クレーム対応・カスタマーハラスメント対策トピックス

いよいよ迫る東京都・北海道カスハラ防止対策条例化

2025.01.20
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総合研究部 専門研究員 森田 久雄

いよいよ迫る!東京都・北海道カスハラ防止条例

全国の企業では、カスハラ対策が本格化し始めていることと思います。自社の行動指針(ポリシー)をどのように策定するか、マニュアルはどの程度作り込む必要があるのか、担当者は悩ましいことかと思います。恐らく、東京都及び北海道のカスハラ防止条例や、すでに作成されている企業のものを参考に検討されているのではないでしょうか。そこで、いくつかご注意願いたい点があります。まず、誤解の無いように申し上げておきますが、以下は東京都や北海道、又は各社の作成しているものを否定するものではありません。

まず、東京都及び北海道においては2025年4月1日よりカスハラ防止条例をスタートさせますが、東京都の条例の中で「カスハラの定義」が第2条に示されています。第2条の5には「カスタマー・ハラスメント」とは「顧客等から就業者に対し、その業務に関して行なわれる著しい迷惑行為であって、就業環境を害するものをいう」(※東京都カスハラ防止条例より抜粋)とあります。条例案文が出されていたころより疑問視していたのですが、「就業環境を害するものをいう」という要件について、果たして「就業環境を害するもの」とは、どういうレベル感を言うのでしょうか?例えば、スーパーの従業員が顧客より「あなたレジを打つの遅いね」「あなたやる気あるの?」等と苦情を言われた時、これは就業環境を害すると判断するのでしょうか。このように軽微な事象に対して、企業はどのように対処すべきでしょうか。企業では、クレームなどが発生した場合、報告書などでクレーム内容やその対処を報告していると思いますが、前述のような苦情にわざわざ報告書は作成しないのではないでしょうか。このような苦情、従業員としては必至に業務をこなしていても、顧客側に悪意があり繰り返し言われている場合、従業員の感情はどうなるでしょうか。

2023年9月労災認定において、カスハラによる精神障害が追記されましたが、問題になるのが精神的負荷です。従業員は感情を持った人です。人により精神的負荷のかかり方は様々で違います。1度苦情を言われて落ち込む人もいれば、まったく気にしない人もいるでしょう。しかし、たった1度であり職場環境を害さなくとも、従業員個人の精神を害することがあると考えるべきではないでしょうか。このような発言を同じ人物より延々と、長期間に亘りチクチクと言われ続けたらどうでしょう。さすがに精神的負荷は増大していきます。精神的負荷が増大しきってからでは遅いのです。最初に、負荷がかかった時点で対処していかなければ、いつしか負荷が蓄積され、感情が溢れかえりメンタル不調発症と変化していくのではないでしょうか。そうであれば、一概に職場環境を害するものという表記は、誤解を生み些細なカスハラを見逃してしまい、むざむざ従業員を被害者にしてしまうものとなる可能性があるといえます。カスハラ対策が従業員を守るためというのであれば、企業はそこまで突き詰めて考え、対策を進めるべきではないでしょうか。

条例だけではない!法令改正も視野に

東京都及び北海道におけるカスタマー・ハラスメント防止条例施行という話題を取り上げましたが、厚生労働省が法令改正に向けて検討に入っています。これは、労働施策総合推進法(1966年制定:労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律)改正により、カスハラ防止策を企業に義務付けるというものです。

同法は、ご存じの通りパワハラ防止対策を義務化した法律で、2020年(令和2年)に大企業、2022年(令和4年)に中小企業にパワハラ防止対策を義務化しました。この法律に、今度はカスハラ防止対策を義務化する方向で動いているということです。パワハラ対策を義務化した際、大企業と中小企業に猶予期間を設けていますので、恐らくカスハラ防止対策についても、同様の流れになるのではないかと考えられますが、法令で義務化された場合には条例が施行されていない府県でもカスハラ対策が必須になり、日本国内の企業及び個人が対象となります。ただ、条例と法律が並列すると、条例化を意識して対策を施すのか、法令を見越して対策を施すのか、という発想になりがちですが、カスハラ対策は、本来法律や条例があるから、やるものではありません。カスハラ対策は誰のために行うのか。それはまぎれもなく自社の従業員を守るためです。その点を踏まえれば、法令・条令の問題ではなく、カスハラ防止対策は企業として行なう必要のある至上命題といえるのです。法令・条令の施行日は、あくまで対策完了までの目標期間として捉えることであり、法令・条令化されるから対策を施すということではないと認識すべきです。(※少し意地悪な問いでした)

カスハラ対策における自助・共助・公助

さて、昨年の10月号で、カスハラ対策において重要な7つの柱をご紹介しましたが、もう1点指摘しておきたいのが、企業として踏まえておくべきカスハラ対策の自助・共助・公助です。企業はコストの関係や内製化をしたいなどの理由により、経営陣は社内ですべてを完結させるようにと指示を出す傾向にあるようです。自助として、内製化できるものは、社内努力を選択することで一つの学びの機会を与えることにも繋がります。しかし、社内で完結させようとすると、思った以上に時間が掛かり、担当者の負担は精神的なものも含め、実は図りしれないものであるといえます。したがって、自助努力として出来る範囲と、社外に任せる範囲をしっかりと見極めることで、カスハラ対策は加速度的に進み始めることをご理解下さい。

自助とは当然のことながら自社内で行なう施策となり、共助とは社外より協力を得て行なう施策となり、公助とは公の協力を得て行なう施策という考え方になります。自社内だけでは、従業員を守り切れない状況になりつつあるのが、このカスハラ問題ですので、内製化できるところは内製化して頂きつつ、不足する点については迷わず社外の専門家に相談することが最善の企業努力といえるのではないでしょうか。※尚、公助については参考まで

施策実行者 施策内容
自助(従業員)
  • カスハラに対する企業としての姿勢を明確化する
    「カスタマー・ハラスメントへの行動指針」の策定
  • 従業員に会社の方向性を示し、社会に姿勢を表明する
    社内周知と社外公表
  • 従業員間の相談し易い環境作り
    モチベーションUP、コミュニケーションの促進
  • カスハラ対応方法の検討
  • カスハラマニュアルの作成検討・作成
  • カスハラ対応研修の立案・計画
共助(専門分野を担う者)
  • 産業医による専門的医療診断
  • コンサル会社によるストレスチェックの実施
  • 専門家による行動指針策定・マニュアル作成支援
  • 専門家による教育・研修
  • 従業員相談窓口の外部委託
公助(行政など)
  • 労災適用申請
  • 自主的相談
    • 厚労省
      『こころの健康統一ダイヤル』
    • 日本いのちの電話連名
      『いのちの電話』など
自助・公助・共助のイメージ画像

お客様の話す内容に着目すれば対応時の対処が明確化する

以前のトピックスでもご紹介してきましたが、今回はSPNが推奨する「危機管理的顧客対応指針5ヶ条」から、第4条についてお話します。

顧客対応をする中で、特に初期対応では一方的に顧客の申し出を受け付けることになると思います。そこで、この顧客の申し出を冷静に判断し、話しの要素を聞き分けて欲しいのです。これができると、初期対応時に従業員は何をすべきか、どのような姿勢で対処すべきか、しっかりと判断できるようになります。

まず、お客様の話は「事実」「不満」「意見」「要求」の4要素で構成されていると考えられ、この4要素ごとに対処法を理解していれば、顧客との対話時間を短縮することや、話しに引き込まれ錯覚し、不当要求に応じてしまうような事態を避けることができます。

まずは「事実」の申し出です。通常、顧客は申し出をする際に自身が被った損害や経緯について話してきます。いわゆる理由を明確にしてきます。いきなり理由もなく「金を返せ!」「物を交換しろ」と言い出す顧客は珍しいタイプだと思います。自身の要求を通すには、従業員を説得するため、自身が被害者であるという理由付けをしてくるはずです。ここで注意しておくべきことは、この理由付け(申し出)はあくまで顧客の“言い分”であり、“事実”であるとは限らないということです。一部の顧客では、虚偽の事実や歪曲した事実、拡大解釈した事実や勘違いなど、様々に申し出てくるものです。したがって、この初期対応の場では顧客の言い分を鵜呑みにすることはできませんので、以前にも記述した通り「聞くに徹する」として、徹底的に聞き取ることです。顧客の言い分を理解しなければ、企業側も対処が何もできないものです。

顧客は事実を言い終わると、次に「不満」を言い出します。自身が満足できなかった感情や、期待を裏切られたなどの感情を申し出てくるでしょう。ここでは、否定することなく共感しながら、顧客の怒りの温度感や勢いなども見極めることができます。注意しなくてはならないのが、共感しても同意はしないということです。よくある手口で、「私の気持ちになって考えてみろ!」「あなたが私の立場ならどう思う?」など、対応者としては否定し難い言葉を投げてくるケースが往々にしてあります。このような言葉に「確かにその通りです」や「私が同じ立場でもそう思います」などと同意したような返事をすると、間違いなく「そう思うなら私の言う通りにしなさい!」と返ってきます。共感であれば、お気持ちは理解しますが…と言う程度で済ませることができます。また、執拗に「どう思う?」と問われれば「私の個人的見解は申し上げることはできませんので、まずはお客様のお話をお聞かせ下さい」と返すだけで、問いに対する回答を出した上で対応を進めることが可能となります。

次に出てくるのが「意見」です。もちろん、意見と不満が逆転することや、不満→意見→不満とループする場合もあります。ここでは、顧客自身の思ったこと、即ち“考え”を申し出てくる訳です。その意見とは、自身が過去に感じたことや、店舗や企業などの姿勢・営業方針などから、ネット情報、聞いた話、憶測など、様々な考えを申し出てくるはずです。このような場合、人は自身の考えを真っ向から否定されると、それに反発するものですので、否定することなく、“貴重なご意見”として受け止めればいいのです。その後は、その意見により改善するか、受け止めるのみで行動を起こさないかは企業側の自由ですし、従う義務はありません。

そして、最後にでてくるのが「要求」になりますが、その場で回答できるものは、敢えて時間を取ることなく対処すれば良いのですが、明らかな不当要求や不審な点があるような場合には、必ず事実確認が必要になります。顧客が申し出る「事実」という点で記述しましたが、必ずしも真実であるとは限りません。真実はどこにあるのか、何が真実であるのか、これを判明させるためには、自ら事実確認をした上で、顧客の言う事実が真実であるのかを判断しなければなりません。したがって、この要求には事実確認を行なう時間を取って回答を出すという対処になるのです。

  • 「事実」の申し出→聞くに徹すること
  • 「不満」の申し出→共感しながら同意はせず見極める
  • 「意見」の申し出→貴重なご意見として承る
  • 「要求」の申し出→時間を取って事実確認をする旨を伝え回答はしない

という流れになります。最後の要求を確認後、回答はできませんので対応を一旦終了するという形になります。顧客によっては、その場で何とか回答を得るため、再度、「不満」「意見」へとループし始めることも想定できますが、すでに顧客なりの事実は判明していますので、ここで時間をかけることなく、「お客様のお申し出は理解致しました。まずは調査(事実確認)をさせて頂かなければ回答は出せませんので、お時間を頂戴いたします」と毅然とした対応をすれば、延々と長時間に亘る対応を避けることができるようになる訳です。

このように、顧客の話す内容に注視することで、どのように対処することができるのかが明確化され、大きな対応ミスが無くなり、時間的なロスを軽減することも可能になります。このような意識を持つだけで、これからの対応は変わってきますので、是非、参考にして下さい。

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