不祥事対応・緊急事態対応トピックス

企業不祥事対応 緊急記者会見の開催判断の基準

2025.02.17
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総合研究部 上席研究員 宮本知久

記者会見を思わせるマイクが並んだテーブル

株式会社フジテレビジョンによる「2023年6月に当社の番組出演タレントと女性との間で生じた事案(同社の公式発表文から引用)」に関連した一連の報道の中で、緊急記者会見のあり方についての批判が後を絶ちません。過去においても緊急記者会見の失敗事例としては、株式会社ビッグモーターによる保険金不正請求事案や株式会社フーズフォーラスによるユッケの食中毒事案をはじめ、批判を受けた多くの事例があります。

今回の『企業不祥事・緊急事態対応トピックス』第3回では、企業不祥事対応、危機管理広報のうち、緊急記者会見の開催判断の基準などについてご紹介いたします。

1.緊急記者会見の失敗パターン

緊急記者会見の開催判断の基準の説明の前に、会見を失敗したパターンを紹介する。

過去、緊急記者会見が開かれた前例からみると、次のような失敗がみられる。

【記者会見の失敗パターン】

  1. 開催時期が遅い
  2. 多くの人から迫られてから開催を決める
  3. 責任を取るべき立場の人が登壇しない
  4. 説明が不十分である(国民や社会が知りたい事項についての説明が足りない)
  5. 被害者への配慮が足りない(謝罪や弔意を述べないなど)
  6. 法的責任がないことを強調し、社会的責任、道義的責任について謝罪しない
  7. 問題を他社(他者)に責任転嫁する
  8. 登壇者等の服装・態度・表情・口調が悪い。また失言が多い
  9. 説明が足りないまま、無理やり会見を終わらせる

このような記者会見を行った会社は、その後、社会からの評価として「当事者意識が希薄」「隠ぺい体質」「消極的な公表姿勢」「被害者やメディアの軽視」といったレッテルを貼られ、いわば二重の不祥事を招き、記者会見を再開催しなければならない事態にも陥る。また、会社の評判が著しく下がり信頼回復が図れず、倒産した例も珍しくない。倒産すると一部の被害者が救済されないばかりか多くのステークホルダーにも多大な迷惑がかかる、緊急記者会見の失敗は、被害者への救済の責任を果たすためにも、絶対に避けなければならない。

さて、メディアの役割は広く国民と社会に対して事実を報せる代行者であり、社会の代弁者である。会見場で説明を伝える実際の相手はメディア関係者だが、メディアの向こう側にいる国民と社会の存在を見据えて誠実に説明を行わなければならない。

2.危機管理広報の4大原則と2大前提

緊急記者会見の判断や成功を検討するにあたり、企業不祥事の事例をもとに弊社でまとめた危機管理広報の原則的な考え方を紹介する。

企業不祥事対応の目的は、危機対応計画の実行によって事業継続と社会への責任を果たすことにある。その不祥事によって被害、損害を与えたステークホルダーに謝罪と説明を行うことで、企業の事業継続に向けダメージを極小化することにある。

危機管理広報は、メディアを始め社外のステークホルダーに謝罪と説明の実務を担うことから、企業不祥事対応の業務の中でも中核に位置し、緊急記者会見を含めた広報の実務を進めるにあたり、次の4大原則を2つの前提を踏まえて実行していく必要がある。

【4大原則 ~危機管理広報を実行するにあたっての4つの原則的な考え方~】

  • 原則1 十分な情報開示
  • 原則2 説明責任の実行
  • 原則3 透明性の確保
  • 原則4 誠意に満ちた対応

【2大前提 ~4大原則にそって実行するうえで事前に把握すべき事項~】

  • 前提1 世論を読み間違わない
  • 前提2 いま置かれている自社に対する社会からの評価を見誤らない

これら4大原則と2大前提に重きを置かない判断とは、“世論を読み間違い、自社の評価を見誤り、不十分な情報開示や説明”を招くわけだが、次のような例が当てはまるだろう。

「社会で関連した話題に関心が高まっている時期であり、平素よりも多くの情報開示と説明が求められているのに、開示や説明が少ない」

「自社が、すでに社会から低い評価を受けている業界の会社であり、求められておらずとも、多くの開示や説明によって透明性が高いことを訴求しなければ信頼回復が図られないのに、開示や説明が少ない、また開示や説明を伝えるための方法が悪い」

これらを踏まえると、実際に企業不祥事の対応と危機管理広報の実務を考えるにあたっては、画一的に「この種類の事案のときはここまでの開示にする」といった恣意的な運用や判断は避けるべきであり、その不祥事を公表する時期における社会の動きと自社の評価を客観的に勘案して最善策を決定すべきといえる。また、現に不祥事が起きたときに直近の世論分析等を行うこともさることながら、平時から有事の危機管理広報のあり方を想定して世論分析、自社評価分析を欠かさないことも重要だろう。

3.企業不祥事対応における公表の種類と緊急記者会見

公表は次のいずれか、または複数を組み合わせて行う。

【主な公表の方法】

  1. 適時開示
  2. ホームページへの掲載
  3. SNS公式アカウントでの開示
  4. 緊急記者会見

このほか、食料品や電化製品など消費者向け製品の自主回収など、回収対象製品の所有者、被害者が不明の事案では、広く対象者に告知するために新聞に社告を掲載する方法や、店頭告知(一般的に公表とは言わない)などの方法もある。

公表は、その不祥事の内容に応じ、法令等によって開示・公表が義務付けられている場合や、法令等に基づく措置命令等の行政処分によって法令違反行為の周知を命じられた場合は、その義務や命令の趣旨に沿った方法で公表しなければならない。例えば、上場会社の場合、適時開示ルールをはじめとする証券取引所規則に照らして、起きた事案が上場会社の決定事実および発生事実に該当しているにも関わらず開示しない場合、適時開示違反を問われることになるため、開示は必須と考えたほうがよい。

これら法令の義務、命令、規則の要請による公表は当然として、さらなる公表の組み合わせの決定にあたっては、前掲の4大原則と2大前提に立って検討、決定すべきである。

4.緊急記者会見の開催判断の基本

記者会見の開催は義務ではなく、開催の判断は企業に委ねられている。

次項で判断の基準を述べるが、機械的な判断自体には大きなリスクがあり、不祥事の内容や過去の発表、社会から自社への関心度を総合的に勘案して決める必要がある。

前掲の2大前提と4大原則に沿うと、世論を読み、いま置かれている自社に対する社会からの評価に照らして、社会に対し十分かつ透明性が確保した情報開示によって説明責任を実行することで、公表後に誠意に満ちた企業だとの評価が得るために必要であれば開催を決断すべきということになる

5.緊急記者会見 開催判断の基準

機械的な基準を設けることにリスクがあることを踏まえたうえで、過去、記者会見が開かれた前例からみると、次のような性質を持つ事案では、会見を開催することが多い。

【記者会見開催判断の目安】

  1. 死傷者が出た場合
  2. 顧客や消費者に緊急の注意喚起が必要な場合
  3. 社会問題化している場合
  4. 公表前にメディアからスクープ記事が出た場合
  5. 誤った風評が流れ、公式に説明しなければ世論のミスリードを招く場合
  6. 監督の行政機関が記者会見を行う場合
  7. 監督の行政機関から記者会見の要請があった場合
  8. 経営陣が有名人で、開催しないことで非難を受けることが予想される場合
  9. 複数のメディアや記者クラブから開催の要望があった場合

(9)の「複数のメディアや記者クラブから開催の要望があった場合」について補足する。

主要新聞社や主要放送局のうち2社以上から個別に取材の申し込みがあり会見の開催を求められた場合(または「開催しないのか」と質問を受けた場合)、会見に参集するメディアが少ないと予想されても、前向きに捉えて開催することをおすすめする。

主な理由は、メディアからのこの要請が社会的な関心度の高さを表しているという点と、その時点以降に、多くのメディアからの取材が予想され、各社個別に答えていくとすると、自社の公式見解が誤って報じられるリスクがあるためである。仮に20社から取材や質問があるとするなら、20社に対し同じ見解を正しく答えなければならず、間違えて伝わるリスクがある。また、この際、個別に取材等に応じる時間的なロスや実務負担の軽減も考慮すると、記者会見を開催しメディア各社に一律で説明したほうが得策といえる。もっとも、20社からの問い合わせが来た時点で、ここまでに行った公表や開示の方法が適切でなかったとの評価ができ、速やかに広報部門が中心となり戦略を見直し、次の公表、開示を判断し実行すべきである。

6.危機管理広報と緊急記者会見の準備の大切さ

企業不祥事や危機管理広報の備えとして、準備の大切さ、効果的な準備の方法としてメディアトレーニング(模擬記者会見を含む危機管理広報訓練)について紹介したい。

(1)危機管理広報と緊急記者会見を失敗する原因

危機管理広報も緊急記者会見も、失敗する原因を突き詰めれば、“準備ができていない”ことにある。準備とは、会見そのもの準備だけでなく、平素から、経営陣が備えておくべき企業不祥事が起きたときの判断の訓練や広報部門のスキルアップ、メディア報道の情報収集、SNS風評モニタリングでの自社の風評の把握など「有事を想定した対応の準備」である。

失敗は、いわば普段からのリスクマネジメントの取り組みが欠けている状態で、いきなり判断を迫られて公表したり記者会見に臨んだりすることにより引き起こされているといえる。つまり、危機管理経営そのものや普段からの広報活動が充実していなければ、「危機管理広報」は成功しない

(2)2種類のメディアトレーニングの違いと効果

メディアトレーニングを行う場面別に分けると、A:現に緊急記者会見を行うことになり、前日などに行うメディアトレーニングと、B:平時で危機管理広報レベルアップのためのメディアトレーニングに分けることができる。

Aは、実際に不祥事が起き緊急記者会見を開催するとなれば必須である。本番ではメディアから会社を糾弾するための厳しい質問が投げられる。ぶっつけ本番で成功などあり得ない。本番の日から逆算でふさわしい実施日時を決め、必ず実施することがよい。

次に、Bも積極的に企画、実施をお願いしたい。メディアトレーニングの実施により、経営陣の危機管理意識の高揚、広報部門のスキルアップ、企業不祥事発生時の対応手順の確認、ひいてはリスクマネジメントの見直し(不祥事を起こさない企業経営の実践)など得られる効果が大きいからである。また筆者の経験では「平時の広報部門の業務はPR活動中心で、危機管理広報に慣れていない」といった会社にも多々出会ってきた。皆さまの会社の広報部門のスキルに照らして、メディアトレーニングでスキルアップに取り組んではいかがだろうか。

【2種類のメディアトレーニングの目的と効果】

A:現に緊急記者会見を行うときの
メディアトレーニング
B:危機管理広報レベルアップのための
メディアトレーニング
  • 実際に不祥事が起き、緊急記者会見を開催することを決めたときの事前の練習。
  • 現に起きている事案を用いて、公表文や想定問答集等の各種資料の確認、修正、通しリハーサル、質疑応答の練習を行う。
想定の不祥事案を用いて、公表文や想定問答集等の各種資料の作成、本番さながらの通しリハーサル、質疑応答の練習を行う。
【主な効果】
~記者会見本番での失敗防止~

  1. 当該事案の対応方針の確認と修正
  2. 広報戦略の点検
  3. 説明内容の確認
  4. 会見の進行等の確認
【主な効果】
~有事を想定した危機管理力の向上~

  1. 経営陣の危機管理意識の高揚
  2. 広報部門のスキルアップ
  3. 企業不祥事発生時の対応手順の確認
  4. リスクマネジメント態勢の見直し

筆者は、皆さまの会社で不祥事が起きてほしいとは思っていない。リスクマネジメント強化にあたり、「実際に起きうる有事を想定して平時のリスクマネジメントのあり方を検討する」「有事の備えとして不祥事を想定したメディア対応のあり方を検討する」といった対策にぜひ取り組んでいただきたい。一例として、他社の緊急記者会見および会見後の報道を必ずチェックしたうえで、一連の報道の推移と論調の分析を欠かさず、自社で同種の不祥事が起きたときを想定して自社の体制強化の取り組みをお願いしたい。

さて、企業不祥事対応や緊急記者会見にあたって、想定問答集を作る必要がある。想定問答集作成のポイントについては、『企業不祥事・緊急事態対応トピックス』の第2回で紹介しているので、本稿とあわせてこちらも参考にしていただきたい。

近年の報道を見ると、不祥事を報じるメディア側も問題を抱えているが、こちらについては別の機会で取り上げたい。

【参考リンク】

【参考書籍】

  • 尾崎恒康 平尾覚 大賀朋貴 船越涼介
    『役員・従業員の不祥事対応の実務 調査・責任追及編』第一法規 2024年2月20日
  • 尾崎恒康 平尾覚 大賀朋貴 沼田知之 井浪敏史 八木浩史 船越涼介 鈴木悠介
    『役員・従業員の不祥事対応の実務 社外対応・再発防止編』第一法規 2024年3月10日

【当社関連コラムの紹介】

▼企業不祥事対応 想定問答集(Q&A・FAQ)作成の実務ポイント

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