SPNの眼

「パタニティハラスメント(パタハラ)」をご存じですか?法制化もされています! (1)

2021.04.05
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総合研究部 主任研究員 安藤未生

※本稿は4月・5月の2か月連続掲載記事です。

ビジネスマンと主婦

1.「パタニティハラスメント」(略称「パタハラ」)とは

本稿のタイトルにある「パタニティハラスメント」(略称「パタハラ」)とは、「父性」を意味する「パタニティ(paternity)」と、「嫌がらせ」や「いじめ」を意味する「ハラスメント(harassment)」を組み合わせたものです。

一般的には、育児休業などの子の養育に関する制度・措置の利用を申出・取得した男性の労働者が、上司や同僚から嫌がらせやいじめを受けることを指します。

典型的な例としては、「男性の労働者が育児休業の取得を希望し、上司に相談したところ、上司から『男のくせに育児休業を取るなんて有り得ない』と言われ、育児休業の取得を諦めざるを得ない状況になった」ケースです。

「マタニティハラスメント」(略称「マタハラ」)が「母性」を意味する「マタニティ(maternity)」と「ハラスメント(harassment)」を組みわせたものなので、マタニティハラスメントとパタニティハラスメントはともに育児参加や仕事と家庭の両立に関するハラスメントと言えるでしょう。

また、上記の典型的な例の「男のくせに育児休業を取るなんて有り得ない」という上司の発言のように、パタニティハラスメントの背景には「男は働き、女は家事育児をする」というジェンダーバイアス(男女の役割についての固定観念)があると言えます。これはマタニティハラスメントについても同様です。

パワーハラスメント、セクシュアルハラスメント、マタニティハラスメントは一般的に「職場の三大ハラスメント」などと呼ばれ、ハラスメントの代表格として扱われていますが、パタニティハラスメントもこの職場の三大ハラスメントとともに、事業主に防止措置を講じることが法律で義務付けられています。詳しくは次号(5月号)の「5.法令や国の指針におけるパタニティハラスメントとは」及び「6.パタニティハラスメント防止のために事業主に課せられた義務」の項でご紹介します。

2.パタニティハラスメントの背景にあるジェンダーの問題

(1)組織もジェンダー平等の立場を表明し、さらに実態が伴わないと批判に晒される

パタニティハラスメントやマタニティハラスメントの背景にあるジェンダーバイアスに関連して、最近大きな騒動がありました。

2021年2月に公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(以下、「大会組織委員会」といいます。)の森喜朗会長(当時)が「女性理事を選ぶっていうのは文科省がうるさく言うんです。だけど、女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」と発言し、「すべての個人はいかなる種類の差別も受けることなく」と定めたオリンピック憲章や東京大会のビジョンの「多様性と調和」に反するということで、日本国内のみならず世界中から非難を浴びました。

その際に、海外メディアから「男女格差を示す世界経済フォーラムのジェンダーギャップ指数の2020年の順位で、日本が153カ国中121位」と指摘され、日本がジェンダー不平等の国であると世界中に認知されました。(その後、2021年3月31日に発表された順位では、156カ国中120位でした。)

さらに、非難の矛先は大会組織委員会にとどまらず、政府、東京都、スポンサー企業にも国民・消費者から「森会長を辞めさせろ」などの抗議があり、企業もジェンダー平等の立場を表明しないとクレームに晒される事態も発生しました。

この一連の騒動は、組織の長自らが、その組織の理念など対外的に表明している内容に反する発言をしたことに端を発しましたが、これは大会組織委員会に限らず、他の組織にも起こり得えます。

【組織が「ジェンダー平等」の立場を表明する例】

  • 経営理念や行動指針など
    「ダイバーシティ(多様性)」「インクルージョン(包摂・受容)」やこれらを彷彿とさせる内容が掲げられている企業もあるでしょう。
  • 女性の職業生活の推進:一般事業主行動計画、「えるぼし」認定、「プラチナえるぼし」認定
    「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(平成27年法律第64号)」(以下、「女性活躍推進法」といいます。)により、常時雇用する労働者が301人以上(2022年4月1日以降は101人以上)の事業主に一般事業主行動計画の策定・届出義務及び自社の女性活躍に関する情報公表の義務が課されています。
    さらに、女性活躍推進法には女性の活躍推進に関する状況等が優良な事業主に対する認定制度「えるぼし」があり、2020年6月1日には「えるぼし」よりも水準の高い特例認定制度「プラチナえるぼし」が施行されました。
  • 男女の仕事と育児の両立:一般事業主行動計画、「くるみん」認定、「プラチナくるみん」認定
    「次世代育成支援対策推進法(平成15年法律第120号)」により、常時雇用する労働者が101人以上の事業主に一般事業主行動計画の策定・届出・公表義務が課されています。
    優良な事業主に対する認定制度「くるみん」と特例認定制度「プラチナくるみん」も設けられています。

表向きには「性別などに関わらず多様な人材を活用します」「多様な働き方の下であらゆる人材が能力を発揮し、やりがいを感じる会社です」などと表明して、行動計画で目標を掲げ、国から優良企業だとお墨付きをもらって(認定を受けて)いたとしても、矛盾する実態(パタニティハラスメントやマタニティハラスメント、事実上女性が重要な意思決定に参画していないなど)が明るみになれば、消費者からのクレームや社会的な批判は免れないでしょう。

さらに、「ESG投資(環境・社会・ガバナンス要素も考慮した投資)」や「SDGs(持続可能な開発目標)」にもジェンダー平等が盛り込まれていることにも留意が必要です。

(2)ジェンダー平等が達成すれば女性だけが良い思いをする?

前述の大会組織委員会の騒動は、男性社会の中で確固たる地位を築いてきた男性が、女性が意思決定の場に参加することを敬遠するような発言をしたことに端を発したためか、ジェンダーバイアスを持った男性に批判が集中する構図で展開していたように見受けられました。

「ジェンダー不平等」と言われると、「政治・経済の重要な意思決定に女性が参加できず、女性の立場に立った社会が形成されない」「男女の賃金格差が存在し、女性の賃金が低い」などを想像される方も多いかと思いますし、これは社会が抱える深刻な問題であることは言うまでもありません。

ただ、忘れてはならないのは、平等が達成されれば女性だけが良い思いをするのではなく、男性も「男はこうあるべき」という束縛から解放されることです。その例として、子供と一緒に過ごす時間が挙げられますので、「3.「親子が一緒に過ごす時間」は少ない!特に「父と子の時間」は少ない!」の項で説明します。

また、ハラスメントの問題に置き換えて考えてみると、パタニティハラスメントとマタニティハラスメントは切っても切れない関係にあると考えます。

例えば、ある女性労働者が上司や同僚からマタニティハラスメントを受け、育児休業や育児短時間勤務などの制度の利用を諦めたとします。

そこで夫が制度を利用することにしたものの、今度は夫がパタニティハラスメントを受けてしまうということも十分に考えられます。その場合、夫婦どちらかがハラスメントと果敢に闘うか、ハラスメントに耐えながら仕事をするか、退職して転職先を探すか、働くことを諦めて家事育児に専念するか…などの選択を迫られることになります。退職となれば組織にとっては人材の流出に他なりません。

育児休業や育児短時間勤務などの制度を利用している労働者に対して「制度を利用しすぎているので周りにしわ寄せがきて迷惑」「パートナーにやってもらえないのか」と思う人がいたとしたら、その人には制度を利用している本人だけでなくそのパートナーもハラスメントを受けていて、やむなく夫婦の一方が家事育児をしているかもしれないということにも思いを馳せていただければと思います。

なお、男女格差を示す世界経済フォーラムのジェンダーギャップ指数の順位で、(2021年3月31日に発表された最新の結果を含めて)12年連続1位を獲得している国があります。北欧のアイスランドです。

以下のアイスランド大使のインタビュー記事によると、アイスランドでは父親も参加する育休制度をいち早く導入したことが男女平等を達成する秘訣の一つとのことです。

【男女平等「世界一」の秘訣は 両親育休やクオータ制―アイスランド大使に聞く】

「アイスランドのジェンダー平等の向上にとても重要だった」と大使が話すのは、2000年に父親も参加する育休制度をいち早く導入したことだ。育児は母親の役割という「無意識下の偏見」が取り除かれた。今年から制度が拡充され、育休期間は母親6カ月、父親6カ月、父母共有6週間。その間の給与の8割は政府が支給する。

男性の育休取得率は7割を超え、大使は「今では社会の一部。企業も従業員を採用する際、男性も女性も育休を取ることを前提とするようになった」と説明。「父親がもっと子供と一緒にいたいと考えるようになったことを示す報告もある。子育てにより責任を持つことで、親子共により幸せを感じることができる」と効果を語った。

(2021年03月08日時事ドットコムより引用、太字による強調は引用者による)

3.「親子が一緒に過ごす時間」は少ない!特に「父と子の時間」は少ない!

親子が一緒にいた時間について、総務省の「平成28年社会生活基本調査―詳細行動分類による生活時間に関する結果―」によると、週全体平均(平日、土曜日、日曜日の曜日別結果の平均)では、以下のとおり6歳未満の子供を持つ夫婦間では、夫が子供と一緒にいた時間(4時間7分)は、妻が子供と一緒にいた時間(10時間50分)の半分にも満たないことが分かります。

また、「1.6歳未満の子供を持つ夫・妻の子供と一緒にいた時間」と「2.在学者が家族と一緒にいた時間」を比較すると、夫婦(父母)ともに2.が1.の半分にも満たないことも分かります。

  1. 6歳未満の子供を持つ夫・妻の子供と一緒にいた時間(週全体平均)
    • 夫:4時間7分
    • 妻:10時間50分
  2. 在学者(※)が家族と一緒にいた時間(在学者総数平均、週全体平均)
    • 父:2時間3分
    • 母:3時間37分
      (※)10歳以上で小学、中学、高校、短大・高専、大学、大学院、専門学校などの学校に在学している者

6歳未満の子供を持つ夫・妻の子供と一緒にいた時間の調査結果を表すグラフ。総務省「平成28年社会生活基本調査―詳細行動分類による生活時間に関する結果―」より

在学者が家族と一緒にいた時間の州全体平均を表すグラフ。総務省「平成28年社会生活基本調査―詳細行動分類による生活時間に関する結果―」より

さて、上記の調査結果を基に、「子供が生まれてから独立するまでの間に親子が一緒に過ごす時間」を計算してみるとどうなるでしょうか。

非常に大雑把な計算方法ではありますが、子供が0歳~5歳までの6年間については上記①のデータ、4年制の大学を卒業する年齢である22歳で親元から独立すると仮定して6歳~22歳の17年間については上記②のデータを使用して計算してみると、以下のとおり、父母ともに子供が独立するまでに一緒に過ごす時間は10年にも満たない結果になりました。特に父と子の時間は3年にも満たないのです。

パタニティハラスメントとマタニティハラスメントは、親が子供に直接愛情を注ぐ限られた時間を奪う行為であると言えるでしょう。

子供が生まれてから独立するまでの間に親子が一緒に過ごす時間

  • 父:約2年6か月
  • 母:約5年5か月

(下記1~6の合計、総務省「平成28年社会生活基本調査―詳細行動分類による生活時間に関する結果―」を基に本稿の筆者が計算)

なお、上記の計算過程は以下のとおりです。計算結果を年数と月数で表記するにあたり1月を30日として計算し、1月未満を四捨五入しています。(母の場合は1月未満の端数処理により、下記1~6の合計と上記の約5年5か月との間に1月の差があります。)

  1. 子供が0歳~5歳までの6年間のうち一緒に過ごす時間(上記①の「週全体平均」のデータを使用します。)
    • 父:4時間7分×365日×6年=約1年
    • 母:10時間50分×365日×6年=約2年9か月
  2. 子供が小学校在学中の6年間のうち一緒に過ごす時間(上記②は10歳以上を対象とした調査ですが、6歳~9歳の調査結果がないため、ここでは上記②グラフの「小学」のデータを使用します。)
    • 父:2時間40分×365日×6年=約8か月
    • 母:4時間52分×365日×6年=約1年3か月
  3. 子供が中学校在学中の3年間のうち一緒に過ごす時間(上記②グラフの「中学」のデータを使用します。)
    • 父:2時間9分×365日×3年=約3か月
    • 母:3時間53分×365日×3年=約6か月
  4. 子供が高校在学中の3年間のうち一緒に過ごす時間(上記②グラフの「高校」のデータを使用します。)
    • 父:1時間56分×365日×3年=約3か月
    • 母:3時間19分×365日×3年=約5か月
  5. 子供が大学在学中の4年間のうち一緒に過ごす時間(上記②には大学在学中の調査結果がないため、上記②グラフの「高校」のデータを使用します。)
    • 父:1時間56分×365日×4年=約4か月
    • 母:3時間19分×365日×4年=約7か月

本稿では総務省の調査結果をベースに計算しましたが、ベースとなる時間は各家庭によって様々だと思いますので、ご自身のご家庭の状況をベースに計算してみてください。

4.データで見る、男性の育児参加についての理想と現実

(1)育児休業取得率

厚生労働省の「令和元年度雇用均等基本調査」によると、平成29年10月1日から平成30年9月30日までの1年間に配偶者が出産した男性のうち、令和元年10月1日までに育児休業を開始した者(育児休業の申出をしている者を含む。)の割合は7.48%でした。同調査で女性の場合は83.0%のため、以下のグラフのとおり、男性の育児休業取得率は増加傾向にあるものの、男女差が非常に大きいことが分かります。

育児休業取得率の推移を男女別に表すグラフ。厚生労働省「令和元年度雇用均等基本調査」より

政府は、男性の育児休業取得率の数値目標について、「第4次男女共同参画基本計画(平成27年12月25日閣議決定)」において2020年(令和2年)までに13%、「少子化社会対策大綱(令和2年5月29日閣議決定)」において2025年(令和7年)までに30%を達成することを目標にしています。

令和元年度の調査結果が7.48%ですから、これらの数値目標を達成することは容易ではないでしょう。

そもそも、これらの数値目標は前述のアイスランドの70%超には程遠いものです。(前述のアイスランド大使のインタビュー記事をご参照ください。)

(2)育児休業の取得期間

やや古い調査ですが、厚生労働省の「平成27年度雇用均等基本調査」によると、平成26年4月1日から平成27年3月31日までの1年間に育児休業を終了し、復職した女性の育児休業期間は、「10か月~12か月未満」が31.1%と最も高く、次いで「12か月~18か月未満」の27.6%、「8か月~10か月未満」の12.7%の順でしたが、男性は「5日未満」が56.9%と最も高く、1か月未満が8割を超えていました。

また、日本労働組合総連合会(連合)の「男性の育児等家庭的責任に関する意識調査2020」によると、育児のために育児休業を取得したことがある人の中で、女性は「6か月超1年以内」の47.5%が最も高い一方で、男性は「1週間以内」の49.3%が最も高く、1か月以内が8割を超えていました。

これらの調査結果から、男性は育児休業を取得できたとしても、その期間が女性に比べて非常に短いことが分かります。

育児休業の実際取得日数を数値入力形式で男女別に集計したグラフ。男性は67名、女性は322名が回答。日本労働組合総連合会「男性の育児等家庭的責任に関する意識調査2020」より

(3)仕事と育児についての理想と現在の状況

日本労働組合総連合会(連合)の「男性の育児等家庭的責任に関する意識調査2020」によると、以下のように理想と現在の状況にはギャップがあるようです。

特に男性は「仕事と育児を両立」は理想よりも現在の状況のほうが26.0ポイント低く(理想65.8%、現在の状況39.8%)、「仕事を優先」は理想よりも現在の状況のほうが26.8ポイント高い(理想19.4%、現在の状況46.2%)結果でした。

男性は仕事と育児の両立を理想としつつも、実際に両立することは難しく、仕事を優先する人が多いことが見て取れます。

  1. 全体
    • 理想(仕事と育児を両立させたい):64.4%
    • 現在の状況(実際に両立できている):44.7%
  2. 男性
    • 理想(仕事と育児を両立させたい):65.8%
    • 現在の状況(実際に両立できている):39.8%
  3. 女性
    • 理想(仕事と育児を両立させたい):63.0%
    • 現在の状況(実際に両立できている):49.6%

仕事と育児についての理想と現在の状況について、男女各500名が仕事を優先・育児を優先・仕事と育児を両立・わからないの4択単一回答方式で回答し、男女別に集計したグラフ。日本労働組合総連合会「男性の育児等家庭的責任に関する意識調査2020」より

(4)制度の認知状況

日本労働組合総連合会(連合)の「男性の育児等家庭的責任に関する意識調査2020」によると、「自身の勤め先には育児休業があるか」という問いに対して、男女の回答で「ある」は64.5%、「ない」は21.2%、「わからない」は14.3%で、「ない」「わからない」合計すると35.5%でした。

男性は約4人に1人(24.2%)が「ない」と回答しています。「ない」「わからない」を合計すると男性の場合は39.2%にも及びます。

育児休業は、男女ともに法律に定められた要件を満たせば当然に取得が認められるものですが、勤め先に「制度がない」と思っている人や、「制度の有無がわからない」人が少なくないようです。

自身の勤め先には育児休業があるか、男女各500名が単一回答形式である・ない・わからないで回答した結果のグラフ。日本労働組合総連合会「男性の育児等家庭的責任に関する意識調査2020」より

※次号(5月号)では法令や国の指針、事業者への措置義務について解説します。

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