SPNの眼

組織を守り、発展させるためのHRリスクマネジメント ~HRリスクマネジメント祭りに寄せて~

2022.09.05
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ビジネス 組織 イメージ

1.HRリスクマネジメントとは?

「ヒト」は、感情を持つ生き物です。「ビジネスに感情は必要ない」などと言う人もいますが、ビジネスにおける感情は、自分の好き嫌いや怒り・恐れ等で合理的な判断を歪ませるばかりではなく、「頑張るぞ!」と奮起したり、やりがいを実感し、さらなる成果を求める気持ちを呼び起こしたりすることもあります。感情とは、時にはビジネスの邪魔にもなりますが、上手に活用できれば、個人の能力開発・発揮や組織の発展に活かせるものでもあるのです。

HRリスクとは、組織で働く「人」に関連するリスク全般を指します。まずHRリスクには、①組織の健全な運営を阻害するリスク(マイナスを発生させるリスク)と、②組織の成長を阻害するリスク(プラスを減じてしまうリスク)があります。

①への対策としては、例えば「現場で不正が起きないように、監視体制を強化すること」などが挙げられます。しかしこれをやり過ぎると、「会社は現場の従業員を信用していない!」と反感を買い、やる気を失わせて②のリスクを高めてしまうでしょう。まずは①と②、双方のリスクを意識し、どちらのリスクにもバランスよく対応していくことが、HRリスクマネジメントの基本です。

一方で、本来「リスク」とは、「不確実性」を意味する言葉であり、実はプラスの意味もマイナスの意味もあります。③不確実性であるリスク(プラスにもマイナスにも向かい得るリスク)をあえて取り、プラスの側に作用するように誘導することも、HRリスクマネジメントです。

組織を崩壊させるのも、維持するのも、発展させるのも、結局は「人」。人にしかない「感情」を上手に活用することは、「人にしかできない仕事」にもつながるでしょう。そのためには、「マイナスをゼロに」だけでなく、「ゼロからプラスに」、「プラスをもっとプラスに」を目指すHRリスクマネジメントは、ビジネスにおける非常に重要なテーマといえます。

HRリスクマネジメントの説明画像

2.「HRリスクマネジメント祭り」開催への「想い」

エス・ピー・ネットワークでは、かねてから「HRリスクマネジメント」に着目し、様々な情報発信を続けております。この度、HRリスクマネジメントの重要性をもっと多くの方に知っていただきたく、昨年に引き続き「HRリスクマネジメント祭り」を開催することとなりました。

エス・ピー・ネットワークの6人の研究員が、それぞれのトピックスで動画を制作しておりますので、ここにその意図や問題意識等、HRリスクマネジメントへの熱い「想い」をご紹介したいと思います。

(1)HRリスクマネジメントを巡る最近の動向(芳賀 恒人 取締役副社長 首席研究員)

日野自動車の検査不正の背景要因として、特別調査委員会は「日野では人材が固定化しやすく、セクショナリズムの傾向があることから、上司に逆らえないという雰囲気が醸成されやすく、その結果、パワーハラスメントが生まれやすくなっており、心理的安全性が確保されにくい組織となっているが、日野自身がそのことに気付いていないのではないか」、「こうした日野の体質が、部下や現場に対して無理を強い、不正に追い込む一因となっていた可能性は高いように思われる」と指摘しています。不祥事に関わる人材を他ならぬ組織が作り出している現実があり、人(人財)づくりを疎かにした組織の再生は相当な困難が伴います。逆に言えば、人づくりに本腰を入れることでパワハラも不祥事も発生しにくい企業体質を作ることができるのです。

本パートの前半では5社の不祥事例を取り上げ、企業不祥事の発生メカニズムを人財マネジメント(HRリスクマネジメント)の観点から分析、人づくりの勘所を探ります。また、後半では、「社会的課題とHRリスクマネジメント」と題して、「暴力およびハラスメント撤廃条約」「責任あるサプライチェーンにおける人権尊重のためのガイドライン」「社会的包摂」「経済スパイ」「北朝鮮リスク」等の社会的課題についてHRリスクマネジメントの観点から解説します。さらに、「HRの可能性を引き出すために」として、スターバックスやユーグレナの取組み、人材版伊藤レポート2.0等を紹介します。

(2)客観的証拠がない!本人に自覚がない! 人間関係トラブルの落としどころ考察(久富 直子 総合研究部 上席研究員(部長))

このパートでは、日々当社のリスクホットライン(内部通報外部窓口)が受け付けている通報の中で、各社のご担当者からご相談を受けることの多い2つの事例を取り上げ、解説させていただいています。テーマは以下の2点です。

①客観的証拠がないセクハラ案件への対応

Aさんがセクハラを受けたと訴えるB部長は、3年前にもある女性社員からセクハラで内部通報されましたが、客観的証拠がなかったことからお咎めなしで収束していることがわかりました。今回もB部長は、「Aさんがよろけたので支えはしたが、抱きついてはいない!」と否定しています。2回目なので何らかの処分をする?疑わしきは罰せず…で何もしない?

②自覚のないパワハラ加害者への対応

複数名からハラスメントの訴えがあったCマネージャーと面談をしました。Cが周囲に不快感を与えているのは間違いないので自覚を持たせようとしましたが、全く響かない感じで終わりました。再発防止に繋げるにはどういう方法があるのでしょうか…。

近年HRリスクマネジメントの視点で企業が何を求められているのかについて触れつつ、上記2点に関する解説を中心に、約20分間の動画にまとめました。より良い職場環境づくりに向け、少しでもご参考になれば幸いです。

(3)意外と知らない労働法の落とし穴~気付かぬうちに法令違反!?~(安藤 未生 総合研究部 上級研究員)

労働基準監督署の報告書を見ると、法令を遵守しているつもりでも、実は違法状態であったり、裁判で敗訴する危険性があるということが後を絶ちません。

本動画では、お客様から頂戴した「これが法令違反になるとは知らなかった」や「この法律は当社に関係ないと思っていた」とのお声をもとに、意外と知られていない労働法の落とし穴についてご紹介します。

そして、当社が考える「労務コンプライアンス」とは、法律の義務を守るだけでなく、モラルも遵守して、法律の努力義務や国の推奨事項も実行し、さらに社会からの要請に広く応えるために、自主的取り組みを対外的にアピールして選ばれる企業を目指すというものです。ここまで踏み込むことで、企業価値の向上や豊富な人材の獲得につながると考えています。

労務コンプライアンスの説明画像

本動画ではこの「労務コンプライアンス」の視点も交え、以下の6つのChapterをご用意しました。

  1. 面接で聞いてはいけないこと
  2. 労働契約の締結はいつ?
  3. 安全衛生教育は特定の業種だけ?
  4. 1日の勤務時間の端数処理はNG
  5. 実はこんなものも就業規則の一種!
  6. 人事労務も情報開示の時代へ

「労務コンプライアンス」の状況を点検するきっかけとしてご活用いただければ幸いです。

(4)パワハラ防止法完全義務化!企業のハラスメント対策「やるべきこと7選」(加倉井 真理 総合研究部 上級研究員)

パワハラ防止法(労働政策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律)が、2022年4月に中小企業に適用拡大され、すべての企業に対して「パワーハラスメント防止措置」が義務付けられました。

パワハラを含むハラスメントは、重大な人権侵害であり、被害者の健康を害する恐れがある行為です。ハラスメントが起こる職場では、従業員の仕事への意欲は低下し、優秀な人材は流出し、不正が起こるリスクが生じます。ハラスメントは、個人の問題ではなく、企業に甚大な損失をもたらす、組織にとって重大な問題と捉え対策を考えましょう。本動画では、パワハラ防止措置の取組を①トップのメッセージ、②ルールを決める、③実態を把握する、④教育する、⑤周知する、⑥相談や解決の場を提供する、⑦再発防止のための取組の7ステップでご紹介します。

パワハラ防止措置は、窓口を設置して終わりではありません。ハラスメントが起こった際に、相談が上がる窓口であるか、相談を受けた際に、速やかに事実確認とフォローアップができ、再発防止措置を実行できるか、ハラスメント行為者を懲戒処分に科すことは合理的であるかなど、実効性のある対策のポイントを考えます。

(5)従業員向けアンケートの活用法~やりっぱなしにしない!~(杉田 実 総合研究部 主幹研究員)

昨今、コンプライアンス意識や、ハラスメントの実態等を把握するため、従業員向けのアンケートを実施する企業が増えてきました。しかし、せっかく実施した従業員向けアンケートを「やりっぱなし」にしてしまっている企業も多く、アンケート結果の活用方法に関するお悩みの声をいただくことも多くあります。アンケートの目的は、アンケートを実施することではなく、結果をその後の対応に活かすことです。

アンケートを実施すると、想定よりも多くの現場のリアル(実態)が浮き彫りになることもありますが、それは、従業員の皆さんが目の前の課題を自分ごととして捉え、より良い会社にしていこうとしている姿勢の現れでもあります。従業員の皆さんが、会社に対して諦めの感情を持ってしまった場合には、アンケートに回答すらしてもらえなくなってしまいます。そうならないために、本動画では、アンケートで現場のリアル(実態)を引き出し、よりよい職場を目指していくために、どのようにアンケートを活用したらよいのか、ポイントをお話ししています。せっかく集まった声を無駄にしないよう、従業員向けアンケートの実施や活用方法にお悩みの方にご覧いただければと思います。

(6)トラブル事例から見直す就業規則~どうしても辞めさせたいなら、就業規則を整えてください!~(吉原 ひろみ 総合研究部 専門研究員)

当社へは「問題社員を辞めさせたい」という相談が多々舞い込みます。しかし詳しくお話を伺うと、周囲への影響を思えば「辞めさせたい」という気持ちも理解できるものの、「どうしてそこまでこじらせたのですか…!」と、過去に遡れない「もどかしさ」も感じるものです。

好きで「問題社員」になる人など、そうそういません。ご本人は、どうしてよいかわからなくなり、深く傷つき、社内の誰も信用できず、常に孤独や怒りに震えながら自分の身を守ろうと必死になっていることも多いもの。いつの時点で、誰が何をできれば、こうならずに済んだのでしょう。そしてこれからどうしたらよいのでしょうか?実は、問題社員を「人財」に変える方法と、問題社員が「辞めない理由」をなくす方法は全く同じであり、ただまっすぐに「活躍できる人財」を目指す指導やケアを行うことに尽きるのです。

筋道を通して辞めさせるには、時間や労力がかかり、社内関係者の協力も欠かせません。しかし、筋を通さずに「辞めさせようと画策すること」は、まさに組織の崩壊を招くほどのリスクとなり得ます。

本動画では、「筋道を通す」ための、就業規則の見直しポイントをお話ししますが、日頃から就業規則に定められたことを適切に運用していくことこそが、まさに問題社員化を防ぐための方策でもあります。広く「問題社員対策」を考えていらっしゃる方にご覧いただけますと幸いです。

3.組織を守り、発展させるための「HRリスクマネジメント」

HRリスクマネジメントの目的は、組織を守り、さらに発展させていくこと、そしてそれを通して、働く人の幸せにつなげることと考えます。

貴社のために、そして貴社で働く従業員の皆様のために、ぜひHRリスクマネジメントに関心を寄せていただきたく思います。この「HRリスクマネジメント祭り」が、そのきっかけとなれば幸いです。

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