リスク・フォーカスレポート

事業継続マネジメントシステム編 第六回(2013.1)

2013.01.23
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 皆さん、こんにちは。先月に引き続き、事業継続マネジメントシステム(BCMS)の強化、整備の方策について、危機管理の視点を踏まえて、皆さんが考えていくためのヒントとなるような考察をしていきたいと思います。

 前回は、事業継続マネジメントシステム(BCMS)が求められる本質的要請とそれを踏まえた危機管理的視点を加味したBCMSの実効性確保の考え方について考察した。事業継続マネジメントシステムと一口に言われているが、危機管理の観点から考えると、リスクマネジメント及びクライシスマネジメントの双方を具備した求められることは既に指摘したとおりであり、これまでの国内でのBCMSに関する各種モデルが事業「リスクマネジメント」に偏重していることも既に指摘したとおりである。

 確かに、リスクマネジメントなくして、適切なクライシスマネジメントはなしえず、その意味で、リスクマネジメントとクライシスマネジメントは車の両輪ということができるが、逆に言うとリスクマネジメントだけでは前に進めないことを意味する以上、事業継続マネジメントシステムの整備に関しても、もう一つの車輪の役割を果たすクライシスマネジメントの仕組みを内在化する必要がある。

 ちなみに、皆さんの中には、すでにBCMSに組みこまれているインシデント対応計画がクライシスマネジメントの役割を果たすとお考えの方もいるかも知れないが、インシデント対応計画はあくまで、BCPの対象とするリスク及びそれに基づくリスク評価を前提としたシナリオへの対応計画であり、シナリオ外の事象に対して広く適用できるものない上、あくまでも社長をトップとする対策本部等の平時の危機管理を前提とした内容がほとんどであり、社長や経営幹部も含めた多くの関係者の安否不明、通信不通の状態での組織的対応に耐えうるものではない。BCPの計画通り、対策本部が起動できるのであれば、社長等の見事なリーダーシップや采配で事業停止の危機を乗り越えられるかも知れないが、それは状況がシナリオ通り進むかどうかという一か八かの賭けに近く、危機管理の観点からはベストプラクティスとは言い難い。リスクマネジメントの仕組みとして整備した対策本部による対応を大原則としながら、それが起動できないとき、機能しない時の補完ルールをクライシスマネジメントの指針として策定しておかなければ、さらにそのクライシスマネジメントのための仕組みで事業継続を目指す訓練をしておかなければ、いざという時に機能しないBCMSになりかねない。

 今回も、引き続き危機管理的視点を加味したBCMSの実効性確保の考え方、特に上記の大原則たる対策本部が機能しない場合の危機対応要領及びそのための訓練について補足するととともに、最後に災害大国日本としての日本的発想を踏まえた事業継続の考え方を提言し、全6回のBCMSに関するリスクフォーカスレポートを締めくくりたい。

1. BCMSの本質的要請と危機管理の観点を加味したフレームワーク

1) 前回の繰り返しになるが、BCMSが求められる本質的な状況は、3つに集約される。

 一つ目は、「通常の業務オペレーションどおりに業務が実施できないこと」、二つ目は、「業務に使用している設備、インフラ、資産等の一部が利活用できずに、利用できる資産が限定されること」、三つ目は、「可能な限り早期に通常のオペレーションに回復させないと、顧客に迷惑がかかり、社としての経営基盤を揺るがす事態が発生すること」である。

 策定されたBCPのシナリオ通りに進むのであれば、シナリオにしたがって対応できる以上、事業停止の危機にさらされているとはいえないし、通常の業務フローにしたがって対応できるなら、BCPによって細かく対応シナリオが決められていなくても事業の継続は可能である(稼働率や生産量、納入量は平時よりも落ちたとしても、通常業務の実施は可能であり、事業の継続に支障はない)。したがって、BCPにあるインシデント対応計画等のシナリオ以外の想定外事象が起きたときにどのように行動するのか、また通常の業務プロセスにしたがって対処できないときにどのように行動するのか等の、対応指針を盛り込んで定着させておくことが、事業継続マネジメントシステムの本質的な要請であるといえる。

 要するに、BCMSは、「通常の経営資源や業務プロセスに従った処理ができずに、事業の継続を脅かす事態が発した場合の即応態勢」と言うことができるのであり、BCPには本質的に、想定外事象や有事対応の具体的指針、想定シナリオ外の事象が発生した場合の行動原則等が含まれていなければならないのである。

 したがって、BCPには、災害等で発生する各種の状況への対応、すなわちクライシスマネジメントに関する内容を組み込む必要がある。一方で、危機管理は予防としてリスクマネジメント及び対応としてのクライシスメントの両者を融合し一体的に整備・運用していくことであるから、事業継続マネジメントシステムを考える上でも、当然に事業継続リスクマネジメント、すなわち、従来のBCP策定プロセスにおいて重要視されている代替戦略や防災対策、多重化・冗長化対策は、重要である。そこで、危機管理の観点から、機能するBCMSを整理してみると次の図のようになる(※図、筆者作成)

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2. 実効性の高いBCMSを目指して

 それでは、上記フレームワークに基づき、BCMSの実効性向上に向けた方策について前回の引き続きから、考察していく。

1) BCMを機能させる為の危機管理②~危機事態マネジメント~危機対応3原則

 既に解説してきたように、多くの企業のBCPに組み込まれている社長をトップとする対策本部を前提とする事態対応が可能であれば、それにしたがって対応していくことに越したことはない。有事に強いリーダーによる危機事態の回避がヒーロー伝説のように持てはやされ、そのようなリーダーシップの発揮が理想像とされるが、現実問題として、そのようなリーダーシップを発揮できる人材が、皆さんの身近にどの程度いるだろうか。一般の大多数のリーダーができないからこそ、有事に強いリーダーのリーダーシップにより危機事態を回避したことがヒーロー伝説になることを忘れてはならない。まして、社長や危機管理担当役員と連絡がつかない状況で、彼らのシーダーシップが本当に機能するのかについては、多分に不確実性が潜んでいるといわざるを得ない。

 大規模広域災害、特に首都直下地震の場合、経営判断や対策本部において指揮をとる社長や取締役の安否不明、音信不通となる可能性が極めて高く、また、通信障害により報告連絡や状況把握、対応指示に時間がかかり、そのために無駄な時間を費やしたり、首都圏の交通機関の寸断により、従業員が参集できないなどの状況に陥る可能性が高いなどの状況を踏まえると、従来の「対策本部」を中心とする集権的危機対応が有効に機能する保障はない。

 とすれば、過度に集権的危機対応に依拠・拘泥するのではなく、現場による自律的行動を原則としつつ、状況が落ち着き、情報連絡の負担が小さくなった段階で徐々に対策本部が関与を強めていくことが望ましい。

 そして、そのためには、現場のスタッフに対して危機対応原則と行動原則を明示しておき、それに沿った対応を促すことが必要であり、そのための行動基準が必要となる。

 事業継続マネジメントにおけるクライシス対応要領として考えた場合、そこで求められる要請は、「想定の有無や被災状況、複合災害の状況に関わらず、事業の継続・維持・回復に向けて、状況に応じて、現在の状態から、事態を徐々に打開していくこと」であるといえる以上、予め策定・明示しておくべき危機対応原則には、①被災状況や社会環境等の状況を踏まえて、事業継続の目的に沿った判断・対応を柔軟に行うこと(柔軟性)、②事態の打開を図るため、あれこれ考えずに、できることに絞って迅速に行動に移すこと(迅速性)、③できることは限られていることを前提として、実行可能なこと、事業継続の目的実現のためになすべきことを、着実に一つ一つ積み重ねて前進し、アクションを「継続」していくこと(着実性)、という3つの視点が含まれていることが求められる。この3つを、「危機対応3原則」と呼ぶこととする。

 東日本大震災での企業の実例を見ると、例えば、会員制の宅配サービス事業者は、平素、野菜やお肉等の食品を会員宅に専用車両にて宅配(現時販売)するスタイルをとっているが、震災後の物流停滞や放射能漏れによる食品の風評被害が問題となる中、「何事にも組合員への供給を最優先する」と言う対応方針を明確にして、徹底し、まず商品を確実に調達供給できる安全な食品に絞込み、調達先や食品包装に関するルールを緩和して、さらに自主的に放射線量のチェックを行い、安全・安心な食品のみを供給し続けた。

 このように被災状況や社会環境等の状況を踏まえて、事業継続の目的に沿った判断・対応を柔軟に行うことという「柔軟性」の要件は、「組織運営」に関するものとして、ルールに囚われない判断と権限委譲、そして現場における柔軟対応の要請が導かれる。また、事態の打開を図るため、あれこれ考えずに、できることに絞って迅速に行動に移すことという「迅速性」の要件は、スタッフ個々人の行動原理としても機能するもので、指示待ちではなく、自分の置かれた状況を踏まえて、できることから着手することを要請するものである。されに、できることは限られていることを前提として、実行可能なこと、事業継続の目的実現のためになすべきことを、着実に一つ一つ積み重ねて前進し、アクションを「継続」していくことという「着実性」の要件は、すべきことを着実に実施することを義務付ける統制面に関するもので、事業継続に向けた取組の実施を担保するためのものである。

 そして、危機対応3原則に基づく危機対応を行うと、各人の勝手な行動を行なう可能性があるとして、このような考え方に否定的な論者もいるが、事業継続マネジメントを発動するような究極の事態下において、対策本部等や上長の意思決定を待って、何もしないことと、少しでもできることを各人がやることで、最悪の状況から一歩でも二歩でも前進しておくことのどちらが賢明かは、論じるまでも無いであろう。そもそも個々人が「勝手」に判断、対応してしまうといっても、「勝手」と評価されるのは、自身の経験と勘と知識に基づき、各個人が判断した結果が「期待されている方向・内容とズレている」からである。対処の結果が期待している方向とズレていなければ、自分の立場や面子のみに拘泥する上長は別として、多くの場合は、「よくやった」という評価に繋がるであろう。要するに、個々人としては、「自身の経験と勘と知識に基づき、判断する」のかと言えば、「何をすればよいのか分からない」もしくは「他にやり方がわからない」からである。

 とすれば、「期待すること」や「やって欲しいこと」(すなわち向かうべき方向性)を明確化(=固定化)し、やり方や状況判断を各人に任せることで、柔軟対応における弊害も相当程度解消できる。「期待すること」「やって欲しいこと」を明示することで組織のベクトルを同じ方向に向かせ、組織一丸となってその目的に向けて動き出すための仕掛けを行うことで、組織としての期待と大きくズレることのない現場スタッフによる柔軟対応が可能となる。そして、組織のベクトルを同じ方向に向かせ、組織一丸となるための方向性明示基準として相応しいのは、「経営理念」や「企業理念」、「企業の社会的使命」であるから、「経営理念」や「企業理念」、「企業の社会的使命」を具体的なメッセージとして経営者が日々従業員にその意味を理解させるとともに、それを日頃から考える習慣、判断する訓練を行っておくことで、組織一丸となるための行動規範として、有効に機能する。

 先にあげた、東日本大震災における宅配事業者の例を見ても、「何事にも組合員への供給を最優先する」と言う形で、当該状況下において自社の社会的使命を果たすべく対応方針を明確にして行動の指針を与えているが、このような指針を平時から明確にし、各スタッフが時々の状況においてどのような判断・行動をすべきかを考えられる状況にしておくことで、有事に強い組織が出来上がる。この点は、千葉県にある大型テーマパークのスタッフは、自らも被災していながら、テーマパークに来たこどもたちの安全を確保しつつ、不安を与えまいと自主的にショーを行ったり、店舗やテーマパーク内にある物品を提供したりした例を見ても明らかであろう。同テーマパークの対応は、大震災後に方々から賞賛されたが、リスクマネジメントとして万全の備蓄を行ないつつ、企業理念をスタッフに浸透・共感させ、クライシス対応が求められる状況下においても、それを具体化できる人材育成を行っていたことで、テーマパークとしてのすごさをアピールすることに繋がった好例であり、BCMSの構築・整備にも大いに参考とすべきである。

2) BCMを機能させる為の危機管理③~実践重視=ソフト面の対策の強化(コストを理由とせずにできるところから)

 既にこのリスクフォーカスレポートでも論じてきたように、BCMSのガイドライン等では、工場等の施設の代替拠点確保やシステムバックアップのようなハード面が中心となっているが、このような対策は、次のような限界がある。第一に、ハード面中心の対策はコストがかかる。資金的余力のない企業ではどうしても対策が行われなくなり、結果としてBCMSが十分に整備されなくなってしまう。第二に、ハード面の対策は社会インフラが回復しないと機能しないケースも多く、非常に流動的かつ不確実性が高い。機械が無事でも、長期間の停電になれば、操業がままならないのが最たる例である。

 何よりも日々の業務を実行・管理しているのも「人」である以上、ソフト面(「人」)基点の対策論の充実に力を入れて取り組む必要がある。

 例えば、新潟中越地震の事例を挙げると、ある金型加工メーカーは工場や大型機械の基礎強化・耐震対策というハード面の対策に加え、ノウハウ承継を目的としたパソコンでの情報共有マニュアルを整備し、設備復旧に関する情報の共有、防災勉強会を開催するなどのソフト面の対策も行っていた。地震当日は、物が散乱する中、避難経路を確保し、全員が安全に避難する対策を最優先し、翌日は出社可能な社員による復旧業を実施。午後には生産・出荷を再開している。自社の業務プロセスの実施に必要な社員について全員の安全を真っ先に確保したこと、ノウハウの承継を目的とした情報共有マニュアルの作成や自社での設備復旧要領の共有など、正に実効性確保に向けたソフト面を重視した危機管理対策がしっかりと行われており、ソフト面の対策の重要性を示した好例であると言える。

 なお、このようなソフト面の対策は、人への周知・徹底が不可欠なものである以上、定着までに時間もかかることから、日頃から如何に意を用いて地道に対策を行っていけるかが重要であり、平時のから如何にクライシス対応を意識した発想・対策・OJTができるか重要になる。

 3) 「BCMを機能させる為の危機管理②~危機事態マネジメント~危機対応3原則」の中で言及した、自律的な現場における危機対応の前提として社会的使命や経営理念の明示とその周知及び行動訓練の必要性にしても、「BCMを機能させる為の危機管理③~実践重視=ソフト面の対策の強化」の中で言及した事業継続要領の地道な周知・徹底にしても、平時からの、言い換えれば、クライシス対応を行うためのリスクマネジメントとしての経営トップによる積極的なコミットメントとマネジメントなくして実現できない。その意味では、危機管理の視点から見たBCMS構築においては、平時の従業員への信頼を前提とする経営者による積極的関与と自律的危機対応を是とする組織体制(環境)の積極的な整備、具体的な行動を起せる人材育成がその要諦であると言える。

「BCMを機能させる為の危機管理①~「事業」「継続」のための発想転換」で言及した事業の絞込みと継続のための戦略という事業継続戦略と上記のような組織環境の整備、人材育成を進めいくことが事業継続の実効性を左右するからこそ、BCMSの整備は経営そのものであり、経営者が積極的に関与・推進すべきとされるのである。

4) 以上ここまで検証してきたBCMを機能させるための危機管理の要素を踏まえて、

 そのための組織モデルを最後に検討する。機能する事業継続マネジメントシステムを実現するための組織モデルとしては、①皆でできることを確実にやること、②状況に応じて柔軟に対応できる組織であること、③指示を待たなくてもある程度自律的に活動できる組織であること、④状況打開後は、後方支援部隊が可能な範囲で適宜サポートすることで、事業継続に向けたアクションを組織として着実に実行していくこと、⑤特定の固定化した組織のモデルではなく、部署単位・地域単位で適宜組み合わせる等することで、普遍的な汎用性を有すること、が求められる。

 そこで、これらの要件を満たす組織モデルを検討すると、①の「皆で確実にやる」という側面、そして②「状況に応じて柔軟に対応できる」という側面、さらに③「ある程度自律的に活動できる」という側面を踏まえると、小集団による複数のチーム制をベースとして採用することが望ましい。そして、①「できることを確実にやる」という側面、②「状況に応じて柔軟に対応できる」という側面、⑤「適宜組み替えられる」という側面を踏まえると、業務プロセスを細分化して、できることに集中させるための役割分担をし、参集状況等により、適宜入れ替えられるような仕掛けを行うことが望ましい。さらに、②「状況に応じて柔軟に対応できる」という側面、④「状況に応じて後方支援部隊が適宜サポートする」という側面、⑤「適宜組み替えられる」という側面を踏まえると、全体を統括しつつ、適宜現場をサポートできる機動性を有する組織とすることが望ましい。

以上を集約すると、次の5項目が導き出される。すなわち、

 A) 正規チーム(小集団)での活動をベースとしつつ、他のチームのスタッフを暫定的に編入することで、チームとしての任務完遂を可能とするような柔軟なマネジメントが行われること

 B) 入れ替え可能なように、業務プロセス毎に担当者を割り振り、予め明確化、標準化された任務を付与すること

 C) チームは必ず複数存在させ、どこかのチームが任務遂行が不可能になっても、他のチームによる任務遂行が可能なこと

 D) 実働部隊としての複数チームと、全体を統括しつつ後方支援を行う統括班とに分け、統括班も必ず班が複数で構成されること

 E) マネジメント方針として、「組織編制と対応に関する柔軟性」「任務遂行に向けた確実性・迅速性」「迅速な対処を可能とする重要業務の戦略的策定」を含んでいること

このような項目を含む組織モデルとして、私は、Business Protection Management(以下、説明の便宜上、B.P.Mと略す)モデル(図、筆者作成)を提唱したい。

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3.(社会政策的提言)国内の災害等の状況を踏まえた日本型の事業継続モデル~社会連携

 このような企業のBCMS構築実務の背景には、企業の事業活動は社会インフラに大きく依存していること、したがって、事業の復旧のためには社会の機能維持・回復を優先させる必要があるにも関わらず、社会機能の回復を視野に入れた事業継続マネジメントシステムのあり方は十分に議論されていない現実がある。「社会機能の回復なくして事業の継続なし」という事理は、被災地の一部で未だに社会機能が回復できていない現実を見れば明らかであるにも関わらず、依然として事業継続を実現するためには、事業の復旧だけではなく、インフラ復旧に協力して社会の機能維持・回復を優先させる必要があることの認識と社会的理解と社会的合意が形成されていない。

 既に、本リスクレポートでも指摘したとおり、大規模広域災害後の社会混乱や事業や社会機能の回復の為に活用可能な資源の偏在は、企業の事業継続にも大きな影響を与え、場合によっては、企業の事業継続を著しく脅かす。一方で、無計画な災害対応は社会不安を助長し、一層の社会混乱や資源の奪い合いによる災害弱者や被災者の置き去りに繋がりかねない。東日本大震災後に首都圏においても品薄の状況が生じたことや、大規模計画停電の中で、例えば駅のエスカレーターやエレベーターが止められ身体障害者や高齢者等の公共交通機関の利用に支障を来した一方で、ネオンを落とさずに営業している店舗があるなど、社会の全体調和が後退していた現実もある。

 各企業のBCMSが相当程度整備されていても社会機能が回復しなければ、事業の復旧も覚束ない。一方で、ある程度社会機能が回復し「通常のオペレーション」での業務実施が可能であれば、BCPのような特別のフローを発動しなくても、通常のレベルまで回復していないにしても、事業継続は可能である。

 とすれば、企業が事業継続を実現しようとした場合、徒に自社のBCPに従い事業復旧を目指すよりも、国と各行政機関と事業者と住民が一体となって、社会機能の維持・回復に総力を結集する「社会連携」を模索することで、事業継続の可能性も高めることができるはずである。単に共助の精神に基づく地域連携やそこに企業が関与するという形式にとどまらず、資源の効率的・合理的分配による社会機能の早期回復と維持による被災地支援と被災地域の復興(当該地域で事業を行う事業者の事業継続を含む)を実現すべく、社会全体での優先順位とそれぞれ主体の役割を明確にして、戦略的かつ有機的に、国、地方自治体、NPO等の社会活動団体、病院・電気・水道・ガス・交通・通信・報道等の各ライフライン事業者、企業、地域住民及び近隣住民、大学等の教育機関、ボランティア団体、その他の住民(国民)が、協調・連携していくことである。

 企業の実務とは離れるため、詳細について論じることは避けるが、特定地域の被災であっても、世界規模での日本ブライドの信頼失墜に繋がることに鑑みると、国を中心として各主体が戦略的・効果的に連携して社会機能を維持し、企業間でも連携により早期に事業活動を回復・継続できる「社会連携」の考え方を盛り込んだBCMSを整備していくことも有意義ではないだろうか。例えば、納入先企業の生産設備が地震等で稼動できない、あるいは同社のBCPにより稼動を停止しているにも関わらず、平時のフル稼働での生産を前提とした原材料等の納品をすることは、必ずしも合理的ではない。一方で、設備は稼動できるが原材料が入手できない事業者も存在するのであり、そのような場合は、特定の企業集団で余剰となっている原材料は他の事業者に回し、社会全体での生産量を確保した方が合理的と考えられるのであり、サプライチェーンマネジメント(Supply Chain Management;SCM)は、社会連携による社会継続マネジメント(Social Continuity Management)により、実現できるものと考えられるのである。

 「社会連携」による「社会機能と事業の継続」モデルと日本企業の誇る高品質こそが、災害大国日本としての「ジャパン」ブランドであることをアピールし、国際競争力を高めていくことが、重要なのではないかと考える次第である。

 長期間にわたり、私の視点からのBCMSに関するリスクフォーカスレポートにお付き合いいただきまして、誠にありがとうございました。国内の現状をみても、実際に優れたBCMSを構築している企業も多く、また3.11後に政府を始めとして、防災や事業継続に関しても様々な方面から優れた見識、実例が紹介されています。

 しかしながら企業危機管理の実務からBCMSを検証しているものはそう多くは無いのではないかと考え、企業危機管理の実務支援に携わる者として、自分なりに検証・考察したものを紹介させていただいたのが、この6 回にわたるリスクレポートとなります。

 本稿に関する見解は、もっぱら私個人の見解に基づくものであり、株式会社エス・ピー・ネットワークの公式見解ではありませんが、基底にある危機管理的発想や実務的視点は、多分に弊社の体系・ノウハウに基づく共通認識と言えるのではないかと思います。

 実際にBCMSの構築に携わる皆様からすれば、まだまだ甘い部分や検証不足の点を含め、様々な意見・反論もあるかもしれません。今後とも、ぜひ、企業訪問や各種セミナー等の際に、皆様からのご指導を頂きながら、より実効的なBCMS構築に向けた意見交換をしていければ、若輩者の私としても光栄でございます。

 私が担当していた回のリスクフォーカスレポートは、次回からは、同じく総合研究室の石原則幸が担当し、広報に関わる周辺テーマを概括しつつ、広報と危機管理の関連性を明確にするための連載が始まります。石原の経験や見識に基づく危機管理実務を踏まえた論考も皆様に何らかの実務上のヒントを提示することになると思いますので、今後とも、リスクフォーカスレポートにご期待下さい。

 今後とも、弊社サービスのご利用等、よろしくお願い致します。

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