SPNの眼

内部通報やハラスメント事案にかかるヒアリングの実務

2021.11.29
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総合研究部 研究員 杉田 実

ビジネス ヒアリングのイメージ

1.はじめに

当社では、クライアント企業でハラスメントが発生したり、内部通報があったりした場合など、クライアント企業に代わって従業員へヒアリングをする業務を提供しています。簡単に言うと、依頼があった企業の従業員へのヒアリングを代行しているということです。代行といっても、ただ聞いた内容を右から左に会社へ報告するのではなく、ヒアリング内容を踏まえ、問題の解決や職場環境の改善などに繋がるようお手伝いをする業務となります。ヒアリング担当者の皆さまの中には、ヒアリングの進め方に悩まされている方も多いのではないでしょうか。また、ヒアリングをすべき対象者は複数人になることが多く、案件が増えるとそれだけで担当者の負担は大きくなります。実際に、「子会社や部門にヒアリングを任せたら上手く連携できずこじれてしまった」「どのように進めたらよいかわからない」といったご相談を受けることもあります。

当社のヒアリングサービスについては、当社のホームページでもご紹介しております。ご不明点・ご質問などございましたら、ぜひお気軽にお問合せください。

▼内部通報事案やハラスメントに関する社内調査・ヒアリングサービス

本稿では、当社で提供しているヒアリング業務や、ヒアリング時のポイントをご紹介します。最初に、ヒアリングという言葉について確認します。ヒアリングとは、一般的に「聞き取り」や「意見の聴取」の意味で使われます。本稿における「ヒアリング」も同様の意味で使用しています。

ヒアリング業務は、大きく分けると①事前打ち合わせ、②実施、③報告の3つの流れで進めていきます。

ヒアリングの依頼があった場合には、まずはクライアントの担当者と当社スタッフにて、ヒアリングに関する事前の打ち合わせを行います。事前打ち合わせでは、ヒアリングの目的を確認し、ヒアリングする範囲や対象者、順番、形式、質問項目等をすり合わせます。

そして、その事前打ち合わせの内容をもとにヒアリングを実施します。実施の際は、当社スタッフは、基本的にヒアリング担当者と書記担当者の2名体制で実施します。ヒアリングをする人はヒアリングに、書記は記録に徹するよう分担しています。ヒアリング実施後は、ヒアリング結果をもとに報告書を作成し、報告をします。報告書には、ヒアリングの結果やそれを踏まえたリスク、対応策等の提案も含まれます。このようなヒアリングについては、内部通報をきっかけとして依頼されることが多くありますが、事案によって対応が様々に異なるため、まずはご相談いただきたいと思います。

2.ヒアリング業務の進め方

ヒアリング業務の大きな流れとしては前述の通りです。ここからは、各フェーズをもう少し掘り下げて紹介していきます。

①事前打ち合わせ

事前打ち合わせの際は、まずは経緯を伺い、ヒアリングの目的を確認します。ヒアリング当日に向けてヒアリングの範囲や対象者、順番、形式、質問の内容等を固める必要があるため、何のためにヒアリングをするのか、結果をどう活用したいのかがぶれているとそれが定まりません。事前の打ち合わせの際、クライアントの皆さまには、ご相談いただいたのがどのような案件で、どのようなことに困っているのか、ヒアリングで確認したい事項などをお教えいただければと思います。

当社がサポートする案件は、内部通報に起因するものが多くあります。例えば、ハラスメントなど人間関係に関する案件の場合は、まず通報者や周辺者に話を聞き、その後被通報者に話を聞くという流れが想定できます。その中で、通報者の主訴は何か、解決に向けて何を確認すべきか等が重要なポイントとなります。ヒアリングの形式は、対面が多いものの、コロナ禍以降はZoomなどを使用したWebでのヒアリングも増えてきています。

②実施

ヒアリング実施の際は、「調査」や「ヒアリング」以外の名目を使い、ヒアリングの実施をカモフラージュして自然な形で場を設けます。内部通報の内容は、その多くがハラスメントや人間関係に関する内容のため、関係を悪化させないためには、周囲に勘付かれないように実施する必要があります。

一方、通報者が顕名で、かつ通報者の同意がとれていれば、趣旨を伝え、本題に関して単刀直入にお話を伺うこともあります。

そして、ヒアリングで得た情報の取り扱いには十分配慮が必要です。関係のない人に共有しないことはもちろん、共有する関係者の範囲も絞り、適切に管理しなければなりません。また、ヒアリングを受けた人から噂話として話が広まることもあるため、ヒアリングの際に口外しないよう伝えたり、誓約書をとったりすることもあります。匿名での調査の場合には、ヒアリングで収集できる情報にも限界があります。そのため、通報者には調査の限界があることを伝え、氏名等の開示をしていただいた方が、調査を進めやすくなります。

③報告

報告の際には、ヒアリングで得た情報を客観的に報告します。ヒアリング対象者がオフレコを希望した情報を会社に提供しないことはもちろん、お話しいただいた内容の中に、オフレコに関連する情報があったり、伏せたい内容が特定されてしまうような情報があったりする場合には、それも除外します。また、ヒアリング内容を第三者の視点からみて、改善策も提案します。ハラスメントの行為者に対する指導や、ハラスメントとは言えないもののコミュニケーションに問題がありそうな場合の研修や体制整備の提案など、ヒアリング結果からみえる職場の問題点についても言及します。ハラスメントや人間関係に関する相談は、それによってすぐにハラスメントとは言えない場合でも、言い方に問題があるとか、受取り方に問題があるとか、そもそもコミュニケーションが成り立っていないとか、何らかの問題が起きていることがほとんどです。そこから目を逸らしてしまうと、問題の解決には繋がりません。すぐに解決することは難しくても、改善に向けて対応していくことが重要となりますので、その視点を踏まえたご報告をします。

3.ヒアリング実施時のポイント

本項では、ヒアリングをする際に気を付けるべきポイントをご紹介します。細かい部分はケースバイケースとなりますので、状況に合わせて慎重な対応が求められることが前提となります。

対象者が警戒している場合

当社は第三者としてヒアリングを実施するため、「第三者だから(会社の人ではないから)」と、オフレコの話なども含めて率直に話していただけるケースもありますが、最初は警戒されていることも少なくありません。会社からは「第三者からのヒアリングがあります」などとだけ伝えられており、「自分が被通報者なのではないか」「何か疑われているのではないか」と不安を覚えるケースもあるようです。実際に筆者が携わった案件では、最初は警戒しており、探り探り回答している様子が見受けられる人が複数名いたケースもありました。

これは、自分の立場に置き換えてみるとわかり易いと思います。ヒアリングの際には、目的を知らせない場合でも「コンプライアンス調査」などの名目で行われることがほとんどですが、突然、「第三者からのヒアリングがあります」と言われたら、心当たりがなくても「何かあったのか?」「もしや自分が関わっている?」と考えてしまう気持ちもわかります。そのため、警戒している様子が見受けられた際には、最初のアイスブレイクの時間を丁寧に設けるようにしています。

さらに、このケースでは、コロナ禍の実施のためWebでのヒアリングだったうえに、一人当たりのヒアリング時間も短かったため、冒頭のアイスブレイクがよりポイントとなりました。ヒアリングの趣旨を丁寧に説明するとご理解いただき、知っていることや気づいたことなどを話していただけるようになりました。特に、緊張していたり警戒していたりする方へのアイスブレイクの際には、和やかな雰囲気を心掛けつつ、より丁寧に対応する必要があります。

話が食い違う場合

ヒアリングを進めている中で、複数人に話を聞いていくと話が噛み合わないことが多くあります。都合の悪いことを隠したり嘘をついたりしている場合もありますが、そうでない場合でも、立場や考え方により見え方が異なるため、それぞれの意見が異なります。一つの事実でも、異なる角度から見ると「このような見方もあるのか」と、改めて実感する機会も多くあります。どちらかが間違っているというわけではなく、立場が異なるため見え方が異なるということです。

当然、ヒアリングではすべての話を客観的に受け取る必要があります。そのためには、先入観をもたないことが最も重要なポイントとなりますが、同時にそれが最も難しいポイントともいえます。

社内でのそれぞれの関係性などを事前に聞いたり、内部通報の場合は通報内容を見たりすると、「こういう経緯があるのではないか」と予想してしまうこともありますが、ヒアリング時にはその予想に誘導したり質問が偏ったりすることがないようにしなければなりません。話を聞いていて、内心「何を言っているんだ」と思っても、自分の表情や声色には出さないようにする必要があります。

相手が話しやすい雰囲気・態度にすることや先入観を持たないことは、ヒアリングを実施する上での大前提となります。ヒアリングの対象者の気持ちを考えつつ、寄り添い過ぎずに適切な距離をとるという、バランスの求められる仕事でもあります。

4.さいごに

ヒアリングを実施する際に毎回痛感するのが、ヒアリングの難しさです。ヒアリングの前には、ヒアリング項目をまとめておきますが、警戒していてなかなか話していただけなかったり、逆に自分の言いたいことだけを話されたり、思い通りにヒアリングできるとは限りません。そのような場合は、まずは慌てずに落ち着いて対応することが重要です。ヒアリング担当者がオロオロしていては、ヒアリング対象者は不安になってしまいます。

ヒアリングの際は、事実関係を確認すること、トラブルの解決に向けて何ができるかを検討することが主な目的になります。人間関係に関する問題は解決が難しいうえに、仮にその一件が収まったとしても、根本的な解決ができていないと同じ問題を繰り返したり同様の問題が複数発生したりします。その意味で、事実確認だけではなく、その問題が発生した背景に何があるのかにまで目を向ける必要があります。

例えば、ハラスメントに関する案件で、会社としては「今回確認した内容だけではハラスメントとは言えない」という結果になったとしても、その背景には、コミュニケーションがうまくいっていなかったり、部署内の雰囲気が良くなかったり、被通報者の方の言動に誤解されかねないものがあったりと、様々な要因が見受けられることがほとんどです。そういった根本的な要因を捉えるためにも、当社は第三者であるという立場を活用し、客観的な視点でヒアリングを実施することを重視しています。

先入観を持たないことが重要であるのは、前項にも記載した通りですが、「先入観を持たない」と理解していて、自身でも先入観を持たないつもりでいても、人の先入観や思い込みをなくすことはなかなか難しいものです。

ヒアリングの際には、参考として、事前に対象者や周辺の情報をいただくことがありますが、「この人はこういう人」という情報があり、特にそれがネガティブな情報だと、どうしてもそれが無意識のうちに先入観に繋がってしまいます。しかし、実際に話を聞いてみると、聞いていた話とは違うと感じることも多々あります。意図的に何かを隠していたり、自分の意見だけを主張していたりする場合もありますが、単純に立場の異なる複数人に話を聞けば、視点が異なるため話が食い違うものです。どちらの話も一理あるという場合もあり、フラットな立場は想像以上に難しいものです。同時に、それが興味深い部分でもあります。この立場だったらこのように考えて(見えて)いるのか、と勉強にもなります。個人的には、そういった様々な視点や考え方があることを知っておくことが、先入観や思い込みをなくすことに繋がればよいと思っています。

ヒアリングに同じ案件はないので、都度検討し、経験を積みながら知見を蓄積・活用していくことがヒアリング力の向上に繋がります。当社としても、引き続き対応にお悩みの企業様のお力になれるようサポートしてまいりますので、お困りの際はご相談いただければと思います。

以上

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