【緊急レポート】新型コロナウイルス影響下の株主総会:バーチャル株主総会他~6月3日補足版
2020.06.031.はじめに
新型コロナウイルス影響下の株主総会については、これまで2度にわたり、論考を公開してきた。3月11日版では、消毒作業等により株主総会会場が使えなくなるリスクを指摘したが、その後、緊急事態宣言が発出・延長される中で、ホテル等の営業自粛により、実際に5月に株主総会を行った企業については、会場変更を余儀なくされた企業が少なからずあった。
6月に株主総会を予定していた企業については、相当数の企業が、すでに継続会の開催を表明している。新型コロナウイルスの影響による監査法人による会計監査の遅れや、5月末まで緊急事態宣言が延長され、在宅勤務等の事情もあって実質的に株主総会の準備が間に合わないことから、継続会の開催も理解できるところであり、前回の論考では、継続会開催に関する指針を取り上げた。
一方で、新型コロナウイルスを受けて、バーチャル株主総会の開催も注目を浴びており、国内でも、積極的にバーチャル株主総会を開催する企業が出始めている。そこで、今回は、バーチャル株主総会開催におけるリスクについて、経済産業省のガイドライン等も踏まえて整理していきたい。
2.バーチャル株主総会の態様
経済産業省は、2020年2月6日、「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイドライン」(以下、実施ガイドライン)を公表した。そこでは、バーチャル株主総会について、「バーチャルオンリー型」、「ハイブリッド出席型」、「ハイブリッド参加型」の3つの類型が紹介されている。
日本では、会場を物理的に定めて、株主が当該会場に参集して行う株主総会(リアル株主総会)の開催が必須であることから、実質的には、現時点で「バーチャルオンリー型」の株主総会は開催できないが、「ハイブリッド出席型」と「ハイブリッド参加型」はそれぞれ開催が可能であるとされる。
「ハイブリッド出席型」は、その名のごとく、株主が、株主総会の会場に行かずに、インターネットを使って参加する株主が、その場で議決権行使が可能であり、法的に株主総会への「出席」とみなされる形態をいう。一方、「ハイブリッド参加型」は、インターネット経由でアクセスする株主は、議決権を行使したい場合は、事前に書面等で議決権を行使しておき、当日は、インターネットを通じて議決権の行使はできず、いわば株主総会のライブ中継を視聴しながら参加するものである。この「参加型」と「インターネット配信」の違いは、インターネット配信はインターネットで株主総会のライブ中継を視聴するものであるのに対して、「参加型」はその場でチャット機能等を使って「コメント」を発することができるものである。「参加型」は、法的には株主総会に出席しているとは認められないため、議案等に関して「質問」をすることはできない為、この質問に準じる発言を経済産業省の実施ガイドでは「コメント」と呼び区別している(詳細は、経済産業省の実務ガイドの策定にもかかわった弁護士らによる「バーチャル株主総会の実務」(澤口実編著、近澤諒・本井豊著、商事法務刊)に記載されている。本稿においても、適宜、上記書籍から引用等を行う)。
3.ハイブリッド出席型とハイブリッド参加型の課題について
「ハイブリッド出席型」の株主総会についても、「バーチャルオンリー」とは異なり、株主総会の会場が物理的に設置される(「ハイブリッド参加型」についても同様に、物理的に株主総会会場の設置が必要である)。したがって、形態としては、株主総会会場に来場してリアルの株主総会に参加する一方で、会場に来られない(行かないことを選択した)株主が、インターネットで「出席」するものである。
但し、上記の「バーチャル株主総会の実務」では、この「ハイブリット出席型」を実現するための情報システムに関して、次のような指摘がなされている。
- インターネット等を通じたリアルタイムの議決権行使を伴うことから、対応したシステムが必要になるが、2020年3月時点で、上場企業にとって利用可能なシステムが提供されていない
- インターネット等を通じてアクセスする株主が一定数以上の会社では、事前の議決権行使などともデータ連動が必要であるが、これに対応したシステム・サービスの開発には時間が必要である
一方、「ハイブリット参加型」については、法的に株主総会への出席とされていないことから、「出席型」のシステム面における課題とされているリアルタイムの議決権行使への対応等は不要であり、株主から発せられる発言も「質問」ではなく、「コメント」とされているためその全てについて取締役等の回答(説明)義務はなく、取捨選択して回答すればよいとされる。
また、「参加型」では、リアルの株主総会に出席しない以上、株主は、書面による議決権行使等により、事前に議決権も行使していることから、システムバグ等により、バーチャル株主総会において議決権が行使できないという事態にも陥らないことから、運用のハードルはそれほど高くない。そのため、国内でも、このバーチャル株主総会を開催している企業も、この「ハイブリット参加型」の株主総会を開催している。
し、そもそも、経済産業省の実施ガイドラインでは、「コメント」の受付を必須の条件としておらず、株主総会のライブ配信とどう違うのか、非常にあいまいである。
本年の株主総会については、新型コロナウイルス対策の観点から、バーチャル株主総会に注目が集まっている。確かに、株主総会会場に多くの株主が殺到し、会場内が「密」になることを避ける観点から言えば、株主が自宅等から株主総会に参加しうる「ハイブリッド参加型」については、一定の意義がありうるところである。
しかし、国内ではまだ実施例が少ないため評価が難しいにしても、また、実際には「バーチャル株主総会」なるものが珍しいため、どんなものかと最初は参加してみる株主が一定数いるかもしれないが、事前に議決権は書面等で行使しながら、株主総会当日にわざわざ時間を割いてインターネットで「参加」する株主がどの程度いるのであろうか。単に株主総会の様子を見たい、議長である社長が何を話すのかを聞きたいということであれば、株主総会のインターネット配信でこと足りるとも思われる。
「ハイブリッド参加型」はリスクも比較的少なく、運営も良いとはされるが、コメントを受け付けたり、リアルタイムでそれを確認できるようなシステムを活用するとなれば、相応の対応手順の整備やシステム的な検討・強化が重要になってくる。
仮に、本年の総会において、それが可能なシステムを導入するとして、リハーサル等で、一斉にコメント等が殺到する場合のシステム的な動作状況や、議長・事務局の対応についてもリハーサル等で確認していくことが求められる。法的に「出席」ではないから、当日何かあっても仕方ないというような意気込みで臨むのであれば、それはかえって株主に対して失礼であり、企業として、株主に向き合う姿勢が問われかねないことに注意が必要である。
なお、前掲書籍の「バーチャル株主総会の実務」では、「コロナ対策となるか」について、「本来、バーチャル株主総会は株主総会への出席者を減らすことを意図した手法ではなく、ハイブリッド型バーチャル株主総会も、リアル株主総会の出席者をバーチャル株主総会に誘導することを意図した制度ではない。現時点では、特殊な事情に基づき、感染症の拡大防止策としても利用できないか、一時的に検討しているに過ぎない。その意味で本来の制度目的とは異なる、いわばねじれた検討をしている点には留意が必要である」としている。
また、「バーチャル株主総会を実施しても、バーチャルでの出席者・参加者が急増するといったこと自体もあまり期待できないことから、この制度の採用により、リアル株主総会の出席者が大きく減少するといった期待もできない」と、そもそものバーチャル株主総会の限界を明示している。
4.今後の株主総会を見据えたバーチャル株主総会
さて、バーチャル株主総会の形態や運営上の課題について簡単に整理してきたが、今後、バーチャル株主総会の導入も進んでくるであろうことを見越して、現時点でのバーチャル株主総会開催に関するリスクや懸念事項を考察しておきたい。
(1)議事進行上の差異に関する懸念
2020年3月に、国内のある企業が、「ハイブリッド出席型バーチャル株主総会」を開催した。この企業の株主総会招集通知には「インターネット出席に関する株主通知事項」が詳細に記載されている。同社に限らず、経済産業省の実施ガイドラインでは、「ハイブリッド出席型バーチャル株主総会」は、リアルの株主総会が開催されていることを前提に、追加的な出席手段を追加しているに過ぎないという建前に立ち、代理出席や動議の提出、質問の回数や文字数については、リアルの株主総会に出席した株主との差を設けることができるというロジックに立っている。簡単に言えば、リアルの株主総会は開催しなければいけない以上、そこに出席できる権利を株主自ら放棄して、追加的な出席方法である「ハイブリッド出席型バーチャル株主総会」への出席を選択した以上、本来の会議体であるリアルの株主総会で認められることは、一定程度制限出来て当然というスタンスと解釈できる。
まだまだ国内では、「ハイブリッド出席型バーチャル株主総会」を実施できるシステム・サービスが普及していないこともあり、開催例が少なく、まして新しい取り組みであるため、裁判例もないため、実際に上記のロジック・解釈が妥当性を有しているのか分からないし、私は法律の専門家でもないので、その合理性の判断・説明はできないが、同じ時間に開催されている会議体に、現地で出席している人と、インターネット経由で出席している人で大きな差異があるというのは、大きな違和感を覚える。
予め、招集通知において、現地出席とインターネット出席とで取り扱いが異なることを事前に告知しており、それを踏まえて、株主自らの責任において、インターネット出席を選んだのだからという自己責任論で上記のロジックを補強・正当化する立論であるのかもしれない。しかし、それであれば、何のための「ハイブリッド出席型」なのか、その制度目的や概念自体の存在意義に疑問を感じてしまう。
場所が離れていても、遠隔からリアルタイムで音声や動画を使って、会議に参加できることが、インターネットを利用した会議システムのメリットであり、存在意義のはずである。そのシステムを使えば、場所のへだたりなく、関係者が同じ会議参加して、平等に議論できるというのが、インターネットを使った会議システムの本来の存在意義であるとするならば、何ゆえに、インターネット出席の場合だけが動議や質問を制限が当然の前提として制限されるのか、今ひとつその根拠が分からない。
実施ガイドラインでは、制限の理由として、インターネット出席の場合は長文の質問をいくつも送信できるとか、何度も動議を出せる等が書かれているが、これはチャット等の文字ベースのシステムを前提としていることや運用の問題とも考えられる。実施例が多くないことから、机上の分析になるのはやむを得ないにしても、なんとなく、株主総会を円滑に進めるために、制限ありきで考えることが前提にあるのではないかと感じるのは私だけだろうか。
(2)通信障害への対応
経済産業省の実施ガイドラインでは、「ハイブリッド出席型バーチャル株主総会」に関して、「会社が通信障害のリスクを事前に株主に告知しており、かつ、通信障害の防止のために合理的な対策をとっていた場合には、通信障害により株主が審議又は決議に参加できなかったとしても、決議取消事由には当たらない」としている。
「参加型」であれば、株主総会の当日までに、書面投票等にて議決権を行使しているから、議決権を行使できないという事態は回避できるため、さほど大きな問題とはならない。
上記の経済産業省の見解は、裁判所の解釈ではなく、あくまで、バーチャル株主総会の開催に向けた実施ガイドの作成を主管する省庁の解釈であるため、どこまで合理性のある解釈なのかは分からないが、通常の株主総会においても、株主の議決権行使の機会を担保するため、議場から株主を退場させる場合、何度も警告を繰り返すなど、より慎重な運用を行うのが、一般的である。株主総会の意義を考えても、軽々に株主の議決権行使の機会が害されることはあってはならないであろう。また、株主との対話を促進するのであれば、機関投資家や大株主だけではなく、個人株主の株主総会における質問の機会、そしてそれに対する会社側の相応の説明も担保される方向で、制度が組み立てられるべきだろう。
実施ガイドのスタンスは、通信障害のリスク告知については、(1)同様、リスクを告知してある以上、それを踏まえて、選択肢の中から判断したのは株主自身であり最終的にはか株主の自己責任でありということと理解できるが、上記のように通常の株主総会においては、株主の議決権行使の機会の確保に最大限の留意していることを考えると、「通信障害の防止のために合理的な対策をとっていた場合」の内容をもっと明確にするべきであろう。
株主が自らインターネット出席を選んだという自己責任論を根拠とした立論も理解できなくはないが、インターネットを利用する以上、通信障害はつきものであるし、株主総会の集中日等に似たような時間帯で各社がバーチャル総会等を一斉に行えば、通信量が増大し、通信障害・遅延が起こりやすくなるリスクは、十分に想定できる上、株主総会が会社としての重要なイベントであることや、上場企業として、会社の判断で多数の株主に対して、そのようなリスクのあるツールの利用を推奨する以上、会社側の免責が簡単に認められるような運用は避けるべきであろう。
特にバーチャル株主総会、特に「出席型」を開催するためのシステムは、まだまだ普及してない為、そのための合理的な基準や技術水準が定まっていない。また、実際にリリースされたシステムを利用する場合も、導入初期には様々なバグやアクシデントがつきものであることから、実際にそれを使って株主総会を行う企業は、様々なリスク想定を行い、法的な部分の検証も含めた準備を進めておくべきだ。
なお、このようなシステム利用に伴うリスクの想定においては、他社のシステムを使う場合、バグの原因が自社ではなかなか解明できず、障害の解消についても開発元や通信会社の対応に頼らざるを得ず、相応の時間と手間が新たに発生することを前提とした対策が必要である。会社の重要なイベント、しかも法的な権利に絡むイベントである株主総会に利用する以上、他社のシステムを使っていてバグが起きたとしても、そもそもの責任は、企業側にあることを忘れてはならない。
新型コロナウイルス対策として在宅勤務を採用した企業においては、様々なWEB会議システムを活用したことと思うが、各企業において、これらのWEB会議システムを利用した社内のコミュニケーションにおいても通信障害や遅延等種々の問題が発生したはずだ。株主総会の場合は、リアルタイムで、かなり多くの株主がアクセスして、質問等を行う以上、システムバグのリスクは高まる可能性があることを念頭においておく必要がある。
(3)議事進行上の注意点
「ハイブリッド出席型バーチャル株主総会」を行う上で、議事進行上留意しておくべきは、株主側の通信回線等の事情も考慮した「通信速度のばらつき」への対応であろう。
「出席型」の場合、インターネット出席した株主は、会場にはおらず、それぞれの通信環境を使って素株主総会に参加・出席することになるため、会場に来場した株主やインターネットで参加しているそれぞれの株主間で、情報の伝わる速度に差が出てくることになる。質疑の有無の確認等において、通信による時間差を含めて、どのぐらいの時間(「間」)を取るのか、特に説明義務の生じる議案に関係する質問等については、時間を踏まえて、株主側が質問があるのに、質問の前に打ち切られたということがないように、どのように確認を取るか、通信遅延を踏まえたシナリオを検討しておく必要がある。
議決権の行使においても、リアルタイムとはいえ、反映されるまでには各株主間の時間差を踏まえた、集計となることから、リアルの総会のようにすぐに賛否が分かる前提でのシナリオではリスクが高い。実務上は、出席型のバーチャル総会を開催する場合は、事前に十分なリハーサル等を行うことをお勧めする。リハ―サルにおいては、株主役の社員を少し多めに動員し、無線LANなども利用した前提で、議決権行使の部分の集計訓練も行っておくことが望ましい。
議事進行上の注意点としては、もう一つ、事務局との連携がとりにくくなるリスクについても対応が必要である。国内においても、株主総会の会場は設置しつつも、各役員が自宅や別室からWEBで参加する形式のバーチャル型総会を実施している企業がある。この場合、質問に対する回答も、役員等がWEBシステムを使って行うことになりたるため、自部局からの注意や事務局との連携が適切に行われるか、強い懸念がある。想定問答の範囲で答えられるものであればよいが、インサイダーやフェアディスクロージャールールに当たりうる質問の場合、どの範囲で答えるか、どのように答えるか等、慎重に慎重を期して、事務局や弁護士に確認をしながら回答しなければいけないケースもある。しかし、インターネットで各役員が参加している場合、会場と繋がれた端末以外に事務局や他の役員と相談等できる手段・ツールがあれば、問題ないが、そのようなものがない場合、会場にいれば、事務局が即座に注意や指示等できることができずに、適切ではない回答をしてしまうリスクもある。回答に際して適宜確認したり、相談したりというケースも決して少ないが、回答側が一堂に会さず、個々人でインターネットを通じて答弁を行う形式は、業績が順調な場合等は問題なくても、業績悪化や不祥事関連の答弁・対応が必要になる場合等は、インターネットで役員等が参加する形態が仇になる可能性があることに注意が必要である。
当社のセミナーやコンサルティングの際にも常々話をしているが、事務局は、株主総会においては、議長の右腕として、あるいは総会全体の統括的役割として機能することが重要となる。事務局との連携がスムーズに行えなかったり、事務局が必要な時に対処できないようでは、総会運営に支障をきたしかねない。株主のみが遠隔からインターネットで出席が可能で、役員や事務局は会場に集結・集約されているのであれば、通常の総会の延長線上で対応していけば問題ないが、役員も会場外から遠隔で参加する形態のバーチャル総会を行う企業においては、事務局がスムーズに連携できないことによるリスクがあることを十分に認識しておくべきある。
私としては、株主総会の会場を物理的に設置しなければいけない現行の会社法の前提でバーチャル総会を行う場合、会場内に役員や事務局を集約して、事務局が適時適切に機動的かつ迅速に議長や役員等と連携できる体制にて実施することをお勧めしたい。
5.バーチャル株主総会以外の視点
さて、本稿(「新型コロナウイルス感染症影響下の株主総会」)も3月初旬に公表した考察と5月半ばに公表した更新版と併せて、3回目となる。この間、緊急事態宣言の発出や解除等、社会情勢も大きく動いた。
もちろん、緊急事態宣言が明けたと言って、新型コロナウイルス感染症のリスクが全くなくなったわけではなく、6月以降に開催する株主総会についても、新型コロナウイルス対策が必要であることは変わらない。その意味では、株主総会の担当部門、担当者が新型コロナウイルス対策を視野に入れた準備が必要であることは間違いない。
すでに3回にわたる本稿でも紹介してきた通り、この間、新型コロナウイルスを踏まえた株主総会対応について、経済産業省や法務省の見解(継続会の開催に関するものも含めて)も提示されてきたことは、すでに紹介した通りである。
ところで、6月に株主総会を開く企業の中では、一般株主の入場を認めず、役員のみが参加した形で株主総会を開催することを公表している企業もある。このような企業においては、7月以降に株主総会の開催を延期せず、6月に実施する前提で準備をすすめてきたものの主要な準備期間である4月~5月の時期の大半が緊急事態宣言による在宅勤務等を余儀なくされた為、準備の関係でそのような判断をしたものと思われる。緊急事態宣言下において、出社等で作業を進めさせるリスクを考えれば、そのような判断も理解できなくはない。
しかし、株主総会の危機管理を考える上では、緊急事態宣言が発出されていた4月、5月と、緊急事態宣言が解除された6月とでは状況が異なることを看過してはならない。
緊急事態宣言下であれば、一般株主の感染リスクを最優先して一般株主を入場させない等の判断は危機管理の観点からも合理性を有しているが、感染が拡大していた3月ですら、感染予防対策を行った上で、一般株主が参加できる株主総会を開催していた企業が多数あったこととの比較で考えても、6月の方が感染リスクやクラスター発生のリスクは低く(アメリカ等の研究では、高温多湿の状況下では新型コロナウイルスが不活性化するという発表もなされていることからも)、リスク判断として、6月に開催する株主総会において、一般株主の入場を認めない形式の株主総会を開催することが適切なのかについては、危機管理上も疑問と言わざるを得ない。
6月に株主総会を開催するのであれば、感染拡大防止策を講じ、書面投票や電子投票など、活用できる制度を案内したうえで、出席を希望される株主が株主総会に出席できる環境を整えた上で、開催すべきであろう。
今回考察したバーチャル総会も含めて、株主が株主総会に出席したり、株主総会で質問・動議等を提出したりすることを阻害する意図がどこかにあるとすれば、それはかえって、時代の流れや本来あるべき株主総会の姿とは大きく異なる懸念があることを、指摘しておきたい。そのような株主の健康への配慮を大義名分にして、株主総会での株主との対話を回避するような企業姿勢は、かえって、株主から追及されることを認識しておかなければならない。
新型コロナウイルス感染症対策は必要だが、緊急事態宣言が解除されたことも踏まえて、社会情勢やリスクの際に着目した判断、準備・対策が必要である。
以上