ロスマイニング トピックス

万引き犯の手口と工夫

2019.08.27
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総合研究部 上席研究員(部長) 伊藤岳洋

万引きのイメージ画像

万引き犯の手口と工夫

皆さま、こんにちは。

本コラムは、消費者向けビジネス、とりわけ小売や飲食を中心とした業種にフォーカスした経営リスクに注目して隔月でお届けしております。

前回の2019年6月号の本コラムにおいて、なかなか根絶できない犯罪として、万引きを取り上げました。少し振り返ってみましょう。万引きは大きくは2つに分類できます。ひとつは、換金目的のプロフェッショナル(プロ)です。従来は個人的・刹那的な犯行が中心でしたが、昨今は組織的・計画的な犯行に移行してきています。プロは、売りやすく換金しやすい商品、たとえばスポーツウェアやシューズ、化粧品、たばこ、電動工具などを扱う店舗でなおかつ、防犯対策が脆弱な店舗、または、非常に返品ポリシーが甘い店舗などに狙いを定めます。プロはそのような見方で、万引きをする店舗を選んでいることなどを確認しました。

もうひとつの種類がアマによる万引きです。プロが職業的に万引きを行うことに対して、アマは自己消費や衝動的な理由で万引きを行います。プロの犯行と比べれば、1件あたりの被害額は小額です。ただし、店舗としてはこのような犯行が積み重なり、棚卸し時には無視できないロスのボリュームとなります。

また、万引き犯を明確に分類することは難しい一方で、万引きの動機や手口、盗まれる商品を把握することによって、万引き被害を抑止し管理する(コントロールする)ことは可能です。また、時代によって万引きの実態も変化し続けています。自社、自店で起こっている万引きの典型を理解することは、ロス問題の診断において重要であることを確認しました。

そこで、今回は万引きの手口について、さらに詳細に見ていきましょう。万引き犯は、捕まることなく確実に欲しい商品を盗むための「工夫」をしています。また、プロ集団では、万引きについてマニュアル化されている可能性が指摘されています。そのような「工夫」を知ることで、万引きの防止や抑止の方法、防犯体制の強化につなげることが重要です。

本考察は、プロもしくは、スキルの高い万引き犯という前提で手口について確認していきます。

まず、試着室においての万引きについて見ていきましょう。ただ、防犯体制が進んでいる小売店では、試着室受付カウンターがあり、不正な利用を防いでいます。そのような店舗では、万引き犯は試着室を利用した犯行よりも売り場から直接持ち出す方法を選択するでしょう。特にプロや常習のアマは、無理な選択をしません。万引き犯の目線で見ると、試着室を利用した窃盗でもっとも重要視していることは、試着室に持ち込んだ商品の数や具体的にどのような商品を持ち込んだかを知られないことです。4~5枚を盗もうとするなら、少なくとも2回以上は試着室に入るようにするでしょう。基本的に盗もうとする複数の商品は、似たようなものを選ぶことで目立たぬような工夫をします。それは、従業員や警備員に特定の色柄やスタイルの商品を試着室に持ち込むところを見られた場合、試着室から出てくるときに目撃された特徴のある商品を手に持っていないと疑われるからです。したがって、盗もうと決めた商品とは別に、それと似た商品を試着室に持ち込みます。さらに、盗もうとする商品の上にそれと似た商品を重ねることで、持ち込んだ枚数が分からないようにします。

また、万引き犯は狙った商品が陳列してあるラックの近くをむやみにうろうろすることを避けます。万引きする商品を一端別のラックにかけてから、従業員や警備員が見ていない隙に準備した商品をまとめて試着室に持ち込みます。もっとも、準備段階で必要以上に回りをきょろきょろすれば、不審者としてマークされてしまいます。マークを察知した時点で、犯行には及びません。

熟練した万引き犯は少しでも不安を感じた場合、従業員や警備員が自分を疑っているかを知るために、あえて商品を残したまま試着室を出る場合があります。そのような、少し不信な行動をすることによって、従業員や警備員の目線や態度を観察することで確認をするものです。

次に、売り場から直接持ち去る方法について見ていきましょう。これは、お客様や従業員らがフロアにいるところで、商品を持ち去るため、試着室で盗むよりも犯行に緊張が伴うはずです。万引き犯にとって、最良の方法は周辺にいる者から完全に視線が遮られる状況で盗むことです。その意味では、死角を探して、そこで犯行に及びます。その際に、店舗側としてある程度犯行を抑止することを期待する設備が、防犯カメラと広範囲を映し出す防犯ミラーです。防犯設計がしっかりしている場合、売り場の死角を防ぐように防犯カメラや防犯ミラーが配置されているはずです。ただし、防犯ミラーは犯人からも従業員や警備員の存在を確認できるため、従業員や警備員の存在を犯人に知られる面があります。さらに、共犯者がいる場合は従業員や警備員に近づき、注意を逸らすことで犯行が可能です。

この点では、防犯カメラシステムが有効でしょう。AI(人工知能)に万引き犯の行動を学習させて、不審者の検出に活用する先進の動きがあります、また、最新の防犯システムのソフトでは、映像解析により、人の感情を読み取る技術を取り入れたものがあります。人の精神状態とその際に映像解析で得られた振動データの相関を研究した結果を応用したもののようです。リアルタイムの映像解析でわかる様々な感情のなかで、不審者や危険人物が持つ攻撃性・緊張・ストレスがミックスした感情を数秒で検知するといいます。このような防犯システムが普及すると万引き犯の感情が可視化されるので、「工夫」も見破られます。

万引き犯がもっとも緊張するのは、店舗の出入り口を出るときでしょう。店内で商品を鞄や服のなかに隠したとしても、盗んだことにならないことを万引き犯はよく知っています。店舗の外に出た瞬間、従業員や警備員から声を掛けられずに「成功」したと確信したときは、それまでの緊張感からの開放と相まって異様な興奮をもたらすと想像できます 。特にクレプトマニア(窃盗症)において、その傾向が強いことは明らかです。ただ、クレプトマニアは、犯行前にも感情の高ぶりがあり「窃盗に及ぶときの快感、満足」を得ること、捕まることへの警戒が少ないことにおいて、プロなどとは異なると考えられます。

防犯タグは、万引きに対して非常に有効な対策です。特に取り外しに専用の機械を要するタイプは、万引き犯からみて手強いものです。ただ、最近はRFID技術を使ったICタグを在庫管理と合わせて防犯ゲートで反応させるタイプが多いように思われます。強固なタイプの防犯タグは、取り付けや取り外しの手間がかかるうえ、物理的に嵩むことが弱点です。逆に、ICタグは素人には見分けがつきにくい反面、プロにとっては試着室で取り外し、処分することが容易にできてしまいます。

万引き犯が緊張の高まる店舗を出るときに、従業員や警備員よりも警戒するのは、私服の保安員でしょう。逆に、万引き犯は私服の保安員の存在を確認しようとします。私服保安員が、犯行を現任していたとしても従業員や警備員と同様に店舗を出るまで何もしないことを万引き犯は知っています。そこで、売り場から別の売り場へと歩き回り続け、自分がマークされているか否かを確認します。私服保安員の存在が確認されれば、万引き犯は素早く商品を棚や試着室に置くなど、盗んだ商品を放棄するでしょう。

万引き犯が恐れる私服保安員のセキュリティレベルが、犯人の確保を左右するといえます。万引き犯は、私服保安員への警戒、見極めに常に注意を払っていることを理解しなくてはなりません。したがって、私服保安員は売り場で顔見知りの従業員と話してはいけませんし、一般顧客に扮したペアの私服保安員とも話してはなりません。このような基本的な立ち居振る舞いを守った上で、万引き犯に悟られないよう監視をする必要があります。

特に優秀な私服保安員は、AIの膨大なデータ学習にも引け劣らない、経験から得た嗅覚で万引き犯の不審行動を見破ります。さらに、犯行のタイミングや犯行場所にも熟知しており、なおかつ、その監視を悟られないような慎重な行動をとります。また、いざというときには、職務を全うするため大胆に行動できる技量も備わっているといえるでしょう。弊社にも鋭い嗅覚を持ち合わせた優秀な私服保安員が、万引きに苦しむ小売店の犯人確保に高い成果を上げた例は枚挙に暇がありません。

また、プロは犯行に及ぶ店舗を選定しています。セキュリティが脆弱な店舗や従業員の防犯リテラシーやモラールの低い店舗を狙う傾向にあります。そして、犯行前に必ず下見をしていることから普段からの防犯体制をしっかりしておく必要があります。その点に注意して、万引き犯に「万引きしやすい店舗」としてリストアップされないことが重要です。プロの万引き犯は、進化した連絡情報網を整備しています。店内の保安員を見つける技術や、簡単に万引きができる店舗、あらたな万引きの手口などは、驚くほどのスピードで独自のコミュニティに浸透すると考えるべきです。組織的な万引き犯同士の情報共有は、小売業者間の情報共有よりも優れているといわざるを得ません。

このように万引きの手口や万引き犯の心理について、詳細に考察してきました。店舗における万引きは、小売業にとって、そして社会にとっての現実です。そして、その現実を踏まえると、このようなロスは増え続けていくことが予想されます。まずは、万引き犯罪に対する従業員の意識向上や防犯プログラムを実行し、万引きが原因の商品ロス削減への肯定的な社風にまで昇華させる必要があります。そのなかで、万引き犯の手口を踏まえた防犯対策を検討しなければなりません。どんなテクノロジーよりも、従業員を巻き込み、それに関与させることが重要です。とはいえ、テクノロジーの進化は、小売業に、万引きロス削減のための有効な手段となり得ます。商品へのアクセスと商品そのものを効果的に管理することが可能になります。ただ、テクノロジーを扱うのは人間であり、ロス削減への意欲が高い従業員が不正に関する専門的な知識に基づいて、テクノロジーを有効に機能させることができるのです。その意味においては、店舗にかかわる責任者、経営者はリーダーシップとマネジメントを発揮して、よりよい人材の選択と能力開発を実施してロスを削減する体制作りが求められます。

ローソン、加盟店向け窓口設置

ローソンは、フランチャイズチェーン(FC)加盟店オーナーのための相談窓口を社内と法律事務所内に設置しました。社内窓口は7月2日から、法律事務所内の窓口は7月8日から、それぞれ受付を始めました。社内窓口では、専門スタッフが平日の午前9時から午後6時まで、電話かメールで相談に応じます。法律事務所内の窓口は、月・水・金曜日(祝日と年末年始を除く)の午後6時から8時まで、電話で相談を受け付けるといいます。セブンイレブンの24時間営業問題が社会的な問題へと拡大した引き金は、加盟店オーナーの意見を本部経営陣まで早期に吸い上げられなかったことだとの見方があります。人件費の高騰やアルバイト不足など加盟店の経営を圧迫する外部環境の変化から加盟店の要望や不満をリスク情報として本部が早期に把握する思惑があると考えられます。

このような動きは、リスクを早期に吸い上げて企業として適切な対応を組織的に行うために歓迎されるべきことです。このような相談窓口を設置した際に、もっとも大切なことは、その窓口を有効に機能させることでしょう。つまり、相談窓口をはじめとする内部通報制度がリスク抽出と問題解決の実効性を担保しているかどうかです。社内窓口の受け付け対応スキルはもとより、問題の本質をとりまとめ、その情報をどのようなルート、範囲で共有するのか、その内容に対して誰がどのような調査を行うのか、組織的な是正措置が行われるかなど多岐に渡って実効性担保のためにチェックすべき項目が存在します。特に、加盟店オーナーは独立の事業主であることから、調査・是正のフェーズは、結局は店舗を担当するスーパーバイザーやゾーンマネージャーなど運営部門に戻されることがリソースの面でも強く懸念されます。加盟店オーナーは、内部通報の構成上は「外部取引先」になろうかと思いますが、協働の利益を分け合う同志という点では、それ以上に「濃い関係」です。その意味においては、単なる「取引先」への対応とは異なる「社内に近い意識」という位置づけで、通報に対する一連の枠組みを決める必要があると思います。

また、弁護士チャンネルの窓口は、曜日限定で時間も午後6時から8時まで、電話のみの受付という限定的な受付け体制は、本部の本気度を疑うものです。特に午後6時から8時までという時間帯に関しては、多くの立地において店舗のピーク時間と重なります。窓口の使いやすさという点では、弁護士事務所の都合を最優先させたのではないかという疑いが残ります。そもそも、本部手配の弁護士が客観的立場で、加盟店オーナーの利益を守ってくれるのかという疑念も残ります。その意味においては、外部窓口は客観性を担保しやすい第三者機関が運営するほうが加盟店利益に配慮した体制といえます。

食品ロス削減、「フードテック」活用

食品ロス削減の機運が高まるなか、特殊な技術により鮮度を維持したり、長期保存が可能な乾燥シートにしたりする「フードテック 」というあたらしい試みが注目されています。「フードテック」とは、「食(food)」と「ICT技術(technology)」を融合した新しい分野を示す言葉です。その領域は広く、農業生産、流通、外食産業、次世代型食品開発などさまざまな分野で取り組まれています。そのなかで、特殊な技術により鮮度を維持したり、長期保存が可能な乾燥シートにしたりする試みがあります。たとえば、特殊なカビを使ったシートでマグロを包むと1週間以上も腐敗せず、逆にうまみが増すといいます。シートには人体に無害の毛カビの胞子が付着し、熟成を通常よりも3倍進めます。同時に腐らせる原因となる菌の侵入を防ぐので、廃棄の削減にもつながるというものです。すでに高級スーパーやすし店では、このシートで熟成した魚が卸から仕入れされています。さらに、このシートを改良して保存専用のシートを年内にも発売するといいます。保存用シートを飲食店や小売店が活用することによって、鮮度が1日しかもたない魚や貝類なども1週間程度は鮮度を維持できます。

さらに、フードテック分野は、肉から魚、さらには野菜へ拡大してきています。一例を挙げると、のりの生産技術を応用した乾燥シート状にした野菜は、現在、大根や人参、ほうれん草など5種類あり、具材を野菜の乾燥したシートで包む料理のレシピは200を越すといいます。野菜のように生産にかかる費用も利益も安い薄利多売のビジネスモデルの場合、規格外のものは生産段階で廃棄されます。このような技術は、廃棄をへらしつつ、付加価値のある食品を生み出すことに役立っています。

フードテックは食べ物を無駄にしない「長持ちの技術」だけではありません。世界的な食料需要の増加を見据え、人工的に肉をつくるビジネスが実用化を目指しています。それを目指す企業のひとつが、ガチョウの肝臓細胞を培養し、フォアグラをつくることを研究しています。その企業によると、2020年代前半に販売を目指すとしています。

すでにアメリカでは、大豆などでパティやソーセージを作る企業がナスダックに上場しています。直近の株価は上場時の3倍に及んでいます。フードテックは技術開発の段階からビジネスの競争になっています。アメリカの食品会社がバーガーキングと協業して人口肉を使うハンバーガーを発売すると発表しています。また、オランダやイスラエルでも同様の開発が進んでおり、市場はグローバルに広がることが予想されます。
世界規模では、先進国の供給過剰や途上国での保存などのインフラ未整備により食料の3分の1は廃棄されているのが現状です。このような現状を逆に商機としてイノベーションを加速させて欲しいと思います。

ロスマイニング®・サービスについて

当社では店舗にかかわるロスに関して、その要因を抽出して明確化するサービスを提供しております。ロスの発生要因を見える化し、効果的な対策を打つことで店舗の収益構造の改善につなげるものです。

ロス対策のノウハウを有する危機管理専門会社が店舗の実態を第三者の目で客観的に分析して総合的なソリューションを提案いたします。店舗のロスに悩まされてお困りの際には是非ご相談ください。

【お問い合わせ】
株式会社エス・ピー・ネットワーク 総合研究部
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