SPNの眼

危機管理おやじのつぶやき ~店舗のロス対策~

2016.11.01
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 前回のSPNの眼10月号では、「集団窃盗の脅威と店舗におけるロス対策」と題したレポートを掲載いたしました。今回は、本レポートを受けて、(久々の登場となる)危機管理おやじが、現状の店舗ロス対策等について、つぶやいてみたいと思います。

1.小売業におけるロスの認識の実態

 前回レポートでは、小売業におけるロスの実態として、センター・フォー・リテイル・リサーチ社によるレポート「世界の小売業におけるロスと犯罪により発生するコストについての調査(邦題)」から、日本の小売業におけるロス額は、1兆円を超えるということをご紹介いたしました。そのロスの要因についても、同調査では、日本における小売業の売上高ロス率は1.04%とされています。小売業の売上高営業利益率が2.1%(経済産業省「商工業実態基本調査」)であることを踏まえると決して少ないとはいえず、営業利益の約半分に相当する金額が「ロス」として消えていることになります。

 ロスの要因にはさまざまなものがあり、代表的な要因にはオペレーションミスのよるもの、在庫管理上のもの、検品・検収時の管理によるもののほか、従業員や顧客による窃盗などがあり、そのうち、顧客による窃盗(万引き)は前出のロスに関する調査によると、ロス額の57.1%を占めるとされています。
 また、小売業者に対するアンケート(全国万引防止機構「第11回全国小売業万引被害実態調査分析報告書」)においても、不明ロスのうち、顧客による窃盗の占める割合は52.4%となっています。
 いずれの調査からも、ロスのうち約半分以上の割合が顧客による窃盗(万引き)と認識されている実態が浮き彫りになっていますが、本当に不明ロスの発生要因について、あらゆる角度から分析がなされた結果であるかどうかについては、明確ではないように思えます。もっといえば、単に「不明=窃盗(万引き)被害」としている可能性があるのではないでしょうか。

 現に、私どもに対して、「店舗ロスが大きな問題となっているが、原因は万引きだと考えている。だが、保安警備を入れているのに効果が上がらない。」、「SPNに保安警備をお願いしたい」等の相談があり、私どものロス対策チームでまずは実態を把握するための店舗監査を行ったところ、必ずしも万引きにおけるロスが多い訳ではなく、商品管理上の現場での管理等の統制環境に大きな問題があったり、せっかく設置してある防犯設備において、稼働しているはずの防犯センサーが稼働していなかったり、従業員のロス意識の欠如並びに教育研修等が十分ではなく、商品を私的に使用している等、様々な要因から発生するロスであることが判明したりするケースも少なくありません。
 このようにロスの実態分析をしっかり行い、発生要因をふまえた改善策を講じていくことで、劇的にロス削減に繋がった例も多々あり、ロスの発生要因について、従業員等に対するロス意識等も含めた、あらゆる角度からのロス要因分析を徹底して行うことが極めて重要であるとご認識いただきたいと思います。

2.ロスに対する意識と組織的学習

 前回のレポートでも、ロスに対する統制を強化するには、全ての従業員がロスに関して高い意識を持ち、ロスの発生要因等について様々な角度から検証するような組織的な学習による対策の改善・進化を継続的に行うことが重要である一方で、ノウハウは一朝一夕には蓄積ができないところにロス対策の難しさがあること、店舗における従業員の防犯意識の向上とその対応方法などについての教育も重要であること等に言及しています。それでは、どの様な意識を持ち、学習させていけば良いのでしょうか。この点について、お話ししたいと思います。

 まず、従業員は、万引き犯を捕まえる(検挙)ことが仕事ではなく、万引きをさせない接客や対応を行い、万引きされにくい売り場環境を整え、万引きを未然に防ぐ(防犯)という意識を持つことが重要です。

 もう少し具体的に考えてみましょう。例えば、窃盗(万引き)行為の実行の着手時期に関しては、実務上、隠匿説と店外説があります。隠匿説とは、お客様が、商品等を通常の状態(手に持つ、買い物カゴに入れる等)でなく、持っている服、着ている服に隠す、自分のバック等に入れる(すなわち隠匿)等した時点で窃盗行為が行われたと考えるものです。
 ただ、窃盗罪が成立するためには、窃取行為のほか、不法領得の意思(不法に物を得ようとする内心の情)が必要ですが、店内で隠匿した段階では、最終的にはレジにおいて清算する可能性も残されており、お金も持っていて「後で清算するつもりであった」と言われてしまえば、不法領得の意思(不法に物を得ようとする内心の情)の証明が難しくなります。
 この隠匿説のデメリットを克服すべく、清算せず店外に出て歩き出す行為に不法領得の意思が現れているとして、この時点で窃盗(万引き)が成立すると考える店外説が主流とされています。一般的に、店内で商品を隠匿したお客様を目撃しても、そのお客様に気付かれないように追いかけて、レジ清算を行わずに店の外にでたところで声掛けをして捕まえる方法を行っていることが多いと思われます。これは、誤認してしまう問題等を避ける上でも重要なことです。ベテランの保安警備員でさえ、犯人に気付かれない様に追いかけて店外で声を掛けるのは至難の業であり、追いかけている途中で犯人を見失い、その間に犯人に気付かれ、隠匿した商品を犯人が店内のどこかに捨てたり、隠したり、他の仲間に渡したりして、店外に出て、保安員が声掛けした時に商品を持っておらず、「犯人扱いされた」等と騒ぎだして、問題に発展することも少なくありません。

 このような事を経験すると、「下手に声掛けをしない方がいい」等の意識が芽生え、お客さんの不自然な行動等から目をそらし、意識しない様になってしまいます。また、同様のケースとして、せっかく防犯のために設置してある防犯センサーであるのに、センサータグの取り外し忘れや誤報等によって防犯センセーが発報し、その対応においてお客様と何らかのトラブル等を経験するようになると、「センサーのスイッチを切っておいた方が無難だ」等という意識が芽生え、センサーを切っておく状態が恒常化することになります。これでは防犯センサーは宝の持ち腐れとなってしまいます。
 これは、従業員のロス意識の問題だけではなく、従業員に対する会社側のロス対策教育(センサー発報時の対応含む)が十分に行われていない、行っていたとしても形式的なマニュアル上の教育を行っているに過ぎない(マニュアルと実態が乖離した状態に対して、組織も個人も疑問を抱かない状態)ことが原因です。私たちは、ロス監査等において、このような従業員のロス意識向上や防犯指導を日々行っておりますので、その一例をご紹介しておきたいと思います。

(1) ロス意識向上

 小売業においては、フロア面積当たりの人件費コストを考慮して、かなり限られた従業員数で店舗オペレーションを行っているのが現状だと思います。私たちは、ロス監査を実施する前に、まずは一般客として、対象店舗の視察を行います(いわゆる覆面調査)。従業員の方々は、限られた人数で忙しく業務を行っていますが、忙しさのせいか、お客様に視線が向けられておらず、商品(品出し、管理等)や自分の手元しか見えていないことが多いことが特徴です。お客様への挨拶もしかりで、お客様を見ずにただ作業をしながら「いらっしゃいませ」と声を出していたり、お客様とすれ違う際でも声出しさえも行われていない店舗があります。
 このような店舗では、接客面でももちろん問題がありますが、防犯面・ロス意識でも大きな問題があります。

 お客様を見て声出しする時間はほんの何秒かです。万引きをしようと思って来店する犯人にとって、従業員に顔を見られて積極的に声掛けされることは、「万引きしづらい」「捕まるかもしれない」という印象を与えます。また、店内を、何を探しているのかわからない様子(物色中含む)のお客様に対して「お客様、何かお探しであればご案内いたしましょうか」等との声掛けをすることで、万引き犯に対して、自分が店側に意識されているという心象を与え、そうでないお客様であれば、親切な接客対応と受け取っていただけることによって、防犯効果とCS(顧客満足)の両方の向上につながることになります。

 これらの声掛けによる防犯は、前述の隠匿説のところで話したような対応にも有効です。お客様が商品等を通常の状態(手に持つ、買い物カゴに入れる等)でなく、持っている服、着ている服に隠す、自分のバック等に入れる(隠匿)等したところを目撃したところで、「お客様、申し訳ございません。商品は手にお持ちになるか、おカゴをお持ちいたしますので、おカゴに入れてお買いものをお願いいたします」等と声掛けを行うことによって、万引きの抑止ができます。これも立派なロス対策なのです。

 既にお話しした通り、従業員に対して、万引き犯を捕まえることが仕事ではなく、「させない(防犯)」というロス意識をしっかり持つこと、並びに、そのための具体的な対応方法について、企業側がしっかりと教育することによって、万引き対策となることはもちろんのこと、それ以外の社内不正、商品の私的利用等も含めたロス全般に対する意識の向上につながります。

 それでは、万引き対策の視点から、どんなお客様に注視したらいいのか、参考として、私どものベテラン保安員警備員が注視するお客さんの行動等をご紹介します。なお、ここで挙げる行動は兆候の一つとして現れることがあるということであって、これらの行動をとる人が必ず万引きをする人物であるということではありませんので、あくまでも参考としていただきたいと思います。

【注視しなければなららない顧客の行動】

  • 周囲、従業員を気にしている
  • 不自然なほど、大きなバックを持参している
  • チャック(口)が開いている手提げバック等を持参している
  • バックを複数所持している
  • 買い物カゴの中に商品を入れており、そのカゴ内に手を入れながら店内を歩いている
  • 目線がキョロキョロしており、防犯カメラに目線を向けている
  • 商品を手に持ち、色々な場所をうろついている
  • 落ち着きがない
  • 足早である
  • 季節に合わない服装(真夏に厚手のコートを着ている等)である
  • 上着の下にカバンを付けている
  • 防犯シールを確認するような仕草をする
  • 同じ商品を何個も手に取る
  • 従業員の顔を見ながら入店する
  • 視線をそらす
  • バッグの持ち方が一般的でない(リュックサックを手に持っているなど)

 ベテラン保安警備員が注視する行動の一部をご紹介しましたが、要は皆さまがいつも接客しているお客様とは違う異質な状況がある時は、前述したように注視しながら、こちらからお客様への声掛けを行って、ロスを予防する(未然に防止する)意識を持っていただきたいと思います。

(2) 定期的な防犯診断の必要性

 店舗従業員に対するロス意識向上のための組織的な教育のあり方以外にも、外部の専門家による定期的な防犯診断等をふまえた改善・改修活動もまた重要です。

 多店舗展開している小売業の多くは、まずは開発部門が物件選定、店舗設計を行い、営業部門と店舗内レイアウト等を協議して出店していくことになりますが、その際に防犯設備等に関しては、警備会社に、レイアウト図等を基にした防犯カメラや防犯センサー等の防犯設備設置個所等を提案させて設置することが一般的だと思われます。しかし、オープン当時のカメラ設置個所や防犯設備の活用並びに運用状況について、定期的な見直しがほとんどされていないのが現状ではないでしょうか。

 オープン後は、営業部門が店舗運営の中心となり、新たな商品対応や顧客ニーズ対応のため、絶えずレイアウト変更等が行われ、棚替えや什器の入替・変更等を行っています。しかしながら、様々な変更がなされた点に対して、店舗に設置してある防犯設備が有効に活用できるように確認・見直しを行っているのか、また、万引き等の手口についても、日々変化し巧妙になっている実態に即したものなのかといった点についての検証が行われていないことが多いものと推測されます。

 実際に、私どもも、店舗監査において防犯設備等について確認してみると、店舗内のレイアウト変更(什器変更)に伴う防犯カメラの位置や方向が見直されていないことによって、防犯上意味をなさない状況になっていたり、酷い時には防犯カメラ自体が壊れていて作動していないケースも散見されます。このようなケース以外にも、せっかく費用を掛けて設置した防犯設備を効果的に活用し、ロス対策に活かしてくためには、定期的な防犯診断等による確認と改善・改修が有効であり、これによって従業員のロス意識の向上にもつながることをあらためて強調しておきたいと思います。なお、参考として、私どもの防犯診断項目における指摘事項の一部をご紹介します。

【防犯診断項目と指摘】

(1)店舗出入口について

  • 防犯ゲートの適切な設置
    • ゲートの横に隙間があり簡単にすり抜け出来る
    • センサー反応しない(防犯タグを使った事前作動確認を一切行っていない)
  • 店舗出入口以外の出入可能な箇所の無施錠
    • 出入口の付近の顧客出入が確認できないような什器・陳列 など

(2) レジ周辺

  • 非稼働時のレジサークル内に「防犯解除シール」「領収テープ」「レジ袋」等が放置されている など

(3) 商品防犯処理

  • 対象商品の防犯タグ処理されていない商品がある
  • 防犯タグの不具合(作動確認なし) など

(4) 防犯カメラ等

  • 防犯カメラの撮影方向に視認障害物がある
  • 画像録画がされていない(作動確認なし)
  • 防犯ミラーの角度不備 など

 この他にバックヤードの状況や持ち物検査状況等、店舗における防犯上の各種規定、ルール等の遵守状況の確認も合わせて行うことが有効です。

3.保安警備の有効的活用

 ロス意識の向上と組織的教育の必要性についてお話ししてきましたが、前回のSPNの眼でも紹介されていた外国人等による「職業的窃盗集団」(造語)等の万引き犯の手口も日々巧妙化している中で、従業員のロス意識向上だけでは到底対応は出来ません。やはり、専門の保安警備員による対応も必要です。では保安警備を有効的に活用するにはどのようにしたらよいのかについてお話しします。

 よく聞く話として、「100円の万引き犯を捕まえるのに時間単価数千円の保安警備を導入しても意味がない」、「『私服警備巡回中』のポップだけ貼り出しておけばよい」などがあります。確かに、警備費用は店舗経費としては決して安いものではありませんので、そのような発想になってしまうのも理解できるところですが、万引き犯の方も、一度店舗に来れば、保安警備員が入っていないことは直ぐに分かってしまいますし、前述したように、従業員のロス意識が高い店舗なのかどうかも一目で分かります。万引きしやすい店舗と判断すれば、継続的に万引きが行われることになりますし、この店は万引きしやすい店舗等の情報が万引き犯の間で伝わり、多くの万引き犯を呼び寄せることにもなりかねません。このような状態になってしまっては、そのロスも甚大なものになるのです。保安警備を導入して額の小さな万引きも見逃さない厳しい対応が、万引きがしにくい店舗のイメージを植え付け、長期的には万引きによるロスを低減することにつながります。

 ではどのように保安警備員を活用したロス対策が良いのかというと…。

(1) 店舗ロスの分析
 前述した通り、まずは店舗ロスが多く計上されている店舗の実態分析を行い、万引きロスの発生頻度、犯行曜日、犯行時間、犯行手口等の分析を防犯カメラ録画の検証等も含めて行う。(「敵を知る」ことからスタート)

(2) 店舗視察
 (1)の分析に基づいて期間を定めて試験的に保安警備員を配置して分析と実態の検証を行う。

(3) 保安警備配置

  • (2)の試験的配置後、配置日数、配置時間を検討しての配置
  • (4)保安警備による従業員への情報共有・防犯指導
  • 店舗朝礼、夕礼等の際に、保安警備員より店舗における犯行手口、時間帯、他社  店舗での犯行手口等の情報共有と防犯指導によるロス対策に対する協力と意識向上を行う。

(5) 警察ヘの情報提供と協力体制
 外国人等による「集団職業的窃盗団」等に対しては、被害状況の取りまとめや防犯カメラ映像からのグループ集団の特定等について分析・資料化して、警察相談を行い、同対象グルーブが来店した際の警察通報並びに協力についての事前相談を行う。

(6) 配置関係等の変更検討
 保安警備員の配置については、一定期間配置後は、配置日数や配置間隔、配置店舗の変更(近隣、複数店舗の巡回警備等)等を行う

 単に店舗に保安警備員を配置して対応するのでは、確かに被害額と警備費用の費用対効果からすれば、保安警備員の配置を躊躇してしまうことも理解できない訳ではありませんが、警備を依頼する会社側とそれを請け負う警備会社が上記内容をしっかり理解した上で保安警備員を活用することによって、対象店舗以外の関係店舗に対する万引き情報の共有・防犯教育が可能になり、組織全体でのロス意識の向上につながります。

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おわりに

 最近の新聞記事で、外国技能実習生が技能実習中に行方不明になるケースが年々増加しているといったものがありましたが、行方不明になった外国人技能実習生は、国内において不法滞在者として何らかの活動を行っており、その一部として前回のSPNの眼で紹介した外国人による「職業的窃盗団」が活動しているものと考えられます。彼らは犯行場所を一つの地域に限定せず、全国を活動範囲として窃盗行為を行っており、以前とは違って仲間同士接触はせずにバラバラに店舗に来店して、全てスマホを利用して連絡を取り合い、犯行に及ぶなど手口も巧妙化するとともに、手口の変化のスピードも格段に早くなっています。

 今回お話した様に、店舗ロス対策には、まずは店舗ロスの要因を様々な角度から分析すると共に、外部からの攻撃者である「敵」を知り、その情報や対策等についての関係者に対する研究・教育を行うこと、そして有効な警備実施を行うこと(自社の脆弱性を知り対策を講じていくこと、「己」を知り、高めていくこと)が、ロスの減少につながるだけでなく、関係者のロス意識向上にもつながることを忘れないでいただきたいと思います。

 さて、次回は、久々にストーカー関係と各種虐待等について、つぶやいてみたいと思います。

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