SPNの眼
株主総会直前期に3回に渡り、株主総会における危機管理対策について、緊急のコラムを書きました。少しは皆様のお役に立てましたでしょうか。
コラムでも書いたように、様々な事態を想定して、かなりハードなリハーサルを行った企業では、議長及び第一事務局が自信を持って株主総会の本番に臨むことができ、ハードなリハーサルをやったからこそ、嫌らしい質問でありながらリハーサルで出た質問が、そのまま本番でも質問され、正にリハーサルの甲斐があった企業もありました。一方で、事務局が社内に気を使ったがために、本番での質疑に課題を残し、株主からの心象を悪くした企業もありました。株主総会は臨時株主総会も含めると、今年もまだまだ多くの企業で行われるものと思われますが、6月の定時株主総会を振りかえって、その総括をしておきたいと思います。
私どもが株主総会の警備等を通じて、株主総会の本番で出された質問の傾向を集め、分析したところ、今年の株主総会における質問の傾向としては、大よそ3つに大別されました。
一つ目は、多くの企業が海外に進出していることを受けてか、海外の拠点の動向や海外でのビジネスの見通し、特にアジア圏の国々での事業に関しての質問が多く出されていました。日中問題を始めとする政治的問題やテロ事件等を受けた地勢的問題・カントリーリスクなどを気にして、現地法人での事業の見通しや黒字化の展望、今後の海外戦略等に関する質問が多くの企業で出されていました。色々と勉強した株主から、海外市場での見通し等に関して、かなり踏み込んだ質問を受けた企業もありました。
今後株主総会を予定している企業では、今現在、海外拠点があろうがなかろうが、海外進出の見通しや海外での事業戦略、あるいはもう少し広げて、海外企業との提携に関して、インサイダー情報にならない範囲で、相応の回答を準備・説明して、株主の更なる支援を呼びかけることも視野に入れてはいかがでしょうか。
二つ目は、コーポレートガバナンスに関する質問です。特に取締役の資質への質問や叱咤激励、役員報酬等に関する質問は、定番中の定番とはいえ、今年もやはり多くの企業で質問されています。
今年はある企業の代表取締役等の解任騒動が集中日直前にあったりしましたが、取締役の業務執行への責任論や業績悪化に対する批判、企業理念をきちんと認識しているのか、持ち株部が少なくやる気が感じられない、招集通知発送後の経営方針の変更等で株主の怒りをかったケース、あるいは名門企業の主要事業に対する手厳しい意見など、役員の資質や判断に関する質問が目立っています。経済的な不安定さを受けての業績悪化や業績見通しが立たないことなども相俟って、株主も、業績や事業構造に関してかなり厳しい目で見ている傾向が感じ取れます。
今後株主総会を予定している企業では、このあたりの株主の問題意識を踏まえて、業績や事業構造に対する総括と反省、そして展望をきちんと整理して、株主に説明し、理解を求めていくことが求められるといえるでしょう。
三つ目は、配当性向と安倍総理の経済政策を受けた(為替相場の変動も含めた)今後の業績への影響及び見通しについての質問です。政治体制の大きな変更や総理大臣の交代による方針転換などがあった場合には、この手の質問は定番ともいえるのですが、今年については、経済成長(志向)路線を受けての企業の業績回復・向上への株主の強い期待が感じ取れるといってもよいでしょう。
配当性向に関する質問も、企業の想定問答集では毎年必ず準備される定番中の定番の質問ですが、やはり株主は、配当に関心があることは明白であり、今後、株主総会を予定している企業においても、配当性向や配当方針(四半期配当の導入のための定款変更決議を含む)などについて、引き続き、抜かりなく準備をしておく必要があるといえるでしょう。
なお、最後になりますが、企業の業種や規模を問わず、株主の質問数がそれなりに多いのが最近の特徴といえるでしょう。総会に慣れていない株主からの質問内容等が何を焦点として質問しているのかを理解するのが難しいケースも多く、事務局が回答案に困ったり、従来の株主からは「あんなくだらない質問をさせるな」という意見も出たりしています。また、総会前の問い合わせも多くなっており、「手土産はあるのか」等の問い合わせも多くなってきているようです。
その他、質疑応答の際の不規則発言やマイクトラブル、会場案内の不備や記載への文句なども、株主総会の場で出されており、企業側の意向としては、質問もなく穏便に終了することに期待している企業は依然として多いと思いますが、株主総会では、質問は必ず出るものという前提に立つこと、そして、マイクトラブル等も視野に入れた質問も準備しておく、会場案内や動線上の対応についてのトラブルや株主からの受付段階での抗議等についても事前に情報を収集・集約していく体制を整えることなどの対策も必要となるものと考えます。
株主総会に関係する担当者の皆様は、毎年同じ準備・リハーサルを漫然と繰り返すことなく、絶えず株主総会での質問内容等に気を配りながら、毎年少しずつでも危機管理面も含めた準備・対策を強化できるよう、引き続きご尽力いただくとともに、株主総会対策等について何なりとご相談ください。