HRリスクマネジメント トピックス
職場におけるトラブルは複合的。社内の様々な関係者の協力を得て、複数の視点で捉えなければ、解決が難しい問題も多々あります。でもやっぱり最後は「人」!HRリスクマネジメントが重要です。
職場における様々なトラブルを解決すべく、今、エス・ピー・ネットワークに生息する動物たちが立ち上がりました!初動対応や法的な責任、再発防止など、三匹それぞれの観点から熱く語ります。
【今月の三匹・プロフィール】
ワオキツネザルさん:九州から1年前に上京してきました。幸い、家族や親戚、友人で被災したという情報は聞いていないので、一旦安心しています。これからは大雨のリスク、台風のリスク、熱中症のリスクと心配が絶えませんので予測、予防からしっかりと準備してまいります。
酉爺(とりじい):普段は鶴で、週末はフラミンゴ(?)下町生まれの下町育ち。寅さんやたけしさんに通じる“庶民感覚”を有する超ベテランコンサルタント。セミナーでもたまに“ベらんめい口調”をのぞかせる。
イノシシさん:森の音楽家兼防災おじさん。防災士。三度の飯よりとんこつラーメンが好き。実は今度、最近習い始めたフルートで発表会に出ることに!緊張するけどがんばります~ピーヒャラ~♪ブヒッ!
ネコさん:当相談室の留守番ネコ。猫なで声と鋭い爪をあわせ持ち、企業内での人事実務経験が豊富。社会保険労務士で、産業カウンセラー、実はキャリアコンサルタントでもある。蒸し暑いニャー。でもマスクのおかげで喉の調子はよいニャー♪
今月のご相談は、こちら。
小売店で働くAさんとB店長。台風や集中豪雨の多い季節は2人のバトルが絶えません。それぞれの主張は次の通り。いったいどうしたものやら…。
Aさんの主張:雨が激しくなる前に、「帰ってよい」と言ってください!
私の家は川の近くなんです。家には小学生の子どもと老人がいるので、豪雨が近付くと気が気でなりません。職場から最短ルートで自宅に帰るにはアンダーパス(掘り下げて通した立体交差の道路)を通るので、雨がひどくなってからでは遅いと思うんです!店長は、どうして早く「店を閉めよう」という決断ができないんですか?店と従業員の命、どっちが大事なのよ?!せめて自宅や帰り道が心配な人にくらい、「先に帰っていいよ」と声を掛けるのが、安全への配慮というものでしょう?本当に気が利かないんだから……(怒)
B店長の主張:そんな簡単に店を閉められるか!帰りたければ早退の申請をしろ!
店舗運営の責任者としては、売上のノルマもあるし、雨くらいで簡単に店を閉めるわけにはいかないんだ!それにこの店は高台にあるんだから、店舗にいる人は安全なはずだぞ。従業員の自宅がどこで、どの道を通っているかなんて、いちいち把握していられないよ。帰らなければいけない理由があるなら、自分から「早退」の届を出せばいい。まったく、みんな一生懸命働いているのに、自分の都合ばかり優先するのはいかがなものかと思うぞ!
【ワオキツネザルさん】
AさんとB店長のやりとりを振り返ると両者ともに、ご自身の信念に基づいて主張をしていることがうかがえます。Aさんは、ご自宅にお住まいのご家族の命を第一に考えていますし、B店長は強い責任感を持って、お店のためを思っての主張をしております。AさんにもB店長にも譲れない点があり、この2人の争いの終着点を見つけるのに苦労するでしょう。ワオキツネザルはAさんへのアドバイスを中心に、問題解決に向けて考えてまいります。
〈Aさんは言い方を工夫できたのでは?~働きやすい職場づくり~〉
Aさんの言い方には、かなりのリスクが潜んでいる気がしてなりません。Aさんの、「店と従業員の命、どっちが大事なのよ?!」「本当に気が利かないんだから…」といった極端な言葉からは、店長への敵意を感じますし、このような態度がにじみでてしまうと職場の雰囲気も悪くなります。当然、このような態度で早退したいといわれても、B店長はカッとなってしまうでしょう。
ただ、それはB店長にも当てはまることです。AさんとB店長は、お互いにもう少し柔らかい言葉遣いを心がけることが出来れば、もっと円滑で穏やかなコミュニケーションがとれたのではないでしょうか?
例えば、Aさんであれば「すみません、本日なのですが、大雨が近付いているということで、申し訳ありませんが早退させていただいてもよろしいでしょうか。自宅に老人と子どもがおり、最短で帰るにはアンダーパスを通らなければいけないので…。何とかなりませんか?」という聞き方をすれば、B店長も取り合ってくれるのではないでしょうか。少なくとも、「ギスギスした職場」は回避できるはずです。
B店長も、「それは大変だね」等とまずAさんの状況について心配する言葉をかけてから、店舗の現状や今後の対応を説明してみると良いでしょう。
〈困ったときは助け合い〉
Aさんの主張や怒りはすべてB店長に向かっておりますが、Aさんは他の従業員に対して何か配慮はしていたのでしょうか。例えば、「申し訳ありませんが、本日は家族が心配ですので、先に帰宅させていただきます」等の言葉はかけていたのでしょうか。ご自身の要望を主張する際には、この「一緒に働く同僚」への気遣いも忘れずにいると、ご自身にとっても周りにとっても、働きやすい職場となるのではないでしょうか。
他にも、働きやすい職場づくりや、ご自身の職場でご自身の思い通りにことをすすめるために、日頃からできることはあるかもしれません。例えば、普段から「最近大雨が多いのですが、自宅に小さな子どもと老人がいるので、あまりにもひどくなった場合は申し訳ないのですが、先に帰宅させていただきます。平常時であれば、何かあればお手伝いできますので、困ったときは気軽に相談してくださいね」等の声掛けを他の同僚にしていると、大雨の際の帰りやすさや日頃の働きやすさは、かなり違うのではないでしょうか。
このように、「困ったときは助け合い」ということを普段から意識していると、何かあってもなくても、働きやすい職場になります。ギスギスした職場、働きにくい職場は、ハラスメントも起きやすくなります。お互いに、自分の主張と「それは無理」であることを相手にぶつけるだけではなく、「では、どうしたらよいか?」について考えることが大切ですね。
【酉爺(とりじい)】
酉爺ぃ~、酉爺ぃ~! 早く、出番ですよー!
えっ、誰じゃ。おっ、ネコちゃんやないかい、久しぶりやのう!。あらら、ワシゃ、もうお役御免やなかったんかいのう?
何言ってんの酉爺、まだまだ働いてもらいますよ!
ひゃー、分かった分かった、ホイホイ。どれどれ、今回はどんなお悩みかな。
ひゃー(二度目)! 相変わらず、困ったチャン同士が、一方的に自分の言い分だけを捲し立てておるわな。これまたいつものことだが、主張そのものもあるが、とにかく言い方がないわなあ。何故、このような言い方しかできんじゃろかいのお。そもそも双方にコミュニケーションを成立させようとの意思が微塵も感じられないわな。それ以前に相手(しかも上下関係はあるとはいえ同僚)の立場に対する慮りというか、理解というか、その辺りが全く感じられないのが残念でならんわい! しかもこんな2人のバトルが絶えないじゃと? 会社は何を放置しておるのじゃ……。
〈バトルが続くということは…〉
「小売店で働くAさんとB店長。台風や集中豪雨の多い季節は2人のバトルが絶えません」ということは、二人が同じ職場で働くようになってから、何年くらい経過しとるのかは分からぬが、“台風や集中豪雨の多い季節”にはバトルが繰り返されていた事実が明らかにされておるがな。これは一度や二度ではないことの証に他ならぬぞ。ということは、この2~3年か3~4年かは知らぬが、個人(当事者)間も、職場としての店舗においても、またエリアマネージャー管轄内においても、そして会社全体としても、何ら改善策が講じられてこなかったことを如実に物語っておるわい。読者諸兄諸姉には、勘違いせんといてもらいたいのじゃが、これはこの二人の“絶えぬバトル”情報がしかるべく部門部署に報告されていても、報告されていなくとも、どちらの場合でも問題ありということじゃ。改善も解決もしとらんわけやからな。もう先に結論を出すことになるが、この“改善”や“解決”のためにするべきことが、個人(当事者)間、職場としての店舗内、エリアマネージャー管轄内、会社全体のどのレベルでも問題視(見える化)されず、何の手立てもなされなかったことが問題の本質じゃ!
〈かみ合わないコミュニケーション〉
取り敢えず、2人の“やり取り”をなぞってみると、2人のコミュニケーションが全くかみ合っとらんことがようわかるぞ。
Aさんよ、いきなり「『帰ってよい』と言ってください!」はないじゃろう? 事情も説明せず、「帰らせるのが当然だ!」と食って掛かられたら、誰だって気分を害すものじゃ。そして店長の方も、そこまで突き放すことはないじゃろう? 売上も大事じゃけれど、早めの避難も必要じゃ。互いに自分の主張を曲げず、全く相手の言い分を聞くつもりもないのかのう……?
繰り返しになるが、個人(当事者)間、職場としての店舗内、エリアマネージャー管轄内、会社全体のどのレベルにおいても、双方向のコミュニケーションが成立していないわけなのじゃよ。つまり、どのコミュニケーション回路においても、一方的な言い分や指示・命令のみが“言いっ放し”状態で浮遊し、狙い所はもとより、どこにも着地していないんじゃな、これが。これがもし、この職場の特徴であるなら、同店舗内ではAさんとB店長間のみならず、Cさん、Dさん、Eさん……も巻き込んだ不良回路が潜在・顕在しているだろうことは想像に難くないわな。仮にB店長とEさんとの関係は非常に良好だとしても、それが他者にとっての好事例として参考にされていない、学習されていないことを図らずも示唆しているわけよ。そして、それがこの職場のみならず会社の特徴であるなら、他の店舗でも、複数のエリア内でも、はたまた会社全体でもコミュニケーション不良回路(リスク)が散在しているじゃろ。だから、一方通行の言いっ放しをもって、コミュニケーションが成立したと、甚だしい勘違いをしてしまい、さらにそれに気づきもしないという二重のリスク、二重のマネジメントミスを犯してしまっとるんじゃ。そしてそれらが省みられることなく、当たり前のこととして放置されれば、歪んだ“社風”が形成されてしまう、これが一番恐いことなのじゃが……。
〈“言い方”の側面〉
さて、忘れちゃいかん、もう一つの側面、“言い方”についてもちょっと触れておこうかい。
まあ、同社(同店舗)がどのような規則規程で運用されているのかは知らんが、またそれまでの両者の関係性がどうであったかも知らんが、これは指摘せにゃならんぞな。
AさんとB店長の会話を想定して、爺なりにツッコミを入れてみるぞ。
Aさん:店長、雨が激しくなる前に、「帰ってよい」と言ってください!
(爺)まずは、「早めに帰っても宜しいですか」じゃろう。
Aさん:私の家は川の近くなんです。家には小学生の子どもと老人がいるので、豪雨が近付くと気が気でなりません。
B店長:……で?
(爺)「ああ、そうなのか」くらいは言おうぜ、店長!
Aさん:職場から最短ルートで自宅に帰るにはアンダーパス(掘り下げて通した立体交差の道路)を通るので、雨がひどくなってからでは遅いと思うんです!
B店長:従業員の自宅がどこで、どの道を通っているかなんて、いちいち把握していられるか!
(爺)いかんのう。店舗従業員が何人いるのかは知らぬが、最低限のところは把握しておくべよ、店長! しかもAさんとのバトルは“年中行事”らしいやないかい。
Aさん:店長は、どうして早く「店を閉めよう」という決断ができないんですか?
(爺)Aさん、君が店長の決断の評価を軽々に口に出すのは、如何なもんかいのう。生活必需品を売るような店なら、こんな時は余計に忙しくなっとるはずじゃ。お客様のニーズやら、会社からの指示やら、店長だって決断を下すにはそれだけの根拠が必要じゃ。
B店長:そんな簡単に店を閉められるか! 帰りたければ早退の申請をしろ!
(爺)店長、言い方! 怒りはこらえて、「そんな簡単に店を閉めるわけにはいかないんです。Aさん、ご自宅とご家族のことが心配ならば、早退の申請をしてください」くらい、何故言えないんじゃ!?
Aさん:店と従業員の命、どっちが大事なのよ!?
(爺)これもいかんぜよ! もし、店長が今そういう決断ができないのなら、既存のルールに粛々と従って早退届を出し、早く家族の元へ急ぐべきじゃないのかい、今は。
B店長:店舗運営の責任者としては、売上のノルマもあるし、雨くらいで簡単に店を閉めるわけにはいかないんだ!
(爺)「雨くらい」とも言っておれんのが、昨今の異常気象じゃ。この後の天気の見通しはどうじゃったのかのう? 注意報や警報は確認したのか……? 軽々しく言っていたのであれば、店長のそういう態度が、なおさらAさんを不安にさせとるのかもしれんぞ。
B店長:それにこの店は高台にあるんだから、店舗にいる人は安全なはずだ。
(爺)Aさんとの議論が噛み合わない最大のポイントじゃ。Aさんは、店舗にいる自分の安全ではなく、家族の安全を心配しているのじゃよ。
Aさん:せめて自宅や帰り道が心配な人にくらい、「先に帰っていいよ」と声を掛けるのが、安全への配慮というものでしょう?
(爺)自分や家族の身は自分で守るものじゃ。「コミュニケーションは自分から」と、いつもネコちゃんが言っとるぞ。そして一方、従業員の安全を守るのも企業の責務でもあるのじゃ!
Aさん:本当に気が利かないんだから……(怒)。
(爺)これが一番いただけない。余計なことを口にしては絶対にいかん!(怒)は(怒)を招くものじゃ。
B店長:まったく、みんな一生懸命働いているのに、自分の都合ばかり優先するのはいかがなものかと思うぞ!
(爺)う~ん、まさしく「売り言葉に買い言葉」じゃな。これじゃあ、店長はAさんに「帰るな」と言っているようなものじゃ。“自分の都合”といっても、家族の安全に関わる事態やからのう。過去の“バトル”のときにはAさんもその家族も無事だったから、今ものんきにバトルをしておられるのかもしれんがのう。本当に被害が出たときに、責任問題になるのが目に見えるのう……。まあ、“バトル”を繰り返せる間に、いち早く、対策と行動要領を決めることじゃ! 高台の店舗が孤立してしまい、従業員が退避できない場合や、Aさんはじめ従業員の家族の方が孤立してしまった場合などの複数の想定とその対策を具体化せにゃいかんぜよ。
どのような話の展開になっても、組織内での各レベルでのコミュニケーション回路を双方向に保ったまま、理解と納得、そして相互信頼を得ることが何よりも重要であること、そしてそのためには何が必要か、自分は何をしなければならないかを、皆さんには十分ご認識いただきたいのじゃよ。相手の立場を理解する、自分に足らないものは何かをいつも頭に置いといてくだされ。他人に聞いてみるのも一つの手じゃよ! それでは、いずれまた、皆の衆!
【ネコさん】
AさんとB店長、意見は真っ二つですね。これは困ったニャ!
〈水害への警戒〉
ここ数年、今までに経験したことのないような雨が各地で降っていますよね。今まで「安全だ」と思っていた地域でも土砂崩れが起きたり、川が氾濫したり。思わぬ災害が発生しています。今、「水害への備え」としては、どんなところに気を付けなければならないのかしら。ここは専門家のイノシシさんに聞いてみましょう。イノシシさーん!
【イノシシさん】
こんにちは。森の防災士、イノシシです。今年も恐れていた通り、九州北部で豪雨災害が発生してしまいました。今日現在でも60名以上の方が亡くなっていることが確認されています。まずは、亡くなられた方へ哀悼の意を表するとともに、現地の一刻も早い復旧・復興を祈念いたします。
〈水害対応の基本は事前避難!〉
さて、今回のお悩みは、小売店で働くAさんと店長のBさんの水害時における意見の食い違いです。Aさんはお子さんと高齢の親御さんとお暮しとのことで、大雨が降った時にはお家が心配のご様子。確かに心配ですよね。お気持ちはよく分かります。一方で店長のBさん、売り上げ責任もありますし、雨が降ったくらいですぐにお店を閉めるわけにはいきません。逆に大雨で傘や食料を買い込む人も出てきて、ちょっと忙しいかも。お店も高台にあるということなのでちょっぴり安心しつつ、Aさんの「帰りたい」オーラも見て見ぬふりをしているようです。水害時、お互いに何をしなければいけないのか考えていきましょう。
水害対応と地震対応で最も違うものは何だか分かりますか?答えは、水害は「事前避難」ができることです。大雨や台風は、事前に天気予報などでその進路や勢力を予想することができますよね。いきなりグラグラッ! とくる地震とは違うのです。最近は昔と違って天気予報もかなり精度が良くなっており、1時間刻みの予報が公表されています。雨が激しくなってからでなく、できれば「雨が降る前」から避難準備を開始することが重要なのです。
「水害は事前に予想できるんだ! じゃあ、災害が発生する前に避難しておけばいいんだね!」こんな簡単なことなんですが、実はこの仕組みがちゃんと国の防災に取り入れられたのはそんなに昔のことではありません。2005年、ハリケーンの最大級の勢いとされるカテゴリー5を記録した「ハリケーン・カトリーナ」が米国を襲い、1500人以上が亡くなりました。筆者の大好きなジャズの発祥の地であるニューオーリンズも甚大な被害を受け、とてもショックを受けたのを覚えています。
カトリーナでハリケーンの猛威を思い知った各州は、それぞれ水害に対する防災対策を強化しました。そのなかで、ニュージャージー州が取り入れたのが「タイムライン」という考え方です。「タイムライン」は、もともと州のハリケーン防災計画の付属書(事前行動要領)として2012年に同州で作成されたものでした。台風が襲ってきたときの直前の行動計画を時間軸に沿って策定することで、被害を軽減するという考え方です。
実際に、2012年10月には大型の「ハリケーン・サンディ」がニュージャージー州やニューヨーク州を襲いましたが、上陸の3日前からニューヨーク州知事らは「緊急事態宣言」を発表。住民が避難する地域を指示するなど準備を着々と整え、被害を最小限に抑えたのです。ニュージャージー州バリヤーアイランドでは家屋の全・半壊が合わせて約4000世帯に上りましたが、事前避難により人的被害はゼロでした。
これらの取り組みを日本も研究し始め、国土交通省が正式に水害対応に「タイムライン」を取り入れると発表したのは2014年のことでした。同省では台風などにより災害発生が予想される120時間(5日)前からの行動計画を策定し、運用しています。
■「タイムライン」を知る(国土交通省)
〈「マイ・タイムライン」を作ってみよう!〉
さてさて、前置きが長くなりましたが、このタイムラインの考え方を一般の個人レベルでやってみよう!というのが「マイ・タイムライン」です。現在では東京都をはじめ多くの自治体でその考え方が推奨されています。2015年の常総市水害で親戚が被災された女性お笑い芸人「赤プル」さんが熱心に普及に取り組まれています。とても楽しい講座を開いていますので、ぜひ一度家族で見てみてください。
■水害から逃げろ!マイ・タイムラインを作ろう!茨城弁もじったキット「逃げキッド」で楽しく学ぼう(太田プロ/チャイム 赤プル)
■作ろう!「マイ・タイムライン」(東京都防災ホームページ)
「マイ・タイムライン」は、例えば「3日後に大きな台風が来る!」などと設定し、今から何をしなければいけないかを個人レベルで想定し、行動計画とするものです。授業でやってもいいですし、家族と作っても構いません。上記の東京都防災のホームページにはその作り方が出ていますのでぜひ参考にしてください。「台風が近づいているとき!」「大雨が長引くとき!」「短時間の急激な豪雨が発生するとき!」の三種類がありますので、楽しみながら1つずつ作っていきましょう。
作り方のポイントは大きく3つあります。まず初めに、自分の自宅がどのくらい浸水するのか確かめることです。これはご自宅のハザードマップなどを確認されると分かると思います。もしハザードマップで「浸水エリア」に入っていたら要注意です。東京では特に江戸川区や荒川区など江東五区はゼロメートル地帯のため、注意が必要です。
自宅が浸水エリアに入っていたら、次は「いつ何をするか」を考えてみましょう。これがポイントの2つ目になります。例えば下にリンクを張った参考例では、主人公に持病があるお母さんがいる設定ですので、警戒レベル2にあたる「大雨・洪水注意報」で避難を開始するとしています。
▼■東京の大きな川のそばにお住いの東さん一家のマイ・タイムライン(東京都防災)
このように、避難する警戒レベルをあらかじめ決めておくと、避難もしやすいですよね。ちなみに、警戒レベルはレベル1からレベル5の5段階が定められていますが、レベル4は「避難が完了している状態」で、レベル5は「災害が発生している状態」になります。遅くともレベル3では避難を開始しなければいけませんので、あらかじめ警戒レベルの内容を確認しておくようにしましょう。
■防災気象情報と警戒レベルとの対応について(気象庁)
最後のポイントは「どこに逃げるか」です。本稿でも何度も指摘してきたように、避難所に逃げるだけが避難ではありません。例えばちょっと離れた高台に親戚が住んでいれば、そこに避難してもいいでしょう。わざわざ環境が劣悪な避難所に逃げ込むよりは、あらかじめ近しい人と災害が発生したときのことについて相談しておくことで、快適な避難ができる可能性が高まります。
〈もやもやせずに、事前準備ではっきりと意思表示してみよう〉
さて、大雨を心配するAさん。ここはいつまでも「もやもや」せず、まず家族と一緒に「マイ・タイムライン」を作ってみたらどうでしょうか。そしてその中にはっきりと、「警戒レベル2の注意報が出たら会社は休んで自宅に待機」と書き込んでおきましょう。そうすることで、毎回もやもやするのではなく店長さんに「注意報が出ていますので、今日はお休みさせていただきます」とはっきり意思表示できるのではないでしょうか。できれば事前に店長さんとコミュニケーションを取り、「警戒レベル2の注意報が出たら家族が心配なのでお休みします」と了解を得ておくのがベストです。
店長Bさんはどうしたらよいでしょうか。いくらお店が高台にあるとはいえ、浸水被害がないとは限りません。できれば店舗においても、雨が激しくなる前に土のうの準備など災害対応を始めることが重要です。また、店長さんは従業員のお家の場所までは把握していない様子。「水害対策は事前避難が大切」ということが分かっていれば、災害が発生する前に浸水エリアの従業員さんに対して「避難」を促してあげることもできるのではないでしょうか。
「水害対策は、雨が激しくなる前に完了しなければいけない」と、そのことが分かるだけでAさんもBさんも災害が発生する前に何をするべきか分かるはずです。職場で「マイ・タイムライン」を作ってみて、みんなで水害について話し合ってみるのもいいですね。地球温暖化などの影響により、今後も水害はさらに激しく、頻繁に発生することが予想されています。会社でも「もやもや」にせず、ぜひとも皆さんで水害に対する「マイ・タイムライン」を作ってみて欲しいと思います。
【ネコさん】
なるほどー。イノシシさん、ありがとうございます!AさんもB店長も、みんなでタイムラインを作ったらいいニャー。
〈店を閉める判断基準は?〉
ネコが気になるのは、会社として、「どういうときに店を閉めるのか」の方針が、どこまで明確になっているのかしら?という点です。ネコの知り合いの会社では、「こういう状態になったら、仕事を放って逃げなさい!」という基準がわかりやすく決められ、それをカードにして従業員全員に配っていました。店長さんが、自分だけの判断で店を閉めるか、営業を続けるかを判断するのって、なかなか難しいと思うの。会社として、判断の基準や考え方を示しておくことって、大事よね?
そしてこういった取組が、会社として「安全配慮義務」を果たすことにもつながります。現場に任せる部分は任せる、でも、任せっぱなしで放置はしない! 会社として、きちんと責任を果たすことが重要です。
「HRリスク」とは、職場における、「人」に関連するリスク全般のこと。組織の健全な運営や成長を阻害する全ての要因をさします。
職場トラブル解決とHRリスクの低減に向けて、エス・ピー・ネットワークの動物たちは今日も行く!
※このコーナーで扱って欲しい「お悩み」を、随時募集しております。