SPNの眼
執行役員(総合研究部担当) 主席研究員 西尾 晋
いわゆる企業不祥事が後を絶たないが、当社でもこれまで、企業で事案が不祥事に発展しシビアな危機管理対策が求められる局面で、多くの企業の緊急事態対応を支援してきた。
企業不祥事に発展した場合、事態の発生により、ただでさえ当該企業に対する信用が失墜している状況だが、ここでの対応を間違えると、火に油を注ぐかのごとく当該企業の信用は更に失墜する事態を招く。企業不祥事が発展した場合に、ピンチをチャンスに変えるかピンチを致命傷にするかは、正にその時の危機管理、すなわち緊急事態対応にかかっている。
当社では、こまでの緊急事態対応に基づく危機管理ノウハウや実務の勘所を既に当社書籍「企業不祥事の緊急事態対応『超』実践ハンドブック」(当社総合研究室著・レクシスネクシスジャパン刊)(以下、「実践ハンドブック」)に纏め詳しく紹介しているが、この書籍については、現在、出版社の都合により当社での直販のみ(書店等では購入できない)となっていることから、いざというときに参照いただくことも難しい。
▼企業不祥事の緊急事態対応「超」実践ハンドブック
※直販のみですので、ご購入希望の方は、弊社の担当者までご連絡ください。
そこで、今回は、企業不祥事発生時の緊急事態対応の勘所について、本稿で簡単に紹介しておきたい。なお、実務の詳細は、当社の緊急事態対応のエキスパートが9月に連続セミナーの形で、概要をご紹介できる機会を現在企画している。ご興味のある方は、ぜひその機会の参加いただきたい。
1.危機管理力の真価が問われる企業不祥事への対応
まず、企業不祥事発生時の緊急事態対応の重要性を改めて解説しておきたい。実践ハンドブックでは、次のように書いた。
- 不祥事が発生したこと自体、企業にとっては大きなマイナスイメージとなるが、発生した不祥事への対応を間違えると、マイナスイメージはさらに増幅される。逆に言えば、企業不祥事への対応こそ、その企業の危機管理意識、危機管理力の真価が問われる。それにもかかわらず、企業不祥事への対応において誰が見ても明らかに不適切な対応をしてしまう企業が続出している現状は、危機管理に携わる当社としては残念でならない。
- このような状況を反映してか、巷では危機管理に関する書籍や危機管理広報に対する書籍が多く刊行されており、ビジネスセミナー等でも、企業不祥事発生後の対応や危機管理広報に関するものが多く取り上げられている。
- しかしながら、危機管理の専門家としての目から類書やセミナーの内容を緊急事態対応の流れやその全体像に照らして分析してみると、法的対応に関する部分や記者会見等に関する部分は非常に秀逸だが、例えば、事態のリスク評価から対策本部の運営、クライシス対応を行うまでのプロセス、コールセンターの設置や運営といった危機管理実務上、緊急事態対応として重要な部分について言及されていないものが多い。
- 企業不祥事への対応は、実務面の全体像を把握した上で、緻密に、ヌケ・モレなく進めていかなければ、決して適切と評価されるような対応はできない。
企業不祥事等が発生した場合に実施すべき緊急事態対応の重要性や意義は、まさに上記の記述に集約されている。仮に、危機管理広報について、どこかの会社の支援を受けて記者会見をしても、利害関係者との調整もせずに自社の都合で記者会見をしてしまえば、不意打ち的に事案や対応について公表された当事者はたまったものではない。反感を買い、更なる問題行為等が暴露されて、事態を悪化させることになる。また、記者会見を見たユーザーや被害者は、当該企業が設置したコールセンターに電話してくるが、コールセンターに会見の内容が共有されていなければ、コールセンターで、記者会見の場で社長が話したことと矛盾したことを案内してしまうケースもあり、余計に被害者等の反感を買うことになる。
利害関係者との調整・根回しや、コールセンターとの情報・方針の共有など、至極当たり前のことのように思えるが、実際の緊急事態対応の局面では、このような基本的なことすら、なされていないケースは、決して少なくないのである。特定分野に詳しい専門家が関わっていても、専門分野以外のでも必要な対応等に踏み込んで実践的なアドバイスできる専門家(企業)は少ない。結果的に、「木を見て森を見ず」で、緊急事態対応がうまく収束できないという事態にもなりかねないのである。
そのそも、危機管理広報は、記者会見のみを意味しない。案件によっては、記者会見をしなければいけない事態に陥ること自体が、「危機管理の失敗」と言わざるを得ない場合もある。いずれにしろ、既に不祥事の事態に陥っているからこそ、一枚岩・連携を通じて誠実に謝罪・説明・対応を尽くしていかなければならないのに、一枚岩になりきっていない状況では、危機管理の成功は覚束ない。
更に最悪なのは、当該事態の発生そのものをなかったことにしようとする「隠ぺい」である。これだけ、SNSやネットメディアが発展・浸透し、消費者側も発信手段を持っているにも関わらず、事態の発生を隠し通せると考えて、記者会見のみならず、相応の危機管理対策を実施せず、証拠も含めて隠ぺい・口止めを図ろうとする企業・経営者が、今なおいることは、驚きを禁じ得ない。隠ぺいはもはや通用しない。記者会見はともかく、相応の緊急事態対応は不可避である。
2.緊急事態対応の「失敗の本質」
さて、危機管理の専門家がサポートしていても、緊急事態対応に失敗している企業があることは紹介した通りであるが、企業不祥事が発生した場合の緊急事態対応に失敗する要因を、過去の事例等を踏まえて分析すると、その「失敗の本質」は、次の4点に集約できる。
(1)事態のリスク評価の誤り
失敗の本質の一つ目は、「事態のリスク評価の誤り」である。実際に重大な事象や被害者が発生しているにもかかわらず、世間に対する認識の甘さや社会的責任の希薄さ等が原因で、発生した事態のリスク評価にバイアスがかかってしまう。事態を過小評価したり、都合よく解釈したり、ばれなきゃいいと企業の論理で危機対応を考えてしまうことで、世間との乖離が生じてしまう。
あるいは「何とかなる」とか「他でもやっている」と半ば開き直った不誠実な態度で危機対応をしてしまったり、経営者等の自己保身から、言い訳や責任転嫁を展開する企業もある。
緊急事態対応においては、発生した事態を真摯に受け止め、事態のリスク評価を正しく行い、当該事態の収束と関係者への謝罪・説明・対応を愚直に行うことが、重要である。
(2)危機管理意識・認識・スキル不足
緊急事態対応に関する「失敗の本質」の二つ目は、危機管理に関する認識・知識・スキルの不足である。
企業不祥事等は、通常は、そうそう経験しない(したくない)ものである為、緊急事態対応に関するスキルや知見が不足していたり、実践知になっていないというケースも散見される。実際は、頭で考えるほど甘くはないし、対応のプロセスを一つ間違うだけで、事態の悪化を招くケースもある。
特に健康被害や二次被害が発生しうる事態が正に現在進行形で発生している場合は、絶対的な情報不足で全貌が見えない中で、早めの判断により最悪の事態や被害の拡大を食い止めていかなければならないが、こういうケースでは、判断ミスを恐れるあまり、もう少し状況が分かってから判断する等、対応に関する判断・指示を先延ばししてしまうことも珍しくない。
更には、このようなケースで、「原因や状況を調査してから」という形で、初動対応や被害拡大防止に向けた開示を遅らせる場合も散見される。このような対応は、火事になった際に、まだ消火器で消せるのに消火作業を躊躇して、出火原因を調べているに等しく、その間に火はどんどん大きくなって手遅れになってしまう。平時に冷静に考えれば、「おかしい」と分かるのに、いざ緊急事態対応になると、このような対応がなされる場合も出てきてしまうのだ。
取材に関しても、通常は企業の業績等に関心がある経済部の記者が中心だが、不祥事等の場合は社会部の記者が取材を行う(もちろん、企業の業績等にも影響があるので、経済部の記者の取材もありうるが)から、そもそも質問の内容も違うし、追及姿勢も異なる。広報部でもこのあたりの違いに慣れていないケースもある。
いずれにしろ、記者会見を想定した危機管理広報訓練(メディアトレーニング)はもちろん、対策本部訓練や危機対応・緊急事態対応に関する研修等を実施して、緊急事態の時にミスをしないように、平時から備えておくことが重要だ。
(3)危機管理(広報)に関する誤解
緊急事態対応の「失敗の本質」の三つ目は、危機管理ないし危機管理広報に関する誤解である。誤解は主に二つある。
一つは、緊急事態対応等のクライシスマネジメントは日ごろからのリスクマネジメントなくしてなしえないということだ。例えば、床についた小さな火も、消火器を準備し、設置場所を周知・明示し、使い方を訓練しておかなければ、小さな火種すら消せない。消火器や水を準備するのはリスクマネジメントに他ならないが、このような準備(=リスクマネジメント)もせずに、火が着いてから慌てても遅いのである。砂上の楼閣は、緊急事態対応と共に崩れ去る。
緊急事態対応のミスによる致命的状況を招かないためにも、日ごろからの準備や訓練を実施して(リスクマネジメント)、緊急事態に対するクライシス対応を行っていくことが肝要である。
誤解の二つ目は、社会動向や社会の反応の読み違いである。「当社ぐらいの規模の会社なら、大したニュースにならない」とか、被害者感情や国民感情を逆なでしかねない表現を用いた開示、情報を小出しにする等の不誠実な対応姿勢など、明らかに事態の深刻度や事案の重大性、それに対する社会の反応に照らして不適切と考えられる対応を、その対応で許されると読み違える誤解である。少しでも小さく見せようとしたり、あわよくば非難を免れようという不誠実な対応も問題と感じない、その感性が、余計に火に油を注ぐことを理解していない。
(4)「危機対応」の本質への無理解
緊急事態対応における失敗の本質の四つ目は、「危機対応の本質」への無理解である。メディアを軽視して、「俺の説明で乗り切ってやる」と過信をしている経営幹部や、責任等を追及した貴社に対してけんか腰や開き直り的な対応をしたり、土下座等のパフォーマンスをして、いかにも反省・謝罪しているかのような態度を見せたりするなど、「勘違いも甚だしい!」と思わず突っ込みたくなるような対応などが、これにあたる。
自身が経営する企業で不祥事を起こしておきながら、監督官庁や消費者に責任転嫁をして開きなおるような対応すら、過去の事例では見られた。そういう言い訳が通用すると考えていること自体が、ズレていると言わざるを得ない。
3.緊急事態対応の要諦(概論)
(1)危機管理の観点から見た緊急事態対応の内容とは
企業の存立基盤は、企業そのものや事業活動に対する社会からの「信頼」にほかならない。そして、企業に対する社会の信頼は、各種の事業活動に関する適切な「情報開示とそれに基づく活動」により形成される。そもそも、企業の「広報」が重要であるのも、広報を通じて、社会からの信頼を獲得するためである。CSRやコンプライアスの基礎にも、このような要素が内在している。その取り組みが様々な形で、社会に情報として発信され、また活動を実行・実践していくことで企業の存在意義や事業活動の有用性をアピールしていくことになるからである。
そして、これを企業不祥事等の緊急事態対応の局面にあてはめて考えれば、そこで求められる「情報開示と活動」とは、①「消費者視点」で、②「関係者(社会)」に対して、③「適切かつ迅速」に、④「必要な情報提供(謝罪・説明)・諸対応を行うこと、ということができる。そして、それを実行していくために、「緊急事態の早期発見と事態の適正評価」、「被害の極小化(二次被害防止)」、「社内や関係者の連携による信頼回復行動の実践・継続」という3つの視点を念頭に置いておくことが重要である。
(2)当社の緊急事態対応サービスの内容~緊急事態対応は、「マスコミ対応」のみにあらず
先に述べたように、企業不祥事等が発生した場合、マスコミ対応や記者会見等の対応要領に目が行きがちだが、緊急事態対応でやらなければいけないことは、マスコミ対応や記者会見等の対応だけではない。緊急事態対応で行うべき事項は、正に、緊急事態の状況下で求められる「情報開示と活動」の内容にほかならない。すなわち、緊急事態対応で行うべき内容は、①「消費者視点」で、②「関係者(社会)」に対して、③「適切かつ迅速」に、④「必要な情報提供(謝罪・説明)・諸対応を行うこと」、だ。
①の「消費者視点」は、対応策の検討や開示等の内容について、常に念頭に置いておくべき判断基軸である。そして、②の「関係者」の部分こそが、緊急事態対応においてやらなければいけない対策を考える上での重要なキーワードである。
まず、発生した事態の全体像を整理・把握し、事態の深刻度や広がり、緊急性等を正しく評価する。そして、それを踏まえて対応や説明が必要な「関係者」を具体的に抽出して、誰に対して何をしなければいけないのかを検討する。発生した事態により、どのような対応をどのようなタイミングでしなければいけないか等の、対応戦略が決まってくる。対応戦略をステークホルダーとの関係も含めて、整理・検討していくことが緊急事態対応の出発点である。「関係者」とは、発生した事態に関係する企業や人物、説明・対応が必要な関係者、例えば、企業不祥事等の緊急事態対応においては、通常、被害者、被害者以外の消費者、監督官庁、関連する取引先(川上、川下を含む)、銀行・株主、マスメディア、社員(事案によってはその家族)等がある。関係者を洗い出し、それぞれへのToDoを洗い出す。これが、「緊急事態の早期発見と事態の適正評価」の意味である。
具体的な例を挙げると、事案を踏まえて、マスコミへの対応策を考えることも重要であるが、その前に、監督官庁や被害者への報告・説明というプロセスをしっかりと踏む必要がある。このプロセスを飛ばしてしまうと、監督官庁や被害者の立場を潰し、事態は余計に悪化する。
実際にこの手順を間違えてしまい事態を悪化させてしまった事例としては、大手冷凍食品会社の子会社の工場での農薬混入事案がある。大手冷凍食品メーカーの商品から高濃度の農薬が検出され、640万個にわたる大型の食品回収事案に発展し、年末から年始にかけて、会社側が対応したため、マスコミで連日報道された。警察の捜査の結果、子会社の工場の商品の製造工程で働く従業員が、農薬混入を意図的に行った疑いで逮捕された、というものである。この事案で会社側は、事前に保健所への報告・相談という危機管理のセオリーを行なわずに、健康被害に関する調査結果を間違った基準のまま公表の決定をしてしまった。緊急記者会見直前に保健所には連絡したが、保健所からの指導を踏まえて、開示内容等も検討する時間もなく、結果的に、健康被害の有無や可能性について、誤った情報を第一報として発信してしまった。
この事例こそ、緊急事態対応はマスコミ対応だけではないということを知る格好の教材である。監督官庁へ報告を行い是正に向けた指導等も踏まえて開示等する形で、企業と行政の歩調を合わせておかなければ、保健所(監督官庁)の発表と企業の発表が食い違うケースが出てきてしまう。こうなると、消費者や社会は、公的機関(監督官庁)が発表する内容が正しいだろうと推察するのは至極当然で、それと相いれない企業側の発表は「虚偽」ではないかと思ってしまう。あるいは不都合な内容を隠している(隠ぺい)のではないかと疑念を抱くことになる。虚偽や隠ぺいの疑念を一度持たれてしまうと、その後に企業側が開示する内容も、虚偽や隠ぺいしたものという先入観を持って見られてしまう為、消費者や社会はその企業を信用しない。こうなっては、いくらマスコミ対応でリカバリーしようとしても、危機管理はうまくいかない。結局、関係者に対するTo Doとその優先順位(段取り)を間違えると、致命傷に至る可能性が高いということだ。マスコミ対策・対応をやる前に、まずは被害者や行政への対応をしっかりと行う必要があるのであり、それをしなければ、緊急事態対応として良い結果は導くことはできない。まさに、「緊急事態対応は、マスコミ対応のみにあらず」なのである。
当社で行う緊急事態対応支援では、このあたりの順序や段取りを含めて、プランニングや方針、To Doまで、豊富な経験を有する緊急事態対応・危機管理のプロが、助言・実務支援を行い、不祥事等の事態から、更に状況を悪化させないための盤石のサポートを行うことを特長としている。もちろん、その先にあるマスコミ対応やコールセンター対応、再発防止策の策定に至るまで、プロセス全体を俯瞰しながら最適な危機対応戦略・シナリオを策定・助言し、その実現・実施に向けた書面作成等の実務支援までも行う。このようなトータルサポートを出来る専門家・専門企業はほとんどなく、各分野のエキスパートが揃った当社の真骨頂ともいえるサービスである。
当社では、これまでこのような緊急事態対応支援を多くの企業で行ってきている。実際には行政機関にしっかりと報告をして、真摯に改善に努めることで、いわゆる表沙汰にならない事例も相当数ある。再三申し上げるが、緊急事態が発生した場合に、ピンチをチャンスに変えるか、致命傷にしてしまうかは、企業の危機管理力に左右される。言い換えれば、企業不祥事等の緊急事態対応の際に専門家の支援を仰ぐのであれば、マスコミ対応はもちろん、それ以外の対応ノウハウに精通し、俯瞰的な視点で最も効率的・合理的な危機管理面でのサポートができる事業者を選ぶことが、自社の帰趨を左右することを忘れてはならない。
次に、To Doの優先順位を検討する。Xデーを見据えて、どのような順番でTo Doを実施していくか、
そのプランニングが重要だ。ただ、このプランニングも、事案の内容によって変わってくる。二次被害の発生の可能性が高かったり、更なる事態の悪化・被害の拡大が見込まれるような事案の場合、二次被害の発生や被害の拡大を食い止めるための対応(初動対応や被害低減措置)の優先度は高まる。被害拡大が見込まれるのに、拡大防止の手立てをとらなければ、それは判断ミス、すなわち人災になる。これが「被害の極小化(二次被害防止)」の意味である。このように被害極小化を図る必要がある場合は、特に③にある「適切かつ迅速」に行う必要がある。
そして、プランニングや優先順位を踏まえて、実際の説明に行う資料の作成や被害者への補償等に関する対応方針を決定し、被害者や関係者に対して、謝罪・説明・対応を行う。もちろん、これらを行うために、事案の正確な把握や発生原因の調査、当面の対応方針、対応スケジュール等の具体的な内容の把握・整理が必要なことはいうまでもない。「社内や関係者の連携による信頼回復行動の実践・継続」とはこのような意味である。
なお、ここでも謝罪・説明・対応や情報開示の順序等が重要になる。闇雲に記者会見等をすればよいということではない。各対応を行うことによる影響等を勘案し、複数の危機対応シナリオに基づく分析と準備を経て、緻密かつ確実に各対応を進めていかなければならない。進捗管理も行いながら、各関係者や対応に伴う反応・反響も把握しながら、着実かつ粛々と進めていくことが肝要であり、必要な説明・情報開示を時機を逸せずに、実行していくことが重要である。これが、④「必要な情報提供(謝罪・説明)・諸対応」である。
(3)緊急事態対応の流れ
ところで、JIS Q 22320:2013「社会セキュリティー緊急事態管理―危機対応に関する要求事項」では危機対応の指揮・統制プロセスに含まれている活動が書かれている。著作権の問題もある為、その内容はここでは割愛するが、そこに書かれた内容を分析・整理すると次の3つのプロセスから成り立っている。
- 事態の把握:情報収集・共有→状況(リスク)の評価
- 計画策定:(対応策の)意思決定→決定事項の組織内伝達
- 決定事項(危機対応策)の実施:実行→結果検証→統制策の再検討(追加対応)
簡単に言うと、まず発生した事態を把握して、関連する情報を集め、それらを基に当該状況を分析・評価する「事態把握・評価」のプロセス、次に当該状況分析・評価を基にした対応計画を策定し、実施に向けた各種の意思決定を行う「計画策定」のプロセス、そして決定した危機対応策を実施・検証する「実施」のプロセスという順で実施していくべきことを示唆している。
(4)当社の緊急事態対応支援サービス実施の流れ
以上を踏まえて、企業不祥事の発生を例に、当該企業の緊急事態対応支援を行う場合、その流れを整理すれば、次のような段取りにて実施する。マスコミ対応等の限定的な対応ではなく、発生した事態を踏まえて、当該事案の収束と信頼回復まで、総合的かつ俯瞰的に支援している状況がご理解いただけることと思う。
以下、当社が緊急事態対応支援をする際に、3つのプロセス、5つのフェーズで、それぞれどのような項目について、検討・示唆・助言しているか、本稿では、項目のみ紹介する(各項目の詳細は、書籍に記載している)。
【初動対応】プロセス
- 「事態把握・状況分析」フェーズにおける主な検討・示唆・助言項目
- 発生事案に対する初期対応(当面の消火作業)
- 対策本部組成・主要メンバー招集、顧問弁護士・専門家等の招聘
- 事案の事実関係・被害状況把握
- 当該事業部門のビジネスモデル把握による関係者抽出
- 自社状況分析(平素の取引先等との関係性等)
- 事業環境(業界を取り巻く状況)やビジネスモデルへの社会的評価分析
- 事案の不確実性の把握・検証
- 自社における過去の不祥事の有無等の確認(含.収束までの経過)
- 類似事例の把握と当該事案に対する社会の反応・動向等の調査・分析
- 自社の事業に絡む法的規制や事案に絡む法的課題の抽出・検証
- これまでの対応経緯の確認・把握と情報整理・集約
- 「リスク評価」フェーズにける主な検討・示唆・助言項目
- 二次被害・被害拡大可能性分析(量的広がり)
- 被害深刻化分析(質的深まり)
- 社会動向・消費者心理分析
- 関係者の関係性分析による影響度・影響範囲の見極め
- マスコミの関心度合い分析、インターネットモニタリング
- 事案の社会的インパクト、特に監督官庁等へのインパクト分析
- 事態推移によるシナリオ分析
- 経営面への影響度の分析(営業・財務面への影響・ブランドダメージ、レピュテーション)
- 自社の対応力、インフラ等の現状分析、担当者等のスキル・経験、経営風土面からの自浄能力(経営陣の危機管理意識、問題意識)の把握・分析
- 対処すべき事項と実施のための課題・目途の明確化、書面化
【クライシス対応】プロセス
- 「対応方針策定(計画)・対策(準備)」フェーズにおける主な検討・示唆・助言項目
- 事態対応戦略及び開示方針・手段等の検討、プレスリリース等の開示・説明用文案作成
- 対処事項の優先順位付けと役割分担、提携先等との契約
- 社員への説明と対策本部の機能強化・社員間連携体制整備
- 情報整理・集約及びポジションペーパー等の作成
- 被害者対応準備(補償・法的検討含む)
- 被害拡大防止措置・現状是正措置の検討と対策準備
- マスコミ対応、IR対応準備、開示を見据えた関係先との調整
- 社内における継続的原因等調査、第三者(調査)委員会等の設置要否の検討
- 問い合わせ対応体制の整備、各種法的対応に備えた検討・準備
- 重要関係先への事前説明等による危機対応の為のコンセンサス作り
- 「クライシス対応」フェーズにおける主な検討・示唆・助言項目
- 被害者への一斉告知・説明履行、お詫び
- プレスリリースの実施、各種メディア対応、状況により記者会見・住民説明会等の実施
- コールセンター開設と入電状況把握、あるいは事態推移を踏まえたリリース文やHP開示内容等への反映、追加対処事項の検討・実施
- 捜査・立入検査等への協力
- 関係先・取引先等への説明・訪問、監督官庁との協議・対応
- 特異案件対処チーム・体制の組成(弁護士等含む)
- 被害拡大防止措置の徹底
- 対応経緯や推移等の情報整理・集約、報道傾向・論調分析(ポジションペーパー更新)
- 社内体制検証と関係者処分(責任の明確化)
- 対応担当者のメンタルケア等
【信頼回復対応】プロセス
- 「再発防止・組織的改善」フェーズにおける主な検討・示唆・助言項目
- 組織体制や内部統制(牽制機能)の改善・強化、タブー領域廃止
- 事案発生に絡む業務等の実施体制、各種規程・ルール、関連規程等の改善、見直し
- 業務実施に係る運用実態の改善、マネジメント要領の改善
- 役員・社員・関係者への教育・研修・面談等の実施
- 再発防止策実施の為のシステム面の整備・インフラ等の導入
- 再発防止実施のための運用環境整備・改善(人員補充や心理的な壁の除去等)
- 再発防止に向けた各種方法発信
- 内部通報制度の改善・強化と通報の励行・促進
- 改善効果の測定と徹底・追加策検討
- 改善策の取組状況・結果等開示
- 株主総会対策、IR面での対応
4.さいごに
最後に、緊急事態対応を進める上での教訓を2つ紹介したい。
まず一つ目は、「『危機』は、対応や判断が遅れれば遅れるほど、どんどん『大きくなる(悪化する)』ということだ。発生している「事実」を直視し、消費者の「不安」に目を向ける」ということである。企業不祥事等の緊急事態は、経営上の「火種」である。火も小さいうちなら消せるが、何もしなければ最悪の結果を招く。隠ぺい等を図ろうとせず、事態を直視して迅速に、そして真摯かつ誠実に対応することが、結果的には最もダメージが少なくて済む。危機事態時の消費者心理は、「不安」→「不満」→「不信」と変化する。不安に応えられるような情報開示や対応が出来れば、早期の信頼回復にも繋がるが、そこで企業が適切な対応をしなければ、その不誠実な対応に、消費者(社会)は不満を持つようになる。そして、不満を持たれてしまうと、それを払拭するためのハードルは極めて高く、そこから先は、不誠実な対応に対する不満が蓄積し、その企業に対する不信に変化していく。こうなってはもはや信頼回復は難しい。「王道に勝る危機管理なし」なのである。
そして二つ目は、「緊急事態対応に関する経営者の責任は3つ。①発生した事態を早期に収束させて被害極小化をはかること、②被害者を最優先に真摯な対応を行うこと、③自ら、上記の責務を認識して、危機事態から逃げないこと」ということである。
緊急事態対応の「失敗の本質」で触れたように、いざ緊急事態対応に直面した際、自己保身の心理が働き、言い訳をしたり、責任転嫁、その場しのぎの対応をしてしまい、事態を更に悪化するような事例はこれまで、記者会見等での皆様も多く見てきたはずである。経営者や経営幹部は、目の前にある「危機」への危機管理を行わなければならず、「机(机上の論理)木(木を見て森を見ず)感(感情論)利(この期に及んで利益追求・利権・私利私欲)」にならないように注意しなければならない。
本稿では、緊急事態対応のポイントと当社の緊急事態対応支援サービスにおけるコンサルティング・実務支援項目の例を紹介した。
当社の緊急事態対応支援サービスについては、その内容は事案により内容は異なってくるが、これまでの多くの対応支援の中で、
- 緊急事態対応全般にわたる危機対応ノウハウを有していること
- コンサルティングはもちろん、文書案作成や行政対応、記者会見、クレーム対応、株主総会等の実務支援まで実施できること
- 実務経験豊富な危機管理コンサルタント等を多く擁していること
- 危機会社として、即時対応できる体制にあること
等の点を、多くの支援先企業から評価いただいてきた。
危機管理の観点からは、企業不祥事等の緊急事態対応への備え・対策を怠るべきではない。何かお困りの際には、まずは、お気軽に当社にご相談・ご一報いただきたい。
以上