SPNの眼

暴排トピックス番外編(2012.10)

2012.10.03
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 筆者は、当社が独自に蓄積している反社会的勢力に関するデータベースの管理責任者として、日々、暴力団をはじめとする反社会的勢力やその周辺者の動向をウォッチしている。

 企業における暴力団排除の最新動向については、別途「暴排トピックス」として、毎月、皆さまに提供させて頂いているが、今回は、それとは若干視点を変えて、暴力団が関係し社会的に問題となっている、その意味で一般的に関心が高いと思われるいくつかの動向について落ち穂拾い的にレポートしたいと思う。

1.暴力団事務所反対運動

 暴力団排除条例が、昨年10月以降全国において施行され、条文の中に学校等の周辺200メートル区域内の暴力団事務所の新規開設・運営の禁止等がうたわれているが、適用にはなかなか至っていないのが現実である。

 その理由のひとつとしては、使用禁止等を求める訴訟において、住民の氏名、住所等が訴状に記載されることがあり、住民が報復等を恐れ、なかなか訴訟にまで至らないというのが実態ではないだろうか。

 ここでは、暴力団事務所反対運動の事例など暴排関連動向を紹介しておきたい。

1)道仁会本部事務所使用禁止

 相次ぐ抗争事件などで平穏な生活ができないとして、指定暴力団道仁会本部事務所の周辺住民603人が平成20年8月、組事務所としての使用差し止めを求め、福岡地裁久留米支部に申請(指定暴力団の本部事務所に対する使用差し止めの仮処分申請は全国初であった)、平成21年3月に福岡地裁久留米支部は、平穏に市民が生活する権利を侵害しているとして、道仁会幹部が所有する1棟を組事務所、連絡場所として使うことを禁じる決定を出している。

 なお、これに関連して、指定暴力団道仁会旧本部事務所立ち退き訴訟で、住民が道仁会幹部の目の前で法廷に立ち、被害について陳述せざるを得ない事態になり、住民側は報復を恐れて対面しない形での実施を望んだものの、福岡地裁久留米支部が認めなかったという。
このような事実もまた、住民を躊躇させてしまう遠因となってしまっているのかもしれない。

 震災直後の道路事情を勘案しつつも、支援物資輸送の第二弾、第三弾と続くなかで、そのミスマッチが修正されていったかどうかの検証が必要であろう。

2)稲川会新本部事務所移転中止

 平成21年2月、指定暴力団稲川会の本部事務所が移転するという問題が起こり、移転先の住民ら157人が暴力団事務所としての使用禁止を求め、東京地裁に仮処分申請を行った(暴力団の本部事務所使用をめぐる仮処分申請は福岡県久留米市の道仁会に続き2例目)。

 平成21年4月に稲川会がビルを事務所として使用しないことを確約し、ビル所有者は暴力団関係者以外の第三者に建物や土地を売却するよう努力することなどで和解している。

3)暴力団事務所使用制限命令の発出

 平成23年には、道仁会と九州誠道会との対立抗争再燃に伴い、福岡、佐賀、長崎及び熊本において、道仁会本部事務所及び同傘下組織事務所等8か所、九州誠道会本部事務所及び同傘下組織事務所4か所のそれぞれの管理者に対し、計27件の事務所使用制限命令が発出されている(同命令は、17年の親和会と山口組傘下組織との対立抗争発生以来の発出)。

4)暴力団排除条例

 例えば、今年2月に、学校の敷地から200メートル以内に暴力団事務所を開設した住吉会系暴力団組長を埼玉県暴力団排除条例に基づき逮捕した事例や昨年10月の山口組での同様の事例(兵庫県)など、全国でも条例に基づく勧告事例が相次いでいる。

 また、愛知県では、大規模な公園から200メートル以内に暴力団事務所の新設を禁じる暴力団排除条例の改正を来年1月1日から施行する見通しである。

5)暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(以下「暴対法」)の改正

 既に「暴排トピックス8月号」でも紹介されたように、今回の暴対法の改正により、国家公安委員会の認定を受けた都道府県暴力追放運動推進センター(暴追センター)が指定暴力団等の事務所の付近住民等から委託を受けて当該事務所の使用等の差止めを請求するための制度が新たに導入される。

 これにより、暴追センターが住民側代表としての提訴が可能となり、周辺住民も福岡のような法廷で暴力団側と対面するようなこともなくなり、最終的にはより活発な反対運動が展開されるようになることが考えられる。

2.暴力団員のゴルフ場利用に関する判決

 「ゴルフ場詐欺」の司法判断が「無罪」「有罪」に割れている。

 今年4月、山口組弘道会ナンバー2の若頭の判決公判で、名古屋地裁は「ゴルフ場が暴力団関係者の利用を禁止していることを会員である(元風俗店経営者の)被告は知っていたが、同伴者である若頭が認識していたとは認められない」と指摘し、「詐欺の故意を有していたかは合理的な疑いが残る」とし無罪判決を下している。

 なお、事業者として注意しておきたいのは、「検察の主張通り、出入り口に暴力団排除を訴える掲示物があったとしても、記載内容を認識していたとまでは認められない」とした指摘内容であろう。事業者側の取組みのレベル感(取り組みとしては十分でない)として注意しておきたいところである。

 一方で、今年5月には、宮崎地裁が、暴力団関係者の利用を禁止する宮崎市内のゴルフ場で組員であることを隠してプレーしたとして、詐欺罪に問われた指定暴力団山口組系組員の判決で、懲役1年6ヶ月、執行猶予3年の判決を下している。

 組員の立ち入りを禁止する掲示などから2人が「ゴルフ場が組員の利用を拒絶していると知っていた」と認定してものであり、前述の判決とは真逆の結果となっている。

 この「暴力団関係者によるゴルフ場の利用禁止」規定を認識していたか否かの争点については、各ゴルフ場には通常、暴力団関係者の利用禁止を規定する約款があり、クラブハウス内に掲示物として設置されているが、名古屋地裁判決は掲示物があったとしても、被告による「利用禁止」を認識させるまでには至っていないとしているし、弁護士の間でも、「プレー代を受領したゴルフ場側に損失がないのに、詐欺罪を適用するのは明らかに拡大解釈であり、完全にいきすぎ」(山口組元顧問弁護士)と否定的な意見もみられる。

 ただし、企業実務に即してみた場合、約款への暴排条項の導入やクラブハウス内等への掲示は最低限行うべきこととして認識する必要があるということでもある。

 また、実際にゴルフ場側が暴力団員を識別することは容易ではなく、受付時に風貌を確認するにしても実際には見分けがつかないであろうし、そもそも見た目だけでお断りすることは実務上難しいからといって、何もしないというのではなく、疑いを抱いた段階で警察に照会することや、利用申込み時に「表明保証条項」等に自らの手で署名・捺印させる(チェック欄にチェックさせる)といったことも実務上やっておくべきことと言えるだろう。

3.クレジットカード利用における性風俗店等での与信偽造について

 今年4月、歌舞伎町の性風俗店のクレジットカード利用(風俗店の利用料金を飲食店の料金と偽ってクレジットカード会社に決済させていた現金を上納金などとして受け取った)で、今年に入ってから、稲川会系暴力団幹部が相次いで逮捕され、稲川会理事長(稲川会のナンバー2)にも逮捕状が出された事案があった。

 このクレジットカード利用の手口(与信偽装、カードのショッピング枠の現金化)は、性風俗店の入浴料等を(その名目ではクレジットカード会社に決済してもらえないため)飲食店等の利用代金名目で決済、カード会社から飲食店に入金された金額から手数料を差し引き利用された性風俗店側に支払う形をとったかなり大規模な収益源となっている。

 また、その他にも、昨日(平成24年10月2日)の報道によれば、加盟店がカード会社発行の白紙伝票を横流しし、性風俗店が顧客のカード決済時に使って、加盟店を装って請求する手法や、加盟店がカード決済のために情報を読み取る機器を性風俗店に貸し出す手法などがあり、やはり、その仲介に暴力団が関与して資金源にしていたケースも明らかになっているとのことである。

 繁華街では、事業者によるみかじめ料の不払い運動が行われたり、暴力団排除条例の施行で支払った側も勧告を受けるようになるなど、暴力団の収益基盤が揺らいでいる状況であるのは間違いなく、一方で、このような収益源が未だ機能している現状は大いに問題がある。

 残念ながら、クレジットカード会社側も、「決済代行会社」を使ったそのような実態に目を背けているといった噂もあるし、前述の報道によれば、警察庁も、カード業界に対策を取るよう要請する方針だという。

 確かに巧妙化する手口を看破するのは難しいのは事実であるとはいえ、そのような悪しき慣行が、現時点では明らかに暴力団排除条例に抵触するビジネススキームであると思われ、勇気を持ってその浄化に取り組んで頂きたいものである。

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