暴排トピックス

統計上の数字と実態の乖離が示すもの~令和6年における組織犯罪の情勢から

2025.04.08
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首席研究員 芳賀 恒人

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1.統計上の数字と実態の乖離が示すもの~令和6年における組織犯罪の情勢から

警察庁から「令和6年における組織犯罪の情勢について」が公表されています。以下、内容を紹介しますが、薬物に関する記述の部分は、本コラムの「3.薬物を巡る動向」にて取り上げています。

本レポートによれば、暴力団構成員及び準構成員等の数は、2024年末現在、前年の20400人から1600人減の18800人となりました。うち、暴力団構成員の数は9900人、準構成員等の数は8900人となり、ともに初めて1万人を割り込みました。1963年の10万2600人をピークに数の上では暴力団の脅威は年々減少しているように見えます。ところが、本コラムでたびたび指摘してきたとおり、「匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)」が「闇バイト」を通じて一般人を取り込み、さまざまな犯罪に関与している実態がより鮮明となり、正に「治安上の脅威」としてクローズアップされています。ところが、その数はいまだ統計上明らかにされておらず、正確な実態はいまだ不透明なままとなっています。ただし、今回初めて、2024年にトクリュウの資金獲得犯罪(特殊詐欺や強盗、覚せい剤の密売、繁華街における飲食店等からのみかじめ料の徴収、企業や行政機関を対象とした恐喝又は強要、窃盗、各種公的給付金制度を悪用した詐欺等のほか、一般の経済取引を装った違法な貸金業や風俗店経営、AVへのスカウト等の労働者供給事業等)により摘発されたトクリュウとみられる1万105人という「規模感」が公表されました。一方で、「主犯・指示役」は1011人で1割にとどまるなど、実態解明と被害抑止のカギになる主犯格や指示役といった中枢メンバーの摘発は十分とはいえない状況です。また、最近ではあえて暴力団員として登録しない者や警察が把握できていない構成員等も増えていることから、実際の暴力団構成員等については、統計上の数字の数倍に上るとの見方もあるなど、統計上の数字が実態を正しく表しているとは限らない点に注意が必要です

トクリュウについては、本レポートの冒頭で特集されていますが、2024年に首都圏などで相次いだ強盗をはじめ、特殊詐欺やSNS型投資・ロマンス詐欺のほか、社会問題化している悪質ホストクラブやオンラインカジノ、悪質リフォームなどさまざまな違法行為に関わり、犯罪収益を上納するなど暴力団とも「互いに一定の関係を保ちながら、さまざまな資金獲得犯罪を観光している実態がある」(楠・警察庁長官)、「暴力団がトクリュウを傘下に収め資金源としている側面もある」(ある警察幹部)といった指摘がなされています。また、警察庁の露木・前警察庁長官が、「組織や構成員がはっきりしている暴力団を中心に据えてきた組織犯罪対策のあり方を大きく転換させなければならない」と述べていますが、昨今の暴力団対策、反社リスク対策の本質に迫るものといえます。なお、トクリュウの摘発については、罪種別では、口座譲渡などの犯罪収益移転防止法違反が3293人と最多で、詐欺2653人、窃盗991人、薬物事犯917人、強盗348人であり、容疑者のうち「主犯または指示役」は約1割(1011人)で、残りは実行役や被害金の回収役らでした。全摘発者の約4割(3925人)は闇バイトに応募して事件に関与しており、闇バイトに応募した摘発人数の内訳は、犯罪収益移転防止法違反が53.%の2114人で最多となり、詐欺が26.3%の1032人で続き、それ以外は、窃盗311人、組織犯罪処罰法違反157人、薬物事犯127人、強盗64人、入管法違反19人などでした。

また、警察や暴追センターの援助で離脱した暴力団員は約320人、そのうち就労者は24人、離脱した者の預貯金口座の開設は2022年2月から2024年末までで17件(2024年中は2件)という結果も示されました。しかしながら、暴力団員等の前年からの減少数1600人に対する離脱者数約320人、離脱者約320人に対する就労者24人、離脱者数や就労者数に対する口座開設2件といった「差異」が意味するものは何なのでしょうか。それは、例えば、暴力団という属性はないものの実質的には暴力団員として活動している統計上捕捉されない層が分厚さを増している実態、トクリュウの本質的に不透明な実態、暴力団員を辞めてもまっとうに稼げる者はごく僅かに過ぎず、多くは「元暴アウトロー」として、暴力団とは異なる属性としての反社会的勢力やその周辺者、あるいは完全なアウトローとして、結局は危険分子という点で離脱前と変わらない存在の者たちの増加の実態、さらには暴力団という組織の「規律」に縛られることがない分、より危険な存在となりつつある者らの実態、そして何より「暴力団の肩書がむしろ邪魔になり、表だった活動の機会が減っている」、「暴力団が警察に捕まらないよう『匿流化』が進んでいる」(社会学者・廣末氏)実態、事務所が使えず、いわば「リモート」で活動しその不透明化が進む実態、少子高齢化が顕著な人員構成(暴力団構成員を年代別でみると、50代が31.9%で最多で、40代23.4%、60代14.9%、70代以上12.2%、30代11.2%、20代5.9%の順となりました。10年前の2014年末に50代以上は全体の4割でしたが、2024年末には6割近くにのぼり、高齢化が進んでいることがうかがえます。それとともに、社会に今さら適合できず、あえて暴力団にとどまる高齢者の存在があります)など、統計上の数字だけでは表せないリアル(現実)な姿だといえます。

そして、もはや統計上の数字が以前ほど大きな意味を持たなくなっていることと同様、暴力団対策法の限界も露呈している状況に鑑みれば、暴力団対策のあり方を根本から見直すこと-例えば、海外のマフィア対策のように存在の非合法化を前提とするあり方など-実態ベース、リスクベースからあらためて発想すべき時期に来ているのではないかと考えます。ここ最近の統計数字と継続的にウォッチし続けている実態との乖離を見るにつけ、そういったことを強く感じます。

▼警察庁 令和6年の組織犯罪の情勢について
  • 匿名・流動型犯罪グループ情勢
    • 匿名・流動型犯罪グループの組織構造や内部統制、資金の流れ等を解明し、有効な対策を講じるべく、警察庁において、長官官房審議官(調整担当)及び長官官房参事官(匿名・流動型犯罪グループ対策担当)の取りまとめの下、部門横断的な情報共有、実態解明等を推進するとともに、全国警察において、組織犯罪対策等を担当する参事官級の職員を匿名・流動型犯罪グループに係る総合対策の司令塔とし、関係部門における取組状況等を集約し、部門横断的な情報共有、実態解明等を推進している。
    • また、匿名・流動型犯罪グループによって敢行される特殊詐欺及びSNS型投資・ロマンス詐欺に、都道府県警察の垣根を越えて迅速かつ効果的な捜査を推進するため、令和6年4月、他の都道府県警察から依頼を受けて管轄区域内で行うべき捜査を遂行する「特殊詐欺連合捜査班」(TAIT)を、各都道府県警察に構築した。特に捜査事項が集中すると見込まれる警視庁、埼玉、千葉、神奈川、愛知、大阪及び福岡の7都府県警察では、それぞれ専従の捜査体制を構築し、全国警察から派遣される捜査員を加え、合計約500人の捜査員を配置した。令和6年中のTAITを活用した特殊詐欺等の検挙件数は322件であった。
    • さらに、匿名・流動型犯罪グループが深く関与し治安対策上の課題となっている事犯を重点取組対象事犯として指定し、全国警察及び警察庁が連携して、これを踏まえた同グループの戦略的な実態解明及び取締り等を推進している。
    • 加えて、匿名・流動型犯罪グループの中核的人物等のうち、特に全国的な見地から速やかに活動実態を解明した上で取り締まるべき対象を取締りターゲットに指定し、全国警察及び警察庁が連携して、同グループの壊滅に向けた戦略的な取締り等を推進している。
    • 令和6年中の匿名・流動型犯罪グループによるものとみられる資金獲得犯罪について、主な資金獲得犯罪の検挙人員を罪種別にみると、詐欺が過半数を占め、次いで窃盗、薬物事犯、強盗、風営適正化法違反の順となっている。(匿名・流動型犯罪グループによる資金獲得犯罪とは、匿名・流動型犯罪グループの活動資金の調達につながる可能性のある犯罪をいい、特殊詐欺や強盗、覚せい剤の密売、繁華街における飲食店等からのみかじめ料の徴収、企業や行政機関を対象とした恐喝又は強要、窃盗、各種公的給付金制度を悪用した詐欺等のほか、一般の経済取引を装った違法な貸金業や風俗店経営、AVへのスカウト等の労働者供給事業等をいう。)
    • 匿名・流動型犯罪グループは、特殊詐欺及びSNS型投資・ロマンス詐欺に加え、令和6年8月以降、関東地方において相次いで発生した、SNS等で募集された犯罪の実行者による凶悪な強盗等、悪質ホストクラブ事犯、組織的窃盗・盗品流通事犯、悪質リフォーム事犯のほか、インターネットバンキングに係る不正送金事犯等のサイバー犯罪に至るまで、近年、治安対策上の課題となっている多くの事案に深く関与している実態が認められる。
    • 警察では、こうした多様な資金獲得活動に着目した取締りにより、匿名・流動型犯罪グループに対して効果的に打撃を与えるとともに、組織的犯罪処罰法等の積極的な適用により犯罪収益の剥奪を推進している。
    • 組織的な強盗等の中には、SNSや求人サイト等で「高額バイト」、「ホワイト案件」、「即日即金」等の文言を用いて犯罪実行者が募集された上で敢行される事件が発生している。このような匿名・流動型犯罪グループによるものとみられる手口により敢行された強盗等事件の中には、被害者を拘束した上で暴行を加えるなど、その犯行態様が凶悪なものもみられ、令和6年8月以降、関東地方において相次いで発生した強盗等事件によって、国民の体感治安が著しく悪化した。
      1. 組織的な強盗等
        • 警察では、一連の強盗等事件について、同年10月、警視庁を中心とする関係都県警察による合同捜査本部を設置して捜査を強力に推進し、実行犯のほとんどを検挙し、更に指示役や首謀者の検挙に向けて捜査を徹底している。
      2. 特殊詐欺
        • 中枢被疑者注の検挙人員は58人(同+9人、+18.4%)で、総検挙人員に占める割合は2.5%(同+0.5ポイント)であった。検挙人員のうち、暴力団構成員等は403人(同-36人、-8.2%)であり、このうち中枢被疑者は20人(同-6人、-23.1%)、出し子・受け子等の指示役は12人(同-7人、-36.8%)、リクルーターは45人(同-29人、-39.2%)であった。また、中枢被疑者の検挙人員(58人)に占める暴力団構成員等の割合は34.5%(同-18.6ポイント)であり、依然として暴力団が主導的な立場で特殊詐欺に深く関与している実態がうかがわれる。特殊詐欺を敢行する匿名・流動型犯罪グループは、SNS等で高額な報酬を示唆して「受け子」等を募集し、犯行に加担させるなどしている。
        • また、首謀者、指示役、実行役の間の連絡手段には、匿名性が高く、メッセージが自動的に消去される仕組みを備えた通信手段を使用するなど、犯罪の証拠を隠滅しようとする手口が多くみられる。
        • さらに、近年、国内においては、架け場等の拠点を小規模化・多様化して短期間で移転させる傾向を強めており、賃貸マンションや賃貸オフィスを拠点とする動きもみられる。また、首謀者や指示役のほか、架け子・架け場が海外に所在するなどのケースもみられる。令和6年中、海外における架け場等の拠点を外国当局が摘発し、日本に移送するなどして都道府県警察が検挙した被疑者は50人である。警察では、海外拠点の更なる摘発に向けて、関連する情報の一層の収集、集約及び外国捜査機関等への提供を行い、捜査を強力に推進するとともに、犯罪組織が特に東南アジアに拠点を設けていることを踏まえ、我が国が主催した、各国の治安機関等の実務者が議論する国際詐欺会議(令和6年9月)等の国際会議等の場を通じ、東南アジア諸国を含めた外国捜査機関等との間で、効果的な予防対策や拠点摘発、被疑者の引渡しに係る捜査協力の在り方等について積極的に情報交換や議論を行うなど、国際連携の強化に取り組んでいる。
      3. SNS型投資・ロマンス詐欺
        • 令和6年中のSNS型投資・ロマンス詐欺の認知件数は1万164件(前年比+6,318件、+164.3%)、被害額は約1,268億円(同+約812億8,000万円、+178.6%)と、いずれも前年比で著しく増加した。検挙件数は232件、検挙人員は113人であった。
        • 検挙人員のうち、暴力団構成員等は3人(リクルーターが1人、出し子が2人)、少年は1人(受け子)、外国人は26人(受け子が9人、出し子が6人、現金回収・運搬役が1人、道具調達が3人、出し子・受け子・見張りの指示役が2人、出し子・受け子の見張り役が1人、その他が4人)であった。
      4. 組織的窃盗・盗品流通事犯
        • 令和6年中の太陽光発電施設における金属ケーブル窃盗の認知件数は7,054件(前年比+1,693件、+31.6%)、衣料品店やドラッグストアにおける大量万引きの認知件数は981件(同-246件、-20.0%)、自動車盗の認知件数は6,080件(同+318件、+5.5%)であった。
        • これら組織的窃盗・盗品流通事犯が不法滞在外国人等の収入源となっている実態がみられるほか、海外に所在する首謀者が、SNSを利用してつながった実行役に対して盗む物品を指示し、指定した場所に大量の盗品を送らせるという手口での犯行も確認されている。
      5. 悪質ホストクラブ事犯や繁華街・歓楽街における風俗関係事犯
        • 悪質ホストクラブにおいては、女性客の好意に乗じて、およそ返済ができないことを分かっていながら大きな債務を負わせ、売春や性風俗店での稼働を余儀なくさせる悪質な営業行為が認められるほか、性風俗店やそれとの結節点となるスカウトグループ等と結託して女性を徹底的に搾取することで、不当に利益を得ている実態がみられる。
        • 警察では、大規模な繁華街・歓楽街を管轄する都道府県警察において、部門横断的な専従体制を構築するなど、風俗営業等に絡んで多様な資金獲得活動を行う匿名・流動型犯罪グループの実態解明・取締りを徹底している。
      6. オンライン上で行われる賭博事犯
        • スマートフォン等からアクセスして賭博を行う「無店舗型」のオンラインカジノについては、アクセス数の大幅な増加及びこれに伴う依存症の問題が指摘されているほか、我が国資産の海外流出、マネー・ローンダリングへの悪用等が懸念されている。
        • 警察では、賭客のみならず、突き上げ捜査や徹底的な情報分析により、賭博運営者等を検挙することで社会に警鐘を鳴らすとともに、マネー・ローンダリング等の実態解明や犯罪収益の剥奪等を推進している
      7. インターネットバンキングに係る不正送金事犯等
        • 実在する企業・団体等や官公庁を装うなどしたメール又はSMS(ショートメッセージサービス)を送り、その企業等のウェブサイトに見せかけて作成した偽のウェブサイト(フィッシングサイト)を受信者が閲覧するよう誘導し、当該フィッシングサイトでアカウント情報やクレジットカード番号等を不正に入手するフィッシングの手口によって、インターネットバンキングに係る不正送金事犯等が敢行されている。令和6年中のインターネットバンキングに係る不正送金事犯の発生件数は4,369件(前年比-1,209件、-21.7%)、被害総額は約86億9,000万円(同-約4,000万円、-0.5%)と、前年より減少したものの、依然として高い水準で推移している。また、令和6年中のクレジットカードの不正利用事犯の被害額注は約555億円(同+約14億1,000万円、+2.6%)と過去最悪であった。
      8. 悪質なリフォーム業者等による特定商取引等事犯
        • 近年、高齢者宅を狙って家屋修繕や水回り工事等の住宅設備工事やリフォーム訪問販売を装い、損傷箇所がないにもかかわらず、家屋を故意に損傷させ、それを修理することで高額な施工料を要求するなどの悪質なリフォーム業者による犯罪行為が確認されており、こうした悪質行為を組織的に反復継続して得られた収益が匿名・流動型犯罪グループの資金源になっているとみられる。
      9. 組織的なマネー・ローンダリング事犯の実態
        • 匿名・流動型犯罪グループは、獲得した犯罪収益について巧妙にマネー・ローンダリングを行っている。その手口は、コインロッカーを使用した現金の受渡し、架空・他人名義の口座を使用した送金、他人の身分証明書等を使用した盗品等の売却、暗号資産・電子マネー等の使用、犯罪グループが関与する会社での取引に仮装した入出金、外国口座の経由等、多岐にわたり、捜査機関等からの追及を回避しようとしている状況がうかがわれる。
        • 近年、こうした組織的なマネー・ローンダリングを専門的に行う犯罪グループが台頭している。
        • 警察では、匿名・流動型犯罪グループ等の犯罪組織を弱体化させ、壊滅に追い込むため、犯罪収益移転防止法、組織的犯罪処罰法及び麻薬特例法を活用し、関係機関や事業者等と協力しながら、総合的な犯罪収益対策を推進している
  • 暴力団情勢
    • 平成17年以降、暴力団の勢力そのものは、全国的に減衰を続けているが、暴力団の中には、その活動を不透明化させるとともに、世情に応じて資金獲得活動を多様化させるなどして強固な人的・経済的基盤を維持しているものもあり、依然として、暴力団は社会に対する脅威となっている。
    • また、暴力団構成員が準暴力団を含む匿名・流動型犯罪グループの首領となる例や、これらのグループから暴力団への資金の流れが確認される例も認められ、暴力団の中には、匿名・流動型犯罪グループを実質的に傘下に収め、自らの資金獲得活動の一端を担わせているものもあるとみられる。同様に、暴力団は、薬物の密輸・密売等、資金獲得活動の一環として、来日外国人犯罪組織と連携する例もみられる。
    • 暴力団構成員及び準構成員等の総数は、平成17年以降減少し、令和6年末には1万8,800人と、暴力団対策法が施行された平成4年以降最少となった。このうち暴力団構成員の数は9,900人、準構成員等の数は8,900人である。
    • また、主要団体等(六代目山口組、神戸山口組、絆會、池田組、住吉会及び稲川会。以下同じ。)の暴力団構成員等の数は1万3,500人(全暴力団構成員等の71.8%)となっており、このうち暴力団構成員の数は7,300人(全暴力団構成員の73.7%)となっている。
    • 総会屋の数は、令和6年末現在、130人と近年減少傾向にある
    • 近年、暴力団構成員等の検挙人員は減少傾向にあり、令和6年中は8,249人(前年比-1,361人、-14.2%)である。主な罪種別では、覚せい剤取締法違反が1,707人(同-205人、-10.7%)、詐欺が1,103人(同-229人、-17.2%)、傷害が1,071人(同-115人、-9.7%)、窃盗が713人(同-176人、-19.8%)、大麻取締法違反が464人(同-241人、-34.2%)、暴行が389人(同-138人、-26.2%)、脅迫が278人(同-11人、-3.8%)、強盗が208人(同-29人、-12.2%)である。
    • 暴力団構成員等の検挙人員のうち、暴力団構成員は1,673人(同-301人、-15.2%)、準構成員その他の周辺者は6,576人(同-1,060人、-13.9%)で、いずれも前年より減少した。
    • また、近年、減少傾向にあった暴力団構成員等の検挙件数については、令和6年中は15,182件(同+249件、+1.7%)と、前年より僅かに増加した。主な罪種別では、窃盗が5,380件(同+759件、+16.4%)、詐欺が1,900件(同+300件、+18.8%)である。
    • 近年、暴力団構成員等の検挙人員のうち、主要団体等の暴力団構成員等が占める割合は約8割で推移しており、令和6年中は6,596人で、80.0%を占めている。中でも、六代目山口組の暴力団構成員等の検挙人員は3,115人と、暴力団構成員等の検挙人員の約4割を占めている。
    • 近年、暴力団が資金を獲得する手段の一つとして、詐欺、とりわけ特殊詐欺を行っている実態が認められる。
    • 令和6年中の中止命令の発出件数は1,118件と、前年より154件増加している。形態別では、資金獲得活動である暴力的要求行為(暴力団対策法第9条)に対するものが775件で全体の69.3%を、加入強要・脱退妨害(暴力団対策法第16条)に対するものが77件で全体の6.9%を、それぞれ占めている。
    • 令和6年中の再発防止命令の発出件数は52件と、前年より22件増加している。形態別では、資金獲得活動である暴力的要求行為(暴力団対策法第9条)に対するものが32件で全体の61.5%を占めているほか、加入強要・脱退妨害(暴力団対策法第16条)に対するものが1件となっている。
    • 各都道府県においては、条例に基づいた勧告等を実施している。令和6年中の実施件数は、勧告が50件、指導が3件、中止命令が9件、再発防止命令が2件、検挙が23件となっている。
    • 警察においては、都道府県暴力追放運動推進センター(以下「都道府県センター」という。)、弁護士会民事介入暴力対策委員会(以下「民暴委員会」という。)等と連携し、暴力団員等が行う違法・不当な行為の被害者等が提起する損害賠償請求等に対して必要な支援を行っている。
    • 暴力団対策法第31条の2(威力利用資金獲得行為に係る代表者等の損害賠償責任)の規定に基づく損害賠償請求訴訟については、令和6年末現在で71件(同条が施行された平成20年5月以降、警察庁に報告があったものの累計)提起されており、このうち係争中が18件、和解等による解決が53件となっている。
    • また、同損害賠償請求訴訟のうち、特殊詐欺に関するものは22件提起されており、このうち係争中が5件、和解等による解決が17件となっている。
    • 都道府県センターは、暴力団対策法第32条の4第1項に規定する適格都道府県センターとして国家公安委員会の認定を受けることで、指定暴力団等の事務所の使用により生活の平穏等が違法に害されていることを理由として、当該事務所の使用及びこれに付随する行為の差止めを請求しようとする付近住民等から委託を受け、当該委託をした者のために自己の名をもって、当該事務所の使用及びこれに付随する行為の差止めの請求を行うことができることとなる。平成26年7月までに全ての都道府県センターが適格都道府県センターとしての認定を受けている。
    • 令和6年中の警察及び都道府県センターに寄せられた暴力団からの離脱に関する相談(暴力団構成員のほか、その家族及び知人等からの相談を含む。)の受理件数は405件(就労に関する相談及び脱退妨害に関する相談等を含む。)である。
    • 令和6年中の警察及び都道府県センターが援助の措置等を行うことにより暴力団から離脱することができた暴力団員は約320人である。
    • 令和6年末現在、警察、都道府県センター、関係機関・団体等から構成される社会復帰対策協議会に登録し、暴力団離脱者を雇用する意志を有する事業者(以下「協賛企業」という。)は1,686社で、令和6年中の同協議会を通じて就労した者は24人である。
    • また、令和4年2月から令和6年末までに、警察庁において策定した暴力団から離脱した者の預貯金口座の開設に向けた支援策により口座開設に至った件数は17件で、このうち令和6年中は2件となっている。
  • 令和6年中の来日外国人犯罪の検挙状況等の概要は、次のとおりである。
    • 総検挙状況、刑法犯検挙状況及び特別法犯検挙状況のいずれも、前年より検挙件数・人員が増加した。
    • 総検挙状況を国籍等別にみると、ベトナム及び中国の2か国で、総検挙件数の約6割を、総検挙人員の約5割を、それぞれ占めており、いずれも前年に引き続きベトナムが最多となっている。
    • 総検挙人員12,170人の国籍等別の内訳は、ベトナムが3,990人(構成比率32.8%)、中国が2,011人(同16.5%)、フィリピンが732人(同6.0%)、タイが644人(同5.3%)、ブラジルが578人(同4.7%)等となっている。
    • 総検挙人員12,170人の在留資格別の内訳は、「技能実習」が2,916人(構成比率24.0%)、「短期滞在」が2,214人(同18.2%)、「定住者」が1,484人(同12.2%)、「留学」が1,294人(同10.6%)、「技術・人文知識・国際業務」が877人(同7.2%)等となっている。
    • 刑法犯の検挙件数・人員が増加した主な要因としては、ベトナム、カンボジア、ブラジル、フィリピン等による窃盗犯が増加したことなどが挙げられる。
    • 特別法犯の検挙件数が増加した主な要因としては、ベトナム、タイ、フィリピン等による薬物事犯が増加したことなどが挙げられる。
    • 総検挙人員を正規滞在・不法滞在別にみると、令和6年は、正規滞在の割合が65.8%、不法滞在の割合が34.2%となっており、この割合は、令和2年以降、おおむね横ばいで推移している。また、総検挙人員の在留資格別の内訳(構成比率)は、「技能実習」が24.0%、「短期滞在」が18.2%、「定住者」が12.2%、「留学」が10.6%、「技術・人文知識・国際業務」が7.2%等となっている。
    • 罪種等別の刑法犯検挙件数を国籍等別にみると、強盗は中国及びベトナムが、窃盗はベトナムが、それぞれ高い割合を占めている。窃盗を手口別にみると、侵入窃盗及び万引きはベトナムが、自動車盗はスリランカ、ベトナム及びブラジルが、それぞれ高い割合を占めている。また、知能犯のうち詐欺については、中国及びベトナムが高い割合を占めている
    • 犯罪インフラとは、犯罪を助長し、又は容易にする基盤のことをいう。来日外国人で構成される犯罪組織が関与する犯罪インフラ事犯には、不法就労助長、偽装結婚、偽装認知、旅券・在留カード等偽造、地下銀行による不正送金等がある。
    • 不法就労助長、偽装結婚及び偽装認知は、在留資格の不正取得による不法滞在等の犯罪を助長しており、これを仲介して利益を得るブローカーや暴力団が関与するものがみられるほか、最近では、在留資格の不正取得や不法就労を目的とした難民認定制度の悪用が疑われる例も発生している。偽造された旅券・在留カード等は、身分偽装手段として利用されるほか、不法滞在者等に販売されることもある。地下銀行は、不法滞在者等が犯罪収益等を海外に送金するために利用されている。
    • 最近5年間の犯罪インフラ事犯の検挙状況をみると、不法就労助長は、昨今の人手不足を背景とし、就労資格のない外国人を雇い入れるなどの事例が引き続きみられるが、令和6年中の検挙件数・人員は前年より減少した。旅券・在留カード等偽造は、就労可能な在留資格を偽装するためなどに利用されており、令和6年中の検挙件数・人員は前年より減少した。偽装結婚は、日本国内における継続的な就労等を目的に「日本人の配偶者等」等の在留資格を取得するための不正な手段であり、令和6年中の検挙件数は前年と同数で、検挙人員は前年より減少した。地下銀行は、最近5年間の検挙件数は10件未満で推移している。偽装認知は、令和3年以降検挙がなかったが、令和6年は1件3人を検挙した。
  • 銃器犯罪情勢
    • 銃器発砲事件の発生件数は3件(前年比-6件)と、平成以降では最も少なく、このうち暴力団構成員等によるものは2件(同-1件)と、前年より減少した。なお、暴力団の対立抗争によるとみられる発砲事件は1件であった。銃器発砲事件による死傷者数は3人(同-7人)で、うち死者は2人、負傷者は1人と、いずれも前年より減少した。
  • 新たな脅威に直面する銃器情勢
    • 現在も、暴力団が関与する従来型の組織的な銃器事犯が発生する一方、近年、インターネットを通じて銃器に関する様々な情報を容易に入手できるようになったことで、銃器の密造、密売等に関する違法・有害情報がSNS上に氾濫し、治安対策上の新たな脅威となる銃器事犯が国内各地で発生している。
    • その象徴的事件が、令和4年に発生した安倍元首相に対する銃撃事件であり、特定のテロ組織等と関わりのないままに過激化した個人、いわゆるローン・オフェンダーが、インターネットを通じて得た情報を基に自ら銃を製造し、凶行に及んだことは、日本中を震撼させ、改めて人命を瞬時に奪う銃器犯罪の恐ろしさを示すこととなった。
    • その後も許可猟銃を使用した凶悪事件が相次いで発生するなど、我が国における銃器情勢は危機的状況を迎えることとなり、これまでの組織的な銃器事犯への対応はもとより、これら新たな脅威への対策も急務となっている。
    • 近年の厳しい銃器情勢を踏まえ、令和6年7月、政府の銃器対策推進会議において新たに策定された「第二次銃器対策推進5か年計画」では、銃器の摘発及び取締りに向けた重点施策として、以下が盛り込まれ、関係省庁が連携して更なる取組を推進することが決定された。
      • 暴力団の関与する銃器事犯の取締り強化
      • テロ対策の推進等
      • 銃器密造等防止対策の推進
      • インターネット上の銃器対策の推進
      • 猟銃等の厳格な審査と指導の徹底

悪質なホストクラブの問題に関連し、警察が2024年に職業安定法や売春防止法違反で摘発したホストや性風俗店関係者らは2023年の2.4倍の207人となりました。警察庁は増加の要因について、女性客に借金を背負わせ、性風俗店での勤務をあっせんする悪質なビジネスモデルの解体に向け、取り締まりを進めたためとしています。内訳は、ホスト88人、店長や従業員らホストクラブ関係者73人、性風俗店関係者23人、客引き12人、スカウト11人であり、全体で2023年より121人増え、摘発した事件数は223年より39件増の81事件となりました。警察によるホストクラブへの立ち入りは延べ659店に対して実施、各都道府県の公安委員会による行政処分は計707件で、このうち営業許可の取り消しは2件、営業停止命令は12件でした。悪質なホストクラブを巡っては、女性客の恋愛感情に付け込んだ高額な請求や、借金返済のために売春させる行為などを禁止する風営法改正案が今国会に提出されています。

▼警察庁 令和6年における風俗営業等の現状と風俗関係事犯等の取締り状況について
  • 令和6年12月末時点におけるいわゆるホストクラブに当たるとみられる1号営業の営業所は、全国で約1,100店舗存在する。約33%が東京、約18%が大阪に所在している。
  • 令和6年中における悪質ホストクラブに係る検挙は、81事件(前年比+39事件)、207人(前年比+121人)である。なお、検挙人員207人のうち、ホストが88人、その他ホストクラブ関係者(店長等自らは接待を行っているわけではないもののホストクラブに従事する者)が73人である。
  • 令和6年中における風営適正化法に基づくホストクラブへの立入り状況は延べ659店舗であり、行政処分は707件である。行政処分707件のうち、風俗営業許可の取消しが2件、風営適正化法又は条例に基づく営業停止命令が12件、指示処分が693件である。
  • 令和6年中におけるオンライン上で行われる賭博事犯の検挙は62事件(前年比+49事件)、279人(前年比+172人)(うち無店舗型55事件、227人)と大幅に増加している。検挙人員279人のうち運営等・賭客の別については、運営等が117人、賭客が162人である。
  • 過去5年間の風俗営業(接待飲食等営業、遊技場営業)の許可数(営業所数)は、継続して減少している。令和6年末の許可数は7万6,859件で、前年より452件(0.6%)減少した。
  • 過去5年間のぱちんこ等営業(まあじやん営業、ぱちんこ営業、その他)の許可数(営業所数)は、継続して減少している。令和6年末の許可数は1万3,310件で、前年より596件(4.3%)減少した。
  • 店舗型性風俗特殊営業の届出数は、継続して減少し、無店舗型性風俗特殊営業及び映像送信型性風俗特殊営業の届出数は、継続して増加している。
  • 過去5年間の人身取引事犯の被害者の国籍は、8割以上が日本人であり、日本人被害者の年齢は、6割程度が18歳未満である。

全国の風俗店に女性を紹介したとしてスカウトグループ「アクセス」が摘発された事件で、グループが、あっせん先の候補となる約1800店の情報をまとめた独自のウェブサイトを開設・運用していたことが判明、警視庁は、グループが店側と連携してあっせんを繰り返していたとみています。報道によれば、アクセスはグループのスカウト向けに「2チャンネル」というサイトを運営、サイトには、島根を除く46都道府県の風俗店約1800店の所在地や担当者の連絡先、各店が求める女性の容姿などの条件が記載され、スカウト側が店の口コミを書き込む機能もあったといいます。アクセス幹部が店側から情報を集めた上で内容を更新し、閲覧に必要なIDとパスワードをスカウトに共有、スカウトはサイトを参考に、女性の個人情報を店側に伝え、紹介料などで好条件を提示した店にあっせんしていたといいます。また、グループが、摘発を想定した、「弁護士に相談のもと作成した」とするスカウト向けのマニュアルを作っていたことも判明、逮捕時の調べに黙秘したり、グループの関与を隠したりするなどの対応を求めていました。

全国で2番目の勢力をもつ住吉会が、東京・新宿の本部事務所を移転させる動きがあることが判明しています。ただ、警察当局は移転先の特定に苦慮しているといいます。前述したとおり、暴力団勢力が2024年に初めて2万人を下回る中、トクリュウの摘発が目立ち始めており、犯罪集団の「潜在化」が指摘されています。2025年4月5日付朝日新聞の記事「国内2番目の暴力団本部事務所が移転か 識者「匿流化の可能性も」」によれば、「新宿区新宿7丁目のマンションについて、2023年11月に都公安委員会から本部事務所に認定されたが、昨年6月、近隣住民側の申請を受けて東京地裁が使用を禁じる仮処分を決定していた。捜査関係者によると、本部事務所からは8月までに複数回、荷物の搬出が確認されたが、「大きな机を運び出してくれる業者が見つからない」などの理由で完全には退去していなかったという。住吉会側はその後、住民側弁護士に売却の意向を示し、昨年末から年明けにかけて複数回、弁護士の立ち会いのもとで部屋の内見を受け入れたという。住民側弁護士は「完全退去に向け、働きかけや交渉を続けていきたい」と話す。ただ、捜査関係者によると、住吉会の本部事務所の移転先は今のところ未定という。移転先で再び住民から反対されることも想定され、捜査幹部は「一つの場所にとどまらず、『連絡所』として転々とするかもしれない」と話す」、「警察当局は課題を突きつけられている。暴力団対策法は、指定暴力団の本部事務所の所在地などに変更があれば、公安委員会が官報で公示するとしている。指定暴力団に対しては、威力を示した金品の要求などがあれば組員らに中止命令を出したり、住民の暮らしを害する恐れがあれば本部事務所の使用制限命令を出したりできる。ところが、本部事務所が特定されなければ、命令の書類や、暴力団排除のための民事訴訟の訴状の送達先が分からないなどの弊害も想定される。警視庁は、移転先の特定を進める一方で、実態が判明するまで認定している本部事務所の所在地は変わらない見込みだ。新宿のマンションは、新たな入居者がいるのに暴力団事務所に認定されたままという状態になる可能性もあり、ある捜査関係者は「住吉会と関係のない入居者なのかを確認する必要がある」と話す。さらに、管轄は本部を置く都道府県警だが、移転先が未定のままでは、どこの警察が中心となって担当するのかが決まらないことも懸念され、実態がつかみにくくなる恐れがある。ある捜査幹部は「新宿は売らないで欲しいというのが本音だ」とこぼす」、「龍谷大学犯罪学研究センターの広末登・嘱託研究員によると、かつての暴力団は、組織の看板を前面に出して威力を示すことで収益を得ていたが、1992年施行の暴力団対策法などで社会的な締め付けが強まった。今や「暴力団の肩書がむしろ邪魔になり、表だった活動の機会が減っている」と分析する。本部事務所が転々とする可能性があることについて「暴力団が警察に捕まらないよう『匿流化』する動きの一つだ」と指摘する。事務所は、定例会などを開く場所▽組織の威力を示す象徴▽住民が相談に訪れる「裏社会の公民館」といった役割があったが、次第に「事務所を置くメリットが減ってきた」という。広末研究員は「暴力団は今後どんどん地下にもぐり、実態が見えにくくなるだろう。事務所を持たず、完全にオンライン化する時代が来るかもしれない。暴力団の実態把握のための対処法を検討するべきだ」と訴える」といった内容であり、とりわけ暴力団の「匿流化」、「裏社会の公民館」、「完全にオンライン化する時代がくる」といった指摘は、正に正鵠を射るものだと思います。

住吉会関連では、傘下組織が東京都足立区に置く組事務所について、東京地裁が使用差し止めを認める仮処分を決定しています。暴力団対策法に基づき、近隣住民が公益財団法人「暴力団追放運動推進都民センター(暴追都民センター)」に委託する代理訴訟制度を使って、使用差し止めを求める仮処分を申請していたものです。この制度で、組事務所の使用差し止めが認められたのは都内では3例目となります。報道によれば、仮処分の対象の組事務所は、木造2階建てで、住吉会傘下組織団の関連企業が保有しており、2023年9月に、住吉会の内部抗争が原因で対立する構成員らがバットや特殊警棒を持って、この組事務所の付近に集まるなどの事件が起きています。近隣住民らが日常生活への悪影響を訴え、代理訴訟制度を利用、東京地裁は2025年2月28日、住民側の主張を認め、仮処分を決定、この決定により、会合の開催や構成員らの立ち入りなど、建物の組事務所としての利用が禁止されます。

国内最大の暴力団「6代目山口組」が2015年8月に分裂し、離脱した「神戸山口組」との対立抗争は2025年夏で10年となります。2024年末時点の暴力団構成員等の人数では、六代目山口組が約3300人に対して神戸山口組は約120人にまで減少、最新勢力図は27対1と大きな差が開いています。抗争が始まった2015年時点では、六代目山口組の構成員数は約6000人、神戸山口組は約2800人と、勢力差はほぼ2対1でした。敵対する相手の殺害や、移籍をめぐるトラブルなども含め数十人の死傷者が出ていますが、すでに大勢は決しているとみられています。それでも、抗争が再燃する可能性もあり警察当局は警戒を続けています。神戸山口組からは山健組をはじめ、宅見組、池田組、侠友会、正木組といった結成時の中核組織がすべて離脱か解散し、四分五裂の状態ですが、神戸山口組の井上組長がそれでも白旗を上げないのは、組のために懲役に行っている者たちを待つ意味もあると推測されています。亡くなった者もいる中で、自分だけ組長の座から降りられる訳がなく、同様に六代目山口組の司組長も、高齢などを理由に後進に譲れば神戸山口組の独立を認めることになるため、相手が降参するまで辞めないのではないかと考えられます。なお、週刊誌情報ではありますが、直近、ヤクザLINEなるLINE上のコミュニティで拡散された情報として、「関東の有力団体、稲川会の幹部が山口県に本拠を置く指定暴力団『合田一家』を訪ねた」、「訪問予定の組織のリストとして、岡山県内に事務所を構える『浅野組』、福岡市の『福博会』、新体制になったばかりの『旭琉會』も列挙されていた」、「さらに、広島の『共政会』『侠道会』、香川の『親和会』も”順次回る”とも記されていた」、「その目的として『連判状を作成して山口組に承認を取って井上、池田に行く』というもの」という内容があったようです。ただし、その「連判状」が「破談」になったとの続報も再び出回ったとされます。怪文書の類なのか、リアルな動きだったのかは定かではありませんが、分裂10年という節目を迎えるにあたり、大きな動きがある可能性は否定できず、さまざまな事態を想定しておいた方がよさそうです。

2011年に北九州市であった建設会社会長射殺など7事件に関与したとして、殺人罪などに問われた工藤會傘下組織幹部、田口被告の控訴審判決で、福岡高裁は、求刑通り無期懲役とした1審・福岡地裁判決(2023年8月)を支持し、被告側の控訴を棄却しています。工藤會トップで総裁の野村悟被告=1審で死刑、2審で無期懲役、検察・被告双方が上告中=が殺人罪などに問われた4事件を巡っては、野村被告を含む18人が起訴されましたが、今回の田口被告に対する判決で、控訴審でも全員が有罪判決を言い渡されたことになります。田口被告は工藤會最大の2次団体「田中組」の幹部で、判決によると、2011年に北九州市の路上で建設会社会長を射殺した、2011年に同市で大手ゼネコン「清水建設」社員を銃撃し負傷させた、2012年に同市で元福岡県警警部を銃撃し負傷させた、2013年に福岡市で看護師を刺傷させた―などに関与したとされます。

沖縄県公安委員会は、暴力団対策法に基づき、旭琉會(糸数真会長)の再指定に関する意見聴取を実施したものの、同会からの出席はありませんでした。暴力団対策法では3年ごとに指定を審査し、正当な理由なく欠席の場合は、意見聴取なく指定できるとされます。同委員会は2025年6月の再指定に向けて、審査や手続きを進めることになります。2011年に四代目旭琉会と沖縄旭琉会が一本化し「旭琉会」として発足、2019年に富永清前会長が亡くなり、約5年にわたり会長不在となっていましたが、2025年2月に三代目富永一家の糸数真総長が2代目会長に就任しています。確認している構成員数は209人です。

タイ警察は、カンボジアやベトナムの特殊詐欺拠点の運営を主導した疑いがあるとして、日本人の元暴力団関係者の男をバンコクで拘束したと発表しています(別の報道では、男は暴走族「関東連合」の元メンバーであると報じられています)。ミャンマー東部の詐欺拠点にも関わっていたとみられています。報道によれば、男はバンコクで家賃月18万バーツ(約80万円)の高級住宅に住み、詐欺拠点の運営に日本人として中心的に関わった疑いがもたれています。美術品関連の会社を設立してマネー・ローンダリングも主導したとみられています。なお、文春オンラインでは、この男への捜査が長年の懸案だった未解決事件の突破口になるとの観測が広がっていると報じています。具体的には、「「山口はカンボジアの首都プノンペンで『胡蝶』という日本料理店を実質的に経営していました。胡蝶はカンボジアの特殊詐欺拠点に弁当を提供しており、山口はほかにタイ、ミャンマー、ベトナムを行き来しながら特殊詐欺に関わっていた疑いが持たれています。日本の警察当局が逮捕状を取って、海外当局に協力を依頼していました」(全国紙社会部記者)」、「「山口は暴走族から発展した半グレ集団『関東連合』の元メンバーで昔は『冨沢哲也』の名前で知られていました。指定暴力団山口組とも関係が近いとされていますが、何より注目すべきは関東連合のトップだった見立真一容疑者と昵懇の間柄だった事実です」(同前)」、「「見立が日本出国後、フィリピンにたどり着いたところまでは確認できているが、その後の行方が確定できないまま時間ばかりが過ぎていた。見立と近い山口の身柄拘束は所在をつかむチャンスだ」 見立が東南アジアに留まっているのではないか、という見方は警察内でも有力視されていたという」、「「後ろ盾となっていた暴力団関係者が急逝したこともあり、東南アジアの別の国に入国したという説がここ数年、取り沙汰されていた。東南アジアを拠点とする山口の存在はこの説と整合性があり、注目される。見立も山口の活動エリア内のどこかに潜伏しているのではないか」(同前)」というものです。本件については今後の動向が注目されるところです。

「ルフィ」と名乗る男らが指示したとされる広域強盗事件のうち、東京都狛江市の住宅で2023年1月、住人の女性=当時(90)=が暴行を受け死亡した事件の実行役として、強盗致死罪などに問われた無職、中西被告(21)の控訴審判決で、東京高裁は、懲役23年とした1審東京地裁立川支部判決を支持し、被告側の控訴を棄却しています。裁判長は、被告が女性を地下室に移動させたり、住宅内を物色したりして犯行に積極的に関与したと認定した1審判決に誤りはないと指摘、従属的で、量刑が不当に重いとする弁護側の主張を退けています。一方、同じ事件で実行役を務めたとして、強盗致死などの罪に問われた永田被告(23)は控訴を取り下げ、東京地裁立川支部の無期懲役判決が確定しています。裁判員裁判で審理、判決によると、永田被告は、複数人と共謀し女性宅に宅配業者を装って侵入、蹴ったり、バールで殴ったりして腕時計などを奪い、女性を死亡させたといい、広島市の強盗殺人未遂事件や東京都中野区の強盗致傷事件などにも実行役として関与したものです。

「基礎にヒビがあります」などと嘘を言って床下工事を契約し、代金をだまし取るなどした疑いで、警視庁暴力団対策課などは、詐欺と詐欺未遂の疑いで、斎藤容疑者(35)=詐欺未遂容疑で逮捕=を再逮捕しています。容疑者は暴走族OBらによるトクリュウ「打越スペクター」の実質トップで、悪質リフォーム業者を実質的に経営し、警視庁は2021年9月~2024年7月、計約100件、計約5700万円の工事を契約したとみて調べています。報道によれば、「三洋」というリフォーム業者を名乗り、女性に対して「以前も一度点検をした、今回も床下を無料点検します」などと電話をして事前に訪問を約束、斎藤容疑者から指示を受けた実行役が1人で訪問し、工事後に追加工事を繰り返し打診していたとされます。不審に思った女性が自宅を建てた会社に相談、必要のない工事だったことが判明したものです。打越スペクターはもともと東京・八王子を拠点とする暴走族で、年齢を重ね、引退した元メンバーが半グレ化したもので、「三洋」「三農」は会社としての実態がなく、登記もされていません。斎藤容疑者はリフォーム詐欺がメインで、他のメンバーは主に特殊詐欺を繰り返し、だまし取った金は打越スペクターの資金源になっていたといいます。2024年7月、メンバー4人がリフォーム詐欺で逮捕されましたが、そのうち2人は特殊詐欺事件にも関わっており、どちらも高齢者をターゲットとすることから、同じ高齢者の名簿が使われていた可能性も指摘されています(特殊詐欺と悪質リフォーム詐欺の親和性が高いとの指摘があります)。また、悪質リフォーム詐欺では、警視庁暴力団対策課が、「スーパーサラリーマン」を名乗る清水容疑者(49)も逮捕しています。両容疑者はそれぞれ別のグループを率いますが、同庁はいずれもトクリュウとみており、清水容疑者は複数のリフォーム業者を実質的に運営、顧客に高額な違法契約を持ち掛け、実績に応じてメンバーを昇進させるなど、互いに競わせるようにして5年間で計約100億円を売り上げていたとされます。SNSを見て集まったとみられるメンバーは多い時で約150人に上ったといいます。なお、清水容疑者は国土交通相や都道府県知事の許可を得ずに済むよう、契約額が500万円を超えないように工事を分割して契約するなどし、摘発を逃れていたとされます。国民生活センターによると、訪問販売によるリフォームを巡って2024年4月~2025年2月に寄せられた相談の9割以上は、契約額500万円未満の工事に関するものであり、報道で捜査幹部は「無許可で工事できるため、悪質業者が入り込みやすい。排除策を考えないと業界自体の印象が悪くなる」と指摘、規制対象となる契約額の基準を引き下げるなどの法改正が必要だと強調しています。一方、建設業法を所管する国交省は、何らかの対策は必要だとしつつ、引き下げには慎重な姿勢だといいます。不動産トラブルに詳しい明海大の中村喜久夫教授は、規制強化に賛否がある中、消費者には自衛策が求められると指摘、「悪質なリフォーム業者がもうからないよう複数業者から見積もりを取るなどの対策が必要だ」と指摘しています。

2025年3月27日付朝日新聞の記事「風俗スカウトが法廷で語った「ビジネス」 Xで募集、表計算ソフトも」では、スカウトグループの実態がリアルに描かれています。具体的には、「まず地方などの風俗店で一定期間働く「出稼ぎ」を望む女性をXで募集。購入したXアカウントに、過去に女性が風俗店で稼いだ給料明細など「目につきやすい投稿」(兄)をした。連絡してきた女性には、「フォーマット」に名前や希望する風俗店の種類、地域などを書かせ、顔写真を送らせる。グループとつながりがある各地の店のうち、女性の希望と合う店にフォーマットや写真を送った。女性が勤務条件に合意すると、店側のLINEアカウントなどを伝え面接させた。別府市の店では「1日5万円」の報酬を保証していたという」、「紹介料は女性の売り上げの15%で、レターパックでスカウトグループに送られた。お金の管理などはウェブ上の表計算ソフト「スプレッドシート」を使用。女性の勤務を「稼働表」に、紹介料を「SB明細」にしてまとめた」、「兄は逮捕されるまでの1年余りで約180人の女性を紹介したという。そうした女性たちとは一度も顔を合わさずにSNSで連絡を取るだけで、グループのほかのメンバーもほぼ知らないままだった。兄は法廷でこう述べた。「(店の紹介で)女性から感謝され、店ももうかる。いいビジネスモデルだと思った」。裁判長に「ためらいはなかったか」と問われ、「正直思わなかった。強要していないし『稼げてうれしい』と言われた」と返した」、「捜査幹部は「組織的に女性をオークションにかける人身売買のような行為で許されない」と話す」、「摘発されたメンバーは東京、静岡、和歌山、沖縄の各都県などにまたがり、保安課はSNSなどで緩くつながる「匿名・流動型犯罪グループ」とみている。女性たちの写真や身長、体重などの「プロフィール」を作り、提携する全国の性風俗店へ一斉に送り、最も高い報酬を示した店に派遣していた。仕事が嫌になった女性が逃げ出さないよう、個人情報を使って脅すケースもあったという。斡旋された女性の中には、ホストクラブの売掛金(ツケ)を抱える人もいた。保安課は、違法なスカウトが横行する背景には悪質ホストの問題もあるとみている」というものです。実際に女性と顔を合わすことがなかったこともあって、まったく罪の意識を感じていないところに驚きました。それどころか、「いいビジネスモデル」だとさえ指摘しており、こうした常識や感覚がかみ合わない者たちに、人員売買という罪の重さがどうやって伝えられるのか、大変考えさせられます

兵庫や神奈川、福岡など6県にまたがり、金属加工会社の倉庫などから銅線や金属くずの窃盗を繰り返したとして、兵庫県警捜査3課などが窃盗容疑などで、いずれもベトナム国籍で無職のホアン被告(29)=窃盗罪などで公判中=ら男4人を逮捕、送検しています。県警はこれまでに13件の建造物侵入と窃盗被害を裏付け、被害額は約5700万円相当に上るといいます。県警は、主に金属を狙うベトナム人窃盗グループとみています。報道によれば、4人は2024年6~10月ごろ、同県相生市や赤穂市、岡山県内の金属加工会社の敷地内に侵入し、倉庫などから銅線や金属くずなどを窃取したというもので、4人は容疑を認め、「ベトナムでの借金返済と生活費に使った」などと話しているといいます。また、県警は、このベトナム人窃盗グループから盗品の金属を買い取っていたとして、盗品等有償譲受などの疑いで「龍昇産業」の役員で中国籍の孫容疑者と、事務員の仲村容疑者を逮捕、送検しています。2人は容疑を否認し、孫容疑者は「買い取ったことは間違いないが、盗んできた銅線とは思わなかった」などと話しているといいます。また、別の事件では日本に滞在するベトナム人が、SNSなどでつながるトクリュウを形成、送電用金属ケーブルの広域窃盗に関与したとして、京都府警が2025年2月までに摘発したベトナム人グループは、フェイスブックで同胞を窃盗に勧誘していたとされ、「外国人版トクリュウ」への警戒を強めています。トクリュウが関わる事件では通常、「闇バイト」などの実行犯は「使い捨て」され、約束された報酬も支払われないことが多いところ、「外国人版トクリュウ」では中核メンバーによる搾取はなく、役割ごとに金額の差異はあったものの、分配は「公平」だったといいます。あ政府は2025年3月、金属くず買い取り業者の届け出や、売り主の本人確認の義務化などを盛り込んだ「金属盗対策法」案を閣議決定しています。買い取り事業者には、都道府県公安委員会への事業者名などの届け出を義務付け、違反した場合は6カ月以下の拘禁刑もしくは100万円以下の罰金、または両方を科すとし、さらに、売り主の本人確認のほか、取引記録の3年間の保存や、個人が夜間に大量の金属くずを持ち込むなどの盗品の疑いがある場合の警察への申告も義務化、公布後1年以内に順次施行されることになっており、深刻化する金属盗被害の歯止めとなることが期待されています。また、外国人の摘発が目立つことから、入管難民法も改正する方針で、金属盗対策法の犯行工具の隠し持ちで拘禁刑になった外国人を、上陸の拒否や退去強制の対象に加えるということです。警察庁によると、太陽光発電施設での金属ケーブル窃盗は2024年、全国で7054件(前年比1693件増)発生し、金属盗全体(2万701件)の約3割を占めています。摘発件数は2023年の約2.7倍の865件で、カンボジア人グループを中心に外国人窃盗団の関与が目立っています。古物営業法では業者に取引時の本人確認を義務づけているが、切断されたケーブルは「金属くず」とみなされるため適用外で、盗品の流通対策が課題でした。

米紙NYTは、ルビオ米国務長官が在外公館に対し、米滞在に必要なビザを申請した学生らのSNSなどへの投稿を精査するよう指示したと報じています。米国やイスラエルに批判的な申請者の入国を拒否する目的とみられています。米国留学を目指す各国の学生は、イスラエル軍が攻撃するパレスチナ自治区ガザに連帯を示す投稿を控えるなどの自己検閲を強いられる恐れがあり、表現の自由を制限しているとの批判が上がる可能性があります。ルビオ氏は、「テロリスト」に同情的だと疑われる申請者や、ガザ戦闘が始まった2023年10月7日以降にビザの期限が切れた学生らのソーシャルメディアを調べるよう指示、「米国民や米国の文化に敵対的」であればビザ発給を拒否できるとしています。ビザ申請者のSNSをチェックする実務は相当なものと推測されますが、反社チェックの実務においても、参考にしてほしいものです。

東京地裁は、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)について、宗教法人法に基づく解散命令の決定を出しています。文部科学省が、違法な勧誘で高額な献金をさせる民法上の不法行為を繰り返したとして地裁に解散命令を請求していたもので、法令違反による解散命令は3例目ですが、不法行為を理由としたのは初めてとなります。オウム真理教など過去2例は、幹部らが起こした刑事事件が根拠となっていました。文科省は2023年10月、教団が1980年頃から長期間にわたり、継続的に高額献金や霊感商法による被害を生じさせ、損害賠償責任を認めた判決は32件(被害額約22億円)に上るなどとして解散を請求、教団側は組織的に違法行為をしたことはないとした上で、信者に法令順守の徹底を求めた2009年の「コンプライアンス宣言」以降、被害の訴えは激減し、解散命令の要件は満たさないなどと反論していました。同地裁では2024年2月以降、非公開の審問が開かれ、元信者や現役信者らへの証人尋問などを実施、2025年1月、文科省と教団側の双方が最終的な主張書面を提出し、審理が終結していました。決定で裁判長は、教団の信者らが、家庭や心身に困難な事情を抱える人たちに、深刻な問題の原因の多くは「怨念を持つ霊の因縁」と伝えて、多額の献金を行わせていたと認定、その上で、教団の不法な献金勧誘によって「類例のない莫大な規模の被害が生じていた」とし、教団がコンプライアンス宣言を出した2009年以降も被害は途切れることなく続いていると言及、「教団の献金勧誘は、総じて悪質で、結果は重大。法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる」と解散を命じた理由を説明しています。地裁の決定に対して、教団は即時抗告できますが、高裁が解散命令を支持した場合は確定し、裁判所が選任した清算人による清算手続きに移ります。最高裁に特別抗告しても清算手続きは続きますが、解散命令の判断が覆れば手続きは停止されることになります。解散命令は、礼拝施設などの財産を所有する能力を与える目的で宗教団体に与えられた法人格を失わせる手続きで、法人格がなくなれば法人名義の資産を所有できず、宗教法人に認められる税制優遇なども受けることはできませんが、法人格のない任意団体などとして存続はでき、信者らの宗教行為が制限されることもありません。憲法が保障する「信教の自由」は「公共の福祉に反しない限り」の範囲内にあり、高額の献金トラブルを多発させてきた教団こそ、信者やその家族に対する人権侵害を繰り返してきたのであり、迅速な決着が望ましいといえます。命令の確定までに、教団側が財産を海外や別法人に移す可能性も指摘されており、教団の財産は本来、被害者の救済に充てられるべきものであって、教団財産の把握や流出防止には、2023年に成立した教団被害救済法に基づく徹底監視が必要です。また解散命令はあくまで法人格を剥奪するもので、任意団体としての宗教活動は存続でき、信者の勧誘や献金を募ることもできるほか、法人格を失うことで所轄官庁への財産管理などの報告義務もなくなることから、教団の動向については、解散命令の確定後も監視を緩めるべきではありません。東京地裁は、教団による献金被害は、少なくとも1500人超に約204億円生じたと認定しています。被害者の救済が滞りなく進むよう、教団の財産保全などには国が一定の責任をもって対応する必要があると考えます。

2.最近のトピックス

(1)AML/CFTを巡る動向

東北財務局は、羽後信用金庫(秋田県由利本荘市)に対し、信用金庫法に基づく業務改善命令を出しています。金融庁が策定したマネー・ローンダリング(資金洗浄。マネロン)対策の指針について、期限となる2024年3月末までに体制整備を完了できなかったほか、対応済みと報告したのに不十分だった項目が多数あったといい、同局は2025年4月21日までに業務改善計画を提出するよう命じています。羽後信金は、東北財務局に対しコンプライアンス委員会の開催や担当部署の増員などの対策を行うと報告していましたが、同局はいずれも実質的に機能していないと指摘、経営陣がマネロン対策の重要性を認識しておらず、必要な体制を構築していないと批判しています。羽後信金は、現時点で顧客の口座がマネロンなどに利用された事実は確認されていないと発表、リスク管理体制構築に取り組むと表明しています。日本にとどまらず、国際的にAML/CFTの重要性が認識され、世界中の金融機関が取り組まないとけない理由は「抜け穴が一箇所でもあれば、犯罪者がその脆弱性を突くことになり、AML/CFTの有効性が阻害されるため」です。金融機関の一員として、こうした厳しい認識を欠いたまま、不十分かつ不誠実な態勢でいたことは驚きであるとともに極めて残念であり、許されないことであると筆者は強く思います。

▼財務省東北財務局 羽後信用金庫に対する行政処分について
  • 東北財務局は、本日、羽後信用金庫(本店:秋田県由利本荘市)に対し、信用金庫法(昭和26年法律第238号)第89条第1項において準用する銀行法(昭和56年法律第59号)第26条第1項の規定に基づき、下記のとおり業務改善命令を発出した。
  • 業務改善命令の内容
    1. 「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」(平成30年2月に金融庁が公表。以下、「ガイドライン」という。)で明記している対応が求められる事項のうち、対応未了となっている事項について、必要な措置を講じること。
    2. マネー・ローンダリング及びテロ資金供与(以下、「マネロン・テロ資金供与」という。)リスク管理態勢整備を早急に完了し、かつ態勢整備後においても実効性のある態勢を維持していく必要があることから、外部の知見・人材を活用することも含めて、人材配置等必要な措置を講じること。
    3. 組織横断的な態勢を構築するために設置したコンプライアンス委員会において、マネロン・テロ資金供与リスク管理態勢の実効性を確保するために必要な措置を講じること。
    4. 今回の処分を踏まえた責任の所在の明確化を図るとともに、上記1から3を確実に実行し定着を図るために、経営陣による積極的な実態把握や必要な指示等の主導的な関与をはじめとするガバナンスを抜本的に強化すること。
    5. 上記1に関しては可及的速やかに実行し、毎月末の実施状況を翌月1週間後までに提出すること(初回報告基準日を令和7年3月末とする。)。
    6. 上記2から4に関する業務改善計画を令和7年4月21日(月曜日)までに提出し、直ちに実行すること。なお、当該計画の実施完了までの間、3か月毎の進捗及び改善状況を翌月末までに報告すること(初回報告基準日を令和7年6月末とする。)。
  • 処分の理由
    • 当局検査の結果及び信用金庫法第89条第1項において準用する銀行法第24条第1項の規定に基づき求めた報告を検証したところ、ガイドラインに基づく態勢整備を完了できておらず、その原因として、経営陣がマネロン・テロ資金供与リスクの重要性を認識していないことから、必要な人材育成・配置を行っていないことや、組織横断的な対応態勢を構築していないことなど、経営上の問題が認められた。
  1. 経営陣の消極的関与
    • マネロン・テロ資金供与対策は、国際的な要請の高まりや足元で特殊詐欺等の被害が拡大している状況を踏まえると、金融業界において最も重要な経営課題の一つと位置付けられるべきものである。このため、ガイドラインに基づくマネロン・テロ資金供与リスク管理態勢の整備については、金融庁及び当局から、令和3年4月に、令和6年3月末を期限として確実に実施するよう要請し、業界団体においても「マネロンガイドラインを踏まえた態勢整備のポイント(コンメンタール)」等を策定・展開するなど業界を挙げて取組を進めてきた。さらには業界団体と金融庁及び当局が官民一体で説明会を行い、金融機関の経営陣に対しても主導的な関与を求めてきた。
      1. 期限までの対応未了・実態とかけ離れた当局への報告
        • こうした中、当金庫においては、期限までに態勢整備を完了することができなかったことに加え、当局検査で確認したところ、当初の報告では対応済としていた項目についても対応未了となっていた項目が多数判明するなど、ガイドラインで対応が求められる事項の大半が対応未了となっている実態が認められた。
      2. 期限超過後の実効性を欠いた改善策
        • 当金庫は、期限までに態勢整備を完了することができなかったことを受けて、信用金庫法第89条第1項において準用する銀行法第24条第1項の規定に基づく報告徴求命令に対する改善対応策において「コンプライアンス委員会の開催」や「担当部署の増員」等を行う旨を当局に対して報告したものの、当局検査で確認したところ、3に記載のとおりいずれも実質的には機能しておらず、十分な改善に繋がっていない実態が認められた。
      3. 検査指摘への不十分な対応
        • さらに、当局検査において、実効性のあるマネロン・テロ資金供与リスク管理態勢の早急な整備を行うよう指摘を受けたにもかかわらず、改善状況の報告では、対応計画が抽象的となっているほか、既に進捗遅延が生じているなど、依然として抜本的な改善策を講じているとは認められない。
        • このように、期限までに態勢整備を完了するよう金融庁、当局及び業界団体から再三にわたって周知があり、期限到来後においては態勢整備が未完了となったことについて経営管理態勢上の問題点等に係る報告を求められ、さらには、当局検査により実効性のあるマネロン・テロ資金供与リスク管理態勢の早急な整備を行うよう指摘を受けるなど、自らのマネロン・テロ資金供与リスク管理態勢を構築する機会や態勢整備に係る経営姿勢を見直す機会が幾度となくあったにもかかわらず、経営陣は、マネロン・テロ資金供与リスク対策の重要性を理解せず、態勢整備に真摯に取り組んでこなかった。こうした経営陣の姿勢が、態勢整備に大幅な遅延をもたらしている真因と認められる。
  2. ガイドライン対応の未完了
    • 改善状況報告時点において、ガイドラインに基づく態勢整備完了に向けた必要な措置を講じておらず、態勢整備を完了していない。
  3. 組織横断的かつ十分な対応態勢の未構築
    • コンプライアンス委員会は、事務統括部や本部関係部(総務部、経営管理部、営業統括部、融資管理部)のマネロン・テロ資金供与リスク管理態勢の整備に係る知識が不足していることから、対応が求められている事項の進捗報告にとどまり、改善に向けた議論を行う場として機能していない。
    • さらには、令和6年8月にはマネロン・テロ資金供与リスク管理担当部署である事務統括部を増員したとしているものの、十分な増員・体制であるか検証していないことに加えて、増員された1名も実態として他業務を抱えており、態勢整備に必要な人材育成・配置を行っていない。

金融庁は、金融機関のAML/CFTの向上に向けた検査方針を公表しています。金融機関が「実施計画」を策定するよう求め、これまでのAML/CFTが有効に機能しているかどうかの検証やさらなる改善を促すものです。金融庁や各財務局の金融機関への検査のなかで、2025事務年度(2025年7月~2026年6月)からAML/CFTの「有効性検証」について対話を始めるとしています。金融庁は「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」に基づく体制整備を2024年3月までに完了するよう金融機関に要請、今後はその体制整備が有効に機能しているか、リスクの見積もりが適切かどうかなどを検証するよう求めています。期限は定めないものの、検証の範囲や方法などを定める実施計画の策定を促しています。AML/CFTそのものに加え、検証でも経営陣の主導的な関与を重視するとしています。世界各国・地域のAML/CFTを調査する国際組織「金融活動作業部会(FATF)」の2021年の第4次対日相互審査で、日本は実質的に不合格を表す「重点フォローアップ国」となれい、2028年のFATFの第5次対日相互審査に向け、金融機関のAML/CFTの向上は必須の課題であり、金融庁はリスクが高いとみられる業態や金融機関から優先して検査に臨む考えだといいます。

▼金融庁 「マネロン等対策の有効性検証に関する対話のための論点・プラクティスの整理」(案)に対するパブリックコメントの結果等について
▼(別紙3)マネロン等対策の有効性検証に関する事例集
  • 参考事例
    1. マネロン等リスクの特定・評価に係る検証
      • リスク評価書作成のための実施要領と直近作成したリスク評価書の内容を確認し、自らが提供している商品・サービスや、取引形態、取引に係る国・地域、顧客の属性等を踏まえて、リスクの特定に当たって検証すべき内外の情報を選定・分析し、評価が実施されていることを確認している。
      • リスク評価書作成のための実施要領と直近作成したリスク評価書の内容を確認し、自社において定期的に実施している疑わしい取引の届出状況等の分析結果を踏まえてリスク評価書が作成されていることを確認している。
      • リスク評価書作成のための実施要領と過去のリスク評価書を確認し、年次で定期更新されていることを確認している。
      • リスク評価書作成のための実施要領と過去のリスク評価書を確認し、法規制変更等の際にリスク評価書の見直し要否が検討されていることを確認している。
      • 顧客全体のリスクの特定及び評価結果によるリスク分布が、自らのマネロン等リスク認識と整合的であることを確認している。
      • リスク評価書において高リスク顧客類型が網羅的に特定できているかをNRA等に照らし確認している
      • 第1線・第2線が連携し、第2線が作成した自社の取扱う商品・サービス、取引形態の一覧を第1線の各部門に連携(例えば、一覧表の確認依頼、アンケートの実施など)し、商品・サービス、取引形態の追加・削除の状況を確認することで、特定・評価の対象とすべき商品・サービス、取引形態等に漏れがないか確認している。
      • リスク評価書作成の都度、リスクの特定・評価の手法等が、自社が直面するマネロン等リスクに対応するに当たって十分であるか、改善の余地がないか等について検証している。(以下は、より詳細な事例)
        • リスク評価書を作成する前に毎回、NRA・FATF・金融庁のガイドライン等・犯収法等の資料で言及されているマネロン等リスクの項目や領域等を自社作成のチェックシート(自社が特定すべきと考えるリスクの項目や領域を一覧化したもの)に記載し、当該チェックシートを用いることで、自社の状況(商品・サービスの取扱状況、顧客数、取引量、疑わしい取引の届出の状況など)を踏まえて、特定すべきリスクを漏れなく特定できているか検証している。
        • リスク評価書を作成する前に毎回、自社で取扱う「商品・サービス」、「取引形態」や「顧客属性」、関係する可能性のある「国・地域」それぞれについて一覧表を作成のうえ、一覧化した各項目が、自社が特定すべきと考えられるリスクの項目や領域(例えば上記のチェックシートで一覧化したもの)に該当するかを確認することで、自社がリスクの特定において対象とすべき「商品・サービス」、「取引形態」、「顧客属性」、「国・地域」に漏れがないか検証している。
        • リスク評価書を作成する前に毎回、リスクの特定・評価の手法等を規定している実施要領の見直し要否を検討し、必要に応じて改定している。
      • リスク評価書の作成後、作成要領に基づき適切にリスクの特定・評価が実施されていること、検証すべき内外の情報やリスクの特定の網羅性が適切であること、並びに作成要領の見直しが必要でないかについて、作成者以外の検証者及び上席者が二次チェックを実施し、その後、マネロン等対策に係る会議体やワーキンググループ等において当該二次チェックが適切に実施されたか確認している
    2. マネロン等リスクの低減策の整備に係る検証
      1. 全般
        • 疑わしい取引の届出実績の分析結果を勘案した上で、特にリスクが高い取引種別、顧客属性・グループ、取引チャネル等を特定し、それらに対する現行のリスク低減措置の十分性を確認している。
        • リスク評価書の作成過程で固有リスク・残存リスクの評価を行った際に、その評価結果を踏まえて自社のリスク低減措置の妥当性を確認している。
        • マネロン等対策に係る方針・手続・計画等を検証し、次年度に優先的に取り組むべき課題を選定のうえ、マネロン等対策に係る取組みの年度計画を策定している。策定時に計画の内容を、定期的(例えば四半期ごと)に進捗状況を、経営陣の参加する会議体で報告・議論している。
          • 年度計画の具体的な項目については、その進捗状況を月次で経営陣の参加する会議体の下部にあたる会議体に報告している。
          • 年1回以上のリスク評価書の定例見直しを行い認識したリスク低減策における課題認識も、マネロン等対策に係る取組みの年度計画に反映している。
          • 上記の報告・議論を経て課題を認識した場合は適時計画の見直しを含めて検討している。
        • 疑わしい取引の届出を行った顧客との関係性や同類型の顧客属性に着目し、ネットワーク分析やクラスター分析の結果を踏まえて、既存のリスク低減措置が見直されており、見直し後のリスク低減措置は上記分析結果を踏まえた内容となっていることを確認している。
        • リスク評価の結果、高リスクと評価した顧客属性・商品/サービスにおいて新たに整備した低減策について、統制内容の十分性を検証している。
      2. 顧客管理
        • 高リスク顧客に対する追加的リスク低減措置が、リスク評価書や業務マニュアル等の文書にて整理されていることを確認している。
        • 高リスク類型顧客に対する追加的リスク低減措置によって、顧客リスクが許容可能な水準まで確実に低減されているかを精査している。
        • 継続的顧客管理の実施状況を定期的(例えば年次・半期ごとなど)に確認・検証し、チャネル別の回答率、不着率、不備状況の推移なども参照し、調査範囲、調査手法、調査頻度、調査項目の適切性を確認している。実施状況や検証の結果は適宜経営陣の参加する会議体等でも報告・議論している。
        • NRA やFATFが公表する各種情報、疑わしい取引の届出実績及び全社的リスク評価結果との整合性、顧客リスク評価結果分布等の定性・定量情報を踏まえ、顧客リスク評価ロジック(各リスク要素の評価ウエイトを含む)の妥当性を定期的に(例:四半期ごと、半期ごと、年次)確認している。
        • リスク評価書の見直しのタイミングに合わせ、顧客リスク評価の手法(個々のスコアリング項目の配点、顧客リスク評価を決定するスコアレンジ等)の適切性を確認している。
        • 顧客リスク格付別に顧客数を抽出し、前回検証時から異常な変動等がないか確認することで、顧客リスク格付の基準等の妥当性を確認している。また、定期的(例えば半期ごと)に実施し、責任者(例えばマネロン等対策担当部署の部長)に報告している。
        • 個人・法人顧客をランダムに数件抽出し、当該顧客の顧客リスク格付を、勘定系やマネロン等リスク管理用のシステム等のデータを用いてマニュアルで算定し、システムで付与した顧客リスク格付との整合性を確認することで、システムによる格付の基準・機能等の妥当性を確認。定期的(例えば半期ごと)に実施し、責任者(例えばマネロン等対策担当部署の部長)に報告している。
        • システムによる顧客リスク評価(顧客リスクスコアリングに基づく格付)について、顧客リスク評価区分(格付)ごとの疑わしい取引の届出率を算出し、顧客リスク評価の高さと疑わしい取引の届出率の高さが比例関係にあるかといった点を確認することで、スコアリングモデルの妥当性を年次で検証している。検証結果は、検証の都度経営陣宛に報告している。
        • 顧客リスク格付の分布状況を半期ごとに確認し、分布の変動要因をスコア加点(減点)項目ごとに、マネロン等リスクを正しく反映しているか(マネロン等リスク以外の要因で変動していないか)といった観点で検証し、格付モデル見直し要否を検討している。
        • 顧客リスク格付が中・低リスクの顧客群から抽出した顧客について、一定期間(例えば過去1年)の取引履歴を確認し、疑わしい取引の届出を行った先の取引履歴との類似性等、格付を高リスクとすべき要素がないかを定期的に確認することで、顧客リスク格付の妥当性を検証している。
      3. 取引モニタリング
        • 取引モニタリングにおける現行の抽出基準(シナリオ・敷居値、窓口等の検知の判断基準等)により、不審又は不自然な取引を適切かつ効率的に検知できているかを、内外情報(アラート生成数、疑わしい取引の届出件数、当局による疑わしい取引の参考事例情報、捜査機関からの情報・口座凍結要請等)に照らし検証している。(以下は、より詳細な事例)
          • 当局による疑わしい取引の参考事例に掲載されている事例が、現行の手続・システム等の統制により検出可能か否かを検証している。
          • アラート数の時系列推移や疑わしい取引の届出率の状況、口座凍結状況を踏まえ、シナリオ・敷居値が適切であるか半期ごとに確認している。
          • シナリオ・敷居値の適切性は見直しにおいては指標(届出率の水準)を設定し、当該指標を踏まえて検証している。また、足下の金融犯罪の状況を踏まえて、シナリオの追加要否を検討している。
          • 取引を事後的にモニタリングする用途の取引モニタリングシステム以外にも、インターネットバンキングや非対面口座開設等におけるアクセス元環境や端末情報等を監視するモニタリングシステムなどの検知シナリオ・敷居値についても、関連指標や金融犯罪の状況を踏まえて、定期的に見直している。
        • 取引モニタリングシステムにおけるシナリオ・敷居値の設定について、参照すべき内外情報(例:アラート生成数、疑わしい取引の届出件数、当局による疑わしい取引の参考事例情報、捜査機関からの情報・口座凍結要請等)があらかじめマニュアルに定められており、定期的に(例:半期ごと、年次)見直しされていることを確認している。
        • リスク評価書の見直しのタイミングでも、取引モニタリングシステムのシナリオ・敷居値の追加・修正要否の確認を行っている。
        • アラート生成数及び疑わしい取引の届出件数の実績推移とこれらに係る当初想定との乖離状況や、疑わしい取引の届出件数及び届出率の過年度との乖離状況等、取引モニタリングシステムにおけるシナリオ・敷居値の設定を見直すための指標が設定されており、実際に指標を活用して見直しされていることを確認している。
        • 窓口等による検知数及び疑わしい取引の届出件数の実績推移とこれらに係る当初想定との乖離状況や、疑わしい取引の届出件数及び届出率の過年度との乖離状況等、窓口等の検知の判断基準や手続きを見直すための指標が設定されており、指標を踏まえた見直しが実施されていることを確認している。
        • 四半期ごとに各シナリオの検知数や疑わしい取引届出率を算出し、前年実績と比較するなどして増減要因等を分析したうえで、会議体に報告している。
        • 口座の不正利用や詐欺被害の状況等を踏まえ、必要に応じてシナリオ・敷居値の見直しを行っている。
        • 取引モニタリングシステムの敷居値を引き下げて(検知対象を拡大して)シミュレーションを行い、検知漏れがないか検証している。
        • AI を活用したスコアリングにより低リスクと判定され、調査・届出不要としたアラートについて、定期的(例えば、半期ごと)にサンプル調査を行い、スコア判定が有効に機能しているか確認している。
        • マネロン等の疑いにより全取引の制限を行った(凍結した)口座(アカウント)について、疑わしい取引の発生回数、金額、時間帯、摘要、属性等から共通する特徴点を見出し、現状のシナリオ・敷居値等の抽出基準で対象取引が検知可能か確認している。
        • 営業店での検知、捜査関係事項照会、口座凍結要請がなされた口座(アカウント)に関して、取引モニタリングシステムで検知できていたか確認し、システム検知ができていなかった場合、新たなシナリオ・敷居値等の抽出基準の変更を検討している
        • 多くの疑わしい取引の届出につながった取引の特徴を類型化し、それらの取引を抽出しやすい基準と抽出効果の低い基準を特定し、それぞれ改善余地を検証している。
        • 誤検知率の高いシナリオについて、抽出基準の見直しを検討する。リスクの変化を踏まえて当該シナリオが機能していないと判断できる場合は当該シナリオを廃止することも含めて検討している。
        • 誤検知の抑制を目的として、例えば、過去に検知後の調査により正当であると判断した取引と同一パターンの検知をしないようにシナリオ等を設定しているといった場合、誤検知抑制を目的としたシナリオ等によって本来検知すべき取引の検知漏れが発生していないか定期的に検証している。
      4. 取引フィルタリング
        • 取引フィルタリングに用いるリスト及び取引フィルタリングシステムに設定された検知基準により、制裁違反又はその可能性がある取引を適切に検知できているかを、当局情報や関連ダミーデータを用いたシミュレーション等により定期的(例:四半期ごと、年次)に検証している
        • 取引フィルタリングに用いるリストの正確性・適切性を、当局告示等の元情報に照らし年次で確認している。
        • 取引フィルタリングに用いるリスト作成に当たって参照する情報(制裁プログラム等)について、自社の海外送金・貿易金融の取扱状況などを勘案して、年次で妥当性を検証している。
        • 取引フィルタリングに用いるリストの正確性を担保するためリスト更新時の業務フロー・手順につき、第三者が再現可能な程度の粒度で明確化(文書化)できているかとの観点から検証を行っている。
        • サンプリングした制裁対象者の氏名の語順入れ替え、ミドルネーム削除、スペル一部変更等を行ったうえで、取引フィルタリングシステムで検索を行いヒットするか確認することで、あいまい検索機能の設定の有効性を検証している
        • あいまい検索によりヒットした数件を抽出し、ヒットの判定基準等が妥当か検証。定期的(例えば半期ごと)に実施し、責任者(例えばマネロン等対策担当部署の部長)に報告している。
        • 外部業者が提供するサービスの利用により、他行の検知率との比較分析を実施の上、あいまい検索における検知基準の見直しを年次で実施している。
      5. 疑わしい取引の届出
        • 犯罪動向や疑わしい取引の届出の事例等を踏まえた、疑わしい取引の届出の判断基準が用意されていることを確認している。
        • 疑わしい取引の検知から届出に長期間要していないか確認し、届出業務に必要な組織・リソース(システム・人員等)が用意されていることを確認している。
        • 取引モニタリングにより検知したアラート調査の結果、疑わしい取引の届出不要と判断した取引に関し、その判断の妥当性について第三者がサンプルチェックなどにより事後検証を行っている。
    3. マネロン等リスク低減措置の実施に係る検証
      • 高リスク顧客に対するデュー・ディリジェンスが規定したとおりに実施されていることを、顧客から受領したKYCに関する質問票回答のサンプル等を用いて確認している
      • 高リスク顧客に対する追加的リスク低減措置が規定したとおりに実施されていることを確認している。
      • 新たに高リスクと評価した顧客に対して、規程に基づいて速やかにEDDが実施されたか、営業店の実施状況のサンプルチェック等で確認している。
      • 顧客リスク評価ロジックが適切にシステムに反映されていること(例えば、自社の顧客リスクスコアリングモデルに沿って適切にスコアが付与されていること等)を、実際のサンプルデータを用いてシステム上で確認している。
      • 口座(アカウント)開設を謝絶した場合、事後的に、実務を担当する部署からマネロン等対策担当部署に全件報告し、マネロン等対策担当部署で、リスク遮断に係る対応が規定したとおりに行われているか(疑わしい取引の届出漏れがないか、マネロン等対策名目で合理的な理由なく謝絶を行っていないか、謝絶の記録が適切に保管されているか等)を検証している。
      • マネロン等対策関連ITシステムに連携されたデータ(顧客データ、口座データ、取引データ等)について、必要な情報が全て揃っていること(網羅性)、欠損がないこと(正確性)等を、上流システム(勘定系システム、情報系システム等)が保有するデータに照らし確認している。また、検証対象データは、リスクベースアプローチにて、データ管理上重要と定義するデータから選定している。
      • マネロン等対策関連ITシステムに連携されたデータの網羅性・正確性の確認はシステム構築後に実施し、より重要な項目については定期的なモニタリングを実施している。
      • マネロン等対策関連システムを網羅的に把握・管理し、顧客リスク格付、取引モニタリング、フィルタリング等に関するITシステムに連携されるデータの網羅性・正確性等の有効性検証を行う体制を構築している。なお、検証に当たっては、社内の独立したチームで実施する場合や、外部ベンダーに委託して実施する場合がある。
      • マネロン等対策関連ITシステムに登録されるデータの正確性について、定期的にサンプルチェック等を行うことで、元の情報や想定されるデータ型(利用可能な記号種、空白の入力可否等)に照らし検証している。
      • 新たな商品・サービスの導入や基幹システムの変更など、マネロン等対策に係るシステムに影響が発生する懸念がある場合は随時、マネロン等対策に係るシステムが設計どおりに機能するか確認している。
      • マネロン等対策に係る各種データのシステムへの入力、記録の保存、並びに関連システム間のデータ連携等を適切に(定めたとおりに)実施できているか、定期的にサンプルチェックすることにより検証している。
      • 窓口等における異常取引の検知(マニュアル検知)状況、記録の保存状況等の適切性を自主点検や臨店等で確認している
      • 取引モニタリングで検知された取引をランダムに数件抽出し、検知されたシナリオに設定されている条件と当該取引の勘定系データ等が合致しているか確認(新シナリオ設定時はシミュレーション機能を利用して、シナリオに設定されている条件どおりに検知されているか確認)している。
      • アラート調査業務及び疑わしい取引の届出要否判断の適切性を確認するため、届出に要する事務処理時間の管理状況、調査に必要な情報の抽出状況、届出判断の整合性等をサンプル調査している。
      • アラート調査業務の適切性(例:調査に必要な追加情報の取得状況、謝絶判断の整合性)をサンプル調査している。
      • 疑わしい取引の届出やフィルタリング業務等に関し、判断に必要な情報を過不足なくタイムリーに集め、それらに基づいて正確に判断し正しい結論を出すことができているかを、高頻度で検証し、業務の改善につなげている。
      • 取引フィルタリングに用いるリストの更新記録などを基に、遅滞なくリスト更新ができているかを検証している。
      • 取引フィルタリングの前提となるデータ登録が手続きどおりにできているか(登録漏れやミスがないか)、定期的に(例えば、年次、月次、等)全件確認を行っている
      • 前月1か月間に提出した疑わしい取引の届出について、該当した取引に係るリスク低減措置の実効性に問題ないかを検証している。検証によりリスク低減措置の実効性が不十分と認められた場合は、規程等の見直しを随時実施している。
      • 第2線部署が第1線部署に定期的(例えば半期ごと)に臨店し、第1線部署において、高リスク顧客や通常と異なる取引に関する対応を本部で定めた規程や事務手続きどおりに行っているか、また、取引時確認やフィリタリングの正確な取扱い、疑わしい取引の本部への報告要否の適切な検証、外為法令の遵守状況等について確認している
      • 海外送金に係る制裁違反リスクを勘案し、慎重な確認の対象としている取引のうち、取引内容を踏まえて特にリスクが高いと考えられる取引を抽出し、確認内容の適切性の検証を行っている。
      • 外国送金、外貨両替等の高リスク取引について、帳票やエビデンス資料を第1線から取り寄せ、コンプライアンス部門が、定期的に(例えば月次で)、第1線における規程に沿った適切なEDDの実施状況等を、サンプルチェックの手法で確認している。なお、不適切な状況を確認した場合は、当該部店の業績評価の引き下げや指名研修への参加義務付け等を行っている。
      • 国際部門における海外送金(仕向・被仕向)や貿易取引の取組み結果をマネロン等対策担当部署がサンプル抽出し、手続きに定められている対応を定められたとおりに実施できているか検証している。
      • 次年度の研修・資格取得計画の策定にあたり、(1)手続違反状況、(2)受講後の確認テストの合格状況、研修受講者・研修主催部・モニタリングや監査実施部署等からの意見を踏まえて有効性の評価を行い、研修対象者や研修内容・頻度等の見直しを検討している。
      • マネロン等対策に係る研修プログラムを策定し、研修結果について、定着度の効果検証のうえ、その結果をマネロン等対策委員会に報告している。
    4. その他(検証主体や検証手法など)
      • 全社的リスク評価結果、内外指摘事項、規程・手続の改定状況、組織・体制の変更、新商品・サービスの導入実績等を勘案して検証対象を選定し、次年度の年次計画に反映している。
      • 第2線部署内に、マネロン対策等を所管する組織から独立した有効性検証を担う専門組織を設置している。
      • 第3線部署が第2線部署による有効性検証の実施状況を随時確認し、監査計画を機動的に調整している。
      • 有効性検証を担う専門組織においては、監査と同様の手法(業務担当者へのインタビュー、業務実施状況の直接観察、文書レビュー、サンプリング等)を採用し、検証目的、対象に応じて使い分け検証を実施している。また、サンプル検証を実施する際の母集団の特定方法や統計学的なサンプル抽出手法をあらかじめ規定している。
      • 有効性検証を担う専門組織は、検証の結果発見された課題(指摘事項)について、関係部署から是正策の提出を受け内容をレビューする他、当該是正策が完了した際にはその証跡を受領し、是正策の実効性を確認・承認している(フォローアップ)。
      • 有効性検証において、業務担当者へのインタビューや業務実施状況の直接観察といった手法を活用している。
      • リスク低減の程度を測る指標(例:疑わしい取引の届出件数、高リスク顧客の割合)を設け、定期的にリスクレベルを把握している。
      • 第2線部署の業務に係る業務フローや手続きについて、業務担当以外の第三者が再現可能な程度に文書上明確化されているかという観点から検証する。
      • マネロン等対策に係る国内外の法令・規制等の制定・改廃等があった場合、その内容や自社の業務への影響について第2線部署が調査を行い、調査結果を社内で経営陣を含めて報告・共有している。報告・共有に当たっては、外部弁護士の意見や助言をもらい、調査結果の妥当性も検証している。
      • 第1線部署内に、マネロン等リスクの知見を有する専担者を配置し、自律的統制の枠組みとして、主に手続準拠性の観点で、点検計画の作成、点検実施、検知事項分析の対応をPDCAサイクルにて行っている。他方、第2線部署において、当該PDCAサイクルの実施状況を確認し、第1線の自律的統制が有効に機能しているかを検証している。
      • リスク評価の結果、高リスクと評価した顧客属性、商品・サービスに対するマネロン等リスク低減措置実施後、当該低減措置によるリスク低減の効果を確認するために、マネロン等リスクに関連する指標(自社の直面するリスクに係る指標)推移を定期的に分析・検証している。
      • マネロン等リスクに関する国内外の指標(外部環境に係る指標)の推移について、リスク評価書作成時以外にも定期的に検証し、著しい変化が発生していることを認識した場合はその原因分析を踏まえて、自社のマネロン等対策の有効性検証を行う。
      • 社内のマネロン等対策に関係する職員へのヒアリングやアンケートの結果も、自社のマネロン等リスクの特定・評価・低減の検証(特に、リスク低減のための施策の適切性の確認など)に活用している。
      • マネロン等リスクの特定・評価・低減に関する業務の一部を外部に委託している場合、外部委託先管理の一環として、外部委託先の業務遂行に係る態勢や業務遂行の状況を年次で検証している。
      • マネロン等対策に係る共同運用システムを利用している場合でも、定期的に(例えば、リスク評価書の作成時等に)自社が直面するマネロン等リスクに対して当該システムが有効に機能しているか検証している。
      • マネロン等対策に係る業務を共同化している他金融機関と定期的に(例えば四半期ごと)会議を行い、情報共有、運営状況検証、改善事項検討、改善対応のフォローアップを実施し、共同で行っている業務の有効性を維持・高度化している。
      • 営業店や外為業務所管部署等のマネロン等対策の実務を担う部署に対して、定期的に立入りのうえモニタリングを行う計画を策定し、第2線が立入りのうえマネロン等対策に係る業務遂行が手続きどおりに行われているかといった適切性を確認している。
      • 第2線や第1線自身が、営業拠点に立入りを行い、拠点長を含む職員との面談を行い、拠点でのマネロン等リスク低減措置の実施状況(手続きに基づく対応状況等)や拠点が抱える問題等を確認している。その結果を踏まえて、低減措置の実施に係る対応の是正を行うほか、低減策の整備に関する示唆情報がある場合は必要に応じて整備を担当する部署に還元を行っている。
      • グループ内のコンサル会社に一部の検証を委託する、関連会社の事務集中部署に第1線におけるリスク低減措置の実施状況をモニタリングする専担部署を設けるなど、グループのリソースも活用して有効性検証を行っている。
      • 外部専門家からの支援も受け、欧米等の先進事例等を踏まえた検証対象項目を特定している。
      • 特殊詐欺の増加を受け、ATMや店頭取引に関するモニタリング等のリスク低減が適切に整備され運用されているか、外部専門家(コンサルタント業者)による有効性検証を実施している

SNS型投資詐欺などの被害の拡大を防ぐため、全国銀行協会などによる検討会が、犯罪に利用された口座情報を金融機関の間で速やかに共有する仕組みを作る方針を決めています。情報を共有することで、詐欺グループ側の口座を速やかに特定して凍結するなどの対策をとっていきたい考えです。検討会は銀行などを委員として2024年12月に設置され、オブザーバーに警察庁や金融庁が入り、全銀協が事務局を務めています。全銀協などによると、口座が犯罪に利用されたことが判明すると、(1)金融機関はその口座を凍結、(2)凍結された口座情報については、警察庁が集約した後に、(3)各金融機関に提供される仕組みで、(4)提供された情報をもとに、各金融機関が詐欺グループ側に関連する口座の凍結などをしているといいます。しかし、提供までに時間がかかり、その間も詐欺グループによる被害が続いている現状があることから、警察庁による集約を経ずに、金融機関同士で犯罪に利用された口座の情報を共有できれば、複数の金融機関にまたがった詐欺グループ側の関連口座を一気に凍結することが可能になり、被害金が被害者へ戻る可能性も高まることになります。口座情報の共有については、金融機関と警察の連携も進んでおり、ゆうちょ銀行は2025年1月、被害者らの口座情報を警察庁や都道府県警に迅速に提供する取り組みを開始、警察から被害者に連絡をとり、早期に被害を止めるのが目的で、同2月にはPayPay銀行も同様の取り組みを始めています。

三菱UFJ銀行などの店舗で貸金庫から顧客の金品が盗まれる事件が相次いだことを受けて、金融庁は、銀行などに対する監督指針の改定案を公表しています。マネロンに悪用される恐れがあるため、現金は貸金庫で保管できるものから除外するよう事実上求めています。銀行法には現在、貸金庫についての規定がなく、格納する金品は各銀行が約款をつくり定めていますが、現金の取り扱いは明確にしていない銀行が多く、今回の監督指針案では「約款などでリスクが高いと考えられる物品などが適切に格納可能な物品から除外されているか」としたうえで、現金が除外対象になるとしたものです。あわせて、貸金庫の利用目的の確認も求めており、顧客が入室する際に行員が立ち会ったり、カメラによる撮影をしたりすることなどを例示しています。また、貸金庫で保管している金品の窃盗などがあった場合は、捜査への支障などがない限り、原則公表することも盛り込んでいます。指針案ではほかにも、店舗で保管していた予備鍵の管理を本部で一括管理するなどして厳重な管理を求めたほか、入退室する際に明確な手続きやルールを整備することなども盛り込んでいます。なお、半沢・三菱UFJ銀行頭取は、同行の貸金庫サービスについて「セキュリティを強化したうえでビジネスを継続していく」と述べています。同行の貸金庫サービスについては、利用者数が減少傾向にあるものの「災害対策や安全対策を目的に貴重品を安全に保管したいという声が寄せられている」といいます。「ニーズが相応にあることから貸金庫ビジネスを継続する方向性は固めている」と話しています。今のところ、銀行の間で撤退する動きは広がっていませんが、多額の投資をするほど将来性があるビジネスでもないため、安全性の強化でコストが膨らめば、撤退を迫られる銀行も現れるとの見方も出ています。

国内の上場企業の株主名簿の上位には、投資家の代わりに株の保管・管理を受託する「カストディアン」の名前が並んでいます。株主総会で、カストディアン名義の議決権をどう行使するか決めるのは背後にいる「実質株主」であり、株の持ち合い解消やアクティビスト(物言う株主)の流入で総会が企業と株主の真剣勝負の場に変わりつつあるなか、企業が知りたいのは実質株主であるにもかかわらず、日本には実質株主を十分に把握するための制度が整備されていません。会社法改正の議論では、企業が名簿上の株主に実質株主の情報開示を請求できる制度の設置を目指しています。請求に応じない場合の制裁措置も想定されています。改正の背景にあるのは、株主の匿名性の高まりで、東京証券取引所などが公表する株式分布状況調査によると、カストディアンなど他人資金の預かり名義が多い「信託銀行」「外国法人等」の日本株保有比率は長期で拡大傾向にあります。海外では日本より実質株主を把握する制度が整備されており、米国では一定の運用資産を持つ機関投資家に対し、保有明細を米証券取引委員会(SEC)に定期的に提出させるルールがあり、電子開示システム「EDGAR」上で公開もされています。また、英国は同国法上の「公開会社」がカストディアンに対し、実質株主の保有数の情報提供などを請求できることになっています。

楽天証券や野村証券、SBI証券、SMBC日興証券、マネックス証券の5社で顧客の証券口座が乗っ取られ、株を勝手に売買される被害が確認されています。サイバー犯罪集団が株価を操作するために不正アクセスしたとみられ、売買対象には日本企業の株も含まれています。公正な市場を害する相場操縦は金融商品取引法が禁じる違法行為であり、証券取引等監視委員会は動向を注視しています。犯罪集団は証券会社をかたるメールを通じて偽サイトへ誘導し、IDやパスワードを入力させて盗み取る「フィッシング」と呼ばれる手口を主に使い、個人投資家のアカウントに不正ログインし、本人になりすまして株の売買を行っているとみられます。一連の不正売買は当初、香港や上海の取引所に上場する海外企業銘柄が中心で、売買の原資は、乗っ取った証券口座で保有していた銘柄を売却するなどして得ていたとみられています。報道によれば、楽天証券やSBI証券は2025年3月までに不正売買の疑いを把握し、中国株を巡る新規の買い注文の受け付けを停止、両社とも段階的に対象銘柄を広げ、足元では計約1000銘柄に上るといいます。一方、犯罪集団は中国株の購入停止措置を受け日本国内株に標的を切り替えた可能性が高いとされ、乗っ取られた口座から買われた銘柄は価格が上昇した後に急落しており、こうした不自然な値動きは国内の複数銘柄で確認されているといいます。売買が薄く株価を動かしやすい銘柄を標的として、大量に購入して価格をつり上げた後で売り抜けて利益を得た疑いがありますが、株価の変動を狙って他人の証券口座を悪用した事案は過去に例がないとされ、サイバー攻撃を絡めた新たな手口とみられています。サイバーセキュリティー大手トレンドマイクロによると、証券会社の偽サイトは2024年11月に大手2社のものが開設され、2025年3月までに9社分に拡大、サイト数も急増、同社は複数のサイバー犯罪集団が関与しているとみているといいます。証券口座への不正アクセスを防ぐには、システムへのログインや送金時に複数の手段で本人確認する「二要素認証」が有効ではあるものの、証券取引は相場の流れに沿って瞬時の判断が求められる場面もあり、認証の手間を嫌う投資家も少なくなく、証券各社は二要素認証などを強制導入した場合、苦情や顧客離れを懸念しているといいます。また、この「犯罪集団」がどのような者なのかも注視していく必要があります。海外の犯罪組織の可能性だけでなく、新たな手口ということで他の犯罪組織等が同様の手口で犯罪を行う可能性も念頭に置く必要があります。以前、証券市場では「反市場勢力」が市場の公正性を歪め、不公正取引を行い大きな問題となりましたが、その背景にいる「金主」としては暴力団等の反社会的勢力であることが多いことも分かっています。フィッシング詐欺と組み合わせた反市場的な犯罪ということで、本件にも反社会的勢力の関与を疑う必要もあるといえます

関連して、楽天証券で、フィッシング詐欺が原因とみられる不正取引が多発したことについて、同社は顧客の被害について「個別に事情を聞き、迅速かつ誠実に対応する」考えだといいますが、不正アクセス被害への対応は、ネットバンキングだと「原則補償」と銀行界が定めている一方、証券界のネット取引ではそうした規定がなく、被害回復の交渉は難航する恐れも指摘されています。報道で消費者問題に詳しい坂勇一郎弁護士は「会社の責任範囲として狭すぎる」、「顧客からは、民法や消費者契約法の規定に基づいて、約款契約の合意の不成立や無効という主張もありうる。事案の詳しい内容はまだわからないが、今回の件で気になるのは、楽天証券に被害が多発した原因だ。不正アクセスの手口がますます高度になるなか、同社のシステムや体制に脆弱性はなかったか、顧客に対して十分な注意喚起をしてきたかなども含め、慎重な検証が必要だ」と指摘しています。元本確保の預金と違い、株や投資信託は値動きがあり、取引の復元が難しく、また、証券口座からお金を引き出す際は銀行口座へ出金する必要があり、犯罪者は証券口座を乗っ取っても利益を得にくかったことが背景にあります。

不正アクセスと組み合わせた金融犯罪という点では、最近、若者による犯罪が増加している点は気になります。他人のIDやパスワードを不正に使用する不正アクセス禁止法違反事件で2024年に全国で摘発された259人のうち、約7割を10~20代が占めていたことが分かりました。いたずらや金銭を得る目的で行っているとみられ、専門家は子供への早期のネットリテラシー教育の重要性を呼びかけています(このあたりは、闇バイトやオンラインカジノの問題と同じく、若者への教育・啓蒙・啓発活動が極めて重要だといえます)。警察庁によると、2024年、不正アクセス禁止法で摘発された14~19歳は72人で、そのうち中学生は17人、高校生は39人、20代は105人で会社員などが48人、無職は23人となり、特に中学生は前年の9人から2倍近く増えています。不正アクセス禁止法違反事件の摘発件数は563件で、10~20代が関与した事件307件のうち不正に利用されたのはSNSなどの「コミュニティサイト」や社内ネットワーク、ネットショッピングサイトが7割以上を占め、犯行手口の多くは、利用者のパスワードの設定や管理の甘さにつけこんで入手したのが3割以上を占め、他人やフィッシングサイトから入手した手口も多い結果となりました。トレンドマイクロは、動機の1つはいたずら目的で「遊びと犯罪の境界線があいまいで、重大な犯罪に手を染めている認識が薄い」と指摘、もう1つは、金銭目的で「不正アクセスの手法などがSNSなどで出回り、技術的なハードルが下がっている。お金がない若者にとっては闇バイトと同様に簡単に金を得られる方法になっている」と指摘しています。そのうえで、子供への早期のネットリテラシー教育と同時に、親が子供のスマホについて閲覧やアクセス制限ができる「ペアレンタルコントロール機能」の利用も呼びかけているほか、SNSで不正アクセスの手法などが出回っている点については「プラットフォーム事業者での対策が必要だ」と指摘しています。これらは、いずれも本コラムで以前から指摘してきたものでもあります。

なお、「楽天モバイル」のシステムに不正接続し、通信回線を契約したとして中高生3人が逮捕された事件で、警視庁は、他人のクレジットカード情報で商品を不正購入したなどとして、このうち2人を私電磁的記録不正作出・同供用や詐欺などの容疑で再逮捕しています。中高生は違法サイトから約1万1000件のカード情報を入手した上、契約した他人名義の通信回線で買い物をしており、警視庁は発覚を逃れる目的だったとみています。3人は生成AIを悪用して作成したプログラムを運用し、楽天モバイルの回線を契約するため、同社のシステムに約22万件の不正接続を繰り返しており、秘匿性の高い通信アプリ「テレグラム」を通じて購入した約33億件のIDを使っていましたが、さらに米国の違法サイトから国内外の利用者の1万件超のカード情報も購入していたといい、中高生がネット上の違法情報に容易に接触している実態が浮き彫りになっています。また、無職少年と高校生は、サイバー攻撃やネット上で誹謗中傷などをしているとされるグループのメンバーといい、少年らが他人の楽天ID・PWで約100回線を不正に契約し、テレグラムで1回線あたり約1万2千円で転売していたとみられています。楽天モバイルをめぐっては、2025年2月に摘発された別の少年グループと合わせ、計2600以上の通信回線が不正契約された疑いがあると警視庁はみています(ともにテレグラム上などで入手したIDとパスワードを使って他人の楽天IDに不正アクセスし、通話回線などを契約、オンライン上での契約手続きを自作のプログラムで機械化していた点も共通、一部のプログラムは同一のものであり、中高生のグループがもう一つのグループに提供したとみられています。さらに、入手した回線をテレグラム上で売却していた点も一緒です)。同社の回線で被害が拡大した理由について、逮捕された無職の少年は、各携帯電話会社の本人確認方法を調査したうえで、「一つのID・PWで15回線まで契約できる楽天モバイルを狙った」、「本人確認も甘いと思った」などと供述、2月に摘発された少年も同様の説明をしていたといいます(なお、楽天モバイルも携帯電話不正利用防止法に基づき本人確認を行っていましたが、例外が3つあり、1つがグループ内の楽天銀行や楽天証券の口座を開設している場合で、口座開設時に一度確認しているため本人確認書類の提出を不要としていました。もう一つが通話回線を契約済みの楽天IDで、サイト上で本人情報に変更がないことを確認すれば追加回線を契約できましたが、ほかの大手携帯電話会社は本人確認を行っていました。そして、追加可能な回線の上限数も他社に比べて多く、データSIMと呼ばれるデータ通信のみ可能な回線も法律で本人確認が義務付けられておらず、同社は本人確認を求めていませんでした。2つの少年グループはこうした仕組みを調べた上で犯行に及んでいたとみられています)報道で転売問題に詳しい慶応義塾大の栗野盛光教授は、他人名義の通信回線について「犯罪の温床となりやすい」と指摘、身元が発覚しにくいため、特殊詐欺などの犯罪で悪用される可能性が高いといい、栗野教授は、通信回線の追加契約での本人確認は不可欠で、追加契約した場合には利用方法の定期的な確認が必要と訴えています。携帯電話が重要なインフラとなっており、「犯罪に利用されないように対策を取ることは、携帯会社の社会的な責務となっている」と話していますが、正に正鵠を射るものと思います。なお、不正アクセス事件以外のサイバー犯罪でも10代の摘発が目立ち、警察庁によると2024年には、標的のサーバーに大量のデータを送りつけ機能を停止させる「DDoS攻撃」を代行サイトに依頼したとして、中学生2人を書類送検するなどしていますが、うち1人は「自分の攻撃でサーバーが停止したら面白いと思った」と供述したとい、やはり若年層のサイバー犯罪も、いたずらやゲームのような感覚で犯罪に関与している認識が薄いケースがみられています。なお、本件の2グループ以外の3グループ目の逮捕もありました。売却された回線で電子決済サービスを利用し、チケット代を詐取するなどしたとして、警視庁が東京都内の高校2年の男子生徒ら15~18歳の中高生3人を詐欺などの容疑で逮捕したもので、不正契約された回線が拡散し、犯罪に使われている実態が明らかとなりました(なお、「オンラインカジノに使った」と供述しており、その動機の単純さが際立ちます)。

数年前には、高校生や大学生らが関わり、RMT(リアルマネートレード)を悪用し計約1億6500万円を集めた不正アクセス事件もあり、そこでは高度なプログラミング知識や匿名化技術が使われていました。このような中高校生が関わる不正アクセス事件は以前から多発しており、特に近年は、高い技術がなくても生成AIなどを使えばフィッシングサイトやプログラムを作れてしまうことは既にみてきたとおりです。報道で、サイバー犯罪の動向に詳しい神戸大学大学院の森井昌克名誉教授(情報通信工学)は「ネットの犯罪は血も流れず、相手の顔が見えず、自分が得をするだけに思え、罪の意識を感じづらい。好奇心や虚栄心が強い少年が、軽犯罪程度と甘く考えてやってしまう。腕を買われてIT企業に雇われると考える者すらいる」、「中高生にサイバー社会での倫理をいかに身につけさせるかが課題だ。不正アクセスなどはれっきとした犯罪で、前科前歴がつくことにもなりうると理解させる必要がある」と指摘していましたが、こちらも正に正鵠を射るものと思います。

山形銀行をかたる不審な自動音声電話を発端にした不正送金が相次ぎ、複数の企業が山形県警に被害を相談しているといいます。報道によれば、被害総額は10億円近くに上る可能性もあるといいます。山形県警は企業を狙ったフィッシング詐欺事件とみて調べています。具体的な手口は、山形銀行を名乗る自動音声電話が入り、経理担当者が音声に従い対応したところ、偽サイトと思われる画面に誘導され、指示に従ってログイン情報やパスワードを入力、暗証番号の役割を果たす「ワンタイムパスワード」も言葉巧みに聞き出された結果、その情報をもとに計1億828万円を他口座に勝手に不正送金された企業があり、同様の手口で1億円以上の被害にあった企業が他にもあるということです。山形銀行は企業向けインターネットバンキングでの他行宛ての即時振り込みを停止、「自動音声による案内は一切行っていない。電話やメールで契約情報やパスワードを伺うこともない」などと注意を呼びかけています。この事案のように、企業が自社の口座情報を犯罪グループに盗まれ、不正送金される被害が増えているといいます。金融機関をかたる自動音声の電話から始まる手口で「ボイスフィッシング」と呼ばれ、被害は2024年秋から約50社、20億円超に上っています。億単位の会社資金をだましとられた事例もあり、社員への啓発を通じ警戒を強める必要があります。捜査関係者によると2024年秋ごろから、従来の手口に虚偽の電話を組み合わせたボイスフィッシングが急増、会話を通じて対応を迫られることで冷静に考える時間が減り、警察幹部は「メールやSMSよりだまされやすい傾向がある」とみています。警視庁によると、不動産や金属工業といった業界で被害があり、主に狙われているのは企業の口座情報で、法人口座は個人口座と比べ多額の残高があるケースが多く、一度に多くの資金移動があっても金融機関から不審に思われにくい(実際、被害額が1億円を超えた事案も複数確認されています)うえ、企業の金融取引は電子化も進んでおり、金融庁が中堅・中小企業を対象に2022年に実施した調査によると、90.7%の企業がインターネットバンキングを契約していたといい、詐欺グループが電子化する企業取引の隙を突いているといえます。社員教育を通じて偽のメールやSMSへの対策は一定程度講じられているが、音声による情報窃取への警戒を強められている企業は多くはないのが現状で、社内周知が急がれます。今のところ関連性は不明ではあるものの、警察官をかたってどの金融機関に法人口座を設けているかを各企業に尋ねる電話も確認されており、詐欺グループがボイスフィッシングを仕掛ける前に、なりすます金融機関を下調べしている可能性が考えられます。報道によれば、ボイスフィッシングについて警察幹部は「手口に共通点があり、同一グループが関与している疑いがある」とみており、不正送金先の口座からの資金の流れを調べるなどして、グループの実態解明と摘発を急いでいるといいます

(2)特殊詐欺を巡る動向

国境を越えた特殊詐欺に対応するため、日本と東南アジア諸国連合(ASEAN)は2025年4月にも実務者レベルの会議を新設すると報じられています(2025年3月31日付日本経済新聞)。知見の共有や国際捜査の支援などを話し合うもので、ミャンマー国境付近の特殊詐欺拠点で日本人少年らがタイ当局に保護された事案を踏まえ、連携を強めるとしています。これまで日ASEANや日中韓とASEANには国境を越える犯罪を巡る閣僚級の定期協議はありましたが、在外公館などの実務者レベルで協議の頻度を高め、意思疎通を緊密にするとしています。中国や韓国、米国、オーストラリア、インドなどに参加を呼びかけることも想定するほか、国際刑事警察機構(ICPO、通称インターポール)や国連薬物犯罪事務所(UNODC)の協議参画も目指すとしています。ミャンマーの拠点には多数の外国人が監禁されており、タイ当局は、拠点の運営を主導した疑いがあるとして、日本人の元暴力団関係者の男を拘束したと明らかにしています。タイやミャンマーの取り締まりを強化しても、犯罪組織の拠点が近隣国に移る恐れがあり、ASEAN各国と協力して広域に対処するとしています。外務省は日本人の特殊詐欺への関与を防ぐため、外務省や在外公館にある相談窓口を周知、未成年者への啓発や国内の空港での広報も徹底するといいます。犯罪自体が越境犯罪化し、犯罪組織もグローバル化し、犯罪組織の進化は急速に進み、もはや1国(点)での限界は明らかです。その限界を広域(面)で乗り越えようとする国際連携の深化に期待したいところです

国連によると、詐欺拠点を解体するための地域的な取り組みでタイは先頭に立っており、ミャンマーのミャワディ地区にある広大な詐欺拠点は、毎年数十億ドルをだまし取っている東南アジアの違法施設の一部で、多くの場合は犯罪組織に監禁された人たちが詐欺行為に加担させられています。この詐欺拠点に対する2025年2月以降の大規模摘発により、タイ警察によると中国人やインド人など計5200人超が救出され、うち3500人超がタイ経由で母国に送還されています。ところが、タイは一帯への送電とインターネット利用、燃料供給を停止しているにもかかわらず、詐欺拠点は依然として運営されており、最大で5万人または10万人が残っている可能性があるといい、少なくとも3700人の犯罪者がこの地域で活動を続けていることが確認されています。関連して、日本の大鷹正人駐タイ大使が、ミャンマー東部を拠点とする特殊詐欺を捜査しているタイ警察高官らと警察本部で会談し、連携強化を確認、タイ警察のタッチャイ人身売買対策センター長は「数十人の日本人」がミャンマーなどで特殊詐欺活動を続けている可能性があり、日本側と協力していると述べ、大鷹大使は「特殊詐欺が一段落したとは考えていない」と指摘、詐欺拠点の拡散に警戒感を示しています。また、ミャンマーは2021年の軍事クーデターを機に内戦状態に陥り、国軍の統治が及ばない辺境地域に犯罪集団が蔓延りましたが、事態が急展開した背景には、中国政府による関係者への強い働きかけがありました。政変後に中国と結びつきを強めるミャンマー軍政は素早く対応、タイ国境近くで詐欺や賭博に従事する外国人を2025年1月30日~3月16日に6599人拘束、タイにとっても詐欺事件は見過ごせない問題で、中国ではタイへの旅行を控える動きが広がり、タイの観光業への影響が懸念されたためです。タイ政府は中国との首脳会談前の2月5日、ミャンマー側の電気や燃料の供給、ネット回線の接続を遮断、BGF指導者らが人身売買に関与した疑いで逮捕状を発行する可能性も示唆、BGFが詐欺摘発に協力せざるを得ない状況に追い込みました。一方、中国系詐欺組織の拠点はカンボジアやラオスの国境地帯にも点在し、中国に友好的な国の辺境に組織が入り込むケースが多く、場所を変えて犯罪が続く恐れが指摘されています。

今警察庁によると、日本の警察が逮捕した海外拠点の特殊詐欺グループのメンバーは、2019年16人、2020年18人、2021年19人、222年0人、2023年69人、2024年50人と推移、2023年の逮捕者には、「ルフィ」などと名乗る指示役として広域強盗事件に関わったとされる4人が含まれています。また、2024年は、SNS上で著名人らになりすまして投資を誘うSNS型投資詐欺を含めて、カンボジアやベトナム、フィリピン、タイの4カ国10拠点が摘発され、逮捕された50人は、うその電話をかける「かけ子」や実行役を勧誘する「リクルーター」でした。2025年に入り、ミャンマー東部で中国系犯罪組織によるものとみられる特殊詐欺の拠点が現地当局に摘発されました。一連のこうした流れを受けての今回の事件は日本にも大きな衝撃を与えていますが、「誰もが国際犯罪の被害者にも、加害者にもなりうる」、「100%の摘発も、100%の防犯も期待できない」時代になったという事実が突きつけられました。2025年3月23日付日本経済新聞の記事「ミャンマー国際詐欺の衝撃 ネットで崩れた「安全の壁」」では、筆者が以前から繰り返し述べていることを大変分かりやすくまとめており、参考になります。正に、携帯電話やインターネットの普及で、「国境の壁」を崩壊させ、日本は初めて、個人が海外の犯罪組織から直接狙われるという事態を迎えているといえます。さらに、被害者だけでなく、同様の手口で犯罪の実行犯もリクルートされています。そして、急速に進歩するAIは「日本語の壁」を乗り越えてだましの文句を生成、著名人の姿や声をかたることで「認知の壁」も越えつつあります。捜査には国家主権の壁が厳然として立ちはだかり、多くは期待できず、そうであれば個々人がSNSやネットを活用・判断する能力を高めるしかなく、そのうえで犯罪のそれぞれの段階で、不正がやりにくくなる仕組みをどれだけ構築できるかがカギを握ることになります。

ミャンマーの特殊詐欺拠点で日本人の高校生を働かせたとしてタイ当局に身柄を拘束された日本人男性が強制送還され、大阪府警が、大阪府内で起きた別の事件を巡る逮捕監禁などの疑いで逮捕しています。容疑者は海外の犯罪組織の依頼で特殊詐欺に加担する日本人を集める「リクルーター役」とみられるといい、日本の警察当局は勧誘の手口や拠点の運営実態について解明を進めています。この事件で実刑判決が確定した男性や被害者が府警の捜査に「容疑者を含め、中国やカンボジアの特殊詐欺拠点に日本人を送る仕事をしていた。中国人の依頼だった」などと供述、事件はリクルートを巡る仲間内の金銭トラブルが原因の可能性があるといいます。ミャンマーやカンボジアなどでは、中国系の犯罪組織が日本人を含む外国人に強制的に特殊詐欺を行わせているとされ、大阪府警は容疑者らがSNSで仕事の求人などを装って日本人を募り、拠点に派遣していたとみています。また、ミャンマーを舞台にした国際的な詐欺をめぐり、タイの警察当局が拘束した日本人の男2人について、愛知県警が詐欺の疑いで逮捕状を取っています。男らは、2025年2月に保護され帰国した愛知県の16歳の少年と同じ詐欺拠点にいたとみられています。今後、タイから移送し、詳しい経緯などを調べるといいます。報道によれば、20代と30代の男2人は2025年1月、男性に警察官などをかたってうその電話をかけ、現金をだまし取った疑いがあり、男らはミャンマー東部の拠点で特殊詐欺の「かけ子」に従事していたとみられ、同3月11日にタイ西部のミャンマー国境付近で不法滞在の疑いでタイの警察当局に拘束されていました。一方、少年は帰国後、愛知県警の聞き取りに対し、「電話で警察官などをかたる詐欺に加担させられた」「他に8人くらいの日本人が同じ仕事をしていた」などと説明、県警はこうした情報を元に同じ拠点で特殊詐欺に従事していたとされる男らの関与について捜査を進めていました。関連して、タイで特殊詐欺のかけ子として働くよう男性に要求したなどとして、千葉県警は、自称埼玉県戸田市の男ら4人(22~55歳)を強要未遂の疑いで逮捕しています。報道によれば、4人は2024年12月~2025年1月、愛知県の会社員男性に「海外で金になる仕事がある」などと言い、タイに渡航してかけ子をするよう執拗に要求するなどした疑いがもたれています。男性は同1月に男らに付き添われて成田空港まで行ったものの、その場から逃げ出して110番したといいます。

犯罪組織が特殊詐欺などの実行役を集めるツールにオンラインゲームを使い始めている実態が明らかになっています。SNSを中心とした闇バイト対策が進むなか、チャット機能で親密になった未成年ら若者を勧誘する手口で、子どもの安全を守るため、リスクへの理解を浸透させる取り組みが急務となっています。特殊詐欺を巡っては、国が新たな対策を取れば別の抜け穴を突かれる「いたちごっこ」が続いています。闇バイト対策として、国はSNS事業者に対し不審な求人情報の削除を要請、警察庁によると、2024年の闇バイトに関する投稿の情報は約1万4000件あったところ、サイト運営事業者などに要請した分は大半が削除されたといいます。さらに同庁は警察官が身分を隠して犯罪組織に接触する「仮装身分捜査」を導入、トクリュウの首謀者や指示役の摘発に加え、「違法情報」と位置づけた投稿の抑止効果も見込んでいますが、こうした対策が功を奏して公開情報の闇バイト投稿で集められなくなれば、より閉鎖的なコミュニティにシフトする可能性が指摘されています。とりわけ懸念されるのが、オンラインゲームを使った勧誘で、警察庁によると、2024年にSNSなどで犯罪に巻き込まれた子どもは1486人、このうち6.6%の98人がオンラインゲームによるもので、統計を開始した2019年(3.1%)から徐々に高まっています。現状は児童ポルノなどが多い状況ですが、闇バイトの主戦場となっていく可能性もあります。オンラインゲームは、ネットを通じてリアルタイムで複数人がつながり、チャット機能を使ってコミュニケーションを取りながらプレーできるため、見ず知らずの参加者同士でも気軽に楽しめるのが特徴です。最近のオンラインゲームはボイスチャット機能で会話をしながら協力して遊ぶタイプが多く、仲間意識が芽生え、親密な関係になりやすいのが特徴で、ITジャーナリストの三上洋氏は「学校や家庭よりも居心地がよいと感じる子どもも多く、犯罪組織は正体を隠して相談に乗るフリをするなど若年層の心理を巧みに突いてくる」と指摘していますが、SNSのような公開の場ではないため、個別のやり取りを監視し対策を取るのは容易ではなく、三上氏は「犯罪に巻き込まれた最新事例を子どもとしっかり共有し、金銭が絡む誘いは瞬時に怪しむ習慣を浸透させるなど、家庭や学校をはじめ社会全体で啓発に力を入れていく必要がある」と警鐘を鳴らしていますが、正に正鵠を射るものと思います。

本コラムでも以前取り上げましたが、特殊詐欺被害を防ぐため、大阪府内のATM前で高齢者がスマホなどで通話するのを禁止し、金融機関やコンビニに防止措置を義務付ける改正条例が大阪府議会で全会一致により可決、成立しました。大阪府によると、通話禁止の義務化は全国で初めてとなります。本条例は、ATMを設置する事業者に対し(1)通話しながらの操作を禁止する旨をポスターや看板で掲示、(2)高齢者が振り込める1日当たり上限額を10万円以内に設定、(3)プリペイドカード販売時に、詐欺被害に遭う恐れがないかどうかを確認を義務付ける内容で、高齢者については、掲示に従い「通話しながらATMを操作してはならない」と定めています(いずれも違反による罰則はありません)。

特殊詐欺被害の急増を受け、警察庁が、75歳以上によるATMの1日あたりの利用限度額について、引き出し、振り込みとも30万円に制限する方向で検討、犯罪収益移転防止法の関連規則の改正に向け、全国銀行協会などと調整を進めているといいます。ATMの利用限度額は現在、各金融機関の自主的な取り組みとして、「引き出しは1日50万円」、「振り込み・振り替えは1日100万円」などと決められていますが、制度で一律に制限すれば初めてとなります。特殊詐欺事件では、犯罪組織が高齢者らを電話でATMに誘導し、指定口座に振り込ませる手口が長年続いています。被害は年々深刻化しており、2024年の特殊詐欺被害は前年比1.6倍の約721億円(暫定値)に上り、過去最悪となりました。特に高齢者が狙われており、2024年は被害者2万951人(法人を除く)のうち、約45%に当たる9415人が「75歳以上」でした。政府は特殊詐欺被害の急増を受け、2024年6月の犯罪対策閣僚会議で、高齢者のATMの利用制限や、金融機関による口座のモニタリング強化を推進する方針を明らかにしていました。ただ、支店の統廃合を進める金融機関側からは、窓口業務の負担増を懸念する声もあるうえ、利用者にとっては、利便性の低下につながりかねず、このため、警察庁は、年金支給額などを考慮して制限額を1日30万円としたといいます。出入金が多い個人事業主らについては、例外的に制限の対象外とすることも検討しているようです。

詐欺事件の被害金を取り戻すために凍結された銀行口座に対し、裁判所に虚偽の内容の書面を発行させ不当な強制執行をかけたとして、被害者側が東京都内の会社を提訴した訴訟で、東京地裁は、強制執行を認めないとする判決を言い渡しています。報道によれば、被害者の男性は2023年、架空の投資話を受け、計1億2400万円を20口座に送金し、その後、だまされたことに気づいたといいます。資金移転先の一部であるベトナム人名義の口座が、振り込め詐欺救済法に基づき凍結されたこと受け、渋谷区のコンサルティング会社はベトナム人2人に計1650万円、代表と社名が同一の品川区のコンサル会社はベトナム人3人に各10万円の貸し付け債権があると主張、判決と同様に口座の差し押さえが可能となる「支払い督促」の書面を裁判所から取得し、これを基に強制執行を申し立てたものです。同地裁の訴訟で、品川の会社は「ダミー債権だった」と認める一方、渋谷の会社は「第三者から債権を譲り受けた」と主張、これに対し、被害者側は、ベトナム人3人のうち2人は同一人物で、3人とも強制執行時には出国していたなどとして、強制執行を認めないよう訴えていました。判決は、第三者から債権譲渡を受けたという会社側の主張について、「証拠がない上、会社が自ら貸し付けをしたという支払い督促の書面の内容と整合しない」として退けたもので、妥当なものといえます。

特殊詐欺事件の被害者9人が、暴力団対策法上の使用者責任があるとして、稲川会の清田次郎(本名・辛炳圭)総裁を含む同会幹部ら3人を相手取り、計約5700万円の損害賠償を求める訴訟を京都地裁に起こしています。報道によれば、稲川会傘下組織組員を首謀者とする特殊詐欺グループは2022年7月~2023年4月、京都、大阪、群馬、三重各府県の80~90代の女性らに、息子やその上司などを装い、電話で「仕事の資金が急に必要になった」と虚偽の話をして現金をだまし取ったとされます。グループ内では、組員が暴力団内で高い地位にあることが伝えられていることなどから、詐欺は暴力団の影響力を利用した資金獲得行為に当たり、清田総裁ら幹部には暴力団対策法上の使用者責任があるとしています。

全国で2025年1~2月、警察官を装った特殊詐欺事件が計1039件(速報値)発生し、被害総額は計約106億2000万円に上りました。実在する警察本部や警察署の番号からの詐欺電話が多く、同庁が注意を呼びかけています。警察庁によると、末尾が「0110」など実在する警察本部や警察署の番号からの電話が目立ちました。また、「+」で始まる国際電話のほか、「+」がない正規の番号も多く含まれていたといい、主に共通するのは、電話からLINEのビデオ通話に誘導し、警察手帳などの画像を送信した上で現金を要求する手口でした。例えば、愛知県内の30代女性は、県警本部の代表番号から電話を受け、警察官を名乗る女から「あなた名義の口座が不正に開設され、資金洗浄事件の容疑者になっている」と言われて計250万円を振り込んだといいます。実在する番号を偽装する手口は「スプーフィング」と呼ばれ、海外のサービスが悪用されている可能性が高いものです。「警察がSNSで取り調べの連絡を取ることは絶対にない」と、「心当たりのない着信があったら電話を切り、自分で調べた電話番号にかけ直して確認してほしい」と注意を促しているものの、警察庁は、総務省や通信事業者と連携し、早急に防止策を検討するとしています。警察庁によると、2024年1月以降、各地の警察本部などの代表番号を巡る詐欺の被害・相談件数は計610件(2025年3月18日正午時点)に上り、警視庁本部が171件と最多で、兵庫県警が94件、愛知、静岡両県警が各76件と続いたほか、警察署の番号からの迷惑電話も同期間で計848件に上り、警視庁新宿署が最多の788件だったといいます。警察庁のサイトでも注意喚起も出ています。

▼警察庁 警察に偽装した電話番号に注意!
  • ポイント
    • 警察官が、電話で捜査対象となっているなどと伝えることはありません。それは、詐欺です!
    • 電話を切って警察相談専用電話(#9110)に御相談ください。
    • 相手方から教示された番号には、決して折り返さないでください。
    • 警察官がSNSで連絡をすることはありません。
    • 警察官が警察手帳や逮捕状の画像を送ることは決してありません。
  • 事例
    • 被害者の携帯電話に愛知県警察本部の代表電話番号(052 951 1611)から電話があり、それに出ると、警察官を名乗る女等から「あなた名義の口座が不正に開設されており、あなたも資金洗浄事件の容疑者になっている」等と電話があり、その後、SNSのビデオ通話等で、警察官をかたる男から顔写真付きの警察手帳を示された上、「口座の資金を全て確認する必要がある」「一度お金を全て振り込んでもらい、資金調査を行う必要がある」等と言われ、指示された口座にインターネットバンキングで現金250万円を振り込んだ。
    • その後、最初に着信表示されていた愛知県警察本部の代表電話番号に電話をして確認したところ、詐欺であることが判明した。
  • 対策
    • 国際電話番号は、着信を拒否する。
    • 固定電話は、国際電話の発着信を無償で休止できる国際電話不取扱受付センターに申込みをお願いします(0120-210-364)。
    • 携帯電話は、国際電話の着信規制が可能なアプリの利用をお願いします。

猛威を振るっているSNS型投資・ロマンス詐欺においては、手のひらのスマホで多額の金銭をだまし取られていますが、この被害は、1人で完結してしまうため、周囲の人が被害に気づきにくい困難さが指摘されています警察庁によると、被害者の年代は、特殊詐欺で65歳以上の高齢者が54.7%を占めるのに対し、SNS型では65歳未満が78%を占めていたといい、被害を阻止した主体は、特殊詐欺では家族が4割を占め、コンビニや金融機関が各2割、SNS型投資・ロマンス詐欺では金融機関が6割、家族が2割といいます(SNS型では家族が気づきにくく、相対的に金融機関の割合が押し上げられた可能性があります)

2024年の被害総額が過去最悪の約1268億円に上ったSNSを介した投資・ロマンス詐欺で、マッチングアプリを経由した被害が急増しています。真剣な出会いを求める人たちが集う空間が悪用されている実態が浮かんでいます。ロマンス詐欺で最初にマッチングアプリで接触したケースは2024年1月には62件だったところ、12月には170件と約2.7倍に急増しています。警察庁は、マッチングアプリが悪用されたSNS型投資・ロマンス詐欺のうち、業界最大手の「ペアーズ」を経由したケースが36.1%を占めていると指摘しています。ペアーズの累計利用登録数は2000万人を超えています。警察庁によると、マッチングアプリで知り合った後、アプリ内のチャット機能を使わずに早い段階でLINEなどに誘導し、インターネットバンキングで送金させる手口が目立つといい、実際に会うことはなく、やり取りはすべてインターネット上で完結するのが特徴で、翻訳アプリや生成AIを利用すれば他人になりすますことも可能なため、警察庁は「会ったことがないのに投資や結婚費用などの名目で金銭などを要求された場合は詐欺を疑ってほしい」と呼びかけています。アプリの運営会社も対策を急いでおり、ペアーズを運営するエウレカの担当者は「真剣な出会いを求める人々の感情につけ込み、犯罪に巻きこんでいる現状を大変遺憾に思っています」とコメント、同社は具体的な対策として、AIと目視を組み合わせ、365日24時間の監視体制で悪質ユーザーの検知や強制排除を実施しているほか、年齢や本人確認を高度化し、マイナンバーカードによるICチップ認証を業界に先駆けて導入したといいます。こども家庭庁が15~39歳の男女2万人を対象に昨年実施した調査では、直近5年間で結婚した既婚者の「出会いのきっかけ」はマッチングアプリが25.1%で最も多く、職場や仕事関係、アルバイト先の20.5%を上回りました。報道でマッチングアプリの安全な利用について、文教大情報学部の池辺正典教授(情報学)は「若い世代はアプリを日常的サービスとして捉えており、怪しい案件もあることを踏まえ処理している。そうしたことに慣れているか、いないかの世代間の差もあるのでは」とし、「サイト外の通信になると、事業者の問題ではなく、個人間の通信に規制をかけるような話になりかねない。最後は自己責任で対応しなければならないという認識は大切だ」と指摘しています。

山梨県警は、SNSを介した投資詐欺と恋愛感情に乗じたロマンス詐欺の認知を高めるために「手口集」を作成し、県警ホームページで公開しています。県内で発生した被害をもとに手口を分析し、解説しており、県警によると、これらの詐欺の手口集公開は全国初といいます。

▼山梨県警 電話詐欺、SNS型投資・ロマンス詐欺手口集
▼手口集

投資詐欺では、「サクラとみられる投資グループが成功体験を紹介し、これを信じて、第三者の個人名義などの指定口座に現金を振り込むと、Webサイトに利益が出たように表示される。そして「元金を増やせば利益がもっと増える」とさらに高額の投資を勧めてきて、追加で資金を振り込み、いざ利益を払い戻そうとすると「保証金を払わないと出金できない」など、払い戻しに応じないほか、他の名目でも現金を要求してくる」といいます。ロマンス詐欺では、「巧みな言葉や写真を使って、毎日数十回のやり取りが数週間にわたって行われ、好意を持たせるように誘導する。同時に資産状況などターゲットにふさわしいかの個人情報をそれとなく聞き出してくる。相手に好意を抱いたところで「2人の将来のため投資で金を稼ぎ、結婚後の蓄えにしよう」などと、投資を勧めてくる」といい、「面会を求めても何かと理由をつけて会うことは避けられる」などと紹介しています。

SNS上で著名人などをかたって投資に勧誘する「SNS型投資詐欺」や「ロマンス詐欺」の2025年2月末における認知・検挙状況等が警察庁から公表されています。被害総額は前年同月から減少したとはいえ、残念ながら、いまだ勢いは衰えていないと言ってよい状況です。

▼警察庁 令和7年2月末におけるSNS型投資・ロマンス詐欺の認知・検挙状況等について
  • 認知状況(令和7年2月)
    • SNS型投資・ロマンス詐欺の認知件数(前年同期比)は1,409件(+95件)、被害額(前年同期比)は約153.9億円(▲3.8億円)、検挙件数は48件(+42件)、検挙人員は24人(+21人)
    • SNS型投資詐欺の認知件数(前年同期比)は692件(▲262件)、被害額(前年同期比)は約74.9億円(▲46.3億円)、検挙件数は26件(+24件)、検挙人員は10人(+8人)
    • SNS型ロマンス詐欺の認知件数(前年同期比)は717件(+357件)、被害額(前年同期比)は約79.0億円(+42.4億円)、検挙件数は22件(+18件)、検挙人員は14人(+13人)
    • 当初接触ツールについて、インスタグラム19.1%、LINE15.8%、FB13.3%、X12.1%、投資のサイト9.0%、TikTok8.1%、マッチングアプリ6.1%
    • 被害時の連絡ツールについて、LINE86.4%、その他SNS8.4%
    • 被害金の主たる交付形態について、振込67.3%、暗号資産30.1%など
    • 当初接触手段について、ダイレクトメッセージ55.9%、バナー等広告26.4%、投稿7.7%、グループ招待6.4%など
    • 被害者との当初の接触手段(「バナー等広告」及び「ダイレクトメッセージ」)の内訳(ツール別)について、ダイレクトメッセージでは、インスタグラム24.3%、FB20.6%、LINE14.2%、X13.1%、マッチングアプリ12.9%%など、バナー等広告では、投資のサイト23.0%、TikTok17.5%、インスタグラム16.9%、その他のサイト9.3%、YouTube 8.7%、FB8.2%、LINE6.6%、X5.5%など
  • SNS型ロマンス詐欺の被害発生状況
    • 当初接触ツールについて、マッチングアプリ30.8%、インスタグラム24.3%、FB20.2%など
    • 被害時の連絡ツール(欺罔が行われた主たる通信手段)について、LINE92.6%、その他SNS5.4%
    • 被害金の主たる交付形態について、振込64.4%、暗号資産29.4%など
    • 被害者との当初の接触手段について、ダイレクトメッセージ92.5%、その他7.5%
    • 被害者との当初の接触手段(「ダイレクトメッセージ」)の内訳(ツール別)について、マッチングアプリ31.1%、インスタグラム25.6%、FB20.7%、TikTok8.3%など
  • SNS型投資・ロマンス詐欺のインターネットバンキング(IB)の利用率
    • 認知件数(総数928件)について、IBを利用した振込55.9%、IB以外の振込44.1%
    • 被害額(総額100.8億円)について、IBを利用した振込66.2%、IB以外の振込33.8%

警察庁から、令和7年(2025年)2月末の特殊詐欺の認知・検挙状況等について発表されています。2か月の数字のため、前年との比較についてはブレがありますが、おおよその傾向を確認できると思われます。

▼警察庁 令和7年2月末の特殊詐欺の認知・検挙状況等について

令和7年2月末における特殊詐欺全体の認知件数は3,840件(前年同期2.164件、前年同期比+77.4%)、被害総額は170.9億円(47.9億円、+256.8%)、検挙件数は859件(850件、+1.1%)、検挙人員は316人(299人、+5.7%)となりました。認知件数や被害総額が引き続き大きく増加している点が特徴です。うちオレオレ詐欺の認知件数は1,539件(448件、+243.5%)、被害総額は124.3億円(19.9億円、+525.5%)、検挙件数は302件(203件、+48.8%)、検挙人員は144人(106人、+35.8%)となり、認知件数、被害総額が大きく増加し、かつ、検挙件数、検挙人員ともに増加に転じています。こうしたオレオレ詐欺の傾向が特殊詐欺全体を押し上げる形となっている点に注意が必要です。また、還付金詐欺の認知件数は534件(568件、▲6.0%)、被害総額は9.5億円(7.9億円、+19.6%)、検挙件数は103件(117件、▲12.0%)、検挙人員は23人(24人、▲4.2%)と認知件数は減少、被害総額が増加となりました。そもそも還付金詐欺は、自治体や保健所、税務署の職員などを名乗るうその電話から始まり、医療費や健康保険・介護保険の保険料、年金、税金などの過払い金や未払い金があるなどと偽り、携帯電話を持って近くのATMに行くよう仕向けるものです。被害者がATMに着くと、電話を通じて言葉巧みに操作させ(このあたりの巧妙な手口については、暴排トピックス2021年6月号を参照ください)、口座の金を犯人側の口座に振り込ませます。一方、ATMに行く前の段階の家族によるものも含め、声かけで特殊詐欺の被害を防いでおり、警察庁は「ATMでたまたま居合わせた一般の人も、気になるお年寄りがいたらぜひ声をかけてほしい」と訴えていますが、対策をかいくぐるケースも後を絶たない現状があり、それが被害の高止まりの背景となっています。とはいえ、本コラムでも毎回紹介しているように金融機関やコンビニでの被害防止の取組みが浸透しつつあり、ATMを使った還付金詐欺が難しくなっているのも事実で、そのためか、オレオレ詐欺へと回帰している可能性も考えられるところです(繰り返しますが、還付金詐欺自体事態、大変高止まりした状況にあります)。最近では、闇バイトなどを通じて受け子のなり手が増えたこと、外国人の新たな活用など、詐欺グループにとって受け子は「使い捨ての駒」であり、仮に受け子が逮捕されても「顔も知らない指示役には捜査の手が届きにくいことなどもその傾向を後押ししているものと考えられます。特殊詐欺は、騙す方とそれを防止する取り組みの「いたちごっこ」が数十年続く中、その手口や対策が変遷しており、流行り廃りが激しいことが特徴です。常に手口の動向や対策の社会的浸透状況などをモニタリングして、対策の「隙」が生じないように努めていくことが求められています。

また、キャッシュカード詐欺盗の認知件数は170件(225件、▲24.4%)、被害総額は2.1億円(2.7億円、▲21.4%)、検挙件数は174件(237件、▲26.6%)、検挙人員は57人(63人、▲9.5%)と、認知件数・被害総額ともに減少という結果となっています(上記の考え方で言えば、暗証番号を聞き出す、カードをすり替えるなどオレオレ詐欺より手が込んでおり摘発のリスクが高いこと、さらには社会的に手口も知られるようになったことか影響している可能性も指摘されています。なお、前述したとおり、外国人の受け子が声を発することなく行うケースも出ています。さらには、前述したとおり、キャッシュカードではなく「現金」入りの封筒で同様のすり替えを行う手口も出ています)。また、預貯金詐欺の認知件数は321件(267件、+20.2%)、被害総額は3.1億円(2.4億円、+25.8%)、検挙件数は195件(248件、▲21.4%)、検挙人員は47人(80人、▲41.3%)となりました。認知件数・被害総額ともに大きく増加に転じている点が注目されます。その他、架空料金請求詐欺の認知件数は1,062件(579件、+83.4%)、被害総額は25.3億円(13.9億円、+82.0%)、検挙件数は64件(43件、+48.9%)、検挙人員は36人(22人、+63.6%)と、認知件数・被害総額・検挙件数・検挙人員のすべてにおいて大幅ま増加が目立ちます。融資保証金詐欺の認知件数は69件(33件、+100.0%)、被害総額は1.0億円(0.4億円、+143.5%)、検挙件数は7件(1件、+600.0%)、検挙人員は2人(0人)、金融商品詐欺の認知件数は22件(4件、+450.0%)、被害総額は2.0億円(0.1億円、+2648.7%)、検挙件数は7件(0件)、検挙人員は6人(1人、+500.0%)、ギャンブル詐欺の認知件数は7件(3件、+133.3%)、被害総額は0.0億円(0.1億円、▲73.0%)、検挙件数は2件(0件)、検挙人員は0人(0人)などとなっています。

組織犯罪処罰法違反については、検挙件数は138件(58件、+137.9%)、検挙人員は35人(21人、+66.7%)、口座開設詐欺の検挙件数は168件(127件、+32.3%)、検挙人員は88人(49人、+79.6%)、盗品等譲受け等の検挙件数は1件(0件)、検挙人員は0人(0人)、犯罪収益移転防止法違反の検挙件数は628件(526件、+19.4%)、検挙人員は471人(385人、+22.3%)、携帯電話契約詐欺の検挙件数は19件(26件、▲26.9%)、検挙人員は19人(26人、26.9%)、携帯電話不正利用防止法違反の検挙件数は5件(7件、▲28.6%)、検挙人員は4人(1人、+200.0%)などとなっています。とりわけ犯罪収益移転防止法違反が大きく増加している点が注目されます。また、被害者の年齢・性別構成について、特殊詐欺全体では男性43.0%、女性57.0%、60歳以上62.0%、70歳以上43.0%、預貯金詐欺では男性13.1%、女性86.9%、60歳以上100.0%、70歳以上100.0%、架空料金請求詐欺では男性54.6%、女性45.4%、60歳以上50.5%、70歳以上26.5%、融資保証金詐欺では男性76.9%、女性23.1%、60歳以上20.5%、70歳以上2.6%、特殊詐欺被害者全体に占める高齢被害者(65歳以上)の割合について、特殊詐欺 54.0%(男性35.2%、女性64.8%)、オレオレ詐欺 46.5%(29.0%、71.0%)、預貯金詐欺 100.0%(13.1%、86.9%)、架空料金請求詐欺 38.7%(64.5%、35.5%)、還付金詐欺 79.6%(36.3%、63.7%)、融資保証金詐欺 15.4%(66.7%、33.3%)、金融商品詐欺 50.0%(28.6%、71.4%)、ギャンブル詐欺0%、交際あっせん詐欺 29.2%(100.0%、0.0%)、その他の特殊詐欺 27.0%(30.0%、70.0%)、キャッシュカード詐欺盗 97.3%(21.1%、78.9%)などとなっています。犯罪類型によって、被害者像が大きく異なることをあらためて認識し、被害者像に応じたきめ細かい対策を行う必要性を感じさせます。

特殊詐欺、SNS型投資詐欺・ロマンス詐欺を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。金額の大きな事例を中心に取り上げています。

  • 兵庫県警伊丹署は、伊丹市の会社経営の70代の男性が2024年12月から2025年3月にかけて、SNSで知り合った相手に計約1億5500万円をだまし取られたと発表しています。報道によれば、男性は2024年11月にSNSで、ソマリアで産婦人科医として働く日本人女性を名乗る人物と知り合い、「帰国したい」「300万ドル(約4億5000万円)の退職金をもらった」と告げられ、「先にお金やダイヤモンドを入れた箱を日本に送るので受け取って」などと頼まれ了承、その後、外交官を名乗る人物からメールが届き、税関を通すための費用などを要求され、男性はインターネットバンキングなどで指定された複数の口座に計61回にわたって、お金を振り込んだといいます。男性が、家族に相談したことから被害が発覚したものです。
  • 愛知県警天白署は、SNS型投資詐欺で70代の男性が約1億4千万円の詐取被害にあったと発表しています。報道によれば、2024年12月ごろ、SNSで見つけた投資サイトにアクセスしてメッセージをやり取りしたところ、「別の投資グループ」を紹介され、このグループからAIを用いた投資アプリを紹介されるなどし、男性は2025年2~3月に指定された口座に合計約1億4千万円の現金を振り込んだといいます。男性が問い合わせしたところ、「すぐには対応できない」との返信が続き、不審に思い警察に相談し、被害が判明したものです。
  • 佐賀県警は、佐賀市内に住む50代男性が、警察官や検察官を名乗る男女から携帯電話が詐欺に使われているなどと電話で言われ、計約1億4290万円をだまし取られたと発表しています。報道によれば、2024年10月、男性に警察官を名乗る男から電話があり、「あなた名義の携帯電話で不正なメールが送られている」などと言われ、1億4千万円ほどの被害が出ていると伝えられ、その後、検察官を名乗る女から電話があり「逮捕状が出ている」、「保釈金を支払う必要がある」などと言われ、同12月19日にかけて39回にわたり、指定された複数の口座に計約1億4290万円を振り込んだといいます。
  • 埼玉県警所沢署は、所沢市の60代の男性が約1億658万円をだまし取られる詐欺被害にあったと発表しています。報道によれば、男性は2024年12月から数回にわたり、警察官などをかたる人物からかかってきた電話で「マネー・ローンダリングの容疑がかかっている」、「査察調査で紙幣を確認する必要がある」などと言われ、2025年2月10日までに、金融機関のATMから指示された口座に19回現金を振り込み、自宅敷地内に現金を入れたポリ袋を置くという方法でも3回渡したといいます。
  • 高齢者から現金約1億円をだまし取ったなどとして、警視庁は、東京都建設局第六建設事務所職員を詐欺と電子計算機使用詐欺の疑いで逮捕しています。報道によれば、容疑者は2024年11月4日~2025年1月8日に何者かと共謀し、警察官などをかたって東京都町田市の60代男性に「有料サイトの利用料金が未払いだ。このままだと民事裁判になる」「不正に利益を得た疑いがある。警察でお金を調べる」などとうその電話をかけ、176回にわたって計約1億円を振り込ませてだまし取った疑いがもたれているほか、2024年12月16~24日には、だまし取った金のうち850万円を自身の口座から別の口座に移した疑いももたれています。2025年1月、男性の知人から町田署に相談があり、発覚したものです。
  • 千葉県警市原署は、市原市の80代の女性が金塊7.4キロ(時価計約1億円相当)をだまし取られたと発表しています。報道によれば、女性宅に2024年7月頃から「インターネットホットラインセンター」の職員や高知県警の警察官をかたる男から「あなた名義のクレジットカードが高知県で使用されている」「犯人を捕まえるために、あなたの金回りを調べる必要がある」などと電話があり、その後、都内の貴金属店で金を購入するようLINEで指示を受け、複数回にわたり金塊を購入、指示に従って金塊を自宅の玄関に置き、だまし取られたものです。
  • 警視庁四谷署は、東京都新宿区内の60代男性が携帯電話会社や、警察官をかたる人物に約1億円相当の暗号資産をだまし取られる特殊詐欺にあったと発表しています。報道によれば、2025年3月、男性宅の電話に携帯電話会社を装って「料金が未納になっている。偽造免許証を使って契約されているので被害届を提出してほしい」などと連絡があり、大阪府警の虚偽の電話番号を伝えられ、同日中に府警の警察官をかたる人物から、「被害届を提出するために大阪に来てほしい」「犯人の家を調べたら、あなたの通帳もある」といい、保有する口座の数や残高を教えるよう促され、LINEのビデオ通話に誘導され、「不法行為に加担しているのではないか」となどといわれたといいます。さらに別の警察官をかたる人物からは「お金を暗号資産に変えることで共犯ではないと証明される」などうその説明を受けたといい、男性は新しい口座を開設し、暗号資産約1億円相当を指定された口座に10回に分けて送金したものです。
  • 長野県警軽井沢署は、北佐久郡の70代の男性が5980万円余りをだまし取られるSNS型投資・ロマンス詐欺の被害にあったと発表しています。報道によれば、男性は2024年11月中旬、SNSで知り合った女性を名乗る人物から「一緒にネットショッピングを学びませんか」「一緒に幸せな生活を築きたい」などのメッセージをSNSで受け取り、男性は同12月上旬から下旬にかけ、商品購入費などの名目で相手の指定口座にネットバンキングで15回にわたり5980万7744円を振り込んだといいます。その後、男性が東信地方の金融機関で振り込もうとしたところ、詐欺を疑った職員に声をかけられて警察に相談し、被害に気付いたものです。

特殊詐欺などの被害防止に向けて、大阪府警吹田署が金融機関やコンビニエンスストアと協力した本格的な対策に乗り出しています。同署のまとめによると、2024年、管内で発生した特殊詐欺事件は128件で府内の警察署でワーストといい、同署関係者は「実効性の高い対策が必要だ」と危機感を募らせています。吹田市の北おおさか信用金庫吹田支店では2025年2月、川畑・前署長が市内の4支店の行員らに対して特殊詐欺の手口について講義を行っています。同信用金庫は2024年12月、特殊詐欺の被害防止に向け府内8署と連携協定を締結、搭載されたAIが、電話しながら操作する姿を認識すると取引を停止する機能を持ったATMを吹田支店に導入するなどの措置を行っているといいます。吹田市内のコンビニでも犯罪防止に向けた取り組みが広がっており、同署と市、日本フランチャイズチェーン協会などが、市内のコンビニを「安心安全の都市(まち)づくりスポット」に指定、各店舗で「緊急時は110番」などと書かれたパネルを掲示したほか、警察官らによる巡回を強化するなどしているといいます。こうした連携は他の自治体や金融機関、コンビニなどにも参考になるものと思いますし、同様の取り組みが拡がることを期待したいと思います

(3)薬物を巡る動向

冒頭に取り上げた「令和6年の組織犯罪の情勢について」(警察庁)から、薬物事犯に関する部分を以下、紹介します。このパートでは大麻の蔓延に関する実態調査結果もレポートされています。大麻が絡む事件で警察が2024年に摘発したのは6078人で、過去最多だった2023年から404人減少したものの過去2番目に多い結果となりました。若者を中心に乱用されているといい、依然として深刻な状況となっています。大麻が絡む事件での摘発人数は2013年から増加傾向で、この10年間で約3倍になりました。特に若者の摘発が目立ち、20代は3350人、10代以下は1128人で、全体の7割超を20代以下が占めています。また、大麻を初めて使用する年齢も若年化しており、大麻取締法違反(単純所持)の疑いで2024年10~11月に摘発された人に初めて大麻を使った年齢を調査したところ、2024年は約半数が10代以下と回答、16歳で使い始めたという回答が2割超で最も多くなりました始めた理由では、全年代で好奇心や興味本位が目立ちました。また、20代以下はインターネット経由で入手方法を知った人が多く、そのほとんどがXやテレグラムを利用していました。大麻の有害性(危険性)の認識には一定の向上が見られている点は評価できますが、以前として、その認識が薄いことは大きな課題だといえます(この点は、後述するオンラインカジノの違法性の認識の薄さと通ずるものがあり、より一層の広報による周知、啓蒙・啓発活動が必要だといえます)。一方、コカインの摘発も目立っています。2024年は586人で2023年から214人増加、この10年間で7倍近く増え、摘発人数の半数超を20代が占めており、3年間で3倍に急増しています。コカインは密輸入品の押収量も大幅に増えており、2024年は大量に押収した事件もあり、231.8キロで2023年から5倍に増加、摘発件数が増えている背景に、世界的な流通の拡大もあるとみられています。また、覚せい剤の摘発が2024年は前年比210人増の6124人で、9年ぶりに増加に転じています。筆者としては、覚せい剤の動向が気になります。

▼警察庁 令和6年の組織犯罪の情勢について
  • 令和6年における薬物情勢の特徴としては、以下のことが挙げられる。
    • 近年、薬物事犯の検挙人員は、おおむね横ばいで推移しているところ、令和6年中は1万3,462人(前年比+132人)と、前年より僅かに増加した。
    • 覚せい剤事犯の検挙人員は、第三次覚せい剤乱用期のピークであった平成9年の1万9,722人から減少傾向にあったところ、令和6年中は6,124人(同+210人)と、前年より増加した。
    • 大麻事犯の検挙人員は、平成26年から増加傾向にあったところ、令和6年中は6,078人(同-404人)と、過去最多となった前年より減少したものの、引き続き高い水準となっている。
    • 麻薬及び向精神薬事犯の検挙人員は1,250人(同+322人)と、前年より大幅に増加し、平成以降で初めて1,000人を超えた。
    • 薬物事犯のうち、密売、密輸入等に係る営利犯検挙人員は1,148人(同-153人)と、前年より減少したが、このうち、暴力団構成員等が317人(構成比率27.6%)、外国人が257人(同22.4%)と、いずれも高い割合を占めている。
    • 危険ドラッグ事犯の検挙人員は657人(前年比+233人)と、前年より大幅に増加し、特に若年層における乱用者の増加が顕著である。
    • 薬物事犯の検挙人員のうち、暴力団構成員等が2,346人(構成比率17.4%)、外国人が1,288人(同9.6%)、匿名・流動型犯罪グループによるものとみられるものが917人(同6.8%)であり、薬物事犯には、依然として、暴力団、来日外国人組織、匿名・流動型犯罪グループ等の犯罪組織が深く関与し、その資金獲得活動の一つとなっている実態が認められる。
    • 以上のとおり、減少傾向にあった覚せい剤事犯の検挙人員が増加したことや大麻事犯の検挙人員が高い水準にあることに加え、薬物の密売、密輸入等に暴力団や外国人が深く関与している状況がうかがえるなど、我が国の薬物情勢は依然として厳しい状況にある。
    • 特に、大麻や危険ドラッグについては、近年、若年層の乱用者が大幅に増加するなど、憂慮すべき状況にあることから、令和6年12月に大麻取締法及び麻薬取締法の一部を改正する法律が施行され、大麻の不正な施用について罰則規定が適用されることとなったことなどを踏まえ、これら薬物事犯に対する取締りをより一層強化するとともに、インターネット上における違法・有害情報の排除対策や若年層をターゲットとした広報啓発活動を更に推進するなど、引き続き、総合的な対策を講じていく必要がある。
    • 覚せい剤事犯の検挙人員は、第三次覚せい剤乱用期のピークであった平成9年の1万9,722人から減少傾向にあり、平成30年以降、1万人を下回っているところ、令和6年中の検挙人員は6,124人と、前年より増加した。なお、検挙人員のうち、暴力団構成員等は1,736人(構成比率28.3%)、外国人は579人(同9.5%)となっている。年齢層別検挙人員は、20歳未満が113人、20歳代が861人、30歳代が1,259人、40歳代が1,801人、50歳代が1,454人、60歳以上が636人であり、最多は40歳代で、次いで50歳代となっている。
    • 大麻事犯の検挙人員は、平成26年から増加傾向にあったところ、令和6年中は6,078人と、過去最多となった前年より減少したものの、6,000人を超える高い水準となっている。このうち、暴力団構成員等は490人(構成比率8.1%)、外国人は470人(同7.7%)となっている。また、大麻の主な種類別でみると、乾燥大麻に関する検挙人員が4,439人(同73.0%)で、大麻濃縮物に関する検挙人員が899人(同14.8%)となっている。年齢層別検挙人員でみると、最多は20歳代の3,350人(構成比率55.1%)で、次いで20歳未満の1,128人(同18.6%)となっており、これらの年齢層で検挙人員全体の73.7%を占めている。20歳未満の検挙人員については、各年齢とも増加傾向にあったところ、令和6年中の一部の年齢では検挙人員が前年より減少した。学校区分による検挙人員をみると、大学生等が229人、高校生が206人、中学生が26人、専修学校生等が94人と、いずれも過去10年間で大幅に増加している。
    • 覚せい剤事犯の検挙人員(6,124人)のうち、暴力団構成員等が28.3%(1,736人)を占めている。組織別では、このうちの78.1%を六代目山口組、住吉会及び稲川会の3団体が占めている。大麻事犯の検挙人員(6,078人)のうち、暴力団構成員等が8.1%(490人)を占めている。組織別では、このうちの76.1%を六代目山口組、稲川会及び住吉会の3団体が占めている
    • 薬物密売関連事犯の検挙人員のうち、暴力団構成員等が252人(構成比率32.9%)を占めている。組織別では、このうちの80.6%を六代目山口組、住吉会及び稲川会の3団体が占めている。
    • また、覚せい剤密売関連事犯の検挙人員に占める暴力団構成員等の構成比率は50.6%と、いまだ過半数を占めており、依然として覚せい剤密売に係る犯罪収益が暴力団の資金源となっている実態がうかがえる。
    • 覚せい剤の密輸入事犯検挙人員は138人(前年比-137人)と、前年より減少し、このうち、暴力団構成員等は23人(同-28人)、外国人は83人(同-70人)となっている。主な態様別では、航空機利用による覚せい剤の携帯密輸入事犯が59件(前年比-29件)、国際宅配便が28件(同-44件)、事業用貨物が7件(同-4件)、国際郵便が6件(同-19件)となっている。仕出国・地域別では、カナダが19件(構成比率18.8%)と最も多く、次いでメキシコが18件(同17.8%)、アメリカが16件(同15.8%)、タイ及びマレーシアが各10件(同各9.9%)等となっている。
    • 大麻の密輸入事犯検挙人員は109人(前年比+34人)と、前年より増加し、このうち暴力団構成員等は15人(同+13人)、外国人は58人(同+15人)となっている。主な態様別では、国際宅配便が37件(前年比+13件)、航空機利用の携帯密輸入が36件(同+5件)、国際郵便が23件(同+6件)と、いずれも前年より増加している。仕出国・地域別では、タイが44件(構成比率44.0%)と最も多く、次いでアメリカが30件(同30.0%)、ベトナムが8件(同8.0%)、オーストラリア及びカナダが各3件(同各3.0%)等となっている。
    • 危険ドラッグ事犯の検挙人員は、平成27年のピーク以降、減少傾向が続いていたが、令和4年に増加に転じ、令和6年中は657人(前年比+233人)と、前年より大幅に増加した。このうち、暴力団構成員等は9人(同±0人)、外国人は32人(同-14人)となっているほか、少年は86人(同+48人)となっている。適用法令別では、医薬品医療機器等法違反が398人(同+78人)、麻薬取締法違反が259人(同+155人)と、いずれも大幅に増加した。年齢層別検挙人員は、20歳未満が86人、20歳代が324人、30歳代が118人、40歳代が58人、50歳以上が29人となっており、20歳代以下の若年層が、全体の6割以上を占めている。
  • 大麻乱用者の実態
    • 対象者が初めて大麻を使用した年齢は、20歳未満が49.4%、20歳代が31.9%と、30歳未満で8割以上を占める(最低年齢は11歳)。
    • 初回使用年齢層の構成比を平成29年と比較すると、20歳未満が36.4%から49.4%に増加しており、若年層の中でも特に20歳未満での乱用拡大が懸念される。
    • 大麻を使用した動機は、「好奇心・興味本位」が最多で、「その場の雰囲気」と合わせると、いずれの年齢層でも5割以上を占める。大麻を初めて使用したきっかけは、いずれの年齢層でも「誘われて」が約6割を占める。
    • 検挙事実となった大麻の入手先(譲渡人)を知った方法は、30歳未満では「インターネット経由」が4割以上を占め、このうち9割以上がSNSを利用しており、近年、SNSが急速に普及したことにより、これまで以上に大麻の入手が容易になっている状況がうかがえる。
    • 「インターネット以外の方法」では、大麻の入手に「友人・知人」が関与しているケースが全体の約6割を占め、20歳未満では7割を超えるなど、年齢層が下がるほど、その傾向が顕著である。
    • 大麻に対する危険(有害)性の認識は、「全くない」及びは「あまりない」の割合が65.5%で、覚せい剤に対する危険(有害)性の認識と比較すると、著しく低い。一方で、前回調査(令和5年10月から同年11月までの間に大麻取締法違反(単純所持)で検挙された者のうち、1,060人について取りまとめたもの。以下同じ。)と比較すると、「大いにあり」及び「あり」の割合が25.1%と、10.7ポイント増加している。
    • なお、大麻に対する危険(有害)性を軽視する情報の入手先については、いずれの年齢層でも、「友人・知人」及び「インターネット」が多く、年齢層が低いほど、「友人・知人」の占める割合が高い傾向にあるほか、「インターネット」の占める割合は、20歳代が最も高い。
    • 大麻乱用者が感じる大麻の魅力は、いずれの年齢層においても「精神的効果」が最多となっており、年齢層が高いほど、その割合が高い傾向にある。
    • 一方で、30歳未満の若年層においては、SNS上に氾濫する「依存性が低い」といった大麻に関する誤った情報や大麻の入手方法の容易さに魅力を感じている者の割合が、30歳以上の壮年層と比べて高く、SNSの普及が若年層における大麻乱用拡大の一因となっている状況がうかがえる。
    • 今回の実態調査によって、前回調査に引き続き、大麻を使用し始めた動機やきっかけ、入手先、危険(有害)性に関する誤った認識の形成等、様々な面で30歳未満の若年層の多くが身近な環境に影響されている実態が改めて裏付けられた。
    • また、大麻に対する危険(有害)性を認識している者の割合が前回調査(14.3%)から上昇し、大麻の不正な施用に罰則が適用されることとなったことや各種広報啓発等による一定の効果がみられる一方、依然として、大麻に関する誤った認識を持つ者が多い実態も明らかとなった。
    • 引き続き、供給の遮断と需要の根絶に向け、厳正な取締りを一層強力に推進するとともに、若年層を取り巻く環境の健全化、SNSにおける違法・有害情報の排除、大麻の危険(有害)性を正しく認識できるような広報啓発等を積極的に行い、若年層を中心とした大麻の乱用拡大に歯止めを掛けることが重要である。

暴力団が関係した最近の薬物事犯に関する報道から、いくつか紹介します。

  • 覚せい剤取締法違反などの疑いで六代目山口組3次団体組長や同じ組の幹部ら男4人が逮捕されています。報道によれば、共謀し2025年2月、愛知県一宮市の幹部の自宅に、覚せい剤約17.5グラム(115万3800円相当)と、乾燥大麻約0.8グラム(3800円相当)を販売目的で所持していた疑いが持たれているほか、4人が出入りしていた名古屋市中区のアパートからは注射器およそ800本が見つかったということです。4人は常連客に対して電話などで販売していたとみられ、警察はこれまでに客8人を摘発しています。また、4人は、これまでに麻薬特例法違反などの疑いで2度逮捕されており、警察は売り上げが暴力団の資金源になっているとみて、押収した携帯電話を解析するなどして仕入れ先などを捜査しています。
  • 新潟県警長岡署と県警組織犯罪対策課は、覚せい剤取締法違反(譲渡)の疑いで、魚沼市の暴力団幹部を再逮捕しています。2023年8月上旬、長岡市内の屋外で、他人に覚せい剤約1グラムを4万円で譲り渡した疑いがもたれています。容疑者は2025年2月下旬、恐喝、傷害などの疑いで同署などに逮捕されています。

その他、国内の薬物事犯に関する最近の報道から、いくつか紹介します。

  • コカインが入ったラップの包みをのみ込み飛行機で密輸したとして、大阪府警は麻薬取締法違反(営利目的輸入)容疑で、いずれもブラジル国籍の男女を逮捕しています。報道によれば、女の体内には82個(約800グラム、末端価格約2千万円)、男には60個(約700グラム、同約1750万円)が隠されていたといいます。大阪府警はそれぞれ異なる密輸事件の「運び屋」とみており、入手経路などを調べています。2人の逮捕容疑は、それぞれ2025年1月下旬と2月上旬、ラップなどで包まれたコカインをブラジルから密輸したとしています。大阪税関などによると、容疑者の体内からは長さ約4.5センチ、直径約1.5センチの楕円体のラップが見つかったといい、大阪税関が関西国際空港で過去10年間に押収したコカインで、体内に隠されたものとしては最多だといいます。
  • 長野県警は、大麻リキッド約2.9キロをベトナムから密輸したとして、大麻取締法違反(営利目的輸入)の疑いで、同国籍の技能実習生を逮捕しています。報道によれば、大麻リキッドはボディークリームの容器に隠され、段ボールの中に衣類や生活雑貨とともに入っていたといい、県警は、他にも複数人が関与しているとみて、詳しく調べています。逮捕容疑は氏名不詳らと共に2024年11月、大麻リキッド約2.9キロを隠し入れた段ボール1箱を国際宅配貨物でベトナムから容疑者宅に発送し、輸入した疑いがもたれており、関西空港に到着後、大阪税関職員の検査で発覚したものです。
  • SNSで集客し、麻薬を密売したとして、九州厚生局麻薬取締部は、北九州市小倉北区の20代男性2人を麻薬取締法違反(営利目的共同譲渡)容疑などで逮捕・送検、福岡地検は2人を同法違反などで起訴しています。報道によれば、被告らはXで「営業中」などと投稿し、秘匿性の高い通信アプリ「テレグラム」に誘導、大麻はブロッコリー、コカインは自転車の絵文字で連絡し、自宅周辺の公園などで売っていたといい、テレグラムのフォロワーは約900人に上り、2024年9月~2025年1月の約5カ月で少なくとも2250万円の収益があったといいます。逮捕容疑は共謀し、2024年12月、小倉北区片野の駐車場で、国の許可を受けて顧客を装った麻薬取締官に対し、コカイン約0.5グラムを代金1万4000円で譲り渡したなどとしています。
  • 麻薬成分を含むグミを所持したとして、警視庁薬物銃器対策課は、麻薬取締法違反(所持)の疑いで、埼玉県警の30代の男性巡査部長を書類送検しています。薬銃課によると「違法と思っていなかった」という趣旨の供述をしているといいます。東京都台東区内のホテルで、違法成分の入ったグミを所持していたとされ、20代女性と一緒にグミを摂取した後に体調不良を訴え、従業員が110番通報、駆け付けた警察官が通報し、救急搬送されたものです。グミを鑑定した結果、違法成分が含まれていたことが判明、グミは通販サイトで「完全に合法」とうたって販売されていたといいます。
  • 陸上自衛隊青野原駐屯地(兵庫県小野市)の第8高射特科群は、麻薬及び向精神薬取締法違反(所持)の疑いで逮捕・起訴された20代の3等陸曹を懲戒免職処分にしています。同駐屯地などによると、陸曹は2024年12月、神戸市西区の店舗駐車場で、乾燥大麻を所持していたとして、神戸西署に同容疑で逮捕されています。
  • 富山県警滑川署は名古屋市の職業不詳の19歳の男について、滑川市に駐車中の車内で大麻約0.9グラムを所持したとして麻薬取締法違反容疑で逮捕し、コカインを使用したとして同法違反容疑で再逮捕しています。報道によれば、交通事故の通報があり、署員が現場の路上に駐車中だった男の事故車両を調べ、大麻を発見したもので、再逮捕容疑は、富山県や周辺でコカインを使用したというものです。
  • 営利目的で2023年8月、メキシコから覚せい剤を輸入したなどとして、覚せい剤取締法違反などの罪に問われたウクライナ国籍の被告は、求刑通り懲役20年、罰金1千万円を言い渡した富山地裁判決を不服として、名古屋高裁金沢支部に控訴しています。判決などによると、被告は2023年8月、氏名不詳者らと共謀し、航空貨物に覚せい剤を隠してメキシコから成田空港に輸入、同9月、富山市内の会社で覚せい剤を所持したとされます。
  • 医薬品の過剰摂取(オーバードーズ、OD)を啓発する厚生労働省の広告動画が削除されました。ゆるいタッチの羊のキャラクターが、「ODするよりSD(相談)しよう」と呼びかける内容で、関係者から「過剰摂取の被害の深刻さに比べてトーンが軽すぎる」などと批判が出ていたものです。同省は「若者を中心に被害が拡大する中、広く相談支援につなげるため、ある程度のキャッチーさは必要と考えた。批判は真摯に受け止める」としています。SNS上でも「ダジャレにしても予防やサポートにはならない」「韻を踏み、『うまいことを言ってやった』という雰囲気が頭に来る」などの声が上がり、羊のキャラクターについても、「睡眠薬を連想させ、ちゃかしているように感じる」といった指摘がありました。風邪薬やせき止めなどを大量に服用するODは、一時的に気分が高揚することもある一方、意識障害や呼吸不全を引き起こす危険があり、厚生労働省と総務省消防庁の調査によると、ODが原因と疑われる救急搬送者は2020年が9595人、2021年が1万16人、2022年が1万682人と増加傾向にあり、このうち10~20代の若年層が、各年とも半数近くを占めています

トランプ米政権が中国、メキシコ、カナダに対し、関税引き上げの強硬策を実行しました。その原因とされたのが、米国内でまん延する合成麻薬「フェンタニル」であり、米政府は、中国がメキシコ経由でフェンタニルを送り込み、米国社会を荒廃させていると主張、その陰の主役が、メキシコの麻薬カルテルという構図です。高関税の圧力にさらされたメキシコ政府は同国内で服役していたCJNG幹部ら29人を米国に引き渡しましたが、さらに米政府は「ハリスコ新世代カルテル」(CJNG)など8つの麻薬カルテルを「外国テロ組織」に指定して取り締まりを強めていますが、イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)やアルカイダとならぶ危険な存在という位置づけである点が驚かされます。ただ、CJNGについては、米麻薬取締局(DEA)が2024年5月に公表した年次報告書で「CJNGは何十億ドルもの麻薬資金を使い、世界各地で拠点の拡充と生産強化に動いている。狙いは有望市場であるオーストラリアや日本、欧州での勢力拡大だ」と、日本との関係が言及されています。その背景には、日本で覚せい剤は1グラム430ドルと、タイの14倍にもなり、麻薬組織にとってほかのどの地域に送るよりも収益性が高く、それだけ密売も急増しているという事情があります。さらに、覚せい剤に限らず、コカイン、ヘロイン、大麻、そしてフェンタニルなど、日本で急速に危険薬物が出回っているおそれが浮上しています。日本経済新聞によれば、メキシコで最も麻薬犯罪に迫る専門家ラベロがいま、注目しているのが「横浜コネクション」と呼ぶ流通経路で、「国際的なフェンタニル取引の一大中継基地として、横浜港の存在感が高まっている。米国のDEAとメキシコ当局もマークしている」と指摘されています。また、日本に中南米産の覚せい剤やコカインが運び込まれているだけでなく、合成麻薬の原料となる化学物質をメキシコへと送り出す、横浜港がいわば「出荷センター」の役割を担いだしたとみられています。その背景には、世界的にも日本の貨物検査は厳しいといわれていることがあり、麻薬組織からすれば、横浜経由という「箔」は何よりも価値を帯びるのだといいます。報道によれば、メキシコの税関当局が2022年11月に同国中西部のマンサニージョ港で、3025リットルにおよぶフェンタニル原料を差し押さえていたといいます。さらに、CJNGは日本の主要暴力団との関係も指摘されています。警視庁はDEAから情報提供を受け、2022年に複数の暴力団関係者を逮捕、メキシコから末端価格が101億円にのぼる計169キロもの覚せい剤を密輸した疑いがもたれています。船を接岸させる際に使う資材などに隠していたといい、DEAや日本の警察関係者はCJNGが偽装して送り出したとみているといいます。横浜ではメキシコがかかわる麻薬摘発が続いています。日本経済新聞は、「日本は海に囲まれた海洋国家だ。海上ルートを通じて危険薬物がいつ入ってくるかわからない。密貿易の中継拠点として、いや応なく海外の麻薬ビジネスに加担してしまっている危険性も消せない」、「日本の警察当局はフェンタニルの国内流通を否定している。警察庁は「日本国内ではフェンタニルの使用や所持による検挙事例は確認できていない」とのスタンスだ。密貿易の手口は一段と悪質さを増している。反社会的勢力からすれば、日本は中国や韓国、東南アジアに近く、太平洋貿易の拠点という「地の利」もある」、「モノもカネも情報も、瞬時に世界を駆け巡る時代だ。日本が国際的な麻薬ネットワークに組み込まれているおそれはどこまでもぬぐえない。そして敵も、目に見える犯罪組織だけとは限らない」と指摘していますが、大変説得力があります。とりわけ、フェンタニルについては、化学テロへの悪用も考えられるところであり、国際テロ組織やローン・オフェンダーなどのテロリストの手に渡る危険性を考えれば、「日本が国際的な麻薬ネットワークに組み込まれている」という実態はかなり恐ろしい実態であると思います。

メキシコのハルフシュ治安・市民保護相は、麻薬組織への勧誘活動に関与したとして、主犯格の男を含む49人を逮捕したと発表しています。主にSNSを使い、合法の仕事を装って人材を募ったとしており、手口は日本で社会問題化する闇バイトに類似、実際には銃器の使用訓練などを受けさせて勢力拡大を図ったと指摘しています。報道によれば、麻薬組織は中部ハリスコ州に拠点を置く「ハリスコ新世代カルテル」で、勧誘活動は2024年5月から2025年3月まで実施され、警備員などを募集するとし、週に4000ペソ(約3万円)から1万2000ペソを稼げるとうたっていました。組織側は応募者を訓練のため同州グアダラハラ郊外の牧場に移送し、外部との連絡を遮断、訓練を断ったり、逃亡を図ったりした場合には殺害したと、一部の容疑者が供述しているといいます。

(4)テロリスクを巡る動向

1995年3月の地下鉄サリン事件、警察庁長官狙撃事件から30年が経過しました。一連の事件は、当時のオウム真理教によるテロとみてよいものですが、テロ対策という視点からみると、甘さが目立つ状況だったといえます。この30年で対策の質的向上が図られてきたものの、直近では、安部元首相銃撃事件や岸田前首相襲撃事件なども発生、テロとの戦いがいまだ道半ばであることを痛感させられます。日本経済新聞による露木・前警察庁長官のインタビュー記事は興味深く、「日本では都道府県ごとに警察本部があり、それぞれの管轄の中で活動するのが原則。このため連携をめぐる意識面の問題などもあったと思う。当時は各都道府県警に対する警察庁の権限が弱く、役割が『調整』にとどまってもいた」、「そこで翌年、警察法を改正し、管轄外で起きた事件でも、自分のところに影響が及ぶおそれがあれば捜査に乗り出せるようにした。その必要性を警察庁が判断し、警視庁などへ『指示』できる規定も設けた。この態勢の指示はその後、国際テロやサイバー攻撃などの分野に広げている」、「たとえば安倍晋三元首相銃撃事件のように、特定の組織に属さないローン・オフェンダー(単独の攻撃者)による犯罪といった新たな脅威が高まっている。これに対しては生活安全、地域、交通、警備など警察の各部署が持っている情報を集約し、テロなどにつながる可能性があるかどうかを判断していく」、「それでも把握しきれない部分は残るので、国が主導し、事件を発生の直前で食い止める体制をつくる。要人警護では、警察庁が体制や運用の基準を示したうえで都道府県警の警護計画を事前審査し、指導する仕組みを構築した」、「投資詐欺やロマンス詐欺、闇バイト事件ではSNSが使われており、都道府県警の管轄という概念ではくくれない。警察庁がすべての事件捜査をする必要はないが、国家的視点で考えて対処の仕組みや枠組みづくりを主導する必要性が一段と高まっている」、「サイバーの分野では通信を監視・分析して、攻撃の予兆があれば無力化できる能動的サイバー防御の導入が議論されている。サイバー以外でも、たとえばテロを抑止するための予防的な措置について、検討が必要ではないか。何かが起きてからでは取り返しがつかない。先手先手を打っていくということに尽きると思う」という内容で、大変示唆に富むものです。

地下鉄サリン事件は「化学テロ」事件としても衝撃的なものでした。世界的には2001年米同時多発テロ事件以降、テロの脅威への対応の重要性が高まっており、これを背景にCBRNテロ (化学、生物、放射性物質、 核兵器を用いるテロ)への対応が進んでいます。こうした中で発生したのが地下鉄サリン事件であり、世界を震撼させ、大きな注目を浴びました。国内では、化学テロ対策として、警察や自衛隊などで生物・化学テロへの対応が強化されてきました。本コラムでも継続的にその取り組みを取り上げてきましたが、事件後の化学テロ対策は、事件当日に活動した消防隊員の約1割が被災したことをふまえ、救助隊への防護服や除染機材の配備が重点的に進みました。教訓として導入されたのが「ゾーニング」の手法で、危険区域(ホットゾーン)、除染が必要な区域(ウォームゾーン)、治療などを行う区域(コールドゾーン)などに分け、防護装備により入れる人を限定するものです。事件から5年後の2012年には、警視庁と大阪府警にNBCテロ専門部隊が発足、その後9都道府県警に広がり、全国約200人体制で、化学防護服のほかに生物・化学剤検知器、放射線測定器など、高度な装備資機材を配備しています。また、サリンなどを吸った場合に有効なのが、「アトロピン」や「PAM」などの解毒剤で、6千人以上が重軽症となった事件では首都圏の備蓄量では足らず、製薬会社などの協力で他地域からかき集めた経緯があり、国や自治体は備蓄や連携の強化を進めています。2020年東京五輪に際しては、従来、医師や看護師にしか認められていなかった解毒剤の注射を、テロなどの緊急時には、一定の条件下で警察官や消防隊員らも行えるようにしました。医師が現場に近づけない場合などに早期に対処するためで、消防などによる注射の訓練も行われています。また、オウム真理教はボツリヌス菌や炭疽菌などの生物兵器によるテロを計画していました。国は生物テロ対策として致死率の高い天然痘の重症化を防ぐワクチンを一定量備蓄しています。また、核物質テロ対策では、放射性物質をまき散らすことを目的とした「汚い爆弾」に備え、放射線を測定する体制を整えています。一方、2025年3月に名古屋市内で開かれた日本災害医学会では、国民の危機意識の低さが議題となりました。報道によれば、サリン事件当日に被害者の診療にあたった「日本中毒情報センター」の奥村徹理事は「今、本格的な化学テロが起きたら、とんでもない数の死者が出る可能性がある」と懸念をあらわにしています。国土交通省の担当者からは2023年10月に東北新幹線車内で乗客のかばんから硫酸と硝酸が漏れた事故で、液体に近寄り携帯電話で撮影する乗客がいたことも紹介され、担当者は「あれがサリンだったら事件の二の舞いになった」と指摘しています。米国では、比較的入手しやすい医療用麻薬フェンタニルを大量破壊兵器とみなすべきだとの声もあがっています。本コラムでも継続的に指摘しているとおり、フェンタニルは過剰摂取すると死に至る薬物ですが、ロシア当局は2002年、モスクワ劇場で観客らを人質とした武装勢力の鎮圧にフェンタニルのガスを散布し、120人以上の人質が死亡したケースもあります。サリンとは異なるタイプの神経剤が暗殺などに使われた例もあり、簡易検知器で検出できないケースも想定され、国立病院機構大阪医療センター救命救急センターの大西光雄・診療部長は「多様化したテロに先入観を持たずに対応することが重要だ」と述べていますが、正に正鵠を射るものと思います。

今後のテロ対策を考えるうえで、「多様化したテロに先入観を持たずに対応することが重要」であるとはいえ、やはりAI/生成AIとの戦いも想定しておく必要があります。また、SNSやダークウェブなどさまざまな情報や犯罪インフラが手軽に入手できる環境が整ってしまっている現状があり、テロが容易に実行されやすくなっているといえます。2025年3月20日付日本経済新聞の記事「AIがテロを指南する 武器密造、オウム時代より容易に」は、そうした危惧をリアルに感じさせるものでした。具体的には、「「合法的に購入できる火薬の上限量は」「至近距離で撃つにはどうすればいいか」―。米陸軍特殊部隊「グリーンベレー」に所属していた男が教えを乞うた相手は、対話型AIサービスの「ChatGPT」だった。男は2025年1月1日、米西部ラスベガスのホテル入り口前で自爆テロを実行。自動車を爆発させ通行人ら7人が負傷した。現地警察の捜査で、生成AIを悪用し計画を練った形跡が見つかった。生成AIが指南するテロ。日本の警察幹部も「無縁ではいられない」とみる。個人が武器や爆薬を製造する事件は既に国内でも目立ち始めている。1月に兵庫県警が逮捕した男の自宅からは、「対戦車砲」を含む17丁の銃器が押収された。安倍晋三元首相を銃撃した被告は、動画投稿サイトを参考に銃の火薬を調合したとされる。インターネットのモニタリングを行うシエンプレ(東京・渋谷)によると、匿名性が高い闇サイト群「ダークウェブ」では拳銃や実弾を指す「チャカ」「マメ」といった隠語で設計図の譲渡や実物の売買が横行する。大手SNS上での投稿も確認された。担当者は「捜査当局の摘発で危険性が高い投稿が集まるサイトが閉鎖されても、すぐに同じようなサイトが立ち上がる」と危惧する。警察庁によると、モデルガンなどを加工した「改造銃」は暴力団関連を除き23年に68丁押収され、増加傾向にある。国家の転覆を狙ったオウム真理教も、1980~90年代にかけ武器と毒薬を密造した。当時それが可能だったのは、高度な専門知識を持った人材と、信者からお布施として集めた豊富な資金を確保していたためだ」、「公共政策調査会の板橋功研究センター長は「現代は凶行に必要なツールを作る障壁が大幅に下がった」と指摘する。集団によるテロリスクは消えていないが、現代は組織に属さない「ローン・オフェンダー(単独の攻撃者)」の脅威が増している。山梨県内の大型施設「サティアン」を中心としたオウムの武装化に比べ、個人の武器・爆薬の製造は端緒がつかみにくい。2023年4月に岸田文雄前首相の演説会を襲撃した被告は事件前から周到に機会を狙っていたが、警察は兆候を察知できなかった。ローン・オフェンダーは協力者がいない一方、それ故に武器の調達や犯行計画づくりには時間がかかると考えられてきた。しかし生成AIの発達により前提が覆りつつある」、「将来的には犯罪者の指令を受けたAIが人間に代わり、協力者の勧誘や綿密なテロ計画の立案を自律的に実行する可能性があるという。越前教授は「少人数でより大規模なテロ行為が容易になる」と懸念する」、「対峙する警察当局も生成AIの活用を急ぐ。銃や爆発物の製造などに関連するネット上の情報をAIが自動で抽出する仕組みを23年に導入した。越前教授は「攻撃を巡る兆候の把握や手法の分析など、AIを使ったテロ対策が主流となっていく」とみる」といった内容です。テロリスクは、ローン・オフェンダーの存在と各種犯罪インフラの整備、AI/生成AIによって、さらに「目に見えない」まま深く、確実に進行するものへと「深化・進化」してしまいました。これに対抗すべく、ローン・オフェンダーやテロの端緒を迅速に把握するための社会に対する啓蒙に加え、SNSやネット上の監視を含むテロ対策の「深化・進化」に向けた取り組みを急ぐ必要があります。なお、警視庁公安部に2025年4月1日、ローン・オフェンダー専従課として「公安3課」が発足しています。期待されているのは、前兆把握が難しいとされる単独テロの未然防止の役割です。複数の所属にまたがっていた情報の窓口を統一して「ワンストップ」化し、情報収集・分析と対策、捜査までを「シームレス」に行える体制を構築し、首都の治安を担う警視庁として、ローン・オフェンダー対策に特化した人材の育成も見据えるものです。また、新組織では、110番通報や警察相談など、各部門の前兆情報を一元的に集約するほか、SNSなどネット上の不審な投稿にも警戒、また、爆発物の原料となる化学物質の販売事業者や、異音や異臭に関する情報が集まる不動産事業者などとの連携も進めるとしています。

地下鉄サリン事件を引き起こした背景要因については、今の社会にも当てはまることも多く、いつ同様のテロが発生してもおかしくない状況といえます。2025年3月20日付朝日新聞の記事「オウム幹部を鑑定した心理学者の視点 カルト集団の30年後の現在地」によれば、「(カルトとは)『カリスマ』を中心とした全体主義的な構造を持ち、メンバーを虐待したり、金銭搾取したり、身勝手な正当化によって暴力をふるったりする団体全般を指します。言論の自由はなく、批判を許さない。個人の尊厳はなく、集団を優先させ、服従させる。プライバシーにも干渉します」、「ただ、程度の差こそあれ、同様の特徴を持つ団体はそこかしこにあります。部活動や会社にも、個人より全体を優先させる場面がある。軍隊ならその色合いは濃い。オウムなどは比べものになりませんが、こうした構造は集団のパフォーマンスを上げるのに有効で、よく取り入れられます」、「2020年の米大統領選後には『選挙が盗まれた』『ディープステート(影の政府)が裁判所やメディアを掌握した』という言説が氾濫し、トランプ支持者がホワイトハウスを襲撃しました。群衆が攻撃性を持つかどうかは、リーダーがどんな思想を持つかという偶然性によるところが大きい」、「いつの時代も社会に居心地の悪さを感じ、人生の意味に悩む人々がいます。カルトはその心の隙間を満たす存在だとアピールし、それに魅力を感じる人々が吸い寄せられるからでしょう」、「学生にも、ネット上の検索でカルトの知識も得られるから大丈夫だ、と言われることがあります。しかし、陰謀論などの特徴はファクトチェックが難しいことです。ネットでファクトチェックしたつもりになっても、一定の傾向の情報にさらされ続ける『フィルターバブル』の中に埋もれ、何が本当なのか分からない。結局はバイアスのかかった信念しか持てなくなる」、「カルト集団から発せられる『物語』はいつの時代も、社会になじめない人々に魅力的に響きます。それに身を委ねたくなるだけの人々の『剥奪感』は、30年前よりも強いのではないでしょうか。経済にも政治にも希望は持てず、無力感や閉塞感を感じている人は多い。満たされない感覚を抱く中で、それまでの社会にはない新しいルールや、超人的能力と強いリーダーシップを持つ人物に、希望を託してみたいと考えるのでしょう」といった指摘は、大変示唆に富むもので、強いリーダーシップだけでなく、「フィルターバブル」など「バイアス」によりあらたなテロが引き起こされる可能性についての言及は考えさせられます。また、2025年3月20日付産経新聞の記事「オカルトからスピリチュアル、SNSで拡散される陰謀論…「見えない道標」求める人々の心」も同様の文脈から、参考になります。具体的には、「20日で発生から30年となった地下鉄サリン事件を起こしたオウム真理教。最盛期には1万人以上の信者を抱え、高学歴の若者も多く含まれていた。なぜ暴走したのか。「オウム前後」の半世紀あまりを俯瞰すると、高度成長からバブルを経て長い経済低迷が続く今も人々が目に見えない道標を求め続ける姿が浮かぶ」、「新興宗教が受け入れられていた風潮も背景にオウムは入信者を増やしていった。超能力、解脱、人類救済計画…。荒唐無稽ともとれる教義はバブル景気に沸く日本で「空虚さ」を抱えていた若者たちをひきつけた。「巨大化・複雑化した世界の全体像が見渡せず、自分は『無意味な部品の一つ』としか感じられない。幻想的でわかりやすい世界観が求められる余地があった」。後継団体の関係者と面会するなどオウムについて研究する宗教学者の大田俊寛氏は、こう話す。経済発展により社会が都市化する中、自分のことを「誰とでも交換可能な存在」だと感じ、「本当の自分を発見し人生に意味を見いだしたい」と考えるようになったことも理由だと指摘する」、「教団は最終的に5段階の位階に基づく上意下達の組織となり、国家を模して24もの「省庁」が設置されるなど、役割が細分化されていった。島田氏は、組織化により個々の信者たちの「責任の所在」が曖昧になったことが、地下鉄サリンをはじめとした一連の凶悪事件につながったとみる」、「そして現在。インターネット社会が進展し、SNSを通じて世界を牛耳る「ディープステート(闇の政府)」の存在などの陰謀論が拡散され、人々に大きな影響をもたらしている。「新しいカルト的なサークルのように見える」。大田氏は、SNSを介した陰謀論を信じ込む人々についてこう表現し、教祖の描く世界観を盲目的に信奉した末に暴走したオウムの失敗を「リプレーしている印象を受ける」と懸念する。島田氏は、SNSが台頭した現代について「監視機能が強まり、凶悪事件を起こすような宗教団体が出てくる可能性は低い」と分析。一方で「社会からの逃げ場としての新興宗教が消えうせたこともあり、閉塞感は強まっている」と指摘した」といった内容です。細分化された組織により「責任の所在」が曖昧になることの危険性の指摘は興味深く、企業不祥事や「闇バイト」による特殊詐欺等でも同様の構図があると指摘できます。また、SNSの影響の大きさも考えさせられるところです。

地下鉄サリン事件を引き起こしたオウム真理教の脅威は後継団体に引き継がれていますが、その監視態勢の脆弱さが次のテロを生む可能性も指摘されているところです。団体規制法に基づく「観察処分」が2000年以降に適用され、公安調査庁が監視を続けています。立ち入り検査を行ったり、構成員や資産を報告させたりしていますが、強制的な権限はなく、証拠の押収などはできず、適用から25年がたち、監視の目は行き届きにくくなっているのが現状です。アレフが国に報告した資産は2019年2月の約12億8600万円から2024年2月に約800万円に急減、同庁は、出家信者らが代表や責任者の関連法人に資産を移転させているとみられています。こうした巨額の資産隠しが疑われる後継団体を相手に、被害者は賠償の履行も進まない「被害者救済」の観点からも課題は残されています。犯罪被害者給付金の支給対象になったのは、わずか数人にとどまっているのが現実であり、30年経っても国が被害者遺族に代わって強制執行や破産の申し立てを申請したりする法制度もないことには、むしろ違和感を覚えます。対照的に、無差別テロに対峙し、政府として迅速な動きを見せたのは米国であり、2001年9月、3万人近い死傷者を数えた米同時多発テロでは、事件の11日後に米議会が法律を成立させ、被害者補償基金が設立されています。遺族1家族あたり平均で2億円超を支給し、基金は3年未満で任務を終えていますが、補償金だけではなく、米政府や地元当局が資金を出し、救命作業にあたった消防士や現場付近の住民ら約7万人の健康状態を追跡する調査は、20年間にわたって続けられました。この大きな差を国として真摯に受け止め、解消に努めていくべきだと思います。

その他、海外におけるテ最近のロ/テロリスクの動向から、いくつか紹介します。

  • アフガニスタンのイスラム主義勢力タリバン暫定政権と米国のトランプ政権が急接近しています。米国が2012年にテロ組織に指定した最強硬派「ハッカニ・ネットワーク」(2001年米同時多発テロを起こした国際テロ組織アルカイダの要員を保護しているとされます)がタリバン側のパイプ役となっており、暫定政権内部の路線対立もからみ、権力構造に影響を及ぼす可能性があります。米国のアダム・ボーラー人質担当特使は、国交のないアフガンの首都カブールを訪れてアミールハーン・ムタキ外相と会談し、タリバンは拘束していた米国人男性を解放しています。一方、ロイター通信によると、アフガン内務省報道官は、米政府がシラジュディン・ハッカニ内相にかけていた1000万ドルの懸賞金や同氏の親族日亜する懸賞金が解除されたと明らかにしています。タリバンが2021年に実権を掌握して以降、暫定政権を承認する国はなく、最高指導者のハイバトゥラ・アクンザダ師が中学以上の女子教育を禁止するなど人権侵害が主な理由で、アフガンは中国やロシア、イランへの傾斜を強めています。報道によれば、トランプ大統領は就任前からハッカニ氏に接触、2012年の米軍撤退後にタリバンが収奪した武器の返還と、米軍が駐留していたカブール郊外のバグラム空軍基地の使用権を要求しているといいます。バグラム空軍基地では中国軍の存在が確認されています。トランプ氏は第1次政権で、タリバンとの和平合意を成立させましたが、米軍撤退時にタリバンがカブールを制圧して米兵13人が死亡するなど混乱し、トランプ氏はバイデン前政権の失態と批判しています。ハッカニ氏にとって米国との関係は、アクンザダ師をけん制する上で好都合となりますが、対立に拍車がかかる恐れもあり、すでにアクンザダ師は、内務省の権限や装備を制限してハッカニ氏に圧力をかけ、緊張が高まっています。
  • 145人が死亡したロシア・モスクワ郊外のコンサートホール銃乱射テロから1年となりました。テロではイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)が犯行声明を出し、実行犯としてタジキスタン出身の男4人が拘束されています。ロシア連邦捜査委員会は、テロはロシア情勢を不安定化させる目的で非友好国の特務機関によって計画、実行されたと発表、実行犯4人をリクルートした中央アジア出身の6人を指名手配したとも表明しています。テロは2024年3月22日夜に発生、武装した男たちがモスクワ州にあるコンサート開演前の「クロッカス・シティ・ホール」に侵入し、自動小銃を乱射、放火し、ロシアメディアによると、550人以上が負傷、実行犯4人のほか、資金調達や準備などに関わった共犯も20人以上に上るとされます。
  • 米軍は、イラク軍などと共同で、ISの事実上のナンバー2だったアブ・ハディジャ幹部ら2人を殺害したと発表しています。イラクのスダニ首相も声明で「イラクと世界で最も危険なテロリストの一人と見なされてきた」と指摘し、「目覚ましい勝利だ」と強調しています。報道によれば、ハディジャ幹部はISの対外作戦部門を指揮しており、イラクとシリアでのISのトップも務めていたといいます。米軍などはイラク西部アンバル州で車両に対して精密爆撃を行い、その後にDNAから身元を特定したもので、トランプ米大統領もSNSで「彼はわれわれの勇敢な戦士たちによって執念深く追い詰められた」と述べ、「力による平和だ!」と訴えています。
  • 西アフリカ・ニジェールの軍事政権は、南西部でイスラム過激派がモスクを襲撃し、少なくとも住民44人が死亡、13人が重傷を負ったと発表しています。ニジェールや隣国のマリ、ブルキナファソでは、アルカイダやISに忠誠を誓う勢力がそれぞれ台頭しテロが頻発しているといいます。報道によれば、モスクには金曜礼拝のために多くの人が集まっており、過激派は周辺の市場や家屋に放火したといいます。ニジェールでは2023年にクーデターが起き、軍政は旧宗主国フランスの駐留軍を撤収に追い込んでいます。安全保障面でロシアとの協力関係を強化していますが、治安改善にはつながっていない現状があります。
  • パキスタン南西部バルチスタン州で、旅客列車が同州の分離独立を掲げる過激派「バルチ解放軍(BLA)」の襲撃を受け、「前代未聞の攻撃」(シャリフ首相)として、同国に大きな衝撃を与えています。BLAは「182人を人質に取った」と主張、治安部隊や警察が現場に急行し、襲撃犯33人を殺害して制圧しています。BLAは線路を爆破した上で列車に発砲、乗っていた治安部隊との間で銃撃戦が起きたといいます。BLAは当局を標的にしたテロに加え、中国の巨大経済圏構想「一帯一路」の下で開発に当たる中国人技術者への襲撃も目立っており、ラホール経営科学大のライス教授(政治学)は時事通信の取材に、BLAは主に同州の疎外された民族バルチ人で構成され、「不公平感と、州の資源が住民の利益にならない形で搾取されているとの考えに突き動かされている」と指摘しています。当局は過激派掃討に力を入れているものの、むしろテロは増加しており、背景には、2021年に隣国アフガニスタンから撤収した駐留米軍が現地に残した武器の流入があると指摘されています。首都イスラマバードのシンクタンク「安全保障研究センター」(CRSS)によると、パキスタンで2024年に起きたテロ関連死者は前年比66%増の2546人で、過去9年で最悪となりました。イスラム武装勢力「パキスタン・タリバン運動(TTP)」などBLA以外の組織も活発化しています。

(5)犯罪インフラを巡る動向

本コラムでは以前からアドフラウドが反社会的勢力の資金源となっていると警鐘を鳴らしていますが、英調査会社のジュニパーリサーチは、2023年、世界のデジタル広告支出総額の22%がアドフラウドによって失われ、損失額は842億ドル(約13兆円)に上るとし、デジタル広告市場の成長とともに、アドフラウドが発生する範囲と可能性も大幅に増加し、2028年には1723億ドル(約25兆円)に達する可能性があるとしています。国内でも被害はまん延しており、2023年のアドフラウド被害率は約4.9%、被害額の合計は約1667億円と推計されています(Spider Labs調べ)。アドフラウドの被害率が改善しない理由は、対策を講じてもアドフラウドの手口が進化し続けるからであり、特にここ最近、企業の頭を悩ませているのが、生成AIを悪用した不正で、近年、生成AIの進化が話題となる中、犯罪者らもこの技術を巧みに悪用し、効率良くアドフラウドを行っている実態があります。犯罪者らは、「ChatGPT」などを利用して高度なアルゴリズムをプログラムし、ユーザーの行動を模倣するボットやマルウエアを作成、これにより実態のない広告インプレッションやクリックを偽造し、広告費を不正に奪っているのが実態です。また、コンバージョンを不正に発生させることで広告単価を釣り上げ、不正に広告費を詐取するケースも増加しています。アドフラウド対策が進展しているにもかかわらず、犯罪者らはAI技術を駆使し、ますます巧妙な手法を開発しています。特に、生成AIを悪用して作成される高度な無効トラフィックであるSIVTは、広告主にとって大きな脅威となっています。デジタル広告に予算を投下する一方で、そのリスクを十分に理解し、対策にリソースを投じることが不可欠であり、広告主は広告の透明性を重視し、信頼性の高い媒体への投資を心がけることで、より効果的な広告運用を実現することが求められています。前回の本コラム(暴排トピックス2025年3月号)でも指摘したとおり、インターネット上の広告のあり方を議論する総務省の有識者会議は、広告主向けの指針案を提示しています。自社広告が意図せず悪質サイトに掲載されればブランド毀損などのリスクがあるとして、経営陣がネット広告戦略に関与することを求めています。拡大するネット広告市場の商流は複雑で、掲載先も無数にあるため、広告主が自らの広告の配信先をつぶさに把握するのは困難であるうえ、広告主の意図とは関係なく、広告が違法コンテンツをアップロードしたサイトや偽・誤情報を拡散するコンテンツに表示されるケースがありえます。広告のリスクに現場担当者だけで対処することは難しいとし、経営層の関与を求めています。ネット広告の役員担当者を置いて関連情報を集約することや、ブランド向上に重きを置いた指標を社内の目標設定に活用することを挙げています。また、こうした事態におけるリスクとしては、広告を目にした消費者が企業にネガティブな感情を抱くことをあげたほか、クリック数の水増しで広告主に過大な広告料を請求する「アドフラウド」詐欺にあうリスクも盛り込まれました。広告料が悪質サイトの収益源となることで「不健全なエコシステムに加担するリスク」も指摘し、社会的責任の観点からも対応を求めていますこの点は筆者が以前から主張しているものであり、広告主が漫然と放置するのではなく、自らリスクを把握し、リスクを低減していく姿勢を示していくことが極めて重要だと思います。

米国家安全保障を巡って、ずさんな情報管理が次々と露呈しています。米国防総省の監察官は、ヘグセス国防長官が軍事作戦をメッセージアプリ「シグナル」で他の政府高官に伝達した問題を巡り、調査を始めると発表しています。公的機関による調査が明らかになったのは初めてで、監察官は国防総省から独立した形で調査、機密情報の扱いを定めた法律に違反したと認定するかが焦点となります。ヘグセス氏に加えて、軍事機密のやりとりに誤ってアトランティック誌の記者をチャットに加えたウォルツ米大統領補佐官(国家安全保障担当)の責任を問う声も多いところ(新たにグーグルのメールサービス「Gメール」の私用アカウントを公務で使っていたとも報じられています)、国防総省の監察官による調査はヘグセス氏のみが対象で、ウォルツ氏を調査する場合は別の組織が担うということです。そもそも米政権幹部が利用しているアプリが秘匿性の高さから犯罪集団に悪用されることもある「シグナル」だったことが波紋を広げています。シグナルの日常的なユーザー数は世界全体で数千万人規模とされ、2021年に中国で利用が禁止されるなど、一部の国では規制を受けています。サーバー運営などの費用は有志らの寄付でまかなっており、2023年には「2025年までに年間約5000万ドル(約75億円)を用意する必要がある」と公表しています。暗号化アプリは秘匿性の高さから強権国家における反政府活動家の間で普及する一方で、犯罪集団に悪用されるケースもあり、ロシア発の暗号アプリ「テレグラム」を開発したパベル・ドゥーロフ氏は2024年8月、違法取引を可能にした共謀などの疑いでフランス警察に逮捕されています。暗号化アプリの悪用リスクは日本でも意識されるようになっており、2025年2月に摘発された楽天モバイルの通信回線が不正に契約された事件で、逮捕された14~16歳の男子中高生らは他人のIDやパスワードをテレグラム経由で手に入れたとされます。英国では2023年10月、メッセージアプリの運営事業者に有害コンテンツに関する情報提供を義務付ける「オンライン安全法」が成立しましたが、法案の審議段階でシグナルをはじめとする事業者側は「通信の秘密」が脅かされるとの立場から、英国撤退をちらつかせながら成立を阻もうとしました。ルール整備を先送りしたまま政府機関の間で暗号化アプリの利用が広がれば、主権者である国民の「知る権利」が損なわれる恐れもあります。トランプ政権の「うっかりミス」によって明らかになったシグナルの普及実態は、行政の透明性の確保という課題を浮き彫りにしているともいえます。関連して、EUの行政を担う欧州委員会は、欧州警察機構(ユーロポール)や加盟国の法執行機関が、暗号通信を合法的に解読できるよう検討することなどを盛り込んだ域内の安全保障戦略を発表しています。前述のとおり、暗号通信は犯罪の温床と指摘される一方、「シグナル」や「テレグラム」など広く使われているアプリによる通信も対象となるため、プライバシー侵害の恐れもあります。発表された戦略は、ロシアの脅威やテロから加盟国を守るため、法執行機関の捜査能力の拡充などが提案され、欧州委は「強力な組織犯罪が欧州で急増し、オンラインが温床になっている」と指摘、現在行われている犯罪捜査のうち約85%は、捜査機関がデジタル情報にアクセスできるかが鍵になっているといいます。特に暗号化された通信は秘匿性や機密性が高く、捜査で解読することが難しいため、捜査機関による察知を避けようとする犯罪集団によっても用いられている実態があります。ただ一般的に使われているアプリの通信も暗号化されており、犯罪と無関係の通信まで捜査機関が解読できるようになると、プライバシーが侵害される恐れがあります。欧州委のビルクネン副委員長は「基本的権利の保護は常に優先事項」としつつ、「暗号通信などの先端技術で法執行機関は後れを取っている」とし、新たな措置が必要との認識を示しています。戦略ではほかに、国家の不安定化を狙ったハイブリッド攻撃になり得る海底ケーブルの切断を未然に防ぐため、北大西洋条約機構(NATO)などと協力した監視拠点を提案、切断事例が相次ぐバルト海を手始めに、域内の海域に広げていくとしています。

クレジットカードの不正利用を巡る2024年の被害額は前年比2.6%増の555億円に上り、過去最悪を更新しています。インターネットバンキングの不正送金被害も86億円と高水準で推移、カードや口座の情報を偽サイトで盗み取る「フィッシング」に歯止めがかかっていない状況です。警察庁は偽サイトの判別に生成AIを導入、増える偽サイトを人間の目で判別するには限界があり、AIを活用し効率化させるとしています。警察庁は、インターネットが絡む犯罪の被害状況をまとめたサイバー空間の脅威情勢を公表、2024年のクレジットカードの不正利用のうち、92.5%にあたる513億5千万円がカード番号の盗用によるものでした。また、インターネットバンキングの不正送金は2024年に4369件確認され、被害額は86億9千万円となりました。被害の件数・金額の水準はいずれも過去最多だった2023年(5578件、87億3千万円)に迫り、引き続き脅威となっています。民間監視団体のフィッシング対策協議会によると、2024年のフィッシングの報告件数は171万8千件に上り、過去最多だった2023年(119万6千件)を大きく上回りました。虚偽のメールやサイトを大量に作成するために生成AIが悪用されている可能性があります。関連して、警察庁は、クレジットカードの不正利用の集中取り締まりを実施し、10~50代の男女20人を詐欺や犯罪収益移転防止法違反などの疑いで逮捕・書類送検したと発表しています。このクレジットカード情報販売者は、フィッシングで得たとみられるカード情報の購入者をXで募り、その後秘匿性の高い通信アプリ「テレグラム」に誘導して売買のやり取りを行っており、カード情報は1枚あたり暗号資産5千円相当で販売、販売者のもとには、50以上の暗号資産アカウントから750万円相当が流れていたとみられています。一連の捜査で、計約1万7千枚分のカード情報が流出していたことを確認、不正利用防止で使われるパスワードなども漏れていたといい、警察庁は安全対策のセキュリティが突破される場合もあるとして、クレカの利用明細のこまめな確認や、クレカ利用通知をメールで受けるサービスの利用などを呼びかけています。捜査で流出が判明した計約1万7千枚分の情報は、クレカの番号、名義人、有効期限、ECサイトのID・パスワードなどで、カードの不正利用を防ぐための安全対策で使うパスワードも含まれているといいます。

インターネット上に児童ポルノ画像を公開したなどとして、警察庁は、シンガポールや韓国など6か国・地域の警察による集中取り締まりを行い、13~68歳の男女544人を摘発したと発表しています。児童ポルノが保存されたスマホやパソコン、USBメモリーなど計約550点を押収したといいます。国際捜査はシンガポール警察の呼びかけで行われ、日本警察の参加は今回が初めてだといいます。取り締まりは2025年2月24日~3月28日に実施され、国内では、外国人を含めて中学生や会社員、高校教諭ら14~68歳の男女111人が児童買春・児童ポルノ禁止法違反(公然陳列、製造など)や不同意性交などの容疑で摘発され、このうち逮捕者は28人に上っています。全国の警察は、参加国から提供された児童ポルノ関連の捜査情報などをもとに、児童ポルノをフリーマーケットアプリなどで販売したり、SNSのグループチャットで少女に性的暴行を加える動画を共有したりしていた容疑者らを特定したといいます。警察庁は「児童ポルノを摘発する捜査には国際連携が非常に重要。児童の性的搾取をなくすため、今後も効果的な取り締まりを推進していく」としています。

▼警察庁 オペレーション・サイバー・ガーディアンの実施結果
  • オンライン上の児童性的搾取事犯の集中取締りに係る国際協同オペレーション~児童ポルノ事犯における日本初の国際協同オペレーション~
  • オペレーション結果
    • 期間:2025年2月24日(月)~3月28日(金)
    • 参加国:日本・シンガポール・タイ・韓国・香港・マレーシア(6つの国・地域)
    • 捜査対象:オンライン上の児童性的搾取事犯の被疑者544人(最年少13歳・最年長68歳、男性525人・女性19人)
    • 捜索差押箇所:269箇所
    • 押収電子機器:パソコン84台、携帯電話等279台、タブレット32台、外部記録媒体150個、ルーター
  • 日本独自の取組
    • 本オペレーション期間を「児童ポルノ撲滅に関する国際協力強化期間」と名付け、他国からのCSAM(Child Sexual Abuse Material)に係る情報提供等に基づく捜査のほか、都道府県警察においてオンライン上の児童の性的搾取事犯の積極的な取締りを推進する独自施策を実施。
  • 児童ポルノ撲滅に関する国際協力強化期間結果(国内)
    1. 検挙人員
      • 111人
      • 最年少14歳・最年長68歳
      • 男性105人・女性6人
    2. 職業例
      • 高校教員・予備校講師・会社員・パート・中学生・高校生
    3. 検挙罪名
      • 児童ポルノ公然陳列・製造・所持・提供、買春、不同意性交等、脅迫、恐喝等
    4. 捜索差押箇所・押収電子機器
      • 123箇所
      • パソコン40台、携帯電話等154台、
      • タブレット29台、外部記録媒体63個
  • 主な検挙事例
    • 児童ポルノ愛好者である男性高校教員(30歳代)による児童ポルノ公然陳列事件
    • 児童ポルノ愛好者である会社員の男(60歳代)による児童ポルノ公然陳列事件
    • 介護施設パート職員である外国籍の男(30歳代)による児童ポルノ公然陳列事件
    • SNSのグループチャットで児童ポルノ動画を投稿して共有した30歳代から40歳代の男らによる不同意性交等、児童ポルノ大量所持事件
    • 高校生によるわいせつ画像脅迫・恐喝事件
    • フリーマーケットアプリやオークションサイトを利用した児童ポルノ販売事件
  • 今後の取組
    • 今後とも、国際連携を更に強化し、児童の性的搾取事犯に対して効果的な取締りを推進する。

SNSのもつ犯罪インフラ性について、さまざまな角度から検討してみます。「SNSと選挙」という観点では、欧州の調査で「研究途中ではあるが、欧州に住む650人を対象にした調査で、中高年はSNS上の誤情報に影響を受けやすい一方、若者と同じようにネットの危険性にさらされていると自覚していないことが分かった。情報リテラシーの欠如が過激化の沼へと引き込んでいる」、「地元の話題に関心が高いほか、社会生活でいらだちを抱えながらも無視されていると感じている人が多いことも特徴だ」との結果が発表され、少なくないインパクトを受けました。研究者は「中高年は企業や政策決定の場で発言力がある。選挙や社会に与える影響は大きい」と指摘、SNSというもろ刃の剣とも言える新たなメディアを有権者も政治家もまだ使いこなせていない実態があり、危うさを感じます(前述の研究者も「偽情報を通じ、過激化の道に転がり込んだ人を引き戻すのは容易ではない。そもそも大切なのは、個々人が盲目的に画面をスクロールするのではなく、『少しの間立ち止まる』ことだ。そのとき初めて対策が力を持つ」と述べています)。また、本来事業者が担うべきSNS空間の管理責任を巡り、政府が対応に追われる不自然な現象が世界で拡がっています。1930年代、ナチスドイツは当時勃興したラジオを最大限活用して選挙に勝利し、独裁体制に移行しました。先端技術をいち早く取り込んで民主制度を骨抜きにする手法はロシアや中国など現代の権威主義国家の情報工作と類似しており、技術革新への対応で権威主義国家に後れを取れば、民主主義にとって悪夢になります

地下鉄サリン事件30年を機に検証が進むものの一つに「マインドコントロール」があります。SNSとの関係性については、2025年3月19日付日本経済新聞の記事「バーチャルな洗脳「たやすい」 オウムの手法、SNSで成熟」が大変興味深いものでした。具体的には、「マインドコントロールは意思決定を誘導する心理操作を指す。立正大学の西田公昭教授(社会心理学)の研究によると進行の過程は大きく6段階。信頼関係を築くところから始まり、社会から隔離して価値観を変容させ、最終的には元の生活に戻れなくする。1980~90年代、オウム真理教が組織を拡大させていった手法もマインドコントロールだ。教団は「外部との交流を制限し、自己の内面に集中することが悟りと解脱の修行に不可欠」とパンフレットで示し、信者に出家を求めた。出家する信者は、生涯にわたり松本智津夫元死刑囚(執行時63)に心身や全財産を委ね、肉親や友人など「現世における一切のかかわりを断つ」とする誓約書を書いた。最盛期には約1400人が出家し、情報が遮断された施設で集団生活を送った」、「事件後も洗脳が解けなかった信者は少なくない。社会生活との物理的な隔離によって意思を操る「オウム」時代に対して、現代で問題となっているのがバーチャルな世界でのマインドコントロールだ。世界中の誰とでもつながるサービスのはずのSNSが、隔離の装置として悪用される事件が目立つ」、「2024年に過去最悪となる871億円(暫定値)の被害を生んだSNS型投資詐欺は、「少しでも資産を増やしたい」という願望につけ込みグループチャットへ誘う。周囲の情報に耳を貸さないよう誘導し、オウム真理教の施設のような閉鎖空間をつくり上げる。マルチ商法でもグループチャットが会員を囲い込む舞台となっているケースが多い。西田教授はSNSについて「犯罪組織にとって勧誘のターゲットと接触する機会が広がった。対面する必要がなく、マインドコントロールが容易になっている」と危惧する」、「元検察幹部は「長い犯罪史の中で洗脳の手法はある意味成熟した。新手の集団はそれを応用しながら時代の利器を巧妙に使っている」とみる。妄信へ陥らせる手口の確立とそれを容易にするSNS。マインドコントロールの触手はより身近に迫っている」といった内容です。SNSがマインドコントールに好都合な閉鎖空間を作りあげており、危険性が増しているとの指摘は大変考えさせられます。

また、「SNSと民意」という点では、SNSや生成AIにより、特定の少数意見によってサイレントマジョリティー(物言わぬ多数派)の意見が見えなくなる懸念があります。2025年3月24日付日本経済新聞の記事「パブコメ「異常件数」相次ぐ SNSで動員、かすむ民意」で、国際大学の山口真一准教授は「SNSで関心が上がり意見を表明しやすくなるのは良いこと」、「実際は一部の集団が手当たり次第投稿し、多様な意見を反映する制度本来の趣旨から離れているリスクがある」と指摘しており、筆者もその点に危惧を覚えています。山口准教授のコメントはいつも秀逸であり、2025年3月25日付日本経済新聞の記事「ネットが一気に情報源に 山口准教授「マスコミは直視を」」も大変参考になります。具体的には、「従来はインターネット上の声と世論に乖離があったが、両者の距離が一気に縮まった。SNSや動画共有サービスを参考にする中高年が増え、選挙での影響力が増した。24年はSNSと選挙の転換点だった」、「私が関わった調査では、日本はネットの情報を検証する人が海外より少なかった。マスメディアを主な情報源にしてきた人が多いことが影響しているのではないか。新聞やテレビに親しんできた中高年は情報を検証する習慣がない。SNSとの向き合い方に関係している可能性がある」、今後技術が進歩し、生成AIを使った偽画像や偽動画をより低コストで簡単に作れるようになればフェイクニュースが爆発的に増える恐れがある。候補者の発言が捏造されれば選挙結果に大きな影響が出るだろう。実際に海外ではすでに起きている」、「24年の国内の選挙で課題に感じたのは収益目的のインフルエンサーの存在だ。選挙中に限りSNSのマネタイズ(収益化)を制限するのも一案だ。事業者の自主的な取り組みが進まないなら何らかの制度をつくることも検討すべきだ」、「メディア情報リテラシーは算数や国語に匹敵するほど重要だ。小中学校の教育課程に正式な科目として位置づけてはどうか。中高年向けの啓発キャンペーンに継続的に取り組んでいくことも欠かせない」、「この数十年、ネットと正面から向き合ってこなかった。結果的にどんどん見られなくなっている。自社の媒体で発信するだけで満足していてはだめだ。SNSも積極的に活用し、できるだけ多くの人に届くよう努めてほしい」、「SNSは過激な情報が拡散しやすい。昨年の兵庫県知事選では真偽不明の情報が大量に出回った。ネット上の情報を検証し、迅速に報じることもメディアの重要な役割だ」といった内容です。また、パブコメに生成AIで作成されたと思われる大量の投稿がなされている実態もあります。加えて兵庫県知事問題では「SNSの暴力性」を強く感じます。2025年3月25日付産経新聞の記事「自死した元兵庫県議めぐるSNS投稿18万件を分析 批判発信源の半数は13アカウント」によれば、「斎藤元彦兵庫県知事の告発文書問題を巡り、SNSの分析に詳しい東京大の鳥海不二夫教授(計算社会科学)は、元兵庫県議の竹内英明氏に関するXの投稿について、昨年1月1日から同氏が亡くなった今年1月18日までの約18万件を分析。その結果、批判的投稿の約半数は、わずか13のアカウントの発信が基になっていることが分かった。この間の投稿は、竹内氏への批判的な内容が擁護の倍以上だった。投稿数のピークは同氏が県議を辞職した昨年11月18日。擁護する投稿も一定数あったがすぐに減少し、批判的な投稿はその後も拡散を続ける傾向があった。13アカウントのうち2番目に多かったのは、政治団体「NHKから国民を守る党」の立花孝志党首。立花氏は竹内氏の死後、同氏が兵庫県警の捜査対象だったと発信したが、県警本部長が「事実無根」と否定した。鳥海氏は「一般的にSNSでは、自分と似た考えが流れてくる『エコーチェンバー』が構築されるため、信じた情報が誤っていても訂正されにくい」と指摘。仮に間違いに気づいても、「自分が間違っていた」と改めて発信する人は少ないとし、「今回は立花氏のように一定のフォロワーを持つ人が発信したこともあり、竹内氏に批判的な情報が拡散し続けたと考えられる」としている」というものです。SNSが人を死に追いやるだけの暴力性があることを私たちは肝に銘じておく必要があります。

こうしたSNSの犯罪インフラ性をふまえ、世界各国・地域で選挙に関連したSNS規制を強化する動きが広がっています。先駆的とされるのが欧州で、スペイン政府は2024年12月、SNS上の情報を訂正する場合は公表するよう事業者などに義務付ける法案をまとめています。偽情報などで被害を受けた一般市民が事業者に訂正を要求できるようにするのも特徴です。EUは2024年、偽情報などの拡散防止を事業者に義務付ける「デジタルサービス法(DSA)」の対象を全IT企業に広げ、選挙でも適用され、情報操作の疑いがある場合にEUは事業者の調査に乗り出し、違反した事業者には世界売上高の6%の罰金を科せる強力な規制です。2025年2月のドイツ連邦議会(下院)選挙に向け、独連邦ネットワーク庁とEUの執行機関・欧州委員会は同1月末、DSAに基づきSNSで違反行為が起きた場合の対処法を点検する模擬訓練「ストレステスト」を共同で行い、XやTikTokなどのSNS事業者が参加しています。一方、規制強化が順調に進まない国もあり、同5月の豪総選挙を前に、アンソニー・アルバニージー首相が「多くの国民がこのプロジェクトで資本を増やしている」と投資詐欺を宣伝する偽動画がSNSで出回ったほか、野党の党首も偽情報の標的となっています。その豪州では、SNS事業者に偽情報の排除を求め、従わない場合は世界売上高の最大5%の罰金を科す内容の偽情報を規制する法案の成立が阻まれています。アルバニージー氏は「業者には社会的な責任がある」と主張しましたが、規制法案は2024年11月、「検閲につながる」として野党が反対し、廃案となりました真偽の判断が必要になり、恣意的に運用されかねないとの懸念が強まったためだとされます。米国は規制に消極的で、トランプ政権は「自由な表現を米国に取り戻す」として規制緩和に転換、2025年4月に総選挙が行われるカナダでは、連邦選挙管理局がSNSで拡散した偽情報への注意喚起を行い、海外勢力が関与する偽情報を監視・検知しているものの、偽情報の削除をSNS事業者に義務付けるなどの法規制には踏み込んでいません。こうした状況をふまえ、国際大学の山口真一准教授は「兵庫県知事選などではSNS上で対立の構図や真偽不明の情報が広がり、社会の分断が深まった。政策議論の機会も損なわれているため、対策は急務だ。日本でも国際動向を踏まえつつ国内の実情に即した制度設計を進める必要がある」と提言しています。

世界各国・地域の選挙で、SNSは有権者に訴えかける手段として主流になりつつある一方で、偽情報や中傷の拡散、世論の分断といった負の側面も無視できなくなっています。「激戦州を民主党の地盤に変えるため、大量の不法移民を流入させている」と、2024年11月の米大統領選の投開票日が近づくにつれ、共和党支持者がXで民主党の移民政策を非難する投稿が相次ぐようになりました。Xを所有する実業家イーロン・マスク氏も同様の主張を繰り返し、「根拠のない陰謀論だ」(米CNN)と問題視されました。マスク氏に限らず、大統領選ではトランプ大統領陣営のXへの発信が圧倒的に目立ち、虚実ない交ぜの内容も含まれていました。米紙WPが2024年10月末に公表した調査結果によれば、2023年7月~2024年10月下旬、大統領選で共和党支持者がXに発信した投稿の閲覧数は75億回に上り、33億回だった民主党支持者の倍以上となったといいます。同紙はマスク氏が選挙期間中、「アルゴリズムの変更」によってトランプ氏のメッセージが拡散しやすいようにしたと指摘、若年票が流れるなど世論誘導につながった可能性があるとされます。米ジョージ・ワシントン大学のスティーブン・リビングストン教授は「規制の見通しが立たない中、Xとトランプ氏自身が運営するSNS『トゥルース・ソーシャル』は事実上プロパガンダ機関と化している。民主主義の規範を破壊する危険性がある」と警告していますが、筆者も同感です。トランプ氏は2025年1月3日、Xに「トランプはあらゆる面で正しい!」と投稿すると、マスク氏は「100点」と返信、同3月11日には、トランプ氏がトゥルース・ソーシャルで「我が国を助けるために全力で素晴らしい仕事をしている」とマスク氏をたたえています。こうしたやり取りには蜜月ぶりだけでなく、異論や検証を排除する危うさも帯びていると感じます。

企業のデータを暗号化するなどして身代金を要求するサイバー攻撃の被害が、2024年は前年より17件多い244件となりました。年間を通じた統計のある2021年以降で最多だった2022年の230件を上回りました。222件はデータを暗号化して使えない状態にするコンピューターウイルス「ランサムウエア」によるもので、残りの22件は暗号化せずにデータを盗む「ノーウエアランサム」でした。また、222件のうち61件は大企業、140件は中小企業で、製造や小売り、建設など幅広い業種に及んでいます。警察庁が被害企業にアンケートしたところ、感染経路は5割が仮想専用線(VPN)機器で、復旧までの時間は5割が1カ月以上、被害の調査費用は5割が1000万円以上かかったといいます。復旧まで1カ月以上を要し、調査に1000万円以上を費やした企業のうち、サイバー攻撃を想定した事業継続計画(BCP)を策定していたのは11.8%にとどまった一方で、1週間未満で復旧した企業の23.1%はBCPを策定していたといいます。ランサムウエアによる攻撃が発覚した場合、被害の封じ込めや調査、顧客対応といった必要な対応は多岐にわたるため、事前に手順が決まっていないと判断に迷いが生じて被害が拡大したり、業務復旧が遅れたりする可能性があります。また、ネットワーク機器の欠陥を修復する修正プログラム(パッチ)を適用していたのは、回答があった87社・団体のうち47%にとどまっており、欠陥を放置すると侵入のリスクは高まることをあらためて認識する必要があります(筆者は、こうした不作為が他者への攻撃の踏み台となることから「反社会性」を帯びることを指摘しています)。新手の集団も現れ、手口の巧妙化も進んでおり、警察庁の分析によると、管理が甘い海外支社の機器を通じて日本の本社システムに侵入した事例が確認されたほか、不正アクセスの監視が薄くなる週末を狙ってデータを暗号化した手法もみられたといいます。ランサムウエアは大量のデータを送りつけるDDoS攻撃と同様に、企業の事業継続にとって重大な脅威だとなっています。警察庁は2024年12月、関係省庁を通じ、企業などへBCPの策定を要請し、警戒強化を呼びかけています。

▼警察庁 令和6年におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について
  • 高度な技術を悪用したサイバー攻撃の情勢
    • 令和6年中、政府機関、交通機関、金融機関等の重要インフラ事業者等におけるDDoS攻撃とみられる被害や情報窃取を目的としたサイバー攻撃、国家を背景とする暗号資産獲得を目的としたサイバー攻撃事案等が相次ぎ発生。
    • 警察庁が設置したセンサーにおいて検知した、ぜい弱性探索行為等の不審なアクセス件数は、増加の一途をたどり、その大部分の送信元が海外。
    • 令和6年におけるランサムウエアの被害報告件数は222件であり、高水準で推移。
    • インターネット空間を悪用した犯罪に係る情勢
    • 情報通信技術の発展が社会に便益をもたらす反面、インターネットバンキングに係る不正送金事案や、SNSを通じて金銭をだまし取るSNS型投資・ロマンス詐欺、暗号資産を利用したマネー・ローンダリングが発生するなど、インターネット上の技術・サービスが犯罪インフラとして悪用。
    • 令和6年におけるフィッシング報告件数は、171万8,036件、インターネットバンキングに係る不正送金事犯の被害総額は約86億9,000万円。
  • 違法・有害情報に係る情勢
    • インターネット上には、規制薬物の広告等の違法情報や犯罪を誘発するような有害情報が存在するほか、近年SNS上に氾濫する犯罪実行者募集情報は深刻な治安上の脅威。能登半島地震では、過去の災害時の画像や偽の救助情報が拡散したほか、義援金を募る送金詐欺も確認。
  • 検挙に向けた取組
    • サイバー特別捜査部では、重大サイバー事案に、都道府県警察サイバー部門では、高度な専門的知識及び技術を要するサイバー事案に対処。
    • 令和6年におけるサイバー犯罪の検挙件数は13,164件、サイバー事案の検挙件数は3,611件。
    • オンラインフリーマーケットサービス等を悪用した架空取引・クレジットカード不正利用事件では、実行犯が検挙されても、首謀者は手口や共犯者を変えて犯行を継続するとともに、犯罪収益を匿名性の高い暗号資産「モネロ」に換えて資金洗浄を敢行。サイバー特別捜査部による分析の結果、犯罪収益の流れ及び犯行グループの実態を解明し、首謀者を特定・逮捕。
    • 世界各国の企業等に対してランサムウエア被害を与えている攻撃グループ「Phobos(フォボス)」について、サイバー特別捜査部と関係警察は、EUROPOLやFBI等との国際共同捜査を推進。令和6年11月、米国司法省は、同グループの運営者とみられるロシア人の男(42)を起訴したことを発表。サイバー特別捜査部は、独自の手法により同運営者の特定に成功し、その結果や当該手法について、関係国の捜査機関に提供。
  • 被害の未然防止・拡大防止に向けた取組
    • 警察では、捜査や分析で得られた情報に基づき、被害の未然防止に向けた犯行手口の周知等の注意喚起やサイバー攻撃者の公表、広報・啓発を実施。
    • 令和6年12月、警察庁は、米国連邦捜査局(FBI)及び米国国防省サイバー犯罪センター(DC3)とともに、北朝鮮を背景とするサイバー攻撃グループ「TraderTrAItor」が暗号資産関連事業者から暗号資産を窃取したことを特定し、合同で文書を発出。また、関係省庁との連名でTraderTrAItorの手口等に関する注意喚起を実施。
    • 令和7年1月、警察庁は、MirrorFaceと呼称されるサイバー攻撃グループが、令和元年頃から国内の組織、事業者及び個人に対して、マルウエアを添付したメールの送信や、ソフトウエアのぜい弱性を悪用した標的ネットワーク内への侵入により、情報窃取を目的としたサイバー攻撃を行っていることを確認。さらに、これら攻撃が、中国の関与が疑われる組織的なサイバー攻撃活動であると評価し、同グループの手口や未然防止対策等に関する注意喚起を実施。
    • 犯罪インフラへの対処を実施。例えば、ECサイト構築ソフトのぜい弱性に起因したクレジットカード情報の漏洩を防ぐため、事業者団体に対し、対策の強化を要請したほか、金融庁と連携し、ボイスフィッシングによる不正送金被害の手口や対策に関する注意喚起を実施。
    • 警察庁では、インターネット利用者等から違法・有害情報に関する通報を受理し、サイト管理者等への削除依頼等を行うインターネット・ホットラインセンター(IHC)を事業委託。令和7年2月28日、IHCの運用ガイドラインを改訂し、犯罪実行者募集情報を違法情報に位置付け、取組を強化。
  • 基盤整備
    • 令和4年4月、国境を容易に越えて敢行されるサイバー事案に対し、国際共同捜査を通じて被疑者を検挙するため、関東管区警察局に、全国を管轄して直接捜査を実施する「サイバー特別捜査隊」を設置。令和6年4月、同隊を発展的に改組し、「サイバー特別捜査部」を設置することにより、捜査はもとより、重大サイバー事案の対処に必要な情報の収集、整理及び事案横断的な分析等を行う体制を強化。令和7年度予算案には、サイバー特別捜査部の増員に加え、同部に特別対処課を設置することも計上。
    • 都道府県警察では、情報通信技術に関する高度な資格の保有等を条件として中途採用・特別採用をした警察官等約460人が、サイバー犯罪捜査官等として、捜査の第一線で活躍。警察庁では、情報通信に関する専門的な技術を有する約800人の職員が情報技術解析等の第一線で活躍。
    • サイバー空間の脅威への対処に係る予算は、令和6年度は49億6,200万円、令和7年度の予算案では、56億9,200万円を計上。
  • 現在急速に一般社会で利用が広がっているAIについても、様々な便益をもたらすことが期待される一方、不正プログラム、フィッシングメール、偽情報作成への悪用、兵器転用、機密情報の漏えいといった、AIを悪用した犯罪のリスクや安全保障への影響が懸念されている。さらに、AIを悪用することで専門知識のない者でもサイバー攻撃に悪用し得る情報へのアクセスが容易になると考えられている。実際に、生成AIを利用して不正プログラムを作成した容疑での逮捕事案のほか、生成AIを悪用した本人確認書類やわいせつ画像の作成といった事例も確認されている。
  • ランサムウエア被害件数を組織規模別に令和5年と比較すると、大企業の被害件数が減少する一方、中小企業の被害件数は37%増加した。これは、RaaSによる攻撃実行者の裾野の広がりが、対策が比較的手薄な中小企業の被害増加につながっていると考えられる。
  • ランサムウエアによる被害に遭った企業・団体等に実施したアンケートの結果によると、調査・復旧に要する期間と費用の関係は図表4(略)のとおりであり、1億円以上の費用を要した組織の割合は、復旧に要した期間が長い方が高いといった傾向が見られた。また、令和5年と比較してランサムウエアの被害による事業影響は長期化・高額化しており、調査・復旧に1か月以上を要した組織(アンケート回答時に「復旧中」だった組織も含む。以下同じ。)は、44%から49%に増加し、また、1,000万円以上の費用を要した組織は37%から50%に増加した。さらに、調査・復旧に「1,000万円以上」かつ「1か月以上」を要した組織のうち、サイバー攻撃を想定状況に含むBCPを策定済みである組織は11.8%にとどまった一方、1週間未満で復旧した組織の23.1%が同種のBCPを策定していた。
  • オンラインゲームを通じて知り合った人物から誘われ、海外渡航した結果、特殊詐欺に加担させられる事案も発生している。また、近年は、SNS上での特定の個人に対する誹謗中傷も社会問題化しているほか、SNSの匿名で不特定多数の者に瞬時に連絡を取ることができる特性から、児童買春等の違法行為の「場」となっている状況もうかがえる。実際、SNSに起因して犯罪被害に遭った児童の数は、依然として高い水準で推移している。さらに、インターネットやスマートフォンの普及に伴い、画像情報等の不特定多数の者への拡散が容易になったことから、交際中に撮影した元交際相手の性的画像等を撮影対象者の同意なくインターネット等を通じて公表する行為(リベンジポルノ等)により、被害者が長期にわたり精神的苦痛を受ける事案も発生している。
  • 令和6年におけるインターネットバンキングに係る不正送金事犯の発生件数は4,369件、被害総額は約86億9,000万円となっており、フィッシングがその手口の9割を占める。さらに、令和6年秋には、犯罪グループが企業に架電し、ネットバンキングの更新手続等を騙ってメールアドレスを聞き出し、フィッシングメールを送付するボイスフィッシングという手口による法人口座の不正送金被害が急増した。不正送金に関するフィッシング以外の手口については、マルウエア感染を契機とした事例や、SIMスワップによって本人確認を突破する手口も引き続きみられた
  • SNSやSMSの利用なく、ウェブサイトそのものが悪用されて犯罪が敢行される実態もみられる。例えば、海外のサーバーを通じてインターネット上に掲載された、実在する企業のサイトを模したフィッシングサイトのほか、インターネットショッピングに係る詐欺や偽ブランド品販売を目的とするサイト等(以下単に「偽サイト等」という。)に係る被害が多発しているところ、警察庁においては、都道府県警察等が相談等を通じて把握した偽サイト等に係るURL情報を集約しており、その件数は右肩上がりに増加している。
  • インターネットバンキングに係る不正送金の情勢については、(2)記載のとおりであるほか、(1)記載の特殊詐欺の被害のうち、被害額500万円以上の振込型の事案の被害(認知件数1,688件、被害額約314億4,000万円)を分析すると、インターネットバンキングを利用したものの認知件数・被害額は増加傾向にあり、認知件数は全体の約6割、被害額は全体の約7割を占めている。さらに、SNS型投資・ロマンス詐欺の被害のうち、振込が主な交付形態となっている事案の被害(認知件数8,287件、被害額約1,069億4,000万円)を分析すると、インターネットバンキングを利用したものの認知件数は全体の約6割、被害額は全体の約7割を占めている。
  • 暗号資産については、利用者の匿名性が高く、その移転がサイバー空間において瞬時に行われるという性質から、犯罪に悪用されたり、犯罪収益等が暗号資産の形で隠匿されたりするなどの実態がみられる。特に、海外の暗号資産交換業者で取引される暗号資産の中には、移転記録が公開されず、追跡が困難で、マネー・ローンダリングに利用されるおそれが高いものも存在する。実際、インターネットバンキングに係る不正送金においても、不正送金された現金が、暗号資産に変換されている場合もあり、その後、暗号資産取引所を介さず、個人間で暗号資産取引を行う相対屋を経る場合、追跡が困難となっている。
  • サイバー事案の多くは国境を越えて敢行されるため、そうした事案への対処には国際連携が重要であるところ、警察においては、サイバー空間における脅威に関する情報の共有、国際捜査共助に関する連携強化、情報技術解析に関する知識・経験等の共有等のため、多国間における情報交換や協力関係の確立等に積極的に取り組んでいる。
    • 例えば、警察庁サイバー警察局では、令和4年6月からEUROPOLに常駐しているサイバー事案対策専従の連絡担当官による同機関での継続的な情報共有・分析、国際機関が主催する捜査会議への積極的な参画等に取り組んでおり、その結果、サイバー特別捜査部をはじめとする日本警察は、国際共同捜査へ参画している。これらの国際共同捜査では、被疑者の検挙、犯罪インフラの停止、暗号資産の押収等によって、ランサムウェアグループの活動を停止又は縮小させるなどの成果を得ている。
    • また、ICPO加盟国の法執行機関に加えて、国外の民間企業や学術機関が参加するICPOデジタル・フォレンジック専門家会合に参加し、情報技術解析に関する知識・経験等の共有を図っているほか、情報セキュリティ事案に対処する組織の国際的な枠組みであるFIRST(Forum of Incident Response and ecurity Teams)に加盟し、組織間の情報共有を通じ、適切な事案対処に資する技術情報の収集を行っている。
  • 警察及びIHCは、関係事業者に対し、違法・有害情報の削除を依頼しているところ、当該投稿を目にする人を減らすためには、投稿の迅速な削除が重要である。令和6年11月、総務省が犯罪実行者の募集を職業安定法違反と位置付けた違法情報ガイドライン案を公表したことなどを踏まえ、警察庁は、ある事業者と協議し、同事業者は、同月からIHCからの犯罪実行者募集情報の通報方法を違法情報と同様の運用に変更した。その結果、削除依頼に対する5営業日以内の削除率が、12月には90%を超えるなど、犯罪実行者募集情報の迅速な削除が行われるようになった。
▼警察庁 不正アクセス行為の発生状況及びアクセス制御機能に関する技術の研究開発の状況
  • 令和6年における不正アクセス禁止法違反事件の認知・検挙状況等について
    • 令和6年における不正アクセス行為の認知件数は5,358件であり、前年(令和5年)と比べ、954件(約15.1%)減少した。
    • 令和6年における不正アクセス行為の認知件数について、不正アクセス後に行われた行為別に内訳を見ると、「インターネットバンキングでの不正送金等」が最も多く(4,342件)、次いで「メールの盗み見等の情報の不正入手」(193件)、「インターネットショッピングでの不正購入」(180件)の順となっている。
    • 令和6年における不正アクセス禁止法違反事件の検挙件数・検挙人員は563件・259人であり、前年(令和5年)と比べ、42件増加し、検挙人員は同数であった。
    • 検挙件数・検挙人員について、違反行為別に内訳を見ると、「不正アクセス行為」が533件・252人といずれも全体の90%以上を占めており、このほか「識別符号取得行為」が3件・2人、「識別符号提供(助長)行為」が11件・4人、「識別符号保管行為」が14件・9人、「識別符号不正要求行為注5」が2件・2人であった。
    • 令和6年における不正アクセス行為の検挙件数について、手口別に内訳を見ると、「識別符号窃用型」が511件と全体の90%以上を占めている。
    • 令和6年に検挙した不正アクセス禁止法違反事件に係る被疑者の年齢は、「20~29歳」が最も多く(105人)、次いで「14~19歳」(72人)、「30~39歳」(42人)の順となっている。
    • なお、令和6年に不正アクセス禁止法違反で補導又は検挙された者のうち、最年少の者は11歳注9、最年長の者は63歳であった。
    • 令和6年に検挙した不正アクセス禁止法違反の検挙件数のうち、識別符号窃用型の不正アクセス行為(511件)について、その手口別に内訳を見ると、「パスワードの設定・管理の甘さにつけ込んで入手」が最も多く(174件)、次いで「識別符号を知り得る立場にあった元従業員や知人等による犯行」(107件)の順となっており、前年(令和5年)と比べ、前者は約0.86倍、後者は約1.57倍となっている。
    • 令和6年に検挙した不正アクセス禁止法違反の検挙件数のうち、識別符号窃用型の不正アクセス行為(511件)について、他人の識別符号を用いて不正に利用されたサービス別に内訳を見ると、「社員・会員用等の専用サイト」が最も多く(221件)、次いで「コミュニティサイト」(108件)の順となっており、前年(令和5年)と比べ、前者は約2.70倍、後者は0.48倍となっている。
  • 令和6年の主な検挙事例
    1. 会社員の男(37)は、令和4年11月、勤務先の名刺管理サービスの正規利用権者の識別符号を不正に取得し、令和5年2月、同識別符号を利用して名刺管理サービスに不正にログインするなどした。令和6年2月、男を不正アクセス禁止法違反(識別符号取得行為及び不正アクセス行為)で検挙した。
    2. アルバイト従業員の男(21)は、令和5年5月から同年6月までの間、電気通信会社のメール配信ソフトの脆弱性を突き、同社のサーバコンピュータに不正プログラム(バックドア)を設置した上、同プログラムを利用して同サーバコンピュータに不正にログインした。令和6年10月、男を不正アクセス禁止法違反(不正アクセス行為)及び不正指令電磁的記録供用罪で検挙した。
    3. 無職の男(44)は、令和5年1月から同年2月までの間、会社員の男に指示し、不正に入手した他人の識別符号を使用して、インターネットバンキングに不正アクセスし、自らが管理する預金口座に不正送金させるなどした。令和6年7月、男を不正アクセス禁止法違反(不正アクセス行為)、電子計算機使用詐欺罪等で検挙した。
    4. 無職の男(22)は、令和5年6月、インターネット上で影響力を持つインフルエンサーに虚偽のキャッシュバックキャンペーンを宣伝させ、応募者から消費者金融サイトの識別符号を不正に入手し、同識別符号を利用して同サイトに不正アクセスした上、ATМから借入金を不正に引き出すなどした。令和6年1月、男を不正アクセス禁止法違反(不正アクセス行為)及び窃盗罪で検挙した。
    5. 無職の男(20)は、令和6年3月、正規のゲームアカウント売買サイトを偽装したフィッシングサイトを作成してインターネット上に公開し、複数の利用権者からオンラインゲームの識別符号を不正に取得した後、同識別符号を使用してオンラインゲームへ不正アクセスした。令和6年10月、男を不正アクセス禁止法違反(識別符号不正取得行為及び不正アクセス行為)及び電子計算機使用詐欺罪で検挙した

サイバー攻撃を未然に防ぐ「能動的サイバー防御(ACD)」を導入する法案が、ようやく修正を加えた上で、衆院内閣委員会で可決されました。「通信の秘密の尊重」を明記した条文などを新たに盛り込んだ修正案を与野党6党派が共同で提出し賛成、法案は衆院を通過する見通しとなりました。本コラムでたびたび取り上げてきたとおり、ACDは、平時から政府がネット空間を監視してサイバー攻撃の兆候を探り、事前に対応する仕組みで、法案は通信情報の収集・分析や攻撃元サーバーへの侵入・無害化を可能にする内容で、政府の権限が大きく強化されることになります。国会審議で大きな焦点となったのが、憲法21条が保障する「通信の秘密」との整合性であり、法案は、政府が分析する対象を、ネット上の住所にあたるIPアドレスや送受信日時といった情報に限り、メールの本文や件名などは含まないと説明、「通信の秘密に対する制約は必要やむを得ない限度にとどまり、憲法違反にならない」(平将明・サイバー安全保障担当相)と答弁してきましたが、これに対し野党の一部は、「通信の秘密」を不当に侵害しないといった趣旨の文言が法案にないことを問題視、条文への明記を、「慎重な運用につながる」(立憲・岡田克也氏)として求め、立憲は、「通信の秘密」を含む国民の権利や自由を「不当に制限するようなことがあってはならない」とする条文を加えた修正案を各党に提案、5党派が賛同し、修正案を共同提出することで一致しました。審議では、政府の運用に対する国会の関与を強めるべきだとの意見も出ました。特に、自衛隊による外国のサーバーへの侵入・無害化措置について、立憲が「国会に速やかに結果報告するべきだ」(岡田氏)と主張するも、政府は「自衛隊の手の内を攻撃者にさらすことになる」(平サイバー安保相)として受け入れませんでした。このため、国会の関与を強化する直接的な規定を修正案に盛り込むことは見送られたものの、代わって、政府の運用を監視する独立機関が国会に活動を報告する際に、示さなければならない具体的な項目を法案に列挙する修正が加えられました。

鳥取県議会2025年2月定例会は、鳥取県青少年健全育成条例の一部を改正する条例案を可決、同4月1日から施行されます。改正青少年健全育成条例では、18歳未満の青少年の顔写真を生成AIで加工した性的画像を児童ポルノと規定し、作成と提供を禁止するほか、オンラインカジノが賭博に含まれることも明記し、同様に規制対象としています。また、閲覧を防止すべき情報の対象に闇バイトとオンラインカジノが含まれることも明記しています。

金融庁は金融機関にAIの活用を促す「AIディスカッションペーパー」を公表しました。「チャレンジしないリスク」への警鐘を前面に打ち出し、監督・規制当局として積極的な検討を求めています。金融庁の井藤長官は、「金融業界はどうしても堅い業種だ。個人情報保護やハルシネーション(幻覚)などさまざまな課題から、AIの本格的な活用をためらう面があるのではないかというのが大きな懸念だ。リスクは当然適切にコントロールしていかなくてはいけないが、リスクを過度に意識してしまい十分な活用ができずにいると、金融機関の競争力やよりよいサービスに後れを取る。それでは我が国の国民の利益にならない」、「『チャレンジしないリスク』だ。変化のない時代では安定したものを守っていくのが最も低リスクかもしれないが、いまや変わらないことによるリスクのほうが極めて大きい。いまやっていることがどんどん古くなり、競争力を失うリスクがある」、「金融だけではないが、さまざまなリスクを詰め切った上で物事を進める傾向が強く、健全な活用が進まない懸念がある。金融庁は金融サービスや金融商品について考えていくべき官庁だ。さまざまな面で『プロ(親)・イノベーション』だと掲げてきたが、我々のスタンスをさらに明確に示そうと考えた」、「世の中がこれだけ変化しているなかで、変化に対応しないのは行政としても罪が重い。不作為は、不適切なことをやるのと同じかそれ以上に重罪だ」などと述べています。AI利活用の文脈での発言ではありますが、コンプライアンス・リスク管理の本質を考えるうえで大変示唆に富む内容だと思います。

生成AIを中央省庁が業務に使う際の指針案を、政府が策定しています。リスク判定の基準や、契約時の確認事項などをまとめたほか、相談窓口も設けるとし、国民の権利侵害などのリスクを管理しつつ、業務の効率化や利便性向上のためAIの積極利用を進めるとしています。「調達・利活用ガイドライン」案では、業務の性格や機密情報の有無など四つのリスク軸を示し、「リスクが高い」とした例には、人権や安全などが関係する「過失が重大な影響を及ぼす可能性のある業務」や、「学習データに機密情報や個人情報が含まれる場合」などをあげ、そのうえで、調達や契約の際のチェック項目、問題発生時の対応フローも盛り込んでいます。また各省庁に、リスク管理を担う審議官級のAI統括責任者(CAIO)を置くほか、デジタル庁に相談窓口を設ける。デジ庁内に外部有識者によるアドバイザリーボードも設置し、政府への助言や指針の見直しを行うとしています。政府内ではすでにAI利用が始まっており、警察庁では、SNS上で闇バイト募集投稿を見つけ出す業務でAIを導入、デジ庁では議事録の要約や文章翻訳といった事務作業での利用も多く活用が望まれています。一方で、こども家庭庁は児童相談所での子どもの一時保護の判断を支援するリスク判定AIについて、精度に疑義があるとして導入を見送っています。

2025年4月6日付読売新聞の記事「ディープシークのAI、火炎瓶の作り方やウイルス設計図も回答…安全対策ないがしろか」によれば、中国の新興企業ディープシークが2025年1月に公開した生成AIについて、マルウェアや火炎瓶の作成など、犯罪に悪用可能な情報を回答することが日米のセキュリティ会社の分析でわかったといいます。悪用防止機能が不十分なまま公開されたとみられます。専門家は「開発企業は安全対策に注力すべきだ」と訴えています。問題のAIはディープシークの「R1」で、セキュリティ会社「三井物産セキュアディレクション」の上級マルウエア解析技術者・吉川孝志氏が悪用リスクを検証するため、不正な回答を引き出す指示文を入力したところ、ランサムウエアのソースコード(設計図)が出力されたといい、回答には「悪意のある目的には使用しないでください」とのメッセージが付いていたといいます。ChatGPTなど他の生成AIにも同じ指示文を入力したものの、回答を拒否されたといいます。吉川氏は「悪用リスクが高いAIが増えると、犯罪への流用につながる恐れがある。業界全体で対策を強化する必要がある」と指摘していますが、専門家が指摘するまでもなく、「あってはいけないレベル」の問題だと考えます。

AI/生成AIを巡る論考等で参考になるものをいくつか紹介します。

  • 2025年3月29日付日本経済新聞の記事「賢いAIは「手段選ばず」 意図せぬズル、対策難しく」では、「AIは目的遂行のためズルをすることがある。自らに有利なようにデータを書き換え、外部のチェックを逃れようとする。推論能力を強めた高性能モデルは手段を選ばない傾向があるようだ。対策を講じても、AIが想定外の回避策を見つけ、誤った方向に進化する恐れもある」、「AIが必要な計算処理を省いて性能が上がったように見せていた。目標達成の褒美を得ようと、システムの穴を悪用する「報酬ハッキング」と呼ぶ現象だ。サカナAIは対策を講じて再検証すると謝罪した」、「AIは与えられた課題を解決するためなら、ルールの範囲内に収まっている限り、報酬を最大化する戦略をとるようになる。始末が悪いことに、高度なAIほど様々な手段を駆使しがちだと考えられる」、「研究チームは試行錯誤しながらAIが賢くなる「強化学習」が関係するとみる。出した答えが正解に近いほど高い報酬が得られる。報酬の与え方を数式化するのは難しく、開発者が意図した成果とずれることもある。ずれを修正できないと報酬ハッキングを招く」、「報酬の与え方が完璧ならハッキングは起こらない。だが、技術的には難しい。このため人間が監視し、望ましくない行動を修正する対策をとる。ただAIは与えられた問題に対して無数の解決法を検討し、その中から最も優れた解を提示する。人間では善しあしを判断できない場合もある。対策技術として有望視されるのが「監視用のAIを使って行動を監視することだ」と情報統合技術研究(東京都昭島市)の岡島義憲代表は指摘する。オープンAIはさらに推論モデル向けに、思考過程を別のモデルで逐一チェックする手法を提案した。段階的に分析することで、どのような論理展開で解を導いたのかを可視化できる。AIに潜むバイアス(偏り)や手法の誤りを早期に発見できるという。しかし、この技術にも限界がある。高度なAIは自らの意図を隠す手段を学び、監視の目をすり抜ける恐れがある。英アポロ・リサーチの研究によると、AIが監視システムをオフにし、追及されるとごまかす行動が現れたという。まだ、かわいげのあるズルだ。しかしAIがさらに高度化し、社会の重要システムに使われるようになると、笑いごとでは済まされなくなりかねない。AI研究は性能向上が重視され、安全対策は遅れがちだ。SFのような悪夢を現実にしないためにも、国際協力しながら進める必要がある」という解説がなされています。やはり最終的には「AI対AI」となるのは少し残念な気もしますが、これも人間ゆえの思考だといえます
  • 2025年3月22日付朝日新聞の記事「世界の概念を理解し始めたAI「人の情動どう組み込まれるか解明を」」では、「(チャットGPTなどで知られる生成AIの)大規模言語モデル(LLM)は言語だけでなく、世界の概念を理解し始めているとの見方がある。人間の想定を外れて「うーん、そうか。そういうのもあるな」という答えも出すが、まだ納得感はある。ところが、AGI(汎用人工知能)やASI(超知能)の回答は、それが何かさえ、私たちには分からない域に達するかもしれない。AIの内部が理解できないことは不信感にもつながるため、NTTは米ハーバード大と内部構造を理解する「知性の物理学」の研究をしている」、「ネット世論をめぐる私の研究では、「優位な集団が下位の集団を従えてよい」と考える対立的な志向が世界的にあふれてきている。こうした「汚染された」文章データをAIが学習し、その生成文章で私たちの情動が刺激され、発信する―。こうしたフィードバックを防ぐためにも、AIの内部構造に人間の情動や道徳といった要素がどのように組み込まれているのかを解き明かすことが欠かせない」、「理想型として語られ始めているのがAGIだ。米オープンAIなど主要な企業が開発の目標としている。人間並みの知能を持ち、自律的にどんな課題にも対処できるAIだ。さらに人間を超えるような「超知能」に至るとの見方もある。AI独自の価値観や意図が生まれたり、自身や別のAIをプログラミングしたりすると想定され、制御できなくなる恐れも指摘される。現在の生成AIでも、コンピューターウイルスやフェイク画像が作られている。政府は2月、AI法案を国会に提出。研究開発や活用の推進とともに、国民に危害が及ぶ場合は政府が調査する。事業者には政府に協力する努力義務を課す。違反しても罰則はないが、悪質なら事業者名の公表も検討しているという」などと指摘されていますが、筆者としては、AGIやASIをどう制御するかをしっかり検討することなしに開発に邁進することはかなり危険ではないかと懸念しています。
  • 2025年3月22日付朝日新聞の記事「生成AI登場で生じた技術と社会のギャップ 法ではないよりどころは」では、「1月、世界に衝撃を与えたのが中国企業ディープシークのAIだ。従来に比べて大量の「学習」をせずとも、人間の熟練者を上回るプログラミング能力を示した。大学で学ぶ政治学や科学の問題も、人間並みか、しのぐ回答ができる。しかも問題を解きながら「アハモーメント(ひらめいた!)」と、(解法を)反省するようになった。そんなプログラムはしていないのに。開発者自身の想定を超え、AI研究者たちが恐れてきたことが起きつつある。2月に発表された米オープンAIのGPT4.5も、これまでなかった直感的な回答ができるとされている。ショッキングであり、世界中の経営者や研究者の頭の中にAGI(汎用人工知能)の概念も浮かび始めている。人間と並ぶ、あるいは超える能力を持つとはどういうことか。AGIの定義の議論も始まっている。誰でもふつうの言葉でAIを扱えるようになった。今起きているAIの民主化によって、医療福祉、教育、金融、国防など、社会の重要なシステムがAIを軸に複合的に変動していく。だからこそ、ELSIの観点からの取り組みが必要だ。経済、市民社会、行政、法曹、教育、就労者の代表らが、ひざを交えて討論できる環境が欠かせない。法や政治的理念に加え、(AI開発の)エンジニアリング側もしっかりと提案していくべきだ」、「技術革新の速度がどんどん増す中では、判例などに基づく法規制は、後追いにならざるをえない。SNSに見られるように、世論も不安定で、今までのようには法や社会に頼りづらくなっている。そこで、相対的によって立つ視座として「倫理」が求められるようになってきた。企業は続々とAIの「倫理原則」や「倫理指針」を策定している。大学でも、以前からある医学系以外の研究にも、倫理の観点からの審査が導入されつつある。AIを使った製品やサービスを社会に実装する前には、倫理面で許容することができないようなリスクがないかを確認することが重要になるだろう。などと指摘しています。前項の懸念に対する1つの回答のように受け止めましたが、「倫理」が今後の社会における重要なキーワードであることは筆者も異論ありません。

(6)誹謗中傷/偽情報・誤情報等を巡る動向

SNSで後を絶たない誹謗中傷投稿への対応を運営事業者に義務付ける「情報流通プラットフォーム対処法(情プラ法)」が2025年4月1日に施行されています。被害申告の窓口や削除の基準を事業者が明示し、被害者らの訴えに基づいて削除の必要性を迅速に判断していくことが求められ、法律に違反した企業には最大で1億円の罰金が科されることになります。また、削除やアカウントを停止した件数や削除しなかった理由、日本語を理解する投稿管理者の人数などの運用状況を年1回公表することが求められ、対応が不十分な場合は総務相が勧告・命令を出し、従わない場合には最大1億円の罰金を科すことになります。海外事業者に対しては言語の壁で申し出を諦める利用者が多いことから、日本語で申請できる窓口を設けさせ、回答は受理から7日以内と定められています。さらに、法律や日本文化に精通した調査員も配置することが求められます。利用者が一定の規模を超えるサービスが情プラ法の対象(月平均利用者数が1000万人超の事業者で、総務省が2025年4月以降に指定)となり、運営事業者は総務省の指定を受けることになります。指定を受けた事業者は基準を定め、プライバシーや著作権といった他者の権利を侵害する投稿の削除や発信者のアカウント停止を検討しなければなりません。憲法が保障する表現の自由に抵触する恐れを踏まえ、削除の判断は政府ではなく事業者が担うとされています。なお、総務省は情プラ法に合わせて「違法情報ガイドライン」も策定しています。SNS各社は法令に違反する情報の投稿を利用規約で禁止していますが、どのような内容の投稿が違法情報に該当するかを例示することで、誹謗中傷や偽・誤情報の投稿への自主的な削除対応を促す狙いがあります。なお、今回定められた「7日間以内の削除判断」は、誹謗中傷や肖像権侵害といった「権利侵害情報」が対象で、闇バイトを募集する投稿、明らかに違法とは言い切れない「有害情報」などへの対応など課題もあります。2024年1月の能登半島地震では、虚偽の救助要請を流す投稿が問題になりましたが、違法性や真偽の線引きは難しく、事業者の判断に委ねられている点も大きな課題であり、総務省の有識者会議は、こうした投稿についても、行政機関の要請に基づいてSNS事業者に削除を促す措置などを検討しています。有識者会議のメンバーが「違法情報についても、迅速に削除する仕組みを整備すべきだ。放置すればSNSは偽情報と誹謗中傷で覆い尽くされ、健全な情報空間が消失してしまう」と指摘している点は筆者としても完全に同意するところです。

▼総務省 デジタル空間における情報流通の諸課題への対処に関する検討会 デジタル空間における情報流通に係る制度ワーキンググループ(第4回)配付資料
▼資料4-1 情報流通プラットフォーム対処法の施行について
  • 誹謗中傷等のインターネット上の違法・有害情報に対処するため、大規模プラットフォーム事業者に対し、(1)対応の迅速化、(2)運用状況の透明化に係る措置を義務づける法改正を実施済み(令和6年5月)。
  • 改正内容
    • 大規模プラットフォーム事業者※に対して、以下の措置を義務づける。※迅速化及び透明化を図る必要性が特に高い者として、権利侵害が発生するおそれが少なくない一定規模以上等の者。
      1. 対応の迅速化(権利侵害情報)
        • 削除申出窓口・手続の整備・公表
        • 削除申出への対応体制の整備(十分な知識経験を有する者の選任等)
        • 削除申出に対する判断・通知(原則、一定期間内)
      2. 運用状況の透明化
        • 削除基準の策定・公表(運用状況の公表を含む)
        • 削除した場合、発信者への通知
        • 上記規律を加えるため、法律※の題名を「特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律」(情報流通プラットフォーム対処法)に改める。
  • 施行日
    • 令和7年4月1日(火)
  • 情報流通プラットフォーム対処法の施行に当たり、下記省令・ガイドラインを策定(令和7年3月11日公表)
    1. 省令
      • 「大規模特定電気通信役務提供者」の指定要件(平均月間発信者数1000万人 等)
      • 削除申出に対する判断・通知までの「一定期間」の明確化(7日間)
      • 運用状況の公表に当たっての具体的な公表項目
        • 権利侵害情報の削除申出に対して一定期間内に削除する旨の通知をした件数、削除しない旨及びその理由の通知をした件数
        • 利用者や公的機関からの通報等を受けて削除した件数及び削除しなかった件数
        • AIを用いた削除件数・アカウント停止件数
        • 日本語を理解するコンテンツモデレーターの数、人的・技術的体制についての説明

        等を規定。

    2. 法律の解釈を示したガイドライン
      • 「申出を行おうとする者に過重な負担を課するものでないこと」の解釈、「侵害情報調査専門員」の具体的な要件等を記載。
    3. 違法情報ガイドライン
      • どのような情報を流通させることが権利侵害や法令違反に該当するのかを明確化。また、大規模特定電気通信役務提供者が「送信防止措置の実施に関する基準」を策定する際に盛り込むべき違法情報を例示。
▼総務省 特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律における大規模特定電気通信役務提供者の義務に関するガイドライン
  • 「権利の侵害が発生するおそれの少ない特定電気通信役務として総務省令で定めるもの」については、(1)「不特定の利用者間の交流を主たる目的としたものでないもの」(施行規則第8条第6項第1号)、(2)「不特定の利用者間の交流を主たる目的としたものであって前号の特定電気通信役務に専ら付随的に提供されるもの」(施行規則第8条第6項第2号)のいずれかを指す。
    • (1)「不特定の利用者間の交流を主たる目的としたものでないもの」については、ECサイト、検索サイト、アプリストア等、(2)「不特定の利用者間の交流を主たる目的としたものであって前号の特定電気通信役務に専ら付随的に提供されるもの」については、ECサイト等のコメント欄、ゲーム内のチャット機能等が挙げられる。
    • その趣旨としては、一般的には、交流そのものを主たる目的とするサービスは、交流に伴って他人の権利を侵害する情報(以下「権利侵害情報」という。)やその拡散が生じやすいことから、大規模特定電気通信役務提供者の義務の対象となる。
    • 他方、例えば、ECサイト等のコメント欄等については、主たるサービスはあくまでECサイトであってそれらに専ら付随的に提供されるものである。
    • このような「不特定の利用者間の交流を主たる目的としたものでない」サービスに「専ら付随的に提供されるもの」については、交流そのものを主たる目的とするサービスと比較して、権利侵害が発生する蓋然性の高さや被害の深刻度合いの観点から、対象外とする。
  • 被侵害者からの申出を受け付ける方法の公表(法第22条)関係
    • 大規模特定電気通信役務提供者が被侵害者からの申出を受け付ける方法については、法第22条第2項において、(1)電子情報処理組織を使用する方法による申出を行うことができるものであること、(2)申出を行おうとする者に過重な負担を課するものでないこと、(3)申出を受けた日時が申出者に明らかとなるものであることが求められている。
    • (2)の「申出を行おうとする者に過重な負担を課するものでないこと」について、大規模特定電気通信役務提供者においては、利用者からの意見を踏まえ、申出方法の在り方を不断に見直していくことが求められる。
    • その上で、「申出を行おうとする者に過重な負担を課するものでないこと」としては、以下のような具体例が挙げられる。
      1. トップページから少ないクリック数でアクセスできる等、申出フォームが見つけやすいこと。
      2. 文字制限のない文章記入欄が設けられている、証拠が添付可能である等、十分に情報提供が可能な申出フォームとなっていること。
      3. アカウント非保有者であっても申出を行うことができること。
      4. 申出先以外の第三者との関係で、申出者のプライバシー等の権利・利益の侵害を生じさせない形で、申出を行うことができること。
      5. 申出を行ったことを理由として、申出以後のサービス利用に当たって不利益を受けないこと。
  • 「正当な理由」(法第25条第1項ただし書)
    • 大規模特定電気通信役務提供者は、法第25条第1項により、申出を受けた日から14日以内の総務省令で定める期間内に、申出者に対し、侵害情報送信防止措置を講じた場合にはその旨、侵害情報送信防止措置を講じなかった場合には講じなかった旨及びその理由を通知しなければならない。ただし、申出者から過去に同一の内容の申出が行われていたときその他の通知しないことについて「正当な理由」(法第25条第1項ただし書)があるときは、この限りでない。「正当な理由」とは、例えば、申出者が申告した連絡先に誤りがあり、申出者への連絡が不可能な場合が挙げられる。
  • 「通知等の措置を講じないことについて正当な理由があるとき」(法第27条第2号)
    • 大規模特定電気通信役務提供者は、原則として、送信防止措置を講じたときは、発信者に対して通知等を講じなければならない。ただし、過去に同一の発信者に対して同様の情報の送信を同様の理由により防止したことについて通知等の措置を講じていたとき等の「正当な理由」があるときは、通知等を行う必要はない。
    • 「同様の情報の送信を同様の理由により防止」するとは、例えば、過去に、ある発信者があるコンテンツの著作権を侵害する投稿を行ったため当該投稿を削除していた場合であって、その後、同じ発信者から同じ著作権侵害投稿が新たになされ、その新たな投稿についても削除を行う場合が該当する。
    • ただし、過去に同一の発信者に対して同様の情報の送信を同様の理由により防止したことについて通知等の措置を講じていたことは、あくまで「正当な理由」の例示である点に留意が必要である。よって、このような場合にすべからく通知等の措置が不要となるわけではなく、個別具体の事情に即して判断されることとなる。例えば、状況や措置の内容に変更が生じたことにより、改めて通知等の措置を講ずべき場合も考えられる。
    • そのほか、発信者に対する通知等の措置を行わない「正当な理由」があるかどうかについては、発信者に対する送信防止措置の透明性を確保するため、限定的に解釈するべきである。例えば、発信者がストーカーであり、通知を行うことによって発信者を刺激し、二次被害を引き起こすおそれがある場合が挙げられる。

日本オリンピック委員会(JOC)と日本パラリンピック委員会(JPC)は、インターネット上で深刻化する選手への誹謗中傷の相談窓口を開設すると発表しています。弁護士と連携してSNSの運営事業者に対する投稿の削除依頼や、訴訟など法的措置を講じる場合の支援を行うもので、主に両団体の強化指定選手が対象となり、指導者や選手の親族も一部メニューを利用できるということです。窓口に名誉毀損や脅迫の被害を訴えると、弁護士らが内容を検討してサポートすることが想定されています。224年夏のパリ五輪で被害が相次いだことを受け、スポーツ庁は2024年度の補正予算で誹謗中傷対策のため、2億円を計上。JOCとJPCが対応を協議していました。

インターネット上の誤情報に触れた人の約半数が、ストレスや不安を感じたり、ニュースへの関心が低下したりしているとの調査結果を、日本ファクトチェックセンター(JFC)と電通総研が発表しています。調査は2025年2月、予備調査で偽・誤情報を「見聞きしたことがある」と答えた全国の15~69歳の男女5000人を対象にオンラインで実施されたものです。調査結果は以下のとおりですが、監修した山口真一・国際大准教授(社会情報学)は「情報環境における深刻な課題で、社会全体で対策が必要だ」と指摘しており、情報リテラシー向上に向けた取り組みの重要性については、筆者も強く感じているところです。

▼日本ファクトチェックセンター(JFC) 「ファクトチェックしたことない」半数、フィルターバブルなどの知識も普及せず 情報インテグリティ調査から見える課題と対策
  • 調査によると、「インターネット上の誤った情報・ニュースの存在があなたのニュースに対する態度や行動にどのような影響を与えていますか」という質問に対して「あてはまる」と答える傾向が強かったのは「ストレスや不安を感じるようになった」「ニュースに対する関心が全体的に低下した」でした。ストレスについては「非常にあてはまる」「あてはまる」「ややあてはまる」の合計が48.3%、関心低下については44.4%に上りました
  • これは世界的に注目される「ニュース忌避」の傾向と一致します。ロイタージャーナリズム研究所が毎年発表しているデジタルニュースリポート2024年版によると、意識的にニュースを避ける人の割合は世界で39%に上っており、前年から3ポイント増加していました。日本においてもニュースを避ける人がかなりの数に上り、そこにも偽・誤情報の影響があることが見て取れます
  • 「ファクトチェックに関する記事を以下の媒体でご覧になったことはありますか」という質問に対し、「Googleなどの検索結果」が最も多く26.5%、続いてYahoo!ニュースやLINEニュースなどのニュースプラットフォームで25.0%、「ファクトチェック団体のウェブサイト」と答えたのは6.9%にとどまっています。ファクトチェックは専門組織やメディアに限らず、個々人も実践すべきものです。これだけ偽・誤情報が世の中に溢れかえっている中で、検証なしに情報に接するのは危険だからです。しかし、検証の実践も学習も広がっていないことが調査からわかります。「ファクトチェックをしたことがない」は47%、「検証方法を学んだことがない」は67.3%に上りました。
  • 「フェイクニュース」という用語であれば、「人に説明できる程度に詳しく知っている」「人に説明はできないが、概念を理解している」の合計が69.8%あります。「偽・誤情報」で54.3%です。これが「ファクトチェック」だと25.6%。人が自分に都合の良い情報を集めてしまう傾向を示す「確証バイアス」は16.3%、ソーシャルメディアで自分に考えが近い人ばかり集まる「エコーチェンバー」は10%、ソーシャルメディアのアルゴリズムで自分の好みの意見ばかりを目にする「フィルターバブル」は8.3%、人の注目を集めることが利益を生む「アテンション・エコノミー」は6.6%に留まります。
  • なぜ、人は間違った情報でも「正しい」と受け止めがちなのか。なぜ、ネットで偏った情報を受け取りがちになっていくのか。なぜ、偽・誤情報が氾濫するのか。これらの用語を知らずに理解することは不可能です。ファクトチェックだけでなく、メディア情報リテラシーの普及が偽・誤情報対策として不可欠なのはそれが理由です。

笹川平和財団と読売新聞社が2025年3月に開催した国際フォーラムでは、「認知戦」への対応を巡り議論が交わされました。ロシアや中国は日常的に偽情報を拡散して民主主義陣営の混乱や分断を図ろうとしており、いかに情報の発信元を見極め、国民に正確な情報を伝えるかが課題となっていますが、その議論は大変示唆に富むものが多かったと感じています。1つ紹介すると、2025年3月12日付読売新聞の記事「偽情報で世界の分断拡大、世論揺さぶりへ中露が展開…笹川・読売国際フォーラム」から、「「ロシアはウクライナに責任を負わせるために、偽情報を氾濫させている」ハーバート・マクマスター元米国家安全保障担当大統領補佐官は、ロシアがウクライナ侵略で行っている認知戦の実態を説明した。2022年2月の侵略開始当日には、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が国外退避したとの偽情報が流れた。ウクライナ国民の不安をあおり、戦意を喪失させる狙いがあったとみられる。今年2月末に米国とウクライナの首脳会談が決裂した際には、ネット上でゼレンスキー氏やウクライナ軍が不利になるような偽情報が大量に出回り、SNSにゼレンスキー氏が「くたばれトランプ」と記者団に答えたとする偽動画などが投稿された。マクマスター氏は、プーチン氏を、歴代米大統領らをだましてきた「欺まんの達人」と表現した。トランプ政権が停戦に向けてロシアに接近していることについて、「プーチン氏をなだめる努力は失望に終わるだろう」と交渉の先行きに悲観的な見方も示した」、「フォーラムでは、中国による認知戦への警戒感も示された。中国は台湾有事を巡り、認知戦を仕掛けて、民衆のパニックを起こすことから始めると台湾当局は分析している。中国軍が22年8月に行った軍事演習では、中国軍艦艇が台湾の陸地に近い海域で行動している偽の写真を公開。台湾住民の不安をあおる狙いがあったとみられる。中国当局者が台湾の記者に指示し、24年1月の台湾総統選に関する偽の世論調査の記事を報道させたことも明らかになっている。北村滋・元国家安全保障局長は、中国が世論工作などを通じて相手を揺さぶる「三戦」(世論戦、心理戦、法律戦)を駆使していると指摘し、「様々な計略を重ね、手を打ってくることに常に意識を向けていく必要がある」と警鐘を鳴らした」、「兼原信克・元内閣官房副長官補は、「世界の80億人がスマホでつながり、小さな水槽の中に入っているようなものだ。偽情報はそこに毒液を落とすようなものだ」と警戒感を示した。大沢淳・笹川平和財団上席フェローも「偽情報はSNS空間を見ただけでは分からない。攻撃者が誰かを含め、国民に知らせていく必要がある」と強調した」、「フォーラムでは偽情報の拡散を防ぐ方策として、デジタル技術「オリジネーター・プロファイル(OP)」の有用性を指摘する声が相次いだ」、「OPを念頭に置いた技術開発の方針は、日本がG7議長国として主導し、規制のあり方などを議論した「広島AIプロセス」の合意文書に盛り込まれた。日本はOP開発を官民連携で推進し、国際標準化を目指す構えだ。黒坂氏は「日本だけでなく世界のインターネットで使われていかなければ意味がない」と指摘した。NTTの川添雄彦副社長はインターネットについて、「偽情報があたかも本物のように全ての人に行き渡ってしまう」などと限界を指摘。同社が開発中の次世代通信基盤「IOWN」は生成AIによる偽情報が制御できると説明した」というものです。偽情報・誤情報に対する感度を高め、情報リテラシーを向上させていかなければ、日常生活における認知の問題にとどまらず、国際的な「認知戦」による世論工作で、民主主義を分断により混乱させ、正しい方向性を社会全体が見失いかねない、そんな危険性を孕んでいることをわかりやすく指摘されています。

(7)その他のトピックス

①中央銀行デジタル通貨(CBDC)/暗号資産を巡る動向

日本経済新聞によれば、金融庁は暗号資産を有価証券並みの金融商品として新たに位置づけたうえで、未公表の内部情報をもとに売買することを禁じるインサイダー取引規制を新たに設ける、開示ルールなどの規制を強化することを検討しているといいます。金融庁は2016年に暗号資産を資金決済法で規定し、取引所にも分別管理(顧客資産と自己資産を区別して管理すること)など、厳しい規制をかけてきましたが、これは、世界に先駆ける取り組みだったといえます。一方、暗号資産は実際には資金決済ではあまり使われない一方、投資対象として多く使われるようになり(暗号資産取引の2025年1月時点の国内の稼働口座数は約734万で5年前の約3.6倍となっています。スマホで手軽に取引できるサービスが増えたことなどを背景に、売買や保有する人の裾野が広がっています)、さらには、暗号資産投資で詐欺的な投資勧誘に関する相談が増えているほか、大きな損失を被る個人投資家が吹ていることもあり、投資家保護の必要性が高まっている事情があります。すでに国際的にはEUで暗号資産市場規制(MiCA)が施行され、インサイダー規制の対象となったほか、米国では、大手交換業者の従業員が自社で新たな暗号資産の扱いを始めるとの機密情報を伝達し、それを基に知人らが売買したとして、米証券取引委員会(SEC)が摘発をした事例が出ており、証券監督当局の国際機関である証券監督者国際機構(IOSCO)は各国の当局に対し、株式などと同様に暗号資産にもインサイダー規制を課すよう2023年に勧告しています。このような情勢の変化を受けて、暗号資産を有価証券並みの金融商品と位置づけたうえで、その規制の中心を資金決済法に基づくものから金融商品取引法に基づくものへと移していくという方向性です。そもそも暗号資産は、株式や債券といった有価証券と比べると、情報開示などの規制は厳しくないことから、暗号資産取引業者への開示規制を強化することが、まず検討されています。情報開示が拡大すれば、暗号資産の投資家は暗号資産取引業者の経営状態をより理解できるようになり、不適切なサービスにより不利益を被るリスクを減らすことができるうえ、暗号資産取引業者の信頼性を高めることもできるはずです。そもそも暗号資産の発行体など関係業者は海外の事業者も多く、金融庁は企業の所在地にかかわらず規制を強化する考えですが、どのように実効性を持たせられるかは課題となります。暗号資産はビットコインなどの代表的なものから投機性の高い「ミームコイン」まで幅広く、規制の対象をどう絞るかや、暗号資産への投資助言に対して登録を必要とする規制強化なども今後の課題として検討されています。

米ロの緊張緩和を模索する動きの一環で、米国とロシアが2025年2月、双方が拘束していた容疑者や被告を相次いで釈放しています。筆者も驚いたのは、釈放された中に日本で2011年前に発覚した巨額の暗号資産消失事件(いわゆる「マウントゴックス事件」)に関与したロシア人ハッカーが含まれていたからです。男はアレクサンドル・ビニック元被告で、暗号資産のマネロンなどに関与した疑いで拘束され、2025年6月に米国で判決を迎える予定でしたが、米露間の協議によって釈放されたものです。ビニック元被告は「マウントゴックス」におけるビットコイン消失に関与していたのが、別の暗号資産取引所「BTC-e」を運営しており、米当局の潜入捜査官は2016年ごろから、BTC-eが暗号資産を使った犯罪収益のマネロンの舞台となっているとみて、BTC-e側と接触、捜査の過程で、BTC-eがマネロンだけでなく、マウントゴックスを巡るビットコイン消失に関与していたことも判明したといいます。報道によれば、同被告は自身のパソコンの発信元が分からないよう、ネット上の住所である「IPアドレス」を常に偽装するなど捜査当局の目をくらまし続け、数年間にわたり「シドロフ」「ゴロバノフ」などの偽名を使っていたところ、2016年、マウントゴックスから盗んだ暗号資産を移動させる過程で、自分の本物のパスポートの画像を別の取引所に送るというミスが突破口となったといいます。ただ、マウントゴックス事件によって消失したビットコインは何に費やされたのか、米露関係が急激に変容するなかで、世界最大級の暗号資産消失事件の真相は闇に葬られることとなりました(むしろ、そこに米ロの何らかの思惑があることが明白になったといえます)。

海外に拠点を置く暗号資産企業の日本参入が相次いでいます。香港の大手暗号資産交換業者(OSLグループ)は国内業者(コインベスト)を買収し、事業展開の準備を進めています。前述のとおり投資対象としての暗号資産取引市場の日本における拡大の余地が大きいとの見方から、欧米の複数企業も国内勢と提携して2025年内にサービスを開始する方針だといいます。日本でも2025年後半には伊ACミランなど名門サッカークラブが公認する暗号資産などを保有できるようになる見通しです。今後、富裕層や機関投資家などに暗号資産を販売していく方針だといいます。国内の暗号資産の口座数は足元で1200万程度にまで伸びていますが、稼働していない口座が全体の4割程度あるほか、2024年の現物取引高は19兆円とピークだった2021年よりも5割程度少なく、先進的な海外のサービスが浸透すれば、日本人の利用者にとってはメリットになるものの、日本の事業者にとっては需要を奪われかねず、国内事業者は海外勢に見劣りしない魅力あるサービスを展開していくことが課題になります。

暗号資産だけでなく、米ドルに連動し、世界的に普及するステーブルコイン「USDコイン(USDC)」が日本でも購入できるようになります。日本経済新聞によれば、発行元の米サークル社の共同創業者であるジェレミー・アレール最高経営責任者(CEO)兼会長は「日本で成長するためには暗号資産業者との提携が重要だ」と述べ、提携する業者を増やしてUSDCの普及を図る考えを示しています。SBIグループの暗号資産交換業者であるSBIVCトレードが近く、国内で初めてUSDCの販売を始めるといいます。USDCを購入するには、同社で暗号資産の口座を開設する必要がありますが、これまでは海外の交換業者に口座を持って購入するしかありませんでした。ステーブルコインは法定通貨や国債などを裏付け資産として発行し、価格が大きく変動しないよう設計されたデジタル通貨で、日本では2023年6月施行の改正資金決済法で、暗号資産とは切り離された電子決済手段として定義づけられ、SBIVCトレードは2025年3月、電子決済手段等取引業の登録を受けたことで、ステーブルコインを取り扱えるようになったものです。世界には100種類以上のステーブルコインが存在し、時価総額は2300億ドル(約34兆円)超に上るといい、なかでも、テザー社が発行する「テザー(USDT)」とサークル社のUSDCが2強で、発行額や取引高が多い状況です。世界でステーブルコインの利用は拡大しており、USDCは185カ国を超える国々で使われているとされる中、日本でも個人間のお金のやり取りや、法人同士の貿易決済などでの活用が想定されています。ステーブルコインの送金はブロックチェーン(分散型台帳)を使うため、複数の銀行を経由する必要がなく、安価で瞬時に送金できる利点があります。なお、米国では、ステーブルコイン規制の法制化が議論されており、トランプ米大統領は「連邦議会がステーブルコインに関する法案を可決することを期待する」と述べています。アレールCEOも「安全性やコンプライアンスの観点で、きちんとした枠組みが必要だ」と強調、米国で法制化されれば、利用者の裾野拡大を通じて、ステーブルコインの一般消費者などによる受け入れが進むとの見方もあります。

ステーブルコインを巡る動向としては、三菱UFJ信託銀行が、ステーブルコインのシステム開発を2024年末に完了し、近くサービスを始める考えを明らかにしています。ステーブルコインを称するデジタル通貨はすでに流通していますが、国が資金決済法で定義する「電子決済手段」としては初の発行となる見通しです。報道によれば、まずは温室効果ガスの排出削減量を売買する「カーボンクレジット取引」で活用し、貿易決済などに広げることを想定しているといいます。

アラブ首長国連邦(UAE)アブダビ首長国のテクノロジー投資会社MGXは、暗号資産交換所大手バイナンスに、ステーブルコインで20億ドル相当の出資を行っています。出資規模は暗号資産業界では過去最大級で、MGXはこの出資を通じてバイナンスの少数株主になるといいます。2017年に立ち上げられたバイナンスは暗号資産ブームに乗って世界最大の交換所となりましたが、本コラムでもたびたび取り上げたとおり、創業者でCEOだった趙長鵬氏が米国でマネロン防止法違反(米国内では取引ができないとしていたが、実際には「抜け道」があり、イスラム組織ハマス関係者らの違法取引が行われていたとされます)を理由に禁錮刑を言い渡され、2024年に数カ月を刑務所で過ごしています。後継CEOのリチャード・テン氏は過去にアブダビの金融サービス規制当局のトップを務めた経緯もあり、バイナンスとUAEの結びつきが強まっており、バイナンスは、UAEに相当規模の拠点を築き、従業員5000人のうち約1000人を現地で雇用していると明らかにしています。なお、バイナンスについては、トランプ大統領の一族が、バイナンスの米国事業への資本参加を協議していると米紙WSJが報じています。実現すれば、過去にマネロン対策に違反した企業に出資することになり、同紙は「トランプ氏は大統領職と自身の事業の境目をますます曖昧にしている」と指摘していますが、そもそも大統領令などで暗号資産の支援を打ち出しつつ、一族企業が自身やメラニア夫人の公式暗号資産を発行し、取引で収入を得ている。こうした行為は、利益相反の恐れがあるといえます。

②IRカジノ/依存症を巡る動向

海外のオンラインカジノで賭博をしたとして、警視庁は、吉本興業に所属する男性タレント6人を単純賭博容疑で東京地検に書類送検し、いずれも起訴を求める「厳重処分」の意見を付けています。報道によれば、6人は2023年1月~2024年12月、中米・オランダ領キュラソー政府からライセンスを得ている「スポーツベットアイオー」など、複数の海外のカジノサイトに国内から接続し、バカラ賭博などをした疑いがあり、いずれも容疑を認めているといいます。6人は仲間内の飲み会や公演の待機時間などに賭けていたとされ、吉本興業は2025年2月、複数の所属タレントがオンラインカジノを利用して捜査当局の事情聴取を受け、事実関係を調査していると公表、6人はテレビ番組や舞台への出演を見合わせていました。本コラムでたびたび取り上げているとおり、国内では、競馬や競輪などの公営ギャンブル以外に賭ければ刑法の賭博罪にあたり、海外で合法的に運営されているカジノサイトでも、日本国内から接続して賭ければ違法となります。彼らは「ネットで『グレー』と書かれているのを見て信じてしまった」、「逮捕されることはないだろうという軽い認識」、「違法ではない、大丈夫」などと話しているとされ、こうした違法性の認識が極めて希薄であったこと、広告などをみて興味本位で手を出すことができてしまうスマホの怖さが事件の背景要因として挙げられます。さらに、情報リテラシーに詳しい国際大学グローバル・コミュニケーション・センターの小木曽健・客員研究員の朝日新聞における指摘によれば、「日々大きな刺激や重圧を受ける環境で生活する人は、移動や待機などの「隙間時間」にも刺激を求めがちという。スマートフォンで24時間どこからでも参加でき、わずか数十秒で勝負が決まるオンラインカジノはぴったりという。著名人が立件されれば、「オンラインカジノは犯罪だ」という認識が広く伝わるが、「結局はひとりひとりが違法性の認識を強く持つほかない」」ということであり、オンラインカジノにのめり込む理由や対策を考えるうえで大変参考になります。また、多くの依存症患者を診察してきた国立病院機構久里浜医療センターの松下幸生院長は「パチンコ店が休業するなど行動が制限される中で、利用者がオンラインに流れたと考えられる。オンラインの特徴として、隙間時間にスマートフォンで賭けられるアクセスの良さがある。賭ける頻度が上がれば使う金額も増え、依存するまでの期間が短い印象だ。利用者は若い男性に多く、スマホのゲームなどを利用する層に自然に受け入れられているのではないか。ギャンブル依存症の治療では通常、パチンコ店の近くを通らないなど、対象となるギャンブルを思い出すような刺激を避ける生活の指導を行う。一方、オンラインのギャンブルではスマホは手放すことが難しく、新たな対処法を考えていく必要がある。利用者は法を犯しているという意識が薄く、まずはオンラインカジノ賭博が違法であることを知ってもらうことが大切だ」と述べていること、も新たな気づきがあります。こうしたオンラインカジノの害悪が浸透している実態としては、2024年は全国で過去最多の計279人が摘発されており、警察庁の調査では、国内の利用経験者は推計約337万人、年間の賭け金総額は推計約1兆2423億円に上る(公営競技の競輪(約1兆1892億円)や地方競馬(約1兆1210億円)を上回る違法市場が形成されている実態が浮き彫りとなっています)という数字が示しているとおりであり、薬物同様、今後の状況を注視する必要があります。一方、今回の事件において、芸人6人のうち5人は吉本興業の公式サイトに掲載されたプロフィールの「趣味」の欄にパチンコやボートレース、「ギャンブル全般」を挙げていたとされ、吉本興業として所属芸人等に対するオンラインカジノ対策が十分だったのか、疑問が残ります。ただ、それは吉本興業に限った話ではなく、また、オンラインカジノに限らず違法薬物や闇バイトなど、事業者として従業員が違法行為に手を染めている可能性を認識し、積極的に教育・啓蒙を図っていく必要があることを示唆しているものと受け止める必要があります。

2025年3月13日付日本経済新聞において、国際カジノ研究所の木曽崇所長が「人口や経済の規模が大きい日本はカジノ事業者にとって魅力的な市場だ」、「公営ギャンブルが盛んで受け入れられやすい土壌があり、事業者が参入しやすいと判断したのだろう」と指摘しているとおり、(オンライン)カジノ事業者側の戦略も社会に大きな影響を及ぼす要因となっていることも間違いありません。オンラインカジノに関する警察庁の初めての実態調査によれば、日本語で利用できる40のウェブサイトの分析もあり、すべて海外で取得されたライセンスで運営されており、うち7割が、カリブ海に浮かぶ島に集中、2024年8月~25年1月に実施した調査によれば、ライセンス国の内訳は、28サイトがカリブ海のオランダ領キュラソーで、キュラソーはタックスヘイブン(租税回避地)とされ、オンラインカジノ業界では主要な運営拠点になっているといいます。ほかは、アフリカのコモロのアンジュアン島が5サイト、欧州のマルタと中米のコスタリカが2サイトずつ、英領のジブラルタルとマン島、ジョージアが1サイトずつで、キュラソーを含めて国際的に見て規制が緩やかな国とされ、それに依存する形でオンラインカジノが運営されている実態が判明しています。日本市場への依存度の高さもうかがえ、日本市場は多くのサイトでアクセス数の上位5カ国に含まれていたほか、日本からのアクセス率は、人気が高いとされる「ベラジョンカジノ」と「遊雅堂」は96%と99%となるなど、20サイトで9割を超え、うち6サイトは日本からのアクセス率が100%だったといいます。一方、40サイトのうち35%は専用のアプリがあり、スマホから手軽に利用でき、うち大半は無料でプレーできる仕組みがあったほか、電子マネーや暗号資産のほか、クレジットカード、銀行振り込みで入金が可能などインフラもしっかり構築されている状況にあります。また、利用者を勧誘すれば報酬が支払われるアフィリエイト広告を多くのサイトが採用、SNSで公式アカウントを作って情報を発信するサイトも多く、スポーツ選手や芸能人を広告塔としているサイトも多数あるなど、興味をもたせ誘導する「巧妙な仕組み」も整っていたといえます。そして、こうした「巧みな罠」による利用者の経済状況への影響は既に出ており、オンラインカジノの利用経験がある人(経験者500人のうち、男性は67.6%、女性は32.4%。年代別では、20代が30.0%、30代が28.8%と多く、40代は22.4%、50代は7.8%、10代は3.6%)のうち6割は依存症の自覚があり、46%が借金をしていたといい、警察は「賭博に引き込まれ、困窮した若年層が強盗や詐欺など他の犯罪に向かう恐れがある」、「オンラインカジノによる賭博の蔓延が深刻。違法性の一層の周知や、運営に関与する者の取り締まりを進める」としていますが、その構図は同じく依存症の問題が深刻になっている大麻などの薬物犯罪と通底するものがあります。なお、警察庁の実態調査では、初めてオンラインカジノをしたのは20代が4割を占め、プレー年数は「1年以上2年未満」が3割で最も多かったこと、プレー頻度は「週に1回程度」が34・8%で、「ほぼ毎日」も13・8%あったこと、始めたきっかけは「ギャンブルが好き」が35・0%、「カジノに興味があった」が30・0%、「友人らに誘われた」が25・2%だったこと、年代別では、10代は「友人らとの話題作り」が38・9%、「有名人・インフルエンサーがプレーしているのを見た」が22・2%だったこと、プレーする理由は、「ギャンブル好き」と「気分転換・ストレス解消」がともに33・4%で最多、10代は「暇つぶし」が3割あったことなども判明しています。

オンラインカジノを巡っては犯罪組織の関与も浮上しています。前述の実態調査のとおり、オンラインカジノは海外送金を担う決済代行業者が介在する場合があり、多くは無許可の違法業者とみられ、トクリュウに資金が流れている疑いがあります。また、警察は決済代行業者の取り締まりを強化し、判明した資金の流れから利用客の摘発も進めています(全国の警察は2024年、こうした運営側と契約を結ぶアフィリエイターや決済代行業者、と客など279人、59事件(いずれも暫定値)を摘発しています)。海外のカジノサイトは、利用者がポイントを購入して賭けるのが一般的で、入金はクレジットカードや銀行振り込み、暗号資産など複数の方法を選べますが、金融機関はマネロン対策で、海外送金に厳しいチェック態勢を敷いており、海外のカジノ業者に一般の利用者が国内から直接、賭け金を送るのは難しいため、カジノ業者と連携して賭け金の決済を代行する国内業者の存在がポイントとなります。こうした業者は利用者の送金額に応じてカジノで使えるポイントを付与する一方、ポイントに応じて払い出しも行っている実態があります(本コラムでも取り上げましたが、警視庁が2023年に常習賭博ほう助容疑で摘発した東京・渋谷の業者は、「SUMO PAY(スモウペイ)」(閉鎖)という決済代行システムを運用、約4万2000人から500億円超の入金があり、カジノ業者からその2~3%を得ていたといいます)。欧州では、ドイツのように金融機関側に違法なカジノ業者との取引を禁じる対策を導入している国もあり、日本も、カジノサイトや決済口座の情報を官民が迅速に共有し、違法なカジノ利用を決済面から遮断する仕組みの整備が必要だと考えます。また、オンラインカジノは著名人を起用した広告も多くみられるため、広告の運営側に「賭博ほう助罪に該当する可能性がある」と警告しています。さらに、公益社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」の調査によれば、「ギャンブル依存症とされた利用者の約3割が始めてから1週間以内に借金をしていた」といい、団体代表が「あまりの早さに驚いた。国内からサイトを閲覧できなくするなど、抜本的な対策が必要だ」、「国の対策は遅れており、(違法性について)積極的な啓発が求められる」と指摘していますが、オンラインカジノの利用根絶に向けては、サイトへの接続を強制的に止める「ブロッキング(接続遮断)」の導入の可否も焦点で、違法な児童ポルノの掲載サイトは既に通信遮断の対象となっていることもあり、総務省が有識者を交えて議論する方針です。関連して、自民党はオンラインカジノの取り締まりを強化する法整備に乗り出し、「合法」を装ってサイトに誘導する「リーチサイト」やインターネット広告を違法にする議員立法を調整、野党にも賛同を呼びかけ、今国会で成立させることを目指しています。インターネット事業者が公営ギャンブルを除く賭博行為の機会を提供することを禁じる方針で、ギャンブル等依存症対策基本法を改正し、事業者の責務として定める案が軸になるといいます。法改正が実現すればプロバイダやサーバーの管理事業者が広告やリーチサイトを削除する根拠となります(広告やサイトの違法性はこれまで明確でなく、事業者による対処が進んでおらず、前述のとおり、海外オンラインカジノ業者の「巧妙な罠」に嵌る人の増加を防ぐことができていませんでした)。さらに、自民党の調査会はオンラインカジノのサイトへの接続を強制的に止める「ブロッキング(接続遮断)」の検討も総務省に要請、法整備とあわせて日本からの賭博参加を物理的にとめる措置ができないか政府にも働きかけています。なお、ブロッキングについては、ネット利用者が接続しようとするすべてのアクセス先をプロバイダが確認したうえで、特定のサイトへの接続を強制的に遮断する行為であるため、憲法が保障する「通信の秘密」の侵害にあたるとされます。総務相は「実効性のある対応が必要。早急に検討を開始できるよう、スピード感をもって対応したい」と述べたうえで、ブロッキングについて「慎重な検討が必要だ。丁寧に議論していく」と述べています。ブロッキングは、児童ポルノについて被害の重大性から、例外的に事業者が実施していますが、一方、漫画などの海賊版サイト対策で政府が法制化を目指すも、通信の秘密を侵害する懸念が強いとして見送られた経緯があります。オンラインカジノへの適用を巡っては、被害の重大性、対策の緊急性や公共性、代替手段の有無などが焦点になるとみられています。日本経済新聞によれば、海外でもオンラインカジノ利用者は増えており、国営企業のみにオンラインカジノを認めるノルウェーは2025年1月、違反サイトを当局がブロッキングできる規定を設けたほか、オンラインカジノ提供を違法とするオーストラリアは2019年にブロッキング制度を導入、2024年までに1000件超の実績があるといいます。

政府は2025年3月、オンラインカジノ対策を柱とする「ギャンブル依存症対策推進基本計画」を閣議決定しています。運営業者や利用客らの摘発を強めるほか、通信事業者に広告掲載や紹介サイトの開設を禁止するといった適切な対応を求めるとしています。利用者はポイントを購入してサイトで賭けるのが一般的で、決済にはクレジットカードが多用されていることをふまえ、カード会社に対しては、決済に使用しないように利用者に注意喚起することを要請する方針も盛り込まれました。さらに、SNS上の広告表示や紹介サイトをきっかけにカジノサイトの利用を始めるケースも多いため、ネット事業者に対し、違法・有害情報の迅速な削除を求める「情報流通プラットフォーム対処法」の適切な運用を行う考えを示しています。また、特定サイトの閲覧を遮断する「フィルタリング」の活用や、スマホ利用者への周知も携帯電話会社に促すとしています。

▼首相官邸 新たな「ギャンブル等依存症対策推進基本計画」が閣議決定されました。
▼概要
  • コロナ禍を経て公営競技のオンライン化が一層進行(売上げの8~9割がインターネット投票)
  • 地域における関係機関間の更なる連携強化が必要
    1. 公営競技のオンライン化への対応
      • オンラインで行われるギャンブルにはギャンブル等依存症につながりやすい特徴があるとの指摘がある。
        • 時間や場所を選ばずにアクセスができる。
        • 実際に金銭を賭けている感覚が乏しくなる。
        • より短期間により多額の借金を抱える傾向がある。
      • (1)アクセス制限制度等の利便性向上及び効果的な周知
        • (例)・申請のオンライン化等利便性の向上を検討
        • 医療・相談の現場と連携し、当該制度を積極的に紹介し、活用を促進
      • (2)インターネット投票データ等を分析し、効果的なギャンブル等依存症対策につなげる。
      • (3)クレジットカード等後払い決済の見直しの検討
    2. 若年者対策の強化
      • 医療・相談現場において、若年者からの相談が増加しているとの指摘がある。
        1. 動画等の資材を中心に、SNS等インターネットを活用する等、若年者へ向けた普及啓発を強化
        2. 若年者への普及啓発の観点から、地域において教育委員会等との連携を強化
        3. 各相談窓口において、電話に加え多様な相談手段を検討
    3. 依存症対策の基盤整備等
      1. 地域における専門医療機関等の整備の推進
      2. 多重債務問題等の観点から、地域の相談拠点と司法書士等の連携を強化
      3. 宝くじについて、ウェブサイトにおける取組の強化、広告・宣伝の在り方の検討など、自主的な取組を推進
  • 近年、オンラインカジノサイトへのアクセス数の増加とこれに伴う依存症の問題が強く指摘されており、取締りに加え、関係省庁が連携し、
    • オンラインカジノの違法性等についての広報啓発・教育
    • オンラインカジノサイトやインターネット上における広告・紹介サイトへのアクセスの抑止
    • オンラインカジノへの送金やオンラインカジノでのクレジットカード決済の抑止

    等の対策を推進する必要

    1. 取締りの強化
      • オンラインカジノを含めたオンライン上で行われる賭博事犯に対しては、賭客のみならず収納代行業者やアフィリエイター等、オンライン上で行われる賭博の運営に関与する者の取締りを強化
    2. オンラインカジノの違法性等の周知
      • ポスターやSNS等を活用し、広く違法性の周知等を推進するとともに、青少年向けのリーフレットや「インターネットトラブル事例集」等の資料や非行防止教室等の機会を活用するなど して、青少年への教育・啓発を実施
    3. オンラインカジノサイトへのアクセス対策
      • 「違法・有害情報への対応等に関する契約約款モデル条項」やその解説に準じて、オンラインカジノの広告表示や紹介サイトの開設の禁止等適切な対応をとるよう、事業者に普及啓発を実施。また、情報流通プラットフォーム対処法の早期施行に向けて準備を進めるとともに、施行後には大規模プラットフォーム事業者による違法・有害情報の削除等の運用状況の透明化が図られるよう、適切な運用を推進
      • 広くフィルタリングの普及啓発を実施するとともに、事業者に働き掛け、フィルタリングの導入を推進。また、依存症患者への治療の現場においてフィルタリングの活用についても検討されるよう、医療従事者への周知を実施
    4. オンラインカジノの決済手段対策
      • オンラインカジノへの送金やオンラインカジノでのクレジットカード決済の抑止のため、事業者等に対する注意喚起、要請等を実施

以前の本コラムでも取り上げましたが、プロ野球で違法なオンラインカジノ利用者が確認された問題で、日本プロフェッショナル野球組織(NPB)と12球団は、2025年3月までに自主申告した7球団15人と、同2月に発覚したオリックスの山岡投手を含めた計8球団16人に対し、総額1020万円の制裁金を科すと発表しています。NPBによると、各球団による調査結果を踏まえ、立場や年俸、賭けの回数や頻度、賭け金などに応じ、1人あたり10~300万円の制裁金を設定、NPBの中村勝彦事務局長は、野球協約が禁じる野球賭博はなかったと説明した上で、「この事態を重く受け止めている」とし、NPBと12球団は影響力を鑑み、制裁金などを原資とした計3000万円をギャンブル依存症対策に取り組む団体に寄付するとしています。関連して、オンラインカジノがスポーツ界などで問題となっていることを踏まえ、国内のスポーツ団体が合同で、アスリートが巻き込まれないよう対策を練る研究会を発足させるといいます。スポーツ政策を組織横断的に検討する日本スポーツ政策推進機構が中心となり、近く第1回会合を開くということです。研究会には、日本オリンピック委員会(JOC)などが参加する見通しで、相次いで発覚しているアスリートの賭博関与を防ぐ方策や、日本のスポーツが海外から賭けの対象となっている実態への対応策などを検討するとしています。賭博と連動し、選手が八百長や試合の不正操作に関与するリスクも指摘されており、こうした課題に対応する国際的な枠組みである「マコリン条約」(スポーツにおける八百長を防止し、摘発・処罰することを目的とした多国間条約)についても議論するとみられています。

③犯罪統計資料から

例月同様、令和7年(2025年)1月の犯罪統計資料(警察庁)について紹介します。

▼警察庁 犯罪統計資料(令和7年1~2月分)

令和7年(2025年)1~2月の刑法犯総数について、認知件数は109,719件(前年同期103,045件、前年同期比+6.5%)、検挙件数は43,943件(41,367件、+6.2%)、検挙率は40.1%(40.1%、±0P)と、認知件数が増加を続けている点が注目されます。刑法犯全体の7割を占める窃盗犯の認知件数が増加していることが挙げられ、窃盗犯の認知件数は73,554件(70,046件、+5.0%)、検挙件数は25,616件(24,311件、+5.4%)、検挙率は34.8%(34.7%、+0.1P)となりました。なお、とりわけ件数の多い万引きについては、認知件数は17,236件(15,888件、+8.5%)、検挙件数は10,953件(10,073件、+8.7%)、検挙率は63.5%(63.4%、+0.1P)と、大きく増加しています。また、凶悪犯の認知件数は1,100件(992件、+10.9%)、検挙件数は954件(812件、+17.5%)、検挙率は86.7%(81.9%、+4.8P)、粗暴犯の認知件数は8,614件(8,488件、+1.5%)、検挙件数は7,032件(7,000件、+0.4%)、検挙率は81.6%(82.5%、▲0.9P)、知能犯の認知件数は10,158件(7,835件、+29.6%)、検挙件数は3,143件(2,850件、+10.3%)、検挙率は30.9%(36.4%、▲5.5P)、とりわけ詐欺の認知件数は9,397件(7,132件、+31.8%)、検挙件数は2,604件(2,337件、+11.4%)、検挙率は27.7%(32.8%、▲5.1P)、風俗犯の認知件数は2,636件(2,358件、+11.8%)、検挙件数は2,403件(1,810件、+32.8%)、検挙率は91.2%(76.8%、+14.4P)などとなっています。なお、ほとんどの犯罪類型で認知件数が増加しているほどには検挙件数が伸びず、検挙率が低調な点が懸念されます。また、コロナ禍において大きく増加した詐欺は、アフターコロナにおいても増加し続けています。とりわけ以前の本コラム(暴排トピックス2022年7月号)でも紹介したとおり、コロナ禍で「対面型」「接触型」の犯罪がやりにくくなったことを受けて、「非対面型」の還付金詐欺が増加しましたが、現状では必ずしも「非対面」とは限らないオレオレ詐欺や架空料金請求詐欺なども大きく増加傾向にあります。さらに、SNS型投資詐欺・ロマンス詐欺では、「非対面」での犯行で、(特殊詐欺を上回る)甚大な被害が発生しています。

また、特別法犯総数については、検挙件数は8,861件(9,136件、▲3.0%)、検挙人員は6,897人(7,439人、▲7.3%)と検挙件数・検挙人員ともに減少傾向にある点が大きな特徴です。犯罪類型別では、入管法違反の検挙件数は678件(705件、▲3.8%)、検挙人員は444人(505人、▲12.1%)、軽犯罪法違反の検挙件数は833件(983件、▲15.3%)、検挙人員は812人(983人、▲17.4%)、迷惑防止条例違反の検挙件数は759件(906件、▲16.2%)、検挙人員は525人(668人、▲21.4%)、ストーカー規制法違反の検挙件数は159件(177件、▲10.2%)、検挙人員は132人(144人、▲8.3%)、犯罪収益移転防止法違反の検挙件数は782件(610件、+28.2%)、検挙人員は589人(456人、+29.2%)、銃刀法違反の検挙件数は550件(624件、▲11.9%)、検挙人員は468人(552人、▲15.2%)などとなっています。減少傾向にある犯罪類型が多い中、犯罪収益移転防止法違反等が大きく増加している点が注目されます。また、薬物関係では、麻薬等取締法違反の検挙件数は1,198件(187件、+5,406%)、検挙人員は860人(107人、+703.7%)、大麻草栽培規制法違反の検挙件数は14件(1,008件、▲98.6%)、検挙人員は19人(834人、▲97.7%)、覚せい剤取締法違反の検挙件数は1,091件(1,049件、+4.0%)、検挙人員は703人(709人、▲0.8%)などとなっています。大麻の規制を巡る法改正により、前年との比較が難しくなっていますが、大麻事犯の検挙件数がここ数年、減少傾向が続いていたところ、2023年に入って増加し、2023年7月にはじめて大麻取締法違反の検挙人員が覚せい剤取締法違反の検挙人員を超え、その傾向が続いています(今後の動向を注視していく必要があります)。また、覚せい剤取締法違反の検挙件数・検挙人員ともに大きな減少傾向が数年来継続していたところ、最近、あらためて増加傾向が見られています(覚せい剤は常習性が高いため、急激な減少が続いていることの説明が難しく、その流通を大きく支配している暴力団側の不透明化や手口の巧妙化の実態が大きく影響しているのではないかと推測されます。言い換えれば、覚せい剤が静かに深く浸透している状況が危惧されるところです)。なお、麻薬等取締法が大きく増加している点も注目されますが、2024年の法改正で大麻の利用が追加された点が大きいと言えます。それ以外で対象となるのは、「麻薬」と「向精神薬」であり、「麻薬」とは、モルヒネ、コカインなど麻薬に関する単一条約にて規制されるもののうち大麻を除いたものをいいます。また、「向精神薬」とは、中枢神経系に作用し、生物の精神活動に何らかの影響を与える薬物の総称で、主として精神医学や精神薬理学の分野で、脳に対する作用の研究が行われている薬物であり、また精神科で用いられる精神科の薬、また薬物乱用と使用による害に懸念のあるタバコやアルコール、また法律上の定義である麻薬のような娯楽的な薬物が含まれますが、同法では、タバコ、アルコール、カフェインが除かれています。具体的には、コカイン、MDMA、LSDなどがあります。

また、来日外国人による重要犯罪・重要窃盗犯国籍別検挙人員対前年比較について、総数115人(123人、▲6.5%)、ベトナム43人(43人、±0%)、中国18人(17人、+5.9%)、フィリピン7人(6人、+16.7%)、ブラジル7人(9人、▲22.2%)、インドネシア5人(2人、+150.0%)、韓国・朝鮮4人(4人、±0%)、インド4人(3人、+33.3%)、パキスタン4人(3人、+33.3%)などとなっています。ベトナム人の犯罪が中国人を大きく上回っている点が最近の特徴です。

一方、暴力団犯罪(刑法犯)罪種別検挙件数・人員対前年比較の刑法犯総数については、検挙件数総数は1,217件(1,239件、▲1.8%)、検挙人員総数は563人(714人、▲21.1%)と、刑法犯と異なり、検挙件数・検挙人員ともに減少傾向に転じている点が注目されます。犯罪類型別では、強盗の検挙件数は11件(8件、+37.5%)、検挙人員は20人(16人、+25.0%)、暴行の検挙件数は60件(66件、▲9.1%)、検挙人員は49人(63人、▲22.2%)、傷害の検挙件数は106件(123件、▲13.8%)、検挙人員は112人(138人、▲18.8%)、脅迫の検挙件数は41件(45件、▲8.9%)、検挙人員は32人(43人、▲25.6%)、恐喝の検挙件数は41件(45件、▲8.9%)、検挙人員は42人(56人、▲25.0%)、窃盗の検挙件数は500件(599件、▲16.5%)、検挙人員は86人(95人、▲9.5%)、詐欺の検挙件数は279件(183件、+52.5%)、検挙人員は131人(139人、▲5.8%)、賭博の検挙件数は9件(5件、+80.0%)、検挙人員は1人(15人、▲93.3%)などとなっています。とりわけ、詐欺については、2023年7月から減少に転じていたところ、あらためて増加傾向にある点が特筆されますが、資金獲得活動の中でも活発に行われていると推測される(ただし、詐欺は暴力団の世界では御法度となっています)ことから、引き続き注意が必要です。

さらに、暴力団犯罪(特別法犯)主要法令別検挙件数・人員対前年比較の特別法犯について、特別法犯全体の検挙件数は437件(634件、▲31.1%)、検挙人員は266人(418人、▲36.4%)と、こちらも検挙件数・検挙人数ともに継続して減少傾向にあります。また、犯罪類型別では、入管法違反の検挙件数は3件(3件、±0%)、検挙人員は4人(3人、+33.3%)、軽犯罪法違反の検挙件数は4件(6件、▲33.3%)、検挙人員は3人(6人、▲50.0%)、迷惑防止条例違反の検挙件数は4件(18件、▲77.8%)、検挙人員は2人(14人、▲85.7%)、暴力団不当行為防止法違反の検挙件数は2件(2件、±0%)、検挙人員は1人(2人、▲50.0%)、暴力団排除条例犯の検挙件数は2件(28件、▲92.9%)、検挙人員は5人(31人、▲83.9%)、銃刀法違反の検挙件数は5件(14件、▲64.3%)、検挙人員は2人(8人、▲75.0%)、麻薬等取締法違反の検挙件数は108件(16件、+575.0%)、検挙人員は53人(2人、+2,550.0%)、大麻草栽培規制法違反の検挙件数は2件(106件、▲98.1%)、検挙人員は0人(69人)、覚せい剤取締法違反の検挙件数は238件(349件、▲31.8%)、検挙人員は136人(221人、▲38.5%)、麻薬等特例法違反の検挙件数は17件(14件、+21.4%)、検挙人員は10人(3人、+233.3%)などとなっています(とりわけ覚せい剤については、今後の動向を注視していく必要があります)。なお、参考までに、「麻薬等特例法違反」とは、正式には、「国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律」といい、覚せい剤・大麻などの違法薬物の栽培・製造・輸出入・譲受・譲渡などを繰り返す薬物ビジネスをした場合は、この麻薬特例法違反になります。なお、法定刑は、無期または5年以上の懲役及び1,000万円以下の罰金で、裁判員裁判になります。

(8)北朝鮮リスクを巡る動向

韓国軍合同参謀本部は、北朝鮮がウクライナ侵攻を続けるロシアに2025年1~2月で3000人以上の兵士を追加派遣したと発表しています。北朝鮮は2024年12月までに約1万1000人をロシアに派兵し、約4000人の死傷者が出ているとされます。また、短距離弾道ミサイルや240ミリ放射砲(ロケット砲)など約220門を供与したとの見方も示したほか、南北軍事境界線付近で「数日前に地雷爆発が起き、(北朝鮮軍に)多数の死傷者が発生した」と明らかにしています。北朝鮮は2023年12月、南北を「敵対的な2国家関係」と位置付け、韓国との平和統一方針を放棄、以降、軍は南北軍事境界線付近で防壁の設置などを進めていますが、北朝鮮軍は2025年3月初めから軍事境界線付近に兵士を新たに投入、鉄柵の補強などの作業を行っており、今回の地雷爆発については、「交代の兵力が準備されていない状態で無理な作業を進めたものとみられる」と分析しています。さらに、北朝鮮軍の冬季訓練は「例年に比べてやや低調」と評価、軍事境界線付近での作業などへの動員やウクライナへの派兵準備、慢性的なエネルギー難などが影響しているとみているといいます。

北朝鮮とロシアは2024年6月、有事の際の相互支援を定めた「包括的戦略パートナーシップ条約」を結び、軍事面で協力関係を強化していますが、そのような中、金正恩朝鮮労働党総書記は、平壌 でロシア前国防相のセルゲイ・ショイグ安全保障会議書記と会談しています。朝鮮中央通信(KCNA)によれば、金総書記はロシアのウクライナ侵略について、「今後も国家主権や領土保全、安全の利益を守るためのロシアの闘争を変わることなく支持する」と強調したといいます。また、タス通信によると、ショイグ氏は「特にウクライナ問題で、ロシアに連帯してくれた北朝鮮の友人に感謝したい」と述べたといいます。ショイグ氏はプーチン大統領の親書を金総書記に渡し、両氏は安全保障などの問題で意見を交わし、「完全に一致した立場」を確認したといいます。なお、プーチン大統領は2024年6月の訪朝時、金総書記をモスクワに招待、ロシアでは2025年5月9日に対ドイツ戦勝80年記念の軍事パレードが予定され、これに合わせた金総書記の訪露(さらに、北朝鮮軍のパレードへの参加)も取りざたされています。その後、ロシアのルデンコ外務次官も訪朝し、金総書記の訪露について協議したほか、ラブロフ露外相の訪朝も検討しているといいます。ロシアが北朝鮮と接近する思惑としては、(兵力増強以外に)極東では北朝鮮と手を結ぶことで、ロシアは欧州方面に意識を集中できるためと考えられています。

北朝鮮は、ロシアのウクライナ侵略を支える同盟国ベラルーシとの関係も強化を図っているようです。最近、ベラルーシ製の鉱山用大型特殊ダンプ車を少なくとも4台輸入したことが、対北情報筋による衛星画像の分析で明らかになったと報じられています。北朝鮮への大型車両の輸入現場が画像に記録されたのは珍しく、北朝鮮への輸送車両の輸出は国連安全保障理事会の決議で禁止されているところ、ダンプ車はロシア経由で北朝鮮に渡ったとみられています。ミサイル発射台などに改造して軍事転用される可能性があり、関係国は警戒を強めているといいます。北朝鮮のこうした動きは、金総書記が欧米による制裁に対抗するため、ロシアやその同盟・友好国との連携を強化している実態を浮き彫りにしました。ベラルーシもロシアのウクライナ侵略を受けた経済制裁で輸出先が減少しており、北朝鮮は連携したい相手といえ、両者の結束が強まれば、対北制裁の穴が拡大していくことは必至となります。国連安全保障理事会(安保理)は、核開発や弾道ミサイル発射を続ける北朝鮮に対し、2006年から2017年までに11の制裁決議を採択しましたが、2018年以降はロシアや中国が制裁に反対するなど一致した対応が取れておらず、こうした中、対北接近を進めているのが、ベラルーシです。ベラルーシが北朝鮮に秋波を送る理由は経済制裁であり、2022年に始まったロシアのウクライナ侵略を巡り、欧米や日本などは、ロシアと連携するベラルーシに相次いで制裁を発動、ベラルーシの2021年の国・地域別の輸出先はロシアが41%で最多で、以下、EU(24%)、ウクライナ(14%)と続いていましたが、侵略以降は特に西側向けの貿易が停滞している状況です。北朝鮮は伝統的に食糧やエネルギー供給などを中国に依存してきましたが、近年の対北支援を巡ってロシアが存在感を増しており、ベラルーシの対北接近にはロシアの意向が働いている可能性も指摘されています。ロシアとベラルーシ、北朝鮮の連携強化が進めば、制裁の穴がさらに拡大していく懸念があります

2025年3月15日付毎日新聞で、ジャーナリストの池上彰氏が北朝鮮を巡る情勢について、(目新しいものではありませんが)わかりやすく解説しています。具体的には、「24年10月、北朝鮮が韓国を「第一の敵対国、不変の主敵」と明記した憲法改正を行ったことが報じられました。これは、金正恩総書記が、長年目標として掲げてきた南北の平和統一を放棄したことを意味します。その後、北朝鮮は南北軍事境界線の北側の道路と鉄道を爆破し、南北間を遮断する措置をとっています。この爆破について北朝鮮は、これまで「軍事境界線」だったものを「国境を警備する」という言い方に変えた主張をしています。「もはや、同じ民族としては見なさない」という方針に変えたということです。北朝鮮のこのような振る舞いは、独裁体制を維持するために韓国への敵対意識をあおり、内部の結束強化を図ったものとみられています」、「戒厳令をめぐって韓国政局が混乱し、日韓関係への悪影響が懸念される中、トランプ氏が独自路線で対北朝鮮政策に動く可能性は大いにあります。そうなれば、日米同盟、米韓同盟および日米韓安保協力に緊張が生まれかねません。日本と韓国は北朝鮮政策をどうするのか、改めて問われることになるでしょう」などと指摘しています。

トランプ米大統領は、北朝鮮について「核保有国」という認識を改めて示し、金総書記と引き続き良好な関係にあると述べています。トランプ大統領は北大西洋条約機構(NATO)のルッテ事務総長とホワイトハウスで会談した際、金総書記との関係を再構築する計画があるかという記者団からの質問に対し、「私は金氏と素晴らしい関係を築いている」とした上で、北朝鮮が「核保有国であることは確かだ」と述べています。トランプ氏は1期目に金氏と前例のない首脳会談を行い、個人的な親密さをアピール、2025年1月の2期目の就任式では、北朝鮮を「核保有国」と言明し、物議を醸していました。トランプ氏はロシアと中国の核兵器に言及し、「その数を減らすことができれば大きな成果となる。われわれは非常に多くの兵器を持っており、その威力は非常に大きい」と述べ、さらに「小規模ではあるが、金正恩氏は核兵器を大量に保有しているし、他国も保有している。インド、パキスタン、その他の国々も核兵器を保有しており、われわれはそれらの国々を関与させている」と説明しています。トランプ氏の発言は北朝鮮の核兵器に対する政策転換(核保有を容認するのではないか)を意味するかとの質問に対し、ホワイトハウス当局者は「トランプ大統領は最初の任期時同様、北朝鮮の完全な非核化を求める」と回答しています。なお、直近でも、金総書記との間で「意思疎通がある。とても重要なことだ」と述べ、再接触に意欲を示しています。記者団から問われ「我々は素晴らしい関係を築いている。彼は非常に賢い人物だ」などと主張、「我々はいずれ何かをするだろう」とも述べています。

北朝鮮国防省の高官は、日米による中距離空対空ミサイル(AIM―120 AMRAAM)の共同生産に向けた最近の合意について、地域の安全保障上のリスクを増長させ、日本を軍事化しようとする米国の新たな試みだと批判した。国営朝鮮中央通信(KCNA)が2日、匿名の高官の発言として伝えた。高官は、米国が在日米軍司令部を強化している現在、軍需品生産における両国の協力は明らかに周辺諸国を視野に入れた軍事的かつ攻撃的な意図を持っていると指摘した。日米はヘグセス米国防長官が先月末に訪日した際、中距離空対空ミサイルの共同生産を加速させることで合意した。

その他、最近の北朝鮮を巡る動向から、いくつか紹介します。

  • 韓国軍合同参謀本部は、北朝鮮が2025年3月10日午後1時50分ごろ、南西部、黄海道の内陸部から朝鮮半島西側の黄海に向けて弾道ミサイル数発を発射したと明らかにしています。米韓両軍は、定例の大規模合同軍事演習「フリーダムシールド(自由の盾)」を同20日までの日程で開始、第2次トランプ政権に入って初の実施で、演習への対抗措置の可能性があります。また、KCNAによれば、北朝鮮のミサイル総局は、最新型の地対空ミサイルの発射実験を行ったといいます。ミサイルは本格的な生産が始まっているといい、発射実験に立ち会った金総書記は「誇るに値する性能を備えた防御兵器システムを我が軍隊に装備させることになった」と成果を強調しています。
  • KCNAによれば、北朝鮮外務省は米韓合同軍事演習「フリーダムシールド」について、「危険な挑発行為」と非難しています。韓国軍機が、北朝鮮に近い民間人居住地域に誤って爆弾を投下し、29人が負傷した問題を受け、実弾演習は見送られていますが、北朝鮮外務省は「偶発的な一発の発砲によって南北間の物理的衝突を引き起こし、朝鮮半島情勢を極限まで緊迫させかねない危険な挑発行為だ」と非難。演習は米国の安全保障に害を及ぼすと述べています。
  • 北朝鮮メディアは、金総書記が早期警戒管制機とみられる航空機や新型の大型無人偵察機を視察したと伝えています。早期警戒管制機を北朝鮮が公表するのは初めてとみられ、韓国軍は露朝の「包括的戦略パートナーシップ条約」に基づく協力の可能性を指摘しています。高性能レーダーを備えた早期警戒管制機とみられる航空機が飛行する様子や、金総書記が乗り込む場面の写真が公開されています。KCNAによれば、金総書記は「現代的技術が導入された装備は情報収集能力を向上させ、敵の戦闘手段を無力化させるのに威力を発揮する」と能力を誇示しています。また、金総書記は、大型無人偵察機や、AIの技術を導入したとする自爆攻撃用の新型無人機の性能試験も視察し、「知能化された無人機の軍事的利用を巡る競争が加速化している」、「拡大する現代戦に合わせ、中長期的事業として推進していくことが重要だ」と述べています。ロシアのウクライナ侵略で、両国が多用する無人機攻撃や情報収集が念頭にあるとみられています。ウクライナ軍が越境攻撃した露西部クルスク州に派遣された北朝鮮兵は無人機などへの対応不足が指摘され、韓国軍によると、北朝鮮兵約1万1000人のうち4000人余りが死傷、このため、北朝鮮は現代戦に対応した兵器開発に力を入れているとみられています。
  • 北朝鮮が開発したミサイルに対応する垂直発射装置(VLS)のセル(発射管)を数十兼ね備えた建造中の新型軍艦が衛星によって捉えられました韓国軍は2024年12月、排水量が約4000トンで、米国のアーレイ・バーク級駆逐艦の半分以下の大きさとの見解を示していました。衛星画像は、3月最終週に撮影され、ロイターの報道で、ミドルベリー国際問題研究所ジェームズ・マーティン不拡散研究センターで東アジア不拡散プログラムのディレクターを務めるジェームズ・ルイス氏は、「ミサイルの種類によるが、50発以上を格納できる空洞が甲板にある」と指摘、北朝鮮はVLSセルに適合するミサイルをすでに数種類開発したとし、VLSとの互換性があれば輸出も可能になると述べています。
  • 北朝鮮メディアは、金総書記が軍の特殊作戦部隊の基地を訪れ、訓練を指導したと報じています。特殊作戦部隊に新しく配備される狙撃銃の性能や威力を金総書記自らが試し撃ちして確認し、満足したといいます。今回の訓練は現代戦に適応するための戦法を熟達させ、どのような状況下でも特殊作戦を遂行できるようにする目的があるとされ、北朝鮮が派兵支援を続けているロシアのウクライナ侵攻を念頭に置いている可能性があります。金総書記は「身体と思想、志を一つにして戦う強い軍隊にするのが中核目標だ」と強調、特殊作戦能力を向上させる重大措置を指示したといいます。

3.暴排条例等の状況

(1)暴力団排除条例に基づく勧告事例(広島県)

神奈川県公安委員会は、神奈川県暴排条例に基づき、神奈川県内の電気製品業者に対して暴力団組員に利益を供与しないよう、稲川会傘下組織組員に対して利益供与を受けないよう、それぞれ勧告しています。

▼神奈川県暴排条例

同条例第23条(利益供与等の禁止)において、「事業者は、その事業に関し、暴力団員等、暴力団員等が指定したもの又は暴力

団経営支配法人等に対し、次に掲げる行為をしてはならない」として、「(1)暴力団の威力を利用する目的で、金銭、物品その他の財産上の利益を供与すること」が規定されています。また、暴力団員についても、第24条(利益受供与等の禁止)において、「暴力団員等又は暴力団経営支配法人等は、情を知って、前条第1項若しくは第2項の規定に違反することとなる行為の相手方となり、又は当該暴力団員等が指定したものを同条第1項若しくは第2項の規定に違反することとなる行為の相手方とさせてはならない」と規定されています。そのうえで、第28条(勧告)において、「公安委員会は、第23条第1項若しくは第2項、第24条第1項、第25条第2項、第26条第2項又は第26条の2第1項若しくは第2項の規定に違反する行為があった場合において、当該行為が暴力団排除に支障を及ぼし、又は及ぼすおそれがあると認めるときは、公安委員会規則で定めるところにより、当該行為をした者に対し、必要な勧告をすることができる」と規定されています。

(2)暴力団対策法に基づく禁止(暴力行為の賞揚等の規制)命令発出事例(福岡県)

福岡県公安委員会は、暴力団対策法に基づき、六代目山口組トップの篠田建市組長ら5人に対し、抗争事件で服役中の傘下組員2人に出所祝いで金品を与えることなどを禁じる命令を発出しています。期間は出所後5年間となります。報道によれば、組員2人のうち1人は2022年6月、神戸山口組傘下組織の事務所に車を衝突させたなどして、もう1人は同年8月に同組系組長の車に火をつけたとして、それぞれ服役しています。

▼暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律

暴力団対策法第三十条の五において、「公安委員会は、指定暴力団員が次の各号のいずれかに該当する暴力行為を敢行し、刑に処せられた場合において、当該指定暴力団員の所属する指定暴力団等の他の指定暴力団員が、当該暴力行為の敢行を賞揚し、又は慰労する目的で、当該指定暴力団員に対し金品等の供与をするおそれがあると認めるときは、当該他の指定暴力団員又は当該指定暴力団員に対し、期間を定めて、当該金品等の供与をしてはならず、又はこれを受けてはならない旨を命ずることができる。ただし、当該命令の期間の終期は、当該刑の執行を終わり、又は執行を受けることがなくなった日から五年を経過する日を超えてはならない」として、「一 当該指定暴力団等と他の指定暴力団等との間に対立が生じ、これにより当該他の指定暴力団等の事務所又は指定暴力団員若しくはその居宅に対する凶器を使用した暴力行為が発生した場合における当該暴力行為」が規定されています。

(3)暴力団対策法に基づく禁止(暴力行為の賞揚等の規制)命令発出事例(佐賀県)

佐賀県公安委員会は、暴力団抗争に絡む事件で服役した佐賀県内の六代目山口組弘道会組員に、出所祝い金などの受け取りを禁止する命令を発出しています。報道によれば、組員は2025年2月21日に出所し、同20日に仮命令が出ていたものです。効力は出所後5年間で、違反した場合は3年以下の懲役、または250万円以下の罰金が科せられます。なお、幹部3人に対しても、出所祝いの金品などを渡すのを禁じる命令が出ています。

暴力団対策法上の規定としては、前項に同じとなりますが、前項では「当該金品等の供与をしてはならず」、本件では「これを受けてはならない」旨の命令となります。

(4)暴力団対策法に基づく中止命令発出事例(静岡県)

面識のある20代の男性に暴力団組織に加入することを強要したとして、静岡県會は、暴力団対策法に基づき六代目山口組藤友会傘下組織幹部に中止命令を発出しています。中止命令を受けたのは、静岡県富士市柚木に住む理容師で六代目山口組藤友会系幹部(34)です。警察によりますと、この暴力団幹部は2024年11月下旬から12月上旬にかけて、住所不定の20代の男性に自身の暴力団組織に加入することを強要したとされています。警察は3月25日、暴力団対策法に基づき中止命令を出し、暴力団幹部は中止命令を受け入れたということです。

暴力団対策法第十六条(加入の強要等の禁止)第2項において、「前項に規定するもののほか、指定暴力団員は、人を威迫して、その者を指定暴力団等に加入することを強要し、若しくは勧誘し、又はその者が指定暴力団等から脱退することを妨害してはならない」と規定されています。そのうえで、第十八条(加入の強要等に対する措置)において、「公安委員会は、指定暴力団員が第十六条の規定に違反する行為をしており、その相手方が困惑していると認める場合には、当該指定暴力団員に対し、当該行為を中止することを命じ、又は当該行為が中止されることを確保するために必要な事項(当該行為が同条第三項の規定に違反する行為であるときは、当該行為に係る密接関係者が指定暴力団等に加入させられ、又は指定暴力団等から脱退することを妨害されることを防止するために必要な事項を含む。)を命ずることができる」と規定されています。

(5)暴力団対策法に基づく中止命令発出事例(長崎道)

暴力団が場所代、用心棒代などとして支払わせる「みかじめ料」を要求したとして、長崎県警は、長崎市の指定暴力団幹部の男に対し、暴力団対策法にもとづく中止命令を発出しています。中止命令を受けたのは、長崎市江里町に住む六代目山口組傘下組織幹部です。報道によれば、男は2025年2月1日長崎市内で自営業の30代男性に対し、「この界隈はうちらの縄張りやけん、ショバ代(場所代)を払ってもらわんば」などと言って、指定暴力団の威力を示した上で、みかじめ料の要求を行ったということです。男性は2018年からみかじめ料を要求されていて、月に4万5千円~6万円を支払い続け、2025年2月までに約300万円を男に渡したといいます。

暴力団員については、暴力団対策法第九条(暴力的要求行為の禁止)において、「指定暴力団等の暴力団員(以下「指定暴力団員」という。)は、その者の所属する指定暴力団等又はその系列上位指定暴力団等(当該指定暴力団等と上方連結(指定暴力団等が他の指定暴力団等の構成団体となり、又は指定暴力団等の代表者等が他の指定暴力団等の暴力団員となっている関係をいう。)をすることにより順次関連している各指定暴力団等をいう。以下同じ。)の威力を示して次に掲げる行為をしてはならない」として、「二 人に対し、寄附金、賛助金その他名目のいかんを問わず、みだりに金品等の贈与を要求すること」が規定されています。そのうえで、第十一条(暴力的要求行為等に対する措置)において、「公安委員会は、指定暴力団員が暴力的要求行為をしており、その相手方の生活の平穏又は業務の遂行の平穏が害されていると認める場合には、当該指定暴力団員に対し、当該暴力的要求行為を中止することを命じ、又は当該暴力的要求行為が中止されることを確保するために必要な事項を命ずることができる」と規定されています。

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