SPNの眼
【緊急レポート】新型コロナウイルス対策、ステージ3におけるBCPと対策本部の役割
前回、1月31日に執筆した本コラムでは、WHOの緊急事態宣言を受けて企業が取り掛かるべき初動のポイントとチェックリストを公開した。
(5月11日投稿)
(3月10日投稿)
(1月31日投稿)
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その後、残念ながら悪化する一方の事態を受け、政府は2月25日に対策基本方針を発表。安倍総理は「これから2週間が拡大防止を抑えるための重要な局面」として、企業に対して今後2週間の大規模イベントの自粛などの対策を要請した。今回は、政府の対策基本方針を受け、企業は今何をしなければいけないのかを考察してみる。
まず、政府の対策基本方針のポイントは以下だ。
政府の対策基本方針のポイント
<新型コロナウイルスについて現在までに把握している事実>
- 多くの事例では、感染者は周囲の人にほとんど感染させていない。一方で、一部に特定の人から多くの人に感染が拡大したと疑われる事例が存在し、一部の地域で小規模な患者クラスター(集団)が発生している。
- 感染経路は飛沫感染、接触感染と考えられており、空気感染は発生していない。
- 発熱や呼吸器症状が1週間前後持続することが多く、倦怠感を訴えることが多い。季節性インフルエンザよりも入院期間が長くなることが多い。
- 罹患しても軽症であったり、症状が出なかったりする場合も多い。重症度としては、致死率が極めて高い感染症ほどではないものの、季節性インフルエンザと比べれば高いリスクがある。特に、高齢者や基礎疾患を有する人では重症化するリスクが高い
- 有効性が確認された抗ウイルス剤はない。現在のところ、迅速診断用の簡易検査キットもない。ただし、他のウイルスに対する治療薬が効果的である可能性がある。
<国民・企業・地域に対する情報提供>
- 国民に対して
- 手洗い、咳エチケットなどの一般感染対策の徹底
- 発熱などの風邪症状がみられた場合の休暇取得、外出の自粛
- 感染への不安から、適切な相談をせずに医療機関を受診することはかえってリスクを高めることなどの呼びかけ。感染が疑われるときには病院ではなく「帰国者・接触者相談センター」へ連絡。感染が疑われる場合には専用の外来窓口「帰国者・接触者外来」で受診する。
- 感染が疑われるのは、「風邪の症状や37.5度以上の熱が4日以上続く方(解熱剤を飲み続けなければならない方も含む)」「強いだるさや息苦しさ(呼吸困難)がある方」
- 企業に対して
- 風邪などの症状がみられる職員などへの休暇取得の勧奨
- テレワークや時差出勤の推進等を強力に呼び掛ける
- イベントについては、全国で一律の自粛要請を行うものではない。(ただし、2月26日から2週間の間においては重大な局面であることから全国的なスポーツや文化イベントについては自粛要請を呼び掛けた)
- 風邪症状が軽度である場合は、自宅での安静・療養を原則とし、状態が変化した場合に、相談センターやかかりつけ医に相談したうえで受診する。
■新型コロナウイルスに関する帰国者・接触者相談センター
※東京都は電話番号03-5320-4509/9時から21時まで(土、日、休日を含む)
「感染が疑われるときには『帰国者・接触者相談センター』に連絡する」「風邪症状が軽度である場合は自宅療養を原則とする」など、いくつか今回の新型コロナウイルス特有の対応も見られるため注意が必要だが、概ね通常考えられている新型インフルエンザ対策と変更はないだろう。新型インフルエンザウイルス対策BCPを策定されている企業は、詳細について調整しつつ適応させて行くことができるだろう。感染経路が飛沫感染と接触感染であることを考えれば、つり革やドアノブ、エレベーターのボタン、手すりなどに付着した菌が、それらに触れることで感染するリスクが高いことに鑑み、特に手洗いは重要な対策となる。
また、経済産業省は2月28日、全国の中小企業に対し、新型コロナウイルスの影響による売り上げの落ち込みに対して、「セーフティネット保証4号」を発動した。この措置により、新型コロナウイルス感染症により影響を受けた中小企業は、信用保証協会が一般保証と別枠で融資額の100%を保証する。こちらも、中小企業の経営者は参考にしてほしい。
■新型コロナウイルス感染症に係る中小企業者対策を講じます(経済産業省)
2003年に流行したSARSコロナウイルスによる全身性の感染症は、2002年11月16日に、中国南部の広東省で非定型性肺炎の患者が報告されたのに端を発し、北半球のインド以東のアジアやカナダを中心に感染拡大。2003年3月12日にWHOから「グローバルアラート」が出され、同年7月5日に終息宣言が出されるまで、32の地域と国にわたり症例が報告された。今回、政府は早期の封じ込めを狙っているが、最悪の場合、初夏まで影響が残る可能性がある。企業は気を引き締めつつ、今後の対応に当たっていきたい。
新型感染症発生に伴う企業の対策本部のあり方
事態が深刻になるにともない、対策本部の役割が重要になる。通常体制である取締役会を頂点とした企業運営は企業統治・運営の観点からは非常に有効な組織体であるが、反面として緊急時の意思決定が遅くなる傾向にある。対策本部では組織の垣根を超え、迅速に情報を共有し、トップの意思決定をサポートする役割が強い。今からでも遅くはないので、まだの会社はぜひ対策本部を立ち上げてほしい。前回は初動段階だったが、今回は「従業員が感染すること」を前提とし、所管の保健所との連携を図るための「行政対応班」と、事態公表のための「広報班」を加えている。
なお、感染症の対策本部設置の場合は、そこにメンバーが集まることで感染のリスクも高めることも留意しておく必要がある。したがって、対策本部に入る前にまず以下のような対策も行ってほしい。
対策本部に入る前にすべき対策
- メンバー1人ひとりが保菌している可能性があることを想定し、マスクを着用する。
- 本部を設置する会議室等の入口外側にアルコール消毒を設置し、入室時は、必ずアルコール消毒をした上で入室する。
- 対策本部室内にもアルコール消毒を設置し、受話器や共有PC等に触れた場合などは、こまめにアルコール消毒を行う。
- 室内はこまめに清掃し、テーブルや手すりなどは、次亜塩素酸を使って、こまめにふき取る(清掃した雑巾等はビニール袋にいれて廃棄する。清掃者はきれいに手を洗う)。
次に、対策本部の設置例について以下に記載する。
対策本部長 | 全体統括・重要な意思決定(できれば社長・CEO) |
情報収集・分析班 | 政府やWHO、信頼できるメディアの情報を収集・分析。できれば対策本部内及び役員レベルでは毎日レポートを共有することが望ましい。 |
社内情報提供班 | 信頼できる情報をイントラネットなどで社内に提供するとともに、家庭も含めた予防策を注意喚起する。トイレや入り口などに「正しい手洗いの仕方」などを掲示するやり方も非常に有効 |
感染予防対応班 | N95マスクやゴーグル、防護服、手指消毒用アルコールなど感染症特有の備品の購入・確認と、感染者が事業者内で出た場合の対応・運用 |
人事対応班 | 罹患者(社員)の社内状況(人数)の把握、特別休暇等の対応、健康管理施策の実施、社内環境のチェックと整備、テレワーク等の対応・準備、予防接種やワクチン投与に関する人事・費用面での検討・対策 |
行政対応班 | 感染者が見つかった場合の、所轄の保健所との連携。感染者が出ていない場合には、事前に所轄の担当者を確認しておき、有事にも速やかに連絡体制を構築できることが望ましい。全国でまん延した場合は、それぞれの所管保健所と同時にやり取りする必要が出てくるため、人員が必要になる可能性がある。 |
広報対応班 | 感染者や検査陽性者が出た場合は、対外的な広報が必要になる場合があるほか、マスコミからの問い合わせや、お客様が利用する施設等の従業員等が感染した場合はお客様からの問い合わせも考えられる。したがって、想定問答を準備しつつ、必要以上の混乱を招かないように広報窓口を一元化する必要がある。 |
その後、残念ながら悪化する一方の事態を受け、政府は2月25日に対策基本方針を発表。安倍総理は「これから2週間が拡大防止を抑えるための重要な局面」として、企業に対して今後2週間の大規模イベントの自粛などの対策を要請した。今回は、政府の対策基本方針を受け、企業は今何をしなければいけないのかを考察してみる。
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感染症予防対策BCPの在り方。欠勤率40%に備えよ!
感染症予防対策のBCPを検討するうえで、まず地震などの災害と同じく「最悪の事態」を想定してみよう。政府が2013年に公表した資料によると、新型インフルエンザ等に対し以下のような被害想定を公表している。
<死者数、流行期間、ピーク時欠勤率等>
政府想定 |
感染(罹患)者数 | 3200万人(感染率人口の25%) |
医療機関受診者数 | 2500万人 | |
入院者数 | 200万人(感染者入院率6.25%) | |
死亡者数 | 64万人(感染者死亡率2%) | |
流行期 | 2カ月(一回の流行の波に対し) | |
感染ピーク時欠席率 | 40% |
<発生段階ごとの被害想定概要>
海外発生期 | 国内発生早期 | 国内感染期 | 小康期 | |
0~2週間 | 2~4週間 | 4~12週間 | 12週間後~ | |
感染状況 | 某国で感染発生 | 国内で感染第一号が発生 | 感染者がピーク | 感染者が減少し、一部地域で感染が継続 |
社員の出席状況 | (平常通り) | 一部で欠勤
(家族の感染など) |
欠勤率40%
社内感染発生 |
徐々に出勤回復 |
電気
水道 ガス |
平常通り | 平常通り | 一部で支障
(人員不足で障害対応遅延など) |
平常通り |
鉄道
バス |
平常通り | 発生地域を中心に一部支障 | 運転減少
(鉄道等で間引き運航) |
徐々に回復 |
航空旅客 | 発生国からの帰国増加、国内空港で水際対策開始 | 平常通り | 平常通り | 平常通り |
銀行・証券 | 取扱業務の一部縮小
窓口業務の一部中断 |
徐々に回復 | ||
外部関係先 | 平常通り | 一部で委託業務の遅延・縮小 | 委託業務の遅延、中断 | 徐々に回復 |
企業のBCPとして最も懸念するべき「最悪の事態」は、「職場の欠勤率40%」だ。その場合に備え、地震などの大災害と同じオペレーションが求められる。
①予防策の再徹底…前回のコラムにも記載したように、まずは手洗いや体調不良者のマスク着用の徹底などのほか、・出張/外出の原則禁止・社内/社外でのイベントの原則禁止・従業員の体温管理の徹底(毎朝の検温と報告の義務化)・家族に濃厚接触者や、海外の感染注意地域から帰国した際の報告の義務化など、さらに一歩進んだ予防策の徹底が求められる。
②優先業務の決定…災害時と同様、BCPを発動し優先業務を絞り込むことの検討が必要になるだろう。業務を停止するまでいかない場合も、業務の縮小や業務手順の簡素化も考えられる。現在、様々なイベントが中止されているが、同様に受注しているプロジェクトなども発注者と調整しながら締め切りを延期するなど、柔軟な対応を相互に検討していきたい。
感染症のBCPと地震等の災害BCPとの違いは、同じ地域でも被害(感染状況)や事業継続に関する障害の度合いが異なることである。地震の場合は、停電や通信障害、鉄道の運休など、地域で生じる被害はおおむね共通であり、他社も同じような中での対応を求められるが、感染症については、業種・業態により感染リスクが異なるにも関わらず、被害発生状況が、他社からはわかりにくいのだ。したがって、自社だけが感染状況が深刻だが、他社ではまだそれほどでもないという状況の中で、BCPを発動していかなければいけない点に注意が必要である。
また、他の企業の従業員やお客様に感染させてしまうリスクを踏まえると、様々なイベントや移動、ミーティング等、営業を自粛しなければならないため、優先業務の絞り込みは、そのあたりの事情も勘案して判断していく必要がある。在宅等での業務容易性や代替可能性等も考慮が必要であり、BCPで一般的に行われる事業インパクト分析(BIA)に基づく優先業務の絞り込みだけではうまくいかないことにも注意が必要である。
③人員のやりくり…今後感染者が増えるにつれ、会社内で濃厚接触者に特定される人も多くなり、さらに職場の欠席率は上がっていく。2月27日に従業員のコロナウイルスをリリースした三菱UFJ銀行江南支店(愛知県)は、支店40人のうち10人が濃厚接触者に特定され、自宅待機を余儀なくされた。同行では名古屋支店から同規模の補充人員を行い営業を再開しているが、今後濃厚接触者が増えていけばこのように理想的な人員補充を行うことは難しくなるだろう。OB・OGの活用やクロストレーニング(仕事を交代し、他の人の業務もできるようになるトレーニング)を視野に入れ、人員40%減に備えてほしい。
感染症の場合は、人員のやりくりについても、感染による欠員の長期化や、逆に人員過剰の状況(人はいるが仕事がない)に陥る可能性が高い。今回のような新型の感染症の場合は、感染に関する恐怖から、接客業の店舗では長期休暇を取ったり、退職を考えたりする従業員も出てくる可能性もある。感染者以外にも更に人員が確保できないリスクがあることを念頭に置いておくことが重要だ。
人員のやりくりをする上では、企業としての感染症予防対策や、感染リスクを低減することで、従業員が過度の不安を抱えながら仕事をしなければいけない不安を払拭しておく必要がある。
また、人材確保が困難になるリスクがあることとの裏返しとして、体調不良を訴えた従業員に出勤や勤務を無理強いさせるようなマネジメントや指示が出されないように注意しなければならない。従業員の側も、少し体調が悪くても、「こんなことで休んでいられない」「お客様に迷惑がかかる」「上司からの評価が落ちる」などの理由で、頑張って出勤・勤務する社員も少なからず存在する。
もし体調不良が感染症によるものであれば、無理して勤務させたり、出勤させたりすることが、他の従業員やお客様にも感染させるリスクがあり、余計に迷惑をかける事態を招きかねないことを、従業員に周知し、勤務ルールを明確にすることが必要だ。「体調不良の従業員には勤務させない・勤務しない」という方針を会社の方針として明確に打ち出すことが重要である。
④過重労働・メンタル…休みの人が増えれば、当然残っている人に業務が集中する。まずは勤務時間の管理をしっかりする、日ごろの声掛けやコミュニケーションを大切にし、心の不調者が出ないようにするなどの基本を徹底する必要がある。ほかにもひと月あたりの残業が80時間を超えた場合は産業医による面談を必須にする、メンタルヘルスの窓口を設けるなど、平時以上に気を使う必要があるだろう。
また、今回は「学校の閉鎖」も政府から要請され、各地で小中学校などの閉鎖が実施されている。小さな子供を抱える従業員にとってはたとえ会社での業務が通常どおりであっても、家庭内での仕事が増加していることが予想される。こちらも、平時以上に神経を使いながら対応してかなければいけない事柄だろう。
子どもを会社に連れていくことができる会社であっても、会社で他の方に迷惑をかけないかとか、ことあるごとに子どもの様子が気になるとか、従業員にも様々な気苦労があり、ストレスをためてしまう事情もあることにご注意いただきたい。その意味でもメンタルケアが重要である。
⑤サプライチェーンとの連携…自社だけでなく、業務を取り巻くサプライチェーンにも同様の事象は発生している。いかにして限られた人員の中で最大限の効果を発揮することができるのか、過去に作成したBCPをもとに協議や連絡会を始めることが望まれる。
一方で、サプライチェーン先に、感染症を感染させないような配慮も必要になる。この点においても、サプライチェーンの維持・確保を主眼におけばよい災害型のBCPとは差異があることに注意が必要である。
今回の感染症対策を未来に生かすために
政府の基本方針では、当面2週間程度の対応を要請しているが、事態はそれ以降も継続する可能性が高い。繰り返すが、SARSの場合には2002年の11月16日から始まり、WHOの終息宣言が発せられたのは翌年7月5日だ。当時の中国政府の対策が遅かったことも原因の一つだが、感染症対策は政府の基本方針によって大きく左右し、長期化することもあるという事例の1つだろう。
今回の新型コロナウイルス対策では、台湾政府が国内に感染者のいない1月15日に「法廷感染症」に定めるなど、早めの感染症対策を実施することで拡大を阻止している。実は台湾の蔡英文総督は2003年のSARS対策で中国との問題をはじめ非常に苦労した経験を持つという。過去の経験を、今回の対策に生かした例だ。今は対策を急ぐ時ではあるが、今回の経験を次回への教訓につなげるために、対策本部では毎日どのような報道があって自社がどのような対策を行ってきたかという「対策の記録」をきちんと取っておきたい。
(5月11日投稿)
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