SPNの眼
執行役員(総合研究部担当) 主席研究員 西尾 晋
皆さま、あけましておめでとうございます。
2025年は乙巳(きのとみ)ということで、蛇は、脱皮を繰り返して成長していくさまから、復活と再生のシンボルとされていますので、日本経済も空白の30年から抜け出し、国民生活が好転することを期待したいものです。
さて、年初ということもあり、本来であれば、今年の展望について論じるのがセオリーなのでしょうが、経済動向や展望については、他の専門家もたくさんいますので、私は、最近社会情勢等を踏まえて、リスクマネジメントや企業危機管理に関係しそうなテーマをいくつか取り上げてみたいと思います。
私自身の考えが固まっているわけではありませんが、今後の企業危機管理を考えていく上でのブレーンストーミング的な所感を書いてみたいと思います。今回は、研究成果ということではなく、コラム的な内容になりますが、ご容赦ください。
1.国際情勢を踏まえての所感
ロシアによるウクライナ侵攻は依然として収束の見通しが立たず、更に北朝鮮が派兵するという混沌とした状況になっていますが、ウクライナの防衛作戦で目立つのは、ドローンの積極的な活用です。
従来の空軍が担当する高高度でもなく、陸軍が担当する陸上でもない「空間」を利用したドローンを大量かつ積極的に活用した戦い方は、いかにも現代的です。
日本国内においては、まだまだドローンの活用は限定ですが、今後、ビジネスにおいても更に有効に活用できる余地がありますし、危機管理の分野においても、災害対応や警備・防犯対策としても有効です。一方で、以前、首相官邸の上をドローンが飛んでその際の警備態勢が問題となりましたが、ドローンの活用により、低高度の上空からの撮影等も可能になることで、施設内に関する情報漏洩や監視(盗撮)が可能となる等のリスクも生じてきます。空中、上空からの脅威に対するリスク対策は、まだまだ進んでいませんので、ドローンを悪用されることによるリスクへの対策についても今後は、検討・推進していく必要があります。
もちろん、先日もニュースになりましたが、ロシアが日本や韓国の攻撃目標を具体的に検討していたり、中国やロシアによる領空・領海侵犯も増加しており、国防に関わるリスクも以前よりも高まっています。ロシアによるウクライナ侵攻だけではなく、中東での軍事衝突も起きており、太平洋戦争以降平和を享受してきた日本では、戦争等に関する話題はタブー視されがちですが、危機管理の観点からは、起こりうる事態として「想定外」としないことが重要です。具体的にできることは限られるにしても、リスクとして想定していれば、最低限の検討も準備も行えますので、不意打ちのような状況にはなりません。
沖縄県の企業からは、BCPの一部として台湾有事に関する相談も寄せられています。国防に関する事態は、身近にある危機になりつつあることを忘れてはなりません。
2.能登半島地震を踏まえて
2024年1月1日に発生した能登半島地震から1年が経ちますが、復興はまだまだ道半ばの状況です。地形が大きく変化していたり、社会的なインフラが大きく損壊していたりする為、復興に時間がかかるのは間違いありませんが、これまで多くの地震を経験している国としては、毎度毎度多くの被害者を出していたり、令和の時代になっても依然として体育館で雑魚寝というような避難所運営が主流だったりと、あまり「学習」「進展」が見られないのは、危機管理に携わる一人としてもどかしい限りです。
災害対策基本法が、各都道府県での対応を基本としていることから、他地区の教訓がなかなか生かされないのはやむを得ない面はあるにしても、国土交通省や内閣府主体となってその知見を整理・共有し、災害への対応や避難所運営に関する改善を図るなど、より積極的な防災・震災対策・対応体制の整備が必須です。
特に東日本大震災後に、国土交通省からは多くの有益な資料や知見が公表されましたが、「被災者」の姿はそこでは見えません。道路や橋を復旧することも大事ですが、震災後の復旧で一番大切なのは、被災者の生活再建と地元企業の事業再開による地元経済の復旧です。防災庁の設置検討もなされていますが、形もさることながら、実のある震災対策・対応と教訓を生かした改善・前進を期待したいと思います。
一方、企業での地震対策については、2024年は多くの企業から、BCPの整備・見直しに関する問い合わせ相談があり、当社でも様々な企業のBCP整備や強化、訓練(演習)の支援をしてきました。能登半島地震が1月1日に発生したこともあり、特に休日・夜間の対応体制やBCPに課題を抱える企業が多かったのが印象的です。過去の地震を見ても、阪神淡路大震災は早朝に発生していますし、熊本地震も夜間から深夜にかけて発生しています。これらの地震を他地区での地震だから関係ないというスタンスではなく、同じ時間帯に地震が起きたら自分たちはどうなるのか、どんな対応ができるのかをしっかりと検証する姿勢のある企業は、能登半島地震の発生前には、すでに休日・深夜の地震対応要領、BCPは整備されていたはずです。災害、特に地震は、いつどこでおきるか分かりません。他地区の地震でも、自分ごととして、BCP等の見直しに繋げる姿勢が極めて重要であることを改めて認識して欲しいと思います。
なお、都市部では、働き方改革や人的資本経営の観点から、新型コロナウイルス騒動の終息後も、テレワーク等を継続している企業も少なくないと思います。テレワーク等を継続している企業は、コロナ禍以降、BCPの見直しは行ったでしょうか。在宅等を勤務場所として認めるのであれば、そこにおける安全管理・安全衛生についても、会社側が一定程度安全配慮義務を負うものと考えらますが、実際にその観点から、社員のテレワーク場所に関する調査や基準の検討を行ったことはありますか。そこで勤務をさせていて、被災した場合、会社として安全配慮義務は果たせる状況ですか。また、テレワークを前提とする場合は勤務時間中の記載でも、物理的に会社に社員がいるわけではないことから、対策本部メンバーもWEB会議等を利用してのコミュニケーションを行うことになりますが、災害時の停電や通信障害は考慮にいれているのでしょうか。リアルタイムで様々な情報が寄せられ、刻一刻と状況が変化する災害発生後のコミュニケーションは、音声メインのWEB会議だけでは、貴重な情報も流れてしまいかねず、かなり高度なWEB会議の運営が必要になりますが、そのような想定での訓練・演習をどこまで行っているでしょうか。災害対策やBCPの整備については、身近にヒントや検討材料がありますので、ぜひ、想像力を働かせて、少しずつでも対策を推進するようにしてください。
3.SNS規制に関して
昨年末、オーストラリアが16歳未満のSNSの利用を禁止する法案を整備する予定であることが報道されました。賛否両論でていますが、日本国内ではあまり報道されませんが、世界各国で子どもがSNSを利用する上での弊害が問題視されているのも事実です。SNSを使ったいじめにより、子どもの尊い命が失われたり、犯罪やポルノへの勧誘が問題となったり、SNS利用に伴う特に大人側のリテラシーなさが問題視されているのです。何もオーストラリアだけではなく、アメリカでも州によっては州法でSNSの利用に規制がかけられているのです。
しかし、日本国内では、小中学生や高校生がSNSでの犯罪に巻き込まれたり、SNSを使った闇バイト勧誘等で多くの命が失われたり、インスタ映えやユーチューブの視聴率稼ぎ等の為に迷惑行為や不衛生行為を行った動画が多数投稿されても、規制の方向には行っておらず、むしろまだ判断力に乏しい子ども側に、SNSの使い方を教育する等の対策が行われているのみで、法規制等もまだまだ追いついていません。一方で、これは日本だけに限りませんが、SNSで多くの人が情報発信できるようにはなったものの、疑惑や事件・事故の真相解明をしようとすれば、権力者側が陰謀論と決めつけて情報操作の上、バッシング(レッテル貼り)をしようとしたり(確かに一方的な主義・主張に基づく独りよがりの内容や陰謀論といえるものもありますが)することも日常茶飯事です。AIの活用が活発化していますが、そこに収録されたデータやプログラムの信ぴょう性等も検証しないまま利用されていることも多く、情報操作されていることに気づいていないことすらあります。
このように考えれば、インターネットやSNS上の情報やAIが表示した情報を鵜呑みにしないインテリジェンスがより一層重要になりますし、そもそもの使い方、必要性をしっかりと吟味することが求められていると言えるのではないでしょうか。決して、16歳未満のSNS規制という狭い枠組みで流してよいニュースではないと言えるでしょう。
SNSの活用により選挙の仕方も変わってきており、SNSの活用により時の人に誰でもがなれる状況ですが、そこに登場する本人も、そこで発信される情報も、いくらでも発信者側で有利に操作できることを見失ってはいけません。かつて、ヒトラーはラジオを通じて国民に直接語りかけ、ナチスの支持を拡大させ、その結果、痛ましい人権侵害・迫害も行われました。名前を出すだけでバッシングされるような人物ですが、彼とて、当時のニューメディアであるラジオを巧みにプロパガンダに利用したのです。今や新聞やテレビはオールドメディアとのレッテル貼りが行われ、いかにも時代遅れのような印象操作や面白くないという印象操作がされていますが、それは逆にコンプライアンスによる歯止めがかかっているからでもあります。SNSが良くて、テレビ・新聞等が悪いという2者択一的な発想は、少なくとも危機管理を行う上では極めて危険な思考であることを改めて認識すべきでしょう。そして、SNSの情報の洪水の中では、容易にプロパガンダや洗脳がなされること(そもそもそのような意図で発信されている情報も多数ある)、気に入らない者には陰謀論とのレッテル貼りや多数による誹謗中傷や晒しが行われる等、無責任性や匿名性に起因する群集心理が大きく働くこと、AIの下す判断や情報が正しいという議論・前提に立つことは危険であることを忘れてはなりません。
以上、とりとめもない感じで論じて聞きましたが、上記で指摘したリスクは、2025年も高まってきます。ぜひ、皆さんなりに、今後の危機管理を考察する上での参考にしていただければ幸いです。
2025年が、皆様にとって良い年になることを祈念して筆をおきたいと思います。
以上