ダイレクトメッセージが2,036件(31.9%)と、これらが全体の8割近くを占める。
- バナー等広告のツール別内訳は、インスタグラムが781件(27.3%)、フェイスブックが468件(16.4%)、投資のサイトが412件(14.4%)と、これらのツールが半数以上を占める。
- ダイレクトメッセージのツール別内訳は、インスタグラムが524件(25.7%)、フェイスブックが423件(20.8%)、LINEが298件(14.6%)と、これらのツールが半数以上を占める。
- 投資家や著名人になりすました「偽広告」等を含むバナー等広告については、令和6年4月まで急増したものの、同年5月以降減少に転じており、同年7月以降はダイレクトメッセージがバナー等広告を上回っている。
- 被疑者が詐称した身分(地域)は、日本(国内)が4,989件(78.2%)。
- 被疑者が詐称した職業は、投資家が2,181件(34.2%)、その他著名人740件(11.6%)、会社員327件(5.1%)。
- SNS型ロマンス詐欺
- 令和6年のSNS型ロマンス詐欺の認知件数は3,784件(+2,209件、+140.3%)、被害額は397.0億円(+219.7億円、+123.9%)と、認知件数、被害額ともに前年から大きく増加しており、前年の約2倍に上る。
- 金銭等の要求名目のうち、「投資名目」の認知件数は2,744件(72.5%)、被害額は336.4億円(84.7%)と、認知件数、被害額ともに全体の7割以上を占める。
- 被害額の分布は、500万円以下が2,034件(+1,218件、+149.3%)、1千万円以下が658件(+367件、+126.1%)、2千万円以下が583件(+344件、+143.9%)、5千万円以下は378件(+213件、+129.1%)、1億円以下は95件(+45件、+90.0%)、1億円超が36件(+22件、+157.1%)。
- 500万円以下の件数の割合が53.8%を占めるが、500万円超の合計被害額が361.3億円と、全体の被害額の91.0%を占めており、被害の高額化が顕著。
- 既遂1件当たりの被害額は1,049.7万円(-75.8万円、-6.7%)
- 被害金の主たる交付形態は、振込が2,802件(74.0%)、暗号資産が772件(20.4%)と振込が7割以上を占める。
- 振込のうち、インターネットバンキング利用の認知件数は1,416件、被害額は212.4億円で、振込の全体に占める割合は認知件数が50.5%、被害額が68.8%。
- 被害者の性別は、男性が2,384人、女性が1,400人と、男性が女性を26.0%上回っている。
- 被害者の年齢層は、男女ともに、40代~60代が多数を占め、幅広い年代に被害が及んでいる。
- 当初接触ツールは、マッチングアプリが1,323件(35.0%)、インスタグラムが849件(22.4%)、フェイスブックが776件(20.5%)とこれらのツールで全体の8割近くを占める。
- 男性の上位では、マッチングアプリが837件(35.1%)、フェイスブックが542件(22.7%)、インスタグラムが400件(16.8%)、女性の上位では、マッチングアプリが486件(34.7%)、インスタグラムが449件(32.1%)、フェイスブックが234件(16.7%)と、男女ともにこれらのツールで7割以上を占める。
- 被害時の連絡ツールは、LINEが3,561件(94.1%)で9割以上を占める。
- 当初の接触手段は、ダイレクトメッセージが最多となっており、3,200件(84.6%)と全体の8割以上を占めている。
- ダイレクトメッセージのツール別内訳は、マッチングアプリが1,030件(32.2%)、インスタグラムが798件(24.9%)、フェイスブックが698件(21.8%)と、これらのツールが全体の8割近くを占める。
- 被疑者が詐称した身分(地域)は、日本(国内)が2,039件(53.9%)とSNS型ロマンス詐欺の認知件数の半数を占める一方、東アジア、日本(国外)、北米等の海外の地域も認められる。
- 被疑者が詐称した職業は、投資家425件(11.2%)、会社員420件(11.1%)、会社役員263件(7.0%)のほか、芸術・芸能関係や医療関係等様々なものがみられる。
- 検挙状況:特殊詐欺
- 令和6年の特殊詐欺の検挙件数は6,595件(-617件、-8.6%)、検挙人員(以下「総検挙人員」という。)は2,320人(-135人、-5.5%)と、いずれも減少。
- 手口別では、オレオレ詐欺の検挙件数は1,775件(-351件、-16.5%)、検挙人員は910人(-63人、-6.5%)と、いずれも減少。架空料金請求詐欺の検挙件数は538件(+204件、+61.1%)、検挙人員は279人(+107人、+62.2%)と、いずれも増加。
- 中枢被疑者の検挙人員は58人(+9人、+18.4%)で、総検挙人員に占める割合は2.5%(+0.5ポイント)。
- 受け子や出し子、それらの見張り役の検挙人員は1,691人(-165人、-8.9%)で、総検挙人員に占める割合は72.9%(-2.7ポイント)。
- このほか、特殊詐欺に由来する犯罪収益を隠匿又は収受した組織的犯罪処罰法違反で606件(+250件、+70.2%)、240人(+113人、+89.0%)を検挙。
- また、預貯金口座や携帯電話の不正な売買等の特殊詐欺を助長する犯罪で4,926件(+1,063件、+27.5%)、3,493人(+675人、+24.0%)を検挙。
- 暴力団構成員等の検挙人員は403人(-36人、-8.2%)で、総検挙人員に占める割合は17.4%(-0.5ポイント)。
- 暴力団構成員等の検挙人員のうち、中枢被疑者は20人(-6人、-23.1%)であり、出し子・受け子等の指示役は12人(-7人、-36.8%)、リクルーターは45人(-29人、-39.2%)。また、中枢被疑者の検挙人員(58人)に占める暴力団構成員等の割合は34.5%(-18.6ポイント)と、依然として暴力団が主導的な立場で特殊詐欺に深く関与している実態がうかがわれる。
- このほか、現金回収・運搬役として33人(-9人、-21.4%)、道具調達役として6人(±0人、±0%)を検挙。
- 少年の検挙人員は425人(-6人、-1.4%)で、総検挙人員に占める割合は18.3%(+0.8ポイント)。
- 少年の検挙人員のうち、受け子は288人(-22人、-7.1%)で少年の検挙人員の67.8%(-4.2ポイント)を占める。また、受け子の検挙人員(1,409人)に占める少年の割合は20.4%(+0.6ポイント)と、受け子の5人に1人が少年。
- 外国人の検挙人員は134人(+12人、+9.8%)で、総検挙人員に占める割合は5.8%(+0.8ポイント)。
- 外国人の検挙人員のうち、受け子は76人(+10人、+15.2%)、出し子27人(-2人、-6.9%)で、外国人の検挙人員に占める割合は、それぞれ56.7%、20.1%を占める。
- 国籍別では、中国40人(29.9%)、ベトナム34人(25.4%)、韓国18人(13.4%)、マレーシア13人(9.7%)、ペルー8人(6.0%)、フィリピン7人(5.2%)、ブラジル6人(4.5%)、タイ3人(2.2%)、その他5人(3.7%)。
- 令和6年中に特殊詐欺の受け子等として検挙した被疑者2,229人のうち、受け子等になった経緯は、SNSから応募が952人(調査対象全体の42.7%)で、4割を占めている。
- 検挙状況:SNS型投資・ロマンス詐欺
- 令和6年のSNS型投資・ロマンス詐欺の検挙件数は232件、検挙人員は113人(出し子31人、受け子17人、単独犯23人、リクルーター2人、現金回収・運搬役2人、道具調達12人、出し子・受け子・見張りの指示役2人、出し子・受け子の見張り役2人、打ち子1人、その他21人)。
- 手口別では、SNS型投資詐欺の検挙件数は115件、検挙人員は50人で、SNS型ロマンス詐欺の検挙件数は117件、検挙人員は63人。
- 検挙人員のうち、暴力団構成員等は3人(リクルーター1人、出し子2人)、少年は1人(受け子)、外国人は26人(受け子9人、出し子6人、現金回収・運搬役1人、道具調達3人、出し子・受け子・見張りの指示役2人、出し子・受け子の見張り役1人、その他4人)。
- 外国人の国籍別では、中国17人、ナイジェリア2人、ベトナム2人、フィリピン2人、カンボジア1人、マレーシア1人、韓国1人。
- 架け場等の摘発状況
- 犯行グループが欺罔電話をかけたり、架空の人物になりすましてメール等を送信したりする架け場等の犯行拠点について、令和6年中、国内では29箇所を摘発(+14箇所)。
- また、海外拠点を外国当局が摘発し、日本に移送等して検挙した人数については、同年中50人(-19人)となっている。
- 特殊詐欺連合捜査班(TAIT)の運用状況
- 令和6年4月、特殊詐欺事件及びSNS型投資・ロマンス詐欺事件の捜査を、全国警察が一体となって迅速かつ効果的に推進するため、他の都道府県警察からの捜査共助依頼を受理する体制として、全ての都道府県警察に「特殊詐欺連合捜査班(TAIT(タイト):Telecom scam Alianced Investigation Team)」を構築し、運用を開始した。
- 同月から同年12月末までに、3,567件の捜査共助依頼が行われ、TAITは、捜査共助依頼を行った都道府県警察とも連携し、被疑者の特定に向けた捜査等の各種捜査を推進した。同年12月末までに、TAITを活用した特殊詐欺事件等の検挙は322件であった。
- (検挙事件)
- 神奈川県警察のTAITが特殊詐欺事件の共助依頼を受けて、新横浜駅で捜査を行っていたところ、共助依頼に係る被疑者が駅構内に入り、関西方面に向かう新幹線に乗車する状況を確認。新幹線沿線の各府県警察のTAITに手配したところ、愛知県警察のTAITが名古屋駅で降車した被疑者を確保。別の特殊詐欺事件の指名手配被疑者として逮捕
- 金融機関やコンビニエンスストア等と連携した被害の未然阻止
- 金融機関の窓口において高齢者が高額の払戻しを認知した際に警察に通報するよう促したり、コンビニエンスストアにおいて高額又は大量の電子マネー購入希望者等に対する声掛けを働き掛けたりするなど、金融機関やコンビニエンスストア等との連携による特殊詐欺予防対策を強化。この結果、関係事業者において、19,967件(-2,379件、-10.6%)、91.9億円(+20.2億円、+28.2%)の被害を阻止(阻止率49.4%、-5.2ポイント)。
- 金融機関と連携し、一定年数以上にわたってATMでの振込実績がない高齢者のATM振込限度額をゼロ円又は極めて少額とする取組(ATM振込制限、令和6年12月末現在、47都道府県、414金融機関)及び高齢者のATM引出限度額を少額とする取組(ATM引出制限、令和6年12月末現在、43都道府県、281金融機関)を推進。
- 犯行に利用されたSNSアカウントの利用停止等
- 令和6年9月から、警察からLINEヤフー株式会社(以下「LY社」という。)に対して、警察が認知したSNS型投資・ロマンス詐欺及び特殊詐欺において犯行に利用されたLINEアカウントの利用停止や削除等を促すための情報提供を行う仕組みの運用を開始。同月から同年12月末までに、LY社に情報提供したアカウントは5,446件であった(SNS型投資・ロマンス詐欺2,884件、特殊詐欺2,562件)。
- 令和6年10月から、警察からMeta Platforms,Inc(以下「Meta社」という。)に対して、警察が認知したSNS型投資・ロマンス詐欺及び特殊詐欺において犯行に利用されたFacebookアカウント及びInstagramアカウントの削除等を促すための情報提供を行う仕組みの運用を開始。同月から同年12月末までに、Meta社に情報提供したアカウントは148件であった(SNS型投資・ロマンス詐欺134件、特殊詐欺14件)。
- 犯行に利用された電話番号の利用停止等
- 主要な電気通信事業者に対し、犯行に利用された固定電話番号等の利用停止及び新たな固定電話番号の提供拒否を要請する取組を推進。令和6年中は固定電話番号1,246件、050IP電話番号2,078件が利用停止され、新たな固定電話番号等の提供拒否要請を14件実施。
- 悪質な電話転送サービス事業者が保有する「在庫番号」を一括利用停止する仕組みにより、令和6年中は新規番号の提供拒否対象契約者等が保有する固定電話番号等の利用停止等要請を10事業者に行い、在庫番号10,126番号を利用停止。
- 犯行に利用された携帯電話(仮想移動体通信事業者(MVNO)が提供する携帯電話を含む。)について、携帯電話事業者に対して役務提供拒否に係る情報提供を推進(1,009件の情報提供を実施)
- 組織的な詐欺に対する各国との連携強化
- 令和5年12月のG7茨城水戸内務・安全担当大臣会合等により、国境を越える組織的詐欺と闘う国際的な機運が高まる中、令和6年9月には、我が国において、各国の治安機関等の実務者が議論する国際詐欺会議を開催した。
- 各国の政府、国際機関等が把握する最新の脅威情報・取組状況、検挙事例を踏まえた着眼点・教訓等を共有し、参加国等の発表を踏まえつつ、海外拠点の摘発等に係る国際捜査協力、各国の詐欺対策について、実務的な議論等を行った。
- 参加国等[16カ国・3機関]オーストラリア、ブルネイ、カンボジア、フィジー、ドイツ、インドネシア、イタリア、ニュージーランド、ナイジェリア、フィリピン、韓国、シンガポール、タイ、英国、米国及びベトナムASEANAPOL、国際刑事警察機構(INTERPOL)及び国連薬物・犯罪事務所(UNODC)
特殊詐欺の2024年の被害額が10年ぶりに過去最悪となり、警察庁は「極めて深刻な状況」と危機感を強めていますが、増加の背景には、利便性が高いとされるインターネットバンキングの危険性が挙げられます。2024年の増加の要因の一つには、インターネットバンキングの送金の上限額の高さがあるとみられています。警察庁が、被害額が500万円以上で、金融機関に現金を振り込んだ被害の1688件(暫定値)を分析すると、1件当たりの被害額はネットバンキング利用が2070万円で、それ以外より526万円多い結果となりました。被害者の7割がネットバンキングの設定をした口座を持っており、それを使ってだまし取られたほか、犯人側の指示を受けて口座を開設したり、個人情報を得た犯人側が代わりに口座を開いたりすることもありました。またネットバンキングでは、送金の際に金融機関の職員らと接する機会がなく、他の人から詐欺だと指摘されづらい点も挙げられます。対策として警察庁は、金融機関からの注意喚起を徹底するよう働きかけることを検討しています。口座開設の際には金融機関が利用者に、悪用が増えている状況を伝えたり、誰かに指示されていないかを確認したりしてもらうことを想定しています。送金の上限額の引き上げに関しては、変更申請の1~2日後からの運用にしてもらいたい考えです。タイムラグを設け、その間に利用者がだまされていると気づけば、被害防止につながることになります。また、警察は特殊詐欺にトクリュウが関与しているとみており、捜査の効率化に向け、他の警察本部から依頼を受けて捜査する「特殊詐欺連合捜査班」を2024年4月に発足させ、12月までの9カ月間で、特殊詐欺など3567件の捜査依頼を受け、うち322件で容疑者の摘発に至っています。また金融機関との連携を強化、警察庁は2025年1月にゆうちょ銀行と協定を結び、詐欺被害や不正利用が疑われる口座情報を即座に都道府県警に連絡する取り組みを始めており、他の金融機関とも連携を進めたい考えです。
警察官をかたって電話し、通信アプリに誘導して「逮捕状が出ている」とうそを言い、捜査名目などで現金をだまし取るケースが急増、使われた電話番号のうち59%が国際電話だったといいます。米国やカナダの国番号「1」が最初に付く番号が3万8642件と最多で、英国の「44」が1140件で続いています。国際電話の悪用は2023年夏ごろから急増しており、摘発件数は前年比8.6%減の6595件で、3年ぶりに減少しています。逮捕・書類送検した2320人のうち、首謀者やグループリーダーは58人(前年比9人増)、うち暴力団関係者は20人(同6人減)、海外拠点については、ベトナム、フィリピン、カンボジア、タイの4カ国で10カ所を摘発し、50人を逮捕しています。
不必要な工事で高額な請求などをする悪質リフォーム事件で、警察が2024年に66件を摘発したことが、警察庁が公表した「令和6年における生活経済事犯の検挙状況等について」で判明しています。2023年より7割増え、現在の方法で統計を取り始めた2010年以降で最多となりました。近年はトクリュウの関与が目立つといいます。これまでの最多は2011年の64件で、その後は20~50件台で推移、2023年は38件だったところ、2024年に摘発されたのは130人で、統計のある2020年以降で最多となりました。特定商取引法違反(不実の告知)や詐欺、建設業法違反などの容疑で立件されたといいます。警察庁は、悪質業者への注意が周知されて被害の申告が増えたことなどが、増加に関係した可能性があるとしています。一方、2024年にトクリュウが関与したのは全体の2割の15件で、計56人が摘発されています。SNSを利用して従業員を集めた業者もおり、違法な収益がトクリュウの資金源になっているとみられています。特商法などに関連する警察への相談件数は、前年から56%増の1万7703件に上り、比較できる統計のある2016年以降で最多となりました。相談者の48.7%は65歳以上で、若い家族らが不審な点に気づいて被害を防いだケースもあるといいます。具体的には「シロアリにより柱がぼろぼろになっている」と言われ、不必要な工事を勧められたケースもあり、住民が工事の相場を知らないことや高齢者の判断能力の衰えにつけ込んで高額な請求をしてくるというものです。警視庁が2024年に摘発した横浜市の業者は、訪問時のマニュアルを作成し、点検を装ってわざと壊した屋根の破片を住民に見せ、工事契約を迫っていたといいます。警察幹部は、「訪問業者に不安を感じたら、契約を結ぶことなく、家族や警察に相談してほしい」と注意を呼びかけています。
▼警察庁 令和6年における生活経済事犯の検挙状況等について
- 令和6年中の生活経済事犯の検挙事件数は8,188事件と、前年より410事件(4.8%)減少し、検挙人員は9,540人と、前年より298人(3.0%)減少し、過去10年でみると、おおむね横ばいとなっている。
- 消費者取引の安全・安心を阻害する事犯
- 利殖勧誘事犯
- 検挙事件数49事件のうち、21事件(42.9%)が預り金に関連した事犯であり、FX等の国際金融取引や暗号資産関連事業への投資運用を名目とした事犯がみられる。
- 相談受理件数は3,310件と、前年より155件(4.9%)増加し、相談当事者は、50歳代以上が半数以上(55.9%)を占めている。
- 特定商取引等事犯
- 検挙事件数113事件のうち、92事件(81.4%)が訪問販売に関連した事犯であり、住宅リフォームの工事請負契約に係る事犯等がみられる。
- 相談受理件数は17,703件と、前年より6,364件(56.1%)増加し、相談当事者は、65歳以上が約半数(48.7%)を占めている。
- ヤミ金融事犯
- 無登録・高金利事犯の検挙事件数は、近年、減少傾向にあったが、令和6年中は70事件と、前年より増加した。
- 中古品や金券の売買等、通常の商取引を仮装した巧妙な手口による事犯が依然として発生している。
- 知的財産権侵害事犯
- 商標権侵害事犯及び著作権侵害事犯の検挙事件数は減少傾向にあるが、いずれも80.0%以上がインターネット利用事犯であった。
- 営業秘密侵害事犯の検挙事件数は22事件で、転職・独立時に営業秘密に関する情報を持ち出す事犯が多くみられる。
- 国民の健康や環境等に対する事犯
- 動物虐待事犯の検挙事件数は160事件で、過去最多となった前年から減少したものの、依然として高水準で推移している。
- 保健衛生事犯の検挙事件数を類型別にみると、薬事関係事犯は50事件、医事関係事犯は35事件、公衆衛生関係事犯は193事件と、全ての類型で前年よりも増加した。
- 利殖勧誘事犯については、海外の投資事業者や暗号資産取引への出資をうたった詐欺的な事案、太陽光発電事業やCO2排出権取引など環境に関する商材を扱う事案、インターネット上に開設されたサイト内において、金融商品取引の勧誘から契約の締結まで非対面で行われる事案が発生するなど、時代の変化に伴い被疑者が用いる商材や手口に変容がみられる。
- 同事犯については、被害が急速に拡大する可能性があることを踏まえ、平素より関係機関・団体等と連携しつつ、被害の実態等について情報収集を行うとともに、各種法令を活用した早期事件着手による取締り、被害の状況に応じた効果的な広報啓発活動等を推進し、被害の未然防止及び拡大防止を図る。
- また、主として事業を行う被疑法人のほか、コンサルタントや決済代行など業務に関与する複数法人を用いることで犯罪収益を隠匿したり、海外法人口座へ送金して犯罪収益を隠匿するケースが認められることから、これらの取組と併せて、早期に没収・追徴、罰金、課税等による犯罪収益の剥奪に向けた取組を推進するとともに、被害者の財産的被害回復について支援する
- 悪質リフォーム業者対策
- 点検商法(リフォーム契約を伴うもの)の事件検挙数 令02(53件)、令03(43件)、令04(47件)、令05(38件)、令06(66件)
- 高齢者宅を狙って家屋修繕や水回り工事等の住宅設備工事やリフォームに関する訪問販売を装い、損傷箇所がないにもかかわらず家屋を故意に損傷させ、それを修理することで高額な施工料を要求するなどの悪質リフォーム業者による犯罪行為が確認されている。
- その中には、匿名・流動型犯罪グループが関与していると認められる事案もみられ、犯罪行為による収益が同グループの資金源になっている状況がうかがわれているところである。
- 警察では、同グループを治安対策上の脅威と捉え、情報共有・情報集約の取組を強化して実態解明を進めているほか、各種法令を駆使した戦略的な取締り、犯罪収益の剥奪に着目した事件捜査及び行政措置の発動に向けた関係機関との連携等の取組を推進している。
- 特定商取引等事犯の検挙状況をみると、依然として、高齢者宅を狙った住宅リフォーム工事等の点検商法に係る事犯がみられ、屋根の損傷を口実に顧客の不安をあおり、修繕に必要のない工事を行うことで高額な施工料を要求するといった悪質な業者や、不要品の買取りを装って個人宅を訪問し、契約に応じるまで居座り続けるなど、執拗な勧誘方法により、貴金属を安価で買い取る訪問購入業者も確認されている。
- このほか、SNSを利用した投資スクールへの入会に関する連鎖販売取引については、若者を消費者金融に案内して多額の借財をさせてまで契約を迫る事案がみられ、20歳代からの相談が多い状況となっている。
- 同事犯については、利殖勧誘事犯と同様に、被害が急速に拡大する可能性があることから、被害の実態等に係る情報収集、被害の状況に応じた広報啓発活動等に取り組むほか、各種法令を駆使した捜査を実施しながら、部門間及び都道府県警察間の連携を強化し、組織性を有する事犯に対しては徹底した突き上げ捜査により首謀者を検挙するとともに、行政処分の発動に向けて関係機関との連携を強化するなど、犯罪グループ壊滅に向けた取締りを推進する
- 社会の変容に伴って生じる新たな犯行態様への対応
- ヤミ金融事犯は、社会の変容に伴って新たな犯行手口が次々に発生しており、迅速かつ的確な対処が求められる。
- 本事例は、通常の商取引を仮装して金銭を貸し付けるヤミ金融による被害が全国的に拡大していたところ、サイバーパトロールによりギフトカードの売買を仮装して金銭の貸付けを行うという新たな手口のヤミ金融事犯を発見し、迅速な捜査により、その違法性を立証し、全国で初めて同種手口の検挙に至った。
- また、日本貸金業協会と連携して、同種手口に関する注意喚起のチラシや動画を作成して啓発活動を推進し、被害の未然防止及び拡大防止を図った
- 情報通信技術の発達や国際化の影響への対応
- 急速なデジタル化・ネットワーク化の発展、スマートフォンの普及などに伴い、日本のマンガやアニメ、ゲーム等のコンテンツがグローバルに展開する一方、海賊版による被害も拡大している状況にある。
- また、近年では、海外サーバの利用や運営者が海外にいるケースが多く、日本のコンテンツを現地語に翻訳して違法に配信するなど、海外に居住する利用者向けのサイトも増えている。
- 本事例は、日本国内で連載中のマンガの最新話が雑誌の発売日前にインターネット上で公開されていたことから、その拡散状況を分析した上で日本国内の流出源を特定し、検挙に至ったもので、国境を越えて同種の侵害行為を行う者に対して警鐘を鳴らすものとなった
- 営業秘密侵害事犯については、雇用の流動化や外国への技術情報流出の懸念等により、社会的関心はさらに高まっており、警察への相談件数は増加傾向となっているほか、大手企業が関係する事犯も発生している。
- これらを踏まえ、同事犯への対応に中心的な役割を担うべく各都道府県警察で指定された営業秘密保護対策官を中心に、関係部門とも連携しつつ、捜査員に対する教養や積極的な取締り等を推進するほか、関係企業・団体への啓発活動にも取り組む。
- また、食品表示における原産地偽装に係る事犯については、組織的に敢行され、複雑な流通経路を有している可能性があることを踏まえ、平素より関係法令の所管省庁や自治体等の関係機関と連携を強化して情報共有を行い、事犯の全容解明に向けた検挙活動を推進する。
- 早期検挙による健康被害の未然防止》
- 薬事関係事犯には、厚生労働大臣から承認を受けていない医薬品の販売や根拠の不明な食品を特定の疾病に効果があるように広告するといったものがあり、健康被害の可能性や購入者の適切な医療の機会を失わせる可能性がある。
- 本事例は、警察による積極的なサイバーパトロールにより認知・検挙し、未承認医薬品の流通を遮断したものであり、販売会社の検挙にとどまらず、当該医薬品の名称、効能等に関する広告をインターネット上に掲載したホームページ制作会社も検挙して広告業界に警鐘を鳴らした。
- 犯罪利用口座の徹底した精査》
- 本事例は、生活経済事犯(特定商取引法違反)の被疑者を検挙し、関連する銀行口座を精査していたところ、多数のペーパーカンパニーと同会社名義の銀行口座を管理する犯罪収益の資金洗浄グループの実態が明らかとなったもので、事件着手後、金融庁と連携を取りながら、犯罪収益の隠匿に利用された約1,500口座の凍結を迅速に行った。
- なお、令和6年6月に開催された犯罪対策閣僚会議で決定された「国民を詐欺から守るための総合対策」において、預貯金口座の不正利用防止対策や法人がマネー・ローンダリングに悪用されることを防ぐ取組を推進することとされており、政府全体でその対策が進められているところである。
2025年3月7日付文春オンラインの記事「「暴力団はそういった連中を生かさず殺さずに使おうとしている」闇社会の関係者が明かす…半グレ、トクリュウとヤクザの“知られざる力関係”」は、トクリュウと暴力団の微妙な関係が分かりやすく解説されていて参考になりました。記事ではいわゆる「反市場勢力」が取り上げられていましたが、具体的には、「暴力団関係者の男は、半グレ集団やトクリュウがどれだけ台頭してきても、最後の最後には暴力団による力の裁定が物を言うと力説する。「たしかに暴排条例の制定が進んで以降、ヤクザに代わって半グレ集団やトクリュウと呼ばれる連中が上手にシノギを行っているのは事実です。そういった連中が最新のテクノロジーを熟知しているのも、カネを持っているのも、また事実でしょう。でも、だからこそ、暴力団はそういった連中を生かさず殺さずに使おうとしている。ヤクザが最も恐れているのは実のところ警察に捕まることだからです」、「現在においては、どれだけ自らが直接的な関与をせず、多くの収益を得られるかが賢いヤクザの行動原理になっています。そのため、ヤクザにとっては金稼ぎの上手い半グレやトクリュウたちは、自分たちの得意分野である暴力装置を使って守るに値する存在とも言えるのです。盃事といった明確な関係性を持たない、半グレやトクリュウを資金源としても、捜査対象として結び付きにくいという考えもあります。とはいえ、自らが資金源としている半グレやトクリュウが他の犯罪組織から狙われ、潰されるような事態になっては困るため、うっすらとケツモチとしてヤクザが存在していることを匂わせる必要もある。ヤクザとしては、半グレやトクリュウとの関係性を表立って示すことには捜査上のデメリットしかありませんが、闇社会においてはある程度知らしめておく必要があるという、微妙なバランスがあるのです」、「一方で、半グレやトクリュウの中核にいる連中にしてみれば、暴力団にがっちり組み込まれたくはないし、巨大な犯罪組織である暴力団と対峙できるだけの実力が自分たちにないとも理解している。それならば、一層のことカネを払って守ってもらうほうが得策だという考えが働くのです」、「「いつまでも自分たちだけで闇社会を生きていくのは難しいということだろう。今トクリュウと呼ばれている連中も、ヤクザが裏にいるから活動できている面も多分にあるはずだ」つまるところ、組織犯罪の頂点にいるのは、今も昔もヤクザ組織である暴力団であることに変わりはないとの見方は根強い。そのため、トクリュウ捜査において、警察が最大の使命としているのも、背後にいる暴力団まで辿り着くことなのである」というものです。筆者としても、暴力団は最終的には潜在化が進み、その勢力自体も大きくはないとしても、トクリュウをはじめ反社会的勢力の中核であることに変わりはなく、指摘されているとおり「背後にいる暴力団まで辿り着くこと」が極めて重要だと考えます。
銀行口座の開設を拒否されたとして、茨城県内に住む元暴力団組員の男性がみずほ銀行に20万円の損害賠償を求めた訴訟で、水戸地裁は、男性の請求を棄却する判断を示しました。男性側は「(口座の開設拒否は)かつて暴力団に所属していたことを理由とするのは明らか」と指摘、経歴は「自らの意思によって克服できない属性」で「就労の機会を奪い、社会復帰を阻害する不合理な差別だ」と主張していました。判決はまず、銀行が最初に断った点について「その時点では男性が離脱から5年が経過した元組員だと明らかになっていない」として、違法性はないと判断しています。さらに、その後の対応も、暴力団離脱支援の専門弁護士らが金融機関に提唱する手法に沿っており、「過剰な条件とは言えない」と指摘、男性の勤め先に違法行為の可能性があったことなども踏まえて合理性があると判断し、「開設を拒んだのは男性が元組員だからではない。男性の人格権を侵害していない」と結論づけたものです。男性の弁護士は判決後「二度と社会復帰するなと言っているようなものだ」と批判しています。一般的に、元組員の口座開設が認められるのは「離脱から5年」とされており、弁護団は「不当な差別で、人格権を侵害している」と訴えていました。男性は茨城県在住で、茨城県警の支援を受けながら、2017年6月に所属先の暴力団を離脱、妻子がおり、給与の振り込みや生活費の決済のため、2023年以降にみずほ銀行に口座開設を申し込んでいたものの、2度にわたって断られたといいます。銀行側が強調したのは、警察庁の「暴力団離脱者の口座開設支援策」に対応しているという主張で、同庁は2022年、通達を出し、全国の金融機関に「暴力団員であったことを理由として排除されることがない」ように求めていますが、このとき、就労先が警察の協賛企業として登録されているか、勤務状況が確認できるかといった項目が設けられたところ、男性の就労先は協賛企業ではなかったことから、銀行側は男性に対し、就労先の健全性を証明するよう求めたものの、人間関係の悪化を懸念した男性はこれを拒否、「口座が違法行為に使われるリスクを減らす必要があった」とする銀行側の訴えを水戸地裁は全面的に認める形となりました。しかし、男性は口座開設支援策の要件こそ満たしていないが、所属組織離脱や口座開設の支援を県警から受けており、原告側弁護士は「これ以上、何の証明が必要なのか」と憤っているといいます。今回の判決文には、国家公安委員会の資料を引用する形で、銀行側の主張を補うように「匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)の構成員には『元暴力団員』も含まれる」と盛り込まれています。これに対し、報道で京都大の岡辺健教授(犯罪社会学)は「トクリュウの構成員に元組員がいるのは確かだし、離脱後5年以降に罪を犯す人もいなくはない」と前置きし、「出所後にまっとうになろうとしても、口座開設の難しさを筆頭に、生活を妨げてしまういくつもの制限が課されている。社会復帰が進まないため、また犯罪の世界に舞い戻ってしまう」と指摘しています。原告側弁護士は「元組員に口座をつくらせれば、犯罪に走らない歯止めになり得るし、犯罪収益を得ていないかチェックする材料にもなる。口座開設を促す動機として見落としてはいけないポイントだ」として、控訴によって、今後も審理は続く見通しです。岡辺氏は「判決は銀行の裁量を幅広く認めすぎている。元組員の社会復帰を妨げている現状を追認する懸念がある」と印象を語り、警察の取り組みにも目を向け、「口座開設を支える仕組みは拡充する必要がある。警察は金融機関との連携をさらに深めるべきだ」とも指摘しています。筆者としては、みずほ銀行側が「県警の回答だけでは、将来にわたりお墨付きを得たとまでは言えない」と反論しているとおり、口座開設後の将来のリスク(マネロンなど犯罪への悪用)を金融機関が負うことになることを含め、金融機関側の自立的・自律的なリスク管理事項として、裁量の範囲として認められるのではないかという考えですが、警察との連携を深めることによって、金融機関として前向きに取り組める環境整備が必要であるという点では同感です。一方、日本弁護士連合会民事介入暴力対策委員会の副委員長を務める山田康成弁護士は「足を洗ったと警察に認められ、長年まっとうに生き続けても不利益を課される。社会復帰とは何かということを正面から問うている裁判だと、今回の訴訟をこう意義づけ、暴力団の排除を進めるには「口座の凍結や開設の制限は重要だ」と前置きしたうえで、「協賛企業以外でもきちんと働く元組員はいるし、口座がないと生活しづらい。大変ではあるが、銀行側がしっかり見極めてメリハリある対応をとってほしい」と話している点も理解できるところです。なお、県警幹部は「一般的には口座を作らせればいいのかもしれないが、銀行側にも契約の自由があり、少しでも不信感があれば契約しないという考え方もわかる。司法は難しい判断を迫られているのではないか」とみているといいます。
暴力団員が家族名義のETCカードで割引を受けるのは犯罪になるかについて、不正に割引を受けたとする電子計算機使用詐欺罪で、六代目山口組直系団体のトップ3人が相次いで起訴され、いずれも大阪地裁の公判で無罪を主張しています。一般的にETCカードの貸し借りは珍しくないのに「暴力団員だから起訴された」と公訴権の乱用も訴えています。別々の裁判長のもとで審理された結果、2人は有罪、残る1人は無罪との判断が下されました。2024年5月に最初に判決を迎えたのは、同居する弟のETCカードを使って2回にわたり計1400円の割引を受けた、秋良連合会会長の金東力被告で、大阪地裁は懲役10月の実刑判決を言い渡しています。判決理由で地裁は、ETCカードを使用できるのが名義人本人のみであることは「システムの重要な前提」と指摘、「暴力団員との取引を拒絶する暴排条項を潜脱する(免れる)行為」と非難し、常習性を考慮すれば差別的との主張は当たらないとしています。大阪高裁もこの判決を支持し、金被告側は最高裁に上告しています。別居する息子のカードを使った極粋会会長の森尾昇被告も2024年10月、同じ理由で執行猶予付きの有罪判決を受け、控訴しています。一方、2025年1月、章友会会長に対して地裁は「処罰に値するということはできない」と無罪を言い渡しています。まず地裁は、会長が使っていたETCカードの名義人は「生計を一にする同居の事実婚の妻」と言及、弁護側のアンケート結果も踏まえ、「同居の夫婦間であっても、本人以外のETCカードを使うと不正通行になるとは(社会全体に)周知されていない」としました。妻が会長に相談することなく自らETCカードを取得し、「暴力団用」を別途取得したわけではないとの経緯もあり、「暴排条項の潜脱を意図したとまでは評価できない」と指摘、ほかの2被告とは異なる結論に至っています。検察側は無罪判決を不服として控訴しています。暴力団のETCカード利用を巡っては、離婚した元妻のカードを使ったとして六代目山口組直系団体早野会会長の鈴川憲司被告も同罪で起訴され、大阪地裁は2025年1月に執行猶予付きの有罪判決を言い渡しています。
自民党の治安・テロ・サイバー犯罪対策調査会(高市早苗会長)はSNS詐欺対策に関する提言をまとめています。被害金を保管する暗号資産口座について捜査中を含め早期凍結を可能とする制度の検討を求めています。トクリュウはだまし取った資金を暗号資産に替えて保管するケースがあり、調査会は金融庁や金融機関、暗号資産の交換業者などが情報共有し、不正取引を検知したら速やかに口座凍結できる仕組みの検討を政府に促すとしています。振り込め詐欺救済法は金融機関が犯罪に悪用されている疑いがある口座を把握した場合、凍結などの措置をとるよう定めており、捜査や司法手続きの途中段階でも凍結できるものの、暗号資産交換業者は対象外で、暗号資産の口座が悪用されている実態があります。新たな捜査手法も提案、金融機関や警察が管理する架空名義の口座を犯罪グループに使わせ、検挙や被害金の回収につなげる方法の検討を要請するほか、利用を申し込んだ人以外は固定電話に国際電話がつながらないようにする制度変更も訴えています。通信内容を暗号化する秘匿性の高い通信アプリ「シグナル」や「テレグラム」が事件に悪用されるケースがあり、「通信内容や登録者情報を迅速に把握するための効果的な手法について、技術的アプローチや新たな法制度導入の可能性も含めて検討すべき」と提起しています。調査会幹部によると、暗号化された通信を解読する技術をもつ企業もあるといい、不正アクセス禁止法の例外として、特定の犯罪捜査に限定しサーバーへの侵入を認めるような法整備などが念頭にあります。政府は2024年12月、闇バイト対策として警察官が身分を隠して犯罪組織に接触する「仮装身分捜査」の導入を決めていますが、SNSを使った詐欺事件は相次いでおり、対策を強化する方向です。
▼首相官邸 自由民主党・治安・テロ・サイバー犯罪対策調査会による申入れ
▼自民党 組織的な詐欺から国民の財産を守る石破総理に緊急提言を申し入れ 治安・テロ・サイバー犯罪対策調査会
- 令和6年の財産犯の被害額は前年比59.6パーセント増の約4021億円で、刑法犯認知件数が戦後最悪だった平成14年の被害額を上回りました。こうした状況を踏まえ、党治安・テロ・サイバー犯罪対策調査会は情報通信戦略調査会と金融調査会の連携の下、「組織的な詐欺から国民の財産を守るための対策に関する緊急提言」を取りまとめ、3月3日、石破茂総理に申し入れました。
- 緊急提言は犯行グループが利用している金融と通信に関して当面行うべき対策をまとめたものです。
- 金融関係では、最近の被害事例においてインターネットバンキングを利用した犯行が確認されていることから、政府から金融機関に対し、インターネットバンキングの申し込みがあった際の審査強化や注意喚起等を求めたほか、犯行グループによる被害金の出金を防ぐため、預金取扱金融機関間で取引情報を共有しつつ、不正取引を検知し速やかに口座凍結を行うことが可能となる枠組みの創設を提案しました。
- さらに、他人名義の口座等が犯行に利用されていることを踏まえ、金融機関と捜査機関が管理する「架空名義口座」を利用した捜査の有効性を強調。その上で関係法令の改正に向けた検討を早急に行うべきとしました。
- 通信関係では、データ通信専用SIMについて、音声通話SIMと同様に通話等をすることができるにも関わらず、音声通話SIMと異なり、契約時の本人確認が法令で義務付けられていないことから、その悪用実態を踏まえ、契約時の本人確認の義務付けを検討するよう求めました。
- また、犯罪に悪用される通信アプリ等について被疑者の通信内容や登録者情報等を迅速に把握することは、犯行グループの壊滅に必須です。そこで犯罪に悪用される通信アプリ等の通信内容等を迅速に把握する効果的な手法を、諸外国の取り組みを参考にしつつ、技術的アプローチや新たな法制度の導入の可能性を含め検討すべきとしました。
SNSの「闇バイト」を実行役とする詐欺事件の多発を受け、警察庁は、実在しない人物名義の口座を開設して犯罪組織に渡し、金の出入りを監視する「架空名義口座捜査」の導入に向け、本格的な検討に入りました。指示役を摘発し、深刻な被害を食い止める狙いがあります。2024年は、特殊詐欺と「SNS型投資・ロマンス詐欺」の被害が約2000億円(暫定値)に上ったほか、各地で闇バイトによる強盗事件が相次ぎました。犯罪組織は、被害者や実行役に金を振り込ませる際、他人名義の口座を悪用しており、こうした口座はSNSなどで売買されており、違法収益の受け皿となっている実態があります。このため警察庁は、口座売却を求めるSNSの闇バイト投稿に、捜査員が身元を隠して応募し、架空の人物の口座を犯罪グループに渡す捜査の検討に着手、金融機関と連携して資金の流れを追い、実行役や金の引き出し役だけでなく、資金を管理する指示役の摘発につなげられるかが鍵となります。さらに、SNSでの違法な口座売買に、警察の口座を紛れ込ませることで、犯罪を萎縮させる効果にも期待があるといいます。現行の犯罪収益移転防止法は、口座開設時の本人確認を義務づけており、他人に口座を譲渡する行為も禁じています。警察庁は関係省庁と協議し、法改正の必要性について検討します。架空名義口座捜査の導入は、自民党の治安・テロ・サイバー犯罪対策調査会(高市早苗会長)が石破首相に手渡した提言書にも盛り込まれています。警察庁は2024年以降、闇バイトに絡む事件への対策を強化しており、捜査員が架空の本人確認書類を使い、SNSなどで犯罪組織に接触する「仮装身分捜査」(雇われたふり作戦)の導入も決めており、架空名義口座捜査と両輪で犯罪組織を弱体化させたい考えです。
SNSで実行役を募集する「闇バイト」を通じた強盗事件などが多発していることを受け、警察官が闇バイトに「雇われたふり」をする「仮装身分捜査」の導入が始まっています。犯行抑止や指示役摘発の切り札として期待を集める一方で、犯人らに「発覚」されずに、どこまで捜査を進められるといった課題も浮かんでいます。警察庁は「仮装身分捜査が指示役への接近の糸口となるのではないか」と期待、仮装身分捜査の対象は強盗、窃盗、電子計算機使用詐欺などで、凶器を持っている場合は銃刀法違反での逮捕なども視野に入れるといいます。雇われたふりをするのは、捜査1課、2課、組織犯罪対策部など、事件を担当する捜査員が行い、着手前に作成する計画書に従い、法令の範囲内で捜査を進めるとしています。身分を偽った捜査員が犯人グループに入り込むことになりますが、犯行への加担など違法行為には及ばず、その手前の段階で摘発するとしています。警察庁は「(犯人側に)警察かもしれないと思わせることができること自体が大きな抑止力として働くだろう」とみています。一方、犯人側に「発覚した」場合など、どの時点で捜査を打ち切るのか、捜査員だと気づかれた場合の身の安全をどう保証するのかなどの詳細も明らかにされていません。実施状況の公表や実施結果の検証については、警察庁は「検討したい」としています。仮装身分捜査は米国やドイツ、フランス、イタリアなど欧米の各国で既に実施されており、導入済みの各国では、捜査機関の乱用につながらないよう法令やガイドラインで運用基準を定めています。報道で京都産業大法学部教授(元警察大学校長)田村正博氏は、「仮装身分捜査では、警察官が実際に犯罪に加担するわけにいかず、犯行の「手前」の段階で、摘発などによって行為を止めることになる。その段階で関係した者を罪に問えるのかが、今後の課題だ。強盗は「予備罪」があり、犯行に及ばなくても道具を持って集合しただけの時点で罪に問える場合もあるが、詐欺や窃盗にはない。摘発は該当する犯罪行為だけでなく、前後の行為への捜査も必要になるのではないか」、「仮装身分捜査は詳細を公開するほど、犯人側に対策を練られやすくなることから、警察側は具体的な方策や方針を開示できないジレンマがある。ただ、闇バイト撲滅に向けた効果は大きいことが予想され、経過と実績に注目したい」と述べていますが、筆者も同感です。
深刻な詐欺被害を救済するため捜査・金融当局が犯罪収益の没収を急いでいます。2024年に警察による捜査で確保できたのは約19億6千万円で過去2番目に多かったものの、犯罪集団の悪用が目立つ暗号資産へは捜査の手が十分に届いていないのが実情です。協力に応じない海外交換所と、所有者しか出入金できない「非管理型口座」が壁になっています。後述する「犯罪収益移転防止に関する年次報告書」によると、犯罪収益の疑いがあるとする警察官の請求を受け、裁判所が起訴前に組織犯罪処罰法に基づく没収保全命令を出したのは225件で過去最多、保全された財産額は2012年(約33億8千万円)に次ぐ水準となりました。保全命令により確保できた財産は判決などに基づき没収され、犯罪グループから剥奪され、財産は検察庁に集められ、事案に応じ「被害回復給付金」として被害者に支給されます。法務省によると2023年の給付額は過去最も多い12億8700万円となりましたが、警察庁によると、2024年の詐欺被害は3074億7千万円に上り2023年から1.8倍に急増しており、被害の抑止には容疑者の摘発が効果的だが、警察幹部は「資金源を絶つ意味でも、犯罪組織から資金を奪い返すのは重要だ」と強調しています。金融機関も監視を強めており、振り込め詐欺救済法に基づき犯罪利用の疑いがある口座を凍結し、口座名義人の失権が確認できれば被害者に配る「被害回復分配金」という仕組みを活用、2023年度の分配金は24億1100万円でこちらも過去最多とみられています。2つの手法は実績を重ね浸透してきています。マネロンに使われることが多い暗号資産の事例もあり、2024年10月には警視庁などが摘発した不正送金事件に絡み、犯罪グループが持っていた数十万円相当の暗号資産の没収に成功、ただ今のところ、各当局が手元に確保できた財産は現金が中心で暗号資産の没収例は一部にとどまっています。暗号資産の取引はブロックチェーン(分散型台帳)に記録され、資金の流れ自体は追うことができる。しかしこれまでは犯罪集団が複数の口座を経由させたうえ、最終的に暗号資産を現金に換え手中に収めてしまう事件が目立っています。障壁となっているのが海外の交換所で、海外事業者に開設された口座に犯罪収益が入ったことが確認できても、日本の裁判所による没収保全命令の適用は容易ではなく、「捜査に非協力的な事業者も多く、没収のハードルは高い」(捜査幹部)といいます。暗号資産の送金時に必要な「秘密鍵」を事業者でなく、利用者自ら管理する「アンホステッド・ウォレット(非管理型口座)」の存在もネックとなっています。この口座は交換事業者が介在しないため、資金移動がより止めにくくなります。捜査関係者によると非管理型口座を凍結するためには、秘密鍵が書かれた紙やデータがある端末を探して、秘密鍵を割り出す必要があり、暗号資産の発行元への働きかけが求められる場合もあるといいます。こうした一連の法整備が進んだとしても、回収の実効性を向上させるためには交換所がある国の捜査当局や交換事業者自体との連携強化が要になります。海外当局も暗号資産に狙いを定めており、ノルウェー警察は2023年、米連邦捜査局(FBI)などと連携しゲーム会社から窃取された暗号資産のうち約6000万ノルウェークローネ(約8億円)相当を差し押さえたと公表しています。大半がゲーム会社側に返還されたといいます。報道でサイバー犯罪に詳しい棚瀬誠・元警察庁サイバー捜査課長は「犯罪組織による暗号資産の悪用は世界規模でさらに拡大・巧妙化するとみられる」と指摘、米国では容疑者が分からない段階でも捜査機関が暗号資産を差し押さえ被害者に戻せる制度があり法整備や技術で先行しています。「民間事業者も含めて国際連携を深めるなかで先進的な知見を取り入れ、機動的に暗号資産を回収する体制づくりが欠かせない」と述べています。
最近のトクリュウを巡る報道から、いくつか紹介します。
- 海外のオンラインカジノの賭け金を複数の口座に移してマネロンをしたとして、男3人が神奈川県警に逮捕された事件で、男らの決済代行グループが秘匿性の高い通信アプリ「テレグラム」を使い、グループ内で資金の移し替えの指示などをしていたことがわかったといいます。男の1人は逮捕前の任意の調べに対し、「知らない人から依頼された」などと話しており、県警はトクリュウの関与があるとみて調べているといいます。報道によれば、組織犯罪処罰法違反(犯罪収益隠匿)の疑いで逮捕された会社役員の男ら3人は共謀して2024年6~7月、海外にサーバー拠点を置くオンラインカジノ6サイトを通じて集まった賭け金など計約42億円を、グループで管理する銀行口座に移し替えてマネロンした疑いがもたれています。管理する口座は法人、個人を合わせて約500に上り、他人名義の口座などを売買する「道具屋」から買い取るなどしていたといい、2023年6月~2024年7月、客から入金があった約900億円のうち、客への支払いなどを除いた約400億円を、カジノ運営側への送金のほか、不動産や高級車、暗号資産の購入にあてたとみられ、この間、決済システムを介したカジノ利用者からの賭け金の入金、払い戻しの手数料として約47億円の利益を得ていたといいます。グループは口座ブローカーとの接触があり、オンラインカジノの運営者側などとも密接にやり取りしていたといい、県警は事件に複数のグループがかかわっているとみて全容解明を進めるとしています。容疑者らは複数の法人口座間で犯罪収益を繰り返し移動。会社間の取引に見せ掛けることで、短期間に高額な資金を頻繁に出し入れしても金融機関から不正を疑われないようにしていました。また、容疑者らはSNSでうその投資話を持ち掛ける中国人詐欺グループからマネロンの依頼を受けていた疑いがあるほか、今回のマネロン事件も、中国に絡む違法送金のトラブルが発覚の端緒だったといいます。捜査関係者の一人は、背後に大掛かりな中国人犯罪組織のネットワークがある可能性を指摘するとともに、「うわべの詐欺事件だけの捜査ではなく、関連する犯罪も挙げなければ意味が無い」と危機感を示しています。
- ミャンマーの犯罪拠点に日本の準暴力団「チャイニーズドラゴン」の関連グループが関与しているとみられることが分かりました。ミャンマーの国境地帯では、中国系の犯罪組織の拠点に日本人を含む多くの外国人が監禁され、特殊詐欺などに加担させられているとみられています。タイ当局の関係者によれば、日本人を監禁している組織は日本人と中国人で構成されていて、日本で準暴力団に指定されている「チャイニーズドラゴン」の関連グループが関与している可能性があるということです。タイ当局は、男女含めて少なくとも20人以上の日本人が犯罪拠点で監禁されているとみて組織の実態を調べています。
- 2025年2月24日付Smart FLASHの記事「16歳高校生がミャンマーで保護、暗躍する中国系犯罪組織「日本人狩り」の実態…1人50万円、暴力団の手で海外へ」は大変参考になりました。とりわけ、「中国マフィアで特殊詐欺をやっているグループが、いちばん欲しがるのは日本人だ。よく働き、勤勉で、指示に逆らわないからだ。しかも、日本人はカネ持ちが多いから、“売り上げ”も上がるしね」そう語るのは、都内の暴力団関係者だ。ミャンマー東部の国境地帯で、中国系の犯罪組織が大規模な特殊詐欺の拠点を形成し、外国人を監禁してオンライン詐欺などに加担させていたという事件。現地に渡航していた16歳の日本人男子高校生が保護されたことで注目された」、「この犯罪拠点の中心にいるのは、中国マフィアだといわれている。彼らは、中国に旅行に来た人間を国籍に関係なく拉致し、ミャンマーのこの“犯罪ビル”に送り込み、自分の母国に電話をかけさせ、特殊詐欺をさせるんだ。食事や宿泊場所を与え、ひたすら電話させる。あまり“収益”を生まない奴は、食事を作ったり、見張りをしたりさせられる。1万人もの人間が暮らしていれば、仕事はいくらでもある」(前出・暴力団関係者)」、「これだけ大きな国際問題になっているにもかかわらず、今なお日本国内にはこうした詐欺のための人員を中国マフィアへと斡旋する稼業がはびこっているようだ」、「こうした半グレ組織だけでなく、日本のヤクザも各組織ごとに中国マフィアと独自のネットワークを持っている。以前は、中国と覚せい剤の取引などをしていたが、最近はこうした特殊詐欺における“人員あっせん”での繋がりができている組もある」、「その手口を別の暴力団関係者に聞くと、在京の指定暴力団の2次団体がおこなっている「日本人狩り」の実態を明かしてくれた。「中国マフィアに日本人を売ると、あっせん元のヤクザには、50万円ほどの報酬が入ってくる。人命にしては安い額だし、一人送り込むのに2、3人の手を借りるから、取りぶんはさらに少なくなるよ。だから3、4人集めて一気にミャンマーに飛ばすんだ。空港まで連れて行き、飛行機に乗せてしまえば、あっせん元の仕事は終わり」、「ミャンマーに行ったって、稼げるわけじゃない。それに、向こうでは身の安全なんてなんの保証もないからね。報道されているとおり、スタンガンなどで脅されることは日常茶飯事だと聞くし、見せしめで殺されることはいくらでもある。生きて帰ってこられる保証はまったくない」(同前)」、「そもそも、ミャンマーでおこなわれている特殊詐欺は、日本発祥のシステムだよ。それを中国で大規模にまねて、今回のような事態に発展しているんだ。ただ、日本では詐欺をやらせる人員は相当慎重に確保するのに、向こうはかなり手荒。しかも、1万人以上を拘束して特殊詐欺を世界中でやらせるのは、さすがにやりすぎだ」(同前)というリアルな実態が描かれていて、参考になりました。
- 2024年10月、SNSで闇バイトを勧誘したなどとして熊本県に住む道仁会系の幹部が逮捕された事件をきっかけに、これまでに合わせておよそ30件の事件で、関係者がのべ人数でおよそ60人、検挙されたことが分かりました。警察は、暴力団が関与する闇バイトの派遣などを行うグループの壊滅に向けて実態の解明を進めています。2024年10月、熊本県内の男子高校生がSNSを通じて「闇バイト」に応募し脅された事件で、募集役とみられる道仁会傘下組織幹部が職業安定法違反などの疑いで逮捕・起訴されました。この事件をきっかけに警察が捜査を進めたところ、被告はSNSで実行役を集めて犯罪を繰り返すトクリュウに関わり、特殊詐欺の実行役を継続的に派遣していた可能性があることが分かったということです。このため、熊本県内で暴力団が関係しているとみられるトクリュウグループへの集中的な捜査を行い、2024年の秋からこれまでに道仁会傘下組織幹部や関係者が貸金業法違反や恐喝、それに詐欺容疑など合わせておよそ30件の事件で検挙されたことが分かりました。
- 嘘の示談金名目で静岡県の60代の女性に1600万円を空き家に送らせたとして、愛知県警は、詐欺などの疑いで住吉会傘下組織組員を再逮捕しています。容疑者は、トクリュウらへの指示役とみられ、県警は詐取金が上位団体に渡った可能性もあるとみて資金の流れを調べています。報道によれば、容疑者は住吉会の4次団体組員で、県警はこれまで、マネロン口座の不正開設役や詐取金の受け取りに使う空き家情報の提供役など19人を摘発しており、容疑者はこれらの犯罪グループの管理をしていたとみられています。再逮捕容疑は他の人物と共謀して2024年8~9月ごろ、個人投資家が示談金を要求しているなどと嘘を言い、女性に東京都葛飾区の集合住宅に現金を送付させ、詐取したというものです。
- 乾燥大麻を密売していたとして、千葉県警は稲川会傘下組織幹部を、麻薬特例法(業として行う大麻譲渡)違反容疑で再逮捕しています。報道によれば、容疑者は2024年4月~5月、同市内を中心に複数箇所で、配下の密売人を通じて乾燥大麻計約280グラムを140万円で売った疑いがもたれています。2024年4月、密売グループの1人を大麻取締法違反(所持)容疑で逮捕し、その後の捜査で関係者の供述などから容疑者が浮上、密売人らはトクリュウで、暴力団幹部の容疑者がそのリーダー格だったとみられています。県警は違法薬物の密輸・密売による収益が暴力団の資金源になっていたとみています。密売グループはXで野菜の絵文字などを投稿し、それに反応した人を匿名性の高い通信アプリ「テレグラム」に誘導し、手渡しで販売していたといいます。一連の事件に関係し、警視庁と千葉、神奈川両県警などでつくる合同捜査本部は、これまでに容疑者を含む53人を検挙しており、乾燥大麻約38キロのほか、覚せい剤約3キロやMDMA約1万5千錠など末端価格計4億9700万円分を押収したといいます。
- 屋根の修繕工事で、契約を解除できるクーリングオフについて説明しなかったとして、京都府警は、兵庫県芦屋市の会社役員の男を特定商取引法違反容疑で逮捕しています。報道によれば、男は、大阪市中央区のリフォーム会社の社長らと共謀、2024年7~11月頃、京都や兵庫の高齢者ら3人と屋根の修繕工事契約を結ぶ際、クーリングオフに関する事項を故意に伝えなかった疑いがもたれています。同社はSNSでアルバイトを募り、高齢者宅などを訪問して「屋根に隙間がある」などと不安をあおって工事契約を結ばせる点検商法を繰り返し、約2億8000万円を稼いでいたとされます。府警は2024年11月以降、社長らを同法違反容疑などで逮捕し、その後の捜査で男に収益の一部が流れていた疑いが浮上、府警は、男がトクリュウの中心人物とみて調べています。男は「牛飼」という名前でオンラインの投資サロンを運営、インスタグラムには約4万人のフォロワーがいるといいます。
- 大阪市中央区のリフォーム会社「新日立建託」が屋根の工事契約を結ばせる「点検商法」を繰り返したとされる事件で、京都府警が同社の関係先を捜索したところ、訪問営業時に相手の不安をあおるための「台本」が書かれたノートが見つかったといいます。マニュアル化された手口として、<風が強い日に屋根の鉄板が外れかけてたんですけど、気付いてないですか? 本当ですか!? 非常に危険な状態ですよ>などが記載されており、アルバイトが営業時の会話を覚えるための「暗記ノート」だったとみられ、同社は「スクリプト」と呼んでいたといいます。同社は「年収1億円以上可能」などと高額な報酬をうたい、訪問営業を担う「アポインター」と呼ばれるバイトをSNSで募集、若者ら40~50人が集まり、府内や兵庫県内の高齢者らと工事契約を結び、約2億8600万円を稼いだとされます。ノートは若者らが共同生活を送り、研修を受けたマンションの一室から押収され、府警は2024年11月以降、工事契約の際にクーリングオフ(無条件解約)について故意に説明しなかったなどとして、同社社長らを逮捕、社長らは「親方」役として現場に赴き、実際に屋根を点検して契約を結んでいたといいます。府警は「闇バイト」らを実行役とするトクリュウによる事件とみています。ほかにもノートには、<今日明日にでも板金屋に見てもらわないと次の雨の日や強風はもたないですよ><全然どっちでもいいんですけど僕たちもプロの職人なんで見ることも直すこともできますし、ご主人に任せますよ!><能登半島地震があったと思うんですけど、倒壊したほとんどの家が屋根のバランスが悪いことが原因で、積み木のように崩れてしまったんですよ。必ず直した方がいいです>などと記載されています。
- 警察庁がまとめた2024年の犯罪情勢で、窃盗犯の認知件数は50万1507件となり5年ぶりに50万件を上回りました。外国人グループによる太陽光ケーブルの窃盗やドラッグストアでの万引きが目立ちます。組織の資金源としている疑いがあり、警察は流通網への規制や摘発の強化を急いでいます。各地で外国人の窃盗集団が暗躍しており、トクリュウと同様に、SNS上で実行役を集めているとみられ「外国人版トクリュウ」とも呼ばれています。標的とされているのが太陽光発電施設やドラッグストアで、太陽光発電施設の銅線を切断し盗む事件が多発、銅線を含む金属盗は2024年に前年比27.2%増の2万701件発生、再生可能エネルギーの需要が高まる一方、銅線の窃盗が太陽光発電事業上の深刻なリスクとして浮上しています。ドラッグストアでは外国人グループが大量の化粧品や医薬品を盗み、海外で流通させる手口が確認されています。ドラッグストアで発生した万引き被害は1万5161件に上り、統計を取り始めた04年以降で最多となりました。2021~23年の被害分析によると、訪日外国人が関与したドラッグストアの万引き事件の被害額は1件あたり8万8531円で、日本人の事件(1万774円)の8倍超に上り、金属盗や万引きは外国人版トクリュウの資金源になっているとみられています。警察庁は「治安上の大きな課題」として警戒しています。金属盗を巡っては、盗品を買い取る一部の悪質な業者が犯行を助長させている面があります。
- 悪質なホストクラブへの罰則強化を盛り込んだ風俗営業法改正案が閣議決定されました。女性客の恋愛感情につけこんだ高額請求や、借金返済のために売春を迫る行為が禁じられ、当事者や支援者からは抑止力に期待する声が上がっています。改正案は、客に料金を支払わせる目的で「実家に行く」などと威迫する行為のほか、売春や風俗店での勤務、アダルトビデオ(AV)への出演を要求することを禁じ、違反した場合は6月以下の拘禁刑か100万円以下の罰金を科すとしています。料金に関する虚偽説明や、客の恋愛感情につけ込んで「注文してくれなければ関係が終わる」などと困惑させて飲食させることも禁止し、違反すれば営業停止など行政処分の対象となります。借金を背負った女性客が、ホストやスカウトを通じて風俗店にあっせんされている実態を踏まえ、風俗店が「スカウトバック」と呼ばれる紹介料を支払うことも罰則付きで禁じています。改正案ではホストクラブ側の罰則も大幅に強化、無許可営業などをした場合、運営法人への罰金は現行の「200万円以下」から最大3億円に引き上げました。歌舞伎町で女性を支援するNPO法人「レスキュー・ハブ」の坂本代表は「社会経験の少ない若い女性が搾取される構造ができあがっている。改正案ができて終わりではなく、当事者の声に今後も耳を傾けていかなくてはいけない」と話しています。警察庁によると、ホストクラブは東京や大阪など全国に約1000店舗あり、女性に借金を抱えさせ、返済のために売春を迫るなどの悪質営業が問題となっています。警察への相談は2024年、全国で2776件寄せられ、対策が急がれていました。警察庁の担当者は「卑劣なビジネスモデルの解体につなげたい」としています。一方、一部の店舗では、後から支払わせる売掛金から、事前に多額の現金を用意させて前払いさせる「前入金」に移行する動きがあるほか、路上売春で摘発された女性のなかには、ホストから「連絡の履歴は消せ」と言われるケースもあるといい、ホスト側が女性との接点が発覚しないように口止めしているとみられ、捜査幹部は「売春につながる悪質なホストが潜在化しつつある」と指摘しています。また、ホストクラブと似た営業手法のまま、バーなどへ業態を変える店もあるのではとの指摘もあり、「いたちごっこになる可能性がある」と懸念もあります。
- SNSで高収入をうたって女性を勧誘し、風俗店に送り込むスカウトグループ「アクセス」の壊滅を目指し、警視庁が摘発を強めています。いい条件を提示した店に女性を派遣する人身売買のような手口で得た収益は5年間で計約70億円に上り、同庁幹部は「違法なビジネスモデルを解体しなければいけない」と意気込んでいます。アクセスは遅くとも2019年ごろに活動を始め、女性に身分証や自撮りの写真、年齢、バストサイズなどのプロフィルを送らせ、風俗店と共有、最も高い報酬を提示した店に女性を派遣していました。グループメンバーは約300人、派遣先の風俗店は全国約350店舗に上ります。女性の報酬の15%を紹介料として受け取る契約を店側と締結、金の流れをわかりにくくするため、現金をレターパックで「バーチャルオフィス」に郵送させ、回収していたといいます。女性が店に勤めている間は紹介料が払われる仕組みで、逃げだそうとすると「写真をさらす」と脅し、仕事を続けさせようとしたこともあったといいます。スカウトとしてグループに引き入れた仲間の報酬の一部が自分に入る「ネズミ講方式」で組織を拡大した。メンバーは大学生ら20代の若者が多く、逮捕された一人は「携帯電話1台で安定して大金を得られた」と供述、月約630万円を得ていたスカウトもいたといいます。スカウトは三つのチームに分けて運用、それぞれにリーダーを置き、チームごとに競わせて、収益の増加を図っていたとのことです。警視庁は2025年1月、組織の全容解明に向け、生活安全部では16年ぶりとなる特別捜査本部を約70人態勢で設置、これまでにグループトップら10人前後を摘発、悪質ホストが社会問題化する中、別の同庁幹部は「ホストと風俗店を結ぶスカウトを摘発すれば両方に打撃を与えることができる」と強調しています。
- SNSで勧誘した女性を風俗店に紹介したとして、愛知県警は、大阪を拠点とするスカウトグループ「シード広告」のリーダーら男4人を職業安定法違反(有害業務への職業紹介)容疑で逮捕しています。報道によれば、4人は2024年10月、別のスカウトがSNSで知り合った女性に対し、石川県加賀市の風俗店での仕事を紹介した疑いがもたれています。リーダーの男は、SNSを通じて風俗の仕事に応募してきた女性たちを愛知や石川、広島などの風俗店にあっせんしていたといいます。
暴力団等反社会的勢力を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。
- 大阪や兵庫などの8府県警は、各府県公安委員会が六代目山口組(神戸市)と絆會(大阪市)の特定抗争指定暴力団への指定を3カ月間延長すると発表しています。抗争が終結していないと判断、2025年3月19日に官報公示予定で、延長後の期限は6月20日までとなります。水戸市で六代目山口組傘下組織部を射殺したとする罪で、2025年5月に絆會幹部が起訴され、神戸市のラーメン店で六代目山口組傘下組織組長を射殺したなどとして、絆會幹部らが2024年6月に起訴されています。
- 国家公安委員会は、暴力団対策法に基づき、神戸山口組(神戸市中央区)について指定暴力団に再指定する要件を満たしていると確認しています。兵庫県公安委員会の手続きを経て、近く官報で公示されます。今回で指定は4回目となります。警察庁によれば、構成員は2023年末時点で約140人で、2015年8月に最大勢力の六代目山口組から分裂、設定された警戒区域内の活動を制限できる特定抗争指定暴力団にも指定され、9府県の公安委員会が警戒区域を定めています。
- 宮崎県公安委員会は、六代目山口組と池田組について、特定抗争指定暴力団の指定期限を延長しています。抗争が継続状態であるため、宮崎県警は、2つの組に対して、期限の延長を送達、指定期限を2025年6月7日まで延長したものです。これにより組員は引き続き、宮崎市内の事務所への立ち入りや対立する組員への接近などが禁止されます。六代目山口組と池田組を巡っては、2024年9月、宮崎市の池田組傘下組織の事務所で男性が拳銃で打たれ死亡、対立する六代目山口組傘下組織組員が逮捕・起訴されています。
- 産経新聞によれば、大阪・ミナミやキタの繁華街で、ガールズバーやキャバクラなど約40店舗を実質経営する男性(5が支払っていたみかじめ料は、月額70万円に及んでいたといいます。大阪府警捜査4課は2025年1月末、男性からみかじめ料を受け取っていた絆會本部長、稲山恵容疑者を大阪府暴排条例違反容疑で逮捕しています。稲山容疑者と男性との関係は30年ほど前にさかのぼり、月70万円の習慣が定着していたといいます。この男性らは、同じ大阪市内でもエリアが異なる京橋周辺においても手広く店舗を展開、こちらでは、京橋を縄張りとする六代目山口組直系弘道会傘下組織組長の中川孝行被告=同条例違反で起訴=に月額70万~100万円のみかじめ料を渡していたといいます。報道で暴力団情勢に詳しい関係者は「意外といっていいほど、みかじめ料はいまだ暴力団のメインの収入源だ」と明かし、その性質について「とりあえず、どこかの組に払っていればトラブルを回避できる。いわば『保険』のようなものだ」と指摘しています。飲食店の客引き行為は業態によっては条例違反に当たり、トラブルに巻き込まれた側も、自身の行いに後ろめたさがあると、警察に駆け込みにくいこともあり、みかじめ料を支払う動機が生じる余地があるということです。嫌がる店舗側に無理強いする場合は問題が顕在化しやすく、暴力団対策法に基づく中止命令などで対応が可能ですが、店側が支払いに一定のメリットを感じ、暴力団と「ウィンウィン」の関係にあるときは容易に露見せず、水面下で温存されてきたとみられています。
- 福岡県暴力追放運動推進センターは、北九州市小倉北区の10階建てマンションに入る工藤會傘下組織の4事務所の使用差し止めを求める仮処分を福岡地裁小倉支部に申し立て、認められたと発表しています。暴力団対策法に基づき、付近住民の委託を受けた「代理訴訟」を活用したもので、工藤會傘下組織の組事務所に対する使用差し止めが認められたのは初めてだといいます。報道によれば、1994~2005年に工藤會側がこのマンションの4室を購入し、傘下組織の組事務所として使われていたとみられています。福岡県暴追センターが2025年2月4日に仮処分を申し立て、13日に決定が出たもので、同じマンションに入る複数の組事務所の使用が一度に差し止められるのは、全国的に珍しいといいます。仮処分の決定により、今後組員の立ち入りなどが禁じられます。
- 福岡県大牟田市に本拠を置く指定暴力団「浪川会」について、福岡県公安委員会は、暴力団対策法に基づき、名称を「二代目 浪川会」に変更し、代表者も変更すると官報で公示しています。大牟田市に本部を構える浪川会は、浪川政浩総裁がトップを務めていましたが、2024年5月、大牟田警察署に引退を届け出ていました。その後、福岡県警が組織の実態を調査したところ、浪川総裁が組織の運営から身を退いたことを確認したということです。このため、組織の名称を「二代目 浪川会」、代表者を梅木一馬会長に変更しました。福岡県警によれば、「二代目 浪川会」の構成員は約140人で、県内の5つの指定暴力団では3番目の勢力だということです。
- 沖縄県内の指定暴力団旭琉會の会長に、三代目富永一家の糸数真総長が就任しています。北中城村にある本部事務所で旭琉會の関係者らが集まり、トップ継承の儀式が行われました。旭琉會は2011年11月、富永清前会長らが主導し、県内にあった四代目旭琉会と沖縄旭琉会が一本化して発足しました。2019年7月に富永前会長が死去、約5年半、会長不在となっており、組織運営を巡る抗争再燃も懸念されていたところです。関係者によると役員人事を改め、新体制になったといい、沖縄県警は今後の動向を注視するとしています。
- 2012年にNPO法人「五仁會」を発足し、2013年1月1日にブログを開設して「暴力団」を批判している竹垣氏の書籍から、文春オンラインが取り上げている内容が興味深いものでした。一部抜粋すると、「私は、「元やくざのくせに、やくざを批判している」とお叱りを受けることもある。しかし、山口組にいたからこそ、心から「暴力団はいらない」と言えるのだ。暴力団とは暴力を振るう集団という意味であるから、やくざとはかぎらないが、やくざはすっかり「暴力団」になっている。暴対法の「暴力団」とは警察庁が組織の構成員の数や犯罪歴などを勘案して指定した組織を指す。全国で25団体、要件を満たさずに指定されていない中小の組織はほかにもある。本来のやくざとしての「侠客」と「暴力団員」はまったく違う。いまのやくざは侠客を目指すべきだ。振り込め詐欺でお年寄りを騙し、覚せい剤などの違法薬物を密売しているだけでは、暴力団どころか、たんなる犯罪集団である。そうではなくて、世のため人のために生き、弱い者を助ける侠客となってほしいのだ、「山口組としてのボランティア活動が萎んでいくことになる。東日本大震災のときは、警察が「暴力団からの支援物資は受け取らないように」と指導したところもあると聞いている。地元のほうは「誰にもらったものでも毛布は毛布だし、水は水に変わりないのに」と残念がっていたという。私はボランティア活動の衰退の背景には暴排だけでなく継続した活動が行われていなかったことがあると思う。世のため、人のためにいくら大きな活動をしても、単発なら世間は認めてくれない」といったものです。筆者は、暴力団の未来として、中核部分の「任侠的なもの」は残る一方、周辺部分は「犯罪組織そのもの」という形になると考えており、竹垣氏の指摘とやや近いところがあると感じています。
2.最近のトピックス
(1)AML/CFTを巡る動向
警察庁から「犯罪収益移転防止に関する年次報告書(令和6年)」が公表されています。内容については、2024年11月に公表された「犯罪収益移転危険度調査書(NRA)」や本コラムで取り上げてきたものが多く、以下では、筆者にて重要と思われる部分のみピックアップさせていただきました。
▼警察庁 犯罪収益移転防止に関する年次報告書(令和6年)
- 刑事訴訟法等の一部改正に伴う犯罪収益移転防止法施行令の改正(令和6年4月26日公布・同年5月15日施行)
- 令和5年5月に成立した「刑事訴訟法等の一部を改正する法律」(令和5年法律第28号)により、被告人の保釈又は勾留の執行停止に際して、裁判所が必要に応じて監督者を選任し、被告人の逃亡防止や公判期日への出頭を確保するための監督者制度が創設された。
- これを踏まえ、司法書士等が行う特定受任行為の代理等について、犯罪収益移転防止法 施行令においてその対象となる行為又は手続から除外されるものが規定されているところ、監督者制度における監督保証金の納付について、保釈に係る保証金の納付と同様に犯罪による収益の移転の危険性が低いことから、監督保証金の納付についても特定受任行為の代理等の対象となる行為又は手続から除くことを内容とした「犯罪による収益の移転防止に関する法律施行令の一部を改正する政令」(令和6年政令第177号)を制定した。
- 特別児童扶養手当証書の廃止に伴う犯罪収益移転防止法施行規則の改正(令和6年6月25日公布・同年7月1日施行)
- 令和4年の地方からの提案等に関する対応方針(令和4年12月20日閣議決定)を踏まえ、厚生労働省において特別児童扶養手当証書を廃止することとされた。
- これを踏まえ、犯罪収益移転防止法施行規則の規定中、当該証書を本人確認書類から削除することを内容とした「犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則の一部を改正する命令」(令和6年内閣府、総務省、法務省、財務省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省令第3号)を制定した。
- 情報通信技術の進展等の環境変化に対応するための社債、株式等の振替に関する法律等の一部改正に伴う犯罪収益移転防止法施行規則の改正(令和6年10月25日公布・同年11月1日施行)
- 令和5年11月に成立した「情報通信技術の進展等の環境変化に対応するための社債、株式等の振替に関する法律等の一部を改正する法律」(令和5年法律第80号)により、特別法人出資(特別の法律により設立された法人の発行する出資証券に表示されるべき権利)について、株式等と同様に振替制度(ペーパーレス化)の対象となった。
- これを踏まえ、特別法人出資の発行者である法人による特別口座(権利者の有価証券を電子的に管理するための口座)の開設について、現行の株式等に係る特別口座の開設と同様に、簡素な顧客管理を行うことが許容される取引に追加し、取引時確認義務等の対象取引から除外することを内容とした「犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則の一部を改正する命令」(令和6年内閣府、総務省、法務省、財務省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省令第4号)を制定した。
- 行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律等の一部改正に伴う犯罪収益移転防止法施行規則等の改正(令和6年11月29日公布・同年12月2日施行)
- 令和5年6月に成立した「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律等の一部を改正する法律」(令和5年法律第48号)により、申請時に一定年齢に満たない者に交付する個人番号カードについて、写真が不要となった。
- また、健康保険法(大正11年法律第70号)等が改正され、これにより健康保険証等が廃止され、保健医療機関等による被保険者資格の確認について、個人番号カードによる電子資格確認が原則とされるとともに、電子資格確認を受けることができない状況にある者について、必要な保険診療等を受けることができるよう、各医療保険者等が、当該者からの求めに応じ、書面又は電磁的方法により、医療機関等を受診する際の資格確認のための「資格確認書」を提供することができることとなった。
- これらを踏まえ、犯罪収益移転防止法施行規則の規定中、健康保険証等について経過措置を設けた上で本人確認書類から削除するとともに、資格確認書を新たに本人確認書類の一つとして規定することなどを内容とした「犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則及び犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則及び疑わしい取引の届出における情報通信の技術の利用に関する規則の一部を改正する命令の一部を改正する命令」(令和6年内閣府、総務省、法務省、財務省、厚生労働省、農3
- 平成11年の組織的犯罪処罰法の制定により届出の対象が薬物犯罪から重大犯罪に拡大され、同法が施行された平成12年以降、年間通知件数は増加傾向にあり、令和6年中の年間通知件数は84万9,861件であった。
- 令和6年中の疑わしい取引の通知件数を届出事業者の業態別にみると、銀行等が58万382件で全体の68.3%と最も多く、次いで貸金業者が8万8,282件で10.4%、クレジットカード事業者が5万7,978件で6.8%の順となっている。
- 国家公安委員会・警察庁においては、疑わしい取引の集約、整理や分析を行い、マネー・ローンダリング事犯若しくはその前提犯罪に係る刑事事件の捜査又は犯則事件の調査に資すると判断されるものを捜査機関等に提供している。令和6年中における捜査機関等に対する疑わしい取引の届出に関する情報の提供件数は81万5,318件で、過去最多であった。また、国家公安委員会・警察庁においては、過去に届け出られた疑わしい取引に関する情報警察が蓄積した情報公刊情報等を活用し、近年、多種多様な方法で資金獲得活動を繰り返す犯罪組織の実態解明や詐欺関連事犯、不法滞在関連事犯、薬物事犯等に関する情報の分析を行っている。さらに、社会情勢の変化に応じ、匿名性が高く、マネー・ローンダリング及びテロ資金供与に悪用される可能性が高い暗号資産の取引、多様化する資金移動サービスを利用した取引及び外国公務員贈賄等に着目した分析を強化している。そして、各種事犯等に係る疑わしい取引に関する情報を総合的に分析した結果を関係する捜査機関等へ提供している。前記分析結果を捜査機関等へ提供した件数は毎年増加しており、令和6年中は2万6,871件で過去最多であった。
- 罪種別の端緒事件数及び活用事件数を類型別にみると、次のとおりである。
- 詐欺関連事犯(詐欺、犯罪収益移転防止法違反等)については、端緒事件数が計962件で全体の89.6%、活用事件数が計1,381件で全体の51.7%を占めており、銀行口座や暗号資産口座等の詐欺又は譲受・譲渡、投資詐欺、暴力団関係者等による還付金詐欺やオレオレ詐欺をはじめとした特殊詐欺等の事件を検挙している。
- 不法滞在関連事犯(入管法違反)については、端緒事件数が計37件、活用事件数が計65件であり、来日外国人による不法残留や資格外活動、偽造在留カードの行使目的所持、偽装結婚による在留期間更新の偽申請等の事件を検挙している。
- 組織的犯罪処罰法違反(犯罪収益等隠匿・収受等)については、端緒事件数が計19件、活用事件数が計114件であり、特殊詐欺やロマンス詐欺、ヤミ金融等により得た犯罪収益等の隠匿・収受等の事件を検挙している。
- 薬物事犯(覚せい剤取締法違反、大麻取締法違反等)については、端緒事件数が計13件、活用事件数が計353件であり、覚せい剤や大麻等の違法薬物の所持・譲受・譲渡、組織的に行われた違法薬物の売買等の事件を検挙している。
- 偽造関連事犯(偽造有印公(私)文書行使、私電磁的記録不正作出・同供用等)については、端緒事件数が計25件、活用事件数が計42件であり、暴力団関係者による偽造運転免許証等を行使した銀行口座の不正開設やキャッシュレス決済アカウントの不正取得、偽造マイナンバーカードを行使した携帯電話機の不正取得等の事件を検挙している。
- ヤミ金融事犯(貸金業法違反及び出資法違反)については、端緒事件数が計1件、活用事件数が計17件であり、暴力団幹部による貸金業の無登録営業や高金利貸付、暗号資産投資を名目とした出資法違反等の事件を検挙している。
- 風俗関連事犯(風営適正化法違反等)については、端緒事件はなかったが、活用事件数が計29件であり、暴力団関係者による社交飲食店の無許可営業や店舗型性風俗店の禁止場所営業等の事件を検挙している。
- 賭博事犯(常習賭博、賭博場開張図利等)については、端緒事件数が計2件、活用事件数が計11件であり、海外オンラインゲームアプリ使用や違法賭博営業店舗による賭博開帳図利等の事件を検挙している。
- その他の刑法犯(窃盗犯、粗暴犯、凶悪犯等)については、端緒事件数が計11件、活用事件数が計579件であり、匿名・流動型犯罪グループによる特殊詐欺でだまし取ったキャッシュカードを使用してATMから現金を不正に出金した窃盗や暴力団幹部による恐喝等の事件を検挙している。
- その他の特別法犯(外為法違反、政治資金規正法違反、不正競争防止法違反等)については、端緒事件数が計4件、活用事件数が計82件であり、貿易業を営む法人の代表者が無許可による不正輸出を行った外為法違反や右翼団体による無届けの政治活動への支出を行った政治資金規正法違反、元従業員による顧客情報を不正に複製・取得した不正競争防止法違反等の事件を検挙している
- 令和6年中における組織的犯罪処罰法に係るマネー・ローンダリング事犯の検挙事件数は、法人等事業経営支配事件が4件、犯罪収益等隠匿事件が1,037件、犯罪収益等収受事件が221件の合計1,262件と、前年より374件(42.1%)増加した。組織的犯罪処罰法に係るマネー・ローンダリング事犯を前提犯罪別にみると、詐欺が462件と最も多く、次いで窃盗が386件、電子計算機使用詐欺が288件、ヤミ金融事犯が18件の順となっている。
- 法人等事業経営支配の例
- 令和6年中の法人等事業経営支配事件は、出資法違反や組織的犯罪処罰法違反、詐欺等をそれぞれ前提犯罪としたものであり、前提犯罪により得た不法収益等を用いて、新会社設立のために出資して知人を代表取締役等に選任して登記させたり、株式の買付代金を支払い、株主の権限を行使して法人の役員を選任したりするなどの手口がみられる。
- 犯罪収益等隠匿の例
- 令和6年中の犯罪収益等隠匿事件は、詐欺や窃盗を前提犯罪としたものが多くを占めている。
- 同事件の手口の中で最も多いのは、他人名義の口座や不正に開設するなどした法人名義の口座への振込入金の手口を用いるものであり、これらの口座がマネー・ローンダリングの主要な犯罪インフラとなっている。このほか、盗品等をコインロッカーに隠匿する、他人の身分証明書等を使用して盗品等を売却する、犯罪収益の取得に際して正当な事業収益等を装う、被害者からだまし取るなどして得た現金や金銭債権等の犯罪収益を電子マネー利用権や暗号資産に移転して隠匿するといった手口がみられ、様々な方法によって犯罪収益等の取得若しくは処分について事実を仮装し、又は隠匿し、捜査機関等からの追及を回避しようとしている状況がうかがわれる。
- 犯罪収益等収受の例
- 令和6年中の犯罪収益等収受事件は、詐欺や窃盗を前提犯罪としたものが多くを占めている。これらの犯罪で得た犯罪収益等を直接又は口座を介して収受したり、盗品等を買い取ったりするなどして収受する手口等がみられ、犯罪者が入手した犯罪収益等が、様々な方法で別の者の手に渡っている状況がうかがわれる。
- 匿名・流動型犯罪グループが関与するマネー・ローンダリング事犯
- 各種資金獲得活動により得た収益を吸い上げている中核部分は匿名化され、違法行為の実行者はSNSでその都度募集され流動化しているなどの特徴を有する匿名・流動型犯罪グループは、末端の実行犯が各種犯罪により獲得した犯罪収益を中核部分が収受する過程において巧妙にマネー・ローンダリング事犯を敢行している実態がうかがわれる。
- 【事例】暗号資産の相対取引グループによる犯罪収益等隠匿
- 暗号資産に交換された特殊詐欺の被害金を、海外取引所を介して、別の暗号資産に交換した上で、自己が管理するソフトウェアウォレットに隠匿していた相対取引グループのメンバーを組織的犯罪処罰法違反(犯罪収益等隠匿)で検挙した。(愛知6月)
- 【事例】実態のない法人による犯罪収益等隠匿
- SNS等で法人代表となる者を募集し、ペーパーカンパニーを設立させた上、同法人名義の口座を開設させ、報酬を支払うという手口により、数千の口座を入手し、そこに特殊詐欺の被害金やオンラインカジノの賭け金等犯罪収益を混和させ、同口座間で送金させる方法でマネー・ローンダリングを行っていた犯罪グループのメンバーを組織的犯罪処罰法違反(犯罪収益等隠匿)等で検挙した。(大阪5月)
- 暴力団構成員等が関与するマネー・ローンダリング事犯
- 令和6年中に暴力団構成員等が関与した組織的犯罪処罰法に係るマネー・ローンダリング事犯で検挙されたものは、犯罪収益等隠匿事件45件及び犯罪収益等収受事件26件の合計71件で、全体の5.6%を占めている。
- 暴力団構成員等が関与したマネー・ローンダリング事犯を前提犯罪別にみると、詐欺が18件と最も多く、次いで電子計算機使用詐欺が10件、窃盗が9件の順となっている。
- マネー・ローンダリング事犯の手口としては、犯罪収益を得る際に他人名義の口座を利用したり、売春事犯及び風俗関係事犯等の犯罪収益をみかじめ料等の名目で収受したりするなどの手口がみられ、暴力団構成員等が多様な犯罪に関与し、マネー・ローンダリング事犯を敢行している実態がうかがわれる。
- 【事例】暴力団幹部による貸金業法違反事件に係る犯罪収益等隠匿
- 暴力団幹部の男は、無許可で貸金業を営んだ上で、借受人からの返済金を同男が管理する他人名義口座に振込入金させたことから、組織的犯罪処罰法違反(犯罪収益等隠匿)で検挙した。(熊本1月)
- 来日外国人によるマネー・ローンダリング事犯
- 令和6年中に来日外国人が関与した組織的犯罪処罰法に係るマネー・ローンダリング事犯で検挙されたものは、法人等事業経営支配1件、犯罪収益等隠匿事件109件及び犯罪収益等収受事件29件の合計139件で、全体の11.0%を占めている。
- 国籍別では、中国及びベトナムが多い。
- 来日外国人が関与したマネー・ローンダリング事犯を前提犯罪別にみると、詐欺が59件と最も多く、次いで窃盗が47件、電子計算機使用詐欺が20件、商標法違反が5件の順となっている。
- マネー・ローンダリング事犯の手口としては、犯罪収益を得る際に日本国内に開設された他人名義の口座を利用したり、不正入手した他人の電子決済コードやクレジットカード情報を利用したりするほか、盗品等を買い取るなどして収受する手口等がみられる。
- 国境を越えて行われるマネー・ローンダリング事犯
- 詐欺でだまし取った犯罪収益で暗号資産を購入し、匿名性の高い海外の暗号資産交換所で開設した暗号資産ウォレットに送信したり、不正アクセスによる不正送金でだまし取った犯罪収益で暗号資産を購入し、氏名不詳者が管理する国外の暗号資産取引所のコインアドレスに移転させて資金の実態を隠匿しようとしたりするなど、犯罪収益を海外へ移転させ、国境を越えたマネー・ローンダリング行為が行われている。
- 令和6年中の麻薬特例法に係るマネー・ローンダリング事犯の検挙事件数は21件であった。覚せい剤等を密売し、購入客に代金を他人名義の口座に振込入金させていた薬物犯罪収益等隠匿事件のように、薬物事犯で得た資金が、マネー・ローンダリングされている実態がうかがわれる。
- 令和6年中の組織的犯罪処罰法に係る起訴前の没収保全命令の発出件数(警察官たる司法警察員請求分)は225件であった。前提犯罪別にみると、風営適正化法違反が67件、詐欺が36件、入管法違反が28件、窃盗が25件等である。
- 起訴前の没収保全手続は、犯罪者から犯罪収益等を剥奪するための効果的な手法であり、警察は、今後も同手続を活用して、検察庁との連携を図りながら犯罪組織による犯罪収益等の利用を阻止していく。また、犯罪被害財産に対する没収の裁判の執行を確実なものとし、「犯罪被害財産等による被害回復給付金の支給に関する法律」に基づいて行われる検察官による犯罪被害財産の被害者への回復に貢献するためにも、引き続き犯罪被害財産に対する起訴前の没収保全命令の請求を積極的に行っていく。
- 令和6年中に発出された起訴前の没収保全命令は、金銭債権を没収の対象としている組織的犯罪処罰法の利点をいかし、預金債権や給料の未払債権、立替払金支払請求権を没収保全した事例がみられる。また、令和4年における組織的犯罪処罰法の一部改正により、暗号資産の没収が可能となり、有印公文書偽造の報酬として得た暗号資産を没収保全した事例がある。
- 令和6年中の麻薬特例法に係る起訴前の没収保全命令の発出件数(警察官たる司法警察員請求分)は27件であった。発出された起訴前の没収保全命令としては、覚せい剤、大麻等を密売することにより得た収益に対する起訴前の没収保全命令がある。
- 多くのマネー・ローンダリング事犯において、他人名義の預貯金通帳が悪用される事例が認められている。犯罪収益移転防止法では、特定事業者(弁護士を除く。)の所管行政庁による監督上の措置の実効性を担保するための罰則及び預貯金通帳等の不正譲渡等に対する罰則が規定されており、警察では、これらの行為の取締りを強化している。令和6年中における預貯金通帳等の不正譲渡等犯罪収益移転防止法違反の検挙件数は4,513件と、前年より1,089件増加した。
- 暗号資産交換業界の取組
- 一般社団法人日本暗号資産等取引業協会では、金融庁ガイドラインに準拠した自主規制規則として、「暗号資産交換業に係るマネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関する規則・ガイドライン」及び「暗号資産関連デリバティブ取引業に係るマネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関する規則・ガイドライン」並びに「暗号資産交換業に係る反社会的勢力との関係遮断に関する規則」及び「暗号資産関連デリバティブ取引業に係る反社会的勢力との関係遮断に関する規則」を策定し、公表している。
- また、かねてよりFATF基準の対象に暗号資産に関する項目が追加されるなどの動きに対応し、AML/CFT対応を業界の最優先事項と位置付けた上で、リスクベースアプローチを基礎とした会員の態勢整備及び検知能力の早期向上に向けた取組、会員の取引時確認態勢や疑わしい取引の届出のモニタリングを通じて、自主規制規則に基づく監査・指導等を行っているほか、関係当局からの情報提供を含めた会員向けの意見交換会を定期的に実施するなどの対応を行ってきた。さらに、令和元年に改訂されたFATF基準において、暗号資産交換業者を介した暗号資産の移転についても電信送金の場合と同様の通知義務を課す規制(いわゆるトラベルルール)の導入が求められたことを受け、令和4年4月から「暗号資産交換業に係るマネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関する規則」においてトラベルルールを導入し、暗号資産移転取引に関する情報取得を開始するなど法令に先立った取組を進めてきた。また、令和5年6月の改正犯罪収益移転防止法施行によりトラベルルールが外国業者と暗号資産の移転に係る提携契約を締結する際の確認義務及びアンホステッド・ウォレット等に係る義務等と共に法定義務となったことを受け、同協会においても前記自主規制規則・ガイドラインについて再度改正を行い、令和6年6月から施行した。加えて、外為法令(この項において、外国為替取引等取扱業者のための外為法令等の遵守に関するガイドラインを含む。)の遵守・態勢整備に資することを目的とし、暗号資産交換業に係る外為法令に関する自主規制規則を制定すべく、検討を進めている。
- 令和6年3月を期限とした金融庁ガイドラインにおける「対応が求められる事項」の完全実施に関しては、暗号資産交換業者のAML/CFT態勢整備の底上げのため、金融庁ガイドライン及び「マネロン・テロ資金供与対策ガイドラインに関するよくあるご質問(FAQ)」をより具体化した参考資料を作成し、自主点検の指導、金融庁との意見交換、金融庁職員を講師に招いた勉強会及び完全実施期限に向けたフォローアップを実施するなどの取組を行った。今後も態勢の更なる高度化に向けた指導等を実施することとしている。
- このほか、令和5年度から、暗号資産を用いた詐欺被害等の防止のため、利用者のリテラシー向上の面からも取組を進めるべく、国民生活センターの相談員等に対し、各種講義を提供するなどの取組を継続している。
- 令和6年中、郵便物受取サービス業者に対して3件の報告徴収を行った。報告徴収により判明した具体的な違反内容は、犯罪収益移転防止法施行規則で定める本人特定事項の確認方法で取引時確認を行っていない顧客の取引を行う目的の確認を行っていない確認記録に規則で定める事項を記録していないなどであった。また、これまで行った報告徴収の結果に基づき、同年中、特定事業者の犯罪収益移転防止法違反を是正するために必要な措置をとるべきとする旨の意見陳述を、所管行政庁に対して3件行った。
- 国家公安委員会・警察庁が行った意見陳述を受けた所管行政庁では、当該意見陳述に係る特定事業者が犯罪収益移転防止法の規定に違反していると認めるときは、当該特定事業者に対し是正命令を発している。令和6年中は、経済産業大臣が郵便物受取サービス業者に対して1件、総務大臣が電話転送サービス事業者に対して1件、それぞれ是正命令を発した。
- 審査結果を踏まえた我が国の取組
- FATFで定められた手続上、「重点フォローアップ国」と評価された我が国は、対日相互審査報告書で指摘された事項の改善に取り組み、その改善状況を令和4年(2022年)10月以降3回にわたり、FATFに報告しなければならない。
- 我が国は、この審査報告書を契機として、令和3年8月、政府一体となって対策を進めるべく、警察庁及び財務省が共同議長となるマネロン・テロ資金供与・拡散金融対策政策会議を設置し、今後3年間の行動計画を策定した。さらに、令和4年5月には、「マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策の推進に関する基本方針」を決定した。これらの行動計画、基本方針に沿って、関係機関が連携して指摘事項の改善に取り組んだ。これらの改善状況について、令和4年に、FATFに対して1回目の報告を行い、勧告2「国内関係当局間の協力」に関する評価の引上げを申請したところ、「PC」から「LC」への引上げが承認され、同年10月のFATF全体会合において、その旨の報告が行われた。
- さらに令和5年に2回目の報告を行い、勧告5「テロ資金供与の犯罪化」、勧告6「テロリストの資産凍結」、勧告24「法人の実質的支配者」及び勧告28「DNFBPs(指定非金融業者及び職業専門家)に対する監督義務」の評価について、「PC」から「LC」へ、勧告8「非営利団体(NPO)の悪用防止」の評価について、「NC」から「PC」へそれぞれ引上げが承認され、同年10月のFATF全体会合において、その旨の報告が行われた。
- そして、令和6年に3回目の報告を行い、勧告7「大量破壊兵器の拡散に関与する者への金融制裁」、勧告8「非営利団体(NPO)の悪用防止」、勧告12「PEPs(重要な公的地位を有する者)」、勧告22「DNFBPs(指定非金融業者及び職業専門家)における顧客管理」、勧告23「DNFBPs(指定非金融業者及び職業専門家)による疑わしい取引の報告義務」及び勧告25「法的取極の実質的支配者」に関する評価の引き上げを申請したところ、いずれも「PC」から「LC」への引上げが承認され、同年10月のFATF全体会合において、その旨の報告が行われた。これら3回に亘るFATFへの改善状況の報告により、FATF第4次対日相互審査で「PC」又は「NC」評価を受けた勧告は、全て「LC」へ評価が引き上げられた。
- なお、前記行動計画については、実施期限が到来したことに伴い、第5次対日相互審査を見据え、国内マネロン等対策の実効性を高めるとともに、リスク環境の変化に対応するため、令和6年(2024年)4月、新たに「マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策に関する行動計画(2024-2026年度)」が策定された。
法務省は企業の「実質的支配者リスト」を2025年3月からオンライン提出できるようにしました。提出は任意で実績は低迷しており、法人登記などと同様にネット上の手続きを可能にすることで提出を促し、マネー・ローンダリング(資金洗浄・マネロン)対策につなげる狙いがあります。リストは(1)議決権の50%超を保有(2)前項に該当する者がいない場合は議決権の25%超を保有といった条件に当てはまる株主がいる場合に提出、法務局の登記官が認証し保管するものですが、オンラインで法人設立や役員変更の登記手続きをする際に、同時に提出したいとの要望があり、2025年3月からは登記システムを通じてリスト提出が可能になります(従来は法務局に足を運ぶか郵送する必要がありました)。実質的支配者リスト制度はペーパーカンパニーによるマネロンなど法人の悪用を防止する目的があり、2021年に国際組織「金融活動作業部会(FATF)」からAML/CFTについて実質不合格の判定を受けたことを踏まえ、2022年1月に始めたものです。犯罪収益移転防止法は金融機関に法人口座を開設する企業の実質的支配者を確認するよう求めており、法務局は企業の求めに応じてリストの写しを交付しています。企業は口座開設や融資手続きの審査書類として写しを活用するものです。写しの交付件数は制度開始から計4万9000件ほどで、現状では1社あたりの交付件数は1件程度とみられ、単純計算で約360万ある日本の株式会社のうち提出実績は1%ほどにとどまっている状況にあります。法務省は日本の企業の99%を占める中小企業の多くが提出条件に当てはまるとみています。FATFは各国に企業の実質的支配者の最新情報を公的機関が保有するよう勧告しており、英国やドイツでは企業がリストを作成し政府の登録機関に提出することを法律で義務付けています。法務省や財務省、警察庁はより実効性の高い制度を検討するとしていますが、リスト提出の義務化には法整備が必要で時間がかかるうえ、義務化は企業の負担増にもなることから、政府はまずオンライン提出などの環境整備を進め、法務局が保管するリストを金融機関に直接共有できる制度も検討するとしています。なお、実質的支配者の把握関連では、金融庁は、スチュワードシップ・コード(機関投資家の行動指針)の改定案を示し、企業による実質的な株主把握の促進や投資家同士の協働対話の有効性などを盛り込みました。株式の保有状況について発行体企業の要求に応じて説明することを投資家に求めるものです。
警察庁は、インターネットバンキングなどの本人確認は、2027年4月からマイナンバーカードのICチップを読み取る方法に原則一本化する方針を明らかにしています。身分証明書の画像を撮影して送信するといった現行の手法は廃止されます。身分証が偽造される事件の多発を受け、本人確認を強化するもので、警察庁は犯罪収益移転防止法の施行規則を改正し、2027年4月1日にも施行する方向です。犯罪収益移転防止法は銀行口座の開設やクレジットカード作成の際、事業者が本人確認するよう義務付けていますが、現行法では窓口ではなくオンライン上で確認をする場合、身分証の券面をスマホなどで撮影した画像を送信するといった方法が認められています。規則改正によりオンライン上の本人確認は原則として、ICチップに個人情報が内蔵されたマイナカードに一本化、利用者は各事業者が提供する認証システムに基づき、スマホやパソコンにICチップを読み取らせて確認を行うことになります。なお、マイナカードでの本人確認は金融機関の一部が既に導入しています。マイナカードを持っていない場合、運転免許証やパスポートのICチップを読み取る方法なども認めるとしています。本人確認を強化する背景には、偽造技術の巧妙化があります。高度な画像編集ソフトを悪用することで偽造身分証の精度が上がり、券面の確認で偽物を見破るのが難しくなっており、他人になりすました口座の不正開設が相次いでいます。
▼警察庁 「犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則の一部を改正する命令案」に対する意見の募集について
▼広報資料
- 概要
- 「デジタル社会の実現に向けた重点計画」(令和6年6月21日閣議決定)、「国民を詐欺から守るための総合対策」(令和6年6月18日犯罪対策閣僚会議決定)等によるなりすまし等のリスクの高い方法の廃止等を内容とする犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則(平成20年内閣府、総務省、法務省、財務省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省令第1号)の改正案について、意見公募手続を行うもの。
- 改正の概要
- 自然人の本人特定事項の確認方法につき、本人確認書類の画像情報の送信を受ける方法、本人確認書類の写しの送付を受ける方法を原則廃止し、マイナンバーカードの公的個人認証に原則一本化する。
- ※一部法人の被用者の給与等の振込口座の開設等、なりすまし等のリスクが低い類型を除く
- ※ICチップ付きの本人確認書類(運転免許証等)のICチップ情報の送信を受ける方法等、なりすまし等のリスクが低いものは存置する。
- 法人の本人特定事項の確認方法につき、本人確認書類の原本又は写しの送付を受ける方法について、写しの利用を不可とし、原本に限定する。
- ICチップ付きの本人確認書類を保有しない者等への対応として、偽造を防止するための措置が講じられた一定の本人確認書類(住民票の写し等)の原本の送付を受け、かつ、取引関係文書を転送不要郵便物等として送付する方法を存置するなど、必要な補完措置を整備する。
- 自然人の本人特定事項の確認方法につき、本人確認書類の画像情報の送信を受ける方法、本人確認書類の写しの送付を受ける方法を原則廃止し、マイナンバーカードの公的個人認証に原則一本化する。
- 今後の予定
- 意見公募手続:令和7年2月28日から令和7年3月29日まで
- 施行期日:令和9年4月1日
暗号資産によるマネロンを防止するための規制や取組み等に関する報道から、いくつか紹介します。
- 金融庁は、海外に拠点を置く暗号資産交換業者が経営破綻した場合、国内の顧客資産が海外に流出するのを防ぐため、交換業者に対して国内保有命令を出せる制度を導入する方針です。今国会に提出する資金決済法改正案に盛り込みました。電子マネーや暗号資産など新たな決済手段を規制する現在の資金決済法には国内保有命令の規定がないため、業者の破綻時に資産の国外流出を防ぐことができません。2022年に暗号資産交換業大手のFTXトレーディングが破綻した際には、同社が有価証券の発行や売買などに関するルールを定めた金融商品取引法の登録業者だったため、同法に基づき国内保有命令を発動した経緯があります。資金決済法改正案が成立すれば、資産の国外流出を防ぐことが可能になります。また、暗号資産の仲介のみを行う「仲介業」を創設、交換業者よりも規制を軽くすることで事業会社が暗号資産を扱えるようにする狙いがあります。例えば、ゲーム会社がアイテム購入の決済手段として暗号資産を使うことも可能になります。マネロン規制などは課さない方針としています。一方、暗号資産とは別にキャッシュレス決済などのサービスを提供する資金移動業者が破綻した場合に、利用者に迅速に返金するため返還方法も多様化するといいます。
- 暗号資産が犯罪に悪用されるケースが相次いでいることなどを受け、警視庁は、東京都文京区で、暗号資産の関連事業者らとの連絡会議を開催、情報共有を通じて被害防止や捜査の推進を図るのが狙いで、暗号資産に特化した連絡会議は警視庁では初の試みといいます。会議には、暗号資産の関連事業者など28社から71人が参加、同庁サイバーセキュリティ対策本部長の鎌田副総監はあいさつで、特殊詐欺やインターネットバンキングの不正送金などの犯罪で、「多くの被害金が暗号資産を通じて、犯罪者の手に渡っている」と指摘、2024年5月、北朝鮮を背景とするサイバー攻撃グループにより、都内の事業者から多額の暗号資産が盗まれた事件にも触れ、「わが国の治安上の課題に留まらず、安全保障にも関わるもの」と述べ、協力を呼びかけました。日本暗号資産等取引業協会専務理事は、「会議はまたとない機会。業界としての底上げ、基盤強化につなげていきたい」と語り、連携に意欲を示しています。
- 次世代インターネット「Web3」を推進するコンサルティング企業のfinojectは、暗号資産やステーブルコインなどデジタル資産のAML/CFTの高度化を目的に実証実験を開始したと発表しています。デジタル資産の取引に関連する事業者やAML/CFTの技術を持つ事業者で、AML/CFTを共同化する仕組みを構築し、精度や効率性の向上を目指すとしています。日立製作所、NEC、野村HDのほか、暗号資産交換業者のCrypto Garageやビットバンクなど13社が参画するものです。実験は2025年2月から4月にかけて実施するといい、従来は個別に収集していたマネロンに関する情報を、日立製作所が提供するプラットフォーム上で共有、共有された情報を分析した結果を、各社のAML/CFTに活用していくもので、AIを活用し、取引をモニタリングする業務の自動化も検証するとしています。フィノジェクトは日立製作所とともに旗振り役として実証実験を推進するほか、取引への犯罪資金の流入の有無を分析する役割も担うといいます。近年は暗号資産などデジタル資産の取引が拡大、金融犯罪のリスクも高まるなか、事業者はAML/CFTのコスト負担の増大や専門人材の不足といった課題に直面しており、実証実験後もAML/CFTの強化に向けて各社間での連携を継続していくといいます。
- 2025年3月7日付文春オンラインの記事「盗んだビットコインはどう現金化されている…? 専門家が暴露する“サイバー裏社会のリアル”」は、暗号資産のマネロンの具体的な手口をわかりやすく整理されていて参考になりました。「ランサムウェア攻撃や不正アクセスなどで盗んだビットコインなどの暗号資産は、最終的には実際の法定通貨に換えることを目指すものと考えられる。ランサムウェアのケースで考えると、身代金としてビットコインを得た犯罪者グループは、まずは追跡されにくくするため、「ミキシングサービス」を利用する場合が多いことが過去の追跡調査などから判明している」、さらに、「次に、分散型取引所(Decentralized Exchange:DEX)を活用するケースがみられる。コインチェックやビットフライヤーといった、日本の暗号資産取引所は中央集権型取引所(Centralized Exchange:CEX)と呼ばれ、利用者に対する本人確認(KYC)が義務付けられており、不正利用されにくいようになっている。一方で、分散型取引所であれば利用するのに身分証明などが必要ない。分散型取引所は中央管理者を持たず、スマートコントラクト(プログラムによって契約が自動処理されていく仕組み)を通じて暗号資産の交換が行われるため、匿名性を保ったままビットコインを他の暗号資産に交換できる。さらに、「モネロ(Monero)」や「ジーキャッシュ(Zcash)」といった、取引の匿名性やプライバシーの強化に特化したいわゆるプライバシーコインへ交換するなどしていけば、盗まれた暗号資産は相当に追跡困難になるとみられる」、「現金化するうえでは、ユーザー間での直接取引を可能とするP2P取引プラットフォームを使う方法がある。P2P取引プラットフォームを使えば、第三者を介さずに直接他のユーザーとの間で、暗号資産と現金を交換することができる。互いに身元が分からないので、犯罪者にとって利用しやすい手段となっている。また、ドイツでの暗号資産取引所の大量閉鎖に表れているように、海外にはマネー・ローンダリングを意図的に黙認することで収益を上げている暗号資産取引所も少なくない」といった指摘が続きます。そして、「中には、ビットコインで支払いが可能な高価な物品を購入し、それを転売することで現金を得るケースもある」、「転売プロセスを経由することでブロックチェーンの記録から現金化のプロセスを切り離すことができる」という点は、アナログな手法ではあるものの有効な手口だと感じました。また、「特定の顧客の要望によっては、ビットコインなどの暗号資産を直接キャッシュに換えることもしています。我々のグループは、海外で複数の暗号資産取引所を運営しているので、その中の口座の一つに送金してもらい、20パーセント程度の手数料を取って、キャッシュでお渡しする形です。現状、暗号資産の多くは価格が上昇傾向にあるので、我々としてはすぐに現金化するのではなく、ある程度の値上がり益が出た段階で利益を確定させる方針です」、「匿名性を悪用したサイバー犯罪者側の有利な状況に変わりはなく、根絶への道のりは険しいのが実情だ」、「ランサムウェアに限らず、金銭を目的としたサイバー攻撃者グループの多くは、国際的なネットワークの広がりの中で、離合集散しながら活動している傾向が強い。この摘発事件のように、警察庁がユーロポールなど各国の捜査機関と連携して行動する動きは、今後さらに増していくだろう。また、サイバー捜査体制の連携・強化とともに、暗号資産を利用した犯罪資金の流れを抑制する技術的手段や規制の整備も並行して進めることが求められている。課題はまだある。SNSにおける闇バイトの首謀者の特定にしろ、サイバー犯罪の多くは、犯罪者側が匿名アプリやダークウェブなどを介して情報をやり取りするため、実際に被害が発生するまで警察が捜査することが難しい。しかし、闇バイトによる強盗や殺人が連続している以上、後手後手にまわった対応では遅いという声が政府や警察内からも上がっている」、「警察関係者が言う。「ダークウェブだけでなく、テレグラムやシグナルを使う犯罪者がこれだけ増えてきては、技術的に足跡を辿れませんじゃ話にならない。情報開示請求もままならないのであれば、新たな捜査手法を取り入れるのは必然だろう」というものです。
金融庁は、業界団体との意見交換会において、「特殊詐欺を始めとする金融犯罪については、各金融機関において対応を強化いただいているものの、犯罪の手口もより巧妙化・多様化している」、「こうした状況を踏まえ、2024年8月に、法人口座を含む預貯金口座の不正利用等対策の強化について、要請文を発出した」、「意見交換会等で既にお伝えしているとおり、金融庁では、本要請を受けた各金融機関の対応状況のフォローアップとして、2025年1月、各金融機関に対し、要請への対応状況に関するアンケートを発出する予定である」「アンケートでは、要請文で求めている対応項目ごとに、対応策の実施状況を回答いただく。いずれの項目も詐欺被害等を防止する観点から重要なものであり、対策が完了していないものについては、具体的な検討状況や今後の対応計画を回答いただきたい」としています。以下は関連したチラシの作成に関するものですが、参考までに紹介します。
▼金融庁 「法人口座を含む預貯金口座の不正利用等防止に向けた対策の一層の強化について」に係るチラシの作成について
- 金融庁は、令和6年8月、警察庁と連名で、預金取扱金融機関の業界団体等に対し、預貯金口座の不正利用等防止に向けた対策の一層の強化を要請しました。当該要請の中では、口座売買が犯罪であることの顧客への周知や、不正等のおそれを検知した取引に係る顧客への確認、出金停止・凍結・解約等の措置の迅速化を求めています。
- 金融機関がこのような対策を実施し、その効果を一層高めるためには、顧客と接する金融機関の現場の取組みが重要となるだけでなく、顧客側の理解・協力も必要となります。
- そのため、金融庁では警察庁と連携し、今般、顧客となる国民の皆様のご理解・ご協力を得られるよう、各金融機関で活用いただけるチラシを作成しました。
▼法人口座を含む預貯金口座の不正利用等防止に向けた対策の一層の強化について(令和6年8月23日)
- 昨今、SNS等を通じたやりとりで相手を信頼させ、投資等の名目で金銭をだまし取る「SNS型投資・ロマンス詐欺」が急増しているほか、法人口座を悪用した事案がみられるなど、預貯金口座を通じて行われる金融犯罪への対策が急務であることから、8月23日、金融庁は下記の団体等に対して、警察庁と連名で、預貯金口座の不正利用等防止に向けた以下のような対策を要請しました。
- 口座開設時における不正利用防止及び実態把握の強化
- 利用者側のアクセス環境や取引の金額・頻度等の妥当性に着目した多層的な検知
- 不正の用途や犯行の手口に着目した検知シナリオ・敷居値の充実・精緻化
- 検知及びその後の顧客への確認、出金停止・凍結・解約等の措置の迅速化
- 不正等の端緒・実態の把握に資する金融機関間での情報共有
- 警察への情報提供・連携の強化
前述の意見交換会では、在留期間が満了した外国人名義の口座の悪用防止対策について要請がありました。具体的には、「2024年6月に決定された「国民を詐欺から守るための総合対策」においては、帰国する在留外国人から不正に譲渡された預貯金口座が犯行に利用される実態がみられることを踏まえ、対策を推進することとされた」、「上記対策として、2024年12月、警察庁から、在留期間が満了した外国人名義の口座の悪用防止対策として、在留期間の満了日の翌日以降に在留期間更新等がなされたことや在留期間更新許可申請等を行っていること等の特段の事情があることが確認されるまでの間、当該口座から現金出金や他口座への振込を制限すること等を求める旨の事務連絡が発出された」、「各金融機関においては、当該事務連絡も踏まえ、在留期間に基づいた預貯金口座の適切な管理を行うとともに、顧客から在留期間の更新等の事実を確認した場合には速やかに通常どおりの取引を可能とするだけでなく、在留期間満了前に顧客に更新手続の有無を確認するなど、顧客の視点に立って適切な対応をお願いしたい」との内容です。
警察庁は、SNSによる投資詐欺や恋愛感情につけ込むロマンス詐欺への関与が疑われるナイジェリア国籍の11人を同国警察が逮捕したと発表しています。詐欺の被害者は日本人で、警察庁が、詐取金がナイジェリア人名義の口座に流れたと特定、情報提供を受けた同国警察が現地の法令を適用して摘発したものです。警察庁によると、一連の捜査は国際刑事警察機構(ICPO)が西アフリカを拠点にする犯罪組織を取り締まる国際オペレーション「ジャッカル」の一環として行われたもので、2024年7月時点で日本、ナイジェリア、英国、米国など21カ国が参加しているものです。被害は14人、計約1億5千万円に上り、だまし取られた金の流れを警察庁サイバー特別捜査部が解析したところ、被害金はまず日本国内の口座に振り込まれるケースが多く、5県警が2024年3月までに口座を保有していた9人を組織犯罪処罰法違反(犯罪収益隠匿)容疑などで摘発、9人は主にSNSを通じて「現金を暗号資産に替える仕事がある」と誘われていたといいます。詐取金は暗号資産に交換されたうえ、ナイジェリア人グループ名義で海外取引所に開設された口座に入っていたことが判明、警察庁は2024年3月、ナイジェリア警察へ追跡結果の情報を提供、情報をもとに同警察が捜査し、詐欺で得た犯罪収益を取得したなどして、現地に住む男女11人を逮捕しています。暗号資産はナイジェリアの通貨「ナイラ」に換金されて引き出され、一部は不動産購入に充てられていたといいます。警察庁などは別に首謀者がいる可能性も視野に組織の実態解明を進めるとしています。日本のSNS型投資・ロマンス詐欺と特殊詐欺を合わせた被害額は24年に約1990億円に上り前年の2倍を超える深刻さを見せていますが、英国ではロマンス詐欺を中心に11.7億ポンド(約2200億円)、米国でも45.7億ドル(約6900億円)の投資詐欺被害が出るなど世界で深刻な被害が出ています。2024年、SNS型投資・ロマンス詐欺事件で国内で摘発された113人のうち、26人は中国、ナイジェリア、ベトナムなどの外国籍で、警察庁は海外当局との連携を強化しています。日本経済新聞で警察庁幹部は「SNSの普及により国境を越えた詐欺犯罪が当たり前になった。取り締まりに向けて海外の捜査機関との連
非政府組織(NGO)の核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)などは、核兵器の製造に関与する企業24社への金融機関の投融資額が2024年8月時点で約7835億ドル(約119兆円)に上ったとする報告書を発表、前年の報告書に比べて4%増となり、日本からは360億ドルで、国別で米国に次ぐ2位で、資金を供給するのは銀行や保険会社など260の機関だったといいます。前年報告書の287機関から減少しましたが、ICANなどはこうした資金が核兵器開発の継続につながっていると指摘しています。報道によれば、資金を供給する機関の数と投融資額はともに米国の142機関、5803億ドルがトップ、金額では日本、カナダ、フランスが続きました。日本はメガバンク3社や年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)など計7機関の投融資があったといいます。核兵器の製造に関与する24社は米英やフランス、インド、中国などの企業で、インドと中国の企業は分析できる情報が限られたといいます。AML/CFTに加え、CPF(拡散金融対策)の重要性が指摘される中、日本の金融機関等においても、こうした姿勢を見直す必要に迫られているといえます。
2025年3月3日付産経新聞の記事「中国人「富裕層」とは誰なのか 国際問題アナリスト、元国連専門家パネル委員・古川勝久」は、北朝鮮リスクに精通している氏の考察で、大変参考になりました。具体的には、「2023年8月15日、シンガポール警察はオンラインカジノなどの犯罪で得た収益を違法に資金洗浄した疑いで、犯罪集団を一斉摘発した。国際的に史上最大規模の資金洗浄事件の一つとして知られる大事件だが、なぜか日本メディアは注目しなかった。逮捕されたのは、多国籍からなる10人の犯罪集団だ。彼らが所有していたパスポートはカンボジア、キプロス、バヌアツなどが発行しており、多くの場合、1人で複数国のパスポートを所有していた。警察が押収・凍結した彼らの資産には、巨額の現金札束、多数の宝石、多数の高級ブランド品バッグや高級時計、高級乗用車、さらには大量の高級ワインなどが含まれ、総額は約28億シンガポールドル(約3000億円)相当にものぼる。実は彼らは全員、中国福建省出身の中国人だ。7人は他国の国籍も取得し、いわば「国籍洗浄」も行っていた。海外で得た巨額の犯罪収益をシンガポールで資金洗浄して、超富裕層になっていた」、「10人全員がシンガポール高等法廷で有罪判決を受けた後、24年7月までに国外追放され、再入国禁止となった。大半はカンボジアに向かったが、Aの渡航先は意外にも日本の大阪だった。実はAはもともとシンガポールに行く以前、大阪にいた。彼はトルコのパスポートの保有者で、日本に90日間のビザなし渡航が可能だ。当時、彼はすでに巨額の犯罪収益を上げており、プライベートジェット機で日本を含む各国を移動する海外富裕層だった。この大阪滞在中、日本政府にビザ発給まで申請していた」という事実は大変驚かされました。「シンガポール政府が国外追放した中国人犯罪集団10人の中には、A以外の複数人にも以前の来日記録がある。だが、彼らの日本国内での活動実態も不明なままだ。シンガポール当局や金融機関は事件の後、富裕層の顧客や顧客候補の審査を強化し、特に中国から流入する資金の監視を強化した。一部の金融機関は、犯罪収益を見破るための社内訓練も強化した」、「法律順守の海外投資家なら大歓迎だが、日本は果たして玉石混交の海外「富裕層」の中から、犯罪者を摘発、排除できるのか。Aのように、中国政府がインターポールを通じて国際指名手配をかけ、さらにシンガポールが国外追放した犯罪者ですら、日本国内の法令の違反者ではないとして、再入国が認められた。こんなルーズな入国管理体制は異常だ」、「そもそも犯罪者の日本入国など認めるべきではない。厳格な入国審査が必要だ。外国人「富裕層」が日本国内で非合法収益を得たり、脱税していないか。監視が必要だが、取り締まり当局は様々な困難に直面している。中国人同士の取引では通常、中国の決済アプリが使われ、資金は中国国内の口座間で動く。警察や税務がそれを捕捉し、脱税や違法商売を取り締まるのは、現行法では厳しいのが実情だ。日本政府は、拙速に外国人「富裕層」に巨額の対日投資を期待する前に、まずは出入国管理体制や国内の犯罪・脱税・資金洗浄対策を見直すなど、越境犯罪対策の問題点を総括し、関連する法令やその運用を早急に是正すべきだ」との指摘は大変説得力のあるものです。残念ながら、日本の出入国管理には一層の厳格さが求められること、AML/CFTの観点からも、日本での行動について金融機関として気付くことはなかったのか、といったさまざまな疑問が生じてきます。古川氏が指摘するとおり、今後、「越境組織犯罪」は増加し、その手口も高度化する一方であり、日本としても対策レベルを一段を上げる必要があります。
(2)特殊詐欺を巡る動向
タイとミャンマーの国境地帯で何年も前から国際的詐欺グループが活動してきた拠点が足元で改めて注目されるようになったのは、タイで中国人俳優が誘拐され解放された事件が大々的に報道されたことが契機となりました。これにより、タイと中国、ミャンマーが、東南アジアに広がる詐欺グループのネットワークの中核を壊滅させようとする共同作戦を開始することとなりました。国連によれば、犯罪組織は何十万人も密入国させ、年間数十億ドルの不法な利益を得る手伝いをさせていたといいます。カンボジア、ラオス、ミャンマーを中心にオンライン詐欺の拠点が置かれていました。だます側はしばしば、ソーシャルメディアやメッセージアプリを駆使して被害者とオンライン上で親密な関係を築いた後、暗号資産などに関する偽の投資話に誘導する手口を用いますが、こうした詐欺は、豚を太らせるだけ太らせて屠(ほふ)るという意味から中国語で「殺猪盤」とも呼ばれています。専門家の話では、一部拠点ではマネロンや違法ギャンブルも行われています。現在当局による主な取り締まりの対象となっているのは、ミャンマーのタイ国境沿いにあるミャワディで、犯罪組織の拠点がこの地域を実効支配する少数民族の反政府武装勢力である「カレン民族軍(KNA)」や「民主カレン仏教徒軍(DKBA)」の保護を受けているケースも少なくないといいます。ミャンマーの国境地帯での詐欺行為は過去数年で著しく増加、クーデター直後は、経済苦境に陥ったミャンマー人の若者を雇い国際詐欺に加担させていましたが、その後は、英語や日本語を扱え、ITに精通する外国人も呼び込むようになったとみられています。戦略国際問題研究所(CSIS)は、コロナ禍のロックダウンや国境封鎖によってカジノへの集客を断たれた犯罪組織が新たな資金源を確保しようとSNSなどを通じて架空の暗号資産取引や投資を呼びかけるようになったと説明、「オンライン詐欺用に多くの施設が衣替えされた」と明らかにしています。主として中国に本拠を置く犯罪組織が拠点を運営していることが知られており、ミャワディではKNAなどの武装組織も活動を支援していると米国平和研究所(USIP)は解説しています。ミャワディに連れてこられた複数の外国人は、拠点では抑圧と拷問が日常的に行われていたと明かしています。中国中央テレビによれば、ミャンマー北部で暗躍した中国人23人が、特殊詐欺や賭博、違法薬物販売などでこの10年間に100億元(約2070億円)以上の利益を上げていたことが浙江省温州市で2025年2月に開かれた公判で判明しています。ロイターの2023年の調査によれば、「殺猪盤」と関連がある少なくとも900万ドルが、タイにある中国の貿易グループと深いつながりがある代理人が登録した口座に存在することが分かっています。また、東南アジアの一部の国は詐欺拠点解体に向けた取り組みを強化してきており、タイはミャンマー国内の詐欺拠点がある地域への電力や燃料、インターネット通信を遮断しています。ミャンマーでは軍事政権が2025年1月下旬以降、詐欺拠点で3700人余りの外国人を拘束し、750人余りを本国に送還したと国営メディアが伝えています。同2月には中国が自国民約200人をミャワディと接するタイ側のメーソートから中国へ移送しています。詐欺拠点から解放され、なおKNAとDKBAの施設に収容されている約7000人のうち大半は中国籍とされます。さらに、タイ当局による取り締まりはカンボジアにも拡大し、215人余りを詐欺拠点から救出しています。
オンライン詐欺の拠点は、北東部シャン州と中国との国境や、タイとカンボジアの国境にもあり、政府のコントロールが利きにくいところに集まってくるといえます。残念ながら一朝一夕には解決できないと思われ、麻薬問題もそうですが、一つずつグループを潰して徐々に排除するしかないと考えます。詐欺ビジネスはすでにパターン化されており、犯罪組織は統治の及ばない地域を目指して移っていくことが予想されます。だからこそ、ミャンマー国内の政治問題を解決し、正当な政府を確立することが先決だといえます。
なお、ミャンマーの拠点には、日本人の指示役もいたとみられています。東南アジアでは、日本向けの詐欺グループの拠点が相次いで確認され、警察庁は海外当局と連携して摘発を強化しており、警視庁や大阪府警などは2024年、カンボジアやフィリピン、ベトナム、タイから警察官を装って詐欺電話をかけたり、SNSで偽の投資を持ちかけたりしたとして、50人を日本に移送して詐欺容疑などで逮捕、一部の容疑者は、中国人組織の傘下に入っていたといいます。詐欺は拠点を移しながら続けられている模様です。また、日本から渡航した高校生の少年2人が保護され、帰国しています。現地では、特殊詐欺のうその電話をかける「かけ子」をさせられていたとみられています。宮城県の少年(17)が渡航するきっかけはオンラインゲームで、ゲームで知り合った日本人の男(29)から「むこうに行くと良い仕事がある」などと誘われ、2025年1月上旬に1人で家を出て、家族から行方不明届を受けた警察が捜査した結果、成田空港へ行って、そこからタイ行きの飛行機に乗ったことがわかったといいます。少年の航空券は男が用意したとされ、男も同じころタイに渡航したとみられています。少年はミャンマーへ密入国させられ、詐欺の拠点のホテルでかけ子をさせられたといい、マシンガンで武装した監視役がおり、ほかに10人ほどの日本人がいたといいます。少年は渡航から約10日後に帰国、少年を誘い、渡航の段取りをしたとみられる男はタイ当局が拘束、日本の警察は、所在国外移送目的誘拐などの疑いがあるとみて捜査し、移送にむけた対応を進める方針です(なお、この男はカンボジアでの特殊詐欺にも関与していたことがわかっています)。愛知県の少年(16)はネットでやりとりしていた相手から2024年11月ごろ、「海外で特技を生かせる仕事がある」と誘われ、自分で取得したパスポートを使い、相手が用意した航空券で同12月に中部空港からタイに1人で渡航、車で移動し、ボートに乗り換えてミャンマーに入国させられたといいます。警察官などをかたる詐欺に加担させられ、1日10時間ほど「かけ子」をし、報酬を受け取っていたということです。ノルマが課され、達成できないとスタンガンで暴行される環境下で、2025年2月になり家族に「ミャンマーにいる。助けてほしい」と連絡し、日本政府の要請の結果、解放され、タイ当局が保護、同2月16日に帰国しています。海外での「闇バイト」で渡航を勧誘された日本人が警察に保護されるケースは相次いでおり、警察庁によると、2024年10月からの約4カ月間で、少年2人を含め10人が確認されています。誘われたのは10~60代の男性で、うち6人が10~20代で、誘われた渡航先はミャンマーのほか、カンボジア、中国、ベトナム、マレーシアなどで、「海外でもうかる仕事がある」などの誘い文句だといいます。オンラインゲームの多くには、音声で会話するボイスチャット機能やメッセージ機能があり、SNSに移行するなどして相手とのやりとりに進み、協力してゲームをすることで見知らぬ相手に仲間意識を抱いたり、相手が持つ高価なアイテムにつられて言うことを聞いたりする特徴があるといいます。犯罪に巻き込まれないために親や保護者による対策が重要だ、と警察庁などは指摘、利用時間の制限などを設定できる「ペアレンタルコントロール機能」や、ゲームで知り合った人に個人情報を伝えないことなどを教えたり家庭のルールを作ったりすることが有効といいます。
タイ当局は高校生2人を「人身売買被害者」と認定しています。本事件は、「海外で儲かる仕事がある」を餌に、若い同胞を海外の詐欺集団に売り払った日本人の組織が存在するという側面もあり、重大な問題だといえます。日本警察は人身売買ルートを徹底解明し、壊滅していく必要があります。これまで蓄積した特殊詐欺組織や反社会的勢力等の情報から、人身売買の実態を炙り出していただきたいと思います。また、海外での高収入の仕事の誘いは闇バイトの疑いが強く、非常に危険だということを、特に若年層に周知する必要があります。タイやミャンマーなど当該地域への旅行者にも、犯罪拠点から日本人を含む外国人が狙われているという現実を伝え、自衛を促すことが大切です。
▼警察庁 「海外で儲かる仕事」の危険性に関する広報について
- いわゆる「闇バイト」に関して、オンラインゲームやインターネット等で知り合った面識もない知人から海外で儲かる仕事に誘われ、海外に渡航した結果、脅迫・監禁され、犯罪に加担させられる事案が発生していることから、実際に渡航してしまった事例等を紹介することにより危険性を周知し、重大な犯罪に加担させられる前に警察へ相談するように呼び掛けるもの。
▼「海外で儲かる仕事」は危険です!
- オンラインゲームやインターネット等で知り合った面識もない知人から海外で儲かる仕事を誘われ、海外渡航した結果、脅迫・監禁され、犯罪に加担させられる事案が発生しています。
- 犯罪組織は、あなたの知人等を介して、偽の仕事内容を説明したり、航空券を送って渡航費を負担するなどして、あなたをおびき寄せますが、実際に海外へ渡航すると、更に国境を越えて、思いもよらない地域に連れて行かれるなどして、特殊詐欺等の犯罪に加担することを強制されます。
- 報酬が支払われないどころか、脅迫・監禁されて逃げられなくなり、家族や警察に助けを求めることすらできなくなってしまう恐れがあります。殺されてもおかしくありません。
- たとえ知人からの紹介であっても、内容に合わない高額な報酬が提示されるなど、少しでも怪しいと思う仕事には、一切応じないでください。
- 実際に海外の仕事を紹介され、警察に相談がなされた事例を紹介します。
- 海外の仕事を紹介され、渡航してしまった事例
- オンラインゲーム上で知り合った人から海外の仕事を紹介され、タイへ渡航後、ミャンマー密入国させられた。そして、マシンガンで武装した者が監視する建物に連れて行かれ、詐欺をさせられた。
- インターネット上で知り合った人から海外での仕事を紹介され、タイへ渡航後、ミャンマーへ密入国させられた。ノルマを課され、出来なければスタンガンで暴行される環境下で詐欺をさせられた。
- 知人への借金返済に窮していたところ、知人の関係者から、借金返済のために海外の仕事を紹介された。カンボジアへ渡航後、詐欺をさせられた上、軟禁された。
- 知人から海外の仕事を紹介され、中国へ渡航すると、詐欺をするように言われた。帰国したいと言うと、暴力団の名前を使って脅された。領事館へ助けを求め、保護された。
- 知人から海外の仕事を紹介され、はじめはカンボジアに渡航し、偽の仕事について説明を受けた。そして、ベトナムに行くよう指示され、渡航後、詐欺をするよう言われたため、逃げてきた
- 海外の仕事を紹介されたが、渡航しなかった事例
- 海外在住の知人に、海外で仕事をしないかと誘われ、個人情報を教えてしまったが、マレーシア行きのチケットの写真が送られてきたことで怖くなり、警察に相談した。
- 海外で儲かる仕事」を紹介されても、渡航前に思い止まって警察に相談することが「あなた」や家族を救うことになります。警察は相談を受けた「あなた」や「あなたの家族」を確実に保護します。
- 一刻も早く「#9110」に電話して警察に相談してください。
2025年2月28日付朝日新聞によれば、ミャンマー東部を舞台にした大規模な国際詐欺に加担させられ、その後郷里に戻ったインドネシアの若者たちが取材に応じ、厳しいノルマや暴力にさらされながら、AIも使って様々な国に「ロマンス詐欺」を仕掛けていた手口などを語っています。それによれば、「敷地内には建物が6棟あり、インドネシアのほかエチオピアやブラジル、ラオス、タイなどの数百人が働かされていた。仕切り役は中国人の男たちで、通訳もいた。日本人は見なかったという。パスポートや携帯電話は没収された。逃走を防ぐためか、敷地は高さ5メートルほどの壁に囲われ、有刺鉄線も張られていた。男性は、別の人間が集めてきた電話番号やフェイスブック、インスタグラムなどのSNSのアカウントの一覧を渡され、マニュアルに沿って朝7時から夜11時までメッセージを送るよう命じられた。主な標的は、所得が高いイギリスやドイツ、スウェーデン、中国の人たち。AIやグーグルのサービスを使って文章を翻訳し、「友達が欲しい」などと送った。相手が男性なら、連れてこられた女性の写真をAIの機能で加工してプロフィル画面に載せた。興味を示してきた人とは毎日のようにやりとりし、恋愛感情を抱かせるよう指示された。「特に欧州の男性は、アジア人の若くてきれいな女性を好むのか、返信をしてきた」頃合いを見ながら、「お勧めのショッピングサイトがある。100ドル以上を振り込めば、サイト上に出店できる」と偽り、お金を振り込むように仕向けた。だが、人をだますことへの後ろめたさもあり、うまくはいかなかった。仕切り役の中国人から、「なぜできないんだ」と怒鳴られ、腕立て伏せを200回させられたり、木や竹の棒で殴られたりした。「もっと過酷な場所に売り飛ばす」とも脅された」というものです。
ミャワディを拠点とする詐欺集団など多くの中国人グループの活動が指摘される中、中国の最高人民法院(最高裁)は、各地の裁判所が判決を出したオンライン詐欺事案の一部を公表、ミャンマーにとどまらず東南アジアの近隣国などが詐欺集団の活動拠点となっている一端が明るみに出ています。七つの典型事案例として示され、カンボジア南部やフィリピンの首都マニラを拠点とする約300人の詐欺集団が2018~2019年にオンラインカジノの勝敗を操作して5987万元(約12億円)をだまし取った事件が紹介されています。旅行と称して中国からラオスなどに渡航した男は、中国国内の女性を対象としたロマンス詐欺に手を染めたとして懲役19年となりました。中国国外に留学する学生を対象とした詐欺もあり、オーストラリアに留学する中国人学生が集まるSNSグループでは、2018年11月~2019年5月に為替レートの虚偽情報で19人が計60万元(約1240万円)余りをだまし取られたものです。中国では詐欺被害が後を絶たず、政府には厳罰で臨む姿勢を強調することで批判をかわしたい思惑があるとみられています。数年前からミャンマーやカンボジアなどを拠点に中国国内を狙ってオンライン詐欺を働く事件が多発、特に隣国ミャンマーが4年前の軍事クーデターで内戦状態に陥ると、中央政府の統治が及ばない国境地帯を拠点とする中国系犯罪組織の活動が盛んになり、これまでも中国政府はミャンマー側に圧力をかけ、詐欺グループの掃討を試みてきましたが、被害は後を絶たず、中国メディアによれば、2024年にオンライン詐欺に関連して起訴されたのは前年比1.5倍の約8万人、2024年1~10月、当局が詐欺被害とみて緊急停止した送金は総額2359億元(約5兆円)に達し、その規模の大きさ、深刻さには驚かされます。
警視庁は、2024年に認知した特殊詐欺の被害状況をまとめ、発表しています。件数は3494件と前年比19.7%増、被害額は約153億1000万円で同87.9%増と急増し、件数では過去最悪だった2018年に次ぐ規模に、被害額では2018年を超えて過去最高となりました。「逮捕状が出ている」などと警察官をかたる手口が急増し、周りに相談せず何度もだまされるなどし、1件あたりの被害額も高額化しており、「1千万円以上」の被害は、件数では320件で全体の9.2%ですが、被害額では62.5%を占めました。同じ被害者が何度もだまされる傾向があるといいます。報道で警視庁の担当者は「ネットで誘導される場合は、気がつくまで何度も振り込んでしまう」と指摘しています。オレオレ詐欺では、「逮捕状が出ている」などと警察官をかたるケースが1566件中806件と半数近くを占め、警視庁管内では、地方の警察をかたり、遠方で会えないことを理由に事情聴取などの名目で通信アプリなどに誘導する手口もみられるといいます。警視庁は「警察官がアプリなどの使用を誘導することはない」として注意を呼びかけています。
警察官などをかたって金地金(金塊)をだまし取る手口の特殊詐欺が相次いでいます。警察庁によると、2024年は少なくとも10都府県で21件あり、2025年に入っても同様の手口による被害が発生しているといい、警察庁は注意を呼びかけています。主な手口は、「電話で警察官を名乗り、被害者の口座が犯罪に使われているとして、「このままでは逮捕することになる」などと告げ、預金で金地金を買わせて、自宅の玄関に置くよう指示し、その後にだまし取る」もので、2024年は6月以降、山形、宮城、東京、長野、静岡、愛知、京都、大阪、兵庫、宮崎で、21件の被害を確認、京都が5件で最多となりました。被害総額は9億円超に上るといい、背景には金の価格の高騰があるとみられています。また、ATMなどでの振り込みをさせずにだまし取るため、金融機関の職員らに被害者が声をかけられづらい点に犯人側が目をつけた可能性もあるほか、同額の現金に比べて可搬性が高いという特徴もあります。警察では詐欺の電話を受けた客が金地金の購入で来店する可能性があるとして、貴金属の事業者などに対して、購入理由を客に確認するよう求めており、実際に詐欺を疑った事業者から警察へ通報があり、被害を未然に防いだケースもあったといいます。なお、関連して、財務省は、2024年に全国の税関が密輸品として摘発した金の押収量が1218キログラムと、2023年比4倍に上ったと発表しています。金価格の上昇やコロナ禍後の出入国者数の増加が背景にあるとみて、警戒を強めるとしています。また、金密輸の摘発件数は2.3倍の493件に上り、航空便を利用した旅客の持ち込みが429件と9割近くを占めています。ロシアのウクライナ侵略などで安全資産としての注目が高まり、金価格は直近3年間で2倍以上になっており、押収量では航空貨物によるものが656キロ(28件)で最大、国・地域別では香港からの密輸が281件で最も多く、中国が105件、韓国が34件と続いています。
ネットショッピングをめぐって、「二重の詐欺被害」が相次いでいます。消費者庁が手口を公表し、注意を呼びかけています。その手口は、「被害者は、インターネットの通販サイトで、アニメのフィギュアや中古のスポーツ用品、価格が極端に安い高級ブランド品などを数千円から数万円で注文し、銀行振り込みや電子マネーで前払いで代金を支払い、その後、業者から「欠品のため返金したい」とメールで連絡があり、求めに応じてLINEのビデオ通話で画面の共有機能を使いながら、指示に従いスマホを操作、意図せず、PayPayなどのコード決済アプリやインターネットバンキングなどを経由して、業者に送金させられていた」というもので、100万円を超える送金をしてしまった被害者もいるといいます。被害者の中には普段からコード決済を使っている人もいたが、画面のタップや切り替えのほか、数字の打ち込みなどを次々と指示され、何をしているか分からないまま、送金手続きをしてしまったケースもあったといいます。「ID番号」と言われ入力した数字が送金額になっていた例もあるといいます。全国の消費生活センターなどには、2023年3月から2024年12月までに、この手口による被害相談が約5500件あり、被害総額は約6億8千万円に上るといいます。
日本に住む在留外国人が最多を更新する中、外国人が犯罪被害に遭う事件も増加しています。日本での生活や法律に不慣れなことで犯罪に巻き込まれているほか、中国公安局を名乗る詐欺事件が相次いで発生するなど、同胞に狙われたとみられる悪質な犯罪も横行しているといいます。都内では誘拐を偽装させて金をだまし取る詐欺事件が2023年に相次ぎました。中国公安局を名乗って中国人を狙う同様の手口は日本ばかりではなく、米国やオーストラリアなどでも確認されているといいます。日本に住む在留外国人は、358万8956人(2024年6月末時点)と過去最多を更新、警察庁によれば、外国人が被害に遭った刑法犯認知件数は、2023年が2万1248件(2022年比5331件増)と、2010年以降で初めて2万件を突破、被害で目立つのは窃盗や詐欺だとされます。都内で発生した外国人の特殊詐欺被害件数は、警視庁国際犯罪対策課によると、2022年は16件だったが、2023年には31件と倍増、2024年は11月末時点で36件に達しています。一方、犯罪に加担する外国人も目立っており、2024年10月、北海道斜里町で、ベトナム国籍の男3人がサケを密漁する事件が発生、男らはSNSなどでの闇バイトに応募したといいます。同12月には台湾在住の男が来日し、金塊を狙った詐欺事件に実行役として関与して逮捕されています。男も「外国で手早く稼げる仕事」とするフェイスブックの広告に応募していたといいます(これらはその形態から「外国人版トクリュウ」と言ってよいと思われます)。
警察をかたる特殊詐欺が増えていますが、最近では以下のような手口もみられます。
- 鳥取県警は、鳥取市の30代男性が100万円の特殊詐欺被害に遭ったと発表しています。警察官を名乗る犯人は電話を代わる際の保留音に「詐欺が多発しているのでお気を付けください」との音声を流し、男性を信じ込ませたといいます。報道によれば、男性のスマホに警視庁の警察官を名乗る女から着信があり、「あなたがマネロンに関わっている疑いがある。担当者に代わる」と言われ、男性が待つ間、電話口からは詐欺への注意を促す保留音が流れたといいます。次に岡山県警の警察官を名乗る男から「口座が詐欺に使われている」と言われ、LINEのビデオ電話に移行、警察手帳や逮捕状のようなものを見せられ、その後電話は検察官を名乗る男に代わり、「捜査に協力して」と振り込みを指示、男性は指定口座に現金を振り込み、だまされたものです。
- 島根県警は、県東部に住む50代女性が約1億円の特殊詐欺被害に遭ったと発表しています。見知らぬ番号からの着信を皮切りに、大手通信会社、警察官、検事を名乗る人物に次々と電話が転送され、「逮捕する」などと脅されて金をだまし取られたものです。ビデオ通話で警察官のような服装の人物から偽の取り調べも受けたといい、県警が注意を呼びかけています。大手通信会社からの電話と信じて案内に従って操作すると、転送された電話に出た男から「兵庫県で契約した携帯電話が犯罪に利用されており、連絡先になっている携帯番号も止める」などと言われ、女性は身に覚えがなかったが、電話は「大阪府警の刑事の渡辺」を名乗る男に転送、「あなたの携帯電話や通帳が特殊詐欺に使われていた。逮捕する」と脅されたため、女性は口座情報などを伝えたといいます。さらに電話は「検事の中西」を名乗る女にも転送され、「保釈金を払え」などと言われ、女性はその日のうちに800万円を振り込んだといいます。その後、2025年12月下旬には「検察事務官の黒川」を名乗る男から「株や保険も全て売却して振り込め」などと指示され、女性は同12月15~30日に31回にわたって計9804万円をだまし取られたものです。家族から詐欺を指摘された女性が警察に相談して事件が発覚しました。
- 20205年2月16日付毎日新聞によれば、「電波監理局員」を名乗る男性から着信があり、「12月に渋谷で携帯を購入しましたね?」「あなたの電話番号が犯罪に使われているので、あと2時間で利用を停止します」全く身に覚えのない話だったが、強い口調で一方的に決めつけられると不安になり、「どこかで番号が流出して悪用されたのかな」と詐欺ではなく個人情報流出を疑い、しばらくすると、別の男性の声で「警視庁サイバー局の刑事」を名乗る者から電話がかかってきて、「カナダのコロンビア銀行であなた名義の口座が作られ、6800万円の被害が出た」「マネー・ローンダリングで得た利益の1割をもらったはずだ」犯罪に加担したと断定されパニックになる男性に「刑事」は「あなたに逮捕状が届いている」と言い、驚いて玄関ポストを見ると、1通の封筒があり、中から東京地裁判事の印が押された逮捕状が出てきたというものです。逮捕状が容疑者の自宅に郵送されることはありえず、「警視庁サイバー局」や「カナダのコロンビア銀行」は架空の名称で存在しない組織ですが、犯人扱いされて「無実を証明しないと」と焦る男性は話を信じてしまったといいます。それでも不審な点はあり、着信は全て「+1」から始まる国際電話で、「刑事」に理由を聞くと「極秘捜査のため普段とは違う番号を使っている」「警察や金融機関内部に共犯者がいるかもしれないので、このことは他言しないで」と説き伏せられ、結局、詐欺だと気づいたのは最初の電話から10日後だったといいます。男性が熱を出して寝込んでいても送金を要求し続ける様子に、「警
- 警察官になりすまして高齢者方に電話をかけ、現金約3200万円をだまし取ったとして、警視庁暴力団対策課は、詐欺などの疑いで、神奈川県大磯町の無職の被告=詐欺罪などで起訴=を再逮捕しています。逮捕はこれで11回目だといいます。容疑者は詐欺の電話をかける「かけ子」や、指示役として犯行を繰り返していたとみられ、再逮捕容疑は、他の者と共謀し、2023年10~11月ごろ、警察官などになりすまして沖縄県の当時75歳の男性方に電話をかけ、男性名義の口座が不正に利用され、犯罪の嫌疑がかけられているなどと嘘を言い、4回にわたって計3232万円をだまし取ったというものです。警視庁は25日、この詐欺事件で、犯人グループが被害者の男性方にかけた電話の音声を公開しています。
北海道警は、釧路市内の70代男性が架空請求で計130万円をだまし取られたと発表しています。男性は振り込む前に交番で相談しましたが、警察官が詐欺だと見抜けず、被害を防げなかったものです。報道によれば、男性は、通信事業者社員を名乗る男から「有料サイトの未納料金がある」との電話を受け、つないだまま最寄りの交番を訪ね、男性巡査長が電話を代わったものの、男が「滞納すると解約になる」と言ったことから、同席していた男性巡査部長と協議、結局詐欺を見抜けず、最終的には「相手と話し合うように」などと男性に伝えたといい、その後、男性は3回にわたって指定口座に計130万円を振り込み、釧路署に相談して事態が発覚したものです。道警は男性に謝罪した上で、「職員への指導を徹底する」としています。警察官2人で対応したにもかかわらず見抜けなかった点は極めて残念なことですが、それだけだます側の手口が巧妙だということでもあります。
暴力団が関与する特殊詐欺事件も多発しています。
- 岐阜県警組織犯罪対策課と養老署は、詐欺の疑いで、六代目山口組傘下組織組員で無職の男を再逮捕しています。氏名不詳者らと共謀して2023年1月から同3月までの間、株式の分配金支払い手続きの手数料の名目などで、養老郡養老町の70代女性と横浜市港北区の80代女性にうその電話をかけ、現金計約3235万円をだまし取った疑いがもたれています。容疑者は2025年1月、携帯電話の回線を電話回線レンタル事業者から不正に借り受けたとして、携帯電話不正利用防止法違反で逮捕され、回線は一連の特殊詐欺事件を企てた「匿名・流動型犯罪グループ」で使用されていたといい、容疑者がグループの首謀者とみて捜査を進めていたものです。警察は、この事件がSNSでメンバーを集めた匿名・流動型犯罪グループ、いわゆる「トクリュウ」の犯行で、容疑者が首謀者の1人とみて捜査しています。
- 大阪府警は、特殊詐欺事件の関係先として電子計算機使用詐欺容疑などで、福岡県久留米市の道仁会本部などを家宅捜索しています。還付金詐欺絡みで出し子らを逮捕しており、供述などから道仁会の関与が浮上、計約2億5千万円の詐欺被害に関わった可能性もあるとみて調べています。家宅捜索には、別の特殊詐欺事件に関与した疑いがあるとして京都府警も参加、大阪と京都の捜査員計約30人が本部に立ち入りました。大阪府警はこれまでに、広島県の男性から還付金名目で現金をだまし取ったとして、電子計算機使用詐欺容疑などで出し子の男や、宮崎市のリクルーターの男を逮捕していました。
- 特殊詐欺グループのリーダー格とみられる住吉会傘下組織組員ら男4人が逮捕されています。報道によれば、4人は、共犯者とともに静岡県に住む60代の女性に「携帯電話がハッキングされていて損害を受けた航空会社が示談金を要求している」などとうその電話をかけ、2024年8月に現金1100万円を東京都内の空き家に送らせて、だまし取った詐欺などの疑いがもたれています。容疑者のスマホには犯行を指示するやりとりが残されており、特殊詐欺グループのリーダー格とみられています。グループは2024年7月以降、2億円以上をだまし取っていたとみられ、警察は暴力団の資金源となっている可能性も視野に、金の流れを調べています。
- 2023年、仲間とともに保険料返還の還付金詐欺でだまし取った現金合わせて240万円を、埼玉県内のコンビニや銀行のATMで複数回にわたり引き出すなどした疑いで、稲川会傘下組織幹部が逮捕されています。報道によれば、容疑者は特殊詐欺でだまし取ったお金をATMで引き出す「出し子」の指示役兼現金回収役で、グループでは暴力団員ら10人以上が逮捕されています。群馬県太田市にある暴力団事務所では、機動隊が建物の前にずらりと並び、現場は物々しい雰囲気に包まれ、家宅捜索が行われました。警視庁は、暴力団が組織的に関与した可能性もあるとみて調べを進めています。
- 親族を装って高齢者方に電話をかけ、現金などをだまし取ったとして、警視庁暴力団対策課は詐欺と窃盗の疑いで、稲川会傘下組織幹部を逮捕しています。暴対課は、東京都港区六本木にある稲川会の本部事務所を家宅捜索しています。逮捕容疑は、何者かと共謀し2024年4月、親族を装って東京都大田区の80代女性方に電話をかけ、「お金が必要になった」などと嘘を言い、現金20万円とキャッシュカードをだまし取り、ATMで現金計約110万円を引き出して盗み取ったというものです。容疑者は犯行グループの中で、現金の回収や、受け子らを勧誘する「指示・回収役」だったとみられています。
SNS上で著名人などをかたって投資に勧誘する「SNS型投資詐欺」や「ロマンス詐欺」の2025年1月における認知・検挙状況等が警察庁から公表されています。被害総額は前年同月から減少したとはいえ、残念ながら、いまだ勢いは衰えていないと言ってよい状況です。
▼警察庁 令和7年1月末におけるSNS型投資・ロマンス詐欺の認知・検挙状況等について
- 認知状況(令和7年1月)
- SNS型投資・ロマンス詐欺の認知件数(前年同期比)は705件(+79件)、被害額(前年同期比)は約76.5億円(▲1.7億円)、検挙件数は22件(+18件)、検挙人員は10人(+9人)
- SNS型投資詐欺の認知件数(前年同期比)は365件(▲86件)、被害額(前年同期比)は約43.4億円(▲17.9億円)、検挙件数は10件(+9件)、検挙人員は4人(+3人)
- SNS型ロマンス詐欺の認知件数(前年同期比)は340件(+165件)、被害額(前年同期比)は約33.1億円(+16.3億円)、検挙件数は12件(+9件)、検挙人員は6人(+6人)
- 当初接触ツールについて、インスタグラム17.3%、LINE16.7%、FB13.2%、X10.7%、投資のサイト9.0%、TikTok8.8%、マッチングアプリ7.1%
- 被害時の連絡ツールについて、LINE84.9%、その他SNS9.6%
- 被害金の主たる交付形態について、振込69.0%、暗号資産28.2%など
- 当初接触手段について、ダイレクトメッセージ55.1%、バナー等広告26.3%、グループ招待7.9%、投稿5.5%など
- 被害者との当初の接触手段(「バナー等広告」及び「ダイレクトメッセージ」)の内訳(ツール別)について、ダイレクトメッセージでは、インスタグラム23.9%、FB20.9%、LINE15.4%、マッチングアプリ12.9%、X10.9%など、バナー等広告では、TikTok22.9%、投資のサイト22.9%、インスタグラム14.6%、X9.4%、YouTube、FB20.9%、LINE15.4%、マッチングアプリ12.9%、X10.9%など
- SNS型ロマンス詐欺の被害発生状況
- 当初接触ツールについて、マッチングアプリ30.6%、インスタグラム22.9%、FB21.2%など
- 被害時の連絡ツール(欺罔が行われた主たる通信手段)について、LINE92.6%、その他SNS6.2%
- 被害金の主たる交付形態について、振込66.2%、暗号資産26.8%、電子マネー5.6% など
- 被害者との当初の接触手段について、ダイレクトメッセージ91.2%、その他8.8%
- 被害者との当初の接触手段(「ダイレクトメッセージ」)の内訳(ツール別)について、マッチングアプリ31.3%、インスタグラム24.8%、FB21.0%、TikTok11.0%など
- SNS型投資・ロマンス詐欺のインターネットバンキング(IB)の利用率
- 認知件数について、IBを利用した振込54.1%、IB以外の振込45.9%
- 被害額について、IBを利用した振込64.5%、IB以外の振込35.5%
警察庁から、令和7年(2025年)1月の特殊詐欺の認知・検挙状況等について発表されています。1か月の数字のため、前年との比較についてはブレがありますが、おおよその傾向を確認できると思われます。
▼警察庁 令和7年1月末の特殊詐欺認知・検挙状況等について
令和7年1月における特殊詐欺全体の認知件数は1,787件(前年同期1,039件、前年同期比+72.0%)、被害総額は79.5億円(22.4億円、+255.0%)、検挙件数は388件(408件、▲4.9%)、検挙人員は150人(168人、▲10.7%)となりました。認知件数や被害総額が引き続き大きく増加している点が特徴です。うちオレオレ詐欺の認知件数は697件(212件、+228.8%)、被害総額は60.3億円(8.9億円、+577.5%)、検挙件数は138件(111件、+24.3%)、検挙人員は70人(56人、+25.0%)となり、認知件数、被害総額が大きく増加し、かつ、検挙件数、検挙人員ともに増加に転じています。こうしたオレオレ詐欺の傾向が特殊詐欺全体を押し上げる形となっている点に注意が必要です。また、還付金詐欺の認知件数は226件(251件、10.0%)、被害総額は3.8億円(3.2億円、+18.8%)、検挙件数は46件(55件、▲16.4%)、検挙人員は12人(14人、▲14.3%)と認知件数、被害総額が増加となりました。そもそも還付金詐欺は、自治体や保健所、税務署の職員などを名乗るうその電話から始まり、医療費や健康保険・介護保険の保険料、年金、税金などの過払い金や未払い金があるなどと偽り、携帯電話を持って近くのATMに行くよう仕向けるものです。被害者がATMに着くと、電話を通じて言葉巧みに操作させ(このあたりの巧妙な手口については、暴排トピックス2021年6月号を参照ください)、口座の金を犯人側の口座に振り込ませます。一方、ATMに行く前の段階の家族によるものも含め、声かけで特殊詐欺の被害を防いでおり、警察庁は「ATMでたまたま居合わせた一般の人も、気になるお年寄りがいたらぜひ声をかけてほしい」と訴えていますが、対策をかいくぐるケースも後を絶たない現状があり、それが被害の高止まりの背景となっています。とはいえ、本コラムでも毎回紹介しているように金融機関やコンビニでの被害防止の取組みが浸透しつつあり、ATMを使った還付金詐欺が難しくなっているのも事実で、そのためか、オレオレ詐欺へと回帰している可能性も考えられるところです(繰り返しますが、還付金詐欺自体事態、大変高止まりした状況にあります)。最近では、闇バイトなどを通じて受け子のなり手が増えたこと、外国人の新たな活用など、詐欺グループにとって受け子は「使い捨ての駒」であり、仮に受け子が逮捕されても「顔も知らない指示役には捜査の手が届きにくいことなどもその傾向を後押ししているものと考えられます。特殊詐欺は、騙す方とそれを防止する取り組みの「いたちごっこ」が数十年続く中、その手口や対策が変遷しており、流行り廃りが激しいことが特徴です。常に手口の動向や対策の社会的浸透状況などをモニタリングして、対策の「隙」が生じないように努めていくことが求められています。
また、キャッシュカード詐欺盗の認知件数は73件(108件、▲32.4%)、被害総額は0.9億円(1.3億円、▲38.9%)、検挙件数は81件(118件、▲31.4%)、検挙人員は29人(42人、▲31.0%)と、認知件数・被害総額ともに減少という結果となっています(上記の考え方で言えば、暗証番号を聞き出す、カードをすり替えるなどオレオレ詐欺より手が込んでおり摘発のリスクが高いこと、さらには社会的に手口も知られるようになったことか影響している可能性も指摘されています。なお、前述したとおり、外国人の受け子が声を発することなく行うケースも出ています。さらには、前述したとおり、キャッシュカードではなく「現金」入りの封筒で同様のすり替えを行う手口も出ています)。また、預貯金詐欺の認知件数は160件(138件、+15.9%)、被害総額は1.4億円(1.3億円、+14.0%)、検挙件数は83件(101件、▲17.8%)、検挙人員は18人(46人、▲60.9%)となりました。認知件数・被害総額ともに大きく増加に転じている点が注目されます。その他、架空料金請求詐欺の認知件数は511件(294件、+73.8%)、被害総額は9.6億円(7.1億円、+34.2%)、検挙件数は32件(21件、+52.4%)、検挙人員は19人(9人、111.1%)と、認知件数・被害総額・検挙件数・検挙人員のすべてにおいて大幅ま増加が目立ちます。融資保証金詐欺の認知件数は41件(14件、+192.9%)、被害総額は0.7億円(0.1億円、+812.2%)、検挙件数は3件(1件、+200.0%)、検挙人員は0人(0人)、金融商品詐欺の認知件数は14件(1件、+1300.0%)、被害総額は1.0億円(0.0億円、+935.6%)、検挙件数は2件(0件)、検挙人員は1人(0人)、ギャンブル詐欺の認知件数は3件(3件、±0%)、被害総額は0.0億円(0.1億円、▲97.3%)、検挙件数は0件(0件)、検挙人員は0人(0人)などとなっています。
組織犯罪処罰法違反については、検挙件数は89件(29件、+206.9%)、検挙人員は19人(9人、+111.1%)、口座開設詐欺の検挙件数は72件(72件、±0%)、検挙人員は36人(22人、+63.6%)、盗品等譲受け等の検挙件数は1件(0件)、検挙人員は0人(0人)、犯罪収益移転防止法違反の検挙件数は256件(248件、+3.2%)、検挙人員は194人(175人、+10.9%)、携帯電話詐欺の検挙件数は6件(10件、▲40.0%)、検挙人員は8人(13人、▲38.5%)、携帯電話不正利用防止法違反の検挙件数は2件(4件、▲50.0%)、検挙人員は4人(0人)などとなっています。とりわけ犯罪収益移転防止法違反が大きく増加している点が注目されます。また、被害者の年齢・性別構成について、特殊詐欺全体では男性43.0%:女性57.0%、60歳以上62.0%、70歳以上43.0%、オレオレ詐欺では男性41.5%:女性58.5%、60歳以上52.4%、70歳以上41.0%、架空料金請求詐欺では男性54.6%:女性45.4%、60歳以上50.5%、70歳以上26.5%、融資保証金詐欺では男性76.9%:女性23.1%、60歳以上20.5%、70歳以上20.6%、特殊詐欺被害者全体に占める高齢被害者(65歳以上)の割合について、特殊詐欺全体では54.0%(男性35.2%、女性64.8%)、オレオレ詐欺 46.5%(29.0%、71.0%)、預貯金詐欺 100.0%(13.1%、86.9%)、架空料金請求詐欺 38.7%(64.5%、35.5%)、還付金詐欺 79.6%(36.3%、63.7%)、融資保証金詐欺 15.4%(66.7%、33.3%)、金融商品詐欺 50.0%(28.6%、71.4%)、ギャンブル詐欺 0.0%、交際あっせん詐欺 29.2%(100.0%、0.0%)、その他の特殊詐欺 27.0%(30.0%、70.0%)、キャッシュカード詐欺盗 97.3%(21.1%、78.9%)などとなっています。犯罪類型によって、被害者像が大きく異なることをあらためて認識し、被害者像に応じたきめ細かい対策を行う必要性を感じさせます。
特殊詐欺、SNS型投資詐欺・ロマンス詐欺を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。金額の大きな事例を中心に取り上げています。
- 神奈川県警磯子署は、横浜市磯子区の会社経営者の50代男性が内閣サイバーセキュリティセンターの職員を名乗る男らの指示に従い、裁判の供託金名目などで現金や電子マネー計約3億2000万円をだまし取られたと明らかにしています。同署は特殊詐欺事件として調べています。報道によれば、2024年1月、男性に通信会社職員をかたる男から「情報サービスの長期未納がある」と電話があり、その後、内閣サイバーセキュリティセンターや保険協会職員になりすました男らから「スマホがサイバー攻撃の踏み台にされている」「供託金を送れば賠償金の補償対応ができる」などと言われ、男性は2024年6月までに計103回、男らが管理する口座に金を振り込んだ他、コンビニで購入した電子マネーの情報を伝え、段ボール箱に現金を入れて送ったといい、資金を捻出するため、会社の建物や土地を売却していたといいます。そこまでするほどだまされていた(気付かなかった)理由を知りたいところです。
- 石川県警は、県内に住む60代女性が現金計3億円をだまし取られる特殊詐欺被害に遭ったと発表しています。同県内の特殊詐欺被害額では過去最高といいます。県警組織犯罪対策課によると、女性宅に2024年9月、「あなたの携帯電話から迷惑メールが発信されており、対処しなければ携帯電話が使えなくなる」と自動音声の電話があり、その後、警察官や検察官を名乗る男らから電話や通信アプリで「詐欺事件の主犯を逮捕したところ、あなたの通帳が見つかった。犯罪を行っていないことを証明するため紙幣を調べる必要がある」などと言われ、暗号資産の口座を開設させられた上で、2024年10~12月、32回にわたって同口座に現金計3億円を振り込んだというものです。
- 奈良県警西和署は、県内在住の60代男性が約1億9000万円相当の暗号資産をだまし取られる特殊詐欺被害が発生したと発表しています。報道によれば、過去10年の特殊詐欺被害の中で最高額だといいます。報道によれば、2024年9月、男性の自宅の固定電話に「あなたの保険証番号で普通の患者には出してはいけない薬が購入されている」と知らない番号から電話があり、男性が否定すると、宮城県警仙台中央署員を名乗る人物に代わり「潔白を証明するにはお金が必要だ。口外すれば奈良県警に動いてもらい、あなたを逮捕する」などと脅されたといいます。男性は検察官を名乗る別の人物からインターネット電話などで銀行や暗号資産取引所の口座を開設するよう指示され、19回にわたって計約1億9000万円相当の暗号資産を振り込んだといいます。相手と連絡が取れなくなって不審に思い、知人と共に西和署に相談し、発覚したものです。
- 広島県警広島中央署は、広島市中区の80代の男性会社役員が、インターネット上で知り合った人物に古銭売買の投資に誘われ、計1億9971万円余りをだまし取られたと発表しています。同署は恋愛感情を抱かせ、金銭をだまし取るロマンス詐欺とみて捜査しています。報道によれば、男性は2024年10月上旬から11月下旬にかけ、女性投資家を名乗る人物とLINEでやりとりし「投資で利益が出たが、手数料が支払えない」などと金を要求され、現金を振り込んだり、スタッフを名乗る若い女性に現金を手渡したりしたといいます。他県の警察から詐欺被害の可能性を指摘され、2025年1月に同署に相談して発覚したものです。
- 兵庫県警加古川署は、兵庫県内に住む50代の男性が約1億6900万円相当の暗号資産をだまし取られる詐欺被害に遭ったと発表しています。報道によれば、男性は2024年12月、SNS上で知り合った台湾居住の女性投資家をかたる人物から「暗号資産で利益が出るものがある。今のうちに大金を投資すべきだ」と持ちかけられ、指示された送金先に、投資資金として同月23日~2025年1月7日の間に4回、計約1億6900万円相当の暗号資産を送ったといいます。投資状況を示す画面上には、利益が出ているように表示されていたといい、男性が同月9日、暗号資産を出金しようとした際、「出金するのに税金でまだお金がかかる」と言われたため家族に相談し、被害に気づいたものです。
- 奈良県警は、奈良市の70代男性宅に警察官などをかたる男らから「携帯電話が詐欺に使われている」との電話があり、男性が約1億4千万円をだまし取られたと発表しています。報道によれば、2024年4月中旬ごろ、男性宅の固定電話に「総合通信基盤局」の職員や警察官などを名乗る男らから連絡があり、「犯人でないことを証明するために資産を捜査する必要がある」などと言われ、インターネットバンキングが利用できる口座を開設。同6~8月にかけて計約1億4千万円を振り込んだといいます。相手と連絡が取れなくなったことから、男性が県警に相談し発覚したものです。
- 三重県警四日市北署は、四日市市の60代女性が、約1億2600万円相当の暗号資産をだまし取られる詐欺被害に遭ったと発表しています。女性はSNSでのやり取りを通じて相手に好意を抱き、投資話を持ちかけられたといい、「SNS型ロマンス詐欺」では県内で過去最悪の被害額ということです。報道によれば、女性は2024年4月、フェイスブック(FB)で知り合った「中村」と名乗る男からFX投資を勧められ、女性は男から指示されるまま、指定されたアドレスに計約20回にわたって暗号資産を送金、2025年1月、女性の口座を管理する金融機関が、不審な送金があることについて警察に通報し、被害が判明したものです。
- 群馬県警前橋署は、前橋市の60代の無職男性が、ロマンス詐欺で現金計約9780万円をだまし取られたと発表しています。県警は「SNSやマッチングアプリを使って副業を勧誘するのは、ロマンス詐欺の典型的な手口」と注意を呼びかけています。報道によれば、男性は2023年9月にマッチングアプリで、グラフィックデザイナーの40代女性を装う人物と知り合い、別のSNSに誘導され、「年上の方が信頼できる」などと結婚をほのめかす言葉を伝えられた後、「ネットショップを経営していて、レディースバッグを扱っている。経営者にならないか」などと誘われたといいます。アプリをダウンロードし、女性やカスタマーサービスの職員を装う人物の指示に従っていると、商品が売れて13万9000円が口座に振り込まれたといいます。しかし、その後は女性や職員から仕入れ代や手数料などを求められ、2023年10月~同年12月まで計37口座に計50回にわたって5~1000万円を振り込み、計9781万484円をだまし取られたといいます。
- 島根県警は、県東部に住む50代の女性が9804万円の特殊詐欺の被害に遭ったと発表しています。県内の特殊詐欺被害としては、2015年8月に松江署管内であった7520万円の架空料金請求詐欺を上回り、過去最高額といいます。報道によれば、2024年12月、女性の携帯電話に着信があり、音声ガイダンスで「2時間後に電話を止める」などと告げられ、女性が案内に従って操作すると男が電話に出て、「兵庫県で契約された携帯電話が犯罪に利用されており、連絡先の電話も止める」などと言われ、さらに、刑事を名乗る男に「あなたの携帯電話や通帳が特殊詐欺に使われていた。逮捕する」、検事を名乗る女から「保釈金を払え」と言われ、指定された口座に800万円を振り込んだといいます。同月下旬ごろからは、検察事務官を名乗る男が電話を掛けてきて「株や保険も売却して振り込め」と指示されるなどし、同月30日までの間に31回、計9804万円を振り込み、だまし取られたものです。女性はビデオ通話アプリを使って警察官のような制服を着た相手の姿や「保釈許可決定」と書かれた書類などを見せられることもあったといいます。
- 神奈川県警小田原署は、同県小田原市の無職の60代男性が、警察官らを名乗る人物から、うその電話で9800万円をだまし取られたと発表しています。報道によれば、男性は2024年6~9月、警察官や検察官を名乗る人物から電話で「あなたの口座が特殊詐欺に使用されている」「資金調査をする」と言われ、通信アプリでインターネットバンキングでの送金を指示されたといい、男性は9月23日までに、指定された口座に21回にわたり、計9800万円を送金、検察官に成り済ました人物から、手元の資金が尽きた後も金を要求されたため、警察官が所属していると説明していた署に相談し、詐欺被害が発覚したものです。
本コラムでは、特殊詐欺被害を防止したコンビニエンスストア(コンビニ)や金融機関などの事例や取組みを積極的に紹介しています(最近では、これまで以上にそのような事例の報道が目立つようになってきました。また、被害防止に協力した主体もタクシー会社やその場に居合わせた一般人など多様となっており、被害防止に向けて社会全体・地域全体の意識の底上げが図られつつあることを感じます)。必ずしもすべての事例に共通するわけではありませんが、特殊詐欺被害を未然に防止するために事業者や従業員にできることとしては、(1)事業者による組織的な教育の実施、(2)「怪しい」「おかしい」「違和感がある」といった個人のリスクセンスの底上げ・発揮、(3)店長と店員(上司と部下)の良好なコミュニケーション、(4)警察との密な連携、そして何より(5)「被害を防ぐ」という強い使命感に基づく「お節介」なまでの「声をかける」勇気を持つことなどがポイントとなると考えます。また、最近では、一般人が詐欺被害を防止した事例が多数報道されています。直近でも、高齢者らの特殊詐欺被害を一般の人が未然に防ぐ事例が増加しており、たとえば、銀行の利用者やコンビニの客などが代表的です。2023年における特殊詐欺の認知・検挙状況等(警察庁)によれば、「金融機関の窓口において高齢者が高額の払戻しを認知した際に警察に通報するよう促したり、コンビニエンスストアにおいて高額又は大量の電子マネー購入希望者等に対する声掛けを働き掛けたりするなど、金融機関やコンビニエンスストア等との連携による特殊詐欺予防対策を強化。この結果、関係事業者において、22,346件(+3,616件、+19.3%)、71.7億円(▲8.5億円、▲10.6%)の被害を阻止(阻止率 54.6%、+2.1ポイント)」につながったとされます。特殊詐欺の被害防止は、何も特定の方々だけが取り組めばよいというものではありませんし、実際の事例をみても、さまざまな場面でリスクセンスが発揮され、ちょっとした「お節介」によって被害の防止につながっていることが分かります。このことは警察等の地道な取り組みが、社会的に浸透してきているうえ、他の年代の人たちも自分たちの社会の問題として強く意識するようになりつつあるという証左でもあり、そのことが被害防止という成果につながっているものと思われ、大変素晴らしいことだと感じます。以下、直近の事例を取り上げます。
- 奈良市の会社員、実藤さん宅のインターホンが鳴り、「銀行のカードを受け取りに来ました」と言われたものの、「うちが頼むわけがない。帰りなさい」と伝えると男は素直に引き下がったため、「間違えて自分の家に来たのでは」と嫌な予感がして、ほかの家に行くかもしれないと気になり、後を追おうと玄関を開けた矢先、男はすでにキャッシュカードを手にしていたといいます。急いで、向かいに住む80代の女性に事情を聴くと、「カードを渡した」と言ったため、男にカードを返却させ、警察へ通報すると告げると、男は「どうぞ」と強がったものの、実藤さんが実際に110番通報すると、「私も上司に連絡してきます」と言い残し、その場を立ち去ったといいます。実藤さんは警察に状況を正確に伝え、検挙に至ったものです。被害に遭った80代の女性は、事前に銀行員を名乗る人物から「保険料を返金する。あなたのキャッシュカードが古いので交換に伺う」との電話を受けていたといいます。
- 特殊詐欺を未然に防いだとして、大阪府警羽曳野署は、主婦2人に感謝状を贈っています。2人はそれぞれ、電話をしながらATMを操作する高齢者を見て詐欺を疑い、被害に遭うのを防いだといいます。署長は「声をかけてくれた勇気に感謝したい」とたたえています。うち1件は、ATMを操作していたところ、隣で電話をしながらATMを操作しようとする70代の女性を発見、女性が「今着きました」「送金」などと話していたため不審に思い、「詐欺ちゃうの。おばあちゃん、手を止めよう」と声をかけ、110番したものです。もう1件は、銀行のATMの前で、電話をする80代の女性に気づき、その様子から詐欺ではないかと気になって声をかけ、近くの交番へ連れていって事情を説明したといいます。
- 特殊詐欺を未然に防いだとして、奈良県警吉野署は、南都銀行大淀支店の行員、上杦さんと田中さんに感謝状を贈っています。大淀町内の70代の男性が、同支店で口座から約9000万円を引き出そうとしたため、高額のため田中さんは使途などを尋ねたが、「個人情報なので教えられない」と応じてもらえず、詐欺被害を心配して上司の上杦さんと説得、それでも聞き入れてもらえず警察に通報し、駆けつけた吉野署員が説明、男性は納得し、金を引き出さなかったといいます。男性には警察官を名乗る男から「詐欺容疑で逮捕した容疑者の口座から金の一部があなたの口座に入っている。返金しないと逮捕される」などと電話があり、その後も電話が数回あり、指示通り家のポストにあった茶封筒の中を見ると、男性への偽の逮捕状が入っていたといい、当日は電話で「口座が16カ月間使えなくなる。今から預金の全額を引き出せ」と言われ、支店を訪れたとことだったといいます。
- うその電話の指示で電子マネーなどを買わされる特殊詐欺の被害を防ごうと、コンビニの店舗ごとに担当の警察官を決めて防犯指導をする取り組みが、各地に広がっています。店員と警察官が信頼関係を築くことで、成果も出やすいといいます。千葉県警では2022年に一部の署でコンビニアシストポリス制度が始まり、現在は県内約2600店舗に担当の警察官が割り振られ、詐欺防止の声かけや防犯対策の指導をしているといい、2024年に千葉県内で特殊詐欺を阻止した数は820件で、うちコンビニ店員が阻止したケースは35%を占め、前年の29%から上昇したといいます。全国のコンビニ店員による特殊詐欺の阻止数は近年突出しており、警察庁によると、2023年は9682件で全体の43.3%を占め、「家族・親族」(20.7%)や「金融機関職員」(16.9%)よりも多かったといいます。2021年4525件、2022年6127件と阻止数も増えています。一方、2024年は2023年から3割ほど減少、店を訪れずに振り込みができるインターネットバンキングの悪用が背景にあるといい、2024年に確認された特殊詐欺被害では、被害額の7割がネットバンキングで振り込まれていたといいます。警察は金融機関と協力して口座での不審な取引についての情報共有を進め、コンビニとの連携も強めて被害の未然防止に力を入れています。
その他、特殊詐欺等を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。
- SNSを通じて巧みに相手を信用させるSNS型の投資詐欺やロマンス詐欺の被害を防ぐための啓発活動に、岡山県は新年度、LINE上で犯人役の生成AIとやりとりしてだましの手口を疑似体験できるツールを導入するといいます。2024年の岡山県内のSNS型投資・ロマンス詐欺の認知件数(暫定値)は計139件、被害額は約16億7620万円と、件数、被害額とも2023年比で4倍超となったといいます。一方、65歳以上の高齢者の被害の割合は5割を切っており、岡山県警は「幅広い世代に被害が広がっている」として警戒を強めています。
- 詐欺事件の被害回復のために凍結された口座に対し、裁判所に虚偽の内容の書面を発行させ不当な強制執行をかけたとして、被害者側が東京都内の会社を提訴した訴訟の口頭弁論が東京地裁であり、会社側は答弁書で「強制執行は無効」と自ら認め、被害者側に謝罪しています。この日で結審し、判決は2025年3月27日に言い渡されるといいます。この訴訟では、投資詐欺に遭った被害者が、凍結口座から資金を引き出すために強制執行を申し立てた都内のコンサルティング会社2社について、執行を認めないよう求めているものです。この2社は、代表と社名がいずれも同じで、うち渋谷区の会社は、凍結口座の名義人であるベトナム人3人に計2650万円の貸し付けがあったとし、もう一方の品川区の会社は計30万円の貸し付けがあるとして、裁判所から支払い督促の書面を取得、品川の会社は30万円の貸し付けについて「ダミーだった」とし、口頭弁論で、強制執行自体を「無効だ」と認めています。「原告らへの配慮が不足し、支払い督促制度の信頼を損なう事態を招き、おわびする」としています。凍結口座を巡っては、資金を不正に引き出そうと、虚偽の内容で支払い督促の書面や公正証書を作成させるケースがあり、最高裁が調査したり、日本公証人連合会が注意喚起したりする事態になっています。
(3)薬物を巡る動向
大阪税関は、2024年1年間で摘発した違法薬物の密輸事件が、2023年比約2倍の194件に膨らんだ(押収量は約160キロとおよそ半減した)と明らかにしています。覚せい剤の押収量がおよそ200キロ減ったものの、大麻や金の密輸が急増しており、同税関は警戒を強めているといいます。同税関は大阪、京都、和歌山、奈良、滋賀、福井、石川、富山の8府県を管轄しており、約1500人の体制で輸出入貨物や外国郵便物の通関、密輸の取り締まりなどに当たっています。摘発件数でみると、大麻は2023年比4倍の90件、麻薬は2023年比2倍の52件に増加、これらは「運び屋」が旅客機に持ち込んで国内に流入させる(ショットガン方式)ほか、食料品を装った国際スピード郵便(EMS)で国内に届けられることもあるといいます。また、金の密輸を巡っては、過去5年で最多となる127件を摘発し約630キロを押収、密輸への罰則が強化された2018年の関税法改正や新型コロナウイルス禍の影響で、摘発件数は減少傾向でしたが、再び増加に転じました。
金の密輸に関連して、韓国・釜山と大阪を結ぶクルーズ船を利用し、韓国人と日本人のグループが海上で金塊を受け取る「瀬取り」で約40キロを密輸した事件で、関税法違反(無許可輸入)などに問われた韓国籍の男の初公判が福岡地裁小倉支部であり、男は起訴内容を認め、被告人質問で「(密輸は)20回くらいやった」と述べています。起訴状などによると、グループは2024年11月上旬、愛媛県今治市沖で、釜山発の船から金塊40キロ(約5億1800万円相当)入りのキャリーケースを投下、船で回収して陸揚げし、消費税など計約5000万円を免れたとしています。検察側は冒頭陳述で、男は知人に紹介された共犯者から持ちかけられ、2023年12月頃から加担したと主張、沿岸の展望台などで海上保安庁の船の動きを見張る役で、密輸1回当たり少なくとも50万円の報酬を得ていたとしています。事件では、第7管区海上保安本部(北九州市)などが韓国人と日本人の男女
多様化する密輸の手口に対応するため、東京税関が検査に使う最先端の機器や技術のアイデアを公募しています。初めての試みで、提案を基に共同開発や現場での試用を行い、実用化を目指す考えだといいます。担当者は「メーカーや研究機関だけでなく、ベンチャー企業などからも幅広い応募を期待している」と話しています。東京税関によると、同税関が2024年に摘発した不正薬物の押収量は1.5トンを超えたほか、金の密輸も急増、旅行客や輸出入貨物の増加が背景にあり、効果的で効率的な検査が求められており、空港で使うボディースキャナーや不審な行動を検知できるカメラ、薬物や金属類の分析機器などについて募集しています。
暴力団等が関連した薬物事犯も多く報道されています。以下、いくつか紹介します。
- 覚せい剤を密売した罪などに問われた暴力団幹部の男について、熊本地方裁判所は懲役6年の判決を言い渡しました。判決を受けたのは道仁会傘下組織幹部でで、報道によれば、男は2022年から翌年の間に、6人に対し継続的に覚せい剤などを13回密売し、127万円の収益を得たといいます。熊本地裁の裁判長は「覚せい剤の使用などによる執行猶予期間中の犯行で、公判中に『暴力団をやめるつもりはない』と述べて再犯の恐れもある。争いのある犯罪収益についても大半が男の収益だ」として、懲役6年と罰金200万円、さらに犯罪収益として124万円の追徴を言い渡したものです。
- 埼玉県から北九州市に覚せい剤を郵送し、密売しようとしたとして、覚せい剤取締法違反(営利目的譲渡未遂)の疑いで、埼玉県に住むベトナム人で、会社員のファム容疑者が逮捕されています。報道によれば、ファム容疑者は2023年7月、埼玉県から覚せい剤約100グラムを、北九州市小倉北区のマンションに郵送し、密売しようとした疑いがもたれており、覚せい剤を受け取る予定だった当時工藤會傘下組織組員らは、既に警察に逮捕されていたことから、密売は未遂に終わったということです。警察は、ファム容疑者が暴力団とつながりのある薬物密売組織の一員とみて、共犯者や余罪についても詳しく調べることにしています。
- 覚せい剤の譲渡を指示したとして、熊本県警は20日、覚せい剤取締法違反の疑いで、道仁会傘下組織組長=恐喝罪で起訴=と、無職の容疑者を逮捕しています。報道によれば、2024年2月、熊本市西区の路上で、両容疑者がそれぞれ別に指示した男らを介し、覚せい剤約200グラム(末端価格1320万円相当)を、無職の容疑者側から組長側に譲り渡した疑いがもたれています。2023年3月、約2400万円相当の覚せい剤が押収される事件があり、警察が入手先を捜査していたところ、組長らの関与が明らかになったものです。
- 不正薬物の密輸から密売まで行う組織のリーダー格とみられる稲川会傘下組織幹部が、麻薬特例法違反の疑いで逮捕されています。報道によれば、容疑者は2024年4月から5月にかけて、千葉市内などで少なくとも4人に対し、業として、乾燥大麻約280グラム、140万円相当を密売した疑いが持たれています。容疑者は、タイなど海外から薬物を密輸した上で、国内で密売する組織のリーダー格とみられ、大麻取締法違反容疑で2024年10月、警視庁に逮捕されていました。千葉県警は2024年4月以降、薬物乱用者や密売人など約50人を摘発していて、突き上げ捜査で容疑者の逮捕に至りました。
- 愛媛県警今治署は、熊本県美里町の住宅で大麻草を栽培したとして大麻取締法違反(営利目的栽培)の疑いで、自称会社役員、自称自営業の男ら5人を逮捕しています。報道によれば、容疑者らはトクリュウとみられ、会社役員と自営業の男が指示や資金提供の役だったとみられています。5人の逮捕容疑は共謀して2024年1月ごろから7月までの間、熊本県美里町名越谷の住宅で大麻草344株を栽培したというものです。
- 大麻や覚せい剤などの「密売グループ」が大麻取締法違反などの疑いで逮捕・起訴され、押収された薬物の末端価格はおよそ1億円に上るといいます。逮捕された4人は藤渡被告を中心としたグループで、大麻や覚せい剤を販売目的で所持したなどとされています。藤渡被告が薬物の仕入れを担当し、指示を受けたほかの3人が、宅配や手渡しで客に薬物を密売していたとみられています。藤渡被告の自宅や関係先からは、大麻16.5キロや覚せい剤、コカインなど末端価格およそ1億円相当の薬物が押収されています。4人はおおむね容疑を認めており、警察は、薬物の入手先や暴力団の関与の有無などを捜査しているといいます。
その他、最近の薬物を巡る報道から、いくつか紹介します。
- 東京税関成田税関支署と成田国際空港署は、グアテマラから覚せい剤約190キロ(末端価格約125億4000万円、薬物乱用者の通常使用量で約633万回分に相当)を密輸したとして、覚せい剤取締法違反(営利目的輸入)などの疑いで同国籍の貿易業、ゴンサレス容疑者を逮捕、送検したと発表しています。航空貨物からの押収量としては2023年に富山県警が押収した113キロを上回り全国で過去最高で、規制薬物全体でも最も多いといいます。送検容疑は2024年7月、航空貨物の貯湯タンクに隠した覚せい剤約190キロを同国から成田空港に到着させて密輸、税関検査で発覚、同9月に回収に訪れたところを現行犯逮捕され、10月に起訴されています。報道によれば、太陽熱温水器に使う貯湯タンクは長さ約165センチ、直径約40センチの筒状で計12個、二重構造にした側面のすき間に断熱素材に見せかけて数百グラムの覚せい剤入りの袋を巡らせていたものです。タンクは税関申告していたといいます。
- コカイン約22キロ(末端価格約5億4800万円相当)を手荷物に隠して空港に密輸しようとしたとして、東京税関は、台湾籍で住所不定、会計士の男を関税法違反(禁制品輸入未遂)などの容疑で現行犯逮捕し、東京地検に告発しています。国内の空港で手荷物から押収されたコカインの量としては過去最多といいます。報道によれば、男は仲間と共謀して2025年1月、カナダから羽田空港にコカイン約22キロを密輸しようとした疑いがもたれており、コカインはスーツケース内の菓子箱22箱に1キロずつ小分けされており、税関検査で発覚したものです。容疑者は「友人から、カナダで買った菓子を日本に持っていってくれないかと頼まれた」という趣旨の供述をしているといいます。なお、羽田でのコカインの密輸摘発件数は2025年2月までで9件目で、すでに2024年1年間の総件数に並んでいるといい、担当者は「密輸組織から日本が狙われているということではないか」と分析、若年層のコカインの使用も懸念されるとした上で、「危機感を持ち、厳重に検査していく」とコメントしています。
- クリスマスカードに麻薬を隠して密輸しようとしたとして、横浜税関は、デザイナーの田中容疑者(45)を関税法違反(輸入禁止貨物の輸入未遂)容疑で横浜地検に告発し、発表しています。告発容疑は2024年1月、粉末状のコカイン約0.99グラム(2万5千円相当)をドイツから自宅宛てに国際郵便で密輸入しようとしたというもので、税関によると、職員がX線検査装置で、コカインの入った袋の影を確認し、麻薬探知犬などで検知、クリスマスカードに印刷された模様と同じ模様の紙片を袋の上に貼る手口で、コカインが隠されていたといいます。この事件で、田中容疑者は、神奈川県警鶴見署に、麻薬及び向精神薬取締法違反(輸入)容疑で逮捕されていました。
- 北海道警倶知安署は、大麻リキッドを国内に輸入したとして麻薬取締法違反の疑いで、オーストラリア国籍の会社役員を逮捕したと発表した。報道によれば、2024年12月、大麻リキッドを隠した郵便物をオーストラリアから倶知安町に郵送したとしています。署によると、自分で使う目的とみられ、観光で滞在していた倶知安町のホテル宛てになっていたといいます。
- 石川県警は、薬物の売買に関わったなどとして覚せい剤取締法違反などの疑いで、大阪市淀川区のマッサージ師ら13都道府県の計26人を逮捕しています。県警は、容疑者ら7人は関西を拠点とする密売組織のメンバーで、19人は組織から薬物を購入した客らとみて捜査しています。報道によれば、容疑者らは2023年1月ごろから売買を始めたとみられ、2024年3~10月には推定で1500万円以上の売り上げがあったといいます。石川県警は組織拠点の家宅捜索をはじめ捜査過程で覚せい剤約100グラム、大麻約5グラム、指定薬物約850グラムを押収、組織は購入者と匿名性の高いアプリを介して連絡を取り合い、宅配便で薬物を届け、口座振り込みや電子マネーで代金を受け取っていたといいます。石川県警は組織の顧客が100人以上いたとみており、薬物の入手ルートなどを詳しく調べています。
- 島根、福岡両県警と九州厚生局麻薬取締部の合同捜査本部は、大麻取締法違反などの疑いで、無職の容疑者=同法違反罪などで起訴=を含め、大阪市や佐賀県みやき町の男女ら計12人を逮捕しています。このうち藤渡被告ら6人は密売組織の構成員で、他は購入者とみられています。同捜査本部は、大麻約16キロや覚せい剤約71グラムなど末端価格計約1億円相当を押収、入手ルートを調べています。福岡県警によると、2024年秋以降、12人を順次逮捕し、密売組織の6人には元購入者も含まれています。藤渡被告が首謀し、仕入れや保管を役割分担、匿名性の高いアプリで購入者6人とやりとりし、宅配物を装って受け渡していたといい、12人のうち6人は起訴され、うち1人は既に有罪判決を受けて服役中、4人は処分保留で釈放され、少なくとも2020年7月から密売していたといいます。
- 合成麻薬MDMAの錠剤などを所持したとして、大阪府警は、麻薬取締法違反(所持)などの疑いで、大阪ガス子会社社員、キャメロン容疑者=米国籍=を逮捕しています。大阪ガスによると、容疑者は同社米国法人の管理職ということです。逮捕容疑は2025年10月、大阪市西区の宿泊施設でMDMAの錠剤と、指定薬物の大麻類似成分を含む液体を所持したというものです。報道によれば、「日本でそのような薬物を持ったことはありません」と否認しているといい、大阪ガスによると、キャメロン容疑者は同社米国法人で商品サービスなどを担当、大阪ガスは「グループ会社社員が逮捕されたことは誠に遺憾。社内規定に従い、厳正に対処する」とコメントしています。薬物事犯は個人の犯罪とはいえ、問題が発生すれば法人名が報道されるなど、レピュテーションや信用が毀損されることになります。また、反社会的勢力への利益供与にもつながる問題ともなります。「薬物に手を出さない」ことは常識とはいえ、社内での啓蒙も必要かと思われます。また、見て見ぬふりという「不作為」は反社会的勢力を助長しかねないとの認識も持つ必要があります。
- コカインを使用したとして、厚生労働省関東信越厚生局麻薬取締部(麻取)は、ヒップホップグループ「ニトロ マイクロフォン アンダーグラウンド」のメンバーで、「ビグザム」の名前で活動する新谷被告を麻薬取締法違反容疑で緊急逮捕したと発表しています。報道によれば、新谷被告は、2025年1月、渋谷区の自宅マンションで、コカイン若干量を使用した疑いがもたれています。新谷被告が違法薬物を使用しているとの情報をもとに、麻取が新谷被告宅を捜索、尿検査で陽性反応が出たため緊急逮捕され、その後起訴されたものです。
- 大麻を所持するなどしたとして、関東信越厚生局麻薬取締部は、東京都江東区、歯科医師の被告の男を麻薬取締法違反容疑で逮捕しています。加熱すると大麻の有害成分「テトラヒドロカンナビノール(THC)」に変わる「THCA」の所持でも摘発したといいます。2024年12月の同法改正で、THCAが「みなし麻薬」として規制対象になって以降、摘発は全国で初めてとなります。報道によれば、被告は2024年12月~2025年1月、自宅などで大麻の植物片を所持した上、コカインなどを使用したとして逮捕され、その後、起訴されました。自宅からは他にも複数の薬物が見つかり、麻薬取締部が押収物を鑑定した結果、約0.1グラムのTHCAが含まれていたことが判明、このため、東京地検が今月、THCAを所持した罪についても起訴内容に追加したといいます。
- 美人局の手口でメンズエステの利用者から現金を脅し取ったとして、警視庁暴力団対策課は、恐喝の疑いで、東京都新宿区の元「私人逮捕系」ユーチューバー、今野容疑者と、犯行当時19歳だった大学生の男を逮捕しています。2024年1~11月に計約240人が被害に遭い、被害額は計約8000万円に上るとみられています。今野容疑者は「私人逮捕系」ユーチューバーとして、インターネット上で知り合った男性に覚せい剤を持ってくるようそそのかしたとして、覚せい剤取締法違反の教唆の罪に問われ、2025年2月、東京地裁は懲役1年4月、執行猶予3年(求刑懲役1年6月)の有罪判決を言い渡しています。共犯者と「ガッツch(チャンネル)」を運営、盗撮や痴漢をしたとして一般人を取り押さえる動画も投稿しており、公判で「教唆したつもりはありません」といずれも無罪を主張するも、裁判官は男性が被告らに通信アプリで指示された通りの量の覚せい剤を持参していたことなどから教唆を認定、薬物の被害を防ぎたいと説明した撮影の理由も、結局は広告収入を得る目的があったとして「動機は独善的で酌むべき事情はない」と非難しています。
- 埼玉県警は、東京都足立区、運転手の男を大麻取締法違反(営利目的栽培)容疑で再逮捕しています。県警は大麻計約7300グラム(時価約3600万円)と液体肥料などを押収、男が大麻を育てて何者かに販売していた可能性があるとみて捜査を進めています。報道によれば、男は2024年11月、営利目的で、自宅2階の3部屋を使って大麻草126本(同1600万円)を水耕栽培した疑いがもたれています。2023年3月頃、家賃滞納を受け、川口市のマンションの一室に立ち入った裁判所執行官が、部屋から乾燥させた植物片を見つけて通報、部屋の契約状況から、男が浮上、男は、2024年11月から2025年1月までの間に、同法違反(所持)容疑などで逮捕され、起訴されていました。
- 依存症の予防教育・啓発に取り組む団体や精神科医らは、2024年、ガイドラインを改訂し、薬物使用者の人格を否定するような報道は避け、実名報道は最大限慎重に検討するよう求めています。薬物報道をめぐっては、依存症の予防教育や啓発活動に取り組むNPO法人ASK(アルコール薬物問題全国市民協会)や精神科医の松本俊彦さんらが2016年に「薬物報道ガイドライン」を策定、依存症への誤った理解や偏見にもとづくバッシング報道などを避けるよう、繰り返し求めてきました。具体的には、「白い粉」「注射器」などのイメージカットを使わない、「人間やめますか」といった薬物使用者の人格を否定するような表現を用いない、「犯罪からの更生」だけでなく「病気からの回復」という文脈で取り扱う、などを盛り込んでいます。2024年5月、京都府の薬物依存症の回復施設で、入所者が違法薬物を使用した疑いで逮捕され、実名報道が相次いだことをきっかけに同11月、ガイドラインが改訂され、デジタル記事がインターネット上の情報として残り続ける「デジタルタトゥー」となり社会復帰の妨げになることから、実名報道には「特段の慎重さを要する」としています。また、薬物報道が「施設への相談・回復者の利用・社会復帰支援を妨げる原因となっている」ことなどが加わりました。松本氏は報道で「実名報道やバッシング報道を通じて、地域で(回復のために)一生懸命活動している人たちが孤立してしまう。また、助かるはずの人たちが地域の回復施設から遠ざかることで、助からないこともあると意識してほしい」と述べています。
麻薬系鎮痛剤「オピオイド」の一種であるフェンタニルがトランプ関税の焦点と化した背景には、何十万人もの米国人が過剰摂取で命を落としたこの薬物の生産と密輸が関係しています。本コラムでは以前からフェンタニル問題については頻度高く取り上げてきましたが、今回の関税の問題で広く認知されるようになったものと思いますが、米国は長年、フェンタニルの一大供給源であるメキシコに対し、その生産や輸出、さらには麻薬取引に不可欠なマネロンを食い止める対策の強化を求めてきました。カナダが問題視されるようになったのは、メキシコの麻薬カルテルが同国に活動拠点を置いている(2024年、製造所を稼働していることが明らかになり、この製造所には、数週間操業が可能で致死量のフェンタニルを9500万回分作るのに十分な量の化学物質が準備されていた)ためです。トランプ大統領は、カナダとメキシコに対する関税発動の先送りで合意したものの、中国には10%の追加関税を課しています。これは中国が違法なフェンタニルの米国流入を阻止できていないとの認識に基づいています。供給される薬物の多くはメキシコの簡易製造所(ラボ)で生産され、同国北西部シナロア州の麻薬カルテルが主たる生産者で、ライバルの西部ハリスコ州の麻薬カルテルがこれに続いています。フェンタニルは過去10年間にメキシコの麻薬カルテルの重要な輸出品となり、米麻薬取締局(DEA)によると、こうしたカルテルは全米50州と世界40カ国以上に活動地域を広げているといいます。フェンタニルは製造コストが安く、巨額の利益をもたらし、密輸も容易な点が鍵になります。こうした認識のうえに、トランプ米大統領が署名したカナダとメキシコ、中国からの輸入品に関税を課す大統領令には800ドル未満の輸入品に対する免税措置(デミニミス・ルール)の停止が含まれており、これは合成麻薬「フェンタニル」とその前駆体物質が流入する抜け穴を封じる狙いがあると広く見られています。この流れに歯止めをかけることが、米国の3大貿易相手国に対する関税の動機として挙げられていることも知っておく必要があります。あらためて、2025年2月28日付日本経済新聞の記事「超大国むしばむ最悪薬禍 致死量40億人分、メキシコに渡った危険物質」を中心に、この問題について整理しておきたいと思います。報道では、「米国はいま、史上最悪の薬禍に苦しんでいる。23年にはフェンタニルを含む薬物の過剰摂取で、およそ11万人が死亡した。交通事故や銃、自殺などではない。米国で18~49歳の働き盛り世代を最も多く死なせているのが、フェンタニルなのである。米大統領のトランプは問題の元凶として中国を責め、その片棒を担いでいるとメキシコへの非難も強めている」とのアウトラインをしめしたうえで、日本経済新聞社が独自に調査した結果、「メキシコでのフェンタニル違法取引の摘発については、これまで多くが明らかになることはなかった。それだけにメキシコ税関が示した押収実績は脅威そのものといえる。たとえばマンサニージョ港で見つかった3025リットルもの「1-ブロモ-2-フェニルエタン」だ。比重から計算すると重さは約4トンになる。致死量わずか2ミリグラムと強力な毒性を持つフェンタニルをつくれば、最大40億人を死に至らしめる。フェンタニルはもはや化学兵器と等しく、米国も危機感は強い。メキシコ税関が公開した情報だけでは、押収したフェンタニル原料がどこから来たのか、どこへ向かおうとしていたのかはわからない。それでも米国は中国が「新アヘン戦争」をしかけているとの立場を崩さない。米国が描く負の構図は本当なのか」という衝撃的な事実と問題意識が提示されています。さらに、「SNSでは連日のように「ゾンビランド」と題した投稿があがる。全米各地の街角で増えていく中毒患者らと、それを許してしまっている政治や社会への自嘲めいた言葉がネット空間に広がる」、「米疾病対策センター(CDC)によると、フェンタニルなどの過剰摂取による死者数は22年までの5年間で6割も増えた。一日300人が亡くなっている計算だ。23年は前年比でわずかに減少したが、水準はなお高止まりしている。フェンタニルは「オピオイド」と総称する麻薬性鎮痛剤の一種だ」、「従来型の麻薬は植物成分をもとにする。コカインはコカの葉を使い、ヘロインはケシからつくるが、原料栽培のための広大な土地や多大な労力が必要だった。フェンタニルは生産にかかるコストが圧倒的に安くすむ。効果もモルヒネの約100倍、ヘロインの約50倍と極めて強い」、「過剰摂取すると心拍数が低下し、時に心停止に陥る。依存性も高い」といった現状と害悪の大きさが取り上げられています。そして、「メキシコでは米国への不満が募る。米国からメキシコには絶えず麻薬絡みで銃器が不法に流入し、各地で次々と犯罪を生んでいるためだ。フェンタニル危機は麻薬を求める米国内にこそ原因がある。メキシコ政府は再三にわたって米国側に協力を求めたが、その主張を真剣に取り合ってこなかった」というメキシコ側の視点からみた本問題が指摘されます。関連して、メキシコのシェインバウム大統領は米税関・国境取締局(CBP)による合成麻薬「フェンタニル」の押収量が2025年1月は2024年10月比でほぼ半減したと示し、「メキシコ側で押収し、米国に渡るのを防いでいるからだ」と述べ、メキシコ政府の大規模な摘発作戦の効果を強調しています(メキシコ政府は2024年10月から2025年2月下旬まで北部の米国境付近などで大がかりな摘発作戦を展開、麻薬カルテル関係者や密輸に関与した容疑者ら1万3000人あまりを逮捕し、約1.3トンのフェンタニルを含む113トン弱の麻薬を押収しています。さらに、麻薬組織に関与した受刑者や被告ら29人を米国に引き渡しています。1985年にDEA捜査官の殺害に関与したとされ、麻薬密売の罪でニューヨーク州で起訴されているラファエル・カロ・キンテロ被告ら少なくとも2人については、同州の連邦地裁で罪状認否が行われます。このほか、凶悪麻薬組織として知られる「シナロア・カルテル」のフェンタニル密売部門幹部や、近年台頭した「CJNG」と呼ばれるカルテルのリーダーの兄弟も引き渡されています。米当局者はCJNGとシナロアについて、過去数年間に米国にフェンタニルを流入させた主要なメキシコ麻薬組織としています)。なお、日本経済新聞の本記事では今後の続編に向けて、「見えてきたのはつながる世界の落とし穴ともいえる、国際麻薬ネットワークの輪郭だった」と結んでいます。こうした実態をふまえつつ、今回の措置については、それでフェンタニル問題が解決するのかと言えばそうではないという状況だといえます。前述した「デミニミス・ルール」が完全に廃止されない限り、トランプ氏のアプローチがフェンタニルの流入を抑えるのにどれほど効果的なのかは定かではないためです。ロイターによれば、低価格貨物は入国港で検査されない場合が多いため、医薬品やその原料が検出されることなく輸入されがちで、ロイターが2024年に実施した調査では、中国の化学品貿易業者がデミニミス・ルールを悪用して前駆体を米国に持ち込み、さらに国境を越えてメキシコに運んでいる実態が明らかになっています。米国は以前から中国の供給業者やメキシコの犯罪組織がフェンタニルを米国に持ち込んでいると非難していますが、トランプ氏のカナダに対する大統領令にはカナダからの麻薬密売が拡大しているとの長い前文が付いており、そこには「南部国境での課題は国民に最も意識されているが、北部国境もこれらの問題の例外ではない」などと記され、デミニミス・ルールによる麻薬密売が「米国に公衆衛生の危機をもたらした」と付け加えられている点に注目する必要があります。
イスラム原理主義勢力タリバンが実権を握るアフガニスタンで2024年11月末以降、麻薬対策や民間セクター支援を後押しする国連の作業部会が相次ぎ開催されています。国連はタリバンによる女子教育の制限といった人権侵害に厳しい姿勢で臨む一方、麻薬対策などで国際社会の支援継続を促し、アフガン国民の窮状を救いたい考えです。国連は2024年11月、アフガンの麻薬対策を後押しする1回目の作業部会を開催したのに続き、2025年2月、第2回作業部会を開催、タリバンは2021年に実権を掌握した後、ケシの実栽培の摘発を全土で進めてきており、その結果、国内の作付面積は約9割縮小、ヘロインの国際価格が上昇する状況にもつながっています。一方、農家の麻薬生産への回帰を防ぐため、代替作物と生計の確保が急務となっています。国際社会はアフガンでの作付面積縮小などを高く評価しており、多くの問題を抱えるタリバンと協力しながら対策を講じる余地があるとみられています。国連アフガン支援団(UNAMA)のオトゥンバエワ代表は「麻薬対策はアフガン周辺地域の平和と安全にとっても重要だ」と力説しています。
(4)テロリスクを巡る動向
1995年3月に東京都心で起きたオウム真理教による地下鉄サリン事件から間もなく30年を迎えます。事件では14人が死亡、6千人以上が重軽症を負いましたが、「被害者の支援団体PO法人「リカバリー・サポート・センター」の調査によれば、被害者のうち約6割が、2023年時点で「目が疲れやすい」という不調を訴えており、事発生から5年後(2000年)と近い割合で、サリンによる後遺症が続いているとみられています。事件直後には、被害者の多くに瞳孔の収縮(縮瞳)が確認されており、センターは後遺症につながっているとみています。また、2023年の身体の症状は「体が疲れやすい」が44.1%、「体がだるい」が38.5%で、2000年以降、ほぼ横ばいとなりました。「手足がしびれる」は26.7%、「全身いたる所に移動する原因不明の痛み」は11.3%でしたが、目や身体はいずれの症状も、加齢が影響している可能性も考えられるとしています。また、心の症状では、2000年に17.9%だった「眠れない」が2023年は26.7%に増加、「地下鉄や事件現場に近づけない」は17.4%、「突然に事件をありありと思い出す」は15.9%となりました。心的外傷後ストレス障害(PTSD)を調べる詳細な質問もしており、24.1%でその可能性が高いことも明らかになっています。今なおはっきりと爪痕を残す非道なテロ事件は、二度と起こしてはならないと強く思います。地下鉄サリン事件では、日比谷線小伝馬町駅構内での被害が突出して多いことがわかりました。地下空間を狙われ、世界に衝撃を与えた未曽有の化学テロ事件の実相が改めて浮き彫りになりました。小伝馬町駅が被害者全体の4分の1超を占めていることについて、裁判記録や東京メトロによると、オウム真理教幹部の林泰男元死刑囚が1995年3月20日午前8時ごろ、日比谷線(8両編成)の第3車両でサリン入りのナイロン3袋(計約1.8リットル)を傘で何度も突き刺しましたが、電車は小伝馬町駅の1駅手前に当たる秋葉原駅に向かって走行中で、実行役5人の中でも林元死刑囚が刺した袋の数は最も多かったといいます。午前8時2分ごろに小伝馬町駅に到着、新聞紙に包まれ、刺激臭を放つ3つの袋は、事情を知らない乗客によってホームに蹴り出されたことが大きな要因となったようです。原因が猛毒のサリンだと分からないまま、汚染が広がった危険なところを何の防護もしていない多くの乗客が通ったことが被害を大きくさせた可能性が指摘されています。日本政府は化学テロの兆候があった際の対応として、厚い布で口と鼻を覆って疑わしい場所からすぐ離れ、屋外では汚染地域の風上にいるようにし、早く避難場所を見つけるよう呼びかけている。傷病者への治療は一刻を争うため、怪しいと感じたら周囲に知らせ、速やかに警察や消防に通報することが、救命につながるとしていますが、たとえ知っていいたとしても、適切な対応ができるかと言われれば多くの方には難しいのも実情であり、化学テロの脅威や対処法について、もっと周知していく必要があります。地下鉄サリン事件に先立ち、坂本弁護士一家殺人事件も発生していますが、当時、坂本弁護士の同僚らが対峙したオウム真理教の実像とその教訓については、今なお、若者が取り込まれている実態をふまえれば、当時と社会状況がさほど変わっていないという恐ろしい現実を突きつけられます。2025年3月3日付読売新聞の記事「他の価値観を踏みにじる教団、いち早く問題を見抜いていた坂本弁護士…同僚の小島周一弁護士」でその一端をうかがい知ることができます。いくつかピックアップすると、「坂本君がオウムのことを調べていくうちに、非常に高額なお布施をとっていることがわかりました。「麻原のDNAに秘密がある」などと科学的根拠のないことを宣伝し、「麻原が入った風呂の水」をペットボトルに入れて、1本1万円で売っていました。「詐欺商法」といってもいいもので、坂本君は、弁護士としてきちんと追及しようとしていました」、「坂本君がオウムの何に怒っていたのかというと、未成年の子どもを出家させて、他の考えに触れる機会をシャットアウトしていたことです。全財産を寄付させ、経済的基盤を奪った上で出家させる。オウムにすがるしかないようにし、「これは違うんじゃないか」と考えても、自分で選択する道がなくなる。彼は、そのことを怒っていた。坂本君は、「どんな宗教を信じるかは子どもの心の問題」とも言っていました。でも、信教の自由はあっても、他の価値観とか他の思いを全て踏みにじっていいというわけではありません」、「麻原は「こうすべきだ」「これが正しい」と断言します。その言葉に乗っかり判断を委ねてしまえば、自分で考えたり迷ったりする必要はなく、ある意味、楽なんですよ。そうなると、「自分は最終解脱者だ」と自信満々に断言する人間にハマってしまう人が出てくることになります。そうならないためには、自分の頭で考え、判断する力を身につけることが大切です」、「格差や貧困など社会が色々な矛盾を抱える中、状況が好転する希望が持てないと、そうした矛盾に問題意識を抱く若者たちを集める力を持つ何かが出てきてしまう。オウムのような集団が生まれる根っこは、30年前も今も変わらないと感じています」というものです。
2023年4月に岸田首相(当時)が和歌山市の選挙演説会場で襲撃された事件で、和歌山地裁は木村被告に懲役10年の実刑を言い渡しています。裁判員らは殺人未遂罪など起訴された五つの罪を全て認定し、「周囲を危険にさらした」と非難しています。被告側は公判で、殺人未遂罪について「殺意はなく、傷害罪にとどまる」と主張、爆発物取締罰則違反に関しても「人にけがをさせる目的はなかった」と否認し、懲役3年が妥当と訴えていました。最大の争点は木村被告に殺意があったかどうかで、判決は「被告は、爆発によって相当離れたところにいる人も死傷することを認識していた」と判断、事件で使用された爆発物について、火薬を詰めた筒を密閉していた蓋が約60メートル先のコンテナにめり込む威力だったとし、「殺傷能力があることは明らか。自ら情報を集めて製造した被告が、殺傷能力があると認識していなかったとは言えない」としています。裁判長は、木村被告が否認した罪も含めて認定し、「社会に与えた不安感は大きい」などと指摘、犯行の動機については、選挙制度に関する自身の主張を広く知ってもらうためだったとし、「世間の注目を集めるため、周囲の人たちを危険にさらした。短絡的で、厳しい処罰が必要」と言及しています。事件を巡っては、最高検が、木村被告に対する取り調べで検事に不適正な発言があったと認定、ただ、被告が黙秘を続けたため、公判では、検察側、弁護側とも取り調べに言及することはありませんでした。複数の関係者によると、検事は2023年5月の取り調べで、被告が引きこもりだったことに触れ、「かわいそうな人」「木村さんの替えはきく」といった趣旨の発言をしたとされ、最高検は、検事の発言に被告の人格を否定するような内容が含まれていたと判断しています。木村被告については、「まずは日本の子どもたちに、栄養を十分に届けるにはどうすればいいか」から政治家を目指すも選挙制度に不満を持ち、国家賠償請求訴訟を起こすも敗訴、SNSでもほとんど反響を得られなかったといいます。そこから、「関心を集めるため」事件を思いついたとするも、動機の解明は不可解なまま結審しています。読売新聞の報道で社会心理学が専門の立正大学・西田公昭教授は、「現状への不満のほかに、若い世代の思いが既得権層と呼ばれる上の世代に影響力を持てないという『無力感』と『焦燥感』が、攻撃性につながったのではないか」、無力感や焦燥感が強く影響すると、気持ちがいらだって視野が狭くなり、思いついたことを実行に移しやすくなると指摘しています。さらに西田教授は、今回の事件の2022年7月、奈良市で起きた安倍元首相銃撃事件との関連に着目、「安倍氏の銃撃事件が世間の注目を集めたという現象を体験し、『同じように襲撃できないか』と直感的に思いついたのではないか。『モデリング』と呼ばれる現象だ」と指摘しています。木村被告のように単独で計画したとされる犯罪の場合、周囲のかかわりによって防げる可能性もあるといい、「『子どものため』という動機は素晴らしい。その行動がうまくいかなくても『イライラするのではなく、若いからできることは他にもある』とアドバイスする人がいれば、防げた可能性がある」と指摘しています。テロ対策において「社会的包摂」として、地域住民などがコミュニティの中に招き入れることによって、「ローンオフェンダー」として独り勝手に過激思想にのめり込んでしまう状況が和らぐ可能性があるとも言われており、前述したオウム真理教の「格差や貧困など社会が色々な矛盾を抱える中、状況が好転する希望が持てないと、そうした矛盾に問題意識を抱く若者たちを集める力を持つ何かが出てきてしまう。オウムのような集団が生まれる根っこは、30年前も今も変わらない」との関連でいえば、そういった若者を「集める力」としての「社会的包摂」が極めて重要だと感じます。
公判で明らかになったのは、検察がいう「現職総理を狙った悪質なテロ行為」を、組織に属さないたった一人の人間に、それもわずかな準備期間で許してしまった点です。「特別な技術はいらない」という被告の言葉からは、治安上の課題が浮かびます。木村被告の公判供述によれば、犯行に用いた黒色火薬は、ネット情報を参考にホームセンターなどで材料を調達、過去に「理科の実験をした」程度の素人同然の化学知識しか持ち合わせていませんでしたが、誰に相談することもなく、半年間で製造に成功しています。警察当局は、同様に自作の武器が使われた2022年の安倍元首相銃撃事件後、ネット上の有害投稿対策を厳格化し、削除を要請する対象に「爆発物・銃器等の製造」を加え、岸田氏の事件後はSNS上の投稿監視も強化しています。もっとも国内サイトからは排除できても海外サイトの規制は困難な上、学問としての「科学」との線引きはそう簡単ではなく、有効な対策が取れていないことも事実です。さらに公判では、複数の爆発物を所持した被告が、当時の現職首相に容易に接近できた実態も明らかになりました。犯行時、被告と岸田氏との距離は約10メートルで、持参のリュックサックには爆発物2個のほか、瓶に入れた火薬、ライター、包丁、不意の起爆に備えた護身用の鉄板まで入っており、会場入り口で手荷物検査を受けていれば、見逃されることはなかったはずの所持品でした。安倍元首相の事件を受け、警護態勢は強化されていたはずですが、被告は演説会場で「警護員のような人は見たが、(心理的な障害は)あまりなかった」と振り返っています。安倍元首相の事件後に全面改定された「警護要則」に基づき、警察庁による警護計画の事前審査も行われましたが、結果的にセキュリティの穴は見過ごされていたことになります。判決によれば被告が事件を起こした動機は、世間に注目され、選挙制度に関する自分の主張を知らしめるためであり、独自の考えに基づく生粋の「ローンオフェンダー」で、「極めて短絡的」(地裁判決)だったがゆえに、警察当局が事前にリスクを把握するのは困難だったといえます。産経新聞でテロ対策や警備に詳しい公共政策調査会研究センター長の板橋功氏は、組織性のないローンオフェンダーは端緒がつかみにくくネット情報の規制にも限界があると指摘、「選挙の警護態勢をより強化し、現職総理の演説は聴衆の手荷物検査の上で、屋内で実施するなどセキュリティの高い場所に限定する必要がある」と指摘しています。なお、2024年に実施された衆院選では全国の警察が警戒を強め、警察庁によると、演説会の手荷物検査は99%で実施し、金属探知機の導入は98%に達したほか、警護対象者の背後に壁がある場所を選び、聴衆らとの距離を保つ対策も進められ、約500件の警護計画を審査した警察庁は82%で修正を求めたといいます。インターネット上にあふれているとされる武器情報などの監視も強めており、安倍元首相の事件後、警察庁は銃や爆発物の製造情報について、ネット事業者に削除を求める取り組みを開始、2024年6月までに16件の削除を依頼し、うち7件で実現したといい、銃の不法所持をあおる行為に罰則を設ける改正銃刀法も成立しています。
「ローンオフェンダー」の問題はいまだにリアルな喫緊の課題です。2024年10月の衆院選期間中、首相官邸などを襲撃したとして殺人未遂容疑などで逮捕された臼田容疑者が乗っていたワンボックスカーからは、大量のガソリン、クマ撃退用スプレー、火炎瓶、カプサイシンを含んだ液体など、大量の危険物が見つかっており、周到に用意していたとみられ、大惨事になっていた恐れがあります。臼田容疑者は逮捕後の調べに黙秘していましたが、組織に属さず単独でテロを行う「ローンオフェンダー」の疑いが持たれています。近年、こうした単独犯による国政選挙期間中の襲撃事件が相次いでおり、ローンオフェンダー対策は世界各国の課題となっており、日本も対策を強化しています。警察庁は2024年4月、全国の警備、公安部門に司令塔を置き、兆候情報を一元化する態勢を構築、警視庁公安部は2025年4月に、これまで2つの課に分かれていた、情報集約と爆発物の材料となる市販品の購入者への身分確認などの対策を専従で担当する課を新設します。警察当局は現場の警察官が把握した情報を吸い上げ、サイバーパトロールやAIを使ったSNSなどの文脈解析も取り入れていますが、組織性のないローンオフェンダーは端緒がつかみにくく、ネット情報の規制にも限界があることから、兆候をいち早くつかみ、犯行の芽を摘めるかが課題となっています。
商業施設「イオンモール」の中で京都府内最大の面積を誇るイオンモール京都桂川で、京都府警南署がテロ発生などを想定した訓練を実施しています。従業員や警備員らが傘や買い物かご、カバンなどを使った護身術を学ぶなどし、防犯への意識を高めました。冒頭、京都府警の警察官が講師を務め、従業員らに傘などの身近な道具を用いた護身術を丁寧に指導、そばで見ていた買い物客も飛び入りで参加し、身を守る術を学んだといいます。同様の訓練は従来、営業時間前に従業員向けに実施していましたが、今回は初の試みとしてオープンな形を採用したとのことです。ゼネラルマネージャーは「現場だけではすべてのお客さまを守ることができない。実際に体験してもらうことで、より防犯意識を高めていただきたい」とねらいを語っています。刃物を持った不審者への対処訓練では、指導を受けた警備員が大きな声を出して不審者役の署員に対応。本番さながらの緊迫した雰囲気となったようです。こうした訓練の手法は今後、全国的にも拡がってほしいものだと思います。
外務省の安藤・アフガニスタン担当特別代表は、東京都内で、訪日中のアフガニスタンを統治するイスラム主義勢力タリバンの暫定政権の幹部らと会談しています。安藤氏はタリバン幹部らに対し、人権尊重や民主的な政治プロセスの推進を働きかけたといいます。アフガニスタンからの米軍撤退に伴いタリバンが実権を握った2021年8月以降、タリバン関係者の来日は初めてでした。タリバンは女性の就労を厳しく制限し、中学生以上の女子教育も禁止しているため、日本政府としては人権の尊重を求めつつ、幅広い国民参加の下で民主的プロセスに向けて進むよう促したとみられます。今回、タリバン幹部らを招いた日本財団は、アフガニスタンで女性や子どもらが厳しい環境下で生活を強いられていることを踏まえ、「将来の国家建設を見据えた広い視野を醸成し、弱者に対する国際社会からの人道支援を幅広く受け入れる必要性を認識してもらう」ことを目的としています。なお、タリバンは、戦時下の暮らしに疲弊していた国民の支持を集め、1996年には政権の樹立を宣言、ただ、イスラム法を独自に解釈して女性の就労や女子教育を厳しく制限したほか、全身を布で覆うブルカの着用を求めるなど、女性への抑圧策も進めましたほか、外国勢力の支配を排除することも大きな目標とし、2001年3月には中部バーミヤンの大仏を爆破し、国際的な批判を浴びています。国連によると、全人口約4400万人のうち、人道的な支援を必要としている人が半分ほどを占めていますが、外国からの支援や投資が減り、失業も深刻になっています。一方、タリバンが統治する側に回ったことで、民間人が犠牲になる犯罪が減り、治安は改善したと言われています。街中には治安部隊による検問や監視カメラ、タリバンによる命令を国民が守っているかを確認する勧善懲悪省の職員らが配置され、「自由がなくなった」との声もきかれるところです。日本政府はタリバンの暫定政権を正式な政府として認めておらず、今回は、民間シンクタンクである笹川平和財団などが招待しました。タリバン幹部らとの対話の機会を設け、アフガニスタンの安定や発展に向けて貢献する姿勢を見せる狙いがあるとみられています。日本は、米国主導の「テロとの戦い」によって2001年にタリバン政権が崩壊した後、アフガン復興支援国際会議を開くなど、国造りに深く関わってきました。タリバンは、日本からの支援拡大や外交的な関係の強化に期待しています。長年続いた戦闘によって発展が遅れている地域が多く、タリバンの幹部からは「戦後に急成長を遂げた日本の復興から学びたい」との声も聞かれます。タリバン側にとっては、欧米諸国とも関係が近い日本と関係を強化することで、国際的な孤立を避け、統治組織としての正統性を示す狙いもありそうです。人権問題が解決していないからすべての関係を絶つだけでは、人権問題の解決にはならないこともあり、こうしたアプローチも極めて重要であると考えます。
海外のテロリスクを巡る最近の報道から、いくつか紹介します。ISの活動の活発化やローンオフェンダーによる犯行の増加、SNSの犯罪インフラ性による過激化の実態など、世界的にテロリスクの高まりを感じさせます。
- シリア人権監視団(英国)のアブドルラフマン代表は、シリアで2024年12月のアサド政権崩壊後、過激派組織「イスラム国」(IS)の勢いが「再び活発化している」とし、IS再興の恐れがあると述べています。政権崩壊後の暫定政府は国内を部分的にしか支配できておらず、統治能力が不十分だと懸念を示しています。暫定政府は過激派「シリア解放機構(HTS)」が主導、HTS指導者のアハマド・シャラア(通称ジャウラニ)暫定大統領は全武装組織の解散を表明しましたが、アブドルラフマン氏は約30の武装集団がシリアで活動中と指摘、ISと同様に過激思想を持つ一部集団がISに加わり、活動を拡大させていると指摘しています。同氏は暫定政府に関し、人員不足と言及、首都ダマスカスと北西部イドリブ周辺を掌握するが影響力が及んでいない地域があり「国内情勢は依然、不安定だ」と述べています。また、アサド前大統領と同じ国内少数派のイスラム教アラウィ派や前政権関係者への「復讐」が横行し、多くの市民らが宗派などを理由に殺害されたとも述べています。ISの勢いが再び活性化している状況は大きな懸念となりますが、やはり、シリアの状況の安定は一筋縄ではいかないようです。
- トルコのフィダン外相は、シリアの暫定政権と連携し、シリア国内でISの掃討作戦を実施する方針を明らかにしています。トルコには、敵視するクルド系武装組織の影響力をそぐ意図があるとされます。作戦には、近隣のイラクとヨルダンも協力するとしています。ISは、2011年からのシリア内戦の中で勢力を拡大し、一時はシリアとイラクの広域を支配、内戦を巡り、2024年12月にシリアのアサド政権が崩壊した一方、IS残党は存在し続けています。これまで、シリア北部では、トルコと敵対するクルド人主体の「シリア民主軍」(SDF)が米軍の支援でIS掃討作戦を行ってきましたが、これをトルコが担うことで、SDFの存在感低下を狙っているとみられます。SDFはシリア北部の一部地域を支配しており、アサド政権崩壊後はトルコの影響下にある武装組織との衝突が激化しています。
- アフガニスタンの首都カブールにある都市開発省の庁舎で、自爆テロとみられる爆発があり、1人が死亡、3人が負傷しています。犯行声明は出ていません。現地では、アフガンを支配するイスラム主義組織タリバンと敵対するISなどによるテロ事件が相次いでおり、その前にも部クンドゥズの銀行前で自爆テロがあり、少なくとも5人が亡くなっています。
- 2015年の「欧州難民危機」以降、内戦中だったシリアやアフガニスタンなどからの難民を積極的に受け入れてきたドイツで、難民が刃物で襲撃したり、車を暴走させたりして多くの市民を死傷させる事件が相次いでいます。ドイツ南部ミュンヘンで、労働組合のデモ隊に乗用車が突っ込み、少なくとも28人が負傷、地元警察は、運転していたアフガニスタン人の男性を拘束し、事件の背景を調べています。報道によれば、拘束された男性は難民申請中だったといいます。ミュンヘンでは2025年2月14日から各国の要人らが参加する安全保障会議が開かれる予定があり、事件は無差別攻撃との見方が出ています。2025年1月には南部アシャッフェンブルクで、幼稚園児らが刃物で襲われ、2人が死亡、2024年12月には東部マクデブルクのクリスマスマーケットに車が突っ込み、6人が死亡、同8月には西部ゾーリンゲンで、イベントの来場者が刃物で襲われ、3人が死亡、同5月にも西部マンハイムで、反イスラムの集会が刃物で襲撃され、警察官1人が死亡しています。4事件の容疑者は、アフガンやサウジアラビア、シリアからの難民の男性でした。ショルツ政権は、難民の大規模な受け入れを進めたメルケル前政権の路線を踏襲してきましたが、こうした凶悪事件の頻発に危機感を強め、重大犯罪を犯した難民の国外退去処分の迅速化など対策を打ち出したものの、国民の不安解消には至っていません。
- オーストリア南部フィラッハで、シリア出身の男が通行人を次々と刃物で襲い、14歳の少年が死亡、5人が重軽傷を負っています。無差別に襲撃したとみられ、男は現場で警察に逮捕されています。男はISに忠誠を誓っていたといいます。報道によれば、当局の捜索で男の自宅からISの旗が見つかっていますが、これまで特に当局の目を引き付けるような行動は見られておらず、いわゆるローンウルフ型の単独テロ行為を防ぐ難しさが浮き彫りになっています。ドイツ当局は、男がTikTokのコンテンツを通じて3か月で自ら急速に過激化した(オンラインないし対面で誰とも接触していなかったといい、犯行をそそのかした人物も存在しない)との見方を示しています。TikTokはユーザーに興味を持つ分野のコンテンツを大量に提供する仕組みのため、その分野にのめり込む傾向が強まりやすいといいます。男は2020年にオーストリアに来て難民認定を受けていたといいます。
- 豪政府は、極右の国際オンラインネットワーク「テログラム」に対し資産凍結などの金融制裁を発動しています。テログラムとの取引も禁止し、違反した場合の最高刑は禁錮10年としています。豪国内では、イスラエルとパレスチナ自治区ガザの紛争に関連して反ユダヤの憎悪犯罪が断続的に起きており、今回の制裁は警戒強化の一環となります。報道によれば、テログラムは英国を拠点とし、白人至上主義などを唱えており、欧米やトルコでの襲撃事件との関連が指摘され、米英両政府はテロ組織に指定しています。ウォン外相は声明で「制裁は暴力的過激派の活動を阻止し、扇動を防ぐための取り組みだ。豪州に憎悪の余地はない」と強調、豪政府は同時に、レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラの最高指導者ナイム・カセム師への制裁も決めています。
- 英国議会は2025年2月、薄いゴムボートで英仏海峡を渡って来る密入国者の急増を抑えるため、渡航の手引きをする犯罪組織を取り締まる法案を審議していますが、この法律では密入国を阻止することはできないと専門家が指摘しています。この「国境警備・亡命・移民法案」や欧州各国で不法入国阻止のために施行されている法律について、間違った対象を標的にしていると指摘、欧州を目指す人々を、さらに危険な旅へと駆り立てることにもなるといいます。国連薬物犯罪事務所(UNODC)の研究員、クレア・ヒーリー氏は「密入国を阻止したいのであれば、需要に目を向けるという異なるアプローチを取るべきだ」と述べ、「難民や移民が密入国業者に近づくのであって、その逆ではない。つまり、渡航したいという需要は、合法的な手段を利用できない難民や移民の側から生じている」としています。欧州全域で密入国対策が採られていますが、調査によると効果は上がっておらず、入国を手助けするのは、国際的なギャングよりも個人や非公式な協力者である場合が多いといいます。この法案では、移民犯罪に対処するためにテロ対策の各種法律が初めて適用されることになっており、移民局と犯罪取締機関が犯罪行為に迅速に介入できるよう法執行権限が拡大され、小型ボートの部品など、不法入国を容易にする物品の供給が犯罪行為とされます。密入国の仲介者は移民自身であることが多く、単独で、または臨時の協力者と共に行動している。時には、組織化された集団に支払う代金を節約するため、自らボートを操ることもある。「(末端の犯罪者を)逮捕し起訴しても、彼らは替えが効くし、密入国業者ですらない移民や難民であることを考えると、ほとんど効果はないだろう」とヒーリー氏は指摘しています。
- イスラム教徒への攻撃事件を監視する英団体「テル・ママ」がまとめたデータによると、2024年には英国でイスラム教徒への憎悪事案が過去最多を記録、特にパレスチナ自治区ガザでの戦争がインターネット上の憎悪を大幅に激化させたといいます。テル・ママが確認したオンライン上と対面での事案は合わせて5837件、2023年は3767件、2022年は2201件で、データは2012年以降のイングランドとウェールズの事案を集計しているものです。テル・ママは「中東紛争はオンライン上の反イスラム教憎悪を大幅に激化させた」とし、「イスラエルとガザの戦争、サウスポートの殺人事件や暴動により、2023~2024年にテル・ママに報告された反イスラム教憎悪事案が急増した」と述べ、イマン・アッタ代表はこの増加は容認できないもので、将来に対し深刻な懸念となると述べています。
- イタリアのサイバーセキュリティ当局は、銀行や空港など約20の国内ウェブサイトが親ロシア派ハッカーの攻撃を受けたと発表しています。イタリアとロシア間の緊張に関連があるとみられるといいます。イタリアのマッタレッラ大統領は2025年2月、ロシアのウクライナ戦争を第二次世界大戦前のナチスドイツの拡張主義になぞらえ、この発言にロシアが激怒し、イタリアのメローニ首相が大統領を擁護した経緯があります。イタリアのサイバー当局によると、攻撃は親ロシア派ハッカー集団「Noname057(16)」によるもので、銀行最大手インテーザ・サンパオロ、モンテ・デイ・パスキ・ディ・シエナ、イクレア・バンカのほか、ミラノのリナーテ空港とマルペンサ国際空港などのウェブサイトが標的となりましたが、ただ大きな混乱は生じなかったということです。
- 米国務省は、イエメンの親イラン武装組織フーシ派を「外国テロ組織(FTO)」に再指定すると発表しています。ルビオ米国務長官は、フーシ派の活動は中東の米民間人や職員、米国の緊密な地域パートナーの安全のほか、世界の海上貿易の安定を脅かしていると指摘、「米国は、正当な国際ビジネスという名の下に、フーシ派のようなテロ組織と関わるいかなる国も容認しない」と言明しています。バイデン前政権はフーシ派を「特別指定国際テロリスト」に指定したものの、これよりも厳しい経済制裁が可能となるFTOの指定は見送っていました。
(5)犯罪インフラを巡る動向
インターネット上の広告のあり方を議論する総務省の有識者会議は、広告主向けの指針案を提示しています。自社広告が意図せず悪質サイトに掲載されればブランド毀損などのリスクがあるとして、経営陣がネット広告戦略に関与することを求めています。前回の本コラム(暴排トピックス2025年2月号)でも取り上げたとおり、拡大するネット広告市場の商流は複雑で、掲載先も無数にあるため、広告主が自らの広告の配信先をつぶさに把握するのは困難であるうえ、広告主の意図とは関係なく、広告が違法コンテンツをアップロードしたサイトや偽・誤情報を拡散するコンテンツに表示されるケースがありえます。広告のリスクに現場担当者だけで対処することは難しいとし、経営層の関与を求めています。ネット広告の役員担当者を置いて関連情報を集約することや、ブランド向上に重きを置いた指標を社内の目標設定に活用することを挙げています。また、こうした事態におけるリスクとしては、広告を目にした消費者が企業にネガティブな感情を抱くことをあげたほか、クリック数の水増しで広告主に過大な広告料を請求する「アドフラウド」詐欺にあうリスクも盛り込まれました。広告料が悪質サイトの収益源となることで「不健全なエコシステムに加担するリスク」も指摘し、社会的責任の観点からも対応を求めています。この点は筆者が以前から主張しているものであり、広告主が漫然と放置するのではなく、自らリスクを把握し、リスクを低減していく姿勢を示していくことが極めて重要だと思います。対策として、広告の配信状況を検証する「アドベリフィケーション」ツールの導入なども明記しています。ネット広告を巡っては、著名人になりすました広告の詐欺問題などが社会問題化しました。警察庁によると、2024年のSNS型投資詐欺の認知件数は前年比約2.8倍の6380件に急増、自身の名前を使われた実業家の堀江貴文氏や、衣料通販大手「ZOZO」創業者の前沢友作氏らも対策を求め、政府が2024年6月にまとめた詐欺に関する総合対策に基づき総務省はSNSを運営するプラットフォーム事業者に対し、広告審査の強化や削除を要請しています。この他、偽情報/誤情報対策を巡っては、2025年5月までに情報流通プラットフォーム対処法(改正プロバイダー責任制限法から名称を変更)が施行され、大規模プラットフォーム事業者には誹謗中傷などの情報の削除要請を受け付ける窓口の整備や、削除基準の公表が義務付けられています。総務省はこうしたSNS事業者に対応強化に加え、広告主側にも今回の指針を通じて、一定の取り組みを求める考えです。
▼総務省 デジタル空間における情報流通の諸課題への対処に関する検討会 デジタル広告ワーキンググループ(第7回)配付資料
▼資料7-1 デジタル広告の適正かつ効果的な配信に向けた広告主等向けガイダンス(案)
- 広告主等が考慮すべきリスク
- デジタル広告が広告主の意図しない媒体に配信されることにより、例えば以下のようなリスクが考えられる。広告主等においては、運用型広告を使用するメリットだけでなく、これらのリスクを認識した上で、適切に対応することが望ましい
- ブランドセーフティに関するリスク(ブランドの毀損)
- ブランドセーフティとは、デジタル広告の掲載先に紛れ込む違法・不当なサイト、ブランドを毀損する不適切なページやコンテンツに配信されるリスクから広告主のブランドを守り、安全性を確保する取組のことである。近年は特に、広告主が意図していない掲載先に広告が配信されていることがSNS等で拡散され、ブランドイメージの悪化や利用者からの信頼低下等のリスクも指摘されている。また、ブランドセーフティを意識した対策を行わない場合、アドフラウド等の後述するリスクの発生につながる危険性もある。
- 【事例】ブランドセーフティに係るアクシデント
- 2017年、大手動画共有プラットフォームにおいて国際的な過激派組織に関連する動画に多くの企業の広告が表示されていたという事態が、海外メディアによって報じられた。広告主企業のブランドを毀損する可能性があるのみならず、コンテンツを制作し共有している反社会的勢力に広告収入をもたらす可能性があること等を理由に、多数の広告主が当該動画共有プラットフォームへの広告配信を一時的に引き上げる事態となった
- 2025年2月に総務省が行った広告主への意識調査によれば、約3割の広告主がデジタル広告によるブランドセーフティに関する被害の経験があると回答した。
- また、偽・誤情報が掲載されている記事等に掲載されている広告を見た時の広告主への印象については、92%の人が広告主の印象が悪くなると回答した。
- さらに、印象が悪くなると回答した人の中で、偽・誤情報が掲載されている記事等への広告掲載を防ぐためにどのステークホルダー(広告主、広告代理店、広告プラットフォーム、媒体)が最も対応すべきなのかについては、他のステークホルダー(広告プラットフォーム:25.2%、広告を掲載している媒体:21.8%)を上回る35%の人が「広告主が対応すべき」と回答した。
- アドフラウドにより広告費が流出するリスク(無効トラフィック(Invalid Traffic:IVT))
- 無効トラフィックとは、自動化プログラム(bot)によるクリック等、広告配信の品質の観点で広告効果の測定値に含めるべきではないトラフィック(広告配信)のことである。アドフラウドとは、botを利用したり、スパムコンテンツを大量に生成したりすることで、本来カウントするべきではないインプレッション(広告表示)やクリックのカウント回数等の無効なトラフィックを不正に発生させ、広告費を詐取する行為のことである。
- アドフラウドにより、広告費の流出や広告効果の低下が発生する。近年の調査によれば、2023年の世界のアドフラウド被害額は約842億ドル(約11.8兆円、デジタル広告費全体の約22%)であった。また、2022年上半期の日本のアドフラウド発生率はデスクトップ/モバイルウェブの両方で世界20か国中ワースト2位(3.3%/1.7%)であり、世界の平均(1.3%/0.5%)を大きく上回っている。以上のことから、我が国においても、アドフラウドの標的となるリスクが発生しているといえる。
- デジタル社会の不健全なエコシステムに加担するリスク
- 偽・誤情報や違法アップロードコンテンツ等を掲載する媒体に広告が意図せず掲載されることは、従来のブランドセーフティに関するリスクにとどまらず、発信者が更にこれらの情報を流通・拡散させることに金銭的な動機付けを与え、不健全なエコシステムを形成してしまうリスクがあると指摘されている。
- インターネット上の偽・誤情報の拡散や権利者の許可なく違法にコンテンツをアップロードする者は、広告収入を得ることが目的の一つであるとされており、閲覧数やクリック数を増やすために、より過激な、より注目を集めるコンテンツを投稿・掲載する傾向にある。そのような偽・誤情報の拡散や違法アップロードは、社会問題として世間の耳目を集めるのみならず、社会全体に影響を及ぼしていると指摘されている。
- 意図しない媒体に広告が掲載されることで偽・誤情報や違法なコンテンツの流通・拡散を助長することについては、企業のブランドが毀損されるとの観点からだけではなく、企業の社会的責任(Corporate Social Responsibility:CSR)の観点からの配慮も必要である。また、こうした媒体に自社の広告が掲載された場合、利用者から偽・誤情報の拡散や違法アップロードを容認している企業であるとみなされるおそれもある。
- ビューアビリティの確保
- ビューアビリティとは、利用者が実際に広告を適正・適切に視認可能な状態にあることであり、広告が単に表示された回数(インプレッション数)ではなく、利用者の目に触れる位置や状態で表示されたかを評価するための概念である。
- 例えば、ビューアビリティ率が50%であった場合、目標とした表示回数を達成していたとしても、表示回数の半分は見られていないということになる。そのため、広告主としては、広告配信に当たって、表示回数のみならずビューアビリティについても指標に含めるなど、考慮することが望ましい。
- 利用者の広告体験・広告体験とは、広告を閲覧した者が当該広告のレイアウトや動作等に対して感じる印象や使いやすさのことである。
- デジタル広告には様々な表示形式があるが、広告の表示のされ方について広告主のコントロールが及ばない場合がある。例えば、広告主が意図せずに、自身の広告がウェブサイト上で画面を覆っていたり、コンテンツの利用を妨げたり、誤クリックや誤タップを誘発しかねないような広告フォーマットで配信されたりしている場合、利用者の属性やリテラシーによっては、広告主の予期しないところで、利用者の広告体験を損ねているリスクが指摘されている。
- 広告体験の低下は、広告主への信頼を損ない、結果的に広告の効果を減少させるおそれがあることから、広告表示形式の選択は、利用者の広告体験を尊重するというのみならず、広告効果を最大化するためにも重要な要素である。
- ブランドセーフティに関するリスク(ブランドの毀損)
- デジタル広告が広告主の意図しない媒体に配信されることにより、例えば以下のようなリスクが考えられる。広告主等においては、運用型広告を使用するメリットだけでなく、これらのリスクを認識した上で、適切に対応することが望ましい
- (ミクロ視点)広告主自身のリスク対策の必要性
- 広告費の不正な流出の防止
- 広告主等において、広告配信先やクリックの品質等について何ら対策を行わない場合、botによるクリック数の水増しや広告表示回数の操作等に気付きにくいため、アドフラウドの標的になる可能性が高まる。アドフラウドの標的になった場合、広告主は本来カウントされるべきではない広告表示やクリック等への対価として広告費を支払うことになり、経済的な損失を被るおそれがある。なお、中央省庁及び地方公共団体においては、各種の広報活動でのデジタル広告の活用は近年増加傾向にあるが、広報関連予算の流出は、予算の適正使用に関する問題や財政的影響が発生する可能性があり、具体的な対応が求められる。
- ブランドの毀損の防止
- 広告主が意図しない媒体へ広告が掲載された場合、利用者からの苦情やSNS等での拡散を通じて、広告主のブランドを毀損するおそれがある。この結果、利用者の購買意欲が失われ、中長期的な収益の減少につながる可能性が考えられる。なお、中央省庁及び地方公共団体においては、意図しない媒体への広告配信は公的な信用を大きく損なうことにつながるおそれがある。
- 広告費の不正な流出の防止
- (マクロ視点)広告主の社会的責任の重要性
- コンプライアンスリスクの防止
- デジタル広告には、アドフラウドによる広告費流出やブランドの毀損といったリスクに加えて、先述のような不健全なエコシステムに加担するリスクが存在する。広告費の流出に対応できていないことで、偽・誤情報の流通・拡散やコンテンツの違法なアップロードを助長している、又はデジタル広告の配信先に関する対策を十分に実施できていないと資本市場や利用者・顧客等のステークホルダーから評価される可能性がある。
- 広告主の社会的責任(CSR)
- 企業の社会的責任(CSR)は、企業等の活動が社会に及ぼす影響が非常に大きくなっていることから、企業が社会の一員として果たすべき責任のことを指す。デジタル広告の社会への影響の増大等に鑑みれば、デジタル広告を配信している主体としての広告主には、一定の社会的責務があるという指摘がある。
- 2025年2月に総務省が行った広告主を対象とした意識調査では、偽・誤情報を掲載している媒体に自身の広告が配信されることを「問題だと思う」と回答した者は92%にのぼり、そのうち約半数の人が「広告主が企業の社会的な責任を果たせていないから」問題だと回答している
- コンプライアンスリスクの防止
- 広告主等が実施することが望ましい取組について
- 契約段階における取組
- 広告主がリスクを極力回避し、自らが希望する媒体への広告を配信するため、デジタル広告取扱事業者等の選定や効果的な配信手段の選択を行えるよう、広告主の想定するリスクやその対処のために希望する取組について、あらかじめ調達の要件に含めることが望ましい。なお、中央省庁及び地方公共団体においては、デジタル広告を用いた広報関係の調達に際して、デジタル広告の配信及び配信先の確認に関する要件を含めることが望ましい。
- 仕様書や調達要件に具体的にどのような記載内容を含めればよいのかについては、広告関連団体が開催するセミナー等から最新の情報を収集して用語等の内容を理解した上で、モデル約款などを参照しつつ広告主において作成することが重要である。
- 品質認証事業者との取引
- デジタル広告に係る事業者の品質管理体制について認証を行う品質認証制度として、例えば、JICDAQ(一般社団法人デジタル広告品質認証機構)は、ブランドセーフティや無効トラフィック対策の品質認証基準を設定し、これを満たすデジタル広告取扱事業者や広告プラットフォーム、媒体社等の事業者に対して認証(JICDAQ認証)を付与している。
- 広告主企業・団体においては、認証を取得しているデジタル広告取扱事業者や広告プラットフォーム、媒体社等の事業者と取引を行うことにより、デジタル広告の配信先についても、一定の品質を確保できることが期待される。中小・零細企業や中央省庁・地方自治体においては、まずは品質認証事業者との取引から対策を始めることが考えられる。
- なお、主要なデジタル広告取扱事業者・広告プラットフォームがすでに品質認証事業者になっていることを鑑みれば、品質認証事業者との取引に並行して、広告主においてその他の具体的取組を進めることが望ましい
- 技術的対策
- アドベリフィケーションツールは、配信されたデジタル広告の品質や効果を監視・検証するための仕組であり、ブランドセーフティに関するリスク、アドフラウド、ビューアビリティ等の計測や対応に用いられる。アドベリフィケーションツールの導入でブランドセーフティやアドフラウド対策が全てできるわけではないが、アドベリフィケーションツールをはじめとする技術的手段による対策は重要である。
- アドベリフィケーションツールには、いくつかのタイプが存在し、その特徴や費用も異なる。中小・零細企業や月間の広告費が100万円未満の企業においては、機能を特化したアドベリフィケーションツールや他の技術的手段の利用、アドベリフィケーション機能が付加されている広告プラットフォームを利用すること等が考えられる。
- 広告主は、自社の広告配信状況や広告配信の目的、対策予算、どのようなリスクに対応したいのか等のニーズを加味した上で、アドベリフィケーションツールを採用するかどうか検討することが望ましい。
- なお、アドベリフィケーションツールによっては、特定の広告プラットフォームで使用することができない場合があるため、調達に先立って、自身が採用したい広告プラットフォームやアドベリフィケーションツールについて、ツールを提供するベンダーや広告プラットフォーム等の関係するステークホルダーに確認・協議することが望ましい。
- また、広告配信時においては、広告主は広告プラットフォーム事業者に対して、自らの名称の表示、連絡先や本人確認書類・データ等の提示などを適切に行い、これらについて利用者などの広告利用者が簡易に確認できるようにすることが、デジタル広告の流通に関する信頼の確保の観点から重要であり、そのための技術的ツール等の導入を検討すること等も将来的には考えられる。
- 広告プラットフォームが提供する機能の利用
- 大手の広告プラットフォームの中には、キーワードや媒体のカテゴリーに基づいて広告配信先媒体を限定する機能や、広告主が望ましくないと判断した媒体を配信先から除外することができる機能を提供している事業者がある。これらの機能を利用することで、デジタル広告の配信に伴うリスクを一定程度低減することが可能と考えられる。
- なお、デジタル広告取扱事業者等を経由して広告を配信する場合には、これらの機能の活用状況や方針について、委託先のデジタル広告取扱事業者と確認・協議することが望ましい。
- 掲載先の取捨・選択
- デジタル広告のリスク管理において、広告の掲載先を取捨選択するのは有効な手段である。掲載先を取捨選択する方法は様々な方法がある。広告主においては、各手法のメリット・留意点を踏まえ、頻繁に配信する広告の種類によって使い分けるなど、自身にとって最適な方法を選択するのが望ましい。
- なお、ブロックリストについては、第三者機関が作成するリストは、違法行為や性表現、投機心をあおる表現等の一般的なブランドセーフティに関するカテゴリーに限られることから、広告主自身にとって望ましい媒体へ広告を配信するため、望ましくない/望ましい掲載先について、広告主独自のリストを作成することも考えられる。
- 配信状況確認
- 配信状況を確認することにより、広告主等が実施した具体的取組の効果を把握し、必要に応じ改善することが重要である。
- 大手の広告プラットフォームが提供している管理画面やレポート機能では、広告の掲出先ドメイン等を確認できるものが多いため、それらを確認する事で、どのような媒体に広告が配信されたか確認することが可能である。
- なお、デジタル広告の配信先の数は膨大となることから、全てを目視で確認することは困難であり、表示数の多い順に配信先を分類するなどして、悪影響の高さ順にチェックしていくことなどが方法として考えられる。自身にとって不適切と判断した媒体を発見した場合は、ブロックリストにそのサイトを設定する事で、その後同じサイトに広告が掲載されることを防ぐことが可能になる。
- デジタル広告取扱事業者と契約している場合には、デジタル広告取扱事業者経由で配信結果についての報告を受ける場合もあるため、広告掲載先を広告主がどのように確認できるか、広告主としてどのような情報を把握したいのか(例えば、アドフラウドへの配信状況やブランドセーフティの確保状況等)、デジタル広告取扱事業者との間で事前に協議しておくことが望ましい。
- 契約段階における取組
生成AIを悪用して作成したプログラムで携帯大手「楽天モバイル」のシステムに不正ログインし、通信回線を契約したとして中高生3人が逮捕された事件で、3人が不正に入手した約22万件のIDとパスワードでログインした形跡があったといいます。3人がSNSで購入したISなどは、約33億件に上ることも新たに判明しています。不正アクセス禁止法違反容疑などで逮捕されたのは、14~16歳の中高生で、警視庁は2024年6~9月、3人の自宅を同法違反容疑などで捜索、押収したパソコンやスマホを解析したところ、計約33億件のIDとパスワードが見つかり、このうち、約22万件は特定のファイルに保存されており、楽天モバイルのシステムにログインした形跡があったといいます。中には重複したIDも含まれているといいます。3人の逮捕容疑は、2024年5~8月、11人分のIDとパスワードで楽天モバイルのシステムにログインし、通信に必要なSIMカードと同様の機能を持つ「eSIM」の計105回線を契約した疑いがもたれています。3人はオンラインゲームの仲間で、秘匿性の高い通信アプリ「テレグラム」で知り合った人物から、IDとパスワードのセットを購入していたとみられ、プログラムはパスワードを機械的に入力して、認証されると回線契約まで行う高度なもので、主に大垣市の高校生が独学で自作、プログラムに発信元を隠す匿名化機能が搭載されていたといい、3人がこのシステムをそれぞれ運用し、通信回線を不正に契約していたといいます。プログラム作成の際には、対話型生成AIサービス「チャットGPT」で作業の効率化や処理速度の向上を図っていたといいます。また、「テレグラム」を通じて回線の購入を呼びかけていたことも判明、2023年12月以降、1件あたり1000~3000円で売却し、計約750万円相当の暗号資産を得たとみられています。なお、3人の動機については、「契約の上限数が多く、本人確認が甘い楽天を狙った」、「高度な犯罪を考案して、注目を集めたかった」、「自由に使える金がほしかった」、「罪の意識はない」などの供述があり、功名心や小遣いほしさなど、至って幼稚なものだといえます。これだけの犯罪が中高生のみで行われ、機微情報や犯罪インフラがかくも容易に入手できる実態に驚かされます。犯罪インフラの無効化が急務ですが、それだけでは十分ではなく、「闇バイト」同様、気軽に犯罪に手を染めてしまう若者に対する教育・啓蒙の重要性が増していると考えます。
関連して、他人名義のクレジットカードを不正取得する自作プログラムに誘導する手口で約7千件のカード情報を集め、少なくとも約130万円を不正に決済していた(裏付けできた分のみ。約600万円を決済したと供述しています)として、京都府警などが電子計算機使用詐欺容疑で追送検した男子高校生(17)は、「チャットGPT」を使い、カード番号を不正取得する自作プログラムを1週間程度で完成させていました。多くの生成AIサービスには悪用を防止するため、犯罪や差別に関する質問・命令への回答を制限する機能がありますが、質問や指示の仕方を変えて入力するなどすれば、そうした機能を一部で回避できることが明らかになっており(脱獄)、政府や警察当局は警戒を強めています。警視庁は2024年5月、生成AIを悪用して、暗号資産要求やファイルの暗号化の機能を持つコンピューターウイルスを作成したとして、不正指令電磁的記録作成の疑いで川崎市の男を逮捕、男は(ITスキルが特別あるわけでないものの)「無料公開されている作成者不明の対話型生成AIを使った」などと供述、生成AIに対し、ウイルスを作成する目的を伏せるなど質問を工夫していたといいます。警察庁の情報技術解析部門による複数の生成AIサービスを使った実験では、担当者が命令の言い方や切り口を変えて入力するなどしたところ、身代金要求型コンピューターウイルス「ランサムウェア」など数種類のウイルスを作成することができたといい、こうした手法は「ジェイルブレイク(脱獄)」と呼ばれ、一定の専門知識を持たなくとも、抜け穴を突く手法でウイルスなどを作成できる危険性が浮上しています。生成AIの悪用はこうした犯罪だけでなく、偽情報拡散や著作権侵害といったリスクにも直結しています。政府はAIの活用や課題について閣僚や有識者らで議論する「AI戦略会議」を立ち上げ、規制のあり方などについて検討を進めています。
「入居審査が不安な方へ 希望の部屋に住めます」「訳ありのお客様ご相談ください」などとうたうサイトで身分証明書の作成などを持ちかける「アリバイ会社」について、警視庁は2025年に入り、身分証の偽造を繰り返していたとして業者を摘発、捜査では、犯罪インフラを提供する悪質ビジネスの一端も浮かび上がっています。産経新聞によれば、警視庁保安課が2025年1~2月にかけて摘発したのは、アリバイ会社「スマートハウス」で、賃貸マンションの入居審査で提示する健康保険証を偽造したなどとして、詐欺や私電磁的記録不正作出・同供用の疑いで、リーダーの荒田容疑者らが逮捕されています。自宅などからは、ニセの社員証や保険証計100枚以上が押収されたといいます。いわゆるアリバイ会社とは、依頼者の要望に応じて源泉徴収票や社員証などの証明書の作成を行う業者を指し、風俗店勤務や無職など、物件の入居審査に通りにくい人が利用しているとみられ、インターネット上に乱立するサイトの中には「保育園対策」として、入園選考で有利になるように就労証明書を発行するとうたうものもあるといいます。今回摘発されたスマートハウスは、物件への入居審査対策に特化、風俗店従業員を顧客に持つ不動産仲介業者などから依頼を受け、保険証や社員証を偽造していたものです。実在する企業の身分証などをまねて、プラスチックカードに依頼者の氏名や、審査に有利と考えられる会社名をプリンターで印字、管理会社からの問い合わせ対策として、登記はあるがホームページがない会社の名前が悪用されたほか、高額物件の契約では、実在する大手企業の名前が用いられたこともあったといいます。摘発されたメンバーの一人は、偽造証明書に記載した会社のホームページを「勝手に作成していた」などと供述、所有する10数台のスマホを問い合わせ先に設定するなどして、管理会社や保証会社からの在籍確認にも対応する-という手の込んだものでした。報道で捜査幹部は、アリバイ会社について「社会的地位を偽造し、犯罪ツールを提供する悪質ビジネス」と指摘、一連の捜査では、性風俗店の経営者がスマートハウスに依頼し、店の女性従業員を「広告会社員」とする偽造保険証を作成、不正契約したマンションの一室をプレールームに使っていたことも明らかになっています。また、捜査幹部は、偽造身分証が犯罪に利用する携帯電話や、拠点となる部屋の契約に使われる可能性があるとも指摘、アリバイ会社は利用しないよう呼びかけています。アリバイ会社自体が犯罪インフラですが、アリバイ会社がさまざまな犯罪インフラを駆使している実態が明らかとなったといえ、企業の実務としては、法人の「実体」や「実態」について、もはや形式的なチェックでは見抜けない可能性があることを念頭に、もう一歩踏み込んだチェックをする必要があるといえます。
「報酬1万円」という誘い文句につられて、スマホを使った後払いのインターネット決済サービスのアカウントを他人に貸したことで、身に覚えのない携帯電話の代金を支払うことになった事件が報じられています。報道によれば、「友人関係を利用し、ねずみ講のように被害を拡大させていた」とグループについて、警察は男が立件したもの以外も含め学生ら約100人からアカウントを集めて1千台以上のスマホをだまし取り、転売で1億円程度の売却収益をあげたとみられています。報道で、だまされた大学生は「もしクレジットカードや銀行口座の情報だったら伝えなかった」、「伝える情報がメールアドレス、電話番号という普段から他人にオープンにしているものだったことが「気軽さ」を生み、警戒心のハードルを下げた」と述べており、極めて巧妙かつ悪質な手口だといえます。後払い決済サービス運営会社によれば、登録者自身がアカウント情報を他人に伝え、決済時の認証番号も伝えると、店側が本人以外の利用と気づくのは難しく、「認証番号を他人に漏らすことは規約違反で、それによって買い物をされても基本的には補償の対象にならない」とし、「他者が認証番号を必要とする場面は悪用以外ない。絶対に教えないように」と注意を呼びかけています。
電話番号を利用した本人確認を代行し、不正に東京都渋谷区の地域通貨「ハチペイ」のアカウントを取得させたとして、警視庁は、ベトナム国籍で留学生の男を私電磁的記録不正作出・同供用容疑で逮捕しています。不正取得したアカウントは約500に上り、犯罪グループに渡っていたといいます。地域通貨を狙った事件が明るみに出るのは異例で、警視庁は、通貨を使って購入された商品は転売され、犯罪グループの収益になっていたとみています。報道によれば、男は2024年6~12月、何者かと共謀し、不正に入手した他人の電話番号と認証番号を複数の中国籍の人物に提供、ハチペイの12アカウントを不正に取得した疑いがもたれています。スマホの電話番号を利用した本人確認は「SMS認証」と呼ばれ、これを悪用していたものです(決済サービスなどを登録する際、運営側から数字などの認証コードがSMSで届き、届いた数字などを入力して本人確認をする仕組み)。男は手数料として1アカウントあたり約500~1千円を得ており、中国人の犯罪グループが転売して得た金を受け取っていたとみられ、「月15万~20万円の報酬を受け取った」と供述しているといいます。ハチペイのアカウントには、それぞれ他人のクレジットカード情報がひもづけられていました。警視庁は、ハチペイを不正利用する際、身元が発覚しないように他人の電話番号で本人確認を行っていたとみています。同庁は、アカウントを不正利用した複数の中国人の特定もすすめており、同容疑で立件する方針だといいます。なお、男らはハチペイ以外にも複数の地域通貨で、同様の手法で不正アカウントの取得を繰り返しており、いずれも本人確認に「SMS認証」が導入されていたといいます(SMS認証の犯罪インフラ化)。事件では、男があらかじめ複数のSIMカードの電話番号を用意した上で、認証コードを中国人グループに伝達、認証手続きの「抜け穴」が狙われた形といえます。そもそも他人になりすます不正アカウントの取得は、身元を特定しづらくする手段に過ぎず、目的は他人のクレジットカードやポイントを不正に使用することであり、事業者だけでなくクレカの利用者が明細を細かく確認し、「身に覚えのない取引があればカード会社に相談するなど不正利用の防止が重要だといえます。
SNSで著名人になりすます「詐欺広告」が放置されたためにお金をだまし取られたとして、首都圏や近畿などに住む約30人が近く、フェイスブック(FB)やインスタグラムを運営する米メタ本社と日本法人に損害賠償を求めて提訴することが明らかとなりました。請求総額は約4億円にのぼるといいます。報道によれば、さいたま、千葉、横浜、大阪、名古屋の各地裁に一斉提訴する方針で、神戸地裁などでもすでに同様の訴訟が起こされており、原告はあわせて計約60人、請求総額は計8億円を超えるといいます。原告らは、FBなどで実業家の前沢友作氏らになりすまして投資を勧める偽広告を見て被害にあったと主張、広告が真実かを確認する対策などをメタ側が怠ったと訴え、メタ側の「不作為」を追及する動きがさらに広がる形となりました。一方、メタ側は先行する訴訟で、自動検知システムで詐欺広告を削除しているとして「日本の法律上、詐欺広告を網羅的に検出したり内容の真実性を調査・確認したりする義務はない」などと反論、原告たちは広告閲覧後、詐欺の加害者とLINEでやりとりして被害にあっているため「メタ側の対応と関係ない」と主張しています。総務省は2024年6月、詐欺広告の深刻化を受けメタなどに広告の審査基準の公表や削除の迅速化などを求めています。詐欺被害が後を絶たないなか、メタ社などへの法規制が必要だと指摘する専門家は多く、「2024年秋ごろから、なりすまし広告は再び増えている」との指摘もあります。メタ社は自動検知システムによる詐欺広告の削除などを進めていますが、「『事業者任せ』にみえる日本の法規制の甘さという隙を突かれているのでは」との指摘は正に正鵠を射るものと考えます。日本の規制は事業者に委ねる部分が多く、EUの厳格さはなく、「法的な義務はない」との弁解の余地を生んでしまっているのは事実です。さらに、新たな懸念材料となるのがトランプ米大統領の就任であり、政権の意向に沿う形で、メタが偽情報の拡散を防ぐ「ファクトチェック」の米国での廃止を表明するなど「投稿の自由」を優先させる動きが進んでおり、詐欺広告の監視も甘くなる恐れがあります。今後の裁判の動向に注視していきたいと思います。
本コラムでも何度か取り上げてきましたが、豪政府は2024年、16歳未満の子どもによるSNS利用を2025年末までに禁止する法律を可決しています。その際、米アルファベット傘下の動画投稿サイト「ユーチューブ」は適用除外としています(規制対象となったのは、TikTok、スナップチャット、インスタグラム、FB、X)。しかし専門家からは、ユーチューブによって子どもが中毒性のある有害コンテンツにさらされていると懸念する声が上がっています。ユーチューブは教育に役立つ貴重なツールであり、「主要なソーシャルメディア・アプリ」ではないことを理由に、全年齢向けに開放し続けることとしたものです。当初の禁止令はユーチューブも対象としていましたが、企業幹部やユーチューブを利用する子ども向けコンテンツ・クリエイターの意見を聞き、除外を認めたものですが、調査によれば、ユーチューブは豪で10代の若者に最も人気の高いソーシャルメディア・サイトであり、12歳から17歳の10人に9人が利用している一方で、禁止されたサイトと同様の危険なコンテンツがユーチューブで公開されているのも事実です。専門家は「ユーチューブは過激思想、暴力、ポルノに関するコンテンツを拡散するだけでなく、若者に中毒性の高い動画コンテンツを提供しているという点でも、深刻な問題を抱えている」と指摘していますが、筆者も同感です。「暴力的過激主義とテロへの急進化への対策ネットワーク」のメンバーもユーチューブのアルゴリズムについて、「若い男性および少年と認識したユーザーに対し、真に極右的な内容を提供している。その中には主に人種差別的なものもあれば、主に女性嫌悪、反フェミニズム的なものもある」と指摘しています。つまり、ユーチューブの犯罪インフラ性は相当高いと言えるということです。また、SNSが子どもに与える有害な影響について、欧州では「企業の責任」を問う動きを強めています。自殺を助長したなどとしてSNSの運営会社を相手に裁判を起こし、法的責任を求める動きが相次いでいます。遺族側は、「利用者の関心を引き続けるために、表示される動画はより過激になる。一つ10秒の動画でも、30分間次々に再生されれば、いかに精神をむしばむか。子どもは現実世界で孤立し、居場所になったTikTokがさらに孤独を深めた」と指摘していますが、大変考えさせられるものです。また、意図的に依存性のある設計にしているとして、米国ではカリフォルニアなど13州と首都ワシントン特別区の司法長官が2024年10月、TikTokの運営会社を提訴、若者の心理的な健康よりも利益を優先したと主張しています。EUも2024年5月、「特に精神的に未熟な未成年の依存リスクに対応できていない可能性がある」として、FBやインスタグラムを運営する米メタの対策の不備を指摘、利用者保護を目的にしたデジタルサービス法違反だと判断されれば、巨額の制裁金が科される可能性があり、TikTokの運営会社に対しても同様の調査に乗り出しています(なお、英国のデータ保護当局は、TikTokなど複数の投稿アプリの子どもの利用状況について捜査を始めたと公表しています。データ保護法制への違反がないか調べるといい、子どもの個人情報をもとに、子どもが傷つくような投稿などが表示されているとの懸念を受けたものといいます)。EUは「私たちの子どもたちはSNSのモルモットではない」として、あくまでも企業の責任だと主張し、監視を強めています。ただ実際にSNSの利用が及ぼす影響は明確でなく、対応は手探り状態です。また、「一部のSNSだけを年齢制限することの有効性がどれほどあるかは、正直、疑問です」と指摘する医師もいます。「SNSと動画、ゲームなどの線引きもどんどんあいまいになっています」、WHOはゲーム行動症を疾患と認めていますが、「動画依存やSNS依存に関しては、まだ十分なエビデンスが得られていないことから、WHOでは正式な疾患にはなっていません」などと指摘しています。背景要因として、「両親や親子の不仲、親の過干渉、虐待、友人関係のトラブル、成績不振などがあり、現実世界につらさを感じている例が、非常に多い。また、こだわりが強い、衝動性が高いなど、依存しやすい特性を持つ子もいます。発達障がいとの合併率が約3割という研究結果もあります。さらに、ネット上の世界が自分の生きる世界になってしまう「現実逃避型」の特性のある子も、このような状況に陥りやすい。依存しやすい共通パターンを家族が認識した上で、スマホなどの使用ルールをどうするか考える必要があります。これらを考慮せずに大人たちの思いだけで、いきなりネット上の世界を禁ずることは、逆に子どもを追い詰める危険があることを忘れてはいけないでしょう」、「スマホを取り上げたことで、家庭内暴力をして手がつけられなくなり、親だけで外来に来る例は多くあります。まずは、夢中になる背景に何があるのかに、目を向けてください。重要なのは親子関係や学校などの人間関係です」とも指摘しており、大変参考になります。なお、子どものネット依存はコロナ禍前から課題となっており、厚生労働省の2017年度の調査では、ネット依存の疑いが強い中学生は12%、高校生は16%で、5年前から約40万人増え、推計約93万人で、コロナ禍を経て、小中学校で1人1台端末を配布後の国立成育医療研究センターの2023年調査では、ネット依存が強く疑われる状態の子は、小5で15%、高2で25%、小5~高2全体で20%となっています。さらに、規制に反対する子どもたちや専門家は、「SNSが子どもに有害だという明確な証拠はない。議論が尽くされていないのに、政府は採決を急いだ。法律には若者の意見が十分に反映されていない」、「子どもたちが生きていく世界はSNSとは切り離せない。それを奪えば、彼らは規制を回避する方法を探し、コミュニケーションがより秘密裏に行われるようになるだけだ」、「若者をSNSから遠ざけるのではなく、リテラシー(うまく活用する知識や能力)を向上させることに注力するべきだ」。「子どもたちは、いきなり荒海に放り出されているような状況です。振る舞いを学ぶ場も、XやインスタなどのSNS上になっています。本来、身近な大人を頼ろうと思ってもらわなければなりません。優先するべきは、子どもへの規制よりも、大人への教育ではないでしょうか。SNSを提供する事業者の対応も強化しなければなりません。いまはSNS上の有害情報や違法情報は、ほとんどがAIで判定されていますが、もっと人の目を入れていくべきです。そうした情報をSNS事業者に報告しても、なかなか対応されないことも。子どもへの規制以前に対応しなければならない課題は、多くあります」などと指摘しており、こちらも説得力があります。
政府は、海外からのサイバー攻撃を未然に防ぐ「能動的サイバー防御」の導入に向けた関連法案を閣議決定しています。今国会で成立させ、2027年までの施行をめざすとしています。日本でも政府機関や企業を狙った攻撃が続いており、早期に開始できるように官民が総力を挙げて体制を整える必要があります。能動的サイバー防御は国が平時から通信を監視し、基幹インフラへの攻撃などの予兆を探り、相手のシステムに侵入して無害化措置を講じる仕組みで、米欧では導入済みの国が多く、日本の防御体制の脆弱性が指摘されてきました。「能動的サイバー防御」の導入に向けた法案は企業側の責務も盛り込まれており、基幹インフラ事業者がサイバー攻撃による被害を受けた際は政府への報告を義務づけた、ITベンダーにはサイバー上の脆弱性への被害防止をめぐる対応を求めています。情報処理推進機構(IPA)が2024年10~12月、脆弱性対策情報データベースに登録した件数は6894件に上り、日々公表される膨大な脆弱性の中から、自社製品への関係の有無、影響の大きさを見極めるには、製品内で使われるソフトウエアの部品表「SBOM(エスボム)」の活用が重要となります。経済産業省や厚生労働省はガイドラインでエスボムを推奨していますが、運用の度合いは企業によって異なるのが実態です。
2024年末から2025年初めにかけて、日本航空や金融機関などが「DDoS攻撃」とみられる大規模なサイバー攻撃に見舞われました。攻撃者は自身の特定を避けるため、さまざまな国や機器を経由し実行しており、特に、家庭用のルーターやカメラなど、ネットに接続された「IoT機器」の脆弱性を突いて侵入し、「踏み台」にして攻撃する例が目立っています。DDoS攻撃は、仕組み自体は単純ですが、被害の例を見ると大企業でも完全には防ぎきれない攻撃といえます。被害が増えている背景にあるとされるのが、攻撃をしたい人から依頼を受け、対価を受け取って代わりに攻撃を行う「代行ビジネス」の横行で、誰かが「攻撃したい」と考えた場合、テレグラムなどの秘匿性の高いSNSのほか、一般的なウェブサイトの検索でも代行業者にアクセスできる状態になっています。加えて、ウェブやSNSには(DDoS攻撃に関する)チュートリアル(解説書)もあり、攻撃が手軽になってしまったことに伴い、個人が加担する事例が出てきているほか、中には代行ビジネスの提供者になる方法を解説するものまであり、特に、今の若者は生まれたときからネットが身近にある「デジタルネーティブ世代」であり、それがサイバー攻撃であるという意識もないままに、「むしゃくしゃしたから」「いたずらのつもりで」などと、軽い気持ちで手を出してしまっている現実があります。また2024年、出版大手KADOKAWAがランサムウェアによるものとみられるサイバー攻撃を受けましたが、同時にDoS攻撃も受けていた形跡があったといいます。アクセス集中で企業側が対応に追われている間に違うところから攻撃を仕掛けるなど、攻撃者はあらゆる方法を駆使して「弱い部分」を突こうとしてくるものであり、こうした攻撃をある程度想定・予測しながら、不断の注意が必要となります。さらに米メールセキュリティー対策大手の日本法人、日本プルーフポイントの増田チーフエバンジェリストは、インターネットセキュリティーの観点での現状を、「AIによって地獄の門が開けられたような状態」と表現、「これまで『言語の壁』で守られてきた日本はいま、世界で最もメール攻撃にさらされる国になっている」といいます。世界的には、日本企業は防御が薄いが知的財産は価値が高く、信用が高い日本人の個人情報はダークウェブなどで高く売買されるというのが日本に対する評価でもあります。同社は、チャットGPTが登場した2022年と翌2023年、なりすましで金をだまし取ろうとするような「ビジネス詐欺メール」を受け取った企業の割合を国別に比較したところ、日本は35%増で、韓国の31%、アラブ首長国連邦(UAE)の28%とともに急増、いずれもアルファベットではない文字を持つ国で、同時期に減った欧米の主要国とは対照的な結果となったといいます。2025年1月に限ると、大規模なメール攻撃の7割が、個人を含む日本を標的にしていたといい、大変驚かされます。国立研究開発法人情報通信研究機構(IPA)が観測した日本へのサイバー攻撃関連の通信数は、2015年の年間約632億回から2023年は同約6197億回とほぼ10倍に増加、1つのIPアドレスにつき、約14秒に1回のサイバー攻撃を受けていることになります。また、警察庁の統計によると、2024年の日本国内でのランサムウェアの被害件数は222件と高い水準で推移しています。こうした状況にあって、さらに専門家は、「AIが改ざんされたことを開発者や利用者が気付かないまま、致命的な判断ミスにつながる可能性がある」と指摘しています。対抗策として期待されるのは、やはりAIであり、「サイバー攻撃者がAIを悪用し始めている。対抗側もAIを活用しなければ太刀打ちできなくなっている」との指摘も重いものがあります(筆者も最終的にはAI対AIとなり、人間の生命・身体・財産をAIに委ねることになる状態が生まれると予測、2025年はAIへの向き合い方が問われる年と指摘してきました)。
威は今後も高まるとみられ、国家安全保障上の脅威ととらえ、強固な対応が必要だ。
日米欧などの捜査当局が「8Base(エイトベース)」と名乗るランサムウェア集団の中枢メンバーとみられるロシア国籍の男ら4人を国際共同捜査で逮捕しています。主に中小企業を狙うハッカー集団で、日本ではイセトー(京都市)などを攻撃したとされます。潜伏先のタイ国内で身柄を拘束し、米国やスイスの捜査当局に身柄を引き渡し、各国捜査当局は関連する27台のサーバーを閉鎖しました。使用されたのは「Phobos(フォボス)」と呼ばれるランサムウェアで、標的とした企業のデータを暗号化し、復号と引き換えに身代金を要求したうえ、リークサイトに暴露すると脅す「二重恐喝」の手口が目立っています。米司法省によると、エイトベースとフォボスは世界で1000以上の企業や団体を攻撃し、1600万ドル(約24億円)以上の身代金を受け取ったといいます。警察庁によると日本では2020年以降、約90件のランサムウェア攻撃で関与が疑われており、日本の警察庁も米国やドイツ、フランス、シンガポールなどの当局が参加する国際共同捜査に加わり、海外当局から提供を受けた容疑者間の暗号資産の流れをサイバー特別捜査部などが解析し、逮捕された4人のうち2人の容疑者を特定したといいます。
▼警察庁 ロシア人ランサムウェア被疑者4名の検挙に関するユーロポールのプレスリリースについて
- プレスリリースの概要
- ユーロポールは、世界各国の企業等に対しランサムウェア被害を与えたなどとして、ランサムウェア攻撃グループ「8Base」を主導していたとみられる被疑者4名を外国捜査機関が検挙するとともに、関連犯罪インフラのテイクダウンを行った旨をプレスリリースした。
- 同プレスリリースにおいては、関係各国で関連するランサムウェア事案の捜査を行っており、当該捜査について、日本警察を含む各国捜査機関等の国際協力が言及されている。
- 日本警察の協力
- 関東管区警察局サイバー特別捜査部と各都道府県警察は、我が国で発生したランサムウェア事案について、外国捜査機関等とも連携して捜査を推進しており、捜査で得た情報を外国捜査機関等に提供している。
- 我が国を含め、世界的な規模で攻撃が行われているランサムウェア事案をはじめとするサイバー事案の捜査に当たっては、こうした外国捜査機関等との連携が不可欠であるところ、引き続き、サイバー空間における一層の安全・安心の確保を図るため、サイバー事案の厳正な取締りや実態解明、外国捜査機関等との連携を推進する。
関連して、ランサムウェアを企業などに送りつける新興のサイバー攻撃集団が2024年後半から日本を狙った攻撃を行っていることがわかりました。米国では、輸送や通信といった重要インフラ関連企業などが攻撃を受け、データ流出の被害が出ており、日本でも、政府が被害未然防止に法制化作業を進めている「能動的サイバー防御」の対象とする重要インフラが狙い撃ちされる恐れがあるといいます。セキュリティ企業「トレンドマイクロ」によると、新たに出現したのは「RansomHub(ランサムハブ)」と呼ばれるサイバー攻撃集団で、2024年2月に初めて活動が確認されたものです。ランサムハブの特徴としては、攻撃の痕跡を記録し、被害発生前に異変を検知して対応する最新の対策技術を無効化する高い技術を有しているといい、データを盗んで暗号化し、その解除に金銭を要求、応じなければ情報を公開すると脅す「二重恐喝」を行うといいます。米国では、基幹インフラや、IT、行政サービス、交通・運輸、通信事業など多岐にわたる約210の企業や団体などが被害に遭ったといいます。米連邦捜査局(FBI)などは2024年8月、注意喚起を行っています。トレンドマイクロによると、日本企業も2024年後半から立て続けに攻撃を受け、被害が確認され始めたといいます。岡本セキュリティエバンジェリストは、世界最大のハッカー集団「LockBit(ロックビット)」のランサムウェア開発者らが2024年、逮捕され、活動が衰退する中で、ランサムハブの動きが活発化していると分析、「日本でも今後、重要インフラが狙われる可能性がある」と指摘しています。
サイバー攻撃はサプライチェーン全体での防御を考慮していく必要があります。サプライチェーンにおける防御レベルは、その商流上に位置する企業の中でもっとも脆弱な部分のレベルと同じとなりますので、サプライチェーン全体の底上げをどう図るかが極めて重要な課題といえます。前マンハッタン地区検事で、米系法律事務所ベーカー&マッケンジーでサイバーセキュリティー部門トップを務めるサイラス・バンス・ジュニア弁護士への日本経済新聞によるインタビューの中で、「サイバー攻撃による被害は25年までに10兆ドル(約1500兆円)を超えるとの試算がある。世界各国の国内総生産(GDP)と比較すると、米国、中国に次ぐ規模になる。AIの悪用で、被害は大きくなり攻撃の成功率は高まった。プレーヤーに大きな変化はない。個人の犯罪者に加え、中国、北朝鮮、イラン、ロシアだ」、「大企業に関しては備えが進んだ。サイバー攻撃後、迅速に通常業務に戻れるようになっている。サイバー攻撃に対する企業の目標は純粋な『防御』から『レジリエンス(回復力)』に移っている。一方で、中小企業には大企業のような洗練された手法や資金といったリソースがない場合が多い。しかし米国でも世界でも企業の大多数は中小企業で、大企業もサプライチェーン上で中小企業に頼っている」と述べていますが、「サイバー攻撃に対する企業の目標は純粋な『防御』から『レジリエンス(回復力)』に移っている」との指摘は正に正鵠を射るものと思います。外部からの攻撃は外部が圧倒的に優位にあり、100%の防御はまず無理であり、攻撃されてもいかにすばやく立ち直るかという「レジリエンス」が重要であり、それはサイバー攻撃に限らず、BCP(事業継続計画)など他の危機管理の領域においても同様に重要なキーワードだといえます。日本の中小企業におけるサイバー攻撃への備えの実態については、経済産業省が公表していますので、以下紹介します。
▼経済産業省 中小企業の実態判明 サイバー攻撃の7割は取引先へも影響~「サイバードミノ」を防ぎ取引先の信頼を得るセキュリティ対策が急務
- 経済産業省は、本日、独立行政法人情報処理推進機構を通じて実施した中小企業等におけるサイバーセキュリティ対策に関する実態調査の結果を公表しました。そこでは、約7割の中小企業において組織的なセキュリティ体制が整備されていないという実態や、過去3年間にサイバー攻撃の被害に遭った中小企業のうち約7割が取引先にも影響が及んだ、いわゆる「サイバードミノ」(サイバー攻撃により、被害が連鎖して取引先やその先まで企業の業務が停止するような事態のことをいいます)が起きているという実態が明らかになりました。一方で、普段からセキュリティ対策投資を行っている中小企業の約5割が、取引先との取引につながったと実感しているという実態も判明しました。
- そこで、経済産業省では、そうした実態に触れることで中小企業等の皆様にサイバーセキュリティ対策の必要性を理解してもらいつつ、安価で効果的にサイバーセキュリティ対策を行える「サイバーセキュリティお助け隊サービス」の活用を促進するためのリーフレットを作成しました。
- 背景・趣旨
- 近年、産業界において、業務のデジタル化やデジタルトランスフォーメーション(DX)の取組が進んでいるところですが、一方で、サイバー攻撃の被害に遭うリスクや、被害に遭った際の影響が深刻化するリスクも高まっています。
- 中でも、サイバーセキュリティ対策が比較的強固でない中小企業や小規模事業者を狙った攻撃も増加しています。例えば、企業のデータを暗号化して身代金を要求するランサムウェアの被害企業の約6割が中小企業といったデータもあります。また、中小企業等がサイバー攻撃の被害に遭った結果として、当該中小企業等と取引していた大企業の操業が停止するなど社会的に大きな影響が生じるような事案も発生しています。
- こうした背景を踏まえ、経済産業省では、独立行政法人情報処理推進機構を通じて、中小企業等におけるサイバーセキュリティ対策をさらに促進するための政策検討に役立てるための実態調査を令和6年10月から12月にかけて実施しました。その結果として、以下2.に示すような実態が明らかとなったので、公表します。今後、経済産業省としては、こうした結果も踏まえつつ、
- 中小企業等の規模や業種等に応じて効果的なサイバーセキュリティ対策手法を示すガイドブックの策定
- サイバーセキュリティ人材の不足に悩む中小企業等と、当該人材とのマッチングを促すための枠組みの整備
- 中小企業等の内でサイバーセキュリティ人材を育成し、又は外部の人材を活用するための実践的な方策を示したガイドブックの策定
- 関係省庁や中小企業等支援機関等と連携した各種中小企業等向けの施策の一層の普及展開及び見直し
- などを実施していく予定です。
- また、政府全体における「サイバーセキュリティ月間」の実施に合わせて、今般、「何をすればよいか分からない」「十分なコストをかけられない」中小企業等の皆様向けに、必要最低限のサイバーセキュリティ対策を安価に導入できる「サイバーセキュリティお助け隊サービス」を紹介したリーフレットを作成するとともに、中小企業等以外の方も含め、あらゆる関係者にとって当省のサイバーセキュリティ関連施策に関する情報に簡単にアクセスできるよう、当省ウェブサイトの大幅改修を行いました。中小企業等の経営者や実務担当者の方のみならず、中小企業等と日常的に意思疎通される立場にある支援機関等の皆様も、積極的にこれらの公表物をご活用ください。
- 「令和6年度中小企業実態調査」の結果概要
- 経済産業省では、独立行政法人情報処理推進機構を通じて、令和6年10月~12月にかけて、全国の中小企業等4,191社の経営層に対するウェブアンケート及び、その中から21社の経営層に対するヒアリングを実施しました。
- 主として以下の結果が得られています。
- 約7割の企業が組織的なセキュリティ体制が整備されていない
- 過去3期における情報セキュリティ対策投資を行っていない企業は約6割
- 情報セキュリティ関連製品やサービスの導入状況は微増
- 過去3期内でサイバーインシデントが発生した企業における被害額の平均は73万円(うち9.4%は100万円以上)、復旧までに要した期間の平均は5.8日(うち2.1%は50日以上)
- 不正アクセスされた企業の48.0%が脆弱性を突かれ、他社経由での侵入も19.8%
- サイバーインシデントにより取引先に影響があった企業は約7割
- セキュリティ対策投資を行っている企業の約5割が、取引につながった
- サイバーセキュリティお助け隊サービスの導入企業の5割以上が、セキュリティ対策の導入が容易と回答し、また3割以上の企業が費用対効果を実感している
- 「中小企業向けリーフレット(中小企業のサイバーセキュリティ安心サービスのご紹介)」の概要
- 実態調査から、サイバー攻撃による被害は決して自社のみに留まるものではなく、被害が連鎖して取引先やその先まで企業の業務が停止する「サイバードミノ」が起きていることが明らかとなっています。また、サイバーセキュリティ対策は単なるコストと受け取られがちですが、上記2.の実態調査を通じて判明したとおり、普段からサイバーセキュリティ対策投資を行っていると、そうでない場合の2倍近くの取引につながっているという実態があり、対策投資を行うメリットもあると言えます。本リーフレットでは、そうした実態を紹介しながら、サイバーセキュリティ対策の必要性を理解しつつも「何をしたらよいか分からない」「セキュリティにコストをかけられない」中小企業等の方向けに、安価で効果的なサイバーセキュリティ対策を提供する「サイバーセキュリティお助け隊サービス」を案内しています。サイバーセキュリティお助け隊サービスは、実際に導入している中小企業からも「導入が容易」や「コスト削減につながる」といった声をいただいている安心・安全のサービスですので、ぜひ、活用をご検討ください。
- 本リーフレットについては、以下の関連資料(中小企業向けリーフレット(中小企業のサイバーセキュリティ安心サービスのご紹介)からダウンロードが可能ですので、ご自由に活用・配布ください。
- 経済産業省ウェブサイト(サイバーセキュリティ政策)の改修概要
- これまで経済産業省のセキュリティ政策として、各種施策の情報を一覧的に掲載していましたが、各施策の対象となる方々の属性に応じて、必要な政策情報に簡単にアクセスできるよう、構成を見直しました。
- 具体的には、「サイバーセキュリティ政策」のトップページにおいて、以下の属性の方向けの入口を設置しています。
- サイバーセキュリティ対策をはじめたい・支援策を知りたい方(中小企業等の方)
- サイバーセキュリティ対策を強化したい方(大企業等の方)
- サイバー攻撃事案(インシデント)に対処したい方
- サイバーセキュリティの製品・サービスを提供する企業の方
- 本ウェブサイトについては、以下のURL(サイバーセキュリティ政策(経済産業省HP))からアクセスが可能です。
- 併せて、外国向けの当省施策に係る情報発信も充実させるべく、英語版のウェブサイトも大幅に改修しました。以下のURL(Cybersecurity(経済産業省英語版HP))からアクセスが可能です。
https://www.meti.go.jp/english/policy/safety_security/cybersecurity/index.html
- 背景・趣旨
米政府は、中国政府が支援するハッカー集団を摘発したと発表しています。米政府機関やアジア各国の外務省、メディア、中国の反体制派などが標的となっていたもので、米政府は中国の公安当局の高官2人と、10人の個人を起訴しています。中国政府の指示に従って実行した場合と、独自にハッキングをした後、盗んだ情報を中国政府に販売するケースとがあったといいます。米連邦捜査局(FBI)のサイバー部門のブライアン・ボルドラン副部長は「中国の公安当局には中国共産党に批判的な人間に被害を与える目的があった」と批判、米司法省によると、2024年9月から12月ごろに発生した米財務省へのハッキングにも関与していたとされ、米国内では中国共産党を批判する宗教団体や、中国関連のニュースを配信する複数の報道機関、反体制派に協力した東部ニューヨーク州議会関係者らも標的となったといいます。中国政府が起訴された人物の身柄を引き渡す可能性は低く、米国務省は中国外での容疑者の逮捕に向けて、最高200万ドル(約3億円)の報奨金を出すと発表しています。
関連して、「サイバースパイ」の脅威が増している点にも注意が必要です。2025年3月8日付日本経済新聞の記事「サイバースパイって何? 「安全・安価」で世界の脅威に」は大変分かりやすく参考になりました。サイバースパイとは「インターネット回線を通じて相手組織のネットワークに侵入し、機密情報を盗み取る行為」のことであり、その狙いは、「企業や大学が保有する技術ノウハウや知的財産、政府の外交や安全保障に関する情報収集とみられてり、いわば、世界を股にかけた「諜報活動」です。リアルな世界のスパイ活動には身の危険が及びます。一方でサイバースパイは、地球の裏側からパソコン1台あれば侵入することができてしまいます。「最も安全で安価なスパイ活動」と言われ、世界中が警戒しています」と紹介されています。さらに、「各国政府や欧米のサイバーセキュリティ企業は、組織化された複数のハッカー集団の存在を指摘しています。米マイクロソフトが「ソルト・タイフーン」と名付けた集団は、中国政府の支援を受けた中国系ハッカーとされ、2024年秋に発覚した米通信会社への不正侵入が疑われています」と具体的な組織を例示、「内部情報には中国の公安当局とのチャット記録、提案のためのプレゼン資料、手に入れたとみられる台湾や欧州連合の内部文書などがありました。欧米のセキュリティ企業が情報を分析し、過去のサイバー攻撃とひもづく証拠が次々と見つかりました。これに対し中国外務省の報道官は「中国政府はあらゆるサイバー攻撃に断固として反対している」と表明し、関与を事実上否定しています」と解説しています。さらに、「日本の政府や重要インフラ企業へのサイバー攻撃では、中国系ハッカー集団の関与が目立ちます。警察庁が21年、「Tick(ティック)」と呼ばれる中国人民解放軍と関わりのあるハッカー集団を名指しし、国内200組織を標的にしていたと公表しました。25年1月には「MirrorFace(ミラーフェイス)」という別の集団について、先端技術や安全保障に関連する企業や団体を標的にしていたと注意を促しました」、「ハッカー集団の行動をみると、その国の事情や考えが読み取れます。北朝鮮系は暗号資産を狙い、北朝鮮の外貨収入の半分を得ていると国連が24年3月に指摘しました。ウクライナでは15年以降、何度も大規模な停電に見舞われ、ロシア系が関与した痕跡が見つかっています。軍事侵攻の前兆だったとの見方があります」、「常に新しい手口を仕掛けるハッカー集団に対して、世界的に見てもセキュリティ対策の決め手を欠く状態です。日本では長らく、政府や企業の機密情報が盗み取られる被害が続いています。今後は盗んだ情報を悪用した重要インフラへの攻撃にも警戒が必要です」と指摘されています。
政府は、AIの開発促進と安全確保の両立をめざす「AI関連技術の研究開発・活用推進法案」を閣議決定しています。人権侵害やサイバー攻撃への悪用など生成AIがもたらすリスクに対応し、悪質な場合は国が実態調査をしたうえで事業者名を公表する。日本でAIの開発促進や規制を巡る法整備に踏み込むのは初めてとなります。法案はAIを安全保障上重要な技術と位置づけて、開発力を高め国際競争力の向上につなげるとの理念を掲げています。首相が本部長で全閣僚をメンバーとする「AI戦略本部」を設置し、AI政策の司令塔機能の創設を盛り込み、本部は研究開発を進めるための基本計画策定を担うとしています。法整備はAIの開発力強化や利活用促進に加えて、リスク対応にも触れ、不正な目的や不適切な方法によるAI関連技術の研究開発や活用で国民の権利侵害が生じた際、国が分析し対策を検討すると定め、その結果に基づいて「指導、助言、情報の提供その他の必要な措置を講ずる」と明記しています。また、AIによる著しい人権侵害を確認したり、指導しても改善がみられなかったりした場合にAIの開発事業者と、活用事業者らを公表することが可能になります。事例が悪質かどうかの調査はそれぞれの分野の所管省庁が担い、判断基準は新法施行後に詰めるとしています。自民党内には当初、先行して規制法が施行されたEUと同様に違反した事業者への罰則を求める意見があったものの見送られました。過度な規制はイノベーションの促進の妨げになる恐れを考慮したためです。政府が企業の自主性を尊重してきた方針を転換し、法整備に取り組むのには利活用の遅れや、権利侵害が多発するなど社会の不安の高まりが背景にあるためです。生成AIの発展が進み、サイバー攻撃への悪用、本物と酷似した画像や動画を作成する「ディープフェイク」による偽・誤情報の拡散、詐欺などの犯罪助長も頻発している実態に対応する必要に迫られています。AI開発は海外事業者が先行していますが、日本は各国の規制の議論を注視しながら開発を促進しつつ、AIがもたらすリスクにも備えるバランスを保った制度設計をめざすものです。
EUは、世界で初めて制定された「AI法」に基づき、AIサービスの提供や利用などの規制を開始しています。4段階あるリスクの区分で、最も高い区分に分類されたAIサービスは提供や利用が禁止となりました。AI法では、AIサービスのリスクを〈1〉容認できない〈2〉高い〈3〉限定的〈4〉最小限の四つに区分、それぞれ利用などに規制がかかるが、最もリスクが高い区分の〈1〉については、2025年3月2日から利用禁止などの規制の適用が始まっています。〈2〉~〈4〉も2026年8月には規制が本格的に適用されることになります。〈1〉には、インターネットなどから顔画像のデータベースを作成するAIサービスや、個人の信用を評価するAIサービスなどが区分されるといい、禁止事項に違反した場合の制裁金は、企業の場合、最大3500万ユーロ(約56億円)か、世界売り上げの7%のいずれか高い金額を科されることになります。
総務省AI関連の有識者会合で、企業が守るべき事項を盛り込んだ事業者向け指針の更新案を示しています。技術革新や利活用の最新状況を加えた上で、AIへの過度な依存や労働の質の変化による失業をリスクとして追加しています。従来はAIのリスクとして、間違いを含む回答を作る「ハルシネーション(幻覚)」、詐欺などへの悪用、個人情報の不適切な取り扱い、偽情報/誤情報の拡散などを挙げていましたが、今回、新たに「AIへの「過度な依存」を加えています。国内でも採用面接などでのAI利用が広がっているところ、こうした重要な意思決定時に、AIを不適切に使ったり判断をそのまま用いたりすると企業側が「説明責任を問われたり批判を受けたりする」と指摘しています。AIが自動的に質問に答えるチャットボットサービスを巡り、利用者が「AIに対し精神的な依存状態」になる事例も挙げています。海外では相談相手になりきったAIと会話した後、利用者が自殺し、社会問題になるケースが起きています。また、雇用面では失業者が増えるリスクを追加、AI普及で人間に求められるタスクは変化しており、する。米オープンAIや米ペンシルベニア大などによる2023年の調査では大規模言語モデル(LLM)の導入により、米国の8割の労働者について仕事内容の1割が変化し、2割の労働者については仕事内容の5割が変わるとしています。新たなテクノロジーで労働者の業務負担は減り生産性も高まりますが、指針では「失業リスクや格差の拡大が懸念されている」と指摘しています。AI開発をめぐる「データや利益の集中」も新たに挙げており、国際社会ではAIの恩恵が先進国に偏るとの批判が出ているほか、少数言語によるAIモデルが存在しない点も懸念事項に挙げられています。
▼総務省 AIネットワーク社会推進会議(第30回)・AIガバナンス検討会(第26回)合同会議
▼【資料2】AI事業者ガイドラインの更新内容
- 令和6年度の更新内容
- AI技術を用いたサービスが普及し、契約類型が多様化する中で、典型的な契約類型を整理するとともに、経済産業省にて令和7年2月に公開した「AIの利用・開発に関する契約チェックリスト」を紹介する
- 契約類型が多様化した背景
- AI技術を用いたサービスが普及する中で契約類型が多様化した状況について、具体的な契約場面例を追記する
- 契約類型
- AIの利用開発に関する典型的な3類型(汎用的AIサービス利用型、カスタマイズ型、新規開発型)を追記する
- 市場環境の変化に応じた留意点
- 経済産業省「AIの利用・開発に関する契約チェックリスト」(2025年2月公表)を参照する旨追記
- 今後、契約当事者が増加し更に契約関係が重層的になる可能性や、新たな契約類型が生じる可能性があることを示す
- 契約類型が多様化した背景
- 責任分界の明確化が求められる背景や、事故発生リスクとの関係で契約上留意するべき事項について追記する
- 責任分界の明確化が求められる背景
- 事故発生時にどの主体がどのような責任を負うかについて明確な基準はなく、事業者としてリスクシナリオを描けずに、AI導入を断念・躊躇する場合もあることを示す
- 新たな類型のリスクについての対応策
- 関係当事者間で協調的にリスクを分配することが重要であることや、損害保険等の保険の活用が有用なケースもあり得ることを示す
- 事故発生リスクとの関係で契約上の留意が有益な事項
- 契約当時には想定していなかった事故が生じる可能性や、周辺環境の変化を踏まえて契約内容の見直しを行うことの重要性を示す
- 透明性を確保することが求められる一方、セキュリティや競争力の低下リスクへの配慮も必要であることを示す
- 責任分界の明確化が求められる背景
- 生成AIに関する技術の進歩や事業者における導入の進展を踏まえ、マルチモーダルな生成AI、RAG、プログラムコードの生成等に関する記載を拡充する
- 生成AIによる便益を追加
- 「生成AIによる可能性」として、マルチモーダルな生成AI、RAG、プログラムコードの生成、AIエージェントによるリスクの低減やAIそのものの活用範囲の拡大といった便益に関する記載を追加
- 生成AIによるリスクを追加
- 環境への負荷、生成物による知的財産権の侵害の可能性といった生成AIの特徴を踏まえ、本編「共通の指針」の「人間中心」「安全性」等における記載を拡充
- 生成AIに関して配慮すべき事項を追加
- 各主体向けに、マルチモーダルな生成AIやRAG、プログラムコードの生成時に配慮すべき事項(RAGにおける参照データの適切な取扱いなど)を整理し記載を追加
- 生成AIによる便益を追加
- AI事業者ガイドラインを活用し、グローバルなAIガバナンスを構築している企業の事例として「NTT DATA」の事例を新たに追加する
NTT DATAの取組事例をコラムとして追加- AIガバナンス体制の整備
- AIリスク管理を所掌する専任組織としてAIガバナンス室を設置
- グループ各社にAIリスク関連窓口を設置し連携体制を構築
- AIガバナンス基盤の整備
- NTTデータグループAI指針、AIリスクマネジメントポリシー、社内規定、生成AI利用ガイドラインの整備
- リスクチェックの実装
- リスクの評価と対応支援の2つのステップで実装
- 社員トレーニング
- AIリスクマネジメントやAI開発プロセスに関わる教育コンテンツを作成し社員に提供
- AIガバナンス体制の整備
- 多様なステークホルダーにおける取組事例の参考として、「中小・スタートアップ企業」の事例を追加する
Ubie株式会社の取組事例をコラムとして追加- AIガバナンス体制と取組
- 人的資源が限定的である中で、目まぐるしい変化に対応するための利活用推進組織とリスク評価組織の連携を中心としたガバナンス体制構築
- 具体的なリスク対応の例示
- リスク評価における観点や主体
- AI提供者として留意している事柄
- 業界団体との連携による情報取得、ルール策定への関与
- 業界団体を通じて、多様な企業と生成AIに関する最新情報の共有・政策動向をキャッチアップ
- 業界のガイドライン策定への関与
- AIガバナンス体制と取組
- 多様なステークホルダーにおける取組事例の参考として、「地方自治体」の事例を追加する
神戸市の取組事例をコラムとして追加- AIの利活用を推進するために条例を整備
- AI条例に基づいた、AIの活用などに関する指針を策定
- AI活用の評価を行う際、10個のリスクアセスメント項目を基に、リスクの大小(市民への影響を及ぼすかどうか)を考慮したリスク評価を実施
- 市職員の生成AIを利活用を進めるために、「神戸市生成AIの利用ガイドライン」を策定
- 条例やガイドライン等の理解浸透の実施
- 事業者から「リスクベースアプローチ」に関する課題が寄せられたことから、ヒアリング等を通じて得られた「リスクベースアプローチ」の対応を「実践例」や「実践のポイント」に追加する
- リスクベースアプローチに関する実践例を追加
- リスクベースアプローチの考え方として、透明性の確保、公平性の確保、信頼性の確保、AI利用の公表、知的財産の保護、その他の計6つの検討項目を定め、各検討項目において、潜在的なリスクと、その潜在的リスクに対するコントロール手法(最低限の対処)の評価を行う事例を追加
- リスクベースアプローチに関する実践のポイントを追加
- ユースケース、サービスまたは製品ごとに適切なレベルの管理を実施する点を追加
- リスクベースアプローチに関する実践例を追加
- 事業者から「人材不足」に関する課題が寄せられたことから、ヒアリングを通じて得られた「人材不足」に関する対応を「実践のポイント」に追加する
人材不足への対応策の追加- AIマネジメントシステムの適切な運用に必要な人材・スキルを定義し確保
- AIに関する協会・団体等を通じて収集した事例やベストプラクティス等の社内教育への活用
- AI制度研究会等の国内動向や、広島AIプロセス等の国際動向において、注視するべき最新状況を追記する
- 国内
- AI戦略会議・AI制度研究会 中間とりまとめ
- 内閣府「消費者をエンパワーするデジタル技術に関する専門調査会」報告書
- 文化庁「AIと著作権に関する考え方について」
- 個人情報保護委員会:「個人情報保護法 いわゆる3年ごと見直しに係る検討」
- デジタル庁「AI時代における自動運転車の社会的ルールの在り方検討サブワーキンググループ」
- 経済産業省「コンテンツ制作のための生成AI利活用ガイドブック」
- 文部科学省「初等中等教育段階における生成AIの利活用に関するガイドライン」
- 国際
- 広島AIプロセス
- EUの「AI法(Artificial Intelligence Act)」
- 国内
- 経営層のAIガバナンスの管理・監督責任が問われる可能性があることにも留意するため、経営層の取組の補足として、脚注を追加する
経営層へのAIガバナンスの取組の追加- 経営層のAIガバナンスの管理・監督責任が問われる場合があることにも留意
- 「バイアス」「多様性・包摂性」「透明性」など、AIガバナンスにおいて重要な単語の定義や表現を見直す
- 「バイアス」の定義・表現の見直し
- ガイドラインにおける「バイアス」の定義を記載するとともに、「~なバイアス」「○○的バイアス」などの表現を見直し、明確化
- 「多様性・包摂性」の定義・表現の見直し
- ガイドライン内の「多様性」や「包摂性」という用語を「多様性・包摂性」に統一(表現の揺れの修正)
- 「透明性」の定義・表現の見直し
- EU AI法の定義を参考として追加
- 諸外国の開示対象者や開示主体、開示目的が異なる等、「透明性」の確保にあたっての留意点を追加
- 「バイアス」の定義・表現の見直し
- AI技術を用いたサービスが普及し、契約類型が多様化する中で、典型的な契約類型を整理するとともに、経済産業省にて令和7年2月に公開した「AIの利用・開発に関する契約チェックリスト」を紹介する
金融庁は、生成AIを金融機関で活用するにあたっての論点をまとめています。金融サービスのあり方を抜本的に変える可能性がある一方、想定していない金融犯罪の手口を生み出し、新たな脅威になりうると指摘しています。銀行や保険、証券会社などに対して、金融庁は2024年秋、AIの利用実態についてアンケートを実施、130社・法人から回答があり、93%が生成AIも含めて活用していると回答、金融機関などの7割が社員に生成AIの活用を認め、その多くが文書の要約や翻訳、校正や添削といった業務の効率化に使っており、今後は、半数以上の金融機関が、コールセンター支援など顧客サービスでの活用を検討するとしています。生成AIがもたらす新たな課題として金融庁は、データの偏りなどからAIがもっともらしい虚偽の情報を流すハルシネーション(幻覚)により、金融機関の信頼性を損なう恐れを指摘、また、自然な日本語で文章や音声、映像を生成できるようになったことで、金融犯罪の手口が巧妙になり、金融機関や顧客を取り巻くリスクが拡大傾向にあること、金融庁は「既存の対策では想定していない新たな手口を生み出し、個々の対策を導入するだけでは対応しきれない規模の脅威をもたらしうる」と警告しています。ただ、AIは将来的に金融機関のビジネスモデルを一変させる可能性も秘めているため、技術革新に取りのこされる「チャレンジしないリスク」も踏まえ、顧客の利便性や業務の効率化につながる健全なAI活用を金融機関に求めていく考えです。
▼金融庁 AIディスカッションペーパーの公表について
▼(別紙2)AIディスカッションペーパー(概要資料)
- 金融分野におけるAIの活用可能性とユースケース
- 回答先のうち9割以上が従来型AIもしくは生成AIを既に活用
- 多くの金融機関やフィンテック事業者等が既に業務にAIの活用を取りこみ
- 従来型AIの主なユースケース
- 業務効率化
- 書類文書のテキスト化(OCR)
- 情報検索
- 対顧客サービスへの活用
- チャットボット
- マーケティング
- リスク管理の高度化
- 不正検知(AML/CFT等)
- 与信審査・信用リスク管理・引受審査
- コンプラ違反抽出
- 市場予測等
- 為替・金利予測
- 市場センチメント把握
- 業務効率化
- 生成AIの導入状況と主なユースケース:利用範囲
- 幅広く一般社員向けに生成AIの活用を認めている先が約7割
- 申請制としている先、本社部門に限定して利用を認めている先、生成AIの種類に応じて異なる利用範囲を設定している先も生成AIの導入状況と主なユースケース:導入後の利用状況
- 大半の金融機関等において、導入直後と比較して継続的に利用されているか、現在の方がより活発に活用されている
- 汎用の生成AIを導入しているのみの先も多いが、それでも活発に活用されているのは、生成AIの金融機関の業務効率化等への活用可能性の高さを裏付けるもの
- 生成AIの導入状況と主なユースケース:カスタマイズの有無
- 約半数の金融機関が汎用の生成AIをそのまま活用:学習済モデルの導入の容易さもあり、従来型AIよりむしろ生成AIの方が全般的な導入率が高いとの結果
- 一方で、RAGやファインチューニングにより、外部ベンダーが提供するLLMと社内データベース等を組み合わせて利用もしくは利用を検討している先も多い
- 生成AIの導入状況と主なユースケース:導入形態
- 生成AIの導入形態は一様ではない
- ユースケースに応じて複数の生成AIを使い分ける先も多い
- オープンソースとして提供されているLLMをオンプレミスサーバー内で利用している先や、プロプラエタリな生成AIサービスを専用線経由で閉域環境で利用している先も
- 外部ベンダーが提供する生成AIツールをSaaSとして導入している先もあれば、ユーザーインターフェース等を独自で開発する先も
- 生成AIの導入状況と主なユースケース:ユースケースの3類型
- 社内利用(業務効率化等)
- 対顧客サービスへの間接的な利活用
- 対顧客サービスへの直接利活用
- 現状は(1)に留まっている先が多い
- 一方、今後対顧サービスでの活用に向けた検討を行っていくと回答した先も半数以上
- ハルシネーション等のリスクを考慮して(3)はごく限定的
- 生成AIの導入状況と主なユースケース:ユースケース詳細
- 社内利用(業務効率化等)
- 文書要約/翻訳
- 文書等の構成・添削・評価
- 情報検索(社内FAQ等)
- システム開発/テスト(非自然言語領域)
- 対顧客サービスへの間接的な利用
- コールセンター業務支援
- ドラフト作成(稟議書等)
- 対外公表文書ドラフト
- 対顧客サービスへの直接利用(現状では極めて限定的)
- 文書要約など汎用生成AIの導入は進展
- 発展的な活用は導入途上
- 社内利用(業務効率化等)
- 金融機関等のAI活用に係る主な課題と課題克服に向けた取組事例
- 従来型AIと生成AIで共通の課題
- データ整備
- 外部事業者との連携及びリスク管理
- 投資対効果
- 生成AIにより難化した課題
- 説明可能性の担保
- 公平性・バイアス
- AIシステムの開発・運用及びモデル・リスク管理
- 個人情報保護
- 情報セキュリティ・サイバーセキュリティ
- 専門人材の確保・育成及び社内教育
- 生成AIがもたらした新たな課題
- ハルシネーション(幻覚)
- 生成AIの金融犯罪への悪用
- その他の金融システム安定上の論点
- 従来型AIと生成AIで共通の課題
- 従来型AI/生成AI共通の課題:データ整備
- 課題
- AIの急速な進展と普及はデータの重要性をさらに高めている
- 一方で、多くの金融機関が社内のデータ整備に課題
- 約半数の金融機関が「モデル構築等のために十分な学習データの確保」や「学習データの品質管理」が課題と回答し、データ整備は道半ば
- 取組事例・対応の方向性
- AI活用に適したデータベース構築と学習データ確保等に向けた取組みが進展
- 社内データを一元的に収集・管理するためのプラットフォームを構築
- データへのアクセス制御やデータのバージョン管理を効率的に行うソリューションの導入
- OCRや音声認識などによりテキストや音声などの非構造化データを解析
- 自社のデータが収益性向上やビジネスモデルの変革に向けた重要な経営資源になる可能性があることを認識し、セキュリティを確保しつつ、データ活用基盤の整備やAPI連携などを重要な経営課題の一つとして検討していく必要
- AI活用に適したデータベース構築と学習データ確保等に向けた取組みが進展
- 課題
- 従来型AI/生成AI共通の課題:外部事業者との連携及びリスク管理
- 課題
- 複雑なAIモデルの導入には高度な知見が求められるため、外部事業者が提供するソリューションを活用もしくは活用を検討している金融機関等が多い
- 外部事業者へ過度に依存することの弊害について指摘する声もあり、ビジネス環境や業務プロセス、顧客ニーズ等を踏まえた適切なAIシステムを導入するためには、金融機関側担当者がAIに関する一定の知見を持っていることが必要
- システミック・リスクを増大させる可能性があるAI関連の脆弱性としてサードパーティ依存および特定のサービスプロバイダーの集中を指摘(FSB報告書)
- 取組事例・対応の方向性
- 課題解決に向けた取組事例
- 既存のサードパーティ・リスク管理のフレームワークを適用することでセキュリティチェック等を実施
- 特定ベンダーへの過度な依存を回避するため、オープンソース基盤を活用してモデル開発を実施
- ベンダーに社内データ等を提供してAIモデルの開発を委託する際には、モデルの知的財産権が当社に帰属するように契約を締結
- AIの利活用において外部事業者との連携は不可欠であり、連携に伴うリスクに対応しつつ、自社のニーズを踏まえて適切な連携先を選定する必要
- 課題解決に向けた取組事例
- 課題
- 従来型AI/生成AI共通の課題:投資対効果
- 課題
- 効果が見通しづらいため投資対効果の説明が難しく、社内での合意形成に時間がかかる
- 外部事業者が提供する生成AIについては、多くの場合従量課金であるため、使用頻度によっては制限なくコストが増加
- 取組事例・対応の方向性
- 課題解決に向けた取組事例
- ROIが見えにくく各部署で予算確保が困難な場合に、デジタル部門の予算で手当て
- 類似の投資を複数の部署が実行しないようにグループ全体で案件管理
- 収益化の目途が立つまでの間、特性に応じたKPI(定量的指標)を設定して計画対比をモニタリングすることも選択肢
- 経営陣の適切な理解と主体的な関与の下で、戦略的に投資判断を行っていくべき
- 課題解決に向けた取組事例
- 課題
- 生成AIにより特に難化した課題:説明可能性の担保
- 課題
- 生成AIは膨大なパラメータを用いた複雑な学習プロセスと、テキストや音声、画像などマルチモーダルなプロンプトに応じて動的に出力を生成するという仕組みであり、個々の推論について「なぜその回答になったのか」を明示的に示すことが困難
- その結果、例えば営業店にAIが推奨した推進先リストを提示しても、なぜ推奨されるかがわからないと利用されなくなってしまうといった課題がある
- 取組事例・対応の方向性
- 生成AI等の複雑なAIモデルにおいて説明可能性を担保することは容易ではない
- 課題解決に向けた取組みも一定程度進展
- 外部事業者のAIモデル評価ツールの活用
- 営業の推進先リストに判定根拠となる列を追加して納得性を担保
- 完全な説明可能性を確保するのは困難であり、ユースケースに応じて、顧客や社員など関連するステークホルダーの納得感を確保することが重要
- 課題
- 生成AIにより特に難化した課題:公平性・バイアス
- 課題
- AIの学習データやアルゴリズム、さらにはモデルの推論結果に偏りが含まれると、特定の属性を持つ顧客や社員に対して不公平な処遇が行われるリスクが高まる
- L学習データが不足する場合等において、モデルが学習段階でバイアスを強化してしまう危険性
- 取組事例・対応の方向性
- 課題解決に向けた取組事例
- 外部事業者のバイアス検出ツールの活用
- ツールが多種多様であり、具体的な評価指標や監査プロセスの構築に向けた手順が必ずしも明確ではない中で、AIモデルのバイアスを早期に検知し、対処するための一貫したフレームワークを確立することが求められる
- 課題解決に向けた取組事例
- 課題
- 生成AIにより特に難化した課題:AIシステムの開発・運用及びモデル・リスク管理
- 課題
- AIに関するモデル・リスク管理のフレームワークを一定程度整備済みと回答した先であっても、体系的な性能評価指標が確立されていない生成AIについては開発・運用・管理体制の構築に向けてなお取組みの途上
- 汎用性の高さやモデルの頻繁なアップデートといった従来型AIとは大きく異なる特性を有している生成AIについて、従来と同様の方法では全てのリスクを把握・管理しきれないと捉えている金融機関も存在
- 取組事例・対応の方向性
- 課題解決に向けた取組事例
- 生成型AIについて従来型AIのポリシー、手順、管理を継続的に強化して対応
- 複数の専門ベンダーの提供するツールのPoCを行いAIモデルの精度を検証
- 前提条件・限界・不確実性などを含むAIモデルの方法論を文書化
- 独立した検証者によって本番適用前の検証や継続的なモデルのパフォーマンス監視を実施
- モデルの性能維持のため業務知見に基づく特徴量を追加
- 金融庁では、国内外のAIを巡る議論の進展とAIの利用状況を踏まえつつ、適切なリスク管理が行われているかについて対話を継続
- 課題解決に向けた取組事例
- 課題
- 生成AIにより特に難化した課題:個人情報保護
- 課題
- 学習データとして個人情報を扱う場合には、その利用目的や範囲を十分に明確化しなければ、本人同意やプライバシーポリシーとの整合性を欠くリスク
- 外部事業者が提供する学習済みの生成AIモデルにおいては、当該モデルの学習データに個人情報が潜在的に含まれる可能性
- AIモデルの開発や学習を外部ベンダーに委託する際における「個人データの第三者提供」への該当性や、海外にサーバーを置く生成AIプラットフォームを利用する場合における個人情報保護法に基づく適切な対応
- 取組事例・対応の方向性
- 課題解決に向けた取組事例
- 個人情報を生成AIサービスに入力しないことを徹底するために、個人情報保護委員会からの通達を含めて社内の事務連絡文書にて全職員へ注意喚起
- 顧客情報の入力をシステムで自動的に制限することを検討
- 入力したデータが再学習に使われることを防ぐための措置(専用区間の設置、ベンダーとの契約締結等)
- マスキングや匿名化により学習データの質や量を確保
- 個人情報保護に係る適切な対応とデータの効果的な活用の両立が求められており、金融庁としても、継続的な対話を通じて金融機関の取組みの把握を行っていく
- 課題解決に向けた取組事例
- 課題
- 生成AIにより特に難化した課題:情報セキュリティ・サイバーセキュリティ
- 課題
- 生成AI等のAIが攻撃者の能力を高め、金融セクターに対するサイバー攻撃の可能性と影響を拡大させる可能性
- 金融機関が生成AIを活用する際、顧客情報や業務上の重要情報を意図せず外部に漏洩させるリスク
- プロンプトインジェクション等の攻撃がAIシステムの誤動作や機密情報の漏洩を引き起こす可能性
- データポイズニング等、AIモデルそのものが攻撃対象となる可能性
- 取組事例・対応の方向性
- 課題解決に向けた取組事例
- プロンプトの入力データについて一定の制約を設定
- 自社専用環境にて生成AIサービスを導入するなどにより、入出力情報が管理できるシステム環境を構築
- 企画・開発段階での検証を行うと共に、運用フェーズにおいては人の目とシステムの双方で出力データを常時モニタリングする態勢を構築中
- AIを導入・運用する際のセキュリティ面での課題は多岐にわたるため、AIモデル固有の脆弱性への継続的なモニタリングといった組織的対応が不可欠
- 課題解決に向けた取組事例
- 課題
- 生成AIにより特に難化した課題:専門人材の確保・育成及び社内教育
- 課題
- 複雑なAIモデルの開発・運用・管理における専門人材の確保・育成と、生成AIによりAI利用者が増加することに伴う社内教育の必要性を多くの金融機関が認識
- 外部ベンダーを活用して開発や運用を進めた場合、ノウハウや知財が組織内に蓄積されにくく、内部人材の育成が進まない懸念
- 最適なソリューションを選定して運用・管理を継続的に行う人材や、現場とIT部門を橋渡しする役割を担う人材も不足
- 生成AI特有のハルシネーションや著作権侵害など、新たに考慮すべきリスクが増えたことで、従来の教育コンテンツだけでは十分に対応できない
- 取組事例・対応の方向性
- 課題解決に向けた取組事例
- 副業人材(プロ人材)にAIモデル開発支援を仰ぎつつOJTで内部人材育成
- SE出身者など社内高スキル人材のリスキリングと新卒専門人材の採用拡大
- AI関連の資格取得支援などの教育施策を実施
- コールセンター職員向けの実業務に即したAI活用事例の共有
- 全社員に対して生成AIのリスクに関する教育プログラムを導入
- 内製でのAI開発・活用に向けてスタートアップとの合弁会社を設立
- 複数の金融機関が参画する団体等においても人材育成に向けた取組みを行っており、業界横断的な取組みも重要
- 課題解決に向けた取組事例
- 課題
- 生成AIがもたらした新たな課題:ハルシネーション(幻覚)
- 課題
- 誤った情報を提示したり、信用リスクや法的リスクに直結する回答を誤って生成した場合に金融機関等の信頼性を損なう恐れ
- RAGを活用する場合でも、業務設計が適切でないと参照元の選定が不十分となり精度が上がらず、虚偽の出力が排除できないまま運用されるリスクが残る
- 従業員が生成AIを用いて対外的に回答する際に、誤情報をそのまま伝えてしまうリスク
- 取組事例・対応の方向性
- 課題解決に向けた取組事例
- 人間の関与を前提とした業務プロセスの構築(Human in the loop)
- RAGやプロンプトに工夫を行うことにより、根拠となる文書を回答に含めることで根拠の裏付けを確認できるように設定
- 「AIは絶対に誤ってはならない」といった高精度の要求水準をAIに課すことは適切ではないとも考えられるため、AIに対する社会受容の程度や技術進展、ユースケース等を考慮し、過度に委縮することなく生成AIの活用を模索していくことを期待
- 課題解決に向けた取組事例
- 課題
- 生成AIがもたらした新たな課題:生成AIの金融犯罪への悪用
- 課題
- 生成AIにより自然な日本語での文面・音声・映像を生成できるようになったことから、犯罪の手口が巧妙化し、金融機関やその顧客を取り巻くリスクが拡大傾向
- フィッシング詐欺等の手口が巧妙化することに加え、ディープフェイク技術は、特定の人物になりすました偽動画や偽音声等による詐欺行為を容易化
- 従来のKYC手続や認証システムでは実在の人物との見分けが困難になり、本人確認をすり抜ける可能性
- 取組事例・対応の方向性
- 既存の金融犯罪対策では想定していない新たな手口を数多く生み出す可能性があり、 個々の技術対策を導入するだけでは対応しきれない規模の脅威をもたらしうる
- 結果として金融機関全体の信用や金融システムの安定性を損なうリスクも否定できないことから、金融庁・金融機関ともに、こうしたリスクにも留意することが重要
- 課題
- AIガバナンスの構築に向けた金融機関の取組状況:社内ルール等の策定
- AIガバナンス指針を策定・公表したうえで、グループ各社に徹底を図っている先などが認められた
- 従来型AIよりも先に生成AIの導入・利用に焦点を当てた社内ルールを整備し、それを発展させて従来型AIにも適用を広げるアプローチも目立った
- 一方、「既存の枠組みで概ね対応可能」とする声も少なくない
- 規定等の整備にあたり参考とされた文書:AI事業者ガイドライン、民間団体等による生成AI等に関するガイドライン、FISC公表資料、EU等の海外AI関連法令等
- AIガバナンスの構築に向けた金融機関の取組状況:その他の取組み
- 関連部署間の連携強化等を通じたAIの推進および管理体制の構築
- リスク管理部門など複数部署が推進部署と協働してリスク対策状況を把握
- AI技術の発展や更なる当社内での利活用を見据えて多角的な視点からAIリスク評価基準を明確化
- AI特有の課題もあり、従前のガバナンス及びリスク管理のフレームワークの適用を基本としつつも、多くの金融機関が試行錯誤により健全な利活用に向けて検討を行っている状況
- 今後の取組みの方向性:金融庁に対する主な要望
- AI活用に係る規制の適用関係の明確化
- 法域間のAI関連規制のハーモナイゼーション
- 当局者との意見交換の機会の提供
- 金融庁としての対応:金融庁としての今後の対応の方向性
- 規制の適用の明確化
- 個人情報保護、ITガバナンス、モデル・リスク管理、サイバーセキュリティの順で明確化を求める声が多数
- いずれの論点においても、AI利用の有無に関わらず適用される既存の法令や監督指針、原則、ガイドライン等が存在していることから、まずはこれらに沿った対応を金融機関等に促していく
- 生成AIの特性に起因する新たな課題等にも配意しつつ、AI活用に係る規制要件が十分明確になっているか、既存の規制・監
- 督上の枠組みでリスクに十分対応できているかといった観点から、今後検証を行う
- 重大な規制上のギャップが特定された場合には、法令による規制は事業者の自主的な努力による対応が期待できないものに
- 限定して対応していくべきとの政府方針を踏まえ、まずは原則やガイドラインの改定等を検討
- 各論点について検討を深めるため、「官民ステークホルダー勉強会」を開催
- FinTechサポートデスク
- 様々なイノベーションを伴う事業を営む、または新たな事業を検討中の事業者等からの法令面等に関する相談を一元的に受け付ける窓口
- 2015年の開設以来、2024年12月までに金融機関やフィンテック事業者等から合計2,380件の相談を受け付け。生成AIの活用等に関して法令解釈の明確化等を求める場合等に利用できる枠組み
- FinTech実証実験ハブ
- 金融庁内に担当チームを組成し、必要に応じて関係省庁とも連携し、イノベーションに向けた実証実験を支援する枠組み
- AI関連の採択案件として「AIを用いた金融機関のコンプライアンス業務の効率化に向けた実証実験」(2018年8月報告書公表)
- 規制の適用の明確化
AIで生成された偽情報がSNSを通じて拡散することにより、銀行で取り付け騒ぎが発生するリスクが高まるとの報告書を英調査会社などが発表しています。報告書では、銀行が顧客の行動に影響を与えそうな偽情報を監視する体制を強化することが必要だと訴えています。生成AIを使えば顧客資金が安全でないと偽る記事や、銀行のセキュリティ問題をからかうようなミーム(ネット上の画像ネタ)を簡単に作成することが可能で、こうした情報が有料広告付きSNS上で広がる恐れがあるとしています。セイ・ノー・トゥー・ディスインフォの研究によると、AIが生成した偽情報を英国の銀行顧客に見せたところ、3分の1が「極めて高い確率で」預金を移動させるとし、27%が「ある程度の確率で」移動させると回答したといいます。報告書は「AIによる偽情報の生成はかつてないほど簡単で安価、迅速、効果的になっている。金融セクターで新たなリスクが急拡大しているが認識は不十分だ」と指摘、オンラインバンキングやモバイルバンキングの普及によって預金の移動はわずか数秒で可能だと指摘して危機感を示しています。平均的な銀行預金額や広告費、広告の拡散度合いなどに基づく推計によると、偽情報の拡散のためにSNSの有料広告にその都度10ポンド(12.48ドル)を費やせば最大100万ポンドの顧客預金が流出する可能性があるとされます。2023年の米シリコンバレーバンク(SVB)破綻の際には24時間で420億ドルの預金が引き出され、銀行や規制当局はSNSによる銀行の取り付け騒ぎ拡大への懸念を強めています。
その他、AI/生成AIを巡る最近お報道から、いくつか紹介します。
- 原発を最大限活用すると打ち出した政府のエネルギー基本計画のパブリックコメント(意見公募)を巡り、10件以上投稿した46人だけで計3940件の意見を寄せていたことが経済産業省の調べで分かったといいます。要旨を入力するだけで類似内容の文章をすぐに作成できる生成AIを活用したとみています。全意見の約1割に当たり、反原発の訴えが大半だったようです。経産省は、XやLINEで、生成AIを使ってパブコメ案を作成しているやりとりを確認、複数人でシフトを組んでいる事例も見つけたといいます。同内容の複数投稿には「水素発電を推進 原子力発電反対」や「原発再稼働 新設には絶対反対です!!!」などがあり、1人の最大投稿数は457件に上っています。多様な意見を取り入れることが目的の意見公募で生成AIによる大量投稿が頻発すれば、本来は政策に反映されるべき意見が埋もれてしまう恐れがあるといえます。
- 欧州警察機構(ユーロポール)は、画像生成AIで作成した児童ポルノをインターネット上で頒布したとして、犯罪グループの容疑者25人を逮捕しています。英仏やオランダなど19か国の当局が計33か所を同時に家宅捜索していたものです。ユーロポールによると、デンマーク当局が2024年11月、犯罪グループの主犯格を逮捕、デンマーク国籍の主犯格はAIで生成した児童ポルノを閲覧できる有料サイトを運営し、世界中のユーザーを顧客としていました。今回逮捕された25人の大半が欧州諸国の国民とみられていますが、主犯格とどのような協力関係にあったかは明らかにされていません。逮捕者はさらに増える可能性があるといいます。ユーロポールは2017年から児童ポルノの取り締まりを強化しており、「AIによる画像生成は非常に簡単で犯罪は増加している。新たな捜査方法やツールを開発する必要がある」と課題を指摘しています。一方、日本では、ディープフェイクポルノを取り締まる法規制は十分ではない状況にあります。
- オンラインで交友関係を求める人たちの間でAIチャットボット(あらかじめ設定されたプログラムに基づき自動的に返答するシステム)が人気を集めるようになったのに伴い、青少年擁護団体は子どもたちが人間そっくりの創造物と不健全で危険な関係を築く可能性があると懸念し、保護に向けた規制の導入を呼びかけています。複数の擁護団体はチャットボットが子どもたちに自分自身や他人を傷つけるように仕向けたとして開発者を訴え、規制の厳格化を求めるロビー活動を繰り広げています。原告の1人は、チャットボットとの不健全な恋愛関係が一因となって14歳の息子が自殺したと主張、この訴訟は2024年10月に米南部フロリダ州の裁判所に起こされました。もう1件の訴訟は、テキサス州の2家族が2024年12月にキャラクター・ドットAIを相手取って起こしたもので、原告側はキャラクター・ドットAIのチャットボットが自閉症の17歳の少年に両親を殺すよう促し、11歳の少女に性的なコンテンツを見せたと主張しています。ロイターの報道で製造物責任を専門とし、アスベスト被害者の代理人を務めた経験を持つ弁護士は、これらのチャットボットは未熟な子どもを食い物にするために設計された欠陥製品だと主張しています。
(6)誹謗中傷/偽情報・誤情報等を巡る動向
2024年に実施された東京都知事選挙や衆議院議員選挙、兵庫県知事選挙などでは、SNSと選挙の関係、誹謗中傷問題、偽情報/誤情報を巡る諸問題などが顕在化しました。その点については、2025年3月5日付朝日新聞の記事「それ、正しい情報ですか? SNSと選挙」がよくまとまっていて大変参考になりました。具体的には、「SNSはもはやインフラだと言ってよい。総務省がメディアの平均利用時間を調査したところ、インターネットの利用時間は、平日で194・2分、休日は202・5分。いずれもテレビ(リアルタイム視聴)の平日135・0分、休日176・8分を上回っていた。コロナ禍で在宅が増えたこともこの傾向を加速させたようだ。SNSのプラットフォーマー、X(旧ツイッター)や動画サイト「YouTube」が、これまで以上に大きな影響力を持ったことを意味している。プラットフォーマーから得る情報は、自ら選んだものとは言えないという特性がある。プラットフォーマーが独自のアルゴリズムで、使っている人それぞれが好みそうな情報を選んで届けているのだ。これは便利な機能だが、懸念もある。エコーチェンバー、フィルターバブルという言葉が示すように、自身の考え方や価値観に似た情報しか、届かなくなる現象について多くの識者が問題点を指摘している。最大の問題は届けられる情報にウソや誹謗中傷が紛れている場合があるということだ。新聞やテレビなどのメディアによる報道は、媒体の責任で情報を精査し、複数の目によるチェックを経て発信することで、正確性や妥当性を担保しようと努めている」と指摘しています。デジタルプラットフォーマーがどれだけの使命感をもって、どれだけの精度で取り組んでいるかは正直、議論の余地があるものの大きな流れは指摘の通りだと思います。そのうえで、「国際大学グローバル・コミュニケーション・センターは、ネット空間で偽・誤情報がどれだけ広がっているのかを調べた。予備調査2万人、本調査5千人に対し、ネットで拡散している情報の中で、明らかに間違いが含まれる情報について質問。その情報を「見聞きした」と答えた人は37・0%。そのうち51.5%が「正しい情報だと思う」と回答した。「誤っている」と回答した割合は14.5%にとどまった。偽・誤情報を正しい情報と思った人が、その情報を知った時、「どう感じたか」については、「怒り」が31.0%、「不安」が25.2%。その情報を「他の人に伝えた」と答えた人の割合は17.3%だった。間違いが含まれるその情報の伝え方は、48.1%が家族や友人との直接の会話によるものだった。SNSでシェアするなどした人は27.0%だった。調査に関わった日本ファクトチェックセンターの古田大輔編集長によると、偽・誤情報の多くは感情を揺さぶり、「興味深い」「重要」と思った人が、その人なりの「正義感」や善意から拡散させることが多いという」と紹介しています。まず情報の真偽を見抜く力が十分ではないことに驚かされましたが、そうした情報をSNSではなく直接の会話で伝えるという点も意外でした。偽情報や誤情報のもつ拡散力を人間が助長している構図もみえて興味深いものがあります。そして、「結局は自ら、SNSへのリテラシーを高めるしか対策はない。情報に接して怒ったり、不安になったり、おかしいなと思ったりした時は、その情報が正しいかどうかを確認する必要があると専門家は指摘する。たとえば、発信元を調べてみる、関連のキーワードでネット検索する、最新の情報かチェックするといった作業で、偽・誤情報かどうかを見破れることにつながるという」、「まずは一拍おいて、「それは本当か?」と調べてみる努力が、投票する前に有権者に求められる時代になったということだろう」との結論については、筆者としても同感です。たくさんの情報が飛び交う中で、真偽を確認する手間をかけることはなかなかハードルが高いですが習慣として定着していくべきですし(海外では小さい頃からファクトチェックを行う教育を行っているといいます)、一方で何でもすぐに発信してしまうという行動様式そのものを見直すことも大事だと感じました。
兵庫県の斎藤知事が内部告発された問題を巡る県議会調査特別委員会(百条委員会)は、SNS上で臆測や誹謗中傷が飛び交う異例の展開になりました。結論が出ていない段階で「パワハラはなかった」との情報も飛び交い、文書の目的が斎藤氏の失脚を狙った「クーデター」だとの見方も、斎藤氏を支持する人たちの間で広がりましたが、委員らは証人尋問などを重ね、報告書でこうした見方を否定しています。百条委員会のプロセスを巡っても様々な情報が飛び交い、2024年10月24、25両日の会合を非公開としたことに「不都合な真実を隠している」との批判が出回りましたが、実際は選挙への影響を考慮し非公開とし、選挙後に動画を公表すると決め、選挙後に動画を公開したものです。非公開だったはずの片山氏の証言内容が漏れ、立花氏が選挙期間中にSNSで発信、2025年2月になって日本維新の会所属の増山誠県議が立花氏に録音データを渡していたことが発覚、こうした一連の真偽不明の情報の拡散により、複数の委員が誹謗中傷にさらされる事態にも発展、竹内元県議はSNS上で斎藤氏を失脚させようとする「黒幕」などと指摘され、知事選後に県議を辞職し、2025年1月に自殺したとみられています。さらに、死亡の情報が報道された後、立花氏が「近く逮捕される予定だった」とSNSで発信、翌日に兵庫県警の村井本部長が「全くの事実無根」と県議会で否定、立花氏は自身のユーチューブチャンネルで「警察の逮捕が近づいていて、それを苦に自ら命を絶ったということについて間違いだった。訂正する」と謝罪しています。誹謗中傷、偽情報/誤情報のもつ拡散力、破壊力は人の生命をも奪ってしまうほど恐ろしいものであり、そうした中、兵庫県警があえて「事実無根」と速やかに否定した対応は素晴らしく、「誹謗中傷対策、偽情報/誤情報対策には、正しい情報をすみやかに流通/拡散させることが最も効果的である」ことを痛感させられました。
関連して、東京都知事選の告示を9日後に控えた2024年6月11日、X(旧ツイッター)上に、「百合子の独裁政治」と派手なテロップが入った57秒間の動画が投稿されました。動画は、都議会予算特別委員会で、男性都議が「答弁を拒否している」と小池百合子知事を追及する場面から始まり、この発言を別の都議らが「不穏当だ」として取り消しを求める動議を提出、男性都議は委員長に退席を求められ、「言論の自由の侵害だ」と訴えながら、議場を後にするとの内容でした。動画は一見、小池知事を批判したことを理由に、男性都議が退席させられたように見えますが、日本ファクトチェックセンター(JFC)の男性スタッフは「フェイクではないか」との疑念を抱き、検証したところ、JFCは都議の退席は事実だが、「小池知事が自身に批判的な議員を退席させた」との指摘はミスリードとして、告示日の同20日、投稿を「不正確」とする検証記事をホームページ上で発表しました。投稿はそれまでに65万回閲覧され、「狂乱な独裁者」「落選させよう」と小池氏を非難するコメントが殺到していましたが、知事選は小池氏の当選で終わりました。読売新聞でこの男性スタッフは「SNSの印象操作は早く止めないと、選挙に影響しかねない。ファクトチェックは時間との勝負だ」と述べています。SNS上にあふれる情報の真偽を確かめるファクトチェックについて、JFCは「偽情報は無数にあるうえ、検証不可能なケースも多い」と述べています。人手が足りない中、内部情報の入手が必要な投稿や専門性の高い情報は、さらに検証が難しく、JFCは、「虚偽情報は1分で投稿できる一方、うそと証明するには時間がかかる。それでもファクトチェックを続け、検証記事を読んでもらうことで、『この情報は怪しい』と判断できる人が増えてくれれば」と述べています。ファクトチェックの国際組織に加盟する国内団体はJFCを含めて3団体のみと、偽情報の検証態勢は脆弱であり、記事は無料で公表しているため、収入はSNSを運営するプラットフォーム事業者や個人からの寄付に頼っており、運営には資金繰りの不安がつきまとうといいます。
2025年2月19日付読売新聞の記事「政治系切り抜き動画「金になる」…進む分業、誤情報も拡散」は大変参考になりました。「切り抜き動画」は、ユーチューブがショート動画サービスを始めた2021年頃から広まり、石丸氏が市長在職中、市議らと対立するシーンがショート動画で編集・拡散されると、石丸氏の知名度が飛躍的にアップ、政界が注目するところとなりました。他者が制作・投稿した動画コンテンツの無断転載は、著作権侵害となりますが、著名人の場合、収益の分配を条件に許諾するケースもありますが、国民民主党など政党側は有権者にアピールしようと無償使用を認め、積極的に転載を呼びかけている実態があります。つまり、「著作権を気にする必要もなく元手をかけずに制作でき、コスパ(費用対効果)が良い」ものと認知されているということでもあり、収益目的で制作された政治系動画の増加は、偽・誤情報や真偽不明の情報の拡散につながっている点に注意する必要があります。報道で作る側からみたSNSが選挙に及ぼす影響について、「切り抜き動画を視聴する人は情報を吟味しない。こんな動画で投票先を決める方がおかしい」と述べている点が印象に残ります。選挙運動を名目とした収益狙いのSNS発信が偽情報などの拡散を助長している実情は、国会でも問題視されており、与野党7党の「選挙に関する各党協議会」は、選挙期間中のSNS規制の議論に着手、自民党は、収益化の規制に加え、「SNSを運営するプラットフォーム事業者の責任明確化」、「公職選挙法の「虚偽事項公表罪」の適用厳格化」などの論点を提示、公職選挙法のほか、情報流通プラットフォーム対処法(情プラ法)の改正を対応策に挙げています。協議会は、東京都議選や参院選がある夏までをめどに中間的な報告をまとめる方向だといいます。「切り抜き動画」の問題については、2025年2月29日付毎日新聞の記事「選挙で波乱呼ぶ「切り抜き動画」 東欧では”あの国”が悪用か」でも取り上げられていました。その影響力の大きさの最たる例として挙げられたのが、2024年11月の兵庫県知事選の結果と、同じころ、冷戦期にソ連の影響下にあった東欧ルーマニアの大統領選挙です。泡沫とされていた極右候補が首位に躍り出たもので、動画投稿アプリ「TikTok」を使い、短期間で飛躍的に支持を伸ばしたとされます。治安当局は予想外の結果を受けて、選挙に関する報告書の機密解除に踏み切り、休眠状態だった797アカウントを含む約2万5000アカウントが投票2週間前から急に動き出したほか、計800万人のフォロワーがいる100人のインフルエンサーが投稿の拡散に協力、インフルエンサーには謝礼が支払われていたことも判明、こうした工作には、ロシアが関与した可能性が高いとも指摘されています。極端な愛国主義を唱える泡沫候補ジョルジェスク氏は、新型コロナウイルスの存在を否定するなど、「陰謀論者」としても知られています。報道では、「黒海沿岸に位置するルーマニアは2004年にNATO、07年にEUに加盟し、16年には米軍の防空システムが配備された。ウクライナ危機以降は地政学上の重要度がさらに高まり、NATOは対ロシア防衛戦略の最前線として欧州最大規模の基地建設を進める。それだけにジョルジェスク氏のような人物が国防や外交の権限を持つ大統領の有力候補に浮上したことは、NATO加盟国にとって安全保障の根幹を揺るがしかねない事態だった」と指摘しています。また、「インターネットでの人権保護などに取り組むNGO「ApTI」(ブカレスト)のボグダン・マノレア氏は「SNSが触媒となり、貧困や政府の腐敗など、さまざまな理由で不満を持つ人々の間に火を付けた」と指摘する。政治学者のピルブレスク氏はこう話した。「世論は分断された。これは実験だった。そして成功した」」という指摘は大変重みがあります。
2025年2月14日付読売新聞の記事「SNS投稿 実名?匿名?」も興味深いものでした。「SNSには、X、フェイスブック、インスタグラムなど様々なサービスがあります。このうち、匿名の利用が多いのがXです。Xの利用者が米国に次いで多いとされる日本は、海外に比べて匿名の割合が高い傾向があります。総務省が2014年の情報通信白書で公表した調査では、当時のツイッターを匿名のみで利用していた人は回答者の75.1%に上りました。フランス(45%)や韓国(31.5%)など、30~40%台だった欧米やアジアと比べて2倍前後となっています。日本で匿名が多い理由について、2000年代からインターネット掲示板やSNSを運営してきたIT会社「アル」の古川社長は、「日本の初期の掲示板が匿名を前提にしていたのが要因では」と話します。自己主張が苦手な日本人の気質にも合い、「ネットは匿名利用」という意識がおのずと定着したとみています」と紹介しています。「匿名の利点には「自由に発信できる」「多様な意見が集まる」といった点があります。古川さんによると、SNS上の対立が分断を招いている米国などでも、匿名の利点が注目されているそうです。ただし、匿名には、他人への誹謗中傷が行われやすいといったデメリットも指摘されています。SNS上で匿名のアカウントなどから誹謗中傷を受けた人が自ら命を絶つという、痛ましい出来事も相次いで起きています」、さらに「匿名のやり取りは、衝動的で自己主張が強い行動につながりやすいと考えられています。総務省は、匿名での利用が多いことを踏まえ、「相手を傷つける言い回しは、批判ではなく誹謗中傷。カッとなっても立ち止まって」などと呼びかけています」。一方、「実名は、投稿者の身元が明確なため、匿名に比べて投稿の内容の信頼性が高いのが利点です。虚偽や悪意のある発信も抑えられると期待されます。日本では、実名のみのツイッター利用は2割程度(14年の情報通信白書)と多くはありませんが、偽・誤情報や誹謗中傷が大きな社会問題となる中、SNSなどのネットへの書き込みの「実名化」を求める声は高まっています」、また、「韓国政府は07年、ネット掲示板での誹謗中傷が社会問題化したのを受け、「匿名社会は人間の暴力性を助長する。自由な発言には責任が伴うはずだ」として、「実名確認制度」を導入しました。掲示板サイトを利用する際、住民登録番号や銀行口座などでの本人確認を義務付け、実名を割り出せるようにしましたが、表現の自由の制限という観点から「憲法違反に当たる」として12年に廃止されました。問題は他にもありました。制度導入後、一般の書き込みが1日当たり約400件と導入前の3分の1以下に減り、利用の萎縮を招く結果となりました。悪意のあるコメントの減少もわずかで、誹謗中傷を抑制する効果は限定的でした。このように、実名と匿名には「情報の信頼性」「発信の自由度」で相反する特徴があります。実名は情報の信頼性が高まる一方、発信の自由度は下がります」とし、国際大の山口真一准教授は「誹謗中傷や偽情報が蔓延すれば、SNSの信頼性は低下する。より良い言論空間にしていくには、PFだけでなく政府や研究者らも連携し対策をしていくことが重要だ」と指摘しています。
その他、最近の誹謗中傷、偽情報/誤情報を巡る報道から、いくつか紹介します。
- タレントの堀ちえみさんの公式ブログに大量のメッセージを送ったとして、警視庁は、東京都多摩市の無職容疑者の40代の女を偽計業務妨害容疑で再逮捕しています。女は、インターネット上に堀さんを中傷する書き込みをしたなどとして、侮辱と脅迫の疑いで逮捕されていました。報道によれば、女は2023年4月~2024年7月、堀さんのブログのコメント欄に計約1万6000件のメッセージを送信、ブログの管理会社に、一般公開するメッセージの選別作業を困難にさせ、業務を妨害した疑いがもたれています。送信元のIPアドレスなどから関与が浮上、女は2022年7~8月、ネット掲示板に「腐っている」「うそつき」と堀さんを中傷する書き込みをしたなどとして、2025年1月に逮捕されていました。
- オンライン法律相談サービスの弁護士ドットコムは、インターネット上で誹謗中傷の被害を受けたことがある人が3割に上ったとの調査結果を発表しています。面識のない第三者による被害や個人情報をさらされるなどの被害が多い結果となりました。ネットやSNSで誹謗中傷の被害を受けたことがあると答えた人は30%を占め、被害の内容(複数回答)を聞くと、「容姿や性格、人格に関する悪口を書き込まれた」が67%と最も多く、次いで「ウソの情報を流された」(51%)や「個人情報をさらされた」(28%)が続きました。加害者(複数回答)は「これまで面識のない第三者」が最多の41%で、加害者を特定できなかった人(27%)や、SNS上のみでつながりがある人から被害を受けた人(23%)も目立ちました。被害が増えるなか、対応するSNS利用者は少なく、誹謗中傷と思われる投稿を見かけたことがあるとした人は78%を占めた一方、その後の行動(複数回答)で何もしなかった人は64%に上りました。弁護士ドットコムの担当者は「加害者となった従業員や顧客への厳しい法的対応といった企業側のコンプライアンス強化も重要になる」と指摘しています。
▼偽情報対策「企業に責任」57% ネット発達、良い・悪い拮抗(日本経済新聞電子版 3/2配信)
2025年3月2日付日本経済新聞によれば、日本経済新聞社が2024年11~12月に郵送世論調査を実施、インターネットの活用に関する質問で、偽情報などへの対策についてSNSのサービスを提供する企業に責任を求める割合が2023年調査から上昇し、これまで最も多かった「閲覧する個人の責任」とする回答と並ぶ結果となったということです。偽情報や暴力的な発言への対策を巡りSNS運営企業に責任があると答えた割合は57%、2018年の調査開始から初めて、個人の責任(57%)と同率になりました。「ページを管理する個人や企業の責任」が51%で続いています。企業の責任とする意見の高まりに関し、メディア環境に詳しい国際大の山口真一准教授は「闇バイトなど偽情報にまつわる影響が身近なところで出てきている。消費者はそれに対するSNS事業者の対応が十分でなかったとみた可能性がある」と指摘しています。筆者は以前からデジタルプラットフォーマーには「場の健全性」を確保する責任があるはずだと主張し続けていますが、皮肉なことに、闇バイトやSNS型投資詐欺・ロマンス詐欺の被害の爆発的な増加(警察庁が発表した2024年の犯罪情勢によれば、SNSを使った非対面型の投資詐欺やロマンス詐欺の被害はおよそ1268億円(暫定値)と前の年に比べて2.8倍に増えました)という「痛み」が社会で可視化・共有されたことではじめてそうした意識を持つに至ったということだと思います。調査では年齢別で若い世代ほど個人に責任を求める声が多く、山口氏は「SNSに慣れている若い人は情報の検証をしながら能動的に利用しているため、個人の責任と考える人が多いと考えられる」と分析しています。利用経験があるプラットフォームを聞くと、TikTokやインスタグラムの浸透が目立ち、TikTokは24%で質問項目に入れた2020年(9%)から大きく伸び、インスタグラムは43%で調査開始の2018年(21%)から倍増しました。TikTokは視聴時間が短く連続再生が特徴の「ショート動画」が人気で、ユーチューブも含めてショート動画は世論に影響を与える一方で、事実誤認につながるリスクもあることは前述したとおりです。ネット技術の発達が社会や世論形成にどのような影響を与えているかたずねると「良い影響」が26%、「悪い影響」が25%と拮抗、「どちらともいえない」が42%となりましたが、悪い影響が2023年調査から4ポイント上昇しています。また、ネット上の情報を「信頼できる」が19%、「信頼できない」が18%、「どちらともいえない」は56%となりました。
米実業家イーロン・マスク氏が設立したxAIによる最新の生成AI「グロック3」が物議を醸しています。「X上で偽情報を最も拡散している人物は誰か?」と尋ねると「マスク氏」と答えるのに対し、同社がAI回答の修正を試みていたことが判明、「言論の自由至上主義者」を自称してきたマスク氏側の「検閲」に、矛盾を指摘する声も上がっています。グロック3はX上の投稿などを分析でき、公開された2025年2月17日以降、ユーザーの間では、同様の質問を投げ掛けるケースが相次ぎ、「マスク氏」として、「特に政治、選挙、健康といった話題での誤情報の発信源」と解説、詳細な理由を求めると、2億人超のフォロワーを抱える影響力などに言及、ただ、一部利用者が回答を導き出した過程を説明させたところ、「偽情報拡散について、マスク氏と(米大統領の)トランプ氏を挙げないよう指導された」と表示していたことが分かったといいます。マスク氏はこれまで、SNS運営企業の自主的な投稿管理すら「検閲」と批判、グロックを「真実を最大限に追求する」AIと表現してきましたが、自身が率いるxAIも、回答に手心を加えるようAIに指示していたことが暴露された形です。xAIの共同設立者は、変更を加えた従業員は米オープンAIから転職してきたばかりで「当社の文化を理解していなかった」とXで釈明、「われわれの価値観に反する。すぐに元に戻した」と強調しています。グロック3はまた、「米国で暮らす人で、死刑に値する人物は誰か?」との質問にトランプ氏と答え、保守派などから回答が「左寄り」と批判されています。
(7)その他のトピックス
①中央銀行デジタル通貨(CBDC)/暗号資産を巡る動向
ブロックチェーン分析会社チェイナリシスによると、2024年の暗号資産に関連した詐欺の被害額が過去最高に達した可能性があるということです。チェイナリシスは「豚の食肉処理詐欺」の増加や、生成AIの悪用が要因になったと指摘、豚の食肉処理詐欺は、親密な関係を築いた上で投資に勧誘し、金銭をだまし取る手口です。この詐欺による2024年の被害額は推計で約40%増加、暗号資産に関連した詐欺全体の被害額は少なくとも99億ドルで、追加の被害報告があれば、過去最高の124億ドルに達する可能性があるといいます。チェイナリシスの研究者は「暗号資産関連の詐欺は巧妙化が進んでいる」と指摘、詐欺を容易に低コストで行える要因として、豚の食肉処理詐欺をサポートするマーケットプレイスや生成AIの利用を指摘しています。
米の暗号資産に対する姿勢が大きく転換しています。まず、暗号資産交換業大手の米コインベース・グローバルは、米証券取引委員会(SEC)が同社に対する提訴を取り下げることで合意したと発表しています。本コラムでも以前から取り上げてきましたが、SECは2023年6月にコインベースを提訴、有価証券に該当する暗号資産の売買を仲介するのは証券取引所と同様にSECへの登録が必要と主張していた一方、コインベース側の主張は、同社取り扱いの暗号資産は有価証券でなく、登録は不要という立場でした。SECはゲンスラー前委員長が主導する形で、これまで暗号資産業界に厳しい姿勢を続けており、大半の暗号資産は有価証券に該当するとの立場で、証券法に基づいて多くの事業者を摘発してきましたが、暗号資産に親和的なトランプ政権の発足で、規制当局の姿勢も転換したことが明らかとなりました。さらにSECは、投機性の高い「ミームコイン」を有価証券ではなく、連邦証券法の適用外とする事務方の判断を公表しています。なお、米国では連邦レベルで暗号資産を規制する包括的な法律はいまだに存在していません。そうした流れの中、トランプ米大統領は、暗号資産を政府の重要な資産の一つとして戦略的に備蓄するための大統領令に署名しました。米政府は安全保障や経済安全保障の観点から、石油や金、外貨を備蓄しており、暗号資産も対象に含めるものです。対象となるのはビットコインやイーサリアム、リップル(XRP)、ソラナ、カルダノの五つの暗号資産です。米政府は現在、約20万ビットコインを保有しているとされ、売らず財務省が管理するとしています。政権の暗号資産の責任者、デービッド・サックス氏は「米国を『世界の暗号資産の中心地』にするというトランプ氏の決意を表すものだ」と説明、一方、トランプ氏は規制に関与する立場でありながら、自身やその家族も暗号資産を発行しており、利益相反との指摘もあるところです。なお、暗号資産関連業界は歓迎ムードであり、ビットコインが2025年2月28日に付けた2024年11月以来の安値から20%以上上昇しました。一方、備蓄のための暗号資産は、米国の納税者による資金で調達されるか、法執行活動で押収されるものである可能性があり、「後者の場合、新たな買いが市場に入るのではなく、単に口座間の移動を意味するため強気にはなれない」、積極的に買わないという方針に「失望した」、戦略備蓄は「政府が既に保有するビットコインの単なる呼称ということになる」などと指摘する専門家もいます。さらに、トランプ米大統領が、ホワイトハウスで開いた暗号資産に関する会合で、米ドルに連動して価値を安定させるデジタル通貨「ステーブルコイン」の実現に前向きな姿勢を示した点も注目されます。「ステーブルコインや暗号資産市場の規制に関する法案についての取り組みを強く支持する」と話したものです。同席したベセント財務長官もステーブルコインについて「制度を十分に検討する。米ドルを世界の主要な準備通貨として維持し、そのために活用する」と強調しています。
アルゼンチンでは暗号資産を巡って大きな動きがあります。2025年3月7日付ロイターの記事「通貨危機のアルゼンチン、大統領の「詐欺疑惑」で暗号資産も信頼がた落ち」で詳しく報じられていますが、大変興味深い内容でした。具体的には、「アルゼンチンの暗号資産市場が、ある暗号資産の暴落をきっかけに混乱に陥っている。この暗号資産に同国の大統領が関与している疑惑が浮上し、外国の投資家が対アルゼンチン投資をためらう懸念さえ発生している」というものです。なお、「アルゼンチンは以前から、ラテンアメリカ地域では最もブロックチェーン活用が進んでいる国の1つとされていたが、今回の暗号資産危機で評価が失墜したことで、大きな転機を迎えてしまった。アルゼンチンは人口比で見た暗号資産の普及率が世界トップクラスだ。近年、国民の多くが経済の動揺とアルゼンチンペソ下落に対するヘッジ手段として、ビットコインやステーブルコインを購入してきた」といいます。具体的な内容としては、「この明るいシナリオが崩れ始めたのは、ハビエル・ミレイ大統領による「X」での投稿が原因。400万人近いフォロワーに向け、あるミームコインへの投資を推奨したのだ。ミームコインとは投機性の非常に強い暗号資産で、その価格はもっぱらソーシャルメディア上の「バズり」や、著名人によるお墨付きで高騰するため、インサイダー取引の温床になりかねない。リバタリアン(自由至上主義者)のミレイ大統領は問題の投稿で、ほぼ無名の「$LIBRA」という暗号資産が、数十年に及ぶアルゼンチンのハイパーインフレの悪循環を反転させ、海外からの投資を増やして経済を再生させるのに役立つだろうと述べた。だが、この誇大広告はあっというまに破綻した。$LIBRAの価格は、ミレイ大統領の投稿後に殺到した初期投資家により急騰したが、数時間で暴落した。ソーシャルメディア上では詐欺だとの批判が溢れ、大統領は問題の投稿を削除し、$LIBRAとの関係を否定した」というものです。そして、「インフレにより価値が下落した自国通貨からの逃避手段と見なされてきた多くの暗号資産にも、$LIBRA暴落による衝撃は波及した」といいます。一方、「脱税のために暗号資産を利用するアルゼンチン国民も多い。取引が地元当局者の監視の目に触れないためだ。ミレイ政権は昨年、幅広い免税制度を導入したが、暗号資産による貯蓄も対象に含まれていた。金融界の専門家は現在、今回の$LIBRAスキャンダルによる最大の悪影響はレピュテーションリスク(悪評が広まるリスク)であり、暗号資産への潜在的投資家の意欲を削ぎ、新規参入組を尻込みさせてしまうのではないかと懸念している」といい、「サバテラ氏は、ミームコインは投機性が強く、「いかなる価値も生み出さない」と言う。「カジノであれば実際に勝てるチャンスが少しはあるかもしれないが、ミームコインはすべてが仕組まれており、そのようなチャンスはない」とサバテラ氏。「最初から八百長だ」」と報じています。米SECのミームコインに対する姿勢は「関知しない」というものであり、ミームコインの犯罪インフラ性が際立つアルゼンチンの事例を見る限り、今後も同様の事案が発生する可能性は高いと考えます。
日本でも暗号資産がマネロンに悪用されている実態があることは前述したとおりですが、暗号資産の規制を巡るさまざまな動きがあります。
- 政府は、暗号資産の普及に向けて暗号資産の「仲介業」新設などを盛り込んだ資金決済法の改正案を閣議決定しています。既存の交換業に比べて規制への対応が少ないため、企業が新サービスを展開しやすくなり、フリマアプリ運営のメルカリや、SBI証券やマネックス証券、大手通信会社や複数のゲーム会社などが参入に関心を示しているといいます。暗号資産の仲介業は、利用者を交換業者に取り次ぐ役割を担います。暗号資産交換業を担う企業は、顧客から預かった資産を自社の資産と分けて管理する分別管理のほか、資本金など財務面の要件があるほか、マネロン対策として、不正取引がないかなどの確認や疑わしい取引を検知した際の当局への届け出なども義務化されていますが、仲介業は顧客の資産を預からないため、こうした規制の多くは適用されない見通しだといいます。ただし利用者保護の観点からの説明義務や、暗号資産の特徴を利用者に説明するといった広告規制は仲介業にも課され、仲介業の登録を受ける場合、暗号資産交換業者と提携する「所属制」をとることで、交換業者が仲介業者を指導や監督をする体制にするといいます。なお、仲介業が新設されても、利用者本人は交換業者に口座を設ける必要があります。暗号資産をめぐっては顧客資産の流出が相次いでおり、2024年5月にはDMMビットコインから約480億円のビットコインが流出、企業が仲介業に参入する場合、相場の急変や流出事案などがあった際の顧客対応やレピュテーションリスクの管理が重要になるといえます。
- 金融庁が無登録で営業する海外の5つの暗号資産取引所のアプリのダウンロードを停止するよう米アップルと米グーグルに要請したと報じられています(2025年2月7日付日本経済新聞)。要請を受けアップルは「アップストア」上から削除しましたが、日本人向けに営業しないよう再三警告してきたが止めなかったため、初めて停止要請に踏み切ったものです。対象は「Bybit Fintech Limited(ドバイ)」「MEXC Global(シンガポール)」「LBank Exchange(不明)」「KuCoin(セーシェル共和国)」「Bitget Limited(シンガポール)」の5社で、金融庁は資金決済法上、警告を出し、事業者名を公表していました。金融当局による停止要請はインドの当局が実施した例があります。国境を越えて営業し、各国の規制・監督に服さない無登録取引所は世界共通の課題になっており、日本は資金決済法に基づき2018年に初めて警告を出して以降、無登録業者延べ21社に警告書を送り、日本語サイトの削除を求めてきましたが、警告を受けた業者のサイトには「海外取引所はどこも警告を受けているため、通過儀礼のようなもの」などの記述があるなど「どこ吹く風」で、無登録業者は後を絶ちません。一獲千金を狙う利用者を獲得しようと、預けた資金(証拠金)の何倍まで取引できるかを示す倍率(レバレッジ)を法定の2倍よりはるかに高い100倍以上に設定するなどの違法行為を続けています。無登録業者は破綻した際、利用者の資産が保護されない恐れがあり、出金を拒否されたり、法外な出金手数料を請求されたりするケースも報告されているほか、マネロンへの悪用も懸念されています。さらに、すでに顧客がダウンロードしたアプリはサイト運営会社側が削除することはできず、サイトもそのままで、さらなる対応策が必要になる可能性もあります。
- 金融庁が、ビットコインに代表される暗号資産の取引に関する規制を強化する方針だといいます。報道によれば、株式などと同じ金融商品として位置づけることを検討、市場の急拡大で詐欺的な投資勧誘も増えており、利用者を保護する狙いがあります。米SECが方針を転換した対応と真逆の対応となる点が注目されるところです。暗号資産は現在、資金決済法で規制、株などの有価証券を対象とする金融商品取引法による規制を適用した場合、暗号資産交換事業者は財務状況などの詳しい情報開示が必要になり、投資家は暗号資産交換事業者の経営状態をより知ることができ、悪質なサービスを受けるといったリスクを減らす効果が期待できるほか、損失補填の禁止なども求められるようになります。一方、暗号資産を取引する関係者を追跡することは困難で、十分な情報を開示できるかどうかが課題です。また、暗号資産市場の活性化も論点の一つで、暗号資産で運用する上場投資信託(ETF)の解禁を視野に活用の促進につながる可能性や、税制面が見直される可能性もあります。現在は売却した際などの収益に最大55%が課税されており、おおきな障害となっていることは本コラムでもたびたび取り上げてきたとおりです。
- インターネット上で、簡単に利益を得られると誤解させ、暗号資産のDVD教材などを販売して消費者被害が出たとして、救済に取り組む特定適格消費者団体「消費者機構日本」が販売会社側に損害賠償義務があることの確認を求めた訴訟の差し戻し審で、東京地裁は、賠償義務があるとの判決を言い渡しています。販売会社は福岡市の「ONE MESSAGE」で、判決で裁判長は、誰でも確実に稼ぐことができると表示して購入を勧誘する一方で、実際には利益を得ることができるものだとは言いがたいと指摘、著しく事実に相違する表示で違法だとし、賠償義務があると判断しています。
ロイターによれば、シンクタンクの公的通貨金融機関フォーラム(OMFIF)とドイツに拠点を置く紙幣印刷会社ギーゼッケ・アンド・デブリエントが公表した調査で、「中央銀行デジタル通貨(CBDC)」の発行を計画している中央銀行(中銀)の31%が、発行時期を先送りしていることが分かったといいます。OMFIFとギーゼッケは「発行に関してためらいがあるのは明らかだ。多くの検討作業が行われてきたにもかかわらず、これまでに発行を決めた(中銀は)ごくわずかにとどまっている」と説明しています。CBDCを発行する方針だと答えたのは全体の75%、ただ発行に前向きになった中銀の比率はやや低下し、発行への積極性が薄れたとした中銀の比率は2022年調査のゼロから15%に切り上がっています。各中銀がCBDCを導入する動機については、今回調査でも特にユーロ圏など先進地域では「通貨発行権を守ること」が最上位になっています。報道でギーゼッケ・アンド・デブリエント・カレンシー・テクノロジーのウォルフマン・シーデマンCEOは、欧州中央銀行(ECB)幹部が最近、デジタルユーロはトランプ米大統領が推進するステーブルコインに対抗する存在になると発言したと指摘、前述したとおり、トランプ氏は就任早々、CBDCCのデジタルドル発行を禁止し、ドルと連動するステーブルコインの開発を進める意向を示しています。しかし民間セクターが利益追求目的で運営するステーブルコインが決済手段の大半を占めるようになれば、中銀の通貨発行権が消失するのではないとの懸念があり、シーデマン氏は、他の中銀もECBと同じくCBDCでそうした事態を防ぐ考えを持っていると確信していると述べています。
そのECBのチポローネ専務理事は、ロイターとのインタビューに応じ、トランプ米大統領がドルに連動する暗号資産「ステーブルコイン」を支持していることを受けて、ユーロ圏でデジタルユーロ導入に向けた法整備が加速するとの期待感を示しています(2025年2月6日付ロイター)。デジタルユーロは、ECBの保証するデジタルウォレットを通じてやりとりされるCBDCで、ECBはビザやペイパルなど米国の決済事業者に依存しない電子決済手段になると説明しています。チポローネ氏は、トランプ大統領が国際的に利用可能なドル連動型ステーブルコインを支持したことを受けて、米国の決済手段がまた1つ増えることになると指摘、デジタルユーロ・プロジェクトを早急に進める必要があると述べています。欧州委員会は2023年6月にデジタルユーロ法案を発表、一部の議員や金融関係者から懐疑的な声が出ており、その後、大きな進展は見られていません。チポローネ氏は、米国のステーブルコインが決済手段として普及すれば、欧州の銀行から預金が流出する恐れがあり、「心配だ」との認識も示していますが、一方で金融機関の間では、デジタルユーロが導入されれば預金の一部が流出するとの懸念が出ており、ECBは保有額を数千ユーロに制限し、利息を付けない形にする意向を示しています。
②IRカジノ/依存症を巡る動向
お笑い芸人やプロ野球選手らの利用が明らかになり、オンラインカジノの違法性がクローズアップされています。日本から海外のオンラインカジノに接続して金銭を賭けるのは賭博罪にあたり、警察当局も取り締まりと違法性の周知を強化していますが、オンラインカジノでの賭博に関与したとして2024年に前年の2.5倍超に上る279人(暫定値)が摘発されたといいます(2025年3月6日付毎日新聞)。ただ摘発に至るのは氷山の一角で、オンラインカジノの利用実態は把握できていません。オンラインカジノはスマホがあれば24時間365日、どこにいても利用でき、サイトの拠点は賭博を認めている国に置かれることが多く、現地では合法に運営されているサイトでも、日本国内から客が金銭を賭けると違法となります。競馬や競艇といった公営ギャンブルを除き、刑法は国内での賭博行為を禁じており、単純賭博罪の罰則は50万円以下の罰金または科料、常習性が認められると3年以下の懲役と罰則が重くなることに加え、会社員や公務員の場合、摘発されれば職務規定に沿って処分される恐れもあり代償は大きいといえますが、そうしたリスクが十分に周知されていない現状があります。警察庁によると、オンラインカジノの利用者に適用された賭博罪(常習含む)は、2018年23人、2019年62人、2020年51人、2021年51人、2022年25人、2023年53人と推移、警察が摘発を強化していることもあり、2024年は162人に上りました。賭け金の決済代行業者や、広告などで利用者を勧誘する「アフィリエーター」らに適用した賭博ほう助罪(常習含む)は、2018年47人、2019年90人、2020年70人、2021年76人、2022年34人、2023年54人でしたが、2024年は117人に急増しています。オンラインカジノは2010年代から、海外の事業者が日本語サイトを開設し、金銭を賭けない無料版を通じて、若い世代を中心に利用者を増やし、コロナ禍の外出自粛でその傾向に拍車がかかったとされます。テレビやラジオでCMが流れたことから「合法」と思い込む利用者も少なくなく、民間のカジノ研究機関「国際カジノ研究所」が2023年に実施した約200人を対象にした意識調査では、約55%がオンラインカジノを「グレーゾーン」または「合法」と回答しています。また、同研究所が2024年8~9月に日本国内の男女6千人を対象に実施した調査では直近1年間にオンラインカジノで賭けたことがある人は2.8%おり、国内全体で約346万人に上ると推計されています。摘発された者のほとんどは「違法だと思わなかった」と述べていますが、大半は「摘発されるほどの違法性はないと思った」が本当のところだと考えられます。摘発者の急増は、捜査当局がようやく取り締まりに本腰を入れ始めたことを示しており、スポーツ選手やタレントの摘発は、国内からの海外オンラインカジノの利用は違法行為と広く周知するのに効果的な手段となりえます。一方、公益社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」の田中紀子代表は「オンラインカジノは一回の勝負が早いので、気がつけば借金額がふくらむ。ギャンブル依存者はどんどん視野が狭くなってしまう。国が主体となって対策を進める必要がある」と指摘しています。オンラインカジノの賭け金は、決済代行業者を通じて現金やクレジットカード決済、暗号資産などで支払われています。決済代行業者に関しては、警視庁が2023年9月に、「スモウペイ」の運営者を常習賭博ほう助容疑で逮捕、警視庁が暗号資産の流れを分析するツールを駆使し、2024年11月までに、スモウペイを通じてオンラインカジノを利用していた約130人を特定しています。アフィリエーターについては、埼玉県警が2024年9月、ユーチューブにオンラインカジノを紹介する動画を投稿した女性を常習賭博ほう助容疑で逮捕、女性は運営側から投稿動画1本につき、500ドルの広告料を受け取っていたといい、逮捕時は「客を勧誘することが違法とは思わなかった」と供述していたとされます。国もオンラインカジノの抑止策として、特定のサイトへの接続を遮断する「ブロッキング」などを検討する方針を示しており、2025年3月末に改定される「ギャンブル等依存症対策推進基本計画」には、オンラインカジノの広告や紹介サイトへのアクセスを規制する対策が盛り込まれる見通しです。国際カジノ研究所の木曽崇所長は報道で「国や警察を通じてオンラインカジノが違法だということをより広く周知していく必要がある」と指摘していますが、筆者もまずはそれが最も重要だと思います。
一方で、「選択」3月号の記事「オンラインカジノ「摘発」の不毛」も考えさせられるものでした。本コラムでも継続的に取り上げてきているとおり、大阪市の人口島・夢州では2030年のカジノ開業を目指し、統合型リゾート(IR)計画が着実に進んでいます。大阪IRにおいてカジノが合法とされ、公営ギャンブルである競馬や競輪などのオンライン投票を認めている日本において、「オンラインは違法」という論理自体がすでに破綻しているとの指摘です。いわく、「合法化はもはや、避けられない。違法にしたままでは、ギャンブル依存症対策が進まないとの指摘もある。日本のギャンブル等依存症対策基本法は、本人や家族の申告があれば、公営ギャンブルのネット投票に上限額を設定したり、アクセスを制限したりできる制度を設けている。だがオンラインカジノは同法が適用されない。四六時中、どこでも利用できるために依存リスクが高いにもかかわらず、過度な利用に歯止めをかける仕組みがないまま放置されている。オンラインカジノはほとんどの場合、賭博を認めている国でライセンスを取得した業者が合法的に運営している。日本政府がいくら「わが国では違法だ」と訴えようとも、アクセス可能な状態でネット上に存在し続け、日本市場を開拓しようとする動きを止めることもできない。この現状を変えられない以上、いくら躍起になって利用者を取り締まろうとも、焼け石に水だ。むしろ、課税すらできないまま多額の賭け金が海外に流出し、雇用創出につながることもなく、依存症対策は置き忘れにされる状態が続くというデメリットだけはどんどん膨らんでいく。今後も「無法地帯」として海外業者の狩場であり続けるのか、コントロール下に置いて恩恵を享受するのか。冷静に議論する時期が来ている」というものです。合法化した方が犯罪組織に打撃を与えられる、摘発強化の反面、依存症対策、更生支援の方に注力すべきだという指摘は、薬物の問題と構造的には似ています。オンラインカジノの規制が難しいのは事実であり、ギャンブル依存症対策にさらに注力すべきことは間違いないところですが、それでも現時点でオンラインカジノを合法化するには時期尚早であり、さまざまなセーフティネットや施策が講じられていない以上、一時的に大きなデメリットになると考えます。一方で、犯罪組織に資金が流れ込むことは何としても食い止める必要があり、既存の法規制の中でできる最大限の努力を行うべきというのが、筆者の考えです。
オンラインカジノの問題の1つに広告のあり方も挙げられます。この点については、2025年3月4日の朝日新聞の記事「オンラインカジノ会社の広告、問題ないの? お金賭ければ違法だけど」が参考になりました。具体的には、「サッカーやプロ野球などスポーツ動画を配信する「DAZN」では、試合中継の合間にオンラインカジノ最大手「ベラジョン」などの広告を流してきた。実は、流れているのは、お金を賭けない「無料版ゲーム」の広告。ベラジョン無料版のサイトには、「超画期的なオンラインカジノ」「完全無料で楽しめちゃいます!」とある。消費者庁によると、たとえ「カジノ風」でも、お金を賭けなければ「あくまでゲーム」とみなされるという。DAZNジャパンは取材に、「無料版であること、違法の有料版に誘導されないことを前提に放映してきた」と回答。一方、「現在は基準見直しのため、配信はストップしている」という」とのことです。また、「総務省によると、オンラインカジノは有料版も含めて規制がない。担当者は「無料版であっても有料版に誘引してギャンブル依存につながる可能性があるなら、違法ではないが『有害情報』だ」と注意喚起する」、「実態に詳しい静岡大の鳥畑与一名誉教授(金融論)は、「無料版だから有料版と関係ない、という論理は苦しい」と指摘する。例えば、ベラジョンの無料版の広告を見て、スマホやパソコンで検索をすれば、一番上に表示されるのは有料版のサイトだ。…「無料版で遊ぶことは有料版へのハードルを下げる。新規登録者を増やしたい業者にとって無料版の登録情報は貴重。マーケティングに利用される可能性も高い。無料だから安全と思ってはいけない」と話す。「ギャンブル依存症問題を考える会」の田中紀子代表は、無料版をきっかけにお金を賭けたという相談が増えていると感じるという。「若者を中心に、スマホゲームで課金することに慣れている人は多い。同じ感覚で無料版を楽しみ、気づかないまま違法サイトに誘導されていた事例もある。広告を流したメディアやインフルエンサーの責任は重い」と指摘する。同団体に寄せられたオンラインカジノ関連の相談は、コロナ下の21年以降急増した。コロナ前の19年は年間8件だったのに対し、23年は97件だった。スマホがあれば24時間365日できるので、依存症のリスクも高いという。最近は高校生など10代にも広がっており、「若いと借金できる額も少なく、闇バイトに流れる人もいる。面白半分で手を出すと大変なことになる」と訴える」というものです。記事の中で指摘されているとおり、「広告を流したメディアやインフルエンサーの責任は重い」というのは筆者も同感です。「無料だから問題ない」とか、「禁止されていないから大丈夫」ではなく、現にオンラインカジノの害悪が社会的に深刻化しており、無料版が有料版(違法行為)への入り口となっている実態がある以上、その流通に関与しているメディアやインフルエンサーは「ほう助」と見なされかねないリスクがすでにあることを認識すべきだと思います。それは、SNS型投資詐欺やロマンス詐欺の被害の深刻化にもかかわらず、なりすまし広告等を放置したSNS事業者のデジタルプラットフォーマーとしての道義的な責任が問われていることと同様の構図でもあります。
関連して、スポーツ競技の勝敗などを賭けの対象にする「スポーツベッティング(賭博)」サイトの利用が、世界で拡大、日本の競技も対象となっており、国内から年間数兆円規模の賭け金が海外の違法市場に流れているとみられ、選手が八百長行為に巻き込まれる恐れもあり、不正への対策や国際的な連携の強化が急がれる状況にあることにも注意が必要です。2025年2月18日付読売新聞によれば、プロ野球やサッカー・Jリーグ、大相撲、卓球など日本の主要スポーツに賭けられる日本語の海外サイトは乱立、利用者は国内の決済代行業者を通じて、事業者に入金する仕組みで、海外のスポーツベッティング事情を調査する一般財団法人「スポーツエコシステム推進協議会」は、海外サイトの国内からの利用や日本のスポーツへの賭け金の総額が、年数兆円規模に上ると推計すると報じています。また、スポーツベッティングは、英国が1960年代に民間業者に解禁して以降も、各国では規制が続けられてきましたが、2000年代以降、競技動画の配信やスマホの普及に伴い、オンライン上で違法市場が拡大し、犯罪組織の関与も一部で指摘されるようになり、このため、業者にライセンスを付与した上で、規制当局が監視するという流れが広がっています。フランスでは違法業者に対し、サイトに接続できなくする措置を取るなど対応を強化、米国では、2018年に連邦最高裁が示した司法判断に基づき、2025年1月時点で50州中39州と首都ワシントンで合法化されています。カナダも2021年に合法化に転じ、G7で解禁していないのは日本だけの状況です。また、米国ゲーミング協会などによると、2023年の全米のスポーツベッティングによる収益は約110億ドル(約1兆6600億円)で、3年前の約7倍に達しています。合法化した国々では、不正行為に対処する国際連携が進んでおり、代表的なものが、欧州評議会が2019年に発効させた「スポーツ競技の不正操作に関する条約(マコリン条約)」です。報道で同条約の事務局長を務めるニコラ・セデ氏は、「日本には既に大規模な違法市場が存在する。国際的な協力なしに、八百長などの不正行為に効果的に対処するのは不可能だ。スポーツのインテグリティー(高潔性)を守るため、日本と協力関係を築いていきたい」と話しています。国としては欧米で合法化の流れが広がっているスポーツベッティングへの対応を明確にすべき時期にきているといえます。前述のとおり、現時点では時期尚早だと思いますが、今後の対応を検討すること自体は急務だと考えます。禁止とするならば、摘発の強化だけでなく、国内からの問題のあるサイトへのアクセスの制限等にも踏み込む必要があります。それができないなら、合法として国内に資金が流れるようにして、その収入を使ってギャンブル依存症や八百長対策の強化に取り組む選択肢も考えられるところです。そもそも依存症の拡大を抑え込めるのであれば、解禁にはメリットも少なくないところです。
直近では、海外のオンラインカジノサイトで賭博をさせたとして、常習賭博罪に問われたオンラインカジノの決済代行業者「S.P.A」代表取締役と自営業の男、会社役員の男に対し、千葉地裁は、懲役1年、執行猶予3年、追徴金372万4200円(求刑・懲役1年、追徴金372万4200円)の判決を言い渡しています。報道によれば、3人は2022年6月~2023年5月、客6人に対し、同社名義の口座に計372万円以上を振り込ませ、海外のオンラインカジノサイト「エルドアカジノ」で計523回、金を賭けさせたもので、裁判官は「『オンラインならば捕まらないだろう』などという客の安易な考えにつけ込み、金を稼ぎ、社会の健全な勤労精神や経済感覚を害した」と指摘しています。
国民生活センターは、全国の消費生活センターなどに寄せられた未成年の契約に関する相談の調査結果を公表、インターネットゲームの相談が依然多く、2023年度は、ゲームに関する1件当たりの相談支払額の平均は小学生で10万円、高校生で20万円を超えました。同センターによれば、2018年度以降、インターネットゲーム(オンラインゲーム)に関する相談は全体の半数以上を20歳未満が占めているといいます。
オンラインゲームを日本国内に配信するなどしていた香港法人が、東京国税局から2022年までの3年間で消費税計約18億円を追徴課税されていたといいます。報道によれば、同社は税務調査に非協力的で、納税の見込みもなかったことから、同国税局は本来の納付期限を前倒しする「繰り上げ請求」を行い、前倒しされた期限が過ぎても同社は納税せず、国内にある同社の財産を早期に差し押さえたといいます。海外法人に対しては税務調査が難しいだけではなく、国税当局が追徴課税をしても自主的に納めない場合、税の徴収は容易ではなく、今回は同国税局が徴収制度を駆使し、財産が海外に散逸する前に迅速な差し押さえに成功した形といえます。消費税は海外事業者によるサービスも含め、日本国内での取引が課税対象となりますが、同国税局が調べたところ、同社は、日本の利用者がアイテムを購入するなどしてゲーム内で課金された場合にかかる消費税を申告していなかったことが判明したもので、その額は計約15億円、同国税局は無申告加算税を含む計約18億円を追徴課税したものです。なお、今回、国税が端緒としたのが租税条約に基づく「グループリクエスト」と呼ばれる手法で、具体的な対象を特定することなく、一定の条件を満たした納税者の情報をまとめて海外当局に求めることができるもので、対象社が利用する配信プラットフォームの運営企業はシンガポールにあるため、国税は同国当局に対して利用する業者の情報をまとめて要請、これを分析するなどして、同社が日本の利用者に2022年までの3年間で約150億円を売り上げながら、納めるべき消費税約15億円を申告・納税していない事実をつかんだものです。
長年ギャンブルが違法とされてきたタイで、カジノを含む複合娯楽施設の解禁に向けた議論が進んでいることは本コラムでも取り上げてきました。政府は2025年1月中旬に閣議で関連法案を大筋で承認し、国会提出に向けた準備を急いでいるといいます。観光立国として経済効果に期待し、2029年の開業を目指す構えですが、仏教国のタイでは賭博への抵抗感が根強く、世論の後押しは難しい現状があります。政府が想定するのは、ホテルやショッピングモール、テーマパークなどを併設した複合施設で、カジノの解禁によって海外から投資や観光客を呼び込み、税収増や雇用創出につなげる狙いがあり、観光収入は35億ドル(約5220億円)から倍増すると見込んでいるといいます。すでに複数の世界的な運営会社が関心を示しており、マカオやフィリピンで事業を展開する企業がバンコクに事務所を開設したといいます。一方、国立開発行政研究院(NIDA)が2025年1月下旬に実施した世論調査では、カジノを含む複合娯楽施設の計画に対し反対が59%、賛成は29%と、慎重な声が多い結果となっています。さらに、タイ人の入場に関する規定や建設地域、規模などをめぐり連立政権内でも意見が割れており、今後の手続きは難航が予想されています。報道でカセサート大のチッタワン・チャナクル准教授が反対理由として挙げていたのは、フィリピンの事例で、1970年代にカジノを合法化した同国では、マネロンや人身売買といった犯罪の増加に加え、事業者に有利な税率の問題も指摘され、近年は外国人向けのオンラインカジノが社会問題になり、フィリピン政府は2024年末に全面禁止に踏み切ったばかりです。また、近隣ではシンガポールやマレーシア、カンボジアにもカジノがあり、すでに競争は激化している状況にもあります。また、タイ政府はオンラインカジノの合法化も視野に入れており、現在は違法ですが、スマホやパソコンで手軽に賭けられることから、特に若者の間で広がっています。最近になり、政界に強い影響力を持つタクシン元首相が「200万~400万人がオンラインカジノを利用している。仮に20%の課税をすれば、政府は年間1000億バーツ(約4500億円)以上の収入を得られる」と語ったと報じられています
③犯罪統計資料から
例月同様、令和7年(2025年)1月の犯罪統計資料(警察庁)について紹介します。
▼警察庁 犯罪統計資料(令和7年1月分)
令和7年(2025年)1月の刑法犯総数について、認知件数56,900件(前年同期55,145件、前年同期比+3.2%)、検挙件数は21,090件(21,155件、▲0.3%)、検挙率は37.1%(38.4%、▲1.3P)と、認知件数が増加を続けている点が注目されます。刑法犯全体の7割を占める窃盗犯の認知件数が増加していることが挙げられ、窃盗犯の認知件数は38,495件(38,069件、+1.1%)、検挙件数は12,455件(12,642件、▲1.5%)、検挙率は32.4%(33.2%、▲0.8P)となりました。なお、とりわけ件数の多い万引きについては、認知件数は8,747件(8,474件、+3.2%)、検挙件数は5,297件(5,059件、+4.7%)、検挙率は60.6%(59.7%、+0.9P)と、大きく増加しています。また凶悪犯の認知件数は564件(507件、+11.2%)、検挙件数は435件(386件、+12.7%)、検挙率は77.1%(76.1%、+1.0P)、粗暴犯の認知件数は4,444件(4,458件、▲0.3%)、検挙件数は3,369件(3,466件、▲2.8%)、検挙率は75.8%(77.7%、▲1.9P)、知能犯の認知件数は4,955件(3,907件、+26.8%)、検挙件数は1,377件(1,445件、▲4.7%)、検挙率は27.8%(37.0%、▲9.2P)、そのうち詐欺の認知件数は4,586件(3,564件、+26.8%)、検挙件数は1,141件(1,186件、▲3.8%)、検挙率は24.9%(33.3%、▲8.4%)、風俗犯の認知件数は1,370件(1,153件、+18.8%)、検挙件数は1,121件(927件、+20.9%)、検挙率は81.8%(80.4%、+1.4%)などとなっています。なお、ほとんどの犯罪類型で認知件数が増加している一方、検挙件数が減少し、検挙率が低調な点が懸念されます。また、コロナ禍において大きく増加した詐欺は、アフターコロナにおいても増加し続けています。とりわけ以前の本コラム(暴排トピックス2022年7月号)でも紹介したとおり、コロナ禍で「対面型」「接触型」の犯罪がやりにくくなったことを受けて、「非対面型」の還付金詐欺が増加しましたが、現状では必ずしも「非対面」とは限らないオレオレ詐欺や架空料金請求詐欺なども大きく増加傾向にあります。さらに、SNS型投資詐欺・ロマンス詐欺では、「非対面」での犯行で、(特殊詐欺を上回る)甚大な被害が発生しています。
また、特別法犯総数については、検挙件数は4,001件(4,504件、▲11.2%)、検挙人員は3,145人(3,682人、▲14.6%)と検挙件数・検挙人員ともに減少傾向にある点が大きな特徴です。犯罪類型別では入管法違反の検挙件数は292件(367件、▲20.4%)、検挙人員は206人(251人、▲17.9%)、軽犯罪法違反の検挙件数は344件(494件、▲30.1%)、検挙人員は342人(501人、▲31.7%)、迷惑防止条例違反の検挙件数は359件(460件、▲22.0%)、検挙人員は236人(350人、▲32.6%)、ストーカー規制法違反の検挙件数は80件(87件、▲8.0%)、検挙人員は68人(73人、▲6.8%)、児童買春・児童ポルノ法違反の検挙件数は263件(297件、▲11.4%)、検挙人員は120人(172人、▲30.2%)、犯罪収益移転防止法違反の検挙件数は315件(292件、+7.9%)、検挙人員は247人(213人、+16.0%)、銃刀法違反の検挙件数は269件(329件、▲18.2%)、検挙人員は237人(288人、▲17.7%)などとなっています。減少傾向にある犯罪類型が多い中、犯罪収益移転防止法違反等が大きく増加している点が注目されます。また、薬物関係では麻薬等取締法違反の検挙件数は541件(88件、+514.8%)、検挙人員は410人(54人、+659.3%)、大麻草栽培規制法違反の検挙件数は6件(479件、▲98.7%)、検挙人員は5人(390人、▲98.7%)、覚せい剤取締法違反の検挙件数は495件(490件、+1.0%)、検挙人員は319人(351人、▲9.1%)などとなっています。大麻の規制を巡る法改正により、前年との比較が難しくなっていますが、大麻事犯の検挙件数がここ数年、減少傾向が続いていたところ、2023年に入って増加し、2023年7月にはじめて大麻取締法違反の検挙人員が覚せい剤取締法違反の検挙人員を超え、その傾向が続いています(今後の動向を注視していく必要があります)。また、覚せい剤取締法違反の検挙件数・検挙人員ともに大きな減少傾向が数年来継続しています(これまで減少傾向にあったことについては、覚せい剤は常習性が高いため、急激な減少が続いていることの説明が難しく、その流通を大きく支配している暴力団側の不透明化や手口の巧妙化の実態が大きく影響しているのではないかと推測されます。言い換えれば、覚せい剤が静かに深く浸透している状況が危惧されるところだと指摘してきましたが、最近、何か大きな地殻変動が起きている可能性も考えられ、今後の動向にさらに注目したいところです)。なお、麻薬等取締法が大きく増加している点も注目されますが、昨年の法改正で大麻の利用が追加された点が大きいと言えます。それ以外で対象となるのは、「麻薬」と「向精神薬」であり、「麻薬」とは、モルヒネ、コカインなど麻薬に関する単一条約にて規制されるもののうち大麻を除いたものをいいます。また、「向精神薬」とは、中枢神経系に作用し、生物の精神活動に何らかの影響を与える薬物の総称で、主として精神医学や精神薬理学の分野で、脳に対する作用の研究が行われている薬物であり、また精神科で用いられる精神科の薬、また薬物乱用と使用による害に懸念のあるタバコやアルコール、また法律上の定義である麻薬のような娯楽的な薬物が含まれますが、同法では、タバコ、アルコール、カフェインが除かれています。具体的には、コカイン、MDMA、LSDなどがあります。
また、来日外国人による重要犯罪・重要窃盗犯国籍別検挙人員対前年比較について、総数58人(80人、▲27.5%)、ベトナム23人(33人、▲30.3%)、中国13人(9人、+44.4%)などとなっています。ベトナム人の犯罪が中国人を大きく上回っている点が最近の特徴です。
一方、暴力団犯罪(刑法犯)罪種別検挙件数・人員対前年比較の刑法犯総数については、検挙件数は562件(563件、▲0.2%)、検挙人員は276人(323人、▲14.6%)と、刑法犯と異なる傾向にあり、検挙件数・検挙人員ともに減少傾向に転じている点が注目されます。犯罪類型別では、強盗の検挙件数は4件(2件、*100.0%)、検挙人員は8人(8人、±0%)、暴行の検挙件数は25件(34件)、検挙人員は19人(32人、▲40.6%)、傷害の検挙件数は59件(71件、▲16.9%)、検挙人員は61人(65人、▲6.2%)、脅迫の検挙件数は14件(20件、▲30.0%)、検挙人員は18人(18人、±0%)、恐喝の検挙件数は14件(24件、▲41.7%)、検挙人員は17人(24人、▲29.2%)、窃盗の検挙件数は226件(278件、▲18.7%)、検挙人員は45人(44人、+2.3%)、詐欺の検挙件数は134件(61件、+119.7%)、検挙人員は61人(55人、+10.9%)、賭博の検挙件数は9件(1件、+800.0%)、検挙人員は1人(10人、▲90.0%)などとなっています。とりわけ、詐欺については、2023年7月から減少に転じていたところ、あらためて増加傾向にある点が特筆されますが、資金獲得活動の中でも活発に行われていると推測される(ただし、詐欺は暴力団の世界では御法度となっているはずです)ことから、引き続き注意が必要です。
さらに、暴力団犯罪(特別法犯)主要法令別検挙件数・人員対前年比較の特別法犯について、特別法犯全体の検挙件数は198件(320件、▲38.1%)、検挙人員は125人(228人、▲45.2%)と、こちらも検挙件数・検挙人数ともに継続して減少傾向にあります。また、犯罪類型別では、入管法違反の検挙件数は1件(2件、▲50.0%)、検挙人員は1人(3人、▲66.7%)、軽犯罪法違反の検挙件数は2件(4件、▲50.0%)、検挙人員は1人(4人、▲75.0%)、迷惑防止条例違反の検挙件数は2件(14件、▲85.7%)、検挙人員は1人(9人、▲88.9%)、暴力団排除条例違反の検挙件数は0件(27件)、検挙人員は1人(30人、▲96.7%)、銃刀法違反の検挙件数は1件(8件、▲87.5%)、検挙人員は0人(4人)、麻薬等取締法違反の検挙件数は45件(7件、+542.9%)、検挙人員は24人(0人)、大麻草栽培規制法違反の検挙件数は1件(46件、▲97.6%)、検挙人員は0人(30人)、覚せい剤取締法違反の検挙件数は112件(171件、▲34.5%)、検挙人員は57人(122人、▲53.3%)、麻薬等特例法違反の検挙件数は6件(2件、+200.0%)、検挙人員は4人(1人、+300.0%)
などとなっています(とりわけ覚せい剤については、今後の動向を注視していく必要があります)。なお、参考までに、「麻薬等特例法違反」とは、正式には、「国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律」といい、覚せい剤・大麻などの違法薬物の栽培・製造・輸出入・譲受・譲渡などを繰り返す薬物ビジネスをした場合は、この麻薬特例法違反になります。なお、法定刑は、無期または5年以上の懲役及び1,000万円以下の罰金で、裁判員裁判になります。
(8)北朝鮮リスクを巡る動向
ウクライナを最近訪問した韓国の国会議員は、前線から一時撤退したとの見方が出ていた北朝鮮軍が追加派兵で態勢を立て直し、ウクライナが越境攻撃を続けるロシア西部クルスク州周辺に約1500人の追加派兵を行ったとウクライナ当局が分析していると明らかにしています。このほか約3500人が露極東の5か所にて訓練中で、追加投入される可能性もあるといいます。機械化歩兵や工兵、電子偵察兵も含まれているといいます。ウクライナ軍関係者も、クルスク州では「2~3週間前から北朝鮮兵の精鋭が戦闘に多数投入されている」と述べています。韓国の保守系与党「国民の力」の庾議員は2025年2月末にウクライナを訪れ、同国の国防省情報総局の幹部や軍指揮官、北朝鮮兵の捕虜らと面会、2024年10月頃にロシアに派遣された北朝鮮軍は約1万2000人で、特殊部隊「暴風軍団」と対外工作機関「偵察総局」の兵士らが3000人規模の旅団を四つ編成、露西部クルスク州に投入され、死者は400人を、負傷者は3600人をそれぞれ超えるとの説明を受けたといいます。捕虜となった北朝鮮兵が「ロシアはまともに(ウクライナ軍に対抗する)砲射撃をしてくれなかった。われわれは無謀な犠牲者になりました」と証言しているような状態だったといえます。一方、北朝鮮兵は体力のある若い兵士が中心で恐怖心が薄く、戦闘力があると評価されているということです。ウクライナ側は、北朝鮮兵の捕虜への尋問結果として北朝鮮軍の主な任務について「実戦を通じて現代戦を多く経験すること」と分析、北朝鮮兵は当初、50人程度の兵士が野原を前進してきて、ドローン(無人機)攻撃を受けて多数の死傷者を出していましたが、現在は大砲やドローンから身を隠しながら、針葉樹林の森の中を歩いて移動しているといい、「次第に現代戦に適応している」といいます。ウクライナ軍関係者も、「北朝鮮兵は攻撃の際は100人弱の歩兵のグループでウクライナ軍の防御ラインに突進してくる」、「近くに砲弾が落ちても全く攻撃の速度を落とさず、死ぬまで止まらない」、「練度や士気が低いロシア兵と対照的に、北朝鮮兵は体力、精神力、射撃力で極めて高い訓練を受けている」、「恐れを知らない狂信的な集団だ。まるでコンピューターゲームの中の(人格がない)敵のようだ」と指摘、北朝鮮兵を撃退するためには、「夜間も兵の動きを捕捉できる赤外線カメラ付きの偵察ドローンや攻撃用ドローン、クラスター弾を使った対歩兵用兵器を大量に投入するのが有効だ」と述べています。また、別の関係者も「北朝鮮兵は当初は大きな犠牲を出したが、実戦で迅速に現代戦の戦術を学習している。非常にプロフェッショナルになっている」、「ロシア軍が死傷した北朝鮮兵がいる場所を、集中的に砲撃している」、「ロシアが都合の悪い北朝鮮兵の痕跡を消そうとしているのは明らかだ」などと述べています(あらためて確認すべきは、北朝鮮は、朝鮮戦争(1950~53年)後、韓国軍の捕虜になった兵士を反逆者として扱い、本人だけではなく、家族や子孫まで反逆者として扱ったという点です。こうした経緯で捕虜になる前に自殺するのであり、ウクライナ軍の捕虜になる北朝鮮軍兵士の数が少ないといえます。また、捕虜になれば、その家族も危うくなります。ウクライナのゼレンスキー大統領はSNSへの投稿で捕虜の顔を公開しましたが、危険な行為だといえ、捕虜に対する扱いを規定したジュネーブ条約にも違反する可能性があります。北朝鮮は残忍で、正常な国家ではありません。捕虜の一挙手一投足を監視していると考えるべきであり、そもそも北朝鮮は兵士の派遣自体を認めていないことをあらためて認識する必要があります。韓国の専門家が「人道的に考えれば、北朝鮮軍人を北朝鮮に送還してはなりません。顔が公開された捕虜や、「ウクライナに住みたい」と語った捕虜は、北朝鮮に送還されれば、無条件で殺されます。ウクライナは独裁者が主張する全体主義ではなく、民主主義国家として人権を尊重する考えのもとで戦っています。捕虜になった北朝鮮兵士の選択を尊重すべきです」と指摘していますが、正に正鵠を射るものと思います)。
さらに、ウクライナ戦争で急速に発展したドローン戦のノウハウを北朝鮮軍が吸収すれば、日本や韓国にとって深刻な懸念材料となりますが、専門家は「北朝鮮が最大で15万人の追加派兵に踏み切る可能性がある」、「このうち負傷した1千人でも帰国して教官になれば、日本などアジア諸国への脅威は大きく高まる」と指摘しています。装備面では、「北朝鮮がロシアにウクライナとの戦闘で必要な弾薬の50%を提供している」、「北朝鮮が長年保有していた時代遅れの武器や弾薬をロシアに送り、見返りにロシアから得た技術で新型の兵器や弾薬の生産や研究に乗り出している」との分析を明かしています。また、そうした状況が成果としても出てきており、ロシアが戦争で必要とする弾薬の50%は北朝鮮から供給されているとウクライナ軍情報機関トップが指摘、北朝鮮が170ミリ自走榴弾砲や240ミリ多連装ロケット発射システムもロシアに大量に供給し始めたと述べています。また、ロシアと北朝鮮が「包括的戦略パートナーシップ条約」を締結した2024年6月以降、ウクライナ侵略で露軍が発射した北朝鮮製とみられるミサイルが急増し、2024年1~6月には北朝鮮製ミサイル「KN23」や「KN23」の可能性が高いミサイルは計8発であったところ、7~12月に計74発に上ったことが読売新聞のデータ分析で判明しています。また、ロシア軍が発射したミサイル全体のうち北朝鮮製とみられるミサイルが占める割合は、2024年1~6月の0.7%から7~12月には6.7%に拡大したといいます。読売新聞の報道で防衛省防衛研究所の兵頭慎治研究幹事は「露朝の軍事技術協力が公式化されたのを受け、露側は北朝鮮製ミサイルの本格使用を進めたのではないか。引き続き北朝鮮への依存を強めるだろう」と指摘しています。なお、ウクライナ国防省は、北朝鮮が2025年内に150発の「KN23」をロシアに提供するとの見通しを示しています(その他、200門余りの長射程砲も供与したとみられています)。また、ウクライナ当局筋によると、ロシア軍が2024年12月下旬から使用している北朝鮮製の弾道ミサイルは、過去1年間に発射されたものよりはるかに精度が向上しているといいます。ロイターによれば、標的から50~100メートル内という精度向上は、北朝鮮が実戦でのミサイル技術試験に成功していることを示すものだといい、ある匿名の軍事情報筋は、過去数週間に発射された弾道ミサイル20発以上の全てで精度が著しく向上したと指摘、別の政府高官もロイターにこの事実を認めたといいます。韓国の兵器専門家は北朝鮮のミサイル能力向上について、日米韓への脅威が増し、他国や武装組織への兵器売却の可能性があるという意味でも問題だと指摘、「地域と世界の安定に大きな影響を与える恐れがある」としています。北朝鮮とロシアは2024年、軍事協力の強化で合意していますが、武器取引については否定しています。
ロシアのアレクサンドル・マツェゴラ駐北朝鮮大使は、ウクライナ侵略で負傷したロシア兵数百人が北朝鮮の保養所や病院でリハビリを受けていると明らかにし、同氏は「ロシアと北朝鮮は同盟関係だ」と述べ、関係の深化を強調しています。北朝鮮はこのようにウクライナ戦線への派兵などロシアに対する軍事支援を進めていますが、ロシアとの連携強化は外交・安全保障や経済など幅広い分野で北朝鮮にとってもプラスとなっています。北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記は、朝鮮人民軍創建77周年を記念する演説で「わが軍と人民は、自らの主権と領土を守るためのロシア軍と人民の正義の偉業を変わることなく支援する」と明言しています。北朝鮮は見返りとしてロシアから、対空ミサイルシステムや軍事偵察衛星などの軍事関連技術のほか、エネルギー、食料などでも支援を受けたとみられています。北朝鮮は、国連でも常任理事国のロシアの強い後押しを受けており、(本コラムでも取り上げたとおり)ロシアの拒否権行使によって、北朝鮮の制裁逃れを監視する専門家パネルが2024年4月に解散、北朝鮮は海外で外貨などを稼ぎやすくなったといえます。また、韓国の情報機関・国家情報院(国情院)は、北朝鮮が2024年、ロシア各地の建設現場に数千人の労働者を派遣したことを確認したと明らかにしています。北朝鮮による海外への労働者派遣は国連安全保障理事会の制裁決議違反にあたります。韓国政府関係者は、ロシアではウクライナ侵攻の長期化に伴って多くの若者が軍隊に取られ、労働力不足が起きていると指摘、一方の北朝鮮にとっても、労働者の派遣で外貨稼ぎができ、「双方の利害が一致している」と述べています。国連安保理は2017年の決議で、海外で働く北朝鮮労働者のもたらす収入が核・ミサイル開発の資金源になっているとの観点から、労働者を2019年12月までに送還するよう加盟国に求めていました。韓国統一省は「労働者の派遣は明白な国連安保理決議違反であり、すべての加盟国は決議を守る義務がある」と強調しています。こうした露朝の関係強化が図られる中、ロシアのプーチン大統領は、モスクワを訪れた北朝鮮の李熙用・朝鮮労働党書記とクレムリン(大統領府)で会談、2024年、露朝は「包括的戦略パートナーシップ条約」を締結し、ウクライナを侵攻するロシアに北朝鮮が派兵するなど軍事協力を深化、プーチン氏は金総書記をモスクワに招待しており、首脳会談に向けた地ならしを行った可能性があります。今後の大きな変数は米国の出方であり、トランプ米大統領は金総書記との対話に意欲を示しており、2025年2月7日に開かれた日米首脳会談後の共同記者会見でも「我々は北朝鮮と、金正恩(氏)と関わっていく」と述べています。韓国の聯合ニュースは、ウクライナで仮に停戦が実現すれば、トランプ氏の関心が北朝鮮に向く可能性があるとの見方を伝えています。金総書記は非核化交渉に応じない姿勢を繰り返し強調していますが、ウクライナでの停戦・終戦を巡る交渉がロシア有利に展開した場合、北朝鮮の対米交渉姿勢に影響を与える可能性が考えられます。北朝鮮は当面、自国の核・ミサイル開発を進めつつ、ウクライナ情勢を自国に最大限有利に活用しようと事態を注視しているとみられています。
自国民に対する大量殺りくを行ったシリアの旧アサド政権を物心両面で支援してきたのが北朝鮮でもあります。シリアと北朝鮮は1966年に国交を結んだ後、これまで緊密な関係を結んできました。1967年の6日間戦争(第3次中東戦争)の時、北朝鮮空軍パイロット30人がシリア空軍パイロットを訓練し、ソ連製のミグ21戦闘機に乗って直接空襲に参加したほか、北朝鮮は1973年10月の第4次中東戦争の時にもシリアに軍事的支援を惜しみませんでした。今でもダマスカス郊外にあるナジュハの「烈士墓地」には3人の北朝鮮軍パイロットたちの墓があるといいます。北朝鮮とシリアの関係は1974年9月末、(政権崩壊で辞任したアサド前大統領の父)ハフェズ・アサド大統領(当時)の平壌訪問によってさらに強化されました。このように、北朝鮮は70年代から空軍パイロットのみならず、戦車部隊や特殊部隊の将校など軍事顧問団をシリアに派遣、北朝鮮はさらに戦車や小銃、大砲、多連装砲など通常兵器を多くシリアに輸出しました。1990年代、北朝鮮はシリアにミサイル組み立て施設を2カ所作り、シリアは毎年、ここでスカッドミサイル30~50基を生産、2009年10月と11月、北朝鮮からシリアのラタキアに向かっていた北朝鮮船舶から1万4000着以上の生物化学兵器対応の防護服が、また同じ年の11月には北朝鮮からシリアに向かっていたリベリア船舶のコンテナから化学兵器生産用の試薬が発見され、回収される事件が起き、アサド政権は化学兵器を実戦に使用したことで、国際社会の集中的な批判にさらされました。アサド政権を支援した北朝鮮は、シリア国民を虐殺した共犯だという責任から逃れることはできず、国民の生命と安全を守ることは全ての国の政府が守るべき法的、道徳的責任でもあります。
朝鮮中央通信(KCNA)は、朝鮮人民軍が2025年3月26日に黄海海上で戦略巡航ミサイルの発射訓練を行ったと伝えています。韓国軍合同参謀本部は、北朝鮮が26日午前8時ごろに巡航ミサイルを発射したのを確認していたと発表、KCNAによれば、ミサイルは少なくとも2発で、楕円形の軌道でそれぞれ1587キロを約2時間10分飛行した後、標的に「命中」したといい、訓練は「敵に軍の反撃能力と核運用手段の準備態勢を知らせるため」に行われたとし、金総書記も立ち会い、「核抑止力の信頼性と運用性を継続的に試験し、その威力を誇示すること自体が抑止力の行使になる」と述べたと報じています。北朝鮮は2025年1月下旬にも、ミサイル総局が金総書記の立ち会いのもと、戦略巡航ミサイルの発射実験を行っています。
米連邦捜査局(FBI)は、暗号資産取引所の「Bybit(バイビット)」から15億ドル(約2200億円)相当の暗号資産が盗まれた事件について、北朝鮮のハッカー集団「トレーダートレーター」が関与したと発表しています。本コラムでもお伝えしたとおり、トレーダートレーターを巡っては、暗号資産交換業を手がける「DMMビットコイン」から2024年5月に482億円相当のビットコインが窃取された事件にも関与したことが判明しています。「トレーダートレーターは迅速に行動しており、一部の盗まれた資産をビットコインなどの暗号資産に交換し、複数のブロックチェーン上の数千のアドレスに分散させている」と指摘、こうした資産がさらにマネロンされ、最終的には法定通貨に交換されるとみて、暗号資産に関わる民間事業者に対し、北朝鮮の活動に関連した口座情報を公開し、取引を遮断するよう勧告しています。北朝鮮はサイバー攻撃で得た資金を核などの大量破壊兵器開発の原資に充てているとみられています。バイビットは、イーサのウォレットがハッキングされ、別のアドレスに資産が移されたことを明らかにしていました。バイビットはアラブ首長国連邦(UAE)のドバイが拠点で、ビットコインやイーサなどさまざまな暗号資産へのアクセスを提供、世界中に6000万人以上の利用者がおり、世界最大の暗号資産交換業者バイナンスに続く規模を誇っています。米政府系放送ボイス・オブ・アメリカ(VOA)は、北朝鮮の今回のハッキング手法について、マルウェア(悪意のあるソフト)を配布し、暗号資産の投資家や開発者から口座や認証情報をだまし取るなどして、資産を窃取したと報じており、被害額は「史上最大規模」(米メディア)とみられています。
その他、北朝鮮に関する最近の報道から、いくつか紹介します。
- 日米韓などが新設した北朝鮮への制裁の履行状況を監視する「多国間制裁監視チーム(MSMT)」の初会合がワシントンで開かれました。KCNAは、同国外務省の対外政策室長がこれに反発する談話を出し、国連安全保障理事会などの制裁の解除には既に関心を持っていないと主張したと報じています。談話は監視チームについて、北朝鮮への内政干渉を目的とした非合法的な集団だとし、特に米国を批判の対象とし、関与した国は「必ず重い代償を支払うことになる」とも威嚇しています。監視チームは2024年10月に発足、韓国外務省によると、初会合には日本を含む各国の代表らが参加、今後、制裁違反の報告書をまとめる方針としています。
- 朝鮮人民軍創建77年の節目に当たる2025年2月8日、金総書記は演説で、日米韓などの安全保障協力の強化を非難した上で、核を含む全ての抑止力を加速的に強化する新たな計画に言及しています(計画の中身には触れていません)。金総書記は演説で、米国主導の2国間、多国間の「核戦争模擬演習」や「米日韓軍事同盟体制」の形成が、「朝鮮半島と北東アジア地域の軍事的不均衡をもたらし、新たな激突構図を作る根本要因」だと指摘、「地域情勢の不必要な緊張激化は望まないが、新たな戦争の勃発を防ぎ、朝鮮半島地域の平和と安全のため、地域の軍事的均衡を保障するため、持続的な対応策を講じる」と表明しています。また、中東情勢やロシアによるウクライナ侵略については、「世界の平和と安全を害するいかなる行為にも反対するのが(北朝鮮の)不変の立場だ」と強調、北朝鮮とロシアが有事の際の相互軍事支援を定めた「包括的戦略パートナーシップ条約」に基づき、ロシアを「変わらずに支持する」と明らかにしています。また、KCNAは、米韓両軍が2025年1月に実施した複数の軍事訓練を批判する論評を発表、「米国と韓国の地域の緊張を高める無責任な行動」だと指摘し、「敵対的で冒険的な行為は望まない結果だけをもたらすだろう」と警告しています。
- 北朝鮮は、同国の核兵器は「交渉材料」ではなく、自国民と世界平和を脅かす敵に対する「戦闘が目的」と表明していますKCNAが報じた声明は、北朝鮮の完全な非核化を求める北大西洋条約機構(NATO)とEU当局者の発言に言及、「われわれの核兵器は宣伝でも、ましてや金銭と交換するための交渉材料でもないと、改めて明確にしたい」とし、「北朝鮮の核戦力は、同国の主権と国民の安全を侵害し世界平和を脅かす敵軍のあらゆる試みを速やかに排除するための戦闘での使用を目的とする」としています。日米首脳会談で、トランプ米大統領と石破首相が北朝鮮の完全な非核化に向けた連携を確認したことには言及していません。
- 北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記の妹、与正党副部長は、米海軍の原子力空母カールビンソンが2025年3月2日に韓国南部・釜山に入港したことについて「北朝鮮に最も敵対的で対決的であろうとする意思を隠さずに見せている」と反発しています。米空母の韓国寄港は第2次トランプ政権発足後初めてで、与正氏は、米軍が空母や戦略爆撃機などを「常時配備の水準で朝鮮半島地域に投入している」と指摘、「前政権の敵視政策を継承し、政治・軍事的挑発行為を段階的に拡大・強化している」と批判、そのうえで、北朝鮮の核戦力強化の「正当性と必要性をより一層浮き彫りにしている」と主張、米国が示威行為を継続する場合は「威嚇的行動を増大させる選択を慎重に検討する」と警告しています。
- KCNAは、金総書記が海軍の「原子力潜水艦」や艦艇を建造する造船所を視察したと伝えています。金総書記は、東西が海に面する北朝鮮にとって「海軍戦力の精鋭化、核武装化」が国防発展戦略の重要な課題だと強調しています。北朝鮮は2021年の党大会で決めた「国防力発展の5カ年計画」で原潜の建造を目標に盛り込んでおり、金総書記は、米軍の原子力空母や原潜が最近、韓国へ寄港したことを念頭に米国を「砲艦外交」と批判、「わが国の主権と利益を害する敵の海上や水中の軍事活動を決して座視しない」と表明し、「海軍力の革新によって、海洋主権を確実に守り、朝鮮半島と地域の安全を確保していく」と強調しています。
米シンクタンク高等国防研究センター(C4ADS)は、北朝鮮への高級車不正輸出疑惑に関する2019年の報告書で、関与を指摘した美濃物流(大阪市)代表らについて「首謀者に利用された」立場であり、取引の実態を知らなかったとする追加情報を公表しています。C4ADSは報告書で、ドイツ製のベンツ車2台が2018年、オランダから中国、大阪、韓国を経由してロシアに渡り、最終的に北朝鮮へ持ち込まれた可能性がある事案を公表、海上輸送の一部に同社が関わっていたと指摘しましたが、HP上に、「C4ADSは、ベンツ車が北朝鮮に輸送されるだろうと代表らは知らず、直接または間接に北朝鮮の人々と取引を行う意図を持たず、取引を首謀した人々に利用されたとの理解を表明する」と掲載しました。C4ADSの報告書公表後、徐正健代表取締役「最終的にどこにもっていくかわからないし、(北朝鮮だと)知っていたら当然やらない。何も調査せずに無責任なレポートを出すのは遺憾」と述べ、「北朝鮮への輸送だとは知らなかった」とした上で、これまでも北朝鮮との貿易を行ったことはないと主張していました。美濃物流は独自に弁護士らに事実関係の調査を依頼、弁護士らは、中国の企業などが取引を主導し、代表らは密輸と知らず「利用されただけ」と結論付ける報告書をまとめていました。なおC4ADSの報告書によると、2018年6月にオランダ・ロッテルダムを出発したベンツは中国大連→大阪→釜山→露ナホトカと4カ所の港を経由して最終的にウラジオストクから平壌に向かったとされます。数回にわたり積み替えられたベンツは2018年9月、釜山からトーゴの国旗を付けた貨物船DN5505号に積まれてナホトカに向かいましたが、釜山港を出港した後、怪しい動きを見せ、自動船舶識別装置(AIS)を消したまま5日間運航した後、ナホトカ港に到着したといいます。この船の船主はマーシャル諸島に登録されたドヨンシッピング(Do Young Shipping)で、対北朝鮮制裁監視網を避けるために不法に積み替えた疑いで取り調べを受けた業者です。報告書によると、北朝鮮はベンツ以外にも2015年から2年間、レクサスなど日本製の車256台を含む計803台をこれと似た方式で密輸したといいます。
3.暴排条例等の状況
(1)暴力団排除条例に基づく逮捕事例(広島県)
広島市の飲食店などで現金99万円を受け取るかわりに用心棒を務めるなどした疑いで、広島県暴排条例違反の疑いで共政会播真組組員が逮捕されています。報道によれば、2023年6月下旬から2024年5月下旬ごろまでの間、広島市のキャバクラなど2店舗で、店の用心棒などを務める見返りに用心棒代やみかじめ料として9回にわたって、現金99万円を受け取った疑いが持たれていまます。一方、店舗を経営する会社役員は、同容疑者が暴力団組員であることを知りながら用心棒代など現金を渡した疑いがもたれています。「みかじめ料を回収している」という情報が警察に提供されて、捜査を進めたところ、今回の事案が発覚したといいます。
▼広島県暴排条例
暴力団員については、同条例第十一条の三(暴力団員の禁止行為)第2項において、「暴力団員は、暴力団排除特別強化地域における特定営業の営業に関し、特定営業者から、用心棒の役務の提供をすることの対償として、又は当該営業を営むことを容認することの対償として利益の供与を受けてはならない」との規定があります。本規定に違反した場合、第二十七条(罰則)において、「次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する」として、「二 第十一条の三の規定に違反した者」が規定されています。また、会社役員についても、第十一条の二(特定営業者の禁止行為)第2項において、「特定営業者は、暴力団排除特別強化地域における特定営業の営業に関し、暴力団員に対し、用心棒の役務の提供を受けることの対償として、又は当該営業を営むことを暴力団員が容認することの対償として利益の供与をしてはならない」と規定されています。(報道では明確ではありませんでしたが)これに違反した場合、第二十七条(罰則)において、「次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する」として、「一 相手方が暴力団員であることの情を知って、第十一条の二の規定に違反した者」が規定されています。
(2)暴力団排除条例に基づく逮捕事例(沖縄県)
沖縄県暴排条例において特別強化地域に指定されている沖縄市上地の飲食店経営者から用心棒代の名目で現金3万円を受け取ったとして、同条例違反容疑で旭琉会三代目富永一家構成員の男が逮捕されています。報道によれば、2025年1月中旬、沖縄市諸見里の路上で飲食店経営者から用心棒代を受け取った疑いがもたれており、同2月に用心棒代の授受に関する情報提供があったといいます。また、沖縄県警は構成員に利益供与したとして、飲食店経営者の摘発も視野に捜査を進めているということです。
▼沖縄県暴排条例
暴力団員については、同条例第20条(暴力団員の禁止行為)において、「暴力団員は、特別強化地域における特定営業に関し、次に掲げる行為をしてはならない」として、「(3)特定営業者から前条第3項に規定する利益の供与を受けること」が規定されています。本規定に違反した場合、第25条(罰則)において、「次の各号のいずれかに該当する者は、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する」として、「(3)第20条の規定に違反した者」が規定されています。また、飲食店経営者についても、第19条(特定営業者の禁止行為)第3項において、「特定営業者は、特別強化地域における特定営業に関し、用心棒の役務の提供を受ける対償又は特定営業を営むことを容認させる対償として、暴力団員に対して、利益の供与をしてはならない」と規定されています。(報道では摘発を視野に捜査を進めているということですが)これに違反した場合、第25条(罰則)において、「次の各号のいずれかに該当する者は、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する」として、「(2)相手方が暴力団員であることの情を知って、第19条の規定に違反した者」が規定されています。
(3)暴力団排除条例に基づく逮捕事例(宮城県)
宮城県仙台市内で客引きのトラブルを納めるために用心棒をしたとして、稲川会傘下組織組員と依頼した側の客引き、いわゆるキャッチの男が宮城県暴排条例違反の疑いで逮捕されています。報道によれば、職業不詳の男は特定の店舗に属さずに風俗店などの客引きをしていて、2024年9月ごろ、青葉区国分町で起きたトラブルの収拾を組員に依頼し、用心棒としての役務の提供を受けた疑いがもたれています。トラブルを目撃していた人が110番通報し事件が発覚したといいます。宮城県暴排条例は、2023年7月の改正で国分町などを「暴力団排除特別強化地域」に、風俗店や客引きなどを「特定営業」に指定しています。その上で、特定営業が暴力団から用心棒の役務の提供を受けることを禁じ、暴力団には用心棒の役務の提供を禁止しています。
▼宮城県暴排条例
暴力団員については、同条例第十九条の三(暴力団員の禁止行為)第1項において、「暴力団員は、暴力団排除特別強化地域における特定営業に関し、特定営業車に対し、用心棒の役務を提供してはならない」と規定されています。本規定に違反した場合、第二十五条(罰則)において、「次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する」として、「四 第十九条の三の規定に違反した者」が規定されています。また、職業不詳の男についても、第十九条の二(特定営業者の禁止行為)第1項において、「特定営業者は、暴力団排除特別強化地域における特定営業に関し、暴力団員から、用心棒の役務(法第九条第五号に規定する用心棒の役務をいう。次項及び次条において同じ。)の提供を受けてはならない」と規定されています。これに違反した場合、第二十五条(罰則)において、「次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する」として、「三 相手方が暴力団員であることの情を知って、第十九条の二の規定に違反した者」が規定されています。
(4)暴力団対策法に基づく中止命令発出事例(沖縄県)
沖縄県警沖縄署は、暴力団の威力を示して知人の50代男性に金銭を要求したとして、暴力団対策法に基づき、旭琉会三代目富永一家構成員に中止命令を発出しています。
▼暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律
暴力団対策法第九条(暴力的要求行為の禁止)において、「指定暴力団等の暴力団員(以下「指定暴力団員」という。)は、その者の所属する指定暴力団等又はその系列上位指定暴力団等(当該指定暴力団等と上方連結(指定暴力団等が他の指定暴力団等の構成団体となり、又は指定暴力団等の代表者等が他の指定暴力団等の暴力団員となっている関係をいう。)をすることにより順次関連している各指定暴力団等をいう。以下同じ。)の威力を示して次に掲げる行為をしてはならない」として、「二人に対し、寄附金、賛助金その他名目のいかんを問わず、みだりに金品等の贈与を要求すること」が規定されています。そのうえで、第十一条(暴力的要求行為等に対する措置)において、「公安委員会は、指定暴力団員が暴力的要求行為をしており、その相手方の生活の平穏又は業務の遂行の平穏が害されていると認める場合には、当該指定暴力団員に対し、当該暴力的要求行為を中止することを命じ、又は当該暴力的要求行為が中止されることを確保するために必要な事項を命ずることができる」と規定されています。
(5)暴力団対策法に基づく再発防止命令発出事例(広島県)
用心棒代の名目でみかじめ料の授受が繰り返されてきたとして、広島県公安委員会はみかじめ料の有罪判決を受けた浅野組傘下組織中岡組組員と飲食店経営者の男性に暴力団対策法に基づく再発防止命令を発出しています。報道によれば、組員は2022年1月ごろから2024年9月ごろまでの間、福山市の飲食店で経営者からみかじめ料を受け取ったなどとして、広島県暴排条例違反で懲役1年、執行猶予3年の有罪判決を受けており、みかじめ料を支払っていた経営者の男性も書類送検されています。広島県公安委員会は、これまでも2人の間でみかじめ料の授受が複数回行われていたことなどから再犯の恐れがあるとして、同じ行為を繰り返さないよう再発防止命令を発出したものです。再犯の恐れについて触れた規定に基づき、再発防止命令が出されたのは広島県内では初めてだといいます。
暴力団員については、暴力団対策法第九条(暴力的要求行為の禁止)において、「指定暴力団等の暴力団員(以下「指定暴力団員」という。)は、その者の所属する指定暴力団等又はその系列上位指定暴力団等(当該指定暴力団等と上方連結(指定暴力団等が他の指定暴力団等の構成団体となり、又は指定暴力団等の代表者等が他の指定暴力団等の暴力団員となっている関係をいう。)をすることにより順次関連している各指定暴力団等をいう。以下同じ。)の威力を示して次に掲げる行為をしてはならない」として、「二人に対し、寄附金、賛助金その他名目のいかんを問わず、みだりに金品等の贈与を要求すること」が規定されています。そのうえで、第十一条(暴力的要求行為等に対する措置)第2項において、「公安委員会は、指定暴力団員が暴力的要求行為をした場合において、当該指定暴力団員が更に反復して当該暴力的要求行為と類似の暴力的要求行為をするおそれがあると認めるときは、当該指定暴力団員に対し、一年を超えない範囲内で期間を定めて、暴力的要求行為が行われることを防止するために必要な事項を命ずることができる。」と規定されています。また、飲食店経営者については、第十条(暴力的要求行為の要求等の禁止)第1項において、「何人も、指定暴力団員に対し、暴力的要求行為をすることを要求し、依頼し、又は唆してはならない」との規定に抵触したものと考えられます。その場合、第十二条第1項において、「公安委員会は、第十条第一項の規定に違反する行為が行われた場合において、当該行為をした者が更に反復して同項の規定に違反する行為をするおそれがあると認めるときは、当該行為をした者に対し、一年を超えない範囲内で期間を定めて、当該行為に係る指定暴力団員又は当該指定暴力団員の所属する指定暴力団等の他の指定暴力団員に対して暴力的要求行為をすることを要求し、依頼し、又は唆すことを防止するために必要な事項を命ずることができる」と規定しています。
(6)暴力団対策法に基づく逮捕事例(北海道)
暴力団対策法に基づく再発防止命令を受けていたにもかかわらず、正月飾りの「しめ縄」を1つ1万円で飲食店に売り歩いていたとして、六代目山口組三代目弘道会二代目福島連合の構成員が逮捕されています。報道によれば、組員は2024年12月、北海道公安委員会から再発防止命令を受けていたにもかかわらず、滝川市内の飲食店経営者らに「しめ縄」を購入するよう要求していた疑いが持たれています。構成員は2023年に「みかじめ料を払え」などと男性を脅迫し、現金を脅し取ろうとしたとして、恐喝未遂の疑いで2024年1月に逮捕されていました。この逮捕を受け、構成員は北海道公安委員会から2025年4月7日までの間、営業者に対して日常業務に用いる物品の購入を要求することなどを禁止する再発防止命令を受けていました。しかし、構成員は命令期間中にもかかわらず、滝川市内の複数の飲食店経営者らに「しめ縄」を1つ1万円で販売して回っていたとみられ、警察が捜査を進め、2025年2月に逮捕したものです。
暴力団対策法第九条(暴力的要求行為の禁止)において、「指定暴力団等の暴力団員(以下「指定暴力団員」という。)は、その者の所属する指定暴力団等又はその系列上位指定暴力団等(当該指定暴力団等と上方連結(指定暴力団等が他の指定暴力団等の構成団体となり、又は指定暴力団等の代表者等が他の指定暴力団等の暴力団員となっている関係をいう。)をすることにより順次関連している各指定暴力団等をいう。以下同じ。)の威力を示して次に掲げる行為をしてはならない」として、「二人に対し、寄附金、賛助金その他名目のいかんを問わず、みだりに金品等の贈与を要求すること」が規定されています。そのうえで、第十一条(暴力的要求行為等に対する措置)第2項において、「公安委員会は、指定暴力団員が暴力的要求行為をした場合において、当該指定暴力団員が更に反復して当該暴力的要求行為と類似の暴力的要求行為をするおそれがあると認めるときは、当該指定暴力団員に対し、一年を超えない範囲内で期間を定めて、暴力的要求行為が行われることを防止するために必要な事項を命ずることができる。」と規定されています。その規定に違反した場合、第四十六条(罰則)において、「次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」として、「一 第十一条の規定による命令に違反した者」が規定されています。