SPNの眼

フリーランス保護法の概要と、求められる企業の体制

2024.10.28
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総合研究部 研究員 奈須 恭子

フリーランスとペンで書いている手

はじめに

11月1日から、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(以下フリーランス保護法)が施行される。

この法律は、フリーランス含む特定受託事業者が近年増えているなか、フリーランスが取引先から報酬が支払われないことや、ハラスメントを受けるなど様々な問題の解消と、フリーランスが安心して働ける環境の整備を目的としている。

ここでのフリーランスとは、業務委託の相手方である事業者であり、個人事業主など個人であって従業員を使用しないもの、一人社長など法人であって代表者以外に役員がなく、かつ従業員を使用しないもののことを指す。その他、一人親方と言われるような建築・建設現場の職人や、年齢制限がないため高齢者も含まれる。

発注事業者とは、フリーランスに業務委託する事業者で、個人であって従業員を使用するもの、法人であって役員がいる、または従業員を使用するもの、また、フリーランスに業務委託をするフリーランスも含まれる。

更にフリーランス保護法では、業種・業界の限定がなく、発注事業者からフリーランスへ委託する全ての業務が対象となり、違反をすると行政の調査や指導・助言の他、必要な措置の勧告、命令を受けることとなり、これに従わない場合、社名が公表されることがある。また、命令違反には50万円以下の罰金が科されることや、発注事業者が法人の場合、行為者と法人の両方が罰せられることとなった。

発注事業者への7つの義務項目

フリーランス保護法では以下の7つの義務事項が定められており、それぞれフリーランスと発注事業者間の「取引の適正化」、「就業環境の整備」を目的としている。

「取引の適正化」は下記の1.取引条件の明示、2.報酬支払期日の設定・期日内の支払、3.禁止事項が当てはまり、「就業環境の整備」は 4.募集情報の的確表示、5.育児介護等と業務の両立に対する配慮、6.ハラスメント対策に関する体制整備、7.中途解除などの事前予告・理由開示までの項目が当てはまる。

目的:取引の適正化 目的:就業環境の整備
1.書面などによる取引条件の明示 4.募集情報の的確表示
2.報酬支払期日の設定・期日内の支払 5.育児介護等と業務の両立に対する配慮
3.禁止行為
 ①受領拒否
 ②報酬の減額
 ③返品
 ④買いたたき
 ⑤購入・利用強制
 ⑥不当な経済上の利益の提供要請
 ⑦不当な給付内容の変更・やり直し
6.ハラスメント対策に関する体制整備
7.中途解除などの事前予告・理由開示
  1. 書面などによる取引条件の明示:フリーランスに業務委託をする際、発注事業者は書面などで直ちに取引の条件を明示しなければならない。
    これは記録を残すことを目的としているため、メールやDMなどでも問題ないが、電話などの口頭で伝えることは記録に残らないため、違反となる。明示すべき取引条件には、業務内容、報酬の額や支払期日、誰から誰への依頼かなど、仕事を依頼する上でフリーランス、発注事業者の双方が確認しておくべき最低限の情報が挙げられている。
  2. 報酬支払期日の設定・期日内の支払:発注事業者は発注した物品等を受け取った日から数えて60日以内の出来る限り早い日に支払期日を設定し、期日内に報酬を支払わなければならない。
  3. 禁止行為:フリーランスに1か月以上の業務委託をする際、7つの禁止事項が設けられた。
    • 受領拒否:フリーランスに責任がないにもかかわらず、発注した物品等を受け取らないこと。※発注事業者の一方的な都合によるキャンセルや、納期の延期をし、あらかじめ定めた納期に受け取らないことも該当する。
    • 報酬の減額:フリーランスに責任がないにもかかわらず、発注時に決定した報酬額を発注後に減額すること。
    • 返品:フリーランスに責任がないにもかかわらず、委託した物品や成果物等を受領後に返品すること。
    • 買いたたき:通常支払われる対価に比べて明らかに低い報酬額を不当に定めること。
    • 購入・利用強制:正当な理由なく、発注事業者が指定する物やサービスを強制して購入・利用させること。
    • 不当な経済上の利益の提供要請:協賛金などの金銭や役務を不当に求めたり、その他の経済上の利益を提供させたりすること。
      例として、配送業務を依頼しているフリーランスに、無償で倉庫の整理作業をさせることなどが挙げられる。
    • 不当な給付内容の変更・やり直し:フリーランスに責任がないにもかかわらず発注事業者が費用を負担せずに、給付内容を変更させたり、やり直しをさせたりすること

    以上の7つが、1か月以上フリーランスに業務委託をする場合に適用される。

  4. 募集情報の的確表示:フリーランスに対して広告などに募集を掲載する際、発注事業者は虚偽の表示や誤解を与える表示をしてはならない。その内容を正確で、最新のものに保たなければならない。
  5. 育児介護等と業務の両立に対する配慮:フリーランスに6カ月以上の業務委託をする際、発注事業者は妊娠・出産・育児・介護と業務を両立できるようにフリーランスから申し出があった場合には必要な配慮をしなければならない。
    例として、子供が急病になったので納期を遅らせたいとの申し出や、介護のため、業務の一部をオンラインに切り替えたいとの申し出が挙げられる。これらにどうしても配慮するのが難しい場合、発注事業者からフリーランスにできない理由を説明しなければならない。
  6. ハラスメント対策に関する体制整備:フリーランスに業務委託をする際、発注事業者はハラスメント行為に対して体制整備などの必要な処置を講じなければならない。
  7. 中途解除などの事前予告・理由開示:フリーランスに6カ月以上の業務委託をする際、災害などの例外事由に該当しない場合、発注事業者は契約の解除や更新しない旨を、解除日または契約満了日から30日前までに予告しなければならない。またその場合、フリーランスから理由の開示の請求があれば、解除日までに回答しなければならない。

満たすべき義務の内容

7つの義務事項は、発注事業者が満たす要件に応じて変更されるため、自社がどれに当てはまるかを確認する必要がある。

  1. 発注者が従業員を使用していない法人や個人(※フリーランスがフリーランスに対して業務委託をする際も含む):1の義務が生じる。
  2. 発注者が従業員を使用している場合:1・2・4・6の義務が生じる。
  3. 発注者が従業員を使用しており、一定の期間以上行う業務委託である場合:1~7の全ての義務が生じる。

この時「一定の期間」とは、3禁止行為は1か月、5育児介護等と業務の両立に対する配慮、7中途解除等の事前予告・理由開示は6カ月以上継続して行うこととなる業務委託を指し、更新による継続も含む。

フリーランスへのハラスメント対策について

ここでは発注者が従業員を使用している場合に守るべき6つ目の項目、「ハラスメント対策に関する体制整備」に焦点を当てていく。

発注事業者がハラスメント対策に関して講ずべき措置として、厚生労働省の「ここからはじめるフリーランス・事業者間取引適正化等法」では以下の4つの対策が例として挙げられている。

(1)ハラスメントを行ってはならない旨の方針の明確化、方針の周知・教育

ハラスメント防止規定などを定めている企業は多いと思うが、フリーランス保護法が施行されることを契機に、業務委託に係る契約担当者などへ、改めて周知・教育を徹底して行う必要があるだろう。

(2)フリーランスからの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備

相談窓口を設置し、フリーランスも使用できると周知することが必要になる。フリーランスに対してだけではなく、相談窓口担当者がフリーランスからの相談に適切に対応出来るよう、教育も必要だ。相談窓口を新設することが難しい場合は、厚生労働省が運営する、「フリーランス・トラブル110番」など外部機関への委託や、従業員向けの相談窓口をフリーランスも利用可能にするなどの方法が効果的だ。

(3)業務委託におけるハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応

フリーランスからハラスメントについての相談があった場合、ハラスメント事案についての事実関係を迅速かつ正確に把握し、確認ができた場合は速やかに被害者に対する配慮のための措置を実施することが必要だ。また行為者に対する措置や、再発防止に向けた措置を実施することも求められる。

(4)併せて講ずべき措置

上記1~3の対応に当たり、相談者・行為者のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、従業員及びフリーランスに対して周知すること、フリーランスが相談または事実関係の確認に協力をしたことなどを理由に、不利益な取り扱いをしない旨を定め、周知・啓発することも必要だ。

おわりに

業務が委託されなくなることを恐れ今まで誰にも相談できなかったフリーランスが、フリーランス保護法の施行をきっかけに、相談することが増えると思われる。その場合、放置や契約の解除などの不当な扱いはせず、適切に対処をしなければならない。

また、相談がないから安心だと考えるのではなく、フリーランスに対しハラスメント等の相談をしたことや、その適切な措置を求めたことを理由に、契約の解除など不利益な取り扱いは決してしないと周知・啓発を行い、相談しやすい雰囲気を作ることも重要だ。

法律が施行されたからフリーランスも守らねばならなくなった、と後ろ向きに捉えるのではなく、共に業務を行う仲間として、すべきことが明記されただけだと捉えていただきたい。フリーランスに対してだけでなく、ハラスメント対策は機能しているのかなど、自社の体制を見直すきっかけとしてほしい。

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