クレーム対応・カスタマーハラスメント対策トピックス

メディアにより火がついた…か?カスハラへの注目度急上昇中

2024.07.17
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総合研究部 専門研究員 森田 久雄

古いビンテージ新聞の背景

二つの考え方 消費者を正すべきか!企業を強くするべきか!

当社では企業危機管理の観点から、強い企業作りのサポートを行っていますが、特に、クレーム・カスハラについては、そもそもクレーム・カスハラを誘発しないためにどうすべきか?発生してしまった時にどのように対処するのか?という視点で、コンサルティング、人的支援を展開しています。

先日、私が、たまたまメディア出演の機会を頂き、お台場方面の朝の情報番組に出演させて頂いたのですが、事前打ち合わせの段階で、番組のターゲットは主婦層になるため、消費者目線でカスハラに対するコメントを出して欲しいというご要望を頂きました。

番組内では、カスハラの現況から具体的に発生したカスハラ案件に対し、消費者はどのように申し出ればカスハラにならないのか?など、消費者の視点に立った形で番組が進行されました。単純な事なのですが、カスハラをする人がいなくなれば、企業も対策を講じる必要もないわけですから、そのようなカスハラをなくすための消費者への啓発も必要だとも思うのですが、カスハラをしない消費者だけが存在する社会を目指すことは現実的に不可能です。人は感情を持ち、その感情により動く動物ですし、企業より数が多い消費者の方を正すのは容易なことではありません。ですから、企業としてカスハラは無くならないものとして、発生するものという大前提で対策を講じていかなければならないのです。

ちなみに、番組内でも飲食店などでもよくあるクレームとして例題を上げ、注文から20分を経過しても料理が出てこないどころか、自分よりも後に入ってきた客の方に料理が提供されている。「20分も待たせて、まだ料理ができないのか!この店はどうなっているんだ、客をなめているのか!」と怒鳴るお客様、ここで問題です、どのような言い方をすればカスハラにならないのか…森田さんに聞いてみましょう(打ち合わせで聞いていませんが…)、という流れで展開していきました。人の感覚とは難しいですね。この待たされたという意識・感覚ですが、果たして皆さんはこの20分は長いと感じますか?それとも短いと感じますか?如何でしょう。人それぞれ、考え方や感覚は違いますし、注文した料理によっても変わりますので、一概にその長短の判断は難しいと思います。ちなみに、私の感覚では普通という感覚を持っています。当然、他のお客様もいますので、そちらの調理が先という場合や、注文した料理によっては、調理時間は違いますから、私は普通の提供時間と感じます。もし、店内が混雑している状況であれば、むしろ早いと感じるかもしれません。したがって、この提供時間に焦点を当てて論じるよりも、消費者が申し出を発信する言葉、店舗がお客様に料理を提供する際の心配りの仕方はどうであったか?を論じる必要があるのではないでしょうか(企業としてのCSの姿勢・レベルの問題)。

消費者として、遅いと思うこと自体は、それぞれの感覚でありますので、何ら問題はありませんが、この感覚や気持ちを発信する際、乱暴な言い方や従業員を侮蔑したような物言いはするべきではありません。あくまで尋ねるような発言であれば、カスハラと捉えられることはないと思います。例えば「従業員さん、私の料理はまだですか?」「今日は、随分と時間が掛かりますね?」「私より前に来たお客さんの方が、早く料理が届いているようなんですが…」など、あくまで冷静に淡々と申し出れば、お客様側からの申し出でトラブルになることはありません。これに対し、店舗側の従業員も誠意を持った態度で接し、「お客様、大変申し訳ございません。本日は大変混んでおり、お客様の料理が遅れているのかもしれません」「お待たせして申し訳ございません。少しお待ちください。厨房を確認してまいります」等々、お客様の留飲を少しでも下げるような言葉を使い、気遣う姿勢を見せながら対応することで、お客様がさらにヒートアップすることを防ぐことができるのではないでしょうか。つまり、双方で相手を思いやるという考え方や姿勢が重要になり、このような考え方を持っていることで、カスハラが世の中から減少していくのではないでしょうか。

企業・店舗とお客様の関係はどちらが上か?

結論からいうと、どちらも対等であるといえます。ただし、お客様にご利用頂くことにより、企業としては収益を得ることになりますので、そこにはお客様側に優位性が存在しているということになります。したがって、この優位性をもって企業側に不当・過剰な要求を申し出ると、カスハラという判断にもなります。

企業側はこの優位性に対して、「他社にお客様を取られたくない」「収益を落としたくない」という意識が働き、どうしてもお客様の強引な要求を飲まざるを得ないと考えてしまう場合があります。しかし、考えてみて下さい。企業側にもお客様を選ぶ権利があることは理解されていますか?

一部企業や店舗では、迷惑行為を行うお客様に対し、“出入り禁止”“ブラックリスト”などの措置をしています。お客様側に絶対的且つ確定的な優位性があるのであれば、このような企業・店舗側の措置は成立しないはずです。また、法律論を説くわけではありませんが、民法第521条及び522条に、契約自由の原則について、「何人も、法令に特別の定めがある場合を除き、契約をするかどうかを自由に決定することができる」(民法第521条より抜粋)と明確に定められています。ですから、企業側にもお客様を選ぶ自由はあり、出入り禁止や利用禁止、取引停止を企業側から通達する事ができます。場合(状況)により企業・店舗側がお客様を取捨選択し、「当社(当店)は、あなたにはサービス、商品の提供を致しません」という措置ができることになります。

これは、企業とお客様の関係が対等であることの証しと言えるのではないでしょうか。何度も言いますが、そもそもお客様に選んで頂くために、他社よりも良い商品の提供や、最良の接客を提供し、選んで頂く努力を行うことで利用する魅力をお客様に訴求します。決して不当な要求(値引き等も含む)に応じることでお客様を獲得するということではありませんね。

お客様の中には「私は料金を支払う客だ!」ことさらに優位性を前面に出すお客様がいますが、この言葉に魔法が掛けられており、料金を頂いているのでお客様の方が優位な立場にあると感じてしまうのですが、よくよく考えて下さい。何のサービスも提供せず、商品も提供していないお客様が料金を支払って頂くことがありますか?料金はあくまで、提供したサービス又は商品の代金として支払われるものです。

要するに、サービス又は商品の対価として支払われることになりますので、提供した物に対してその対価となる料金を支払うのは、至極当たり前であり、それ以上のサービスや対応は本来、不要なのです。料金は提供した物に対してその対価であり、それ以上の過剰なサービスや対応はそこには含まれていないことを消費者は、自らの意識で勘違いしないことです。

したがって、企業とお客様の関係性は対等であり、どちらが上という考え方自体が間違いなのです。

クレーム対応で一番重要な初期対応を成功させる

クレーム対応において、一番重要であり困難なのが初期対応です。この初期対応では、以前のコラムでも解説しましたが、企業(店舗)側は圧倒的に不利な状況から対応を始めなくてはなりません。繰り返しお話しておきますが、お客様は企業にクレームを申し出る時、どのような内容を、どのように申し出るか、必ず考えてから申し出てきます。それを受ける企業側は、事前にクレームを申し出られると予期していませんので、いきなりクレームを受け、怒られ、平常心を失い、冷静さを欠いた状態で初期対応を行なうことになりがちです。そのような状況で、果たしてしっかりとした対応ができるでしょうか。この対応を失敗すると、後々で必要なる要求に応じるか否かの判断を誤る可能性が高くなるのです。そこで、この初期対応をミスしないためのノウハウとして、今回は“危機管理的顧客対応指針5ヶ条”の中から、第3条にある「初期対応における3つの基本」をご紹介してまいります。

まず、重要なのは「お客様の話を聞くに徹する」ということです。これは、できているようでできていないケースを多く見受けます。“聞くに徹する”という事ですので、単純にすべてを聞き取れば良いということなのですが、うまく聞くことができていない要因として、一つは、冷静さを欠いている状態で対応しているため、お客様の話に集中できていない、あるいは、話の腰を折ってはいけないという意識が働き、不明点が多いのにそのままそれを事実として受け取ってしまうことが挙げられます。お客様の申し出の中には、必ず4つの要素(事実/不満/意見/要求)が存在しており、この要素を理解していないと、ただ単に怒られたという印象が強く、不明点に気付くことなく、聞き取りを終了させてしまいがちです。二つ目の要因としては、お客様の話は聞いているのですが、しっかりと頭に留めておくことができていないことです。例えば、緊張の中で冷静さを欠き、30分~60分の対応を余儀なくされていた場合、どこまでお客様の話を理解し記憶・把握していることができるでしょうか。特に、4つの要素は判別できるでしょうか。もちろん聞くことは重要なのですが、それだけでは不十分で、状況を正しく理解して、記憶漏れを防ぐためにも、文字として可視化することが重要になるのです。人の記憶は曖昧なもので、一度覚えたものでも、時間の経過と共にすり替わってしまうことや、忘れてしまうことが多くあります。しかし、この初期対応時にメモという形で可視化しておくことで、現在進行形の記録を取ることができ、誤解や忘れることを防ぐことができますので、事後対応として行なう報告などにも、正確な報告書を作成に役立つことになります。要因の3つ目としては、聞くに徹していないことです。「聞くに徹する」ということですから、自身の言葉を挟まず聞き取るということなのですが、特にベテラン社員ほどミスが発生します。なぜベテラン社員がこのようなミスをしてしまうのか?反対に新人社員はこのミスをしないのか?ます、新人から数年経過した程度であれば、入社時に研修などで「お客様の話には、寄り添ってしっかりと傾聴しましょう」など、どこの企業でもこのような研修を行いますね。新人社員は、この教えをしっかり守りますので、お客様の話を聞き取ることできるのです。もちろん、対応としては不慣れな状態なので、聞き取った情報のみで、情報が乏しいケースが散見されます。これに対して、ベテランと呼ばれる社員は、仕事、お客様対応、クレーム対応など、どれをとっても、その経験値などから一定以上のレベルに達していると思います。そこで、そのようなベテラン社員が初期対応をした場合、お客様から申し出を受けている最中、お客様からすべてを聞かずとも、何が起こったのか経験から理解・推測できてしまうのです。そこで、対応の経験値としても高いベテラン社員は、お客様にご迷惑をお掛けしたという理解から、迅速且つ誠意を持って対応しなければならないという判断に陥り、お客様の申し出の途中で「お客様、大変申し訳ございません。●●という事ですね。すぐに、〇〇の対応をさせて頂きます。大変申し訳ございませんが、少しお時間を下さい」などと対応を始めてしまうのです。一見して、悪い対応には思えず、企業側の視点に立てばむしろ迅速な対応で、良い対応と思われがちですが、お客様の視点で考えた場合はどうでしょう。お客様は、企業側の不手際により迷惑を被り、企業側に不満を申し出るため電話又は訪問してきます。そこで、自身の申し出を途中で止められ、自身の意向に反して勝手に対応を進められたら…もちろん、それで理解を得られるお客様もいると思いますが、理解を得られないお客様の場合には、「今、私が話しているのに、どうして遮るのですか?あなたは私の話を聞く気がないのですね?では、あなたでは話にならないので、上の人を呼んで下さい!」という具合に話を悪化させてしまうことになるのです。これが二次クレームになりますので、企業側はさらに立場が悪くなるのは必至です。お客様の話は、新人であろうが、ベテランであろうが、同じ意識を持って対応する必要があるということです。

第3条、初期対応の基本の2つ目は、「事実の確認と明確化」です。初期対応でお客様の話を聞き取りましたが、これをすべて鵜呑みにすることはできません。お客様によっては、事実を歪曲し自身に都合の良い事実を構成し、虚偽の申告をされる方や、記憶違いや勘違いをされるお客様がいます。したがって、お客様の申し出をすべて鵜呑みにしてしまうと、間違えた対応をしかねないというリスクが存在しています。では、どうすれば良いのか?お客様の申し出が正しいものであるか、社内的に事実確認を行なう必要があります。これにより、何が真実であり要求に応じる必要があるのか、正しい判断ができるようになるのです。したがって、“事実確認無くして回答は成り立たない”のです。また、お客様の申し出に対し、購入された商品に不具合がある場合、その不具合を企業側は自身の眼で確認をする必要があります。お客様により、自身が受けた損害を誇張することや、自身に不都合な点は隠すなどのケースもありますので、お客様の申告を聞いておき、対象となる商品をしっかりと確認する必要があります。また、購入した商品を持ち帰り、ご自宅を汚損させたというケースも多々ありますが、こちらもその事実をしっかりと確認する必要があります。このような事実確認がしっかりとできていれば、お客様の申し出と、自社内での事実確認を比較した上で判断をすることができます。

第3条、初期対応の基本の3つ目は、「対応時の記録と共有」になります。初期対応時において、お客様との対応を記録化する必要があり、前述の通り記憶だけでは正確性に欠けることになります。そこで、記録の方法としてICレコーダーや携帯電話などによる音声記録と、シンプルにメモによる可視化とでは、どちら好ましいのでしょうか。もちろん、どちらも同時に使用していること自体は問題ないのですが、一番利便性が高いのはメモになります。お客様の対応は往々にして長時間になりがちですが、その際にお客様より冒頭で何を話したのか、お客様自身が何を言ったのかを問われるケースがあります。そのような時は、メモによる記録であれば数秒で答えが出てきます。しかし、ICレコーダーではそのようにいきません。一旦、録音を停止し聞かなければなりませんので、停止している間の記録はできなくなります。当然、秘密録音(隠し録り)の場合は意味がないですね。

このように、初期対応ではしっかりとお客様の申し出を聞き取り、独自に事実確認を行なうことで、最終段階である要求に対する正確な判断ができるようになるのです。従って、初期対応における重要度は極めて高いといえるのです。

改めて、初期対応の重要性と、ミスをしがちな点を勘所として押さえた対応のノウハウである、危機管理的顧客対応5か条の有用性・実践性を確認いただきたいと思います。

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