SPNの眼

~株主総会の危機管理:2015~(下) 総会直前に改めて確認する

2015.06.03
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 上場企業の株主総会が集中する6月。株主総会に備えて、招集通知の発送準備や想定問答集やシナリオの作成・検討等の作業の佳境に入っている企業も多いことと思われます。今年は前回の原稿でも取り上げたように、会社法の改正や関連事項の想定質問、今後実施されるマイナンバー法やストレスチェック義務化への対応など、例年以上に立て込んでいるものと思われます。

 毎年同じことを書いておりますが、当社でも、毎年6月には、上場企業の会員企業から株主総会の会場警備や議長の身辺警護業務を多数ご利用いただいていますが、企業を取り巻くリスク環境等の変化に伴い多様化する株主構成や、名物株主の存在やレピュテーション対策等、株主総会コンサルティングの業務をご利用いただく会員企業も増えています。

 当社が提供している株主総会コンサルティングでは、特に、多様化する株主や一般株主の増加に伴う株主総会での質問の質的変化等を踏まえて、実際の株主総会でミスしないためのシミュレーションやリスクコンサルティングを行っています。

 株主総会でミスしないための危機管理については、昨年、一昨年とこの時期に集中的に取り上げていますが、本年も改めて、過去の原稿を引用しつつ、「株主総会における危機管理」のポイントを整理していきたいと思います。

1.改めて考えるべき株主総会準備・対策の意味

(1)名物株主事例にみる議場外(議事外)事象への対応準備

 多くの企業の株主総会に出席しては最前列に座り議長不信任を叫んだり、罵声を浴びせたりしながら、突進してくる株主などについては、名物株主として既に多くの企業・株主の知るところとなり、信託銀行等もコンサルティングを充実させていることもあり、企業側の対策も進んできている。

 そのような株主の中には、株主総会会場に入場しては、株主総会開会前から、他の株主に向かって自身のブログを見るように促したり、大声で話しかけるなどの行動に出ていることもあって、その対応として、株主総会開会前に株主が騒ぎだした場合に、誰がどのように(どのような権限で)注意・制止するのか、事前に改めて注意をしておく必要がある。

 また、自分が指定した出席番号票を要求してきたため、それを渡すべく受付で準備をしていたが、来訪した人物が当該株主であることを知らずに、「渡す人が決まっています」と対応したところ、激高して受付で暴れだしたという事例もあったと言う。

 当社では、株主総会のリハーサルにおいては、議場内での質疑や動議・不規則発言・不審行動等のリハーサルはもちろんであるが、受付スタッフに対して、受付周りの対応に関するリハーサル等も実施している。しかし、受付スタッフに対するリハーサルを実施していない企業やそこまで対策が追い付いていない企業も少ない。

 確かに、それなりに慣れた総務担当者を当日受付に配置するという企業もあるが、慣れた担当者を1人配置すればそれで危機管理対策として十分なはずもなく、多くの株主に対応しなければいけない受付については、種々のリスクやトラブル事例も含めて最低限の対応要領のレクチャーやロールプレイングを実施しておくことが望ましい。

 株主との対話の場が株主総会であるとするならば、株主総会における受付は正に株主とのファーストコンタクトの場であり、そこでの対応一つで、企業に対するイメージも大きく違ってくることを改めて確認して欲しい。

 また、株主の荷物を預かるクローク対応においては、「預けていた物が無くなった」、「物
を傷付けられた・汚された」等のクレームや、他の人に間違って渡してしまった等の事案が発生する可能性が高い。このようなクレームに対応に苦慮している企業も少なくない現状に鑑みれば、株主総会における受付対応や準備、危機管理という観点からは、クロークでの対応要領の整備やクロークの担当スタッフに対するロールプレイング等も重要になる

 なお、受付での対応に関しては、お土産を巡るトラブルも少なくない。お土産を配送で送る段取りとしていた企業では、受付に長蛇の列ができ、かえって株主の反感を買ったという例もあるし、受付でお土産の多く持ち帰ろうとする株主が受付の対応にクレームをつけるというケースにも少なからず遭遇する。退場命令を出された株主に対して、お土産を渡すことの是非もある中(この点については、株主の理解を求めるため、プレスリリースを出した企業もある)、お土産に関する対応についても、改めて再確認が必要であろう。特に、業績等の関係で、久しぶりにお土産を復活させた等の企業においては、前回お土産を出していた時とは担当者等が異なるケースも考えられることから、改めて対応要領の再確認をお願いしたい。

(2)企業イメージを大きく左右する案内・誘導スタッフ

 受付対応と同様に意外と重要なのが、最寄駅等からルート上に立つ誘導・案内スタッフである。6月末ともなれば、外は暑く熱中症のリスクもある中、クールビズとはいえ、案内板等を持って炎天下で立っていることはかなりの重労働である。自身の水分補給も必要になるし、トイレの問題もある。また、株主から、他の会社への道を聞かれたり、喫煙所の場所等を聞かれるケースもある。足元の不自由な株主様から、「遠い」等の苦言を呈されたりすることもある。

 上場企業が増加している一方で株主総会に適した会場が不足している事情もあり、駅から距離がある場所で株主総会を開催しなければいけない企業では、会場に至る最寄駅やルートも複数あり、複雑な行程をどのように株主を誘導するかという問題もある。基本的には株主様の自己責任とはいえ、案内スタッフを配置している企業が少なくない現状に鑑みても、単純に株主様の自己責任とは割り切れないのは言うまでもない。

 企業によっては、株主の案内スタッフに対するロールプレイングを実施するケースもあるが、会社の重大イベントである株主に粗相があってはと、スタッフも真剣である。エリア割による遊撃スタッフや、案内・誘導本部の機動的な人員配置・運用により、円滑な株主誘導・案内を行えるように、この点についても検討が必要である。実際に道中や会場に至るスタッフの対応で株主を怒らせてしまい、株主総会で多くの株主の前で当該株主が議長に指摘した事例もあれば、一方で、機転を利かせた案内スタッフの対応で企業へ好感をもたれた事例もある。

 「株主との対話」「開かれた総会」を求める企業こそ、株主に直接対応することなる受付や案内・誘導スタッフ等イベントとしての株主総会を下支えしているスタッフに対しても、レクチャーやロールプレイングを実施することが望ましいことは言うまでもない。当然、この過程で、名物株主等との接触もあり得るリスクを看過すべきではない。

(3)リハーサルの重要性

 繰り返しになるが、昨年の原稿から、リハーサルの重要性に関する部分を引用しておきたい(一部文調に合わせるため、語尾等を修正している)。「従来より、株主総会リハーサルにおいては、顧問弁護士や信託銀行から様々なアドバイスがなされ、動議対応マニュアル等も一字一句理想形のものが作成されますが、それでもやはり、議場が混乱したり、騒然となったりする株主総会も少なくない現実がある

 企業不祥事等の対応の拙さで株主を怒らせているような企業ならともかく、昨今の経済情勢下で赤字決算になった企業においても、通常の経営責任追及やお叱りなどに混じって、様々な不規則発言・不規則行為が行なわれ、実際に議長が上手く捌けない場面に遭遇することもあり、事務局に顧問弁護士が鎮座していても対応が難しいケースも発生している。一問一答の形で株主との掛け合いを行うことは危険と言われながらも、現実的には、株主と一問一答の掛け合いに持ち込まれてしまっているケースが少なくない。

 このような事態を防ぐためには議長の議事運営や采配が重要なのは言うまでもなく、今まで株主を退場させたことが無い企業や毎年平穏に株主総会が終わる企業においても、いざという時に議長による適切な議事運営や退場命令を発することができるか、十分な対策と訓練が求められる」。

 最近、企業に対する過激なクレームや不当要求も増加しているが、株主総会は、議長(社長である場合が多い)に直接質問できる機会である。クレーム対応的な視点で考えると、企業に対するクレームは、通常、お客様相談室等の担当部門・担当者で対応し、社長や役員が直接対応することはほとんどないが、株主総会においては、議長ないしその指名する役員等が直接対応することになる。その意味で、株主総会では、企業へのクレームや批判を目的としたクレーマー的株主に付け入るすきを与えることになる。危機管理の観点からは、このようなリスクを正しく理解しておくことが重要である。

 一般論やあるべき論を振りかざしたり、真偽はともかくとして報道内容等を持ち出して、既成事実や会社側に落ち度があるかのような前提を作り上げて、誘導質問を行い、議長の失言等を誘う手法や、企業側の回答に畳み掛けて追加質問を行い、一問一答や泥仕合的なやり取りに持ち込む、野次等を飛ばして回答者の冷静さを失わせ、回答者を感情的にさせて挑発し、追加の回答や発言を引き出すなど、クレーマーが得意とする手法を用いた質問は、実際の株主総会でも行われている。

 昨年の原稿でも指摘したが、悪質クレームへの対応同様、実際に挙げ足を取ろうとしている相手に、その場で適切に即応していくことは、そう簡単な話ではない。熟練の議長であれば、相応の対応が可能でも、今まで何もなかった会社や社長交代等で議長としての経験がまだまだ十分ではない場合、上場後まもない企業等、このような株主への対応に慣れていない議長の場合は、相手のテクニックにはまってしまうことにもなりかねない。起こりうる事態の想定と訓練、そして困った時に立ち戻る基本を確認しておくことが重要となる。

答弁を想定した基本とは、

  1. 質問内容をメモすること。
  2. 質問内容を復唱し、回答すべき事項について、質問の趣旨を踏まえて、回答者の理解として提示し、株主の意向を確認する(「~というご質問よろしかったでしょうか」)。
  3. 現状の認識や理解をベースに回答する(数字については、具体的数字を回答する)。
  4. 未来志向で話す(反省よりも、「課題として認識し、更に強化・推進すべく~する」というニュアンス)。
  5. ネガティブ表現よりも、ポジティブ表現を心掛ける(「~は考えておりません」よりも、「状況を踏まえて判断して参ります」)。
  6. 特定の前提や特定の事項についての指摘をしつこく行ってくる場合は、貴重なご意見・ご指摘として受け止めつつ、前向きに努力していくスタンスや感謝の意を示す。

 議長だけが対応に慣れていても、他の取締役や監査役が回答する場合もある以上、議長だけが知っていればよいということではなく、壇上に上がる全員がその対応要領に精通しておく必要がある。事前のリハーサルでその要領を十分にトレーニングしておくことが望ましいことは言うまでもない。

(4)株主総会リハーサルの意味

 昨年の原稿でも触れたが、株主総会のリハーサルは、本番で失敗して、議長である社長や役員が株主の前で恥をかかないために実施すべきものであり、事務局の意向や社長・役員への遠慮から、単なるシナリオの読みあわせやありきたりの質問を行なう場ではないことを改めて確認しなければならない。逆に言うと、どんな厳しい想定のリハーサルであっても、実施して、その際の対処方法を事前に考えることが株主総会対策として必要になってくる。

 実際に事務局も即応できない事態に陥ってしまったり、セレモニー的なシナリオ読み合わせ型のリハーサルを行なってきた企業が、株主総会当日に議場混乱に陥っている現実(ミドルクライシス)を直視することが、株主総会における危機管理の出発点となる。

2.株主総会と警備

 株主総会の会場には多数の株主が来場されることから、来場した株主の安全を確保することも企業としては重要な責務であり、適切かつ円滑な株主総会運営や不良株主等から議長をはじめとする役員を守ることも警備の重要な責務である。

 しかしながら、自社の社員や系列の警備会社で株主総会の警備を行なっている企業では、株主退場や議場内トラブルへの対応に際して相手が受傷した場合等、直接的に使用者責任が問われるリスクが考えられる。株主総会という業務執行中の社員の行為によるものである以上、相手方から受傷等の申し出があった場合、企業としてその責任を直接的に問われる状況になりかねない。総会会場等における警備対応の甘さを突き、株主の安全管理を怠ったと申し立て、後々示談等で金銭要求を行なう株主も存在している。

 例えば、特殊株主を退場させる際に、大人数の警備員で当該株主を引きずりだしたという企業も現実にあるが、「議場で騒いだ株主だから大勢で押さえつけてでも議場外に出していい」という考え方は社会通念上通用しない。しかし、いざ警備を任されたスタッフは、その任務を遂行しようとするあまり、このようなケースでは行き過ぎた有形力の行使に発展しかねない状況にあることを理解しておかなければならない。仮に抵抗して暴れたとしても、それに対しても最低限の有形力の行使に止めなくてはならない。

 ところで、企業の中には警察官が臨場するから警備員を配置しないという企業もあるが、基本的に議場内で相当な重大な犯罪行為等が行なわれない限り、警察官が直接、退場を命じられた株主を取り押さえたり、議場外に出したりすることはない。集中日などは、警察官も総動員の態勢であり、様々な部署から警察官を動員する関係上、なおさら抑制的な対応となる。言い換えれば、あくまで、退場を命じられた株主への初期対応者、基本対応者は企業側(社員または警備員)にあることを正しく認識することが出発点となるのである。警察官の来場と警備員の配置とは別物として考えなければならない。

 株主の中には自ら警察に電話したり、臨場している警察官に立ち合わせたりする者もいるが、警備の重要性や警備体制とは切り離して考える必要がある。

 なお、株主総会のメイン会場や受付には十分な警備員を配置していても、第2会場や第3会場に警備員を配置していない企業、役員控え室や役員懇談会の会場に警備員を配置していない企業、施設内外周や動線上の警戒考慮していない企業も見受けられる。株主総会会場(施設)入りする議長や議場へ移動する際の議長の安全を確保する警備担当者を配置していないケースもある。

 議長が時間までに会場に入れなければ、株主総会は開会できない。言い換えれば、議長の会場入りを妨害するという方法が、株主総会を混乱させるために最も効果的な手段であるにも関わらず、その事態への危機管理策が講じられていないケースもあることは妨害行為に備えた有効な危機管理とは言い難い。

 この観点からは、警備や受付スタッフその他関係者については、腕章や名札、係員の表示等を徹底することが重要である。警戒区画や役員控室に立ち入る人が、警備員やスタッフ等の正当な権限者であることが瞬時に認識でき、部外者の立ち入りを早期に認知・排除できなければ、部外者による妨害行為を許すことになるからである。株主に出席票を渡して、株主総会会場への正当な入場権限者であることを表象してもらうように、スタッフや関係者も、ごく一部の例外を除き同様の対応が必要となることは言うまでも
ない。

 なお、不祥事等で注目を浴びた企業や内紛等が起きている企業においては、平時から社長等が通勤・移動に使う車両(社有車・ハイヤーを問わず)を株主総会当日も利用するケースが多いが、妨害行為等を考えている株主等は、社長や役員が乗る車を事前に調査し、車種やナンバーを把握し、大凡の移動経路を予測(あるいは登記簿から自宅住所等を割り出して自宅付近で待機する等)して、議長である社長の乗る車を車数台で妨害したり、マスコミが取り囲んだりしてしまうケースもないわけではない。不祥事等で世
間の注目が高い企業には、マスコミの取材も過熱しているからである。したがって、このような事態が考えられる場合には、熟練の身辺警護員を配置して事前に事態を回避するか、このような事態を避けるべく、会場周辺のホテルに宿泊するか、当日は別の車両
も用意してそちらを利用して移動する等の事前対策の策定も視野に入れておかなけれなならない。

3.出席株主層の変化とそれに伴う想定問答集作成の留意点等

(1)出席株主の変化に伴う、株主総会における質問等の変化

 すでに何年も前から一般株主の株主総会への参加や株主総会における質問が非常に多くなっている。団塊の世代が定年後に蓄えを使って株を買い、配当や株主優待を期待しながら、株主総会に出席して、自身の社会経験や勤務経験、専門分野を活かした質問を行なったり、議長(社長)等を相手に、業界に関する薀蓄(うんちく)や経営に関する意見交換、(上から目線での)年齢的には後輩に当たる経営陣への指導や叱責を目的とした発言したりするケースも増えている。

 また、その企業のOBが積極的に株主総会に参加しては、取締役選任議案に絡んで、候補者攻撃に当たるような質問をして会場を白けさせたり、退職した元社員が、会社や経営陣への批判や当て付けを目的に株を購入して社内の実情を暴露したり、一ユーザーがクレームを議長相手に質問しては、執拗に回答を求め、企業姿勢や回答を糾弾・非難するという事態も多くなっている。

 あるいは、一般には知られていないからということで、社内の事情などに関する質問を予め準備していない企業やインターネット上の風評を十分にリサーチしていないために、インターネット上の書き込みをベースとした事実確認的な質問に対応できないケース、社長等が雑誌等で発言した記事をクリッピングして、それを持って株主総会に出席した株主が記事の中で社長が回答した内容や方針・考え方やその後の成果などに関する質問をし、社長等も記事の内容を全て正確に覚えていないため、すぐに回答できなかったり、矛盾するような回答を行い株主から批判をされるような事態も起きている。

(2)想定問答の質的充実の必要性とその視点

 このような多様な状況が増えている株主総会において、企業側が準備している想定問答集は、従来から書籍等で出版されている非常に高度な内容であったり、一般株主の視点が抜けていたり、法律的概念にこだわりすぎていたりと、出席している株主の変化に十分に対応しきれていないケースが少なくない。

 確かに一般株主が勉強しており、非常に高度な質問をするケースも増えているが、一方では、ストックオプションや株式分割、会計処理などに関する初歩的質問(概念やスキーム、メリットと株主への影響等)を質問してくることも少なくない。

 想定問答の作成やリハーサルでの質疑演習について、想定問答集から当たり障りのない無難な質問をして満足している企業も少なくないが、このような一般株主の視点や不意打ち的内容の質問もリハーサルの段階で行い、株主総会当日に向けて対応を協議し、(事務局の対応も含めた)準備をしておく必要がある。この重要性は例年同様、本年も変わらないことは言うまでもない。

 なお、株主総会の危機管理という観点から考えた場合、クレーム的な質問はともかく、スキャンダラスなインターネット上の書き込みや内部事情の暴露的な質問に関しては、例えば、取締役としての資質を判断するための一資料として判断したいのでということで、取締役選任議案に絡めて質問することは極めて容易であり、このような場合、議案に関係ないとう言うことで、「回答しない」という判断もしにくく、相応の想定問答集を事前に準備しておくことが重要になる。言い換えれば、取締役等の役員選任議案は、伝家の宝刀(役員としてふさわしいか資質を判断するという口実)として、様々な質問が行える議題であることを改めて確認いただきたい。

(3)その他株主総会想定問答集作成にかかる留意事項

 元役員や元社員等の企業の内部事情に精通した者が株主として株主総会に出席してくる場合は十分な警戒が必要である。本年は、大手家具会社の父娘の支配権争いが注目を浴びたが、企業不祥事や大きな業績低下を招いた年の株主総会などでも、元役員や元社員から内部事情の暴露的な質問が出されることから、会社側が回答を誤ると、株主総会は一層紛糾することになる。株主総会の想定問答集の作成に当たっては、インターネット上で散見される書き込みや風評、内部通報事案等をリサーチし、考えられる質問を可能な限り想定して、最低限の回答案を作成しておくことが求められる。

(4)株主総会とSNS

 なお、SNSの普及・発展は、株主総会運営においても大きな影響を及ぼしている。既に一般の記者会見等においても、記者が事案概要や質疑の様子をTwitterでつぶやき、 それをみたネットユーザーが、当該ツイートにリツイートする形で、追加・関連質問を出して記者がそれを会見の場で質問するという事態や、ツイートを見て、すぐに会社側に電話をして会見での発言の真意を問いただす(会社側としては、会見が進行中であるため、広報や総務部門でもリアルタイムではその内容を把握できていない場合も少なくない)という事態も発生しているが、株主総会に応用すると、株主が株主総会会場から、ある程度リアルタイムで、議長の発言や質疑の状況、株主総会の様子などをツイートし、それを全く関係のない(株主でもない)ネットユーザーがみて、リツイートの形で、関連質問や更に混乱させるような入れ知恵をしているケースも現実に起きている。あるいは、ツイートを見てすぐにIR等に電話を入れ、株主総会での議長等の発言の真意を問いただしたり、矛盾する回答を引き出そうとしたりすることも可能である。

 入学試験での携帯電話を使った不正が行われる時代です。株主総会でも実質的に株主でない人の質問を出席した株主が議場内でのTwitterを介して行う、リアルタイムでの動画配信を目的として、録音・録画が禁止されているにもかかわらず、公然と撮影したり、隠し撮りをしたりする株主も存在していることに留意しなければならない。

 会場係は、単に案内するだけではなく、議場内や株主の動向にも目を光らせ、不審な動きがあれば、当該株主に注意をするとともに、議長等と連携して適宜警告し、適切な秩序維持権限を発揮していかなければならない。どのように注意をし、議長とどのように連携をとるか、IT時代の株主総会においては、ここまで踏み込んだ対応が必要となるのである。会場係の役割は重大である。

(5)介添者等の取扱い

 なお、これについても再三の指摘ではあるが、介添者の取扱いに関しても、留意が必要になってくる。株主の高齢化等に伴い、介助者、介添人付添で株主総会に出席する株主もいるが、介助者や介添人は株主資格が無いからとむげに断ると、それこそ企業イメージを悪化させかねない。事前にどのように対応するのか、対応方針を企業として明確にしておく必要がある。

 企業によっては、傍聴席を株主席とは別に設けている企業や、色違いのネックストラップ等を利用して議決権のある株主と議決権のない介添人を明確にした上で、入場を認めるような企業もある。企業イメージを悪化させない工夫が求められる。

 これに関連して、土曜日や日曜日に株主総会を開催する企業では、家族旅行を兼ねて地方等から株主総会に参加する株主なども想定しておかなければならない。小さなお子様連れの株主様がいた場合に、子供だけ入場を断るという対応は現実的にはしにくいことから、どのような対応をするのか、これについても企業で対策を検討しておくことが求められる。

4.変則動議への対応

 動議への対応に関しては、動議対応のシナリオを作り、リハーサルにおいてもマニュアル通りの動議対応訓練を実施している企業も有れば、シナリオはあるがリハーサルでほとんど対応訓練をしたことのない企業、動議対応シナリオすら十分に準備できていない企業など、企業によって差が大きいのが実情である。

 動議への対応について、株主総会直前のこの時期に改めて確認していただきたいのは、顧問弁護士がかなり積極的な議事運営サポートを行う企業はともかく、そうでは無い企業においては、実際の動議の場面を想定した訓練を一度でも実施することが重要であるという点である。

 動議については、議場を荒らす目的でのものを想定するのであれば、シナリオ通りに動議を出したりせず、手続的動議を合わせ技で出したり、手続的動議と修正動議を組み合わせて出してみたりと、変則的な動議の出し方を想定したリハーサルが欠かせない。

 理屈の上では、例えば前者なら2つの手続的動議を順に議場に諮り、順次否決していくということは明白でも、いざ、多くの株主を前にした議長が、遭遇したことのない変則的な動議を出されたりすると、冷静に捌ける保証はどこにもない。後者のように手続的動議と修正動議を組み合わせて動議を提出された場合等は、手続的動議はその場で否決できても、原案先議の多くのマニュアルに従えば、修正動議の採決は審議終了後の当該議案の採決の場面まで後回しにせざるを得ないことから、審議開始直後にそのような複合動議が出された場合などは、その後多くの株主の質問を受け付け、議長がそれぞれ答弁していたりすると、往々にして後回しにした修正動議への対応を失念してしまったりすることもある。

 実際に本番想定の直前リハーサルで、議長も事務局も弁護士も準備万全という中で、我々が変則動議を用いた議事撹乱の演習を実際に行ってみると、質疑応答が多くなり、責任追及的な質問の中に、変則動議を混ぜたりすると、修正動議について議場に諮らずに閉会宣言をしてしまうというケースや、決議を終了してしまうという事案も相当数あることを付記しておきたい。

5.最後に~その他株主総会の運営に関して留意しておくべき事項

(1)取締役選任議案のリスクを踏まえた準備

 繰り返しになるが、取締役や監査役の選任議案に絡めた質問は伝家の宝刀となりうることに注意が必要である。取締役や監査役としての資質を判断するためという理由をつけて、様々な事象に対する考え方やスキャンダラスな内容等を質問することは極めて容易であり、議案に絡めた質問だけに、議長としても、総会の目的事項とは関係ないと簡単には捌けないことに注意していく必要がある

(2)災害による避難や停電を想定した準備

 最近でも大きな地震が日本各地で起きていることを踏まえると、万が一、株主総会開催中に大きな地震や火災が起こった場合を想定した避難訓練を、実際に実施しておくことも重要となる。会社として主催する重要なイベントである株主総会では、株主の安全管理、特に議場内及び議場から施設内・施設周辺への動線上における株主の安全管理の責任は、会社側にある。
株主総会の場合は、本社や自社拠点等ではない慣れない外部の会場を使っているケースも少なくない為、一度、実際に多くの社員を株主役として動員して、避難させてみることで、避難誘導時のリスクや危険箇所、事前対策の必要な課題が見えてくる。株主動線を作るためのパーテーション等が、実際の避難の場面では思わぬ避難障害になっているケースも少なくない。

 「会場内の整理や誘導を行うスタッフは、株主総会関連業務に従事している間、懐中電灯や小さなハンディライトを傾向しているか。又はすぐに準備できる状況にあるか?」。極めて簡単な問いだが、皆様の会社における準備の状況を確認してみて欲しい。停電になっただけで、既にお手上げなのではないだろうか。実際に災害が発生したとしたら、避難したい心理と真っ暗な状況による心理的ストレス、その中で無理に行動を起すことによる怪我やトラブル等により、会場内ではパニックが発生する可能性が高まる。その意味でも、明かりを確保して株主の動揺を抑え、冷静に避難いただく為の対策が重要なのである。

最後になるが、株主総会の危機管理対策を手抜かりなく行う、皆様の企業の株主総会の成功を切に願う次第である

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