リスク・フォーカスレポート

危機管理的顧客対応5ヶ条編 第一回(2013.9)

2013.09.25
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エキスパートが実践する負けないための鉄壁5ヶ条~危機管理的顧客対応5ヶ条のもう一つの意義

 皆さん、こんにちは。本社総合研究室の西尾です。先の7月に実施を致しました当社定例セミナーにおきまして、当社の全国の拠点において、「クレーム対応の基本エッセンス~危機管理的顧客対応5ヶ条」の内容をお話させていただきました。お忙しい中、全国的に多数の会員企業の皆様にご参加いただきまして、大変盛況でございました。改めまして、ご参加いただきました皆様に厚く御礼申し上げます。また、ご都合等によりやむを得ずご参加いただけなかった皆様も、今後も企業危機管理アカデミー等で、ロールプレイング等を通じてその内容を理解・習得していただく機会を設けて参りますので、是非、ご参加下さい。

 さて、定例セミナーにおいては、日々顧客対応に当っておられる方を対象に、現場においてどんな事例を前にしても「負けない」ための基本要素と発想について、解説をさせていただきました。この、どんな事例を前にしても「負けない」ための基本要素と発想こそが、「クレーム対応の基本エッセンス~危機管理的顧客対応5ヶ条(以下、「5ヶ条」という)なのですが、「5ヶ条」の特徴は、現場レベルにおける対応指針に留まらない点にあります。

 詳細にその内容を解説すればするほど、不当要求対応のテクニックと思われがちなのですが、単なるテクニックでは有りません。

 5ヶ条は、現場における対応指針として活用できる他、組織の顧客対応プロセスを標準化し、可視化し、効率化することで、収益性の向上の実現と顧客対応プロセスにおける各種の不正を予防することを目的としています。視点を変えれば、現場レベルにおいては、不当要求に負けずに顧客満足度を向上させていくための対応指針として機能する一方、経営レベルでは組織内の顧客対応プロセスを標準化し各プロセスにおけるリスク対応や不正誘発予防を通じて、顧客対応にかかる内部統制システムを強化していくための指針として機能することを意図して開発されています。

 現場レベルでの5ヶ条の発想については、今後もセミナー等を通じてお話させて頂く機会があると思いますので、今回のリスクフォーカスレポートでは、3回に渡って、経営レベルにおいて組織内の顧客対応プロセスを標準化し各プロセスにおけるリスク対応や不正誘発予防を通じて、顧客対応にかかる内部統制システムを強化していくための指針としての機能する5ヶ条の考え方について解説していきたいと思います。

 第一回目の今回は、経営レベルにおいて組織内の顧客対応プロセスを標準化し各プロセスにおけるリスク対応や不正誘発予防を通じて、顧客対応にかかる内部統制システムを強化していくための指針としての機能する5ヶ条の意義と、顧客対応にかかる内部統制システム上のリスクアプローチとその手当てについて考えて行きましょう。

1.顧客対応にかかる内部統制システムを強化していくための指針としての機能する5ヶ条の意義

 既に説明した通り、危機管理的顧客対応指針5ヶ条は、内部統制システムの強化を意図した顧客対応プロセスとして、組織内で標準化させることも意図しています。下記にも図示するように、5ヶ条では、初期対応から事実確認、対応方針決定、対応要領の明確化という形で、そのプロセスや各プロセスで実施・考慮すべき要素が明確化されています。

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 この流れに応じて、順次対応し、その経緯・結果を記録していくことで、組織としての対応プロセスが可視化・標準化できる上、顧客対応プロセスにおける種々のリスクに対してのリスクマネジメントとして機能します。

 なお、それぞれの内容の詳細については、今回は省かせていただきますが、詳細につきましては、当社セミナー、企業危機管理アカデミー、本年末に刊行予定の書籍(ミドルクライシスマネジメントVOL2)等により今後、解説させて頂きます。

 ところで、顧客対応を巡り、その対応プロセスや対応基準が不明確であったため、内部統制システム上問題を生じさせた事例として、次のようなものがあります。

A) 大手電気店で製品を買ったお客様から自社の設置ミスに起因するクレームがあり、休日に呼び出しを受け対応した。対応の過程で、PCの掛売を持ちかけられ、クレームを生じさせてしまった負い目から、これに応じてしまう(本来、掛売は社内ルールで禁止されている)。最初は1台のみであったが、そのうち台数が増え、それに伴い未収金も増加。やむなく店舗の在庫管理用のPCの元データを改竄し、事態の隠蔽を図る。これにより数千万円にも及ぶ損失を発生させた。

B) 店舗レベルで手に負えない悪質なクレームに対応していた本社のお客様相談室のスタッフが、過酷な要求や対応に対するストレスから、うつ病を発症。自殺未遂騒動まで発展してしまった。急成長企業で人員も不足していたことから、当該スタッフは対応に関するストレスに加え、長時間・過重労働を強いられていたものである。
 当該スタッフは、社内の対応方針やその決定プロセスが不透明なこともあり、ぞれぞれの事案について、どのように対応していけばよいかの迷いがあり、強度のストレスがかかっていたが、ジョブローテーションによるメンタル負荷の軽減措置や対応サポート要員の配置、対応スキル向上のための研修等の対策もコストを理由になされていなかった。
 家族からは安全配慮義務違反での訴訟の話も出始めている。

C) 対応ミスの事後対応を任されていた取締役が、会社の当該事案の対応費用として計上されていた対策費の大部分を、自身が運営する別会社の運転資金に流用していた。
 当該取締役は、別会社のスタッフや関係者を使って、対応に関する虚偽の報告書、領収書、示談書等を作成して、不正の隠蔽を図っていた。

 いずれも実際に企業で発生した事案である。しかも、少なくとも金融商品取引法に関係した財務報告にかかる内部統制システムが構築・運用されているはずの上場企業の事例も含まれている。顧客対応マネジメントシステム等を構築し、又は社長直轄のお客様相談室を組織の中心に据える等して、顧客対応に関する対応プロセスや業務フロー、そしてそこにおける各種書面、モニタリング等の仕組みを構築している企業もあるものの、そのような対応プロセスの標準化と可視化と現場における対応要領が有機的にリンクする形で運用できている企業は、それほど多くはないのが現状です。

 顧客対応の対応プロセスや対応時のフォーマットは明確化されていても、対応担当者の対応の過程が十分に記録されていなかったり、クレームに関する情報は集約されているが、その対応内容が吟味されていない(クレームの発生要因まで分析されておらず、組織的な改善につながっていない)というケースも多いと言えます。また、組織的な改善課題として問題解決をしようにも、担当部門や現場へのフィードバックや落とし込みが不十分で具体的な問題解決ができないままの企業を少なくありません。

 その結果、同じようなクレームに対して何度も不適切な対応を繰り返すといった、いわゆる「内部統制システムの不全」とでもいうべき状況が現出しているのです。

2.顧客対応プロセスと内部統制システム

 上記の事例を参考にして、また会社法に定められている内部統制システムとの関係で顧客対応に伴うリスクを検討してみたいと思います。

 顧客対応に関して言えば、会社法362条では、大会社に、「取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備」を義務付けており、その詳細を会社法施行規則にて規定している。内部統制システムとの関係で、顧客対応に伴うリスクを考えた場合、3つの点で大きなリスクが潜んでいます。

 まずは、会社法本文に規定されている「取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制」、あるいは会社法施行規則で規定されている「使用人の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制」、すなわち法令等遵守に関するコンプライアンス条項との関係についてがあげられます。例えば、事例Aでは、掛売りは行わないという社内基準を逸脱した対応が行われていますし、事例Bでは、従業員の安全配慮義務違反を推認されるような、さらには黙認しているような事象が窺われ、事例Cでは、対応に関する費用の流用とそれに伴う横領・背任行為が認められます。

 不当要求は、多くのロスを生み、そのロスには精神的なロスも含まれます。不当要求は、対応担当者に過度の精神的負荷をかけ、対応担当者にメンタルヘルス上の問題を誘発する可能性があることは、既に指摘した通りですが、企業の実務担当者においてもそれは既に認識されていますし、取締役等としては当然に知っておくべきリスクということができます。その意味では、事例Bで言及されているような措置を行うといった対策が必要であると考えられます。また、対応のプロセスや対応当時の記録が不透明で、組織としての対応基準も不明瞭なままであれば、事例Cのような横領・背任行為を誘発する蓋然性もあると言えます。このようの顧客対応プロセスにおいては、法令等遵守体制に関するリスクが存在しています。

 内部統制システムとの関係で次に考えられる顧客対応プロセス上のリスクは、会社法施行規則に定められている「損失の危険の管理に関する規程その他の体制」に関してです。ここでは、例えば、収益の源である顧客の「声」とロスを生む不当要求の区別や判断基準が曖昧であり、両者が混同される可能性があること、そして、顧客対応、特にロスに直結する不当要求対応の対応要領が統一されていないこと等の理由により、結果として、本来応じるべきではない不当要求に応じてしまい、これらが規程やマニュアル、その他社内ルール等で明確にされていれば生じさせずに済んだ「損失」を生じさせてしまうというリスクが存在しています。実際のところ、5ヶ条の内容のような明確かつ汎用的な形で標準化されたマニュアルや対応指針の策定は、「損失の危険の管理に関する規程その他の体制」との関係で大きな意義を有しているものと考えられます。

 そして、内部統制システムとの関係で考えられる顧客対応プロセス上のリスクとしては、さらに、会社法施行規則に定められている「取締役の職務の執行に係る情報の保存及び管理に関する体制」との関係でも、挙げることができます。例えば、顧客対応時の対応経緯も含めた事案対応記録の不徹底や明確化されていないことにより不正抑止が効果的に実施されない可能性があること、そして全体の対応経緯や対応方針決定のプロセス等が可視化されていないため、日常のモニタリングが疎かになる可能性があること等があげられます。

 以上、会社法の内部統制システムにおける中心的課題でもある上記3つの体制整備に関して、それぞれ重大なリスクが存在していることから、これらのリスクに対応しうる顧客対応指針が求められていると言えるのです。

【内部統制システムの観点から見た顧客対応に伴うリスク】

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 次回は、具体的な顧客対応プロセスに潜むリスクを検証し、なぜ5ヶ条の考え方が有効なのか、危機管理的顧客対応5ヶ条として機能する由縁について解説します。

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