内部通報 関連コラム

内部通報制度の評価・点検(後編)

2023.02.20

総合研究部 上級研究員 森越 敦

PDCAサイクル ビジネス イメージ

※本稿は12月・2月の連続掲載記事です。前編(12月号)はこちら

さて、では前回に引き続き内部通報制度の評価・点検の続きの項目を考察していこう。

評価・点検項目の表
(9)範囲外共有の禁止

通報者にとって、時には危険を冒してまで行った通報が、その後どの範囲まで共有されていくのかは非常に心配なところだ。「え、あそこの部署まで情報が伝わるなら、通報しなかったのに…」「あの人にまで話が伝わるなんて聞いてない…」とならないように、あらかじめ規程などで共有することが可能な者・部署の範囲をしっかりと定めたうえで、通報受付の時点でも通報者にしっかりと伝えることが重要だ。また、一度定めたその範囲から不注意で情報が漏れないように、ハード・ソフトの両面からの整備が必要だ。点検項目の一案としては、以下のようなことが内部通報規程に定められているかどうかが考えられる。

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内部通報規程に共有範囲が明確に設定されている
内部通報に関する各種の資料は施錠管理されている
上記の保管場所は常時監視カメラで記録されている
内部通報に関する各種の資料が電磁的情報の場合はアクセス制限、パスワードによる管理がなされている
内部通報データへのアクセス状況を定期的に監視している
通報受付時に、正当な理由なく通報した内容をむやみに漏らさないよう注意喚起している
ヒアリングを行った関係者に対しては、その内容を不必要に口外しないように注意喚起、または誓約書をとっている
(10)不利益取り扱いの禁止

通報者が通報したことを理由に会社から不利益な取扱いをされないという「不利益取り扱いの禁止」の原則は、内部通報システムの根幹となっているものだ。もし、通報者がそのような危険性を少しでも感じてしまえば、通報行為を躊躇してしまうだろう。そうならないために、不利益取り扱いの禁止を規程として定めるのはもちろん、もしそれを破るような行為が起きた場合に、いち早く気づいて阻止できるようなチェック体制が必要だ。また、万が一不利益取り扱いが発生してしまった場合に、どのように回復・救済を行うのかまで、しっかりとルール化しておくことも重要だ。例えば、退職を強要され、結果退職となっていた人がいたとする。この状態からの復旧とは、理想としては元の職場に、同じ立場で復職させることだ。更に、退職となってた期間の給与はどうするのか、退職金を支給していた場合はどうするのか、またそこからいくらか費消してしまっている場合はどうするのかなど、かなり細かなルールも検討しておく必要があるだろう。

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内部通報規程に不利益取り扱いの禁止が明確に設定されている
規程上に不利益行為が類型化されている
不利益行為による降格・配置転換・退職などの回復・復旧方法・手順が定められている
(11)調査

通報があった場合には、正当な理由がない限りは、原則すべての案件を調査することが必要だ。調査のゴールは、実際に違法行為・不正があったのかどうかを明らかすること。ただし、被通報者が自己を正当化したり、事実をはぐらかしたり、または権限を使ってうやむやにしたりなどで、調査が困難に直面することも少なくない。しかし、そのような難局にも知恵と工夫をもって対峙し、事実を解明していかなければならない。この調査機能が正しく働いているかを点検するのに最も適した方法の一つが、処理が終わった実際の通報案件の振り返りであろう。どこが良かったのか、どこに改善の余地があるのかをしっかりと認識してこそ、調査のクオリティは向上していくものだ。このとき自分たちの過去の行為を自己評価することはなかなか難しいこともあるため、専門家や外部業者などの第三者の目を入れながらチェックしても良いだろう。

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収集した証拠は十分だったか
関係者ヒアリングの対象者の選択は的確であったか
関係者ヒアリングのアポイントを取る場合の注意点・名目は適当であったか
関係者から必要な情報をしっかりとヒアリングできたか
被通報者ヒアリングのアポイントを取る場合の注意点・名目は適当であったか
被通報者から必要な情報をしっかりとヒアリングできたか
通報者の保護がしっかりと図られたか
情報の流出などはなかったか
はっきりと事実が解明できたか
(12)是正措置

調査の結果、違法行為、不正行為が明らかになった場合には、それを中止させる措置や、被害などがあった場合にはその復旧・回復を行わなければならない。さらに必要な処分や同様の違法行為が再発しないような仕組み、ルールの変更などの是正措置を講じる必要がある。ポイントは同種の事象の発生がしっかりと防止できること。生半可な措置や見当違いの対策では、しばらくすると、また同じことが起こってしまうかもしれない。これも、上記と同様に実際の通報案件を振り返りながらチェックしていくのが適当だ。是正措置が正しく機能しているか否かを見極める最大のポイントは、前述の通り【事案が再発していないかどうか】である。再発していれば、当然是正措置が「甘かった」、もしくは「適当ではなかった」ことになるし、再発していなければ、結果として妥当な措置であったと評価できるだろう。

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被通報者が再び同じような違法行為・不正を起こさないような措置になっているか
会社として同じような行為を防げるようなしくみ、ルールになっているか
同様の事案が再発していないか
(13)フォローアップ

通報案件がひととおり解決したあとも、その後しばらくは通報者に不利益な事が発生していないかを確認することが重要である。また、是正措置によりルールなどが改善・変更となった場合には、それをきちんと守って運用されているかを確認することも再発防止の観点から非常に重要なポイントだ。なお、これらは通報者に対して、「何かあったら連絡して」ではなく、通報窓口から積極的にアプローチし確認することが必要であろう。

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通報者へ積極的に働きかける仕組みとなっているか
適切なタイミング・回数でフォローアップを行なっているか
(14)通知

通報者にとっては、通報を行った後でそれがどのように処理されているのかを知ることは非常に重要だ。もし何も連絡が無かった場合などには「会社は見て見ぬふりをしている」「会社は何もしてくれない」と考えて、行政やマスコミなどの外部機関へ通報してしまうかもしれない。そこで、通報者に対して適宜しっかりと通知を行うことが必要だ。

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内部通報規程に受付~是正措置の間の通知に関する定めがある
書面による通報受付の後に、通報を受付けた旨を通知している
調査に入るか否かを通知している。入らない場合はその理由も併せて通知している
調査の進捗に付き通知している
是正措置の結果を報告している
(15)ディスクローズ

従業員が内部通報の運用実績を知りうることは、内部通報システムに対する安心感を得る意味でも非常に重要な要素と言える。いかにしっかりとした内部通報制度を構築したとしても、その中身がブラックボックスであれば、それは従業員にとっては、「不透明」で「実態がよくわからず」、「信用できないもの」と捉えられてしまうこともあるからだ。また株主や消費者などのステークホルダーに対しても運用実績を伝えながら内部通報が正しく機能していることを伝えることは、企業や商品に対しての信頼感・安心感につながり、企業価値の維持・向上や消費行動にも好影響を及ぼすと考えられる。

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内部通報規程に従業員等への情報開示の定めがある
開示の内容
件数・分類・是正の有無・対応の概要
開示の頻度
開示の範囲(社内・株主・消費者・周辺住民)
開示の方法・媒体
(16)周知・研修

内部通報システムを効果的に機能させるためには、企業側だけで各種の整備を行うのではなく、従業員に対しても関連法規や内部通報のしくみを始め、通報者になったときの心得や、関係者としてヒアリングを受ける場合の心得などの知識を定期的に周知・研修する必要がある。また、従事者に対しては、通報者を特定する情報を漏らしてしまった場合に、最高30万円の刑事罰が課されるという重い責任もあるため、情報管理や調査手法などについての実践的な研修を継続的に実施することが求められる。

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内部通報規程に従業員等の周知・研修に関する定めがある
従業員・役員に内部通報に関する定期的な研修がなされている
内部通報規程に従事者の周知・研修に関する定めがあること
従事者に対し、法の知識に加え、調査や是正措置など実践的な技術向上を目的とした継続的な研修がなされている
(17)制度改善のPDCAサイクル

内部通報システムは、一度構築したら後はそれを継続運用すればいいということではない。定期的な点検・評価を行い、もし不具合等がある場合はそれを改善していく必要がある。いわゆるPDCAサイクルを回していかなくてはならない。また、その評価・点検は手前味噌にならぬよう、中立・公平な第三者の目で行なうことも重要だ。

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改善点の意見集約のため以下のような措置を実施している

  • 全従業員アンケート
  • グループインタビュー
  • デプスインタビュー

アンケートやインタビューなどの結果を公開・共有している
改善点の考察のため、外部の意見を積極的に取り入れている

いかがだっただろうか、公益通報者保護法の指針の解説を読み解くと、以上17項目について、内部通報制度の評価・点検が必要となっていると考えられる。かなり面倒だが、もし何か不祥事などが起きた場合、これらの体制の未整備がその原因のひとつになっていたら、「なぜ前もって整備していなかったのか?」「経営陣の怠慢だろ?」と非難されることに繋がりかねない。ぜひ、このコラムをお読みいただいた機会に、再度自社の体制を見直してみることをお勧めする。ちなみに当社では、2月1日に『まるごと点検@内部通報』という新サービスをリリースした。これをご利用いただければ、非常にリーズナブルに自社の内部通報体制を点検できる。是非、ご検討いただきたい。

前回(第5回)コラムにおいては、評価・点検項目の一覧に「12調査協力」がありましたが、【一般的な従業員の職務・義務】の範囲内に含めて考えられることから、内部通報の点検項目からは外すことといたしました。

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