SPNの眼

ミドルクライシスとは(2012.8)

2012.08.01
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 当社は企業危機管理の専門会社として、「ミドルクライシス」の概念を提唱し、「ミドルクライシスに着目したリスク管理・危機管理」に関する実践的な業務を提供している。ここでは、当社の考える「ミドルクライシス」について簡単に説明させて頂きたいと思う。

1.企業を取り巻くリスク環境の変化

 企業を取り巻く重要な利害関係者(ステークホルダー)である「従業員」や「顧客」「取引先」あるいは「司法」「行政」「メディア」等との関係は時代とともに変化し、その関係性を見誤ることが企業の成長や存続に多大な影響を及ぼすことに鑑み、企業としては、常に社会の要請(社会の目)を意識し、その変化に柔軟に対応することを通じてのみ、自らの健全性や持続的な成長が可能になることを自覚していかなければならない。

 そして、企業の活動は常に「リスク」と背中合わせであるが、そもそも「リスク」とは「潜在化している不確実性」であり、それを可視化し、確実性を増すことでプラスの要因として活用していくための取組みが、正に「リスク管理」である。ただし、時として「リスク」は「クライシス」(危機・緊急事態)化することがあり、その意味では、平時から有事までの連続したリスク管理が「危機管理」であって、もはや危機管理なくして企業経営はなしえない時代に突入していることを、改めて確認しておく必要がある。

 企業を取り巻くリスク環境が大きく変化している背景にはさまざまな要因があると思われるが、とりわけ企業のステークホルダーの企業に対する意識(認識)の変化と、それによって、企業に経営の透明性やアカウンタビリティー(説明責任)が強く求められるようになったこと(社会の要請の変化)が挙げられるであろう。

 同時にこれらのステークホルダーは、インターネット等の急速な普及により、今まで知り得なかった企業の情報等をいち早く知ることが出来るようになった結果、社内に巣食うリスクがわずかに社内的に顕在化した状態(=「ミドルクライシス」)の社内的な発見(認知)が遅れたり、あるいは発見(認知)していても対策を講じていなければ、それが対外的に顕在化してしまう(意図的な内部告発を含む)時代になったと言えよう。

 これらがここ数年、企業不祥事の多発と言われている一因であり、その意味では、「多発」というよりは、これまで対外的に知られることのなかった事態が「発覚」することが多くなっただけだと言えるのである。

2.ミドルクライシスとは

 ミドルクライシスとは、企業に内在している様々な「リスク」が、対外的な顕在化(=「クライシス」)に発展する前の姿(日々、業務上発生している種々のトラブル、問題事象であって、いわゆる「今そこにある危機」「若干の危機」)であり、さらには、過去に発生した「ミドルクライシス」が、もはや社内で忘れ去られてしまうような状態が放置された状態のことと定義している。

企業は、設立したその瞬間からステークホルダーとの関係が発生し、さまざまなリスクを背負うことになる。

 例えれば、リスクが氷山の一角として海面より頭を出している状態であり、それらは必ずクライシス化する(あるいは必ず繰り返される)ことを認識しておくべきだと言えよう。

 そして、そのステークホルダーに対する責任を果たすべく、リスクを水際で予防するための各種規程、ルール等を定める。しかし、その規程やルールが形骸化し、またそれらでは対処しきない種々の事象に対応する(あるいは、対応していかざるを得ない)ため、現状(実態)とそれらルール等とが乖離し、ルール違反等が発生、常態化することによって、社内のリスクライン(予防ライン)を超えて、「リスク」が「ミドルクライシス」として社内的に顕在化してくる。

 このミドルクライシスが多発し、それらを社内で放置すれば「クライシス」(危機、問題発生)へと発展し、対外的にその事態が発覚することになるのである。そして、最近では、2ちゃんねる等への書き込みやツイッターやブログ等での情報発信(意図的か無意識を問わない)、内部告発などによって社内の情報が早い段階で社外に流出する状況が散見されるなど、対外的な発覚時点であるクライシスライン(問題発生ライン)が急激に低下しており、ミドルクライシスが対外的に顕在化するまでの猶予(社内でミドルクライシスに対処できる時間)が短縮される傾向にあることにも注意が必要である。

3.ミドルクライシス・マネジメントの重要性

 これまで企業は、主に各部署のセルフチェックやクロスチェック、内部監査、あるいは外部の専門家等による外部監査によってミドルクライシスの発見、報告、改善に努めてきたと思われるが、往々にして、「人」に絡むセクショナリズム、保身、過失、故意等により、正確になされないこともあるのが現実である。

 それらの阻害要因を踏まえて、社内のミドルクライシスを発見する手段について様々な方策が検討されており、とりわけ最近では、「内部通報窓口」は有効なツールのひとつとして注目されているのは皆様もご存知の通りである。

 また、この他に社内のミドルクライシスを発見する手段として、以下のようなものも挙げられる。

  • インターネット等の社外情報・風評等の収集
  • お客様相談室などの苦情受付、消費者センター等の情報の収集
  • 企業内における規程の運用状況についてのヒアリング、モニタリング
  • 退職(予定)者等に対するヒアリングなど

さらに、抽出したミドルクライシスに対しては、早期の対応が望ましく、以下のような対応策が考えられよう。

  • 問題発生の原因追及(組織的な要因にも目を向ける)
  • 牽制機能の不備の状況確認
  • 再発防止の提案と実施(現行の規程・ルール等の修正、補強等含む)
  • 社外に発覚した際、又は開示事項に該当した場合の危機管理広報対応

 企業は、リスクが必ず顕在化してクライシスになるということを認識する必要がある。
そして、企業には、社内で発生しているミドルクライシスを抽出する努力や過去に発生したミドルクライシスを風化させないための努力を惜しまず、決められたルールを、ミドルクライシスの発生要因の分析や社会の要請の変化をふまえて適宜見直すこと、さらには、社内周知の徹底や円滑なコミュニケーションなどを通じて、ルールの形骸化を防ぎ、実効性を重視した運用をしていくことが求められている。

 さらに、経営トップは、そのような経営環境下にあるとの厳しい認識を常に持ち、クライシスになる前のミドルクライシスの段階で有効な対策をとることこそが、ステークホルダーに対する責任を果たすことにつながること、そして、正にそのことによって企業継続(ゴーイングコンサーン)が可能となり、延いては企業としての社会的責任(CSR)を果たすことにもつながるということを認識しておくことが重要である。

<divclass=”font01″>※「ミドルクライシスマネジメント~内部統制を活用した企業危機管理vol.1反社会的勢力からの隔絶」(株式会社エス・ピー・ネットワーク渡部洋介著)より一部抜粋・修正

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