SPNの眼
【緊急レポート】WHOが「緊急事態宣言」を発表新型コロナウイルス対策 企業が今すぐ取り掛かるべきポイントとチェックリスト
新型コロナウイルスの脅威が拡大の様相を示し、本日(1月31日)、WHO(世界保健機構)が「緊急事態宣言」を発表した。正確には「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」。「原因を問わず、国際的に公衆衛生上の脅威となりうる、あらゆる健康被害事象」を対象にしている。今後、終息に向かうまで少なくとも2~3か月、長引けば夏ごろまで影響が残るとの予測も出始めている。今からでも遅くはないので、企業が今すぐ取り組むべきポイントを政府の「新型インフルエンザ等対策政府行動計画」をもとに考察してみたい。
(5月11日投稿)
(3月10日投稿)
(3月2日投稿)
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BCP発動レベルの検討
同計画では、以下のように発生段階をステージ0からステージ3までの4段階に分け、対策を検討している。WHOの緊急事態宣言を受け、企業としても早期に対策本部を設置することが望ましい。
(出典:社会福祉施設・事業所における新型インフルエンザ等発生時の業務継続ガイドライン(厚生労働省))
対策本部の設置については、現段階としては最低限、以下の役割構成を考えておきたい。
- 対策本部長
…全体統括 - 情報収集・分析
…政府やWHO、信頼できるメディアの情報を収集・分析。
できれば対策本部内及び役員レベルでは毎日レポートを共有することが望ましい - 社員への情報提供
…信頼できる情報を提供するとともに、家庭も含め予防策を注意喚起する - 感染予防対応と備蓄に関する統括
…N95マスクやゴーグル、防護服、手指消毒用アルコールなど感染症特有の備品の購入・確認(※最後にチェックリストを記載)と、感染者が事業者内で出た場合の対応・運用 - 人事的対応
…罹患者(社員)の社内状況(人数)の把握、特別休暇等の対応、健康管理施策の実施、社内環境のチェックと整備、テレワーク等の対応・準備、予防接種やワクチン投与に関する人事・費用面での検討・対策
情報収集と共有
新型ウィルス対応は情報戦だ。WHOや政府が何をどのように表現しているのか、日々オリジナルの文書をチェックすることが重要だ(WHOはいったん発した宣言を撤回することもあるので、注意が必要)。まずリスク担当者はこれらの動きを毎日チェックし、レポートとして対策本部内で共有することが望ましい。重要な動き(武漢市以外での渡航中止勧告の発令や、新しい国での発症情報)が発表された場合はイントラネットなどで社員にも情報を共有しよう。常に従業員とリスクコミュニケーションを取っておくことが、社内への注意喚起にもつながる。最低限、毎日チェックしておきたいページを以下に記しておく。
■【感染症危険情報】中国における新型コロナウイルスの発生(外務省)
■中華人民共和国湖北省武漢市における新型コロナウイルス関連肺炎の発生について(厚生労働省)
■新型コロナウイルス(Novel Coronavirus:nCoV)に対する積極的疫学調査実施要領(国立感染省研究所)
社員と組織に対する感染予防対応の実施と徹底のコツ
企業としてできる感染予防対策はそう多くはない。しかし、それを徹底することは簡単なことではない。例えば手洗いについては、外出先から帰社した場合に「必ず」することを義務付けている企業がどのくらいあるだろうか。もっとも重要なのは出社時だ。出社した社員に対しては、必ず「執務室の外」でアルコール洗浄を手首から上全体に、最低15秒以上(できれば30秒)行うことを徹底したい。出社時なので定時近辺は非常に混雑することも予想される。余裕を持った出社を促していきたい。以下は、WHOが出しているアルコール消毒液による手の洗い方だ。掲示するなどして、参考にしてほしい。
マスクは、予防には効果が薄いと言われるが、感染者からの飛沫を抑える効果がある。社内だけでなく、家庭でも咳エチケットを励行するように呼び掛けることは有効だ。また、ウィルスを保持してから数日間は熱が出なくても咳などで飛沫をまき散らすことも考えられる。今後の状況によっては「社員全員のマスク着用義務化」も検討していかなければいけないだろう。首都圏では徹底は難しいが、政府としては「極力人混みを避ける(2mルール)」も呼び掛けている。これは感染者が咳やくしゃみをした場合、1m~2mは飛沫が飛ぶためだ。
他にも、体温や体調の毎日のチェックと報告を義務付ける企業もある。そもそも、どのような感染症であっても通常の風邪をひいていたり体調が悪かったりしていれば、罹患する可能性は高くなる。休息や栄養を十分にとり、ウィルスに対する抵抗力を上げることが肝要だ。以下に、個人と組織による対応策案をチェックリストにしたので参考にしてほしい。
また、発熱等がある場合でも、無理して(本人はそこまで思っていなくても)出社しようとする社員もいるし、出社させようとする上司もいるかもしれない。このような場合は、絶対に無理して出社せず、保健所への相談や病院での受診といった行動をとるように会社として指示・明示する「行動規範」が重要だ。もし万が一、社員に無理させて出勤させようとする上司がいる場合は、集団感染のリスクを周知し、出勤禁止の方針を徹底する等の対策は欠かせない。
今回の新型コロナウイルスは発熱がなくても、急に咳や嘔吐が続く場合も保菌しているケースがあるとの報道もあることから、このような体調不良の場合も、発熱の場合と同様、無理して出勤せず、医療機関を受診させることが重要だ。
- 体調が悪くなった時のマスクの着用
(状況に応じて、社員のマスクの義務化の検討) - 出社時や外出から帰ってきたときの手洗い(手首から上を15秒以上)の徹底
- 極力人混みを避ける(2mルール)
- 外出先で発熱、咳等の症状が出た場合は、無理に帰社等せず、上長に体調不良を報告して医療機関を速やかに受診する
■組織としての対応
- 施設の入り口とトイレに手指消毒用アルコールを設置し、使用を励行(外部からのお客様なども含む)
- 入口受付に消毒の依頼分を掲示
- 正しいアルコール洗浄の仕方を掲示
- 従業員の毎朝出勤前の検温の依頼(急性期には結果記録の提出を依頼)
- 体温が37度以上ある場合や体調がすぐれない場合は出社禁止。出社している場合は上司への報告を義務化
- 家族がインフルエンザ等に罹患した場合には、報告の義務化
- 報告を受けた上司は対象者にマスクを装着し、帰宅を促す
■社員が罹患した場合の対応~事業所内で発症が確認された場合~
- 事業所内で感染(疑)者の発見時の上長への報告を義務化
- 状況に応じて保健所へ連絡
- N95マスク、ゴーグル、手袋など防護服を装着したものが、感染者にマスクを装着
- N95マスク、ゴーグル、手袋など防護服を装着したものが、状況に応じて空間的隔離を実施
- 家族へ連絡し、N95マスク、ゴーグル、手袋など防護服を装着したものが指定病院に搬送
- N95マスク、ゴーグル、手袋など防護服を装着したものが、感染者が接触した箇所を中心に消毒・清掃を実施
- 病院に感染しているか否かを確認
- 可能な限り、感染者に発症前○週間程度の行動(誰にあって、何をしたか)を確認
- 上記の情報から濃厚接触者(感染者と食事をしたものなど)を特定。
- 該当者に対して○日程度の出社を禁止
- 状況に応じて、関係者に伝達
- 状況に応じて、事業所入り口に情報を提示
■社員が罹患した場合の対応~事業所外で発症が確認された場合~
- 本人・家族が感染した場合の上長への報告を義務化
- 状況に応じて、保健所に連絡
- 感染者に○日の出社を禁止
- 可能な限り、感染者に発症前○週間程度の行動(誰にあって、何をしたか)を確認
- 上記の情報から濃厚接触者(感染者と食事をしたものなど)を特定。
- 該当者に対して○日程度の出社を禁止
- 状況に応じて、関係者に伝達
- 状況に応じて、事業所入り口に情報を提示
社員が罹患して出勤停止を命じる場合、インフルエンザの場合は通常1週間程度であるが、今回の新型コロナウイルスは潜伏期間も長いとの報道もあり、症状がどのくらいの期間生じるのか、感染力がなくなるまでにどのくらいの日数を要するのか、未だ明らかではない。熱が下がったからとか咳が収まったからと、自己判断で出社することのないように社内に通達・周知しておくことも検討すべきであろう。
(5月11日投稿)
(3月10日投稿)
(3月2日投稿)
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備蓄品チェックリスト
本稿では詳しく触れていないが、感染者が事業所内で見つかった場合はN95マスクやゴーグルなどの専用の防護服が不可欠になる。また、ウィルスには次亜塩素酸ナトリウム、イソプロバールや消毒用エタノールが有効であることが立証されているため、これらのものを現段階から用意しておくことが必要だ(消毒剤の噴霧はウィルスが舞い上がり消毒実施者の健康被害につながることがあるので危険)。パンデミック期にはこれらのものが市場から無くなることが想定されるため、早めに購入してほしい。
消毒は予防にも有効だ。通常の社内清掃に加え、定期的に机、ドアノブ、スイッチ、階段の手すり、テーブル、いす、エレベーターの押しボタン、トイレの流水レバーや便座など、できれば1日に1回定期的に消毒することが望ましい。
- 不織布マスク
- 手指消毒用アルコール(擦式手指消毒剤)
- 液体せっけん(ハンドソープ)
- うがい薬
- N95マスク
- ゴム手袋(使い捨て)
- ゴーグル
- エプロン使い捨て
- ウィットティッシュ
- ティッシュ
- タオル
- 毛布
- 漂白剤(次亜塩素酸ナトリウム)
- ビニール袋
- 加湿器
- 体温計
- 非接触型体温計
- 常備薬
- そのほか、水・食料など通常のBCPで用意しているもの
(注:事務所の状況に応じてリストは改変してください)
インフルエンザ対策BCPの策定にあたっての最悪の想定
本稿では、WHOの「緊急事態宣言」を受け、「企業が今すぐできること」に的を絞って記してみた。しかしパンデミック対策で最悪の事態は、「約半数の社員が出社できなくなる可能性がある」ことだ。政府の被害想定によると新型インフルエンザのピーク時の感染者数は3200万人、入院者数200万人、死亡者数64万人(感染者死亡率2%)、流行期間は2か月で、感染ピーク時の企業の欠勤率は40%と予測している。例えば10人くらいの従業員が働く事務所であれば、半数以上が欠席する事態も考えられる。
事業継続計画の策定にあたっては、最悪の事態として従業員の40%程度が会社を休んだ場合にどのようなオペレーションができるのかを考えておかなければいけない。代替要員の確保(OB・OG活用含む)や優先業務の選定、テレワーク、クロストレーニングなど、地震対策BCPとともに、もう一度対策内容を確認してほしい。
参考:新型インフルエンザ等対策政府行動計画(内閣府)、社会福祉施設・事業所における新型インフルエンザ等発生時の業務継続ガイドライン(厚生労働省)、中小企業BCP策定運用指針を用いた新型インフルエンザ対策のための中小企業BCP策定指針(中小企業庁)、リスク対策.com
(以上)
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