リスク・フォーカスレポート

緊急事態対応の理論と実際編 第四回(2014.7)

2014.07.23
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初動の具体的プロセスとその影響及び結果

初動(初期対応)の多面的評価

 過去二回で、様々な緊急事態を「事故・災害」と「不祥事・スキャンダル」に分けて、認知から初動への移行プロセスを、第一報のキャッチと各種緊急連絡網の発動を軸に解説してきた。ただ、認知から初動、さらに対策本部による本格対応開始へと連なるプロセスにおいて、各活動領域を明確に線引きすることは困難である。実際には、グラデーションのように局面の変化と対応の変化を多層展開させて進行していくからである。つまり、局面や新展開ごとに対応ミスを重ねると、その後、悪影響として尾を引き、取り返しのつかない、致命的な事態を招きかねない。

 そこで、初動に関しては、これを客観的に評価できるような視点や基準を緊急時のマネジメントの中に組み込んでおくことが重要である。初動評価とは、初動遅れや初動ミスを時系列に是正・カバーするための緊急事態対応における超短期的な時間軸指標である。

 初動評価が必要ないくらい危機管理意識や危機管理システムが浸透している組織であれば、初動対応でミスすることは稀であろう。しかし、これまでも何度か指摘してきたように、これが現実問題としては、稀ではないので厄介である。

 それでは、改めて、初動ミスとは何であるか、凡そ以下の通りである。まず、外部からの情報や通報をたらい回しにする。或いは、無視・軽視する、大きな事態、深刻な事態ではないとの勘違いや高を括るといったことである。そのため、通報され、把握された情報などを錯誤して、正規の社内手続きに拠らず、未報告・未記録のままにしてしまう。これは、意図的とも言い切れないケースも多く、主にリスクセンスの範疇に入る問題といえるが、発生事態に対する静態的判断といえる。

 次いで、発生事態の状況・情勢の展開・推移に対する見通しに関わる判断ミスやリスクレベルの判定ミスがある。これは、リスクセンスも含む初動対応担当者の能力やレベルの問題に加えて、不適任人事であったことも検証されなければならない。発生事態に対しては、動態的判断といえる。

 そして、最後が最も悪質なケースで、折角、把握された内部の不都合情報であるのに、それを”意図的”に放置・先送りし、場合によっては、改竄・隠蔽するというものである。

 先に初動対応ミスは尾を引くと述べたが、この場合は、最早、初動レベルのミスとか、初動タイミングだけ(限定期間)のミスとは言えなくなる。危機管理プロセス全体を台無しにしてしまいかねない。若しくは、これに該当するような企業では、危機管理自体に価値や重きを置いていない、危機管理そのものを曲解している、あるいは、緊急事態においても、危機管理以上に価値を置く何ものかを有していると考えざるを得ない。

 このような企業においては、初動ミス後にリカバリーする道や手段は閉ざされてしまう可能性が極めて大きい。

 また、このような企業においては、初動タイミングにおいてだけ(限定)ミスを犯す、あるいは、初動タイミングの度にミスを犯すということはともに考えられず、緊急事態が発生しようがしまいが、普段からの経営判断や業務判断が少々歪んでいるのである。

 社会常識からズレているといってもよい。例えば、顧客対応や、マスコミ対応一つ取っても、普段から何かおかしいにも関わらず、ややもすると、誰も指摘しなかったりする。

しかし、本音では、「いつかきっと、手痛いしっぺ返しを喰うに違いない」とも見られているのである。

 要は、”ボタンの掛け違い”が初動対応のときに始まったのではなく、そのずっと前から続いていたと解することができるのである。残念ながら、”ちょっとおかしい”ことに気づかない社風であったり、気づかないままでいることの方が社員にとって安楽であったり、気づかせないくらいの強烈な社長のキャラクターに支配されていたりする場合などである。

 一つの典型的な例が、新興教団と見紛うような組織を挙げることができる。急成長の陰で、多様な価値観が追い遣られていく傾向にあり、リスクが充満するとやがて爆発して、緊急事態を発生せしめることになる。したがって、これらの場合は、初動対応の是非を超えたところに問題の本質が所在すると言わざるを得ない。

 前々回、前回と緊急事態を便宜的に、「事故・災害」と「不祥事・スキャンダル」に分けて、複雑な様相を呈する「事件」をそこから敢えて外してきた。しかしながら、これまで述べてきた初動ミスによって、「事故・災害」も「不祥事・スキャンダル」も、限りなく”事件性”を帯びるようになり、やがて事件と呼ぶに相応しい”複合緊急事態”へと拡大発展するメカニズムが存在することを危機管理に携わる者であれば、十分理解しておくことが肝要である。

初動の遂行プロセス

 ここからは、初動のミスはなく、本格対応態勢へ円滑に移行する道筋について述べていく。そのタイミングは、対策本部立ち上げの移行期に重なる。つまり、初動は対策本部立ち上げ前に、組織的(準全社的)に実施される対応なのである。

 発生した緊急事態の種類・内容・規模によって、初動担当者は替わる。また、初動担当者は、指示命令者と対応者に分かれる。さらに、指示命令者と対応者も、本社と現場に分かれるケースもある。初動(対策本部設置前)であっても、本社指示命令者と現場指示命令者は緊密な連携を保って、そのまま対策本部活動に連動させ、ともに編入されていく。

 対応者の場合、本社対応スタッフと現場対応者の業務内容は、情報収集活動においては同一であるが、それ以外はかなり異なる。現場においては、直接の事態の鎮静化や、場合によっては、緊急の被害者対応に当らなければならない。

 一方、本社対応者は本件に関わる優先されるべきステークホルダーへの報告・説明・交渉などが主要業務となる。いずれにしても、初動対応者も指示命令者と同様、担当業務はそのまま対策本部に引き継がれる。というより、ほとんど本人らが対策本部内のスタッフとして、継続的に活動することになる。本社対策本部以外に現地対策本部が設置されれば、現場指示命令者と現場対応者も同様に、継続業務を担当することになる。

 本社指示命令者は、発生事態の担当事業部門の役員になることが多いが、補佐役、場合によっては、その一時代行者としてのキーパーソンとなるのが総務部長と広報部長である。

 この両部署は、対策本部の事務局として機能することが多い。つまり、この両部長は事務局長になるわけであり、また、緊急記者会見の司会役を務めることも多い。

 両部長は、初動から対策本部設置及びその活動に至る一連のプロセスで、危機管理キーパーソンとしての重責を普段から負っているのである。したがって、円滑な初動の遂行に対しても、監視的機能を発揮することが期待される。

 先に本社・現場双方にとっても、情報収集活動が重要であることを指摘したが、改めて、その詳細を見ていきたい。実際に緊急事態が発生した直後は、時々刻々の事態の推移・状況の変化を継続的にモニターして、情報収集と情報分析をしていかなければならない。

情報が錯綜する場面も多々あることから、正確・的確な情報収集と分析が不可欠なのである。それがないと、対策本部への引き継ぎに、正確さと柔軟さを欠き、対策本部の活動自体を不活性にしたり、選択・実行すべき諸対応手段が不正確・不適切になってしまう惧れがある。本連載第1回で述べた「対策本部の失敗」の典型例である。

 情報収集は、初動から対策本部活動まで一貫して継続されなければならない。それでは、継続的情報収集・分析活動の重点ポイントとは、如何なるものであろうか。一つずつ挙げていこう。

 まずは、緊急事態発生直後からの継続的情報収集活動といっても、それは多面的でなければならない。つまり、自社の立場という一面性・一方向性だけではなく、被害者の立場・当局の立場・社会的影響などを考慮に入れておく必要がある。

 次に、継続的情報収集活動は、単層的ではなく多層的でなければならない。つまり、ヒト・モノ・カネ・のれん・信用・技術・環境等、あらゆる経営資源への影響に関わるものを対象とする。

 三つ目に、継続的情報収集はその活動と結果において、検証されなければならない。検証対象は、情報収集の方法と内容、情報源の正確性・信憑性、情報源の狙い・影響(行使)力・特定団体との利害同一性などに及び、発生事態の正確な実態把握・動態把握・可能な範囲の予測をすることにより情報の錯綜を防止し、最適で有用な対応策を選択する。

 四つ目は、継続的に収集された情報は、時系列に分析し、さらに相関関係や因果関係も含めた多様な視点で、総合的に分析されなければならない。

 五つ目は、各分析結果や総合分析結果は、絶えず、継続的情報収集活動において取得された新規情報と突き合わせ、新規情報の妥当性判断と採用適否、さらに分析結果の妥当性をも再検証される必要がある。

初動対応の影響と結果

 冒頭に「認知から初動、さらに対策本部による本格対応開始へと連なるプロセスにおいて、各活動領域に明確な線引きすることは困難である」と述べた。しかしながら、それだからこそ、事態発生の周知と情報共有のための一つ目の緊急連絡網と、対策本部設置を具体的に見据えた本部メンバー召集のための二つ目の緊急連絡網をほぼ同時に発動させながら、初動段階から既に正確な情報収集活動を展開し、その結果とともに、さらなる継続的情報収集活動を対策本部に速やかに引き継ぐことが重要である。

 情報収集以外の初期対応(対応策)も、その実行策が間違っておらず、有用である限り、同様に対策本部に引き継がれる。初動対応を引き継ぎ、ときに若干の軌道修正も加えながら、対策本部による本格的対応が開始される。

 対策本部は、対策本部長のリーダーシップの下、有能なスタッフにより策定された諸施策の実行によって、事態の収束化を図るミッションを有する精鋭部隊であり、タスクフォースである。対策本部の内訳は、各ステークホルダー対応を担当する複数の班やチームによって構成され、謝罪、説明責任、説得/納得のセットに連なる、より具体的で充実したステークホルダー対応を可能にする。

 初動が大きく道を外していなければ、つまり、正しい情報収集と正しい対応策を実施していれば、対策本部のフレームワークは大方決定される。つまり、対策本部設置とその活動の前提に好影響を与えることができるのである。悪影響のパターンについては、これまで述べてきた通りである。

 さて、対策本部における本格的対応は、継続的情報収集と分析に基づいた、発生事態対処と事態収束のための対応策の検討・策定から始まり、実行に移される。

その際の対応策とは、状況変化への最適合化がなされ、また、速やかなる有効性評価に耐えたものでなければならないが、それ以上に、社会的に正しくなくてはならない。その後、続くであろう緊急記者会見とて同様である。社会的に正しくなければ、信頼回復など覚束ないのである。

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