リスク・フォーカスレポート

防犯編 第三回(2014.2)

2014.02.26
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 防犯編1回目、2回目において、社会全体での万引きの小売店舗における被害実態、および防犯対策ハード面での対策の実態や、防犯理論の概要をみてきました。被害者側(小売店舗など被害者)の防犯対策や対応などは、一般的にも見聞きする状況があるかと思いますが、司法側の対策・対応についてはあまり知られていないことが多いように感じます。被害者側は、窃盗犯などを検挙した後警察に引き渡す時点までが直接関与できる部分であり、警察に引き渡した後に被疑者がどのような流で対応されているのかを知っておくことも、被害者側の対応(届出の有無など)を決めるうえでも必要なことかと思います。第3回目となる今回は、窃盗において検挙された後、被疑者が送致される割合など被疑者の刑罰が決まるまでの流れをみていき、刑罰に関して考えてみたいと思います。この、被疑者の刑罰を与えられる状況をみて行くことで、被害に遭った場合にどのような対応をするべきなのかを考察していきます。

1.窃盗の再犯者の実態

 昨今、刑法犯全体の認知・検挙件数は減少傾向を示している一方で、再犯者の割合が年々増加傾向を示しています。再犯者とは、警察に検挙された後に再度犯罪を行った者を意味していますが、警察に検挙されても再度犯罪を犯すということは、捕まった時に「またやってやる」と思っていたか、あるいは「もう二度とやらない」と思っていたのに、再犯したかのどちらかです。いずれにしても、捕まった後に刑罰を受けていないか、刑罰を受けていたとしても、犯罪を犯すことへの抵抗を感じていないためだと思われます。そこで今回は、刑法犯の再犯者実態についてみていきたいと思います。

(1)刑法犯における再犯者の実態

 平成24年の罪種別で、刑法犯全体(含.未成年)の検挙件数(287,021人)の中で、窃盗の検挙件数(153,864人)が占める割合は、約54%で半数以上を占めています。また、認知件数でみると窃盗犯の割合は急増し、刑法犯全体(1,382,121件)のうち、窃盗犯(1,040,447件)は、75%強を占めています。

 平成24年の刑法犯全体の検挙人員(287,021人)中の再犯者の検挙人員(130,077人)は、全体の45.3%を占めており、ほぼ2人に1人が再犯者となっています。初犯者(156,944人)は、54.6%となります。

 刑法犯全体で見ると、平成16年以降の検挙人数は減少傾向となっているものの、再犯者の割合は、平成8年の27.7%から年々増加を続け、平成24年には17.6ポイント増の45.3%まで上昇したのです。同年の窃盗における有前科者による再犯率は約50%で、刑法犯全体のそれを上回っています。

 また、同じく平成24年の成人の一般刑法犯全体の検挙人員は221,573人、この内窃盗は115,494人で、52.1%を占めています。また、有前科者(63,387人)は全体の28.6%を占めています。初犯は158,186人で71.4%を占めていますが、この場合の”初犯”とは検挙経験有りも含みます。

 罪種別に窃盗を見ると、有前科者(32,033人)は50.5%を占め、さらに、その中で同一罪種の有前科者(22,348人)が69.8%も占めています。これは、全有前科者(63,387人)の中の同一罪種の有前科者(32,785人)の51.7%を大きく上回っています。

 つまり、刑法犯罪の大半を窃盗が占めているなかで、刑法犯全体の有前科者の再犯率は、上掲したように28.6%に止まりますが、窃盗の有前科者が再び窃盗で捕まる同一罪種有前科者の比率は、69.8%にまで上昇するのです。

 このように、窃盗の有前科者が再び窃盗で捕まる同一罪種有前科者である比率が高い状況が見えてきたかと思いますが、この前科者になる過程をみていくと、なぜ再犯率が高いのかが見えてくると思いますので、追ってみて行きます。

▼平成25年版犯罪白書、法務省、第4編/第1章/第1節/1
▼平成24年1月~12月犯罪統計、警察庁刑事局刑事企画課、2013年2月7日

(2)窃盗犯を起訴した件数

 検察において被疑事件を通常受理(検察官の認知又は直受に関わる事件および警察官から検挙後に送致された事件の計)した刑法犯全体の人員(962,742人)の内、起訴人員(142,594人)の割合は約15%となっています。検察において受理した事件として、起訴されているのは、2割にも満たないことがわかります。

 そこで、平成24年の罪種別における窃盗の起訴の割合をみてみると、通常受理(133,068人)の内、起訴されたのは38,212人であり約29%となっています。上掲した刑法犯全体の起訴割合が約15%に対して、窃盗はほぼ2倍の約29%ですので、比較的起訴されやすい罪種であるとも言えます。

 もともと、同年の罪種別における窃盗の検挙人員(153,864人)の内、検察へ送致された人員(132,846人)の割合が約86%と高い数字になっていますので、検察送致の起訴の割合も3割近くになっていると思われます。

 これらのことから、企業(店舗)側が窃盗犯を捕まえた後に、警察へ届出を行ったとしても、検察へ送致され起訴される割合は検挙人員の大部分を含めた通常受理の約3割であり、刑法犯全体の約15%よりは、割合が高くなってはいるものの、不起訴処分が約7割を占めていることがわかります。

 つまり、窃盗により警察に捕まったとしても、7割の人は起訴されずに刑罰(懲役、罰金等)も科されていないことになりますので、警察に検挙されたとしても、結局7割の被疑者は不利益を受けていないということになります。

 刑法犯罪者は検挙後に2つの手段で公訴(起訴)を逃れることが可能となっています。それは、警察の内部処理にとどめる微罪処分(刑事訴訟法246条・犯罪捜査規範198条)と、検察官の起訴便宜主義(刑事訴訟法248条)にもとづく判断による不起訴扱いによるものです。それぞれの基準は明文化されており、軽微な犯罪や犯人の性格、年齢や境遇、犯罪後の状況などにより総合的に判断されている状況があります。いづれにしても犯罪者の意思で選択しているわけではなく、司法の判断によるものでありますので、なぜ起訴しないかと問題提起をする余地はないのかもしれません。

 犯罪者が捕まった後に刑罰を受けることがなく、犯罪を犯すことへ抵抗を感じていないため、再犯をしてしまうということも考えられます。そのため、犯罪者全体に占める再犯者の割合が増えている状況を考えると、再犯者を減らすことが犯罪件数を減らすことにもつながります。もちろん、窃盗の再犯率が全体のそれを上回っていることからも、窃盗件数の減少にとっても、重要課題です。

 そのためには、たとえ被害額が小さくても、警察への届出件数を増やして(全件届出)、起訴される可能性を高め、刑罰執行確率を高めておくことが、再犯比率を下げることにつながるのではないかと思います。警察への届出後は、司法判断となりますので被害者側としては何も出来ないわけですので、民間側では行える範囲内で、警察への届出をルール化することなどに取り組むべきと考えられます。

▼法務年鑑平成24年、法務省、平成25年11月

(3)判例

 窃盗における過去の判例をみていくと、前科があったとしても各種事情を考慮して、情状酌量の余地ありとした判決が言い渡されていることが見えてきます。

 とある店で商品を万引きし捕まった事案で、被告人は過去に窃盗により罰金刑を処せられており、その後1年間の間に再犯し、懲役1年、執行猶予3年の判決を受け、さらに、その猶予期間中に万引きを行い捕まった再犯者が、懲役1年、執行猶予5年(保護観察付)の判決をいいわたされた判例があります。

 上掲の事案において再犯者であり、さらに執行猶予がついているにもかかわらず実刑とならなかった理由としては、被害品を弁済し被害者に示談金を支払っていること、精神科病院への通院など、身内による監督が可能であるとの考えで懲役刑を与えるよりも、執行猶予を与え社会内での更生をする機会を与えるのが相当と判断し、再度猶予を与えるとの判決がなされています。

 この判例は異常ではないかと感じる方もいるかもしれませんが、過去の判例をみていくと、軽微な犯罪などにおいては再犯者であるからと即実刑(懲役刑)が言い渡される事例はほとんどなく、罰金刑の後に再犯したとしても、また罰金刑となり金額が以前よりも高額になるなどし、徐々に刑罰が重たくなって行くことが通例となっているようです。

 犯罪者が再犯を行う背景として、刑罰に懲りていないから再犯していると仮定すると、現場側ではなるべく被害届を出して、刑罰を科す機会を増やすことが、犯罪者のためにもなる(更生の機会を与える)との観点からも望ましいと考え、刑罰を科された後に犯罪者がそれに懲りたら再犯が減るという考え方もできるではないかと思います。また、徐々に科される刑罰が重たくなる状況を考えますと、被害者が警察へ届け出を行わないと進まないことでもあり、積み重ねていくことで犯罪者が懲りるような刑罰を与えられることになるのかと思います。

 刑罰を科す目的として裁判所の見解は下記の通りとなっています。

 『刑罰を科す目的には、悪いことをすればそれ相応の苦痛を与えられるべきだということと、罪を犯すとこのような重い刑を受けるのだということを世間の人に知らせ、他の者が罪を犯さないようにすることが考えられます。しかし、・・・』

 「しかし・・」以降には更生すると心に誓う者には、更生の機会を与えるべきであるとする考えから、執行猶予を与えているとのことが書いてあります。この目的の意味には刑罰の対象者だけでなく、それ以外の者へ見せしめ的な意味も含まれているかと感じます。

 前回のレポートにおいて、司法機関に引渡され刑罰を科せられる可能性があることもコスト(心理的プレッシャー)を高める一因となり、犯罪を断念する可能性もあるとしていました。今回のレポートにおいて見てきました、起訴件数の少なさや刑罰が科されにくい状況をみると、犯罪を初めてしようと考えている者への抑止力が期待できるかと思いますが、再犯者へ与える法的抑止力としては弱いと考えられます。

▼裁判所、裁判手続刑事事件Q&A

2.おわりに

 私は、万引き(窃盗)被害の現場に警備員として携わっていた経験があったため、被害者(店舗)側においては、各種防犯対策を行っている状況が見られるものの、被害が依然として無くならない状況を日々感じていました。そのため、現場において各種対策・対応を行ううえで少しでもお役に立てれることができればと思い執筆をしてきました。犯罪者は非常に強かで巧妙ですので、被害者側が安易に捕まえようとすると、逆に犯罪者に仕立て上げられたりすることもありますので、最新の注意を持って対応にあたることが必要です。

 最後に私が考える被害に遭わないためにもっとも重要だと感じることは「防犯意識を高く持つ」ことです。万引犯に犯行を止めさせるのに効果的なのは、人的な接触といったことについては触れてきましたが、防犯側で被害に遭いたくないとの意識が働けば、挙動が少し怪しいと感じる人がいれば注視をしたり、声をかけるなど行動を行うことにつながると思います。もちろん、各種マニュアルなどにより不審者へはどのような対応を行うかを明確にしておくことも重要ですが、対応する人の意識が低ければ役に立ちませんので、防犯意識を高く持って、継続することが一番重要だと思います。

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