ロスマイニング トピックス
総合研究部 上席研究員(部長) 伊藤岳洋
皆さま、こんにちは。
本コラムは、消費者向けビジネス、とりわけ小売や飲食を中心とした業種にフォーカスした経営リスクに注目して隔月でお届けしております。
今回はヒューマンリソースに関するロスについて考察していきたいと思います。
パワハラの通報例から見るヒューマンリソースのロス
2019年10月号でも取り上げましたが、ヒューマンリソースに関するロスは、棚卸し減耗にも商品評価損にも表れない目に見えにくいロスであるため、経営上のロスとして認知すらされないことが少なくありません。しかしながら、それは組織の規律や活力を蝕み、確実に企業の競争力を低下させます。そのなかで、もっとも代表的なものは、労務やコンプライアンスに関連するものです。このようなロスは、企業風土が影響している場合が少なくありません。通常では達成できないような高い目標を課して法令やコンプライアンスに違反するという典型的な不祥事の枚挙には暇がありませんが、さらに不祥事に発展していないレベルで日常業務のなかで脈々と温存される不適切な行為が数多く存在します。
小売業の利益の源泉は、店舗にあります。一方で、とくにチェーンストアではその組織構造上、店長や少数の社員とアルバイト・パートスタッフで構成され、本社に比べて十分なヒューマンリソースが投入されているとはいえません。利益の源泉でありながら、スーパーバイザーへの登竜門として若手社員の修行の場として位置づけられたり、そもそも教育・研修が行き届いていなかったりすることも少なくありません。店舗責任者のマネジメント能力の問題と教育不足によって、全店レベルでは日々不適切行為が発生しているのが現状ではないでしょうか。
弊社のサービスのひとつの内部通報受付代行業務であるリスクホットライン®(RHL)でも多くの小売業の通報を扱っています。他の業種と比べて通報件数は多い傾向にありますが、そのなかで店長に対する通報が多くを占めます。店長に対する通報のなかで、もっとも目立つのは、店長からの「パワハラ」です。
パワハラとはどのようなものか、厚生労働省の定義をみてみましょう。
「職場内の優位性を背景に」、「業務の適正な範囲を超えて」というところが、通常の「指導」と「パワハラ」とを分けるポイントになります。一般に店長はスタッフに対して、時給やシフトへの影響力や決定権を持っており、店長のスタッフに対する「優位性」を有することは疑いようがありません(ヌシ化したベテランスタッフが若手新任店長に対する逆パワハラも店舗ではよく起きますが、単純化のためここでは除外します)。本来、店長自身はスタッフに対する「優位性」を持っていることを強く自覚する必要があります。
さらに、気を付けなければならないのは、「精神的・肉体的苦痛」を与えるということ以外にも、「職場環境を悪化させる行為」も含んでいることです。とくに最近は、職場環境も重視するような「社会の目や人々の意識」の変化を感じます。特定個人へのパワハラが他の従業員へのパワハラ行為にもなりかねないことになります。さらに、本人のいないところでその人に対する暴言は、職場環境を悪化させると考えられます。ただし、このあたりを過剰に意識すると、指導する側が委縮して通常の「指導」を躊躇したり、できなくなったりします。要は、指導する側も受ける側も正しい「知識」を身に着ける必要があります。
ここで、小売業における実際の典型的な通報内容をみてみましょう。通報時点で事実かどうかの真偽はわからないという前提でご覧ください。
【暴言系】
- 「お客様がいる売り場内で、スタッフに怒鳴る」
- 「店長が『バカじゃないの』、『幼稚園レベル』、『もう死ね』とスタッフに暴言を吐く」
- 「やる気がないなら辞めれば」
- 「店長がスタッフに対してひどい言葉を使う。今時、信じられない」
- 「世間でもコンプライアンスに厳しい目がある中で、こんなパワハラ店長の下で働いている従業員が気の毒だ」
【無視や放置系】
- 「挨拶をしても無視される」
- 「マニュアルに書いてあるから」
- 「ただひたすら掃除しかさせてもらえない」
- 「入社1週間経ったが、しっかり教えてもらえない。退職したい」
- 「自分で考えてやるように」
【マネジメントの問題系】
- 「声掛けによるプラスワンセールスのノルマがある。達成できないと、自分で買う人もいる」
【家族からの通報】
- スタッフのご主人から「妻を退職させる。『マニュアルをみろ』、『前にも教えた』と店長の教え方がひどく、ノイローゼぎみになった」
- スタッフのご主人から「店長の暴言に妻が悩んでいる。ベテランスタッフは『またか』とかわしているようだ」
【労務関係】
- 「顔で採用しているのに、マスク付けたらクビ」
- 「病気で休みたいと連絡したら、『自分で交代要員を見つけてください』といわれた」
- 「有休を申請したが、承認されなかった」
- 「閉店作業が残っているのに、タイムカードを切るようにいわれる」
- 「最低賃金以下の時給で契約させられた」
このような通報内容の問題点を考えるうえで、厚生労働省の「パワーハラスメントに関する「6つの類型」を確認してみましょう。
- 身体的な攻撃
- 暴行・傷害
- 精神的な攻撃
- 脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言
- 人間関係からの切り離し
- 隔離・仲間外し・無視
- 過大な要求
- 業務上明らかに不要なことや遂行不能なことの強制、仕事の妨害
- 過小な要求
- 業務上の合理性がなく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと
- 個の侵害
- 私的なことに過度に立ち入ること
通報事例の【暴言系】の内容の多くは、6つの類型の「②精神的な攻撃」にあたる可能性があります。「②精神的な攻撃」の具体例として、「周囲に聞こえるように(大勢の前で)怒鳴りつける」などが挙げられています。業務に関連していたとしても、多くの場合において「怒鳴る」という行為は不適切でしょう。本人や周囲の人が怪我をする、または、大きな危険を及ぼす行為に対する防止や改善など例外的に許容される場合もあります。しかしながら、平時の業務プロセスにおいて「怒鳴る」、または、「怒鳴られているように感じる」ことが、日常的に繰り返されているようであれば問題です。指導者の態度として未熟です。
【無視や放置系】は6つの類型の「③人間関係からの切り離し」や「⑤過小な要求」にあたる可能性があります。「③人間関係からの切り離し」の具体例として、「挨拶を返さない」、「他の人達だけに話しかけて存在を無視する」、「孤立させる」などが挙げられています。「挨拶をしても無視される」ことが意図的に行われている場合は問題です。「⑤過小な要求」の具体例として、「簡単すぎる仕事、本来の業務ではない仕事をわざとやらせる」などが挙げられています。「ただひたすら掃除しかさせてもらえない」ことは、過小な要求にあたる可能性があります。
【家族からの通報】では、スタッフのご主人からの通報を取り上げています。不適切な行為が行われている場合、スタッフ本人が内部通報をしなくとも、家族から通報が上がることがあります。とくにハラスメントの場合は、本人が声を上げにくい状況も往々にしてあります。ハラスメントを見かねた周りのスタッフが内部通報をするケースもないわけではなく、リスク情報を把握することを考えれば、通報者を広く設定する制度設計にはメリットもあるでしょう。デメリットとしては、通報内容に事実誤認が生じやすいことや当事者へのアプローチや調査に配慮しなければならない点に通報対応者の負荷の増加や高い対応スキルが求められることが挙げられます。また、「ご主人からの通報」においては、当該行為が、「会社の常識は、世間の非常識」になっている場合もあり、さらに「外部」へ出てしまうリスクがある点にも注意が必要です。
【労務関係】については労働基準法上、法令違反になる可能性があります。「閉店作業が残っているのに、タイムカードを切るようにいわれる」、「最低賃金以下の時給で契約させられた」が事実であるならば、違法でしょう。「閉店作業が残っているのに、タイムカードを切るようにいわれる」は、いわゆるサービス残業の強要です。残業の削減を違法な手段で達成しようとする店長は、これまでもかなりの数の通報がありました。店長の違法な指示によって、会社全体に大きな影響を及ぼし得る事象といえます。また、最低賃金については、毎年10月に都道府県別に改定され、それぞれ発効日も異なります。既存スタッフ、新規採用スタッフとも改定金額未満の時給にならないように注意が必要です。ちなみに、2019年度の最低賃金は、もっとも高い東京都は1,013円、次いで神奈川県は1,011円となっており、これらの地域で千円を切る時給はあり得ないことになります。また、もっとも最低時給が低い地域では、790円で、東京都とは223円もの格差があります。
「顔で採用しているのに、マスク付けたらクビ」という発言は、セクハラにもなりかねないことの他に、「クビ」ということを軽々しく発言していることが問題です。労働者を解雇する場合、原則として少なくとも30日前に予告するか、予告しない場合は30日分以上の平均賃金を支払わなければならない、とされています(解雇予告制度。労働基準法20条)し、そもそも、店長に「解雇」する権限がない場合が多いでしょう。単に嫌がらせの意味で発言していると考えられます。
また、有給休暇については「年次有給休暇」という、労働基準法に定められている労働者の権利です。パート・アルバイトの従業員であっても、勤務期間が6か月以上(3か月の短期契約であっても更新で6か月勤続なら適用されます)、全労働日の8割以上の出勤という条件を満たせば、勤続期間や所定労働日に基づいて年次有給休暇が付与されます。小売業においても、パート・アルバイト従業員の年次有給休暇は、労務管理の厳格化の流れでずいぶん周知されてきた印象はありますが、従業員の「権利」と会社の「時季変更権」、あるいは、「交代要員を自分で見つけてください」という実際の有給休暇に関する運用の部分で店長への教育不足が目立ちます。
小売業では、売上を重視する伝統的傾向があります。KPI(Key Performance Indicator 重要経営指標)も売上目標対比や売上前年対比に偏重する場合が少なくありません。その結果、組織の体質が売上至上主義に陥り、労務管理やスタッフ教育が疎かになったり、売上目標のプレッシャーから「過激な指導」や「放置」という両極端な行動をとってしまったりします。そのような風土を土台にして、店長や店舗社員に対する教育不足により、世間の常識から乖離してしまうことがあります。さらに、外部からの修正がなされないため、その乖離が大きいほど、店長の誤った認識がますます強化されることになります。
冒頭にも触れたとおり、小売業の売上・利益は店舗で生み出されます。利益の源泉である店舗のヒューマンリソースの強化に継続的な投資が必要です。不適切と思われる行為の多くは、教育による正しい知識と正しいマネジメントを知ることで防ぐことができます。事例として挙げた状況を放置すれば、スタッフの定着率の悪化、人手不足による過重的労働、労働環境に関する風評の悪化、新規採用難と悪循環をたどり、やがては店舗網を維持できないという大きな経営危機に瀕することになります。小売企業において、店舗の人員を確保できない状況に陥ると呆気ないほど急速に経営危機に陥ることは、人手不足倒産の増加や「すき家」の「人手不足閉店」の事例が示しています。やはり、小売業は店舗あっての企業です。
コンプライアンス教育では、法令や社内の規定、ルールを知ることに加えて、あらためて企業理念や行動指針も併せて浸透させることが必要です。規程やルールは「~しなければならない」、「~してはいけない」という類のコンプライアンスになりがちです。それは、ルールを守るためにあらたなルールを作ったり、厳格に運用することで手間が増えて、なおさら守ることが難しくなったりする矛盾も内包します。むしろ、我々の企業は何のために存在し、誰のためにどのようなサービスを提供し、どのような企業・従業員を目指すのかといった企業理念や行動指針とコンプライアンスを結びつける、いわゆる「プリンシプルベース」の思考を教育することが、自発的・自律的な行動を促すものと考えられます。たとえば、商品やサービスの提供を通じて「お客様を笑顔にする」という主旨の理念や指針であれば、お客様の前でスタッフを怒鳴ることはあり得ませんし、パワハラを受けているスタッフがお客様を笑顔にすることは難しいでしょう。スタッフのES(従業員満足度)と「お客様を笑顔にする」ことは表裏一体なのです。「お客様を笑顔にする」ためのスタッフへの接し方というのは、自ずと見えてくるものです。したがって、店長のESも高めなければならないことはいうまでもありません。
注目トピックス
◆「新たなコンビニのあり方検討会」報告書、経済産業省
経済産業省は、コンビニの方向性を検討する有識者会議「新たなコンビニのあり方検討会」の報告書を公表しました。
コンビニが登場して40年余りの間、順調な成長を遂げ、中小小売業の近代化に大きく貢献し、消費者の生活になくてはならない存在になりました。その成長の一方で、1店舗当たりの売り上げの伸び悩み、人手不足による店舗運営の困難化、人件費上昇による経営の悪化など経産省が行ったアンケートやヒアリングにおいて、加盟店オーナーから痛切な声があがっていました。そのようなことも含めて、報告書では社会環境の変化を踏まえ、コンビニのビジネスモデルの再構築を求めています。具体的には、24時間営業や休日のあり方、本部による人材確保策を含む加盟店支援や加盟店オーナーとのコミュニケーション強化の必要性などを提言しています。個別の企業のビジネスモデルや戦略について、経産省がここまで踏み込んで関与するのは、コンビニが消費者の生活や消費財のサプライチェーンにとって必要不可欠な存在となっていることが背景にあります。
【報告書のポイント】
- 一律の24時間営業ではなく実情を踏まえ対応を
- やみくもな新規出店より既存店の競争力向上を
- 裁判外紛争解決手続き(ADR)の枠組みを検討すべき
- ロイヤリティには人件費高騰などの環境変化を勘案すべき
- 見切り販売など店の創意工夫を本部が促すことを期待
- 人件費の一部本部負担などの取り組みにも期待
24時間営業や商品やサービスの標準化、賞味期限の迫った商品の見切り販売(値下げ販売)の取り扱いなど「統一」から「多様性」を重視するフランチャイズモデルへの転換を求めています。店舗の実情に応じた柔軟性を許容していくことは、むしろ競合との競争が激化するなかで、コンビニの競争力を高めることにつながるのではないか、としています。とくに、24時間営業は、加盟店オーナーが置かれた経営環境や地域の需要・認識の変に応じて検討されるべきではないかとの指摘です。さらに、そのような取り組みは、店舗のみならず、物流プロセスを含めたサプライチェーン全体の働き方改革につながるとも指摘しています。
指摘や提言内容は、方向性として「そうなんだけど」、「具体的にどうするの」、「ビジネスとして成り立つの」という「正論」というか「絵に描いた餅」という感があります。24時間営業、商品やサービスの標準化は、コンビニの普及や生活への浸透に効果を発揮したことは間違いありません。そもそも、フランチャイジングそのものの競争優位性の源泉でもあるわけです。したがって、標準化した商品、サービス(含営業時間)の実現はメリットであり、絶えずフランチャイジングの課題でもあります。とくに、24時間営業の問題は、ビジネスモデルに保守的なセブンイレブンですら、ある程度柔軟に対応することを示しています。地域や立地、個店の経営状況に応じた個別対応は、すなわち短期的なコストアップを意味します。配送時間の見直しや配送ルートの再設定、場合によっては深夜配送から昼間配送への変更や配送ルートの増加が予想されます。さらに上流の製造工程における発注の締めから配送までのリードタイムにも影響し、たとえば米飯等の一日3便配送体制を維持できない可能性があります。おにぎり、ごはんは時間経過と共に固くなるという品質劣化の問題をクリアする必要があります。また、物流フィーはどれだけ扱ってなんぼという「量」に基づいており、配送センターの売り上げを左右します。仮に物流量が減ってしまっては、配送センターが維持できません。経済性や効率性を追求した結果、長年かけてできあがった高度な物流システムを変更することは、容易ではないでしょう。したがって、その変更には短期的にはコストアップが伴うことを意味するということです。コストアップはかならず、商品の価格の上昇、もしくは、粗利益の低下に跳ね返ってきます。前者は消費者が、後者はフランチャイジングが負担することになります。
24時間営業の取りやめは、コストアップと同時に、一方で店舗売り上げの低下圧力となります。店舗利益の変動は、売上の低下による減収と深夜人件費を中心とするコストの低下とのバランスで決まります。各チェーンによる実験検証が行われていますが、立地によって異なるものの、やはり自然体(競合のない店舗はほとんどない)では減収減益となるケースが散見されるようです。この場合も、ロイヤリティ率の閉店性への変更や物流コストの上昇を反映していない限定条件のなかでの結果です。店舗間での利便性の競争においては、消費者の選択は容赦ないでしょう。購入即消費したいシーンでは、とくにです。加盟店オーナーにとって、24時間営業を見直す選択は、経営リスクを伴う厳しい選択になります。
報告書の提言のなかで、粗利益を加盟店オーナーと本部で分け合う「粗利益分配方式」から、経費を差し引いた営業利益を同じく分け合う「営業利益分配方式」への変更があります。すわわち、本部利益の低下を意味します。本部が分配として受け取るロイヤリティは、本部の経費や配当などを除くと多くは再投資され、コンビニの成長の原動力となってきました。とくに新サービスには巨額の投資を要します。コーヒーマシーンの更新で少なくとも100憶円レベルです。ATMやマルチメディアへの投資も同様に多額です。コンビニチェーン間での競争で、中堅チェーンが生き残れなかった大きな理由のひとつです。ただし、加盟店オーナーは、フランチャイザーからみれば、第二のお客様です。持続可能性を高めるために、既存店に投資する方向性は、必要不可欠でしょう。まさしく、各チェーンの戦略性が問われることになります。
◆ダイナミックプライシング 食品ロス削減にも効果
2019年5月に成立した「食品ロス削減推進法」が10月に施行されました。省庁横断のメンバーで構成される「食品ロス削減推進会議」にて基本方針を策定しています。
食品ロス削減推進法の策定には、世界では食糧不足で苦しむ多くの人がいる一方で、日本では643万トン(2016年度)もの食品を廃棄しており、政府は食品ロスを2000年度から2030年度までに半減させる目標を掲げていることも背景にあります。
これまで食品ロス削減の取り組みにおいて行政は、省庁横断で進めており、基本的には所掌分野での取り組みや働きかけを中心に行ってきました。たとえば、消費者庁は家庭の食品の廃棄を削減する目的で1000世帯をモニターとして実証実験を行っています。他にも、食材を使い切るレシピをクックパッドで消費者庁のページを設置して紹介しています。農林水産省の場合、事業者とフードバンクをマッチングさせるための情報交換会を定期的に開いています。また、各自治体でも食品ロス削減の取り組みを行っており、ごみ処理問題に注力している自治体ほど積極的に取り組む傾向がある一方、小さい自治体では人材や予算不足で手が回らない自治体も少なくありません。
経済産業省では、ドラッグストア大手3社、コンビニ2社の協力を得て、「店舗と生活者の連携:ダイナミックプライシングの実証実験」を行っています。電子タグを用いて対象商品の消費・賞味期限を管理し、期限が迫り値引きが必要な商品がある場合、LINE実験アカウントで実験参加者に対して値引き商品情報を流して購入を促進します。ただし、結果は実験の域を出ないものであるため、販売の向上も参考程度に捉えるべきでしょう。また、コンビニの場合は、値引き販売に対する本部の姿勢に差があるのも事実です。とくに、最大手のセブンイレブンでは、本部の値引き販売に対する姿勢が積極的でないため、店舗段階では廃棄の削減につながっていません。値引き販売ということでは、スーパーマーケットでは、大半の企業が店舗の自主的な判断で売り切るオペレーションを展開しています。値下げのタイミングや値引きの幅を示し、そのようなノウハウを運営マニュアルとして整えている企業もあります。
ただし、人手を介した価格変更は、経験と勘に頼るところが大きく、効果を定量的に図ることが困難でした。そこで、登場するのがAIによるダイナミックプライシングです。制約条件の付いた解を解くのは、AIの得意技です。「一物多価」の歴史は、1980年代から広がりました。代表的なものは航空券です。最近では、ホテルの予約にもダイナミックプライシングが当たり前の状況になっています。コンサートなどのイベント情報、外国人の渡航状況、SNSなどに顧客が書き込んだ情報などをもとに需要を精緻に予測し、瞬時に価格を設定し、また、その回数に制限はないということです。
ネットのサイトでの価格変更と違って、店舗でダイナミックプライシングを導入することは、簡単ではありません。スーパーマーケットの場合、そもそも販売数があらかじめ決まっているわけではありません。商品ごとの仕入れ条件など勘案すべき情報は多いでしょう。また、電子値札の導入も必須になります。
導入のハードルは高いものの、海外でのAIによるダイナミックプライシングの先行事例では食品ロスの削減に効果出ているようです。(TECHABLEニュースサイト)とくに、生鮮食品を中心に扱うタイプのスーパーマーケットにおいて、高い廃棄の削減効果が見込めます。賞味期限までの期間に応じて食品の価格を自動的に引き下げて電子値札に反映します。価格変更に対する消費者の反応を学習して、より効果的なタイミングと価格の組み合わせにつなげていきます。また、前提としてリアルタイムでの在庫を把握することになりますので、欠品による機会ロスの削減にも効果があります。
日本では経済産業省の主導で2025年までに全コンビニでRFIDによる電子タグの導入をする予定で、実証実験などが進められています。リアルタイムで在庫と価格の管理ができるようになります。たとえば、レジ会計ではRFIDリーダーの上に商品を置いた瞬間に会計を表示することが可能で、1品ごとのスキャンは不要になります。販売や商品管理、発注作業における人の負担の軽減につながり、慢性的な人手不足の環境では歓迎される効果があります。また、実在庫の把握が容易になりますので、棚卸の時間削減とカウントミスによる誤差もなくなります。さらに、防犯ゲートと組み合わせれば、万引きなどの窃盗の防止にも効果が見込めます。これらの点では、万引きなどの窃盗や管理ミスによる棚卸ロス(商品減耗)の削減にも寄与します。RFIDによる電子タグの導入は、AIによるダイナミックプライシングを導入する環境が整備されることにもなり、その実現によって食品ロスの削減にも貢献すると考えられます。ただ、AIによるダイナミックプライシング導入においても、食品ロス削減効果には限界もありますので、食品容器の変更や製造工程の工夫による賞味期限自体を延ばすような取り組みも加速させ、食品ロス削減の取り組みを有機的に組み合わせることが肝要です。
ロスマイニング®・サービスについて
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